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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】脱細胞化組織の免疫原性の最小限化
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
A61L27/36 100
A61L27/36 320
A61L27/36 300
A61L27/36 420
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023524388
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(85)【翻訳文提出日】2023-06-05
(86)【国際出願番号】 US2021055788
(87)【国際公開番号】W WO2022087089
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】63/094,591
(32)【優先日】2020-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519022908
【氏名又は名称】ティシュー テスティング テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】TISSUE TESTING TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】ケルビン ジーエム ブロックバンク
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB12
4C081AB13
4C081AB17
4C081AB18
4C081AB19
4C081BA17
4C081CD34
4C081CE11
4C081EA12
(57)【要約】
本開示は、組織を保存しおよび組織の免疫原性低減する方法を提供する。本方法は、第1の組織を取得するステップであって、第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第1の溶液中に第1の組織を少なくとも1時間浸漬することによって、第1の組織の細胞を死滅させ溶解し、第2の組織を形成するステップと、第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、第2の組織の残留細胞材料は、バイオリアクター内で第2の組織を脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、第3の組織を無氷凍結保存に供するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織を保存し、保存された組織の移植または埋め込み後の免疫反応を低下させる方法であって、
ドナーから第1の組織を取得するステップであって、前記第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、
少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第1の溶液中に前記第1の組織を少なくとも1時間浸漬することによって、前記第1の組織の細胞を死滅させ溶解し、第2の組織を形成するステップと、
前記第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、前記第2の組織の残留細胞材料は、バイオリアクター内で前記第2の組織を脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、
前記第3の組織を無氷凍結保存に供するステップであって、前記無氷凍結保存は、
前記第3の組織および第2の溶液を容器内に所定の温度で少なくとも1時間置くことによって、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第2の溶液を前記第3の組織に浸潤させることと、
前記第2の溶液を除去して少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第3の溶液と交換し、前記第2の溶液を前記第3の溶液と交換した後、密閉容器が前記第3の溶液および第3の組織を含むように前記容器を密閉することと、
前記密閉容器を保存することと、
を含む、ステップと、
前記第3の組織をレシピエントに移植または埋め込みするステップであって、
前記第3の組織の移植または埋め込みによって免疫反応が引き起こされない、または、
レシピエントに起こる免疫反応は、生命を脅かすものではない、
ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
第1の組織の起源は、遺伝子操作されたブタ供給源である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記野生型組織または遺伝子改変組織は、心臓弁、心膜、血管、靭帯、腱、膀胱、腸、および皮膚からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の組織、前記第2の組織、および前記第3の組織は、グルタルアルデヒドで架橋されていない、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の組織は、前記第1の組織を、前記第1の組織の生細胞のすべてを死滅させるのに十分な時間、無菌パッケージ内に室温でシェーカー上で10~80mLの前記第1の溶液中に置くことによって、1工程で形成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第3の組織は、1~5日または5日より長い期間で前記第2の組織から形成され、
前記第2の組織の前記残留細胞材料は、生理的流動および圧力条件下で滅菌溶液を用いて滅菌バイオリアクター内で洗浄することによって除去される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記無氷凍結保存は、前記第3の組織および第2の溶液を無菌ポリエステルバッグまたは無菌ポリエステルバイアル内に入れて室温で少なくとも1時間シェーカー上に置くことを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記無氷凍結保存は、前記第3の組織および第2の溶液を無菌ポリエステルバッグ内に室温でシェーカー上で少なくとも1時間置き、その後、前記第2の溶液を前記第3の溶液と交換し、前記ポリエステルバッグをヒートシールして保存することを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の組織、前記第2の組織、および前記第3の組織は各々、ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープが存在しない組織である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第3の組織は、動的フローバイオリアクター内の界面活性剤を使用しない脱細胞化によって形成される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第3の組織は、DNAを99%含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の溶液、前記第2の溶液および前記第3の溶液は、各々、ユーロコリンズ溶液中に4.65MのDMSO、4.65Mのホルムアミド、および3.31Mの1,2プロパンジオールを含有する83%凍結保護剤溶液である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記野生型組織または遺伝子改変組織は、心臓弁である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第3の組織は、同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織と比較して、ヒトにおける免疫原性が低下しており、前記同じドナーから得られた前記対応する野生型組織または遺伝子改変組織は、
脱細胞化または凍結保護剤の曝露のみに供された組織、
抗原を隠すまたはマスキングすることによって免疫原性が低下した組織、
脱細胞化および/または凍結保護剤への曝露を受けていない組織、または、
のいずれかである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
組織を保存するための方法であって、
第1の組織を取得するステップであって、前記第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、
少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第1の溶液中に前記第1の組織を少なくとも1時間浸漬することによって、前記第1の組織の細胞を死滅させ溶解し、第2の組織を形成するステップと、
前記第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、前記第2の組織の残留細胞材料は、バイオリアクター内で前記第2の組織を脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、
前記第3の組織を無氷凍結保存に供するステップであって、前記無氷凍結保存は、
前記第3の組織および第2の溶液を容器内に所定の温度で少なくとも1時間置くことによって、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第2の溶液を前記第3の組織に浸潤させることと、
前記第2の溶液を除去して少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第3の溶液と交換し、前記第2の溶液を前記第3の溶液と交換した後、密閉容器が前記第3の溶液および第3の組織を含むように前記容器を密閉することと、
前記密閉容器を保存することと、
を含む、ステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府支援)
本発明は、全体的または部分的に、NIH、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所の助成金番号1R43AI114486-01A1(題名:Immunogenicity of wild-type pig tissues after ice-free cryopreservation in genetically engineered recipients)によって支援された。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
この非仮出願は、2020年10月21日に出願された米国仮出願第63/094,591号の利益を主張する。先行出願の開示は、参照によってその全体が本明細書に援用される。
【0003】
(技術分野)
本開示は、概して、後で使用するために(例えば、同じまたは異なる哺乳動物への移植のために、および/またはさらなる研究のために)組織を調製および/または保存するための方法論に関する。いくつかの実施形態では、本開示は、非ヒト供給源(ブタ組織など)からの組織を化学固定または抗α-Gal反応なしに他の哺乳動物(ヒトなど)で利用可能にする、単純で分かりやすい方法論に関する。本開示はまた、非ヒト供給源からの組織(例えば、ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープがそのブタドナー組織中に最初に存在する場合があり得るまたは存在しない場合があり得る、ブタドナー組織など)をヒトにおいて利用可能にし、レシピエントの免疫反応を低減する(化学固定または抗α-Gal反応なしに)、単純で分かりやすいプロセスをも提供する。
【背景技術】
【0004】
動物/非ヒト由来の組織(例えば、ブタまたはウシ供給源由来など)から、多数の埋め込み可能な材料が調製されてきた。改変されていないときまたは野生型(WT)のとき、心臓弁(HV)用および靭帯置換用の異種ブタ組織など、利用可能な非ヒト置換組織オプションのいくつかは、超急性移植拒絶反応および炎症、ならびにその後の構造的劣化を開始させることが知られている(Mozzicato、2014、Hawkins、2016)。このような問題は、例えば、レシピエントがα-Gal抗体を予め形成している置換組織上のガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープの存在に起因する。α-Galに関連する合併症は非常に深刻であるため、心臓血管外科医は、埋め込み可能な異種移植材料の製造業者に対して、α-Galを含まない心臓弁などの、α-Galを含まない埋め込み可能な材料を提供することによって、製品中のα-Galの問題に対処することさえ要求している(Ankersmit、2017)。
【0005】
α-Galの存在は、表面構造に限定されない(生体プロテーゼ変性の原因でもある)。Konakci(2005)は、α-Galが生体弁の結合組織内に含まれていることを記載した。Mozzicato(2014)は、α-Galアレルギーが疑われる3人の患者について記載し、そのうちの2人はブタ/ウシの大動脈弁置換術による免疫反応を発症した。Hawkins(2016)は、アレルギー発症後のさらに2人の患者で早期のバイオプロテーゼの変性を観察した。α-Galの存在/分布のために、生体弁は早期に石灰化および変性を起こすと考えられている。
【0006】
