(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】創傷治癒
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20231124BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20231124BHJP
C12N 9/68 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
A61K38/48
A61P17/02
C12N9/68 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527438
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2021082691
(87)【国際公開番号】W WO2022112251
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー・ノヴォカートニー
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084DC02
4C084DC06
4C084MA55
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA891
(57)【要約】
患者、特に、慢性非治癒性創傷及び潰瘍を患う患者における創傷及び潰瘍の処置のための方法及び組成物が、本明細書において開示される。フィブリノゲナーゼ、例えば、プラスミンは、血漿及び又は血液粘度を減少させ、患者における改善された創傷及び潰瘍の治癒をもたらすことにおいて、有用性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする患者における創傷又は潰瘍の処置のための方法であって、前記患者への治療有効量のフィブリノゲナーゼの非経口投与を含む、方法。
【請求項2】
前記非経口投与が、静脈内、筋肉内、腹腔内、及び皮下からなる群から選択される投与経路である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フィブリノゲナーゼが、静脈内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フィブリノゲナーゼが、α-フィブリノゲナーゼ、β-フィブリノゲナーゼ、γ-フィブリノゲナーゼ、メタロ-α-フィブリノゲナーゼ、アリウム-α-フィブリノゲナーゼ、プラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フィブリノゲナーゼが、プラスミンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プラスミンが、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、ミディ-プラスミン、ミニ-プラスミン、マイクロ-プラスミン、デルタプラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記プラスミンが、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フィブリノゲナーゼが、投薬期間にわたって投与され、
前記投薬期間中の1つ又は複数の時点において、前記患者の血漿粘度が、前記患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約1.0%減少する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フィブリノゲナーゼが、投薬期間にわたって投与され、
前記投薬期間中の1つ又は複数の時点において、前記患者の血漿粘度が、前記患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約1.0%~約20.0%の範囲で減少する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、潰瘍を患っており、前記潰瘍が、静脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫性潰瘍、虚血性潰瘍、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記フィブリノゲナーゼが、約1mg/kg~約100mg/kgの濃度の少なくとも1回の用量で、前記患者に投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記フィブリノゲナーゼが、投与期間の1日目に約3mg/kg~約30mg/kgの初回用量で、続いて複数回投薬期間の間、1用量当たり約3mg/kg~約30mg/kgで、投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記複数回投薬期間が、最大で全累積用量まで、約3~約30回の投与を含み得る、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記複数回投薬期間が、約1~約10週間の期間であり得る、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記フィブリノゲナーゼが、医薬組成物として投与され、前記医薬組成物が、薬学的に許容される担体と、任意選択で薬学的に許容される賦形剤とを更に含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記フィブリノゲナーゼが、プラスミンであり、前記医薬組成物が、酸性pHを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
必要とする患者における創傷又は潰瘍の処置のための方法であって、投薬期間にわたる前記患者への治療有効量のフィブリノゲナーゼの非経口投与を含み、
前記投薬期間中の1つ又は複数の時点において、前記患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルが、前記患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約5%減少する、
方法。
【請求項18】
前記非経口投与が、静脈内、筋肉内、腹腔内、及び皮下からなる群から選択される投与経路である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記フィブリノゲナーゼが、静脈内投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記フィブリノゲナーゼが、α-フィブリノゲナーゼ、β-フィブリノゲナーゼ、γ-フィブリノゲナーゼ、メタロ-α-フィブリノゲナーゼ、アリウム-α-フィブリノゲナーゼ、プラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項17から19に記載の方法。
【請求項21】
前記フィブリノゲナーゼが、プラスミンである、請求項17から19に記載の方法。
【請求項22】
前記プラスミンが、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、ミディ-プラスミン、ミニ-プラスミン、マイクロ-プラスミン、デルタプラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記プラスミンが、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記投薬期間中の1つ又は複数の時点において、前記患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルが、前記患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約5%~約70%の範囲で減少する、請求項17から23に記載の方法。
【請求項25】
前記患者が、潰瘍を患っており、前記潰瘍が、静脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫性潰瘍、虚血性潰瘍、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項17から24に記載の方法。
【請求項26】
前記フィブリノゲナーゼが、約1mg/kg~約100mg/kgの濃度の少なくとも1回の用量で、前記患者に投与される、請求項17から25に記載の方法。
【請求項27】
前記フィブリノゲナーゼが、投与期間の1日目に約3mg/kg~約30mg/kgの初回用量で、続いて複数回投薬期間の間、1用量当たり約3mg/kg~約30mg/kgで、投与される、請求項17から25に記載の方法。
【請求項28】
前記複数回投薬期間が、最大で全累積用量まで、約3~約30回の投与を含み得る、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記複数回投薬期間が、約1~約10週間の期間であり得る、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記フィブリノゲナーゼが、医薬組成物として投与され、前記医薬組成物が、薬学的に許容される担体と、任意選択で薬学的に許容される賦形剤とを更に含む、請求項17から29に記載の方法。
