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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】マイクロキャビティプレート
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20231124BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231124BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/00 A
C12Q1/02
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526342
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(85)【翻訳文提出日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 US2021056736
(87)【国際公開番号】W WO2022093883
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】63/107,663
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,グレゴリー ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】タナー,アリソン ジーン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA02
4B029FA10
4B029GA03
4B029GB04
4B029GB06
4B063QA18
4B063QR77
4B063QS40
4B063QX01
(57)【要約】
マイクロキャビティプレートは、マイクロキャビティ基板と基部(303)とを備える。基部は、規則的な行列状に配置されることにより複数の開口部を形成する複数のグリッドセグメントを備える下部グリッドと、下部グリッドの外周から鉛直方向に延びる複数の側壁(309)を備える開ウェル(307)と、を備える。マイクロキャビティ基板は、下部グリッドの複数の開口部と位置合わせされた規則的な行列状に配置された複数のマイクロキャビティ(315)であって、各マイクロキャビティが、下部グリッドの開口部内に配置されるキャビティを有している、複数のマイクロキャビティを備える。マイクロキャビティプレートは、基部の規則的な行列を区切る下部グリッド上に配置されるように構成される上部グリッド(405)をさらに備えることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフェロイド細胞培養物のハイスループットスクリーニングに用いられるマイクロキャビティプレートであって、
規則的な行列状に配置されることにより複数の開口部を形成する複数のグリッドセグメントを備える下部グリッドと、
前記下部グリッドの外周から鉛直方向に延びる複数の側壁を備える開ウェルと、
を備える基部と、
前記下部グリッドの前記複数の開口部と位置合わせされた規則的な行列状に配置された複数のマイクロキャビティであって、各マイクロキャビティが、前記下部グリッドの開口部内に配置されるキャビティを有している、複数のマイクロキャビティを備えるマイクロキャビティ基板と、
前記下部グリッドの前記規則的な行列を鏡映した規則的な行列状の複数のウェル開口部を備える上部グリッドと、
を備え、
前記上部グリッドが、前記開ウェル内の、前記基部の前記規則的な行列を区切る前記下部グリッド上に配置されるように構成され、
前記複数のウェル開口部が、前記マイクロキャビティ基板の前記複数のマイクロキャビティと位置合わせされる、マイクロキャビティプレート。
【請求項2】
各マイクロキャビティ開口部を画定するグリッドセグメントで構成される複数の側壁と、該マイクロキャビティ開口部の中心に配置される個別マイクロキャビティとにより、マイクロキャビティウェルが定義される、請求項1に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項3】
前記マイクロキャビティプレートが、ガスケット材をさらに備え、
前記上部グリッドが前記開ウェルに挿入されると、前記上部グリッドの底面と前記マイクロキャビティ基板の上面との間に前記ガスケット材が配置される、請求項1に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項4】
前記複数のマイクロキャビティが、1536個の個別マイクロキャビティを含む、請求項1に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項5】
前記複数のマイクロキャビティの各キャビティが、上面と丸みを帯びた底部とを備える、請求項1に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項6】
各マイクロキャビティの前記上面における該マイクロキャビティの直径が約1500μmである、請求項5に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項7】
前記キャビティの内表面が、超低接着(ULA)表面被膜で被覆されている、請求項5に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項8】
前記上部グリッドが、該上部グリッドの外周から延びる複数の突起部を備え、
前記突起部が、前記開ウェルの前記側壁に設けられた複数の貫通孔と位置合わせされて噛み合うように構成されている、請求項1に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項9】
前記マイクロキャビティ基板及び前記基部のそれぞれが、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、他の同様のポリマー、又はそれらの組み合わせから選ばれるポリマーから形成される、請求項1に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項10】
前記マイクロキャビティ基板及び前記基部のそれぞれが、ポリスチレンから形成される、請求項9に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項11】
前記上部グリッドが、天然ゴム、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンポリマー、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、シリコーンエラストマー、フルオロエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ニトリルゴム、又はそれらの組み合わせから選ばれるエラストマー材料から形成される、請求項1に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項12】
前記ガスケット材がエラストマーから形成される、請求項3に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項13】
