(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-27
(54)【発明の名称】骨折修復用の無痛神経成長因子
(51)【国際特許分類】
A61K 38/18 20060101AFI20231117BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20231117BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20231117BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20231117BHJP
C07K 14/48 20060101ALN20231117BHJP
【FI】
A61K38/18 ZNA
A61P19/08
A61L31/02
A61L31/10
C07K14/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553167
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 US2021059794
(87)【国際公開番号】W WO2022109073
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522057766
【氏名又は名称】ステッドマン・フィリポン・リサーチ・インスティテュート
(71)【出願人】
【識別番号】523183770
【氏名又は名称】チェルシー・バーニー
(71)【出願人】
【識別番号】523183781
【氏名又は名称】テジャル・デサイ
(71)【出願人】
【識別番号】523183792
【氏名又は名称】ケヴィン・リベラ
(71)【出願人】
【識別番号】523183806
【氏名又は名称】チョンビアオ・ウー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】チェルシー・バーニー
(72)【発明者】
【氏名】テジャル・デサイ
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・リベラ
(72)【発明者】
【氏名】チョンビアオ・ウー
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081AC06
4C081BA05
4C081CE02
4C081CE03
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084CA53
4C084DB59
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA961
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA21
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、骨折治癒を刺激するための方法であって、無痛神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体を含む医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において骨治癒を刺激するための、対象において骨治癒を促進するための、および/または対象において骨治癒を改善するための方法であって、神経成長因子(NGF)を含む医薬組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
対象において骨治癒を刺激するための、対象において骨治癒を促進するための、および/または対象において骨治癒を改善するための方法であって、神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体を含む医薬組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項3】
骨治癒は骨折治癒である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
NGFは変異NGFである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
NGFは、成熟NGFタンパク質の100番アミノ酸において変異を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
NGFはNGF
R100Wである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
対象において軟骨から骨への変換が促進される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
生体材料担体は生体適合性である、請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
生体材料担体は生分解性である、請求項2~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
生体材料担体はナノワイヤ、ナノチューブ、ナノロッド、マイクロワイヤ、マイクロチューブ、およびマイクロロッドからなる群から選択される、請求項2~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
生体材料担体はマイクロロッドである、請求項2~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
生体材料担体はナノワイヤである、請求項2~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ナノワイヤはヘパリンでコーティングされている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
組成物は皮下注射または経皮注射によって投与される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
投与は局所投与である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
骨折部中で骨形成が増加する、請求項4~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
骨治癒は軟骨内治癒である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
対象は正常な骨治癒を示す、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
対象は遷延癒合または偽関節の骨治癒を示す、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
組成物の投与時に血清コラーゲンX(Cxm)の発現が早期化および/または増加する、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
NGF関連侵害受容が最小化される、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
組成物は骨治癒の軟骨内期または軟骨期に投与される、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
組成物は骨折の約2カ月後~約3カ月後に投与される、請求項3~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
対象は、二次治癒または軟骨内修復を通じて治癒する骨中で骨折を示す、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
対象は長管骨骨折を示す、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
新たに形成された骨は、より高い骨梁数、連結性密度、および/または骨塩量を含む、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
組成物の投与時に、対象における軟骨量が減少し、対象における骨量が増加する、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
i)神経成長因子(NGF)およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨治癒を刺激すること、対象において骨治癒を促進すること、および/または対象において骨治癒を改善することにおける使用のための医薬組成物。
【請求項29】
i)神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨治癒を刺激すること、対象において骨治癒を促進すること、および/または対象において骨治癒を改善することにおける使用のための医薬組成物。
【請求項30】
i)神経成長因子(NGF)およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨折を処置することにおける使用のための医薬組成物。
【請求項31】
i)神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨折を処置することにおける使用のための医薬組成物。
【請求項32】
NGFは変異NGFである、請求項28~31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
NGFは、成熟NGFタンパク質の100番アミノ酸において変異を有する、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
NGFはNGF
R100Wである、請求項32または33に記載の組成物。
【請求項35】
生体材料担体は生体適合性である、請求項29および31~34のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項36】
生体材料担体は生分解性である、請求項29および31~35のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項37】
生体材料担体はナノワイヤ、ナノチューブ、ナノロッド、マイクロワイヤ、マイクロチューブ、およびマイクロロッドからなる群から選択される、請求項29および31~36のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項38】
生体材料担体はマイクロロッドである、請求項29および31~37のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項39】
生体材料担体はナノワイヤである、請求項29および31~37のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項40】
ナノワイヤはヘパリンでコーティングされている、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
骨治癒は骨折治癒である、請求項28、29、および32~40のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項42】
組成物は皮下注射または経皮注射によって対象に投与される、請求項28~41のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項43】
投与は局所投与である、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
骨治癒は軟骨内治癒である、請求項28、29、および32~43のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項45】
対象は正常な骨治癒を示す、請求項28~44のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項46】
対象は遷延癒合または偽関節の骨治癒を示す、請求項28~44のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項47】
組成物は骨治癒の軟骨内期/軟骨期に対象に投与される、請求項28~46のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項48】
組成物は骨折の約2カ月後~約3カ月後に対象に投与される、請求項28~46のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項49】
対象は、二次治癒または軟骨内修復を通じて治癒する骨中で骨折を示す、請求項28~48のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項50】
対象は長管骨骨折を示す、請求項28~49のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、骨折治癒を刺激するための方法であって、無痛神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体を含む医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年11月17日に出願の米国仮特許出願第63/114,921号の優先権を主張するものであり、その内容全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0003】
配列に関する記載
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる、配列表を含む。2021年11月16日に作られた前記ASCIIコピーは、18472-0014WOU1_SEQLISTING.txtと命名され、サイズが9キロバイトである。
【背景技術】
【0004】
米国(US)では毎年約1500万件の骨折損傷が発生している。健康集団内の骨折の推定10~15%において遷延癒合または偽関節が生じている。しかし、血管損傷、または高併存症負荷、例えば糖尿病、加齢、喫煙、および肥満を有する患者では、遷延治癒率は約50%に増加する。遷延癒合または偽関節に対する現行の標準治療は、移植骨の適用を通じて安定性を増加させるかまたは治癒を促進するための外科的介入である。しかし、外科的介入では、長期的な患者の身体障害が生じることがあり、また、癒合を実現するために複数回の手術が必要になることがある。骨自家移植は依然としてこれらの場合において骨治癒を増大させるためのゴールドスタンダートの臨床技術であり、また、自家移植は良好な治癒結果を伴ってはいるが、骨採取は手術時間を増加させ、合併症の危険性を約60%増加させ、供与部位の罹患の高い発生率を伴っており、また、大きな欠損部を埋め合わせるために利用可能な骨は十分には存在しない。
【0005】
骨形態形成タンパク質(BMP)は、骨折修復における使用に関してFDAの承認を受けた唯一のバイオ医薬品であるが、非常に狭い指示ウィンドウの範囲内でのみ「オンラベルで」使用される。しかし、BMPは、外科的埋め込みを必要とするものであり、また、コストが高いこと、臨床的効能のエビデンスが限られていること、および重度のオフターゲット作用の危険性があることが理由で、通常は最も危険性の高い骨折にのみ限定される。したがって、非外科的送達プラットフォームで骨再生を刺激する可能性があるバイオ医薬品の満たされていない臨床上の必要性が存在する。
【0006】
骨折は、無血管で無神経の中間軟骨を血管新生化および神経支配された骨に変換するプロセスである軟骨内骨化(EO)を通じて主に治癒する。骨修復の成功に軟骨内骨化が重要であるにもかかわらず、骨再生に対する治療アプローチは伝統的に、骨軟骨前駆細胞の直接的な骨芽細胞分化を通じて骨を形成する、BMPの使用を通じた膜内骨化を促進することに重点を置いている。
【0007】
骨が高度に神経支配された器官系であることは長く理解されているが、骨成長、骨恒常性、および骨折修復における神経支配の機能的役割は複雑かつ進化中である。神経成長因子(NGF)は、1950年代初頭に最初に発見され、数十年の研究を経て、現在では中枢系および末梢系中のコリン作動性神経の分化、成長、生存、および可塑性を制御する上での役割が証明されている。NGFは、主に高親和性トロポミオシン受容体キナーゼA(TrkA)受容体に対する結合を通じて栄養機能を発揮する。骨が高度に神経支配された器官系であることは長く理解されているが、骨成長、骨恒常性、および骨疾患における神経支配の機能的役割は複雑かつ進化中である。
【0008】
交感神経および感覚神経の生存および分化に対するNGFの強力な栄養作用を理由として、アルツハイマー病、糖尿病神経障害、化学療法誘発性末梢神経障害、およびHIV関連末梢神経障害に関するNGFの安全性および効能を試験する重要な基礎科学研究およびいくつかの臨床試験が行われた。しかしながら、TrkA受容体に対するNGFの高親和性結合に加えて、NGFは、痛覚に著しく寄与することが最近の研究において示唆されている75kDa神経栄養因子受容体(p75NTR)に対する低親和性結合も示す。残念ながら、NGFの用量依存的臨床試験において、背痛および注射部位痛覚過敏を含む重大な副作用が指摘され、その後、ほぼすべての試験が中断された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様では、本開示は、対象において骨治癒を刺激するための、対象において骨治癒を促進するための、および/または対象において骨治癒を改善するための方法であって、神経成長因子(NGF)を含む医薬組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0010】
別の態様では、本開示は、対象において骨治癒を刺激するための、対象において骨治癒を促進するための、および/または対象において骨治癒を改善するための方法であって、神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体を含む医薬組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。特定の実施形態では、NGFを「含む」生体材料担体とは、NGFが生体材料担体、例えばマイクロロッドまたはナノワイヤに加えられて、実質的に吸着されていることを意味する。さらなる実施形態では、生体材料担体はNGFの吸着後に保存安定性のために凍結または凍結乾燥される。他の実施形態では、生体材料担体およびNGFはポイントオブケア設定で構築/混合される。
【0011】
本発明の方法の1つの実施形態では、骨治癒は骨折治癒である。
【0012】
本開示の方法の1つの実施形態では、NGFは変異NGFである。別の実施形態では、NGFは、成熟NGFタンパク質の100番アミノ酸において変異を有する。さらに別の実施形態では、(成熟)NGFは「無痛NGF」であり、NGFR100Wとも呼ばれる。野生型NGFアミノ酸配列は配列番号1(ヒト)および3(マウス)で示される。無痛NGF/NGFR100Wアミノ酸配列は配列番号2(ヒト)および4(マウス)で示される。
【0013】
本開示の方法の1つの実施形態では、対象において軟骨から骨への変換が促進される。
【0014】
本開示の方法の1つの実施形態では、生体材料担体は生体適合性である。別の実施形態では、生体材料担体は生分解性である。さらに別の実施形態では、生体材料担体はナノワイヤ、ナノチューブ、ナノロッド、マイクロワイヤ、マイクロチューブ、およびマイクロロッドからなる群から選択される。1つの実施形態では、生体材料担体はマイクロロッドである。さらに別の実施形態では、生体材料担体はナノワイヤである。さらなる実施形態では、ナノワイヤはヘパリンでコーティングされている。
【0015】
本開示の方法の1つの実施形態では、組成物は皮下注射または経皮注射によって投与される。別の実施形態では、投与は局所投与である。さらに別の実施形態では、投与は損傷部位および/または骨折部位に対する局所投与である。
【0016】
本開示の方法の1つの実施形態では、骨折部中で骨形成が増加する。
【0017】
本開示の方法の別の実施形態では、骨治癒は軟骨内治癒である。
【0018】
本開示の方法のさらに別の実施形態では、対象は正常な骨治癒を示す。別の実施形態では、対象は遷延癒合または偽関節の骨治癒を示す。
【0019】
本開示の方法の1つの実施形態では、組成物の投与時に血清コラーゲンX(Cxm)の発現が早期化および/または増加する。
【0020】
本開示の方法の別の実施形態では、NGF関連侵害受容が最小化される。
【0021】
本開示の方法の1つの実施形態では、組成物は骨治癒の軟骨内期または軟骨期に投与される。さらなる実施形態では、組成物は軟骨形成期に、または軟骨が骨に変換される時期に投与される。これらは真に別々の時点というわけではなく、重複した時点で発生する。別の実施形態では、組成物は骨折の約1カ月後~約4カ月後に投与される。さらに別の実施形態では、組成物は骨折の約2カ月後~約3カ月後に投与される。さらなる実施形態では、治癒が遷延する/遷延癒合が観察される場合、本開示の組成物が少なくとも再度投与され、場合によっては3回以上投与される。
【0022】
本開示の方法の1つの実施形態では、対象は、二次治癒または軟骨内修復を通じて治癒する骨中で骨折を示す。別の実施形態では、対象は長管骨骨折を示す。
【0023】
本開示の方法の1つの実施形態では、新たに形成された骨は、より高い骨梁数、連結性密度、および/または骨塩量を含む。
【0024】
本開示の方法の1つの実施形態では、組成物の投与時に、対象における軟骨量が減少し、対象における骨量が増加する。別の実施形態では、組成物の投与時に、対象における軟骨量が少なくとも約10%減少し、対象における骨量が少なくとも約10%増加する。さらに別の実施形態では、組成物の投与時に、対象における軟骨量が少なくとも約25%減少し、対象における骨量が少なくとも約25%増加する。
【0025】
さらなる実施形態では、本開示の方法は骨粗鬆症の徴候において有用である。さらなる実施形態では、骨粗鬆症の徴候は骨粗鬆症性骨折である。なおさらなる実施形態では、骨粗鬆症性骨折は非定型大腿骨頸部骨折である。
【0026】
さらなる実施形態では、本開示の方法は頭蓋顔面徴候において有用である。さらなる実施形態では、頭蓋顔面徴候は狭頭症/頭蓋縫合早期癒合症、口蓋裂、下顎骨骨折、頭蓋骨骨折、および頭蓋骨欠損からなる群から選択される。
【0027】
1つの態様では、本開示は、i)神経成長因子(NGF)およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨治癒を刺激すること、対象において骨治癒を促進すること、および/または対象において骨治癒を改善することにおける使用のための医薬組成物を提供する。1つの実施形態では、骨治癒は骨折治癒である。
【0028】
別の態様では、本開示は、i)神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨治癒を刺激すること、対象において骨治癒を促進すること、および/または対象において骨治癒を改善することにおける使用のための医薬組成物を提供する。1つの実施形態では、骨治癒は骨折治癒である。
【0029】
1つの態様では、本開示は、i)神経成長因子(NGF)およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨折を処置することにおける使用のための医薬組成物を提供する。
【0030】
別の態様では、本開示は、i)神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨折を処置することにおける使用のための医薬組成物を提供する。
【0031】
本開示の医薬組成物の1つの実施形態では、NGFは変異NGFである。別の実施形態では、NGFは、成熟NGFタンパク質の100番アミノ酸において変異を有する。さらに別の実施形態では、成熟NGFはNGFR100Wである。
【0032】
