(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(54)【発明の名称】銅および/または鉄を捕捉することによって腫瘍を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/80 20060101AFI20231122BHJP
A61K 31/395 20060101ALI20231122BHJP
A61K 33/244 20190101ALI20231122BHJP
A61K 51/06 20060101ALI20231122BHJP
A61K 49/10 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
A61K31/80
A61K31/395
A61K33/244
A61K51/06 100
A61K49/10
A61K51/06 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530633
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 FR2021052040
(87)【国際公開番号】W WO2022106787
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519433399
【氏名又は名称】エヌアッシュ テラギ
(71)【出願人】
【識別番号】511196870
【氏名又は名称】ユニベルシテ クロード ベルナール リヨン プルミエ
(71)【出願人】
【識別番号】523185257
【氏名又は名称】メックスブレイン
(71)【出願人】
【識別番号】513015441
【氏名又は名称】サントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック - セーエヌエールエス
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE - CNRS
【住所又は居所原語表記】3,rue Michel Ange,F-75016 Paris 16,France
(71)【出願人】
【識別番号】514282002
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】508277405
【氏名又は名称】ホスピス・シビル・ドゥ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】HOSPICES CIVILS DE LYON
(71)【出願人】
【識別番号】522116993
【氏名又は名称】アンスティチュ ナシオナル ドゥ ルシェルシュ プー ラグリキュルチュール,ラリモンタシオン エ ロンヴィロンヌモン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ティユモン,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】リュクス,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルノ,デルフィヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス-ラフラス,クレール
(72)【発明者】
【氏名】ブリシャー,トマ
(72)【発明者】
【氏名】ナテュツィ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】グロン,アラン
(72)【発明者】
【氏名】シャンパーニュ,シモン
(72)【発明者】
【氏名】マルティニ,マテオ
(72)【発明者】
【氏名】ロッチ,ポール
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084MA17
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC711
4C085HH03
4C085HH07
4C085KA09
4C085KA28
4C085KA29
4C085KB07
4C085KB12
4C085KB56
4C085KB72
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC58
4C086FA05
4C086HA05
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA41
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC71
(57)【要約】
本開示は、医薬における、特に腫瘍の治療のためのナノ粒子およびその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式のナノ粒子であって:
[Ch1]
n-PS-[Ch2]
m,
式中;
PSは、有機または無機のポリマーマトリックスであり、
Ch1は、錯体を形成していないか、または金属カチオンM1と錯体を形成しているキレート基であり、
M1は、存在しないか、または、Ch1との錯体形成定数が、銅の錯体形成定数よりも小さく、特に少なくとも10分の1よりも小さい金属カチオンから選択され、例えば、M1は、亜鉛またはアルカリ土類金属から選択され、特にカルシウムまたはマグネシウムであり、
Ch2は、前記キレート基Ch1と同一であるかまたは異なり、40を超え、好ましくは50を超える高い原子番号Zを有する金属カチオンM2と錯体を形成するキレート基であり、
(i)前記キレート剤Ch1およびCh2は、前記ポリマーマトリックスにグラフトされており、
(ii)n/(n+m)比率は10%~100%であり、かつ、
(iii)前記ナノ粒子の平均流体力学的直径は、1~50nm、好ましくは2~20nm、より好ましくは2~8nmであることを特徴とする、ナノ粒子。
【請求項2】
少なくとも50%の前記Ch1が、亜鉛、カルシウムまたはマグネシウムと錯体を形成していることを特徴とする、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記キレート基Ch1、および、必要に応じてCh2は、大環状物質、好ましくは1,4,7-トリアザシクロノナン三酢酸(NOTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1-グルタル-4,7-二酢酸(NODAGA)、および、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン,1-(グルタル酸)-4,7,10-三酢酸(DOTAGA)、2,2',2'',2'''-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトライル)テトラアセトアミド(DOTAM)、および、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(サイクラム)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(シクレン)、デフェロキサミン(DFO)から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記金属カチオンM2が、放射線感受性増強物質および/または磁気共鳴画像法造影物質、特にガドリニウムまたはビスマスから選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のナノ粒子であって、
(i)PSは、ポリシロキサンマトリクスであり、
(ii)Ch1およびCh2は、下記式(I)に示すDOTAGAキレート基であり、
【化1】
Si-C結合によって前記ポリシロキサンマトリックスにグラフトされており、
(iii)M1は存在せず、M2はガドリニウムカチオンGd
3+であり、
(iv)n+mは、5~50、好ましくは10~30であり、かつ、
(iv)平均流体力学的直径は、2~8nmであることを特徴とする、ナノ粒子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のナノ粒子のコロイド溶液。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のナノ粒子のコロイド溶液と、1種以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項8】
対象における静脈内、腫瘍内または肺内投与のための注射用組成物であり、特に腫瘍における銅のインビボでの捕捉のための有効量のキレート基Ch1を含み、遊離した前記キレート剤は、例えば、組成物中において、少なくとも10mMの濃度であることを特徴とする、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
対象における癌の治療、特に腫瘍における銅および/または鉄の前記インビボでの捕捉に使用するための、請求項7または8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物は、放射線感受性増強物質として使用するための有効量の金属カチオンM2、好ましくはガドリニウムを含み、前記対象は、前記組成物を投与した後に、放射線療法によって治療されることを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本開示は、医薬の分野、特に銅および/または鉄を捕捉することによる腫瘍の治療のためのナノ粒子、およびその使用に関する。
【0002】
[従来技術]
生物中の銅および/または鉄の含有量を減少させることは、転移性癌を治療する際の興味深い戦略である。この減少は単純な治療計画によって提案されているが(Counter CM, Brady DC, Turski ML, & Thiele DJ (2015) Methods of treating and preventing cancer by disrupting the binding of copper in the map-kinase pathway 1(19) 0-4)、その考えは銅を錯体化できる薬剤の投与に注目している。いくつかの銅キレート剤:ペニシラミン、トリエンチン、ジスルフィラム、クリオキノール、およびテトラモリブデン酸塩、並びに鉄キレート剤も、これまで評価されており、銅に関しては、金属中毒:デフェロキサミン(DFO)、デフェリプロン(DFP)、デフェラシロクスを治療するために使用されている(Gaur et al, Inorganics, 2018, 6, 126)。興味深い前臨床的および臨床的結果が達成されているが、それらはしばしば制限されているか、またはそれらを使用することを妨げる可能性がある副作用と関連している。
【0003】
銅および/または鉄は、生命に不可欠な金属カチオンであるが、多くの他の金属カチオンもまた同様である。したがって、強力すぎるキレート剤の使用は、患者を、彼らの身体の他の部分において弱体化させる危険性があり、これは、化学療法に薬剤を使用するときにおける一般的な問題である。
【0004】
逆に言えば、十分に特異的ではなく、それ故、亜鉛、または、さらにはマンガン等の他の生体必須金属に対して大きな親和性を有するキレート剤の使用は、問題のある副作用をもたらす可能性がある。
【0005】
したがって、銅または鉄の減少に基づく治療戦略の1つの目的は、銅および/または鉄に対するキレート定数および特異性をますます大きくすることである。その結果、良好な有効性を確保しつつ、副作用を抑制することができる。別の目的はこの抽出の位置を標的することと、腫瘍環境中の銅および/または鉄を高度に正確に捕捉することである。
【0006】
インビトロで非常に効果的な銅キレート剤であるテトラチオモリブデン酸塩は、使用し得る銅の減少を誘導することにより、血管形成および腫瘍増殖の抑制に特に効果を示している(Alvarez HM, Xue Y, Robinson CD, Canalizo-Hernandez MA, Marvin RG, Kelly RA, Mondrag-n A, Penner-Hahn JE, & O’Halloran T V. (2010) Tetrathiomolybdate inhibits copper trafficking proteins through metal cluster formation Science (80-) 327(5963) 331-334, https://doi.org/10.1126/science.1179907)。
