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特表2023-550131L-グルタミン生産能が向上した微生物及びそれを用いたL-グルタミン生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(54)【発明の名称】L-グルタミン生産能が向上した微生物及びそれを用いたL-グルタミン生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20231122BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231122BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20231122BHJP
   C12P 13/14 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C12N15/60
C12N1/21 ZNA
C12N1/20 A
C12P13/14 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530699
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 KR2021017074
(87)【国際公開番号】W WO2022108383
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】10-2020-0156903
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソ チン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ソンヨン
(72)【発明者】
【氏名】リ,カン ウ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE20
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA24X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA50
(57)【要約】
本出願は、L-グルタミン生産能が向上した微生物及びそれを用いたL-グルタミン生産方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が弱化されてL-グルタミン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物。
【請求項2】
前記微生物は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が弱化されていない親株又は野生型コリネバクテリウム属菌株に比べてL-グルタミン生産能が向上したものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼは内在タンパク質である、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記微生物はコリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるものである、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の微生物を培地で培養するステップを含むL-グルタミン生産方法。
【請求項7】
前記培養するステップの後に、培地又は微生物からL-グルタミンを回収するステップをさらに含む、請求項6に記載のL-グルタミン生産方法。
【請求項8】
ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼが弱化されたコリネバクテリウム属微生物のL-グルタミン生産への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、L-グルタミン生産能が向上した微生物及びそれを用いたL-グルタミン生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-グルタミンは、消化器疾患治療剤、肝機能強化剤、脳機能強化剤、免疫増強剤、胃潰瘍治療剤、アルコール中毒治療剤、化粧品の保湿剤、運動栄養剤、患者用栄養剤などの医薬品、化粧品、健康食品などに広く用いられるアミノ酸である。
【0003】
微生物によるL-グルタミン生産には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)と大腸菌(Escherichia coli)が代表的に用いられている。L-グルタミン生合成経路においては、解糖過程(Glycolysis)とTCA回路(Tricarboxylic acid cycle)により生成されるα-ケトグルタミン酸(α-keto glutaric acid)を前駆体とし、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(Glutamate dehydrogenase)によりL-グルタミン酸(L-glutamate)が生成され、グルタミンシンテターゼ(Glutamine synthetase)の反応により最終的にL-グルタミンが生成される(非特許文献1)。
【0004】
しかし、L-グルタミンの需要の増加に伴い、効果的にL-グルタミンの生産能を向上させるための研究が依然として求められている現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/177731号
【特許文献2】韓国登録特許第10-0048440号公報
【特許文献3】米国特許第7262035号明細書
【特許文献4】米国特許第7662943号明細書
【特許文献5】米国特許第10584338号明細書
【特許文献6】米国特許第10273491号明細書
【特許文献7】韓国公開特許第2009-0094433号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Production of glutamate and glutamate-related aminoacids: Molecular Mechanism Analysis and Metabolic Engineering, Amino acid Biosynthesis-pathways, regulation and metabolic engineering pp1-38
【非特許文献2】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献3】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献4】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献5】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献6】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献7】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献8】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献9】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献10】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献11】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献12】J. Sambrook et al.,Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献13】F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【非特許文献14】Nakashima N et al., Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793
