(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】マルエージング鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231121BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20231121BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20231121BHJP
B22F 10/20 20210101ALI20231121BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20231121BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20231121BHJP
B22F 1/065 20220101ALI20231121BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231121BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231121BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231121BHJP
【FI】
C22C38/00 302N
C22C38/58
C21D6/00 M
B22F10/20
B22F9/08 A
B22F1/052
B22F1/065
B22F1/00 S
B33Y70/00
B33Y80/00
C22C38/00 301H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527047
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 SE2021051102
(87)【国際公開番号】W WO2022098285
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517189825
【氏名又は名称】ウッデホルムズ アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】エイネルマルク、 セバスティアン
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA06
4K017BB04
4K017BB06
4K017BB16
4K017CA01
4K017CA07
4K017FA14
4K018AA24
4K018BA13
4K018BB03
4K018BB04
4K018KA14
(57)【要約】
本発明は、熱間加工工具に適したマルエ~ジング鋼に関するものであり、該鋼は、重量%(wt%)で、C≦0.08、Si 0.1~0.9、Mn≦2、Cr 4.0~6.5、Ni 2.0~5.0、Mo 3.5~6.5、Co 2.0~5.5、Cu≦4.0、Nb≦0.1、V≦0.1、Ti≦0.1、残部 Fe及び不純物、から構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間工具用に適した鋼であって、
該鋼が、重量%(wt.%)で、
C ≦0.08、
Si 0.1~0.9、
Mn ≦2、
Cr 4.0~6.5、
Ni 2.0~5.0、
Mo 3.5~6.5、
Co 2.0~5.5、
Cu ≦4.0、
Nb ≦0.1、
V ≦0.1、
Ti ≦0.1、
残部 鉄と不純物、
から構成される鋼。
【請求項2】
以下の要件のうち少なくとも1つを満たす請求項1に記載の鋼:
C ≦0.07、
Si 0.2~0.8、
Mn ≦1、
Cr 4.1~6.0、
Ni 2.5~4.5、
Mo 4.0~6.0、
Co 2.5~5.0、
Cu ≦3.0、
V ≦0.05、
Nb ≦0.05、
Ti ≦0.05、
及び/又は、マルテンサイトからオ~ステナイトへの変態温度Ac1が、680℃より高い、
及び/又は、前記鋼が時効状態にあり、金属間化合物の析出物を含み、該析出物の少なくとも50vol.%が(Fe,Ni,Co)
7Mo
6型である。
【請求項3】
以下の組成要件の少なくとも1つを満たす、請求項1又は2に記載の鋼:
C ≦0.06、
Si 0.2~0.7、
Mn ≦0.6、
Cr 4.3~5.7、
Ni 2.7~4.3、
Mo 4.2~5.8、
Co 2.7~4.7、
Cu ≦2.5、
V ≦0.03、
Nb ≦0.03、
Ti ≦0.03、
