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特表2023-549894TGF-βシグナル伝達を抑制できる新規なペプチドおよびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】TGF-βシグナル伝達を抑制できる新規なペプチドおよびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20231121BHJP
   C07K 14/495 20060101ALI20231121BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231121BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C12N15/113 120Z
C07K14/495 ZNA
C12N15/63 Z
A61K38/10
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P17/00
A61P37/06
A61P11/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P27/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529123
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 KR2021019667
(87)【国際公開番号】W WO2022139493
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0182441
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ミ-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ユク チェ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】ゴ ガ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ ヨン-ウン
(72)【発明者】
【氏名】シン サン-チョル
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA53
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA451
4C084ZA452
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB081
4C084ZB082
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045CA40
4H045DA01
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、TGF-βシグナル伝達を抑制できる新規なペプチドおよびその用途に関する。本発明のペプチドは、TGF-βによるシグナル伝達経路を抑制したり、またはTGF-βの発現を抑制できることから、TGF-βシグナル伝達による多様な疾患を治療または予防することができ、ひいては、TGF-βシグナル伝達によって誘導される腫瘍成長および転移などの癌化過程を効果的に阻害することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転換成長因子ベータ(Transforming growth factor-β、TGF-β)またはその類似体に由来するペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドは、配列番号16で記載される下記一般式1のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のペプチド。
[一般式1]
F-X-L-G-P-X-P-Y-I-W-X-L-D-T
前記一般式1において、
前記X、XおよびXは、それぞれ独立してシステイン(C)またはセリン(S)である。
【請求項3】
前記ペプチドは、前記一般式1のアミノ酸配列の一末端にアラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、ロイシン(L)、セリン(S)、またはこれらの組み合わせが追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドは、前記一般式1のアミノ酸配列のC-末端にアラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン-ロイシン-セリン-ロイシン(V-L-S-L)またはバリン-ロイシン-セリン-フェニルアラニン(V-L-S-F)が追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドは、配列番号1~8のうち1つ以上のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項2に記載のペプチド。
【請求項6】
前記ペプチドは、配列番号17で記載される下記一般式2のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のペプチド。
[一般式2]
A-H-C-S-C-D
【請求項7】
前記ペプチドは、前記一般式2のアミノ酸配列の一末端にセリン(S)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)、グリシン(G)、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、またはこれらの組み合わせが追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
前記ペプチドは、前記一般式2のアミノ酸配列のC-末端にセリン-アルギニン-アスパラギン酸-アスパラギン(S-R-D-N)またはグリシン-アラニン-フェニルアラニン-アラニン(G-A-F-A)が追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
前記ペプチドは、配列番号9および10のうち1つ以上のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項6に記載のペプチド。
【請求項10】
前記ペプチドは、配列番号18で記載される下記一般式3のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のペプチド。
[一般式3]
T-I-V-Y-Y-V-X-X-K-P-K-V-E-Q
前記一般式3において、
前記Xは、グリシン(G)、ヒスチジン(H)またはバリン(V)であり、
前記Xは、アルギニン(R)、ロイシン(L)、またはイソロイシン(I)である。
【請求項11】
前記ペプチドは、配列番号11~14のうち1つ以上のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項10に記載のペプチド。
【請求項12】
前記ペプチドは、TGF-βのシグナル伝達を抑制するものである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のペプチド;これをコードするポリヌクレオチド;または前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを有効成分として含む、TGF-β関連疾患の治療または予防用薬学組成物。
【請求項16】
前記TGF-β関連疾患は、癌、脳神経疾患、線維性皮膚疾患、肺線維症、肝線維症、腎線維症、嚢胞性線維症、心臓線維症、アテローム性硬化症、動脈硬化症、全身性硬化症、または眼線維症である、請求項15に記載の薬学組成物。
【請求項17】
個体に、請求項1~12のいずれか1項に記載のペプチド;これをコードするポリヌクレオチド;または前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを有効成分として含む薬学組成物を投与するステップを含むTGF-β関連疾患の治療または予防方法。
【請求項18】
前記TGF-β関連疾患は、癌、脳神経疾患、線維性皮膚疾患、肺線維症、肝線維症、腎線維症、嚢胞性線維症、心臓線維症、アテローム性硬化症、動脈硬化症、全身性硬化症、または眼線維症である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TGF-βシグナル伝達を抑制できる新規なペプチドおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
