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▶ メドレジェン,リミティド ライアビリティ カンパニーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】製剤、方法、キット、および剤形
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/706 20060101AFI20231121BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231121BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231121BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231121BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61K 31/395 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
A61K31/706
A61K47/22
A61K47/10
A61K47/02
A61K9/08
A61P43/00 111
A61K31/395
A61P43/00 121
A61P37/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528146
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(85)【翻訳文提出日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 US2021058727
(87)【国際公開番号】W WO2022103798
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】63/111,895
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518014748
【氏名又は名称】メドレジェン,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】チャオリー サン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン サン
(72)【発明者】
【氏名】ジャレッド グリフィン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティ イートモン
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル ラベル
(72)【発明者】
【氏名】チーミン リウ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ブレワー
(72)【発明者】
【氏名】アイザック アギェマン
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル ウィリアムズ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB11
4C076CC07
4C076DD22
4C076DD23
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD60
4C076FF36
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC58
4C086EA04
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA16
4C086MA66
4C086NA03
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示の実施形態は、概して、少なくとも2つの有効成分、AMD3100または類似の幹細胞動員剤、およびタクロリムスまたはFK506誘導体またはアナログ、ならびに一つまたは複数の賦形剤を含む、安定性を改善するための製剤、方法、キット、および剤形に関する。製剤は、単回投与の皮下注射として投与することができる。この製剤は、様々な疾患、障害、または損傷の治療に有用である可能性がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、医薬製剤:
AMD3100または類似の幹細胞動員剤;
タクロリムスまたはFK506誘導体またはアナログ;および
一つまたは複数の賦形剤
【請求項2】
前記AMD3100または類似の幹細胞動員剤の濃度が約16~約48mg/mLである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記タクロリムスまたはFK506誘導体またはアナログの濃度が約0.3~約1.6mg/mLである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記賦形剤が、1-N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、グリセリン、無水エタノール、塩化ナトリウム、注射用水、塩酸、および水酸化ナトリウムのうちの一つまたは複数を含む、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記NMPの濃度が約200~約450mg/mLである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記グリセリンの濃度が約150~約350mg/mLである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項7】
前記無水エタノールの濃度が約20~約70mg/mLである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項8】
前記塩化ナトリウムの濃度が約1~約3mg/mLである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記製剤が室温で少なくとも10日間、または摂氏2~8℃または摂氏約マイナス20℃下で(under 2 to 8 degrees Celsius or about minus 20 degrees Celsius)少なくとも9カ月間安定である、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項10】
前記製剤が単回投与の皮下注射に適している、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項11】
請求項1に記載の医薬製剤を、それを必要とする対象または患者に投与することを含む、一つまたは複数の障害、疾患、または損傷を治療するための方法。
【請求項12】
請求項1に記載の医薬製剤を製造する方法。
【請求項13】
請求項1に記載の医薬製剤の少なくとも一つの剤形、およびそれを必要とする対象または患者に該少なくとも一つの剤形を投与するための説明書を含むキット。
【請求項14】
前記一つまたは複数の障害、疾患、または損傷が、心筋梗塞、角膜損傷、急性呼吸促迫症候群、または関節炎を含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、概して、皮下注射用の改良された医薬製剤の製剤、方法、キット、および剤形に関する。
【背景技術】
【0002】
AMD3100は、幹細胞ドナーにおける幹細胞の動員において使用されるCXCR4アンタゴニストである。FK506は、臓器拒絶反応を防ぐために固形臓器移植において高用量で広く使用されている免疫抑制薬である。現在、モゾビル(登録商標)(プレリキサホル、AMD3100)注射は、非ホジキンリンパ腫および多発性骨髄腫の患者における採取およびその後の自家移植のために造血幹細胞(HSC)を末梢血に動員するために、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)と併用して適応されている。プログラフ(タクロリムス、FK506)は、他の免疫抑制剤と組み合わせて、同種異系の肝臓、腎臓、または心臓移植を受ける成人および小児患者の臓器拒絶反応の予防に適応されるカルシニューリン阻害剤免疫抑制剤である。プログラフ(タクロリムス)カプセルは経口使用のためのもの、プログラフ(タクロリムス)注射は静脈内使用のためのものである。現在のところ、プログラフは皮下注射には使用できない可能性がある。
【0003】
幹細胞の動員(mobilization)および補充(recruitment)において有用な、単回投与の皮下注射用の医薬製剤の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、様々な疾患、障害、および/または損傷を治療するための製剤、方法、キット、および剤形に関する。一実施形態では、本開示は、有効医薬成分AMD3100およびタクロリムス(FK506)を含む医薬製剤を提供する。一実施形態では、有効医薬成分は、AMD3100と類似である任意の幹細胞動員剤を含んでもよい。一実施形態では、有効医薬成分は、任意のFK506誘導体またはアナログを含んでもよい。一実施形態では、製剤は一つまたは複数の賦形剤をさらに含む。一実施形態では、製剤は単回投与の皮下注射として製剤化される。
【0005】
本開示は、AMD3100、またはAMD3100に類似の任意の幹細胞動員剤、およびタクロリムス、または任意のFK506誘導体またはアナログを含む医薬製剤を製造するための方法を提供する。一実施形態では、本開示は、本明細書に開示される有効成分および一つまたは複数の賦形剤を含む医薬製剤を含む剤形を提供し、ここで、該医薬製剤は、所定の時間および所定の条件下で安定なままである。
【0006】
一実施形態では、本開示は、医薬製剤を製造または安定化する方法を提供する。一実施形態では、本開示は、一つまたは複数の剤形および対象に剤形を投与するための説明書を含むキットを提供し、ここで、該剤形は、少なくとも2つの有効成分および一つまたは複数の賦形剤を含む医薬製剤を含み、ここで該有効成分は、AMD3100、またはAMD3100に類似の任意の幹細胞動員剤、およびタクロリムス(FK506)、もしくは任意のFK506誘導体もしくはアナログを含み、ここで該剤形は、所定の時間および所定の条件下で安定なままである。
【0007】
