(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】改善された水性ガスシフト触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/80 20060101AFI20231124BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20231124BHJP
B01J 23/06 20060101ALI20231124BHJP
C10K 3/04 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B01J23/80 M
B01J35/10 301G
B01J23/06 M
C10K3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528122
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 EP2021082792
(87)【国際公開番号】W WO2022112310
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】トプソー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】スィーイステズ・イェンス
(72)【発明者】
【氏名】ヤアアンスン・スサネ・レグスゴー
(72)【発明者】
【氏名】モンテサノ・ロペツ・ラウル
(72)【発明者】
【氏名】ブアン・イェアミ・ナイル
(72)【発明者】
【氏名】シュト・ニルス・クレスチャン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H060
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA15
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BC01A
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC04A
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4G169BC06B
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4G169BC16A
4G169BC16B
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4G169BC31B
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4G169BC35B
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4G169ED03
4G169FC08
4H060AA01
4H060BB12
4H060GG08
(57)【要約】
本発明は、改良された水性ガスシフト触媒、特に改良された高温シフト触媒および該触媒を使用する方法に関する。水性ガスシフト触媒は、Zn、Al、任意にCu、およびアルカリ金属またはアルカリ金属化合物を含み、アルカリ金属、好ましくはKの含有量は、酸化触媒の質量に基づいて1~6質量%、例えば1~5質量%または2.5~5質量%の範囲にあり、水銀圧入によって測定した、240ml/kg以上、例えば250ml/kg以上の細孔容積を有する。本発明はまた、水性ガスシフト反応器中の前記合成ガスを前記水性ガスシフト触媒と接触させることにより、合成ガスを水素で富化するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn、Al、任意にCu、およびアルカリ金属またはアルカリ金属化合物を含む水性ガスシフト触媒であって、
ここで当該水性ガスシフト触媒は、その活性形態において亜鉛アルミニウムスピネルと任意の酸化亜鉛の混合物に、K、Rb、Cs、Na、Liおよびこれらの混合物から選択されるアルカリ金属とを組み合わせて含むZn/Alベースの触媒であり、
ここで、Zn/Alモル比は0.3~1.5の範囲であり、アルカリ金属、好ましくはKの含有量は、酸化された触媒の質量に基づいて1~6質量%、例えば1~5質量%または2.5~5質量%の範囲であり、かつ、前記水性ガスシフト触媒が、水銀圧入によって測定される240ml/kg以上、例えば250ml/kg以上の細孔容積を有する、前記水性ガスシフト触媒。
【請求項2】
水銀圧入により測定される細孔容積が、240~380ml/kg、250~380ml/kg、300~600ml/kg、または300~500ml/kg、例えば300、350、400、450または500ml/kgであるか、または320~430ml/kgの範囲内にある、請求項1記載の水性ガスシフト触媒。
【請求項3】
Zn、Al、任意にCu、およびアルカリ金属またはアルカリ金属化合物のみを含む、請求項1~2のいずれか一つに記載の水性ガスシフト触媒。
【請求項4】
Zn/Alモル比が0.5~1.0の範囲である、請求項1~3のいずれか一つに記載の水性ガスシフト触媒。
【請求項5】
Cuの含有量が、酸化された触媒の質量を基準として、0.1~10質量%、例えば1~5質量%の範囲である、請求項1~4のいずれか一つに記載の水性ガスシフト触媒。
【請求項6】
前記触媒がペレット、押出物、または錠剤の形態であり、ここで、密度が、例えば錠剤の質量をその幾何学的体積で割ることにより測定して、1.2~1.9g/cm
3、例えば、1.35~1.75g/cm
3、または1.55~1.85g/cm
3である、請求項1~5のいずれか一つに記載の水性ガスシフト触媒。
【請求項7】
前記触媒がペレット、押出物または錠剤の形態であり、及び機械的強度がACS:30~750kp/cm
2、例えば130~700kp/cm
2または30~350kp/cm
2、またはSCS:4~100kp/cm、例えば20~90kp/cmまたは4~40kp/cmの範囲であり、ここで、ACSおよびSCSは、触媒の酸化された形態で、ASTMD4179-11に従い測定される、請求項1~6のいずれか一つに記載の水性ガスシフト触媒。