【非特許文献15】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【非特許文献16】Weintraub, H. et al., Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986
【非特許文献17】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【非特許文献18】"Manual of Methods for General Bacteriology" by the American Society for Bacteriology (Washington D.C., USA, 1981)
【非特許文献19】Van der Rest et al., Appl. Microbial. Biotechnol. 52:541-545, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、L-グルタミン生産能を向上させるために鋭意努力した結果、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Phosphoenolpyruvate carboxykinase)を含む微生物においてL-グルタミンが高効率で生産されることを確認し、本出願を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Phosphoenolpyruvate carboxykinase)活性が弱化されてL-グルタミン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本出願は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が弱化されてL-グルタミン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養するステップを含むL-グルタミン生産方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本出願は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼを弱化させるステップを含む、L-グルタミン生産用微生物の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本出願は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼが弱化された微生物、それを培養した培地、又はそれらの組み合わせを含むL-グルタミン生産用組成物を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本出願は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼが弱化されたコリネバクテリウム属微生物のL-グルタミン生産への使用を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0013】
本出願による弱化されたホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Phosphoenolpyruvate carboxykinase)を含む微生物は、L-グルタミンを高効率で生産することができる。製造されたL-グルタミンは、動物飼料又は動物飼料添加剤だけでなく、ヒトの食品又は食品添加剤、医薬品などの様々な製品に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。さらに、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本出願に含まれることが意図されている。さらに、本明細書全体にわたって多くの論文及び特許文献が参照されており、その引用が示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容はその全体が本明細書に参照として組み込まれており、それにより本出願の属する技術分野の水準及び本出願の内容がより明確に説明される。
【0015】
上記目的を達成するための本出願の一態様は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Phosphoenolpyruvate carboxykinase)活性が弱化されてL-グルタミン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0016】
本出願における「ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Phosphoenolpyruvate carboxykinase; PEPCK; EC 4.1.1.32)」とは、グルコース新生(gluconeogenesis)合成過程に関与し、GTP存在時に、オキサロ酢酸(Oxaloacetate)をホスホエノールピルビン酸(Phosphoenolpyruvate)と二酸化炭素に変換する酵素を意味する。本出願のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼは、PEPCKと混用される。
【0017】
前記PEPCKのアミノ酸配列は、公知のデータベースであるNCBIのGenbankなどから得られる。
【0018】
例えば、本出願のPEPCKは、コリネバクテリウム属微生物由来のタンパク質であってもよい。より具体的には、本出願のPEPCKは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)などに由来するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本出願のPEPCKは、本出願のコリネバクテリウム属微生物の内在タンパク質であってもよい。
【0020】
本出願において、本出願のPEPCKは、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するものであってもよく、前記アミノ酸配列を含むものであってもよく、前記アミノ酸配列からなるものであってもよく、前記アミノ酸配列から必須に構成される(essentially consisting of)ものであってもよい。
【0021】
本出願において、配列番号1のアミノ酸配列には、それと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%又は99.9%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列が含まれる。また、そのような相同性又は同一性を有し、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0022】
例えば、アミノ酸配列のN末端、C末端及び/又は内部における本出願のタンパク質の機能を変更しない配列の付加もしくは欠失、自然に発生し得る突然変異、非表現突然変異(silent mutation)又は保存的置換を有するものが挙げられる。
【0023】
前記「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。通常、保存的置換は、タンパク質又はポリペプチドの活性にほとんど又は全く影響を及ぼさない。