上記の発明の概要および以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むとよりよく理解される。例示的な実施形態を図面に示す。しかしながら、実施形態は、本明細書に示される特定の構造に限定されないことが理解される。図面は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aは、本開示の例示的な実施形態による、ラットにおけるAMD3100およびFK506の線形スケールでの経時的な平均血漿中濃度を示す。図1Bは、本開示の例示的な実施形態による、ラットにおけるAMD3100およびFK506の片対数スケールでの経時的な平均血漿中濃度を示す。
図2図2Aは、本開示の例示的な実施形態による、ミニブタにおけるAMD3100およびFK506の線形スケールでの経時的な平均血中濃度を示す。図2Bは、本開示の例示的な実施形態による、ミニブタにおけるAMD3100およびFK506の片対数スケールでの経時的な平均血中濃度を示す。
図3】本開示の例示的な実施形態による、AMD3100+FK506または本開示の製剤の投与についての経時的(治療後の日数)な疾患活動性指数(DAI)を示す図である。
図4-1】図4Aは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤で治療された結腸の長さの絵を示す。
図4-2】図4Bは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤で治療された結腸の長さの定量的データを示す。
図5-1】図5Aは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤で治療された0日目のブタモデルを示す。
図5-2】図5Bは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤で治療されたブタモデルにおける皮膚創傷治癒の肉眼的分析(macroscopic analysis)を示す。
図5-3】本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤で治療されたブタモデルにおける皮膚創傷治癒の再上皮化時間を示す図である。
図6-1】図6Aは、本開示の例示的な実施形態による、1カ月後の損傷した脊髄の組織像を示す。図6Bは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤で治療した後のラットのSCI後の骨髄由来GFP細胞を示す。
図6-2】図6Cは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤での治療後のラットにおける急性脊髄損傷(SCI)の経時的なBBBスコア(Basso, Beattie and Bresnahan Score)を示す。
図7-1】図7Aは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤による治療後のラットの心筋梗塞後の手術後の左室駆出率(LVEF)を示す。
図7-2】図7Bは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤による治療後のラットの心筋梗塞後の手術後の瘢痕形成を示すマッソントリクローム染色(Masson‘s trichome staining)を示す。
図8-1】図8Aは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤で治療した後のマウスの眼熱傷後の眼の角膜の写真を示す。
図8-2】図8Bは、本開示の例示的な実施形態による、本開示の製剤で治療した後のマウスの眼熱傷後のマウス角膜透明度スコアを示す。
図9-1】図9Aは、本開示の例示的な実施形態による、ブタの皮膚の創傷治癒の肉眼的分析(macroscopic analysis)を示す。
図9-2】図9Bは、本開示の例示的な実施形態による、1型ブタにおける創傷治癒時間を示す。
図10図10Aは、本開示の例示的な実施形態による、連鎖球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ;Streptococcus Pneumoniae)が誘発するARDSのマウスモデルにおける死亡率の減少および生存の改善における、製剤Aの研究のための実験プロトコールを示す。図10Bは、本開示の例示的な実施形態による、連鎖球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ)が誘発するARDSのマウスモデルにおける死亡率の減少および生存の改善における、製剤Aの研究における動物の生存を示す。
図11-1】図11Aは、本開示の例示的な実施形態による、プラセボ対照群(生理食塩水で治療)を示し、ここで上のパネルは生存動物の肺のCTスキャンを示し、中央のパネルは肺の肉眼写真を示し、下のパネルは肺のH&E染色を示す。
図11-2】図11Bは、製剤Aで治療した群を示し、ここで上のパネルは生存動物の肺のCTスキャンを示し、中央のパネルは肺の肉眼写真を示し、下のパネルは肺のH&E染色を示す。
図12-1】図12Aは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後の血清TNF-αレベルを示す。図12Bは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後の血清IL-4レベルを示す。
図12-2】図12Cは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後の血清IL-2レベルを示す。図12Dは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後の血清IL-6レベルを示す。
図12-3】図12Eは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後の血清IL-1βレベルを示す。図12Fは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後の血清IFN-γレベルを示す。
図13-1】図13Aは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後の血清乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)レベルを示す。図13Bは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルを示す。
図13-2】図13Cは、本開示の例示的な実施形態による、生理食塩水での治療または製剤Aでの治療後のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを示す。
図14-1】図14Aは、本開示の例示的な実施形態による、感染後5日目の単離された肺細胞のサイトスピンスライドの免疫蛍光染色を示す。
図14-2】図14Bは、本開示の例示的な実施形態による、正常な肺、生理食塩水で治療した肺、および製剤Aで治療した肺におけるCD133+細胞のパーセントを示す。
図15】本開示の例示的な実施形態による、製剤Aで治療した連鎖球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ)感染CD133+/C-LマウスにおけるCD133+幹細胞による気管支上皮の生成を示す。
図16】本開示の例示的な実施形態による、製剤Aによる経時的な治療後のコラーゲン誘発性関節炎ラットにおける関節炎の臨床徴候の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
以下の発明の詳細な説明は例示的かつ説明的なものであり、本明細書に記載の本開示をさらに説明することを目的としている。他の利点および新規な特徴は、本開示の以下の発明の詳細な説明から当業者には容易に明らかになるであろう。
【0010】
一実施形態では、本開示の医薬製剤は、Aを含む。
「患者」または「対象」は、哺乳動物、たとえば、ヒトもしくは動物の患者もしくは対象、たとえば、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、またはヒト以外の霊長類、たとえば、サル、チンパンジー、ヒヒ、もしくはゴリラである。
【0011】
一実施形態では、「アナログ」という用語は、構造的アナログ(たとえば、別の化合物の構造と類似した構造を有するが、特定の態様では異なる構造を有する化合物)、または機能的敵アナログ(たとえば、別の化合物の同様の物理的、化学的、生化学的、および/または薬理学的特性を有する化合物)を意味することができる。
【0012】
一実施形態では、「誘導体」という用語は、たとえば化学反応によって類似の化合物から誘導される化合物を意味することができる。
【0013】
用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。「からなる(consist)」、「からなる(consisting)」という用語、およびその変形は、包括的に解釈されるのではなく、排他的に解釈されるべきである。
【0014】
本明細書で使用する場合、「約」という用語は、特に指定しない限り、与えられた参照からの10%の変動を意味する。
【0015】
本開示は、治療有効量のAMD3100、またはAMD3100に類似の任意の幹細胞動員剤、およびタクロリムスまたは任意のFK506誘導体またはアナログを含む医薬製剤を提供する。一実施形態では、製剤は、患者または対象への単回投与の皮下注射用に製剤化される。驚くべきことに、そして予期せぬことに、幹細胞の動員(mobilization)および補充(recruitment)におけるAMD3100(または任意の類似の幹細胞動員剤)と低用量タクロリムス(または任意のFK506誘導体または類似体)(たとえば、拒絶反応を防ぐ有効薬量の10分の1)の相乗効果が見出された。一実施形態では、低用量タクロリムスは、FK506結合タンパク質(FKBP)に結合する可能性があるが、カルシニューリン経路(その免疫抑制効果のメカニズム)には作用しない可能性がある。いかなる免疫抑制効果からも独立していることは、発見され、タクロリムスと同じまたは同様の利点を与えるタクロリムスの非免疫抑制同族体によって確認することができる。カルシニューリン経路の代わりに、低用量タクロリムスは、代替の骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路を通じて作用する可能性がある。同種移植寛容を生み出す移植片キメラ現象に加えて、AMD3100とタクロリムスの組み合わせによる幹細胞の動員および損傷組織へのホーミングは、皮膚の創傷治癒、IBDの治療、術後の腹膜癒着の予防、肝臓再生の促進、動物の重度の糖尿病における創傷治癒、および微小血管系の改善等、様々な疾患、障害、または損傷の治療に安全かつ効果的である可能性がある。AMD3100が幹細胞を骨髄から循環系に動員できるCXCR4のアンタゴニストであるのに対し、タクロリムスは臓器拒絶反応の予防に使用される免疫抑制薬であることを考えると、当業者であれば、これら2つの無関係な薬剤が、幹細胞の動員(mobilization)および補充(recruitment)において相乗効果を有するとは考えなかったであろう。本発明者らは、皮下注射用のタクロリムス(FK506)とAMD3100の固定用量の組み合わせに基づく予期せぬ驚くべき相乗効果を発見し、低用量(非免疫抑制用量)のタクロリムスが損傷部位への幹細胞補充を促進することができることを見出した。
