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特表2023-550090生体細胞へのメカノポレーションベースのペイロード送達のための方法及びシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(54)【発明の名称】生体細胞へのメカノポレーションベースのペイロード送達のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20231122BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/00 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529914
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 US2021059856
(87)【国際公開番号】W WO2022109113
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】63/115,507
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523180300
【氏名又は名称】セルフィー、インク.
【氏名又は名称原語表記】CELLFE,INC.
【住所又は居所原語表記】980 Atlantic Avenue, Suite #110,Alameda,California 94501 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(74)【代理人】
【識別番号】110000763
【氏名又は名称】弁理士法人大同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン、セウーン
(72)【発明者】
【氏名】サイチャー、イアン
(72)【発明者】
【氏名】アレクセーエフ、アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】キム、オクチョル
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB01
4B029CC01
4B029DC05
4B029HA05
4B065AA01X
(57)【要約】
本明細書では、生体細胞へのメカノポレーションベースの高スループットペイロード送達のための方法及びシステムについて説明する。例えば、1つのシステムは1分当たり少なくとも10億個の細胞、又は1分当たり少なくとも250億個の細胞を処理でき、これは従来の方法よりも大幅に多い。細胞処理装置は、複数の処理コンポーネントを積み重ねて形成された処理アセンブリを備える。各処理コンポーネントは、細胞培地中の細胞の濾過、メカノポレーション、及び/又は分離に使用できるチャネルを備える。この機能は、各チャネルの構成によって異なる。例えば、各チャネルは、各リッジが隣接する処理コンポーネントの1つと処理ギャップを形成するように、1つ又は複数のリッジを備える。リッジは側壁まで延びることも、壁とのバイパスギャップを形成することもできる。処理ギャップは、とりわけ、細胞がこれらのギャップを通過するときに細胞を圧縮し、それによってメカノポレーションプロセスが開始されるように構成できる。
【選択図】 図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に沿って積み重ねられた複数の処理コンポーネントを含む処理アセンブリを具備し、
各々の処理コンポーネントは、主軸に垂直な方向に延在し、細胞集団を含む細胞培地を流すように構成された複数のチャネルを備え、
各々のチャネルは1つ又は複数のリッジを備え、1つ又は複数のリッジの各々は隣接する処理コンポーネントの1つとギャップを形成し、そのギャップが細胞集団中の少なくとも1つの細胞の直径よりも小さいため、細胞集団がギャップを通過する間に少なくとも1つの細胞が圧縮される、
メカノポレーションを使用して細胞を処理する細胞処理装置。
【請求項2】
各々の処理コンポーネントがリング状になっており、
主軸はリングの中心軸であり、
各々のチャネルは主軸から放射状に延びている、
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項3】
処理コンポーネントのチャネルは互いに平行に伸びている、
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項4】
さらに、入口コンポーネントと、入口コンポーネントに対してシールされ内部キャビティを形成する出口コンポーネントとを備え、
処理アセンブリは内部キャビティ内に配置される、
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項5】
処理コンポーネントは、入口開口と出口開口とを備えるプレートであり、複数のチャネルが入口開口と出口開口との間に延在する、
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項6】
入口開口と出口開口の各々は主軸に垂直な平面内に三角形の境界を有する、
請求項5に記載の細胞処理装置。
【請求項7】
入口プレートと出口プレートとをさらに備え、入口プレートと出口プレートとの間で主軸に沿って複数の処理コンポーネントが積み重ねられており、
入口プレートは、各々の処理コンポーネントの出口開口内に延在し、異なる処理コンポーネントの出口開口内で異なる体積を占める入口突出部を備え、
出口プレートは、各々の処理コンポーネントの入口開口内に延在し、異なる処理コンポーネントの出口開口部内で異なる体積を占める出口突出部を備える、
請求項6に記載の細胞処理装置。
【請求項8】
入口開口及び出口開口の各々は、細胞集団を含む細胞培地の流れ方向に沿って変化する断面積を有し、それによって細胞培地の実質的に一定の線形流量を維持する、
請求項5に記載の細胞処理装置。
【請求項9】
入口開口は、入口と各々のチャネルとの間に樹状ネットワークを形成する複数の分岐チャネルによって形成される、
請求項5に記載の細胞処理装置。
【請求項10】
複数の処理コンポーネントの各々は複数の試薬分配経路を備え、複数の試薬分配経路の各々はチャネルのうちの1つの中に1つ又は複数のリッジに近接した試薬分配経路開口を含む、
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項11】
各々の処理コンポーネントは、第1の表面と、第1の表面の反対側の第2の表面を備え、
処理コンポーネントのうちの1つの第1の表面は、隣接する処理コンポーネントのうちの1つの第2の表面と接合する、
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項12】
処理コンポーネントのうちの1つの各々のチャネルは、
処理コンポーネントのうちの1つの第1の隔壁と、
第1の分離壁の反対側にあり、第1の分離壁に平行な、処理コンポーネントのうちの1つの第2の分離壁と、
処理コンポーネントのうちの1つのチャネル壁と、
隣接する処理コンポーネントのうちの1つの第2の表面と、
で形成される、請求項11に記載の細胞処理装置。
【請求項13】
処理アセンブリの少なくとも一部は、一次フィルター、メカノポレーター、又はセパレーターのうちの1つ又は複数として動作可能である。
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項14】
処理アセンブリは、細胞集団を含む細胞培地の線形流量が一次フィルターを通過するよりもメカノポレーターを通過する方が高くなるように、一次フィルターとメカノポレーターの両方として動作可能である、
請求項13に記載の細胞処理装置。
【請求項15】
処理コンポーネント全体の圧力降下を監視するための入口圧力センサーと出口圧力センサーをさらに備える、
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項16】
細胞媒体源への接続に使用される入口と、
複数のチャネルの各々に流体結合され、細胞培地レシーバーへの接続に使用される出口と、
コレクタキャビティ及びコレクタポートを備え、コレクタキャビティは、コレクタポート、入口、及び複数のチャネルの各々と流体に結合されている、細胞培地コレクタと、
をさらに備え、
コレクタポートは、ガス流源への接続に使用されます。
請求項1に記載の細胞処理装置。
【請求項17】
入口はコレクタポートよりも処理アセンブリの近くに配置されている、
請求項16に記載の細胞処理装置。
【請求項18】
入口は処理アセンブリよりもコレクタポートの近くに配置されている、
請求項16に記載の細胞処理装置。
【請求項19】
細胞培地コレクタは、コレクタキャビティ内の細胞培地の1つ又はそれ以上のレベルを測定するための1つ又はそれ以上のレベルセンサをさらに備える、
請求項16に記載の細胞処理装置。
【請求項20】
細胞集団を含む細胞培地を細胞処理装置の入口を通して流すステップと、
細胞処理装置内の細胞媒体を、細胞処理装置の主軸に沿って積み重ねられた各処理コンポーネント内の複数のチャネルに分配するステップと、
