(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-27
(54)【発明の名称】アミロイド原性疾患を処置する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/739 20060101AFI20231117BHJP
A61K 31/7024 20060101ALI20231117BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231117BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231117BHJP
C07H 5/06 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
A61K31/739
A61K31/7024
A61P25/28
A61P25/16
C07H5/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528384
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 US2021059179
(87)【国際公開番号】W WO2022104088
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518148216
【氏名又は名称】ナショナル ヘルス リサーチ インスティチューツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リン,シュー,イー
(72)【発明者】
【氏名】ジュアン,ジー-リー
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジンク-チー
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
【Fターム(参考)】
4C057AA18
4C057AA20
4C057BB03
4C057CC03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA03
4C086EA22
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZA16
(57)【要約】
本開示は、必要とする対象においてアミロイド原性疾患を処置若しくは予防する、又はその発症若しくは進行を遅延する方法であって、対象に治療上有効量の両親媒性リポ糖を含む医薬組成物を投与することを含む方法に関する。本開示はまた、アミロイド原性疾患を処置若しくは予防する又はその発症若しくは進行を遅延する薬剤を選択する方法、及び新規なリポ多糖に関する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象においてアミロイド原性疾患を処置若しくは予防する、又はその発症若しくは進行を遅延する方法であって、対象に治療上有効量の有効成分としての両親媒性リポ糖又はそれを含む医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項2】
両親媒性リポ糖がリピドA及びオリゴ糖を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
両親媒性リポ糖が、リポ多糖(LPS)、モノホスホリルリピドA(MPL)、2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-1-O-ホスホノ-α-D-グルコピラノース(PIX)若しくは2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-D-グルコピラノース(PXI)又はそれらの塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アミロイド-ベータ42(Aβ42)のクリアランスのためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アミロイド-ベータ42の非平衡共集合を引き起こすためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
神経細胞生存率を保持するためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Aβ42誘導性アポトーシスをレスキューするためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アミロイド-ベータ42のエンド-リソソームクリアランスの増強のためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アミロイド原性疾患が、アルツハイマー病(AD)、軽度認知障害、認知症を伴うパーキンソン病、ダウン症候群、びまん性レビー小体病(DLB)疾患、脳アミロイドアンギオパチー(CAA)、血管性認知症及び混合型認知症からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
アミロイド原性疾患の処置若しくは予防又はその発症若しくは進行の遅延が、対象におけるアミロイド-ベータ42のクリアランスによる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
アミロイド原性疾患の処置若しくは予防又はその発症若しくは進行の遅延が、対象においてアミロイド-ベータ42の非平衡共集合を引き起こすことによる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
アミロイド原性疾患を処置若しくは予防する又はその発症若しくは進行を遅延する薬剤を選択する方法であって、薬剤を神経細胞と接触させることを含み、薬剤がアミロイド-ベータ42のクリアランスを増強する又はアミロイド-ベータ42の非平衡共集合を引き起こす場合に、該薬剤がアミロイド原性疾患を処置若しくは予防する又はその発症若しくは進行を遅延するための候補薬剤である方法。
【請求項13】
薬剤が神経細胞生存率を保持する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
薬剤がAβ42誘導性アポトーシスをレスキューする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
薬剤がアミロイド-ベータ42のエンド-リソソームクリアランスを増強する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
薬剤が両親媒性リポ糖である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
薬剤がリピドA及びオリゴ糖を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
薬剤が、リポ多糖、モノホスホリルリピドA、2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-1-O-ホスホノ-α-D-グルコピラノース若しくは2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-D-グルコピラノース又はそれらの塩である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
