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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-28
(54)【発明の名称】タンパク質の口腔内放出のための系
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20231120BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20231120BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20231120BHJP
   A61K 38/38 20060101ALI20231120BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
A61K9/70
A61K47/36
A61K38/02
A61K38/38
A61P37/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528309
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2021081473
(87)【国際公開番号】W WO2022101384
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】2011592
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クレール・モンジュ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール・ヴェリエル
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ-リーズ・パリ
(72)【発明者】
【氏名】ソフィア・カリダード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076BB22
4C076CC07
4C076EE30A
4C076EE36A
4C076EE37A
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA03
4C084BA44
4C084CA70
4C084DA36
4C084MA57
4C084NA05
4C084ZB13
(57)【要約】
本発明は、タンパク質又はポリペプチドの口腔内放出又は舌下放出のための粘膜付着性のパッチであって、キトサン(CHI)層及び陰イオン性多糖層からそれぞれが構成される少なくとも100枚の二重層を含む、パッチに関する。本発明はまた、このようなパッチを生成するための方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質又はポリペプチドの口腔内放出又は舌下放出を目的とした口腔内又は舌下の粘膜付着性のパッチであって、キトサン(CHI)層及び500から1000kDaの間の分子量を有する陰イオン性多糖又はその塩の層からそれぞれが構成されている少なくとも100枚の二重層を含み、パッチの粘膜と接触している層及び口腔内環境又は舌下環境と接触している層がキトサン(CHI)から構成されており、前記タンパク質又は前記ポリペプチドが、前記パッチに組み込まれている及び/又は前記パッチの表面に吸着されている、パッチ。
【請求項2】
100から200枚のCHI/陰イオン性多糖二重層を含む、請求項1に記載のパッチ。
【請求項3】
10から20μm、好ましくは約15μmの厚さを有する、請求項1又は2に記載のパッチ。
【請求項4】
陰イオン性多糖又はその塩が、グリコサミノグリカン(GAG)、フコイダン、アルギネート、カラギーナン、及びウルバンから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載のパッチ。
【請求項5】
グリコサミノグリカン(GAG)又はその塩が、ヒアルロン酸(HA)、ヘパリン(Hp)、ヘパラン硫酸(Hs)、コンドロイチン硫酸(CS)、デルマタン硫酸(DS)、及びケラタン硫酸(KS)から選択され、好ましくはヒアルロン酸であり、また更に好ましくはヒアルロン酸ナトリウムである、請求項4に記載のパッチ。
【請求項6】
タンパク質又はポリペプチドが、アレルゲン、好ましくはオボアルブミンである、請求項1から5のいずれか一項に記載のパッチ。
【請求項7】
アレルゲンに対してアレルギーがある対象の脱感作における使用のための前記アレルゲンであって、請求項6に記載のパッチの形態で投与されるアレルゲン。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のパッチを製造する方法であって、
i)基質上での交互積層(LbL)方法によって、CH/陰イオン性多糖の多層膜を形成する工程、
ii)基質から多層膜を取り外す工程、
iii)多層膜をタンパク質又はポリペプチドと接触させ、それによって、多層膜にタンパク質又はポリペプチドをロードする工程
からなる工程を含む、方法。
【請求項9】
多層膜が、工程iii)に従って、pHが2から4の間の、好ましくはpHが約3の塩酸(HCl)溶液中でタンパク質又はポリペプチドと接触させられる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
多層膜が、工程iii)に従って、pHが5から7の間の、好ましくはpHが約6.5の塩化ナトリウム(NaCl)溶液中でタンパク質又はポリペプチドと接触させられる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
工程iii)が行われる前に、工程ii)に従って取り外された多層膜を、pHが2から4の間の、好ましくはpHが約3の塩酸(HCl)、又はpHが5から7の間の、好ましくはpHが約6.5の塩化ナトリウム(NaCl)溶液で平衡化することからなる中間の工程を更に含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、請求項1から6のいずれか一項に記載のパッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の口腔内放出のための、粘膜付着性のパッチの形態の系に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の経口投与は、最も広く使用されている投与経路である。しかし、タンパク質が胃腸管酵素の作用に対して感受性が高いため、この経路による治療目的のタンパク質の放出は困難である。口腔内の粘膜は、初回通過効果を避けることを可能にし、低い酵素活性及び生理学的pH範囲を有し、且つ解剖学的にアクセス可能であり、良く血管形成しているため、魅力的な代替投与経路である。口腔内放出のための系は、したがって、タンパク質の局所的(粘膜)放出又は全身的(経粘膜)放出のいずれかを提供し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2005/052035
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
投与される治療用量の著しい低減及び吸収のより良好な制御に寄与するであろう、浸透能力が最適化された粘膜付着性の系に対する、解決されていない要求が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この要求に対処するために、本発明者らは、キトサン(CHI)及びヒアルロン酸(HyA)等の陰イオン性多糖という2つの多糖の組み合わせからなる粘膜付着性のパッチを開発した。
【0006】
口腔内粘膜又は舌下粘膜に付着する本発明のパッチは、「口腔内」パッチ又は「舌下」パッチと呼ばれる。
【0007】
本発明は、したがって、タンパク質又はポリペプチドの口腔内放出又は舌下放出を目的とした粘膜付着性のパッチであって、キトサン(CHI)層及び500から1000kDaの間の分子量を有する陰イオン性多糖又はその塩の層からそれぞれが構成されている少なくとも100枚の二重層を含み、前記パッチの粘膜と接触している層及び口腔内環境又は舌下環境と接触している層がキトサン(CHI)から構成されており、前記タンパク質又は前記ポリペプチドが、前記パッチに組み込まれている及び/又は前記パッチの表面に吸着されている、パッチを提供する。
【0008】
好ましい実施形態において、本発明は、タンパク質又はポリペプチドを含む、口腔内又は舌下の粘膜付着性のパッチであって、キトサン(CHI)層及び500から1000kDaの間の分子量を有する陰イオン性多糖又はその塩の層からそれぞれが構成されている100枚から200枚の間の二重層を含み、前記陰イオン性多糖がヒアルロン酸であり、前記パッチの粘膜と接触している層及び口腔内環境又は舌下環境と接触している層が、キトサン(CHI)から構成されており、前記タンパク質又は前記ポリペプチドが、前記パッチに組み込まれている及び/又は前記パッチの表面に吸着されており、且つ口腔内放出又は舌下放出を目的としている、パッチを提供する。
