(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】質量分析計および方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20231121BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20231121BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20231121BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20231121BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231121BHJP
【FI】
H01J49/42 450
H01J49/02 500
H01J49/06 700
H01J49/06 100
H01J49/00 310
H01J49/00 360
G01N27/62 E
G01N27/62 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515005
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 GB2021052277
(87)【国際公開番号】W WO2022049388
(87)【国際公開日】2022-03-10
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521073028
【氏名又は名称】エイチジーエスジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ホイズ、ジョン ブライアン
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA08
(57)【要約】
電荷検出質量分析計(CDMS)が説明されている。CDMS4は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40と、誘導電荷検出器400と、を備え、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40は、誘導電荷検出器400経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている。方法も説明されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップと、誘導電荷検出器と、を備えた電荷検出質量分析計(CDMS)であって、
前記静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、前記誘導電荷検出器経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成され、
前記イオン経路伝いに移動するイオンの質量mは、前記誘導電荷検出器内で前記イオンによって誘起される信号を使用して前記イオンの質量対電荷比m/zおよび電荷zを決定することによって決定される、電荷検出質量分析計(CDMS)。
【請求項2】
前記静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、第1の静電セクタおよび第2の静電セクタを含む一組の静電セクタを備える、請求項1に記載のCDMS。
【請求項3】
前記第1の静電セクタは、円筒形静電セクタ、トロイダル静電セクタ、または球形静電セクタを備える、および/あるいは円筒形静電セクタ、トロイダル静電セクタ、または球形静電セクタである、請求項2に記載のCDMS。
【請求項4】
前記第1の静電セクタおよび前記第2の静電セクタは、相互に対向している、請求項2または3に記載のCDMS。
【請求項5】
前記一組の静電セクタは、前記第1の静電セクタ、および前記第2の静電セクタだけを含む、請求項4に記載のCDMS。
【請求項6】
前記第1の静電セクタは、前記第1の静電セクタによるフィールドを画定するように配置された第1のシャントを含む一組のシャントを備える、請求項2乃至5のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項7】
前記静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、等時性である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項8】
前記静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、2つまたは3つの相互に直交する次元に前記イオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項9】
前記静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって定められた前記イオン経路は、クロスオーバを含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項10】
前記静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、イオンを前記イオン経路の中へと導入するためのイオン入口を備える、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項11】
前記誘導電荷検出器は、第1の電荷検出管を含む第1の組の電荷検出管を備える、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項12】
長さLおよび幅Wを有する前記第1の電荷検出管は、3:2から5:2までの範囲内の、例えば2:1の前記長さL対前記幅Wの比を有する、請求項11に記載のCDMS。
【請求項13】
前記誘導電荷検出器経由の前記イオン経路の一部は、前記静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって定められた前記イオン経路の30%から70%までの範囲内、好ましくは40%から60%までの範囲内、例えば50%である、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項14】
前記イオン経路を第1の次元に少なくとも部分的に制限するように配置された第1の焦点レンズを含む一組の静電集束レンズを備える、請求項1乃至13のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項15】
前記第1の次元は、前記誘導電荷検出器経由の前記イオン経路の方向に直交する、請求項14に記載のCDMS。
【請求項16】
前記誘導電荷検出器経由の前記イオン経路の断面は、-3°から+3°までの範囲内の中心角、好ましくは-2°から+2°までの範囲内の中心角、より好ましくは-1°から+1°までの範囲内の中心角を有する弧状である、請求項15に記載のCDMS。
【請求項17】
前記誘導電荷検出器は、接地ポテンシャルで動作するように構成されている、請求項1乃至16のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項18】
前記イオン経路の中に導入されることになるイオンのイオン・エネルギーを増加させるように構成されたリフト・デバイスを備える、請求項1乃至17のいずれか1項に記載のCDMS。
【請求項19】
前記リフト・デバイスは、前記イオン経路の中に導入されることになる前記イオンをトラップするように構成されている、請求項18に記載のCDMS。
【請求項20】
前記リフト・デバイスは、前記イオンを前記イオン経路の中にパルスで送ることによって前記イオンを前記イオン経路の中に導入するように構成されている、請求項18または19に記載のCDMS。
【請求項21】
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって、少なくとも部分的に定められたイオン経路伝いにイオンを移動させることにより誘導電荷検出器を経由させ、前記イオンを移動させることによって前記誘導電荷検出器内に信号を誘起する工程と、
誘起された前記信号を使用して前記イオンの質量対電荷比m/zおよび電荷zを決定することによって前記イオンの質量mを決定する工程と、
を備える、イオンの質量を決定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷検出質量分析計(CDMS:Charge Detection Mass spectrometers)に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷検出質量分析(CDMS)は、高分子の複素スペクトルの逆畳み込みを可能にする技法である。分子のサイズが増加するにつれて、高分子が獲得し得る異なる電荷状態の数は増加する。極限では、異なる質量を有する分子の電荷状態を重ね合わせると、従来の質量分析計(MS)の質量対電荷m/zスケールにぼんやりとした連続体を引き起こす。そのようなマス・スペクトルは、個々の種がもはや別個のピークとして目立たないので、分析的に有用な情報をほとんどまたは全くもたらさない。これは、分子量が増加するにつれてこのイオン化技法が多くの異なる電荷状態をもたらすので、高分子のエレクトロスプレの場合に特に問題となる。イオンの質量対電荷m/zを決定するMSとは対照的に、CDMSは、イオンの質量対電荷m/zと電荷zの両方を決定することによって質量を(すなわち、単に質量対電荷m/zではなく)決定する。従来のCDMSでは、個々のイオンは、イオン・トラップに注入され、誘導電荷検出管を通じて前後に振動するようにされる。特定のイオンが誘導電荷検出管に入るとき、特定のイオンは、小さい測定可能な電圧を誘起し、その振幅は、その電荷に比例する。振動の測定された周期時間は、特定のイオンの質量対電荷比m/zをもたらし、これらの2つの測定値の積は、特定のイオンの真の質量を与える。イオン・トラップ内の多くの振動を可能にし、フーリエ変換(FT)によって結果として得られる信号を分析することで、電荷の測定と質量対電荷比m/zの測定との両方の精度を改善する。真の質量の測定は、質量対電荷比m/zだけを決定する直交加速飛行時間型(oa-TOF:orthogonal-acceleration Time-Of-Flight)MSなどの従来のMSとは対照的である。CDMSの精度は、電荷測定の不確かさを与える検出エレクトロニクスの電子ノイズ、および振動周期のばらつきを与える入射イオンのエネルギーの広がりといった2つの制限要因に依存する。
【0003】
2012年には、コンティノおよびジャロルド(ContinoおよびJarrold)[1]が、単一のイオンについての30電気素量の検出の制限を有する電荷検出質量分析計(CDMS、文脈から明らか、CDMS分析器としても知られる)を提示した。この論文は、そのときのCDMSの包括的なレビュを与え、全体として本願明細書に援用される。このCDMSは、デュアル半球たわみ分析器(HDA:Hemispherical Deflection Analyser)に結合されたエレクトロスプレ源と、それに続く鏡像電荷検出器を組み込むコーン・トラップとを備えた。イオンは、トラップに入る前にデュアルHDAによって選択されるエネルギーだった。トラップされたイオンの基本振動周波数は、高速フーリエ変換(FFT)によって抽出された。振動周波数および運動エネルギーは、トラップされたイオンの質量対電荷比m/zを与えた。基本周波数におけるFFTの大きさは、電荷に比例した。特に、このCDMSは、単一のイオンについての30電気素量の検出の制限を達成するように、静電コーン・トラップに入るイオン・エネルギーの広がりを制限し、それによって振動周波数のばらつきを減少させるエネルギー・フィルタとしてデュアルHDAの使用を必要とした。しかしながら、静電コーン・トラップに入るイオン・エネルギーの広がりを制限することで、CDMSのスループットを減少させた。低ノイズ・エレクトロニクスは、2015年までに、キーファ、シンホルト、およびジャロルド(Keifer、Shinholt、およびJarrold)[2]は、整数レベルよりも良い改善された電荷精度を示しており、これは、真の質量の決定に十分であることを意味した。
【0004】
2018年には、ホーガンおよびジャロルド(HoganおよびJarrold)[3]は、彼らの従前のCDMSのコーン・トラップよりもイオン・エネルギーに関する振動周期への依存性が低いセグメント化された静電リニア・イオン・トラップ(ELIT)を用いた。このCDMSは、イオン・エネルギーの広がりおよび半径方向位置による振動周波数へのかなりの依存性はそのままでありつつ、デュアルHDAエネルギー・フィルタの使用も必要とした。特に、このCDMSについては、イオン振動周波数の運動エネルギー依存性は1桁だけ減少し、これにより質量対電荷比m/zの比決定の不確かさの1桁の減少をもたらしたはずである。しかしながら、イオン振動周波数の軌道依存性に起因する4つの改善の要因だけが達成された。
【0005】
したがって、CDMSを改善する必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
数ある中でも本発明の一目的は、本明細書中で識別されようがなかろうが、先行技術の欠点の少なくとも一部を少なくとも部分的に無くすまたは緩和するCDMSを提供することである。例えば、本発明の実施形態の目標は、上流エネルギー・フィルタまたはセレクタの必要をなくすイオン・トラップ・ジオメトリを有するCDMSを提供することである。例えば、本発明の実施形態の目標は、例えばイオン初期条件への依存を減少させることによって、イオン振動周期の等時性を改善するCDMSを提供することである。例えば、本発明の実施形態の目標は、例えばイオン初期条件への依存を減少させることによって、イオン振動周期の等時性を改善しつつ、上流エネルギー・フィルタまたはセレクタの必要をなくすイオン・トラップ・ジオメトリを有するCDMSを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様は、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップと、誘導電荷検出器と、
を備え、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップが、誘導電荷検出器経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている、電荷検出質量分析計(CDMS)を提供する。
【0008】
第2の態様は、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって、少なくとも部分的に定められたイオン経路伝いにイオンを移動させる工程であって、それにより誘導電荷検出器を経由させる、工程と、
イオンを移動させる工程によって、誘導電荷検出器内に信号を誘起させる工程と、
誘起信号を使用してイオンの質量を決定する工程と、
を備える、イオンの質量を決定する方法を提供する。
【0009】
<本発明の詳細な説明>
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載されたようなCDMSが提供される。方法も提供される。本発明の他の特徴は、従属請求項、および以下の説明から明らかである。
【0010】
第1の態様は、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップと、誘導電荷検出器とを備え、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、誘導電荷検出器経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている、電荷検出質量分析計(CDMS)を提供する。
【0011】
本発明者は、最新のCDMS機器の主要な制限は、入射イオンの初期の角度、位置、および特にエネルギーの広がりに対するイオン振動周波数の依存性にあることを認識した。さらなる制限は、最新の静電反射トラップの低い空間電荷容量である。遅いイオンは、速いイオン以外で互いにより強く相互作用することが知られている。低い空間電荷容量は、反射トラップのミラー・セクション内でイオンが方向を逆にするときに、イオンがゼロ近くの速度まで減速されることから生じる。これらの反射トラップのこの低い空間電荷容量は、概して、単一イオン種の順次的な注入、および結果として、低いデューティ・サイクル、および長い実験時間を要する。
【0012】