アミロイド原性疾患が、アルツハイマー病、軽度認知障害、認知症を伴うパーキンソン病、ダウン症候群、びまん性レビー小体病疾患、脳アミロイドアンギオパチー、血管性認知症及び混合型認知症からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-1-O-ホスホノ-α-D-グルコピラノース若しくは2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-D-グルコピラノース又はそれらの塩であるリポ糖。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2020年11月13日に出願された米国仮出願番号第63/113,578号の利益を主張する。本出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、アミロイド原性疾患を処置する方法、特に、アミロイド-ベータ42(Aβ42)のクリアランスのための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
非平衡状態、又はより詳しくは、平衡とは程遠い状況が、生物系における生体分子の集合のモジュレーションにとって重大であると考えられている。1つの興味深い例として、その自己集合及び稀な崩壊についての非平衡挙動を示す集合プロセスである細胞骨格ネットワークの形成における微小管の役割がある。別の例として、アルツハイマー病(AD)の神経変性カスケードを引き起こす際に自己凝集を起こしてアミロイド斑を形成するアミロイドペプチド(Aβ)がある(E. N. Cline, M. A. Bicca, K. L. Viola, W. L. Klein, J. Alzheimers Dis. 2018, 64, S567-S610; A. K. Buell, Biochem. J. 2019, 476, 2677-2703; J. Vaquer-Alicea, M. I. Diamond, Annu. Rev. Biochem. 2019, 88, 785-810)。種々のAβアイソフォームの中でも、Aβ40及びAβ42が2つの最も豊富な種である。脳脊髄液ではAβ40はAβ42よりも豊富であるが、Aβ42は、AD脳におけるアミロイド沈着への寄与においてAβ40よりも高い自己凝集能を有する。化学反応速度論の観点からすれば、Aβ42の自己増殖は、予め組織化されたプロトフィブリルからフィブリルの安定形態への移行状態を含む動的自己集合プロセスを表す(M. Ahmed, J. Davis, D. Aucoin, T. Sato, S. Ahuja, S. Aimoto, J. I. Elliott, W. E. Van Nostrand, S. O. Smith, Nat. Struct. Mol. Biol. 2010, 17, 561-U556; S. M. Butterfield, H. A. Lashuel, Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5628-5654; I. W. Hamley, Chem. Rev. 2012, 112, 5147-5192; Z. Fu, D. Aucoin, J. Davis, W. E. Van Nostrand, S. Smith, Biochemistry 2015, 54, 4197-4207; J. A. Luiken, P. G. Bolhuis, J. Phys. Chem. B 2015, 119, 12568-12579; B. Morel, M. P. Carrasco, S. Jurado, C. Marco, F. Conejero-Lara, Phys. Chem. Chem. Phys. 2018, 20, 20597-20614)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Aβペプチド生成とクリアランスの間のホメオスタシスの変更は、AD脳における蓄積されたAβフィブリルの病理学的根拠として定義される。しかし、Aβ42生成を減少させるように設計された薬物の200を超える臨床試験が終結しているという事実によって証明されるように、Aβ42生成の遮断を目的とした試みは成功していない。したがって、アミロイド原性疾患の処置が、当技術分野で必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、必要とする対象においてアミロイド原性疾患を処置若しくは予防する、又はその発症若しくは進行を遅延する方法であって、対象に治療上有効量の両親媒性リポ糖を含む医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0006】
本開示の一部の実施形態では、両親媒性リポ糖は、医薬組成物中に治療上有効量で存在する唯一活性の医薬品(単数又は複数)としてある。
【0007】
本開示の一部の実施形態では、両親媒性リポ糖は、リピドA及びオリゴ糖を含む。両親媒性リポ糖の例として、それだけには限らないが、リポ多糖(LPS)、モノホスホリルリピドA(MPL)、2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-1-O-ホスホノ-α-D-グルコピラノース(PIX)若しくは2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-D-グルコピラノース(PXI)又はそれらの塩が挙げられる。
【0008】
本開示の一部の実施形態では、方法は、アミロイド-ベータ42のクリアランスのためのものである。
【0009】
本開示の一部の実施形態では、方法は、アミロイド-ベータ42の非平衡共集合を引き起こすためのものである。
【0010】
本開示の一部の実施形態では、方法は、神経細胞生存率を保持するためのものである。
【0011】
本開示の一部の実施形態では、方法は、Aβ42誘導性アポトーシスをレスキューするためのものである。
【0012】
本開示の一部の実施形態では、方法は、アミロイド-ベータ42のエンド-リソソームクリアランスの増強のためのものである。
【0013】
アミロイド原性疾患の例として、それだけには限らないが、アルツハイマー病、軽度認知障害、認知症を伴うパーキンソン病、ダウン症候群、びまん性レビー小体病(DLB)疾患、脳アミロイドアンギオパチー(CAA)、血管性認知症及び混合型認知症が挙げられる。
【0014】
本開示はまた、アミロイド原性疾患を処置若しくは予防する又はその発症若しくは進行を遅延する薬剤を選択する方法であって、薬剤を神経細胞と接触させることを含み、薬剤がアミロイド-ベータ42のクリアランスを増強する又はアミロイド-ベータ42の非平衡共集合を引き起こす場合に、該薬剤がアミロイド原性疾患を処置若しくは予防する又はその発症若しくは進行を遅延するための候補薬剤である方法も提供する。
【0015】
一部の実施形態では、薬剤は、神経細胞生存率を保持する、Aβ42誘導性アポトーシスをレスキューする、又はアミロイド-ベータ42のエンド-リソソームクリアランスを増強する。
【0016】
一部の実施形態では、薬剤は、特に、リピドA及びオリゴ糖を含む両親媒性リポ糖、例えば、リポ多糖、モノホスホリルリピドA、2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラ-デカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-1-O-ホスホノ-α-D-グルコピラノース(PIX)若しくは2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-D-グルコピラノース(PXI)又はそれらの塩である。
【0017】
本開示はまた、2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-1-O-ホスホノ-α-D-グルコピラノース若しくは2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-D-グルコピラノース又はそれらの塩であるリポ糖を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、LPSが、神経細胞の生存促進効果のためにAβ42プロトフィブリルとの非平衡共集合を引き起こす超分子ベイトとして作用する可能性があるという仮定モデルを示す。
