(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(54)【発明の名称】神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するためのコンピュータプログラム、植え込み型神経刺激デバイスをプログラムする方法、およびそのためのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/372 20210101AFI20231122BHJP
A61B 5/293 20210101ALI20231122BHJP
A61B 5/369 20210101ALI20231122BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20231122BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
A61B5/372
A61B5/293
A61B5/369
A61B10/00 H
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530967
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2021082334
(87)【国際公開番号】W WO2022112131
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520414479
【氏名又は名称】プレシシス・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161908
【氏名又は名称】藤木 依子
(72)【発明者】
【氏名】マンツォーリ,ファロコー
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ-ボンハーゲ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥンペルマン,マティアス
【テーマコード(参考)】
4C053
4C127
【Fターム(参考)】
4C053JJ21
4C127AA03
4C127BB05
4C127DD03
4C127GG16
4C127LL08
(57)【要約】
本発明は、標的電極構成体を有する植え込み型神経刺激デバイスにおける神経学的疾患検出のために使用されるように神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するためのコンピュータプログラムに関し、本コンピュータプログラムは、a)コンピュータプログラムを実行するコンピュータにEEGデータを入力するステップであって、EEGデータは、複数の電極チャネルを有する電極システムを使用して少なくとも1人の患者からの少なくとも1つのEEGによって記録される、ステップと、b)EEGデータに含まれる、および/またはコンピュータに入力される神経学的疾患識別タグに基づいて、神経学的疾患に対応する、EEGデータ内の神経学的活動を識別するステップと、c)EEGデータ内の利用可能な電極チャネルの中から電極チャネルのサブセットを、c1)識別した神経学的活動、および/またはc2)標的電極構成体の特徴的なデータに応じて選択するステップと、d)選択した電極チャネルのサブセットのEEGデータのみを使用することによって、神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的電極構成体を有する植え込み型神経刺激デバイスにおける神経学的疾患検出のために使用されるように神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、
a)前記コンピュータプログラムを実行するコンピュータにEEGデータを入力するステップであって、前記EEGデータは、複数の電極チャネルを有する電極システムを使用して少なくとも1人の患者からの少なくとも1つのEEGによって記録される、ステップと、
b)前記EEGデータに含まれる、および/または前記コンピュータに入力される神経学的疾患識別タグに基づいて、神経学的疾患に対応する、前記EEGデータ内の神経学的活動を識別するステップと、
c)前記EEGデータ内の利用可能な電極チャネルの中から電極チャネルのサブセットを
c1)前記識別した神経学的活動、および/または
c2)前記標的電極構成体の特徴的なデータに応じて選択するステップと、
d)前記選択した電極チャネルのサブセットのEEGデータのみを使用することによって、神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するステップと
を含む、コンピュータプログラム。
【請求項2】