【請求項8】
合成ガスを水素で富化する方法であって、水性ガスシフト反応器内で前記合成ガスを請求項1~7のいずれか一つに記載の水性ガスシフト触媒と接触させる、前記方法。
【請求項9】
前記水性ガスシフト反応器が高温シフト(HTS)反応器である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水性ガスシフト反応器が、300~550℃の範囲の温度で、任意にまた2.0~6.5MPaの範囲の圧力で作動するHTS反応器である、請求項8~9のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、改良された水性ガスシフト触媒およびその触媒を用いた方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
水性ガスシフトは、合成ガスの水素含有量を増加させる方法として知られており、例えば、炭化水素供給の水蒸気改質などにより製造され、水素と一酸化炭素を含むガスである。水性ガスシフトは、以下の平衡反応により、合成ガスの水素含有量を増加させ、一酸化炭素含有量を減少させることができる:CO+H2O=CO2+H2。
【0003】
通常、発熱性水性ガスシフト反応を別々の反応器、例えば、ステージ間の冷却を伴う別々の断熱反応器で実施することにより、水素収率を最適化することができる。多くの場合、第1の反応器は、その中にHTS触媒が配置された高温シフト(HTS)反応器であり、第2の反応器は、その中にLTS触媒が配置された低温シフト(LTS)反応器である。中温シフト(MTS)反応器も含まれることがあり、単独で、あるいはHTS反応器やLTS反応器と組み合わせて使用することができる。通常、HTS反応器は300~550℃の範囲で、LTSは180~240℃の範囲で運転される。MTS反応器は、通常、210~330℃の温度範囲で運転される。
【0004】
工業的には、高温シフト(HTS)反応器は、しばしば過熱蒸気の流れの中で起動され、反応器とその中のHTS触媒(通常、鉄-クロムベースの触媒)が加熱される。反応器の温度が水の露点より低い間は、反応器の内部で結露(凝縮)が発生する。HTS反応器を加熱するために蒸気を使用は、特に古い設計のアンモニアプラントにおいて特にしばしば使用される。このため、水溶性化合物を含む通常のHTS触媒は、水溶性化合物の溶出による触媒活性の低下が懸念されるため、通常、これらのプラントでは使用されていない。
【0005】
したがって、アンモニアプラントや水素製造プラントでは、溶出を避けるために、乾燥窒素のような限られた含量の蒸気をもち、専用の別個の窒素ループによって供給されるガスを加熱することにより、HTS反応器を周囲温度からプロセス(運転または反応)温度まで顕著な凝縮なしに上昇させることが知られている。窒素はHTS触媒に対して不活性である。しかし、例えばプラントの設計上、起動時には、このような専用の別個の窒素ループの使用を避け、代わりに、蒸気、例えば過熱水蒸気を適用して冷えた反応器とそこに配置された触媒床を加熱することにより、プロセス温度、すなわちHTS反応器の動作温度まで加熱できることが望ましい。水は水性ガスシフト反応の反応物であるため、このようなプラントでは常に蒸気を利用することができる。
【0006】
高温シフト触媒は、主に2つのタイプに分けられる。市場で主流の確立されたタイプは、鉄/クロム(Fe/Cr)ベースで、銅を含む他の成分は一般的に少量である。別のタイプの高温シフト触媒は、酸化亜鉛/亜鉛アルミニウムスピネル構造をベースに、カリウムなどのアルカリ元素を1種類以上添加したものである。このタイプのHTS触媒は、通常、別のプロモーターとして銅も含む。このタイプのHTS触媒は、例えば本出願人の特許US7998897B2、US8404156B2およびUS8119099B2に記載されている。アルカリプロモーターは、HTSの起動および通常運転のための全温度区間、すなわち-100℃から600℃において、塩または水酸化物、例えばK2CO3,KHCO3またはKOHなどの水溶性化合物として存在することができる。
【0007】
したがって、水蒸気を用いてHTS反応器を起動する場合、触媒はFe/Crベースの触媒、またはアルカリ金属やアルカリ金属化合物のような水溶性化合物を形成できる種を含まない同様の触媒であることが一般的である。これまで、Fe/Crベースの触媒のみが凝縮蒸気の条件に耐えることができると考えられてきた。また、Zn/Alベースの触媒のプロモーターとして使用されているアルカリ金属やアルカリ金属化合物が触媒から溶出し、HTS反応に対する活性の大部分が失われることが懸念されてきた。
【0008】
また、凝縮条件下、特に低温シフト(LTS)反応器やHTS反応器中において、水溶性化合物を有するシフト触媒を立ち上げると、それらの化合物が溶出し、それに伴って触媒活性が低下するという業界内のコンセンサスが実際に存在する。したがって、例えばEP3368470は、LTS反応器において凝縮をもたらすアップセット条件中に、可溶性種が触媒床内で洗い流されたり再分布されたりするという問題を取り上げている。さらに、この引用文献は、使用される銅含有触媒に可溶性成分が再析出することを抑制している。したがって、通常運転中、LTS反応器への供給ガス、例えば上流のHTS反応器からの第1のシフト合成ガス中に存在するハロゲン種による被毒の影響を緩和するために、ハロゲン種、例えば塩化物種を捕捉するために、第1の水性ガスシフト反応器の上流、特にHTS反応器の上流、または、HTS反応器と後続のLTS反応器の間に専用で不溶性のガードまたは吸着材を設けることが知られている。
【0009】
さらに、LTS反応器の通常運転時にLTS触媒におけるアルカリ金属またはアルカリ金属化合物の使用が、触媒中の銅の存在、および、LTS反応器の運転温度が比較的低いことに起因する望ましくないメタノール副生成物の生成を低減するため、望ましい。
【0010】
