(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(54)【発明の名称】方法及び細胞構造体
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20231122BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20231122BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231122BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20231122BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N15/09 110
C12N15/63 Z ZNA
C12N7/01
C12N5/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530985
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 AU2021051402
(87)【国際公開番号】W WO2022109667
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594202523
【氏名又は名称】モナシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ポロ,ジョセ
(72)【発明者】
【氏名】リュ-,シャオドン
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジアピン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA24
4B065BB19
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、再プログラム化された体細胞の細胞集団から多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を作製するための方法及び組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を作製する方法であって、
a)胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する再プログラム化された体細胞の細胞集団を入手すること;及び
b)凝集又は自己組織化を可能にする条件下において、前記再プログラム化された体細胞を培養して、多層三次元細胞構造体又は胚盤胞様構造体を入手すること
を含み、それにより多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を作製する方法。
【請求項2】
胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する再プログラム化された体細胞の細胞集団を入手することは、
- 体細胞の集団中における1つ以上の因子のタンパク質発現又は量を増加させることであって、前記因子は、前記体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化するためのものである、増加させること;及び
- 多能性状態に向けた前記細胞の前記再プログラム化を可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において前記細胞を培養すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
胚盤胞様構造体を作製する方法であって、
a)体細胞の集団中における1つ以上の因子のタンパク質発現又は量を増加させるステップであって、前記因子は、前記体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化するためのものである、ステップ;
b)脱分化状態又は多能性状態に向けた前記細胞の前記再プログラム化を可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において前記細胞を培養するステップ;
c)凝集を可能にする条件下において、前記細胞を、WNT経路シグナル伝達の活性化薬(好ましくはGSK-3阻害薬)、少なくとも1つのTGF-β阻害薬、HDAC阻害薬、EGF及びBMP4を含む培養培地と接触させるステップ;
d)凝集を可能にし、且つ/又は前記細胞が、本明細書に記載されるとおりの胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを可能にする十分な時間にわたって且つそのような条件下において、前記細胞を前記培養培地で培養するステップ
を順番に含み、それにより胚盤胞様構造体を作製する方法。
【請求項4】
ステップc)の前記培養培地は、少なくとも2つのTGF-β阻害薬を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)の前記培養培地は、Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を更に含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、その後、前記ROCK阻害薬のない前記培養培地と接触される前に、前記細胞は、前記ROCK阻害薬を含む前記培養培地と約24時間の期間にわたって接触される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化するための前記因子は、転写因子である、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記転写因子は、OCT4、SOX2、KLF4及びMYCの1つ以上又はその変異体を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記転写因子は、前記因子OCT4、SOX2、KLF4及びMYC(OSKM)の4つ全て又はその変異体を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記転写因子は、因子SOX2、KLF4及びOCT4(SKO)の4つ全て又はその変異体を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記転写因子は、OCT4、SOX2、KLF4及びGLIS1の1つ以上又はその変異体を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記転写因子は、前記因子OCT4、SOX2、KLF4及びGLIS1(OSKG)の4つ全てを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記転写因子は、OCT4、SOX2、NANOG及びLIN28(OSNL)の1つ以上を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記転写因子は、前記因子OCT4、SOX2、NANOG及びLIN28(OSNL)の4つ全てを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記転写因子は、因子OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG及びLIN28(OKSMNL)の6つ全てを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記体細胞を多能性状態に向けて再プログラム化するための前記因子のタンパク質発現又は量は、前記体細胞を、前記因子の発現を増加させる薬剤と接触させることによって増加される、請求項2~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤は、ヌクレオチド配列、タンパク質、アプタマー及び小分子、リボソーム、RNAi剤及びペプチド核酸(PNA)並びにその類似体又は変異体からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記体細胞を多能性状態に向けて再プログラム化するための前記因子のタンパク質発現又は量は、前記体細胞を多能性状態に向けて再プログラム化するための少なくとも1つの因子をコードするか、又はその機能断片をコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸を前記細胞に導入することによって増加される、請求項2~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸は、RNA、好ましくはmRNAである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記核酸配列は、プラスミド、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターによって細胞に導入される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記プラスミド又はベクターは、エピソームプラスミド又はベクターである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記因子のタンパク質発現又は量は、前記転写因子をコードする1つ以上のベクターを前記体細胞に形質導入又はトランスフェクトすることによって前記体細胞において増加される、請求項2~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ベクターは、組込み型又は非組込み型ウイルスベクターを含むウイルスベクターである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記体細胞は、本明細書に定義されるとおりの再プログラム化中間体である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞は、ステップb)の前記条件下で少なくとも1日間、若しくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21日間、若しくは少なくとも22、少なくとも24、少なくとも28日間又はそれを超える日数にわたって培養される、請求項2~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記体細胞に特徴的なマーカーは、凝集を可能にする条件下において、前記再プログラム化された体細胞を培養して、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を入手する前記ステップ前又はステップc)において前記細胞を培養培地と接触させる前記ステップ前に減少される、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記EPI、TE及びPE系統転写シグネチャの上方制御を誘導する培地で前記細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて培養することを含む、請求項2~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記培地は、線維芽細胞培地、例えば表3a又は表3bにおけるものを含む、本明細書に定義される線維芽細胞培地である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞は、ステップc)の前記培養培地で少なくとも約1、少なくとも約2、少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約8、少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約20、少なくとも約24日間又はそれを超える期間にわたって培養される、請求項2~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記凝集を可能にする条件は、細胞の三次元凝集を可能にする任意の培養プレート、培養ベッセル又は培養システムで培養することを含み得る、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞は、前記培養プレート、培養ベッセル又は培養システムにおいて、1ウェル当たり0.5~2×10
5若しくは約0.5~2×10
5細胞、1ウェル当たり0.6~2×10
5若しくは約0.6~2×10
5細胞、1ウェル当たり0.8~2×10
5若しくは約0.8~2×10
5細胞、1ウェル当たり1~2×10
5若しくは約1~2×10
5細胞、1ウェル当たり0.6×10
5若しくは約0.6×10
5細胞、1ウェル当たり0.8×10
5若しくは約0.8×105細胞、1ウェル当たり1×10
5若しくは約1×10
5細胞、1ウェル当たり1.2×10
5若しくは約1.2×10
5細胞、1ウェル当たり1.4×10
5若しくは約1.4×10
5細胞、1ウェル当たり1.6×10
5若しくは約1.6×10
5細胞、1ウェル当たり1.8×10
5若しくは約1.8×10
5細胞又は1ウェル当たり2×10
5若しくは約2×10
5細胞の密度で播種される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記体細胞は、疾患又は病態、例えば異数性、単一遺伝子疾患、嚢胞性線維症、胞状奇胎又はコルネリアデランゲ症候群の1つ以上の検出可能な特徴を任意選択で示す疾患遺伝子型を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記体細胞は、線維芽細胞、好ましくは皮膚線維芽細胞、最も好ましくはヒト線維芽細胞である、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記体細胞は、末梢血単核球(PBMC)、好ましくはヒトPBMCである、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記体細胞は、間葉系幹細胞(MSC)、好ましくはヒトMSCである、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、内細胞層と外細胞層とを含み、前記内細胞層は、胚盤葉上層(EPI)及び/又は原始内胚葉(PE)系統の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含み、及び前記外細胞層は、栄養外胚葉(TE)の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含む、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記内細胞層は、PEの1つ以上の特徴を呈する細胞塊を更に含み、好ましくは、PEの1つ以上の特徴を呈する前記細胞は、胚盤葉上層の細胞の1つ以上の特徴を呈する前記細胞の周囲にあるか又は主にその周囲にある、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
EPI細胞の前記特徴は、マーカーNANOG、OCT4(別名POU5F1)又はSOX2のいずれか1つ以上の存在である、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
EPI細胞の前記特徴は、円柱状外観の形態である、請求項36~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
TE細胞の前記特徴は、マーカーCDX2及びGATA2の1つ以上の存在並びに/又は扁平な若しくは細長い上皮形態である、請求項36~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
PE細胞の前記特徴は、マーカーSOX17又はGATA6の存在である、請求項36~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体のより多くの細胞は、NANOGを発現するよりもOCT4を発現する、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、OCT4陽性細胞に隣接するGATA6陽性細胞(任意選択でCDX2低染色又は弱染色を伴う)を更に含む、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、E5~7、好ましくはE6~7のヒト胚盤胞の主要な形態学的特徴を呈する、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、胚盤葉上層、原始内胚葉及び栄養外胚葉細胞の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含み、前記細胞は、E5~7、好ましくはE6~7のヒト胚盤胞におけるそれぞれ胚盤葉上層、原始内胚葉及び栄養外胚葉細胞と同じ又は類似した相対的空間配置をとる、請求項1~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、無細胞の空洞又は胞胚腔様の空洞を含む、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、受精後胚齢5~7日目(E5~7)のヒト胚盤胞の既発表の測定値と同等のサイズのx軸及びy軸直径、x:yアスペクト比並びに/又は投影面積を有する、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体が、本明細書に定義されるとおりのIVC1培地で1日間培養され、且つ続いて、本明細書に定義されるとおりのIVC2培地で2日目から4.5日目まで培養されるとき、前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、
a)サイズの増加、扁平化及び増殖体の形成に至るまでの進行;
b)NANOG及びOCT4/SOX2陽性細胞数の増加;
c)CDX2及び/又はGATA2陽性細胞の広がり;
d)前記NANOG又はOCT4陽性細胞の周囲にSOX17及びGATA6陽性細胞が局在すること;
e)前記外細胞層又はTE細胞の少なくとも1つの特徴を呈する細胞におけるケラチンKRT7又は他の栄養膜細胞マーカーの発現;
f)合胞体栄養膜細胞(ST)及び絨毛外栄養膜細胞(EVT)に形態学的に似た細胞(例えば、それぞれST及びEVT様細胞)の存在、例えば多核性表現型及び紡錘様形態;
g)hCG(例示的STマーカー)及びMMP2(例示的EVTマーカー)を発現する細胞の存在;及び
h)STマーカーCSH1及びEVTマーカーITGA1の上方制御を呈する細胞の存在
の1つ以上を呈する、請求項1~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を作製する方法であって、
iPSC及びiTSC細胞を、前記細胞の集合及び凝集を可能にする条件下で培養して、多層細胞構造体を入手すること
を含み、それにより多層細胞又は胚盤胞様構造体を作製する方法。
【請求項50】
前記iPSC及びiTSCは、ヒト細胞から、好ましくはヒト体細胞の再プログラム化によって得られる、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記細胞の集合及び凝集を可能にする前記条件は、前記細胞の自己組織化及び集合を促進する任意の培養ベッセルにおいて前記iPSC及びiTSCを共培養することを含む、請求項49又は50に記載の方法。
【請求項52】
前記細胞は、細胞が胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを促進するための任意の培養培地で培養される、請求項49~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記培養培地は、本明細書の表3aに示されるとおりのiBlastoid培地である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記iPSC及びiTSCは、同じウェル内において、それぞれ1:2.5の比で、1ウェル当たり1.2×10
5個の総細胞数又は1マイクロウェル当たり約10~200個の細胞として共培養される、請求項49~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体であって、好ましくは、請求項1~54のいずれか一項に記載の方法によって入手されるか又は入手可能である多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項56】
インビトロ由来の又はインビトロで作成された多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体であって、内細胞層と外細胞層とを含み、前記内細胞層は、ヒト胚盤葉上層(EPI)及び/又はヒト原始内胚葉(PE)系統の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含み、及び前記外細胞層は、ヒト栄養外胚葉(TE)の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含む、インビトロ由来の又はインビトロで作成された多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項57】
透明帯を有しない、請求項56に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項58】
前記内細胞層は、PEの1つ以上の特徴を呈する細胞塊を更に含み、好ましくは、PEの1つ以上の特徴を呈する前記細胞は、胚盤葉上層の細胞の1つ以上の特徴を呈する前記細胞の周囲にあるか又は主にその周囲にある、請求項56又は57に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項59】
EPI細胞の前記特徴は、マーカーNANOG、OCT4(別名POU5F1)又はSOX2のいずれか1つ以上の存在である、請求項56~58のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項60】
EPI細胞の前記特徴は、円柱状外観の形態である、請求項56~59のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項61】
TE細胞の前記特徴は、マーカーCDX2及びGATA2の1つ以上の存在並びに/又は扁平な若しくは細長い上皮形態である、請求項56~60のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項62】
PE細胞の前記特徴は、マーカーSOX17又はGATA6の存在である、請求項56~61のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項63】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体のより多くの細胞は、NANOGを発現するよりもOCT4を発現する、請求項56~62のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項64】
OCT4陽性細胞に隣接するGATA6陽性細胞(任意選択でCDX2低染色又は弱染色を伴う)を更に含む、請求項56~63のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項65】
E5~7、好ましくはE6~7のヒト胚盤胞の主要な形態学的特徴を呈する、請求項56~64のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項66】
胚盤葉上層、原始内胚葉及び栄養外胚葉細胞の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含み、前記細胞は、E5~7、好ましくはE6~7のヒト胚盤胞におけるそれぞれ胚盤葉上層、原始内胚葉及び栄養外胚葉細胞と同じ又は類似した相対的空間配置をとる、請求項56~65のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項67】
無細胞の空洞又は胞胚腔様の空洞を含む、請求項56~66のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項68】
受精後胚齢5~7日目(E5~7)のヒト胚盤胞の既発表の測定値と同等のサイズのx軸及びy軸直径、x:yアスペクト比並びに/又は投影面積を有する、請求項56~67のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項69】
前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体が、本明細書に定義されるとおりのIVC1培地で1日間培養され、且つ続いて、本明細書に定義されるとおりのIVC2培地で2日目から4.5日目まで培養されるとき、
a)サイズの増加、扁平化及び増殖体の形成に至るまでの進行;
b)NANOG及びOCT4/SOX2陽性細胞数の増加;
c)CDX2及び/又はGATA2陽性細胞の広がり;
d)前記NANOG又はOCT4陽性細胞の周囲にSOX17及びGATA6陽性細胞が局在すること;
e)前記外細胞層又はTE細胞の少なくとも1つの特徴を呈する細胞におけるケラチンKRT7又は他の栄養膜細胞マーカーの発現;
f)合胞体栄養膜細胞(ST)及び絨毛外栄養膜細胞(EVT)に形態学的に似た細胞(例えば、それぞれST及びEVT様細胞)の存在、例えば多核性表現型及び紡錘様形態;
g)hCG(例示的STマーカー)及びMMP2(例示的EVTマーカー)を発現する細胞の存在;及び
h)STマーカーCSH1及びEVTマーカーITGA1の上方制御を呈する細胞の存在
の1つ以上を呈する、請求項56~68のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体。
【請求項70】
請求項1~54のいずれか一項に記載の方法に従って作製される多細胞構造体又は胚盤胞様構造体に由来するか、それから単離されるか又はそれから入手される細胞。
【請求項71】
請求項56~69のいずれか一項に記載の多細胞構造体又は胚盤胞様構造体に由来するか、それから単離されるか又はそれから入手される細胞。
【請求項72】
請求項1~54のいずれか一項に記載の方法に従って作製される多細胞構造体又は胚盤胞様構造体に由来するか、それから単離されるか又はそれから入手される細胞の集団。
【請求項73】
請求項56~69のいずれか一項に記載の多細胞構造体又は胚盤胞様構造体に由来するか、それから単離されるか又はそれから入手される細胞の集団。
【請求項74】
EPI系統の1つ以上の特徴を呈する細胞である、請求項70又は71に記載の細胞。
【請求項75】
PE系統の1つ以上の特徴を呈する細胞である、請求項70又は71に記載の細胞。
【請求項76】
TE系統の1つ以上の特徴を呈する細胞である、請求項70又は71に記載の細胞。
【請求項77】
請求項55~69のいずれか一項に記載の多層細胞構造体若しくは胚盤胞様構造体又は請求項70~76のいずれか一項に記載の細胞若しくは細胞の集団に由来するか又はそれから入手されるオルガノイド。
【請求項78】
細胞、好ましくは再プログラム化中間体細胞が胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを促進するための培養培地であって、
- WNT経路シグナル伝達の活性化薬(好ましくはGSK-3阻害薬);
- 少なくとも1つ、好ましくは2つのTGF-β阻害薬、
- HDAC阻害薬、
- EGF、及び
- BMP4
を含む培養培地。
【請求項79】
- ITS-X;
- L-グルタミン;
- N-アセチル-L-システイン;
- β-エストラジオール;
- プロゲステロン;
- 2-メルカプトエタノール;
- L-アスコルビン酸;
- トランスフェリン(例えば、ヒト)、
- インスリン(例えば、ヒト)、
- N2サプリメント;及び
- B27サプリメント
を更に含む、請求項78に記載の培養培地。
【請求項80】
前記プロゲステロン、トランスフェリン及びインスリンは、本明細書に記載されるとおりの、プトレシン及び亜セレン酸塩を更に含むN2サプリメントで提供される、請求項79に記載の培養培地。
【請求項81】
前記B27サプリメントは、ビオチン、DLα酢酸トコフェロール、DLαトコフェロール、ビタミンA(酢酸塩)、BSA、カタラーゼ、インスリン(ヒト)、スーパーオキシドジスムターゼ、コルチコステロン、D-ガラクトース、エタノールアミンHCL、グルタチオン、L-カルニチンHCL、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン2HCl、亜セレン酸ナトリウム、T3(トリヨード-l-チロニン)を含む、請求項79に記載の培養培地。
【請求項82】
抗生物質、例えばペニシリン-ストレプトマイシンを更に含む、請求項78~81のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項83】
- それぞれ2:1:1の比の、本明細書に定義されるとおりのIVC1培地、N2B27基本培地及びTSC基本培地、
- WNT経路の活性化薬(任意選択でGSK-3阻害薬)、
- 少なくとも1つ、好ましくは2つのTGF-β阻害薬、
- HDAC阻害薬、
- EGF、及び
- BMP4
を含む、請求項78~82のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項84】
前記TGF-β経路阻害薬は、SB431542及びA83-01から選択され、前記ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)1阻害薬は、VPA(バルプロ酸)であり、前記GSK-3阻害薬は、CHIR99021である、請求項78~83のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項85】