本開示の医薬組成物の1つの実施形態では、生体材料担体は生体適合性である。別の実施形態では、生体材料担体は生分解性である。さらに別の実施形態では、生体材料担体はナノワイヤ、ナノチューブ、ナノロッド、マイクロワイヤ、マイクロチューブ、およびマイクロロッドからなる群から選択される。別の実施形態では、生体材料担体はマイクロロッドである。さらに別の実施形態では、生体材料担体はナノワイヤである。さらなる実施形態では、ナノワイヤはヘパリンでコーティングされている。
【0033】
1つの実施形態では、本開示の医薬組成物は皮下注射または経皮注射によって対象に投与される。別の実施形態では、投与は局所投与である。さらに別の実施形態では、投与は損傷部位および/または骨折部位に対する局所投与である。
【0034】
本開示の組成物の1つの実施形態では、骨治癒は軟骨内治癒である。別の実施形態では、対象は正常な骨治癒を示す。さらに別の実施形態では、対象は遷延癒合または偽関節の骨治癒を示す。
【0035】
1つの実施形態では、本開示の医薬組成物は骨治癒の軟骨内期/軟骨期に投与される。別の実施形態では、組成物は骨折の約1カ月後~約4カ月後に投与される。さらに別の実施形態では、組成物は骨折の約2カ月後~約3カ月後に投与される。さらなる実施形態では、治癒が遷延する/遷延癒合が観察される場合、本開示の組成物が少なくとも再度投与される。
【0036】
本開示の組成物の1つの実施形態では、対象は、二次治癒または軟骨内修復を通じて治癒する骨中で骨折を示す。別の実施形態では、対象は長管骨骨折を示す。
【0037】
さらなる実施形態では、本開示の組成物は骨粗鬆症の徴候において有用である。さらなる実施形態では、骨粗鬆症の徴候は骨粗鬆症性骨折である。なおさらなる実施形態では、骨粗鬆症性骨折は非定型大腿骨頸部骨折である。
【0038】
さらなる実施形態では、本開示の組成物は頭蓋顔面徴候において有用である。さらなる実施形態では、頭蓋顔面徴候は狭頭症/頭蓋縫合早期癒合症、口蓋裂、下顎骨骨折、頭蓋骨骨折、および頭蓋骨欠損からなる群から選択される。
【0039】
他の実施形態は、後続する詳細な説明を精査することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】脛骨骨折のマウスモデルにおける軟骨内骨折修復の時期およびタイムラインの模式図を示す。NGFまたは無痛NGFは、軟骨から骨への変換(紫色)を促進することで膜内骨形成または軟骨内骨形成を促進することにより作用することができる。タイムラインはマウスの治癒に関するものである。ヒトスケールは通常治癒に関して約4~6倍の長さである。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、無痛NGFが熱痛覚過敏を誘発しないことを示す。(
図2A)55℃での足引っ込め潜時(平均値±SEM、ANOVAに続いてベースラインに対するダネット多重比較);(
図2B)ベースラインからの侵害受容閾値の減少。
【
図3-1】
図3A~
図3Lは、NGF
R100WがCMT2B変異マウスにおいて足皮膚感覚神経の再生を促進することを示す。CMT2B変異マウスに野生型NGF(同側、
図3B、対側、
図3E)もしくはNGF
R100W(同側、
図3C、対側、
図3F)を週2回皮内注射したか、または該マウスを未処置のままとした(
図3A)。(
図3D)棒グラフ形式での染色切片におけるIENFの相対密度(平均グレイ値/単位面積)。注射の6週間後、マウスを屠殺し、後足皮膚を抽出し、固定し、切片にし、PGP9.5について染色した。Epi:表皮;SNP:表皮下神経叢;赤色矢印:IENF(上皮内神経線維)。ANOVA 平均値±SEM、
***p<0.005;
****p<0.001(ダネット検定)。無痛NGFは、無痛および野生型NGFによるATDC5細胞中での軟骨内骨化の同様のインビトロ刺激を示す。軟骨形成細胞をNGFまたはNGF
R100W 20g/mLで処理し、処理の1時間後または24時間後に遺伝子発現を(
図3G)Vegf、(
図3H)Axin 2、および(
図3I)IhhについてqRT-PCRにより測定した。(N=3、
**=p<0.01、
***p<0.005、チューキーHSDによる)。NGF
R100Wは軟骨細胞中で栄養活性を示す。NGF
R100W(緑色)は濃度0.2mgで上方制御軟骨内(インディアンヘッジホッグ、Ihh)ならびに骨形成(アルカリホスファターゼおよびオステオカルシン)遺伝子を通じてNGF
WT(青色)に比べて強化された生物活性を示した。ATDC5軟骨形成細胞を軟骨形成培地中で7日間培養した後、NGFまたはNGF
R100W 0.2または20mgを24時間かけて加えた。mRNAを単離し、(
図3J)インディアンヘッジホッグ、ihh、(
図3K)アルカリホスファターゼ、alp、および(
図3L)オステオカルシンを含む多くの遺伝子についてqRT-PCRを行った。
*p<0.05、
**p<0.01、
**p<0.005。
【
図4-1】
図4A~
図4Hは、軟骨内修復中の骨折仮骨内での神経成長因子(NGF)およびその受容体トロポミオシン受容体キナーゼA(TRKA)の内在性発現を示す。(
図4A)脛骨全体の肉眼的蛍光透視画像。赤色の枠は不安定型中央骨幹骨折を示す。(
図4B)骨折14日後の脛骨骨折仮骨のHBQ染色切片の代表画像(n=4)。スケールバー:1mm(
図4C)骨折14日後の軟骨・骨移行部(TZ)のNGF-eGFPとDAPIによる蛍光画像(n=4)。スケールバー:200μm(
図4D)骨折14日後のX-GAL染色仮骨の明視野画像(n=4)。矢印は仮骨内のLACZ+細胞のさらなる領域を示す。スケールバー:500μm(
図4E)骨折仮骨内のTZの高倍率画像。(
図4F)皮質骨の高倍率画像は染色を示さない。(
図4E、
図4F)スケールバー:200μm(
図4G、
図4H)骨折7日後、10日後、および14日後に骨折仮骨から採取された(
図4G)Ngfおよび(
図4H)TrkAのGapdhに対して正規化された相対発現(2-ΔCT)。エラーバーはSEMを表す。
*p<0.05;ANOVAおよびチューキー多重比較検定により確定。
【
図5-1】
図5A~
図5Dは、肥大軟骨期の局所β-NGF注射が骨形成マーカー発現を促進することを示す。(
図5A)骨折、および骨折4日後に開始するβ-NGFまたは対照(培地注射)0.5μgの1日3回の注射のタイムラインの模式図。(
図5B)最終注射の24時間後に採取された全仮骨組織に由来する選択された骨形成マーカーおよび血管新生マーカーの発現レベル。(
図5C)骨折、および骨折7日後に開始するβ-NGFまたは対照0.5μgの1日3回の注射のタイムライン。(
図5D)最終注射の24時間後に採取された全仮骨組織に由来する骨形成マーカーおよび血管新生マーカーの発現レベル。すべての発現レベルはGapdhに対して相対的であり、2-ΔCTにより計算される。エラーバーはSEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01;両側t検定により確定。
【
図6-1】
図6A~
図6C組換えヒトβ-NGF(β-NGF)が軟骨内骨形成に関する遺伝子発現プロファイルを促進することを示す。(
図6A)β-NGFで刺激された肥大軟骨中の異なって発現された遺伝子のボルケーノプロット。閾値を≧1log2倍変化(≧2倍変化に等しい)に設定し、軟骨内骨化関連マーカーを記載する(n=3)。(
図6B)上方制御分子機能カテゴリーはEnrichR(maayanlab.cloud/Enrichr/)により作成され、遺伝子オントロジー項目をp値ならびに対応する調整済みp値およびオッズ比によって分類する。(
図6C)Wnt活性化、PDGF結合、およびインテグリン結合に関連する遺伝子の相対発現を示すヒートマップ。p<0.05、Benjamini-Hochberg法。第1のパネルをRパッケージggplot2(バージョン3.2.1)により作成した(Ginestet 2020 J Bone Miner Res 35:143-154)。第3のパネルをBioconductor(Bioconductor.org)上でComplexheatmap(バージョン2.0)により作成した。
【
図7】RNA配列決定により作成された、β-NGF刺激軟骨外植片または無刺激軟骨外植片に由来する関心対象の遺伝子の発現レベルを列挙する表を示す。
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、β-NGF刺激肥大軟骨外植片のエンリッチメント解析を示す。(
図8A)β-NGFおよび無刺激対照の各生物学的複製に関する主成分解析(PCA)。(
図8B)下方制御分子機能に関する遺伝子オントロジー(GO)カテゴリカルグリッド。データを作成するために、軟骨組織を骨折の7日後に脛骨骨折部から切除し、肥大化まで7日間培養した後、組換えヒトβ-NGFありまたはなしで刺激した。24時間後、試料をRNA-seq解析(n=3)のために収集した。GO項目、p値、およびオッズ比をEnrichrによって作成およびコンピュータ計算した。GO項目をp値、Benjamini-Hochberg法により確定される調整済みp値によって分類する。
【
図9-1】
図9A~
図9Kは、β-NGFの局所注射がTZにおけるWnt活性化、および軟骨仮骨の内皮細胞浸潤の僅かな増加を誘導することを示す。(
図9A)骨折およびそれに続くβ-NGFの毎日の注射のタイムラインの模式図。(
図9B)対照群(培地注射)に由来する軟骨・骨移行部(TZ)のHBQ染色切片の代表画像、および(
図9C)対応する隣接スライドの蛍光DAPI染色画像。(
図9D)β-NGF処置マウスに由来するHBQ染色TZの画像、および対応する(
図9E)隣接スライドの蛍光DAPI染色画像。(
図9F)面積パーセント(%)としての骨折仮骨のTZ内のAxin2-eGFPの存在の定量化。(
図9G)対照群に由来する骨折仮骨内の軟骨組織のHBQ染色切片の画像、および(
図9H)対応する抗CD31ジアミノベンジジン(DAB)染色切片の画像。(
図9I)β-NGF処置群に由来するHBQ染色切片、および対応する(
図9J)CD31-DAB染色切片。(
図9K)面積パーセント(%)としての軟骨組織内のDAB染色の定量化。すべてのスケールバー=500μm。エラーバーはSEMを表す。
**p<0.01;両側t検定により確定。
【
図10-1】
図10A~
図10Iは、β-NGFの局所注射が軟骨の減少および骨の増加を生じさせることを示す。骨折14日後の(
図10A)対照群および(
図10B)β-NGF群に由来する骨折仮骨のHBQ染色切片の代表画像。スケールバー:500μm。(
図10C)絶対量および(
図10D)総仮骨量の組成パーセントとして示される、両処置群における軟骨量の定量化。(
図10E)絶対量および(
図10F)組成パーセントとして示される、両処置群における骨量の定量化。(
図10G)全仮骨量、(
図10H)骨髄、および(
図10I)線維組織の定量化。すべて立体解析学的に測定。エラーバーはSEMを表す。
*p<0.05;
**p<0.01;両側t検定により確定。
【
図11-1】
図11A~
図11Fは、β-NGFの局所注射が高度に接続された骨梁骨を生じさせることを示す。骨折14日後の(
図11A)対照および(
図11B)β-NGF処置マウスに由来する脛骨のμCT画像。スケールバー:1mm。(
図11C)骨梁間隔、(
図11D)骨梁数、(
図11E)骨梁連結性密度、および(
図11F)骨塩量の定量化。エラーバーはSEMを表す。
*p<0.05;
**p<0.01;両側t検定により確定。
【
図12】
図12A~
図12Cは、骨折仮骨内の骨梁骨のさらなるμCT解析を示す。骨折の7日後、8日後、および9日後に培地(対照)または0.5μgのβ-NGFの局所注射液を1日1回投与した後、骨折の14日後に脛骨をμCT解析のために採取した。(
図12A)組成パーセントとしての骨量、(
図12B)平均骨梁厚、および(
図12C)組織塩量の定量化を対照(n=10)およびβ-NGF(n=5)処置マウスについて示す。#=p<0.1、両側t検定により確定。
【
図13】フォトリソグラフィーによるPEGDMAマイクロロッド作製の模式図を示す。
【
図14-1】
図14A~
図14Dは、凍結乾燥PEGDMAマイクロロッドにタンパク質が容易に添加されることを示す。(
図14A)添加効率はPEGDMA濃度(% PEGDMA v/v)の増加に伴って有意に増加する。データを、SEMを表すエラーバー付きの平均値として示す。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、ANOVA、および多重比較用のチューキー事後検定(n=3)により確定。(
図14B)DAPI添加90% PEGDMAマイクロロッド、スケールバー=25μm。(
図14C)0分後(上部)および室温で60分間のインキュベーション後(下部)に撮影された、90% PEGDMAマイクロロッド中に添加されたFITC-BSAの蛍光顕微鏡写真。スケールバー=50μm。(
図14D)マイクロBCA(n=3)により測定された、90% PEGDMA(v/v)マイクロロッドに対するβ-NGFの添加効率。データを、SEMを表すエラーバー付きの平均値として示す。
【
図15】
図15A~
図15Cは、PEGDMAマイクロロッドに添加されたβ-NGFが生物活性を保持することを示す。(
図15A)各実験群におけるTF-1細胞増殖の相対変化倍率(4日目対0日目)。
*p<0.05、ANOVA、および多重比較用のチューキー事後検定(n=4)により確定。90% PEGDMマイクロロッドから時単位で示される7日間にわたって放出されるβNGFの(
図15B)累積質量(ng単位)および(
図15C)毎日の質量(ng単位)(n=4)。すべてのデータを、SEMを表すエラーバー付きの平均値として示す。
【
図16-1】
図16A~
図16Gは、脛骨骨折仮骨内のPEGDMAマイクロロッドの局在化を示す。マイクロロッド注射の5日後のHBQ染色骨折仮骨の(
図16A)低倍率および(
図16B)高倍率の代表的顕微鏡写真。マイクロロッド注射の7日後の骨折仮骨の(
図16C)低倍率および(
図16D)高倍率の代表的顕微鏡写真。矢印は仮骨内のPEGDMAマイクロロッドを示す。(
図16A、
図16C)スケールバー=1mm、(
図16B、
図16D)スケールバー=100μm。(
図16E)注射14日後の骨折仮骨の代表的顕微鏡写真、スケールバー=1mm。(
図16F)マウス脛骨で不安定型閉鎖骨折を作り出すために使用される3点骨折装置。(
図16G)脛骨全体の肉眼的蛍光透視画像。黄色の枠は中央骨幹骨折を示す。
【
図17-1】
図17A~
図17Jは、骨折仮骨内の新たに形成された骨のマイクロCT解析を示す。骨折の14日後に(
図17A)対照としての生理食塩水、(
図17B)1回量のβ-NGF(2000ng)、(
図17C)無添加PEGDMAマイクロロッド、および(
図17D)β-NGF(18ng)が添加されたPEGDMAマイクロロッドで処置されたマウスに由来する脛骨骨折仮骨の代表的三次元画像。スケールバー:1mm。(
図17E)骨量分率、(
図17F)骨梁連結性密度、および(
図17G)骨塩量の定量化。エラーバーはSEMを表す。
*p<0.05、
**p<0.01、ANOVA、および多重比較用のチューキー事後検定により確定。骨折仮骨内の骨梁骨のマイクロCT解析。生理食塩水(対照としての)、1回量のβ-NGF(2000ng)、無添加PEGDMAマイクロロッド、およびβ-NGF(18ng)が添加されたPEGDMAマイクロロッドで処置されたマウスにおける(
図17H)骨梁間隙、(
図17I)骨梁数、および(
図17J)骨梁厚の定量化。エラーバーはSEMを表す。非有意性はANOVA、および多重比較用のチューキー事後検定により確定される。
【
図18-1】
図18A~
図18Jは、β-NGFが添加されたPEGDMAマイクロロッドの単回注射の結果が軟骨内骨修復を促進することを示す。骨折の14日後に(
図18A)対照としての生理食塩水、(
図18B)1回量のβ-NGF(2000ng)、(
図18C)無添加PEGDMAマイクロロッド、および(
図18D)β-NGF(18ng)が添加されたPEGDMAマイクロロッドで処置されたマウスに由来するHBQ染色骨折仮骨の代表的顕微鏡写真。左列のスケールバー=2mm、中列および右列のスケールバー=500μm。いずれも骨折仮骨の組成パーセントとして示される、(
図18E)軟骨量および(
図18F)骨量の定量化。骨折仮骨の組織形態計測的解析。生理食塩水(対照としての)、1回量のβ-NGF(2000ng)、無添加PEGDMAマイクロロッド、およびβ-NGF(18ng)が添加されたPEGDMAマイクロロッドで処置されたマウスにおける(
図18G)総仮骨量、(
図18H)線維組織の絶対量、(
図18I)軟骨の絶対量、および(
図18J)骨の絶対量の定量化。エラーバーはSEMを表す。
*p<0.05、ANOVA、および多重比較用のチューキー事後検定により確定。
【
図19】ポリマーナノワイヤの作製技術を示す。200nm孔を有する陽極酸化アルミニウム(AAO)テンプレートを使用してナノワイヤを作製する。ポリマー材料を融点を超えて加熱することで毛管作用を通じたナノワイヤ形成を引き起こす。ナノワイヤの凝固後、膜を剥離し、エッチングしてナノワイヤを離型する。ナノワイヤは、幅が200nmである一方で、長さはポリマー膜厚に依存し、長さは2~20ミクロンの範囲で調整可能である。
【
図20】
図20A~
図20Cは、NGF機能化ナノワイヤの積層構築を示す。(
図20A)PCLナノワイヤを積層(LbL)構築およびヘパリンに対するNGFの添加のために荷電ポリマーで機能化することができる。(
図20B)ゼータ電位はナノワイヤに対するキトサンおよびヘパリンの堆積を示す。(
図20C)LbL層とNGF放出速度との仮定上の関係性。
【
図21】
図21A~
図21Dは、生物活性NGFの持続放出のために生体材料プラットフォームが調整可能であることを示す。(
図21A)PEGDMマイクロロッド中に添加されたNGFの吸着効率をmBCAアッセイを使用して計算した。(
図21B)90% PEGDMマイクロロッド中に加えられたNGF約20ngを用いて、タンパク質放出を7日間にわたって特徴づけた。(
図21C)NGFを75%の効率でナノワイヤに約5μg NGF/mgナノワイヤで添加した後、1つのキトサン層を添加した。持続的な一次NGF放出が8日間にわたって観察された(R2=0.999)。(
図21D)PEGDMマイクロロッドから放出されたNGFの生物活性をTF1細胞増殖アッセイを使用して確認した。
*p<0.05、
**p<0.01
【
図22】
図22A~
図22Cは、軟骨内修復を促進する治療において、CXM曲線のピークが左に移動する新規バイオマーカーを通じて、治癒促進を検出することができたことを示す。(
図22A)雄マウスおよび雌マウスにおける骨折修復中の血清Cxmバイオマーカー(n>8/性)、(
図22B)骨折仮骨中のcolXa1遺伝子発現のqRT-PCR(n=5/性)、(
図22C)移行部におけるColX免疫組織化学的検査(褐色)。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本方法を説明する前に、記載される特定の方法および実験条件が変動することがあることから、本開示が当該の方法および条件に限定されないということを理解すべきである。また、本開示の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることから、本明細書において使用される用語が、特定の実施形態を記述することのみを目的としており、限定を行うようには意図されていないということを理解するべきである。
【0042】
別途定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と同様または同等である任意の方法および材料を本開示の実施または試験において使用することができるが、ここでは好ましい方法および材料を記載する。本明細書において言及されるすべての刊行物は、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0043】
定義
本明細書において使用される「骨折」という用語は、骨の連続性の部分的または完全な中断を意味する。骨折は閉鎖骨折または開放(複雑)骨折であることがある。骨折は置換することができる。毛髪様骨折とも呼ばれる疲労骨折もやはり骨折である。骨折は横骨折、らせん骨折、斜骨折、圧迫骨折、粉砕骨折、剥離骨折、嵌入骨折などであることがある。骨折はX線画像診断、磁気共鳴画像診断(MRI)、骨スキャン、コンピュータ断層撮影スキャン(CT/CATスキャン)、または他の公知の方法によって診断することができる。
【0044】
本開示の方法、使用、および組成物の特定の実施形態では、骨折は、二次治癒または軟骨内修復を通じて治癒する任意の骨中での骨折である。さらなる実施形態では、骨折は長管骨骨折である。
【0045】
骨折処置は伝統的に骨折の位置、種類、および重症度に依存する。処置としては、骨を整復した後、プラスターまたはガラス繊維ギプスで固定化すること、骨を整復した後、機能的ギプスまたはブレースにより部分固定化すること、スプリントによる支持/部分固定化、内固定による観血的整復、外固定による観血的整復、および臨床医に公知である他の方法を挙げることができる。
【0046】
さらに、本開示の方法および組成物は骨粗鬆症の徴候において有用であることがある。1つの骨粗鬆症の徴候は骨粗鬆症性骨折である。骨粗鬆症性骨折は例えば非定型大腿骨頸部骨折であることがある。
【0047】
さらに、本開示の方法および組成物は頭蓋顔面徴候において有用であることがある。頭蓋顔面徴候は例えば狭頭症/頭蓋縫合早期癒合症、口蓋裂、下顎骨骨折、頭蓋骨骨折、および頭蓋骨欠損からなる群から選択可能である。
【0048】
「治療有効量」という語句は、投与される目的である所望の作用を生じさせる量を意味する。正確な量は処置の目的に依存するものであり、当業者が公知の技術を使用して確定する(例えばLloyd(1999年)、The Art、kScience and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照)。
【0049】
本明細書において使用される「対象」という用語は動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを意味する。したがって、本開示の対象としては、ヒト、ならびにチンパンジーならびに他の類人猿およびサル種などの他の霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、およびウマなどの家畜;イヌおよびネコなどの飼育哺乳動物;マウス、ラット、およびモルモットなどのげっ歯類を含む実験動物;ニワトリ、シチメンチョウ、および他の家禽類、アヒル、ガチョウなどの飼育鳥、野鳥、および猟鳥を含む鳥類を挙げることができるがそれに限定されない。特定の実施形態では、対象はヒトである。この用語は、骨折を有するヒト対象を含む哺乳動物対象を含む。
【0050】
本明細書において使用される「処置する」、「処置すること」、または「処置」という用語は、それを必要とする対象における骨折の治癒を意味する。これらの用語は、実際の骨折の治癒を含み、さらにまたは代わりに、骨折に関連する症状、例えば疼痛、炎症、可動性低下などを改善することを含むことがある。
【0051】
骨折治癒
骨折治癒とは、損傷骨の本来の形態および機能を改善に回復させることができる動的再生プロセスのことである。骨折の大部分は、骨成長において軟骨内骨化(EO)と類似したプロセスにおいて中間軟骨を通じて間接的に治癒する(
図1)。長管骨骨折の後、血腫が形成されて出血を止め、デブリを収容し、修復を開始させる炎症性応答を引き起こす(Kolarら、2010年、Tissue Engineering,Part B,Reviews 16:427~434頁;Xingら、2010年、J Orthopaedic Res 28:1000~1006頁)。骨膜および骨内膜の前駆細胞は、骨形成分化を経ることで、骨折に隣接する既存の骨端に沿って膜内骨化を通じて新たな骨を形成する(Colnotら、2009年、J Bone Miner Res 24:274~282頁)。骨折間隙中で、骨膜前駆細胞は軟骨細胞に分化して、EOによって間接的に骨を生じさせる暫定的な軟骨基質を生成する(Leら、2001年、J Orthopaed Res 19:78~84頁)。l軟骨仮骨は軟骨細胞から骨芽細胞への変換を通じて骨に成熟する(Huら、2017年、Development 144:221~234頁;Zhouら、2014年、PloS genetics 10:e1004820;Yangら、2014年、PNAS USA 1302703111)。次に、新たに形成された骨梁骨は皮質骨にリモデリングされる(Drissiら、2016年、J Cellular Biochem 117:1753~1756頁)。
