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特表2023-550367治療用タンパク質開発のための、自動反復LC-MS/MS(HCP-AIMS)による宿主細胞タンパク質不純物の偏りのない高スループット同定及び定量方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】治療用タンパク質開発のための、自動反復LC-MS/MS(HCP-AIMS)による宿主細胞タンパク質不純物の偏りのない高スループット同定及び定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20231124BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20231124BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20231124BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20231124BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20231124BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N33/68
G01N30/72 C
G01N30/88 J
C07K14/47
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529088
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 US2021059642
(87)【国際公開番号】W WO2022108981
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】63/114,746
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】チウ ハイボー
(72)【発明者】
【氏名】ファン ユー
(72)【発明者】
【氏名】フー メンチー
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA12
2G041JA13
2G041KA03
2G045AA40
2G045CB01
2G045DA36
2G045FA33
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS17
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045AA40
4H045AA50
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
本開示は、概して、治療用タンパク質開発において宿主細胞タンパク質(HCP)を同定及び定量する方法に関する。具体的には、本発明は、概して、治療用タンパク質開発における、HCPの偏りのない同定及び高感度定量のための液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)の方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも1つの宿主細胞タンパク質(HCP)を同定するための方法であって、
前記試料が、前記少なくとも1つのHCP及び少なくとも別のタンパク質を有し、
前記方法が、
(a)クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、前記試料をクロマトグラフィーカラムに供する工程と;
(b)前記(a)のクロマトグラフィー溶出ピークにわたってデータ依存性取得サイクルを含むタンデム質量分析を実施する工程であって、前記データ依存性取得サイクルが、
(i)質量スペクトルスキャンを得ることと、
(ii)得られた前記質量スペクトルスキャンから、自動除外セットとして複数の前駆体イオンを選択することと、
(iii)前記自動除外セットに設定された前記複数の前駆体イオンを除外した後、第2の質量スペクトルスキャンを得ることと
を含む、前記実施する工程と;
(c)前記少なくとも1つのHCPを同定するために、前記取得サイクルが所定の回数実行された後、前記得られた質量スペクトルスキャンを使用する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記サイクルの所定の数が、1、2、3、4サイクル、又はそれ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための質量誤差許容値が、約15ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための保持時間許容値が、約-0.2分~約+0.4分である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記自動除外セットが、少なくとも1つのバックグラウンドイオンも含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記自動除外セットが、取得された前記質量スペクトルスキャンからのものではない少なくとも1つの追加の前駆体イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
取得された質量スペクトルからの前駆体イオンが、それらが所定の強度閾値を下回る場合、前記自動除外セットに追加されない、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
試料調製が、直接消化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
試料調製が、天然消化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
試料調製が、免疫沈降を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
試料調製が、活性ベースタンパク質プロファイリングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
試料調製が、分画を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
試料調製が、濾過を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
クロマトグラフィーステップが、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記試料が、関心対象のタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記関心対象のタンパク質の濃度が、同定された前記少なくとも1つのHCPの濃度よりも少なくとも1000倍、少なくとも10,000倍、少なくとも100,000倍、又は少なくとも1,000,000倍高い、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記関心対象のタンパク質が、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、融合タンパク質、又は薬物である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり、前記質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
試料中の少なくとも1つの宿主細胞タンパク質(HCP)を定量するための方法であって、
前記試料が、前記少なくとも1つのHCP及び少なくとも別のタンパク質を有し、
前記方法が、
(a)クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、前記試料をクロマトグラフィーカラムに供する工程と;
(b)前記(a)のクロマトグラフィー溶出ピークにわたってデータ依存性取得サイクルを含むタンデム質量分析を実施する工程であって、前記データ依存性取得サイクルが、
(i)質量スペクトルスキャンを得ることと、
(ii)得られた前記質量スペクトルスキャンから、自動除外セットとして複数の前駆体イオンを選択することと、
(iii)前記自動除外セットに設定された前記複数の前駆体イオンを除外した後、第2の質量スペクトルスキャンを得ることと
を含む、前記実施する工程と;
(c)前記少なくとも1つのHCPを定量するために、前記取得サイクルが所定の回数実行された後、前記得られた質量スペクトルスキャンを使用する工程と
を含む、方法。
【請求項20】
前記サイクルの所定の数が、1、2、3、4サイクル、又はそれ以上である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための質量誤差許容値が、約15ppmである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための保持時間許容値が、約-0.2分~約+0.4分である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記自動除外セットが、少なくとも1つのバックグラウンドイオンも含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記自動除外セットが、取得された前記質量スペクトルスキャンからのものではない少なくとも1つの追加の前駆体イオンを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
取得された質量スペクトルからの前駆体イオンが、それらが所定の強度閾値を下回る場合、前記自動除外セットに追加されない、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
試料調製が、直接消化を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
試料調製が、天然消化を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
試料調製が、免疫沈降を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
試料調製が、活性ベースタンパク質プロファイリングを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
試料調製が、分画を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
試料調製が、濾過を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項32】
クロマトグラフィーステップが、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
前記試料が、関心対象のタンパク質を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項34】