前記エラストマーがシリコーンを含む、請求項12に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項14】
前記ガスケット材が感圧接着剤から形成される、請求項3に記載のマイクロキャビティプレート。
【請求項15】
ハイスループットスクリーニングを実施する方法であって、
請求項1に記載のマイクロキャビティプレートに細胞を播種するステップと、
前記細胞を培養して前記複数のマイクロキャビティ内にスフェロイドを形成するステップと、
前記マイクロキャビティプレート内の前記細胞を細胞培養培地に接触させるステップと、
マイクロキャビティウェルのそれぞれを個別に扱って、培養した前記スフェロイドのハイスループットスクリーニングを実施するステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年10月30日を出願日とする米国仮特許出願第63/107663号の米国特許法第119条に基づく優先権の利益を主張するものであり、この仮出願のすべての開示内容は、本明細書の依拠するところとし、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、マイクロキャビティプレートに関する。詳細には、本開示は、細胞培養及びハイスループットスクリーニングに用いられるマイクロキャビティプレートに関する。
【背景技術】
【0003】
多くの病気にとって、治療法を発見するプロセスの最初のステップが、薬剤の発見と開発である。このステップでは、薬剤療法の候補となる多くの分子化合物に対して試験が行われる。試験量が多いため、この試験は、ハイスループットスクリーニング(high throughput screening:HTS)を用いて実施されることが多い。HTSは、自動化設備を用いて、無数のサンプルの生物活性を高速で試験する手法である。HTSでは、マイクロプレートを使用する場合が多いが、自動操作が可能なマイクロプレートの代表的な構成として、1536ウェルプレートが挙げられる。
【0004】
そして、細胞が生体内(in vivo)で経験する環境をより正確に再現するため、3次元(3D)細胞培養モデル(スフェロイド)を用いてHTSを実施することができる。スフェロイド(3次元細胞培養物)は、一般に、約100~300マイクロメートルの範囲の直径を有する。従来技術では、スフェロイドを96ウェルプレートや384ウェルプレートに分注することは可能である。しかし、スフェロイドは大きいため、1536ウェルプレートのウェル形状では、1536ウェルプレートのウェルにスフェロイドを分注できない恐れがあった。したがって、3次元細胞培養物(スフェロイド)を生成する従来の1536ウェル細胞培養デバイスは、通常、HTSプロセスでの操作の自動化に適したものではなかった。さらに、従来の設備では、バルクスフェロイド作製容器で培養されたスフェロイドのような大きな構造体を、HTS用の1536ウェルプレートに分注するのに利用できるものがなかった。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、HTSプロセスでも使用可能なバルクスフェロイド作製用のマイクロキャビティプレートを提供するものである。マイクロキャビティプレートは、1536個の浅型キャビティを備え、各キャビティは、1500μmの直径を有している。これらのキャビティが、一般的な1536ウェルプレートと同様の規則的な行列状に配置されている。複数の実施形態において、マイクロキャビティの上面にグリッドを追加することにより、各マイクロキャビティを個別に扱ってHTSを実施することが可能となる。したがって、本開示の実施形態は、培養プロセスの開始時から一括培養してきたスフェロイドに対して、グリッドの配置後に個別に対応することを可能にするものであり、そのため、既存の従来の設備が抱える問題を解決するものである。
【0006】
一態様において、マイクロキャビティプレートは、基部とマイクロキャビティ基板とを備える。基部は、規則的な行列状に配置されることにより複数の開口部を形成する複数のグリッドセグメントを備える下部グリッドと、下部グリッドの外周から鉛直方向に延びる複数の側壁を備える開ウェルと、を備える。マイクロキャビティ基板は、下部グリッドの複数の開口部と位置合わせされた規則的な行列状に配置された複数のマイクロキャビティであって、各マイクロキャビティが、下部グリッドの開口部内に配置されるキャビティを有している、複数のマイクロキャビティを備える。
【0007】
いくつかの実施形態では、マイクロキャビティプレートが上部グリッドをさらに備える。いくつかの実施形態では、上部グリッドが、下部グリッドの規則的な行列を鏡映した規則的な行列状の複数のウェル開口部を備える。いくつかの実施形態では、上部グリッドが、開ウェル内の、基部の規則的な行列を区切る下部グリッド上に配置されるように構成される。いくつかの実施形態では、複数のウェル開口部が、マイクロキャビティ基板の複数のマイクロキャビティと位置合わせされる。いくつかの実施形態では、各マイクロキャビティ開口部を画定するグリッドセグメントで構成される複数の側壁と、該マイクロキャビティ開口部の中心に配置される個別マイクロキャビティとにより、マイクロキャビティウェルが定義される。
【0008】
いくつかの実施形態では、マイクロキャビティプレートがガスケット材をさらに備える。いくつかの実施形態では、ガスケット材は、上部グリッドの底面と一体に設けられ、上部グリッドが開ウェルに挿入されると、上部グリッドの底面とマイクロキャビティ基板の上面との間にガスケット材が配置される。
【0009】
いくつかの実施形態では、複数のマイクロキャビティが、1536個の個別マイクロキャビティを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、複数のマイクロキャビティの各キャビティが、上面と丸みを帯びた底部とを備える。いくつかの実施形態では、各マイクロキャビティの上面における当該マイクロキャビティの直径が約1500μmである。
【0011】
いくつかの実施形態では、キャビティの内表面が、細胞に対して非接着性の被膜で被覆されている。いくつかの実施形態では、被膜が、超低接着(ULA)表面被膜を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、上部グリッドが、上部グリッドの外周から延びる複数の突起部を備える。いくつかの実施形態では、複数の突起部のうちの複数の突起部が、開ウェルの側壁に設けられた複数の貫通孔と位置合わせされて噛み合うように構成されている。
【0013】
いくつかの実施形態では、マイクロキャビティ基板が、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、他の同様のポリマー、又はそれらの組み合わせから選ばれるポリマーから形成される。いくつかの実施形態では、マイクロキャビティ基板が、ポリスチレンから形成される。
【0014】
いくつかの実施形態では、基部が、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、他の同様のポリマー、又はそれらの組み合わせを含むポリマーから形成される。いくつかの実施形態では、基部が、ポリスチレンから形成される。