移植レシピエントにおけるα-Gal反応の多種多様な潜在的な引き金についても、当技術分野での認識が高まっている。これらの潜在的なトリガーには、哺乳類由来の治療薬(セツキシマブ、ヘパリン、ゼラチンカプセルまたは止血剤、コロイド、ワクチン、およびHV)の投与、または単に牛肉、ブタ肉、子羊などの哺乳類の肉を食べることが含まれ得る(Mullins、2012、Chung、2008、Platts-Mills、2015、Steineke、2015、van Nunen、2018)。マダニの咬傷によって引き起こされる免疫反応は、哺乳動物の食品の摂取を介した曝露後(Van Nunen、2015、Commins 2013)またはバイオプロテーゼHVなどの医療製品の埋め込み後(Mozzicato、2014、Hawkins、2016)にアナフィラキシー(α-Gal症候群(AGS)と呼ばれる)を引き起こすα-Gal IgE力価の上昇にも関連し、すなわち米国南東部の人口の最大37は、アレルゲン陽性と見なされる抗α-GalIgE力価を有する(Commins、2009、2011、Olafson 2014)。
【0007】
Mozzicato(2014)は、埋め込み可能な製品における潜在的なα-Galの問題に対処するために、脱細胞化野生型心臓弁(WT HV)をα-GalへのIgEを有する患者に使用することを検討し得ることを示唆した。しかし、α-Galは、細胞外マトリックス(ECM)にも結合しており、化学的および熱的に安定していることが実証されている。したがって、脱細胞化だけでは、埋め込み可能な製品におけるα-Galの問題に対処するのに効果的ではない(Takahashi、2014、Mullins 2012、Apostolovic、2014、2016)。さらに、WTブタ組織からα-Galを除去するのに十分なほど強力な脱細胞化戦略は、化学結合を破壊する必要があり、それによってECMが劣化し、材料特性が損なわれる。
【0008】
潜在的なα-Galリスクに対処するための他の戦略では、埋め込み可能な材料を形成するためまたは損傷した組織を修復するために使用される動物組織は、グルタルアルデヒドなどの薬剤で、特に患者の血液と直接接触する動物組織成分で化学的に架橋される。この種の方法論は、生体弁などの埋め込み可能な製品/材料に関する現在の標準的なケアを表し、α-Galなどの抗原を「隠す」または「マスキングする」ことによって免疫原性を低下させることを目的とした処理ステップを含む。このような処理は、レシピエントによる埋め込み材料の拒絶を防ぐために必要であると見なされる(例えば、潜在的な哺乳類のドナー種の多く(例えば、高鼻小目サル、ウシ、ブタ、マウスなどを含む)が細胞および組織表面でα-Galを発現するため(Joziasse、1989、Larsen、1989、Sandrin、1994))。コラーゲンマトリックスをグルタルアルデヒドなどの薬剤で架橋するとα-Galを含む抗原を「隠す」または「マスキング」することによって抗原性が低下し得るが、残念ながら、そのような処理(グルタルアルデヒド処理など)は、移植片の自然な再生特性および残留α-Galを消滅させ得る(Konakci、2005、Bloch、2011、Mangold、2009、2012)。
【0009】
いくつかの異なるグループは、移植前に穏やかな組織洗浄体制とグルタルアルデヒドによる架橋の排除を使用して、さまざまな異種移植組織の自然および再生特性を保とうと試みた。しかし、臨床結果は、HVの壊滅的で致命的なもの(Simon、2003、Perri、2012)から、血管移植片(Sharp、2004、Tolva、2007)および肩修復のための腱増強(Malcarney、2005、Reider、2005、Walton、2007)の深刻なものまでさまざまである。
【0010】
α-Galを切断または除去する(例えばガラクトシダーゼを介して)ことを目的とした処理ステップが含まれているとき、ヘルニアモデルの臨床結果は改善された(Xu、2008、2009、Sandor、2008、Daly、2009)。しかし、ガラクトシダーゼを介したα-Galエピトープの除去は、せいぜい表面処理であり、特にECMなどの厚い組織マトリックスからの除去は非常に困難であることがわかっている。ヒトACLの修復のために異種移植腱が試みられてきたが、過去の結果は、主に炎症反応または機械的断裂によって失敗した(van Steensel、1987)。異種移植片をガラクトシダーゼで処理し、次にグルタルアルデヒドで処理した試みでは、免疫反応はそれほど活発ではなかったが、炎症は持続し、移植片は失敗した(Stone、2007a、2007b)。
【0011】
したがって、上記の試みでは満たされない組織の外科的置換または修復のための改善された組織が依然として必要とされている。特に、α-Galエピトープの発現に関連するリスクを取り除く、新しい、より効果的な処理方法および組織供給源を使用した改善、特に組織の外科的置換または修復のための軟組織としての使用に適している非ヒト組織の数を大幅に増加させる方法論の改善の必要性が残っている。
【発明の概要】
【0012】
組織を保存し、保存された組織の移植または埋め込み後の免疫反応を低下させる方法であって、ドナーから第1の組織を取得するステップであって、第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第1の溶液中に第1の組織を少なくとも1時間浸漬することによって、第1の組織の細胞を死滅させ溶解し、第2の組織を形成するステップと、第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、第2の組織の残留細胞材料は、バイオリアクター内で第2の組織を脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、第3の組織を無氷凍結保存に供するステップであって、無氷凍結保存は、第3の組織および第2の溶液を容器内に所定の温度で少なくとも1時間置くことによって、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第2の溶液を第3の組織に浸潤させることと、第2の溶液を除去して少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第3の溶液と交換し、第2の溶液を第3の溶液と交換した後、密閉容器が第3の溶液および第3の組織を含むように容器を密閉することと、密閉容器を保存することと、を含む、ステップと、第3の組織をレシピエントに移植または埋め込みするステップであって、第3の組織の移植または埋め込みによって免疫反応が引き起こされない、または、レシピエントに起こる免疫反応は、生命を脅かすものではない、ステップと、を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】IFCガラス化α-Gal陰性およびα-Gal陰性レシピエントからのWT外植片が、新鮮な組織サンプルよりも一貫して低い平均値を有し、多くの統計的に有意な差があることを示す、外植片炎症の独立したブラインドレビューに関して得られたデータの図を示す。図1Aは大動脈での結果を示し、図1Aは、インビボで2週間後または4週間後の腱組織外植片の結果を示す。赤いバーは、t検定と一元配置分散分析の両方でp<0.05を示す。黒いバーは、t検定のみでp<0.05を示す。示されていない場合、有意差はなかった。
図1B】IFCガラス化α-Gal陰性およびα-Gal陰性レシピエントからのWT外植片が、新鮮な組織サンプルよりも一貫して低い平均値を有し、多くの統計的に有意な差があることを示す、外植片炎症の独立したブラインドレビューに関して得られたデータの図を示す。
図2A】脱細胞化のためのHVバイオリアクターの図を示す。弁取り付けシステムの図である。
図2B】脱細胞化のためのHVバイオリアクターの図を示す。図2Bは、空気チャンバー1、コンプライアンス2、培地リザーバ3、エアフィルタ4、一方向逆止弁5、可変収縮弁6、圧力トランスデューサ7、9、およびカメラ8を示すシステムの概観図である。
図2C】脱細胞化のためのHVバイオリアクターの図を示す。組み立てられたバイオリアクターの図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、概して、同じまたは異なる哺乳動物への移植のためおよび/またはさらなる研究目的のためなど、後の使用のために組織を調製および/または保存するための方法論に関する。
【0015】
より具体的には、本開示のいくつかの実施形態では、野生型および/またはGalSafeブタなどの遺伝子改変ブタ由来の組織を解剖し、抗生物質で処理し得る(例えば、既知の方法によって)。そのような組織の例には、心臓弁、心膜、血管、靭帯、腱、膀胱、腸、および皮膚が含まれる。次いで、組織は、組織中の細胞を死滅させ溶解するのに十分な所定の時間(存在する生細胞の実質的にすべて(例えば、90%超)または存在するすべての生細胞を(例えば、重度の浸透圧ストレスおよび/または化学的細胞毒性などの極端な条件への曝露によって)死滅させるために、少なくとも約30分間、少なくとも約60分間、少なくとも約120分間、または少なくとも約180分間など)、所定の温度の溶液(室温のVS83溶液など)中に置かれる。
【0016】
実施形態では、組織内の細胞を死滅させ溶解するために使用される溶液は、約75%~約99%w/vの凍結保護剤を含有し得る。例えば、細胞を死滅させ溶解するために使用される溶液は、ユーロコリンズ溶液などのビヒクル溶液中にジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、および1,2プロパンジオールを含有し得る。そのような溶液は、約75%~約99%w/vのジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、および1,2プロパンジオールを含有し得る。ジメチルスルホキシドの量は、20~50%w/vで変化し得る。同様に、1,2プロパンジオールおよびホルムアミドの量は各々、約10~40%w/vで変化し得る。しかしながら、完全強度溶液(または組織が配置および/または浸潤される最終溶液)中の凍結保護剤の総量は、凍結保護剤の約75重量%以上、例えば約80%~約99%の凍結保護剤、または約83%~約95%の凍結保護剤であるべきである。概して、凍結保護剤溶液のモル濃度は、高分子量の凍結保護剤の場合は約6M(溶液1リットルあたり6モルの凍結保護剤)より大きくすべきであり、低分子量の凍結保護剤の場合はより高く、例えば、約8M~約25Mの凍結保護剤濃度、または約10M~約20Mの凍結保護剤濃度、または約12M~約16Mの凍結保護剤濃度などにすべきである。
【0017】
いくつかの実施形態では、組織は、組織を無菌パッケージ内に、例えば、組織体積に応じてEC溶液中の10~80mLのVS83とともに、所定の温度(室温など)でシェーカー上で少なくとも1時間など、組織内の細胞を死滅させ溶解するのに十分な所定の時間(上記のように)置くことによって、1工程でユーロコリンズ(EC)溶液中に4.65MのDMSO、4.65Mのホルムアミド、および3.31Mの1,2プロパンジオール[プロピレングリコール(PG)]を含有する83%CPA溶液(VS83など)で浸潤される。
【0018】
次いで、細胞材料は、残留細胞材料を除去するための無菌技術を使用して、生理的流および圧力条件下でバイオリアクター内で洗浄することによって除去される。使用されるバイオリアクターは、約37℃などの適切な温度でオートクレーブされ、予洗浄され、滅菌緩衝液(抗生物質を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)など)で満たされている任意の適切なバイオリアクターであり得る。組織は、約1日から約5日などの、0.5日から10日の処理時間、または約3日から約6日などの、2日から8日の処理時間など、またはそれ以上、所定の期間処理される。その後、VS83などの適切な保存液中に組織を凍結保存し得る。
【0019】
凍結保存は、無氷凍結保存、例えば、1工程で室温でシェーカーで少なくとも1時間滅菌ポリエステルバッグまたはバイアルに組織を配置することによって、ユーロコリンズ(EC)溶液中に4.65MのDMSO、4.65Mのホルムアミド、および3.31Mの1,2プロパンジオール[プロピレングリコール(PG)]を含有する83%のCPA溶液などの、適切な凍結保存溶液で浸潤させることによって行われる無氷凍結保存などであり得る。次に、凍結保存溶液を取り出し得、新鮮なVS83 CPA溶液と交換し得、バッグをヒートシールし、最大室温までの任意の冷蔵温度で保存するために冷却する。
【0020】
本開示のそのような方法論は、必要に応じて、抗原を隠したりマスクしたりすることを目的とした従来の化学固定処理ステップなしに、非ヒト供給源(例えば、ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープが存在する場合も存在しない場合もあり得るドナー組織の供給源など)からの組織がヒトにおいて利用されることを可能にし、レシピエントの免疫反応(抗α-Gal反応など)を低減する。
【0021】
実施形態では、脱細胞化は、界面活性剤を使用しないバイオリアクター脱細胞化法、および/または化学的に誘導される浸透圧細胞破壊および細胞破片の動的バイオリアクター除去の組み合わせを含み得る。
【0022】
(異種移植片などの、本開示の組織製品の調製のための)本開示の好ましい実施形態の1つは、ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープがドナー組織(例えば、GalSafe(登録商標)組織など)内に存在しないドナー組織を、レシピエントの免疫反応を低減し動的フローバイオリアクターでの界面活性剤を使用しない脱細胞化と組み合わせて組織再生を調節する無氷凍結保存製剤と組み合わせる。
【0023】
本開示の上記の方法論は、処理された同種異系組織に対する免疫学的反応を有意に減少および/排除する。すなわち、本開示の方法論は、ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープがドナー組織(例えば、GalSafe(登録商標)組織)内に存在しないドナー組織を使用し、その後、脱細胞化と無氷凍結保存を行うことによって、考慮からα-Galエピトープを排除した後に、インビトロおよびインビボで組織免疫反応を減少させることに焦点を当てている。
【0024】
