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特表2023-549539遺伝子学的に改変された酵母細胞およびこれの使用の方法
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  • 特表-遺伝子学的に改変された酵母細胞およびこれの使用の方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-27
(54)【発明の名称】遺伝子学的に改変された酵母細胞およびこれの使用の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20231117BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20231117BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20231117BHJP
   C12P 7/62 20220101ALI20231117BHJP
   C12G 3/02 20190101ALI20231117BHJP
   C12G 1/022 20060101ALI20231117BHJP
   C12G 3/024 20190101ALI20231117BHJP
   C12C 7/00 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N1/19 ZNA
C12N15/113 Z
C12P1/02 Z
C12P7/62
C12G3/02
C12G1/022
C12G3/024
C12C7/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528982
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 US2021059201
(87)【国際公開番号】W WO2022104106
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】63/113,747
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523178330
【氏名又は名称】バークレー ファーメンテイション サイエンス インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】BERKELEY FERMENTATION SCIENCE INC.
【住所又は居所原語表記】2451 Peralta Street,Oakland,CA 94607,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】ループ,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】デンビー,チャールズ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4B115
4B128
【Fターム(参考)】
4B064AD62
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B065AA72X
4B065AA80X
4B115AG02
4B115AG06
4B115AG09
4B115BA01
4B115BA03
4B128AC14
4B128AG01
4B128AP31
4B128AS10
4B128CP23
4B128CP31
(57)【要約】
本明細書に提供されるのは、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)酵素をコードする遺伝子および脂肪酸シンターゼαサブユニット(FAS2)酵素をコードする遺伝子を組換えで発現する、遺伝子学的に修飾された酵母細胞である。また提供されるものには、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞を使用して、発酵飲料およびエタノールを含む組成物を産生する方法もある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)第1のプロモーターへ作動可能に連結されている第1の遺伝子、ここで第1の遺伝子が、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子である;および
(ii)第2のプロモーターへ作動可能に連結されている第2の遺伝子、ここで第2の遺伝子が、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性を有する酵素をコードする、
を含む、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)。
【請求項2】
AAT活性を有する酵素が、Marinobacter hydrocarbonoclasticus、Fragraia x ananassa、Saccharomyces cerevisiae、Neurospora sitophila、Actinidia deliciosa、Actinidia chinensis、Marinobacter aquaeolei、Saccharomycopsis fibuligera、Malus x domestica、Solanum pennellii、またはSolanum lycopersicumに由来する、請求項1に記載の修飾された細胞。
【請求項3】
AAT活性を有する酵素が、配列番号2~4または12~22で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1または2に記載の修飾された細胞。
【請求項4】
AAT活性を有する酵素が、配列番号1の配列を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項5】
AAT活性を有する酵素が、配列番号20の配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項6】
AAT活性を有する酵素が、配列番号1の位置A144および/またはA360に対応する位置にて少なくとも1の置換変異を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項7】
配列番号1の位置144に対応する位置での置換変異が、フェニルアラニンである、請求項6に記載の修飾された細胞。
【請求項8】
配列番号1の位置360に対応する位置での置換変異が、イソロイシンである、請求項6または7に記載の修飾された細胞。
【請求項9】
AAT活性を有する酵素が、配列番号19の位置A169および/またはA170に対応する位置にて少なくとも1の置換変異を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項10】
配列番号19の位置169に対応する位置での置換変異が、グリシンである、請求項9に記載の修飾された細胞。
【請求項11】
配列番号19の位置170に対応する位置での置換変異が、フェニルアラニンである、請求項9または10に記載の修飾された細胞。
【請求項12】
第1のAAT活性を有する酵素が、野生型MhWES2アミノ酸配列の位置G150に対応する位置にて置換変異を含む、請求項1~3.1のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項13】
野生型MhWES2アミノ酸配列の位置G150に対応する位置での置換変異が、フェニルアラニンである、請求項12に記載の修飾された細胞。
【請求項14】
FAS2活性を有する酵素が、Saccharomyces cerevisiaeに由来する、請求項1~13のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項15】
FAS2活性を有する酵素が、配列番号6の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項16】
FAS2活性を有する酵素が、配列番号5の配列を含まない、請求項15に記載の修飾された細胞。
【請求項17】
FAS2活性を有する酵素が、配列番号5の位置1250に対応する位置にて置換変異を含む、請求項15または16に記載の修飾された細胞。
【請求項18】
配列番号5の位置1250に対応する位置での置換変異が、セリンである、請求項17に記載の修飾された細胞。
【請求項19】
第3のプロモーターへ作動可能に連結されている第3の異種遺伝子をさらに含み、ここで第3の異種遺伝子が、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(HCS)活性を有する酵素をコードする、請求項1~18のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項20】
HCS活性を有する酵素が、Cannabis sativaに由来する、請求項19に記載の修飾された細胞。
【請求項21】
HCS活性を有する酵素が、配列番号7の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項19または20に記載の修飾された細胞。
【請求項22】
第1のプロモーターおよび/または第2のプロモーターが、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、およびpHHF2からなる群から選択される、請求項1~21のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項23】
i)第1のプロモーターが、pHEM13であり、および第2のプロモーターが、pSPG1である;
ii)第1のプロモーターが、pHEM13であり、および第2のプロモーターが、pPRB1である;
iii)第1のプロモーターが、pQCR10であり、および第2のプロモーターが、pPRB1である;または
iv)第1のプロモーターが、pPGKであり、および第2のプロモーターが、pPRB1である、
請求項22に記載の修飾された細胞。
【請求項24】
第3のプロモーターが、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、およびpHHF2からなる群から選択される、請求項19~23のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項25】
i)第1のプロモーターが、pHEM13であり、第2のプロモーターが、pPRB1であり、および第3のプロモーターが、pHEM13である;
ii)第1のプロモーターが、pQCR10であり、第2のプロモーターが、pPRB1であり、および第3のプロモーターが、pHEM13である;または
iii)第1のプロモーターが、pPGK1であり、第2のプロモーターが、pPRB1であり、および第3のプロモーターが、pERG25である、
請求項24に記載の修飾された細胞。
【請求項26】
細胞が、1以上の内在性AAT酵素の発現を低減させるために遺伝子学的に修飾されている、請求項1~25のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項27】
修飾された細胞が、内在性のEEB1、EHT1、および/またはMGL2を発現しない、請求項26に記載の修飾された細胞。
【請求項28】
酵母細胞が、属Saccharomycesから成る、請求項1~27のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項29】
酵母細胞が、種Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)から成る、請求項28に記載の修飾された細胞。
【請求項30】
酵母細胞が、S.cerevisiae California Ale Yeast株WLP001、EC-1118、Elegance、Red Star Cote des Blancs、またはEpernay IIである、請求項29に記載の修飾された細胞。
【請求項31】
酵母細胞が、種Saccharomyces pastorianus(S.pastorianus)から成る、請求項28に記載の修飾された細胞。
【請求項32】
修飾された細胞の成長速度が、第1の異種遺伝子および第2の外来性遺伝子を含まない野生型酵母細胞と比べて、実質的に損なわれていない、請求項1~31のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項33】
発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、第1の異種遺伝子および第2の外来性遺伝子を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量と同等量の発酵性糖を発酵させる、請求項32に記載の修飾された細胞。
【請求項34】
発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、培地中の発酵性糖の量を少なくとも95%まで低減する、請求項33に記載の修飾された細胞。
【請求項35】
細胞が、FAS2活性を有する酵素をコードする内在性の遺伝子を含む、請求項1~34のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項36】
請求項1~35のいずれか一項に記載の修飾された細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させること
を含む、発酵産物を産生する方法であって、
ここで接触させることが、少なくとも第1の発酵プロセスの最中に実施されることで、発酵産物が産生される、前記方法。
【請求項37】
少なくとも1つの発酵性糖が、少なくとも1つの糖源において提供される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
発酵性糖が、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、および/またはマルトトリオースである、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記発酵産物が、第1の、第2の、および/または第3の異種遺伝子を発現しない同等の細胞、あるいはAAT活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生された発酵産物と比較して、増大したレベルの、少なくとも1つの所望の産物を含む、請求項36~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
所望の産物が、ヘキサン酸エチルである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記発酵産物が、第1の異種遺伝子、第2の外来性遺伝子、および/または第3の異種遺伝子を発現しない同等の細胞、あるいはAAT活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生された発酵産物と比較して、低減したレベルの、少なくとも1つの望ましくない産物を含む、請求項36~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
少なくとも1つの望ましくない産物が、ヘキサン酸である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記発酵産物が、発酵飲料である、請求項36~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
発酵飲料が、ビール、ワイン、スパークリングワイン(シャンパン)、ワインクーラー、ワインスプリッツァー、ハードセルツァー、日本酒、蜂蜜酒、昆布茶、または林檎酒である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
糖源が、麦芽汁、果醪、果汁、蜂蜜、米デンプン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項36~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
果汁が、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツからなる群から選択される少なくとも1つの果実から得られる果汁である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
糖源が、麦芽汁であり、ならびに
方法が、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、以下:
(a)複数の穀物を水と接触させること;ならびに
(b)水および穀物を煮沸するかまたは浸すことで、麦芽汁を産生すること
を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
少なくとも1つのホップ品種を麦芽汁へ加えることで、ホップが効いた麦芽汁を産生することをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
少なくとも1つのホップ品種を培地へ加えることをさらに含む、請求項36~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
糖源が、果醪であり、および
方法が、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、
複数の果実を圧搾することで果醪を産生すること
を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
果醪から固体果実材料を除去することで果汁を産生することをさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
少なくとも1つの追加の発酵プロセスをさらに含む、請求項36~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記発酵産物に炭酸ガスを入れることをさらに含む、請求項36~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
請求項36~53のいずれか一項に記載の方法によって産生された、得られた、または得ることができる、発酵産物。
【請求項55】
発酵産物が、少なくとも200μg/Lのヘキサン酸エチルを含む、請求項54に記載の発酵産物。
【請求項56】
発酵産物が、10mg/L未満のヘキサン酸を含む、請求項54または55に記載の発酵産物。
【請求項57】
エタノールを含む組成物を産生する方法であって、方法が、
請求項1~35のいずれか一項に記載の修飾された細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させること
を含み、ここでかかる接触が、少なくとも第1の発酵プロセスの最中に実施されることで、エタノールを含む組成物が産生される、前記方法。
【請求項58】
少なくとも1つの発酵性糖が、少なくとも1つの糖源において提供される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
発酵性糖が、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、および/またはマルトトリオースである、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
前記エタノールを含む組成物が、第1の、第2の、および/または第3の異種遺伝子を発現しない同等の細胞、あるいはAAT活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生されたエタノールを含む組成物と比較して、増大したレベルの、少なくとも1つの所望の産物を含む、請求項57~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
所望の産物が、ヘキサン酸エチルである、請求項57~60に記載の方法。
【請求項62】
前記エタノールを含む組成物が、第1の異種遺伝子、第2の外来性遺伝子、および/または第3の異種遺伝子を発現しない同等の細胞、あるいはAAT活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生されたエタノールを含む組成物と比較して、低減したレベルの、少なくとも1つの望ましくない産物を含む、請求項57~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
少なくとも1つの望ましくない産物が、ヘキサン酸である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記エタノールを含む組成物が、発酵飲料である、請求項57~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
発酵飲料が、ビール、ワイン、スパークリングワイン(シャンパン)、ワインクーラー、ワインスプリッツァー、ハードセルツァー、日本酒、蜂蜜酒、昆布茶、または林檎酒である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
糖源が、麦芽汁、果醪、果汁、蜂蜜、米デンプン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項57~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
果汁が、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツからなる群から選択される少なくとも1つの果実から得られる果汁である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
糖源が、麦芽汁であり、ならびに
方法が、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、以下:
(a)複数の穀物を水と接触させること;ならびに
(b)水および穀物を煮沸するかまたは浸すことで、麦芽汁を産生すること
を含む、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
少なくとも1つのホップ品種を麦芽汁へ加えることで、ホップが効いた麦芽汁を産生することをさらに含む、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
少なくとも1つのホップ品種を培地へ加えることをさらに含む、請求項57~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
糖源が、果醪であり、および
方法が、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、複数の果実を圧搾することで果醪を産生することを含む、請求項66に記載の方法。
【請求項72】
果醪から固体果実材料を除去することで果汁を産生することをさらに含む、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
少なくとも1つの追加の発酵プロセスをさらに含む、請求項57~72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
エタノールを含む組成物に炭酸ガスを入れることをさらに含む、請求項57~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
エタノールを含む組成物であって、組成物が、請求項57~74のいずれか一項に記載の方法によって産生される、得られる、または得ることができる、前記組成物。
【請求項76】
組成物が、少なくとも200μg/Lのヘキサン酸エチルを含む、請求項75に記載の組成物。
【請求項77】
組成物が、10mg/L未満のヘキサン酸を含む、請求項75または76に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年11月13日出願の米国仮出願第63/113,747号の35 U.S.C.§119(e)の下で利益を主張するものであり、その全開示内容体は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の支援
本発明は、全米科学財団によって授与された第1831242号の賞(Award)の下、政府の支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
フルーティな熱帯産果実フレーバーは、発酵飲料市場において極めて所望されている。シャルドネおよびソーヴィニヨン・ブランといったフルーティなフレーバーを付与するワインは、USにおいてワイン販売数の大多数を占めるが(Statista(2019),Wine Consumption by Category,United States)、フルーティなフレーバー付けする(flavoring)ホップから作られるビールの人気は、過去10年間で急騰している(Craft Beer Club(2018),Your Guide to the Most Popular Beer Hops in the USA;Watson(2018),Beer Style Trends)。ビールとワインとの両方に存在するフルーティなフレーバーは、ヒトの検出閾値を上回る濃度で存在するときフルーティな芳香および味覚を付与する揮発性のフレーバー作用分子の存在によって生じる。フルーティな味のするノート(fruity tasting notes)を付与する1つのフレーバー分子は、エステルのヘキサン酸エチルである。ヘキサン酸エチルは、パイナップルのフレーバーに欠かせない重要な一因であるが、またマンゴー、グアバ、およびリンゴといった他のフルーティなフレーバーに必須の構成要素でもある(Reddy et al.Indian J.Microbiol.(2010).50:183-191; Zheng et al.Int.J.Mol.Sci.(2012).13:7383-7392; Kaewtathip et al.Int.J.Food Sci.Tech.(2012).47:985-990; Espino-Diaz et al.Food Technol.Biotechnol.(2016).54:375)。
【発明の概要】
【0004】
概要
本開示は、いくつかの側面において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性をもつ酵素をコードする遺伝子および脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性をもつ酵素をコードする遺伝子を含む遺伝子学的に修飾された酵母細胞を提供する。AAT活性をもつ酵素は、エタノールのヘキサン酸またはヘキサノイル-CoAとの反応を触媒することで、脂肪酸エステルであるヘキサン酸エチルを形成するが、これはフルーティなパイナップルフレーバーをビールおよびワインなどの発酵飲料へ付与する。よって、AAT活性をもつ修飾された細胞は、発酵の間にヘキサン酸エチルを産生することがあるとはいえ(それによってかかるフレーバーが、その結果得られる発酵飲料へ付与される)、フレーバー検出閾値を上回る濃度にて存在するとき、望ましくない、チーズに似た、悪臭のする、ヤギ独特のフレーバーを付与し得る刺激性の脂肪酸であるヘキサン酸もまた産生することがある。FAS2活性をもつ酵素は、脂肪酸鎖を伸長するよう機能する。よって、FAS2活性が変化した、修飾された細胞は、ヘキサン酸エチルを産生するための前駆体である短い脂肪酸鎖を(例として、ヘキサノイル-CoAの形態で)産生することもある。本明細書に記載の修飾された細胞はさらに、発酵の間のヘキサン酸の産生を最小限にし、それによって不快なフレーバーをその結果得られる発酵飲料へ付与するのを回避することを目的とする。本開示の修飾された細胞はまた、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(HCS)活性をもつ酵素をコードする第3の遺伝子も含んでいてもよい。HCS活性をもつ酵素は、基質であるヘキサン酸および遊離の補酵素A(CoA)からヘキサノイル-CoAの形成を触媒する。よって、ヘキサン酸をヘキサン酸エチル合成の前駆体へ変換することにより、HCS活性をもつ修飾された細胞は、発酵の間により多くのヘキサン酸エチルとより少ないヘキサン酸との両方を産生し得、より多くの所望のフレーバーおよびより少ない望ましくないフレーバーを、その結果得られる発酵飲料へ付与する。酵素はさらに、ヘキサン酸エチルのそれらの産生を増加させるかまたはヘキサン酸の産生を低減するよう修飾されていてもよく、酵素をコードする遺伝子は、さらにヘキサン酸エチル産生を増大またはヘキサン酸産生を減少させるためにプロモーターへ作動可能に連結され(operably linked)ていてもよい。
【0005】
本開示は、いくつかの側面において、第1のプロモーターへ作動可能に連結されている、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性をもつ酵素をコードする第1の遺伝子、および第2のプロモーターへ作動可能に連結されている、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性をもつ酵素をコードする第2の遺伝子を含む遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)を提供する。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、Marinobacter hydrocarbonoclasticus、Fragraia x ananassa、Saccharomyces cerevisiae、Neurospora sitophila、Actinidia deliciosa、Actinidia chinensis、Marinobacter aquaeolei、Saccharomycopsis fibuligera、Malus x domestica、Solanum pennellii、またはSolanum lycopersicumに由来する。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、配列番号2~4または12~22で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、配列番号1の配列を含まない。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、配列番号20の配列を含む。
【0006】
いくつかの態様において、第1のAAT活性を有する酵素は、配列番号1の位置A144および/またはA360に対応する位置にて少なくとも1つの置換変異を含む。いくつかの態様において、配列番号1の位置144に対応する位置での置換変異は、フェニルアラニンである。いくつかの態様において、配列番号1の位置360に対応する位置での置換変異は、イソロイシンである。
【0007】
いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、配列番号19の位置A169および/またはA170に対応する位置にて少なくとも1つの置換変異を含む。いくつかの態様において、配列番号19の位置169に対応する位置での置換変異は、グリシンである。いくつかの態様において、配列番号19の位置170に対応する位置での置換変異は、フェニルアラニンである。いくつかの態様において、第1のAAT活性を有する酵素は、野生型MhWES2アミノ酸配列の位置G150に対応する位置にて置換変異を含む。いくつかの態様において、野生型MhWES2アミノ酸配列の位置G150に対応する位置での置換変異は、フェニルアラニンである。
【0008】
いくつかの態様において、FAS2活性を有する酵素は、Saccharomyces cerevisiaeに由来する。いくつかの態様において、FAS2活性を有する酵素は、配列番号6の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、FAS2活性を有する酵素は、配列番号5の配列を含まない。いくつかの態様において、FAS2活性を有する酵素は、配列番号5の位置1250に対応する位置にて置換変異を含む。いくつかの態様において、配列番号5の位置1250に対応する位置での置換変異は、セリンである。
【0009】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、第3のプロモーターへ作動可能に連結されている第3の異種遺伝子をさらに含み、ここで第3の異種遺伝子は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(HCS)活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、HCS活性を有する酵素は、Cannabis sativaに由来する。いくつかの態様において、HCS活性を有する酵素は、配列番号7の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。
【0010】
