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特表2023-549618量子コンピューティング方法、装置、コンピュータ機器、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】量子コンピューティング方法、装置、コンピュータ機器、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/00 20220101AFI20231121BHJP
【FI】
G06N10/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565677
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(85)【翻訳文提出日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 CN2021133711
(87)【国際公開番号】W WO2023065463
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】202111222031.8
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517392436
【氏名又は名称】▲騰▼▲訊▼科技(深▲セン▼)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100150197
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 直樹
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 玉琴
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲勝▼誉
(57)【要約】
量子コンピューティング方法、装置、機器、媒体及び製品は、量子技術分野に関する。当該方法は、目標量子システムの初期量子状態、目標量子システムに対応する量子回路、及び目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定するステップ110であって、ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含むステップ110と、期量子状態を量子回路に入力して、量子回路によって出力された量子状態を目標量子システムの量子回路生成状態として取得するステップ120と、出力した量子回路生成状態に基づいて、ハミルトニアン演算子パラメータを更新するステップ130と、更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、量子回路パラメータを更新するステップ140と、目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、ハミルトニアン演算子パラメータ及び量子回路パラメータを繰り返して更新し、最小値は目標量子システムの最終量子状態に対応し、最終量子状態を目標量子システムの最小固有状態として決定するステップ150を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ機器が実行する、量子コンピューティング方法であって、
目標量子システムの初期量子状態、前記目標量子システムに対応する量子回路、及び前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定するステップであって、前記量子回路は、量子回路パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含むステップと、
前記初期量子状態を前記量子回路に入力して、前記量子回路によって出力された量子状態を、前記目標量子システムの量子回路生成状態として取得するステップと、
前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するステップと、
更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、前記量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得るステップと、
前記目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、前記ハミルトニアン演算子パラメータ及び前記量子回路パラメータを繰り返して更新するステップであって、前記最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応する、ステップと、
前記最終量子状態を前記目標量子システムの最小固有状態として決定するステップと、を含む、量子コンピューティング方法。
【請求項2】
前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、オリジナルハミルトニアン演算子と制御ハミルトニアン演算子を含み、前記オリジナルハミルトニアン演算子は、発展傾向を提供するために用いられ、前記制御ハミルトニアン演算子は、発展プロセスを制御するその他の発展傾向を提供するために用いられる、
請求項1に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項3】
前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、
【数1】
であり、
ここで、τは、量子虚数時間パラメータを表し、|ψ(τ)>は、虚数時間固有状態を表し、Hは、オリジナルハミルトニアン演算子を表し、Hは、制御ハミルトニアン演算子を表し、β(τ)は、前記ハミルトニアン演算子パラメータを表す、
請求項1に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項4】
前記ハミルトニアン演算子パラメータは、リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求に基づいて決定されるものである、
請求項3に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項5】
前記リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求は、
【数2】
であり、
ここで、2(<H >-<H)は、前記オリジナルハミルトニアン演算子によって提供される発展傾向を表し、2(<H >-<H)は、0以下であり、
【数3】
は、前記制御ハミルトニアン演算子によって提供されるその他の発展傾向を表す、
請求項4に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項6】
前記ハミルトニアン演算子パラメータは、
【数4】
である、
請求項5に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項7】
前記量子コンピューティング方法は、
単位行列とパウリZ行列から構成される対角行列に基づいて、前記制御ハミルトニアン演算子を決定するステップをさらに含む、
請求項5に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項8】
前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するステップは、
前記目標量子システムのエネルギを最小化することを目標として、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するステップを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項9】
量子コンピューティング装置であって、
目標量子システムの初期量子状態、前記目標量子システムに対応する量子回路、及び前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定することであって、前記量子回路は、量子回路パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含むことと、前記初期量子状態を前記量子回路に入力して、前記量子回路によって出力された量子状態を、前記目標量子システムの量子回路生成状態として取得することと、を実行するように構成される取得モジュールと、
前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するように構成される更新モジュールと、を含み、
前記更新モジュールはさらに、更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、前記量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得るように構成され、
前記更新モジュールはさらに、前記目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、前記ハミルトニアン演算子パラメータ及び前記量子回路パラメータを繰り返して更新することであって、前記最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応する、ことと、前記最終量子状態を前記目標量子システムの最小固有状態として決定することと、を行うように構成される、
量子コンピューティング装置。
【請求項10】
前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、オリジナルハミルトニアン演算子と制御ハミルトニアン演算子を含み、前記オリジナルハミルトニアン演算子は、発展傾向を提供するために用いられ、前記制御ハミルトニアン演算子は、発展プロセスを制御するその他の発展傾向を提供するために用いられる、
請求項9に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項11】
前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、
【数5】
であり、
