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特表2023-550199フェライト系軽量鉄鋼の製造方法及びこれを用いたフェライト系軽量鉄鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(54)【発明の名称】フェライト系軽量鉄鋼の製造方法及びこれを用いたフェライト系軽量鉄鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231122BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20231122BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20231122BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20231122BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/06
C21D8/02 D
C21D9/46 P
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533770
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 KR2021016379
(87)【国際公開番号】W WO2022124601
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0172118
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516172857
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーオペレイション ファウンデーション キョンサン ナショナル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ソル、ジェ ボク
(72)【発明者】
【氏名】ペ、ヒョ ジュ
(72)【発明者】
【氏名】コ、グァン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン ギ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ヒョ ギョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン グク
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA05
4K032AA17
4K032AA27
4K032AA31
4K032BA01
4K032CA03
4K032CC04
4K032CD03
4K032CD05
4K032CG02
4K032CH05
4K032CJ03
4K032CK02
4K032CL01
4K037EA01
4K037EA06
4K037EA16
4K037EA23
4K037EA27
4K037EB11
4K037EB12
4K037FA02
4K037FB00
4K037FC04
4K037FC05
4K037FD02
4K037FD05
4K037FG00
4K037FJ06
4K037FK02
4K037FL01
4K037FL02
4K037FM04
4K037JA06
(57)【要約】
フェライト系軽量鉄鋼の製造方法及びこれを用いたフェライト系軽量鉄鋼に係り、詳しくは、短い時間にわたって低温焼戻しを施して組織の安定性を最大化させ、マンガンの添加量が低いながらも、強度を向上させたフェライト系軽量鉄鋼の製造方法に関する。フェライト系軽量鉄鋼の製造方法は、合金を1200℃において90分間溶体化処理する第1のステップと、前記溶体化処理された合金を900℃~1100℃において熱間圧延する第2のステップと、前記熱間圧延された合金を10℃/sの冷却速度にて室温において空冷する第3のステップと、前記空冷された合金を常温において肉厚が70%減じられるまで冷間圧延する第4のステップと、前記冷間圧延した合金に対して850℃~950℃において90秒間二相域焼なまし(intercritical annealing)を施す第5のステップと、前記二相域焼なまし(intercritical annealing)を施した合金を-10℃/sの冷却速度にて冷却処理する第6のステップと、前記冷却処理を施した合金を430℃において50秒間等温焼なましする第7のステップと、前記等温焼なましされた合金を空冷する第8のステップと、前記空冷された合金を300℃において10分間低温熱処理工程(LTP)する第9のステップと、によって行われる。前記軽量鉄鋼は、2.0~3.0wt%のMn、5.0~6.0wt%のAl及び0.1~0.3wt%のCの成分を含有する。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.0~3.0wt%のMn、5.0~6.0wt%のAl及び0.1~0.3wt%のCの成分を含有し、