【0015】
いくつかの実施形態では、上部グリッドが、天然ゴム、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンポリマー、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、シリコーンエラストマー、フルオロエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ニトリルゴム、又はそれらの組み合わせから選ばれるエラストマー材料から形成される。
【0016】
いくつかの実施形態では、ガスケット材がエラストマーから形成される。いくつかの実施形態では、エラストマーがシリコーンを含む。いくつかの実施形態では、ガスケット材は感圧接着剤である。
【0017】
いくつかの実施形態では、マイクロキャビティプレートはスフェロイドの細胞培養に使用される。いくつかの実施形態では、マイクロキャビティプレートはハイスループットスクリーニングに使用される。
【0018】
一態様において、ハイスループットスクリーニングを実施する方法は、本明細書に記載のマイクロキャビティプレートに細胞を播種するステップを含む。本方法は、さらに、細胞を培養して複数のマイクロキャビティ内にスフェロイドを形成するステップと、マイクロキャビティプレート内の複数のマイクロキャビティの上部に上部グリッドを取り付けてマイクロキャビティウェルを形成するステップと、マイクロキャビティウェルのそれぞれを個別に扱って、培養したスフェロイドのハイスループットスクリーニングを実施するステップと、を含む。いくつかの実施形態では、細胞を培養するステップが、マイクロキャビティプレート内の細胞を細胞培養培地に接触させるステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】標準的な1536ウェルプレートを示す画像
図2】複数のマイクロキャビティを六方最密充填配置で配置した構成を示す画像
図3】本開示の一実施形態に係る1536マイクロキャビティプレートを示す上面図
図4】本開示の一実施形態に係る、1536マイクロキャビティプレート用のグリッドを示す上面図
図5】本開示の一実施形態に係る、グリッドを付けた状態の1536マイクロキャビティプレートを示す上面図
図6】本開示の一実施形態に係る、グリッドを付けた状態の1536マイクロキャビティプレートを示す上面図
図7】本開示の一実施形態に係る1536マイクロキャビティプレートを示す側断面図
図8】本開示の一実施形態に係る、グリッドを付けた状態の1536マイクロキャビティプレートを示す側断面図
図9】本開示の一実施形態に係る、グリッド及びガスケットを付けた状態の1536マイクロキャビティプレートを示す側断面図
図10】本開示の一実施形態に係る、グリッド及びガスケットを付けた状態の1536マイクロキャビティプレートを示す側断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
細胞が生体内で経験する環境をより正確に再現するため、3次元細胞培養モデルを用いてHTSを実施することができる。3次元スフェロイドや3次元オルガノイド(以下、これらをスフェロイドと呼ぶ)などの3次元培養物における細胞応答は、細胞を単分子層で培養する2次元(2D)培養物における細胞応答に比べて、生体内での挙動により近いことが、近年の研究から明らかとなっている。3次元培養物では、次元が拡張されていることにより細胞応答に変化が生じると考えられている。これは、3次元に拡張した結果、周囲の細胞との相互作用を担う細胞表面の受容体の空間構成が影響を受け、細胞に物理的制約が加わるため、これが、細胞外から細胞内へのシグナル伝達に影響を与え、最終的には、遺伝子の発現や細胞の挙動に影響を与えるためと考えられている。しかしながら、3次元細胞培養物(スフェロイド)を生成する従来の培養デバイスは、HTSプロセスでの操作の自動化に最適なものではなかった。
【0021】
HTSでは、マイクロプレートを使用する場合が多いが、自動操作が可能なマイクロプレートの代表的な構成として、1536ウェルプレートが挙げられる。図1は、標準的な1536ウェルプレート10を示す画像である。図1に示す1536ウェルプレートは、行列状に配置された複数のウェル15を有しており、個別のウェル13が等間隔で配置されている。1536ウェルプレートの作業表面積は約4.5インチ(約114.3mm)×約3インチ(約76.2mm)であり、当該マイクロプレートでは、この作業表面積全体に、ウェルが行列状に等間隔で配置されている。1536ウェルプレートのウェルは、直径が約1500μmで、非常に深型(約6000μm)であるため、1つ1つのウェルが個別に扱われ、手動での操作が難しい。
【0022】
また、マイクロプレートウェルが、ミリメートル(mm)やセンチメートル(cm)サイズのウェルであるのに対し、3次元細胞培養物(スフェロイド)を生成する従来の培養デバイスは、マイクロメートルサイズのウェルを備えている。マイクロメートルサイズのウェルを備える培養デバイスは、マイクロキャビティやマイクロスペースなど様々な呼称で呼ばれている。マイクロキャビティは、通常、丸みを帯びた非細胞接着性の底部を有する内部キャビティを備えており、マイクロキャビティ内に播種した細胞の自己組織化(互いに接着すること)による各マイクロキャビティ内でのスフェロイド形成を可能にすることにより、3次元細胞培養を支援するものである。一般的なマイクロキャビティは浅型(約500~約3000μm)であり、すべてのキャビティ内のすべてのスフェロイドを、一斉に細胞培養培地で覆うことができるため、手動での操作が容易である。
【0023】
マイクロキャビティ容器はバルクスフェロイド作製容器と呼ばれ、ウェルが有するマイクロメートルサイズの形状と六方最密充填(「ハニカム」)ウェル配置とにより、一度に多くのスフェロイドを培養することを可能にするものである。図2は、複数のマイクロキャビティ20を六方最密充填配置25で配置した構成を示す画像である。かかる最密充填配置により、一般的なマイクロプレートの作業表面積である4.5インチ(約114.3mm)×3インチ(約76.2mm)に、直径500μmのウェルを約12588個配置することが可能となる。また、マイクロキャビティの直径を1500μm(1536ウェルプレートのウェルの直径)まで大きくした場合には、ウェルを六方最密充填配置とすることにより、4.5インチ(約114.3mm)×3インチ(約76.2mm)の一般的なマイクロプレートの作業表面積に、約2845個のウェルを配置することができる。しかしながら、六方最密充填配置のウェルでバルクスフェロイド作製は可能ではあるものの、これをHTSに使用される標準的な設備で使用することはできなかった。これは、従来のバルクスフェロイド作製容器が、行列状に等間隔で配置されたウェルを自動で操作する構成を有していなかったためである。
【0024】