前記電極チャネルは、前記神経学的疾患に対応する前記識別した神経学的活動の場所に最も近接する前記利用可能な電極チャネルの中から選択される、請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記電極チャネルは、前記標的電極構成体の電極と最も近い幾何学的一致を有する前記利用可能な電極チャネルの中から選択される、請求項1または2に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記電極チャネルは、疑似ラプラシアンパターンに配置される前記利用可能な電極チャネルの中から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
ステップd)は、
d1)二極または四重極電極チャネルを表す線形結合を計算することなど、前記選択した電極チャネルのサブセットの前記EEGデータの線形結合を計算するステップと、
d2)前記EEGデータの計算した線形結合を使用することによって、前記神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するステップと、を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
ちょうど5つの電極チャネルが、前記利用可能な電極チャネルの中から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】
前記神経学的疾患検出アルゴリズムは、人工知能アルゴリズム、例えば、ランダムフォレスト、サポートベクタマシン、多層パーセプトロン、畳み込みニューラルネットワーク、長短期メモリネットワークである、請求項1から6のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項8】
前記コンピュータプログラムは、前記神経学的疾患検出アルゴリズムの少なくとも2つの訓練サイクルを含み、
e)第1の訓練サイクルにおいて、前記神経学的疾患検出アルゴリズムの一般訓練が、1人または複数の患者のEEGデータを使用して行われ、
f)第2の訓練サイクルにおいて、前記神経学的疾患検出アルゴリズムの患者固有の訓練が、前記神経学的疾患検出アルゴリズムが適用されるべき患者のEEGデータのみを使用して、および/または前記神経学的疾患検出アルゴリズムが適用されるべき患者と同様の神経学的疾患発病パターンを有する別の患者のEEGデータを使用して行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項9】
前記コンピュータプログラムは、前記コンピュータプログラムを実行するコンピュータに入力される前記EEGデータに割り当てられるデータタグを評価するように設計され、前記データタグは、前記利用可能な電極チャネルの中から前記電極チャネルのサブセットを選択するために使用される、請求項1から8のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
植え込み型神経刺激デバイスをプログラムする方法であって、
g)コンピュータ上で請求項1から9のいずれか一項に記載のコンピュータプログラムを実行するステップと、
h)前記コンピュータプログラムによって訓練される神経学的疾患検出アルゴリズムを前記植え込み型神経刺激デバイス内へプログラムするステップと、を含む、方法。
【請求項11】
前記植え込み型神経刺激デバイスは、EEG信号を記録し、前記記録したEEG信号に基づいて刺激信号を計算し、前記刺激信号を出力するように設計される閉ループ神経刺激装置である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップg)において、前記コンピュータプログラムは、前記植え込み型神経刺激デバイスの一部ではない外部コンピュータ上で実行される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載のコンピュータプログラムによって訓練された、および/または訓練されているEEGデータから神経学的疾患を検出するための神経学的疾患検出アルゴリズムまたは分類器の形態にあるコンピュータプログラム。
【請求項14】
前記コンピュータプログラムは、マイクロコントローラ上への実装のために構成される、請求項13に記載のコンピュータプログラム。
【請求項15】
前記コンピュータプログラムは、最低電力消費のために最適化される、請求項13または14に記載のコンピュータプログラム。
【請求項16】
前記神経学的疾患を検出するための前記神経学的疾患検出アルゴリズムまたは分類器は、人工知能アルゴリズム、例えば、ランダムフォレスト、サポートベクタマシン、多層パーセプトロン、畳み込みニューラルネットワーク、長短期メモリネットワークである、請求項13から15のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項17】