ここで、ヒトおよび「処理された」異種移植片の足場は、細胞が破壊され、細胞破片、サイトカイン、およびその他の炎症性部分がECMから完全に除去されていない場合、炎症誘発性である。リーダーら(2005)刺激のレベルが最も低いのは、完全に「脱細胞化」されたヒト組織であることを示した。脱細胞化ブタの弁突は、脱細胞化されていないヒトのネイティブ肺尖の抽出物よりも大きなマクロファージ反応を刺激した。この観察結果と患者における脱細胞化ブタ異種移植片の性能の低さ(Simon, 2003)とが相まって、脱細胞化技術の組織供給源として、異種移植片ではなく、ヒト同種移植片組織が選択されることになった。米国の主要な同種移植HVプロセッサであるLifeNet HealthおよびCryoLifeは、脱細胞化方法の開発に注力しており、臨床経験が蓄積されている。
【0025】
従来の組織プロセッサは、凍結保存剤(CPA)を使用して凍結するか、CPAを使用せずに凍結するか、脱細胞化するか、または凍結方法と脱細胞化を組み合わせるかのいずれかを行う。対照的に、近年、本出願の主題の発明者は、インビトロおよびインビボで組織免疫原性を低下させるCPA製剤(83%)を同定した。本発明者らの様々な研究を組み合わせて、組織免疫原性のCPA誘導改変の作用機序を示唆する。
【0026】
これらの研究および追加の研究から、本出願の主題の発明者は、VS83などの凍結保護溶液による組織処理が、同種移植片に対する界面活性剤ベースの脱細胞化に代わるものとなり得ること、およびガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープがドナー組織(例えばGalSafe(登録商標)組織)中に存在しないドナー組織について2つの方法を組み合わせるべきであることを理解した。これによって、発明者は、無氷凍結保存後のブタ組織の炎症反応、リモデリング、および免疫原性を評価するようになった。
【0027】
本発明者らは、大動脈および腱の両方で、無氷凍結保存外植片(ガラス化-WTおよびガラス化-GalSafe(登録商標)組織)において観察される炎症が有意に少ない(図1に示すように)ことを発見した。図1Aおよび1Bは、IFCガラス化α-Gal陰性およびα-Gal陰性レシピエントからのWT外植片が、新鮮な組織サンプルよりも一貫して低い平均値を有し、多くの統計的に有意な差があることを示す、外植片炎症の独立したブラインドレビューを示す。大動脈(図1A)および腱(図1B)組織外植片は、インビボで2週間または4週間後のものである。赤いバーは、t検定と一元配置分散分析との両方でp<0.05を示す。黒いバーは、t検定のみでp<0.05を示す。示されていない場合、有意差はなかった。
【0028】
無氷凍結保存とGalSafe(登録商標)由来大動脈との組み合わせもまた、WT大動脈外植片と比較して炎症細胞頻度に有意差をもたらした。
【0029】
したがって、(異種移植片など、後で使用するための組織の調製のための)本開示の方法論に関する重要な革新は、ドナー組織(ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープがドナー組織(例えば、GalSafe(登録商標)組織など)内に存在しないものなど)を、レシピエントの免疫反応を低減し動的フローバイオリアクターでの界面活性剤を使用しない脱細胞化と組み合わせて組織再生を調節する無氷凍結保存製剤と組み合わせるという概念である。
【0030】
いくつかの実施形態では、本開示の脱細胞化および無氷組織保存方法論で使用するための未加工の組織/材料(例えば、無細胞足場への加工、すなわち生細胞を含まない組織移植片)は、任意の機能的α-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠く動物など、操作および/または遺伝子改変された動物から採取された組織であり得る。
【0031】
カタリン類(ヒト、類人猿、およびオナガザル)などの特定の哺乳動物は、機能的GGTA1遺伝子を有さず、それに対応して、本開示の方法論と組み合わせて使用され得るα-Galを発現しない一方で、本開示の脱細胞化および無氷組織保存方法論の好ましい適用は、GGTA1不活性(α-Gal KO)の両方の対立遺伝子を持つ遺伝子操作された(GE)ブタから採取された組織などの操作された生物学的組織に対し、これらのGEブタではα-Galは検出不可能である。これらの操作された組織は、例えば、α-Gal KO、GalSafe(登録商標)、の系列を開発したRevivicor Inc.、操作されていない野生型(WT)ブタと比較して、遺伝子操作された形質を除いて表現型が正常なブタなどの、任意の既知の供給源から入手され得る(Liang、2011、Fischer、2012)。このようなGalSafe(登録商標)ブタは、α-Galに対してIgMおよびIgGを産生し得る(Fang, 2012)。
【0032】
いくつかの実施形態において、遺伝子操作された(GE)ブタは、GGTA1不活性(α-Gal KO)の両方の対立遺伝子を有し得、α-Galが検出可能でない(Dai、2002、Phelps、2003)。Revivicorは、獣医学食品医薬品局(FDA、2015)によるGalSafe(商標登録)ブタの規制当局の承認に必要なすべての手順を基本的に完了することによって、安全性と有効性を実証した。GalSafe(登録商標)ブタの使用目的は、さらなる使用(埋め込み可能なヒト用医療製品としての配布など)またはさらなる試験のために、無細胞足場(生細胞を含まない組織移植片)を製造するためのさまざまな原材料の供給源としてである。HV、心膜、血管導管、血管、靭帯、腱、膀胱、腸、皮膚、および心臓などの他の組織および臓器を含む、GalSafe(登録商標)ブタに由来する任意の組織は、本開示の方法論で使用するための材料として役立ち得る。
【0033】
任意の機能的α-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を欠いている動物などの、遺伝子操作および/または遺伝子改変されていてもされていなくてもよい他の動物もまた、本開示の方法において使用され得る。他の動物は、当業者にとって既知であり、その全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第7,795,493号明細書、米国出願番号10/646,970、11/083,393、12/835,026、13/334,194、14/281,464、14/449,969、15/905,249、16/169,180、および国際公開第2014066505号に記載されている。
【0034】
簡単に言えば、動物ドナー供給源は、ウシ、ブタ、またはヒツジなどの反芻動物または有蹄動物などの、任意の動物であり得る。いくつかの実施形態では、動物はブタである。GGTA1遺伝子の任意の機能的発現を欠く動物からの原材料/組織は、ブタ、ウシ、またはヒツジなどの出生前、新生児、未熟、または完全に成熟した動物から得られ得る。
【0035】
実施形態では、本開示の脱細胞化および無氷組織保存方法論で使用するための無細胞足場(生細胞を含まない組織移植片)に加工するための原材料/組織は、GGTA1遺伝子の対立遺伝子が不活性化される動物から採取されたものであり、その結果、得られたGGTA1酵素は、もはやガラクトースα1,3-ガラクトースを(すなわち、細胞表面または他の場所で)生成し得ない。例えば、本開示の脱細胞化および無氷組織保存方法論で使用するための無細胞足場(生細胞を含まない組織移植片)に加工するための原材料/組織は、動物がブタ、ウシおよびヒツジから選択される、α-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼの任意の機能的発現を欠く動物から採取されたものであり得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、本開示の脱細胞化および無氷組織保存方法論で使用するための無細胞足場(生細胞を含まない組織移植片)への加工のための原材料/組織は、GGTA1遺伝子の対立遺伝子の1つが、遺伝子標的化事象を介して不活化されている動物から採取されたものであり得る。本開示の別の態様では、GGTA1遺伝子の両方の対立遺伝子が遺伝子標的化事象を介して不活性化されている動物が提供される。いくつかの実施形態では、相同組換えを介して遺伝子を標的とし得る。他の実施形態では、遺伝子は破壊され得、すなわち遺伝暗号の一部を改変し得、それによって遺伝子のそのセグメントの転写および/または翻訳に影響を与え得る。例えば、遺伝子の破壊は、置換、欠失(「ノックアウト」)または挿入(「ノックイン」)技術によって起こり得る。既存の配列の転写を調節する所望のタンパク質または調節配列の追加の遺伝子を挿入し得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、本開示の脱細胞化および無氷組織保存方法論で使用するための無細胞足場(生細胞を含まない組織移植片)に加工するための原材料/組織は、GGTA1遺伝子が少なくとも1つの点変異を通して不活性化されている動物から採取されたものであり得る。いくつかの実施形態では、GGTA1遺伝子の1つの対立遺伝子は、少なくとも1つの点変異によって不活性化され得る。実施形態では、GGTA1遺伝子の両方の対立遺伝子は、少なくとも1つの点変異によって不活性化され得る。実施形態では、この点変異は、遺伝子標的化事象を介して発生し得る。実施形態では、この点変異は、天然に存在し得る。いくつかの実施形態では、点変異は、GGTA1遺伝子のエクソン9の第2の塩基におけるTからGへの変異であり得る。いくつかの実施形態では、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも10または少なくとも20の点変異が存在して、GGTA1遺伝子を不活性化し得る。
【0038】
GGTA1遺伝子の機能的発現を欠く動物からの上記の原料/組織は、ブタ、ウシ、またはヒツジなどの出生前、新生児、未成熟、または完全に成熟した動物から得られ得る。いくつかの実施形態では、生組織は、さらなる処理または改変を受け得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、本開示の脱細胞化および無氷組織保存方法論で使用するための無細胞足場(生細胞を含まない組織移植片)に加工するための原材料/組織は、α-Galエピトープの任意の発現を欠く動物から抽出される心臓材料/組織であり得、これは、抗原を隠したりマスクしたりすることを目的とした従来の化学固定処理ステップなしで利用され得る(現在、心臓弁市場の半分以上が化学的に架橋されたブタおよびウシの組織を利用している)。例えば、α-Galエピトープの任意の機能的発現を欠く動物からのウシ、ヒツジ、またはブタの心臓は、心臓材料/組織の供給源として役立つ。このような生の心臓材料/組織のタイプには、例えば、僧帽弁、大動脈弁(心房弁としても知られる)、三尖弁、肺動脈弁、肺動脈パッチ、下行胸部大動脈、大動脈非弁導管、LPAおよびRPAを備えた肺の非弁導管、無傷の弁尖を伴うまたは伴わない右または左の肺半動脈、伏在静脈、大動脈腸骨、大腿静脈、大腿動脈および/または半月弁が含まれる。本開示に従って調製された心臓弁異種移植片は、天然の心臓弁異種移植片の一般的な外観を有し得る。心臓弁異種移植片は、個々の弁突などの弁セグメントであり得、各々がレシピエントの心臓に埋め込まれ得る。あるいは、ブタの心膜を使用して、心臓切開手術または経カテーテル弁埋め込み法での使用に適した本開示の心臓弁異種移植片を形成し得る。
【0040】
本開示の方法において、上記の原料/組織は、界面活性剤を使用しないバイオリアクター脱細胞化法、および/または化学的に誘導される浸透圧細胞破壊および細胞破片の動的バイオリアクター除去の組み合わせに供され得る。
【0041】
例えば、本開示の方法は、生の(例えば、解剖され、抗生物質で処理された)組織を少なくとも75重量%の凍結保護剤濃度を有する溶液(すなわち、単一の溶液)に浸漬するか、または脱細胞化組織を少なくとも75重量%の凍結保護剤濃度を有する最終溶液を含む一連の溶液に浸漬する、等の、組織中の細胞を効果的に死滅させ溶解する方法論を含み得る。ここで、生組織は、生組織中の細胞を死滅させ溶解するのに十分な所定の時間(存在する生細胞の実質的にすべて(例えば、90%超)、または存在するすべての生細胞を(例えば、重度の浸透圧ストレスおよび/または化学的細胞毒性などの極端な条件にさらすことによって)死滅させるために、例えば、少なくとも約30分間、少なくとも約60分間、少なくとも約120分間、または少なくとも約180分間)保持する。細胞を死滅させ溶解するために使用される溶液は、分子が未加工の組織に効果的に浸透できなければならないという条件下において、組織の無氷凍結保存(IFC)に関して下記で説明するものと同じであり得る(例えば、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシエチルスターチなどの非浸透性化学物質および/または非浸透性凍結保護剤は、高分子量CPAの一部がこの点で効果的に使用されることを妨げるサイズ制限のために、効果的でない場合があり得る)。
【0042】
いくつかの実施形態では、生組織の細胞の大部分、実質的にすべて(例えば、90%超)、またはすべてを、単一の段階的方法の使用による凍結保護剤濃度のステップアップの規模の操作によって、または凍結保護剤濃度の勾配的増加によって死滅させ得る。凍結保護剤溶液の細胞毒性はまた、組織の細胞を死滅させ得る。凍結保護剤溶液の細胞毒性の増加は、組織(および溶液)の温度が37℃に近づくにつれて達成される。実施形態では、そのような温度で組織を凍結保護剤に曝露すると、凍結保護剤溶液の細胞毒性のレベルが上昇するため、組織の細胞の大部分、実質的にすべて(例えば、90%超)、またはすべてを死滅させ得る。実施形態では、組織を凍結保護剤に保持および曝露し得る温度、および/または組織の細胞の死滅/溶解を実行するために凍結保護剤濃度の単一、段階的、または勾配的増加が起こる溶液温度は、約10℃から約37℃、または約25℃から約37℃など、約0℃から約37℃の範囲であり得る。増加した凍結保護剤濃度を有するこのような溶液に組織を浸漬し得る期間は、生組織の質量の関数であり、少なくとも約30分間、少なくとも約60分間、少なくとも約120分間、もしくは少なくとも約180分間、または30分から600分の範囲、60分から300分の範囲、もしくは90分から150分の範囲であり得る。
【0043】
使用される溶液の容量は、溶液に浸されている組織のサイズに基づいて、約1~約100ミリリットル(mL)または必要に応じてそれ以上、または約10~約80mL、または約10~約40mL、または約15~約25mLなど、かなり変化し得る。