【請求項31】
前記フィブリノゲナーゼが、プラスミンであり、前記医薬組成物が、酸性pHを有する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
必要とする患者において血液粘度を低減させる方法であって、前記患者への治療有効量のフィブリノゲナーゼの非経口投与を含む、方法。
【請求項33】
前記非経口投与が、静脈内、筋肉内、腹腔内、及び皮下からなる群から選択される投与経路である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記フィブリノゲナーゼが、静脈内投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記フィブリノゲナーゼが、α-フィブリノゲナーゼ、β-フィブリノゲナーゼ、γ-フィブリノゲナーゼ、メタロ-α-フィブリノゲナーゼ、アリウム-α-フィブリノゲナーゼ、プラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項32から34に記載の方法。
【請求項36】
前記フィブリノゲナーゼが、プラスミンである、請求項32から34に記載の方法。
【請求項37】
前記プラスミンが、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、ミディ-プラスミン、ミニ-プラスミン、マイクロ-プラスミン、デルタプラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記プラスミンが、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記フィブリノゲナーゼが、約1mg/kg~約100mg/kgの濃度の少なくとも1回の用量で、前記患者に投与される、請求項32から38に記載の方法。
【請求項40】
前記フィブリノゲナーゼが、投与期間の1日目に約3mg/kg~約30mg/kgの初回用量で、続いて複数回投薬期間の間、1用量当たり約3mg/kg~約30mg/kgで、投与される、請求項32から39に記載の方法。
【請求項41】
前記複数回投薬期間が、最大で全累積用量まで、約3~約30回の投与を含み得る、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記複数回投薬期間が、約1~約10週間の期間であり得る、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項43】
前記フィブリノゲナーゼが、医薬組成物として投与され、前記医薬組成物が、薬学的に許容される担体と、任意選択で薬学的に許容される賦形剤とを更に含む、請求項32から42に記載の方法。
【請求項44】
前記フィブリノゲナーゼが、プラスミンであり、前記医薬組成物が、酸性pHを有する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
必要とする前記患者が、創傷又は潰瘍を患う患者である、請求項32から44に記載の方法。
【請求項46】
前記患者が、潰瘍を患っており、前記潰瘍が、静脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫性潰瘍、虚血性潰瘍、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項32から45に記載の方法。
【請求項47】
前記血液粘度が、拡張期血液粘度である、請求項32から46に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者、特に、慢性非治癒性創傷及び潰瘍を患う患者における創傷及び潰瘍の処置のための方法及び組成物に関する。本発明は、前記創傷及び潰瘍の処置における、フィブリノゲナーゼ、例えば、セリンプロテアーゼであるプラスミンのこれまでに報告されていない有用性について詳述する。
【背景技術】
【0002】
正常な皮膚において、表皮及び真皮は、定常状態の均衡のなかに存在し、外部環境に対する防護壁を形成している。防護壁が破壊されると、損傷を修復するための緊密に組織化されたカスケードで生じる複雑な生物化学事象のセットを含む、創傷治癒のプロセスが、即座に発動される。創傷治癒の古典的なモデルは、4つの連続的であるがオーバーラップする段階(1)止血、(2)炎症、(3)増殖、及び(4)リモデリングに分割される。
【0003】
ステージ1の恒常性では、血小板(栓球)が、傷害部位へと動員され、活動性出血を予防するためにフィブリン血栓を形成する。炎症段階では、細菌及び残屑がファゴサイトーシスされて除去され、増殖段階に関与する細胞の遊走及び分裂を引き起こす因子が、放出される。増殖段階は、血管新生、コラーゲン沈着、肉芽組織形成、上皮化、及び創面収縮によって特徴付けられる。線維増殖及び肉芽組織形成において、線維芽細胞が成長し、コラーゲン及びフィブロネクチンを提供することによって、新しい仮の細胞外マトリックス(ECM)を形成する。同時に、上皮細胞が、創傷床の上に増殖及び「クロール」し、新しい組織のカバーを提供する表皮の再上皮化が生じる。治癒プロセスが継続すると、創傷は、筋線維芽細胞の作用によって小さくなる。最終的なリモデリング段階では、増殖中には多数存在するIII型コラーゲンが、I型コラーゲンによって置き換えられる。最初は乱れていたコラーゲン線維が再配置され、架橋し、緊張方向線(tension line)に沿って整列する。
【0004】
創傷治癒プロセスは、中断に対して感受性で、中断を受けやすく、非治癒性慢性創傷の形成をもたらす。健康な成人の場合、4つの創傷治癒ステージが、自然に進行し、創傷は、2~3週間以内に治癒し得る。あまり恵まれていない場合、身体の自然治癒プロセスが、中断又は減少され、創傷治癒がはるかに遅延することになり得る。これらの創傷は、慢性創傷(正常な処置にもかかわらず4週間を上回って治癒しない創傷)と称され、糖尿病、高血圧、肥満、及び他の血管疾患を有する人々においてもっとも一般的である。ケアされないか処置されなかった場合、慢性創傷は、疼痛、感染症、障害、及び可能性としては罹患した四肢の切断をもたらし得る。非治癒性創傷は、患者及び医療システムの両方にとって、著しい負担を示す。慢性非治癒性創傷は、米国においてメディケア受給者のほぼ15%が罹患しており、メディケアの年間費用は281億ドル~317億ドルとなると推定されている。Nussbaun SRら、An Economic Evaluation of the Impact, Cost, and Medicare Policy Implications of Chronic Nonhealing Wounds. Value in Health、2018、V.21、Issue 1、27~32頁を参照されたい。
【0005】
創傷治癒を加速させるために医療従事者が用いる戦略としては、圧縮技法、動脈性潰瘍を処置するための血管再生戦略;静脈性潰瘍のための静脈外科手術介入、陰圧創傷治療法、及び高圧酸素療法が挙げられる。薬理学的介入については、臨床診療に達している生物学的に活性な物質は非常に少なく、薬理学的介入は、慢性創傷の直接的な処置には広く使用されていない。
【0006】
プラスミノーゲン活性化因子系は、タンパク質分解的に不活性な酵素前駆体であるプラスミノーゲンが、組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA)又はウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)の作用によって、活性なプロテアーゼであるプラスミンへと変換される、タンパク質分解系である。プラスミノーゲン活性化因子系は、線維素溶解だけでなく、細胞が増殖する空間を提供することによって、創傷治癒を含む多数の組織リモデリングプロセスにおいても、役割を果たす。Romer J, Bugge TH, Pyke Cら、Impaired wound healing in mice with a disrupted plasminogen gene. Nat Med. 1996;2(3):287~292頁を参照されたい。
【0007】
プラスミノーゲンは、フィブリン上の特定の部位に吸着し、そこで、tPAによる作用を受け、フィブリン及び細胞外マトリックスの他のタンパク質の切断に適したプラスミンの急速な局在化された形成が生じる。プラスミノーゲンはまた、細胞内シグナル伝達事象の活性化及び創傷治癒プロセスにおける炎症性応答の生成において、重要な役割を果たすことも示されており、Nyら、Blood. 2012;119(24):5879~5887頁を参照されたい。Ny及び同僚らは、急性及び糖尿病性創傷の治癒を加速させる重要な炎症促進性調節因子及びシグナル伝達分子として、プラスミノーゲンを説明している。治癒プロセスの早期において、循環プラスミノーゲンが、炎症性細胞に結合し、創傷領域へと輸送され、したがって、プラスミノーゲンのレベルを局所的に増加させ、これが同様に、更に、サイトカインの誘導、細胞内シグナル伝達事象、及び早期炎症性応答の強化をもたらす。追加のプラスミノーゲンの投与は、野生型マウスにおいて急性熱傷性創傷の治癒を加速させることが報告されており、また、糖尿病性マウスモデルにおいて創傷の治癒を改善する。
