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特表2023-549611硬質共役高分子を含むn型導電性組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-28
(54)【発明の名称】硬質共役高分子を含むn型導電性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20231120BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20231120BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20231120BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20231120BHJP
   C08L 79/02 20060101ALI20231120BHJP
   H10K 50/81 20230101ALI20231120BHJP
   H10K 50/82 20230101ALI20231120BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20231120BHJP
   H10K 50/10 20230101ALN20231120BHJP
   H10K 59/00 20230101ALN20231120BHJP
【FI】
C08L101/00
C09D11/52
C08L101/12
C08L79/04 Z
C08L79/02
H10K50/81
H10K50/82
H10K85/10
H10K50/10
H10K59/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528672
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2020082821
(87)【国際公開番号】W WO2022106018
(87)【国際公開日】2022-05-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523176451
【氏名又は名称】エン-イーエンコー、アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】N-INK AB
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ、ファビアーノ
(72)【発明者】
【氏名】マグヌス、バーリグレーン
(72)【発明者】
【氏名】マルク-アントワーヌ、シュテッケル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、チー-ユアン
【テーマコード(参考)】
3K107
4J002
4J039
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107DD21
3K107DD26
3K107DD43X
3K107DD43Y
3K107DD43Z
3K107DD47X
3K107DD47Y
3K107DD47Z
3K107FF04
3K107FF14
3K107FF15
3K107FF18
3K107FF19
3K107GG26
4J002AA00W
4J002AA00X
4J002CE00W
4J002CM01X
4J002CM02W
4J002HA03
4J039BC08
4J039BC33
4J039BC52
4J039BC69
4J039BE12
4J039FA02
(57)【要約】
本発明は、0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子およびn型高分子カチオンを含むn型導電性組成物に関する。さらに、本発明は、そのような組成物を含むn型導電性インクに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子、および
n型高分子カチオン
を含む、n型導電性組成物。
【請求項2】
前記硬質共役高分子が共役はしご型高分子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記共役はしご型高分子がポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)(BBL)である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記BBLが、2~10000個、より好ましくは2~100個、最も好ましくは30~50個の繰り返し単位を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記硬質共役高分子が、-3.9eV未満の最低空分子軌道(LUMO)エネルギー準位ELUMOを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記n型高分子カチオンがポリ(エチレンイミン)(PEI)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記PEIが直鎖状、分岐鎖状またはエトキシル化PEIであり、2~10000個、好ましくは5~1000個、より好ましくは50~100個の繰り返し単位を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
