(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-28
(54)【発明の名称】乳及びその他の乳製品における連続的ラクトース加水分解
(51)【国際特許分類】
A23C 9/12 20060101AFI20231120BHJP
A23C 3/02 20060101ALI20231120BHJP
A23C 7/04 20060101ALI20231120BHJP
A23C 9/14 20060101ALI20231120BHJP
A23C 9/00 20060101ALI20231120BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20231120BHJP
A23G 1/56 20060101ALN20231120BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20231120BHJP
A23L 2/38 20210101ALN20231120BHJP
【FI】
A23C9/12
A23C3/02
A23C7/04
A23C9/14
A23C9/00
A23L5/00 J
A23G1/56
A23L2/00 F
A23L2/38 P
A23L2/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528313
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 US2021058420
(87)【国際公開番号】W WO2022103690
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515301926
【氏名又は名称】フェアライフ、 エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カミル・ピョートル・ドラパラ
(72)【発明者】
【氏名】シャキル・ウア・レーマン
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・ピーター・ドールマン
【テーマコード(参考)】
4B001
4B014
4B035
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC25
4B001BC06
4B001BC14
4B001EC07
4B014GB05
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4B014GP14
4B035LC06
4B035LG44
4B035LP21
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4B035LP44
4B117LC04
4B117LG17
4B117LK18
4B117LK24
4B117LP06
(57)【要約】
2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を製造するための方法は、乳製品とラクターゼ酵素との混合物を、約55℃~約78℃の範囲のピーク温度に、約15秒~約15分の範囲の時間供して、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を形成する工程、次いで、前記乳製品組成物を熱処理して酵素を失活させ、この乳製品組成物を滅菌する工程を含む。前記ラクターゼ酵素の量は、前記乳製品の量に基づいて約0.01~約5重量%である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を製造するための方法であって、
(a)乳製品とラクターゼ酵素との混合物を、約55℃~約78℃の範囲のピーク温度に、約15秒~約15分の範囲の時間供して、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を形成する工程であって、ここで、ラクターゼ酵素の量は前記乳製品中のラクトースの量に基づいて約0.01~約5重量%である工程、及び
(b)前記乳製品組成物を熱処理して酵素を失活させ、この乳製品組成物を滅菌する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記ピーク温度が以下:
約60℃~約77℃;
約62℃~約72℃;
約63℃~約75℃;
約63℃~約70℃;または
約65℃~約70℃の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記時間が以下:
約30秒~約10分;
約30分~約8分;
約1分~約10分;
約1分~約5分;または
約3分~約6分の範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記乳製品が以下:
約0.5~約10重量%のラクトース含量;
約1~約6重量%のラクトース含量;または
約0.5~約5重量%のラクトース含量を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記乳製品組成物が以下:
約1000ppm以下のラクトース含量;
約500ppm以下のラクトース含量;
約200ppm以下のラクトース含量;
約100ppm以下のラクトース含量;または
約50ppm以下のラクトース含量を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記乳製品中のラクトースの量に基づくラクターゼ酵素の量が、以下:
約0.025~約5重量%;
約0.01~約2重量%;
約0.025~約2重量%;
約0.01~約1重量%;または
約0.025~約1重量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物中のラクターゼ酵素の量が、以下:
約2~約1000ppm;
約5~約500ppm;
約2~約200ppm;または
約3~約150ppmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)の前に、前記混合物を約10℃以下の温度からピーク温度にまで加熱する工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物を加熱する工程が、以下:
約5秒から約5分;
約2秒から約2分;
約5秒から約1分;
約2秒から約3分;または
約5秒から約30秒の範囲の時間で実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)と工程(b)との間に、乳製品組成物をピーク温度から工程(b)の熱処理のための温度まで加熱する工程をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記加熱処理の工程が、以下:
約135℃~約145℃の範囲の温度で約1秒~約10秒の範囲の時間に亘るUHT殺菌;
約148℃~約165℃の範囲の温度で0秒~約1秒、約0.05秒~約1秒、または約0.05秒~約0.5秒の範囲の時間に亘るUHT殺菌;または
約80℃~約95℃の範囲の温度で約2分から約15分の範囲の時間に亘る低温殺菌
を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱処理の工程が、間接加熱を用いて実施されるUHT殺菌、直接蒸気注入を用いて実施されるUHT殺菌、または直接蒸気吹き込みを用いて実施されるUHT殺菌を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が連続的に実施される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記乳製品または乳組成物が、全乳、低脂肪乳、スキムミルク、バターミルク、フレーバーミルク、低ラクトース乳、高タンパク質乳、無ラクトース乳、限外濾過乳、精密濾過乳、濃縮乳、エバミルク、または高タンパク質、高カルシウム、及び低糖の乳である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記乳製品または乳組成物が、UF透過液画分、UF保持液画分、NF透過液画分、NF保持液画分、RO透過液画分、RO保持液画分、脂肪豊富な画分、またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記乳製品または乳製品組成物が、以下:
約0.05~約10重量%の脂肪含量、もしくは約0.1~約5重量%の脂肪含量;または
約1~約15重量%のタンパク質含量、約3~約10重量%のタンパク質含量、約2~約8重量%のタンパク質含量、もしくは約3~約6重量%のタンパク質含量;または
約0.5~約2重量%のミネラル含量、約0.5~約1.5重量%のミネラル含量、もしくは約0.5~約1重量%のミネラル含量;または
約5~約50重量%の固形分、約6~約35重量%の固形分、もしくは約8~約16重量%の固形分、またはこれらの組み合わせを有する、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記乳製品または乳製品組成物が、以下:
約0.5重量%以下の脂肪、約2~約15重量%のタンパク質、及び約0.5~約2重量%のミネラル;
約0.5~約1.5重量%の脂肪、約2~約15重量%のタンパク質、約0.5~約2重量%のミネラル;
約1.5~約2.5重量%の脂肪、約2~約15重量%のタンパク質、約0.5~約2重量%のミネラル;または
約2.5~約5重量%の脂肪、約2~約15重量%のタンパク質、及び約0.5~約2重量%のミネラルを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記乳製品または乳製品組成物が、成分をさらに含み、前記成分が、糖/甘味料、香味料、保存料、安定剤、乳化剤、プレバイオティクス物質、プロバイオティクス細菌、ビタミン、ミネラル、オメガ3脂肪酸、植物ステロール、抗酸化剤、着色料、またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ラクターゼ酵素が、β-ガラクトシダーゼである、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ラクターゼ酵素がピーク温度で安定であり、且つ/またはピーク温度で失活しない、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記ラクターゼ酵素が、80℃を超える温度で失活する、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記乳製品組成物を容器に包装する工程をさらに含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか1項に記載の方法により調製された乳製品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、PCT国際特許出願として2021年11月8日に出願され、2020年11月12日に出願された米国仮出願第63/112,688号の優先権を主張するものであり、その開示内容は参照によりその全体を本明細書中に援用することとする。
【背景技術】
【0002】
本発明は、一般に、乳及び他の乳製品中のラクトースを加水分解して、最終的な乳製品配合物のラクトース含量を低減することに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,169,428号明細書
【特許文献2】米国特許第9,510,606号明細書
【特許文献3】米国特許第9,538,770号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この概要は、本明細書中にさらに説明される概念の一部を簡略化して紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の必須のまたは本質的な特徴を特定することを意図するものではない。また、この概要は、特許請求される主題の範囲を限定するために使用されることも意図するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様と一致して、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を製造するための第1の方法が本明細書に開示され、この第1の方法は、(a)乳製品とラクターゼ酵素との混合物を、約55℃~約78℃の範囲のピーク温度に、約15秒~約15分の範囲の時間で供して、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を形成する工程であって、ラクターゼ酵素の量が、前記乳製品中のラクトースの量に基づいて約0.01~約5重量%である工程、及び(b)前記乳製品組成物を熱処理して酵素を失活させ、この乳製品組成物を滅菌する工程を含んでよい。
【0006】
2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を製造するための第2の方法も本明細書に開示され、この第2の方法は、乳製品とラクターゼ酵素との混合物を、約55~約78℃の範囲のピーク温度に供して、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を形成する工程を含んでよい。例えば、第2の方法は、従来の低温殺菌に十分な時間採用し、同時にラクターゼ酵素によってラクトース含量を2000ppm未満に減少させることができる。