TGF-βサイトカインは細胞群体の形成を刺激する能力によって発見されたが(Roberts AB,et al,Proc Natl Acad Sci USA78:5339-43,1981)、この過程が細胞形質転換の代表的な標識であるため、前記サイトカインは形質転換成長因子ベータと名付けられており、TGF-βリガンド(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3)は多機能性成長因子の原型として認識されている。TGF-βは上皮、内皮および造血細胞の増殖阻害剤、細胞外基質の生産と沈着および組織修復連鎖反応の最も強い調節因子の一つとして知られている。
【0003】
一方、TGF-βは癌の進行段階で腫瘍成長、浸潤および転移をすることが知られており、具体的には、TGF-βは、腫瘍細胞や他の様々な細胞活性でEMT(epithelial-mesenchymal transition)を調節するRas-MAPKやPI3K-AKTを含む数多くのSMAD非依存的なシグナル経路を活性化して癌化過程で多様な活性を示すことが知られている。
【0004】
したがって、最近、TGF-βが腫瘍成長および転移を予防する標的として考慮されており、TGF-βに対する単クローン抗体、低分子化合物(kinase inhibitor)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASOs)、キメラタンパク質を含む様々なTGF-β阻害剤が、現在、臨床試験されている。ただし、TGF-βシグナルの抑制に基づいた治療法の開発は長い間遅々と進まない状態である。
【0005】
このような問題を解決するために、TGF-βシグナル伝達経路を効果的に抑制できる治療剤の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一態様は、転換成長因子ベータ(Transforming growth factor-β、TGF-β)またはその類似体に由来するペプチドを提供する。
【0007】
他の態様は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0008】
さらに他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0009】
さらに他の態様は、前記ペプチド、前記ポリヌクレオチドまたは前記発現ベクターを有効成分として含むTGF-β関連疾患の治療または予防用薬学組成物を提供する。
【0010】
さらに他の態様は、前記ペプチド、前記ポリヌクレオチドまたは前記発現ベクターを有効成分として含む薬学組成物を個体に投与するステップを含むTGF-β関連疾患の治療または予防方法を提供する。
【0011】
さらに他の態様は、前記ペプチド、前記ポリヌクレオチドまたは前記発現ベクターを有効成分として含む癌の治療または予防用薬学組成物を提供する。
【0012】
さらに他の態様は、前記ペプチド、前記ポリヌクレオチドまたは前記発現ベクターを有効成分として含む薬学組成物を個体に投与するステップを含む癌の治療または予防方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様は、転換成長因子ベータ(Transforming growth factor-β、TGF-β)またはその類似体に由来するペプチドを提供する。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記ペプチドは、TGF-βシグナル伝達を抑制するものであってもよい。
【0015】
本明細書における用語、「転換成長因子ベータ(Transforming growth factor-β、TGF-β)」とは、TGF-βスーパーファミリーに属するサイトカインであって、哺乳類で発現するTGF-βの形態にはTGF-β1、TGF-β2およびTGF-β3の3つが知られている。前記TGF-βによるシグナル伝達は多様な生物学的過程で決定的な役割をし、細胞成長抑制、細胞死滅、分化および上皮-間葉転換(epithelial-mesenchymal transition;EMT)のような多様な機能を行う。TGF-βシグナル伝達系は厳格に調節され、細胞恒常性の維持とともに発生および器官の形成に決定的な役割を果たす。したがって、TGF-βシグナル伝達の撹乱は癌、線維症および先天性奇形といった生命を脅かす疾患を誘発しうる。
【0016】
TGF-βは、癌化過程の初期段階では癌抑制活性を示すものの、癌化過程の後期には癌成長を促進することが知られている。特に、TGF-β1は大部分の癌組織で多量発現し、TGF-β1の発現が高い癌患者の場合、悪性の場合が多く、予後も良くないことが知られている。細胞から分泌したTGF-βは、タイプIおよびタイプII受容体からなる2つのタイプの受容体の異種複合体に結合してシグナル伝達を開始する。TGF-βは、II型受容体に結合すれば、I型受容体はこれを認識してII型受容体に結合をするが、この時、II型受容体がI型受容体のGS部位をリン酸化させると、I型受容体キナーゼ(kinase)が活性化される。リン酸化されたTGF-β I型受容体は、Smad2およびSmad3というTGF-βシグナル伝達媒体のC-末端セリン残基をリン酸化させることにより、Smad2およびSmad3の活性化を誘発する。活性化されたSmad2およびSmad3は、Smad4と複合体を形成し核に移動して標的遺伝子の発現に関与する。
【0017】
また、TGF-βは、免疫系の多くの構成要素の機能と拡張を阻害することにより、免疫耐性と炎症反応を調節するなど免疫恒常性(homeostasis)と寛容(tolerance)を決定する重要な執行者の役割をすることが知られており、特に、腫瘍微細環境で免疫抑制の仲裁者としてTGF-βが重要な役割をすることが知られている。したがって、腫瘍の免疫環境内でTGF-βが癌の成長促進に重要な役割をすることが知られ、免疫抗癌剤と多様なTGF-βシグナル伝達阻害剤の併用治療が研究開発されている。
【0018】
前記ペプチドは、TGF-β受容体(TGFBR1および/またはTGFBR2)に結合してTGF-βシグナル伝達を抑制するものであってもよいし、具体的には、前記ペプチドは、TGF-βと競合してTGF-β受容体に結合することにより、TGF-βサイトカインがTGF-β受容体に結合することを妨げる機序によりTGF-βシグナル伝達を抑制するものであってもよい。
【0019】
また、前記ペプチドは、細胞のTGF-βの発現レベル自体を抑制させてTGF-βシグナル伝達を抑制するものであってもよいし、具体的には、前記ペプチドは、自己-抑制経路(auto-inhibition pathway)により細胞内のTGF-βの発現レベルを減少させたり、TGF-βの細胞外排出量を減少させる機序によりTGF-βシグナル伝達を抑制するものであってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記ペプチドは、配列番号16で記載される下記一般式1のアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0021】
[一般式1]
F-X-L-G-P-X-P-Y-I-W-X-L-D-T
【0022】
前記一般式1において、X、XおよびXは、それぞれ独立してシステイン(C)またはセリン(S)であってもよいし、具体的には、X-X-Xは、C-C-S、C-C-CまたはS-S-Sであってもよい。
【0023】
前記ペプチドは、任意のアミノ酸またはペプチドを追加的に含むものであってもよいし、具体的には、前記ペプチドは、前記一般式1で表されるアミノ酸配列の一末端、好ましくは、C-末端に任意のアミノ酸またはペプチドが直接的に連結されて追加されたペプチドを含むものであってもよい。前記追加されるアミノ酸またはペプチドは、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、ロイシン(L)、セリン(S)、またはこれらの組み合わせであってもよく、非制限的な例としては、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン-ロイシン-セリン-ロイシン(V-L-S-L)またはバリン-ロイシン-セリン-フェニルアラニン(V-L-S-F)であってもよい。
【0024】
