(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ビスフェノールAを製造するための触媒システムおよびプロセス
(51)【国際特許分類】
B01J 31/26 20060101AFI20231124BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20231124BHJP
C07C 37/20 20060101ALI20231124BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
B01J31/26 Z
C07C39/16
C07C37/20
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528282
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 US2020060177
(87)【国際公開番号】W WO2022103394
(87)【国際公開日】2022-05-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507322344
【氏名又は名称】バジャー・ライセンシング・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス、マリアム サラザール
(72)【発明者】
【氏名】チー、チュンミン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA04
4G169AA09
4G169AA14
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA21C
4G169BA32A
4G169BA45A
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE01C
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4G169BE14C
4G169BE16C
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4G169BE22A
4G169BE22B
4G169BE22C
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE37C
4G169BE38C
4G169CB25
4G169CB62
4G169CB66
4G169DA05
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EC26
4G169EC28
4G169FC04
4H006AA02
4H006AC25
4H006BA36
4H006BA53
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA10
4H039CL25
(57)【要約】
【解決手段】記載されているのは、ビスフェノールAの製造に有用な触媒システムであり、この触媒システムは(a)有機スルホン酸基が化学結合した非晶質シリカを含み、3.5以下のpKa値を有する酸性不均一系触媒;および(b)少なくとも1つの有機硫黄含有化合物を含む触媒促進剤を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAの製造に有用な触媒システムであって、
(a)有機スルホン酸基が化学結合した非晶質シリカを含み、3.5以下のpKa値を有する酸性不均一系触媒;および
(b)少なくとも1つの有機硫黄含有化合物を含む触媒促進剤
を含む、触媒システム。
【請求項2】
前記非晶質シリカが個別のシリカ粒子を含む、請求項1に記載の触媒システム。
【請求項3】
前記非晶質シリカが、シリカ粒子を含む押出し成形物を含む、請求項1に記載の触媒システム。
【請求項4】
前記非晶質シリカがジルコニウムを実質的に含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項5】
前記酸性不均一系触媒が、以下の式:-R
1SO
3Hを有する有機スルホン酸基が結合した非晶質シリカを含み、この式で、R
1は8個までの炭素原子を有する、置換もしくは非置換のアルキル、アルケニルまたはアルキニル基であるか、または置換もしくは非置換のアリール基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項6】
R
1が、1~4個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項5に記載の触媒システム。
【請求項7】
R
1が、アルキル置換フェニル基であり、その中でアルキル部分が1~4個の炭素原子を有する、請求項5に記載の触媒システム。
【請求項8】
