(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】環状炭酸塩を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C07D 317/36 20060101AFI20231121BHJP
C07D 317/38 20060101ALI20231121BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
C07D317/36
C07D317/38
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528240
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(85)【翻訳文提出日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 EP2021081259
(87)【国際公開番号】W WO2022101275
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520222896
【氏名又は名称】ニュー・グリーン・ワールド・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェルフンスト,フランク
(72)【発明者】
【氏名】フェルデル,パウル
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デル・ホルスト,ニコラース・トーマス
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA42
4H039CH10
(57)【要約】
本発明は、エポキシド化合物と二酸化炭素との気体混合物を、不均一系触媒の存在下0.1~0.4MPaの間の圧力で1つ以上の反応器中で連続的に反応させて、液体環状炭酸塩生成物及び未反応エポキシド化合物と二酸化炭素とを含む気体流出流にする方法に向けられる。気体流出物の一部は方法から除去され、気体流出物の別の部分はエジェクターに供給され、そこで気体流出物はエポキシド化合物と気体流出物の圧力よりも少なくとも0.3MPa超高い圧力を有する二酸化炭素との気体混合物と混合される。得られたエジェクター流出物は、1つ以上の反応器に供給される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシド化合物と二酸化炭素との気体混合物を、不均一系触媒の存在下、0.1~0.4MPaの間の圧力で1個以上の反応器中で連続的に反応させ、液体環状炭酸塩生成物及び未反応のエポキシド化合物と二酸化炭素とを含む気体流出流とする方法であって、気体流出物の一部をこの方法から除去し、気体流出物の別の部分はエジェクターに供給され、エジェクターでは気体流出物が、エポキシド化合物と気体流出物の圧力よりも少なくとも0.3MPa超高い圧力を有する二酸化炭素との気体混合物と混合され、エジェクター流出物を得、エジェクター流出物が該1つ以上の反応器に供給される方法。
【請求項2】
インジェクター内で気体流出物を混合する前に、前記気体流出物の圧力を送風機によって上昇させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エジェクターに供給されるエポキシド化合物と二酸化炭素との気体混合物が、液体エポキシドを蒸発することによって得られる気体エポキシドと、1.4~4MPaの間の圧力を有する、液体二酸化炭素を蒸発することによって得られる気体二酸化炭素とを混合することによって得られる、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
液体環状炭酸塩生成物が1つ以上の反応器から排出され、排出された液体環状炭酸塩生成物中に存在するあらゆるエポキシド化合物が、液体環状炭酸塩生成物を気体二酸化炭素と接触させることによって除去され、清浄化された生成物流が得られる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記気体二酸化炭素の圧力が0.5~0.8MPaの間である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の反応器は、最も上流の反応器と、最も下流の反応器と、任意の中間反応器とを含む直列の2つ以上の反応器であって、該最も上流の反応器に前記エジェクター流出物が供給され、液体環状炭酸塩生成物が全ての反応器から排出され、未反応のエポキシド化合物と二酸化炭素とを含む中間気体流出物が、一連の反応器の上流の反応器から次の下流の反応器へ送られ、該一連のものの該最も下流の反応器から未反応のエポキシド化合物と二酸化炭素とを含む気体流出流が排出される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