【0007】
しかしながら、この使用は依然として制限されており、治療中に、紅斑、視神経炎、嘔吐および白血球減少症などの望ましくない副作用が観察され、おそらく、体全体にわたる銅の非選択的抽出に関連している。
【0008】
Zhouらは、集合してカプセルを形成するポリマー内のキレート剤の組み合わせが、別の薬剤(レシキモド-R848)との結合を可能にすることを提案した。使用されるキレート剤はTETAである。形成された粒子はサイズが大きく(RPTDHの分子量が400kDaを超える)、抽出能力が比較的限られており、錯化剤は、銅に対して比較的特異的であるが、安定性が低い。このように、50μg/ml、すなわち50ppmを超える銅イオンの含有量に対する銅の抽出能力(我々の体内の自然濃度よりも1桁以上高い)が実証されている(Zhou P, Qin J, Zhou C, Wan G, Liu Y, Zhang M, Yang X, Zhang N, & Wang Y (2019) Multifunctional nanoparticles based on a polymeric copper chelator for combination treatment of metastatic breast cancer Biomaterials 195 86-99, https://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2019.01.007)。さらに、前臨床実験では、注射後、粒子による腫瘍の良好な標的化にもかかわらず、有意な割合のナノ粒子が6時間後に肝臓、脾臓、腎臓および肺において、さらに24時間後に肺において見出されたことが観察された。
【0009】
近年、Wuらは、銅を担持したナノ粒子の使用を提案しており、塩析し、次いで銅を捕捉する可能性を利用し、抗腫瘍効果を起こしている(Wu W, Yu L, Jiang Q, Huo M, Lin H, Wang L, Chen Y, & Shi J (2019) Enhanced Tumor-Specific Disulfiram Chemotherapy by in Situ Cu2+ Chelation-Initiated Nontoxicity-to-Toxicity Transition J Am Chem Soc 141(29) 11531-11539, https://doi.org/10.1021/jacs.9b03503)。表面ペグ化メソポーラスシリカに基づくこれらの粒子のサイズは、約165nmである。しかしながら、これらの大きな粒子の生体内分布研究は、肺、脾臓、肝臓および心臓における高度の捕捉を実証した。銅捕捉という元来の可逆的な態様とは別に、当該粒子は、生体内の銅カチオンをキレート化する能力が低い。
【0010】
Fengらは、銅(ブレオマイシン)を錯化する能力が知られている薬剤を充填したメソ多孔性硫化銅粒子の使用を提案した。このアプローチは赤外領域での吸収を開始するための硫化銅の光学特性のため有益であるが、それにもかかわらず、硫化銅の使用は錯化剤によって充填されていても、いくつかの領域に過剰量の銅を導入する危険性があることに留意すべきである。また、この使用にとって、該粒子は十分な分子を封入することができるように、サイズが大きく、平均で119.8nmである。Feng Q, Zhang W, Li Y, Yang X, Hao Y, Zhang H, Li W, Hou L, & Zhang Z (2017) An intelligent NIR-responsive chelate copper-based anticancer nanoplatform for synergistic tumor targeted chemo-phototherapy Nanoscale 9(40) 15685-15695, https://doi.org/10.1039/c7nr05003h。
【0011】
デフェロキサミン(DFO)は、鉄金属中毒の治療にも使用されており、鉄隔離による治療のために腫瘍学で使用された最初のキレート剤であった。したがって、DFOは、予備臨床試験において白血病および神経芽細胞腫を治療するための有望な結果を与えた(Wang et al., Iron and Leukemia, 2019, 38, 406)。
【0012】
しかしながら、これらの分子キレートの使用は、それらの迅速な排除、腫瘍を標的とすることの欠如、高用量でのそれらの毒性、およびそれらが引き起こす副作用によって制限されている。
【0013】
これらの様々な問題を克服するために、多くのチームが、鉄キレート剤をナノ粒子と組み合わせること、または鉄を本質的にキレートするナノ粒子を使用することを提案している。これによると、J.Perringらは、鉄を本質的にキレート化するメラニンのナノ粒子の形成を提案した(Journal of Materials Science: Materials in medicine 2018, 29, 181)。これらの粒子はサイズが220nmに近く、鉄を捕捉し、癌細胞死(横紋筋肉腫および神経膠芽腫)をもたらす能力が実証されている。しかしながら、ナノ粒子のサイズが大きいと、臨床使用にあまり適していない生体内分布を誘発する危険性がある。
【0014】
DFOの生体内分布を改善するために、従来のリポソームベースの薬物送達システムも提案されている。これは、Langらによって提案された(ACS Nano, 2019, 13, 2176-2189)。彼らは、また、DFOを、このリポソーム内にて、HIF1α(低酸素誘導因子1α)阻害剤と組み合わせ、通常、DFOとともに観察されるHIF1αの過剰発現を制限した。リポソーム内への封入が、約100nmのナノ粒子を得ることを可能にした。げっ歯類モデルにおけるインビトロおよびインビボの前臨床試験は、抗腫瘍作用を実証することを可能にした。それにもかかわらず、ナノ粒子のサイズのために、肝臓および脾臓における高度の蓄積が観察された。
【0015】
同じ推論に従い、M.Theerasilpらは、ポリマーミセル内への異なる鉄キレート剤のカプセル化を提案した(RSC Advances, 2017, 7, 11158)。これらのミセルは当該ミセルのコアを形成する疎水性部分と、コロイド安定性をもたらす親水性部分とを有するポリマーから形成されている。これらのミセルは、異なる細胞株において抗癌活性を示し、サイズが約25nmであり、キレート剤に基づき、pHに基づいて塩析を示した。
【0016】
これら全ての研究から、現在のところ、腫瘍の治療に使用するためにおける、腫瘍の効果的かつ特異的な標的化と、特に、およそmg/L程度という有効濃度においてナノ粒子を投与することによる、生体内の銅および/または鉄の十分な局所でのキレート化との両方を可能にする解決策は存在しないことが明らかである。
【0017】
本開示の別の目的は、銅および/または鉄が一般に血液中を循環するときだけでなく、より具体的には腫瘍環境内でも捕捉されることを可能にする化合物を提供することである。特に、本開示の1つの目的は、腫瘍環境において、1リットル当たり10μmolを超える銅および/または鉄、またはさらには100μmolを超える銅および/または鉄を捕捉すること、すなわち、100~10000ppbの銅または鉄を局所的に捕捉することを可能にする化合物を提供することである。
【0018】
本開示の別の目的は、銅および/または鉄に対する高度の特異性を有するキレート化と、腫瘍環境における特に数日間または数週間の十分に長い滞留時間とを可能にする化合物を提供することである。
【0019】
本開示の別の目的は、体内の銅および/または鉄に取って代わるイオンを局所的に放出することができ、それによってその効果を中和することである。
【0020】
本開示の別の目的は、十分に小さく、転移、特に骨転移を含む多数の固形腫瘍を標的とすることを可能にする化合物を提供することである。
【0021】
本開示の別の目的は、腫瘍中の銅および/または鉄の両方を捕捉することと、放射線療法による治療のための放射線増感効果を提供することとの両方を可能する化合物を提供することである。このようにして、照射中、生体金属の局所的な捕捉が細胞修復機構を破壊し、放射線療法の効果を増幅するはずである。
【0022】
本開示は、これらの上述の目的のうちの1つ以上に関する状況を改善する。
【0023】
実際、腫瘍、特に原発性および/または転移性腫瘍の治療に適した、適切な生体分布および熱力学的および動力学的特性を有するキレートナノ粒子の使用が提案されている。
【0024】
第1の態様によれば、以下の式のナノ粒子が提案される:
[Ch1]n-PS-[Ch2]m,式中:
PSは、有機または無機のポリマーマトリックスであり、
Ch1は、錯体を形成していないか、または金属カチオンM1と錯体を形成しているキレート基であり、
M1は、存在しないか、または、Ch1との錯体形成定数が、銅の錯体形成定数よりも小さく、特に少なくとも10分の1よりも小さい金属カチオンから選択され、例えば、M1は、亜鉛またはアルカリ土類金属から選択され、特にカルシウムまたはマグネシウムであり、
Ch2は、前記キレート基Ch1と同一であるかまたは異なり、40を超え、好ましくは50を超える高い原子番号Zを有する金属カチオンM2と錯体を形成するキレート基であり、
(i)前記キレート基Ch1およびCh2は、前記ポリマーマトリックスPSにグラフトされており、
(ii)n/(n+m)比率は10%~100%、好ましくは40%~60%であり、かつ、
(iii)前記ナノ粒子の平均流体力学的直径は、1~50nm、好ましくは2~20nm、より好ましくは2~8nmであることを特徴とする。
【0025】
別の態様によれば、上記で定義されたナノ粒子のコロイド溶液が提案される。
【0026】
別の態様によれば、前記ナノ粒子のコロイド溶液および1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が提案される。
【0027】
以下の段落に記載された特徴は、任意選択的に実施することができる。それらは、独立して、または互いに組み合わせて実施することができる:
一実施形態では、キレート基Ch1は、銅(II)に対して1015を超える錯体形成定数を有するものから選択される。
【0028】
一実施形態では、キレート基Ch1は、銅(II)との錯体形成の定数が、亜鉛との錯体形成の定数よりも少なくとも10倍大きく、マグネシウムおよびカルシウムとの錯体形成の定数よりも少なくとも106倍大きいものから選択される。
【0029】
別の実施形態では、キレート基Ch1は、鉄(II)との錯体形成の定数が亜鉛との錯体形成の定数よりも少なくとも10倍大きく、マグネシウムおよびカルシウムとの錯体形成の定数よりも少なくとも106倍大きいものから選択される。
【0030】
一実施形態において、Ch1の少なくとも50%は、アルカリ土類金属から選択される金属カチオンと錯体を形成している。
【0031】
一実施形態において、Ch1の少なくとも50%は、亜鉛、カルシウムまたはマグネシウムと錯体を形成している。
【0032】
一実施形態では、前記キレート基Ch1、および、必要に応じてCh2は、大環状物質、好ましくは1,4,7-トリアザシクロノナン三酢酸(NOTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1-グルタル-4,7-二酢酸(NODAGA)、および、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン1-(グルタル酸)-4,7,10-三酢酸(DOTAGA)、2,2',2'',2'''-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトライル)テトラアセトアミド(DOTAM)、および、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(サイクラム)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(シクレン)、およびデフェロキサミン(DFO)または他の鉄キレート剤から選択される。
【0033】
一実施形態において、キレート基Ch1は、下記式(I)に示すDOTAGAである。
【0034】
【0035】
一実施形態において、PSは、ポリシロキサンマトリックスである。
【0036】
一実施形態において、前記ナノ粒子は、