前記関心対象のタンパク質の濃度が、同定された前記少なくとも1つのHCPの濃度よりも少なくとも1000倍、少なくとも10,000倍、少なくとも100,000倍、又は少なくとも1,000,000倍高い、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記関心対象のタンパク質が、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、融合タンパク質、又は薬物である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり、前記質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年11月17日に出願された米国仮特許出願第63/114,746号の優先権及び利益を主張するものであり、この仮特許出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、概して、治療用タンパク質開発において宿主細胞タンパク質(HCP)を同定及び定量する方法に関する。具体的には、本発明は、概して、治療用タンパク質開発におけるHCPの同定及び高感度定量のための液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
残留宿主細胞タンパク質(HCP)の存在は、バイオ医薬品に関する潜在的な安全性リスク及び製造における問題を引き起こし得る。組換えDNA技術は、宿主細胞でバイオ医薬品を生成するために広く使用されてきたため、高純度を有するバイオ医薬品を得るために不純物を除去する必要がある。精製バイオプロセスを実施した後のいかなる残留不純物も、臨床試験を実施する前には、許容可能な低レベルであるべきである。具体的には、哺乳動物発現系、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する残留HCPは、製品の安全性、品質、及び安定性を損なう可能性がある。微量の特定のHCPであっても、時に、免疫原性応答又は望ましくない修飾を引き起こす可能性がある。したがって、医薬品中及び製造プロセス中の宿主細胞タンパク質は、監視される必要がある。
【0004】
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)は、プロセス開発及び分析的特性評価におけるHCP不純物を監視するための強力な方法として浮上している。しかしながら、試料調製及びLC-MS/MS方法論の複雑さの差に起因して、高速で偏りのないHCPの同定を提供し得る質量分析ベースの方法と、詳細で高感度なタンパク質同定又は正確なタンパク質定量との間には、通常、トレードオフが存在する。
【0005】
安全性リスクを軽減し、品質を最適化するために、医薬品中のHCPを堅牢かつ偏りのない方式で同定及び定量する方法に対する必要性が存在することが理解されるであろう。
【発明の概要】
【0006】
概要
HCP不純物の許容可能なレベルを定義することは、バイオ医薬品を製造するために生物学的処理システムを使用するための重要な課題となっている。治療用タンパク質製品の安全性及び品質を最適化するために、残留HCP不純物を同定及び特性評価する必要性がある。本出願は、HCP不純物を堅牢に同定及び定量する方法を提供する。
【0007】
本開示は、少なくとも1つの宿主細胞タンパク質(HCP)及び少なくとも別のタンパク質を有する試料中の、少なくとも1つのHCPを同定するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、方法は、(a)クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、試料をクロマトグラフィーカラムに供する工程と;(b)クロマトグラフィー溶出ピークにわたってデータ依存性取得サイクルを実施することによってタンデム質量分析を実施する工程であって、データ依存性取得サイクルが、(i)質量スペクトルスキャンを得ることと、(ii)取得された質量スペクトルスキャンから、自動除外セットとして複数の前駆体イオンを選択することと、(iii)自動除外セットに設定された複数の前駆体イオンを除外した後、第2の質量スペクトルスキャンを得ることと、を含む、前記実施する工程と;(c)少なくとも1つのHCPを同定するために、取得サイクルが所定の回数実行された後、得られた質量スペクトルスキャンを使用する工程と、を含む。
【0008】
一態様では、当該サイクルの所定の数が、1、2、3、4サイクル、又はそれ以上である。別の態様では、自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための質量誤差許容値が、約15ppmである。別の態様では、自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための保持時間許容値が、約-0.2分~約+0.4分である。別の態様では、自動除外セットが、少なくとも1つのバックグラウンドイオンも含む。更に別の態様では、自動除外セットが、取得された質量スペクトルスキャンからのものではない少なくとも1つの追加の前駆体イオンを含む。更に別の態様では、取得された質量スペクトルからの前駆体イオンは、それらが所定の強度閾値を下回る場合、自動除外セットに追加されない。
【0009】
一態様では、試料が、直接消化を使用して調製される。別の態様では、試料が、天然消化を使用して調製される。別の態様では、試料が、免疫沈降を使用して調製される。更に別の態様では、試料が、活性ベースタンパク質プロファイリングを使用して調製される。別の態様では、試料が、分画を使用して調製される。別の態様では、試料が、濾過を使用して調製される。
【0010】
一態様では、クロマトグラフィーカラムが、逆相液体カラム、イオン交換カラム、サイズ排除カラム、親和性カラム、疎水性相互作用カラム、親水性相互作用カラム、混合モードカラム、又はそれらの組み合わせを含む。
【0011】
一態様では、試料が、関心対象のタンパク質を含む。特定の態様では、関心対象のタンパク質の濃度が、少なくとも1つの同定されたHCPの濃度よりも少なくとも1000倍、少なくとも10,000倍、少なくとも100,000倍、又は少なくとも1,000,000倍高い。更に別の特定の態様では、関心対象のタンパク質が、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、融合タンパク質、又は薬物である。
【0012】
一態様では、質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり、質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている。特定の態様では、LC-MS/MSシステムが、高電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)と結合される。
【0013】
本開示はまた、少なくとも1つの宿主細胞タンパク質(HCP)及び少なくとも別のタンパク質を有する試料中の、少なくとも1つのHCPを定量するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、方法は、(a)クロマトグラフィー溶出ピークを得るために、試料をクロマトグラフィーカラムに供する工程と;(b)クロマトグラフィー溶出ピークにわたってデータ依存性取得サイクルを実施することによってタンデム質量分析を実施する工程であって、データ依存性取得サイクルが、(i)質量スペクトルスキャンを得ることと、(ii)取得された質量スペクトルスキャンから、自動除外セットとして複数の前駆体イオンを選択することと、(iii)自動除外セットに設定された複数の前駆体イオンを除外した後、第2の質量スペクトルスキャンを得ることと、を含む、前記実施する工程と;(c)少なくとも1つのHCPを定量するために、取得サイクルが所定の回数実行された後、得られた質量スペクトルスキャンを使用する工程と、を含む。
【0014】
一態様では、当該サイクルの所定の数が、1、2、3、4サイクル、又はそれ以上である。別の態様では、自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための質量誤差許容値が、約15ppmである。別の態様では、自動除外セットのための前駆体イオンを選択するための保持時間許容値が、約-0.2分~約+0.4分である。別の態様では、自動除外セットが、少なくとも1つのバックグラウンドイオンも含む。更に別の態様では、自動除外セットが、取得された質量スペクトルスキャンからのものではない少なくとも1つの追加の前駆体イオンを含む。更に別の態様では、取得された質量スペクトルからの前駆体イオンは、それらが所定の強度閾値を下回る場合、自動除外セットに追加されない。
【0015】
一態様では、試料が、直接消化を使用して調製される。別の態様では、試料が、天然消化を使用して調製される。別の態様では、試料が、免疫沈降を使用して調製される。更に別の態様では、試料が、活性ベースタンパク質プロファイリングを使用して調製される。別の態様では、試料が、分画を使用して調製される。別の態様では、試料が、濾過を使用して調製される。
【0016】
一態様では、クロマトグラフィーカラムが、逆相液体カラム、イオン交換カラム、サイズ排除カラム、親和性カラム、疎水性相互作用カラム、親水性相互作用カラム、混合モードカラム、又はそれらの組み合わせを含む。
【0017】
一態様では、試料が、関心対象のタンパク質を含む。特定の態様では、関心対象のタンパク質の濃度が、少なくとも1つの定量されたHCPの濃度よりも少なくとも1000倍、少なくとも10,000倍、少なくとも100,000倍、又は少なくとも1,000,000倍高い。更に別の特定の態様では、関心対象のタンパク質が、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物複合体、融合タンパク質、又は薬物である。
【0018】
一態様では、質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり、質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結されている。特定の態様では、LC-MS/MSシステムが、高電界非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)と結合される。
【0019】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮される場合、よりよく認識され、理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態及び多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例示として与えられる。多くの置換、修正、追加、又は再配置が、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】他の高存在量イオンの存在に起因するイオン信号強度の干渉を例示する抽出イオンクロマトグラム(EIC)を示す。上部パネルは、歪んだピーク形状を有するペプチドのEICを示し、下部パネルは、上部パネルからのペプチドと共溶出されたいくつかの他のペプチド(紫、青、緑などで示される)のEICを示す。
図1B】パネルAの標識点(赤い三角形)の前及び後の選択されたペプチドの全質量スペクトル(MS1)の比較を示す。