【0008】
その血漿安定性/半減期、並びに細胞内シグナル伝達/炎症におけるその役割に基づいて、創傷の近傍に局所的に投与される外因性プラスミノーゲンを用いた薬理学的介入は、創傷治癒の領域における中心的な研究域となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,774,087号
【特許文献2】米国特許第8,420,079号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nussbaun SRら、An Economic Evaluation of the Impact, Cost, and Medicare Policy Implications of Chronic Nonhealing Wounds. Value in Health、2018、V.21、Issue 1、27~32頁
【非特許文献2】Romer J, Bugge TH, Pyke Cら、Impaired wound healing in mice with a disrupted plasminogen gene. Nat Med. 1996;2(3):287~292頁
【非特許文献3】Nyら、Blood. 2012;119(24):5879~5887頁
【非特許文献4】Palareti Gら、Fibrinogen assays: a collaborative study of six different methods. C.I.S.M.E.L. Clin Chem. 1991年5月;37(5):714~9頁
【非特許文献5】Mackieら、Guidelines on fibrinogen assays. British Journal of Haematology, 2003,121,396~404頁
【非特許文献6】Von Clauss A. Gerinnungsphysiologische Schnellmethode zur Bestimmung des Fibrunogens. Acta Haematol 1957;17;237~246頁
【非特許文献7】Marder VJ. Historical perspective and future direction of thrombolysis research: the re-discovery of plasmin. J Thromb Haemost. 2011;9 Suppl 1:364~373頁
【非特許文献8】Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、2005年、ed. D.B. Troy, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia
【非特許文献9】Encyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988-1999, Marcel Dekker, New Yor
【非特許文献10】Blomback B., Blomback M. Purification of human and bovine fibrinogen. Arkh. Kem.10, 415, 1956
【非特許文献11】Novokhatny, V.ら、Acid Stabilised Plasmin as a Novel Direct-Acting Thrombolytic、第18章、259~271頁の第18.3節
【非特許文献12】Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use、J. Bertoliniら編、Wiley, 2013 [印刷ISBN:9780470924310 |オンラインISBN:9781118356807]
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
「含む(comprise)/含むこと(comprising)」という語及び「有する(having)/含む(including)」という語は、本発明に関連して本明細書において使用される場合、言及された特性、整数、工程、又は成分の存在を示して使用されるが、1つ又は複数の他の特性、整数、工程、成分、又はその群の存在又は追加を除外するものではない。
【0012】
当業者には、本明細書において開示される特定の実施形態が、分離して読解されるべきではないこと、及び本明細書が、開示される実施形態が互いに個別にではなく組み合わせて読解されることを意図することを、理解されたい。そのため、それぞれの実施形態は、本明細書に開示される他の実施形態を改変又は制限するための基礎としての機能を果たすことができる。
【0013】
濃度、量、及び他の数値データは、範囲の形式で本明細書に表され得るか、又は提示され得る。そのような範囲形式が、単に、便宜上かつ簡潔さのために使用されており、したがって、範囲の限界として明示的に言及されている数値を含むだけでなく、それぞれの数値及び部分範囲が明示的に言及されているかのように、その範囲内に包含されるすべての個々の数値又は部分範囲も含めて、柔軟に解釈されるべきであることを、理解されたい。例示として、「10~100」という数値範囲は、10~100という明示的に言及されている値を含むだけでなく、示された範囲内の個々の値及び部分範囲も含むと解釈されるべきである。したがって、この数値範囲には、10、11、12、13...97、98、99、100等の個々の値、及び10~40、25~40、及び50~60等の部分範囲が含まれる。この同じ原理は、「少なくとも10」等の1つのみの数値に言及した範囲についても適用される。更に、そのような解釈は、記載されている範囲又は特徴の広さに関係なく適用されるものとする。
【0014】
本発明の処置
第1の態様において、本発明は、必要とする患者において血液粘度を低減させる方法であって、患者への治療有効量のフィブリノゲナーゼの非経口投与を含む、方法を提供する。当業者であれば、血液粘度を、収縮期血液粘度又は拡張期血液粘度として測定することができること、及びいずれのモダリティも、本発明に適用可能であることを理解するであろう。一実施形態において、本発明は、必要とする患者において拡張期血液粘度を低減させる方法を提供する。
【0015】
本明細書において使用される場合、「非経口投与」という用語は、薬物が消化管外で吸収されることをもたらす投与経路を指す。非経口投与の非限定的な例としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、及び皮下が挙げられる。一実施形態において、フィブリノゲナーゼは、静脈内投与される。
【0016】
一実施形態において、血液粘度(例えば、拡張期血液粘度)の低減を必要とする患者は、創傷又は潰瘍を患う。創傷又は潰瘍は、慢性創傷又は潰瘍であり得る。
【0017】
本明細書において使用される場合、「潰瘍」という用語は、一次組織破壊が、患者内で内部にある組織病変を指し、例えば、病変は、根底にある疾患又は他の内部の原因によって引き起こされる。潰瘍の非限定的な例としては、次のものが挙げられる:
心臓血管疾患又は静脈不全によって引き起こされる静脈性下腿潰瘍、
真性糖尿病によって引き起こされる神経障害性/糖尿病性(足部)潰瘍、
特定の領域における不動又は血管うっ血/浮腫によって引き起こされる褥瘡性/圧迫性潰瘍、及び
末端への灌流(栄養が豊富な血液の送達)不良によって引き起こされる動脈性又は虚血性潰瘍。
【0018】
本明細書において使用される場合、「創傷」という用語は、一次組織破壊が外部にある組織病変を指す。創傷の非限定的な例としては、事故/外力によって引き起こされる外傷創傷、切開によって引き起こされる外科手術により誘導される創傷、及び外部熱によって引き起こされる熱傷が挙げられる。
【0019】
創傷及び潰瘍は、治癒がどのように進行するかに応じて、急性又は慢性として定義される。「急性」とは、創傷又は潰瘍が、通常の創傷治癒ステージを進行し、4週間以内に明確な治癒の兆候を呈することを意味する。「慢性」とは、創傷又は潰瘍が、正常に治癒ステージを進行せず、4週間以内に治癒の形跡を示さないことを意味する。
【0020】
第2の態様において、本発明は、それを必要とする患者における創傷又は潰瘍の処置のための方法であって、患者への治療有効量のフィブリノゲナーゼの非経口投与を含む、方法を提供する。
【0021】
一実施形態において、フィブリノゲナーゼは、投薬期間にわたって投与され、投薬期間中の1つ又は複数の時点において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約1.0%減少する。例えば、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約1.5%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約2.0%減少し得る。別の実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約2.5%減少し得る。更なる実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約3.0%減少し得る。なおも更なる実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約3.5%減少し得る。例えば、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約4.0%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、少なくとも約5.0%減少し得る。