【0007】
第1または第2の方法を使用し、また多くの場合に、わずか1~3分及び最大5~10分の酵素処理時間に対して、約1000ppm以下、約500ppm以下、約200ppm以下、約100ppm以下、または約50ppm以下などのラクトース含量を有する乳製品組成物を、本明細書に記載されるように製造することができる。
【0008】
前述の概要及び以下の詳細な説明の両方が、例示を提供するが、説明を提供するに過ぎない。しかるに、前述の概要及び以下の詳細な説明は、制限的であるととらえられるべきではない。さらにまた、本明細書に記載のものに加えて、特徴または変形が提供され得る。例えば、所定の態様は、詳細な説明に記載される様々な特徴の組み合わせ及び下位組み合わせを対象にしてよい。
【0009】
以下の図は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに示すために含まれる。本発明は、詳細な説明及び実施例と組み合わせてこの図を参照することにより、よりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ラクトースのインライン連続加水分解を利用する乳製品組成物の製造方法の概略フロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で使用される用語をより明確に定義するために、以下の定義を提供する。特記のない限り、以下の定義は本開示に適用される。用語が本開示で使用されているが、本明細書で具体的に定義されていない場合、その定義が本明細書で適用される他の開示または定義と矛盾しない限り、またはその定義が適用され得る請求項を不明確または実施不可能にしない限り、IUPAC Compendium of Chemical Terminology, 2nd Ed (1997)の定義を適用することができる。参照により本明細書に援用されるいかなる文書によって提供される定義または用法も、本明細書に提供される定義または用法と矛盾する範囲については、本明細書に提供される定義または用法が優先する。
【0012】
本明細書においては、主題の特徴は、特定の態様において、異なる特徴の組み合わせが想定され得るように記載される。本明細書に開示される各々の態様及び/または特徴について、本明細書に記載される設計、組成物、プロセス、及び/または方法に有害な影響を与えることのない全ての組み合わせが、特定の組み合わせの明示的な記載の有無によらず想定される。さらに、明示的に特記のない限り、本明細書に開示される任意の態様及び/または特徴が、本発明に合致する発明上の設計、組成物、プロセス、及び/または方法を説明するために組み合わせることができる。
【0013】
本開示において、組成物及びプロセスは、しばしば、様々な成分または工程を「含む」という用語で記載されるが、組成物及びプロセスはまた、特記のない限り、様々な成分または工程「から本質的になる」または「からなる」ことができる。例えば、本発明の態様に合致する乳製品または乳製品組成物は、脂肪豊富な画分、UF保持液画分、及びRO保持液画分を含むことができ、あるいは本質的に前記からなることができ、あるいは前記からなることができる。
【0014】
用語「a」、「an」、及び「the」は、特記のない限り、複数の代替物、例えば、少なくとも1を含むことを意図する。例えば、「成分」及び「ラクターゼ酵素」との開示は、特記のない限り、1つ、または1つ以上の成分及びラクターゼ酵素の混合物または組み合わせを包含することを意図する。
【0015】
開示されたプロセスにおいて、「組み合わせる」なる語は、特記のない限り、任意の順序、任意の方法、任意の時間で、成分を接触させることを包含する。例えば、成分はブレンドまたは混合によって組み合わせることができる。
【0016】
本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法及び材料を、本発明の実施または試験において使用できるが、典型的な方法及び材料を本明細書に記載する。
【0017】
本明細書には、様々な数値範囲が開示されている。本明細書において、任意のタイプの範囲が開示または請求されている場合、その意図は、特記のない限り、その範囲の端点ならびにその範囲に包含される任意の下位範囲及び下位範囲の組み合わせを含め、そのような範囲が合理的に包含し得る可能な各数値を個々に開示または請求することである。代表例として、本出願は、乳製品または乳製品組成物が、所定の実施態様において、約1~約15重量%のタンパク質を有し得ることを開示する。タンパク質含量が約1~約15重量%の範囲であり得るという開示により、その意図は、タンパク質含量がその範囲内の任意の量であり得ること、例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、または約15重量%に等しくてよいことを規定することである。さらに、乳製品または乳製品組成物は、約1~約15重量%の任意の範囲内(例えば、約2~約8重量%)の量のタンパク質を含むことができ、これはまた、約1~約15重量%の間の任意の範囲の組み合わせを含む。さらに、「約」特定の値が開示される全ての場合において、その値自体が開示されている。したがって、約1~約15重量%のタンパク質含量の開示は、1~15重量%(例えば、2~8重量%)のタンパク質含量も開示し、これはまた、1~15重量%の間の任意の範囲の組み合わせも含む。同様に、本明細書に開示される別の全ての範囲が、この例と同じ方式で理解されるべきである。
【0018】
「約」なる語は、量、サイズ、配合物、パラメータ、及びその他の量及び特徴が正確ではなく、また正確である必要もないが、公差、換算係数、四捨五入、測定誤差など、及び当業者に公知のその他の要因を反映して、所望により大きめまたは小さめを含む近似値であり得ることを意味する。一般に、量、サイズ、配合物、パラメータ、または別の量もしくは特徴は、そのように明示的に記載されているか否かによらず、「約」または「およそ」である。「約」なる語は、特定の初期混合物から生じる組成物の、様々な平衡条件のために異なる量も包含する。「約」なる語によって修飾されているか否かによらず、特許請求の範囲には、量に対する等価物が含まれる。用語「約」は、報告された数値の10%以内、好ましくは報告された数値の5%以内を意味し得る。
【0019】