最も上流の反応器の触媒が、前記一連のものの第2の反応器が一連の反応器の最も上流の反応器になるように、この反応器をオフラインにすることによって再生され、再生された触媒を含む新しい反応器が一連の反応器に最も下流の反応器として接続される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記不均一系触媒がスラリーとして直列の2つ以上の反応器中に存在し、該2つ以上の反応器の温度が20~150℃の間であり、選択された圧力で環状炭酸塩生成物の沸点未満である、請求項6~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記不均一系触媒が、1つ以上の求核基を含む有機化合物を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記求核基が第四級ハロゲン化窒素である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記不均一系触媒が担持された二量体アルミニウムサレン錯体であり、活性化化合物がハロゲン化化合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記担持された二量体アルミニウムサレン錯体が以下の式
【化1】
[式中、Sは、アルキレン基を介して窒素原子に連結された固体支持体を表し、ここで、担持された二量体アルミニウムサレン錯体は、ハロゲン化化合物によって活性化され、X
1は第三級ブチルであり、X
2は水素であり、Etは1~10個の炭素原子を有するアルキル基である。]
で表される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記支持体Sが、10~2000μmの間の平均直径を有する粒子から構成される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記支持体Sが、シリカ、アルミナ、チタニア、シリカ質MCM-41又はシリカ質MCM-48からなる群から選択される粒子である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ハロゲン化化合物がハロゲン化ベンジルである、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ハロゲン化ベンジルが臭化ベンジルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記エポキシド化合物が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド又はペンテンオキシドである、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシド化合物と二酸化炭素との気体混合物を連続的に反応させ、不均一系触媒の存在下、1つ以上の反応器中で、液体環状炭酸塩生成物、及び未反応のエポキシド化合物と二酸化炭素とを含む気体流出流にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような方法はWO2019/125151号に記載されている。この刊行物は、プロピレンオキシドを二酸化炭素と反応させて、0.1~0.5MPaの圧力で炭酸プロピレンを生成する方法について記載する。この反応は、液体炭酸プロピレンと臭化ベンジルによって活性化される担持された二量体アルミニウムサレン錯体とのスラリー中で行われる。担持されたアルミニウムサレン錯体及び臭化ベンジルが反応槽内に残り、液体炭酸プロピレンは反応器から排出される。炭酸プロピレン生成物から分離された未反応のプロピレンオキシド及び二酸化炭素を、反応器にリサイクルすることができる。この流れの一部は、反応しない化合物の蓄積を避けるために、方法から除去されてもよい。この方法は比較的低い圧力で行われる。それにもかかわらず、これらを反応器に供給する前に、気体反応体及び記載された気体リサイクルの圧力を上昇させることが必要である。このような上昇は、コンプレッサーを用いて行うことができる。コンプレッサーを使用する欠点は、該方法に複雑さをもたらすことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、先行技術の方法の短所を有さない、より簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は以下の方法によって達成される。エポキシド化合物と二酸化炭素との気体混合物を、不均一系触媒の存在下、0.1~0.4MPaの間の圧力で1個以上の反応器中で連続的に反応させ、液体環状炭酸塩生成物及び未反応のエポキシド化合物と二酸化炭素とを含む気体流出流とする方法