本開示の実施形態は、HTSプロセスでも使用可能なバルクスフェロイド作製用のマイクロキャビティプレートを提供するものである。マイクロキャビティプレートは、1536個の浅型キャビティを備え、各キャビティは、1500μmの直径を有している。これらのキャビティが、一般的な1536ウェルプレートと同様の規則的な行列状に配置されている。マイクロキャビティが行列状に規則的に配置されているため、マイクロキャビティの上面に上部グリッドを追加することができる。上部グリッドを追加することにより、各マイクロキャビティがウェルを備えるようになり、それぞれを個別に扱うことができるようになるため、HTSを実施することが可能となる。したがって、本開示の実施形態は、培養プロセスの開始時から複数のスフェロイドをまとめて培養して、均質な培養環境を構築することを可能にするとともに、グリッドの配置後には各スフェロイドに個別に対応することを可能にするものである。
【0025】
本開示の実施形態に係るマイクロキャビティプレートは、均質な培養環境を提供するものである。マイクロキャビティプレートに上部グリッドを配置して個別ウェルを形成する前の段階では、1536個のウェルを有するマイクロキャビティプレートで培養されたすべてのスフェロイドに対して同一の処理を同一のタイミングで行うことができるため、均質な培養環境を提供することができる。これに対し、個別のウェルを有する一般的なプレートの場合、各ウェルに同一量を分注することは、たとえ自動化設備を利用したとしても難しいため、培養環境の均質性は低くなってしまう。
【0026】
本明細書に記載の実施形態に係るマイクロキャビティプレートは、上部グリッドを追加することにより、個別ウェルを有するプレートに転換することができる。上部グリッドは、プレート内の複数のマイクロキャビティの上部の位置に配置することができる。マイクロキャビティプレートに複数の個別ウェルを設ける構成は、後工程でグリッドを追加することにより、各ウェル内のスフェロイドを個別に扱うことが可能となるものであるため、かかる構成とすることにより、ユーザがHTSを実施することが可能となる。
【0027】
本明細書に記載の実施形態のマイクロキャビティプレートは、スフェロイドの操作(バルクスフェロイド作製容器から1536ウェルプレートへのスフェロイドの移し替え)を行うための自動分注器を必要としない。
【0028】
図3は、上部グリッドを配置していない状態の1536マイクロキャビティプレートを示す俯瞰図である。マイクロキャビティプレート300は、プレートの基部303を備えている。基部303の上には、開ウェル307が配置されている。この矩形の開ウェル307は、基部303から鉛直方向に延びる4枚の側壁309によって画定されている。そして、開ウェル307内に、複数のマイクロキャビティ315が配置されている。各マイクロキャビティ310は、約1500μmの直径を有する浅型キャビティである。複数のマイクロキャビティ315は、複数の行325と複数の列335の行列状に規則的に並べられている。各行320は、複数の行325における他の列に平行である。同様に、各列330は、複数の列335における他の列に平行である。1536マイクロキャビティプレートにおいて、各行320は、第1の方向に互いに等間隔に配置された48個のマイクロキャビティで構成され、各列330は、第2の方向に互いに等間隔に配置された32個のマイクロキャビティで構成されている。第2の方向は第1の方向に垂直であり、これにより、複数の行325と複数の列335から格子状のパターンが形成されている。
【0029】
図4は、1536マイクロキャビティプレートに配置して使用する上部グリッドを示す俯瞰図である。上部グリッド405は、マイクロキャビティプレートの開ウェルの4枚の側壁の内側に配置できる矩形形状を有している。上部グリッド405は、第1の方向の複数のグリッドセグメント411と、第2の方向の複数のグリッドセグメント413とを備えている。第1の方向のグリッドセグメント411は、第2の方向のグリッドセグメント413に対して垂直に配置され、グリッドパターンを形成している。これら複数のグリッドセグメントにより、複数の行425及び複数の列435に規則的に配列された格子状に、複数の開口部が形成されている。各行420は、等間隔に配置された48個の開口部で構成され、各列430は、等間隔に配置された32個の開口部で構成されている。上部グリッド405のサイズは、マイクロキャビティプレート内の個々のマイクロキャビティを各開口部417で個別に取り囲むように設定される。グリッドがマイクロキャビティプレート上の所定の位置に配置されると、上部グリッドが各マイクロキャビティウェルの側壁を成し、複数の個別マイクロキャビティウェルが形成される。
【0030】
図5は、上部グリッドを所定の位置に配置した状態の1536マイクロキャビティプレートを示す俯瞰図である。図5に示す、上部グリッドデバイスを装着した状態の1536マイクロキャビティプレート500は、1536個の個別マイクロキャビティウェル375を備えている。個別マイクロキャビティウェル375は、複数の列535と複数の行525の行列状に規則的に並べられている。各マイクロキャビティウェル列530は、32個のマイクロキャビティウェルで構成されている。各マイクロキャビティウェル行520は、48個のマイクロキャビティウェルで構成されている。
【0031】
図6は、上部グリッドを所定の位置に配置した状態の1536マイクロキャビティプレート600の一実施形態を示す俯瞰図である。なお、図6に示す1536マイクロキャビティプレート600の一実施形態の寸法は、本明細書に記載の1536マイクロキャビティプレートに使用可能な寸法の一例として示すものであり、これらに限定されるものではない。本明細書に記載の実施形態に係るマイクロキャビティプレートの設置面積(footprint)は、従来の1536ウェルプレートの標準寸法の設置面積とすることができる。かかる標準寸法の設置面積としては、米国国家規格協会(American National Standards Institute:ANSI)及び生物分子科学学会(Society for Biomolecular Sciences:SBS)が規定する1536ウェルプレートの標準設置面積寸法などが挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、マイクロキャビティプレートの長さは、約5.0299インチ(約127.759mm)である。いくつかの実施形態では、マイクロキャビティプレートの幅は、約3.3654インチ(約85.481mm)である。いくつかの実施形態では、マイクロキャビティプレートの作業エリアは、約4.252インチ(約108.0mm)の長さと約2.8347インチ(約72.001mm)の幅を有する開ウェルエリアにより規定される。複数の実施形態において、各マイクロキャビティウェルは、約0.0886インチ(約2250.4μm)の長さと約0.0886インチ(約2250.4μm)の幅を有し、個別マイクロキャビティは、各マイクロキャビティウェルの中心に配置される。複数の実施形態において、各マイクロキャビティは、約1500μm(0.05906インチ)の直径を有している。標準的な96ウェルプレート又は384ウェルプレートの高さが、0.560インチ(約14.22mm)であるのに対し、複数の実施形態において、マイクロキャビティプレートの高さは、約0.780インチ(約19.81mm)である。なお、本明細書に示す例示的な寸法は、限定を意図するものではなく、その寸法公差は約±0.010インチ(約±254μm)である。
【0032】