本発明者は、改善されたCDMSトラップの必要が、静電セクタ・フィールドを備える無収差TOF分析器のイオン光学特性によって与えられると認識した。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4](本願明細書に援用する)による1972年の影響の大きい論文には、トロイダル電気セクタとフィールド・フリー・ドリフト領域の組合せを使用した等時性集束の一般的理論が提示された。研究は、破壊的な電子増倍管ベースの検出を用いて、入口開口および出口開口を有する古典的な飛行時間型分析器に向けられた。初期エネルギーおよび角度の広がりの影響が一次までなくされ、ある特別な場合には、位置の広がりもなくされ得ることが示された。検出器平面における3つの初期条件、すなわち、エネルギー、位置、および角度の全てを一次まで満たす分析器は、無収差分析器として知られている。この論分において、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、8の経路の立体図内でイオンを送るように配置された2つの対向した球状フィールド・セクタを利用する特別なジオメトリを提示した。対称性の考慮は、提案されたジオメトリの無収差の挙動をもたらすとともに、分析器の多くのラウンド・トリップのための安定したイオン閉じ込めももたらす。このジオメトリの利用は、閉じた経路がイオンによってとられることにより注入および検出が難しいので、TOF分析器について問題がある。閉じた経路のマルチプル・ラウンド・トリップ分析器(closed path multiple round-trip analyser)は、質量範囲制限に、異なる質量のイオンが互いにオーバテイクしてエイリアス・スペクトルをもたらすときに、質量範囲制限に悩まされることがよく知られている。
【0013】
CDMSは、イオンが等時性パケットで注入されないのでTOFと異なり、むしろ、個々のイオンを含むイオン・ビームのセクションは、デバイスに入ることが可能にされ、トラップされ、そしてそれらは、閉じたイオン経路伝いに独立して振動することができる。8の分析器のそのような図は、エネルギーおよび横方向の受入れの観点でその優れたイオン光学特性によりCDMS機器についての改善されたイオン・トラップの要件を満たす。動作時、イオンは、注入中に低いポテンシャルで保持される外側球における穴を通じて注入され、次いで、所望の時間期間にわたってイオンとトラップするために上げられ得る。8のセクタTOFの図についてのそのような注入方法は、イシハラ(Ishihara)による特許において[13]説明されている。
【0014】
<静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ>
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは周期構造であり、イオンが閉じたイオン経路伝いに繰り返して(例えば、整数または非整数のターン)移動することができる(振動としても知られる)ように閉じたイオン経路(オービットとしても知られている)を少なくとも部分的に定めることを理解されたい。概して、イオンは、少なくとも1ターンを通じて、好ましくは少なくともNターンを通じてイオン経路伝いに移動し、ただし、Nは、1以上の自然数であり、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500以上である。したがって、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、マルチ・ターン(マルチ・パスとしても知られる)静電セクタ・フィールド・イオン・トラップとして知られ得、CDMSは、マルチ・ターンCDMSとして知られ得る。概して、イオンが移動するターン数を増加させ、したがって、測定時間は、質量決定時の不確かさを減少させる。しかしながら、ターン数を増加させることで、分析時間も増加させ、一方、残留ガス、他のイオン、および/またはCDMSの壁などとの衝突などによる特定のイオンの損失の可能性が増加する。真空を、例えば、高くても2.7x10-7Pa(2x10-9Torr)以上まで改善することによって、残留ガスとの衝突による特定のイオンの損失の可能性が減少させられることが可能であり、それによってターン数を増加させる。したがって、イオンが移動するターン数は、それに応じてバランスがとられ得る。イオン経路伝いに移動するイオンの基本周波数fは、質量対電荷比m/zに応じ、誘導電荷検出器を使用して以下に説明されるように測定される。静電セクタ・フィールド・イオン・トラップが一次まで等時性である場合、質量の不確かさは、例えば、参考文献[3]のELITと比較して、以下により詳細に説明されるように、減少させられる。
【0015】
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、誘導電荷検出器経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されていることを理解されたい。すなわち、使用時、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、誘導電荷検出器経由のイオン経路を少なくとも部分的に定める。少なくとも一部だけ、イオン経路は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって全体的に定められることが可能であり、または代替として、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって部分的に定められるとともに、1つまたは複数のイオン光学要素、例えば、レンズおよび/または磁石によって部分的に定められてもよいことを理解されたい。一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、誘導電荷検出器経由のイオン経路を(すなわち、全体的に)定めるように構成されている。イオン経路は、仮定的な完全なイオンについてのイオン光軸であり、イオン光軸は弧状であり、閉じた線は平面を定めることを理解されたい。対照的に、エネルギーの広がりは、イオンの集団の角度偏差および空間偏差と共に、それぞれのイオン軌道が、イオン経路がイオン光軸の周りで体積的にスイープするようにイオン光軸から平面の内外に逸脱していることを意味する。イオン経路の断面、例えば、断面の形状および/または寸法、それへの直交は、イオン経路伝いに変動し得ることを理解されたい。特に、以下により詳細に説明されるように、イオンは、例えば、代替として、イオン経路伝いに、点集束および平行焦点に運ばれることが可能であり、一方、球形静電セクタは、例えば、少なくとも部分的に球状のイオン経路を引き起こすことができる。さらにおよび/または代替として、イオン経路は、イオン・ビームとして説明されてもよく、および/または定められてもよい。
【0016】
イオンが一定の方向でイオン経路伝いに移動するが、これは、便宜上、イオンの運動の瞬間の方向が絶えず変化しているにもかかわらず、オービットの方向が一定であるという点で単方向と呼ばれ得ることを理解されたい。対照的に、参考文献[2]および[3]のELITなどのELITにおいて、イオンが、交互に、反対方向、前後に移動するが、これは、便宜上、双方向または往復と呼ばれる場合があり、それによって、反対の方向に移動するイオン間の相互の相互作用という結果になり、これは、単一のイオンよりも多くを中に導入することを除外する。より詳細には、典型的には、数千のイオンが測定されて、サンプルの不均質性に応じて、マス・スペクトルを生成する。参考文献[3]の連続した(またはランダムな)トラッピング・モードによれば、ELITがゼロ個のイオン、1個のイオン、または2個以上のイオンを含む確率は、実現され得る単一のイオンのELITトラッピング・イベントの最大数がちょうど37%(すなわち、37%のデューティ・サイクル)であるようにポアソン分布によって与えられる。100msの長さのトラッピング期間の間、単一のイオン・トラッピング・イベントの最適な割合は、(すなわち、信号が安定であり、単一のイオン・トラッピング・イベントの個数が、実現され得る最大値に近いとき)均一なサンプルのスペクトルが最適条件下で30分以内に取得されることができるように、ELITについての1時間あたりおよそ13,300個の単一のイオン・イベントの最大値に等しい。対照的に、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって少なくとも部分的に定められる単方向の閉じたイオン経路は、例えば、以下に詳細に説明されるように、複数のイオンのそれぞれの質量を同時に決定するために使用されてもよく、それによって、ELITと比較して、取得時間を減少させる。特に、前述したように、単方向のイオン経路は、複数のそれらのイオン間の相互の相互作用を減少させるまたはなくすので、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの空間電荷容量は、ミラー・セクション内でイオンが向きを変えるときにイオンが低速へ遅くならなければならない反射ベースのイオン・トラップと比較して、増加させられる。さらに、例えば、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップについてのイオン経路は、概して、イオンがイオン光軸に対して横方向に、例えば弧状に、広がることを可能にするので、所与のイオン経路長さについて、イオン経路の有効平均断面積、およびしたがってその体積は、ELITについてよりも、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップについて大きい。したがって、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、イオンの運動エネルギーが比較的一定である間に、相対的により多いイオンで、例えば、ELITと比較して1桁または複数桁多いイオンで満たされることが可能である。さらに、参考文献[2]および[3]のELITの双方向または往復のイオン経路は、例えば、2つ以上のイオンがトラップされた場合、重複する信号が帯電した管において誘起され、それによって質量決定を妨げる結果となった。対照的に、単方向のイオン経路は、2つ以上のイオンによって誘導電荷検出器に誘起される重複する信号の可能性が減少させられることを意味する。概して、部分的に重複する誘起信号は、周波数ドメイン内で分離され得るが、例えば、位相コヒーレント・イオン、オーバテイク・イオン、または反対方向に移動するイオンによる完全に重複する誘起信号は、質量決定を除外し得ることを理解されたい。したがって、位相コヒーレント・イオンを回避するために、イオン・パケットまたはクラウドは、単方向経路が反対方向の移動をなくす間、回避されることが好ましい。特に、以下に説明されるように、より詳細には、複数のイオンが、相互に空間的におよび/または時間的に分離されるように導入されてもよく、それによって、誘導電荷検出器に誘起される重複する信号の可能性を減少させるまたはなくす。かくして、ELITに関して、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ内のイオンの個数を10だけでも増加させることによって、およびデューティ・サイクルが37%だけに限定されないので、同じマス・スペクトルが、代わりに、1分未満で取得されることが可能である。
【0017】
概して、分析器の入口と出口の間のイオンの伝達に係るイオン・光の記述は、伝達行列として、またはレイ・トレーシングによって表されることが可能である。曲線座標系(x,y,z)は、光軸上にその原点を有し、それに沿ってzを有するように定義され得る。等しい質量のイオンについては、そのような伝達行列は、
【0018】
【数1】
のように表されることが可能であり、ただし、時間は関心のものであり、式中、XおよびAは、z軸に対しての特定のイオンの位置(典型的には、横方向偏差x、yに分解される)および傾斜角(典型的には、角度偏差α、βに分解される)をそれぞれ記述しており、δK=(K/(K
0-1))およびδT=(T/(T
0-1))は、それぞれ、相対的なエネルギーおよび時間の偏差であり、インデックスiおよびi+1は、それぞれ、入口および出口におけるこれらの量を示す。KおよびK
0は、それぞれ、参照イオンおよび特定のイオンのエネルギーであり、一方、TおよびT
0は、それぞれ、参照イオンおよび特定のイオンが分析器に入るまたは分析器から去るときの時間である。(X|X)および(A|A)は、倍率項を表し、一方、(X|A)および(A|X)は、集束項を表す。これらの項をそれぞれゼロに等しくすることで、平行と点、点と平行、点と点、および平行と平行のイオン光学を提供する。(X|δK)、(A|δK)、および(δT|δK)は、エネルギー偏差に関して、分散項を表す。代替として、伝達行列は、例えば、横方向偏差x、y、角度偏差α、β、および/または質量偏差γの観点で代わりに表されてもよい。
【0019】
関心の用途について、イオンは、低輝度光源から生じ、比較的低いエネルギー(すなわち、低エネルギー・イオン)を有するが、比較的大きいエネルギーの広がりδKを有する。
【0020】
(δT|δK)=0の場合、同じ質量対電荷比m/zを有するが、異なるエネルギーを有するイオンが、同じ時間に分析器を通って移動する。そのような分析器は、エネルギー等時性である。一例では、|(δT|δK)|≦0.1、好ましくは|(δT|δK)|≦0.05、より好ましくは|(δT|δK)|≦0.01である。すなわち、分析器は、準エネルギー等時性であり得、それによって、ジオメトリの公差を緩和しつつ比較的大きいターン数をさらに可能にする。(δT|X)、(δT|A)、(X|δK)、および/または(A|δK)の範囲は、同様に定められることが可能である。
【0021】
焦点面は、角度分布を有する光軸から送られるイオンが分析器を通過した後に焦点へ運ばれる位置であることを理解されたい。一次元xでは、これは、(x|a)=0として収差の理論標記で数学的に表される。焦点面において(x|a)=(y|b)=0である場合、分析器は、無収差的に挙動する(すなわち、無収差である)。
【0022】
より概して、同じ質量対電荷比m/zを有するが、異なるエネルギーおよび入口で異なる傾斜角を有するイオンは、(X|A)=(A|X)=(A|δK)=0の場合、エネルギーおよび傾斜の入口角から独立して、出口を通って移動する。そのような分析器は、無収差およびアクロマティック・フォーカシングであり、軌道は、ミラー対称である。一例では、|(X|A)|、|(A|X)|、および/または|(A|δK)|≦0.1、好ましくは|(X|A)|、|(A|X)|、および/または|(A|δK)|≦0.05、より好ましくは|(X|A)|、|(A|X)|、および/または|(A|δK)|≦0.01である。すなわち、分析器は、準無収差および/または準アクロマティックであり得、それによって、ジオメトリの公差を緩和しつつ比較的大きいターン数をさらに可能にする。
【0023】
概して、アクロマティック・システムは、横座標についての伝達行列要素が運動量に依存しないものである。概して、等時性システムは、システムを通る軌道の経過時間は、初期座標に依存しないものである。一次アクロマティック・システムは、純粋な運動量依存性を除いて、やはり等時性であることがよく知られている。逆も真である。この結果は、より高次へ拡張される。条件は、クロマティック項がある次数まで全て消えるシステムについて、経過時間は、同じ次数まで横座標から独立しているように見出されることが可能である。同じ条件下で、逆も真である。
【0024】
しかしながら、(X|A)=(A|X)=0の空間的フォーカシング要件は、ターンごとに特定のイオンについて同一のイオン軌道を必要とする。関心の用途については、空間的フォーカシングの要件は、特定のイオンが位相空間内で安定して移動することだけを要求することによって、したがって、
-2≦(X|X)+(A|A)≦2
を必要とすることによって、緩和される可能性がある。
【0025】
このようにして、特定のイオンは、異なるターン中に異なる軌道上で移動することができる。この緩和は、例えば、設計自由度を増加させるおよび/または構築誤差を許容することもでき、一方、代替としておよび/またはさらに、例えば、イオン注入から生じる空間偏差および/または角度偏差に適応する。
【0026】
逆に、完全な空間的および時間的フォーカシングは、ターン数が増加するとき、全てのターンで特定のイオンを同じ位置および同じ傾斜角に戻すことによって、イオン・ビームの発散および質量分解能の劣化をなくす。そのような完全な空間的および時間的フォーカシングを有するTOF MS分析器のジオメトリが提案されており(MULTUM、MULTUM II、および8の平面図)、以下により詳細に説明されるように、一部は[15]を参照して構築されており、[15]は全体が本願明細書に援用される。
【0027】
