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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】膜クロマトグラフィ用システム
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20231121BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20231121BHJP
   B01D 15/10 20060101ALN20231121BHJP
   C07K 1/22 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
B01J20/281 G
G01N30/26 M
G01N30/26 P
B01D15/10
C07K1/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526486
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(85)【翻訳文提出日】2023-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2021079951
(87)【国際公開番号】W WO2022096358
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】20205323.7
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511034561
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム ビオテック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グルーンベルク マリオ
(72)【発明者】
【氏名】ブルマ アルネ
(72)【発明者】
【氏名】ステイン ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ロイホルト マルティン
【テーマコード(参考)】
4D017
4H045
【Fターム(参考)】
4D017AA09
4D017BA07
4D017CA13
4D017CA17
4D017CB05
4D017DA03
4D017EA05
4D017EB01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045EA20
4H045GA10
4H045GA26
(57)【要約】
本発明を要約すると、クロマトグラフィシステムが提供される。クロマトグラフィシステムは、複数の成分を含有する供給流体を処理するように構成され、ここで、供給流体の複数の成分のうち少なくとも1つの成分は、標的成分である。クロマトグラフィシステムは、流体流動を制御するように構成された複数の流体制御成分を含む流路と、固定相(当該固定相は、流路へと接続された少なくとも1つの膜吸着器であり、かつ当該固定相は、標的成分を単離するように構成されている)と、を備える。流路は標的成分の採取が最適化されるように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分を含有する供給流体を処理するように構成されたクロマトグラフィシステムであって、前記供給流体の前記複数の成分のうち少なくとも1つの成分が、標的成分であり、かつ前記クロマトグラフィシステムは、
流体流動を制御するように構成された複数の流体制御成分を含む流路と;
固定相であって、前記固定相が前記流路へと接続された少なくとも1つの膜吸着器であり、かつ前記固定相が前記標的成分を単離するように構成された、固定相と;
を備え、
前記流路が、前記標的成分の採取が最適化されるように構成される、
クロマトグラフィシステム。
【請求項2】
前記複数の流体制御成分は、
前記少なくとも1つの膜吸着器へと接続され、かつ標的成分回収容器へと接続されるように構成された第1の出口弁と;
前記少なくとも1つの膜吸着器へと接続され、かつ廃棄物回収容器へと接続されるように構成された第2の出口弁と;
を備え、
前記第1の出口弁及び前記第2の出口弁が、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有する、請求項1に記載のクロマトグラフィシステム。
【請求項3】
前記複数の流体制御成分は、
前記少なくとも1つの膜吸着器へと接続され、かつ標的成分回収容器へと接続されるように構成された第1の出口弁と;
前記少なくとも1つの膜吸着器へと接続され、かつ廃棄物回収容器へと接続されるように構成された第2の出口弁と;
前記第2の出口弁の後に配置されたチェック弁と;
を備え、
前記第2の出口弁が、約3秒又は3秒を超えるスイッチング時間を有する、請求項1に記載のクロマトグラフィシステム。
【請求項4】
前記複数の流体制御成分は、
供給流体供給源へと接続されるように構成された第1の入口弁と;
バッファ供給源へと接続されるように構成された第2の入口弁と;
を更に備え、
前記第1の入口弁及び前記第2の入口弁が、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィシステム。
【請求項5】
前記複数の流体制御成分は、
供給流体供給源へと接続されるように構成された、第1の入口弁と;
バッファ供給源へと接続されるように構成された、第2の入口弁と;
前記第1の入口弁及び前記第2の入口弁の後に配置された、少なくとも1つの入口チェック弁と;
を更に備え、
前記第1の入口弁及び前記第2の入口弁が、約3秒又は3秒を超えるスイッチング時間を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のクロマトグラフィシステム。
【請求項6】
前記複数の流体制御成分が、前記供給流体のみを濾過するように構成されたフィルタを更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のクロマトグラフィシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの膜吸着器が第1の細孔径を有し、前記フィルタが第2の細孔径を有し、前記第2の細孔径が前記第1の細孔径よりも小さい、請求項5に記載のクロマトグラフィシステム。
【請求項8】
前記複数の流体制御成分が、前記少なくとも1つの膜吸着器の後に配置された吸着検出器を更に備え、前記吸着検出器のサンプリング速度が、約0.7秒未満、好ましくは約0.5秒未満、より好ましくは約0.3秒以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のクロマトグラフィシステム。
【請求項9】
前記複数の流体制御成分が、前記少なくとも1つの膜吸着器の前に配置された吸着検出器を更に備える、請求項1~8のいずれか一項に記載のクロマトグラフィシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の説明は、膜クロマトグラフィのためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品又は医薬品の製造は、原薬(API)が抽出される溶液の精製を含む。フィードとしても知られているこれらの溶液はまた、化学合成的又は生物有機的に製造することができる。フィードは、互いに分離する必要がある複数の成分、例えば1つ以上の標的成分及び不純物を含む。クロマトグラフィとはこの分離プロセスを行うために使用される技術である。
【0003】
クロマトグラフィ分離プロセスの詳細は、例えば相互作用メカニズム、プロセスタイプ、及び固定相に関する複数の利用可能な選択肢から選択され得る。相互作用メカニズムに基づいて、クロマトグラフィは、例えば、イオン交換、疎水性相互作用、親和性又は混合モードクロマトグラフィとして分類され得る。プロセスタイプは、バッチ又は連続操作などのプロセス実行の時間的側面、及び/又は捕捉、結合、及び溶出又はフロースルーなどの固定相における標的生成物と分離媒質との間の相互作用の側面に関連し得る。クロマトグラフィ固定相は、例えば、粒子/樹脂系、膜系、モノリス系、及び繊維系である。
【0004】
クロマトグラフィプロセス工程の最大の違いは、動的に制限された固定相及び動的に制限されていない固定相に起因する。動的に限定された固定相は、典型的には、結合に2分超又は約2分の滞留時間を必要とする、樹脂系固定相などの固定相であるが、一方で動的に限定されない固定相は、結合に2分未満を必要とする、膜系固定相などの固定相である。
