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特表2023-549804老化が減少し、幹細胞能が保存された初期間葉系幹細胞及びその培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】老化が減少し、幹細胞能が保存された初期間葉系幹細胞及びその培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20231121BHJP
   C12N 9/50 20060101ALI20231121BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20231121BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20231121BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20231121BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20231121BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20231121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N9/50
C12M3/00 Z
A61K35/28
A61K35/35
A61K35/51
A61K35/32
A61K35/50
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528328
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(85)【翻訳文提出日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 KR2021016277
(87)【国際公開番号】W WO2022103129
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0150504
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522379060
【氏名又は名称】エンセル・カンパニー・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】512250119
【氏名又は名称】サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】ホン・ベ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】サン・オン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ウク・チャン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029DG10
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BB23
4B065BD45
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB46
4C087BB58
4C087BB59
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、間葉系幹細胞を臍帯血血清が含まれた培地で初期培養した後、胎児血清が含まれた培地で継代培養することを含む、間葉系幹細胞の培養方法を提供する。本発明による間葉系幹細胞の培養方法は、幹細胞の分化及び老化が減少されることにより、幹細胞性を維持することができ、特に著しく高い増殖率を達成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離されたヒト間葉系幹細胞を臍帯血血清を含む培地で初期培養する段階;およびウシ胎児血清を含む培地で継代培養する段階;を含む間葉系幹細胞培養方法。
【請求項2】
前記ヒト間葉系幹細胞の由来は、骨髄の基質、脂肪組織、臍帯、軟骨、胎盤、または臍帯血である、請求項1に記載の間葉系幹細胞培養方法。
【請求項3】
前記ヒト間葉系幹細胞の由来は臍帯である、請求項2に記載の間葉系幹細胞培養方法。
【請求項4】
前記臍帯血血清を0.5%~30%の体積比で培地に含む、請求項1に記載の間葉系幹細胞培養方法。
【請求項5】
前記ウシ胎児血清を0.5%~30%の体積比で培地に含む、請求項1に記載の間葉系幹細胞培養方法。
【請求項6】
前記継代培養は第20継代の幹細胞が得られるまで行う、請求項1に記載の間葉系幹細胞培養方法。
【請求項7】
分離された組織からコラーゲナーゼとヒアルロニダーゼの混合酵素液を利用して間葉系幹細胞を分離する段階;分離された間葉系幹細胞を臍帯血血清が含まれた培地で初期培養する段階;および間葉系幹細胞を胎児血清が含まれた培地で継代培養する段階を含む、間葉系幹細胞の老化低減方法。
【請求項8】
前記分離された組織は、骨髄の基質、脂肪組織、臍帯、軟骨、または胎盤である、請求項7に記載の間葉系幹細胞の老化減少方法。
【請求項9】
前記分離された組織は臍帯である、請求項8に記載の間葉系幹細胞の老化減少方法。
【請求項10】
前記臍帯血血清を0.5%~30%の体積比で培地に含む、請求項7に記載の間葉系幹細胞の老化低減方法。
【請求項11】
前記継代培養は第20継代の幹細胞が得られるまで行う、請求項7に記載の間葉系幹細胞の老化低減方法。
【請求項12】
