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特表2023-550185麻種子からのタンパク質調製物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(54)【発明の名称】麻種子からのタンパク質調製物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/14 20060101AFI20231122BHJP
   A23J 1/00 20060101ALI20231122BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20231122BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20231122BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20231122BHJP
【FI】
A23J3/14
A23J1/00 B
A23J3/16
A23L5/00 M
A23K10/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531024
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2021082078
(87)【国際公開番号】W WO2022112083
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102020131027.7
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591037214
【氏名又は名称】フラウンホッファー-ゲゼルシャフト ツァ フェルダールング デァ アンゲヴァンテン フォアシュンク エー.ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】アイズナー ピーター
(72)【発明者】
【氏名】シュテブラー アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ミッターマイヤー ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ウィンマー ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】シュライバー クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ムレイニー イサベル
【テーマコード(参考)】
2B150
4B035
【Fターム(参考)】
2B150AA06
2B150AB03
2B150CE07
2B150CE11
2B150CE25
4B035LC16
4B035LE03
4B035LE04
4B035LG12
4B035LG15
4B035LG19
4B035LG20
4B035LG37
4B035LP01
4B035LP24
4B035LP55
4B035LP59
4B035LT20
(57)【要約】
本発明は、麻種子からのタンパク質調製物及びそれを製造する費用対効果の高い方法に関する。タンパク質調製物は、65質量%超のタンパク質含有量、6質量%未満の油脂含有量、及び70を超える明度Lを有する。このタンパク質調製物は、味覚的に中立で、淡色かつ高品質であるため、植物性の代替乳製品(飲料、ヨーグルト、チーズ)又は淡色の植物性の代替肉、代替鶏肉、若しくは代替魚肉等の色的に要求が厳しい食品用途に適している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻種子から製造されたタンパク質調製物であって、
乾燥物に対して65質量%超のタンパク質含有量と、
溶剤としてヘキサンを使用してソックスレー法に従って測定された、乾燥物に対して6質量%未満の油脂含有量と、
を有し、
前記タンパク質調製物は、250μm未満の前記タンパク質調製物のd90粒度での、又は前記タンパク質調製物を250μm未満のd90粒度まで粉砕した後のCIE-L測色に従って測定された70を超える明度Lを有する、タンパク質調製物。
【請求項2】
80を超える、好ましくは90を超える、特に有益には92を超える明度Lを有する、請求項1に記載のタンパク質調製物。
【請求項3】
乾燥物に対して36質量%未満、好ましくは20質量%未満、有利には10質量%未満、特に有益には4質量%未満又は2質量%未満の麻種子の残留殻含有量を有する、請求項1又は2に記載のタンパク質調製物。
【請求項4】
前記タンパク質含有量は、70質量%超、好ましくは75質量%超、特に有益には80質量%超である、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項5】
前記油脂含有量は、4質量%未満、好ましくは3質量%未満、特に有益には2質量%未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項6】
ショ糖の割合が、乾燥物に対して8質量%未満、好ましくは3質量%未満、特に有益には1質量%未満又は0.65質量%未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項7】
本明細書に示されるEC測定方法に従って測定される乳化能力は、125ml/g超、好ましくは200ml/g超、特に有益には300ml/g超又は400ml/g超である、請求項1~6のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項8】
それぞれ本明細書に示されるMorr et al. 1985による方法に従って測定された8%から50%の間、好ましくは9%から20%の間、特に有益には9%から15%の間であるタンパク質溶解度をpH7で有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項9】
0.001質量%超、有益には0.01質量%超、特に有益には0.1質量%超又は0.4質量%超のアルコール、特にエタノールの割合を有するが、1質量%未満である、請求項1~8のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項10】
0.0005質量%超、有益には0.001質量%超のヘキサンの割合を有するが、0.005質量%未満である、請求項1~8のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項11】
500μm未満、好ましくは250μm未満、有利には150μm未満、特に有益には100μm未満のd90粒度を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項12】