【0005】
クロマトグラフィプロセスは、通常、複数のサイクルからなり、各サイクルは、平衡化、負荷、1回~数回の洗浄工程、溶出、再生、及び定置洗浄(cleaning in place:CIP)を含む。平衡化において、固定相は、それぞれの標的物質の結合部位が自由に接近可能でなければならない負荷工程のために調製される。平衡化バッファは、固定相の結合特性に悪影響を及ぼす、CIPなどの前工程からの残留物を除去する。
【0006】
負荷中、成分の混合物を含むフィードは固定相と相互作用させられ、ここで、1つ以上の成分は固定相に留まるが、一方で他の成分は移動する。例えば、結合及び溶出モードでは、標的成分は固定相に結合しなければならず、分離される成分は固定相を通過しなければならない。結合していない成分は、溶出中に溶出液中の標的成分に持ち越されるのを防ぐために洗浄工程ですすぎ出される。
【0007】
溶出中、標的成分は固定相の物理化学的環境特性(pH値、導電率)における変化によって溶出バッファで固定相の結合部位から置き換えられ、次いで回収される。再生中、溶出工程よりも顕著な固定相上における環境の物理化学的特性の変化は、難溶性不純物(例えば、脂質、色素、DNA)を溶解して、固定相の結合容量を回復させる。バイオバーデンの低減、及び再生工程後であっても固定相に残留する可能性のある汚染物質の排除のために、CIP工程を実施する。CIP工程は概して苛性ソーダ溶解液を用いて行われる。
【0008】
従来のクロマトグラフィ技術はカラムクロマトグラフィであり、ここで、固定相(また、「分離媒質」とも称される)は、カラム又はチューブ内に配置された樹脂である。分離メカニズムは樹脂の物理化学的特性によって決定される。
【0009】
カラム設計に対して調整され得る2つのパラメータは、カラムの直径及び分離媒質の充填高さである。これらは、処理されるフィードの体積、並びにその中に存在する標的成分の濃度及び分離媒質の結合容量に基づいて選択されるべき、固定相の体積を決定する。プロセス時間及び/又はバッファ消費のコストに対する分離媒質のコストなどの影響因子に応じて、固定相の体積は、全フィード体積を処理するために2~20サイクルが実行されるように選択される。
【0010】
特に、分離媒質の充填高さは、以下のように選択されるべきである:
-カラム床の任意の不均一性、並びに分離の効率、生産性、及び分解能の関連する低下が、カラム通過中にフィードによって覆われる距離にわたって補償される;
-可能な限り高い結合容量を達成するために必要な固定相上におけるフィードの滞留時間が達成される;
-充填された分離媒質の圧力降下/背圧が、規定の滞留時間及び結果として生じる流速の閾値を超えない。例えば、クロマトグラフィカラムが3バールの充填圧力で充填された場合、この圧力はプロセス中に超過されてはならず、そうでなければ充填床は圧縮され、カラム内にヘッドスペース(すなわち、カラムの上部と、過圧によって圧縮された分離媒質の床との間における液体で満たされた空洞)が形成される。これはプロセス及び分離メカニズムを損なう。
【0011】
カラムの直径は以下のように選択されるべきである:
-充填高さに応じて、充填された分離媒質の体積の量はプロセス時間が可能な限り短くなるような量であり、結合容量は充填された分離媒質の体積に正比例する;
-分離媒質の必要とされる体積に対するコストは、プロセス時間及びサイクル数に依存して、所与の閾値を超えない。
【0012】
カラムクロマトグラフィのサイクルの持続時間は通常10分を超え、多くの場合、数時間の範囲である。例えば、抗体を含有するフィードが処理されるプロテインAカラムクロマトグラフィでは、充填高さが20cm、カラム直径が25cm、カラム容積が9、8Lである場合、以下の表で更に詳細に示すように、サイクルはほぼ4時間かかる:
【表1】
【0013】
カラム容積の単位で表される各工程の体積は、所与の工程に必要な所与の流体/媒体の体積を指す。
【0014】
カラムクロマトグラフィの代替法は膜クロマトグラフィであり、ここで、固定相は、1つ以上の膜吸着器、すなわち樹脂上のものと同様の官能基で誘導体化された微孔質又はマクロ多孔質膜によって与えられる。例示的な膜吸着器は欧州特許出願公開第EP2274081A1号に開示されている。
【0015】
対流が主に質量輸送を担い、樹脂において優勢である拡散メカニズムに対してより効率的な吸着をもたらすので、膜吸着器上の滞留時間は樹脂に対してより短い。したがって、プロセスの生産性、すなわちフィード体積の単位当たり及び単位時間当たりで得られる生成物の量(通常、g/(L×時)で表される)は、樹脂系カラムクロマトグラフィに対して3倍を超える係数で増加させることができる。さらに、カラムクロマトグラフィとは対照的に、固定相は膜クロマトグラフィにおいてほぼ完全に利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、例えば、以下の因子:得られた標的成分(複数可)の量と、得られた標的成分(複数可)の純度と、プロセスを実施するのに必要な時間の量と、プロセスを実施するのに必要なリソース(バッファなど)の量と、の1つ以上によって定量化されるように、改善されたプロセス品質及び効率を伴う膜クロマトグラフィシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかるこの目的の達成は独立請求項に記載されている。本発明の更なる発展は従属請求項の主題である。
【0018】
一態様によれば、複数の成分を含有する供給流体を処理するように構成されるクロマトグラフィシステムであって、供給流体の複数の成分のうち少なくとも1つの成分が標的成分である、クロマトグラフィシステムが提供される。クロマトグラフィシステムは、以下:
流体流動を制御するように構成された複数の流体制御成分を含む流路と;
固定相であって、固定相が流路へと接続された少なくとも1つの膜吸着器であり、かつ固定相が標的成分を単離するように構成された、固定相と;
を備え、
ここで、流路は、標的成分の採取が最適化されるように構成される。
【0019】
供給流体(また、「フィード」とも称される)は、複数の成分又は物質を含み、そのうち少なくとも1つは目的の成分である、標的成分である。クロマトグラフィプロセスの目的は、標的成分を採取することであって、すなわち、標的成分をフィードの他の成分から分離し、次いで標的成分をプロセスの生成物として回収することである。
【0020】
生成物は実質的に標的成分から作製され、これは、純度の程度、すなわち生成物全体(例えば、重量、質量、体積による)中の標的成分の相対量が100%に近く、例えば99%を超えることを意味する。生成物の純度は、例えば、医薬品用途及びバイオ医薬品用途にとって特に重要である。
【0021】
フィードは、クロマトグラフィプロセスが2つ以上の生成物を生じ得るように、採取される2つ以上の標的成分を含んでもよい。さらに、中間体及び/又は副生成物はまた、クロマトグラフィプロセスを実施する場合に得られてもよく、かつ回収されてもよい。場合によっては、異なる濃度の標的成分を別々に回収することができる。
【0022】
目的ではない供給流体の成分(また、「スクラップ成分」とも称される)、並びにバッファなどのクロマトグラフィプロセス中に使用される他の物質は、プロセスの廃棄物を形成し、一緒に回収される。
【0023】
例示として、供給流体は、タンパク質含有溶液又は細胞含有溶液などの溶液であってもよい。細胞含有溶液の例としては、ワクチン又はウイルスを含有する他の溶液、並びに哺乳動物細胞を含有する溶液が挙げられる。タンパク質含有溶液の例としては、治療用タンパク質(例えば、モノクローナル抗体、酵素、ホルモンなど)を含有する液体が挙げられる。これらの場合、標的成分は、特定の種類の細胞又は特定のタンパク質などの溶質であり得る。スクラップ成分は、DNA、塩、及び宿主細胞タンパク質(host cell protein:HCP)を含み得る。
【0024】
クロマトグラフィシステムは流路を含む。流路は、例えば、導管及び容器などの流体を受け取り、搬送し、及び/又は収容するための流体の流れを可能にするための手段と、弁、ポンプ、センサ、及びフィルタなどの流体の流れを調整するための手段と、を備える。したがって、流路は、特に流体流動を制御するように構成された複数の流体制御成分を備える。
【0025】
流路は、1つ以上の流体が流路へと導かれる1つ以上の入口点を、1つ以上の流体が流路から放出される1つ以上の出口点へと接続する。流路は1つの入口点を1つの出口点へと接続する異なる代替経路を含んでもよい。
【0026】