引っ張り強度(tensile strengths)が900MPa~1,108MPaである
ことを特徴とするフェライト系軽量鉄鋼。
【請求項2】
前記軽量鉄鋼は、
等温焼なまし工程後に、300℃において10分間低温熱処理工程(LTP)を行ってフェライト及びオーステナイトの二重粒子からなる
請求項1に記載のフェライト系軽量鉄鋼。
【請求項3】
前記フェライトは、体積分率が76.9%であり、前記オーステナイトは、体積分率が23.1%である
請求項2に記載のフェライト系軽量鉄鋼。
【請求項4】
前記軽量鉄鋼は、
全伸び(total elongations)が42.5%~47%である
請求項1に記載のフェライト系軽量鉄鋼。
【請求項5】
前記軽量鉄鋼は、
降伏強度が610MPa~798MPaである
請求項1に記載のフェライト系軽量鉄鋼。
【請求項6】
合金を1200℃において90分間溶体化処理する第1のステップと、
前記溶体化処理された合金を900℃~1100℃において熱間圧延する第2のステップと、
前記熱間圧延された合金を10℃/sの冷却速度にて室温において空冷する第3のステップと、
前記空冷された合金を常温において肉厚が70%減じられるまで冷間圧延する第4のステップと、
前記冷間圧延した合金に対して850℃~950℃において90秒間二相域焼なまし(intercritical annealing)を施す第5のステップと、
前記二相域焼なまし(intercritical annealing)を施した合金を-10℃/sの冷却速度にて冷却処理する第6のステップと、
前記冷却処理を施した合金を430℃において50秒間等温焼なましする第7のステップと、
前記等温焼なましされた合金を空冷する第8のステップと、
前記空冷された合金を300℃において10分間低温熱処理工程(LTP)する第9のステップと、
によって行い、
前記第9のステップを行って製造された軽量鉄鋼は、
2.0~3.0wt%のMn、5.0~6.0wt%のAl及び0.1~0.3wt%のCの成分を含有する
ことを特徴とするフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。
【請求項7】
前記軽量鉄鋼は、
前記第7のステップにおいて低温熱処理工程(LTP)を行うことで、フェライト及びオーステナイトの二重粒子からなる
請求項6に記載のフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。
【請求項8】
前記フェライトは、体積分率が76.9%であり、前記オーステナイトは、体積分率が23.1%である
請求項7に記載のフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。
【請求項9】
前記軽量鉄鋼は、
引っ張り強度(tensile strengths)が900MPa~1,108MPaである
請求項6に記載のフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。
【請求項10】
前記軽量鉄鋼は、
全伸び(total elongations)が42.5%~47%である
請求項6に記載のフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。
【請求項11】
前記軽量鉄鋼は、
降伏強度が610MPa~798MPaである
請求項6に記載のフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。
【請求項12】
前記第4のステップにおいて冷間圧延を施して
フェライト及びκ-カーバイドが交互に並べられ、圧延方向に沿って沈殿バンド構造を生成する
請求項6に記載のフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。
【請求項13】
前記第2のステップにおいて熱間圧延して肉厚を55%まで減じる
請求項6に記載のフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。
【請求項14】
前記第4のステップにおいて冷間圧延して肉厚を70%まで減じる