図2図2A及び図2Bは、本発明の例示的な実施形態による、自動反復MS/MS実行及び前駆体選択を伴うHCP-AIMSの使用を示す。図2Aは、3つの反復MS/MS再現のベースピーククロマトグラム(BPC)(それぞれ、上部、中間、下部パネルは、第1、第2、及び第3のMS BPC)を示す。図2Bは、図2Aに示される保持時間における各反復再現からの質量スペクトルを示す。赤いダイヤモンドは、反復MS/MS実行の各々において、MS/MSスキャンのために選択された前駆体イオンを示す。
図3A】本発明の例示的な実施形態による、白逆三角形によって図3Bに標識される、選択された保持時間からの質量スペクトルを示す。同位体クラスタの頂部にあるアスタリスクは、イオンカウントが非線形領域に到達したことを示している。
図3B】本発明の例示的な実施形態による、異なる装填量の消化されたタンパク質注入(30~45μg、頂部パネル~底部パネル)を用いた4回の実行のベースピーククロマトグラムを示す。
図3C】本発明の例示的な実施形態による、注入当たりの異なる装填量を有するこれらの4つの実行からの7つの選択されたペプチドのピーク面積応答を示す。
図4-1】図4A~図4Lは、本発明の例示的な実施形態による、同定が縦棒としてSkylineで示されている、異なるレベルのスパイクイン試料におけるPLBL2ペプチドイオンからの3つの同位体遷移の抽出イオンクロマトグラムを示す。図4A図4Cは、10ppmのPLBL2スパイクインを例示する。図4D図4Fは、20ppmのPLBL2スパイクインを例示する。図4G図4Iは、30ppmのPLBL2スパイクインを例示する。図4J図4Lは、50ppmのPLBL2スパイクインを例示する。
図4-2】図4-1の説明を参照。
図5図5Aは、本発明の例示的な実施形態による、スパイクインタンパク質レベル3(L3)についての自動MS/MSからの3つの再現のペプチドスペクトルマッチ(PSM)比較を示す。図5Bは、本発明の例示的な実施形態による、L3についての反復MS/MSからの3つの再現のPSM比較を示す。図5A及び図5Bでは、上部棒プロットは、各再現実行からのPSMを示し、下部ベン図は、PSMの重複を示す。
図6】本発明の例示的な実施形態による、NIST mAb試料の自動反復MS/MSの3つの再現のペプチドスペクトルマッチ(PSM)を示す。上部棒プロットは、各再現実行からのPSMを示し、下部ベン図は、PSMの重複を示す。
図7図7A図7Cは、本発明の例示的な実施形態による、300回の注入からの9つのペプチドの機器堅牢性試験の性能測定基準を示す。図7Aは、総MS1面積プロットを示す。図7Bは、保持時間プロットを示す。図7Cは、前駆体平均質量誤差プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
宿主細胞タンパク質(HCP)は、治療用タンパク質薬物の生成に由来するプロセス関連不純物である。HCPは、通常、非常に低いレベル(典型的には100ppm未満)での重要な品質特性であり、詳細な精製開発、並びに薬物安全性及び有効性のために、厳格な管理戦略を必要とする(Hogwood et al.,2014,Curr Opin Biotechnol,30:153-160)。残留HCPは、免疫原性、毒性、又は未知のオフターゲット酵素活性を介して製品の安全性に影響し得る。それらは、薬物安定性、賦形剤安定性、薬物の薬物動態に対する影響を介して、又は生物学的標的の活性部位への結合と競合することによって、製品の有効性に影響し得る。薬物開発の異なる段階では、HCP分析の必要性は、特性評価深度及び試料セットのスループットにおいて変化する(Hogwood et al.,2013,Bioengineered,4:288-291、Zhu-Shimoni et al.,2014,Biotechnol Bioeng,111:2367-2379)。治療用タンパク質発現細胞株の開発は、数百から数千の試料を生成することが多く、ここではHCPが重要な問題ではない場合がある。精製ステップを伴う以下の候補細胞株の選択は、潜在的なリスクを最小限に抑えるために、総HCPアッセイを必要とし得る(Zhu-Shimoni et al.,Tscheliessnig et al.,2013,Biotechnol J,8:655-670)。下流の精製プロセス開発中に、実験計画法(DOE)試験が、典型的には、プロセスパラメータと、HCPを含む薬物品質特性との間の関係を評価するために実施される。ELISAベースのHCPアッセイは、定量のために広く使用されてきたが、それらは、全ての個々のHCPについての全体的なプロファイル及びカバレッジを欠いており、特定のHCPを理解することが、HCPの全体的なレベルを低減させるために重要である(Falkenberg et al.,2019,Biotechnol Prog,35:e2788)。結果として、比較的高いスループット及び偏りの少ないHCP方法が、HCPクリアランスの精製開発を容易にするために必要とされることが多い。
【0022】
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)を使用するボトムアッププロテオミクスワークフローが、HCPの詳細な同定及び個々のタンパク質の正確な定量において広く使用されている(Zhu-Shimoni et al.,Bracewell et al.,2015,Biotechnol Bioeng,112:1727-1737、Krawitz et al.,2006,Proteomics,6:94-110、Gao et al.,2020,Anal Chem,92:1007-1015、Reiter et al.,2019,J Pharm Biomed Anal,174:650-654、Johnson et al.,2018,Biologicals,52:59-66、Park et al.,2017,Sci Rep,7:44246、Park et al.,2017,Biotechnol Bioeng,114:2267-2278、Kreimer et al.,2017,Anal Chem,89:5294-5302)。しかしながら、試料調製及びLC-MS/MS方法論の複雑さの差に起因して、高速で偏りのないHCPの同定を提供し得る質量分析ベースの方法と、詳細で高感度なタンパク質同定又は正確なタンパク質定量との間には、通常、トレードオフが存在する。
【0023】
HCP分析のためのタンパク質試料の直接消化は、HCPの同定及び定量のためにほぼ常に所望される。これは、一般に、最小限の試料処理を必要とし、結果として、個々のHCPの定量的プロファイルを維持し得る。しかしながら、薬物対宿主細胞タンパク質不純物の広範なダイナミックレンジは、MSによるHCPの同定に対する大きな課題を表している。例えば、データ依存性取得(DDA)などの従来のプロテオミクス方法は、試料中の最も存在量の多い前駆体のみを断片化し、結果として、通常、低存在量の宿主細胞タンパク質関連イオンを見逃す。DDA方法は、本質的に、存在量の大きいダイナミックレンジを有するタンパク質の同定に対していくつかの制限を有する。この制限は、各MS1スキャンにおいて、MS2スキャンのために選択される前駆体が有限数であることに起因し、ここで、「MS1」及び「MS2」は、それぞれ、タンデム質量分析における第1及び第2の質量分析を示す。MS2スキャンの実際のデューティサイクルに起因して、いくつかの複雑なMS1スキャンは、MS2のための前駆体イオンの選択が非常に少なく、MS2の同定のための選択されない多数の前駆体が残される。その上、複雑なMS1スキャンにおける低レベルイオンの変動は、確率論的前駆体選択を結果的にもたらし得、各再現注入からの一貫性のない同定又は補足的な同定につながる。
【0024】
代替的に、データ非依存性取得(DIA)を用いるLC-MS/MS、特にSWATH方法は、タンパク質を同時に同定及び定量する有望な戦略として示されている(Heissel et al.,2018,Protein Expr Purif,147:69-77、Walker et al.,2017,MAbs,9:654-663)。DIAベースの方法は、理論的には全ての前駆体からMS2断片を捕捉する前駆体イオンのウィンドウから、多重化されたMS2を生成することができるが、依然として小さいウィンドウのダイナミックレンジ干渉の問題に直面している。加えて、効果的かつ信頼性の高いタンパク質同定のためのデータ処理、及びタンパク質ライブラリを構築する前提条件に大きいハードルがある。これらの課題の全ては、薬物開発におけるHCP分析のDIAの通例的な適用を制限している。それゆえに、DDAが依然として、LC-MS/MS方法の大部分のためのペプチド及びタンパク質の初期同定のための主要な方法として機能している。
【0025】
高深度プロテオミクスのための新しいMS取得方法、反復前駆体イオン除外の最近の開発は、従来のタンデムMSの深度を増加させるように示されている(Zhang,2012,J Am Soc Mass Spectrom,23:1400-1407、Wu et al.,2012,Proteomics Clin Appl,6:304-308、Wang et al.,2008,Anal Chem,80:4696-4710、Zhou,et al.,2015,J Proteomics Bioinform,8:260-265)。反復方式では、MS/MS断片化のために既に選択されていた他の前駆体が更なる分析から除外されるとき、新規の及びユニークなペプチド前駆体イオンの同定が増加することになる。反復MS/MSは、濃縮を必要とせずに低レベルHCPの同定及び相対的定量を達成することができる、簡潔な取得方法である。
【0026】
プロセス開発及び分析的特性評価中の高レベルの個々のHCPの潜在的なリスクを軽減しつつ、迅速なターンアラウンドタイム及び堅牢性を必要とするHCP分析における課題に対処するために、HCP-自動反復MS又はHCP-AIMSと称される、自動化された前駆体イオン除外(PIE)取得方法を利用する、単純、堅牢、かつ偏りのないHCP分析戦略が本明細書で説明される。このHCP-AIMSアプローチは、試料のいかなる濃縮又は前処理も必要とせずに、直接消化された試料を使用し得る。このHCP-AIMS戦略により、反復再現におけるMS/MS同定のために、低存在量HCPペプチド前駆体イオンがピックアップされ得る。それゆえに、本アプローチは、通常のデータ依存性取得(DDA)方法と比較して、約10ppm以下の検出限界まで、より高深度の偏りのないHCP同定を達成することができる。同時に、この方法を分析フローUHPLCの使用と組み合わせることは、HCP-AIMSワークフロー全体が、非常に堅牢で、再現可能であり、治療用タンパク質薬物の開発及び特性評価における高スループットHCP分析に好適であることを可能にする。
【0027】
上述のHCP分析方法と比較して、本明細書に開示されるHCP-AIMSワークフローは、適切なタンパク質の同定及び定量を伴う、より高スループットの分析に好適な、単純、堅牢、かつ高感度のアプローチを表す。直接消化による単純な試料処理の選択肢は、大規模かつ高スループットの試料調製のためのプレートベースの消化及び自動化を可能にする。自動化された反復MS/MS取得は、迅速かつ高深度のタンパク質同定を可能にする。堅牢かつ非常に一貫性のあるMS及び標準フローLCシステムと一緒に、HCP-AIMS方法は、特にHCPを除外するための最良のプロセス条件を決定するDOEの目的のためのプロセス開発を支援するのに好適である。HCP-AIMSワークフローと互換性のある容易かつ単純な試料調製はまた、薬剤候補の特性評価、HCPの仕様外(OOS)及び傾向外(OOT)調査のための迅速かつ偏りのないHCPの同定及び定量も可能にする。この方法は、堅牢かつ偏りのないHCPアッセイとして機能し、多くの問題のあるHCPが最終的な医薬品に持ち込まれるリスクを軽減し、臨床における高品質のタンパク質治療薬を確保する。