いくつかの態様において、第1のプロモーターおよび/または第2のプロモーターは、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、およびpHHF2からなる群から選択される。いくつかの態様において、第1のプロモーターは、pHEM13であり、および第2のプロモーターは、pSPG1である。他の態様において、第1のプロモーターは、pHEM13であり、および第2のプロモーターは、pPRB1である。もう1つの他の態様において、第1のプロモーターは、pQCR10であり、および第2のプロモーターは、pPRB1である。もう1つの他の態様において、第1のプロモーターは、pPGKであり、および第2のプロモーターは、pPRB1である。
【0011】
いくつかの態様において、第3のプロモーターは、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、およびpHHF2からなる群から選択される。いくつかの態様において、第1のプロモーターは、pHEM13であり、第2のプロモーターは、pPRB1であり、および第3のプロモーターは、pHEM13である。他の態様において、第1のプロモーターは、pQCR10であり、第2のプロモーターは、pPRB1であり、および第3のプロモーターは、pHEM13である。他の態様において、第1のプロモーターは、pPGK1であり、第2のプロモーターは、pPRB1であり、および第3のプロモーターは、pERG25である。
【0012】
いくつかの態様において、細胞は、1以上の内在性のAAT酵素の発現を低減するよう遺伝子学的に修飾されている。いくつかの態様において、修飾された細胞は、内在性のEEB1、EHT1、および/またはMGL2を発現しない。
【0013】
いくつかの態様において、酵母細胞は、属Saccharomycesから成る。いくつかの態様において、酵母細胞は、種Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)から成る。いくつかの態様において、酵母細胞は、S.cerevisiae California Ale酵母株WLP001、EC-1118、Elegance、Red Star Cote des Blancs、またはEpernay IIである。いくつかの態様において、酵母細胞は、種Saccharomyces pastorianus(S.pastorianus)から成る。
【0014】
いくつかの態様において、修飾された細胞の成長速度は、第1の異種遺伝子および第2の外来性遺伝子を含まない野生型酵母細胞と比べて、実質的に損なわれていない。いくつかの態様において、発酵開始から1月以内に、修飾された細胞は、第1の異種遺伝子および第2の外来性遺伝子を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量と同等量の発酵性糖を発酵させる。いくつかの態様において、発酵開始から1月以内に、修飾された細胞は、培地中の発酵性糖の量を少なくとも95%まで低減する。いくつかの態様において、細胞は、FAS2活性を有する酵素をコードする内在性の遺伝子を含む。
【0015】
いくつかの本開示の側面は、修飾された細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させることを含む、発酵産物を作製する方法を提供し、ここで接触させることは、少なくとも第1の発酵プロセスの最中に実施されることで、発酵産物が産生される。いくつかの態様において、少なくとも1つの発酵性糖は、少なくとも1つの糖源において提供される。いくつかの態様において、発酵性糖は、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、および/またはマルトトリオースである。
【0016】
いくつかの態様において、発酵産物は、第1の、第2の、および/または第3の異種遺伝子を発現しない同等の細胞、あるいはAAT活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生された発酵産物と比較して、増大したレベルの、少なくとも1つの所望の産物を含む。いくつかの態様において、所望の産物は、ヘキサン酸エチルである。
【0017】
いくつかの態様において、発酵産物は、第1の異種遺伝子、第2の外来性遺伝子、および/または第3の異種遺伝子を発現しない同等の細胞、あるいはAAT活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生された発酵産物と比較して、低減したレベルの、少なくとも1つの望ましくない産物を含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの望ましくない産物は、ヘキサン酸である。
【0018】
いくつかの態様において、発酵産物は、発酵飲料である。いくつかの態様において、発酵飲料は、ビール、ワイン、スパークリングワイン(シャンパン)、ワインクーラー、ワインスプリッツァー、ハードセルツァー、日本酒、蜂蜜酒、昆布茶、または林檎酒である。
【0019】
いくつかの態様において、糖源は、麦芽汁、果醪、果汁、蜂蜜、米デンプン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、果汁は、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツからなる群から選択される少なくとも1つの果実から得られる果汁である。
【0020】
いくつかの態様において、糖源は、麦芽汁であり、ならびに方法は、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することは、以下:(a)複数の穀物を水と接触させること;ならびに(b)水および穀物を煮沸するかまたは浸すことで、麦芽汁を産生することを含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つのホップ品種を麦芽汁へ加えることで、ホップが効いた麦芽汁を産生することをさらに含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つのホップ品種を培地へ加えることをさらに含む。
【0021】
いくつかの態様において、糖源は、果醪であり、および方法は、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、複数の果実を圧搾することで果醪を産生することを含む。いくつかの態様において、方法は、果醪から固体果実材料(solid fruit material)を除去することで果汁を産生することをさらに含む。
【0022】
いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つの追加の発酵プロセスを含む。いくつかの態様において、方法は、発酵産物に炭酸ガスを入れること(carbonating)を含む。
【0023】
本開示は、いくつかの側面において、本明細書に記載の方法の1つによって産生された、得られた、または得ることができる発酵産物を提供する。いくつかの態様において、発酵産物は、少なくとも200μg/Lのヘキサン酸エチルを含む。いくつかの態様において、発酵産物は、10mg/L未満のヘキサン酸を含む。
【0024】
いくつかの本開示の側面は、エタノールを含む組成物を産生する方法を提供するが、方法は、修飾された細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させることを含み、ここでかかる接触は、少なくとも第1の発酵プロセスの最中に実施されることで、エタノールを含む組成物が産生される。
【0025】
いくつかの態様において、少なくとも1つの発酵性糖は、少なくとも1つの糖源において提供される。いくつかの態様において、発酵性糖は、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、および/またはマルトトリオースである。
【0026】
いくつかの態様において、エタノールを含む組成物は、第1の、第2の、および/または第3の異種遺伝子を発現しない同等の細胞、あるいはAAT活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生されたエタノールを含む組成物と比較して、増大したレベルの、少なくとも1つの所望の産物を含む。いくつかの態様において、所望の産物は、ヘキサン酸エチルである。
【0027】
いくつかの態様において、エタノールを含む組成物は、第1の異種遺伝子、第2の外来性遺伝子、および/または第3の異種遺伝子を発現しない同等の細胞、あるいはAAT活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生されたエタノールを含む組成物と比較して、低減したレベルの、少なくとも1つの望ましくない産物を含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの望ましくない産物は、ヘキサン酸である。
【0028】
いくつかの態様において、エタノールを含む組成物は、発酵飲料である。いくつかの態様において、発酵飲料は、ビール、ワイン、スパークリングワイン(シャンパン)、ワインクーラー、ワインスプリッツァー、ハードセルツァー、日本酒、蜂蜜酒、昆布茶、または林檎酒である。
【0029】
いくつかの態様において、糖源は、麦芽汁、果醪、果汁、蜂蜜、米デンプン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、果汁は、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツからなる群から選択される少なくとも1つの果実から得られる果汁である。
【0030】
いくつかの態様において、糖源は、麦芽汁であり、ならびに方法は、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、以下:(a)複数の穀物を水と接触させること;ならびに(b)水および穀物を煮沸するかまたは浸すことで、麦芽汁を産生することを含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つのホップ品種を麦芽汁へ加えることで、ホップが効いた麦芽汁を産生することをさらに含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つのホップ品種を培地へ加えることをさらに含む。
【0031】
いくつかの態様において、糖源は、果醪であり、および方法は、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、複数の果実を圧搾することで果醪を産生することを含む。いくつかの態様において、方法は、果醪から固体果実材料を除去することで果汁を産生することをさらに含む。
【0032】
いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つの追加の発酵プロセスを含む。いくつかの態様において、方法は、エタノールを含む組成物に炭酸ガスを入れることを含む。
【0033】
本開示は、いくつかの側面において、本明細書に記載の方法の1つによって産生される、得られる、または得ることができるエタノールを含む組成物を提供する。いくつかの態様において、エタノールを含む組成物は、少なくとも200μg/Lのヘキサン酸エチルを含む。いくつかの態様において、エタノールを含む組成物は、10mg/L未満のヘキサン酸を含む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図面の簡単な記載
さらなる本開示の側面は、添付の図面と併せて考慮したとき、下に記載のその様々な側面および態様の詳細な記載を見直せば、容易に解されるであろう。
図1図1Aおよび1Bは、麦芽抽出物発酵における改変されたビール醸造酵母株によるヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の産生を示す。図1Aは、改変された醸造酵母株によるヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の産生の、親の野生型Saccharomyces cerevisiae CA01株と比較した倍数変化を示す。図1Bは、Saccharomyces cerevisiae 株y1210または野生型Saccharomyces cerevisiae CA01株によって産生されたヘキサン酸エチル(mg/L)およびヘキサン酸(mg/L)の濃度を示す。各バーは2つの生物学的再現の平均を報告する。エラーバーは標準偏差を指し示す。株は、野生型Saccharomyces cerevisiae CA01(CA01);FAS2_G1250SおよびMpAAT1_A169G/A170F(y1059)を発現するCA01;FAS2_G1250SおよびMpAAT1_A169G/A170Fを発現し、かつ欠失EHT1(y1227)を含むCA01;FAS2_G1250SおよびMpAAT1_A169G/A170Fを発現し、かつEHT1およびEEB1(y1076)の欠失を含むCA01;FAS2_G1250SおよびMpAAT1_A169G/A170Fを発現し、かつEHT1、EEB1、およびMGL2(y1170)の欠失を含むCA01;FAS2_G1250S、MpAAT1_A169G/A170F、およびHCSを発現し、かつEHT1、EEB1、およびMGL2(y1210)の欠失を含むCA01;ならびに、FAS2およびMpAAT1_A169G/A170Fを発現し、かつEHT1およびEEB1(y1232)の欠失を含むCA01に対応する。
【0035】
図2図2Aおよび2Bは、ブドウ果汁発酵における改変されたワイン酵母株によるヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の産生を示す。図2Aは、改変されたワイン酵母株および野生型親Saccharomyces cerevisiae EC1118株によって産生されたヘキサン酸エチル(mg/L)およびヘキサン酸(mg/L)の濃度を示す。図2Bは、指し示された株の各々によって産生されたヘキサン酸に対するヘキサン酸エチルの比率を示す。ヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の濃度の値は、図2Aに由来する。各バーは2つの生物学的再現の平均を報告する。エラーバーは標準偏差を指し示す。株は、野生型S.cerevisiae EC1118(EC1118)、FAS2_G1250SおよびMaWES1-A144F/A360I(配列番号4;y786)を発現するS.cerevisiae Elegance;FAS2_G1250SおよびMaWES1を発現し、かつEHT1およびEEB1(y1080)の欠失を含むS.cerevisiae Elegance;FAS2_G1250SおよびMaWES1(y796)を発現するS.cerevisiae EC1118;FAS2_G1250SおよびMaWES1を発現し、かつEHT1およびEEB1(y1115)の欠失を含むS.cerevisiae EC1118;FAS2_G1250SおよびMpAAT1_A169G/A170F(y1134)を発現するS.cerevisiae EC1118;ならびに、FAS2_G1250SおよびMpAAT1_A169G/A170Fを発現し、かつEHT1およびEEB1(y1138)の欠失を含むS.cerevisiae EC1118に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
詳細な記載
フルーティな熱帯産果実フレーバーは、発酵飲料市場において消費者に極めて所望されている。シャルドネおよびソーヴィニヨン・ブランワイン、ならびに熱帯芳香のフレーバー付けするホップで産生されるビールの確固たる販売数でも分かるとおり、パイナップル、グアバ、およびベリーのフレーバーはとくに人気を博している。これらフレーバーの果実と発酵飲料との両方における存在は、消費されたときに独特の味覚および芳香を集合的に付与する様々なフレーバー作用分子に起因する。1つのかかる分子であるヘキサン酸エチルは、多くのフルーティな熱帯産果実フレーバーへ寄与する。単離されると、ヘキサン酸エチルはパイナップルとして知覚されるが、またマンゴー、リンゴ、グアバ、および多くの他の果実のフレーバーへも寄与する。本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞および方法は、ビールまたはワインの産生などのための発酵の間に産生されるヘキサン酸エチルの濃度を増大することを目的とする。
【0037】
数グループが、発酵プロセスの間にヘキサン酸エチルの産生を増大させるために酵母株を改変することを試みている。しかしながら、これらの取り組みは、ヘキサン酸エチルの増大産生、変化しない成長速度、およびオフフレーバー分子であるヘキサン酸の最小限産生という株の表現型を調和する上での課題に起因して、ヘキサン酸エチル産生が増強された商業上実行可能な酵母の開発には至っていない。対照的に、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、増大したレベルのヘキサン酸エチル、低減したレベルのオフフレーバー(例として、ヘキサン酸)を産生することが可能であって、実質的に変化しない成長特徴を有する。
【0038】
ヘキサン酸エチルの濃度は、100μg/L未満から1500μg/L超までと、種々のビールおよびワインの種類間で大きく変動する(例として、Avram et al.Anal.Lett.(2015).48:1099-1116; Niu et al.J.Chromatogr.B.(2011).879:2287-2293; Holt et al.FEMS Microbiol Rev.(2019).43:193-222を見よ)。ヘキサン酸エチル濃度のこのバリエーションは、特定のブドウ、大麦、またはホップの単一品種(varietals)の差異に一部起因する。これら単一品種は、それらの発酵のための出発材料として使用されるが、発酵プロセスに使用される酵母株によっても影響を受ける。いくつかの酵母株は、フルーティなフレーバーをもつ発酵飲料を産生することもあるが、産生されるヘキサン酸エチルの濃度はしばしば、ヒトの検出閾値を上回るのがやっとである。その結果として、ヘキサン酸エチルに関連するフルーティなフレーバーはしばしば、強力なフレーバー付けするホップなどの他の構成要素の飲料への添加後はとくに、微妙またはほとんど目立たない。
【0039】
本明細書に提供されるのは、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素および脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性を有する酵素を発現するよう改変された、遺伝子学的に修飾された酵母細胞である。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、ヘキサン酸エチルの産生を増大し、および/または望ましくないヘキサン酸の産生を低減するよう修飾されている。本明細書に提供されるのにはまた、発酵プロセスの最中に、遺伝子学的に修飾された酵母細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む糖源を含む培地と接触させることを伴う、発酵飲料を産生する方法もある。本明細書に提供されるのにはまた、発酵プロセスの最中に、遺伝子学的に修飾された酵母細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む糖源を含む培地と接触させることを伴う、エタノール(エタノールを含む組成物を包含する)を産生する方法もある。
【0040】
アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)酵素
本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性をもつ酵素をコードする遺伝子を含有する。いくつかの態様において、遺伝子は、異種遺伝子である。用語「異種遺伝子」は、本明細書に使用されるとき、導入遺伝子を当然ながらコードしない宿主生物(例として、遺伝子学的に修飾された細胞)中へ導入されこれによって発現される遺伝的指令を含有する核酸(例として、DNA)の配列を指す。異種遺伝子は、細胞によって典型的には発現しない酵素、または細胞が典型的には発現しない酵素のバリアント(例として、突然変異した酵素)をコードしていてもよい。
【0041】
アセチル-CoA:アセチルトランスフェラーゼまたはアルコールアセチルトランスフェラーゼとも称されることがあるアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、アシル-補酵素A(CoA)ドナーからアクセプターアルコールへのアシル鎖の移動を触媒し、アシルエステルの産生をもたらす二基質酵素である。発酵飲料に存在するアシルエステルは、そのフレーバーに影響を及ぼす。エタノールとヘキサン酸またはヘキサノイル-CoAのいずれかとの縮合によって形成されるエステルのヘキサン酸エチルは、パイナップルフレーバーをビールおよびワインなどの発酵飲料へ付与する。
【0042】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子は、野生型アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子(例として、生物から単離された遺伝子)である。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子は、突然変異アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子であって、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子の核酸配列中、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素のアミノ酸配列中、1以上の突然変異(例として、置換、欠失、挿入)を含有する。当業者によって理解されるとおり、核酸配列における突然変異は、野生型酵素または参照酵素と比べて、翻訳されたポリペプチドのアミノ酸配列を変化させてもよく(例として、置換変異)、または翻訳されたポリペプチドのアミノ酸配列を変化させなくてもよい(例として、サイレント突然変異)。
【0043】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子は、切断型(truncation)であるが、これは野生型酵素または参照酵素と比べて、好ましくは酵素のN末端またはC末端にて、1以上のアミノ酸が欠損している。
【0044】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、細菌、または酵母を包含する真菌から得られる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Marinobacter hydrocarbonoclasticus、Saccharomyces cerevisiae、Neurospora sitophila、Fragaria x ananassa、Actinidia deliciosa、Actinidia chinensis、Marinobacter aquaeolei、Saccharomycopsis fibuligera、Malus x domestica、またはSolanum pennelliiから得られる。
【0045】
例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、受託番号WP_011783747.1で規定されるMarinobacter aquaeoleiからのMaWESであって、アミノ酸配列は配列番号1として表される。
【0046】
Marinobacter aquaeoleiからの野生型MaWESのアミノ酸配列
MTPLNPTDQLFLWLEKRQQPMHVGGLQLFSFPEGAPDDYVAQLADQLRQKTEVTAPFNQRLSYRLGQPVWVEDEHLDLEHHFRFEALPTPGRIRELLSFVSAEHSHLMDRERPMWEVHLIEGLKDRQFALYTKVHHSLVDGVSAMRMATRMLSENPDEHGMPPIWDLPCLSRDRGESDGHSLWRSVTHLLGLSGRQLGTIPTVAKELLKTINQARKDPAYDSIFHAPRCMLNQKITGSRRFAAQSWCLKRIRAVCEAYGTTVNDVVTAMCAAALRTYLMNQDALPEKPLVAFVPVSLRRDDSSGGNQVGVILASLHTDVQEAGERLLKIHHGMEEAKQRYRHMSPEEIVNYTALTLAPAAFHLLTGLAPKWQTFNVVISNVPGPSRPLYWNGAKLEGMYPVSIDMDRLALNMTLTSYNDQVEFGLIGCRRTLPSLQRMLDYLEQGLAELELNAGL(配列番号1)
【0047】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Marinobacter aquaeolei(配列番号1)からのMaWESのホモログである。ホモログまたは関連酵素は、本明細書に記載の方法などの、当該技術分野において知られている方法を使用して同定されてもよい。
【0048】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、作物などの植物から得られる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、イチゴ植物からのものである。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子は、Fragraia種からのものである。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子は、Fragraia x ananassaからのものである。F.x ananassaからの野生型MaWESホモログのアミノ酸配列は、受託番号AAG13130.1によって与えられ、Marinobacter aquaeoleis(配列番号1)からのMaWESと17%の配列同一性を有する。高度に保存されたHXXXD[A/G]モチーフ内の触媒作用のヒスチジンは、下の配列番号2においてボールド体で指し示される。このモチーフは、植物および細菌種のAAT酵素にわたって高度に保存されている。植物ホモログはまた、下に下線で示される、高度に保存された[N/D]FGWG(配列番号23)モチーフも有する。
【0049】
Fragraia x ananassaからの野生型アルコール-O-アシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列
【化1】
(配列番号2)
【0050】
例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばBeekwilder J,et al.Plant Physiol.(2004)135(4):1865-78に記載されるとおり、Fragaria x ananassaからのSAATである。いくつかの態様において、Fragaria x ananassaからのアミノ酸配列SAATは、配列番号14として表される。
【0051】
MGEKIEVSINSKHTIKPSTSSTPLQPYKLTLLDQLTPPAYVPIVFFYPITDHDFNLPQTLADLRQALSETLTLYYPLSGRVKNNLYIDDFEEGVPYLEARVNCDMTDFLRLRKIECLNEFVPIKPFSMEAISDERYPLLGVQVNVFDSGIAIGVSVSHKLIDGGTADCFLKSWGAVFRGCRENIIHPSLSEAALLFPPRDDLPEKYVDQMEALWFAGKKVATRRFVFGVKAISSIQDEAKSESVPKPSRVHAVTGFLWKHLIAASRALTSGTTSTRLSIAAQAVNLRTRMNMETVLDNATGNLFWWAQAILELSHTTPEISDLKLCDLVNLLNGSVKQCNGDYFETFKGKEGYGRMCEYLDFQRTMSSMEPAPDIYLFSSWTNFFNPLDFGWGRTSWIGVAGKIESASCKFIILVPTQCGSGIEAWVNLEEEKMAMLEQDPHFLALASPKTLI(配列番号14)
【0052】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、トマト植物からのものである。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子は、Solanum種からのものである。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子は、Solanum lycopersicumからのものである。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Solanum pennelliiからのものである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばGoulet C,et al.Molecular Plant(2015)8:1,153-162に記載されるとおり、Solanum pennelliiからのSpAAT1である。Solanum pennelliiからの野生型MaWESホモログのアミノ酸配列は、受託番号NP_001310384.1によって与えられ、Marinobacter aquaeolei(配列番号1)からのMaWESと15%の配列同一性を有する。いくつかの態様において、Solanum pennelliiからのSpAAT1のアミノ酸配列は、配列番号3として表される。
【0053】
MANTLPISINYHKPKLVVPSSVTPHETKRLSEIDDQGFIRFQIPILMFYKYNSSMKGKDPARIIEDGLSKTLVFYHPLAGRLIEGPNKKLMVNCNGEGVLFIEGDANIELEKLGESIKPPCPYLDLLLHNVPGSDGIIGSPLLLIQVTRFTCGGFAVGFRVSHTMMDGYGFKMFLNALSELIQGASTPSILPVWQRHLLSARSSPCITCSHHEFDEEIESKIAWESMEDKLIQESFFFGNEEMEVIKNQIPPNYGCTKFELLMAFLWKCRTIALDLHPEEIVRLTYVINIRGKKSLNIELPIGYYGNAFVTPVVVSKAGLLCSNPVTYAVELIKKVKDHINEEYIKSVIDLTVIKGRPELTKSWNFLVSDNRYIGFDEFDFGWGNPIFGGISKATSFISFGVSVKNDKGEKGVLIAISLPPLAMKKLQDIYNMTFRVIIPRI(配列番号3)
【0054】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Saccharomyces cerevisiaeからのものである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばVerstrepen KJ,et al.Appl Microbiol Biotechnol.(2003)61(3):197-205に記載されるとおり、Saccharomyces cerevisiaeからのScATF1である。Saccharomyces cerevisiaeからのScATF1のアミノ酸配列は、配列番号12として表される。
MNEIDEKNQAPVQQECLKEMIQNGHARRMGSVEDLYVALNRQNLYRNFCTYGELSDYCTRDQLTLALREICLKNPTLLHIVLPTRWPNHENYYRSSEYYSRPHPVHDYISVLQELKLSGVVLNEQPEYSAVMKQILEEFKNSKGSYTAKIFKLTTTLTIPYFGPTGPSWRLICLPEEHTEKWKKFIFVSNHCMSDGRSSIHFFHDLRDELNNIKTPPKKLDYIFKYEEDYQLLRKLPEPIEKVIDFRPPYLFIPKSLLSGFIYNHLRFSSKGVCMRMDDVEKTDDVVTEIINISPTEFQAIKANIKSNIQGKCTITPFLHVCWFVSLHKWGKFFKPLNFEWLTDIFIPADCRSQLPDDDEMRQMYRYGANVGFIDFTPWISEFDMNDNKENFWPLIEHYHEVISEALRNKKHLHGLGFNIQGFVQKYVNIDKVMCDRAIGKRRGGTLLSNVGLFNQLEEPDAKYSICDLAFGQFQGSWHQAFSLGVCSTNVKGMNIVVASTKNVVGSQESLEELCSIYKALLLGP(配列番号12)
【0055】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Neurospora sitophilaからのものである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Neurospora sitophilaからのNsATF1であり、そのアミノ酸配列は配列番号13として表される。