第7項ないし第11項のいずれか一項に記載の方法により、老化が低減された間葉系幹細胞。
【請求項13】
前記間葉系幹細胞は、CD47、CD49e、CD56、CD62e、CD146、CD227、およびCD326のうち一つ以上の細胞表面マーカーを発現する、請求項12に記載の間葉系幹細胞。
【請求項14】
第12項の間葉系幹細胞を含む、細胞治療用伝達体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月11日付けの韓国特許出願第10-2020-0150504号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、老化が減少し、幹細胞能が保存された初期間葉系幹細胞及びその培養方法に関する。
【背景技術】
【0003】
幹細胞は様々な細胞に分化することができ、このような幹細胞の特性を利用した細胞治療法の活用可能性に関する研究が多様に進められている。多分化能がある胚性幹細胞は、様々な細胞に分化できる能力があるから細胞治療剤として注目されたが、安全性及び倫理的な問題で実際に活用されるには困難がある。
【0004】
このような安全性及び倫理的な問題を回避するために、多くの研究者たちは胚性幹細胞の代替として成体幹細胞に関心を持つようになった。成体幹細胞は未分化状態で自己増殖し、様々な種類の細胞に多重分化することができる細胞で、最初に知られているのは骨髄から由来した骨髄幹細胞(bone marrow stem cells, BMSCs)であるが、その後、臍帯、血液、脂肪など我々の体の様々な部位に存在することが知られている。
【0005】
これらの成体幹細胞のうち、高い自己複製能力に加え、様々な組織に分化できる間葉系幹細胞を利用した研究が活発に行われている。
【0006】
しかし、成体幹細胞は増殖率が低いため、一つの組織から得られる細胞の数が限られているという問題がある。一般的に骨髄由来の成体幹細胞は、その分離過程でドナーに苦痛を与えるだけでなく、一度に得られる細胞の数が限られており、実際に分離された成体幹細胞の分化能も限られているため、骨髄移植などの限られた場合に主に使用される。
【0007】
他の種類の成体幹細胞、すなわち臍帯血や脂肪幹細胞は比較的簡単に細胞を得ることができるが、骨髄由来の成体幹細胞と同様に一度に得られる細胞の数及び分化能が限られている。
【0008】
一般的に、幹細胞治療剤が臨床に適用されるためには一定水準以上の細胞数(最低1X109 cells)が必要であり、そのためには幹細胞の大量培養が必須である。しかし、幹細胞の培養期間が長くなればなるほど必然的に幹細胞の老化が起こり、これは増殖能や分化能などの幹細胞能と治療効能の低下につながる。また、培養期間が長くなるにつれて材料費、人件費などの生産コストが高くなるという欠点があるため、間葉系幹細胞の幹細胞能を維持したまま増殖させる培養方法の必要性が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国公開特許公報第10-2010-0065338号(公開日:2010.6.16.)、「ヒトまたは動物の胚から間葉系幹細胞を抽出及びその分泌物を抽出する方法」。
【特許文献2】中国登録特許公報第102127522号(登録日:2012.11.21.)、「ヒトの臍帯間葉系幹細胞及びその製造方法」。
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】パク・セアなど「臍帯由来幹細胞の継代培養による特性変化の分析」大韓生殖学会誌、2009、36(1) 23-34。
【非特許文献2】Wagner et al.,‘Replicative senescence of mesenchymal stem cells: a continuous and organized process’, PLOS ONE 2008, 3, e2213.
【非特許文献3】Izadpanah et al.,‘Long-term in vitro expansion alters the biology of adult mesenchymal stem cells' Cancer Research, 2008, 68, 4229-4238.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明者らは前記問題を解決するために多角的に研究を行った結果、間葉系幹細胞の幹細胞能を維持しながら、老化が減少した多数の間葉系幹細胞を早期に得ることができることを確認し、本発明を完成した。
【0012】
本発明の目的は、間葉系幹細胞の培養方法を提供することにある。
【0013】
本発明の目的は、臍帯(umbilical cord)由来の間葉系幹細胞を分離してこれを培養する方法を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、臍帯(umbilical cord)から分離した間葉系幹細胞を培養する工程を含む間葉系幹細胞の老化減少方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、前記分離培養された間葉系幹細胞を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、前記分離培養された間葉系幹細胞をそれ自体または形質転換させて様々な疾患に対する細胞治療剤として利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明は、間葉系幹細胞培養方法を提供する。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、分離されたヒト間葉系幹細胞を臍帯血血清を含む培地で初期培養する段階;および胎児血清を含む培地で継代培養する段階;を含む間葉系幹細胞培養方法を提供する。