【0009】
パッチは自己支持型であり、唾液中で、2つの多糖を分解し得る酵素の存在によって溶解する。
【0010】
本発明は更に、
i)基質に、交互積層(layer by layer deposition)方法によって、CHI/陰イオン性多糖の多層膜を形成する工程、
ii)基質から多層膜を取り外す工程、
iii)多層膜をタンパク質と接触させ、それによって、多層膜にタンパク質をロードする工程
からなる工程を含む、前記パッチを作製するための方法に関する。
【0011】
本発明は更に、本明細書において記載される方法によって得ることができる、本発明に従ったパッチに関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(CHI/HyA)100自己支持型膜の厚さ及び分解のプロファイルを示す図である。(A)HyAの分子量の変化(HyA.LW及びHyA.HWにそれぞれ対応する、660kDa若しくは1020kDa)、又は積層時間:ショートサイクル若しくはロングサイクルに応じた、膜の厚さ。2つの群の間の差の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない、****:p<0.0001。(B)膜の様々な作製パラメータに応じた質量減少のパーセンテージとして表されている、人工唾液に浸した膜の分解プロファイル。(C)人工唾液に30分間、1時間、又は3時間浸した、ショートサイクルの(CHI/HyA660)-CHI膜の走査型電子顕微鏡(SEM)画像。スケールバーは44μmに対応している。(D)人工唾液中で30分間、3時間、6時間、又は24時間後に共焦点顕微鏡によって得られたショートサイクルの(CHIFITC/HyA660)-CHIFITC膜の画像。コントロール条件は、膜を酢酸緩衝液に24時間浸漬することに対応している。a、b、c、d、eは膜の表面であり、下方の断面図は、同一の膜の深さ方向の断面(z断面)の画像である。水平方向のスケールバーは50μmに対応している。
図2】膜の分解生成物はヒト上皮細胞に対して毒性を示さないことを示す図である。(A)HeLa細胞及び(B)Ho-1u-1細胞と分解生成物との24時間にわたるインキュベーションの後の、細胞の生存能力。膜は(CHI/HyA)100膜であり、膜.HClは、塩酸(HCl)で処理した(CHI/HyA)100膜である。2つの群の間の差の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない。
図3-1】(図3A)HClでの膜の処理による舌下粘膜の炎症の制御を示す図である。粘膜の厚さ(A)、及びMHCII陽性(MHCII+)細胞の動員(B)を、膜又は1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNFB)を適用した後に、粘膜全体(上皮及び粘膜固有層)において評価した。未処理膜(パッチ)を30分間又は60分間投与し、HClで処理した膜(パッチHCl)又はNaClで処理した膜(パッチNaCl)を30分間適用した。提供されているそれぞれの値は、3つの独立した個体(N=3)に由来する少なくとも3回の測定の平均に対応している。2つの群の間の差の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない。*:p<0.05。(図3B)HClでの膜の処理による舌下粘膜の炎症の制御を示す図である。MHCII陽性(MHCII+)細胞の動員(B)を、膜又は1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNFB)を適用した後に、粘膜全体(上皮及び粘膜固有層)において評価した。未処理膜(パッチ)を30分間又は60分間投与し、HClで処理した膜(パッチHCl)又はNaClで処理した膜(パッチNaCl)を30分間適用した。提供されているそれぞれの値は、3つの独立した個体(N=3)からの少なくとも3回の測定の平均に対応している。2つの群の間の差の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない。*:p<0.05。(図3C)組織学的ラベリングによって得られた、粘膜レベルでのMHCII+細胞の動員を表している画像である。スケールバー:170μm。
図3-2】(図3D)マウスにおける膜の適用の6時間後に測定された、舌組織及び舌下組織における炎症性サイトカイン:IL-1βのレベルを示す図である。2つの群の間の差の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない。*:p<0.05、***:p<0.001、****:p<0.0001。(図3E)マウスにおける膜の適用の6時間後に測定された、舌組織及び舌下組織における炎症性サイトカイン:IL-6のレベルを示す図である。2つの群の間の差の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない。*:p<0.05、***:p<0.001、****:p<0.0001。(図3F)マウスにおける膜の適用の6時間後に測定された、舌組織及び舌下組織における炎症性サイトカイン:TNF-αのレベルを示す図である。2つの群の間の差の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない。*:p<0.05、***:p<0.001、****:p<0.0001。
図4】交互積層(LbL)アセンブリにおけるpHの変化によるタンパク質の組み込みの略図である。タンパク質トラッピングによる機能化の後、LbL膜は生物活性パッチとなり、すぐに適用できる状態である。CHI:キトサン、HyA:ヒアルロン酸。
図5】Alexa Fluor 647で標識されたオボアルブミン(OVAAlexa F.647)の組み込み、及び膜からの放出のプロファイルを示す図である。(A)HCl中での0.5μgのタンパク質とのインキュベーション及び様々な緩衝液でのすすぎの後の、(CHI/HyA)100-CHIパッチへのOVAAlexa F.647の組み込みのレベル。(B)様々な溶液での2時間のすすぎ時間にわたるパッチからのOVAAlexa F.647の放出のプロファイル。データは、3つの独立した実験(N=3)に由来する3回の平均値と標準誤差(±SEM)に対応している。(C、上部)OVAAlexa F.647を含有するパッチの表面の共焦点顕微鏡画像。スケールバーは50μmに対応している。(C、下部)(z)軸に沿った、パッチの深さ方向の光学切片像。点線は、パッチの境界を表している。(D)C(下部)で示されている矢印に沿った、OVAAlexa F.647及びパッチ(CHI.MW .FITC)の蛍光強度。
図6】舌下粘膜上でのパッチ(Patch)の保持時間を示す図である。(A)パッチの投与の20分後の、舌下粘膜と接触させられた(CHI/HyA)100パッチの、ヘマトキシリンでの染色。スケールバーは100μmに対応している。M=粘膜であり、P=パッチである。(B)溶液(solution)中の又は(CHI/HyA)100パッチに組み込まれたOVAAF647の分子蛍光断層撮影法。蛍光シグナルが、投与の2分、10分、又は30分後に検出された。
図7】パッチ(Patch)の投与後のOVAAF647の組織浸透を示す図である。溶液(solution)中のOVAAF647の投与の2分後、又は(CHI/HyA)100パッチに組み込まれたOVAAF647の投与の2分、10分、30分、及び60分後の、DAPIで細胞を核標識されたマウス舌の切片の共焦点顕微鏡法。OVAAF647は、投与の10分後に、角質化された層で(白い矢印)、及び投与の30分後に粘膜下層で(破線の矢印)観察された。スケールバー:20μm。点線は、粘膜の境界に対応している。
図8】サイトカインCCL20の化学誘因能力がパッチにおいて保たれていることを示す図である。溶液中のCCL20と比較した、パッチから放出されたCCL20のインビトロでの走化性。DC2.4細胞の移動を評価するために、25ng×mL-1の濃度を使用した。成長培地、唾液酵素のみ、及び(CHI/HyA)100膜を、ネガティブコントロールに使用した。2つの群の間の差の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない、*:p<0.05、**:p<0.01。
図9】(CHI/HyA)100-CHI自己支持型膜又は(VIS/HyA)100-VIS自己支持型膜の厚さ及び分解プロファイルを示す図である。(A)二重層の数に従った、すなわち、最終層がHyAである50枚、100枚、又は200枚の二重層の、膜の厚さ。最終層がSigma社から入手したCHI又はFlexichem社から入手したViscosan(登録商標)(VIS)で作製された、100枚の二重層から作製された膜の厚さ。各タイプの膜を少なくとも20回測定した。2つの群の間の統計的有意性を、1つの制御された因子を有するANOVA検定を使用して決定した。ns:有意差がない、****:p<0.0001。(B)CHI又はVISで作製された異なるタイプの膜に応じた、質量減少のパーセンテージとして表される、人工唾液に浸漬した膜の分解プロファイル。示されているそれぞれの値は、3つの独立した実験(N=3)に由来する3回の平均値に対応している。