及び/又は、マルテンサイトからオーステナイトへの変態温度Ac1が、700℃より高い、
及び/又は、鋼が時効状態にあり、金属間化合物の析出物を含み、析出物の少なくとも70vol.%が(Fe、Ni、Co)
7Mo
6型である、
及び/又は、清浄度が、ASTM E45-97、方法Aに準拠した微細スラグに関する以下の最大要件
【表A】
を満たす。
【請求項4】
以下の要件を満たす、請求項1又は2に記載の鋼:
C ≦0.06、
Si 0.3~0.6、
Mn ≦0.4、
Cr 4.5~5.5、
Ni 3.0~4.0、
Mo 4.5~5.5、
Co 3.0~4.5、
V ≦0.05、
Nb ≦0.05、
Ti ≦0.05、
Al ≦0.01、
であり、任意に、マルテンサイトからオ~ステナイトへの変態温度Ac1が、710℃より高い。
【請求項5】
以下の要件を満たす、請求項1又は2に記載の鋼:
C ≦0.06、
Si 0.2~0.7、
Mn ≦0.6、
Cr 4.3~5.7、
Ni 2.7~4.3、
Mo 4.2~5.8、
Co 2.7~4.7、
V ≦0.03、
Ti ≦0.03、
Al ≦0.01、
であり、任意に、マルテンサイトからオーステナイトへの変態温度Ac1が720℃より高い。
【請求項6】
溶融アトマイズにより製造されたプレアロイ粉末であって、該粉末が請求項1~5の何れか1項に記載の組成を有するプレアロイ粉末。
【請求項7】
前記粉末がガスアトマイズにより製造され、該粉末粒子の少なくとも80%が5~150μmの範囲の粒径を有し、該粉末が以下の要件のうち少なくとも1つを満たす、請求項6に記載のプレアロイ粉末:
粉末粒径分布(μm): 5≦D10≦35、
20≦D50≦55、
D90≦80、
平均真球度、SPHT ≧0.85、
平均アスペクト比、b/l≧0.85、
(ここで、SPHT=4πA/P
2(式中、Aは粒子投影により覆われた面積の測定値であり、Pは粒子投影の外周/周囲の測定値である。)であり、真球度(SPHT)は、ISO 9276-6に準拠するカムサイザーで測定され、bは前記粒子投影の最短幅であり、lは最長径である。)。
【請求項8】
前記粉末粒子の少なくとも90%が10~100μmの範囲の粒径を有し、該粉末が以下の要件のうち少なくとも1つを満たす、請求項6に記載のプレアロイ粉末:
粉末粒径分布(μm): 10≦D10≦30、
25≦D50≦45、
D90≦70、
平均真球度、SPHT ≧0.90、
平均アスペクト比、b/l≧0.88。
【請求項9】
付加製造方法によって形成された物品であって、該物品が請求項1~5の何れか1項に記載の合金を含む物品。
【請求項10】
熱間加工及びプラスチック成形用の工具及び金型の製造のための、請求項1~5の何れか1項に記載の合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間加工工具及びプラスチック成形工具等の工具に適した特性を有し、その組成が付加製造方法での使用にも適している、新しいタイプのマルエージング鋼(Maraging steel)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「熱間加工用工具」という用語は、比較的高温で金属を加工及び成形するための工具、例えばダイキャスト用、ホットプレス用、プラスチック成形用金型、その他高温での作業における使用を目的とした様々な種類の工具に適用される。従来の熱間加工工具鋼は、高温に長時間曝されたときの強度と硬度を重視して開発され、一般に相当量の炭化物形成合金(carbide forming alloys)が使用されている。
【0003】
熱間加工用途では、従来、さまざまな種類の熱間加工用工具鋼、特にH11やH13のような5%Cr鋼を使用するのが一般的であった。Uddeholm DIEVAR(登録商標)は、このタイプの高級熱間加工工具である。それは、ESR社製の高性能クロム・モリブデン・バナジウム鋼である。特許文献1に記載されているように、バランスのとれた炭素及びバナジウムの含有量を含む。このタイプの鋼は、ナノメートルサイズの炭化物を析出させて転位運動を阻害し、粒子強化を図るもので、いわゆる二次硬化鋼と呼ばれている。
【0004】
また、熱間加工用途にマルエージング鋼を使用することも知られている。マルエージング鋼は、炭素による硬化ではなく、低炭素マルテンサイトの高合金マトリックス中に金属間化合物が析出することによって硬化する。市販のマルエージング鋼は、18%のNiと多量のMo、Co、Ti及びAlとを含むことが多い。最も一般的な18%Ni鋼の一つは、グレード300のマレージング鋼であり、1.2709と呼ばれている。マレージング鋼の別のクラスは、ステンレス鋼で、17-7PH、17-4PH、15-5PH、PH 15-7Mo、PH 14-8Mo及びPH 13-8Moを包含する。