ナノ粒子の総重量に対するケイ素の重量比率が5%~25%の間であり、
ポリマーにグラフトされるキレート基の総数n+mは、ナノ粒子あたり5~50、好ましくは10~30であり、かつ、
ナノ粒子は、2~8nmの平均直径を有していることを特徴とする。
【0037】
一実施形態において、前記ナノ粒子は、標的化剤、特にペプチド、免疫グロブリン、ナノボディ、抗体、アプタマーまたは標的化蛋白質で官能化されている。
【0038】
一実施形態において、金属カチオンM2は、放射線感受性増強物質および/または磁気共鳴画像法造影物質、特にガドリニウムまたはビスマスから選択される。
一実施形態において、前記ナノ粒子は、
(i)PSは、ポリシロキサンマトリクスであり、
(ii)Ch1およびCh2は、下記式(I)のDOTAGAキレート基であり、
【0039】
【0040】
共有結合によってポリシロキサンマトリックスにグラフトされており、
(iii)M1は存在せず、M2はガドリニウムカチオンGd3+であり、
(iv)n+mは、5~50、好ましくは10~30であり、かつ、
(V)平均流体力学的直径は、2~8nmであることを特徴とする。
【0041】
一実施形態において、医薬組成物は、対象における静脈内、腫瘍内又は肺内投与のための注射用組成物であり、特に、腫瘍における銅および/又は鉄のインビボでの捕捉のための有効量のキレート基Ch1を含み、遊離したキレート剤は、例えば、前記組成物中において、少なくとも10mMの濃度である。
【0042】
一実施形態において、本開示は、対象における癌の治療、特に腫瘍における銅および/または鉄のインビボでの捕捉に使用するための医薬組成物を提供する。特に、この実施形態では、前記医薬組成物は、放射線感受性増強物質として使用するための有効量の金属カチオンM2、好ましくはガドリニウムを含んでもよく、前記対象は、前記組成物を投与した後に、放射線療法によって治療される。
【0043】
〔図面の簡単な説明〕
他の特徴、詳細、および利点は以下の詳細な説明を読み、添付の図面を検討することによって明らかになるのであろう:
図1
[
図1]
図1は、反応媒体中における遊離ガドリニウムのHPLC-ICP/MSクロマトグラムを、保持時間Tr(min)の関数として示している。
【0044】
図2
[
図2]
図2は、1mgのCuPRiX
20(395nmでの励起)あたりに添加されたユウロピウムの量の関数として、590nmでの発光強度を測定することにより、遊離DOTAのCuPRiX
20を滴定した結果を示している。
【0045】
図3
[
図3]
図3は、AGuIX(登録商標)およびCuPRiX
20の銅錯体形成前後におけるクロマトグラムである。
【0046】
図4
[
図4]
図4は、A549細胞の細胞運動性に対するCuPRiX
20の濃度増加(0、50、100、500、1000μMの遊離キレート、約0、150、300、600、900、1200、1500および3000μMのガドリニウムに相当)の効果を示している。(A)時間の関数としての創傷閉鎖の定量的分析。創傷の相対密度は、領域の密度に対する創傷の領域の密度の尺度である。
【0047】
図5
[
図5]
図5は、A549細胞の細胞運動性に対するCuPRiX
20の濃度増加(0、100、200、300、400および500μMの遊離キレート、約0、300、600、900、1200および1500μMのガドリニウムに相当)の効果を示している。(A)時間の関数としての創傷閉鎖の定量的分析。創傷の相対密度は、細胞領域の密度(%)に対する創傷の領域の密度の尺度である。データは平均±SEM(n=6)として示す。(B)画像は、それぞれの状態が、元の創傷、並びにその24時間後および48時間後を示していることを示す。スケールバーは300μmを示している。
【0048】
図6
[
図6]
図6は、A549細胞の細胞運動性に対するCuPRiX
20(0および500μMの遊離キレート,約0および1500μMのガドリニウムに相当する)の効果を示している。細胞をCuPRiX
20で72時間処理した後、創傷を作製した。(A)時間の関数としての創傷閉鎖の定量的分析。創傷の相対密度は、細胞領域の密度(%)に対する創傷の領域の密度の尺度である。データは平均±SEM(n=6)として示している。(B)画像は、それぞれの状態が、元の創傷、並びにその24時間後および48時間後を示していることを示す。スケールバーは300μmを示している。
【0049】
図7
[
図7]
図7は、A549細胞の細胞浸潤に対するCuPRiX
20(0および500μMの遊離キレート,約0および1500μMのガドリニウムに相当する)の効果を示している。(A)時間の関数としての創傷閉鎖の定量的分析。創傷の相対密度は、細胞領域の密度(%)に対する創傷の領域の密度の尺度である。データは平均±SEM(n=6)として示している。(B)画像は、それぞれの状態が、元の創傷、並びにその24時間後および48時間後を示していることを示す。スケールバーは300μmを示している。
【0050】
図8
[
図8]
図8は、A549細胞の走化性遊走に対するCuPRiX
20の効果を示している。遊走は、膜上に播種された最初の細胞のコンフルエンスに対しての、膜を通過した細胞のコンフルエンスの比として表されている。データは平均±SEM(n=5)として示している。
【0051】
図9
[
図9]
図9は、A549細胞の運動性に対するCuPRiX
30と光照射との併用の効果を示している。創傷の相対密度は、細胞領域の密度(%)に対する創傷の領域の密度の尺度である。データは平均±SEM(n=6)として示している。
【0052】
図10
[
図10]
図10は、A549細胞におけるCuPRiX
30の放射線増感効果を示している。
【0053】
図11
[
図11]
図11は、(A)A549、(B)SQ20B-CD44
+および(C)4T1細胞株に対するCuPRiXおよびAGuIXの放射線増感作用を示している。
【0054】
図12
[
図12]
図12は、トリプルネガティブ乳癌マウスモデルにおけるCuPRiX
30の(A)腫瘍増殖および(B)転移に対する有効性を示している。(A)腫瘍増殖は腫瘍の体積(1/2*L*W
2、ここで、Lは腫瘍の長さであり、Wは腫瘍の幅である)として、時間の関数として、表される。データは平均値±標準偏差、*p=0.038として示している。AUC比較:Kruskal-Wallis試験。(B)治療群別の肺からのコロニー数。NaCl n=4、CuPRiX
30 n=6。
【0055】
図13
図13は、注射および照射のダイアグラムを示している。
【0056】
図14
図14は、腫瘍増殖および生存に対する放射線療法の有効性を示している。
【0057】
〔発明の概要〕
図面および以下の説明は、実質的に明確な性質の要素を含む。したがって、それらは、本開示をより良く理解することのみならず、必要に応じ、それらの定義に寄与することにも役立つ。
【0058】
ナノ粒子
したがって、本開示は、下記式のナノ粒子であって:
[Ch1]n-PS-[Ch2]m、
PSは、有機または無機のポリマーマトリックスであり、
Ch1は、錯体を形成していないか、または金属カチオンM1と錯体を形成しているキレート基であり、
M1は、存在しないか、または、Ch1との錯体形成定数が、銅、および/または鉄の錯体形成定数よりも小さく、特に少なくとも10分の1よりも小さい金属カチオンから選択され、例えば、M1は、亜鉛またはアルカリ土類金属から選択され、特にカルシウムまたはマグネシウムであり、
Ch2は、前記キレート基Ch1と同一であるかまたは異なり、40を超え、好ましくは50を超える高い原子番号Zを有する金属カチオンM2と錯体を形成するキレート基であり、
(i)前記キレート基Ch1およびCh2は、前記ポリマーマトリックスPSにグラフトされており、
(ii)n/(n+m)比率は10%~100%であり、好ましくは、40%~60%であり、かつ、
(iii)前記ナノ粒子の平均流体力学的直径は、1~50nm、好ましくは2~20nm、より好ましくは2~8nmであることを特徴とする、ナノ粒子に関する。
【0059】
本開示によるナノ粒子は、有利にはナノメートル範囲のサイズの粒子である。特に、ナノ粒子は、血管系を介したEPR効果を用いて腫瘍細胞を標的とし、静脈内投与後に腎臓で迅速に排除されるのに十分小さい。
【0060】
本開示によれば、好ましくは、例えば1~10nm、好ましくは2~8nmの非常に小さい直径を有するナノ粒子が使用される。
【0061】
ナノ粒子の粒度分布は、例えば、PCS(光子相関分光法)に基づくMalvern Zetasizer Nano-Sなどの市販の粒度分析器を用いて測定される。この分布は、平均流体力学的直径によって特徴付けられる。
【0062】
したがって、本発明の目的のために、ナノ粒子の「直径」は、平均流体力学的直径、すなわち、粒子の直径の調和平均を測定する。このパラメータを測定する方法は、ISO規格13321:1996にも記載されている。
【0063】
本開示によるナノ粒子は、有機または無機のポリマーマトリックスPSを含むナノ粒子である。
【0064】
いくつかの実施形態では、マトリックスPSのポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、バイオポリマー、多糖類もしくはポリシロキサンまたはそれらの混合物などの生体適合性ポリマーから選択され、好ましくは、ポリマーPSはポリシロキサンである。
【0065】
「ポリシロキサンポリマーマトリクスを含むナノ粒子」は、特に、ナノ粒子の総重量の少なくとも5重量%、例えば、5~20重量%のケイ素の重量パーセントを特徴とするナノ粒子を意味する。
【0066】
「ポリシロキサン」は、シロキサンの鎖からなる無機架橋ポリマーを意味する。ポリシロキサンの構造単位は、同一であるかまたは異なり、次の式:
Si(OSi)nR4-n;式中
Rは、Si-C共有結合を介してケイ素に結合した有機分子であり、
nは、1~4の整数である。
【0067】
好ましい例として、用語「ポリシロキサン」は特に、ゾル-ゲル法によるテトラエチルオルトシリケート(TEOS)とアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)との縮合から得られるポリマーを包含する。
【0068】
本開示の目的において、「キレート基」は、金属カチオンを錯体することができる有機基を意味する。好ましくは、上述のキレート基は、ナノ粒子のマトリックスPSのポリシロキサンのケイ素に、共有結合を介して、直接的または間接的に結合される。「間接的」結合は、ナノ粒子とキレート基との間の「リンカー」または「スペーサー」分子の存在を意味し、上述のリンカーまたはスペーサーはナノ粒子の構成成分の1つに共有結合している。
【0069】
キレート基Ch1の特定の役割は、内因性銅または内因性鉄を捕捉することである。一実施形態では、銅のインビボでの捕捉を可能にするために、キレート基Ch1は、有利には銅(II)に関して、1015超、例えば1020超の錯体生成定数を有するものから選択される。
【0070】
一実施形態では、鉄のインビボでの捕捉を可能にするために、キレート基Ch1は有利には鉄(II)に関して、1015超、例えば1020超の錯体生成定数を有するものから選択される。
【0071】
一実施形態では、キレート基Ch1は遊離しているか、または少なくとも部分的に金属カチオンM1と錯体形成している。この場合、金属カチオンM1は、注意深く選択されたキレート基と錯体形成し、銅および/または鉄との、インビボでの金属カチオンM1のトランスメタル化を可能にする。したがって、具体的な実施形態では、キレート基Ch1は、有利には、銅(II)または鉄との錯体形成の定数が、亜鉛との錯体形成の定数よりも少なくとも10倍大きく、マグネシウムおよびカルシウムとの錯体形成の定数よりも少なくとも106倍大きいものから選択される。
【0072】
キレート基Ch1は、好ましくは、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N'',N'''-四酢酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸)、NODAGA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1-グルタル酸-4,7-二酢酸)、DOTAGA(2-(4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)ペンタン二酸)、DOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)、および1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(サイクラム)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(シクレン)、デフェロキサミンから選択される大環状物質の、ナノ粒子へのグラフト(共有結合)によって得られる。デフェロキサミンは、鉄の捕捉を目的として、より特に有益である。