図10】OVA647の組み込み及び膜からの放出のプロファイルを示す図である。(A)NaCl中での0.5μgのタンパク質とのインキュベーション及び様々な緩衝液でのすすぎの後の、(CHI/HyA)100-CHIパッチへのOVAAF647の組み込みのレベル。(B)様々な溶液での2時間のすすぎ時間にわたるパッチからのOVAAF647の放出のプロファイル。データは、3つの独立した実験に由来する3回の平均値に対応している。(C、上部)OVAAF647を含有するパッチの表面の共焦点顕微鏡法画像。スケールバーは50μmに対応している。(C、下部)(z)軸に沿った、パッチの深さ方向の光学切片像。点線は、パッチの境界を表している。(D)図C(下部)で示されている矢印に沿った、OVAAF647及び(CHIFITC)パッチの蛍光強度。
図11】多層膜の膨張又は引き締まりによるタンパク質又はポリペプチドのトラッピングを示すスキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下で提供する実施例において説明されているように、本発明者らは、投与されるタンパク質の用量及び粘膜によるその吸収の、より良い制御を確実にする、タンパク質の口腔内放出又は舌下放出のための粘膜付着性のパッチを開発した。本発明者らはまた、この種のパッチの無毒の特徴、及びこの種のパッチの適用後の粘膜の炎症の不在を実証した。
【0014】
本発明は、したがって、タンパク質又はポリペプチドの口腔内放出又は舌下放出を目的とした粘膜付着性のパッチであって、キトサン(CHI)層及び500から1000kDaの間の分子量を有する陰イオン性多糖又はその塩の層からそれぞれが構成されている、少なくとも100枚の二重層を含み、前記パッチの、粘膜と接触している層及び口腔内環境又は舌下環境と接触している層が、キトサン(CHI)から構成されており、前記タンパク質又は前記ポリペプチドが、前記パッチに組み込まれている及び/又は前記パッチの表面に吸着されている、パッチに関する。
【0015】
定義
「パッチ」は、タンパク質又はポリペプチド等の生物学的に活性な化合物を含む多層の付着性の系又は多層の付着性の膜を意味する。
【0016】
「粘膜付着性の」は、粘膜、好ましくは口腔内粘膜又は舌下粘膜に付着し得る、本願において定義されるパッチを意味する。
【0017】
「自己支持型」は、それ自体における堅固性がその安定性をもたらしている、支持体を有さない構造を意味する。
【0018】
用語「対象」は、全てのヒト又は動物、好ましくは哺乳動物、例えばウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ネコ等を意味する。
【0019】
タンパク質及びポリペプチド
本発明に従ったパッチは、目的の任意のタンパク質又はポリペプチド放出を可能にする。「タンパク質」は、典型的には、少なくとも100アミノ酸からなるポリペプチド、又は共に結び付けられたポリペプチドを意味する。タンパク質は、好ましくは、20から200kDaの間の分子量を有する。更に具体的には、タンパク質は、70kDa未満の分子量、又は高分子量、例えば100から200kDaを有し得る。
【0020】
目的のタンパク質の中でも、本発明者らは、例えば抗体(免疫グロブリンG等)に言及し得る。
【0021】
タンパク質の断片であり得るポリペプチドは、典型的には10から100アミノ酸を、更に好ましくは20から80アミノ酸又は20から60アミノ酸を有する。
【0022】
好ましい実施形態において、タンパク質又はポリペプチドは、アレルゲンである。
【0023】
本発明において定義されるアレルゲンは、対象におけるアレルギー反応を刺激し得る抗原を含む。アレルゲンは、牛乳、卵、ゴマ、コムギ、大豆、魚、海産物、ピーナッツ、ナッツ等の食品に含有され得るか、又はこれらに由来し得る。アレルゲンはまた、食品ではないもの、例えばダニ、花粉、虫刺され、動物の毛、羊毛、医薬品等に含有され得るか、又はこれらに由来し得る。アレルゲンは、好ましくは、免疫系の細胞によって認識可能な抗原の全体又は一部を形成するポリペプチド又はタンパク質であり、これらに関して、本発明者らは、アレルゲンに対する耐性を誘発することを目的としている。
【0024】
好ましい実施形態の例において、送達されるタンパク質は、オボアルブミンである。本発明者らはまた、好ましい食物アレルゲンの中でも、ベータラクトグロブリン、アルファラクトアルブミン、カゼインに言及することができる。
【0025】
本発明はしたがって、前記アレルゲンに対してアレルギーがある対象の脱感作における使用のためのアレルゲンであって、本明細書において記載されるパッチの形態で投与される、アレルゲンに関する。アレルギー免疫療法とも呼ばれる、対象の脱感作は、対象が長期にわたり特定のアレルゲンに対して耐性となることを可能にする。
【0026】
多層パッチ
本発明に従ったパッチは、キトサン(CHI)層及び500から1000kDaの間の分子量を有する陰イオン性多糖又はその塩の層からそれぞれが構成されている、少なくとも100枚の二重層を含み、粘膜と接触している層及び口腔内環境又は舌下環境と接触している層は、キトサン(CHI)から構成されている。
【0027】
本発明に従ったパッチは、前記キトサン及び前記陰イオン性多糖からそれぞれが構成されている少なくとも100枚の二重層を含む、多層の付着性の膜から形成されており、この膜の2つの端に又は周縁に位置する2つの層は、キトサン(CHI)から構成されている。
【0028】
本発明の特定の実施形態に従うと、パッチは、100から200枚のCHI/陰イオン性多糖二重層を含む。好ましい実施形態に従うと、パッチは、100又は200枚のCHI/陰イオン性多糖二重層を、また更に好ましくは100枚のCHI/陰イオン性多糖二重層を含む。
【0029】
本発明の別の特定の実施形態に従うと、パッチは、10から20μm、好ましくは11から19μm、12から18μm、13から17μm、14から16μm、及びまた更に好ましくは約15μmの厚さを有する。
【0030】
キトサンは、β-(1-4)で結合したD-グルコサミン(脱アセチル化された単位)及びN-アセチル-D-グルコサミン(アセチル化された単位)のランダムな分布から構成される多糖である。これは、節足動物(甲殻類)の外骨格又は頭足類(イカ等)の内骨格又は真菌の細胞壁の成分であるキチンの化学的脱アセチル化(アルカリ性媒体中での)又は酵素的脱アセチル化によって生成される。この原材料は、典型的には、塩酸での処理によって鉱質除去され、次いで、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの存在下でタンパク質除去され、そして最後に酸化剤で脱色される。アセチル化の程度(DA)は、単位の総数に対するアセチル化された単位のパーセンテージである。これは、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR)によって又は強塩基での滴定によって決定することができる。
【0031】
好ましくは、本発明において選択されるキトサンは、75%以上の、好ましくは78%以上の、脱アセチル化の程度(DD)を有する。キトサンは、使用が容易であり且つ良好な付着特性を更に有するわずかな天然の陽イオン性多糖の1つであるという利点を有する。
【0032】
陰イオン性多糖は、グリコシド結合によって共に結合しているいくつかの単糖から構成される、糖質ファミリーのポリマーである。本発明に従うと、多糖又はその塩は、500から1000kDaの間の分子量を有する。陰イオン性多糖の中でも、本発明者らは、例えば、グリコサミノグリカン(GAG)、フコイダン、アルギネート、カラギーナン、及びウルバンに言及することができる。
【0033】
グリコサミノグリカン(GAG)は、ほとんど全ての組織に存在する長鎖の直鎖状多糖である。GAGの基本単位は、ヘキソサミンに結合したヘキソース(一般にヘキスロン酸)からなる二糖である。これらのオリゴ糖鎖の特徴的な特性の1つは、それらが非常に著しく不均質であることである。実際、鎖の様々な長さ及びそれらの構造の修飾(硫酸化、エピマー化)によって、無数の組み合わせが生じる。単糖の性質、及び二糖が共に結合する様式に応じて、GAGは、ヘパリン(Hp)及びヘパラン硫酸(HS)、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(CS)、デルマタン硫酸、並びにケラタン硫酸という5つの主要なファミリーに分類される。
【0034】
フコイダンは、塩基性糖としてフコースを有する多糖である。フコイダンという名前は、それが生じる所であるヒバマタ属(fucus)タイプの藻類(褐藻)に由来している。
【0035】
アルギネートは、褐藻から得られる多糖である。アルギネートは、β-1-4結合によって共に結合している2つのモノマー、すなわちマンヌロン酸及びグルロン酸から形成されるポリマーである。
【0036】
カラギーナンは、紅藻類から抽出される多糖(ガラクタン)である。κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、及びλ-カラギーナンという3つの主要なカテゴリーが今日、市場に出ており、これらは、硫酸基の数及び位置によって、並びに3,6-アンヒドロガラクトース架橋の数によって異なる。