入口点(複数可)から出口点(複数可)へと向かう方向は、流路の順方向であり、これは流体流動の一般的な巨視的方向である。「XがYの後に配置される」という表現は、流体経路の順方向においてXがYの後にあること、すなわち、Xが、Yよりも出口点(複数可)に近く、かつYよりも入口点(複数可)から遠いことを示す。同様に、「XがYの前に配置される」とは、Xが流体経路の順方向においてYの前にあること、すなわち、Xが、Yよりも入口点(複数可)に近く、Yよりも出口点(複数可)から遠いことを示す。
【0027】
流路を通って流れる流体は、1つ以上のバッファ、洗浄液、供給流体(固定相の上流)、及び供給流体の分離された成分(固定相の下流)を含む。バッファ(又は「バッファ溶液」)は、酸又は塩基の添加後のpHの大きな変化に効率的に抵抗し、防止する水溶液である。これは、弱酸及びその共役塩基又は弱塩基及びその共役酸のいずれかの存在に起因する。クロマトグラフィプロセスは、サイクルの異なる工程において異なるバッファを必要とし得る。
【0028】
クロマトグラフィシステムは固定相を含む。固定相は、最初に供給流体内で一緒に混合されるスクラップ成分から標的成分(複数可)を分離するように構成された、クロマトグラフィシステムの一部である。供給流体は、場合によっては他の物質(例えば、希釈のための水)と混合され、バッファは移動相を表す。特に、固定相は、移動相中の標的成分を単離し、次いでこれを回収することができる。
【0029】
具体的には、固定相は、1つ以上の膜吸着器である。複数の膜吸着器の場合、それらは互いにスタックされてもよく、及び/又は流路の2つ以上の代替経路上に直列又は並列で設けられてもよい。膜吸着器(複数可)は、例えば、溶出によって後に回収される標的成分を吸着することができる。あるいは、標的成分はフロースルーで、すなわち膜吸着器によって吸着されない一方で、供給流体の他の成分が吸着されるという事実によって得られてもよい。
【0030】
膜吸着器(複数可)は、例えば、リガンドとしてスルホン酸又は耐塩性陰イオン交換体又はフェニルを有する、安定化強化セルロースで作製されてもよい。膜吸着器には他の材料を使用してもよく、リガンドとして他の物質を使用してもよい。膜吸着器(複数可)は、例えばプラスチック製のカプセル又はフレーム内に設けられてもよい。
【0031】
少なくとも1つの膜吸着器は流路に接続される。流路に接続される場合、流体が膜吸着器を通って流れることができるという意味で、膜吸着器は流路の一部になる。例示的には、膜吸着器(複数可)は、「膜弁」と称される弁によって流路へと接続されてもよい。例としては、膜吸着器(又は膜吸着器のスタック)は、1つが膜吸着器の前に配置され、かつ1つが膜吸着器の後に配置される、一対の膜弁によって流路へと接続されてもよい。この場合、流路は、膜吸着器を通過する経路と、膜吸着器を通過しない代替経路とを含んでもよい。あるいは、膜吸着器は、流路のパイプ又は他の搬送手段へと直接(すなわち、弁なしで)接続されてもよく、かつ膜吸着器を通過する経路は1つだけであってもよい。
【0032】
クロマトグラフィシステムにおいて固定相として膜吸着器を使用することにより、等体積の固定相へのカラムクロマトグラフィと比較して、より大きな運転流量範囲が可能になる。例示的には、樹脂の運転流量範囲は、0.05~2CV/分、より好ましくは0.1~1CV/分、最も好ましくは0.1~0.5CV/分であってもよい一方で、膜吸着器の運転流量範囲は、0.5~40MV/分、より好ましくは1~30MV/分、最も好ましくは3~20MV/分であってもよい。
【0033】
クロマトグラフィシステムの流路は、膜吸着器(複数可)による標的成分の採取が最適化されるように構成される。流路、特にその流体制御成分は、膜吸着器(複数可)の動作に適合される。言い換えると、流路内の流体制御のダイナミクスは、膜吸着器(複数可)の高度に動的な特性/挙動に適合している。特に、流路の構成的設計/構造的設計、及び/又は流路によって行われる流体流動の制御は、膜クロマトグラフィのために最適に構成される。
【0034】
クロマトグラフィシステムは、例えば、分散制御システムなどの流体制御成分を管理するように構成されたプロセッサを含む制御システムを含むか、又はこの制御システムへと接続されるように構成されてもよい。制御システムは、1つ以上の流体制御成分、例えばセンサから信号を受信することができ、かつ1つ以上の流体制御成分、例えば弁及びポンプへと信号を送信することができる。
【0035】
特定の例では、複数の流体制御コンポーネントは、以下:
少なくとも1つの膜吸着器へと接続され、かつ標的成分回収容器へと接続されるように構成された、第1の出口弁と;
少なくとも1つの膜吸着器へと接続され、かつ廃棄物回収容器へと接続されるように構成された、第2の出口弁と;
を備えてもよく、
ここで、第1の出口弁及び第2の出口弁は、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有する。
【0036】
第1の出口弁及び第2の出口弁は、少なくとも1つの膜吸着器の後に配置される。特に、第1の出口弁及び第2の出口弁は、流路の端部に配置されてもよい。
【0037】
第1の出口弁及び第2の出口弁は、少なくとも1つの膜吸着器から第1の出口弁及び第2の出口弁の各々への流体経路があるという意味で、少なくとも1つの膜吸着器へと流体接続されている。言い換えると、流体は、少なくとも1つの膜吸着器から出口弁に向かって流れることができる。例えば、1つ以上のパイプが、少なくとも1つの膜吸着器を出口弁へと接続することができる。
【0038】
いくつかの例では、少なくとも1つの膜吸着器と、センサ及び/又は他の弁(例えば、膜弁)などの出口弁との間に、1つ以上の他の流体制御成分を挿入してもよい。
【0039】
出口弁のうち1つ、例えば第1の出口弁は、例えばチュービングによって標的成分回収容器へと接続されるように構成される。言い換えると、第1の出口弁は、流路から外部容器への標的成分の排出専用である。第2の出口弁は、例えばチュービングによって廃棄物回収容器へと接続されるように構成される。言い換えると、第2の出口弁は、流路から外部容器への廃棄物(例えば、使用済バッファ、DNA、...)の排出専用である。
【0040】
したがって、流路から、特に少なくとも1つの膜吸着器から出口弁で流入する流体に応じて、一方の出口弁は開いており、かつ他方の出口弁は閉じている。各弁は、例えば制御システムからの制御信号に従って開位置と閉位置との間でスイッチすることができる。例示的には、制御信号は、任意の所与の時間に出口弁へ向かって流れる流体(の一部)の含有量を決定するセンサ、例えば、膜吸着器と出口弁との間に配置された紫外線(UV)センサなどの吸着検出器に基づくことができる。流体が特定の所定の閾値を超える標的成分の分子又は粒子を含有する場合、流体は、「標的成分流体」と表され得、そうでなければ流体は「廃液」と表され得る。
【0041】
弁のスイッチング時間は、弁が開位置から閉位置に、又はその逆になるのに必要な時間量である。第1の出口弁及び第2の出口弁の両方は、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有する。言い換えると、第1の出口弁及び第2の出口弁は、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しい時間で開/閉位置から開/閉位置ヘト切り替わるように制御される。
【0042】
この比較的短いスイッチング時間は、膜吸着器が動作する高い流量を考慮して2つの利点を有する。第1に、第1の出口弁がそのような短時間で閉鎖から開放ヘト切り替わることができるという事実は、標的成分の潜在的な損失を排除又は低減するのに役立つ。実際、第1の出口弁が依然として閉じている間に、第1の出口弁が位置する流路内の点に標的成分流体が到達する場合、標的成分流体の一部が標的成分回収容器に正しく収集されない可能性がある。
【0043】
第2に、両方の出口弁が短いスイッチング時間を有するという事実は、標的成分の潜在的損失を更に低減し、かつ逆混合の問題もまた軽減又は排除する。逆混合とは、流路の順方向とは異なる方向への流体の動きに起因する、流体の望ましくない混合を指す。
【0044】
膜吸着器の下流、特に出口での流体の逆混合は、標的成分流体と他の流体との望ましくない混合をもたらす。これは、回収された標的成分の純度に影響を及ぼす可能性があり、例えば溶出体積を増加させる可能性がある。溶出体積とは、溶出の開始から溶出の終了までの標的成分を含有する画分の体積であり、したがって、濃度を増加させるだけでなく、例えば貯蔵室、プロセス時間、又はバッファ消費などの後続の工程の労力を減少させるために、できるだけ低くなければならない。
【0045】