前記少なくとも1つの有機硫黄含有化合物が、アルキルメルカプタン、メルカプトカルボン酸、メルカプトスルホン酸、メルカプトアルキルピリジン、メルカプトアルキルアミン、チアゾリジンおよびアミノチオールから成る群から選ばれる、請求項1~7のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項9】
前記触媒促進剤が、前記非晶質シリカに化学結合されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項10】
前記触媒促進剤が、前記非晶質シリカから化学的または物理的に離れている、請求項1~8のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項11】
触媒システムの存在下に反応媒体中でアセトンとフェノールとの反応によってビスフェノールAを製造するプロセスであって、前記触媒システムが
(a)有機スルホン酸基が化学結合した非晶質シリカを含み、3.5以下のpKa値を有する酸性不均一系触媒;および
(b)少なくとも1つの有機硫黄含有化合物を含む触媒促進剤
を含む、プロセス。
【請求項12】
前記非晶質シリカが個別のシリカ粒子を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記非晶質シリカが、シリカ粒子を含む押出し成形物を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記非晶質シリカがジルコニウムを実質的に含まない、請求項11~13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記酸性不均一系触媒が、以下の式:-R
1SO
3Hを有する有機スルホン酸基が結合した非晶質シリカを含み、この式で、R
1は8個までの炭素原子を有する、置換もしくは非置換のアルキル、アルケニルまたはアルキニル基であるか、または置換もしくは非置換のアリール基である、請求項11~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
R
1が、1~4個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
R
1が、アルキル置換フェニル基であり、その中でアルキル部分が1~4個の炭素原子を有する、請求項15に記載のプロセス。
【請求項18】
前記少なくとも1つの有機硫黄含有化合物が、アルキルメルカプタン、メルカプトカルボン酸、メルカプトスルホン酸、メルカプトアルキルピリジン、メルカプトアルキルアミン、チアゾリジンおよびアミノチオールから成る群から選ばれる、請求項11~17のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記触媒促進剤が、前記非晶質シリカに化学結合されている、請求項11~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記触媒促進剤が、前記非晶質シリカから化学的または物理的に離れている、請求項11~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスフェノールAを製造するための触媒システムおよびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールA(BPA)は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンまたはパラ,パラ-ジフェニロールプロパン(p,p-BPA)とも呼ばれ、ポリカーボネート、他のエンジニアリング熱可塑性樹脂およびエポキシ樹脂を製造するために使用される商業的に重要な前駆体である。ポリカーボネートの用途では、最終製品用途における光学的透明性および色に対する厳しい要件があるため、特に高純度のBPAが要求される。
【0003】
BPAは、アセトンとフェノールとの縮合反応によって商業的に生産され、実際上、BPAの生産はフェノールの最大の消費先である。その反応は、均一系の強酸、たとえば塩酸、硫酸またはトルエンスルホン酸の存在下に、あるいは不均一系酸触媒、たとえばスルホン化イオン交換樹脂の存在下に行われてもよい。近年、酸性イオン交換樹脂(IER)が、ビスフェノールの製造における縮合反応用触媒として圧倒的に選択されるようになった。特に有用なIERは、スルホン化ポリスチレンイオン交換樹脂であり、その中でスルホン酸基はポリスチレン樹脂骨格に化学結合されている。ある場合には、有機メルカプト基、たとえばメルカプトアルキルアミンもまた、共触媒としてポリスチレン樹脂骨格に化学結合されている(たとえば、米国特許6,051,658を参照せよ。)。他の場合には、有機メルカプタン、たとえばメチルまたはエチルメルカプタン、あるいはメルカプトカルボン酸、たとえば3-メルカプトプロピオン酸が、IER触媒から離れてBPA反応混合物中を自由に循環している。