前記GSK-3阻害薬は、2μM又は約2μMの濃度であり、前記TGF-β経路阻害薬は、0.5μM若しくは1μM又は約0.5μM若しくは1μMの濃度であり、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)1阻害薬は、0.8mM又は約0.8mMの濃度であり、EGFは、50ng/ml又は約50ng/mlの濃度であり、及びBMP4は、10ng/ml又は約10ng/mlの濃度である、請求項78~83のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項86】
ROCK阻害薬を更に含み、好ましくは、前記ROCK阻害薬は、Y-27632であり、より好ましくは、前記ROCK阻害薬は、10μM又は約10μMの濃度である、請求項78~85のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項87】
胚盤胞の発生及び/又は活性を調節する能力を有する薬剤を同定する方法であって、
- 請求項1~54のいずれか一項に記載の方法に従って作り出された多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を候補薬剤と接触させること;
- 前記薬剤との前記接触後の前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性を、前記薬剤なしでの多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性と比較すること
を含み、前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の前記発生及び/又は活性に対する前記薬剤の効果が、前記薬剤なしでの前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の前記発生に対して所定のレベルだけ上回ることは、前記薬剤が栄養膜細胞の発生及び/又は活性を調節することを示す、方法。
【請求項88】
胚盤胞の発生及び/又は活性を調節する能力を有する薬剤を同定する方法であって、
- 56~69に従う多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を候補薬剤と接触させること;
- 前記薬剤との前記接触後の前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性を、前記薬剤なしでの多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性と比較すること
を含み、前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の前記発生及び/又は活性に対する前記薬剤の効果が、前記薬剤なしでの前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の前記発生に対して所定のレベルだけ上回ることは、前記薬剤が栄養膜細胞の発生及び/又は活性を調節することを示す、方法。
【請求項89】
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体によって作製される化合物又は粒子を入手する方法であって、請求項1~54のいずれか一項に記載の方法に従って多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を培養することと、前記細胞によって分泌される化合物又は粒子を前記培養培地から単離することとを含み、それにより前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体によって作製される前記化合物を入手する方法。
【請求項90】
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体によって作製される化合物又は粒子を入手する方法であって、請求項56~69のいずれか一項に記載の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を培養することと、前記細胞によって分泌される化合物又は粒子を前記培養培地から単離することとを含み、それにより前記多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体によって作製される前記化合物を入手する方法。
【請求項91】
前記化合物は、ホルモン若しくは成長因子であり、及び/又は前記粒子は、エキソソームなどの細胞外小胞である、請求項89又は90に記載の方法。
【請求項92】
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を作製するためのキットであって、体細胞、再プログラム化因子及び請求項78~86のいずれか一項に記載の培養培地を含み、任意選択で、本明細書に開示されるとおりの方法に従って体細胞を多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体に再プログラム化するための説明書を含むキット。
【請求項93】
請求項1~54のいずれか一項に記載の方法で使用されるときの、請求項92に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト胚盤胞様構造体を作成するための方法及び組成物に関する。
【0002】
関連出願
本願は、オーストラリア仮特許出願オーストラリア特許出願公開第2020904338号明細書、同第2021900685号明細書、同第2021902865号明細書及び同第2021903427号明細書からの優先権を主張するものであり、これらの全ての内容全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
哺乳類胚発生は、全能性の接合子から始まり、これは、桑実胚に発生し、続いて胚盤胞を形成する能力を有する。胚着床に伴い、胚盤胞内にある胚盤葉上層(EPI)系統の細胞が胚体及び羊膜に発生する一方、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)の細胞は、最終的にそれぞれ胎盤及び卵黄嚢を生じる。
【0004】
胚盤葉上層の細胞を単離してインビトロで培養すると、ヒト胚性幹細胞(hESC)が生じる。代わりに、転写因子の媒介による再プログラム化により、成熟細胞をヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に再プログラム化することができる。このような多能性インビトロ培養細胞は、身体のあらゆる細胞型に分化することができ、そのため、これは、ヒト「ミニ臓器」又はオルガノイドモデルの開発の中枢を担ってきた。更に、hESC/hiPSCを使用して、マイクロパターニングした胚盤様構造体、胚包様構造体及びヒトガストルロイドを含め、初期ヒト発生の研究のために幾つものインビトロモデルが開発されている。この技術的及び医学的革命は、疾患のモデル化、薬物スクリーニング並びに幾つかの疾患、胚及び臓器発生の分子機構に関する本発明者らの理解にとって非常に重要となっている。
【0005】
しかしながら、個体の将来全般にとって、胚盤胞発生の初期相における複雑な時空間/細胞及び分子の変化が重要であるにも関わらず、ヒト胚盤胞のEPI/TE/PE統合インビトロモデルは、報告されていない。現在までのところ、ヒト発生の決定的に重要な最初の数日を研究する唯一の方法は、体外受精(IVF)後に調査研究への同意が得られたドナー胚盤胞を使用して行うものである。IVFの目的がほとんどの場合に生殖目的で胚を作成することであり、調査研究に使用されるのは、余剰の(潜在的に低品質の)胚に限られるため、これは、非常に多くの課題をもたらす。このため、世界各国の異なる無数の倫理的、法的及び政策上の制約も相まって、ヒト胚盤胞での作業を許可される研究室の数、従って初期ヒト胚発生に関する理解も極めて限られることになる。
【0006】
ここ数年で、異なるグループが、ブラストイドと呼ばれるインビトロマウス胚盤胞モデルの作成に成功している。これらのマウスブラストイドは、2つの異なる手法:(1)マウス胚性幹細胞(ESC)と栄養膜幹細胞(TSC);ESC、TSC及び胚体外内胚葉(XEN)幹細胞;増量した(又は増大させた)多能性幹細胞(EPSC)とTSCを含め、異なる胚盤胞様細胞を一緒に集合させることによる手法、又は(2)EPSCを胚盤胞様構造体に分化させることによる手法を用いて作成されている。
【0007】
しかしながら、恐らくヒト胚盤胞の幹細胞型を誘導して培養下に維持するという課題に起因して、ヒトブラストイドの作成についての報告はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、ヒトブラストイド又はヒト胚盤胞をモデル化するヒト細胞の構造体を作製することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書中のいずれの先行技術に関する参照も、その先行技術が何らかの法的権限内で技術常識の一部を成すこと又はその先行技術が当業者によって理解され、関連性があると見なされ、且つ/若しくは先行技術の他の一部と組み合わされると合理的に期待し得ることを認めるか又は示唆するものではない。
【0010】
一態様において、本発明は、多層細胞構造体を作製する方法であって、
a)胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する再プログラム化された体細胞の細胞集団を入手すること;及び
b)凝集を可能にする条件下において、再プログラム化された体細胞を培養して、多層細胞構造体を入手すること
を含み、それにより多層細胞構造体を作製する方法を提供する。
【0011】
一態様において、本発明は、胚盤胞様構造体を作製する方法であって、
a)胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する再プログラム化された体細胞の細胞集団を入手すること;及び
b)再プログラム化された体細胞を、凝集を可能にする条件下で培養して胚盤胞様構造体を入手すること
を含み、それにより胚盤胞様構造体を作製する方法を提供する。
【0012】
任意の態様において、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する再プログラム化された体細胞の細胞集団を入手することは、
- 体細胞の集団中における1つ以上の因子のタンパク質発現又は量を増加させることであって、因子は、体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化するためのものである、増加させること;及び
- 脱分化状態又は多能性状態に向けた細胞の再プログラム化を可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において細胞を培養すること
を含む。
【0013】
任意の態様において、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)系統の転写シグネチャを呈する細胞の集団は、好ましくは、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)系統の各々の転写シグネチャを呈する。
【0014】
任意の態様において、EPI、TE又はPE系統の転写シグネチャを呈する細胞の集団は、本明細書の表1に掲載されるマーカーの少なくとも1つを発現する細胞の集団を含む。より好ましくは、EPI系統の転写シグネチャは、本明細書の表1に掲載されるとおりのEPI系統のマーカーの少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70個若しくはそれを超えるもの又は全ての発現を含む。より好ましくは、TE系統の転写シグネチャは、本明細書の表1に掲載されるとおりのTE系統のマーカーの少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70個若しくはそれを超えるもの又は全ての発現を含む。より好ましくは、PE系統の転写シグネチャは、本明細書の表1に掲載されるとおりのPE系統のマーカーの少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70個若しくはそれを超えるもの又は全ての発現を含む。
【0015】
一態様において、本発明は、胚盤胞様構造体を作製する方法であって、
a)体細胞の集団中における1つ以上の因子のタンパク質発現又は量を増加させることであって、因子は、体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化するためのものである、ステップ;
b)細胞の脱分化した多能性状態に向けた再プログラム化を可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において細胞を培養して、EPI、TE及びPE系統の1つ以上の特徴を呈する細胞の集団を入手するステップ;
c)凝集を可能にする条件下において、細胞を、WNT経路シグナル伝達を活性化させる薬剤(任意選択でGSK-3阻害薬)、少なくとも1つ、好ましくは2つのTGF-β阻害薬、HDAC阻害薬、EGF及びBMP4を含む培養培地と接触させるステップ;
d)細胞が、本明細書に記載されるとおりの胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において細胞を培養培地で培養するステップ
を順番に含み、それにより胚盤胞様構造体を作製する方法を提供する。
【0016】
好ましくは、ステップc)の培養培地は、Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を更に含む。好ましくは、細胞が、その後、ROCK阻害薬のない培養培地と接触される前に、細胞は、ROCK阻害薬を含む培養培地と少なくとも約6時間、少なくとも約12時間又は少なくとも約24時間の期間にわたって接触される。
【0017】
本発明の方法によれば、体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化する任意の方法を使用し得ることが理解されるであろう。このように、本発明は、関連性のある因子のタンパク質発現若しくは量を増加させる特定の方法又は体細胞が可塑性若しくは多能性に向けた再プログラム化を開始することを可能にする培養条件に限定されない。かかる方法は、当技術分野において公知であり、本明細書に更に記載される。
【0018】
好ましい実施形態において、体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化するための因子は、転写因子である。転写因子は、因子:OCT4、SOX2、KLF4及びMYC(OSKM);SOX2、KLF4及びOCT4(SKO);OCT4、SOX2、KLF4及びGLIS1(OSKG);OCT4、SOX2、NANOG及びLIN28(OSNL);又はOCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG及びLIN28(OKSMNL)の1つ以上を含み得るか、又はそれからなり得るか若しくは本質的になり得る。特に好ましい実施形態において、転写因子は、因子OCT4、SOX2、KLF4及びMYC(OSKM)の4つ全て又はその変異体を含む。別の実施形態において、転写因子は、SOX2、KLF4及びOCT4(SKO)を含むか、それからなるか又は本質的になる。別の実施形態において、転写因子は、OCT4、SOX2、KLF4及びGLIS1(OSKG)を含むか、それからなるか又は本質的になる。別の実施形態において、転写因子は、OCT4、SOX2、NANOG及びLIN28(OSNL)を含むか、それからなるか又は本質的になる。別の実施形態において、転写因子は、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG及びLIN28(OKSMNL)を含むか、それからなるか又は本質的になる。
【0019】
このように、別の態様において、本発明は、胚盤胞様構造体を作製する方法であって、
a)体細胞の集団中における、転写因子OCT4、SOX2、KLF4及びMYC(OSKM)、SOX2、KLF4及びOCT4(SKO)、OCT4、SOX2、KLF4及びGLIS1又はOCT4、SOX2、NANOG及びLIN28(OSNL)の1つ以上又は本明細書に記載される転写因子の任意の他の組み合わせのタンパク質発現又は量を増加させるステップ;
b)細胞の脱分化した多能性状態に向けた再プログラム化を可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において細胞を培養するステップであって、好ましくは、細胞の培養は、体細胞の維持に好適な培地中である、ステップ;
c)凝集を可能にする条件下において、細胞を、WNT経路シグナル伝達を活性化させる薬剤(任意選択でGSK-3阻害薬)、少なくとも1つ、好ましくは2つのTGF-β阻害薬、HDAC阻害薬、EGF及びBMP4を含む培養培地と接触させるステップ;
d)細胞が、本明細書に記載されるとおりの胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において細胞を培養培地で培養するステップ
を順番に含み、それにより胚盤胞様構造体を作製する方法を提供する。
【0020】
典型的には、本明細書に記載されるとおりの転写因子のタンパク質発現又は量は、細胞を、転写因子の発現を増加させる薬剤と接触させることによって増加される。好ましくは、薬剤は、ヌクレオチド配列、タンパク質、アプタマー及び小分子、リボソーム、RNAi剤、マイクロRNA、長鎖非コードRNA及びペプチド核酸(PNA)並びにその類似体又は変異体からなる群から選択される。一部の実施形態において、薬剤は、外因性である。本発明は、1つ以上の転写因子の発現を増加させるための転写活性化システム(例えば、CRISPR/Cas9又はTALENなどの遺伝子活性化システムでの使用のためのgRNA)の使用も企図する。
【0021】
典型的には、本明細書に記載されるとおりの転写因子のタンパク質発現又は量は、転写因子をコードするか、又はその機能断片をコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸(例えばmRNA)を細胞に導入することによって増加される。転写因子をコードする少なくとも1つの核酸は、体細胞集団に複数回、例えば2、3、4、5又は6回、例えばそれぞれ2、3、4、5又は6日間にわたって毎日トランスフェクトされ得る。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、転写因子タンパク質をコードする核酸配列は、プラスミドによって細胞に導入される。1つ以上の転写因子をコードする1つ以上の核酸が使用され得る。従って、必要とされる1つ以上の転写因子の発現又は量を増加させる目的で1つ以上のプラスミドを使用し得ることが明らかである。換言すれば、核酸配列は、単一のプラスミド内若しくはその上にあり得るか、又は体細胞に2つ以上のプラスミドで提供され得る。
【0023】
本発明の任意の実施形態において、本発明に従う使用のための1つ以上の転写因子をコードする核酸を含有するプラスミドは、エピソームプラスミドであり得る。
【0024】
好ましくは、核酸は、異種プロモーターを更に含む。好ましくは、核酸は、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターなどのベクターにある。好ましくは、ベクターは、宿主細胞ゲノムに組み込まれないゲノムを含むウイルスベクターである。ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルス又はセンダイウイルスであり得る。
【0025】
特定の実施形態において、因子のタンパク質発現又は量は、前記転写因子をコードする1つ以上のベクターを体細胞に形質導入又はトランスフェクトすることによって体細胞において増加される。ベクターは、組込み型又は非組込み型ウイルスベクターを含むウイルスベクターであり得る。更なる実施形態において、ベクターは、エピソームベクターであり得る。
【0026】
体細胞は、ステップc)に定義される、細胞を培養培地と接触させるステップ前に多能性状態への再プログラム化が完了している必要がないことも理解されるであろう。換言すれば、細胞は、好ましくは、中間状態にあり、それを培養培地と接触させる時点で、分化した状態からより可塑性の高い状態又は多能性状態に向けて移行中である。従って、ステップb)の終了時、ステップc)で培養する前の細胞は、「再プログラム化中間体」と称され得る。本明細書に記載されるとおり、再プログラム化中間体の集団は、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する。本発明に従って作り出される再プログラム化中間体の集団は、本明細書の
図2hに示されるとおり、マーカーOCT4、GATA6及びCDX2に関して陽性又は陰性染色される異なる細胞集団の比率を参照することによっても特徴付けられ得る。
【0027】
特定の実施形態において、脱分化状態又は多能性状態に向けた再プログラム化を開始させるための細胞の培養期間は、1つ以上の因子のタンパク質発現若しくは量の増加後又は1つ以上の因子のタンパク質発現若しくは量を増加させるために細胞を薬剤と接触させたときから始まって少なくとも1日である。この期間は、1つ以上の因子のタンパク質発現又は量が増加した後の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20若しくは21日又はそれを超えるものであり得る。任意の実施形態において、脱分化状態又は多能性状態に向けた再プログラム化を開始させるための細胞の培養期間は、任意の期間であり得、但し、それは、体細胞に関連するマーカーの減少を実現可能であり、且つ/又は体細胞アイデンティティの減少又は喪失及び細胞可塑性の獲得を引き起こすものとする。
【0028】
一実施形態において、脱分化状態又は多能性状態に向けた細胞の再プログラム化を可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において細胞を培養するステップは、体細胞を培養下に維持するための培地で細胞を培養することを含む。好ましくは、このステップは、多能性を促進することを意図しない培地で細胞を培養することを含む。換言すれば、再プログラム化される体細胞が線維芽細胞である場合、好ましくは、細胞は、線維芽細胞の維持に好適な培地で培養される。再プログラム化される体細胞が上皮細胞である場合、好ましくは、細胞は、上皮細胞の維持に好適な培地で培養される。様々な体細胞型の培養及び維持に好適な培地が当業者に公知であり、本明細書の表3bにも更に定義される。
【0029】
別の実施形態において、脱分化状態又は多能性状態に向けた細胞の再プログラム化を可能にするのに十分な時間にわたって且つそのための条件下において細胞を培養するステップは、多能性のみの促進を意図するものではない培地で細胞を培養することを含む。例示的培地としては、表3aにあるものを含め、本明細書に定義されるNACL、PA又はt2iLGo培地が挙げられる。
【0030】
本発明の更なる実施形態において、上記の方法は、EPI、TE及びPE系統転写シグネチャの上方制御を誘導する培地で体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて培養することを含む。好ましくは、体細胞が線維芽細胞であるとき、培地は、線維芽細胞培地、例えば表3a又は表3bにおけるものを含む、本明細書に定義される線維芽細胞培地である。
【0031】
任意の実施形態において、因子のタンパク質発現又は量を増加させることと、ステップc)で細胞を培養培地と接触させることとの間の期間は、任意の期間であり得、但し、それは、体細胞に関連するマーカーの減少を実現可能であるものとする。更なる例において、因子のタンパク質発現又は量を増加させることと、ステップc)で細胞を培養培地と接触させることとの間の期間は、任意の期間であり得、但し、それは、細胞が間葉上皮移行状態を進行することを実現可能であるものとする。更なる又は代替的な実施形態において、この期間は、任意の期間であり得、但し、それは、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)転写シグネチャの発現を実現可能であるものとする。
【0032】
本明細書で使用されるとき、ステップc)の培養培地(即ちEPI、TE及びPE系統転写シグネチャを呈する再プログラム化中間体を接触させる培養培地)は、胚盤胞促進培地又は「iBlastoid」培地とも称され得る。好ましくは、胚盤胞促進培地又はiBlastoid培地は、本明細書に定義されるとおりのいずれかである。任意の実施形態において、細胞は、ステップc)において、少なくとも約1、少なくとも約2、少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約9、少なくとも約12、少なくとも約14、少なくとも約16、少なくとも約20、少なくとも約24若しくは少なくとも約28日間又はそれを超える期間にわたって培養培地で培養される。
【0033】
任意の態様において、凝集又は自己組織化を可能にする条件は、細胞の三次元凝集又は自己組織化を可能にする任意の培養プレート、培養ベッセル、マイクロ流体デバイス又は培養システムで培養することを含み得る。例えば、細胞は、1ウェル当たり0.5~2×105若しくは約0.5~2×105細胞、1ウェル当たり0.6~2×105若しくは約0.6~2×105細胞、1ウェル当たり0.8~2×105若しくは約0.8~2×105細胞、1ウェル当たり1~2×105若しくは約1~2×105細胞、1ウェル当たり0.6×105若しくは約0.6×105細胞、1ウェル当たり0.8×105若しくは約0.8×105細胞、1ウェル当たり1×105若しくは約1×105細胞、1ウェル当たり1.2×105若しくは約1.2×105細胞、1ウェル当たり1.4×105若しくは約1.4×105細胞、1ウェル当たり1.6×105若しく約1.6×105細胞、1ウェル当たり1.8×105若しくは約1.8×105細胞又は1ウェル当たり2×105若しくは約2×105細胞の密度で播種され得る。1つのウェル(24ウェルフォーマットAggreWellにおける)中に1200マイクロウェルがあることが理解されるであろう。このように、細胞は、1マイクロウェル当たり1~100又は約1~100細胞、好ましくは1マイクロウェル当たり約10~200細胞の密度、より好ましくは1マイクロウェル当たり約50~100細胞の密度で播種され得る。一実施形態において、培養プレート又は培養ベッセルは、本明細書に記載されるいずれか1つである。特定の実施形態において、培養プレート又は培養ベッセルは、24ウェルAggreWellである。
【0034】
体細胞は、罹患細胞を含め、本明細書に記載される任意の細胞型であり得る。好ましくは、体細胞は、ヒト体細胞である。体細胞は、成熟細胞又は成熟若しくは非胚細胞の1つ以上の検出可能な特徴を示す成人に由来する細胞であり得る。罹患細胞は、疾患又は病態の1つ以上の検出可能な特徴、例えば異数性、胞状奇胎又はコルネリアデランゲ症候群を示す細胞であり得る。更に、体細胞は、例えば、CRISPR技術(例えば、CRISPR-Cas9、-Cas12a、-Cas13又は関連するCRISPR/ヌクレアーゼシステム)による遺伝子編集を受けたものであり得る。
【0035】
好ましい実施形態において、体細胞は、線維芽細胞、好ましくは皮膚線維芽細胞、最も好ましくはヒト線維芽細胞である。
【0036】
更なる態様において、本発明は、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を作製する方法であって、
- 細胞の集合及び凝集を可能にする条件下でiPSC及びiTSC細胞を培養して、多層細胞構造体を入手すること
を含み、それにより多層細胞又は胚盤胞様構造体を作製する方法を提供する。
【0037】
好ましくは、iPSC及びiTSCは、ヒト細胞に由来する(例えば、ヒト体細胞の再プログラム化により入手される)。好ましくは、iPSC及びiTSCは、線維芽細胞の再プログラム化に由来する。
【0038】
本発明のこの態様において、iPSC及びiTSCは、当技術分野において公知の及び本明細書に更に記載されるとおりの任意の方法によって作成され得る。
【0039】
本発明のこの態様において、細胞の集合及び凝集を可能にする条件は、好ましくは、細胞の自己組織化及び集合を促進する、本明細書に記載される任意の培養ベッセルにおいてiPSC及びiTSCを共培養することを含む。好ましくは、細胞は、細胞が、本明細書に記載されるとおりの胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを促進するための任意の培養培地(例えば、胚盤胞促進培地又はiBlastoid培地)で培養される。好ましくは、培養培地は、表3aに示されるとおりのiBlastoid培地である。
【0040】
好ましくは、iPSC及びiTSCは、同じウェル内において、それぞれ1:2.5の比で、1ウェル当たり1.2×105個の総細胞数として共培養される。1つのウェル(24ウェルフォーマットAggreWellにおける)中に1200マイクロウェルがあることが理解されるであろう。このように、細胞は、1マイクロウェル当たり10~200又は約10~200細胞の密度、好ましくは1マイクロウェル当たり約50~100細胞の密度で播種され得る。
【0041】
本発明は、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体も提供し、好ましくは、多層細胞構造体は、本明細書に記載されるとおりの任意の方法によって入手されるか又は入手可能である。かかる多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、インビトロ由来の又はインビトロで作成されたブラストイド若しくは胚盤胞様構造体又は「iBlastoid」とも称され得る。このように、本発明は、インビトロ由来の又はインビトロで作成されたブラストイド又は胚盤胞様構造体も提供する。好ましくは、インビトロ由来の又はインビトロで作成されたブラストイド又は胚盤胞様構造体は、本明細書に記載される任意の方法によって入手可能であるか又は入手される。任意の実施形態において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、ヒト多層細胞構造体又はヒト胚盤胞様構造体(又はヒトブラストイド若しくはiBlastoid)である。好ましくは、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、ヒト細胞のみを含有するか、又はそれに由来するか若しくはそれから作成される。