逆混合の問題は、カラムクロマトグラフィよりも膜クロマトグラフィに関連する。一つの理由は、固定相の体積がカラムクロマトグラフィではより大きいことであり、例えば、プロセス設計に応じ、膜体積150mLに対する等価カラム体積は10Lであり、その結果、溶出体積の相対的変化はカラムクロマトグラフィでは無視できる。例えば、150mLの膜吸着器では溶出体積が200mLであり、かつ同等の10Lクロマトグラフィカラムの溶出体積が15Lである場合、50mLの逆混合流体を添加するとき、膜クロマトグラフィシステムの増加率は25%であり、カラムクロマトグラフィシステムの増加率は0.3%である。
【0046】
さらに、従来のカラムクロマトグラフィと比較して固定相の体積が小さく、かつサイクル当たりの結合容量が低いことに起因して、所与の体積のフィードを処理するためには、カラムクロマトグラフィに対してより多くの数の膜クロマトグラフィサイクルが必要である。サイクル数が比較的多いことを考えると、逆混合の悪影響は実質的に増大し、膜クロマトグラフィプロセスを無効にする。
【0047】
出口弁の(特に、開放から閉鎖への)短いスイッチング時間は、弁を通って逆流し得る流体の量を減少させる。さらに、両方の弁が開いていてもよい重複期間を短縮又は排除し、それによって、膜吸着器(複数可)の動的特性と一致する流路の構成のより迅速かつより正確な変更を可能にする。
【0048】
カラムクロマトグラフィシステムでは、充填されたカラム床を急速な圧力サージから保護するために、より長い弁スイッチング時間が選択される(すなわち、約3秒以上)ことに留意されたい。
【0049】
逆混合を最小限に抑えるための別の手段は、システムのデッドボリュームを最小限に抑えることであり、ここで、デッドボリュームは流路の容積(すなわち、固定相のないシステム)であり、したがって、弁と、入口から出口まで流体が流れる他の全ての要素との導管の容積の合計によって与えられる。したがって、例示的には、デッドボリュームと固定相体積との比(固定相の多孔度を考慮に入れない)は、5未満、好ましくは4未満、更に好ましくは3未満、最も好ましくは2未満であり得る。より小さいデッドボリュームもまたサイクルの持続時間を短縮するのに役立つ。
【0050】
いくつかの例では、流路の流体制御成分は、少なくとも1つの膜吸着器の後に配置された1つ以上の追加の出口弁を更に備えてもよい。各追加の出口弁は、異なる成分、例えば副生成物の排出専用であってもよく、かつ外部容器に接続されるように構成されてもよい。
【0051】
追加の出口弁(複数可)はまた、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有してもよい。
【0052】
別の例では、第2の出口弁は、約3秒又は3秒を超えるスイッチング時間を有してもよいが、複数の流体制御成分は、第2の出口弁の後に配置されたチェック弁を更に備えてもよい。チェック弁とは、流体を一方向にのみ流す弁である。特に、チェック弁は、廃液などの流体が、逆方向ではなく廃棄物回収容器に向かって流れることを可能にするだけである。チェック弁の存在は、逆混合の問題を軽減又は排除する。
【0053】
この例では、第1の出口弁は、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有してもよい。あるいは、第1の出口弁は、約3秒又は約3秒を超えるスイッチング時間を有してもよい。この場合、任意選択的に、複数の流体制御成分は、第1の出口弁の後に配置された別のチェック弁を更に備えてもよい。
【0054】
特定の例では、複数の流体制御成分は、以下:
供給流体供給源へと接続されるように構成された、第1の入口弁と;
バッファ供給源へと接続されるように構成された、第2の入口弁と;
を更に備えてもよく、
ここで、第1の入口弁及び第2の入口弁は、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有する。
【0055】
第1の入口弁及び第2の入口弁は、少なくとも1つの膜吸着器の前に配置される。特に、第1の出口弁及び第2の出口弁は、流路の始まりに配置されてもよい。
【0056】
第1の出口弁及び第2の出口弁は、第1の出口弁及び第2の出口弁の各々から少なくとも1つの膜吸着器への流体経路があるという意味で、少なくとも1つの膜吸着器へと流体接続されている。言い換えると、流体は、入口弁から少なくとも1つの膜吸着器に向かって流れることができる。例えば、1つ以上のパイプが、少なくとも1つの膜吸着器を入口弁へと接続することができる。
【0057】
いくつかの例では、少なくとも1つの膜吸着器と、ポンプ、フィルタ、センサ(例えば、UVセンサ)及び/又は他の弁(例えば、膜弁)などの入口弁との間に、1つ以上の他の流体制御成分を挿入してもよい。
【0058】
第1の入口弁は、例えばチュービングによって供給流体の供給源へと接続されるように構成される。言い換えると、第1の入口弁は、外部供給源から流路へのフィードの入力専用である。第2の入口弁は、例えばチュービングによってバッファ供給源へと接続されるように構成される。言い換えると、第2の入口弁は、外部供給源から流路へのバッファの入力専用である。第2の入口弁は、異なるバッファを各々が提供する複数のバッファ供給源へと接続されてもよい。あるいは、流路は、それぞれ複数のバッファ供給源へと接続されるように構成された複数の(第2の)入口弁を備えてもよい。
【0059】
一例では、流路は、一方が第1の入口弁から始まり、かつ他方が第2の入口弁から始まる2つの入口ラインを含むことができ、ここで、2つの入口ラインは、少なくとも1つの膜吸着器の前で合流する流路の2つの並列する分岐を表す。複数の第2の入口弁の場合、流路は3つ以上の入口ラインを含むことができる。別の例では、流路は単一の入口ラインを含むことができ、その開始時に第1の入口弁及び第2の入口弁が配置される。
【0060】
例示的には、流路は、少なくとも1つのポンプを備えてもよい。各入口ラインは、それぞれの流体の流れを規定の流量で進めるためのポンプを有してもよい。ポンプは、接続要素に起因する追加のデッドボリュームを回避するために、クロマトグラフィシステムに特に組み込まれてもよく、すなわち、流路の固定要素であってもよい。
【0061】
逆混合は、膜吸着器(複数可)の下流で問題となるだけではない。膜吸着器(複数可)の前及び/又は上における流体の逆混合は、流体の特性の変化をもたらし、小さな膜体積に起因して、標的成分の結合容量及び/又は溶出プロファイルを低下させる。前に説明したものと同様に、上流での逆混合もまた、膜吸着器と比較して、カラムの分離特性/結合容量にあまり悪影響を及ぼさない。
【0062】
入口弁の短いスイッチング時間は、膜吸着器(複数可)の上流における逆混合の問題を軽減又は排除する。別の例では、第1の入口弁及び第2の入口弁は、約3秒又は約3秒を超えるスイッチング時間を有してもよく、複数の流体制御成分は、第1の入口弁及び第2の入口弁の後に配置された少なくとも1つの入口チェック弁を更に備えてもよい。例示的には、流路が少なくとも1つのポンプを含む場合、少なくとも1つの入口チェック弁は、少なくとも1つのポンプの後に配置されてもよい。
【0063】
複数の入口ラインが存在する例では、対応する複数のチェック弁が存在してもよい。入口ラインが1つのみである例では、入口チェック弁は1つのみであってもよい。
【0064】
より一般的には、クロマトグラフィシステム内の全ての弁は、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有してもよく、又は、代替的には、クロマトグラフィシステム中の全ての弁には、その後にチェック弁が設けられてもよい。
【0065】
複数の入口ラインの場合、流路は、各入口ラインに混合弁を、例えば、第1の混合弁及び第2の混合弁を更に備えてもよい。混合弁は異なる入力流体間の逆混合を防止し得る。
【0066】
特定の例では、複数の流体制御成分は、供給流体のみを濾過するように構成されたフィルタを更に備えてもよい。フィルタは、固定相のブロックを回避するために、特に粒子分離及びバイオバーデン低減に使用することができる。フィルタは流路内の少なくとも1つの膜吸着器の前に配置されてもよい。フィルタは供給流体を流路へと入れるように構成された入口弁の後に配置されてもよい。
【0067】
例示的には、流路は、供給流体専用の入口ライン(「供給入口ライン」)、すなわちフィード専用に使用される入口ラインを備えてもよい。言い換えると、供給流体のみが供給入口ラインを通って流れる。フィルタは、供給流体のみがフィルタを通って流れるように、この供給入口ラインに直接(すなわち、弁なしで)配置されてもよい。
【0068】
他の例では、フィルタは、異なる流体が流れる流路の一部に配置されてもよい。この場合、フィルタは、フィードのみが流れることができる経路を作製するために2つの弁(「フィルタ弁」)によって導管へと接続することができる一方で、流路は他の流体のための代替経路を提供する。