【0004】
ビスフェノールの製造に広く適用されているにもかかわらず、IERに基いた触媒には、多くの欠点がある。たとえば、IERは、脱スルホンまたは触媒の劣化を防ぐために限定された温度範囲で操業に供されている。カチオン交換樹脂は、化学的な環境に応じて膨潤しまた収縮することもよく知られている。BPAプロセスは、樹脂容積の変化およびその不十分な機械的耐性に適合するように設計され、したがって、上向流床のリアクターが通常使用される。IERの低い構造的一体性は、IERの細孔サイズ、活性部位へのアクセス可能性および活性を制御するために必要とされる、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー中の低い架橋度またはジビニルベンゼンの低い含有量の結果である。IERの低い架橋レベルは、圧縮度値の増加をもたらし、これはリアクター中の触媒床を通るときの圧力損失を増加させる一因となることがあり、これは最終的にBPAの生産量を制限する。IERは、低い構造的一体性を示すだけでなく、またスルホン酸基の浸出による低い化学的一体性をも示す。浸出した酸の存在はBPA製品の純度に悪影響を及ぼすので、過剰の酸はBPAリアクターのスタートアップの際に除去され、酸の濃度は操業の間監視される。
【0005】
したがって、ビスフェノールAを製造するための改善された触媒システムおよびプロセスの開発に、大きい関心が寄せられている。
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、有機スルホン酸基がシリカ骨格に結合された官能化シリカ触媒が、IER触媒よりも高い転化率およびp,p-BPAへのより高い選択率を提供することが、今見い出された。ポリマーに基いた材料と比較した官能化シリカのさらなる利点は、その剛直な構造であり、これは熱的または化学的劣化を防止する。官能化シリカ触媒は、化学的環境、温度および圧力とは無関係に、規定の細孔構造および一定の容積を示す。この細孔構造は、触媒の調製の際に調整されて、表面積、細孔サイズおよび容積、粒子の形態およびサイズ、ならびに化学的表面などの特性が制御されることができる。
【0007】
したがって、1つの様相では、本発明は、ビスフェノールAの製造に有用な触媒システムであり、これは以下のものを含む:
(a)有機スルホン酸基が化学結合した非晶質シリカを含み、3.5以下のpKa値を有する酸性不均一系触媒;および
(b)少なくとも1つの有機硫黄含有化合物を含む触媒促進剤。
【0008】
さらなる様相では、本発明は、触媒システムの存在下に反応媒体中でアセトンとフェノールとの反応によってビスフェノールAを製造するプロセスであり、この触媒システムは以下のものを含む:
(a)有機スルホン酸基が化学結合した非晶質シリカを含み、3.5以下のpKa値を有する酸性不均一系触媒;および
(b)少なくとも1つの有機硫黄含有化合物を含む触媒促進剤。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1のプロセスによるフェノールとアセトンとの縮合反応における市販のイオン交換樹脂(Purolite(商標)CT-122)、アルキルスルホン酸シリカおよびアリールスルホン酸シリカについてのアセトン転化率に対するp,p-BPA選択率のグラフである。
【0010】
【
図2】実施例2のプロセスによるフェノールとアセトンとの縮合反応におけるPurolite(商標)CT-122およびアリールスルホン酸シリカについての温度に対するBPA選択率のグラフである。
【0011】
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、イオン交換樹脂Purolite(商標)CT-122およびアリールスルホン酸シリカについての実施例3の酸浸出試験の結果を示すグラフである。
【0012】
【
図4】イオン交換樹脂Purolite(商標)CT-122およびアリールスルホン酸シリカについての実施例4の熱重量分析(TGA)試験の結果を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載されているのは、(a)有機スルホン酸基が化学結合した非晶質シリカを含み、3.5以下のpKa値を有する酸性不均一系触媒;および(b)少なくとも1つの有機硫黄含有化合物を含む触媒促進剤、を含む触媒システムである。また、本明細書に記載されているのは、ポリフェノールを生産するためのカルボニル化合物とフェノール化合物との縮合、とりわけビスフェノールA(BPA)を生産するためのフェノールとアセトンとの縮合などの縮合反応への同触媒システムの使用である。
【0014】