図7は、1536マイクロキャビティプレートの一部を示す側断面図である。マイクロキャビティプレート700の図示部分では、成形底部コンポーネント(基部)10が示されている。基部10は、側壁13と下部グリッド17とにより画定された開ウェルを有している。基部10は、平坦な底部と、基部10の底部の外周に設けられたフランジ(スカート)12とを有することができる。窪みを有するマイクロキャビティ基板20が基部10の内部に配置され、個々のマイクロキャビティ23が個別に下部グリッド17の開口部内に嵌め込まれた状態となっている。下部グリッド17は、規則的な行列状に並べられた複数のグリッドセグメントを備えることができ、各グリッドセグメントは、平坦な上部と平坦な底部とを有することができる。また、基部10は、下部グリッドの外周を鉛直方向に延びて下部グリッドを取り囲む外周部を成す側壁13を有する開ウェルによりさらに規定される。開ウェル内へのマイクロキャビティ基板20の配置は、規則的な行列状に間隔を空けて配置された複数のマイクロキャビティ23と、規則的な行列状の格子構成で配置された下部グリッド17の開口部とが位置合わせされるように行われる。いくつかの実施形態では、下部グリッドの高さは、約0.060インチ(約1524.0μm)とすることができる。いくつかの実施形態では、下部グリッドの高さは約0.063インチ(約1600.2μm)とすることができ、下部グリッドの各開口部は、長さ約0.0886インチ(約2250.4μm)、幅約0.0886インチ(約2250.4μm)である。マイクロキャビティ基板20は、湾曲した(丸みを帯びた)底部27を有する複数のマイクロキャビティ23を備えており、この底部27により窪み状のマイクロキャビティが画定される。各マイクロキャビティは、円形の上部開口部と、丸みを帯びた底部とを有するキャビティを有している。各マイクロキャビティは、直径約1500μm、深さ約1600μmである。開ウェル内へのマイクロキャビティ基板20の配置は、マイクロキャビティ基板の各マイクロキャビティが下部グリッドの開口部の中心に配置されるように行われる。マイクロキャビティの底部は、マイクロキャビティプレートの底面よりも上方に位置することができる。
【0033】
マイクロキャビティ基板は、フィルム材から形成することができる。例えば、マイクロキャビティ基板は、0.003~0.015インチ(約76.2~381.0μm)の厚さを有する平坦なフィルム材から形成することができるが、これに限定されるものではない。フィルム材は、任意の適切な材料で形成することができる。かかる材料の例として、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は積層体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。マイクロキャビティ基板の丸みを帯びた底部の頂点における厚さは、約35マイクロメートル~約75マイクロメートルの範囲内とすることができる。マイクロキャビティ基板の他の箇所の厚さは、場所により変化してよい。
【0034】
図8は、1536マイクロキャビティプレートの一部を示す側断面図である。マイクロキャビティプレート800の図示部分では、基部10の開ウェル内のマイクロキャビティ基板20の上部25の上に、上部グリッド30を配置した状態が示されている。上部グリッド30をマイクロキャビティ基板20の上に配置して、プレートの成形底部コンポーネントに追加することにより、上部グリッドのセグメントがマイクロキャビティウェル50の側壁55を成して、個別のマイクロキャビティウェル50を画定することができる。開ウェル内への上部グリッド30の配置は、上部グリッド30の下部(底部)35が、マイクロキャビティプレートの下部グリッドと位置合わせされた状態で、マイクロキャビティ基板20の上部25上に配置されるとともに、上部グリッド30の上部33が、基部10の上部11又は開ウェル側壁の上部まで延びるように行うことができる。上部グリッド30は、第1の方向の複数のグリッドセグメント37と、垂直方向の複数のグリッドセグメント39とによって形成される規則的な行列を有している。いくつかの実施形態では、上部グリッドは、約0.717インチ(約18.212mm)の高さを有している。上部グリッド30の複数のグリッドセグメントにより、下部グリッド17の格子構成を鏡映した、長さ約0.0886インチ(約2250.4μm)、幅約0.0886インチ(約2250.4μm)の複数の開口部が画定される。また、任意選択的に、基部が、マイクロキャビティプレートの外周(外縁)に沿ってフランジ(スカート)12を備えることもできる。この構成は、プレートの安定性に寄与することができる。
【0035】
図9は、本発明の実施形態に係る、ガスケットシートを備えた1536マイクロキャビティプレートの一部を示す側断面図である。図9に示すように、ガスケット材(ガスケットシート)60を使用して、ウェル50とウェル50の間を封止することができる。ガスケットシート60は、マイクロキャビティ基板20の上部25と上部グリッド30の下部35の間に配置される。複数の実施形態において、ガスケット材(ガスケットシート)は、エラストマーから形成される。いくつかの例では、ガスケットシートは、シリコーンから形成される。ガスケットシートを使用して、上部グリッドがマイクロキャビティ基板の上面に接触する部分を封止することができる。かかる封止は、例えば、プレート同士をスナップ嵌めして圧縮をかけることにより行うことができるほか、あるいは、感圧接着剤などの材料から作られた接着剤系のガスケットシートを用いることよっても行うことができる。いくつかの実施形態では、両プレートの外周にスナップ嵌め機構が配置される。いくつかの実施形態では、プレートの内部にスナップ嵌め機構が配置される。このスナップ嵌め機構は、隣接する4つのウェルの間の支柱の形態で設けられ、これらの4つのウェルをまとめて圧縮嵌合するものである。
【0036】
図10は、ガスケット60で上部グリッド30を封止した状態の1536マイクロキャビティプレートの一部を示す側断面図である。ガスケット材60は、上部グリッド30の下部35とマイクロキャビティ基板20の上部25の間に配置される。上部グリッド30は、上部グリッド30の外周に突起部31を備えている。突起部31は、開ウェルの側壁13(すなわち、プレートの外周壁)に設けられた貫通孔61と噛み合ってスナップ嵌めされるように構成される。圧縮が加わる(所定の位置となるように押し付けられる)と、上部グリッドの突起部がプレート外周壁の貫通孔に嵌まり、上部グリッドがプレートの一部に封着される。そして、その結果、複数のマイクロキャビティが、複数のマイクロキャビティウェルに変化する。
【0037】
いくつかの実施形態では、上部グリッドを、一部品として一体成形することができる。いくつかの実施形態では、基部と、下部グリッドと、マイクロキャビティ基板とを備える底部コンポーネントを、一部品として一体成形することができる。ガスケット材は、上部グリッド上にオーバーモールドで設けることができる。いくつかの実施形態では、底部コンポーネントを射出成形により形成することができる。ガスケット材は、エラストマーなどの任意の適切な材料とすることができる。いくつかの実施形態では、エラストマーをシリコーンとすることができる。いくつかの実施形態では、ガスケット材は、感圧接着剤である。
【0038】