【0037】
ウルバン類は、アオサ属(ulva)タイプの緑藻類から抽出される、硫酸化された陰イオン性多糖である。ウルバン類は、1-4型の結合によってグルクロン酸に結合している3-硫酸ラムノースを含むウルバノビウロネート3-硫酸ナトリウムA型、及び1-4型の結合によってイズロン酸に結合している3-硫酸ラムノースを含むウルバノビウロネート3-硫酸ナトリウムB型から構成されている。
【0038】
本発明の特定の実施形態に従うと、陰イオン性多糖又はその塩は、グリコサミノグリカン(GAG)、フコイダン、アルギネート、カラギーナン、及びウルバンから選択される。更に具体的には、グリコサミノグリカン(GAG)又はその塩は、ヒアルロン酸(HA)、ヘパリン(Hp)、ヘパラン硫酸(Hs)、コンドロイチン硫酸(CS)、デルマタン硫酸(DS)、及びケラタン硫酸(KS)から選択され、好ましくはヒアルロン酸であり、また更に好ましくはヒアルロン酸ナトリウムである。
【0039】
好ましくは、上記で定義される陰イオン性多糖は、唾液酵素によって加水分解可能である。
【0040】
粘膜付着性のパッチの製造
本発明に従った粘膜付着性のパッチは、自動浸漬プロセスによる、正に帯電した層(キトサン)及び負に帯電した層(陰イオン性多糖)のアセンブリによって生成することができる。この交互積層(LbL)方法は、当業者に馴染みがあり、架橋された高分子電解質の多層フィルムの調製のために特に国際出願WO2005/052035において使用されている。
【0041】
こうして形成された多層膜は、次いで、タンパク質又はポリペプチドと接触させられて、タンパク質又はポリペプチドをロードされた粘膜付着性のパッチが提供される。
【0042】
本発明は、したがって、本願において記載されているパッチを製造する方法であって、
i)基質上での交互積層(LbL)方法によって、CH/陰イオン性多糖の多層膜を形成する工程、
ii)基質から多層膜を取り外す工程、
iii)多層膜をタンパク質又はポリペプチドと接触させ、それによって、多層膜にタンパク質又はポリペプチドをロードする工程
からなる工程を含む方法に関する。
【0043】
CH/陰イオン性多糖の多層膜を形成することからなる本方法の工程i)は、基質上での交互積層(LbL)の技術を利用して行われる。この自動化された技術は、浸漬ロボット、例えば、Riegler & Kirstein GmbH社のDR-3ロボットを使用する。更に具体的には、キトサン溶液及び陰イオン性多糖(高分子電解質)溶液は、酢酸ナトリウム緩衝溶液等の緩衝溶液中で調製される。溶液のpHは、水酸化ナトリウム(NaOH)及び酢酸(CH3COOH)で約5.5に調整され得る。更に、浸漬ロボットにおいて支持体として使用される基質は、付着性のテープ上に調製される。一般的に使用される基質は、ポリプロピレンである。基質は次いで、酢酸ナトリウム緩衝溶液、水、又はpH5から6の間の緩衝生理食塩水中での、好ましくは酢酸ナトリウム緩衝溶液中での、少なくとも1回の洗浄工程、好ましくは2回の洗浄工程を伴って、キトサン溶液及び陰イオン性多糖溶液中に連続的に浸漬される。キトサン溶液への基質の浸漬、少なくとも1回の洗浄工程、好ましくは1回の洗浄工程と、その後の、陰イオン性多糖溶液への浸漬及び少なくとも1回の洗浄工程、好ましくは1回の洗浄工程とを含むサイクルによって、CHI/陰イオン性多糖二重層の形成が可能となる。このサイクルは、所望の数の二重層を得るために必要な回数、反復される。浸漬時間及び洗浄時間は変化してもよい。特定の実施形態に従うと、高分子電解質(CHI及び陰イオン性多糖)溶液中での基質の浸漬時間は、2分から10分の間、好ましくは2分から8分の間、及び更に有利には3分間(ショートサイクル、SC)又は6分間(ロングサイクル、LC)である。別の特定の実施形態に従うと、洗浄時間は、1分から10分の間、好ましくは2分から4分の間、及び更に有利には2分間(ショートサイクル、SC)又は4分間(ロングサイクル、LC)である。
【0044】
基質から、特にポリスチレンから多層膜を取り外すことからなる、本方法の工程ii)は、任意選択の事前の乾燥工程を伴って行われてもよい。得られた多層膜は、次いで、所要のサイズに切断されてもよい。
【0045】
本方法の工程iii)を行うことで、多層膜にタンパク質又はポリペプチドをロードすることが可能となる。より正確には、多層膜へのタンパク質又はポリペプチドのロードは、受動拡散によって達成される。特に、工程iii)は、適切な緩衝溶液中にタンパク質又はポリペプチドを溶解してタンパク質の変性を防ぐことによって行われる。特定の実施形態に従うと、多層膜は、酸性溶液中で、好ましくは、pHが2から4の間の、好ましくはpHが約3の塩酸(HCl)中でタンパク質又はポリペプチドと接触させられる。別の特定の実施形態に従うと、多層膜は、生理食塩水溶液中で、好ましくは、pHが5から7の間の、好ましくはpHが約6.5の塩化ナトリウム(NaCl)溶液又は塩化カリウム(KCl)溶液中でタンパク質又はポリペプチドと接触させられる。
【0046】
好ましくは、多層膜とタンパク質又はポリペプチドとの接触は、タンパク質又はポリペプチドを含む緩衝溶液の少なくとも1つの液滴を多層膜の表面に載せることによって行われる。膜は次いで、タンパク質又はポリペプチドがパッチに組み込まれている及び/又はパッチの表面に吸着されている粘膜付着性のパッチを提供するために、場合によって乾燥される。
【0047】
好ましくは、また特に、タンパク質又はポリペプチドが表面上に少なくとも部分的に吸着されたままであるケースでは、得られたパッチは、タンパク質又はポリペプチドの濃度が、下層位置での濃度と比較して、当該タンパク質又はポリペプチドが載せられている上層位置で大きいという意味で、分極化されている。
【0048】
本方法はまた、多層膜をタンパク質又はポリペプチドと接触させる前に多層膜を平衡化する任意選択の工程(iii-0と呼ばれる工程)も含み得る。この平衡化工程は、工程ii)の後に得られた多層膜をpHが2から4の間の酸性溶液、好ましくは塩酸(HCl)からなる酸性溶液、又はpHが5から7の間の生理食塩水、好ましくは塩化ナトリウム(NaCl)からなる生理食塩水に浸漬することからなる。この、酸性pHでの多層膜の任意選択の平衡化工程によって、特に膜の膨張が可能となり、ひいては、タンパク質又はポリペプチドのロードが促進される。タンパク質又はポリペプチドがロードされた多層膜は、緩衝溶液中に浸されると場合によって縮み得、こうして、パッチ内へのタンパク質又はポリペプチドのトラッピングが可能となる。
【0049】
特定の実施形態に従うと、本発明の方法は、したがって、工程iii)が行われる前に、工程ii)に従って取り外された多層膜を、pHが2から4の間の、好ましくはpHが約3の塩酸(HCl)、又はpHが5から7の間の、好ましくはpHが約6.5の塩化ナトリウム(NaCl)溶液で平衡化することからなる中間の工程を更に含む。
【0050】
本発明に従った好ましい製造方法は、
i)基質上での交互積層(LbL)方法によって、CH/陰イオン性多糖の多層膜を形成する工程、
ii)基質から多層膜を取り外す工程、
iii-0)工程iii)が行われる前に、工程ii)に従って取り外された多層膜を、pHが2から4の間の、好ましくはpHが約3の酸性溶液、好ましくは塩酸(HCl)からなる酸性溶液で、又はpHが5から7の間の、好ましくはpHが約6.5の生理食塩水、好ましくは塩化ナトリウム(NaCl)からなる生理食塩水で平衡化する工程、
iii)多層膜をタンパク質又はポリペプチドと接触させ、それによって、多層膜にタンパク質又はポリペプチドをロードする工程
からなる工程を含む。
【0051】
パッチのロード
タンパク質又はポリペプチドは、上記のように、パッチ内に組み込まれ得るか、又はパッチの表面に吸着され得る。
【0052】
典型的には、70kDa又は80kDaを下回る分子量のタンパク質又はポリペプチドは、好ましくは、全体が又はほぼ全体がパッチに組み込まれ、すなわち、好ましくは、少なくとも90%のタンパク質が組み込まれる。高分子量のタンパク質又はポリペプチドは、パッチの表面に全体的に又は部分的に吸着され得る。
【0053】
組み込まれる及び/又は吸着されるタンパク質又はポリペプチドの量は、タンパク質又はポリペプチドに、及び所望の生物学的又は薬理学的効果に応じる。この量は、例えば、50ng/cm2から5mg/cm2、好ましくは10ng/cm2から1mg/cm2、1μg/cm2から1mg/cm2で変化し得る。
【0054】
適用
このようにして得られたパッチは、適用の前に、4℃又は室温で保管することができる。
【0055】
典型的には、パッチは、ヒト対象における適用では2~3cm2の大きさである。パッチは、例えば、頬の内側に、口蓋、歯茎、又は舌の下に適用され得る。舌下適用(すなわち、舌の腹側面への適用)が、特に有利である。好ましくは、パッチは、パッチの製造の際にタンパク質又はポリペプチドが載せられたキトサン層が、粘膜と接触させられる層となるように、適用される。
【0056】