請求項13から16のいずれか一項に記載のコンピュータプログラムを実行する植え込み型神経刺激デバイス。
【請求項18】
請求項17に記載の植え込み型神経刺激デバイスを使用した神経学的疾患の治療のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、標的電極構成体(target electrode arrangement)を有する植え込み型神経刺激デバイスにおいて、てんかん発作検出のために使用されるように神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するためのコンピュータプログラムに関する。このコンピュータプログラムは、訓練コンピュータプログラムとも称される。本発明は、そのような訓練コンピュータプログラムを使用して植え込み型神経刺激デバイスをプログラムする方法、およびそのような訓練コンピュータプログラムによって訓練された、および/または訓練されているEEGデータから神経学的疾患を検出するための神経学的疾患検出アルゴリズムまたは分類器の形態にあるコンピュータプログラムにさらに関する。このコンピュータプログラムは、神経学的疾患検出コンピュータプログラムとも称される。本発明は、そのような神経学的疾患検出コンピュータプログラムを実行する神経刺激デバイスにさらに関する。本発明は、そのような神経学的疾患検出コンピュータプログラムを実行する神経刺激デバイスを使用した神経学的疾患の治療の方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬の開発における進歩にかかわらず、てんかん患者の大多数が、抗てんかん薬による治療に耐性を示す。これらの患者のごく一部しか、外科的治療の対象でないため、革新的な治療法が必要とされている。これらの患者のための代替的な治療概念は、脳にわたるてんかん発作の広がりを妨げるためにてんかん発作の初期段階において電気刺激を適用することである。これは、閉ループシステムを使用して達成され得、電気的脳活動は、電極のセットによって記録され、同じまたは異なる電極によりてんかん発作発病領域(SOZ)への電気刺激をトリガするてんかん発作検出器を用いて、継続的に、または間隔をあけて監視される。
【0003】
したがって、信頼性が高く、高エネルギー効率のてんかん発作検出器が必要とされている。本発明の目的は、この必要性に対する解決策を提供することである。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施形態は、例えば、標的電極構成体を有する植え込み型神経刺激デバイスにおけるてんかん発作検出のために使用されるように、神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するためのコンピュータプログラムであり、本コンピュータプログラムは、
a)コンピュータプログラムを実行するコンピュータにEEGデータを入力するステップであって、EEGデータは、複数の電極チャネルを有する記録電極システムを使用して、例えば、10-20または10-10または任意の他の高密度EEG電極システムを使用して、少なくとも1人の患者からの少なくとも1つの侵襲的および/または非侵襲的EEGによって記録される、ステップと、
b)EEGデータに含まれる、および/またはコンピュータに入力される神経学的疾患識別タグに基づいて、神経学的疾患に対応する、EEGデータ内の神経学的活動を識別するステップと、
c)EEGデータ内の利用可能な電極チャネルの中から電極チャネルのサブセットを
c1)識別した神経学的活動、および/または
c2)標的電極構成体の特徴的なデータ
に応じて選択するステップと、
d)選択した電極チャネルのサブセットのEEGデータのみを使用することによって、神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するステップと、を含む。
【0005】
神経学的活動によって識別される神経学的疾患は、てんかん発作、脳卒中、神経障害痛、認知症、パーキンソン、耳鳴り、失語症、または任意の他の指定の神経学的事象であり得る。以下においては、てんかん発作の例が、本発明を説明するために主に使用される。しかしながら、これは、他のタイプの神経学的事象も網羅するものとする。
【0006】
