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特表2023-549938タンパク質を精製するための緩衝液と方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】タンパク質を精製するための緩衝液と方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/16 20060101AFI20231121BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
C07K1/16
C07K16/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530661
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(85)【翻訳文提出日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2020082950
(87)【国際公開番号】W WO2022106031
(87)【国際公開日】2022-05-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504104899
【氏名又は名称】アレス トレーディング ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ-ジュリアン イルボルド
(72)【発明者】
【氏名】ビクトル パスキエ
(72)【発明者】
【氏名】ティボー デュトロン
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA23
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、いくつかのクロマトグラフィー工程を含むタンパク質精製プロセスの分野に関する。本発明は、タンパク質、好ましくは抗体もしくはその断片、又は前記断片を含むタンパク質を複合溶液から精製する方法に関し、ここで前記方法は、同じ化合物を含むか又はそれからなる緩衝液を使用して実施される、少なくとも2つのクロマトグラフィー工程を含む。本発明は、組換えタンパク質の大規模生産及び精製に特に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の液体クロマトグラフィーと第2のクロマトグラフィーとを含む、複合溶液から目的のタンパク質を精製するための、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含むか又はこれらからなる水性緩衝液の使用であって、ここで、前記液体クロマトグラフィーのそれぞれについて、前記水性緩衝液は、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも1つの緩衝液として使用される、上記使用。
【請求項2】
少なくとも第1の液体クロマトグラフィーと第2のクロマトグラフィーとを含む、複合溶液から目的のタンパク質を精製するための方法であって、ここで、前記液体クロマトグラフィーのそれぞれについて、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液が、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも1つの緩衝液として使用される、上記方法。
【請求項3】
少なくとも第1の液体クロマトグラフィーと第2のクロマトグラフィーとを通して目的のタンパク質を含む前記複合溶液を精製することを含む、複合溶液から前記目的のタンパク質を精製するための方法であって、ここで、第1及び第2の液体クロマトグラフィーのそれぞれについて、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも1つの工程が、化合物酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液を使用して実施される、上記方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の方法であって、
a.前記目的のタンパク質を含む複合溶液を、第1の固体固定相を含む少なくとも第1の液体クロマトグラフィーを使用して精製し、それによって目的のタンパク質の第1の溶出液を得る工程であって、ここで、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも1つの工程が、化合物酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液を使用して実施される工程と、
b.工程a)の目的のタンパク質の第1の溶出液を、第2の固体固定相を含む第2の液体クロマトグラフィーを使用して精製し、それによって目的のタンパク質の第2の溶出液を得る工程であって、ここで、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも1つの工程が、化合物酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液を使用して実施される工程とを含む、上記方法。
【請求項5】
前記第1又は前記第2の液体クロマトグラフィーのいずれかにおいて、前記水性緩衝液が、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液から選択される少なくとも2つの緩衝液として使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記第1及び第2の液体クロマトグラフィーにおいて、前記水性緩衝液が、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液から選択される少なくとも2つの緩衝液として使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記第1又は前記第2の液体クロマトグラフィーのいずれかにおいて、前記水性緩衝液が、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも3つの緩衝液として、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液として使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記第1及び第2の液体クロマトグラフィーにおいて、前記水性緩衝液が、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも3つの緩衝液として、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液として使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
請求項3又は4のいずれかに記載の方法であって、前記第1又は前記第2の液体クロマトグラフィーのいずれかにおいて、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも2つの工程が、化合物酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液を使用して実施される、上記方法。
【請求項10】
前記水性緩衝液が、水、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムからなる、請求項1に記載の使用、又は請求項2~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記水性緩衝液が、同じモル比のリン酸塩対トリス塩基、及び同じモル比の酢酸塩対リン酸塩を有する、請求項1もしくは10に記載の使用、又は請求項2~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリス塩基のモル比が1.5~2である、請求項1、9、もしくは10のいずれかに記載の使用、又は請求項2~10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記水性緩衝液中の酢酸塩対リン酸塩のモル比が1~2.5である、請求項1、9、10、もしくは11のいずれかに記載の使用、又は請求項2~11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記目的のタンパク質が、抗体、その断片、又は前記断片を含む融合タンパク質である、請求項1、9、10、11、もしくは12のいずれかに記載の使用、又は請求項2~12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記目的のタンパク質が6~9.5の等電点を有する、請求項1もしくは9~13のいずれかに記載の使用、又は請求項2~13のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、いくつかのクロマトグラフィー工程を含むタンパク質精製プロセスの分野に関する。本発明は、タンパク質、好ましくは抗体もしくはその断片、又は前記断片を含むタンパク質を複合溶液から精製する方法に関し、ここで前記方法は、同じ化合物を含むか又はそれからなる緩衝液を使用して実施される、少なくとも2つのクロマトグラフィー工程を含む。本発明は、組換えタンパク質の大規模生産及び精製に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組換えタンパク質、及び特に抗体又は融合タンパク質は、一般に細胞培養培地から複数工程の樹脂クロマトグラフィープロセスを使用して精製され、目的のタンパク質が、細胞培養培地中に存在する核酸又は他の分子から分離される。精製プロセスは、通常2~3工程の液体クロマトグラフィーを含み。ここで、目的のタンパク質を含む液体移動相は、例えば特定の化学物質で官能化された樹脂又は膜でもよい固体固定相上を通過し、この固体固定相はその物理化学的特性に基づいて分子を保持する。タンパク質は、両性イオン性アミノ酸化合物で構成されており、タンパク質の正味電荷は、環境のpHに応じて正又は負になり得る。タンパク質の特定の等電点(pI)を使用して、その正味電荷が特定のpHで正になるか負になるかを判断することができる。目的のタンパク質のこの特性並びに疎水性及びサイズを使用して、例えばクロマトグラフィー工程で使用される固体支持体の特異性の選択において、精製プロセスのモデル化するのに使用される。さらに、様々なpHの緩衝液を使用して、精製すべきタンパク質の正味電荷を変更し、こうして、前記タンパク質と使用される様々な支持体との結合を増強又は阻害することができる。抗体精製の分野では、精製プロセスは、通常親和性クロマトグラフィーを使用する「捕捉工程」から始まり、非常に一般的にはプロテインAベースの親和性クロマトグラフィーを使用して実施され、これは、Fc領域に対するプロテインAの親和性に基づいて抗体を捕捉することを目的としている。より適切な場合には、プロテインL、組換え親和性リガンド、又は合成親和性リガンドに基づく代替親和性クロマトグラフィーを使用することもできる。さらに、この捕捉工程の後には通常、目的のタンパク質をDNA、HCP、エンドトキシンなどの残りの汚染物質からさらに分離することを目的とした仕上げ工程が続く。イオン交換(IEX)クロマトグラフィーは、バイオ医薬品業界において仕上げ工程に広く使用されている。IEXカラムは、分子の表面電荷と固体固定相の荷電官能基との間の静電的相互作用に依存している。IEXでは、精製すべき試料に存在する分子間の結合特性は、分子の正味電荷、樹脂表面の電荷分布、樹脂のリガンドの種類(強イオン交換体と弱イオン交換体は市販されている)、及び細孔サイズによって決まる。IEXカラムは、その化学的特性に応じて陽イオン交換(CEX)カラムと陰イオン交換(AEX)カラムのいずれかに分類できる。CEXは通常、正味の陽性表面電荷を有する分子に対する親和性を備えた負に荷電したイオン交換固体担体を使用し、一方、AEXは通常、正に荷電したイオン交換固体支持体を使用する。他のタイプのクロマトグラフィー、例えば疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)では、固体支持体は疎水性リガンドを有し、従って疎水性特性に基づいて化合物を分離するために使用することもできる。混合型のクロマトグラフィー(MMC)は、2つの物理化学的特性を組み合わせた固体支持体に依存しており、一般的に仕上げ工程の一部として使用される。