【
図2A】
図2a及び2bは、LPSとAβ42プロトフィブリルの間の非平衡相互作用の確認を示す。(a)新たに調製されたLPS又は老化したLPSを反復して添加することによってAβ42の疎水性の周期的変動が観察された。グラフのy軸は、525nmでのビス-ANS発光波長の相対蛍光強度を表す。
【
図2B】(b)Aβ42プロトフィブリルの疎水性を示す簡単な例示は、それぞれLPS流入及び流出によって増大及び減少し得る。
【
図3】
図3は、Aβ42の不溶性短線維の代表的なTEM画像を示し、LPSを用いる同時インキュベーションした後に観察された。
【
図4】
図4は、一過性のLPS-Aβ42結合が、Aβ42誘導性神経毒性を回復させることを示す。SH-SY5Y細胞に対するAβ42の細胞傷害性効果は、Aβ42のLPSとの同時処置によって大きく減少されるとわかった(カラム2及び3を比較して)が、その効果は、溶液から未結合LPSを除去することによって完全に消失することがわかった(カラム3及び4を比較して)のに対して、溶液にLPSを添加して戻すことによって失われた効果が修復された(カラム4及び5を比較して)。Ctrlは、SH-SY5Y細胞のみを表す。
【
図5A】
図5a~5dは、LPSを用いて同時処置された神経細胞において、Aβ42ペプチド及び神経毒性が減少することを示す。(a)SH-SY5Y細胞に対するAβ42の低減した細胞生存率(WSTアッセイ)効果は、LPSとの同時処置によって用量依存的に有意に改善される。
【
図5B】(b)LPSを用いる、又は用いない同時処置されたSH-SY5Y細胞におけるAβ42分解を示すウエスタンブロッティング。
【
図5C】(c)Aβ42ペプチドのLPS誘導された分解は、3種のエンドサイトーシスブロッカー:クロルプロマジン(CPZ)、メチル-β-シクロデキストリン(MβCD)及びダイナソア(dynasore)によって抑制される。
【
図5D】(d)Aβ42神経毒性に対するLPSのレスキュー効果は、エンドサイトーシス阻害剤によって遮断される。各群のために2.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有する培養培地が使用された。***、P<0.001。
【
図6】
図6a~6bは、マトリックスメタロプロテイナーゼがLPS誘導性Aβクリアランスに寄与しないことを示す。(a)汎MMP(pan-MMP)阻害剤を用いる神経細胞の処置によって、Aβ42神経毒性に対するLPSのレスキュー効果は観察できない。(b)汎MMP阻害剤を用いる、又は用いない同時処置されたLPSの存在下でのSH-SY5Y細胞におけるAβ42分解のウエスタンブロッティング。
【
図7】
図7a~7bは、LPSが神経細胞において自食作用(オートファジー)-リソソーム経路活性を増強することを示す。LPS結合性Aβ42複合体及び3MA又はBAいずれかとの同時インキュベーションは、神経系細胞において有害な結果のカスケードを引き起こし得る:(a)神経系細胞におけるAβ42の分解の減少;及び(b)神経系細胞の細胞死の増大。「Aβ42」は、(a)及び(b)では「Aβ」と略されるということは留意されたい。**、P<0.01;***、P<0.001。
【
図8】
図8は、LPSとの結合選択性は、Aβ42から同定されるが、Aβ40からは同定されないことを示す。結合アッセイは、0.5~10μgのAβ40ではなくAβ42が、LPSコーティングされたプレートに添加された場合に、プラトーに達するまで、付着重量が用量依存的に増大されることを示した。LPSへのAβ42の結合パーセンテージは、およそ75%であった。
【
図9】
図9は、LPSの非存在又は存在下でのAβ42線維化の速度定数は、Aβ42濾液収集によって時間依存的に測定できる可能性があることを示す。バイオレッドタンパク質染色染料を添加した後、次いでELISAリーダーを使用して625nmで濾液の吸収値を測定した。値を較正曲線に置換して、各ウェルにおけるAβ42の濃度を算出した。本発明者らはまた、線維化の速度定数が、0.137μM
-1分
-1から0.198μM
-1分
-1にわずかな変化(挿入表)をLPS依存的に示したことを見出した。この知見は、LPSの存在下での自己増殖速度がAβ42単独よりもわずかに遅いことを示唆した。
【
図10-1】
図10は、Aβ42又はAβ40いずれかの存在下でのLPSの臨界凝集濃度(CAC)が、SAXSによって測定されたことを示す。上の図は、散乱角2θ及びX線波長λを用いてq=4πλ
-1sin(θ)によって定義される、qの関数としての散乱強度のプロットを示す。挿入図は、Aβ42又はAβ40の存在下での種々の濃度の新生LPS凝集のこれらのシグナルを示す。図の第3の列のCAC値は、不確実性(標準偏差)を含む。
【
図11A】
図11a~11cは、Aβ42プロトフィブリルの両親媒性の溝が、LPSの結合及びAβ42のニューロンクリアランスの誘導にとって必要であることを示す。(a)Aβ42プロトフィブリルとLPSの複合体形成が、拮抗的O-抗原(赤色丸、LPSのコリスチンによって遮断された親水性ドメインとして)又はリピドA(黒色四角、LPSのSAuMによって遮断された疎水性ドメインとして)の存在下で妨害されることを示す2つの減衰曲線(decay curve)。
【
図11B】(b)LPSアンタゴニストは、細胞においてLPSによって誘導されるAβ42分解を効果的に抑制した。
【
図11C】(c)LPSが、Aβ42プロトフィブリルとの非平衡複合体の形成によって神経細胞においてAβ42のエンド-リソソームクリアランスを誘導し得ることを示す絵入り例示。
【
図12】
図12は、Aβ42神経毒性に対するLPSのレスキュー効果がLPSアンタゴニストによって遮断されることを示す。神経系細胞のレスキュー効果をもたらすAβ42プロトフィブリル及びLPSの複合体形成は、O-抗原がコリスチン(LPSの親水性ドメインの遮断剤)によってアンタゴナイズされた場合又はリピドA(すなわち、LPSの活性中心)がSAuM(LPSの疎水性ドメインの遮断剤)によってアンタゴナイズされた場合に消失した。
【
図13】
図13は、Aβ42分解を引き起こすことが可能であるとわかった、MPL又はPIX又はPXIのいずれかとともに同時処置されたSH-SY5Y細胞における2つのウエスタンブロッティングデータを示す。
【
図14】
図14は、本開示のリピドA誘導体IX及びXI(PIX及びPXIとして表される)の合成経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
別に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。
【0020】
冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法的対象の1つ又は1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書において使用される。例として、「1つの要素」は、1つの要素又は1つより多い要素を意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「及び/又は」は、もう一方のものを伴う又は伴わない2つの指定の特徴又は構成成分の各々の、具体的開示と解釈されるべきである。したがって、本明細書において「A及び/又はB」などの語句において使用されるような用語「及び/又は」は、「A及びB」、「A又はB」、「A」(単独)及び「B」(単独)を含むものとする。同様に、「A、B、及び/又はC」などの語句において使用されるような用語「及び/又は」は、以下の実施形態の各々:A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);及びC(単独)を包含するものとする。