高分子カチオン/(高分子カチオン+硬質共役高分子)の質量比が、0.01%~99.99%、好ましくは0.1%~90%、より好ましくは1%~75%、最も好ましくは20%~50%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、少なくとも10-3S/cm、好ましくは少なくとも1S/cmの導電率を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、熱的にアニールされた薄膜の形態である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物と非ハロゲン化極性溶媒とを含む、n型導電性インク。
【請求項12】
前記非ハロゲン化極性溶媒がプロトン性溶媒である、請求項11に記載のn型導電性インク。
【請求項13】
前記インク中の前記硬質共役高分子および前記高分子カチオンの濃度が0.001~200g/l、好ましくは0.01~10g/l、より好ましくは0.05~1g/lg/lである、請求項11または12に記載のn型導電性インク。
【請求項14】
前記インクが大面積技術によって加工可能である、請求項11~13のいずれか一項に記載のn型導電性インク。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載のn型導電性組成物を含む、有機光デバイスまたは有機電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子を含むn型導電性組成物、およびそのような組成物を含むn型導電性インクに関する。さらに、本発明は、そのような組成物を含む有機光学または電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導電性および導電性高分子は、インクジェット印刷技術やスプレーコーティング技術等の大面積蒸着法と互換性がある一方で、その機械的柔軟性と高い導電性とに起因して、その多用途性により、バイオエレクトロニクス用途およびオプトエレクトロニクス用途の有望なソリューションとして浮上している。インクジェット印刷は、処理が簡単であり、低コストであり、かつ電子デバイス、センサー、発光ダイオード等の大規模製造に対する適応性が高いため、予め設計されたパターンで機能性材料をフレキシブル基板上に直接堆積させる効率的な方法として認識されている。しかしながら、インクジェット印刷で用いられるインクは、主に金属ナノ粒子とグラフェンやカーボンナノチューブ等の炭素材料とで構成されており、これまでに高分子インクはほとんど開発されていない。
【0003】
大面積堆積技術はドーパントの使用と非常に相性が良く、有機導電性高分子を、電荷注入障壁を下げながら金属的な挙動に到達させることができる。これは、分子または高分子のドーピング物質を共役高分子マトリックスに添加する際の化学的または電気化学的なプロセスを介して発生し、主に電荷移動プロセスまたは酸塩基交換が関与する。用いられる高分子およびドーパントの組み合わせに応じて、pドーピングまたはnドーピングが発生し得る。どちらのタイプも有機太陽光発電(OPV)または有機発光ダイオード(OLED)で用いることができ、相補的な回路およびデバイスを検討する場合に必要となる。このような材料は、加工が容易であり、多段階のデバイス製造で用いられる一般的な有機溶媒に不溶である必要がある。p型(正孔輸送)有機高分子は大規模に開発され、盛んに研究されているが、その先頭に立つのが、遍在する市販の水溶性p型PEDOT-PSSであり、一つの部位(すなわち、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、PEDOT)が、他の化合物(すなわち、ポリ(スチレンスルホン酸)、PSS)からのスルホン酸塩によって誘起される負電荷を介してドープされるが、デバイスの性能の低下をしばしば引き起こす、熱安定性、環境安定性、溶媒安定性、および信頼性の高い溶液加工性の欠如により、これまでに、堆積後に高導電率(>10S/cm)にドープすることができるn型(電子輸送)導電性高分子の例はほんの数例にすぎない。さらに、ほとんどのn型導電性高分子は、環境に有害なハロゲン化溶媒中でのみ処理することができる。
【0004】
上述したように、OPV、OLED、有機熱電発電機(OTG)、有機電気二重層コンデンサおよび燃料電池では、p型インクおよびn型インクの両方が必要である。現在、水ベースまたはアルコールベースの溶液から加工可能で、導電性が高く(>5S/cm)、空気中および高温下で安定であり、オーバープリント可能であるように溶剤耐性を備えたn型高分子インクは存在しない。これまでに報告されているすべてのnドープ高分子インクは、半導体高分子、およびドーパントとして機能する小分子をベースにしている。小さなドーパント分子は、特に高温で拡散および凝集する傾向があり、通常、n型インクを含む層上にさらなる層が配置されるときに意図せずに除去され、それによりシステムが非常に不安定になる。さらに、水やアルコールに可溶なn型ドープ高分子はほとんどない。
【0005】
