(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-27
(54)【発明の名称】包装材料用バリアフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20231117BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20231117BHJP
B32B 23/02 20060101ALI20231117BHJP
B32B 23/08 20060101ALI20231117BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231117BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B29/00
B32B23/02
B32B23/08
B32B27/30 102
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529938
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 IB2021060639
(87)【国際公開番号】W WO2022107007
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン, イスト
(72)【発明者】
【氏名】バックフォルク, カイ
(72)【発明者】
【氏名】リイティカイネン, カティア
(72)【発明者】
【氏名】カンクネン, ユッカ
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AB10B
4F100AB11B
4F100AB17B
4F100AJ04A
4F100AK21A
4F100AK21C
4F100AK21D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG03A
4F100DG10A
4F100EH66B
4F100EJ05C
4F100EJ65D
4F100GB16
4F100JA13A
4F100JA13C
4F100JA13D
4F100JB09C
4F100JB09D
4F100JB13C
4F100JD03B
4F100JD04B
4F100JM02B
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00D
(57)【要約】
本発明は、紙または板紙ベースの包装材料用のバリアフィルムに関し、当該バリアフィルムは、基材と、1~500nmの範囲の厚みを有し基材上に配される真空コーティング層と、架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される保護コーティング層とを備える。本発明はさらに、このバリアフィルムを備える紙または板紙ベースの包装材料および容器、ならびにバリアフィルムを製造するための方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙または板紙ベースの包装材料用のバリアフィルムであって、
基材と、
1~500nmの範囲の厚みを有し基材上に配される真空コーティング層と、
架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される保護コーティング層と
を備えるバリアフィルム。
【請求項2】
基材が、例えばEN13676:2001規格に従い測定されたときに、1m
2につきピンホールを10個未満、好ましくは1m
2につきピンホールを8個未満、およびより好ましくは1m
2につきピンホールを2個未満含んでいる、請求項1に記載のバリアフィルム。
【請求項3】
基材が、ミクロフィブリル化セルロース層(MFC層)からなるか、またはMFC層を備えている、請求項1または2に記載のバリアフィルム。
【請求項4】
MFC層が、MFC層の総乾燥重量に基づき、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%のMFCを含んでいる、請求項3に記載のバリアフィルム。
【請求項5】
MFC層が、ポリビニルアルコール(PVOH)をさらに含んでいる、請求項3または4に記載のバリアフィルム。
【請求項6】
MFC層の坪量が、55gsm未満の範囲、好ましくは5~50gsmの範囲、より好ましくは5~20gsmの範囲にある、請求項3から5のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項7】
基材が、MFC層と真空コーティング層との間に配されるプレコート層をさらに備えている、請求項3から6のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項8】
プレコート層が、ポリビニルアルコール、修飾ポリビニルアルコール、および多糖類、またはそれらの組合せからなる群から選択される水溶性ポリマー、好ましくはポリビニルアルコールを含んでいる、請求項7に記載のバリアフィルム。
【請求項9】
プレコート層の坪量が、0.1~12gsmの範囲、好ましくは0.5~8gsmの範囲、より好ましくは1~6gsmの範囲にある、請求項7または8に記載のバリアフィルム。
【請求項10】
真空コーティング層が、金属または金属酸化物の基材上への蒸着により、好ましくは物理蒸着(PVD)または化学蒸着(CVD)により形成される、請求項1から9のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項11】
真空コーティング層が、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、銅、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、およびそれらの組合せからなる群から選択される金属または金属酸化物、好ましくは酸化アルミニウムを含んでいる、請求項1から10のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項12】
真空コーティング層が、1~100nmの範囲、好ましくは10~100nmの範囲、およびより好ましくは20~50nmの範囲の層厚を有している、請求項1から11のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項13】
保護コーティング層の水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコール、修飾ポリビニルアルコール、および多糖類、またはそれらの組合せからなる群から選択され、好ましくはポリビニルアルコールである、請求項1から12のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項14】
保護コーティングの水溶性ポリマーが、多官能性カルボン酸架橋結合剤、好ましくはクエン酸により架橋される、請求項1から13のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項15】
保護コーティング層の坪量が、0.1~12gsmの範囲、好ましくは0.5~8gsmの範囲、より好ましくは1~6gsmの範囲にある、請求項1から14のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項16】
ASTM D-3985規格に従い50%の相対湿度および23℃で測定される、10cc/m
2/日未満、および好ましくは5cc/m
2/日未満の酸素移動率(OTR)を有している、請求項1から15のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項17】
ASTM D-3985規格に従い85%の相対湿度および38℃で測定される、200cc/m
2/日未満、および好ましくは150cc/m
2/日未満の酸素移動率(OTR)を有している、請求項1から16のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項18】
ASTM F1249規格に従い50%の相対湿度および23℃で測定される、10g/m
2/日未満、および好ましくは5g/m
2/日未満の水蒸気移動率(WVTR)を有している、請求項1から17のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項19】
バリアフィルムの95重量%より多くがセルロース系である、請求項1から18のいずれか一項に記載のバリアフィルム。
【請求項20】
紙または板紙の基層と、
請求項1から19のいずれか一項に記載のバリアフィルムと
を備える紙または板紙ベースの包装材料。
【請求項21】
紙または板紙が、20~500g/m
2の範囲、好ましくは80~400g/m
2の範囲の坪量を有している、請求項20に記載の紙または板紙ベースの包装材料。
【請求項22】
PTS RH021/97に従った30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満の不合格率を有する、請求項20または21に記載の紙または板紙ベースの包装材料。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載のバリアフィルムまたは紙もしくは板紙ベースの包装材料を備える容器。