前記ペプチドは、配列番号1~8のうち1つ以上のアミノ酸配列を含むものであってもよいし、具体的には、配列番号1~8のうち1つのアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において、前記ペプチドは、配列番号17で記載される下記一般式2のアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0026】
[一般式2]
A-H-C-S-C-D
【0027】
前記ペプチドは、任意のアミノ酸またはペプチドを追加的に含むものであってもよいし、具体的には、前記ペプチドは、前記一般式2のアミノ酸配列の一末端、好ましくは、C-末端に直接的に連結されて追加されるものであってもよい。前記追加されるアミノ酸またはペプチドは、セリン(S)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)、グリシン(G)、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、またはこれらの組み合わせであってもよく、非制限的な例としては、セリン-アルギニン-アスパラギン酸-アスパラギン(S-R-D-N)またはグリシン-アラニン-フェニルアラニン-アラニン(G-A-F-A)であってもよい。
【0028】
前記ペプチドは、配列番号9および10のうち1つ以上のアミノ酸配列を含むものであってもよいし、具体的には、配列番号9および10のうち1つのアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記ペプチドは、配列番号18で記載される下記一般式3のアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0030】
[一般式3]
T-I-V-Y-Y-V-X-X-K-P-K-V-E-Q
【0031】
前記一般式3において、Xは、グリシン(G)、ヒスチジン(H)またはバリン(V)であってもよく、Xは、アルギニン(R)、ロイシン(L)、またはイソロイシン(I)であってもよいし、具体的には、X-Xは、G-R、G-L、H-IまたはV-Iであってもよい。
【0032】
前記ペプチドは、配列番号11~14のうち1つ以上のアミノ酸配列を含むものであってもよいし、具体的には、配列番号11~14のうち1つのアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0033】
本発明において、前記ペプチドは、上記の各配列番号で記載したアミノ酸配列だけでなく、前記配列と60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の相同性を示すアミノ酸配列として実質的に前記各ペプチドと同一または相応の効能を示すペプチドをなすアミノ酸配列であれば制限なく含まれる。また、前記配列と相同性を有する配列として実質的に記載された配列番号のペプチドと同一または相応の生物学的活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有する場合も同じく本発明の範疇に含まれることは自明である。
【0034】
本明細書における用語「相同性」とは、タンパク質をコードする塩基配列やアミノ酸配列の類似する程度を意味するが、相同性が十分に高い場合、当該タンパク質または当該遺伝子の発現産物は同一または類似の活性を有することができる。また、相同性は、与えられたアミノ酸配列または塩基配列と一致する程度に応じて百分率で表される。本明細書において、与えられたアミノ酸配列または塩基配列と同一または類似の活性を有するそれの相同性配列が「%相同性」で表される。例えば、点数(score)、同一性(identity)および類似度(similarity)などのパラメータ(parameter)を計算する標準ソフトウェア、具体的には、BLAST2.0を用いたり、定義された厳格な条件(stringent condition)下で使用していた混成化実験によって配列を比較することにより確認することができ、定義される適切な混成化条件は当該技術範囲内であり、当業者によく知られた方法(例えば、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989;F.M.Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,Inc.,New York;Needleman,S.B.and Wunsch,CD.,(1970),Journal of Molecular Biology,48,443-453)で決定できる。
【0035】
本発明の一実施例によれば、本発明では、TGF-βシグナル伝達を抑制できる候補ペプチドを作製し、前記ペプチドは、TGF-β受容体に結合したり、TGF-βの発現レベルまたは細胞外排出量を減少させてTGF-βシグナル伝達を抑制し、これに基づいてTGF-βシグナル伝達関連疾患を治療または予防することができ、ひいては、TGF-β発現癌も効果的に治療または予防することができる。
【0036】
他の態様は、前記ペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。「TGF-β」、および「TGF-β由来ペプチド」に関する内容は上述した通りである。
【0037】
本明細書における用語「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドが結合した高分子物質であって、遺伝情報をコードしているDNAを意味する。
【0038】
本発明において、前記ペプチドをコードする塩基配列は、各配列番号で記載したアミノ酸をコードする塩基配列だけでなく、前記配列と60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の相同性を示す塩基配列として実質的に前記各ペプチドと同一または相応の効能を示すペプチドをコードする塩基配列であれば制限なく含まれる。さらに、前記配列と相同性を有する配列として実質的に記載された配列番号のペプチドと同一または相応の生物学的活性を有するアミノ酸配列で、例えば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する場合も同じく本発明の範疇に含まれることは自明である。
【0039】
また、本発明において、前記ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)によって前記ペプチドを発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮して、コーディング領域から発現するタンパク質のアミノ酸配列を変化させない範囲内でコーディング領域に多様な変形が行われる。したがって、前記ポリヌクレオチドは、各ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であれば制限なく含まれる。さらに、公知の配列から調製可能なプローブ、例えば、前記ポリヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列と厳格な条件下でハイブリッド化して、前記ペプチドの活性を有するタンパク質をコードする塩基配列であれば制限なく含まれる。
【0040】
前記「厳格な条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的混成化を可能にする条件を意味する。この条件は、文献(例えば、J.Sambrook et al.、同上)に具体的に記載されている。例えば、相同性が高い遺伝子同士で、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士でハイブリッド化し、それより相同性が低い遺伝子同士でハイブリッド化しない条件、または通常の使用していたハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1XSSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1XSSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1XSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件を列挙することができる。
【0041】