高分子主鎖の平坦化と強化、ドナー-アクセプター特性のエンジニアリング、低分子ドーパント対イオン高分子側鎖混和性の制御、基底状態電子移動に基づく全高分子ブレンドを含む様々な設計およびnドーピング戦略が検討されている。大きな進歩にもかかわらず、n型ドープ導電性高分子の性能はまだp型ドープ高分子のレベルには達していない。換言すれば、現在のところ、PEDOT:PSSに相当するn型は存在していない。
【0006】
上記を考慮すると、安定性が改善され、かつ高い導電性を有するn型導電性組成物の提供が求められている。さらに、n型導電性組成物が大面積技術による堆積に適しており、高温および様々な溶媒に耐性であることが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
上記を考慮して、本発明は、従来技術の課題を解決することを目的とする。この目的のために、本発明は、0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子およびn型高分子カチオンを含むn型導電性組成物に関する。
【0008】
本発明の文脈における「硬質」という用語は、0°~20°、好ましくは10°未満の二面角を有する共役高分子を意味する。本発明の文脈における「二面角」という用語は、共役高分子の繰り返し単位間の角度である。上述したように、本発明の共役高分子の硬質性は、高い安定性と組み合わされた優れた電荷輸送能力の必須条件であり、それは、ねじり欠陥が高分子主鎖に沿った共役を部分的に破壊し、その結果、電子の非局在化が低減し、バンドギャップが広がり、トラップされた電荷の数が増大し、分子間結合の効果が低下するからである。
【0009】
本発明の硬質共役高分子は、n型硬質共役高分子であり得る。
【0010】
本発明の文脈における硬質共役高分子は、-3.9eV未満の最低空分子軌道(LUMO)エネルギー準位ELUMOを有し得る。なお、負の値における「以下」とは、絶対値がより大きい負の値を意味する。言い換えれば、本発明の文脈における「以下」という用語は、数直線上で-3.9から左に位置する値、例えば-4.2、-5.8等を意味する。
【0011】
高分子主鎖上のすべての主鎖単位がπ共役および縮合している硬質共役高分子は、光学および電子用途に特に適していると認識される。これらの高分子は、その興味深い特性、優れた化学的安定性および熱的安定性、および機能性有機材料としての潜在的な適合性により、大きな関心を集めている。さらに、これらの高分子は、縮合環構造により主鎖に沿った芳香族単位間の自由なねじれ運動が制限されるという点で、従来の共役高分子とは異なる。ねじれ欠陥が減少するため、完全に共面状の骨格を有する硬質共役高分子は、コヒーレントなπ共役、高速の鎖内電荷輸送、長い励起子拡散長、および強力なπ-πスタッキング相互作用を実現する。
【0012】
硬質共役高分子は最適なπ電子非局在化を備えた平面骨格を有し、ねじれ欠陥がないため、グラフェンの優れた電荷輸送特性と、高性能導電性材料としての開いたバンドギャップとを組み合わせたグラフェンナノリボンに類似していると考えられる。さらに、硬質共役高分子は、潜在的に高い熱安定性と光学安定性、および化学劣化に対する高い耐性を示す。硬質共役高分子のこのようなユニークな特性の組み合わせにより、硬質共役高分子は幅広い用途の有望な候補となる。
【0013】
本発明による特に適切なタイプの硬質共役高分子は、共役はしごまたははしご型高分子である。一般に、はしご型高分子は、ストランドを接続する周期的な連結を備える複数のストランド高分子であり、はしごのレールと横木に似ており、2つ以上の原子を共有する隣接する環の連続した配列をもたらす。共役はしご型高分子は、主鎖内のすべての縮合環がπ共役しているはしご型高分子の特定のサブタイプである。さらに、縮合環構造により主鎖に沿った芳香族単位間の自由なねじれ運動が制限されるという点で、従来の共役高分子とは異なる。
【0014】
融合した主鎖に由来する共役はしご型高分子は、並外れた熱安定性、化学的安定性、機械的安定性を示す。ねじれ欠陥が低減しているため、完全に共面状の骨格を有する共役はしご型高分子は、コヒーレントなπ共役、高速の鎖内電荷輸送、長い励起子拡散長、および強力なπ-πスタッキング相互作用を実現する。
【0015】
共役はしごまたははしご型高分子の例としては、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)(BBL)、ポリキノキサリン(PQL)、ポリ(フェンチアジン)(PTL)、ポリ(フェノオキサジン)(POL)、ポリ(p-フェニレン)はしご型高分子(LPPP)およびカルバゾール-フルオレン系はしご型高分子が挙げられる。
【0016】
本発明の硬質共役高分子は、共役はしご型高分子であり得る。特に、本発明の硬質共役高分子は、2~10000個、好ましくは2~100個、より好ましくは30~50個の繰り返し単位(n)を含むBBLであり得る。
【化1】
【0017】
本発明におけるn型高分子カチオンは、好ましくはn型高分子ドーパントである。n型高分子ドーパントは、直鎖状ポリエチレンイミン(PEIlin)、分岐鎖状PEI(PEIbra)、エトキシル化PEI(PEIE)またはそれらの混合物であり得る。n型高分子ドーパント中の繰り返し単位の数は、2~10000個、好ましくは5~1000個、より好ましくは50~100個の繰り返し単位であり得る。
【化2】
【0018】
n型高分子ドーパントが分岐鎖状PEIである場合、a、b、cおよびdは正の整数であり、これらの整数の合計は5~10000、好ましくは10~1000、より好ましくは50~100である。