ここで、τは、量子虚数時間パラメータを表し、|ψ(τ)>は、虚数時間固有状態を表し、Hは、前記オリジナルハミルトニアン演算子を表し、Hは、前記制御ハミルトニアン演算子を表し、β(τ)は、前記ハミルトニアン演算子パラメータを表す、
請求項10に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項12】
前記ハミルトニアン演算子パラメータは、リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求に基づいて決定されるものである、
請求項11に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項13】
前記リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求は、
【数6】
であり、
ここで、2(<H >-<H)は、前記オリジナルハミルトニアン演算子によって提供される発展傾向を表し、2(<H >-<H)は、0以下であり、
【数7】
は、前記制御ハミルトニアン演算子によって提供されるその他の発展傾向を表す、
請求項12に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項14】
前記ハミルトニアン演算子パラメータは、
【数8】
である、
請求項13に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項15】
前記量子コンピューティング装置はさらに、
単位行列とパウリZ行列から構成される対角行列に基づいて、前記制御ハミルトニアン演算子を決定するように構成される決定モジュールを含む、
請求項13に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項16】
前記更新モジュールはさらに、前記目標量子システムのエネルギを最小化することを目標として、前記ハミルトニアンを更新するように構成される、
請求項9~15のいずれか一項に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法を実行するコンピュータ機器。
【請求項18】
プロセッサに、請求項1~8のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法を実行させる少なくとも1つの命令、少なくとも1つのプログラム、コードセット又は命令セットを記憶した、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項19】
プロセッサに、請求項1~8のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法を実行させ、コンピュータ可読記憶媒体に記憶されるコンピュータ命令を含む、コンピュータプログラム製品又はコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2021年10月20日に中国特許局に提出された、出願番号が202111222031.8であり、発明の名称が「量子システムの固有状態の取得方法、装置、機器、媒体及び製品」である中国特許出願の優先権を主張し、その内容の全てが引用により本願に組み込まれる。
【0002】
本願の実施例は、量子技術分野に関し、特に、量子コンピューティング方法、装置、機器、媒体及び製品に関する。
【背景技術】
【0003】
量子コンピューティングの急速な発展に伴い、量子アルゴリズムは多くの分野に重要な適用がなされ、その中、量子システムの固有状態と固有エネルギの求解は、非常に重要な課題である。
【0004】
関連技術において、虚数時間発展法により最低固有状態を求める方法が提供されており、虚数時間シュレーディンガー方程式内の波動関数を特徴ベクトルで展開して表した後、最小固有値を決定する。最小固有値が任意の固有値より小さいため、時間が無限に近づくと、他の固有値は指数関数的に消え、それにより、最小固有値と重ね合わせる幅が0でない任意の波動関数が与えられると、逆推論によって、初期の最低固有状態を得ることができる。
【0005】
しかしながら、上記の方式において、初期状態と最低固有状態との重ね合わせ関係や、他の固有状態と最低固有状態との差を確保する必要があり、それらの関係によって収束速度に大きな影響を与える。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の実施例は、量子コンピューティング方法、装置、機器、媒体及び製品を提供する。上記の技術的な解決策は、次の通りである。
【0007】
本願の実施例の一態様によれば、コンピュータ機器が実行する、量子コンピューティング方法を提供し、前記方法は、
目標量子システムの初期量子状態、前記目標量子システムに対応する量子回路、及び前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定するステップであって、前記量子回路は、量子回路パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含むステップと、
前記初期量子状態を前記量子回路に入力して、前記量子回路によって出力された量子状態を、前記目標量子システムの量子回路生成状態として取得するステップと、
前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するステップと、
更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、前記量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得るステップと、
前記目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、前記ハミルトニアン演算子パラメータ及び前記量子回路パラメータを繰り返して更新するステップであって、前記最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応する、ステップと、
前記最終量子状態を前記目標量子システムの最小固有状態として決定するステップと、を含む。
【0008】
本願の実施例の一態様によれば、量子コンピューティング装置を提供し、前記装置は、
目標量子システムの初期量子状態、前記目標量子システムに対応する量子回路、及び前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定することであって、前記量子回路は、量子回路パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含むことと、前記初期量子状態を前記量子回路に入力して、前記量子回路によって出力された量子状態を、前記目標量子システムの量子回路生成状態として取得することと、を実行するように構成される取得モジュールと、
前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するように構成される更新モジュールと、を含み、
前記更新モジュールはさらに、更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、前記量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得るように構成され、
前記更新モジュールはさらに、前記目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、前記ハミルトニアン演算子パラメータ及び前記量子回路パラメータを繰り返して更新することであって、前記最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応する、ことと、前記最終量子状態を前記目標量子システムの最小固有状態として決定することと、を行うように構成される、
本願の実施例の一態様によれば、上記の量子コンピューティング方法を実行する、コンピュータ機器を提供する。
【0009】
本願の実施例の一態様によれば、プロセッサに、請求項1~8のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法を実行させる少なくとも1つの命令、少なくとも1つのプログラム、コードセット又は命令セットを記憶した、コンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【0010】
本願の実施例の一態様によれば、プロセッサに、請求項1~8のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法を実行させ、コンピュータ可読記憶媒体に記憶されるコンピュータ命令を含む、コンピュータプログラム製品又はコンピュータプログラムを提供する。
【0011】
本願の実施例によって提供される技術的な解決策は、以下の有益な効果をもたらすことができる。
【0012】
量子虚数時間発展と量子実数時間制御を組み合わせ、虚数時間発展において実施可能な一連の制御方法を提案し、これにより、初期状態及びシステムの要求を下げるだけでなく、制御能力の要求も下げ、柔軟な選択を実現しながら大幅な加速のポリシーも提供することができ、さらに制御を虚数時間シュレーディンガー方程式に適用し、それ自体の動力学が基底状態に収束する特性があるため、制御能力の要求を下げることができ、量子コンピューティングを実行する際の量子コンピュータの計算速度と正確度を向上させ、制御可能な状態で収束プロセスをできるだけ加速させるか、又は初期状態の要求を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本願の一実施例によって提供される量子コンピューティング方法のフローチャートである。
図2】本願の一実施例によって提供されるハミルトニアン演算子パラメータ更新プロセスの概略図である。
図3】本願の別の実施例によって提供される量子コンピューティング方法のフローチャートである。
図4】本願の一実施例によって提供される量子回路の概略図である。
図5】本願の一実施例によって提供される発展収束の概略図である。
図6】本願の一実施例によって提供されるHFシステムの異なる忠実度における初期状態発展の収束プロセスの概略図である。
図7】本願の一実施例によって提供されるエネルギ収束結果の概略図である。