【0024】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が類似する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0025】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全部又は一部分とハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションには、ポリヌクレオチドにおいて一般のコドン又はコドン縮退を考慮したコドンを有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることは言うまでもない。
【0026】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献2のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献3)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献5)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献6、7及び8)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0027】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献9に開示されているように、非特許文献4などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献10に開示されているように、非特許文献11の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0028】
本出願のPEPCKは、pck遺伝子によりコードされるものであってもよい。本出願のpck遺伝子は、PEPCK活性を有するタンパク質をコードすることが知られている遺伝子であればいかなるものでもよい。
【0029】
具体的には、本出願のpck遺伝子は、コリネバクテリウム属微生物由来のpckであってもよい。より具体的には、本出願のpck遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株由来のpckであってもよい。例えば、本出願のpck遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032由来のWP_011015446.1をコードするポリヌクレオチドであってもよい。
【0030】
本出願における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖を意味し、より具体的には前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0031】
本出願のPEPCKをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものであってもよい。本出願の一例として、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号2の塩基配列を有するものであってもよく、配列番号2の塩基配列を含むものであってもよい。また、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号2の配列からなるものであってもよく、配列番号2の配列から必須に構成されるものであってもよい。具体的には、前記PEPCKは、配列番号2の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされるものであってもよい。
【0032】
本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は本出願のPEPCKを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、PEPCKのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。具体的には、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号2の配列と相同性もしくは同一性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上である塩基配列を有するものであるか、前記塩基配列を含むものであるか、又は配列番号2の配列と相同性もしくは同一性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上である塩基配列からなるものであるか、前記塩基配列から必須に構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
また、本出願のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば本出願のポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイドリダイズする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(非特許文献12、13参照)に具体的に記載されている。例えば、相同性もしくは同一性の高いポリヌクレオチド同士、70%以上、75%以上、76%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するポリヌクレオチド同士をハイブリダイズし、それより相同性もしくは同一性の低いポリヌクレオチド同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0034】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデニンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願のポリヌクレオチドには、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0035】
具体的には、本出願のポリヌクレオチドと相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0036】
前記ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(例えば、非特許文献12)。
【0037】
本出願における「微生物(又は菌株)」とは、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は弱化されるなどの原因により、特定機序が弱化又は強化された微生物であって、目的とするポリペプチド、タンパク質又は産物の生産のために遺伝的改変(modification)が行われた微生物であってもよい。
【0038】
本出願におけるポリペプチド(例えば、各酵素の名称で特定されるタンパク質を含む。)の活性の「弱化」は、内在性活性に比べて活性が低下することや、活性がなくなることが全て含まれる概念である。前記弱化は、不活性化(inactivation)、欠乏(deficiency)、下方調節(down-regulation)、減少(decrease)、低下(reduce)、減衰(attenuation)などと混用される。
【0039】
前記弱化には、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異などによりポリペプチド自体の活性が本来微生物が有するポリペプチドの活性に比べて減少又は除去される場合が含まれ、それをコードするポリヌクレオチドの遺伝子の発現阻害やポリペプチドへの翻訳(translation)阻害などにより細胞内での全体的なポリペプチド活性の程度及び/又は濃度(発現量)が天然菌株に比べて低下する場合が含まれ、前記ポリヌクレオチドの発現が全くない場合が含まれ、かつ/又はポリヌクレオチドが発現したとしてもポリペプチドの活性がない場合が含まれてもよい。
【0040】
このようなポリペプチドの活性の弱化は、これらに限定されるものではなく、当該分野で周知の様々な方法を適用することにより達成することができる(例えば、非特許文献14、15など)。