であって、気体流出物の一部をこの方法から除去し、気体流出物の別の部分はエジェクターに供給され、エジェクターでは気体流出物が、エポキシド化合物と気体流出物の圧力よりも少なくとも0.3MPa超高い圧力を有する二酸化炭素との気体混合物と混合され、エジェクター流出物を得、エジェクター流出物が該1つ以上の反応器に供給される方法。
【0006】
出願人は、エジェクターにおいて、エポキシド化合物と気体流出物の圧力よりも少なくとも0.3MPa超高い圧力を有する二酸化炭素との気体混合物を使用する場合には、本発明による方法により、コンプレッサーが不要になるか、又は少なくともより小さいコンプレッサーが必要であることを見出した。このより高い圧力の混合物は、高圧で液体エポキシドを蒸発させることにより、及び貯蔵又は提供された高圧を有する液体二酸化炭素を蒸発させ、蒸発した気体成分を混合することにより、有利に得られる。このように、コンプレッサーを必要としないか、又はより大きな容量のコンプレッサーを必要としない方法に到達するために、貯蔵圧の高い二酸化炭素を使用する。
【0007】
反応器の構成、反応体の供給方法、反応器及び生成物の処理方法は前述のWO2019/125151号に記載されているとおりである。好ましくは、1つ以上の反応器は、最も上流の反応器と、最も下流の反応器と、任意の中間反応器とを含む直列の2つ以上の反応器である。好ましくは、直列の2つの反応器が用いられる。最も上流の反応器には、エジェクター流出物が供給される。全ての反応器から、液体の環状炭酸塩生成物が排出される。未反応エポキシド化合物と二酸化炭素とを含む中間気体流出物は、一連の反応器の中で上流の反応器から次の下流の反応器に送られる。一連の最も下流の反応器から、未反応エポキシド化合物と二酸化炭素とを含む気体流出流が排出される。反応器を直列に整列させるこのような方法は、下流の反応器として、好ましくは、最も下流の反応器として、より活性な触媒を有する反応器を配置することを可能にするので、有利である。これは、環状炭酸塩への全体的な変換を向上させ、気体流出物中のエポキシド化合物の量を低下させる。これは、その結果、除去により失われる、価値のあるエポキシド化合物の量が少なくなることになるので、これは同様に有利である。
【0008】
反応器内の温度は0~200℃の間であることができ、圧力は0.1~0.4MPa(絶対)の間であり、温度は選択した圧力で環状炭酸塩生成物の沸点より低い。これらの温度及び圧力範囲の上限では、複雑な反応槽が必要となる。所望の炭酸塩生成物に対する選択性及び収率に関する好ましい結果は、より低い温度及び圧力で達成可能であるので、1つ以上の反応器における温度は、20~150℃の間、より好ましくは、40~120℃の間であり、及び絶対圧は0.1~0.5MPaの間、より好ましくは、0.1~0.3MPaの間であることが好ましい。上流の反応器内の圧力は、一連の反応器のうちの下流の反応器内の圧力よりも高いことが好適である。これは、上流の反応器から下流の反応器への中間気体流出物の流れを作るために、コンプレッサー又は送風機のような特別な手段が存在する必要がないので、有利である。
【0009】
ほとんどの不均一系触媒は経時的に失活する。失活した触媒を含む反応器をラインから離し、触媒再生操作に供するのが好適である。ラインを切り離すことは、エポキシド化合物及び二酸化炭素のような反応体が反応器に供給されず、反応器から環状炭酸塩が排出されないことを意味する。換言すれば、前記反応器は、環状炭酸塩生成物を調製する方法に実質的に関与しない。好適には最上流の反応器の触媒が、一連の反応器中の第2の反応器が一連の反応器の最上流の反応器になるように、この反応器をラインから離すことによって再生される。再生した触媒を含む新しい反応器を、最も下流の反応器として一連の反応器に接続する。最も下流の反応器は最も活性な触媒を含むので、エポキシド化合物の高い変換が達成される。
【0010】