US6455464は、有機化合物中のカルボニル基の水素化分解のための非クロム、Cu-Al-O触媒を開示し、触媒の60質量%未満がアルミン酸銅(CuAl2O4)スピネル構造を持ち、銅は溶出性化合物である。還元性ガスによる触媒の活性化により、CuAl2O4は金属銅(Cu)とアルミナ(Al2O3)に変換され、活性型ではスピネル構造は存在しない。
【0011】
出願人のWO2017148929A1は、改質部と水性ガスシフト部とを含むプラントのフロントエンドの能力を増加させるための改良方法を開示する。水性ガスシフト部において、高温シフトは、元のFeベースの触媒を非Feベースの触媒と交換する。非Feベースの触媒は、市販の触媒SK-501Flex(商標)であり、酸化触媒の質量を基準として、Zn/AIモル比が0.5~1.0、アルカリ金属含有量が0.4~8.0質量%、銅含有量が0~10%の範囲にある。この触媒の細孔容積は約230ml/kgである。
【0012】
出願人のUS2011101277A1は、亜鉛アルミナスピネルおよびZnO、1.73質量%のKと1.83質量%のCu、さらにZn/Alモル比0.57を含むクロム不含の水性ガスシフト触媒(C8、例1)を開示する。ペレット化された円筒テーブルの密度は1.80g/cm3である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US7998897B2
【特許文献2】US8404156B2
【特許文献3】US8119099B2
【特許文献4】EP3368470
【特許文献5】US6455464
【特許文献6】WO2017148929A1
【特許文献7】US2011101277A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明の概要
したがって、本発明の目的は、水蒸気凝縮条件下で工業的な起動に供することができる、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物を含む新規な水性ガスシフト触媒を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、その中に配置された前記触媒を有する水性ガスシフト反応器への供給ガス中に存在するハロゲン種による被毒に抵抗性である新規の水性ガスシフト触媒を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、供給ガス中のハロゲン種を除去するための専用のガードまたは吸着材の使用を不要とすることができる新規な水性ガスシフト触媒を提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、高い機械的強度を維持することができ、同時に、公知の水性ガスシフト触媒と比較して、有意な触媒活性を失うことなく、より多くの起動回数で使用することができる、新規な水性ガスシフト触媒を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、供給ガス中に存在するハロゲン種を除去するための簡便な水性ガスシフトプロセスを提供することにある。
【0019】
本発明のさらなる目的は、優れた水性ガスシフトプロセス、特にHTSプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
これらの目的および他の目的は、本発明によって解決される。
従って、第1の態様において、本発明は、Zn、Al、任意にCu、およびアルカリ金属またはアルカリ金属化合物を含む水性ガスシフト触媒であり、ここで、当該水性ガスシフト触媒は、Zn/Alベースの触媒、特にHTS触媒であり、その活性形態において亜鉛アルミニウムスピネルと任意に酸化亜鉛の混合物と、K、Rb、Cs、Na、Liおよびこれらの混合物から選択されるアルカリ金属とを組み合わせて含み、ここで、Zn/Alモル比は、範囲0.3~1.5であり、アルカリ金属、好ましくはKの含有量は、酸化触媒の質量に基づいて1~6質量%、例えば1~5質量%または2.5~5質量%の範囲であり、前記水性ガスシフト触媒が、水銀圧入によって測定される240ml/kg以上、例えば250ml/kg以上の細孔容積を有する。
【0021】
これにより、十分な機械的強度を有し、触媒活性の実質的な低下がない、驚くほど堅牢な水性ガスシフト触媒、特にHTS触媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記一般的な実施形態においては、Zn、Alを含むが、Zn、Alとは別に、Cuや他の元素を含んでもよいことを理解できる。いずれの場合も、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物を有するなど、実施形態の残りの制限が含まれる。
【0023】
一実施形態において、水性ガスシフト触媒は、水銀圧入によって測定される、240~380ml/kgまたは250~380ml/kgまたは300~600ml/kgまたは300~500ml/kg、例えば250、300、350、400、450または500ml/kg、または320~430ml/kgの範囲内の細孔容積を備える。
【0024】
水銀圧入は、ASTMD4284に従って実施される。
【0025】
上記の細孔容積を有する水性ガスシフト触媒を使用することにより、触媒を露点に加熱するために使用される凝縮水、または通常の運転中に形成される液体の水の量は、触媒の全細孔容積よりも少なくなる。このため、アルカリまたはアルカリ金属化合物を溶解した凝縮水は、触媒細孔内に保持されることになる。加熱を続けて温度が露点以上になると、触媒細孔に含まれる水は蒸発し、アルカリ金属化合物が触媒表面に残る。これにより、触媒の主要部分は、例えば、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物がもはや存在しないためにプロモーターとして作用しないこと、またはアルカリ金属またはアルカリ金属化合物がもはや存在しないためにハロゲンの存在によるあらゆる毒性を低減することができないこと、またはアルカリ金属またはアルカリ金属化合物がもはや存在しないために例えば低温シフト反応器におけるメタノール副生成物の形成を低減しないことなどによって、有意程度にまで活性を喪失することはない。