【請求項24】
紙または板紙ベースの包装材料用のバリアフィルムを製造するための方法であって、
a)基材を提供する工程と、
b)1~500nmの範囲の厚みを有する真空コーティング層を基材に塗布する工程と、
c)水溶性ポリマーを含むコーティング溶液を真空コーティング層に塗布する工程と、
d)水溶性ポリマーを乾燥して架橋結合剤により架橋することで、架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される保護コーティング層を得る工程と
を含む方法。
【請求項25】
基材がミクロフィブリル化セルロース層(MFC層)を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
保護コーティング層の水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコール、修飾ポリビニルアルコール、および多糖類からなる群、またはそれらの組合せから選択される、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
架橋結合剤が、カルボン酸官能性架橋結合剤、好ましくはクエン酸である、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
架橋pHが、7未満、好ましくは3~7の範囲、より好ましくは3.5~6.5の範囲にある、請求項24から27のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、紙および板紙ベースの包装材料用のバリアフィルムに関する。より具体的には、本開示は、高い相対湿度(RH)で良好かつ安定した酸素透過率(OTR)を有するミクロフィブリル化セルロース系のバリアフィルムに関する。本発明はさらに、このようなバリアフィルムを備える紙および板紙ベースの包装材料、ならびにこのようなバリアフィルムを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックによる紙および板紙のコーティングは、板紙の機械的特性をプラスチックフィルムのバリア特性およびシール特性と組み合わせるのに利用されることが多い。比較的少量の好適なプラスチック材料を備えた板紙であっても、板紙を多くの要求の厳しい用途に、例えば液体包装板紙として適したものにするのに必要な特性を提供することができる。液体包装板紙において、液体バリア層、熱シール層、および接着剤としてポリオレフィンコーティングが頻繁に使用される。しかし、このようなポリマーをコーティングした板紙を再利用することは、ポリマーを繊維から分離するのが難しいため困難である。
【0003】
多くの場合、ポリマーをコーティングした板紙のガスバリア特性は依然として不十分である。そのため、許容可能なガスバリア特性を確保するのに、ポリマーをコーティングした板紙には、1つまたは複数のアルミニウム箔層を設けられることが多い。しかし、ポリマーおよびアルミニウム層を追加することで相当なコストがかさみ、材料の再利用がより困難となる。また、アルミニウムのカーボンフットプリントが高いことから、一般的に包装材料、具体的には液体包装板紙中のアルミニウム箔を置き換えることが望まれている。
【0004】
ごく近年では、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)のフィルムおよびコーティングが開発されており、これは、脱フィブリル化セルロースフィブリルを、例えば水中に分散させ、その後再び組み直して一体的に再結合させることで、優れたガスバリア特性を有する緻密なフィルムを形成する。残念ながら、かかるMFCフィルムのガスバリア特性は、高温および高湿度で劣化する傾向がある。
【0005】
高い相対湿度での酸素、空気、および芳香に対するガスバリア特性を改善するための多くの手法が調査され、かつ記載されているが、提案された解決策の大半は費用がかかり、産業規模での実施が困難である。1つの手段は、欧州特許出願公開第2,554,589号明細書に開示されるようにMFCまたはナノセルロースを修飾することであり、MFC分散体はシランカップリング剤で修飾されている。別の特許出願として欧州特許出願公開第2,551,104号明細書では、より高い相対湿度で改善されたバリア特性を有するMFCおよびポリビニルアルコール(PVOH)ならびに/またはポリウロン酸の使用が教示されている。別の解決策は、高い耐水性および/または低い水蒸気透過率を有する層により、フィルムをコーティングすることである。特開2000-303386号公報には、例えばMFCフィルム上にコーティングされるラテックスが開示されており、他方で米国特許出願公開第2012/094047号明細書には、ポリオレフィン層でコーティング可能なMFCなどの多糖類と混合される木材加水分解物の使用が示唆されている。これらの方法に加えて、フィブリル、またはフィブリルと共重合体を架橋する実現性が調査されている。これによりフィルムの耐水性だけでなく、水蒸気透過率も改善される。欧州特許出願公開第2,371,892号明細書および欧州特許出願公開第2,371,893号明細書には、それぞれ金属イオン、グリオキサール、グルタルアルデヒド、および/またはクエン酸によるMFCの架橋が記載されている。
【0006】
セルロースの湿度感度を低下させる別の方法は、セルロースを過ヨウ素酸ナトリウムで化学的に修飾することでジアルデヒドセルロース(DAC)を得ることである。ジアルデヒドセルロースのフィブリル化により、耐湿性が改善されたバリアフィルムを生産できる。しかし、ミクロフィブリル化ジアルデヒドセルロース(DA-MFC)を含む分散体は、DA-MFCが沈降し、分散体中で既にある程度自発的に架橋し、ミクロフィブリルを結合または絡み合わせてしまうことから、非常に不安定である。分散体の安定性が低いと、フィルム内のDA-MFC濃度が変動し、フィルム形成とバリア特性の不良に繋がってしまう。
【0007】
このため、包装材料中のプラスチックフィルムおよびアルミニウム箔を置き換えると同時に、許容可能な液体バリア特性および酸素バリア特性を維持するために、改善された解決策が依然として必要とされている。同時に、プラスチックフィルムおよびアルミニウム箔を、使用済み包装材料の再パルプ化と再利用を容易にする代替物に置き換える必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、液体包装板紙などの包装材料に液体および酸素バリア特性を提供するためのバリアフィルムとしてよく用いられるプラスチックおよびアルミニウム箔に対する代替物を提供することを目的とする。
【0009】
本開示はさらに、紙または板紙ベースの包装材料および液体包装板紙用のバリアフィルムであって、板紙の再パルプ化を容易にするバリアフィルムを提供することを目的とする。
【0010】
本開示はさらに、ミクロフィブリル化セルロースを含むバリアフィルムであって、より高い相対湿度および温度でもバリア特性が改善されているバリアフィルムを提供することを目的とする。
【0011】
本開示はさらに、紙または板紙ベースの包装材料用のバリアフィルムであって、ASTM D-3985規格に従い85%の相対湿度および38℃で測定される、10cc/m2/日未満、および好ましくは5cc/m2/日未満の酸素移動率(OTR)を有するバリアフィルムを提供することを目的とする。
【0012】
本開示はさらに、PTS RH021/97に従った30%未満、好ましくは20%未満の不合格率(reject rate)を有する、アルミニウム箔を含まない紙または板紙ベースの包装材料を提供することを目的とする。
【0013】
上述の目的のほか、本開示に照らして当業者により実現されることになる他の目的も、本開示の種々の態様により達成される。
【0014】
本明細書中で例示される第1の態様によれば、紙または板紙ベースの包装材料用のバリアフィルムであって、
基材と、
1~500nmの範囲の厚みを有し基材の上に設けられる真空コーティング層と、
架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される保護コーティング層と
を備えるバリアフィルムが提供される。
【0015】
本発明は、薄い真空コーティング層と、架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される薄い保護コーティング層との組合せによって、コーティングされた基材が包装材料中の従来のプラスチックフィルムおよびアルミニウム箔に取って代わるか、またはそれらを大幅に減らすことを可能にするほどに基材のバリア特性を改善できるという認識に基づく。
【0016】
薄い真空コーティングに伴う課題は、それらが損傷を受けやすいという点である。架橋水溶性ポリマーを含んでおり真空コーティング層上に配される保護コーティング層は、真空コーティングを保護するとともに、フィルムの取り扱い中にコーティングに対する損傷を防止するのに役立つ。本発明の解決策により、コーティング表面を損傷させるリスクをより少なくして、フィルムを1つの場所で生産し、次いで別の場所に輸送することも可能になる。