【0042】
本明細書に記載される任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、内細胞層と外細胞層とを含み、内細胞層は、胚盤葉上層及び/又は原始内胚葉系統の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含み、及び外細胞層は、栄養外胚葉の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含む。好ましくは、特徴は、細胞形態、遺伝子発現プロファイル、活性アッセイ、タンパク質発現プロファイル、表面マーカープロファイル、分化能力又はこれらの組み合わせの分析によって決定され得る。特徴又はマーカーの例には、本明細書に記載されるもの及び当業者に公知のものが含まれる。
【0043】
任意の態様において、内細胞層は、PEの1つ以上の特徴を呈する細胞塊を更に含む。好ましくは、PEの1つ以上の特徴を呈する細胞は、胚盤葉上層の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞の周辺にあるか又は主にその周辺にある。
【0044】
任意の態様において、EPI細胞の特徴は、マーカーNANOG、OCT4(別名POU5F1)又はSOX2のいずれか1つ以上の存在である。一実施形態において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体のより多くの細胞は、NANOGを発現するよりもOCT4を発現する。
【0045】
任意の態様において、EPI細胞の特徴は、円柱状外観の形態である。
【0046】
任意の態様において、TE細胞の特徴は、マーカーCDX2及びGATA2の1つ以上の存在である。
【0047】
任意の態様において、TE細胞の特徴は、扁平な又は細長い上皮形態である。
【0048】
任意の態様において、PE細胞の特徴は、マーカーSOX17又はGATA6の存在である。
【0049】
任意の態様において、EPI、PE又はTE系統のマーカーは、Petropoulos et al.,Cell 165,1012-1026(2016)に記載されるとおりであるか、又は本明細書の表1に示されるとおりである。
【0050】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、OCT4陽性細胞に隣接するGATA6陽性細胞(任意選択でCDX2低染色又は弱染色を伴う)を更に含み得る。
【0051】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、E5~7の着床前ヒト胚盤胞の主要な形態学的特質を呈する。更に、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、胚盤葉上層、原始内胚葉及び栄養外胚葉細胞の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞も含み得、これらの細胞は、E5~7、好ましくはE6~7のヒト胚盤胞におけるそれぞれ胚盤葉上層、原始内胚葉及び栄養外胚葉細胞と同じ又は類似した相対的空間配置をとる。
【0052】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、無細胞の空洞又は胞胚腔様の空洞も含む。
【0053】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、自然発生の胚によって形成される卵黄嚢と同じように、原始卵黄嚢を形成する能力を有する。
【0054】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、受精後胚齢5~7日目(E5~7)のヒト胚盤胞の既発表の測定値の約50%~200%のサイズのx軸及びy軸直径、x:yアスペクト比並びに/又は投影面積を有する。例えば、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体のx軸及び/又はy軸直径は、約100~約300μmである。好ましくは、x/y軸比は、約1である。多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の投影面積は、約5,000~約10,000μm2、約10,000~約40,000μm2、約40,000μm2~約60,000μm2、好ましくは約20,000~約40,000μm2である。
【0055】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、少なくとも約100~400個の総細胞又は少なくとも約300~約600個の細胞を含む。
【0056】
任意の態様において、IVC1培地(本明細書に定義されるとおり)で1日間培養し、続いてIVC2培地(本明細書に定義されるとおり)で2日目から4.5日目まで培養されたとき、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、表面(ガラス表面など)に付着し、
a)サイズの増加、扁平化及び増殖体の形成に至るまでの進行
b)NANOG及びOCT4/SOX2陽性細胞数の増加;
c)CDX2及びGATA2陽性細胞の広がり;
d)NANOG又はOCT4陽性細胞の周囲にSOX17及びGATA6陽性細胞が局在すること;
e)外細胞層又はTE細胞の少なくとも1つの特徴を呈する細胞におけるケラチンKRT7又は他の栄養膜細胞マーカーの発現;
f)合胞体栄養膜細胞(ST)及び絨毛外栄養膜細胞(EVT)に形態学的に似た細胞(例えば、それぞれST及びEVT様細胞)の存在、例えば多核性表現型及び紡錘様形態;
g)hCG(例示的STマーカー)及びMMP2(例示的EVTマーカー)を発現する細胞の存在;
h)STマーカーCSH1及びEVTマーカーITGA1の上方制御を呈する細胞の存在
の1つ以上を呈し得る。
【0057】
別の態様において、本発明は、細胞が胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを促進するための培養培地(例えば、胚盤胞促進培地又はiBlastoid培地)であって、
- WNT経路のシグナル伝達を活性化させる薬剤、任意選択でGSK-3阻害薬;
- 少なくとも1つ、好ましくは2つのTGF-β阻害薬、
- HDAC阻害薬、
- GSK-3阻害薬、
- EGF、及び
- BMP4
を含む培養培地を提供する。
【0058】
この態様において、WNT経路シグナル伝達の活性化薬、1つ又は複数のTGF-β阻害薬及びHDAC阻害薬は、本明細書に記載されるいずれか1つを含め、当技術分野において公知のいずれか1つであり得る。
【0059】
好ましくは、培養培地は、
- ITS-X;
- L-グルタミン;
- N-アセチル-L-システイン;
- β-エストラジオール;
- プロゲステロン;
- 2-メルカプトエタノール;
- L-アスコルビン酸;
- トランスフェリン(例えば、ヒト)、
- インスリン(例えば、ヒト)、
- N2サプリメント;及び
- B27サプリメント
を更に含む。
【0060】
好ましくは、プロゲステロン、トランスフェリン及びインスリンは、本明細書に記載されるとおりの、プトレシン及び亜セレン酸塩を更に含むN2サプリメントで提供される。
【0061】
好ましくは、B27サプリメントは、ビオチン、DLα酢酸トコフェロール、DLαトコフェロール、ビタミンA(酢酸塩)、BSA、カタラーゼ、インスリン(ヒト)、スーパーオキシドジスムターゼ、コルチコステロン、D-ガラクトース、エタノールアミンHCL、グルタチオン、L-カルニチンHCL、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン2HCl、亜セレン酸ナトリウム、T3(トリヨード-l-チロニン)を含む。
【0062】
任意の実施形態において、培養培地は、抗生物質、例えばペニシリン-ストレプトマイシンを更に含む。
【0063】
一実施形態において、培養培地は、
- それぞれ2:1:1の比の、本明細書に定義されるとおりのIVC1培地、N2B27基本培地及びTSC基本培地、
- WNT経路シグナル伝達の活性化薬(任意選択でGSK-3阻害薬)、
- 少なくとも1つ、好ましくは2つのTGF-β阻害薬、
- HDAC阻害薬、
- EGF、及び
- BMP4
を含む。
【0064】
本明細書における任意の態様において、WNT経路シグナル伝達を活性化させる薬剤は、WNTシグナル伝達を直接又は間接的に活性化させる任意の小分子を含み得る。特定の実施形態において、WNT経路シグナル伝達を活性化させる薬剤は、GSK-3阻害薬であり得る。
【0065】
任意の態様において、TGF-β経路阻害薬は、SB431542及びA83-01から選択され、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)1阻害薬は、VPA(バルプロ酸)であり、GSK-3阻害薬は、CHIR99021である。
【0066】
任意の態様において、GSK-3阻害薬は、2μM又は約2μMの濃度であり、TGF-β経路阻害薬は、0.5μM若しくは1μM又は約0.5μM若しくは1μMの濃度であり、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)1阻害薬は、0.8mM又は約0.8mMの濃度であり、EGFは、50ng/ml又は約50ng/mlの濃度であり、及びBMP4は、10ng/ml又は約10ng/mlの濃度である。
【0067】
任意の態様又は実施形態において、培養培地は、ROCK阻害薬又は単一細胞解離後の細胞生存を促進する能力を有する任意の成長因子若しくはキナーゼ阻害薬を更に含む。好ましくは、ROCK阻害薬は、Y-27632である。好ましくは、ROCK阻害薬は、10μM又は約10μMの濃度である。
【0068】
別の態様において、ステップc)で使用する培養培地は、表3aに定義されるとおりの線維芽細胞培地、N2B27基本培地、TSC基本培地、IVC1培地、IVC2培地又はヒトiBlastoid培地を含むか又はそれからなる。
【0069】
任意の態様において、本発明の任意の方法のステップc)に定義される培養培地は、限定はされないが、表3aにあるものを含めた、本明細書に定義されるとおりのヒトiBlastoid培地を含め、本発明の任意の培養培地であり得る。
【0070】
任意の態様において、体細胞は疾患遺伝子型を有し得る。例えば、体細胞は、遺伝性疾患、好ましくは初期発生疾患を有する個体に由来し得る。初期発生疾患の例は、異数性、胞状奇胎及びコルネリアデランゲ症候群である。
【0071】
好ましくは本発明の方法に従って作り出される、本発明の1つ又は複数の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体(iBlastoid)は、ヒト初期発生の不安定な状態にある間の生体異物の副作用及び他の潜在的環境危険因子を理解するための代表的なモデルとして利用し得るが、それが存在する場合、妊娠の準備をしている患者に対する具体的な薬物レジメンの予測及び続く処方が容易となるであろうことも見込まれる。
【0072】
好ましくは本発明の方法に従って作り出される、本発明の1つ又は複数の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、CRISPRベースの技術の試験/開発における使用のため、インビトロ付着アッセイを開発/改良するため、胚発生及び胚体外組織(胎盤など)の発生の研究のためを含めた、種々の他の使用のためのプラットフォームとして使用することができる。
【0073】
別の態様において、本発明は、胚盤胞の発生(任意選択で体外受精技術に関連する手法を改良するため)及び/又は活性を調節する能力を有する薬剤を同定する方法であって、
- 好ましくは本発明に従って作り出される、本発明の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を候補薬剤と接触させること;
- 薬剤との接触後の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性を、薬剤なしでの多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性と比較すること
を含む方法も提供し、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性に対する薬剤の効果が、薬剤なしでの多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生に対して所定のレベルだけ上回ることは、その薬剤が栄養膜細胞の発生及び/又は活性を調節することを示す。
【0074】
別の態様において、本発明は、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体によって作製される化合物又は粒子を入手する方法であって、本発明に従う多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を培養することと、細胞によって分泌される化合物又は粒子を培養培地から単離することとを含み、それにより多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体によって作製される化合物を入手する方法を提供する。化合物は、ホルモン又は成長因子であり得る。粒子は、エキソソームなどの細胞外小胞であり得る。
【0075】
本発明の、好ましくは本明細書に記載される方法に従って作製される1つ又は複数の多細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、キメラ臓器又はオルガノイドの作成において有用であり得る。このように、本発明は、キメラ臓器又はオルガノイドの作成における、本発明の、好ましくは本明細書に記載される方法に従って作製される1つ又は複数の多細胞構造体又は胚盤胞様構造体の使用も提供する。かかるキメラオルガノイドは、様々な病態若しくは疾患の研究又は治療用薬剤のスクリーニングに有用であり得る。
【0076】
別の態様において、本発明は、本明細書に開示されるとおりの多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を作製するためのキットにも関する。一部の実施形態において、キットは、体細胞、再プログラム化因子及び本明細書に開示されるとおりの1つ以上の培養培地を含む。好ましくは、本キットは、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の作製に使用することができる。好ましくは、本キットは、線維芽細胞である体細胞と共に使用することができる。一部の実施形態において、本キットは、本明細書に開示されるとおりの方法に従って体細胞を多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体に再プログラム化するための説明書を更に含む。好ましくは、本発明は、本明細書に記載される本発明の方法で使用されるときのキットを提供する。
【0077】
更なる態様において、本発明は、本発明の、好ましくは本明細書に記載される方法に従って作製される1つ又は複数の多細胞構造体又は胚盤胞様構造体に由来するか、それから単離されるか又はそれから入手される細胞又は細胞の集団を提供する。この細胞又は細胞の集団は、EPI系統の1つ以上の特徴、又はPE系統の1つ以上の特徴、又はTE系統の1つ以上の特徴を呈し得る。
【0078】
典型的には、本発明の、好ましくは本発明の方法に従って作製される多細胞構造体又は胚盤胞様構造体に由来するか、それから単離されるか又はそれから入手される細胞又は細胞の集団は、自己複製能を有する。換言すれば、本発明の、好ましくは本発明の方法に従って作製される多細胞構造体又は胚盤胞様構造体に由来するか、それから単離されるか又はそれから入手される細胞又は細胞の集団は、それを培養下に維持できることを特徴とする。
【0079】
更なる態様において、本発明は、本明細書に記載される細胞又は細胞の集団に由来するか又はそれから入手されるオルガノイドも提供する。オルガノイドは、本発明の、好ましくは本明細書に記載される方法に従って作製される多細胞構造体又は胚盤胞様構造体に由来するキメラオルガノイドも含み得る。
【0080】
本明細書で使用されるとき、文脈上特に必要な場合を除き、用語「含む(comprise)」並びにこの用語の変化形、例えば「含んでいる」、「含む(comprises)」及び「含まれる」などは、更なる追加、成分、完全体又はステップを除外することを意図しない。
【0081】
本発明の更なる態様及び前出の段落に記載される態様の更なる実施形態は、例として提供され、且つ添付の図面を参照する以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【
図1】再プログラム化によるヒトiBlastoidの作成。a、再プログラム化及びiBlastoid誘導の実験計画。b、iBlastoidの位相差画像(n=5)。スケールバー、50μm。c、iBlastoidのNANOGに関する位相差画像及び免疫染色画像(n=5)。スケールバー、50μm。d~h、ヒト胚盤胞と比較したiBlastoidのx軸及びy軸直径、x/yアスペクト比、投影面積の測定(n=18)(Shahbazi,M.N.et al.Nat.Cell Biol.18,700-708(2016);Blakeley,P.et al.Development 142,3613(2015);Petropoulos,S.et al.Cell 165,1012-1026(2016);Xiang,L.et al.Nature 577,537-542(2020);Qin,H.et al.Cell Rep.14,2301-2312(2016);Liu,L.et al.Nat.Commun.10,364(2019);Durruthy-Durruthy,J.et al.Dev.Cell 38,100-115(2016);Fogarty,N.M.E.et al.Nature 550,67-73(2017))(n=8)。i、iBlastoidの総細胞数推定(n=14)。j、CDX2及びNANOGに関して染色したiBlastoidの3次元及び2次元表現(n=5)。スケールバー、20μm。k~l、iBlastoidの代表的なDIC表現及びCDX2、NANOG免疫染色(n=5)、矢印で示したとおりの胞胚腔様の空洞を例証する。スケールバー、10μm。m、GATA2、OCT4及びSOX2に関するiBlastoidの免疫染色(n=3)。スケールバー、20μm。n、ICM様区画を有するGATA2、NANOG及びSOX17に関して染色したiBlastoid-拡大表示はSOX17陽性PE様細胞を示す(n=2)。o、ICM様区画を有するCDX2、OCT4及びGATA6に関して染色したiBlastoid-拡大表示は低CDX2及びGATA6陽性PE様細胞を示す(n=2)。n~oのスケールバー=10μm。p~q、EPI様及びTE様細胞を有するF-アクチン及びNANOGに関して染色したiBlastoidの代表的な画像、拡大表示(q)その形態学的差異を強調する(n=2)。r、(p)のiBlastoidのF-アクチン(明るい青色)及びNANOG(オレンジ色)に基づく3次元セグメンテーション。p~rのスケールバー=iBlastoid全体について10μm、ICM拡大表示について2μm。s、F-アクチン、OCT4及びKRT8共染色、n=2。
【
図2】iBlastoidの作成及び特徴付け。a、21日目再プログラム化中間体のscRNA-seq解析、EPI、TE及びPE様集団の存在を示している。b、iBlastoid形成の経時的位相差画像変化(n=5)。スケールバー、100μm。c、空洞形成のあるiBlastoidの定量化(n=100)。スケールバー、20μm。d、線維芽細胞培地で古典的線維芽細胞形態を伴い増殖したものである、iBlastoidの形成中にマイクロウェルの縁部に接着した不応性HDFaの代表的な位相差画像(n=2)。スケールバー、100μm。e、CDX2及びNANOGに関して染色したiBlastoidの3次元及び2次元表現(n=5)。スケールバー、20μm。f、GATA2、NANOG及びSOX17に関して染色したiBlastoid(n=2)。g、CDX2、OCT4及びGATA6に関して染色したiBlastoid(n=2)。f~gのスケールバー、20μm。h、21日目再プログラム化細胞における種々の既存の細胞集団の定量化;n=3。i、iBlastoidのスコア化に用いた判定基準。j、スコア判定に含めたiBlastoidの位相差画像、n=24。スケールバー、100μm。k、(i)における(h)によるiBlastoidについてのICM及びTEの平均評点、n=24。
【
図3】iBlastoidの単一細胞トランスクリプトームプロファイリング。a、iBlastoidを使用したscRNA-seq実験の実験計画。b、iBlastoid scRNA-seqライブラリからの6858個の細胞についてのEPIマーカー(POU5F1及びNANOG)、TEマーカー(CDX2及びGATA2)及びPEマーカー(SOX17及びGATA6)の発現。c、iBlastoid scRNA-seqデータセットのUMAPでのEPI、TE及びEPIシグネチャについての1細胞当たり発現スコア。d、iBlastoidデータセットの教師なしクラスタリングと割り当てたクラスター名。e、iBlastoid EPI、TE及びPE細胞を胚盤胞からのEPI、TE及びPE細胞(Blakeley及びPetropoulos)と共に示す統合データセットのUMAP投影。f、統合データセットのEPI、TE及びPEシグネチャの1細胞当たり発現スコア。g、統合データセットの教師なしクラスタリングと割り当てたクラスター名。h、統合解析前のそれぞれの元の細胞IDによるiBlastoid及びヒト胚盤胞データセット(Blakeley及びPetropoulos)についての各統合クラスター内での細胞の比率。i、iBlastoid EPI、TE及びPEクラスターと胚盤胞からのアノテーション付きEPI、TE及びPEクラスター(Blakeley及びPetropoulos)とのピアソン相関分析。j、k、iBlastoid scRNA-seq TEクラスターでの定義された壁TE及び極TEシグネチャの1細胞当たり発現スコア。l、UMAP成分1に沿った壁TE及び極TEシグネチャのビニング後サブタイプスコア。m、CCR7に関するiBlastoidの免疫染色、n=4。スケールバー、20μm。n、iBlastoidの極TE及び壁TEのCCR7蛍光強度、n=4。各箱内の線は中央値を表し、髭は、それぞれ最大値及び最小値を表す。
【
図4】scRNA-seqパイプライン及びクオリティコントロール。a、scRNA-seq解析戦略(詳細については「方法」を参照されたい)。b、iBlastoidについてのドナー細胞分布のUMAP表現。c、iBlastoid scRNA-seqライブラリについての細胞周期のUMAP表現。d、iBlastoidにおけるセンダイ-KLF4、センダイ-KOS及びセンダイ-MYCの発現。e、Petropoulos scRNA-seqライブラリ(Petropoulos)についてのEPIマーカー(POU5F1及びNANOG)、TEマーカー(CDX2及びGATA2)及びPEマーカー(SOX17及びGATA6)の発現。f、g、iBlastoidデータセットのUMAPでの非再プログラム化シグネチャの発現及びIFI27発現。
【
図5】胚盤胞及びiBlastoidに関する定義されたE5~7 EPI、TE及びPEシグネチャのスコア化。a、Petropoulos scRNA-seqデータセット(Petropoulos)上での発生日齢E5、E6及びE7についての定義されたEPI、TE及びPEシグネチャ。b、iBlastoid scRNA-seqデータセット上での発生日齢E5、E6及びE7についての定義されたEPI、TE及びPEシグネチャ。
【
図6】iBlastoid及び胚盤胞データセットのscRNA-seq解析。a、割り当てた全てのクラスターで見た各ドナーの細胞比率。b、iBlastoid scRNA-seqデータセットにおける割り当てた各クラスターの遺伝子発現プロファイルを示すヒートマップ(それぞれ上位10遺伝子)。c、統合データセットにおけるiBlastoid及び胚盤胞(Blakeley及びPetropoulos)の細胞分布を示すUMAP投影。d、iBlastoid及びE5~7胚盤胞(Blakeley及びPetropoulos)の統合データセットについてのEPIマーカー(POU5F1及びNANOG)、TEマーカー(CDX2及びGATA2)及びPEマーカー(SOX17及びGATA6)の発現。e、iBlastoid EPI、TE及びPEクラスターと胚盤胞からのアノテーション付きEPI、TE及びPEクラスター(Blakeley及びPetropoulos)とのピアソン相関分析。
【
図7】iBlastoidを使用したヒトインビトロ着床のモデル化。a、付着1、3及び4.5日目のiBlastoidの代表的な位相差画像(n=5)。スケールバー、100μm、b、GATA2、NANOG及びSOX17共染色、n=2。c、CDX2、OCT4及びGATA6共染色、n=2。d、F-アクチン、OCT4及びaPKC共染色、原始羊膜腔様の空洞を矢印で指示する、n=2。e、KRT7及びNANOG共染色、n=4。f、F-アクチン及びNANOG共染色、胚盤葉上層様細胞及び推定ST及びEVTを指示する、n=2。g、MMP2及びhCG共染色、n=2。スケールバー、50μm;拡大表示については10μm。h、付着したiBlastoidにおけるST及びEVTマーカーのqRT-PCR解析、平均値±s.e.m、n=5。i、付着したiBlastoidから回収した馴化培地を使用してhCG ELISAにより検出したhCGタンパク質レベル、平均値±s.e.m、n=4。
【
図8】付着したiBlastoidにおける胚盤葉上層発生の判定。a、iBlastoidインビトロ付着アッセイについての実験計画の概略図。b、付着アッセイ5日目までのiBlastoidにおける原始線条マーカー(TBXT、エオメス及びMIXL1)の経時的qRT-PCR解析。TBXT、エオメス及びMIXL1の陽性対照は、既発表の中胚葉分化プロトコル(Lam et al.,2014,J.Am.Soc.Nephrol)を用いて作成した(n=6) c、CDX2及びNANOGに関して染色した付着したiBlastoid(n=5)。d、GATA2、OCT4及びSOX2に関して染色した付着したiBlastoid(n=3)。e、NANOG及びSOX17に関して染色した付着したiBlastoidの拡大表示像(n=2)。f、OCT4及びGATA6に関して染色した付着したiBlastoidの拡大表示像(n=2)。c~fのスケールバー、100μm。g、F-アクチン、OCT4及びaPKCで染色した付着したiBlastoidのZ-切片系列、拡大表示像は原始羊膜腔の空洞、n=2。スケールバー、20μm。h、F-アクチン、OCT4及びaPKCに関するiBlastoid、1日目の付着したiBlastoid及び3日目の付着したiBlastoidの免疫染色、n=2。スケールバー、20μm。原始羊膜腔様の空洞の外観に矢印で印を付ける。i、KRT7及びNANOGに関するiBlastoid及び付着したiBlastoidの免疫染色、n=4。j、F-アクチン及びNANOGに関して染色した付着したiBlastoid、n=2。k、MMP2及びhCGに関するiBlastoid及び付着したiBlastoidの免疫染色、n=2。
【
図9】(a)GFPレポーターを含むナイーブ型iPSC。スケールバー:100μm.(b):mCherryレポーターを含むiTSC。スケールバー:100μm.(c):ナイーブ型iPSC及びiTSCの集合体。スケールバー:20μm.(d):ナイーブ型iPSCのみの集合体。スケールバー:20μm。(e):iTSCのみの集合体。スケールバー:20μm。(f):多能性マーカーOCT4及びTSCマーカーKRT7を使用したナイーブ型iPSC及びiTSC、ナイーブ型iPSCのみ及びiTSCのみの集合構造体の免疫染色。スケールバー:20μm.(g):多能性マーカーNANOG及びTSCマーカーCDX2を使用したナイーブ型iPSCのみの集合構造体の免疫染色。スケールバー:20μm。
【
図10】付着したiBlastoidの特徴付け。付着したiBlastoidにおけるSTマーカー(SDC1、HSD3B1)及びEVTマーカー(ITGA5、FN1)のqRT-PCR解析、平均値±s.e.m、n=5。
【
図11】他の培養条件での再プログラム化時のEPI、TE及びPE様細胞の比率の判定。8日目再プログラム化中間体をa)NACL培地及びb)PA培地及びc)t2iLGo培地に移し、再プログラム化21日目のEPI、TE及びPE様細胞の比率について判定した。マーカーとしてTE様細胞にGATA3、PE様細胞にGATA6及びEPI様細胞にKLF17を選定した。スケールバー、100μm。
【
図12】mRNA媒介性の再プログラム化でヒト線維芽細胞から作成された21日目再プログラム化細胞。a、ヒト線維芽細胞の4×OKSMNL mRNAトランスフェクションから作成された21日目再プログラム化細胞に関するOCT4、GATA6及びCDX2の免疫染色分析。b、ヒト線維芽細胞の4×OKSMNL mRNAトランスフェクションから作成された21日目再プログラム化細胞に関するGATA2、NANOG及びSOX17の免疫染色分析。c、ヒト線維芽細胞の6×OKSMNL mRNAトランスフェクションから作成された21日目再プログラム化細胞に関するOCT4、GATA6及びCDX2の免疫染色分析。d、ヒト線維芽細胞の6×OKSMNL mRNAトランスフェクションから作成された21日目再プログラム化細胞に関するGATA2、NANOG及びSOX17の免疫染色分析。
【