一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、第1の静電セクタおよび第2の静電セクタを含む一組の静電セクタを備える。第1の静電セクタおよび第2の静電セクタは、例えば、フィールド・フリー領域(ドリフト空間としても知られている)によって相互に間隔をおいて配置され、イオン経路によって横断されることを理解されたい。誘導電荷検出器は、フィールド・フリー領域内に配設されることを理解されたい。誘導電荷検出器は、電場中に配設されてもよいが、電源からのノイズの直接容量結合は、検出を制限する。一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、第1の静電セクタおよび第2の静電セクタを含む一組の静電セクタと、Q個の四重極レンズを含む一組の静電四重極レンズとを備え、例えば、Qは1以上の自然数であり、Qは静電セクタの量の4倍または6倍である。概して、四重極レンズは、一座標方向に合焦し、相互に直交する座標方向に脱焦する。したがって、単一の四重極レンズは、例えばイオン・ビームを点に集束するのにまたは2次元イメージを生成するのに使用されることができない。しかしながら、2次元のフォーカシングは、2つの四重極レンズ(ダブレット)、および3つの四重極レンズ(トリプレット)などの四重極レンズの組合せを用いて成し遂げられることが可能である。例えば、2つの四重極レンズ・ダブレットは、静電セクタの入口および出口にそれぞれ対応して配置されてもよい。一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、一組の静電四重極レンズ、および/またはRF電気レンズを備えず、それによって複雑さを減少させる。静電セクタは、2つの相互に直交する次元に対応する曲率半径を有する半径方向に相互に間隔をおいて配置された2つの対応する電極を備え、対応するおよび対向した直流電気ポテンシャルがそこに印加され、それによってそこを通るイオン光軸を定めるトロイダル電場を提供し、好ましくは、イオン光軸(すなわち、中央軌道)上の電気ポテンシャルは、フィールド・フリー領域内の電気ポテンシャル、例えば接地と同じであることを理解されたい。静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、そこに電気的に結合された一組の電源、例えば直流電源を備えることを理解されたい。
【0028】
さらにおよび/または代替として、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、第1のセルおよび第2のセルを含む一組のセル(ユニットまたは要素としても知られている)によって定められることが可能であり、第1のセルは、一組のドリフト空間を備え、一組の静電セクタは、第1の静電セクタ、および適宜、一組の四重極レンズを含む。第2のセルは、第1のセルに関して説明されるようなものであり得ることを理解されたい。セルの対称ジオメトリは、より容易に理解されるが、原理は、非対称ジオメトリ・セルへ及ぶ。4つのセルによって定められた静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、参考文献[15]のMULTUMおよびMULTUM IIなどの2つのセルの二重対称ジオメトリであると考えられ得る。一見すると、参考文献[15]の8のジオメトリの平面図は、2つのセルによって定められるように思われるが、完全なフォーカシングは、2ターン後に達成され、したがって、8のジオメトリのこの平面図は、4つのセルによっても定められる。
【0029】
一例では、第1の静電セクタは、円筒形静電セクタ、トロイダル静電セクタ、または球形静電セクタを備える、および/あるいは円筒形静電セクタ、トロイダル静電セクタ、または球形静電セクタである。円筒形静電セクタは、最も単純なジオメトリを与え、一次元だけで単一の曲率半径を有効に有する(相互に直交する次元の第2の曲率半径は無限である)が、その直交する次元、例えばy方向にイオンを閉じ込めず、かくして、概して、前記y方向(曲線座標)に電場を閉じ込めることを必要とする。円筒形静電セクタは、概して、静電四重極レンズと一緒に使用される。参考文献[15]のMULTUMおよび8のジオメトリの平面図は、4つおよび2つの円筒形静電セクタをそれぞれ備え、それぞれは、8つの静電四重極レンズと一緒にある。トロイダル静電セクタは、2つの相互に直交する次元に2つの異なる曲率半径を有し、その比は、有効化のために定められなければならず、静電四重極レンズが必要とされなくてもよいように、イオンを両次元に閉じ込めることができる。トロイダル静電セクタは、2つの異なる曲率半径を有するので、その構築は、比較的より複雑である。参考文献[15]のMULTUM II、および参考文献[16]の長斜方形ジオメトリは、4つのトロイダル静電セクタをそれぞれ備え、静電四重極レンズを必要としない。球形静電セクタは、同じである2つの曲率半径を有するトロイダル静電セクタの特別な場合であり、静電四重極レンズが必要とされなくてもよいようにイオンを両次元に閉じ込めることができる。参考文献[4]の8のジオメトリの図は、2つの球形静電セクタを備え、静電四重極レンズを必要としない。したがって、球形静電セクタ上のセルを基礎にすることによって、イオン光学部品の個数は、円筒形静電セクタまたはトロイダル・セクタに基づくセルと比較して減少させられることが可能である。
【0030】
一例では、第1の静電セクタは、45.0°よりも大きい、好ましくは少なくとも60.0°の、例えば60.0°超から270.0°の範囲内の、好ましくは90.0°から240.0°の範囲内の偏向角度ψ0を有する。一例では、第2の静電セクタは、第1の静電セクタを参照して説明されるようなものであり、例えば、同じまたは異なる偏向角度ψ0を有する。一例では、一組の静電セクタの各静電セクタは、同じ偏向角度ψ0を有する。このようにして、複雑さは、減少させられ、および/または対称性は増加させられる。一例では、一組の静電セクタの代替の静電セクタは、同じそれぞれの偏向角度ψ0を有する。
【0031】
一例では、一組の静電セクタは、360.0°よりも大きい、好ましくは少なくとも390.0°、例えば、360.0°超から720.0°の範囲内に、好ましくは390.0°から660.0°の範囲内に合計偏向角度ψ0を有する。すなわち、イオン経路は、クロスオーバを含む。
【0032】
一例では、一組の静電セクタは、8個の45°トロイダル静電セクタのリングを備えないまたはからならない。
一例では、第1の静電セクタおよび第2の静電セクタは、例えば直接、斜めにおよび/または直径方向に、相互に対向しており、イオン経路および/またはイオン光軸は、第1の静電セクタの出口と第2の静電セクタの入口との間でリニアである。一例では、第1の静電セクタの出口と第2の静電セクタの入口との間のイオン経路および/またはイオン光軸は、フィールド・フリー領域内である。すなわち、例えば、第1の静電セクタの出口と第2の静電セクタの入口との間のイオン経路および/またはイオン光軸は、四重極レンズを含まない。
【0033】
一例では、一組の静電セクタは、第1の静電セクタ、および第2の静電セクタだけを含み、好ましくは第1の静電セクタおよび第2の静電セクタは、公称199.2°、例えば、198.2°から200.2°までの範囲内、好ましくは198.7°から199.7°までの範囲内、より好ましくは199.0°から199.4°までの範囲内、例えば199.2°の偏向角度ψ0を有する半径rの球形静電セクタであり、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、(例えば、2%以内、好ましくは1%以内の)公称5.9rの長さgrの4つのフィールド・フリー領域を備え、それにより参考文献[4]による8のジオメトリの立体図を提供する。
【0034】
一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、第1のフィールド・フリー領域および第2のフィールド・フリー領域を含む一組の(ドリフト領域としても知られている)フィールド・フリー領域を備える。一例では、一組のフィールド・フリー領域を通るイオン経路の長さは、イオン経路の全長の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも65%である。このようにして、誘導電荷検出器は、イオン経路の約50%に沿って延びるように一組のフィールド・フリー領域内に配置されることが可能であり、それによって測定デューティ・サイクルを増加させる。
【0035】
一例では、第1の静電セクタは、第1の静電セクタによるフィールドを画定するように配置された第1のシャントを含む一組のシャントを備える。このようにして、第1の静電セクタによる端縁場は、制御されることが可能であり、および/または誘導電荷検出器は、それによりフィールドからシールドされる。例えば、シャントは、誘導電荷検出器に結合されたノイズを数桁まで減衰させることができる。例えば、第1の静電セクタに電気的に結合された100V電源は、<1mV RMSノイズを示し得る。シャントを使用して、このノイズは、約1μV RMSまで減衰されることが可能であり、したがって典型的には0.6μV/電荷の感度の有る適切な電荷感度増幅器と適合している。
【0036】
一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ(すなわち、その挙動)は、例えば、1ターン後におよび/または整数のターン後に、上述したように、例えばエネルギーに関して一次まで等時性である(すなわち、エネルギー等時性)。このようにして、質量対電荷比m/zの不確かさは、参考文献[3]のELITなどのELITと比較して減少させられる。そのような静電セクタ・フィールド・イオン・トラップについての例示ジオメトリは、参考文献[4]の8の図、参考文献[15]のMULTUM、MULTUM II、および8の平面図、ならびに参考文献[16]の長斜方形を含む。他のジオメトリが知られている。一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、エネルギーに関して一次まで等時性であり、二次まで残留を、例えば、二次までパラボリックな残留を有する。このようにして、イオンのエネルギーΔEの小さい分散による質量対電荷比m/zの不確かさは、さらに減少させられる。二次の空間的な収差により、軌道を巡る間にイオンが摂動する結果となり、これは、例えば、円筒形セクタおよび/またはトロイダル静電セクタに基づいて静電セクタ・フィールド・イオン・トラップにおける摂動から生じるイオン損失を防ぐために、制限電場を使用して制御されることが可能であり、あるいは、例えば、球形静電セクタに基づいて静電セクタ・フィールド・イオン・トラップが可能にされ得る。
【0037】
一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、2つまたは3つの相互に直交する次元にイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている。例えば、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、x、z次元になどの2つの相互に直交する次元にイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されていることが可能であり、平面静電セクタ・フィールド・イオン・トラップと呼ばれ得、イオン光軸が平面を定める。位置、傾斜角、および/またはエネルギーの偏差は、例えば位相空間内で、イオン・ビームがそれを横断する分布によって表され得るように、イオンをイオン光軸から離れさせることを理解されたい。例示の平面静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、参考文献[15]のMULTUM、MULTUM II、および8の平面、ならびに参考文献[16]の長斜方形を含む。そのような平面静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの構築は、単純化されることが可能であり、必要に応じて四重極レンズを含む円筒形静電セクタ、トロイダル静電セクタ、および/または球形静電セクタに基づくことができる。
【0038】
一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって定められたイオン経路は、クロスオーバまたは点集束、例えば、参考文献[15]のMULTUM、MULTUM II、および8の平面図、ならびに参考文献[4]の8の図を含む。このようにして、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、エネルギーに関して等時性であり得、一方、イオン経路の長さは、例えば、リングと比較して、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの所与の周辺またはエリアについて増加した。
【0039】
<誘導電荷検出器>
CDMSは、誘導電荷検出器を備え、イオン経路は、誘導電荷検出器を経由して(すなわち、通じて)定められる。言い換えれば、誘導電荷検出器は、イオン経路を少なくとも一部を囲むまたは取り囲む。
【0040】
概して、イオンが誘導電荷検出器を通って移動するとき、イオンは電荷を誘起し、この電荷は電荷感度増幅器によって検出され、電荷感度増幅器は信号を出力する。誘導電荷検出器は、電荷感度増幅器と、プロセッサおよびメモリを備えるコンピュータに通信可能に結合可能であるまたは結合された適宜のデジタイザと、を備え、イオンの質量は、例えば、フーリエ変換(FT)または高速フーリエ変換(FFT)を使用したフーリエ解析、最小二乗、フィルタ対角化法(FDM)、および/あるいは最大尤度法などによって信号を使用して決定されることが可能であることを理解されたい。一例では、信号は、時間ドメイン信号を備える、および/または時間ドメイン信号であり、時間ドメイン信号は、解析のために増幅および/またはデジタル化されることが可能である。FFTの使用は、例えば、時間ドメイン内でノイズを上回らない電荷の検出を可能にし、LODを<7e(電気素量)へ下げる。質量対電荷比m/zは、
【0041】
【数2】
の関係により、基本周波数fの正方に反比例し、式中、Cは、イオン・エネルギーおよび静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの寸法の関数である定数である。典型的には、Cは、イオン軌道シミュレーションから、または知られている種を使用してデバイスの較正によって決定される。イオンの電荷zは、(イオン・サイクル数、またはトラッピング時間が考慮に入れられるとき)FFTの大きさに、より一般には、FTの大きさに比例する。したがって、質量対電荷比m/z、およびイオンの電荷zを決定することによって、イオンの質量mは、乗算によって自明に算出されることが可能である。
【0042】
一例では、誘導電荷検出器は、第1の電荷検出管を含む第1の組の電荷検出管を備える。例えば、電荷検出管は、フィールド・フリー領域の1つまたは複数に、例えばフィールド・フリー領域の全部に配設されることが可能である。例えば、第1の組の電荷検出管は、複数の電荷検出管を含むセグメント化された電荷検出管を備えてもよく、および/または複数の電荷検出管を含むセグメント化された電荷検出管であってもよい。一例では、誘導電荷検出器は、第1の組の電荷検出管を含むCセットの電荷検出管を備え、Cは、1以上の自然数、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上であり、例えば、Cは、フィールド・フリー領域の個数に等しい。このようにして、誘導電荷検出のデューティ・サイクルは、増加させられることが可能である。一例では、第1の組の電荷検出管は、セグメント化された電荷検出管、例えば、軸方向におよび/または半径方向にセグメント化された電荷検出管を備える、ならびに/あるいはセグメント化された電荷検出管、例えば、軸方向におよび/または半径方向にセグメント化された電荷検出管である。セグメントが直列またはタンデムであるように電荷検出管を軸方向にセグメント化することによって、イオンがそこを通って移動することによって、信号が連続的にセグメントごとに誘起され得る。例えば、以下に説明されるように、セグメントの幅の約2倍を超えてセグメントの長さを増加させることは、誘起信号の大きさを実質的に増加させず、一方、複数のセグメントおよびしたがって誘起信号は、測定統計を改善する。セグメントが平行であるように、電荷検出管を半径方向にセグメント化することによって、2つのイオンは、z次元(曲線座標)に実質的に同時に起こるが、x次元および/またはy次元に相互に分離され、異なる半径方向セグメントに信号を誘起することができ、それによって2つのイオンによる信号重複の可能性を減少させ、さもなければ電荷が検出された管を通じて一緒に移動する。このようにして、CDMSのイオン容量は、増加させられることが可能である。一例では、誘導電荷検出器の内部断面、例えば形状は、例えば、そこを通るイオン経路の断面、例えば形状に対応する、例えば、それに類似する。例えば、円筒形の内腔を有する電荷検出管は、概して円筒形のイオン経路に適しているが、第1の電荷検出管は、例えば、静電四重極レンズに入るおよび/またはから出て行く円錐台形のイオン経路に対応する先細りの内腔を有するように、あるいは環状部または先細りの環状部を球形静電セクタに入るおよび/またはから出て行くイオン経路に与えるようになされ得る。一例では、第1の電荷検出管は、外側電極および内側電極を備え、それによってそこを通る環状部または先細りの環状部をイオン経路に与え、適宜、それらの間に1つまたは複数の支持体を備え、例えば、それらとのイオン衝突の可能性を減少させるように配設され、および/またはそれらとのイオン衝突の可能性を減少させるようになされた断面を有する。
【0043】
一例では、長さLおよび幅Wを有する第1の電荷検出管は、3:2から8:2までの範囲内、好ましくは3:2から5:2までの範囲内、例えば2:1の長さL対幅Wの比、および/または少なくとも2:1の長さL対幅Wの比を有する。特に、誘起信号の大きさは、第1の電荷検出管をその幅に対してさらに長くすることによって、実質的に増加しない。
【0044】