【0016】
AMD3100およびタクロリムスを含む配合剤の開発には課題および/または困難があった。たとえば、AMD3100八塩酸塩水和物は22mg/mlで水に溶解するが、FK506(タクロリムス)は水への溶解度が低い。タクロリムスは、水溶解度が低く、P-gpの流出、および広範な全身循環以前の代謝(presystemic metabolism)を示す可能性があり、その結果、経口投与後の生物学的利用能が低下する可能性がある。タクロリムスは温度およびpHに非常に感受性であり、分解して再配列によって非常に密接に関連した構造を有する不純物を形成する可能性がある。タクロリムスの水への相対的な不溶性に基づき、タクロリムスを含む適切な配合剤を実現するのは困難である可能性がある。たとえば、2つのAPIの溶解度により、FK506が不安定になる可能性がある。FK506の約50%が分解される可能性があり、これらの分解物は、動物または対象の幹細胞の動員(mobilization)および補充(recruitment)における2つの薬剤、AMD3100とタクロリムスとの相乗効果を低下させる可能性がある。本発明者らは、驚くべきことに、予期せぬことに、APIの相乗効果をもたらし、タクロリムスおよび/または製剤の安定性も高める新規の製剤および製造プロセスを発見した。本発明者らは、低用量、たとえば現在食品医薬品局(FDA)によって承認されているタクロリムスの用量(経口または静脈内注射によって投与される)よりも約15分の1の用量でタクロリムスを含む新規製剤を発見した。さらに、本開示の新規製剤は、皮下投与した場合に検出不可能な血中トラフレベルをもたらす可能性がある。
【0017】
本開示は、治療有効量のAMD3100、または任意の類似の幹細胞動員剤、およびおよびタクロリムスまたは任意のFK506誘導体またはアナログを含む、一つまたは複数の医薬製剤を提供する。一実施形態では、製剤はさらに一つまたは複数の賦形剤を含む。賦形剤は、可溶化剤、浸透促進剤、皮膚軟化剤、溶媒、塩、浸透圧剤、pH調整剤、および/または注射用水のうちの一つまたは複数を含んでもよい。
【0018】
一つ以上の有効成分、たとえば、AMD3100または類似の幹細胞動員剤は、約1mg/mL~約48mg/mLの濃度であってもよい。一実施形態では、一つ以上の有効成分、たとえばAMD3100または類似の幹細胞動員剤は、約16mg/mL~約48mg/mLの濃度であってもよい。一実施形態では、AMD3100または類似の幹細胞動員剤は、約1mg/mL、約2mg/mL、約2mg/mL、約3mg/mL、約4mg/mL、約5mg/mL、約6mg/mL、約7mg/mL、約8mg/mL、約9mg/mL、約10mg/mL、約11mg/mL、約12mg/mL、約13mg/mL、約14mg/mL、約15mg/mL、約16mg/mL、約17mg/mL、約18mg/mL、約19mg/mL、約20mg/mL、約21mg/mL、約22mg/mL、約23mg/mL、約24mg/mL、約25mg/mL、約26mg/mL、約27mg/mL、約28mg/mL、約29mg/mL、約30mg/mL、約31mg/mL、約32mg/mL、約33mg/mL、約34mg/mL、約35mg/mL、約36mg/mL、約37mg/mL、約38mg/mL、約39mg/mL、約40mg/mL、約41mg/mL、約42mg/mL、約43mg/mL、約44mg/mL、約45mg/mL、約46mg/mL、約47mg/mL、または約48mg/mLの濃度であってもよい。
【0019】
一つ以上の有効成分、たとえば、タクロリムス(FK506)または任意のFK506誘導体またはアナログは、約0.05mg/mL~約2mg/mLの濃度であってもよい。一実施形態では、一つ以上の有効成分、たとえば、タクロリムス(FK506)または任意のFK506誘導体またはアナログは、約0.3mg/mL~約1.6mg/mLの濃度であってもよい。一実施形態では、タクロリムス(FK506)は、約0.05mg/mL、約0.06mg/mL、約0.07mg/mL、約0.08mg/mL、約0.09mg/mL、約0.1mg/mL、約0.2mg/mL、約0.3mg/mL、約0.4mg/mL、約0.5mg/mL、約0.6mg/mL、約0.7mg/mL、約0.8mg/mL、約0.9mg/mL、約1.0mg/mL、約1.1mg/mL、約1.1mg/mL、約1.2mg/mL、約1.3mg/mL、約1.4mg/mL、約1.5mg/mL、約1.6mg/mL、約1.7mg/mL、約1.8mg/mL、約1.9mg/mL、または約2.0mg/mLの濃度であってもよい。
【0020】
一つまたは複数の可溶化剤は、任意の適切な可溶化剤を含んでもよい。一実施形態では、一つまたは複数の可溶化剤は、(限定されないが)、1-N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ポリエチレングリコール、 テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールエーテル、および/またはN,N-ジメチルアセトアミドを含んでもよい。一実施形態では、可溶化剤は1-N-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。一つまたは複数の可溶化剤は、約200mg/mL~約800mg/mL、または約200mg/mL~約450mg/mLの濃度であってもよい。一実施形態では、可溶化剤、たとえばNMPの濃度は、約200mg/mL、約210mg/mL、約220mg/mL、約230mg/mL、約240mg/mL、約250mg/mL、約260mg/mL、約270mg/mL、約280mg/mL、約290mg/mL、300mg/mL、約310mg/mL、約320mg/mL、約330mg/mL、約340mg/mL、約350mg/mL、約360mg/mL、約370mg/mL、約380mg/mL、約390mg/mL、約400mg/mL、約410mg/mL、約420mg/mL、約430mg/mL、約440mg/mL、約450mg/mL、約460mg/mL、約470mg/mL、約480mg/mL、約490mg/mL、約500mg/mL、約510mg/mL、約520mg/mL、約530mg/mL、約540mg/mL、約550mg/mL、約560mg/mL、約570mg/mL、約580mg/mL、約590mg/mL、約600mg/mL、約610mg/mL、約620mg/mL、約630mg/mL、約640mg/mL、約650mg/mL、約660mg/mL、約670mg/mL、約680mg/mL、約690mg/mL、約700mg/mL、約710mg/mL、約720mg/mL、約730mg/mL、約740mg/mL、約750mg/mL、約760mg/mL、約770mg/mL、約780mg/mL、約790mg/mL、または約800mg/mLであってもよい。一実施形態では、NMPは、たとえば1つ以上の有効成分の吸収を促進するために、溶媒および浸透促進剤として機能することができる。一実施形態では、NMPに加えて、一つまたは複数の溶媒または浸透促進剤を使用することができる。
【0021】
一つまたは複数の皮膚軟化剤および/または溶媒は、任意の適切な皮膚軟化剤および/または溶媒を含んでもよい。一実施形態では、一つまたは複数の皮膚軟化剤および/または溶媒は、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、および/またはエタノールを含む。一実施形態では、溶媒はグリセリンである。皮膚軟化剤および/または溶媒は、約130mg/mL~約350mg/mLの濃度であってもよい。一実施形態では、皮膚軟化剤および/または溶媒、たとえばグリセリンの濃度は、約130mg/mL、約140mg/mL、約150mg/mL、約160mg/mL、約170mg/mL、約180mg/mL、約190mg/mL、約200mg/mL、約210mg/mL、約220mg/mL、約230mg/mL、約240mg/mL、約250mg/mL、約260mg/mL、約270mg/mL、約280mg/mL、約290mg/mL、約300mg/mL、約310mg/mL、約320mg/mL、約330mg/mL、約340mg/mL、または約350mg/mLであってもよい。
【0022】
一つまたは複数の溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、脱水エタノール、もしくは無水エタノールを含んでもよい。一つまたは複数の溶媒は、約20mg/mL~約70mg/mLの濃度であってもよい。一実施形態では、溶媒、たとえば無水エタノールまたは無水エタノールの濃度は、約20mg/mL、約25mg/mL、約30mg/mL、約35mg/mL、約40mg/mL、約45mg/mL、約50mg/mL、約55mg/mL、約60mg/mL、約65mg/mL、または約70mg/mLであってもよい。
【0023】
一つまたは複数の塩は、任意の適切な塩および/または浸透圧剤を含んでもよい。一実施形態では、一つまたは複数の塩および/または浸透圧剤は、塩化ナトリウム(NaCL)、酢酸塩、リン酸塩もしくは二リン酸塩、クエン酸塩、メシル酸塩、硝酸塩、酒石酸塩、またはグルコン酸塩を含んでもよい。一つまたは複数の塩および/または浸透圧剤は、約1mg/mL~約3mg/mLの濃度であってもよい。一実施形態では、塩および/または浸透圧剤、たとえば塩化ナトリウム(NaCl)の濃度は、約1mg/mL、約1.5mg/mL、約2mg/mL、約2.5mg/mL、または約3mg/mLであってもよい。