550℃での処理後に、乾燥物に対して5質量%超、好ましくは10質量%超、特に有益には15質量%超の灰分含有量を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項13】
エンドウ豆、レンズ豆、インゲン豆、空豆、落花生、又は大豆の群からの、好ましくはエンドウ豆及び大豆の群のみからの、特に有益には大豆のみからのマメ科植物タンパク質が更に混加された、請求項1~12のいずれか一項に記載のタンパク質調製物。
【請求項14】
食品、ペットフード、及び飼料における材料としての、請求項1~13のいずれか一項に記載の調製物の使用。
【請求項15】
麻種子からのタンパク質調製物、特に請求項1~13のいずれか一項に記載のタンパク質調製物を得る方法であって、少なくとも以下の工程:
それぞれ麻種子の乾燥物に対して、麻種子を18質量%未満の残留殻割合まで脱殻するか、又は18質量%未満の残留殻割合を有する脱殻された麻種子を準備する工程と、
前記脱殻された麻種子の平均温度を100℃未満に保持して、前記脱殻された麻種子を機械的に部分脱油する工程と、
1回以上の抽出工程を実施して、前記部分脱油された麻種子を、任意に粉砕又はフレーク化の後に、6質量%未満の残留油含有量まで更に脱油し、その際にショ糖の含分も分離される工程であって、前記1回以上の抽出工程は、1種以上のアルコール-水混合物を用いて、又は溶媒としてアルコール若しくはヘキサンを用いて水の存在下で、それぞれアルコールの場合には6質量%超から14質量%未満の間の範囲の水割合にて、ヘキサンの場合には6質量%超から10質量%未満の間の範囲の水割合にて実施され、或いは複数回の抽出工程は、第1の溶媒としてアルコール又はヘキサンを用いて、かつ第2の溶媒として水を用いて実施される工程;
前記1回以上の抽出工程を実施した後に得られるラフィネートを乾燥させる工程と、
を有する、方法。
【請求項16】
10質量%未満、好ましくは5質量%未満、特に有益には2質量%未満若しくは1質量%未満の残留殻割合を有する麻種子を準備するか、又はこれらの残留殻割合まで脱殻する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
機械的な部分脱油に際しての前記脱殻された麻種子の平均温度を80℃未満、好ましくは60℃未満に保持する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記部分脱油された麻種子の更なる脱油を、4質量%未満、好ましくは3質量%未満、特に有益には2質量%未満の残留油含有量まで行う、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記1回以上の抽出工程を、溶媒として1種以上のアルコール-水混合物を用いて又は溶媒としてアルコールを用いて水の存在下で実施し、前記水割合は、それぞれ7質量%超から14質量%未満の間、好ましくは10質量%超から14質量%未満の間の範囲である、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
多段階抽出に際して最初の工程での前記水割合を最も高く選択し、1つ以上の後続工程ではより低く選択する、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記1回以上の抽出工程の実施に際しての前記溶媒の温度に、30℃から75℃の間、好ましくは45℃から65℃の間、特に有益には50℃から65℃の間を選択する、請求項15~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記溶媒と、前記部分脱油された、任意選択で粉砕又はフレーク化された麻種子との間の45℃超の溶媒の温度での接触期間に、30分間から12時間の間、好ましくは1時間から5時間の間、特に有益には1時間から2時間の間を選択する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記機械的な部分脱油を、8質量%超から40質量%未満の間、好ましくは8質量%超から30質量%未満の間、特に有益には8質量%超から25質量%未満の間、又は8質量%超から20質量%未満の間である残留油含有量まで行う、請求項15~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記脱殻された麻種子を、前記機械的な部分脱油の前に、30℃から80℃の間、有利には40℃から60℃の間、特に有利には45℃から55℃の間の値まで前記種子の温度を調整し、かつ2質量%から8質量%の間、好ましくは3質量%から6質量%の間、特に有益には4質量%から5.5質量%の間の前記種子中の含水量まで前記種子の水分を調整することによってコンディショニングする、請求項15~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記麻種子を、機械的な処理工程の前及び/又はその間に、20℃未満、好ましくは10℃未満、有利には0℃未満、特に有益には-10℃未満又は-15℃未満の温度まで冷却する、請求項15~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記部分脱油され、任意選択で粉砕又はフレーク化された麻種子を、前記1回以上の抽出工程を実施する前に、8質量%未満、好ましくは5質量%未満、特に有益には3質量%未満又は2質量%未満の残留水分まで水分を減らすことによってコンディショニングする、請求項15~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記部分脱油された麻種子の粒度を、前記1回以上の抽出工程を実施する前に、2mm未満、好ましくは1mm未満、特に有益には0.5mm未満又は0.2mm未満のd90値にし、100μm未満の粒度を有する微粒の割合は、50質量%未満、好ましくは25質量%未満、特に有益には10質量%未満である、請求項15~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記部分脱油された麻種子を、前記1回以上の抽出工程を実施する前に、2mm未満、好ましくは0.5mm未満、特に有益には0.2mm未満のフレーク厚さにフレーク化する、請求項15~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ラフィネートの乾燥を、120℃未満、好ましくは100℃未満、特に有益には80℃未満の温度で行う、請求項15~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記ラフィネートの乾燥を、真空乾燥