図13】センダイウイルス媒介性の再プログラム化でヒト間葉系幹細胞(hMSC)から作成された21日目再プログラム化細胞。a、hMSCから作成された21日目再プログラム化細胞に関するOCT4、GATA6及びCDX2の免疫染色分析。b、hMSCから作成された21日目再プログラム化細胞に関するGATA2、NANOG及びSOX17の免疫染色分析。
【
図14】センダイウイルス媒介性の再プログラム化でヒト末梢血単核球(hPBMC)から作成された18日目及び21日目再プログラム化細胞。a、StemPro34培地でhPBMCから作成された18日目再プログラム化細胞に関するOCT4、GATA6及びCDX2の免疫染色分析。b、StemPro34培地でhPBMCから作成された21日目再プログラム化細胞に関するOCT4、GATA6及びCDX2の免疫染色分析。c、10%FBSを補足したStemPro34培地でhPBMCから作成された18日目再プログラム化細胞に関するOCT4、GATA6及びCDX2の免疫染色分析。d、10%FBSを補足したStemPro34培地でhPBMCから作成された18日目再プログラム化細胞に関するGATA2、NANOG及びSOX17の免疫染色分析。e、10%FBSを補足したStemPro34培地でhPBMCから作成された21日目再プログラム化細胞に関するOCT4、GATA6及びCDX2の免疫染色分析。f、10%FBSを補足したStemPro34培地でhPBMCから作成された21日目再プログラム化細胞に関するGATA2、NANOG及びSOX17の免疫染色分析。
【発明を実施するための形態】
【0083】
ここで、本発明の特定の実施形態が詳細に参照される。本発明は、実施形態と併せて説明されるが、その意図は、本発明をそれらの実施形態に限定することではないと理解されるであろう。むしろ逆に、本発明は、特許請求の範囲により定義されるとおりの本発明の範囲内に含まれ得る全ての代替形態、変形形態及び均等物を網羅することが意図される。
【0084】
当業者は、本発明の実施に使用し得るような、本明細書に記載されるものと同様の又は均等な多くの方法及び材料を認識するであろう。本発明は、記載されるそれらの方法及び材料に決して限定されない。本明細書に開示及び定義される本発明が、言及されているか又は本明細書若しくは図面から明らかな個別の特徴の2つ以上のあらゆる代替的な組み合わせに及ぶことが理解されるであろう。それらの異なる組み合わせは、全て本発明の様々な代替的態様を成す。
【0085】
本明細書を解釈する目的上、単数形で使用される用語には複数形も含まれ、逆も同様であるものとする。
【0086】
本発明者らは、ヒト胚盤胞の形態、空間的相互作用及び分子組成を忠実に再現するヒト多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体(以下ではiBlastoidとも称する)にヒト体細胞(例えば、線維芽細胞)を直接再プログラム化することができるという予期せぬ発見から導き出される新規培養方法を開発した。更に、iBlastoidは、ヒト胚付着培養を用いたインビトロ付着アッセイにより検証されるとおり、初期ヒト胚発生の多くの側面を模倣することができる。従って、本発明者らが初めてヒトiBlastoidの作成を報告し、これは、初期ヒト胚発生中に起こる複雑な細胞及び分子の相互作用をモデル化して調べるための、ユニークな、実験的に扱い易いシステムに相当する。
【0087】
細胞
本発明の方法は、再プログラム化された体細胞の使用を含み、細胞は、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈するため、胚盤胞に似た多層細胞構造体を作成する。本明細書に更に記載するとおり、特定の態様において、本発明の方法には、再プログラム化する前且つ胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する再プログラム化された体細胞を入手する前に体細胞から開始する手法が含まれ得ることが理解されるであろう。そのような場合、本方法には、本明細書に更に記載される方法に従い、体細胞の再プログラム化を開始する最初のステップが必要となり得る。代替的な態様において、本発明の方法は、再プログラム化中間体(例えば、多能性状態に向けた再プログラム化を促進する条件で培養されたが、完全な多能性状態に向けた再プログラム化は、完了していても又は完了していなくてもよく、そのため、再プログラム化中間体と称される)から始めることを含み得る。
【0088】
体細胞は、健常体細胞又は罹患細胞であり得るか、又は健常な個体又は1つ以上の医学的病態若しくは疾患を有する若しくは有する疑いがある個体に由来し得る。体細胞は、死亡した個体からのものでもあり得る。体細胞は、成熟細胞又は成熟若しくは非胚性細胞の1つ以上の検出可能な特徴を示す成体由来の細胞であり得る。罹患体細胞は、疾患又は病態の1つ以上の検出可能な特徴を示す細胞であり得る。
【0089】
本発明における使用のための体細胞は、iPSC又は他の胚性若しくは成体幹細胞に由来し得るか、又は対象からの組織外植片に由来し得る。詳細な例では、本発明における使用のための体細胞は、脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化するための因子をコードする誘導性発現カセットを含み、iPSC又は他の胚性若しくは成体幹細胞から分化させて、次に発現カセットの発現の誘導を通じて脱分化させる。
【0090】
体細胞の集団は、好ましくは、均一な細胞集団を含むことになる(即ち線維芽細胞の均一集団又はケラチノサイトの均一集団等、同じ種類の体細胞の集団、ここで、この細胞集団は、別の細胞型の体細胞を含まない)。かかる均一細胞集団を入手するためには、均一細胞集団が入手されるように、細胞の集団(例えば、個体から入手されるもの)を培養及びその他の、細胞の異種集団から目的の体細胞を単離するために必要なステップに供する必要があり得ることが理解されるであろう。
【0091】
特定の実施形態において、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する細胞に再プログラム化するために使用される体細胞の集団は、胚性幹細胞を含まず、好ましくは増量した(又は増大した)多能性幹細胞を含まない。
【0092】
好ましい実施形態において、体細胞は、線維芽細胞(好ましくは皮膚線維芽細胞)、ケラチノサイト(好ましくは表皮角化細胞)、単球又は内皮細胞又は間葉系幹細胞である。好ましくは、本発明の方法における使用のための体細胞は、線維芽細胞のみを含む。代わりに、本発明の方法における使用のための体細胞は、好ましくはヒトの、末梢血単核球(PBMC)であり得る。代わりに、本発明の方法における使用のための体細胞は、好ましくはヒトの、間葉系幹細胞(MSC)であり得る。体細胞に特徴的な形態学的及び遺伝子発現マーカーは、当業者に公知であろう。結果的に、本発明の方法の経過中に体細胞に特徴的なマーカーの減少に関して試験し、且つそれを観察することは、当業者の範囲内にあることになる。特定の例では、体細胞が皮膚線維芽細胞である場合、形態学的特徴としては、扁平な間葉形態が挙げられ、マーカーとしては、CD13(ANPEP)、CD44、TWIST1及びZEB1が挙げられる。
【0093】
ケラチノサイトマーカーとしては、ケラチン1、ケラチン14及びインボルクリンが挙げられ、細胞形態は敷石状外観である。内皮細胞マーカーとしては、CD31(Pe-CAM)、VE-カドヘリン及びVEGFR2が挙げられ、細胞形態は毛細血管様構造体であり得る。上皮細胞のマーカーとしては、サイトケラチン15(CK15)、サイトケラチン3(CK3)、インボルクリン及びコネキシン4が挙げられる。好ましくは、観察される形態は敷石状外観である。造血幹細胞のマーカーは、CD45(汎造血マーカー)、CD19/20(B細胞マーカー)、CD14/15(骨髄)、CD34(前駆体/SCマーカー)、CD90(SC)を含み得る。間葉系幹細胞のマーカーは、CD13、CD29、CD90、CD105、CD10、CD45を含む。
【0094】
本明細書で使用されるとき、用語「幹細胞」は、最終分化していない細胞を指し、即ち、これは、より詳細化した特殊な機能を有する他の細胞型への分化能を有する。この用語は、胚性幹細胞、胎生幹細胞、成体幹細胞又は委任細胞/前駆細胞を包含する。
【0095】
本明細書で使用されるとき、「体細胞」は、最終分化した細胞を指す。本明細書で使用されるとき、用語「体細胞」は、生殖系列細胞とは対照的に、生物の体を形成する任意の細胞を指す。哺乳類では、生殖系列細胞(「配偶子」としても知られる)とは、受精時に融合して、接合子と呼ばれる、哺乳類胚全体が発生する元となる細胞を生み出す精子及び卵子のことである。哺乳類の体にある他の全ての細胞型は、- 精子及び卵子、それらが作り出される元となる細胞(ガメトサイト)及び未分化の幹細胞を別として -、体細胞である:内臓器官、皮膚、骨、血液及び結合組織は、全て体細胞でできている。一部の実施形態において、体細胞は「非胚性体細胞」であり、これは、胚に存在しないか又は胚から入手されるのでない体細胞であって、且つかかる細胞のインビトロ増殖によって得られるのでない体細胞を意味する。一部の実施形態において、体細胞は「成体体細胞」であり、これは、胚若しくは胎児以外の生物に存在するか若しくはそうした生物から入手される細胞又はかかる細胞のインビトロ増殖により得られる細胞を意味する。体細胞は、例えば、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のレベルを増加させることにより、細胞の無限の供給を提供するように不死化され得る。例えば、TERTレベルは、内因性遺伝子からのTERTの転写を増加させることによるか、又は任意の遺伝子デリバリー方法若しくはシステムを通じてトランス遺伝子を導入することにより増加させることができる。
【0096】
分化した体細胞は、胎児、新生児、若齢又は成体の、ヒトを含めた霊長類個体からの細胞を含め、本発明の方法における使用に好適な体細胞である。好適な体細胞としては、限定はされないが、骨髄細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、末梢血単核球、造血細胞、ケラチノサイト、肝細胞、腸細胞、間葉細胞、骨髄前駆細胞及び脾臓細胞が挙げられる。代わりに、体細胞は、血液幹細胞、筋肉/骨幹細胞、脳幹細胞及び肝幹細胞を含め、それ自体が増殖し、他の細胞型に分化することのできる細胞であり得る。好適な体細胞は、転写因子をコードする遺伝子材料を含め、転写因子を取り込むだけの受容性があるか、又は科学文献中で概して公知の方法を用いて受容性にすることができる。取込みを増強させる方法は、細胞の種類及び発現システムに応じて異なり得る。好適な形質導入効率を有する受容性のある体細胞を調製するために用いられる例示的条件は、当業者に周知である。出発体細胞は、約24時間の倍加時間を有し得る。
【0097】
用語「単離された細胞」は、本明細書で使用されるとき、それが当初見られた生物から取り出されている細胞又はかかる細胞の子孫を指す。任意選択で、細胞は、例えば他の細胞の存在下でインビトロ培養されている。任意選択で、細胞は、後に第2の生物に導入されるか、又はそれ(又はそれからの子孫となった細胞)が単離された元の生物に再び導入される。
【0098】
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体
本発明は、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体又はそれを含む組成物を提供する。好ましくは、多層細胞構造体は、本明細書に記載されるとおりの任意の方法によって入手されるか又は入手可能である。かかる多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、インビトロ由来の又はインビトロで作成されたブラストイド若しくは胚盤胞様構造体又は「iBlastoid」とも称され得る。
【0099】
本発明の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、以下に更に記載するものなど、幾つもの構造的及び機能的特質によって特徴付け得ることが理解されるであろう。重要なことに且つ以下に詳述するとおり、本発明の構造体は、E5~7のヒト胚盤胞の主要な形態学的特質を呈するが、本構造体は、自然発生の胚盤胞に存在するが、本発明の構造体には存在しない透明帯の欠如など、自然発生のヒト胚盤胞とは異なる特質によっても特徴付けられる。このように、本発明のインビトロ由来の又はインビトロで作成された胚盤胞構造体は、自然発生の胚盤胞とは明確に区別され得る。
【0100】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、内細胞層と外細胞層とを含み、内細胞層は、胚盤葉上層及び/又は原始内胚葉系統の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含み、及び外細胞層は、栄養外胚葉の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含む。好ましくは、特徴は、細胞形態、遺伝子発現プロファイル、活性アッセイ、タンパク質発現プロファイル、表面マーカープロファイル、分化能力又はこれらの組み合わせの分析によって決定し得る。特徴又はマーカーの例には、本明細書に記載されるもの及び当業者に公知のものが含まれる。多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、空洞/胞胚腔を有しても又は有しなくてもよい。
【0101】
任意の態様において、内細胞層は、PEの1つ以上の特徴を呈する細胞塊を更に含む。好ましくは、PEの1つ以上の特徴を呈する細胞は、胚盤葉上層の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞の周辺にあるか又は主にその周辺にある。
【0102】
任意の態様において、内細胞層は、本質的に天然に形成された内部細胞塊のように挙動する内部細胞塊様組織である。
【0103】
任意の態様において、外細胞層は、本質的に天然に形成された栄養外胚葉のように挙動する栄養外胚葉様組織である。
【0104】
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、胞胚腔及び内部細胞塊様組織を取り囲む栄養外胚葉様組織を含む人工胚盤胞とも称され得る。
【0105】
任意の態様において、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)系統の転写シグネチャを呈する細胞の集団は、好ましくは、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)系統の各々の転写シグネチャを呈する。
【0106】
任意の態様において、EPI細胞の特徴は、マーカーNANOG、OCT4(別名POU5F1)又はSOX2のいずれか1つ以上の存在である。一実施形態において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体のより多くの細胞は、NANOGよりもOCT4を発現する。
【0107】
任意の態様において、EPI細胞の特徴は、円柱状外観の形態である。
【0108】
任意の態様において、TE細胞の特徴は、マーカーCDX2及びGATA2の1つ以上の存在である。
【0109】
任意の態様において、TE細胞の特徴は、扁平な又は細長い上皮形態である。
【0110】
任意の態様において、PE細胞の特徴は、マーカーSOX17又はGATA6の存在である。
【0111】
【0112】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、OCT4陽性細胞に隣接するGATA6陽性細胞(任意選択でCDX2低染色又は弱染色を伴う)を更に含み得る。
【0113】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、E5~7、好ましくはE6~7のヒト胚盤胞の主要な形態学的特質を呈する。E5~7及びE6~7のヒト胚盤胞の主要な形態学的特質は、当業者に公知である。かかる特質には、半径方向に位置する少なくとも2層を含み、且つ内細胞層(本明細書に定義されるとおり)及び外細胞層(本明細書に定義されるとおり)を透明帯及び胞胚腔と呼ばれる液体で満たされた空洞と共に含む、球形又はほぼ球形の層状細胞凝集体又は構造体が含まれ得る。胚盤胞は直径が約0.1~0.2mmであり、典型的には約200~300細胞を含む。概して胚盤葉上層及び/又は原始内胚葉系統の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞は、凝集体又は構造体の内側に位置する単一の塊状で存在する一方、栄養外胚葉の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞は、外側に存在する。
【0114】
ヒト胚盤胞の更なる特徴及び特質については、例えば、Blakeley,P.et al.(2015)Development 142,3613;Petropoulos,S.et al.(2016)Cell 165,1012-1026;Shahbazi,M.N.et al.(2016)Nat.Cell Biol.18,700-708;Xiang,L.et al.(2020)Nature 577,537-542;Qin,H.et al.(2016)Cell Rep.14,2301-2312;Liu,L.et al.(2019)Nat.Commun.10,364;Durruthy-Durruthy,J.et al.(2016)Dev.Cell 38,100-115;Fogarty,N.M.E.et al.(2017)Nature 550,67-73に記載されている。
【0115】
更に、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、胚盤葉上層、原始内胚葉及び栄養外胚葉の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞も含み得、これらの細胞は、E5~7、好ましくはE6~7のヒト胚盤胞におけるそれぞれ胚盤葉上層、原始内胚葉及び栄養外胚葉細胞と同じ又は類似した相対的空間配置をとる。本明細書で使用されるとき、ヒト胚盤胞と比べて「同じ又は類似した相対的空間配置」とは、半径方向に位置する少なくとも2層を有し、且つ内細胞層(本明細書に定義されるとおり)と外細胞層(本明細書に定義されるとおり)とを含むことを意味すると解釈されるものとする。2層より多い細胞層があり得るが、概してその本質は、胚盤葉上層及び/又は原始内胚葉系統の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞が、凝集体又は構造体の内側に位置する単一の塊状で存在する一方、栄養外胚葉の細胞の1つ以上の特徴を呈するものは、外側に存在するというところにある。換言すれば、構造体における細胞の外層は、典型的にはTEの細胞である(また、CDX2及びGATA2などのTEマーカーを発現する)一方、胚盤葉上層を指示するものである細胞(また、これは、NANOG及び4及びSOX2などのマーカーを発現する)は、構造体内のICM様区画に見られる。
【0116】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、無細胞の空洞又は胞胚腔様の空洞も含む。多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は空洞化を起こし、それにより胞胚腔の形成を可能にし得る。胞胚腔様の空洞の形成後、内部細胞塊様組織が内部空洞の1つの位置に位置取り得る一方、空洞の残りの部分は液体で満たされる。
【0117】
本発明の方法によって作製される多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、概して、本発明の構造体が透明帯を形成しないか又はそれを含まない点において、自然発生するヒト胚盤胞と異なる。
【0118】
本明細書で使用されるとき、用語「透明帯」は、哺乳類卵母細胞の細胞膜を取り囲む糖タンパク質層を指す。卵母細胞の受精後も透明帯はインタクトなまま残り、従って天然に存在する胚盤胞は透明帯を受精後約5日まで含み、その際、胚盤胞は、着床の一環として透明帯が退化及び分解するいわゆる「透明帯孵化」を果たす。
【0119】
本発明の構造体は、PE及びTEの両方、PE及びEPIの両方、TE及びEPIの両方又はPE、TE及びEPIの組み合わせに特徴的な遺伝子を細胞が発現するなど、典型的には混合型遺伝子発現プロファイルである、胚盤胞の細胞に見られない遺伝子シグネチャ全般を有する細胞が構造体に含まれ得る点において、天然に存在する胚盤胞から分化させることもできる。換言すれば、本発明の構造体中の一部の細胞は、2つ以上の系統に特徴的な混合型転写シグネチャを有し得る。換言すれば、1つ以上の個別の細胞が、2つ以上の系統に特徴的な混合型転写シグネチャを有し得る。各系統に関連する転写シグネチャは、更に本明細書に、例えば上記の[117]~[122]及び表1に記載されている。
【0120】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、受精後胚齢5~7日目(E5~7)のヒト胚盤胞の既発表の測定値と同等のサイズのx軸及びy軸直径、x:yアスペクト比並びに/又は投影面積を有する。例えば、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体のx軸及び/又はy軸直径は、約100~約300μmである。好ましくは、x/y軸比は、約1である。多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の投影面積は、約5,000~約10,000μm2、約10,000~約40,000μm2、約40,000~約60,000μm2、好ましくは約20,000~約40,000μm2である。
【0121】
本明細書で使用されるとき、E5~7のヒト胚盤胞の既発表の測定値と「同等の」x軸及びy軸直径又はx:yアスペクト比は、既発表の測定値の約50%~200%、好ましくは、既発表の測定値の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約110%、少なくとも約1200%、少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約140%、少なくとも約150%、少なくとも約160%、少なくとも約170%、少なくとも約180%、少なくとも約190%又は少なくとも約200%のx軸及びy軸直径又はx:yアスペクト比を含み得る。
【0122】
本明細書で使用されるとき、E5~7のヒト胚盤胞の既発表の測定値と「同等の」投影面積は、ヒト胚盤胞についての既発表の測定値の約50%~200%の投影面積を含み得る。好ましくは、同等の投影面積は、5,000~約40,000μm2の範囲にある値の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約110%、少なくとも約1200%、少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約140%、少なくとも約150%、少なくとも約160%、少なくとも約170%、少なくとも約180%、少なくとも約190%又は少なくとも約200%である面積を含む。換言すれば、同等の投影面積は、約5,000~約10,000μm2、約10,000~約40,000μm2、約40,000μm2~約60,000μm2、好ましくは約20,000~約40,000μm2の面積であり得る。
【0123】
本発明との関連において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、半径方向に位置する少なくとも2層を含む層状細胞凝集体又は構造体である。好ましくは、これは、内細胞層(本明細書に定義されるとおり)と外細胞層(本明細書に定義されるとおり)とを含む球形又はほぼ球形の細胞凝集体又は構造体である。2層より多い細胞層があり得るが、概してその本質は、胚盤葉上層及び/又は原始内胚葉系統の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞が、凝集体又は構造体の内側に位置する単一の塊状で存在する一方、栄養外胚葉の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞は、外側に存在するというところにある。
【0124】
任意の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、約100~400個の総細胞を含む。
【0125】
好ましい実施形態において、本発明は、以下の特徴の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13個を有する、インビトロ由来の又はインビトロ作成した胚盤胞又はブラストイド構造体(即ち多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体)を提供する:
・半径方向に位置する少なくとも2層を含み、且つ内細胞層と外層とを含んで透明帯がない球形又はほぼ球形の層状細胞凝集体又は構造体;
・胚盤葉上層(EPI)の細胞の特徴の1つ以上を呈する細胞を含む内細胞層、EPI細胞の特徴は、マーカーNANOG、OCT4(別名POU5F1)又はSOX2のいずれか1つ以上の存在及び円柱状の外観である;
・原始内胚葉(PE)系統の1つ以上の特徴を呈する細胞塊も含む内細胞層、ここで、PEの1つ以上の特徴を呈する細胞は、胚盤葉上層の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞の周囲にあるか又は主にその周囲にある;PE細胞の特徴は、マーカーSOX17又はGATA6の存在である。
・栄養外胚葉(TE)の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞を含む外細胞層、TE細胞の特徴は、マーカーCDX2及びGATA2の1つ以上の存在並びに扁平な又は細長い上皮形態である;
・約0.1~0.2mmの直径;
・約100~400細胞;
・多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体のより多くの細胞は、NANOGよりもOCT4を発現する;
・OCT4陽性細胞に隣接するGATA6陽性細胞(任意選択でCDX2低染色又は弱染色を伴う);
・多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体のx軸及び/又はy軸直径が、約100~約300μmである;
・約1のx/y軸比;
・約5,000~約10,000μm2、約10,000~約40,000μm2、約40,000μm2~約60,000μm2、好ましくは約20,000~約40,000μm2の投影面積;
・任意選択で、胞胚腔と呼ばれる液体で満たされた空洞;及び
・任意選択で、胚盤葉上層及び/又は原始内胚葉系統の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞は、凝集体又は構造体の内側に位置する単一の塊状で存在する一方、栄養外胚葉の細胞の1つ以上の特徴を呈する細胞は、外側に存在する。
【0126】
本発明の及び/又は本発明の方法に従い入手される多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、典型的には、初期ヒト胚発生の多くの側面を模倣する特徴を呈する。特定の実施形態において、この構造体は、胚着床の研究に利用され得るインビトロ付着アッセイにおいて、ヒト胚の特徴を模倣する。例えば、IVC1培地(本明細書に定義されるとおり)で1日間培養し、続いてIVC2培地(本明細書に定義されるとおり)で2日目から4.5日目まで培養したとき、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、
i)サイズの増加、扁平化及び増殖体の形成に至るまでの進行;
j)NANOG及びOCT4/SOX2陽性細胞数の増加;
k)CDX2及びGATA2陽性細胞の広がり;
l)NANOG又はOCT4陽性細胞の周囲にSOX17及びGATA6陽性細胞が局在すること;
m)外細胞層又はTE細胞の少なくとも1つの特徴を呈する細胞におけるケラチンKRT7又は他の栄養膜細胞マーカーの発現;
n)合胞体栄養膜細胞(ST)及び絨毛外栄養膜細胞(EVT)に形態学的に似た細胞(例えば、それぞれST及びEVT様細胞)の存在、例えば多核性表現型及び紡錘様形態;
o)hCG(例示的STマーカー)及びMMP2(例示的EVTマーカー)を発現する細胞の存在;及び
p)STマーカーCSH1及びEVTマーカーITGA1の上方制御を呈する細胞の存在
の1つ以上を呈し得る。
【0127】
「増加させる」は、本明細書で使用されるとき、特定のマーカーに関して陽性の細胞のサイズの増加に関してであろうと、数の増加に関してであろうと、約5%より大きい変化を指すことが認識されるであろう。このように「増加」には、多層細胞又は胚盤胞様構造体のサイズの文脈では、(本明細書に記載されるなどのインビトロ付着アッセイにおいて培養される前の構造体のサイズと比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%又はそれを超えるサイズの増加が含まれることが理解されるであろう。同様に、特定のマーカー(NANOG及びOCT4/SOX2など)に関して陽性の細胞の数の「増加」とは、インビトロ付着アッセイで培養される前の構造体中のマーカー陽性細胞の数と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%又はそれを超える細胞の数の増加であり得る
【0128】
本発明の第1の態様において、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する再プログラム化された体細胞(好ましくは再プログラム化されたヒト体細胞)の集団から入手されることが理解されるであろう。多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、代わりに、iPSC及びiTSC又はiPSC及びiTSCの集団の集合によって作成され得る。例えば、多層細胞構造体を作製する方法は、