【0044】
次いで、実施形態において、生細胞のすべてまたは実質的にすべて(例えば、90%超)が死滅または溶解されたこれらの生組織は、無菌技術を使用して生理的流動および圧力条件下でバイオリアクター内に配置され得る。バイオリアクターは、オートクレーブされ得、予洗浄され得、抗生物質を有するPBSなどの滅菌剤で(たとえば、37℃で)満たされ得る。
【0045】
本開示の方法はまた、脱細胞化組織(上記生組織を脱細胞化したもの)を少なくとも75重量%の凍結保護剤濃度を有する溶液(すなわち、単一の溶液)に浸漬するかまたは脱細胞化組織を少なくとも75重量%の凍結保護剤濃度を有する最終溶液を含む一連の溶液に浸漬するステップと、脱細胞化組織が、第1の溶液のガラス転移温度未満から-20℃の間の温度に冷却される、単一の、勾配的、または段階的な冷却ステップと、脱細胞化組織が凍結保護剤溶液のガラス転移温度未満から-20℃の間の温度で保存される、保存ステップと、脱細胞化組織が単一、勾配的、または段階的な再加温ステップで加温される、必要に応じた再加温ステップと、凍結保護剤が単一、勾配的、または複数のステップで脱細胞化組織から洗い流される、再加熱ステップ中またはその後に行われる浸漬または洗浄ステップと、を含む、無氷凍結保存(IFC)プロセスをも含み得る。
【0046】
本開示の方法論の単純さ、汎用性、およびスケーラビリティにより、費用対効果の高い長期保存および輸送、迅速な臨床導入、および処理された製品の市場浸透が可能になる。本開示のそのような方法論は、免疫原性を最小限に抑えながら、構造的および機械的特性を保持した低コストの組織への前例のないアクセスを提供することによって、外科的修復に広範囲にわたる臨床的影響を与え得る。
【0047】
下記の議論は、本開示の方法論によって作用される組織として、主に異種ブタ組織(GGTA1の両方の対立遺伝子が不活性である(α-Gal KO)GEブタから採取され、α-GalはこれらのGEブタにおいて検出されない)を特定するが、例えば、機能的GGTA1遺伝子を有せず、それに応じてα-Galが発現しない、他のGE哺乳動物、またはカタルリン(ヒト、類人猿、およびオナガザル)などのさらに他の特定の哺乳動物から採取されたものなど、他の器官および組織もまた、本開示の方法論で使用され得る。
【0048】
実施形態では、本開示は、GEブタから採取されたブタ組織がヒト中で利用されることを可能にし、レシピエントの免疫反応を低減する(例えば、化学固定および/または抗α-Gal反応なしで)単純で分かりやすいプロセスを提供する。例えば、いくつかの実施形態では、本開示の方法論は、無氷凍結保存(IFC)技術をα-Galノックアウトブタ組織(遺伝子改変GalSafe(登録商標)ブタから採取)に適用して、化学固定なしで組織置換に適した足場に到達する。
【0049】
IFC方法論をGalSafe(登録商標)組織と組み合わせることの利点は、特に残留細胞材料を除去するために界面活性剤を使用しない脱細胞化と組み合わせたとき(例えば、異種移植心臓弁の製造において)、免疫原性の大幅に低い組織製品をもたらす改善された異種組織法を提供することである。そのような実施形態では、GalSafe(登録商標)ブタから得られるものなどの操作された生物学的組織は、本開示の脱細胞化および無氷組織保存方法で使用するための無細胞足場(生細胞を含まない組織移植片)への製造のための様々な原材料の供給源として使用され得る。
【0050】
実施形態では、当業者に既知である任意の適切なバイオリアクターを使用し得る。例えば、実施形態では、図2に示されるHVバイオリアクター(Tedder、2003、2009、Sierad、2010により開発)を使用することができる。それは、図2A~Cに示されるようなHVバイオリアクターであり、または同様のバイオリアクターを脱細胞化に使用し得る。図2Aは、例示的な弁取り付けシステムを示す。図2Bは、空気チャンバー1、コンプライアンス2、培地リザーバ3、エアフィルタ4、一方向逆止弁5、可変収縮弁6、圧力トランスデューサ7、9、およびカメラ8を示すシステムの概要を示す。そして、図2Cは、組み立てられたバイオリアクターを示す。
【0051】
このようなバイオリアクターは、外部の空気ポンプによって駆動され、ダイヤフラムは、ポンピングチャンバーに膨らみ、HVを介してチャンバー内に存在する培地を押し込む。サイクルが完了すると、ポンプは、エアチャンバー内の圧力を解放し、それによって培地の静水圧が膜を押し下げ、ポンピングチャンバー内の圧力を下げてHVを閉じる。すべてのチャンバーは、圧力トランスデューサ、培地サンプリング、その他のプローブに簡単にアクセスするための複数のポートを有する。一方向弁は、培地の一方向の流れを保証する。バイオリアクターは、約800mLの液体を含有し得、体圧および可変ストローク速度で生理学的な拍動性の流れを生成する。最大4つのバイオリアクターは、標準サイズの細胞培養インキュベーター1台で稼働され得る。大動脈室の上部が透明で平らなため、カメラを使って弁突の動きを妨げることなく記録することを容易にし、あらゆるデジタル機器からHVを途切れることなく遠隔監視することが可能である。システムは、必要に応じて、頻度(bpm)、開閉時間(デューティサイクル)、一回拍出量(流量)、収縮期/拡張期圧、粘度、温度、およびガスを継続的に測定および制御する。バイオリアクターは、毎週の手動培地交換で最大4週間無菌状態を維持し得るように操作され得る。このようなバイオリアクターは、生理学的な肺または大動脈弁の状態を完全に制御し得る。そのようなバイオリアクターを含む実施形態では、HVは、脱細胞化のために1~7日間、または必要に応じてそれ以上、生理学的圧力および流動条件にさらされて、例えば、DNAを99%超含まない(DNA分析、組織MALDI、プロテオミクス、およびAGS患者の抗体結合研究(Apostolovic、2014)を介して評価され得る)という目標を達成し得る。いくつかの実施形態では、脱細胞化組織は、90、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%核酸を含まないなど、実質的に核酸を含まない場合があり得る。いくつかの実施形態では、核酸はRNAである。いくつかの実施形態では、核酸はDNAである。いくつかの実施形態では、組織は、0.5ng/mg(組織の乾燥重量)未満のDNAを有する。いくつかの実施形態では、脱細胞化組織は、PicoGreen(登録商標)DNAアッセイなどの任意の適切なアッセイによって測定されるように、0.5ng/mg(組織の乾燥重量)未満のDNAを有する。
【0052】
本開示の心臓弁異種移植片またはそのセグメントは、当業者によって、例えば心臓切開手術または経カテーテル内視鏡手術、および経管埋め込みなどの低侵襲技術などの既知の外科技術を使用して、損傷したヒトまたは動物の心臓に埋め込まれ得る。そのような外科的技術を実行するための特定の器具は当業者に知られており、心臓弁インプラントの正確かつ再現可能な配置を保証する。
【0053】
いくつかの実施形態では、本開示で使用される脱細胞化プロセスは、界面活性剤を使用しない場合があり得る。実施形態では、界面活性剤を使用しない脱細胞化は、ドナー組織が無細胞または実質的に無細胞になる(すなわち、DNAを99%超含まない)ことを条件として、物理ベースのプロセス、化学ベースのプロセス、または生化学ベースのプロセスを含み得る。必要に応じて、脱細胞化は、特定の塩または酵素でのインキュベーションを含む多くの化学処理を使用して達成され得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、プロテアーゼ阻害剤(フェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)、アプロチニン、ロイペプチン、およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)など)は、(例えば、ドナー組織が動的フローバイオリアクター内で界面活性剤を使用しない脱細胞化に供される前またはその後に)他の試薬と組み合わせて使用され得、細胞外マトリックスの分解を防ぐ。コラーゲンベースの結合組織は、細胞外タンパク質マトリックスの内因性酵素としてプロテアーゼおよびコラゲナーゼを含有する。さらに、平滑筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞などの特定の細胞種は、リソソームと呼ばれる小胞内にこれらの酵素を多数含有する。これらの細胞が低酸素などの事象によって損傷を受けるとき、リソソームが破裂し、その内容物が放出される。その結果、細胞外マトリックスは、タンパク質、プロテオグリカン、およびコラーゲンの分解による深刻な損傷を受け得る。細胞死を引き起こすには不十分な酸素の減少がコラーゲンマトリックスに顕著な損傷をもたらす、心虚血の臨床例で証明されるように、この損傷は深刻であり得る。さらに、細胞外分解の結果として、多形核白血球マクロファージなどの炎症細胞を移植片に誘引する化学誘引物質が放出され、これは死滅した組織または損傷した組織を除去することを意図する。しかし、これらの細胞はまた、非特異的な炎症反応を介して細胞外マトリックスの破壊を永続させる。したがって、本開示の方法論は、このような損傷を防ぐために、N-エチルマレイミド(NEM)、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス-(2-アミノエチル(エーテル)NNN’N’-四酢酸、塩化アンモニウム、上昇pH、アポプロチニン、およびロイペプチン)の群から選択される1つ以上のプロテアーゼ阻害剤を含み得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、バイオリアクターにおける組織の脱細胞化のために、物理的処理と化学的または生化学的処理との組み合わせを使用し得る。例えば、浸透勾配、機械的圧縮/マッサージ、または凍結融解サイクルを使用して、細胞を物理的に溶解させ得る。高張および低張処理は、水性環境で細胞膜に静水圧をかけ、それらを破裂させ、細胞内容物を放出させる。細胞の内容物は、その後の等浸透圧洗浄手順による処理に、よりアクセスしやすくなる。機械的圧縮またはマッサージを使用して、膜の分解を促進し、より多くの細胞膜を抽出溶液に徐々にさらし得る。必要に応じて、凍結融解サイクルを使用して細胞を死滅させ細胞膜を破砕し得、その結果、その後の洗浄手順において細胞の内部内容物および断片化された膜にアクセスし得る。
【0056】
実施形態では、本開示で使用される脱細胞化プロセスは、界面活性剤を使用しない場合があり得る。界面活性剤は、ミセルを形成するのに十分な濃度で添加するときには、化学物質である。ミセルは、界面活性剤分子の非極性ドメインが内部で相互作用し、極性ドメインが外部で水分子と相互作用するように配向された、多くの場合球状である、界面活性剤モノマーのクラスターである。界面活性剤は、イオン性、非イオン性、双性イオン性の3つの指定のいずれかによって分類され得る。イオン性界面活性剤は、陰イオン性または陽イオン性のいずれかである。イオン性界面活性剤のサブグループは、脂肪を可溶化する腸に見られる胆汁酸塩である。Triton X-100(登録商標)などの非イオン性界面活性剤は、中性の極性ヘッドグループを有し、タンパク質を変性しない。CHAPSなどの両性イオン界面活性剤は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との両方の特性を有する。双性イオン界面活性剤は概して、イオン性界面活性剤よりもマイルドであり、非イオン性界面活性剤よりもタンパク質を変性させる。
【0057】
本開示で使用される界面活性剤を使用しない脱細胞化プロセスのための本方法に従って、様々な溶媒を使用し得る。この点に関して、細胞外マトリックスへの損傷が非常に少ない良好な脱細胞化性能を示す任意の溶媒を使用し得る。
【0058】
組織または脱細胞化組織(以下、まとめて「組織」または「(複数の)組織」と呼ぶ)への適用のための本開示の無氷凍結保存(IFC)方法論は、組織を少なくとも75重量%の凍結保護剤濃度を有する溶液(すなわち、単一の溶液)に浸漬するかまたは組織を少なくとも75重量%の凍結保護剤濃度を有する最終溶液を含む一連の溶液に浸漬するステップと、組織が、第1の溶液のガラス転移温度未満から-20℃の間の温度に冷却される、単一の、勾配的、または段階的な冷却ステップと、組織が凍結保護剤溶液のガラス転移温度未満から-20℃の間の温度で保存される、保存ステップと、組織が単一、勾配、または段階的な再加温ステップで加温される、必要に応じた再加温ステップと、凍結保護剤が単一、勾配的、または複数のステップで組織から洗い流される、再加熱ステップ中またはその後に行われる浸漬または洗浄ステップと、を含む。
【0059】
「組織」は、本明細書では、血管などの血管組織、軟骨、半月板、筋肉、靭帯および腱などの筋骨格組織、皮膚、心臓弁および心筋などの心血管組織、歯周組織、末梢神経、膀胱、胃腸管組織、尿管および尿道を含む、血管新生組織および無血管組織の細胞外組織マトリックスを含む、生きている生存細胞を必要としない任意の天然のまたは操作された生物学的細胞外組織マトリックスを指すために使用される。「血管」は、本明細書では、血液を運ぶ任意の生体管を指すために使用される。したがって、この語句は、とりわけ、動脈、毛細血管、静脈、副鼻腔、または操作された構成体を指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「移植」という用語は、自己、同種または異種であるかどうか、および組織の直接またはさらなる処理の後に行われるかどうかにかかわらず、任意のタイプの移植または埋め込みを指す。
【0061】
本明細書で使用される場合、「生命を脅かさない」という用語は、反応またはそれに関連する合併症/状況/状況が、1か月以内、1年以内、または5年以内などの所定の時間内にそれらを死滅させない可能性が高い(95%を超える、または99%を超えるなど)場合の免疫反応を指す。
【0062】