機において実施し、ここで、前記乾燥の終わりに、500mbar未満、好ましくは200mbar未満、特に有益には100mbar未満への圧力の低下を行う、請求項15~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記ラフィネートの乾燥の前に、前記ラフィネートの酵素水溶液を用いた又は発酵による処理を行う、請求項15~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記ラフィネートを、前記乾燥後に、500μm未満、好ましくは250μm未満、特に有益には150μm未満又は100μm未満のd90値を有する規定の粒度分布まで粉砕する、請求項15~31のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用、ペットフード用、及び飼料用の材料としての麻種子からの感覚的に魅力のあるタンパク質調製物、並びにそのような麻タンパク質材料を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農地、リン鉱床がより一層不足しており、農業からのCO排出が増加しているという背景から、人間の栄養や動物飼料において使用するのに植物性タンパク質調製物がますます重要になってきている。栄養価の高い食品に対する需要の増加により、栄養生理学的かつ技術機能的に最適化された簡単で高い費用対効果で提供され得るタンパク質調製物の必要性が高まっている。
【0003】
その際、ブレンド成分として大豆タンパク質及びエンドウ豆タンパク質と混合することができ、これらのタンパク質調製物におけるメチオニン不足を補償する植物性タンパク質がますます重要になっている。これは、例えば油糧種子由来のタンパク質を用いて達成することができる。
【0004】
食品用、飼料用、及びペットフード用の費用対効果の高いタンパク質源は、麻種子からの食用油を抽出する際に出る圧搾残滓(残渣)及び抽出残滓である。麻種子は、主に暗緑色及び褐色の着色を伴う堅い殻を有し、油を含む果肉を含んでいる。これらの原料の場合に、殻の分離は採油前には部分的にしか可能ではなく、これまで殻の完全な又は十分な分離は行われていない。それというのも、これにより油の収量及び圧搾の速度の大幅な低下が引き起こされることとなるからである。この理由から、従来技術によれば、圧搾して麻油を得る際に、種子は、脱殻せずに使用されるか、又は部分的に脱殻して10質量%を大幅に超える、大抵は20質量%を超える殻割合で使用される。その際、100℃を上回る高い温度では、15質量%未満、多くの場合10質量%未満の油含有量を有する圧搾ケークが得られる。これらを粉砕して粉末にし、食品及び動物飼料に添加することができる。その際、高温での過酷な処理に基づき、例えば、タンパク質のゲル形成等の技術機能的特性(technofunktionellen Eigenschaften)は良くない。さらに、高い殻割合により緑褐色の圧搾ケークがもたらされ、これにより食品用途での受け入れが減少する。不飽和脂肪酸の含有量に基づき、油を含む圧搾ケークは残留油脂を酸化させる傾向もあることから、貯蔵中に非常に素早く感覚的特性(官能特性)が損なわれる。さらに、このような麻調製物は、大豆(90%超のタンパク質含有量)又はエンドウ豆(80%超のタンパク質含有量)からの分離物と比べて、60質量%未満、部分的にはそれどころか50質量%を大幅に下回るタンパク質濃度しか有しないことから(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3を参照)、多くの食品用途での使用は困難となるか、又は不可能である。
【0005】
さらに、従来技術によれば、部分的に脱殻された麻種子からの調製物は知られているが、その色は必ずしもそれほど暗色とならない(50未満のL;非特許文献3を参照)。しかしながら、高い残留油含有量に基づき、ここでも良好な貯蔵安定性は達成されない。
【0006】
さらに、超臨界COを用いて圧搾した後に油脂含有量が2質量%未満の値に低減され、それにより貯蔵安定性が改善された麻調製物が知られている。しかしながら、この方法は非常に高いコストを招く。さらに、抽出は非常に高価なプラントにおいて数100barの高圧で行われ、その製造及び運転には大量のCO排出を伴う。このプロセスは多量のエネルギーを必要とし、減圧後に脱油粉から大量のCOが放出されるため、超臨界COを用いて抽出されたタンパク質粉末は動物性タンパク質に対して大きな環境上の利点を有さず、調製のために同様にまた高いコストを招く。
【0007】
本発明の課題は、植物性代替乳製品(飲料、ヨーグルト、チーズ)又は淡色の植物性の代替肉、代替鶏肉、若しくは代替魚肉等の色的に要求が厳しい食品用途に適した、味覚的に中立で、淡色かつ高品質の植物性タンパク質調製物及び費用対効果の高い製造方法を提供することにあった。この調製物は、少ない使用量でも食品におけるタンパク質の富化に寄与し、又はマメ科植物タンパク質と混合する場合により少ない用量でもメチオニン不足を補償するに至るために、有利には可能な限り高いタンパク質含有量を有することが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Potin et al.著の「麻(カンナビス・サティーバ・エル(Cannabis sativa L.))タンパク質の抽出条件は、抽出収量及びタンパク質品質に影響を与える(Hemp (Cannabis sativa L.) Protein Extraction Conditions Affect Extraction Yield and Protein Quality)」, Journal of Food Science 2019年, 第84巻, 第12号, 第3682頁~第3690頁
【非特許文献2】Q. Wang et al.著の「麻種子タンパク質の加工、栄養、及び機能性:概要(Processing, Nutrition, and Functionality of Hempseed Protein: A Review)」, Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety 2019年, 第18巻, 第4号, 第936頁~第952頁
【非特許文献3】Teh et al.著の「麻種子、アマ種子、及びキャノーラ種子のケークタンパク質分離物の物理化学的特性及び機能的特性に対する脱脂プロセス、酸抽出及びアルカリ抽出の効果(Effect of the defatting process, acid and alkali extraction on the physicochemical and functional properties of hemp, flax and canola seed cake protein isolates)」, Journal of food measurement & characterization 2014年, 第8巻 第2号, 第92頁~第104頁