【0003】
この構成は高度に精製されたタンパク質を提供するのに非常に効果的であることが証明されているが、各クロマトグラフィーでは、カラムを平衡化し、試料を適切な化学条件にロードし、不純物を洗浄し、目的のタンパク質を溶出し、そしてカラムを再生するために、いくつかの緩衝液を使用する必要がある。これらの全ての及びそれぞれ工程では、特異的緩衝液を配合する必要があり、それに合わせてpHとイオン強度を調整しなければならない。従って、従来の精製プロセスでは一般に、多数の異なる緩衝液の配合と保管が必要であり、これは、企業にとって費やされる時間、使用スペース、及び全体的な経済的コストの点で重要な影響を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、緩衝作用や化学的品質を損なったり、クロマトグラフィーの性能に影響を与えたりすることなく、クロマトグラフィー緩衝液の提供と保管を合理化する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要約
本発明は、実質的に同じ成分を含む水性緩衝液を提供し、これは、組換えタンパク質のクロマトグラフィー精製のすべての一般的な工程に使用でき、従って大規模な精製プロセスの簡略化を可能にする。本発明の緩衝液はすべて、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基を含む。これらは、本明細書では緩衝母液とも呼ばれる濃縮緩衝液から、精製水を用いる単純な希釈によって調製することができる。導電率及び/又はpHを調整するために、水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムをさらに添加することができる。本発明は、pH2からpH9までの広範な緩衝領域を有する単純な緩衝配合を提供する。換言すれば、このpH領域では、NaOHの添加による緩衝液のpHは、急激にpH上昇のない準直線的な曲線に従って変化する。当技術分野では、高い導電率を有する緩衝液、別名高イオン強度を有する緩衝液は、イオン交換カラムへの目的のタンパク質の結合を妨げる可能性があり、これが望ましくない可能性があることはよく知られている。本発明の水性緩衝液は、NaClの添加によって自発的に上昇させない限り、NaOHの添加によって緩衝領域全体にわたって比較的低く維持され導電率を有するように配合されており、こうしてタンパク質の精製の品質に悪影響を及ぼしにくい緩衝液が提供される。
【0006】
この非常に大きな緩衝領域のため、本発明の緩衝液は非常に多用途であり、カラムの平衡化から、洗浄工程を含む目的のタンパク質の溶出までのクロマトグラフィーのあらゆる工程に容易に使用することができ、これは、使用するクロマトグラフィーの種類又は精製するタンパク質とは独立して実施することができる。本発明の緩衝液は、あらゆる種類のクロマトグラフィー(親和性、イオン交換、混合型)において、平衡化緩衝液又はリンス緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液として、さらには再生緩衝液として使用することができ、また、クロマトグラフィー工程が結合/溶出モード又は通過モードで実施されるかどうかに関係なく使用することができる。
【0007】
従って本発明は、クロマトグラフィー、好ましくは液体クロマトグラフィーを使用して目的のタンパク質を精製する方法を提供し、ここで、クロマトグラフィー工程は、本質的に又は完全に本発明の緩衝液の使用に依存する。記載の方法はさらに、単純な希釈によってすべて同じ濃縮母液から得られ、従って同じモル比の酢酸塩対リン酸塩及び/又は同じモル比のリン酸塩対トリス塩基を有するクロマトグラフィー緩衝液を、精製プロセス全体について使用することができ、従ってプロセス工程が簡略化され、保管スペースの必要性と緩衝液調製に必要な時間を低減することができる。
【0008】
定義
本発明の文脈において「タンパク質」という用語は、当技術分野で一般に理解されているように解釈されるべきであり、すなわち、アミノ酸残基の1つ又はそれ以上の長鎖を含む巨大分子を指すものとして解釈されるものとする。本発明の文脈において、タンパク質は通常少なくとも20個のアミノ酸残基を含み、及び/又は少なくとも15kDの分子量を有する。本発明の文脈において「タンパク質」という用語は、タンパク質の生産及び精製の分野で一般に理解されているように解釈されるべきであり、すなわち、本質的にアミノ酸から構成され、グリコシル化などの翻訳後修飾を含み得る化合物を広く指すものとして解釈されるべきである。本発明の文脈において、タンパク質は、例えば抗体又はその断片、キメラタンパク質、酵素、又は受容体タンパク質であり得る。
【0009】
本発明の文脈において「組換えタンパク質」という用語は、当技術分野で一般に理解されているように解釈されるべきであり、すなわち、遺伝子工学によって得られるタンパク質を指すものとする。通常組換えタンパク質は、その遺伝物質が遺伝子工学によって改変された宿主によって産生される。この定義にはまた、無細胞系で産生されるタンパク質も含まれており、その産生には遺伝子工学の工程が含まれる。従ってこの定義は、組換え手段によって配列が改変されたタンパク質、並びに天然配列を有し、組換え宿主において産生されるタンパク質を包含する。
【0010】
「抗体」という用語には、特にポリクローナル抗体、親和性精製ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及び抗原結合断片、例えばF(ab')2、Fabタンパク質分解断片、及び単鎖可変領域断片(scFv)が含まれる。遺伝子操作された未変性の抗体又は断片、例えばキメラ抗体、scFv及びFab断片、並びに合成抗原結合ペプチド及びポリペプチドも含まれる。
【0011】
「組換え抗体」という用語は、組換え技術によって産生された抗体を意味する。抗体の生成には組換えDNA技術が関連しているため、天然の抗体に見られるアミノ酸配列に限定される必要はなく、抗体は、望ましい特性を得るために再設計することができる。考えられる変形は数多く、1つのみ又は数個のアミノ酸の変更から、可変ドメインや定常領域などの完全な再設計まで多岐にわたる。定常領域の変更は、一般に、補体結合(例えば、補体依存性細胞傷害性、CDC)、Fc受容体との相互作用、及び他のエフェクター機能(例えば、抗体依存性細胞傷害性、ADCC)、薬物動態学的特性(例えば、新生児Fc受容体への結合;FcRn)などの特性を改善、低減、又は変更するために実施される。抗原結合特性を改善するために、可変ドメインの変更が実施される。抗体に加えて、免疫グロブリンは、様々な他の形態、例えば、単鎖又はFv、Fab、及び(Fab')2、並びにダイアボディ、線状抗体、多価もしくは多重特異性ハイブリッド抗体で存在し得る。
【0012】
「抗体断片」という用語は、未変性の又は完全長の鎖又は抗体の断片、通常は結合領域又は可変領域を指す。前記部分又は断片は、未変性の鎖/抗体の少なくとも1つの活性を維持する必要があり、すなわち、これらは「機能的部分」又は「機能的断片」である。これらが少なくとも1つの活性を維持するならば、これらは好ましくは標的結合特性を維持する。抗体部分(又は抗体断片)の例としては、特に限定されるものではないが、「単鎖Fv」、「単鎖抗体」、「Fv」、又は「scFv」が挙げられる。これらの用語は、重鎖及び軽鎖の両方の可変ドメインを含むが、定常領域が欠如した抗体断片を指し、すべてポリペプチド単鎖内である。一般に単鎖抗体は、VHドメインとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これは、目的の構造を形成して、抗原結合を可能にする。特定の実施態様において、単鎖抗体はまた二重特異性及び/又はヒト化することもできる。
【0013】
「Fab断片」は、1本の軽鎖と、1本の重鎖の可変ドメイン及びCH1ドメインで構成される。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することはできない。「Fab'断片」は、1つの軽鎖と1つの重鎖とを含み、CH1ドメインとCH2ドメインの間の定常領域をさらに含み、従って2つの重鎖間に鎖間ジスルフィド結合が形成されることができ、F(ab')2分子と呼ばれる。「F(ab')2」は、2つの軽鎖と、CH1ドメインとCH2ドメインの間の定常領域の一部を含む2つの重鎖とを含み、従って2つの重鎖間に鎖間ジスルフィド結合が形成される。いくつかの重要な用語が定義されたため、本発明の特定の実施態様に注目することができる。
【0014】
本発明の文脈において「等電点」という用語は、pI、H(I)、又はIEPとも呼ばれ、特定の分子が正味の電荷を持たないか、統計的平均において電気的に中性となるpHである。分子の正味電荷は周囲環境のpHの影響を受け、プロトン(H+)の増加又は損失により、それぞれより正又は負に荷電し得る。タンパク質の等電点は、タンパク質のアミノ酸配列に基づく計算によって評価することも、例えば Goyon et al.によって開示されたicIEF(画像キャピラリー等電点電気泳動)法を使用して実験的に決定することもできる。Goyon et al.によって示されているように、この方法を使用して決定された実験的pIは、計算されたpIと非常によく相関しており、当業者は前記方法のいずれも使用することができる。好ましくは、明確にするために、本明細書で定義されたpIは、icIEF(画像化キャピラリー等電点電気泳動)法によって測定されたpIに対応する。通常組換え抗体の等電点は約6~9.5である。
【0015】
本発明の文脈において「複合溶液」という用語は、目的のタンパク質を含む水性溶液を指し、これは、例えば細胞培養培地中に通常存在する化合物などの他の化合物(不純物とも呼ばれる)又は細胞培養の残留物をさらに含み得る。
【0016】
本発明の文脈において「クロマトグラフィー」という用語は、複合混合物中に存在する化合物を分離することを目的とした相平衡分配に基づく方法を指す。
【0017】
