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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-29
(54)【発明の名称】円偏光OLED発光層組成物
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/12 20230101AFI20231121BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20231121BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20231121BHJP
   H10K 59/12 20230101ALI20231121BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20231121BHJP
   H10K 101/30 20230101ALN20231121BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K50/86
H10K85/60
H10K59/12
C09K11/06 620
C09K11/06 645
C09K11/06 610
C09K11/06 690
H10K101:30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550707
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2021080208
(87)【国際公開番号】W WO2022090514
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】2011121
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523150772
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】523169039
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・デ・シアンス・ザプリケ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】523169040
【氏名又は名称】エコール・ナシオナル・シュペリウール・ドゥ・シミ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リュドヴィック・ファヴロー
(72)【発明者】
【氏名】ジャンヌ・クラスース
(72)【発明者】
【氏名】シッティチョーク・カセムタヴィチョーク
(72)【発明者】
【氏名】カイ・ドゥバイビ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・ピーテルス
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ラシーヌ
(72)【発明者】
【氏名】エティエンヌ・クイネル
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC04
3K107CC10
3K107CC32
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD66
3K107DD68
3K107DD69
3K107FF06
3K107FF11
3K107FF13
3K107FF19
(57)【要約】
本発明は、ホスト材料としてTADF特性を有するTADF分子、及びドーパントとしてCP特性を有する発光分子を含む、アクティブ型発光層組成物に関する。本発明はまた、この組成物から作製されたアクティブ型発光層を含む、発光デバイスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト材料としてTADF特性を有するTADF分子、及びドーパントとしてCP特性を有する発光分子を含む、アクティブ型発光層組成物。
【請求項2】
TADF分子が、一重項状態エネルギーレベル及び三重項状態エネルギーレベルを示し、発光分子が、TADF分子の一重項状態エネルギーレベル及び三重項状態エネルギーレベルよりも低い一重項状態エネルギーレベルを示す、請求項1に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項3】
発光分子が、吸収スペクトルを有し、TADF分子が、発光分子の吸収スペクトルと重なる発光スペクトルを有する、請求項1又は2に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項4】
以下の特性の少なくとも1つ:
- 0.01以上のTADF量子収率
- 0.10以上の発光量子収率、及び
- 0ではないglum値により測定される発光偏光
を示す、請求項1から3のいずれか一項に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項5】
発光分子が、ヘリセン誘導体、ヘリセノイド化合物、ビアリール系、面性キラリティーを有する分子(例えば、パラシクロファン誘導体)等のキラル分子である、請求項1から4のいずれか一項に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項6】
発光分子が、M立体配置又はP立体配置の、以下の一般式:
【化1】
を有する、カルボ[6]ヘリセン誘導体(これ以降H6)である、請求項5に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項7】
Bが、以下の式:
【化2】
のうちの1つ又はそれらの組合せ
を有するリンカーである、請求項6に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項8】
Rが、以下の式:
【化3】
の1つである、請求項6又は7に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項9】
発光分子が、P異性立体配置又はM異性立体配置にある、以下:
【化4】
これ以降H6(CN)2;
【化5】
これ以降H6(Py)2;
【化6】
これ以降H6(NH2)2;
【化7】
これ以降H6(NMe2)2;
【化8】
これ以降H6(TMS)2;
【化9】
これ以降H6(NPh)2;及び
【化10】
これ以降H6(DPP)2
のうちの1つである、請求項6から8のいずれか一項に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項10】
TADF分子が、以下:
【化11】
これ以降dt-BuCbzスルホン;
【化12】
これ以降Cbz-TRZ2;及び
【化13】
これ以降4-CbzIPN
のうちの1つ等のアキラル分子である、請求項1から9のいずれか一項に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項11】