図面及び実施例は、本発明の範囲を限定することなく本発明を説明する。
【実施例1】
【0057】
粘膜付着性のパッチの製造及び試験
1.材料及び方法
1.1 材料
分子量が中程度のキトサン(CHI)をSigma-Aldrich社から購入した。使用の前に、CHIを、濾過工程並びに水及びエタノール中での沈殿の工程によって精製し、その後、凍結乾燥して、770kDaの最終分子量及び78%の脱アセチル化の程度(DD)となった。低pH(<6.5)では、CHIは正に帯電した高分子電解質である。これを、Flexichem社から入手した、N-アセチル化された基の分布が異なる別の多糖であるViscosan(登録商標)(VIS)と比較した。610kDa(HyALW)及び1020kDa(HyAHW)の2つのタイプのヒアルロン酸ナトリウム(HyA)をフランスのHTL社から購入し、入手したままの状態で使用した。他の試薬及び溶媒の全ては、精製せずに使用した。
【0058】
全ての実験で、膜の生成のために、1mg/mLのポリマー濃度を使用して酢酸ナトリウム緩衝液(0.1MのCH3COOH、0.15MのNaCl、pH5.5、室温)中に溶解することによって、高分子電解質の溶液を下準備なしで調製した。
【0059】
1.2 蛍光キトサン
20mLの質量が中程度のキトサン(CHI、770kDa、酢酸0.1mol×L-1中に10mg×mL-1)を、20mLのフルオレセインイソチオシアネート(FITC、脱水したメタノール中に1mg×mL-1)と室温で3時間、光を当てない状態で接触させて反応させた。pHを次いで10まで上昇させてCHIを沈殿させ、その後、11000gで15分間遠心分離し、上清において蛍光が検出されなくなるまで水で数回洗浄した。CHIを次いで、0.1mol×L-1の酢酸20mL中に溶解し、FITCの未結合残基を透析(Spectrum社、USA)によって除去し、当該透析は水中で3日間、暗所で行われ、水は毎日交換された。CHI及びFITCの量を分光測光法によってそれぞれ490nm及び270nmで決定した。フルオレセインで標識された、質量が中程度のCHI(CHIFITC)を、0.1mol×L-1の酢酸中で2mg×mL-1のアリコートに分け、-20℃で保管した。
【0060】
1.3 CHI/HyA膜の製造
自己支持型膜(CHI/HyA)を、浸漬ロボット(DR-3、Riegler & Kirstein GmbH社)を使用して、交互積層(LbL)法によって生成した。膜は、エタノール及び蒸留水(各溶液につき5分間)中で超音波処理によって清掃されたポリスチレン基質を使用して製造された。ポリマー溶液中での各積載の間に、酢酸ナトリウム緩衝液を使用しての1回の洗浄工程を設けて、基質を、CHI又はViscosan(登録商標)中に、及び酢酸ナトリウム緩衝液(0.2MのCH3COONa、0.2MのCH3COOH、pH5.5、室温)中で0.2%(質量/容積)に濃縮したHyA(610kDaのHyALW又は1020kDaのHyAHW)溶液中に、連続的に浸漬した。これらの浸漬を、天然由来のポリマーの積載時間は3分間、各洗浄工程は2分間で、100回繰り返した。次いで、膜を放置して室温で乾燥させた。最後に、ピンセットを使用して単純に膜を引っ張ることによって、膜を、それぞれの土台となっている基質から容易に取り外した。蛍光膜(CHIFITC/HyA)100-CHIFITC)を、pH5.5の酢酸ナトリウム緩衝液中で2mg×mL-1のキトサン溶液において、0.5%CHIFITCを用いて、光を当てない状態で、上記のように調製した。
【0061】
1.4 LbL膜の厚さ
生成された膜の厚さを、乾燥及び基質の取り外しの後に測定した。膜の厚さは、マイクロメータ(高精度デジマチックマイクロメータ(High-Accuracy Digimatic Micrometer)、株式会社ミツトヨ)を使用して決定し、膜の中央位置の異なる場所で20回の測定を行った。
【0062】
1.5 人工唾液、及び酵素分解の研究
1cm2の膜を実験の前に秤量した。人工唾液を、α-アミラーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びリゾチームを用いて調製し、緩衝液(0.15MのNaCl、20mMのHEPES、pH6.5)中に溶解した。全ての酵素は、100μg×mL-1の最終濃度を有している。試料を人工唾液に浸し、ゆっくりと撹拌しながら30分間、1時間、3時間、6時間、又は24時間にわたり37℃でインキュベートした。各インキュベーション時間の後、膜を37℃で乾燥させ、秤量した。異なる条件下での膜の質量減少(WL)のパーセンテージを方程式1から決定し、式中、Wiは、膜の最初の乾燥質量を表しており、Wfは、それぞれの所定の時点の後の乾燥膜の質量を表している。3回の独立した実験を各条件につき3回行い、平均値を質量減少のパーセンテージとして得た。
WL=(Wi-Wf)/Wi×100 (方程式1)
【0063】
共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)での膜の観察のために、蛍光膜をガラスプレートに固定し、人工唾液中で、37℃で、30分間、3時間、6時間、又は24時間にわたり撹拌しながらインキュベートした。LSM710共焦点顕微鏡(Carl Zeiss SAS社、フランス)を用いたCLSMでの観察まで、酢酸緩衝液ですすぐことによって分解を停止させた。全ての画像を、Carl Zeiss Zenソフトウェア及びImage Jソフトウェアを使用して分析した。
【0064】
1.6 走査型電子顕微鏡法(SEM)
試料の形態学的分析(分解の前及び後)を、5kVの加速電圧で走査型電子顕微鏡(Merlin Compact VP、Zeiss社)を使用して行った。膜の両側を観察した。観察の前に、全ての標本を銅(Balzers MED 010)でコーティングした。
【0065】
1.7 細胞傷害性試験
不死化されたHo-1u-1細胞(GIMAP社、セイント・エティエンヌ、フランスから入手した、口腔底から採取した扁平上皮癌細胞に由来するヒト細胞系)を、10%(容積/容積)の加熱不活化されたウシ胎児血清(FBS)及び1%(容積/容積)のペニシリン/ストレプトマイシンを添加した、D-グルコース(4.5g×L-1)、ピルベート(1mmol×L-1)、及びL-グルタミン(2mmol×L-1)を有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、すなわちDMEM/Ham's F12栄養カクテル(1:1)中で培養した。HeLa細胞(腺癌に由来するヒト上皮細胞系、ATCC(登録商標)CCL-2)を、10%(容積/容積)の加熱不活化されたFBS及び1%(容積/容積)のペニシリン/ストレプトマイシンを含有する、D-グルコース(4.5g×L-1)、ピルベート(1mmol×L-1)、及びL-グルタミン(2mmol×L-1)を有するDMEM中で培養した。細胞を、5%CO2雰囲気下で37℃で維持した。
【0066】
細胞傷害性試験の2日前に、細胞を96ウェル培養プレートに播種した。同時に、(CHI/HyA)100-CHI膜を細かく切断してサイズ変更し(培地1mL当たり3cm2)、70%エタノール中で、及びUV光への曝露によって滅菌した。膜を次いで、唾液酵素(リゾチーム、α-アミラーゼ、及びヒアルロニダーゼ)を100μg×mL-1で含有する培養培地中で、37℃で一晩インキュベートした。培養培地を次いでウェルから除去し、分解生成物を含有する培地で置き換えた。細胞を37℃で24時間インキュベートした。次いで、メチルチアゾリルジフェニル-テトラゾリウム臭化物(MTT、0.5mg×mL-1)を各ウェルに添加し、37℃で3時間インキュベートした。細胞を次いで、37℃で、及び光を当てない状態で、無水イソプロパノール中の10%(容積/容積)のトリトンX-100及びHCl(0.1mol×L-1)を含有する可溶化溶液中で、一晩インキュベートした。吸光度を570nm及び690nmで測定した(i-control Infinite(登録商標)M1000 Pro、Tecan社、スイス)。ポジティブコントロールは0.1%(容積/容積)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いて行い、ネガティブコントロールは細胞のみを用いて行った。データは、3つの独立した実験の3回の平均値として得た。
【0067】
1.8 マウス
インビボでの研究を、断層撮影実験のために、6から8週齢のメスCB6F1マウス(Charles River Laboratories社、フランス)及びオスSHK-1マウス(Charles River Laboratories社、フランス)で行った。全ての動物は、病原体を除去した条件下で維持した。全ての動物研究は、欧州連合の指示に従って行われ、地域及び国の倫理委員会によって承認された。
【0068】
1.9 膜又は溶液の舌下投与
膜を細かく切断して、マウスの舌のサイズに調整し(2mm×7mm)、UV光によって滅菌した。膜又は液体配合物調整液を次いで、舌下経路(舌の腹側部分)によって、軽く麻酔されたマウス(イソフルラン4%)に投与した。投与の後、舌の背側部分に軽い圧力を10秒間(目覚めるまで)かけて、膜又は溶液と粘膜との接触が確実となるようにした。他の保定は行わなかった。麻酔から回復した後、動物は、自由に飲水又は毛づくろいができる状態にした。水は、投与後30分間は取り上げ、その後の実験のために戻した。