MGTSIPQPIRPLGPCEAYSSSRHALGFYRCLANTCRYAVPWSVLQGKSVPDVLEAAIANLVLRLPRLSVAITGDEASRPYFASVSSLDLSYHLECVELRAELDFHARDSHLLHMLEAQHNQLWPDVGFRPPWKVLAVYDPRPSQLEDRLILDIVLAIHHSLADGRSTAIFQTSLLDELNKPPVRPSCLEDHVLRMPSKPHGHILPPQEELVKFTTSWRFLAGTLWNEFVSGWLYKPATDLPWAGAPIRPDPYQTRLRLVTIPAKAVSQLLTNCRANETTLTPLLHVLILTSLARRLTAEAATSFQSCTPVDLRPFIQSGSHVADPAEVFGVLVTSASHSFNSSRVSGLREQASGEKIWSLAQTLRQELKDRLEAIPQDDMVSMLRWIANWRGFWLNKVNKPREHTLEVSNIGSLHGSPEKTANADLETGSKWQIVRSVMSQCAIVAGPALCASVSGVVGGPISIALSWQEGIIESELVEGVAHDLQLWMNQGGPVHGQRLP(配列番号13)
【0056】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Actinidia deliciosaからのものである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばGunther CS,et al.Phytochemistry(2011)72(8):700-10に記載されるとおり、Actinidia deliciosaからのAdAAT1である。いくつかの態様において、Actinidia deliciosaからのAdAAT1のアミノ酸配列は、配列番号15として表される。
MASSVRLVKKPVLVAPVDPTPSTVLSLSSLDSQLFLRFPIEYLLVYASPHGVDRAVTAARVKAALARSLVPYYPLAGRVKTRPDSTGLDVVCQAQGAGLLEAVSDYTASDFQRAPRSVTEWRKLLLVEVFKVVPPLVVQLTWLSDGCVALGVGFSHCVIDGIGSSEFLNLFAELATGRARLSEFQPKPVWDRHLLNSAGRTNLGTHPEFGRVPDLSGFVTRFTQERLSPTSITFDKTWLKELKNIAMSTSQPGEFPYTSFEVLSGHIWRSWARSLNLPAKQVLKLLFSINIRNRVKPSLPAGYYGNAFVLGCAQTSVKDLTEKGLGYCADLVRGAKERVGDEYAREVVESVSWPRRASPDSVGVLIISQWSRLGLDRVDFGLGRPVQVGPICCDRYCLFLPVRDRTESVKVMVAVPTSAVDRYEYFIRSPYS(配列番号15)
【0057】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Actinidia chinensisからのものである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばGunther CS,et al.Phytochemistry(2011)72(8):700-10に記載されるとおり、Actinidia chinensisからのAcAAT16である。いくつかの態様において、Actinidia chinensisからのAcAAT16のアミノ酸配列は、配列番号16として表される。
MASFPPSLVFTVRRNEPTLVLPSKSTPRELKQLSDIDDQEGLRFQVPVIMFYKRKLSMEGEDPVKVIREALAEALVFYYPFAGRLIEGPNRKLMVDCTGEGVLFIEADADIEVNQLIGDTIDPGFSYLDELLHDVPGSEGILGCPLLLIQVTRFRCGGWAFAIRLNHTMSDAPGLVQLLTTIAEFARGAEGAPSVPPVWQREFLAARQPPSITFQHHEYEQVINTTTDDNKSMTHKSFFFGPKEIRAIRSHFPPHYRSVSSTFDVLTACLWRCRTCALGLDPPKTVRISCAANGRGKHDLHVPRGYYGNVFAFPAVVSRAGMISTSSLEYTVEEVKKAKARMTGEYLRSVADLMVTKGRPLYTVAGNYIVSDTTRVGFDAIDFGWGKPVYGGPARAFPLISFYARFKNNRGEDGTVVLICLPEAAMKRFQDELKKMTEEHVDGPFEYKLIKVMSKL(配列番号16)
【0058】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Saccharomycopsis fibuligeraからのものである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばMoon HY,et al.Systems and Synthetic Microbiology and Bioinformatics(2021)59,598-608に記載されるとおり、Saccharomycopsis fibuligeraからのSfATFA2である。いくつかの態様において、Saccharomycopsis fibuligeraからのSfATFA2のアミノ酸配列は、配列番号17として表される。
MTSETLQTSSSSFPASEASQKDSTPAQTTQTAQKQGPVKSKDDLTYKAPFLERNFYFSSKHELFNCFGVSIVVNKPISREQFYVALRKIILKYPKSITSVYDEFDREHHLRFIPKTKIIFDDNAVEFNEKFDQYPYQNKELSALLTSYRFDADPNNGKPSWKIVYFPKIKMLSWLFDHPISDGASGAAFCKELVESLNYITQKELDEAKDLFESSAANKKAVELFNLEKDISKFENPITPDSFKIAGYKPSLAEKIGTPILRFFLDKFPKLFPLVIEGEMHKQQFVDTKPIKFDNKKFFVREQDVISKDSPLCGQALTYIRIDPETTAKILQQCRNNNTKFQTTFMMVFLSTIHEIAPEAYTNKYLKIVTAANFRHIFPNYKYGHSKFLSKPDSYTKETGQFKDGFHDHAVVFYVEPFKKFNWNLVQKYHNFLHKLIRSKQWFSGYYLASEAVSAKTFFDQKIGTHDDTYFALTNLGFVDLIDHGEEASNKYQIEDLIFTASPGPMTGTHSAVLTSTKNGINICVADQDPAINSEEFRARLTENLRKLAESGNV(配列番号17)
【0059】
例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばMoon HY,et al.Systems and Synthetic Microbiology and Bioinformatics(2021)59,598-608に記載されるとおり、Saccharomycopsis fibuligeraからのSfATFB4である。いくつかの態様において、Saccharomycopsis fibuligeraからのSfATFB4のアミノ酸配列は、配列番号18として表される。
MGNFQFSRNDFYTDPTFTEKCFYYYDQYGLISNFSVTIKTTASITRELLYAALKKVILKYPNLVSSIHDKFDYDTHNEKTLTKSPKKIIYFDDNIVQFISQDEETRNYADINQIQLLLNATKFDSNFTNGKPMWKIFVFPNKNLTSWVFDYSIFDGGSAIVYQKELVEALNQILESEQQKAREILDNASKRTTPILFDFEKDWPLFQRAPSQGIFKEINYVPSIFKKVSSQVIKLLSNAVPDKTIDELNDEANKSAFLERIIFEKEKLYLSKNVIGLESGAAKPLSKIININHIILSKILDKCHTKGCNFQAIFIIIFLATVHQVIPLQYSKKYLKTVTSASFRNIFTKQFVSHNEYLAEQELGIQKLLQGQQQFIDGIFVHSAIIYIEPFDEFSWELCHKYDSFLHTLLHSKGWFANYYVANRGIQAKAFVDNKLGSQDDVFVSFDNLGLVRVKESGKFQIEDIIFTKAPDPIAGDNLIAMVSTKKGGLNIQINIAEEHIQARFDEFCLRLSENLIALGNF(配列番号18)
【0060】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Malus x domesticaからのものである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばDunemann F,et al.Molecular Breeding(2012)29,609-625に記載されるとおり、Malus x domesticaからMpAAT1のである。
【0061】
いくつかの態様において、Malus x domesticaからのMpAAT1のアミノ酸配列は、配列番号19として表される。
MMSFSVLQVKRLQPELITPAKSTPQETKFLSDIDDQESLRVQIPIIMCYKDNPSLNKNRNPVKAIREALSRALVYYYPLAGRLREGPNRKLVVDCNGEGILFVEASADVTLEQLGDKILPPCPLLEEFLYNFPGSDGIIDCPLLLIQVTCLTCGGFILALRLNHTMCDAAGLLLFLTAIAEMARGAHAPSILPVWERELLFARDPPRITCAHHEYEDVIGHSDGSYASSNQSNMVQRSFYFGAKEMRVLRKQIPPHLISTCSTFDLITACLWKCRTLALNINPKEAVRVSCIVNARGKHNNVRLPLGYYGNAFAFPAAISKAEPLCKNPLGYALELVKKAKATMNEEYLRSVADLLVLRGRPQYSSTGSYLIVSDNTRVGFGDVNFGWGQPVFAGPVKALDLISFYVQHKNNTEDGILVPMCLPSSAMERFQQELERITQEPKEDICNNLRSTSQ(配列番号19)
【0062】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Marinobacter hydrocarbonoclasticusからのものである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Holtzeapple E,et al.Journal of Bacteriology(2007)189:10によって記載のとおり、Marinobacter hydrocarbonoclasticusからのMhWES2である。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Marinobacter hydrocarbonoclasticusからのMhWES2であり、1以上の突然変異(例として、置換、挿入、欠失)を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Marinobacter hydrocarbonoclasticusからのMhWES2であり、グリシン(G)残基を位置150にて含まない。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Marinobacter hydrocarbonoclasticusからのMhWES2であり、フェニルアラニン(F)残基を位置150にて含む。フェニルアラニンを150に対応する位置にて含む、Marinobacter hydrocarbonoclasticusからのMhWES2のアミノ酸配列は、配列番号21として表される。
MGKRLGTLDASWLAVESEDTPMHVGTLQIFSLPEGAPETFLRDMVTRMKEAGDVAPPWGYKLAWSGFLGRVIAPAWKVDKDIDLDYHVRHSALPRPGGERELGILVSRLHSNPLDFSRPLWECHVIEGLENNRFALYTKMHHSMIDGISFVRLMQRVLTTDPERCNMPPPWTVRPHQRRGAKTDKEASVPAAVSQAMDALKLQADMAPRLWQAGNRLVHSVRHPEDGLTAPFTGPVSVLNHRVTAQRRFATQHYQLDRLKNLAHASGGSLNDIVLYLCGTALRRFLAEQNNLPDTPLTAGIPVNIRPADDEGTGTQISFMIASLATDEADPLNRLQQIKTSTRRAKEHLQKLPKSALTQYTMLLMSPYILQLMSGLGGRMRPVFNVTISNVPGPEGTLYYEGARLEAMYPVSLIAHGGALNITCLSYAGSLNFGFTGCRDTLPSMQKLAVYTGEALDELESLILPPKKRARTRK(配列番号21)
【0063】
アルコール-O-アシルトランスフェラーゼのアミノ酸は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼのバリアントを産生するよう修飾され(例として、置換され)ていてもよい。例えば、本明細書に記載のとおり、配列番号1のアラニン144およびアラニン360と夫々称される、位置144および/または360でのアミノ酸は、発酵の間のヘキサン酸エチルの増大した産生、発酵の間のヘキサン酸の増大した産生、および/またはヘキサン酸の産生に対するヘキサン酸エチルの増加した比率などの所望の活性を有するアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ酵素を産生するよう突然変異されていてもよい。いくつかの態様において、配列番号1のアラニン144および/またはアラニン360に対応するアミノ酸は、アラニン残基ではないアミノ酸(例として、いずれか他のアミノ酸)で置換されていてもよい。
【0064】
いくつかの態様において、配列番号1の位置144でのアラニン(A144)に対応するアミノ酸は、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(G)、システイン(C)、グリシン(G)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)から選択されるアミノ酸で置換されている。いくつかの態様において、配列番号1の位置144でのアラニン(A144)に対応するアミノ酸は、疎水性アミノ酸(例として、ヒスチジン(H)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W))で置換されている。いくつかの態様において、配列番号1の位置144でのアラニン(A144)に対応するアミノ酸は、フェニルアラニン(F)残基で置換されている(A144F)。
【0065】
いくつかの態様において、配列番号1の位置360でのアラニン(A360)に対応するアミノ酸は、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(G)、システイン(C)、グリシン(G)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)から選択されるアミノ酸で置換されている。いくつかの態様において、配列番号1の位置360でのアラニン(A360)に対応するアミノ酸は、疎水性アミノ酸(例として、ヒスチジン(H)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W))で置換されている。いくつかの態様において、配列番号1の位置360でのアラニン(A360)に対応するアミノ酸は、イソロイシン(I)残基で置換されている(A360I)。
【0066】
いくつかの態様において、配列番号1の位置144でのアラニン(A144)に対応するアミノ酸は、フェニルアラニン(F)残基で置換され(A144F)、かつ配列番号1の位置360でのアラニン(A360)に対応するアミノ酸は、イソロイシン(I)残基で置換され(A360I)、配列番号4で規定される。
【0067】
Marinobacter hydrocarbonoclasticusからのバリアントMaWESのアミノ酸配列 - A144FおよびA360I突然変異(A144FおよびA360I)
【化2】
(配列番号4)
【0068】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Malus x domesticaからのもの、またはそのバリアントである。例示のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、例えばDunemann F.et al.Molecular Breeding(2012)29,609-625に記載されるとおり、Malus x domesticaからのMpAAT1である。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Malus x domesticaからのMpAAT1であり、1以上の突然変異(例として、置換、挿入、欠失)を含む。
【0069】
いくつかの態様において、配列番号19の位置169でのアラニン(A169)に対応するアミノ酸は、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、システイン(C)、グリシン(G)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)から選択されるアミノ酸で置換されている。いくつかの態様において、配列番号19の位置169でのアラニン(A169)に対応するアミノ酸は、グリシン(G)残基で置換されている(A169G)。
【0070】
いくつかの態様において、配列番号19の位置170でのアラニン(A170)に対応するアミノ酸は、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、システイン(C)、グリシン(G)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)から選択されるアミノ酸で置換されている。いくつかの態様において、配列番号19の位置170でのアラニン(A170)に対応するアミノ酸は、フェニルアラニン(F)残基で置換されている(A170F)。
【0071】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、Malus x domesticaからのMpAAT1であり、配列番号19と比べて、グリシン(G)を残基169にておよびフェニルアラニンを残基170にて含む。グリシンを残基169にておよびフェニルアラニンを残基170にて含む、Malus x domesticaからのMpAAT1のアミノ酸配列は、配列番号20として表される。
MMSFSVLQVKRLQPELITPAKSTPQETKFLSDIDDQESLRVQIPIIMCYKDNPSLNKNRNPVKAIREALSRALVYYYPLAGRLREGPNRKLVVDCNGEGILFVEASADVTLEQLGDKILPPCPLLEEFLYNFPGSDGIIDCPLLLIQVTCLTCGGFILALRLNHTMCDGFGLLLFLTAIAEMARGAHAPSILPVWERELLFARDPPRITCAHHEYEDVIGHSDGSYASSNQSNMVQRSFYFGAKEMRVLRKQIPPHLISTCSTFDLITACLWKCRTLALNINPKEAVRVSCIVNARGKHNNVRLPLGYYGNAFAFPAAISKAEPLCKNPLGYALELVKKAKATMNEEYLRSVADLLVLRGRPQYSSTGSYLIVSDNTRVGFGDVNFGWGQPVFAGPVKALDLISFYVQHKNNTEDGILVPMCLPSSAMERFQQELERITQEPKEDICNNLRSTSQ(配列番号20)
【0072】
いくつかの態様において、酵素は、配列番号1~4および12~22のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、酵素は、配列番号1~3のいずれか1つのアミノ酸配列を含むが、配列番号1で規定される参照配列に基づく、位置144でのアラニン(A144)に対応するアミノ酸および/または位置360でのアラニン(A360)に対応するアミノ酸は、疎水性アミノ酸(例として、ヒスチジン(H)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W))で置換されている。いくつかの態様において、位置144(A144)に対応するアミノ酸は、フェニルアラニン(F)で置換されており、および/または位置360(A360)に対応するアミノ酸は、イソロイシン(I)で置換されている。
【0073】
いくつかの態様において、酵素を発現する細胞が、異種遺伝子を発現しない細胞と比較してヘキサン酸エチルの増大した産生を可能にするように、異種遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする。いくつかの態様において、酵素を発現する細胞が、野生型アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素を発現する細胞と比較して増大したレベルのヘキサン酸エチルを産生することが可能であるように、異種遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする。いくつかの態様において、酵素を発現する細胞が、異種遺伝子を発現しない細胞と比較して低減したレベルのヘキサン酸を産生することが可能であるように、異種遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする。いくつかの態様において、酵素を発現する細胞が、野生型アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素を発現する細胞と比較して低減したレベルのヘキサン酸を産生することが可能であるように、異種遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする。いくつかの態様において、増大したレベルのヘキサン酸エチルを産生することが可能であるアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号1の位置144でのアラニン(A144)および/または位置360でのアラニン(A360)に対応する位置でのアミノ酸の置換を含有する。いくつかの態様において、増大したレベルのヘキサン酸エチルを産生することが可能であるアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号2~4および12~22のいずれか1つで規定される配列を有する。
【0074】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号1~4および12~22のいずれか1つで表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号1~4および12~22のいずれか1つで表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1の位置144でのアラニン(A144)に対応するアミノ酸および/または配列番号1の位置360でのアラニン(A360)に対応するアミノ酸は、アラニン残基ではないアミノ酸(例として、いずれか他のアミノ酸)で置換されている。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号1~4および12~22のいずれか1つで表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1の位置144でのアラニン(A144)に対応するアミノ酸および/または配列番号1の位置360でのアラニン(A360)に対応するアミノ酸は、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(G)、システイン(C)、グリシン(G)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)から選択されるアミノ酸で置換されている。
【0075】
用語「パーセント同一性」、「配列同一性」、「%同一性」、「%配列同一性」、および「%同一の」は、本明細書中互換的に使用されてもよいが、2つの配列(例として、核酸またはアミノ酸)同士間の類似性の定量的な測定値(measurement)を指す。パーセント同一性は、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-77,1993にあるように改変された、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-68,1990のアルゴリズムを使用して決定され得る。かかるアルゴリズムは、Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-10,1990のNBLASTおよびXBLASTのプログラム(version 2.0)中へ組み込まれている。BLASTタンパク質サーチは、XBLASTプログラム、score=50、word length=3で実施されることで、関心のあるタンパク質分子と相同のアミノ酸配列が得られ得る。ギャップが2つの配列同士間に存在する場合、Gapped BLASTが、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載されるとおりに利用され得る。BLASTおよびGapped BLASTのプログラムを利用するとき、夫々のプログラム(例として、XBLASTおよびNBLAST)の初期設定パラメータが使用され得る。
【0076】
パーセント同一性またはその範囲(例として、少なくとも、より多い、等々)が規定されているとき、別様に特定されない限り、端点も包含されるものとし、範囲(例として、少なくとも70%の同一性)は、引用された範囲内のすべての範囲(例として、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の同一性)およびそれらすべてのきざみ幅(increments)(例として、パーセントの10分の1(すなわち、0.1%)、パーセントの100分の1(すなわち、0.01%)等々)を包含するものとする。
【0077】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号1で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号1で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号2で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号2で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号3で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号3で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号4で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号4で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0078】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号12で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号13で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号14で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号15で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号16で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号17で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号18で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号19で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号20で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素は、配列番号21で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0079】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子は、配列番号1~4および12~22のいずれか1つで表されるとおりの配列と、少なくとも80%(例として、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%)の配列同一性をもつアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子は、配列番号1~4および12~22のいずれか1つで表されるとおりのアミノ酸配列からなる酵素をコードする核酸配列を含む。
【0080】
アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有するか、またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有することが予測される追加の酵素の同定は、例えば、配列番号1~4および12~22のいずれか1つで規定されるアルコール-O-アシルトランスフェラーゼなどのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼの1以上のドメインとの類似性または相同性に基づき、実施されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性に関連する触媒ドメインなどの、触媒ドメインなどの活性ドメインとの類似性または相同性に基づき、同定されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の大部分または酵素の完全長にわたる分析に基づき、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号1、2、3、12、13、14、15、16、17、18、19、または22のいずれかなどの野生型アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ)と相対的に高いレベルの配列同一性を有していてもよいが、触媒ドメインの領域においては、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼと相対的に低いレベルの配列同一性を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号1)と比べ、酵素の触媒ドメインの領域において少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0081】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の大部分または酵素の完全長にわたる分析に基づき、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号1~3のいずれか)と比べ、酵素の触媒ドメインの領域において相対的に高いレベルの配列同一性を、および参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼに対し相対的に低いレベルの配列同一性を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の大部分または酵素の完全長にわたる分析に基づき、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号1~4、12~19、および21~22)と比べて、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0082】
いくつかの態様において、アミノ酸置換(単数または複数)は、活性部位にあってもよい。本明細書に使用されるとき、用語「活性部位」は、基質が相互作用する酵素の領域を指す。活性部位を含むアミノ酸および活性部位を取り囲むアミノ酸は、アミノ酸各々の官能基も含め、サイズ、形状、および/または基質の活性部位への近づきやすさに寄与することもある。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼバリアントは、選択されたアミノ酸の、異なる官能基を有するアミノ酸との置換である、1以上の修飾を含有する。
【0083】