複数のチャネルを通して細胞培地を流すステップであって、複数のチャネルの各々は1つ又は複数のリッジを備え、1つ又は複数のリッジの各々は隣接する処理コンポーネントの1つと細胞の直径よりも小さくなるようにギャップを形成する、ステップと、
を有し、
細胞培地を複数のチャネルに流すことにより、細胞集団がギャップを通過する間に細胞集団内の少なくとも1つの細胞が圧縮され、
細胞培地の一部が複数のチャネルのそれぞれに入る際に実質的に同じ圧力を受ける間に、複数のチャネルを通して細胞培地を流す、
細胞処理装置を用いて細胞を処理するメカノポレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、35U.S.C.セクション119(e)に基づく2020年11月18日に出願された米国仮特許出願第63/115,507号の利益を主張し、その開示内容全体をあらゆる目的で参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
細胞内送達には、遺伝子トランスフェクション、編集、細胞標識、細胞調査など、多くの貴重な用途がある。しかし、従来の送達方法(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ケミカルポレーション、及びソノポレーション)は、特に大きな分子(例えば、少なくとも2000kDaのサイズを有する分子)及び大きな粒子(例えば、少なくとも50ナノメートルのサイズの粒子)の場合、送達効率及び細胞生存率が低いことが実証されている。さらに、従来の送達方法の多くは細胞を高速で処理できない。例えば、多くの場合、細胞は個別に処理する必要があるため、処理速度が大幅に低下します。必要とされているのは、生体細胞への高スループットのペイロード送達のための新しい方法及びシステムである。さらに、多くの従来の送達方法は細胞を高速で処理することができない。例えば、多くの場合、細胞は個別に処理する必要があるため、処理速度が大幅に低下する。必要とされているのは、生体細胞への高スループットのペイロード送達のための新しい方法及びシステムである。
【発明の概要】
【0003】
本明細書では、生体細胞へのメカノポレーションに基づく高スループットペイロード送達のための方法及びシステムについて説明する。例えば、1つのシステムは1分当たり少なくとも10億個の細胞、又は1分当たり少なくとも250億個の細胞を処理でき、これは従来の方法よりも大幅に多くなる。細胞処理装置は、複数の処理コンポーネントを積み重ねて形成された処理アセンブリを備える。各処理コンポーネントは、細胞培地中の細胞の濾過、メカノポレーション、及び/又は分離に使用できるチャネルを備える。この機能は、各チャネルの構成によって異なる。例えば、各チャネルは、各リッジが隣接する処理コンポーネントと処理ギャップを形成するように、1つ又は複数のリッジを備える。リッジは側壁まで延びることも、壁とのバイパスギャップを形成することもできる。処理ギャップは、細胞がこれらのギャップを通過するときに細胞を圧縮するように特別に構成でき、それによってメカノポレーションプロセスが開始される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1A図1Aは、いくつかの例による、細胞処理装置の概略斜視図である。
図1B図1Bは、いくつかの例による、図1Aの細胞処理装置の概略分解図である。
図2A-2C】図2A、2B、及び2Cは、いくつかの例に従って、処理チャネルに焦点を当てた、図1Aの細胞処理装置のさまざまなコンポーネントの概略図である。
図2D図2Dは、いくつかの例による、処理アセンブリを形成するために積み重ねる前後の2つの処理コンポーネントの概略図である。
図2E図2Eは、いくつかの例による、処理アセンブリを形成するために積み重ねる前後の2つの処理コンポーネントの概略図である。
図2F図2Fは、いくつかの例による、処理チャネルの概略側断面図である。
図2G図2Gは、いくつかの例による、処理チャネルの概略上面断面図である。
図2H図2Hは、いくつかの例による、処理チャネルの概略上面断面図である。
図2I図2Iは、いくつかの例による、処理チャネルの概略上面断面図である。
図2J図2Jは、いくつかの例による、処理チャネルの概略上面断面図である。
図3A図3Aは、相互にシールされ、複数の処理コンポーネントを含む処理アセンブリを封入する入口コンポーネント及び出口コンポーネントによって形成される細胞処理装置の別の例の概略分解図である。
図3B図3Bは、図3Aの細胞処理装置の概略断面図である。
図3C-3D】図3Cは、図3Aの細胞処理装置の入口コンポーネントの概略上面図である。図3Dは、図3Cの入口コンポーネントの一部の拡大上面図であり、処理コンポーネント内のチャネル及びリッジを示す。
図3E図3Eは、いくつかの例による、内部キャビティの一部及び内部キャビティ内に配置された処理コンポーネントを示す、図3Cの入口コンポーネントの概略断面図である。
図3F図3Fは、いくつかの例による、内部キャビティの一部及び内部キャビティ内に配置された処理コンポーネントを示す、図3Cの入口コンポーネントの概略断面図である。
図4A図4Aは、導入プレートと排出プレートとの間に積み重ねたコンポーネントを処理することによって形成される細胞処理装置のさらに他の例を示す概略斜視図である。
図4B図4Bは、図4Aの細胞処理装置の概略分解図である。
図4C図4Cは、図4Aの細胞処理装置で使用される処理コンポーネントの上面概略図であり、入口開口及び出口開口、並びにこれらの開口間に延在する複数のチャネルを示す。
図4D-4G】図4Dは、入口プレートと出口プレートとの間に処理コンポーネントが積み重ねられた細胞処理装置の別の例の概略斜視図である。図4Eは、図4Dの細胞処理装置の概略断面図である。図4Fは、図4Dの細胞処理装置の分解断面図である。図4Gは、図4Eの細胞処理装置の一部の拡大図であり、各処理コンポーネントの入口開口内に延在し、異なる各処理コンポーネントの出口開口内で異なる体積を占める出口突出部を示す。
図4H図4Hは、細胞処理装置の他の一例の概略断面図である。
図5A図5Aは、いくつかの例による、処理コンポーネントを通って延びる送達チャネルの概略上面断面図である。
図5B図5Bは、いくつかの例による、2つの処理コンポーネント内の送達チャネルの概略側断面図である。
図5C図5Cは、処理コンポーネントの別の例であり、これらのコンポーネントの送達チャネルを示す。
図6A図6Aは、いくつかの例による、処理アセンブリ内のさまざまなコンポーネントの統合を示す、処理システムのブロック図である。
図6B図6Bは、いくつかの例による、処理アセンブリ内のさまざまなコンポーネントの統合を示す、処理アセンブリの概略側断面図である。
図6C図6Cは、いくつかの例による、セパレーター内のチャネルの概略上面断面図である。
図7A図7Aは、細胞処理装置を含む処理システムの別の例の概略図である。
図7B図7Bは、図7Aの細胞処理装置の概略斜視図である。
図7C図7Cは、図7Bの細胞処理装置の概略断面図である。
図7D図7Dは、他の例に係る細胞処理装置の概略斜視図及び断面図を示す。
図7E図7Eは、他の例に係る細胞処理装置の概略斜視図及び断面図を示す。
図8A図8Aは、さらなる例に係る細胞処理装置の概略斜視図である。
図8B図8Bは、さらなる例に係る細胞処理装置の概略斜視図である。
図9図9は、いくつかの例による、細胞処理装置を使用して細胞を処理するメカノポレーション方法に対応する処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために、多くの具体的な詳細が概説される。本発明は、これらの特定の詳細の一部又は全部がなくても実施することができる。場合によっては、本発明を分かり難くすることを避けるために、よく知られたプロセス動作については詳細に説明していない。本発明を特定の実施例と併せて説明するが、本発明を実施例に限定することを意図したものではないことが理解されるであろう。
序論
【0006】
マイクロ流体技術は、遺伝子工学及び他の応用のための細胞へのペイロードの送達など、生物学的細胞の処理及び操作のための新たな機会を提供する。本開示の目的上、「マイクロ流体」技術は、1ミリメートル未満の最小寸法を有するチャネルに流体を通過させるプロセスとして定義される。例えば、装置は、1ミリメートル未満のギャップを形成する1つ以上のくびれを含む場合がある。
【0007】
マイクロ流体技術の具体例は、細胞内にペイロードを送達するために細胞に対する機械的作用を伴うメカノポレーションである。例えば、細胞は狭いギャップ(狭窄とも呼ばれる)を通過する。ギャップは、例えば、ある壁から別の壁に向かって延びるリッジによって形成される。リッジ(及び結果としてギャップ)は、特定の形状(例えば、鋭いリッジ)を有することができる。さらに、細胞は特定の処理条件(例えば、高い線形流量)で飛行させることができる。これらの構造条件と加工条件のさまざまな組み合わせにより、細胞の急速な圧縮が発生し、細胞の体積がいくらか失われる可能性がある。細胞が各狭窄を通過して回復すると、細胞はペイロードを構成する周囲の培地を吸収して元の体積に戻る。したがって、体積損失とそれに続く体積増加の組み合わせにより、細胞へのペイロードの転送が非常に効率的に行われる。このペイロードの移動は、例えばペイロードが濃度勾配によって細胞膜を通って駆動される拡散ベースの送達と区別するために、対流送達と呼ぶことができる。しかし、拡散ベースの配送は時間がかかり、また小さなペイロードに限定される。メカノポレーションは大幅に高速な転送を実現し、ペイロードサイズによる影響が少なくなる。