TAFD分子及び発光分子の以下:
- dt-BuCbzスルホン及びH6(CN)2;
- Cbz-TRZ2及びH6(NPh)2;及び
- 4-CbzIPN及びH6(DPP)2
の組合せ物のうちの1つを伴う、請求項1から4のいずれか一項に記載のアクティブ型発光層組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に規定のアクティブ型発光層を有する、発光デバイス。
【請求項13】
OLEDである、請求項12に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円偏光を放射することが可能な有機発光ダイオード(OLED)のための組成物の技術分野、及びまたこのような組成物を組み込んだ光発光デバイスにも関する。更に特には、本開示は、OLED発光層又はアクティブ層のための組成物の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイは、近代生活において至る所に存在する。それらは、携帯電話、TV受像機、タブレットコンピュータ、e-リーダー、VR(バーチャルリアリティ)ヘッドセット、ウェアラブルスマートデバイス及び他の電子工学製品等と同様に、小型及び大型デバイスにおいて幅広く使用されている。このようなフラットパネルディスプレイは、主に、LCD、例えば、ねじれネマティックLCD(TN-LCD)及びスーパーねじれネマティックLCD(STN-LCD)によって主に供給されてきた。しかし、このようなデバイスは、低い固有の輝度を有しており、強力なバックライトが必要とされて、一層高い電力消費をもたらす。
【0003】
有機発光ダイオード(OLED)の開発は、一層明るいという可能性及び更に一層節電型のデバイスをもたらす。実際に、OLEDは、動作電力が低いこと及び電力消費量が低いこと、迅速な応答、広い視野角、高輝度、並びに高コントラスト比であるという利点を有する。したがって、それらは、最も有望な次世代ディスプレイ技術として見られている。
【0004】
OLEDパネルは、第1の電極、第2の電極、及び次に第1の電極と第2の電極との間の機能構造層を通常、備える。機能構造層は、第1の電極上に順次、積層された、ホール注入層、第1の正孔輸送層、第2の正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層及び電子注入層を備える。OLED技術は、有機発光層を構成する発光材料の性質に応じて、OLEDの2種の主要なファミリー:低分子に基づく材料及びポリマーを使用する材料に分類することができる。
【0005】
OLED材料及びデバイスに関する研究は、著しい進歩を遂げてきた。近年、研究者は、円偏光OLED(CP-OLED)の製造を検討してきた。CP-OLEDは、非偏光OLEDに比べると、非偏光OLEDにおける場合と同じコントラストレベルを得るために必要とされる全体的な輝度の低下が可能となる、すぐれたコントラストを実現する。全体的な輝度の低下は、ひいては、低電力消費をもたらす。
【0006】
今日に至るまで、最も有効な戦略は、出力時に光偏光の増幅を得るため、超分子スケールで自己集合可能な分子を使用することである。この目的のため、別の分子によって発生する光源の前に、キラルな液晶パッシブフィルターを使用することができる。これによって、約数十パーセントの偏光率を持たせることが可能となる。別の可能性は、本質的にキラルなポリマー又はキラル分子をドープしたアキラルなポリマーのどちらか一方による、液晶タイプの発光ポリマーを使用することである。これによって、高い偏光率に到達することが可能となる。
【0007】
例えば、EP1523533(B1)は、発光部分を有するカラミチック(ロッド様)液晶分子からなる、実質的に固定された、温度非依存性らせんピッチを有するキラルならせん液晶相を含む組成物を記載している。この組成物は、中間相、すなわち、液相と結晶化した固相との中間相中に存在する。
【0008】
別の例は、EP2877552(B2)であり、これは、ポリ(アリーレンビニレン)誘導体等のエレクトロルミネッセンスポリマー、及びヘリセン等のスケールミックキラルな非発光性ドーパントからなる組成物であって、これらが一緒にブレンドされた組成物を記載している。
【0009】
どちらの文書の原理も、純粋な蛍光エミッターの使用に依存していることである。これらの2つの文書により実現される解決策は、非常に高いレベルの円偏光特性を示すことがあるが、これらのシステムが到達することができる内部量子収率の最大値は、理論的に25%が限界である。したがって、これらの手法により作製されるCP-OLEDは、性能効率に限界があり、大規模用途でのそれらの使用の妨げとなる。
【0010】
第2の手法は、導電性マトリックス内部にキラル発光物質を使用して、円偏光を直接、発生させることである。この戦略は実施が容易であり、その性能は発光物質の固有の性能に完全に依存する。高い発光特性及び高い偏光率の両方を兼ね備えた分子を発見することは困難であることが分かっている。例えば、最大で75%という強力な円偏光率を有するランタニド錯体が使用されてきたが、化学的安定性が乏しいこと及び発光効率は非常に限られる。
【0011】
他の純粋な有機分子が、現在、探索されている。これらの有機分子は、約100%という高い内部作動収率を示すので、興味深い。このような分子は、熱的に活性化された遅延蛍光(TADF)特性を有する(これ以降TADF分子と称する)。TADFは、TADF分子の電気励起又は光励起時に、その励起状態が一重項スピン配置と三重項スピン配置の間である程度の平衡状態になる過程であり、これは、これらの2つの状態の間のエネルギーギャップ(ΔEST)によって支配される。その時間の間に、蛍光発光による一重項状態の失活が、三重項状態からのリン光発光よりもずっと速く起こるので(それぞれ、ns対μs)、上記の平衡は一重項状態の方にシフトする。最後に、2つの蛍光発光過程が存在し、1つは、一重項状態から直接、起こるものであり(即時蛍光、nsの時間スケール)、もう一方は、一重項-三重項励起状態の平衡の形成による、時間遅延するもの(遅延蛍光、μsの時間スケール)である。上記の純粋な蛍光エミッターの場合、25%という最大値に比べて、100%の理論内部量子効率をもたらし得るので、この平衡は、例えば、OLEDでは、非常に重要である。
【0012】
したがって、このような分子に関する現行の手法は、単一分子内に、TADF特性及びCP特性の両方を組み合わせることであり、これによって、CP-OLEDの製造プロセスが容易になると思われる。このようなキラルなTADF分子エミッターは、TADF過程及び強力なカイロプティカル特性(及び、真空蒸着の場合の高いラセミ化障壁)を示すことの両方に同時に到達するための、化学的特性及び光物理特性を併せ持つべきであるので、このような化合物をCP-OLED向けに設計することは、非常に困難な課題である。最近の例は、TADFとカイロプティカル特性との間の相乗効果を容易に得ることができることが見事なことを示す場合でさえも、化学特性/光物理特性及びカイロプティカル特性のいずれか一方を、他方を妨げることなく調節することは、困難な課題であり、妥協点にしか到達し得ない。