【0022】
一実施形態において、フィブリノゲナーゼは、投薬期間にわたって投与され、投薬期間中の1つ又は複数の時点において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約1.0%~約20.0%の範囲で減少する。一実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約1.0%~約15.0%の範囲で減少し得る。更なる実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約1.0%~約10.0%の範囲で減少し得る。なおも更なる実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約1.0%~約5.0%の範囲で減少し得る。例えば、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約2.5%~約20.0%の範囲で減少し得る。一実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約2.5%~約15.0%の範囲で減少し得る。更なる実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約2.5%~約10%の範囲で減少し得る。なおも更なる実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約2.5%~約7.5%の範囲で減少し得る。例えば、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約5.0%~約20.0%の範囲で減少し得る。一実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約5.0%~約15.0%の範囲で減少し得る。更なる実施形態において、患者の血漿粘度は、患者の処置前の血漿粘度レベルと比較して、約5.0%~約10%の範囲で減少し得る。
【0023】
全血粘度の主要な決定因子は、(1)ヘマトクリット、(2)赤血球変形能(すなわち、適用された力に対する赤血球の構造的応答)、及び(3)血漿の粘度である。この血漿の粘度は、ある特定の血漿タンパク質、例えば、免疫グロブリン、リポタンパク質、及びフィブリノーゲンの濃度に正比例する。理論によって束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、フィブリノゲナーゼを患者に投与することによって、血漿粘度を減少させることができ、これが付随する全血粘度の減少となり得ると仮定する。そうすると、創傷又は潰瘍への血液循環が改善され、それによって、創傷又は潰瘍が治癒する速度が増加する。
【0024】
当業者には理解されるように、血漿粘度を測定するいくつかの方法がある。例えば、血漿粘度は、毛細管粘度計、落体粘度計、又は回転粘度計を使用して測定することができる。
【0025】
毛細管粘度計の非限定的な例としては、Ostwald U字管型粘度計及びHarkness粘度計が挙げられる。落体粘度計の非限定的な例としては、Stoney Brook落針型粘度計、並びに電磁式粘度計、例えば、Cambridge Viscosityによって開発及び販売されているVISCOlabシリーズが挙げられる。回転粘度計の好適な非限定的な例としては、コーンプレート型粘度計及びBrookfield粘度計が挙げられる。
【0026】
血漿粘度を測定するために利用される手法/機器は、本発明の範囲を決定するものではないことが、当業者には理解されるであろう。哺乳動物血漿は、1.0に非常に近い密度を有する。そのため、動粘度又は絶対粘度のいずれかを測定する粘度計が、本発明の方法に従って血漿粘度の低減を測定するために利用可能である。任意の粘度測定手法を、血漿粘度の測定に適用することができるが、ただし、同じ手法を利用して患者の処置前及び処置後の粘度レベルを測定することを条件とする。
【0027】
1つの特定の実施形態において、フィブリノゲナーゼでの処置後の患者の血漿の絶対粘度は、22℃及び気圧1atmで、電磁式粘度計を使用して測定される。例えば、フィブリノゲナーゼでの処置後の患者の血漿の絶対粘度は、22℃及び気圧1atmで、VISCOlab 4000(Cambridge Viscosity)研究室用粘度計を使用して試験され得る。
【0028】
第3の態様において、本発明は、それを必要とする患者における創傷又は潰瘍の処置のための方法であって、投薬期間にわたる患者への治療有効量のフィブリノゲナーゼの非経口投与を含み、
投薬期間中の1つ又は複数の時点において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルが、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約5%減少する、
方法を提供する。
【0029】
一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約10%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約20%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約25%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約30%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約35%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約40%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約45%減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、少なくとも約50%減少し得る。
【0030】
一実施形態において、フィブリノゲナーゼは、投薬期間にわたって投与され、投薬期間中の1つ又は複数の時点において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約5%~約70%の範囲で減少する。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約15%~約70%の範囲で減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約25%~約70%の範囲で減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約35%~約70%の範囲で減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約45%~約70%の範囲で減少し得る。
【0031】
一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約10%~約65%の範囲で減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約10%~約60%の範囲で減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約10%~約55%の範囲で減少し得る。一実施形態において、患者の血漿中のフィブリノーゲンレベルは、患者の処置前のフィブリノーゲンレベルと比較して、約10%~約50%の範囲で減少し得る。
【0032】
当業者には理解されるように、血漿中のフィブリノーゲンレベルを臨床的に測定するために利用される複数の方法がある。非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:
・全凝固性フィブリノーゲン(Blomback及びBlomback手法)、
・凝固時間アッセイ/Claussアッセイ、
・Manciniらによる放射免疫拡散法、
・Ellis及びStranskyによる比濁アッセイを用いた凝固性フィブリノーゲンの総量、
・免疫学的アッセイ、
・ChromotimeSystem、並びに
・ACL凝固計におけるプロトロンビン時間(PT)由来フィブリノーゲンアッセイ。
【0033】
これらのアッセイはすべて、当業者には共通の一般的な知識であり、熟知されており、複数の考察が様々な技法に関する文献に多数存在している。2つのそのような考察は、Palareti Gら、Fibrinogen assays: a collaborative study of six different methods. C.I.S.M.E.L. Clin Chem. 1991年5月;37(5):714~9頁及びMackieら、Guidelines on fibrinogen assays. British Journal of Haematology, 2003,121,396~404頁であり、これらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
