(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】真核生物遺伝子編集のためのベクター、システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20231124BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20231124BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231124BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231124BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231124BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20231124BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231124BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20231124BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231124BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20231124BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/86 Z ZNA
C12N5/10
C12N1/19
C12N1/15
C12N7/01
A61P35/00
A61P7/06
A61K35/17
A61K35/12
A61P35/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529965
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 US2021060099
(87)【国際公開番号】W WO2022109275
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504018057
【氏名又は名称】ウェイク・フォレスト・ユニバーシティ・ヘルス・サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】Wake Forest University Health Sciences
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ルー, バイソン
(72)【発明者】
【氏名】アタラ, アンソニー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA57
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087MA13
4C087MA16
4C087MA17
4C087MA52
4C087MA56
4C087MA58
4C087MA59
4C087MA60
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA55
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
真核細胞のゲノムを編集するための組成物および方法が本明細書に提供される。一部の実施形態では、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼコード配列は、Cas9 D10Aタンパク質をコードする。一部の実施形態では、アデニン塩基エディターは、ABE7.10またはABE8である。一部の実施形態では、少なくとも1つのアプタマーコード配列は、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダN RNA結合ドメイン、またはComタンパク質からなる群より選択されるABPによって特異的に結合されるアプタマー配列をコードする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ウイルス核酸配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含む哺乳動物発現プラスミドであって、前記非ウイルス核酸配列が、
(i)アデノシン塩基対エディター(ABE)をコードする核酸配列であって、前記ABEが、アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質である、核酸配列、ならびに
(ii)少なくとも1つのアプタマーコード配列を含むガイドRNA(gRNA)コード配列
を含む、哺乳動物発現プラスミド。
【請求項2】
前記触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼコード配列が、Cas9 D10Aタンパク質をコードする、請求項1に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【請求項3】
前記アデニン塩基エディターが、ABE7.10またはABE8である、請求項1に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【請求項4】
前記少なくとも1つのアプタマーコード配列が、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダN RNA結合ドメイン、またはComタンパク質からなる群より選択されるABPによって特異的に結合されるアプタマー配列をコードする、請求項1に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【請求項5】
前記アプタマーが、MS2アプタマー配列またはcomアプタマー配列である、請求項1に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【請求項6】
前記sgRNAコード配列が、前記sgRNAコード配列のテトラループまたはST2ループに挿入された少なくとも1つのアプタマーを含む、請求項1に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【請求項7】
前記sgRNAコード配列が、前記gRNAコード配列の前記ST2ループに挿入された少なくとも1つのcomアプタマーを含む、請求項6に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【請求項8】
a)Gagヌクレオチド配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含むパッケージングプラスミドであって、前記Gagヌクレオチド配列が、ヌクレオカプシド(NC)コード配列およびマトリックスタンパク質(MA)コード配列を含み、前記NCコード配列または前記MAコード配列の一方または両方が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)ヌクレオチド配列を含み、前記パッケージングプラスミドが、機能的インテグラーゼタンパク質をコードしない、パッケージングプラスミド、
b)請求項1~7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの哺乳動物発現プラスミド、ならびに
c)エンベロープ糖タンパク質コード配列を含むエンベローププラスミド
を含む、レンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項9】
前記パッケージングプラスミドが、Revヌクレオチド配列およびTatヌクレオチド配列をさらに含む、請求項8に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項10】
Revヌクレオチド配列を含む第2のパッケージングプラスミドをさらに含む、請求項8に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの非ウイルスABPヌクレオチド配列が、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダNペプチド、またはComタンパク質をコードする、請求項8に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【請求項12】
a)ヌクレオカプシド(NC)タンパク質またはマトリックス(MA)タンパク質を含む融合タンパク質であって、前記NCタンパク質またはMAタンパク質が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)を含む、融合タンパク質、ならびに
b)(i)アデニン塩基エディターおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合ポリペプチドであるアデニン塩基エディター(ABE)、および(ii)gRNAを含むリボヌクレオチドタンパク質(RNP)複合体
を含む、レンチウイルス様粒子であって、
機能的インテグラーゼタンパク質を含まない、
レンチウイルス様粒子。
【請求項13】
前記触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼが、触媒的に損なわれたCas9タンパク質、触媒的に損なわれたCpf1タンパク質、またはいずれかの誘導体である、請求項12に記載のレンチウイルス様粒子。
【請求項14】
前記アデニン塩基エディターが、ABE7.10またはABE8である、請求項12に記載のレンチウイルス様粒子。
【請求項15】
レンチウイルス様粒子を産生する方法であって、
a)複数の真核細胞を、請求項8~11のいずれか一項に記載のシステムのパッケージングプラスミド、少なくとも1つの哺乳動物発現プラスミド、およびエンベローププラスミドでトランスフェクトすること、ならびに
b)トランスフェクトされた前記真核細胞を、レンチウイルス様粒子が産生されるのに十分な時間、培養すること
を含む、方法。
【請求項16】
前記レンチウイルス様粒子が、(i)アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合ポリペプチドであるアデニン塩基エディター(ABE)、ならびに(ii)ガイドRNAを含むリボヌクレオチドタンパク質(RNP)複合体を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の真核細胞が、哺乳動物細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法によって作製されたレンチウイルス様粒子。
【請求項19】
細胞においてゲノム標的配列を改変する方法であって、複数の真核細胞を、複数のウイルス粒子で形質導入することを含み、前記複数のウイルス粒子が、請求項12に記載のレンチウイルス様粒子を含み、RNPが、前記細胞のゲノムDNAにおける前記ゲノム標的配列に結合し、ABEが、前記ゲノム標的配列におけるアデニンを脱アミノ化し、それによって、前記ゲノム標的配列を改変する、方法。
【請求項20】
前記複数の真核細胞が、哺乳動物細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の真核細胞が、対象中に存在する細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が、ヒト対象である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、前記複数のウイルス粒子を注射される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1に記載のプラスミドを含有する細胞。
【請求項25】
請求項8に記載のレンチウイルスパッケージングシステムを含有する細胞。
【請求項26】
請求項12に記載のレンチウイルス様粒子を含有する細胞。
【請求項27】
請求項19に記載の方法を使用して改変された細胞。
【請求項28】
対象における疾患を処置するための方法であって、
a)前記対象から細胞を得ること、
b)前記対象の前記細胞を、請求項19に記載の方法を使用して改変すること、
および
c)改変された前記細胞を前記対象に投与すること
を含む、方法。
【請求項29】
前記疾患が、がんである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記疾患が、鎌状赤血球貧血である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞が、T細胞である、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行関連出願