本発明は、“実際の”電極構成、具体的には標的電極構成体のパターンへの神経学的疾患検出アルゴリズムの最適適合を可能にする。このやり方では、神経学的疾患検出アルゴリズムは、患者の個々の神経学的疾患発病パターン、および神経学的事象の最適検出が予期され得る植え込み型電極の個々のEEG記録部位に最適に適合され得る。標的電極構成体は、患者からのEEG信号を記録するために神経刺激デバイスにおいて使用される記録電極だけを備え得る。標的電極構成体が、患者に刺激信号を出力するために神経刺激デバイスにおいて使用される刺激電極だけを備え得るということも可能である。別の可能性は、標的電極構成体が、記録電極および刺激電極の組み合わせを備え得るということである。場合によっては、標的電極構成体の電極のうちの1つ、複数、またはすべてが、EEG信号を記録すること、および刺激信号を出力することの両方の目的のために使用され得、その結果として、それらは、組み合わされた記録および刺激電極である。
【0007】
典型的には、コンピュータプログラムのステップは、コンピュータによって実行される。しかしながら、本発明はまた、上述のステップおよび/または以下のステップを含む方法に関する。標的電極構成体は、訓練コンピュータプログラムが実行される前に画定されなければならない。例えば、標的電極構成体の特徴的なデータは、訓練コンピュータプログラムに入力またはプログラムされ得る。標的電極の特徴的なデータは、標的電極構成体の電極の場所、サイズ、および/または構成の幾何学的データを含み得る。一般的に、訓練に使用されるEEGデータは、記録電極チャネルごと、および患者ごとに、経時的にいくつかの測定値を含む。訓練コンピュータプログラムは、コンピュータプログラムに入力されるEEGデータセットに含まれる詳細事項に応じて、何らかのさらなる手動入力を必要とし得る。例えば、EEGデータは、てんかん発作活動のような神経学的疾患の時間および/または場所を識別する情報ですでにタグ付けまたはラベル付け得る。また、神経学的疾患の時間および/または場所を識別する情報は、手動で入力され得る。訓練ステップにおいて、神経学的疾患検出アルゴリズムは、EEGデータ内の神経学的活動の検出を実施し、訓練の過程で、神経学的疾患検出アルゴリズムによる検出の結果は、タグ付け情報と比較される。比較の結果に基づいて、神経学的疾患検出アルゴリズムのパラメータは、十分な検出レベルの神経学的疾患検出アルゴリズムが達成されるまで再帰的に最適化される。
【0008】
本発明の実施形態によると、そのような電極チャネルは、神経学的疾患に対応する識別した神経学的活動の場所に最も近接する利用可能な電極チャネルの中から選択される。これは、患者の予期される神経学的活動および標的電極構成体の電極の場所の最適空間相関を可能にする。
【0009】
本発明の実施形態によると、そのような電極チャネルは、標的電極構成体の電極と最も近い幾何学的一致を有する利用可能な電極チャネルの中から選択される。このやり方では、標的電極構成体の電極を使用した神経学的疾患検出は、比較的複雑な10-20または10-10EEG電極システムを使用した神経学的疾患検出に匹敵して実施するレベルへ、標的電極構成体内にそのような多数の電極を必要とすることなく、最適化され得る。
【0010】
本発明の実施形態によると、標的電極構成体の電極は、疑似ラプラシアンパターンに配置される。これは、高度に局在したEEG記録を可能にする。疑似ラプラシアン構成を通じて、筋肉活動または運動からの外部信号雑音および/またはアーチファクトは著しく低減され、神経学的疾患検出を改善する。
【0011】
本発明の実施形態によると、そのような電極チャネルは、疑似ラプラシアンパターンに配置される利用可能な電極チャネルの中から選択される。これは、疑似ラプラシアンパターンにおいて標的電極構成体のパターンとの選択した電極チャネルの近い一致を可能にする。疑似ラプラシアンパターンにおいて、選択した電極チャネルは、中心電極、および中心電極を囲む少なくとも2つの周囲電極を備える。
【0012】
本発明の実施形態によると、ステップd)は、
d1)二極または四重極電極チャネルを表す線形結合を計算することなど、選択した電極チャネルのサブセットのEEGデータの線形結合を計算するステップと、
d2)EEGデータの計算した線形結合を使用することによって神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するステップと、を含む。
【0013】
このやり方では、さらなる仮想電極チャネルが、そのような計算ステップによって生成され得る。これは、さらなるハードウェア電極チャネルを必要とすることなく、電極パターンの空間信号分解能の微調整を可能にする。
【0014】
本発明の実施形態によると、ちょうど5つの電極チャネルが、利用可能な電極チャネルの中から選択される。これは、標的電極構成体も5つの電極を有して、選択した電極チャネルの最適一致を可能にする。
【0015】
本発明の実施形態によると、コンピュータプログラムは、神経学的疾患検出アルゴリズムの少なくとも2つの訓練サイクルを含み、