血漿フィブリノーゲンレベルを測定するために利用されるアッセイは、本発明の範囲を決定するものではないことが、当業者には理解されるであろう。本発明は、処置前及び処置後の血漿フィブリノーゲンレベルの相対的な減少に関する。任意のフィブリノーゲンアッセイ手法を、血漿フィブリノーゲンレベルの測定に適用することができるが、ただし、同じ手法を利用して患者の処置前及び処置後のフィブリノーゲンレベルを測定することを条件とする。
【0035】
一実施形態において、血漿フィブリノーゲンレベルは、凝固時間/Clauss手法によって決定され、Von Clauss A. Gerinnungsphysiologische Schnellmethode zur Bestimmung des Fibrunogens. Acta Haematol 1957;17;237~246頁を参照されたく、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
簡単に述べると、Claussアッセイは、フィブリノーゲン活性試験である。高濃度のトロンビン(35~200U/mlの範囲であるが、典型的には約100U/ml)を添加して、試験血漿試料を希釈し、凝固時間を測定する。試験結果を、フィブリノーゲン濃度が判明している参照血漿試料の連続希釈物を凝固させることによって準備したキャリブレーション曲線と比較し、g/l単位での結果を得る。血栓が形成されるのにかかる時間は、存在する活性フィブリノーゲンの量に正相関する。
【0037】
一実施形態において、本発明の処置方法は、静脈性下腿潰瘍の治癒を改善することを目的とする。一実施形態において、本発明の処置方法は、神経障害性又は糖尿病性潰瘍の治癒を改善することを目的とする。一実施形態において、本発明の処置方法は、褥瘡性又は圧迫性潰瘍の治癒を改善することを目的とする。一実施形態において、本発明の処置方法は、動脈性又は虚血性潰瘍の治癒を改善することを目的とする。
【0038】
いくつかの実施形態において、本発明の処置方法は、慢性創傷及び潰瘍の治癒を改善することを目的とする。例えば、慢性静脈性下腿潰瘍、慢性糖尿病性潰瘍、慢性圧迫性潰瘍、慢性虚血性潰瘍、及びこれらの組合せである。
【0039】
フィブリノゲナーゼ
予想外なことに、本発明者らは、フィブリノゲナーゼの全身投与が、患者における創傷及び/又は潰瘍の処置の改善に成功することを発見した。理論によって束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、(慢性)創傷又は潰瘍を患う患者に、フィブリノゲナーゼを投与することによって、プロテアーゼが、患者の血漿中のフィブリノーゲンを分解しその濃度を低減させるであろうと仮定する。そうすると、患者の血液粘度が減少して、創傷又は潰瘍への微小循環が改善され、それによって、創傷又は潰瘍が治癒する速度が増加する。
【0040】
「プロテアーゼ」とは、本明細書では、大きなタンパク質を破壊して、より小さなタンパク質及び/又はペプチドにする、分子を意味する。
【0041】
「フィブリノゲナーゼ」とは、フィブリノーゲンというタンパク質を破壊することができるプロテアーゼを意味する。フィブリノゲナーゼは、フィブリノーゲンポリペプチド鎖を切断するそれらの特異性に基づいて、α、β、及びγ-フィブリノゲナーゼに分類され得る。本発明の方法において使用されるフィブリノゲナーゼは、α-フィブリノゲナーゼ、β-フィブリノゲナーゼ、γ-フィブリノゲナーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択され得る。本発明において有用性を見出すフィブリノゲナーゼは、組み換えで製造することができるか、又は天然源から単離されてもよい。
【0042】
一実施形態において、フィブリノゲナーゼは、メタロ-α-フィブリノゲナーゼ、アリウム-α-フィブリノゲナーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0043】
特定の実施形態において、本発明の方法において利用されるフィブリノゲナーゼは、プラスミンである。本発明において有用性を見出すプラスミンは、組み換えで製造することができるか、又は天然源から単離された、例えば、ヒト血漿から単離された、プラスミノーゲンに由来してもよい。
【0044】
当業者には、前述の段落内に開示されている特定の実施形態が、分離して読解されるべきではないこと、及び本明細書が、これらの実施形態が個別に開示されるのとは対照的に他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図することを、理解されたい。
【0045】
プラスミン
配列番号1に記載される天然の循環ヒトプラスミノーゲンは、791個のアミノ酸残基を含み、24個の鎖内ジスルフィド架橋、5つのクリングルドメイン、1つのセリンプロテアーゼドメイン、及び1つの予備活性化ペプチド(PAP)を有する、一本鎖タンパク質である。配列番号1に関するこれらのドメインの位置は、以下のTable 1(表1)に概説されている。
【0046】
【0047】
プラスミノーゲンは、N末端アミノ酸が、グルタミン酸であるか又はリジンであるかに応じて、Glu-プラスミノーゲン及びLys-プラスミノーゲンとして産生される。Glu-プラスミノーゲンは、遺伝子配列によって指定された全長アミノ酸配列から構成される(前駆体ペプチドは除く)。Lys-プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲンのLys-77とLys-78との間での切断の結果である。Glu-プラスミノーゲンは、ヒト血漿中に存在するプラスミノーゲンの優勢な形態である。
【0048】
血漿中に分泌されると、プラスミノーゲンは、組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)及びウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)の作用によって、プラスミンへと変換され得る。t-Pa/u-PAは、プラスミノーゲン酵素前駆体におけるArg561-Val562のペプチド結合を切断する。結果として得られるプラスミン分子は、トリプシン様特異性(Lys及びArg後の切断)を有する二本鎖のジスルフィド連結されたセリンプロテアーゼである。
【0049】
プラスミンのアミノ末端重鎖は、それぞれがおよそ80個のアミノ酸残基を含む、5つのクリングルドメインから構成される。クリングルドメインは、プラスミンの、他のタンパク質、例えば、ポリマーフィブリン及びプラスミン阻害剤α2-抗プラスミンとの相互作用を担う。
【0050】
プラスミンのC末端軽鎖は、トリプシンに相同であり、古典的なセリンプロテアーゼ触媒性トライアッド:His603、Asp646、及びSer741を含む、典型的なセリンプロテアーゼである。
【0051】
本明細書において使用される場合、「プラスミン」という用語は、治療有効量の以下のものを意味すると解釈されるものとする:
野生型(ヒト)プラスミンタンパク質、
その機能性突然変異体、
その機能性フラグメント、又は
それらの組合せ。
【0052】
図1は、本発明の範囲内のいくつかのプラスミンバリアント及び突然変異体の概略図を開示する。セリンプロテアーゼ成分に連結された様々な順列(permutation)のクリングルドメイン1~5を有する突然変異体は、本発明の範囲内である。アミノ酸配列におけるわずかな変動は、無関係であるが、ただし、
図1に概説されるモチーフが維持されることを条件とする。配列番号1、Table 1(表1)、及び
図1に概説される情報により、当業者は、プラスミン突然変異体が本発明の範囲内に入る十分な指示及び明確性が得られる。
【0053】
例えば、「プラスミン」は、
(ヒト)Glu-プラスミン、
(ヒト)Lys-プラスミン、
ミディ-プラスミン、
ミニ-プラスミン、
マイクロ-プラスミン(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第4,774,087号、又は市販のプラスミン突然変異体オクリプラスミンに開示されている)、
デルタプラスミン(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,420,079号に開示されている)、及び
これらの組合せ
を含むが、これらに限定されない。
【0054】
一実施形態において、プラスミンは、(ヒト)glu-プラスミンである。いくつかの実施形態において、プラスミンは、(ヒト)lys-プラスミンである。他の実施形態において、プラスミンは、glu-及びlys-プラスミンの混合物である。
【0055】
プラスミン粘度の低減を用いた創傷及び潰瘍の処置におけるプラスミンの予想外な有効性は、プラスミンを用いた全身/静脈内血栓溶解療法が大部分が効果的でないと見られていたことを踏まえると、特に驚くべきことであり、Marder VJ. Historical perspective and future direction of thrombolysis research: the re-discovery of plasmin. J Thromb Haemost. 2011;9 Suppl 1:364~373頁を参照されたい。血漿内に放出される遊離プラスミン(フィブリンに結合していない)は、循環プロテアーゼ阻害剤、例えば、α2-抗プラスミンによって即座に中和され、それによって、不活性となる。