本明細書で使用する「ガラス化」という用語は、氷晶形成を伴わない凝固を指す。本明細書で使用される場合、組織は、ガラス転移温度(Tg)に達するとガラス化される。ガラス化プロセスは、氷の核生成および成長が阻害されるように温度が低下するにつれて、凍結保護剤溶液の粘度が著しく増加することを伴う。実際には、ガラス化またはガラス質の凍結保存は、組織に損傷を与える量よりも少ない、少量または制限された量の氷の存在下でさえも達成され得る。
【0063】
本明細書で使用される場合、「ガラス転移温度」は、プロセスが実施される条件下での溶液または配合物のガラス転移温度を指す。概して、本発明の方法は生理学的圧力で実施される。しかしながら、それによって組織が著しく損傷を受けない限り、より高い圧力を使用し得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、「生理的圧力」とは、正常な機能中に組織が受ける圧力を指す。したがって、用語「生理的圧力」には、通常の大気条件、ならびに血管組織などの様々な組織が拡張期および収縮期の条件下で受けるより高い圧力が含まれる。
【0065】
本明細書で使用される「灌流」という用語は、組織を通る流体の流れを意味する。器官および組織を灌流するための技術は、例えば、その全体が本明細書に援用される、Fahyらの米国特許第5,723,282号明細書において論じられている。
【0066】
本明細書で使用される場合、用語「凍結保護剤」は、組織が氷点下の温度に冷却されたときに組織内の氷晶形成を最小限に抑え、凍結保護剤なしで冷却した効果と比較して、加温後に組織に実質的に損傷を与えない化学物質を意味する。
【0067】
本明細書で使用される場合、「実質的に凍結保護剤を含まない組織」という用語は、凍結保護剤を実質的に含まない組織、例えば2重量%未満の凍結保護剤を含む組織、または1重量%未満の凍結保護剤を有する組織、または0.1重量%未満の凍結保護剤を有する組織を指す。本明細書で使用される場合、用語「凍結保護剤を含まない組織」は、組織内に凍結保護剤を有しない組織を指す。
【0068】
本明細書で使用する場合、「実質的に凍結保護剤を含まない溶液」という用語は、その中に凍結保護剤を実質的に含まない溶液、例えば、1重量%未満の凍結保護剤を含む溶液、または0.5重量%未満の凍結保護剤を有する溶液、または0.1重量%未満の凍結保護剤を有する溶液を指す。本明細書で使用される「凍結保護剤を含まない溶液」という用語は、その中に凍結保護剤を含まない溶液を指す。
【0069】
本明細書で使用される場合、「おおよその浸透平衡」は、細胞内溶質濃度と細胞外溶質濃度との差が5%以下など、細胞内溶質濃度と細胞外溶質濃度との差が10%以下であることを意味する。10%以下の差は、例えば、細胞外濃度が4Mである場合、細胞内溶質濃度が3.6~4.4Mであることを意味する。
【0070】
ガラス化は、さまざまな凍結保護剤混合物および冷却/加温条件を使用して達成され得る。重要な変数は、特定の細胞外組織マトリックスの種類およびサンプルサイズごとに最適化する必要がある。凍結保護剤混合物の選択ならびに過度の浸透圧ショックなしでの凍結保護剤の追加および除去に必要な平衡化ステップは、組織サンプル中の凍結保護剤浸透の測定速度に基づいて最適化する必要がある。凍結置換もまた、特定のプロトコルに対して無氷保存が達成されたことを確認するために使用され得る。
【0071】
実施形態は、第1の溶液のガラス転移温度から-20℃の間の温度で凍結保護剤を含む第1の溶液中で組織が(一定の速度で)冷却されるときなど、単一または段階的な冷却プロセスと、組織は、第1の溶液のガラス転移温度から-20℃の間の温度で保存される、保存ステップと、を含み得る。
【0072】
単一の冷却ステップは、冷却速度が一定のままであるかまたは増加もしくは減少のいずれかによって変化する、組織の温度を下げる単一のステップで実行され得る。あるいは、組織は、凍結保護剤を含有する第1の溶液中で、第1の溶液のガラス転移温度から-20℃の間の第1の温度で組織の温度を第1の温度まで低下させ、その後、第1の溶液のガラス転移温度から-20℃の間の温度で凍結保護剤を含有する第2の溶液中で第2の温度にさらに下げる、段階的冷却プロセスで冷却され得、このプロセスは、第3、第4、第5、第6、第7などの溶液で所望の温度が達成されるまで繰り返され得る。
【0073】
実施形態では、第1の溶液(凍結保護剤溶液製剤)のガラス転移温度は、約-110℃~約-130℃、または-115℃~約-130℃、例えば約-124℃など、約-100℃~約-140℃の範囲である。実施形態では、組織を冷却し得、続いて、約-110℃から約-30℃の間または約-90℃から約-60℃の間など、約-120℃~約-20℃などの、ガラス転移温度から約-20℃の間の温度で保存し得る。
【0074】
冷却ステップと保存ステップの間において、組織ガラスの割れおよび氷の形成を防ぐことが重要である。他の凍結保存法とは対照的に、哺乳動物組織などの組織を保存する方法は、マトリックス保存のみに焦点を当てており、細胞を生存可能な状態で保存するために特別に設計する必要はない。
【0075】
実施形態では、単一の冷却ステップ、定期的、増加的間隔、もしくは減少間隔のいずれかでの段階的な冷却プロセス、または、冷却プロセス中に冷却速度が増加または減少する勾配冷却ステップは、例えば約-80℃である、-70℃から-90℃などの、約-60℃から約-100℃の範囲の温度で組織を冷却するために使用され得る。
【0076】
高濃度の凍結保存溶液製剤を採用することによって、凍結保護剤製剤のガラス転移温度から約-20℃の間の温度での冷却および保存は、組織ガラスの亀裂および氷の核生成なしに達成され得る。実施形態では、第1の溶液は、約80%から約99%の凍結保護剤、または約83%から約95%の凍結保護剤など、約75重量%以上の凍結保護剤を含有する。
【0077】
凍結保護剤を含まない溶液に浸した後、灌流の有無にかかわらず、凍結保護剤を含有する溶液に組織を浸し得る。最終的な凍結保護剤濃度は、組織が第1の凍結保護剤濃度を含有する第1の溶液に浸漬され得、次に組織が第2の凍結保護剤濃度(第1の凍結保護剤濃度よりも高い)を含有する第2の溶液に浸漬され得る段階的冷却プロセスで達成され得、このプロセスは、所望の濃度が達成されるまで、第3、第4、第5、第6、第7などの溶液で繰り返され得る。凍結保護剤溶液は、凍結保護剤の任意の組み合わせを含み得る。凍結保護剤には、例えば、下記の表1に列挙されるものに加えて、ジメチルスルホキシド、1,2-プロパンジオール、エチレングリコール、n-ジメチルホルムアミドおよび1,3-プロパンジオールが含まれる。
【0078】
【表1】
【0079】
ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシエチルスターチなどの不透過性凍結保護剤は、急速に冷却された生物系を保護するのにより効果的であり得る。そのような薬剤は、多くの場合、浸透圧から予想されるよりも大きな範囲で溶液の特性に影響を与える大きな高分子である。これらの非浸透性凍結保護剤のいくつかは、細胞膜に直接的な保護効果をもたらす。しかし、主な作用機序は、細胞外ガラス形成の誘導であるように見える。このような凍結保護剤が非常に高濃度で使用されるとき、極低温への冷却および極低温からの加温中に氷の形成が完全に排除され得る。凍結保護活性が実証された不透過性化学物質には、アガロース、デキストラン、グルコース、ヒドロキシエチルスターチ、イノシトール、ラクトース、メチルグルコース、ポリビニルピロリドン、ソルビトール、スクロース、および尿素が含まれる。
【0080】
実施形態では、凍結保護剤溶液は、ユーロコリンズ溶液などのビヒクル溶液中にジメチルスルホキシド、ホルムアミド、および1,2プロパンジオールを含有する。そのような溶液は、約75%から約99%w/vの凍結保護剤を含み得る。ジメチルスルホキシドの量は、20から50%w/vまで変化し得る。同様に、1,2プロパンジオールおよびホルムアミドの量は各々、約10から40%w/vまで変化し得る。しかしながら、完全強度溶液(または組織が保存される最終溶液)中の凍結保護剤の総量は、凍結保護剤の約80%~約99%、または凍結保護剤の約83重量%~約95%などの、凍結保護剤の約75重量%以上であるべきである。75重量%以上の凍結保護剤溶液(すなわち、組織が保存される最終溶液)中の凍結保護剤のモル濃度は、凍結保護剤の分子量に依存する。概して、凍結保護剤溶液のモル濃度は、分子量が大きい凍結保護剤の場合は約6M(溶液1リットルあたり6モルの凍結保護剤)より大きく、低分子量の凍結保護剤の場合はより高くすべきであり、例えば、約8M~約25Mの凍結保護剤濃度、または約10M~約20Mの凍結保護剤濃度、または約12M~約16Mの凍結保護剤濃度などである。
【0081】
凍結保護剤溶液は、また、従来の凍結保護剤および/または天然もしくは合成の氷遮断分子、例えば、アセトアミド、アガロース、アルギン酸、アラニン、アルブミン、酢酸アンモニウム、不凍タンパク質、ブタンジオール、コンドロイチン硫酸、クロロホルム、コリン、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオン、シクロヘキサントリオール、デキストラン、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、エリスリトール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グルコース、グリセロール、グリセロリン酸、モノ酢酸グリセリル、グリシン、糖タンパク質、ヒドロキシエチルスターチ、イノシトール、ラクトース、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルトース、マンニトール、マンノース、メタノール、メトキシプロパンジオール、メチルアセトアミド、メチルホルムアミド、メチル尿素、メチルグルコース、メチルグリセロール、フェノール、プラロニックポリオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロリン、ピリジンN-オキシド、ラフィノース、リボース、セリン、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソルビトール、スクロース、トレハロース、トリエチレングリコール、トリメチルアミン酢酸、尿素、バリンおよび/またはキシロースで修飾され得る。
【0082】
さらに、本発明のさらなる実施形態では、1,2-プロパンジオールは、同様の濃度の2,3-ブタンジオールで置換され得る。同様に、ジメチルスルホキシドは、同様の濃度のグリセロールまたはエチレングリコールまたはそれらの組み合わせで置換され得る。
【0083】
実施形態では、凍結保護剤溶液製剤は、アセトアミド、シクロヘキサンジオール、ホルムアミド、ポリエチレングリコール、グリセロール、二糖類、およびプロパンジオールである凍結保護剤の少なくとも1つまたは複数を含有し得る。
【0084】
使用され得る他の凍結保護剤は、Fahyらの米国特許第6,395,467号明細書、Wowkらの米国特許第6,274,303号明細書、Khirabadiらの米国特許第6,194,137号明細書、Fahyらの米国特許第6,187,529号明細書、Fahyらの米国特許第5,962,214号明細書、Calacoらの米国特許第5,955,448号明細書、Merymanの米国特許第5,629,145号明細書、Khirabadiらの米国特許第6,740,484号明細書に対応する国際公開02/32225号、に記載されている。その中のものは、その全体が参照によって援用される。
【0085】
使用される溶液の容量は、保存される組織片のサイズ、または溶液に浸漬される組織のサイズに基づいて、約1~約100mlまたはそれ以上のようにかなり変化し得る。
【0086】
実施形態では、溶液は、ユーロコリンズ溶液、滅菌水、塩溶液、培地、および任意の生理学的溶液などの水溶液中に凍結保護剤を含む。ユーロコリンズ溶液(EC-Solution)は、下記表2に記載の水溶液である。
【0087】
【表2】
【0088】
適切な水溶液の他の例は、下記の表3および4で論じられている。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
凍結保護剤溶液のビヒクルは、インビトロ条件下でマトリックスの完全性を維持する任意のタイプの溶液であり得る。実施形態では、ビヒクルは、概してゆっくりと浸透する溶質を含む。実施形態では、ビヒクル溶液は、10mMのHEPESを含有するユーロコリンズ溶液である。HEPESは緩衝剤として含まれており、任意の有効量で含まれ得る。さらに、緩衝剤を使用しない場合と同様に、他の緩衝剤もまた使用され得る。代替ビヒクルには、例えば、上記の表2および表3で説明した溶液が含まれる。
【0092】
組織保存に使用される凍結保護剤溶液の最終濃度は、重量で少なくとも75%の凍結保護剤である。実施形態では、凍結保護剤を含まない組織、または実質的に凍結保護剤を含まない組織など、事前に凍結保護剤に曝露されていてもいなくてもよい、保存される組織は、単一ステップで少なくとも75%(重量)の凍結保護剤濃度を有する単一の溶液に浸す(または曝露する)ことができる。実施形態では、そのような単一のステップは、組織が浸漬される溶液中の凍結保護剤濃度を1M未満から12M超へ増加させ得、組織が浸漬される溶液中の凍結保護剤濃度を0.5MM未満から15M超へ増加させる。実施形態では、そのような単一ステップは、存在する生細胞の大部分または存在するすべての生細胞を死滅させ得る(例えば、重度の浸透圧ストレスおよび/または化学的細胞毒性などの極端な条件への曝露によって)。実施形態では、凍結保護剤が組織に浸透するのに十分な時間、例えば、少なくとも15分間、または少なくとも60分間、または少なくとも120分間、少なくとも75%(重量)の凍結保護剤濃度を有する溶液に、組織を浸漬し得る。
【0093】
少なくとも75重量%の凍結保護剤が所望の濃度に達するのに十分な濃度の凍結保護剤を含有する溶液に組織を浸漬した後、少なくとも75重量%の凍結保護剤の凍結保護剤濃度を含む溶液中に維持される組織は、室温以下の任意の冷蔵温度で冷却および保存され得る。いくつかの実施形態では、少なくとも75重量%の凍結保護剤の凍結保護剤濃度を含有する溶液中に維持される組織は、-20℃から溶液のガラス転移温度未満の温度で冷却および保存され得る。冷却速度は毎分約-0.5~約-100℃であり得る。
【0094】