混成化は、たとえ混成化の厳格度に応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することを要求する。用語、「相補的」は、互いに混成化可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに使われる。例えば、DNAに関して、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願はさらに、実質的に類似のポリヌクレオチド配列だけでなく、全体配列に相補的な単離したポリヌクレオチド断片を含むことができる。
【0042】
具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値で混成化ステップを含む混成化条件を用い、上述した条件を用いて探知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるわけではなく、その目的に応じて当業者によって適宜調節可能である。
【0043】
ポリヌクレオチドを混成化する適切な厳格度は、ポリヌクレオチドの長さおよび相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野にてよく知られている(Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8参照)。
【0044】
さらに他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。「TGF-β」、および「ポリペプチド」に関する内容は上述した通りである。
【0045】
本明細書における用語「発現ベクター」とは、適当な宿主細胞に導入されて目的タンパク質を発現できる組換えベクターであって、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子作製物をいう。前記用語「作動可能に連結された(operably linked)」とは、一般的な機能を行うように核酸発現調節配列と目的とするタンパク質をコードする核酸配列が機能的に連結されていることを意味する。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野にてよく知られた遺伝子組換え技術を利用して製造することができ、部位-特異的DNA切断および連結は、当該技術分野にて一般的に知られた酵素などを用いて容易にできる。
【0046】
本発明の好適な発現ベクターは、プロモーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーのような発現調節エレメント以外にも、膜標的化または分泌のためのシグナル配列を含むことができる。開始コドンおよび終結コドンは、一般的に免疫原性標的タンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部と見なされ、遺伝子作製物が投与された時、個体で必ず作用を示さなければならず、コーディング配列とインフレーム(in frame)でなければならない。一般プロモーターは、構成的または誘導性であってもよく、原核細胞の場合には、lac、tac、T3およびT7プロモーター、真核細胞の場合には、サルウイルス40(SV40)、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫欠乏ウイルス(HIV)、例えば、HIVの長い末端反復部(LTR)プロモーター、モロニーウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターだけでなく、β-アクチンプロモーター、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、ヒトメタロチオネイン由来のプロモーターなどがあるが、これらに限定されない。
【0047】
また、前記発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含むことができる。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別するためのもので、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与するマーカーが使用できる。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみ生存するので、形質転換された細胞が選別可能である。さらに、ベクターが複製可能な発現ベクターの場合、複製が開始される特定の核酸配列である複製原点(replication origin)を含むことができる。
【0048】
外来遺伝子を挿入するための組換え発現ベクターとしては、プラスミド、ウイルス、コスミドなど多様な形態のベクターを使用することができる。組換えベクターの種類は、原核細胞および真核細胞の各種宿主細胞において所望の遺伝子を発現し、所望のタンパク質を生産する機能をする限り特に限定されないが、具体的には、強い活性を示すプロモーターと強い発現力を保有しながら自然状態と類似形態の外来タンパク質を大量生産できるベクターが用いられる。
【0049】
本発明のペプチドを発現させるために、多様な宿主とベクターとの組み合わせが用いられる。真核宿主に適した発現ベクターとしてはこれに限定されないが、SV40、ウシ乳頭腫ウイルス、アデノウイルス、アデノ-関連ウイルス(adenoassociated virus)、サイトメガロウイルスおよびレトロウイルスに由来する発現調節配列などが含まれる。細菌宿主に使用可能な発現ベクターとしてはこれに限定されないが、pET、pRSET、pBluescript、pGEX2T、pUCベクター、col E1、pCR1、pBR322、pMB9、またはこれらの誘導体などを含む大腸菌(Escherichia coli)から得られる細菌性プラスミド、RP4のようにより広い宿主範囲を有するプラスミド、λgt10、λgt11またはNM989などのファージラムダ(phage lambda)誘導体として例示できるファージDNA、およびM13とフィラメント性単鎖DNAファージのようなその他のDNAファージなどが含まれる。酵母細胞には2℃プラスミドまたはその誘導体などが使用可能であり、昆虫細胞にはpVL941などが使用可能である。
【0050】
さらに他の態様は、本発明のペプチド、本発明のポリヌクレオチドまたは本発明の発現ベクターを有効成分として含むTGF-β関連疾患の治療または予防用薬学組成物を提供する。「TGF-β」および「ペプチド」に関する内容は上述した通りである。
【0051】
本明細書で使われる用語「TGF-β関連疾患」または「TGF-β疾患」は、本発明のTGF-βシグナル伝達経路を抑制するペプチドを用いた治療から利得を得るすべての障害、疾病または疾患を意味し、それには個体が疾患にかかりやすい病理状態を含む慢性および急性疾患または疾病が含まれる。
【0052】
前記TGF-β関連疾患は、細胞外マトリックスの蓄積を特徴とする疾病、循環性TGF-βまたは局所部位で活性化されたTGF-βによって誘発された疾病、内因性TGF-βの生成による免疫系の抑制によって誘発された疾患、重症傷害、火傷および重病、例えば、ウイルス性または細菌性感染症から始まった急性免疫欠乏症、TGF-βの生成または過剰生成による多器官全身病、およびTGF-β生成腫瘍を含むものであってもよい。
【0053】
前記TGF-β関連疾患の例には、癌、脳神経疾患(例えば、アルツハイマー認知症およびハンチントン病)、線維性皮膚疾患(例えば、皮膚硬化症、CNS病理学瘢痕組織、皮膚瘢痕形成、ケロイド瘢痕形成および神経瘢痕形成)、肺、肝および腎臓の線維性疾患(例えば、慢性肝性線維症、急性肝損傷、癲癇性肺および腎線維症、および肝硬化症)、嚢胞性線維症、心臓線維症、アテローム性硬化症および動脈硬化症、全身性硬化症、および眼線維症などが含まれるが、これに限定されるものではない。
【0054】
本明細書における用語「治療」は、本発明の組成物の投与によって当該疾患の症状が好転または有利に変更するすべての行為を意味する。
【0055】
本明細書における用語「予防」は、本発明の組成物の投与によって当該疾患または疾患の発病の可能性が抑制または遅延されるすべての行為を意味する。
【0056】
前記薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。前記「薬学的に許容可能な担体」とは、生物体を刺激することなく、注入される化合物の生物学的活性および特性を阻害しない担体または希釈剤を意味することができる。ここで、「薬学的に許容される」意味は、有効成分の活性を抑制することなく適用(処方)対象が適応可能な以上の毒性を持たないという意味である。
【0057】