【0008】
細胞圧縮は、それぞれが1つ又は複数のリッジを含むフローチャネル内で達成される。上述したように、各リッジはギャップを形成し、少なくとも弛緩状態/非圧縮状態の細胞では、ギャップサイズ(G)が細胞直径(D)より小さくなる。ギャップサイズ、リッジの形状、線形流量の組み合わせにより、細胞の圧縮と体積損失が発生する。体積変化を伴うメカノポレーションは、体積変化に基づいていない、そのうちの1つが上記で簡単に説明されている他のマイクロ流体技術とは区別されるべきである。例えば、他のマイクロ流体技術(例えば、膜剪断)は、細胞膜の多孔性を変化させることを伴い、それによって拡散ベースのペイロード送達を可能にする。より具体的には、膜の剪断には急速な圧縮や体積の変化は伴わない。代わりに、細胞は、細胞膜と全周接触を形成する先細の漏斗を通過する。この全周接触により、細胞膜の大部分が確実に剪断を受け、その結果、細胞内部でペイロードが拡散するのに十分な大きさの孔を有する膜孔が形成される。
【0009】
マイクロ流体技術の一態様は、フローチャネルのサイズが小さく、その結果、低いレイノルズ数(例えば、1未満)で表される流れ状態が得られる。したがって、流体の粘度はこれらの流動条件の支配的な要因となる。さらに、単一チャネルの全体的なスループットは制限される。例えば、幅1ミリメートルの単一チャネルの体積流量は1ml/分未満となり得る。この流量は、1時間当たり約107個の細胞の処理速度に相当します。同時に、産業用途では、1時間当たり109個又は1010個の細胞など、はるかに高速な処理速度が必要であり、これにより、これまでマイクロ流体技術の採用が大幅に制限されてきた。
【0010】
さらに、処理速度は、あらゆる可能なプロセス及び材料の変動にかかわらず、設定値又は設定値に近い値に維持されるべきである。例えば、細胞培地に望ましくない粒子、異常細胞、及びその他の同様の成分が含まれることが多く、これらはマイクロチャネル、特にチャネル内のリッジによって形成されるギャップを通過することができない。このような培地成分は一部のチャネルに蓄積し、チャネルを通る流れをブロックする可能性があり、それによって装置全体の処理能力が低下する。
【0011】
チャネルの処理速度を向上させるために、さまざまなアプローチが利用できる。例えば、チャネルを通って流れる提供された細胞培地中の細胞濃度を増加させることができる。但し、細胞濃度が高くなると(例えば、1,000万細胞/mL以上)、望ましくない細胞間の衝突が発生する可能性がある。これらの細胞間の衝突は細胞に損傷を与える可能性があり、それにより細胞の回復と生存率が低下する。さらに、これらの衝突によりチャネルの詰まりが発生し、処理速度が低下する可能性がある。
【0012】
別のアプローチは、チャネルにわたる圧力差を増加させることによって線形流速を増加させることである。例えば、1m/sの線速度では、チャネルによっては106Paもの高い圧力差が必要になる場合がある。このような高圧差動装置には、複雑で高価な装置が必要である。さらに、流速が速いと細胞に損傷を与える可能性がある。
【0013】
処理速度を向上させるための別のアプローチには、複数の並列チャネルを使用することが含まれる。このアプローチは、線形流速/圧力差、細胞濃度、及び他の同様の方法の増加を必要とせずに、体積流量を比例的に増加させる。但し、このマルチチャネルのアプローチでは、すべてのチャネルで同じ又は類似の条件を保ち、並行して動作させるための特別な考慮が必要である。この処理条件の均一性を維持するのは困難な場合がある。例えば、すべてのチャネルは、培地の線形流速、培地中の細胞濃度、培地中のペイロード濃度などを同様に有する必要がある。さらに、これらの条件は複数の処理実行/異なるバッチにわたって保たれる必要がある。
【0014】
本明細書では、上述のさまざまな課題に対処する、生物学的細胞の集団へのメカノポレーションに基づく高スループットペイロード送達のための方法及びシステムについて説明する。具体的には、細胞処理装置は、いくつかの例では交換可能及び/又は使い捨てであり得る処理アセンブリを含む。処理アセンブリの少なくとも個々のコンポーネントは、例えば、場合によってはチャネルの部分的な詰まりを引き起こす可能性がある処理後に、容易に交換することができる。例えば、(所与の体積流量に対する)圧力差が処理アセンブリ及び処理アセンブリ全体にわたって測定されるか、又はこの圧力差が特定の閾値に達するかそれを超えると、アセンブリの一部のコンポーネントが交換される。さらに、処理アセンブリのコンポーネントを交換して、処理アセンブリの異なる構成、例えば、異なるメカノポレーション特性を形成することができる。最後に、個々のコンポーネントは、射出成形などを使用して簡単に製造できる。
細胞処理装置例
【0015】
図1A及び図1Bは、いくつかの例による、細胞処理装置100の概略図(組み立てられた形態及び分解図)である。細胞処理装置100は、処理アセンブリ110、入口コンポーネント102、及びストッパー104を備える。処理アセンブリ110は、入口コンポーネント102とストッパー104との間に配置される。より具体的には、各入口コンポーネント102及びストッパー104は、処理アセンブリ110に対して密閉される。集合的に、アセンブリ110、入口コンポーネント102、及びストッパー104は、細胞処理装置100のキャビティ107を画定し、取り囲む。キャビティ107は入口開口とも呼ばれる。いくつかの例では、細胞処理装置100は、キャビティ107内に配置された分配コンポーネント106も備える。
【0016】
図1A及び図1Bを参照すると、入口コンポーネント102は、キャビティ107への流体アクセスを提供する入口103を備える。細胞処理装置100の動作中、細胞の集団を含む細胞培地は入口103を通ってキャビティ107内に送達される。その後、分配コンポーネント106が送達される。細胞培地をキャビティ107の異なる部分に、且つ処理アセンブリ110に向かって均一に分配する。
【0017】
処理アセンブリ110は、複数のチャネル139を備え、各チャネル内でメカノポレーションを受けながら細胞培地が処理アセンブリ110を通過できるようにする。いくつかの例では、処理アセンブリ110は、少なくとも約100のチャネル、少なくとも約500のチャネル、さらには少なくとも約1000のチャネルを備える。図1A及び図1Bの例を参照すると、各チャネル139は、細胞処理装置100の主軸101から処理アセンブリ110を通って放射状に延在する。しかしながら、他の例(例えば、チャネル139が互いに平行に延在する場合)もまた、本発明の範囲内にある。
【0018】
図2Aは、底面斜視図とも称される、異なる角度からの細胞処理装置100の別の概略図である。この例では、ストッパー104は出口を含まない。その代わりに、筐体内に出口が設けられてもよい(図1A、1B、及び2Aには示されていない)。及び出口のさまざまな例を以下にさらに説明する。
【0019】
図2Bは、図2Aの処理アセンブリ110の拡大図であり、処理アセンブリ110を形成する処理コンポーネント119を示す。例えば、処理コンポーネント119は、細胞処理装置100の主軸101に沿って(Z方向に)一体的に積み重ねられる。この例では、主軸101は中心軸とも呼ばれる。具体的には、処理コンポーネント119は、主軸101がこれらのリングの中心を通って延びるリングの形状をしている。
【0020】
より具体的には、図2Bは、Z軸に沿って積み重ねられた処理コンポーネント111、第2の処理コンポーネント112、及び第3の処理コンポーネント113を示す。処理コンポーネント119は、任意の数(例えば、1、2、3、4、5、又はそれ以上)の処理コンポーネントを含むことができる。この数は、以下でさらに説明するように、細胞処理装置100の所望の処理速度/処理スループットに依存する。処理コンポーネント119の数が多いほど、細胞処理装置100をより長期間使用することも可能になることに留意されたい。具体的には、これらの処理コンポーネント119のチャネルは、時間の経過とともに詰まる可能性がある。処理コンポーネント119の数が多いほど、チャネルの数が多くなり、詰まりが生じるまでに時間がかかることになる(例えば、チャネルが詰まり続けても、能力が低下した細胞処理装置100は動作し続けることができる)。しかしながら、処理コンポーネント119の数を増やすと、各チャネルへの細胞培地の均一な分布に関してさまざまな課題が生じる可能性がある。上述したように、各チャネルは、実質的に同じ方法で、例えば同じ流量、圧力、培地濃度などで細胞を処理する必要がある。
【0021】
図2Cを参照すると、処理コンポーネント111はチャネル139を含む。各処理コンポーネント111は、任意の数のチャネルを含むことができる。処理コンポーネントの数と同様に、このチャネル数は、細胞処理装置100の所望の処理速度/スループットに依存する。したがって、細胞処理装置100の全体の処理スループットは、各チャネルのスループット、各処理コンポーネントのチャネル数、及び装置内の処理コンポーネントの数に依存する(次の式で示す):
装置スループット=チャネルスループット×コンポーネント当たりのチャネル数×コンポーネント数
【0022】