一例では、誘導電荷検出器経由のイオン経路の一部は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって定められたイオン経路の30%から70%までの範囲内、好ましくは40%から60%までの範囲内、例えば50%である。このようにして、例えばFTによって解析されるようなイオンの時間ドメイン信号中の信号処理アーチファクトなどのアーチファクトは、減少させられる。特に、誘導電荷検出器経由のイオン経路の一部が、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって定められたイオン経路の約50%である場合、FTによる時間ドメイン信号を解析するときの偶数次高調波は、減少させられるまたはなくされることが可能である。理想的な50%デューティ・サイクルの方形波は、そのFFTにおいて偶数次高調波を有さず、高調波がより少ないことで、より大きい大きさを有する基本ピークという結果になる。基本ピークの大きさは、イオンの電荷に比例するので、大きさの増大は、基本ピークの信号対ノイズ比を増加させることにより、電荷の不確かさを減少させ得る。
【0045】
一例では、CDMSは、例えばそれを横断するイオン経路を第1の次元に少なくとも部分的に制限するように配置された第1の静電焦点レンズを含む一組の静電集束レンズを備える。言い換えれば、イオン経路は、例えば一軸的に圧縮され得る。一例では、一組の静電集束レンズは、例えばそれを横断する第2の次元に、イオン経路を少なくとも部分的に制限するように配置され、第1の次元および第2の次元は、相互に直交である。言い換えれば、イオン経路は、例えば二軸的に圧縮され得る。このようにして、CDMSの構築は、もしあれば、一組の静電集束レンズにより生じる空間的な収差があまり大きくない間に、単純化され得る。さらにおよび/または代替として、イオン経路を制限することによって、誘導電荷検出器の内側寸法、例えば内径は、イオン経路の断面積が減少させられるので減少させられ得、それによってその立上がり時間を改善する。一例では、第1の次元は、誘導電荷検出器経由のイオン経路の方向に直交する。一例では、第1の焦点レンズは、円柱レンズ、アインツェル・レンズ、および/またはプレート・レンズを備え、ならびに/あるいは円柱レンズ、アインツェル・レンズ、および/またはプレート・レンズであり、例えば、イオン経路におけるクロスオーバにわたって配設される。このようにして、クロスオーバについての対称性は、維持されることが可能であり、一方、ジオメトリは単純化される。例えば、アインツェル・レンズは、少なくとも回転対称を維持することができる。一例では、一組の静電集束レンズは、例えばそれを横断するイオン経路を第2の次元に少なくとも部分的に制限するように配置され、第1の次元および第2の次元は、相互に直交する。第1の焦点レンズを含む一組の静電集束レンズは、例えば、RF場および/または磁場ではなく、イオン経路を第1の次元に少なくとも部分的に制限するように配置されていることを理解されたい。
【0046】
一例では、誘導電荷検出器経由のイオン経路の断面は、-3°から+3°までの範囲内、好ましくは-2°から+2°までの範囲内、より好ましくは-1°から+1°までの範囲内の中心角を有する弧状である。このようなイオン・ビームは、比較的狭い弧へ閉じ込められ、イオン経路の断面積が減少させられるので、それによって誘導電荷検出器の内側寸法、例えば、内径は、減少させられることが可能であり、それによってその立上がり時間を改善する。
【0047】
一例では、誘導電荷検出器は、接地ポテンシャルで動作するように構成されている。このようにして、そのノイズ・レベルは減少させられ、それによってとても低い誘起信号の検出を可能にする。
【0048】
<イオン導入>
一例では、CDMSは、イオンをイオン経路の中に導入する手段を備える。一例では、イオンの導入は、例えば、[14]に説明されるように偏向電極などを使用して、x方向および/またはy方向(曲線座標)の切り換えられたイオンの変位によって、フィールド・フリー領域を介している。一例では、イオンの導入は、例えば、[13]に説明されるように、第1の静電セクタを、例えば第1の静電セクタだけを切り換えることによって、あるいは一組の静電セクタを、例えば静電セクタの2つ以上または全部を切り換えることによって、必要な変更を加えて、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップを介している。第1の静電セクタだけを切り換えることによって、それによって残りの静電セクタをそのそれぞれの動作ポテンシャルで動作させる。イオンは、第1の静電セクタがそのそれぞれの動作ポテンシャルへ戻すように切り換えられると、導入される第1のイオンが第1の静電セクタに近位に到達するまで、イオン経路を満たすようにイオン経路の中に連続的に導入されることが可能である。例えば、8のジオメトリの図について、イオンは、8の図の上3/4について満たすように導入され得る。逆に、一組の静電セクタの全ての静電セクタを切り換えることによって、制御は単純化され、一方、必要とされる電源の個数は、減少させられる。一例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ、例えば、第1の静電セクタは、イオンをイオン経路の中へと導入するためのイオン入口を備える。一例では、イオン入口は、第1の静電セクタの外側電極を通る通路を備える、および/または第1の静電セクタの外側電極を通る通路であろう。
【0049】
<エネルギー・フィルタ>
一例では、CDMSは、前述されたように、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ、例えば、デュアルHDAに入るイオン・エネルギーの広がりを制限するためのエネルギー・フィルタを備えない。参考文献[2]および[3]のコーン・トラップおよびELITとは対照的に、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップのCDMSは、イオン・エネルギーの広がり、ならびに/あるいは半径方向および/または角度位置のイオンの偏差に対して比較的幅広い公差を有し、一方、個の比較的幅広い公差の外側のイオン、例えば、高エネルギーまたは軸ずれのイオンは、不安定であり、かくして、他のイオンの質量決定に悪影響を及ぼすことなく、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの壁と迅速に衝突する。一例では、CDMSは、0.40%、好ましくは少なくとも0.5%、より好ましくは少なくとも1%、最も好ましくは少なくとも2%、3%、または4%よりも大きいエネルギー受入れを有する。一例では、CDMSは、高くても20%、好ましくは高くても15%、より好ましくは高くても10%のエネルギー受入れを有する。
【0050】
<リフト・デバイス>
一例では、CDMSは、イオン経路の中に導入されることになるイオンのイオン・エネルギーを増加させるように構成されたリフト・デバイスを備える。一例では、リフト・デバイスは、イオン経路の中に導入されることになるイオンをトラップするように構成されている。このようにして、イオンは、複数のイオンが移動し、そのあたりで同時に概して相互に空間的におよび/または時間的に分離されるように、例えば、そこに導入される複数のイオンを相互に空間的におよび/または時間的に分離するために、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの中への導入のためにゲート制御されることが可能である。一例では、リフト・デバイスは、イオン経路の中に導入されることになるイオンをコリメートするように構成され、それによって相互に空間的に分離させられたイオンのペンシルを提供する。一例では、リフト・デバイスは、複数P個のイオン(すなわち、イオンの集団)を導入するように構成されており、Pは、1より大きい自然数であり、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100以上のイオンであり、好ましくは、Pは、少なくとも4であり、より好ましくは、Pは、少なくとも10、10、20、50、100以上のイオンである。Pは、導入されるイオンの平均数であり、典型的には、イオン数は、ポアソン分布を有し、イオンは、相互に空間的にランダムに分離され、それによってイオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散的な初期位置を採用し、すなわち、複数のイオンが移動し、そのあたりで同時に概して相互に空間的におよび/または時間的に分離されるように、相互に空間的におよび/または時間的に分離されることを理解されたい。高強度の限界において、磁気セクタ上のように、イオン・ビームは、ビームに沿った直線距離あたり多くのイオンを含む。スケール他端では、イオンは、ポアソン分布に従って個々に注入される(しかし、空間電荷の考慮事項はさておき、イオンはその挙動において未だにビームである)。一例では、リフト・デバイスは、イオンをイオン経路の中にパルスで送ることによってイオンをイオン経路の中に導入するように構成されている。より概して、一例では、CDMSは、リフト・デバイスを参照して概して説明されるように、イオンをイオン経路に中に導入する手段を備えるが、適宜、イオン・エネルギーを増加させる。一例では、イオンをイオン経路の中に導入する手段は、複数P(すなわち、集団)のイオンをイオン経路の中に導入する手段を備え、Pは、1よりも大きい自然数であり、複数のイオンは、複数のイオンが移動し、そのあたりで同時に概して相互に空間的におよび/または時間的に分離されるように、イオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散的な初期位置をそれぞれ採用する。すなわち、典型的には、従来の質量対電荷分析器、例えば、四重極分析器、飛行時間型分析器、またはイオン・トラップ分析器、例えば、3次元の四重極イオン・トラップ、円筒形のイオン・トラップ、リニア四重極イオン・トラップ、またはオービトラップの中に導入するために集束されるときに、イオン、例えば複数のイオンは、空間的におよび/または時間的に集束されない。言い換えれば、イオンを集束させるための努力はなされない。むしろ、イオンの無秩序の集団が、イオン経路の中に導入され、例えば、気体セル内のイオンを熱運動化することによって与えられるようになっており、これにより、フォーカシングすることなく、イオンのエネルギー分布を減少させる。イオン経路の中に導入する前に、これらのイオンがトラップされる場合、および/または(例えば、リフト・デバイスを使用して)イオンのそれぞれのエネルギーが増加させられる場合、イオンは、イオン経路の中に導入時に空間的におよび/または時間的にイオンの無秩序および/または無相関を実質的に維持するポテンシャル勾配を加えることによって、イオン経路の中に導入されることが可能である。
【0051】
<電源>
一例では、CDMSは、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップに電気的に結合された第1の電源を含む一組の電源、例えば直流電源を備える。一例では、一組の電源は、一組の静電セクタの内側電極および外側電極に電気的にそれぞれ結合された第1の電源および第2の電源を備える。一例では、CDMSは、第1の焦点レンズを含む一組の静電集束レンズを備え、一組の電源は、一組の静電集束レンズ、例えば第1の焦点レンズに電気的に結合された第3の電源を含む。
【0052】
<イオン源>
一例では、CDMSは、イオン源、例えば、大気圧イオン化(API;Atmospheric Pressure Ionisation)源、例えば、エレクトロスプレ・イオン化(ESI:ElectroSpray Ionisation)源、またはナノ・スプレ・イオン化源を備える。他のイオン源が知られている。
【0053】
<磁石>
一例では、CDMSは、磁気デフレクタまたはセクタを備えない。すなわち、CMSは、静電セクタだけを備えてもよく、適宜、本明細書中で説明されるように、静電四重極レンズおよび/または電気レンズを備えることができる。
【0054】
<イオン処理>
一例では、CDMSは、イオン処理のために静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの上流および/または下流に1つまたは複数のデバイスを備える、例えば、試薬イオンまたは前駆体イオンと一緒にトラップされた試薬イオンなどの外部から注入される粒子を使用したイオンの活性化、(例えば、正確に注入された)電子との相互作用、好ましくは(例えば、高速電子を含むエネルギー荷電粒子を使用した)電子離脱によるイオンの質量対電荷の比の操作、陽子付加または電荷減少は、基底状態または励起状態におけるイオンと(例えば、外部から注入された)中性分子との間の相互作用、光子との相互作用、補助交流波形またはRFトラッピング波形のデューティ・サイクルのばらつきを使用したイオン運動の励起、交流波形またはデューティ・サイクル制御を使用したイオン分離、衝突活性解離、イオン蓄積および伝達を処理する。処理は、同時にまたは順次的に実行される上記機能の1つまたは複数を伴うことができる。
【0055】
<真空システム>
一例では、CDMSは、例えば、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップおよび誘導電荷検出器を内部に格納するチャンバと、真空ポンプと、コントローラとを含む真空システムを備える。一例では、チャンバは、例えば、高くても1.3x10-7Pa(1x10-8Torr)、好ましくは高くても6.7x10-7Pa(5x10-9Torr)、より好ましくは高くても2.7x10-7Pa(2x10-9Torr)、またはもっと良い真空を有する差動排気式チャンバである。
【0056】
<質量分析計>
一例では、CDMSは、独立型のCDMSを備える、および/または独立型のCDMSである。逆に、一例では、CDMSは、質量分析計に含まれ、例えば、その中に一体に含まれ(すなわち、最初から)、またはアップグレードまたは改造として含まれる。
【0057】
<好ましい例>
好ましい一例では、電荷検出質量分析計(CDMS)は、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップと、誘導電荷検出器と、を備え、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、誘導電荷検出器経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成され、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、第1の静電セクタおよび第2の静電セクタを含む一組の静電セクタを備え、第1の静電セクタおよび第2の静電セクタは、イオン経路によって横断されるフィールド・フリー領域によって相互に間隔をおいて配置され、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、周期構造であり、イオンが閉じたイオン経路伝いに例えば整数または非整数のターンを繰り返されるように閉じたイオン経路を少なくとも部分的に定め、
CDMSは、複数Pのイオンをイオン経路の中に導入する手段を備え、Pは、1よりも大きい自然数であり、複数のイオンは、複数のイオンが移動し、そのあたりで同時に概して相互に空間的におよび/または時間的に分離されるように、イオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散的な初期位置をそれぞれ採用する。
【0058】
<方法>
第2の態様は、
静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって、少なくとも部分的に定められたイオン経路伝いにイオンを移動させる工程であって、それによって誘導電荷検出器を経由させる、工程と、
イオンを移動させる工程によって、誘導電荷検出器内に信号を誘起させる工程と、
誘起信号を使用してイオンの質量を決定する工程と、
を備える、イオンの質量を決定する方法を提供する。
【0059】
イオン、イオン経路、誘導電荷検出器、および/または静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、第1の態様を参照して説明されるようなものであり得る。一例では、第2の態様による方法は、第1の態様によるCDMSを使用して実行される。
【0060】