図8】本願の一実施例によって提供されるノイズシステムにおけるシミュレートされた虚数時間発展及び虚数時間制御の収束状況の概略図である。
図9】本願の一実施例によって提供される量子コンピューティング装置のブロック図である。
図10】本願の別の実施例によって提供される量子コンピューティング装置のブロック図である。
図11】本願の一実施例によって提供されるコンピュータ機器の構造ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願の実施例を説明する前に、まず、本願に含まれるいくつかの用語を説明する。
【0015】
1.量子コンピューティング:量子論理に基づく計算方法であり、データを格納する基本単位は、キュービット(qubit)である。
【0016】
2.キュービット:量子コンピューティングの基本単位である。従来のコンピュータは、バイナリの基本単位として、0と1を使用する。それに対して、量子コンピューティングは、0と1を同時に処理することができ、システムにおいて、0と1の線形重ね合わせ状態、にある可能性があり、即ち、|ψ>=α|0>+β|1>であり、ここで、α、βは、0と1でのシステムの複素数確率振幅を表す。それらの絶対値の二乗|α|、|β|は、それぞれ0と1である確率を表す。
【0017】
3.ハミルトニアン:量子システム全体のエネルギを表すエルミート共役行列である。ハミルトニアンは、物理学の用語であり、システム全体のエネルギを表す演算子であり、通常、Hで表す。
【0018】
4.量子状態:量子力学において、量子状態は1組の量子数量によって決定されるミクロ状態である。
【0019】
5.固有状態:量子力学において、1つの力学的な物理量の可能な数値が、その演算子のすべての固有値である。固有関数によって記述される状態をこの演算子の固有状態と呼ぶ。それ自体の固有状態において、この力学的な物理量が決定値を取ると、該決定値がこの固有状態が属する固有値である。1つのハミルトニアン行列Hに対して、H|ψ>=E|ψ>の方程式を満たす解がHの固有状態|ψ>と呼ばれ、固有エネルギEを有する。基底状態は、量子システムエネルギの最低固有状態に対応する。
【0020】
6.量子回路:ユニバーサル量子コンピュータを表し、量子ゲートモデルに基づく、対応する量子アルゴリズム/プログラムのハードウェアによる実現を表す。量子回路は、調整可能な量子ゲートを制御するためのパラメータが含まれる場合、パラメータ化された量子回路(PQC:Parameterized Quantum Circuit)又は変分量子回路(VQC:Variational Quantum Circuit)と呼ばれ、どちらも同じ概念である。
【0021】
7.量子ゲート:量子コンピューティングにおいて、特に、量子回路のコンピューティングモデルの内部において、1つの量子ゲート(Quantum gate、又は量子論理ゲート)は、数少ないキュービットを操作する1つの基本的な量子回路である。
【0022】
8.変分量子固有値ソルバー(VQE:Variational Quantum Eigensolver):変分回路(即ち、PQC/VQC)によって、特定の量子システムの基底状態エネルギの推定を実現し、これは、典型的な量子・古典ハイブリッド型コンピューティングパラダイムであり、量子化学の分野で幅広く適用されている。
【0023】
9.非ユニタリ:いわゆるユニタリ行列は、UU=Iを満たすすべての行列であり、量子力学内の可能なすべての演算プロセスは、いずれもユニタリ行列で記述することができる。ここで、Uは、ユニタリ行列(Unitary Matrix)であり、Uは、Uの共役転置である。それに対して、当該条件を満たさない行列は、非ユニタリのものであり、実験で実現するために、補助的な手段又は指数関数的に多くのリソースが必要であり、通常、非ユニタリ行列は、表現力がより高く、基底状態の投影効果がより速い。上記の「指数関数的に多くのリソース」は、キュービット数の増加に伴って、リソースの需要量が指数関数的に増加することを意味し、当該指数関数的に多くのリソースは、測定する必要のある量子回路の総数が指数関数的なものであることを意味する場合があり、この場合、指数関数的に多くの対応する計算時間が必要である。
【0024】
10.パウリ演算子:パウリ行列とも呼ばれ、1組の3つの2×2のユニタリ行列であり、一般的に、ギリシャ文字σ(シグマ)で表す。ここで、パウリX演算子は、
【数1】
であり、パウリY演算子は、
【数2】
であり、パウリZ演算子は、
【数3】
である。
【0025】
1つの量子システムの基底状態(即ち、最低固有状態)を取得することは、当該量子システムの最も安定的な状態を取得することを表し、量子物理学及び量子化学系の基本的な特性の研究、組み合わせ最適化問題の求解、製薬研究などの方面において、非常に重要な用途がある。量子コンピュータの重要な適用場面は、量子システムの基底状態を効果的に求解又は表現することである。現在、一部の研究機関やメーカーも、新しい量子コンピュータの研究を絶えなく行っており、基底状態の求解の探索に取り組んでいる。
【0026】
関連技術によって提供される量子システムの基底状態を取得するための技術案を紹介し説明する。
【0027】
技術案1:量子虚数時間発展法によって、最低固有状態を取得する。
虚数時間発展法は、量子システムの基底状態を解くための基本的な方法である。
【0028】
時間依存のシュレーディンガー方程式は、次の通りである。
【0029】
【数4】
ここで、Hは、目標量子システムのハミルトニアンであり、ψ(t)は、t時刻における目標量子システムの量子状態を表し、iと
【数5】
は、虚数時間単位、即ち、量子虚数時間パラメータである。
【0030】
時間依存のシュレーディンガー方程式内の実数時間tを虚数時間
【数6】
で置き換え、上記の時間依存のシュレーディンガー方程式を書き直して、次のような虚数時間シュレーディンガー方程式を得る。
【0031】
【数7】
【0032】
この時、当該虚数時間シュレーディンガー方程式の解は、次のとおりである。
【0033】
【数8】
【0034】
-Hτが非ユニタリ演算子であるため、それに対して下記のように正規化処理を実行する必要がある。
【0035】
【数9】
ここで、Eτは、τ時刻の固有値を表す。
【0036】
虚数時間シュレーディンガー方程式内の波動関数を特徴ベクトルで展開して次のように表す。
【0037】
【数10】
ここで、Eは固有エネルギであり、E<Eであり、Eは基底状態エネルギであり、cは展開系数である。
【0038】
<Eであるため、時間が無限に近づくと、他の固有状態は指数関数的に消え、即ち、ψ(τ)の発展とともに、他の状態はより早く減衰し、最後に下記の基底状態のみが残る。
【0039】
【数11】
【0040】
したがって、任意の波動関数が与えられると、波動関数と最低固有状態の重ね合わせる幅cが0ではないことを確保する限り、時間がτであるときに、下記のような波動関数を取得することができる。
【0041】
【数12】
【0042】
これから、逆推論によって、下記のように初期最低固有状態を取得することができる。
【0043】
【数13】
【0044】
技術案2:実数時間の時間依存のシュレーディンガー方程式の量子制御方法
まず、時間依存のシュレーディンガー方程式内のオリジナルハミルトニアン演算子を制御ハミルトニアン演算子に加算して、次のような量子動力学制御方程式を得る。
【0045】
【数14】
ここで、Hは、目標ハミルトニアン演算子、即ち、オリジナルハミルトニアン演算子を表し、Hは、制御ハミルトニアン演算子を表し、β(t)は、経時的なパラメータの変換である。
【0046】
上記の量子動力学制御方程式を基に、参照として、1個前の単位時間Δtの出力結果に基づいて、フィードバック型の制御を設計することによって<ψ(t)|H|ψ(t)>を最小化し、
【数15】
を満たすように、β(t)を設計することを目標とする。
【0047】
【数16】
に基づいて、β(t)=-wf(t,A(t))にし、ここで、w>0であり、f(t,A(t))は、f(t,0)=0且つf(t,A(t))×A(t)>0を満たす任意の連続関数であり、A(t)が0ではない場合、f(t,A(t))=-A(t)である。
【0048】
技術案3:古典的な最適化アルゴリズムに基づく変分量子固有値の求解
変分量子固有値ソルバー(VQE:Variational Quantum Eigensolver)は、NISQ量子デバイスで実行できるフォールトトレラント量子アルゴリズムであり、目標量子システムの基底状態をシミュレートできる。
【0049】
変分原理によれば、
【数17】
を知ることができ、最低特徴ベクトルを解く問題は最適化問題
【数18】
として記述される。
【0050】
任意選択で、最急降下法、ニュートン法、共役方向法などの古典的な最適化アルゴリズムを使用して、この最適化問題を解く。変分量子固有値解の難しさは、量子回路の設計であり、量子回路が目標状態を生成できることを保証しながら、パラメータ空間をできるだけ滑らかにする必要があり、同時に、量子回の深さも、量子コンピュータ側の実行に影響を与えるほど深くすることはできない。
【0051】
しかしながら、上記に記載した技術案1において、量子虚数時間発展は、初期状態と最低固有状態の重ね合わせ関係及びその他の固有値と最低固有値との差を保証する必要があり、しかも、この関係が収束速度に大きく影響するため、その他の固有状態の重ね合わせる程度も、収束の効果及び速度に影響する。量子コンピュータでの動作も、演算子に対して正規化処理を実行する必要があるため、余分の計算コストが生じる。
【0052】
上記に記載した技術案2において、実数時間時間依存のシュレーディンガー方程式に基づく量子制御方法は、選択された制御ハミルトニアン演算子が十分な制御能力を有することを保証する必要があり、しかも不完全な制御下では初期状態及び収束プロセスで発生するすべての状態に対する要求が非常に高く、その中の任意の状態が制御可能な条件を満たさない場合、収束できない状況が発生する可能性がある。
【0053】
上記に記載した技術案3において、古典的な最適化アルゴリズムに基づく変分量子固有値の求解は、量子コンピュータで実装するのが比較的に簡単であり、パラメータの1回の更新に必要な測定も少なくなるが、システムのサイズが大きくなるにつれて、量子回路シミュレーションの設計及びバレンプラトー最適化問題が生じる。
【0054】