【0005】
マルエージング鋼は、超高強度及び延性を兼ね備えているが、高価な合金元素を多量に含むという欠点がある。さらに、多くのマルエージング鋼では、時効(aging)処理中にマルテンサイトからオーステナイトに部分的に戻るという欠点がある。このタイプのオーステナイトは逆変態オーステナイト(reverted austenite)と呼ばれ、硬化及び時効後のマルエージング鋼に存在することもある残留オーステナイト(retained austenite)と区別される。オーステナイトとマルテンサイトは密度が異なるため、熱処理及び使用中に起こる微細構造変化により、変態応力及び歪みが発生する。オーステナイトからマルテンサイトへの変態は体積増加をもたらし、オーステナイトからマルテンサイトへの変態は工具鋼の収縮をもたらす。従って、これらの不要な変形は、有害な寸法変化につながる可能性があり、高精度の金型、工具及びダイでは難しい問題である。
【0006】
また、高反応性元素の存在により、Al2O3、TiN及びVN等の硬質介在物(hard inclusions)が形成され、研磨性が損なわれる場合がある。
【0007】
マレージング鋼の金属粉末は、炭素含有量が少ないため、冷却時の割れを防ぐことができることから、積層造形法(Additive Manufacturing)(AM)に使用されることが多くなっている。AM粉末はコストが高いため、該粉末のリサイクルが注目されている。しかし、選択的レーザー融解(Selective Laser Melting)(SLM)チャンバー内の酸素濃度は一般に1000ppm程度であるため、AM粉末は加工時に酸素をピックアップすることになる。従って、特に鋼がAl及びTi等の酸素活性元素を多く含む場合、再利用時に粉末を繰り返し加熱することで、実質的に酸素を取り込むことになる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【0009】
本発明は、従来知られている材料の前述の欠点を解消することを目的とする。
【0010】
本発明の一般的な目的は、熱間加工及びプラスチック成形工具の特性を改善した、新しいタイプの普遍的で経済的な実行可能なマルエージング鋼を提供することである。
【0011】
特に、本発明は、高い寸法安定性とともに高い靭性を兼ね備えた高い耐焼戻性を有する鋼に向けられたものである。耐焼戻性とは、鋼が高温で長時間硬さを維持する能力のことである。靭性とは、鋼がエネルギーを吸収し、破断せずに塑性変形する能力のことである。
【0012】
さらに、良好な研磨性とともに、良好な寸法安定性を有するマルエージング鋼を提供することを目的とする。
【0013】
さらに別の目的は、窒素ガスの使用により溶融アトマイズを行うことができ、その粉末がレーザーベースのAMにおける再循環のために改善された特性を有する、反応性元素の低い含有量を有するマルエージング鋼を提供することである。
【0014】
本発明は、特許請求の範囲に定義されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例3における、比較鋼のレーザー顕微鏡写真(×200)を示す。
【
図2】
図2は、実施例3における、本発明の鋼のレーザー顕微鏡(×200)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細説明
別個の元素の重要性及びそれらの互いの相互作用、並びに特許請求された合金の化学成分の制限は、以下に簡単に説明される。鋼の化学組成についての全てのパーセンテージは、本明細書ではすべて重量%(wt.%)で与えられる。相の量は体積%(vol.%)で与えられる。個々の要素の上限値、下限値は、特許請求の範囲に規定された制限内で自由に組み合わせることができる。
【0017】
別個の元素の重要性及びそれらの互いの相互作用、並びに特許請求された合金の化学成分の制限は以下で簡単に説明される。鋼の化学組成についての全てのパーセンテーは、本明細書ではすべて重量%(wt.%)で与えられる。個々の要素の上限値、下限値は、特許請求の範囲に規定された範囲内で自由に組み合わせることができる。本願で与えられたすべての数値について、数値の算術精度を1桁又は2桁上げることができる。したがって、例えば0.1%と報告されている値は、0.10%又は0.100%と表現することもできる。微細構造構成成分の量は、体積%(vol.%)で与えられる。