【発明の概要】
【0009】
上記課題は、請求項1に記載のタンパク質調製物及び請求項15に記載のその製造方法によって解決される。この方法及びタンパク質調製物の有利な実施形態を、従属形式請求項、並びに以下の詳細な説明及び実施例に見出すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によるタンパク質調製物を製造する原料としては、18質量%未満、より良好には10質量%未満、有利には5質量%未満、なおもより良好には2質量%未満、特に有利には1質量%未満の原料の質量に対する殻割合を有する洗浄され部分的に又は完全に脱殻された麻種子が使用される。本発明による調製物は、以下の特性を特徴としている(測定方法は詳細な説明の終わりに挙げられている):
調製物の油脂含有量は、それぞれ調製物の乾燥物又は乾燥物質(TS)に対して6質量%未満、有利には4質量%未満、より良好には3質量%未満、特に有利には2質量%未満である。
調製物のタンパク質含有量は、(TSに対して)65質量%超、有利には70質量%超、より良好には75質量%超、特に有利には80質量%超である。
調製物は淡色ないし白色を有し、乾燥形態でも水性懸濁液でもあり、ここで、250μm未満の粒度(粒径)d90(d90:全ての粒子の質量の90%の割合が、指定された値よりも小さい)まで粉砕した後のL値は、70を超え、有利には80を超え、より良好には90を超え、特に有利には92を超える。10%の水性懸濁液の場合のL値は、70を超え、有利には80を超え、より良好には90を超え、特に有利には92を超える(表1を参照)。
【0011】
調製物の有益な(それぞれ任意の)更なる特性:
調製物は、36質量%未満、より良好には20質量%未満、好ましくは10質量%未満、特に有益には4質量%未満又は2質量%未満の麻種子の残留殻含有量を有する。
調製物は水溶性炭水化物の割合を含む。水溶性炭水化物の中でショ糖(Saccharose)が最高の割合を占めるため、この割合を以下でショ糖の含有量として示す。ショ糖の含有量は、8質量%未満、有利には3質量%未満、より良好には1質量%未満、特に有利には0.65質量%未満である。
調製物は、5質量%超、より良好には10質量%超、特に有利には15質量%超の灰分含有量(550℃での処理後のTSに対する)を有する。これは炭水化物の割合が非常に低いことを示す。したがって、高い割合の炭水化物及び食物繊維に基づく食品中のゲル形成の妨害を十分に避けることができる。
調製物の粒度は、500μm未満、より良好には250μm未満、有利には150μm未満、特に有利には100μm未満のd90値を有する。
調製物は、特に、125mL/g超、有利には200mL/g超、より良好には300mL/g超、特に有利には400mL/g超の乳化能力という技術機能的特性(technofunktionelle Eigenschaften)を有する。さらに、調製物は、pH7において8%から50%の間、有利には9%から20%の間、特に有利には9%から15%の間のタンパク質溶解度を有する。驚くべきことに、本発明による調製物は、一部で15%未満の溶解度にもかかわらず、例えばウェットテクスチャー加工された肉代替物(nasstexturierter Fleischersatz)又はドライテクスチャー加工物(Trockentexturat)としての押し出された植物タンパク質用の材料として優れた適性を示す。
調製物は、0.001質量%超、より良好には0.01質量%超、有利には0.1質量%超、特に有利には0.4質量%超であるが、それぞれ1質量%未満のアルコール、特にエタノールの割合を含む。その際、0.5質量%の含有量の場合にも、調製物の機能的特性(funktionellen Eigenschaften)は非常に高い水準にあることが明らかになる。任意に、調製物は、0.0005質量%超、より良好には0.001質量%超であるが0.005質量%未満のヘキサンの割合を含む。このようなヘキサン含有量を有する調製物は、より低いヘキサン含有量を有する調製物と比べて、より良好な機能的特性を示す。
【0012】
本特許出願における調製物の特性の場合に、質量%で指定される値は、特段の指示がない限り、絶対質量割合として指定される溶剤の割合を除き、それぞれタンパク質調製物の乾燥物又は乾燥物質に対するものである。
【0013】
【表1】
【0014】
驚くべきことに、エタノール等の溶剤が存在する場合に大きな機能的損失を示すタンパク質分離物(例えば、エンドウ豆タンパク質分離物)の場合とタンパク質含有量が同程度であるにもかかわらず、溶剤含有調製物は、指定された溶剤の含有量の場合に、技術機能性の点で依然として非常に良好な特性、例えば固いゲル構造物の形成を伴う押出機内での非常に良好な組織化性等を示す。
【0015】
有利な実施形態においては、調製物は、様々な食品用途に大いに役立ち得る追加の特性を有する。ここで、例えば、種子に本来含まれるショ糖の含有量が適切な方法の使用により低減され得るので、タンパク質調製物において、タンパク質対可溶性炭水化物含有量の比率は、脱殻された麻種子よりも大幅に高くなる。これは、食品の製造に際して望ましくないメイラード反応の形成を回避するという利点をもたらし得る。それというのも、メイラード生成物は、タンパク質を用いて製造された食品の色を変化させ、より暗色の見た目の食品をもたらすからである。これは、特に代替乳若しくは代替ヨーグルト又は代替鶏肉及び代替魚肉等の淡色の食品には望ましくない。したがって、本発明による、この場合にまたショ糖が低減された麻タンパク質調製物は、特に消費者が淡色を期待する植物性の代替乳製品、代替鶏肉、又は代替魚肉等の淡色の食品の製造に適している。
【0016】
原料中のショ糖の含有量に対するタンパク質調製物中のショ糖の含有量を50%未満の値まで低下させると、例えば130℃を上回る温度でタンパク質を押し出したときの変色はかなり軽減されるため、押し出された生成物は、種子に本来含まれるショ糖の含有量を含む調製物を押し出す場合よりも淡色となることが明らかになる。これにより、代替鶏肉又は代替魚肉として利用され得る非常に淡色の押出物を製造することが可能となる。原料中のショ糖の含有量に対するタンパク質調製物中のショ糖含有量を80%未満の値まで低下させた場合でさえも色の利点の効果が見られ、この比率を25%未満、より良好には10%未満まで低下させる場合が特に有利である。
【0017】