【0017】
架橋水溶性ポリマーを含んでおり真空コーティング層上に配される保護コーティング層は、真空コーティングを保護すると同時に、使用済みバリアフィルムの再パルプ化および再利用に対する悪影響が少ない。薄い真空コーティング層と、架橋水溶性ポリマーを含む薄い保護コーティング層との組合せにより、使用済みバリアフィルムおよびこのバリアフィルムを含む包装材料の再パルプ化と再利用を容易にすることができる
【0018】
本発明の基材は、その上に1~500nmの範囲の厚みを有する一連の実質的に連続する真空コーティング層を塗布するのに適したいずれかの基材であってよい。基材は、好ましくは真空コーティングが塗布され得る滑らかで、緻密で、かつ多孔性が比較的低い表面を有するフィルム状またはシート状材料を含む。基材は、好ましくはピンホールをほとんど、または全く有してない。フィルム状またはシート状基材中のピンホールの量は、例えばEN13676:2001規格に従い決定されてもよい。
【0019】
基材は、単一の材料層からなる場合があるか、または同じもしくは異なる材料の2つ以上の層で構成される多層構造とすることもできる。基材は、例えば合成ポリマーまたはバイオベースポリマーから形成されるポリマーフィルムを含むか、またはそのポリマーフィルムからなる場合がある。あるいは基材は、繊維系材料の緻密なシートを含むか、またはそのシートからなる場合がある。基材はまた、例えば積層体、ポリマーコーティング紙、もしくは複合材の形態で、繊維系材料と合成ポリマーもしくはバイオベースポリマーとの組合せを含むか、またはその組合せからなる場合がある。一部の実施形態では、基材は、繊維とポリマーとの混合物を含むか、またはその混合物からなる。一部の実施形態では、基材は、1つの繊維系材料層と1つのポリマー層を備える。例えば基材は、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)フィルムの表面の滑らかさを改善し、かつ多孔度を低下させるために、ポリマー層、例えばポリビニルアルコール(PVOH)コーティングでコーティングされる繊維系層、例えばMFCフィルムからなり得る。
【0020】
一部の実施形態では、基材は、化学パルプもしくは機械パルプ、またはそれらの混合物から形成されたスーパーカレンダ加工紙などの高密度紙を含んでおり、この高密度紙は、後にMFCフィルムもしくは層をコーティングまたは積層されることで、その上に1~500nmの範囲の厚みを有する一連の実質的に連続する真空コーティング層を塗布するのに適した表面を提供する。
【0021】
一部の実施形態では、基材は、1m2につきピンホールを10個未満、好ましくは1m2につきピンホールを8個未満、およびより好ましくは1m2につきピンホールを2個未満含む。1m2あたりのピンホールの量は、例えばEN13676:2001規格に従い光学検査により測定される場合がある。
【0022】
基材は、好ましくはバイオ系、より好ましくはセルロース系である。バイオ系またはセルロース系とは、基材の50重量%より多くが天然由来であり、または好ましくはセルロース由来であることを意味する。セルロース系基材の使用は、積層体を単一の材料として再利用できることから、紙または板紙の積層体に使用するためのバリアフィルムに対して特に有用である。
【0023】
MFCは、紙および板紙包装材料用のバリアフィルムに使用するための興味深い構成成分として特定されている。MFCフィルムは、中間の温度および湿度の条件で、例えば50%の相対湿度および23℃で、低い酸素移動率をもたらすと見出されている。残念ながら、かかるMFCフィルムのガスバリア特性は、より高い温度および湿度、例えば85%の相対湿度および38℃で大幅に劣化する傾向があるので、多くの産業用食品および液体包装用途には不適切となる。
【0024】
本発明者らは現在、MFCを含む先行技術のフィルムにおけるこのような欠点は、薄い真空コーティング層がMFC層の表面上に形成されるように、少なくとも1つの表面が真空コーティングによってメタライズされているMFC層と、架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される保護コーティング層とを備えるバリアフィルムにより解決できることを見出している。
【0025】
真空コーティング層が設けられたMFC層と、架橋水溶性ポリマーを含む保護コーティング層とを備えるバリアフィルムは、優れた酸素バリア特性、水蒸気バリア特性、および液体バリア特性の両方をもたらす。特に注目すべきは、このようなフィルムが高湿度および高温度で呈する高い酸素バリア特性と高い水蒸気バリア特性との組合せである。本開示の文脈において高湿度という用語は、概して80%を超える相対湿度(RH)を指す。本開示の文脈において高温度という用語は、概して23℃を超える温度を指す。より具体的に、本開示の文脈において高温度という用語は、25~50℃の範囲の温度を指す場合もある。高湿度および高温度でのフィルムの酸素バリア特性と水蒸気バリア特性は、典型的には85%の代表的な相対湿度(RH)および38℃の温度で測定される。
【0026】
紙は、概して木材のパルプ、またはセルロース繊維を含む他の繊維状物質から、薄いシート状で製造されて、書込み、描画、もしくは印刷のために、または包装材料として使用される材料を指す。
【0027】
板紙は、概して箱および他の種類の包装に使用される、セルロース繊維を含む丈夫で厚みのある紙またはボール紙を指す。板紙は、最終用途の要件に応じて、漂白されるかまたは漂白されず、コーティングされるかまたはコーティングされず、様々な厚みで生産できる。
【0028】
紙または板紙ベースの包装材料は、主に、または全体的に紙もしくは板紙から形成される包装材料である。紙または板紙ベースの包装材料は、紙または板紙に加えて、包装材料の性能および/または外観を改善するように設計された追加の層またはコーティングを含んでもよい。
【0029】
本発明のバリアフィルムは、ASTM D-3985規格に従い85%の相対湿度および38℃で測定される、10cc/m2/日未満、および好ましくは5cc/m2/日未満の酸素移動率(OTR)を有する紙または板紙ベースの包装材料を製造するのに使用できる。
【0030】
本発明のバリアフィルムはさらに、再利用可能であり、かつPTS RH021/97に従った30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満の不合格率を提供し得る、紙または板紙ベースの包装材料を製造するのに使用できる。
【0031】
これにより、本発明のバリアフィルムは、液体およびガスバリア特性を提供するための、液体包装板紙によく使用されるアルミニウム箔層に対する興味深く実現可能な代替物となる。
【0032】
本発明のバリアフィルムは、液体包装材料用のバリア層にしばしば使用される、あらゆる押出コーティングまたは積層コーティングされたポリオレフィンコーティングを必要とすることなく実現できるという点で、さらに有利である。代わりに、本発明のバリアフィルムは、架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される保護コーティング層を使用する。
【0033】
一部の実施形態では、基材はミクロフィブリル化セルロース層(MFC層)からなるか、またはそれを備えている。言い換えれば、基材は、全体的にMFC層で構成することができるか、またはいくつかの層のうちの1つとしてMFC層を備えることができる。
【0034】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)は、本特許出願の文脈において、1000nm未満の少なくとも1つの寸法を有するナノスケールのセルロース粒子繊維またはフィブリルを意味することを理解されたい。MFCは、部分的または全体的にフィブリル化されたセルロース繊維またはリグノセルロース繊維を含む。遊離されたフィブリルは典型的に1000nm未満の直径を有するが、実際のフィブリルの直径もしくは粒径分布および/またはアスペクト比(長さ/幅)は、供給源および製造方法に左右される。最小のフィブリルはエレメンタリーフィブリル(elementary fibril)と呼ばれ、約2~4nmの直径を有するが(例えば、Chinga-Carrasco,G.による「Cellulose fibres,nanofibrils and microfibrils,:The morphological sequence of MFC components from a plant physiology and fibre technology point of view」、Nanoscale research letters、2011年第6号第417頁を参照)、ミクロフィブリルとしても定義されるエレメンタリーフィブリルの凝集形態(Fengel,D.による「Ultrastructural behavior of cell wall polysaccharides,Tappi J.」、1970年3月、第53巻、第3号)は、例えば拡張精製プロセスまたは圧力降下解繊プロセスを使用することによりMFCの製造時に得られる主要な生成物であることが一般的である。供給源および製造プロセスに応じて、フィブリルの長さは、1マイクロメートル前後から10マイクロメートル超まで変動し得る。粗MFCグレードは、フィブリル化繊維、すなわち仮導管(セルロース繊維)から突出しているフィブリルの相当量の画分と、仮導管(セルロース繊維)から遊離された特定量のフィブリルとを含有し得る。