請求項6に記載のフェライト系軽量鉄鋼の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系軽量鉄鋼の製造方法及びこれを用いたフェライト系軽量鉄鋼に係り、さらに詳しくは、短い時間にわたって低温焼戻しを施して組織の安定性を最大化させ、マンガンの添加量が低いながらも、強度を向上させたコスト節減型フェライト系軽量鉄鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、産業分野における軽量化の戦略のために、双晶誘起塑性(TWIP:twinning-induced plasticity)に高Mn鋼を加えたり、変態誘起塑性(TRIP:transformation-induced plasticity)に多量のAl(アルミニウム)を加えたりする。1wt%のAlを添加すると、合金の密度が最大で1.3%まで小さくなるが、エンジニアリング応用分野に関しては、高い含量のAl軽量または低密度のTWIPまたはTRIP鋼は、色々な欠点が生じる。軽量鋼の色々な熱力学的な処理事象が生じると、高い密度のAlの含量により高温において面中心立方(f.c.c.)オーステナイト粒子の安定性が大幅に低くなる。これは、準安定オーステナイト粒子の粒径と分布により室温においてオーステナイト粒子を異質的なものにする。結局、異種の準安定オーステナイトの焼成ひずみの間に固体状態のマルテンサイトのひずみは予測することができず、引っ張り試験の間に小さなひずみにおいて早期TRIPの働きを招いてしまう。
【0003】
既存より用いられてきている軽量鉄鋼は、優れた伸びを有しているとはいえ、アルミニウムの添加によって所望の強度を得るには難点があった。これを補うために工夫された方案が、マンガンを添加して強度を増加させることであるが、多量のマンガンを添加することにより、工程コストが高騰してしまうという結果を生んでしまう。これは、経済的な側面からみて、多大な損失を引き起こし、その結果、別の方案を工夫する必要性が生じる。
【0004】
叙上の欠点を解決するために、広範な産業応用分野において用いられる既存の熱機械加工の後に、本発明においては、低温焼戻しを施した。ここで、低温焼戻し経路を調整すると、中間炭素原子を二種の準安定オーステナイトに分割して通常のフェライトベースのLIGHT-TRIP(変態誘起塑性)-DP(二相)鋼の強度と軟性が同時に向上するということを示した。特に、このような焼戻し工程は、準安定オーステナイト粒子において高い転位密度の損失なしに行われた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の不都合を解決するために案出されたものであって、その目的は、超高強度、軟性及び低密度のフェライト系軽量鉄鋼を提供することである。
【0006】
また、本発明の目的は、Al及びMnなどの固体溶質元素を用いて、工程コストが高騰する従来の工程における不都合を解決して、工程コストを削減することのできるフェライト系軽量鉄鋼を提供することである。
【0007】
本発明において解決しようとする技術的課題は、上述した技術的課題に何ら制限されるものではなく、未言及の他の技術的課題は、次の記載から本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者にとって明らかに理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るフェライト系軽量鉄鋼の製造方法は、合金を1200℃において90分間溶体化処理する第1のステップと、前記溶体化処理された合金を900℃~1100℃において熱間圧延する第2のステップと、前記熱間圧延された合金を10℃/sの冷却速度にて室温において空冷する第3のステップと、前記空冷された合金を常温において肉厚が70%減じられるまで冷間圧延する第4のステップと、前記冷間圧延した合金に対して850℃~950℃において90秒間二相域焼なまし(intercritical annealing)を施す第5のステップと、前記二相域焼なまし(intercritical annealing)を施した合金を-10℃/sの冷却速度にて冷却処理する第6のステップと、前記冷却処理を施した合金を430℃において50秒間等温焼なましする第7のステップと、前記等温焼なましされた合金を空冷する第8のステップと、前記空冷された合金を300℃において10分間低温熱処理工程(LTP)する第9のステップと、によって行われることを特徴とする。
【0009】
前記軽量鉄鋼は、2.0~3.0wt%のMn、5.0~6.0wt%のAl及び0.1~0.3wt%のCの成分を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記の課題の解決手段によって、本発明は、超高強度、軟性及び低密度のフェライト系軽量鉄鋼を製造することができる。