驚くべきことに、本発明による調製物(有利には、本発明による方法の実施後)においては、従来技術によるタンパク質分離物の製造の際に必要とされるように、事前にタンパク質を水中に溶解することなく、80質量%を上回るタンパク質含有量が達成され得る。したがって、非常に簡単で、費用対効果が高く、非常に持続可能な方法を用いて、圧搾ケークのマトリックスからタンパク質を放出させることなく、例えば普段はエンドウ豆タンパク質分離物等の分離物からしか認められないタンパク質含有量を得ることができる。
【0018】
タンパク質調製物の製造方法の説明:
本発明による方法は、幾つかの部分工程を有し、ここで、洗浄された麻種子から殻及び種子の薄皮が取り除かれるか、又は相応して洗浄及び脱殻された麻種子が準備(提供)され、次いで、好ましくは、例えばスクリュープレス、押出機、又は液圧式プレス機等の連続的なプレス機若しくは準連続的なプレス機を用いて機械的な脱油にかけ、次いで、得られた圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子から、有利には圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子の規定の粒度の調整及び規定の含水量の調整の後に、アルコール及び水、特にそれらの混合物又はヘキサン及び水を利用した溶剤抽出によって油及びショ糖を十分に取り除く。引き続き、1種以上の溶剤を調製物から分離する。最後に、好ましくは調製物の粉砕を規定の粒度分布になるまで行う。このプロセスは、有利には、種子の加工前、加工中、又は加工後に殻及び種子の薄皮の含分の分離を可能にする篩別方法、選別方法、及び選り分け方法を伴い得る。提案された方法の一部任意の部分工程を以下でより詳細に説明する。
【0019】
洗浄:第1工程において、洗浄された麻種子を準備するか、又は機械的方法によって麻種子から小石、藁、異種穀粒等の異物、又はその他の汚染物質を取り除く。その際、混入物の割合を0.5質量%未満、有利には0.2質量%未満、より良好には0.1質量%未満、特に有利には0.05質量%未満に低減させるか、又は相応して低い割合の混入物を含む麻種子を準備する。
【0020】
脱殻:次の工程において、洗浄された麻種子を脱殻するか、又は脱殻された麻種子を準備する。脱殻した後で、かつ調製物の本発明による色を達成する更なる加工の前に、殻及び種子の薄皮の割合は、18質量%未満、好ましくは10質量%未満、有利には5質量%未満、より良好には2質量%未満、特に有利には1質量%未満である。この大幅な殻の分離が、機械的な部分脱油の有利な形態としての圧搾を非常に困難にするとしても、この工程によって、完成した調製物が90を上回る明度値Lを達成し得ることの基礎が構築される。脱殻の工程の部分として、脱殻された種子の流れから圧縮空気噴射又は吸い取りによって個々の(より暗色の)種子又は残りの殻含分を分離するのに、好ましくは、選り分けも行われる。これは、種子表面からの電磁放射の反射の検知に基づく光学式又はその他の連続自動式選別機を用いて行うこともできる。多くの脱殻された粒子が一緒に分離されるため、この方法が収率を低下させるとしても、更なる加工の前の自動的な選り分けにより、完成した調製物の明度及び均質性、並びにその受け入れがなおも更に向上する。
【0021】
機械的な部分脱油:任意選択で選り分けを含む脱殻の後に、有利には脱油用の連続的な装置を用いて、種子からの油の機械的な分離が行われる。このようなユニットについての例は、スクリュープレス、押出機、又は準連続的な液圧式プレス機等のプレス機であるが、遠心分離技術等の油分離用の別の機械的装置を使用することもできる。スクリュープレス又は押出機を用いて種子を特に有利に圧搾ケーク及び油に圧搾分離する場合に、圧搾は、圧搾後の残留油含有量が8質量%超であるが40質量%未満であり、有利には、残留油含有量が8質量%から30質量%の間、より良好には8質量%から25質量%の間、特に有利には8質量%から20質量%の間となるように行われる。残留油含有量を8質量%の下限に限定することが選択されるのは、更なる油の分離には、タンパク質の損傷の一因となり得る大幅なより高い温度が必要とされるからである。これらの値は、プレス機を使用せずに別の種類の機械的な部分脱油を使用する場合にも当てはまる。
【0022】
脱殻された麻種子は最大60%の高い油含有量を有し、排液路としての殻を欠くため、簡単に機械的に脱油することはできない。しかしながら、脱油に際して必要とされる溶剤を削減するために、圧搾後の圧搾ケーク中又は部分脱油された麻種子中の20質量%未満の残留油含有量を達成することが試みられる。したがって、圧搾ケークを再度プレス機で圧搾分離するか、又は再度の機械的な部分脱油を実施することが必要となる場合がある。これは、圧搾に際して、例えば圧搾ケークを未圧搾の種子と一緒に第1のプレス機の供給部に加えることによって行うことができ、又は圧搾ケークのみを更に脱油する更なる第2のプレス機において行うことができる。圧搾ケークの圧搾を幾度も実施して、所望の残留油含有量を達成することもできる。圧搾ケークの度重なる圧搾又は幾度もの機械的な部分脱油によって、過度に高い温度に調整する必要なしに、結局は望ましい低さの残留油含有量を達成することができる。繰り返しの機械的な部分脱油によってタンパク質が過度に損傷されるのを避けるために、本発明によれば、圧搾又は機械的な部分脱油は適度な温度で行われる。麻種子を100℃未満の平均温度で、有利には80℃未満で、より良好には60℃未満で圧搾するか、又は機械的に部分脱油する。その際、平均温度とは、入口における種子の温度と、プレス機又は機械的な部分脱油用の装置の出口における圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子の温度との算術平均値と解釈(理解)される。これにより、幾度もの圧搾又は機械的な部分脱油を経るにもかかわらず、調製物における大幅な色の変化を受け入れる必要なく、油の穏やかな圧搾分離又は分離が可能となる。有利な実施形態において、機械的な部分脱油の前に、種子の温度及び水分の調整による種子のコンディショニングを行う。このために、種子中の含水量は2質量%から8質量%の間、より良好には3質量%から6質量%の間、特に有利には4質量%から5.5質量%の間に調整され、温度は30℃から80℃の間、有利には40℃から60℃の間、特に有利には45℃から55℃の間の値に調整される。
【0023】
任意の事前冷却及び中間冷却:方法の更なる実施形態において、機械的前処理(脱殻、選り分け、圧搾、又は機械的な部分脱油からなる)の前又はその間に、種子を20℃未満、有利には10℃未満、より良好には0℃未満、なおもより良好には-10℃未満、特に有利には-15℃未満の温度まで冷却する。温度を低下させることにより、脱殻及び選り分け等の機械的工程がより容易に実施可能となるため、プロセス中の収量が増加し得ることが明らかになる。それというのも、例えば、選り分け中に吹き分ける際に既に脱殻された麻種子の損失がより少なくなるか、又は種子がプラント部分にそれほど大きな付着物を形成しないからである。さらに、温度の低下により、より少ない脂質酸化に基づき、品質の大幅な向上がもたらされ得る。機械的な部分脱油の最初の工程についても、圧搾の場合にプレス機の前で種子を冷却することによって利点がもたらされ得る。それというのも、プレス機への入口は、低温では詰まる傾向がより少ないからである。種子の冷却のために、冷却トンネルを使用することができ、又は種子を、冷気、低温不活性ガス、若しくは液体窒素で冷却する。