ラクトースは、乳中の主要な炭水化物であり、ヒトの大半が、離乳後にヒトの腸内におけるラクターゼ酵素(β-ガラクトシダーゼ)産生が減少または停止するために乳糖不耐症になる。ラクターゼ酵素は、腸管内でラクトースをグルコースとガラクトースに変換し、体内に吸収されてエネルギーとなる。乳及び乳製品は、その栄養的価値のために、離乳以降もほとんどすべてのヒトに摂取されている。しかしながら、乳糖不耐症の人々は、ラクトースを含む乳製品の摂取をやめるか、ラクトースを含まない代替食品及び飲料に切り替える。代替乳は乳と同じ栄養を提供しないことが多いため、乳糖不耐症の人々は栄養面で不利な立場に置かれ得る。
【0020】
乳糖不耐症の人々が栄養価の高い乳及び乳製品を摂取する利点を享受できるように、乳製品業界は、ラクトースを吸収可能な単純糖であるグルコースや及びガラクトースに変換することによって、ラクトースを含まない乳及び乳製品を提供している。ラクターゼ酵素処理によってラクトースをグルコース及びガラクトースに変換する方法は、ラクトース加水分解として知られている。乳製品業界では、工業的規模でラクトース加水分解を行うために様々な技術が使用されている。酵素は可溶性形態または固定化形態であってよく、前者は通常バッチプロセスに使用される。固定化形態は連続プロセスで使用可能であるが、反応器の洗浄を可能にして、微生物の増殖を回避するため、しばしばバッチプロセスに使用される。
【0021】
通常、ラクトース加水分解は包装前または包装後に実施することができる。包装前に、バルク乳は低温殺菌され、冷却された後、大型タンクに移され、そこでラクトース加水分解が行われるが、微生物の増殖を防ぐために、多くの場合4~6℃とする。ラクターゼ酵素の濃度により、ラクトース加水分解には24~48時間かかる。あるいは、加水分解を、高濃度の酵素を用いて35℃で2~3時間行うこともできるが、この温度は微生物の増殖及び乳の天然酵素の活動に最適であり、製品の味を劣化させるため、飲用乳を35℃で2~3時間保持することを許可しない規制がある。ラクトース加水分解乳は、通常、小売流通向けにラクターゼ酵素を不活性化するため、超高温殺菌される。微生物負荷の少ない高品質の新鮮な生乳には、通常の低温殺菌の前に、4~6℃で24時間ラクトース加水分解を行うことができる。バッチ方式の方法に追加の設備は必要ないが、このプロセスには時間がかかり、インキュベーション時間中の低温を維持するためのエネルギーを要する。
【0022】
ラクトース加水分解は小売用パッケージでも実施可能である。予め滅菌された可溶性ラクターゼ酵素溶液を、包装前の連続工程として無菌的に注入し、ラクトース加水分解工程を最終容器内で行う。酵素溶液は、プロセスの一部としてその場でフィルター滅菌することもでき、フィルター滅菌された酵素を、包装プロセスの進行と共に連続的に注入する。このプロセスでは、加水分解のためのバルクタンクの使用が不要であり、処理/酵素コストを削減される。しかしながら、このプロセスでは、高純度の酵素(プロテアーゼもしくはその他の副次的活性を持たない)が必要である。さらにまた、製品の輸送中に若干のラクトース加水分解が起こる可能性があるが、最終容器内の製品は、ラクトースが完全に加水分解されるまで保持されねばならず、また、活性酵素の存在により、その保存期間中に製品の味にばらつきが生じる可能性がある。主な欠点は、酵素が機能しない場合、乳製品を高価な包装とともに廃棄せねばならないことである。
【0023】
乳を連続的に加水分解する別の方法は、固定化形態のラクターゼ酵素を使用することである。乳中のラクトースを連続的に加水分解するための固定化リアクターの開発は困難であった。克服すべき困難には、乳のpHが中性であるため、低温または非常に高温の場合を除き、反応器内における微生物の増殖が促進されることが含まれる。また、乳タンパク質は固定化表面に吸着しやすく、反応器を汚しやすい。固定化システムは、特別な装置及び技術を要する。
【0024】
本発明の目的は、ラクトース加水分解の上記の欠点を克服することである。本明細書に開示されたプロセスは、連続的に実施することができ、通常の低温殺菌、超高温殺菌、または滅菌プロセスの一部として統合することができ、有益なことに、特別な装置を要しない。ここでは、予め滅菌された酵素溶液及び無菌投与装置は必要ない。それでも、ラクトース加水分解時間は24時間から3~5分に短縮される。ラクトース加水分解のための時間と温度の組み合わせは、従来の超低温殺菌または滅菌処理のための予熱工程で行うことができる。
【0025】
酵素反応の速度(スピード)は、数ある要因の中でもpH、温度、ラクトース濃度、酵素濃度、及び触媒阻害剤などの環境条件に依存する。一般に、酵素濃度が高いほど加水分解速度は速くなるが、原料コストの上昇にもつながる。インキュベーション温度の上昇は、その温度が酵素の至適温度(多くの場合40~60℃未満)を超えない限り加水分解の速度を増大させるが、それ以上の温度では酵素は変性し始め、活性を失う。さらにまた、乳製品加工における10~40℃の加温下での加水分解は、微生物への懸念から通常避けられるが、酵素活性は、一般的に、10℃以下の温度では低すぎる。
【0026】
上述したように、市販のラクトース加水分解プロセスは、熱処理前の原料乳製品の加水分解(前投与)と最終製品の加水分解(後投与)との2つの一般的なアプローチに分けられる。後者は、酵素消費量を著しく低減し、結果的に材料コストを低下させることができるが、熱処理後の製品に無菌で酵素を導入できるよう、効果的な無菌注入システムを必要とする。また、酵素は保存期間中も活性を維持するため、製品の他の成分との相互作用を防ぐために、酵素の純度が高いことが必要である(例えば、タンパク質分解、脂肪分解、インベルターゼ、またはアリールスルファターゼ活性が完全に不在である必要がある)。
【0027】
前投与加水分解では、乳製品の流れは、所望の乳製品配合物の製造に使用される前に、冷蔵条件下で4~24時間(しばしばそれ以上)加水分解される。処理に利用できるようになるまでに24時間に至る(そしてしばしば24時間を超える)時間置かねば複数の乳製品の流れを大量に有することは、製造作業において複数の課題を提示し、生産効率を低下させる。
【0028】
本発明の別の目的は、典型的な前投与加水分解及び後投与加水分解の欠点を克服することである。ラクターゼ酵素(例えばβ-ガラクトシダーゼ酵素であって、ピーク活性温度がより高い、細菌発酵の産物)を、バッチ処理中に製品配合物に添加し、加水分解がバッチ処理中に起こり始め、追加の予熱段階中に完了する(すなわち、ラクトースは実質的に加水分解されるか、または完全に加水分解される)。この追加の予熱段階は、最低温度55℃、最高温度78℃(例えば、63~70℃)で動作し、同時に乳製品配合物中の腐敗微生物の増殖を防止し、高温での酵素の不活性化を防止する。
【0029】