【0028】
本発明は、治療用タンパク質開発において宿主細胞タンパク質を同定及び定量する方法を開示する。
【0029】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものに類似又は同等の任意の方法及び材料は、実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料がここに説明される。言及される全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0031】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、データベース中の全ての可能な配列に対して、解釈されていないMS-MSスペクトルを検索する可能性を提供する、バイオインフォマティクスツールを指す。そのようなツールの非限定的な例としては、Mascot(http://www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(http://www.chem.agilent.com)、PLGS(http://www.waters.com)、PEAKS(http://www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(http://download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(http://www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(http://www.sagenresearch.com)、OMSSA(http://www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(http://www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(http://www.http://prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(https://www.proteinmetrics.com/products/byonic)又はSequest(http://fields.scripps.edu/sequest)が挙げられる。
【0032】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞タンパク質」(HCP)という用語は、宿主細胞に由来するタンパク質を含み、所望の関心対象のタンパク質とは無関係であり得る。宿主細胞タンパク質は、製造プロセスから誘導され得、かつ3つの主要なカテゴリ:細胞基質由来、細胞培養由来、及び下流由来、を含み得る、プロセス関連不純物であり得る。細胞基質由来不純物としては、宿主生物に由来するタンパク質及び核酸(宿主細胞ゲノム、ベクター、又は総DNA)が挙げられるが、これらに限定されない。細胞培養由来不純物としては、誘導物質、抗生物質、血清、及び他の培地成分が挙げられるが、これらに限定されない。下流由来不純物としては、酵素、化学的及び生化学的処理試薬(例えば、臭化シアン、グアニジン、酸化及び還元剤)、無機塩(例えば、重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えば、モノクローナル抗体)、並びに他の浸出性物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー」という用語は、液体によって運ばれる生物学的/化学的混合物が、静止した液体又は固相を通って(又は中に)流れるときに、成分の差分分布の結果として複数の成分に分離され得るプロセスを指す。液体クロマトグラフィーの非限定的な例としては、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、又は混合モードクロマトグラフィーが挙げられる。いくつかの態様では、少なくとも1つのHCPを含有する試料は、上述のクロマトグラフィー方法又はそれらの組み合わせのうちのいずれか1つに供され得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、特定の分子種を同定し、それらの正確な質量を測定することができるデバイスを含む。この用語は、ポリペプチド又はペプチドが特性評価され得る任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、イオン源、質量分析器、及び検出器の3つの主要な部品を含み得る。イオン源の役割は、気相イオンを形成することである。分析物の原子、分子、又はクラスタは、気相に移され、同時に(エレクトロスプレーイオン化のように)又は別々のプロセスを通してのいずれかでイオン化され得る。イオン源の選択は、用途に依存する。いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、質量選択及び質量分離の複数の段階を使用することによって、試料分子に関する構造情報が得られる技術を含む。前提条件は、第1の質量選択ステップの後、断片が予測可能かつ制御可能な方式で形成されるように、試料分子が気相に変換され、イオン化されることである。多段階MS/MS又はMSは、有意義な情報を得ることができるか、又は断片イオン信号が検出可能である限り、最初に前駆体イオンを選択及び単離し(MS2)、それを断片化し、一次断片イオンを単離し(MS3)、それを断片化し、二次断片を単離し(MS4)、以下同様に行うことによって実施され得る。タンデムMSは、多種多様な分析器の組み合わせで成功裏に実施されている。特定の用途のために組み合わせる分析器は、感度、選択性、及び速度などの多くの異なる因子によって決定され得るが、サイズ、コスト、及び利用可能性もまた因子である。タンデムMS方法の2つの主要なカテゴリは、タンデムインスペース及びタンデムインタイムであるが、タンデムインタイム分析器が空間内で又はタンデムインスペース分析器と結合される混成も存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化デバイス、及び少なくとも2つの非捕獲質量分析器を備える。特定のm/z分離機能は、機器の1つの区分でイオンが選択され、中間領域で解離され、次いで、生成イオンがm/z分離及びデータ収集のために別の分析器に送られるように設計され得る。タンデムインタイムでは、イオン源で生成された質量分析計イオンは、同じ物理デバイス内で捕獲、分離、断片化、及びm/z分離され得る。質量分析計によって同定されたペプチドは、無傷のタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理として使用され得る。それらは、実験的及び理論的MS/MSデータを相関させることによって、タンパク質の特性評価に使用され得、後者は、タンパク質配列データベース内の可能なペプチドから生成される。特徴評価は、限定されるものではないが、タンパク質断片のアミノ酸を配列決定すること、タンパク質配列を決定すること、タンパク質デノボ配列を決定すること、翻訳後修飾を位置特定すること、若しくは翻訳後修飾を同定すること、又は比較可能性分析、あるいはそれらの組み合わせを含む。
【0035】
いくつかの態様では、本出願の方法又はシステムにおける質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり得、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに連結され得、質量分析計は、LC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析)又はLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー多重反応モニタリング質量分析)分析を実施することができる。
【0036】
本明細書で使用される場合、「質量分析器」という用語は、種、すなわち、原子、分子、又はクラスタを、それらの質量に従って、分離し得るデバイスを含む。用いられ得る質量分析器の非限定的な例は、飛行時間(TOF)、磁気電気セクタ、四重極質量フィルタ(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)、また加速器質量分析(AMS)の技術である。
【0037】
本明細書で使用される場合、「エレクトロスプレーイオン化」又は「ESI」という用語は、溶液を含有するエレクトロスプレー針の先端と対電極との間に電位差を印加することから結果的に生じる高帯電液滴の流れの、大気圧における形成及び脱溶媒和を介して、溶液中のカチオン又はアニオンのいずれかが気相に移される、スプレーイオン化のプロセスを指す。一般に、溶液中の電解質イオンからの気相イオンの生成には、3つの主要なステップが存在する。これらは、(a)ES注入先端における帯電液滴の生成;(b)溶媒蒸発による帯電液滴の収縮と、繰り返される液滴分裂とによって、気相イオンを生成することができる小さい高帯電液滴に導くこと;および(c)気相イオンが非常に小さい高帯電液滴から生成される機構、である。段階(a)~(c)は、一般に、装置の大気圧領域で発生する。いくつかの例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計であり得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「関心対象のタンパク質」という用語は、共有結合されたアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含み得る。タンパク質は、概して「ポリペプチド」として当該技術分野で知られている1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、アミノ酸残基、関連する天然由来の構造多型、並びにペプチド結合、関連する天然由来の構造多型、及びその合成非天然由来の類似体を介して連結されたその合成非天然由来の類似体からなるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、非天然由来のペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又は合成ポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成され得る。様々な固相ペプチド合成方法は、当業者に公知である。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つ以上のポリペプチドを含み得る。タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。関心対象のタンパク質は、生物学的治療用タンパク質、研究又は治療で使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のうちのいずれかを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピキア属の種(Pichia sp.))、哺乳動物系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞などのCHO誘導体)などの、組換え細胞ベースの生成系を使用して生成され得る。生物学的治療用タンパク質及びそれらの生成を考察する最近の概説については、Ghaderi et al.,“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”(Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS 147-176(2012)、これらの教示は本明細書に組み込まれる)を参照されたい。タンパク質は、組成及び溶解性に基づいて分類され得、したがって、球状タンパク質及び繊維状タンパク質などの、単純タンパク質と、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質などの、複合タンパク質と、一次誘導タンパク質及び二次誘導タンパク質などの、誘導タンパク質と、を含み得る。