- 凝集を可能にする条件下でiPSC及びiTSC細胞を培養して、多層細胞構造体を入手すること
を含み、それにより多層細胞構造体を作製する。
【0129】
代わりに、インビトロ由来の胚盤胞様構造体を作製する方法があり、この方法は、
- 凝集を可能にする条件下でiPSC及びiTSC細胞を培養して胚盤胞様構造体を入手すること
を含み、それにより胚盤胞様構造体を作製する。
【0130】
iPSC及びiTSCの作成方法は、当技術分野で公知である。iPSCの例示的作成方法については、例えば、Takahashi et al.,(2007)Cell,131:861-872、国際公開第2017/219232号パンフレット、国際公開第2014/200114号パンフレット、国際公開第2014/065435号パンフレット、国際公開第2019/073055号パンフレット、Liu et al.,(2017)Nat.Methods,14:1055-1062(これらの内容は、全て全体として参照により本明細書に援用される)に記載されている。iTSCの例示的作成方法については、Liu et al.,(2020)Nature,586:101-107(この内容も参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0131】
一実施形態において、iPSC及びiTSCは、本明細書に記載される任意の培養ベッセル、例えば、24ウェルAggreWell(商標)400プレートにおいて共培養され得る。好ましくは、細胞は、細胞が、本明細書に記載されるとおりの胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを促進するための任意の培養培地(例えば、胚盤胞促進培地又はiBlastoid培地)で培養される。好ましくは、培養培地は、表3aに示されるとおりのiBlastoid培地である。
【0132】
好ましくは、iPSC及びiTSCは、同じウェル内において、それぞれ1:2.5の比で、1ウェル当たり1.2×105個の総細胞数として共培養される。
【0133】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載されるとおりの任意の方法によって作製される多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体も提供する。
【0134】
再プログラム化
当技術分野では、体細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化する様々な方法が公知である。体細胞の再プログラム化には、典型的には、再プログラム化因子(転写因子を含む)の発現と、続く分化マーカーの喪失及び多能性/可塑性マーカーの獲得を促進するための特定の条件での培養が関わる。
【0135】
本発明の方法によれば、体細胞は、EPI、TE又はPE系統の転写シグネチャを呈する細胞の集団を入手するため、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の形成を促進するための培養条件に供される前に脱分化状態又は多能性状態に向けて再プログラム化される。このように、細胞の集団は、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の形成を促進するための培養条件に供される時点で再プログラム化中間体を含むことが認識されるであろう。再プログラム化中間体は、EPI、TE及び/又はPE系統の転写シグネチャを呈する。好ましくは、中間体の集団は、EPI、TE及びPE系統の3つ全てについての転写シグネチャを呈する。
【0136】
本発明に従って作り出される再プログラム化中間体の集団は、本明細書の
図2hに示されるとおり、マーカーOCT4、GATA6及びCDX2に関して陽性又は陰性染色される異なる細胞集団の比率を参照することによっても特徴付けられ得る。
【0137】
任意の態様において、EPI、TE又はPE系統の転写シグネチャを呈する細胞の集団は、本明細書の表1に掲載されるマーカーの少なくとも1つを発現する細胞の集団を含む。
【0138】
好ましくは、EPI系統の転写シグネチャは、本明細書の表1に掲載されるとおりのEPI系統のマーカーの少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70個若しくはそれを超えるもの又は全ての発現を含む。より好ましくは、TE系統の転写シグネチャは、本明細書の表1に掲載されるとおりのTE系統のマーカーの少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70個若しくはそれを超えるもの又は全ての発現を含む。より好ましくは、PE系統の転写シグネチャは、本明細書の表1に掲載されるとおりのPE系統のマーカーの少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70個若しくはそれを超えるもの又は全ての発現を含む。
【0139】
特に好ましい実施形態において、EPI系統の転写シグネチャは、マーカー:ARGFX、NANOG、GDF3、SUSD2、DPPA5、POU5F1、UTF1、TDGF1、PDLIM1及びUSP28のいずれか1、2、3、4、5、6、7、8又は9個又はその全ての発現を含む;TE系統の転写シグネチャは、マーカー:KRT18、KRT8、NODAL、UPP1、TAGLN2、KRT19、SLC7A5、FAM101B、CDX2及びGATA2のいずれか1、2、3、4、5、6、7、8又は9個又はその全ての発現を含む;及びPE系統の転写シグネチャは、マーカー:PALLD、FST、NOG、CLDN10、SERPINB6、MIAT、CHST2、VSNL1、MT1X、PDPN、SOX17及びGATA6のいずれか1、2、3、4、5、6、7、8又は9個又はその全ての発現である。
【0140】
体細胞の再プログラム化に好適な方法の例は、当技術分野に豊富にあり、国際公開第2009/101407号パンフレット、国際公開第2014/200030号パンフレット、国際公開第2015/056804号パンフレット、国際公開第2014/200114号パンフレット、国際公開第2014/065435号パンフレット、国際公開第2013/176233号パンフレット、国際公開第2012/060473号パンフレット、国際公開第2012/036299号パンフレット、国際公開第2011/158967号パンフレット、国際公開第2011/055851号パンフレット、国際公開第2011/037270号パンフレット、国際公開第2011/090221号パンフレット(これらの内容は、参照により本明細書に援用される)に例示されている。典型的には、かかる方法は、細胞を多能性状態に向けて再プログラム化する能力を有する(又はそれを目的とする)1つ以上の因子又は薬剤の量を出発細胞型(又は供給源細胞)において増加させることを含む。
【0141】
特定の実施形態において、体細胞を再プログラム化するための又は体細胞を再プログラム化する能力を有する因子又は薬剤は、転写因子である。代わりに、その因子又は薬剤は、本明細書に更に記載するとおり、細胞中の1つ以上の転写因子のレベルを間接的に増加させる。本発明の方法に従う体細胞(例えば、線維芽細胞)の再プログラム化に使用し得る特に好ましい転写因子及びその核酸配列を表2に示す。本発明において、体細胞を再プログラム化するため、表2に掲載される転写因子の1つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上又は6つ全てが使用され得ることが理解されるであろう。しかしながら、本発明は、体細胞を再プログラム化するため表2に記載される転写因子を使用することに限定されない点が理解されるであろう。
【0142】
本明細書において言及される転写因子及び他のタンパク質因子は、HUGO遺伝子命名法委員会(HGNC)記号で言及される。表2は、本明細書に記載される転写因子の例示的Ensemble遺伝子ID及びUniprot IDを提供する。ヌクレオチド配列は、Ensemblデータベース(Flicek et al.(2014).Nucleic Acids Research Volume 42,Issue D1.Pp.D749-D755)バージョン83に由来する。本明細書において言及される転写因子の任意の変異体、ホモログ、オルソログ又はパラログも本発明における使用が企図される。
【0143】
特定の実施形態では、単一の細胞型のみが、本発明の方法に従う再プログラム化に供される。換言すれば、好ましくは再プログラム化に供される細胞の集団は、均一な又は実質的に均一な細胞集団である。例えば好ましくは、細胞の集団は、線維芽細胞若しくはケラチノサイト又は本明細書に記載されるとおりの任意の他の体細胞型のみを含むか又は主に含む。このように、体細胞を多能性状態に向けて再プログラム化するのに好適な関連性のある因子を決定する際に考慮する必要があるのは、1つの出発細胞型のみであることが理解されるであろう。
【0144】
他の実施形態において、均一な細胞(PBMCなど)の集団は、本明細書に記載される方法に従い再プログラム化し得る。
【0145】
当業者は、本発明の方法を実施するにおいて、例えば、体細胞における転写因子の量の増加をもたらす目的又は体細胞における転写因子の組換え発現のための核酸などを提供する目的のため、この情報を使用し得ることを認識するであろう。
【0146】
【0147】
完全長ポリペプチドと少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%同一のポリペプチドを指すことにおける用語「変異体」である。本発明は、本明細書に記載される転写因子の変異体の使用を企図する。変異体は、完全長ポリペプチドの断片又は天然に存在するスプライス変異体である可能性がある。変異体は、ポリペプチドの断片と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%同一のポリペプチドである可能性があり、断片は、ある体細胞型から標的細胞型への変換を促進する能力など、目的の機能的活性を完全長野生型ポリペプチド又はそのドメインが有する限り、少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%である。一部の実施形態において、ドメインは、配列中の任意のアミノ酸位置から始まってC末端に向けて延びる、少なくとも100、200、300又は400アミノ酸長である。タンパク質の活性を消失させるか又は実質的に減少させるような当技術分野で公知の変異は、好ましくは回避される。一部の実施形態において、変異体は、完全長ポリペプチドのN末端及び/又はC末端部分を欠き、例えば、いずれかの末端から最大10、20又は50アミノ酸を欠いている。一部の実施形態において、ポリペプチドは、成熟(完全長)ポリペプチドの配列を有し、成熟ポリペプチドとは、通常の細胞内タンパク質分解プロセシングの間に(例えば、同時翻訳又は翻訳後プロセシングの間に)シグナルペプチドなどの1つ以上の部分が取り除かれたポリペプチドを意味する。タンパク質が、それを天然に発現する細胞からそれを精製すること以外によって作製される一部の実施形態において、タンパク質はキメラポリペプチドであり、キメラポリペプチドとは、それが2つ以上の異なる種からの部分を持つことを意味する。タンパク質が、それを天然に発現する細胞からそれを精製すること以外によって作製される一部の実施形態において、タンパク質は誘導体であり、誘導体とは、タンパク質が、タンパク質に関係しない追加的な配列を、それらの配列がタンパク質の生物学的活性を実質的に低減しない限りにおいて含むことを意味する。当業者は、特定のポリペプチド変異体、断片又は誘導体が機能性かどうかについて把握しているか、又は当技術分野で公知のアッセイを用いて容易に確認することができるであろう。例えば、転写因子の変異体が体細胞を標的細胞型に変換する能力は、本明細書の実施例に開示されるとおりのアッセイを用いて判定することができる。他の好都合なアッセイとしては、ルシフェラーゼなどの検出可能なマーカーをコードする核酸配列に作動可能に連結された転写因子結合部位を含有するレポーターコンストラクトの転写を活性化させる能力を測定することが挙げられる。本発明の特定の実施形態において、機能変異体又は断片は、完全長野生型ポリペプチドの活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%又はそれを超えるものを有する。
【0148】
細胞を多能性状態に向けて再プログラム化するための因子の量を増加させることに関して、用語「~の量を増加させること」は、目的の細胞(例えば、線維芽細胞などの体細胞)における因子(例えば、転写因子)の分量を増加させることを指す。一部の実施形態において、因子の量は、目的の細胞(例えば、1つ以上の因子をコードするポリヌクレオチドの発現を導く発現カセットが導入されている細胞)において因子の分量が対照(例えば、前記発現カセットのいずれも導入されていない線維芽細胞)と比べて少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれを超えるとき、「増加している」。しかしながら、因子の量を増加させる任意の方法が、因子(又はそれをコードするプレmRNA又はmRNA)の転写、翻訳、安定性又は活性の量、速度又は効率を増加させる任意の方法を含め、企図される。加えて、転写発現の負の制御因子の下方制御又は干渉、既存の翻訳の効率増加(例えばSINEUP)も考えられる。
【0149】
用語「薬剤」は、本明細書で使用されるとき、限定はされないが、小分子、核酸、ポリペプチド、ペプチド、薬物、イオン等、任意の化合物又は物質を意味する。薬剤は、本明細書に記載されるとおりの転写因子を含めた因子の量を増加させる任意の化合物又は物質であり得る。「薬剤」は、限定なしに、合成及び天然に存在するタンパク質性及び非タンパク質性実体を含め、任意の化学物質、実体又は部分であり得る。一部の実施形態において、薬剤は、限定なしに、タンパク質、オリゴヌクレオチド、リボザイム、DNAザイム、糖タンパク質、siRNA、リポタンパク質、アプタマー並びにこれらの修飾及び組み合わせ等を含めた、核酸、核酸類似体、タンパク質、抗体、ペプチド、アプタマー、核酸オリゴマー、アミノ酸又は炭水化物である。特定の実施形態において、薬剤は、化学的部分を有する小分子である。例えば、化学的部分には、マクロライド系薬、レプトマイシン系薬及びその関連する天然産物又は類似体を含め、非置換又は置換アルキル、芳香族又はヘテロ環式部分が含まれた。化合物は、所望の活性及び/又は特性を有することが公知であり得るか、又は多様な化合物のライブラリから選択され得る。
【0150】
用語「外因性」は、細胞又は生物のタンパク質、遺伝子、核酸又はポリヌクレオチドに関して使用されるとき、人工又は天然の手段によって細胞又は生物に導入されたタンパク質、遺伝子、核酸又はポリヌクレオチドを指す;又は細胞に関して使用されるとき、単離され、続いて人工又は天然の手段によって他の細胞又は生物に導入された細胞を指す。外因性核酸は、異なる生物又は細胞からのものであり得るか、又はそれは、生物内又は細胞内に天然で存在する核酸の1つ以上の追加的なコピーであり得る。外因性細胞は、異なる生物からのものであり得るか、又はそれは、同じ生物からのものであり得る。非限定的な例として、外因性核酸は、天然の細胞と異なる染色体位置にあるものであるか、又は他の場合には天然に見られるものと異なる核酸配列が隣接しているものである。外因性核酸は、エピソームベクターなど、染色体外にもあり得る。
【0151】
好適な検出手段としては、ラジオヌクレオチド、酵素、補酵素、蛍光剤、化学発光剤、色原体、酵素基質又は補因子、酵素阻害薬、補欠分子族複合体、フリーラジカル、粒子、色素など、標識の使用が挙げられる。かかる標識された試薬は、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、例えば、ELISA、蛍光イムノアッセイなど、種々の周知のアッセイにおいて使用し得る。例えば、米国特許第3,766,162号明細書;同第3,791,932号明細書;同第3,817,837号明細書;及び同第4,233,402号明細書を参照されたい。
【0152】
本開示の方法は、アッセイシステムにおいて、限定はされないが、1プレート当たり24、48、96又は384ウェルなど、マルチウェルプレート、マイクロチップ又はスライドを含め、任意の許容できる小型化方法を通じて「小型化」され得る。このアッセイは、有利には関わる試薬及び他の材料の量がより少ない、マイクロチップ支持体上で行えるようにサイズを減少させ得る。
【0153】
培養ベッセル
多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の形成は、細胞の凝集又は自己組織化を可能にする任意の好適な容器、プレート、システム又はベッセルにおいて行う。典型的には、培養は、細胞の三次元凝集を可能にする任意の培養プレート、培養ベッセル、マイクロ流体システム又は培養システムで行う。
【0154】
好適な容器、プレート、システム又はベッセルは、好ましくは、非接着性表面を有する。非接着性表面とは、細胞を上に置く表面であって、細胞との接着傾向がほとんど又は全くない表面である。従って、細胞は本質的にこの表面に接着しない。理論によって拘束されることを望むものではないが、非接着性表面を使用すると、細胞が表面に接着するのでなく、代わりに互いに接着し合って、従って本発明における使用のための細胞構造体を形成するような駆動力が付与される。
【0155】
非接着性表面は、非接着性の生物学的又は人工的材料で材料をコーティングすることによって形成され得るか、又は非接着性表面は、非接着性材料に好適な形状を付与することによるか若しくは当技術分野で公知の他の手段によって入手され得る。その中又はその上で細胞凝集体が形成し得る容器は、以下では足場と呼ぶこととする。
【0156】
非接着性表面を備える足場は、例えば、エチレンオキシド、酸化プロピレン、ポリエチレングリコール、(PEG)-(コ)ポリマー(例えばPLL-g-(PEG))、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)(コ)ポリマー、アガロースヒドロゲル、その下限臨界共溶温度(LCST)を下回る感温性材料(例えばポリ(N-イソプロピルアクリルアミド))、疎水性材料(例えばオレフィンポリマー)、細胞剥離性マイクロ及びナノトポグラフィーでできているか又はそれでコーティングされる。
【0157】
従って、本発明に従う細胞凝集体の形成は、好ましくは非接着性足場で実現される。非接着性足場は、本質的に細胞の接着を許容しない少なくとも1つの表面を有する。好ましくは、これは、凝集体を形成させる細胞がその上又はその中に置かれる側面である。非接着性足場は、非接着性材料で形成され得るか、又は非接着性材料でコーティングされた別の材料で形成され得る。非接着性ペトリ皿又はチューブを例えば足場として使用し得るが、好ましくは、足場は、例えば、おおよそ六角形、五角形、正方形、矩形、三角形、楕円形又は円形の形状など、プレート様の形状を有する。
【0158】
より好ましくは、足場は、少なくとも1つの好適なキャビティ又はチャネルを含む。好ましくは、足場には複数のキャビティ又はチャネルが存在する。それらのキャビティ又はチャネルが、形成させようとする細胞凝集体のサイズよりも幾らか大きいならば、好ましい。好適なキャビティ及びチャネルは小さく、例えば、直径20~5000μm、より好ましくは100~1000μmなどであり、最も好ましくは直径100~500μm、特に約200μmのキャビティである。好適なキャビティ又はチャネルは、当技術分野で公知の任意の手段により入手され得る。直径は、キャビティ又はチャネルの開口の周囲上にある任意の対向する2点間の可能な限りで最も長い直線距離として定義される。チャネル又はキャビティは、閉鎖された底を有し、少なくともキャビティ又はチャネルの内側の表面は非接着性材料を含む。
【0159】
好ましくは、キャビティは、長さ及び幅がほぼ同じような大きさの形状を有する。深さもほぼ同じ大きさである。かかるキャビティは、マイクロウェルと呼ばれる。本発明について、非接着性足場がマイクロウェルを含むならば、好ましい。マイクロウェルは、好ましくは、長さがその幅の最大でも約5倍、好ましくは3倍及びより好ましくはほぼ等しく、且つ深さがその幅の10倍を超えない、好ましくは5倍を超えない、より好ましくは最大でも3倍のキャビティである。
【0160】
マイクロウェルの長さは、マイクロウェルの開口の周囲上にある任意の対向する2点間の可能な限りで最も長い直線距離として定義される。従って、マイクロウェルの長さはその直径と見なされ、それは、好ましくは、例えば20~5000μm、より好ましくは100~1000μm及び最も好ましくは100~500μm、特に約200μmである。マイクロウェルの幅は、その長さと垂直なマイクロウェルの開口の周囲上にある任意の対向する2点間の最も長い直線距離として定義される。
【0161】
マイクロウェルの様々な断面積、中でも特に、足場の表面と垂直及び平行な断面積は、不規則な形状を含め、任意の形状であり得るが、好ましくは、マイクロウェルの可能性のある断面積は、独立に、正方形又はほぼ正方形、矩形又はほぼ矩形、三角形又はほぼ三角形、楕円形又はほぼ楕円形又は円形又はほぼ円形である。しかしながら、マイクロウェルが円筒形で、ほぼ足場の表面が円形の開口を有するならば、好ましい。好適なマイクロウェルは、例えば、当技術分野で一般的に使用されるなどのマイクロウェルプレート上に存在する。
【0162】
非接着性足場がマイクロウェルを含む場合、単一の足場に配置された複数のマイクロウェルを有することが有利である。好ましくは、これらのマイクロウェルは、規則的なパターンで配置される。これにより、多数のブラストイドのハイスループット調製が可能になる。
【0163】
一態様において、培養ベッセルは、400μm若しくは800μm又は約400μm~800μm若しくはほぼその程度の逆ピラミッド形のマイクロウェルがアレイ状に並んだ培養プレートである。例示的培養プレートは、AggreWell(商標)プレート、例えばAggreWell(商標)400又は800である。AggreWellプレートの各ウェル内に、幾つものマイクロウェルがある(例えば、24ウェルAggrewellの各ウェルには、1200個のマイクロウェルがある)。
【0164】
細胞は、既知の密度の単一細胞の良く分散した懸濁液をプレートウェルに加え、プレートを穏やかに遠心して細胞を一様にマイクロウェルに押し込むことによってマイクロウェルに播種又は添加し得る。
【0165】
細胞の三次元凝集を可能にする条件には、1ウェル当たり0.5~2×105若しくは約0.5~2×105細胞、1ウェル当たり0.6~2×105若しくは約0.6~2×105細胞、1ウェル当たり0.8~2×105若しくは約0.8~2×105細胞、1ウェル当たり1~2×105若しくは約1~2×105細胞、1ウェル当たり0.6×105若しくは約0.6×105細胞、1ウェル当たり0.8×105若しくは約0.8×105細胞、1ウェル当たり1×105若しくは約1×105細胞、1ウェル当たり1.2×105若しくは約1.2×105細胞、1ウェル当たり1.4×105若しくは約1.4×105細胞、1ウェル当たり1.6×105若しくは約1.6×105細胞、1ウェル当たり1.8×105若しくは約1.8×105細胞又は1ウェル当たり2×105若しくは約2×105細胞の密度(例えば、本明細書に記載されるとおりのAggreWellプレートに細胞を播種するとき;播種は、1マイクロウェル当たり1~1000細胞であり得る)で細胞を播種することが含まれる。好ましくは、細胞は、播種前は単一細胞懸濁液である。好ましくは、細胞は、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈する再プログラム化された体細胞又は本明細書に記載される方法のステップc)及び/又はステップd)の細胞の細胞集団である。
【0166】
培養培地及び条件
用語「細胞培養培地」(本明細書では「培養培地」又は「培地」とも称される)は、本明細書において参照されるとき、栄養素を含有した、細胞生存を維持し、且つ増殖を支持する細胞の培養用培地である。細胞培養培地は、以下のいずれかを適切な組み合わせで含有し得る:1つ又は複数の塩、1つ又は複数の緩衝液、アミノ酸、グルコース又は他の1つ又は複数の糖、抗生物質、血清又は血清代替物等、ペプチド成長因子などの成分等。特定の細胞型に通常使用される細胞培養培地は、当業者に公知である。本発明の方法で使用するための例示的細胞培養培地は、表3に示されるものを含め、本明細書に記載される。
【0167】
本発明の方法における使用のための体細胞は、本明細書に記載されるとおりの、ステップc)で培養培地と接触させるステップ前に多能性状態への再プログラム化が完了している必要はない。換言すれば、細胞は、好ましくは、中間状態にあり、胚盤胞様構造体又は多細胞構造体を入手するための凝集を実現可能にする培養培地と接触させる時点で、分化した状態から多能性状態に移行中である。従って、本明細書に記載されるとおりの、ステップb)の終了時、ステップc)で培養する前の細胞は、再プログラム化中間体と称され得る。
【0168】
特定の実施形態において、多能性状態に向けた再プログラム化を開始させるための細胞の培養期間は、1つ以上の因子のタンパク質発現若しくは量の増加後又は1つ以上の因子のタンパク質発現若しくは量を増加させるために細胞を薬剤と接触させたときから始まって少なくとも1日である。この期間は、1つ以上の因子のタンパク質発現又は量が増加した後の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は21日又はそれを超えるものであり得る。任意の実施形態において、脱分化した多能性状態に向けた再プログラム化を開始させるための細胞の培養期間は、任意の期間であり得るが、但し、それは、体細胞に関連するマーカーの減少を実現可能であるものとする。
【0169】
本発明の更なる実施形態において、上記の方法は、EPI、TE及びPE系統転写シグネチャの上方制御を誘導する培地で細胞を脱分化状態又は多能性状態に向けて培養することを含む。好ましくは、培地は、体細胞(又は再プログラム化の供給源細胞)を培養下に維持するのに好適なものであり、多能性の促進に使用される培地ではないか、又は多能性のみの促進に使用される培地ではない。再プログラム化される体細胞が線維芽細胞である場合、培地は、線維芽細胞培地、例えば表3a及び/又は表3bにおけるものを含む、本明細書に定義される線維芽細胞培地である。表3aにあるものなど、及び
図11に示されるとおり又は再プログラム化の供給源細胞が線維芽細胞でないとき(例えば、供給源細胞が上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト等である場合)、他の培地が好適であり得ることが理解されるであろう;かかる培地の例は、表3bにも掲載される。
【0170】
本明細書で使用されるとき、ステップc)の培養培地は、胚盤胞促進培地又はiBlastoid培地とも称され得る。好ましくは、胚盤胞促進培地又はiBlastoid培地は、本明細書に定義されるとおりのいずれかである。任意の実施形態において、細胞は、ステップc)において、少なくとも約1、少なくとも約2、少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約8、少なくとも約10、少なくとも約12、少なくとも約14、少なくとも約16,少なくとも約20、少なくとも約24日間又はそれを超える期間にわたって培養培地で培養される。
【0171】
任意の実施形態において、体細胞を多能性状態に向けて再プログラム化するための因子のタンパク質発現又は量を増加させることと、ステップc)で細胞を培養培地と接触させることとの間の期間は、任意の期間であり得るが、但し、それは、体細胞に関連するマーカーの減少を実現可能であるものとする。更なる例において、因子のタンパク質発現又は量を増加させることと、ステップc)で細胞を培養培地と接触させることとの間の期間は、任意の期間であり得るが、但し、それは、細胞が間葉上皮移行状態を進行することを実現可能であるものとする。更なる又は代替的な実施形態において、この期間は、任意の期間であり得るが、但し、それは、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び原始内胚葉(PE)転写シグネチャの発現を実現可能であるものとする。
【0172】
別の態様において、本発明は、細胞が胚盤胞様構造体の少なくとも1つの特徴を呈することを促進するための培養培地であって、
- WNT経路のシグナル伝達を活性化させる薬剤(任意選択でGSK-3阻害薬);
- 少なくとも1つ、好ましくは2つのTGF-β阻害薬、
- HDAC阻害薬、
- 成長因子(好ましくはEGF)、及び
- BMP(好ましくはBMP4)
を含む培養培地を提供する。
【0173】
この態様において、WNT経路シグナル伝達を活性化させる薬剤(任意選択でGSK-3阻害薬)、1つ又は複数のTGF-β阻害薬、HDAC阻害薬は、本明細書に記載されるいずれか1つを含め、当技術分野において公知のいずれか1つであり得る。
【0174】
好ましくは、培養培地は、
- ITS-X;
- L-グルタミン;
- N-アセチル-L-システイン;
- β-エストラジオール;
- プロゲステロン;
- 2-メルカプトエタノール;
- L-アスコルビン酸;
- トランスフェリン(例えば、ヒト)、
- インスリン(例えば、ヒト)、
- N2サプリメント;及び
- B27サプリメント
を更に含む。
【0175】
好ましくは、プロゲステロン、トランスフェリン及びインスリンは、本明細書に記載されるとおりの、プトレシン及び亜セレン酸塩を更に含むN2サプリメントで提供される。
【0176】
好ましくは、B27サプリメントは、ビオチン、DLα酢酸トコフェロール、DLαトコフェロール、ビタミンA(酢酸塩)、BSA、カタラーゼ、インスリン(ヒト)、スーパーオキシドジスムターゼ、コルチコステロン、D-ガラクトース、エタノールアミンHCL、グルタチオン、L-カルニチンHCL、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン2HCl、亜セレン酸ナトリウム、T3(トリヨード-l-チロニン)を含む。
【0177】
任意の実施形態において、培養培地は、抗生物質、例えばペニシリン-ストレプトマイシンを更に含む。
【0178】