反応器をラインから外し、及びオンラインにして、上流の反応器をステップの終わりに下流の反応器になるように変更することは、一連のシーケンス弁及び導管のセットを操作することによって達成することができる。1つのステップの時間は、1~30日間、好ましくは、2~20日間であり得る。このような期間において、環状炭酸塩生成物は、1つ以上の反応器中で連続的に調製され得る。オフライン反応器における失活した触媒の再生は、より短時間で行うことができる。
【0011】
上述のように直列の反応器の数は、2つの反応器であることが好ましく、1つの上流の反応器が1つの下流の反応器に直接結合する。さらに、1つの反応器を再生して、計3つの反応器を反応器列とすることができる。より多くの反応器列を並行して操作してもよい。
【0012】
未反応のエポキシド化合物と二酸化炭素とを含む気体流出物は、一連の反応器の最も下流の反応器で得られる。気体流出物の一部は方法から除去され、気体流出物の別の一部はエジェクターに供給される。除去される部分は、典型的には少量、例えば、気体流出物の5体積%未満である。この除去では、未反応エポキシド化合物及び二酸化炭素が存在し、窒素、及び、例えば、エポキシド化合物及び/又は二酸化炭素原料の微量不純物として方法に導入され得る他の化合物などのいくつかの反応しない化合物が存在する。除去はこれらの反応しない化合物の蓄積を避けるために必要である。貴重なエポキシド化合物が方法から失われるので、除去をできるだけ少なく保つことが望ましい。気体流出物をエジェクター内で使用する前に、気体流出物の圧力を上昇させることが好ましい。これは、2つ以上の反応器を直列に使用する場合に特に有利である。中間気体流出物の圧力上昇手段が存在しない好ましいラインナップでは、下流の反応器における操作圧力は、その上流の反応器における圧力よりも低いものである。この圧力損失は、気体流出物の圧力を上昇させることによって適切に補償される。必要とされる圧力上昇は比較的低く、好ましくは、0.1MPa未満であるため、圧力を上昇させる手段は、先行技術のコンプレッサーよりも簡単な手段でよい。この圧力上昇は、送風機によって行うのが好ましい。送風機はコンプレッサーよりもずっと複雑ではない。あるいは、エジェクターと1つ以上の反応器との間に送風機が存在してもよい。
【0013】
触媒は、反応器内の固定床として存在することができる。好ましくは、触媒は、不均一系触媒及び液体環状炭酸塩生成物のスラリーとして存在する。反応器は、反応体及び触媒が密接に接触することができ、供給原料を容易に供給することができる任意の反応器であることができる。一連の反応器の一部としての反応器は、連続的に操作される反応器であるのが好適である。このような反応器には、二酸化炭素及びエポキシド化合物を連続的に供給し、液体環状炭酸塩及び気体流出物を連続的に排出することができる。反応器には、気体供給化合物を反応器に添加し、好適な触媒スラリーを攪拌するためのスパージャーノズルを備えることができる。撹拌は、例えば、エジェクター、又は、例えば、インペラーのような機械的撹拌手段を用いることによって達成することもできる。このような反応器は、いわゆる気泡カラムスラリー型反応器及び機械的に撹拌された撹拌槽反応器のものであることができる。好ましい実施形態では、反応器は、二酸化炭素及びエポキシド化合物が反応器に連続的に供給される連続的に操作される撹拌反応器である。この供給原料は、最も上流の反応器にはエジェクター流出物として、他の反応器(単数又複数)には中間気体流出物として供給される。この連続的に操作される撹拌反応器から、環状炭酸塩生成物の一部を液体流の一部として連続的に抜き出し、未反応の二酸化炭素及びエポキシドを含む気体流出物又は中間気体流出物を連続的に抜き出す。直列の2つ以上の反応器の反応器列の反応器は、同じ大きさと設計のものであることが好ましい。任意に並列操作された反応器列の反応器は、列ごとに異なっていてもよい。
【0014】
固定床反応器を使用する場合、触媒は反応器内に留まる。不均一系触媒と環状炭酸塩生成物とのスラリーを用いる場合、反応器内に触媒を保持するか、又は液体環状炭酸塩生成物の一部が反応器から排出される間に触媒を反応器に戻すことが好ましい。好ましくは、ある体積の液体環状炭酸塩生成物が、反応器中の環状炭酸塩生成物の生成に対応する直列の反応器(単数又は複数)から、反応器中の懸濁物の体積が実質的に同じままであるように排出される。液体環状炭酸塩を、フィルターによってスラリー化した不均一系触媒から分離することができる。このフィルターは反応器の外部に設置することができる。好ましくは、フィルターは反応器内に配置される。好ましいフィルターは、クロスフローフィルターである。触媒として好ましい担持された二量体アルミニウムサレン錯体は、10μmフィルターであり、より好ましくは、Vee-Wire(R)フィルター要素を使用するいわゆるJohnson Screens(R)で構成されることが好ましい。フィルターは、反応器の中に垂直に置かれた管の形状を有することができる。フィルターは、フィルター開口部からあらゆる固体を除去するように、フィルター上に負の流れを作り出す手段を備えていてもよい。