本発明に使用可能な前記担体の種類は、当該技術分野にて通常使用され薬学的に許容される担体であればいずれでも使用可能である。前記担体の非制限的な例としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールなどが挙げられる。これらは単独で使用されるか2種以上を混合して使用可能である。前記薬学組成物は、有効成分以外に薬学的に許容される担体を含む、当業界にて公知の通常の方法により、投与経路によって経口用剤形または非経口用剤形に製造できる。
【0058】
前記薬学組成物は、それぞれ通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形、外用剤、坐剤または滅菌注射溶液の形態に製剤化して使用可能である。前記薬学組成物を製剤化する場合、一般的に使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、または界面活性剤などの希釈剤または崩壊剤を追加して調製可能である。
【0059】
前記薬学組成物が経口用剤形に製造される場合、好適な担体と共に、当業界にて公知の方法によって、粉末、顆粒、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、懸濁液、ウエハーなどの剤形に製造できる。この時、薬学的に許容される好適な担体の例としては、ラクトース、グルコース、スクロース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトールなどの糖類、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、コムギデンプンなどのデンプン類、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、マグネシウムステアレート、鉱物油、麦芽、ゼラチン、タルク、ポリオール、植物性油などが挙げられる。製剤化の場合、必要に応じて、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤および/または崩壊剤を含んで製剤化することができる。
【0060】
前記薬学組成物が非経口用剤形に製造される場合、好適な担体と共に、当業界にて公知の方法によって、注射剤、経皮投与剤、鼻腔吸入剤および坐剤の形態に製剤化できる。注射剤に製剤化する場合、好適な担体としては、滅菌水、エタノール、グリセロールやプロピレングリコールなどのポリオール、またはこれらの混合物が挙げられ、好ましくは、リンゲル溶液、トリエタノールアミンが含有されたPBS(phosphate buffered saline)や注射用滅菌水、5%デキストロースのような等張溶液などを使用することができる。経皮投与剤に製剤化する場合、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、外用液剤、パスタ剤、リニメント剤、エアゾール剤などの形態に製剤化できる。鼻腔吸入剤の場合、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素などの好適な推進剤を用いてエアゾールスプレー形態に製剤化されてもよいし、坐剤に製剤化する場合、その基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、ツイーン(tween)61、ポリエチレングリコール類、カカオ脂、ラウリン脂、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンステアレート類、ソルビタン脂肪酸エステル類などが使用できる。
【0061】
前記薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与されるが、前記用語「薬学的に有効な量」とは、医学的治療または予防に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの比率で疾患を治療または予防するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する敏感度、使用された本発明の組成物の投与時間、投与経路および排出比率治療期間、使用された本発明の組成物と配合または同時使用される薬物を含む要素およびその他の医学分野にてよく知られた要素によって決定できる。前記薬学組成物は、単独で投与したり、公知の当該疾患に対する治療効果を示すことが知られた成分と併用して投与される。前記要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要である。
【0062】
前記薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の中毒度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、または有効成分として使用される物質の種類などを考慮して当業者が決定することができる。例えば、本発明の薬学組成物は、成人1人あたり約0.1ng~約1,000mg/kg、好ましくは1ng~約100mg/kgで投与することができ、本発明の組成物の投与頻度は特にこれに限定されないが、1日1回投与するか、または用量を分割して数回投与することができる。前記投与量または投与回数は、いかなる面でも本願の範囲を限定するものではない。
【0063】
さらに他の態様は、個体に、前記TGF-β関連疾患の治療または予防用薬学組成物を投与するステップを含むTGF-β関連疾患の治療または予防方法を提供する。前記「TGF-β関連疾患」および「薬学組成物」に関する説明は上述した通りである。
【0064】
本明細書で使われる用語「個体」は、TGF-β関連疾患が発病したり、発病する危険があるネズミ、家畜、ヒトなどを含む哺乳動物、鳥類、爬虫類、養殖魚類などを制限なく含むことができる。
【0065】
前記薬学組成物は、薬学的に有効な量で単一または多重投与できる。この時、組成物は、液剤、散剤、エアゾール、注射剤、輸液剤(リンゲル)、カプセル剤、丸剤、錠剤、坐剤またはパッチの形態に剤形化されて投与することができる。前記癌の予防または治療用薬学組成物の投与経路は、目的組織に到達できるいかなる一般的な経路を通しても投与可能である。
【0066】
前記薬学組成物は特にこれに限定されないが、目的によって、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経皮パッチ投与、経口投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与などの経路を通して投与可能である。ただし、経口投与時には剤形化されない形態でも投与することができ、胃酸によって前記薬学組成物の有効成分が変性または分解されうるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化された形態または経口用パッチ形態で口腔内に投与してもよい。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与可能である。
【0067】
本発明の一実施例によれば、前記組成物に含まれたペプチドは、TGF-β受容体に結合したり、TGF-βの発現レベルまたは細胞外排出量を減少させるなどでTGF-βシグナル伝達を抑制することができ、これによって、TGF-β関連疾患を効果的に治療または予防することができる。
【0068】
さらに他の態様は、本発明のペプチド、本発明のポリヌクレオチドまたは本発明の発現ベクターを有効成分として含む、癌の治療または予防用薬学組成物を提供する。「TGF-β」、「ペプチド」および「薬学組成物」に関する内容は上述した通りである。
【0069】
本明細書における用語「癌」は、身体組織の自律的な過剰成長によって異常成長した腫瘍、または腫瘍を形成する病気を意味する。前記癌は、TGF-βを発現する癌、より好ましくは、TGF-βの過度の活性化を特徴とする癌であってもよいし、具体的には、肝臓癌、肺癌、膵臓癌、非小細胞性肺癌、結腸癌、骨癌、皮膚癌、頭部または頸部癌、皮膚または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、胃癌、肛門付近癌、結腸癌、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌腫、子宮頸癌腫、膣癌腫、陰門癌腫、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、膀胱癌、腎臓または輸尿管癌、腎細胞癌腫、腎骨盤癌腫、中枢神経系(CNS;central nervous system)腫瘍、1次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫または脳下垂体腺腫であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0070】