【0011】
また、本発明は、Al及びMnなどの固体溶質元素を用いて、工程コストが高騰する従来の工程の不都合を解決して、工程コストを削減することのできるコスト節減型フェライト系軽量鉄鋼を製造することができる。
【0012】
さらに、本発明は、低温熱処理工程(LTP)を調整して通常のフェライト系に基づく強度と軟性が同時に向上した軽量鉄鋼を製造することができる。
【0013】
さらにまた、本発明は、低温熱処理工程(LTP)を行うことで、組織の安定性を最大限にして機械的な特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明であるフェライト系軽量鉄鋼の製造方法における時間の経過に伴う温度グラフを示す概略図である。
図2】Bにて示した図1の二相域焼なまし(intercritical annealing;ICA)前の区間の冷間圧延鋼材の全体的な微細構造を示す写真である。
図3】本発明の一実施形態であって、Thermo-Calcを用いて計算した温度関数であって、低温熱処理工程(以下、LTP)鋼鉄に対するフェライト、オーステナイト及びκ-カーバイドの平衡相分率を示すグラフである。
図4】焼戻し中における準安定オーステナイト粒子分画の変化を示すものであり、(A)は、10分間の焼戻し温度の関数であって、準安定オーステナイト粒子の体積分率であり、(B)は、300℃(上)及び400℃(下)において焼戻しされたLTP鋼の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
図5】引っ張り試験前における現在の鋼の微細構造を示す透過電子顕微鏡(TEM)画像であって、LTPの間に転位密度が損失されないことを示す。
図6】3D(3次元)により再構成された炭素地図であって、0.1C-850鋼(左側)及び0.3C-850鋼(右側)の焼なましされたγ粒子と各鋼の準安定γ粒子から読み込んだC、Mn及びAlの対応する1D濃度プロファイルである。
図7】fcc-オーステナイト相の典型的な電子後方散乱回折(EBSD)極点図であって、横方向は0.1C-850(左側)及び0.3C-850鋼鉄(右側)の平面に垂直であり、RDは圧延方向、NDは垂直方向である。
図8】焼戻しの前に0.1及び0.3wt%のCにて臨界的に焼なましされた鋼鉄の準安定オーステナイト粒子に対する面積分率を測定したグラフである。
図9】LTP(赤色)及び非LTP(青色)鋼の(220)fccピークのグラフである。
図10】常温引っ張り特性を示すグラフであって、(a)は、LTPを施した鋼を示し、曲線b-dは、等温焼なましにより処理された0.1wt%のC(c及びd)及び0.3wt%のC(b)の非LTP鋼を示すグラフである。
図11】引っ張り試験を経たLTP鋼鉄の微細構造であって、他のストレインにおけるLTP鋼鉄のシンクロトロンXRD(X線回折)プロファイルである。
図12】引っ張り試験を経たLTP鋼鉄の微細構造であって、直径が0.5μm以下の微小領域(Small Zone)に対する顕微鏡分析写真である。
図13】引っ張り試験を経たLTP鋼鉄の微細構造であって、直径が3.0μm以下の粗大領域(Coarse Zone)に対する顕微鏡分析写真である。
図14】低温熱処理工程(LTP)を行った後、微小領域及び粗大領域における圧延の変化量(ε=0%、ε=5.2%、ε=13.5%、ε=5.2%)に応じた微細組織の変化を示す写真である。RDは、圧延方向、NDは、RDに垂直な方向及びTDは、観測方向である。
図15】LTPを行う前とLTPを行った後における強度の比較結果を示すグラフである。
図16】本発明であるフェライト系軽量鉄鋼の製造方法を示す手順図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この明細書において用いられる用語について簡略に説明し、本発明について詳しく説明する。
【0016】
本発明において用いられる用語としては、本発明における機能を考慮しつつ、できる限り現在汎広く用いられている一般的な用語を選択したが、これは、当分野に携わっている技術者の意図又は判例、新たな技術の出現などによって異なる。なお、特定の場合は、出願人が任意に選定した用語もあり、この場合に、該当する発明の説明の部分の欄において詳しくその意味を記載する。よって、本発明において用いられる用語は、単なる用語の名称ではなく、その用語が有する意味と本発明の全般に亘っての内容を踏まえて定義される。
【0017】
明細書の全般に亘って、ある部分がある構成要素を「備える」としたとき、これは、特に断りのない限り、他の構成要素を除外するわけではなく、他の構成要素をさらに備えていてもよいことを意味する。
【0018】