【0052】
骨折治癒は、炎症期(骨折血腫の形成)、修復期(その間に身体が骨折部位の中および周囲に軟骨および組織を発生させ、仮骨が成長して骨折を安定化し、骨梁骨が組織仮骨を置き換える)、および骨リモデリング期(その間に海綿骨が固形骨で置き換えられる)を含む。骨折治癒/修復の炎症期に、生物学的プロセスである血腫、炎症、および間葉系幹細胞の動員が生じる。骨折治癒/修復の軟骨形成および骨膜応答期に、生物学的プロセスである軟骨形成および軟骨内骨化、膜内骨化中の細胞増殖、血管成長、ならびに血管新生が生じる。骨折治癒/修復の軟骨吸収および一次骨形成期に、生物学的プロセスである活発な骨形成、骨細胞動員および網状骨形成、軟骨細胞アポトーシスおよび基質タンパク質分解、破骨細胞動員および軟骨吸収、ならびに血管新生が生じる。最後に、骨折治癒/修復の二次骨形成およびリモデリング期に、生物学的プロセスである骨リモデリングと骨芽細胞活動との組み合わせ、および骨髄の確立が生じる(Al-Aqlら、2008年、J Dent Res 87(2):107~118頁)。
【0053】
特定の実施形態では、対象は正常な骨折治癒を経験していない。特定の実施形態では、このような対象は変形癒合(変形した非解剖学的な位置における骨折治癒;機能的および/もしくは美容的に許容できないことがある)、遷延癒合(予想/平均骨折治癒時間よりも有意に長い、例えば約2倍長い)、または偽関節(壊れた骨が合体できないこと)の骨折治癒を経験していることがある。
【0054】
平均骨折治癒時間は特定の骨、および/または骨の領域中の血液供給のレベルに応じて異なることがある。例えば、脊椎、手首などのような高血液供給領域に存在する骨折は、舟状骨(手根骨)、脛骨(脚骨)などのような低血液供給領域に存在する骨折よりも早く治癒する。また、平均骨折治癒時間は対象の年齢に応じて異なることもあり、同じ骨折が治癒するまでの時間は高齢者では子どもの2倍になることがある。臨床医は、一般的な治癒時間の範囲を承知しており、対象において骨折治癒の遷延を同定することができる。
【0055】
骨折治癒を遷延させることがある要因としてはグルココルチコイド過剰、糖尿病、ホルモン不均衡、ビタミンD欠乏症、重症貧血、傷害、感染症、新生物、代謝疾患、喫煙、骨折部位における過可動性、骨端の分離、および滑液による薄弱化が挙げられるがそれに限定されない。
【0056】
1つの態様では、本開示は、対象において骨折治癒を刺激するための方法であって、神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体を含む医薬組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。1つの実施形態では、骨折治癒を刺激することは、軟骨から骨にいっそう速やかに変換すること、ならびに骨の質を改善すること、および/またはより良い骨構造を形成することを含む。
【0057】
別の態様では、本開示は、対象において骨折治癒を促進するための方法であって、神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体を含む医薬組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。1つの実施形態では、骨折治癒を促進することは、軟骨から骨にいっそう速やかに変換することを含む。
【0058】
別の態様では、本開示は、対象において骨折治癒を改善するための方法であって、神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体を含む医薬組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。1つの実施形態では、骨折治癒を改善することは、骨の質を改善すること、および/またはより良い骨構造を形成することを含む。
【0059】
別の態様では、本開示は、骨折を有する対象を処置するための方法であって、本開示の医薬組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。本開示の方法の特定の実施形態では、骨折部中で骨形成が増加する。
【0060】
本開示の方法、使用、および組成物の特定の実施形態では、骨折治癒は軟骨内治癒である。骨折治癒は軟骨内骨化の間に刺激、促進、および/または改善される。したがって、特定の実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体を含む組成物は、骨折治癒の軟骨内期/軟骨期に投与される。特定の実施形態では、臨床医は、本開示の組成物の投与のために、経験的判断、患者の報告による疼痛の減少、骨折部の剛性/可動性の増加、および軟仮骨期がいつピークに達するかを推定するためのX線中の「かすんだ」外見を使用する。さらなる実施形態では、組成物は骨折の約1カ月後~約4カ月後に投与される。さらに別の実施形態では、組成物は骨折の約2カ月後~約3カ月後に投与される。さらなる実施形態では、治癒が遷延する/遷延癒合が観察される場合、本開示の組成物が少なくとも再度投与される。
【0061】
無痛NGF
本開示の方法、組成物、および使用の1つの実施形態では、生物活性化合物はNGFである。本開示の方法、組成物、および使用の別の実施形態では、生物活性化合物は変異NGFである。本開示の方法、組成物、および使用のさらに別の実施形態では、生物活性化合物はNGFR100Wまたは無痛NGFである。したがって、対象に投与される生体材料担体に変異NGF、具体的にはNGFR100Wが含まれる実施形態では、NGF関連侵害受容が最小化される。
【0062】
遺伝性感覚自律神経性ニューロパチーV型を有する患者における、成熟NGFβ配列中で100番残基においてアルギニンからトリプトファンへの変化を生じさせる天然点変異(NGFR100W)の最近の発見は、侵害受容機能から栄養作用を切り離すことが可能であることを示唆している(Sungら、2018年、J Neurosci 38:3394~3413頁)。野生型NGFと同様に、NGFR100W変異体も、TrkA受容体に結合し、その下流シグナル伝達経路を活性化することで、NGFに関連する栄養機能を支えることが可能である。しかし、NGFR100Wは、p75NTRシグナル伝達経路に関与することで急性の熱痛覚過敏および機械痛覚過敏を除去することができない。同様に、R100位における他の変異(NGFR100EおよびNGFP61SR100E)も、これらの変異NGFをTrkAに有効に結合させるが、p75NTRに対するNGF結合は無効になる(Capsoniら、2011年、PloS one 6:e17321;Covaceuszachら、2010年、Biochem biophys res comm 391:824~829頁)。非遺伝的アプローチを使用する研究では、p75NTR中和抗体を注射することで、NGF誘発性痛覚過敏が遮断される一方で、感覚神経中の活動電位のNGF媒介性感作が可能になることが発見された(Watanabeら、2008年、J Neurosci Res 86:3566~3574頁;Zhangら、2004年、Neurosci Lett 366:187~192頁)。
【0063】
図2Aおよび
図2Bは、無痛が真に無痛であることを示す。
図3A~
図3Fは、無痛NGFが、疼痛を誘発しないにもかかわらず、真に再生的であることを示す。
【0064】
骨折修復を刺激するための新規バイオ医薬品としての無痛NGF(NGFR100W)の評価が本明細書に開示される。
【0065】
生体材料担体
本開示の方法、使用、または組成物の1つの実施形態では、生体材料担体は生体適合性である。本明細書において使用される「生体適合性」という用語は、生体系または生組織、例えば動物または動物組織、例えばヒトまたはヒト組織との適合性があること、毒性がなく、傷害性がなく、もしくは生理学的反応性がなく、かつ/または有害な免疫反応を引き起こすことがないことを含意する。
【0066】
本開示の方法、使用、または組成物の別の実施形態では、生体材料担体は生分解性である。本明細書において使用される「生分解性」という用語は、例えば動物対象において、例えばヒト対象において、天然系またはその天然成分によって無害な産物に特に分解される能力を含意する。
【0067】
さらに別の実施形態では、生体材料担体の構造はナノワイヤ、ナノチューブ、ナノロッド、マイクロワイヤ、マイクロチューブ、およびマイクロロッドからなる群から選択される。棒状の形状を有する生体材料担体(例えばチューブ、ロッド、ワイヤ)は高アスペクト比の利点を享受する。
【0068】
いくつかの実施形態では、生体材料担体は組織適合性物質でコーティングされている。特定の実施形態では、組織適合性物質は抗炎症性物質および/または抗凝固性物質である。さらなる特定の実施形態では、組織適合性物質はキトサンである。さらなる特定の実施形態では、組織適合性物質は、成長因子の放出を遅延させかつ/または延期する物質である。なおさらなる実施形態では、組織適合性物質はヘパリン、ヘパリン硫酸、ヒアルロン酸、およびヘパリン+ヒアルロン酸の組み合わせから選択される。
【0069】
無痛NGFの局所制御送達に関する翻訳的に適切なマイクロテクノロジーおよびナノテクノロジープラットフォームの開発が本明細書に開示される。ナノワイヤとして作製されたポリカプロラクトン(PCL)ポリマーをベースとする注射式バイオインスパイアード薬物送達プラットフォームが、サイトカイン媒介性疾患に関して局所受容体-リガンド相互作用を調節するために、また、全身サイトカイン療法に比べて改善された薬物動態を実現するために使用されている(Zamecnikら、2017年、ACS Nano 11:11433~11440頁)。注射時に、これらのナノワイヤは、緩やかな網目構造に自己構築されて、皮下マウスモデルでは定位置に少なくとも9日間とどまることが可能になる。
【0070】
これらのナノワイヤ、ナノチューブ、ナノロッド、マイクロワイヤ、マイクロチューブ、およびマイクロロッドは、非外科的送達技術を高い臨床的関連性で可能にするように設計された。それらは、サイズが小さいことから、骨折部位に対する経皮送達のために容易に注射可能であり、正常な治癒プロセスに干渉しないはずである。
【0071】
他の実施形態では、ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノロッド、マイクロワイヤ、マイクロチューブ、およびマイクロロッドは、その形状が理由でマクロファージによって容易には貪食されず、結果として線維化組織の形成を減少させる。
【0072】
さらなる実施形態では、生物活性化合物を含む生体材料担体は該化合物を安定化する。例えば、マイクロロッドまたはナノワイヤは、それらが含むNGFまたは無痛NGFを安定化することができる。おそらく、この安定化は、生体材料が化合物を分解から保護することに関連している。さらに、生体材料担体により実現される制御放出では、生物活性化合物を減らすことが必要になる。というのも、後者がゆっくりと送達されて、速やかには分解されないからである。したがって、特定の実施形態では、NGFまたは無痛NGFがマイクロワイヤまたはナノロッドに含まれる場合、その生物活性を実現するために必要な量は、それ自体で投与される場合よりも少なくなる。
【0073】
ナノワイヤ
本開示の方法、使用、および組成物の特定の実施形態では、生体材料担体は個々のポリマーナノワイヤ(「ナノワイヤ」)を含む。さらなる実施形態では、ナノワイヤは少なくとも1つの生物活性化合物、例えば無痛NGFを含む。本明細書において使用される「個々のポリマーナノワイヤ」という用語は、個々の各ナノワイヤが溶液中の任意の他のナノワイヤに接合しない流体溶液中に、別々の浮動するポリマーナノワイヤを含む、組成物を意味する。特に、本組成物の個々のポリマーナノワイヤは、互いに一緒に接続(例えば共有結合)されていることも、共通の基材に固定されていることもない。個々のポリマーナノワイヤは、テンプレート構造の平行孔の垂直整列中に形成されており、各ポリマーナノワイヤ間の恒久的な接続、またはポリマーナノワイヤと基材との結合が存在しないように取り除かれる。
【0074】
制御局所NGF送達のためのナノワイヤプラットフォーム
骨折修復を刺激するための新規生物学的薬剤としての無痛NGF(NGFR100W)を検証することに加えて、制御局所送達のための翻訳的に適切なナノテクノロジープラットフォームが本明細書に開示される。これを達成するために、ナノワイヤとして作製されたポリカプロラクトン(PCL)ポリマーをベースとするバイオインスパイアード薬物送達プラットフォームを調整する。この注射式ナノ材料を、サイトカイン媒介性疾患に関して局所受容体-リガンド相互作用を調節するために、また、全身サイトカイン療法に比べて改善された薬物動態を実現するために使用することができる(Kronenberg、2003年、Nature 423:332~336頁)。注射時に、これらのナノワイヤは、緩やかな網目構造に自己構築されて、皮下マウスモデルでは定位置に少なくとも9日間とどまることが可能になる(データは示さず)。PCLがベースポリマーとして選択されたのは、この高度に調整可能で生分解性の熱可塑性材料がナノ作製技術に適しており、この材料が既に縫合術においてFDAの承認を得ているからである(Bahneyら、2014年 J Bone Mineral Res 29(5)doi:10.1002/jbmr.2148)。さらに、PCLは、比較的大きな医療用インプラント中で使用される際に誘発する局所免疫応答が最小限であることが示されており(Shinodaら、2011年 J Neuroscience 31(19):7145~7155頁)、これは、有意な非特異的免疫応答を示したポリプロピレンおよびポリラクチド-co-グリコリド(PLGA)とは対照的である(Hopkins and Slack、1984年、Neuroscience 13(3):951~956;Sonnetら、2013年、J Orthopaedic Res 31:1597~1604年;Stukelら、2015年、J Biomed Materials Res Part A 103:604~613頁)。
【0075】
PCLナノワイヤプラットフォーム技術は、積層(LbL)静電構築アプローチを使用して、NGFR100Wの結合を通じて生物活性に関して機能化される(Kronenberg、2003年、Nature 423:332~336頁)。PCLナノワイヤは、キトサン(正電荷)およびヘパリン(負電荷)を該ナノワイヤに静電的に集合させるために利用される強力な負電荷を有している。キトサンは、負電荷に加えて、抗菌性を有しており、したがって、医療機器コーティングおよび薬物送達システムにおいて順調に使用されている(Olabisiら、2010年、Tissue Engineering Part A 16:3727~3736頁;Xuら、2017年、Biomaterials 147:1~13頁;Rotら、2014年、Developmental Cell 31:159~170頁)。ヘパリンは、中程度~高い親和性でNGFを含む種々の成長因子に結合しかつそれを安定化する能力が理由で選択されたものであり、成長因子カーゴをナノワイヤに添加するモジュール式の手段を提供する。
【0076】
本開示の方法および組成物のナノワイヤは、非外科的送達技術を高い臨床的関連性で可能にするように設計されている。特定の実施形態では、PCLナノワイヤは直径約200nmおよび長さ約15~20μmである。それらは、サイズが小さいことから、いくつかの現行の材料がそうであると示されたように、骨折部位に対する経皮送達のために容易に注射可能であり、正常な治癒プロセスに干渉しない(Parekhら、2011年、Biomaterials 32:2256~2264頁)。
【0077】
少なくとも1つの生物活性化合物は例えば非共有結合性相互作用(例えばイオン力、双極子-双極子相互作用、水素結合)によって、または1つもしくはそれ以上の共有結合によって、ポリマーナノワイヤの孔部に吸着可能であり、またはポリマーナノワイヤの表面に固定可能である。本ポリマーナノワイヤは、例えば組成物を標的部位に注射することによって、経口摂取、経鼻吸入、もしくは静脈内送達の後にポリマーナノワイヤを局在化することによって、またはインプラント装置からポリマーナノワイヤを標的部位において放出することを通じて、少なくとも1つの生物活性化合物を標的部位に送達するように構成されている。ポリマーナノワイヤ、およびポリマーナノワイヤを含む組成物を調製するための方法は、例えばUS20200023068に記載されている。
【0078】
生物活性化合物の量は適用部位、処置される状態、および所望の生物活性の種類に依存する。いくつかの実施形態では、個々のポリマーナノワイヤは0.001ng以上の生物活性剤、例えば0.01ng以上、0.0001μg以上、例えば0.001μg以上、例えば0.01μg以上、例えば0.1μg以上、例えば1μg以上、例えば10μg以上、例えば25μg以上、例えば50μg以上、例えば100μg以上、例えば500μg以上、例えば1000μg以上、例えば5000μg以上、例えば10,000μg以上の生物活性化合物を含むことができる。生物活性化合物をポリマーナノワイヤに液体として組み入れる場合、生物活性化合物の濃度は0.0001ng/mL以上、例えば0.001ng/mL以上、例えば0.01ng/mL以上、例えば0.1ng/mL以上、例えば0.5ng/mL以上、例えば1ng/mL以上、例えば2ng/mL以上、例えば5ng/mL以上、例えば10ng/mL以上、例えば25ng/mL以上、例えば50ng/mL以上、例えば100ng/mL以上、例えば500ng/mL以上、例えば1000ng/mL以上、例えば5000ng/mL以上、例えば10,000ng/mL以上とすることができる。
【0079】
個々のポリマーナノワイヤに結合する生物活性化合物の量に応じて、個々のポリマーナノワイヤの組成物は、0.001nM以上、例えば0.005nM以上、例えば0.01nM以上、例えば0.05nM以上、例えば0.1nM以上、例えば0.5nM以上、例えば1nM以上、例えば5nM以上、例えば10nM以上、例えば50nM以上、例えば100nM以上、例えば250nM以上、例えば500nM以上である生物活性化合物の濃度を有する。
【0080】
特定の実施形態では、ポリマーナノワイヤは、少なくとも1つの生物活性化合物を標的部位において放出するように調製されている。1つの実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物は、本組成物中の個々の各ポリマーナノワイヤの孔部内から放出される。別の実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物は、ポリマーナノワイヤと生物活性化合物との間のリンカーの切断によって放出される。例えば、リンカーは酵素的に切断されるかまたは加水分解により切断されることがある。リンカーが酵素的に切断される場合、関心対象のリンカーは酵素的に切断可能な部分を含むことがある。
【0081】
ポリマーナノワイヤによる生物活性化合物の放出は持続放出またはパルス放出であることがある。「持続放出」とは、生物活性化合物が、ポリマーナノワイヤが投与部位との接触を維持している期間全体にわたって、例えば1分以上、例えば5分以上、例えば10分間以上、例えば15分間以上、例えば30分間以上、例えば45分間以上、例えば1時間以上、例えば6時間以上、例えば12時間以上、例えば1日間以上、例えば2日間以上、例えば5日間以上、例えば10日間以上、例えば15日間以上、例えば30日間以上、例えば100日間以上にわたって、少なくとも1つの生物活性化合物の恒常的および連続的な送達を行うように、ポリマーナノワイヤと結合していることを意味する。例えば、生物活性化合物は、上記範囲、例えば1日間~30日間、例えば2日間~28日間、例えば3日間~21日間、例えば4日間~14日間、例えば5日間~10日間にわたって、恒常的および連続的な送達を行うように、ポリマーナノワイヤと結合していることがある。
【0082】
他の実施形態では、個々のポリマーナノワイヤは、少なくとも1つの生物活性化合物のパルス放出を行うように構成されている。「パルス放出」とは、ポリマーナノワイヤが少なくとも1つの生物活性化合物を投与部位中に逐次(例えば別々の時点で)、例えば1分毎に、例えば5分毎に、例えば10分毎に、例えば15分毎に、例えば30分毎に、例えば45分毎に、1時間毎に、例えば2時間毎に、例えば5時間毎に、例えば12時間毎に、例えば24時間毎に、例えば36時間毎に、例えば48時間毎に、例えば72時間毎に、例えば96時間毎に、例えば120時間毎に、例えば144時間毎に、例えば168時間毎に、または何らかの他の一定間隔で放出することを意味する。
【0083】
他の実施形態では、本ポリマーナノワイヤは経時的に分解性であり、特定の量のポリマーナノワイヤが分解された後に少なくとも1つの生物活性化合物を送達する。例えば、投与部位において10%毎のポリマーナノワイヤが分解された後に、例えば15%毎のポリマーナノワイヤが分解された後に、例えば20%毎のポリマーナノワイヤが分解された後に、例えば25%毎のポリマーナノワイヤが分解された後に、例えば30%毎のポリマーナノワイヤが分解された後に、例えば33%毎のポリマーナノワイヤが分解された後に、ある量の少なくとも1つの生物活性化合物が送達されることがある。
【0084】
さらに他の実施形態では、本開示において使用される個々のポリマーナノワイヤは、標的部位において投与後直ちに、大量の少なくとも1つの生物活性化合物を放出し、例えば50%以上、例えば60%以上、例えば70%以上、例えば90%以上の少なくとも1つの生物活性化合物が投与後直ちに放出される。さらに他の実施形態では、個々のポリマーナノワイヤは少なくとも1つの生物活性化合物を所定の速度で、例えば実質的にゼロ次の放出速度で、例えば実質的に一次の放出速度で、または実質的に二次の放出速度で放出する。
【0085】
特定の実施形態では、個々のポリマーナノワイヤは、10nm~500nm、例えば15nm~400nm、例えば20nm~300nm、例えば25nm~200nm、例えば50nm~100nmの範囲の直径、例えば200nmの直径を有することがあり、また、0.01μm以上、例えば0.05μm以上、例えば0.1μm以上、例えば0.5μm以上、例えば1μm以上、例えば2μm以上、例えば3μm以上、例えば5μm以上、例えば10μm以上、例えば15μm以上、例えば20μm以上、例えば25μm以上、例えば30μm以上、例えば50μm以上、例えば100μm以上、例えば150μm以上、例えば200μm以上、および250μm以上、またはそれ以上である長さを有することがある。さらなる実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物を有する個々のポリマーナノワイヤは約10μm~約20μmの長さおよび約10nm~約500nmの直径を有する。
【0086】
マイクロロッド
本開示の方法、使用、および組成物の特定の実施形態では、生体材料担体はマイクロロッドを含む。さらなる実施形態では、マイクロロッドは少なくとも1つの生物活性化合物、例えば無痛NGFを含む。マイクロロッドは任意の三次元形状を有することができる。いくつかの実施形態では、マイクロロッドは任意の正多面体、任意の不規則多面体、およびその組み合わせの三次元形状を有する。いくつかの実施形態では、マイクロロッドの形状は特定の組織によって、特定の組織中の特定の位置によって、または特定の投与様式もしくは埋め込み様式によって規定される。例えば、注射用スキャフォールドは、注射流中の流動に適した形状のマイクロロッドを必要とすることがある。
【0087】