【0073】
一実施形態では、特に2つの前述の段落に記載の実施形態において、キレート基Ch1と錯体を形成する金属カチオンM1は、亜鉛またはアルカリ土類金属、特にマグネシウムまたはカルシウムから選択される。好ましくは、Ch1の少なくとも50%、60%、70%、80%、またはさらに少なくとも90%が亜鉛、カルシウム、マグネシウムまたは別のアルカリ土類金属と錯体を形成している。
【0074】
好ましい実施形態において、キレート基Ch1は、以下の式(I)のDOTAGAである:
【0075】
【0076】
本開示によれば、Ch1と同一または異なるキレート基Ch2は、40を超える、好ましくは50を超える高い原子番号Zを有する金属カチオンM2と錯体形成されている。したがって、ナノ粒子は、ポリマーマトリックスPSにグラフトされ、金属カチオンM1、例えば、亜鉛、マグネシウム、カルシウムまたは他のアルカリ土類金属と錯体化しているか、または錯体化していない1つ以上のCh1基と、40を超える高い原子番号Zを有する金属カチオンM2と錯体化している1つ以上のCh2基とを含んでいる。
【0077】
したがって、キレート基Ch2は、好ましくは金属カチオンM2との錯体生成定数が1015より大きいか、または1020より大きいキレート基から選択される。具体的な実施形態において、金属カチオンM2は、前記ナノ粒子を放射線感受性増強物質として使用することを可能にするものから選択される。
【0078】
本発明の範囲において、「放射線感受性増強物質」は、放射線療法に使用される放射線に対してがん細胞をより感受性にすることを可能にする化合物を意味する。
【0079】
キレート基Ch2はまた、Ch1と同一であるかまたは異なり、大環状物質、好ましくはDOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N'',N'''-四酢酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸)、NODAGA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1-グルタル酸-4,7-二酢酸)、DOTAGA(2-(4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)ペンタン二酸)、DOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)、および1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(サイクラム)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(シクレン)、およびデフェロキサミン(DFO)から選択され得る。
【0080】
より詳細には、金属カチオンM2は、重金属から選択され、好ましくはPt、Pd、Sn、Ta、Zr、Tb、Tm、Ce、Dy、Er、Eu、La、Nd、Pr、Lu、Yb、Bi、Hf、Ho、Sm、InおよびGd、またはそれらの混合物からなる群から選択される。金属カチオンM2は、好ましくはBiおよび/またはGdである。
【0081】
特定の実施形態では、本発明において使用されるナノ粒子は、3~100個、好ましくは5~20個の金属カチオンM2、特にBiおよび/またはGdを含む。
【0082】
本発明によるナノ粒子は、キレート基Ch1による銅および/または鉄の捕捉、ならびに/または、造影剤、放射線感受性増強物質または近接照射療法剤の特性を有する金属カチオンM2と錯体形成したキレート基Ch2による腫瘍の画像化若しくは治療の両方を可能にする。
【0083】
MRI造影剤として使用することができる金属カチオンM2の例として、Gd、Dy、MnおよびFeが挙げられる。
【0084】
放射線感受性増強物質として使用することができる金属カチオンM2の例として、Gd、Lu、YbおよびBi、HfおよびHo、好ましくはガドリニウムまたはビスマスが挙げられる。
【0085】
当業者は所望の効果に基づいて、特に、所望の治療、患者のタイプ、使用される用量および/または治療される患者に基づいて、n/(n+m)比率を選択するのであろう。例えば、n/(n+m)比率は、20%以上、特に20%~100%、好ましくは40%~60%である。一実施形態では、n/(n+m)は100%に等しい。言い換えれば、金属カチオンM2と錯体を形成するキレート剤Ch2の数を表すmは0に等しく、キレート基Chの100%が金属カチオンM1と錯体を形成しているか、または錯体を形成していない。
【0086】
より具体的な実施形態では、キレート基Ch1はキレート基Ch2と同一であり、下記式(I)のDOTAGAに対応し:
【0087】
【0088】
ナノ粒子のマトリクスPS、例えばポリシロキサンマトリクスにグラフトされている。
【0089】
別のより具体的な実施形態では、キレート基Ch1はキレート基Ch2と同一であり、以下の式(II)のDOTAに対応し:
【0090】
【0091】
ナノ粒子のマトリクスPS、例えばポリシロキサンマトリクスにグラフトされている。
【0092】
したがって、一実施形態において、本開示は、
ナノ粒子[Ch1]n-PS-[Ch2]mに関し:
式中
PSは有機または無機のポリマーマトリックスであり、
Ch1はDOTAまたはDOTAGAであり、錯体を形成していないか、または金属カチオンM1と錯体を形成しており、
M1は存在しないか、またはCh1との錯体形成の定数が銅および/または鉄の錯体形成定数よりも小さく、特に少なくとも10分の1よりも小さい金属カチオンから選択され、例えば、M1は亜鉛またはアルカリ土類金属、特にカルシウムまたはマグネシウムから選択され、
Ch2は、Ch1と同一であり、DOTAまたはDOTAGAであり、40を超え、好ましくは50を超える高い原子番号Zを有する金属カチオンM2、好ましくはGdと錯体を形成し、
(i)キレート基Ch1およびCh2は、ポリマーマトリックスにグラフトされ、
(ii)n/(n+m)比率は10%~100%、好ましくは40%~60%であり、
(iii)ナノ粒子の平均流体力学的直径は、1~50nm、好ましくは2~20nm、より好ましくは2~8nmである、
ことを特徴とするナノ粒子に関する。
【0093】
特に、好ましい実施形態では、ナノ粒子当たりにグラフトされるキレート基Ch1およびCh2(任意でCh1およびCh2はDOTAまたはDOTAGAである)の数に対応する(n+m)は、3~100、好ましくは5~50、例えば10~30である。
【0094】
キレート化機能とは別に、本開示によるナノ粒子は、親水性化合物(PEG)によって表面修飾(官能化)することができ、および/または、それとは別に充填することで、体内での生体内分布を適合させることができ、および/または、分子を標的化することにより、特定の細胞を標的化し、特に特定の組織、または腫瘍細胞を標的化することを可能にする。標的化は、ポリマーマトリックスにグラフトされ、ナノ粒子あたり1~20個の標的化剤、好ましくは1~5個の標的化剤の割合で優先的に存在する。
【0095】
標的化分子の表面グラフトのための使用は、存在する反応性基との従来のカップリングによりなされてよく、場合により活性化工程が先行してもよい。カップリング反応は当業者に公知であり、ナノ粒子の表面層の構造および標的化分子の官能基に基づいて選択されるであろう。例えば、"Bioconjugate Techniques" G.T Hermanson、Academic Press、1996、"Fluorescent and Luminescent Probes for Biological Activity" Second Edition, W.T. Mason, ed. Academic Press, 1999.を参照のこと。好ましいカップリング方法を後述する。好ましくは、これらの標的化分子が次の段落に記載されるように、超微細またはAGuIXのいずれかのナノ粒子の変異体に応じて、ナノ粒子のアミン結合にグラフトされる。標的化分子は、想定される用途に基づいて選択される。
【0096】
特定の実施形態において、ナノ粒子は、ペプチド、免疫グロブリン、ナノボディ、VHH、もしくは単一ドメイン断片、抗体、アプタマー、または、例えば、腫瘍環境を標的とするその他の蛋白質、典型的には抗体、免疫グロブリン、または、腫瘍に関連する抗原、もしくは、公知の特定の癌マーカーを標的化するナノボディで機能化される。
【0097】
超微細ナノ粒子およびAGuIXナノ粒子
より特に好適な実施形態において、特に、それらの極めて小さいサイズおよびそれらの安定性のために、使用され得るナノ粒子は、ポリシロキサンマトリックスPSを含み、金属酸化物ベースのコアを含まず、金属酸化物ベースのコアおよびポリシロキサンコーティングを含むコア-シェルタイプのナノ粒子(特に、WO2005/088314およびWO2009/053644に記載されている)とは異なっている。
【0098】
したがって、具体的な実施形態において、本開示に係るナノ粒子は、ガドリニウムでキレート化されたポリシロキサンに基づく、式[Ch1]n-PS-[Ch2]mのナノ粒子であり、
式中
(i)PSはポリシロキサンマトリクスであり、
(ii)Ch1およびCh2は、下記式(I)のDOTAGAキレート基であり、
【0099】
【0100】
共有結合によってポリシロキサンマトリックスにグラフトされており、
(iii)M1は存在せず、M2はガドリニウムカチオンGd3+であり、
(iv)n+mは、5~50、好ましくは10~30であり、かつ、
(iv)平均流体力学的直径は2~8nmである。
【0101】
より具体的には、ガドリニウムでキレート化されたポリシロキサンをベースとするこれらのナノ粒子は、出発材料としてAGuIXナノ粒子から得られる超微細ナノ粒子である。
【0102】
このような超微細AGuIXナノ粒子は、トップ-ダウン合成法によって得ることができ、特に、Mignotらによる、Chem Eur J 2013 “A top-down synthesis route to ultrasmall multifunctional Gd-based silica nanoparticles for theranostic applications”DOI: 10.1002/chem.201203003に記載されている。
【0103】
超微細ナノ粒子を合成するための他の方法も、WO2011/135101、WO2018/224684およびWO2019/008040に記載されている。
【0104】
AGuIXナノ粒子は、本開示によるナノ粒子を得るための出発材料として役立ち得、特に下記式(III)のものである。
【0105】
【0106】
式中、PSはポリシロキサンマトリックスであり、nは平均で10~50であり、ナノ粒子は4±2nmの平均流体力学的直径、および約10kDaの重量を有している。
【0107】
AGuIXナノ粒子は、下記式(IV)によっても特徴付けることができる。
【0108】
(GdSi4-7C24-30N5-8O15-25H40-60、5~10H2O)x (IV)
本開示によるナノ粒子の合成方法
本開示によるナノ粒子は、キレート基の一部のみが金属カチオンと錯体を形成し、他の部分は錯体を形成しないという、ポリマーマトリックスにグラフトされたキレート基を含むナノ粒子のコロイド溶液を調製する製造方法によって得ることができ、上述の製造方法は、
(1)次の式[Ch2]n-PSのナノ粒子NP1のコロイド溶液を出発物質として合成または提供し、
PSは有機または無機のポリマーマトリックスであり、
Ch2は40より大きい、好ましくは50より大きい高い原子番号Zを有する金属カチオンM2と錯体形成されたキレート基であり、
(i)Ch2は、ポリマーマトリックスにグラフトされており、
(ii)nは5~100であり、かつ、
(iii)ナノ粒子NP1の平均流体力学的直径は、1~50nm、好ましくは2~20nm、より優先的には2~8nmであることを特徴とすること;と、