この情報はまた、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有するかまたはこれを有することが予測される他の酵素において、位置、例として、対応する位置を同定するためにも使用され得る。当業者には明白なとおり、あるアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ酵素において同定された位置でのアミノ酸置換はまた、別のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ酵素の対応するアミノ酸の位置においてもなされ得る。かかる場合において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ酵素の1つは、参照酵素として使用されてもよい。例えば、本明細書に記載のとおり、Marinobacter aquaeolei(配列番号1)からのMaWESの位置A144および/またはA360でのアミノ酸置換は、ヘキサン酸エチルの産生を増大させ、および/またはヘキサン酸の産生を低減させることが示されている。同様のアミノ酸置換は、MaWESを参照(例として、配列番号1)として使用し、他のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素の対応する位置にてなされ得る。例えば、アミノ酸置換は、MaWESを参照(例として、配列番号1)として使用し、本明細書に記載のとおりのF.ananassaまたはS.lycopersicumからのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼの対応する位置(単数または複数)にてなされ得る。いくつかの態様において、M.hydrocarbonoclasticusからのMaWES(配列番号1)の位置A144および/またはA360に対応する位置での、別の酵素(例として、F.ananassaからのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号2を見よ))におけるアミノ酸は、アラニンでない。いくつかの態様において、M.hydrocarbonoclasticusからのMaWES(配列番号1)の位置A144および/またはA360に対応する位置での、別の酵素(例として、S.lycopersicumからのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号3を見よ))におけるアミノ酸は、アラニンでない。
【0084】
本明細書に記載のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼのバリアントは、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼに対応する1以上の位置のアミノ酸置換を含有する。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼのバリアントは、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼに対応する1、2、3、4、5、またはより多くの位置にてアミノ酸置換を含有する。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、天然には存在しない(例として、遺伝子学的に修飾されている)アルコール-O-アシルトランスフェラーゼである。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、配列番号1で規定されるアミノ酸配列を有さない。
【0085】
本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性をもつ酵素をコードする内在性の遺伝子の発現および/または活性を低減する遺伝子の修飾を含有する。用語「内在性の遺伝子」は、本明細書に使用されるとき、宿主生物(例として、遺伝子学的に修飾された細胞)内で生じる遺伝的指令を含有し、かつ宿主生物によって発現される核酸(例として、DNA)の配列に対応する遺伝性単位を指す。
【0086】
Saccharomyces cerevisiae酵母ゲノムは、有り余るほどのエステルおよびアシル-CoA加水分解活性を有すると考えられている少なくとも7つのアルコール-O-トランスフェラーゼをコードする。アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする内在性のS.cerevisiae遺伝子の非限定例は、Atf1p、Atf2p、Eat1p、Eht1p、Eeb1p、Iah1p、およびMgl2p、ならびに対応するタンパク質産物ATF1、ATF2、EAT1、EHT1、EEB1、IAH1、およびMGL2を包含する。いくつかの態様において、修飾された細胞は、内在性Eeb1pも内在性EEB1も発現しない。所望される遺伝子の発現および/または活性を低減する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、内在性の遺伝子の発現を制御するプロモーターは、転写開始が許容されにくい(less permissive)ように修飾されていてもよく、これによって修飾された細胞において低減された転写が、よってより少ないタンパク質産生およびより低い酵素活性がもたらされる。代替的に、エピゲノムは、メチル化されてもよく、または転写を阻害するよう別様に修飾されていてもよく、これによって修飾された細胞において低減されたタンパク質産生が、その結果としてより低い酵素活性がもたらされる。
【0087】
いくつかの態様において、1以上のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼをコードする内在性の遺伝子は、修飾された細胞のゲノムから欠失されている。生物のゲノムから遺伝子を欠失する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、ゲノム中、内在性の遺伝子の脇にある5'領域および3'領域に対応するDNA配列の脇に配置される非機能的遺伝子または代替的にレポーターもしくは薬物耐性遺伝子をコードするDNA構築物は、相同組換えの標的領域中へインテグレートされてもよい場合に標的細胞へ導入されてもよい。いくつかの態様において、1以上のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼをコードする1以上の内在性の遺伝子は、修飾された細胞のゲノムから欠失されている。いくつかの態様において、Eeb1p遺伝子またはこの一部は、相同組換えによって置き換えられている。いくつかの態様において、組換えを受け、細胞のゲノムは、無傷のEeb1p遺伝子を含有せず、よって細胞はEEB1活性が欠損している。いくつかの態様において、Eht1遺伝子またはこの一部は、相同組換えによって置き換えられている。いくつかの態様において、組換えを受け、細胞のゲノムは、無傷のEht1遺伝子を含有せず、よって細胞はEHT1活性が欠損している。いくつかの態様において、Mgl2遺伝子またはこの一部は、相同組換えによって置き換えられている。いくつかの態様において、組換えを受け、細胞のゲノムは、無傷のMgl2遺伝子を含有せず、よって細胞はMGL2活性が欠損している。いくつかの態様において、Eht1遺伝子およびEeb1p遺伝子、またはその一部は、相同組換えによって置き換えられている。いくつかの態様において、組換えを受け、細胞のゲノムは、無傷のEht1遺伝子もEeb1p遺伝子も含有せず、よって細胞は、EHT1活性およびEEB1活性が欠損している。いくつかの態様において、Eht1遺伝子およびMgl2遺伝子、またはその一部は、相同組換えによって置き換えられている。いくつかの態様において、組換えを受け、細胞のゲノムは、無傷のEht1遺伝子もMgl2遺伝子も含有せず、よって細胞は、EHT1活性およびMGL2活性が欠損している。いくつかの態様において、Eeb1p遺伝子およびMgl2遺伝子、またはその一部は、相同組換えによって置き換えられている。いくつかの態様において、組換えを受け、細胞のゲノムは、無傷のEeb1p遺伝子もMgl2遺伝子も含有せず、よって細胞は、EEB1活性およびMGL2活性が欠損している。いくつかの態様において、Eeb1p遺伝子、Eht1遺伝子、およびMgl2遺伝子、またはその一部は、相同組換えによって置き換えられている。いくつかの態様において、組換えを受け、細胞のゲノムは、無傷のEeb1p遺伝子もEht1遺伝子もMgl2遺伝子も含有せず、よって細胞は、EEB1活性、EHT1活性、およびMGL2活性が欠損している。
【0088】
いくつかの態様において、1以上のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼをコードする内在性の遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を低減するよう修飾されている。酵素が、低減または消失されたアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有するように、例えば、1以上の突然変異は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼをコードする内在性の遺伝子においてなされていてもよい(例として、Eeb1p、Eht1、および/またはMgl2のいずれかにおける1以上の突然変異)。
【0089】
脂肪酸シンターゼ2(FAS2)酵素
本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性をもつ酵素をコードする遺伝子を含有している。いくつかの態様において、遺伝子は、外来性遺伝子である。用語「外来性遺伝子」は、本明細書に使用されるとき、外部供給源から宿主生物(例として、遺伝子学的に修飾された細胞)中へ導入されて宿主生物によって発現される遺伝的指令を含有する核酸(例として、DNA)の配列に対応する遺伝性単位を指す。いくつかの態様において、外来性遺伝子は、細胞に存在する遺伝子のさらなるコピーである。
【0090】
発酵の間に産生された代謝体は、独特のフレーバーを発酵飲料へ付与し得る。本明細書にて考察されるとおり、ヘキサン酸エチルは、例えば、パイナップルフレーバーを付与する脂肪酸エステルである。しかしながら、ヘキサン酸エチルのエステル結合の加水分解は、エタノールおよびヘキサン酸の形成(フレーバー検出閾値を上回る濃度にて存在するとき、チーズに似た、悪臭のするヤギ独特のフレーバーを付与する刺激性の脂肪酸)をもたらす。結果的に、フレーバー検出閾値を上回る濃度のヘキサン酸を含有する飲料は、飲用に適さず商業上実行可能なものではないと広く見なされているので、消費を意図した発酵産物の産生の間にヘキサン酸を産生することは、望ましくない。よって、口に合い商業上実行可能であると見なされる発酵飲料を産生するために、発酵の間にヘキサン酸エチルの産生を増大するための組成物および方法は、フレーバー検出閾値を下回るレベルまでヘキサン酸の産生を最小限にしつつ、そうしなければならない。
【0091】
脂肪酸シンテターゼ複合体は、6ポリペプチドαサブユニット(FAS2によってコードされる)および6ポリペプチドβサブユニット(FAS1によってコードされる)を含有する。本明細書に「FAS2」として言及されるαサブユニットは、脂肪酸鎖の伸長に関与し、かつヘキサン酸エチルとヘキサン酸との両方を発酵の間に形成するのに使用されることもあるヘキサノイル-CoAの産生に影響を及ぼすと考えられている。
【0092】
本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性を有する酵素をコードする外来性遺伝子などの遺伝子を発現してもよい。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性を有する酵素は、細菌または真菌から得られる。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性を有する酵素は、酵母から得られる。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性を有する酵素は、Saccharomyces種からのものである。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性を有する酵素は、Saccharomyces cerevisiaeからのものである。
【0093】
脂肪酸シンターゼ活性を有する例示の酵素は、 from Saccharomyces cerevisiae WLP001からのFAS2であって、これは配列番号5として表されるアミノ酸配列で規定される。
MKPEVEQELAHILLTELLAYQFASPVRWIETQDVFLKDFNTERVVEIGPSPTLAGMAQRTLKNKYESYDAALSLHREILCYSKDAKEIYYTPDPSELAAKEEPAKEEAPAPTPAASAPAPAAAAPAPVAAAAPAAAAAEIADEPVKASLLLHVLVAHKLKKSLDSIPMSKTIKDLVGGKSTVQNEILGDLGKEFGTTPEKSEETPLEELAETFQDTFSGALGKQSSSLLSRLISSKMPGGFTITVARKYLQTRWGLPSGRQDGVLLVALSNEPAARLGSEADAKAFLGSMAQKYASIVGVDLSSAASASGAAGAGAAAGAAMIDAGALEEITKDHKVLARQQLQVLARYLKMDLDNGERKFLKEKDTVAELQAQLDYLNAELGEFFVNGVATSFSRKKARTFDSSWNWAKQSLLSLYFEIIHGVLKNVDREVVSEAINIMNRSNDALIKFMEYHISNTDETKGENYQLVKTLGEQLIENCKQVLDVDPVYKDVAKPTGPKTAIDKNGNITYSEEPREKVRKLSQYVQEMALGGPITKESQPTIEEDLTRVYKAISAQADKQDISNSTRVEFEKLYSDLMKFLESSKEIDPSQTTQLAGMDVEDALDKDSTKEVASLPNKSTISKTVSSTIPRETIPFLHLRKKTPAGDWKYDRQLSSLFLDGLEKAAFNGVTFKDKYVLITGAGKGSIGAEVLQGLLQGGAKVVVTTSRFSKQVTDYYQSIYAKYGAKGSTLIVVPFNQGSKQDVEALIEFIYDTEKNGGLGWDLDAIIPFAAIPEQGIELEHIDSKSEFAHRIMLTNILRMMGCVKKQKSARGIETRPAQVILPMSPNHGTFGGDGMYSESKLSLETLFNRWHSESWANQLTVCGAIIGWTRGTGLMSANNIIAEGIEKMGVRTFSQKEMAFNLLGLLTPEVVELCQKSPVMADLNGGLQFVPELKEFTAKLRKELVETSEVRKAVSIETALEHKVVNGNSADAAYAQVEIQPRANIQLDFPELKPYKQVKQIAPAELEGLLDLERVIVVTGFAEVGPWGSARTRWEMEAFGEFSLEGCVEMAWIMGFISYHNGNLKGRPYTGWVDSKTKEPVDDKDVKAKYETSILEHSGIRLIEPELFNGYNPEKKEMIQEVIVEEDLEPFEASKETAEQFKHQHGDKVDIFEIPETGEYSVKLLKGATLYIPKALRFDRLVAGQIPTGWNAKTYGISDDIISQVDPITLFVLVSVVEAFIASGITDPYEMYKYVHVSEVGNCSGSGMGGVSALRGMFKDRFKDEPVQNDILQESFINTMSAWVNMLLISSSGPIKTPVGACATSVESVDIGVETILSGKARICIVGGYDDFQEEGSFEFGNMKATSNTLEEFEHGRTPAEMSRPATTTRNGFMEAQGAGIQIIMQADLALKMGVPIYGIVAMAATATDKIGRSVPAPGKGILTTAREHHSSVKYASPNLNMKYRKRQLVTREAQIKDWVENELEALKLEAEEIPSEDQNEFLLERTREIHNEAESQLRAAQQQWGNDFYKRDPRIAPLRGALATYGLTIDDLGVASFHGTSTKANDKNESATINEMMKHLGRSEGNPVIGVFQKFLTGHPKGAAGAWMMNGALQILNSGIIPGNRNADNVDKILEQFEYVLYPSKTLKTDGVRAVSITSFGFGQKGGQAIVVHPDYLYGAITEDRYNEYVAKVSAREKSAYKFFHNGMIYNKLFVSKEHAPYTDELEEDVYLDPLARVSKDKKSGSLTFNSKNIQSKDSYINANTIETAKMIENMTKEKVSNGGVGVDVELITSINVENDTFIERNFTPQEIEYCSAQPSVQSSFAGTWSAKEAVFKSLGVKSLGGGAALKDIEIVRVNKNAPAVELHGNAKKAAEEAGVTDVKVSISHDDLQAVAVAVSTKKGS(配列番号5)
【0094】
脂肪酸シンターゼ活性を有する追加の例示の酵素は、Saccharomyces cerevisiae 288cからのFAS2であって、これは受託番号P19097-1によって規定され、配列番号11として表される。
MKPEVEQELAHILLTELLAYQFASPVRWIETQDVFLKDFNTERVVEIGPSPTLAGMAQRTLKNKYESYDAALSLHREILCYSKDAKEIYYTPDPSELAAKEEPAKEEAPAPTPAASAPAPAAAAPAPVAAAAPAAAAAEIADEPVKASLLLHVLVAHKLKKSLDSIPMSKTIKDLVGGKSTVQNEILGDLGKEFGTTPEKPEETPLEELAETFQDTFSGALGKQSSSLLSRLISSKMPGGFTITVARKYLQTRWGLPSGRQDGVLLVALSNEPAARLGSEADAKAFLDSMAQKYASIVGVDLSSAASASGAAGAGAAAGAAMIDAGALEEITKDHKVLARQQLQVLARYLKMDLDNGERKFLKEKDTVAELQAQLDYLNAELGEFFVNGVATSFSRKKARTFDSSWNWAKQSLLSLYFEIIHGVLKNVDREVVSEAINIMNRSNDALIKFMEYHISNTDETKGENYQLVKTLGEQLIENCKQVLDVDPVYKDVAKPTGPKTAIDKNGNITYSEEPREKVRKLSQYVQEMALGGPITKESQPTIEEDLTRVYKAISAQADKQDISSSTRVEFEKLYSDLMKFLESSKEIDPSQTTQLAGMDVEDALDKDSTKEVASLPNKSTISKTVSSTIPRETIPFLHLRKKTPAGDWKYDRQLSSLFLDGLEKAAFNGVTFKDKYVLITGAGKGSIGAEVLQGLLQGGAKVVVTTSRFSKQVTDYYQSIYAKYGAKGSTLIVVPFNQGSKQDVEALIEFIYDTEKNGGLGWDLDAIIPFAAIPEQGIELEHIDSKSEFAHRIMLTNILRMMGCVKKQKSARGIETRPAQVILPMSPNHGTFGGDGMYSESKLSLETLFNRWHSESWANQLTVCGAIIGWTRGTGLMSANNIIAEGIEKMGVRTFSQKEMAFNLLGLLTPEVVELCQKSPVMADLNGGLQFVPELKEFTAKLRKELVETSEVRKAVSIETALEHKVVNGNSADAAYAQVEIQPRANIQLDFPELKPYKQVKQIAPAELEGLLDLERVIVVTGFAEVGPWGSARTRWEMEAFGEFSLEGCVEMAWIMGFISYHNGNLKGRPYTGWVDSKTKEPVDDKDVKAKYETSILEHSGIRLIEPELFNGYNPEKKEMIQEVIVEEDLEPFEASKETAEQFKHQHGDKVDIFEIPETGEYSVKLLKGATLYIPKALRFDRLVAGQIPTGWNAKTYGISDDIISQVDPITLFVLVSVVEAFIASGITDPYEMYKYVHVSEVGNCSGSGMGGVSALRGMFKDRFKDEPVQNDILQESFINTMSAWVNMLLISSSGPIKTPVGACATSVESVDIGVETILSGKARICIVGGYDDFQEEGSFEFGNMKATSNTLEEFEHGRTPAEMSRPATTTRNGFMEAQGAGIQIIMQADLALKMGVPIYGIVAMAATATDKIGRSVPAPGKGILTTAREHHSSVKYASPNLNMKYRKRQLVTREAQIKDWVENELEALKLEAEEIPSEDQNEFLLERTREIHNEAESQLRAAQQQWGNDFYKRDPRIAPLRGALATYGLTIDDLGVASFHGTSTKANDKNESATINEMMKHLGRSEGNPVIGVFQKFLTGHPKGAAGAWMMNGALQILNSGIIPGNRNADNVDKILEQFEYVLYPSKTLKTDGVRAVSITSFGFGQKGGQAIVVHPDYLYGAITEDRYNEYVAKVSAREKSAYKFFHNGMIYNKLFVSKEHAPYTDELEEDVYLDPLARVSKDKKSGSLTFNSKNIQSKDSYINANTIETAKMIENMTKEKVSNGGVGVDVELITSINVENDTFIERNFTPQEIEYCSAQPSVQSSFAGTWSAKEAVFKSLGVKSLGGGAALKDIEIVRVNKNAPAVELHGNAKKAAEEAGVTDVKVSISHDDLQAVAVAVSTKK(配列番号11)
【0095】
いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼは、S.cerevisiaeからのFAS2(配列番号5)のホモログである。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性を有する酵素は、酵素の活性を調整するよう修飾され(例として、突然変異され)ていてもよい。
【0096】
脂肪酸シンターゼのアミノ酸は、FAS2バリアントを産生するよう修飾され(例として、置換され)ていてもよい。例えば、本明細書に記載のとおり、配列番号5のグリシン1250(G1250)と称される、位置1250でのアミノ酸グリシンは、発酵の間にヘキサン酸エチルの増大した産生および/またはヘキサン酸の減少した産生などの所望の活性を有するFAS2酵素を産生するよう突然変異されていてもよい。いくつかの態様において、配列番号5のグリシン1250に対応するアミノ酸は、グリシン残基ではないアミノ酸(例として、いずれか他のアミノ酸)で置換されている。
【0097】
いくつかの態様において、配列番号5の位置1250でのグリシン(G1250)に対応するアミノ酸は、アラニン(A)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(G)、システイン(C)、ヒスチジン(H)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)から選択されるアミノ酸で置換されている。
【0098】
いくつかの態様において、配列番号5の位置1250でのグリシン(G1250)に対応するアミノ酸は、非極性アミノ酸(例として、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M)、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P))で置換されている。いくつかの態様において、配列番号5の位置1250でのグリシン(G1250)に対応するアミノ酸は、極性アミノ酸(例として、セリン(S)、トレオニン(T)、システイン(C)、チロシン(Y)、アスパラギン(N)、グルタミン(G))で置換されている。いくつかの態様において、配列番号5の位置1250でのグリシン(G1250)に対応するアミノ酸は、セリン(S)残基(G1250S)で置換されており、配列番号6で規定されている。置換されたアミノ酸は、下にボールド体および下線で表示される。
【0099】
Saccharomyces cerevisiaeからのバリアントFAS2のアミノ酸配列 - G1250S突然変異
【化3】
(配列番号6)
【0100】
いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号5または6で表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号5または6で表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有し、かつ配列番号5の位置1250でのグリシン(G1250)に対応するアミノ酸にて置換変異を含有する。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号5の位置1250でのグリシン(G1250)に対応するアミノ酸にて、グリシン残基ではないアミノ酸(例として、いずれか他のアミノ酸)での置換変異を含む。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号5で表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有し、かつ配列番号5の位置1250でのグリシン(G1250)に対応するアミノ酸は、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(G)、システイン(C)、アラニン(A)、プロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはトリプトファン(W)から選択されるアミノ酸で置換されている。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号6で表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有する。
【0101】
いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号5で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号5で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号6で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素は、配列番号6で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0102】
いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子は、配列番号5または6で表されるとおりの配列と、少なくとも80%(例として、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%)配列同一性をもつアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子は、配列番号5または6で表されるとおりのアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子は、配列番号5または6で表されるとおりのアミノ酸配列からなる酵素をコードする核酸配列を含む。
【0103】
脂肪酸シンターゼ活性を有するか、または脂肪酸シンターゼ活性を有することが予測される追加の酵素の同定は、例えば、配列番号5または6で規定される脂肪酸シンターゼなどの脂肪酸シンターゼの1以上のドメインとの類似性または相同性に基づき、実施されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、脂肪酸シンターゼ活性に関連する触媒ドメインなどの、触媒ドメインなどの活性ドメインとの類似性または相同性に基づき、同定されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、触媒ドメインの領域において、参照脂肪酸シンターゼ(例として、配列番号5などの野生型脂肪酸シンターゼ)と相対的に高いレベルの配列同一性を有していてもよいが、より長い酵素の一部または酵素の完全長にわたる分析に基づき参照脂肪酸シンターゼと相対的に低いレベルの配列同一性を有していてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の触媒ドメインの領域において、参照脂肪酸シンターゼ(例として、配列番号5)と比べて、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0104】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、参照脂肪酸シンターゼ(例として、配列番号5または6)と比べて、酵素の触媒ドメインの領域において相対的に高いレベルの配列同一性と、より長い酵素の一部または酵素の完全長にわたる分析に基づき、参照脂肪酸シンターゼと相対的に低いレベルの配列同一性とを有する。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の一部に基づき、または酵素の完全長にわたって、参照脂肪酸シンターゼ(例として、配列番号5または6)と比べて、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0105】
この情報はまた、脂肪酸シンターゼ活性を有するかまたはこれを有することが予測される他の酵素において、位置、例として、対応する位置を同定するためにも使用され得る。当業者には明白なとおり、ある脂肪酸シンターゼ酵素において同定された位置でのアミノ酸置換はまた、別の脂肪酸シンターゼ酵素の対応するアミノ酸の位置においてもなされ得る。かかる場合において、脂肪酸シンターゼ酵素の1つは、参照酵素として使用されてもよい。例えば、本明細書に記載のとおり、Saccharomyces cerevisiae(配列番号5)からのFAS2の位置G1250でのアミノ酸置換は、ヘキサン酸エチルの産生を増大させることが示されている。同様のアミノ酸置換は、FAS2を参照(例として、配列番号5)として使用し、他の脂肪酸シンターゼ活性を有する酵素の対応する位置にてなされ得る。例えば、アミノ酸置換は、FAS2を参照(例として、配列番号5)として使用し、本明細書に記載のとおりの別の酵母種、別の真菌種、別の微生物、または別の真核生物からの脂肪酸シンターゼの対応する位置にてなされ得る。
【0106】
本明細書に記載の脂肪酸シンターゼバリアントは、参照脂肪酸シンターゼに対応する1以上の位置のアミノ酸置換を含有する。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼバリアントは、参照脂肪酸シンターゼに対応する1、2、3、4、5、またはより多くの位置にてアミノ酸置換を含有する。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼは、天然には存在しない(例として、遺伝子学的に修飾された)脂肪酸シンターゼである。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼは、配列番号5で規定されるアミノ酸配列を有さない。
【0107】
ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(HCS)酵素
本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、いくつかの態様において、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(HCS)活性をもつ酵素をコードする遺伝子を含有する。いくつかの態様において、遺伝子は、異種遺伝子である。ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(HCS)酵素は、基質であるヘキサン酸および遊離の補酵素A(CoA)からヘキサノイル-CoAの形成を触媒するアシル活性化酵素(AAE)である。いずれの具体的な理論にも拘束されることは望まないが、発酵の間のヘキサノイル-CoAシンテターゼの発現は、発酵産物または飲料におけるヘキサン酸の最終収率を低減することがある。ヘキサノイル-CoAは、ヘキサン酸エチルを形成する酵素反応の基質であり、発酵の間のヘキサノイル-CoAシンテターゼの発現は、発酵産物または飲料におけるヘキサン酸エチルの最終収率をさらに増加させることもある。ヘキサノイル-CoAシンテターゼ酵素を発現する遺伝子学的に修飾された細胞は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼを発現しない細胞と比較して所望のヘキサン酸エチルのレベルがより高く、かつ望ましくないヘキサン酸の濃度がより小さい発酵産物または飲料を産生することがある。
【0108】
いくつかの態様において、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ遺伝子は、植物からのものである。いくつかの態様において、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ遺伝子は、Cannabis種からのものである。いくつかの態様において、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ遺伝子は、Cannabis sativaからのものである。
【0109】
例示のHCS酵素は、Cannabis sativaからのCsAAE1であって、受託番号H9A1V3-1および配列番号7として表されるアミノ酸配列で規定される。