【0026】
細孔容積、特に高い細孔容積は、例えば1.4または1.5または1.6または1.7g/cm3の密度を有する水性ガスシフト触媒粒子を提供することによって達成され、粒子密度が低いほど高い細孔容積になる。用語「粒子」は、ペレット、押出物、または錠剤(タブレット)を意味し、これらは、例えば、出発触媒材料から、例えば粉末から前記錠剤への、ペレット化または打錠によって圧縮されたものである。したがって、本発明の第1の態様による実施形態においては、触媒は、ペレット、押出物または錠剤の形態であり、密度は、1.25~1.75g/cm3、または1.55~1.85g/cm、3例えば1.3~1.8g/cm3、または例えば1.4,1.5,1.6,1.7g/cm3である。密度は、例えば錠剤の質量をその幾何学的な体積で単純に割ることによって測定される。
【0027】
通常、触媒粒子、例えば、HTS触媒、例えば、出願人のUS7998897またはUS8404156のようなHTS触媒の密度は、2g/cm3に近く、例えば最大2.5g/cm3または約1.8または1.9g/cm3である。これらの比較的高い密度は、例えば錠剤などの粒子の機械的強度に大きく寄与し、例えばHTS反応器をかなりの高さ、例えば5mから装填する際の衝撃に耐えることができる。したがって、高い粒子密度、例えば1.8g/cm3またはそれ以上を有することが通常望まれる。本発明により、例えば打錠して密度が低い形状に圧縮することで、粒子の細孔容積が増加し、それによって上述の溶出の問題が解決され、同時に粒子は、装填時または通常運転時の衝撃に耐えるのに十分な機械的強度を保ち、さらに通常運転時(連続運転)には、粒子の粉砕による反応器の圧力損失の増加を回避できることも見出された。
【0028】
特定の実施形態において、本発明は、以下のみを含む、すなわち、以下から構成されている水性ガスシフト触媒であり:
Zn、Al、任意にCu、およびアルカリ金属またはアルカリ金属化合物、ここで、水性ガスシフト触媒は、Zn/Alベースの触媒、特にHTS触媒であり、その活性形態において、亜鉛アルミニウムスピネルおよび任意に酸化亜鉛の混合物の混合物に、K、Rb、Cs、Na、Liおよびそれらの混合物から選ばれるアルカリ金属を組み合わせて含み、ここで、Zn/Alモル比は0.3~1.5の範囲でであり、アルカリ金属、好ましくはKの含有量は、酸化された触媒の質量に基づいて1~6質量%、例えば1~5質量%または2.5~5質量%の範囲であり、かつ、水性ガスシフト触媒は、水銀圧入によって測定される、240ml/kg以上、例えば250ml/kg以上の細孔容積を有する。
【0029】
したがって、この特定の実施形態がZn、Alを含むこと、またはこの特定の実施形態がZnおよびAlとは別に、さらにCuを含むことが理解されるであろう。どちらの場合も、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物を有するなど、実施形態の残りの限定が含まれる。
【0030】
本発明の第1の態様による実施形態においては、Zn/Alモル比は0.5~1.0の範囲にあり、例えば0.6または0.7である。
【0031】
本発明によって、アルカリ金属、好ましくはKの含有量は、1~6質量%、例えば1~5質量%または2.5~5質量%の範囲にある。この特定の範囲においては、触媒活性は、存在するアルカリ金属化合物の量に依存せず、かなり一定であることが見出されている。この特定の範囲を適用することにより、触媒は「アルカリバッファー(アルカリ緩衝液)」のように作用し、それにより、アルカリ金属プロモーターのわずかな損失が反応器の一部で発生したとしても、触媒活性は著しく損なわれず、それにより、触媒が活性を失うことなく起動の回数をさらに増やすことができる。さらに、アルカリ金属の上限の範囲、例えば6質量%のKを有する触媒で運転することにより、Kの浸出は、後述の実施例3および対応する
図4からも明らかになるように、実際に活性をより高いレベルにすることができる。このアルカリバッファー効果、あるいは単にバッファー効果は、例えばHTS反応器の起動時(立ち上げ時)に、カリウムの10%(相対値)を溶出させると、Kの含有量が4質量%のKから3.6質量%のKに減少するが、触媒の活性は低下しないために生じるものである。実際、初期のK含有量が例えば6質量%以下のK、好適には5質量%のKである場合、10%(相対)浸出の場合、4.5質量%のKの触媒は5質量%のKの触媒より高い活性を有するので、活性は増加する。バッファー効果は、例えば反応器壁の近くで非常に有益であり、ここで、反応器壁の高い熱容量のために加熱するためにより多くの蒸気が必要となり、アルカリ溶出のリスクが高くなる。しかし、何度かの起動後にアルカリが溶出しても、触媒活性を著しく損なうことはなく、あるいは触媒活性が向上することさえもある。
【0032】
また、反応器の通常運転(連続運転)中にアルカリの溶出が発生しても、バッファー効果により、触媒活性が損なわれることはない。
【0033】
触媒層全体からアルカリが溶出することは稀であるが,バッファー効果により、触媒床が良好に運転され,したがって水性ガスシフト工程,特にHTS工程が良好に運転されるための特別な安全性が得られる。
【0034】
本発明の第1の態様による実施形態においては、Cuは、酸化された触媒の質量を基準として、0.1~10質量%、例えば1~5質量%の範囲にある。Cuは、従来の含浸法または共沈法によって触媒に組み込むことができる任意のプロモーターとして機能する。
【0035】
本発明により、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物は、溶出性である。すなわち、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物は、触媒の運転中、例えば通常運転時や水蒸気を用いた起動時などの過渡運転時に水溶性の化合物を形成することができる種である。
【0036】