(2)例えば、塩酸の溶液を添加することによって、2.0未満、好ましくは1.0未満のpHを得て、酸性媒体中でナノ粒子NP1のコロイド溶液を、金属カチオンM2の部分的または完全な塩析を得るための十分な継続時間、処理する工程;と、
(3)必要に応じて、前記溶液を例えば水で希釈する工程;と、
(4)工程(2)で得られたナノ粒子を遊離金属カチオンM2から分離することで精製する工程;と、
(5)必要に応じて、工程(4)で得られたナノ粒子の溶液を濃縮する工程;と、
(6)必要に応じて、工程(3)、(4)および(5)を繰り返すこと;と、
(7)必要に応じて、工程(4)、(5)または(6)の1つで得られたナノ粒子の溶液を凍結および/または凍結乾燥すること;とを含んでいる。
【0109】
このような製造方法により、Ch1およびCh2が同一であるナノ粒子[Ch1]n-PS-[Ch2]mを得ることができる。したがって、この製造方法は、有利には、ナノ粒子NP1上のキレート基Ch2と最初に錯化された金属カチオンM2の部分的または完全な塩析を得ることを可能にする。当業者は、金属カチオンM2の塩析の程度、ひいては、最終的な溶液中の平均n/(n+m)比を、特に、処理工程(2)のpHおよび継続時間を調節することによって調節することができる。
【0110】
好ましい実施形態において、ナノ粒子NP1は、前述のセクションで定義された超微細またはAGuIXナノ粒子であり、ガドリニウムカチオンと錯化している。具体的な実施形態は実施例に示されている。典型的には、工程(2)における処理の持続時間は0.5~8時間、例えば1.0未満のpHで2~6時間であり得る。
【0111】
上記の製造方法に従って得られたナノ粒子は、必要に応じて、次いで、Ch2、および/または、標的化剤、または親水性分子とは異なる他のキレート基によって官能化することができる。
【0112】
一実施形態において、上記の製造方法に従って得られたナノ粒子は、金属カチオンM1に接触することで、遊離キレート基の少なくとも一部分と金属カチオンM1との錯化を達成することができ、下記式:
[Ch1]n-PS-[Ch2]m、
式中:
PSは、有機または無機のポリマーマトリックスであり、
Ch1は、金属カチオンM1と部分的に錯体を形成するキレート基であり、
M1は、Ch1との錯体形成の定数が銅および/または鉄の定数よりも小さい、特に少なくとも10分の1よりも小さい金属カチオンから選択され、例えば、M1は、亜鉛、カルシウム、マグネシウムまたは他のアルカリ土類金属から選択され、
Ch2は、Ch1と同一のキレート基であり、40を超え、好ましくは50を超える高い原子番号Zを有する金属カチオンM2と錯体を形成し、
(i)キレート基Ch1およびCh2は、ポリマーマトリックスにグラフトされており、
(ii)n/(n+m)比率は、10%~100%、好ましくは40%~60%であり、かつ、
(iii)ナノ粒子の平均流体力学的直径は、1~50nm、好ましくは2~20nm、より好ましくは2~8nmである、ナノ粒子が得られる。
【0113】
本開示によるナノ粒子の医薬製剤
本開示によるナノ粒子を含む組成物は、ナノ粒子のコロイド懸濁液の形態で投与される。それらは、本明細書に記載されるように、または当業者に公知の他の方法に従って調製することができ、処置および処置される領域に応じて、異なる局所または全身経路によって投与され得る。
【0114】
したがって、本開示は、前述のセクションに記載されているような、式[Ch1]n-PS-[Ch2]mのナノ粒子のコロイド懸濁液と、必要に応じ、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせた、これらのコロイド懸濁液を含む医薬組成物とに関する。
【0115】
前記医薬組成物は特に、静脈内注射用の凍結乾燥粉末または水溶液の形態で製剤化してもよい。好ましい実施形態において、前記医薬組成物は、前述のセクションに記載されているような式[Ch1]n-PS-[Ch2]mの治療有効量のナノ粒子、特に、ガドリニウムでキレート化されたポリシロキサンをベースとするナノ粒子、より具体的には上述のようなAGuIXナノ粒子から得られるナノ粒子を含むコロイド溶液を含んでいる。
【0116】
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、バイアル当たり200mg~15g、好ましくは250~1250mgのナノ粒子を含む凍結乾燥粉末である。当該粉末は、他の賦形剤、特にCaCl2をさらに含んでいてもよい。
【0117】
前記凍結乾燥粉末は、水溶液、典型的には注射用の滅菌水中で再構成することができる。したがって、本開示は、前述のセクションに記載の式[Ch1]n-PS-[Ch2]mのナノ粒子、特にガドリニウムでキレート化されたポリシロキサンをベースとするナノ粒子、より具体的には前述のAGuIXナノ粒子から得られるナノ粒子を活性成分として含む、注射用液剤としてのその使用のための医薬組成物に関する。
【0118】
一実施形態において、前記医薬組成物は、静脈内もしくは腫瘍内投与のための注射用組成物、又は肺内投与のためのエアロゾルであり、特に、腫瘍中の銅および/又は鉄のインビボでの捕捉のためのキレート基Ch1を有効量含み、キレート剤Ch1が、例えば、前記組成物中で少なくとも10mMの濃度であることを特徴としている。
【0119】
例えば、後述するようなその使用、特に銅および/または鉄のインビボでの捕捉による腫瘍の治療のため、前記組成物は、ガドリニウムでキレート化されたポリシロキサンをベースとするナノ粒子を50~200mg/ml、例えば80~120mg/mlの濃度で含む注射可能な溶液である。
【0120】
ナノ粒子の使用
遊離するか、または金属カチオンM1と錯化するキレート基Ch1の存在により、本発明によるナノ粒子は、それを必要とする対象に投与された後、内因性銅および/または鉄の捕捉を可能にする。内因性銅の捕捉は、好ましくは100ppb(0.1mgの銅/リットル)~10000ppb(10mgの銅/リットル)の内因性銅の局所捕捉を意味する。したがって、本開示は、より具体的には、一対象、特に癌に罹患している対象における内因性銅を捕捉するためのプロセスを標的とする。
【0121】
内因性鉄の捕捉は、好ましくは100ppb(1リットルあたり0.1mgの鉄)と10000ppb(1リットルあたり10mgの鉄)との間の量の内因性鉄の局所捕捉を意味する。したがって、本開示は、より具体的には、一対象、特に癌に罹患している対象における内因性鉄を捕捉するためのプロセスを標的とする。
【0122】
ナノ粒子は、静脈内または肺内に投与される場合、銅および/または鉄は、一般的な血液循環内、その後、腫瘍内において、ナノ粒子が腫瘍内に蓄積した後、特にEPR効果に関連する受動的標的化によって捕捉されることができる。腫瘍および蓄積の受動的標的化のこの効果は、特に、AGuIXタイプの超微細ナノ粒子によって明確に実証されている。
【0123】
したがって、本開示は、対象における腫瘍を治療するための方法にも関し、当該方法は、上述の対象に、上記のセクションに記載されている式[Ch1]n-PS-[Ch2]mのナノ粒子、特に、ガドリニウムでキレート化されたポリシロキサンに基づくナノ粒子、より具体的には、上述のように、AGuIXナノ粒子から得られるナノ粒子を有効量投与することを含み、当該ナノ粒子は内因性の銅および/または鉄を部分的に捕捉することによって、腫瘍の治療を可能にすることを特徴とする。
【0124】
上述の方法における特定の実施形態では、前記組成物は、放射線感受性増強物質として使用するための金属カチオンM2、好ましくはガドリニウムまたはビスマスも有効量含み、当該方法は、前記組成物を投与した後に、放射線療法による腫瘍の治療のための有効用量とともに、対象に照射する工程を含む。
【0125】
「患者」または「対象」は、好ましくは哺乳動物またはヒトを意味し、例えば、腫瘍を有する対象を含んでいる。
【0126】
「治療」および「療法」という用語は、治療、阻止、予防、および疾患の進行の遅延など、患者の健康を改善することを目的とする任意の行為に関する。場合によっては、これらの用語は、疾患、または疾患に関連する症状の改善または根絶に関する。他の実施形態において、これらの用語は、そのような疾患に罹患している対象への1つ以上の治療薬の投与に起因する、疾患の広がりまたは悪化の低減に関する。腫瘍の治療の文脈において、用語「治療」は、典型的には腫瘍の成長を停止させること、腫瘍のサイズを縮小させること、および/または腫瘍を除去することを可能にする治療を包含することができる。
【0127】
特に、ナノ粒子は、固形腫瘍、例えば、脳癌(原発性および続発性、膠芽腫など)、肝臓癌(原発性および続発性)、骨盤領域の癌(子宮頸癌、前立腺癌、肛門直腸癌、結腸直腸癌)、上部気道消化管の癌、肺癌、食道がん、乳癌、膵癌の治療に使用される。
【0128】
ナノ粒子の「有効量」は患者に投与された場合に、腫瘍内に位置し、内因性銅および/または鉄を捕捉し、必要に応じ、放射線増感効果および放射線療法治療と組み合わせることによって腫瘍の治療を可能にするのに十分な上記のナノ粒子の量を指す。
【0129】
この量は、対象の年齢、性別および体重などの因子に基づいて決定および調整される。
【0130】
上記のナノ粒子は、腫瘍内、皮下、筋肉内、静脈内、皮内、腹腔内、経口、舌下、直腸、膣内、鼻腔内、吸入または経皮適用によって投与することができる。それらは、好ましくは腫瘍内および/または静脈内に投与される。
【0131】
放射線感受性増強物質としてのナノ粒子の投与後の腫瘍の治療のための照射方法は、当業者にとって公知であり、特に次の刊行物:WO2018/224684、WO2019/008040、および、「C. Verry et al., Science Advances, 2020, 6, eaay 5279; and C. Verry et al., “NANO-RAD, a phase I study protocol”, BMJ Open, 2019, 9, e023591」に記載されている。
【0132】
放射線療法中の総照射線量は、癌の種類、ステージおよび治療される対象に応じて調整される。治癒線量については、固形腫瘍のための典型的な総線量は約20~120Gyである。化学療法による治療、併存症、および/または放射線療法が外科的介入の前または後に行われるという事実などの他の因子が考慮され得る。総線量は、一般的に画分される。本開示による方法における放射線治療のステップは、例えば、1日当たり2~6Gyの数画分、例えば、1週間に5日、特に2~8週間連続して含むことができ、総線量は20~40Gy、例えば、30Gyであることが可能である。
【0133】
本開示によるナノ粒子は、単独で、または1つ以上の他の活性成分、特に細胞毒性もしくは抗増殖性薬剤または他の抗癌剤、特に免疫チェックポイント阻害剤などの他の薬剤と組み合わせて投与され得る。併用投与は、同時または逐次(様々な時点で)投与を意味する。
【0134】
〔実施例〕
材料および方法
CuPRiXx生成物は、Nh TherAguix(仏)によって提供される出発生成物AGuIX(登録商標)を、CarlRothが製造元である37%の超純粋な塩酸から得られる高酸性媒体に導入することによって得られる。
【0135】
濾過工程は蠕動ポンプおよびSartorius Stedim Biotech(仏)製のVivaflow200(登録商標)-5kDaカセットを使用して実施し、Vivaflow200(登録商標)のマニュアルに記載された条件に従って使用している。
【0136】
流体力学的直径の測定、および等電点の滴定は、Malvern Instruments(米国)製のZetasizer Nano-S(633nmHe-Neレーザー)を用いて実施している。等電点の測定のために、この装置は、Malvern Instruments(米国)製のMPT-2自動滴定装置と連結する。
【0137】
HPLC-UVは、DAD検出器を備えたAgilent1200を用いて実施する。使用した逆相カラムは、Jupiter社製のC4,5μm、300Å、150×4.6mmである。検出は、295nmの波長のUV検出器によって行われている。相A(H2O/ACN/TFA:98.9/1/0.1)およびB(H2O/ACN/TFA:10/89.9/0.1)の勾配は、95/5で5分、続いて10分にわたって直線勾配であり、15分間維持される比率10/90に達することができる。これらの15分の終わりに、Aの含有量を1分間で95%に戻し、その後、95/5で7分間のプラトーを行う。溶離液相の組成に使用される製品は、全て、認定されたHPLCグレードである。