本願は、新しい技術的な解決策を提案し、虚数時間における時間依存のシュレーディンガー方程式に制御を適用し、それ自体の動力学が基底状態に収束するという特性があるため、制御能力の要求を下げ、制御可能な状態で収束プロセスをできるだけ加速させるか、又は初期状態の要求を下げることができる。量子制御の補助によって、各条件の要求を下げ、収束に必要な時間を短縮することができ、同時に本来の各ステップに必要な量子コンピュータの計算リソースを減少するか、又は増加しないことにより、計算リソースの全体的に減少することができ、パラメータを利用して動力学への近似を更新して、パラメータの古典的な最適化アルゴリズムのバレンプラトー問題を改善し、量子回路シミュレーションの設計要求を下げる。
【0055】
本願の方法実施例を紹介する前に、まず、本願の方法の実行環境を説明する。
【0056】
本願の実施例によって提供される量子コンピューティング方法は、古典コンピュータ(PCなど)によって実現することができ、例えば、古典コンピュータによって、対応するコンピュータプログラムを実行することにより当該方法を実現することができ、又は、古典コンピュータと量子コンピュータとのハイブリッドデバイス環境で実行することもできる。例えば、古典コンピュータと量子コンピュータを組み合わせて、当該方法を実現する。例示的に、量子コンピュータは、本願の実施例における固有状態の求解を実現するために使用され、古典コンピュータは、本願の実施例における固有状態の求解以外の他のステップを実現するために使用される。
【0057】
以下の方法実施例において、説明の便宜上、各ステップの実行主体がコンピュータ機器である場合のみを紹介し説明する。当該コンピュータ機器は、古典コンピュータであってもよいし、古典コンピュータと量子コンピュータを含むハイブリッド実行環境であってもよいが、本願の実施例は、これを限定しない。
【0058】
図1を参照すると、本願の一実施例によって提供される量子コンピューティング方法のフローチャートを示す。方法の各ステップの実行主体がコンピュータ機器であることを例にして説明する。当該方法は、次のステップを含む。
【0059】
ステップ110において、目標量子システムの初期量子状態、目標量子システムに対応する量子回路、及び目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定し、量子回路は、量子回路パラメータを含み、ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、ハミルトニアン演算子パラメータに、量子虚数時間パラメータが含まれる。
【0060】
初期量子状態は、目標量子システムに入力されることにより、現在の目標量子システムの出力量子状態を取得するための入力状態である。
【0061】
目標量子システムに対応する量子回路は、当該目標量子システムが量子コンピューティングを実行するときに採用する量子回路であり、即ち、当該量子回路による初期量子状態の変換を、当該初期量子状態の量子コンピューティングプロセスとする。
【0062】
量子回路パラメータは、量子回路内の各変換ノードに対応する変換パラメータであり、量子回路パラメータに基づいて量子状態を変換し、それにより、異なる量子回路の異なる量子コンピューティングプロセスを実現する。
【0063】
本実施例において、目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子には、オリジナルハミルトニアン演算子と制御ハミルトニアン演算子を含む。オリジナルハミルトニアン演算子は、発展傾向を提供するために用いられ、制御ハミルトニアン演算子は、発展プロセスを制御するその他の発展傾向を提供するために用いられる。ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含む。
【0064】
任意選択で、ハミルトニアン演算子は、量子動力学の表現方式で目標量子システムを表す。ここで、当該量子動力学の表現に、オリジナルハミルトニアン演算子と制御ハミルトニアン演算子が含まれる。
【0065】
ステップ120において、初期量子状態を量子回路に入力して、量子回路によって出力された量子状態を、目標量子システムの量子回路生成状態として取得する。
【0066】
量子回路生成状態とは、初期量子状態を目標量子システムの量子回路構造に入力し、当該量子回路構造で変換することによって出力される量子状態を指す。
【0067】
ステップ130において、出力した量子回路生成状態に基づいて、ハミルトニアン演算子パラメータを更新する。
【0068】
いくつかの実施例において、目標量子システムの量子回路生成状態に基づいて、当該目標量子システムに対応する固有状態を得ることができ、それにより、固有状態を最小化することを目標として、ハミルトニアン演算子パラメータを調整する。いくつかの実施例において、目標量子システムの量子回路生成状態は、目標量子システムの固有状態を近似的に表す。
【0069】
いくつかの実施例において、上記の量子動力学表現は、時間依存のシュレーディンガー方程式における実数時間を虚数時間に置き換え、オリジナルハミルトニアン演算子を基にして制御ハミルトニアン演算子を加えることによって得られる動力学表現である。
【0070】
例示的に、量子動力学表現で目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、次の通りである。
【0071】
【数19】
ここで、τは、量子虚数時間パラメータを表し、|ψ(τ)>は、虚数時間固有状態を表し、Hは、前記オリジナルハミルトニアン演算子を表し、Hは、前記制御ハミルトニアン演算子を表し、β(τ)は、前記ハミルトニアン演算子パラメータを表す。
【0072】
次に、ハミルトニアン演算子パラメータβ(τ)を設計するための考え方を紹介する。ハミルトニアン演算子パラメータは、リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求に基づいて決定される。
【0073】
本実施例において、最低固有状態に発展するように目標量子システムを制御するために、β(τ)を設計する必要がある。リアプノフ関数は関数β(τ)を設計するための考え方を提供することができる。まず、平均値に基づくリアプノフ関数は下記の通りである。
【0074】
V(ψ(τ))=<ψ(τ)|(H-E)|ψ(τ)>
ここで、Eは、Hの最小固有値であるため、H-Eが半正定値行列になり、リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数によって、下記の結果を得ることができる。
【0075】
【数20】
ここで、2(<H >-<H)は、オリジナルハミルトニアン演算子によって提供される発展傾向を表し、2(<H >-<H)は、0以下であり、
【数21】
は、制御ハミルトニアン演算子によって提供される追加の発展傾向を表す。
【0076】
2(<H >-<H)は、0以下であるため、いくつかの実施例において、ハミルトニアン演算子パラメータは、次の通りである。
【0077】
【数22】
【0078】
それにより、β(0)=0であり、且つ
【数23】
であることを確保することができる。
【0079】
このとき、制御関数の臨界点は、すべての固有状態であり、ここで、最大値は、最大固有値の固有状態に対応し、最小値は、最小固有値の固有状態に対応し、その他の固有状態は、一時状態である。このとき、制御方法の観点から選択し、初期状態を目標固有状態にできるだけ近づかせることによって制御目的を達成する。
【0080】
一方、虚数時間発展プロセスで、指数関数的な速度で現在の最低エネルギの固有状態に収束するため、両者の特性を調整することにより、相補的に加速する作用を果たす。量子コンピューティングを実行する際の量子コンピュータの収束速度を向上させることができ、それにより、量子コンピューティングの計算効率を向上させることができる。
【0081】
ステップ140において、更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得る。
【0082】
任意選択で、変分アルゴリズムアーキテクチによって虚数時間動力学関数に近似して発展するシミュレートを基に、McLachlan変分原理によると、下記の結果が得られる。
【0083】
【数24】
【0084】
それによって、波動関数の量子回路パラメータの経時的な変化を得ることができる。
【0085】
【数25】
【0086】
ここで、φ(τ)は、固有状態を表し、θは、i番目の量子回路パラメータを表す。
【0087】
それにより、更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、目標量子システムに対応する量子回路パラメータを更新する。
【0088】
ステップ150において、目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、ハミルトニアン演算子パラメータ及び量子回路パラメータを繰り返して更新し、最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応し、最終量子状態を目標量子システムの最小固有状態として決定する。
【0089】
例示的に、図2を参照すると、本願の実施例に提供されるハミルトニアン演算子パラメータ更新プロセスの概略図を示す。図2に示されるように、当該繰り返しプロセスは、主に、
【0090】
量子回路生成状態210、ハミルトニアン演算子パラメータ更新220及び量子回路パラメータ更新230という3つの部分を含む。
【0091】
ここで、量子回路生成状態210のプロセスにおいて、初期状態を量子回路構造に入力して、量子回路構造によって初期状態を変換し、それにより、量子状態を量子回路生成状態として出力する。
【0092】
量子回路生成状態210に基づいて、対応する固有状態を決定した後、固有状態を最小化することを目標として、ハミルトニアン演算子パラメータ更新220のプロセスを実行して、ハミルトニアン演算子パラメータを調整する。
【0093】
調整後のハミルトニアン演算子パラメータを基にして、量子回路パラメータ更新230のプロセスを実行して、目標量子システムの量子回路パラメータに対して、対応する更新を実行する。
【0094】
上記の3つのプロセスは、最小固有状態に収束するまで、繰り返しを実行する。
【0095】