一実施形態において、培養培地は、
- それぞれ2:1:1の比の、本明細書に定義されるとおりのIVC1培地、N2B27基本培地及びTSC基本培地、
- WNT経路のシグナル伝達を活性化するための薬剤(任意選択でGSK-3阻害薬)、
- 少なくとも1つ、好ましくは2つのTGF-β阻害薬、
- HDAC阻害薬、
- 成長因子(好ましくはEGF)、及び
- BMP(好ましくはBMP4)
を含む。
【0179】
好ましくはTGF-β経路阻害薬は、SB431542及びA83-01から選択され、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)1阻害薬は、VPA(バルプロ酸)であり、GSK-3阻害薬は、CHIR99021である。
【0180】
好ましくは、GSK-3阻害薬は、2μM又は約2μMの濃度であり、TGF-β経路阻害薬は、0.5μM若しくは1μM又は約0.5μM若しくは1μMの濃度であり、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)1阻害薬は、0.8mM又は約0.8mMの濃度であり、EGFは、50ng/ml又は約50ng/mlの濃度であり、及びBMP4は、10ng/ml又は約10ng/mlの濃度である。
【0181】
本明細書で使用されるとき、成長因子とは、任意の成長因子であり得るが、好ましくは上皮成長因子(EGF)、インスリン、形質転換成長因子(TGF)から選択されるものである。成長因子の量は、任意の量、例えば、0.1~1000ng/ml、好ましくは10~100ng/ml、好ましくは50ng/mlであり得る。
【0182】
本明細書で使用されるとき、ROCK阻害薬とは、Rho結合キナーゼの阻害薬を指す。かかる阻害薬の例としては、((1R,4r)-4-((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド、Abcam)、別名trans-N-(4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド、1-(5-イソキノリニル)(スルホニル)ホモピペラジン (1-(5-イソキノリニルスルホニル)ホモピペラジンが挙げられる。典型的にはROCK阻害薬の量は、約0.1~50μM、好ましくは約1~10μMである。
【0183】
好ましくは、ROCK阻害薬は、Y-27632である。好ましくは、ROCK阻害薬は、10μM又は約10μMの濃度である。
【0184】
別の態様において、培養培地は、表3aに定義されるとおりの線維芽細胞培地、N2B27基本培地、TSC基本培地、IVC1培地、IVC2培地又はヒトiBlastoid培地を含むか又はそれからなる。
【0185】
任意の態様において、本発明の任意の方法のステップc)に定義される培養培地は、限定はされないが、表3aにあるものを含め、本明細書に定義されるとおりのヒトiBlastoid培地を含め、本発明の任意の培養培地であり得る。
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
核酸及びベクター
本明細書に記載されるとおりの核酸又は核酸を含むベクターには、上記の表2に言及される配列の1つ以上が含まれ得る。核酸又はベクターは、体細胞を多能性状態に向けて再プログラム化するための因子の1つ以上をコードする配列を含み得る。
【0191】
用語「発現」は、適用可能な場合、限定はされないが、例えば転写、翻訳、折り畳み、修飾及びプロセシングを含めた、RNA及びタンパク質の産生並びに適宜タンパク質の分泌が関わる細胞過程を指す。
【0192】
用語「単離されている」又は「部分的に精製されている」は、本明細書で使用されるとき、核酸又はポリペプチドの場合、その天然の供給源に見られるとおりのその核酸又はポリペプチドと共に存在し、且つ/又は細胞が発現したとき若しくは分泌型のポリペプチドの場合には分泌されたときにその核酸又はポリペプチドと共に存在するであろう少なくとも1つの他の成分(例えば、核酸又はポリペプチド)から分離されている核酸又はポリペプチドを指す。化学的に合成された核酸又はポリペプチド又はインビトロ転写/翻訳を用いて合成されるものは、「単離されている」と見なされる。
【0193】
用語「ベクター」は、宿主又は体細胞への導入のためDNA配列を挿入することができる担体DNA分子を指す。好ましいベクターは、自己複製能を有するもの及び/又はそれが連結されている核酸の発現能を有するものである。それが作動可能に連結されている遺伝子の発現を導く能力を有するベクターは、本明細書では「発現ベクター」と称される。従って、「発現ベクター」は、宿主細胞における目的の遺伝子の発現に必要な必須調節領域を持つ特殊化したベクターである。一部の実施形態において、目的の遺伝子は、ベクター内で別の配列に作動可能に連結されている。ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターであり得る。ウイルスベクターが使用される場合、そのウイルスベクターは複製欠損であることが好ましく、複製欠損は、例えば、複製をコードする全てのウイルス核酸を除去することによって実現し得る。複製欠損ウイルスベクターは、その感染特性はなおも保持しており、複製性アデノウイルスベクターと同じような方法で細胞に侵入するが、しかしながら、細胞に入った後、複製欠損ウイルスベクターは、複製又は増殖しない。ベクターは、リポソーム及びナノ粒子並びにDNA分子を細胞に送達する他の手段も含む。
【0194】
用語「作動可能に連結された」は、コード配列の発現に必要な調節配列がDNA分子内でコード配列に対し、コード配列の発現を行うような適切な位置に置かれていることを意味する。これと同じ定義が、時に発現ベクター内でのコード配列及び転写制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー及び終結エレメント)の配置に適用される。用語「作動可能に連結された」には、発現させようとするポリヌクレオチド配列の前に適切な開始シグナル(例えばATG)を有すること並びに発現制御配列の制御下でのポリヌクレオチド配列の発現及びポリヌクレオチド配列によってコードされる所望のポリペプチドの産生を許容するような正しいリーディングフレームを維持していることが含まれる。
【0195】
用語「ウイルスベクター」は、細胞内への核酸コンストラクトの担体としてのウイルス又はウイルス関連ベクターの使用を指す。コンストラクトは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)又は単純ヘルペスウイルス(HSV)又は他のレトロウイルス及びレンチウイルスベクター、センダイウイルスベクターを含めた、細胞への感染又は形質導入のためのもののような非複製性の欠損ウイルスゲノムに組み込まれ、パッケージされ得る。ベクターは細胞のゲノムに取り込まれても又は取り込まれなくてもよい。コンストラクトには、必要に応じて、トランスフェクションのためのウイルス配列が含まれ得る。代わりに、コンストラクトは、エピソーム複製能を有するベクター、例えばEPV及びEBVベクターに取り込まれ得る。
【0196】
本明細書で使用されるとき、用語「アデノウイルス」は、アデノウイルス科(Adenovirida)のウイルスを指す。アデノウイルスは、ヌクレオカプシドと二本鎖線状DNAゲノムとで構成される中型(90~100nm)のエンベロープを持たない(ネイキッドの)正二十面体ウイルスである。
【0197】
本明細書で使用されるとき、用語「非組込み型ウイルスベクター」は、宿主ゲノムに組み込まれないウイルスベクターを指す;このウイルスベクターによって送達される遺伝子の発現は、一時的である。宿主ゲノムへの組込みがほとんど乃至全くないため、非組込み型ウイルスベクターには、ゲノム中のランダムな点における挿入によってDNA突然変異を生じさせることがないという利点がある。例えば、非組込み型ウイルスベクターは染色体外に留まり、その遺伝子を宿主ゲノムに挿入しないため、内因性遺伝子の発現を破綻させる可能性がない。非組込み型ウイルスベクターとしては、限定はされないが、以下を挙げることができる:アデノウイルス、アルファウイルス、ピコルナウイルス及びワクシニアウイルス。何らかのまれな状況では、これらのいずれかがウイルス核酸を宿主細胞のゲノムに組み込み得る可能性があるにせよ、これらのウイルスベクターは、この用語が本明細書において使用されるとおりの「非組込み型」ウイルスベクターである。決定的に重要なことは、本明細書に記載される方法において用いられるウイルスベクターが、原則として又は用いられる条件下でのそのライフサイクルの主要な部分として、その核酸を宿主細胞のゲノムに組み込まない点である。
【0198】
本明細書に記載されるベクターは、治療法で使用する際のその安全性を増加させること、必要に応じて選択及び濃縮マーカーを包含すること及びそこに含まれるヌクレオチド配列の発現を最適化することが科学文献において概して公知の方法を用いて構築及び操作することができる。ベクターは、ベクターがその体細胞型において自己複製することを許容する構造成分を含まなければならない。例えば、公知のエプスタイン・バーoriP/核抗原-1(EBNA-I)の組み合わせ(例えば、Lindner,S.E.and B.Sugden,The plasmid replicon of Epstein-Barr virus:mechanistic insights into efficient,licensed,extrachromosomal replication in human cells,Plasmid 58:1(2007)(その全体が本明細書に示されたものとして参照によって援用される)を参照されたい)は、ベクターの自己複製を支持するのに十分であり、哺乳類、特に霊長類の細胞で機能することが公知の他の組み合わせも用いることができる。本発明での使用に好適な発現ベクターを構築する標準的な技法は当業者に周知であり、Sambrook J,et al.,“Molecular cloning:a laboratory manual,”(3rd ed.Cold Spring harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.2001)(その全体が示されたものとして参照により本明細書に援用される)などの刊行物を参照することができる。
【0199】
本発明の方法では、変換に必要な関連性のある転写因子をコードする遺伝子材料は、1つ以上の再プログラム化ベクターによって体細胞に送達される。各転写因子は、体細胞でのポリヌクレオチドの発現をドライブすることのできる異種プロモーターに作動可能に連結された転写因子をコードするポリヌクレオチドトランス遺伝子として体細胞に導入することができる。
【0200】
好適な再プログラム化ベクターは、プラスミドなどのエピソームベクターを含め、感染性又は複製コンピテントのウイルスを生じさせるのに十分なウイルスゲノムの全て又は一部をコードしない本明細書に記載される任意のものであるが、こうしたベクターは、1つ以上のウイルスから入手される構造エレメントを含有することができる。単一の体細胞に1つ又は複数の再プログラム化ベクターを導入することができる。単一の再プログラム化ベクターに1つ以上のトランス遺伝子を提供することができる。1つの強力な構成的転写プロモーターが複数のトランス遺伝子の転写制御を提供することができ、これらは発現カセットとして提供され得る。ベクター上の別個の発現カセットが別個の強力な構成的プロモーターの転写制御下にあり得、これらは、同じプロモーターのコピーであり得るか、又は異なるプロモーターであり得る。様々な異種プロモーターが当技術分野で公知であり、転写因子の所望の発現レベルなどの要因に応じて使用することができる。以下に例証するとおり、細胞において別個の発現カセットの転写を異なる強度の異なるプロモーターを使用して制御することが有利であり得る。転写プロモーターの選択において考慮すべき別の点は、1つ又は複数のプロモーターがサイレンシングされる速度である。当業者は、1つ又は複数の遺伝子の産生が完了した後又は再プログラム化方法におけるその役割を実質的に完了した後、1つ以上のトランス遺伝子又はトランス遺伝子発現カセットの発現を減少させることが有利であり得ることを認識するであろう。例示的プロモーターは、ヒトEF1α伸長因子プロモーター、CMVサイトメガロウイルス前初期プロモーター及びCAGニワトリアルブミンプロモーター及び他の種由来の対応する相同プロモーターである。ヒト体細胞では、EF1α及びCMVの両方が強力なプロモーターであるが、CMVプロモーターはEF1αプロモーターよりも効率的にサイレンシングされるため、前者の制御下にあるトランス遺伝子の発現は、後者の制御下にあるトランス遺伝子と比べてより早くオフになる。これらの転写因子を体細胞において様々に異なり得る相対比率で発現させることにより、再プログラム化効率を調節することができる。好ましくは、複数のトランス遺伝子が単一の転写物上にコードされる場合、転写プロモーターの遠位にある1つ又は複数のトランス遺伝子の上流に配列内リボソーム進入部位が提供される。因子の相対比率は、送達される因子に依存して変わり得るが、本開示を把握している当業者は、因子の最適な比率を決定することができる。
【0201】
当業者は、全ての因子を導入する効率は、複数のベクターによるよりむしろ、単一のベクターによる方が有利であるが、全体的なベクターサイズが増加するにつれ、ベクターの導入が次第に困難になることを認識するであろう。当業者は、ベクター上における転写因子の位置がその時間的発現及び結果として生じる再プログラム化効率に影響し得ることも認識するであろう。このように、本発明の方法は、ベクターの組み合わせに対して様々な組み合わせの因子を使用して実施することができる。幾つかのかかる組み合わせは、再プログラム化を支持することが公知である。
【0202】
1つ又は複数の再プログラム化ベクターを導入した後、体細胞が再プログラム化されている間、ベクターは標的細胞に残り続け得る一方、導入されたトランス遺伝子は転写され、翻訳される。トランス遺伝子発現は有利には、標的細胞型に再プログラム化され終えた細胞では下方制御されるか又はオフになり得る。1つ又は複数の再プログラム化ベクターは染色体外に留まる。効率が極めて低いとき、1つ又は複数のベクターは細胞のゲノムに組み込まれ得る。以下の例は、本発明を例示することを意図しており、本発明を限定する意図は一切ない。
【0203】
本発明で使用する細胞、組織又は生物の形質転換に好適な核酸送達方法には、本明細書に記載されるとおりの又は当業者に公知であろうとおりの、核酸(例えば、DNA)を細胞、組織又は生物に導入することのできる事実上任意の方法が含まれると考えられる(例えば、Stadtfeld and Hochedlinger,Nature Methods 6(5):329-330(2009);Yusa et al.,Nat.Methods 6:363-369(2009);Woltjen,et al.,Nature 458,766-770(9 Apr.2009))。かかる方法としては、限定はされないが、DNAの直接送達、例えば、エキソビボトランスフェクション(Wilson et al.,Science,244:1344-1346,1989、Nabel and Baltimore,Nature 326:711-713,1987)であって、任意選択でFugene6(Roche)又はLipofectamine(Invitrogen)などの脂質ベースのトランスフェクション試薬を伴うものによるもの、注入(米国特許第5,994,624号明細書、同第5,981,274号明細書、同第5,945,100号明細書、同第5,780,448号明細書、同第5,736,524号明細書、同第5,702,932号明細書、同第5,656,610号明細書、同第5,589,466号明細書及び同第5,580,859号明細書、それぞれ参照により本明細書に援用される)であって、マイクロインジェクション(Harland and Weintraub,J.Cell Biol.,101:1094-1099,1985;米国特許第5,789,215号明細書、参照により本明細書に援用される)を含めたもの;電気穿孔によるもの(米国特許第5,384,253号明細書、参照により本明細書に援用される;Tur-Kaspa et al.,Mol.Cell Biol.,6:716-718,1986;Potter et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,81:7161-7165,1984);リン酸カルシウム沈殿によるもの(Graham and Van Der Eb,Virology,52:456-467,1973;Chen and Okayama,Mol.Cell Biol.,7(8):2745-2752,1987;Rippe et al.,Mol.Cell Biol.,10:689-695,1990);DEAE-デキストランと、続くポリエチレングリコールを使用することによるもの(Gopal,Mol.Cell Biol.,5:1188-1190,1985);直接の音波負荷によるもの(Fechheimer et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,84:8463-8467,1987);リポソーム媒介性トランスフェクションによるもの(Nicolau and Sene,Biochim.Biophys.Acta,721:185-190,1982;Fraley et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,76:3348-3352,1979;Nicolau et al.,Methods Enzymol.,149:157-176,1987;Wong et al.,Gene,10:87-94,1980;Kaneda et al.,Science,243:375-378,1989;Kato et al.,J Biol.Chem.,266:3361-3364,1991)及び受容体媒介性トランスフェクション(Wu and Wu,Biochemistry,27:887-892,1988;Wu and Wu,J.Biol.Chem.,262:4429-4432,1987);及びかかる方法の任意の組み合わせ(これらの各々が参照により本明細書に援用される)が挙げられる。
【0204】
これまで、細胞への関連する分子の導入を媒介する能力を有する幾つものポリペプチドが記載されており、本発明に応用することができる。例えば、Langel(2002)Cell Penetrating Peptides:Processes and Applications,CRC Press,Pharmacology and Toxicology Seriesを参照されたい。膜を越えた輸送を増強するポリペプチド配列の例としては、限定はされないが、ショウジョウバエ属(Drosophila)ホメオタンパク質アンテナペディア転写タンパク質(AntHD)(Joliot et al.,New Biol.3:1121-34,1991;Joliot et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:1864-8,1991;Le Roux et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:9120-4,1993)、単純ヘルペスウイルス構造タンパク質VP22(Elliott and O’Hare,Cell 88:223-33,1997);HIV-1転写活性化因子TATタンパク質(Green and Loewenstein,Cell 55:1179-1188,1988;Frankel and Pabo,Cell 55:1 289-1193,1988);カポジFGFシグナル配列(kFGF);タンパク質形質導入ドメイン-4(PTD4);ペネトラチン、M918、トランスポータン-10;核局在化配列、PEP-Iペプチド;両親媒性ペプチド(例えば、MPGペプチド);米国特許第6,730,293号明細書に記載されるなどの送達増強輸送体(限定はされないが、少なくとも5~25個以上の連続するアルギニン又は連続する一組の30、40又は50アミノ酸中の5~25個以上のアルギニンを含むペプチド配列を含む;限定はされないが、十分な、例えば、少なくとも5個のグアニジノ又はアミジノ部分を有するペプチドを含む);及び市販のPenetratin(商標)1ペプチド及び仏国パリのDaitos S.A.から入手可能なVectocell(登録商標)プラットフォームのDiatosペプチドベクター(「DPV」)が挙げられる。国際公開第2005/084158号パンフレット及び国際公開第2007/123667号パンフレット並びにそれに記載される更なる輸送体も参照されたい。これらのタンパク質が細胞膜を通過できるのみならず、本明細書に記載される転写因子などの他のタンパク質の付着が、これらの複合体の細胞取込みを刺激するには十分である。
【0205】
使用及び適用
本発明に従って作り出されるとおりの、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体は、胚盤胞又はそこにある細胞の発生及び/又は活性に関連する障害のモデルシステムの調製にも使用し得る。このシステムは、胚盤胞に発現するか又は胚盤胞の分化及び/又は活性に不可欠な遺伝子のスクリーニングにおいて、発生に影響を及ぼす薬剤及び条件(培養条件及び操作など)をスクリーニングするため、特定の成長因子及びホルモンを産生するか、又は発生に関連する障害に対する細胞療法として有用性が見出される。
【0206】
従って、本発明のある態様によれば、胚盤胞の発生及び/又は活性を調節する能力を有する薬剤を同定する方法であって、
(i)好ましくは本発明の方法に従って作り出される、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を候補薬剤と接触させること;及び
(ii)前記薬剤との前記接触後の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性を薬剤なしでの多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性と比較すること
を含む方法が提供され、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の前記発生及び/又は活性に対する前記薬剤の効果が、薬剤なしでの多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の前記発生及び/又は活性に対して所定のレベルだけ上回ることは、前記薬物が胚盤胞の発生及び/又は活性を調節することを示す。
【0207】
本明細書で使用されるとき、用語「調節すること」は、阻害するか又は促進するかのいずれかによって胚盤胞の発生及び/又は活性を変化させることを指す。
【0208】
具体的な実施形態によれば、調節することは、発生及び/又は活性を阻害することである。
【0209】
具体的な実施形態によれば、調節することは、発生及び/又は活性を促進することである。
【0210】
同じ培養条件について、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性に対する候補薬剤の効果は、概して、同じ種の、但し候補薬剤と接触していないか、又は対照とも称される、媒体対照と接触した多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体における発生及び/又は活性との比較で表現される。
【0211】
本明細書で使用されるとき、語句「所定のレベルを上回る効果」は、薬剤と接触させた後の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の発生及び/又は活性の変化が、候補薬剤と接触させる前の本明細書に記載される任意のマーカーの存在又はレベルと比べて、約10%など、所定のレベルより高い、例えば、約20%より高い、例えば、約30%高い、例えば、約40%高い、例えば、約50%高い、例えば、約60%高い、約70%高い、約80%高い、約90%高い、約2倍高い、約3倍高い、約4倍高い、約5倍高い、約6倍高い、約7倍高い、約8倍高い、約9倍高い、約20倍高い、約50倍高い、約100倍高い、約200倍高い、約350より高い、約500倍高い、約1000倍高い又はそれを超えて高いことを指す。
【0212】
具体的な実施形態によれば、候補薬剤は、限定はされないが、化学物質、小分子、ポリペプチド及びポリヌクレオチドを含め、任意の化合物であり得る。
【0213】
具体的な実施形態によれば、選択される薬剤は、本明細書に記載される病態など、胚盤胞の発生又は活性の調節が必要な様々な病態の治療に更に使用され得る。
【0214】
本発明の別の態様によれば、胚盤胞は、幾つかの分泌型成長因子及びホルモン並びにエキソソームなどの粒子を産生するため、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体によって作製された化合物又は粒子を入手する方法であって、本発明の多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体を培養することと、細胞によって分泌される化合物又は粒子を培養培地から単離することとを含み、それにより多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体によって作製された化合物又は粒子を入手する方法が提供される。
【0215】
本明細書に概説されるとおり、本発明は、ヒトブラストイドに直接再プログラム化される体細胞を提供し、且つ自然発生のヒト胚盤胞の使用を伴わない手法を提供する。完全を期するならば、本発明の方法は、
- 胚の破壊を伴わない;
- 受精を伴わない;
- 卵母細胞の活性化を伴わない;
- ヒトになるまで発生することができない;及び
- ヒトを作成する過程の一ステップでない;及び
- 妊婦から採取した初代天然媒体を伴わない。
【0216】
更に、多層細胞構造体又は胚盤胞様構造体の培養は必要最小限の時間、例えば最大でも5日の追加日数(約E11に相当する)、好ましくは4.5日間であり、原始線条の形態学的エビデンスの前に実験を終了する。
【実施例】
【0217】
実施例1-倫理声明
本研究は、モナッシュ大学施設内ヒト研究倫理委員会(Institutional Monash University Human Research Ethics Committee)の承認(MUHREC 2020-22909-39935により、MUHREC 2020-27147-51995による)を得て行われた。MUHREC 2020-22909-39935は、再プログラム化を受けるヒト線維芽細胞の機能的及び分子的特徴付けが関わる、3次元オルガノイドベースの培養システム(ブラストイド)を使用してそれらの細胞を特徴付けるための作業を適用範囲とした。MUHREC 2020-27147-51995は、iBlastoidの作成、分子的及び機能的特徴付けを適用範囲とした。
【0218】
更に、現在のところ、ヒトブラストイドモデルで作業する先例がないため、本発明者らの施設内ヒト研究倫理委員会の承認を求める傍ら、本発明者らは、全ての実験を既発表の推奨(Hyun et al.Stem Cell Reports 14,169-174(2020))に従うと共に、ヒト胚の培養を受精後14日及び/又は原始線条(PS)の形成のいずれか早い方までとする国際合意(Warnock,Ir.Nurs.News 5,7-8(1985))を順守して実施した。
【0219】
(出発材料が胚起源でないため)iBlastoidに関する「14日ルール」の適用可能性が不明確であることを所与として、HDFは、成人組織に由来し、本発明者らは、国際的ガイドライン(Hyun and Warnock、前掲)の範囲内に十分に留まるように、iBlastoidの培養を必要最小限の時間、この場合、最大でも5日の追加日数(約E11に相当)とすることと、PSの形態学的エビデンスの前に実験を終了することとに焦点を置いた。
【0220】
PS形成の分子的エビデンスを除外するため、本発明者らは、5日間胚付着培養の間に幾つかの鍵となる原始線条マーカーのqRT-PCR 24時間経時解析を実施し(Xiang,L.et al.Nature 577,537-542(2020);Takahashi,K.et al..Nat.Commun.5,3678(2014);Tyser,et al.bioRxiv(2020))、TBXT、エオメス若しくはMIXL1の上方制御又は原腸形成を指示するいかなる形態学的変化も認めなかった(Tyser、前掲;O’Rahilly,R.&Mueller,F.Developmental stages in human embryos:revised and new measurements.Cells Tissues Organs 192,73-84(2010);Yamaguchi,Y.&Yamada,S.Cells Tissues Organs 205,314-319(2018))(
図8b、
図8a)。従って、5日間のiBlastoid付着培養では、EPI区画はPSの形成まで進まなかった。それにも関わらず、上記のパラメータを厳密に順守することにより、以降のヒトiBlastoid付着培養実験は、全てiBlastoid形成後合計4.5日間実施した(
図8a)。
【0221】
実施例2-細胞培養培地
線維芽細胞培地:DMEM(ThermoFisher)、10%ウシ胎仔血清(FBS、ThermoFisher)、1%非必須アミノ酸(ThermoFisher)、1mM GlutaMAX(ThermoFisher)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher)、55μM 2-メルカプトエタノール(ThermoFisher)及び1mMピルビン酸ナトリウム(ThermoFisher)。
【0222】
N2B27基本培地:2mM L-グルタミン(ThermoFisher)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(ThermoFisher)、0.5%N2サプリメント(ThermoFisher)、1%B27サプリメント(ThermoFisher)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher)を補足した、DMEM/F-12(ThermoFisher)とNeurobasal培地(ThermoFisher)との50:50混合物。