【0138】
元素分析は、Institut des Sciences Analytiques-UMR5280,Pole Isotopes & Organique(5区 ドゥラ通り、69100 ビルールバンヌ)で行った。
【0139】
HPLC-ICP/MSは、Perkin‐Elmer(米国)製のNexion2000を用いて実施している。媒体中の遊離要素は以下の組成:95%Aおよび5%Bを有する溶出相を使用して、アイソクラティックモードで測定されている。相AおよびBの組成はHPL-UV方法と同一である。使用した逆相カラムは、Jupiter社製のC4,5μm、300Å、150×4.6mmである。溶離液相の組成に使用される製品は、全て、認定されたHPLCグレードである。
【0140】
粒子は、「一次乾燥」プログラムに従って、Christ(独)製のAlpha 2-4 LSC凍結乾燥機を介して凍結乾燥している。
【0141】
A549細胞(ECACC 86012804)を、10%ウシ胎児血清(Dutscher製)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(GibcoTM、Thermofischer)を補充したF12-K媒体(GibcoTM、Thermofischer製)中で培養している。それぞれの試験について、細胞をPBS 1X(GibcoTM、Thermofischer製)中で2回すすぎ、37℃、5%CO2、トリプシン-EDTAとともにインキュベーター中で5分間インキュベートし、次いで完全培地に取っている。
【0142】
試験の少なくとも1時間前に、CuPRiX20およびCuPRiX30の製品を、10mM(それぞれ、30mMおよび16.7mMのガドリニウム)に等しい遊離DOTA濃度で滅菌蒸留水中に取り込み、4℃で保存している。
【0143】
遊走および浸潤試験のため、A549細胞をImageLock96ウェルプレート(Essen BioScience製)に播種し(50000細胞/ウェル)、90~100%のコンフルエンスに達するまで、37℃、5%CO2で16時間インキュベートしている。WoundMakerTM(Essen BioScience製)が、それぞれのウェルの細胞単層に創傷を作り出すために使用されている。次いで、各ウェルをPBS 1Xで2回すすぎ、浸潤のために、1mg/mlの最終濃度のCuPRiX20を含んでいるか、または含んでいないF12-K媒体中で予め希釈したマトリゲル(Corning製)50μLを、それぞれのウェルに添加している。当該プレートを37℃で30分間インキュベートし、マトリゲルの重合を可能にしている。最後に、増加濃度のCuPRiXを含有する培地100μLを、各ウェル(マトリゲルを含んでいるか、または含有していない)に添加する。当該プレートを、Incucyte(10x対象)に置き、CO2を含むインキュベーター内にて、Zoom Incucyteソフトウェア(Essen BioScience製)により、創傷の中身の画像を2時間毎に自動的に撮影している。データは当該ソフトウェアによって分析され、結果は創傷のコンフルエンス割合として表されている。
【0144】
走化性遊走試験のために、A549細胞をトリプシン処理し、遠心分離し、次いで希釈媒体(FCS非含有のF12-K)に再懸濁した。続いて、当該細胞を、IncuCyte(登録商標)クリアビューインサート(Essen BioScience製)に播種した(ウェルあたり1000細胞、ウェルあたり40μL)。対応するウェルに、CuPRiX20(500μMの遊離キレート)を含んでいるか、または含んでいない20μLの枯渇した媒体を添加している。最後に、10%FCSを含有し、CuPRiX20(500μMの遊離キレート)を含有しているか、または含有していない200μLのF-12K媒体を、走化性チャンバーの下部区画に添加する。各インサートの画像を1時間ごとに撮影している。上部リザーバから下部リザーバへの走化性遊走は、膜の上に播種された細胞の初期コンフルエンスと比較して、膜の下における細胞コンフルエンスとして定量化している。計算は、IncuCyte ZOOM 2015A顕微鏡ソフトウェアを使用して自動的に実行している。
【0145】
照射後の遊走試験のために、A549細胞を、ImageLock(登録商標)96ウェル培養プレート(Essen BioScience製)にて、1ウェル当たり20000細胞、37℃、5%CO2で一晩培養する。当該細胞を、CuPRiX30(500μMの遊離キレート、800μMのガドリニウムに相当する)を含んでいるか、または含んでいないFCS-free-F-12Kで24時間処理し、次いでそれらを8Gyで照射している(X-Rad320照射器、250kV、15mA)。照射後、96-ウェルWoundMakerTM(Essen BioScience製)を用いて創傷を作製している。細胞をPBS 1Xで2回すすぎ、浮遊細胞を除去し、CuPRiX30(0および500μMの遊離キレート、約0および800μMのガドリニウムに相当する)を含む培地100μLをそれぞれの対応するウェルに添加している。
【0146】
クローン原性生存を評価するために、上記細胞を40000細胞/cm2、すなわち100万細胞にて25cm2フラスコ(Dutscher製)に播種し、37℃、5%CO2で一晩インキュベートしている。当該細胞を、CuPRiX30(500μMの遊離キレート、800μMのガドリニウムに相当)を含んでいるか、または含んでいない、FCS非含有の培地で24時間処理している。次いで、当該細胞を、異なる線量(0、2、3、4、6および8Gy)で照射した。照射後、細胞をPBS 1X中で洗浄し、トリプシン処理し、計数している。次いで、細胞を25cm2フラスコ中に再播種し、固定し、染色する前に、6回の分割(7日間)にわたって増殖させている。コロニーを、96%エタノール溶液(VWR)を用いて30分間固定し、次いで1/20に希釈したギムザ溶液(Sigma-Aldrich)で30分間染色している。次いで、フラスコをすすぎ、次いで、64個以上の細胞を含むコロニーを、ColcountTMコロニーカウンター(Oxford Optronix製)を用いてデジタルで計数した。SFが生存率であり、αおよびβがそれぞれ致死的および亜致死的損傷の確率を表す、線形二次モデルの形式:
【0147】
【0148】
を使用して、クローン原性生存を決定した。
【0149】
4T1株は、BALB/cマウス株の乳腺から抽出した乳癌細胞株である。当該細胞を、10%FCSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補充したRPMI培地(GibcoTM、Thermofischer製)中で培養している。
【0150】
上部気道消化管(UAT)癌細胞株SQ20Bは、再発喉頭癌から抽出している。フローサイトメトリーを用いた細胞選別(Hoechst effluxおよびCD44標識)の2つの連続ステップを実施した後、対象の亜集団SQ20B/CSC(幹細胞様癌細胞)を回収した。この集団は、EGFRおよび間葉表現型の発現が低く、遊走性および侵襲性の特性の獲得に関連している。これらの細胞、SQ20B-CSCを、5%FCS、1%PS、0.04mg/mLヒドロコルチゾンおよび20ng/mLの上皮増殖因子(EGF)を補充したDMEM:F12媒体(3:1,v:v)中で培養している。
【0151】
インビボ研究プロトコール(2021021714569264)は、ベルナール大学,リヨン1区の倫理委員会によって承認された。当該試験は、トリプルネガティブ乳癌マウスモデル(細胞株4T1)で実施された。7週齢の雌BALB/cマウス(Janvier Labs)を使用した。4T1細胞(5×105、マトリゲル50:50)を、イソフルラン麻酔のもとで4つ目の乳房に皮下注射した。この位置は、放射線治療中に生命維持に必要な組織を確保するために選択された。移植10日後、マウスを無作為に2群に分けた:NaCl(対照)群(n=4)およびCuPRiX群(n=6)。マウスに、48時間隔で、NaCl 0.9%(対照)またはCuPRiX(200mg/kg)を50μL、それぞれ静脈内に3回注射した。マウスの体重を測定し、その全身状態を評価し、腫瘍を週3回測定した。最終注射の5日後にマウスを安楽死させ、転移を標的器官(肺および肝臓)において定量化した。
【0152】
Pulaskiら(2000)のプロトコールに従って転移を定量化した。この目的のために、マウスをイソフルラン麻酔下で頸椎脱臼により安楽死させた後、肺および肝臓を摘出した。当該臓器をHBSSで洗浄し、機械的に切断し、次いで、肺についてはDNアーゼI(Roche)に関連するIVタイプコラゲナーゼ(2mg/mL)、肝臓についてはIタイプコラゲナーゼ(2mg/mL)、BSA(1mg/mL)およびヒアルロニダーゼ(2mg/mL)カクテルにより、酵素消化に供している。この消化は、回転ホイール上、37℃にて、2時間(肺)および40分間(肝臓)行なわれている。消化された臓器を、その後、70μmのナイロンフィルターを通して濾過している。それらを1500Gで5分間遠心分離し、HBSSで2回洗浄している。クローン原性成長の研究のために、細胞ペレットを60μMの6-チオグアニンを含有するRPMI培地に再懸濁している。懸濁液を培養に戻し、10cmのペトリ皿上で、肺については1/6に希釈し、肝臓については純粋(pure)にする。8日後、細胞を96%エタノールで固定し、ギムザ(蒸留水で1/20に希釈)で染色している。続いて、ColcountTMコロニーカウンター(Oxford Optronix製)を用いて、クローンをデジタルで計数している。
【0153】
実施例1:培地の酸性化およびGd3+イオンの塩析
放射線感受性増強物質としてのその特性を保持しながら銅イオンを錯化することができるナノ粒子を得るために、製品AGuIX(登録商標)を、DOTA基をプロトン化し、それにより最初に錯化したGd3+イオンの一部を放出する目的で酸性媒体中に置いた。
【0154】
まず、10gの製品を50mLの超純水に溶解することにより、200g/LのAGuIX(登録商標)溶液を調製した。当該溶液を周囲温度で1時間撹拌下に置いた。並行して、10mLの37%塩酸(37%塩酸、超純粋、2.5L,プラスチック,CarlRoth製)を50mLの超純水に添加することによって、2M塩酸溶液を調製した。
【0155】
1時間撹拌した後、50mLの2M塩酸溶液を50mLのAGuIX(登録商標)に添加している。次いで、pHを測定し、0.5未満である。得られた溶液は橙褐色である。セットアップを50℃に予熱した乾燥炉に4時間放置している。HPLC-ICP/MSにより、ガドリニウムイオンの塩析を観察するために、サンプルを毎時間取り出した(
図1)。保持時間Tr=2.3minでの媒体中の遊離Gd
3+のピークは反応時間と共に増加することが分かった。
【0156】
実施例2:CuPRiX20:4時間の反応
4時間後、溶液を超純水で10倍に希釈した。次いで、pHを測定し、必要に応じて、濾過膜を破壊しないように1M水酸化ナトリウムを用いて1±0.2にしている。このようにして得られた500mLの溶液を、ペリスタルティックポンプとSartorius製のVivaflow200-5kDaカセットという手段によって精製し、放出されたGd3+から微粒子を分離して、これらのイオンが再錯化するのを防止した。
【0157】
500mLの初期容量を50mLに濃縮し、操作を繰り返している。全体として、希釈/濃縮操作を4回繰り返し、最終容量を50mLにしている。精製後、50mLの溶液を、それぞれ2mlの溶液を含有するバイアル中に分配した。溶液を凍結させるためにバイアルを-80℃に置いた後、凍結乾燥して、褐色の粉末形態の最終生成物を得ている。
【0158】
生成物が得られたら、生成物を特徴付けるためにバイアルをバッチから取り出している。100g/Lの新規製品の溶液1mLを、超純水を添加することによって調製している。1時間後、溶液中で、DLS装置を用いて直径を測定し、4.4nm±1.2nmの直径が示された。HPLC-UV/Visクロマトグラムを実施し、11分±0.1分の保持時間を示しており、元の粒子と同じであった。CuPRiX20の等電点も測定され、6.29に等しく、7.15に等しいAGuIX(登録商標)の等電点よりも優れている(superior)。ガドリニウムは磁気特性を有するので、CuPRiX20の緩和係数r1を測定したところ、ガドリニウム原子1個当たり18.9mM-1.s-1に等しい。