【0019】
前記ヒト間葉系幹細胞の由来は、骨髄の基質、脂肪組織、臍帯、軟骨、胎盤または臍帯血由来である。
【0020】
前記臍帯血血清は、0.5%~30%の体積比で培地に含まれる。
【0021】
前記ウシ胎児血清は、0.5%~30%の体積比で培地に含まれる。
【0022】
前記継代培養は、第20継代(P20)の幹細胞が得られるまで行う。本発明の一実施形態によれば、分離された組織からコラーゲナーゼ(collagenase)とヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)の混合酵素液を利用して間葉系幹細胞を分離する段階;分離された間葉系幹細胞を臍帯血血清が含まれた培地で初期培養する段階;および間葉系幹細胞を胎児血清が含まれた培地で継代培養する段階を含む;間葉系幹細胞の老化減少方法を提供する。
【0023】
前記分離された組織は、骨髄の基質、脂肪組織、臍帯、軟骨または胎盤である。
【0024】
前記臍帯血血清は、0.5%~30%の体積比で培地に含まれる。
【0025】
前記ウシ胎児血清は、0.5%~30%の体積比で培地に含まれる。
【0026】
前記継代培養は第20継代の幹細胞が得られるまで行う。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、老化が減少した間葉系幹細胞を提供する。
【0028】
前記間葉系幹細胞は、国際幹細胞委員会(International Society for Cellular Therapy, ISCT)が定めた間葉系幹細胞の表面マーカーであるCD73、CD90、CD105、CD166、CD44のほか、CD47、CD49e、CD56、CD62e、CD146、CD227、およびCD326のうち一つ以上の細胞表面マーカーを発現する。
【0029】
さらに、本発明は、前記間葉系幹細胞を含む細胞治療剤組成物又は細胞治療剤製造用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明による間葉系幹細胞培養方法は、間葉系幹細胞の幹細胞能は維持しつつ、細胞増殖能は高め、老化を減少させるため、老化が減少した間葉系幹細胞を得ることができる。また、本発明の間葉系幹細胞は、様々な疾患に対する細胞治療剤組成物または細胞治療剤製造用組成物として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】組織からの間葉系幹細胞分離方法及び初期培養方法による分離収率及び初期培養収率(7日間培養)を分析した結果である。
図2】組織からの間葉系幹細胞分離方法及び初期培養方法による分離収率及び初期培養収率(7日間培養)を分析した結果である。
図3】分離された間葉系幹細胞の継代培養時の幹細胞能及び細胞増殖能分析結果である。
図4】分離された間葉系幹細胞の継代培養時の幹細胞能及び細胞増殖能分析結果である。
図5】培養された間葉系幹細胞の細胞表面マーカーの分析結果である。
図6】培養された間葉系幹細胞の分化能測定結果である。
図7】老化度測定結果である。
図8】培養された間葉系幹細胞の細胞表面マーカー及び遺伝子発現分析結果である。
図9】培養された間葉系幹細胞の遺伝子導入効率分析結果である。
【発明の実施のための最良の形態】
【0032】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0033】
本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語や単語は、通常の意味又は辞書的意味に限定して解釈されてはならず、発明者らは、自分の発明を最良の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づき、本発明の技術思想に合致する意味と概念で解釈されなければならない。
【0034】
本発明で使用した用語は、単に特定の実施形態を説明するために使用されたものであり、本発明を限定する意図ではない。 したがって、これらの用語の定義は、本明細書全体の内容に基づいて解されるべきである。
【0035】
単数形の表現は、文脈上明らかに異なる意味でない限り、複数形の表現を含む。
【0036】
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」と言うとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0037】
本発明で使用する用語「幹細胞(stem cell)」とは、自己複製能力を持ちながら二種以上の細胞に分化する能力を持つ細胞を指し、前記幹細胞は、成体幹細胞、万能幹細胞、誘導万能幹細胞または胚性幹細胞など、あらゆる種類の幹細胞を含む。胚性幹細胞は、あらゆる種類の細胞に分化することができ、細胞治療剤として有用であるが、ヒトに対する倫理性の問題や移植時に癌に発展する可能性があるという安全性の問題がある。
【0038】
前記「成体幹細胞」は自己増殖(self-renewal)することができ、脂肪細胞、造骨細胞、軟骨細胞、心臓細胞、肝細胞、神経細胞など様々な組織細胞に分化できる未分化状態の幹細胞であって、骨髄由来間葉系幹細胞(bone marrow-derived mesenchymal stem cells, BM-MSC)がその代表的な例である。骨髄由来間葉系幹細胞は、心臓、骨、軟骨などの組織再生のためだけでなく、臨床で造血母細胞(hematopoietic stem cells, HSC)の移植後、生着(engraftment)を増加させるためのツールとしても利用されている。間葉系幹細胞の供給源としては、骨髄が最もよく知られているが、提供者の年齢が増加するにつれて幹細胞の数及び増殖能力が減少し、骨髄を採取するためには痛みが伴う。これにより、最近では臍帯、脂肪、臍帯血などを含む様々な組織などから得られる間葉系幹細胞が新しい細胞治療剤の供給源として注目を集めている。