e)第1の訓練サイクルにおいて、神経学的疾患検出アルゴリズムの一般訓練が、1人または複数の患者のEEGデータを使用して行われ、
f)第2の訓練サイクルにおいて、神経学的疾患検出アルゴリズムの患者固有の訓練が、神経学的疾患検出アルゴリズムが適用されるべき患者のEEGデータのみを使用して、および/または神経学的疾患検出アルゴリズムが適用されるべき患者と同様の神経学的疾患発病パターンを有する別の患者のEEGデータを使用して行われる。
【0016】
このやり方では、神経学的疾患検出アルゴリズムの訓練は、さらに最適化および加速され得る。
本発明の実施形態によると、コンピュータプログラムは、コンピュータプログラムを実行するコンピュータに入力されるEEGデータに割り当てられるデータタグを評価するように設計され、データタグは、利用可能な電極チャネルの中から電極チャネルのサブセットを選択するために使用される。データタグは、EEG信号の臨床測定中の患者頭部の電極チャネルの場所に関する情報を含み得る。
【0017】
本発明の別の実施形態は、植え込み型神経刺激デバイスをプログラムする方法であり、本方法は、
g)上述の種類の訓練コンピュータプログラムをコンピュータ上で実行するステップと、
h)コンピュータプログラムによって訓練される神経学的疾患検出アルゴリズムを植え込み型神経刺激デバイス内へプログラムするステップと、を含む。
【0018】
このやり方では、前に述べたものと同じ利点が達成され得る。加えて、訓練の目的で、植え込み型神経刺激デバイスのコンピュータとは異なるコンピュータが使用され得る。これは、訓練コンピュータプログラムを実行するためにより高性能のコンピュータを使用することを可能にし、これによりかなりの時間を節約する。
【0019】
本発明の実施形態によると、植え込み型神経刺激デバイスは、EEG信号を記録し、記録したEEG信号に基づいて刺激信号を計算し、刺激信号を出力するように設計される閉ループ神経刺激装置である。このやり方では、神経刺激療法は、最適化され、個々の患者のニーズに特に適合され得る。刺激信号は、標的電極構成体の電極を介して送信される。EEG信号を記録するため、標的電極構成体の同じ電極が使用され得る。EEG信号を記録すること、および刺激信号することのために異なる電極が、例えば、EEG信号記録のために特に最適化される電極および信号出力のために特に最適化される電極が、使用されることも可能である。
【0020】
本発明の実施形態によると、標的電極構成体の電極は、疑似ラプラシアン構成に配置される。これは、電極が神経刺激のために使用されるとき最適刺激成功を可能にする。疑似ラプラシアンパターンを通じて、平面である電極パターンを有するとしても、深い刺激が患者に提供され得る。例えば、電極は、少なくとも2つの刺激電極によって囲まれる中心電極を備え得る。中心電極を囲むより多くの数の刺激電極、例えば、4つの刺激電極が存在することも可能である。
【0021】
本発明の実施形態によると、ステップg)において、コンピュータプログラムは、植え込み型神経刺激デバイスの一部ではない外部コンピュータ上で実行される。
本発明の別の実施形態は、上述の種類の訓練コンピュータプログラムによって訓練された、および/または訓練されているEEGデータから神経学的疾患を検出するための神経学的疾患検出アルゴリズムまたは分類器の形態にあるコンピュータプログラムである。コンピュータプログラムは、マイクロコントローラ上、またはデジタル信号プロセッサ(DSP)上、またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)上、または特定用途向け集積回路(ASIC)上への実装のために構成され得る。本発明の実施形態によると、コンピュータプログラムは、最低電力消費のために最適化される。本発明の別の実施形態によると、コンピュータプログラムは、最高性能のために最適化される。本発明の別の実施形態によると、コンピュータプログラムは、規定の性能制約の下で最低電力消費のために最適化される。本発明の別の実施形態によると、コンピュータプログラムは、規定の電力制約の下で最高性能のために最適化される。
【0022】
本発明の実施形態によると、神経学的疾患を検出するための神経学的疾患検出アルゴリズムまたは分類器は、人工知能アルゴリズム、例えば、ランダムフォレスト、サポートベクタマシン、多層パーセプトロン、畳み込みニューラルネットワーク、例えば、長短期メモリネットワーク、またはアテンションベースのネットワークである。これは、実際の患者において発生する典型的な神経学的疾患発病パターンへの神経学的疾患検出アルゴリズムの容易かつ最適な適合を可能にする。
【0023】