本出願は、2020年11月19日に出願された米国仮出願第63/115,932号の利益を主張し、これは、その全体が、これにより参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、真核生物遺伝子編集のための組成物およびそれを使用する方法を記載する。
【0003】
EFS-Webを介してテキストファイルとして提出された配列表に対する言及
配列表の正式な写しは、095199-1275954_seqlistというファイル名で、2021年11月15日に作成され、79.0kbのサイズを有するASCIIフォーマットの配列表として、EFS-Webを介して電子的に提出され、本明細書と同時に提出される。このASCIIフォーマット文書に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
背景
アデニンデアミナーゼとヌクレアーゼ欠損II型CRISPR/Cas9(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート/CRISPR関連9)の融合は、二本鎖DNA切断なしでゲノムDNAを編集することができるアデニン塩基エディター(ABE)を作出する。塩基編集は、二本鎖切断を生じることなく、ゲノムDNAにおいて正確な点変異を生じる。さらに、アデニン塩基編集は、DNAドナー鋳型を必要とせず、細胞相同指向性修復に依拠しない。そのため、これは、疾患を引き起こす点変異の61%を占める対変異によって引き起こされる遺伝性疾患のための遺伝子治療として大きな可能性を有している。アデニン塩基エディター(ABE)は、多くのin vitroおよびin vivo研究において使用されているが、ABEは、安全性の懸念を生じ、その潜在的な臨床適用を妨げる、顕著なガイド非依存性RNAオフターゲット活性を示す。そのため、ABEのRNAオフターゲット活性を低減するための組成物および方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
非ウイルス核酸配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含む哺乳動物発現プラスミドであって、非ウイルス核酸配列が、(i)アデノシン塩基対エディター(ABE)をコードする核酸配列であって、ABEが、アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質である、核酸配列、ならびに(ii)少なくとも1つのアプタマーコード配列を含むガイドRNA(gRNA)コード配列を含む、哺乳動物発現プラスミドが本明細書に提供される。
【0006】
一部の実施形態では、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼコード配列は、Cas9 D10Aタンパク質をコードする。一部の実施形態では、アデニン塩基エディターは、ABE7.10またはABE8である。一部の実施形態では、少なくとも1つのアプタマーコード配列は、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダN RNA結合ドメイン、またはComタンパク質からなる群より選択されるABPによって特異的に結合されるアプタマー配列をコードする。一部の実施形態では、アプタマーは、MS2アプタマー配列またはcomアプタマー配列である。一部の実施形態では、sgRNAコード配列は、sgRNAコード配列のテトラループまたはST2ループに挿入された少なくとも1つのアプタマーを含む。一部の実施形態では、sgRNAコード配列は、gRNAコード配列のST2ループに挿入された少なくとも1つのcomアプタマーを含む。
【0007】
(a)Gagヌクレオチド配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含むパッケージングプラスミドであって、Gagヌクレオチド配列が、ヌクレオカプシド(NC)コード配列およびマトリックスタンパク質(MA)コード配列を含み、NCコード配列またはMAコード配列の一方または両方が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)ヌクレオチド配列を含み、パッケージングプラスミドが、機能的インテグラーゼタンパク質をコードしない、パッケージングプラスミド、(b)本明細書に提供される少なくとも1つの哺乳動物発現プラスミド、ならびに(c)エンベロープ糖タンパク質コード配列を含むエンベローププラスミドを含む、レンチウイルスパッケージングシステムも提供される。
【0008】
一部の実施形態では、パッケージングプラスミドは、Revヌクレオチド配列およびTatヌクレオチド配列をさらに含む。一部の実施形態では、システムは、Revヌクレオチド配列を含む第2のパッケージングプラスミドをさらに含む。一部の実施形態では、少なくとも1つの非ウイルスABPヌクレオチド配列は、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダNペプチド、またはComタンパク質をコードする。
【0009】
(a)ヌクレオカプシド(NC)タンパク質またはマトリックス(MA)タンパク質を含む融合タンパク質であって、NCタンパク質またはMAタンパク質が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)を含む、融合タンパク質、ならびに(b)(i)アデニン塩基エディターおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合ポリペプチドであるアデニン塩基エディター(ABE)、および(ii)gRNAを含むリボヌクレオチドタンパク質(RNP)複合体を含むレンチウイルス様粒子であって、機能的インテグラーゼタンパク質を含まない、レンチウイルス様粒子がさらに提供される。一部のレンチウイルス様粒子では、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼは、触媒的に損なわれたCas9タンパク質、触媒的に損なわれたCpf1タンパク質、またはいずれかの誘導体である。一部のレンチウイルス様粒子では、アデニン塩基エディターは、ABE7.10またはABE8である。
【0010】
レンチウイルス様粒子を産生する方法であって、(a)複数の真核細胞を、本明細書に記載されるシステムのいずれかのパッケージングプラスミド、少なくとも1つの哺乳動物発現プラスミド、およびエンベローププラスミドでトランスフェクトすること、ならびに(b)トランスフェクトされた真核細胞を、レンチウイルス様粒子が産生されるのに十分な時間、培養することを含む、方法も提供される。一部の実施形態では、産生されるレンチウイルス様粒子は、(i)アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合ポリペプチドであるアデニン塩基エディター(ABE)、ならびに(ii)ガイドRNAを含むRNPを含む。一部の実施形態では、複数の真核細胞は、哺乳動物細胞である。
【0011】
細胞においてゲノム標的配列を改変する方法であって、複数の真核細胞を、本明細書に記載される複数のウイルス粒子で形質導入することを含み、RNPが、細胞のゲノムDNAにおけるゲノム標的配列に結合し、ABEが、ゲノム標的配列におけるアデニンを脱アミノ化し、それによって、ゲノム標的配列を改変する、方法がさらに提供される。一部の方法では、複数の真核細胞は、哺乳動物細胞である。一部の実施形態では、複数の真核細胞は、対象中に存在する細胞である。一部の実施形態では、対象は、ヒト対象である。一部の実施形態では、対象は、複数のウイルス粒子を注射される。
【0012】
本明細書に記載されるプラスミド、レンチウイルスパッケージングシステムまたはレンチウイルス様粒子のいずれかを含む細胞も提供される。本明細書に提供される方法のいずれかによって改変された細胞も提供される。
【0013】
対象における疾患を処置するための方法であって、(a)対象から細胞を得ること、および(b)対象の細胞を、本明細書に記載されるゲノム編集方法のいずれかを使用して改変すること、および改変された細胞を対象に投与することを含む、方法がさらに提供される。一部の実施形態では、疾患は、がんである。一部の実施形態では、疾患は、鎌状赤血球貧血である。一部の実施形態では、細胞は、T細胞である。
【0014】
図の説明
本出願は、以下の図を含む。図は、ある特定の実施形態ならびに/または組成物および方法の特色を説明し、組成物および方法の任意の記載を補足することを意図する。図は、明細書が明確にそうであることを示さない限り、組成物および方法の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1-1】
図1Aは、本開示の態様による、ヒトUSP38 mRNAにおける予測されるABEオフターゲットホットスポットを示す図である。予測されるホットスポット(赤色)およびPCR増幅のために使用されたプライマーを示す。
【0016】
図1Bは、本開示の態様による、ABE DNAトランスフェクション後にUSP38 mRNA領域の440nt領域における高レベルのAからGへの変化が検出された、RT-PCRの結果および標的化NGSを示す。X軸の上のピークは、ABEおよびsgRNA(ABE部位1を標的化する)を発現するプラスミドDNAでトランスフェクトされた細胞において観察された。ピーク(非常に低い、陰性エリア中)は、対照細胞(ABE部位1を標的化するCas9ニッカーゼでトランスフェクトされた)において観察された。予測されるホットスポット(CUACGAA)に対応する最も高いピークを示す。
【0017】
【
図1-2】
図1Cは、本開示の態様による、ABE部位1を標的化するABEを発現するプラスミドDNAでトランスフェクトされた細胞からの最も頻繁なNGSリード(配列番号108~117)の配列を示す。予測されるRNAオフターゲットホットスポットに下線を付ける(最も高いピーク)。AからGへの変化を示す。破線のボックスによってマークされたTAジヌクレオチドは、
図1Bにおいてマークされた2番目のピークに対応する。3つの影付きの対立遺伝子は、ホットスポットにおいてAからGへの変化を有さないが、2番目のピークにおいてAからGへの変化を有する。DNA試料を、処理48時間後に収集した。
【0018】
【
図1-3】
図1Dは、本開示の態様による、ABE部位1でのオンターゲット塩基編集の次世代配列(NGS)分析の結果を示す。配列番号118は、参照配列として示される。リードの96.30%が配列番号118に対応し、配列番号119および120は、それぞれ、リードの2.22%および0.25%を表す。20μgのABE RNPで処理され、NGSのために電気穿孔24時間後に収集された細胞(2×10
5個)からのデータを示す。
【0019】
【
図2-1】
図2Aは、本開示の態様による、ABE RNPパッケージングのためのsgRNAスキャフォールドに対する例示的な改変である(配列番号121)。テトラループ(GAAA)およびST2ループは、破線ボックスによって示される。コアアプタマー配列に下線を付け、追加のリンカーには下線を付けていない。縦線は相補的塩基対を示し、ドットは非標準塩基対を示す。
図3Aに示されるように、テトラループおよびST2ループは、MS2アプタマー配列(配列番号122)と置き換えることができる。別の例では、テトラループまたはST2ループは、comアプタマー配列(配列番号123)と置き換えることができる。
【0020】
【
図2-2】
図2Bは、本開示の態様による、ABE部位1におけるABE-g1 RNP活性を検出するqPCRの結果を示す。合計で200ngのさまざまなLVカプシドのp24を使用して、2.5×10
4個のHEK293T細胞を形質導入した。gDNAを、プライマーがマッチする編集された配列によるqPCRのために使用した。***は、p<0.0001、一元配置分散分析(ANOVA)後のチューキー多重比較検定を示す。エラーバーは、3反復のs.e.mを示す。
【0021】
図2Cは、本開示の態様による、ABE部位5におけるABE-g5 RNP活性を検出するqPCRの結果を示す。*p<0.05、ns=有意でない;ANOVA後のチューキー多重比較検定。
【0022】
【
図2-3】
図2Dは、本開示の態様による、ABE部位5でのカプシドRNP媒介塩基編集のNGS分析を示す。カプシドRNP(108ngのp24)を使用して、2.5×10
4個のHEK293T細胞を形質導入した。配列番号124は、参照配列である。>0.2%の塩基編集頻度を有する対立遺伝子を、列挙し(配列番号125~133)、異なる位置でのA>G変化の頻度を下部に示す。
【0023】
【
図3】
図3は、本開示の態様による、ABE部位1でのカプシドRNP媒介塩基編集のNGS分析を示す。200ngのp24の量のカプシドRNPを使用して、2.5×10