一例では、方法は、第1の態様を参照して説明されるように、例えばイオン源を使用して、イオンを提供する工程を備える。一例では、方法は、第1の態様を参照して説明されるように、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの上流および/または下流でイオンを処理する工程を備える。一例では、方法は、例えば[14]に説明されたような偏向電極などを使用しておよび/または[13]に説明されたような第1の静電セクタ内のイオン入口を介して、例えばx方向および/またはy方向(曲線座標)にイオンを変位させることによって、例えばフィールド・フリー領域を介して、イオンをイオン経路の中に導入する工程を備え、例えば、イオン入口は、第1の静電セクタの外側電極を通る通路を備える、および/または第1の静電セクタの外側電極を通る通路である。一例では、イオン入口を介してイオンをイオン経路の中に導入する工程は、第1の静電セクタに印加された電気ポテンシャルを制御する工程と、例えば、イオンを導入している間に接地電気ポテンシャルなどの第1の電気ポテンシャルで第1の静電セクタを保持する工程と、イオンをイオン経路の中に導入した後に、動作用電気ポテンシャルなどの第2の電気ポテンシャルを第1の静電セクタへ印加する工程とを備える。言い換えれば、第1の静電セクタは、例えば、イオン注入中に接地されてもよく、続いて、印加された電気ポテンシャルは、(イオンの極性に応じて)上げられる(または下げられる)。一例では、イオン入口を介してイオンをイオン経路の中に導入する工程は、第2の静電セクタへ印加された電気ポテンシャルを制御する工程を備え、例えば、イオンを導入する間に、第2の電気ポテンシャルを第2の静電セクタへ印加する。言い換えれば、第2の静電セクタへ印加される電気ポテンシャルは、イオン注入中、維持され得る。一例では、イオンをイオン経路の中に導入する工程は、複数のイオンをイオン経路の中に導入する工程を備え、第1の態様を参照して説明されるように、複数のイオンが移動し、そのあたりで同時に概して相互に空間的におよび/または時間的に分離されるように、イオンは、相互に空間的におよび/または時間的に分離される。一例では、複数のイオンは、第1の態様を参照して説明されるように、Pイオンを含む。すなわち、TOF MSとは対照的に、複数のイオンは、パケットでないが、代わりに別個である。典型的にはプッシャによって与えられるようなおよび/または空間的に集束されるようなパケットにされたイオン(束にされたまたはそのクラウドとしても知られている)は、TOF測定における不確かさを減少させるためにTOF MSが必要とされる。相互に空間的におよび/または時間的に複数のイオンを分離することによって、複数のイオンの各々の個々のイオンの質量が、決定され得る。かくして、特に、イオンのそれぞれの信号は、イオン経路が双方向または往復以外の単方向であるので、複数ターン後でも、同じ質量対電荷比m/zの場合でも、重複しそうにない。イオン経路が8のジオメトリの図におけるようなクロスオーバを備える場合でも、クロスオーバの近位の複数のイオンのうちの2つのイオン間の相互の相互作用は、これらのイオンがイオン経路伝いに一定の速度で移動している間もありそうにない。対照的に、複数のイオンのリニア反射が、イオンが相互に対向している反射器間で誘導電荷検出器を通じて双方向または往復で移動するときに、それぞれの信号の重複という結果になるので、参考文献[3]のELITなどの従来のCDMSは、単一のイオンだけの質量を決定するのに限定される。さらに、2つのイオン間の相互の相互作用は、相互に対向している反射器においてかなりのものであり得、イオンは、そこから加速の前に、静止へ減速させられる。一例では、方法は、第1の態様を参照して説明されるように、イオン経路の中に導入されることになるイオンおよび/または複数のイオンのイオン・エネルギーを増加させる工程を備える。一例では、第1の態様を参照して説明されるように、方法は、イオン経路の中に導入されることになる複数のイオンをコリメートする工程を備える。一例では、方法は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップに入るイオン・エネルギーの広がりを制限するようにイオンおよび/または複数のイオンをエネルギー・フィルタ処理する工程を備えない。
【0061】
一例では、イオンをイオン経路伝いに移動させる工程は、イオンをイオン経路伝いに少なくとも1ターンにより、好ましくは少なくともNターンにより移動させる工程を含み、ただし、Nは、1以上の自然数、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500以上である。一例では、第1の態様を参照して説明されるように、イオンをイオン経路伝いに移動させる工程は、準エネルギー等時性的にまたは等時性的にイオンを移動させる工程を備える。一例では、イオンをイオン経路伝いに移動させる工程は、空間的におよび/または時間的にイオンを集束する工程を備える。一例では、第1の態様を参照して説明されるように、イオンをイオン経路伝いに移動させる工程は、円筒形静電セクタ、トロイダル静電セクタ、または球形静電セクタを通じてイオンを移動させる工程を備える。一例では、イオンをイオン経路伝いに移動させる工程は、360.0°よりも大きい、好ましくは少なくとも390.0°、例えば、360.0°超から720.0°の範囲内、好ましくは390.0°から660.0°までの範囲内の合計偏向角度ψ0を通じて、したがってクロスオーバを通じて、イオンを移動させる工程を備える。一例では、第1の態様を参照して説明されるように、イオンをイオン経路伝いに移動させる工程は、2次元または3次元における8のジオメトリの図を通じてイオンを移動させる工程を備える。一例では、第1の態様を参照して説明されるように、イオンをイオン経路伝いに移動させる工程は、例えばイオン経路を横断する、第1の次元にイオンを少なくとも部分的に制限する工程を備える。
【0062】
一例では、誘導電荷検出器に信号を誘起する工程は、誘導電荷検出器が接地ポテンシャルで動作している信号を誘起する工程を備える。一例では、第1の態様を参照して説明されるように、誘導電荷検出器に信号を誘起する工程は、誘導電荷検出器に備えられた第1の組の電荷検出管に一組の信号を誘起する工程を備える。
【0063】
一例では、第1の態様を参照して説明されるように、信号を使用してイオンの質量を決定する工程は、例えば、信号のフーリエ変換(FT)または高速フーリエ変換(FFT)、最小二乗、フィルタ対角化法(FDM)、および/または最大尤度法などを使用したフーリエ解析を備える。
【0064】
<定義>
明細書全体を通じて、「を備えている(comprising)」または「を備える(comprises)」という用語は、指定された構成要素を含むが、他の構成要素の存在を排除しないことを意味する。「から本質的になっている(consisting essentially of)」または「から本質的になる(consists essentially of)」という用語は、指定された構成要素を含むが、不純物として存在する物質、構成要素を提供するため使用されるプロセスの結果として存在する不可避の物質、着色剤などの本発明の技術的効果を達成すること以外の目的ために追加される構成要素などを除く他の構成要素を排除することを意味する。「からなっている(consisting of)」または「からなる(consists of)」という用語は、指定された構成要素を含むが、他の構成要素を排除することを意味する。適切ならばいつでも、文脈に応じて、「備える(comprises)」または「備えている(comprising)」という用語の使用は、「から本質的になる」または「から本質的になっている」の意味を含むようにとられることもでき、また「からなる」または「からなっている」の意味を含むようにとられることもできる。本明細書中に記載された適宜の特徴は、個々に使用されてもよく、または適切な場合には互いとの組合せで使用されてもよく、特に、添付の特許請求の範囲に記載されたような組合せで使用されてもよい。本明細書中に記載されたような本発明の各態様または例示的実施形態についての適宜の特徴は、適切な場合、本発明の全ての他の態様または例示的実施形態にやはり適用可能である。言い換えれば、本明細書を読む当業者は、本発明の各態様または例示的実施形態についての適宜の特徴を異なる態様および例示的実施形態の間で交換可能および組合せ可能とみなすはずである。
【0065】
本発明をより良く理解するために、およびその例示的実施形態がどのように実施され得るかを示すために、ほんの一例として、以下の添付図面の参照がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1B】
図1Aの従来のCDMSに基づいて従来のCDMSを概略的に示す図。
【
図2A】トロイダル・セクタ・フィールドを用いた従来の静電セクタ・フィールドを概略的に示す図。
【
図2B】トロイダル・セクタ・フィールドを用いた従来の静電セクタ・フィールドを概略的に示す図。
【
図3】端縁場を制御するためにシャントをさらに備える一例示的実施形態についての静電セクタ・フィールド・イオン・トラップを概略的に示す図。
【
図4A】一例示的実施形態によるCDMSを概略的に示す図。
【
図4B】CDMSについてのイオン軌道の軌跡の上方、側方、および端からの立面図を概略的に示す図。
【
図5A】軸方向(z)の次元にイオンを閉じ込めるために原点にレンズを含む一例示的実施形態によるCDMSを概略的に示す図。
【
図5B】CDMSについてのイオン軌道の軌跡の上方、側方、および端からの立面図を概略的に示す図。
【
図5C】CDMSのためのイオンのSIMIONシミュレーションの斜視図。
【
図5E】より詳細なCDMSの一部の破断斜視CADイメージ。
【
図5F】より詳細なCDMSの一部の分解組立斜視CADイメージ。
【
図6】従来のCDMSとの比較で、
図5Aから
図5CのCDMSについての理想(%)からのイオン・エネルギー偏差の関数としての周波数(%)の変化のグラフ。
【
図7】
図7Aおよび
図7Bは、一例示的実施形態によるCDMSについて、フーリエ変換におけるより高い高調波の強度を高めるための比較的狭い電荷検出管の利点を概略的に示す図。
【
図8】一例示的実施形態によるCDMSについて、分析器パスごとに増加したトランジェント数を与えるためのセグメント化された電荷検出管を概略的に示す。
【
図9】リフト・デバイスを備える一例示的実施形態によるCDMSを概略的に示す図。
【
図10】一例示的実施形態によるCDMSを概略的に示す図。
【
図11】一例示的実施形態によるCDMSを概略的に示す図。
【
図12】一例示的実施形態によるCDMSを概略的に示す図。
【
図13】一例示的実施形態によるCDMSを概略的に示す図。
【
図14】一例示的実施形態によるCDMSを概略的に示す図。
【
図15】一例示的実施形態による方法を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1Aは、従来のCDMS10を概略的に示し、
図1Bは、
図1Aの従来のCDMS10に基づく従来のCDMS20を概略的に示す。
より詳細には、
図1Aは、コンティノおよびジャロルド(ContinoおよびJarrold)[1]によるCDMS10を概略的に示す。CDMS10は、エレクトロスプレ源1を含み、4つの差動的にポンプされる領域(IからIV)に分割される。第1の領域Iは、イオン・ファンネル2を含み、第2および第3の領域II、IIIは、六重極イオン・ガイド3をそれぞれ含み、第4の領域IVは、集束レンズ4経由のイオンのための2つの二者択一の経路と、直交リフレクトロン飛行時間型質量分析計(TOF-MS)5またはデュアル半球たわみ分析器(HDA)6、それに続く鏡像電荷検出管を組み込むコーン・トラップ7とを提供する。コーン・トラップ7内のイオンの振動周波数は、イオンのm/zに関連しているが、イオンの運動エネルギーにも依存する。m/z決定における不確かさを減少させるために、デュアルHDA6は、コーン・トラップ7の中に導入するためのイオン運動エネルギーの狭いウィンドウを選択するために用いられた。HDA6は、2つの同心の半球電極からなり、それぞれは、180°の偏向角度ψ
0を有し、異なるポテンシャルで保持され、これにより1/r
2に比例する電場を生成する。
図1Aに示されるように、2つの半球電極は、S形のタンデム配置に置かれ、かくして、開いた(閉じた、参照)イオン経路を定め、イオン・ビームが出るときにその元の方向を維持することを可能にする。2つの半球電極へ印加される電極ポテンシャルは、どちらの運動エネルギーが通されるか、したがってどちらのイオンがフィルタ処理されるかを決定する。これらの電極ポテンシャル、さらに入口開口および出口開口の位置および直径を慎重に選ぶことで、デュアルHDA6のエネルギー分解能を改善する。コーン・トラップ7は、直径6.35mmの開口を有する95.25mm離して設けられた2つの円錐形のエンド・キャップからなり、それによって静電リニア・イオン・トラップを提供する。コーン・トラップ7に入るイオンの個数は、2つ以上のイオンをトラップする確率が小さいように十分低く維持された。電荷検出管(長さ25.4mm、内径6.35mm)は、シールドされたシリンダ内に取り付けられた絶縁体によって中心軸に沿って保持された。イオンが検出管を通過するとき、大きさが等しいが反対符号の鏡像電荷が誘起される。
【0068】
より詳細には、
図1Bは、参考文献[3]の円筒形のELITトラップ(すなわち、CDMS20)の先行技術のジオメトリを概略的に示す。このELITは、電荷検出管(C)が設けられるエンド・キャップ間のフィールド・フリー領域を作り出すために、そのそれぞれの入口において接地されたシールド・リング電極(GS)を有する2つの相互に対応した等間隔の3つの電極ミラー(E1、E2、E3)を備える。リング電極V1、V2、V3にそれぞれ印加されるポテンシャルV1、V2、V3は、平均130eV/zおよび1eV/zのFWHMのガウス・エネルギー分布を有する100個の軸方向のイオンについての最小振動周波数幅を生成するために最適化された。このELITは、CDMS10のコーン・トラップ7と比較すると実質的に改善されたエネルギー依存性を有し、CDMS10のコーン・トラップ7に取って代わる。すなわち、CDMS20は、イオン・エネルギーの広がりによる振動周波数のばらつきが、最小へ保たれるように、デュアル半球静電エネルギー・セクタからなる上流エネルギー・フィルタリング・デバイス(すなわち、デュアルHDA6)も必要とする。イオンの低いエネルギーの広がりの選択は、CDMS20の総透過を減少させる。CDMS10と同じように、ELITに入るイオンの個数は、2つ以上のイオンをトラップする確率が小さいように十分低く保たれた。
【0069】
本発明の目的は、イオンのより多くの部分がCDMSトラップの中に入ることを可能にすることによってイオン透過を改善することである。
図2Aおよび
図2Bは、トロイダル・セクタ・フィールドを用いた従来の静電セクタ・フィールドを概略的に示す。
【0070】
本発明の発明者は、より良いエネルギー収束特性が、静電場による飛行時間エネルギー・フォーカシングを考慮したポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]によってまず提案されたジオメトリを用いることによって達成され得ることを認識した。特に、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、飛行時間がもはや一次までの初期エネルギーの関数ではなく、質量対電荷比m/zだけの関数であるリニア・ドリフト空間およびフィールドの構成を考慮した。そのような構成は、等時性としても知られている。ほぼ等しいエネルギーのイオンについては、軌道が全ての質量について同一であるべきであるので、静電場が使用されるべきである。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、トロイダル・セクタ・フィールドへの取り扱いを限定したが、以下に説明されるように、他の構成が可能である。
【0071】
ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)の研究は、飛行時間型質量分析のための初期イオン条件を補償するために特別な配置におけるトロイダル・セクタ・フィールドの使用を提案した。
図2Aおよび
図2Bは、そのような配置の一般的な形態を示す。デバイスは、電場について異なる曲率半径をそれぞれ有する半径方向の眺め(
図2A)と軸方向の眺め(
図2B)との両方から考慮され、したがって、それらは、トロイダル・セクタ・フィールド分析器として知られている。直流ポテンシャルV1が、ラジアル平面内で半径R1を有する内側電極に印加され、直流ポテンシャルV2が、ラジアル平面内で半径R2を有する外側電極に印加される。イオン光軸は、ラジアル平面内で半径R0を有する。デバイスは、それぞれ半径方向に幅u
0を有するとともに軸方向にw
0を有するスリットによって有効に画定された、ψ
0の偏向角度、ならびに半径方向に2α
0および軸方向に2ωの受入れ角度を有する。等時性平面は、イオン光軸に対して角度ηでデバイスの入口および出口から距離g
rに配設され、そこにイオンの点集束を与える。論文は、飛行時間型(TOF)分析器として動作させられることが意図されるいくつかのジオメトリであって、(クラウドとしても知られている)イオンのパケットが入口開口を通じて注入され、電子増倍管または同様の破壊検出器を使用して出口平面で検出される、いくつかのジオメトリを提示する。扇形電場TOF分析器は、その無収差特性によりTOF-SIMS機器などのイメージ応用における用途を見出している[5]。しかしながら、それらは、一次に限定されているそのエネルギー集束特性により、直交加速(oa)TOF分析器の主流の用途にあまり適していない。これは、直交加速が、リフレクトロン・ベースのTOF分析器[6]によってより良く補償されるイオン・ビームにおいてとても大きいエネルギーの広がりをもたらすからである。CDMS機器の特定の場合は、直交加速を必要とせず、したがって、イオン・エネルギーのばらつきは、上流ビーム・コンディショニングによって決定されるようなビーム・エネルギーの縦方向のばらつきによってのみ与えられる。数パーセントの典型的なエネルギーのばらつきは、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの一次エネルギー集束特性によって容易に対応され得、これは、[3]に示されたものよりも優れている。静電セクタ・フィールド・イオン・トラップは、イオンが、加速エネルギーによって決定されるような実質的に一定の速度で進むという点でさらに有利である。これは、イオンがミラー・セクション内で向きを変えるときにイオンが低速へ遅くならなければならない反射ベースのデバイスと比較すると、セクタの空間電荷容量を改善する。