【0041】
具体的には、本出願のポリペプチドの活性の弱化は、1)ポリペプチドをコードする遺伝子の全部又は一部を欠失させること、2)ポリペプチドをコードする遺伝子の発現が減少するように発現調節領域(又は発現調節配列)を改変すること、3)ポリペプチドの活性が欠失又は弱化するように前記ポリペプチドを構成するアミノ酸配列を改変すること(例えば、アミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸を欠失/置換/付加すること)、4)ポリペプチドの活性が欠失又は弱化するように前記ポリペプチドをコードする核酸塩基配列を改変すること(例えば、ポリペプチドの活性が欠失又は弱化するように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチドをコードする遺伝子の核酸塩基配列の1つ以上の核酸塩基を欠失/置換/付加すること)、5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドン又は5’UTR領域の塩基配列を改変すること、6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子転写産物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入すること、7)リボソーム(ribosome)の付着を不可能にする2次構造物が形成されるようにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加すること、8)ポリペプチドをコードする核酸塩基配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加すること(Reverse transcription engineering, RTE)、又は9)それらの組み合わせ(例えば、前記1)~8)から選択される2つ以上の組み合わせ)により行われるが、特に上記例に限定されるものではない。
【0042】
例えば、前記1)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の一部又は全部を欠失させることは、染色体内の内在性標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド全体を欠失させること、一部のヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチド又はマーカー遺伝子に置換することにより行われてもよい。
【0043】
前記2)発現調節領域(又は発現調節配列)を改変することは、欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節領域(又は発現調節配列)上の変異を発生させるか、より低い活性を有する配列に置換することにより行われてもよい。前記発現調節領域には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
前記3)及び4)のアミノ酸配列又は核酸塩基配列を改変することは、ポリペプチドの活性が弱化するように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列又は前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より低い活性を有するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列、又は活性がなくなるように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列に置換することにより行われるが、これらに限定されるものではない。例えば、ポリヌクレオチド配列に変異を導入して終止コドンを形成することにより、遺伝子の発現を阻害又は弱化させることができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
前記5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドン又は5’UTR領域をコードする塩基配列を改変することは、例えば、内在性開始コドンに比べてポリペプチドの発現率が低い他の開始コドンをコードする塩基配列に置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0046】
前記6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子転写産物に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入することは、例えば、非特許文献16のように行われてもよい。
【0047】
前記7)リボソームの付着を不可能にする2次構造物が形成されるようにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加することは、mRNA翻訳を不可能にするか、速度を弱化させることにより行われてもよい。
【0048】
また、前記8)ポリペプチドをコードする核酸塩基配列のORFの3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加することは、前記ポリペプチドをコードする遺伝子の転写産物に相補的なアンチセンスヌクレオチドを形成して活性を弱化させることにより行われてもよい。
【0049】
本出願の微生物において、ポリヌクレオチドの一部又は全部の改変は、(a)微生物中の染色体導入用ベクターを用いた相同組換え、もしくは遺伝子はさみ(engineered nuclease, e.g., CRISPR-Cas9)を用いたゲノム編集、並びに/又は(b)紫外線や放射線などの光及び/もしくは化学物質処理により誘導することができるが、これらに限定されるものではない。前記遺伝子の一部又は全部の改変方法には、DNA組換え技術による方法が含まれる。例えば、標的遺伝子と相同性のあるヌクレオチド配列が含まれるヌクレオチド配列又はベクターを前記微生物に導入して相同組換え(homologous recombination)を起こすことにより遺伝子の一部又は全部の欠失が行われる。この導入されるヌクレオチド配列又はベクターには、優性選択マーカーが含まれてもよいが、これに限定されるものではない。
【0050】
本出願のベクターとは、好適な宿主内で標的ポリペプチドを発現させることができるように、好適な発現調節領域(又は発現調節配列)に作動可能に連結された前記標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記発現調節領域には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれてもよい。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製又は機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0051】
本出願に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pDC、pDCM2、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0052】
例えば、細胞内染色体導入用ベクターにより、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に導入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面ポリペプチドの発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0053】