上記に記載されたように、本願の実施例に提供される量子コンピューティング方法において、量子虚数時間発展と量子実数時間制御の理論を組み合わせて、2つのメカニズムを解析して、虚数時間発展において実施可能な一連の制御方法を提案し、これにより、初期状態及びシステムの要求を下げるだけでなく、制御能力の要求も下げ、柔軟な選択を実現しながら大幅な加速のポリシーも提供することができ、制御を虚数時間シュレーディンガー方程式に適用し、それ自体の動力学が基底状態に収束する特性があるため、制御能力の要求を下げることができ、量子コンピューティングを実行する際の量子コンピュータの計算速度と正確度を向上させ、制御可能な状態で収束プロセスをできるだけ加速させるか、又は初期状態の要求を下げることができる。
【0096】
本願の実施例によって提供される方法において、時間依存のシュレーディンガー方程式における実数時間を虚数時間に置き換え、虚数時間自体の動力学が基底状態の特性に収束するため、制御能力の要求を下げ、制御可能な状態で収束プロセスをできるだけ加速させるか、又は初期状態の要求を下げることができる。また、量子制御の補助によって、各条件の要求を下げ、収束に必要な時間を短縮することができ、同時に本来の各ステップに必要な量子コンピュータの計算リソースを減少するか、又は増加しないことにより、計算リソースの全体的に減少することができる。
【0097】
本願の実施例によって提供される方法において、制御能力の定義に従って、目標ハミルトニアン演算子及び制御ハミルトニアン演算子が、所在のリー代数(Lie algebra)下の生成群であることを保証する必要がある。本実施例では、虚数時間の下で制御能力が部分的に制御可能である限り、その動力学が最低固有状態に収束する特性があるため、部分的な制御可能ということを利用して重要制御を実現することができ、量子コンピュータの全体的な計算の高速化を実現するとともに、全体的な制御の余分の計算を削減することができる。主な制御の考え方として、固有状態からの距離に応じて調整し、それ自体の発展特性と、制御によって提供される更なる指導とによって、異なる状況におけるそれぞれの利点を提供することにより、安定的な加速を実現し、システムの初期状態の依存を減らす。
【0098】
いくつかの実施例において、上記の関数β(τ)の設計以外に、ハミルトニアン演算子の選択を制御することによって収束プロセスに大きな影響を与える。図3は、本願の別の例示的な実施例によって提供される量子コンピューティング方法のフローチャートであり、当該方法の各ステップの実行主体は、コンピュータ機器であり得る。当該方法は、次のステップを含み得る。
【0099】
ステップ301において、単位行列とパウリZ行列から構成される対角行列に基づいて、制御ハミルトニアン演算子を決定する。
【0100】
制御ハミルトニアン演算子の選択について、直感的参考として、制御能力の観点から行い、完全な制御能力を有する制御演算子セットを選択すれば、理論的にはどの状態にも収束することができる。
【0101】
上記の量子システムの基底状態を取得する技術案1において、正規化された虚数時間発展の完全な制御能力がトロッター分解した結果は次の通りである。
【0102】
【数26】
【0103】
ベーカー・キャンベル・ハウスドルフ(Campbell-Baker-Hausdorff)の公式から分かるように、Δτが十分に小さい場合、H及びHがそれらの反復交換子とリー群全体を展開することができると仮定すると、このとき、任意のユニタリ転換は、いずれもこのセットの目標演算子及び制御演算子で表すことができる。
【0104】
実数時間量子制御では、制御能力の低い制御演算子を選択すると、必要なユニタリ演算子が生成できない可能性があるため、収束プロセスが制御不可能領域に収束するようにしてしまう。しかしながら、虚数時間発展では、それ自体の動力学の特性により、初期状態と固有状態との重なりが0でない限り、目標状態に収束する1組の経路状態セットが必ず存在する。制御演算子が加速の効果を達成するために、その制御可能領域で合理的な制御を実施すれば、本来の虚数時間発展の収束速度を加速するだけでなく、さらに、重なりが0である場合などの虚実動力が収束できない領域で、発展経路を提供することで虚数時間発展を収束させるように制御能力を設計することができる。
【0105】
制御能力の定義に従って、オリジナルハミルトニアン演算子及び制御ハミルトニアン演算子が所在のリー代数下の生成群であることを保証する必要がある。しかしながら、システムの増加につれて、動的な発展プロセスに十分に近似させることができるように、適切な制御ハミルトニアン演算子及び単位離散時間をどのように選択するかが難しい問題になる。
【0106】
本願の実施例では、虚数時間において制御能力が部分的に制御可能である限り、その動力学が最低固有状態に収束する特性があるため、部分的な制御可能ということを利用して重要制御を実現することができ、全体的な加速を実現するとともに、全体的な制御の余分の計算を削減することができる。主な制御の考え方として、固有状態からの距離に応じて調整し、それ自体の発展特性と、制御によって提供される更なる指導とによって、異なる状況におけるそれぞれの利点を提供することにより、安定的な加速を実現し、システムの初期状態の依存を減らす。
【0107】
リアプノフ関数の1次導関数によると、動力学発展自体の傾向及び制御によって提供される追加の傾向がそれぞれ次の通りである。
【0108】
【数27】
【0109】
本来の動力学収束における非最低固有値と最低固有値との差が収束速度に影響を与え、このとき、H自体が提供できる収束傾向Dは、差が大きいシステムほど明らかではなく、このとき、Hは、追加の収束傾向Dを提供することによってシステムの収束を加速させることができる。
【0110】
しかしながら、ψ(τ)がHの固有状態に近づくほど、D及びDはいずれも0にますます近づき、このとき、Dに比べて、Dは、すべての固有状態でいずれも臨界点である特性を有するため、発展プロセスで、最低固有状態の割合が少なすぎることにより、他の固有状態に収束する状況が発生する可能性がある。また、Dは、Hの固有状態の付近で0になる傾向もあるため、Dが発展動力を提供する適切なタイミングがいつであるかを判断すること、又はHの選択によって固有状態の付近での制御能力を低下させることによって、上記の問題を回避する必要がある。本願において、単位行列及びパウリZ行列から構成される対角行列を、制御演算子の選択肢として選択し、Jordan-Wigner変換において、単一電子の運動エネルギ項及び原子核による単一電子への力である。また、Dは、他の現在状態を含む特性も有し、すべての固有値が実数であると仮定すると、最初にそれを固有状態に対して展開することにより、次の式を取得できる。
【0111】
【数28】
【0112】
現在、|E0>と|Ek>という2つの固有状態の重なりまで収束したと仮定すると、このとき、上式は、次の通りである。
【0113】
【数29】
【0114】
λが最低エネルギであり、且つ値が負であるため、|Ek>が最低固有状態に近づくほど、そのエネルギλがより負の値になり、同じCにおけるDの数値が小さくなるため、同じ忠実度の下でも、Dの数値が異なる可能性がある。Dの大きさを判断するための基準として利用するときに、混合状態の割合が同じ忠実度の下で高エネルギ状態の大部分を占める場合、制御演算子がより容易にトリガーされるため、異なるシステム及び初期状態に対して、異なる設計を使用して加速又は制御の効果を達成することができる。
【0115】
異なる状態でのH及びHの動力学現象の組み合わせにより、固有状態発展に対するシステムの制御を実現することができ、目標への収束という目的を達成するために、調整制御によって、量子システムを目標状態の付近で安定させ、非目標区間の滞留時間を短縮することにより、高速で制御可能な収束を達成し、最低固有状態を除くすべての固有状態を取得する方法を提供する。固有状態の付近で制御演算子の影響を増幅させる場合、このとき、システムはこの固有状態の付近に収束し、収束された状態と、すべてのエネルギがこの固有状態より小さい低エネルギの固有状態との重なりが十分に小さい場合、元の虚数時間発展は、この固有状態に収束する傾向がある。また、異なる状態でのH及びHの動力学現象を組み合わせているため、Hによって目標状態の付近での量子システムの安定性を調整し、それにより、量子コンピューティングを実行するプロセスにおける量子コンピュータの安定性及び信頼性を向上させることができる。
【0116】
ステップ302において、時間依存のシュレーディンガー方程式における実数時間を虚数時間に置き換え、オリジナルハミルトニアン演算子を基にして制御ハミルトニアン演算子を増加して、目標量子システムを記述する。
【0117】
ステップ303において、初期量子状態を量子回路に入力して、量子回路によって出力された量子状態を、目標量子システムの量子回路生成状態として取得する。
【0118】
量子回路生成状態とは、初期量子状態を目標量子システムの量子回路構造に入力し、当該量子回路構造で変換することによって出力される量子状態を指す。
【0119】
ステップ304において、出力した量子回路生成状態に基づいて、ハミルトニアン演算子パラメータを更新する。
【0120】
例示的に、上記のアルゴリズムは、毎回の離散時間内に変分量子固有値で近似を解き、トロッター回路(Trotter circuit)の生成を回避し、動力学の収束プロセスを利用して、従来のオプティマイザで直面する問題を回避することもできる。まず、量子回路自体の低すぎる表現力による近似誤差を回避するために、図4に示される量子回路410のように表現力のより良い量子回路を選択し、次に、量子回路パラメータの経時的な変化によって量子回路パラメータを更新し、同時に、虚数時間制御の設計でハミルトニアン演算子パラメータを更新する。
【0121】
ステップ305において、更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得る。
【0122】
ステップ306において、目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、ハミルトニアン演算子パラメータ及び量子回路パラメータを繰り返して更新し、最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応し、最終量子状態を目標量子システムの最小固有状態として決定する。
【0123】