【0035】
MFCには、セルロースミクロフィブリル、フィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロース、フィブリル凝集体、ナノスケールのセルロースフィブリル、セルロースナノファイバ、セルロースナノフィブリル、セルロースミクロファイバ、セルロースフィブリル、ミクロフィブリル状セルロース、ミクロフィブリル凝集体、およびセルロースミクロフィブリル凝集体など、様々な頭字語が存在する。MFCはまた、その大きな表面積、または水中に分散される場合には低固形分(1~5重量%)でのゲル様材料の形成能など、種々の物理的特性または物理化学的特性を特徴とし得る。
【0036】
シングルパスまたはマルチプルパス精製、事前加水分解、それに続く精製、高剪断解繊、またはフィブリルの遊離など、MFCを製造する種々の方法が存在する。MFCの製造にエネルギー効率と持続可能性の両方をもたらすには、通常、1つまたは複数の前処理工程が必要とされる。このため、利用されることになるパルプのセルロース繊維は、例えば、繊維を加水分解もしくは膨潤させるために、またはヘミセルロースもしくはリグニンの分量を減少させるために、酵素的または化学的に前処理される場合がある。セルロース繊維は、セルロース分子が天然セルロースに見出される官能基以外の(またはそれよりも多くの)官能基を含有するように、フィブリル化の前に化学修飾されてもよい。このような基としては、とりわけ、カルボキシメチル、アルデヒドおよび/もしくはカルボキシル基(N-オキシル媒介酸化により得られるセルロース、例えば「TEMPO」)、第四級アンモニウム(カチオン性セルロース)、またはホスホリル基が挙げられる。上述した方法のうち1つにおいて修飾または酸化させた後、繊維をMFCまたはナノフィブリルへと解繊するのがさらに容易になる。
【0037】
ナノフィブリル状セルロースは一部のヘミセルロースを含有し得るが、その量は植物源に依存する。前処理された繊維の機械的解繊、例えば、セルロース原料の加水分解、予備膨潤、または酸化は、精製機、粉砕機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦粉砕機、超音波処理機、ミクロフルイダイザやマクロフルイダイザなどのフルイダイザ、またはフルイダイザ型ホモジナイザなどの好適な装置によって行われる。MFCの製造方法に応じて、生成物は、微粉もしくはナノ結晶セルロース、または木材繊維もしくは製紙プロセスに存在する他の化学物質も含有してもよい。生成物はまた、効果的にフィブリル化されていないミクロンサイズの繊維粒子も種々の量で含有してもよい。
【0038】
MFCは、硬木繊維と軟木繊維の両方からの木材セルロース繊維から生産される。MFCはまた、微生物源、麦わらパルプ、竹、バガスなどの農業繊維、または他の非木材繊維源からも製造できる。MFCは、好ましくはバージン繊維由来のパルプ、例えば、機械パルプ、化学パルプ、および/または熱機械パルプを含むパルプから製造される。MFCはまた、破れた紙または再生紙から製造することもできる。
【0039】
本発明のバリアフィルムにおけるMFC層のMFCは、非修飾MFCもしくは化学修飾MFC、またはそれらの混合物であってもよい。一部の実施形態では、MFCは非修飾MFCである。非修飾MFCは、非修飾または天然セルロース繊維製のMFCを指す。非修飾MFCは、1種類のMFCであってもよく、または、例えばセルロース原料もしくは製造方法の選択が異なる2種類以上のMFCの混合物を含むことができる。化学修飾MFCは、フィブリル化の前、最中、または後に化学修飾を受けたセルロース繊維製のMFCを指す。一部の実施形態では、MFCは化学修飾MFCである。化学修飾MFCは、1種類の化学修飾MFCであってもよく、または、例えば化学修飾の種類、セルロース原料もしくは製造方法の選択が異なる2種類以上の化学修飾MFCの混合物を含むことができる。
【0040】
MFC層は、MFCのみで構成されてもよく、またはMFCと他の成分もしくは添加剤との混合物を含むことができる。本発明のバリアフィルムのMFC層は、好ましくはMFC層の総乾燥重量に基づきその主な構成成分としてMFCを含む。一部の実施形態では、MFC層は、MFC層の総乾燥重量に基づき、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%のMFCを含んでいる。
【0041】
MFC層の配合物は、意図した用途、および基材に存在する他の層に応じて変動する場合がある。MFC層の配合物はまた、MFC層の塗布または形成の意図した様式、例えば、MFC分散体の別の基材層上への、または紙もしくは板紙の基層上へのコーティング、あるいは自立型MFCフィルムの形成に応じて変動する場合もある。MFC層は、フィルムの最終性能またはMFC分散体の処理を改善するために様々な分量で広範囲の成分を含んでもよい。MFC層は、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、充填剤、保持化学物質、凝集添加剤、脱凝集添加剤、乾燥強度添加剤、軟化剤、またはそれらの混合物などの添加剤をさらに含んでもよい。MFC層は、フィルムの延性を高めるためのラテックスおよび/またはポリビニルアルコール(PVOH)など、混合物および/または生産されたフィルムの様々な特性を改善することになる添加剤をさらに含んでもよい。
【0042】
一部の実施形態では、MFC層は、ポリマー結合剤をさらに含む。一部の実施形態では、MFC層は、PVOHをさらに含む。PVOHは、1種類のPVOHであってもよく、または、例えば加水分解度もしくは粘度が異なる2種類以上のPVOHの混合物を含むことができる。PVOHは、例えば、80~99mol%の範囲、好ましくは88~99mol%の範囲の加水分解度を有し得る。さらにPVOHは、好ましくは20℃のDIN53015/JIS K6726で、4%水溶液中、5mPa×sを超える粘度を有する場合がある。
【0043】
一部の実施形態では、MFC層は、顔料をさらに含む。顔料は、例えば、タルク、シリケート、カーボネート、アルカリ土類金属炭酸塩および炭酸アンモニウム、または遷移金属酸化物および他の金属酸化物などの酸化物といった無機粒子を含み得る。顔料はまた、例えばモンモリロナイト、ベントナイト、カオリナイト、ヘクトライト、およびハロイサイト(halloysite)を含む群から選択される層状のシリケート鉱物(mineral silicates)のナノクレイおよびナノ粒子などのナノサイズ顔料を含み得る。ナノ粒子とは、例えばレーザ回折により判定されたときに、粒子の少なくとも60重量%が100nm未満の直径を有する顔料組成物を意味する。
【0044】
一部の好ましい実施形態では、顔料は、層状のシリケート鉱物のナノクレイおよびナノ粒子からなる群から選択され、より好ましくはベントナイトである。
【0045】
本発明のバリアフィルムにおけるMFC層の坪量(厚みに相当する)は、好ましくは55gsm(グラム毎平方メートル)未満の範囲にある。MFC層の坪量は、例えばその製造様式に左右され得る。例えば、MFC分散体を別の基材層上にコーティングすることで、より薄い層が得られる場合があるが、自立型MFCフィルムの形成にはより厚い層が必要となる場合がある。一部の実施形態では、MFC層の坪量は、5~50gsmの範囲にある。一部の実施形態では、MFC層の坪量は、5~20gsmの範囲にある。
【0046】
繊維性または多孔性の基材層、例えばMFC層は、好ましくは表面処理と組み合わされることで基材表面の平滑性を改善して多孔性を減少させ、かつ基材表面を、その上に1~500nmの範囲の厚みを有する一連の実質的に連続した真空コーティング層を塗布するのにさらに適したものにする場合がある。可能な表面処理には、例えばカレンダ加工により、表面に平滑化プレコートまたは機械的平滑化をもたらすことが挙げられるが、これに限定されない。
【0047】
表面処理は、例えば、プレコート層を繊維性または多孔性の基材層に塗布することを含み得る。プレコート層は、好ましくは凹凸を平らにし、かつ繊維性または多孔性の基材層に存在する細孔およびピンホールを埋めるように作用する。
【0048】
カレンダ加工は、1つもしくは複数のパスまたはニップにおけるハードニップまたはソフトニップのカレンダ加工を含み得る。機械的平滑化はまた、カレンダ加工の前または後に行われるプレコーティング工程と組み合わせることもできる。
【0049】
このため、一部の実施形態では、基材は、MFC層と真空コーティング層との間に配されるプレコート層をさらに含む。
【0050】
一部の実施形態では、プレコート層は、ポリビニルアルコール、修飾ポリビニルアルコール、多糖類、および修飾多糖類、またはそれらの組合せからなる群から選択される水溶性ポリマー、好ましくはポリビニルアルコールを含む。
【0051】