【0223】
TSC基本培地:0.3%BSA(Sigma)、0.2%FBS(ThermoFisher)、1%ITS-Xサプリメント(ThermoFisher)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(ThermoFisher)、0.5%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher)、1.5μg/ml L-アスコルビン酸(Sigma)を補足した、DMEM/F-12、GlutaMAX(ThermoFisher)。
【0224】
IVC1培地:Advanced DMEM/F-12(ThermoFisher)、1%ITS-Xサプリメント(ThermoFisher)、2mM L-グルタミン(ThermoFisher)、0.5%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher)、20%ウシ胎仔血清(FBS、ThermoFisher)、25μM N-アセチル-L-システイン(Sigma)、8nM β-エストラジオール(Sigma)及び200ng/mlプロゲステロン(Sigma)。IVC2培地:Advanced DMEM/F-12(ThermoFisher)、1%ITS-Xサプリメント(ThermoFisher)、2mM L-グルタミン(ThermoFisher)、0.5%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher)、30%ノックアウト血清代替物(KSR、ThermoFisher)、25μM N-アセチル-L-システイン(Sigma)、8nM β-エストラジオール(Sigma)及び200ng/mlプロゲステロン(Sigma)。
【0225】
ヒトiBlastoid培地:2μM CHIR99021(Miltenyi Biotec)、0.5μM A83-01(Sigma)、1μM SB431542、0.8mMバルプロ酸(VPA、Sigma)、50ng/ml EGF(Peprotech)及び10ng/ml BMP4(Miltenyi Biotec)を補足した、それぞれ2:1:1の比のIVC1培地、N2B27基本培地及びTSC基本培地。
【0226】
【0227】
実施例3-再プログラム化によるiBlastoid作成
この研究で使用した細胞系は、全て研究報告要約(Reporting Summary)に記載されるとおり認証され、マイコプラズマ検査を受けた。3例の異なる女性ドナーからの初代ヒト成人皮膚線維芽細胞(HDFa)をThermoFisherから入手し(カタログ番号C-013-5C並びに38Fはロット番号1029000、55Fはロット番号1528526及び32Fはロット番号1569390)、細胞を回復させ、低血清成長サプリメント(LSGS)(ThermoFisher)を補足した培地106(ThermoFisher)に播いて増大させた。
【0228】
ヒト体細胞再プログラム化を以前に記載されたとおり実施して(Liu,X.et al.Nat.Methods 14,1055-1062(2017))、21日目再プログラム化中間体を入手した。簡潔に言えば、ヒト線維芽細胞の再プログラム化は、CytoTune-iPS 2.0 Sendai再プログラム化キットを製造者の指示に従って使用して(ThermoFisher、ロット番号2170052)行った。初代HDFaを線維芽細胞培地に約5~10×10
4細胞の密度で播種した。
図1aに示されるとおり、細胞をFM中にてセンダイウイルスによって以下のとおりの感染多重度(MOI)、KOS(KLF4-OCT4-SOX2)MOI=5、c-MYC MOI=5、KLF4 MOI=6で形質導入した。培地交換を形質導入後1日目から開始して隔日で行い、8日目以降は毎日行った。再プログラム化の21日目、細胞を解離し、24ウェルAggrewellプレート(Stem Cell Technologies)において、製造者の指示に従って10μM Y-27632(ROCK阻害薬、Selleckchem)を補足したヒトiBlastoid培地に1ウェル当たり1.2×10
5細胞の密度で播種した。細胞をインキュベーターにおいて37℃、5%O2及び5%CO2で培養した。24時間後、細胞にROCK阻害薬のない新鮮なヒトiBlastoid培地を補充した。AggrewellでのiBlastoid形成の6日目、続く分析又はインビトロ付着アッセイのためiBlastoidを回収した。iBlastoidの作成に使用した培養培地の詳細は、上記の実施例2にまとめている。
【0229】
本発明者らは、体細胞再プログラム化を以前に記載されたとおり実施して(Liu,X.et al.Nat.Methods 14,1055-1062(2017))、組込みのないセンダイウイルスを使用することによりOCT4/POU5F1、KLF4、SOX2及びc-MYC(OKSM)転写因子(TF)を送達して、21日目再プログラム化中間体を入手した。代わりに、本発明者らは体細胞再プログラム化を、本明細書の実施例11に更に記載するとおり、転写因子のmRNAトランスフェクションによって実施した。本発明者ら、実施例12及び13に記載するとおり、同様の手法を用いて別の体細胞を再プログラム化し得ることも実証し、従って再プログラム化中間体を本発明の方法における使用のために様々な体細胞から入手し得ることを確立した。
【0230】
中間体をAggreWellシステムへと、WNT活性化薬、TGF-β阻害薬、HDAC阻害薬、EGF及びBMP4を含有する培地に切り替えたとき(「方法」を参照されたい)(
図1a)、中間体は凝集体を形成し始め、3日目から空洞を形成し、徐々に拡大した(
図2b)。5~6日目までに胚盤胞様構造体が明確になり(
図1b)、この構造体のNANOGに関する免疫蛍光染色により、NANOG陽性細胞を有する内部細胞塊(ICM)様細胞内区画が胞胚腔様の空洞と共にNANOG陰性細胞の外層に取り囲まれていることが明らかになった(
図1c)。この構造体は体細胞の再プログラム化によって直接得られたため、これを「ヒト誘導ブラストイド」(iBlastoid)と称した。更に、iBlastoidのx軸及びy軸直径、x:yアスペクト比並びに投影面積の測定値から、それが受精後胚齢5~7日目(E5~7)のヒト胚盤胞の既発表の測定値と同等のサイズを有することが明らかになった(
図1d~
図1h)。加えて、iBlastoidの細胞数は100~400の範囲であり、中央値は約280細胞であった。細胞数中央値はE5~7のヒト胚盤胞についての報告値(近似平均値240細胞)よりもやや大きいが、それでもなお、これまでE5~7胚盤胞について報告されている範囲内である(
図1i)。iBlastoid形成効率を定量化するため100個のランダムな構造体をカウントし、14%が、胞胚腔の空洞を含む典型的な胚盤胞様形態を呈することが分かった(
図2c)。AggreWellシステムにおけるiBlastoid形成の間、iBlastoidの一部でない接着性の細胞クラスターがマイクロウェルの縁部に沿って一貫して観察された。これらは、再プログラム化培養物からの不応性線維芽細胞であると仮定された(
図2d)。これを確かめるため、この細胞クラスターを単離し、線維芽細胞培地で培養したところ、古典的線維芽細胞形態を持つ細胞の増殖が起こった(
図2d)。これは、この再プログラム化不応性線維芽細胞がiBlastoid形成に寄与しなかったことを示唆した。IVF胚盤胞品質基準(良い=1、普通=2又は悪い=3)を用いた(The Istanbul consensus workshop on embryo assessment:proceedings of an expert meeting.Hum.Reprod.26,1270-1283(2011)に記載される手法に従うiBlastoidのスコア化によれば、iBlastoidには良い又は普通の評点が付き、平均スコアはICMについて1.75及びTEについて1.67であることが示された(
図2i~
図2k)。
【0231】
要約すれば、これらのデータは、再プログラム化中間体を使用して、構造的に胚盤胞と類似した「iBlastoid」と名付けられるヒト胚盤胞様構造体を直接作成できることを実証している。
【0232】
実施例4-iBlastoid特徴付けの材料及び方法
免疫蛍光染色
iBlastoid/細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA、Sigma)に固定し、DPBS(ThermoFisher)中0.5%Triton X-100(Sigma)で透過処理して、ブロッキング緩衝液(DPBS(ThermoFisher)中3%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma)+0.1%Tween-20(Sigma))でブロックした。この研究で使用した全ての抗体を以下の表に掲載する。
【0233】
【0234】
【0235】
例えば、使用した一次抗体:ブロッキング緩衝液中に調製したウサギ抗NANOGポリクローナル(1:100、Abcam)、マウス抗CDX2 IgG1(1:50、Abcam)。一次抗体インキュベーションは振盪機上4℃で一晩行い、続いてrtpインキュベーションを二次抗体(ブロッキング緩衝液中1:500)と共に3時間行った。この研究で使用した二次抗体は、NANOGについてヤギ抗ウサギIgG AF555(1:500、ThermoFisher)又はヤギ抗ウサギIgG AF647(1:500、Invitrogen)、CDX2についてヤギ抗マウスIgG AF488(1:400、ThermoFisher)又はヤギ抗マウスIgG AF488(1:500、ThermoFisher)であった。標識後、iBlastoid/細胞をブロッキング緩衝液中5μg/mlの濃度の4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、二塩酸塩(DAPI、ThermoFisher)で1時間染色した。SP8倒立共焦点顕微鏡(Leica)又はLSM780多光子共焦点顕微鏡(Zeiss)を使用して画像を取得した。
【0236】
共焦点イメージング及び解析
SP8倒立共焦点顕微鏡(Leica)又はレーザー走査型共焦点(LSM 780顕微鏡、Zeiss)をConfocor 3モジュール(Zeiss)の水浸紫外可視赤外アポクロマート40倍1.2NA対物レンズ及び高感度アバランシュフォトダイオード光検出器と共に使用して、免疫染色したiBlastoidを画像化した。iBlastoidの3次元視覚化は、Imaris 9.5ソフトウェア(Bitplane AG)を使用して実施した。細胞及びiBlastoidのセグメンテーションには手動表面レンダリングモジュールを使用した。最終的な画像は、Adobe Photoshop又はImageJを使用して処理し、アセンブルした。
【0237】
蛍光活性化細胞選別(FACS)
iBlastoidをTrypLE Express(ThermoFisher)で解離し、2%FBS(ThermoFisher)及び10μM Y-27632(Selleckchem)を補足したDPBS(ThermoFisher)を使用して試料を最終的に再懸濁した。解離された細胞を400×gで5分間ペレット化し、次にヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma)を2μg/mlの濃度となるように加えて500μlの最終容積に再懸濁した。Influx機器(BD Biosciences)において100μmノズルで細胞選別を実行した。
【0238】
定量的RT-PCR
RNeasyマイクロキット(Qiagen)又はRNeasyミニキット(Qiagen)及びQIAcube(Qiagen)を製造者の指示に従って使用して、細胞からRNAを抽出した。次に、SuperScript III cDNA合成キット(ThermoFisher)又はQuantiTect逆転写キット(Qiagen、カタログ番号205311)を使用して逆転写を実施し、QuantiFast SYBR Green PCRキット(Qiagen)を使用してリアルタイムPCR反応をトリプリケートでセットアップし、次に7500リアルタイムPCRシステム(ThermoFisher)で実行した。この研究で使用したqRT-PCRプライマーを以下の表に示す。
【0239】
【0240】
中胚葉分化
原始線条マーカーのqRT-PCRの陽性対照は、既発表の中胚葉分化プロトコル(Lam,A.Q.et al.J.Am.Soc.Nephrol.25,1211-1225(2014))を修正することにより入手した。簡潔に言えば、E8培地(ThermoFisher)で50%コンフルエンシーに成長させたヒトiPSCについて、RPMI、GlutaMAX(ThermoFisher)、1%B27サプリメント(ThermoFisher)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher)及び5μM CHIR99021(Miltenyi Biotec)からなる培養培地に交換した。48時間後、qRT-PCR解析のために分化細胞を回収したところ、原始線条マーカーTBXT、エオメス及びMIXL1が高発現していた(
図8b)。
【0241】
hCG ELISA
iBlastoidの作成及びインビトロ付着アッセイを、以下の「インビトロ付着アッセイ」の実施例に記載するとおり実施した。iBlastoid(6日目)及び付着したiBlastoid(6+4.5日目)の両方について培地を回収し、-80℃で保存した。hCG ELISAキット(Abnova、ABNOKA4005)を製造者の指示に従って使用して、培地中のhCGレベルを測定した。
【0242】
iBlastoidのシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)
scRNA-seq実験のため、上記の節に記載したとおりiBlastoidを解離してFACSのための単一細胞懸濁液を入手した。FACSに供する細胞は、scRNA-seqのためにPI陰性のデブリのない単一生細胞を選別した。Chromiumコントローラー(10x Genomics)を製造者の指示「Chromium Next GEM Single Cell 3’ Reagent Kit V3.3 User Guide」に従って使用して、回収した細胞を単離、封入及び構築した。Illumina NovaSeq 6000で、ペアエンド(R1 28bp及びR2 87bp)シーケンシング戦略を用いて、1細胞当たり20,000リードペアを目標にシーケンシングを行った。Chromiumバーコードを使用してデマルチプレックス化し、Cellrangerプログラム(v3.1.0、http://software.10xgenomics.com/single-cell/overview/welcome)を使用してmkfastqパイプラインからFASTQファイルを作成した。アラインメント及びUMIカウントはCellrangerを用いて実施したが、これはSTARアライナー(Dobin,A.et al.Bioinformatics 29,15-21(2013))を利用してシーケンシングリードをカスタムバージョンのEnsembl GRCh37.87参照ゲノムにマッピングするものであり、この参照ゲノムは、本発明者らがカスタムのセンダイKLF4、MYC及びSEV(KOS)ベクターの配列によって拡大したものであった。このステップの結果、9060個のユニークな細胞バーコードが得られる。
【0243】
iBlastoid scRNA-seq細胞ドナー同定
細胞毎に個々のドナーのアイデンティティを決定するため、ベイズのデマルチプレックス化ツールVireo(v0.3.2)を利用した(Huang,Genome Biol.20,273(2019))。簡潔に言えば、本発明者らは、cellSNP(v0.3.0)を使用してシングルセルデータ中の発現したアレルをコンパイルし、アレル頻度最小値(引数minMAFを使用)を0.1及び一意の分子識別子最小値(引数minCOUNTを使用)を20とした一塩基変異多型(SNP)のリストを作成した。更に、cellSNPではSNPをコールするためヒト変異体の参照リストが要求され、本発明者らは、Vireoの著者らが提供する1000ゲノムプロジェクトからのプレコンパイルされたSNPリスト(https://sourceforge.net/projects/cellsnp/files/SNPlist/からダウンロード)を使用した。詳細には、740万個のSNPを含む、マイナーアレル頻度>0.05のhg19ゲノムベースの変異体のリストを使用した。続いて、Vireoを実施して、細胞を2つのドナー集団に分けることによりシングルセルライブラリをデマルチプレックス化した。Vireoができるのは細胞をこれらの2ドナーに関して区別することのみであり、各細胞にドナーアイデンティティそのもの(32F又は38F)を割り付けることはできない点に留意されたい。
【0244】
iBlastoid scRNA-seqセルコーリング、クオリティコントロール
初めに細胞レベルのクオリティコントロールを実施した。(i)細胞系ドナーのエビデンスが両方あるか又はいずれもない細胞、(ii)発現した遺伝子の数[nGene]が少ない細胞、又は(iii)ミトコンドリア遺伝子の割合[pctMT]が高い細胞は破棄した。破棄する細胞には、nGene<1,300 pctMT>15のカットオフを適用した。次に、遺伝子レベルのクオリティコントロールを実施した。それぞれ少なくとも1リードの少なくとも50細胞に存在しない場合に遺伝子をフィルタリングした。カットオフは、全て各変数の分布を調べた後に決定した。クオリティコントロール後、scRNA-seqに6858個の細胞及び14224個の遺伝子が残る。
【0245】
iBlastoid scRNA-seq解析
本節の残りの部分における解析は、R(v3.6)55をSeurat(v3.1.5)と共に使用して行った(Butler,et al.Nat.Biotechnol.36,411-420(2018);Stuart,T.et al.Cell 177,1888-1902.e21(2019))。バイオインフォマティクスプロットはggplot2(v3.3.1)58を使用して作成し、ヒートマップはpheatmap(v1.0.12)で作成した(Kolde,R.&Vilo,J.F1000Research vol.4 574(2015))。SeuratのSCTransform関数(Hafemeister,C.&Satija,R.Genome Biol.20,296(2019))を使用してデータのスケーリング及び正規化を行った。主成分分析(PCA)後、20次元を用いて均一マニホルド近似(uniform manifold approximation:UMAP)を作成した。FindClusters関数を0.2の分解能で使用して教師なしクラスタリングを実施したところ、7個の個別のクラスターが得られた。FindAllMarkers関数により、ウィルコクソン順位和検定及び0.25対数倍の最小アップレギュレーションを用いて、クラスター間で発現差異のある遺伝子(クラスターマーカー)を同定した。細胞型シグネチャ(EPI、TE、PE、非再プログラム化(NR)の平均過剰発現を、AddModuleScore関数及びPetropoulos,S.et al.Cell 165,1012-1026(2016)及びLiu et al(Nature 2020 Sep 16.doi:10.1038/s41586-020-2734-6)がそれぞれ発表した遺伝子シグネチャで計算した。カノニカルマーカー、Petropoulos及びLiuシグネチャをエビデンスとして使用して、細胞型を手動でクラスターに割り付けた。残りの細胞集団は「中間体」(IM)に分類して数え上げた(Rossant,J.&Tam,P.P.L.Cell Stem Cell vol.20 18-28(2017);Harrison,et al.Science 356,(2017);Sozen,B.et al.Nat.Cell Biol.20,979-989(2018))。最後に、scranパッケージからのcyclone関数(Scialdone,A.et al.Methods 85,54-61(2015))を使用して細胞周期スコアを計算し、最も高い確率に基づき細胞相を割り付けた。
【0246】
統合scRNA-seq解析
Petropoulos,S.et al.Cell 165,1012-1026(2016)(Petropoulos)及びBlakeley,P.et al.Development 142,3613(2015)(Blakeley)からの既発表のシングルセルデータセットを、ここで発表したiBlastoidデータと統合した。初めに、NRクラスターからの細胞をこの統合に無関係としてiBlastoidデータから除去する。Petropoulosの合計1529細胞を胚盤胞細胞に関してフィルタリングして胚盤胞期前のものを除去すると、1096個のE5~E7 EPI、TE及びPE細胞が残った。Petropoulosのデータ及びBlakeleyの30個の細胞を、SCTransformを用いて処理した。SCTアッセイに由来する4000個のアンカー遺伝子を使用して統合遺伝子を同定した後(FindIntegrationAnchors及びIntegrateData)、両方のデータセットをiBlastoidデータに統合した。この統合データセットは、7861個の細胞、23308個の遺伝子及び4000個の統合遺伝子を有する。PCA及びUMAP(20次元)を用いて次元削減し、FindClustersを用いてクラスターを同定する(分解能0.2)。エビデンスとしての3つ全てのデータセットからの細胞アイデンティティの共局在性並びにマーカー及びシグネチャ発現を用いて5個の個別のクラスターについてのクラスターアイデンティティを手動で割り付けた。統合遺伝子発現値及びピアソン相関を用いて、a)同じ元の細胞アイデンティティ(BlakeleyについてはiBlastoid、EPI、TE、PEのクラスターid、PetropoulosについてはE5~7 EPI、TE、PE)、又はb)同じ細胞型(全てのEPI、TE、PE細胞の凝集体及び加えてiBlastoidについてはIM)の全ての細胞の平均遺伝子発現値でトランスクリプトーム相関を計算した。
【0247】
インビトロ付着アッセイ
iBlastoidの作成を上記の実施例3に記載されるとおり実施した。インビトロ付着アッセイ(これは胚着床モデルとして使用されることが多い)を、既発表のプロトコル(Shahbazi,et al.Nat.Cell Biol.18,700-708(2016);Deglincerti,A.et al.Nature 533,251-254(2016))に適合させることにより実施した。簡潔に言えば、得られたiBlastoidを光学グレードの組織培養プレート(Eppendorf)に移し、37℃、5%O2及び5%CO2インキュベーターにおいてIVC1培地で培養した。付着アッセイの2日目、培養培地をIVC2培地に切り替えた。iBlastoidは付着アッセイで4.5日目まで培養し、分析のため回収した。このインビトロ付着アッセイに使用した培養培地の詳細は、実施例2にまとめる。
【0248】
統計及び再現性
図2aについて、4,761細胞で、先行研究(Liu et al(Nature 2020 Sep 16.doi:10.1038/s41586-020-2734-6)から入手される21日目線維芽細胞再プログラム化中間体scRNA-seqデータを再分析した。iBlastoid scRNA-seqデータについては、この研究で使用した全ての分析に、n=2バイオロジカルレプリケートから入手される合計6858細胞を組み入れた。この研究で使用したヒト胚盤胞のscRNA-seqデータセットについては、Petropoulosデータセットから合計1096細胞を採用し、Blakeleyデータセットから合計30細胞を分析に採用した。iBlastoid及びヒト胚盤胞統合データセットについては、合計7861細胞を分析に使用した。
図1bについては、iBlastoidは2つの独立した再プログラム化実験の3つの異なるドナー線維芽細胞から作成し(n=5バイオロジカルレプリケート)、この図には代表的な画像を示した。
図1cについては、2つの独立した再プログラム化実験の3例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=5バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図1e~
図1hについては、ヒト胚盤胞のデータは、8文献を参照する(n=8)一方、iBlastoidに関する様々なパラメータの定量化は、それぞれ3例の異なるドナーから入手した18個の独立したiBlastoidで行った(n=18バイオロジカルレプリケート)。
図1iについては、3例の異なるドナーから入手した14個の独立したiBlastoidで細胞数定量化を実施した(n=14バイオロジカルレプリケート)。
図1j~
図1lについては、2つの独立した再プログラム化実験の3例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=5バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図1mについては、3例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=3バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図1n~
図1rについては、2例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=2バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。iBlastoidには、外側TE様細胞を有する緻密なケラチン8(KRT8)線維組織も観察され、これは、胚盤胞で典型的に観察されるものと一致した(
図1s)。
【0249】
図7aについては、2つの独立した再プログラム化実験の3個の異なるドナー線維芽細胞に由来するiBlastoidを使用してインビトロ付着アッセイを実施し(n=5バイオロジカルレプリケート)、この図には代表的な画像を示した。
図7b~
図7cについては、2例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=2バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図7eについては、2つの独立した再プログラム化実験の2例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=4バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図7f~
図7gについては、2例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=2バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図7hについては、n=5の独立した実験においてテクニカルレプリケートでCSH1及びITGA1の発現変化倍数を測定した。データは平均値±s.e.mとして表す。
図7iについては、n=4の独立した実験においてテクニカルレプリケートでhCG ELISAを行った。データは平均値±s.e.mとして表す。
図2bについては、2つの独立した再プログラム化実験の3個の異なるドナー線維芽細胞からiBlastoidを作成し(n=5バイオロジカルレプリケート)、この図には代表的な画像を示した。
図2cについては、入手した100個の独立した3次元構造体をカウントすることにより、iBlastoid効率の定量化を行った(n=100バイオロジカルレプリケート)。
図2dについては、3例の異なるドナーからのn=3バイオロジカルレプリケートで実験を実施し、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図2eについては、2つの独立した再プログラム化実験の3例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=5バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図2f~
図2gについては、2例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=2バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図8bについては、2例のドナーからのn=6の独立した実験においてテクニカルレプリケートでTBXT、エオメス、MIXL1の発現変化倍数を測定した。データは平均値±s.e.mとして表す。
図8cについては、2つの独立した再プログラム化実験の3例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=5バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図8dについては、3例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=3バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
図8e~
図8fについては、2例の異なるドナーからのiBlastoidで免疫染色を実施し(n=2バイオロジカルレプリケート)、同様の結果が得られ、この図には代表的な画像を示した。
【0250】
実施例5-iBlastoidの特徴付けの結果
iBlastoid内の細胞のアイデンティティ及び空間的局在性を更に確認するため、本発明者らは、EPIマーカーNANOG及びTEマーカーCDX2の共免疫染色を実施した。次に本発明者らは共焦点イメージングを適用及び解析することにより、iBlastoidの三次元(3D)表現を入手した。結果は、NANOG陽性細胞がもっぱらICM様区画に局在する一方、CDX2陽性細胞はTEに似た外層に見られることを示している(
図1j)。
【0251】