以下では、添付図面に基づいて、本発明の実施形態について本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかしながら、本発明は、種々の異なる形態に具体化可能であり、ここで説明する実施形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
本発明における解決しようとする課題、課題の解決手段、発明の効果をはじめとする具体的な事項は、次に記載する実施形態及び図面に取り込まれている。本発明のメリット及び特徴、並びにそれらを成し遂げる方法は、添付図面と結び付けて詳しく後述されている実施形態を参照すれば、なお一層明らかになる。
【0020】
以下、添付図面に基づいて、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0021】
従来より用いられてきている軽量鉄鋼は、優れた伸びを有しているとはいえ、アルミニウムの添加により所望の強度を得るには難点があった。これを補うために工夫された方案が、マンガン(Mn)を添加して強度を増加させることであるが、多量のマンガンを添加してしまうと、工程コストが高騰してしまうという不都合がある。これは、経済的な側面からみて多大な損失を引き起こし、その結果、別の方案を工夫する必要性が生じる。本発明は、これらの理由によってマンガンの添加量は低減しつつも、所望の強度が得られる低温熱処理工程(以下、LTP)をさらに行って、いわゆる「コスト節減型」の軽量鉄鋼を得ることができる。
【0022】
一般に、金属合金及び鋼鉄のfcc構造のオーステナイト相は、高温下において安定的である。しかしながら、LIGHT TRIP-DP(transformation-induced plasticity-dual phase)材料に色々な熱力学的な処理が施されると、高温下においてオーステナイト粒子の安定性が著しく低下する。これは、常温においてオーステナイト粒子を不規則的なものにし、準安定オーステナイト粒子の粒径と分布を異質的なものにする原因となる。LIGH TTRIP-DP合金は、低いAlの含量(5wt%未満)の通常のTRIP-DPとは、準安定オーステナイト粒子において差が出る。すなわち、前者は、粗い低温安定性のBCC(体心立方格子)-フェライトマトリックスに付けた異質的なラメラ状の準安定オーステナイト粒子を構成するのに対し、後者は、粒子の境界に沿って同一の分布を形成する。結局、異質的な準安定オーステナイトの焼成ひずみの間に固体状態のマルテンサイトひずみは予測することができなくなり、その結果、引っ張り試験中に小さなひずみにおいて早期TRIPが生じてしまう。
【0023】
従来の工程法は、高い温度において加熱した後、高温の圧延と低温の圧延を行った後、再び焼なましして用いる方法である。しかしながら、上述したように、既存の方法は、強度の側面からみて脆いというデメリットを有しており、結晶粒径にバラツキが生じるため、補う必要がある。圧延処理を施した後、微細組織を観察すると、非常に不均質であるということを確認することができる。したがって、熱処理を施して再結晶を行い、かつ相の変態を引き起こす。総二回の工程が終わった後、先に行った工程温度よりも比較的に低い温度である300℃において約600秒ほど低温熱処理工程(以下、LTP)を行うのである。本発明において、前記低温熱処理工程(LTP)を行って組織の安定性を最大にし、機械的な特性を向上させることができる。
【0024】
本発明であるフェライト系軽量鉄鋼は、2.0~3.0wt%のMn、5.0~6.0wt%のAl及び0.1~0.3wt%のCの成分を含有することを特徴とする。なお、前記フェライトは、体積分率が76.9%であり、前記オーステナイトは、体積分率が23.1%であることを特徴とする。
【0025】
前記Mnは、2.0~3.0wt%にて含めて工程コストを節減する。
【0026】
前記Alは、5.0~6.0wt%にて含めて合金の質量密度を減らし、有害なFe-Cベースの沈殿を抑えるようにした。図2は、図1におけるB点であるICA前の冷間圧延鋼材の全体的な微細構造を示すものであって、圧延鋼は、圧延方向RDに沿ってフェライトとC-Alリッチな沈殿物であるκ-カーバイドを含む二相微細構造を示している。
【0027】
前記Cは、0.1~0.3wt%にて含め、850℃~950℃において0.1~0.3wt%のCのすべての圧延鋼板はそれぞれ850及び950℃において二相域焼なまし(intercritical annealing、以下、ICA)された。
【0028】