【0069】
1.10 粘膜の膨張及びMHCII陽性細胞の動員の組織学的分析
未処理膜、HClで処理した膜、又はNaClで処理した膜を、30分間又は60分間投与した。12.5μl容積の0.5%の1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNFB)溶液を、炎症についてのポジティブコントロールとして使用した。ネガティブコントロール群では、いかなる操作も行わなかった。各群は3頭のマウスを含んでいた。全処置時間にわたりマウスは敏捷であり、最初の30分は水を撤去した。各時点で、舌をOCT(登録商標)マトリクス(Optimal Cutting Temperature、Tissue Tek)中に置き、凍結切片法まで-80℃で保管した。凍結切片法の工程では、クリオスタット(Leica社)を使用して厚さが6μmのスライスを準備し、-20℃で、アセトンでガラスプレートに固定した。粘膜の膨張の分析では、舌のスライスをヘマトキシリン(Gill formula、Vector社)で染色し、倒立顕微鏡(株式会社ニコンのTi-E)を使用して画像をキャプチャーした。粘膜の膨張を、腹側面の根部から延びている2mmの長さについて分析した。区域の測定は、Image Jソフトウェアのポリゴンツールを使用して行った。MHCIIの染色のために、舌のスライスをまず、ペルオキシダーゼブロック試薬(Dako社)とインキュベートし、次いで、ビオチン化されたラット抗マウス抗体(BD pharmigen社)とインキュベートし、Vectastain Elite ABCキット(Vector社)及びAECペルオキシダーゼ基質(Vector社)を使用して顕色化し、最後に、ヘマトキシリン(Gill formula、Vector社)で対比染色した。スライスを、株式会社ニコンのTi-E顕微鏡を使用して調べた。MHCII陽性細胞(MHCII+)の数を、Image Jソフトウェアのプラグイン・セルカウンターを使用して、舌下膜の腹側面の根部から延びている2mmの長さについて数えた。
【0070】
1.11 サイトカインの定量のための標本の準備
各群は3頭のマウスを含んでいた。2つの群には未処理膜又はHClで処理した膜を投与した。3つの他のマウス群には、舌下経路によって、10μLのCHI(酢酸緩衝液、pH5.5中で770kDa、2mg×mL-1、Sigma社、USA)、10μLのHyA(酢酸緩衝液、pH5.5中で610kDa、0.95cm3×kg-1、2mg×mL-1、HTL社、フランス)、又はこれら2つのポリマーの10μLの組み合わせを投与した。コントロールマウス群には、舌下経路によって、10μLのPBS若しくは酢酸緩衝液(pH5.5)のいずれかをネガティブコントロールのために、又は12.5μLの、クロロホルム中で0.5%(容積/容積)のDNFBをポジティブコントロールのために投与した。膜又は溶液の適用の6時間後に舌を切除し、液体窒素中で凍結し、-80℃で保管した。簡潔に述べると、舌を、ハサミを使用してホモジナイズした後に、RIPA緩衝液[Tris HCl(50mmol×L-1)、NaCl(150mmol×L-1)、トリトンX-100(1%)、デオキシコール酸ナトリウム(0.5%)、SDS(0.1%)、EDTA(1mmol×L-1)、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(1%、Thermo Scientific社)]中で2時間、氷上でインキュベートした。調製物を次いで、ボールタイプのビーター(2×5分間、30Hz、4℃)(TissueLyzer II、Qiagen社、ドイツ)及び超音波処理(2分間、60Hz)を使用してホモジナイズし、その後、10000rpm及び4℃で10分間遠心分離した。次いで、上清中の総タンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイキット(ThermoFisher Scientific社、USA)を使用して決定した。Mesoscale Discoveryシステム(Meso QuickPlex SQ 120、MSD社、USA)を使用して、エレクトロルミネセンスによって、各試料におけるインターロイキン1ベータ(IL-1β)、IL-6、及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)を同時に定量した(V-Plex Proinflammatory Panel 1 Mouse Kit、MSD社、USA)。データは、各条件につき3頭のマウスを用いた2回の平均値として得た。
【0071】
1.12 pHに応じた膨張によるタンパク質の組み込み
異なるpH値でタンパク質を組み込む膜の能力を評価する目的で、膜を、1mMのHCl(pH3~3.5)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS 1×、life technologies(商標)社によるGibco(登録商標)、pH7.4)、又は塩化ナトリウム緩衝液(NaCl 0.15mol×L-1、HEPES 0.02mol×L-1、pH6.5)で、室温で1時間平衡化した。実験の前に、直径が12mmの膜を、UVに20分間曝露することによって滅菌した。過剰なHClを平衡化した後、PBS又はNaCl緩衝液を除去し、タンパク質の液滴を膜の上に載せた。使用したタンパク質は、1mMのHCl又はNaCl緩衝液中で5μg×mL-1(500ngのロード量)のAlexa Fluor 647で標識されたオボアルブミン(OVAAF647)、又は500ng×mL-1(50ngのロード量)のサイトカインCCL20のいずれかであった。膜を4℃で一晩インキュベートした。pH5.5の酢酸緩衝液ですすぎ、空気流下で乾燥させた後、機能化された膜は、「生物活性パッチ」と呼ばれる。
【0072】
1.13 オボアルブミン放出の研究
実験の前に、OVAAF647を上記のように膜に組み込んだ。pH5.5の酢酸緩衝液、Dulbecco社のpH7.4のPBS(dPBS)、又はpH6.5の人工唾液をすすぎ溶液として使用して、タンパク質の放出を様々なpHでモニタリングした。すすぎ溶液を添加した直後、タンパク質は除去され、未結合のタンパク質の量を評価するために保管された(「quick rinse」、QR)。膜からのOVAAF647の放出を、10分、20分、30分、40分、60分、90分、及び120分の時点で、2時間にわたり行った。放出されたOVAAF647を、Alexa Fluor 647の励起/発光波長を650/668nmで固定して、蛍光分光法(Infinite M1000、Tecan社)によって分析した。前述の波長で、dPBS、酢酸緩衝液、HCl、及び人工唾液中の標識されたタンパク質の検量線を記録した。
【0073】
1.14 パッチの粘膜付着及びタンパク質保持時間の断層撮影分析
マウスの口腔内領域におけるタンパク質保持時間の断層撮影分析のために、2頭のマウスからなる群を、4%イソフルランを流し入れているチャンバ内で5分間麻酔した。溶液の投与では、10μlのOVAAF647溶液を、マウスの舌の腹側面の根部に載せた。パッチの投与に関しては、パッチは舌の腹側面に置いた。各製剤で、5μgのOVAAF647を投与した。マウスを、イソフルラン下の断層撮影チャンバ(FMT 4000、Perkin Elmer社)内に、頭を奥にして寝かせて置き、投与の2分、10分、又は30分後の画像を取得した。
【0074】
1.15 舌下粘膜におけるオボアルブミンの浸透
舌下粘膜におけるOVAAF647の浸透を、液体製剤(10μl)又は(CHIFITC-HyA)100-CHIパッチの投与後に評価した。OVAAF647を、1.12に記載したように、HCl中でのインキュベーションによって組み込んだ。2頭のマウスからなる群に様々な製剤を投与し、投与の2分、10分、30分、又は60分後に安楽死させた。舌下粘膜(舌の腹側面及び口腔底)を採取し、OCT(登録商標)マトリクスに包埋し、そして-80℃で保管した。40μmの切片を調製し、DAPI核プローブで標識し、次いで、共焦点顕微鏡(LSM 710、Zeiss社、ドイツ)で観察した。
【0075】
1.16 走化性試験