上記に記載されたように、本願の実施例に提供される量子コンピューティング方法において、量子虚数時間発展と量子実数時間制御の理論を組み合わせて、2つのメカニズムを解析して、虚数時間発展において実施可能な一連の制御方法を提案し、これにより、初期状態及びシステムの要求を下げるだけでなく、制御能力の要求も下げ、柔軟な選択を実現しながら大幅な加速のポリシーも提供することができ、さらに制御を虚数時間シュレーディンガー方程式に適用し、それ自体の動力学が基底状態に収束する特性があるため、制御能力の要求を下げることができ、量子コンピューティングを実行する際の量子コンピュータの計算速度と正確度を向上させ、制御可能な状態で収束プロセスをできるだけ加速させるか、又は初期状態の要求を下げることができる。
【0124】
本実施例によって提供される方法は、数値シミュレーションでそれの大幅な加速特性を実証し、さらに、固有エネルギの差が小さすぎる場合又は初期状態の選択が難しい場合、虚数時間発展の効果を改善し、量子コンピューティングを実行する際の量子コンピュータの計算速度及び計算正確度を向上させることができる。
【0125】
変分量子固有値解の近似手段を提供して、変分アルゴリズムの古典的なオプティマイザに取って代わり、短期間の量子コンピュータの実行を実現することを可能にし、制御方法を利用して、ノイズに耐える能力を提供し、量子コンピューティングを実行する際の量子コンピュータの収束速度及び計算正確度を向上させ、及び量子コンピューティングを実行するプロセスにおける量子コンピュータの安定性及び信頼性を改善する。
【0126】
それにより、量子制御の観点からは、(1)量子コンピュータに対応する量子虚数時間発展のプロセスを加速し、(2)ノイズに対する量子コンピュータのロバスト性を増加し、(3)虚数時間発展動力学に対する初期状態の影響を減らし、(4)如何に変分量子固有値の求解を利用して量子制御プロセスに近似し、近い将来の量子ハードウェアで動作することを実現することができる。
【0127】
例示的に、本願の実施例によって提供される方法からもたらす有益な効果は、以下を含む。
【0128】
1、エネルギの差が小さいシステムの基底状態の収束の高速化
HF分子結合長が2Åであるシステムで、8キュービットでシミュレーション計算すると、初期状態が最大限に均質な混合状態であるシミュレーションでは、大幅な高速化が見られ、システム内の第1励起状態(第2低エネルギ固有状態)と基底状態(最低エネルギ固有状態)とのエネルギの差が小さすぎる(ΔE=0.015hatree)。少ないステップの場合、元のバージョンの虚数時間発展の動力学の指数収束の利点は、うまく現れることができない。このとき、少ないステップ数の場合において追加の制御項により調整することで、初期状態を素早く基底状態に遷移させる収束経路を実現する。例示的に、図5に示されるように、本願の実施例によって提供される方法の制御収束速度曲線510は、関連技術における収束速度曲線520より明らかに優れている。量子コンピューティングを実行する際の量子コンピュータの収束速度を向上させ、それによって、その全体的な計算速度を向上させることができる。
【0129】
2、虚数時間発展の初期状態の選択への依存度を下げる
システムが大きくなり、又は複雑になる場合、選択された初期状態と最低固有状態との忠実度を保証することができなく、このとき、忠実度が小さくなると、オリジナル虚数時間発展の収束速度に影響を与える可能性があるが、本願の実施例では、追加の制御によって最低固有状態の増幅プロセスを高速化することにより、初期状態の選択に対する負担が軽減される。
【0130】
図6は、HFシステムでの異なる真正性に対する初期状態発展の収束プロセスを示す。制御演算子がオンオフの起動のように設定されているため、明らかな不連続な転換点が存在するが、制御演算子がシステムに関与した後の曲線610は、収束時間が大幅に短縮されることが分かる。特に、初期状態と基底状態との忠実度が低いほど、改善がより顕著であり、しかもシステムに関与する時間も長くなく、全体的なリソースの消費もほとんど増加しない。量子コンピューティングプロセスにおける量子コンピュータのリソース要求を下げることができる。
【0131】
3、実数時間量子制御システムと比べて、制御演算子要求が下げられ、制御ステップ数が削減される
実数時間量子制御では、制御能力の低い制御演算子を選択すると、一部の状態が制御不可になることにより、収束できない状況が発生する。しかしながら、虚数時間量子制御では、虚数時間発展自体の動力学があるため、制御演算子は、システムを収束させる唯一の動力源である実数時間とは異なる。
【0132】
このとき、選択された制御演算子をいつ使用するかを決定するだけで、システム収束を加速するという目的を達成することができ、同時に、リアルタイム制御は、制御演算子が制御できない区間に収束し、しかも制御演算子が完全な制御能力を持っていない限り、この区間が目標状態の付近にあることを保証できない。図7は、H2結合長0.74Åシステムのエネルギ収束結果を示し、最大均一な混合初期状態及び対角級数制御演算子Hについて、明らかに、実数時間制御曲線710が制御不可の区間に収束し、虚数時間制御曲線720は、収束速度が虚数時間発展より快速であり、しかもリアルタイム発展のように制御能力に対する高度の要求も求めていない。
【0133】
4、ノイズシステムで良好な状況が現れる
図8に示されるように、ノイズシステムで虚数時間発展及び虚数時間制御の両者の収束状況をシミュレートし、図8に示される曲線810及び曲線820のように、ノイズによって反騰が生じるときに、虚数時間制御がより早く収束できるため、最終的には、全体的なエネルギも目標エネルギに収束できる。
【0134】
注目すべきこととして、本願の実施例では、制御方法を使用して虚数時間発展を実現することを例にしてさらなる説明を行い、いくつかの実施例において、動的な単位虚数時間dの設計又は深層学習等のような非制御方法を使用して、虚数時間発展の収束及びノイズ抵抗を加速することができる。
【0135】
図9は、本願の実施例によって提供される量子コンピューティング装置の構造概略図であり、当該装置は、取得モジュール910と、更新モジュール920と、を備え、
取得モジュール910は、目標量子システムの初期量子状態、前記目標量子システムに対応する量子回路、及び前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定し、前記初期量子状態を前記量子回路に入力して、前記量子回路によって出力された量子状態を、前記目標量子システムの量子回路生成状態として取得するように構成され、前記量子回路は、量子回路パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含む。
【0136】
更新モジュール920は、前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するように構成され、
前記更新モジュール920はさらに、更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、前記量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得るように構成され、
前記更新モジュール920はさらに、前記目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、前記ハミルトニアン演算子パラメータ及び前記量子回路パラメータを繰り返して更新し、前記最終量子状態を前記目標量子システムの最小固有状態として決定するように構成され、前記最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応する。
【0137】
実施例において、前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、オリジナルハミルトニアン演算子と制御ハミルトニアン演算子を含み、前記オリジナルハミルトニアン演算子は、発展傾向を提供するために用いられ、前記制御ハミルトニアン演算子は、発展プロセスを制御するその他の発展傾向を提供するために用いられる。
【0138】
実施例において、前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、次の通りである。
【0139】
【数30】
ここで、τは、量子虚数時間パラメータを表し、|ψ(τ)>は、虚数時間固有状態を表し、Hは、前記オリジナルハミルトニアン演算子を表し、Hは、前記制御ハミルトニアン演算子を表し、β(τ)は、前記ハミルトニアン演算子パラメータを表す。
【0140】
実施例において、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求に基づいて決定されるものである。
【0141】
実施例において、前記リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求は、次の通りである。
【0142】
【数31】
ここで、2(<H >-<H)は、前記オリジナルハミルトニアン演算子によって提供される発展傾向を表し、且つ2(<H >-<H)は、0以下であり、
【数32】
は、前記制御ハミルトニアン演算子によって提供されるその他の発展傾向を表す。
【0143】
実施例において、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、次の通りである:
【数33】
【0144】
実施例において、図10に示されるように、前記装置さらに、決定モジュール930を備え、
決定モジュール930は、単位行列とパウリZ行列から構成される対角行列に基づいて、前記制御ハミルトニアン演算子を決定するように構成される。
【0145】
実施例において、前記更新モジュール920はさらに、前記目標量子システムのエネルギを最小化することを目標として、前記ハミルトニアンを更新するように構成される。
【0146】
上記に記載されたように、本願の実施例によって提供される量子コンピューティング装置は、量子虚数時間発展と量子実数時間制御の理論を組み合わせて、2つのメカニズムを解析して、虚数時間発展において実施可能な一連の制御方法を提案し、これにより、初期状態及びシステムの要求を下げるだけでなく、制御能力の要求も下げ、柔軟な選択を実現しながら大幅な加速のポリシーも提供することができ、制御を虚数時間シュレーディンガー方程式に適用し、それ自体の動力学が基底状態に収束する特性があるため、制御能力の要求を下げることができ、量子コンピューティングを実行する際の量子コンピュータの計算速度と正確度を向上させ、制御可能な状態で収束プロセスをできるだけ加速させるか、又は初期状態の要求を下げることができる。