一実施形態を挙げると、0.3wt%のCを850℃において(以下、0.3C-850)ICA(S50)を施した後、等温焼なまし工程(S70)を施した後、300℃において10分間低温熱処理工程(LTP)を行ったところ、図4に示すように、フェライト及びオーステナイトの二重粒子からなり、温度が高くなるにつれて、オーステナイト分率が減少した。なお、400℃を超える場合、α-フェライト及びκ-カーバイドが形成され、オーステナイト体積分率が損失されるということを確認した。
【0029】
一実施形態を挙げると、図5に示すように、LTPを行った状態で、ICA(S50)を0.3C-850にて行った試片に対して、10分間300℃までTEM分析を行ったところ、LTPの間に転位密度が損失されないということを確認することができ、オーステナイトの安定化のためにLTPが効率よく活用されることが可能である。
【0030】
LTPを行った後におけるフェライト系軽量鉄鋼の成分は、下記の表1の通りである。
【0031】
【表1】
【0032】
図6のアトムプローブトモグラフィ(APT)によって示されたように、本発明において、LTP工程後に、準安定オーステナイト粒子に分割されるCの濃度を測定した。両鋼鉄試片LTP及び0.3C-850の間の他のオーステナイト安定化元素であるMnの濃度差は、検出誤差範囲内にある。なお、Al原子は、Mnと略同じ傾向を示した。図7に示すように、LTPサンプルをはじめとするすべての鋼鉄試片は、太いフェライトマトリックスにおいて層をなし、群集をなす準安定オーステナイト粒子を構成するラメラ状の微細構造を示している。
【0033】
焼なましされた(S70)鋼において、準安定オーステナイト粒子の異質性は、位置の不規則性を示し、粒子径が0.45~4.2μmの範囲であることを示す。このような異質性は、圧延状態で圧延方向RDに沿って層をなし、クラスターをなす微細構造によって生じてしまう。図8に示すように、電子後方散乱回折(EBSD)及び既存のX線回折(XRD)によって決められた準安定オーステナイト粒子の面積分率の測定については、炭素の含量が増えると、あるいは、臨界間の焼なまし温度が高くなると、さらに多くのオーステナイト分率が生成されるということが分かった。
【0034】
図9に示すように、さらに多くの隙間炭素原子を準安定オーステナイト粒子に分割可能なLTP工程は、(220)fcc平面の回折角度を減少させる。これは、シンクロトロンXRDによって判明されており、LTPを用いた面心立方格子(fcc)-オーステナイト格子パラメーターの増加を示す。両鋼鉄の間の(220)fcc平面の計算された面間の間隔(interplanar d-spacing)は、それぞれ0.12880と0.12859nmであった。APT及びXRDの結果に基づいて、準安定オーステナイトに1 at%(アトミックパーセント)の炭素を加えると、(220)fcc面間の間隔が0.00018nmまで増加する。これは、(111)fccすべり平面のd-間隔がLTPによって有効に増加するということを意味する。
【0035】
図10は、鋼鉄(0.3C-850-LTP(a)、0.3C-850(b)、0.1C-850(c)及び0.1C-950(d))の公称応力-ひずみ曲線(stress-strain curve)を示している。LTPを行うことにより、フェライト系のLIGHT-TRIP-DP合金の常温における引っ張り特性が著しく改善されたことが分かる。
【0036】
降伏強度は、(b)の場合の610MPaからLTP鋼の場合の798MPaへと増加した。最大の引っ張り強度は、900MPaから1108MPaへと増加した。全伸びは、42.5%から47%(絶対レベル)へと増加した。炭素の含量が0.3wt%から0.1wt%へと減少すると、引っ張り特性が減少した。LTPを行った結果(0.3C-850-LTP(a))、さらに高い強度を有しつつ、さらに大きな変化量が受け入れられるということを確認することができる。なお、図15に示すように、強度/重さである比強度を測定した結果、LTPを行った鉄鋼の方かさらに高いということを観察した。
【0037】
引っ張り試験中にLPT鋼の転位密度を決定するために、最終サンプルの破綻までシンクロトロンXRDと段階的ひずみを用いて結合分析を行った。各ひずみレベル、すなわち、ひずみ率(ε)が0%(焼なまし状態)、13.5%、25.2%及び47.1%であるときに得た回折結果を図11の(A)に示した。図11の(B)は、LTP鋼鉄のひずみ前に準安定オーステナイト相は密度が3.13×1015 -2である刃状転位がほとんど含まれているのに対し、粗いフェライトマトリックスにおいてらせん転位は4.48×1014 m-2を示している。
【0038】
図14は、LTPを行った後、圧延の変化量に応じた微細組織の変化を示すものであって、微小領域(Small zone)においては、圧延の変化量が増加するにも拘わらず大きな変化がないものの、粗大領域(Coarse zone)においては、変化量が増加するにつれて大きさが小さくなるということを観察することができる。