特定の実施形態では、表面積が増加したマイクロロッドが有利である。任意のマイクロロッドの表面積を、例えばテクスチャード加工表面を有するマイクロロッドを合成することで、かつ/または、例えば多孔質であるようにして、増加させることができる。マイクロロッドおよびそれらの調製は米国特許第8,591,933号に記載されている。
【0088】
特定の実施形態では、本明細書において生体材料担体として使用されるマイクロロッドは1つまたはそれ以上のポリマー、1つまたはそれ以上の共重合体、1つまたはそれ以上のブロックポリマー(ジブロックポリマー、トリブロックポリマー、および/または高次マルチブロックポリマーを含む)、ならびにその組み合わせから合成される。有用なポリマーとしてはポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(PEGDMA)、SU-8、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ-カプロラクトン、およびエラスチン/カプロラクトン、コラーゲン-GAG、コラーゲン、フィブリン、ポリ(無水物)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(プロピルフラメート)、ポリアミド、ポリアミノ酸、ポリアセタール、生分解性ポリシアノアクリレート、生分解性ポリウレタンおよび多糖、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリスチレン、ポリエステル、非生分解性ポリウレタン、ポリ尿素、ポリ(エチレン酢酸ビニル)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリ(エチレンオキシド)、ポリジオキサノン、チロシンをベースとする「疑似ポリアミノ酸」、チロシン由来ポリカーボネート、ポリ(DTE-co-DTカーボネート)、チロシン由来ポリアクリレート、ポリ無水物、トリメチレンカーボネート、ポリ(β-ヒドロキシブチレート)、ポリ(g-エチルグルタメート)、ポリ(DTHイミノカーボネート)、ポリ(ビスフェノールAイミノカーボネート)、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、およびポリホスファゼン、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリ(DL-ラクチド-co-ε-カプロラクトン)(DLPLCL)、修飾多糖(セルロース、キチン、デキストラン)、修飾タンパク質、カゼインおよび大豆をベースとする生分解性熱可塑性材料、コラーゲン、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)とポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)とのマルチブロック共重合体、ポリロタキサンが挙げられるがそれに限定されない。他の実施形態では、マイクロロッドは1つまたはそれ以上のリン脂質から形成される。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、1つもしくはそれ以上のカチオン性ポリマー(ポリ(a-[4-アミノブチル]-L-グリコール酸)、または1つもしくはそれ以上のシリコーン-ウレタン共重合体。さらに他の実施形態では、マイクロロッドは上記ポリマーのいずれかの共重合体、上記ポリマーの混合物、および/または上記ポリマーの付加物から形成される。当業者は、本スキャフォールドのマイクロロッドを作製するために任意の他の公知のポリマーが好適であることを容易に認識するであろう。特定の実施形態では、PEG組成物が、孔径を制御することで薬物放出を制御するために有意義である。
【0089】
フォトリソグラフィーを使用することで、PEGDMAマイクロロッドを高スループットで製造することができる。さらに、90%(v/v)PEGDMAマクロマーを使用することで、PEGDMAマイクロロッドに対するβ-NGF添加量を増加させることができる。架橋密度を調整することで、ヒドロゲル内のポリマーメッシュサイズ、ならびに引き続く薬物の添加および放出を変化させることができる(HoareおよびKohane、2008年、Polymer 49:1993~2007頁;LiおよびMooney、2016年、Nature Reviews Materials 1:1~17頁)。PEGの濃度増加は添加能力の増加を示した(Stukelら、2015年、J Biomed Materials Res Part A 103:604~613頁)。DAPIなどの低分子量分子とFITC-BSAなどの高分子量分子との間で、添加に関する著しい目視差は明らかである。DAPIはPEGDMAマイクロロッドを均一に染色し、一方、FITC-BSAは添加後直ちにPEGDMAマイクロロッドの表面で大部分が可視化される。DAPIが分子量0.277kDaを有し、これに比べてFITC-BSAが67kDaサイズであるという前提で、サイズが小さい分子の方がPEGDMAポリマーメッシュ網目構造を横切ってまたはその中に容易に拡散可能であることが、顕微鏡写真により確認された(データは示さず)。
【0090】
添加β-NGFがその生物活性を保持したことを示すために、TrkA発現TF-1細胞株を使用してインビトロ増殖アッセイを行った(MaおよびZou、2013年、J Applied Virology 2(2):32)。添加アッセイで100,000個が使用されたのに対し、このアッセイは16,000個のPEGDMAマイクロロッドで行われた。これは、16,000個のみが、インビボ実験に使用される20μLシリンジ中で有効に吸引可能であったからである。マイクロロッド100,000個中に加えられた総タンパク質の約30~40%が約1~2mgであると計算された。したがって、最高計算値2μg(2000ng)をマイクロロッド16,000個中に添加し、すべての並行実験について可溶性NGF量として設定した。しかし、高度に特異的なELISAアッセイでは16,000個のPEGDMAマイクロロッド中で約18ngのβ-NGFしか測定されなかった。このことは、一部のβ-NGFタンパク質が添加または溶出中に天然の分子配置を失い、それにより生物活性を減少させることがあるということを示唆している。おそらく、マイクロBCAアッセイとELISA計算値との間の矛盾は、β-NGFの非共有結合性ホモ二量体高次構造の妨害、またはマイクロBCAアッセイの非特異性に起因する可能性がある。にもかかわらず、生物活性β-NGF 18ngを含む16,000個のPEGDMAマイクロロッドは、おそらくは96時間の実験期間にわたるβ-NGFの持続放出を動因とする、TF-1細胞増殖に対する強力な作用を示した。無添加PEGDMAマイクロロッドと共に培養された細胞の増殖の僅かな増加も観察された。本明細書ではPEGDMAマイクロロッドの分解産物は評価しなかったが、低濃度のPEGが細胞増殖を僅かに上昇させ、これがTF-1細胞増殖の一因となっている可能性があるということは既に示されている(Bahneyら、2014年、J Bone Mineral Res 29(5))。
【0091】
特定の実施形態では、マイクロロッドは平均でそれぞれ約0.01ミクロン、約0.05ミクロン、約0.1ミクロン、約0.5ミクロン、約1ミクロン、約5ミクロン、約10ミクロン、約15ミクロン、約20ミクロン、約25ミクロン、約30ミクロン、約35ミクロン、約40ミクロン、約45ミクロン、約50ミクロン、約55ミクロン、約60ミクロン、約65ミクロン、約70ミクロン、約75ミクロン、約80ミクロン、約85ミクロン、約90ミクロン、約95ミクロン、約100ミクロン、約105ミクロン、約110ミクロン、約115ミクロン、約120ミクロン、約125ミクロン、約130ミクロン、約135ミクロン、約140ミクロン、約145ミクロン、約150ミクロン、約155ミクロン、約160ミクロン、約165ミクロン、約170ミクロン、約175ミクロン、約180ミクロン、約185ミクロン、約190ミクロン、約195ミクロン、約200ミクロン、約205ミクロン、約210ミクロン、約215ミクロン、約220ミクロン、約225ミクロン、約230ミクロン、約235ミクロン、約240ミクロン、約245ミクロン、約250ミクロン、約255ミクロン、約260ミクロン、約265ミクロン、約270ミクロン、約275ミクロン、約280ミクロン、約285ミクロン、約290ミクロン、約295ミクロン、約300ミクロン、約305ミクロン、約310ミクロン、約315ミクロン、約320ミクロン、約325ミクロン、約330ミクロン、約335ミクロン、約340ミクロン、約345ミクロン、約350ミクロン、約355ミクロン、約360ミクロン、約365ミクロン、約370ミクロン、約375ミクロン、約380ミクロン、約385ミクロン、約390ミクロン、約395ミクロン、約400ミクロン、約405ミクロン、約410ミクロン、約415ミクロン、約420ミクロン、約425ミクロン、約430ミクロン、約435ミクロン、約440ミクロン、約445ミクロン、約450ミクロン、約455ミクロン、約460ミクロン、約465ミクロン、約470ミクロン、約475ミクロン、約480ミクロン、約485ミクロン、約490ミクロン、約495ミクロン、約500ミクロン、約505ミクロン、約510ミクロン、約515ミクロン、約520ミクロン、約525ミクロン、約530ミクロン、約535ミクロン、約540ミクロン、約545ミクロン、約550ミクロン、約555ミクロン、約560ミクロン、約565ミクロン、約570ミクロン、約575ミクロン、約580ミクロン、約585ミクロン、約590ミクロン、約595ミクロン、約600ミクロン、約605ミクロン、約610ミクロン、約615ミクロン、約620ミクロン、約625ミクロン、約630ミクロン、約635ミクロン、約640ミクロン、約645ミクロン、約650ミクロン、約655ミクロン、約660ミクロン、約665ミクロン、約670ミクロン、約675ミクロン、約680ミクロン、約685ミクロン、約690ミクロン、約695ミクロン、約700ミクロン、約705ミクロン、約710ミクロン、約715ミクロン、約720ミクロン、約725ミクロン、約730ミクロン、約735ミクロン、約740ミクロン、約745ミクロン、約750ミクロン、約755ミクロン、約760ミクロン、約765ミクロン、約770ミクロン、約775ミクロン、約780ミクロン、約785ミクロン、約790ミクロン、約795ミクロン、約800ミクロン、約805ミクロン、約810ミクロン、約815ミクロン、約820ミクロン、約825ミクロン、約830ミクロン、約835ミクロン、約840ミクロン、約845ミクロン、約850ミクロン、約855ミクロン、約860ミクロン、約865ミクロン、約870ミクロン、約875ミクロン、約880ミクロン、約885ミクロン、約890ミクロン、約895ミクロン、約900ミクロン、約905ミクロン、約910ミクロン、約915ミクロン、約920ミクロン、約925ミクロン、約930ミクロン、約935ミクロン、約940ミクロン、約945ミクロン、約950ミクロン、約955ミクロン、約960ミクロン、約965ミクロン、約970ミクロン、約975ミクロン、約980ミクロン、約985ミクロン、約990ミクロン、約995ミクロン、または約1000ミクロン以上の長さである。
【0092】
さらなる実施形態では、マイクロロッドは約Aミクロン×Bミクロンの断面積を有し、ここでAおよびBは独立して約1ミクロン、約5ミクロン、約10ミクロン、約15ミクロン、約20ミクロン、約25ミクロン、約30ミクロン、約35ミクロン、約40ミクロン、約45ミクロン、約50ミクロン、約55ミクロン、約60ミクロン、約65ミクロン、約70ミクロン、約75ミクロン、約80ミクロン、約85ミクロン、約90ミクロン、約95ミクロン、約100ミクロン、約105ミクロン、約110ミクロン、約115ミクロン、約120ミクロン、約125ミクロン、約130ミクロン、約135ミクロン、約140ミクロン、約145ミクロン、約150ミクロン、約155ミクロン、約160ミクロン、約165ミクロン、約170ミクロン、約175ミクロン、約180ミクロン、約185ミクロン、約190ミクロン、約195ミクロン、約200ミクロン、約205ミクロン、約210ミクロン、約215ミクロン、約220ミクロン、約225ミクロン、約230ミクロン、約235ミクロン、約240ミクロン、約245ミクロン、約250ミクロン、約255ミクロン、約260ミクロン、約265ミクロン、約270ミクロン、約275ミクロン、約280ミクロン、約285ミクロン、約290ミクロン、約295ミクロン、約300ミクロン、約305ミクロン、約310ミクロン、約315ミクロン、約320ミクロン、約325ミクロン、約330ミクロン、約335ミクロン、約340ミクロン、約345ミクロン、約350ミクロン、約355ミクロン、約360ミクロン、約365ミクロン、約370ミクロン、約375ミクロン、約380ミクロン、約385ミクロン、約390ミクロン、約395ミクロン、約400ミクロン、約405ミクロン、約410ミクロン、約415ミクロン、約420ミクロン、約425ミクロン、約430ミクロン、約435ミクロン、約440ミクロン、約445ミクロン、約450ミクロン、約455ミクロン、約460ミクロン、約465ミクロン、約470ミクロン、約475ミクロン、約480ミクロン、約485ミクロン、約490ミクロン、約495ミクロン、約500ミクロン、約505ミクロン、約510ミクロン、約515ミクロン、約520ミクロン、約525ミクロン、約530ミクロン、約535ミクロン、約540ミクロン、約545ミクロン、約550ミクロン、約555ミクロン、約560ミクロン、約565ミクロン、約570ミクロン、約575ミクロン、約580ミクロン、約585ミクロン、約590ミクロン、約595ミクロン、約600ミクロン、約605ミクロン、約610ミクロン、約615ミクロン、約620ミクロン、約625ミクロン、約630ミクロン、約635ミクロン、約640ミクロン、約645ミクロン、約650ミクロン、約655ミクロン、約660ミクロン、約665ミクロン、約670ミクロン、約675ミクロン、約680ミクロン、約685ミクロン、約690ミクロン、約695ミクロン、約700ミクロン、約705ミクロン、約710ミクロン、約715ミクロン、約720ミクロン、約725ミクロン、約730ミクロン、約735ミクロン、約740ミクロン、約745ミクロン、約750ミクロン、約755ミクロン、約760ミクロン、約765ミクロン、約770ミクロン、約775ミクロン、約780ミクロン、約785ミクロン、約790ミクロン、約795ミクロン、約800ミクロン、約805ミクロン、約810ミクロン、約815ミクロン、約820ミクロン、約825ミクロン、約830ミクロン、約835ミクロン、約840ミクロン、約845ミクロン、約850ミクロン、約855ミクロン、約860ミクロン、約865ミクロン、約870ミクロン、約875ミクロン、約880ミクロン、約885ミクロン、約890ミクロン、約895ミクロン、約900ミクロン、約905ミクロン、約910ミクロン、約915ミクロン、約920ミクロン、約925ミクロン、約930ミクロン、約935ミクロン、約940ミクロン、約945ミクロン、約950ミクロン、約955ミクロン、約960ミクロン、約965ミクロン、約970ミクロン、約975ミクロン、約980ミクロン、約985ミクロン、約990ミクロン、約995ミクロン、または約1000ミクロン以上から選択される。
【0093】
特定の実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物、例えば無痛NGFは共有結合性相互作用によってマイクロロッドと結合している。他の特定の実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物、例えば無痛NGFは非共有結合性結合によってマイクロロッドと結合している。共有結合性相互作用では、少なくとも1つの生物活性化合物は任意の好適な手段を通じてマイクロロッドに直接結合している。あるいは、少なくとも1つの生物活性化合物は、それ自体生物活性を有さないスペーサーもしくはリンカーを通じて、または第1の生物活性化合物に比べて同じまたは異なる生物活性を有する第2の生物活性化合物を通じて、マイクロロッドに結合している。さらに別の実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物はマイクロロッドから溶出可能である。溶出可能であるとは、少なくとも1つの生物活性化合物が例えば単純拡散、共有結合の切断、解離、または何らかの他の種類の相互作用を通じてマイクロロッドから分離可能であることを意味する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物は制御放出が可能であり、他の実施形態では、放出は本質的にボーラスである。
【0094】
さらに別の実施形態では、生体材料担体は、標的化分子の結合パートナーを発現する標的細胞または標的組織と相互作用する標的化分子と結合している。特定の実施形態では、標的化分子は細胞接着分子、細胞接着分子リガンド、標的細胞型の表面で発現されるエピトープに対して免疫特異的な抗体、および、結合対の1つのメンバーが関心対象の標的細胞または標的組織で発現される結合対の任意のメンバーから選択されるがそれに限定されない。
【0095】
投与
本開示の1つの態様は、少なくとも1つの生物活性化合物、例えば無痛神経成長因子(NGF)を含む医薬組成物を対象に投与することを含む。本開示のさらなる態様は、少なくとも1つの生物活性化合物、例えば無痛神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体を含む医薬組成物を対象に投与することを含む。本開示の特定の実施形態の方法および使用を実施する上で、生物活性化合物、例えば無痛NGFを有する複数の個々のナノワイヤ、マイクロロッド、または他の生体材料担体の組成物が対象に投与される。
【0096】
特定の実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体を含む医薬組成物は局所投与される。本明細書において使用される「局所的な」および「局所的に」という用語は、骨折間隙中、骨折部位の隣、骨折仮骨の隣、骨膜沿い、および/または髄内管内を意味する。さらなる実施形態では、組成物は骨折仮骨において、骨折仮骨の隣で、または骨折仮骨の近くで対象の組織に投与されることがある。
【0097】
任意の好都合な投与様式を使用することができる。投与様式としては注射(例えば経皮、皮下、静脈内、筋肉内、またはくも膜下腔内)を挙げることができるがそれに限定されない。組成物は、単独で投与されるか、または移植骨もしくはスキャフォールド、例えばスポンジ、例えばコラーゲンスポンジに適用されることがある。特定の実施形態では、組成物は、少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体(例えばNGF溶出マイクロロッド)を骨折部位に標的化する作用物質をさらに含む。さらなる実施形態では、作用物質は骨自家移植片、同種移植片、または抗生剤セメントビーズである。
【0098】
特定の実施形態では、個々の生体材料担体は所定の期間にわたって標的位置に局在化する。本明細書において、「局在化する」という用語は、通常の意味で使用され、投与される個々のナノワイヤまたはナノロッドを、例えば標的部位の所定の領域内に、例えば50mm2以下、例えば40mm2以下、例えば30mm2以下、例えば25mm2以下、例えば20mm2以下、例えば15mm2以下、例えば10mm2以下、例えば9mm2以下、例えば8mm2以下、例えば7mm2以下、例えば6mm2以下、例えば5mm2以下、例えば4mm2以下、例えば3mm2以下、例えば2mm2以下、例えば1mm2以下、例えば0.5mm2以下、例えば0.1mm2以下、例えば0.05mm2以下の領域、例えば0.001mm2以下の所定の領域内に集中させるかまたは集積することを意味する。いくつかの場合では、組成物中の投与される個々のナノワイヤまたはマイクロロッドの10%以上が標的部位の1つの領域内に局在化し、例えば、投与される組成物中の個々のナノワイヤまたはマイクロロッドの25%以上、例えば50%以上、例えば55%以上、例えば60%以上、例えば65%以上、例えば70%以上、例えば75%以上、例えば80%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば96%以上、例えば97%以上、例えば98%以上、例えば99%以上、および99.9%以上が標的部位の1つの領域内に、例えば50mm2以下、例えば40mm2以下、例えば30mm2以下、例えば25mm2以下、例えば20mm2以下、例えば15mm2以下、例えば10mm2以下、例えば9mm2以下、例えば8mm2以下、例えば7mm2以下、例えば6mm2以下、例えば5mm2以下、例えば4mm2以下、例えば3mm2以下、例えば2mm2以下、例えば1mm2以下、例えば0.5mm2以下、例えば0.1mm2以下、例えば0.05mm2以下の領域、例えば0.001mm2以下の所定の領域内に局在化する。
【0099】
医薬組成物
本開示は、i)神経成長因子(NGF)およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨治癒を刺激すること、対象において骨治癒を促進すること、および/または対象において骨治癒を改善することにおける使用のための医薬組成物を提供する。本開示はまた、i)神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨治癒を刺激すること、対象において骨治癒を促進すること、および/または対象において骨治癒を改善することにおける使用のための医薬組成物を提供する。本開示はまた、i)神経成長因子(NGF)およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨折を処置することにおける使用のための医薬組成物を提供する。本開示はまた、i)神経成長因子(NGF)を含む生体材料担体およびii)薬学的に許容される担体を含む、対象において骨折を処置することにおける使用のための医薬組成物を提供する。本開示の医薬組成物は、運搬性、送達性、忍容性などを改善するように製剤に組み入れられる好適な賦形剤および/または他の薬剤と共に投与される。多数の適切な製剤を、すべての薬剤師に公知の処方集にみることができる:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PA。これらの製剤としては例えば散剤、ペースト剤、軟膏剤、ゼリー剤、ワックス剤、油剤、脂質剤、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有ベシクル(例えばLIPOFECTIN(商標))、DNA結合体、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型乳剤、乳剤カーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、およびカーボワックスを含む半固体混合物が挙げられる。Powellら、「Compendium of excipients for parenteral formulations」、PDA(1998年)、J Pharm Sci Technol 52:238~311頁も参照。
【0100】
特定の実施形態では、賦形剤は単に水であり、1つの実施形態では、薬学グレードの水である。他の実施形態では、賦形剤は緩衝液であり、1つの実施形態では、緩衝液は薬学的に許容される。また、緩衝液としては生理食塩水、グリシン、ヒスチジン、グルタミン酸、コハク酸、リン酸、酢酸、アスパラギン酸塩、または任意の2つ以上の緩衝液の組み合わせを挙げることができるがそれに限定されない。
【0101】