さらに他の態様は、個体に、前記癌の治療または予防用薬学組成物を投与するステップを含む癌の治療または予防方法を提供する。前記「癌」、および「薬学組成物」に関する説明は上述した通りである。
【0071】
本明細書で使われる用語「個体」は、癌疾患が発病したり、発病する危険があるネズミ、家畜、ヒトなどを含む哺乳動物、鳥類、爬虫類、養殖魚類などを制限なく含むことができる。
【0072】
本発明の一実施例によれば、前記組成物に含まれたペプチドは、TGF-β受容体に結合したり、TGF-βの発現レベルまたは細胞外排出量を減少させるなどでTGF-βシグナル伝達を抑制することができる。したがって、前記組成物は、癌化過程または癌微細環境の調節に重要な役割をするTGF-β関連シグナル伝達経路を効果的に抑制できることから、これを用いて癌を治療または予防することができる。
【発明の効果】
【0073】
本発明の新規なペプチドは、TGF-βによるシグナル伝達経路を抑制できることから、TGF-β関連疾患、TGF-βによって誘導される腫瘍成長および転移などの癌化過程を効果的に阻害することができる。したがって、前記ペプチドを含む組成物は、効果的にTGF-β関連疾患、ひいては、癌を治療または予防できるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】TGF-βシグナル伝達抑制候補ペプチドの配列をまとめて示す図である。
図2】本発明のペプチドのTGF-β受容体結合を分析した図である。
図3】Bxpc3およびAspc1細胞株においてTGF-β処理によるpSmad2/3の発現レベルの変化を時間ごとに示す図である。
図4】膵臓癌細胞株のTGF-βの発現レベルを示す図である。
図5】膵臓癌細胞株におけるTGF-β受容体の発現レベルを示す図である。
図6】本発明のペプチド処理によるTGF-βサイトカインの濃度変化を示す図である。
図7】膵臓癌細胞株であるAspc1における本発明のペプチド処理によるpSmad2/3の発現レベルの変化を示す図である。
図8】膵臓癌細胞株であるBxpc3における本発明のペプチド処理によるpSmad2/3の発現レベルの変化を示す図である。
図9】膵臓癌細胞株であるPanc1における本発明のペプチド処理によるpSmad2/3の発現レベルの変化を示す図である。
図10】膵臓癌細胞株であるAspc1における本発明のペプチド処理による癌細胞増殖能の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
一態様は、以下の新規ペプチド;これをコードするポリヌクレオチド;または前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター;を提供する。
【0076】
本発明の一実施形態において、前記ペプチドは、配列番号16で記載される下記一般式1のアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0077】
[一般式1]
F-X-L-G-P-X-P-Y-I-W-X-L-D-T
【0078】
前記一般式1において、X、XおよびXは、それぞれ独立してシステイン(C)またはセリン(S)であってもよいし、具体的には、X-X-Xは、C-C-S、C-C-CまたはS-S-Sであってもよい。
【0079】
前記ペプチドは、任意のアミノ酸またはペプチドを追加的に含むものであってもよいし、具体的には、前記ペプチドは、前記一般式1で表されるアミノ酸配列の一末端、好ましくは、C-末端に任意のアミノ酸またはペプチドが直接的に連結されて追加されたペプチドを含むものであってもよい。前記追加されるアミノ酸またはペプチドは、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、ロイシン(L)、セリン(S)、またはこれらの組み合わせであってもよく、非制限的な例としては、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン-ロイシン-セリン-ロイシン(V-L-S-L)またはバリン-ロイシン-セリン-フェニルアラニン(V-L-S-F)であってもよい。
【0080】
前記ペプチドは、配列番号1~8のうち1つ以上のアミノ酸配列を含むものであってもよいし、具体的には、配列番号1~8のうち1つのアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0081】
本発明の一実施形態において、前記ペプチドは、配列番号17で記載される下記一般式2のアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0082】
[一般式2]
A-H-C-S-C-D
【0083】
前記ペプチドは、任意のアミノ酸またはペプチドを追加的に含むものであってもよいし、具体的には、前記ペプチドは、前記一般式1で表されるアミノ酸配列の一末端、好ましくは、C-末端に任意のアミノ酸またはペプチドが直接的に連結されて追加されたペプチドを含むものであってもよい。前記追加されるアミノ酸またはペプチドは、セリン(S)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)、グリシン(G)、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、またはこれらの組み合わせであってもよく、非制限的な例としては、セリン-アルギニン-アスパラギン酸-アスパラギン(S-R-D-N)またはグリシン-アラニン-フェニルアラニン-アラニン(G-A-F-A)であってもよい。
【0084】
前記ペプチドは、配列番号9および10のうち1つ以上のアミノ酸配列を含むものであってもよいし、具体的には、配列番号9および10のうち1つのアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0085】
本発明の一実施形態において、前記ペプチドは、下記の配列番号18で記載される一般式3のアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0086】
[一般式3]
T-I-V-Y-Y-V-X-X-K-P-K-V-E-Q
【0087】
前記一般式3において、Xは、グリシン(G)、ヒスチジン(H)またはバリン(V)であってもよく、Xは、アルギニン(R)、ロイシン(L)、またはイソロイシン(I)であってもよいし、具体的には、X-Xは、G-R、G-L、H-IまたはV-Iであってもよい。
【0088】
前記ペプチドは、配列番号11~14のうち1つ以上のアミノ酸配列を含むものであってもよいし、具体的には、配列番号11~14のうち1つのアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0089】
他の態様は、上記のペプチド;上記のポリヌクレオチド;または上記の発現ベクター;の用途であって、TGF-β関連疾患、特にTGF-βが発現する癌の治療または予防の用途を提供する。
【0090】
前記TGF-β関連疾患の例には、癌、脳神経疾患(例えば、アルツハイマー認知症およびハンチントン病)、線維性皮膚疾患(例えば、皮膚硬化症、CNS病理学瘢痕組織、皮膚瘢痕形成、ケロイド瘢痕形成および神経瘢痕形成)、肺、肝および腎臓の線維性疾患(例えば、慢性肝性線維症、急性肝損傷、癲癇性肺および腎線維症、および肝硬化症)、嚢胞性線維症、心臓線維症、アテローム性硬化症および動脈硬化症、全身性硬化症、および眼線維症などが含まれるが、これに限定されるものではない。
【0091】
前記癌は、肝臓癌、肺癌、膵臓癌、非小細胞性肺癌、結腸癌、骨癌、皮膚癌、頭部または頸部癌、皮膚または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、胃癌、肛門付近癌、結腸癌、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌腫、子宮頸癌腫、膣癌腫、陰門癌腫、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、膀胱癌、腎臓または輸尿管癌、腎細胞癌腫、腎骨盤癌腫、中枢神経系(CNS;central nervous system)腫瘍、1次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫または脳下垂体腺腫であってもよいが、これに限定されるものではない。