【0039】
いくつかの例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、組換えタンパク質、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、融合タンパク質、scFv、及びそれらの組み合わせであり得る。
【0040】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、好適な宿主細胞に導入されている組換え発現ベクター上で担持される遺伝子の転写及び翻訳の結果として生成されるタンパク質を指す。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体であり得る。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgEからなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る。特定の例示的な実施形態では、抗体分子は、完全長抗体(例えば、IgG1又はIgG4免疫グロブリン)であるか、又は代替的に、抗体は、断片(例えば、Fc断片又はFab断片)であり得る。
【0041】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖、及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、超可変性の領域に更に細分化され得る。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、以下の順序で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。本発明の異なる実施形態では、抗big-ET-1抗体(若しくはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖細胞系列配列と同一であり得るか、又は天然に若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて画定され得る。本明細書で使用される「抗体」という用語はまた、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書で使用される場合、複合体を形成するために抗原を特異的に結合する、任意の天然由来の、酵素的に入手可能な、合成の、又は遺伝子操作された、ポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメイン及び任意選択的に抗体定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴うタンパク質消化又は組換え遺伝子操作技術などの、任意の好適な標準技術を使用して、完全な抗体分子から誘導され得る。そのようなDNAは、既知である、及び/又は、例えば、商業的供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ-抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、若しくは合成され得る。DNAは、例えば、1つ以上の可変及び/若しくは定常ドメインを好適な構成に配置するために、又はコドンを導入し、システイン残基を形成し、アミノ酸を修飾、付加、若しくは欠失するなどのために、配列決定され、化学的に又は分子生物学技術を使用することによって操作され得る。
【0042】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合又は可変領域などの、無傷の抗体の一部分を含む。抗体断片の例としては、限定されるものではないが、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びに抗体断片から形成されるトリアボディ、テトラボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子、及び多重特異性抗体が挙げられる。Fv断片は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリン軽鎖及び重鎖可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。いくつかの例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、いくつかの例示的な実施形態では、断片は、親抗体の親和性と同等の親和性で抗原に結合する、及び/又は抗原への結合について親抗体と競合する。抗体断片は、任意の手段によって生成され得る。例えば、抗体断片は、無傷の抗体の断片化によって酵素的又は化学的に生成され得る、及び/又は、部分的抗体配列をコードする遺伝子から組換えで生成され得る。代替的又は追加的に、抗体断片は、完全に又は部分的に合成的に生成され得る。抗体断片は、任意選択的に、一本鎖抗体断片を含み得る。代替的又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって、一緒に連結される複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含み得る。機能性抗体断片は、典型的には、少なくとも約50のアミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200のアミノ酸を含む。
【0043】
「二重特異性抗体」という用語は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、2つの異なる分子(例えば、抗原)上、又は同じ分子上(例えば、同じ抗原上)のいずれかで、異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1のエピトープに対する第1の重鎖の親和性は、概して、第2のエピトープに対する第1の重鎖の親和性よりも、少なくとも1~2、又は3、又は4桁低くなり、逆も同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ又は異なる標的上(例えば、同じ又は異なるタンパク質上)にあり得る。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製され得る。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合され得、そのような配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現させる細胞中で発現され得る。
【0044】
典型的な二重特異性抗体は、各々が3つの重鎖CDRを有する2つの重鎖、続いて、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン、並びに免疫グロブリン軽鎖を有し、免疫グロブリン軽鎖は、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合することができるか、又は各重鎖と会合することができ、かつ重鎖抗原結合領域によって結合されたエピトープのうちの1つ以上と結合することができるか、又は各重鎖と会合することができ、かつ一方若しくは両方のエピトープへの重鎖のうちの一方若しくは両方の結合を可能にすることができる。BsAbは、Fc領域を有するもの(IgG様)とFc領域を欠くものと、の2つの主要なクラスに分割され得、後者は、通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、限定されるものではないが、トリオマブ(triomab)、ノブイントゥホールIgG(kihIgG)、crossMab、オルト-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツーインワン若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG-一本鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλ-ボディなどの、異なる形式を有し得る。非IgG様の異なる形式としては、タンデムscFv、ダイアボディ形式、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重親和性再標的化分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドックアンドロック(DNL)方法によって生成される抗体が挙げられる(Gaowei Fan,Zujian Wang&Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY&ONCOLOGY 130、Dafne Muller&Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES 265-310(2014)、これらの教示全体は、本明細書に組み込まれる)。
【0045】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」とは、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体を指す。そのような分子は、通常、2つの抗原のみに結合することになるが(すなわち、二重特異性抗体、bsAb)、三重特異性抗体及びKIH三重特異性などの追加の特異性を有する抗体はまた、本明細書に開示されるシステム及び方法によって対処され得る。
【0046】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ハイブリドーマ技術を通じて生成される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当該技術分野で利用可能な又は既知の任意の手段による、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む、単一のクローンに由来し得る。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術、組換え技術、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当該技術分野で既知の多種多様な技術を使用して調製され得る。
【0047】