実施形態では、冷却速度(単一または多段階冷却プロセスの場合)には、例えば、約0.5~約10℃/分、例えば約2~約8℃/分、または約4~約6℃/分の範囲の冷却速度が含まれる。実施形態では、プロセスは、氷の形成が回避される限り、冷却速度に依存しない。
【0095】
組織は、ひび割れや氷の形成なしに、所望の温度で一定期間保存され得る。
【0096】
保存後、組織は、灌流の有無にかかわらず、少なくとも75%重量の凍結保護剤溶液から除去され得る。少なくとも75重量%の凍結保護剤溶液から組織を除去する方法は、少なくとも75重量%の凍結保護剤溶液中の組織をより高い温度にゆっくり温めることを含み得る。少なくとも75重量%の凍結保護剤溶液中で組織を温めるために、毎分50℃未満のゆっくりとした加温速度を使用し得る。実施形態では、この段階中の平均昇温速度は、毎分約25~35℃など、毎分約10~40℃であり得る。
【0097】
組織がこの加温プロセスを経た後、組織は、溶液が十分に液体であり、組織がそこから取り除かれ得るのに十分高い任意の所望の温度まで加温され得る。加温プロセスは、任意の所望の速度で行われ得る。実施形態では、組織は、約-10℃を超える温度などの、約-20℃を超える温度、または約-5℃から約5℃の間などの、約-5℃を超える温度で、加温され得る。実施形態では、プロセスは、氷の形成が回避される限り、加温速度に依存しない。
【0098】
実施形態では、加温速度は、溶液を含む容器(例えば、滅菌ポリエステルバッグまたはバイアル)が置かれる環境を変えることによって達成され得る。実施形態では、容器(例えば、無菌のポリエステルバッグまたはバイアル)を、組織が保存された温度よりも高い温度のガス環境に置くことによって、ゆっくりとした加温速度を達成し得る。次いで、急速加温速度を達成するために、容器(例えば、無菌のポリエステルバッグまたはバイアル)を、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)の水溶液などの液体中に、0℃超、または通常の大気温度などの、-75℃超の温度で入れられ得る。
【0099】
実施形態では、組織が-65℃を超える温度に加温された後、溶液中の凍結保護剤濃度は、単一、勾配的、または段階的な方法で減少され得る。実施形態では、凍結保護剤濃度が低減される組織(少なくとも75重量%の凍結保護剤溶液に浸漬された組織など)は、単一のステップで凍結保護剤を含まない溶液または実質的に凍結保護剤を含まない溶液に浸漬(または曝露)され得る。実施形態では、そのような単一のステップは、第1の溶液中の凍結保護剤濃度を低下させ得、凍結保護剤を実質的に含まない溶液を形成し得る。例えば、組織が浸されている溶液の濃度は、単一のステップで(または複数のステップで)15M超から0.1M未満になど、単一のステップで(または複数のステップで)12M超から1M未満に減少され得る。実施形態では、組織は、少なくとも15分間、または少なくとも60分間、または少なくとも120分間など、凍結保護剤が組織から出るのに十分な時間、凍結保護剤を含まない溶液または実質的に凍結保護剤を含まない溶液に浸漬され得る。
【0100】
実施形態では、凍結保護剤濃度が減少される組織は、線形または非線形濃度勾配の使用などによって、溶液の凍結保護剤濃度が徐々に減少し得る溶液に浸漬(または曝露)され得、実質的に凍結保護剤を含まない溶液または凍結保護剤を含まない溶液を達成する。実施形態では、濃度勾配は、少なくとも75重量%の凍結保護剤濃度を有する溶液が凍結保護剤を含まない溶液で徐々に置き換えられる線形または非線形の濃度勾配である。例えば、少なくとも75重量%の凍結保護剤濃度を有する溶液は、約10分未満または約5分未満、または約1分未満などの、約30分未満で、凍結保護剤を含まない溶液によって実質的に(少なくとも99重量%)置換され得る。実施形態では、勾配プロセスにおける濃度の変化は、おおよその浸透平衡を達成するのに十分にゆっくりである。
【0101】
実施形態において、凍結保護剤濃度は、段階的に減少する。実施形態では、組織の凍結保護剤濃度の低下は、組織からの凍結保護剤の溶出を容易にする一連の凍結保護剤濃度低下溶液に組織を浸漬することによって達成され得る。組織は溶液で灌流され得る。溶液は概して、約-15℃から約37℃の間、または約0℃から約25℃の間など、約-15℃を超える温度である。
【0102】
実施形態では、凍結保護剤濃度は、特定の安定水準を達成するように減少され得、これは、例えば少なくとも約10分間、約15分間など、おおよその浸透圧平衡を達成するのに十分な時間維持され得る。次いで、凍結保護剤濃度は、さらに低下され得、これは、凍結保護剤を含まない溶液を提供する場合も提供しない場合もあり得る。そうでない場合、おおよその浸透圧平衡を達成するのに十分な時間濃度を維持した後、凍結保護剤濃度を1つ以上のステップで再度さらに下げて、最終的に凍結保護剤を含まない溶液を提供し得る。実施形態において、組織は、少なくとも15分間、または1時間より長く、各溶液に浸漬され得る。
【0103】
凍結保護剤濃度を下げるために、凍結保護剤溶液は、組織に凍結保護剤を添加する際に利用される凍結保護剤を含まない溶液と同様のタイプの溶液と混合され得る。溶液はまた、少なくとも1つの浸透緩衝剤を含み得る。
【0104】
本明細書で使用される場合、「浸透圧緩衝剤」とは、凍結保護剤流出プロセス中に細胞外濃度よりも細胞内濃度が高い凍結保護剤の浸透効果を打ち消す、低分子量または高分子量の非透過性細胞外溶質を意味する。
【0105】
本明細書で使用する「非浸透性」という用語は、そのような化学物質の分子の大部分が組織の細胞に浸透せず、代わりに組織の細胞外液にとどまることを意味する。
【0106】
本明細書で使用される「低分子量」は、例えば、1,000ダルトン以下の相対分子量を指す。本明細書で使用される「低分子量浸透緩衝剤」は、1,000ダルトン以下の相対分子量を有する。低分子量浸透緩衝剤としては、例えば、マルトース、フルクトース1,6二リン酸カリウムおよびナトリウム、ラクトビオン酸カリウムおよびナトリウム、グリセロリン酸カリウムおよびナトリウム、マルトペントース、スタキオース、マンニトール、スクロース、グルコース、マルトトリオース、グルコン酸ナトリウムおよびカリウム、グルコース6リン酸ナトリウムおよびカリウム、およびラフィノースが含まれる。実施形態では、低分子量浸透緩衝剤は、マンニトール、スクロース、およびラフィノースのうちの少なくとも1つである。
【0107】
本明細書で使用される場合、「高分子量」は、例えば、1,000超から500,000ダルトンの相対分子量を指す。本明細書で使用される場合、「高分子量の凍結保護剤および浸透圧緩衝剤」は、概して、1,000超から500,000ダルトンの相対分子量を有する。高分子量浸透緩衝剤には、例えば、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ラフィノースウンデカ酢酸カリウム(1,000ダルトン超)およびフィコール(1,000超から100,000ダルトン)が含まれる。実施形態では、高分子量浸透緩衝剤は、約450,000の分子量を有するHESなどの、HESである。
【0108】
凍結保護剤を含まない溶液は、約500mM未満の浸透緩衝剤、例えば、約200から400mMの浸透緩衝剤を含み得る。浸透緩衝剤としては、低分子浸透緩衝剤を用い得る。実施形態では、低分子量浸透緩衝剤はマンニトールである。
【0109】
実施形態では、凍結保護剤は、3つ、4つ、5つ、6つ、7つなどの一連のステップで除去され得る。実施形態では、凍結保護剤は、一連の7つのステップで除去され得、ステップ1では、組織は、約55~約75%などの約40~約80%の使用される最高凍結保護剤濃度であり得る濃度を有する凍結保護剤溶液に曝露され得、ステップ2では、組織は、約35~約40%などの約30~約45%の使用される最高凍結保護剤濃度であり得る凍結保護剤濃度に曝露され得、ステップ3では、組織は、約20~約30%などの約15~約35%の使用される最高凍結保護剤濃度であり得る凍結保護剤濃度に曝露され得、ステップ4では、組織は、約10~約15%などの約5~約20%の使用される凍結保護剤濃度であり得る凍結保護剤濃度に曝露され得、ステップ5では、組織は、約5~約7.5%などの約2.5~約10%の使用される凍結保護剤濃度であり得る凍結保護剤濃度に曝露され得る。上記の工程において、溶液の残りは、浸透緩衝剤を含有する凍結保護剤を含まない溶液であり得る。ステップ6では、実質的にすべての凍結保護剤を除去し得、浸透圧緩衝剤を保持し得る。ステップ7では、浸透緩衝剤を除去し得る。実施形態では、ステップ6および7は、単一のステップに組み合わされ得る。例えば、浸透緩衝剤は、凍結保護剤の残りと同時に除去され得る。実施形態において、浸透緩衝剤が使用されない場合、または除去されない場合、工程7は省略され得る。これらの濃縮工程の各々は、約10~30分、または15~25分など、おおよその浸透圧平衡を達成するのに十分な時間維持され得る。実施形態において、凍結保護剤は、凍結保護剤を含まない溶液を使用する1回以上の洗浄で除去される。
【0110】
組織から凍結保護剤を除去するために使用される一連の溶液の温度は、組織が変性条件にさらされないという条件下で、約-15℃から約15℃の間、または約0℃から約37℃の間など、約-15℃超であり得る。実施形態では、ステップ1は、組織が-65℃超など、約-75℃を超える温度にあるときに開始され得る。実施形態では、組織の温度は、ステップ1で組織が浸漬される溶液の温度よりも低い場合があり得、組織は、凍結保護剤除去のステップ1の間、約-15℃を超える温度にさらに加温され得る。
【0111】
組織の洗浄に使用される凍結保護剤を含まない溶液は、滅菌水、生理食塩水(例えば、生理食塩水、ハンクス平衡塩溶液、乳酸リンガー溶液またはクレブス・ヘンセリエット溶液)または組織培養培地(例えば、ロズウェルパーク記念研究所培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル培地または培地199)は、哺乳動物細胞などの組織に使用され得る。
【0112】
洗浄の回数、各洗浄の量、および各洗浄の持続時間は、組織の質量および所望の最終的な残留化学物質濃度によって異なり得る。実施形態では、最後の洗浄(すすぎ)は、生理食塩水またはリンゲル液などの一般的に使用される医療用塩溶液であり得る。
【0113】
保存後、組織をさらに処理し得る。例えば、保存後、組織に患者細胞を播種し得る。したがって、これらの無氷保存組織は、医療用途のためのより複雑な組織操作インプラントの製造のための材料を提供し得る。
【0114】
第1の態様では、本開示は、組織を保存し、保存された組織の移植または埋め込み後の免疫反応を低下させる方法であって、ドナーから第1の組織を取得するステップであって、第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第1の溶液中に第1の組織を少なくとも1時間浸漬することによって、第1の組織の細胞を死滅させ溶解し、第2の組織を形成するステップと、第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、第2の組織の残留細胞材料は、バイオリアクター内で第2の組織を脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、第3の組織を無氷凍結保存に供するステップであって、無氷凍結保存は、第3の組織および第2の溶液を容器内に所定の温度で少なくとも1時間置くことによって、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第2の溶液を第3の組織に浸潤させることと、第2の溶液を除去して少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第3の溶液と交換し、第2の溶液を第3の溶液と交換した後、密閉容器が第3の溶液および第3の組織を含むように容器を密閉することと、密閉容器を保存することと、を含む、ステップと、第3の組織をレシピエントに移植または埋め込みするステップであって、第3の組織の移植または埋め込みによって免疫反応が引き起こされない、または、レシピエントに起こる免疫反応は、生命を脅かすものではない、ステップと、を含む、方法に関する。第2の態様では、本開示はさらに、第1の組織の起源が、遺伝子操作されたブタ供給源である、第1の態様の方法に関する。第3の態様では、本開示はさらに、野生型組織または遺伝子改変組織が、心臓弁、心膜、血管、靭帯、腱、膀胱、腸、および皮膚からなる群から選択される、前述のいずれかの態様の方法に関する。第4の態様では、本開示はさらに、第1の組織、第2の組織、および第3の組織が、グルタルアルデヒドで架橋されていない、前述のいずれかの態様の方法に関する。第5の態様では、本開示はさらに、第2の組織が、第1の組織を、第1の組織の生細胞のすべてを死滅させるのに十分な時間、無菌パッケージ内に室温でシェーカー上で10~80mLの第1の溶液中に置くことによって、1工程で形成される、前述のいずれかの態様の方法に関する。第6の態様では、本開示はさらに、第3の組織が、1~5日または5日より長い期間で第2の組織から形成され、第2の組織の残留細胞材料は、生理的流動および圧力条件下で滅菌溶液を用いて滅菌バイオリアクター内で洗浄することによって除去される、前述のいずれかの態様の方法に関する。第7の態様では、本開示はさらに、無氷凍結保存が、第3の組織および第2の溶液を無菌ポリエステルバッグまたは無菌ポリエステルバイアル内に入れて室温で少なくとも1時間シェーカー上に置くことを含む、前述のいずれかの態様の方法に関する。第8の態様では、本開示はさらに、無氷凍結保存が、第3の組織および第2の溶液を無菌ポリエステルバッグ内に室温でシェーカー上で少なくとも1時間置き、その後、第2の溶液を第3の溶液と交換し、ポリエステルバッグをヒートシールして保存することを含む、前述のいずれかの態様の方法に関する。第9の態様では、本開示はさらに、第1の組織、第2の組織、および第3の組織が各々、ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープが存在しない組織である、前述のいずれかの態様の方法に関する。第10の態様では、本開示はさらに、第3の組織が、動的フローバイオリアクター内の界面活性剤を使用しない脱細胞化によって形成される、前述のいずれかの態様の方法に関する。