【0039】
次いで、細粒子と粗粒子のオーステナイトにおいて、ひずみによる位相変換の粒子径の依存性を確認した。ナノ押し込み試験及びTEM分析は、直径が0.5μm以内の細粒子及び直径が3.1μm以内の粗粒子の圧子付きのオーステナイト領域における同一の位置において行われた。図12の荷重変位曲線は、オーステナイト細粒子がナノ押し込み荷重によるマルテンサイトひずみに抵抗するということを示す。
【0040】
これはまた、図13に示すように、TEM画像と対応する制限視野電子回折パターン(SADP:Selected Area Diffraction Pattern)によって確認され、標的化され、かつ、窪んだ小さなオーステナイトの下から取得される。これとは対照的に、ローディング-アンローディング曲線のポップイン現象は、LTP合金において、粗いオーステナイト領域のナノ押し込み試験の最中に明らかに観察される。また、最初のポップイン現象後の勾配は、一定のローディング速度においても、最初のポップイン前の勾配に比べて急激に増加した。この勾配の増加は、粗い準安定オーステナイトの内部の連続した相ひずみの形成を通じた転位樹林の硬化に起因する。これは、TEM画像によって裏付けられて、オーステナイトが硬質のα’-マルテンサイト相に局部的にひずんだことを示す。対応するSADPは、新たに形成されたbcc α’-マルテンサイトと親fccオーステナイトとの間に共通のKurdjumov-Sachs(K-S)関係が存在するということを示す。粗いオーステナイトのα’-マルテンサイト粒子を<110>bcc方向に沿って成長させてひずみ誘起相変態によって生成される総エネルギーを最小化させた。ポップイン現象は、ナノインデンターチップによって法線方向に沿って外部の応力が加えられたときに生じた。すなわち、ベイン(Bain)歪みの圧縮軸が押し込み方向と略平行である可能性が高い。
【0041】
本発明であるフェライト系軽量鉄鋼の製造方法は、図16に示すように行われる。
【0042】
まず、第1のステップ(S10)においては、合金を1200℃において90分間溶体化処理する。前記溶体化処理(solution treatment)は、合金元素を固溶体に溶解する温度以上に加熱して十分な時間の間に保持して材料を軟化させることであって、より具体的に、前記溶体化に際して、1200℃未満において溶体化を施す場合、オーステナイト(austenite)相の分率が低くなるという不都合が生じる虞があり、1200℃を超える場合、オーステナイト(austenite)相の結晶粒径が過剰に大きくなり過ぎてしまうという不都合が生じる虞があるため、上記の条件下で施すことが好ましい。なお、前記溶体化に際して、90分未満において溶体化を施す場合、オーステナイト(austenite)相の分率が低くなるという不都合が生じる虞があり、90分を超える場合、オーステナイト(austenite)相の結晶粒径が過剰に大きくなり過ぎてしまうという不都合が生じる虞があるため、上記の条件下で施すことが好ましい。
【0043】
前記合金は、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)及び炭素(C)を含むことを特徴とし、本発明であるフェライト系軽量鉄鋼の製造方法によって製造された軽量鉄鋼は、2.0~3.0wt%のマンガン(Mn)、5.0~6.0wt%のアルミニウム(Al)及び0.1~0.3wt%の炭素(C)の成分を含有することを特徴とする。
【0044】
次いで、第2のステップ(S20)においては、前記溶体化処理された合金を900℃~1100℃において熱間圧延する。前記第2のステップ(S20)において熱間圧延して肉厚を55%まで減じる。より具体的に、前記第2のステップ(S20)において900℃未満において熱間圧延を施す場合、仕上げ圧延温度までの温度間隔が狭いため、所定の肉厚まで十分な圧延を行うことができず、1100℃を超えて熱間圧延を施す場合、高温脆性を引き起こす虞があるため、上記の条件下で施すことが好ましい。
【0045】
次いで、第3のステップ(S30)においては、前記熱間圧延された合金を10℃/sの冷却速度にて室温において空冷する。但し、前記熱間圧延された合金は、650℃において60分間圧延した後、室温において空冷してもよい。前記熱間圧延された合金は、コイル状に生成される。
【0046】
次いで、第4のステップ(S40)においては、前記空冷された合金を常温において肉厚が70%に減じられるまで冷間圧延する。図2に示すように、前記第4のステップ(S40)において生成された圧延鋼は、圧延方向RDに沿ってフェライトとC-Alリッチな沈殿物であるκ-カーバイド(体積分率:38.6%)を含む二相微細構造を示している。