他の実施形態では、基質が組成物に含まれる。さらなる実施形態では、基質は粘稠性であるがなお流動可能であり、他の実施形態では、基質は固体、半固体、ゼラチン状、またはそれらの間の任意の密度である。したがって、様々な実施形態では、非限定的に、基質はコラーゲン、ゼラチン、グルテン、エラスチン、アルブミン、キチン、ヒアルロン酸、セルロース、デキストラン、ペクチン、ヘパリン、アガロース、フィブリン、アルギネート、カルボキシメチルセルロース、Matrige(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出された可溶化基底膜調製品により形成されるヒドロゲル)、ヒドロゲル-オルガノゲル、またはその混合物および/もしくは組み合わせである。当業者は、任意の薬学グレード基質が本開示の組成物中での使用に適していることを改めて認識するであろう。
【0102】
特定の実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体の用量は固定されている(すなわち、それが投与される対象の体重には基づかない)。さらなる実施形態では、用量は約1ng/日~約500ng/日、約5ng/日~約250ng/日、約10ng/日~約100ng/日、または約25ng/日~約50ng/日である。特定の実施形態では、生体材料担体からの少なくとも1つの生物活性化合物の放出は非線形バースト放出である。他の実施形態では、少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体の用量は投与される対象の年齢およびサイズ、骨折の種類/重症度、骨折位置、状態、投与経路などに応じて異なることがある。本明細書に開示される少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体が患者において骨折を処置するために使用される場合、少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体を通常は約0.1~約100mg/kg体重の単回量で投与することが有利である。特定の実施形態では、用量/投与量は投与部位/標的部位における担体からの生物活性化合物の平均放出量に基づく。
【0103】
特定の実施形態では、処置(投与)の頻度および期間を調整することができる。特定の実施形態では、本明細書に開示される少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体を初回投与として投与した後、少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体の2回目の投与または複数回の後続の投与を初回投与の量とほぼ同じまたはそれ未満である量で実行することができ、ここで後続の投与は、十分な治癒進行パラメータの欠如に基づいて、少なくとも1週間、少なくとも2週間;少なくとも3週間;少なくとも1カ月;またはそれ以上の間隔で行われる。特定の実施形態では、十分な治癒進行パラメータの欠如は、X線像での石灰化がないこと、X線像での石灰化の低さ、疼痛減少がないこと、疼痛減少が最低限であること、安定性の増加がないこと、および/または安定性の増加が最小限であることを含む。臨床医は、診断および固有の条件に基づいて患者毎に処置の頻度および期間を変更することができるであろう。
【0104】
特定の実施形態では、医薬組成物を制御放出システムで送達することができる。1つの実施形態では、ポンプを使用することができる。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。さらに別の実施形態では、制御放出システムを組成物の標的の近傍に配置することができ、したがって全身用量の一部しか必要にならない。
【0105】
注射用製剤は静脈内注射、皮下注射、経皮注射、筋肉内注射、点滴などのための剤形を含むことができる。これらの注射用製剤は公知の方法により調製可能である。
【0106】
特定の実施形態では、本開示の医薬組成物を標準的なニードルおよびシリンジによって皮下的または経皮的に送達することができる。さらに、ペン送達装置が本開示の医薬組成物を送達することに容易に適用される。このペン送達装置は再使用可能または使い捨て可能である。一般に、再使用可能なペン送達装置は、医薬組成物を収容する交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内の全部の医薬組成物が投与されて、カートリッジが空になったときに、空のカートリッジを容易に廃棄して、医薬組成物を収容する新たなカートリッジと交換することができる。次にペン送達装置を再使用することができる。使い捨て可能なペン送達装置には交換可能なカートリッジが存在しない。むしろ、使い捨て可能なペン送達装置は、装置内のリザーバ中に保持される医薬組成物で予め満たされている。リザーバの医薬組成物が空になったとき、装置全体が廃棄される。
【0107】
特定の実施形態では、本開示の医薬組成物は、骨折治癒を刺激することにおける使用のための、骨折治癒を促進することにおける使用のための、骨折治癒を改善するための、および対象において骨折を処置することにおける使用のための組成物である。
【0108】
治療的使用
特定の実施形態では、本開示の生体材料担体に含まれる生物活性化合物、例えばマイクロロッド中の無痛NGFが、それを必要とする対象において、骨折の処置のために、骨折治癒の刺激のために、骨折治癒の促進のために、および骨折治癒の改善のために有用である。特定の実施形態では、生物活性化合物それ自体、例えばNGFまたは無痛NGFが、それを必要とする対象において、骨折の処置のために、骨折治癒の刺激のために、骨折治癒の促進のために、および骨折治癒の改善のために有用である。
【0109】
本開示のさらなる実施形態では、生体材料担体に含まれる生物活性化合物は、患者において骨折を処置するための、骨折治癒を刺激するための、骨折治癒を促進するための、骨折治癒を改善するための、医薬組成物または医薬の調製に使用される。本開示のさらに別の実施形態では、生体材料担体に含まれる生物活性化合物は、補助療法として、骨折を処置するために有用であることが当業者に知られている任意の他の薬剤または任意の他の療法と共に使用される。
【0110】
組み合わせ療法
組み合わせ療法は、生体材料担体に含まれる生物活性化合物、ならびに該化合物および担体と有利に組み合わせることができる任意のさらなる治療剤を含むことができる。生体材料担体に含まれる生物活性化合物を、骨折、および/または骨折に関連する症状を処置するために使用される1つまたはそれ以上の薬物または療法と相乗的に組み合わせることができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、生体材料担体に含まれる生物活性化合物を、タンパク質サプリメント(例えばリジン、アルギニン、プロリン、グリシン、システイン、グルタミンを含む)、抗酸化剤(例えばビタミンE、ビタミンC、リコピン、α-リポ酸)、ミネラルサプリメント(例えばカルシウム、鉄、カリウム、亜鉛、銅、リン、生物活性ケイ素)、ビタミンサプリメント(例えばB(B6)、C、D、および/またはK)、生薬サプリメント(例えばコンフリー、アルニカ、ツクシ草、シッサス・クアドラングラリス(Cissus quadrangularis))、抗炎症栄養素(例えばケルセチン、フラボノイド、オメガ3脂肪酸、タンパク質分解酵素)、ならびに運動を含むがそれに限定されない、1つまたはそれ以上のさらなる治療剤/療法との組み合わせで使用することができる。さらに他の実施形態では、生体材料担体に含まれる生物活性化合物を、変異NGFの前に別の薬物、例えば軟骨形成促進剤(例えばTGFb、さらには場合によってはPTH/PTHrP)と共に順次投与することで、軟骨から骨への変換を引き起こすことができる。
【0112】
本明細書において使用される「~との組み合わせで」という用語は、少なくとも1つの治療剤/療法が、生体材料担体に含まれる生物活性化合物の投与の前に、それと同時に、またはその後に投与可能であることを意味する。「~との組み合わせで」という用語は、生体材料担体に含まれる生物活性化合物、および少なくとも1つのさらなる治療剤/療法の順次投与または同時投与も含む。
【0113】
本開示において、「同時」投与は、例えば、生体材料担体に含まれる生物活性化合物、および少なくとも1つのさらなる治療剤/療法を対象に1つの剤形で投与すること、または互いに約30分以内に対象に投与される別々の剤形で投与することを含む。別々の剤形で投与される場合、各剤形は同じ経路によって投与されることがあり(例えば、生体材料担体に含まれる生物活性化合物、および少なくとも1つのさらなる治療剤/療法はいずれも経皮投与などされることがあり);あるいは、各剤形は異なる経路によって投与されることがある(例えば、生体材料担体に含まれる生物活性化合物は経皮投与されることがあり、少なくとも1つのさらなる治療有効成分は経口投与されることがある)。いずれにせよ、本開示の目的のためには、成分を1つの剤形で投与すること、別々の剤形で同じ経路によって投与すること、または別々の剤形で別々の経路によって投与することはいずれも「同時投与」と考慮される。本開示の目的のためには、少なくとも1つのさらなる治療剤/療法の投与の「前の」、それと「同時の」、またはその「後の」(これらの用語は上記で定義されている)、生体材料担体に含まれる生物活性化合物の投与は、少なくとも1つのさらなる治療剤/療法「との組み合わせでの」生体材料担体に含まれる生物活性化合物の投与と考慮される。
【0114】
キット
さらなる態様では、本開示は、本明細書に開示される少なくとも1つの生物活性化合物を含む生体材料担体の組成物を調製するために必要な少なくとも1つまたはそれ以上の構成要素、例えば複数の構成要素を含む、キットを提供する。特定の実施形態では、1つまたはそれ以上の各構成要素を包装キットとして、例えば個々の容器(例えばパウチ)中で提供することができる。キットは、本方法を実施するための他の構成要素、例えば測定装置および適用装置(例えばシリンジ)、ならびに、ビーカーおよびメスフラスコなどの溶液用容器をさらに含むことができる。
【0115】
さらに、キットは、本方法をどのようにして実施するかに関する順を追った説明書を含むことができる。したがって、キットには、説明書が、包装インサートとして存在するか、キットまたはその構成要素の容器のラベリング中に存在する(すなわち包装またはサブ包装に付随する)ことなどがある。他の実施形態では、説明書は、好適なコンピュータ可読記憶媒体、例えばCD-ROM、フロッピーディスクなどに存在する電子記憶データファイルとして存在する。さらに他の実施形態では、実際の説明書はキットには存在しないが、リモートソースから例えばインターネットを通じて説明書を得るための手段が提供される。
【0116】
実施例
以下の実施例は、本開示の方法および組成物をどのようにして作製および使用するかに関する完全な開示および記載を当業者に提供するように記載されており、本発明者らが自らの開示と見なしているものの範囲を限定するようには意図されていない。使用される数字(例えば量、温度など)に関して正確さを確保するように努めたが、いくつかの実験上の誤差および偏差を考慮すべきである。別途指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、室温は約25℃であり、圧力は大気圧またはその近傍である。
【実施例1】
【0117】
無痛NGF
1.1 無痛NGFは熱痛覚過敏を誘発しない
NGF
WTナノワイヤまたはNGF
R100Wナノワイヤに関連する痛覚を特徴づけるために、痛覚過敏を最初にNGF
R100Wについて評価する必要があった。可溶性NGF
R100W 200ngの皮内送達は、Randal-Selitto試験によれば急性機械痛覚過敏を誘発せず、Hargreaves試験によれば急性熱痛覚過敏を誘発しなかった(Sungら、2018年、J Neurosci 38:3394~3413頁)。新たな用量漸増試験は、NGF
R100Wが野生型NGFよりも10倍高い用量で疼痛感作を誘発しないことを示す(
図2Aおよび
図2B)。具体的には、野生型NGF 0.5mgは注射の20分後および45分後に有意な熱疼痛を引き起こし、一方、NGF
R100Wは5.0mgでそれを引き起こさなかった(
図2A)。無痛NGFが誘発した侵害受容閾値の減少は用量依存的効果を示唆するものであるが、予備試験では統計的有意性に到達しなかった(
図2B)。また、タンパク質0.5~5mgが添加されたナノワイヤ200mgの皮内注射を行うことで、NGF
WTナノワイヤおよびNGF
R100Wナノワイヤの侵害受容閾値を試験する。上記と同様に、Hargreaves技術およびRandal-Selitto閾値試験を使用して熱痛覚過敏および機械痛覚過敏を測定する。NGFでの臨床試験において、痛覚は早期発症を伴った(Sungら、2019年、Neural Regen Res 14:570~573頁);したがって、
図2Bに示すように、試験を注射の20分後および45分後に行う。NGF
R100Wによる疼痛感作が野生型NGFに比べて統計的に有意に減少していることが一次成功判定基準である。
図2Aおよび
図2Bに示されるデータセットの平均値および標準偏差に基づいて、検出力分析は、検出力レベル>80%を効果量d=1.5および有意性レベル5%で実現するためにマウス6匹/群が必要であることを示す。
【0118】
1.2 NGFR100WはCMT2B変異マウスにおいて足皮膚感覚神経の再生を促進する
NGFR100Wナノワイヤの栄養機能性を、末梢感覚神経障害のシャルコー・マリー・トゥース2B(CMT2B)マウスモデルにおける表皮内神経線維(IENFs)および表皮下神経叢(SNP)の再生を定量化することによってインビボで確認する。CMT2Bは、感覚線維の軸索長依存的変性を生じさせるRab7 GTPアーゼのミスセンス変異により引き起こされる。変異マウスが9月齢で有意な末梢感覚消失を発生させるCMT2Bノックインマウスモデルを作出した。この遺伝子モデルは神経再生を定量化するための有効な手段である。
【0119】
NGF
R100Wは、神経再生を促進する上でNGFと同程度に有効であることが確認された(
図3A~
図3F)。同様に、NGF
WTナノワイヤおよびNGF
R100Wナノワイヤの用量依存的再生能力をCMT2Bマウスにおいて試験することを、2回の治療的注射を3週間空けて行い、次に注射の6週間後に汎神経PGP9.5マーカーに対する定量的免疫組織化学的検査を使用してIENFおよびSNP密度を測定することで行う(Yangら、2020年、Prog Neurobiol 194:101866)。NGF/NGF
R100Wナノワイヤを可溶性NGF/NGF
R100W、空のナノワイヤ、およびプラセボ注射と比較する。ImageJにより定量化された
図3Dに示されるPGP9.5密度データからの平均値および標準偏差を使用して、G
*Powerを用いる検出力分析を行うことで、検出力レベル>80%を効果サイズd=1.5および有意性レベル5%で実現するためにマウス3匹/群が必要であることを確認した。良好な栄養機能性を、NGF/NGF
R100Wナノワイヤによる神経密度の、可溶性タンパク質送達および陰性対照(PBS、空のナノワイヤ)の両方に対する統計的に有意な増加により判定する。
【0120】
1.3 NGF
R100Wが軟骨形成細胞中での骨形成を活性化することの確認
これまで、NGF
R100Wの栄養活性は神経組織中でしか確認されていない(
図3A~
図3F)。インビトロ用量0.02~20,000ng/mLを軟骨形成細胞株(ATDC5)について試験し、NGFの用量が高くなるほどオステオカルシンの発現が増加することがわかった(データは示さず)。NGF
R100W変異体は、神経細胞中でTrkA受容体に結合し、下流シグナル伝達経路を活性化することが可能であることが示された(Sungら、2018年、J Neurosci 38:3394~3413頁)。上記で言及したように、培養および成熟ATDC5細胞を漸増用量のNGF
wtで24時間処理し、古典的な骨芽細胞遺伝子のオステオカルシンによる骨形成変化を測定することで作成された用量反応曲線に基づいて、用量20μg/mLのNGFまたはNGF
R100Wを、ATDC5の処理のために、次にcFosを使用する下流活性化を探るために使用した。NGF
R100Wが軟骨細胞中でTrkAシグナル伝達を活性化することが、TrkA活性化の下流マーカーとしてのcFOS発現を使用してわかった(データは示さず)。
【0121】
無痛NGFが軟骨細胞の標的細胞集団中で野生型NGFと同様の栄養能力を示したことを確認するために、既存のATDC5軟骨形成細胞株を利用し、0.2μgまたは20μgのNGFまたはNGF
R100Wで処理し、比較として陰性対照でも処理した(
図3G~
図3L)。データは、24時間のNGFおよびNGF
R100W処理によってVegfが有意に上方制御される(
図3G)が、Axin2はそうならなかったことを示す(データは示さず)。SuperFect遺伝子導入試薬を使用してWnt応答性TOPFlash(M50 Super 8x TOPFlash、Addgene #12456)または変異FOPFlashプラスミドベクター(M51 Super 8x FOPFlash、Addgene、#12457)をATDC5細胞に遺伝子導入することで、Wnt経路活性化をさらに厳密に試験する。構成的活性化ウミシイタケルシフェラーゼ(pLX313-ウミシイタケルシフェラーゼ、Addgene #118016)を同時遺伝子導入することで、遺伝子導入を確認する。NGFおよびNGF
R100Wに対するWnt応答を蛍光/ルシフェラーゼプレートリーダーで定量化する。
【0122】
次に、qRT-PCR(Ihh、gli1、ptch1)およびGli-レポーター(7Gli::GFP Addgene #110494)を上記と同様に使用して、ATDC5軟骨細胞中でのIhh経路のNGF媒介活性化を測定する。データは、処理の1時間後の無痛NGF変異体によるIhhの強力な活性化を示唆するものであり(
図3I)、このことは、該無痛NGFが下流EOを刺激する上で早期の役割を果たすことがあることを示唆しており、これは候補経路のGliレポーターアッセイおよび経時的試験によってさらに確認することができる。NGF
R100W(緑色)は濃度0.2mgで上方制御軟骨内(インディアンヘッジホッグ、Ihh)ならびに骨形成(アルカリホスファターゼおよびオステオカルシン)遺伝子を通じてNGF
WT(青色)に比べて強化された生物活性を示した(
図3J~
図3L)。インビトロでは、[NGF]が多くなるほど骨形成性が高まるということは判明しなかった。これらのデータは、本明細書において使用される骨折モデルにおいて、NGF
R100WがNGFに比べて最低限、栄養的に等価であるはずであることを裏付けている。
【0123】
注射時に侵害受容を最小化しながらNGFR100Wの骨形成用量を最大化するために、修復の軟骨内期(7~9日目)に送達される0.5μg NGFR100W/日を5μgおよび50μg NGFR100W/日と比較する。NGFまたはNGFR100Wの注射後、痛覚を熱的(ホットプレート、冷アセトン)および機械的(電子的Von Frays)アロディニア試験によって試験する。TrkA経路活性化を10日目、最終NGF投与の24時間後にcFOS qRT-PCRによって測定する。
【0124】
痛覚
NGFでの臨床試験において、痛覚は早期発症を伴った(Sungら、2019年、Neural Regen Res 14:570~573頁)。したがって、侵害受容を注射の30分後、60分後、および90分後に熱的および機械的アロディニアに関する標準化アッセイを使用して評価する(Deiusら、2014年、Neuro Oncol 16:1324~1332頁)。ホットプレート技術を、NGFR100Wの侵害受容をNGFとの比較で試験すること(Sungら、2018年、J Neurosci 38:3394~3413頁;Yangら、2019年、bioRxiv 784660)、および後肢に対するアセトンによる冷試験(Choiら、1994,Pain 59:369~376頁)に既に使用したように使用する。機械的刺激に対する嫌悪を電子Von Frey法を使用して測定する(Deiusら、2014年、Neuro Oncol 16:1324~1332頁)。
【0125】
骨折治癒
最も決定的に重要な治癒点を捕捉し、総動物数を最小化することを目的として、損傷の14日後および28日後にのみ、骨折治癒の機能的帰結を測定する(組織形態計測、定量的μCT、生体力学)。骨治癒を異なる用量で定量化する以外に、脾臓、肝臓、および血液を安楽死時に採取して、任意の負の全身性炎症作用を点検する(Moriokaら、2019年、Sci Reports 9:12199)。
【実施例2】
【0126】
β-NGFの局所注射は軟骨から骨への変換を促進することで軟骨内骨折修復を促進する
脛骨骨折モデル
簡潔に言えば、成体(10~16週齢)雄マウスを吸入イソフルランで麻酔し、3点曲げ骨折装置によって脛骨の中央骨幹に不安定型閉鎖骨折を作り出した(Bahneyら、2014年、J Bone Miner Res 29:1269~1282頁)。この方法が強力な軟骨内修復を促進することから、骨折は不安定型とした。骨折が作り出された後、動物に術後鎮痛薬(ブプレノルフィン持続放出)を与えた。動物を社会的に収容し、自由に動き回らせた。
【0127】
マウス
野生型マウスを包含する試験を、Jackson Labsから得たC57BL/6J系統(ストック#000664)について行った。NGF-eGFPはマウスNGFプロモーターの制御下でeGFPを発現する(Kawajaら、2011年、J Comp Neurol 519:2522~2545頁)。TrkA-LacZマウスは、マウスNtrk1遺伝子のエキソン1中のATGの直後に挿入されたLacZ配列を有する(Moqrichら、2004年、Nat Neurosci 7:812~818頁)。Axin2-eGFPマウスはAxin2プロモーター/イントロン1配列下でeGFPを発現する(Jhoら、2002年、Mol Cell Biol 22:1172~1183頁)。
【0128】
β-NGFおよび対照の注射
骨折仮骨内の骨形成マーカーの発現を比較するために2つの時点を最初に試験した。骨折の4日後または7日後から3日間、注射液を1日1回投与した(
図5C、
図5D)。実験群は、蛍光透視によりガイドされるHamiltonシリンジを使用する、組換えヒトβ-NGF 0.5μgの基本培地20μL中注射液、または基本培地のみの対照注射液(DMEM基本培地、Gibco cat #A1443001)からなった。用量を0.1~1.4μg/日とする以前のプロトコルから投与量0.5μg/日を導出した(Grillsら、1997年、J Orthoped Res 15:235~242頁;Shinodaら、2011年、J Neurosci 31:7145~7155頁)。
【0129】
mRNA単離およびRT-qPCR
β-NGF投与後、仮骨を最終注射の24時間後に採取した。仮骨切離の後、組織試料をTrizol中で均質化し、次にRNeasy Mini Kit(Qiagen cat#74104)を製造業者の説明書に従って使用することでmRNAを組織溶解液から抽出した。cDNAをSuperscript III(Invitrogen cat#18080)で逆転写し、RT-qPCRを行った。相対遺伝子発現をGapdhに対する正規化により計算した。これを2-ΔCTとして示す(
図5C、
図5D)。
【0130】
組織診断
骨折脛骨を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中に固定した後、19%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)中で14日間脱灰した。マウスをエタノール段階系列を通じてパラフィン組織診断のために処理し、キシレン中で透明にした後、パラフィン組織ブロックに包埋した。一連の切片を組織学的解析のために8~10μmで切断した。10番毎のスライドをHall-Brunt四重染色(HBQ)用の標準的な組織学的プロトコルで染色して骨(赤色)および軟骨(青色)を可視化した。NGF-eGFPおよびAxin2-eGFPレポーター株に由来する組織をOCTに包埋し、クリオスタットを使用して切片化した。Axin2-eGFP蛍光を、AlexaFluor488に結合した抗体を利用して増幅した。X-Gal染色を以下のように行った:試料を4% PFA中に固定し、PBS中で洗浄した後、試料を新たなX-Gal染色溶液中、32℃で36時間インキュベートした。PBS洗浄後、試料を4% PFA中、4℃で16~24時間にわたって後固定し、脱灰し、既に記載のように凍結切片化および染色のためにOCTに包埋した(Tomlinsonら、2017年 PNAS USA 114:E3632~E3641頁)。