本発明の文脈において「液体クロマトグラフィー」という用語は、液体移動相中に存在する分子を固体固定相を使用することによって分離することを目的としたクロマトグラフィー法を指し、この方法では、複合溶液中の個々の溶質が液体移動相の影響下で固体固定相中を移動する速度の差の結果として、前記複合溶液中の目的の溶質が前記複合溶液中の他の溶質から分離される。通常、固体固定相は、分子のサイズ、極性、親水性などの分子の物理的又は化学的特徴に基づいて、材料の内部又は表面に前記分子を保持することを可能にする物理的及び/又は化学的特性を示す前記材料を含むか又はそれからなる。従って「液体クロマトグラフィー」という用語は、当技術分野で知られているすべての液体クロマトグラフィー技術、例えば親和性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、マルチモード又は混合モードクロマトグラフィーなどを包含する。当技術分野でよく知られているように、クロマトグラフィー法は、液体移動相を平面固体固定相と接触させることによって実施することができ、この場合、これは通常平面クロマトグラフィーと呼ばれるか、又は垂直の固定相に液体移動相を注ぐことによって実施することができ、この場合、これは通常カラムクロマトグラフィーと呼ばれる。
【0018】
本発明の文脈において「液体クロマトグラフィー工程」は、クロマトグラフィーカラムを用いて実施されるクロマトグラフィー法の任意の工程、例えば固体固定相を平衡化する工程、精製すべきタンパク質含有複合溶液を固体固定相上へ又は固体固定相を通して流す工程、固体固定相を洗浄する工程、目的のタンパク質を固体固定相から溶出(結合/溶出モードの場合)する工程、及び固体固定相を再生する工程を指すものとして理解されるべきである。
【0019】
本発明の文脈において、クロマトグラフィー工程又は技術に関連して使用される「結合-溶出モード」という用語は、クロマトグラフィー技術が、第1段階で、固体固定相上での精製すべきタンパク質の保持を最大化する一方、固体固定相上での液体移動相の他の成分の保持を最小限にし、及びさらに別の工程で固体固定相からの目的のタンパク質の解離(それにより溶出)を最大化することにより、分離すべきタンパク質を液体移動相の他の成分から分離するように設定されるクロマトグラフィー技術を実施するモードを指す。
【0020】
本発明の文脈において、クロマトグラフィー工程又は技術に関連して使用される「フロンタル」という用語は、クロマトグラフィー技術の実施モードを指し、ここで、クロマトグラフィー技術は、固体固定相上での精製すべきタンパク質の保持を最小限に抑える一方、固体固定相上での液体移動相の他の成分の保持を最小限に抑えることにより、精製すべきタンパク質が液体移動相の他の成分から分離されるように設定される。この条件では、不純物と固体固定相のリガンド間の相互作用は、目的のタンパク質と固体固定相のリガンド間の相互作用よりも強い必要がある。最終的には、ローディング工程中に、リガンド上で潜在的に結合している目的のタンパク質が不純物によって置き換えられ、分離が可能になる。
【0021】
本発明の文脈において、クロマトグラフィー工程又はクロマトグラフィー技術に関連して使用される「通過モード」という用語は、クロマトグラフィー技術の実施モードを指し、ここで、クロマトグラフィー技術は、固体固定相上での精製すべきタンパク質の保持を最小限に抑える一方、固体固定相上での液体移動相の他の成分の保持を最大化することにより、精製すべきタンパク質が液体移動相の他の成分から分離されるように設定される。
【0022】
本発明の文脈において「平衡化緩衝液」という用語は、目的のタンパク質を含まず、クロマトグラフィーカラムの固相に通されて、クロマトグラフィーの固体固定相のpH又は導電率を変更した後、目的のタンパク質を含む試料を固体固定相上に通過させて、試料の他の成分から目的のタンパク質のさらなる分離を可能に又は改善する緩衝液を指す。例えば、固相への目的のタンパク質の結合が求められる結合/溶出モードで使用される場合、平衡化緩衝液は、固相上での目的のタンパク質のさらなる保持を最大化する一方、液相中に存在する他の成分の保持を最小限に抑えるように設定される。あるいは、液相中に存在する不純物の結合が求められる通過モードで使用される場合、平衡化緩衝液は、前記固相上の目的のタンパク質のさらなる保持を最小限に抑える一方、液相中に存在する他の成分の保持を最大化するように設定される。
【0023】
本発明の文脈において「ローディング調整緩衝液」という用語は、クロマトグラフィーカラムの固相に通される液相(目的のタンパク質を含む)を希釈することを目的とした緩衝液を指すことを意味する。通常ローディング調整緩衝液は、液相のpH又は導電率を変更して、固相による液相の他の成分からの目的のタンパク質の分離を可能に又は改善するために使用される。例えば、固相への目的のタンパク質の結合が求められる結合/溶出モードで使用される場合、ローディング調整緩衝液は、前記固相上での目的のタンパク質の保持を最大化する一方、液相中に存在する他の成分の保持を最小限に抑えるように設定される。あるいは、液相中に存在する不純物の結合が求められる通過モードで使用される場合、ローディング調整緩衝液は、前記固相上の目的のタンパク質の保持を最小限に抑える一方、液相中に存在する他の成分の保持を最大化するように設定される。
【0024】
本発明の文脈において「洗浄緩衝液」という用語は、結合/溶出モードで使用される緩衝液を指し、これは、固相から目的のタンパク質を溶出させることなく、固相から不純物を溶出することが意図され、かつ適切である。
【0025】
本発明の文脈において「溶出緩衝液」という用語は、結合/溶出モードで使用される緩衝液を指し、これは、固相から目的のタンパク質を溶出することが意図され、かつ適切である緩衝液を指す。本発明の文脈において「再生緩衝液」という用語は、前記固相を使用して目的のタンパク質を液相の他の成分から分離した後、液相からの実質的にすべての化合物を固体支持体から除去するために固相に使用される緩衝液を指す。
【0026】
本発明の文脈において「リンス緩衝液」又は「再平衡化緩衝液」という用語は、目的のタンパク質を含まない緩衝液であり、新しい試料を固体固定相に通す前にクロマトグラフィーの固体固定相のpH又は導電率を変更するために、前記クロマトグラフィーが使用されて目的の液相が精製された後に、クロマトグラフィーカラムの固相に通される緩衝液を指すことを意味する。通常「リンス緩衝液」又は「再平衡化緩衝液」は、平衡化緩衝液と同様の化学的特性を有する。
【0027】
本発明の文脈において「親和性クロマトグラフィー」という用語は、例えば目的のタンパク質などの目的の溶質が、固体固定相に固定化された特異的リガンドに可逆的かつ特異的に結合される液体クロマトグラフィー法を指す。好ましくは特異的リガンドは、固体固定相に共有結合され、溶液が固体固定相に接触すると溶液中の目的のタンパク質にアクセスすることができる。目的のタンパク質が固定化リガンドに結合すると、固体固定相を通過する不純物などの複合溶液の他の成分からの分離が可能になる一方、目的のタンパク質が固体固定相上の固定化リガンドに特異的に結合したままである。次に、特異的に結合した目的のタンパク質は、親和性定数に影響を与えるように化学的又は物理的条件を変更することによって、固定化リガンドから除去される。固定化リガンドへの目的のタンパク質の結合は、例えば、低い又は高いpHを有する緩衝液を使用してpHを変更することによって、低い又は高い導電率を有する緩衝液を使用して目的のタンパク質の電荷を変更することによって、又は競合的リガンドを使用することによって、影響を受け得る。親和性クロマトグラフィーは通常結合/溶出モードを使用して実施され、このモードは、固体固定相上に固定化された特異的リガンドへの目的のタンパクの結合を最大化するように条件を設定された最初の工程と、固体固定相上に固定化された特異的リガンドからの目的のタンパク質の解離を最大化するように条件を設定されたさらなる工程とを含む。
【0028】
本発明の文脈において「プロテインA」という用語は、その天然源から回収されたプロテインA、合成的に(例えば、ペプチド合成又は組換え技術によって)生成されたプロテインA、及び、Fc領域などのCH2/CH3ドメインを有するタンパク質に結合する能力を保持しているその変種を指す。
【0029】
本発明の文脈において「プロテインL」という用語は、その天然源から回収されたプロテインL、合成的に(例えば、ペプチド合成又は組換え技術によって)生成されたプロテインL、及びFc領域などのCH2/CH3ドメインを有するタンパク質に結合する能力を保持しているその変種を指す。
【0030】
本発明の文脈において「イオン交換クロマトグラフィー」又は「IEX」という用語は、イオン化可能な分子をその総電荷に基づいて分離することを目的とした液体クロマトグラフィー法を指す。この定義には、通常陽イオン交換クロマトグラフィーと陰イオン交換クロマトグラフィーが含まれる。どちらも、期待される結果に応じて、結合/溶出モード、フロンタルモード、又は通過モードのいずれかで使用することができる。
【0031】
「陽イオン交換クロマトグラフィー」又はCEXは、負に荷電しており、従って固相上又は固相を通過する溶液中に存在する正に荷電した分子に結合する遊離陽イオンを有する固体固定相を用いて実施されるクロマトグラフィーを指す。陽イオン交換クロマトグラフィーは、例えば固体固定相の表面に固定化されたスルファノラート(強陽イオン交換体)又はカルボン酸塩(弱陽イオン交換体)基の使用に依存する場合がある。
【0032】
「陰イオン交換クロマトグラフィー」又はAEXは、正に荷電しており、従って固相上又は固相を通過する溶液中に存在する負に荷電した分子に結合する遊離陰イオンを有する固体固定相を用いて実施されるクロマトグラフィーを指す。陰イオン交換クロマトグラフィーは、例えば固体固定相の表面に固定化されたジエチルアミノエチル基(DEAE)の使用に依存する場合がある。
【0033】
本発明の文脈において「疎水性相互作用クロマトグラフィー」又はHICという用語は、分子の疎水性プロフィールに基づいて分子を分離することを目的とする液体クロマトグラフィー法を指す。通常HICは、固相上又は固相を通過する溶液中に存在するタンパク質の疎水性領域と優先的に相互作用する疎水性リガンドを特徴とする固体固定相を用いて実施される。例えばHICは、固体固定相の表面に固定化された脂肪族鎖(例えばヘキシル、ブチル、フェニル基)の使用に依存する場合がある。
【0034】
本発明の文脈において「マルチモードクロマトグラフィー」又は「混合モードクロマトグラフィー」又はMMCという用語は、いくつかの目的の物理化学的特性、例えば分子の総電荷及び疎水性プロフィールに基づいて、分子を分離することを目的とする液体クロマトグラフィー法を指す。通常MMCは、いくつかの目的の物理化学的特性、例えば疎水性リガンドと遊離イオンを組み合わせた固体固定相を使用して実施される。MMでは、固体固定相は、例えば前述のいくつかの特性を組み合わせたリガンドを含んでもよく、又はそれぞれが目的の特性を有する異なる種類の個々のリガンドを含んでもよい。最も一般的なMMCは、イオン交換化学基と脂肪族基を含むリガンドに依存しており、荷電リガンドと疎水性リガンドの組み合わせをもたらし、いわゆる「二峰性」相互作用モードが提供される(この例ではIEX及びHICベース)。
【0035】
本発明の文脈において「水性緩衝液」という用語は、緩衝特性を示す水性ベースの溶液を指し、これは、H+及びOH-イオンを吸収又は脱着することによって酸又は塩基の添加による著しいpH変化に抵抗する能力を有し、すなわち、pHがほぼ直線的な曲線に従ってpHが変化し、酸又は塩基のいずれかを添加しても突然pHがさらに上昇することがない。