本発明の第1の態様による実施形態においては、水性ガスシフト触媒は、クロム(Cr)不含である。別の実施形態においては、前記水性ガスシフト触媒は、鉄(Fe)不含である。したがって、一実施形態において、前記水性ガスシフト触媒は、クロム(Cr)不含および鉄(Fe)不含である。それにより、Cr不含であるので、より持続可能で環境に優しい触媒が提供される。さらに、Fe不含であることにより、メタンなどの炭化水素の望ましくない形成が著しく低減されるか、または排除されることさえある。
【0037】
本明細書において、「クロム(Cr)不含、および鉄(Fe)不含」という用語は、Feの含有量が0.05質量%未満であること、またはCrの含有量が0.02質量%未満であることをいう。例えば、FeおよびCrの含有量は検出できない。
【0038】
水性ガスシフト反応器、例えばLTS反応器を露点に近い条件で運転する必要がある通常運転時、あるいはアップセット時や起動時などの過渡的な条件下で、凝縮を引き起こすような場合には、アルカリ金属やアルカリ金属化合物の洗い出し(溶出)が極端に少なくなることが判明している。
【0039】
水性ガスシフト反応器の起動は、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物を含む水性ガスシフト触媒を提供するステップと、水性ガスシフト触媒の熱伝達媒体として蒸気を適用して水蒸気凝縮条件で水性ガスシフト反応の反応温度まで加熱するステップとを含む方法であることができ、ここで、水銀圧入によって測定される細孔容量が加熱中に形成する液体水の容量より大きくなる。
【0040】
水性ガスシフト反応の「反応温度」という用語は、「運転温度」および「プロセス温度」という用語と互換的に使用される。例えば、高温シフトの場合、反応温度は300~550℃の範囲内である。
【0041】
「水蒸気凝縮条件下」という用語は、液体の水が形成される温度、すなわち水の露点までの加熱を意味し、例えば、約12atm absで露点(Tsat)が約190℃である。また、「水蒸気凝縮条件下」という用語は、所定の蒸気圧で蒸気含有ガスをその露点以下の温度まで冷却することと理解することもできる。
【0042】
加熱中に形成される液体の水、すなわち凝縮水の量が触媒の細孔容積以下である限り、触媒粒子、例えば触媒ペレットまたは触媒錠剤の間でアルカリ金属またはアルカリ金属化合物の輸送は生じていない。粒子の多孔度(細孔容積/全粒子容積)は、水溶性化合物の外部輸送を伴わずに、粒子内にどれだけの水を収容できるかを決定する。水の量が細孔容積を超える場合でも、触媒粒子からのアルカリ金属またはアルカリ金属化合物の損失は、粒子内部の拡散と、粒子内部の溶液の濃度と外部濃度との濃度差によって制御される。溶液中の拡散はかなり遅いプロセスであり(拡散係数は10
-6cm
2/sのオーダー)、反応器の一部に過剰な液体水が形成されても、触媒は多くの起動で耐久性がある。例3および対応する
図4に図示されている特定の例においてさらに詳細に説明されているように、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物の含有量が最適な活性に必要な最小値を超えている場合、触媒の工業的寿命を向上させる。
【0043】
一実施形態においては、触媒はペレット、押出物、または錠剤の形態であり、機械的強度は以下のACSの範囲である:30~750kp/cm2、例えば130~700kp/cm2または30~350kp/cm2、ここでACSは、Axial Crush Strengthの略称である。あるいは、SCSとして測定される機械的強度は、4~100の範囲、例えば、20~90kp/cmまたは~40kp/cmにある。SCSは、Side Crush Strengthの略称であり、Radial Crush Strengthとしても知られている。所定の錠剤密度においては、機械的強度は、触媒粉末を圧縮するために使用される機械に依存してかなり異なる可能性がある。機械的強度の低い範囲(ACSまたはSCS)は、例えば、ACS:300または350kp/cm2までは、または、SCS40kp/cmまでは、小型(約100g/h)の手差し錠剤機、いわゆるManesty機で得られるものに相当する。機械的強度の高い範囲、例えばACS:750kp/cm2まで、またはSCS:90kp/cmまでは、ロータリープレスを備えたKilianRXマシンのような自動フルスケール装置(100kg/h)を使用して得られるものに相当する。したがって、Manesty機で得られる錠剤は、ロータリープレスを備えたKilianRX機で得られる錠剤よりも機械的強度が低いことが理解される。ACSとSCSは、触媒の酸化された形態で測定される。さらに、機械的強度は、ASTMD4179-11に従って、すなわち、ASTMD4179-11に基づき測定される。
【0044】
得られた水性ガスシフト触媒は、例えば、触媒が触媒活性を失うことなく、起動できる回数によって証明されるように、出願人のUS7998897のような先行技術の触媒よりも優れている。US7998897に従ったHTS触媒は、実質的な溶出なしに水蒸気を使用して50回の起動を提供することができるが、本発明の触媒は、溶出による触媒活性の顕著な損失なしに100回を超える起動の提供を可能にする。
【0045】
1年間に必要なHTS反応器などの起動回数は、例えば1年に5回など、かなりの数になることが理解できるだろう。したがって、通常、乾燥窒素のような蒸気を限定的に含むガスを供給し、それによって起動を行うために設置され使用される専用の窒素ループは、もはや必要ではない。この場合も、本発明は、例えば、水素またはアンモニア製造プラントのようなプラントで容易に入手可能で統合されている蒸気、例えば過熱蒸気を使用することを可能にし、それによって、プラント操作を簡素化し、プラントの資本経費を削減することもできる。本発明の触媒は、触媒の交換を必要とする前に実施する起動の回数を大幅に増加させることができる。
【0046】
本発明の第1の態様による実施形態においては、アルカリ金属化合物は、K、Rb、Cs、Na、Liおよびそれらの混合物から選択される。好ましくは、アルカリ金属化合物はKである。カリウム(K)は、低温シフト反応器の低い運転温度でメタノール生成を触媒することが知られている銅などの触媒活性元素の水性ガスシフト触媒における使用により、LTS反応器における潜在的副産物としての望ましくないメタノールの生成を抑制し、かかる温度は通常180~240℃の範囲である。カリウムは、通常、例えば300~550℃の範囲の温度で動作する高温シフト反応器において使用するためのZn/Alタイプの触媒の活性を高める(促進する)ことも可能にする。