【0131】
インビトロ軟骨外植片培養
軟骨外植片を、7日目の骨折仮骨の中心部分から、あらゆる付着した非軟骨組織を除去するために解剖顕微鏡を使用することで単離した。外植片を切り刻み、プールした後、処置群にランダムに分けた。外植片をインビトロで1週間、無血清肥大軟骨形成培地[高グルコースDMEM、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、1% ITS+Premix(BD Biosciences Cat #354352)、1mMピルビン酸ナトリウム、100ng/mlアスコルビン酸-2-リン酸、および10-7Mデキサメタゾン]中で成長させて、肥大成熟を促進した(Bahneyら、2014年、J Bone Miner Res 29:1269~1282頁;Huら、2017年、Development 144:221~234頁)。次に肥大軟骨外植片を200ng/mL組換えヒトβ-NGF(Peprotech cat#450-01)ありまたはなしで24時間刺激し、TRIzol中に収集した後、RNeasy Mini Kit(Qiagen cat# 74104)を製造業者の説明書に従って使用することでmRNAを抽出した。
【0132】
遺伝子発現
骨折仮骨を脛骨および周囲の筋肉から切除する。次にmRNAを標準的TriZOL抽出技術を使用して採取する。cDNAを逆転写し、qRT-PRCをTrkA指示薬(cFOS)(Sungら、2018年、J Neurosci 38:3394~3413頁)ならびに標準的な軟骨形成マーカー(col2a1、col10a1、アグリカン)および骨形成マーカー(col1a1、オステオカルシン、オステオポンチン)について検証済みSyberGreenプライマーを使用して行う。既に公開されたqRT-PCRデータセットからの平均値および標準偏差を利用して(Moriokaら、2019年、Sci Reports 9:12199)、GPowerを使用する検出力分析を行って、有意な検出力を得るにはマウス3匹/時間が必要であることを確定する(検出力=0.8、a=0.05)。薬物処置に関連する潜在的なさらなる変動を説明するためにマウス5匹/群/時間が含まれる。ANOVAおよびチューキーHSD事後検定を使用して有意性を評価する。
【0133】
RNAの配列決定および解析
単離された骨折仮骨/肥大軟骨からのmRNA抽出の後、試料を酢酸ナトリウムおよびイソプロパノール沈殿によってさらに精製した。各試料からのRNA入力量200ngをQuantseq 3’mRNA-seq Library Prep Kit FWD(Lexogen、SKU:015.24)と共に使用した。約2000万個のシングルエンド50bpリードを各ライブラリーについてHiSeq 4000で作った。リードを最初にCutadaptバージョン2.5付きのアダプターのためにトリミングした後、STARバージョン2.5.3aを使用してマウスmm10ゲノムに対してマッピングした。アラインメントの後、リードをfeatureCountバージョン1.6.4を使用してカウントした。次に差次的遺伝子発現解析をDESeq2パッケージバージョン1.24およびRバージョン3.6.1を使用して行った。処置時に有意に上方制御または下方制御された遺伝子(P<0.05、Benjamini-Hochberg補正済み)を遺伝子オントロジー分類のためにEnrichr(https://amp.pharm.mssm.edu/Enrichr/)に入力した。差次的発現遺伝子および関心対象の遺伝子をR、ggplot2バージョン3.2.1、EnhancedVolcano、およびComplexheatmapバージョン2.084の組み合わせを使用して可視化した。
【0134】
免疫組織化学的検査(IHC)
β-NGFまたは対照の注射液を骨折の7日後から3日間、1日1回Axin2-eGFPマウスに投与した。骨折脛骨を最終注射(骨折の10日後)の24時間後に採取し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)中に固定し、19%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)中で5日間脱灰した。試料にOCTを包埋した後、凍結切片を幅8~10μmで作った。凍結切片をPBS中で慎重にリンスし、5%骨血清アルブミンで1時間ブロッキングした。一次抗体を切片に終夜適用した。種特異的二次抗体をVectaStain ABCキット(Vector、PK-4000)を使用して検出し、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)比色反応を使用してCD31+細胞を可視化した。(d2)eGFPが急速に分解されることから、種特異的Alexa-Fluor-488結合二次抗体(例えば宿主/標的:ラット抗マウスCD31、ヤギ抗ラットIg(ビオチン化)、ウサギ抗GFP、ヤギ抗ウサギIgG)を使用することでAxin2-eGFP蛍光を安定化した。
【0135】
組織形態計測
β-NGFおよび対照の注射液を骨折の7日後から3日間、1日1回投与した。脛骨を骨折の14日後に採取し、4% PFA中に固定し、19% EDTA中で5日間脱灰した。マウスをパラフィンによる組織診断のために処理し、一連の切片を立体解析学的原理を使用する組織形態計測的解析のために8~10μmで切断した。仮骨組成(軟骨、骨、線維、髄空間)の定量化をOlympus CASTシステム(ペンシルベニア州Center Valley)およびVisiopharm(デンマークHorsholm)によるソフトウェアを使用して確定した。組織の定量化のために、10μmの一連の切片(スライド当たり3つ)を脚全体を通じて取得した。組織を上記のようにHBQで染色し、各切片を300μm間隔とした10番毎のスライドからの第1の切片を解析した。全体に対する個々の組成を合計することで、特定の組織型の量を骨折仮骨全体に関して確定した。
【0136】
マイクロコンピュータ断層撮影(μCT)
μCT解析:骨折脛骨を骨折の14日後に付着筋肉なしで切除し、4% PFA中に固定し、70%エタノール中で保管した。骨折仮骨をScanco μCT50スキャナ(Scanco Medical AG、スイスBasserdorf)をボクセルサイズ10μmならびにX線エネルギー55kVpおよび109μAで使用して解析した。対照マウスおよびβ-NGF処置マウスの試験において軟部組織から総石灰化骨基質をセグメント化するために、比較的低い排除閾値の400mgヒドロキシアパタイト(HA)/mm3を適用した。線状減衰をScancoヒドロキシアパタイトファントムを使用して較正した。関心対象領域(ROI)は、解剖学的位置およびはるかに高い骨塩量によって明確に識別される既存の皮質を伴わない、仮骨全体を含んだ。μCT再構築および定量的解析を行って以下の構造パラメータを得た:骨梁間隔(mm)、骨梁数(#/mm)、骨梁分岐としての骨梁連結性密度(#/mm3)、骨塩量(mg HA/cm3)、骨量(%として)、骨梁厚(mm)、および組織塩量(mg HA/cm3)。
【0137】
統計解析
グラフ上の個々のドットは生物学的複製を表し、エラーバーは平均値の標準誤差(SEM)を表す。測定値を別々の試料から取得した。すべてのインビボデータをGraphPad Prism(バージョン8、GraphPad Software、カリフォルニア州サンジエゴ)を使用して解析した。群間を比較するために使用される統計検定を対応する図の説明文中で指定し、有意差をp<0.05で規定した。
【0138】
結果
2.1 NGFおよびTRKAは内在性軟骨内骨折修復の間に軟骨・骨移行部中で発現される
長管骨治癒のマウスモデルにおいて内因性NGFおよびTrkAの発現の軟骨内骨折修復の間の空間時間的パラメータを確定するために、成体野生型マウスの右脛骨に中央軸閉鎖骨折を作り出すための既存の3点曲げ装置を使用して、成体雄および雌野生型マウス(Jackson、10~14週齢C57Bl6/J)の右脛骨の中央軸において閉鎖骨折を作り出した(
図4A)。皮膚を破ることなく骨折を作り出すために、約14cmの距離を落下する460gの重りからなる2cm鈍頭ドロップアームを備えた特注の装置を設計した。骨折の14日後に採取された脛骨のHall-Brunt四重染色(HBQ)切片(軟骨=青色、骨=赤色)によって可視化されるように、これらの不安定型骨折は強固な軟骨仮骨を生じさせる(
図4B)。NGF-eGFPレポーターマウスを利用することで、骨折仮骨の軟骨・骨移行部(TZ)内のNGFの発現ドメインを蛍光顕微鏡法で可視化することが可能になった(
図4C)。TrkA発現は、比較的少ない細胞中で出現したが、TrkA-LacZレポーターマウスを利用することで、この移行部における細胞内にも発見することができた(
図4D~
図4F)。組織診断を使用してTZにおけるNGFおよびTrkA空間的発現パターンを確立した後、遺伝子発現を使用してNGFおよびTrkAの時間的発現パターンを確定した。骨折仮骨を骨折の7日後、10日後、および14日後に単離し、mRNAをTRIzolを使用して単離し、RT-PCRを使用してNGFおよびTrkAの発現を定量化した。データは、NGFおよびTrkAの同様の時間的発現パターンを、骨折10日後のピークと共に示す(
図4G、4H)。
【0139】
2.2 β-NGFの軟骨内送達は骨折修復の早期よりも骨形成性が高い
長管骨骨折治癒における外来性β-NGFの治療効能を試験した。骨折治癒用の新規療法を開発する場合、大部分の薬物はデフォルトでは骨折の直後に投与される。しかし、軟骨から骨への変換に相関するNGF-TrkAの内在性空間時間的発現パターンに基づいて、この内在性発現パターンのタイミングに治療的送達を合わせる方が効能が高いのか否かを調査した。したがって、2つの異なる時点のβ-NGF注射を試験した:早期、すなわち修復の炎症期および膜内期(4~6日目、
図5A)、または後期、すなわち軟骨成熟の軟骨内期(7~9日目、
図5C)。局所送達をイソフルラン麻酔動物に対して0.5μgのβ-NGF、または対照としての基本培地を注射することで行った。早期β-NGF注射によってコラーゲン1(Col1)の相対発現が有意に増加した(
図5B)。しかし、骨形成マーカーであるオステオカルシン(Oc)およびオステオポンチン(Op);ならびに血管新生促進性の血管内皮成長因子(Vegf)が有意に減少した(
図5B)。興味深いことに、後期β-NGF注射は骨形成マーカーOcおよびOpの発現を強力に刺激した(
図5D)。軟骨内レジメンでのβ-NGF注射後のCol1(p=0.06)およびVegf(p=0.06)のmRNA発現において、有意ではない変化が観察された(
図5D)。
【0140】
2.3 骨折仮骨由来の軟骨外植片のβ-NGF刺激は軟骨内骨化に関連するプログラムを促進する
長管骨骨折治癒においてNGFにより活性化される分子経路は試験しなかった。無痛NGF療法の作用機序(MOA)を理解するために、骨折後にTrkA受容体(TrkAfl/flまたはp75NTRfl/fl)を条件付きで肥大軟骨細胞(Col10CreERTもしくはCol2CreERT)中でまたは包括的に(R26CreERT2)ノックアウト(KO)して、この経路が軟骨内骨修復に必要とされる程度を確定する。次に対照マウスまたはKOマウスをNGFR100Wで処理して、軟骨細胞がNGFR100Wに対する栄養応答を媒介するか否かを試験する。インビトロ細胞培養物とRNAseqとの組み合わせを使用して、どの骨形成経路がNGF-TrkA活性化の下流で応答するかを調査する。TZ中でのNGF-TrkAの内在性空間時間的発現パターン、およびβ-NGFに対する軟骨の強化された骨形成応答は、肥大軟骨がNGFに対して応答性がある可能性があることを示唆した。
【0141】
これを試験するために、既に行ったように軟骨を骨折7日目の仮骨から単離した(Bahneyら、2014年、J Bone Miner Res 29:1269~1282頁;Huら、2017年、Development 144:221~234頁)。外植片をインビトロで肥大化まで培養し、NGF40の生物活性形態である組換えヒトβ-NGF 0.5μg/mLありまたはなしで24時間処理した後、RNA配列決定(RNAseq)を行った。インビボ試験と同様に、軟骨外植片試験においても骨形成マーカーOcが有意に上方制御された(p=1.88E-24、
図7)。さらなる解析は、軟骨内骨化において役割を果たすことが証明されたいくつかの他の有意に上方制御される遺伝子、例えばインディアンヘッジホッグ(Ihh)、アルカリホスファターゼ(Alpl)、副甲状腺ホルモン1受容体(Pth1r)、Wnt受容体(Lrp5、Frzd5)、および血管新生受容体(Pdgfrb)を明らかにした(
図6A)。下方制御遺伝子のうち、形質細胞腫変異体転座1(Pvt1)およびカスパーゼ4(Casp4)(
図6A)はいずれもアポトーシスを調節することが知られている。
【0142】
引き続き行ったEnrichRを使用する機能エンリッチメント解析は、軟骨内骨化、骨折修復、および組織リモデリングに関連する分子機能の複数のカテゴリーを示した。最も有意に上方制御された3つの分子機能カテゴリーはWnt活性化(p=0.0067)、血小板由来成長因子(PDGF)結合(p=0.0051)、およびインテグリン結合(p=0.013)であった(
図6B)。さらなるエンリッチメント解析によって、差次的発現遺伝子のヒートクラスターマップをこれらの分子機能カテゴリーに従って作り出した(
図6C)。
【0143】
β-NGFおよび無刺激対照の各生物学的複製に関する主成分解析(PCA)(
図8A)ならびに下方制御分子機能に関する遺伝子オントロジー(
図8B)を含む、β-NGF刺激肥大軟骨外植片のエンリッチメント解析のために、データを作成した。具体的には、軟骨組織を骨折の7日後に脛骨骨折部から切除し、肥大化まで7日間培養した後、組換えヒトβ-NGFありまたはなしで刺激した。24時間後、試料をRNAseq解析(n=3)のために収集した。さらなるエンリッチメント解析によって、差次的発現遺伝子のヒートクラスターマップをこれらの分子機能カテゴリーに従って作り出した。
【0144】
2.4 NGF送達後のWnt/β-カテニン経路調節の評価
エクスビボでの軟骨のβ-NGF処理後にWntが最も有意に上方制御された分子機能であったことを示唆するRNAseqデータを確認するために(
図6B、
図6C)/NGFがWnt/β-catシグナル伝達を上方制御することのさらなる証拠を提供するために、マウスAxin2-eGFPレポーターモデルを利用して、β-NGFで処置されたマウスにおけるインビボでのWnt発現を処置されなかったマウスと比較した。脛骨骨折を既に記載のようにAxin2-eGFPマウスにおいて作り出し、骨折後7~9日目、修復の軟骨内期にβ-NGFを骨折仮骨に局所注射した(
図9A)。目視では、対照マウスはTZ中にAxin2-eGFP陽性細胞の大きな存在を示さなかった(
図9B、9C)。しかし、β-NGF処置マウスのTZにおける細胞中でAxin2-eGFPが誘導された(
図9D、9E)。Image-Jによる定量化では、β-NGF処置後にAxin2-eGFPが誘導され、これに比べて、対照群にはAxin2-eGFPが存在しなかったことが確認された(
図9F)。軟骨細胞中でのβ-カテニン発現が軟骨内骨折修復に決定的に重要であるという知見を考慮すれば、NGFとWnt/β-cat活性化との間の関連は有意であった(Wongら、2020年、bioRxiv 986141)。
【0145】
NGFシグナル伝達が骨組織の血管新生化に先行しかつそれを調整するという文献上の証拠を考慮して(Tomlinsonら、2016年、Cell Rep 16:2723~2735頁)、局所β-NGF注射が軟骨仮骨に対する内皮細胞の浸潤を促進するか否かを測定した。β-NGFの軟骨内送達を受け取った野生型マウスにおける骨折後10日目のCD31内皮細胞マーカーに対して行った免疫組織化学的検査を使用して、血管新生を定量化した。軟骨仮骨への血管侵入が両対照において観察され(
図9G、
図9H)、β-NGF群では染色の強度が僅かに高かった(
図9I、
図9J)。Image-Jによる定量化は、β-NGF処置マウスの軟骨組織中のCD31陽性細胞の僅かな増加(p=0.12)のみを示す(
図9K)。
【0146】
2.5 局所β-NGF注射は骨折の14日後までに軟骨内骨形成を促進する
次に、治療用β-NGFの軟骨内送達による骨折治癒の機能的帰結を、骨折の14日後の処置脛骨および対照脛骨に対する組織形態計測的および定量的μCT解析を使用して試験した。組織診断は、β-NGFを受け取った骨折において、対照に比べて骨梁骨の形成が増加していること(赤色)および軟骨が減少していること(青色)を明らかに示す(
図10A、
図10B)。軟骨組織の定量化は、β-NGF処置マウスの仮骨内の絶対量(
図10C)および組成パーセント(軟骨量/総量)(
図10D)の約50%の減少を示した。逆に、骨梁骨の定量化は、β-NGF処置後の骨の絶対量(
図10E)および仮骨の組成(骨量/総量)(
図10F)の同様の増加を確認した。全体として、対照とβ-NGF処置マウスとの間で仮骨の量に差はなかった(
図10G)。また、群間で骨髄の量(p=0.59)(
図10H)または線維組織の量(p=0.40)(
図10I)に差はなかった。このことは、軟骨から骨への変換が実験群において促進されたことを示唆している。
【0147】
骨折14日後の対照およびβ-NGF処置マウスに対して、μCT解析を組織形態計測と並行して行った。μCT画像の肉眼検査は処置群間の明白な差を示さない(
図11A、
図11B)。しかし、構造インデックスの定量的評価は骨構造の明瞭な差を示した。β-NGF処置マウスは、対照に比べて、骨梁間隔(
図11C)の35%の減少を示し、一方、骨梁数(
図11D)および骨梁連結性密度(
図11E)の40%超の劇的な増加を示した。β-NGF処置マウスの骨折仮骨では骨塩量測定値も有意に約20%増加した(
図11F)。骨折仮骨内の骨梁骨のμCT解析のさらなる結果を
図12A~
図12Cに示す。骨折の7日後、8日後、および9日後に培地(対照)または0.5μgのβ-NGFの局所注射液を1日1回投与した後、骨折の14日後に脛骨をμCT解析のために採取した。まとめると、μCTデータは、軟骨内修復の後期を示す、β-NGF処置マウスにおける高度に接続された構造的に優れた骨構造を示す。
【0148】
したがって、骨折後7~9日目、修復の軟骨期にβ-NGFが投与される場合、該薬物は長管骨骨折治癒を促進する上で最も有効であった。これは、内在性NgfおよびTrkAの遺伝子発現の上方制御が観察されたことを反映している。NGF-eGFPおよびTrkA-LacZレポーターマウスを利用する組織学的データは、脛骨骨折の仮骨内の発現パターンの第1の遺伝子標識化を示す。軟骨が肥大化を経て骨に変換される、侵入血管系に隣接する軟骨・骨移行部中で、NGFおよびTrkAが主に局在化された。
【0149】
内因性NGFおよびTrkA局在化の遺伝子モデルは、修復の肥大軟骨期にニューロトロフィンおよびその受容体のピーク発現が観察されることを裏付けるものである(Asaumiら、2000年、Bone 26:625~633頁;Sunら、2020年、Bone 131:115109;GrillsおよびSchuijers、1998年、Acta Orthop Scan 69:415~419頁)。mRNA発現データは10日目にピークを示すが、試料を14日目に組織学的解析のために採取する場合は、mRNAからタンパク質への合成の遅延の可能性を考慮した。この時点でのNGFおよびTrkA発現の組織学的可視化によって、軟骨・骨移行部における脛骨骨折仮骨の広範かつ強力な存在が示される。
【0150】
骨成長および骨折修復の間の軟骨細胞から骨芽細胞への骨形成変換は、骨形成および石灰化を制御する伝統的プログラムの上方制御に関連している。遺伝子オントロジーを通じて、Wnt活性化に関連する分子機能を、β-NGF処置後に最も有意に上方制御される分子機能として同定した。さらに、本実施例は、β-NGFでのインビトロ刺激後の軟骨中でNGFシグナル伝達とWnt活性化との間の関係性が認められた最初の試験となる。また、Wnt活性化を、局所β-NGF注射後のAxin2-eGFPマウスを使用する組織学的解析によってインビボで確認した。したがって、β-NGF処置はおそらく、軟骨内骨折修復の間のWntが媒介する軟骨から骨への変換を刺激するとみられる。
【0151】
さらに、本実施例においては、β-NGFの最良の治療ウィンドウを規定する上で注射のタイミングが重要であることが示された。β-NGFは、修復の軟骨内期に送達される場合、早期、すなわち炎症性応答および膜内治癒の間に比べて強力な骨形成作用を示すことが発見された。β-NGFの軟骨内送達では、仮骨組織の組織形態計測的解析によれば、対照に比べて軟骨が減少し、骨組織が増加した。さらに、骨折仮骨の総量の変化は認められなかった。このことは、β-NGFが軟骨から骨への変換を促進するという知見を裏付けている。組織形態計測に加えて、μCTデータは、新たに形成された骨梁骨の高い連結性および高い塩量をさらに示した。
【0152】
実際、遺伝子発現解析、組織形態計測、およびμCTデータは一致して、骨折修復の軟骨内期のβ-NGF処置が骨形成を刺激することでより多くの骨組織を生じさせること、および、新たに形成される骨がより連結性が高く、より構造の質が高いことを示した。NGFの臨床応用に関する限界はその痛覚過敏作用にある。
【実施例3】
【0153】
神経成長因子の治療的送達は骨折治癒の間に軟骨から骨への変換を促進する
骨折は主に軟骨内骨化のプロセスを通じて治癒する。軟骨内骨化、または間接的な骨形成は、軟骨が骨間隙の間に形成された後、骨に置き換えられる際に生じる。骨折仮骨中での軟骨から骨への変換は、侵入する神経血管束に隣接して生じる。軟骨内骨化の間の血管新生および関連因子が真摯に研究されてきたが、このプロセスにおける神経シグナル伝達の役割を調査した研究は限られている。肥大軟骨細胞部の血管新生化および神経化がいずれも適切な出生後の骨成長のために決定的に重要であることから、神経成長因子(NGF)発現およびその受容体TrkAの誘導が骨折治癒の間に生じるか否か、ならびにNGFの局所注射がマウスの骨折脛骨中で軟骨から骨への変換を促進することで骨折修復を強化するか否かを調査した。
【0154】
方法
骨折治癒の間のNGF発現:10~14週齢の雄C57Bl6/J野生型マウスに対して3点骨折装置を使用して右脛骨の中央軸に不安定型閉鎖骨折を作り出した。仮骨を骨折後7日目、10日目、および14日目に採取して神経栄養遺伝子発現を測定した。試料をRT-qPCR(N=4)のためにTrizol中で収集してmRNAを単離した。
【0155】
遺伝子発現に対するNGFの作用:骨折の3日後または7日後に3日連続で骨折仮骨へのNGF(DMEM 20uL中0.5ug)の注射を開始した。対照にはDMEMのみを注射した。次に、骨折仮骨を、最終NGF注射の24時間後に採取し、骨形成マーカーおよび軟骨形成マーカーのRT-qPCR解析(N=3)のために、Trizol中で収集して、次にmRNAを単離した。mRNA発現の有意差をANOVA、続いてチューキー・クレーマー事後HSD(α=0.05)を使用して確定した。
【0156】
骨折仮骨組織の組成に対するNGFの作用:NGFおよび対照の注射を骨折後7~9日目に行った後、脛骨を骨折の14日後に採取した。骨折脛骨を4%パラホルムアルデヒド中に24時間固定した後、19% EDTA中、4℃で14日間脱灰し、次にパラフィン包埋および立体解析学的解析のために処理した(Huら、2017年、Dev 144:221~234頁)。一連の切片を10μmで切断し、Hall-Brunt四重染色(HBQ)プロトコルを使用して骨(赤色)および軟骨(青色)を可視化した。仮骨組成の定量化をOlympus CASTシステムおよびVisiopharmによるソフトウェアを使用して確定した(N=8)。有意性をWilcoxon/Kruskal-Wallis検定(α=0.05)を使用して確定した。
【0157】
結果