【0022】
本明細書で使用される場合、状態、障害又は状況を「処置すること」又は「処置」は、(1)状態、障害若しくは状況に罹患している、若しくはその素因がある可能性があるが、状態、障害若しくは状況の臨床若しくは不顕性症状をまだ経験していない若しくは示していない哺乳動物において状態、障害若しくは状況の臨床若しくは不顕性症状の出現を予防すること若しくは遅延すること;及び/又は(2)状態、障害若しくは状況を阻害すること、すなわち、疾患若しくはその再発(維持処置の場合には)若しくは少なくとも1つのその臨床若しくは不顕性症状の発生を停止、低減若しくは遅延すること;及び/又は(3)疾患を軽減すること、すなわち、状態、障害若しくは状況若しくはその臨床若しくは不顕性症状のうち少なくとも1つの退縮を引き起こすこと;及び/又は(4)疾患の1つ以上の症状の重症度の減少を引き起こすことを含む。
【0023】
用語「予防すること」又は「予防」は当技術分野で認識されており、状況と関連して使用される場合に、状況の発症に先立って、薬剤を受け取っていない対象と比較して対象において医学的状況の症状の頻度若しくは重症度を低減するために、又はその発生を遅延するために薬剤を投与することを含む。
【0024】
用語「アミロイド原性疾患」とは、不溶性アミロイドフィブリル(細線維)の形成又は沈着と関連する(又はそれによって引き起こされる)任意の疾患を含む。例示的アミロイド原性疾患として、それだけには限らないが、アルツハイマー病(AD)、軽度認知障害、認知症を伴うパーキンソン病、ダウン症候群、びまん性レビー小体病(DLB)疾患、脳アミロイドアンギオパチー(CAA)、血管性認知症及び混合型認知症(血管性認知症及びAD)、多発性骨髄腫と関連するアミロイドーシス、原発性全身性アミロイドーシス(PSA)及び共存する以前の慢性炎症性又は感染性状況の証拠を伴う続発性全身性アミロイドーシスが挙げられる。異なるアミロイド原性疾患は、沈着したフィブリルのポリペプチド構成成分の性質によって定義される、又は特性決定される。例えば、アルツハイマー病を有する対象又は患者では、β-アミロイドタンパク質(例えば、野生型、バリアント又は末端切断型β-アミロイドタンパク質)は、アミロイド沈着物の特徴付けるポリペプチド構成成分である。PSAは、胃及び横紋筋、結合組織、血管壁及び末梢神経を含む種々の組織における不溶性モノクローナル免疫グロブリン(Ig)軽(L)鎖又はL鎖断片の沈着を含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、「発症」とは、診断アミロイド原性疾患と関連する、又はそれと一致する臨床症状の対象における出現を意味する。
【0026】
本明細書で使用される場合、アミロイド原性疾患と一致する段階の発症又は進行の「遅延」とは、アミロイド原性疾患、例えば、アルツハイマー型の認知障害と一致する段階の発症又は悪化までの第1の時点からの時間の増加を意味する。例えば、アミロイド原性疾患の発症の遅延とは、アミロイド原性疾患を発生するリスクにある対象における本明細書において定義されるようなアミロイド原性疾患の発症が、正常な認知対象がアミロイド原性疾患を発生するハイリスクにあると決定された後に少なくとも6カ月、1年、11/2年、2年、21/2年、3年、31/2年、4年、41/2年、5年、51/2年、6年、61/2年、7年、71/2年又は8年又はそれより長く、好ましくは3年~8年、より好ましくは5年、その自然の時間枠で起きることから遅延されることを意味する。さらなる例として、アミロイド原性疾患に進行し得る認知障害の進行の遅延又は認知症の進行の遅延は、認知低下の速度がその自然の時間枠に対して減速することを意味する。これらの決定は、適当な総計分析によって実施される。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「患者」、「対象」、「個体」などは同義的に使用され、任意の脊椎動物又は哺乳動物を含む任意の動物、特に、ヒトを指し、例えば、個体又は患者も指すことができる。
【0028】
本明細書において、用語「処置を必要とする」とは、ケアする者(例えば、ヒトの場合には医師、看護師、ナース・プラクティショナー又は個人;非ヒト哺乳動物を含む動物の場合には獣医師)によって行われた判断を指し、このような判断は、対象が処置を必要とすること又は処置から恩恵を受けることである。この判断は、ケアする者の専門知識の領域にあるが、本開示の化合物によって処置可能な状況の結果として、対象が病気である、又は病気になるであろうという知識が含まれる種々の因子に基づいて行われる。
【0029】
用語「投与すること」は、本開示の薬剤がその意図される機能を発揮することを可能にする投与の経路を含む。
【0030】
本開示で使用される場合、用語「医薬組成物」とは、動物が患う特定の疾患又は病状を処置又は排除するために動物、例えば、ヒトに投与される治療薬を含有する混合物を指す。本開示の一部の実施形態では、医薬組成物は、任意選択で薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0031】
本明細書で提供されるような薬剤の「有効量」という用語は、所望の機能の所望の調節を提供する成分の十分な量を指す。以下に指摘されるように、必要な正確な量は、対象の疾患状態、健康状況、年齢、性別、種及び体重、組成物の具体的な同一性及び処方などに応じて対象ごとに変わる。投与計画は、最適治療応答を誘導するように調整できる。例えば、いくつかの分割用量が毎日投与されてもよく、又は用量は治療局面の緊急事態によって示されるように比例して低減されてもよい。したがって、正確な「有効量」を特定することは可能ではない。しかし、適当な有効量は、慣用的な実験のみを使用して当業者によって決定できる。
【0032】
用語「薬学的に許容される」とは、本明細書で使用される場合、合理的な利益/リスク比と釣り合った、過度の毒性、刺激作用、アレルギー応答又は他の問題又は合併症を伴わない、健全な医学的判断の範囲内で、対象(ヒト又は非ヒト動物のいずれか)の組織との接触において使用するのに適している化合物、材料、組成物及び/又は剤形を指す。各担体、賦形剤などはまた、製剤の他の成分と適合するという意味で「許容され」なければならない。適した担体、賦形剤などは、標準医薬教本において見出すことができる。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「両親媒性」とは、疎水性部位と親水性部位の両方を有する1つの物質の特性を指す。例えば、媒体が水である場合、両親媒性を有する物質は、ミセル粒子を形成し、粒子が観察され得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「担体」には、任意の溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤及び/又は抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、バッファー、担体溶液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。医薬的に活性な物質のためのこのような媒体及び/又は薬剤の使用は、当技術分野で周知である。例えば、医薬組成物は、以下のために適応されたものを含む固体又は液体形態での投与のために特別に製剤化できる:(1)経口投与、例えば、水薬(drenches)(水性若しくは非水性溶液又は懸濁液)、トローチ剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、錠剤(例えば、頬側、舌下及び全身吸収のために標的化されるもの)、ボーラス、散剤、顆粒剤、舌に適用するためにペースト;(2)非経口投与、例えば、滅菌溶液若しくは懸濁液又は徐放製剤としての、例えば、皮下、筋肉内、静脈内若しくは硬膜外注射による;(3)局所適用、例えば、クリーム、ローション、ゲル、軟膏若しく徐放性パッチ若しくは皮膚に適用されるスプレー;(4)例えば、ペッサリー、クリーム、坐剤若しくはフォームとして膣内に若しくは直腸内に;(5)舌下に;(6)眼内に;(7)経皮的に;(8)経粘膜的;又は(9)経鼻的に。