コンピュータは、クラウド(サーバタイプのコンピュータ)内に位置し得るか、PC、ラップトップ、ノートブック、タブレット、もしくはスマートフォンのような任意の市販のコンピュータ、またはマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、DSPもしくはFPGA、またはそのような要素の組み合わせであり得る。コンピュータプログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体に格納され得る。
【0024】
閉ループ制御に関して述べられる限り、閉ループ制御は、閉ループ制御が、フィードバック、または測定された値もしくは内部値のフィードバックを有し、そして閉ループ制御の生成された出力値が閉ループ制御回路のセンスにおいて影響を及ぼされるという点で、開ループ制御とは異なる。閉ループ制御システムにおいては、変数のみが、そのようなフィードバックまたはフィードバックなしに制御される。
【0025】
本発明のさらなる例示的な実施形態は、以下の図を使用して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】植え込み型神経刺激デバイスを有する患者を示す図である。
【
図2】植え込み型神経刺激デバイスの細部を示す図である。
【
図3】第1の手法を使用した自動電極選択の結果例を示す図である。
【
図4】第2の手法を使用した自動電極選択の結果例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、患者に植え込まれる神経刺激システムを示す。神経刺激システムは、導線12により標的電極構成体2と接続される植え込み型神経刺激デバイス1を備える。標的電極構成体2は、患者の頭蓋骨の外側、患者の頭皮の下に置かれ得る。
【0028】
図1は、外部コンピュータ13、および別の外部デバイスとして患者コントローラ11をさらに示す。コンピュータ13および患者コントローラ11の両方は、植え込み型神経刺激デバイス1とワイヤレスで通信し得る。例えば、コンピュータ13は、例えば、植え込み型神経刺激デバイス1をプログラムするために医師によって使用されるべき臨床システムとして使用され得る。患者コントローラ11は、植え込み型神経刺激デバイス1の状態を確認するため、または特定の刺激モードを活性化するために患者によって使用され得る。患者コントローラ11は、患者が入力する、または植え込み型神経刺激デバイス1から伝送される、てんかん発作事象または他の事象をログするためのレコーダとしても機能し得る。患者コントローラ11は、神経学的事象の場合に触覚および/または光および/または聴覚フィードバックを患者に提供するアラームシステムとしても機能し得る。コンピュータ13はまた、神経学的疾患検出アルゴリズムを訓練するための本発明の訓練コンピュータプログラムを実行するために使用され得る。コンピュータ13はまた、訓練された神経学的疾患検出アルゴリズムを植え込み型神経刺激デバイス1内へプログラムするために使用され得る。
【0029】
図2は、電気回路図と同様のブロック図の表現において、植え込み型神経刺激デバイス1ならびに標的刺激および/または記録電極構成体2のさらなる細部を示す。神経刺激デバイス1は、制御プロセッサ6、信号生成回路3、電荷バランス化回路4、保護回路5、センサ7、8、バッテリパック9、およびユーザ入力要素10を備える。神経刺激デバイス1は、ケーブル12を介して電極構成体2に接続される。見て分かるように、電極構成体2は、中心電極20、および中心電極20の周りに位置する4つの刺激電極21、22、23、24を備える。中心電極20は、共通接地電極であり得、これは、中心電極20が神経刺激デバイスそれぞれのその神経刺激デバイス1の共通接地に接続されることを意味する。
【0030】
制御プロセッサ6は、例えば、ハードウェア、ファームウェア、またはソフトウェアプログラムの形態にある、コンピュータプログラムの処理を介して制御ステップを実施し得る、マイクロコントローラ装置(MCU)または任意の他の装置であり得る。
【0031】
信号生成回路3は、制御プロセッサ6からのコマンドの際に、刺激パルスを作成して刺激電極21、22、23、24に送達することができる。信号生成回路3は、増幅器構成要素を備え得る。
【0032】
制御プロセッサ6は、センサ7、8を通じて神経信号および/または脳活動を検出し得る。検出された神経信号および/または脳活動は、処理され、刺激電極21、22、23、24のうちのいずれかへの刺激パルスの事象駆動送達のために使用され得る。
【0033】
バッテリパック9は、電源装置1の上述の要素に電気エネルギーを供給する。バッテリパック9は、充電式バッテリを備え得る。
制御プロセッサ6は、訓練した神経学的疾患検出アルゴリズムを実行するように設計される。神経学的疾患検出アルゴリズムの訓練は、以下に説明されるように、コンピュータ13上で行われる。
【0034】