PVOHは、1種類のPVOHであってもよく、または、例えば加水分解度もしくは粘度が異なる2種類以上のPVOHの混合物を含むことができる。PVOHは、例えば、80~99mol%の範囲、好ましくは85~99mol%の範囲の加水分解度を有し得る。さらにPVOHは、好ましくは20℃のDIN53015/JIS K6726で、4%水溶液中、5mPa×sを超える粘度を有する場合がある(添加剤を含まずpHに変化がない、すなわち、例えば蒸留水中に分散かつ溶解されたときに得られる)。有用な生成物の例は、例えば、Kuraray Poval4-98、Poval6-98、Poval10-98、Poval20-98、Poval30-98、もしくはPoval56-98、またはこれらの混合物である。加水分解グレードが低いことから、Poval4-88、Poval6-88、Poval8-88、Poval18-88、Poval22-88、または例えばPoval49-88が好ましい。
【0052】
修飾多糖類は、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)もしくはヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの修飾セルロース、あるいは、ヒドロキシアルキル化デンプン、シアノエチル化デンプン、カチオン性もしくはアニオン性デンプン、またはデンプンエーテルもしくはデンプンエステルなどの修飾デンプンであってもよい。一部の好ましい修飾デンプンとして、ヒドロキシプロピル化デンプン、ヒドロキシエチル化デンプン、ジアルデヒドデンプン、およびカルボキシメチル化デンプンが挙げられる。
【0053】
一部の実施形態では、プレコート層の坪量は、0.1~12gsmの範囲、好ましくは0.5~8gsmの範囲、より好ましくは1~6gsmの範囲にある。
【0054】
プレコート層中のピンホールのリスクを最小限に抑えるために、プレコート層は、好ましくはコーティングされたフィルムが工程間で乾燥される少なくとも2つの異なるコーティング工程において塗布されてもよい。
【0055】
プレコート層は、接触または非接触コーティング法により塗布することができる。MFC層上への塗布において、コーティング中に基材に損傷を与えるリスクを最小限に抑えるために、非接触コーティング法が典型的には好ましい。有用なコーティング方法の例には、ロッドコーティング、カーテンコーティング、フィルムプレスコーティング、キャストコーティング、転写コーティング、サイズプレスコーティング、フレキソ印刷コーティング、ゲートロールコーティング、ツインロールHSMコーティング、短時間滞留ブレードコーティング(short dwell time blade coating)などのブレードコーティング、ジェットアプリケータコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング、またはリバースグラビアコーティングが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、コーティングは発泡体の形態で塗布される。発泡体コーティングは、非発泡コーティングと比較して高い固形物量と低い含水量でフィルム形成を可能にするので、有利である。発泡体コーティングの含水量が低いと、MFC層の再湿潤に伴う課題も低減される。
【0056】
真空コーティングは、材料の層を原子ごと、または分子ごとに固体表面上に堆積させるのに使用されるプロセスの一群を指す。これらのプロセスは、大気圧より十分に低い圧力で(すなわち、減圧下で)操作される。堆積された層は、1原子からミリメートルまでの厚みの範囲であり得るが、本文脈では、コーティング層は1~500nmの範囲の厚みを有していなくてはならない。同じまたは異なる材料の複数の層を組み合わせることができる。本プロセスは蒸気源に基づきさらに具体化することができる。物理蒸着(PVD)では液体源または固体源を使用し、化学蒸着(CVD)では化学気相を使用する。
【0057】
一部の実施形態では、真空コーティング層は、金属または金属酸化物の基材上への蒸着により、好ましくは物理蒸着(PVD)または化学蒸着(CVD)により形成される。
【0058】
好ましい実施形態では、「真空コーティング層」は、例えば、酸素または他のガスもしくは芳香、水、水蒸気、および光に対する透過性を低下させるバリア特性を提供する、金属または金属酸化物の薄層である。
【0059】
一部の実施形態では、基材の表面のうち片方のみが真空コーティングを施されている。一部の実施形態では、基材の両表面が真空コーティングを施されている。
【0060】
一部の実施形態では、真空コーティング層は、金属または金属酸化物の基材上への蒸着により、好ましくは物理蒸着(PVD)または化学蒸着(CVD)により、より好ましくは物理蒸着(PVD)により形成される。
【0061】
本発明の真空コーティング層は、好ましくは金属または金属酸化物を含む。金属または金属酸化物の真空コーティングはメタライゼーションと称されることも多く、金属または金属酸化物の真空コーティング層は「メタライゼーション層」と称されることもある。
【0062】
紙、板紙、フィルム、および箔をメタライズすることで、生成物のシェルフアピール(shelf appeal)を最大化する非常に魅力的な仕上げがもたらされる。メタライズされた基材は、広範囲の包装およびラベルの用途に使用される。
【0063】
一部の実施形態では、真空コーティング層は、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、銅、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、およびそれらの組合せからなる群から選択される金属または金属酸化物、好ましくは酸化アルミニウムを含む。AlOxコーティングとしても知られる酸化アルミニウム真空コーティングは、アルミニウム金属コーティングと同様のバリア特性を提供できるが、薄いAlOxコーティングが可視光に対し透過的であるというさらなる利点を有する。
【0064】
薄い真空蒸着層は通常、単にナノメートルの厚みであり、すなわち、ナノメートルの大きさ程度の厚みを有する。本発明の真空コーティング層は、1~500nmの範囲の厚みを有する。一部の実施形態では、真空コーティング層は、10~100nmの範囲、好ましくは20~50nmの範囲の層厚を有している。
【0065】
そのバリア特性、具体的に水蒸気バリア特性のために使用されることのある蒸着コーティングの一種は、アルミニウム金属物理蒸着(PVD)コーティングである。実質的にアルミニウム金属からなるこのようなコーティングは、典型的には10~50nmの厚みを有する場合がある。包装用の従来の厚みのアルミニウム箔に典型的に存在するアルミニウム金属材料の1%未満に相当するメタライゼーション層の厚み、すなわち6.3μm。
【0066】
一部の実施形態では、真空コーティング層は、50~250mg/m2の範囲、好ましくは75~150mg/m2の範囲の坪量を有している。
【0067】
薄い真空コーティングまたはメタライゼーションコーティングは、他のコーティング法よりも著しく少ない材料しか必要としないが、これらは通常、低レベルの酸素バリア特性しか提供せず、十分なバリア特性を有する最終積層材料を提供するにはさらなるガスバリア材料と組み合わせる必要がある。
【0068】
本発明のバリアフィルムでは、保護コーティング層が真空コーティング層上に配される。保護コーティング層は、水溶性ポリマーの水溶液または分散体を真空コーティング層の表面に塗布して、表面上の水溶性ポリマーを架橋結合剤により架橋させることによって形成される架橋水溶性ポリマーを含む。架橋結合剤は、塗布される際にポリマー水溶液または分散体に含めることができ、または、ポリマー水溶液または分散体を真空コーティング層の表面に塗布する前もしくは塗布した後に基材へと別々に塗布することができる。
【0069】
保護コーティング層の水溶性ポリマーは、冷水中で可溶性であるか、または所与の期間にわたり100℃未満の温度に加温した後に水中で可溶性である。水溶性ポリマーを架橋することで、その水中での溶解度は低下することになる。
【0070】
保護コーティング層の水溶性ポリマーは、好ましくは遊離ヒドロキシル官能基を含む。水溶性ポリマーは、例えば、PVOHもしくは水分散性EVOHなどのビニルアルコール系ポリマー、アクリル酸もしくはメタクリル酸系のポリマー(PAA、PMAA)、例えばデンプンもしくはデンプン誘導体などの多糖類、タンパク質、セルロースナノフィブリル(CNF)、ナノ結晶セルロース(NCC)、キトサン、ヘミセルロース、またはそれらの2つ以上の組合せからなる群から選択されてよい。一部の実施形態では、水溶性ポリマーはアニオン性カルボキシメチルセルロース(CMC)である。
【0071】
一部の実施形態では、保護コーティング層の水溶性ポリマーは、ポリビニルアルコール、修飾ポリビニルアルコール、多糖類、および修飾多糖類からなる群、またはそれらの組合せから選択され、好ましくはポリビニルアルコールである。
【0072】