【0013】
しかし、現在のところ、このような分子の性能は、発光偏光率に関して、不十分であることが分かっている。実際に、現在まで、TADF特性とCP特性の両方を有する最良の分子は、約5×10-3となる偏光強度glumに到達した(Chenら、Chem. Commun.、2020、56、9380~9383頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】EP1523533(B1)
【特許文献2】EP2877552(B2)
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Chenら、Chem. Commun.、2020、56、9380~9383頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、OLED技術分野における発光層組成物の改善が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的のため、本発明は、ホスト材料としてTADF特性を有するTADF分子、及びドーパントとしてCP特性を有する発光分子を含む、アクティブ型発光層組成物を提供する。
【0018】
すなわち、本発明の手法は、電気励起の光エネルギーへの高い変換率を有する第1のTADF分子であって、このエネルギーを、ドーパントとして及び高い偏光率を有する円偏光の放射が可能なエミッターとしてCP特性を有する第2の発光分子(これ以降、CP分子)に移動することができる、上記の第1のTADF分子を組み合わせた、アクティブ型発光層内の二分子戦略である。
【0019】
本発明は、CP特性をなんら有さないホスト分子としてのTADF分子、及びTADF特性をなんら有さないドーパントとしてのCP分子を使用する点で、先行技術とは異なる。
【0020】
この新規な手法により、先行技術によって到達されるレベルよりも、高いレベルの本組成物により放射される光の偏光に到達することが可能となる。
【0021】
他の任意選択的な特徴及び非限定的な特徴は、以下の通りである。
【0022】
TADF分子は、一重項状態エネルギーレベル及び三重項状態エネルギーレベルを示すことができ、CP分子は、TADF分子の一重項状態エネルギーレベル及び三重項状態エネルギーレベルよりも低い一重項状態エネルギーレベルを示すことができる。
【0023】
CP分子は、吸収スペクトルを有することができ、TADF分子は、CP分子の吸収スペクトルと重なる発光スペクトルを有することができる。
【0024】
本組成物は、0ではないglum値により測定される発光偏光を示すことができる。好ましくは、絶対値|glum|は、5×10-4より高く、更に好ましくは1×10-3よりも高く、又は1×10-2より更に高い。この値は、発光強度の最大値が測定される波長において測定される。
【0025】
本組成物は、1%以上のTADF量子収率を示すことができる。好ましくは、TADF量子収率は、5%よりも高い。TADF量子収率は、好ましくは50%より低い。例えば、以下の図のいずれも、一層低い範囲の値又は一層高い範囲の値:10%、20%、30%及び40%として働くことができる。
【0026】
本組成物は、0.10以上の発光量子収率を示すことができる。好ましくは、発光量子収率は、5%よりも高い。量子収率は、好ましくは100%より低い。例えば、以下の図のいずれも、一層低い範囲の値又は一層高い範囲の値:10%、15%、20%、30%、50%、75%及び95%として働くことができる。
【0027】
CP分子は、ヘリセン誘導体、ヘリセノイド化合物、ビアリール系、面性キラリティーを有する分子(例えば、パラシクロファン誘導体)等のキラル分子であってもよい。
【0028】
CP分子は、例えば、一般式の化1:
【0029】
【化1】
【0030】
を有する、カルボ[6]ヘリセン誘導体(これ以降H6)であってもよい。
【0031】
式の化1中、B、リンカーは、化2に表されている以下の化学基:
【0032】
【化2】
【0033】
の1つであってもよい。
【0034】
化1の式中、Bはまた、化2の化学基のうちの2つ、例えば、化学基Aと化2の他の化学基のいずれか1つとの組合せであってもよく、好ましくは、このような場合、化学基Aは、化1のヘリセン基に結合している。特に、Bは、化2の化学基Fに結合した、化2の化学基Aであってもよい。
【0035】
化1の式中、Rは、化3に図示されている以下の化学基:
【0036】
【化3】
【0037】
の1つであってもよい。
【0038】
やはり好ましくは、H6は、以下の式である化4及び化5、化6、化7、化8、化9及び化10のいずれか1つを有する。
【0039】
【化4】
【0040】
4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジベンゾニトリル(これ以降H6(CN)2)。
【0041】
【化5】
【0042】
4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジピリジン(これ以降H6(Py)2)。
【0043】
【化6】
【0044】
4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジアニリン(これ以降H6(NH2)2)。
【0045】
【化7】
【0046】
4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジ(N,N-ジメチルアニリン)(これ以降H6(NMe2)2)。
【0047】
【化8】
【0048】
4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジ(トリメチルシラン)(これ以降H6(TMS)2)。
【0049】
【化9】
【0050】
4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジ(N-ヘキシル-1,8-ナフタルイミド)(これ以降H6(NPh)2)。
【0051】
【化10】
【0052】
4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジ(2,5-N-オクチル-3,6-ジ-2-チエニル-ピロロ[3,4-c]ピロール-1,4-ジオン)(これ以降H6(DPP)2)。
【0053】
H6は、P又はM立体配置を示すことができる。
【0054】
TADF分子は、アキラル分子であってもよい。特に、TADF分子は、化11、化12及び化13のいずれか1つを有することができる。
【0055】
【化11】
【0056】
9,9'-(スルホニルビス(4,1-フェニレン))ビス(3,6-ジ-tert-ブチル-9H-カルバゾー)(これ以降dt-BuCbzスルホン)。
【0057】
【化12】
【0058】