【0056】
更に、創傷/潰瘍治癒に対する非限局的作用を誘起するプラスミンの能力は、完全に予想外である。プラスミンの作用は、創傷治癒プロセスのリモデリング段階におけるフィブリンの分解に厳密に限局されているため、創傷治癒におけるプラスミンの役割は、プラスミノーゲンのものよりも低いというのが、主要な科学的見解である。プラスミノーゲンは、細胞内シグナル伝達事象を活性化し、改善された炎症性応答を生成するその能力、及びその長い血漿半減期のため、薬理学的介入の好ましい候補である。
【0057】
当業者には、前述の段落内に開示されている特定の実施形態が、分離して読解されるべきではないこと、及び本明細書が、これらの実施形態が個別に開示されるのとは対照的に他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図することを、理解されたい。例えば、前述の段落に開示されている実施形態のそれぞれは、本発明の処置の節から、今の段落の直前の節までに開示されている実施形態のそれぞれ、又は本明細書に開示される実施形態のうちの2つ若しくはそれ以上の任意の順列と明示的に組み合わされて読解されるものとする。
【0058】
投薬
本発明の方法の一実施形態において、フィブリノゲナーゼは、約1mg/kg~約100mg/kgの濃度の少なくとも1回の用量で、患者に投与され得る。例えば、約1mg/kg~約50mg/kg、例えば、約1mg/kg~約30mg/kg、例えば、約1mg/kg~約10mg/kgである。
【0059】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、フィブリノゲナーゼは、約5mg/kg~約30mg/kg、例えば、約5mg/kg~約20mg/kg、例えば、約5mg/kg~約10mg/kgの濃度の少なくとも1回の用量で、患者に投与され得る。
【0060】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、フィブリノゲナーゼは、約2mg/kg~約20mg/kg、例えば、約4mg/kg~約16mg/kg、例えば、約6mg/kg~約12mg/kgの濃度の少なくとも1回の用量で、患者に投与され得る。
【0061】
本発明の方法のなおも更なる実施形態において、フィブリノゲナーゼは、約2mg/kg~約10mg/kg、例えば、約4mg/kg~約10mg/kg、例えば、約6mg/kg~約10mg/kgの濃度の少なくとも1回の用量で、患者に投与され得る。
【0062】
本発明の方法はまた、それを必要とする患者へのフィブリノゲナーゼの投与を、複数回投薬レジメンの一部として、提供する。
【0063】
例えば、フィブリノゲナーゼは、投与期間の1日目に約5mg/kg~約30mg/kgの初回用量で、続いて複数回投薬期間の間、1用量当たり約5mg/kg~約30mg/kgで、投与され得る。例えば、投与期間の1日目に約5mg/kg~約20mg/kgの初回用量、続いて複数回投薬期間の間、1用量当たり約5mg/kg~約20mg/kgである。例えば、投与期間の1日目に約5mg/kg~約15mg/kgの初回用量、続いて複数回投薬期間の間、1用量当たり約5mg/kg~約15mg/kgである。例えば、投与期間の1日目に約6mg/kg~約12mg/kgの初回用量、続いて複数回投薬期間の間、1用量当たり約6mg/kg~約12mg/kgである。
【0064】
複数回投薬期間は、最大で全累積用量まで、約3~約30回の投与を含み得る。複数回投薬期間は、約1~約10週間の期間であり得る。複数の部分用量は、約1日~約30日の間隔で投与され得る。
【0065】
複数回投薬期間は、最大で全累積用量まで、約3~約15回の投与を含み得る。複数回投薬期間は、約1~約5週間の期間であり得る。複数の部分用量は、約1日~約10日の間隔で投与され得る。
【0066】
当業者には、前述の段落内に開示されている特定の実施形態が、分離して読解されるべきではないこと、及び本明細書が、これらの実施形態が個別に開示されるのとは対照的に他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図することを、理解されたい。例えば、前述の段落に開示されている実施形態のそれぞれは、本発明の処置の節から、今の段落の直前の節までに開示されている実施形態のそれぞれ、又は本明細書に開示される実施形態のうちの2つ若しくはそれ以上の任意の順列と明示的に組み合わされて読解されるものとする。
【0067】
例として、この節に属する段落において開示されている投薬の実施形態はすべて、必要な変更を加えて、フィブリノゲナーゼがプラスミンである場合に適用される。同様に、前記段落において開示されている投薬の実施形態はすべて、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、ミディ-プラスミン、ミニ-プラスミン、マイクロ-プラスミン、デルタプラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択されるプラスミンに直接的に適用可能であるとして読解されるものとする。例示として、前記段落において開示されている投薬の実施形態はすべて、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択されるプラスミンに直接的に適用可能であるとして読解されるものとする。
【0068】
本発明の医薬組成物
本発明の処置方法は、フィブリノゲナーゼが、少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の成分として患者に投与されることを提供する。少なくとも1つの薬学的に許容される担体は、アジュバント及びビヒクルから選択され得る。少なくとも1つの薬学的に許容される担体としては、所望される具体的な剤形に好適なありとあらゆる溶媒、希釈剤、他の液体ビヒクル、分散補助剤、懸濁補助剤、表面活性剤、等張剤、増粘剤、乳化剤、保存剤が挙げられる。
【0069】
好適な担体は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、2005年、ed. D.B. Troy, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia、並びにEncyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988-1999, Marcel Dekker, New Yorkに記載されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。そのような担体又は希釈剤の好ましい例としては、水、生理食塩水、リンガー溶液、グリコール、デキストロース溶液、緩衝化溶液(例えば、リン酸、グリシン、ソルビン酸、及びソルビン酸カリウム)、並びに5%のヒト血清アルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。リポソーム及び非水性ビヒクル、例えば、飽和植物性脂肪酸のグリセリド混合物、及び固定油(例えば、ピーナツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及びダイズ油)もまた、投与の経路に応じて使用され得る。
【0070】
本発明の方法において利用される医薬組成物は、非経口投与用に製剤化され得る。医薬組成物は、ガラス製又はプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、密封バッグ、又は複数回用量のバイアルに封入され得る。
【0071】
一実施形態において、本発明の医薬組成物は、静脈内注射としての投与のために製剤化される。製剤は、注入又はボーラス注射によって連続的に投与することができる。
【0072】
本発明の医薬組成物は、単位投薬単位形態、すなわち、処置しようとする対象への単位投薬として意図される物理的に異なる単位として、提示され得る。
【0073】
本発明の医薬組成物の滅菌注射溶液は、活性分子を、成分の1つ又は組合せとともに、必要とされる量で、適切な溶媒とともに組み込み、続いて、濾過滅菌することによって、調製することができる。
【0074】
一実施形態において、フィブリノゲナーゼ(例えば、プラスミン)は、再構成のための凍結乾燥粉末として製剤化され得る。滅菌注射溶液として再構成するための滅菌粉末の場合において、調製の方法は、真空乾燥及び凍結乾燥により、活性成分に任意の追加の所望される成分を加えた粉末を、それらの事前に滅菌濾過した溶液から得ることを含む。
【0075】
任意の従来的な培地若しくは薬剤が、活性分子及び/又は本発明の投与経路と不適合である場合を除き、組成物におけるその使用は、本発明の範囲内であることが企図される。
【0076】
本発明の方法において利用されるフィブリノゲナーゼが、プラスミンである場合、本発明の方法において利用される医薬組成物は、酸性pHを有し得る。例えば、医薬組成物は、約2.5~約4のpHを有し得る。本明細書の文脈内で、pH測定は、25℃で水中において行われると見なされる。
【0077】