微分干渉コントラスト(DIC)像及び蛍光像の3次元再構成及びオーバーレイにより、NANOG陽性及びCDX2陽性細胞の空間的局在性が確認され、且つ胚盤胞と類似したiBlastoid構造体に形成された胞胚腔様の空洞の存在が確認された(Shahbazi,M.N.et al.Nat.Cell Biol.18,700-708(2016)、Deglincerti,A.et al.Nature 533,251-254(2016);Xiang,L.et al.Nature 577,537-542(2020)(
図1k、
図1l)。iBlastoid構造体の起源(即ち再プログラム化された線維芽細胞に由来すること)と一致して、透明帯は観察されなかった。重要なことに、本発明者らは、2つの追加的な線維芽細胞ドナーから作成されたiBlastoidのこれらの結果を複数回のiBlastoid作成ラウンドで確認することができた(
図2e)。
【0252】
iBlastoidのEPI及びTE様細胞を更に特徴付けるため、本発明者らは、iBlastoidにおいて2つの追加的なEPIマーカー(OCT4、別名POU5F1及びSOX2)及びTEマーカー(GATA2)の組み合わせを試験した。ヒト胚盤胞について記載されるとおり(Fogarty,N.M.E.et al.Nature 550,67-73(2017);Boroviak,T.et al.Development 145,(2018))、外側TE様細胞はGATA2陽性であった一方、ICM様区画にOCT4及びSOX2の顕著な共局在が見られた(
図1m)。iBlastoidにおけるPE様細胞の存在を評価するため、本発明者らは、初めにPEマーカーであるSOX17の免疫染色を、GATA2(TEマーカー)及びNANOG(EPIマーカー)と並行して実施した。本発明者らは、ICM様区画内において、NANOG陽性細胞の周囲にあるSOX17陽性細胞を同定し(
図1n、
図2f)、これはE6~7胚盤胞について既報告のものと類似していた(Xiang 前掲;Wamaitha,S.E.et al.Nat.Commun.11,764(2020))。
【0253】
更なる検証のため、本発明者らは、別のPEマーカー、GATA6を使用して、CDX2(TEマーカー)及びOCT4(EPIマーカー)と組み合わせた追加的な免疫染色を実施した。本発明者らは、TE様区画に、GATA6染色とCDX2染色の共局在によって指示されるとおりの「ごま塩状」のパターンを認めた(
図1o、
図2g)。当初は不可解であったものの、このパターンは以前にも報告されており、そこではE6~7ヒト胚盤胞においてもGATA6が遍在的に検出されている(Deglincerti、前掲;Roode,M.et al.Human hypoblast formation is not dependent on FGF signalling.Dev.Biol.361,358-363(2012);Kuijk,E.W.et al.The roles of FGF and MAP kinase signaling in the segregation of the epiblast and hypoblast cell lineages in bovine and human embryos.Development 139,871-882(2012))。重要なことに、調べを進めると、本発明者らはICM様区画にOCT4陽性細胞に隣接するGATA6陽性細胞(CDX2低染色又は弱染色を伴う)を観察したことから、iBlastoidにGATA6陽性PE様細胞が存在する可能性が示唆される(
図1o)。
【0254】
ヒト胚盤胞では、TE系統とEPI系統との細胞には細胞形態学的に明確な差異があり、TE細胞は、「古典的な」細長い上皮形態を示す一方、EPI細胞は、ICMの制約に起因して、より小型で密集している(Kovacic,B.,Vlaisavljevic,V.,Reljic,M.&Cizek-Sajko,M.Reprod.Biomed.Online 8,687-694(2004))。iBlastoidにおいてEPI様細胞とTE様細胞との細胞形態に何らかの差異があるかどうかを調べるため、本発明者らは、iBlastoidに対して細胞膜マーカーF-アクチン(別名ファロイジン)を利用して細胞構成を可視化した(
図1p~
図1r)。結果は、コンパクトなNANOG陽性EPI様細胞がより円柱状の外観を有した一方、胞胚腔の空洞を取り囲むTE様細胞が扁平であったことを示しており、このモデルがEPI細胞とTE細胞との細胞構成の差異を再現可能であることが強調される(
図1q)。まとめると、これらの結果は、iBlastoidがE6~7のヒト胚盤胞の主要な形態学的特徴を呈し、EPI、TE及びPE細胞の鍵となる分子的及び空間的側面をモデル化もできることを実証している。
【0255】
実施例6-iBlastoidの単一細胞トランスクリプトームプロファイリング
iBlastoidにおける細胞の転写構成を更に特徴付けるため、本発明者らは、2例のドナーから作成したiBlastoidを使用してシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)を実施した(
図3a)。クオリティコントロール及びストリンジェントなフィルタリング後、下流分析のために6858個の細胞が確保され(ドナー1から3249個及びドナー2から3609個の細胞)、合計14224個の遺伝子が検出された(
図4a)。このscRNA-seqデータの均一マニホルド近似投影(UMAP)解析により、ドナー又は細胞周期の差異に基づくクラスタリングなしに細胞が均等に分布していることが示された(
図4b、
図4c)。センダイ-KLF4転写物を検出することができたが、scRNA-seqデータにセンダイ-KOS及びセンダイ-MYC発現が最小限にのみあり(
図4d)、外因性OCT4及びSOX2が発現しなかったか又は極めて低い発現レベルであったことが示された。
【0256】
UMAPで推定EPI、TE及びPE細胞クラスターを同定するため、本発明者らは、本発明者らのscRNA-seq iBlastoidデータセットでEPIマーカー(NANOG及びOCT4/POU5F1)、TEマーカー(CDX2及びGATA2)及びPEマーカー(SOX17及びGATA6)の発現を調べた。
図3bに示されるとおり、OCT4及びNANOG発現細胞は、UMAP空間内で個別的な領域を占める。これについて、より多くの細胞は、NANOGよりも内因性OCT4を発現し、これは、ヒト胚盤胞で観察される特質である(「方法」を参照されたい)(
図4e)。SOX17及びGATA6発現細胞は、UMAP上の限定された領域にも見られた一方、本発明者らは、CDX2及びGATA2の発現がより不均一であることを認め、これは、E5~7ヒト胚盤胞から作成されるscRNA-seqデータセットにおいても同様に観察される(
図3b、
図4e)。
【0257】
iBlastoidにおける細胞アイデンティティ並びにEPI、TE及びPE系統の存在を更に確認するため、本発明者らは、E5~7ヒト胚盤胞のそのscRNA-seqを使用した、Petropoulos 前掲に定義されている一組のEPI、TE及びPE特異的遺伝子シグネチャに基づくスコアリングシステムを適用した(
図3c)。これらの定義されたシグネチャを使用して、本発明者らは、iBlastoidデータセットのUMAPで個別的なEPI、TE及びPE細胞集団を解いた。iBlastoid及び胚盤胞scRNA-seqデータセットでE5、E6及びE7別に分けたEPI、TE及びPEシグネチャを更に調べると、無視できる程度の差異のみが示される(
図5a~
図5b)。まとめると、これらの結果により、iBlastoidにおけるEPI、TE及びPE様細胞の存在が確認される。
【0258】
実施例7-iBlastoidは胚盤胞と転写的に類似している
iBlastoid内の細胞のアイデンティティを更に解くため、本発明者らは、教師なしクラスタリング分析を実施して、7つの細胞クラスターを同定した(
図3d)。EPI、TE及びPE遺伝子シグネチャに基づいて、これらのクラスターを、EPIクラスター、TEクラスター又はPEクラスターとして割り付けた。残りの3つのクラスターは、先験的に明確なアイデンティティを有しなかったものであり、中間体シグネチャ(クラスターIM1~3)を有するように見える(
図6a~
図6b、
図3d)。これらの残りのクラスターは、混合型転写シグネチャを有する細胞の例である。興味深いことに、クラスターIM1は、CDX2並びに外因性KLF4を高度に発現し(
図3b、
図4d)、これは、それらの細胞がTE様細胞になる途中であることを示唆し得る。同様に、EPSCから作成されるマウスブラストイドは、scRNA-seqトランスクリプトームプロファイリングによって明らかになるとおり、中間体の又は定義付けられていないシグネチャの細胞クラスターを有する。本発明者らは、再プログラム化されてない不応性線維芽細胞に相当する細胞塊も観察した(
図4f、
図4g)。これについて、この小型の線維芽細胞クラスターは下流分析から除外した。
【0259】
ヒト胚盤胞のTE細胞は、胚発生中に極TEと壁TEとに指定される。iBlastoidにおいて、Petropoulos et alが定義する極TE及び壁TEシグネチャを調べたところ、iBlastoidは2つの個別的なTE細胞集団を有し、一方がより高い極TE関連シグネチャを発現し、もう一方が壁TEシグネチャを発現することが示された(
図3j、
図3k、
図3l)。極マーカー、CCR713の免疫染色分析によっても、iBlastoidの極側でより高発現であることが示唆された(
図3m、
図3n)。
【0260】
IVF後に作成される胚盤胞の細胞にiBlastoidの細胞がどの程度類似しているかを決定するため、本発明者らは、iBlastoid scRNA-seqを、Lanner and Niakanのグループによって以前に報告されたヒト胚盤胞から入手される2つの追加的なscRNA-seqデータセットと統合した。Lannerのグループのデータセットは、トリチュレートした細胞にSmart-seq2を用いて作成されたものであり、E5~7の試料のサブセットが免疫手術でICM細胞に関して濃縮されている。Niakanグループのデータセットについては、レーザー生検によるマイクロマニピュレーションを用いて胚盤胞からICM及び極TEが分離され、単離した単一細胞からcDNAが作成され、シーケンシングされた。UMAP分析により、胚盤胞とiBlastoidとの細胞間での高い一致が明らかになった(
図3e、
図3f、
図6c、
図6d)。重要なことに、EPI-iBlastoidクラスター、TE-iBlastoidクラスター及びPE-iBlastoidクラスターからの細胞は、胚盤胞からのそのEPI、PE及びTE対応物と重複している(
図3e)。これらの細胞集団を更に特徴付けるため、教師なしクラスタリングを実施したところ(
図3g、
図3h)、iBlastoidからのPE、EPI及びTE様細胞が胚盤胞からのPE、EPI及びTE細胞と同じクラスターを共有することが確認された。これについて、本発明者らは、一部の胚盤胞TE細胞がIM1-iBlastoidクラスターの細胞と共にクラスタリングされたことも観察した(
図3e)。更には、iBlastoid EPI、TE及びPEクラスターとE5~7胚盤胞からのアノテーション付きEPI、TE及びPE細胞との相関分析により、iBlastoidクラスターとそれらの胚盤胞対応物との間の高い相関(約0.9)が明らかになった(
図3i)。本発明者らは、iBlastoid細胞クラスターをPetropoulosデータセット中の異なる発生日齢(E5、E6及びE7)の胚盤胞からのEPI、TE及びPE細胞と相関付け、iBlastoidクラスターとE5~7胚盤胞期のそれぞれのEPI/TE/PE系統との相関を観察した(
図6e)。階層クラスタリング分析では、iBlastoid EPIクラスターと初期胚盤胞EPI(E5及びE6)との相関がより良好であることが示唆される。まとめると、このデータは、iBlastoidの細胞が、E5~6のヒト胚盤胞に存在するこれら3つの細胞系統の転写構成を忠実に再現することを実証している。
【0261】
実施例8-iBlastoidはインビトロ着床をモデル化することができる
ヒト胚発生の着床前後及び着床後初期ウィンドウの間に起こる形態学的及び分子的変化を子宮の非存在下でモデル化するためにiBlastoidを使用することができるかどうかを評価するため、本発明者らは、ヒト胚盤胞を使用した既発表のヒト胚付着培養を修正することにより、インビトロ付着アッセイを実施した。現在のところ、ヒトブラストイドモデルで作業する先例はないが、実験は、全て施設内ヒト研究倫理委員会によって承認され、既発表の推奨に従って、且つヒト胚の培養を受精後14日及び/又は原始線条(PS)の形成のいずれか早い方までとする国際合意を順守した。出発線維芽細胞が成人ドナーに由来したことを考えると、iBlastoidには「14日ルール」を適用できないことを所与として、本発明者らは、国際的ガイドラインの範囲内に十分に留まるように、iBlastoidの培養を可能な最小限の時間、この場合、最大でも5日の追加日数(約E11に相当)とすることと、PSの形態学的エビデンスの前に実験を終了することとに焦点を置いた。PS形成の分子的エビデンスを除外するため、本発明者らは、5日間胚付着培養の間に幾つかの鍵となる原始線条マーカーのqRT-PCR 24時間経時解析を実施し、TBXT、エオメス若しくはMIXL1の上方制御又は原腸形成を指示するいかなる形態学的変化も認めなかった(
図8b)。従って、5日間のiBlastoid付着培養では、EPI区画はPSの形成まで進まなかった。それにも関わらず、上記のパラメータを厳密に順守することにより、本発明者らは以降の全てのヒトiBlastoid付着培養実験をiBlastoid形成後合計4.5日間実施した。
【0262】
付着培養モデルを使用すると、ヒト胚盤胞において報告されているものと同様に、ほとんどのiBlastoid(>90%)が24時間以内に付着し、サイズが増加し、扁平化し、増殖体の形成まで進んだ(
図7a)。付着後、NANOG及びOCT4/SOX2陽性細胞の数が増加したことから、ヒト胚盤胞を使用したときに観察されているものと同様に、iBlastoid EPIの拡大が示される(
図8c、
図8d)。更に、付着時にCDX2及びGATA2陽性細胞も広がり(
図8c、
図8d)、このことから、付着したiBlastoidのTE増殖体が示された。同様の結果は、2例の追加的なドナーから作成したiBlastoidを使用しても得られた(図示せず)。次に、本発明者らは、付着後のPE様細胞の分布を調べた。その多くはなおもTEマーカー(GATA2又はCDX2)と共染色されたが、本発明者らは、一部のSOX17及びGATA6陽性細胞がNANOG又はOCT4陽性EPIの周囲に局在することを認めた(
図7b、
図7c、
図8e、
図8f)。
【0263】
以前、インビトロ付着時にヒト胚盤胞のEPI細胞が分極し、原始羊膜腔として公知の管腔を形成することが報告されている。F-アクチン、OCT4及びaPKC免疫染色により、組織化したOCT4陽性細胞によって半径方向に取り囲まれる約20~30%の付着したiBlastoidのEPI区画内に中心管腔(F-アクチン及びaPKCでマーキングされる)があることが示された(
図7d)。本発明者らは、付着3日目にEPI様細胞の分極及び原始羊膜腔様の空洞の発生を観察した。
【0264】
次に本発明者らは、付着時におけるTE系統の可能な細胞運命移行を調査した。顕著なことに、本発明者らは、付着したiBlastoidにTE細胞の高強度線維状ケラチンKRT7(汎栄養膜細胞マーカー)染色を見出し、これは付着培養前のiBlastoidにおける暗染の限定的なKRT7染色とは対照的であった(
図7e)。これらの結果は、ヒト胚盤胞を培養したときにも報告された、TE細胞状態が栄養膜細胞系統に移行することを示唆している。重要なことに、本発明者らは、付着したiBlastoidにおいてEPI様区画を取り囲む細胞が、EPIの細胞と比較して大きい核体積を有することを観察したが、これは栄養膜細胞を指示するものである(
図7f)。注目すべきことに、本発明者らは、付着したiBlastoidの周囲にあるそれぞれの多核性表現型及び紡錘様形態によって実証されるとおり、一部の細胞が形態学的に合胞体栄養膜細胞(ST)及び絨毛外栄養膜細胞(EVT)に似ていることを見出した(
図7f)。
【0265】
ST及びEVT様細胞の存在を更に検証するため、本発明者らは、STマーカーとしてhCGを使用し、EVTマーカーとしてMMP2を使用して、免疫染色を実施した(
図7g)。本発明者らは、STの初期発生を反映した、hCGに関する強力で広範な染色を検出した;一方、EVTが着床期において遅れて発生することと一致して、MMP2は少ない細胞数で検出された(
図7g)。加えて、qRT-PCR解析によっても、付着に伴うSTマーカーCSH1及びEVTマーカーITGA117の上方制御が明らかになったことから、iBlastoid TE細胞がST及びEVT様状態に分化し得ることが示される(
図7h、
図10)。
【0266】
最後に、本発明者らは、付着したiBlastoidから回収した馴化培地でhCG ELISAを実施し、付着後4.5日でhCG量の10倍の増加を検出した(
図7i)。まとめると、これらの結果は、iBlastoidを使用して胚盤胞に類似したインビトロ着床をモデル化できることを示しており、それが、ヒトにおける胚発生の着床前後及び着床後初期段階の分析を実現可能にする価値あるモデルシステムであるという事実が強調される。
【0267】
ここで、本発明者らは、インビトロヒト胚盤胞モデルシステムを提示する。マウスブラストイドの作成に用いられる手法と異なり、本発明者らは、線維芽細胞をiBlastoidに直接再プログラム化することに基づくヒトiBlastoidの作成戦略を開発した。従って、この手法によれば、ヒト胚盤胞に存在する3つの幹細胞型を集合前に誘導し及び増大させる必要はない。iBlastoidは、胚性供給源からの幹細胞から作成されるのでなく、体細胞から作成されるため、本発明者らは、このことにより、過去にiPSCが受け入れられたように、iBlastoidがモデルとして広く受け入れられることが容易になるであろうと予想する。本明細書に示されるとおり、iBlastoidは、空洞形成を伴うTE及びEPI様層を含め、ヒト胚盤胞発生の統合モデルを忠実に再現することができると共に、ヒト胚盤胞内での細胞型の空間的配置も再現することができる(
図1)。更には、iBlastoid細胞はヒト胚盤胞の細胞と転写的に類似しており(
図3~
図6)、それを、ヒト胚盤胞の着床過程における鍵となる機能的特性の一部をインビトロでモデル化するために使用することもできる(
図7)。
【0268】
転写解析に基づくと、iBlastoidのEPI様細胞は、胚盤胞からのE5/E6 EPI細胞に対応する一方、PE及びTE様細胞は、E7段階との相関がより良好である。これは、iBlastoid間での一部の細胞の不均一性を反映している可能性があるか、又はiBlastoidモデルにおいてこれらの3系統が完全に同期しているわけではない可能性を提起する。iBlastoidからのTE、EPI及びPE様細胞は、再プログラム化因子を発現しなかったが、本発明者らは、iBlastoidの細胞のクラスター(IM-1、2クラスター)がなおも外因性KLF4遺伝子を発現することを見出した。これらの細胞はCDX2及びGATA6も発現したが、強力なTE又はPEシグネチャ全般は見られず、恐らく外因性KLF4の共発現に起因したものと思われる。しかしながら、IM-1クラスターは、E6-TEと良好な相関(約0.6)を示しており、従って、当然のことながら、胚盤胞からの幾つかのTE細胞が同じUMAP空間を占める。このデータは、iBlastoidが、基礎研究及びトランスレーショナル研究において多くの適用がある、利用し易く、拡張性のある、且つ扱い易い重要なモデルシステムに相当することを示している。例えば、iBlastoidは、胚発生中の初期細胞運命移行を模倣するインビトロプラットフォームを提供する。更には、これまでTE及びPEとの協調的な相互作用についてはほぼ無視されてきたため、本発明者らは、正常な初期胚発生におけるそれほど多くの重要なイベントを制御する決定的な胚体-胚体外界面をインビトロで再樹立することにより、ヒト多能性についての既存の知識及び理解を再解釈し、洗練させる場にiBlastoidであれば挑戦できる可能性があると期待する。特異的遺伝子負荷を備えるiBlastoidを作成できるという事実を所与とすれば、これにより、異数性、胞状奇胎、コルネリアデランゲ症候群及び治療のためのスクリーニングなど、初期発生疾患の研究が可能となるであろう。iBlastoidは、遺伝的操作及び遺伝子編集技法を開発するための優れたプラットフォームとしての役割を果たす可能性もある。要約すれば、iBlastoidは、ヒト胚発生の着床前胚盤胞期及び着床前後をインビトロでモデル化する新しい機会となり、そのため、不妊症及び早期妊娠損失の理解に向けた途方もない可能性を持つ。
【0269】
実施例9-3次元培養システムにおけるiPSC及びiTSCの共培養
iPSCとiTSCとの間での集合を観察し易くするため、初めに、GFPレポーターを有するiPSC系(iPSC-GFP)及びmCherryレポーターを有するiTSC系(iTSC-mCherry)を、それぞれGFP及びmCherryエンプティベクターコンストラクトのレンチウイルス形質導入によって作成した(
図9a、
図9b)。共培養実験のため、解離された細胞は、24ウェルAggreWell(商標)400プレート上においてiBlastoid培地中、異なる条件とした:(1)iPSC及びiTSCをそれぞれ1:2.5の比で1ウェル当たり1.2×10
5個の総細胞数(
図9c);(2)iPSCのみで1ウェル当たり1.2×10
5個の総細胞数(
図9d);(3)iTSCのみで1ウェル当たり1.2×10
5個の総細胞数(
図9e)。共培養の初日にROCKiを補足して細胞生存を増強し、細胞をAggreWellシステムで6日間培養した。下流分析のため、形成6日目に入手される3次元構造体を回収した(
図9c~
図9e)。
【0270】
実施例10-異なる培地を使用した再プログラム化中間体の作成
再プログラム化21日目のEPI、TE及びPE様細胞の比率の改善を探るため、初期胚及び胚体外系統細胞運命を調節することが公知の種々のシグナル伝達経路/培養条件を判定した。本発明者らは、本明細書の表3aに掲載されるものなど、様々な培養培地で再プログラム化を探った。具体的には、NACL培地はPE様細胞運命を促進し;PA培地はTE様細胞運命を促進し;及びt2iLGo培地は着床前EPI様細胞運命を促進することが報告された。21日目再プログラム化細胞の免疫蛍光分析に基づけば(
図11)、NACL培地はGATA6(PE)及びKLF17(EPI)の発現を促進し;PA培地はGATA3(TE)、GATA6(PE)及びKLF17(EPI)の上方制御を促進する一方、t2iLGo培地はKLF17(EPI)の上方制御を促進する。試験した条件の中でも特に、PA培地は、判定したこれら3つのマーカーに基づけば、再プログラム化21日目に最も多量のTE、PE及びEPI様細胞を生じさせた。
【0271】
実施例11-OKSMNL-mRNAトランスフェクションによるヒト線維芽細胞の再プログラム化
この手法におけるヒト線維芽細胞の再プログラム化は、まとめてOKSMNLとして公知の、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG及びLIN28によって媒介される。mRNA手法による体細胞再プログラム化について、StemRNA第3世代再プログラム化キット(StemGent、カタログ番号00-0076)の製造者の指示に修正を加えたものに従って実験を実施した。再プログラム化を実施するため、12ウェルプレートの1ウェル当たり1~2×104個のヒト線維芽細胞を線維芽細胞培地に播種した。24時間後(0日目)、細胞に、Opti-MEM(Gibco)及びRNAiMAX(Invitrogen)で製造者の指示に従って作成した、OSKMNL NM-RNA、EKB NM-RNA及びNM-マイクロRNAを含有するNM-RNA再プログラム化トランスフェクション複合体をトランスフェクトした。18時間後、培地を新鮮な線維芽細胞培地で再生したと共に、6時間後に次のトランスフェクションを実施する。このトランスフェクションプロセスを更に3日間(4×トランスフェクションレジームにわたって)又は5日間(6×トランスフェクションレジームにわたって)繰り返した。細胞を線維芽細胞培地で再プログラム化21日目まで培養し、更なる分析のため回収した。これらの実験で使用した培地の更なる詳細は、実施例2に提供する。
【0272】
21日目、細胞を免疫染色して、4×OKSMNL及び6×OKSMNL mRNAトランスフェクションから作成したOCT4、GATA6及びCDX2(
図12a及び
図12c)、GATA2、NANOG及びSOX17(
図12b及び
図12d)の発現を決定した。
【0273】
これらの結果は、別の再プログラム化方法論を用いたとき、ヒト線維芽細胞から再プログラム化中間体を入手することができ、実施例3に記載されるとおり入手されるものと類似したマーカーOCT4、GATA6、CDX2、GATA2、NANOG及びSOX17の遺伝子発現プロファイルを有することを実証している。これらの結果は、別の方法論を用いて作成した再プログラム化中間体も、胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈することを示している。これらの結果は、iBlastoidが、異なる再プログラム化方法、特に、異なる方法により再プログラム化転写因子の発現をドライブすることによって入手される再プログラム化中間体に由来し得る可能性があることを示している。
【0274】
実施例12-センダイウイルス媒介性の再プログラム化によるヒト間葉系幹細胞(hMSC)の再プログラム化
CytoTune-iPS 2.0 Sendai再プログラム化キットを製造者の指示に従って使用して(ThermoFisher、ロット番号2170052)、hMSCの再プログラム化を行った。hMSCをMSC培地に約5~10×104細胞の密度で播種した。約36時間後、細胞をFM中のセンダイウイルスにより、以下のとおりの感染多重度(MOI)、KOS MOI=5、c-MYC MOI=5、KLF4 MOI=6で形質導入した。培地交換を形質導入後1日目から開始して隔日で行い、8日目以降は毎日行った。再プログラム化21日目に、更なる分析のため再プログラム化された細胞を回収した。これらの実験で使用した培地の更なる詳細は、実施例2に提供する。
【0275】
21日目、細胞を免疫染色して、OCT4、GATA6及びCDX2(
図13a)又はGATA2、NANOG及びSOX17(
図13b)の発現を決定した。
【0276】
これらの結果は、別の体細胞、この場合hMSCから再プログラム化中間体を入手することができ、実施例3に記載されるとおり入手されるものと類似したマーカーPCT4、GATA6、CDX2、GATA2、NANOG及びSOX17の遺伝子発現プロファイルを有することを実証している。これらの結果は、別の体細胞から作成される再プログラム化中間体も胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈することを示している。これらの結果は、iBlastoidが、異なる再プログラム化方法、特に、異なる体細胞型によって入手される再プログラム化中間体に由来すると見込める可能性がある可能性があることも示している。
【0277】
実施例13-センダイウイルス媒介性の再プログラム化によるヒト末梢血単核球(hPBMC)の再プログラム化。
CytoTune-iPS 2.0センダイ再プログラム化キットを製造者の指示に従って使用して(ThermoFisher、ロット番号2170052)、hPBMCの再プログラム化を行った。この再プログラム化を実施するため、2.5~5×105個のhPBMCをカウントし、12mL丸底チューブに移した。再プログラム化混合物は、計算した容積のセンダイウイルスを以下のとおりの感染多重度(MOI)、KOS MOI=5、c-MYC MOI=5、KLF4 MOI=6で1mLのPBMC培地中に加えることにより調製した。
【0278】
hPBMCが入った丸底チューブに再プログラム化混合物を移した後、細胞を室温にて1000×gで30分間遠心した。遠心した細胞に更に1mLのPBMC培地を加え、内容物を再懸濁し、12ウェルプレートの1つのウェルに移して37℃で一晩インキュベートした(0日目)。翌日(1日目)、培地を新鮮なPBMC培地に交換した。3日目に、マトリゲルコートプレート上の新鮮なPBMC培地中に細胞を1:3の比で播いた。4日目及び6日目、使用済みの培地の半分を取り除いて新鮮なStemPro34培地(サイトカイン不含のPBMC培地)に交換することにより、培地交換を実施した。再プログラム化の8日目、StemPro34培地又は10%FBSを補足したStemPro34培地のいずれかに細胞を切り替え、この時点以降は隔日で培地交換を実施した。18日目及び21日目に更なる分析のために細胞を回収した。これらの実験で使用した培地の更なる詳細は、実施例2に提供する。
【0279】
18日目及び21日目、細胞を免疫染色して、OCT4、GATA6及びCDX2(
図14a~
図14c)又はGATA2、NANOG及びSOX17(
図14d~
図14f)の発現を決定した。
【0280】
これらの結果は、別の体細胞、この場合ヒト末梢血単核球から再プログラム化中間体を入手することができ、実施例3に記載されるとおり入手されるものと類似したマーカーOCT4、GATA6、CDX2、GATA2、NANOG及びSOX17の遺伝子発現プロファイルを有することを実証している。これらの結果は、別の体細胞から作成される再プログラム化中間体も胚盤葉上層(EPI)、栄養外胚葉(TE)及び/又は原始内胚葉(PE)転写シグネチャを呈することを示している。これらの結果は、iBlastoidが、異なる再プログラム化方法、特に、異なる体細胞型によって入手される再プログラム化中間体に由来すると見込み得ることも示している。
【0281】
本明細書に開示及び定義される本発明は、言及されているか又は本明細書若しくは図面から明らかな個別の特徴の2つ以上のあらゆる代替的な組み合わせに及ぶことが理解されるであろう。それらの異なる組み合わせは、全て本発明の様々な代替的態様を成す。
【配列表】
【国際調査報告】