いくつかの例では、各々の処理コンポーネント119は、例えば処理の一貫性及び相互運用性を確保するために、同じ設計を有する。例えば、処理コンポーネント119は、消耗品として供給され、細胞処理装置100の使用前に処理コンポーネント111に組み込まれてもよい。
【0023】
いくつかの例では、各処理コンポーネント119は、例えば射出成形及び/又は熱エンボス加工を使用して個別に製造される。射出成形ツールは、CNC機械加工及び/又はニッケルメッキによって形成することができる(例えば、リッジ140を形成するために使用されるツール部分)。処理コンポーネント119の他のコンポーネントとは異なり、リッジ140は、かなりの精度を必要とする多くの小さな特徴を有する。
【0024】
これらの処理コンポーネント119を積み重ねる前に、各処理コンポーネント119は、チャネルの底部に位置し、開口に向かって延びるリッジ140を有する開放チャネルを備える。この処理コンポーネント119が別の処理コンポーネント119と積み重ねられると、チャネルは閉じられ、リッジ140は他の処理コンポーネント119に面し、各々のこれらリッジ140とのギャップを形成する。いくつかの例では、各処理コンポーネント119は、すべてのチャネル壁を例えば図2Fに概略的に示されているように備える。例えば、各々の処理コンポーネント119は、互いに結合される2つの部分から形成されて、密閉されたチャネル130を形成することができる。これらの処理コンポーネント119は、一体的に積み重ねられて、細胞処理装置100を形成することができる。いくつかの例では、それぞれが複数の密閉チャネルを備える個別に形成された処理コンポーネント119を使用して、チャネル寸法の均一性を改善することができる。チャネル139に使用される材料は、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリスチレン(PS)などの熱可塑性プラスチックであってもよい。さらに、ガラス、シリコン、金属などの非熱可塑性材料を使用することもできる。
【0025】
いくつかの例では、2つの隣接する処理コンポーネント119は、熱接着、接着接着、溶剤接着、超音波接着、レーザー溶接、感圧接着剤、及び紫外線(UV)接着剤などの異なる方法を使用して一体的に接着される。さらに、いくつかの例では、2つの隣接する処理コンポーネント119の間にシールが形成され、これらのコンポーネント間で細胞培地が流れるのを防止する。シールは、コンポーネントを結合することに加えて、又はその代わりに形成されてもよい。いくつかの例では、シールは接着によって形成される。いくつかの例では、シールはガスケットによって形成される。図2D及び図2Eにシールの一例が示されている。具体的には、処理コンポーネント111はシールチャネル125を備え、第2の処理コンポーネント112はシール突出部126を備える。処理コンポーネント111が第2の処理コンポーネント112と積み重ねられるとき、シール突出部126はシールチャネル125に挿入され、シールを形成する。シール突出部126及びシール溝125の各々は(これらのコンポーネントによって形成されるシールと同様に)、周方向に閉じられていることに留意されたい。図2Bは、処理コンポーネント119のうちの2つの隣接する処理コンポーネントが、中間コンポーネントなしで直接相互にインターフェースする例を示す。
各チャネルに配置されたメカノポレーション機能の例
【0026】
図2Cを参照すると、各チャネル130は1つ以上のリッジ140を含む。これらのリッジ140のそれぞれは、細胞がこのリッジによって形成されたギャップを通過するときに細胞を圧縮するように構成される。いくつかの例では、リッジ140は、1つの細胞から100の細胞、又は100を超える細胞のよう、リッジの長さに沿って分布する複数の細胞を同時に圧縮するように構成されている。換言すれば、リッジの長さはリッジの直径よりもはるかに大きいので、複数の細胞を同じもので圧縮することができる。したがって、各チャネル130内のリッジ140の数は、細胞処理装置100を通過する際に必要な圧縮の数に依存する。いくつかの例では、各チャネル130内のリッジ140の数は1から50、より具体的には、5から15などの2から20である。いくつかの例では、各チャネル130のリッジの数は、細胞処理装置100のすべてのチャネルで同じである。いくつかの例では、各チャネル130の全長は約0.05ミリメートルから100ミリメートルの間、より具体的には約1ミリメートルと10ミリメートルの間である。チャネルの長さが短いと、所望の流速を生み出すために必要な圧力を下げるのに有利である。いくつかの例では、リッジ140はチャネルの長さに沿って均一に分布している。あるいは、リッジ140は、例えば細胞がリッジ140と相互作用する前に細胞の集束を可能にするために、チャネル出口の近くに集合させることができる。いくつかの例では、例えばリッジ140との相互作用後に細胞がより高速の流体中に留まる時間を長くするために、リッジ140はチャネル入口の近くに集合する。いくつかの例では、チャネル入口及び/又はチャネル出口は、処理コンポーネント119の前端及び後端に配置される。いくつかの例では、例えば製造プロセスにより各チャネル130に入る塵の量を減らすために、チャネル入口及び/又は出口は、処理コンポーネント119のチャネル壁132を通って配置され得る。
【0027】
さらに図2Cを参照すると、各チャネル130は、2つの隔壁120の間に配置されている。いくつかの例では、隔壁120の幅は、1マイクロメートルから100マイクロメートル、又は0.1mmから0.5mm、又は0.5mmから10mmである。さらに、各チャネル130は、第1の隔壁121、第2の隔壁122、及びチャネル壁132によって画定される。リッジ140は、チャネル壁132から突出し、第1の隔壁121と第2の隔壁122との間に延びることができる。しかし、リッジ140の高さは、第1の隔壁121及び第2の隔壁122の高さよりも小さい。いくつかの例では、第1の隔壁121の高さは、第2の隔壁122の高さと同じである。いくつかの例では、隔壁120の高さは、1マイクロメートルから50マイクロメートル、又は20マイクロメートルから500マイクロメートル、又は0.1ミリメートルから10ミリメートル、又は10ミリメートルを超える。Y方向のチャネル幅は、圧縮リッジ140によって同時に処理される細胞の数を定義する。チャネルが広いと、より多くの細胞を並行して圧縮することができる。しかしながら、より広いチャネルは、(例えば、チャネル内の内圧により)変形し易く、リッジ140によって形成されるギャップの均一性に影響を与える。一方、狭いチャネルは、より詰まり易い。いくつかの例では、チャネル幅は約10マイクロメートルから約1ミリメートル、より具体的には約0.1ミリメートルから0.5ミリメートル、又は約0.4ミリメートルから0.8ミリメートルである。いくつかの例では、チャネル幅は約1ミリメートルから約10ミリメートル、又は5ミリメートルより広い。
【0028】
図2Dは、処理コンポーネント111及び第2の処理コンポーネント112を積み重ねる前の側断面図を示す。処理コンポーネント111は、隔壁120によって形成され、第2の処理コンポーネント112に面する第1の表面123を備える。第2の処理コンポーネント112は、このコンポーネントの隔壁120とは反対側を向き、第1の処理コンポーネント111に面する第2の表面124を備える。
【0029】
図2Eは、処理コンポーネント111及び第2の処理コンポーネント112の、これらのコンポーネントを積み重ねた後/処理アセンブリ110を形成した後の側断面図を示す。この段階で、処理コンポーネント111の第1の表面123は、第2の処理コンポーネント112の第2の表面124と接触し、それによって隣接するチャネル130を隔離する。いくつかの例では、第1の表面123は、第2の表面124に接着及び/又は封止される。これらのチャネルの高さ(Z方向)は、隔壁(例えば、図2Dに示す第1の隔壁121)の高さによって画定される。リッジ140は隔壁よりも短いため、処理コンポーネント111のリッジ140は、第2の処理コンポーネント112の第2の表面124とのギャップ141を形成する。これらのギャップ141は、とりわけ、これらの細胞がギャップ141のそれぞれを通過するときに細胞を圧縮し、各細胞の体積変化を引き起こすように構成されている。次に、図2Fを参照して、追加のギャップ特徴について説明する。
【0030】
図2Fを参照すると、各ギャップ141は、「H」とラベル付けされた対応する高さで識別される。ギャップの高さは、細胞が圧縮されてギャップ141を通過するように選択される。換言すれば、ギャップの高さは細胞のサイズよりも小さい(H<D)。図2Fは、リッジ140の断面輪郭が長方形である例を示していることに留意されたい。しかしながら、プロファイルの他の形状、例えば、円筒形、台形、又は三角形も範囲内である。いくつかの実施形態では、複数の圧縮面は直交していてもよい。
【0031】
少なくとも長方形のリッジ140の別の特徴は、X方向(「L」として識別される)におけるリッジ表面142の長さであり、これはリッジの厚さとも呼ばれる。いくつかの例では、リッジ表面の長さは約1マイクロメートルと100マイクロメートルの間、より具体的には約20マイクロメートルと50マイクロメートルの間である。この長さは、線流量とともに、細胞がリッジによって圧縮される期間を定義する。いくつかの例では、リッジ表面142は第2の表面124に平行である。換言すれば、ギャップ141は2つの平行な表面によって画定される。これらの平行な圧縮面により、細胞全体の均一な圧縮が可能になる。さらに、圧縮面は収束及び/又は発散することができる。細胞の圧縮に加えて、リッジ140は細胞培地内で流体力学的混合も引き起こすことに留意すべきである。