【0019】
n型高分子ドーパントがエトキシル化PEIである場合、x、yおよびzは正の整数であり、これらの整数の合計は5~10000、好ましくは10~1000、より好ましくは50~100である。
【0020】
本発明のn型導電性組成物における高分子カチオン/(高分子カチオン+硬質共役高分子)の質量比は、0.01%~99.99%、好ましくは0.1%~90%、より好ましくは1%~75%、最も好ましくは20%~50%であり得る。
【0021】
本発明のn型導電性組成物は、単純なスプレーコーティングにより空気中で加工可能であり得る。熱活性化後、熱的にアニールされた薄膜の形態であるn型導電性組成物は、8S/cmもの高い導電率を示すとともに、以下で詳細に説明するように、優れた熱安定性および環境安定性を示す。さらに、一般的な有機溶媒で薄膜を洗浄した後であっても高い導電性能が維持され得ることが見出されており、これはマルチスタック光電子デバイスの開発にとって特に重要である。本発明の組成物は、以下に示すように、記録的な高出力を有する熱電発電機における印刷活性層として用いることができる。本発明の組成物はさらに、有機電気化学トランジスタ(OECT)における混合イオン電子伝導体として実装することができ、PEDOT:PSSベースのOECTと結合した場合に、n型デプレッション動作モードおよび新しい論理デバイスを実証する。
【0022】
本発明のn型導電性組成物は、少なくとも10-3S/cm、好ましくは少なくとも1S/cmの導電率を有し得る。
【0023】
上述したように、n型導電性組成物は、大面積技術、例えばインクジェット印刷技術またはスプレーコーティング技術を用いて加工可能であり得る。この目的のために、本発明は、上述したn型導電性組成物と非ハロゲン化極性溶媒とを含むn型導電性インクに関する。このn型導電性インクは、スプレーコーティング技術やインクジェット印刷技術等の大規模な堆積方法に適している。このインクは、その性質上、空気中でも処理することができ、用いられる溶媒の沸点が低いため、乾燥のための熱処理が必要ない。
【0024】
したがって、本発明のn型導電性インクは、空気中および大気温度でスプレーコーティングされ、2nm~1mmの厚さを有する膜を形成することができる。このような膜は、0.1S/cm程度の導電率を示し得る。ドーピングを可能にするために、不活性雰囲気下での熱的なアニーリングが必要な場合がある。熱的なアニーリングは、100℃~300℃の温度で1分~1200分間行うことができる。好ましくは、熱的なアニーリングは、150℃で120分間、または200℃で90分間行われる。膜は、熱的なアニーリングの前に封入されてもよい。
【0025】
非ハロゲン化極性溶媒は、水、アルコールまたはそれらの混合物等のプロトン性溶媒であり得る。アルコールは、以下に示すようなメタノール、エタノール、プロパン-1-オール、プロパン-2-オール(IPA)、ブタン-1-オール、2-メチルプロパン-1-オール、2-メチルプロパン-2-オール、2-メチルブタン-2-オール、エタン-1,2-ジオール、2-メトキシエタン-1-オールおよび1-メトキシプロパン-2-オールまたはそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【化3】
【0026】
好ましくは、非ハロゲン化極性溶媒は、エタノール、IPA、メタノールまたはそれらの混合物である。
【0027】
n型導電性インクにおける硬質共役高分子および高分子カチオンの濃度は、0.001~200g/l、好ましくは0.01~10g/l、より好ましくは0.05~1g/lであり得る。
【0028】
上述したように、本発明のn型導電性組成物は、OECT、熱電デバイス、三元論理インバータ、OPV、OLED、有機電気二重層コンデンサ、電池、燃料電池、センサーおよび記憶媒体等の有機光デバイスまたは電子デバイスに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して例として説明する。
図1図1は、BBL:PEIlin(a)およびBBL:PEIbra(b)エタノールベースのインクの動的光散乱(DLS)分析によって決定されたインクの粒度分布を示す。
図2図2は、本発明のn型導電性組成物の電気伝導度を示す。
図3a図3aは、熱的なアニーリング時間対アニーリング温度を示す。
図3b図3bは、アニーリング前後の未処理のBBLとBBL:PEIlinとの導電率の比較を示す。
図4図4は、スプレーコーティング直後、熱的なアニーリング前に窒素雰囲気中(a)または空気中(b)で保存されたBBL:PEIlin膜(PEI含有量50重量%)の導電率に関するアニーリング前の安定性を示す。
図5図5は、PEI含有量50重量%のBBL:PEIlin(a)およびBBL:PEIbra(b)の面内導電率の厚さ依存性、ならびに(c)BBL:PEIlin膜の面外導電率を示す。
図6図6は、空気中での24時間にわたるBBL:PEIの導電率の変化、および窒素雰囲気中での200℃の一定のアニーリングを24時間受けたBBL:PEIの熱安定性を示す。
図7図7は、本発明のn型導電性組成物の経時的安定性を示す。
図8図8は、ドーパント含有量の関数としての本発明のn型導電性組成物のゼーベック係数を示す。
図9図9は、ゼーベック係数の熱安定性を示す。