本出願における「形質転換」とは、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞又は微生物内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的ポリペプチドをコードするDNA及び/又はRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるものでもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0054】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0055】
本出願の微生物は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が弱化されていない親株又は野生型コリネバクテリウム属菌株に比べてL-グルタミン生産能が向上した微生物であってもよい。すなわち、本出願の微生物は、自然にL-グルタミン生産能を有する微生物、又はL-グルタミン生産能のない親株においてPEPCK又はそれをコードするポリヌクレオチドが弱化された微生物であるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
例えば、前記L-グルタミン生産能が向上するか否かを比較する対象菌株である、PEPCKが弱化されていないPEPCK非改変微生物は、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株、グルタミンシンテターゼ(Glutamine synthetase, GlnA, EC 6.3.1.2)タンパク質の活性が強化されたコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株、グルタミンシンテターゼをコードするglnA遺伝子に変異(D401N)を導入することにより微生物中で当該タンパク質の活性を強化した微生物、グルタミン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM12645P(特許文献1)、又はグルタミン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC-10680(特許文献2)菌株であるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
一例として、前記生産能が向上した組換え菌株は、変異前の親株、非改変微生物又はPEPCK非改変微生物のL-グルタミン生産能に比べて、約1%以上、具体的には約2%以上、約5%以上、約6%以上、約7%以上、約7.2%以上、約8%以上、約9%以上又は約9.2%以上(上限値に特に制限はなく、例えば約200%以下、約150%以下、約100%以下、約51%以下、約40%以下、約30%以下、約20%以下又は約15%以下である)増加したものであるが、変異前の親株、非改変微生物又はPEPCK非改変微生物の生産能に比べて、+値の増加量を示すものであれば、いかなるものでもよい。他の例として、前記L-グルタミン生産能が向上した微生物は、変異前の親株、非改変微生物又はPEPCK非改変微生物に比べて、L-グルタミン生産能が約1.01倍以上、約1.02倍以上、約1.05倍以上、約1.06倍以上、約1.07倍以上、約1.072倍以上、約1.08倍以上、約1.09倍以上又は約1.092倍以上(上限値に特に制限はなく、例えば約10倍以下、約5倍以下、約3倍以下又は約2倍以下である)に増加したものであるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本出願における「非改変微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、野生型菌株もしくは天然菌株自体、又は自然要因もしくは人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する前の菌株を意味する。また、本出願における「PEPCK非改変微生物」とは、本明細書に記載されたPEPCK又はそれをコードするポリヌクレオチドが弱化されていないか、弱化される前の菌株を意味する。本出願のPEPCK非改変微生物は、PEPCK又はそれをコードするポリヌクレオチドの改変以外の他のタンパク質又は他の遺伝子の改変を含む菌株を除外するものではない。
【0059】
本出願における「非改変微生物」は、「改変前の菌株」、「改変前の微生物」、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」又は「基準微生物」と混用される。
【0060】
本出願の微生物は、内在性活性より弱化されたPEPCKもしくはそれをコードするポリヌクレオチドを含む微生物、又は内在性活性より弱化されたPEPCKもしくはそれをコードするポリヌクレオチドを含むように遺伝的に改変された微生物(例えば、組換え微生物)であるが、これらに限定されるものではない。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前の親株、野生型又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。ポリペプチドの活性が内在性活性に比べて「弱化、不活性化、欠乏、減少、下方調節、低下、減衰」するとは、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性に比べて低下することを意味する。
【0061】
本出願の他の例として、本出願の微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)又はコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)であり、具体的にはコリネバクテリウム・グルタミカムであるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
他の例として、本出願の組換え微生物は、L-グルタミン生合成経路内のタンパク質の一部の活性がさらに強化されるか、L-グルタミン分解経路内のタンパク質の一部の活性がさらに弱化されることにより、L-グルタミン生産能が強化された微生物であってもよい。
【0063】
具体的には、本出願において、コリネバクテリウム属微生物は、前記glnA強化(例えば、コピー数の増加、プロモーターの変更、アデニリル化による活性調節の解除、glnEの弱化、又はPIIタンパク質の活性弱化;特許文献3)がさらに導入された微生物、GDH(glutamate dehydrogenase)強化(例えば、コピー数の増加、又は発現調節配列の改変)がさらに導入された微生物(特許文献3)、glnA強化の変異がさらに導入された微生物(特許文献1)であるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本出願におけるポリペプチド活性の「強化」とは、ポリペプチドの活性を内在性活性に比べて向上させることを意味する。前記強化は、活性化(activation)、上方調節(up-regulation)、過剰発現(overexpression)、向上(increase)などと混用される。ここで、活性化、強化、上方調節、過剰発現、向上には、本来なかった活性を示すようになることや、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することが全て含まれる。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。ポリペプチドの活性が内在性活性に比べて「強化」、「上方調節」、「過剰発現」又は「向上」するとは、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチドの活性及び/又は濃度(発現量)に比べて向上することを意味する。
【0065】
前記強化は、外来ポリペプチドの導入により達成してもよく、内在性ポリペプチドの活性強化及び/又は濃度(発現量)増加により達成してもよい。前記ポリペプチドの活性が強化されたか否かは、当該ポリペプチドの活性の程度、発現量又は当該ポリペプチドから生産される産物の量の増加により確認することができる。
【0066】