【0015】
前記方法において、液体環状炭酸塩生成物は、オンラインである1つ以上の反応器の全ての反応器、すなわち反応体が供給される反応器から排出され得る。この排出された液体環状炭酸塩には溶存エポキシド化合物が存在することがある。液体環状炭酸塩生成物を、液体二酸化炭素を蒸発させることによって得られた気体二酸化炭素と接触させることによって、この溶存エポキシド化合物をできるだけ除去することが好ましい。気体の二酸化炭素をエポキシド化合物と混合する前に適切に除去を行う。このようにして、環状炭酸塩の清浄化された生成物流が得られる。
【0016】
液体エポキシドを高圧で蒸発させ、高圧の液体二酸化炭素を蒸発させ、蒸発した気体成分を混合することにより、より高圧の混合物を得ることができる。液体エポキシド化合物の圧力は、液体エポキシド化合物があまりにも低い圧力で貯蔵されるか、又は提供される場合には、ポンプによって上昇させることが好ましい。その結果生じる加圧された液体エポキシド化合物は、続いて温度が上昇し、一部は圧力を下げることによって蒸発する。圧力を低下させることは、例えば、絞り弁で行うことができる。一部蒸発したエポキシド化合物は、残りの液体エポキシド化合物から気液分離器で分離される。蒸発していないエポキシド化合物は、ポンプを介して熱交換器に適切にリサイクルされる。気体エポキシド化合物の圧力は0.5~0.8MPaの間であることが好ましい。
【0017】
出発液体二酸化炭素は、パイプラインを介して貯蔵され、又は供給され得る。液体二酸化炭素は好適には1.4~4MPaの間の高圧を有する。本方法は有利にはこの高圧を利用する。蒸発は、実質的に気体の二酸化炭素が得られる気化器内で行うことができる。この気体は、熱交換器内で80~120℃の間の温度まで加熱してから、上述のように液体環状炭酸塩生成物流の好ましい除去に用いることができる。気体二酸化炭素の圧力は、0.5~0.8MPaの間であることが好ましく、気体エポキシド化合物の圧力と実質的に同じであることがより好ましい。これにより、気体二酸化炭素及び気体エポキシド化合物を組み合わせて、エジェクターに提供されるエポキシド化合物と気流出物の圧力よりも少なくとも0.3MPa超高い圧力を有する二酸化炭素との気体混合物を得ることができる。
【0018】
不均一系触媒は、環状炭酸塩への二酸化炭素及びエポキシドの反応を触媒するのに適し、ハロゲン化化合物によって適切に活性化されるあらゆる触媒であり得る。より詳細には、第四級ハロゲン化窒素のような1つ以上の求核基を含有する有機化合物を含む不均一系触媒である。好ましい不均一系触媒は担持された二量体アルミニウムサレン錯体であり、活性化化合物はハロゲン化化合物である。
【0019】
担持された二量体アルミニウムサレン錯体は、先に記載したEP2257559B1号によって開示されたような任意の担持された錯体であることができる。好ましくは、該錯体は以下の式で表される。
【0020】
【化1】
式中、Sは、アルキレン架橋基を介して窒素原子に連結された固体支持体を表し、ここで、担持された二量体アルミニウムサレン錯体は、ハロゲン化化合物によって活性化される。アルキレン架橋基は、1~5個の間の炭素原子を有し得る。X
2はC6環状アルキレン又はベンジレンであり得る。好ましくは、X
2は水素である。X
1は第三級ブチルであることが好ましい。上記式中のEtは、任意のアルキル基を表し、好ましくは、1~10個の炭素原子を有する。好ましくは、Etはエチル基である。
【0021】
Sは固体支持体を表す。触媒錯体は、(a)共有結合、(b)立体トラッピング、又は(c)静電結合により、このような固体支持体に連結することができる。共有結合のために、固体支持体Sは、化合物をその表面に共有結合により連結するのに役立ち得る反応性官能基を含有するか、又は含有するように誘導体化される必要がある。このような材料は当技術分野において周知であり、例えば、反応性Si-OH基を含む二酸化ケイ素支持体、ポリアクリルアミド支持体、ポリスチレン支持体、ポリエチレングリコール支持体などを含む。さらなる例はゾル-ゲル材料である。シリカは、(3-クロロプロピル)トリエトキシシランで処理することにより、3-クロロプロピルオキシ基を含むように改質することができる。