【0036】
本発明の文脈において「トリス塩基」という用語は、CAS番号77-86-1に対応する化合物2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオールを指す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明は、複合溶液から目的のタンパク質を精製するための、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含むか又はそれらからなる水性緩衝液の使用に関し、前記使用は、少なくとも第1の液体クロマトグラフィーと第2のクロマトグラフィーとを含み、ここで各前記液体クロマトグラフィーについて、前記水性緩衝液は、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも1つの緩衝液として使用される。
【0038】
本発明はさらに、複合溶液から目的のタンパク質を精製する方法に関し、前記方法は、少なくとも第1の液体クロマトグラフィーと第2のクロマトグラフィーとを含み、ここで、各前記液体クロマトグラフィーについて、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液が、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも1つの緩衝液として使用される。
【0039】
有利には、前記使用又は方法において、第1又は第2の液体クロマトグラフィーについて、前記水性緩衝液は、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液から選択される少なくとも2つの緩衝液として使用される。
【0040】
有利には、前記使用又は方法において、第1及び第2の液体クロマトグラフィーについて、前記水性緩衝液は、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液から選択される少なくとも2つの緩衝液として使用される。
【0041】
有利には、前記使用又は方法において、第1又は第2の液体クロマトグラフィーについて、前記水性緩衝液は、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも3つの緩衝液として、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液として使用される。
【0042】
有利には、前記使用又は方法において、第1及び第2の液体クロマトグラフィーについて、前記水性緩衝液は、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも3つの緩衝液として、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液として使用される。
【0043】
好ましくは、前記使用又は方法は第3のクロマトグラフィーを含む。本発明の使用又は方法が第3のクロマトグラフィーを含む実施態様において、好ましくは酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む少なくとも1つの水性緩衝液は、前記第3の液体クロマトグラフィーについて、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも1つの緩衝液として使用される。有利には、前記使用又は方法において、第1、第2、及び第3の液体クロマトグラフィーについて、前記水性緩衝液は、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、再生緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも3つの緩衝液として、好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び再生緩衝液として使用される。
【0044】
本発明は、複合溶液から目的のタンパク質を精製するための方法に関し、ここで、前記方法は、少なくとも第1の液体クロマトグラフィー及び第2のクロマトグラフィーによって、前記目的のタンパク質を含む前記複合溶液を精製することを含み、ここで、前記第1及び第2の液体クロマトグラフィーのそれぞれについて、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも1つの工程が、化合物酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液を使用して実施される。
【0045】
好ましくは、本発明は複合溶液から目的のタンパク質を精製するための方法に関し、ここで、前記方法は:
【0046】
a)第1の固体固定相を含む少なくとも第1の液体クロマトグラフィーを使用して、前記目的のタンパク質を含む前記複合溶液を精製し、それによって目的のタンパク質の第1の溶出液を得る工程であって、ここで、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも1つの工程が、化合物酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液を使用して実施される、工程と、
【0047】
b)工程a)の目的のタンパク質の第1の溶出液を、第2の固体固定相を含む第2の液体クロマトグラフィーを使用して精製し、それによって目的のタンパク質の第2の溶出液を得る工程であって、ここで、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも1つの工程が、化合物酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液を使用して実施される、工程とを含む。
【0048】
任意選択的に、本発明の方法において、前記第2の固体固定相中に流される前に、目的タンパク質の第1の溶出液は、本発明のローディング調整緩衝液、すなわち酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液と混合される。
【0049】
好ましくは、上で詳述した本発明の方法において、第1又は第2の液体クロマトグラフィーのいずれかについて、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも2つの工程は、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液を使用して実施される。好ましくは、上で詳述した本発明の方法において、第1及び第2の液体クロマトグラフィーにおいて、少なくとも2つの工程が前記水性緩衝液を使用して実施される。好ましくは、上で詳述した本発明の方法において、第1又は第2の液体クロマトグラフィーのそれぞれにおいて、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相のリンスのすべての工程は、前記水性緩衝液を使用して実施される。好ましくは、上で詳述した本発明の方法において、第1及び第2の液体クロマトグラフィーにおいて、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相のリンスのすべての工程は、前記水性緩衝液を使用して実施される。
【0050】
好ましくは、前記方法は第3のクロマトグラフィーを含む。前記方法が第3のクロマトグラフィーを含む実施態様において、前記第1、第2、及び第3の液体クロマトグラフィーのそれぞれについて、固体固定相の平衡化、固体固定相の洗浄、目的のタンパク質の溶出、及び固体固定相の再生からなるリストから選択される少なくとも1つの工程は、前記水性緩衝液を使用して実施される。
【0051】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記水性緩衝液は、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムからなる。本発明の文脈において、水性緩衝液は主溶媒として水を含む。換言すれば、より好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記水性緩衝液は、水、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムからなる。
【0052】
示されるように、本発明はさらに、本発明に従って使用されるすべての緩衝液を、容易に、水で希釈され、水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを使用してpH及び導電率が調整され得る濃縮緩衝液から得ることによって、プロセス工程を簡略化し、保管スペースの必要性を低減するように実施することができる。結果として、本発明の使用及び方法は、本明細書に定義され、同じモル比のリン酸塩対トリス塩基及び同じモル比の酢酸塩対リン酸塩を有する緩衝液を使用して実施される。
【0053】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記水性緩衝液は、同じモル比のリン酸塩対トリス塩基、及び同じモル比の酢酸塩対リン酸塩を有する。
【0054】
本発明者らは、上記のような簡単な手段によって、すなわち水による希釈、及び水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを使用するpH及び導電率の調整により、多用途の緩衝液を調製するために有利に使用することができ、クロマトグラフィーの任意の工程に容易に適応できる、リン酸塩対トリス塩基のモル比、並びに酢酸塩対リン酸塩のモル比の値の範囲をさらに決定した。
【0055】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリス塩基のモル比は1~3であり、さらに好ましくは1.5~2である。さらに好ましくは、リン酸塩対トリスのモル比は約2である。
【0056】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記水性緩衝液中の酢酸塩対リン酸塩のモル比は、0.5~4、さらに好ましくは1~2.5である。
【0057】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリス塩基のモル比は1.5~2の間に含まれ、前記水性緩衝液中の酢酸塩対リン酸塩のモル比は1~2.5の間に含まれる。さらに好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリスのモル比は約2であり、酢酸塩対リン酸塩のモル比は1~2.5である。
【0058】
本明細書で詳述される使用及び方法の好適な実施態様において、前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリスのモル比は約2であり、酢酸塩対リン酸塩のモル比は約1である。本明細書で詳述される使用及び方法の別の好適な実施態様において、前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリスのモル比は約2であり、酢酸塩対リン酸塩のモル比は約2.5である。
【0059】