マウス樹状細胞系(DC2.4、#SCC142、Millipore社)を使用して、開発された膜によって送達されるケモカインCCL20の走化性効果についてインビトロで試験を行った。細胞を、GlutaMAX、10%のFBS、10mMのHEPES、50μMのβ-メルカプトエタノール、及び非必須アミノ酸(1×)の混合物を添加したRPMI培地(以下、GMと呼ばれる)中で、37℃及び5%CO2雰囲気下で培養した。走化性試験を、12ウェルプレート内に置かれた細胞培養物インサートThinCert(商標)(Greiner Bio-One社、ref:665 610)において、20分間行った。試験を行う前に、膜、ケモカインCCL20、及びケモカインCCL20(500ng×mL-1)をロードされた膜を、ゆっくりと撹拌しながら、唾液酵素溶液(FBSを含有しないGMに溶解された0.1mg×mL-1のα-アミラーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びリゾチーム)中で、37℃で24時間インキュベートした。次いで、12ウェルプレートのインサートを2.0×105個細胞/インサートの密度で播種し、37℃で10分間インキュベートした。次いで、12ウェルプレートの低い方のチャンバを1mLの走化性溶液又はコントロール溶液で慎重に満たして、37℃で10分間のインキュベーションを行った。ポジティブコントロールは、GMのみの存在下でインキュベートした樹状細胞(DC)に対応していた。最後に、各インサートの内面を、綿棒を使用してぬぐった。固定(4%パラホルムアルデヒドで)及びDAPIでの染色の後、試料を倒立顕微鏡(株式会社ニコンのTi-E)で観察した。得られた結果は、3つの独立した実験の3回の平均値を表している。
【0076】
1.17 統計分析
全てのデータを分析し、Graphpad Prismソフトウェアのバージョン7.0に入力した。示されている量は、平均値±標準誤差(SEM)を表している放出データとは別に、少なくとも3回の平均値±標準偏差(SD)を表している。p<0.05は、1つの制御された因子を有するANOVA検定の後に、テューキーの多重比較検定で、又は細胞傷害性試験についてはダネットの多重比較検定で、統計的に有意であったとみなされた。
【0077】
2.結果
2.1 人工唾液中での自己支持型膜の分解
(CHI/HyA)100未処理膜を、HyAの分子量(MW)、高分子電解質及びすすぎ溶液の積載時間、並びにCHIの特性という3つのパラメータを変化させることによって作製した。膜の厚さに対するこれらのパラメータの影響をまず調べた。(CHI/HyA)100未処理膜の成長が、50枚の二重層からなる膜(4.5±1.39μm)、100枚の二重層からなる膜(10.30±7.67μm)、及び200枚の二重層からなる膜(17.04±7.96μm)で線形であることが示された(図9)。少なくとも50枚の二重層が、手順後のいかなる処置も伴わない容易な操作のために必要であった。HyAのMW(610KDa又は1000kDa)の変化によって、膜の厚さのレベルで有意差は見られなかった(図1A)。積載時間に関して、すなわち、ロングサイクル(LC、高分子電解質で6分間、及びすすぎ緩衝液で4分間)、並びにショートサイクル(SC、高分子電解質で3分間、及びすすぎ緩衝液で2分間)に関して、膜の厚さのレベルで有意差が見られ、膜がLC条件下で作製された場合に約32%の増大が見られた(図1A)。
【0078】
分解に対する、膜の構築に使用された条件の影響もまた調べた。更に、膜を舌下適用に使用することを目的としているため、人工唾液を生成した。人工唾液は、ヒト唾液中で生じる3つの酵素であるα-アミラーゼ、リゾチーム、及びヒアルロニダーゼを含有する生理学的溶液からなる。生成された膜の分解を24時間にわたりモニタリングし、定量し、これを質量減少のパーセンテージとして表した。Viscosan(登録商標)で生成された膜は、Viscosan(登録商標)の迅速な生分解性を理由に予想されるように、CHIベースの膜よりも速く分解した(図9B)。CHIベースの膜の分解の全体的なプロファイルは、HyAの分子量にも積載時間(図1B)にも大きく影響されなかったが、分解プロセスの最初のフェーズ(最初の1時間)においては、LC条件下で構築された膜で遅延が見られた(図1Bのインサート)。24時間後、全ての膜が、75%から95%の範囲の体重減少レベルに達した。
【0079】
これらの膜の分解に関する形態学的情報を得るために、(CHI/HyALW)100膜をSEM及び共焦点顕微鏡法で観察した。これら2つの技術からの画像の観察で、最初の表面侵食は30分で観察され、その後、表面の穴の形成が1時間で観察され、最後に、より深い穴が3時間で観察された(図1C及び図1D)。膜表面の酵素分解もまた、水和条件下での人工唾液中での浸漬の30分から観察され、ここで、膜は約30μmまで膨張した(図1D)。酢酸緩衝液中では、24時間後に分解は観察されなかった(図1D、コントロール)。
【0080】
これらの膜は、粘膜を介するタンパク質の投与のために設計されているため、本発明者らは、粘膜と接触しての分解の最初の段階からのカーゴタンパク質の長時間の拡散を確実にするために、Viscosan(登録商標)ではなくCHIで作製されている膜を選択した。生成時間を短縮するために、SC条件下で生成された膜もまた選択したが、HyAHWと比較して厚さ又は分解に差が見られなかったため、610kDaのHyALWを無作為に選択した。最適な粘膜付着を確実にするために、動物実験に使用した全ての膜は、CHIからなる最初の層及び最後の層を有していた。したがって、次の研究では、(CHI/HyALW)100-CHI膜は単に(CHI/HyA)100と呼ばれた。
【0081】
2.2 ヒト上皮細胞に対する細胞傷害性
2つのヒト上皮細胞系(HeLa及びHo-1u-1)に対する膜の分解生成物の細胞傷害性を、24時間のインキュベーション時間にわたり評価した。生存能力はおよそ100%残っていたため(図2A図2B)、2つの細胞系に対して毒性は見られなかった。この結果は、化学的に修飾されていなかった、膜の生成に使用した2つの多糖の既知の生体適合性によって説明される。ポリマーを組み合わせることは、それらの生物学的安全性に影響しなかった。結果として、膜は、組織の上皮細胞に対して細胞傷害性の影響をもたらすことなく、マウスの舌下粘膜にインビボで適用することができる。
【0082】
2.3 マウス舌下粘膜の炎症
パッチによってインビボで誘発される炎症応答を、炎症状態の様々な主要な特徴を評価することによって、マウスで評価した。まず、マウスの舌下粘膜の上皮及び粘膜固有層の膨張表面を異なる条件下で観察した。0.5%の1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNFB)は舌下経路によって投与されると炎症を誘発することが実証されているため[LeBorgneら、2006]、これを炎症のポジティブコントロールとして使用した。粘膜の厚さの増大をDNFBの投与の30分後に観察し、2時間後にわずかに減少した(図3A)。注目すべきこととして、粘膜固有層の膨張は6時間にわたり維持され、その一方で、上皮の厚さは2時間後には既に減少していた。(CHI/HyA)100膜によって誘発された膨張を定量するために、未処理膜及びHClで処理した膜(1mMのHCl、pH3中で1時間のインキュベーション)を、30分間又は60分間、舌下粘膜に適用した。HClでの処理は、タンパク質の組み込みのためのプロトコルの一部を形成するため、炎症応答に対するその影響を評価した。未処理膜の適用後の粘膜の膨張は、2時間目の、DNFBポジティブコントロールによって誘発された膨張に匹敵しており、一方、HClで処理した膜と接触している粘膜は著しく薄かった。組織の膨張を免疫細胞の浸潤と相関させるために、クラスIIの主要組織適合複合体(MHCII)の免疫組織化学的染色を行った。MHCIIは、抗原提示細胞(APC)の、特に、樹状細胞(DC)、Bリンパ球、及びマクロファージの主要なマーカーである。粘膜におけるMHCII+細胞の浸潤の程度は、未処理膜の投与の30分後に有意に増大し(図3B図3C)、60分後にコントロールのレベルまで戻った。興味深いこととして、粘膜の膨張で見られたように(図3A)、30分にわたり適用されたHClで処理した膜がMHCII+細胞の浸潤を生じさせず、浸潤がコントロールの浸潤と同程度のままであったことに注目されたい。
【0083】
未処理膜及びHClで処理した膜によって誘発される中期の炎症のプロファイルを同定するために、炎症性サイトカインの発現のプロファイルを、パッチの投与の6時間後に定量した。試験した全ての条件(溶液中のポリマー、又はHClでの処理を伴う若しくは伴わない膜)において、IL-1β、IL-6、及びTNF-αのレベルはコントロールのレベルと同様であり、このことは、パッチの適用の6時間後に炎症性シグナル伝達が誘発されなかったことを意味している。
【0084】
2.4 モデルタンパク質であるオボアルブミンの組み込み/放出