別の例はAl柱状粘土であり、(3-クロロプロピル)トリエトキシシランによる処理によって3-クロロプロピルオキシ基を含むように改質することもできる。本発明において特に興味深い共有結合のための固体支持体には、3-アミノプロピル基で改質されてもよいシリカ質MCM-41及びMCM-48、ITQ-2及び非晶質シリカ、SBA-15及び六方晶メソ多孔性シリカが含まれる。また特に興味深いのはゾル-ゲルである。他の慣用的な形態もまた使用され得る。立体トラッピングのために、固体支持体の最も適したクラスはゼオライトであり、これは天然でもよいし、改質されていてもよい。孔径は触媒を捕捉するのに十分に小さくなければならないが、反応体及び生成物が触媒に出入りできるように十分に大きくなければならない。好適なゼオライトには、ゼオライトX、Y及びEMT、並びに反応体及び生成物のより容易な輸送を可能にする、メソ多孔を提供するために部分的に分解されたそれらが含まれる。固体支持体への触媒の静電結合のために、典型的な固体支持体は、シリカ、インド粘土、Al柱粘土、Al-MCM-41、K10、ラポナイト、ベントナイト、及び亜鉛-アルミニウム層状複水酸化物を含み得る。これらの中でシリカ及びモンモリロナイト粘土は特に興味深い。好ましくは、支持体Sは、シリカ、アルミナ、チタニア、シリカ質MCM-41又はシリカ質MCM-48からなる群から選択される粒子である。
【0022】
好ましくは、不均一系触媒は、支持体Sが、支持体の重量当たりの高い活性触媒表面を作り出すのに十分小さく、かつ反応器内又は外部の環状炭酸塩から容易に分離するのに十分な大きさの寸法を有する粉末の形状を有するスラリーとして存在する。好ましくは、支持体粉末粒子は、全粒子の少なくとも90重量%に対して、10μmを超え、2000μm未満である粒径を有する。粒子径はMalvern(R) Mastersizer(R) 2000により測定する。
【0023】
上に示したような担持された触媒錯体はハロゲン化化合物によって活性化される。ハロゲン化化合物は、ハロゲン原子を含み、このハロゲン原子は、Cl、Br又はIであり得、好ましくは、Brである。上で示した錯体の第四級窒素原子はハロゲン化物対イオンと対になっている。可能性のある活性化化合物は、可能性のある活性化化合物としてテトラブチルアンモニウムブロミドを例示するEP2257559B1に記載される。臭化ベンジルは、蒸留によって、炭酸プロピレン及び炭酸エチレンなどの好ましい環状炭酸塩生成物から分離することができるので、好ましい活性化化合物である。
【0024】
臭化ベンジルによって活性化される好ましい担持された二量体アルミニウムサレン錯体の例を以下に示す(式中、Etはエチルであり、tBuはtert-ブチルであり、Osilicaはシリカ支持体を表す)。
【0025】
【0026】
使用に際して、上記式中のEt基は、ハロゲン化化合物の有機基と交換され得る。例えば、上記担持された二量体アルミニウムサレン錯体を活性化するためにハロゲン化化合物として臭化ベンジルが使用される場合、触媒が再活性化される場合、Et基はベンジル基と交換される。
【0027】
上記の担持された二量体アルミニウムサレン錯体の代替物は、アルミニウムサレン錯体部分が支持体に接続される担持された触媒であってもよい。これらのモノマーを互いに十分近くに配置することによって、上記の二量体サレン錯体と同じ触媒効果を達成することができる。任意に、担持されたモノマーアルミニウムサレン錯体を隣接するモノマーアルミニウムサレン錯体と反応させて、上記のように一つの連結ブリッジの代わりに二つの連結ブリッジを支持体に有する、上記の担持された二量体アルミニウムサレン錯体を得ることができる。
【0028】
ストリッパー中で、又は反応器中で直接得られるような、清浄化された生成物中に存在する環状炭酸塩生成物は、活性化ハロゲン化化合物をさらに含み得る。このハロゲン化化合物は、蒸留ステップにおいて環状炭酸塩から適切に分離され、ここで、精製された環状炭酸塩生成物は、蒸留ステップの底部生成物として得られる。蒸留ステップで得られたハロゲン化物活性化化合物は、上記のように適切にオフラインモードで、失活した触媒を活性化するために適切に使用される。
【0029】
1つ以上の反応器から排出される液体環状炭酸生成物又はストリッパーで得られる清浄化された生成物流が、蒸留ステップの上流の緩衝容器を通過することが好ましい。不均一系触媒が担持された二量体アルミニウムサレン錯体であり、活性化化合物がハロゲン化化合物である方法については、エポキシド化合物と二酸化炭素との反応が起こり、kmolで表される1つ以上の反応器、好ましくは、上流及び下流の反応器に存在する二量体アルミニウムサレン錯体の量に対する、m3で表される緩衝容器(単数又は複数)の体積は、5~50m3/kmolの間であることが好ましい。このような緩衝容器は、蒸留塔への供給物中のハロゲン化化合物の含有量を平均化し、それによって蒸留操作を単純化する。