4個のHEK293T細胞を形質導入した。配列番号134は、参照配列である。>0.1%の塩基編集頻度を有する対立遺伝子を、列挙し(配列番号134~139)、異なる位置でのA>G変化の頻度を下部に示す。
【0024】
【
図4-1】
図4Aは、アプタマー/アプタマー結合タンパク質(ABP)相互作用が、本開示の態様による、レンチウイルスカプシドにおける機能的ABEパッケージングのために必要であることを示す。40ngのp24(ELISA)ABE-g5 RNPカプシドおよびABE-g5
ST2-com RNPカプシドを、Triton(登録商標)-X100ありまたはなしで処理し、p24およびABEを、ウエスタンブロッティングによって検出した。p24の画像は、無関係レーンを除去した同じブロットからである。アスタリスクは全長タンパク質を示す。
【0025】
図4Bは、本開示の態様による、LVカプシドにおけるABEタンパク質の量の推定を示す。
【0026】
【
図4-2】
図4Cは、本開示の態様による、ABE-g5 RNPカプシドおよびABE-g5
ST2-com RNPカプシドの塩基編集活性のqPCR検出の結果を示す。2.5×10
4個のHEK293T細胞を、200ngのカプシドRNPのp24で処理した。48時間後、gDNAを、抽出し、pPCRによって分析して、部位5での塩基編集を検出した。ABE-g1
ST2-com RNPカプシドで処理された細胞からのDNA(
図3Bから)を、部位特異性を示すための対照として使用した。
【0027】
図4Dは、本開示の態様による、PCR検出におけるcom添加の効果を調べるための公知の濃度のプラスミドDNAを使用するqPCRの結果を示す。
【0028】
図4Eは、本開示の態様による、Triton(登録商標)X-100ありおよびなしで処理されたABE-g5 RNPおよびABE-g5
ST2-com RNPカプシドにおけるsgRNAレベルのRT-qPCR比較を示す。***は、ANOVA後のボンフェローニ事後検定におけるp<0.0001を示す。
【0029】
【
図5-1】
図5Aは、本開示の態様による、HEK293T細胞を形質導入した後のABEレベルのウエスタンブロットである。ABEおよびβ-アクチンのゲル画像を示す。矢印は、全長ABEバンドの位置を示す。β-アクチンの画像は、すべての試料が、溶解物インプットを有することを実証する。RNP量は細胞増殖と無関係であったので、正規化は試みなかった。
【0030】
【
図5-2】
図5Bは、本開示の態様による、タンパク質分解のデンシトメトリー分析である。全長ABEバンドのみを定量化した。半減期を、GraphPad Prism 5.0の2相減衰モデルを使用して推定した。
【0031】
【
図6】
図6は、本開示の態様による、USP38 mRNAにおけるホットスポットでのカプシド-RNP処理細胞におけるRNAオフターゲットのNGS分析である。カプシド-RNP(ABE部位1を標的化)処理細胞(X軸の上のピーク)、およびニッカーゼで処理された陰性対照細胞(X軸の下のピーク)における置換率は、相違を示さなかった。両方のピークでのAからGへの変化率は、バックグラウンドレベルのものであった。予測されるホットスポットの位置を示す。2つの実験の1つの代表的な写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、文脈が他を明確に示さない限り、単数形の「a」、「an」および「the」は、複数の指示対象を含む。
【0033】
「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」という用語、およびそれらの変形形態の本明細書での使用は、その後に列挙される要素およびその等価物、ならびに追加の要素を包含することを意味する。ある特定の要素を「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」として列挙される実施形態はまた、これらのある特定の要素「から本質的になる」および「からなる」として企図される。本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙された項目の1つまたは複数のありとあらゆる可能な組合せ、ならびに選択肢(「または」)において解釈される組合せの欠如を指し、それを包含する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「から本質的になる」という移行句(および文法的変形形態)は、特許請求された発明の列挙された材料またはステップ「ならびに基本的なおよび新規の特徴に実質的に影響を及ぼさないもの」を包含するとして解釈されるべきである。In re Herz、537 F.2d 549、551-52、190 U.S.P.Q.461、463(CCPA 1976)(原文において強調)を参照されたく、またMPEP §2111.03も参照されたい。そのため、「から本質的になる」という用語は、本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」と同等であるとして解釈されるべきではない。
【0035】
「核酸」または「ヌクレオチド」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、および一本鎖または二本鎖形態のいずれかのそのポリマーを指す。RNAが記載される場合、ウリジンがチミジンとして表されるその対応するDNAも記載されることが理解される。同様に、DNAが記載される場合、チミジンがウリジンによって表されるその対応するRNAも記載される。具体的に限定されない限り、用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと類似の様式で代謝される、天然ヌクレオチドの公知アナログを含有する核酸を包含する。他に指示されない限り、特定の核酸配列は、保存的に改変されたそのバリアント(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNPおよび相補配列、ならびに明確に示された配列も黙示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(またはすべての)コドンの第3の位置が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を作製することによって達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);およびRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。本発明のポリヌクレオチドは、限定されるものではないが、一本鎖形態、二本鎖形態、ヘアピン、ステムおよびループ構造などを含む配列のすべての形態も包含する。
【0036】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の産生またはコードに関与するDNAのセグメントを指し得る。これは、コーディング領域の前および後の領域(リーダーおよびトレイラー)、ならびに個々のコーディングセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含み得る。あるいは、「遺伝子」という用語は、非翻訳RNA、例えば、rRNA、tRNA、ガイドRNAまたはマイクロRNAの産生またはコードに関与するDNAのセグメントを指し得る。
【0037】
「処置すること」は、任意の客観的または主観的パラメーター、例えば、緩和;寛解;症状の減少、もしくは疾患状態を患者により耐えられるようにすること;変性もしくは減退の速度を減速すること;または変性の最終点をあまり衰弱しないようにすることを含む、疾患、状態または障害の処置または回復または防止の任意の成功の兆候を指す。症状の処置または回復は、客観的または主観的パラメーターに基づき得、医師による検査の結果を含む。したがって、「処置すること」という用語は、本明細書に記載される疾患、状態または障害に関連する症状または状態の発生を防止もしくは遅延するための、軽減するための、または停止もしくは阻害するための本開示の化合物、レンチウイルス様粒子または薬剤の投与を含む。「治療効果」という用語は、対象における疾患、疾患の症状または疾患の副作用の低減、排除または防止を指す。本開示の方法を使用する「処置すること」または「処置」は、本明細書に記載される疾患、状態または障害に関連する疾患または障害の増加したリスクがあり得るが、まだ症状を経験していないもしくは示していない対象において、症状の開始を防止すること、疾患または障害の症状を阻害すること(その発生を減速することまたは停止すること)、疾患の症状または副作用からの解放を提供すること(待期療法を含む)、および疾患の症状を緩和すること(退縮を引き起こすこと)を含む。処置は、疾患もしくは状態の予防的な(疾患の開始を防止するもしくは遅延させるため、またはその臨床的もしくは無症候性症状の顕在化を防止するため)、または疾患もしくは状態の顕在化後の症状の治療的な抑制もしくは軽減であり得る。「処置」という用語は、本明細書で使用される場合、防止(例えば、予防)処置、治癒処置または待期療法を含む。
【0038】
「プロモーター」は、核酸の転写を指示する1つまたは複数の核酸制御配列として定義される。本明細書で使用される場合、プロモーターは、転写の開始部位に近い必要な核酸配列、例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合では、TATAエレメントを含む。プロモーターは、必要に応じて、転写の開始部位から数千塩基対程度に位置し得る遠位エンハンサーまたはリプレッサーエレメントも含む。
【0039】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために、本明細書で互換的に使用される。3つの用語はすべて、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書で使用される場合、用語は、全長タンパク質、トランケートされたタンパク質およびその断片、ならびにアミノ酸残基が共有ペプチド結合によって連結されているアミノ酸鎖を包含する。全体を通して使用される場合、「融合ポリペプチド」または「融合タンパク質」という用語は、2つまたはそれよりも多くのタンパク質またはその断片を含むポリペプチドである。一部の実施形態では、約3~10アミノ酸を含むリンカーは、発現の際にタンパク質の適正なフォールディングを容易にするのを助けるように、任意の2つのタンパク質またはその断片間に位置し得る。
【0040】
「同一性」または「実質的同一性」という用語は、本明細書に記載されるポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の文脈で使用される場合、参照配列に対して少なくとも60%の配列同一性を有する配列を指す。あるいは、同一性パーセントは、60%~100%の任意の整数であり得る。例示的な実施形態は、本明細書に記載されるプログラム、好ましくは、下に記載される標準的なパラメーターを使用するBLASTを使用して参照配列と比較した場合に、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%を含む。本明細書に示される任意のヌクレオチドまたはポリペプチド配列、例えば、配列番号1~48のいずれか1つに対する60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する配列を、本明細書に提供される組成物および方法で使用することができることが理解される。核酸配列が、本明細書に記載される任意の核酸配列を含むか、それからなるか、またはそれから本質的になり得ることが理解される。同様に、ポリペプチドは、本明細書に記載される任意のポリペプチド配列を含むか、それからなるか、またはそれから本質的になり得る。配列比較のために、典型的には、ある配列は、試験配列が比較される参照配列として働く。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列は、コンピュータに入力され、必要により部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムのパラメーターを指定する。デフォルトプログラムパラメーターを使用することができ、または代替パラメーターを指定することができる。次いで、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメーターに基づいて、参照配列に対する試験配列についての配列同一性パーセントを算出する。
【0041】