マイクロキャビティウェルは、任意の適切な非結合性被膜を有することができる。例えば、かかる被膜を、細胞に対して非接着性の表面被膜とすることができる。いくつかの実施形態では、かかる非細胞接着性の表面被膜は、コーニング(Corning)社の超低接着(Ultra Low Attachment:ULA)表面被膜である。コーニング社の超低接着表面は、親水性で、生物活性がなく、非分解性であるため、再現性の高いスフェロイドの形成とその容易な採取に貢献するものである。超低接着表面の共有結合により、ウェル表面への細胞接着性が低減される。超低接着(ULA)表面により、均質で再現性の高い3次元の多細胞スフェロイド形成が可能となる。この1536マイクロキャビティウェル構成により、3次元細胞培養及び分析を高い生産効率で行うことが可能となる。
【0039】
本明細書に記載の実施形態に係るマイクロキャビティプレートは、任意の適切な材料で形成することができる。いくつかの例では、マイクロキャビティプレートの形成を複数工程で行うことができる。例えば、一工程として、1536マイクロキャビティプレートの底部コンポーネントを構築する工程を行うことができる。なお、底部コンポーネントは、プレートの基部と下部グリッド部とを備えるコンポーネントである。かかる構築に用いる材料としては、プラスチックポリマー、コポリマー、又はポリマーブレンドを挙げることができる。限定されるものではないが、例として、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、他の同様のポリマー、又はそれらの組み合わせが挙げられる。また、任意の適切な構築方法を用いて、マイクロプレートの下部グリッド又は基部を形成することができる。限定されるものではないが、例として、射出成形、熱成形、又は3Dプリントなどのプラスチック部品の成形に適した方法が挙げられる。
【0040】
なお、下部グリッド部と同時に、マイクロキャビティ基板を形成することもできる。マイクロキャビティ基板は、マイクロキャビティプレートの他の部分の製作に用いた材料や方法と同一又は同様の材料や方法を用いて形成することができる。いくつかの実施形態では、マイクロキャビティ基板を、プレートの他の部分とは別体に成形(形成)した上で、接合することもできる。かかる接合は、熱接合又は超音波溶接などの任意のプラスチック接合法により行うことができる。マイクロキャビティ基板の構築に用いる材料としては、プラスチックポリマー、コポリマー、又はポリマーブレンドを挙げることができる。限定されるものではないが、例として、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンポリマー、他の同様のポリマー、又はそれらの組み合わせが挙げられる。また、任意の適切な構築方法を用いて、マイクロキャビティ基板を形成することができる。かかる構築方法の例としては、射出成形、熱成形、又は3Dプリントなどのプラスチック部品の成形に適した方法が挙げられる、これらに限定されるものではない。
【0041】
上部グリッドは、基部又は下部グリッド及びマイクロキャビティ基板と同様の材料を用いて形成することができる。いくつかの実施形態では、上部グリッドをより弾性の高いエラストマー材料を用いて形成することもでき、例えば、天然ゴム、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンポリマー、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、シリコーンエラストマー、フルオロエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ニトリルゴムなどのエラストマー材料により形成することができる。また、任意の適切な構築方法を用いて、マイクロプレートの上部グリッドを形成することができる。かかる構築方法の例としては、射出成形、熱成形、又は3Dプリントなどのプラスチック部品の成形に適した方法が挙げられる、これらに限定されるものではない。
【0042】
上部グリッドが非エラストマー材料から作られるいくつかの実施形態では、上部グリッドの製造工程に、基板に直接接触するグリッドの部分にエラストマーを加える追加プロセスが含まれる。このエラストマーにより、基板と上部グリッドの間の封止が促進され、上部グリッドの設置後も個別マイクロキャビティウェルの保全性(integrity)が維持される。かかる実施形態では、上部グリッドは、マイクロキャビティプレートとは別体に、単独で包装されて供給されることになる。これは、プレートの他の部分を使用して細胞培養を行っている間、上部グリッドを無菌状態に保つ必要があるためである。
【0043】
本開示の実施形態によれば、本明細書に記載のマイクロキャビティプレート上で細胞を培養する方法又は細胞を採取する方法も開示される。いくつかの実施形態では、本方法は、マイクロキャビティプレートにおける細胞凝集体(スフェロイド)の細胞培養を含む。
【0044】
本開示の実施形態は、本明細書に記載のマイクロキャビティプレートを使用する方法をさらに含む。1536マイクロキャビティプレートを使用する際、ユーザは、マイクロキャビティプレートに細胞を播種する前の段階では、マイクロキャビティプレートから上部グリッドを外した状態としておく必要がある。これにより、手動での操作が容易になり、初期において均質な培養環境を維持することが可能となる。そして、培養により必要な特性(細胞数、スフェロイド数、分化状態など)が生成されると、プレート内の細胞培養培地を排液する。なお、スフェロイドが含まれる個別マイクロキャビティ内には、当然ながら細胞培養培地もいくらか残るため、ここでの排液の結果、細胞培養培地はほぼ排液された状態となる。このタイミングで、上部グリッドを挿入し、培地や試薬を加えてHTSを実施することができる。
【0045】
一実施形態では、ハイスループットスクリーニングを実施する方法は、マイクロキャビティプレートに細胞を播種するステップと、細胞を培養して複数のマイクロキャビティ内にスフェロイドを形成するステップと、マイクロキャビティプレート内の複数のマイクロキャビティの上部に上部グリッドを取り付けてマイクロキャビティウェルを形成するステップと、各マイクロキャビティウェルを個別に扱って、培養したスフェロイドのハイスループットスクリーニングを実施するステップと、を含む。細胞を培養するステップは、マイクロキャビティプレート内の細胞を細胞培養培地に接触させるステップを含むことができる。
【0046】
マイクロキャビティプレートで、任意の種類の細胞を培養することができる。かかる細胞としては、不死化細胞、初代培養細胞、がん細胞、幹細胞(例えば、胚細胞又は人工多能性細胞)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。細胞は、哺乳類細胞、鳥類細胞、魚類細胞などであってよい。また、細胞は、任意の組織細胞とすることができる。例えば、腎臓、線維芽細胞、乳房、皮膚、脳、卵巣、肺、骨、神経、筋肉、心臓、結腸直腸、膵臓、免疫(例えば、B細胞)、血液などの細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。細胞は、分散状態(例えば、播種したばかりの細胞)、コンフルエントな状態、2次元培養、3次元培養、スフェロイドなどの任意の培養形態とすることができる。
【0047】