【0024】
圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子の任意のコンディショニング:本発明による方法の有利な実施形態において、残留油を分離し、かつ圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子からショ糖の割合を減らす更なる加工の前に、抽出前に圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子のコンディショニングを行うことができる。その際、機械的な部分脱油後に最大15質量%であり得る圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子中の水分を、例えば乾燥機を用いて8質量%未満、有利には5質量%未満、より良好には3質量%未満、特に有利には2質量%未満の残留水分まで低下させると、水分が少ないほど少量の溶剤でより多くの油を分離することができるため、後続工程における有機溶剤による脱油がより効率的になることが明らかになる。これは、有利にはコストの削減に役立ち、タンパク質の保護に寄与し得る。
【0025】
さらに、抽出前に圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子の粒度及び粒子形状を変更することも有利である場合がある。圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子を2mm未満、有利には1mm未満、より良好には0.5mm未満、特に有利には0.2mm未満のd90値を有する粒度まで細砕することは、乾燥の工程及び抽出の工程を大幅に加速させることが明らかになる。この加速により、乾燥機内での滞留時間及び溶剤とタンパク質との間の接触時間が短縮されるため、調製物における機能的特性の改善がもたらされる。しかしながら、細砕された圧搾ケーク又は麻種子の堆積物において、本発明によれば、100μm未満の粒度を有する微粒の割合は、50質量%未満、有利には25質量%未満、特に有利には10質量%未満であることが望まれる。
【0026】
圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子を粉砕せずにフレーク化することも可能であり、パーコレーション抽出にとって有利である。その際、有利には、フレーク厚さは、2mm未満、有益には0.5mm未満、特に有利には0.2mm未満に調整される。その際、フレーク厚さとは、ローラーミル又はその他のフレーク化ユニットから出てくる粒子の平均厚さと解釈(理解)される。平均厚さは、例えばノギス又はマイクロメーターネジを用いた測定を介して求めることができ、その際、これは50回の測定からの平均値に相当する。
【0027】
プレス機を用いた機械的な部分脱油の場合の圧搾ケークの粒度及び粒子形状は、様々な方法により調整することができる。ここで、対応する篩いインサートを備えたミル若しくはクラッシャー、又は規定のローラー間隔を有するローラーミルを使用することができる。その際、規定のサイズスペクトルを有する粒度分布を得ることができる。粉砕後又は粉砕中に、サイズに応じた分離、例えば粒度分布に対する篩別によって粒度分布を均すことができる。また、圧力ジェットとしての高速に流れる液体又は固体を含む懸濁液を使用して、圧搾ケーク粒子を細砕することもできる。その際、液体ノズルに加えて、圧搾ケークに剪断負荷を与える供給ユニット、撹拌機、又は混合機を利用することもできる。有利には、このために、プロセス中に抽出剤を供給するのに元々使用されているユニットも利用される。したがって、例えば、遠心ポンプ又はその他の形式の供給ユニット若しくは撹拌機等の本来は圧送用又は撹拌用に設計されたユニットを細砕に使用することが可能となる。これらのユニット内での適切な滞留時間によって又は再循環によって、上述の装置内での細砕を本発明による粒度分布が得られるように調整することが可能となる。
【0028】
溶剤抽出:圧搾ケーク又は機械的に部分脱油された麻種子から残留油及びショ糖を分離するには、好ましくは、アルコールと水との混合物が溶剤として使用される。一方の溶媒としてのアルコールと、もう一方の溶媒としての水との組合せを使用することもできる。アルコール又はヘキサンを、それぞれ水の存在下で使用することも可能である。その際、有機溶剤による処理及び水による処理は、同じ抽出工程において同時に(例えば、アルコール-水混合物の形態で)行うこともでき、又はこれらを1つずつ順番に行うこともできる。アルコールとして、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等を使用することができる。圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子から油を十分に分離することを確実にするには、有機溶剤の質量割合対圧搾ケーク又は部分脱油された麻種子の質量割合に、1.5対1より大きく、有利には3対1より大きく、より良好には5対1より大きく、更により良好には7対1より大きく、特に有利には10対1より大きくなるように選択することが望まれる。これにより、2質量%未満までの油の大幅な低減、及び1質量%未満のショ糖の低減を達成することができる。
【0029】
抽出に際して有機溶剤を使用する場合に、有機溶剤に加えて水を一部加えるか、又は規定の含水量を有する有機溶剤を使用することが有利である。その際、水の使用を、溶剤抽出中に行うこともでき、又はその後に初めて行うこともできる。有機溶剤及び水を同時に使用し、かつ適切な含水量が選択される場合に、圧搾ケーク又は麻種子から油脂を可能な限り十分に分離すると同時に、ショ糖を除去することも可能となる。このために、有機溶剤に対する抽出における含水量には、6質量%超、有利には7質量%超、特に有利には8質量%超、より良好には10質量%超が選択される。有機溶剤としてアルコール類を使用する場合に、油がもはや十分に溶解され得なくなることを避けるために、6質量%超であるが14質量%未満の含水量を選択することが望まれる。この境界制限により、特に淡い色及び非常に高いタンパク質含有量を有する技術機能的なタンパク質調製物を得ることが可能となる。
【0030】