「比較ウインドウ」は、本明細書で使用される場合、2つの配列が最適に整列された後で、配列を、同じ数の連続する位置の参照配列と比較し得る、20~600、約20~50、約20~100、約50~約200または約100~約150からなる群より選択される連続する位置の数のいずれか1つのセグメントに対する言及を含む。比較のための配列のアライメント方法は、当技術分野において周知である。比較のための最適な配列のアライメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 85: 2444 (1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装(例えば、BLAST)によって、または手作業のアライメントおよび目視検査によって実施され得る。
【0042】
配列同一性パーセントおよび配列類似性パーセントを決定するのに好適なアルゴリズムは、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれ、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-410およびAltschul et al. (1977) Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402に記載されている。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)ウェブサイトにより公表されている。アルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列された場合に、いくつかの正の値の閾値スコアTとマッチするかまたはそれを満たすのいずれかで、クエリ配列中の短いワード長Wを特定することによって、高スコアリング配列対(HSP)を最初に特定することを含む。Tを、隣接ワードスコア閾値(Altschul et al、上記)と称する。これらの初期の隣接ワードヒットは、それらを含有するより長いHSPを見出す検索を開始するためのシードとして働く。次いで、ワードヒットは、累積アライメントスコアが増加し得る限りは、各配列に沿って両方向に伸長する。累積スコアは、ヌクレオチド配列について、パラメーターM(マッチする残基の対についての報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチの残基についてのペナルティースコア;常に<0)を使用して算出する。累積アライメントスコアが、到達したその最大値から量Xだけ低下した場合;1つもしくは複数の負のスコアリング残基のアライメントの蓄積に起因して、累積スコアがゼロもしくはそれより下になった場合;またはいずれかの配列の末端に到達した場合、各方向のワードヒットの伸長を停止させる。BLASTアルゴリズムパラメーターW、TおよびXは、アライメントの感度およびスピードを決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、28のワードサイズ(W)、10の期待(E)、M=1、N=-2、および両方の鎖の比較をデフォルトとして使用する。
【0043】
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列間の類似性の統計分析を行う(例えば、Karlin & Altschul, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90:5873-5787 (1993)を参照されたい)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、2つのヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間のマッチが偶然に生じる確率の指標を提供する最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸の参照核酸との比較における最小合計確率が、約0.01未満、より好ましくは、約10-5未満、最も好ましくは、約10-20未満である場合、核酸は参照配列と類似すると考えられる。
【0044】
全体を通して使用される場合、対象とは、個体を意味する。例えば、対象は、哺乳動物、例えば、霊長類、より具体的には、ヒトである。非ヒト霊長類は、同様に、対象である。対象という用語は、飼育動物、例えば、ネコ、イヌなど、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、および実験動物(例えば、フェレット、チンチラ、マウス、ウサギ、ラット、スナネズミ、モルモットなど)を含む。そのため、獣医学的使用および医学的使用、ならびに製剤が本明細書で企図される。用語は、特定の年齢または性別を示さない。そのため、成体および新生児対象は、雄または雌にかかわらず、網羅されることが意図される。本明細書で使用される場合、患者または対象は、互換的に使用されてもよく、疾患または障害に罹患する対象を指し得る。
【0045】
「発現カセット」は、宿主細胞における特定のポリヌクレオチド配列の転写を可能にする一連の指定の核酸エレメントを用いて、組換え的にまたは合成的に作製された核酸構築物である。発現カセットは、プラスミド、ウイルスゲノム、または核酸断片の一部であってもよい。典型的には、発現カセットは、プロモーターに作動可能に連結した転写されるポリヌクレオチドと、それに続く転写終結シグナル配列を含む。発現カセットは、特異的調節配列、例えば、ヒトグロビン遺伝子由来の5’または3’非翻訳領域を含んでいてもよく、または含んでいなくてもよい。
【0046】
「レポーター遺伝子」は、それらの生化学的特徴、例えば、酵素活性または化学蛍光特色に起因して容易に検出可能であるタンパク質をコードする。これらのレポータータンパク質は、選択可能なマーカーとして使用することができる。そのようなレポーターの1つの具体例は、緑色蛍光タンパク質である。このタンパク質から生じる蛍光は、さまざまな市販の蛍光検出システムを用いて検出することができる。他のレポーターは、染色によって検出することができる。レポーターはまた、適切な基質と接触したら、検出可能なシグナルを生じる酵素であり得る。レポーターは、検出可能な産物の形成を触媒する酵素であり得る。好適な酵素として、限定されるものではないが、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、リパーゼ、ホスファターゼおよびヒドロラーゼが挙げられる。レポーターは、基質が真核細胞膜に対して実質的に不透過性であり、そのため、シグナル形成をしっかりと制御することを可能にする酵素をコードし得る。酵素をコードする好適なレポーター遺伝子の具体例としては、限定されるものではないが、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ;Alton and Vapnek (1979) Nature 282: 864-869);ルシフェラーゼ(lux);β-ガラクトシダーゼ;LacZ;β-グルクロニダーゼ;およびアルカリホスファターゼ(Toh, et al. (1980) Eur. J. Biochem. 182: 231-238;およびHall et al. (1983) J. Mol. Appl. Gen. 2: 101)が挙げられ、これらのそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。他の好適なレポーターとしては、エピトープを特異的に認識する標識抗体を用いて検出することができる特定のエピトープをコードするものが挙げられる。
【0047】
本明細書に提供される組成物および方法では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、触媒的に損なわれたヌクレアーゼである。全体を通して使用される場合、「触媒的に損なわれた」は、DNAの一方または両方の鎖を切断するための減少したCRISPR関連エンドヌクレアーゼ酵素活性を指す。触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼの例としては、限定されるものではないが、触媒的に損なわれたCas9、触媒的に損なわれたCpf1、および触媒的に損なわれたC2c2が挙げられる。一部の例では、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼは、触媒的に損なわれたCas9、例えば、Cas9 D10Aであり、これは、DNAの一本の鎖のみを切断するか、またはそれにニックを入れる 一部の例では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼであり得、ここで、エンドヌクレアーゼは、二本鎖DNA分子の両方の鎖を切断することができない、すなわち、二本鎖切断を行うことができない。改変としては、限定されるものではないが、1つまたは複数のアミノ酸を変更して、ヌクレアーゼ活性またはヌクレアーゼドメインを不活性化することが挙げられる。例えば、限定されないが、D10Aおよび/またはH840A変異は、Streptococcus pyogenes由来のCas9中で作製されて、Cas9ヌクレアーゼ活性を低減または不活性化し得る。他の改変としては、ヌクレアーゼ活性を示す配列がCas9から存在しなくなるように、Cas9のヌクレアーゼドメインのすべてまたは一部分を除去することが挙げられる。したがって、触媒的に損なわれたCas9は、ヌクレアーゼ活性を低減するように改変されたポリペプチド配列、またはヌクレアーゼ活性を低減するためのポリペプチド配列(単数または複数)の除去を含み得る。触媒的に損なわれたCas9は、ヌクレアーゼ活性が不活性化されたとしても、DNAに結合する能力を保持している。したがって、触媒的に損なわれたCas9は、DNA結合に必要なポリペプチド配列(単数または複数)を含むが、改変されたヌクレアーゼ配列を含むか、またはヌクレアーゼ活性の原因となるヌクレアーゼ配列を欠く。類似の改変を行って、他の部位特異的ヌクレアーゼ、例えば、Cpf1またはC2c2のヌクレアーゼ活性を低減することができることが理解される。一部の例では、Cas9タンパク質は、RuvCヌクレアーゼドメインおよび/またはHNHヌクレアーゼドメインのポリペプチド配列を欠き、DNA結合機能を保持している、S.pyogenes由来の全長Cas9配列である。他の例では、Cas9タンパク質配列は、RuvCヌクレアーゼドメインおよび/またはHNHヌクレアーゼドメインを欠き、DNA結合機能を保持するCas9ポリペプチド配列に対して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%の同一性を有する。
【0048】
触媒的に損なわれ得るCRISPR関連エンドヌクレアーゼの例としては、限定されるものではないが、II型またはV型CRISPR/Cas系をコードする任意の細菌種に存在するヌクレアーゼが挙げられる。「CRISPR/Cas」系は、外来核酸に対する防御のための細菌系の広範なクラスを指す。CRISPR/Cas系は、広範囲の真正細菌および古細菌生物において見られる。CRISPR/Cas系は、I、IIおよびIII型サブタイプを含む。Makarova, et al. (Nat Rev Microbiol. 2015 Nov; 13(11):722-36)に記載されているCRISPR/Cas系の分類は、共有される特徴および進化的類似性に基づいて5つのタイプおよび16のサブタイプを定義する。これらは、ゲノムDNAを切断するエフェクター複合体の構造に基づいて2つの大きなクラスにグループ分けされる。II型CRISPR/Cas系は、ゲノム工学のために最初に使用されたものであり、2015年にV型が続いた。野生型II型CRISPR/Cas系は、ガイドRNAとの複合体においてRNA媒介ヌクレアーゼCasタンパク質またはホモログ(本明細書で「CRISPR関連エンドヌクレアーゼ」と称される)を利用して、外来核酸を認識および切断する。Cas9タンパク質は、活性化RNA(トランス活性化RNAまたはtracrRNAとも称される)も使用する。それらとともに使用されるCRISPR関連エンドヌクレアーゼの種類に応じて、ガイドRNA、またはガイドRNAおよび活性化RNAの両方のいずれかの活性を有するガイドRNAも、当技術分野において公知である。一部の例では、そのような二重活性ガイドRNAは、単一ガイドRNA(sgRNA)と称される。活性化RNA配列を含有しない合成ガイドRNAは、sgRNAとも称され得る。本開示では、sgRNAおよびgRNAという用語は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼと複合体化し、リボヌクレオタンパク質複合体を標的DNA配列に局在化させるRNA分子を指すために互換的に使用される。
【0049】