【0147】
なお、上記の実施例によって提供される量子コンピューティング装置は、上記の各機能モジュールの区分のみを例示的に説明し、実際の適用では、上記の機能の割り当ては、ニーズに応じて、異なる機能モジュールによって遂行することができ、即ち、機器の内部構造を異なる機能モジュールに分割して、前述した機能の全部又は一部を遂行する。さらに、上記の実施例によって提供される量子コンピューティング装置と、量子コンピューティング方法の実施例とは、同じ概念に属し、その具体的な実現プロセスは、方法実施例で詳述されており、ここでは繰り返さない。
【0148】
図11を参照すると、本願の一実施例によって提供されるコンピュータ機器1100の構造ブロック図を示す。当該コンピュータ機器1100は、古典コンピュータであり得る。当該コンピュータ機器は、上記の実施例で提供される量子コンピューティング方法を実施するために使用されることができる。具体的には、次の通りである。
【0149】
当該コンピュータ機器1100は、中央処理装置(中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、グラフィック処理装置(GPU:Graphics Processing Unit)及びフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array)など)1101と、ランダム・アクセス・メモリ(RAM:Random-Access Memory)1102及び読み取り専用メモリ(ROM:Read-Only Memory)1103を含むシステムメモリ1104と、システムメモリ1104と中央処理装置1101とを接続するシステムバス1105とを含む。当該コンピュータ機器1100はさらに、サーバ内の様々デバイス間の情報伝送を容易にする基本入出力システム(I/Oシステム:Input Output System)1106と、オペレーティングシステム1113、アプリケーションプログラム1114、及び他のプログラムモジュール1115を格納するための大容量記憶デバイス1107とを含む。
【0150】
任意選択で、当該基本入出力システム1106は、情報を表示するためのディスプレイ1108と、ユーザが情報を入力するためのマウス、キーボードなどの入力機器1109とを含む。ここで、当該ディスプレイ1108と入力機器1109は共に、システムバス1105に接続された入出力コントローラ1110によって中央処理装置1101に接続される。当該基本入出力システム1106はさらに、キーボード、マウス、又は電子スタイラスなどの他の多くのデバイスからの入力を受信して処理するための入出力コントローラ1110を含むことができる。同様に、入出力コントローラ1110はさらに、表示画面、プリンタ、又は他のタイプの出力装置に出力する出力機器を提供する。
【0151】
任意選択で、当該大容量記憶デバイス1107は、システムバス1105に接続された大容量記憶コントローラ(図示せず)によって中央処理装置1101に接続される。当該大容量記憶デバイス1107及びそれに関連するコンピュータ可読媒体は、コンピュータ機器1100に不揮発性記憶を提供する。即ち、当該大容量記憶デバイス1107は、ハードディスク又はコンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM:Compact Disc Read-Only Memory)ドライブなどのコンピュータ可読媒体(図示せず)を含むことができる。
【0152】
一般性を失うことなく、当該コンピュータ可読媒体は、コンピュータ記憶媒体及び通信媒体を含むことができる。コンピュータ記憶媒体は、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール又は他のデータなどの情報を記憶するための任意の方法又は技術で実装される揮発性及び不揮発性、取り外し可能及び取り外し不可能な媒体を含む。コンピュータ記憶媒体は、RAM、ROM、消去可能なプログラム可能な読み取り専用メモリ(EPROM:Erasable Programmable Read-Only Memory)、電気的に消去可能なプログラム可能な読み取り専用メモリ(EEPROM:Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュメモリ又は他のソリッドステートストレージ技術、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD:Digital Video Disc)又は他の光学ストレージ、カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又は他の磁気ストレージデバイスを含む。もちろん、当業者は、当該コンピュータ記憶媒体上記のものに限定されないことを知っている。上記のシステムメモリ1104と大容量記憶デバイス1107は、集合的にメモリと呼ばれることができる。
【0153】
本願の実施例によれば、当該コンピュータ機器1100は、インターネットなどのネットワークによってネットワーク上のリモートコンピュータに接続されて実行されてもよい。即ち、コンピュータ機器1100は、当該システムバス1105に接続されたネットワーク・インターフェース・ユニット1111によってネットワーク1112に接続することができ、又はネットワーク・インターフェース・ユニット1111を使用して、他のタイプのネットワーク又はリモートコンピュータシステム(図示せず)に接続することもできる。
【0154】
前記メモリはさらに、メモリに格納され、且つ上記の量子コンピューティング方法を実現するために1つ又は複数のプロセッサによって実行されるように構成される、少なくとも1つの命令、なくとも1つのプログラム、コードセット又は命令セットを含む。
【0155】
当業者は、図11に示される構造がコンピュータ機器1100に対する限定を構成するものではなく、図示されるものより多い又はより少ない構成要素を含むか、又はいくつかの構成要素を組み合わせるか、又は異なる構成要素配置を採用してもよいことを理解することができる。
【0156】
本願の実施例はさらに、上記の実施例で提供される量子コンピューティング方法を実施するために使用されることができる、コンピュータ機器を提供する。即ち、本願によって提供される量子コンピューティング方法は、コンピュータ機器によって実行されることができる。当該コンピュータ機器は、古典コンピュータと量子コンピュータとのハイブリッドデバイス環境であってもよく、例えば、古典コンピュータと量子コンピュータが協働して当該方法を実現する。古典コンピュータと量子コンピュータとのハイブリッドデバイス環境では、古典コンピュータがコンピュータプログラムを実現して、いくつかの古典的な計算を実現し、及び量子コンピュータを制御し、量子コンピュータがキュービットの制御や測定などの動作を実現する。例えば、上記の製造回路、PQC、測定回路を量子コンピュータに組み込み、古典コンピュータでコンピュータプログラムを実行することにより、量子コンピュータを制御し、量子コンピュータを制御することにより、製造回路によって量子子多体系の初期状態を製造し、PQCによって初期状態を処理してPQCの出力状態を取得し、測定回路によってPQCの出力状態を測定することなどの動作を実行する。さらに、古典コンピュータはさらに、コンピュータプログラムを実行して、いくつかの古典的な計算を実行することができる。
【0157】
いくつかの実施例において、上記のコンピュータ機器は、別個の古典コンピュータであってもよく、即ち、本願で提供される量子コンピューティング方法の各ステップは、古典コンピュータによって実行され、例えば、古典コンピュータによってコンピュータプログラムを実行して、上記の方法に対して数値実験的シミュレーションを行い、又は、上記のコンピュータ機器は、別個の量子コンピュータであってもよく、即ち、本願で提供される量子コンピューティング方法の各ステップは、量子コンピュータによって実行され、本願は、これを限定しない。
【0158】
例示的な実施例では、さらに、コンピュータ可読記憶媒体を提供し、前記記憶媒体には、少なくとも1つの命令、なくとも1つのプログラム、コードセット又は命令セットが格納されており、前記少なくとも1つの命令、前記なくとも1つのプログラム、前記コードセット又は前記命令セットは、プロセッサによって実行されると、上記の量子コンピューティング方法を実現する。
【0159】
任意選択で、当該コンピュータ可読記憶媒体は、読み取り専用メモリ(ROM:Read Only Memory)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM:Random Access Memory)、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD:Solid State Drives)又は光ディスクなどを含み得る。ここで、ランダム・アクセス・メモリは、ReRAM(Resistance Random Access Memory, レジスタンス・ランダム・アクセス・メモリ)とダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM:Dynamic Random Access Memory)を含み得る。
【0160】
例示的な実施例では、さらに、コンピュータプログラム製品又はコンピュータプログラムを提供し、当該コンピュータプログラム製品又はコンピュータプログラムは、コンピュータ命令を含み、当該コンピュータ命令は、コンピュータ可読記憶媒体に格納される。コンピュータ機器のプロセッサは、コンピュータ可読記憶媒体から当該コンピュータ命令を読み取り、プロセッサが当該コンピュータ命令を実行することにより、当該コンピュータ機器に上記の量子コンピューティング方法を実行させる。
【符号の説明】
【0161】
210 量子回路生成状態
220 ハミルトニアン演算子パラメータ更新
230 量子回路パラメータ更新
410 量子回路
510 制御収束速度曲線