【0069】
供給流体のみが流れるフィルタの存在は、逆混合の低減又は排除に役立つ。
【0070】
特定の例では、少なくとも1つの膜吸着器は第1の細孔径を有し、フィルタは第2の細孔径を有し、第2の細孔径は第1の細孔径よりも小さい。例示的には、第1の細孔径は、約3μm~5μmの範囲内であってもよく、一方で第2の細孔径は、約0.2μm~約0.8μmの範囲内であってもよい。
【0071】
このようにして、気泡のみが、固定相を通って流れるのに充分に分散する固定相に到達することができ、結合容量の減少が回避される。したがって、通常、カラムクロマトグラフィシステムで実装されるような気泡トラップを省くことができ、したがって追加のデッドボリュームを回避することができる。
【0072】
特定の例では、複数の流体制御成分は、少なくとも1つの膜吸着器の後に配置された吸着検出器を更に備えてもよく、ここで、吸着検出器のサンプリング速度は、約0.7秒未満、好ましくは約0.5秒未満、より好ましくは約0.3秒以下である。
【0073】
上述したように、吸着検出器を使用して標的成分を監視することができる。例えば、UVセンサは、定義された波長(例えば、280nm)での吸着を記録することができる。標的成分の溶出又は回収は、このUV信号によって制御される専用の出口弁(第1の出口弁)を開くことによって行われる。UVセンサのサンプリング速度は、測定点の後続の記録間の時間間隔に対応し、かつ生成物回収率と直接相関する。約0.7秒未満、好ましくは約0.5秒未満、より好ましくは約0.3秒以下のサンプリング速度は、膜クロマトグラフィの高流量であっても収率損失が低減又は排除されることを確実にする。
【0074】
特定の例では、複数の流体制御成分は、少なくとも1つの膜吸着器の前に配置されたUVセンサなどの吸着検出器を更に備えてもよい。少なくとも1つの膜吸着器の上流に吸着検出器が存在することにより、以下で説明するように、システムの誤動作及び/又は損傷が防止され、かつ予測による適応プロセス制御が可能になる。
【0075】
UV信号が所定の閾値を上回って/下回って変化する場合、プロセスを停止することができ(例えば、ポンプを停止させることによる)、原因(例えば、不均質性、微生物汚染、接続された中間体の不正確さ)を排除することができる。したがって、例えば不正確なバッファに起因して、生成物損失、又は固定相の物理化学的特性の変化は生じない。これはまた、相互接続されたプロセス、例えば品質偏差の場合の供給流体の排除にも関連し得る。
【0076】
例示的には、プロセスが停止した場合、システム内に存在する流体は、既に回収された標的成分の汚染/希釈を回避するために、標的成分専用の出口弁とは異なる出口弁を介して排出され得る。あるいは、プロセスが停止した場合、例えばポンプが完全に下降した場合に、全ての出口弁を閉じてもよい。
【0077】
空気が進入する場合(例えば、空気センサにもかかわらず)、又は空気センサが故障した場合にも、同様の工程を行うことができる。プロセスを停止することができ、システムを排気することができ、及び/又は原因(例えば、空のバッファリザーバ、緩いホース接続)を排除することができる。したがって、固定相への過剰な空気入力を回避することができる。
【0078】
UV検出器は更に、膜吸着器(複数可)の上流の流路がUV活性物質を含まない場合、システムが直ちに検出することを可能にする。したがって、すすぎ体積及び洗浄体積を最適化することができる。
【0079】
加えて、いくつかのプロセスパラメータは、上流UV信号によって直接制御されてもよい。例えば、供給溶液の組成が変化した場合、フィードの濃度に応じて、滞留時間を短縮してもよく、又は洗浄工程及び溶出工程を調整してもよい。別の例では、負荷量は、膜吸着器の生成物関連変動の場合(フィード中の標的成分の結合容量及び/又は力価の事前入力による)、例えば第1のサイクル又は灌流中に、UV信号の関数として調整され得る。
【0080】
例えば、連続的に運転される灌流バイオリアクタの濃度が変化する場合、これは固定相の前にUVセンサによって記録され、かつ処理することができ(例えば、アルゴリズム、多重線形回帰、ニューラルネットワーク、又は人工知能による)、変更された条件へとプロセスパラメータを調整することができる。これは、クロマトグラフィプロセスの安全性を保証し、及び/又は早期に可能性のある逸脱を警告する。
【0081】
膜吸着器(複数可)の後にUVセンサがある場合、膜前吸着器と膜後吸着器のUV信号の比較は、分離プロセスの品質の評価を提供し得る。さらに、膜吸着器の前及び膜吸着器の後のピーク面積を比較することによって見られる収率の低下に基づいて、適応的な自動化されたプロセス制御、例えば可変再生工程又はCIP工程を可能にすることができる。
【0082】
膜前UVセンサは、フィルタが存在する場合に、フィルタ監視の機能を更に提供する。例えば、UV信号が所与のタイムスパン内に著しく変化する場合、これは、フィードの組成又はフィルタの破裂/欠陥の変化を示唆する。この場合、下流の流体を廃棄物へとポンピングし、プロセスを中断し、フィルタを交換してもよい。
【0083】
さらに、フィルタが供給流体専用の入口ラインに設置されている場合、システムで2段階クロマトグラフィが可能であり得る。第1段階は、膜吸着器(複数可)の前にフィルタ及びUVセンサによって得られ、一方で第2段階は、その後に膜吸着器(複数可)及びUVセンサによって得られる。
【0084】
最後に、膜前UVセンサは、同等のシステムのための制御機能を提供することができる。
【0085】
概して、固定相の前のセンサ技術を有するこのシステム構成は、バリューチェーン(value chain)全体に沿った統合プロセス制御を可能にする。
【0086】
上に示したクロマトグラフィシステム、特に流路の特性は、効率及び品質に関してクロマトグラフィプロセスを改善する。例示的には、これまでに記載された膜クロマトグラフィシステムは、流路内の流体流動を極めて動的に制御し、かつデッドボリュームを最低限に抑えるという観点から、例えば、約10秒~約60秒の間の滞留時間を伴う約3分~約8分の間の持続時間を有するサイクルで、高速循環クロマトグラフィを行うのに特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
以下、例示的な図面を参照しながら、例示的な実施形態の詳細を説明する。他の特徴は、説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。しかしながら、実施形態を別々に説明したとしても、異なる実施形態の単一の特徴が更なる実施形態に組み合わせられ得ることを理解されたい。
図1図1は、例示的なクロマトグラフィシステムの概念図を示す。
図2図2は、流路内の入口ラインの概念図を示す。
図3図3は、流路のいくつかの特徴の関数として、生成物の損失がない膜吸着器の最大体積のプロットを示す。
図4図4は、最適なスイッチング時間を決定するための最適化ルーチンを示す。
図5図5は、クロマトグラフィシステムにおけるUVフィルタの異なるサンプリング速度についてのUV検出信号対体積のプロットを示す。
図6図6は、クロマトグラフィシステムにおけるUVフィルタの異なるサンプリング速度についてのUV検出信号対体積の拡大プロットを示す。
図7図7は、クロマトグラフィシステムにおけるフィルタの異なる構成についてのUV検出信号対時間のプロットを示す。
図8図8は、クロマトグラフィシステムにおけるフィルタの異なる構成についての導電率信号対体積のプロットを示す。
図9図9は、クロマトグラフィシステムにおけるフィルタの異なる構成についての正規化面積対正規化体積のプロットを示す。
図10図10は、クロマトグラフィシステムにおけるフィルタの異なる構成についてのUV検出信号及び導電率信号対時間のプロットを示す。
図11図11は、例示的なクロマトグラフィシステムの概略図を示す。
図12図12は、例示的なクロマトグラフィシステムの別の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
以下では、図面を参照して実施例が詳細に説明される。実施例に様々な変更を加えることができることを理解されたい。特に明記しない限り、1つの実施例の1つ以上の要素が組み合わせられ、他の実施例において使用されて新たな実施例を形成することができる。
【0089】