この高温での加水分解により、ラクトースの加水分解反応速度が加速され、結果として、ラクトース含量を所望のppm含量まで低下させるのに必要な時間が短縮される。一般に、乳製品が冷蔵条件(例えば、7~10℃)を超え、腐敗微生物が死滅する温度未満(例えば、63~65℃未満で15~30分間)の温度に曝された場合、その製品は低温殺菌されたとはみなされず、販売に適さない可能性がある。ここで、乳製品とラクターゼ酵素との混合物は、最終的な熱処理工程(例えば、UHT殺菌または低温殺菌)に向かう途中で、予備加熱部を通過する。混合物の加速ラクトース加水分解は、一般に55~78℃(または63~70℃)の温度で起こり、その後、混合物はより高い温度(例えば、80℃以上)にさらされて残留ラクターゼ酵素が失活され(したがって、最終乳製品と負の相互作用を起こす可能性のある活性酵素は存在しない)、最後にUHT殺菌または他の適切な低温殺菌技術にかけられる。
【0030】
本発明の一態様に従い、「2000ppm未満のラクトースを含有する」乳製品組成物を製造するための第1の方法は、(a)乳製品とラクターゼ酵素との混合物を、約55~約78℃の範囲のピーク温度に、約15秒~約15分の範囲の時間で供して、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を形成する工程であって、ラクターゼ酵素の量が乳製品中のラクトースの量に基づいて約0.01~約5重量%である工程、及び(b)乳製品組成物を熱処理して酵素を失活させ、乳製品組成物を殺菌する工程を含むことができる(または前記工程から本質的になる、または前記工程からなる)。本発明の別の態様によれば、「2000ppm未満のラクトースを含有する」乳製品組成物は、乳製品とラクターゼ酵素との混合物を、約55~約78℃の範囲のピーク温度に供して、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を形成する工程を含むことができる(または前記工程から本質的になる、または前記工程からなる)。任意に、第2の方法は、従来の低温殺菌に十分な時間採用することができ、同時にラクターゼ酵素がラクトース含量を2000ppm未満に減少させることができる。
【0031】
一般に、これらの第1及び第2の方法の特徴(例えば、乳製品の特徴、乳製品組成物の特徴、ラクターゼ酵素、ピーク温度、加熱処理、及び残留ラクトース含量など)は、本明細書において個別に記載されており、これらの特徴は、開示の方法をさらに説明するために、任意の組み合わせで組み合わせることができる。さらにまた、特記のない限り、他の処理工程を、開示の方法において挙げられる任意の工程の前、最中、及び/または後に実施することができる。さらに、開示の方法のいずれかに従って製造される任意の乳組成物(例えば、消費向けに完成した乳製品)は、本開示の範囲内であり、本明細書に包含される。
【0032】
第1の方法の工程(b)を参照すると、乳製品組成物を熱処理して酵素を失活させ、乳製品組成物を滅菌することができる。一態様において、熱処理の工程は、約80℃~約95℃の範囲の温度で、約2分~約15分の範囲の時間、低温殺菌することを含んでよい。別の態様では、熱処理の工程は、約135℃~約145℃の範囲の温度で、約1秒~約10秒の範囲の時間、UHT殺菌することを含んでよい。さらに別の態様で、熱処理の工程は、約148℃~約165℃の範囲の温度で、0秒~約1秒(例えば、約0.05秒~約1秒、約0.05秒~約0.5秒)の範囲の時間、UHT殺菌することを含んでよい。他の適切な低温殺菌または滅菌温度及び時間条件は、本開示から容易に明らかとなる。さらに、本発明は、低温殺菌/滅菌処理を実施するために使用される方法または装置によって限定されるものではなく、バッチ式であれ連続式であれ、任意の適切な技術及び装置を採用することができる。
【0033】
例えば、典型的なUHT殺菌技術には、間接蒸気加熱、直接蒸気注入、直接蒸気吹き込みなどが含まれる。間接蒸気加熱の場合、乳製品組成物は、例えば熱交換器のような熱源または加熱媒体と直接接触させない。熱伝達の制限のため、間接加熱は滅菌により長い時間を必要とする。有益なことに、本発明の態様では、乳製品組成物は、直接UHT殺菌を用いて加熱処理される。直接蒸気注入では、高温蒸気が乳製品組成物を含むパイプまたは他の容器に注入され、乳製品組成物を迅速に滅菌する。直接蒸気注入は一般的に連続的に行われ、乳製品組成物の連続的な流れと蒸気の連続的な注入が混合される。直接蒸気吹き込みでは、乳製品組成物は蒸気を含む室内に噴霧され、かくして乳製品組成物は迅速かつ均一に滅菌される。直接蒸気注入と同様に、直接蒸気吹き込みは、一般的に連続的に行われる。熱処理工程の後、乳製品組成物は任意の適切な温度、例えば約5℃~約40℃の範囲、または約10℃から約30℃の範囲に冷却することができる。
【0034】
ここで、乳製品組成物(ラクトースの含量が2000ppm未満)を製造するための第1の方法及び第2の方法の両方を参照すると、乳製品及び/または乳製品組成物は、全乳、低脂肪乳、スキムミルク、バターミルク、フレーバーミルク、低ラクトース乳、高タンパク質乳、無ラクトース乳、限外濾過乳、精密濾過乳、濃縮乳、エバミルク、または高タンパク質乳、高カルシウム乳、及び低糖の乳などであってよい。
【0035】
いくつかの態様において、乳製品及び/または乳製品組成物は、UF透過液画分、UF保持液画分、NF透過液画分、NF保持液画分、RO透過液画分、RO保持液画分、脂肪豊富な画分など及びこれらの任意の組み合わせを含むことができる。これらの乳画分は、様々な公知の濾過技術及びプロセスによって製造することができ、その非限定的な例は、米国特許第7,169,428号、同第9,510,606号、及び同第9,538,770号に開示されており、これらは参照によりその全体を本明細書に援用することとする。こうした技術(例えば、限外濾過、ナノ濾過、及び逆浸透)は、適切な条件(例えば、圧力)下で混合物を膜システム(または選択的バリア)に通すことにより、乳などの混合物中の成分を分離または濃縮することができる。したがって、濃縮/分離は分子サイズに基づいて行われる。膜によって保持される流れは、保持液(または濃縮液)と呼称される。膜の孔を通過する流れは透過液と呼称される。
【0036】
限外ろ過は、通常0.01~0.1ミクロンの範囲の孔径を有する限外ろ過膜を使用して実施することができる。乳製品業界では、限外ろ過膜は孔径ではなく、分子量カットオフ(MWCO)に基づいて識別されることがしばしばである。限外ろ過膜の分子量カットオフは、1,000~100,000ダルトンの範囲で相違する。例えば、乳製品は高分子膜システム(セラミック膜も採用可能)を使用して限外ろ過することができる。高分子膜システムは、約1,000ダルトンより大きい分子量、約5,000ダルトンより大きい分子量、または約10,000ダルトンより大きい分子量を有する物質が保持され、低分子量種は通過するような孔径で構成することができる。いくつかの態様では、限外ろ過の工程は、約0.01~約0.1μmの範囲の孔径を有し、通常45~150psigの範囲の操作圧力を有する膜システムを利用する。