例えば、限定されるものではないが、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cas9ポリペプチド(II型)またはCpf1ポリペプチド(V型)であり得る。例えば、Abudayyeh et al., Science 2016 August 5; 353(6299):aaf5573;Fonfara et al. Nature 532: 517-521 (2016)、およびZetsche et al., Cell 163(3): p. 759-771, 22 October 2015を参照されたい。全体を通して使用される場合、「Cas9ポリペプチド」という用語は、II型CRISPR/Cas系をコードする任意の細菌種において特定されたCas9タンパク質またはその断片もしくは誘導体を意味する。例えば、補足情報を含んで、その全体が、これにより参照により本明細書に組み込まれるMakarova et al. Nature Reviews, Microbiology, 9: 467-477 (2011)を参照されたい。CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9およびCas9ホモログは、限定されるものではないが、以下の分類学的群の細菌:Actinobacteria、Aquificae、Bacteroidetes-Chlorobi、Chlamydiae-Verrucomicrobia、Chlroflexi、Cyanobacteria、Firmicutes、Proteobacteria、Spirochaetes、およびThermotogaeを含む多種多様な真正細菌において見られる。例示的なCas9タンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9タンパク質(SpCas9)である。別の例示的なCas9タンパク質は、Staphylococcus aureus Cas9タンパク質(SaCas9)である。追加のCas9タンパク質およびそのホモログは、例えば、Chylinksi, et al., RNA Biol. 2013 May 1; 10(5): 726-737;Nat. Rev. Microbiol. 2011 June; 9(6): 467-477;Hou, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2013 Sep 24;110(39):15644-9;Sampson et al., Nature. 2013 May 9;497(7448):254-7;およびJinek, et al., Science. 2012 Aug 17;337(6096):816-21に記載されている。Cas9ヌクレアーゼドメインは、宿主細胞における有効な活性または増強された安定性のために最適化され得る。他のCRISPR関連エンドヌクレアーゼとしては、Cpf1(例えば、Zetsche et al., Cell, Volume 163, Issue 3, p. 759-771, 22 October 2015を参照されたい)およびそのホモログが挙げられる。
【0050】
全長Cas9は、DNA配列中に二本鎖切断を作出する認識ドメインおよび2つのヌクレアーゼドメイン(それぞれ、HNHおよびRuvC)を含むエンドヌクレアーゼである。Cas9のアミノ酸配列では、HNHは、直線的に連続しているが、RuvCは、3つの領域、認識ドメインの左側の1つ、およびHNHドメインに隣接している認識ドメインの右側の他の2つに分かれている。Cas9は、Cas9によって認識されるNGGモチーフの直前の20ヌクレオチドのDNA配列にハイブリダイズするガイドRNAと相互作用することによって、細胞におけるゲノム部位に標的化される。これは、細胞のゲノムDNAにおける二本鎖切断をもたらす。一部の例では、ガイドRNAによって標的化される領域のすぐ3’にNGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を必要とするCas9ヌクレアーゼを利用することができる。別の例として、直交性PAMモチーフ要件を有するCas9タンパク質を利用して、隣接NGG PAM配列を有さない配列を標的化することができる。直交性PAM配列特異性を有する例示的なCas9タンパク質としては、限定されるものではないが、Esvelt et al., Nature Methods 10: 1116-1121 (2013)に記載されているものが挙げられる。さまざまなCas9ヌクレアーゼを、本明細書に記載される方法で利用することができる。例えば、ガイドRNAによって標的化される領域のすぐ3’にNGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を必要とするCas9ヌクレアーゼ、例えば、SpCas9を利用することができる。そのようなCas9ヌクレアーゼは、NGG配列を含有するゲノムの任意の領域に標的化され得る。別の例として、ガイドRNAによって標的化される領域のすぐ3’にNNGRRT(配列番号79)またはNNGRR(N)(配列番号80)PAMを必要とするCas9ヌクレアーゼ、例えば、SaCas9を利用することができる。別の例として、直交性PAMモチーフ要件を有するCas9タンパク質を利用して、隣接NGG PAM配列を有さない配列を標的化することができる。直交性PAM配列特異性を有する例示的なCas9タンパク質としては、限定されるものではないが、Esvelt, K.M., et al., Nature Methods 10(11): 1116-1121 (2013)に記載されているもの、およびZetsche et al., Cell, Volume 163, Issue 3, p. 759-771, 22 October 2015に記載されているものが挙げられる。
【0051】
一部の場合では、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cas9ニッカーゼ、例えば、Cas9 D10Aである。一部の例では、ABE中のCas9 10Aは、配列番号29によってコードされる。一部の例では、Cas9 10Aは、配列番号30を含み、通常、Cas9ニッカーゼが、ガイドRNAとの複合体の一部として標的核酸に結合している場合に、一本鎖切断またはニックが標的核酸に導入される。構造的に異なるガイドRNAにそれぞれ結合した一対のCas9ニッカーゼは、標的ゲノム領域の2つの近位部位に標的化され得る。例示的なCas9ニッカーゼとしては、D10AまたはH840A変異を有するCas9ヌクレアーゼが挙げられる。
【0052】
一部の実施形態では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、触媒的に損なわれたCpf1ポリペプチドである。Cpf1タンパク質は、クラスIIのV型CRISPR/Cas系タンパク質である。Cpf1は、Cas9(spCas9など)よりも小さく単純なエンドヌクレアーゼである。Cpf1タンパク質は、Cas9のRuvCドメインと類似しているが、HNHエンドヌクレアーゼドメインを有さない、RuvC様エンドヌクレアーゼドメインを有する。Cpf1のN末端ドメインはまた、Cas9タンパク質のようなアルファへリックス認識ローブを有さない。DNAを切断する場合、Cpf1は、4または5ヌクレオチドオーバーハングを有する付着末端様DNA二本鎖切断を導入する。Cpf1タンパク質は、tracrRNAを必要とせず、むしろ、Cpf1タンパク質は、crRNAのみにより機能する。本開示の文脈では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼがCpf1タンパク質である場合、sgRNAは、tracr配列を含まない。Cpf1タンパク質とともに使用されるsgRNAは、crRNA配列(定常領域)のみを含み得る。一部の例では、ガイドRNAによって標的化される領域のすぐ5’にTTTNまたはTTN PAM(「N」が核酸塩基である種に応じる)を必要とするCpf1タンパク質を利用することができる。公知のCpf1タンパク質およびその誘導体は、本開示の文脈で使用されてもよい。例えば、一部の例では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、FnCpf1pであり、PAMは、5’TTN(ここで、Nは、A/C/GまたはTである)である。一部の例では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、PaCpf1pであり、PAMは、5’TTTV(ここで、Vは、A/CまたはGである)である。ある特定の例では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、FnCpf1pであり、PAMは、5’TTN(ここで、Nは、A/C/GまたはTである)であり、PAMは、プロトスペーサーの5’末端の上流に位置する。ある特定の例では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、FnCpf1pであり、PAMは、5’CTAであり、プロトスペーサーの5’末端の上流または標的遺伝子座に位置する。一例では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、AsCpf1pであり、PAMは、5’TTTNである。
【0053】
本明細書で使用される場合、sgRNA活性、またはRNP活性、すなわち、(1)gRNAならびに(2)ABEおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質を含む複合体のRNP活性の文脈における「活性」は、sgRNAの標的遺伝子エレメントに結合する能力を指す。典型的には、活性は、ABE RNP(すなわち、ABEと複合体化したsgRNA)の塩基対を編集する、すなわち、DNAの一方の鎖においてAからGへの変化を行う能力も指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、細胞のゲノムの編集の文脈における「編集」という語句は、標的ゲノム領域でゲノムの配列に構造変化を誘導すること、例えば、ABEによって行われる編集を指す。例えば、編集は、標的ゲノム領域でのDNAの一方の鎖におけるAからGへの変化(またはDNAの対向する鎖におけるTからCへの変化)の形態をとることができる。ヌクレオチド配列は、ポリペプチドまたはその断片をコードし得る。例えば、Gaudelli et al., "Programmable base editing of A-T to G-C in genomic DNA without DNA cleavage," Nature 551: 464-471 (2017)を参照されたい。
【0055】
本明細書で使用される場合、「アデニン塩基エディター」または「ABE」は、アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質を指す。一部の例では、アデノシンデアミナーゼは、DNAの一本鎖上でアデニンを脱アミノ化して、イノシンを形成するtadA酵素である。Gaudelli et al, (2017)を参照されたい。一部の例では、ABEは、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼ、およびアデノシンデアミナーゼの1つまたは複数のコピー、例えば、2つ、3つ、4つのコピーなどを含む融合タンパク質である。一部の例では、ABEは、配列番号27を含む核酸配列によってコードされる融合タンパク質を含む。一部の例では、ABEは、配列番号28を含む。
【0056】
本明細書で使用される場合、「リボヌクレオタンパク質複合体」、「RNP」という用語などは、(1)ABEおよびcrRNA(例えば、ガイドRNAまたは単一ガイドRNA)、(2)ABEおよびトランス活性化crRNA(tracrRNA)、(3)ABE、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)、およびガイドRNA、または(4)それらの組合せの間の複合体(例えば、ABEおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼ、tracrRNA、ならびにcrRNAガイドを含有する複合体)を指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「細胞」は、任意の真核細胞、例えば、ヒトT細胞、またはT細胞に分化することができる細胞、例えば、TCR受容体分子を発現するT細胞であり得る。これらとしては、造血幹細胞、および造血幹細胞に由来する細胞が挙げられる。本明細書に提供されるゲノム編集方法のいずれかによって作製された細胞の集団、例えば、ウイルス粒子を含む細胞または遺伝子改変細胞の集団も提供される。
【0058】