図10図10は、加熱-冷却サイクル中の本発明のn型導電性組成物の安定性を示す。
図11図11は、異なる溶媒と接触したときの本発明のn型導電性組成物の安定性を示す。
図12図12は、異なる溶媒と接触したときの従来技術のn型組成物の挙動を示す。
図13図13は、オーム接触測定を示す。
図14図14は、ドーパント含有量の関数としての本発明のn型導電性組成物の力率を示す。
図15図15は、ペルチェ構成および熱電モジュールの特性を示す。
図16図16は、熱電モジュールの特性を示す。
図17図17は、熱電モジュールの特性を示す。
図18図18は、熱電モジュールの特性を示す。
図19図19は、本発明のn型導電性組成物の適用例を示す。
図20図20は、伝達および出力OECT特性を示す。
図21図21は、OECT応答時間を示す。
図22図22は、本発明のn型導電性組成物を含む三元インバータを示す。
【発明の詳細な説明】
【0030】
上述したように、本発明は、プリンテッドエレクトロニクス用のアルコールベースのn型導電性インクを提供する。以下に詳細に説明する特定の実施形態では、n型導電性インクは、アミンベース絶縁性高分子であるポリ(エチレンイミン)(PEI)がドープされた硬質共役はしご型高分子ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)(BBL)から構成される。
【0031】
BBL(M=60.5kDa)は、先行技術(Arnold, F. E. & Deusen, R. L. V. Preparation and properties of high molecular weight, soluble oxobenz[de]imidazobenzimidazoisoquinoline ladder polymer. Macromolecules 2, 497-502 (1969))に記載される手順に従って合成した。直鎖状PEI(M=2.5kDa、PDI<1.3)、分岐鎖状PEI(M=10kDa、PDI=1.5)、MSAおよびエタノールはSigma-Aldrich社から購入し、受け取ったまま用いた。PEDOT:PSS(Clevios PH1000)は、Heraeus Holding GmbH社から購入した。
【0032】
n型導電性組成物は、空気中で簡単なスプレーコーティングで加工できるエタノールベースのBBL:PEI n型導電性インクの配合によって調製された。熱活性化後、BBL:PEIを含むn型導電性組成物は、薄膜の形態で8Scm-1もの高い導電率を示すとともに、優れた熱安定性および環境安定性を示す。また、一般的な有機溶媒で薄膜を洗浄した後であっても高い導電性能が維持されることも見出されており、これはマルチスタック光電子デバイスの開発にとって特に重要である。本発明のn型導電性組成物は、11μW/mKという記録的な高出力を有する熱電発電機における印刷活性層として用いられ得ることが実証されている。
【0033】
BBLは、メタンスルホン酸(MSA)や濃硫酸等の強酸にのみ溶けることが知られているが、n型導電性インクは、MSA:TFA混合物中のBBL溶液を大量のエタノールに分散させ、BBLナノ粒子の形成を導き、これにエタノールに溶解したPEIが添加されて、最終的な導電性インクを形成することによって得られる。
【0034】
分散液中のBBLナノ粒子の直径は約20nmである(図1)。次いで、BBLナノ粒子をエタノールで洗浄し、異なる質量比で直鎖PEI(PEIlin)または分岐PEI(PEIbra)と混合し、超音波浴で1時間超音波処理して、エタノールベースの全高分子導電性インクを得る。得られたエタノールベースのインクは、図1に示すように、PEI含有量に応じて30~100nmのサイズのBBL:PEIナノ粒子で構成されている。
【0035】
本発明のこのインクは、スプレーコーティング技術等の大規模な堆積方法で用いることができる。n型導電性インクは、その性質上、空気中で処理することができ、エタノールの沸点が低いため、乾燥のための熱処理が必要ない。しかしながら、ドーピングプロセスを活性化するには、不活性雰囲気下での熱的なアニールが必要である。
【0036】
以下の図は、以下のようにして得られる膜の諸特性を説明するものである。BBL:PEI薄膜は、噴霧空気圧2barの標準HD-130エアブラシ(0.3mm)を用いて、空気中でスプレーキャスティングすることによって製造された。スプレーキャスティング後、BBL:PEI薄膜をNグローブボックス内または真空下で、140℃で2時間アニールして、導電性膜を得た。
【0037】
電気伝導率およびゼーベック係数の測定は、Keithley 4200-SCS半導体特性評価システムを用いて、窒素を充填したグローブボックス内で行った。接着層としての3nmのクロム、および47nmの金を、シャドウマスクを介して洗浄したガラス基板上に熱蒸着し、電気用の場合はチャネル長/チャネル幅が30μm/1000μm、ゼーベック係数の特性評価用の場合は0.5mm/15mmの電極を形成した。
【0038】