【0072】
TOF MSのためにポシュヘンリーデル(Poschenrieder)によって提案された特定のジオメトリ(しかし、TOF MSの注入および検出についてまだ問題となる)、およびそれに対しての改善は、本発明者によって初めて理解されたように、一例示的実施形態によるCDMSのための静電セクタ・フィールド・イオン・トラップを提供することである。
【0073】
イオン・エネルギー
【0074】
【数3】
を有する静電セクタ・フィールドに入った後の質量mを有する理想イオンのイオン速度vは、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(7)によって一次まで与えられ、
【0075】
【数4】
であり、式中、
βは、イオン・エネルギーE
aへ加速させられたイオンについてのわずかなイオン・エネルギーの広がりであり、ΔE<<E
aの場合、
β=ΔE/E
a
である。
【0076】
uは、中央経路u0からのイオンの偏差であり、
hおよびkは、
【0077】
【数5】
によって与えられる補助パラメータであり、式中、r
0は、ラジアル半径であり、ρ
0は、中央の等ポテンシャル平面の軸方向の半径であり、
ψ
0は、限界180°≦ψ
0h≦360°の間のセクタ・フィールドの偏向角度であり、
α
0は、入口角である。
【0078】
次いで、静電セクタ・フィールドを通り抜ける飛行時間teは、
dte=r0(1+u)ds/v
の積分によって得られ、これは、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(8)
【0079】
【0080】
入口角α0へのteへの依存性をなくすことは、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(9)
【0081】
【数7】
を必要とし、これは、フィールド縁からのソース点の距離g
rを定める。g
rが正である場合、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(9)は、制限180°≦ψ
0h≦360°の間の(セクタ角としても知られている)偏向角度ψ
0を用いて静電セクタ・フィールドを説明する。この静電セクタ・フィールド構成は、ψ
i=ψ
0/2における中間イメージと、出口側のフィールド縁から距離g
r’=g
rにおけるソース点に関して対称的な第2のイメージとを有する。
【0082】
ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(9)に従う静電セクタ・フィールドは、同時に、第2のイメージにおいて一次色収差がない。透過されたエネルギーの広がりは適切な止め具によってここで制限され得るが、しかしながら、大きい横方向エネルギー分散が、中間イメージに見出され得る。
【0083】
静電セクタ・フィールド内のわずかなイオン・エネルギーの広がりβ=ΔE/Eaによる飛行時間Δteの分散は、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(10)
【0084】
【0085】
長さDのリニア・ドリフト管に沿った分散ΔtDは、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式(11)
【0086】
【0087】
静電セクタ・フィールドがこの自由であるために、人は、Δte+ΔtD=0を必要とし、これは、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式12によって与えられるフォーカシング条件:
【0088】
【0089】
実際のリニア・ドリフト長さDは、入口側にgr、出口側にgr’、およびいくらかの追加のドリフト範囲dを備えることができる。
したがって、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式12に従う静電セクタ・フィールドは、全長Dのリニア・ドリフト範囲を備える任意の2つの点についての飛行時間(等時性)における任意のエネルギー依存性の分散がない。加えて、この静電セクタ・フィールドは、フィールド縁から距離grにおける点Gについてアクロマティック・ラジアル・イメージングを行う。
【0090】
半径方向および軸方向の中間イメージがψi=ψ0/2で同時に行われる無収差イメージングを用いる静電セクタ・フィールドを検討する。gaがトロイダル・セクタ・フィールドの方向集束特性から軸方向フォーカシングについてのフィールド・スリットからの入口の距離を表す場合、フィールド縁からのソース点の距離grは、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式20によって
【0091】
【0092】
したがって、h=kおよびc=1ということになり、これは、球形コンデンサ・フィールドに対応する。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式12、およびD=2gr=2gaを設定することから、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]の式21は、
【0093】
【0094】
グラフィカルな解決策は、
ψ0=199.2°
gr=5.9r
の値をもたらす。
【0095】
この静電セクタ・フィールドについては、源およびそのイメージは、時間および空間の収束が同時に行われるように、
図3に概略的に示されるように、正確に同時に行われる。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]は、この静電セクタ・フィールドがTOF質量分析計にあまり適していないことを示したが、本発明者は、この静電場は、代わりに、静電場イオン・トラップによく適していることを逆に理解した。特に、この静電セクタ・フィールドは、エネルギーに関して完全に等時性であり、分解能はもはやスリット幅に依存しない。偏向角度ψ
0=199.2°および距離g
r=5.9rについてのこれらの値は、グラフを使って得られ、したがって、算出の計算方法は、洗練された解決策を提供することができることに留意されたい。さらに、構築されたジオメトリは、ある程度まで、および/または残留場もしくは端縁場を含む他の電場を補償するために、これらの値間の相互作用を可能にすることができる。しかしながら、距離g
rは、真の無収差性能を達成するために極めて重要であり得る。
【0096】
ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)の論文[4]は、ビーム初期条件(全てゼロから一次)に関して等時性(時間差)に注目するが、無収差の(空間的な)収差のその取り扱いについては、展開がずっと少なかった。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)[4]は、『位置に関しての角度』または『エネルギーに関しての角度』の空間的な収差を考慮しているように思えない。しかしながら、好ましくは、本明細書中で説明されるように比較的狭い電荷管の使用を可能にするために、およびイオン経路から離れるようにさまようイオンから生じるイオン損失を回避するために、CDMSの無収差(イメージング)要件は、CDMSの等時性要件と比較して二次であり、無収差要件は、誘導電荷検出のために十分の安定したイオン軌道である。
【0097】
図3は、端縁場を制御するためにシャントをさらに備える一例示的実施形態についての静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30を概略的に示す。直交座標系(x,y,z)は、適切に、
図3から
図14のために用いられる。
【0098】
この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30は、第1の静電セクタ31Aおよび第2の静電セクタ31Bを含む一組の静電セクタ31を備える。この例では、第1の静電セクタ31Aは、球形静電セクタである。この例では、第1の静電セクタ31Aおよび第2の静電セクタ31Bは、相互に対向している。この例では、一組の静電セクタ31は、第1の静電セクタ31A、および第2の静電セクタ31Bだけを含む。この例では、第1の静電セクタ31Aは、第1の静電セクタ31Aによるフィールドを画定するように配置された第1のシャント32Aを含む一組のシャント32を備える。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30は、等時性である。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30は、3つの相互に直交する次元にイオン経路IPを定めるように構成されている。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30によって定められるイオン経路は、クロスオーバを含む。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30は、イオンをイオン経路の中へと導入するためのイオン入口33を備え、イオン入口33は、具体的には第1の静電セクタ31Aの外側電極内に設けられる。この例では、第1の静電セクタ31Aは、ψ0=199.2°の偏向角度を有する。この例では、フィールド・フリー領域は、中央クロスオーバ点(すなわち、点集束が達成される原点)までgr=5.9rの長さを有する。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30は、原点を通り抜けるx軸を中心とした回転対称を有する。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30は、原点を通り抜けるy-z平面内で対称的である。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間(すなわち、gr=5.9rの長さをそれぞれ有する2つのフィールド・フリー領域)と、球形静電セクタ31A、31Bと、を備える。この例では、第1の静電セクタ31Aの外側電極は、23mmの内半径を有し、第1の静電セクタ31Aの内側電極は、17mmの外半径を有し、それによりその間に6mmの球状のラジアル・ギャップがある。第1のシャント32Aは、幅4mmのトロイダル開口を有し、それによって比較的大きい入口開口を第1の静電セクタ31Aの中に提示する。第2の静電セクタ31Bは、概して第1の静電セクタ31Aを参照して説明されるようなものであるが、イオン入口33を含まない。
【0099】
より詳細には、
図3は、偏向角度ψ
0=199.2°、および中央クロスオーバ点(すなわち、点集束)まで5.9R
0(すなわち、g
r=5.9r)の距離のフィールド・フリー領域をそれぞれ有する2つの対向した球状セクタ31A、31B(半径方向および軸方向のフィールドについて同じ曲率)の特別な場合を示す。ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、この配置の閉じた経路は、伝統的なTOF分析についての注入および検出について問題があることを立証することができることを理解し、注入および検出手段についてより適した開いたジオメトリの解決策を提案することに進んだ。すなわち、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、イオンを導入するためのイオン入口33を提案しなかった。さらに、ポシュヘンリーデル(Poschenrieder)は、フーリエ変換質量分析計用いられるときに、誘導検出のためにそのような分析器の使用を提案しなかった。発明者の知る限りにおいて、フーリエ変換トラップにおけるイオンの小さいクラウドの誘導検出のためのトロイダル・フィールドの使用は、まず、8個の45°トロイダル・セクタを使用する配置でウルニック(Wollnik)[7]によって提案されたが、TOF MS分析器についてリング形態で配置されたその他の知られていないジオメトリであった。また、後に、ヴェレンチコフ(Verenchikov)は、フーリエ変換検出を伴うトロイダル・フィールドの使用を提案した[8]。しかしながら、これら2つの提案のどちらも、CDMSについてのそのようなジオメトリを使用することを考慮しなかった。
【0100】
図3の配置では、イオンは、第1の静電セクタ31Aの外側電極中の穴(すなわち、イオン入口33)を通じて注入され、一方、第1の静電セクタ31Aの電極のポテンシャルは、接地レベルで保持される。トラップが満たされると、これらのポテンシャルは、その動作レベルへ上げられ、トラップ・プロセスが始まる。第1の静電セクタ31Aの電極の電場を終わらせるためにシャント32A、32Bが追加されるが、これなしでは、電場は、フィールド・フリー領域の中に漏れ、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの動作を無効にすることになる。この特定のシャント・ジオメトリは、当業界で知られており、1935年にヘルツォーク(Herzog)によって提案された(Yavor pp230を参照)[9]。
【0101】
図4Aは、一例示的実施形態によるCDMS4を概略的に示し、
図4Bは、CDMS4についてのイオン軌道の軌跡の上方、側方、および端からの立面図を概略的に示す。
この例では、CDMS4は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40と、誘導電荷検出器400と、を備え、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40は、誘導電荷検出器400経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている。
【0102】
静電セクタ・フィールド・トラップ40は、
図3を参照して説明されるような静電場イオン・トラップ30を参照して説明されるようなものであり、その説明は、簡潔にするために省略される。同じ参照符号は、同じ整数を示す。
【0103】
この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40は、第1の静電セクタ41Aおよび第2の静電セクタ41Bを含む一組の静電セクタ41を備える。この例では、第1の静電セクタ41Aは、球形静電セクタである。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間、および球形静電セクタを備える。この例では、第1の静電セクタ41Aおよび第2の静電セクタ41Bは、相互に対向している。この例では、一組の静電セクタ41は、第1の静電セクタ41A、および第2の静電セクタ41Bだけを含む。この例では、第1の静電セクタ41Aは、第1の静電セクタ41Aによるフィールドを画定するように配置された第1のシャント42Aを含む一組のシャント42を備える。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40は、エネルギーに関して一次まで等時性である。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40は、3つの相互に直交する次元にイオン経路を定めるように構成されている。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40によって定められたイオン経路は、クロスオーバを含む。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40は、イオンをイオン経路の中へと導入するためのイオン入口43を備える。この例では、第1の静電セクタ41Aは、ψ0=199.2°の偏向角度を有する。この例では、フィールド・フリー領域は、中央クロスオーバ点(すなわち、原点)までgr=5.9rの長さを有する。この例では、第2の静電セクタ41Bは、第1の静電セクタ41Aを参照して説明されるようなものである。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40は、原点を通り抜けるx軸を中心とした回転対称を有する。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40は、原点を通り抜けるy-z平面内で対称的である。この例では、誘導電荷検出器400は、第1の電荷検出管410Aおよび第2の電荷検出管410Bを含む第1の組の電荷検出管410を備える。この例では、長さLおよび幅Wを有する第1の電荷検出管は、3:2から5:2までの範囲内の、例えば2:1の長さL対幅Wの比を有する。この例では、誘導電荷検出器400経由のイオン経路の一部は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40によって定められたイオン経路の約50%である。