前記ポリペプチド活性の強化には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができ、標的ポリペプチドの活性を改変前の微生物より強化できるものであればいかなるものでもよい。具体的には、分子生物学における通常の方法であって、当該技術分野における通常の知識を有する者に周知の遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を用いたものであるが、これらに限定されるものではない(例えば、非特許文献15、17など)。
【0067】
具体的には、本出願のポリペプチド活性の強化は、1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させること、2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節領域を活性が強力な配列に置換すること、3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドン又は5’UTR領域をコードする塩基配列を改変すること、4)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドのアミノ酸配列を改変すること、5)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を改変すること(例えば、ポリペプチド活性が強化されるように改変されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列を改変すること)、6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチド又はそれをコードする外来ポリヌクレオチドを導入すること、7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化すること、8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部分を選択して改変すること、もしくは化学的に修飾すること、又は9)前記1)~8)から選択される2つ以上の組み合わせにより行われるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0068】
より具体的には、前記1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させることは、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターを宿主細胞内に導入することにより行われる。あるいは、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞内の染色体に1コピー又は2コピー以上導入することにより行われてもよい。前記染色体への導入は、宿主細胞内の染色体に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターを宿主細胞内に導入することにより行われるが、これに限定されるものではない。前記ベクターについては前述した通りである。
【0069】
前記2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子の発現調節領域(又は発現調節配列)を活性が強力な配列に置換することは、例えば前記発現調節領域の活性がさらに強化されるように、欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より高い活性を有する配列に置換することにより行われる。前記発現調節領域には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。例えば、本来のプロモーターを強力なプロモーターに置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0070】
公知の強力なプロモーターの例としては、CJ1~CJ7プロモーター(特許文献4)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(特許文献5)、O2プロモーター(特許文献6)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
前記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写産物の開始コドン又は5’UTR領域をコードする塩基配列を改変することは、例えば内在性開始コドンに比べてポリペプチドの発現率が高い他の開始コドンをコードする塩基配列に置換することにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0072】
前記4)及び5)のアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列を改変することは、ポリペプチドの活性が強化されるように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列又は前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を発生させるか、より高い活性を有するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列、又は活性が向上するように改良されたアミノ酸配列もしくはポリヌクレオチド配列に置換することにより行われるが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記置換は、相同組換えによりポリヌクレオチドを染色体内に挿入することにより行われるが、これに限定されるものではない。ここで、用いられるベクターは、染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。
【0073】
前記6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリヌクレオチドを導入することは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すポリペプチドをコードする外来ポリヌクレオチドを宿主細胞内に導入することにより行われる。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列はいかなるものでもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前述したように導入したポリヌクレオチドが発現することにより、ポリペプチドが生成されてその活性が向上してもよい。
【0074】
前記7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドンを最適化することは、宿主細胞内で転写又は翻訳が増加するように、内在ポリヌクレオチドのコドンを最適化するか、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化することにより行われる。
【0075】
前記8)ポリペプチドの三次構造を分析し、露出部分を選択して変形すること、もしくは化学的に修飾することは、例えば分析しようとするポリペプチドの配列情報を既知のタンパク質の配列情報が保存されているデータベースと比較し、配列の類似性の程度に応じて鋳型タンパク質の候補を決定し、それを基に構造を確認し、改変又は化学的に修飾する露出部分を選択して改変又は修飾することにより行われてもよい。
【0076】
このようなポリペプチド活性の強化は、対応するポリペプチドの活性又は濃度、発現量が野生型や改変前の微生物菌株で発現するポリペプチドの活性又は濃度に比べて向上するか、当該ポリペプチドから生産される産物の量が増加することにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