マイクロキャビティプレート上で細胞を培養するステップは、マイクロキャビティプレート上に細胞を播種するステップを含むことができる。マイクロキャビティプレートに細胞を播種するステップは、当該細胞を含有する溶液をマイクロキャビティプレートに接触させるステップを含むことができる。マイクロキャビティプレート上で細胞を培養するステップは、マイクロキャビティプレートを細胞培養培地に接触させるステップをさらに含むことができる。一般に、マイクロキャビティプレートを細胞培養培地に接触させるステップは、マイクロキャビティプレート上で培養する細胞を、細胞培養を行う培地を有する環境に播種(配置)するステップを含む。マイクロキャビティプレートに細胞培養培地を接触させるステップは、細胞培養培地をマイクロキャビティプレートにピペット注入するステップを含むことができる。いくつかの実施形態では、細胞培養培地は、所定期間の間マイクロキャビティプレート内に入れておくことができ、所定期間後に細胞培養培地の少なくとも一部を排液して、新鮮な細胞培養培地を加えることができる。細胞培養培地の排液や交換は、任意の所定のスケジュールに従って行うことができる。例えば、細胞培養培地の少なくとも一部を、1時間ごと、又は12時間ごと、又は24時間ごと、又は2日ごと、又は3日ごと、又は4日ごと、又は5日ごとに排液、交換することができる。
【0048】
細胞の増殖を支えることができる任意の細胞培養培地を使用することができる。細胞培養培地としては、例えば、糖、塩、アミノ酸、血清(例えば、ウシ胎児血清)、抗生物質、増殖因子、分化因子、又は着色剤などの所望の因子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例示的な細胞培養培地としては、ダルベッコ変法イーグル(DMEM)培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium)、ハムF-12培地(Ham's F12 Nutrient Mixture)、最小必須(MEM)培地(Minimum Essential Media)、RPMI培地、イスコーブ変法ダルベッコ(IMDM)培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、メセンカルト(MesenCult)(商標)-XF培地(ステムセルテクノロジーズ社(STEMCELL Technologies Inc)から市販)などが挙げられる。
【0049】
以上、特定の特徴、要素又はステップを特定の実施形態に関連して説明したが、これらを本開示の種々の実施形態に組み込むことができることが理解されるであろう。また、1つの特定の実施形態に関連して説明した特定の特徴、要素又はステップを、例示していない様々な組み合わせ又は順序で、他の実施形態と交換したり、組み合わせたりすることができることも理解されるであろう。
【0050】
本明細書において、「the(その/前記)」、「a」又は「an」は、「少なくとも1つ」を意味し、特にそうではない旨が明記されている場合を除き、「1つだけ」を意味するものと限定されるべきではない。したがって、例えば、冠詞「a」で導かれる「開口部」という表現は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、その「開口部」を2つ以上有する例も包含する。
【0051】
本明細書で使用するすべての科学技術用語は、特に断りのない限り、当技術分野で一般的に用いられる意味を有している。本明細書に示す定義は、本明細書において何度も使用される特定の用語の理解を容易にするためのものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0052】
本明細書において、「備える」「含む」「有する」(have,having,include,including,comprise,comprisingなど)は、非限定的な(open-ended)意味で用いており、概ね「含むが、これ(これら)に限定されない(including, but not limited to)」ことを意味している。
【0053】
本明細書において、「約(about)」ある特定の値以上、「約」ある特定の値~「約」他の特定の値、又は、「約」該他の特定の値以下、という形で範囲を表現する場合がある。このような表現で範囲を表す場合、該ある特定の値~該他の特定の値を含む他の実施形態が存在する。同様に、ある値の前に「約」をつけてその値を近似値として表現する場合、その特定の値自身によって構成される他の実施形態も存在することが理解されるであろう。また、各範囲の両端点が持つ意味は、互いに相関しているとともに互いに独立でもあることも理解されるであろう。
【0054】
特に明記しない限り、本明細書に記載のすべての数値は、「約」を伴っているか否かにかかわらず、「約」を包含した数値と解釈すべきである。ただし、「約」で導かれた数値として表現されているか否かにかかわらず、本明細書に記載のすべての数値は詳細に検討されたものであることも理解されたい。したがって、「10mm未満の寸法」と「約10mm未満の寸法」のいずれもが、「約10mm未満の寸法」の実施形態と「10mm未満の寸法」の実施形態の両方を包含するものとする。
【0055】
特に明記しない限り、本明細書に記載のいかなる方法も、各ステップ(工程)を特定の順序で実施することを要請していると解釈されることを意図するものではない。したがって、方法クレームにおいてそのステップの順序を実際に記載している場合を除き、又は、各ステップが特定の順序に限定される旨の他の記載が請求の範囲又は発明の詳細な説明において明確になされている場合を除き、各ステップの特定の順序が推測されることは、それがいかなる順序であっても意図していない。
【0056】
特定の実施形態の種々の特徴、要素又はステップを、移行句「~を含む」「~を備える」「~を有する」(comprising)を使用して開示する場合があるが、これは、移行句「~からなる(consisting)」又は「~から本質的になる(consisting essentially of)」を使用して記載し得るものなどの代替的な実施形態も含意するものであることを理解されたい。したがって、例えば、A+B+Cを含む(comprising)方法が含意する代替的な実施形態として、A+B+Cからなる(consisting)方法の実施形態、及びA+B+Cから本質的になる(consisting essentially of)方法の実施形態が挙げられる。
【0057】
以上、本開示の複数の実施形態を詳細な説明において説明してきたが、本開示は、本明細書に記載の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって記載され定義付けされる開示内容から逸脱しない範囲で、多種多様な再構成や、変形、置換が可能であることを理解されたい。
【0058】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0059】
実施形態1
マイクロキャビティプレートであって、
規則的な行列状に配置されることにより複数の開口部を形成する複数のグリッドセグメントを備える下部グリッドと、
前記下部グリッドの外周から鉛直方向に延びる複数の側壁を備える開ウェルと、
を備える基部と、
前記下部グリッドの前記複数の開口部と位置合わせされた規則的な行列状に配置された複数のマイクロキャビティであって、各マイクロキャビティが、前記下部グリッドの開口部内に配置されるキャビティを有している、複数のマイクロキャビティを備えるマイクロキャビティ基板と、