【0039】
本発明において、用語「間葉系幹細胞」とは、骨、軟骨、脂肪、腱、神経組織、繊維芽細胞及び筋肉細胞などの特定の臓器の細胞に分化する前の間葉系由来の万能前駆細胞をいう。本発明において、間葉系幹細胞は分化していない状態で組成物中に含有される。本発明の間葉系幹細胞は、ヒトの臍帯(umbilical cord)、臍帯血、胎盤、脂肪組織、骨髄、扁桃、ヒトの卵黄嚢(embryonic yolk sac)、臍帯、皮膚、末梢血、筋肉、肝臓、神経組織、骨膜、胎盤膜、滑膜、滑液、羊膜、半月板、前十字靭帯、関節軟骨細胞、乳児、血管周囲細胞、支柱骨、膝蓋骨下脂肪塊、脾臓および胸腺などに由来することができる。好ましくは、ヒト臍帯(umbilical cord)、臍帯血、胎盤、脂肪、骨髄及び扁桃からなる群から選択される1種以上から由来することができ、ヒト臍帯(umbilical cord)、臍帯(umbilical cord)、臍帯血(umbilical cord blood)、又は脂肪組織(adipose tissue)に由来するが、その由来を限定しない。
【0040】
間葉系幹細胞のうち、臍帯血由来間葉系幹細胞は入手が容易で、高い生着率と免疫拒絶反応が少ないため、同種間移植に有用な細胞として知られており、実際の移植に多く利用されている。しかし、得られる細胞の量が少なく、成人が臍帯血由来間葉系幹細胞を移植する場合、ドナーが2人以上でなければならないという問題があった。これを反映して、組織から分離した間葉系幹細胞は培養して細胞数を増やそうとする試みが行われてきた。
【0041】
しかし、分離された間葉系幹細胞の培養はin vitro状態で行われるため、培養過程でウイルス、細菌などの感染、継代培養による細胞の老化、不要な系列への分化、培養のための費用などの理由で、実際の臍帯血から得られた間葉系幹細胞の培養による細胞増殖は活用されなかった。
【0042】
したがって、最近では移植に必要な間葉系幹細胞の数を確保するために、臍帯血よりも臍帯、胎盤、脂肪などの容易に得られる組織から間葉系幹細胞を分離して利用しようとする試みがあったが、分離された間葉系幹細胞の培養は前述の問題点があったため、いまだ活用されておらず、仮に培養された間葉系幹細胞を利用しても、初期継代培養された細胞しか使用できないのが現状である。
【0043】
そこで、本発明では、組織から間葉系幹細胞を分離した後、分離された間葉系幹細胞の数を十分に確保するための間葉系幹細胞の培養方法を提供する。
【0044】
前記間葉系幹細胞は、好ましくはヒトから由来するが、胎児またはヒト以外の他の哺乳動物から由来することもできる。前記ヒト以外の他の哺乳動物は、イヌ科動物、ネコ科動物、サル科動物、ウシ、羊、豚、馬、ラット、マウスまたはモルモットなどであってもよく、その由来を限定しない。
【0045】
本発明の一実施形態による間葉系幹細胞は、臍帯(umbilical cord)から分離された間葉系幹細胞を含む。
【0046】
前記臍帯から分離された間葉系幹細胞は、臍帯から分離された幹細胞をすべて含み、臍帯は哺乳類の胎児が胎盤で成長できるように母体とお腹を繋いでくれる紐を意味することができ、一般的にホウォートンゼリー(Wharton's Jelly)で囲まれた3つの血管、すなわち2つの腹部動脈と1つの腹部静脈で構成された組織を意味する。
【0047】
前記臍帯から間葉系幹細胞を分離する際、結合組織を分離するために伝統的にはコラーゲナーゼを処理するが、本発明ではコラーゲナーゼ及びヒアルロニダーゼを同時に処理した。コラーゲナーゼはコラーゲンやゼラチンを加水分解する酵素であり、ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸を加水分解する酵素であり、これらの酵素処理を通じて臍帯の結合組織から高い割合で存在する結合組織を分解することにより、間葉系幹細胞を効率的に分離することができる。
【0048】
しかしながら、前記間葉系幹細胞を分離する際、結合組織を分離するために使用する酵素はこれに限定されず、フィブロネクチンやコラーゲンなどを分解できるディスパーゼ(dispase)、またはトリプシン(trypsin)など、通常、細胞を分離する際に使用される酵素を使用することができる。
【0049】
前記臍帯から間葉系幹細胞を分離する過程で、コラーゲナーゼの単独使用より、コラーゲナーゼとヒアルロニダーゼの同時使用が1.5倍以上高い間葉系幹細胞の収率を示した。
【0050】
本発明の一実施形態による間葉系幹細胞の培養方法は、初期培養(P0)と継代培養の2つの段階を含む。
【0051】
「初期培養(Primary Culture)は、組織から細胞を分離して初めて培養することである。間葉系幹細胞は接着培養系細胞であるため、初期培養では必要に応じて栄養培地は交換できるが、培養容器は交換しない。本発明では、臍帯から分離された間葉系幹細胞を初めて培養器で培養することである。
【0052】
「初期収率」とは、初期培養によって増殖する細胞の数である。本発明では、初期培養された臍帯から分離された間葉系幹細胞を初期培養したときの細胞数である。
【0053】