【0037】
乳製品業界におけるナノろ過は、通常、約100~300Da以上の分子量を持つ粒子を保持する膜エレメントを使用する。ナノろ過は圧力駆動プロセスであり、ここでは液体が圧力下で膜を通過させられ、指定されたカットオフ値以上の分子量を持つ物質は保持され、より小さな粒子は膜孔を通過する。一般的に、流入する流れ中のミネラルからラクトースを分離する場合、孔径は、ラクトースの保持が最大になるように選択することができる。限外ろ過のように、ナノろ過は、濃縮と分離の両方を同時に行うことができる。ナノろ過は、典型的には0.001~0.01ミクロンの範囲の孔径、例えば、約0.001~約0.008μmの範囲の孔径を有するナノろ過膜を使用して実施することができる。いくつかの実施態様では、ナノろ過の工程は、0.001~約0.01μmの範囲の孔径を有する膜システムを利用し、操作圧力は通常150~450psigの範囲であり、操作温度は約10~約60℃(または約15~約45℃)の範囲であるが、これらに限定されない。
【0038】
逆浸透は精密ろ過プロセスまたは濃縮プロセスであり、ここでは、実質的に残存する乳成分はすべて保持され(RO保持液)、水(RO透過液、乳水)のみが通過する。多くの場合、逆浸透膜システムは100Daよりはるかに小さい分子量カットオフを有するため、逆浸透膜プロセスでは水以外の成分(例えば、ミネラル)は濃縮される。一般に、逆浸透は約0.001μm以下の孔径を有する膜システムを含む。操作圧力は、通常450~1500psig、または450~600psigの範囲である。約5~約45℃、または約15~約45℃の範囲の温度を使用できることが多い。
【0039】
以下に限定されるものではないが、乳製品及び/または乳製品組成物のタンパク質含量は、多くの場合、少なくとも約1重量%または約2重量%、一般的には約10重量%または約15重量%までのタンパク質とすることができる。乳製品及び/または乳製品組成物のタンパク質含量の例示的かつ非限定的な範囲は、約1~約15重量%、約3~約10重量%、約2~約8重量%、または約3~約6重量%を含む。
【0040】
同様に、乳製品及び/または乳製品組成物の脂肪含量及びミネラル含量ならびに固形分含量は特に限定されない。乳製品及び/または乳製品組成物の脂肪含量の典型的な範囲には、約0.05~約10重量%の脂肪、または約0.1~約5重量%の脂肪が含まれる一方で、乳製品及び/または乳製品組成物のミネラル含量の典型的な範囲には、約0.5~約2重量%、約0.5~約1.5重量%、または約0.5~約1重量%が含まれる。乳製品及び/または乳製品組成物の固形分含量の典型的な範囲には、約5~約50重量%の固形分、約6~約35重量%の固形分、または約8から約16重量%の固形分が含まれる。
【0041】
第1の方法及び第2の方法では、乳製品とラクターゼ酵素の混合物を約55~約78℃の範囲のピーク温度に供して、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を形成する。酵素処理前の乳製品の初期ラクトース含量は特に限定されず、典型的な最小ラクトース含量は約0.5重量%、最大ラクトース含量は約20重量%である。従って、乳製品のラクトース含量は、一態様では約0.5~約10重量%であり得るが、別の態様では、ラクトース含量は約1~約6重量%であってよく、さらに別の態様では、ラクトース含量は約0.5~約5重量%であってよい。
【0042】
酵素処理及びラクトース(のグルコース/ガラクトースへの)加水分解の後、乳製品組成物中の残留ラクトース含量は、2000ppm(重量)未満、例えば、約1000ppm以下;あるいは約500ppm以下;あるいは約200ppm以下;あるいは約100ppm以下;あるいは約50ppm以下である。ラクトースの最小量は、乳製品組成物のラクトース含量が特定の最大値を超えない限り、一般に決定されない。とはいえ、ラクトースの最小量は、多くの場合、ゼロを超える量、例えば少なくとも1ppm(重量)、少なくとも5ppm、少なくとも10ppm、または少なくとも25ppmとすることができる。
【0043】
乳製品及び乳製品組成物のこれらのそれぞれのラクトース含量と共に、1つの態様では、乳製品及び/または乳製品組成物は、約0.5重量%以下の脂肪、約2~約15重量%のタンパク質、及び約0.5~約2重量%のミネラルを含むことができる。別の態様では、乳製品及び/または乳製品組成物は、約0.5~約1.5重量%の脂肪、約2~約15重量%のタンパク質、及び約0.5~約2重量%ミネラルを含むことができる。さらに別の態様では、乳製品及び/または乳製品組成物は、約1.5~約2.5重量%の脂肪、約2~約15重量%のタンパク質、及び約0.5~約2重量%のミネラルを含むことができる。さらに別の態様では、乳製品及び/または乳製品組成物は、約2.5~約5重量%の脂肪、約2~約15重量%のタンパク質、及び約0.5~約2重量%のミネラルを含むことができる。
【0044】
ここで、乳製品及び/または乳製品組成物は、さらに成分を含むことができ、その非限定的な例には、糖/甘味料、香味剤、保存料、安定剤、乳化剤、プレバイオティック物質、プロバイオティック細菌、ビタミン、ミネラル、オメガ3脂肪酸、植物ステロール、抗酸化剤、着色剤など、及びこれらの任意の混合物または組み合わせが含まれる。例えば、これら成分の1種類以上を、55~78℃までの範囲のピーク温度に暴露する前に、乳製品とラクターゼ酵素の混合物に添加することができる。
【0045】
有益なことに、乳製品とラクターゼ酵素は、バッチ式または連続式で、任意の適切な容器(例えば、タンク、サイロなど)内で、任意に撹拌または混合しつつ組み合わせることができる。
【0046】
乳製品組成物を製造する第1及び第2の方法は、任意の適切な温度で、任意の適切な期間実施することができる。乳製品とラクターゼ酵素との混合物が供されるピーク温度の代表的かつ非限定的な範囲は、約60~約77℃;あるいは約62~約77℃;あるいは約62~約72℃;あるいは約63~約75℃;あるいは、約63~約70℃;あるいは約65~約70℃を含んでよい。これらの温度範囲はまた、第2の方法または第1の方法の工程(a)(または乳製品組成物の形成)が、それぞれの温度範囲内に入る単一の固定温度ではなく、一連の様々な温度で実施され、少なくとも1つの温度が記載の範囲内にある状況を包含することを意味する。
【0047】