を備えるマイクロキャビティプレート。
【0060】
実施形態2
上部グリッドをさらに備える、実施形態1に記載のマイクロキャビティプレート。
【0061】
実施形態3
前記上部グリッドが、前記下部グリッドの前記規則的な行列を鏡映した規則的な行列状の複数のウェル開口部を備える、実施形態2に記載のマイクロキャビティプレート。
【0062】
実施形態4
前記上部グリッドが、前記開ウェル内の、前記基部の前記規則的な行列を区切る前記下部グリッド上に配置されるように構成される、実施形態3に記載のマイクロキャビティプレート。
【0063】
実施形態5
前記複数のウェル開口部が、前記マイクロキャビティ基板の前記複数のマイクロキャビティと位置合わせされる、実施形態4に記載のマイクロキャビティプレート。
【0064】
実施形態6
各マイクロキャビティ開口部を画定するグリッドセグメントで構成される複数の側壁と、該マイクロキャビティ開口部の中心に配置される個別マイクロキャビティとにより、マイクロキャビティウェルが定義される、実施形態5に記載のマイクロキャビティプレート。
【0065】
実施形態7
ガスケット材をさらに備える、実施形態4に記載のマイクロキャビティプレート。
【0066】
実施形態8
前記ガスケット材は、前記上部グリッドの底面と一体に設けられ、
前記上部グリッドが前記開ウェルに挿入されると、前記上部グリッドの前記底面と前記マイクロキャビティ基板の上面との間に前記ガスケット材が配置される、実施形態7に記載のマイクロキャビティプレート。
【0067】
実施形態9
前記複数のマイクロキャビティが、1536個の個別マイクロキャビティを含む、実施形態1に記載のマイクロキャビティプレート。
【0068】
実施形態10
前記複数のマイクロキャビティの各キャビティが、上面と丸みを帯びた底部とを備える、実施形態1に記載のマイクロキャビティプレート。
【0069】
実施形態11
各マイクロキャビティの前記上面における該マイクロキャビティの直径が約1500μmである、実施形態10に記載のマイクロキャビティプレート。
【0070】
実施形態12
前記キャビティの内表面が、細胞に対して非接着性の被膜で被覆されている、実施形態10に記載のマイクロキャビティプレート。
【0071】
実施形態13
前記被膜が、超低接着(ULA)表面被膜を含む、実施形態12に記載のマイクロキャビティプレート。
【0072】
実施形態14
前記上部グリッドが、該上部グリッドの外周から延びる複数の突起部を備える、実施形態4に記載のマイクロキャビティプレート。
【0073】
実施形態15
前記複数の突起部のうちの複数の突起部が、前記開ウェルの前記側壁に設けられた複数の貫通孔と位置合わせされて噛み合うように構成されている、実施形態14に記載のマイクロキャビティプレート。
【0074】
実施形態16
前記マイクロキャビティ基板が、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、他の同様のポリマー、又はそれらの組み合わせから選ばれるポリマーから形成される、実施形態1に記載のマイクロキャビティプレート。
【0075】
実施形態17
前記マイクロキャビティ基板が、ポリスチレンから形成される、実施形態16に記載のマイクロキャビティプレート。
【0076】
実施形態18
前記基部が、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、他の同様のポリマー、又はそれらの組み合わせを含むポリマーから形成される、実施形態1に記載のマイクロキャビティプレート。
【0077】
実施形態19
前記基部が、ポリスチレンから形成される、実施形態18に記載のマイクロキャビティプレート。
【0078】
実施形態20
前記上部グリッドが、天然ゴム、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンポリマー、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、シリコーンエラストマー、フルオロエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ニトリルゴム、又はそれらの組み合わせから選ばれるエラストマー材料から形成される、実施形態1に記載のマイクロキャビティプレート。
【0079】
実施形態21
前記ガスケット材がエラストマーから形成される、実施形態7に記載のマイクロキャビティプレート。
【0080】
実施形態22
前記エラストマーがシリコーンを含む、実施形態21に記載のマイクロキャビティプレート。
【0081】
実施形態23
前記ガスケット材が感圧接着剤から形成される、実施形態7に記載のマイクロキャビティプレート。
【0082】
実施形態24
前記マイクロキャビティプレートがスフェロイドの細胞培養に使用される、実施形態1に記載のマイクロキャビティプレート。
【0083】
実施形態25
前記マイクロキャビティプレートがハイスループットスクリーニングに使用される、実施形態1に記載のマイクロキャビティプレート。
【0084】
実施形態26
ハイスループットスクリーニングを実施する方法であって、
実施形態1に記載のマイクロキャビティプレートに細胞を播種するステップと、
前記細胞を培養して前記複数のマイクロキャビティ内にスフェロイドを形成するステップと、
前記マイクロキャビティプレート内の前記複数のマイクロキャビティの上部に上部グリッドを取り付けてマイクロキャビティウェルを形成するステップと、
前記マイクロキャビティウェルのそれぞれを個別に扱って、培養した前記スフェロイドのハイスループットスクリーニングを実施するステップと、
を含む、方法。
【0085】
実施形態27
前記細胞を培養するステップが、前記マイクロキャビティプレート内の前記細胞を細胞培養培地に接触させるステップを含む、実施形態26に記載の方法。
【符号の説明】
【0086】
10、303 基部
11 基部の上部
12 フランジ(スカート)
15 複数のウェル
17 下部グリッド
20 マイクロキャビティ基板
23 マイクロキャビティ
27 マイクロキャビティの底部
30、405 上部グリッド
31 突起部
33 上部グリッドの上部
35 上部グリッドの下部
37、411 第1の方向のグリッドセグメント
39、413 第2の方向(垂直方向)のグリッドセグメント
50 マイクロキャビティウェル
55 各マイクロキャビティウェルの側壁
60 ガスケットシート(ガスケット材)
61 貫通孔
300、500、600、700、800 マイクロキャビティプレート
307 開ウェル
309 開ウェルの側壁
310 各マイクロキャビティ
315 複数のマイクロキャビティ
320 各マイクロキャビティ行
325 複数のマイクロキャビティ行
330 各マイクロキャビティ列
335 複数のマイクロキャビティ列
375 個別マイクロキャビティウェル
417 開口部
420 各開口部行
425 複数の開口部行
430 各開口部列
435 複数の開口部列
520 各個別マイクロキャビティ行
525 複数の個別マイクロキャビティ行
530 各個別マイクロキャビティ列
535 複数の個別マイクロキャビティ列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】