本明細書で詳述される方法及び使用で使用される水性緩衝液は、単一の緩衝母液から調製できるため、好ましくは本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリス塩基のモル比は1.5~2の間に含まれ、及び前記水性緩衝液中の酢酸塩対リン酸塩のモル比は1~2.5の間に含まれ、及び前記水性緩衝液は、同じモル比のリン酸塩対トリス塩基、及び同じモル比の酢酸塩対リン酸塩を有する。
【0060】
好ましくは、目的のタンパク質は組換えタンパク質である。さらに好ましくは、目的のタンパク質は、抗体、その断片、又は前記断片を含む融合タンパク質である。
【0061】
好ましくは、目的のタンパク質は、6~9.5の等電点を有し、有利には6~8.5の等電点を有する。
【0062】
本発明の文脈において、本発明の使用及び方法の第1及び第2、及び任意選択的に第3のクロマトグラフィーのそれぞれは、親和性クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性-相互作用クロマトグラフィー、又は好ましくは陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモードクロマトグラフィーからなるリストから選択される。本発明の文脈において、前記クロマトグラフィーは精製カスケードにおいて任意の順序で使用することができる。前記クロマトグラフィーのいずれも、期待される結果に応じて、結合/溶出モード、フロンタルモード、又は通過モードのいずれかで使用することができる。好ましくは、親和性クロマトグラフィーは結合/溶出モードで実施される。好ましくは、イオン交換クロマトグラフィーは通過モード又はフロンタルモードで実施される。
【0063】
クロマトグラフィー緩衝液の調製、特にその使用目的(平衡化、ローディング、洗浄、溶出など)及び使用モード(結合/溶出又は通過)に応じたpH及び導電率の調整は当技術分野で周知されており、多くの参考書やマニュアルで詳しく説明されている。当技術分野におけるこの一般的知識は、例えば、当業者が参照できるProtein Chromatography (Giorgo Carta & Alois Jungbauer, Wiley-VCH Verlag GMBH, 2010) で詳細に議論されている。
【0064】
通常、陽イオン交換クロマトグラフィーを結合/溶出モードで使用する場合、平衡化緩衝液は、固体固定相上に固定化された基のpIのpHよりも高いpHを有するように配合されて、目的のタンパク質を含む試料を流す前に、固体固定相が負に荷電することが確保される。次に、必要に応じて、利用可能なさまざまな溶液を使用して、目的のタンパク質を含む液体画分のpH及び/又は導電率が調整され、こうして適切な相互作用を改善される。そうすることで、タンパク質の物理化学的特性が溶液環境によって変化し、固定相との適切な相互作用が確保される。
【0065】
通常、目的のタンパク質のpIより低く、リガンドの基のpIより高い調整溶液を使用してpHを下げることができ、こうして、目的のタンパク質が正に荷電し、リガンドが正に荷電することが確保される。次に通常、目的のタンパク質の固体固定相への結合に影響を与えることなく、不要な分子を溶出するように、洗浄緩衝液が配合される。最後に通常、例えば目的のタンパク質のpIよりも高くなるようにpHを調整したり、及び/又は溶出緩衝液の導電率を調整することによって(特に、Naなどの陽イオンの濃度を増加させることによって)、目的のタンパク質が固体固定相から放出されることが確保されるように、溶出緩衝液が配合される。
【0066】
通常、陽イオン交換クロマトグラフィーを通過モードで使用する場合、平衡化緩衝液は、固体固定相上に固定化された基のpIよりも高いpHを有するように配合され、こうして、目的のタンパク質を含む試料を流す前に、固体固定相が負に荷電することが確保される。次に必要に応じて、目的のタンパク質は、目的のタンパク質のpIよりも高いpHを有するローディング調整緩衝液によって調整され、こうして、目的のタンパク質が陰性荷電を有し、固体固定相に結合しないことが確保される。
【0067】
通常、陰イオン交換クロマトグラフィーを結合/溶出モードで使用する場合、平衡化緩衝液は、固体固定相上に固定化された基のpIよりも低いpHを有するように配合されて、目的のタンパク質を含む試料を流す前に、固体固定相が正に荷電することが確保される。次に、必要に応じて、目的のタンパク質は、目的のタンパク質のpIよりも高いpHを葉酸ローディング調整緩衝液で希釈することができ、こうして、目的のタンパク質が負の電荷を有し、固体固定相に結合することが確保される。次に通常、洗浄緩衝液は、固体固定相への目的のタンパク質の結合に影響を与えないで、不要な分子を溶出するように、配合される。最後に通常、例えば、目的のタンパク質のpIより低くなるようにpHを調整することにより、及び/又は溶出緩衝液の導電率を調整することにより(特に、陰イオン、例えばClの濃度を上昇させることにより)、目的のタンパク質が固体固定相から放出されることが確保されるように、溶出緩衝液は調製される。
【0068】
通常、陰イオン交換クロマトグラフィーを通過モードで使用する場合、平衡化緩衝液は、固体固定相上に固定化された基のpIよりも低いpHを有するように配合され、こうして、目的のタンパク質を含む試料を流す前に、固体固定相が正に荷電することが確保される。次に、必要に応じて、目的のタンパク質は、目的のタンパク質のpIよりも低いpHを有するローディング調整緩衝液によって希釈することができ、こうして、目的のタンパク質が中性又は陽性荷電を有し、固体固定相に結合しないことを確保される。
【0069】
すでに示したように、本明細書で詳述される方法で使用される緩衝液の特定の組成は、広範囲の可能な緩衝液を提供し、そのため、当業者は、精製すべきタンパク質、緩衝液の使用目的、並びにクロマトグラフィーの使用されるモード(例えば、結合/溶出、通過)に最も適している水性緩衝液を選択し調製することによって、本発明の使用及び方法を容易に実施できるであろう。従って当業者は、示されたもの以外の化合物を使用することなく、前記緩衝液の成分の濃度、並びに前記緩衝液のpH及び導電率を容易に適合させることができる。
【0070】
タンパク質の精製、特に抗体の精製は一般に親和性クロマトグラフィーを使用して実施され、これはしばしば、最初のクロマトグラフィー工程として、又は少なくとも下流の精製カスケードの最初の段階で実施されることが非常に多い。実験部分で証明されるように、本発明の使用及び方法の必須部分を形成する本明細書で定義される水性緩衝液は、親和性クロマトグラフィーを含む下流の精製カスケードにおいて非常に効率的であることが証明されている。
【0071】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、少なくとも第1又は第2の液体クロマトグラフィーは親和性クロマトグラフィーであり、さらに好ましくは第1の液体クロマトグラフィーは親和性クロマトグラフィーである。好ましくは、親和性クロマトグラフィーは、プロテインA、プロテインL、及び組換え親和性リガンド親和性クロマトグラフィーからなるリストから選択される。換言すれば、好ましくは親和性クロマトグラフィーは、固定化されたプロテインA、プロテインL、又は組換え親和性リガンドを含む固体固定相を使用して実施される。好ましくは、親和性クロマトグラフィーはプロテインA親和性クロマトグラフィーである。換言すれば、好ましくは親和性クロマトグラフィーは、固定化プロテインAを含む固体固定相を使用して実施される。好ましくは親和性クロマトグラフィーは、結合/溶出モードで実施される。
【0072】
固定化されたプロテインAを含む固体固定相は当技術分野でよく知られており、及び市販されている。本発明を実施するために使用することができる固定化プロテインAを含む市販の固定相は、例えば、GE Healthcare LifeSciencesによって市販されているMabSelect(商標)樹脂(例えば、PrismA、SuRe(商標)、SuRe LX、SuRe pcc(登録商標)、Xtra(商標))、Milliporeによって市販されているEshmuno(登録商標)A及びProSep(登録商標)Ultra Plus、JSR Life Sciencesによって市販されているAmsphere(商標)A3、Puroliteから市販されているPraesto(登録商標)Jetted A50である。
【0073】
タンパク質の精製、特に抗体の精製には、一般に1つ又は2つのイオン交換クロマトグラフィーが含まれ、多くの場合、親和性クロマトグラフィーに対してさらに実施される。
【0074】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、第2及び第3の液体クロマトグラフィーのうちの少なくとも1つはイオン交換クロマトグラフィーであり、さらに好ましくは、第2の液体クロマトグラフィーはイオン交換クロマトグラフィーである。さらに好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、第2及び第3の液体クロマトグラフィーはイオン交換クロマトグラフィーである。さらに好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、第2及び第3の液体クロマトグラフィーはイオン交換クロマトグラフィーであり、第2の液体クロマトグラフィー及び第3の液体クロマトグラフィーは好ましくは通過モードで実施される。
【0075】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、第2及び第3の液体クロマトグラフィーのうちの少なくとも1つは陽イオン交換クロマトグラフィーであり、さらに好ましくは、第2の液体クロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィーである。好ましくは、陽イオン交換クロマトグラフィーは、フロンタル又は通過モードで実施され、さらに好ましくは通過モードで実施される。
【0076】
陽イオン交換クロマトグラフィーに適合した固体固定相は、当技術分野でよく知られており、及び市販されている。本発明を実施するために使用することができる陽イオン交換クロマトグラフィーに適合した市販の固体固定相は、例えば、Milliporeによって市販されているFractogel(登録商標)樹脂(例えば、Fractogel(登録商標)COO、Fractogel(登録商標)SO )、Milliporeによって市販されているEshmuno(登録商標)樹脂(例えば、Eshmuno(登録商標)S、Eshmuno(登録商標)HCX、Eshmuno(登録商標)CPS、Eshmuno(登録商標)CPX、Eshmuno(登録商標)CP-FT)、Sartoriusによって市販されているSartobind S膜、Pallによって市販されているMustang S膜である。
【0077】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、第2及び第3の液体クロマトグラフィーのうちの少なくとも1つは陰イオン交換クロマトグラフィーであり、さらに好ましくは、第3の液体クロマトグラフィーは陰イオン交換クロマトグラフィーである。好ましくは、陰イオン交換クロマトグラフィーはフロンタル又は通過モードで実施され、さらに好ましくは通過モードで実施される。
【0078】