本出願の他の態様は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が弱化されてL-グルタミン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を培地で培養するステップを含むL-グルタミン生産方法を提供する。
【0078】
本出願のL-グルタミン生産方法は、内在性活性より弱化されたPEPCKもしくはそれをコードするポリヌクレオチドを含む微生物、又は内在性活性より弱化されたPEPCKもしくはそれをコードするポリヌクレオチドを含むように遺伝的に改変された微生物を培地で培養するステップを含んでもよい。
【0079】
本出願における「培養」とは、本出願の微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される微生物に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び/又は流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
本出願における「培地」とは、本出願の微生物を培養するために必要な栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質や発育因子などを供給する。具体的には、本出願の微生物の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられるものであればいかなるものでもよく、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性条件下にて温度、pHなどを調節して本出願の微生物を培養することができる。
【0081】
具体的には、コリネバクテリウム属微生物の培養培地は非特許文献18に開示されている。
【0082】
本出願における前記炭素源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられる。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、具体的には、グルコースや殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
前記リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができ、それ以外に、アミノ酸、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを用いることができる。これらの構成成分又は前駆体は、培地に回分式又は連続式で添加することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0085】
また、本出願の微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に好適な方法で添加することにより、培地のpHを調整することができる。さらに、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培地の好気状態を維持するために、培地中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0086】
本出願の培養において、培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃に維持し、約10~160時間培養するが、これらに限定されるものではない。
【0087】
本出願の培養により生産されたL-グルタミンは、培地中に分泌されるか、細胞内に残留されてもよい。
【0088】
本出願のL-グルタミン生産方法は、本出願の微生物を準備するステップ、前記微生物を培養するための培地を準備するステップ、又はそれらの組み合わせ(任意の順序,in any order)を、例えば前記培養するステップの前にさらに含んでもよい。
【0089】
本出願のL-グルタミン生産方法は、前記培養に用いた培地(培養が行われた培地)又は培養した微生物からL-グルタミンを回収するステップをさらに含んでもよい。前記回収するステップは、前記培養するステップの後にさらに含んでもよい。
【0090】
前記回収は、本出願の微生物の培養方法、例えば回分、連続、流加培養方法などに応じて、当該技術分野で公知の好適な方法を用いて目的とするL-グルタミンを回収(collect)するものであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、結晶化、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLC又はそれらの組み合わせが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とするL-グルタミンを回収することができる。
【0091】
また、本出願のL-グルタミン生産方法は、精製ステップをさらに含んでもよい。前記精製は、当該技術分野で公知の好適な方法により行うことができる。例えば、本出願のL-グルタミン生産方法が回収ステップと精製ステップの両方を含む場合、前記回収ステップと前記精製ステップは、順序に関係なく連続的又は非連続的に行ってもよく、同時に又は1つのステップとして統合して行ってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0092】
本出願の方法におけるPEPCK、ポリヌクレオチド、ベクター、微生物などについては前述した通りである。
【0093】
本出願のさらに他の態様は、PEPCKが弱化された微生物、それを培養した培地、又はそれらの組み合わせを含むL-グルタミン生産用組成物を提供する。
【0094】
本出願の組成物は、L-グルタミン生産用組成物に通常用いられる任意の好適な賦形剤をさらに含んでもよい。このような賦形剤としては、例えば保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
本出願のさらに他の態様は、PEPCKを弱化させるステップを含む、L-グルタミン生産用微生物の製造方法を提供する。
【0096】
本出願のさらに他の態様は、PEPCKが弱化されたコリネバクテリウム属微生物のL-グルタミン生産への使用を提供する。
【0097】
前記PEPCK、弱化、コリネバクテリウム属微生物などについては前述した通りである。
【実施例
【0098】
以下、実施例を挙げて本出願をさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示する好ましい実施形態にすぎず、本出願がこれらに限定されるものではない。なお、本明細書に記載されていない技術的な事項は、本出願の技術分野又は類似技術分野における熟練した技術者が十分に理解し、容易に実施することのできるものである。
【実施例1】
【0099】
pck遺伝子を弱化させるためのベクターの作製
ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Phosphoenolpyruvate carboxykinase)をコードするpck遺伝子を弱化させるために、遺伝子を欠損させるベクターを作製した。
【0100】
具体的には、pck遺伝子部分が欠損した菌株を作製するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号3及び配列番号4、配列番号1及び配列番号2のプライマーを用いて、PCRをそれぞれ行った。ここで用いたプライマー配列を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合反応を28サイクル行うものとした。その結果、pck遺伝子開始コドンを中心とする5’末端上流の929bpのDNA断片と、pck遺伝子終止コドンを中心とする3’末端下流の1000bpのDNA断片がそれぞれ得られた。PCR精製キット(QUIAGEN)を用いて、増幅した2つのDNA断片を精製し、プラスミド作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、制限酵素salIで処理し、その後65℃で20分間熱処理したpDZベクター(特許文献7)と、上記PCRにより増幅した挿入DNA断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、インフュージョンクローニングキット(Infusion Cloning Kit, TaKaRa)を用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、pck遺伝子欠損のためのベクターpDZ-△PEPCKを作製した。