【0047】
さらに、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物は、通常運転時のハロゲン被毒に対する触媒の耐性を向上させるのに有用であり、例えば、供給ガス中の塩素化物による被毒、例えば合成ガス中またはHTS反応器から最初にシフトした合成ガス中、その後MTSまたはLTS反応器でシフトされる塩素化物による被毒がある。さらに、例えばHTS反応器の後にLTS反応器を使用する場合、HTS触媒のアルカリ金属またはアルカリ金属化合物がハロゲン、例えば塩化物を反応または吸収し、それによってその後のLTS触媒を保護する。
【0048】
本明細書で使用する場合、「アルカリ金属またはアルカリ金属化合物」という用語は、それぞれ、Kなどの元素すなわち金属形態のアルカリ、または、その化合物、K2CO3、KHCO3、KOH、KCH3CO2またはKNO3などを意味する。酸化状態の水性ガスシフト触媒は、金属形態のアルカリ金属を含まないことが理解されるであろう。したがって、「触媒はアルカリ金属によって促進される」または「アルカリ促進触媒」などの用語は、触媒がアルカリ金属化合物で促進されることを意味し、これは、プロモーターとして使用できる前記アルカリ金属のすべての可能な化合物をカバーする。
【0049】
また、本願の目的において、「アルカリ」という用語が使用された場合、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物を意味する。
【0050】
本発明の第1の態様による実施形態においては、反応温度までの加熱は、温度範囲-100℃~600℃、例えば0~500℃の範囲で行われる。初期(低温)温度は、例えば、0、2または50℃である。好適にはまた、水性ガスシフト触媒は、水蒸気のみによって、水性ガスシフト反応の反応温度まで加熱される。
【0051】
本発明の利点は以下の通りである:
-水性ガスシフト触媒、特にHTS触媒がアルカリバッファー効果を発揮し、水性ガスシフト運転中、その起動時または通常運転時において、アルカリが溶出または消失しても、触媒活性が維持または向上さえする優れた水性ガスシフト方法を提供するものである。
【0052】
-本発明は、十分な細孔容積とアルカリ金属またはアルカリ金属化合物の十分な含有量を有するアルカリ促進Zn/Al型HTS触媒などのアルカリ含有水性ガスシフト触媒を、起動時において凝縮蒸気中で加熱できる方法を教示し、その際、アルカリ金属化合物の溶出が非常に小さくなり、触媒の予想される工業的寿命に取るに足らないものとなる。
【0053】
すなわち、本発明により、アルカリ含有触媒を用いても、触媒活性の著しい低下や溶出による耐ハロゲン被毒の抵抗性の低下なしに、凝縮条件下で運転温度(反応温度)まで加熱することが可能となる。
【0054】
-より具体的には、HTS反応器の場合、2種類のHTS触媒、すなわち古いFe/Crベースの触媒と新しいアルカリ含有Zn/Alベースの触媒を比較すると、後者のタイプはいくつかの利点がある。重要なのは、環境と健康に害を及ぼすクロムを含まないことである。したがって、より持続可能なアプローチがここに提供される。さらに、アルカリ含有Zn/Alベースの触媒は、合成ガスからメタンのような炭化水素を生成する傾向が、Fe/Crベースの触媒の場合よりもはるかに少ないので、選択性が高い。この違いは、HTS反応器を、反応器に入る合成ガスなどの供給ガス中の蒸気/炭素モル比を低くして運転した場合に最も顕著に現れる。蒸気/炭素モル比が低いと、プロセス/プラント、例えば水素やアンモニアを製造するプラントなどで使用される蒸気の量が少なくなり、プラントの設備サイズが大幅に縮小されるとともに、二酸化炭素の排出量が減少してエネルギーが節約されるという利点がある。
【0055】
-また、鉄含有触媒は、HTS反応器に入る合成ガス中において一定より高い蒸気/炭素モル比、または、一定より高い酸素/炭素モル比で動作する必要があることもよく知られており、これは鉄炭化物および/または元素鉄の形成を防ぐためであり、これにより機械強度が著しく低下し、それに伴って反応器の圧力損失が大きくなる可能性がある。アルカリ含有Zn/Alベースの触媒は、蒸気/炭素モル比の影響を受けず、通常運転時のHTS反応器への供給ガス(合成ガス)中の蒸気含有量が低くても、機械的強度を失うことはない。
【0056】
-起動可能な回数が大幅に増加する一方で、粒子の機械的強度は十分に維持され、水性ガスシフト反応器の圧力損失の増加というペナルティを回避することができる。
【0057】
-塩化物などのハロゲン種による被毒に耐える能力を向上させることができる銅含有LTS触媒の能力は、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物を触媒中に保持できることで改善される。
【0058】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による上記いずれかの実施形態に係る水性ガスシフト触媒を、水性ガスシフト反応器内で前記合成ガスと接触させることにより、合成ガスを水素に富化する方法を含む。
【0059】
本発明の第1の態様に関連して述べられたような水性ガスシフト触媒に関連する利点は、優れた水性ガスシフト工程も可能にする。
【0060】
本発明の第2の態様による実施形態においては、水性ガスシフト反応器は、低温シフト(LTS)反応器、中温シフト(MTS)反応器、または高温シフト(HTS)反応器である。特定の実施形態においては、工程はHTS反応器をLTS反応器と組み合わせることを含み、HTS反応器で形成された第1のシフトガスが、その後、LTS反応器に通される。
【0061】
水性ガスシフト反応器は逆水性ガスシフト反応器としても機能することができ、それによって、水素と二酸化炭素に富む原料ガスを逆水性ガスシフト反応により一酸化炭素と水に変換する:CO2+H2=CO+H2O.