図1は、例示的なクロマトグラフィシステム100の概念図を示す。クロマトグラフィシステム100は、流路110と、固定相として少なくとも1つの膜吸着器200と、を備える。流路110は、流体が流れることができるパイプ及び/又はチュービングなどの導管を備え、これは、流体の流れを調整するように構成された複数の流体制御成分を備える。クロマトグラフィシステム100は、流体制御成分の少なくとも一部を管理するように構成された制御システム(図示せず)を備える。クロマトグラフィシステム100は、特に、結合及び溶出モードの膜クロマトグラフィに好適であり得る。
【0090】
図1及び図2の破線要素は任意選択である。流路110は、最初に1つ以上の入口ラインを備えてもよく、複数の入口ラインの場合、入口ラインは主ラインに合流する。例示的な入口ラインは、図2で詳細に示すように、供給流体、バッファ、又は洗浄液などの入力流体を流路へと導くように構成された少なくとも1つの入口弁120を含む。流路110が入口ラインを1つのみ備える場合、入口ラインは少なくとも2つの入口弁120を含み、一方は供給流体専用であり、他方は他の入力流体用である。各入口弁120は、少なくとも1つの入力流体供給源に接続されるように構成される。
【0091】
入口ラインは、ポンプ125を更に備え、入口弁(複数可)120とポンプ125との間に、入口チュービング内の空気を検出するように構成された空気センサ130を設置することができる。ポンプ125の後、入口ラインは、例えば入口弁(複数可)120のスイッチング時間が約3秒又は約3秒を超える場合、チェック弁140を備えてもよい。チェック弁140の後に、入口ラインを監視するために、圧力センサ及び流量計などの他のセンサ130を設置することができる。
【0092】
入口ラインが供給流体専用のラインである場合、供給入口ラインは、ポンプ125に続くセンサ130の後に、例えばいくつかの粒子を排除するために供給流体を濾過するように構成されたフィルタ150を含み得る。特に、フィルタは、フィード入口インラインに、すなわち弁なしで直接挿入することができる。あるいは、フィルタ150は、主ラインに配置されてもよい。フィルタ位置の影響の分析を図7図10を参照して以下に提供する。
【0093】
流路が複数の入口ラインを備える場合、各入口ラインは、端部に、すなわち主ラインを他の入口ラインと接合する前に、混合弁145を備えてもよい。混合弁を設けることにより、以下の図10を参照して同様にまた説明するように、異なる流体を互いに分離し、逆混合を防止する。
【0094】
図1に戻ると、流路110は、入口ライン(複数可)の後に、膜吸着器(複数可)200が接続される主ラインを備える。一例では、単一の膜吸着器200又は互いの頂部における膜吸着器200のスタックを、流路110へと接続することができる。別の例では、2つの膜吸着器200又は2つの膜吸着器200のスタックを、流路110へと並列で接続してもよい。2つの膜吸着器200又は2つのスタックを並列に使用することにより、捕捉モードとフロースルーモードとの組合せ、又は膜体積、したがって結合容量の増強が可能になり得る。「膜体積」という用語は、多孔度を考慮した単一の膜吸着器200又は膜吸着器200のスタックの体積を指す。例えば、1Lの膜体積は、200mLの膜層及び800mLの多孔度の結果であり得る。
【0095】
膜吸着器(複数可)200は、(膜)弁によって流路110へと接続されてもよい。主ラインは、膜吸着器200が存在しない経路と、膜吸着器(複数可)200を接続することができる1つ又は2つの経路とに分岐し得る。
【0096】
フィルタ150が供給入口ラインに配置されていない場合、流路110の主ラインは、膜吸着器(複数可)200の上流にフィルタ150を備えてもよい。フィルタ150は(フィルタ)弁によって流路へと接続されてもよい。したがって、主ラインは、一方がフィルタ150を備え、他方がフィルタ150を備えない、2つの代替分岐を有し得る。
【0097】
流路110の主ラインは、膜吸着器(複数可)200の前に(かつ存在する場合、フィルタ150の後に)、1つ以上のセンサ160を備えてもよい。特に、監視機能を提供し、かつシステムの適応制御を可能にするために、膜吸着器(複数可)200の前にUVセンサを配置することができる。他のセンサ160は、圧力センサ、導電率センサ、及びpHセンサを含み得る。
【0098】
流路110の主ラインは、膜吸着器(複数可)200の後に、1つ以上のセンサ170を備える。特に、少なくともUVセンサ170は膜吸着器(複数可)200と出口弁との間に配置され、ここで、UVセンサは、膜吸着器(複数可)200から来る流体が標的成分を含有しているかどうかを検出するように構成され、したがって、生成物回収容器又は他の出口、例えば廃棄物へと向けられるべきである。他のセンサ170は、圧力センサ、導電率センサ、及びpHセンサを含み得る。
【0099】
UVセンサ170によって生成された信号は、UVセンサ170の後の流路の端部に配置された出口弁を制御するために、制御システムによって使用される。UVセンサ170のサンプリング速度は、約0.7秒未満、好ましくは約0.5秒未満、より好ましくは約0.3秒以下であり得る。サンプリング速度の説明は、以下の図5及び図6を参照して行われる。
【0100】
流路110は、少なくとも2つの出口弁180及び出口弁185と、任意選択的に追加の出口弁とを含み、各出口弁は回収容器へと接続されるように構成される。出口弁180は、標的成分回収容器(したがって、「標的成分出口弁」と表記)に接続されてもよく、一方で出口弁185は、廃棄物回収容器(したがって、「廃棄物出口弁」と表記)に接続されてもよい。
【0101】
流路110は、廃棄物出口弁185のスイッチング時間が約3秒又は約3秒を超える場合、廃棄物出口弁185の後にチェック弁195を備えてもよい。いくつかの例では、対応する出口弁のスイッチング時間が約3秒又は約3秒を超える場合、流路110は、各出口弁の後にそれぞれチェック弁を備えてもよい。
【0102】
クロマトグラフィシステムの設計に関しては、(膜後)UVセンサ170と出力弁との間の流路の部分が特に関連する。損失なく操作することができる最大膜体積VMAは、体積流量と結合され、高速非動力学的に制限された固定相では、それに応じてクロマトグラフィシステムを設計することができる。この関係は以下の式(1)~式(4)から導き出すことができる:
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0103】
式中、
は、損失のない最大体積流量であり、dは直径であり、LはUVセンサ170と出力弁との間のパイプの長さであり、ttotは総信号伝送時間である。総信号伝送時間は、UVセンサが標的成分の通過を検出した瞬間から信号が実行されるまで、すなわち標的成分出口弁180が開放されるまでの信号伝送における全ての時間遅延からなる。式(5)は、信号伝送、センササンプリング速度、及び弁スイッチング時間のために制御システムによって必要とされる時間におけるttotの例示的な分解を示す。
【数5】
【0104】
最大体積流量Vは、単位時間V=MV・VMA当たりの膜体積の数として表すことができる。
【0105】
図3は、分当たり5膜体積(MV=5/min)の体積流量での、パイプ直径d、パイプ長さL、及び標的成分出口弁スイッチング時間tswitch関数としての生成物の損失がない、最大膜体積を示す。
【0106】
弁スイッチング時間を長くし、パイプの長さを短くすると、最大可能体積VMAが減少する。パイプ直径が大きくなると、流速の低下に起因して、より短いチューブの長さで固定相の最大体積を達成することができる。
【0107】
MV=5/min及びパイプ長0.25mでのtcontに対して0.25秒を仮定すると、以下の表は、生成物損失が生じる前の最大固定相体積VMAをttotの関数として示す。総信号伝送時間が増加するにつれて、使用可能な固定相体積、したがって生成物損失のないシステムの動作範囲が減少する。
【表2】
【0108】
上記の全ての考察から、所与の膜体積の生成物損失を最小化又は排除することに関して、変数ttot,L,d,MV間に相互作用があることが分かる。したがって、以下のような最適化ルーチンを適用することができ、
【数6】
次いで、これを使用して、例えば多重線形回帰又は他の方程式系によって最適値を解くことができる。Vrel,MAは膜体積であり、Vrelは流路又はシステム全体のデッドボリュームである(例えば、膜吸着器を収容するカプセルの空容積を含む)。それらの比が最大化される場合、クロマトグラフィプロセスの結果は、クロマトグラフィ固定相、例えば膜吸着器の特性によって主に影響を受ける。それらの比率が小さいほど、流路の影響が強くなる。
【0109】
図4は、パイプの長さ/直径及びttot、したがって適用可能な固定相体積に対する最適なスイッチング時間を決定するための、最適化ルーチンを示す。
【0110】