【0035】
本開示は、超分子リポ糖及びアミロイドの間の相互作用の非平衡状態を特定する。構造的に、アミロイドの重合した増殖は、リポ糖ベイトの両親媒性によって非平衡的に認識される特定の溝を示す。機能的に、一過性の複合体は、神経細胞のエンドリソソーム機序を介して細胞外アミロイド沈着物を除去する細胞応答を誘発する。毒性アミロイド沈着の損なわれたクリアランスは病態と相関するので、リポ糖とアミロイドの間の非平衡相互作用は、治療薬の有用な標的に相当する。
【0036】
したがって、本開示は、必要とする対象においてアミロイド原性疾患を処置若しくは予防する又はその発症若しくは進行を遅延する方法であって、有効成分としての両親媒性リポ糖又はそれを含む医薬組成物の治療上有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。別の態様では、本開示は、必要とする対象においてアミロイド原性疾患を処置若しくは予防する、又はその発症若しくは進行を遅延するための医薬の製造における、有効成分としての両親媒性リポ糖又はそれを含む医薬組成物の使用を提供する。別の態様では、本開示は、必要とする対象においてアミロイド原性疾患を処置若しくは予防する、又はその発症若しくは進行を遅延するための、有効成分としての両親媒性リポ糖の治療上有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0037】
本開示の一部の実施形態では、両親媒性リポ糖は、本明細書で記載されるような方法又は医薬組成物中に治療上有効量で存在する唯一の活性医薬品(単数又は複数)として作用する。本開示の他の実施形態では、方法は、医薬組成物及び第2の医薬組成物を含む組合せを投与することを含み、第2の医薬組成物は、アミロイド原性疾患を処置するための第2の治療上の活性薬剤、例えば、抗体を含む。
【0038】
本明細書で開示されるリポ糖とは、脂質、糖類及び脂質-糖類コンジュゲートを含む化合物を指す。リポ糖は、天然供給源又は人工に由来し得る。脂質の例示的実施形態は、リピドAである。一般に、リピドAは、β(1→6)結合でアシル鎖(「脂肪酸」)が結合した2つのグルコサミン(炭水化物/糖)単位を含み、普通、各炭水化物に1つのリン酸基を含有する。本明細書で記載されるようなリピドAは改変される場合がある。用語「オリゴ糖」とは、2~約7つの糖単位を有する炭水化物構造を指す。使用される特定の糖単位は決定的ではなく、例として、グルコース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、フコース、シアル酸、3-デオキシ-D,L-オクツロソン酸のすべての天然及び合成誘導体などが含まれる。
【0039】
特に、両親媒性リポ糖の例として、それだけには限らないが、リポ多糖(LPS)、モノホスホリルリピドA(MPL)、リピドA誘導体IX(2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラ-デカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-1-O-ホスホノ-α-D-グルコピラノース)(PIXとして表される)若しくはリピドA誘導体XI(2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-D-グルコピラノース)(PXIとして表される)又はそれらの塩が挙げられる。
【0040】
用語「リポ多糖」(LPS)とは、共有結合によって接続された脂質及び多糖(糖リン脂質)からなる大きな分子を指す。LPSは、3つの部分:1)O抗原;2)コアオリゴ糖、及び3)リピドAを含む。O-抗原は、コアオリゴ糖に結合した反復グリカンポリマーであり、LPS分子の最外ドメインを構成する。コアオリゴ糖は、リピドAに直接結合し、ヘプトース及び3-デオキシ-D-マンノオクツロソン酸(KDO、ケト-デオキシオクツロソネートとしても知られる)などの糖を含有する。リピドAは、複数の脂肪酸に連結されたリン酸化されたグルコサミン二糖である。
【0041】
本開示において、「モノホスホリルリピドA」は、糖類及びリン酸基を欠く解毒されたエンドトキシンリピドA画分である。
【0042】
本開示において、「リピドA誘導体IX及びXI(PIX及びPXIとして表される)」は、2つの脂質鎖を欠くMPL類似体の1つに属する解毒されたエンドトキシンリピドA画分である。
【0043】
用語「塩」は、任意のアニオン性及びカチオン性複合体、例えば、本明細書で開示されるカチオン性脂質と1つ以上のアニオンの間で形成された複合体を含む。アニオンの限定されない例として、無機及び有機アニオン、例えば、水素化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、シュウ酸(例えば、ヘミシュウ酸)、リン酸、ホスホン酸、リン酸水素、リン酸二水素、酸化物、炭酸、重炭酸、硝酸、亜硝酸、窒化物、重硫酸、硫化物、亜硫酸、重硫酸、硫酸、チオ硫酸、硫酸水素、ホウ酸、ギ酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、アクリル酸、ポリアクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、グリコール酸、グルコン酸、リンゴ酸、マンデル酸、チグリ酸、アスコルビン酸、サリチル酸、ポリメタクリル酸、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、臭素酸、次亜臭素酸、ヨウ素酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、ヒ酸、亜ヒ酸、クロム酸、重クロム酸、シアン化物、シアン酸、チオシアン酸、水酸化物、過酸化物、過マンガン酸、及びそれらの混合物が挙げられる。特定の実施形態では、本明細書で開示されるカチオン性脂質の塩は、結晶塩である。
【0044】
本明細書で開示されるように、医薬組成物は、アミロイド-ベータ42のクリアランスのための、アミロイド-ベータ42の非平衡共集合を引き起こすための、神経細胞生存率を保持するための、Aβ42誘導性アポトーシスをレスキューするための、及び/又はアミロイド-ベータ42のエンド-リソソームクリアランスを増強するためのものである。
【0045】
実施例に例示されるように、Aβ42プロトフィブリルの両親媒性の溝は、非平衡挙動のパターンによって両親媒性リポ糖と複合体形成するために重要である。リポ糖は、その想定される熱力学的自己集合プロセスから逸脱することもあるAβ42中間体を引き寄せるベイトとして実際に作用し得る。機能性に関して、このような一過性の超分子間相互作用は、神経細胞におけるAβ42ペプチドの自食作用(オートファジー)媒介性タンパク質分解に対する強い細胞応答を強力に刺激できる。さらに、非平衡状態の周期的変動は、これら2つの超分子(すなわち、リポ糖及びAβ42)間の相互作用の際に平衡とは程遠い挙動を持続可能に維持すると思われるので、Aβ42ペプチドは、分解のために細胞中に持続的に移入されることがわかる。結果として、細胞外Aβ42プロトフィブリルは、細胞との長期のインキュベーション時間にわたって最終的に減少する。超分子間の結合の非平衡状態に関する構造的-機能的理論は、アミロイド原性疾患の処置の標的を示す。