骨折治癒の間の血管新生遺伝子および神経栄養遺伝子(TrkA、VEGF、NGF)の発現の誘導が、骨折後10日目の発現ピークと共に観察された(データは示さず)。骨折治癒の膜内期(3~5日目)または骨折治癒の軟骨内期(7~9日目)のNGF注射後、最終注射の24時間後の骨形成遺伝子発現の定量化は、修復の軟骨期の注射によってのみ、DMEM処置対照に比べて強力にcol I、オステオカルシン(oc)、およびオステオポンチン(op)が活性化されることを示す(データは示さず)。治癒の膜内期に注射される場合、NGF処置マウスの仮骨ではcol I発現のみが対照に比べて異なったが、軟骨内期に注射される場合、NGF処置マウスの仮骨ではcol 2、col I、oc、およびopの発現が対照に比べて異なった。NGFをこの後期の時点で送達する場合、組織診断は骨折の14日後に、より多くの新たに形成された骨梁骨、およびより少ない軟骨を示す。立体解析学的定量化は群間で仮骨サイズの差を明らかにしなかったが、骨量はNGF処置マウスの方が有意に高く、このことは、骨折仮骨中の骨の割合が増加していることを意味する(データは示さず)。逆に、軟骨量および組成はNGF処置マウスの方が有意に低かった(データは示さず)。
【0158】
したがって、骨折後7~14日目の間に脛骨中でNGFおよびTrkAの発現が誘導された。さらに、NGF/TrkAシグナル伝達と並行して、骨折後10日目にVEGF発現もピークに達した。NGF処置骨折のRT-qPCRデータは、軟骨内修復の軟骨期(骨折後7~9日目)に処置されたコホートにおいて骨形成マーカーがより強力に促進されることを示した。これにより、骨折の14日後に対照群に比べて骨量が増加し、軟骨量が減少した。このことは、NGF送達が軟骨から骨への変換を促進したことを示している。この局所NGF投与は軟骨仮骨中で骨形成を活性化するようである。
【実施例4】
【0159】
注射用マイクロロッドによるβ-NGFの局在化送達は軟骨内骨折修復を促進する
PEGDMAマイクロロッドの作製
操作されたPEGDMAマイクロロッドがNGFの持続放出を生じさせることで軟骨内修復を促進するか否かを確定するために、既に記載(Ayalaら、2010年、Tissue Engineering Part A 16:2519~2527頁)のようにマイクロロッドを作製した。簡潔に言えば、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(PEGDMA)分子量750、光重合開始剤2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)を1-ビニル-n-ピロリドン(NVP)に、リン酸緩衝食塩水(PBS)中100mg/mLの濃度まで溶解させた。この溶液を室温で15分間超音波処理して均質化した。PBSに対するPEGDMAの% v/vを変化させることで25%、75%、および90% PEGDMAマイクロロッドを作り出した。既存の方法(Yangら、2014年、PNAS USA 1302703111)を使用して、フォトリソグラフィーを使用することで、寸法100x15x15μmを有するように設計されて、3インチシリコンウェハに微細作製された、マイクロロッドを作り出した。簡潔に言えば、ウェハをピラニア溶液(3:1 H2SO4:H2O2)中で20分間クリーニングし、DI-H2Oで3回リンスした。次にウェハをアセトン、メタノール、およびイソプロパノールでリンスした後;200℃で2分間ベーキングした。PEGDMA前駆体溶液を各ウェハに堆積させた。これらのウェハは、SU-8 2015で予め作製された奥行き15μmのベベルを有していた。ウェハを、Karl Suss MJB3マスクアライナーを使用してマイクロロッドのパターンを有するフォトマスクを通じて9mW/cm2で405nm光源に曝露した。ウェハ上のマイクロロッドをリンスし、セルスクレーパーによって穏やかに擦過しながら70%エタノールで取り除いた。収集したマイクロロッドを遠心し、70%エタノール中で3回リンスした後、10%スクロースおよび0.05% tween-20が入った滅菌脱イオン水(diH2O)に再懸濁させて凝集を防止した。次に約100,000個のPEGDMAマイクロロッドのアリコートを凍結乾燥させ、密封し、さらなる使用まで4℃で保管した。PEGDMAマイクロロッドのサブセットをPBSに再懸濁させ、明視野(BF)下で顕微鏡写真撮影した。別のサブセットをPBS中で低分子量色素4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)1μg/mLによって5分間染色し、PBSで穏やかに3回洗浄した後、直ちにNikon Ti顕微鏡を使用して画像化した。
【0160】
PEGDMAマイクロロッドのタンパク質添加
ウシα-キモトリプシノーゲンA(Sigma)を、25%、75%、および90% PEGDMAマイクロロッドの間で添加効率を比較するための代理として使用した。これは、ウシα-キモトリプシノーゲンAの分子量(25.7kDa)がβ-神経成長因子の分子量(β-NGF、27kDa)と同様であるからである。凍結乾燥PEGDMAマイクロロッドアリコート(マイクロロッド約100,000個/アリコート)をdiH2O中1mg/mL α-キモトリプシノーゲンA 20μLに再懸濁させた。再懸濁後、マイクロロッドにタンパク質を4℃で30時間受動的に吸収させた。添加後、マイクロロッドをdiH2Oに再懸濁させ、管中で穏やかに遠心沈殿してペレット化し、上澄み液を使用してマイクロビシンコニン酸(μBCA)タンパク質アッセイを行うことで、溶液に残存するタンパク質の量を定量化した。添加効率を確定するために下記式を使用した:添加効率%=((Xi-Xt)/Xi)*100;式中、Xtは30時間後の上澄み液中のタンパク質の量であり、Xiは調製中に最初に加えられる薬物の量である。後続のアッセイにおいて、PEGDMAマイクロロッドに対するβ-NGFの添加、および添加効率の計算を同様に行った。
【0161】
マイクロロッドを濃度1x106/mLで1mg/mL NGF-PBS溶液に4℃で24時間入れることで、NGFを該マイクロロッド中に吸収を通じて添加した。次にNGF添加マイクロロッドを4℃での遠心分離により収集し、吸収効率を上澄み液中の[NGF]を通じて計算した。放出動態を計算するために、マイクロロッドをPBSアリコート100μLに再懸濁させ(マイクロロッド1x106個/mL)、37℃で穏やかに撹拌し、1日目、3日目、5日目、7日目、および14日目に上澄み液を収集し、タンパク質含有量をマイクロBCAタンパク質アッセイによって測定した。7日間にわたる放出速度0.50μg/日を目標とした。
【0162】
赤芽球(TF-1)細胞増殖
TF-1細胞増殖アッセイは既存の方法(MaおよびZou、2013年、J Applied Virol 2(2):32)を改変したものである。簡潔に言えば、2ng/ml組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Sigma-Aldrich)および10%ウシ胎仔血清を補充した、2mM L-グルタミン、10mM HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、4500mg/Lグルコース、および炭酸水素ナトリウム1500mg/Lで改変されたRPMI 1640培地(ATCC 30-2001)中で、TF-1細胞(ATCC)を7日間培養した。7日間の細胞増殖後、コンフルエントTF-1細胞を、遠心分離により収集し、24ウェルマイクロプレート中に、無血清培地600μlを収容するウェル1個当たり細胞30,000個で再懸濁させた。細胞を無血清培地中で24時間培養して細胞を同期させた後、処理群を加えた。24時間後、無血清培地100μl、空のマイクロロッド16,000個、可溶性β-NGF 2000ng、またはβ-NGF 18ngを含むマイクロロッド16,000個を収容する高細孔密度(0.4ミクロン)トランスウェルインサートを各ウェルに挿入し、これらの条件でさらに96時間培養した。ウェル1個当たり30,000個の細胞を収容する24ウェルプレートを取り外し、24時間の無血清培地インキュベーション後に0日対照として分析した(下記参照)。96時間後、トランスウェルインサートを取り外し、各ウェルから300μlを吸引した。この収集された300μlをアリコートして、各100μlを収容する96ウェルマイクロプレート中の個々のウェル(24ウェルプレート中の単一のウェルに関して合計3個のウェル)に入れ、製造業者のプロトコルに従ってCyQuant(商標)直接増殖アッセイキット(Thermo Fisher)に供した。データは0日目の細胞数に対する変化倍率として表される。
【0163】
マイクロロッドから溶出するNGFの生物活性の確認
PEGDMAマイクロロッドへの添加およびPEGDMAマイクロロッドからの放出後のNGFの生物活性を評価するために、既存のTF1増殖アッセイを使用した(Malerbaら、2015年、PLoS ONE 10:e0136425)。TF1細胞(TrkAを発現する)を10%ウシ胎仔血清(FBS)入りのDMEM中で2ng/mL rhGM-CSFと共に1週間培養した。培養後、細胞を96ウェルマイクロプレートに細胞300,000個/mL(50μl中にウェル1個当たり細胞15,000個)の濃度でプレーティングした。プレーティングの60分後、細胞をDMEM 10% FBS中のNGF-マイクロロッド上澄み液に曝露した。40時間のインキュベーション後、試薬CellTiter 96 Aqueous 1 Step Solution Reagent(Promega Corporation、米国マジソン)60μlをピペットで各ウェルに入れた。さらに1時間のインキュベーション後、490nmの吸光度をElisaプレートリーダー(Wallac Victor V21420分光光度計)を使用して記録した。PEGDMAマイクロロッドから放出されたNGFはTF1細胞の増殖を増加させた(データは示さず)。
【0164】
PEGDMAマイクロロッドからのβ-NGF溶出
マイクロロッドアリコート約100,000(100k)個を1mg/mL組換えヒトβ-NGF(Peprotech)20μLに再懸濁させることで凍結乾燥90% PEGDMAマイクロロッドに添加した。添加後、マイクロロッドをPBSで穏やかに3回リンスした。次にPEGDMAマイクロロッドをさらに分割し、試料は16kマイクロロッド/マイクロチューブのPBS(pH7.4)250μL懸濁液で構成された。試料をインキュベーター(37℃)内のオービタルシェーカー(100RPM)に置いた。PEGDMAマイクロロッドを穏やかに遠心沈殿させ、6時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、144時間、および168時間の時点で上澄み液を収集し、補充した。収集した上澄み液を直ちに急速冷凍し、さらなる使用まで-80℃で保管した。ヒトβ-NGF用のELISA(RayBiotech)を製造業者の説明書に従って行い、毎日の放出量を既存の検量線により計算した。
【0165】
NGFR100W溶出PEGDMAマイクロロッドのインビボでの治療効能の確定
脛骨骨折および骨折仮骨組成:この系の前臨床的検証のために、強力な軟骨内骨化を促進するマウス脛骨骨折モデルを利用し(Huら、2017年、Development 144:221~234頁;Leら、2001年、J orthopaed res 19:78~84頁;Luら、2006,The Iowa orthopaedic journal 26:17~26頁)、10~14週齢のC57Bl6/J野生型マウスに対して3点骨折装置を使用して右脛骨の中央軸に閉鎖骨折を作り出す。4つの処置群は(1)DMEM、(2)DMEM中NGFR100W、(3)DMEM中マイクロロッド、および(4)DMEM中NGFR100W添加マイクロロッドとする。NGF投与が骨折の7日後から修復の軟骨期に最も有効であることを予備データが示したことから、処置薬を骨折の7日後に骨折仮骨に1回経皮注射する。骨折の14日後、21日後、および28日後に組織を機能評価のために採取する(n=10/時間/群、合計n=120)。骨折仮骨組成を立体解析学的解析により定量化する。簡潔に言えば、仮骨を4%パラホルムアルデヒド中に固定し、19% EDTA中で2週間脱灰し、パラフィン包埋のために処理する。一連の切片(10μm)をスライドに装着し、Hall-Brunt四重染色(HBQ)で染色する。組織を自動Olympus CastシステムおよびVisopharmソフトウェアを使用して定量化する。
【0166】
マウス脛骨骨折モデル
試験をJackson Labsから得たC57BL6/J野生型系統(ストック#000664)について行った。簡潔に言えば、成体(10~16週齢)雄マウスを吸入イソフルランで麻酔し、3点曲げ骨折装置によって脛骨の中央骨幹に不安定型閉鎖骨折を作り出した(Bahneyら、2014年、J Bone Mineral Res doi:10.1002/jbmr.2148)。この方法が強力な軟骨内修復を促進することから、骨折は不安定型とした。骨折が作り出された後、動物に術後鎮痛薬(ブプレノルフィン持続放出)を与えた。動物を社会的に収容し、自由に動き回らせた。
【0167】
局所注射
骨折の7日後にマウスの脛骨骨折仮骨に経皮注射液を投与した。正確なマイクロリットルHamilton(商標)シリンジをすべての注射に使用し、ここでは実験剤をPBS 20μLに入れて注射した。実験群は以下の通りである:滅菌PBSを注射した対照、PBS中β-NGF 500ngを注射したβ-NGF群、PBS中PEGDMAマイクロロッド16,000個を注射した無添加マイクロロッド群、およびβ-NGF 18ngを添加したPEGDMAマイクロロッド16,000個を注射したβ-NGFマイクロロッド群。
【0168】
生体力学試験およびμCT解析
立体解析学的結果に基づいて骨折治癒の結果の包括的分析を得るために、仮骨骨折の最大差を伴う時点を選択することで、生体力学強度試験およびμCT解析を含むパイロット試験を完了する(おそらく骨折の14日後または21日後、n=10/群、合計n=40)。これらの試料では、脛骨を採取し、70%エタノールに移して、骨密度(BMD)および骨量(BV)を確定するためのUCSF Skeletal Biology Core(「SBB」)内のScanco μCT50スキャナでのμCT解析に供する。続いて試料をCCMBM Skeletal Biology Biomechanics Coreに移して3点曲げに供する(Bose Corp.、米国ミネソタ州Eden Prairie)。
【0169】
マイクロコンピュータ断層撮影(μCT)
μCT解析を既に記載のように行った(Chengら、2020年、J Bone Mineral Res doi:10.1002/jbmr.3864;Huら、2017年、Dev (Cambridge)144(2):221~234頁)。骨折脛骨を骨折の14日後に付着筋肉なしで切除し、4% PFA中に固定し、70%エタノール中で保管した。骨折仮骨をUCSF Core Center for Musculoskeletal Biology(CCMBM、NIH P30 資金拠出コア)においてScanco μCT50スキャナ(Scanco Medical AG、スイスBasserdorf)をボクセルサイズ10μmならびにX線エネルギー55kVpおよび109μAで使用して解析した。対照マウスおよび処置マウスの試験において軟部組織から総石灰化骨基質をセグメント化するために、比較的低い排除閾値の400mgヒドロキシアパタイト(HA)/mm3を適用した。線状減衰をScancoヒドロキシアパタイトファントムを使用して較正した。関心対象領域(ROI)は、解剖学的位置およびはるかに高い骨塩量によって明確に識別される既存の皮質を伴わない、仮骨全体を含んだ。μCT再構築および定量的解析を行って以下の構造パラメータを得た:骨量分率(骨量/総量%)、骨梁分岐としての骨梁連結性密度(#/mm3)、および骨塩量(mg HA/cm3)。
【0170】
局在化組織診断
骨折の12日後、14日後、および21日後(マイクロロッドの注射の5日後、7日後、および14日後)に脛骨を採取してマイクロロッドの局在化を観察した。収集時に、脛骨を4% PFA中に固定し、19% EDTA中、4℃で14日間脱灰し、揺動および溶解を隔日で交互に行った。脛骨をパラフィン包埋のために処理し、一連の切片を10μmで切断し(スライド1個当たり切片3個)、PEGDMAマイクロロッドを局在化することに関して既に記載のように(Riveraら、2020年、Sci Reports 10:22241;Huら、2017年、Dev (Cambridge)144(2):221~234頁)、Hall-Brundt四重染色(HBQ)プロトコルを行って骨(赤色)および軟骨(青色)を可視化した。切片をPermount(商標)装着媒体によってスライドに装着し、明視野画像をLeica DMRB顕微鏡で捕捉した。
【0171】
組織形態計測
骨折の14日後に採取された脛骨の定量的組織形態計測を使用して骨折仮骨組成を確定した。各切片を300μm間隔とした10番毎のスライドからの第1の切片を使用して、組織形態計測的解析の標準的原理を利用することで骨折仮骨中の骨分率および軟骨分率を定量化した。Nikon Eclipse Ni-U顕微鏡をNikon NIS Basic Research Elementsソフトウェアバージョン4.30と共に使用して画像を捕捉した。Fiji ImageJ(バージョン1.51.23;NIH、米国メリーランド)50中でTrainable Weka Segmentationアドオンを使用して仮骨組成(軟骨、骨、線維組織、バックグラウンド)の定量化を確定した。全体に対する個々の組成を合計することで、特定の組織型の量を骨折仮骨全体に関して確定した。
【0172】
統計解析
グラフ上の個々のドットは生物学的複製を表し、エラーバーは平均値の標準誤差(SEM)を表す。測定値を別々の試料から取得した。データをGraphPad Prism(バージョン8、GraphPad Software、カリフォルニア州サンジエゴ)を使用して解析した。ANOVAを使用して複数群間の統計差を確定した後、チューキーHSD事後比較試験を行った。統計差はp<0.05で確定した。
【0173】
結果
4.1 フォトリソグラフィーによる注射用PEGDMAマイクロロッド作製
先に言及したように、PEGDMAマイクロロッドをフォトリソグラフィーのプロセスを通じて作製する(
図13)。PEGDMAマイクロロッドの正確な寸法はフォトマスクによって慎重に制御可能である(長さおよび幅)。マイクロロッドの高さを、シリコンウェハと、マスクアライナーの使用によって手動で制御されるフォトマスクとの間の距離によって確定する。次にPEGDMAマイクロロッドを紫外線照射により架橋させ、セルスクレーパーによってシリコンウェハから剥離し、収集する。個々の各PEGDMAマイクロロッドは以下の寸法を有した:H=15μm、W=15μm、L=100μm。各750MW PEGモノマー単位の各末端におけるメタクリレート基のフリーラジカル鎖光重合を通じてマイクロロッドの3D構造を形成する。この系によって、高度に均一なPEGDMAマイクロロッドを製造するための高スループット方法が得られる。
【0174】
4.2 PEGDMAマイクロロッドのマクロマー濃度はタンパク質添加効率を変化させる
第1の目的はPEGDMAマイクロロッドのポリマー網目構造の密度を調整することでタンパク質添加効率を最大化させることにあった。フォトリソグラフィーの前に、PEGDMAマクロマー濃度を低度(25%)、中程度(75%)、または高度(90%)の体積(v/v)量を含むように調整した(
図14A)。作製後、PEGDMAマイクロロッドを凍結乾燥させて、タンパク質添加を変化させる可能性があるすべての残留液体を除去した後、その分子量がβ-NGFの分子量(26kDa)と同様であることから、α-キモトリプシノーゲンAを代理タンパク質として添加した。低度および中程度のマクロマー量のPEGDMAマイクロロッドはそれぞれ5%未満および15%未満という中程度の添加効率を示した。高マクロマー量のPEGDMAマイクロロッドは、他のPEGDMA濃度に比べて有意に大きい30%超という添加効率を示した。90% PEGDMA(v/v)マイクロロッドが最良の添加効率を示したことから、この製剤をすべての後続の実験のために選択した。次に高マクロマーPEGDMAマイクロロッドにβ-NGFを添加することでβ-NGF添加効率を確認したところ、40%超の添加効率が得られた(
図14D)。一般的に使用されている核対比染色であるDAPIは、PEGDMAマイクロロッドに容易に吸収されて蛍光顕微鏡法で可視化されることが可能である(
図14B)。DAPI染色マイクロロッドはサイズが均一であり、凝集を示さない。これは、いっそう最適なタンパク質添加を可能にする良好な分散性を示すものである。タンパク質添加が物理吸着を動因とすることを考慮して、マイクロロッドでのタンパク質の吸収、および添加後にタンパク質溶出が生じる速度を定量的に調査した。FITC-BSAをモデルタンパク質として使用して、PEGDMAマイクロロッドの表層を蛍光タグ化タンパク質でコーティングする。ゼロ時点での拡散はない(
図14C、上部)。60分間のインキュベーション後、拡散が劇的に増加して、FITC-BSAがPEGDMAマイクロロッドの周囲空間に溶出することが観察可能になる(
図14C、下部)。
【0175】
4.3 β-NGFの生物活性保持およびPEGMDAマイクロロッドからの持続放出
次に、β-NGFがPEGMDAマイクロロッドから放出される際に生物活性を保持するか否かを試験した。これを行うために、赤白血病Trk-A発現細胞株TF-1を培地(対照)、可溶性β-NGF 2000ng、無添加マイクロロッド、またはβ-NGF 18ngを添加した16,000個のPEGDMAマイクロロッドの存在下で利用した(
図15A)。4日間の培養後に、β-NGFマイクロロッドからの持続放出が他の処理群に比べてTF-1細胞の増殖を増加させると仮定した。可溶性NGF処理細胞は対照に対して2倍の増殖増加を示した。無添加マイクロロッドも可溶性NGF処理細胞と同様の増殖増加を示した。しかし、β-NGFマイクロロッドによる統計的に有意な4倍の増殖増加によって、仮説が裏付けられた。増殖増加は、168時間(7日間)にわたって観察されたβ-NGFの持続放出に起因する可能性がある(
図15B、
図15C)。ELISAにより測定されたように(
図15B)、β-NGFマイクロロッドは最初の24~48時間以内のβ-NGFの初期バースト放出、続いて次の120時間(2~7日目)にわたる持続放出を示した。溶出β-NGFの総一日量は経時的に減少した。これはPEGDMAマイクロロッドからの濃度依存的な(一次)放出動態を示す。にもかかわらず、β-NGFの溶出が7日間(168時間)にわたって検出および定量化された(
図15C)。
【0176】
4.4 β-NGF添加PEGDMAマイクロロッドは軟骨内骨形成を促進する
これまでのデータは、PEGDMAマイクロロッドにβ-NGFを添加可能であり、β-NGFが生物活性を示し、7日間にわたって放出されることを示している。これらの知見を考慮して、β-NGF添加PEGDMAマイクロロッドの持続放出により軟骨内骨折修復を促進することができると仮定された。この仮説を試験するために、成体野生型マウスの右脛骨に中央軸閉鎖骨折が作り出された長管骨治癒のマウスモデルを利用した(
図16F、
図16G)。これらの不安定型骨折は強力な軟骨内修復を刺激することが既に示されている(Bahneyら、2014年、J Bone Mineral Res 29(5))。以前の試験によれば、NGFは、損傷の7日後、骨治癒の軟骨期に送達される際に、骨折治癒を促進する上で最も有効であった。(Riveraら、2020年、Sci Reports 10:22241)。したがって、PEGDMAマイクロロッドを損傷の7日後にHamiltonシリンジを使用して骨折部位に直接経皮送達した。最初に、Hall Brunt四重染色(HBQ)(軟骨=青色、骨=赤色)によって可視化されるように、生理食塩水(軽く青色に染色)20μLに懸濁したマイクロロッド16,000個が、骨折仮骨に有効に送達されたことが示され(
図16A~
図16D)、14日間の修復期間全体にわたってなお局在化していた(
図16C~
図16E)。
【0177】