PEI含有量の関数としてのBBL:PEI薄膜の導電率を図2に報告する。純粋なBBL膜は、元の状態では10-5S/cmという低い導電率を有している。PEIとブレンドすると、導電率は5wt%PEIで0.10±0.02S/cmに増大し、50wt%PEIでは7.7±0.5S/cmに飽和する。PEIには電子供与性の第二級アミン基が高密度に含まれているため、150℃で5分間の熱的なアニールで1S/cmのn型導電率に達するのに十分であるが、8S/cmの最大導電率はより長いアニーリング時間にわたり得られ(すなわち、150℃で120分間または200℃で90分間、図3)、1:1の重量比、すなわち50重量%のPEIを有するブレンドで達成される。比較のために、第一級、第二級および第三級アミンを有する分岐鎖状PEIでドープされたBBL膜は、50重量%のPEI含有量で4.0±0.1S/cmの最大導電率値を得た。BBLにエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)をドープすると、BBL:PEIE5:1、すなわち20重量%のPEIEで1.4±0.1S/cmの導電率に達するが、PEIE含有量が高くなると電気的性能の低下がもたらされた(図2)。図4に示すように、熱的なアニーリングの前に、スプレーコーティングされた膜は空気中で数日間完全に安定しており、導電率の低下を受けないことに注意することが重要である。BBL:PEIlinの導電率サンプルを、スプレーキャスティング直後、ドーピングを活性化するための熱的なアニーリングを行う前の0日前、1日前または2日前に、窒素雰囲気下(図4a)および空気中(図4b)で保存したところ、導電率の低下が観察されないことが確認された。これらの結果は、熱的なアニール前にBBL:PEIを空気中または不活性雰囲気下で保存できることを示している。未処理のBBL:PEIlinの導電率は環境条件によってわずかに影響を受けるが、アニーリング後は同等の導電率レベルに達する。
【0039】
さらに、膜厚が導電率に及ぼす影響を研究した。結果を図5に示す。d>50nmの場合、導電率は膜厚(d)に依存せず、~6S/cmのレベルにとどまるが、dがBBLナノ粒子サイズに近づくと、すなわち厚さ20nmのサンプルの場合、~1.5S/cmに低減する。PEIlinおよびPEIbraの両方について、30nm程度の薄膜は非常に低い性能を示すが、より厚い膜の導電率は高く、BBL:PEIlinでは一定であるが、BBL:PEIbraではわずかに低減する(それぞれ図5aおよび5b)。しかしながら、厚さ20nmの膜であっても1S/cmの導電率を維持し、これは、太陽電池のほぼ透明な電荷抽出層等の特定の用途には十分な大きさである。興味深いことに、様々なサイズの金電極を備えた厚さ10μmのBBL:PEIlin膜の面外導電率は0.1S/cmと測定されるが、これは同じサンプルの面導電率より2桁未満小さい値である(図5c)。
【0040】
この違法性導電率は、PEDOT:PSSのような同様の二相システム用に開発された浸透クラスターモデルの観点から解釈される。負に帯電したBBL鎖は基板に平行に優先的に配列され、長い正に帯電したPEI鎖によって補償されるため、後者も基板に平行に優先的に配列すると予想される。PEDOT:PSSの場合にも観察されるように、この異方性は面内導電率に有利である。
【0041】
BBL:PEIを含む特定の実施形態において、本発明のn型導電性組成物は、優れた環境安定性を示し、厚さ12μmの膜の導電率は、空気に24時間曝露しても25%未満の低下を示すことが見出されている(図6)。この安定性は、-3.9eV未満の低いLUMOエネルギーレベルと、HOおよびOの浸透を防ぐμm厚の膜での自己カプセル化の組み合わせによって引き起こされる。薄膜(<100nm)の電気伝導率は、空気中で10日間放置すると0.1S/cmに低下し、一方で、薄膜を不活性雰囲気中で保管すると、120日間で10%未満の低下しか観察されなかった(図7)。
【0042】
図8は、異なるドーパントPEIlinおよびPEIbraを含むBBLのゼーベック係数を示す。図8に見られるように、PEDOT:PSSと同様に、BBL:PEIも逆極性を有する優れた熱電材料である。BBL:PEI組成物は、-480~-65μV/Kという大きな負のゼーベック係数を示し、BBL:PEIがn型導電性高分子であることが確認される。ゼーベック係数は、PEI含有量が増加すると低下する。
【0043】
BBL:PEIで表される本発明のn型導電性組成物の熱安定性を研究した。熱安定性は、高温での連続動作が必要なアプリケーション(太陽電池や熱電等)にとって非常に重要である。注目すべきことに、不活性雰囲気中で200℃で24時間アニーリングした後であっても、導電率またはゼーベック係数の劣化は観察されなかった(図6および図9を参照)。特に、図9aおよび9bは、それぞれ200℃で24時間アニーリングする前および後のBBL:PEIlin膜の熱電プロットである。膜の電気伝導度は、アニーリング前は6.53S/cmであり、アニーリング後は6.49S/cmであり、したがって、本発明の材料の熱電特性の例外的な熱安定性を実証している。
【0044】
また、20℃と100℃との間で温度をサイクルさせても、10サイクル後でも劣化を引き起こす兆候は見られなかった(図10)。図10aおよび10bは、それぞれBBL:PEIlinおよびBBL:PEIbraについて、20℃と100℃との間の10回の加熱冷却サイクルを示す。それぞれの極端な温度を少なくとも10分間維持した。図10に見られるように、両方の膜の導電率は安定したままである。
【0045】