第11の態様では、本開示はさらに、第3の組織が、DNAを99%含まない、前述のいずれかの態様の方法に関する。第12の態様では、本開示はさらに、凍結保護剤が、アセトアミド、シクロヘキサンジオール、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、二糖類、プロパンジオールからなる群から選択される少なくとも1つの分子を含む、前述のいずれかの態様の方法、前述のいずれかの態様の方法に関する。第13の態様では、本開示はさらに、当該凍結保護剤溶液が、アセトアミド、アガロース、アルギン酸、アラニン、アルブミン、酢酸アンモニウム、不凍タンパク質、ブタンジオール、コンドロイチン硫酸、クロロホルム、コリン、シクロヘキサンジオール、デキストラン、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エリスリトール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ホルムアミド、グルコース、グリセロール、グリセロリン酸、モノ酢酸グリセリル、グリシン、糖タンパク質、ヒドロキシエチルスターチ、イノシトール、ラクトース、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルトース、マンニトール、マンノース、メタノール、メトキシプロパンジオール、メチルアセトアミド、メチルホルムアミド、メチル尿素、メチルグルコース、メチルグリセロール、フェノール、プラロニックポリオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロリン、1,2-プロパンジオール、ピリジンN-オキシド、ラフィノース、リボース、セリン、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソルビトール、スクロース、トレハロース、トリエチレングリコール、トリメチルアミン酢酸、尿素、バリンおよびキシロースからなる群から選択される少なくとも1つの要素を含む、前述のいずれかの態様の方法に関する。第14の態様では、本開示はさらに、第1の溶液、第2の溶液および第3の溶液が、各々、ユーロコリンズ溶液中に4.65MのDMSO、4.65Mのホルムアミド、および3.31Mの1,2プロパンジオールを含有する83%凍結保護剤溶液である第1から11の態様のいずれかの方法に関する。第15の態様では、本開示はさらに、野生型組織または遺伝子改変組織が、心臓弁である、前述のいずれかの態様の方法に関する。第16の態様では、本開示はさらに、野生型組織または遺伝子改変組織が、肺動脈弁である、前述のいずれかの態様の方法に関する。第17の態様では、本開示はさらに、野生型組織または遺伝子改変組織が、動脈である、前述のいずれかの態様の方法に関する。第18の態様では、本開示はさらに、密封された容器が、制御された温度で保存される、前述のいずれかの態様の方法に関する。第19の態様では、本開示はさらに、密封された容器が、室温で保存される、前述のいずれかの態様の方法に関する。第20の態様では、本開示はさらに、密封された容器が、約+40℃から第3の溶液のガラス転移温度未満の間の温度で保存される、前述のいずれかの態様の方法に関する。第21の態様では、本開示はさらに、第3の組織は、同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織と比較して、ヒトにおける免疫原性が低下しており、同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織は、脱細胞化または凍結保護剤の曝露のみに供された組織、抗原を隠蔽またはマスキングすることによって免疫原性が低下した組織、脱細胞化および/または凍結保護剤への曝露を受けていない組織、または、改変組織のいずれかである、前述のいずれかの態様の方法に関する。第22の態様では、本開示はさらに、第3の組織は、同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織と比較して、ヒトにおける免疫原性が低下しており、低下した免疫原性を有する同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織は、グルタルアルデヒドによる架橋を介して達成された、前述のいずれかの態様の方法に関する。第23の態様では、本開示は、組織の免疫原性を低下させる方法であって、ドナーから第1の組織を取得するステップであって、第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第1の溶液中に第1の組織を少なくとも1時間浸漬することによって、第1の組織の細胞を死滅させ溶解し、第2の組織を形成するステップと、第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、第2の組織の残留細胞材料は、バイオリアクター内で第2の組織を脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、を含み、移植後に1日、1週間、または1年などの所定の期間が経過した後、第3の組織は、同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織と比較して、ヒトにおける免疫反応への刺激が少なく、同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織は、脱細胞化または凍結保護剤の曝露のみに供された組織、抗原を隠すまたはマスキングすることによって免疫原性が低下した組織、脱細胞化および/または凍結保護剤への曝露を受けていない組織、または、改変されていない組織のいずれかである、方法に関する。
【0115】
第24の態様では、本開示はさらに、免疫反応が炎症性メディエーター濃度の観点から評価され、炎症性メディエーターがサイトカイン、ヒスタミン、ブラジキニン、プロスタグランジン、ロイコトリエンからなる群から選択される1つ以上の要素であり、第3の組織に対するヒトの免疫反応は、炎症性メディエーター濃度が、同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織の炎症性メディエーター濃度の1/3以下、または同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織の炎症性メディエーター濃度の1/10以下、または同じドナーから得られた対応する野生型組織または遺伝子改変組織の炎症性メディエーター濃度よりも少なくとも2桁低い、のいずれかである、前述のいずれかの態様の方法に関する。第25の態様では、本開示は、組織を保存する方法であって、ドナーから第1の組織を取得するステップであって、第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、第1の組織の細胞を死滅させ溶解するのに十分な濃度の凍結保護剤に第1の組織の細胞を曝露することによって、第2の組織を形成するステップと、第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、第2の組織の残留細胞材料は、第2の組織をバイオリアクターを媒介とした脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、第3の組織を無氷凍結保存に供するステップであって、無氷凍結保存は、第3の組織および第2の溶液を容器内に所定の温度で少なくとも1時間置くことによって、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第2の溶液を第3の組織に浸潤させることと、第2の溶液を除去して少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第3の溶液と交換し、第2の溶液を第3の溶液と交換した後、密閉容器が第3の溶液および第3の組織を含むように容器を密閉することと、密閉容器を保存することと、を含む、ステップと、を含む、方法にさらに関する。第26の態様では、本開示は、組織を保存する方法であって、ドナーから第1の組織を取得するステップであって、第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、第1の組織の細胞を死滅させ溶解するのに十分な濃度の凍結保護剤に第1の組織の細胞を曝露することによって、第2の組織を形成するステップと、第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、第2の組織の残留細胞材料は、第2の組織をバイオリアクターを媒介とした脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、第3の組織と第2の溶液を容器に入れて密封して保存する工程、ステップと、を含み、第3の組織は、移植前に無氷凍結保存に供されない、方法にさらに関する。第26の態様では、本開示は、組織を保存するための方法であって、第1の組織を取得するステップであって、第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第1の溶液中に第1の組織を少なくとも1時間浸漬することによって、第1の組織の細胞を死滅させ溶解し、第2の組織を形成するステップと、第2の組織の残留細胞材料を除去することによって第3の組織を形成するステップであって、第2の組織の残留細胞材料は、バイオリアクター内で第2の組織を脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、第3の組織を無氷凍結保存に供するステップであって、無氷凍結保存は、第3の組織および第2の溶液を容器内に所定の温度で少なくとも1時間置くことによって、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第2の溶液を第3の組織に浸潤させることと、第2の溶液を除去して少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第3の溶液と交換し、第2の溶液を第3の溶液と交換した後、密閉容器が第3の溶液および第3の組織を含むように容器を密閉することと、密閉容器を保存することと、を含む、ステップと、を含む、前述のいずれかの態様の方法、にさらに関する。第28の態様では、本開示はさらに、第1の組織の起源が遺伝子操作されたブタ源である、前述の態様の方法にさらに関する。第30の態様では、本開示はさらに、野生型組織または遺伝子改変組織が心臓弁、心膜、血管、靱帯、腱、膀胱、腸、および皮膚からなる群から選択される、第27の態様および/または第28の態様の方法に関する。第29の態様では、本開示はさらに、第1の組織、第2の組織、および第3の組織がグルタルアルデヒドで架橋されていない、第27の態様および/または第29の態様の方法に関する。
第31の態様では、本開示は、第2の組織は、第1の組織の生細胞をすべて死滅させるのに十分な期間、第1の組織を無菌包装に入れ、室温でシェーカー上の10~80mLの第1の溶液に入れることによって、1工程で形成される、第27の態様から第30の前述のいずれかの態様の方法にさらに関する。第32の態様では、本開示はさらに、第3の組織が、1~5日または5日より長い期間で第2の組織から形成され、第2の組織の残留細胞材料は、生理的流動および圧力条件下で滅菌溶液を用いて滅菌バイオリアクター内で洗浄することによって除去される、前述の第27から第31の前述のいずれかの態様の方法に関する。第33の態様では、本開示はさらに、無氷凍結保存が、第3の組織および第2の溶液を無菌ポリエステルバッグまたは無菌ポリエステルバイアル内に入れて室温で少なくとも1時間シェーカー上に置くことを含む、前述の第27から第31の前述のいずれかの態様の方法に関する。上記の内容は、以下の実施例を参照することによってさらに説明されるが、これらの実施例は例示のために提示されており、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0116】
VS83凍結保存後のブタ組織の炎症反応、リモデリング、および免疫原性を調べるために試験を実施した。新鮮組織(F-WTおよびF-KO)とIFC組織(V-WTおよびV-KO)を、GalSafe(登録商標)α-Galノックアウトブタへの皮下移植によって比較した。Brockbank博士とKris Helke博士(DVM、PhD)の管理と指導の下、4匹の別々の同腹子に由来する10匹のGalSafe(登録商標)ブタがサウスカロライナ医科大学(MUSC)に引き渡された。出荷前に、遺伝子型および表現型を確認するために各ブタから血液を採取した。GGTA1の両方の対立遺伝子上の遺伝子挿入の存在について、LR-PCRによって遺伝子型の確認を実行した。対照組織および処理組織(大動脈および腱)を、麻酔下で8匹のGalSafe(登録商標)ブタの背中の筋肉上に皮下埋め込みし、2匹のGalSafe(登録商標)ブタと2匹のWTブタに組織サンプルを提供した。インプラントは、2週間後または4週間後に周囲の組織とともに回収された。外植片を半分に切断し、ホルマリン固定した。24時間の固定後、組織をすすぎ、緩衝液中に置いた。組織を、包埋、切片化、およびH&E染色のためにサービスラボに送った。外植片の半定量的盲検組織病理学的検査でも、WTおよびGalSafe(登録商標)無氷ガラス化腱および大動脈外植片における炎症細胞浸潤の減少が実証され、新鮮な未処理の対照と比較して多くの有意な違いが見られた。(結果を図1に示す)。
【0117】