本明細書で使用される場合、「造血幹細胞」という語句は、血液細胞を生じさせ得る幹細胞の種類を指す。造血幹細胞は、骨髄系列もしくはリンパ系列、またはそれらの組合せの細胞を生じさせ得る。造血幹細胞は、主に骨髄において見られるが、それらは、末梢血またはその画分から単離することができる。さまざまな細胞表面マーカーを使用して、造血幹細胞を特定、選別または精製することができる。一部の場合では、造血幹細胞は、c-kit+およびlin-として特定される。一部の場合では、ヒト造血幹細胞は、CD34+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として特定される。一部の場合では、ヒト造血幹細胞は、CD34-、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として特定される。一部の場合では、ヒト造血幹細胞は、CD133+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、C-kit/CD117+、lin-として特定される。一部の場合では、マウス造血幹細胞は、CD34lo/-、SCA-1+、Thy1+/lo、CD38+、C-kit+、lin-として特定される。一部の場合では、造血幹細胞は、CD150+CD48-CD244-である。
【0059】
本明細書で使用される場合、「造血細胞」という語句は、造血幹細胞に由来する細胞を指す。造血細胞は、生物、系、器官または組織(例えば、血液またはその画分)からの単離によって得られるか、または提供され得る。あるいは、造血幹細胞は、単離され得、造血細胞は、幹細胞を分化することによって、得られるか、または提供され得る。造血細胞は、さらなる細胞型に分化するための制限された可能性を有する細胞を含む。そのような造血細胞としては、限定されるものではないが、多能性前駆細胞、系列制限前駆細胞、骨髄系共通前駆細胞、顆粒球-マクロファージ前駆細胞、または巨核球-赤血球前駆細胞が挙げられる。造血細胞としては、リンパ系列および骨髄系列の細胞、例えば、リンパ球、赤血球、顆粒球、単球、および血小板が挙げられる。一部の実施形態では、造血細胞は、免疫細胞、例えば、T細胞、B細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、または樹状細胞である。一部の実施形態では、細胞は、自然免疫細胞である。
【0060】
本明細書で使用される場合、「T細胞」という語句は、T細胞受容体分子を発現するリンパ球系細胞を指す。T細胞としては、ヒトアルファベータ(αβ)T細胞およびヒトガンマデルタ(γδ)T細胞が挙げられる。T細胞としては、限定されるものではないが、ナイーブT細胞、刺激されたT細胞、初代T細胞(例えば、培養されていない)、培養T細胞、不死化T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、調節性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、それらの組合せ、またはそれらの下位集団が挙げられる。T細胞は、CD4+、CD8+、またはCD4+およびCD8+であり得る。T細胞はまた、CD4-、CD8-、またはCD4-およびCD8-であり得る。T細胞は、ヘルパー細胞、例えば、TH1、TH2、TH3、TH9、TH17、またはTFH型のヘルパー細胞であり得る。T細胞は、細胞傷害性T細胞であり得る。調節性T細胞は、FOXP3+またはFOXP3-であり得る。T細胞は、アルファ/ベータT細胞またはガンマ/デルタT細胞であり得る。一部の場合では、T細胞は、CD4+CD25hiCD127lo調節性T細胞である。一部の場合では、T細胞は、1型調節性(Tr1)、TH3、CD8+CD28-、Treg17、およびQa-1制限T細胞、またはそれらの組合せもしくは下位集団からなる群より選択される調節性T細胞である。一部の場合では、T細胞は、FOXP3+T細胞である。一部の場合では、T細胞は、CD4+CD25loCD127hiエフェクターT細胞である。一部の場合では、T細胞は、CD4+CD25loCD127hiCD45RAhiCD45RO-ナイーブT細胞である。T細胞は、遺伝子操作された組換えT細胞であり得る。
【0061】
本明細書で使用される場合、初代細胞の文脈における「初代」という語句は、形質転換も不死化もされていない細胞である。そのような初代細胞は、培養、二次培養、または限定された回数継代することができる(例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20回培養)。一部の場合では、初代細胞は、in vitro培養条件に適合される。一部の場合では、初代細胞は、生物、系、器官、または組織から単離され、必要に応じて選別され、培養または二次培養することなく直接利用される。一部の場合では、初代細胞は、刺激され、活性化され、または分化される。例えば、初代T細胞は、CD3、CD28アゴニスト、IL-2、IFN-γ、またはそれらの組合せとの接触(例えば、それらの存在下で培養する)によって活性化することができる。
【0062】
詳細な説明
以下の説明は、本組成物および方法のさまざまな態様および実施形態を列挙する。特定の実施形態は、組成物および方法の範囲を定義することを意図するものではない。むしろ、実施形態は、開示される組成物および方法の範囲内に少なくとも含まれるさまざまな組成物および方法の非限定的な例を単に提供する。説明は、当業者の観点から読むべきであり、したがって、当業者に周知の情報は、必ずしも含まれていない。
【0063】
ウイルス粒子を使用するアデニン塩基エディター(ABE)の真核細胞への効率的な送達のための組成物、システム、製造方法および方法が本明細書に提供される。本明細書に記載される組成物および方法を使用して、sgRNAと無関係のRNAオフターゲット効果を最小限にしながら、ABEを、真核細胞に効率的に送達することができる。例えば、レンチウイルス様粒子を介した、(1)アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質であるアデノシン塩基対エディター(ABE)、ならびに(2)sgRNAを含むRNPの細胞への効率的な送達のための構成要素、システム、製造方法および方法が提供される。本明細書に記載されるRNPは、制限された半減期を有し、このようにして、RNAおよびDNAオフターゲット媒介変異誘発のリスクを低減する。RNPの真核細胞への送達は、オフターゲット効果を低減しながら、例えば、トランスフェクトすることが困難である細胞、例えば、初代細胞における効率的な送達を可能にする。
【0064】
哺乳動物発現プラスミド
CRISPR構成要素コード配列、すなわち、sgRNAおよびABEを、使用される哺乳動物細胞に送達して、本開示のレンチウイルス様粒子を生じさせるために使用される哺乳動物発現プラスミドが本明細書に提供される。例えば、非ウイルス核酸配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含む哺乳動物発現プラスミドであって、非ウイルス核酸配列が、(i)アデノシン塩基対エディター(ABE)をコードする核酸配列であって、ABEが、アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質である、核酸配列、ならびに(ii)少なくとも1つのアプタマーコード配列を含むガイドRNA(gRNA)コード配列を含む、哺乳動物発現プラスミドが本明細書に提供される。
【0065】
本明細書に記載される哺乳動物発現プラスミドでは、ABEの1つまたは複数のコピーが、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼに融合または連結され得る。必要に応じて、部位特異的ヌクレアーゼは、ペプチドリンカーを介してアデニン塩基エディターに連結される。リンカーは、約2~約25アミノ酸長であり得る。一部の例では、アデニン塩基エディターは、ABE7(例えば、ABE7.10(Gaudelli et al. (2017)、ABE6.3、ABE7.8またはABE7.9)、またはABE8アデニン塩基エディター(Gaudelli et al., "Directed evolution of adenine base editors with increased activity and therapeutic application," Nature Biotechnology 38: 892-900 (2020))であり得る。
【0066】
本明細書に提供される哺乳動物発現プラスミドは、CRISPR構成要素コード配列、例えば、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼおよびgRNAについてのコード配列を含む。一部の例では、gRNAコード配列は、少なくとも1つのアプタマーコード配列を含む。一部の例では、少なくとも1つのアプタマーコード配列は、gRNAの5’末端または3’末端に位置し得る。一部の例では、少なくとも1つのアプタマーコード配列は、gRNA内の内部位置、例えば、フォールディングされたgRNAにおいて形成されるループの1つまたは複数などに挿入され得る。例えば、gRNAがCas9タンパク質のためである場合、少なくとも1つのアプタマーコード配列は、gRNAのテトラループ、ステムループ2(ST2)、または3’末端に位置し得る。一部の例では、1~30ヌクレオチドのスペーサーは、gRNAの少なくとも1つのアプタマーコード配列間に、または少なくとも1つのアプタマーコード配列に隣接して位置し得る。
【0067】
一部の例では、哺乳動物発現ベクターは、アプタマー結合タンパク質(ABP)によって特異的に結合されるアプタマー配列をコードする少なくとも1つのアプタマーコード配列を含む。本開示の文脈では、アプタマー配列は、ABPによって特異的に結合される三次ループ構造を形成するRNA配列である。ABPは、RNA結合タンパク質またはRNA結合タンパク質ドメインである。好適なアプタマーコード配列としては、公知のバクテリオファージアプタマー配列をコードするポリヌクレオチド配列が挙げられる。例示的なアプタマーコード配列としては、上記の表1に提供されるアプタマー配列をコードするものが挙げられる。一部の例では、アプタマーは、ABPの二量体によって結合される。これらのアプタマー配列は、バクテリオファージタンパク質によって特異的に結合されることが公知のRNA配列である。一部の状況では、少なくとも1つのアプタマーコード配列は、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダN RNA結合ドメイン、またはComタンパク質からなる群より選択されるABPによって特異的に結合されるアプタマー配列をコードする。
表1. アプタマー結合タンパク質および対応するアプタマー配列
【表1】
【0068】
一部の例では、哺乳動物発現ベクターは、その下流に1つのアプタマーコード配列を含むsgRNAを含む。他の例では、gRNAは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12のアプタマーコード配列を含み得る。例えば、一部の例では、gRNAは、2つのアプタマーコード配列をタンデムで含み得る。
【0069】
全体を通して使用される場合、sgRNAは、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ(CRISPR部位特異的ヌクレアーゼ)と相互作用し、細胞のゲノム内の標的核酸(ゲノム標的配列)に特異的に結合するか、またはハイブリダイズし、その結果、sgRNAおよびCRISPR関連エンドヌクレアーゼが細胞のゲノム中の標的核酸に共局在化する、単一ガイドRNA配列である。各sgRNAは、ゲノム中の標的DNA配列に特異的に結合するか、またはハイブリダイズする約10~50ヌクレオチド長のDNA標的化配列またはプロトスペーサー配列を含む。例えば、DNA標的化配列は、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチド長であり得る。例えば、DNA標的化配列は、約15~30ヌクレオチド、約15~25ヌクレオチド、約10~25ヌクレオチド、または約18~23ヌクレオチドであり得る。一例では、DNA標的化配列は、約20ヌクレオチドである。一部の実施形態では、sgRNAは、crRNA配列およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)配列を含む。一部の実施形態では、sgRNAは、tracrRNA配列を含まない。
【0070】
一般に、DNA標的化配列は、標的DNA配列に対して補完する(例えば、完全に補完する)か、または実質的に補完する(例えば、1~4つのミスマッチを有する)ように設計される。一部の場合では、DNA標的化配列は、複数の遺伝子エレメントを結合するために、ウォッブル塩基または縮重塩基を組み込むことができる。一部の場合では、結合領域の3’または5’末端の19ヌクレオチドは、標的遺伝子エレメント(単数または複数)に対して完全に相補的である。一部の場合では、結合領域は、安定性を増加させるために、変更することができる。例えば、非天然ヌクレオチドは、分解に対するRNA耐性を増加させるために、組み込むことができる。一部の場合では、結合領域は、結合領域における二次構造形成を回避するまたは低減するために、変更または設計することができる。一部の場合では、結合領域は、G-C含量を最適化するように設計することができる。一部の場合では、G-C含量は、好ましくは、約40%~約60%(例えば、40%、45%、50%、55%、60%)である。一部の場合では、結合領域は、sgRNAの効率的な転写を容易にする配列で開始するように選択することができる。例えば、結合領域は、Gヌクレオチドを有する5’末端で開始し得る。一部の場合では、結合領域は、改変されたヌクレオチド、例えば、限定されないが、メチル化ヌクレオチドまたはリン酸化ヌクレオチドを含有し得る。