【0104】
SIMION[10]のシミュレーションは、
図4Aに示されたジオメトリを用いて実行され、イオンは、
図4Bに概略的に示されるように、その初期条件に応じて不定期間の間にトラップされ得る。イオンが、狭い軸方向範囲(小さいΔα)へ規制される場合、結果として得られる軌道は、y-z平面内で有限の弧を満たす。
図4Aを再び参照するとともに、入力イオン条件が軌道Tに沿ってイオンのビームの形態をとることに留意すると、半径方向の復元力が、軸方向は、軸の方向の復元力よりも強くなることが理解され得る。デバイスは、原点を通り抜けるx軸を中心とした回転対称であり、そのため、大きい角度成分βまたは軸方向の広がりΔαを有するイオンは、多くのものがフィールド・フリー領域内の中空コーン形状およびセクタ内側の球面を作成するイオン経路伝いに通った後に、イオン軌道静電セクタ全体を満たさせる。言い換えれば、イオンは、(公称で199.2°の偏向角度ψ
0を有する静電セクタの球状電極間のギャップと対応する)だいたい半球のエンド・キャップを有する交差しているおよび相互に対向しているコーンまたは丸い突出部のペアとして説明され得る(理想的には、無限小の厚さの)薄い壁内にトラップされる。(CDMSによって必要とされるような)分析器の多くの通過後に採用された(グレーで示された)イオン・ビームIPの幾何図法が、
図4Bに示されている。
【0105】
より詳細には、
図5Aは、イオンを軸方向のz次元に閉じ込めるために原点にレンズを含む一例示的実施形態によるCDMS5を概略的に示し、
図5Bは、CDMS5についてのイオン軌道の軌跡の上方、側方、および端からの立面図を概略的に示し、
図5Cは、CDMS5についてのイオンのSIMIONシミュレーションの斜視図であり、
図5Dは、CDMS5の軸方向断面図であり、より詳細には、
図5Eは、CDMS5の一部の破断斜視CADイメージであり、より詳細には、
図5Fは、CDMS5の一部の分解組立斜視CADイメージであり、より詳細には、
図5Gは、CDMS5の軸方向断面図である。
【0106】
CDMS5は、概して、
図4Aおよび
図4Bを参照して説明されるようなCDMS4を参照して説明されるようなものであり、その説明は、簡潔にするために省略される。同じ参照符号は、同じ整数を示す。
【0107】
この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50は、第1の静電セクタ51Aおよび第2の静電セクタ51Bを含む一組の静電セクタ51を備える。この例では、第1の静電セクタ51Aは、球形静電セクタである。この例では、第1の静電セクタ51Aおよび第2の静電セクタ51Bは、相互に対向している。この例では、一組の静電セクタ51は、第1の静電セクタ51A、および第2の静電51Bセクタだけを含む。この例では、第1の静電セクタ51Aは、第1の静電セクタ51Aによるフィールドを画定するように配置された第1のシャント52Aを含む一組のシャント52を備える。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50は、エネルギーに関して一次まで等時性である。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50は、3つの相互に直交する次元にイオン経路を定めるように構成されている。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50によって定められたイオン経路は、クロスオーバを含む。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50は、イオンをイオン経路の中へと導入するためのイオン入口53を備える。この例では、第1の静電セクタ51Aは、ψ0=199.2°の偏向角度を有する。この例では、フィールド・フリー領域は、中央クロスオーバ点(すなわち、原点)までgr=5.9rの長さを有する。この例では、第2の静電セクタ51Bは、第1の静電セクタ51Aを参照して説明されるようなものである。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50は、原点を通り抜けるx軸を中心とした回転対称を有する。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50は、原点を通り抜けるy-z平面内で対称的である。この例では、誘導電荷検出器500は、第1の電荷検出管510Aおよび第2の電荷検出管510Bを含む第1の組の電荷検出管510を備える。この例では、第1の組の電荷検出管510は、10個のセグメントを含む軸方向にセグメント化された電荷検出管を備える。この例では、長さLおよび幅Wを有する第1の電荷検出管は、3:2から5:2までの範囲内の、例えば2:1の長さL対幅Wの比を有する。この例では、誘導電荷検出器500経由のイオン経路の一部は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50によって定められるイオン経路の約50%である。
【0108】
図4Bを再び参照すると、回転面は、いくつかのCDMSの構築に関係したときに潜在的なトポロジー問題を引き起こす。イオンが中心軸(すなわち、x軸)の全体の周りに回転することが可能にされる場合、誘導電荷検出器500の中央電極または内側電極、ならびに/あるいは第1の静電セクタ51Aおよび/または第2の静電セクタ51Bの内側電極の支持体は、イオン軌道がこれらの内側電極を3次元に全体的に取り囲むので問題があり得る。一般に、支持体の追加は、イオンをそれと衝突させ、これにより分析器内で可能な振動数を減少させる。間の支持体52ASなどの1つまたは複数の支持体は、例えば、内側電極と外側電極の間でブリッジすることができ、イオン経路内のその断面積を減少させることによって、支持体との衝突を通じたイオンの損失は、減少させられ得る。さらにおよび/または代替として、イオン経路は、支持体を回避するように制限され得る。したがって、支持体との衝突に係るこの問題に対する解決策は、イオン経路を第1の次元に少なくとも部分的に制限するように配置された第1の焦点レンズを含む一組の静電集束レンズを含むことである。この例では、3つの電極を備える平面アインツェル・レンズ54は、
図5Aに、クロスオーバ点におけるデバイスの中央で示されており、z方向(直交座標)のさらなる集束を与える。この第1の焦点レンズが加えられた後のイオンの幾何図法が、
図5B(A)から(C)に示されている。球状電極を通る断面が、支持体52ASと共に
図5B(D)に示されている。その結果、次いで、イオンは、有限の角度へ閉じ込められ、支持体52ASは、イオン・ビームから離れるように置かれてもよく、それによってCDMSの構築を助ける。
【0109】
図5Aは、デバイス構築のためのいくつかの典型的な値と共に、好ましい実施形態を概略的に示す。130eV/zのイオン・エネルギーは、参考文献[3]の最新のELITトラップの直接比較を可能にするために選ばれたものである。これらのデバイスのための動作電圧(イオン・エネルギー)を増加させることで、より高い周波数、ならびに信号対ノイズおよび分解能の重要な改善を与えることができることに理解されたい。そのような方法は、電源からのノイズ注入の可能性を意味するフィールド・フリー領域を高いポテンシャルで動作させる必要性によりまだ用いられていなかった。
図5Aに示された実施形態では、2つの電荷管510A、510Bが、中央zレンズ54のどちらかの側で用いられる。
図3を再び参照すると、g
r=5.9rが、中央レンズのどちらかの側で比較的長いフィールド・フリー領域を与え、用いられる長さが約100mmの電荷管510A、510Bを可能にすることを理解することができる。電荷管510A、510Bの断面が示されている。これらの電荷管510A、510Bは、構築についてのトポロジー問題を提示せず、例えば、ワイヤ侵食または放電加工(EDM)として知られている技法を使用して容易に作製され得る。適切なセグメント化された電荷管が、
図8に関して説明される。
【0110】
図5Dから
図5Gは、CDMS5をより詳細に示す。この例では、第1の静電セクタ51Aは、ψ
0=199.2°の偏向角度を有する。この例では、第1の静電セクタ51Aは、23mmの内半径および28mmの外半径を有する外側球状電極51AOと、17mmの外半径を有し、外側球状電極51AOと同心の内側球状電極51AIとを備え、それらの間に6mmの球状のラジアル・ギャップがあるようになっている。この例では、外側球状電極51AOおよび内側球状電極51AIは、304Lまたは316Lステンレス鋼(代替として、例えば、金でコーティングされたガラス)などの、適宜電解研磨されたUHVに適合した導電体から機械加工された同様に正方形の実質的に平面のフレーム中の中央にそれぞれ設けられる。この例では、シャント52Aは、そのようなフレーム内に同様に設けられる。各フレームは、4つの対応する絶縁体(例えば、アルミナまたはマコール(Macor)(RTM)などのセラミック、あるいはPTFEなどの重合体)の、外側球状電極51AO、内側球状電極51AI、およびシャント52Aを横方向に位置合わせするためのロッド55Aから55D(55Cおよび55Dは図示されていない)上へ取り付けるためにその近位コーナに形成された4つの円形開口を含む。絶縁体スペーサ56Aは、外側球状電極51AOおよび内側球状電極51AIを軸方向に相互に間隔をおいて配置する。5mmの壁の厚さを有する外側球状電極51AOは、それぞれのフレームから準半球的に膨れる。固体の内側球状電極51AIは、それぞれのフレームから準半球的に突出し、2つの直径方向に向かい合った支持体51ASによって支持され、アインツェル・レンズ54によって平らにされるときに、8のイオン経路IPの図中に障害を存在させないように配設される。ディッシュされたシャント52Aの内側電極は、それぞれのフレームから突出し、内側球状電極51AIについての支持体51ASを概して参照して説明されるように、2つの直径方向に向かい合った支持体52ASによって支持され、それによって半径方向に幅4mmの2つの準半円形開口521A、521B(すなわち、それぞれ入口および出口)を提供する。
【0111】
参考文献[3]の最新のELITを上回る本発明の性能利点が、表1に示されている。CDMS5は、参考文献[3]のELITと比較して、均等な角度および空間受入れを有するが、単位時間あたりより多くのトランジェント、および優れたエネルギー受入れを提供する。このより大きいエネルギー受入れは、より良い分解能/感度特性をもたらすことができる。慎重な上流ビーム・コリメーション、および0.5eV/zのエネルギーの広がりを用いて、数千のシングル・パス質量分解能が、この実施形態について期待される。
【0112】
【表1】
表1:参考文献[3]の最新のELITとの比較される一例示的実施形態によるCDMS5の性能利点。msあたり23.26トランジェントは、各電荷管の10個のセグメントに基づく。セグメント化なしで、msあたりのトランジェント数は、2.326へ減少させられる。セグメント化がない場合でも、CDMS5は、競争力があり、よりシンプルであり、例えば、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50の中に導入するようにイオン運動エネルギーの狭いウィンドウを選択するために上流デュアルHADを必要としない。逆に、さらにより高いトランジェント数が、
図9を参照して説明されるようなリフト・デバイスを使用して達成されることが可能である。
【0113】
図5Cは、イオンの損失がない場合の数百ターン後のCDMS5のためのイオンのSIMIONシミュレーションである。アインツェル・レンズは、
図4Bに示されるように、CDMS4のためのイオンのSIMIONシミュレーションと比較して、イオン軌道を制限する。
【0114】
図6は、従来のCDMS、特に
図1BのCDMSと比較して、
図5Aから
図5CのCDMS5についての理想(%)からのイオン・エネルギー偏差の関数としての周波数(%)の変化のグラフである。より詳細には、SIMIONシミュレーションが実行され、CDMS5のエネルギー集束特性が算出された。zレンズ54の追加は、デバイス分解能に顕著な劣化を与えないことが見い出された。このジオメトリの一次集束は、性質がパラボリックである残留収差をもたらすことが予期され、この特性は、
図6に示されている。言い換えれば、CDMS5の静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50は、一次まで等時性であり、二次でパラボリックな残留であり、±3%のイオン・エネルギー偏差について約0.05%の周波数の変化を与える。比較すると、参考文献[3]のELITトラップは、一次まで等時性でなく、代わりに、一次で線形残留を有し、+3%のイオン・エネルギー偏差について約0.275%の周波数の変化、および-3%のイオン・エネルギー偏差について約-0.275%の周波数の変化を与える。したがって、CDMS5の静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50は、参考文献[3]のELITトラップと比較して、エネルギーの広がりに対して優れた公差を示し、これは、本発明の主な利点の1つである。
【0115】
図7Aおよび
図7Bは、一例示的実施形態によるCDMSについて、フーリエ変換におけるより高い高調波の強度を高めるための比較的狭い電荷検出管の利点を概略的に示す。
より詳細には、本発明のさらなる利点は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップの無収差または準無収差の集束特性によって提供される。これらの特性は、イオン・ビームが分析器を横断するときにイオン・ビームが狭い弧へ閉じ込められることを意味する。狭いイオン・ビームは、イオンの検出のために同様に狭い電荷管を使用することが可能であることを意味する。
図7Aおよび
図7Bは、より狭い電荷管が、より鋭いトランジェント信号をどのように引き起こすのかを示す。この信号は、フーリエ理論の結果として、より高い周波数で高調波成分を増加させていた。処理された波形の信号対ノイズ比は、周波数と共に増加し、フーリエ変換におけるより高い高調波を使用して、質量分析は、改善された分解能を与えることがよく知られている。
【0116】
図8は、CDMS4および/またはCDMS5などの一例示的実施形態によるCDMSについて、分析器通過あたり増加させられたトランジェント数を与えるように、第1のセグメント化された電荷検出管810Aおよび第2のセグメント化された電荷検出管810Bを含む第1の組のセグメント化された電荷検出管810を備える誘導電荷検出器400および500を概して参照して説明されるような誘導電荷検出器800を概略的に示す。この例では、第1のセグメント化された電荷検出管810Aおよび第2のセグメント化された電荷検出管810Bは、軸方向にセグメント化され、10個のセグメントをそれぞれ含む。
【0117】
CDMS4およびCDMS5のジオメトリによって提供される比較的長い電荷管は、例えば、軸方向の電荷管セグメント化を可能にする。一般的なルールとして、移動するイオンによる誘起信号は、それが管幅の2倍の長さ前記管の中に通った後は無視でき、過度に長い管を有用信号に関して無駄にさせる。
図8は、通過あたりより大きい数のトランジェント信号を与えるために、セグメント化がどのように用いられることが可能であるのかを示す。そのようなセグメント化は、複数の増幅器を使用して[11]の前に提案されていた。そのようなセグメント化は、
図8中で接続されたような単一の増幅器の使用に関する利点をさらに提供することが知られている。この原理は、フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴機器において実証されており、例えば、ニコラエフ(Nikolaev)[12]の研究を参照されたい。
【0118】
さらに、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40の8の経路の立体図、およびさらに静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ40の8の経路の制限された立体図は、さらにおよび/または代替として、前述されたように、半径方向電荷管のセグメント化を可能にする。
【0119】