続いて、一般的な有機溶媒で薄膜を洗浄した後に、BBL:PEIが高い導電率性能を維持する能力を研究した(図11aおよびb)。層のオーバープリントは、オーバープリントされる層と溶媒との接触を意味するため、この研究は光電子デバイスで用いることができるマルチスタック膜の開発にとって特に重要である。太陽電池や発光ダイオードの有機活性層やハイブリッド活性層の処理に日常的に用いられている溶媒を調査した。溶媒をBBL:PEI膜の表面に100μl/cmの量で添加した。2~5分後、溶媒を除去した。次いで、電気伝導度を測定し、溶媒と接触させる前の膜の値と比較した。一般的な有機溶媒に対するBBLの溶解度は限られているため、BBL:PEI膜は、クロロホルム(CHCl)、クロロベンゼン(CB)、1,8-ジヨードオクタン(DIO)、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)により、導電性に影響を及ぼすことなく洗浄することができ、これは、一般的な小分子がドープされた他の高性能導電性高分子には当てはまらないことである(図12)。BBL:PEI膜を水で洗浄すると、導電率性能のより顕著な低下が観察され、導電率は約1桁低下するが、それでも1.5S/cm以上であり、太陽電池に通常用いられるPEDOT:PSS配合の導電率よりもさらに高い。それにもかかわらず、図11bに示すように、PEIの直鎖型では分岐鎖型と比較して溶媒安定性がより高かった。
【0046】
図13は、Auと、5.1eV(PEDOT:PSS)~2.8eV(Ca/Al)にわたる仕事関数を有する様々な金属電極との間に挟まれたBBL:PEIlin膜(PEI含量50重量%)の電流電圧特性を示す。BBL:PEIlinは、様々な仕事関数を有する電極との優れたオーミック接触を示す。
【0047】
以下に、本発明のn型導電性組成物の様々な用途について説明する。
【0048】
熱電発電機(TEG)は、厚さ25μmのポリエチレンナフタレート(PEN)基板上に作製された1つのp/nレッグ(p/n-leg)ペアモジュールを備えた面内形状を有する。Pレッグには、DMSO(5%重量%)で処理したPEDOT:PSS(PH1000)を用いた。二次ドープされたPEDOT:PSSおよびBBL:PEIの異なる電気伝導率を考慮して、p/nレッグの幅はそれぞれ2.5mm/20mmに設定し;レッグの長さおよび厚さはそれぞれ2.5mmおよび10μmとした。まず、シャドウマスクを介してCr/Au電極をPEN基板に蒸着した。次いで、PEDOT:PSSレッグおよびBBL:PEIレッグを、空気中での相対分散液のスプレーコーティングによって印刷した。次いで、サンプルを窒素中140℃でアニーリングし、CYTOPでカプセル化した。銀電極を備えたTEGの場合、PEDOT:PSSおよびBBL:PEIレッグは空気中でPEN基板上に直接印刷され、銀ペーストはレッグの上部に印刷されて電極を形成した。次いで、同じ方法を用いてサンプルをアニーリングし、カプセル化した。
【0049】
BBL:PEIは、PEI含有量が33%で、11μWm-1-2を超える最大熱電力率を示す(図14)。この熱電力率は、n型高分子の中で最も高いものの1つである。並外れた溶液加工性により、PEDOT:PSSpレッグおよびBBL:PEI(PEI含有量33%)nレッグをベースとしたオールプリント(all-printed)高分子熱電発電機が実証されている。全高分子熱電発電機は、室温で5K~50Kの温度勾配(ΔT)の下で良好な出力を示す(図15)。この発電機の開回路電圧(VOC)は温度勾配に直線的に比例し、ゼーベック係数は131μV/Kである。短絡電流(ISC)も温度勾配にほぼ直線的に比例し、内部抵抗(Rin)は常に約200Ωである。様々な負荷抵抗(Rload図16を参照)を接続することにより、電力出力(Poutput)は0.54nW(ΔT=5K)~56nW(ΔT=50K)であると決定され、温度勾配との良好な二乗関係を示す。これらの出力(サーモモジュールあたり)は、すべての面内形状高分子熱電発電機の中で最高であり、Pレッグおよび金属接続のみを備えた高分子熱電発電機よりもはるかに高い。同様の結果は、銀接点を用いることによっても得られ(図17~18)、印刷技術のみを用いてそのようなモジュールを製造することが可能である。これは、本発明の組成物およびインクが、高性能導電性高分子インク(PEDOT:PSS等)を補完するものとして不可欠であると考えられることを証明している。
【0050】
最後に、BBL:PEIを、OECTにおけるn型有機混合イオン電子伝導体として試験した。
【0051】
OECTおよび三元インバータを次のように準備した。OECTはラテラルゲート形状を有し、ガラス基板(標準的な顕微鏡ガラス)上に製造された。基板を超音波浴中でアセトン、水およびイソプロパノールで順次洗浄し、窒素で乾燥させた。次いで、シャドウマスクを介してクロム/金(5nm/50nm)を基板上に蒸着させて、チャネル長L=30μm、チャネル幅W=1mmのソース/ドレイン電極を形成した。n型デプレッションモードOECTの場合、厚さ50nmのBBL:PEIチャネルおよびゲート層を、ゲートサイズ5mm×5mmのシャドウマスクを介してスプレーコーティングした。サンプルを窒素中で140℃で2時間アニーリングし、最後に保護テープ絶縁層を追加した。p型デプレッションモードOECTの場合、PEDOT:PSS(1重量%の(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランおよび5重量%のエチレングリコールを含む)を超音波浴中で30分間均質化し、次いで、基板上に4000rpmでスピンコートした。。PEDOT:PSS層を保護テープでパターニングして、チャネルおよびゲート(ゲートサイズ5mm×5mm)を形成した。サンプルを空気中で120℃で1分間アニーリングし、TAM52エタノール溶液(5~20mg/mL)に1分間浸漬した。窒素中で140℃で60分間アニーリングした後、最終的にサンプルを保護テープを用いて絶縁した。三元インバータの場合、1つのn型OECT、1つのp型OECTおよび4つの抵抗器(R1=820kΩおよびR2=330kΩ、図19e)を銀ペーストラインを介して統合した。n型OECT、p型OECTおよび三元インバータを、空気中で0.1MのNaCl水性電解質を用いて試験した。