【0046】
本開示はまた、アミロイド原性疾患を処置若しくは予防する又はその発症若しくは進行を遅延する薬剤を選択する方法であって、薬剤を神経細胞と接触させることを含み、薬剤がアミロイド-ベータ42のクリアランスを増強する、又はアミロイド-ベータ42の非平衡共集合を引き起こす場合に、該薬剤が、アミロイド原性疾患を処置若しくは予防する又はその発症若しくは進行を遅延するための候補薬剤である方法を提供する。
【0047】
本開示はまた、2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-1-O-ホスホノ-α-D-グルコピラノース若しくは2-デオキシ-6-O-(2-デオキシ-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-4-O-ホスホノ-β-D-グルコピラノシル)-3-O-[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]-2-{[(3R)-3-ヒドロキシテトラデカノイル]アミノ}-D-グルコピラノース又はそれらの塩であるリポ糖を提供する。
【0048】
本開示の実施において当業者を補助するために以下の実施例を提供する。
【0049】
[実施例]
方法
一過性のLPS-Aβ42複合体を調製するために使用される一般手順及び細胞毒性の検証は、以下のとおりとした。第1に、Aβ42(100μM)及びLPS(1000nM、大腸菌O111:B4、Sigma-Aldrichに由来する)を、2.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有する各群の培地に添加し、次いで、UV光を使用することによって滅菌した。次いで、培地を交換し、残存する混合物を5% CO2加湿空気中37℃で72時間インキュベートした。CCK8(Sigma-Aldrich 96992)アッセイを製造業者のプロトコールに従って使用して細胞生存率を測定した。必要に応じて0.22μmフィルター(非発熱性(non-pyogenic)、Millex(登録商標)-GV)を使用してLPS-Aβ42溶液中の未結合LPSを除去した。
【0050】
材料及び方法
Aβ42及びAβ40結合アッセイのためのLPSコーティングされたプレート。96ウェルイムノアッセイプレート(Costar 9018、Corning Corporation)に100mM Na2CO3、20mM EDTA及び0.1mLの30μg/mLのLPS溶液を添加し、これを次いで37℃で3時間インキュベートした。次いでコーティングされたプレートを脱イオン水で洗浄し、1日乾燥させた。コーティングされたプレートをブロッキングするために1% BSAを含有するPBS溶液を37℃で30分間添加した。最後に、コーティングされたプレートを、0.1% BSAを含有するPBS溶液で3回洗浄した。その後、コーティングされたウェルに種々の濃度のAβ42プロトフィブリル(SAuM又はコリスチンが添加された、又は添加されていない)を添加し、37℃で16時間インキュベートし、その後、PBSを用いて3回洗浄した。次いで、コーティングされたウェルにバイオレッドタンパク質染色染料を添加して、各ウェルのAβ42又はAβ40濃度をアッセイし、ELISAリーダーを使用して625nmでの吸収値を測定した。値を較正曲線に置換して、各ウェルにおけるAβ42又はAβ40の濃度を算出した。
【0051】
Aβ42の重合速度。液体タイプの方法は、LPSコーティングされたプレートについて使用されたものと同様としたが、サンプル調製の間にフィルターを使用してAβ42線維を除去した。手短には、Aβ42及びLPSの混合物を37℃で時間依存的にインキュベートした。次いで、干渉を避けるために、MWCOの0.1umフィルター(Millipore MILLEX-HP)を使用してAβ42線維を除去した。Aβ42濾液を収集し、乾燥させ、その後バイオレッドタンパク質染色染料を添加し、次いでELISAリーダーを使用して625nmで濾液の吸収値を測定した。値を較正曲線に置換して、各ウェルにおけるAβ42の濃度を算出した。
【0052】
LPSとAβ42の間の非平衡定常状態の同定。Aβ42(100μM)及びLPS(1.0nM)を含有するRPMI培地を37℃でインキュベートした。種々の時点で、蛍光染料、ビス-ANS(1.0μM、4,4'-ジアニリノ-1,1'-ビナフチル-5,5'-ジスルホン酸二カリウム塩、Sigma-Aldrich)を用いて染色するために溶液の小さい割合を採取し、蛍光分光光度計(Varian、Cary Eclipse、390nmで励起波長)を使用して直ちに測定した。
【0053】
透過型電子顕微鏡(TEM)。LPSと個々のAβ42の混合物を脱イオン水中で調製した。サンプルを炭素支持フィルムを備えた400メッシュCuグリッド上にマウントし、2%リンタングステン酸を用いて染色した。過剰の染色試薬を濾紙を使用して除去し、グリッドを乾燥させ、その後、100kVで透過型電子顕微鏡測定(Hitachi H-7650、日本)を行った。
【0054】
細胞生存率。神経系細胞は、10% FBS及び1×MEM NEAA(Gibco 11140-050)を補給したMEM(Gibco 11095-080)で維持した。神経SH-SY5Y細胞を96ウェルプレート(Costar 3599)中のウェルあたり8000個細胞の密度でプレーティングし、5% CO2加湿空気中37℃で一晩付着させた。次いで、Aβ42(100μM)、LPS(1000nM)、SAuM(1000nM)又はコリスチン(1000nM)を2.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有する各群の培地に添加し、UV光を使用することによって滅菌した。次いで、培地を毎日交換し、残存する混合物を5% CO2加湿空気中37℃で72時間インキュベートした。CCK8(Sigma-Aldrich 96992)アッセイを製造業者のプロトコールに従って使用して細胞生存率を測定した。必要に応じて0.22μmフィルター(非発熱性、Millex(登録商標)-GV)を使用してLPS-Aβ42溶液中の未結合LPSを除去した。
【0055】
ウエスタンブロット。細胞培養培地中のAβ42のレベルを評価するために、細胞培養培地及び総細胞溶解物の全容量からAβ42ペプチドを収集し、ウエスタンブロット解析のためにタンパク質サンプルバッファー(最終0.1M Tris-HCl、pH6.8、10%グリセロール、2% SDS、1% β-メルカプトエタノール及び0.01%ブロモフェノールブルー)と混合した。細胞混合物のサンプルをSDS-PAGEゲル電気泳動によって分析し、PVDFメンブレン(Millipore)にトランスファーした。室温で1時間のPBST(1×リン酸緩衝生理食塩水及び0.1% Tween 20)中の5% w/v脱脂粉乳を含有するブロッキングバッファーを用いるブロッキング後、メンブレンをブロッキングバッファーで希釈した一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。一次抗体とともにハイブリダイゼーションした後、メンブレンをPBSTを用いて3回洗浄し、その後、HRPがコンジュゲートしている一次抗体に対する二次抗体を添加した。次いで、PBSTを用いてメンブレンを3回洗浄し、その後、化学発光(PerkinElmer)又はPonceau S染色(Bersting Technology)によって免疫反応性バンドを検出した。この研究において使用された一次抗体には、以下が含まれていた:抗Aβ(8243番、Cell Signaling Technology)、抗LC3(4108番、Cell Signaling Technology)、抗カテプシンB(sc-13985、Santa Cruz Biotech)、抗カテプシンD(sc-6486、Santa Cruz Biotech)及び抗GAPDH(GTX100118、GeneTex)。2.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有する培養培地を各群のために使用した。