MGKNYKSLDSVVASDFIALGITSEVAETLHGRLAEIVCNYGAATPQTWINIANHILSPDLPFSLHQMLFYGCYKDFGPAPPAWIPDPEKVKSTNLGALLEKRGKEFLGVKYKDPISSFSHFQEFSVRNPEVYWRTVLMDEMKISFSKDPECILRRDDINNPGGSEWLPGGYLNSAKNCLNVNSNKKLNDTMIVWRDEGNDDLPLNKLTLDQLRKRVWLVGYALEEMGLEKGCAIAIDMPMHVDAVVIYLAIVLAGYVVVSIADSFSAPEISTRLRLSKAKAIFTQDHIIRGKKRIPLYSRVVEAKSPMAIVIPCSGSNIGAELRDGDISWDYFLERAKEFKNCEFTAREQPVDAYTNILFSSGTTGEPKAIPWTQATPLKAAADGWSHLDIRKGDVIVWPTNLGWMMGPWLVYASLLNGASIALYNGSPLVSGFAKFVQDAKVTMLGVVPSIVRSWKSTNCVSGYDWSTIRCFSSSGEASNVDEYLWLMGRANYKPVIEMCGGTEIGGAFSAGSFLQAQSLSSFSSQCMGCTLYILDKNGYPMPKNKPGIGELALGPVMFGASKTLLNGNHHDVYFKGMPTLNGEVLRRHGDIFELTSNGYYHAHGRADDTMNIGGIKISSIEIERVCNEVDDRVFETTAIGVPPLGGGPEQLVIFFVLKDSNDTTIDLNQLRLSFNLGLQKKLNPLFKVTRVVPLSSLPRTATNKIMRRVLRQQFSHFE(配列番号7)。
【0110】
いくつかの態様において、異種遺伝子は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする。いくつかの態様において、酵素が発酵産物または飲料におけるヘキサン酸のレベルを低減するように、異種遺伝子は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする。いくつかの態様において、酵素が発酵産物または飲料におけるヘキサン酸エチルのレベルを増大するように、異種遺伝子は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする。
【0111】
いくつかの態様において、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素は、配列番号7で表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性をもつアミノ酸配列を有する。
【0112】
本明細書に記載のとおり、パーセント同一性またはその範囲(例として、少なくとも、より多い、等々)が規定されているとき、別様に特定されない限り、端点も包含されるものとし、範囲(例として、少なくとも70%の同一性)は、引用された範囲内のすべての範囲(例として、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の同一性)およびそれらすべてのきざみ幅(例として、パーセントの10分の1(すなわち、0.1%)、パーセントの100分の1(すなわち、0.01%)等々)を包含するものとする。
【0113】
いくつかの態様において、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素は、配列番号7で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素は、配列番号7で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0114】
いくつかの態様において、をコードする遺伝子 ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素は、配列番号7で表されるとおりの配列と、少なくとも80%(例として、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%)配列同一性をもつアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子は、#配列番号7で表されるとおりのアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、をコードする遺伝子 ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素は、配列番号7で表されるとおりのアミノ酸配列からなる酵素をコードする核酸配列を含む。
【0115】
ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性を有するか、またはヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性を有することが予測される追加の酵素の同定は、例えば、配列番号7で規定されるヘキサノイル-CoAシンテターゼなどのヘキサノイル-CoAシンテターゼの1以上のドメインとの類似性または相同性に基づき、実施されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性に関連する触媒ドメインなどの、触媒ドメインなどの活性ドメインとの類似性または相同性に基づき、同定されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、触媒ドメインの領域において、参照ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(例として、配列番号7などの野生型脂肪酸シンターゼ)と相対的に高いレベルの配列同一性を有していてもよいが、より長い酵素の一部または酵素の完全長にわたる分析に基づき参照ヘキサノイル-CoAシンテターゼと相対的に低いレベルの配列同一性を有していてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の触媒ドメインの領域において、参照ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(例として、配列番号7)と比べて、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0116】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、参照ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(例として、配列番号7)と比べて、酵素の触媒ドメインの領域において相対的に高いレベルの配列同一性と、より長い酵素の一部または酵素の完全長にわたる分析に基づき、参照ヘキサノイル-CoAシンテターゼと相対的に低いレベルの配列同一性とを有する。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の一部に基づき、または酵素の完全長にわたって、参照ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(例として、配列番号7)と比べて、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0117】
酵素修飾の一般方法
これもまた当業者にとって明白なとおり、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼ中の選択された残基のアミノ酸位置番号は、別のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼ酵素(例として、参照酵素)中の異なるアミノ酸の位置番号を有していてもよい。一般に、当該技術分野において知られている方法を使用し、例えば、2以上の酵素のアミノ酸配列をアラインさせること(aligning)によって、他のベータ-リアーゼ酵素中の対応する位置を同定してもよい。アミノ酸(またはヌクレオチド)配列をアラインさせるためのソフトウェアプログラムおよびアルゴリズムは、当該技術分野において知られており、容易に利用可能である(例として、Clustal Omega(Sievers et al.2011))。
【0118】
本明細書に記載のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼのバリアントは、例えば、その所望される生理学的活性とは関連しないポリペプチドの特色を特異的に変更する、1以上の追加の修飾をさらに含有していてもよい。代替的にまたは加えて、本明細書に記載のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼ酵素は、細胞中の酵素の発現および/または活性を調整する1以上の突然変異を含有していてもよい。
【0119】
アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼをコードする核酸の突然変異は、好ましくは、コード配列のアミノ酸リーディングフレームを保存しており、好ましくは、ハイブリダイズしてヘアピンまたはループなどの2次構造(酵素の発現に有害であり得る)を形成しそうな領域を核酸中に創出しない。
【0120】
突然変異は、ポリペプチドをコードする核酸中、アミノ酸置換を選択することによって、または選択される部位のランダム変異誘発によってなされ得る。本明細書に記載のとおり、突然変異が、所望される特性をもつバリアントポリペプチドを提供するか決定するため、バリアントポリペプチドは発現されて1以上の活性について試験され得る。さらなる突然変異が、バリアントに対して(または非バリアントポリペプチドに対して)なされ得るが、前記さらなる突然変異は、ポリペプチドのアミノ酸配列に関してはサイレントであるが、具体的な宿主における翻訳にとって好ましいコドンを提供する(コドン最適化と称される)。核酸(例として、S.cerevisiaeにおける核酸)の翻訳にとって好ましいコドンは、当業者に周知である。さらに他の突然変異も、遺伝子クローンまたはcDNAクローンの非コード配列になされて、ポリペプチドの発現が増強され得る。アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼ(酵素)バリアントの活性は、酵素バリアントをコードする遺伝子を発現ベクター中へクローニングすること、ベクターを適切な宿主細胞中へ導入すること、酵素バリアントを発現すること、および本明細書に開示のとおりの酵素の機能的能力(functional capability)について試験することによって、試験され得る。
【0121】
本明細書に記載のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼのバリアントは、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼに対応する1以上の位置のアミノ酸置換を含有していてもよい。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼのバリアントは、参照アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼに対応する1、2、3、4、5またはより多くの位置にてアミノ酸置換を含有する。いくつかの態様において、ベータ-リアーゼは、天然には存在しないアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼであり、例として、遺伝子学的に修飾されている。
【0122】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼのバリアントはまた、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼ酵素の活性および/または構造に実質的に影響を及ぼさない1以上のアミノ酸置換も含有していてもよい。当業者はまた、保存アミノ酸置換が、酵素になされることで、上記ポリペプチドの機能的に等価なバリアントを提供してもよいこと、すなわち、バリアントがそのポリペプチドの機能的能力を保持していることも、認識しているであろう。本明細書に使用されるとき、「保存アミノ酸置換」は、アミノ酸置換がなされるタンパク質の相対的な電荷またはサイズといった特徴を変更しないアミノ酸置換を指す。バリアントは、当業者に知られているポリペプチド配列を変更するための方法に従って調製され得、前記方法は、たとえば、かかる方法を集めた参考文献、例として、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2012、またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkに見出される。ポリペプチドの例示の機能的に等価なバリアントは、本明細書に開示のタンパク質のアミノ酸配列における保存アミノ酸置換を包含する。アミノ酸の保存的置換は、以下の群:(a)M、I、L、V;(b)F、Y、W;(c)K、R、H;(d)A、G;(e)S、T;(f)Q、N;および(g)E、D内にあるアミノ酸の中からなされる置換を包含する。
【0123】
当業者が分かっているとおり、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼを有する酵素をコードする相同の遺伝子は、他の種から得られたものであり得、相同性サーチによって、例えば、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)インターネットサイト(ncbi.nlm.nih.gov)にて利用可能なタンパク質BLASTサーチを通して、同定され得る。酵素のアミノ酸配列を1以上の参照酵素とともにアラインすることによって、および/または同様のもしくは相同の酵素の2次構造または3次構造を1以上の参照ベータ-リアーゼと比較することによって、同様のまたは相同の酵素において、対応するアミノ酸残基を決定し得、かつ同様のまたは相同の酵素において、突然変異のためのアミノ酸残基を決定し得る。
【0124】
本開示に関連する遺伝子は、所定の遺伝子を含有するDNAのいずれの供給源からのDNAからも(例として、PCR増幅によって)得られ得る。いくつかの態様において、本発明に関連する遺伝子は、合成されたもの、例として、化学合成によってin vitroで産生されたものである。本明細書に記載の酵素をコードする遺伝子を得るいずれの手段も、本明細書に記載の修飾された細胞および方法に適合する。
【0125】
本明細書に提供される本開示は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼの活性を有する酵素、上記の酵素の機能的修飾およびバリアントをコードする遺伝子の組換え発現、ならびにこれに関する使用を伴う。本発明に関連する核酸のホモログおよびアレルは、従来の技法によって同定され得る。本発明によって網羅されるものにはまた、ストリンジェントな条件下で本明細書に記載の核酸とハイブリダイズする核酸もある。用語「ストリンジェントな条件」は、本明細書に使用されるとき、当該技術分野において熟知されているパラメータを指す。核酸ハイブリダイゼーションのパラメータは、かかる方法を集めた参考文献、例として、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2012、またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkに見出されることもある。
【0126】
他の条件、試薬など諸々使用され得るが、これらは同様のストリンジェンシー度をもたらす。当業者は、かかる条件を熟知しており、よってここではそれらを与えない。しかしながら、当業者が、本発明の核酸のホモログおよびアレルの明確な同定を可能にするやり方で(例として、より低いストリンジェンシー条件を使用することによって)、それら条件を操ることができるであろうことも理解されている。当業者はまた、かかる分子の発現について細胞およびライブラリをスクリーニングし、次いでこれを定型的に単離し、続いて該当する核酸分子の単離および配列決定をするための方法論も熟知している。
【0127】
本発明はまた、縮重した核酸も包含し、これはネイティブな材料に存在するコドンに代わるコドンを包含する。例えば、セリン残基は、コドンTCA、AGT、TCC、TCG、TCT、およびAGCによってコードされる。6コドンの各々は、セリン残基をコードするという目的上は等価である。よって、セリンをコードするヌクレオチドトリプレットのいずれも、in vitroまたはin vivoでセリン残基を伸長しているポリペプチド中へ組み込むタンパク質合成装置に向けるために採用されてもよいことは、当業者に明らかであろう。同様に、他のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列トリプレットは、これらに限定されないが、以下:CCA、CCC、CCG、およびCCT(プロリンコドン);CGA、CGC、CGG、CGT、AGA、およびAGG(アルギニンコドン);ACA、ACC、ACG、およびACT(トレオニンコドン);AACおよびAAT(アスパラギンコドン);ならびにATA、ATC、およびATT(イソロイシンコドン)を包含する。他のアミノ酸残基も、複数のヌクレオチド配列によって同様にコードされていてもよい。よって、本発明は、遺伝暗号の縮重に起因したコドン配列の点で生物学的に単離された核酸とは異なる縮重した核酸を内包する。本発明はまた、宿主細胞の最適なコドン利用に合うコドン最適化も内包する。
【0128】
本発明はまた、1以上のヌクレオチドの付加、置換、および欠失を包含する修飾された核酸分子も提供する。好ましい態様において、これらの修飾された核酸分子、および/またはこれらがコードするポリペプチドは、修飾されていない核酸分子および/またはポリペプチドの少なくとも1つの活性あるいは機能(酵素活性など)を保持する。ある態様において、修飾された核酸分子は、修飾されたポリペプチド、好ましくは、本明細書のどこかに記載されたとおりの保存アミノ酸置換を有するポリペプチドをコードする。修飾された核酸分子および修飾されていない核酸分子が、当業者に知られているストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるように、修飾された核酸分子は、修飾されていない核酸分子と構造的に関係があり、好ましい態様において、修飾されていない核酸分子と充分に構造的に関係がある。
【0129】
例えば、単一のアミノ酸変化を有するポリペプチドをコードする修飾された核酸分子が、調製され得る。これら核酸分子の各々は、本明細書に記載のとおりの遺伝暗号の縮重に対応するヌクレオチド変化を除外して、1、2または3つのヌクレオチド置換を有し得る。同じく、2つのアミノ酸変化を有するポリペプチドをコードする修飾された核酸分子(例として、2~6ヌクレオチド変化を有する)も、調製され得る。これらのような無数の修飾された核酸分子(例えば、2つおよび3つの、2つおよび4つの、2つおよび5つの、2つおよび6つなどのアミノ酸をコードするコドンにおけるヌクレオチドの置換を包含する)は、当業者によって容易に想定されるであろう。上記の例において、2つのアミノ酸の各組み合わせは、一連の修飾された核酸分子、ならびにアミノ酸置換をコードするすべてのヌクレオチド置換において包含される。追加の置換(すなわち、3以上)、付加、あるいは欠失(例として、停止コドンまたはスプライス部位(単数もしくは複数)の導入による)を有するポリペプチドをコードする追加の核酸分子もまた、調製され得、かつ当業者によって容易に想定されるとおり本発明によって内包される。上記の核酸またはポリペプチドのいずれも、本明細書に開示の核酸および/またはポリペプチドとの構造上の関係または活性の保持のための定型的な実験法について試験され得る。
【0130】
いくつかの態様において、本発明に関連する遺伝子の1以上は、組換え発現ベクターにおいて発現される。本明細書に使用されるとき、「ベクター」は、所望される配列(単数もしくは複数)が、異なる生成環境同士間の輸送のためかまたは宿主細胞における発現のために制限およびライゲーションによって挿入されてもよい数多の核酸のいずれであってもよい。ベクターは典型的には、DNAから構成されているが、RNAベクターもまた利用可能である。ベクターは、これらに限定されないが、以下:プラスミド、フォスミド、ファージミド、ウイルスゲノム、および人工染色体を包含する。
【0131】
クローニングベクターは、自律的に複製することができるか、または宿主細胞のゲノム中にインテグレートされるベクターである。プラスミドのケースにおいて、所望される配列の複製は、プラスミドが宿主細胞(宿主細菌など)内のコピー数の点で増加することから多数回、または宿主が有糸分裂によって再生する前に宿主につきたった1回、生じることもある。ファージのケースにおいて、複製は、溶菌相の最中は活発に、または溶原相の最中は受動的に生じることもある。
【0132】
発現ベクターは、所望されるDNA配列が制限およびライゲーションによって、調節配列へ作動可能に(operably)結び合わされるように挿入されてもよく、かつRNA転写産物として発現されてもよいベクターである。ベクターは、ベクターで形質転換もしくはトランスフェクトされているかまたはされていない細胞の同定における使用に好適な1以上のマーカー配列をさらに含有していてもよい。マーカーは、例えば、抗生物質もしくは他の化合物への耐性または感度のいずれかを増大あるいは減少させるタンパク質をコードする遺伝子、その活性が当該技術分野において知られている標準的なアッセイによって検出可能な酵素をコードする遺伝子(例として、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、もしくはアルカリホスファターゼ)、および形質転換もしくはトランスフェクトされた細胞、宿主、コロニー、またはプラークの表現型に目に見えて影響を及ぼす遺伝子(例として、緑色蛍光タンパク質)を包含する。好ましいベクターは、DNAセグメントに存在する構造遺伝子産物(これらは前記DNAセグメントへ作動可能に結び合わされている)の自律複製および発現が可能なベクターである。
【0133】
本明細書に使用されるとき、コード配列および調節配列は、それらがコード配列の発現または転写を調節配列の影響下または制御下に置くような形で共有結合的に連結されているとき、「作動可能に」結び合わされている、または作動可能に連結されていると言える。コード配列が翻訳されて機能的タンパク質になることが所望される場合、2つのDNA配列は、5'調節配列中のプロモーターの誘導が、コード配列の転写をもたらす場合であって、かつ2つのDNA配列間の繋がりの性質が、(1)フレームシフト突然変異の導入をもたらさないか、(2)プロモーター領域の、コード配列の転写に向ける能力に干渉しないか、または(3)対応するRNA転写産物の、タンパク質に翻訳する能力に干渉しない場合に、作動可能に結び合わされている、または作動可能に連結されていると言える。よって、プロモーター領域は、プロモーター領域がそのDNA配列の転写に作用することが可能であった場合、その結果得られる転写産物が翻訳されて所望されるタンパク質またはポリペプチドになり得るように、コード配列へ作動可能に結び合わされているであろう。
【0134】
本開示の酵素のいずれかをコードする核酸分子が細胞において発現されるとき、様々な転写制御配列(例として、プロモーター/エンハンサー配列)は、その発現へ向けるために使用され得る。プロモーターは、遺伝子の発現の正常な調節を提供する、ネイティブなプロモーター、すなわち、遺伝子の、それが内在するという文脈におけるプロモーターであり得る。いくつかの態様において、プロモーターは、構成的であり得る、すなわち、プロモーターは、その関連遺伝子(例として、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、またはヘキサノイル-CoAシンテターゼの活性を有する酵素)の継続的な転写を可能にさせるよう調節されていない。分子の存在または不在によって制御されるプロモーターなどの、条件付きの様々なプロモーターもまた、使用され得る。
【0135】
遺伝子発現にとって必要とされる調節配列の正確な性質は、種間または細胞型間で変動してもよいが、一般に必要次第、転写および翻訳夫々の開始に関与する5'非転写配列および5'非翻訳配列、たとえば、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等を包含するものである。とりわけ、かかる5'非転写調節配列は、動作可能に結び合わされている遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を包含するプロモーター領域を包含するであろう。調節配列はまた、所望されるとおりのエンハンサー配列または上流のアクチベーター配列も包含することがある。本発明のベクターは、任意に、5'リーダー配列またはシグナル配列を包含していてもよい。適切なベクターの選択および設計は、当業者の能力および裁量の範囲内にある。
【0136】
発現にとってすべての必要な要素を含有する発現ベクターは、市販されており、当業者に知られている。例として、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2012を見よ。細胞は、細胞中への異種DNA(RNA)の導入によって、遺伝子学的に改変されている。その異種DNA(RNA)は、転写要素の動作可能な制御下に置かれることで、宿主細胞における異種DNAの発現が可能になる。当業者が解するとおり、本明細書に記載の酵素のいずれも、ワイン、蜂蜜酒、日本酒、林檎酒等々を産生するために使用される酵母株を包含する他の酵母細胞においてもまた発現され得る。
【0137】
本開示の酵素をコードする核酸分子は、当該技術分野において標準的な方法および技法を使用して細胞(単数または複数)中へ導入され得る。例えば、核酸分子は、化学的な形質転換および電気穿孔法、形質導入、微粒子銃等々を包含する形質転換などの標準的なプロトコルによって導入され得る。クレームされる発明の酵素をコードする核酸分子を発現することはまた、核酸分子をゲノム中へインテグレートすることによっても達成されることがある。
【0138】
遺伝子の組み込みは、新しい核酸の、酵母細胞のゲノム中への組み込み、または新しい核酸のエピソーム要素としての一過的なもしくは安定した維持のいずれかによって、達成され得る。真核細胞において、永続的な、遺伝する遺伝子変化は、一般に、細胞のゲノム中へのDNAの導入によって達成される。
【0139】
異種遺伝子はまた、コードされた遺伝子産物(例として、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼを有する酵素)の発現に要される様々な転写要素も包含することがある。例えば、いくつかの態様において、遺伝子は、プロモーターを包含していてもよい。いくつかの態様において、プロモーターは、遺伝子へ作動可能に結び合わされていてもよい。いくつかの態様において、細胞は、誘導性プロモーターである。いくつかの態様において、プロモーターは、発酵プロセスの具体的なステージの最中に活性がある。例えば、いくつかの態様において、プロモーターからのピーク発現は、発酵プロセスの初期ステージの間、例として、>50%の発酵性糖が消費される前である。いくつかの態様において、プロモーターからのピーク発現は、発酵プロセスの後期ステージの間、例として、50%の発酵性糖が消費された後である。
【0140】
培地の状態は発酵プロセスの経過中に変わっていき、例えば、糖源および酸素が枯渇していくにつれ、栄養素および酸素の利用可能性は発酵の間、経時的に減少する傾向にある。加えて、細胞の代謝によって産生される産物などの他の因子の存在が増大する。いくつかの態様において、プロモーターは、1以上の因子の存在または不在などの、発酵プロセスにおける1以上の状態によって調節される。いくつかの態様において、プロモーターは、低酸素状態によって調節される。低酸素活性化遺伝子のプロモーターの例は当該技術分野において知られている。例として、Zitomer et al.Kidney Int.(1997)51(2):507-13; Gonzalez Siso et al.Biotechnol.Letters(2012)34:2161-2173を見よ。
【0141】
いくつかの態様において、プロモーターは、構成的プロモーターである。酵母細胞における使用のための構成的プロモーターの例は、当該技術分野において知られており、当業者に明白である。いくつかの態様において、プロモーターは、酵母プロモーター、例として、異種遺伝子または外来性遺伝子が発現される酵母細胞からのネイティブなプロモーターである。
【0142】
いくつかの態様において、プロモーターは、HEM13プロモーター(pHEM13)、SPG1プロモーター(pSPG1)、PRB1プロモーター(pPRB1)、QCR10(pQCR10)、PGK1プロモーター(pPGK1)、OLE1プロモーター(pOLE1)、ERG25プロモーター(pERG25)、またはHHF2プロモーター(pHHF2)である。
【0143】
例示のHEM13プロモーターは、S.cerevisiaeからのpHEM13であって、配列番号8として表されるヌクレオチド配列で規定される。
TAATGTAGAAGGTTGAGAACAACCGGATCTTGCGGTCATTTTTCTTTTCGAGGAAAGTGCAAGTCTGCCACTTTCCAGAAGGCATAGCCTTGCCCTTTTGTTGATATTTCTCCCCACCGTAATTGTTGCATTCGCGATCTTTTCAACAATACATTTTATCATCAAGCCCGCAAATCCTCTGGAGTTTGTCCTCTCGTTCACTGTTGGGAAAAACAATACGCCTAATTCGTGATTAAGATTCTTCAAACCATTTCCTGCGGAGTTTTTACTGTGTGTTGAACGGTTCACAGCGTAAAAAAAAGTTACTATAGGCACGGTATTTTAATTTCAATTGTTTAGAAAGTGCCTTCACACCATTAGCCCCTGGGATTACCGTCATAGGCACTTTCTGCTGAGCTCCTGCGAGATTTCTGCGCTGAAAGAGTAAAAGAAATCTTTCACAGCGGCTCCGCGGGCCCTTCTACTTTTAAACGAGTCGCAGGAACAGAAGCCAAATTTCAAAGAACGCTACGCTTTCGCCTTTTCTGGTTCTCCCACCAATAACGCTCCAGCTTGAACAAAGCATAAGACTGCAACCAAAGCGCTGACGGACGATCCGAAGATAAAGCTTGCTTTGCCCATTGTTCTCGTTTCGAAAGGCTATATAAGGACACGGATTTTCCtTTTTTTTTTCCACCTATTGTCTTTCTTTGTTAAGCTTTTATTCTCCGGGTTTTtTTTTTTTGAGCATATCAAAAGCTTTCTTTTCGCAAATCAAACATAGCAAACCGAACTCTTCGAACACAATTAAATACACATAAA(配列番号8)。
【0144】
例示のSPG1プロモーターは、S.cerevisiaeからのpSPG1であって、配列番号9として表されるヌクレオチド配列で規定される。
ATGAAGTTCACTTCACATCCAATGAGAAAAACAAAATCCGCAGGGCTATCACCCAGAACATCCTCCACTTCATCTTCTTCAGGACAGAGAAAAGCGCATCACCACCACCATCACCACAACCACGTTTCAAGGACGAAAACTACCGAAAGCACCAAATCAGGCAACAGCAAAAAGGACAGTTCCTCATCCTCAACAAACGACCATCAATTTAAAAGGTCTGAAAAGAAGAAAAAAAGTAAATTTGGCTCGATCTTCAAAAAAGTTTTCGGATGAACCGGATTAATACAAGTAAAATCAGCAAAGATATAGAAGACAAAATAAGCGTGAAAACAATCATAAACCACTCACAACGGGGGTTTTCAGCTGTTACTCCTCCATACATACATTTTGATAAAGATATAATGTTATATTTCTTTTCGTAATTTTGTTTTACTTCGGTTTGCTCTATAGATTTCATCAGCCGCACCGAAAAGGGAGATCAATAAGGTACCCTTTAAAAGGGATAAGAAGCCTAACATCACCCCAATAAATGGAGTAATGGCCAGCATTGGATGAAGAGAAGAATTACGGGATACTGGGATAACACTGTTAAAAATGCTTCGCGACGTGAGGGTCTTATATAAATTGAACTGCCAAATCTCTTTCACATTATCCAGGATAGTTTGGAATGTGTGTTACTGAAAGATCAGAATCAATAAATACAATCAATACAAATATTTAGCGCATAAAATTCAAACAAAGTTTACTGAA(配列番号9)。
【0145】
例示のPRB1プロモーターは、S.cerevisiaeからのpPRB1であって、配列番号10として表されるヌクレオチド配列で規定される。
CGAGAAACAGGGGGGGAGAAAAGGGGAAAAGAGAAGGAAAGAAAGACTCATCTATCGCAGATAAGACAATCAACCCTCATGGCGCCTCCAACCACCATCCGCACTAGGGACCAAGCGCTCGCACCGTTAGCAACGCTTGACTCACAAACCAACTGCCGGCTGAAAGAGCTTGTGCAATGGGAGTGCCAATTCAAAGGAGCCGAATACGTCTGTTCGCCTTTTAAGAGGCTTTTTGAACACTGCATTGCACCCGACAAATCAGCCACTAACTACGAGGTCACGGATACATATACCAATAGTTAAAAAATTACATATACTCTATATAGCACAGTAGTGTGATAAATAAAAAATTTTGCCAAGACTTTTTTAAACTGCACCCGACAGATCAGGTCTGTGCCTACTATGCACTTATGCCCGGGGTCCCGGGAGGAGAAAAAACGAGGGCTGGGAAATGTCCGTGGACTTAAAACGCTCCGGGTTAGCAGAGTAGCAGGGCTTTCGGCTTTGGAAATTTAGGTGACTTGTTGAAAAAGCAAAATTTGGGCTCAGTAATGCCACaGCAGTGGCTTATCACGCCAGGACTGCGGGAGTGGCGGGGGCAAACACACCCGCGATAAAGAGCGCGATGAATATAAAAGGGGGCCAATGTTACGTCCCGTTATATTGGAGTTCTTCCCATACAAACTTAAGAGTCCAATTAGCTTCATCGCCAATAAAAAAACAAACTAAACCTAATTCTAACAAGCAAAG(配列番号10)。