【0159】
実施例3:ユーロピウムのキレート化および蛍光による遊離DOTAGAの数のアッセイ
CuPRiX
20中に存在する遊離キレートの量は、ユウロピウムのキレート化と、それに続く発光の観察とによって決定することができる。これは、ユーロピウムが主に590nm(5D0→7F1)および615nm(5D0→7F2)付近を中心とする発光を有するからである。この発光は、水分子の存在下で抑制される。アッセイの原理は増加する量のユウロピウムを添加することであり:それがキレート化されるにつれて、発光は増加し、次いで、全てのキレート化部位が満たされると、発光は
図2に示されているように、プラトーに達している。
【0160】
アッセイを実施するために、CuPRiX20をpH5の酢酸緩衝液に入れ、酢酸緩衝液に溶解したユーロピウムクロリド塩を添加する。次いで、396nmで励起を行い、590nmで発光を読み取り、定量曲線をプロットしている。このアッセイにより、1mgのCuPRiX20あたり0.16μmolのキレートを算出することができる。最初のAGuIX(登録商標)製品中のガドリニウムの量がゼロ、または最大でも無視できる量であると仮定すると、ガドリニウムの最初の量は、DOTAの量に等しい。元素分析によって測定された出発生成物中の初期ガドリニウム含有量は、1mgのAGuIX(登録商標)当たり0.81μmolであった。
【0161】
したがって、製品CuPRiX20は、そのDOTA基の20%が遊離している。
【0162】
実施例4:銅のキレート化
したがって、遊離DOTAの存在は、キレート化療法の文脈における有力なキレート剤としてのCuPRiX20の潜在的な使用を示している。CuPRiX20の錯体形成能を銅のキレート化とそれに続くHPLC-UV/Visを用いた吸光度の観察とにより決定した。このDOTA@Cuは295nmでの吸光度を有し、これはDOTA@Gd錯体、溶体中のDOTAおよび銅イオンの吸光度よりもはるかに大きい。
【0163】
CuPRiX
20の吸光度は、追加の銅の付加が吸光度の増加をもたらさないであろうプラトーに達するまで、遊離DOTA基が利用可能な銅イオンと錯体を形成することにつれて増加するであろう。この実験を行うために、一連の試料を、一定量のCuPRiX
20と、量を増大させた塩化銅の溶液を用いて調製した。すべてのサンプルの体積を等化している。この実験により、1mgのCuPRiX
20あたり、0.18μmolの錯化可能な銅の量を算出することができる。出発物質AGuIX(登録商標)について実施された同一の試験は、CuPRiX
20のキレート化能力の大幅な増大を示している(
図3)。
【0164】
実施例5:CuPRiX30:5時間の反応
遊離DOTAの含有量は、酸性媒体中のAGuIXの反応時間に基づいて変更することができる。5時間後、溶液をUltraPure水で10倍に希釈した。次いで、pHを測定し、必要に応じて、濾過膜を破壊しないように1M水酸化ナトリウムを用いて1±0.2にした。このようにして得られた500mlの溶液を、ペリスタルティックポンプ、および、Sartorius製のVivaflow200-5kDaカセットという手段によって精製しており、放出されたGd3+から微粒子を分離し、これらのイオンが再錯化するのを防止した。500mLの初期容量を50に濃縮し、操作を繰り返している。
【0165】
全体として、希釈/濃縮操作を4回繰り返し、最終容量は50mLとした。精製後、50mLの溶液を、各バイアルに2mLの溶液を含有するようにして分配した。バイアルを-80℃に置き、凍結させた後、凍結乾燥し、最終生成物CuPRiX30を褐色の粉末の形態で得ている。生成物が得られたら、生成物を特徴付けるためにバイアルをバッチから取り出した。
【0166】
100g/Lの新規製品の溶液1mLを、超純水を添加することによって調製した。1時間後、溶液中で、DLS装置を用いて直径を測定しており、5.7nm±1nmの直径を示していた。HPLC-UV/Visクロマトグラムを実施しており、10.8分±0.1分の保持時間を示し、元の粒子と同一であった。
【0167】
実施例6:CuPRiX30:CuPRiX20と比較した錯体形成ポテンシャルの改善
このように、遊離DOTAの存在は、キレート化療法の文脈における有力なキレート剤としてのCuPRiX30の潜在的な使用を示している。CuPRiX20の潜在的な錯化ポテンシャルを、銅のキレート化と、それに続くHPLC-UV/Visを用いた吸光度の観察とにより決定した。このDOTA@Cuは295nmでの吸光度を有し、これはDOTA@Gd錯体、溶体中のDOTAおよび銅イオンの吸光度よりもはるかに大きい。生成物の吸光度は、追加の銅の付加が吸光度の増加をもたらさないであろうプラトーに達するまで、遊離DOTA基が利用可能な銅イオンと錯体を形成することにつれて増加するであろう。
【0168】
この実験を行うために、一連の試料を、量を増大させた塩化銅の溶液と、一定量のCuPRiX20とを用いて調製した。すべてのサンプルの体積を等化している。これにより、1mgのCuPRiX30あたり0.24μmolの錯化可能な銅の量を算出することができる。これにより、製品CuPRiX30は、そのDOTA基の30%が遊離している。
【0169】
実施例7:A549細胞の運動性に対するCuPRiX20の効果の分析
細胞の遊走は、腫瘍転移を含む多くの生物学的処理と疾患処理とにおける基本的な構成要素である多段階処理である。インビトロにおいて、創傷試験は、細胞芝上の創傷の形成と、細胞運動性との研究、すなわち、処理において、細胞が密度の変化に応答して表面上を移動し、創傷を閉鎖する能力に基づく。これは、固体2D基板上における細胞の運動性の直接的な測定である。
【0170】
この実施例の目的は、CuPRiX20が細胞の運動性を低下させる能力を示すことであった。A549細胞を、8nMのCuSO4-5H2Oを含むF12-K媒体(Gibco)中で培養した。CuPRiX20(500μMの遊離キレート)の有無にかかわらず、72時間培養した後、細胞をトリプシン処理しており、次いで、ImageLock(登録商標)96ウェル培養プレート(Essen BioScience製)に40000細胞/ウェルで播種した。当該プレートを37℃、5%CO2に一晩置いた。次いで、IncuCyte(登録商標)WoundMaker(Essen BioScience製)を用いて創傷を作製した。細胞をPBSで2回リンスして浮遊細胞を除去しており、次いで、増加濃度のCuPRiX20(0、50、100、200、300、400、500および1000μMの遊離キレート,約0、150、300、600、900、1200、1500および3000μMのガドリニウムに相当する)を含んでいる100μLの培地で処理した。
【0171】
CO
2を含むインキュベーター内で、Zoom Incucyteソフトウェア(Essen BioScience製)により、創傷の充満の画像を2時間ごとに72時間、自動的に撮影した。データはソフトウェアによって分析されており、結果は創傷のコンフルエンス割合として表されている。得られた結果は、異なる濃度のCuPRiX
20での処理により、A549細胞の細胞運動性の減速を実証することを可能にしている(
図4、
図5および
図6)。
【0172】
実施例8:A549細胞の運動性に対するCuPRiX20およびCuPRiX30の効果の比較
この実施例の目的は、CuPRiX20およびCuPRiX30が細胞運動性を低下させる能力を示すこと、およびそれらの効果を比較することである。A549細胞を、ImageLock(登録商標)96ウェル培養プレート(Essen BioScience製)中で、40000細胞/ウェルで、37℃、5%CO2で一晩培養した。創傷試験は、96ウェルIncuCyte(登録商標)WoundMaker(Essen BioScience製)を用いて行った。細胞をPBSで2回洗浄して浮遊細胞を除去しており、次いで、CuPRiX20(0、125、250および500μMの遊離キレート,約0、375、750および1500μMのガドリニウムに相当する)またはCuPRiX30(0、125、250および500μMの遊離キレート,約0、200、400および800μMのガドリニウムに相当する)を含有する100μLの培地で処理した。
【0173】
創傷の充満の画像を、CO2を含有しているインキュベーター中で、Zoom Incucyteソフトウェア(Essen BioScience製)によって2時間毎に自動的に撮影した。データをソフトウェアによって分析し、結果を創傷のコンフルエンスの割合として表す。
【0174】
得られた結果は、一定濃度の遊離キレートにおいて、2タイプのCuPRiXの効果が同等であることを示すことを可能にしている。
【0175】
実施例9:A549細胞の浸潤に対するCuPRiX20の効果の分析
細胞浸潤は癌の特性の1つである。それは、細胞遊走に関連し、転移の発生において中心的な役割を果たす。腫瘍細胞の転移を形成する能力は主に、細胞のその細胞形態を変化させ、再編成し、細胞外マトリックス(ECM)を分解する細胞の能力によって決定される。インビトロでの侵襲試験は創傷試験アプローチに基づくが、ECMを模倣するゲルマトリックスの添加を含む。3Dマトリックスの追加は、移動するために細胞がこのマトリックスを劣化させなければならないことを意味している。
【0176】
この実施例の目的は、細胞浸潤を減少させるCuPRiX
20の能力、すなわち細胞外マトリックスを分解し、移動する細胞の能力を示すことである。A549細胞を、ImageLock(登録商標)96ウェル培養プレート中で、1ウェルあたり40000細胞、37℃、5%CO
2で一晩にて培養した。次いで、IncuCyte(登録商標)WoundMaker(Essen BioScience製)を用いて創傷を作製し、次いで、細胞をPBSで2回すすいだ。1mg/mLの最終濃度のCuPRiX
20を含んでいるか、または含んでいないF12-K媒体中で事前に希釈したマトリゲル(Corning製)50μLをそれぞれのウェルに添加した。当該プレートを、37℃で30分間インキュベートし、マトリゲルの重合を可能にした。最後に、CuPRiX
20(0および500μMの遊離キレート)を含有しているか、または含有していない培地100μlを添加した。CO
2を含有するインキュベーター中で、Zoom Incucyteソフトウェア(Essen BioScience製)により、創傷の中身の画像を2時間ごとに72時間自動的に撮影した。データをZoom Incucyteソフトウェア(Essen BioScience製)によって分析し、結果を創傷のコンフルエンス割合として表している。得られた結果は、CuPRiX
20処理によりA549細胞の細胞浸潤が遅くなることを示すことができている(
図7)。
【0177】
実施例10:A549細胞の走化性遊走に対するCuPRiX20の効果
走化性移動は、刺激に応答する細胞の方向性移動である。この試験は、細胞培養プレートのウェル内に配置された培養インサートからなっている。当該細胞をインサートに播種する。該インサートは規定された孔径を有する膜を含んでおり、これらを飢餓状態にするために無血清培地を含んでいる。化学誘引媒体は、その下のウェルに配置される。この化学的勾配によって、遊走することができる細胞は、化学誘引媒体によって誘引され、細孔を通過する。この実施例の目的は、走化性分析を用いてCuPRiX20が細胞の運動性を低下させる能力を示すことである。この目的のために、IncuCyte ZOOMの走化性モジュールを使用した。A549細胞(1000細胞/ウェル)を、0%FCSを含有するF-12K媒体に再懸濁し、8μmの細孔(40μl/ウェル)を有する96ウェル細胞移動Incucyteクリアビュープレートの上部区画に播種した。適切であると判断されるウェルには、CuPRiX20(500μMの最終遊離キレート)を含有しているか、または含有していない、FCS非含有のF12-K培地20μLを添加した。最後に、10%FCSを含有しており、かつ、CuPRiX20(500μMの遊離キレート)を含有しているか、または含有していない200μLのF-12K媒体を、走化性チャンバーの下部区画に添加した。各インサートの画像を1時間ごとに撮影した。上部リザーバから下部リザーバへの走化性移動を、膜の上に播種された細胞の初期コンフルエンスと比較して、膜の下における細胞コンフルエンスとして定量化した。計算は、IncuCyte ZOOM 2015A顕微鏡ソフトウェアを使用して自動的に行った。
【0178】