9-(4-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル)-1,3,6,8-テトラメチル-9H-カルバゾール(これ以降Cbz-TRZ2)。
【0059】
【化13】
【0060】
2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(これ以降4-CbzIPN)。
【0061】
本アクティブ型発光層組成物は、TADF分子とCP分子との以下:
- dt-BuCbzスルホン及びH6(CN)2;
- Cbz-TRZ2及びH6(NPh)2;及び
- 4-CbzIPN及びH6(DPP)2
の組合せ物のうちの1つを有することができる。
【0062】
しかし、本発明は、これらの組合せ物に限定されず:
- dt-BuCbzスルホンとH6(NPh)2又はH6(DPP)2;
- Cbz-TRZ2とH6(CN)2又はH6(DPP)2;
- 4-CbzIPNとH6(CN)2又はH6(NPh)2
任意の他の組合せ物も可能である。
【0063】
CP分子は、1~30モル%、好ましくは1~20モル%、1~10モル%又は1~5モル%の量のTADF分子であることができる。
【0064】
本組成物は、発光層からの電荷を導電するための導電性マトリックスを更に含んでもよい。このような場合、TADF分子の量は、好ましくは1~30モル%、好ましくは1~20モル%、1~10モル%又は1~5モル%の導電性マトリックスである。
【0065】
TADF分子とCP分子の両方の合計量は、本組成物の総重量の好ましくは1%~40%、5%~30%である。
【0066】
本発明はまた、上記のアクティブ型発光層組成物から作製されたアクティブ型発光層を有する発光デバイスを提供する。本発光デバイスは、OLED表示デバイスであってもよい。
【0067】
他の特徴、詳細及び利点は、以下の詳細説明及び図面に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】本発明の背景にある原理、とりわけ、TADF分子の一重項エネルギーレベルからCP分子の一重項エネルギーレベルへのエネルギーの移動を示す例示図である。
図2】室温における、ジクロロメタン溶媒中で記録した、250nm~600nmの間の、H6(CN)2の吸収スペクトル(点線)及び発光スペクトル(実線)を示すグラフであり、値は、正規化されており、したがって、最高のピークは1の値を有する。
図3】室温における、ジクロロメタン溶媒中で記録した、ほぼ400nm~600nmの間の、M-H6(CN)2(点線)及びP-H6(CN)2(実線)の左円(left-handed)放射光と右円放射光との間の強度差ΔIを示すグラフである。値は、正規化されており、したがって、全発光スペクトルの最高のピークImaxは、2の値を有する。このような状況では、Imaxの波長におけるΔIの値は、その波長におけるglum値である。
図4】室温における、フィルム上に記録した、H6(CN)2単独、dt-BuCbzスルホン単独、並びにdt-BuCbzスルホン及びH6(CN)2からなる組成物(dt-BuCbzスルホンの量が1、5、10及び20mol%)の、370nm~370nmの間の発光スペクトルを示すグラフである。
図5】室温において、フィルム上に記録した、ほぼ400nm~650nmの間の、BuCbzスルホン単独、並びにdt-BuCbzスルホン及びM-H6(CN)2又はP-H6(CN)2からなる組成物(dt-BuCbzスルホンの量は10mol%)の左円放射光と右円放射光との間の強度差ΔIを示すグラフである。値は、図5における発光強度の正規化した値に相当する。このような状況では、発光スペクトルにおける最高ピークの波長におけるΔIの値は、その波長におけるglum値である。
図6】室温における、ジクロロメタン溶媒中で記録した、ほぼ400nm~650nmの間の、M-H6(NPh)2(点線)及びP-H6(NPh)2(実線)の左円放射光と右円放射光との間の強度差ΔIを示すグラフである。値は、正規化されており、したがって、全発光(IR+IL)の最高のピーク値Imaxは、2に正規化されている。このような状況では、Imaxの波長におけるΔIの値は、その波長におけるglum値である。
図7】室温における、ジクロロメタン溶媒中で記録した、ほぼ550nm~725nmの間の、M-H6(DPP)2(点線)及びP-H6(DPP)2(実線)の左円放射光と右円放射光との間の強度差ΔIを示すグラフである。値は、正規化されており、したがって、全発光(IR+IL)の最高のピーク値Imaxは、2に正規化されている。このような状況では、Imaxの波長におけるΔIの値は、その波長におけるglum値である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本発明を、これより、添付の図1図7を参照しながら更に説明する。本開示全体を通して、化学化合物の名称とその開発した構造との間に相違がある場合、開発した構造が優先されるべきである(特に明記しない限り、その立体配置を考慮しない)。
【0070】
本発明の原理は、TADF分子からCP分子に起こるエネルギー移動に基づく;TADF分子は、ホストであり、CP分子は、エミッターであり、これは、円偏光発光を最終的に放射する。
【0071】
より正確には、図1に示されている通り、TADF分子の電気励起又は光励起時に、その励起状態が一重項S1スピン配置と三重項T1スピン配置の間である程度の平衡状態(項間交差過程及び逆項間交差過程を経る)があり、これは、これらの2つの状態間のエネルギーギャップΔESTによって支配される。その時間の間に、蛍光発光による一重項状態S1の失活が、三重項状態T1からのリン光発光よりもずっと速く起こるので(速度は、それぞれ、ns及びμsの桁である)、上記の平衡は一重項状態S1にシフトする。最後に、2つの蛍光発光過程が存在し、1つは、一重項状態S1から直接、起こるものであり(即時蛍光、nsの時間スケール)、もう一方は、一重項-三重項励起状態の平衡の形成による、時間遅延するもの(遅延蛍光、μsの時間スケール)である。純粋な蛍光エミッターの場合、25%という最大理論内部量子効率に比べて、100%の理論内部量子効率をもたらし得るので、この平衡は、例えば、OLEDでは、非常に重要である。
【0072】
本明細書作成者らは、TADF分子の一重項状態及び三重項状態よりもエネルギーが低い励起状態S'1を有する発光分子をTADF分子の固体フィルムにドーピングすると、その失活が、即時蛍光及び遅延蛍光とは異なる経路を介して起こり得ること、すなわち、TADF分子の一重項状態S1から最低エネルギーを有する発光分子の励起状態S'1へのエネルギー移動であることを見出した。発光分子は、その基底状態S'0に戻ると、最終的に光を放射する。本事例の場合、例えば、発光分子がキラル分子である場合、この発光分子は円偏光特性を示し、この発光分子は、TADF分子の光励起時及び/又は電気励起時に、円偏光を放射する。
【0073】
「ドーピング比」とは、TADFホストに言及すると、組成物中に存在するドーパントの割合(モル単位)のことである。この二分子系は、有機マトリックス中にも置かれて、三成分系アクティブ型層を形成することができる(ここで、「ドーピング比」はやはり、TADFホストに関すると、キラルなエミッターとTADFホストとの割合(モル単位)に基づく)。