【0024】
一つまたは複数のpH調整剤は、任意の適切なpH調整剤を含んでもよい。一実施形態では、一つまたは複数のpH調整剤は、塩酸(HCl)および/または水酸化ナトリウム(NaOH)を含む。一つまたは複数のpH調整剤、たとえば、塩酸(HCl)および/または水酸化ナトリウム(NaOH)は、適切なpH調整に十分な濃度とすることができる。一実施形態では、pH調整剤の濃度は約1N~約8Nであってもよい。一実施形態では、pH調整剤、たとえば塩酸(HCl)および/または水酸化ナトリウム(NaOH)は、約2Nの濃度であってもよい。
【0025】
一実施形態では、製剤は注射用水(WFI)を含んでもよい。WFIはQ.S.に適した濃度にしてもよい。一実施形態では、WFI濃度は約5~15%または約50~150mg/mLであってもよい。
【0026】
一実施形態では、製剤は以下の成分を含むことができ、本明細書では「製剤A(Formulation A)」または「FORM.A」と称する場合がある。
【0027】
【表1】
【0028】
本明細書に開示される医薬製剤は、改善された安定性プロフィールを有する製剤を含んでもよい。製剤は、注射送達、たとえば皮下注射に適していてもよい。一実施形態では、本開示の製剤は、タクロリムス(FK506)および/またはAMD3100の安定性において驚くべき予期せぬ改善を提供した。一実施形態では、製剤、たとえば、有効成分、タクロリムス(FK506)またはFK506誘導体またはアナログ、およびAMD3100もしくは類似の幹細胞動員剤を含む注射剤は、2~8℃または-20℃下で(under 2-8℃ or -20℃)少なくとも9カ月間安定であることを可能にする。一実施形態では、製剤、たとえば注射により、有効成分、タクロリムス(FK506)またはFK506誘導体またはアナログおよびAMD3100または類似の幹細胞動員剤を室温で少なくとも10日間安定させることができる。
【0029】
一実施形態では、本開示の製剤は、約1~約3時間で4~25ng/mLのタクロリムス(FK506)またはFK506誘導体またはアナログのピーク血中レベルをもたらし得る。一実施形態では、トラフレベルは5ng/mL未満であってもよい。一実施形態では、有効成分AMD3100およびタクロリムスは、実質的に同時に、たとえば約1~3時間でピークレベルに達してもよく、これにより、循環幹細胞の活性化等、有効成分の驚くべき予期せぬ相乗効果が得られる可能性がある。本開示の製剤の皮下注射は、相乗効果をもたらし得る。一実施形態では、末梢血中の幹細胞は、約2~約3時間でピークレベルに達することができ、動員された幹細胞は、比較的短時間、比較的低レベルのタクロリムスに曝露され得る。
【0030】
一実施形態では、本開示の製剤および方法に1-N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含めることにより、予期しない効果および/または相乗効果が得られる可能性がある。たとえば、本開示の製剤中の治療有効量、たとえば、約200mg/mL~約800mg/mLまたは約200mg/mL~約450mg/mLのNMPは、予期せぬ効果および/または相乗効果をもたらし得る方法で、患者または対象における骨形成タンパク質(BMP)経路を調節、活性化、または別の効果を有する可能性がある。一実施形態では、NMP、タクロリムスまたはその誘導体またはアナログ、および/またはAMD3100もしくは類似の幹細胞動員剤の組み合わせは、たとえば、患者または対象のBMP経路を調節、活性化、またはその他の方法で影響を与えることによって、本明細書に開示されるものを含む様々な状態もしくは疾患の治療において予期せぬ効果および/または相乗効果を提供する可能性がある。
【0031】
本明細書に開示される方法および製剤は、皮下注射用に製剤される医薬製剤をもたらす。一実施形態では、AMD3100、または類似の幹細胞動員剤、およびタクロリムス(FK506)、またはFK506誘導体またはアナログを含む医薬製剤は、単回投与の皮下注射用である。一実施形態では、医薬製剤は改善された安定性を示す。一実施形態では、本開示は、開示された医薬製剤を安定化するための方法をさらに含む。
【0032】
一実施形態では、本開示の製剤は、一つまたは複数の治療適応症を治療するために利用することができる。一実施形態では、本開示の製剤は、様々なタイプの組織損傷、脊髄損傷、心筋梗塞、角膜損傷、皮膚創傷等を治療するために使用することができる。一実施形態では、本開示の製剤は、様々な種類の組織損傷、たとえば一つまたは複数の組織損傷、火傷および損傷、自己免疫疾患、炎症性疾患、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、臓器移植(肝臓、心臓、肺、腎臓または角膜移植または皮膚移植を含む)、角膜損傷、角膜の疾患および障害、角膜の創傷、裂傷(laceration)、裂傷(tear)、創傷、穿刺またはそれらの組み合わせ、糖尿病に関連または起因する損傷、脊髄損傷、神経損傷および/もしくは変性、全層性熱傷(full-thickness burn)または軟組織損傷、潰瘍、糖尿病性潰瘍、虚血による臓器損傷、手術/外傷、感染/炎症、心臓、肺、肝臓、腎臓、胃、腸管、腎臓、皮膚、脳、脊髄、筋骨格系および血管系を含む自己免疫、術後の癒着(たとえば、術後の腹腔内癒着)等を治療するために使用することができる。一実施形態では、本開示の製剤は、急性呼吸促迫症候群(ARDS)治療するために使用することができ、あるいは、急性呼吸促迫症候群(ARDS)の免疫調節療法および/または再生療法として使用することができる。一実施形態では、本開示の製剤は、関節炎および/または関節損傷を治療、寛解、または改善するために使用することができる。
【0033】
一実施形態では、本開示は、医薬製剤を製造するための方法を含む。一実施形態では、医薬製剤、例えば製剤Aを製造するための方法は、以下の工程のうちの一つまたは複数を順番にまたは順不同で含んでもよい: (i)原薬を2~8℃で除去する工程;(ii)原薬を例えば最低30分間平衡化する工程;(iii)バッチサイズの3~5%のWFIを分注する工程;(iv)適切な量の塩、例えば塩化ナトリウムを添加して、2mg/mL溶液を得る工程;(v)均一になるまで溶液を混合する工程;(vi)適切な量の溶媒、たとえばグリセリンを加えて、189.15mg/mL溶液を得る工程;(vii)均一になるまで溶液を混合する工程;(viii)所望の412mg/mL溶液の可溶化剤、たとえばNMPの総量の半分を添加する工程;(ix)均一になるまで溶液を混合する工程;(x)別の配合容器(compounding vessel)に、24mg/mLを達成するために、適切な量の有効成分、たとえば、AMD3100または任意の類似の幹細胞動員剤を添加する工程;(xi)適切な量の溶媒、たとえば無水エタノールを添加して39.45mg/mLを達成し、容器に蓋をする工程;(xii)有効成分、たとえばAMD3100または類似の幹細胞動員剤が完全に溶解するまで混合する工程;(xiii)溶解した有効成分(たとえばAMD3100または類似の幹細胞動員剤)の溶液を賦形剤溶液に添加し、すすぎにWFIを使用する工程;(xiv)視覚的に均一になるまで混合する工程;(xv)pHを測定する/pH調整剤(たとえば2N HClおよび/または2N NaOH)を使用してpHを5.5~6.0の目標範囲に調整する工程;(xvi)別の配合容器に、適切な量の有効成分(たとえばFK506またはFK506誘導体またはアナログ)を添加して、0.5mg/mLの所望の濃度を達成する工程;(xvii)可溶化剤、たとえばNMPの総量の残り半分を加えて、所望の濃度412mg/mLを達成する工程;(xviii)有効成分(たとえばFK506またはFK506誘導体もしくはアナログ)が視覚的に溶解するまで溶液を混合する工程;(xix)有効成分溶液(たとえばFK506溶液またはFK506誘導体もしくはアナログ)を、他の有効成分、たとえばAMD3100または類似の幹細胞動員剤を含む配合容器に移す工程;(xx)視覚的に均一になるまで溶液を混合する工程;(xxi)pHを測定する/pH調整剤、たとえば最小限の2N HClおよび/または2N NaOHを使用して5.5~6.0の目標範囲に調整する工程;(xxii)適量のWFIを使用して目標の重量とする工程(Q.S. to target weight using WFI);(xxiii)最終製剤(final drug product)を混合する工程;(xxiv)滅菌フィルタ、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)0.22μm滅菌フィルタを使用する滅菌フィルタ(sterile filter using sterilizing filter, for example, polyvinylidene fluoride (PVDF) 0.22μm sterilizing filter);(xxv)完成した製剤(finished drug product)を-20℃で保管する工程。
【0034】
一実施形態では、本開示の医薬製剤は、それを必要とする対象に医薬製剤を投与することを含み、ここで医薬製剤は、少なくとも2つの有効成分、たとえば、AMD3100または類似の幹細胞動員剤、およびタクロリムスまたはFK506誘導体もしくはアナログを含む。ここで、投与計画(dosing regimen)治療すべき状態または症状の診断または特定後の複数日、例えば、1日目、2日目または3日目に固定用量の皮下注射を投与すること、および追加の適用を含む。一実施形態では、本開示の医薬製剤の投与計画は、少なくとも2つの有効成分、たとえばAMD3100または類似の幹細胞動員剤、およびタクロリムスまたはFK506誘導体またはアナログを1日おきに皮下投与することを含む。一実施形態では、本開示の医薬製剤の投与計画は、AMD3100、または類似の幹細胞動員剤、およびタクロリムスまたはFK506誘導体またはアナログを、少なくとも6日間、または治療中の創傷、損傷、または疾患が治癒するまで隔日で皮下投与することを含む。
【0035】
また、本開示の少なくとも1つの剤形、例えば単回投与の皮下注射、および少なくとも一つの剤形を対象に投与するための説明書を含むキットも提供される。キットはまた、本開示の少なくとも一つの剤形を収容するパッケージングまたは容器を含んでもよく、保管、投与、投薬等に関する説明書および/または有効成分に関する挿入物を含んでもよい。キットはまた、投与後の有効成分(またはその代謝産物)の循環レベルをモニタリングするための説明書、および場合により、たとえば試薬、ウェルプレート、容器、マーカー、またはラベル等を含むそのようなアッセイを実施するための材料を含んでもよい。本開示のキットに含める他の適切な成分は、所望の適応症、投与計画、保存条件および投与経路を考慮すれば、当業者には容易に明らかであろう。