本明細書に引用されるpKa値は、40グラムのNaCl/水溶液(2.5重量%)中0.15gの触媒分散液を使用して滴定によって測定される。得られたスラリーは、最小でも4時間撹拌下に置かれる。その後、滴定がNaOH溶液(0.1~0.01N)を使用して行われる。pKaは滴定曲線の半分の滴定点で決定される。この点では塩基と酸の濃度は等しく、したがって、pKaはpHと等価である。少なくとも3個の滴定が各試料について実施され、3個のpKa値の平均がミリ当量/g単位で報告される。
酸性不均一系触媒
【0015】
本触媒システムで使用される酸性不均一系触媒は、この触媒が3.5以下のpKa値を有するように、有機スルホン酸基で官能化された非晶質シリカを含む。非晶質シリカはシリカ粒子を、好都合には、フリーランニング粉体(すなわち、その中でシリカ粒子は物理的に個別に分かれている。)の形態で、あるいはシリカ粒子がバインダーの援助でまたは援助なしで一緒に複合化された押出し成形物などの成形された物体の形態で含む。いくつかの実施形態では、非晶質シリカは、ジルコニウムを実質的に含まず、その結果、たとえば非晶質シリカは1重量%未満の、たとえば0.5重量%未満の、たとえば0.05重量%未満の、好ましくは測定可能ではない量のジルコニウムを含む。
【0016】
本明細書で使用される用語「非晶質」は、その一般に受け入れられている意味で使用され、X線回折パターンに1つ以上の強いピークを生じさせるような長い範囲の秩序を欠いていることを意味する。
【0017】
非晶質シリカは、以下の式:-R1SO3Hを有する1つ以上の有機スルホン酸基で官能化されていてもよく、この式で、R1はシリカに化学結合しており、好ましくは8個までの炭素原子を有する置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アルキニル基を含むか、または置換もしくは非置換のアリール基である。いくつかの実施形態では、R1は、アルキル基、たとえば1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、そのような官能化されたシリカはまた、本明細書ではアルキルスルホン酸シリカとも呼ばれる。他の実施形態では、R1は、アリール基、たとえばアルキル置換フェニル基であり、その中でアルキル部分は1~4個の炭素原子を有し、そのような官能化されたシリカはまた、本明細書ではアリールスルホン酸シリカとも呼ばれる。3.5以下の必要なpKa値を有する適当な有機スルホン酸官能化シリカ化合物の非限定的な例としては、メタンスルホン酸シリカ、エタンスルホン酸シリカ、プロパンスルホン酸シリカ、ブタンスルホン酸シリカ、ベンゼンスルホン酸シリカ、エチルベンゼンスルホン酸シリカ、ビニルベンゼンスルホン酸シリカ、プロピルベンゼンスルホン酸シリカ、ブチルベンゼンスルホン酸シリカが挙げられる。
【0018】
3.5以下のpKa値を有する多くの有機スルホン酸官能化シリカ化合物が市販で入手可能である。さらに、3.5以下のpKa値を有する有機スルホン酸官能化シリカ化合物の合成方法は周知である。典型的な方法としては、(a)シリカ支持体上のシラノールと、チオール基を含有するアルコキシシラン、たとえば3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)と、の反応による既存のシリカ支持体のポスト官能化;および(b)チオール基を含有するアルコキシシラン、たとえばMPTMSと、ケイ素源、通常にはシロキサン前駆体(たとえば、テトラエチルオルトシリケート、TEOSまたはテトラメチルオルトシリケート、TMOS)と、の共縮合、が挙げられる。官能化シリカの製造の最終工程は、酸化剤、たとえばH2O2を使用することによるチオール基のスルホン酸への酸化である。
有機硫黄促進剤
【0019】
本発明の触媒システムはまた、少なくとも1個の有機硫黄含有促進剤を含み、これは一般に少なくとも1個のチオール、S-H、基を含む。そのような促進剤は、不均一系触媒にイオン結合されるか、あるいは共有結合され、または不均一系触媒に結合されずに縮合反応に別個に添加される。結合された促進剤の非限定的な例としては、メルカプトアルキルピリジン、メルカプトアルキルアミン、チアゾリジンおよびアミノチオールが挙げられる。非結合促進剤の非限定的な例としては、アルキルメルカプタン、たとえばメチルメルカプタン(MeSH)およびエチルメルカプタン、メルカプトカルボン酸、たとえばメルカプトプロピオン酸、およびメルカプトスルホン酸が挙げられる。
【0020】
触媒システムで使用される有機硫黄含有促進剤の量は、特定の使用される酸性不均一系触媒および触媒されるべき縮合プロセスに依存する。しかしながら、有機硫黄含有促進剤は一般に、酸触媒中のスルホン基に基いて、2~30モル%、たとえば5~20モル%の量で使用される。
縮合反応での触媒システムの使用
【0021】
上記された触媒システムは、縮合反応、特にポリフェノール製品を製造するためのカルボニル化合物反応物とフェノール化合物反応物との間の縮合反応に活性を有することが見出されている。適当なカルボニル化合物の例は、以下の式:
【化1】
によって表される化合物であり、
この式で、Rは、水素または脂肪族、脂環式、芳香族または複素環の基を表し、これらの基は、飽和または不飽和の炭化水素基、たとえば、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、アルカリールを含み;nは、0超、好ましくは1から3、より好ましくは1~2、最も好ましくは1であり;nが1超である場合、Xは、結合、または1から14個の炭素原子、好ましくは1から6個の炭素原子、より好ましくは1から4個の炭素原子を有する多価連結基であり;nが1である場合、Xは水素または脂肪族、脂環式、芳香族または複素環の基を表し、これらの基は、飽和または不飽和の炭化水素基、たとえば、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、アルカリールを含み、但し、XとRが両方とも水素である場合を除く。
【0022】
本発明での使用に適したカルボニル化合物としては、アルデヒドおよびケトンが挙げられる。これらの化合物は一般に3から14個の炭素原子を含んでおり、好ましくは脂肪族のケトンである。適当なカルボニル化合物の例としては、ケトン、たとえばアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジブチルケトン、イソブチルメチルケトン、アセトフェノン、メチルおよびアミルケトン、シクロヘキサノン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、シクロペンタノン、1,3-ジクロロアセトン等が挙げられる。最も好ましいのはアセトンである。
【0023】
カルボニル化合物はフェノール化合物と反応させられる。フェノール化合物は、少なくとも1個のヒドロキシル基が直接結合された芳香核を含有する芳香族化合物である。本発明での使用に適したフェノール化合物としては、フェノール芳香核に直接結合された少なくとも1個の置換可能な水素原子を含んでいるフェノールおよびフェノールの同族体および置換生成物が挙げられる。水素原子を置換しかつ芳香核に直接結合されたそのような基としては、ハロゲン基、たとえば塩化物および臭化物、ならびに炭化水素基、たとえばアルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリールおよびアラルキル基が挙げられる。適当なフェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、カルバクロール、クメノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2,4-ジメチル-3-エチルフェノール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、o-t-ブチルフェノール、2,5-キシレノール、2,5-ジ-t-ブチルフェノール、o-フェニルフェノール、4-エチルフェノール、2-エチル-4-メチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-4-ターシャリブチルフェノール、2-ターシャリブチル-4-メチルフェノール、2,3,5,6-テトラメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジターシャリブチルフェノール、3,5-ジメチルフェノール、2-メチル-3,5-ジエチルフェノール、o-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、ナフトール、フェナントロール等が挙げられる。最も好ましいのはフェノールを含む組成物である。上記のいずれかの混合物が使用されてもよい。
【0024】
上記のものは、本発明を制限するのではなく、望ましいポリフェノールを作ることが当該技術分野で知られておりそのために当業者が他の同様の反応物を代りに使用することができるカルボニル化合物およびフェノール化合物の代表的な例を例示することが目的である。
【0025】
ポリフェノールの調製においては、カルボニル化合物反応物に対してフェノール化合物反応物が過剰であることが通常望ましい。一般に、カルボニル化合物1モル当たりフェノール化合物が少なくとも約2モル、好ましくは約4~約25モルが、カルボニル化合物の高い転化率のために望ましい。溶媒または希釈剤は、低温度の場合以外はポリフェノールの製造のための本発明のプロセスでは必要でない。
【0026】
本プロセスにおいてフェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応によって得られるポリフェノール化合物は、アルキル基中の同じ単一の炭素原子との炭素-炭素結合によって少なくとも2個のフェノール基の核が直接結合している化合物である。ポリフェノール化合物の例示となる非制限的な例は、以下の式によって表され:
【化2】
この式で、R
1およびR
2は、それぞれ独立して1価の有機基を表す。そのような基の例としては、炭化水素基、たとえば脂肪族、脂環式、芳香族または複素環、より具体的には、炭化水素基、たとえば、置換または非置換の、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキルまたはアルカリールが挙げられる。好ましくは、R
1およびR
2は、それぞれ独立して1~2個の炭素原子を有するアルキル基を表す。最も好ましくは、ポリフェノール化合物は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールA(BPA)を含む。
【0027】
上記の縮合反応を達成するために使用される反応条件は、選択された、フェノール化合物、溶媒、カルボニル化合物および縮合触媒の種類に依存して変わるだろう。一般に、フェノール化合物およびカルボニル化合物は、バッチあるいは連続様式のいずれかの反応容器の中で、約20℃~約130℃、好ましくは約50℃~約90℃の範囲の温度で反応させられる。
【0028】
圧力条件は、特に制限されておらず、反応は大気圧、大気圧未満または大気圧超で進められてもよい。しかし、外部からどのような圧力も導入しないで、あるいは反応混合物に触媒床を横断させるのに、または竪型反応器の上流に反応混合物を送り上げるのに、または反応がいずれかの成分の沸点超の温度で行われる場合に反応容器の内容物を液体状態に維持するのに、十分な圧力で反応を行うことが好ましい。圧力および温度は、反応ゾーンにおいて反応物を液相に保持する条件の下に設定されるべきである。温度は130℃を超えてもよいが、反応容器中の成分のいずれかを劣化させるほど高くあるべきではないし、また、反応生成物を劣化させるほど、または実質的な量の望ましくない副生成物の合成を促進するほど高くあるべきではない。
【0029】
反応物は、カルボニル化合物に対してモル過剰のフェノール化合物であることを確実にする条件の下で反応ゾーンの中に導入される。好ましくは、フェノール化合物は、カルボニル化合物に対して実質的にモル過剰で反応させられる。たとえば、フェノール化合物とカルボニル化合物とのモル比は、好ましくは少なくとも約2:1、より好ましくは少なくとも約4:1、また約25:1までである。
【0030】
非結合チオール促進剤がメチルメルカプタンであり、またカルボニル化合物がアセトンである場合に、2,2-ビス(メチルチオ)プロパン(BMTP)が酸性触媒の存在下に生成される。加水分解剤が存在すると、BMTPは反応ゾーンの中でメチルメルカプタンおよびアセトンに解離し、そのときにアセトンがフェノールと縮合してBPAが生成される。便利な加水分解剤は水であり、それは投入供給原料のいずれか中に導入され、反応ゾーンの中に直接導入され、またはカルボニル化合物とフェノール化合物との間の縮合反応によってその場で生成されてもよい。約1:1~約5:1の範囲の水とBMTP触媒促進剤とのモル比は、BMTP触媒促進剤を適切に加水分解するのに十分である。この量の水は、典型的な反応条件の下でその場で生成される。したがって、追加の水が反応ゾーンの中に導入される必要はないが、所望であれば、水が任意的に添加されてもよい。
【0031】
任意の適当なリアクターが反応ゾーンとして使用されてもよい。反応は、単一のリアクターまたは直列もしくは平列に接続された複数のリアクターで行われることができる。リアクターは逆混合または栓流リアクターであることができ、反応は連続またはバッチ様式で行われることができ、またリアクターは上向きまたは下向き流れを生成する方向に置かれることができる。固定床流通システムの場合には、リアクターに供給される原料混合物の液体空間速度は、通常0.2~50時-1である。懸濁床バッチシステムの場合には、使用される強酸性イオン交換樹脂の量は、反応温度および圧力に応じて変わり得るけれども、通常、原料混合物に基いて20~100重量%である。反応時間は通常0.5~5時間である。
【0032】
当業者に知られた任意の方法が、ポリフェノール化合物を回収するために使用されてもよい。しかし、一般に、反応ゾーンからの粗反応混合物流出物は、セパレーター、たとえば蒸留塔に供給される。ポリフェノール製品、ポリフェノール異性体、未反応フェノール化合物および少量の様々な不純物は、セパレーターから塔底生成物として取り出される。この塔底生成物はさらなるセパレーターに供給されてもよい。晶析法がポリフェノールを分離する通常の方法であるけれども、母液からポリフェノールを分離する任意の知られた方法が、ポリフェノール製品の所望の純度に応じて使用されることができる。分離された後、フェノールおよびポリフェノール異性体を含む母液は、反応ゾーンに反応物として戻されてもよい。
【0033】
本発明は、以下の非制限的な実施例および添付の図面を参照してこれからより詳細に記載される。