【0074】
一層効率的なエネルギー移動を確実にするため、TADF分子の発光スペクトルは、CP分子の吸収スペクトルと重なるべきである。更に、OLEDデバイスの発光層内において、TADF分子に関するCP分子の比は、直接的なキャリア捕捉を回避するため、できる限り低くあるべきである。これは、CP分子は、ドーパントとして使用されているのであって、本組成物の主要構成成分として使用されているわけではないからである。しかし、十分なエネルギー移動を確実にして、残留TADF発光がないよう、CP分子が少なすぎるべきではない。したがって、TADF分子に対するCP分子の最適比は変わることがあり、当業者は、TADF分子とCP分子との様々な組合せに関する比を最適化することができると思われる。
【0075】
方法
NMRスペクトル測定。1H及び13C NMRスペクトルは、AVANCE III 400 BRUKER又はAVANCE I 500 BRUKERで、室温において記録した。ケミカルシフトδは、ppmで、及びカップリング定数Jは、Hzで示す。1H NMRスペクトルのケミカルシフトは、重水素化溶媒中の残留プロトン(protium)(δ=7.26ppm、CDCl3)を基準とする。13Cシフトは、δ=77.16ppmのCDCl3ピークを基準にする。
【0076】
質量分光測定。高分解能質量(HR-MS)決定は、溶媒技法として、CH2Cl2を用いる、ASAP(+又は-)又はESI及びMALDIによる、Bruker MaXis 4Gで、CRMPOで行った。質量の実験値及び計算値は、電子の質量を考慮して示す。
【0077】
UVスペクトル測定。UV-可視(UV-vis、M-1cm-1)吸収スペクトルは、UV-2401PC Shimadzu分光光度計で記録した。
【0078】
蛍光スペクトル測定。蛍光スペクトルは、FL920Edinburgh蛍光光度計で記録した。
【0079】
蛍光量子収率測定。希釈溶液(ジクロロメタン)中の蛍光量子収率は、以下の数式1を使用して測定する:式中、下付き文字「ST」及び「X」は、それぞれ、「標準品」及び「試料」を表し、Φは、蛍光量子収率であり、Gradは、積分した蛍光強度対吸光度のプロットからの勾配であり、ηは、溶媒の屈折率である。本明細書において使用した蛍光量子収率の基準は、0.5M硫酸及びローダミン6G中のキニーネ硫酸塩である(参照品及び試料化合物の励起は、同一波長で行った):
【0080】
【数1】
【0081】
固体状態の蛍光量子収率は、以下の数式2を使用して測定する;式中、「R」及び「X」は、それぞれ、参照品及び試料を表す。A(λ)は、励起波長λにおける吸光度であり、nは、屈折率であり、Dは積分強度である。発光量子収率は、エタノール中のローダミン6Gに対して測定した(ΦR=0.91)。参照品及び試料化合物の励起は、同一波長で行った。
【0082】
【数2】
【0083】
TADF量子収率測定。TADF量子収率は、酸素の存在下(ΦOx)及び非存在下(ΦAr)で求めた蛍光量子収率を使用することによって求められる;遅延蛍光は、酸素の存在下では無視できると仮定する(数式3を参照されたい)。
[数式3]
ΦX=ΦTADFCP=ΦAr
ΦCP=ΦOx
ΦTADF=ΦArOx
【0084】
ΦOx及びΦArは、全フォトルミネセンス量子効率を使用することによって求め、HamamatsuC9920-03積分球を使用して測定する。
【0085】
発光異方性因子測定。発光異方性因子glumは、円偏光の代表的なものである。それは、数式4によって測定され、IL及びIRは、それぞれ、左円偏光強度及び右円偏光強度を指す。
【0086】
【数3】
【0087】
glumの値は、-2~+2の範囲であり、負の値は、右円CPを意味し、正の値は、左円CPを意味する。0の値は、CPが存在しないことを意味する一方、絶対値2は、完全な円偏光であることを意味する。
【0088】
これらの測定は、CPL分光計(JASCO社)を使用して行った。試料をジクロロメタンに溶解し、キセノンオゾン不含ランプ150W LSを用いる90°幾何形状を使用して励起させた。以下のパラメータを使用した:発光スリット幅約2mm、積分時間=4秒、スキャン速度=50nm/分、積算=5。試料の励起は、350nmで行った。さらなる詳細は、Abbateら、2016[1]に見出すことができる。
【実施例
【0089】
(実施例1及び実施例2:2,15-ビスエチニルヘキサヘリセンH6(H)2及び4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジ(トリメチルシラン(trimethylsylane))H6(TMS)2)
化14の式のP-H6(H)2及びH6(TMS)2は、それぞれ、Crassous,Jら(2018)[2]によって以前に報告された戦略に従って調製した。
【0090】
【化14】
【0091】
(実施例2:4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジベンゾニトリルH6(CN)2)
P-H6(CN)2は、化15によって、以下に例示されている通りに合成した。最初に、P-H6(H)2(50mg、0.13mmol)及び4-ブロモベンゾニトリル(71mg、0.39mmol)をアルゴン下、25mLのオーブン乾燥したフラスコに入れた。次に、4mLの乾燥トルエン及び1mLの乾燥トリエチルアミン(Et3N)を加え、得られた溶液を1時間、アルゴンを通気することによって酸素不含にした。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh3)4)(15mg、0.013mmol)及びヨウ化銅(I)(CuI)(4.9mg、0.026mmol)を加え、この溶液を3時間、還流した。室温まで冷却後、溶液を短シリカプラグ(ジクロロメタン、CH2Cl2)に通した。粗製混合物をシリカ上のカラムクロマトグラフィー(8/2ヘプタン/CH2Cl2溶離液系)によって更に精製すると、P-H6(CN)2(63.9mg、85%)が黄色固体として得られた。
【0092】
【化15】
【0093】
1H NMR (300 MHz, 塩化メチレン-d2) δ 8.19 - 8.07 (m, 6H), 8.04 - 7.99 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.90 - 7.88 (s, 1H), 7.87 - 7.83 (dd, J = 3.1, 2.0 Hz, 3H), 7.69 - 7.67 (d, J = 1.3 Hz, 2H), 7.67 - 7.63 (d, J = 1.3 Hz, 2H), 7.47 - 7.44 (d, J = 1.2 Hz, 2H), 7.44 - 7.42 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 7.41 - 7.39 (d, J = 1.5 Hz, 1H).