一実施形態において、プラスミンを含む医薬組成物は、酸性pHに維持するために緩衝物質を更に含み得る。一実施形態において、緩衝物質は、カルボン酸、少なくとも1つのアミノ酸、少なくとも1つのアミノ酸の誘導体、ジペプチド、少なくとも1つのアミノ酸を含むオリゴペプチド、及びこれらの組合せからなる群から選択され得る。例えば、緩衝物質は、ギ酸、酢酸、クエン酸、塩酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、安息香酸、セリン、スレオニン、メチオニン、グルタミン、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、アラニン、アスパラギン酸、これらの誘導体、及びこれらの組合せから選択され得る。
【0078】
プラスミンを含む本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの安定化剤を更に含み得る。安定化剤は、薬学的に許容されるアミノ酸、又は単糖類、二糖類、多糖類、及び多価アルコールを含むがこれらに限定されない炭水化物であり得る。例えば、本発明の範囲内であることが企図される薬学的に許容される炭水化物安定化剤としては、例えば、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、トレハロース、マルトース、及びマンノース等であるがこれらに限定されない糖類、並びにソルビトール及びマンニトールを含むがこれらに限定されない糖アルコールが挙げられる。デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、デンプン、及びセルロース、又はヒト若しくは動物患者に薬学的に許容されるこれらの任意の組合せ等であるがこれらに限定されない、多糖類は、本発明の範囲内であることが企図される。
【0079】
一実施形態において、安定化剤は、グリセロール、ナイアシンアミド、グルコサミン、チアミン、シトルリン、及び塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、又はこれらに任意の組合せ等であるがこれらに限定されない無機塩からなる群から選択され得る。
【0080】
一実施形態において、フィブリノゲナーゼ(例えば、プラスミン)は、本発明の医薬組成物の総タンパク質含量の少なくとも20質量%を構成し得る。例えば、血漿タンパク質プロテアーゼは、本発明の医薬組成物の総タンパク質含量の約30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、93質量%以上、95質量%以上、96質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上を構成し得る。
【0081】
当業者には、前述の段落内に開示されている特定の実施形態が、分離して読解されるべきではないこと、及び本明細書が、これらの実施形態が個別に開示されるのとは対照的に他の実施形態と組み合わせて開示されることを意図することを、理解されたい。例えば、前述の段落に開示されている実施形態のそれぞれは、本発明の処置の節から、今の段落の直前の節までに開示されている実施形態のそれぞれ、又は本明細書に開示される実施形態のうちの2つ若しくはそれ以上の任意の順列と明示的に組み合わされて読解されるものとする。
【0082】
例として、前述の段落において開示されている実施形態のそれぞれは、必要な変更を加えて、フィブリノゲナーゼがプラスミンである場合に適用される。同様に、前記段落において開示されている実施形態はすべて、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、ミディ-プラスミン、ミニ-プラスミン、マイクロ-プラスミン、デルタプラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択されるプラスミンに直接的に適用可能であるとして読解されるものとする。例示として、前記段落において開示されている実施形態はすべて、Glu-プラスミン、Lys-プラスミン、及びこれらの組合せからなる群から選択されるプラスミンに直接的に適用可能であるとして読解されるものとする。
【0083】
本発明の追加の特性及び利点は、添付の図面において明確となろう。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】本発明の範囲内のいくつかのプラスミンバリアント及び突然変異体の概略図である。
【
図2】インビトロでのフィブリノーゲン濃度に対するプラスミン及びそのバリアントの作用をプロットした図である。
【
図3】プールしたヒト血漿試料において様々な濃度での血漿粘度に対する全長プラスミンの作用をプロットした図である。
【
図4】本発明による創傷治癒研究プロトコールを示す図である。
【
図5】研究期間にわたるラットにおけるフィブリノーゲン濃度に対するプラスミン及び対照分子の作用をプロットした図である。
【
図6】研究期間にわたるラットにおける創傷サイズ低減に対するプラスミン及び対照分子の作用をプロットした図である。
【
図7】ラットにおける創傷組織学に対するプラスミン及び対照の作用を示す図である。
【
図8】ラットにおける創傷組織学に対するプラスミン及び対照分子の作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0085】
当業者であれば、本明細書において開示される例が、以下に、一般化された例を表すに過ぎないこと、並びに本発明を再生することができる他の配置及び方法が可能であり、本発明によって包含されることを、容易に理解するであろう。
【実施例1】
【0086】
インビトロでのフィブリノーゲン濃度に対するプラスミン及びそのバリアントの作用
異なる濃度におけるフィブリノーゲン切断に対する異なるプラスミン種の作用を判定するために、インビトロ研究を実行した。試験した様々なプラスミン種は、
図2において関連プロットの横にラベル付けされている。プラスミン種を、示される濃度でヒト血漿中に滴定し、残留フィブリノーゲン含量を、Blombackによって報告されているトロンビン凝固性フィブリノーゲンアッセイによってアッセイした(Blomback B., Blomback M. Purification of human and bovine fibrinogen. Arkh. Kem.10, 415, 1956)。簡単に述べると、この方法の原理は、クエン酸血漿からトロンビン凝固性材料を単離することである。トロンビン及びフィブリノーゲンの反応によって血栓が形成されると、それを、十分に洗浄し、フィブリン濃度の分光光度測定のために、アルカリ尿素中に溶解させる。
【0087】
実験の詳細:20μlのTBSを、230μlのクエン酸血漿に添加し、0.239mg/mlのトロンビン10μlを、即座に血栓血漿に添加した(Enzyme Researchから入手した10倍希釈トロンビン、2.39mg/ml、1000単位)。チューブを、37℃で3分間のインキュベーション後にボルテックスし、卓上型エッペンドルフ遠心分離装置において14 000rpmで室温で3分間遠心分離した。上清(血清)を除去し、1mlのTBSを、それぞれのチューブに添加した。集中的にボルテックスした後、チューブを、14 000rpmで再び遠心分離した。上清を除去し、1mlの1M NaOHをそれぞれのチューブに添加して、血栓を溶解させた。チューブを、70~80℃で2~4分間インキュベートし、冷却し、分光光度計で280nmにおける吸光度を測定した。
【0088】
プラスミンとのインキュベーション:(37℃で5分間、
図2に応じた様々な量のプラスミン)血漿を有するチューブを、37℃で水浴に入れる。様々な量のプラスミン(0~20μlの5mg/ml溶液)を、30秒の遅延時間でそれぞれのチューブに添加する。5分間のインキュベーションを、10μlのトロンビンの添加によって停止させる。アッセイの残りは、上述のように行う。それぞれの濃度点を、三連で行う。
【0089】
全長プラスミンを、当業者に公知であり、参照により内容が本明細書に組み込まれるNovokhatny, V.ら、Acid Stabilised Plasmin as a Novel Direct-Acting Thrombolytic、第18章、259~271頁の第18.3節、Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use、J. Bertoliniら編、Wiley, 2013 [印刷ISBN:9780470924310 |オンラインISBN:9781118356807]に詳述されている、手順/手法に従って、調製した。短縮型プラスミン突然変異体は、当業者に共通した一般知識内の製造プロセスを使用して、組み換えで調製した。
【0090】
本明細書に概説されるすべての実験において利用される全長プラスミンは、主としてLys-プラスミンと、微量のGlu-プラスミンとの混合物であった。経時的に、Lys-プラスミンは、混合物中の任意のGlu-プラスミンをLys-プラスミンへと変換するであろう。「全長プラスミン」とは、本明細書では、未指定の割合のこの混合物を意味するが、Lys-プラスミンが非常に過剰である。
【0091】