タンパク質の拡散のための系として(CHI/HyA)100膜を評価するために、当該膜を、モデルタンパク質であるオボアルブミンで機能化し、フルオロフォアAlexa Fluor 647で標識した(OVAAF647)。1mMのHCl、pH3中での膜の平衡化の後に、OVAAF647を膜に組み込んだ(図4のスキームに従って)。pH5.5の酢酸緩衝液(重ね合わせた膜のためのすすぎ緩衝液)での膜のすすぎによって、98%のOVAAF647を組み込むことが可能となったが、その一方で、PBS(pH7.4)でのすすぎは、組み込みをわずかに減少させた(94%)(図5A)。酢酸緩衝液中では7%未満のOVAAF647がパッチから放出され、それに対しPBS中では31%であったことから、2時間にわたる放出の動態によってこれらの違いが確認された(図5A図5B)。人工唾液に浸漬すると、2時間で35%のOVAAF647がパッチから放出され、約90%が浸漬の24時間後に放出された(データは示されていない)。酢酸緩衝液でのすすぎの前の、pH3でのOVAAF647の組み込みのプロファイルは、約80%のタンパク質が、水和した厚さ全体の3分の1に対応する、表面下10マイクロメートル内に組み込まれたことを示した(図5C図5D)。機能化した膜は、したがって、非対称のパッチとなっており、タンパク質を有する表面は、粘膜と接触している表面となっている。ある特定のタンパク質は酸性pHに対して感受性であり得る(変性、活性の喪失等)ため、OVAAF647の組み込みはまた、pH3のHClの代わりに、PBS中で7.4の生理学的pHでも行った。しかし、膜の著しい膨張に起因して、タンパク質の組み込み後にパッチを操作又は可視化することはできなかった。更に、構造の不安定性によって、組み込みの程度は60%を下回った(データは示されていない)。逆に、NaCl緩衝液(NaCl 0.15mol×L-1、HEPES 0.02mol×L-1、pH6.5)を、タンパク質の組み込みに使用した。膜のすすぎについて、同一の溶液を試験した(酢酸緩衝液、PBS、及び人工唾液)。酸性pHでのロードで見られたように、酢酸緩衝液でのすすぎでは94%のタンパク質が組み込まれ、一方、PBSでのすすぎでは85%のOVAAF647が組み込まれたにすぎなかった(図10A)。放出プロファイルでは、約10%未満のOVAAF647が膜から放出され、一方、PBSでは約36%のOVAAF647が迅速に放出されたため、酢酸緩衝液が膜の内側でのタンパク質の保持を確実にすることが確認された(図10B)。人工唾液中でのすすぎの2時間後のタンパク質の放出は69%に達した。タンパク質がNaCl緩衝液で組み込まれると、パッチ内部のタンパク質の分布は、HClでの組み込みよりも均質であることが分かり、Z軸に沿った深さ方向の浸透勾配を示さなかった(図10C図10D)。
【0085】
2.5 カーゴタンパク質の粘膜付着及び保持時間
投与の20分後に舌下粘膜上に残っている膜を可視化することによって、パッチの粘膜付着をインビボで評価した(図6A)。分子蛍光断層撮影法によるOVAAF647のモニタリングは、液体製剤として投与した後のタンパク質の分散率を明らかにした(図6B)。画像取得の最初の数分の間、OVAAF647は既に消化管に沿って分布しており、10分後にはシグナルは口中で検出不可能であった。粘膜付着性の膜と同時投与すると、OVAAF647は、少なくとも30分間にわたり、口中で、強化されたシグナルの形態で検出された。
【0086】
2.6 カーゴタンパク質の粘膜上での提示及び浸透
OVAAF647の組織浸透を共焦点顕微鏡法によってモニタリングした。投与の2分後のシグナルの強度は、液体形態において、膜によって示されているものよりもはるかに弱かった(図7)。OVAAF647は、パッチの投与の10分後に、CHIFITCと同様に角質層に浸透した(白い矢印、図7)。パッチは、適用の30分後には検出不可能であったが、OVAAF647は粘膜の深くに存在していた(破線の白い矢印、図7)。上皮(表面層)において蓄積が検出されたとしても、OVAAF647は粘膜固有層及び粘膜下層で見られた。シグナルは投与の60分後に辛うじて検出可能であった。投与の30分後と比較した60分後のタンパク質の蛍光シグナルの減少は、組織におけるタンパク質のクリアランス及びAPC等の免疫細胞によるその吸収によって説明することができる。
【0087】
2.7 組み込まれたタンパク質の生物活性
(CHI/HyA)100膜に組み込まれたタンパク質の機能性及び生物活性を評価するために、化学誘因性のサイトカイン(CCL20)をアセンブリにロードし、人工唾液中での膜の分解後に試料採取した。サイトカインCCL20は、CCR6受容体が結び付いているマウス樹状細胞(DC2.4)のための化学誘引物質として使用した(データは示されていない)。同様の移動が、溶液中のCCL20及びパッチの溶解後に回収されたCCL20で観察されたことから、サイトカインの化学誘因能力はパッチ内で保存されていた(図8)。タンパク質の生物活性はしたがって、パッチによって保存されており、サイトカインは、標的化された細胞に対して著しい化学誘引効果を示した。
【実施例2】
【0088】
(CHI/HyA)100パッチにおける組み込み率の評価
1.ウシ血清アルブミン(BSA)の組み込み
材料及び方法
(CHI/HyA)100膜を細かく切断して1cm2の正方形とし、これを、10mg×mL-1の濃度のウシ血清アルブミン(BSA)を共に含有するpH3のHCl緩衝溶液又はpH6.5のNaCl緩衝溶液のいずれかにおいてインキュベートした。正方形の(CHI/HyA)100膜を、200μl程度の液体容積で完全に覆った。平衡すると、これらはそれぞれ、約2mgの吸収されたBSAを含有する。BSAをロードした正方形の(CHI/HyA)100膜を、BSAを有さない放出緩衝液(酢酸緩衝液、pH5.5)中でインキュベートして、放出されたタンパク質の量を、ビシンコニン酸(BCA)ベースのタンパク質アッセイキットを使用して4時間測定した。光学密度(562nm)の測定を、開始時点(t0)、並びにインキュベーションの5分後、10分後、20分後、30分後、60分後、120分後、及び240分後に放出緩衝液の試料を採取することによって行い、放出緩衝液を、それぞれの試料採取の後に置き換えた。インキュベーション溶液のみを含有するウェルで得られたブランクの測定値を、体系的に差し引いた。標準曲線から、1ml当たりのタンパク質濃度が各放出時間について決定され得、次いで、200μlについてのBSAの量が参照された。最後に、膜に組み込まれたタンパク質の量を、最初に吸収されるBSAの理論的な2mgから、200μlについて決定されたBSA量を差し引くことによって明らかにした。
【0089】
結果
(CHI/HyA)100膜の1cm2当たりで組み込まれたBSAの量を、異なるpHの濃縮BSA溶液中でプレインキュベートされた膜から放出されたBSAをアッセイすることによって決定した。非常に類似した放出プロファイルが、pH3で組み込まれたBSAとpH6.5で組み込まれたBSAとの間で観察され、それぞれ0.79mg及び0.75mgがすぐに(t0)放出され、更に0.18mg及び0.16mgが5分後に放出され、そして再び、0.03mg及び0.01mgが10分後に放出された。放出の20分後、時間t10と時間t20との間で放出されたBSAはもはや検出不可能であり、このことは、放出が10分の間に主に生じることを示している。測定された放出されたBSAの全量は、pH3で組み込まれたBSAでは1.01mgに、また、pH6.5で組み込まれたBSAでは0.92mgに対応する。結果として、約2mgのBSAを最初に吸収した正方形の(CHI/HyA)100膜は、すすぎの4時間後に1mgのBSAを依然として有しており、すなわち、pH3で行われた組み込みでは約0.99mgのBSAを、またpH6.5で行われた組み込みでは約1.08mgを有している。組み込み率は、したがって、両条件において50%である。
【0090】
2.(CHI/HyA)100膜への免疫グロブリン(IgG)の組み込み
材料及び方法
(CHI/HyA)100膜を細かく切断して1cm2の正方形とし、これを、pH3のHCl平衡溶液200μl(試料MbA)又はpH6.5のNaCl-Hepes平衡溶液200μl(試料MbB)のいずれかにおいて1時間インキュベートした。正方形のMbA膜を、次いで、2μg×mL-1のG型の免疫グロブリン(IgG、ヤギIgGに対するものであり、蛍光色素Alexa 633に結合している、ロバ二次抗体;Invitrogen社、分子プローブA21082-ロット73A2-1)を含有するpH3のHClベースの組み込み溶液150μl中でインキュベートし、また、正方形のMbB膜を、2μg×mL-1のIgGを同様に含有するpH6.5のNaCl-Hepesベースの組み込み溶液150μl中でインキュベートした。同時に、平衡工程を受けていない正方形の乾燥(CHI/HyA)100膜(MbC及びMbD)を、試料MbA及びMbBと同一の組み込み溶液中でそれぞれインキュベートした。組み込み溶液中でのインキュベーションを4℃で一晩行った。翌日、膜を酢酸緩衝液(0.1MのCH3COOH、0.1MのCH3COONa、pH5.5)中で2分間にわたり3回すすぎ、次いで、気流中で(PSM)光を当てない状態で乾燥させた。最後に、膜を、20倍の対物レンズを使用して、共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss社、LSM 710)で観察した。
【0091】
結果
異なるpHでの事前の平衡工程を伴う又は伴わない膜(Alexa 633nm)を調べた(画像は提供されていない)。IgGの存在は、同等に、且つ全ての条件下で検出可能であり、原則として、インキュベーションの間のプレートの壁と反対側の膜MbA、MbB、MbC、及びMbDの表面で検出可能であった。しかし、IgGの標識はMbA試料でより明らかであり、このことは、事前の平衡工程がpH3での組み込みのみに利益を及ぼすことを示している。更に、膜に組み込まれるIgGの量は、1cm2当たり約400ngであると推定され得る。
【0092】
(参考文献)
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】