いくつかの例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、哺乳動物細胞から生成され得る。哺乳動物細胞は、ヒト起源又は非ヒト起源のものであり得、初代上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎上皮細胞、及び網膜上皮細胞)、確立された細胞株及びそれらの系統(例えば、293胚性腎細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞及びPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit562細胞、HeLa229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LSI80細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、Clone M-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-l細胞、LLC-PKi細胞、PK(15)細胞、GHi細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC256細胞、MHiCi細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、及びTH-I、B1細胞、BSC-1細胞、RAf細胞、RK-細胞、PK-15細胞、又はそれらの誘導体)、任意の組織又は臓器(限定されるものではないが、心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、アデノイド、扁桃、骨髄、血液)、脾臓からの線維芽細胞、並びに線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、Dempsey細胞、Detroit551細胞、Detroit510細胞、Detroit525細胞、Detroit529細胞、Detroit532細胞、Detroit539細胞、Detroit548細胞、Detroit573細胞、HEL299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、Midi細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDMiC3細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、Mouse L細胞、Strain2071(Mouse L)細胞、L-M株(Mouse L)細胞、L-MTK’(Mouse L)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、Indian muntjac細胞、SIRC細胞、Cn細胞、及びJensen細胞、Sp2/0、NS0、NS1細胞、又はそれらの誘導体)を含み得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤を使用して試料中のタンパク質の消化、例えば、酵素消化又は非酵素消化を行うためのいくつかのアプローチが存在する。
【0049】
試料中のタンパク質の消化のための広く受け入れられている方法のうちの1つは、プロテアーゼの使用を伴う。多くのプロテアーゼが利用可能であり、それらの各々は、特異性、効率、及び最適消化条件の観点でそれら自身の特性評価を有する。プロテアーゼは、ペプチド内の非末端又は末端アミノ酸で切断するプロテアーゼの能力に基づいて分類される際に、エンドペプチダーゼ及びエキソペプチダーゼの両方を指す。代替的に、プロテアーゼはまた、触媒の機構で分類される際に、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びメタロプロテアーゼ、システイン、セリン、及びトレオニンプロテアーゼの6つの別個のクラスを指す。「プロテアーゼ」及び「ペプチダーゼ」という用語は、ペプチド結合を加水分解する酵素を指すために互換的に使用される。
【0050】
宿主細胞タンパク質を加水分解剤に接触させることとは別に、方法は、任意選択的に、宿主細胞タンパク質を還元するためのステップ、宿主細胞タンパク質をアルキル化するためのステップ、宿主細胞タンパク質を緩衝するためのステップ、及び/又は試料マトリックスを脱塩するためのステップを含み得る。これらのステップは、必要に応じて任意の好適な様式で達成され得る。
【0051】
いくつかの例示的な実施形態では、試料マトリックス中の宿主細胞タンパク質を同定する方法は、任意選択的に、宿主細胞タンパク質をタンパク質還元剤に接触させることを含み得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「タンパク質還元剤」という用語は、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元のために使用される薬剤を指す。タンパク質還元剤の非限定的な例は、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、エルマン試薬、ヒドロキシルアミン塩酸塩、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、又はそれらの組み合わせである。
【0053】
いくつかの例示的な実施形態では、試料マトリックス中の宿主細胞タンパク質を同定する方法は、任意選択的に、宿主細胞タンパク質をタンパク質アルキル化剤に接触させることを含み得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「タンパク質アルキル化剤」という用語は、タンパク質中の特定の遊離アミノ酸残基をアルキル化するために使用される薬剤を指す。タンパク質アルキル化剤の非限定的な例は、ヨードアセトアミド(IOA)、クロロアセトアミド(CAA)、アクリルアミド(AA)、N-エチルマレイミド(NEM)、メタンチオスルホン酸メチル(MMTS)、及び4-ビニルピリジン、又はそれらの組み合わせである。
【0055】
いくつかの例示的な実施形態では、試料マトリックス中の宿主細胞タンパク質を同定する方法は、宿主細胞タンパク質を変性させることと、分子量カットオフフィルタを使用して宿主細胞タンパク質を濾過することと、ボトムアップ又はショットガンプロテオミクスアプローチを使用して宿主細胞タンパク質を同定することと、を含み得る。
【0056】
本明細書で使用される場合、「タンパク質変性」は、分子の三次元形状をその天然の状態から変化させるプロセスを指し得る。タンパク質変性は、タンパク質変性剤を使用して行われ得る。タンパク質変性剤の非限定的な例としては、熱、高又は低pH、DTTなどの還元剤(以下を参照)、又はカオトロピック剤への曝露が挙げられる。いくつかのカオトロピック剤がタンパク質変性剤として使用され得る。カオトロピック溶質は、水素結合、ファンデルワールス力、及び疎水性効果などの非共有結合力によって媒介される分子内相互作用を妨げることによって、系のエントロピーを増加させる。カオトロピック剤の非限定的な例には、ブタノール、エタノール、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿素、N-ラウロイルサルコシン、尿素、及びそれらの塩が挙げられる。
【0057】
いくつかの例示的な実施形態では、試料マトリックス中の宿主細胞タンパク質を同定する方法は、任意選択的に、天然消化を含み得る。本明細書で使用される場合、「天然消化」は、非変性条件下におけるタンパク質の消化を指す。
【0058】
いくつかの例示的な実施形態では、宿主細胞タンパク質を特性評価するための方法は、任意選択的に、試料マトリックスをクロマトグラフィー支持体と接触させ、分画ステップを実施することによって、試料マトリックス中の宿主細胞タンパク質を濃縮することを含み得る。本明細書で使用される場合、「分画」という用語は、試料マトリックス中に存在する宿主細胞タンパク質を消化することから得られる様々なペプチドを分離するプロセスを含み得る。プロセスは、ペプチドのpI、疎水性、金属結合能力、曝露されたチオール基の含有量、サイズ、電荷、形状、溶解度、安定性、及び沈降速度、様々なイオン基と結合する能力、並びに複雑な生物学的試料マトリックスからペプチドを単離するための基礎としての基質に対する親和性などの、ペプチドの様々な一般的特性に基づいてペプチドを分画し得る、適切なペプチド分画技術を使用してペプチドを分離することを伴い得る。ペプチドはまた、それらの細胞場所に基づいて分離され得、それによって、細胞質、核及び膜タンパク質の抽出を可能にする。
【0059】
いくつかの例示的な実施形態では、宿主細胞タンパク質を特性評価するための方法は、任意選択的に、免疫沈降(IP)を使用して、試料マトリックス中の宿主細胞タンパク質を濃縮することを含み得る。本明細書で使用される場合、「免疫沈降」という用語は、その特定のタンパク質に特異的に結合する抗体を使用して、タンパク質抗原を溶液から沈降させるプロセスを含み得る。免疫沈降は、標的タンパク質に対する抗体が、固相基質上に固定される、直接的なものであってもよく、又は遊離抗体が、タンパク質混合物に添加され、後に、例えば、タンパク質A/Gビーズで捕捉される、間接的なものであってもよい。
【0060】
いくつかの例示的な実施形態では、宿主細胞タンパク質を特性評価するための方法は、任意選択的に、活性ベースタンパク質プロファイリング(ABPP)を使用して、試料マトリックス中の宿主細胞タンパク質を濃縮することを含み得る。本明細書で使用される場合、「活性ベースタンパク質プロファイリング」という用語は、反応性「弾頭」と、リンカーと、タグとからなる活性ベースプローブを使用して、標的タンパク質を固定化するプロセスを含み得る。プローブの非限定的な例としては、アジド-FP、ビオチン-FP、デスチオビオチン-FP、若しくはTAMRA-FPを含むセリン加水分解酵素プローブ、システインプロテアーゼプローブ、又は脂質プローブが挙げられる。タグの非限定的な例としては、フルオロフォア、親和性タグ、又は標識タグが挙げられる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「試料」、「試料マトリックス」、又は「生体試料」は、細胞培養液(CCF)、採取された細胞培養液(HCCF)、プロセス性能適格性(PPQ)、下流処理における任意のステップ、原薬(DS)、又は最終的に製剤化された製品を含む医薬品(DP)などの、バイオプロセスの任意のステップから得られ得る。いくつかの他の特定の例示的な実施形態では、生体試料は、浄化、クロマトグラフィー生成、ウイルス不活性化、又は濾過の下流プロセスの任意のステップから選択され得る。いくつかの特定の例示的な実施形態では、医薬品は、臨床、輸送、保管、又は取り扱いにおける、製造された医薬品から選択され得る。
【0062】
本明細書で使用される場合、「上流プロセス技術」という用語は、タンパク質調製の文脈では、関心対象のタンパク質の細胞培養中又はその後の、細胞からのタンパク質の生成及び収集を伴う活動を指す。本明細書で使用される場合、「細胞培養」という用語は、関心対象の組換えタンパク質を生成することができる宿主細胞の集団を生成及び維持するための方法、並びに関心対象のタンパク質の生成及び収集を最適化するための方法及び技術を指す。例えば、発現ベクターが適切な宿主細胞に組み込まれると、宿主細胞は、関連するヌクレオチドコード配列の発現、並びに所望の組換えタンパク質の収集及び生成に好適な条件下で維持され得る。
【0063】
いくつかの例示的な実施形態では、本発明の方法は、タンデム質量分析の所定のサイクル数を含む。一態様では、サイクル数は、1、2、3、4サイクル、又はそれ以上である。サイクル数は、当業者によって容易に決定され得る、試料量、タイミング、ペプチドスペクトルマッチ数、定量正確度に関するユーザの必要性、又は当業者によって容易に決定され得る他の必要性に応じて選択され得る。