【0146】
例示のQCR10プロモーターは、S.cerevisiaeからのpQCR10であって、配列番号22として表されるヌクレオチド配列で規定される。
GAGAGCTGGCCAAAAAGAGGGCCGAAGACGGCGTTGAATTTCATTCAAAACTATTTAGAAGGGCAGAGCCAGGTGAGGATTTAGATTATTATATTTACAAGCACATCCCTGAAGGGACCGACAAGCATGAAGAACAGATCAGGAGCATTTTGGAAACTGCCCCGATTTTACCAGGACAGGCATTCACTGAAAAATTTTCTATTCCGGCTTATAAAAAGCATGGAATCCAAAAGAATTAGGCTTCTCATTCTATTTTAATTATACTAGTACGATTTCTCACTCTGTAATTTAATATCAGTGTAATATGCACCTAGTTATGGGTAGTTTTTGCTAACGTTACGAGCCGCGAAACTGTCCTCAATCTTCACCACTACCTCTAATGACTGAAGAATGCTATGCGATATAACGCTGCCGCACTTTGAATATATACTTATATTTACATAGTTTTCAAGTGCGTATTACTATTGCAAAGTAGTATTTTGTCACGTGATTTTGATCCAATTAAAACTAAATATGGTTCAACCCGTTGTTTCCGCATCAAAAAACCATACCATTTATCAAGGGGACGGGATATATCACATAACAGTTTGAATGCATAATTTGTTATAGATATCTTCTGGAATAATCTTCACAGCAAAAGCGCAAGTCGAATAATATATCGATAAATACAATCCATAAGACTTAAAACTAACCTCA(配列番号22)。
【0147】
遺伝子学的に修飾された酵母細胞
本開示の側面は、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)と、発酵産物(例として、発酵飲料)を産生する方法およびエタノールを産生する方法における、かかる修飾された細胞の使用とに関する。本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする外来性遺伝子、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子で遺伝子学的に修飾されている。
【0148】
用語「遺伝子学的に修飾された細胞」、「遺伝子学的に修飾された酵母細胞」、および「修飾された細胞」は、本明細書中互換的に使用されてもよいが、真核細胞(例として、異種遺伝子の導入によって修飾された状態にある酵母細胞か、または同導入によって間もなく修飾され得る酵母細胞)を指す。これらの用語(例として、修飾された細胞)は、異種遺伝子の導入によって遺伝子学的に修飾された元の細胞の子孫を包含する。単細胞の子孫が、突然変異(すなわち、修飾された細胞の核酸の天然の、偶然の、または意図的な変更)に起因して、元の親と、形態学の点で、またはゲノムのもしくは総核酸の相補体(genomic or total nucleic acid complement)の点で、必ずしも完全に同一でなくてもよいことは、当業者によって理解されるものである。
【0149】
本明細書に記載の方法における使用のための酵母細胞は、好ましくは、糖源(例として、発酵性糖)を発酵させて、エタノール(エチルアルコール)および二酸化炭素を産生することが可能である。いくつかの態様において、酵母細胞は、属Saccharomycesから成る。Saccharomyces属は大体500の別個の種を包含し、これらの多くは食糧産生において使用されている。一例となる種はSaccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)であって、これは一般的に「醸造者の酵母」または「パン職人の酵母」と称され、他の製品の中でもワイン、パン、ビールの産生に使用されている。Saccharomyces属の他のメンバーは、限定せずに、S.cerevisiaeと近縁である野生の酵母Saccharomyces paradoxus;Saccharomyces bayanus、Saccharomyces pastorianus、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces cerevisiae var boulardii、Saccharomyces eubayanusを包含する。いくつかの態様において、酵母は、Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)である。
【0150】
Saccharomyces種は、1倍体(すなわち、単一の染色体一式を有する)、2倍体(すなわち、対をなす染色体一式を有する)、または倍数体(すなわち、2より多くの相同の染色体一式を持つもしくは含有する)であってもよい。使用されるSaccharomyces種(例えば、ビール醸造用)は、典型的には、2つの群:上面発酵するエール株(例として、S.cerevisiae)と、下面発酵するラガー株(例として、S.pastorianus、S.carlsbergensis、S.uvarum)とに分類される。これらの特徴付けは、蓋がない四角い発酵槽におけるそれらの分離特徴、ならびにしばしば、好ましい発酵温度および達成されるアルコール濃度などの他の特徴を反映する。
【0151】
ビール醸造およびワイン産生は伝統的にS.cerevisiae株の使用に重点を置いていたが、他の酵母属も発酵飲料の産生において高く評価されている(appreciated)。いくつかの態様において、酵母細胞は、非Saccharomyces属に属する。例として、Crauwels et al.Brewing Science(2015)68:110-121;Esteves et al.Microorganisms(2019)7(11):478を見よ。いくつかの態様において、酵母細胞は、属Kloeckera、Candida、Starmerella、Hanseniaspora、Kluyveromyces/Lachance、Metschnikowia、Saccharomycodes、Zygosaccharomyce、Dekkera(またBrettanomycesとも称される)、Wickerhamomyces、またはTorulasporaから成る。非Saccharomyces酵母の例は、限定せずに、Hanseniaspora uvarum、Hanseniaspora guillermondii、Hanseniaspora vinae、Metschnikowia pulcherrima、Kluyveromyces/Lachancea thermotolerans、Starmerella bacillaris(これまでにCandida stellata/Candida zemplininaと称されていた)、Saccharomycodes ludwigii、Zygosaccharomyces rouxii、Dekkera bruxellensis、Dekkera anomala、Brettanomyces custersianus、Brettanomyces naardenensis、Brettanomyces nanus、Wickerhamomyces anomalus、およびTorulaspora delbrueckiiを包含する。
【0152】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、1より多くの遺伝子学的に修飾された酵母の使用を伴う。例えば、いくつかの態様において、方法は、属Saccharomycesに属する1より多くの遺伝子学的に修飾された酵母の使用を伴っていてもよい。いくつかの態様において、方法は、非Saccharomyces属に属する1より多くの遺伝子学的に修飾された酵母の使用を伴っていてもよい。いくつかの態様において、方法は、属Saccharomycesに属する1より多くの遺伝子学的に修飾された酵母と、非Saccharomyces属に属する1つの遺伝子学的に修飾された酵母との使用を伴っていてもよい。代わりにまたは加えて、本明細書に記載の方法のいずれも、1以上の遺伝子学的に修飾された酵母と、1以上の遺伝子学的に修飾されていない(野生型)酵母との使用を伴っていてもよい。
【0153】
いくつかの態様において、酵母は、ハイブリッド株である。当業者には明白なとおり、酵母の「ハイブリッド株」という用語は、例えば、1以上の所望される特徴を獲得するため、2つの異なる酵母株の交配の結果として生じた酵母株を指す。例えば、ハイブリッド株は、同じ属または同じ種に属する2つの異なる酵母株の交配の結果として生じたものであってもよい。いくつかの態様において、ハイブリッド株は、Saccharomyces cerevisiae株とSaccharomyces eubayanus株との交配の結果として生じたものである。例として、Krogerus et al.Microbial Cell Factories(2017)16:66を見よ。
【0154】
いくつかの態様において、酵母株は、天然の供給源から単離され続いて増殖させられた酵母株などの、野生の酵母株である。代わりに、いくつかの態様において、酵母株は、環境に適応した(domesticated)酵母株である。環境に適応した酵母株は、所望される特徴を有するためヒトによる選択および品種改良(breeding)に供されている。
【0155】
いくつかの態様において、遺伝子学的に修飾された酵母細胞は、菌株と共生のマトリックスにおいて使用されてもよく、昆布茶、ケフィア、およびジンジャービールなどの発酵飲料の産生に使用されてもよい。例えば、Saccharomyces fragilisは、ケフィア培養物の不可欠な要素(part of)であって、ホエイ中に含有されるラクトース上で成長させられる。
【0156】
酵母細胞を遺伝子学的に修飾する方法は、当該技術分野において知られている。いくつかの態様において、酵母細胞が2倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子の1コピーが、酵母ゲノム中へ導入される。
【0157】
いくつかの態様において、酵母細胞が2倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子の1コピーが、酵母ゲノムの両コピー中へ導入される。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではないが、前記遺伝子は、同一のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではなく、遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する異なる酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0158】
いくつかの態様において、酵母細胞は2倍体であって、本明細書に記載のとおりの脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子の1コピーが酵母ゲノムの両コピー中へ導入される。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは同一である。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは同一ではないが、それら遺伝子は、同一の脂肪酸シンターゼ活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは同一ではなく、かつそれら遺伝子は、異なる脂肪酸シンターゼ活性を有する酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。いくつかの態様において、細胞は、内在性の遺伝子と称される脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子を含有し、また、内在性の遺伝子によってコードされるのと同じかまたは異なる脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素であってもよい脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする第2の遺伝子も含有する。
【0159】
いくつかの態様において、酵母細胞は2倍体であって、本明細書に記載のとおりのヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子の1コピーが酵母ゲノムの両コピー中へ導入される。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一である。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではないが、それら遺伝子は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性を有する同一の酵素をコードする。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではなく、かつ遺伝子は、異なるヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性を有する酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0160】
いくつかの態様において、酵母細胞は、4倍体である。4倍体の酵母細胞は、4つの完全な染色体一式(すなわち、4コピーの完全な染色体一式)を維持する細胞である。いくつかの態様において、酵母細胞が4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子のコピーが、ゲノムの少なくとも1つのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞が4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子のコピーが、ゲノムの1より多くのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞が4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子のコピーが、ゲノムの4コピーすべてに導入される。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではないが、前記遺伝子は、同一のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではなく、遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する異なる酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0161】
いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であって、本明細書に記載のとおりの脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの少なくとも1つのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であって、本明細書に記載のとおりの脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの1より多いコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であって、本明細書に記載のとおりの脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの4つすべてのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは、同一ではないが、それら遺伝子は、同一の脂肪酸シンターゼ活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子のコピーは、同一ではなく、かつそれら遺伝子は、異なる脂肪酸シンターゼ活性を有する酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。いくつかの態様において、細胞は、内在性の遺伝子と称される脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子を含有し、また、内在性の遺伝子によってコードされるのと同じかまたは異なる脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素であってもよい脂肪酸シンターゼ活性をもつ酵素をコードする遺伝子の1以上の追加のコピーも含有する。
【0162】
いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であって、本明細書に記載のとおりのヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子のコピーは、ゲノムの少なくとも1つのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であって、本明細書に記載のとおりのヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子のコピーは、ゲノムの1より多いコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であって、本明細書に記載のとおりのヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子のコピーは、ゲノムの4つすべてのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一である。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではないが、それら遺伝子は、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性を有する同一の酵素をコードする。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではなく、かつそれら遺伝子は、異なるヘキサノイル-CoAシンテターゼ活性を有する酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0163】
いくつかの態様において、修飾された細胞の成長速度は、第1の異種遺伝子および第2の外来性遺伝子を含まない野生型酵母細胞と比べて実質的に損なわれていない。2細胞の成長速度を測定して比較する方法は、当業者に知られているであろう。2タイプの細胞間で測定、比較され得る成長速度の非限定例は、複製速度、出芽速度、単位時間あたりに産生されるコロニー形成単位(CFU)、および単位時間あたりに低減される培地中の発酵性糖の量である。修飾された細胞の成長速度は、測定されるとおりの成長速度が、野生型細胞の成長速度の少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または少なくとも100%である場合、野生型細胞と比べて「実質的に損なわれていない」。
【0164】
本明細書に記載の方法で使用されてもよい酵母細胞の株は、当業者に知られているであろう。そして前記株は、所望される発酵飲料を醸造するために使用される酵母株、ならびに市販の酵母株を包含する。一般的なビール株の例は、限定せずに、American ale株、Belgian ale株、British ale株、Belgian lambic/sour ale株、Barleywine/Imperial Stout株、India Pale Ale株、Brown Ale株、Kolsch and Altbier株、Stout and Porter株、Wheat beer株を包含する。
【0165】
本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞および方法での使用のための酵母株の非限定例は、Wyeast American Ale 1056、Wyeast American Ale II 1272、Wyeast Denny's Favorite 50 1450、Wyeast Northwest Ale 1332、Wyeast Ringwood Ale 1187、Siebel Inst. American Ale BRY 96、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs Old Sonoma Ale WLP076、White Labs Pacific Ale WLP041、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs East Midlands Ale WLP039、White Labs San Diego Super Yeast WLP090、White Labs San Francisco Lager WLP810、White Labs Neutral Grain WLP078、Lallemand American West Coast Ale BRY-97、Lallemand CBC-1(Cask and Bottle Conditioning)、Brewferm Top、Coopers Pure Brewers' Yeast、Fermentis US-05、Real Brewers Yeast Lucky #7、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、East Coast Yeast Northeast Ale ECY29、East Coast Yeast Old Newark Ale ECY10、East Coast Yeast Old Newark Beer ECY12、Fermentis Safale US-05、Fermentis Safbrew T-58、Real Brewers Yeast The One、Mangrove Jack US West Coast Yeast、Mangrove Jack Workhorse Beer Yeast、Lallemand Abbaye Belgian Ale、White Labs Abbey IV WLP540、White Labs American Farmhouse Blend WLP670、White Labs Antwerp Ale WLP515、East Coast Yeast Belgian Abbaye ECY09、White Labs Belgian Ale WLP550、Mangrove Jack Belgian Ale Yeast、Wyeast Belgian Dark Ale 3822-PC、Wyeast Belgian Saison 3724、White Labs Belgian Saison I WLP565、White Labs Belgian Saison II WLP566、White Labs Belgian Saison III WLP585、Wyeast Belgian Schelde Ale 3655-PC、Wyeast Belgian Stout 1581-PC、White Labs Belgian Style Ale Yeast Blend WLP575、White Labs Belgian Style Saison Ale Blend WLP568、East Coast Yeast Belgian White ECY11、Lallemand Belle Saison、Wyeast Biere de Garde 3725-PC、White Labs Brettanomyces Bruxellensis Trois Vrai WLP648、Brewferm Top、Wyeast Canadian/Belgian Ale 3864-PC、Lallemand CBC-1(Cask and Bottle Conditioning)、Wyeast Farmhouse Ale 3726-PC、East Coast Yeast Farmhouse Brett ECY03、Wyeast Flanders Golden Ale 3739-PC、White Labs Flemish Ale Blend WLP665、White Labs French Ale WLP072、Wyeast French Saison 3711、Wyeast Leuven Pale Ale 3538-PC、Fermentis Safbrew T-58、East Coast Yeast Saison Brasserie Blend ECY08、East Coast Yeast Saison Single-Strain ECY14、Real Brewers Yeast The Monk、Siebel Inst. Trappist Ale BRY 204、East Coast Yeast Trappist Ale ECY13、White Labs Trappist Ale WLP500、Wyeast Trappist Blend 3789-PC、Wyeast British Ale 1098、Wyeast British Ale II 1335、Wyeast British Cask Ale 1026-PC、Wyeast English Special Bitter 1768-PC、Wyeast Irish Ale 1084、Wyeast London Ale 1028、Wyeast London Ale III 1318、Wyeast London ESB Ale 1968、Wyeast Ringwood Ale 1187、Wyeast Thames Valley Ale 1275、Wyeast Thames Valley Ale II 1882-PC、Wyeast West Yorkshire Ale 1469、Wyeast Whitbread Ale 1099、Mangrove Jack British Ale Yeast、Mangrove Jack Burton Union Yeast、Mangrove Jack Workhorse Beer Yeast、East Coast Yeast British Mild Ale ECY18、East Coast Yeast Northeast Ale ECY29、East Coast Yeast Burton Union ECY17、East Coast Yeast Old Newark Ale ECY10、White Labs Bedford British Ale WLP006、White Labs British Ale WLP005、White Labs Burton Ale WLP023、White Labs East Midlands Ale WLP039、White Labs English Ale Blend WLP085、White Labs English Ale WLP002、White Labs Essex Ale Yeast WLP022、White Labs Irish Ale WLP004、White Labs London Ale WLP013、White Labs Manchester Ale WLP038、White Labs Old Sonoma Ale WLP076、White Labs San Diego Super Yeast WLP090、White Labs Whitbread Ale WLP017、White Labs North Yorkshire Ale WLP037、Coopers Pure Brewers' Yeast、Siebel Inst. English Ale BRY 264、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、Lallemand Nottingham、Fermentis Safale S-04、Fermentis Safbrew T-58、Lallemand Windsor(British Ale)、Real Brewers Yeast Ye Olde English、Brewferm Top、White Labs American Whiskey WLP065、White Labs Dry English Ale WLP007、White Labs Edinburgh Ale WLP028、Fermentis Safbrew S-33、Wyeast Scottish Ale 1728、East Coast Yeast Scottish Heavy ECY07、White Labs Super High Gravity WLP099、White Labs Whitbread Ale WLP017、Wyeast Belgian Lambic Blend 3278、Wyeast Belgian Schelde Ale 3655-PC、Wyeast Berliner-Weisse Blend 3191-PC、Wyeast Brettanomyces Bruxellensis 5112、Wyeast Brettanomyces Lambicus 5526、Wyeast Lactobacillus 5335、Wyeast Pediococcus Cerevisiae 5733、Wyeast Roeselare Ale Blend 3763、Wyeast Trappist Blend 3789-Pc、White Labs Belgian Sour Mix Wlp655、White Labs Berliner Weisse Blend Wlp630、White Labs Saccharomyces “Bruxellensis”Trois Wlp644、White Labs Brettanomyces Bruxellensis Wlp650、White Labs Brettanomyces Claussenii Wlp645、White Labs Brettanomyces Lambicus Wlp653、White Labs Flemish Ale Blend Wlp665、East Coast Yeast Berliner Blend Ecy06、East Coast Yeast Brett Anomala Ecy04、East Coast Yeast Brett Bruxelensis Ecy05、East Coast Yeast Brett Custersianus Ecy19、East Coast Yeast Brett Nanus Ecy16、Strain #2、East Coast Yeast BugCounty ECY20、East Coast Yeast BugFarm ECY01、East Coast Yeast Farmhouse Brett ECY03、East Coast Yeast Flemish Ale ECY02、East Coast Yeast Oud Brune ECY23、Wyeast American Ale 1056、Siebel Inst. American Ale BRY 96、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs Bourbon Yeast WLP070、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs Dry English ale WLP007、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs Neutral Grain WLP078、White Labs Super High Gravity WLP099、White Labs Tennessee WLP050、Fermentis US-05、Real Brewers Yeast Lucky #7、Fermentis Safbrew S-33、East Coast Yeast Scottish Heavy ECY07、Lallemand Windsor(British Ale)、Wyeast American Ale 1056、Wyeast American Ale II 1272、Wyeast British Ale 1098、Wyeast British Ale II 1335、Wyeast Denny's Favorite 50 1450、Wyeast London Ale 1028、Wyeast London Ale III 1318、Wyeast London ESB Ale 1968、Wyeast Northwest Ale 1332、Wyeast Ringwood Ale 1187、Siebel Inst. American Ale BRY 96、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs Bedford British Ale WLP006、White Labs British Ale