地元の食品加工工場からのWTブタ肺HVを使用してさらなる試験も実施される。確認実験は、ブタの繁殖と維持のためにRevivicorのサービスプロバイダから入手したGalSafe(登録商標)組織を使用して実行される。2つのインビトロ試験システムを使用する。第1の試験システムでは、10%のDMSO凍結保存組織パンチから得た条件培地を、ユーロコリンズ溶液中のプロパンジオール、ホルムアミドおよびDMSOの用量を最大50%(v/v)まで増加させて処理する。条件培地は、ELISAを使用してさまざまな活性化TGF-βアイソフォームについて特性評価される。活性化されたTGF-βアイソフォーム放出は、凍結(CFC)馴化培地中の潜在的TGF-βの%で表される。この試験システムは、TGF-βアイソフォーム放出を活性化する各CPAの濃度とその組み合わせを定義する。第2の試験システムでは、組織パンチを実験用VS83CPA製剤+脱細胞化で凍結保存し、陰性対照としての未処理の新鮮な動脈パンチおよび10%DMSO凍結動脈パンチおよびVS83処理パンチと比較する。潜在型および活性型TGF-βアイソフォームを含むサイトカインは、実験組織および対照組織由来の条件培地で評価される。本発明者らは、VS83で処理したブタ組織(脱細胞化なし)がヒト組織のVS83処理と同様の結果をもたらし、T記憶細胞を含むhPBMC増殖の減少をもたらすことを以前に実証した(seifert、2015)。
【0118】
2つの検査システムを使用した結果の比較によって、免疫反応に影響を与える可能性があるVS83内の濃度および3つのCPAの組み合わせが示されることが期待される。TGF-β1およびβ2アイソフォームの両方とは対照的に、TGFβ-3は組織のリモデリングに影響を与え得る抗線維化効果を媒介する。したがって、検査はTGF-β1だけでなく、TGF-β3および-β2アイソフォームの両方に対して行われる。TGF-βアイソフォームは、哺乳動物種全体で高度に保存される。cDNAクローニングによってヒトとブタとのそれぞれの配列間の完全な配列同一性が示されているため、使用された試験システムは機能すると予想される(p’Sporn、1987)。TGF-β1の用量依存的な活性化は、ブタ組織を使用したホルムアミドおよびDMSOによって予測され、ヒト組織での初期の結果が確認された。ブタ組織のサイトカイン放出がヒトと同様であるという実証(Schneider、2017)によって、同様の作用機序がVS83処理ブタ組織で作動していることが確認されるだろう。
【0119】
ガラス化によって脱細胞化およびIFCされたα-Galノックアウト心臓弁(α-GalノックアウトDecell+V)は、インビボでの構造的劣化または機能の低下があったとしても最小限であると予想される。弁は脱細胞化の前にCPAに曝露されるため、滅菌PBSで保存したα-Galノックアウト脱細胞についても同様の結果が予想される。弁ECMに関連するα-Galのため、WT Decell+Vグループが良好なパフォーマンスを発揮する可能性は低いと考えられる。同様に、ECM関連のα-Galの存在によって、WT-Decell単独では失敗することが予想される。組織足場にGalSafe(登録商標)ゲノムの追加の操作が必要になる可能性は低い。
【0120】
異種移植に関して検討されているさらなる遺伝子強化は、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)などの追加の遺伝子ノックアウトである。α-Galは細胞表面上およびほとんどの哺乳動物の組織マトリックス内に存在するが、Neu5Gcは細胞表面に限定されているようである。Neu5GcはAGSの病因には関与していない(Apostolovic、2014)。α-Galとは異なり、Neu5Gcは一部のヒト被験者の細胞に存在する。α-Gal抗体はすべてのヒトで循環IgGの1~3%という高レベルで検出されるが、対応する抗Neu5GC抗体のレベルは非常に変動しており、普遍的に検出できるわけではない。抗Neu5Gc抗体が存在する場合、その量は循環IgGの0.1%未満である。したがって、さらなる遺伝子改変が必要になる可能性は低い。
【0121】
心臓弁の調達:実験用のWT心臓は、地元の食品加工工場で市場規模のドナー(生後約4か月)から入手される。Revivicor の雄および雌の若齢ブタ(WTおよびGalsafe(登録商標))の心臓も使用され得る。解剖研究室への輸送のために、心臓を、氷冷したハンクス平衡塩類溶液(HBSS)で洗浄し、抗生物質(126mg/Lリンコマイシン、52mg/L、10バンコマイシン、157mg/Lセフォキシチンおよび117mg/Lポリミキシン)を含む氷上のHBSSに置く。クラス100バイオセーフティフード内の無菌条件下で解剖した後、大動脈弁の内径と解剖学的構造が記録され、さらなる処理の前に4℃で24時間抗生物質処理される。このステップは、患者への埋め込みや移植を目的とした製品の哺乳動物組織処理で一般的に使用される化学的および/または照射技術を使用した無菌調達または最終滅菌によって回避され得る。
【0122】
バイオリアクターを媒介とした脱細胞化は、図1に関連して前述したように実行される。無氷凍結保存は、前述したように実行される(Brockbank、2015)。組織を滅菌ポリエステルバッグまたはバイアル中に室温で少なくとも1時間シェーカー上で置くことによって、組織を、ユーロコリンズ(EC)溶液に4.65MのDMSO、4.65MのFMD、および3.31Mの1,2プロパンジオール[プロピレングリコール(PG)]を含む83%のCPA溶液に1工程で浸潤する(組織の体積に応じて、EC溶液中の10~80mLのVS83)。次に、CPA溶液を取り出して新しいVS83CPA溶液と交換し、袋をヒートシールしてから急速に冷却する。冷却プロセスは、-135℃の機械式冷凍庫または窒素冷却された冷凍庫の上部のいずれかにおいて、あらかじめ冷却した2-メチルブタン浴(-100℃未満)にバッグを10分間置くことによって達成され、-80℃で保存される。少なくとも1週間の保存後、組織を37℃のウォーターバスで急速に温め、マンニトールを含む予冷したEC溶液に組織を入れ、続いてEC溶液のみを入れ、最後に4℃のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)または5%ブドウ糖を含む乳酸加リンゲル液(LRD5)に入れてCPA溶液を除去する。
【0123】
血行動態および弁突力学:新鮮な無氷凍結保存されたHV±脱細胞化がHVバイオリアクターに取り付けられ(図1)、機能性がテストされる。たとえば、高速カメラ(240 fps)とデジタルイメージングを使用したデータ収集によって、大動脈条件下では70.5bpm、70mL/ストローク、120/80mmHgを使用する。幾何学的オリフィス面積(GOA)の測定値はmmで計算され、複数のサイクルにわたる時間の関数としてプロットされる(Schleicher、2010)。弁突の機械的特性もまた、確立された方法を使用して評価される(Brockbank、2011;Sierad、2015)。
【0124】
組織学/免疫組織化学:残存細胞材料に関する脱細胞化組織の品質スクリーニングには、DNA抽出/分析(Cyquantアッセイ)および組織学の方法が含まれる。HV外植片の個々の組織成分からの代表的なサンプルが処理され、染色切片の定性的および定量的な形態計測組織学的レビューに使用される。染色には、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)およびエラスチン染色(Song、2000)、DAPI染色、およびモバットのペンタクロームが含まれる。免疫染色では、免疫組織化学を使用して脱細胞化後の残留細胞断片を特定する。
【0125】
潜在的な免疫原性の尺度としてのサイトカイン産生/放出の測定:組織パンチ(直径6mm、n=8-10)をDMEM中で37℃で1~7日間インキュベートする。上清を採取し、メーカーのプロトコルに従って酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用し、潜在型および活性型TGF-βアイソフォームを含むサイトカイン分析を行う。動態解析は、同じ培養ウェルから毎日上清を収集することによって実行され、サイトカイン濃度が培地の残りの体積に逆算され、サイトカイン量がpg/mg組織乾燥重量で得られる。吸光度はプレートリーダーで450nmで測定される。
【0126】
免疫原性の尺度としてのヒト末梢血単核球(PBMC)反応性の測定:Seifert(2015)によって説明された方法を使用して、組織パンチ(直径6mm、n=8~10)をヒトPBMCと共培養して、新鮮な未処理組織パンチの増殖効果が改善されるかどうかを確認し得る。
【0127】
本開示全体にわたって引用されるすべての文献および特許文献は、その全体が参照により援用される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
【手続補正書】
【提出日】2022-05-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織を保存し、保存された組織の移植または埋め込み後の免疫反応を低下させる方法であって、
ドナーから第1の組織を取得するステップであって、前記第1の組織は、野生型組織または遺伝子改変組織である、ステップと、
少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第1の溶液中に前記第1の組織を少なくとも1時間浸漬することによって、前記第1の組織の細胞の90%超を死滅させ溶解し、第2の組織を形成するステップであって、前記第1の溶液の温度は、約25℃から約37℃の範囲である、ステップと、
前記第2の組織の残留細胞材料を除去することによってDNAを99%含まない第3の組織を形成するステップであって、前記第2の組織の残留細胞材料は、バイオリアクター内で前記第2の組織を脱細胞化に供することによって除去される、ステップと、
前記第3の組織を、前記第3の組織が冷却され-20℃から溶液のガラス転移温度未満の温度で保存される、無氷凍結保存に供するステップであって、前記無氷凍結保存は、
前記第3の組織および第2の溶液を容器内に所定の温度で少なくとも1時間置くことによって、少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第2の溶液を前記第3の組織に浸潤させることであって、前記所定の温度は、前記第3の組織の冷却速度が毎分約-0.5℃から約-100℃になるように十分に低い温度である、ことと、
前記第2の溶液を除去して少なくとも約75重量%の凍結保護剤濃度を有する第3の溶液と交換し、前記第2の溶液を前記第3の溶液と交換した後、密閉容器が前記第3の溶液および第3の組織を含むように前記容器を密閉することと、
前記密閉容器を保存することと、
を含む、ステップと、
前記第3の組織をレシピエントに移植または埋め込みするステップであって、
レシピエントに起こる免疫反応は、前記免疫反応またはそれに関連する合併症もしくは環境もしくは状況によって、レシピエントに前記第3の組織が埋め込みまたは移植されてから1年以内に死亡させないという点で、生命を脅かすものではない、
ステップと、
を含み、
前記第1の組織、前記第2の組織、および前記第3の組織は、抗原を隠すまたはマスクすることを目的とした任意の化学固定処理ステップを受けることなく利用される、
方法。
【請求項2】
第1の組織の起源は、ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープが存在しないように遺伝子操作されたブタ供給源である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記野生型組織または遺伝子改変組織は、心臓弁、心膜、血管、靭帯、腱、膀胱、腸、および皮膚からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の組織、前記第2の組織、および前記第3の組織は、前記第1の組織、前記第2の組織、および前記第3の組織がグルタルアルデヒドおよび/またはα-Galなどの抗原を隠すことまたはマスキングすることによって抗原性を低下させる他の薬剤で架橋される任意の化学固定処理ステップを経ずに利用される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の組織は、前記第1の組織を、前記第1の組織の生細胞のすべてを死滅させるのに十分な時間、無菌パッケージ内に室温でシェーカー上で10~80mLの前記第1の溶液中に置くことによって、1工程で形成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第3の組織は、1~5日または5日より長い期間で前記第2の組織から形成され、
前記第2の組織の前記残留細胞材料は、生理的流動および圧力条件下で滅菌溶液を用いて滅菌バイオリアクター内で洗浄することによって除去される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記無氷凍結保存は、前記第3の組織および第2の溶液を無菌ポリエステルバッグまたは無菌ポリエステルバイアル内に入れて室温で少なくとも1時間シェーカー上に置くことを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記無氷凍結保存は、前記第3の組織および第2の溶液を無菌ポリエステルバッグ内に室温でシェーカー上で少なくとも1時間置き、その後、前記第2の溶液を前記第3の溶液と交換し、前記ポリエステルバッグをヒートシールして保存することを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の組織、前記第2の組織、および前記第3の組織は各々、ガラクトース-α(1,3)-ガラクトース抗原(α-Gal)エピトープが存在しない組織である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第3の組織は、動的フローバイオリアクター内の界面活性剤を使用しない脱細胞化によって形成される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第3の組織は、DNAを100%含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の溶液、前記第2の溶液および前記第3の溶液は、各々、ユーロコリンズ溶液中に4.65MのDMSO、4.65Mのホルムアミド、および3.31Mの1,2プロパンジオールを含有する83%凍結保護剤溶液である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記野生型組織または遺伝子改変組織は、心臓弁である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】