【0018】
カーボン(≦0.08%)
炭素は、マルエージング鋼の不純物元素として好ましくない。カーボンの上限は0.08%である。上限は、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03又は0.02%でもよい。
【0019】
シリコン(Silicon)(0.1~0.9%)
シリコンは脱酸に使用される。また、Siは強いフェライトフォーマーでもある。そのため、Siは0.9%に制限されている。上限は、0.8、0.7、0.6、0.5又は0.4%でもよい。下限は、0.1%、0.2%又は0.3%でもよい。
【0020】
マンガン(≦2%)
マンガンは、鋼の脱酸性、焼入れ性(hardenability)の向上に寄与する。Mnの含有量は重要ではないが、2%に制限される。上限は、1.5%、1.0%、0.6%、0.5%又は0.4%でもよい。
【0021】
クロム(4.0~6.5%)
クロムは,良好な焼入れ性と耐食性を与えるために,少なくとも4.0%の含有率で存在する。クロムの含有量が多すぎると、デルタフェライトのような望ましくない相の形成につながることがある。したがって、上限は6.5%である。上限は、6.0%又は5.5%でもよい。下限値は、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4又は4.5%でもよい。
【0022】
ニッケル(2.0~5.0%)
ニッケルは、オーステナイトの安定剤であり、デルタフェライトの形成を抑制する。ニッケルは、鋼に良好な焼入れ性と靭性を与える。Niはμ-相としてのMoの析出を促進する。下限は、2.0%、2.5%又は3%でもよい。上限は5.0、4.5、4.3、4.1又は4.0%でもよい。
【0023】
モリブデン(3.5~6.5%)
固溶したMoは、焼入れ性に非常に有利な影響を与えることが知られている。Moは、本発明では、時効時の析出硬化のために必要なものである。Moは、時効によって金属間化合物であるμ-相(Fe,Ni,Co)7Mo6を形成するようである。このため、Moの量は3.5~6.5%とすべきである。下限値は、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4又は4.5%でもよい。上限は、また6.4、6.3、6.2、6.2、6.0、5.9、5.8、5.7、5.6又は5.5%でもよい。
【0024】
コバルト(2.0~5.5%)
コバルトは、マルエージング鋼のマトリックスに溶解し、モリブデンの溶解度を低下させるため、Coは、Moをμ-相として析出させることを促進する。
さらに、Coは、MS温度とAc1温度を上昇させ、その結果、逆変態型オーステナイトの生成リスクを低下させる。
【0025】
銅(≦4%)
Cuは、ε-Cuの析出により鋼の強度を高めるために任意に添加してもよい。上限は4%であり、3.5、3.0、2.5又は2.0%に設定してもよい。
【0026】
V、Nb、Ti、Al
V、Nb及びTiは、強い炭化物、窒化物、及び/又は酸化物形成剤である。したがって、望ましくない炭化物及び窒化物の形成を避けるために、これらの元素の含有量を制限すべきである。そのため、これらの各元素の最大含有量は0.1%である。好ましくは、これらの元素は、0.05、0.03、0.02、0.01又は0.005に制限される。特に、Nb及びTiの含有量は、不純物レベルに制限することが好ましい。
【0027】
不純物元素
PとSは主な不純物で、鋼の機械的性質に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、Pは0.1、0.05、0.04、0.03、0.02又は0.01%に制限されてもよい。
硫黄を意図的に添加しない場合、Sの不純物含有量は、0.05、0.04、0.003、0.001、0.0008、0.0005又は0.0001%にさえ制限されてもよい。ただし、鋼の被削性を向上させるために、Sを0.35%までの量で意図的に添加してもよい。Sの上限は、0.30、0.25、0.15又は0.10%に低減してもよい。
【0028】
本発明の鋼組成物は、重量%(wt.%)で
C ≦0.08、
Si 0.1~0.9、
Mn ≦2、
Cr 4.0~6.5、
Ni 2.0~5.0、
Mo 3.5~6.5、
Co 2.0~5.5、
Cu ≦4.0、
Nb ≦0.1、
V ≦0.1、
Ti ≦0.1、
残部 鉄と不純物、
から構成される。
【0029】