WLP005、White Labs Burton Ale WLP023、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs English Ale WLP002、White Labs London Ale WLP013、White Labs Essex Ale Yeast WLP022、White Labs Pacific Ale WLP041、White Labs San Diego Super Yeast WLP090、White Labs Whitbread Ale WLP017、Brewferm Top、Mangrove Jack Burton Union Yeast、Mangrove Jack US West Coast Yeast、Mangrove Jack Workhorse Beer Yeast、Coopers Pure Brewers' Yeast、Fermentis US-05、Fermentis Safale S-04、Fermentis Safbrew T-58、Real Brewers Yeast Lucky #7、Real Brewers Yeast The One、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、East Coast Yeast Northeast Ale ECY29、Lallemand Nottingham、Lallemand Windsor(British Ale)、Wyeast American Ale 1056、Wyeast American Ale II 1272、Wyeast British Ale 1098、Wyeast British Ale II 1335、Wyeast Thames Valley Ale 1275、Wyeast Thames Valley Ale II 1882-PC、Wyeast West Yorkshire Ale 1469、Wyeast Whitbread Ale 1099、Wyeast British Cask Ale 1026-PC、Wyeast English Special Bitter 1768-PC、Wyeast London Ale 1028、Wyeast London Ale III 1318、Wyeast London ESB Ale 1968、Wyeast Northwest Ale 1332、Wyeast Ringwood Ale 1187、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs British Ale WLP005、White Labs Bedford British Ale WLP006、White Labs British Ale WLP005、White Labs Burton Ale WLP023、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs English Ale WLP002、White Labs Essex Ale Yeast WLP022、White Labs French Ale WLP072、White Labs London Ale WLP013、White Labs Pacific Ale WLP041、White Labs Whitbread Ale WLP017、Brewferm Top、East Coast Yeast British Mild Ale ECY18、Coopers Pure Brewers' Yeast、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、Mangrove Jack Newcastle Dark Ale Yeast、Lallemand CBC-1(Cask and Bottle Conditioning)、Lallemand Nottingham、Lallemand Windsor(British Ale)、Fermentis Safale S-04、Fermentis US-05、Siebel Inst. American Ale BRY 96、Wyeast American Wheat 1010、Wyeast German Ale 1007、Wyeast Koelsch 2565、Wyeast Kolsch II 2575-PC、White Labs Belgian Lager WLP815、White Labs Dusseldorf Alt WLP036、White Labs European Ale WLP011、White Labs German Ale/Koelsch WLP029、East Coast Yeast Koelschbier ECY21、Mangrove Jack Workhorse Beer Yeast、Siebel Inst. Alt Ale BRY 144、Wyeast American Ale 1056、Wyeast American Ale II 1272、Wyeast British Ale 1098、Wyeast British Ale II 1335、Wyeast Denny's Favorite 50 1450、Wyeast English Special Bitter 1768-PC、Wyeast Irish Ale 1084、Wyeast London Ale 1028、Wyeast London Ale III 1318、Wyeast London ESB Ale 1968、Wyeast Northwest Ale 1332、Wyeast Ringwood Ale 1187、Wyeast Thames Valley Ale 1275、Wyeast Thames Valley Ale II 1882-PC、Wyeast West Yorkshire Ale 1469、Wyeast Whitbread Ale 1099、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs Bedford British Ale WLP006、White Labs British Ale WLP005、White Labs Burton Ale WLP023、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs East Midlands Ale WLP039、White Labs English Ale WLP002、White Labs Essex Ale Yeast WLP022、White Labs Irish Ale WLP004、White Labs London Ale WLP013、White Labs Old Sonoma Ale WLP076、White Labs Pacific Ale WLP041、White Labs Whitbread Ale WLP017、Coopers Pure Brewers' Yeast、Fermentis US-05、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、Fermentis Safale S-04、Lallemand Nottingham、Lallemand Windsor(British Ale)、Siebel Inst. American Ale BRY 96、White Labs American Hefeweizen Ale 320、White Labs Bavarian Weizen Ale 351、White Labs Belgian Wit Ale 400、White Labs Belgian Wit Ale II 410、White Labs Hefeweizen Ale 300、White Labs Hefeweizen IV Ale 380、Wyeast American Wheat 1010、Wyeast Bavarian Wheat 3638、Wyeast Bavarian Wheat Blend 3056、Wyeast Belgian Ardennes 3522、Wyeast Belgian Wheat 3942、Wyeast Belgian Witbier 3944、Wyeast Canadian/Belgian Ale 3864-PC、Wyeast Forbidden Fruit Yeast 3463、Wyeast German Wheat 3333、Wyeast Weihenstephan Weizen 3068、Siebel Institute Bavarian Weizen BRY 235、Fermentis Safbrew WB-06、Mangrove Jack Bavarian Wheat、Lallemand Munich(German Wheat Beer)、Brewferm Blanche、Brewferm Lager、East Coast Yeast
Belgian White ECY11を包含する。いくつかの態様において、酵母は、S.cerevisiae株WLP001 California Ale(これは「CA01」と称されることもある)である。
【0166】
いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞および方法での使用のための酵母株は、ワイン酵母株である。本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞および方法での使用のための酵母株の例は、限定せずに、Red Star Montrachet、EC-1118、Elegance、Red Star Cote des Blancs、Epernay II、Red Star Premier Cuvee、Red Star Pasteur Red、Red Star Pasteur Champagne、Fermentis BCS-103、およびFermentis VR44を包含する。いくつかの態様において、酵母は、S.cerevisiae株Eleganceである。いくつかの態様において、酵母は、S.cerevisiae株EC-1118(またEC1118もしくはLalvin EC 1118(登録商標)(Lallemand Brewing)とも称される)。
【0167】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、PRB1プロモーターの制御下でFAS2を、およびPGK1プロモーターの制御下でMpAAT1-A169G,A170Fを発現するS.cerevisiae細胞である。いくつかの態様において、修飾された細胞はまた、EHT1およびEEB1の欠失も含む。
【0168】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、PRB1プロモーターの制御下でFAS2を、およびPGK1プロモーターの制御下でMpAAT1-A169G,A170Fを発現するS.cerevisiae細胞である。
【0169】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、PRB1プロモーターの制御下でFAS2-G1250Sを、およびPGK1プロモーターの制御下でMpAAT1-A169G,A170Fを発現するS.cerevisiaeである。いくつかの態様において、修飾された細胞はまた、EHT1の欠失も含む。
【0170】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、PRB1プロモーターの制御下でFAS2-G1250Sを、およびPGK1プロモーターの制御下でMpAAT1-A169G,A170Fを発現するS.cerevisiae細胞である。いくつかの態様において、修飾された細胞はまた、EHT1およびEEB1の欠失も含む。
【0171】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、PRB1プロモーターの制御下でFAS2-G1250Sを、およびPGK1プロモーターの制御下でMpAAT1-A169G,A170Fを発現するS.cerevisiae細胞である。いくつかの態様において、修飾された細胞はまた、EHT1 EEB1、およびMGL2の欠失も含む。
【0172】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、PRB1プロモーターの制御下でFAS2-G1250Sを、PGK1プロモーターの制御下でMpAAT1-A169G,A170Fを、およびPDC6プロモーターの制御下でHCSを発現するS.cerevisiae細胞である。いくつかの態様において、修飾された細胞はまた、EHT1 EEB1、およびMGL2の欠失も含む。
【0173】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、PRB1プロモーターの制御下でFAS2-G1250Sを、およびQCR10プロモーターの制御下でMaWES1を発現するS.cerevisiae細胞である。いくつかの態様において、修飾された細胞は、PRB1プロモーターの制御下でFAS2-G1250Sを、およびHEM13プロモーターの制御下でMaWES1を発現するS.cerevisiae細胞である。いくつかの態様において、修飾された細胞はまた、EHT1およびEEB1の欠失も含む。
【0174】
方法
本開示の側面は、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞のいずれかを使用して、発酵産物を産生する方法に関する。また提供されるのには、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞のいずれかを使用して、エタノールを産生する方法もある。
【0175】
発酵のプロセスは、炭水化物を変換してアルコールおよび二酸化炭素にする微生物を使用する天然のプロセスを活用する。これは、酵素的作用を通して有機基質における化学的変化を産生する代謝プロセスである。食糧産生という文脈において、発酵は広く、微生物の活性が所望の変化を食品または飲料へもたらす、いずれのプロセスも指す。発酵の条件および発酵の実行は本明細書中、「発酵プロセス」として言及される。
【0176】
いくつかの側面において、本開示は、最初の発酵プロセスの最中に、本明細書に記載の修飾された細胞のいずれかを、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させることで、発酵産物を産生することを伴う、発酵飲料などの発酵産物を産生する方法に関する。「培地」は、本明細書に使用されるとき、発酵に資する液体を指し、発酵プロセスを阻害も防止もしない液体を意味する。いくつかの態様において、培地は、水である。いくつかの態様において、発酵産物を産生する方法は、最初の発酵プロセスの最中に、精製された酵素(例として、本明細書に記載のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼ酵素のいずれか)を、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させることで、発酵産物を産生することを伴う。
【0177】
また本明細書にも使用されるとおり、用語「発酵性糖」は、本明細書に記載の細胞のいずれかなどの微生物によって変換されてアルコールおよび二酸化炭素になり得る炭水化物を指す。いくつかの態様において、発酵性糖は、組換え酵素などの酵素または前記酵素を発現する細胞によって変換されて、アルコールおよび二酸化炭素になる。発酵性糖の例は、限定せずに、グルコース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースを包含する。
【0178】
いくつかの態様において、発酵性糖は、糖源において提供される。クレームされる方法における使用のための糖源は、例えば、発酵産物および発酵性糖のタイプに依存することもある。糖源の例は、限定せずに、麦芽汁、穀物(grains)/穀草類(cereals)、果汁(例として、ブドウ果汁、およびリンゴ果汁/林檎酒)、蜂蜜、甘蔗糖、米、および麹(koji)を包含する。果汁が得られ得る果実の例は、限定せずに、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツを包含する。
【0179】
当業者には明白なとおり、いくつかの場合において、発酵に対し発酵性糖を利用可能にさせるために糖源を処理することは、必要となることもある。発酵飲料の一例としてビールの産生を使用すると、穀物(穀草類、大麦)は、水中で煮られるかまたは浸され、これによって穀物が水和されて麦芽酵素が活性化され、デンプンが発酵性糖へ変換されるが、これを「糖化(mashing)」と称する。本明細書に使用されるとき、用語「麦芽汁」は、糖化プロセスにおいて産生され、発酵性糖を含有する液体を指す。次いで麦芽汁は、発酵性生物(例として、本明細書に記載の細胞のいずれか)へ曝露され、これによって発酵性生物の酵素が麦芽汁中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。いくつかの態様において、麦芽汁は、組換え酵素(例として、本明細書に記載の酵素のいずれか)と接触させられるが、前記酵素は任意に、酵素を産生する生物から精製または単離されてもよく、酵素が麦芽汁中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。
【0180】
いくつかの態様において、穀物は、麦芽化されているか(malted)、非麦芽化されているか(unmalted)、または麦芽化穀物と非麦芽化穀物との組み合わせを含む。本明細書に記載の方法における使用のための穀物の例は、限定せずに、大麦、燕麦、トウモロコシ、米、ライ麦、モロコシ、小麦、カラスムギ、およびハトムギを包含する。
【0181】
日本酒を産生する例において、糖源は米であり、米は、麹菌(Aspergillus oryzae)とインキュベートされて米デンプンが発酵性糖へ変換され、麹が産生される。麹は次いで、発酵性生物(例として、本明細書に記載の細胞のいずれか)へ曝露され、これによって発酵性生物の酵素が麹中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。いくつかの態様において、麹は、組換え酵素(例として、本明細書に記載の酵素のいずれか)と接触させられるが、前記酵素は任意に、酵素を産生する生物から精製または単離されてもよく、酵素が麹中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。
【0182】
ワインを産生する例において、ブドウは収穫され、すりつぶされて(mashed)(例として、圧搾されて(crushed))、果皮(skins)、果肉(solids)、果汁(juice)、および種子(seeds)を含有する組成物になる。その結果得られた組成物は「果醪」と称される。ブドウ果汁は、果醪から分離されて発酵させられてもよく、または果醪(すなわち、果皮、種子、果肉)全体が発酵させられてもよい。ブドウ果汁または果醪は次いで、発酵性生物(例として、本明細書に記載の細胞のいずれか)へ曝露され、これによって発酵性生物の酵素がブドウ果汁または果醪中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。いくつかの態様において、ブドウ果汁または果醪は、組換え酵素(例として、本明細書に記載の酵素のいずれか)と接触させられるが、前記酵素は任意に、酵素を産生する生物から精製または単離されてもよく、酵素がブドウ果汁または果醪中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。
【0183】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、糖源を、例えば水中で、加熱するかまたは浸すことを伴ってもよい、培地を産生することを伴う。いくつかの態様において、水は、少なくともセ氏50度(50℃)の温度を有し、ある期間の糖源とインキュベートされる。いくつかの態様において、水は、少なくとも75℃の温度を有し、ある期間の糖源とインキュベートされる。いくつかの態様において、水は、少なくとも100℃の温度を有し、ある期間の糖源とインキュベートされる。好ましくは、培地は、本明細書に記載の細胞のいずれかの添加に先立ち、冷却される。
【0184】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、発酵プロセスの最中に、少なくとも1つの(例として、1、2、3、4、5、またはそれより多くの)ホップ品種を、例えば培地へ、麦芽汁へ加えることをさらに含む。ホップは、ホップ植物(Humulus lupulus)の花であり、様々なフレーバーおよび芳香を発酵産物に付与するようにしばしば発酵において使用される。ホップは、フローラルの、フルーティな、および/または柑橘類のフレーバーならびに芳香に加えて、苦味のあるフレーバリング(flavoring)を付与するものと見なされ、本来の目的に基づき特徴付けられてもよい。例えば、苦味をもたらすホップは、ホップ花におけるアルファ酸の存在に起因して、あるレベルの苦味を発酵産物に付与するが、その一方で芳香性のホップは、より低レベルのアルファ酸を有し、発酵産物への所望の芳香およびフレーバーに寄与する。
【0185】
ホップの1以上の品種が培地および/または麦芽汁へ加えられるかどうか、ならびにホップが加えられるのがどのステージにて行われるかは、ホップの本来の目的などの様々な因子に基づいてもよい。例えば、苦味を発酵産物に付与することを意図したホップは、典型的には、麦芽汁の調製の最中に、例えば、麦芽汁を煮る最中に、加えられる。いくつかの態様において、苦味を発酵産物に付与することを意図したホップは、麦芽汁へ加えられて、ある期間、例えば、約15~60分間、麦芽汁とともに煮られる。対照的に、所望される芳香を発酵産物に付与することを意図したホップは、典型的には、苦味のために使用されたホップより後に加えられる。いくつかの態様において、所望される芳香を発酵産物に付与することを意図したホップは、煮沸の終了時、または麦芽汁が煮られた後に加えられる(すなわち、「ドライホッピング」)。いくつかの態様において、ホップの1以上の品種は、方法の最中、複数回(例として、少なくとも2度、少なくとも3回、またはそれより多く)にて加えられてもよい。
【0186】
いくつかの態様において、ホップは、ウェットな(wet)ホップまたは乾燥したホップのいずれかの形態で加えられて、任意に、麦芽汁と煮沸されてもよい。いくつかの態様において、ホップは、乾燥したホップペレットの形態である。いくつかの態様において、ホップの少なくとも1つの品種は、培地へ加えられる。いくつかの態様において、ホップは、ウェットである(すなわち、乾燥していない)。いくつかの態様において、ホップは乾燥しており、任意に、使用に先立ちさらに処理されてもよい。いくつかの態様において、ホップは、発酵プロセスに先立ち麦芽汁へ加えられる。いくつかの態様において、ホップは、麦芽汁中で煮沸される。いくつかの態様において、ホップは、麦芽汁とともに煮沸され、次いで麦芽汁とともに冷却される。
【0187】
ホップの多くの品種は、当該技術分野において知られており、本明細書に記載の方法において使用されてもよい。ホップ品種の例は、限定せずに、Ahtanum、Amarillo、Apollo、Cascade、Centennial、Chinook、Citra、Cluster、Columbus、Crystal/Chrystal、Eroica、Galena、Glacier、Greenburg、Horizon、Liberty、Millennium、Mosaic、Mount Hood、Mount Rainier、Newport、Nugget、Palisade、Santiam、Simcoe、Sterling、Summit、Tomahawk、Ultra、Vanguard、Warrior、Willamette、Zeus、Admiral、Brewer's Gold、Bullion、Challenger、First Gold、Fuggles、Goldings、Herald、Northdown、Northern Brewer、Phoenix、Pilot、Pioneer、Progress、Target、Whitbread Golding Variety(WGV)、Hallertau、Hersbrucker、Saaz、Tettnang、Spalt、Feux-Coeur Francais、Galaxy、Green Bullet、Motueka、Nelson Sauvin、Pacific Gem、Pacific Jade、Pacifica、Pride of Ringwood、Riwaka、Southern Cross、Lublin、Magnum、Perle、Polnischer Lublin、Saphir、Satus、Select、Strisselspalt、Styrian Goldings、Tardif de Bourgogne、Tradition、Bravo、Calypso、Chelan、Comet、El Dorado、San Juan Ruby Red、Satus、Sonnet Golding、Super Galena、Tillicum、Bramling Cross、Pilgrim、Hallertauer Herkules、Hallertauer Magnum、Hallertauer Taurus、Merkur、Opal、Smaragd、Halleratau Aroma、Kohatu、Rakau、Stella、Sticklebract、Summer Saaz、Super Alpha、Super Pride、Topaz、Wai-iti、Bor、Junga、Marynka、Premiant、Sladek、Styrian Atlas、Styrian Aurora、Styrian Bobek、Styrian Celeia、Sybilla Sorachi Ace、Hallertauer Mittelfrueh、Hallertauer Tradition、Tettnanger、Tahoma、Triple Pearl、Yahima Gold、and Michigan Copperを包含する。
【0188】
いくつかの態様において、少なくとも1つの発酵性糖を含む少なくとも1つの糖源の発酵プロセスは、約1日間~約31日間実行されてもよい。いくつかの態様において、発酵プロセスは、約1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間、22日間、23日間、24日間、25日間、26日間、27日間、28日間、29日間、30日間、31日間、またはこれより長い間実施される。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の発酵プロセスは、約4℃~約30℃の温度にて実施されてもよい。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の発酵プロセスは、約8℃~約14℃または約18℃~約24℃の温度にて実行されてもよい。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の発酵プロセスは、約4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、または30℃の温度にて実施されてもよい。
【0189】
いくつかの態様において、発酵は、培地に存在する発酵性糖の量の低減をもたらす。いくつかの態様において、発酵性糖の量における低減は、発酵の開始から1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間、22日間、23日間、24日間、25日間、26日間、27日間、28日間、29日間、30日間、31日間以内、またはこれより長い期間以内に生じる。いくつかの態様において、発酵性糖の量は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、少なくとも99.9%、または100%まで低減される。いくつかの態様において、修飾された細胞(単数または複数)は、同じ時間(amount of time)で野生型酵母細胞によって発酵された発酵性糖の量と比べて、同等のまたはより多くの発酵性糖の量を発酵する。
【0190】
本明細書に記載の方法は、少なくとも1つの追加の発酵プロセスを伴っていてもよい。かかる追加の発酵方法は、2次発酵プロセスと称されてもよい(また「熟成(aging)」または「成熟(maturing)」とも称される)。当業者によって理解されるとおり、2次発酵は、典型的には、発酵飲料を、発酵飲料がある期間インキュベートされる第2の入れ物(例として、ガラスカーボイ、樽)へ移すことを伴う。いくつかの態様において、2次発酵は、10分間と12カ月間との間の期間実施される。いくつかの態様において、2次発酵は、10分間、20分間、40分間、40分間、50分間、60分間(1時間)、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、3カ月間、4カ月間、5カ月間、6カ月間、7カ月間、8カ月間、9カ月間、10カ月間、11カ月間、12カ月間、またはこれより長く実施される。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の、追加のまたは2次の発酵プロセスは、約4℃~約30℃の温度にて実施されてもよい。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の、追加のまたは2次の発酵プロセスは、約8℃~約14℃または約18℃~約24℃の温度にて実行されてもよい。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の、追加のまたは2次の発酵プロセスは、約4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、または30℃の温度にて実施されてもよい。
【0191】
当業者には明白なとおり、追加のまたは2次発酵プロセスのための期間および温度の選択は、ビールのタイプ、所望されるビールの特徴、および方法に使用される酵母株などの因子に依存するであろう。
【0192】
いくつかの態様において、1以上の追加のフレーバー構成要素は、発酵プロセスに先立ち、または発酵プロセス後に、培地へ加えられてもよい。例は、ホップ油、ホップ芳香族化合物、ホップ抽出物、ホップの苦味、および異性体化ホップ抽出物を包含する。
【0193】
発酵プロセスからの産物は、プロセス発酵の間にまたは発酵産物から揮発し消散することがある。例えば、本明細書に記載の細胞を使用して発酵の間に産生されたヘキサン酸エチルは、揮発することもあり、発酵産物において低減されたレベルのヘキサン酸エチルがもたらされる。いくつかの態様において、揮発したヘキサン酸エチルは、発酵プロセス後に捕捉されて再導入される。
【0194】
発酵に続き、様々な純化(refinement)、濾過、および熟成のプロセスが存在していてもよく、その後に液体が瓶に詰められる(例として、配布、保管、または飲食のための容器中に留めて密封される)。本明細書に記載の方法のいずれかは、発酵産物を蒸留すること、低温殺菌すること、および/または炭酸ガスを入れることをさらに伴っていてもよい。いくつかの態様において、方法は、発酵産物に炭酸ガスを入れることを伴う。発酵飲料に炭酸ガスを入れる方法は、当該技術分野において知られており、例えば、ガス(例として、二酸化炭素、窒素)での強制炭酸化、さらなる発酵および二酸化炭素の産生を促進するためにさらなる糖源を発酵飲料へ加えることによる自然炭酸化(例として、瓶の状態調節(conditioning))を包含する。
【0195】
発酵産物
本開示の側面は、本明細書に開示の方法のいずれかによって産生された発酵産物に関する。いくつかの態様において、発酵産物は、発酵飲料である。発酵飲料の例は、限定せずに、ビール、ワイン、日本酒、蜂蜜酒、林檎酒、カヴァ、スパークリングワイン(シャンパン)、昆布茶、ジンジャービール、ウォーターケフィア(water kefir)を包含する。いくつかの態様において、飲料は、ビールである。いくつかの態様において、飲料は、ワインである。いくつかの態様において、飲料は、スパークリングワインである。いくつかの態様において、飲料は、シャンパンである。いくつかの態様において、飲料は、日本酒である。いくつかの態様において、飲料は、蜂蜜酒である。いくつかの態様において、飲料は、林檎酒である。いくつかの態様において、飲料は、ハードセルツァーである。いくつかの態様において、飲料は、ワインクーラーである。
【0196】
いくつかの態様において、発酵産物は、発酵食品である。発酵食品の例は、限定せずに、カルチャード(cultured)ヨーグルト、テンペ、みそ、キムチ、ザウアークラウト、発酵ソーセージ、パン、しょうゆを包含する。
【0197】
本発明の側面に従うと、増加した力価のヘキサン酸エチルは、酵母細胞および本明細書に記載の方法における前記細胞の使用において、本発明に関連する遺伝子の組換え発現を通して産生される。本明細書に使用されるとき、「増加した力価」または「高い力価」は、リットル当たりのナノグラム(ng L-1)スケールでの力価を指す。所定の産物に対して産生された力価は、発酵のための培地および条件の選択を包含する、複数の因子による影響が及ぼされるであろう。
【0198】
いくつかの態様において、ヘキサン酸の力価エチルは、少なくとも1μg L-1、例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1050、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000μg L-1である。