【0052】
BBL:PEI膜は元の状態では導電性を有するため、結果として得られるn型OECTはデプレッションモードで動作する。図19は、BBL:PEIおよびPEDOT:PSSを統合した熱電モジュールの性能、BBL:PEI(50:50)ベースのOECTの典型的な伝達特性(伝達曲線のサイクルおよび出力曲線を図20に表示する)、および三元インバータジオメトリへの実装を示す。したがって、図19aおよび19bは、異なる温度勾配に対して記録された電流および電力出力対負荷抵抗を示す。BBL:PEI(50重量%)ベースのOECTの伝達曲線は、0.1MのNaCl水性電解質を用いて空気中で測定され、デプレッションモードにおけるn型伝導挙動を示す。図19cは、本発明および文献に記載されている他の平面熱電モジュールとの関連における出力対温度勾配の比較を示す。図19dは、NaCl電解質を用いて空気中で測定されたBBL:PEI(50重量%)ベースのOECTの伝達曲線を示し、デプレッションモードでのn型伝導挙動を示す。図19eは、文献に存在する異なるレジームのV-Vマップを示す。図19fは、p側にPEDOT:PSS、n側にBBL:PEIを統合した三元インバータの出力電圧とゲインを示しており、3つのレジームと6つのゲインを示す。
【0053】
PEDOT:PSSベースのOECTと同様に、BBL:PEIがチャネル材料およびゲート材料の両方に用いられることに注意すべきである。ソース-ドレイン電流(I)は、ゲート電圧(V)がゼロの場合は高くなるが、ゲートに負の電圧バイアスが印加されると3桁低下する。最大相互コンダクタンスは、V=0Vで0.38mSである。さらに、このデバイスは、優れたサイクル安定性と、τonおよびτoffのそれぞれについて167msおよび11msという高速応答時間を示す(図21)。n型デプレッションモードOECTはこれまで実現されておらず(図21bを参照)、その実証は論理回路の新しいパラダイムをもたらすことによって現在のOECT技術を補完するものであることに注意すべきである。例として、n型BBL:PEIベースのOECTとp型PEDOT:PSSベースのOECTとをペアにし、どちらもデプレッションモードで動作させ、最初のOECTベースの三元論理ゲートを実証した。この平衡型三元インバータは、3ビットの情報(「+1」、「0」および「-1」)を処理することができる。図21cは、明確に平衡した三元論理動作(図22)を備えた三元インバータのレイアウトとその電圧伝達特性を示す。2つの遷移期間中、インバータはそれぞれVin=-0.07/0.38Vで同様のゲイン(最大6)を示す。図21cの破線は、三元インバータのシミュレートされた電圧伝達特性を示しており、測定データとよく一致している。このOECT三元インバータは、シリコンベースのトンネル三元インバータと同等の性能を有し、さらに高い電圧ゲインを備えていることに注目すべきである(図22)。
【0054】
結論として、本発明は、大規模体積方法によって処理された場合に高いn型導電性を可能にする高分子インクの配合物を提供することが示された。導電率の向上は、PEIにおける電子が豊富なアミンとアクセプター高分子BBLとの間で起こる電荷移動メカニズムに起因しており、分岐鎖型においては電荷密度が最大1020cm-3に達する。本発明のn型導電性組成物は、優れた空気安定性および熱安定性を示し、光電子デバイスへの実装を可能にする。これらの目的のために、n型導電性組成物はOECTや記録的な熱電デバイス等の実際の用途に用いられた。本発明は、三元論理インバータにさらに統合されたn型デプレッションモードのOECTデバイスの第1の例を提供する。その顕著な特性により、本発明のユニークなインクは、全有機光電子デバイスおよび生体電子デバイスの新たな可能性を解き放つであろう。
【0055】
本発明を様々な実施形態を参照して説明してきたが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく変更を加えることができることを認識するであろう。詳細な説明は例示的なものとみなされ、すべての等価物を含む添付の特許請求の範囲は本発明の範囲を定義するものであることが意図されている。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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図19
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図21
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【国際調査報告】