【実施例
【0092】
以下、実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は例として説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
実施例1:TGF-β-シグナル伝達抑制ペプチドの設計
本発明のTGF-βシグナル伝達抑制ペプチドを開発するために、TGF-β受容体を標的とするTGF-β由来の14個の候補アミノ酸配列を設計して作製した。候補配列の具体的な情報は下記表1および図1に記載した。
【0094】
【表1】
【0095】
上記の候補ペプチドの作製のために、タンパク質データバンク(http://www.rcsb.org)の登録されたタンパク質の結晶構造(PDB:3KFD)を用いて、TGF-β受容体1(TGFBR1)に結合可能な部位を予測し、これに基づいて特定のペプチドをデザインした後、分子モデリングプログラムであるAutodockにより結合の可能性を確認した後、予測された構造を生成した。その結果、代表的にP3、P5、P3/5ハイブリッドおよびP6ペプチドの場合、TGF-β受容体1に結合できることを確認した(図2)。
【0096】
前記結果に基づいて、本発明で作製した候補ペプチドがTGF-β受容体に結合することにより、TGF-βによって誘導されるシグナル伝達経路を抑制できることが分かる。
【0097】
実施例2:TGF-β-シグナル伝達抑制効果確認条件の確立
前記実施例1で作製した候補ペプチドのTGF-βシグナル伝達の抑制効果を確認するための条件を確立するために、下記の実験を行った。
【0098】
TGF-βシグナル伝達経路はTGF-β受容体から進行し、TGF-βによってTGF-β受容体が活性化されると、Smad2/3タンパク質がリン酸化される過程によりTGF-βシグナル伝達経路が進行することが知られている。したがって、TGF-βシグナル伝達経路の活性または抑制はリン酸化-Smad2/3(p-Smad2/3)の発現レベルの変化により確認できることから、TGF-β処理によるp-Smad2/3の誘導条件を確認した。
【0099】
具体的には、時間ごとに細胞から発現するリン酸化-Smad2/3の発現をウェスタンブロッティング(Western blotting)実験で分析するために、膵臓癌細胞株であるBxpc3とAspc1にTGF-βサイトカインを50ng/mlで処理した後、時間ごとに得た細胞にプロテアーゼ抑制剤(Thermo Scientific)が含まれた細胞溶解緩衝液を添加して溶解させた後、サンプリングしてウェスタンブロッティングのためのサンプルを作製した。前記サンプルをSDS-PAGEに電気泳動し、これをニトロセルロース膜に移動させた後、脱脂粉乳を用いてブロッキングした。次に、前記膜をSmad2/3またはpSmad2/3に対する一次抗体と4℃で1日間インキュベーションさせウォッシュした後、前記一次抗体に結合できるhorseradishペルオキシダーゼ-結合二次抗体で室温で2時間インキュベーションさせた。この後、ウエスタンECL基質(Thermo scientific)を用いて化学発光によって可視化され、前記得られた発光イメージをChemidoc(biorad)で分析した。
【0100】
その結果、Bxpc3およびAspc1細胞株の場合、TGF-βを処理し、12~24時間でpSmad2/3の発現レベルが高いことを確認したことから(図3)、以下の実験ではTGF-βを処理し、24時間後のpSmad2/3の発現レベルを確認してTGF-βシグナル伝達経路の抑制の有無を確認した。
【0101】
次に、膵臓癌細胞株のTGF-βの発現レベルを確認するために、膵臓癌細胞株であるBxpc3、Aspc1、Panc1、Capan2およびmiapaca2と患者に由来する癌細胞株であるSNU213を、48時間6ウェルプレートで1×10/ウェルで培養した後、培養液におけるTGF-βサイトカインの濃度をELISA手法で分析した。
【0102】
その結果、BxPC3、AsPC1、Panc1、Capan2、Miapaca2およびSNU213細胞におけるTGF-βサイトカインレベルを示すことを確認した(図4)。これにより、前記細胞株はTGF-βの発現量を抑制する機序によるTGF-βシグナル伝達抑制効果確認実験に使用できることが分かる。
【0103】
次に、膵臓癌細胞株におけるTGF-βが結合するTGF-β受容体(TGFBR)の発現を確認するために、膵臓癌細胞株BxPC3、AsPC1、Miapaca2細胞においてTGFBR1、TGFBR2、TGFBR3受容体に対する発現をウェスタンブロッティング実験で分析した。具体的には、各細胞に細胞溶解緩衝液を添加して溶解させた後、サンプリングしてウェスタンブロッティングサンプルを作製し、実施例2に記載されたウェスタンブロッティング方法によりTGFBR1、TGFBR2、TGFBR3を検出できる各一次抗体を用いて各受容体に対する発現を比較した。
【0104】
その結果、AsPC1膵臓癌細胞株は概して高いTGFBR1、TGFBR2、TGFBR3の発現レベルを示すことを確認し、他の細胞株もTGFBRが発現することを確認した(図5)。これにより、前記細胞株はTGF-βとTGF-β受容体との結合を阻害する機序によるTGF-βシグナル伝達抑制効果確認実験に使用できることが分かる。
【0105】
実施例3:候補ペプチドのTGF-βの発現量抑制効果の確認
前記実施例1で作製した候補ペプチドが細胞外TGF-βの発現レベルを抑制できるかを確認するために、下記の実験を行った。
【0106】
具体的には、膵臓癌細胞株であるAspc1を96ウェルプレートに2×10/ウェルの濃度でシーディングして1日間培養した後、TGF-β50ng/ml単独またはTGF-β+抑制物質(候補ペプチドおよび対照群ペプチド)を48時間処理後に、癌細胞培養液におけるTGF-βサイトカインの濃度をELISA手法で分析した。TGF-β検出ELISA kitを用いて、細胞外排出されたTGF-βサイトカインの濃度をマルチプレートリーダーで吸光度を測定してグラフ化した。
【0107】
その結果、Aspc1細胞の場合、候補ペプチドのうちP5、P6、P7、P14ペプチドが直接的にTGF-βサイトカインの排出量自体を抑制することを確認した(図6)。前記結果に基づいて、本発明のTGF-β抑制ペプチドは、TGF-βの発現レベル、具体的には、TGF-βの細胞外排出量自体を抑制させることにより、TGF-βシグナル伝達経路を抑制できることが分かる。
【0108】
実施例4:候補ペプチドのTGF-β-シグナル伝達抑制効果の確認
前記実施例1で作製した候補ペプチドのTGF-βシグナル伝達の抑制効果を確認するために、下記の実験を行った。
【0109】
具体的には、膵臓癌細胞株であるAspc1、Bxpc3およびPanc1細胞株を6ウェルプレートに1×10/ウェルの濃度でシーディングして1日間培養した後、翌日、TGF-βまたはTGF-β+候補ペプチドを24時間処理し(対照群:15%ACN-候補ペプチド溶媒、DMSO-P144ペプチド溶媒、P144)pSmad2/3と全体Smad2/3の発現レベルを、実施例2に記載されたウェスタンブロッティング方法で分析した。
【0110】
その結果、Aspc1細胞の場合、本発明によるペプチドがpSmad2/3の発現レベルを抑制することが確認され、その中では特にP6ペプチドがpSmad2/3の発現レベルの抑制能に最も優れていることが確認された(図7)。また、Bxpc3およびPanc1細胞株の場合でも、本発明によるペプチドがpSmad2/3の発現レベルを著しく抑制することを確認した(図8および図9)。前記結果に基づいて、本発明で作製したTGF-βシグナル伝達抑制ペプチドは、実際にTGF-βシグナル伝達を効果的に抑制できることが分かる。
【0111】
実施例5:候補ペプチドの癌細胞成長抑制の確認
前記実施例1で作製した候補ペプチドのTGF-βシグナル伝達の抑制による癌細胞増殖抑制効果を確認するために、下記の実験を行った。
【0112】
具体的には、膵臓癌細胞株であるAspc1を96ウェルプレートに2×10/ウェルの濃度でシーディングして1日間培養した後、TGF-β50ng/mlまたはTGF-β+抑制物質(候補ペプチド、ガルニセルチブまたはLY2109761)を24時間処理後に、CCK-8アッセイ試薬(sigma)を用いて、生存細胞の比率をマルチプレートリーダーで吸光度を測定してグラフ化した。ガルニセルチブ(Gaunisertib)およびLY2109761は周知のTGF-β抑制剤として100μmの濃度で使用した。
【0113】