13C NMR (75 MHz, 塩化メチレン-d2) δ 133.6, 133.2, 132.2, 132.1, 132.11, 132.1 - 132.0, 132.0 - 131.9, 131.8 - 131.7, 129.2 - 128.9, 128.2 - 128.0, 127.9 - 127.8, 127.9 - 127.8, 127.8 - 127.7, 127.7 - 127.6, 127.5 - 127.4, 127.4 - 127.3, 127.0 - 126.9, 124.0 - 123.6, 118.5 - 118.4, 118.4 - 118.3, 111.5 - 111.2, 94.3 - 93.1, 88.2 - 86.0.
HR-MS Ultraflex III、MALDI、370℃;イオン[M]+、C44H22N2、m/z 計算値578.17775、m/z 実験値578.182(Δ=7ppm)。
【0094】
(実施例3:4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジピリジンH6(Py)2)
P-H6(Py)2は、化16によって、以下に例示されている通りに合成した。P-H6(H)2(50mg、0.13mmol)及び4-ブロモピリジン塩酸塩(75.8mg、0.39mmol)の混合物をアルゴン下、25mLのオーブン乾燥したフラスコに入れた。次に、5mLの乾燥プロピルアミンを加え、得られた溶液に、1時間、アルゴンを通気することによって酸素不含にした。Pd(PPh3)4(15mg、0.013mmol)及びCuI(4.9mg、0.026mmol)を加え、この溶液を3時間、還流した。室温まで冷却後、溶液を短シリカプラグ(CH2Cl2)に通した。粗製混合物をシリカ上のカラムクロマトグラフィー(5/5ヘプタン/CH2Cl2溶離液系)によって更に精製すると、P-H6(Py)2(44.8mg、65%)が黄色固体として得られた。
【0095】
【化16】
【0096】
1H NMR (400 MHz, 塩化メチレン-d2) δ 8.61 - 8.59 (d, J = 1.7 Hz, 2H), 8.59 - 8.56 (d, J = 1.7 Hz, 2H), 8.16 - 8.12 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 8.12 - 8.10 (d, J = 1.6 Hz, 2H), 8.10 - 8.06 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 8.05 - 8.02 (s, 1H), 8.02 - 8.00 (s, 1H), 7.91 - 7.89 (s, 1H), 7.88 - 7.87 (s, 1H), 7.87 - 7.83 (m, 2H), 7.44 - 7.43 (d, J = 1.6 Hz, 1H), 7.42 - 7.41 (d, J = 1.6 Hz, 1H), 7.24 - 7.22 (d, J = 1.7 Hz, 2H), 7.22 - 7.20 (d, J = 1.6 Hz, 2H).
13C NMR (101 MHz, 塩化メチレン-d2) δ 149.9, 149.6, 133.6, 133.3, 132.4, 132.2, 132.2, 132.1, 132.0, 131.8, 131.6, 131.0, 129.1, 129.0, 127.9, 127.9, 127.9, 127.9, 127.9, 127.8, 127.7, 127.6, 127.5, 127. 5, 127.4, 127.4, 127.1, 126.8, 125.5, 124.9, 124.0, 123.4, 118.4, 118.0, 94.3, 92.0, 87.1, 84.2.
HR-MS Ultraflex III、MALDI、370℃;イオン[M+H]+、C40H23N2、m/z 計算値531.18557、m/z 実験値531.182(Δ=7ppm)。
【0097】
(実施例4:4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジアニリンH6(NH2)2)
P-H6(NH2)2は、化17によって、以下に例示されている通りに合成した。P-H6(H)2(50mg、0.13mmol)及び4-ヨードアニリン(126mg、0.575mmol)をアルゴン下、25mLのオーブン乾燥したフラスコに入れた。次に、5mLの乾燥プロピルアミンを加え、得られた溶液に、1時間、アルゴンを通気することによって酸素不含にした。Pd(PPh3)4(15mg、0.013mmol)及びCuI(4.9mg、0.026mmol)を加え、この溶液を3時間、還流した。室温まで冷却後、溶液を短シリカプラグ(CH2Cl2)に通した。粗製混合物をシリカ上のカラムクロマトグラフィー(5/5ヘプタン/CH2Cl2溶離液系)によって更に精製すると、P-H6(NH2)2(47.2mg、65%)が黄色固体として得られた。
【0098】
1H NMR (400 MHz, 塩化メチレン-d2) δ 8.10 - 7.94 (m, 8H), 7.85 - 7.78 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.75 - 7.72 (m, 2H), 7.37 - 7.35 (d, J = 1.6 Hz, 1H), 7.34 - 7.33 (d, J = 1.6 Hz, 1H), 7.14 - 7.13 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 7.12 - 7.11 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 6.64 - 6.62 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 6.62 - 6.59 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 3.93 - 3.85 (s, 4H).
13C NMR (101 MHz, 塩化メチレン-d2) δ 148.1, 146.2, 133.6, 133.3, 132.9, 132.7, 132.2, 131.8, 131.6, 131.4, 131.3, 131.1, 129.6, 129.3, 128.2, 127.9, 127.8, 127.7, 127.7,127.6, 127.5, 127.4, 127.3, 127.2, 127.1, 126.9, 124.5, 123.6, 120.7, 119.9, 115.3 ,114.3, 112.9, 111.9, 90.4, 88.7, 88.1, 86.7.