β-NGFの有効性を評価するために、β-NGF 18ngを含むマイクロロッド16,000個を骨折仮骨に注射した。比較のために、さらなるマウスを3つの実験群(注射群)に分けた:骨折仮骨に生理食塩水20μL、単回量のβ-NGF(2000ng)、または無添加PEGDMAマイクロロッドを皮下注射した。すべての経皮注射液を骨折の7日後に投与し、7日間治癒させ(骨折の14日後)、その時点で仮骨を採取して、骨折仮骨内の石灰化組織を定量化しかつ骨組織微小構造を解析するためのマイクロコンピュータ断層撮影(μCT)解析に供した。画像の肉眼検査によれば、β-NGFマイクロロッド群はすべての他の群に比べて大きく、また強固になった仮骨を示すようであった(
図17A~17D)。骨量分率(BFV)の定量化により、β-NGFマイクロロッド群における最高のBVF、および生理食塩水対照に比べて有意に高いBVF(約52%増加)が確認された(
図17E)。さらに、β-NGFマイクロロッドで処置された骨折において、いっそう成熟した骨折仮骨が生じた。β-NGFマイクロロッド処置は、生理食塩水対照に比べて骨梁分岐(TB)を有意に増加させ(約95%の増加)、骨塩量(BMD)を有意に増加させた(約34%の増加)(
図17F、
図17G)。骨折仮骨内の骨梁骨のマイクロCT解析を
図17H~
図17Jにさらに示す。興味深いことに、可溶性β-NGFは骨形成をβ-NGFマイクロロッドと同程度には改善せず、生理食塩水対照とは統計的に差がなかった。統計的に差はないものの、無添加マイクロロッドは可溶性NGF処置群および生理食塩水処置群に比べて多い量のBVF、TB、およびBMDを示す。
【0178】
4.5 B-NGF添加PEGDMAマイクロロッドは骨折仮骨中の軟骨組織量を減少させる
μCTにより認められた差をいっそう詳しい組織レベルで理解するために、定量的組織診断を使用して骨折仮骨内の軟骨分率および骨分率を識別した。骨折の14日後に採取されてHBQ(軟骨=青色、骨=赤色)で染色された脛骨切片の組織学的画像は、β-NGFマイクロロッドが最高の骨量を示すことを視覚的に示す(
図18A~
図18D)。生理食塩水で処置された骨折仮骨は、他の処置群に比べて高い軟骨量を仮骨の組成パーセント(32±2%)として示し、最低の骨量を組成パーセント(67±2%)として示した。これは治癒が最も進行していないことを示すものである(
図18A~
図18F)。高倍率画像によって骨折仮骨中の軟骨細胞の割合が大きいことが確認される。これは骨折が軟骨内修復における軟骨から骨への移行期に近づいているのみであることを示唆している(
図18A)。空のマイクロロッドで処置された骨折仮骨では、ほぼ同一の結果が観察され、軟骨量および骨量はそれぞれ32±2.7%および68±2.7%であった(
図18C、
図18E、および
図18F)。可溶性NGFで処置された骨折仮骨では、空のマイクロロッドおよび未処置対照に比べて骨量が僅かに上昇し(71±3.2%)、軟骨量が低下した(29±3.2%)が、この効果は統計的に差がなかった。β-NGF添加マイクロロッドが、骨折仮骨組成を有意に変化させて強固な骨形成(79±3%)を生じさせた唯一の処置群であった(
図18Dおよび
図18F)。また、β-NGFマイクロロッド処置試料は、生理食塩水対照に比べて有意な軟骨の視覚的減少および統計的に異なる軟骨量(21±3%)を示す(
図18D、
図18E)。骨折仮骨の組織形態計測的解析を
図18G~
図18Jに示す。
【0179】
したがって、毎日の注射に関する100ng以上という閾値を下回る投与量で持続薬物放出を行うことにより、β-NGF治療の痛覚過敏作用を最小化しながらその栄養的利点を平衡化することができる。反復投与を回避するために、PEGDMAマイクロロッドを臨床的に適切な薬物送達プラットフォームとして使用した。PEGDMA微小粒子送達プラットフォームの大部分では球形粒子が骨修復用途に使用される(Sonnetら 2013年 J Orthopaed Res 31:1597~1604頁;Stukelら、2015年、J Biomed Materials Res Part A 103:604~613頁;Olabisiら、2010年、Tissue Engineering Part A 16:3727~3736頁)。本試験では、高アスペクト比粒子が比較的長い滞留時間を示し、食作用または細胞内部移行を回避する傾向があるということを考慮して、骨折修復のための高アスペクト比マイクロロッドの使用が示される。本試験は、骨折修復にPEGDMAマイクロロッドを初めて使用するものである。
【0180】
フォトリソグラフィーを使用することで、PEGDMAマイクロロッドを高スループットで製造することができる。さらに、90%(v/v)PEGDMAマクロマーを使用することで、PEGDMAマイクロロッドに対するβ-NGF添加量が増加した。最後に、顕微鏡写真によって、分子のサイズが小さいほどPEGDMAポリマーメッシュ網目構造を横切ってまたはその中に拡散しやすくなることが確認された。
【0181】
添加アッセイで100,000個が使用されたのに対し、16,000個のPEGDMAマイクロロッドで行われた(これは、16,000個のみが、インビボ実験に使用される20μLシリンジ中で有効に吸引可能であったからである)、TrkA発現TF-1細胞株を使用するインビトロ増殖アッセイで示されたように、添加β-NGFはその生物活性を保持した。マイクロロッド100,000個中に添加された総タンパク質の約30~40%が約1~2mgであると計算された。したがって、最高計算値2μg(2000ng)をマイクロロッド16,000個中に添加し、すべての並行実験についてそれを可溶性NGF量として設定した。β-NGFタンパク質のうち一部は添加または溶出の間に本来の分子配置を失い、したがって生物活性を減少させることがある。にもかかわらず、生物活性β-NGF 18ngを含む16,000個のPEGDMAマイクロロッドは、おそらくは96時間の実験期間にわたるβ-NGFの持続放出を動因とする、TF-1細胞増殖に対する強力な作用を示した。無添加PEGDMAマイクロロッドと共に培養された細胞の増殖の僅かな増加も観察された。
【0182】
マウス骨折モデルにおいて軟骨内骨折修復の間にPEGDMAマイクロロッドの局在化を調査することで、注射の5日後および7日後の両方においてPEGDMAマイクロロッドを組織学的に局在化することが可能になった。しかし、PEGDMAマイクロロッドは14日後にはもはや目視できなかった。このことは、PEGDMAマイクロロッドが経時的におそらく物理的に分解されることを示唆している。PEGDMAマイクロロッドの分解産物は、既知の生体適合性および細胞無毒性に基づき、インビボでは関心対象とならない。また、効能試験では、PEGDMAマイクロロッドが治療ペイロードを実現するために十分な長さで骨折仮骨に局在化されており、したがって、β-NGFの骨折仮骨注射における適用に好適であることが確認される。
【0183】
PEGDMAマイクロロッドによるβ-NGF送達の治療効能を、マウスにおける不安定型脛骨骨折、続いてμCT解析および定量的組織形態計測を使用して確認した。軟骨量の減少、ならびに骨量分率(BVF)、骨梁分岐(TB)、および骨塩量(BMD)の統計的に有意な増加により証明されるように、β-NGF添加マイクロロッドは軟骨内骨折修復を強化した。さらに、骨折仮骨内での織布状の骨形状および最小限の肥大軟骨細胞は、おそらくは遊離/注射β-NGFからの大量ボーラス投与ではなくPEGDMAマイクロロッドからのβ-NGFの持続放出を行ったことによる、持続放出型β-NGF添加PEGDMAマイクロロッドの注射後の仮骨形成への速やかな移行を示すものである。大量ボーラス投与はオフターゲット作用および毒性の危険性がある。
【0184】
PEGDMAマイクロロッドが実現するβ-NGFの高度な局在化は、β-NGFの半減期を潜在的に延長したことに加えて、β-NGF添加マイクロロッドで処置されるマウスにみられる強力な軟骨内骨折応答に相乗的に寄与した可能性がある。
【実施例5】
【0185】
ナノワイヤ
5.1 ナノワイヤ作製
機能化ナノワイヤの経皮注射による骨折へのNGFR100Wの持続局所送達のための臨床的に適切な薬物送達プラットフォームを試験する目的で、PCLナノワイヤを無痛NGFの親和性結合のためにヘパリンでコーティングした後、積層(LbL)静電コーティングを使用して放出動態を調整する。ナノワイヤNGFR100Wの生物活性をインビトロで既存の生物増殖アッセイを使用して確認する。インビトロでの放出動態の最適化後、NGFR100Wナノワイヤの効能を骨折した野生型または糖尿病マウスにおいて試験する。注射用NGFR100Wナノワイヤは、NGFR100Wの持続局所送達を通じて軟骨内修復を促進すると予想される。
【0186】
ナノワイヤをナノテンプレート化技術を使用してポリカプロラクトン(PCL)ポリマーから作製する(
図19)。PCLは生物医学的用途に関して明確な利点を示す。これは、該ポリマーが生分解性かつ非免疫原性であるからである。孔径が制御された陽極酸化アルミニウム(AAO)基材をナノワイヤ形成のテンプレートとして使用する(Zamecnikら、2017年、ACS Nano 11:11433~11440頁)。PCLフィルムをガラス基材に流延し、AAOテンプレートと接触させながら融点を超える温度に加熱する。これにより毛管作用を通じてAAO孔部中にナノワイヤが速やかに形成される。ポリマー材料のテンプレート化および冷却後、膜剥離および水酸化ナトリウムでの選択的AAOエッチングによってナノワイヤを浄化する。ナノワイヤの幅はAAO鋳型の孔径によって制御され、一方、ナノワイヤの長さはポリマーフィルムの厚さを変化させることで調整可能である。2~20μmの範囲の長さを有するナノワイヤが作製され、200nmの幅がこれまで一貫して使用されている。ポリマー骨格にカーゴを例えばナノワイヤのインビトロおよびインビボでの可視化のための疎水性蛍光色素と共に組み込むことで、PCLナノワイヤを機能化する。
【0187】
5.2 制御送達のためのNGFによるナノワイヤ機能化
無痛NGF成長因子カーゴをナノワイヤスキャフォールドに取り付けるために、積層(LbL)静電構築アプローチを利用した(Zamecnikら、2017年、ACS Nano 11:11433~11440頁)(
図20A)。LbL構築は、薬物送達用途で広範に使用されており、層を増加させることで成長因子の保持が増加するように、生物学的カーゴをナノ材料に取り付ける、容易でモジュール式の手段を提供するものである(
図20C)。PCLナノワイヤは、作製プロセスにおいて使用されるアルカリエッチング法の結果として強力な負電荷を有する。この負電荷により、ナノワイヤの表面にバイオポリマーを静電的に構築することが可能になった。キトサン(正電荷)およびヘパリン(負電荷)が、それらの生体適合性およびヘパリンの成長因子親和性を理由として、LbL構築のために選択された。ナノワイヤ表面電荷のゼータ電位測定により確定されたように、キトサンおよびヘパリンはいずれもナノワイヤの表面にうまく堆積された(
図20B)。複数の層が堆積されることで、正に帯電(キトサン)したナノワイヤと負に帯電(ヘパリンコーティング)したナノワイヤとの間で電荷振動が観察された。電荷以外にも、キトサンは抗菌性によっても有利であり(Jiangら、2014年、Natural and Synthetic Biomedical Polymers ch.5:91~113頁)、ヘパリンはNGFを含む複数の成長因子に対する高い親和性を示す(Martinoら、2013年、PNAS USA 110:4563~4568頁;Huら、2020年、J Cell Mol Med 24:8166~8178頁)。
【0188】
5.3 無痛NGFの吸着効率および放出動態の確定
ポリ(エチレン)グリコールジメチルアクリレート(PEGDM)マイクロロッド(15x100mm)をNGFの制御放出に使用して、PEGDMの吸着効率を該モノマーの濃度を変化させることで改変することができた(
図21A)。90%(v/v)濃度の凍結乾燥PEDMAは、NGF 20ngが添加され、制御放出を示すことができた(
図21B)。NGF放出をさらに調整する能力、およびナノスケール性(幅200nm×長さ20μm)を理由として、PEGDMマイクロロッドからPCLナノワイヤへの移行が行われた。NGFをナノワイヤに添加するために、NGFをモル比1:2のpH6 酢酸ナトリウム緩衝液およびヘパリン中で可溶化する。そこで、負に帯電したヘパリンはNGFを正に帯電したキトサンナノワイヤに固定する。本明細書に記載のナノワイヤシステムを使用して、NGF 5μg(マイクロロッドの250倍)が75%超の効率でうまく添加された。NGFの持続的な一次放出が8日間にわたって実現された(
図21C)。これらのデータはキトサンの1つの層のみを使用して作成した;いっそう線形になるようにNGF放出動態をさらに調整することを、静電ポリマーの複数の層を加えることで実現することができる(Zamecnikら、2017年、ACS Nano 11:11433~11440頁;WoodruffおよびHutmacher、2010年、The return of a forgotten polymer-Polycaprolactone in the 21
stcentury 35:1217~1256頁;Xueら、2013,Biomaterials 34:2624~2631頁)。放出動態をmBCAアッセイを使用して確定した。これらの予備データに厳密さを負荷するために、タンパク質放出の特異性をNGF-ELISAを使用して確認する。
【0189】
5.4 NGF
R100Wナノワイヤのインビボ生物活性
放出動態を特徴づけることに加えて、ナノワイヤから放出されたNGFが生物活性を維持することを確認した。NGFに関する古典的な生物活性試験はTF1赤芽球細胞増殖アッセイである(Chevalierら、1994年Blood 83:1479~1485頁)。様々な濃度のNGFナノワイヤおよびNGF
R100WナノワイヤをTF1赤芽球と共に3~5日間にわたってインキュベートし、細胞増殖をCyQuantまたはPrestoBlueアッセイを使用して定量化し、可溶性NGF/NGF
R100Wおよび空のキトサンのナノワイヤ対照による増殖速度と比較する。PEGDMAマイクロロッドからの放出後、NGFは生物活性を保持する(
図21D)。TF1細胞増殖を測定することに加えて、処置の1時間後、24時間後、および48時間後にcFOSをqRT-PCRで測定し、ホスホ-TrkA/AKT/Erk/PLCgをウエスタンブロット法で測定することで細胞中でのNGF/TrkA経路活性化を定量化する(Sungら、2018年、J Neurosci 38:3394~3413頁;Yangら、2020年、Prog Neurobiol 194:101866)。
【0190】
5.5 正常骨折治癒におけるNGFナノワイヤのインビボ評価
上記で詳述した既存のマウス脛骨骨折モデルを使用してNGFナノワイヤの治療効能を評価する。予備データは、骨折の7日後、骨折治癒の軟骨内期にNGF注射を開始した際に最適な治癒が生じることを示す(データは示さず)。次に、全身(腹腔内)NGFR100Wを、骨折の7日後に仮骨に経皮注射した以下の6つの処置群と比較する:(i)PBS対照、(ii)可溶性NGF(単回注射)、(iii)可溶性NGFR100W(単回注射)、(iv)空のナノワイヤ、(v)NGFナノワイヤ、(vi)NGFR100Wナノワイヤ。骨折仮骨への注射を蛍光透視によりガイドし、正確な量の送達をHamiltonシリンジシステムを使用して実現する。予備試験では、注射の7日後に骨折部位の近傍でナノ材料の有効な注射および同定が示される(データは示さず)。さらに、定量的μCTにより測定されるように、骨折の14日後の骨折仮骨中で、これらのナノ材料からのNGFの局所持続送達により、NGFの単回注射に比べて骨質が増加する(データは示さず)。
【0191】
NGF送達の投与量およびタイミングを、NGF/NGFR100W 2.5μg(1日当たりNGF 0.5μg、5日間に対応する)、骨折の7日後の送達に標準化する。この添加値は必要に応じて調整可能であるが、この用量の効能、およびLBL技術を利用してナノワイヤにこの所要量を超える量のNGFを添加する能力を示す。空のナノワイヤの用量をNGFナノワイヤの注射量に対して標準化する。骨折の10日後、14日後、21日後、および28日後に脛骨を採取して骨折治癒を調査する。痛覚、骨折治癒の機能試験、およびバイオマーカー解析を上記のように完了する。組織形態計測が一次的な成功判定基準である。平均値および標準偏差は、検出力80%に到達するために8匹のマウスしか必要ではないことを示す(a=0.05、GPower*で計算);一貫性を維持するために、サンプルサイズ設計N=10を選択して変動性増加の可能性を許容する。
【実施例6】
【0192】
バイオマーカーに基づく骨折治癒の定量化
骨折バイオマーカー
コラーゲンX(「Cxm」)バイオマーカーは、軟骨細胞肥大化の古典的なマーカーであり、軟骨が骨になる際に一次的に発現される(
図1)。CxmレベルはコラーゲンX遺伝子発現および骨折治癒1における免疫組織化学的検査に相関していた(
図22A~
図22C)。この血清バイオアッセイは、骨折仮骨における生物学的反応の新規の非破壊的で長期的な測定法であり、対照とNGF処置マウスとの間で軟骨細胞肥大化の分子シグネチャーの比較を可能にする。骨折の3日前および14日後に血液を尾静脈から採取した後(約25μl、非破壊)、試験の最終時点で安楽死後に心穿孔によって血液を採取する。血液をバッチ試験のために血清として保存する。
【0193】
こうして、無痛NGF(NGFR100W)が軟骨内骨修復を促進するための新規療法として確立される。治療的開発を支援するために、骨折治癒を促進するが侵害受容を最小化するNGFR100Wのタイミングおよび用量を確定する。組織形態計測、定量的μCT、および力学試験の上記技術、ならびにCxmバイオマーカーを使用して、骨折治癒の結果を厳密に評価する。
【0194】
NGF/NGFR100Wの送達が早期よりも後期(軟骨内期)の方が有効である理由を理解する目的で、予備データに基づいて、特定の骨形成経路、ならびに抗アポトーシス経路および増殖経路が後期の送達によっていっそう有意に上方制御されると予想して、差次的遺伝子発現をRNAseqを使用して確定する。野生型NGF対無痛NGFの効能比は1:1であると仮定する。
【実施例7】
【0195】
軟骨内骨折修復における役割を試験するためのTrkA受容体の遺伝子ノックアウト
NGF-TrkAシグナル伝達が軟骨内骨折修復に必要となる程度を、骨折修復の間に特に軟骨細胞中の、またはすべての細胞中のTrkA受容体を条件的にノックアウト(KO)することで確定するために、TrkAfl/flマウス(Tomlinsonら、2017年、PNAS USA 114:E3632~E3641頁)を軟骨細胞特異的(Col10)または全般的(R26)タモキシフェン誘導型Creドライバーと交雑させ、得られたマウスを6~10日目にタモキシフェンで処置する(Wongら、2020年、bioRxiv 986141;Huら、2017年、Development 144:221~234頁)。肥大軟骨細胞に特異的であることから、Col10CreERTマウスが使用される。上記で詳述した標準的結果(組織形態計測、μCT、Cxmバイオマーカー、生体力学)を使用して、Col10CreERT::TrkAfl/flおよびR26CreERT2::TrkAfl/flマウスにおける骨折治癒をタモキシフェン処置野生型マウスと比較する。これにより、TrkA受容体が内在性骨折治癒に決定的に重要であるか否か、およびそのシグナル伝達機能が主に肥大軟骨細胞または別の細胞集団を通じて機能するか否かが直接試験される。
【0196】
長管骨骨折治癒において無痛および野生型NGFがTrkA受容体を通じて作用することを確認するために、治癒の軟骨内期(7~9日目)にCol10CreERT::TrkAfl/flおよびR26CreERT2::TrkAfl/flに治療用NGFR100WまたはNGFを投与し、qRT-PCRおよびRNAseq解析を上記のように使用して、遺伝子発現パターンがどのようにして差次的に影響されるかを確定する。NGFはおそらく軟骨細胞中のTrkA受容体を通じて骨折修復を刺激し、したがって、cFOSおよび軟骨内遺伝子発現はKO動物において野生型マウスに比べて有意に下方制御される。NGF/NGFR100W治療はおそらくKOの作用をレスキューすることができない。このことは、微量のNGF受容体がNGF/NGFR100Wの栄養作用にそれほど有意には寄与しないことを示している。
【実施例8】
【0197】
b延骨折治癒におけるNGFナノワイヤのインビボ評価
治療が遷延骨折治癒のシナリオにおいて機能する可能性を評価するために、併存症を動因とする遷延癒合も分析する。骨折を上記のように作り出すが、C57Bl6/J野生型マウスの代わりにLepob糖尿病マウス(Jackson、B6.Cg-Lepob/J)または加齢もしくは骨粗鬆症のマウスモデルを使用する(Roszerら、2014年、Cell Tissue Res 356:195~206頁;Gaoら、2018年、Orthop Surg Res 13:145;Khanら、2013年、J orthopaed trauma 27:656~662頁)。糖尿病マウスを選択するのは、糖尿病が、血管流の減少および全身性炎症誘発性状態の持続による骨折治癒不良に関連する既知の併存症であるからである。さらに、Lepobマウスは野生型と同じB6/Jバックグラウンドにあり、したがってこれら2つの系統の間での比較が可能になる。
【0198】
先に記載のように、骨折の7日後にLepobマウスまたは加齢もしくは骨粗鬆症のマウスモデルの骨折仮骨に(i)PBS対照、(ii)可溶性NGF、(iii)可溶性NGFR100W、(iv)空のナノワイヤ、(v)NGFナノワイヤ、および(vi)NGFR100Wナノワイヤを含む6つの実験群を経皮注射する。動物の総数を減少させるために、Lepobマウスの治癒を修復後14日目の野生型とのみ比較する。というのも、この早期の時点が骨折仮骨組成の最大差を示す時点だからである。ナノワイヤによる治癒パターンの任意の差が生じると見込まれる場合、21日および28日というさらなる時点を追加することがある。痛覚、骨折治癒の機能試験、およびバイオマーカー解析を上記のように完了し、変動性、検出力、および成功判定基準は以前の実施例と同じであると仮定する。糖尿病マウスからの骨折治癒結果を以前の実施例による正常治癒と比較する。Lepobマウスの作用機序が野生型に比べて異ならないことを確認するために、上記のように骨折の14日後に各遺伝子型について追加のマウス5匹/群を定量的RT-PCR解析のために採取し、主要経路の評価を確定する。
【0199】
したがって、ナノワイヤは、正常および遷延の両方のマウス骨折モデルにおいて骨折修復を促進するための無痛NGFの持続局所送達のための注射用生体適合性スキャフォールド材料の役割を果たす。特定の実施形態では、ナノワイヤは、可溶性NGF送達に比べて優れてはいないにしても同等である骨折修復の機能的帰結を生じさせる。
図21A~
図21Dに示されるデータを含む予備データは、LBLプラットフォームを調整することで、5日間にわたって制御放出を実現するために十分な無痛および野生型NGFを効率的にナノワイヤに添加することができることを示す。ヘパリンが異なるシグナル伝達タンパク質と相互作用し、望ましくない内在性タンパク質を隔離して下流作用を改変する場合、特定の実施形態では、ヘパリンおよびNGFのプレインキュベーションを1:1比で行って未結合ヘパリンの量を制限するか、またはポリ(グルタミン酸)またはポリ(アクリル酸)などの他の負に帯電するポリマーを後続の構築層に使用する。別の実施形態では、成長因子添加のためにNGF結合ペプチドまたは抗体をナノワイヤに共有結合させる固定方法を使用する。さらに別の実施形態では、成長因子が結合していないヘパリンコーティングナノワイヤが本実施例および以前の実施例に追加の群として追加されることがある。
【0200】
本開示の範囲は、本明細書に記載の特定の実施形態に限定されるものではない。実際、本明細書に記載の実施形態以外に、本開示の様々な変形形態が、上記の記載および添付の図面より当業者には明らかであろう。これらの変形形態は添付の特許請求の範囲内にあるものとする。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-07-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】