【0036】
一部の実施形態では、本開示の製剤は、所定の時間、所定の条件にさらされた場合に安定である。たとえば、本開示の医薬製剤は、様々な所定の温度および相対湿度で、規定または所定の期間、たとえば開放または密閉容器内で保管することができる。一部の実施形態では、本開示の製剤は、摂氏約2、3、4、5、6、または8度、および相対湿度約[0%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%]で、少なくとも約0.5、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、20、25、30、35、40、45、48、50、51、52、53、55、または60時間、1週間、2週間、3週間、または4週間;1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、または9カ月の期間保存しても安定である。一実施形態では、本開示の製剤は、室温で少なくとも0.5、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、20、25、30、35、40、45、48、50、51、52、53、55、または60時間、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、または10日間安定である。一部の実施形態では、本開示の製剤は、約-20℃で長期間、たとえば2年以上安定である。
【0037】
有効成分および賦形剤の例示的な量または範囲が示されているが、本開示の医薬製剤は、本明細書に記載される望ましい薬理学的特性および安定性特性を得る目的に適した任意の量のこれらの成分を含んでもよい。
【0038】
本開示の医薬製剤は、2つ以上のAPI、たとえばAMD3100または類似の幹細胞動員剤、およびタクロリムス(FK506)またはFK506誘導体またはアナログを含む固定用量の配合剤として投与するために製剤化することができる。一実施形態では、本開示の製剤は、連続投与または定期的な不連続投与のための固定単回投与の皮下注射として製剤化することができる。連続投与のために、キットは、個々の単位剤形(たとえば、別々の単回使用チューブ等)の本開示の医薬製剤、および場合により、個々の単位剤形をたとえば1日2回以上、毎日、毎週、または毎月、所定の期間にわたって、または処方に従って投与するための説明書を含んでもよい。
【0039】
皮下注射用の医薬製剤を保持および分配するための適切なパッケージまたは容器が当技術分野で知られている。一実施形態では、パッケージは、各投与期間のインジケーターを含む。別の実施形態では、パッケージは、ラベルを付けた注射用チューブを含む。本開示のキットはまた、単位剤形を収容する任意のタイプの包装を含むための手段、たとえばパッチ、注射管を含むことができ、これらは、(たとえば)密封パウチが保持される射出成形またはブロー成形プラスチック等の商業販売のために厳重に保管することができる。一実施形態では、本開示の製剤の投与にプレフィルドシリンジを使用することができる。
【0040】
対象に提供される本開示の医薬製剤の治療有効量は、投与の目的、患者の状態、痛みおよび/またはかゆみのレベル等に応じて変化するであろう。本明細書で使用される場合、「対象」は、本開示の医薬製剤による治療を必要とする任意のヒトまたは非ヒト動物を含む。一実施形態では、対象は、本開示の製剤による治療を必要とする任意のヒトである(本明細書では「患者」と呼ばれることもある)。本開示の医薬製剤中の有効成分の治療上有効量は、特定の状態および体格、年齢、体重、性別、疾患の浸透、対象の以前の治療および応答パターンを含む特定の変数を考慮して、通常の技術を有する医師、獣医師または他の医療専門家によって決定することができる。
【0041】
以下の実施例は、本開示の例示的な実施形態を説明するために与えられる。しかしながら、本開示は、これらの実施例に記載された特定の条件または詳細に限定されるものではないことを理解されたい。
【0042】
実施例
本開示を特定の実施形態に関して論じてきたが、本開示がそれに限定されないことを理解されたい。実施形態は本明細書では例として説明されており、依然として本開示の範囲内にある使用可能な多数の改変、変形、および他の実施形態が存在する。
【0043】
実施例1-製剤Aの薬物動態および薬力学、ならびにラットおよびブタにおける毒性
薬物動態/薬力学(PK/PD)研究: SDラット(200~300グラム)には0.744ml/kgの製剤A(AMD3100 17.856mg/kg、FK506 0.372mg/kg)を、ミニブタ(9~10kg)には0.132ml/kgの製剤A(AMD3100 3.168mg/kg、FK506 0.066mg/kg)を皮下注射で投与した。用量はヒト(0.01mg/kg:AMD3100 0.24mg/kg、FK506 0.005mg/kg)の12倍に相当した。
【0044】
血漿AMD3100およびFK506濃度を測定するための血液試料を、投与直前、ならびに投与後1、2、3、6、12、および24時間後に採取した。生物分析法の検証に関する食品医薬品局のガイドラインに従って、血漿試料をAMD3100およびFK506について分析した。すべての試料は受け取り時に冷凍され、-70℃で保管された。試料は、タンデム質量スペクトル検出を備えた液体クロマトグラフィーによって分析された。
【0045】
結果図1Aおよび1Bは、SD速度(n=12)における製剤Aの皮下注射後の時間の関数としての、ラットにおける線形スケール(図1A)および片対数スケール(図1B)における経時的な平均AMD3100およびFK506血漿濃度を示す。AMD3100およびFK506は皮下注射投与後、観察できる遅延もなく急速に吸収され、ラットでは両方のAPIの血漿濃度のピークは投与後1時間で発生し、3時間でも高レベルのままであった。薬物動態および薬力学は、AMD3100とFK506の間で類似していた。AMD3100とFK506は両方とも12時間以内にクリアされた。
【0046】
図2Aおよび2Bは、製剤Aの皮下注射後の時間の関数として、ミニブタにおける線形スケール(図2A)および片対数スケール(図2B)での経時的な平均AMD3100およびFK506血中濃度を示す(n=6)。どちらのAPIも投与後1~2時間でピークレベルに達し、3時間後も高レベルを維持していた。AMD3100とFK506は両方とも12時間後に急速にクリアされた。
【0047】
毒性研究: GLP研究では、ラットおよびミニブタにおける製剤Aの毒性効果を調べた。動物にはヒトの12倍に相当する用量が投与され、2日目、4日目、6日目、8日目および10日目に反復投与された。処理濃度では肝臓(AST、ALT、ビリルビン、アルブミン)または腎臓(クレアチニンおよびBUN)の損傷は見出されなかった。AMD3100の一般的な副作用である脾臓肥大は、製剤Aを投与したラットとミニブタの両方で観察されなかった。10日間毎日製剤Aを投与された動物では、他の器官系は正常であった。
【0048】
実施例2-製剤Aは、マウスの炎症性腸疾患(IBD)の治療のために別々に注射された2つの薬剤よりも優れていると思われる
IL-10ノックアウトマウスは、自然発生的に慢性炎症性腸疾患(IBD)を発症する。AMD3100+低用量FK506での治療は、IL-10欠損マウスIBD(6)モデルにおける結腸炎症を軽減することができる。製剤AがAMD3100+低用量FK506よりも優れているかどうかを決定するために、IL-10欠損マウスにおける製剤Aの有効性を試験した。
【0049】
方法: IBDの兆候がある生後5カ月のIL-10欠損マウス(オスおよびメス)をこの研究に使用し、IBDの臨床進行をモニタリングした。疾患活動性指数(DAI)を薬物治療の前後に測定した。DAIに基づいて、動物を次の3つの治療群に分けた: 1)生理食塩水対照; 2)AMD3100(2.4mg/kg)+FK506 (0.05mg/kg); および3)製剤A。
【0050】
DAIは以下のように計算した: 体重減少 (0ポイント=なし、1ポイント=1~5%の体重減少、2ポイント=5~10%の体重減少、3ポイント=10~15%の体重減少、および4ポイント=15%以上以上の体重減少)、便の硬さ/下痢 (0ポイント=正常、2ポイント=軟便だがまだ形成されている、3ポイント=非常に柔らかい、4ポイント=水様の下痢)、出血 (0ポイント=出血なし、2ポイント=わずかな出血、3ポイント=便中の血液の跡が見える、4ポイント=ひどい出血{ColoScreen潜血検査(Helena Laboratories,テキサス州ビューモント)による}。体重減少、下痢、出血の合計により、DAIスコアの合計は0(影響なし)から12(重度の大腸炎)の範囲になる。図3は、AMD3100+低用量のFK506または製剤Aの投与が、IL-10ノックアウトマウスにおける疾患活動性指数の有意な改善をもたらしたことを示している(*p<0.01 生理食塩水対照対A+Fまたは製剤A群; **p<0.05A+F対製剤A)。
【0051】
製剤Aを注射前に生理食塩水(100倍)で希釈し、10μl/グラムの希釈製剤A(AMD3100 2.4mg/kg、FK506 0.05mg/kg)を1日おきに28日間、皮下注射した。AMD3100 (2.4mg/kg)およびFK506 (0.05mg/kg)も注射前に生理食塩水で希釈し、各薬剤を別々に注射した。同量の生理食塩水を対照動物に投与した。
【0052】
結果: AMD3100+FK506または製剤Aの投与は、IL-10ノックアウトマウスにおける疾患活動性指数の改善をもたらした。DAIは、生理食塩水で治療した動物では時間に依存して徐々に増加したが、AMD3100と低用量のFK506を投与した動物では12日目に大幅に減少し、低レベルのままであった(図3を参照)。驚くべきことに、そして予期せぬことに、製剤Aを投与された動物は、16日間の治療後に最も低いDAIを示した。DAIは、16日目、20日目および28日目にAMD3100+FK506群と比較して、製剤Aで治療した動物で有意に低かった。これらの結果は、固定用量の配合剤である製剤Aが、IBDの治療のために別々に注射された2種類の薬剤よりも優れている可能性があることを示唆している。
【0053】