【0071】
本明細書で使用される場合、「相補的」または「相補性」という用語は、ヌクレオチドまたは核酸間の塩基対形成、例えば、限定されるものではないが、sgRNAと標的配列との間の塩基対形成を指す。相補的ヌクレオチドは、一般に、AとT(またはAとU)、およびGとCである。本明細書に記載されるガイドRNAは、ゲノム配列に対して完全に相補的または実質的に相補的である(例えば、1~4つのミスマッチを有する)配列、例えば、DNA標的化配列を含み得る。
【0072】
sgRNAは、CRISPR関連エンドヌクレアーゼと相互作用するか、またはそれに結合するsgRNA定常領域を含む。本明細書に提供される構築物では、sgRNAの定常領域は、約75~250ヌクレオチド長であり得る。一部の例では、定常領域は、ステム、ステムループ、ヘアピン、ヘアピン間の領域、および/または定常領域のネクサス中に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多くのヌクレオチド置換を含む改変された定常領域である。一部の例では、改変された定常領域が由来する天然または野生型sgRNA定常領域の活性と比較して、少なくとも80%、85%、90%または95%の活性を有する改変された定常領域が、本明細書に記載される構築物において使用され得る。特に、改変は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼと直接相互作用するヌクレオチドでも、定常領域の二次構造に重要であるヌクレオチドでも行われるべきではない。
【0073】
哺乳動物発現プラスミドは、非ウイルス核酸配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含む。一部の例では、RNAポリメラーゼIIプロモーターは、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼコード配列に作動可能に連結されており、RNAポリメラーゼIIIプロモーターは、gRNAコード配列に作動可能に連結されている。
【0074】
RNAポリメラーゼIIプロモーター配列は、哺乳動物種から選択される。RNAポリメラーゼIIIプロモーター配列は、哺乳動物種から選択される。例えば、これらのプロモーター配列は、2~3例を挙げると、ヒト、ウシ、ヒツジ、バッファロー、ブタ、またはマウスから選択され得る。一部の例では、RNAポリメラーゼIIプロモーター配列は、CMV、FE1α、またはSV40配列である。一部の例では、RNAポリメラーゼIIIプロモーター配列は、U6またはH1配列である。一部の例では、RNAポリメラーゼII配列は、改変されたRNAポリメラーゼII配列である。例えば、任意の哺乳動物種由来の野生型RNAポリメラーゼIIプロモーター配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有するRNAポリメラーゼII配列を、本明細書に提供される構築物において使用することができる。一部の例では、RNAポリメラーゼIII配列は、改変されたRNAポリメラーゼIII配列である。例えば、任意の哺乳動物種由来の野生型RNAポリメラーゼIIIプロモーター配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有するRNAポリメラーゼIII配列を、本明細書に提供される構築物において使用することができる。当業者であれば、どのようにして2つのポリペプチドまたは核酸の同一性を決定するかを容易に理解する。例えば、同一性は、同一性がその最高のレベルであるように、2つの配列を整列させた後に算出することができる。同一性を算出する別の仕方は、公開されたアルゴリズムによって行うことができる。例えば、比較のための配列の最適アライメントは、Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48(3): 443-453 (1970)のアルゴリズムを使用して実施することができる。一部の例では、真核生物プロモーターは、誘導性プロモーターまたは調節可能プロモーターである。
【0075】
RNA pol IIプロモーターから転写されたコード配列は、コード配列の下流にポリ(A)シグナルおよび転写ターミネーター配列を含む。一般に使用される哺乳動物ターミネーター(SV40、hGH、BGH、およびrbGlob)は、ポリアデニル化および終結の両方を促進する配列モチーフAAUAAA(配列番号81)を含む。RNA pol IIIプロモーターから転写されたコード配列は、ターミネーター配列としてコード配列の下流に単純な一続き(simple run)のT残基を含む。配列に基づくエレメントであるターミネーターの役割は、転写単位(遺伝子など)の末端を定義し、転写機構から新たに合成されたRNAを放出するプロセスを開始することである。ターミネーターは、転写される遺伝子の下流で見られ、典型的には、ポリアデニル化またはポリ(A)シグナルなどの任意の3’調節エレメントの直後に存在する。
【0076】
一部の例では、哺乳動物発現プラスミドはまた、CRISPR構成要素コード配列の下流、またはCRISPR構成要素コード配列の下流に位置する場合はアプタマーコード配列の下流に位置するRNA安定化配列をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含み得る。RNA安定化配列をコードするポリヌクレオチド配列は、CRISPR/Cas系構成要素コード配列の下流で転写され、転写されたRNA配列の寿命を安定化する。一例では、RNA安定化配列をコードするポリヌクレオチド配列は、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼコード配列の下流に位置する。別の例では、RNA安定化配列をコードするポリヌクレオチド配列は、gRNAコード配列の下流に位置する。例示的なRNA安定化配列は、配列番号17(DNA)および配列番号18(RNA)に示されるヒトベータグロビン遺伝子の3’UTRの配列である。RNA安定化配列の別の例は、配列番号17の2つのコピーを含む配列番号34である。他のRNA安定化配列は、Hayashi, T. et al., Developmental Dynamics 239(7):2034-2040 (2010)およびNewbury, S. et al., Cell 48(2):297-310 (1987)に記載されている。一部の例では、1~30ヌクレオチドのスペーサーが、CRISPR構成要素コード配列と、RNA安定化配列をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド配列との間に位置していてもよい。
【0077】
一部の例では、哺乳動物発現プラスミドは、1つまたは複数の発現カセットを含んでいてもよい。一部の例では、哺乳動物発現プラスミドは、ABEをコードする第1の発現カセット、および少なくとも1つのアプタマーを含むgRNAをコードする第2の発現カセットを含む。一部の例では、哺乳動物発現プラスミドはまた、レポーター遺伝子を含んでいてもよい。
【0078】
システム
本開示の別の態様は、レンチウイルスパッケージングシステムである。そのようなシステムは、本開示に記載される哺乳動物発現プラスミドを含む。これらのシステムは、本開示に記載されるレンチウイルス様粒子を作製するための哺乳動物細胞への導入のための構成要素の提供において有用である。
【0079】
一部の例では、システムは、ウイルス配列、例えば、Gagヌクレオチド配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含むレンチウイルスパッケージングプラスミドであって、Gagヌクレオチド配列が、ヌクレオカプシド(NC)コード配列およびマトリックスタンパク質(MA)コード配列を含み、NCコード配列またはMAコード配列の一方または両方が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)ヌクレオチド配列を含み、パッケージングプラスミドが、機能的インテグラーゼタンパク質をコードしない、レンチウイルスパッケージングプラスミドを含む。
【0080】
例えば、(a)Gagヌクレオチド配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含むパッケージングプラスミドであって、Gagヌクレオチド配列が、ヌクレオカプシド(NC)コード配列およびマトリックスタンパク質(MA)コード配列を含み、NCコード配列またはMAコード配列の一方または両方が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)ヌクレオチド配列を含み、パッケージングプラスミドが、機能的インテグラーゼタンパク質をコードしない、パッケージングプラスミド、(b)(i)アデノシン塩基対エディター(ABE)をコードする核酸配列であって、ABEが、アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質である、核酸配列、ならびに(ii)本明細書に記載されるgRNAを含む少なくとも1つの哺乳動物発現プラスミド、ならびに(c)エンベロープ糖タンパク質コード配列を含むエンベローププラスミドを含む、レンチウイルスパッケージングシステムが本明細書に提供される。
【0081】
システムは、第2世代パッケージングプラスミドもしくは第3世代パッケージングプラスミド、またはそれらの改変されたバージョンを含んでいてもよい。一部の例では、パッケージングプラスミドは、上に記載されたGagヌクレオチド配列を含み、Revヌクレオチド配列およびTatヌクレオチド配列をさらに含む。他の例では、システムは、上に記載されたGagヌクレオチド配列を含む第1のパッケージングプラスミド、およびRevヌクレオチド配列を含む第2のパッケージングプラスミドを含む。パッケージングプラスミドのそれぞれでは、ウイルスタンパク質コード配列は、真核生物プロモーター、例えば、複数のタンパク質コード配列のためのそれぞれ個々のまたは1つのプロモーターに作動可能に連結される。システムは、第2世代パッケージングプラスミドもしくは第3世代パッケージングプラスミド、またはそれらの改変されたバージョンを含んでいてもよい。
【0082】
一部の例では、ABPコード配列は、ウイルスタンパク質コード配列の5’末端または3’末端、すなわち、NCコード配列またはMAコード配列の5’末端または3’末端にある。一部の例では、ABPコード配列は、コードされるABPがウイルスタンパク質に融合されるように、ウイルスタンパク質コード配列に挿入され得る。ABPコード配列は、ウイルスタンパク質コード配列内の内部位置にインフレームで挿入されてもよい。ウイルスタンパク質コード配列の5’または3’末端の近くの内部位置にインフレームで位置する場合、ABPコード配列は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるTritch, R.J. et al., J. Virol. 65(2):922-30 (1991)およびScarlata, S. and Carter, C., Biochimica et Biophysica Acta - Biomembranes 1614(1):62-72 (2003)に記載されているものなどのプロセシング配列を破壊しないように位置する。例えば、Gagヌクレオチド配列は、とりわけ、NCコード配列およびMAコード配列をコードし、Gag前駆体タンパク質は、タンパク質切断によって別々の成熟ウイルスタンパク質にプロセシングされる。ABPコード配列のインフレーム挿入は、タンパク質切断のためのプロセシング配列をコードするヌクレオチドを破壊しないであろう。一部の例では、ウイルスタンパク質コード配列中のヌクレオチドは、ABPタンパク質コード配列と置き換えられ得る。一部の例では、3~6アミノ酸をコードするリンカー配列は、発現の際にタンパク質ドメインの適正なフォールディングを容易するのに役立つように、ウイルスタンパク質コード配列とABPコード配列との間に、またはABPコード配列に隣接して位置し得る。
【0083】