その結果、前記癌細胞株に先立ち、TGF-βシグナル伝達を抑制することが確認された本発明によるペプチドを処理する場合、癌細胞の増殖能が抑制されることを確認することができた(図10)。
【0114】
前記結果に基づいて、本発明で作製したTGF-βシグナル伝達抑制ペプチドは、TGF-βシグナル伝達を抑制する機序により癌細胞の増殖を抑制できることが分かる。
【0115】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須の特徴を変更しなくても他の具体的な形態に容易に変形可能であることを理解することができる。そのため、以上に記述した実施例はすべての面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、TGF-βシグナル伝達を抑制できるペプチドとその用途であって、TGF-βシグナル伝達関連疾患、ひいては、TGF-βが発現する癌を治療または予防する方法に関する。
【0117】
[配列リストFree Text]
<110> Korea Institute of Science and Technology
<120> Novel peptides capable of inhibiting TGF-beta signaling and uses
thereof
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<150> KR 10-2020-0182441
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<170> KoPatentIn 3.0
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2023-05-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転換成長因子ベータ(Transforming growth factor-β、TGF-β)またはその類似体に由来し、
配列番号16で記載される下記一般式1のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むペプチド。
[一般式1]
F-X -L-G-P-X -P-Y-I-W-X -L-D-T
前記一般式1において、
前記X 、X およびX は、それぞれ独立してシステイン(C)またはセリン(S)である。
【請求項2】
前記ペプチドは、前記一般式1のアミノ酸配列の一末端にアラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、ロイシン(L)、セリン(S)、またはこれらの組み合わせが追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項に記載のペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドは、前記一般式1のアミノ酸配列のC-末端にアラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン-ロイシン-セリン-ロイシン(V-L-S-L)またはバリン-ロイシン-セリン-フェニルアラニン(V-L-S-F)が追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドは、配列番号1~8のうち1つ以上のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項に記載のペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドは、配列番号1~8のうち1つ以上のアミノ酸配列または前記配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項6】
前記ペプチドは、配列番号1~8のうち1つ以上のアミノ酸配列または前記配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドは、TGF-βのシグナル伝達を抑制するものである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項8】
転換成長因子ベータ(Transforming growth factor-β、TGF-β)またはその類似体に由来し、配列番号1~14のうち1つ以上のアミノ酸配列を有するペプチド。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項11】
TGF-β関連疾患の治療または予防用薬学組成物であって、前記薬学組成物は、薬学的に有効な量のペプチドを含み、
前記TGF-β関連疾患は、癌、脳神経疾患、線維性皮膚疾患、肺線維症、肝線維症、腎線維症、嚢胞性線維症、心臓線維症、アテローム性硬化症、動脈硬化症、全身性硬化症、または眼線維症であり、
前記ペプチドは、配列番号16で記載される下記一般式1のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む薬学組成物。
[一般式1]
F-X -L-G-P-X -P-Y-I-W-X -L-D-T
前記一般式1において、
前記X 、X およびX は、それぞれ独立してシステイン(C)またはセリン(S)である。
【請求項12】
前記ペプチドは、前記一般式1のアミノ酸配列の一末端にアラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、ロイシン(L)、セリン(S)、またはこれらの組み合わせが追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項13】
前記ペプチドは、前記一般式1のアミノ酸配列のC-末端にアラニン(A)、フェニルアラニン(F)、バリン-ロイシン-セリン-ロイシン(V-L-S-L)またはバリン-ロイシン-セリン-フェニルアラニン(V-L-S-F)が追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項14】
前記ペプチドは、配列番号1~8のうち1つ以上のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項15】
対象に対して、配列番号17で記載される下記一般式2のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むペプチドをさらに含む請求項11に記載の薬学組成物。
[一般式2]
A-H-C-S-C-D
【請求項16】
前記一般式2のアミノ酸配列を含むペプチドをさらに含み、前記ペプチドは、前記一般式2のアミノ酸配列の一末端にセリン(S)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)、グリシン(G)、アラニン(A)、フェニルアラニン(F)、またはこれらの組み合わせが追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項15に記載の薬学組成物。
【請求項17】
前記一般式2のアミノ酸配列を含むペプチドをさらに含み、前記ペプチドは、前記一般式2のアミノ酸配列のC-末端にセリン-アルギニン-アスパラギン酸-アスパラギン(S-R-D-N)またはグリシン-アラニン-フェニルアラニン-アラニン(G-A-F-A)が追加的に含まれたペプチドを含むものである、請求項15に記載の薬学組成物。
【請求項18】
ペプチドをさらに含み、前記ペプチドは、対象に対して、配列番号9および10のうち1つ以上のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである、請求項11に記載の薬学組成物。
【請求項19】
ペプチドをさらに含み、前記ペプチドは、対象に対して、配列番号18で記載される下記一般式3のアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項11に記載の薬学組成物。
[一般式3]
T-I-V-Y-Y-V-X -X -K-P-K-V-E-Q
前記一般式3において、
前記X は、グリシン(G)、ヒスチジン(H)またはバリン(V)であり、
前記X は、アルギニン(R)、ロイシン(L)、またはイソロイシン(I)である。
【請求項20】
ペプチドをさらに含み、前記ペプチドは、配列番号11~14のうち1つ以上で記載されるアミノ酸配列または前記配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む、請求項11に記載の薬学組成物。
【国際調査報告】