IBDマウスにおける結腸の長さの短縮は、結腸炎症の評価における生物学的マーカーの1つである。図4Aおよび4Bは、製剤Aの治療が、生後5カ月のIL-10ノックアウトマウスにおける結腸短縮を阻止できることを示す。図4Aは結腸の写真を示し、図4Bは結腸の長さの定量的データを示す。図4Aおよび4Bは、IL-10ノックアウトマウスがIBDを発症し、老齢の対応する野生型マウスと比較して有意な結腸短縮を示し、この効果が製剤Aの治療によって予想外に除去されたことを実証する(an effective which was unexpectedly eliminated by Formulation A treatment)。
【0054】
要約: 製剤A(2つのAPI AMD3100およびFK506を含む固定用量の配合剤)は、IBDの治療のために別々に投与される2つの薬剤よりも優れている可能性がある。2つの薬剤に対する製剤Aの利点は、本開示で開示されるように、新規製剤、薬剤吸収および製剤Aの薬物動態および薬力学に関連する。
【0055】
実施例3:製剤Aは、ブタの全層皮膚切除後の創傷治癒を促進した
外科的切除創傷: 生後4~6カ月、到着時の体重40~50kgのメスのヨークシャーブタを、実験手順の前に約1~2週間順応させた。創傷を作るために、導入のためにブタをテラゾールとキシラジンの組み合わせ1.1~2.2mg/kgの筋肉内投与で鎮静させ、その後挿管し、セボフルランまたはイソフルラン1~4%の連続吸入で維持した。ブタの剃毛した背中に直径4cmの円形切除により6つの全層創傷を作成した(図5Aを参照)。各創傷部位を指定の時間間隔でデジタル撮影し、Adobe Photoshop(登録商標)ソフトウェアを使用して創傷面積を計算した。経時的な創傷面積の変化は、最初の創傷面積のパーセンテージとして表した。
【0056】
治療: 負傷させたブタはランダムに2つの実験群に分けられ、負傷直後から完全に治癒するまで生理食塩水または製剤A(0.04ml/kg)の皮下注射を受けた。すべての創傷評価は二重盲検法で行った。
【0057】
結果図5A、5Bおよび5)は、製剤Aで治療したブタにおける促進された創傷治癒を示す。図5Aは、モデル上に6つの円形切除創傷が作成された0日目のブタモデルを示す。図5Bは、ブタモデルにおける皮膚創傷治癒の肉眼的分析を示す。図5(C)は、再上皮化時間を示す(n=3)。生理食塩水で治療したブタ(n=3)では、手術後49日目に創傷が完全に閉鎖した。製剤Aで治療した3頭のブタは、35日目に創傷が完全に閉鎖し、生理食塩水対照群と比較して有意に速い治癒を示した(図5Bおよび5Cを参照)。要約すると、製剤Aによる治療は前臨床大型動物モデルの創傷治癒を促進する可能性がある。
【0058】
実施例4:製剤Aは、ラットにおける急性脊髄損傷(SCI)後の回復を改善する
要約図6A、6Bおよび6Cは、製剤Aが急性脊髄損傷(SCI)後の機能回復を改善することを示す。脊髄挫傷損傷モデルは、骨髄移植ルイスラット(野生型ルイスへのGFP+ルイス)で作成した。損傷した動物に、SCI後24時間および1日おきに1カ月間で生理食塩水(n=7)または製剤A(n=8)の皮下注射を投与した。図6Aは、1カ月後の損傷した脊髄の組織像を示す。図6Bは、生理食塩水で治療したラットの脊髄の損傷領域に骨髄由来のGFP細胞がほとんど存在せず、大きな空洞を伴うことを示しているが、製剤Aで処置したラットの脊髄の損傷領域には多数の骨髄由来のGFP+細胞が出現し、空洞は確認されなかった。図6Cは、SCI後の時間に対するBBBスコアを示す。
【0059】
ラットにおける挫傷性脊髄損傷モデル: 身長12.5mmから体重が減少したSCIの挫傷性ラットモデルを、5~6カ月齢のルイスラットで実施した。SCIにおける骨髄由来幹細胞の役割を決定するために、緑色蛍光タンパク質(GFP)トランスジェニックルイスラット由来の骨髄を、致死量の放射線を照射された野生型ルイスレシピエントに移植した。3カ月後、骨髄を移植したラットをSCIに使用した。イソフルラン吸入(2~4%)により動物に麻酔を導入し、維持した。椎弓切除術を胸椎T8で行い、脊髄の背側表面を露出させた。安定化クランプは、衝撃時にT5およびT12椎骨を固定して柱(column)をサポートする役割を果たした。次に、T8の脊髄をメカニカルインパクターNYUデバイスの垂直シャフトの真下に置き、先端が脊髄に接触するまでシャフト(先端直径、1mm)をゆっくりと下げた。次に、インパクタープローブを所望の衝撃落下距離(12.5mm)まで引き出した。インパクトシャフトを吊り下げているピンが解放され、重力によって下降し、コードに当たった。次に、インパクターを引き抜き、動物を装置から取り出し、筋肉層および皮膚を4-0吸収性縫合糸で閉じた。次に、泌尿器系感染症を防ぐために、抗生物質(ゲンタマイシン)をラットに毎日投与した。痛み止めも投与した。7~10日後に、麻酔下で縫合糸を除去する。
【0060】
治療: 手術から回復し、手術後24時間で後肢麻痺を示した動物をランダムに2つの群に分け、1日おきに28日間、生理食塩水または製剤A(0.1ml/kg)の皮下注射を投与した。
【0061】
測定: 損傷後の運動行動は、Basso、Beattie、およびBresnahan(BBB)運動器スケール法(locomotor scale method)によって評価した。BBBを使用して、関節の動き、後肢の動き、ステップ、四肢の調整、体幹の位置、足の配置、および尾の位置を評価した。ラットのSCI後の回復は0から21のスケールで評価された。
【0062】
結果: 研究の最後に、すべての動物の脊髄を組織像で調査した。縦切片のヘマトキシリン/エオシン染色により、生理食塩水で治療したラットの挫傷による広範な組織損傷が明らかになった(図6Aを参照)。病変中心では、すべてのケースでほとんどの組織が破壊された。空洞形成が発生し、残った組織の大部分は非神経性瘢痕、壊死組織、および炎症細胞の浸潤を含んでいた。対照的に、製剤Aで1日おきに治療した場合、損傷領域は小さくなり、空胞化および細胞死がはるかに少なくなった。免疫蛍光染色により、生理食塩水で治療したラットでは、少数の骨髄由来GFP+細胞が病変領域に出現し、病変中心に大きな空洞が形成されていることが示された。製剤Aで治療したラットでは、多数の骨髄由来GFP陽性細胞が病変中心に存在した。興味深いことに、大きなGFP+細胞の一部は、ニューロンに見られる大きな顆粒体であるニッスル体(赤色)を含んでいた(図6Bを参照)。これらの結果は、動員された骨髄幹細胞が脊髄のニューロン細胞になる可能性を示唆している。
【0063】
手術後1日目では、すべての動物がBBB運動機能スケールで2未満のスコアを示し、SCIラットモデルの妥当な程度の信頼性を示した。自然回復のため、時間はすべての治療群の運動機能に有意な影響を及ぼし(図6C)、経時的に生理食塩水対照と治療との間に有意な差が見出された。重要なことは、製剤Aで治療したラットは運動機能(BBBスコア)が著しく優れていたことである。
【0064】
製剤Aの治療は、損傷した脊髄に骨髄幹細胞を動員して補充し、これらの幹細胞は損傷した脊髄組織を修復/再生し、運動機能を改善した。
【0065】
実施例5:製剤Aの治療は、ラットの心筋梗塞後の心臓機能を改善する
要約図7Aおよび7Bは、製剤Aの治療がラットの心機能を改善し、心筋梗塞後の線維症を改善することを示す。図7Aは、術後14日目および28日目の左室駆出率(LVEF)を示す。図7Bは、各群の5匹のラットからの代表的な写真を示し、マッソントリクローム染色(Masson’s trichome staining)が生理食塩水治療ラットの左室前壁における瘢痕形成を示したことを示す。
【0066】
ラットにおける心筋梗塞の誘発: LAD結紮によりMIを誘発するために、8~10週齢、体重220~250gの範囲の10匹のオスルイスラットを選択した。ケタミンおよびキシラジンの腹腔内注射により動物に麻酔を導入し、維持した。麻酔後、動物に挿管し、16ゲージの静脈内カテーテルで換気し、温度制御パッド上に仰臥位に置いた。第5肋間腔で肋骨に平行な切開によって胸を開き、肋骨を広げて心臓を露出させた。心臓にアクセスするために、鋭利な鉗子で心膜を開いた。左前下行枝(LAD)の結紮部位が起始部から5mm離れていることが確認されたら、綿製のイヤフォンを使用して結紮部位の少し下の動脈を軽く押し、心臓を固定し、また動脈を目立たせて識別しやすくした。先細の無傷針を使用して、6-0絹結紮をLADの下に通し、3つの結び目で結んだ。左室の前壁の目に見える白化およびチアノーゼ、および左心房の腫脹は、結紮が成功したことを示していた。肺を再び膨張させ、胸壁を閉じ、自発呼吸が生じたときにラットを抜管した。
【0067】
治療: 手術から回復した動物をランダムに2つの群に分け、手術後6時間目に生理食塩水または製剤A(0.1ml/kg)を皮下注射し、1日おきに28日間投与した。
【0068】
測定: 心エコー検査は、ラットの左前下行枝の結紮による誘発心筋梗塞後日目および28日目に実施した(Echocardiography was performed at day and day 28)。動物はMI後1ヶ月で屠殺され、心臓の組織像が研究された。
【0069】
結果: 左室駆出率(LVEF)は、MI後の心機能を判定するための主要な検査の一つであり、50%~70%の範囲のLVEFが正常であると考えられる。術後(POD)14日目および28日目に行われた心エコー検査では、左前下行枝の結紮による誘発心筋梗塞後に生理食塩水で治療したラットのLVEFの平均が約20%であることが示された。対照的に、製剤Aで治療したラットにおけるLVEFレベルは、POD14では有意に高く(約50%)、POD28では正常範囲に近い高いレベルを維持した(図7A)。生理食塩水で治療したMIのラットの心臓の1カ月後の組織病理学検査では、左心室前壁が心尖部付近で青白く薄いことが示された。マッソントリクローム染色により、左心室前壁に瘢痕形成が示された。興味深いことに、左心室前壁は厚いままであり、均一な赤みを帯びた色を示していた。心臓平滑筋では、青色に染色された線維化組織はほとんど見られなかった(図7B)。これらの結果は、製剤Aによる内因性幹細胞の動員および補充が、心虚血損傷の寛解、修復/再生の促進、瘢痕形成の防止を通じてMI後の心臓機能を改善することを示唆している。
【0070】
実施例6:製剤Aは、マウスにおける角膜アルカリ熱傷後の角膜線維症を予防する
実質混濁(stromal opacity)の発生を含む角膜創傷治癒反応は、角膜への損傷、手術、または感染の後に生じる瘢痕化/線維症を引き起こすことが多い過程である。角膜線維症は角膜の透明性を低下させることにより、その機能を損なうか完全に低下させ、視力障害および失明につながる可能性がある。骨髄幹細胞の動員および補充は、角膜上皮修復を促進し、間質線維症を寛解させる可能性がある。