【0199】
本開示の側面は、ヘキサン酸などの望ましくない産物(例として、副産物、オフフレーバー)の産生を、産物の発酵の間に低減させることに関する。いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞におけるアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、および/またはヘキサノイル-CoAシンテターゼの発現は、野生型酵母細胞または酵素を発現しない酵母細胞の使用による望ましくない産物(例として、ヘキサン酸)の産生と比べて、望ましくない産物の産生における約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%以上までの低減をもたらす。
【0200】
いくつかの態様において、ヘキサン酸の力価は、1000mg L-1未満、例えば、1000、950、900、850、800、750、700、650、600、550、500、450、400、350、300、250、200、150、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.9、0.8、0.7,0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1mg L-1未満、またはそれ未満である。
【0201】
ヘキサン酸エチルおよび/またはヘキサン酸の力価/レベルを測定する方法は、当業者に明白であろう。いくつかの態様において、揮発性チオールおよび/またはインドールの力価/レベルは、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)を使用して測定される。いくつかの態様において、ヘキサン酸エチルおよび/またはヘキサン酸の力価/レベルは、例えば、ヒト味見係(taste-testers)を包含する、官能パネルを使用して査定される。
【0202】
いくつかの態様において、発酵飲料は、アルコールを0.1%と30%との間の体積まで(また「ABV」、「abv」、もしくは「alc/vol」とも称される)含有する。いくつかの態様において、発酵飲料は、アルコールを、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.07%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2 %、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%の、またはこれより多い体積まで含有する。いくつかの態様において、発酵飲料は、非アルコール性である(例として、アルコールを0.5%未満の体積まで有する)。
【0203】
キット
本開示の側面はまた、例えば、発酵飲料、発酵産物、またはエタノールを産生するための、遺伝子学的に修飾された酵母細胞の使用のためのキットも提供する。いくつかの態様において、キットは、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子、脂肪酸シンターゼ(FAS2)活性をもつ酵素をコードする外来性遺伝子、および/またはヘキサノイル-CoA(HCS)活性をもつ酵素をコードする異種遺伝子を含有する、修飾された細胞を含有する。
【0204】
いくつかの態様において、キットは、発酵飲料の産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、ビールの産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、ワインの産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、日本酒の産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、蜂蜜酒の産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、林檎酒の産生のためのものである。
【0205】
キットはまた、本明細書に記載の方法のいずれかにおける使用のための、または本明細書に記載のとおりの細胞のいずれかの使用のための、他の構成要素も含んでいることがある。例えば、いくつかの態様において、キットは、穀物、水、麦芽汁、果醪、酵母、ホップ、果汁、または他の糖源(単数もしくは複数)を含有していてもよい。いくつかの態様において、キットは、1以上の発酵性糖を含有していてもよい。いくつかの態様において、キットは、1以上の追加の剤、成分、または構成要素を含有していてもよい。
【0206】
本明細書に記載の方法を実施するための指示はまた、本明細書に記載のキットにも包含されていることがある。
【0207】
キットは、本明細書に記載の修飾された細胞のいずれかを含有する単回使用(single use)組成物を指し示すために整理されていてもよい。例えば、単回使用組成物(例として、使用されることになっている量)は、小包化(packeted)(すなわち、小包に含有された)粉末、バイアル、アンプル、培養管、錠剤、カプレット、カプセル、または液体を含有する小袋(sachets)などの、パッケージ化(packaged)組成物(例として、修飾された細胞)であり得る。
【0208】
組成物(例として、修飾された細胞)は、乾燥形態、凍結乾燥形態、凍結形態、または液体形態で提供されていてもよい。いくつかの態様において、修飾された細胞は、寒天培地上のコロニーとして提供されている。いくつかの態様において、修飾された細胞は、培地中へ直接投入されてもよい種培養の形態で提供される。試薬または構成要素が乾燥形態として提供されたとき、一般に、培地などの溶媒の添加によって再構成される。溶媒は、別のパッケージ化手段において提供されてもよく、当業者によって選択されてもよい。
【0209】
組成物(例として、修飾された細胞)を分配する(dispensing)ための、数多のパッケージまたはキットは、当業者に知られている。ある態様において、パッケージは、ラベル付きのブリスターパッケージ、ダイヤルディスペンサ(dial dispenser)パッケージ、管、小包、ドラム缶、または瓶である。
【0210】
本明細書に記載のキットのいずれも、カーボイまたは樽などの、本明細書に記載の方法を実施するための1以上の器をさらに含んでいてもよい。
【0211】
一般技法
本開示の主題を実践するには、別様に指し示されない限り、分子生物学(組換え技法を包含する)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学という、当該技術分野の技能の範囲内にある従来の技法が採用されるであろう。かかる技法は、限定されないが、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2012;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.,1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.,1993-8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.,eds.,1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis,et al.,eds.,1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999)などの文献において十分に説明されている。
【0212】
等価物および範囲
本開示は、本明細書にはっきりと記載される具体的な態様のいずれかまたはすべてに限定されないが、もちろんそれ自体変動することもあることは理解されるべきである。本明細書に使用される専門用語は、具体的な態様のみを記載することを目的としており、限定されることは意図していないこともまた、理解されるべきである。
【0213】
別様に定義されない限り、本明細書に使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。また、本明細書に記載のものと同様のまたは等価ないずれの方法および材料も、本開示の実践または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料がここに記載されている。
【0214】
本開示に引用されるすべての刊行物および特許は、それら刊行物が引用された方法および/または材料に関係する方法および/または材料を開示かつ記載するために引用される。すべてのかかる刊行物および特許は、あたかも個々の刊行物または特許の各々が参照により組み込まれるよう具体的かつ個々に指し示されるかのように、参照により本明細書に組み込まれる。参照によるかかる組み込みは、引用された刊行物および特許に記載の方法および/または材料にはっきりと限定され、引用された刊行物および特許からの、いかなる辞書学的定義にまで及ぶことはない(すなわち、本開示においてもはっきりとは繰り返されていない、引用された刊行物および特許のいかなる辞書学的定義は、そのように扱われるべきではなく、添付のクレームに現れるいずれの用語も定義するものとして読まれるべきではない)。組み込まれた参考文献のいずれかと本開示との間に矛盾が生じた場合、本開示が統制するものとする。加えて、先行技術の範囲内にある本開示のいずれの具体的な態様も、クレームのいずれか1以上から明示的に排除されてもよい。かかる態様は、当業者に知られていると見なされるところ、それらは、排除が明細書中に明示的に表されていない場合であっても、排除されてもよい。先行技術の存在に関するか否かにかかわらず、いずれの理由からも、本開示の任意の具体的な態様は、いずれのクレームからも排除され得る。
【0215】
任意の刊行物の引用は、出願日に先立ちそれを開示するためであって、本開示が先の開示のおかげでかかる刊行物に先行する資格がないという自白として解釈されるべきではない。さらに、提供された刊行物の日付は、独立して確認される必要があり得る実際の刊行物の日付とは異なることもある。
【0216】
本開示を読めば当業者には明らかであろうが、本明細書に記載および図示された個々の態様の各々は、本開示の精神または範囲から逸脱せずに他の数種の態様の任意の特色から容易に分離またはこれと組み合わされてもよい、個別の構成要素および特色を有する。列挙された任意の方法は、列挙された事象の順序で、または論理的に実行可能な任意の他の順序で、実行され得る。
【0217】
クレームにおける「a」、「an」、および「the」などの冠詞は、それとは反対に指し示されない限り、または別様に文脈から明白でない限り、1または1より多いことを意味してもよい。本明細書中、代名詞が性別で使用される場合(例として、男性形の語、女性形の語、中性形の語、その他、等々)はいつでも、文脈が明確に指し示さないかまたは別様に要さない限り、代名詞は、暗示される性別を問わず、中性の性として解釈されるものとする(すなわち、すべての性を等しく指すものと解釈される)。本明細書に使用される場合はいつでも、文脈が明確に指し示さないかまたは別様に要さない限り、単数形で使用される語は複数形を包含し、複数形で使用される語は単数形を包含する。群の1以上のメンバー間に「or」を包含するクレームまたは記載は、それとは反対に指し示されない限り、または別様に文脈から明白でない限り、群メンバーの1つ、1より多くの、またはすべてが、所定の産物もしくはプロセスに存在するか、これに採用されるか、または別様に関係がある場合に満たされると見なされる。本開示は、群の厳密に1つのメンバーが、所定の産物もしくはプロセスに存在するか、これに採用されるか、または別様に関係がある態様を包含する。本開示は、群メンバーの1つより多いかまたはすべてが、所定の産物もしくはプロセスに存在するか、これに採用されるか、または別様に関係がある態様を包含する。
【0218】
さらにまた、本開示は、列挙されたクレームの1以上からの1以上の限定、要素、節、および記述用語が別のクレーム中へ導入される、すべてのバリエーション、組み合わせ、および順列を網羅する。例えば、別のクレームに従属する任意のクレームは、同じ基礎クレームに従属するいずれか他のクレームに見出される1以上の限定を包含するように修飾され得る。要素が列挙として提示される場合(例として、マーカッシュ群の形式で)、要素の各下位群もまた開示されており、任意の要素(単数または複数)が群から除去され得る。一般に、本開示または本開示の側面が具体的な要素および/または特色を含むものとして言及される場合、本開示のある態様または本開示の側面は、かかる要素および/または特色からなるか、あるいは本質的にそれらからなると理解されるはずである。簡素化を目的として、それらの態様は、本明細書中そのようには具体的に表されていない。また用語「を含む(comprising)」および「を含有する(containing)」はオープンであることを意図し、追加の要素またはステップの包含を可能にさせることにも留意。範囲が与えられている場合、エンドポイントは、別様に特定されない限り、かかる範囲に包含される。さらにまた、別様に指し示されない限り、または文脈および当業者の理解から明白でない限り、範囲として表現される値は、別様に文脈が明確に指示しない限り、本開示の種々の態様における規定された範囲内の任意の特定の値または部分範囲が、範囲の下限の単位の10分の1までであることを前提とし得る。
【0219】
当業者は、本明細書に記載の特定の態様との多くの等価物を認識、またはわずかな定型的な実験法を使用してこれを突き止めることができるであろう。本明細書に記載の本態様の範囲は、上の記載に限定されることを意図していないが、むしろ添付のクレームで表されるとおりである。当業者は、この記載に対する様々な変化および修飾が、本開示の精神または範囲から逸脱せずに、以下のクレームに定義されるとおりになされてもよいことを解するであろう。
【0220】

例1
改善されたヘキサン酸エチル生合成のためのAATの同定
ビールおよびワインの発酵の間に増大したレベルのヘキサン酸エチルを産生する遺伝子学的に修飾された細胞を開発するため、ヘキサン酸エチルの産生を、フレーバー検出閾値を下回るヘキサン酸の濃度と、その結果得られる遺伝子学的に修飾された細胞の成長/複製との維持を釣り合わせる。第1に、ヘキサン酸エチルを産生し得るが最小限のエステルヒドロラーゼかつアシル-CoAチオエステラーゼ活性は有する候補アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)を同定した。AAT酵素ファミリーは大きくかつ機能的に多様であることを考慮して、非内在性の酵母AATが、内在性の酵母酵素と比較して、この点に関し秀でた活性を呈し得ると仮定した。文献検索によって、真菌、細菌、および植物の起源から、ヘキサン酸エチル生合成活性を有することがこれまでに示されているかまたはその活性を有する可能性が高いとされた11の候補酵素一式が同定された。強力な解糖プロモーターpPGK1の転写制御下の候補AAT酵素をコードする遺伝子を合成し、California Ale醸造酵母株中へ形質転換した。形質転換された株を、ビール発酵を模倣するため醸造麦芽汁培地中で半嫌気性的に成長させた。発酵から5日後、各培養の試料をGC-MSにかけ(run)、培地中のヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の濃度を測定した。この実験からのデータから、Marinobacter aquaeolei(下文に「MaWES」と称される)からのバリアントAATの発現が、最も高い濃度のヘキサン酸エチルを、またヘキサン酸に対するヘキサン酸エチルの最も高い比率も、もたらしたことが明らかになった。MaWESを発現する株での発酵におけるヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸のレベルは夫々、内在性の酵母AATであるEEB1を過剰発現する株を使用する発酵より5倍および2倍高かった。
【0221】
MaWES AAT酵素はこれまでに、バイオ燃料の産生にその活性を利用するよう評価されていた。酵素の基質特異性を変更する2つの単一アミノ酸突然変異が見出された。例えば、Barneyらは、found that A360I突然変異が、MaWESのC8~C10アルコール基質に対する相対的結合親和性を増大させつつ、C12~14アルコール基質に対する親和性を低減したことを見出した。Barney et al.Appl.Environ.Microbiol.(2013)79:5734-5745を見よ。加えて、PetronikolouおよびNairは、A144F突然変異が、ヘキサノイル-CoAに対する結合親和性を増大させつつ、より長鎖のアシル-CoA基質に対する親和性を低減したことを見出した。Petronikolou et al.ACS Catal.(2018)8:6334-6344を見よ。しかしながら、野生型のもしくは突然変異体のいずれかのMaWES酵素によるヘキサン酸エチルまたはエステルフレーバー分子の産生は評価されなかった。
【0222】
置換変異をMaWESの位置A360およびA144にて導入し(A360IおよびA144F)、その結果得られた株を、ヘキサン酸エチル生合成について野生型酵素と比較して評価した。構成的3-ホスホグリセラートキナーゼプロモーターpPGK1の制御下でMaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)を発現するCal Ale酵母株を生成した。この株は、BY719と称され、ビールを5ガロン発酵で醸造するのに使用した。
【0223】
BY719で醸造されたビールを官能試飲(sensory tasting)パネルによって分析し、ヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の濃度をガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)分析によって定量化した。試飲パネルのノートは、ビールが非常に軽いパイナップルフレーバーを含有しているが、ヤギ独特の甘いオフフレーバーも存在することを指し示した。これらの試飲ノートと一致して、GC/MS分析によって、ビール中のヘキサン酸エチルの濃度は、対照の非改変(野生型)株で醸造されたビールより2倍高かったが、ヘキサン酸レベルも対照ビールより4倍高かったことが明らかになった。加えて、対照株とは対照的に、MaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)を発現する株は、醸造麦芽汁に存在する発酵性糖のすべてを十分には代謝しなかった。かかる「不完全な発酵」は一般に、細胞エネルギー論に負の影響を及ぼすかまたは成長阻害性代謝副産物の産生を増大するオフターゲット効果を産生する株を改変する取り組みによって生じる。不完全な発酵はしばしば、一般に商業上実行可能ではない、甘い高カロリービールをもたらす。
【0224】
これらの実験発酵に基づき、MaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)の強い発現は、EEB1を過剰発現するよう類似して改変されたS.cerevisiae WLP001株より多いヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸に対するヘキサン酸エチルのより高い比率をもたらすと結論付けられた。第2に、BY719によって醸造されたビール中のヘキサン酸エチルの濃度は、ビールフレーバーに対して有意義な効果を有するには低すぎる可能性があり、かつ望ましくないヤギ独特のオフフレーバーを付与するヘキサン酸の濃度は、ヒト検出閾値を上回って充分高かった。第3に、MaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)の発現は、BY719がビール発酵に存在する発酵性糖を十分に消費するのを阻害する株の成長欠陥をもたらした。これらの知見から、MaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)を発現する酵母は、発酵飲料中のパイナップルフレーバーを改善する潜在力を示したが、1)ヘキサン酸エチルの産生をさらに増大させ、2)ヘキサン酸の産生を低減し、および3)株の成長欠陥を消失させるために、さらなる開発が必要とされることが実証された。
【0225】
MaWES発現を増大したヘキサノイル-CoAの生合成と組み合わせることによるヘキサン酸エチル産生の改善
BY719株を、発酵の間に産生されるヘキサン酸エチルの濃度を増大するようさらに改変した。ヘキサノイル-CoAは、ヘキサン酸エチルを生成する反応における基質であり、よって制限的な(limiting)化合物になり得るところ、酵母株を、G1250S突然変異を含有する脂肪酸シンターゼサブユニットアルファ(FAS2)を発現するよう改変して、ヘキサノイル-CoAの産生を増大させた。この目的に向けて、G1250S突然変異を酵母ゲノム中の内在性のFAS2遺伝子座にて導入した。FAS2 G1250S株を、デルタ-9脂肪酸デサチュラーゼプロモーターpOLE1(中程度の強さのプロモーター)によって駆動されるMaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)を発現するよう改変して、BY580と称される株をもたらした。
【0226】
BY580をスモールスケールの醸造発酵において成長させ、その後ヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の産生ならびに糖の消費を測定した。この株は、BY719と比較してより多くのヘキサン酸エチルおよびより多くのヘキサン酸を産生した。しかしながら、BY719と同様、株BY580もまた成長しにくく、醸造麦芽汁培地に存在する発酵性糖を完全には消費しなかった。これらの結果は、FAS2 G1250S突然変異をMaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)の発現と組み合わせることによって、ヘキサン酸エチルの産生を増大させることには成功したが、ヘキサン酸の同時産生を低減しかつ株の成長欠陥を軽減するための追加の開発も必要となることを実証した。
【0227】
MaWESおよびFAS2 G1250Sの遺伝子の発現を変化させて、成長およびヘキサン酸エチルの産生を改善する
株BY580に観察された成長欠陥は、嫌気性かつ高エタノールの醸造環境と相まって酵母成長を阻害し得るFAS2 G1250S突然変異の結果生じる必須C16およびC18脂肪酸の低減に起因し得るとの仮説を立てた。代替的にまたは加えて、株によって産生された増加したC6~C10脂肪酸は、これまでに報告されているとおり(例として、Viegas et al.Appl.Environ.Microbiol.(1989).55:21-28を見よ)、膜貫通プロトン勾配を妨害することによって成長を阻害するとの仮説を立てた。FAS2 G1250SおよびMaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)の発現レベルを変化させて、発酵の間に産生されるエチル-ヘキサノールおよびヘキサン酸のレベルに対する効果を決定しつつ、また潜在的に代謝欠陥を軽減するかも評価した。
【0228】
30超の株を構築した。その各々は、MaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)およびFAS2-G1250Sの発現を駆動する酵母由来プロモーターの異なる組み合わせを持っている。これらの株において、野生型であるネイティブなFAS2プロモーターの制御下で野生型FAS2を、第1の酵母由来プロモーターの制御下でMaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)を、および第2の酵母由来プロモーターの制御下でFAS2-G1250Sを発現するように、各株のネイティブなFAS2遺伝子座は修飾しなかった。これら株の各々をスモールスケールの醸造麦芽汁発酵において成長させ、その後ヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸のレベルを決定した。MaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)およびFAS2-G1250S遺伝子の発現を駆動するプロモーターは、産生されるヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の濃度、株の成長、および株による糖の消費に対して著しい効果を有することが見出された。その1株であるBY845は、非改変の野生型対照株とまったく同じように成長しながら、対照株より3倍超多いヘキサン酸エチルと対照株の9倍のヘキサン酸とを産生することが見出された。株BY580と比較すると、BY845は、改善された成長が改善されており、わずかに少ないヘキサン酸エチル、およびはるかに少ないヘキサン酸を産生した。
【0229】
BY845を5ガロンビール発酵に使用して、スケールアップした(scaled-up)醸造環境において株の成長およびヘキサン酸エチル/ヘキサン酸の産生を査定した。10日間の発酵を通してずっと、BY845の糖消費プロファイルは、対照株と同一であった。BY845によって産生されたビールは、強い、独特のパイナップル味のするノート、および「ヤギ独特の」として記載される、わずかなオフフレーバーノートを有するものとして特徴付けられた。ビールのGC/MS分析によって、ヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の濃度がこのビール中、対照株より5.7倍および6.8倍高かったことが明らかになった。MaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)およびFAS2 G1250S遺伝子の発現を駆動するプロモーター配列の特定の組み合わせは、発酵の間に産生されたヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸のレベルならびに比率を変化させるのに、かつBY719およびBY580において観察された成長欠陥を軽減するのに、充分であった。加えて、BY845によって産生されたヘキサン酸エチルの濃度が対照株より5.7倍しか高くなかったとはいえ、これは強いパイナップルフレーバーをビールに付与するのに充分であった。最終的に、BY845によって産生されたヘキサン酸の濃度は、先の株によって産生されたものと同様であり、BY845によって産生されたビールは、ビール官能分析の間にヤギ独特のオフフレーバーを有するとして知覚された。これらの結果は、ヘキサン酸の産生を減少させるためのさらなる開発が依然として必要であることを指し示した。
【0230】
ヘキサン酸産生を低減させるヘキサノイル-CoAシンテターゼの発現および内在性AATの欠失
発酵の間に産生されるヘキサン酸の量を低減させるために、2つの相補的アプローチを評価した:ヘキサノイル-CoAシンテターゼの発現および内在性の酵母AAT酵素の欠失。
【0231】
本明細書に記載のとおり、ヘキサノイル-CoAシンテターゼ(HCS)酵素は、基質であるヘキサン酸および遊離のCoAからヘキサノイル-CoAの形成を触媒する。この反応が、ヘキサン酸エチル生合成のための前駆体であるヘキサノイル-CoAを産生しつつ、ヘキサン酸を消失させることを考慮すると、HCSの発現は、BY845といった株によって産生されるヘキサン酸のレベルを低減させ得る。この目的に向かって、MaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)およびFAS2-G1250Sを発現する株を、中程度の強さのプロモーターと見なされるメチルステロールモノオキシゲナーゼプロモーター(pERG25)によって駆動されるCannabis sativaからのHCS酵素(HCS23)を発現するようさらに改変した。これらの株をスモールスケールの麦芽汁発酵、これに続くGC/MS分析によって査定したが、これによって、HCS発現が、発酵培地中のヘキサン酸のレベルを低減したが、また株成長欠陥および不完全な発酵へも繋がったことが明らかになった。
【0232】
細胞成長を妨げないHCS発現レジーム(regime)を同定するため、追加の株も、複数の異なる酵母由来プロモーターの制御下でHCSを発現するよう改変した。これら実験の結果は、MaWES、FAS2-G1250S、およびHCSをpHEM13プロモーター(これは発酵の後期ステージの間に強い発現を誘導する)で発現する株BY888が、非改変対照株と同程度に成長し、かつBY845より少ないヘキサン酸を産生したことを指し示した。
【0233】
FAS2-G1250SおよびMaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)(つまり内在性の酵母AAT酵素の欠失)を発現する株においてヘキサン酸の産生を低減する第2のアプローチを探索した。前記内在性の酵母AAT酵素は、ヘキサン酸エチルおよびヘキサノイル-CoAの加水分解を通してヘキサン酸を産生すると考えられている。酵母ゲノムは、少なくとも7つのAAT酵素をコードしているものと予測され、有り余るほどのエステルおよびアシル-CoAの加水分解活性を有すると考えられている。内在性のAAT酵素EEB1の単一欠失は、FAS2 G1250SおよびMaWES突然変異体酵素(MaWESA360I,A144F)を発現する株において、ヘキサン酸レベルの、控えめではあるが有意な低減をもたらしたことが見出された。興味深いことに、他の数種のAATの欠失は、発酵の間の糖消費に関する成長欠陥をもたらした。
【0234】
例2
増大したレベルのヘキサン酸エチルおよび減少したレベルのヘキサン酸を産生することが可能な遺伝子学的に修飾された株の生成
増大したレベルのヘキサン酸エチルおよび減少したレベルのヘキサン酸を産生する、ビール醸造用に遺伝子学的に修飾された株を生成するために、野生型Saccharomyces cerevisiae株WLP001(CA01)を表1に示す構築物で形質転換した。形質転換株を麦芽抽出物発酵中5日間半嫌気的に成長させ、その後ヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の濃度を次いでGC-MSによって測定した(図1Aおよび1B)。
【0235】
図1Aに示されるとおり、FAS2-G1250SおよびMpAAT1_AA169GFの過剰発現は、ヘキサン酸エチルの産生において11.9倍までの増大を、かつオフフレーバー分子であるヘキサン酸の産生において10.4倍の増大をもたらした(株y1059、CA01と比較)。株y1059における内在性のAATであるEHT1の欠失は、高レベルのヘキサン酸エチルの産生を維持しつつ、ヘキサン酸の産生を過半数まで低減した(株y1227、株y1059と比較)。株y1227における第2の内在性のAATであるEEB1の欠失は、1つの内在性のAATが欠失された株と比較して、ヘキサン酸の産生をさらに低減し、ヘキサン酸エチルの産生を控えめに減少させた(株y1076、株y1227と比較)。加えて、株y1170における第3の内在性のAATであるMGL2の欠失は、2つの内在性のAATが欠失された株と比較して、控えめに低減されたヘキサン酸の産生をもたらしたが、ヘキサン酸エチルの産生には影響を及ぼさなかった(株y1170、株y1076と比較)。
【0236】
株y1170におけるヘキサノイル-CoA-シンテターゼ(HCS)の発現は、HCSを発現しない対応する株と比較して、ヘキサン酸エチルの産生に有意に影響を及ぼさずに、ヘキサン酸の産生をさらに低減した(株y1210を株y1170と比較)。株y1210は、14.44mg/Lヘキサン酸エチル(野生型CA01によって産生されたヘキサン酸エチルのレベルと比較して8.49倍の増加)、および1.5mg/Lヘキサン酸(野生型CA01によって産生されたヘキサン酸のレベルと比較して1.15倍の増加)を産生することが見出された(図1B)。内在性のAATであるEEB1およびEHT1を欠く株における野生型FAS2遺伝子とMpAAT1_AA169GFとの過剰発現は、ヘキサン酸エチルの産生における2.7倍の増加、およびヘキサン酸の産生における大体2倍の低減をもたらす。
【0237】
増大したレベルのヘキサン酸エチルおよび減少したレベルのヘキサン酸を有するワインを産生するために遺伝子学的に修飾された酵母株を生成するため、S.cerevisiae株EC1118およびEleganceを表1に示す構築物で形質転換した。
株をブドウ果汁培地中14日間成長させ、その後発酵培地中のヘキサン酸エチルおよびヘキサン酸の濃度をGC-MSによって決定した(図2Aおよび2B)。
【0238】
図2Aおよび2Bに示されるとおり、FAS2-G1250Sならびに異種のAAT(MaWESまたはMpAAT1のいずれか)を発現する遺伝子学的に修飾された株は、野生型S.cerevisiae株EC1118と比較して増大したレベルのヘキサン酸エチルを産生することができた(株y786、y796、およびy1134、野生型株EC1118と比較した)。y1134の例外として、試験された株はまた、増大したレベルのオフフレーバー分子であるヘキサン酸も産生した。しかしながら、いくつかの株について、内在性のAATであるEEB1およびEHT1の欠失は、内在性のAATを含有する株の比率と比較して、ヘキサン酸に対するヘキサン酸エチルの産生比率を改善することが見出された(株y1134、株y1138と比較)(図2Bを見よ)。
【0239】
表1.例2においてアッセイされた酵母株
【表1】
図1
図2
【配列表】
2023549539000001.app
【国際調査報告】