上記したように、サンプリング速度は、他のパラメータと組み合わせ、生成物損失を回避するためにシステムを最適化する役割を果たす。図5及び図6は、クロマトグラフィシステムの性能に対するサンプリング速度のみの影響を示す。
【0111】
図5は、クロマトグラフィシステムにおけるUVフィルタの異なるサンプリング速度についてのUV検出信号対体積のプロットを示す。
【0112】
上述のように、膜吸着器の下流の生成物/標的分子の存在は、通常、所与の条件(「弁スイッチング条件」)が満たされているかどうか、すなわち、定義された波長(例えば、280nm)での吸着が、所与の閾値、例えば0.05AUを超えているかどうかをチェックすることによって検出される。例えばUVセンサによって検出された吸着が閾値を上回る限り、生成物は、標的成分出口弁180を開いたままで維持することによって回収される。
【0113】
図5は、Sartobind(登録商標)Qで得られたBSAの溶出ピークを示し、かつ2つの異なる走査速度値、すなわち1秒及び0.3秒の溶出曲線上のカットポイントを示す。カットポイントとは吸着が閾値を超えたことをUVセンサが「認識」する点である。
【0114】
異なる走査速度値について、カットポイントは異なる時間/体積で発生し、その差は拡大図6に明確に示されている。この条件は約2525mLで既に満たされているが、UVセンサはどちらの場合も遅延してそれを検出する。しかしながら、45L/時の流量について、より速いサンプリング速度では検出が4mL未満の後に行われる一方で、1.0秒のサンプリング速度では検出が12mL超の後に行われる。より高い流量はカットポイント間のより高い体積距離をもたらす。
【0115】
ハッチングされた領域は、生成物が回収される体積間隔を示す。溶出ピーク全体の積分と、その各ハッチング画分の積分との差をそれぞれ考慮すると、生成物損失を計算することができる。
【表3】
【0116】
したがって、走査速度の低減は生成物損失の低減をもたらす。
【0117】
サンプリング速度に加えて、図3及び図4を参照し他のパラメータと組み合わせて考慮されてきた別のパラメータは、標的成分出口弁180のスイッチング時間である。単独で行われる弁スイッチング時間がクロマトグラフィシステムの性能に及ぼす影響を、5つの試験を参照して以下に示す。
【0118】
アセトンはタンパク質と同様に波長280nmの光を吸収するため、したがってモデルとして好適であるので、生成物の溶出は、水及び水/アセトン(2~5%v/v)を用いて試験1、試験2、及び試験3でシミュレートされる。試験4及び試験5では、分析は、0.5M NaClで溶出した1Lウシ血清アルブミン(BSA)(c=3g/L)を負荷したSartobind(登録商標)Qを用いて行う。弁スイッチング条件は、全ての実験について0.1AUである。各試験を少なくとも3回実施し、適切な画分を取り出して分析した。結果を以下の表に示す。
【表4】
【0119】
試験1及び試験2では、出口弁180及び出口弁185のスイッチング時間を約3秒に設定した。試験2では、廃棄物出口弁185の後にチェック弁195を配置した。試験3、試験4、及び試験5では、出口弁180及び出口弁185のスイッチング時間を約0.5秒に設定した。
【0120】
試験2及び試験3と比較して、試験1は、回収された画分の平均信号強度が有意に低いことを示す。さらに、抽出された画分間の偏差は、全試験のうち33.4%が最も高い。チェック弁185の実装により、有意に高い濃度0.890AU及び相対偏差3.1%が得られ、これは、試験1に対して有意に低い。試験2と同等の性能が試験3、試験4、及び試験5で見られる。
【0121】
したがって、弁スイッチング時間は、再現性及び生成物濃度にかなりの影響を及ぼし、ここで、スイッチング時間は短いほど良好である。しかしながら、高い体積流量で液体をポンピングする場合のシステム内の圧力発生などの安全面に起因して、弁スイッチング時間は低すぎてはならず、すなわち、0秒に近すぎてはならない。したがって、逆混合及び生成物損失を低減するために、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しい弁スイッチング時間を選択することができる。
【0122】
したがって、システム100の出口弁180及び出口弁185並びに任意選択的なの追加の出口弁は、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有するように設定される。あるいは、出口弁180及び出口弁185は、約3秒以上のスイッチング時間を有してもよく、少なくとも廃棄物出口弁185は、その後に配置されたチェック弁195を有してもよい。追加の出口弁が存在する場合、それらはまた、その後に配置されたチェック弁を有してもよい。任意選択的に、標的成分出口弁180はまた、対応するチェック弁190を有してもよい。
【0123】
さらに、入力弁120は、約3秒未満、好ましくは約1秒未満、最も好ましくは約0.5秒に等しいスイッチング時間を有するように制御されてもよい。あるいは、入力弁120は約3秒以上のスイッチング時間を有してもよく、各入口ラインはチェック弁140を備えてもよい。同じ概念がシステム100の流路110内の全ての弁に適用される。
【0124】
システムの設計において考慮され得る別の態様は、存在する場合、フィルタ150の位置である。プレフィルタの位置に応じて、逆混合には違いがあり、これについては以下で説明する。
【0125】
図7は、クロマトグラフィシステムにおけるフィルタの異なる構成についてのUV検出信号対時間のプロットを示す。3つの構成は以下の通りである:
A)約3秒のスイッチング時間を有するフィルタ弁によって主ラインへと接続されたフィルタ、供給流体のみのフロースルー(点線)
B)主ラインへと直接挿入されたフィルタ、全ての流体のフロースルー(実線)
C)供給流体入口ラインへと直接挿入されたフィルタ(破線)
【0126】
同じ試験手順を各構成で実施する。ここで、試験手順は、以下のように構成される:水との平衡化、2~5%(v/v)水/アセトン混合物の負荷、水による洗浄、偶発的溶出、及び水による再生。0.2AUの信号に達するまで水/アセトン混合物を徐々に増加させることによって溶出を行い、次いで再生を開始する。
【0127】
構成Aは、約0.8分での信号の落ち込みを示す。試験の更なる過程では、溶出ピークは3分で同定され、3.7分で更なるピークが同定される。負荷プロセス中の濃度の低下は、ポンプとフィルタとの間の配管の容積及びフィルタ弁のスイッチング時間に起因して、供給溶液と水との間のフィルタにおける逆混合によって説明することができる。この混合により負荷工程において望ましくない動的濃度プロファイルが得られ、これは、固定相の結合特性に悪影響を及ぼす。
【0128】
構成Bの場合、信号は負荷中に減少を呈しないが、一定値に達しない。溶出ピークは構成Aのものより明らかに広く、ここでもまた第2のピークが見える。全ての流体がフィルタを通過するため、各流体は、以前に濾過された流体の残渣と混合する。この混合により、システムの性能に悪影響を及ぼす濃度の変化が得られる。
【0129】
構成Cの場合、信号は、負荷段階の急激な上昇及び溶出段階の鋭いピークを示す。ここでもまた第2のピークが同定される。全てを考慮すると、この構成は流体力学/逆混合の最良の結果を示す:信号は常に安定であり、かつ狭い溶出ピークを示す。
【0130】
構成Cは最も低い逆混合体積を有する一方で、構成Aは、狭いピークも有しながらもまた、システム内でインライン希釈を行う選択肢を有する。構成Aの性能は、図8に示すように、フィルタ弁のスイッチング時間を短縮することによって改善することができる。
【0131】
図8は、クロマトグラフィシステムにおけるフィルタの異なる構成についての導電率信号対体積のプロットを示す。特に、実線は、フィルタが供給入口ライン(また、「インラインフィルタ」とも称される)に直接設置されている構成Cを表す。破線は、フィルタが2つのフィルタ弁(また、「オンラインフィルタ」とも称される)によって主ラインへと接続されている構成Aを表し、ここで、フィルタ弁のスイッチング時間は約0.5秒であるという変更がある。最後に、点線はまた、オンラインフィルタ及び約0.5秒のスイッチング時間を有する構成を表す。
【0132】
全ての曲線は、異なる水及び水/アセトン混合物を、それぞれのフィルタ位置に45L/時で送ることによって得られた。0.5秒の弁スイッチング時間を有するオンラインフィルタの性能は、インラインフィルタの性能に匹敵することが分かる。これはまた、インラインフィルタ及びオンラインフィルタの導電率正規化面積対信号面積重心正規化体積のプロットを示す、図9にも見られる。
【0133】