陰イオン交換クロマトグラフィーに適合した固体固定相は当技術分野でよく知られており、市販されている。本発明を実施するために使用することができる陰イオン交換クロマトグラフィーに適合した市販の固体固定相は、例えばMilliporeによって市販されているEshmuno(登録商標)樹脂、Tosohによって市販されているToyopearl(登録商標)NH2-750F、Sartoriusによって市販されているSartobind Q膜、Pallによって市販されているMustang Q膜、Milliporeによって市販されているNatriFlo HD-Q膜である。
【0079】
マルチモードクロマトグラフィーに適合した固体固定相は当技術分野でよく知られており、市販されている。本発明を実施するために使用できるマルチモードクロマトグラフィーに適合した市販の固体固定相は、例えば、GE Healthcare Life Sciencesによって市販されているCapto-Adhereであり、これは陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモード樹脂であり、Sartoriusによって市販されているSartobind STICである。
【0080】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記第1の液体クロマトグラフィーは親和性クロマトグラフィー、好ましくはプロテインA親和性クロマトグラフィーであり、前記第2のクロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、又は好ましくは陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモードクロマトグラフィーである。さらに好ましくは、前記第1の液体クロマトグラフィーは親和性クロマトグラフィー、好ましくはプロテインA親和性クロマトグラフィーであり、前記第2のクロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィーである。
【0081】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記第1の液体クロマトグラフィーは親和性クロマトグラフィー、好ましくはプロテインA親和性クロマトグラフィーであり、及び前記第2のクロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、又は好ましくは陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモードクロマトグラフィー、好ましくは陽イオン交換クロマトグラフィーであり、及び前記第3のクロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、又は好ましくは陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモードクロマトグラフィー、好ましくは陰イオン交換クロマトグラフィー、又は陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモードクロマトグラフィーである。
【0082】
好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても、前記第1の液体クロマトグラフィーは親和性クロマトグラフィー、好ましくはプロテインA親和性クロマトグラフィーであり、及び前記親和性クロマトグラフィーは結合/溶出モードで実施される。前記第2のクロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、又は好ましくは陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモードクロマトグラフィーであり、好ましくは陽イオン交換クロマトグラフィーであり、さらに好ましくはフロンタル又は通過モードで実施される陽イオン交換クロマトグラフィーであり、及び前記第3のクロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、又は好ましくは陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモードクロマトグラフィー、好ましくは陰イオン交換クロマトグラフィーであるか、又は陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有するマルチモードクロマトグラフィーであり、さらに好ましくは、陰イオン交換クロマトグラフィー、又は好ましくは陰イオン交換特性と疎水性相互作用特性とを有する、フロンタルモード又は通過モードで実施されるマルチモードクロマトグラフィーである。
【0083】
より好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても:
- 目的のタンパク質は、抗体、その断片、又は前記断片を含む融合タンパク質であり、
- 目的のタンパク質の等電点は6~9.5でであり、
- 第1の液体クロマトグラフィーは親和性クロマトグラフィー、好ましくはプロテインA親和性クロマトグラフィーあり、
- 第2のクロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィー又は陰イオン交換クロマトグラフィー、好ましくは陽イオン交換クロマトグラフィーあり、
- 使用又は方法は、任意選択的に、陽イオン交換クロマトグラフィー又は陰イオン交換クロマトグラフィー、好ましくは陰イオン交換クロマトグラフィーである第3のクロマトグラフィーを含み、
- 前記第1と第2、及び任意選択的に第3の液体クロマトグラフィーのそれぞれについて、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液は、平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、及びリンス緩衝液の中から選択される少なくとも1つの緩衝液として、好ましくは平衡化緩衝液、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、及びリンス緩衝液から選択される少なくとも3つの緩衝液として、さらに好ましくは平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、及び代替的に再生緩衝液として使用され、
- 前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリス塩基のモル比は1.5~2であり、及び前記水性緩衝液中の酢酸塩対リン酸塩のモル比は1~2.5であり、及び前記水性緩衝液は、同じモル比のリン酸塩対トリス塩基と、及び同じモル比の酢酸塩対リン酸塩を有する。
【0084】
さらに好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても:
- 目的のタンパク質は、抗体、その断片、又は前記断片を含む融合タンパク質であり、
- 目的のタンパク質の等電点は6~9.5であり、
- 第1の液体クロマトグラフィーはプロテインA親和性クロマトグラフィーであり、
- 第2のクロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィーであり、
- 使用又は方法は、陰イオン交換クロマトグラフィーである第3のクロマトグラフィーを含み、
- 前記第1、第2、及び第3の液体クロマトグラフィーのそれぞれについて、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液は、ローディング調整緩衝液、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、及び代替的に再生緩衝液として使用され;
- 前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリス塩基のモル比は約2であり、前記水性緩衝液中の酢酸塩対リン酸塩のモル比は1~2.5であり、前記水性緩衝液は、同じモル比のリン酸塩対トリス塩基を、及び同じモル比の酢酸塩対リン酸塩を有する。
【0085】
さらに好ましくは、本明細書で詳述される使用及び方法のいずれにおいても:
- 目的のタンパク質は、抗体、その断片、又は前記断片を含む融合タンパク質であり、
- 目的のタンパク質の等電点は6~9.5であり、
- 第1の液体クロマトグラフィーはプロテインA親和性クロマトグラフィーであり、結合/溶出モードで実施され、
- 第2のクロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィーであり、好ましくはフロンタルモード又は通過モードで実施され、
- 使用又は方法は、陰イオン交換クロマトグラフィーを含む第3のクロマトグラフィーを含み、好ましくはフロンタルモード又は通過モードで実施され、
- 前記第1、第2及び、第3の液体クロマトグラフィーのそれぞれについて、酢酸塩、リン酸塩、トリス塩基、並びに任意選択的に水酸化ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水性緩衝液は、平衡化緩衝液、洗浄緩衝液、及び溶出緩衝液として使用され、
- 前記水性緩衝液中のリン酸塩対トリス塩基のモル比は約2であり、前記水性緩衝液中の酢酸塩対リン酸塩のモル比は1~2.5であり、及び前記水性緩衝液は、同じモル比のリン酸塩対トリス塩基を、及び同じモル比の酢酸塩対リン酸塩を有する。
【0086】
好ましくは、本明細書で詳述される方法は、低pH不活性化工程をさらに含み、これは、任意の液体クロマトグラフィーの前、2つの液体クロマトグラフィーの間、又はすべての液体クロマトグラフィーが実施された後に、実行され得る。好ましくは、前記低pH不活性化工程は、第1の液体クロマトグラフィーと第2の液体クロマトグラフィーとの間に実施される。好ましくは、前記低pH不活性化工程は、第2の液体クロマトグラフィーと第3の液体クロマトグラフィーとの間に実施される。
【0087】
好ましくは、本発明の方法は、ナノ濾過工程及び/又は限外濾過、及び透析濾過工程をさらに含み、これらは、任意の液体クロマトグラフィーの前、2つの液体クロマトグラフィーの間、又はすべての液体クロマトグラフィーが実施された後に、実行され得る。さらに好ましくは、前記ナノ濾過工程及び/又は限外濾過及び透析濾過工程は、すべての液体クロマトグラフィーの後に実施される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
図1】本発明の緩衝液の配合及び使用の原理。
図2】NaOH 1mol/Lを使用する2つの異なる配合による理論滴定曲線。
図3】実験的な滴定曲線。漸増量のNaOHを加えたときの、55mM酢酸塩、20mMリン酸塩、及び10mMトリス塩基を含む緩衝水溶液のpHと導電率の変化。
【実施例
【0089】
以下の実施例は、本発明の様々な実施態様の例示を意味しており、決して本発明の範囲又は定義を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0090】
実施例1.本発明の2つの緩衝液の理論的及び実験的滴定は、DSPプロセスのためのそのような緩衝液組成の多用性を裏付ける