「継代培養(subculture)」とは、既存の培養されていた細胞を新しい培養容器に変えて増殖及び維持することである。本発明の細胞である臍帯から分離された間葉系幹細胞は接着培養系細胞であるため、トリプシンなどの酵素を処理して培養容器から切り離した後、新しい培養容器に移して継代培養する。
【0054】
前記臍帯から分離された間葉系幹細胞は、臍帯血血清(umbilical cord blood serum; UCBS)に含まれる培養培地で初期培養(P0)される。前記臍帯血血清は、分娩時に臍帯に存在する臍帯血の血清であり、0.5%~30%、0.5%~20%、0.5%~10%、または0.5%~5%の体積比で培地に含まれる。また、臍帯血血清は、初期培養時に培養培地に0.5%、1%、5%、10%、15%、20%、25%、または30%の体積比で含まれることができる。
【0055】
臍帯血血清を含む培地で初期培養された間葉系幹細胞は、ウシ胎児血清を含む培地で初期培養された間葉系幹細胞に比べ、7日間培養後、5倍以上の初期収率を示す。
【0056】
間葉系幹細胞の培養に使用される培地は、体外培養条件で幹細胞の成長及び生存を支持できるようにする培養液を意味し、幹細胞の培養に適切な当該分野で使用される通常の培地をすべて含む。また、細胞の種類によって培地と培養条件を選択することができる。培養に使用される培地は、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、MEM(Minimal essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI1640、F-10、F-12、aMEM(a-modified Minimum Essential Media)、GMEM(Glasgow's Minimal essential Medium)、またはIMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)などがあるが、必ずしもこれらに限定されない。 本発明では、当該業界で細胞培養に使用されるaMEMを基本とする。
【0057】
さらに、細菌、真菌などの感染を防ぐために、抗生物質、抗真菌剤および汚染を引き起こすマイコプラズマの増殖を防止する当該業界で一般的に使用される物質を使用することが望ましい。抗生物質としては、ペニシリン-ストレプトマイシンなど、通常細胞培養に使用される抗生物質はすべて利用可能であり、抗真菌剤としてはアルポレリシンB、マイコプラズマ抑制剤としてはゲンタマイシン、シプロフロキサシン、またはアジスロマイシンなどの一般的に使用される物質を使用することが望ましい。
【0058】
前記初期培養された間葉系幹細胞は、ウシ胎児血清(fetal bovine serum)が0.5%~30%、0.5%~30%、0.5%~20%、0.5%~10%、0.5%~5%の体積比で含まれた培地を利用して、目的とする細胞数が得られるまで継代培養する。 また、ウシ胎児血清は、継代培養時に培養培地に0.5%、1%、5%、10%、15%、20%、25%または30%の体積比で含まれることができる。初期培養培地と同様に、汚染を防ぐために抗生物質、抗真菌剤を追加的に含むことができる。
【0059】
従来、組織から得ることができる間葉系幹細胞の数が少ないにもかかわらず、細胞培養を行わなかった理由の一つは、継代培養による細胞老化である。
【0060】
ヒトの骨髄由来間葉系幹細胞は、一般的な体細胞と同様に、体外培養時、継代培養回数が増加するにつれて増殖率が減少し、分化能力が減少するなどの特性変化が現れると言われている。また、継代培養後期にはmean telomere restriction fragment(mTRF) lengthが減少し、senescence-associated β-galactosidase(SA β-gal)で染色される細胞数が増加し、細胞の成長と増殖、そして細胞周期に関連する遺伝子やタンパク質の発現変化が報告された。また、臍帯から分離された間葉系幹細胞をウシ胎児血清を含む培地で継代培養して増殖させたところ、p7継代から部分的な形態変化を示し始め、p10ではほぼ全ての細胞が広く平坦化した形状を示すことが報告されている。また、継代培養回数が増えるにつれて、細胞分裂回数が遅くなることが報告されている。
【0061】
しかし、本発明は、間葉系幹細胞を臍帯血血清を含む培地で培養する初期培養段階;およびウシ胎児血清を含む培地で継代培養する段階;を含む間葉系幹細胞の培養方法に関するもので、従来のウシ胎児血清を使用して培養するのとは異なり、臍帯血血清を含む培地で初期培養後、次の継代培養段階でウシ胎児血清に変えたという特徴がある。
【0062】
前記臍帯血血清を含む培地で初期培養された間葉系幹細胞がウシ胎児血清を含む培地で初期培養された間葉系幹細胞に比べて幹細胞能が高いだけでなく、各継代ごとに細胞が二重に増殖する時間(doubling time)が平均10時間以上短くなり、間葉系細胞への分化能がウシ胎児血清を含む培地で初期培養された間葉系幹細胞に比べて増加した(脂肪細胞分化、造骨細胞分化および軟骨細胞分化)。
【0063】
さらに、臍帯血血清を含む培地で初期培養された間葉系幹細胞が、胎児血清を含む培地で初期培養された間葉系幹細胞に比べて、細胞老化の指標であるsenescence-associated β-galactosidase (SA β-gal)陽性細胞が減少しており、別の細胞老化マーカーであるGLB1とp53タンパク質の発現も減少していた。
【0064】
本発明の 一実施形態による培養された間葉系幹細胞は、国際幹細胞委員会(International Society for Cellular Therapy(ISCT))が定めた間葉系幹細胞の表面マーカーであるCD73、CD90、CD105、CD166、CD44を発現するだけでなく、従来の方法で培養された間葉系幹細胞に比べて、CD27、CD47、CD49e、CD56、CD62e、CD146、CD227、CD326のうち一つ以上の細胞表面マーカーの発現が増加している。