有機溶剤への水の添加は、含水溶剤、例えばアルコール-水混合物を準備(供給)することによって、十分に湿った圧搾ケーク若しくは湿った麻種子を添加することによって、又は溶剤抽出の前若しくはその間に水を直接添加することによって行うことができる。また、上述の措置(手段)の組合せを選択することもできる。
【0031】
麻からのタンパク質の豊富な圧搾ケークを水-アルコール混合物で処理する際に、油及びショ糖の分離と並行してタンパク質の変性が起こる場合もある。この影響を十分に避けるために、この同時の分離工程には小さなプロセスウィンドウのみが利用可能であるにすぎない。これには、定められた含水量だけでなく、温度及び滞留時間も含まれる。抽出中の溶剤の温度は、本発明によれば、30℃から75℃の間、有利には45℃から65℃の間、特に有利には50℃から65℃の間となる。この温度では、水及び有機溶剤の混合物を選択することで、同時にタンパク質の過剰な変性を引き起こさずに、麻種子から油だけでなくショ糖も分離することができる。45℃を上回る温度での有機溶剤と圧搾ケーク又はタンパク質調製物との間の接触期間は、本発明による方法では30分間から12時間の間、有利には1時間から5時間の間、特に有利には1時間から2時間の間である。しかしながら、ヘキサンを使用する場合には、タンパク質の熱損傷を十分に避けるために、上述の温度範囲を選択することも望まれる。
【0032】
抽出には、従来のパーコレーション抽出を使用することができ、この抽出では、圧搾ケーク粒子又は粒度/粒子形状若しくは粒子水分に関してコンディショニングされた粒子からの堆積物を溶剤で満たすことで、油及びショ糖の有機溶剤又は水への移出が起こり得る。この過程では麻の圧搾ケークから微粒子が分離され、溶剤とともに排出され得るため、ポンプ及び配管の詰まり又は生成物の損失を避けるために大規模な濾過装置を設置するべきである。この過程を阻止又は少なくとも制限するために、コンディショニングされた又はコンディショニングされていない圧搾ケークを抽出前にペレットに圧縮することは、ペレットからは抽出中に明らかに少ない微粒子しか放出されないことから有利であり得る。それにより濾過にかかる費用が大幅に削減され得る。
【0033】
パーコレーション抽出時の微粒子の損失を完全に避けることはできないため、浸漬抽出を、好ましくは、例えば混合-沈降法において実施することが有利である。多段階浸漬抽出の形を取ることが特に有利である。この方法では、圧搾ケーク又はコンディショニングされた圧搾ケークが溶剤中に完全に浸される。浸漬抽出装置においては、上記のように抽出と同時に撹拌機を用いて粒子を細砕することができる。したがって、さらに、直列に配置された複数の抽出容器において圧搾ケークの段階的な細砕を実施することが可能となる。最初の抽出工程に続いて、溶剤及びラフィネートを機械的に、有利には沈降によって分離することができる。続いて、上澄み中の油を含むミセラを蒸留及び精留し、回収された溶剤を、より微細な粒度分布を有する圧搾ケーク粒子の1つの抽出に再度使用することができる。溶剤から分離された圧搾ケーク(ラフィネート)に新たな溶剤を加え、それによりもう一度脱油することができる。油分がより少ないラフィネートの処理からの溶剤上澄みを、油分がより多いラフィネートの抽出に再度使用する等で、溶剤の総量を減らすことができる。それにより、撹拌容器による向流抽出が達成される。代替的には、スクリュー式抽出装置、チャンバー式抽出装置、又はベルト式抽出装置においても向流抽出を実現することができる。
【0034】
沈降を使用することの特別な利点は、沈降時間を定めて固-液分離の分離軸(Trennschaefte)を調整することができることにある。この場合に、規定の粒度で行われる抽出に続いて、撹拌を停止した後に、地球の重力場でラフィネート及び上澄みからの規定の体積比まで沈降が起こる。この過程は、有利には、上から粒子の沈降を加速させる又は降下させるフィルター底若しくは篩い(スクリーン)底によって、又は沈降層下のフィルター(例えばヌッチェ)の下方に真空を印加することによって促進され得る。沈降に際して、上澄みの事前に定められた体積割合が少なくとも50%、有利には60%超、特に有利には70%超である場合に、例えば吸引によって上澄みをラフィネートから分離することが合理的である。
【0035】
向流で再度ラフィネートに溶剤を適用し、撹拌中の剪断に基づき新たな粒度分布が生じるまで懸濁液を撹拌することができる。続いて、沈降工程が再度行われる。ラフィネートを混合し沈殿させる工程を幾度も繰り返すことができ、有利には、この過程は2回より多く、より良好には3回より多く、特に有利には4回より多く行われるため、抽出は多段階抽出として、特に有利には向流で実施される。その際、方法の一実施形態において、多段階抽出の異なる段階で有機溶剤及び水の混合比を変えて使用することが有利である。ここで、最初の抽出工程においてより高い含水量を利用して、水溶性成分を狙い通りに分離することができ、他の抽出工程においては含水量をより低く選択して、脱油をより効率的にすることができる。それというのも、例えば、エタノール又はプロパノール等の溶剤は、含水量が少ないほど多くの油を溶解し得るからである。このアプローチは、例えば溶剤としてエタノールを使用する場合に、水分含量が最初の抽出段階において短時間だけで高くなるので、タンパク質の変性を最小限に抑えることができるという利点を更に有する。異なる極性を有する溶剤又は溶剤混合物を異なる抽出段階で使用すると、麻種子の場合にはタンパク質の変性が軽減され得ることが明らかになる。
【0036】
抽出工程において水及びエタノール等のアルコールを混合することに加えて、最初に親油性溶剤を使用し、溶剤を部分的に分離するか又はラフィネートを完全に脱溶剤した後に、親水性溶剤又は含水溶剤を使用することも有利である場合もある。これは、水及びアルコールの存在下でのタンパク質への負担を更に軽減することができる。
【0037】
調製物の後処理及び脱溶剤:1種以上の有機溶剤及び水で抽出することに続いて、調製物を、任意に酵素水溶液又は発酵によって更に処理するか、又は直接乾燥させて、機能的特性を改善することもできる。乾燥は、有利には、タンパク質を保護し、調製物の色を可能な限り淡色に維持するのに、120℃未満、より良好には100℃未満、特に有利には80℃未満の低い温度で行われる。このために、有利には、真空中で運転され得る乾燥機が利用され、その圧力を乾燥の終わりにもう一度下げて溶剤残留物を分離する。有利には、圧力の低下は、500mbar未満、より良好には200mbar未満、特に有利には100mbar未満の値まで行われる。乾燥の終わりでのこの圧力の低下によって、更なる温度の低下が達成され、それによりタンパク質の更なる保護が達成され得る。
【0038】