【0056】
統計分析。生物学的アッセイのために、本発明者らは、GraphPad Prism(v7.02)を使用して、一元配置分散分析を実施した。すべてのデータは平均±SEMとして表され、0.05未満のP値は、統計的に有意であると考えられ、アスタリスクを示した(**、P<0.01;***、P<0.001)。
【0057】
臨界凝集濃度(CAC)の測定。LPSのCACを小角X線散乱(SAXS)によって測定した。Pilatus 1M-F検出器を使用して収集したサンプル溶液のSAXSデータを使用して、ギニエ近似に基づいてLPSミセルのゼロ角強度I
o(q=0)及び回転運動R
gの半径を抽出した。次いで、
図7a及び7bに示されるように濃度依存性ゼロ角強度I
o(q=0)の線形回帰フィッティングの切片からCACの値を抽出した。
【0058】
[実施例1]
非平衡状態における分子間相互作用
本発明者らは、これら2つの超分子は非平衡状態において分子間相互作用を形成する可能性があり、その後神経系細胞の生存に影響を及ぼす可能性があると提案した(
図1)。
【0059】
この仮説を試験するために、本発明者らはLPSが、その後解離につながる非平衡共集合プロセスによってAβ42と一過性の複合体を形成し得るか否かを調査した。それを行うために、ビス-ANS、Aβ42疎水性に対して感受性である特異的蛍光染料(N. D. Younan, J. H. Viles, Biochemistry 2015, 54, 4297-4306)を使用して、LPSの投与の際のアミロイド重合のプロセスの間のAβ42疎水性の程度を評価した。結果は、2つの分子の間の会合及び解離の反復される周期的変動パターンを示した(
図2a)。具体的には、Aβ42疎水性は、著しく増大し、次いで、新鮮なLPSの添加後30分のインキュベーション期間以内に迅速に低減してベースラインレベルに戻った。この結果は、Aβ42プロトフィブリルが、溶液中でLPSに最初に遭遇した場合に一過性のLPS-Aβ42結合を誘導する可能性があるということを示唆した(
図2b)。疎水性の迅速な成長後、新たに調製したLPSを再投与すると継続する周期的変動は十分に減衰したものになり、より高濃度のLPSが再投与された場合により顕著な効果が観察された。老化LPS(一晩自己インキュベートされたLPS)が再投与された場合に同様の効果が観察されたが、Aβ42疎水性の減衰は少なかった。LPSはまた、自己凝集を好む両親媒性の超分子であるので(K. Brandenburg、H. Mayer, M. H. J. Koch, J. Weckesser, E. T. Rietschel, U. Seydel, Eur. J. Biochem. 1993, 218, 555-563)、本発明者らは、老化したLPSは新鮮なLPSよりもLPS-Aβ42複合体を形成する能力が低下する可能性があると推論した。アミロイドフィブリルが、長期のインキュベーション時間にわたってLPSの存在下で継続して形成するとわかったにもかかわらず、Aβ42の長線維の形成は明らかに弱まった(
図3)。これらの結果は、LPSによってAβ42の自己凝集の散逸性の非平衡状態が誘導される可能性があることを示唆する。
【0060】
[実施例2]
LPSとAβ42プロトフィブリルの間の会合は、細胞毒性に影響を及ぼす
次いで、LPSとAβ42プロトフィブリルの間の一過性の会合が細胞毒性に影響を及ぼすか否かを調べることが目的のものであった。驚くべきことに、細胞生存率アッセイによって、SH-SY5Y神経細胞がAβ42のLPSとの同時処置後に95%を超える細胞生存率を保持したことが示唆された。対照的に、Aβ42単独を用いて処置された細胞では、20%未満の細胞生存率が保持された(
図4、カラム2及び3を比較して)。レスキュー効果がLPS-Aβ42一過性複合体によって媒介されるか否かを評価するために、本発明者らは、溶液から未結合LPSを除去し、LPSのレスキュー効果が完全に失われたことを見出した(
図4、カラム3及び4を比較して)。しかし、LPSが培地に再添加された場合には、細胞生存率は対照細胞における正常値の85%に戻った(
図4、カラム1及び5を比較して)。さらに、Aβ42誘導性アポトーシスに対するLPSのレスキュー効果は、LPSを増大する場合に用量依存的に生じるとわかった(
図5a)。その場合には、これが達成されたことを決定することが重要になった。正常な状況下では、Aβ42のオリゴマー(プロトフィブリル)及びモノマー形態の両方が分解のために脳細胞の細胞外ドメインから内部移行され得る(D. M. Walsh, B. P. Tseng, R. E. Rydel, M. B. Podlisny, D. J. Selkoe, Biochemistry 2000, 39, 10831-10839; L. A. Welikovitch, S. Do Carmo, Z. Magloczky, P. Szocsics, J. Loke, T. Freund, A. C. Cuello, Acta Neuropathol. 2018, 136, 901-917)。しかし、ADの病態形成の際には、エンドサイトーシス経路によるAβ42プロトフィブリルクリアランスのプロセスが妨げられ、Aβ42の沈着の増大につながる(C. Yu, E. Nwabuisi-Heath, K. Laxton, M. J. Ladu, Mol. Neurodegener. 2010, 5, 19; K. E. Marshall, D. M. Vadukul, K. Staras, L. C. Serpell, Cell. Mol. Life Sci. 2020)。したがって、本発明者らは、LPS-Aβ42複合体がAβ42ペプチドのエンドサイトーシスクリアランスを回復させる可能性があると推測した。これを試験するために、本発明者らは、Aβ42レベル及び凝集が両方とも低下するか否かを調査することにした。細胞培養培地及び総細胞溶解物の全容量から収集されたAβ42ペプチドのウエスタンブロット解析によって、Aβ42の細胞外及び細胞内タンパク質がLPSとの同時処置の際に著しく枯渇したことが示唆された(
図5b、レーン3~5)。しかし、細胞の不在下で、Aβ42レベル及びオリゴマー状態がLPSによって不変のままであり(
図5b、レーン2及び6)、LPSとAβ42の間の一過性の複合体の形成が強力な細胞応答を引き起こし、これがAβ42ペプチドの分解をもたらしたことを示唆する。これらのデータは、Aβ42プロトフィブリルのクリアランスの促進による死滅からの細胞のレスキューにおけるAβ42-LPSの非平衡複合体の役割を支持する強力な証拠を提供する。
【0061】
この細胞プロセスを指示する根底にある機序を理解するために、本発明者らは、培養細胞から分泌されたマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)が細胞外環境におけるAβ42ペプチドの破壊を媒介する可能性があるか否かを最初に試験した。しかし、汎MMP阻害剤を用いる神経細胞の処置は、LPSとともに同時処置された細胞においてAβ42レベルの変化を示さなかった(
図6a及び6b)。したがって、本発明者らは細胞内タンパク質分解経路に注意を向けた。本発明者らは、クラスリン-及びダイナミン-依存性機序によって媒介されるエンドサイトーシスを阻害する薬理学的ブロッカーを使用した。結果は、細胞外Aβ42のエンドサイトーシス取り込みの遮断がアミロイド分解を効果的に消失すること(
図5c、レーン4~6)並びにSH-SY5Y細胞をAβ42誘導性アポトーシスからレスキューするLPSの生存促進性効果(