【実施例1】
【0034】
8重量%のBPA、85.5重量%のフェノール、5重量%のアセトン、1重量%の硫黄促進剤および0.5重量%の水の混合物の別個のサンプルが、75℃で以下の触媒と接触させられた:
(a)市販のイオン交換樹脂(IER)、Purolite(商標)CT-122 MR8-711;
(b)プロパンスルホン酸シリカ[本明細書ではアルキルスルホン酸シリカとも呼ばれる。];および
(c)エチルベンゼンスルホン酸シリカ(pKa=3.4)[本明細書ではアリールスルホン酸シリカとも呼ばれる。]。
【0035】
プロパンスルホン酸シリカおよびエチルベンゼンスルホン酸シリカの両方とも、Silicycle社によって供給されたままで使用された。
【0036】
各試験では、使用された触媒の量は5.17ミリ当量の酸容量と等価であった。
【0037】
硫黄促進剤は2,2-ビス(メチルチオ)プロパンとして添加され、それは反応混合物中で1重量%のメタンチオール(CH3SH)に達するのに十分な量で添加された。
【0038】
アセトン転化率の関数としてBPA生成への触媒の選択率が
図1に示され、これから、Purolite(商標)CT-122は、試験されたアセトン転化率レベル(50%~100%転化率)の範囲にわたって約92.4%のp,p-BPAの選択率を示したのに対して、有機スルホン酸シリカは両方ともアセトン転化率レベルの同じような範囲にわたって94%超のp,p-BPAの選択率を示したことが分かる。
【0039】
0.75時間後の官能化触媒(アルキルおよびアリールスルホン酸シリカ)およびイオン交換樹脂の相対反応速度および選択率が、表1に示される。
【表1】
【0040】
表1から、アセトン反応速度が以下の順に減少することが分かる:アリールスルホン酸>アルキルスルホン酸>IER。リアクターには同じ数の酸性部位が充填されていることを考慮すると、アリールスルホン酸シリカはイオン交換樹脂よりも1.7倍活性が大きいことが分かる。また、
図1および表1から、選択率は官能基の種類に依存しており、官能基の種類に関しては、アルキルスルホン酸シリカはアリールスルホン酸シリカよりもp,p-BPAの生成に対して大きい選択率を示すことが分かる。下流の精製プロセスの資本および操業コストが低減できるので、高いp,p-BPA選択率が望ましい。
【実施例2】
【0041】
実施例1のプロセスが、イオン交換樹脂およびアリールスルホン酸シリカ触媒を用いて、70~95℃の範囲にわたって様々な温度で繰り返された。その結果が
図2に示される。予想通り、温度が増加するにつれて活性は増加し、選択率は減少する。
図2に示されたように、反応温度が20℃増加するとイオン交換樹脂では4.3%の選択率の低下が認められるのに対して、同じ温度の増加の場合、スルホン酸シリカは2.3%だけの選択率の低下を示す。このことは、スルホン酸シリカが従来の樹脂触媒よりも反応温度の変化にそれほど敏感ではないことを示している。
【実施例3】
【0042】
この実施例では、イオン交換樹脂(Purolite(商標)CT-122)触媒とアリールスルホン酸シリカ(エチルベンゼンスルホン酸シリカ)触媒との、酸浸出に対する耐性が比較された。酸浸出試験は、乾燥触媒を1重量%水/99重量%フェノールと混合し85℃に保持することを含んでいた。特定のいくつかの時間に上澄み液が取り出され0.01NのNaOHで滴定された。結果が
図3(a)および3(b)に示されており、イオン交換樹脂では浸出速度が大きく、数回の浸出手順の後に一定の速度に達することが明らかになった。他方において、水-フェノール混合物は、アリールスルホン酸シリカ触媒の滴定曲線と同じような滴定曲線を示す。このことから、スルホン酸シリカ触媒では浸出する酸は存在しないと結論付けられた。
【実施例4】
【0043】
この実施例では、熱重量分析が使用されて、アリールスルホン酸シリカ官能化触媒の熱安定性がイオン交換樹脂と比較して決定された。この試験では、各触媒は最初に真空下60℃で加熱されて吸着水が除去され、次に触媒上に20mL/分の窒素を通しながら、5℃/分の傾斜速度で950℃に加熱された。TGAサーモグラムが
図4に示される。スルホン酸基は2段階で分解された、すなわち1段階目は低温度で、2段階目はより高い温度で分解されており、分解はスルホン基の化学種の種類およびそれの支持体との相互作用に依存するようである。スルホン基の分解は、IERでは285℃で、アリールスルホン酸シリカでは462℃で始まる。より高い分解開始温度は、スルホン酸シリカがイオン交換樹脂よりも安定であるということを明示している。
【0044】
本発明が特定の実施形態を参照して説明され例示されてきたが、当業者は、本発明が必ずしもここに図示されていない変形に対しても適していることを理解するであろう。このため、本発明の真の範囲を決定するためには、添付の特許請求の範囲のみが参照されるべきである。
【国際調査報告】