以下の実験では、55mM酢酸塩、20mMリン酸塩、及び10mMトリス塩基、又は20mM酢酸塩、20mMリン酸塩、及び10mMトリス塩基を含む2つの水性緩衝液にNaOHを添加する滴定を、まず理論的に、すなわち当該技術分野で定義された数学的モデルを使用してコンピューターで、又は実験的に、すなわち実験室環境で実施した。
【0091】
1.材料と方法
溶液
緩衝液の調製のために、以下の溶液を作成した:
55mM酢酸塩、20mMリン酸塩、及び10mMトリス塩基、
滴定溶液として1MのNaOH。
これらの溶液は、Merck KGaAの対応する市販種を使用して作成される:
氷酢酸(64-19-7)、
オルトリン酸85%(7664-38-2)、
トリス塩基(77-86-1)、
NaOH32%(1310-73-2)。
緩衝液は室温で調製される。
【0092】
理論滴定
55mM酢酸塩、20mMリン酸塩、及び10mMトリス塩基、又は20mM酢酸塩、20mMリン酸塩、及び10mMトリス塩基を含む2つの水性緩衝液にNaOHを添加する理論的滴定は、Henderson-Hasselbalch方程式(熱力学モデル)に基づいて実施される:
【数1】
【0093】
pH:分子種の濃度の特定の値に対する溶液のpH、
Ka:酸解離定数、
[A-]:共役塩基の濃度、
[HA]:酸の濃度。
【0094】
多重平衡ケースの計算を実施するために社内ソフトウェアが使用される。この方法は、Baeza-Baeza et al. (Systematic Approach To Calculate the Concentration of Chemical Species in Multi-Equilibrium Problems, Journal of Chemical Education 2011 88 (2), 169-173) に詳述されている。
【0095】
実験的滴定
pHの滴定は、Metrohmの713pHメーター装置を使用して実施された。
導電率測定は、Metrohmの712伝動度測定器を使用して実施された。
測定はサプライヤーの推奨に従って実施される。滴定の各点は、一定量の1M NaOHの添加、すなわち緩衝液中のNaOHの総濃度に対応する。
【0096】
結果
図1及び2に示されるように、NaOHを添加すると、水性緩衝液のpHはおおよそ直線的に変化する。顕著なpH上昇は観察されず、pH2~10の全範囲にわたって溶液の緩衝特性が確認される。
【0097】
実施例2.本発明の方法を使用する精製カスケードの例
約8.5の等電点を有するモノクローナルIgG1抗体(以下、A1)を通常の細胞培養法を用いてCHO細胞内で組換え産生させ、採取した各細胞培養物を本発明の方法の2つの異なる実施態様に従って精製した。
【0098】
A.精製方法1
精製方法1では、以下の下流精製カスケードを以下の順序で実施した。
1.Amsphere A3カラム(JSR Life Scienceより)を使用するプロテインA親和性クロマトグラフィー
a)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)細胞培養物を採取し、Merck MilliporeのStericup 0.22μmで濾過し、カラムにロードした。
c)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整された第1の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
d)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1.5M NaClからなり、1M NaOHでpH5.5に調整した第2の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
e)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した第3の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
f)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH3.2に調整した緩衝液を使用して、目的のタンパク質をカラムから溶出した。溶出液は次のクロマトグラフィー用に保存した。
g)再生は0.1M NaOHを使用して実施した。
h)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
i)リンスは、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して実施した。
【0099】
2.Fractogel(登録商標)EMDCOO(M)カラム(Merck Milliporeより)を使用するCEXクロマトグラフィー
a)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)工程1.f)の溶出液を1M NaOHを用いてpH5.5に調整した後、カラムにロードした。
c)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した洗浄緩衝液を、カラムに通した。得られた通過画分(2.b及び2.c)は次のクロマトグラフィー用に保存した。
d)再生は、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1M NaClからなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して実施した。
e)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
f)リンスは、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して実施した。
【0100】
3.Capto Adhereカラム(GE Healthcareより)を使用するAEXクロマトグラフィー
a)水、0.025M酢酸塩、0.01Mリン酸塩、0.005Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH7.5に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)CEX通過画分を1M NaOHでpH7.5に調整した後、カラムにロードした。
c)水、0.025M酢酸塩、0.01Mリン酸塩、0.005Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH7.5に調整した洗浄緩衝液を、カラムに通した。得られた通過画分(3.b及び3.c)は分析用に保存した。
d)再生は、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1.5M NaClからなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して実施した。
e)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
工程3b)c)の通過画分の品質及び不純物の分析を実施した。結果を表1に示す。
【0101】
B.精製方法2
精製方法2では、以下の下流精製カスケードを以下の順序で実施した。
1.Amsphere A3カラム(JSR Life Scienceより)を使用するプロテインA親和性クロマトグラフィー
a)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)細胞培養物を採取し、Merck MilliporeのStericup 0.22μmで濾過し、カラムにロードした。
c)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した第1の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
d)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1.5M NaClからなり、1M NaOHでpH5.5に調整した第2の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
e)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.02Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した第3の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
f)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH3.2に調整した緩衝液を使用して、目的のタンパク質をカラムから溶出した。溶出液は次のクロマトグラフィー用に保存した。
g)再生は0.1M NaOHを使用して実施した。
h)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
i)リンスは、水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して実施した。
【0102】
2.Fractogel(登録商標)EMDCOO(M)カラム(Merck Milliporeより)を使用するCEXクロマトグラフィー
a)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)工程1.f)の溶出液を1M NaOHを用いてpH5.5に調整した後、カラムにロードした。
c)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した洗浄緩衝液を、カラムに通した。得られた通過画分(2.b及び2.c)は次のクロマトグラフィー用に保存した。
d)再生は、水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1M NaClからなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して実施した。
e)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
f)リンスは、水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して実施した。
【0103】
3.Capto Adhereカラム(GE Healthcareより)を使用するAEXクロマトグラフィー
a)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH7.5に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)CEX通過画分を1M NaOHでpH7.5に調整した後、カラムにロードした。
c)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH7.5に調整した洗浄緩衝液を、カラムに通した。得られた通過画分(3.b及び3.c)は分析用に保存した。
d)再生は、水、0.1M酢酸塩、0.1Mリン酸塩、0.05Mトリス塩基からなる緩衝液を使用して実施した。
e)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
f)リンスは、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH7.5に調整した緩衝液を使用して実施した。