【0030】
本発明は、
図1及び2を利用して示されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明によらず、エポキシド化合物及び二酸化炭素から環状炭酸塩を調製する方法のための可能なラインナップを示し、気体エポキシド化合物(1)の反応器(10)内の圧力まで圧力を上昇させるためにコンプレッサー(2)が使用される。
【
図2】
図1のような大型コンプレッサー(2)を使用しない本発明による実施形態を示す。
【
図3】まさに、送風機がエジェクター(36)の下流に存在することを除き、
図2と同様に本発明による同じ実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、本発明によらず、エポキシド化合物及び二酸化炭素から環状炭酸塩を調製する方法のための可能なラインアップを示し、ここでは気体エポキシド化合物(1)の反応器(10)内の圧力まで圧力を上昇させるためにコンプレッサー(2)が使用される。圧力(8)が上昇したエポキシドを、ほぼ同じ圧力を有する二酸化炭素(5)と混合する。二酸化炭素(5)は、液体環状炭酸生成物(6)を気体二酸化炭素(3)と接触させることによってストリッパー(4)において得られるいくらかのエポキシド化合物を含有し、洗浄化された環状炭酸塩(7)が得られる。組み合わされたエポキシド化合物及び二酸化炭素気体混合物(9)は、ハロゲン化化合物によって活性化される不均一系触媒のスラリーを含有する上流の反応器(10)に供給される。この上流の反応槽(10)から、第1の環状炭酸塩生成物(12)が排出され、中間気体流出物(11)が得られる。中間気体流出物(11)は、不均一系触媒のスラリーを含有する下流の反応器(13)に供給される。この反応器(13)は反応器(10)よりも低い圧力で操作される。この下流の反応槽(13)から第2の環状炭酸塩生成物(14)が排出され、気体流出物(15)が得られる。気体流出物(15)の一部を除去物(16)として除去し、気体流出物(15)の残りの部分をリサイクルして、コンプレッサー(2)の上流で気体エポキシド化合物(1)と組み合わせる。第1(12)及び第2(14)の環状炭酸塩流を緩衝容器(18)に集める。この容器から、組み合わされた液体環状炭酸塩生成物(6)をストリッパー(4)に供給する。ハロゲン化化合物(20)の添加によりオフラインモードで再生される不均一系触媒のスラリーを含む第3の反応器(19)が示される。
【0033】
図2は、
図1のような大型コンプレッサー(2)を使用しない本発明による実施形態を示す。16℃及び0.2MPaで貯蔵した液体プロピレンオキシドは、ポンプ(21a)によって圧力を上昇させ、94℃の温度及び1.3MPaの圧力を有する液体プロピレンオキシドの戻り流(26a)と混合される。得られた混合物は、熱交換器(22)内で温度を130℃まで上昇させ、絞り弁(23)内で圧力及び温度を、圧力が0.6MPaで温度が95℃の気体(27)及び液体(25)まで低下させる。液体(25)はポンプ(26)を介してリサイクルされ、加圧された戻り流(26a)となる。
【0034】
1.9MPaの圧力で貯蔵した液体二酸化炭素(28)を気化器(29)で再び気化させ、熱交換器(30)で温度を上げ、温度100℃及び圧力0.6MPaを有する二酸化炭素気体(31)にする。ストリッパー(32)において、清浄化された炭酸プロピレン(34)は、液体炭酸プロピレン生成物(33)を気体二酸化炭素(31)と接触させることによって得られる。ストリッパー(32)から排出される二酸化炭素(35)には、いくらかの再生されたプロピレンオキシドが含まれている。この二酸化炭素(35)を気液分離器(24)で得られた気体プロピレンオキシド(27)と組み合わされ、その結果得られた混合物を0.6MPaの圧力を有するエジェクターの高圧供給物としてエジェクター(36)に供給する。また、エジェクター(36)には、0.23MPaの圧力を有する加圧された気体流出物(37)が供給され、0.26MPaの圧力を有するエジェクター流出物(38)が得られる。エジェクター流出物(38)は、ハロゲン化化合物によって活性化される不均一系触媒のスラリーを含む上流の反応器(39)に供給される。この上流の反応槽(39)から、第1の炭酸プロピレン生成物(40)が排出され、中間気体流出物(41)が得られる。中間気体流出物(41)は、不均一系触媒のスラリーを含有する下流の反応器(42)に供給される。この反応器(42)は0.17MPaで操作される。この下流の反応槽(42)から、第2の炭酸プロピレン生成物(43)が排出され、気体流出物(44)が得られる。気体流出物(44)の一部を除去物(45)として除去し、気体流出物(46)の残りの部分を送風機(47)中で圧力を0.23MPaまで上昇させて、加圧された気体流出物(37)とする。送風機(47)はコンプレッサーと考えることができ、