PVOHは、1種類のPVOHであってもよく、または、例えば加水分解度もしくは粘度が異なる2種類以上のPVOHの混合物を含むことができる。PVOHは、例えば、80~99mol%の範囲、好ましくは85~99mol%の範囲の加水分解度を有し得る。さらにPVOHは、好ましくは20℃のDIN53015/JIS K6726で、4%水溶液中、5mPa×sを超える粘度を有する場合がある(添加剤を含まずpHに変化がない、すなわち、例えば蒸留水中に分散かつ溶解されたときに得られる)。有用な生成物の例は、例えば、Kuraray Poval4-98、Poval6-98、Poval10-98、Poval20-98、Poval30-98、もしくはPoval56-98、またはこれらの混合物である。加水分解グレードが低いことから、Poval4-88、Poval6-88、Poval8-88、Poval18-88、Poval22-88、または例えばPoval49-88が好ましい。PVOHは、灰分量が0.9重量%未満、好ましくは0.7重量%未満、0.4重量%未満、または0.2重量%未満であることが好ましい。
【0073】
修飾多糖類は、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)もしくはヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの修飾セルロース、あるいは、ヒドロキシアルキル化デンプン、シアノエチル化デンプン、カチオン性もしくはアニオン性デンプン、またはデンプンエーテルもしくはデンプンエステルなどの修飾デンプンであってもよい。一部の好ましい修飾デンプンとして、ヒドロキシプロピル化デンプン、ヒドロキシエチル化デンプン、ジアルデヒドデンプン、およびカルボキシメチル化デンプンが挙げられる。
【0074】
保護コーティング層は、好ましくは液体フィルムコーティングのプロセスによって、すなわち、塗布時に基材上で薄く均一な層に広げられた後に乾燥される水溶液または分散体の形態で塗布される。保護コーティング層は、接触または非接触コーティング法により塗布することができる。
【0075】
敏感な真空コーティング層上への塗布においては、コーティング中に真空コーティング層に損傷を与えるリスクを最小限に抑えるために、非接触コーティング法、すなわちコーティングの柔らかな塗布および平坦化が典型的に好ましい。有用なコーティング法の例には、ロッドコーティング、カーテンコーティング、フィルムプレスコーティング、キャストコーティング、転写コーティング、サイズプレスコーティング、フレキソ印刷コーティング、ゲートロールコーティング、ツインロールHSMコーティング、短時間滞留ブレードコーティングなどのブレードコーティング、ジェットアプリケータコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング、またはリバースグラビアコーティングが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
一部の実施形態では、コーティングは発泡体の形態で塗布される。発泡体コーティングは、非発泡コーティングと比較して高い固形物量と低い含水量でフィルム形成を可能にするので、有利である。発泡体コーティングの含水量が低いと、MFC層の再湿潤に伴う課題も低減される。発泡体は、ポリマー発泡剤または非ポリマー発泡剤を用いて形成されてもよい。ポリマー発泡剤には、PVOH、疎水修飾デンプン、および疎水性修飾エチルヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。一部の実施形態では、保護コーティング層の水溶性ポリマー、例えばPVOHは、ポリマー発泡剤としても作用する。非ポリマー発泡剤の一例は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である。
【0077】
保護コーティング層の水溶性ポリマーは、架橋結合剤により架橋される。対象となる水溶性ポリマーに応じて様々な架橋結合剤を使用することができる。
【0078】
水溶性ポリマーを架橋することで、コーティング層の機械安定性と化学安定性の両方が改善されて、敏感な真空コーティング層の保護が強化される。架橋結合剤により達成される架橋は、好ましくは共有結合による架橋である必要がある。架橋結合剤は、好ましくは水溶性ポリマー中に存在する官能基との共有結合を形成可能である少なくとも2個の官能基を含む。架橋は、例えば、架橋結合剤の官能基と水溶性ポリマーとの間でのエステル結合、エーテル結合、アミド結合の形成に関与し得る。クロスリンカーの量は、所望の架橋度に応じて選択できる。架橋はさらに、温度、pH、触媒、または照射(例えば、UV光照射)を使用することにより開始されるか、または容易にされ得る。当業者であれば、水溶性ポリマーの種類および他の状況に応じて、好適な架橋結合剤および量を特定することができる。
【0079】
本発明のバリアフィルムにおいて特に有用であると見出されている架橋結合剤の一群は、多官能性カルボン酸、例えば、二官能性、三官能性、もしくは多官能性(polyfunctional)カルボン酸、またはそれらの混合物である。これらの架橋結合剤は水溶性であり、典型的には毒性が低いかまたは全くなく、金属または金属酸化物ベースの真空コーティング層と有利に相互作用するように結合されることで、接着特性と保護特性のさらなる改善を生じさせる。好適な多官能性カルボン酸架橋結合剤の例には、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、および1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
このため、一部の実施形態では、保護コーティング層の水溶性ポリマーは、多官能性カルボン酸架橋結合剤により架橋される。一部の実施形態では、多官能性カルボン酸は、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、および1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸からなる群、またはそれらの組合せから選択される。好ましい実施形態では、多官能性カルボン酸はクエン酸である。
【0081】
分子量がより多いポリカルボン酸を架橋結合剤として使用することも可能である。このような分子量がより多いポリカルボン酸の例には、ポリマレイン酸およびポリ(メチルビニルエーテル-コ-マレイン酸)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
保護コーティング層中の架橋結合剤の量は、好ましくは水溶性ポリマーの重量に基づき5~50重量%の範囲にあり、より好ましくは水溶性ポリマーの重量に基づき10~40重量%の範囲にある。
【0083】
保護コーティング層の坪量は、全体として0.1~20gsmの範囲にあり得る。しかし、本発明の保護コーティング層の利点は、非常に小さな坪量でも良好な保護特性をもたらすという点である。このことは、コーティングされた基材の良好な反発性と再利用性を維持するのに重要である。このため、一部の実施形態では、保護コーティング層の坪量は、0.1~12gsmの範囲、好ましくは0.5~8gsmの範囲、より好ましくは1~6gsmの範囲にある。
【0084】
保護コーティング層中のピンホールのリスクを最小限に抑えるために、保護コーティング層は、好ましくはコーティングされたフィルムが工程間で乾燥される少なくとも2つの異なるコーティング工程において塗布されてもよい。少なくとも真空コーティング層と直接接触する層が架橋される。一例として、第1のコーティング工程では、PVOHおよびクエン酸が約1~5gsmの乾燥坪量で塗布されて、乾燥かつ硬化され、第2のコーティング工程では、PVOHが約1~5gsmの乾燥坪量で塗布されて、乾燥される。
【0085】
本発明のバリアフィルムは、紙および板紙の包装材料中でガスバリアフィルムとして使用されることが意図されている。真空コーティング層と、架橋水溶性ポリマーを含む保護コーティング層との組合せは、優れたガスバリア特性と水蒸気バリア特性を有するバリアフィルムを提供すると見出されている。
【0086】
一部の実施形態では、バリアフィルムは、ASTM D-3985規格に従い50%の相対湿度および23℃で測定される、10cc/m2/日未満、および好ましくは5cc/m2/日未満の酸素移動率(OTR)を有している。
【0087】
一部の実施形態では、バリアフィルムは、ASTM D-3985規格に従い85%の相対湿度および38℃で測定される、200cc/m2/日未満、および好ましくは150cc/m2/日未満の酸素移動率(OTR)を有している。
【0088】
一部の実施形態では、バリアフィルムは、ASTM F1249規格に従い50%の相対湿度および23℃で測定される、10g/m2/日未満、および好ましくは5g/m2/日未満の水蒸気移動率(WVTR)を有している。
【0089】
本発明のバリアフィルムは、典型的にはグリースおよび油に対して良好な耐性を呈することになる。バリアフィルムの耐グリース性は、ISO16532-2規格に従いKIT試験により評価される。この試験では、ヒマシ油、トルエン、およびヘプタンの一連の混合物を使用する。油と溶媒との比が低下するにつれ、粘度と表面張力も低下し、連続する混合物は抵抗がさらに困難となる。性能は、15秒後にフィルムシートが黒くならない高位番号の溶液によって評価される。障害を引き起こすことなく紙の表面上に残る高位番号の溶液(最も活動的なもの)は、「キットレーティング(kit rating)」(最大12)として報告される。一部の実施形態では、バリアフィルムのKIT値は、ISO16532-2規格に従い測定されたときに少なくとも10、好ましくは12である。