構成Cに対する構成Bの満足度の低い性能は、以下の式7で表される平衡分散モデルを用いることによって理論的に説明することができ、式中、cは、供給流体中の成分の濃度であり、uintは、供給流体の線速度であり、Daxは、軸方向分子拡散及び渦拡散の寄与の合計である軸方向分散係数である。
【0134】
一般的な速度又は平衡分散モデルでは、濃度は時間と共に変化し、ここでは長さ(すなわち、流れ方向の寸法)にわたる濃度変化によって計算される。さらに、経時的な濃度変化は、対流及び拡散/分散型の質量移動へと分けられる。対流項は、線速度と長さ変化によって次の長さ区間への集中流を記述する。拡散/分散質量移動は、軸方向分散係数によって記述される。軸方向の分散の寸法/効果は、軸方向の分散係数の値によって、及び第2のフィックの法則に匹敵する、長さに対する濃度の二次導関数によって表される断面積を通る濃度の変化によって記述される。長さに対する濃度の二次導関数は逆混合を表す。
【0135】
言い換えると、経時的な濃度の変化は、線速度を介した対流輸送と、軸方向分散係数を介した逆混合とに起因する。より正確には、体積が流体によってより長く流れるほど、逆混合の影響はより大きくなる。局所的に考慮される濃度変化∂は、式8によって示されるように、長さと軸方向分散係数との商にわたる時間的濃度変化の合計の増加と共に増加する。
【数7】
【数8】
c=i番目の成分の濃度[g/L/M]
t=時間[秒]
u=線速度[mm/秒]
x=縦座標[mm]
ax=軸方向分散係数[mm/秒]
【0136】
構成Cのように、フィルタがフィードによって永続的に排他的に流される場合、濃度変化∂c/∂tがフィルタ内で0であるため、システム内の逆混合は著しく減少する。
【0137】
フィルタがフィード専用に使用される入口ラインに直接設置されていない場合、フィルタはフィードによってのみ流されるべきである。さらに、フィルタは、恒久的に、すなわちサイクル全体の間、フィードで満たされるべきである。したがって、フィルタ弁のスイッチング時間は、濃度勾配を回避するために、フィードがフィルタ弁へと戻る体積によって調整されなければならない。
【0138】
図7に示すように、全ての構成A、構成B、及び構成Cにおいて、第2の溶出ピークが検出される。図10は、構成AのUV信号(実線)に加えて導電率信号(破線)を示す。導電率信号は、負荷の開始時に小さなピークを、すなわち固定相の結合容量を減少させる塩信号を特徴とする。この望ましくない挙動は、逆混合を効率的に防止することなく複数の入口ラインの併合に起因して生じる。
【0139】
各入口ラインに混合弁145を設けることで専用の混合ポイントを作製し、異なる媒体を互いに分離し、その結果、濃度勾配は混合点まで0になり、これは、逆混合を行うことができないことを意味する(式7を参照)。オンラインフィルタの場合、混合弁の存在はまた、入口ラインが合流する点と、フィルタの位置との間の距離の縮小を可能にする。
【0140】
逆混合を低減するための更なる手段は、入口から出口までの流路の一般的な構造に関する。曲げ及び旋回が最小化された流路、又は言い換えると、可能な限り直線状である流路は、流路のデッドボリュームを減少させ、したがって逆混合を減少させる。
【0141】
図11及び図12は、これまでに例示したクロマトグラフィプロセスを最適化するための手段のうち1つ以上が実装される、クロマトグラフィシステムの2つの例を示す。
【0142】
図11は、クロマトグラフィシステム900の例示的な実行を示す。システム900は、各々が、複数の入口弁901/903/905、空気センサ907/909/911、ポンプ913/915/917、チェック弁919/921/923、圧力センサ925/927/929、及び流量計931/933/935を含む、3つの入口ラインを有する。1つの入口ラインはフィード用であり、別の入口ラインは水がインライン希釈を行うためのものであり、最後の入口ラインはバッファ用である。
【0143】
3つの入口ラインが合流した後、流路に沿ってフィルタ940を設ける。特に、流路には、フィルタ940を接続するための2つのフィルタ弁942、944が設けられている。流路は、流入流体への代替経路を提供するフィルタバイパス弁946及び排出弁948を更に備える。
【0144】
続いて、2つの膜吸着器(又は2つのスタック)960、961が、それぞれ、2つの膜弁962、963及び964、965によって各々流路へと接続される。各膜吸着器/各スタックの体積は150mLである。圧力、導電率、pH、及び吸着を測定するためのセンサ設定950及びセンサ設定970は、膜吸着器960、961の前後に実装される。流路は膜バイパス弁966を更に備える。
【0145】
最後に、廃棄物、最終生成物、及び様々なプロセス中間体を排出するために、4つの出口弁980、985、990、及び995が設置される。
【0146】
システム900内の全ての弁は、複数の入口弁901、903、905を除き、約3秒未満のスイッチング時間を有するように制御されるが、その後、チェック弁919、921、923がそれぞれ実装される。
【0147】
上述のように、従来のカラムクロマトグラフィと比較して固定相の体積が小さく、かつサイクル当たりの結合容量が低いことに起因して、より多くの数の膜クロマトグラフィサイクルが所与の体積のフィードを処理するために必要である。しかしながら、システム900を用いて行われるプロテインAクロマトグラフィについての以下の表から分かるように、各サイクルはより短い。
【表5】
【0148】
上記の値は、1つの工程から次の工程への固定された移行を伴う結合及び溶出モードでの膜クロマトグラフィのサイクルを指す。各工程の体積は、150mLである膜体積の単位で表される。対流が主に質量輸送を担うことで、樹脂において優勢である拡散メカニズムに対してより効率的な吸着をもたらすので、膜上のタンパク質含有溶液の滞留時間は20秒以下である。動的結合時間は約20g/Lである。
【0149】
図9のシステム900で実行される膜クロマトグラフィのサイクルは約7分間続くが、一方でカラムクロマトグラフィの対応するサイクルは、前述のように4時間を超える。
【0150】
図12は、クロマトグラフィシステム1000の別の例示的な実装を示す。クロマトグラフィシステム1000は、各々が、複数の入口弁1001/1003、空気センサ1005/1007、ポンプ1009/1011、圧力センサ1013/1015、流量計1017/1019、及び混合弁1021/1023を含む、2つの入口ラインを備える。一方の入口ラインはフィード用であり、他方の入口ラインはバッファ用である。
【0151】
2つの入口ラインが合流した後、流路に沿ってフィルタ1040を設ける。特に、流路には、フィルタ1040を接続するための2つのフィルタ弁1042、1044が設けられている。流路は、流入流体への代替経路を提供するフィルタバイパス弁1046及び排出弁1048を更に備える。
【0152】
続いて、2つの膜吸着器(又は2つのスタック)1060、1061が、それぞれ、2つの膜弁1062、1063及び1064、1065によって各々流路へと接続される。各膜吸着器/各スタックの体積は150mLである。圧力、導電率、pH、及び吸着を測定するためのセンサ設定1050及びセンサ設定1070は、膜吸着器1060、1061の前後に実装される。流路は膜バイパス弁1066を更に備える。
【0153】
最後に、廃棄物、最終生成物、及び様々なプロセス中間体を排出するために、4つの出口弁1080、1085、1090、及び1095が設置される。
【0154】
システム1000内の全ての弁は、約3秒未満のスイッチング時間を有するように制御される。
【0155】
システム1000を用いて行われるプロテインAクロマトグラフィのサイクルの各相の持続時間を以下の表に報告する:
【表6】
【0156】
上記の値は、1つの工程から次の工程への条件付き移行、例えば所与のUV吸着値又は導電率値に達した場合の次の工程への移行を伴う、結合及び溶出モードでの膜クロマトグラフィのサイクルを指す。
【0157】
図10のシステム1000で実行される膜クロマトグラフィのサイクルは約4分間続き、したがって、システム1000は図9に示すシステム900よりも速い。その理由の一部は、前に説明したように、混合弁の存在により、入口ラインとフィルタとの間の流路の長さを短くすることができるためである。さらに、条件付き移行によりサイクルが短くなる。
【0158】
これまでに論じた構造設計及び/又は流量制御手段によって達成される逆混合の減少は、溶出画分の低いピーク広がりをもたらし、したがって溶出液中の高い生成物濃度をもたらす。したがって、多くのサイクルにわたって希釈の蓄積はなく、クロマトグラフィプロセスは、効率及び品質の点で改善される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】