【0032】
図2Fを参照すると、ギャップ141は、細胞サイズ、必要な圧縮、及びメカノポレーションの他の特性に基づいて選択される。いくつかの例では、ギャップ高さ(H)は、1マイクロメートルと20マイクロメートルの間、又は10マイクロメートルと100マイクロメートルの間、又はより具体的には3マイクロメートルと8マイクロメートルの間である。さらに、ギャップ高さ(H)は、細胞の平均最大断面寸法として定義される細胞サイズ(D)に対して定義することもできる。より具体的には、細胞サイズに対するギャップ高さの比(H/D)が細胞の圧縮を定義する。いくつかの例では、このH/D比は25%から75%の間、より具体的には30%から60%の間である。内部チャネル高さ(IH)は、リッジ間の流速と細胞が連続する圧縮の間に費やす時間を定義する。いくつかの例では、IHは約2マイクロメートルと100マイクロメートルの間、より具体的には5マイクロメートルと10マイクロメートルの間、又は10マイクロメートルと15マイクロメートルの間である。いくつかの例では、IHは約10マイクロメートルと1mmの間、より具体的には50マイクロメートルと100マイクロメートルの間である。
【0033】
ギャップ高さ(H)は、同じチャネル内のすべてのリッジ140について同じであってもよい。あるいは、図2Fを参照すると、ギャップ高さ(H)は、異なるリッジ140に対して異なっていてもよい。例えば、ギャップの高さは、流れの方向に沿って減少し、それにより、細胞が細胞処理装置100を通って流れるにつれて、細胞はより高い圧縮を受ける。いくつかの例では、より大きな細胞がより大きなギャップで圧縮されると、これらの細胞は(パンケーキのような)平らな形状を保持し、再び流れから除去されることなく小さなギャップを通過することができる。この機能は段階的圧縮と呼ばれる場合がある。さらに、より小さなギャップが(例えば、多様な集団内に)存在する場合、より小さな細胞の処理を開始する可能性がある。したがって、チャネルに沿って変化するギャップサイズを使用すると、不均一な細胞集団への対流細胞内送達を向上させることができる。さらに、さまざまな圧縮ギャップを持つこのようなチャネルを使用すると、細胞サイズの不均一性の影響を軽減することで細胞の選別を向上させることができる。
【0034】
細胞内送達は、細胞圧縮率によって制御される。細胞圧縮率は、リッジによって形成されたギャップを通過するために細胞が体積を失う割合である。細胞圧縮率は、流量、リッジの形状、細胞サイズに対するギャップ高さの比、リッジの幅、リッジの角度、及び圧縮表面コーティングによって決定することができる。さらに、細胞圧縮率の増加に伴って体積損失(Vloss)が増加することが判明した。所望の細胞圧縮率を達成するために、さまざまな処理及びデバイス特性を具体的に選択することができる。いくつかの例では、リッジ140は、例えば図2G~~2Jに概略的に示されるように、各流路の中心流れ軸109に対して0度~90度の角度(α)で配向される。より具体的には、リッジ角度(α)は、10度から30度の間、又は30度から90度の間、より具体的には約45度である。いくつかの例では、リッジ140は、例えば図2Gに示すように山形を形成する。あるいは、リッジ140は、例えば図2Hに示すように真っ直ぐである。いくつかの例では、隆起部140は、例えば図2I及び2Jに示されるように湾曲している。さらに、いくつかの例では、リッジ140は、例えば図2Gに示すように両方の側壁に延在することができ、又は、例えば図2H-2Jに示すように側壁の少なくとも一方と側壁ギャップを形成することができる。この側壁ギャップはガターと呼ばれることがあり、非圧縮細胞(例えば、リッジ140に沿って側壁ギャップに押し込まれる)を受け入れることができ、それによってチャネルが詰まる危険性が低減される。
【0035】
リッジ140の断面形状(図2Fに示す)が細胞圧縮プロファイルを画定することに留意されたい。いくつかの例では、形状は長方形(図2Fに示す)、台形、又は三角形である。いくつかの例では、圧縮ギャップ141を形成するリッジ表面142は、実質的に平坦(例えば、第2の表面124に平行)であるか、又はX軸に沿って変化するギャップを形成して傾斜している。いくつかの例では、リッジ面142はほぼ円筒形である。
【0036】
図2Fを参照すると、隣接するリッジ140の間、及び最後のリッジ及び出口の後のチャネル内の空間は、回復空間145とも呼ばれる場合。2つの隣接するリッジの間の回復空間145の(X方向における)長さは、リッジ間隔(S)とも呼ばれる。リッジ間隔は、流量、細胞の特性、前の圧縮のレベルなどによって異なる。いくつかの例では、リッジ間隔は、1マイクロメートルと100マイクロメートルの間、又は50マイクロメートルと10000ミクロンの間、例えば200マイクロメートルと500マイクロメートルの間である。各回復空間145の体積及び流量は、平均回復時間、すなわち細胞が別の圧縮を受ける前に回復空間145内で費やす時間を決定する。回復時間が増加すると、体積ゲイン(Vgain)が増加することが分かっている。回復空間145の長さを長くすることによって回復時間を長くすることができる。
処理アセンブリのエンクロージャの例
【0037】
上述したように、処理アセンブリ110は、主軸101に沿って積み重ねた複数の処理コンポーネント119を備える。各々の処理コンポーネント119は、主軸101に垂直な方向に延在し、細胞を流すように構成される複数のチャネル139を備える。処理アセンブリ110は、処理アセンブリ110を環境から隔離し、処理アセンブリ110に支持を提供し、各チャネル139への細胞培地の均一な流れを保証する、さまざまな筐体の例に封入することができる。
【0038】
図3Aは、互いにシールされ、複数の処理コンポーネント119を備える処理アセンブリ110を封入する入口コンポーネント310(入口103を備える)及び出口コンポーネント320(出口105を備える)を備える細胞処理装置100の一例の概略分解図である。図3Bは、図3Aの細胞処理装置100の概略断面図である。具体的には、入口コンポーネント310及び出口コンポーネント320は、処理アセンブリ110を収容する内部キャビティ330を画定する。内部キャビティ330の形状は、とりわけ、細胞培地(一般にZ軸に沿って細胞処理装置100を通って流れる)が処理アセンブリ110の各チャネル139に確実に均一に分配されるように特に規定される。複数のチャネル139が各処理コンポーネント119上に配置され、X軸に沿って互いにオフセットしていることに留意されたい。さらに、複数の処理コンポーネント119がY軸に沿って一体的に積み重ねられて、処理アセンブリ110を形成する。したがって、内部キャビティ330の形状は、細胞培地が入口103から各チャネル139に送達される間に、X軸並びにY軸に沿って均一な細胞培地分布を提供して、例えば各チャネル139を通る同じ流れを確保する。同様に、内部キャビティ330の形状は、細胞培地が各チャネル139から出て出口105に導かれる間に、X軸並びにY軸に沿って均一な細胞培地の収集を提供する(例えば、全体の流れに対する均一な抵抗を確保するために)。細胞培地は一般にZ軸に沿って流れることに留意されさい。内部キャビティ330及びチャネル139の追加の特徴が、入口コンポーネント310を図解する図3C~3Fに示されている。入口コンポーネント310及び出口コンポーネント320は、例えば図3Bに示されているように、対称的な設計を有することができることに留意されたい。
【0039】
図3Cは、図3Aの細胞処理装置100の入口コンポーネント310の概略上面図である。入口コンポーネント310は、処理アセンブリ110を支持するように示されている。例えば、処理アセンブリ110は、細胞処理装置100の組立中に入口コンポーネント310及び出口コンポーネント320を互いに取り付けて密封する前に、入口コンポーネント310(又は出口コンポーネント320)内に挿入することができる。図3Dは、図3Cの入口コンポーネント310の一部の拡大上面図であり、処理コンポーネント119内のチャネル139及びリッジ140を示す。図3C及び3Dでは最上部の処理コンポーネント119のみが示されているが、任意の数の処理コンポーネント119をY軸に沿って積み重ねることができる。図3E及び3Fは、いくつかの例による、内部キャビティ330の一部及び内部キャビティ330内に配置された処理コンポーネント119を示す、図3Cの入口コンポーネント310の概略断面図である。
【0040】
図4Aは、入口プレート430と出口プレート440との間に積み重ねられた処理コンポーネント119によって形成される細胞処理装置100のさらに別の例の概略斜視図である。図4Bは、図4Aの細胞処理装置100の概略分解図である。この例では、処理アセンブリ110は8つの処理コンポーネント119によって形成される。しかしながら、任意の数の処理コンポーネント119が本発明の範囲内である。図4Cは、図4Aの細胞処理装置で使用される処理コンポーネント119の上面概略図であり、入口開口410及び出口開口420を示している。図4Cは、入口開口410と出口開口420との間に延びる複数のチャネル139も示す。この例では、各入口開口410及び出口開口420は、主軸101に垂直な(及び図4CのX-Z平面に平行な)平面内に三角形の境界を有する。いくつかの例では、三角形の境界形状により、流れにおける停滞ゾーンの形成が防止される。