【0047】
κ-カーバイドのバンド構造の形成は、主として高アルミニウム軽量鋼を鋳造する間における溶質分割効果に起因する。前記第4のステップ(S40)は、常温の低い温度下において行う。
【0048】
次いで、第5のステップ(S50)においては、前記冷間圧延した合金に対して850℃~950℃において90秒間二相域焼なまし(intercritical annealing、ICA)を施す。前記冷間圧延した合金は、前記第5のステップ(S50)を行いながら、フェライト及びオーステナイトを生成することになる。前記第5のステップ(S50)を行う温度は、熱力学的な計算に基づいて、4次のFe-Mn-Al-Cシステムにおいてκ-カーバイド相を完全に溶解できるように設定される。
【0049】
より具体的に、前記第5のステップ(S50)において850℃未満において二相域焼なましを施す場合、残留オーステナイトが残っている虞があり、合金元素が十分に固溶されることを目指して行うため、950℃を超えて二相域焼なましを施す必要はない。
【0050】
次いで、第6のステップ(S60)においては、前記二相域焼なまし(intercritical annealing)した合金を-10℃/sにて冷却処理する。
【0051】
次いで、第7のステップ(S70)においては、前記冷却処理を施した合金を430℃において50秒間等温焼なましする。
【0052】
次いで、第8のステップ(S80)においては、前記等温焼なましされた合金を空冷する。
【0053】
次いで、第9のステップ(S90)においては、前記空冷された合金に対して300℃において10分間低温熱処理工程(LTP)を施す。前記等温焼なましした合金は、前記第9のステップ(S90)を行ってフェライト及びオーステナイト粒子からなる二重微細構造が形成される。前記第9のステップ(S90)においては、析出物が析出されて平衡相に至るまで焼戻しを施すことが好ましい。
【0054】
より具体的に、前記第9のステップ(S90)において300℃未満において前記低温熱処理工程(LTP)を施す場合、析出物が析出されないという不都合が生じる虞があり、300℃を超えて前記低温熱処理工程(LTP)を施す場合、析出物の粗大化に起因して機械的な性質の低下及び製造コストの高騰が招かれてしまうという不都合が生じる虞があるため、上記の条件下で施すことが好ましい。また、前記第9のステップ(S90)において10分未満にて前記低温熱処理工程(LTP)を施す場合、析出物が析出されないという不都合が生じる虞があり、10分を超えて前記低温熱処理工程(LTP)を施す場合、十分なエネルギーが得られるので、結晶粒の粗大化が招かれてしまう虞があるため、上記の条件下で施すことが好ましい。
【0055】
従来の研究においては、引っ張り強度が1GPa以上であり、伸びが7%以上であることが主な結果物であった。しかしながら、本発明においては、LTP工程を用いて、フェライト系が主組織でありながら、降伏強度が610MPaから798MPaへと増加し、最大の引っ張り強度は900MPaから1108MPaへと増加した。なお、全伸びは、42.5%から47%(絶対レベル)へと増加した。
【0056】
上記の課題の解決手段によって、本発明は、超高強度、軟性及び低密度のフェライト系軽量鉄鋼を製造することができる。
【0057】
また、本発明は、Al及びMnなどの固体溶質元素を用いて、工程コストが高騰するという従来の工程が抱えている問題を解決して、工程コストが削減可能なフェライト系軽量鉄鋼を製造することができる。
【0058】
さらに、本発明は、低温熱処理工程(LTP)を調整して通常のフェライト系に基づく強度と軟性が同時に向上した軽量鉄鋼を製造することができる。
【0059】
さらにまた、本発明は、低温熱処理工程(LTP)を用いて、組織の安定性を最大にして機械的な特性を向上させることができる。
【0060】
このように、上述した本発明の技術的な構成は、本発明が属する技術分野における当業者が、本発明の技術的な思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施可能である。
【0061】
よって、上述した実施形態は、あらゆる面において例示的なものに過ぎず、限定的ではないものと理解すべきであり、本発明の範囲は、上述した詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲によって表わされ、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導き出されるあらゆる変更またはひずみされた形態が本発明の範囲に含まれる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】