【0071】
要約図8Aおよび8Bは、製剤Aによる治療がマウスの眼熱傷後の角膜瘢痕化を防止することを示す。C57/B6マウスの片目を0.5N NaOHで20秒間焼いた。眼熱傷後、動物を生理食塩水または製剤Aの皮下注射で1日おきに2週間治療した。角膜瘢痕形成を損傷後42日目に測定した。図8Aは、目の角膜の写真(n=5)を示し、図8(B)は、4が最悪である、0から4までのマウス角膜透明度スコアを示す。
【0072】
方法: 角膜アルカリ熱傷(0.5N NaOHで20秒間)をC57/B6マウスの片目の角膜に誘発した。製剤Aは注射前に生理食塩水で10倍に希釈した。損傷の日から、化学熱傷を負ったマウスを生理食塩水または製剤A(1ml/kg)で1日おきに治療した。眼表面の状況を、1日目、3日目、7日目、14日目、21日目、30日目、37日目、および42日目に評価した。病理組織学的評価のために角膜を採取した。骨髄由来幹細胞が角膜に再増殖(repopulate)できるかどうかを決定するために、GFPトランスジェニック骨髄移植ルイスラットを研究した。
【0073】
結果: 骨髄由来幹細胞が角膜に再増殖できるかどうかを決定するために、GFPトランスジェニック骨髄移植ルイスラットを研究した。GFP骨髄移植4カ月の時点で、GFP陽性細胞が角膜実質層および角膜上皮層で同定されたことは、角膜は骨髄由来細胞の相当数を含んでおり、骨髄幹細胞が創傷に対する角膜の反応において役割を果たしている可能性があることを示している。
【0074】
これらの発見に基づいて、製剤Aによる骨髄幹細胞の動員および補充によるアルカリ熱傷後の角膜治癒の改善を試験した。角膜は、製剤A治療群のアルカリ熱傷モデルにおいて、再上皮形成率の上昇、角膜混濁スコアの低下を示し、および角膜新生血管形成を示さなかった(図8Aを参照)。HE染色および免疫染色では、実験角膜における筋線維芽細胞の活性化が低下し、眼内炎症および血管新生が減少していることが示された。
【0075】
要約すると、この研究は、製剤Aが治癒を促進し、角膜アルカリ熱傷後の線維症を予防することを実証することができる。製剤Aは、患者の角膜線維症の効果的な治療法となる可能性がある。
【0076】
実施例7:NMPと製剤Aとの相乗効果
この研究は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)がブタモデルにおける創傷治癒のためのAMD3100とタクロリムスの併用(AF併用)治療の有効性を高めるかどうかを試験した。1型糖尿病のブタは、膵臓β細胞がんの治療における化学療法剤として臨床的に使用されているストレプトマイセス・アクロモゲネス(Streptomyces achromogenes)由来のグルコサミン-ニトロソウレア化合物であるストレプトゾトシン (STZ)によって誘発された。STZは膵臓β細胞を損傷し、低インスリン血症および高血糖症を引き起こす。続いて、臨床状況(末梢動脈疾患を伴う潰瘍患者)を模倣するためにアテローム性動脈硬化を誘発するために、ブタにコレステロールが豊富な飼料(コレステロール 2.0%、ラード 20%、Envigoから市販)を20週間給餌した。
【0077】
20週間後、ブタの剃毛した背中に直径4cmの円形切除によって6つの全層創傷を生成した。負傷したブタを以下の4つの実験群にランダムに分け、負傷直後および完全に治癒するまで1日おきに生理食塩水または薬物の皮下注射を行った: 1)生理食塩水で治療した対照群; 2)AMD3100(0.5mg/kg)および低用量のFK506(0.01mg/kg)で治療したAF併用群; 3)NMP(8mg/kg)および4)AF併用およびNMP(8mg/kg)。
【0078】
図9Aおよび9Bは、NMPがブタの全層切除後の創傷治癒におけるAF併用の有効性を高めることを実証している。図9Aは、ブタの皮膚創傷治癒の肉眼的分析を示す。各創傷部位を指定された時間間隔でデジタル撮影し、PhotoShop(登録商標)ソフトウェアを使用して創傷面積を計算した。1群当たり3頭のブタからの24個の傷(ブタ当たり6個の傷)の代表的な写真を図9Aに示す。図9Bは、創傷治癒時間を示す。生理食塩水対照群では、手術後59日目に創傷が完全に閉鎖した。AFの併用で治療した3頭の豚は、48日目に創傷が完全に閉鎖し、生理食塩水対照群と比較してより速い治癒を示した。AFの併用およびNMPで治療した群の3頭の豚では、治癒時間が43日に、または27%短縮された(図9B)。治癒時間は、生理食塩水対照群(p=0.033)またはNMPで治療した群(p=0.040)とは統計的に異なった。デジタル画像は、AFおよびNMP療法による治療が、早ければ14日目で皮膚欠損のサイズを縮小する顕著な効果をもたらしたことを示した。これらの結果は、NMPとAFの併用が予想外に相乗的にブタの創傷治癒を促進したことを示唆している。
【0079】
この研究は、NMPが、マイトジェン活性化プロテインキナーゼシグナル伝達経路の抑制を介して創傷の炎症を阻害すること、および骨形成タンパク質(BMP)の発現を増強することによって、創傷治癒におけるAF併用療法の有効性を促進する可能性があることを実証している。NMPは、マイトジェン活性化プロテインキナーゼシグナル伝達経路の抑制を通じて炎症を抑制し、BMP発現を増強することにより、抗炎症機能を示し、足関節骨折の治癒および骨組織の再生を促進すると考えられる。
【0080】
実施例8:急性呼吸促迫症候群に対する免疫調節および再生療法としての製剤A
急性呼吸促迫症候群(ARDS)は、肺における広範な炎症の急速な発症を特徴とする呼吸不全の一種である。ARDSは、重篤な疾病の人または重傷を負った人に発生する可能性がある。多くの場合致命的であり、年齢および疾病の重症度に応じてリスクは増加する。原因は、敗血症、膵炎、外傷、肺炎、および誤嚥を含むだろう。ウイルス性肺炎に続発するARDSは、COVID-19患者の高い死亡率の主な原因の一つである。ARDSを伴うCOVID-19患者の死亡率は約 39%(95% CI: 23~56%)である。ARDS患者に対する証明された特定の薬理学的治療法はない。デキサメタゾンはCOVID-19(ARDS)患者に使用されているが、証明されておらず、感染性合併症のリスク増加と関連している。
【0081】
製剤Aは、連鎖球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ;Streptococcus Pneumoniae)誘発性急性呼吸促迫症候群(ARDS)のマウスモデルにおいて死亡率を低下させ、生存率を改善した
図10Aおよび10Bは、製剤Aが、連鎖球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ;Streptococcus Pneumoniae)誘発性ARDSのマウスモデルにおいて予想外に死亡率を低下させ、生存率を改善したことを実証する。図10Aは実験プロトコールを示し、図10Bは動物の生存率を示す。製剤AがARDSを寛解させることができるかどうかを試験するために、4.5×10 CFUのストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus Pneumoniae)の気管内点滴注入によってARDSを誘発する標準モデルで、C57/B6マウスをストレプトコッカス・ニューモニエに感染させた。感染した動物はランダムに2つの群に分けられ、感染後24時間でプラセボまたは製剤A(0.1ml/kg)による治療を受け、14日目または28日目まで1日おきにプラセボまたは製剤A(0.1ml/kg)による治療を受けた(図1(A))。動物は治療前に体重減少(~10%)と呼吸困難を示し、これはすべての動物が順調に感染したことを示している。プラセボ(生理食塩水)対照群では、感染2週間以内に39匹中11匹(28.2%)が死亡した。これは、この確立されたモデルにおける既知の死亡率と一致している(6)。製剤Aで治療したマウスでは、死亡率が7%(43匹中3匹)まで、または75%減少した(図10B)。
【0082】
製剤Aは、大葉性肺炎球菌性肺炎(lobar pneumococcal pneumonia)を改善し、肺の炎症を軽減した
図11Aおよび11Bは、製剤Aが大葉性肺炎球菌性肺炎(lobar pneumococcal)を寛解させ、連鎖球菌肺炎球菌の気管内投与(intratracheal installation)後5日目にマウス(mine)の炎症を軽減したことを実証している。図11Aは、プラセボ対照群を示す。図11Aの上のパネルは、生き残った動物の肺のCTスキャンを示し、中央パネルは肺の肉眼写真を示し、下パネルは肺のH&E染色を示す。図11Bは、製剤Aで治療された群を示す。図11Bの上のパネルは、生き残った動物の肺のCTスキャンを示し、中央パネルは肺の肉眼写真を示し、下パネルは肺のH&E染色を示す。
【0083】
感染後5日目に、プラセボ対照群のすべての生存マウス(7匹中6匹)の肺のCTスキャンは、大気道は比較的少ないものの、葉(lobe)全体の大部分の局所的な濃密な不透明化および/または葉または分節パターンのスリガラス状不透明化が示され(図11A、上のパネル)、大葉性肺炎球菌性肺炎(lobar pneumococcal pneumonia)を示唆している。対照的に、製剤Aで治療した7匹のマウスのうち2匹だけが、葉全体の大部分または一部の局所的な濃密な不透明化を示した(図11B、上のパネル)。プラセボ対照群の同じ動物の肺の肉眼写真では、5匹の動物が両肺に広がり/びまん性の炎症を示し、1匹の動物が両肺に限定的な斑状病変(patch lesion)を示し、重度の肺損傷を負った1匹の動物が4日目に死亡した(図11A、中央パネル)。しかしながら、製剤A治療群では、3匹の動物の肺はほぼ完全に回復し、2匹の動物の肺は葉に限定された斑状病変を示し、2匹の動物だけが両肺にびまん性炎症を示した(図11B、中央パネル)。H&E染色は、プラセボ対照群における葉または肺の全体または大部分の急性炎症を実証した(図11A、中央パネル)。製剤A治療群では、2匹のマウスが葉の大部分または部分の急性炎症を示し、他の5匹のマウスが小さな細気管支および隣接する肺胞のみに関与する急性炎症を示した(図11B、下のパネル)。
【0084】
連鎖球菌(ストレプトコッカス・ニューモニエ;Streptococcus Pneumoniae)に感染したマウスにおける製剤Aによるサイトカインストームの改善
図12A~12Fは、製剤Aがストレプトコッカス・ニューモニエによって誘発されるサイトカインストームを改善したことを示す。末梢血血清を感染後5日目に採取し、サイトカインレベルをELISAによって測定した。
【0085】