【0064】
いくつかの例示的な実施形態では、本発明の方法は、自動除外セットへの前駆体イオンの追加を決定するために、ユーザが決定した質量誤差許容値及び保持時間除外許容値を設定することを含む。質量誤差許容値は、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、若しくは30ppm、又は当業者によって容易に決定され得るユーザの必要性に応じた別の値であってもよい。保持時間除外許容値は、-0.5分、-0.4分、-0.3分、-0.2分、-0.1分、若しくは0分から、+0.8分、+0.7分、+0.6分、+0.5分、+0.4分、+0.3分、+0.2分、+0.1分、若しくは0分まで、又は当業者によって容易に決定され得るユーザの必要性に応じた別の範囲であり得る。
【0065】
いくつかの例示的な実施形態では、本発明の方法は、イオン断片化のための前駆体イオンを除外するために使用される自動除外セットを生成することを含む。一態様では、質量スペクトルスキャンで取得される前駆体イオンが、自動除外セットに追加される。別の態様では、自動除外セットはまた、バックグラウンドイオンも含む。バックグラウンドイオンは、全ての質量スペクトルスキャンに存在し、真のペプチド生成物を表すものではない場合がある。バックグラウンドイオンは、当業者によって容易に識別され得る。別の態様では、自動除外セットが、取得された質量スペクトルスキャンからのものではない少なくとも1つの追加の前駆体イオンを含む。ユーザは、質量スペクトルスキャンでまだ取得されていない場合でも、断片化されるべきではない少なくとも1つの前駆体イオンを事前決定することを選択し得る。更に別の態様では、取得された質量スペクトルからの前駆体イオンは、それらが所定の強度閾値を下回る場合、自動除外セットに追加されない。ユーザは、以前の取得が低品質又は信号強度であった場合、前駆体イオンの質量スペクトル分析を繰り返したい場合がある。
【0066】
いくつかの例示的な実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つのHCP及び少なくとも別のタンパク質を有する試料を含む。HCPの相対濃度は、別のタンパク質の濃度と比較して、百万分率、又はppmとして表され得る。他のタンパク質は、関心対象のタンパク質であり得る。したがって、HCP及び関心対象のタンパク質を含む試料中のHCPが1000ppmで存在する場合、関心対象のタンパク質の濃度が、HCPの濃度よりも1000倍高いことが理解されるべきであり、HCPが100ppmで存在する場合、関心対象のタンパク質の濃度は、HCPの濃度よりも10,000倍高く、以下同様である。
【0067】
本発明は、上述のデータベース、宿主細胞、タンパク質変性剤、タンパク質アルキル化剤、タンパク質還元剤、同定に使用される機器、又はクロマトグラフィー方法のうちのいずれかに限定されず、任意のデータベース、宿主細胞、タンパク質変性剤、タンパク質アルキル化剤、タンパク質還元剤、同定に使用される機器、又はクロマトグラフィー方法が、任意の好適な手段によって選択され得ることが理解される。
【0068】
特許、特許出願、公開された特許出願、アクセッション番号、技術論文及び学術論文を含む種々の刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用される参考文献の各々は、参照によって、その全体及び全ての目的のために本明細書に組み込まれる。
【0069】
本発明は、以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。しかしながら、それらは、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0070】
材料。 全ての化学物質は、高純度であり、商業的供給源から得られた。クロマトグラフィー溶媒は、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)からのLCMSグレードであった。スパイクインされた試料で使用されたモノクローナル抗体及びCHOタンパク質は、インハウスで生成された。Thermo Fisher Scientificから、ジチオスレイトール(DTT)及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)を購入した。National Institute of Standards and Technology(Gaithersburg,MD)によるNISTモノクローナル抗体標準、RM8671を、Sigma-Aldrichから得た。
【0071】
スパイクイン試料調製。 PLBL2スパイクイン試料:組換えチャイニーズハムスターホスホリパーゼB様2(PLBL2、UniProtID:G3I6T1、Regeneronによって生成された)の1μgのアリコートを、既に定量されたPLBL2なしの10mgのモノクローナル抗体原薬(mAb1 DS)試料に10mg/mLでスパイクインして、100ppmのPLBL2スパイクイン試料のストックを作製した。次いで、10mg/mLのmAb1 DSを使用してストックを希釈して、50ppm、30ppm、20ppm、及び10ppmのPLBL2スパイクイン試料を作製した。
【0072】
複数のCHOタンパク質スパイクイン希釈系列: 合計18個の組換え宿主細胞タンパク質を最初に希釈、混合し、タンパク質の各々について1nmol/mLにした。mAb DSを10mg/mLに調製し、組換えHCPの混合物を、200μLの総体積に対するDS量(モル:モル比)の1%にスパイクすることによって、第1のレベル(レベル1)を調製した。レベル2~レベル7を、1:3の連続希釈方法(前のレベルを50μL、及び10mg/mLのmAb DSを100μL)を使用して調製した。
【0073】
NIST mAbの直接消化。 スパイクイン試料及びNIST mAb(RM8671)の200μgのDS量のアリコートを、SpeedVacを使用して乾燥させ、次いで、8Mの尿素及び10mMのジチオスレイトール(DTT)を含有する20μLの変性/還元緩衝液で再構成した。37℃で30分間タンパク質を変性及び還元し、次いで、暗所で30分間、2μLの500mMのヨードアセトアミドとともにインキュベートした。アルキル化されたタンパク質を、100μLの0.1μg/μLのトリプシンで、37℃で4時間消化した。ペプチド混合物を、10μLの20%のギ酸で酸性化した。消化された試料の濃度は、約1.51μg/μLのタンパク質当量であった。
【0074】
自動反復LC-MS/MS分析。 試料を、Agilent 6545XL AdvanceBio LC/Q-TOFシステムを使用して分析した。Agilent Infinity II UHPLC上で60分間のLC方法を使用して、60℃で0.4mL/分の流量を有するWaters CSHカラム(2.1×150mm、1.7μm)上で、LC分離を実施した。移動相緩衝液は、水中の0.1%のFAからなり(緩衝液A)、溶出緩衝液は、0.1%のFAアセトニトリル(ACN)からなる(緩衝液B)。ペプチドを、注入の5分後に3%~54%の緩衝液Bの50分間の線形勾配で溶出させた。1:100の分割線を有する第2のアイソクラティックポンプを使用して、0.25mL/分(イオン源中に2.5μL/分)で稼働するリアルタイム較正のための質量基準溶液を提供した。イオン源は、Agilent Dual Jet Steam ESI源であり、LC流出液及び基準質量溶液を同時に噴霧した。ソース乾燥ガス温度を290℃及び13L/分に設定した。シースガスを275℃及び12L/分に設定した。噴霧器を35psiに設定した。MS取得設定では、LCの最初の3分を廃棄物に向けた。3分から、MS1の質量範囲を10スペクトル/秒の取得速度で300~1700m/zに設定した。MS/MSを、3スペクトル/秒の取得速度で50~1700m/zの範囲に設定した。MS/MSの分離幅は、Narrow(約1.3m/z)に設定した。取得モードを、15ppmの質量誤差許容値、-0.2分~+0.4分の保持時間除外許容値で反復MS/MSに設定した。各試料を、反復MS/MS方法を使用して、各回24μLで3回注入した。
【0075】
QEプラスLC-MS/MS分析。 試料を、Thermo Q Exactive Plusシステムを使用して分析した。Waters Acuity UPLC上で120分間のLC方法を使用して、60℃で0.25mL/分の流量を有するWaters CSHカラム(2.1×150mm、1.7μm)上で、LC分離を実施した。移動相緩衝液は、水中の0.1%のFAからなり(緩衝液A)、溶出緩衝液は、0.1%のFAアセトニトリル(ACN)からなる(緩衝液B)。ペプチドを、注射の5分後に3%~54%の緩衝液Bの90分間の線形勾配で溶出させた。イオン源は、標準HESI源であった。プローブヒータ温度を250℃に設定した。毛細管温度を350℃に設定し、シースガスを40単位に設定した。S-LensのRFレベルを50に設定した。MS取得設定では、LCの最初の3分を廃棄物に向けた。DDA方法は、トップ10方法を使用した。MS1スキャン範囲を200~2000m/zの範囲に設定した。MS/MS分離幅を3m/zに設定し、NCEを27に設定した。最小AGC標的を1e3に設定した。各試料を、各回24μLで3回注入した。
【0076】
機器堅牢性試験。 50個のアリコート(各200μg)中の合計10mgのmAb1を、96ウェルプレート中で、上記に説明される直接消化プロトコルを使用して消化した。全ての消化物を1つのバイアルにプールし、次いで、500μLに等分し、各日の新鮮な注入のために-80℃で保管した。注入実行は、自動化された反復MS/MS取得方法を使用した。消化実行の合計16個のアリコートは、合計312回の注入及びLC-MS/MS実行で、25日間で終了した。
【0077】
データ分析。 未加工データファイルを、Protein Metrics Inc製のByonicを使用して処理した。未加工データファイルを、Byonicを使用してmAbタンパク質配列と連結されたUniprot CHO K1タンパク質データベースに対して検索した。NIST mAbについて、冗長エントリなしのUniprotKBマウスデータベースを検索に使用した。検索パラメータは、半特異的トリプシン消化、最大2つの未切断、20ppmの前駆体質量許容値、30ppmの断片質量許容値、固定システインアルキル化、可変メチオニン酸化、及びアスパラギン脱アミド化を含んだ。Byonic結果ファイルを、より小さいタンパク質配列セットの更に詳細な分析、及び結果報告のためにByologics及びSkylineにインポートした。ペプチドを除外するために、MS2検索に350の最小スコアを使用した。
【0078】
実施例1.信号及びカラムの飽和限界