そのようなシステムのための神経学的疾患検出アルゴリズムは、帽状腱膜下電極と同様に構成される記録について訓練されなければならない。新皮質てんかんを患う患者内の皮下および近接頭皮電極からのEEGデータの間に高い類似性が存在するため、本発明者らは、神経学的疾患検出アルゴリズムの訓練および評価のための植え込み型帽状腱膜下電極を表す電極構成から獲得される表面EEG記録を使用する。この手法は、デバイス植え込みの前に頭皮ベースの神経学的疾患記録を使用して、個人に合わせた検出器を予備訓練するために使用され得る。
【0035】
電極選択は、神経学的疾患の長期ビデオEEG監視の間、標的電極構成体2を表すように実施され得る。熟達したてんかん専門医は、てんかん発作開始電極の視覚探査、および電極間距離を検討することによって、てんかん発作発病領域(SOZ)を画定し得る。本発明者らの提案した方法は、
図1に示されるシステムの幾何学的寸法を検討することによって、電極選択を自動化し、帽状腱膜下記録電極の配置をシミュレートする最適電極選択を確実にする。次に、限られた空間カバレッジを伴う減少した数の電極を用いて良い成果を出すことができ、低い電力消費を有する神経学的疾患検出アルゴリズムが必要とされる。これは、神経学的疾患検出器が完全に植え込み可能な介入デバイス内へ統合されることを可能にする。オンラインまたはオフライン用途のいずれかのための神経学的疾患検出アルゴリズムの開発に関するいくつかの刊行物が存在する。しかしながら、閉ループ用途の限界を検討する研究の数は限られている。
【0036】
本発明者らのシステムにおいて、2つの自動電極選択方法の開発および実装の後、本発明者らは、局限性発病のてんかん発作の検出のために、低減された電極セットを用いて確実に実施することができるランダムフォレスト(RF)分類器、サポートベクタマシン(SVM)、多層パーセプトロン(MLP)、および畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使用した4つの高エネルギー効率の神経学的疾患検出アルゴリズムを設計および実装した。最後に、本発明者らは、植え込み型デバイスに対するそれらの適合性を評価するためにそれらの検出性能を比較した。
【0037】
訓練に使用されるEEGデータセットは、合計で358回てんかん発作を有する50人の患者の表面EEG記録を含んでいた。従来の10-20電極レイアウトに加えて10-10システムに従って位置付けられた電極によって網羅されるSOZを有する患者を選択した。EEGデータは、24ビットの分解能を有する256チャネルDC増幅器に250Hzサンプリングレートで記録した。電極は、中心に位置する電極へ再参照した。アンチエイリアス処理のため、100Hzの遮断周波数を有する低域フィルタを適用した。10人の患者からのEEGデータを、CNNのハイブリッドモデルを訓練するために使用した。したがって、データセット一貫性をすべての分類器にわたって保つため、合計で286回のてんかん発作を有する残りの40人の患者を、分類器を評価するために使用した。
【0038】
データ品質を改善し、アーチファクトで汚染されたデータを除去するため、0.1Hzおよび48Hzの低い遮断周波数および高い遮断周波数を有するChebyshev II帯域パス(次数:10、帯域阻止=40dB)によってデータをフィルタリングした。次に、アーチファクトを表す非常に高い振幅を分析から除去した。
【0039】
電極選択は、
図1に示される植え込み型システムの設計にマッピングするしきい値を下回る電極間距離にある、てんかん発作発病領域を網羅する最大数の電極を有する電極セットを獲得するように実施した。この目的のため、てんかん発作ごとに、電極のリスト-SOZ(複数可)を網羅すると見なされる-が熟達したてんかん専門医によって決定された。以後、このリストに基づいて、すべてのてんかん発作発病電極を含む最小電極セットを決定した。この電極セットのサイズが植え込み電極の数(n=5)よりも小さい場合、てんかん発作発病に最も頻繁に関与した残りのてんかん発作発病電極からの電極を、この電極セットに追加した。このプロセスで、すべてのてんかん発作を捕捉する可能性の最も高い5つの電極のリストを、患者ごとに設定した。
方法1
この方法では、まず、5つの選択された電極座標の平均を計算し、この位置に最も近い頭皮電極を見出した。この電極を中心電極と見なした。しきい値距離よりも大きい中心電極からの距離を有する選択された5つの電極のいずれかをリストから除外した。
図3に描写されるように、これは、選択された中心電極において中心を有するしきい値半径の球を描写し、他の選択された電極がこの球の内側にあるかどうかを確認することで視覚化され得る。ここでは、リストに残った電極は、中心電極および近傍のてんかん発作発病電極を含んでいた。中心電極から最小距離を有する残りの電極は、5つの電極のリストからの除去電極に取って代わった。