図2から、プラスミン及びそのバリアントの漸増濃度での添加が、ヒト血漿における凝固性フィブリノーゲンの濃度の減少をもたらすことが明らかである。2.4μMを上回る濃度の全長/非短縮型プラスミン(8mg/kgの用量当量)は、ヒト血漿の試料中のすべての凝固性フィブリノーゲンを完全に枯渇させた。
【0092】
フィブリノーゲンに対するプラスミンの作用は、全長プラスミンでもっとも顕著に見られた。プラスミンの短縮型種、例えば、ミニ-又はマイクロ-プラスミンは、ヒト血漿中の凝固性フィブリノーゲンレベルに対するより低い作用を呈した。プラスミンにおけるクリングルに媒介される相互作用の公知の阻害剤であるε-アミノカプロン酸の添加は、プラスミンのフィブリノーゲンに対するプロテアーゼ作用の大幅な減少をもたらした(細い黒色の線)。
【0093】
ヒト血漿を用いたこれらのインビトロ実験は、全長プラスミンを、制御可能な様式で、ヒト患者における循環フィブリノーゲンのレベルを制御するためのツールとして使用することができることを示唆する。
【実施例2】
【0094】
エキソビボ粘度研究
全長プラスミンの血漿粘度に対する作用を試験するために、一連の実験を行い、プールしたヒト血漿を、漸増濃度のプラスミンとともに5分間インキュベートした。2.78mg/mlのプラスミン360μlを、10mlの血漿に添加し、5分間のインキュベーションの後に、1.5mlのアリコートを、Viscolab 4000(Cambridge Viscosity)研究室用粘度計に設置した。センチポアズ単位で表されるデータを、
図3に示されるように、プラスミン濃度に対してプロットした。
図3から見られるように、1.725±0.015から1.63±0.0035cPへの粘度の有意な減少が、観察された。
【0095】
グラフの上半分に挿入されたスケールは、動物への投薬と比較した相当量の例示的な目安を提供する。例えば、ラット創傷治癒研究において使用した8mg/kgの用量は、500gラットの血液体積が、約35~40mlであり、そのうち血漿は約20mlであると想定して、およそ約0.2mg/mlの血漿濃度のプラスミンに相当するであろう。
【実施例3】
【0096】
2型糖尿病創傷治癒モデルにおけるプラスミンの全身投与の作用の評価
JVCカテーテル留置の雄性Zucker糖尿病脂肪ラット(ZDF-Leprfa/Crl、肥満)を、Charles River社から入手した。ラットは、16週齢であり、体重は400~450gであった。ラットは、14mmol/L又は252mg/dlを上回る血中グルコース値を有していた。研究は、生存段階の間は処置に関して盲検で行った。
【0097】
ラットを、以下の3つの群に分割した:群1-通常の生理食塩水、群2-2.8mg/ml、8mg/kgの組み換えアルブミン、及び群3-2.78mg/ml、8mg/kgの全長プラスミン。
【0098】
それぞれの群は、10匹のラットからなっていた。3mL/kgの投薬量を、10日間の投薬頻度で利用した。全研究期間は、15日間であった。
【0099】
動物を、イソフルラン/酸素ガス混合物のチャンバを使用して麻酔した。金属棒(25g、直径1cm)を、沸騰した水中への浸漬によって、95~100℃に加熱した。創傷形成3日前に脱毛したラットの背部の皮膚に、棒を、更なる圧力をかけることなく、即座に垂直方向に6秒間位置付けた。創傷形成後に、ラットを、個別にケージに入れ、創傷は、手当しなかった。熱傷誘導のおよそ24時間後に、0.1mLの試験物品及び参照物品を、投薬期間の間、1日1回静脈内投与した。研究中、評価には、死亡率のチェック、臨床観察、及び体重評価が含まれた。
【0100】
毎日の直接的な肉眼による創傷観察を、熱傷誘導の直後から、検死の日まで行い、周囲の皮膚創傷領域とともに熱傷創傷の日毎のディジタル画像を得た。創傷の縁部の輪郭、及び瘡蓋/焼痂で覆われた領域を、2日毎(1日目、3日目、5日目、7日目、9日目、11日目、13日目、及び15日目)に滅菌の透明なシート上に描き、輪郭の内側に含まれる領域を、コンピュータ分析によって平面的に測定した。血液試料を、予定されている検死の時点ですべての動物から、臨床病理学(血液学及び凝固)のために採取した。
【0101】
それぞれの検死の時点で、すべての終末前及び生存している動物に、肉眼による観察を行い、代表的な創傷熱傷皮膚及び/又は創傷を受けていない皮膚の試料を収集した。組織病理学的評価を、1群当たり5匹の動物から得られた創傷熱傷皮膚試料に行った。加えて、創傷熱傷皮膚及び創傷を受けていない腹部皮膚の試料を、1群当たり5匹の動物から収集し、液体窒素中で凍結した。
【0102】
全試験プロトコールの概要は、
図4に示され、行った分析を、以下に概説する。
【0103】
1.まず、分画とともに全血球数(CBC)を評価した。いくつかのパラメーターを研究した:赤血球数(RBC)、赤血球分布幅(RDW)、平均赤血球容積(MCV)、ヘマトクリット、ヘモグロビン(Hgb、Hb)、平均赤血球ヘモグロビン(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、白血球数(WBC)、パーセンテージ及び絶対値の分画数/白血球分画、並びに血小板数。
【0104】
2.以下の臨床化学パラメーターを研究した:アラニンアミノトランスフェラーゼ(u/l)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(u/l)、アルカリホスファターゼ(u/l)、血中尿素窒素(mg/dl)、全ビリルビン(mg/dl)、直接ビリルビン(mg/dl)、総タンパク質(g/dl)、アルブミン(g/dl)、クレアチン(mg/dl)、クレアチンキナーゼ(u/l)、コレステロール(mg/dl)、トリグリセリド(mg/dl)、グルコース(mg/dl)等。
【0105】
3.最後に、凝固パネルのパラメーターを評価した:プロトロンビン時間(PT)(秒)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)(秒)、及びフィブリノーゲン(FIB)(mg/dl)。
【実施例4】
【0106】
実施例3におけるラット創傷モデルからの結果
群1~3は、前述の点1及び2の段落において概説されたパラメーター間で差をほとんど示さなかった。結果は示されない。しかしながら、血中フィブリノーゲンレベルに関して、群3(プラスミン)は、対照群(群1及び2)と比較して有意な減少を示した。
【0107】
図5は、研究期間にわたって3つの群において記録されたフィブリノーゲンレベル(mg/dl)をプロットする(n=5匹)。全長プラスミンで処置したラットは、研究期間全体を通じてフィブリノーゲン濃度の低減を示した。
【0108】
プラスミンで処置したラット対生理食塩水で処理したラットの研究終了時点における平均(n=5匹)創傷サイズを、Table 2(表2)に示す。更に、結果を、
図6にプロットする。
【0109】
【実施例5】
【0110】
試料病理学
創傷部位の両側から得た創傷部位の2つの切片を、盲検様式で病理学者が評価した。利用した組織学スコア基準を、以下に概説し、結果を、
図7に図示する。
【0111】
創傷部位にわたる炎症を、以下の0~5のスケールでスコア付けする:
0.なし、
1.最小限-炎症性細胞、例えば、好中球、マクロファージ、及びリンパ球の集合点が、創傷床全体でほとんど見られず、ほぼ検出不可能である、
2.軽度-検出可能なレベルを顕著に上回る、創傷床全体で数個の炎症性細胞の集合点がある、
3.中等度-明らかな炎症性細胞が、創傷床全体に散在から、合体している、
4.顕著-創傷床の50~75%に及ぶ炎症性細胞のびまん性に近い浸潤がある、
5.重度-創傷床の75%を超えて及ぶ炎症細胞のびまん性浸潤がある。
【0112】
肉芽組織は、以下の0~3のスケールでスコア付けする:
0.創傷床に肉芽組織が存在しない、
1.創傷床に最小量の肉芽組織が存在する、
2.創傷床に中程度の量の肉芽組織が存在する、
3.創傷床に堅牢な肉芽組織が存在する。
【0113】
再上皮化のパーセンテージは、上皮表面によってカバーされる欠損部の最大でほぼ5%までのおよその%である。
【0114】
結果を、
図7A~
図7Cにプロットし、創傷部位の代表的なスライドを
図8に提供する。結果は、対照群1及び2と比較して、全長プラスミンで処置した群における炎症が、有意に低減されたことを示す。炎症は、主として、マクロファージ、リンパ球、及び血漿細胞から構成されていたが、好中球が、まだ完全な再上皮化を有していなかった一部の動物において、より重度の炎症の領域に存在していた。
【0115】
肉芽組織及び再上皮化パーセントには、群間で有意差はなかったが、プラスミンで処置した群は、対照群と比較して、再上皮化の増加の傾向を確かに有した。この改善は、左側及び右側の両方で観察され、新しい上皮組織が成熟肉芽組織に移行することによって、創傷床の被覆が増強されていた。すべての群において、肉芽組織は、創傷床において顕著であった。
【0116】
上述の研究は、全長プラスミン処置群において、循環血漿フィブリノーゲンレベルの約25%の減少を伴う改善された創傷治癒が見られることを示す。
【0117】
配列表
先行する文章において言及された配列を、fasta形式で以下に概説する。本文書において列挙された配列と、添付の配列表における対応する配列との間に不一致が生じた場合には、本文書に列挙される配列を、誤りを訂正する目的で優先される配列とする。
【0118】
配列番号1ヒトプラスミノーゲンタンパク質配列
【0119】
【配列表】
【国際調査報告】