同様に、前記混合物をピーク温度に供する時間または期間は特に限定されず、任意の適切な期間実施することができる。いくつかの態様において、前記期間は、少なくとも約15秒、少なくとも約1分、少なくとも約2分、または少なくとも約3分、及び最大約10分、15分、20分、または30分とすることができる。例えば、前記期間は、約15秒~約15分、約30秒~約10分、約30分~約8分、約1分~約10分、約1分~約5分、または約3分~約6分であってよい。
【0048】
ここで、ラクターゼ酵素は、従来のラクターゼ酵素よりも高い活性ピーク温度を有するラクターゼ酵素であり、多くの場合、本明細書で使用されるラクターゼ酵素の活性ピーク温度は55~78℃までの範囲である。本明細書における使用に好適なラクターゼ酵素は、これに限定されないが、β-ガラクトシダーゼである。有利には、本明細書で使用されるラクターゼ酵素は、多くの場合、ピーク温度で安定であるか、ピーク温度で失活しないか、またはピーク温度で安定であるとともにピーク温度で失活しないことの両方である。一般に、必須ではないが、ラクターゼ酵素は、80℃以上の温度に暴露されると失活する。
【0049】
混合物中の乳製品と組み合わされるラクターゼ酵素の量は、乳製品中のラクトースの量、乳製品組成物中の残留ラクトースの所望のレベル、ピーク温度、及び酵素処理の期間などを含む多くの要因に依存し得る。とはいえ、乳製品とラクターゼ酵素との混合物の総重量に基づくラクターゼ酵素の量は、約2~約1000ppm(重量比)、例えば約5~約500ppm、約2~約200ppm、または約3~約150ppmの範囲内であってよい。別の言い方をすれば、乳製品中のラクトースの量に基づくラクターゼ酵素の量は、多くの場合、約0.01~約5重量%、例えば、約0.025~約5重量%、約0.01~約2重量%、約0.025~約2重量%、約0.01~約1重量%、または約0.025~約1重量%の範囲内に入るが、これらに限定されない。
【0050】
本発明のいくつかの態様において、乳製品組成物を製造するための第1及び第2の方法は、乳製品組成物を任意の適切な容器に任意の適切な条件下で(無菌的にまたは他の方法で)包装する工程をさらに含むことができる。任意の適切な容器、例えば小売店において乳製品の流通及び/または販売に使用されるような容器を使用することができる。典型的な容器の例示的かつ非限定的な例には、カップ、ボトル、バッグ、またはパウチなどが含まれる。容器は、任意の適切な材料、例えば、ガラス、金属、プラスチックなど、並びにこれら組み合わせから作ることができる。
【0051】
本発明の態様に合致した、ラクトースのインライン連続加水分解を利用する、乳製品組成物の製造方法100の例示的かつ非限定的な例を
図1に示す。生乳105はまず遠心分離110にかけられ、スキムミルク115とクリーム117(または脂肪が豊富な画分)が形成される。次いで、スキムミルク115を膜濾過処理120(例えば、UF、NF、ROなどの任意の組み合わせ)に供し、様々な濾過流125(例えば、UF保持液、RO保持液など)を形成する。濾過流125は、他の成分127と任意の適切な割合で組み合わされ、混合されて130乳製品を形成することができ、この乳製品は、さらなる処理の前に、多くの場合2℃から5℃で容器140に貯蔵することができる。
【0052】
図1は、ラクターゼ酵素135が、容器140に入る前に濾過流125(個々の任意の濾過流、または全ての濾過流)と合流することを示すが、代替的に、ラクターゼ酵素135を、乳製品を収容する容器140に直接供給することもできる。あるいはまた、容器140を出た乳製品をラクターゼ酵素135と混合してもよい。ラクターゼ酵素を乳製品と混合する方法または方式によらず、乳製品とラクターゼ酵素の混合物は連続熱処理工程150に供され、ここで混合物は迅速に(通常1分以内、例えば5~30秒)、2~5℃までから少なくとも約55℃まで加熱される。次いで、連続加熱処理工程150では、乳製品とラクターゼ酵素の混合物を、例えば1~5分の時間枠にわたってラクトース加水分解を促進するために、55~78℃(例えば、63~70℃)のピーク温度に維持する。ヒートランプとピーク温度での混合物の維持の両方が、他の方法及び装置を使用することもできるが、熱交換器または同様の装置内のパイプ中に混合物を連続的に流すことによって達成することができる。
【0053】
任意の連続タンパク質安定化工程160では、混合物の温度を72~85℃に亘り、例えば85℃に上昇させてタンパク質を安定化させ、残留ラクターゼ酵素を失活させる。この工程は数秒から15~30分またはそれ以上の範囲となりうるが、一般的には1分未満で行われる。その後、乳製品組成物の温度は、連続UHT殺菌工程170で急速に上昇させる(85℃以下から137~165℃まで)が、これはしばしば5秒未満、2秒未満、または1秒未満で達成される。次に、乳製品組成物を均質化/冷却180し、適切な容器に充填または包装190する。
【0054】
要約すれば、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を連続的に製造するための第1の方法は、(a)乳製品とラクターゼ酵素との混合物を、約55℃~約78℃の範囲のピーク温度に、約15秒~約15分の範囲の期間に亘って供し、2000ppm未満のラクトースを含有する乳製品組成物を形成する工程であって、前記ラクターゼ酵素の量が、乳製品中のラクトースの量に基づいて約0.01~約5重量%である工程、及び(b)乳製品組成物を熱処理して酵素を失活させ、乳製品組成物を滅菌する工程を含むことができる。
【0055】
2000ppm未満のラクトース(または約1000ppm以下のラクトース、または約500ppm以下のラクトース、または約100ppm以下のラクトース)を含有する乳製品組成物を連続的に製造するための、本明細書で提供される別の特定の方法は、(a)(約0.5~約10重量%、または約1~約6重量%、または約0.5~約5重量%のラクトースを含有する)乳製品とラクターゼ酵素との混合物を、約60~約77℃(または約62~約72℃、または約63~約75℃、または約63~約70℃)の範囲のピーク温度に、約30秒から約10分(または約1分から約10分、または約1分から約5分、または約3分~約6分)供して、2000ppm未満のラクトース(または約1000ppm未満のラクトース、または約500ppm未満のラクトース、または約100ppm未満のラクトース)を含有する乳製品組成物を形成する工程であって、ここで前記ラクターゼ酵素の量が、乳製品中のラクトースの量に基づいて、約0.025~約5重量%(または約0.01~約2重量%、または約0.01~約1重量%、または約0.025~約1重量%)である工程、及び(b)乳製品組成物を熱処理して酵素を失活させ、乳製品組成物を滅菌する工程を含んでよい。
【実施例】