方法2
この方法では、各ステップにおいて、1つの電極を中心電極として選択し、方法1と同様に、中心電極からの距離がしきい値距離よりも小さい初期SOZ電極からの電極の数を数えた。このプロセスを頭皮にわたってすべてのEEG電極位置について繰り返し、各電極で囲まれた選択された初期SOZ電極のリストを生成した。最大数の初期SOZ電極を含む電極を、最適中心電極として選択した。必要な場合、てんかん発作検出のためのちょうど5つの電極を得るために、中心電極からの最小距離を有する電極をリストに追加した。
【0040】
時間および周波数領域におけるいくつかの特徴をてんかん発作検出のために選択した。時間領域特徴は、平均、最大、平均絶対偏差、分散、歪度、尖度、線長、自己相関、およびエントロピーであった。周波数領域特徴は、パワースペクトルの平均、最大、および分散、シータ帯域(4~8Hz)、ベータ帯域(13~30Hz)、およびガンマ帯域(30~45Hz)内のパワー、ならびにてんかん原性指数を含んでいた。これらの特徴は、ランダムフォレスト、SVM、およびMLP分類器による分類のために使用した。SVMおよびMLPの場合、計算した特徴の範囲がそれらの重みならびに後続の決定境界に影響を及ぼすため、特徴を分類のためにスケーリングした。
1)ランダムフォレスト
二分決定木の数は、100に設定した。本発明者らは、分岐指数として不純物測定のためのエントロピーを選択した。4つの特徴を各ノードにおいてランダムに選択した。木のサイズを制限したままにするため、木の最大深度を10に制限した。決定木を構築する間ブートストラップサンプルを使用した。各クラスのためのサンプル重みを、入力データ内のクラス周波数に反比例して調節した。交差検証のために“Leave-one-out”法を使用した。
2)サポートベクタマシン(SVM)
本発明者らは、特徴とクラスラベルとの非線形性を取り扱うためにカーネル関数としてガウス放射基底関数(RBF)を選択した。この目的のために2つのハイパーパラメータを設定する必要があった。ガウス関数のカーネル係数は、0.01に設定し、SVMのための正則化パラメータとして挙動する誤差項のペナルティパラメータは、0.1に設定した。各クラスのためのサンプル重みは、それらが入力データ内のクラス周波数に反比例するように調節した。交差検証のために“Leave-one-out”法を使用した。
3)多層パーセプトロン(MLP)
MLPネットワークは、入力層、1つまたは複数の隠れ層、および出力層という少なくとも3層のノードからなる。本発明者らは、20ニューロンを有する1つの隠れ層からなるMLP分類器を実装した。本発明者らは、重み最適化のためのソルバとして“Adam”を選択した。ロジスティックシグモイド関数が活性化関数として選択され、適応学習レートは、重み更新についてスケジューリングするように選択された。L2ペナルティ(正則化項)パラメータは、10-4に設定した。交差検定のために“Leave-one-out”法を使用した。
4)畳み込みニューラルネットワーク(CNN)
CNNは、入力層、複数の隠れ層、および出力層からなる。隠れ層は、畳み込み層、プーリング層、および全結合層からなる。本発明者らの提案したCNNのアーキテクチャは、表Iに示される。第1の層において、空間-時間パターンを効率的に学習することができるように、本発明者らは、すべてのチャネルおよび検出時間窓(2秒=500データ点)に及ぶカーネルサイズを使用した。すべての隠れ層において、本発明者らは、畳み込みの後にバッチ正規化を使用し、Rectified Linear Units(ReLu)を活性化関数として使用した。過剰適合を低減するために、訓練の間ドロップアウト正則化を適用した。2つの最後の層において、本発明者らは、2つの全結合層を使用した。
【0041】
以下の表は、本発明者らの提案したCNNの好ましいアーキテクチャを示す。
【0042】
【0043】
訓練では、各患者のための利用可能なデータが限られていたため、本発明者らは、モデル内の底層を凍結し、上層のみを訓練することからなる転移学習法を使用した。したがって、本発明者らは、10人の患者からのデータに対してネットワークを予備訓練し、その後、残りの40人の患者の各々について、最後の畳み込み層および2つの全結合層を、患者固有のデータを使用して微調整した。クラスが不均衡であるため、クラスインデックスは、訓練中、損失関数の重み付けの均衡を保つように重み付けされた。各モデルを500エポックのために512のバッチサイズで訓練した。重み最適化のため、本発明者らは、10-3の学習レートでAdamソルバを使用した。本発明者らは、損失関数として二値交差エントロピーを使用した。評価のため、本発明者らは、3-fold交差検証を使用した。
【国際調査報告】