乾燥後に、乾燥されたタンパク質調製物の粉砕を行って機能性を適合させることが有利である。それというのも、異なる微細度で粉砕された調製物は、例えば乳化能力等の技術機能的特性に明らかな違いを示すからである。したがって、粉砕は、用途に応じて、500μm未満、有利には250μm未満、より良好には150μm未満、特に有利には100μm未満のd90粒度まで行われる。
【0039】
調製物の使用の説明:
本発明による麻種子からのタンパク質調製物を使用する場合に、食品用又はペットフード用のタンパク質混合物の製造に際して特別な利点が明らかになる。本発明による調製物と、エンドウ豆、レンズ豆、インゲン豆、空豆、落花生、又は大豆の群からのマメ科植物タンパク質からの、特に有利にはエンドウ豆及び大豆の群のみからの、特に有利には大豆のみからのタンパク質成分との混合物が有利である。本発明による調製物への添加物として大豆を使用する理由は大豆タンパク質分離物の淡色にある。それというのも、特に淡色の本発明による調製物は、より暗色のマメ科植物タンパク質との混合物においては真価を発揮することができないからである。本発明による混合物は、60質量%超、有利には70質量%超、特に有利には80質量%超のタンパク質含有量を有することが望まれる。混合物の総質量に対する本発明によるタンパク質の比率は、5質量%超で95質量%未満、有利には10質量%超で90質量%未満、特に有利には25質量%超で75質量%未満、最も良好には40質量%超で60質量%未満であることが望まれる。これにより、特定の範囲において、マメ科植物タンパク質の機能性と、本発明による調製物の良好な感覚(官能特性)及び色とを兼ね備えることが可能となる。
【0040】
以下で、製造されたタンパク質調製物の定量的特性評価には以下の測定方法が用いられる:
【0041】
タンパク質含有量:
タンパク質含有量は、デュマ法に従って窒素を測定し、それに6.25の係数を乗じることから計算される含有量として定義されている。本特許出願において、タンパク質含有量は、乾燥物質(TS)、すなわち無水試料に対する質量パーセントで示される。
【0042】
色:
知覚可能な色は、CIE-L測色を用いて定義されている。その際、L軸は明度を示し、ここで、黒色は値0を有し、白色は値100を有する。a軸は緑色成分又は赤色成分を表し、b軸は青色成分又は黄色成分を表す。
【0043】
タンパク質の溶解度:
タンパク質の溶解度は、Morr et al. 1985(雑誌論文:Morr C. V., German, B., Kinsella, J.E., Regenstein, J. M., Van Buren, J. P., Kilara, A., Lewis, B. A., Mangino, M.E著の「標準化された食品タンパク質の溶解度の手順を開発する共同研究(Collaborative Study to Develop a Standardized Food Protein Solubility Procedure.)」 Journal of Food Science, 第50巻 (1985年) 第1715頁~第1718頁を参照)による測定方法によって測定されている。タンパク質の溶解度は、規定のpH値について示され得る。pH値が挙げられていない場合は、データはpH値「7」に対するものである。
【0044】
乳化能力:
乳化能力は、水中油型エマルジョン(Emulsion)が転相するまで100mlの1%のタンパク質調製物懸濁液(pH7)にコーン油が加えられる測定方法(以下、EC測定方法と呼ぶ)によって測定される。乳化能力は、転相時の導電率の自発的減少を介して測定されるこの懸濁液の最大吸油能として定義されており(Waesche, A., Mueller, K., Knauf, U.著の雑誌論文「ルピナスタンパク質分離物の新たな処理及び機能的特性(New processing of lupin protein isolates and functional properties.)」 Nahrung/Food, 2001, 45, 393-395を参照)、例えば1gのタンパク質調製物当たりの油のml、すなわち1グラムのタンパク質調製物当たりの乳化された油のミリリットル数において示されている。
【0045】
油脂含有量:
油脂含有量は、溶剤としてヘキサンを使用してソックスレー法に従って測定される。
【0046】
ショ糖:
ショ糖の含有量は、DIN 10758:1997-05に準じた修正された計測(2018年9月の訂正1を含む)によってHPLC法を用いて測定される。試料の準備のために、熱水を用いて試料マトリックスから糖を抽出する。不純物を分離した後に、抽出物に規定容量まで水を注ぎ、濾過し、濾液をHPLC計測に供する。
【実施例
【0047】
プレス機を用いて65℃の平均温度で3回の圧搾によって得た0.5質量%の殻割合及び25質量%の油含有量を有する200gの麻の圧搾ケークを、乾燥機において3質量%の含水率まで乾燥させ、圧搾ケークを乳鉢内で約1mmの小片に粗く細砕した。細砕した圧搾ケークをその都度800mLの溶剤(7質量%の含水量を有するエタノール-水混合物)を用いて5回抽出した。そのために、最初の工程において200gの圧搾ケークに800mLを加え、50℃で5分間撹拌し、その後、撹拌機のスイッチを切った。固体を30分間かけて沈降させ、続いて500mLの上澄みを取り除き、再度800mLの溶剤を加えた。次の抽出工程を同様に行い、その都度800mLを加え、800mLを取り除いた。続いて、最後のラフィネート又は沈降物を乾燥キャビネット内で24時間乾燥させ、引き続き1mmのメッシュ幅を有する篩いで篩別した。篩別に際して、圧搾前に除去することができなかった更なる殻部分を分離し、こうして調製物の明度を更に改善することに成功した。篩別後に、250μm未満まで粉砕を行った。
【0048】
この調製物は、78.6%のタンパク質含有量、3.8%の油含有量又は油脂含有量、0.6%のショ糖の含有量、pH7での13.2%のタンパク質溶解度、及び223mL/gの乳化能力を有していた。Lb測定に際して、92のL値を求めることができた。そのため、この調製物は非常に淡色の食品用途に適している。以下の表2及び表3は、この調製物の組成及び機能的特性を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
使用例1:
10gの実施例からの麻調製物を、Turraxを用いて200mLの水と混合した。8mLのコーン油、10gのマルトデキストリン、及び1gの糖を加え、懸濁液をTurraxにより均質に混合した。その際に得られたエマルジョンは、飲料の粘稠度及び非常に淡色の乳様の色を有し、十分に中立的な風味を有していた。
【0052】
使用例2:
実施例でのように製造された400gの麻調製物を、600gの水、50gのデンプン、及び10gの塩と混合し、小型押出機において150℃で押し出し、続いて冷却ノズルを通して供給して冷却した。押出物は、非常に淡色で、固いゲル構造を有し、中立的な風味を有していた。
【国際調査報告】