【0056】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは本発明の範囲に制限を課すものと解釈されるものではない。本明細書の説明を読んだ後、他の様々な態様、変更、及びその等価物が、本発明の精神または添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、当業者に自ずと示される。
【0057】
全固形分(重量%)を、CEMターボ固形分・水分分析器(CEM Corporation, Matthews, North Carolina)により、SMEDP 15.10 C手順に従って測定した。灰分とは、適切な装置中、550℃で一定の重量まで燃焼した後に残る残渣であり、550℃でのこうした処理により、一般的に有機物はすべて除去され、残る物質は主にミネラルである(Standard Methods for the examination of dairy products, 17th edition (2004), American Public Health Association, Washington DC)。灰分試験は、試料を550℃で30分間加熱するPhoenix (CEM Microwave Furnace)を用いて行うことができる。ミネラル含量(重量%)は、一般に灰分含量(重量%)と類似しているため、本開示では灰分試験の結果を総ミネラル含量の定量に用いる。
【0058】
ラクトース含量は、重量%または重量ppmのいずれであっても、LactoSens法を用いて測定した。LactoSens法は、様々なラクトースフリーまたは低ラクトースの乳及び乳製品中のラクトースレベルの測定を目的としたバイオセンサー測定キットである。使い捨ての試験片に固定化された酵素が測定試料のラクトースを酸化し、その結果生じる電子がLactoSens Readerによってアンペロメトリー検出される。著作権のあるソフトウェアにより、工場で設定された校正関数に従って、電気信号がラクトース濃度に変換される。各試験片には、試料の追跡とバッチ固有の情報のためにQRコード(登録商標)がラベル付けされ、品質保証のためにすぐに使用できるポジティブコントロールが準備される。この方法はHalbmayr-Jech, E., Kittl, R., Weinmann, P., Schulz, C., Kowalik, A., Sygmund, C., & Brunelle, S. (2020); Determination of Lactose in Lactose-free and Low-lactose Milk, Milk Products, and Products Containing Dairy Ingredients by the LactoSens(登録商標)R Amperometry Method: First Action 2020.01; Journal of AOAC Internationalに記載されており、これらの開示は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0059】
実施例1-63
表Iは、実施例1~63で使用した5つの乳製品の固形分、タンパク質、脂肪、ミネラル、及びラクトース含量をまとめたものである。これら5つの乳製品のラクトース含量(初期ラクトース含量)は1~4重量%の範囲であった。表IIは、実施例1~63で使用した乳製品、乳製品と混合した酵素添加剤の量(重量%)、乳製品の重量に基づくラクターゼ酵素添加量(重量ppm)、乳製品中のラクトース量に基づくラクターゼ酵素添加量(重量%)、インキュベーション時間と温度、及びラクターゼ酵素で処理した後に残る残留ラクトース(重量ppm)をまとめたものである。酵素添加剤は1~5重量%の活性ラクターゼ酵素を含有しており、したがって、乳製品の重量に基づくラクターゼ酵素添加量(重量ppm)、及び乳製品中のラクトース量に基づくラクターゼ酵素添加量(重量%)について、それぞれの範囲を表IIに示す。使用したラクターゼ酵素(β-ガラクトシダーゼ)は、ラクトバチルス・ブルガリクスから間接的に得られた中性細菌酵素(Neutral Bacterial Enzyme)であり、この酵素は約50~70℃の温度範囲で活性である。この酵素は、15250SDラクターゼ単位/g以上の活性を有していた。
【0060】
実施例1~63は、表IIの乳製品と列挙された酵素添加量をそれぞれのインキュベーション時間と温度で混合し、その後混合物を急冷し、残留ラクトース含量について混合物を分析することにより実施した。残留ラクトース含量に影響する変数は、初期ラクトース含量、酵素添加量、インキュベーション時間、インキュベーション温度、及び乳製品のタイプであった(例えば、ある種のチョコレートミルク中のラクトースは加水分解にかかる時間がより長くなり得る)。
【0061】
63℃の一定温度での実施例1~16の低脂肪乳1では、わずか0.116重量%の酵素添加量(乳製品に基づいて11~58ppmのラクターゼ;乳製品1中のラクトースに基づいて0.04~0.23重量%のラクターゼ)を5~10分間で、ラクトース含量を180~330ppmのラクトースの範囲まで減少させるのに十分であった。実施例17~21のチョコレート乳1について、63℃の一定温度で、チョコレート乳1中のラクトースに基づいて0.06~0.34重量%から0.13~0.68重量%のラクターゼまでの、より高レベルの酵素添加を行った結果、ラクトース含量はわずか1~5分で有意かつ驚くべき減少(80ppm未満~410ppmの範囲まで)を示した。
【0062】
実施例22-34では、チョコレートミルク2を、3分の一定インキュベーション時間と64~71℃のやや高温で使用した。予期せぬことに、前述の温度でわずか3分の処理により、少なくとも0.1重量%の酵素添加剤(チョコレートミルク2中のラクトースに基づいて0.09~0.44重量%から0.17~0.85重量%までのラクターゼ)を使用した実施例はすべて、80ppm未満の残留ラクトース含量を含む乳製品組成物を製造した。
【0063】
実施例35-58では、最高レベルのラクトース(3.12重量%)を含む低脂肪乳2を使用し、ラクターゼ酵素で、3~5分のインキュベーション時間と62~70℃の温度で処理した。ラクトース含量が高いため、残留ラクトース含量を1000ppm以下にするために、0.2~0.3重量%の範囲のより多量の酵素添加量を用いた。
【0064】
要するに、これらの例は、ピーク活性温度が高い比較的少量のラクターゼ酵素で高温処理することにより、1~5分という短時間で、残留ラクトース含量を2000ppm未満、場合によっては80ppm未満まで低減できることを示す。
【0065】
【0066】
【国際調査報告】