【0090】
液体包装板紙などの包装材料中のバリア層としてのアルミニウム箔およびポリオレフィンフィルムを、使用済み包装材料の再パルプ化および再利用を容易にする代替物に置き換えるために、改善された解決策が求められている。本発明のバリアフィルムは、ほぼ全体的にバイオベース材料から、好ましくはセルロース系材料から有利に製造することができ、それにより、バリアフィルムを含む使用済みの紙および板紙ベースの包装材料の再パルプ化と再利用が容易になる。このような包装材料は、セルロース材料を95重量%以上含有し、残り5%は包装材料の再利用に影響を及ぼさない他の材料であることから、時に単一素材と称される。
【0091】
一部の実施形態では、バリアフィルムの95重量%より多くがセルロース系である。
【0092】
基材の両表面が真空コーティングを施されている実施形態では、保護コーティング層は、基材の真空コーティング表面の片面または両面に配されてもよい。
【0093】
水溶性ポリマーは、水溶液または分散体の形態で真空コーティング層上に塗布され、続いて架橋かつ乾燥されることで、薄い保護コーティング層を形成する。均一なバリア特性を有する平らなコーティングをもたらすために、分散体または溶液は均質で安定していることが重要である。このような分散体をコーティングした層は、分散体または溶液が均一で安定していれば、1m2あたり0.1グラムまで非常に薄くされてもよく、高品質の均質な層をもたらす場合がある。
【0094】
一部の実施形態では、保護コーティング層は、顔料をさらに含む。一部の実施形態では、保護コーティング層は、保護コーティング層の総乾燥重量に基づき1~30重量%、好ましくは1~20重量%、より好ましくは2~10重量%の量で顔料をさらに含む。
【0095】
本発明のバリアフィルムは、好ましくは液体または液体含有生成物の包装に使用するための、紙もしくは板紙ベースの包装材料、具体的に包装板紙、液体包装板紙(LPB)、紙パウチ、または紙もしくは板紙のチューブもしくはカップにおけるバリア層として使用され得る。それゆえ、本明細書中で例示される第2の態様によれば、
紙または板紙の基層と、
バリアフィルムであって、
基材、
1~500nmの範囲の厚みを有し基材上に配される真空コーティング層、および
架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される保護コーティング層
を備えるバリアフィルムと
を備えている紙または板紙ベースの包装材料が提供される。
【0096】
第2の態様による紙または板紙ベースの包装材料のバリアフィルムはさらに、第1の態様を参照して上述されるように定義され得る。
【0097】
一部の実施形態では、バリアフィルムは、基層とバリアフィルムとの間に配される接着ポリマー層を用いて基層の上に積層される。このため一部の実施形態では、紙または板紙ベースの包装材料は、基層とバリアフィルムとの間に配される接着ポリマー層をさらに備える。
【0098】
他の実施形態では、バリアフィルムの基材は、紙または板紙の基層の一部である。バリアフィルムの基材は、例えば、接着剤を用いて基層の上に積層されていてもよく、または基材としてMFCが使用される場合、MFCは基層の上にウェットレイド(wet laid)されていてもよい。
【0099】
本発明のバリアフィルムまたは紙もしくは板紙ベースの包装材料は、好ましくは液体包装材料用のバリア層にしばしば使用される、あらゆる押出コーティングまたは積層コーティングされたポリオレフィンコーティングを必要とすることなく実現される。代わりに、本発明のバリアフィルムは、好ましくは繊維性の紙および板紙材料からさらに容易に分離されることにより板紙の再パルプ化を容易にする材料を使用する。しかし、当然ながら、本発明のバリアフィルムを、従来の押出コーティングまたは積層コーティングされたポリオレフィンコーティング層と組み合わせることも可能である。
【0100】
一部の実施形態では、紙または板紙ベースの包装材料に使用される紙または板紙の基層は、20~500g/m2の範囲、好ましくは80~400g/m2の範囲の坪量を有している。
【0101】
一部の実施形態では、紙または板紙ベースの包装材料は、再利用可能であり、かつPTS RH021/97に従った30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満の不合格率を有する。
【0102】
本明細書中で例示される第3の態様によれば、第1の態様によるバリアフィルム、または第2の態様による紙もしくは板紙ベースの包装材料を備える容器、具体的には液体包装容器が提供される。
【0103】
本明細書中で例示される第4の態様によれば、紙または板紙ベースの包装材料用のバリアフィルムを製造するための方法であって、
a)基材を提供する工程と、
b)1~500nmの範囲の厚みを有する真空コーティング層を基材に塗布する工程と、
c)水溶性ポリマーを含むコーティング溶液を真空コーティング層に塗布する工程と、
d)水溶性ポリマーを乾燥して架橋結合剤により架橋することで、架橋水溶性ポリマーを含み真空コーティング層上に配される保護コーティング層を得る工程と
を含む方法が提供される。
【0104】
基材、真空コーティング層、および保護コーティング層はさらに、第1の態様のバリア層を参照して上述されるように定義され得る。
【0105】
一部の実施形態では、基材はミクロフィブリル化セルロース層(MFC層)を含む。
【0106】
一部の実施形態では、保護コーティング層の水溶性ポリマーは、ポリビニルアルコール、修飾ポリビニルアルコール、および多糖類からなる群、またはそれらの組合せから選択される。
【0107】
一部の実施形態では、保護コーティング層の水溶性ポリマーは、ポリビニルアルコールである。
【0108】
一部の実施形態では、保護コーティング層の水溶性ポリマーは、多官能性カルボン酸架橋結合剤により架橋される。一部の実施形態では、多官能性カルボン酸は、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、および1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸からなる群、またはそれらの組合せから選択される。好ましい実施形態では、多官能性カルボン酸はクエン酸である。
【0109】
分子量がより多いポリカルボン酸を架橋結合剤として使用することも可能である。このような分子量がより多いポリカルボン酸の例には、ポリマレイン酸およびポリ(メチルビニルエーテル-コ-マレイン酸)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
一部の実施形態では、架橋結合剤は、カルボン酸官能性架橋結合剤、好ましくはクエン酸である。
【0111】
クロスリンカーは、NaOHまたはKOHなどの塩基により、わずかに高いpHへと緩衝されてもよい。
【0112】
一部の実施形態では、架橋pHは、7未満、好ましくは3~7の範囲、より好ましくは3.5~6.5の範囲にある。
【0113】
架橋結合剤の量は、好ましくは水溶性ポリマーの重量に基づき5~50重量%の範囲にあり、より好ましくは水溶性ポリマーの重量に基づき10~40重量%の範囲にある。
【0114】
乾燥は、例えば、熱風、IR照射、またはそれらの組合せを使用して達成できる。一部の実施形態では、工程d)における乾燥および/または架橋は、55~200℃の範囲、好ましくは70~200℃の範囲の温度で行われる。一部の実施形態では、工程d)における乾燥および/または架橋は、55~120℃の範囲、好ましくは70~120℃の範囲の温度で行われる。
【0115】
一部の実施形態では、上記方法は、バリアフィルムまたはバリアフィルムの基材を紙または板紙の基層上に積層する工程をさらに含む。
【0116】
一部の実施形態では、工程a)における基材は、紙または板紙の基層上に設けられる。
【0117】
本発明のバリアフィルム、または本発明のバリアフィルムを含む紙もしくは板紙ベースの包装材料は、片面または両面に追加のポリマー層が設けられてもよい。追加のポリマー層は、当然ながら反発性に干渉し得るが、一部の用途では依然として必要とされるか、または所望される場合がある。追加のポリマー層は、例えば、押出コーティング、フィルムラミネート、または分散体コーティングにより塗布されてもよい。
【0118】
追加のポリマー層は、一般に紙または板紙ベースの包装材料によく使用される熱可塑性樹脂ポリマー、または具体的に液体包装板紙に使用されるポリマーのいずれかを含み得る。例として、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、デンプン、およびセルロースが挙げられる。ポリエチレン、特に低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)は、液体包装板紙に使用される最も一般的で汎用性のあるポリマーである。
【0119】
熱可塑性樹脂ポリマーは、押出コーティング技法により簡便に加工されることで、良好な液体バリア特性を有する非常に薄く均質なフィルムを形成することができるため、有用である。一部の実施形態では、追加のポリマー層は、ポリプロピレンまたはポリエチレンを含む。好ましい実施形態では、ポリマー層は、ポリエチレン、より好ましくはLDPEまたはHDPEを含む。