得られた結果は、CuPRiX
20による細胞の走化性遊走の大幅な減少を実証することを可能にした(
図8)。
【0179】
実施例11:CuPRiX30と光照射との組み合わせがA549細胞の運動性に及ぼす効果
この実施例の目的は、光子照射後の細胞の運動性を低減するCuPRiX30の能力を示すことである。A549細胞を、ImageLock(登録商標)96ウェル培養プレート中、1ウェルあたり20000細胞、37℃、5%CO2にて一晩培養した。当該細胞を、CuPRiX30(500μMの遊離キレート、800μMのガドリニウムに相当)を含有しているか、または含有していない、FCS非含有のF-12Kを用いて24時間インキュベートした。続いて、細胞を8Gy(X-Rad320照射器、250kV)で照射し、次いで創傷を作製した。細胞をPBSで2回すすぎ、浮遊細胞を除去し、CuPRiX30(0および500μMの遊離キレート,約0および800μMのガドリニウムに相当する)を含有する培地100μLを各対応するウェルに添加した。
【0180】
創傷の中身の画像は、CO
2を含有するインキュベーター内のZoom Incucyteソフトウェアによって2時間毎に自動的に撮影された。データをソフトウェアによって分析し、結果を創傷のコンフルエンス割合として表している。得られた結果は、照射単独またはCuPRiX
30単独による治療と比較して、制限運動性におけるCuPRiX
30/照射併用の優れた有効性(相加効果)を示すことを可能にした(
図9)。
【0181】
実施例12:CuPRiX30と光子照射との組み合わせがA549細胞の生存に及ぼす効果
A549細胞を、40000細胞/cm2、すなわち100万細胞でT25cm2のフラスコに播種し、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。当該細胞を、CuPRiX30(500μMの遊離キレート、800μMのガドリニウムに相当)を含有しているか、または含有していない、FCS非含有のF-12K媒体で24時間処理した。次いで、当該細胞を異なる線量(0、2、3、4、6および8Gy)で照射した。照射後、細胞をPBS中で洗浄し、トリプシン処理し、計数した。次いで、当該細胞を25cm2のフラスコ中で再播種し、固定および染色する前に6分割(7日間)にわたって増殖させることができた。64個以上の細胞を含むコロニーをデジタルで計数した。SFが生存率であり、αおよびβがそれぞれ致死的および亜致死的損傷の確率を表す、形式:
【0182】
【0183】
の線形二次モデルを使用して、クローン原性生存を決定した。得られた結果は、CuPRiX
30存在下での照射後の細胞生存率の低下を示している(
図10)。
【0184】
実施例13:A549、SQ20B-CD44+および4T1細胞の生残に及ぼすCuPRiX30および光照射の組合せの影響
それぞれの細胞株について、細胞を40000細胞/cm2、すなわち25cm2のフラスコ中100万細胞で播種し、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。次いで、培地を除去し、FCS非含有の培地のみ、CuPRiX30(500μMの遊離キレート,800μMのガドリニウムに相当する)を含んでいるもの、または、AGuIX(登録商標)(800μMのガドリニウム)を含むFCS非含有の培地のみで24時間置換する。次いで、細胞を異なる線量(0、2、3、4、および6Gy)で照射する。照射後、細胞をPBS中で洗浄し、トリプシン処理し、計数する。次いで、それらを25cm2のフラスコ中で再播種し、96%エタノールで固定し、ギムザで染色する前に、6つの分割(7日間)にわたって増殖させることができる。64個以上の細胞を含むコロニーをデジタルで計数する。SFが生存率であり、αおよびβがそれぞれ致死的および亜致死的損傷の確率を表す、形式:
【0185】
【0186】
の線形二次モデルを使用して、クローン原性生存を決定した。3つの細胞株については、AGuIXおよびCuPRiX
30を用いた照射後および処理後における細胞生存率の低下が示されている。A549およびSQ20B-CD44
+細胞株の場合、CuPRiX
30の有効性はAGuIXの有効性と同等であると思われるが、4T1細胞株の場合、AGuIXよりも優れている(
図11)。
【0187】
実施例14:転移性乳癌マウスモデルにおける腫瘍増殖および転移の形成に対するCuPRiX30の有効性
本実施例の目的は、腫瘍増殖を遅らせ、転移の形成を減少させるCuPRiX30の能力を示すことである。この目的のために、10匹の8週齢の雌BALB/cマウスに、50000個の4T1細胞(トリプルネガティブ乳癌細胞、50:50のPBS:マトリゲル)を皮下注射した。10日間後(D10)、腫瘍が平均して100mm3に達したとき、50μLのCuPRiX30(200mg/kg,n=6)またはNaCl(0.9%,n=4)を静脈内注射した。さらに2回の注射を、1回目の48時間後(D12)および96時間後(D14)に注射した。腫瘍接種の19日後、すなわち最後の注射の5日後、マウスをイソフルラン麻酔下で頸椎脱臼により安楽死させ、転移を有する可能性がある臓器(肺および肝臓)を除去した。
【0188】
転移を定量化するために、肺および肝臓を機械的に分解し、次いで、濾過する前に酵素消化に供した。続いて、60μMの6-チオグアニン(4T1細胞の選択剤)を含む培地中で、細胞懸濁液を純粋(肝臓)または希釈(肺臓)培養し、CO2を含むインキュベーター中、37℃でインキュベートした。8日後、細胞を固定し、染色し、コロニーを自動的に計数しており、その結果を表1に示す。
【0189】
【0190】
マウスにCuPRiX
30を投与すると、腫瘍成長が遅くなり、肺転移が減少することが分かった。対照群の4匹のマウスは肺に転移を有していたが、CuPRiXで処置した6匹のうち2匹は転移を有しなかった。いずれの状態においても肝転移は認められなかった(
図12)。
【0191】
実施例15:転移性乳癌マウスモデルにおける腫瘍増殖および生存に対するCuPRiX30および放射線療法の組み合わせの有効性
この実施例の目的は、腫瘍の増殖および生存に対する放射線療法の有効性を増大させるCuPRiX30の能力を示すことである。この目的のために、42匹の8週齢の雌BALB/cマウスに、50000個の4T1細胞(トリプルネガティブ乳癌細胞、50:50のPBS:マトリゲル)を皮下注射した。腫瘍移植の10日後、マウスは無作為に4群:NaCl群(対照、n=12)、CuPRiX群(n=10)、NaCl+放射線療法群(RT、n=9)、およびCuPRiX+RT群(n=11)に分けられ、治療を受けた。
【0192】
マウスに、50μlのCuPRiX(200mg/mL)またはNaCl(0.9%)を48時間間隔で計3回注射し、5×2Gy(2Gy/日を5日間)の割合で放射線療法と併用した(
図13)。照射は、イソフルラン麻酔下で、治療の投与の1時間後に行った。
【0193】
腫瘍の進展をモニターし、Kaplan-Meier生存曲線を確立するために、マウスの体重を測定し、腫瘍を1週間に6回測定した。治療計画の最後に、2日間連続して、次の限界点:その重量の15%の喪失;≧1000mm3の腫瘍体積;持続性潰瘍形成;苦痛の徴候の観察(衰弱、粗毛、背部弓状);のうちの1つに達したマウスを安楽死させた。
【0194】
腫瘍体積の進展は、以下のように計算された:(時間tにおける腫瘍体積)/(基準時間における腫瘍体積)、ここで、基準時間は治療の最初の日、すなわち、D10に対応している。得られた結果は、RT単独またはCuPRiX単独による治療後よりも、CuPRiX+RTの治療組み合わせ後の腫瘍増殖のより大きな減少を示している。CuPRiXとRTとの併用はまた、RT単独と比較して動物の生存を延長することを可能にした(
図14)。
【0195】
〔産業上の利用可能性〕
本発明の技術的解決策は特に、医学の分野、特に、腫瘍の治療に適用することができる。
【0196】
本開示は、例としてのみ与えられる上述の例に限定されず、探求される保護の文脈において当業者によって想定され得る全ての変形を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【
図1】
図1は、反応媒体中における遊離ガドリニウムのHPLC-ICP/MSクロマトグラムを、保持時間Tr(分)の関数として示している。
【
図2】
図2は、1mgのCuPRiX
20(395nmでの励起)あたりに添加されたユウロピウムの量の関数として、590nmでの発光強度を測定することにより、遊離DOTAのCuPRiX
20を滴定した結果を示している。
【
図3】
図3は、AGuIX(登録商標)およびCuPRiX
20の銅錯体形成前後におけるクロマトグラムである。
【
図4】
図4は、A549細胞の細胞運動性に対するCuPRiX
20の濃度増加(0、50、100、500、1000μMの遊離キレート、約0、150、300、600、900、1200、1500および3000μMのガドリニウムに相当)の効果を示している。(A)時間の関数としての創傷閉鎖の定量的分析。創傷の相対密度は、領域の密度に対する創傷の領域の密度の尺度である。
【
図5】
図5は、A549細胞の細胞運動性に対するCuPRiX
20の濃度増加(0、100、200、300、400および500μMの遊離キレート、約0、300、600、900、1200および1500μMのガドリニウムに相当)の効果を示している。(A)時間の関数としての創傷閉鎖の定量的分析。創傷の相対密度は、細胞領域の密度(%)に対する創傷の領域の密度の尺度である。データは平均±SEM(n=6)として示す。(B)画像は、それぞれの状態が、元の創傷、並びにその24時間後および48時間を示していることを示す。スケールバーは300μmを示している。
【
図6】
図6は、CuPRiX
20(0および500μMの遊離キレート,約0および1500μMのガドリニウムに相当する)がA549細胞の細胞運動性に及ぼす影響を示している。細胞をCuPRiX
20で72時間処理した後、創傷を作製した。(A)時間の関数としての創傷閉鎖の定量的分析。創傷の相対密度は、細胞領域の密度(%)に対する創傷の領域の密度の尺度である。データは平均±SEM(n=6)として示している。(B)画像は、それぞれの状態が、元の創傷、並びにその24時間後および48時間後を示していることを示す。スケールバーは300μmを示している。
【
図7】
図7は、A549細胞の細胞浸潤に対するCuPRiX
20(0および500μMの遊離キレート,約0および1500μMのガドリニウムに相当する)の効果を示している。(A)時間の関数としての創傷閉鎖の定量的分析。創傷の相対密度は、細胞領域の密度(%)に対する創傷の領域の密度の尺度である。データは平均±SEM(n=6)として示している。(B)画像は、それぞれの状態が、元の創傷、並びにその24時間後および48時間後を示していることを示す。スケールバーは300μmを示している。
【
図8】
図8は、A549細胞の走化性遊走に対するCuPRiX
20の効果を示している。遊走は、膜上に播種された最初の細胞コンフルエンスに対しての、膜を通過した細胞のコンフルエンスとの比として表されている。データは平均±SEM(n=5)として示している。
【
図9】
図9は、A549細胞の運動性に対するCuPRiX
30と光照射との併用の効果を示している。創傷の相対密度は、細胞領域の密度(%)に対する創傷の領域の密度の尺度である。データは平均±SEM(n=6)として示している。
【
図10】
図10は、A549細胞におけるCuPRiX
30の放射線増感効果を示している。
【
図11】
図11は、(A)A549、(B)SQ20B-CD44
+および(C)4T1細胞株に対するCuPRiXおよびAGuIXの放射線増感作用を示している。
【
図12】
図12は、トリプルネガティブ乳癌マウスモデルにおけるCuPRiX
30の(A)腫形成増殖および(B)転移に対する有効性を示している。(A)腫瘍増殖は腫瘍の体積(1/2*L*W
2、ここで、Lは腫瘍の長さであり、Wは腫瘍の幅である)として、時間の関数として、表される。データは平均値±標準偏差、*p=0.038として示している。AUC比較:Kruskal-Wallis試験。(B)治療群別の肺からのコロニー数。NaCl n=4、CuPRiX
30 n=6。
【
図13】
図13は、注射および照射のダイアグラムを示している。
【
図14】
図14は、腫瘍増殖および生存に対する放射線療法の有効性を示している。
【国際調査報告】