【0041】
細胞処理装置100の動作中、細胞培地は入口プレート430を通って細胞処理装置100に入り、入口プレート430に隣接する処理コンポーネント119の入口開口410に向けられる。すべての処理コンポーネント119の入口開口410が一致し、入口プレート430と出口プレート440との間で細胞処理装置100を通る連続したトンネルを形成することができることに留意されたい。同様に、すべての処理コンポーネント119の出口開口420は一致し、入口プレート430と出口プレート440との間で細胞処理装置100を通る連続的なトンネルを形成することができる。いくつかの例では、入口開口410の断面は同じであり、例えば図4Cに示されるように、出口開口420の断面の鏡像である。
【0042】
動作例に戻ると、細胞培地が入口プレート430に隣接した処理コンポーネント119の入口開口410内に入ると、細胞培地の一部がこの処理コンポーネント119のチャネル139を通って出口開口420に流れる。残りの細胞培地は、他の処理コンポーネント119の入口開口410に向けられる。最終的に、すべての細胞培地は、処理コンポーネント119のチャネル139を通って、処理コンポーネント119の出口開口420によって形成されるトンネルに入り、その後、細胞処理装置100から除去される。
【0043】
いくつかの例では、細胞処理装置100は、いくつかの実質的に同一の細胞処理コンポーネント119を積み重ねることによって組み立てられる。処理コンポーネント119の入口開口410及び出口開口420によって形成されるトンネルは、細胞培地の均一な分布及び収集を提供するが、これらのトンネルはまたトンネルを満たすためにかなりの量の細胞培地が必要である。この細胞培地の少なくとも一部(又はすべて)はトンネルから回収できない。したがって、トンネルは、細胞処理装置100内の「デッドボリューム」を表す。この「デッドボリューム」を、これらのトンネル内に延びる特別な突起によって減少させることができる。具体的には、これらの外部突出(例えば、入口プレート430及び出口プレート440の一部として設けられる)により、処理コンポーネント119を同一にすることができ、必要なときに(例えば、処理コンポーネント119のチャネル139が詰まった場合)交換することができる。これらの突起の特徴について、図4D~4Gを参照して説明する。
【0044】
具体的には、図4Dは、入口プレート430と出口プレート440との間に処理コンポーネント119が積み重ねられた細胞処理装置100の概略斜視図である。図4Eは、図4Dの細胞処理装置100の概略断面図である。図4Fは、図4Dの細胞処理装置100の分解断面図であり、いくつかのコンポーネント及び特徴をさらに示している。入口プレート430は、各処理コンポーネント119の出口開口420内に延在し、異なる処理コンポーネント119の出口開口内で異なる体積を占める入口突出部432を備える。具体的には、入口突出部432は先細りであり、最も近い(隣接する)処理コンポーネント119の出口開口部420の最大体積及び最も遠い処理コンポーネント119の出口開口部420の最小体積を遮断する。したがって、出口開口部420は(すべての処理コンポーネント119から)最少量の細胞培地、すなわち最も近い(隣接する)処理コンポーネント119を通って流れた細胞培地のみを運ぶため、最も近い(隣接する)処理コンポーネント119でブロックされていない体積は最大である。次の処理コンポーネント119の出口開口部420は、この次の処理コンポーネント119が最も近い(隣接する)処理コンポーネント119から受け取って流れてきて細胞培地を運ぶ。最後に、最も遠い処理コンポーネント119の出口開口部420は、すべての処理コンポーネント119を通過するすべての細胞培地を運び、それによって最も遮断されていない体積を必要とする。同様の方法で、図4Gを参照すると、出口プレート440は、各処理コンポーネント119の入口開口部410内に延在し、異なる1つの処理コンポーネント119の出口開口部420内で異なる体積を占める出口突出部442を備える。各入口開口410を通る異なる体積流量という同じ原理が入口側にも適用される。図4Hを参照して以下で説明するように、(入口及び出口トンネル内の異なる位置での)異なる体積流量とこれらのトンネルの(入口突出部432及び出口突出部442による異なる遮断体積によってもたらされる)異なる断面積とのマッチングにより、細胞処理装置100内でより均一な線形流量が生成される。
【0045】
細胞培地は、さまざまな分配経路を使用して、それぞれのチャネル139に供給される。これらの経路は、とりわけ、各チャネル139を通る線形流量が実質的に同じになるように設計されている。この流量の均一性により、すべての細胞が同様の方法で処理され、例えば同じ圧縮率で同じ期間処理され、同じ緩和時間が許容されることが確保される。これらの経路は、分配コンポーネント106、処理アセンブリ110、及び/又は他のコンポーネントなどの細胞処理装置100のさまざまなコンポーネントによって提供される。
【0046】
図4Hは、いくつかの例による、細胞処理装置100の一部の断面図を示す。具体的には、図4Hは、分配コンポーネント106、外壁150、及び分配コンポーネント106と外壁150との間に配置された処理アセンブリ110を示す。分配コンポーネント106と処理アセンブリ110との間の空間は、処理アセンブリ110内のチャネル139に細胞培地を供給するために使用される。外壁150と処理アセンブリ110との間の空間は、チャネル139を通過した細胞培地を除去するために使用される。図4Hはまた、入口コンポーネント102に隣接している、細胞処理装置100の上部にある分配コンポーネント106と処理アセンブリ110との間の空間に、細胞培地が送達されることを示す。細胞培地は、ストッパー104に隣接している、細胞処理装置100の底部の外壁150と処理アセンブリ110との間の空間から除去されている。
【0047】
図4Hの断面図は、入口コンポーネント102とストッパー104との間に垂直に積み重ねられた6つのチャネル139を示す。細胞培地が分配コンポーネント106と処理アセンブリ110の間の空間に入るとき、細胞培地はチャネル139内に導かれる。明確化のため、処理コンポーネント111と第2の処理コンポーネント112によって形成されるチャネルを第1のチャネルと呼ぶことができ、第2の処理コンポーネント112と第3の処理コンポーネント113との間に形成されるチャネルを第2のチャネルと呼ぶことができる。細胞培地が第1のチャネルに入るにつれて、第1のチャネルを通過して分配コンポーネント106と処理アセンブリ110との間の空間に移動する細胞培地の体積流量は少なくなる。各チャネルが細胞培地の一部をチャネル内に流すことができるため、新しいチャネル毎に体積流量のさらなる減少が見られる。分配コンポーネント106と処理アセンブリ110との間の空間の断面積が一定のままである場合、細胞培地の線流量は体積流量に比例して低下する。図4Hに示される幅減少(W1>W2>W3)により、分配コンポーネント106と処理アセンブリ110との間の空間内で細胞培地の線形流速を実質的に一定に維持することが可能になる。同様であるが、逆のプロセスが外壁150と処理アセンブリ110の間の空間で起こる。追加の細胞培地が各新しいチャネルから受け取られるにつれて、その空間の体積流量は上から下に増加する。したがって、このスペースの幅は上から下に増加する(W'1<W'2<W'3)。全体として、線流速が細胞処理装置100のすべての部分にわたって均一になるように、供給チャネルの断面積はチャネル層間で変化する。これにより、流れにおける停滞ゾーンの形成を防ぐことができる。
【0048】
いくつかの例では、処理コンポーネントのうちの1つ又は複数は、配布経路及び/又は収集経路を含む。これらの経路は、圧縮リッジを構成する処理チャネルとは区別される必要がある。図5Aは、ツリー状構造に配置された分配経路160の一例を示す。各分配経路チャネルは、各分岐レベルで2つの同一のサブ経路に分岐し、各分岐に等しい流れ条件を提供する(例えば、これらの経路の各分岐に特定の直径を使用する)。これらのサブ経路は、分岐経路とも呼ばれる。この分岐構造により、各々のチャネル139のそれぞれが同じ線形流量を有することが保証される。さらに、すべてのチャネル139の断面積が同じである場合、体積流量も同じである。図5Aは二方向分岐を示しているが、当業者であれば、分岐には任意の数のサブ経路(2、3、4など)が含まれることを理解できるであろう。さらに、図5Aは2つのレベルの分割を示しているが、当業者であれば、任意の分割にはこれらの分割レベルの任意の数(2、3、4など)が含まれることが理解できるであろう。
【0049】