本発明の鋼は、加熱時の逆変態オーステナイトの生成に対して極めて安定である。本発明の鋼のマルテンサイト-オーステナイト変態温度(Ac1)は、好ましくは、Alダイキャストの代表的な温度である680℃より高いことが望ましい。Ac1は膨張計(dilatometer)で簡単に求めることができ、熱膨張が最初に直線から外れる温度としてとらえることができる。Ac1温度は、少なくとも690℃、好ましくは≧700℃、より好ましくは≧710℃、最も好ましくは≧720℃であることが好ましい。
【0030】
前記鋼は、好ましくは、以下の要件のうち少なくとも1つを満たす:
C ≦0.07、
Si 0.2~0.8、
Mn ≦1、
Cr 4.1~6.0、
Ni 2.5~4.5、
Mo 4.0~6.0、
Co 2.5~5.0、
Cu ≦3.0、
V ≦0.05、
Nb ≦0.05、
Ti ≦0.05、
及び/又は、マルテンサイトからオ~ステナイトへの変態温度Ac1が、680℃より高い、
及び/又は、前記鋼が時効状態にあり、金属間化合物の析出物を含み、該析出物の少なくとも50vol.%が(Fe,Ni,Co)7Mo6型である。
【0031】
前記鋼は、好ましくは以下の組成要件の少なくとも1つを満たす:
C ≦0.06、
Si 0.2~0.7、
Mn ≦0.6、
Cr 4.3~5.7、
Ni 2.7~4.3、
Mo 4.2~5.8、
Co 2.7~4.7、
Cu ≦2.5、
V ≦0.03、
Nb ≦0.03、
Ti ≦0.03、
及び/又は、マルテンサイトからオーステナイトへの変態温度Ac1が、700℃より高い、
及び/又は、鋼が時効状態にあり、金属間化合物の析出物を含み、析出物の少なくとも70vol.%が(Fe、Ni、Co)
7Mo
6型である、
及び/又は、清浄度が、ASTM E45-97、方法Aに準拠した微細スラグに関する以下の最大要件
【表A】
を満たす。
【0032】
さらなる好ましい実施形態によれば、前記鋼は、以下の要件を満たす:
C ≦0.06、
Si 0.3~0.6、
Mn ≦0.4、
Cr 4.5~5.5、
Ni 3.0~4.0、
Mo 4.5~5.5、
Co 3.0~4.5、
V ≦0.05、
Nb ≦0.05、
Ti ≦0.05、
Al ≦0.01。
【0033】
さらなる別の好ましい実施形態によれば、前記鋼は、以下の要件を満たす:
C ≦0.06、
Si 0.2~0.7、
Mn ≦0.6、
Cr 4.3~5.7、
Ni 2.7~4.3、
Mo 4.2~5.8、
Co 2.7~4.7、
V ≦0.03、
Ti ≦0.03、
Al ≦0.01。
【0034】
本発明の合金は、溶融アトマイズによって製造されたプレアロイ粉末の形態(form)であってもよく、この粉末は、上記に規定される組成を有する。
【0035】
前記プレアロイ粉末は、ガスアトマイズにより製造され、該粉末粒子の少なくとも80%が5~150μmの範囲の粒径を有し、該粉末が以下の要件のうち少なくとも1つを満たす:
粉末粒径分布(μm): 5≦D10≦35、
20≦D50≦55、
D90≦80、
平均真球度、SPHT ≧0.85、
平均アスペクト比、b/l≧0.85、
(ここで、SPHT=4πA/P2(式中、Aは粒子投影により覆われた面積の測定値であり、Pは粒子投影の外周/周囲の測定値である。)であり、真球度(SPHT)は、ISO 9276-6に準拠するカムサイザーで測定され、bは前記粒子投影の最短幅であり、lは最長径である。)。
【0036】
前記プレアロイ粉末粒子は、好ましくは、粉末粒子の少なくとも90%が10~100μmの範囲の粒径を有する粒径分布を有し、該粉末が以下の要件のうち少なくとも1つを満たす:
粉末粒径分布(μm): 10≦D10≦30、
25≦D50≦45、
D90≦70、
平均真球度、SPHT ≧0.90、
平均アスペクト比、b/l≧0.88。
【0037】
本発明は、また、付加製造方法(additive manufacturing)によって形成された物品(article)であって、該物品が本発明の合金を含む物品を包含する。
【0038】
本発明の合金は、熱間加工用工具、プラスチック成形用工具、小型金型等のあらゆる工具の製造に使用してもよい。これらの製品は、任意の適切な方法によって製造してもよい。好ましい製造方法は、HIP又はAMを含むPMである。特に鋼粉末は、合金粉末の酸素及び窒素との反応性が低いため、当該粉末の再循環を伴う選択的レーザー溶融(Selective Laser Melting)に適している。
【0039】
本発明の合金は、粉末冶金(Powder Metallurgy)(PM)により製造することができる。
【0040】
PM粉末は、プレアロイ鋼の通常のガス又は水アトマイズにより製造することができる。
【0041】