ストレプトコッカス・ニューモニエ感染が「サイトカインストーム」を引き起こしたかどうかを決定するために、感染後5日目にELISAを使用してマウスから血清中のいくつかの重要なサイトカインを測定した。対照では、TNF-α、IL-6、およびIL-ベータの血清レベルは24時間で増加し、IL-2、IL-4、IFN-rを含む他のサイトカインとともに、感染後5日目にピークレベルに達した(図12A~12F)。これは、肺感染症に関連したサイトカインストームを示唆している。製剤Aの治療は、TNF-α、IL-2およびIL-4の血清レベルを有意に減少させた(図12A、12Bおよび12C)。感染後5日目の対照群と製剤A群の間のIL-6の血清レベルには統計的な差は観察されなかったがプラセボ対照群の7匹中5匹の動物は、より高いIL-6レベルを示したが、治療した動物の8匹中6匹は、24時間のレベルと比較して、より低いIL-6レベルを示した(図12D、丸)。
【0086】
製剤Aは、血清LDHレベルを低下させ、肝損傷を改善した
図13A~13Cは、製剤Aが血清LDHを減少させ、肝損傷を改善したことを示す。感染したマウスを1日目または5日目に屠殺した。血液化学検査を行った。図13Aは血清乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の結果を示し、図13Bはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の結果を示し、図13(C)はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の結果を示す。
【0087】
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、体のほぼすべての細胞に存在するエネルギー産生に関与する酵素であり、肺、心臓、肝臓、筋肉、腎臓の細胞、および血球に最も高いレベルで存在する。これらの組織が損傷すると、血流中にLDHが放出される。LDHは、組織損傷を検出するために最もよく使用される。さらに42匹のマウスについて、感染後5日目の血清LDHレベルを調べた。特に、製剤A群(n=21)の動物はすべて生存したが、プラセボ対照群では3日目に 1匹のマウスが死亡し、5日目に1匹のマウスが死亡した。生理食塩水で治療した動物では、感染後5日目に血清LDHレベルが約1200U/Lに増加した(図13A)。製剤Aでの治療後、血中LDHレベルは640U/Lまで低下した。さらに、肝酵素ASTおよびALTも感染試験マウスで増加したが、感染後5日目のASTおよびALTの血清レベルは、プラセボ対照群と比較して製剤A治療群で有意に低かった(図13Bおよび13C)。
【0088】
LDHの血漿レベルの上昇は、COVID-19感染患者の転帰の悪化と関連している。発表された研究では、LDHレベルの上昇は、COVID-19患者の重症化の確率の6倍増加と死亡率の16倍増加に関連していると報告されている。LDHの上昇は、軽度の COVID-19患者における増悪の独立した危険因子である可能性もある。この研究は、製剤Aによる治療が損傷した肺の幹細胞の数を増加させるだけでなく、組織の損傷を軽減することを示している。
【0089】
製剤A治療による損傷した肺におけるCD133+幹細胞およびYm1/2+CD68+M2マクロファージの補充
図14Aおよび14Bは、製剤Aがストレプトコッカス・ニューモニエ感染後5日目に損傷した肺においてCD133+幹細胞を増加させたことを実証する。感染マウスから単離した肺細胞のサイトスピン スライドをCD133抗体(緑色)で染色した。4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)染色(青)を使用して核の数を決定した。CD133+幹細胞は、生理食塩水で治療されたマウスから回収された肺細胞で同定された。CD133+幹細胞は、製剤Aで治療したマウスから単離された肺細胞において有意に増加した。画像は1群あたり6匹または7匹のマウスを表す。
【0090】
製剤A治療が損傷した肺においてCD133+(前駆)幹細胞を増加させるかどうかを決定するために、動物を5日目に屠殺し、血液および肺組織試料を収集した。肺細胞は、コラゲナーゼ消化を使用して単離した。単離された肺細胞のサイトスピンスライドをCD133抗体で染色した。損傷のない正常な肺では、CD133+幹細胞はほとんど確認されなかった。単離された肺細胞のサイトスピンスライドの免疫蛍光染色は、生理食塩水で治療された感染マウスから回収された肺細胞においてCD133+細胞の数が増加していることを示し、これは肺損傷後に幹細胞を補充するための自然ではあるが不十分なプロセスを示した(図14Aおよび14B)。予想外にも、感染後5日目に製剤Aで治療を受けた動物の単離された肺細胞では、CD133+細胞が有意に多かった。これらのCD133+細胞の一部は二重核を示しており、これは増殖を示している可能性がある。
【0091】
系統追跡は、製剤Aによる気管支気道上皮治癒の改善におけるCD133幹細胞の重要な役割を実証した
図15は、製剤Aで治療したストレプトコッカス・ニューモニエ感染CD133+/C-LマウスにおいてCD133+幹細胞が気管支上皮を生成することを示す。損傷した肺組織は、細気管支で顕著なGFP発現を示した。気管支上皮細胞の一部は、GFP陽性CD133子孫細胞によって再増殖された(右パネル)。
【0092】
損傷した肺の治癒におけるCD133幹細胞の重要な役割を確認するために、系統追跡研究を行った。Rosa26GFPレポーターアレルを含む成体CD133陽性Cre-nuclear(n)LacZ (CD133+/C-L)マウス(CD133+/C-L X mTmG 子孫)に、4.5×10 CFUのストレプトコッカス・ニューモニエの気管内点滴注入によりストレプトコッカス・ニューモニエを感染させた。感染動物はランダムに2つの群に分けられ、感染後24時間目にプラセボまたは製剤A(0.1ml/kg)による治療を受け、28日目まで1日おきに治療した。屠殺の5日前にタモキシフェンを用いてCreERT2活性を誘導した(図10A)。このマウスモデルでは、CD133子孫はGFP陽性であった。
【0093】
GFP陽性細胞は、非感染マウスまたは対照治療マウスの肺では観察されなかった(図15)。しかし、製剤A群のマウスでは、GFP陽性細胞が細気管支の一部、特に気管支上皮に認められた(図15)。これらの結果は、薬理学的に動員されたCD133幹細胞およびその子孫が気管支上皮再生の主な寄与者であることを示唆している。気道上皮細胞は、COVID-19患者が感染する最も初期の細胞タイプの一つであり、免疫介在上皮損傷は、COVID-19の重症度と相関する(9)。損傷した気管支上皮細胞を薬理学的に動員されたCD133幹細胞で修復および/または置換すると、回復が改善され、慢性肺機能不全が予防される可能性がある。
【0094】
マウスにおける製剤Aの治療は、急性肺損傷およびストレプトコッカス・ニューモニエの気管内投与によって誘発されたARDS後の死亡率を75%(7%対28.2%)有意に低下させ、生存率を改善した(93%対71.8%)。これらのデータを総合すると、製剤Aによる治療により臓器組織の損傷が軽減され、ARDSに罹患しているストレプトコッカス・ニューモニエ感染マウスの生存率が向上したことが実証された。薬理学的に動員された幹細胞および活性化されたM2表現型マクロファージは、炎症性免疫反応およびサイトカインストームを改善するだけでなく、肺の修復/再生を促進する可能性がある。
【0095】
実施例9:関節炎に対する免疫調節および再生療法としての製剤A
関節炎は、一つまたは複数の関節の腫脹および圧痛であり、通常、関節の炎症または変性(破壊)を伴う。関節炎は、米国における障害の最も一般的な原因であり、約5,000万人の成および30万人の小児が何らかの関節炎に苦しんでいる。
【0096】
図16は、製剤Aの治療がコラーゲン誘発性関節炎ラットにおける関節炎の臨床徴候を寛解させたことを実証している。MRG-001が関節の炎症を改善できるかどうかを試験するために、ラットのコラーゲン誘発性関節炎モデルが開発された。コラーゲン誘発性関節炎(CIA)は、複数の遺伝的および環境的要因によって制御される自己免疫介在性関節炎の複雑なモデルである。CIAは、天然のII型コラーゲンによる免疫によってラットに誘導され、関節リウマチと同様の関節の病変(joint pathology)を発症する。
【0097】
12~15週齢のメスのDAラットを、ラテックスフリーの1mlシリンジおよび27ゲージを使用して、尾の付け根の3つの部位に皮内注射(0日目)によってII型コラーゲン/不完全フロイントアジュバントで免疫化し、免疫応答を高めるために12日目にリポ多糖類(LPS、3mg/kg)を腹腔内注射により投与した。次の5日間で動物は関節炎を発症した。関節炎に罹患しているラットは、20日目にランダムに2つの実験群に分けられ、20日間、1日おきに生理食塩水または製剤Aの皮下注射を受けた。
【0098】
免疫化により、後足のびらん性関節炎が誘発された。CIAの肉眼的証拠は、最初の注射後17~20日目までに後足の関節周囲の紅斑および浮腫として初めて現れ、24日目までに発生率100%となった。生理食塩水を投与したラットでは、36日目まで後足の紅斑および浮腫が残存した。対照的に、関節炎の発症時(20日目)から開始した製剤Aによる治療は、24~36日目に臨床徴候を寛解させ、後足の活動を改善した。したがって、この研究は、製剤Aを使用して患者の関節炎を治療または寛解させられることを実証している。
【0099】
本開示を特定の実施形態に関して論じてきたが、本開示がそれに限定されないことを理解されたい。実施形態は本明細書では例として説明されており、依然として本開示の範囲内にある使用可能な多数の改変、変形、および他の実施形態が存在する。
図1
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図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
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図6-2】
図7-1】
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図8-1】
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図10
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図16
【国際調査報告】