全体として、構成は図5Aに示されており、他の同様の構成を使用して、すべての処理チャネルに、製品の品質と一貫性を維持するために必要な同量の培地、試薬、及び細胞が確実に供給されるようにすることができる。分配チャネルと収集チャネルで同様の流速を維持するには、A=H×Wで且つNをチャネル数とした場合にAtotal=N×Aとなるように、チャネルの総断面積(つまり、分岐の各レベルでのチャネル断面積の合計)を各分岐レベル(分配及び収集)で一定に保つことができる。チャネルの寸法は、チャネルが広すぎる場合の壁のたるみなどの製造上の制約により、W/Hが20を超えないように設定することができる。平行なマイクロチャネルの数は、製造プロセス、分配及び収集チャネルネットワークを備えたマイクロチャネルレイアウトの設置面積、流体の流れを妨げたり変更したりするマイクロチャネル内の気泡の形成、及び供給チャネルの断面寸法によって制限される可能性があります。同様に、分岐チャネル構造を出口で使用して、培地及び処理された細胞を収集することができる。出口セクションのこのような配置を使用して、各処理チャネル139にわたって同様の流れ抵抗を確保することができる。
【0050】
図5Bは、処理コンポーネント、より具体的には、処理コンポーネント111と第3の処理コンポーネント113との間に積み重ねられた第2の処理コンポーネント112に設けられた、分配経路160の別の例を示す。この例では、分配経路160は、2つのチャネルと流体連通しており、処理コンポーネント111と第2の処理コンポーネント112によって形成されるチャネル130と、第2の処理コンポーネント112と第3の処理コンポーネント113によって形成されるチャネル130とである。したがって、分配経路160は、他のすべての処理コンポーネントに設けることができる。図5Cは、分配経路160が各処理コンポーネントに設けられている別のコンポーネントを示している。
【0051】
分配経路160は、図5B及び5Cに示されており、試薬のより効率的な使用(例えば、必要とされる高価な試薬の量を減らす)のために使用することができる。これらの例では、試薬は、細胞を含む培地と予備混合することなく、少なくとも処理アセンブリ110の予備混合の外側で、分配経路160を使用して処理チャネル130に直接供給することができる。このアプローチは、試薬が不安定で細胞培地中で分解する場合にも使用することができる。いくつかの例では、試薬の流速は、細胞培地の流速よりも少なくとも約10倍、100倍、さらには1000倍低い。これらの例では、分配経路160は、処理チャネル130と比較してはるかに小さい断面積を有することができる。さらに、分配経路160内の圧力は、細胞培地の分配経路160への逆流を防ぐために、処理チャネル130内の圧力と一致するか、又はそれを超える。
【0052】
処理コンポーネント119における処理チャネル130の配置は、処理コンポーネント119及び処理アセンブリ110全体の形状に依存し得る。例えば、図2Aは円形の処理コンポーネント119を示す。この例では、処理チャネル130は、例えば細胞処理装置100の主軸101から放射状に延びる。処理コンポーネントが長方形である場合、処理チャネル130は互いに平行に延びることができる。円形層の使用には、個々の層の間に配置されたリング状のゴム製ガスケットを使用して漏れを防止できるという、より単純なスタック設計の利点がある。対照的に、長方形の層を使用すると、漏れが発生し易いアセンブリの角で流体が流れるのを防ぐためにガスケットの使用が必要になる場合がある。
【0053】
いくつかの例では、リッジ140を備える処理コンポーネント119は、リッジを有さない試薬送達コンポーネントと交互に配置される。これらの例では、処理チャネル130は、全体が処理コンポーネント119によって、又は処理コンポーネント119を試薬送達コンポーネントと積み重ねることによって形成され得る。
【0054】
チャネル設計には、ピラー、リッジ、チャネル狭窄などの試薬と培地の混合を促進する構造要素を含めることができる。磁気ビーズ、磁性フィラメント、音響駆動フィラメントなどの作動混合要素を含めることができる。混合により培地の均一性が保証される。
【0055】
いくつかの例では、装置は、並列に配置された複数の細胞処理装置100を含むことができる。複数の並列デバイスの同時使用は、装置内の全体の流量の要件によって制限される可能性がある。いくつかの例では、フローは異なる装置に連続的に供給される。流量を減少させる重大な詰まりが検出されると、フローは次のデバイスに送られる。いくつかの例では、ある装置から別の装置へのフローの切り替えは、供給チャネル内の流量を監視することによって制御される。いくつかの例では、複数の細胞処理装置100が直列に接続されて、多段階のメカノポレーションを提供する。いくつかの例では、複数の細胞処理装置100の直列接続は、送達効率を向上させるため、又は異なるペイロードを細胞集団に順次送達するために実装される。
フィルターと分離の統合例
【0056】
いくつかの例では、細胞処理装置100は、メカノポレーション以外の追加機能を実行するように構成されている。さらに、これらの追加機能の1つは、メカノポレーションが実行される同じ処理アセンブリ内で実行できる。例えば、処理コンポーネントは、フィルタリング及び細胞分離を実行するように構成され得る。
【0057】
図6Aは、処理アセンブリ110を備える細胞処理装置100の概略図であり、処理アセンブリ110は、一次フィルター510、メカノポレーション520、及びセパレーター530を備える。一次フィルター510、メカノポレーター520、及びセパレーター530の各々は、1つ又は複数の処理コンポーネントによって形成される。しかしながら、これらの処理コンポーネントの構成は、図6B及び6Cを参照して以下でさらに説明するように、一次フィルター510、メカノポレーター520、及びセパレーター530のそれぞれで異なる。図6Aはまた、細胞処理装置100の追加構成要素としてプレフィルター502及びミキサー504を示す。これらのコンポーネントは、処理アセンブリ110から分離されていてもよい。
【0058】
細胞は最初にプレフィルター502に送られる。プレフィルターの目的は、平均細胞サイズより著しく大きく、処理マイクロチャネルの詰まりを引き起こす可能性がある合成粒子及び生物学的粒子を(培地から)除去することである。プレフィルターのいくつかの例には、平均セルサイズに匹敵する分離を備えたポストのアレイ、処理チャネルのギャップと同様のギャップを形成するクロスチャネルリッジが含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
次いで、前濾過された細胞が、プレフィルター502からミキサー504に送られる。いくつかの例では、培地(例えば、液体ベース)及び/又はペイロードもミキサー504に送られる。ミキサー504は、細胞を培地及びペイロードと混合して、細胞培地を形成する。次いで、細胞培地は処理アセンブリ110に送られる。より具体的には、細胞培地はまず一次フィルター510に送られ、そこで細胞はその圧縮性に基づいて濾過される。いくつかの例では、細胞は、一次フィルター510の後にミキサー504を使用してペイロードと混合される。一次フィルター510を通過した細胞は、その後メカノポレーター520に送られる。メカノポレーターの機能は上で説明されている。次いで、処理された細胞は、メカノポレーター520からセパレーター530に送られる。これらのコンポーネントのそれぞれについて、より詳細に説明する。
【0060】
メカノポレーター520と同様に、一次フィルター510は、細胞処理装置100の主軸101に沿って積み重ねられる処理コンポーネントから形成される。一次フィルター510の処理コンポーネントは、メカノポレーター520の処理コンポーネントとともに積み重ねられてもよい。しかしながら、一次フィルター510の処理コンポーネントは、図6B及び6Cを参照して以下でさらに説明するように、メカノポレーター520の処理コンポーネントとは異なる。一次フィルター510は、サイズ又は機械的特性のせいでメカノポレーター520の隙間を通過できず、メカノポレーター520の処理チャネルに詰まり、メカノポレーター520の詰まりを引き起こす可能性がある異常な細胞及び他の粒子を捕捉するように構成されている。
【0061】
いくつかの例では、一次フィルター510を通る細胞培地の線形流速は、メカノポレーター520を通る線形流速よりも小さい(例えば、少なくとも約2倍小さい、少なくとも約5倍小さい、又はさらに約10倍小さい)。一次フィルター510を通るより低い流速は、細胞が一次フィルター510内の捕捉された粒子及び非圧縮細胞の近くを通過するときの細胞の損傷を防ぐために使用される。いくつかの例では、線形流速の差は、例えば図6Bに概略的に示されるように、メカノポレーター520よりも一次フィルター510においてより多くの処理コンポーネント(及び対応するチャネル)を使用することによって達成される。図6Bは、一次フィルター510及びメカノポレーター520によって形成される処理アセンブリ110を備える細胞処理装置100を示す。一次フィルター510の処理コンポーネントの数は、メカノポレーター520よりも多く、例えば、少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、さらには約10倍である。一次フィルター510及びメカノポレーター520の各処理コンポーネントが同じ数のチャネルを有し、これらのチャネルが同じ平均断面積を有すると仮定すると、一次フィルター510の各チャネルを通る線形流量とメカノポレーター520の各チャネルを通る線形流量の比は、一次フィルター510の処理コンポーネントの数とメカノポレーター520の処理コンポーネントの数の比に反比例する。したがって、一次フィルター510、メカノポレーター520、及び処理アセンブリ110の他のサブアセンブリの処理コンポーネントの数を使用して、これらのサブアセンブリのそれぞれを通る線形流量を制御することができる。これらの各サブアセンブリを通過する体積流量は同じであることに留意されたい。全体として、一次フィルター510、メカノポレーター520、及び他のサブアセンブリは、同じ処理アセンブリ110に統合することができる。あるいは、これらのサブアセンブリはスタンドアロンのコンポーネントとすることもできる。