520 収束速度曲線
610 曲線
710 実数時間制御曲線
720 虚数時間制御曲線
810 曲線
820 曲線
910 取得モジュール
920 更新モジュール
930 決定モジュール
1100 コンピュータ機器
1101 中央処理装置
1102 ランダム・アクセス・メモリ(RAM:Random-Access Memory)
1103 専用メモリ(ROM:Read-Only Memory)
1104 システムメモリ
1105 システムバス
1106 基本入出力システム(I/Oシステム:Input Output System)
1107 大容量記憶デバイス
1108 ディスプレイ
1109 入力機器
1110 入出力コントローラ
1111 ネットワーク・インターフェース・ユニット
1112 ネットワーク
1113 オペレーティングシステム
1114 アプリケーションプログラム
1115 プログラムモジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-10-26
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ機器が実行する、量子コンピューティング方法であって、
目標量子システムの初期量子状態、前記目標量子システムに対応する量子回路、及び前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定するステップであって、前記量子回路は、量子回路パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含むステップと、
前記初期量子状態を前記量子回路に入力して、前記量子回路によって出力された量子状態を、前記目標量子システムの量子回路生成状態として取得するステップと、
前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するステップと、
更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、前記量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得るステップと、
前記目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、前記ハミルトニアン演算子パラメータ及び前記量子回路パラメータを繰り返して更新するステップであって、前記最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応する、ステップと、
前記最終量子状態を前記目標量子システムの最小固有状態として決定するステップと、を含む、量子コンピューティング方法。
【請求項2】
前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、オリジナルハミルトニアン演算子と制御ハミルトニアン演算子を含み、前記オリジナルハミルトニアン演算子は、発展傾向を提供するために用いられ、前記制御ハミルトニアン演算子は、発展プロセスを制御するその他の発展傾向を提供するために用いられる、
請求項1に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項3】
前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、
【数1】
であり、
ここで、τは、量子虚数時間パラメータを表し、|ψ(τ)>は、虚数時間固有状態を表し、Hは、オリジナルハミルトニアン演算子を表し、Hは、制御ハミルトニアン演算子を表し、β(τ)は、前記ハミルトニアン演算子パラメータを表す、
請求項1に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項4】
前記ハミルトニアン演算子パラメータは、リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求に基づいて決定されるものである、
請求項3に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項5】
前記リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求は、
【数2】
であり、
ここで、2(<H >-<H)は、前記オリジナルハミルトニアン演算子によって提供される発展傾向を表し、2(<H >-<H)は、0以下であり、
【数3】
は、前記制御ハミルトニアン演算子によって提供されるその他の発展傾向を表す、
請求項4に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項6】
前記ハミルトニアン演算子パラメータは、
【数4】
である、
請求項5に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項7】
前記量子コンピューティング方法は、
単位行列とパウリZ行列から構成される対角行列に基づいて、前記制御ハミルトニアン演算子を決定するステップをさらに含む、
請求項5に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項8】
前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するステップは、
前記目標量子システムのエネルギを最小化することを目標として、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するステップを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法。
【請求項9】
量子コンピューティング装置であって、
目標量子システムの初期量子状態、前記目標量子システムに対応する量子回路、及び前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子を決定することであって、前記量子回路は、量子回路パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子は、ハミルトニアン演算子パラメータを含み、前記ハミルトニアン演算子パラメータは、量子虚数時間パラメータを含むことと、前記初期量子状態を前記量子回路に入力して、前記量子回路によって出力された量子状態を、前記目標量子システムの量子回路生成状態として取得することと、を実行するように構成される取得モジュールと、
前記出力された量子回路生成状態に基づいて、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するように構成される更新モジュールと、を含み、
前記更新モジュールはさらに、更新されたハミルトニアン演算子パラメータに基づいて、前記量子回路パラメータを更新して、更新された目標量子システムを得るように構成され、
前記更新モジュールはさらに、前記目標量子システムのエネルギが最小値になるまで、前記ハミルトニアン演算子パラメータ及び前記量子回路パラメータを繰り返して更新することであって、前記最小値は、前記目標量子システムの最終量子状態に対応する、ことと、前記最終量子状態を前記目標量子システムの最小固有状態として決定することと、を行うように構成される、
量子コンピューティング装置。
【請求項10】
前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、オリジナルハミルトニアン演算子と制御ハミルトニアン演算子を含み、前記オリジナルハミルトニアン演算子は、発展傾向を提供するために用いられ、前記制御ハミルトニアン演算子は、発展プロセスを制御するその他の発展傾向を提供するために用いられる、
請求項9に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項11】
前記目標量子システムを表すためのハミルトニアン演算子は、
【数5】
であり、
ここで、τは、量子虚数時間パラメータを表し、|ψ(τ)>は、虚数時間固有状態を表し、Hは、前記オリジナルハミルトニアン演算子を表し、Hは、前記制御ハミルトニアン演算子を表し、β(τ)は、前記ハミルトニアン演算子パラメータを表す、
請求項10に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項12】
前記ハミルトニアン演算子パラメータは、リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求に基づいて決定されるものである、
請求項11に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項13】
前記リアプノフ関数の時間に関する1次偏導関数の要求は、
【数6】
であり、
ここで、2(<H >-<H)は、前記オリジナルハミルトニアン演算子によって提供される発展傾向を表し、2(<H >-<H)は、0以下であり、
【数7】
は、前記制御ハミルトニアン演算子によって提供されるその他の発展傾向を表す、
請求項12に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項14】
前記ハミルトニアン演算子パラメータは、
【数8】
である、
請求項13に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項15】
前記量子コンピューティング装置はさらに、
単位行列とパウリZ行列から構成される対角行列に基づいて、前記制御ハミルトニアン演算子を決定するように構成される決定モジュールを含む、
請求項13に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項16】
前記更新モジュールはさらに、前記目標量子システムのエネルギを最小化することを目標として、前記ハミルトニアン演算子パラメータを更新するように構成される、
請求項9~15のいずれか一項に記載の量子コンピューティング装置。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法を実行するコンピュータ機器。
【請求項18】
プロセッサに、請求項1~8のいずれか一項に記載の量子コンピューティング方法を実行させる、コンピュータプログラム。
【国際調査報告】