【実施例2】
【0103】
野生型ベースL-グルタミン生産能を有するコリネバクテリウム属菌株の作製
野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032からL-グルタミン生産菌株を見出した。具体的には、生合成経路の最後の酵素であるグルタミンシンテターゼ(Glutamine synthetase)の活性を向上させるために、グルタミンシンテターゼをコードする遺伝子であるglnA(D401N)変異体(配列番号11)を導入した菌株(寄託番号KCCM12645P)を作製した。
【0104】
より具体的には、glnA(D401N)変異を導入した菌株を作製するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号7及び配列番号8、又は配列番号9及び配列番号10のプライマーを用いて、PCRをそれぞれ行った。ここで用いたプライマー配列を表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼを用いた。PCR条件は、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合反応を28サイクル行うものとした。その結果、glnA遺伝子D401N変異を中心とする5’末端上流のDNA断片と、3’末端下流のDNA断片がそれぞれ得られた。PCR精製キットを用いて、増幅した2つのDNA断片を精製し、プラスミド作製のための挿入DNA断片として用いた。一方、制限酵素speIで処理し、その後65℃で20分間熱処理したpDZベクター(特許文献7)と、上記PCRにより増幅した挿入DNA断片のモル濃度(M)の比が1:2になるように、インフュージョンクローニングキットを用いて、提供されたマニュアルに従ってクローニングすることにより、glnA(D401N)遺伝子変異型挿入のためのpDZ-glnA(D401N)を作製した。
【0107】
作製したベクターをエレクトロポレーション、電気パルス法(非特許文献19)によりコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に形質転換し、相同染色体組換えにより染色体上にglnA(D401N)変異を含む菌株を得た。前記菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCA11-4021と命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms,KCCM)に2019年12月19日付けで寄託番号KCCM12645Pとして寄託した。
【実施例3】
【0108】
pck遺伝子が弱化されたL-グルタミン生産菌株の作製及び評価
実施例2で作製したL-グルタミン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCA11-4021において、pck遺伝子を弱化させた。より具体的には、実施例1で作製したベクターをエレクトロポレーションによりコリネバクテリウム・グルタミカムCA11-4021に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でpck遺伝子が欠損したL-グルタミン生産菌株を得た。これをコリネバクテリウム・グルタミカムCA11-4023と命名した。
【0109】
コリネバクテリウム・グルタミカムCA11-4023を次の方法で培養し、グルタミン生産能を測定した。
【0110】
まず、種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃、200rpmで48時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。培養終了後に、HPLC(Waters 2478)を用いてL-グルタミンの濃度を測定した。グルタミン生産能及び糖消費速度の測定結果を表3に示す。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KHPO4g,KHPO 8g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<グルタミン生産培地(pH8.0)>
原糖60g,(NHSO 45g,大豆タンパク質0.48g,CaCO50g,MgSO・7HO 0.4g,KHPO 1g,チアミン塩酸塩0.2mg,ビオチン0.3mg,ニコチンアミド60mg,FeSO・7HO 10mg,MnSO・HO 10mg(蒸留水1リットル中)
【0111】
【表3】
【0112】
その結果、pck遺伝子が弱化されたCA11-4023において、親株であるCA11-4021に比べてグルタミン生産能が7.2%向上することが確認された。
【0113】
前記CA11-4023菌株をブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2020年12月22日付けで受託番号KCCM12916Pとして寄託した。
【実施例4】
【0114】
pck遺伝子が弱化された高濃度L-グルタミン生産菌株の作製及び評価
公知のグルタミン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC-10680(特許文献2)菌株を対象に、実施例3と同様に、pck遺伝子を弱化した。より具体的には、実施例1で作製したpDZ-△PEPCKベクターをエレクトロポレーションによりコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC-10680に形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でpck遺伝子が欠損した菌株を得た。これをコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC-10680△pckと命名し、次の方法で培養してグルタミン生産能を測定した。
【0115】
まず、種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃、200rpmで48時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。培養終了後にHPLC(Waters 2478)を用いてL-グルタミンの濃度を測定した。グルタミン生産能及び糖消費速度の測定結果を表4に示す。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KHPO4g,KHPO 8g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<グルタミン生産培地(pH8.0)>
原糖60g,(NHSO 45g,大豆タンパク質0.48g,CaCO50g,MgSO・7HO 0.4g,KHPO 1g,チアミン塩酸塩0.2mg,ビオチン0.3mg,ニコチンアミド60mg,FeSO・7HO 10mg,MnSO・HO 10mg(蒸留水1リットル中)
【0116】
【表4】
【0117】
その結果、pck遺伝子が欠損したKFCC-10680△pckにおいて、親株であるKFCC-10680に比べてグルタミン生産能が9.2%向上することが確認された。
【0118】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0119】
【0120】
【配列表】
2023550131000001.app
【国際調査報告】