質量分析ベースのHCPの同定及び定量における主な課題は、主要な存在としての原薬と一緒に、非常に低い存在量での大規模かつ多様なHCPのセットの、包括的な特性評価である(Doneanu et al.,2015,Anal Chem,87:10283-10291、Schenauer et al.,2012,Anal Biochem,428:150-157)。薬物ペプチドの混合物中の個々のHCPペプチドを正確に示すために、データ依存性取得(DDA)を有するLC-MS/MSは、LC-MS方法の大部分のためのペプチド及びタンパク質の初期同定のための主要な戦略として機能する。しかしながら、強度ベースのDDA方法は、本質的に、存在量の大きいダイナミックレンジを有するタンパク質の同定に関していくつかの制限を有する。この制限は、各MS1スキャンの後に、MS2スキャンのために選択される前駆体の数が制限されるという事実に由来する。加えて、図1に示されるように、ほとんどのトラップタイプ質量分析計のイオン充填効果は、所与の総イオン数及び自動ゲイン制御の下では、他の非常に優勢なイオンの存在下での低存在量イオンのイオン蓄積時間を制限する。結果として、豊富な薬物ペプチドと共溶出する低存在量HCPペプチドイオンからの信号が抑制され(図1A)、MS1から効果的に捕捉されることができず、したがって、MS2断片化のために選択されることができない。加えて、豊富なペプチドによるイオン抑制もまた、MS1スペクトルを使用する正確な定量のための信号の制限となる。
【0079】
トラップベースの質量分析計の代替として、飛行時間(TOF)質量分析計は、完全なMS1取得における低存在量イオンに対してより偏りの少ない、線形かつ単純なイオン蓄積及び取得戦略を提供する。本明細書では、低存在量HCPペプチド前駆体イオンの同定を改善するために、HCP-AIMSワークフローのための新しい反復MS/MSデータ取得方法を提供する、Agilent 6545XT AdvanceBio Q-TOFシステムを採用した。この方法を使用して、タンパク質消化試料は、複数回のLC-MS/MS注入及び分析を受けた。最初の分析は、従来のDDA(Agilent機器における自動MS/MS)実行として実施された。続く反復LC-MS/MS注入では、MS/MS断片化のために既に選択された前駆体は、カスタマイズ可能な質量誤差許容値及び保持時間除外許容値を用いて段階的に自動的に除外された。結果として、図2に示されるように、よりユニークかつ低存在量の前駆体が、自動的にピックアップされ、LC-MS/MSによって調べられた。
【0080】
TOF分析計はまた、低存在量のHCPペプチドイオンの取得を犠牲にせず、主要な原薬ペプチドイオンについて中程度のレベルで信号飽和を可能にする。結果として、試料注入の量を増加させることは、HCPペプチドイオンの存在量を増加させることになり、それらの同定及び定量を容易にする。注入量の増加に起因するシステムの実際の飽和限界を試験するために、2.1mm ID Waters CSHカラムを使用した。Waters CSHカラムは、その高い装填容量と、高い試料装填によって、又は移動相にMS互換性のあるギ酸を使用した場合でも、劣化しない優れた分離能力とに起因して、LC-MS/MS分析で広く使用されている。図3では、30μgのタンパク質消化物から始まる注入量が、システムの飽和限界を決定するために試験された。図3Aに示される、アスタリスクによって示されるように、最も強い質量ピークの検出器からの信号飽和は、30μgの注入で開始した。ベースピーククロマトグラムが抽出されたとき、最高強度の原薬ペプチドからのクロマトグラフィーピークは、予想されるガウスピーク形状の代わりに平坦域を有し、図3Bに示される信号飽和を更に示す。最も豊富なペプチドについて30μgから開始して信号飽和が観察されたにもかかわらず、低存在量ペプチドのピーク強度は、例えば、図3Bの27分のピークに示されるように、有意に増加した。異なる相対存在度を有する抽出された質量ピークのピーク面積は、図3Cに示されるように、40μgでそれらの最大に到達し、これは、カラムの試料装填容量が約40μgであることを示す。
【0081】
実施例2.原薬試料中のスパイクインHCPの同定
様々なレベルにおける単一のHCPスパイクイン: HCP-AIMS方法及び上記に確立されたLC条件を使用してHCPの同定を評価するために、単一のHCPスパイクイン試験を最初に行った。この試験では、既知の量の組換えチャイニーズハムスターPLBL2タンパク質を、PLBL2を含まないmAb原薬(DS)中にスパイクした。上記のセクションに説明されるように、各試料の3回の再現注入が、各注入にわたって反復的に生成された除外リストを用いて分析された。図4に示されるように、10~50ppm(又はng HCP対mg DS)の一連のPLBL2タンパク質スパイクイン試料について、PLBL2タンパク質の同定を、20ppmスパイクイン試料のうちの1つの再現から、30ppm及び50ppmスパイクイン試料の複数の再現同定まで確認した(標識としてIDを有する縦棒として示される)。MS1ピーク面積からの迅速な抽出が定量に使用され得る。10ppmレベルにおける標的ペプチドのピーク形状は、正確な定量には十分ではない場合があるが、抽出されたイオンクロマトグラム(EIC)は、検出の強力な証拠としてMS1イオンクロマトグラムが抽出され得ることを示す。
【0082】
複数のHCP希釈系列: より大きいタンパク質セットにわたって方法の感度を更に評価するために、表1に示されるように、18個の組換え共通宿主細胞タンパク質から構成される別のスパイクイン試料のセットを作製した。これらのタンパク質の全てを、試料レベル1として1000ppmでmAb原薬中にスパイクした。質量分析によって測定された分子イオン集団をより良好に反映し、以下のセクションにおけるppm計算で他の定量と整合させるために、ここで使用されるアスタリスクでマークされたppm計算は、モル比であった。典型的に使用される質量比と比較して、同じレベルのHCPに対して、モル比からの値は、通常、タンパク質サイズが小さい場合の質量比からの値よりも大きい(表1)。mAb原薬とともにレベル1を使用して、1:3の連続希釈を行って、様々な存在量のスパイクインタンパク質を有する一連の試料を生成した(レベル2、333ppmからレベル7、1.4ppmまで)。ほとんどのタンパク質の同定限界がレベル3、111.1ppmであるQ Exactive Plus上の単一実行同定と比較して(表3)、同定限界は、中程度の信号飽和を有するTOF機器を使用して、タンパク質のいくつか、又はこれらのタンパク質からのいくつかの単一のペプチドについて、レベル4、37ppmの更なるレベルに到達し得る(表2)。反復MS/MSの再現注入によると、ほとんどのレベルから同定されたユニークペプチドが増加し、より多くのタンパク質がレベル4、37ppmの同定限界にあり、レベル5、12.3ppmの次のレベルまでの単一のペプチド同定を伴う。数値を質量比ppmに変換するとき、レベル4について、ppm値は、20~30ppmである(表1)。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
標準自動MS/MSの3回の再現からのペプチドスペクトルマッチ(PSM)の数と反復MS/MSとの間の関係が、それぞれ、図5A及び図5Bに示されている。自動MS/MSを使用する標準再現実行で見られる一般的なPSMと比較して、反復MS/MSの各ラウンドで同定される、よりユニークなPSMが存在し、結果的に、よりユニークかつ完全な同定が得られた。各タンパク質の上位3つのペプチドからのMS1 EIC面積を使用する迅速な定量は、3回の実行からの変動が少ないスパイクイン濃度(表4)に対して優れた線形性を示し、DS信号の中程度の飽和が低レベルの宿主細胞タンパク質からの信号に影響しないことも確認した。
【0087】
【表4】
【0088】
実施例3.NIST mAbからのHCPの同定
HCP-AIMS戦略を更に評価するために、方法は、NIST mAb標準に適用された。直接消化のみで、濃縮ステップなしで、試料調製及びデータ取得は、200μg超のタンパク質試料を必要とせずに、1日で終了することができた。自動反復MS/MSの3つの再現から同定されたHCPが表5に示され、最良のペプチドからの最大検索スコア、PSMのカウント、ユニークペプチドの数、及び宿主細胞タンパク質の最良のペプチドからの存在量対NIST mAbからの存在量を使用する半定量(モル比ppm)を含む。
【0089】
【表5】
【0090】
以前に報告されたマイクロフローオンライン2D-LC方法(Doneanu et al.)及び天然消化試料調製方法(Doneanu et al.、Huang et al.,2017,Anal Chem,89:5436-5444)と比較して、HCP-AIMS方法は、2~3ppmの範囲(質量比)にあるいくつかの同定されたタンパク質を用いて、10ppmのおよその検出限界を有する2つの以前の研究からの全ての共有されたHCPをカバーする。分画及び複数のマイクロフロー実行を伴う合計実行時間500分のマイクロフローオンライン2D-LC方法と比較して、HCP-AIMS方法は、3回の再現に対して180分のみの実行時間を伴う、より堅牢な2.1mm IDカラム及び安定した分析フローを使用する。天然消化方法は、非常に高感度な方法として示されており、1桁のppmレベルまでの同定限界に達することができる(Huang et al.)。しかしながら、方法は、十分なHCPの効果的な蓄積のために、比較的大量のDS試料(1mg以上)を必要とした(Huang et al.)。加えて、高温加熱、遠心分離、時には濾過は、高スループット分析及び単回実行定量分析に向けたその開発を制限する。
【0091】
スパイクイン試料と同様に、反復MS/MS実行の3回の再現からのHCP PSMは、図6に示されるように、後続の各再現において多数の新しいユニークPSMを示した。第3の再現におけるPSMの数の低下も示されている。パピリン、プロスタグランジンレダクターゼ1、及びタンパク質活性化ホモログについて、それらは、タンパク質検索から同定されたが、反復実行中の低いユニークペプチドカウント及び非常に限られた数のMS1スキャンに起因して、信頼性の高い定量のためのクロマトグラムピークを抽出することができなかった。
【0092】
実施例4.堅牢性評価
薬物開発におけるHCP分析の課題に対応し、高スループット分析環境で大規模な試料セットのHCPの持続的かつ信頼性の高い同定及び定量を提供するために、HCP-AIMSアッセイの堅牢性及び機器の安定性は、特に高用量のタンパク質消化物を毎日注入するときに重要である。この目的のために、HCP-AIMSワークフローの有効性及び堅牢性を維持するために不可欠である、信号強度、保持時間、及び質量誤差などのいくつかの主要因子を評価するために徹底的な試験を実施した。堅牢性試験の一貫性及び高い忠実度を確保するために、mAb DS試験試料を大量に消化し、次いで、プールし、20回の注入のために1日の注入量に等分した。連続3週間、アリコートを-80℃の保管から取り出し、試験のために注入した。図7及び表6に示されるように、4桁の強度変動を有する代表的なペプチドを抽出して、堅牢性の測定基準を監視した。溶媒の変化及び前方イオン源上の塩の蓄積を伴っても、ほとんどのペプチドからのピーク面積は、300回の注入にわたって比較的安定したままであり、ペプチドの大部分について30%未満の変動係数(CV)であった。経時的な大量の直接注入に起因して、いくつかの初期の溶出ピーク(グリコペプチドなど)は、他のペプチドほど安定しておらず、より高い偏差及び最大の隣接する実行の差を伴った。300回の注入にわたる保持時間は、ほぼ全てのペプチドで一貫しており、隣接する実行の保持時間安定性は非常に高かった。いくつかのDSペプチドピーク(Pep1~3)が飽和すると、正の側に向かって質量誤差に反映される歪んだイオン統計に起因して、質量精度に影響することになる。同時に、他のペプチドは、確実な同定のために高い質量正確度を維持された。加えて、シックスシグマルールを使用しても、質量誤差の範囲は、約7ppmの範囲を超えなかった。
【0093】
【表6】
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
【国際調査報告】