【0065】
従来、臍帯から分離された間葉系幹細胞をウシ胎児血清を含む培地で継代培養して増殖させると、CD49eおよびCD105細胞表面マーカーの発現が減少することが報告されている。しかし、本発明の間葉系幹細胞は、発現が減少すると報告されたCD49eの発現が増加または維持されているだけでなく、細胞接着に関連する遺伝子であるIQGAP2(IQ Motif Containing GTPase Activating Protein 2)、移動に関連する遺伝子であるPTPRN(Protein tyrosine Phosphatase Receptor Type N)、筋肉細胞再生に関連する遺伝子であるFZD8(Frizzled Class Receptor 8)及びHGF(Hepatocyte Growth Factor(,及び末梢神経関連遺伝子であるSTXBP5L(Syntaxin Binding Protein 5L)などの発現が増加しているだけでなく、細胞老化に関連する遺伝子であるIRF6(Interferon Regulatory Factor 6)及びFMN2(Formin-2)遺伝子の発現が減少している。
【0066】
本発明の一実施態様による間葉系幹細胞は、ウシ胎児血清を含む培地で継代培養して増殖した間葉系幹細胞に比べて遺伝子伝達効率が増加している。
【0067】
したがって、本発明の間葉系幹細胞は、軟骨細胞などの目的する間葉系細胞に分化させて細胞治療剤として使用できるだけでなく、目的とする遺伝子を間葉系幹細胞に直接導入し、問題のある患者の遺伝子を矯正するための細胞治療用伝達体として使用することができる。
【0068】
本発明の培養方法は、幹細胞の初期培養または継代培養時に適用することができる。本発明の方法で幹細胞を初期培養する場合、幹細胞の増殖が促進されるので、少ない数の継代培養でも多数の幹細胞を得ることができるという利点がある。
【0069】
また、本発明の培養方法により得られた間葉系幹細胞は、免疫原性がなく、免疫反応を誘発しないだけでなく、老化が減少しており、分化能が高いため、ヒトを対象とした細胞治療剤として効果的に使用することができる。したがって、本発明は、前記培養方法によって得られた増殖力、生存度、回収率などが改善されただけでなく、老化が減少された間葉系幹細胞を提供する。また、本発明は、前記培養方法によって得られた間葉系幹細胞自体または目的とする間葉系細胞に分化させた細胞を含む細胞治療剤を提供する。本発明の細胞治療剤は、脂肪細胞、造骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、神経細胞、心筋細胞、肝細胞、膵臓β細胞、血管細胞または肺細胞などの再生または保護に利用することができる。
【0070】
また、本発明の間葉系幹細胞は、遺伝子伝達効率が増加しているため、目的とする遺伝子を間葉系幹細胞に直接導入し、問題のある患者の遺伝子を矯正するための細胞治療用伝達体として使用することができる。
【0071】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を示すが、下記の実施例は、本発明を例示するものであり、本発明のカテゴリー及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然である。
【発明の実施のための形態】
【0072】
比較例1: 臍帯組織由来間葉系幹細胞の分離と初期培養(P0)
ヒトの臍帯及び臍帯血は、サムスン医療院のIRB(Institutional Review Board of Samsung Medical Center)の承認後、母親の同意を得て採取した。
【0073】
臍帯由来間葉系幹細胞は、Pengらの方法(Brain Research Bulletin, 84(2011) 235-243)を用いて分離した。具体的には、PBS(Phosphate Buffered Saline)で臍帯を数回洗浄した後、3~4 cmの長さに切り、血管及び羊膜を除去した後、はさみを利用して細かく粉砕した。粉砕された組織は37oCの温度でコラーゲナーゼ(Collagenase)を60分間処理して細胞を分離した。ウシ胎児血清(FBS; Fetal Bovine Serum)を処理して酵素反応を止めた後、酵素反応液を1,000gで10分間室温で遠心分離して細胞を得た。
【0074】
得られた間葉系幹細胞は、無血清のaMEM(a-modified Minimum Essential Media)培地で洗浄した後、FBSを含むaMEM培地を添加し、cm2 あたり50,000~100,000細胞で計数して初期培養(P0)を行った。
【0075】
また、初期培養(P0)後、細胞の密度が70~80%になった時、0.25%トリプシン(Trypsin)を用いて付着した細胞を浮遊させる。浮遊させて得られた細胞を無血清のaMEM培地で洗浄した後、前記細胞はFBSを含むaMEM培地を添加してcm2 あたり3,000~5,000細胞で計数して継代培養(P1)を行った。
【0076】
実施例1: 臍帯組織由来間葉系幹細胞の分離及び初期培養(P0)
比較例1の方法のうち、臍帯組織から間葉系幹細胞を分離する際に、コラーゲナーゼの代わりにコラーゲナーゼ及びヒアルロニダーゼ混合液(collagenase + hyaluronidase mixture)を処理すること以外は同じ方法で間葉系幹細胞を得た。
【0077】