【0062】
本発明の第2の態様による実施形態においては、水性ガスシフト反応器は、300~550℃の範囲の温度で、任意にまた、2.0~6.5MPaの範囲の圧力で作動するHTS反応器である。
【0063】
本発明の第2の態様による実施形態においては、水性ガスシフト反応器は、180~240℃の範囲の温度で、任意にまた2.0~6.5MPaの範囲の圧力で作動するLTS反応器である。
【0064】
本発明の第2の態様による実施形態においては、水性ガスシフト反応器は、210~330℃の範囲の温度で、任意にまた2.0~6.5MPaの範囲の圧力で作動するMTS反応器である。
【0065】
第3の態様において、本発明は、Cu、Zn、Al、およびアルカリ金属またはアルカリ金属化合物を含む、任意にそれらから成る、水性ガスシフト触媒を含み、ここで、当該水性ガスシフト触媒は、水銀圧入により測定して240ml/kg以上、例えば250ml/kg以上の細孔容積を有し、水性ガスシフト触媒は、アルカリ金属がK、Rb、Cs、Na、Liおよびこれらの混合物から選択される低温シフト(LTS)触媒である。特定の実施形態においては、Cu、ZnおよびAlは、酸化物の形態であり、すなわち、例えばそれぞれCuO、ZnOおよびAl2O3として、または、例えば、ZnAl2O4のような混合酸化物として存在する。これは、酸化された(「担持された」)触媒にも適用される。触媒の活性型は、還元型の銅を含み、好ましくは元素銅として含む。
【0066】
本発明の第1の態様の実施形態および関連する利点のいずれも、第2の態様および第3の態様の実施形態のいずれかと共に使用することができ、その逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図面の簡単な説明
図1は,実施例1に関し、HTS反応器の幾つかの起動後に混合ガスを供給した場合の温度上昇および、それによる触媒活性を、反応器の長さの関数として示したものである。
【0068】
図2は、実施例2に関し、触媒の細孔容積(PV)と機械的強度(ACS、SCS)を示す図である。
【0069】
図3は、実施例3に関し、異なるアルカリ金属(プロモーター)に関して、本発明によるHTS触媒を用いた一酸化炭素の変換を示したものである。比較のために、アルカリ金属化合物を本質的に含まない、プロモーターのない触媒も含まれている。
【0070】
図4は、実施例3による、触媒中のアルカリ金属(プロモーター)としてのカリウムの質量に対する、本発明によるHTS触媒を用いた一酸化炭素の変換率を示す。
【実施例】
【0071】
詳細な説明
例1:
11.85atm abs(すなわち約12atm abs)、露点Tsat=188℃(すなわち約190℃)で実施された凝縮蒸気下のHTS反応器の起動は、工業的なケースの代表である。凝縮物の量は、鋼鉄、すなわち反応器容器の質量、反応器に含まれる触媒の質量、および通常0℃から50℃の間にある初期温度に依存する。表1は、小型すなわち内径約1mおよび大型すなわち内径約5mの工業用HTSユニットで形成される液体(水)の典型的な量を示す。本発明による水性ガスシフト触媒の細孔容積は、例えば240~380ml/kg、250~800ml/kgであり、加熱プロセス中に凝縮する液体の総量を含むのに十分であることは明らかである。
【0072】
【0073】
反応器壁面に近接する触媒ペレットまたは錠剤は、反応器容器と触媒質量を加熱するために凝縮する水にさらされる。反応器の周辺に限定されている触媒床の領域であり、つまり、これは触媒層には、その細孔容積全体が反応器壁で凝縮(結露)する液体を含むために利用されることを意味する。この領域の幅は触媒の細孔容積に依存し、反応器壁面に近いほど細孔容積が大きく、壁面で凝縮する追加の水を取り込むことが可能であることが判明した。
【0074】
触媒A:
カリウム促進Zn/AlタイプのHTS触媒は、出願人の特許US7998897またはUS8404156の例1による触媒であり、ZnAl2O4(スピネル)およびZnOの粉末が、銅塩との共沈によりCuを含む。水銀圧入測定による細孔容積、錠剤密度(錠剤の質量を幾何学的容積で割ることにより測定)、およびICP法によるカリウム含有量、ならびに銅含有量は以下の通りである:細孔容積229ml/kg、錠剤密度1.8g/cm3、酸化された触媒の質量を基準として、K含有量:1.97質量%、Cu含有量:2.71質量%。
【0075】
パイロットプラントにおいて,凝縮水蒸気下での一連の起動が行われた。試験の開始時および各起動後に、35vol%(体積%)のH
2O、16vol%のCO、4vol%のCO
2、バランスH
2を含む混合ガスで、触媒をHTS条件にさらし、反応器は(疑似)断熱モードで作動した。反応器の長さに沿った温度の上昇は、添付図の触媒層の割合(%)に相当し、触媒活性を直接示すものである。
図1は、凝縮水蒸気下での最初の起動後、活性の低下はわずかであり、その後の試験でも活性は影響を受けていないことを示している。
【0076】
また、パイロットスタディにおいては、工業用凝縮の起動を再現した条件での凝縮蒸気の起動手順により、実質的な活動量の低下なしに約50回の起動が可能であることが示された。
【0077】