HR-MS Ultraflex III、MALDI、370℃;イオン[M]+、C42H26N2、m/z 計算値558.20905、m/z 実験値558.207(Δ=4ppm)。
【0099】
(実施例5:4,4'-(ヘキサヘリセン-2,15-ジイルビス(エチン-2,1-ジイル))ジ(N,N-ジメチルアニリン)H6(NMe2)2)
P-H6(NMe2)2は、実施例4のH6(NH2)2から、化17によって以下に例示されている通りに合成した。丸底フラスコ中に、5mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解したP-H6(NH2)2(30mg、0.054mmol)の溶液に、ホルムアルデヒド(0.04mL、0.13mmol)を滴下して加えた。この混合物をアルゴン下、室温で15分間、撹拌した。次に、この溶液に、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)(34mg、0.54mmol)を直接、導入した。この混合物を室温で15分間、2度目に撹拌した。酢酸(1mL)を加えて、反応を停止し、この溶液を室温で2時間、撹拌した。水及びジクロロメタン(それぞれ、25mL)を添加した後、有機層を分離し、水層をジクロロメタンにより抽出した。有機層のすべてを集め、MgSO4で脱水し、溶媒を蒸発させた。粗生成物をシリカのプラグにより精製し、ジクロロメタンによって洗浄し、所望の生成物P-H6(NMe2)2が黄色固体(14.9mg、45%)として得られた。
【0100】
【化17】
【0101】
1H NMR (400 MHz, 塩化メチレン-d2) δ 8.16-7.97 (m, 8H), 7.91-7.81 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.81 - 7.74 (d, J = 1.5 Hz, 2H), 7.43 - 7.34 (dd, J = 8.2, 1.6 Hz, 2H), 7.26 - 7.24 (d, J = 2.1 Hz, 2H), 7.23 - 7.21 (d, J = 2.0 Hz, 2H), 6.73 - 6.69 (d, J = 2.1 Hz, 2H), 6.69 - 6.66 (s, 2H), 3.20 - 2.52 (s, 12H).
13C NMR (126 MHz, 塩化メチレン-d2) δ 150.6, 149.5, 133.4, 133.1, 132.5, 132.3, 131.9, 131.7, 131.3, 131.2, 131.0, 130.7, 129.5, 129.3, 127.9, 127.8, 127.6, 127.6, 127.5, 127.4, 127.3 - 127.2 (d, J = 3.7 Hz), 127.2, 127.1, 126.8, 126.7, 124.1, 123.8, 120.6, 120.3, 112.7, 110.6, 110.5, 109.4, 90.4, 89.1, 88.2, 86.4, 40.5, 39.2.
HR-MS Ultraflex III、ESI、370℃;イオン[M+H]+、C46H35N2、m/z 計算値615.27947、m/z 実験値615.2796(Δ=0ppm)。
【0102】
(実施例6)
上の実施例1~実施例5に関する298Kにおけるジクロロメタン中の発光量子収率、及び発光異方性因子の測定結果を、以下のTable 1(表1)に要約する(表中、「yEx」は、「y×10x」を表す)。
【0103】
【表1】
【0104】
(実施例7)
本発明の例示をここに提示する。この実施例では、アクティブ型発光層組成物は、TADF分子として、dt-BuCbzスルホン及びCP分子としてH6(CN)2を含む。TADF分子dt-BuCbzスルホンは、Adachiらによって2012年に開発された[3]一方、H6(CN)2は、本発明者らが知る限り、本出願者によって初めて合成されて開発された。
【0105】
H6(CN)2は、415nmでは2.99eV、及び425nmでは、2.92eVの一重項エネルギーレベルを呈する。H6(CN)2の光物理特性及びカイロプティカル特性は、図2及び図3に示す。
【0106】
以下のTable 2(表2)は、正規化後の吸収値を示し、Table 3(表3)は、250nm~600nmの間の正規化後の発光値を示し、図2に相当する。図2では、正規化後の吸収は、点線で表されている一方、正規化後の発光は、実線として表されている。最高のピークは、値1に正規化されており、もう一方は、それに比例する。
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
以下のTable 4(表4)は、P-H6(CN)2(実線)及びM-H6(CN)2(点線)の250nm~600nmの間の正規化後の左円発光値と正規化後の右円発光値の間の強度差ΔIを示しており、図3に対応する(表中、「yEx」は、「y×10x」を表す)。H6(CN)2のP立体配置及びM立体配置に関する、正規化後の左円発光及び正規化後の右円発光の間の差異は、座標0の線からほぼ対称であることを観察することができる。更に、正規化は、2の値で正規化した全発光スペクトルの最高のピークに基づいているので(図2とは異なる)、最高の全強度ピークの波長におけるΔIの値は、glumを与える。H6(CN)2のglum値は、約3×10-2であることが分かった。しかし、それは、TADF特性を有さない。
【0110】
【表4】
【0111】
H6(CN)2をドープしたdt-BuCbzスルホンからなる組合せ物を試験するため、5種のドーピング比(dt-BuCbzスルホンの総量が、1、5、10及び20mol.%)を作製し、基材上の固体フィルムにスピンコーティングした。発光の測定は、図4の370nm~650nmに提示し、値を以下のTable 5(表5)に更に示す(表中、「yEx」は、「y×10x」を表す)。「CP」は、「H6(CN)2単独」を表し、「TADF」は、「dt-BuCbzスルホン単独」を表し、「x%」は、「xmol.%のH6(CN)2をドープしたdt-BuCbzスルホン」を表す。
【0112】
【表5A】
【0113】
【表5B】
【0114】
以下のTable 6(表6)は、dt-BuCbzスルホン単独(TADF)、並びにdt-BuCbzスルホンとP-H6(CN)2(P-CP;点線)及びM-H6(CN)2(M-CP;実線)dt-BuCbzスルホンの総量の10mol.%を構成する組成物のほぼ400nm~650nmの間の、正規化後の左円発光値及び正規化後の右円発光値の間の強度差ΔIを示している(表中、「yEx」は、「y×10x」を表す)。Table 6(表6)は、図5に相当する。H6(CN)2のP立体配置及びM立体配置に関する、正規化後の左円発光及び正規化後の右円発光の間の差異は、座標0の線からほぼ対称であることを観察することができる。更に、正規化は、2の値で正規化した全発光スペクトルの最高のピークに基づいているので、最高の全発光ピークの波長におけるΔIの値は、glumを与える。Table 5(表5)から、10mol.%のH6(CN)2を含むdt-BuCbzスルホンに関する最大強度は、430nmの波長に相当することが観察され得る。Table 6(表6)から、430nmにおいて、ΔIの値(すなわち、glumの値)は、M-H6(CN)2及びP-H6(CN)2を含む組成物の場合、それぞれ、1.59×10-2及び1.44×10-2であることが観察され得る。