前記粉末をAMに使用する場合は、真円度が高く、サテライトの少ない粉末を製造する技術を使用することが重要であるため、ガスアトマイズが好ましいアトマイズ方法である。特に、密着型ガスアトマイズ法(close-coupled gas atomization method)は、この目的に使用することができる。
【0042】
AM用粉末粒子の最大粒径は150μmであり、好ましい粒径範囲は10~100μmで、平均粒径は約25~45μmである。
【0043】
AMの手法としては、液体金属堆積法(Liquid Metal Deposition)(LMD)、選択的レーザー溶融(SLM)、電子ビーム(EB)溶融が注目されている。また、AMでは粉体の特性も重要である。ISO 4497に準拠したカムサイザーで測定した粉末粒径分布は、以下の要件を満たす必要がある(μm):
5≦D10≦35、
20≦D50≦55、
D90≦80。
【0044】
好ましくは、前記粉末は、以下の粒径要件(単位:μm)を満たすことが望ましい:
10≦D10≦30、
25≦D50≦45、
D90≦70。
【0045】
さらに好ましいのは、粗大粒径画分D90が≦60μm、さらには≦55μmに限定されることである。
【0046】
前記粉末の真球度が高いことが望ましい。真球度(SPHT)はカムサイザーで測定でき、ISO9276-6で定義される。SPHT=4πA/P2であり、式中、Aは粒子投影により覆われた面積の測定値であり、Pは粒子投影の外周/周囲の測定値である。平均SPHTは、少なくとも0.80であるべきであり、好ましくは少なくとも0.85、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94又はさらに0.95であり得る。
さらに、前記粒子の5%以下がSPHT≦0.70であることが望ましい。好ましくは、前記値は、0.70、0.65、0.55又はさらに0.50未満であるべきである。SPHTのほかにも、粉体粒子の分級にアスペクト比を利用することができる。アスペクト比は、b/lで定義され、bは前記粒子投影の最短幅であり、lは最長径である。平均アスペクト比は、好ましくは少なくとも0.85、より好ましくは0.86、0.87、0.88、0.89、又は0.90であるべきである。
【実施例】
【0047】
実施例1
この例では、本発明の合金の一つを、高級鋼のUddeholm Dievar(登録商標)と比較している。
合金の公称組成は以下の通りである(wt%):
本発明 Uddeholm
Dievar(登録商標)
C 0.03 0.36
Si 0.43 0.20
Mn 0.03 0.5
Cr 5.25 5
Ni 3.43 -
Mo 5.51 2.3
V 0.07 0.55
Co 3.82 -
Cu 0.04 -
残部 鉄及び不純物
【0048】
本発明の鋼は、ガスアトマイズ及びHIPにより形成される。温度間隔800~500℃で600秒の時間をかけて室温まで冷却した後(t8/5=600秒)、鋼は、605℃で3時間の焼戻しを2回行い、45HRCの硬度となった。
【0049】
比較鋼は、従来、インゴット鋳造後、ESRで製造されていたものである。再溶解した鋼は、真空炉で1020℃のオーステナイト化を実施した後、800~500℃の間隔で600秒の時間、ガス焼入れを行った(t8/5=600s)。室温まで冷却した後、比較鋼は45HRCの硬度を得るために615℃で2時間の焼戻しを2回(2×2)実施した。
【0050】
その後、600℃の温度で合金の耐焼戻性を調査した。その結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
さらに、焼戻し後の靭性を調べたところ、本発明の鋼のシャルピーV靭性が25Jであったのに対し、比較鋼のシャルピーV靭性は22Jであり、本発明の鋼は、比較鋼に比べて格段に高い耐焼戻性を有していることがわかる。
【0053】
時効処理後の鋼の微細構造を調べたところ、本発明の鋼の硬化の原因となる析出物は、(Fe,Ni,Co)7Mo6、すなわち金属間μ-相であることが判明した。本発明の鋼の析出過程をシミュレーションするための計算ツールとして、析出モジュール(TC-Prisma、Thermo Calc Version 2021b)を使用した。本実施例で用いた本発明の鋼の析出計算の結果、10時間後の金属間μ-相の粒径は約20nmであり、μ-相の量は5vol.%よりやや少ないことがわかった。
【0054】
実施例2
この例では、本発明の合金の1つをグレード300のマルエージング鋼(1.2709)と比較している。
【0055】
合金の公称組成は以下の通りである(wt%).