【0062】
図6Aを参照すると、細胞培地は、メカノポレーター520を通過した後、処理された細胞と残りの細胞培地(例えば、培地及び残りのペイロード)から分離するセパレーター530に供給され得る。これらの培地及び残りのペイロードは、リサイクル(例えば、ミキサー504に供給し戻す)することができ、これらのコンポーネントは、(例えば、処理アセンブリに供給される細胞培地の所望の組成を達成するために)新しい細胞、追加のペイロード、及び/又は追加の培地と組み合わされる。新しい試薬の量は、セパレーター530の分離効率に基づいて定義できる。
【0063】
図6Cを参照すると、いくつかの例では、セパレーター530は、チャネルの一方の側、例えば、第1の隔壁121に沿って細胞を集中させる斜めのリッジ140を備える。リッジ140の端部と第1の隔壁121との間の間隔は、側壁ギャップ143(又は「ガター」)と呼ばれることがある。細胞がチャネルを通って流れてリッジ140に遭遇すると、リッジ140は細胞を側壁ギャップ143に向ける一方、残りの培地(残りのペイロードを含む)がリッジ140とチャネルの別の壁との間の分離ギャップを通って流れることを許容する。分離ギャップは、図2Fを参照して上述したギャップ141と同様であり、細胞を圧縮するために使用される。セパレーター530はまた、側壁ギャップ143と位置合わせされ、セパレーター530から処理細胞を除去するために使用される第1の出口146を備える。さらに、セパレーター530は、(処理された細胞から分離された)残りの培地を除去するための第2の出口147を備える。上で述べたように、この培地はミキサー504に戻すことができます。
【0064】
いくつかの例では、細胞処理装置100は、圧力、温度、酸素センサーなどのプロセス制御用のセンサーを備える。例えば、圧力センサーは、入口(処理チャネルの前)及び出口(処理チャネルの後)に配置され、処理チャネル全体にわたる、又はより具体的には、一次フィルター510全体にわたる及び/又はメカノポレーター520全体にわたる圧力降下を決定する。圧力差の監視を使用して詰まりを判断できる。いくつかの例では、細胞の状態を制御するために化学センサーが使用される。流量センサーを使用して流量を制御できる。センサーからの信号は、さまざまなデバイス(ポンプ、細胞培地供給など)の動作を制御するために使用できる。例えば、圧力と流量のデータを使用して、濾過エレメントの機能を制御できる。濾過エレメントが大量の粒子や異常な細胞を捕捉した場合、流量の低下又は圧力の増加を利用して処理を中断し、濾過エレメントを交換又は洗い流すことができる。
【0065】
図7Aは、細胞処理装置100を備える処理システム190の別の例の概略図である。細胞処理装置100は、入口103及び出口105を備える。入口103は、滅菌バッグなどの細胞培地源191に接続するために使用される。出口105は、滅菌バッグなどの細胞培地レシーバー192に接続するために使用される。図7Aには特に示されていないが、処理システム190は、さまざまなバルブ、コネクタなどを含むこともできる。
【0066】
図7B及び7Cを参照すると、細胞処理装置100は、コレクタキャビティ712及びコレクタポート720を備える細胞培地コレクタ710を備える。処理システム190の動作中、コレクタキャビティ712は、まず(例えば、細胞培地供給源191からの)細胞培地で満たされる。例えば、コレクタポート720に流体的に結合されたデバイス(例えば、真空ポンプ)を使用して、コレクタキャビティ712内に減圧(例えば、1Paと1kPaの間)を作り出すことができる。この減圧により、細胞培地がコレクタポート720を満たす。このキャビティ充填動作中、出口105を通る流れは(例えば、出口バルブを使用して)遮断されることに留意されたい。コレクタキャビティ712が満たされると、フロースルー入口103は(例えば、入口バルブを使用して)ブロックされ、フロースルー出口105は使用可能になる。コレクタキャビティ712は、コレクタポート720に流体的に結合された同じ又は異なるデバイスを使用して、(例えば、105Pa~106Paの間に)加圧することができる。この圧力により、細胞培地は処理コンポーネント119を通って、又はより具体的には処理コンポーネント119内のチャネル139を通って流れる。
【0067】
図7Cを参照すると、出口105は、複数のチャネル139の各々に流体的に結合されている。コレクタキャビティ712は、コレクタポート720、入口103、及び複数のチャネル139の各々に流体的に結合されている。コレクタポート720は、ガス流源への接続に使用することができる。この例では、入口103は、コレクタポート720よりも処理アセンブリ110の近くに配置される。このアプローチは、上部充填と比較して、細胞培地に及ぼす機械的ストレスが少ない(穏やかな充填)。さらに、底部充填により泡立ちが少なくなる。いくつかの例では、上部充填デバイスには、細胞培地(液体)がコレクタキャビティ内で落ちる/飛び散るのを防ぐための液体ガイド機能が装備されている。
【0068】
図7D及び7Eは、図8A及び8Bと同様に、細胞処理装置100の追加の例の概略図であり、入口103は、処理アセンブリ110よりもコレクタポート720の近くに配置されている。充填中に、いくらかの気泡が細胞処理装置100に導入される可能性があることに留意されたい。上部充填アプローチは、上部から空気を放出することによって気泡の形成を最小限に抑える。液体を下から充填し、最初に液体内に空気が残っている場合、空気を逃がすために液体を通過する必要があり、気泡が発生して液面センサーが混乱する可能性がある。上部充填アプローチは、例えば上部から空気を逃がして気泡の捕捉を避けるなど、気泡の形成を防ぐのに役立つ。
【0069】
図7Eを参照すると、いくつかの例では、細胞培地コレクタ710は、コレクタキャビティ712内の細胞培地の1つ以上のレベルを測定するための1つ以上のレベルセンサ714をさらに備える。レベルセンサ714のいくつかの例には、静電容量センサー、超音波センサー、及び磁気センサーが含まれるが、これらに限定されない。磁気センサーを使用する場合、キャビティ内に磁石を備えたフローターを配置できる。フローターは細胞培地のレベルに応じて位置を変更する。
動作方法例
【0070】
図9は、いくつかの例による、細胞処理装置100を使用して細胞を処理するメカノポレーション方法900に対応するプロセスフローチャートである。細胞処理装置100のさまざまな例を上記で説明した。
【0071】
メカノポレーション方法900は、細胞処理装置100の入口103を通して細胞を含む細胞培地を流すステップ(ブロック910)を含む。いくつかの例では、細胞培地は、細胞の重力沈降を防ぐために細胞培地源191内で撹拌される。このような撹拌は、細胞培地源191内で一時的又は連続的な培地運動を引き起こす機械的又は磁気撹拌機によって達成することができる。
【0072】
メカノポレーション方法900はまた、細胞処理装置100の主軸101に沿って積み重ねられた処理コンポーネント119のそれぞれにおける複数のチャネル139の間で細胞処理装置100内の細胞培地を分配するステップ(ブロック920)を含む。
【0073】
メカノポレーション法900は、複数のチャネル139を通して細胞培地を流すステップ(ブロック930)をさらに含む。各チャネル139は、1つ又は複数のリッジ140を含む。各リッジ140は、ギャップ141が細胞培地中の細胞の直径よりも小さくなるように、処理コンポーネント119のうちの隣接するものと間隙141を形成する。例えば図2Fを参照して上述したように、細胞培地が複数のチャネル139を通って流れると、細胞がギャップ141を通過する間に細胞の圧縮が生じる。
【0074】
さらに、細胞培地の一部が複数のチャネル139の各々に入る際に同じ圧力を受ける間に、複数のチャネル139を通して細胞培地を流すことが実行される。この同じ加圧機能は、エアポンプ又は別の圧力源によって達成される。
結論
【0075】
上記の概念は、理解を明確にするためにある程度詳細に説明されているが、特定の変更及び修正が添付の特許請求の範囲内で実施され得ることは明らかであろう。プロセス、システム、及び装置を実装するには多くの代替方法があることに留意されたい。したがって、本実施例は例示的なものであり、限定的なものではないと考えられる。
図1A
図1B
図2A-2C】
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図3A
図3B
図3C-3D】
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D-4G】
図4H
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図9
【国際調査報告】