工程3b)c)の通過画分の品質及び不純物の分析を実施した。結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0104】
結論:両方の精製カスケードの収率は同等である(約70%)。異なる採取ロットを使用しているにもかかわらず、凝集型の割合とHCP濃度は非常に低く、両方のカスケードで同等である(精製終了時のHCPは20ppm未満、HMWは0.3%)。2番目の例における短縮型の高い値は、対応する採取物の初期値と、LMWに対する精製の影響が限定的であるためである。結論として、使用したさまざまな緩衝液比は、性能と精製の点で優れた同等の結果を示した。
【0105】
実施例3.本発明の方法を使用する精製カスケードの実施例
6.09の等電点を有する抗体断片を含む融合タンパク質(以下、A2)を通常の細胞培養法を用いてCHO細胞内で組換え産生させ、採取したそれぞれの細胞培養液を本発明の方法の2つの実施態様に従って精製した。
【0106】
A.精製方法1
精製方法1では、以下の下流精製カスケードを以下の順序で実施した。
1.Amsphere A3カラム(JSR Life Scienceより)を使用するプロテインA親和性クロマトグラフィー
a)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)細胞培養物を採取し、Merck MilliporeのStericup 0.22μmで濾過し、カラムにロードした。
c)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した第1の洗浄緩衝液をカラムに通した。
d)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1.5M NaClからなり、1M NaOHでpH5.5に調整した第2の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
e)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した第3の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
f)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH3.2に調整した緩衝液を使用して、目的のタンパク質をカラムから溶出した。溶出液は次のクロマトグラフィー用に保存した。
g)再生は0.1M NaOHを使用して実施した。
h)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
i)リンスは、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して実施した。
【0107】
2.Fractogel(登録商標)EMDCOO(M)カラム(Merck Milliporeより)を使用するCEXクロマトグラフィー
a)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)工程1.f)の溶出液を1M NaOHを用いてpH5.5に調整した後、カラムにロードした。
c)水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した洗浄緩衝液をカラムに通した。得られた通過画分(2.b及び2.c)は次のクロマトグラフィー用に保存した。
d)再生は、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1M NaClからなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して実施した。
e)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
f)リンスは、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して実施した。
【0108】
3.Eshmuno Q カラム(Merck Milliporeより)を使用するAEXクロマトグラフィー
a)水、0.025M酢酸塩、0.01Mリン酸塩、0.005Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)CEX通過画分を1M NaOHでpH5に調整した後、カラムにロードした。
c)水、0.025M酢酸塩、0.01Mリン酸塩、0.005Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5に調整した洗浄緩衝液をカラムに通した。得られた通過画分(3.b及び3.c)は分析用に保存した。
d)再生は、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1.5M NaClからなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して実施した。
e)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
f)リンスは、水、0.05M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5に調整した緩衝液を使用して実施した。
工程3b)c)の通過画分の品質及び不純物の分析を実施した。結果を表1に示す。
【0109】
C.精製方法2
精製方法2では、以下の下流精製カスケードを以下の順序で実施した。
1.Amsphere A3カラム(JSR Life Scienceより)を使用するプロテインA親和性クロマトグラフィー
a)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)細胞培養物を採取し、Merck MilliporeのStericup 0.22μmで濾過し、次にカラムにロードした。
c)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した第1の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
d)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1.5M NaClからなり、1M NaOHでpH5.5に調整した第2の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
e)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.02Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した第3の洗浄緩衝液を、カラムに通した。
f)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH3.2に調整した緩衝液を使用して、目的のタンパク質をカラムから溶出した。溶出液は次のクロマトグラフィー用に保存した。
g)再生は0.1M NaOHを使用して実施した。
h)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
i)リンスは、水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して実施した。
【0110】
2.Fractogel(登録商標)EMDCOO(M)カラム(Merck Milliporeより)を使用するCEXクロマトグラフィー
a)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)工程1.f)の溶出液を1M NaOHを用いてpH5.5に調整した後、カラムにロードした。
c)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した洗浄緩衝液を、カラムに通した。得られた通過画分(2.b及び2.c)は次のクロマトグラフィー用に保存した。
d)再生は、水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基、1M NaClからなり、1M NaOHでpH8に調整した緩衝液を使用して実施した。
e)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
f)リンスは、水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して実施した。
【0111】
3.CEshmuno Q カラム(Merck Milliporeより)を使用するAEXクロマトグラフィー
a)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5に調整した緩衝液を使用して、カラムを平衡化した。
b)CEX通過画分を1M NaOHでpH5に調整した後、カラムにロードした。
c)水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5に調整した洗浄緩衝液をカラムに通した。得られた通過画分(3.b及び3.c)は分析用に保存した。
d)再生は、水、0.1M酢酸塩、0.1Mリン酸塩、0.05Mトリス塩基からなる緩衝液を使用して実施した。
e)消毒は0.5M NaOHを使用して実施した。
f)リンスは、水、0.02M酢酸塩、0.02Mリン酸塩、0.01Mトリス塩基からなり、1M NaOHでpH5.5に調整した緩衝液を使用して実施した。
工程3b)c)の通過画分の品質及び不純物の分析を実施した。結果を表2に示す。
【表3】
【表4】
【0112】
結論:両方の精製カスケードの収率は同等である(約65%)。異なる採取ロットを使用しているにもかかわらず、凝集型の割合とHCP濃度は非常に低く、両方のカスケードで同等である(精製終了時のHCPは30ppm、HMWは0.3%)。2番目の例における短縮型の高い値は、対応する採取物の初期値と、LMWに対する精製の影響が限定的であるためである。結論として、使用したさまざまな緩衝液比は、性能と精製の点で優れた同等の結果を示した。
【0113】
参考文献
Goyon et al.: Determination of isoelectric points and relative charge variants of 23 therapeutic monoclonal antibodies.Journal of Chromatography B, Volumes 1065-1066, 15 October 2017, Pages 119-128
Baeza-Baeza, J. J., & Garcia-Alvarez-Coque, M. C. (2011). Systematic Approach To Calculate the Concentration of Chemical Species in Multi-Equilibrium Problems”. Journal of Chemical Education, 88(2), 169-173
Carta G.and Jungbauer A. (2010) Protein Chromatography, Wiley-VCH Verlag GMBH.
図1
図2
図3
【国際調査報告】