本発明 1.2709
C 0.03 0.005
Si 0.43 0.04
Mn 0.03 0.05
Cr 5.25 0.02
Ni 3.43 18.1
Mo 5.51 5.1
V 0.07 0.03
Co 3.82 8.8
Cu 0.04 0.01
Ti - 0.95
残部 鉄及び不純物
【0056】
これらの合金のガスアトマイズ粉末を、EOS M290システムで選択的レーザー溶融(SLM)に供した。
【0057】
その結果、本発明の鋼は、製造時の状態(as-built condition)で残留オーステナイトが存在していない(<2vol.%)のに対し、比較鋼は、11vol.%の残留オーステナイトを含むことが判明した。残留オーステナイトの量は、標準規格ASTM E975-13に従ってX線回折によって決定された。
【0058】
鋼を、540℃の時効温度で1時間保持することで、時効中の逆変態オーステナイトを形成する性質を調べた。その結果、本発明の鋼では、逆変態オーステナイトが形成されなかったのに対し、比較鋼ではオーステナイト量が17vol.%まで増加した。そこで、比較鋼1.2709のマルテンサイトからオーステナイトへの変態温度(Ac1)以上で時効を実施した。したがって、鋼1.2709の熱膨張は、再加熱時のマルテンサイトからオーステナイトへの変態によって影響を受けることになる。
【0059】
本発明の鋼でマルテンサイトからオーステナイトへの変態がないのは、オーステナイト変態開始温度が時効温度より高いことに起因すると考えられる。このことは、膨張計による検査で確認され、本発明の鋼のAc1温度は730℃であり、Ac3温度は925℃であることが判明した。したがって、Ac1温度までの再加熱では、逆変態オーステナイトが形成されることはない。このことから、本発明の鋼は、一般に約680℃の溶融温度で行われるアルミニウムのダイカストに使用できることがわかる。
【0060】
時効処理後の鋼の微細構造を調査したところ、本発明の鋼の硬化の原因となる析出物は(Fe,Ni,Co)7Mo6、すなわち金属間μ-相であることが判明した。
【0061】
予想されたように、比較鋼1.2709の硬化の原因となる析出物は、(Fe,Ni,Co)3(Ti,Mo)であり、μ-相は微量しか見つからなかった。
【0062】
実施例3
酸素を含む雰囲気にしたときの非金属介在物の生成感度を定性的に調査した。実施例2と同じ組成の本発明の鋼を、Uddeholm Dievar(登録商標)鋼と比較した。比較鋼の公称組成は、C 0.03%、Si 0.3%、Mn 0.3%、Cr 12.0%、Ni 9.2%、Mo 1.4%及びAl 1.6%である。
【0063】
両鋼とも、アルゴン保護雰囲気下、高周波炉で溶解し、その後、傾斜した銅製シュートで大気中にて鋳造した。
【0064】
同じサンプルを採取し、レーザー顕微鏡(LOM)で200倍の倍率で検査した。検査結果を
図1及び
図2に示すが、比較すると、本発明の鋼は比較鋼に比べて酸素に対する感受性が非常に低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の合金は、幅広い用途に有用である。特に、熱間加工及びプラスチック成形用の工具及び金型、AM用途に有用である。
【国際調査報告】