例2:
触媒B、C
また、本発明に従って、カリウム促進Zn/Al型の改良型HTS触媒も試験した。従って、出願人の特許US7998897またはUS8404156の例1に従って2つの触媒を調製し、ここでZnAl2O4(スピネル)およびZnOの粉末は、銅塩の共沈によって組み込まれたCuを含む。さらに、例えば、粉末出発触媒材料から錠剤(錠剤)にペレット化することで、例えば、触媒を焼成した後、K2CO3の溶液のようなアルカリ化合物を含む溶液で含浸させ圧縮することによって、ペレット化の前に、上記US7998897または上記US8404156の例1に開示されているように、潤滑剤、例えば、グラファイトと最終混合することによって、粒子の細孔容積は、本発明に従って、240、250ml/kgまたはそれ以上、例えば240~380ml/kgの範囲に調整された。したがって、US7998897またはUS8404156の例1のように、それぞれ1.8または2.1g/cm3の密度を有する触媒に粉末を圧縮する代わりに、本発明の圧縮は、意図的かつ驚くべきことに、より密度の低い錠剤を形成するために行われる。水銀圧入測定による細孔容積、錠剤の質量を幾何学的容積で単純に割った錠剤密度、ICP法で測定したカリウム含有量、および銅含有量は、以下の通りである:
【0078】
触媒B:細孔容積451ml/kg、錠剤密度1.4g/cm3、酸化された触媒の質量を基準として、K含有量:1.66質量%、Cu含有量:3.81質量%。
【0079】
触媒C:細孔容積320ml/kg、錠剤密度1.7g/cm3、酸化された触媒の質量を基準として、K含有量:3.80質量%、Cu含有量:3.56質量%。
【0080】
触媒BおよびCは、触媒Aよりも密度が低くなっているにも関わらず、前者の触媒の機械的強度は維持されており、触媒の性能を損なうことはない。触媒BおよびCは、工業的な凝縮の起動を再現した条件の凝縮蒸気中における起動手順により、これらの触媒は実質的な溶出がなく、したがって実質的な活性の低下がなく、100回を超える起動が得られる。
【0081】
以下の表2の追加のサンプルD~Iは、出願人のUS7998897の実施例1に従って製造され、Zn/Alモル比が0.6の粉末の単一バッチを、小型の手差し打錠機(いわゆるManesty機)で圧縮することによって製造した。同じ密度でより高い機械的強度は、ロータリープレスを備えたKilianRXマシンのような自動化されたフルスケール装置で打錠を行うことによって達成可能である。錠剤密度1.45~1.75g/cm3の場合、このような装置を用いて、SCSは50~100kp/cmの範囲、、ACSは300~750kp/cm2の範囲、PVは450-300ml/kgの範囲となり、Manesty機で同様の錠剤密度で製造した試料と同様の結果が得られた。ACSおよびSCSは、触媒の酸化された形態で測定される。さらに、上記の機械的強度は、ASTMD4179-11に基づいて測定される。
【0082】
【0083】
図2は、表2のデータの細孔容積(上部曲線)と機械的強度(ACSkp/cm
2またはSCSkp/cm)を示している。
図2から明らかなように、錠剤密度を低くすることで細孔容積(PV)を大きくすることができ、しかも低密度でも機械的強度が十分に高い(ACS、SCSともに)ことがわかる。例えば、1.25g/cm
3という低い密度でも、SCSは5kp/cm、あるいはACSは39kp/cm
2であり、高温触媒を使用した場合の機械的強度は十分である。
【0084】
例3:
カリウム促進Zn/AlタイプのHTS触媒は、例えば出願人の特許US7998897の例1による、銅を含まない触媒である。
図3は、380℃におけるCO変換に関し、触媒活性に対するアルカリ金属の効果、特にK、RbおよびCsの高い促進効果を示す。変換量は、エージングした触媒で測定した。エージングは、36時間以内に触媒を330℃から480℃まで上昇する温度にさらすことによって行われた。例えば、Kは非促進触媒に対して約4.5倍の活性向上を示し、RbとCsは非促進触媒に対して約4倍高い触媒活性をもたらす。
【0085】
図4は、アルカリ金属としてカリウムを用いた場合のCO変換を示したもので、驚くべきことに、特に1~6質量%または1~5質量%の範囲で高い促進効果を示している。カリウムを多く含む触媒、例えば約6質量%で運転することにより、Kの溶出があっても、実際には触媒活性の上昇をもたらすことになる。カリウムの含有量が例えば2.5~5質量%であれば、Kの溶出があっても触媒活性は維持または増加する。触媒は「アルカリバッファー」として機能し、それによって触媒活性が著しく損なわれることはない。例えば、カリウムを10%(相対)溶出させると、K含有量は4質量%Kから3.6質量%Kに減少するが、触媒活性は減少しない。実際、初期のカリウム含有量が5質量%の場合、10%(相対)の浸出で、4.5質量%のカリウムを含む触媒は5質量%のカリウムを含む触媒よりも活性が高いので、活性は増加する。この特徴は、本発明に従って高い細孔容積を提供することと組み合わせて、大きな機械強度と触媒活性の(もしあったとしても)実質的な損失を持たない驚くほど堅牢な水性ガスシフト触媒をもたらすことになる。
【国際調査報告】