【0120】
一部の実施形態では、追加のポリマー層は、バリアフィルムの表面上へのポリマーの押出コーティングにより形成される。押出コーティングは、溶融プラスチック材料を基材に塗布することで、非常に薄く、滑らかで、均一な層を形成するプロセスである。このコーティングは押出プラスチック自体により形成される場合があり、または、溶融プラスチックが、固体プラスチックフィルムを基材上に積層させるための接着剤として使用される場合もある。押出コーティングに使用される一般的なプラスチック樹脂には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。
【0121】
追加のポリマー層それぞれの坪量は、好ましくは50g/m2未満である。連続的で実質的に欠陥のないフィルムを達成するために、追加のポリマー層には少なくとも8g/m2、好ましくは少なくとも12g/m2の坪量が典型的に必要となる。一部の実施形態では、追加のポリマー層の坪量は、8~50g/m2の範囲、好ましくは12~50g/m2の範囲にある。
【0122】
概して、生成物、ポリマー、材料、層、およびプロセスは、種々の構成成分または工程を「含む(comprising)」という観点で記載されるが、生成物、ポリマー、材料、層、およびプロセスはまた、様々な構成成分および工程「から本質的になる(consist essentially of)」、またはそれら「からなる(consist of)」可能性もある。
【0123】
本発明は種々の例示的実施形態を参照しつつ記載されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく種々の変更が行われてもよく、かつ本発明の要素を等価物で置き換えてもよいことが、当業者には理解されよう。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために、多くの修正が行われてもよい。そのため、本発明は、本発明を実施するために企図される最良の形態として開示される特定の実施形態には限定されず、本発明は添付の特許請求の範囲内にある実施形態すべてを含むであろうことが意図される。
【実施例】
【0124】
本発明のバリアフィルムを評価するために、本発明のフィルムの酸素透過率(OTR)および水蒸気透過率(WVTR)を参照フィルムと比較する試験を行った。
【0125】
実施例1.コーティングされていないMFCフィルム(参照)
コーティングされていない32gsmのMFC、およびソフトニップカレンダ加工されたフィルムを、ウェットレイド技法を用いて長網抄紙機で調製した。完成紙料にはMFC(SRは94超)が包含されていた。MFCフィルムに用いた原料は漂白クラフトパルプであった。フィルムの水分含有量は約4重量%であった。フィルムのガーリー・ヒル値は42 300s/100ml(ISO5636/6規格に従い判定されるものであり、デバイスの最大値)であった。
【0126】
Mocon Oxtran2/22デバイスを用いて、ASTM D-3985規格に従い50%の相対湿度および23℃でOTRを測定した。フィルムのOTRは、23℃および50%の相対湿度(本明細書中では23℃/50RHと称する)で9117および5955cc/m2/日であった。38℃および85%の相対湿度(本明細書中では38℃/85RHと称する)の熱帯条件では、OTRを測定できなかった。
【0127】
Mocon Permatran3/34を用いてASTM F1249規格に従い、対応する試料のWVTRを測定した。WVTRは、あまりに高すぎるので23℃/50RHおよび38℃/85RHの両方で測定できなかった。
【0128】
実施例2.メタライズ化MFCフィルム(参照)-ダイレクトメタライゼーション
実施例1のフィルムを基材として使用した。この基材を、紙のメタライゼーションにも用いられる標準デバイスを用いて、アルミニウム金属での物理蒸着により真空メタライゼーションにかけた。
【0129】
標的とされたアルミニウムコートの重量を、約100mg/m2または約30~40mg/m2と推計した。
【0130】
メタライゼーションの後、フィルムのOTRは、Mocon Oxtran2/22デバイスを用いてASTM D-3985規格に従い測定された場合、23℃/50RHで126および33cc/m2/日であった。
【0131】
メタライズ化フィルムのWVTR値は、23℃/50RHで116および113g/m2/日であった。
【0132】
これにより、メタライゼーションはOTRだけでなくWVTRも改善したが、水準は依然として産業用途に十分ではなかったことが示される。
【0133】
実施例3.非架橋PVOHコーティングを有するメタライズ化MFCフィルム
この場合では、上記試料をメタライズし、次いでロッドコータを用いてPVOH(Poval6-88、Kuraray)をポストコーティングした。PVOHのコート重量を約10gsmと推計した。
【0134】
PVOHをコーティングしたフィルムのOTRは大幅に改善された。PVOHをコーティングしたフィルムのOTRは、2.8および1.4cc/m2/日(23℃/50RH)、ならびに102および116cc/m2/日(38℃/85RH)であった。
【0135】
対応するWVTRは、10.8および9.1g/m2/日(23℃/50RH)、ならびに575および648g/m2/日(38℃/85RH)であり、WVTRが改善されたことを確認した。
【0136】
実施例4.架橋PVOHコーティングを有するメタライズ化MFCフィルム(本発明)
この場合には、PVOH(Poval6-88、Kuraray)とクエン酸(CA)とのコーティング水溶液を調製した。PVOH濃度は14.5重量%であり、クエン酸濃度はPVOH濃度の25重量%であった。コーティング溶液のpHは約2であった。実施例3と同様にコーティング溶液を塗布し、試料を室温で乾燥した。コーティングの乾燥坪量を約10gsmと推計した。
【0137】
PVOHをコーティングしたフィルムのOTRは大幅に改善された。PVOH/CAをコーティングしたフィルムのOTRは、2.6および1.4cc/m2/日(23℃/50RH)、ならびに99および144cc/m2/日(38℃/85RH)であった。
【0138】
対応するWVTRは、4.5および4.8g/m2/日(23℃/50RH)、ならびに615および706g/m2/日/m2/日(38℃/85RH)であり、WVTRが特に23℃/50RHで大幅に改善されたことを確認した。
【0139】
実施例5.非架橋PVOH発泡体コーティングを有するメタライズ化MFCフィルム
この場合には、より少ない溶媒、およびより柔らかなコーティング塗布をシミュレートするために、実施例3で使用されるPVOH溶液を発泡体へと調製した。連続混合中に空気をPVOH溶液に混入することにより発泡を達成した。発泡体の密度は約40g/100mlであった。ロッドコータを用いて発泡体をメタライズ化MFCフィルムに塗布した。発泡体コーティングでは、液体コーティングよりも均一な基材が得られ、水により誘導される皺と膨潤は少なかった。コーティングの乾燥坪量は実施例3よりも少なかった。
【0140】
PVOH発泡体をコーティングしたフィルムのOTRは大幅に改善された。PVOH発泡体をコーティングしたフィルムのOTRは、1.4および1.8cc/m2/日(23℃/50RH)、ならびに66cc/m2/日(38℃/85RH)であった。
【0141】
対応するWVTRは、6.9および1.3g/m2/日(23℃/50RH)、ならびに431g/m2/日(38℃/85RH)であった。
【0142】
実施例6.架橋PVOH発泡体コーティングを有するメタライズ化MFCフィルム(本発明)
この場合には、溶媒無し、およびより柔らかなコーティング塗布をシミュレートするために、実施例4で使用されるPVOH溶液をCAとともに発泡体へと調製した。連続混合中に空気をPVOH溶液に混入することにより発泡を達成した。発泡体の密度は約40g/100mlであった。ロッドコータを用いて発泡体をメタライズ化MFCフィルムに塗布した。このコーティングでは、液体コーティングよりも均一な基材が得られ、水により誘導される皺と膨潤は少なかった。
【0143】
PVOHをコーティングしたフィルムのOTRは大幅に改善された。PVOH/CAをコーティングしたフィルムのOTRは0.8cc/m2/日(23℃/50RH)であり、WVTRは10.6g/m2/日(23℃/50RH)であった。
【0144】
実施例7.架橋PVOH発泡体コーティングを有し、高温での乾燥を行ったメタライズ化MFCフィルム(本発明)
実施例6にて得たフィルムの試料を、オーブン中、150℃で5分間さらに乾燥/硬化した。
【0145】
硬化後のフィルムのOTRは、0.8および7.2cc/m2/日(23℃/50RH)、ならびに20cc/m2/日(38℃/85RH)であった。
【0146】
硬化後のフィルムのWVTRは、3.5および7g/m2/日(23℃/50RH)、ならびに35g/m2/日(38℃/85RH)であった。
【0147】
この結果より、バリア特性、特にWVTRは、高温での硬化によってさらに改善され得ることを確認した。
【国際調査報告】