【0115】
【表6】
【0116】
Dt-BuCbzスルホンは、415nmにおいて2.99eV、及び425nmにおいて2.92eVである、H6(CN)2の一重項よりも高いエネルギーレベルにおいて、一重項状態及び三重項状態を有する。更に、dt-BuCbzスルホンの発光スペクトルは、H6(CN)2の吸収スペクトルと重なる。
【0117】
これらの結果は、TADF分子からCP分子への発光移動は、わずか1%のドーパントでさえも定量的であることを示しており、これは、TADF分子から円偏光発光をもたらすCP分子への非偏光発光の移動の証拠を提示するものである。発光強度全体は、dt-BuCbzスルホン中のH6(CN)2の比が、1mol.%から10mol.%に低下するにつれて低下する。しかし、発光強度全体は、10mol.%から20mol.%まで、代わりに向上する。実施例1の組成物は、シアンブルー色をもたらす。
【0118】
(実施例8)
実施例7のCP分子をH6(NPh)2又はH6(DPP)2によって置きかえることができる。
【0119】
図6は、P-H6(NPh)2(実線)及びM-H6(NPh)2(点線)の左円ルミネッセンス光と右円ルミネッセンス光との間の強度差ΔIが示されていることを示す。P-H6(NPh)2は、右円光よりも左円光を多く放射することが観察され得、その結果、これは、P-H6-(NPh)2が、ある程度、左円偏光を放射すると述べることができる。同様に、M-H6(NPh)2は、左円光よりも右円光を多く放射し、その結果、これは、M-H6-(NPh)2が、ある程度、右円偏光を放射すると述べることができる。どちらの分子のΔIの最大値も、495nm近くに観察された。H6(NPh)2は、70%の発光量子収率及び3×10-3の発光異方性因子を有する。H6(NPh)2は、緑色をもたらす。
【0120】
図7は、P-H6(DPP)2(実線)及びM-H6(DPP)2(点線)の左円ルミネッセンス光と右円ルミネッセンス光との間の強度差ΔIを示す。P-H6(DPP)2は、右円光よりも左円光を多く放射することが観察され得、その結果、これは、P-H6(DPP)2が、ある程度、左円偏光を放射すると述べることができる。同様に、M-H6(DPP)2は、左円光よりも右円光を多く放射し、その結果、これは、M-H6(DPP)2が、ある程度、右円偏光を放射すると述べることができる。どちらの分子のΔIの最大値も、605nm近くに観察された。H6(DPP)2は、40%の発光量子収率及び7×10-4の発光異方性因子を有する。H6(DPP)2は、赤色をもたらす。
【0121】
実施例7のTADF分子は、それぞれ、Adachiら、2017[4]及びAdachiら、2012[5]において記載されている、Cbz-TRZ2又は4-CbzIPNによって置きかえることができる。Cbz-TRZ2は、86%のTADF量子収率を有する一方、4-CbzIPNの場合、量子収率は94%である。
【0122】
以下の組合せ物は、特に良好な結果をもたらす:Cbz-TRZ2とH6(NPh)2及び4-CbzIPNとH6(DPP)2
【0123】
本明細書に記載されているTADF分子及びCP分子に加え、所望の相乗的CP-TADF特性を得るために、TADF分子及びCP分子の多数の可能な連携が企図され得る。例えば、CP分子の場合、他のヘリセン誘導体、ヘリセノイド化合物(この場合、らせん多環式化合物は、完全には共役していない)、ビアリール系、及びパラシクロファン誘導体等の面性キラリティーを有するキラル分子に関して考えることができる。
【0124】
参考文献
[1] Longhi, G.; Castiglioni, E.; Koshoubu, J.; Mazzeo, G.; Abbate, S., “Circularly Polarized Luminescence: A Review of Experimental and Theoretical Aspects”, Chirality 2016, 28 (10), 696-707
[2] Dhbaibi, K.; Favereau, L.; Srebro-Hooper, M.; Jean, M.; Vanthuyne, N.; Zinna, F.; Jamoussi, B.; Di Bari, L.; Autschbach, J.; Crassous, J., “Exciton coupling in diketopyrrolopyrrole-helicene derivatives leads to red and near-infrared circularly polarized luminescence”, Chem. Sci. 2018, 9, 735-742
[3] Zhang, Q.; Li, J.; Shizu, K.; Huang, S.; Hirata, S.; Miyazaki, H.; Adachi, C., “Design of Efficient Thermally Activated Delayed Fluorescence Materials for Pure Blue Organic Light Emitting Diodes”, J. Am. Chem. Soc., 134, 36, 14706-14709 (2012)
[4] Cui, L.-S.; Nomura, H.; Geng, Y.; Kim, J. U.; Nakanotani, H.; Adachi, C., “Controlling Singlet-Triplet Energy Splitting for Deep-Blue Thermally Activated Delayed Fluorescence Emitters”, Angew. Chem. Int. Ed., 56, 1571 (2017)
[5] Uoyama, H.; Goushi, K.; Shizu, K.; Nomura, H.; Adachi, C., “Highly efficient organic light-emitting diodes from delayed fluorescence”, Nature, 492, 234-238 (2012).
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】