図9は、リフト・デバイス99を備える一例示的実施形態によるCDMS9を概略的に示す。CDMS9、これは、概して、CDMS5に関して説明される。静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ90、および誘導電荷検出器900は、例えば、CDMS5の静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ50および誘導電荷検出器500を表し得る箱として概略的に示される。一例示的実施形態によるCDMSの静電セクタ・フィールド・イオン・トラップのスループットを増加させるために、比較的高いイオン・ビームは、例えば、100eVから1,000eVまでの範囲内で運動エネルギーで動作することが望まれている。高いエネルギーで動作する利点は、エネルギーおよび角度に関してより速い取得およびより低い収差である。運動エネルギーを増加させる第1のやり方は、TOF分析器について共通に行われるように、高い加速ポテンシャル(正のイオンについては負の電圧)で誘導電荷検出器900を浮かせることである。しかしながら、CDMSの場合には、電源上に存在する任意のノイズは、CDMS分析器のとても低い誘起信号を隠す。したがって、接地ポテンシャルで動作させられる誘導電荷検出器は、それらが隣接した接地プレートによってノイズから有効にシールドされることが可能なとき、および(仮想アースである)増幅段に直接結合されるとき、ずっと好ましい。運動エネルギーを増加させる第2のやり方は、高いポテンシャルによって上流イオン光学部品を浮かせることである。これは、技術的に問題があることが知られており、パッシェンの法則から生じる電界破壊による構成要素の放電を引き起こし得る。この影響は、RFイオン・ガイドがしばしば用いられ、それにより印加電圧を約200Vに制限し、今度はイオンの運動エネルギーを制限する数ミリバール(mBar)領域内で特に問題となる。問題に対する解決策は、CDMSサイクルの一部を一杯にする間、高いポテンシャルへ(コリメータなどの)管(すなわち、リフト・デバイス99)にパルスを流すことである。このようにして、問題となる放電は、コリメータ(または他のイオン光学要素)が、電圧破壊が生じない高い真空で動作させられるときに回避されることが可能である。
図9は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ90内のイオンの運動エネルギーを増加させるために、そのような上流コリメータ99がパルス方式でどのように動作させられ得るかを示す。イオンは、ある所定のエネルギーqV
eでコリメータ管99を一杯にする。時間t1において、コリメータ管99がイオンで一杯であるとき、それは、増加させられたポテンシャルV
liftまでパルスが送られる。これにより、空間的に分離されたイオンのペンシルとして、イオンがトラップ90に入るときにイオンのエネルギーを増加させ、これは、接地ポテンシャルの電荷管900およびシールド(すなわち、シャント)と共にさらに動作される。イオンが導入される際に通過する静電セクタは、イオンが導入されている間、やはり一時的に接地ポテンシャルであることを理解されたい。トラップ90は、時間t2において閉じられ、トラッピング・サイクルが始まる。セクタ電極は、トラッピング・サイクルの間に、以下の式によって、イオン・エネルギーに関連している電圧V
iを増加させたに違いないことに留意されたい。
【0120】
【数13】
式中、i=1、2であり、運動エネルギーは、(V
e+V
lift)に等しい電子ボルトの単位のT
0である。
【0121】
図10は、一例示的実施形態によるCDMS10を概略的に示す。この例では、CDMS10は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ100と、誘導電荷検出器1000と、を備え、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ100は、誘導電荷検出器1000経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている。
【0122】
この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ100は、参考文献[15]のMULTUMを参照して説明されるようなものである。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ100は、4つの同様の円筒形静電セクタ101Aから101Dを含む一組の静電セクタ101を備え、それぞれは、ψ0=156.87°の偏向角度、および50mmのたわみ半径を有する。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ100は、8つの静電四重極レンズ102Aから102Hを含む一組の静電四重極レンズ102を備える。この例では、基本ユニットは、4つのドリフト空間と、2つの静電四重極レンズと、円筒形静電セクタとを備える。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ100は、エネルギーに関して一次まで等時性である。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ100によって定められるイオン経路は、クロスオーバを含み、そこを通る3倍の平面対称を有する。イオン注入は、参考文献[14]を参照して説明されるような偏向によるものであり得る、またはイオン入口を介し得る。
【0123】
この例では、概して誘導電荷検出器400、500、および800を参照して説明されるような誘導電荷検出器1000は、4つのセグメント化された電荷検出管1010A、1010B、1010C、1010Dを含む第1の組のセグメント化された電荷検出管1010を備える。
【0124】
図11は、一例示的実施形態によるCDMS11を概略的に示す。この例では、CDMS11は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ110と、誘導電荷検出器1100と、を備え、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ110は、誘導電荷検出器1100経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている。
【0125】
この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ110は、イオン注入(および排出)を可能にするために、参考文献[15]のMULTUMリニア・プラスを参照して説明されるようなものであり、さらなる静電四重極レンズを有する静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ100を概して参照して説明されるようなものである。
【0126】
この例では、概して誘導電荷検出器1000を参照して説明されるような誘導電荷検出器1100は、4つのセグメント化された電荷検出管1110A、1110B、1110C、1110Dを含む第1の組のセグメント化された電荷検出管1110を備える。
【0127】
図12は、一例示的実施形態によるCDMS12を概略的に示す。この例では、CDMS12は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ120と、誘導電荷検出器1200と、を備え、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ120は、誘導電荷検出器1200経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている。
【0128】
この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ120は、参考文献[15]のMULTUMを参照して説明されるようなものである。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ120は、4つの同様のトロイダル静電セクタ121Aから121Dを含む一組の静電セクタ121を備え、それぞれは、ψ0=157.10°の偏向角度、50mmのたわみ半径、および0.0337のC1値を有する。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ120は、静電四重極レンズを備えない。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間と、トロイダル静電セクタと、を備える。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ120は、エネルギーに関して一次まで等時性である。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ120によって定められるイオン経路は、クロスオーバを含み、そこを通る3倍の平面対称を有する。イオン注入は、参考文献[14]を参照して説明されるような偏向によるものであり得る、またはイオン入口を介し得る。
【0129】
この例では、概して誘導電荷検出器1000を参照して説明されるような誘導電荷検出器1200は、4つのセグメント化された電荷検出管1210A、1210B、1210C、1210Dを含む第1の組のセグメント化された電荷検出管1210を備える。
【0130】
図13は、一例示的実施形態によるCDMS13を概略的に示す。この例では、CDMS13は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ130、および誘導電荷検出器1300を備え、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ130は、誘導電荷検出器1300経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている。
【0131】
この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ130は、参考文献[15]の8の平面図を参照して説明されるようなものである。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ130は、2つの類似する円筒形静電セクタ131Aから131Bを含む一組の静電セクタ131を備え、それぞれは、ψ0=227.95°の偏向角度、および50mmのたわみ半径を有する。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ130は、8つの静電四重極レンズ132Aから132Hを含む一組の静電四重極レンズ132を備える。この例では、基本ユニットは、6つのドリフト空間、4つの静電四重極レンズ、および円筒形の静電セクタを備える。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ130は、エネルギーに関して一次まで等時性である。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ130によって定められるイオン経路は、クロスオーバを含み、そこを通る3倍の平面対称を有する。イオン注入は、参考文献[14]を参照して説明されるような偏向によるものであり得る、またはイオン入口を介し得る。静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ30、40、および50の8のジオメトリの立体図とは対照的に、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ130がすでに8のジオメトリの平面図を有するので、前述されたようなトポロジー問題は生じない。
【0132】
この例では、概して誘導電荷検出器1000を参照して説明されるような誘導電荷検出器1300は、4つのセグメント化された電荷検出管1310A、1310B、1310C、1310Dを含む第1の組のセグメント化された電荷検出管1310を備える。
【0133】
図14は、一例示的実施形態によるCDMS14を概略的に示す。この例では、CDMS14は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ140と、誘導電荷検出器1400と、を備え、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ140は、誘導電荷検出器1400経由のイオン経路を少なくとも部分的に定めるように構成されている。
【0134】
この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ140は、参考文献[16]の長斜方形を参照して説明されるようなものである。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ140は、2つのダブル・トロイダル静電セクタ142A、142Bを含む一組の静電セクタ141を備え、それぞれは、ψ0=156.2°の偏向角度を有する第1のトロイダル静電セクタ141Aと、ψ0=23.8°の偏向角度を有する第2のトロイダル静電セクタ141Aとを含む。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ120は、静電四重極レンズを備えない。この例では、基本ユニットは、3つのドリフト空間、および2つのトロイダル静電セクタを備える。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ140は、エネルギーに関して一次まで等時性である。この例では、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップ140によって定められたイオン経路は、クロスオーバを含まず、対称の一平面を有する。イオン注入は、参考文献[14]を参照して説明されるような偏向により得る、またはイオン入口を介し得る。
【0135】
この例では、概して誘導電荷検出器1000を参照して説明されるような誘導電荷検出器1400は、4つのセグメント化された電荷検出管1410A、1410B、1410C、1410Dを含む第1の組のセグメント化された電荷検出管1410を備える。
【0136】
CDMS4から9のいずれかは、CDMS10の領域IIIのヘクサポール3とインタフェースをとり、それによってCDMS10の領域IVを置き替える、または領域IVの集束レンズ4とインタフェースをとり、それによってHAD6および修正されたコーン・トラップを領域IVの鏡像電荷検出器7と置き換え、直交TOF-MS5は、適宜取り除かれると理解されたい。
【0137】
図15は、一例示的実施形態による方法を概略的に示す。特に、方法は、イオンの質量を決定するものである。方法は、静電セクタ・フィールド・イオン・トラップによって、少なくとも部分的に定められたイオン経路伝いにイオンを移動させる工程であって、それにより誘導電荷検出器を経由させる、工程を含む(S1501)。方法は、イオンを移動させる工程によって、誘導電荷検出器内に信号を誘起する工程を含む(S1502)。方法は、誘起信号を使用してイオンの質量を決定する工程を備える(S1503)。方法は、本明細書中に説明されたステップのいずれを備えることができる。
【0138】
好ましい実施形態が図示および説明されてきたが、様々な変更および修正が、添付の特許請求の範囲に定められるようなおよび上述したような本発明の範囲から逸脱することなくなされてもよいことが当業者によって理解されよう。
【0139】
注意は、本明細書に関連して本明細書と同時にまたは本明細書よりも先に出願された、および本明細書と共に公衆の縦覧に開かれている全ての論文および文献へ向けられ、全てのそのような論文および文献の内容は、本願明細書に援用される。
【0140】
そのように開示された(任意の添付した特許請求の範囲および図面を含む)本明細書に開示された特徴の全部、および/または任意の方法またはプロセスのステップの全部は、そのような特徴および/またはステップの多くても一部が相互に排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組み合わされてもよい。
【0141】
(任意の添付した特許請求の範囲および図面を含む)本明細書に開示された各特徴は、別段明示されない限り、同じ働きをする、均等である、または同様の目的である代替の特徴によって置き換えられてもよい。かくして、別段明示されない限り、開示された各特徴は、一般的な一連の均等または同様の特徴のほんの一例である。
【0142】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、(任意の添付した特許請求の範囲および図面を含む)本明細書中に開示された特徴の任意の新規なもの、または任意の新規な組合せに広がり、あるいはそのように開示された任意の方法またはプロセスのステップの任意の新規なもの、または任意の新規な組合せに広がる。
【0143】
<参考文献>
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[2]ほぼ完全な電荷精度を有する電荷検出質量分析(Charge Detection Mass Spectrometry with Almost Perfect Charge Accuracy)-Anal.Chem.2015,87,10330-10337
[3]電荷検出質量分析のための最適化された静電リニア・イオン・トラップ(Optimized Electrostatic Linear Ion Trap for Charge Detection Mass Spectrometry)-J.Am.Soc.Mass Spectrom.(2018)Oct;29(10):2086-2095
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【国際調査報告】