得られた間葉系幹細胞は、無血清のaMEM(a-modified Minimum Essential Media)培地で洗浄した後、臍帯血由来血清(umbilical cord blood serum; UCBS)を含むaMEM培地を添加してcm2あたり50,000~100,000細胞で計数して初期培養(P0)を行った。
【0078】
また、初期培養(P0)後、細胞の密度が70~80%になった時、トリプシン(trypsin)を利用して付着した細胞を浮遊させる。浮遊させて得られた細胞を無血清のaMEM培地で洗浄した後、前記細胞はFBSを含むaMEM培地を添加してcm2 あたり3,000~5,000細胞で計数して継代培養(P1)を行った。
【0079】
実験例1: 分離された間葉系幹細胞の分離収率及び初期培養(PO)収率の分析
実施例1及び比較例1によって得られた間葉系幹細胞の分離収率を分析した。図1に示したように、臍帯組織から間葉系幹細胞を分離する際、コラーゲナーゼ単独使用に比べてコラーゲナーゼ及びヒアルニダーゼ混合液を使用する場合、同一組織重量比で1.5倍以上増加した幹細胞収率が得られた。
【0080】
間葉系幹細胞初期培養時の臍帯血由来血清の効果を分析するために、実施例1で分離された間葉系幹細胞にFBSまたはUCBSを使用して初期培養時のコロニー形成(図2A)、および7日初期培養時の培養収率を分析した(図2B)。
【0081】
図2Aに示すように、臍帯組織から間葉系幹細胞を分離して初期培養時、FBSではなくUCBSを使用した場合、コロニー形成が促進され、7日間の初期培養後、間葉系幹細胞の収率が5倍以上増加したことが確認できた(図2B)。
【0082】
実験例2:間葉系幹細胞のコロニー形成能の分析
実施例1及び比較例1で分離された間葉系幹細胞をP2継代培養して得られた間葉系幹細胞のコロニー形成能を分析した結果、比較例1の間葉系幹細胞に比べ、実施例1の間葉系幹細胞のコロニー形成能が5倍以上増加した(図3)。
【0083】
実験例3:間葉系幹細胞の増殖能の分析
実施例1及び比較例1で分離された間葉系幹細胞をFBSが含まれたaMEM培地を利用してP1~P20継代培養したとき、各継代ごとのDoubling timeを分析した結果、比較例1の間葉系幹細胞(比較例1)に比べて、実施例1の間葉系幹細胞(実施例1)のDoubling timeが平均して10時間以上短くなったことを確認することができた(図4)。
【0084】
実験例4:間葉系幹細胞の継代培養後の細胞表面マーカーの分析
実施例1で分離された間葉系幹細胞をFBSを含む培地で継代培養した後、間葉系幹細胞の性質が維持されるかどうかを確認するために、細胞表面マーカー分析を行った。
【0085】
FBSを含むaMEM培地でP4継代培養された実施例1の細胞をISCT(International Society for Cellular Therapy)の要件に従って、間葉系幹細胞特異的細胞表面マーカー(CD90、CD105、CD73、CD166及びCD44)の発現様相を分析し、純度分析のために間葉系幹細胞のnegative marker(CD34、CD45、CD19、CD11b、CD14及びHLA-DR)を発現するかどうかをフローサイトアナライザーで分析した。
【0086】
その結果、実施例1で分離された、P4継代培養された間葉系幹細胞は、依然として99%以上の間葉系幹細胞特異的細胞表面マーカーを発現しており(図5A)、negative markerは発現していないことが確認できた(図5B)。
【0087】
したがって、実施例1で分離された間葉系幹細胞は、継代培養にもかかわらず、依然として間葉系幹細胞の表現型を維持していることが確認できた。
【0088】
実験例5:間葉系幹細胞の分化能の測定
実施例1で分離された間葉系幹細胞及び比較例1で分離された間葉系幹細胞それぞれを、FBSが含まれたaMEM培地でP4継代培養後、各間葉系幹細胞を代表的な間葉系細胞である脂肪細胞(adipocyte)、造骨細胞(osteoblast)、軟骨細胞(chondrocyte)に分化させる分化培地を利用してそれぞれ分化させたときの分化能を分析した。
【0089】
脂肪細胞の分化のためにはStemPro Adipogenesis Differentiation Kitを、造骨細胞の分化のためにはStemPro Osteogenesis Differentiation Kitを、軟骨細胞の分化のためにはDMEM培地にBMP-6、TGFβ3、ITS(Insulin-transferrin-selenium)、dexamethasone、ascorbic acid、L-proline、sodium pyruvateを含む培地を使用した。
【0090】
脂肪細胞はoil-red Oで、造骨細胞はAlizarin red Sで、軟骨細胞はSafranin-Oで染色し、その結果は図6の通りである。
【0091】
また、脂肪細胞はPPARγ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor gamma)、造骨細胞はRUNX2(Runt-Related Transcription Factor 2)、軟骨細胞はCol2A1(Collagen Type II Alpha 1 Chain)で逆転写ポリメラーゼ反応(RT-PCR)技法を利用して遺伝子発現の程度を分析し、その結果は図6の通りである。
【0092】
図6の結果から、実施例1の間葉系幹細胞は、比較例1の間葉系幹細胞に比べて脂肪細胞、造骨細胞及び軟骨細胞への分化能は1.5倍以上増加した。
【0093】
また、図6の結果から、実施例1の間葉系幹細胞は、比較例1の間葉系幹細胞に比べて脂肪細胞、造骨細胞および軟骨細胞への分化能関連遺伝子の発現が1.5倍以上増加した。