図1のコンプレッサー(2)よりはるかに小さい。
【0035】
第1(40)及び第2(43)の炭酸プロピレン流を緩衝容器(48)に集める。この容器から、組み合わされた液体炭酸プロピレン生成物(33)をストリッパー(4)に供給する。ハロゲン化化合物(51)の添加によりオフラインモードで再生される不均一系触媒のスラリーを含む第3の反応器(50)が示されている。
【0036】
図3は、まさに、送風機がエジェクター(36)の下流に存在することを除き、
図2と同様に本発明による同じ実施形態を示す。送風機(52)では、エジェクター流出物(38)は、流れ(53)として上流の反応器(39)に供給される前に、さらに圧力を上昇させる。
【実施例】
【0037】
[比較例A]
図1の方法について熱収支及び物質収支を計算する。気体エポキシドを4.5kg/秒で供給し(
図1の1)、新鮮な二酸化炭素を3.5kg/秒で供給し(
図1の5)、リサイクル流を2kg/秒に設定する(
図1の17)。気体エポキシド及びリサイクル流及びその結果生じる混合物上昇流コンプレッサー(2)の圧力は0.7bargである。供給原料Aを16℃から55℃に加熱するためのエネルギー投入量を計算する。CO2供給原料の加圧(10+bargで貯蔵)のためのエネルギー投入は考慮しない。気体エポキシド及びリサイクルの混合物を0.7bargから指定された反応器入口圧2.1bargまで圧縮するための
図1のコンプレッサー(2)の必要圧縮負荷を計算する。圧縮負荷の計算には、65%の圧縮効率を使用してポリトロープ圧縮エネルギーを計算する。計算したエネルギー消費量を表1に示す。
【0038】
[発明による実施例1]
図3の方法について熱収支及び物質収支を計算する。気体エポキシドを4.5kg/秒で供給し(
図3の27)、新鮮な二酸化炭素を3.5kg/秒で供給し(
図3の35)、リサイクル流を2kg/秒に設定する(
図3の46)。エネルギー計算では、エポキシド供給原料を16℃から110℃(100℃で、供給原料A蒸気圧は5bargである)まで加熱するためのエネルギー入力、及び下流配管での望ましくない縮合を防止するための110℃までの追加の過熱を考慮に入れる。CO2供給原料の加圧用のエネルギー投入(10+bargで供給、貯蔵する)は考慮に入れない。静的エジェクター(
図3の36)において、流れ(46)を、結果として生じる排出圧力まで加圧する。排出圧力は、流れ(27)、(35)及び(46)の予め定められた比に基づき、静的エジェクター装置の供給者が提供する数値を用いて算出する。エレクター(elector)(36)と上流反応器(39)との間でコンプレッサー/送風機(52)に対し必要とされる残りの圧縮負荷を、比較例と同じ圧力を達成するために計算する。(52)の圧縮負荷の計算のために、ポリトロープ圧縮エネルギーを、65%の圧縮効率を使用して計算する。
【0039】
両者のエネルギー収支を計算し、表1で比較する。
【0040】
【0041】
表1の提示されたエネルギー消費は、全体として、リサイクル流を上昇させるために静的エジェクターを使用した場合のエネルギー利益が、この計算例では3.7%に等しいことを示している。また、エジェクターのような比較的安価な静的要素に置き換えられる必要な気体コンプレッサーの小型化により、CAPEXコストが低減する。また、総合的に正味の冷却負荷(発熱プロセス)を必要とするプラント全体にさらなる熱統合を適用する場合、熱エネルギー負荷をさらに低減できる。この場合、正味エネルギー利益は、静的エジェクターを使用する場合、従来の方法では、電気エネルギー負荷(置き換えることができない)の量がより大きいため、さらに増加する。
【0042】
出願人は、
図2の方法がより少ないエネルギーを消費することを見出した。
図3の方法においてストリッパーをより高圧で作動させることによって生じる二酸化炭素の損失は少なく、複雑なコンプレッサーを使用しなくてもよいという利点、及びより低いエネルギー要件によって完全に補償されることがわかった。
【国際調査報告】