図5d)を示唆した。自食作用(オートファジー)はエンド-リソソーム分解の公知の細胞性機序でもあるので(N. Mizushima, T. Yoshimori, B. Levine, Cell 2010, 140, 313-326)、本発明者らは、2つの通常の阻害剤、メチルアデニン(3MA)及びバフィロマイシンA1(BA)を用いて自食作用(オートファジー)を阻害したが、エンドサイトーシスブロッカーについて観察されたものと極めて同等の効果が見出された(
図7a及び7b)。結果は、エンド-リソソーム経路が、LPSを用いて同時処置された神経細胞においてAβ42ペプチドの分解を媒介することを強力に示唆する。
【0062】
[実施例3]
LPSと可溶性Aβ42プロトフィブリルの間の相互の相互作用が生じ、LPSの自己集合プロセスを抑制する
さらに、(i)なぜLPSがAβ42とのみ結合でき、Aβ40と結合できないのか(
図8)、(ii)それらがどのように一緒に結合するのかを明らかにすることが不可欠であった。結合優先性を理解するために、本発明者らは、Aβ42は、Aβ40との相互作用と比較して、より速く線維化する傾向がある可能性があり、これがおそらくは界面活性剤特性を構築して、LPS-Aβ42相互作用を増大すると推測した。予測されたように、Aβ42は、Aβ40について観察されなかった現象である、LPSの存在下及び不在下の両方で依然として迅速な線維化を起こすとわかった(
図9)。さらに、小角X線散乱分析によってAβ42は、LPSの臨界凝集濃度(CAC)を3.49±0.052μg/mL(F. H. Liao, T. H. Wu, Y. T. Huang, W. J. Lin, C. J. Su, U. S. Jeng, S. C. Kuo, S. Y. Lin, Nano Lett. 2018, 18, 2864-2869)から15.91±0.13μg/mLへ増大する(
図10)と示されたが、LPSのCACは、Aβ40の存在によって明らかに影響を受けないとわかった(3.82±0.07μg/mL、
図10)。Aβ42によるLPSのCACの増大は、LPSと可溶性Aβ42プロトフィブリルの間の相互の相互作用が生じ、LPSの自己集合プロセスを抑制することを示唆した。
【0063】
Aβ42が両親媒性のLPSと複合体を形成したという知見に促され、本発明者らは、可溶性Aβ42プロトフィブリルは、動力学的トラップとして作用し、両親媒性のLPSのドッキングを可能にする特異的な溝を有する可能性があると推測した。この可能性を試験するために、本発明者らは、独特のLPS封鎖剤(sequester)、本発明者らの以前の研究で実証されている疎水性ドメインのリピドAに対する特異的ドックを備えた原子シート様金ナノクラスター(SAuMとして同定されている)を使用した(F. H. Liao, T. H. Wu, C. N. Yao, S. C. Kuo, C. J. Su, U. S. Jeng, S. Y. Lin, Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 1430-1434; P. Pristovsek, J. Kidric, J. Med. Chem. 1999, 42, 4604-4613)。実際、Aβ42プロトフィブリル及びLPSの結合効率は、SAuMの存在下で有意に減少するとわかった(
図11a)。さらに、本発明者らはまた、LPSの親水性ドメイン(O-抗原)をキャップすると知られている環状ペプチドである(P. Pristovsek, J. Kidric, J. Med. Chem. 1999, 42, 4604-4613)コリスチンが、Aβ42プロトフィブリルのLPSへの結合効率の減少において同様の効果を発揮すると示した(
図11a)。両結果は、Aβ42プロトフィブリルが、LPSの疎水性及び親水性ドメインとのドッキングを可能にするLPS特異的な両親媒性の溝を有することを示した。したがって、本発明者らは、注目した2つの阻害剤を用いてLPS中のリピドA又はO-抗原結合部位を遮断することによってLPS及びAβ42の複合体形成を無効にした。結果は、Aβ42プロトフィブリルのクリアランスの促進における(
図11b)又はAβ42の細胞毒性の減弱におけるLPSの役割が両方とも損なわれた(
図12)ことを明確に示した。
【0064】
本発明者らは次いでこれらの結果を、神経細胞におけるAβ42のエンドサイトーシスクリアランスのモジュレーションにおけるLPSとAβ42の間の構造的-機能的相互作用のモデルに組み込んだ(
図11c)。
【0065】
[実施例4]
MPL、PIX及びPXIは、Aβ42分解を誘導できる
LPSはSH-SY5Y神経系細胞においてAβ42の効率的な分解を示すが、その複雑に細胞傷害性の免疫性からバイオセイフティーの懸念事項を依然として有する。本発明者らは次いで、「モノホスホリルリピドA(MPL、CAS1246298-63-4、Sigma-Aldrich)」が、糖類及びリン酸基を欠く、LPS類似体の1つに属する解毒されたエンドトキシンリピドA画分であることを見出した。LPSと比較して、制御可能な炎症促進性反応を有するMPLは、ワクチンアジュバントにおける臨床使用のために現在承認された。
【0066】
本発明者らはさらに、「4つの脂質鎖を有するジホスホリル又はモノホスホリルリピドA誘導体(PIX及びPXIと表される、
図14に列挙されるIX及びXIの構造)」は、2つの脂質鎖を欠く、MPL類似体の1つに属する解毒されたエンドトキシンリピドA画分であることを見出した。MPLと比較して、PIX及びPXIは、免疫性を引き起こさず、したがって、炎症促進性反応の懸念事項はない。
【0067】
PIX及びPXIの合成
リピドA誘導体IX及びXIの合成経路は、
図14に示されている。具体的には、研究室で調製された化合物(I)の4,6-O-ベンジリデンアセタールのトリエチルシラン(Et
3SiH)及びジクロロフェニルボラン(PhBCl
2)を用いる位置選択的還元的開環反応が、所望のグルコサミン6-OHアクセプター(II)をもたらす。イミデートドナー(IV)は、段階的脱アリル化と、それに続くトリクロロアセトイミデート形成によって化合物Iから調製できる。アクセプター(II)の、ドナー(IV)を用いるトリメチルシリルトリフレート(TMSOTf)によって促進されるグリコシル化は、β-(1→6)連結された二糖(V)を提供し、これは3段階で4つの脂質鎖を有する化合物VIに順次変換される:(1)NaOMeを用いるO-アシル基の除去は、2つのヒドロキシ基を遊離し、(2)Zn/HOAcを用いるN-2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(Troc)基の切断は、2つの遊離アミノ基を供給し、(3)調製された(R)-3-ベンジルオキシテトラデカン酸を用いる、生成したヒドロキシ基及びアミノ基のアシル化。化合物VIは、Et
3SiH/三フッ化ホウ素ジエチルエーテレート(BF
3・Et
2O)を用いる位置選択的開環に付され、4'-OH二糖VIIが得られる。その後、アノマー位のアリル基が除去され、1H-テトラゾールの存在下でホスホルアミダイトを用いて同時ホスフィチル化が達成され、続いて、メタ-クロロペルオキシ安息香酸(mCPBA)を用いる酸化によって1,4'-O-ジホスホリル化化合物VIIIが提供される。最後に、ベンジルエーテルの脱保護が、H
2(g)下でPd(OH)
2を用いる水素分解によって達成され、標的分子IXが得られる。他方、リピドA誘導体XIは、中間体VIIからリン酸化、脱アリル化及び水素分解によって合成できる。
【0068】
本開示を、上記で示される特定の実施形態とともに記載してきたが、その多数の代替物及びその改変及び変法が、当業者には明らかとなろう。すべてのこのような代替物、改変及び変法は、本開示の範囲内に入ると見なされる。
【国際調査報告】