【0094】
実験例6:間葉系幹細胞の老化度の分析
分離された間葉系幹細胞の老化度を分析するために、実施例1及び比較例1の間葉系幹細胞を継代培養しながら(P3、P6、P9、P15)、老化した細胞で過発現又は蓄積すると言われるβ-ガラクトシダーゼ(β-galactosidase)の発現量を分析した。実施例1及び比較例1の間葉系幹細胞ともに15継代以上の継代培養をしたとき、各細胞の形態学的な変化は観察されなかった。
【0095】
具体的には、SA β-gal 分析キット(cell signaling)を利用し、メーカーのマニュアルに従って実験した。顕微鏡イメージングを通じて細胞グループ当たりの老化した細胞(β-gal positive; 緑色)の数を測定してグラフ化し、その結果を図7Aに示した。
【0096】
その結果、比較例1の間葉系幹細胞に比べて実施例1の間葉系幹細胞では、同一継代基準で老化した細胞といえるβ-ガラクトシダーゼ陽性細胞が著しく少ないだけでなく、特にP12及びP15における比較例1のβ-ガラクトシダーゼ陽性細胞がそれぞれ40%以上及び70%以上であるのに対し、実施例1の間葉系幹細胞は20%未満、40%未満で実施例1の間葉系幹細胞は比較例1のものに比べて老化が減少していることが確認できた(図7A)。
【0097】
また、実施例1及び比較例1の間葉系幹細胞における継代ごとの実際のβ-ガラクトシダーゼ(GLB1)及びp53のタンパク質量をimmunoblot法で分析した結果、β-ガラクトシダーゼ活性分析と同様に、同じ継代で実施例1の間葉系幹細胞に比べて比較例間葉系幹細胞におけるGLB1及びp53の発現量が増加している(図7B)。
【0098】
まとめると、実施例1の間葉系幹細胞が比較例1の間葉系幹細胞に比べて老化が減少している。
【0099】
実験例7:間葉系幹細胞の細胞表面マーカーと遺伝子発現の分析
実施例1及び比較例1の間葉系幹細胞の表面で発現するマーカーの種類を分析するために、BD社のLyoplateTM を利用して242個の細胞表面マーカーをFACS法を利用して分析した。その結果、実施例1の間葉系幹細胞では、比較例1の間葉系幹細胞に比べて、細胞接着関連(CD47、CD49e、CD56、CD62e、CD146、CD227)、移動関連(CD47)、増殖関連(CD47、CD227)、免疫調節(CD27、CD326)関連などの表面マーカーの発現増加を確認することができた(図8A、表1)。
【0100】
特に実施例1の間葉系幹細胞では、CD227、CD326、CD27、CD62eの発現レベルが比較例1の間葉系幹細胞に比べて2倍以上高いことが確認できる。
【0101】
【表1】
【0102】
また、実施例1及び比較例1の間葉系幹細胞で発現する遺伝子発現の様相を分析するために、Lexogen社のQuantSeq 3'mRNA-sequenceを通じて両細胞の遺伝子発現を分析した。その結果、実施例1の間葉系幹細胞では、比較例1の間葉系幹細胞に比べて、細胞付着(IQGAP2; IQ Motif Containing GTPase Activating Protein 2)、移動(PTPRN; Protein tyrosine Phosphatase Receptor Type N)、筋肉細胞再生(FZD8c; Frizzled Class Receptor 8)、筋肉細胞の成長因子(HGF;Hepatocyte Growth Factor)、末梢神経関連遺伝子(STXBP5L; Syntaxin Binding Protein 5L)などの発現が特異的に増加し、細胞老化関連遺伝子(IRF6; Interferon Regulatory Factor 6, FMN2; Formin-2)の発現減少を確認することができた(図8B、表2)。
【0103】
実施例1の間葉系幹細胞では、細胞接着及び移動に関連する遺伝子であるIQGAP2、PTPRNが比較例1のものに比べて2倍以上発現が増加したが、これは先に分析した細胞表面マーカーと同様の発現様相を示した。また、実施例1の間葉系幹細胞は比較例1のものに比べて老化関連遺伝子であるIRF6、FMN2の発現が比較例1の間葉系幹細胞に比べて減少したが、この結果は実験例6の実施例1の間葉系幹細胞は比較例1のものに比べて老化が減少したという結果と一致する結果である。
【0104】
【表2】
【0105】
実験例8:間葉系幹細胞の遺伝子導入効率の分析
実施例1及び比較例1の間葉系幹細胞の遺伝子伝達効率を分析するために、GFP遺伝子がコードされたGFP発現ベクターをP4、P5、P6継代の実施例1及び比較例1の間葉系幹細胞にtransfectionし、transfection効率は全体細胞に対してGFPタンパク質を発現する細胞で計算した。
【0106】
その結果、実施例1の間葉系幹細胞がP4及びP5継代で比較例1の間葉系幹細胞に比べてトランスフェクション効率が高いことが確認できた(図9)。
【0107】
したがって、実施例1の間葉系幹細胞は比較例1の間葉系幹細胞に比べて遺伝子伝達効率が増加しているため、目的とする遺伝子を間葉系幹細胞に直接導入し、問題のある患者の遺伝子を矯正するための細胞治療用伝達体として使用することができる。
【0108】
以上、本発明を限定された実施例と図面によって説明したが、本発明はこれによって限定されるものではなく、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者によって、本発明の技術思想と下記に記載される特許請求の範囲の均等範囲内で様々な修正及び変形が可能であることはもちろんである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】