一例では、改変されたウイルスタンパク質は、NCであり、ABPコード配列は、NCコード配列の5’末端または3’末端に挿入される。別の例では、改変されたウイルスタンパク質は、NCであり、ABPコード配列は、ジンクフィンガー(ZF)ドメインの1つの前または後に挿入される。例えば、ABPコード配列は、第2のZF(ZF2)ドメインの最後のコドンの後に挿入され得る。別の例では、ABPコード配列は、ZF2ドメインの最初のコドンの前に挿入され得る。別の例では、ABPコード配列は、第1のZF(ZF1)ドメインの最初のコドンの前に挿入され得る。別の例では、ABPコード配列は、第1のZF(ZF1)ドメインの最後のコドンの後に挿入され得る。一部の例では、ABPコード配列は、NCタンパク質中のアミノ酸の高度に陽性(positive)のストレッチを破壊しない様式でNCコード配列に挿入される。
【0084】
別の例では、改変されたウイルスタンパク質は、MAであり、ABPコード配列は、MAコード配列の5’末端または3’末端に挿入される。別の例では、ABPコード配列は、MAコード配列内の内部位置にインフレームで挿入される。一部の例では、MAコード配列中のヌクレオチドは、ABPタンパク質コード配列と置き換えられ得る。例えば、MAタンパク質のアミノ酸44~132をコードするヌクレオチドは、ABPコード配列と置き換えられ得る。別の例では、ABPコード配列は、MAタンパク質のアミノ酸44をコードするコドンの前に挿入される。別の例では、ABPコード配列は、MAタンパク質のアミノ酸132をコードするコドンの後に挿入される。
【0085】
一部の例では、システムは、NEFコード配列またはVPRコード配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含むパッケージングプラスミドであって、NEFコード配列またはVPRコード配列が、少なくとも1つの非ウイルスABPヌクレオチド配列を含む、パッケージングプラスミドを含む。システムは、第2世代パッケージングプラスミドもしくは第3世代パッケージングプラスミド、またはそれらの改変されたバージョンを含んでいてもよい。一部の例では、パッケージングプラスミドは、Gagヌクレオチド配列、Revヌクレオチド配列、およびTatヌクレオチド配列を含む。他の例では、システムは、Gagヌクレオチド配列を含む第1のパッケージングプラスミド、およびRevヌクレオチド配列を含む第2のパッケージングプラスミドを含む。
【0086】
一部の例では、改変されたウイルスタンパク質は、VPRであり、ABPコード配列は、VPRコード配列の5’末端または3’末端に挿入される。一例では、ABPコード配列は、VPRコード配列の5’末端に挿入される。
【0087】
他の例では、改変されたウイルスタンパク質は、NEFであり、ABPコード配列は、NEFコード配列の5’末端または3’末端に挿入される。一例では、ABPコード配列は、NEFコード配列の3’末端に挿入される。
【0088】
一部の例では、ウイルスタンパク質のコード配列は、配列番号19、配列番号20、配列番号21、または配列番号25の1つであり得る。一部の例では、ウイルスタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号20、配列番号22、配列番号24、または配列番号26の1つであり得る。一部の例では、レンチウイルスパッケージングプラスミドは、真核生物プロモーターに作動可能に連結した、配列番号20、配列番号22、配列番号24、または配列番号26の少なくとも1つをコードする配列を含む。一部の例では、ウイルスタンパク質がNEFである場合、ポリペプチドは、ウイルスカプシドにおけるパッケージングを増強する3つの変異、例えば、以下の置換変異:G3C、V153L、およびE177Gなどを含み得る。
【0089】
一部の例では、プラスミドは、それに融合された2つまたはそれよりも多くのアプタマー結合タンパク質を含む1つまたは複数のウイルスタンパク質をコードし得る。ある特定の例では、レンチウイルスパッケージングプラスミドのGagヌクレオチド配列は、NCコード配列およびMAコード配列を含み得、NCコード配列またはMAコード配列の一方または両方は、第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列および第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列を含む。第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列および第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列は両方とも、同じABPをコードし得る。あるいは、第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列および第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列は、異なるABPをコードする。一部の例では、レンチウイルスパッケージングプラスミドのGagヌクレオチド配列は、少なくとも1つの第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列を含むNCコード配列、および少なくとも1つの第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列を含むMAコード配列を含み得る。少なくとも1つの第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列および少なくとも1つの第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列は両方とも、同じABPをコードし得る。あるいは、少なくとも1つの第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列および少なくとも1つの第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列は、異なるABPをコードする。
【0090】
ある特定の例では、パッケージングプラスミドは、VPRコード配列またはNEFコード配列をコードし得、VPRコード配列またはNEFコード配列は、第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列および第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列を含む。第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列および第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列は両方とも、同じABPをコードし得る。あるいは、第1の非ウイルスABPヌクレオチド配列および第2の非ウイルスABPヌクレオチド配列は、異なるABPをコードする。
【0091】
非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)ヌクレオチド配列は、RNAアプタマー配列に結合するポリペプチド配列をコードする。いくつかの非ウイルスABPは、本開示における使用に好適である。特に、好適なABPとしては、RNAアプタマー配列と称されるステム-ループ構造を形成するRNA配列に特異的に結合するバクテリオファージRNA結合タンパク質が挙げられる。例示的な非ウイルスアプタマー結合タンパク質としては、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダNペプチドおよびCom(momの制御(Control of mom))タンパク質が挙げられる。ラムダNペプチドは、タンパク質のRNA結合ドメインであるラムダNタンパク質のアミノ酸1~22であり得る。一部の例では、ABPは、二量体としてそれらのアプタマーに結合する。これらのABPおよびそれらが結合するアプタマー配列についての情報を、表1に提供する。一部の実施形態では、少なくとも1つの非ウイルスABPヌクレオチド配列は、配列番号10、配列番号12、配列番号14、または配列番号16のいずれかに示される配列を有するポリペプチドをコードする。一部の実施形態では、少なくとも1つの非ウイルスABPヌクレオチド配列は、配列番号9、配列番号11、配列番号13、または配列番号15のいずれかを含む。
【0092】
本明細書に提供されるレンチウイルスパッケージングプラスミドの特色は、それらが機能的インテグラーゼタンパク質をコードすることができないことである。パッケージングプラスミドが機能的インテグラーゼタンパク質をコードせず、それらが、本明細書に記載されるシステムおよび方法において使用される場合、これらのパッケージングプラスミドを使用して産生されたレンチウイルス様粒子によって運ばれる核酸分子が、形質導入された真核細胞のゲノムに組み込まれるリスクが実質的に低減される。一部の例では、レンチウイルスパッケージングプラスミドは、その中にインテグラーゼ不活性化変異を有するインテグラーゼコード配列を含む。例えば、インテグラーゼ不活性化変異は、インテグラーゼコード配列によってコードされるインテグラーゼタンパク質のアミノ酸64位でのアスパラギン酸からバリンへの変異(D64V)であり得る。一部の例では、レンチウイルスパッケージングプラスミドは、インテグラーゼコード配列のすべてまたは一部分の欠失を含む。
【0093】
一部の実施形態では、レンチウイルスパッケージングプラスミドは、Gagヌクレオチド配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含む。一部の実施形態では、哺乳動物発現プラスミドは、VPRコード配列またはNEFコード配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含む。一部の例では、真核生物プロモーターは、RNAポリメラーゼIIプロモーターである。RNAポリメラーゼIIプロモーター配列は、哺乳動物種から選択される。例えば、プロモーター配列は、2~3例を挙げると、ヒト、ウシ、ヒツジ、バッファロー、ブタ、またはマウスから選択され得る。一部の例では、RNAポリメラーゼIIプロモーター配列は、CMV、FE1α、またはSV40配列である。一部の例では、RNAポリメラーゼII配列は、改変されたRNAポリメラーゼII配列である。例えば、任意の哺乳動物種由来の野生型RNAポリメラーゼIIプロモーター配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有するRNAポリメラーゼII配列を、本明細書に提供される構築物において使用することができる。当業者であれば、どのようにして2つのポリペプチドまたは核酸の同一性を決定するかを容易に理解する。例えば、同一性は、同一性がその最高のレベルであるように、2つの配列を整列させた後に算出することができる。同一性を算出する別の仕方は、公開されたアルゴリズムによって行うことができる。例えば、比較のための配列の最適アライメントは、Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48: 443 (1970)のアルゴリズムを使用して実施することができる。一部の例では、真核生物プロモーターは、誘導性プロモーターである。
【0094】
RNA pol IIプロモーターから転写されたコード配列は、コード配列の下流にポリ(A)シグナルおよび転写ターミネーター配列を含む。一般に使用される哺乳動物ターミネーター(例えば、SV40、hGH、BGH、およびrbGlob)は、ポリアデニル化および終結の両方を促進する配列モチーフAAUAAAを含む。配列に基づくエレメントであるターミネーターの役割は、転写単位(遺伝子など)の末端を規定し、転写機構から新たに合成されたRNAを放出するプロセスを開始することである。ターミネーターは、転写される遺伝子の下流で見られ、典型的には、ポリアデニル化またはポリ(A)シグナルなどの任意の3’調節エレメントの直後に存在する。
【0095】
一部の例では、レンチウイルスパッケージングプラスミドは、1つまたは複数の発現カセットを含んでいてもよい。
【0096】
システムは、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードするエンベロープコード配列を有するエンベローププラスミドを含むこともできる。例えば、Envヌクレオチド配列は、VSV-Gをコードし得る。エンベロープコード配列は、真核生物プロモーターに作動可能に連結されている。適切な真核生物プロモーターは、上に記載している。一部の例では、真核生物プロモーターは、RNA pol IIプロモーターである。
【0097】
システムは、本明細書に記載される、パッケージングプラスミド、エンベローププラスミド、および哺乳動物発現プラスミド、すなわち、(i)ABEをコードする核酸配列、および(ii)少なくとも1つのアプタマーを含むgRNAを含む哺乳動物発現プラスミドのいずれかを含み得る。本明細書に記載されるパッケージングプラスミド、哺乳動物発現プラスミド、およびエンベローププラスミドのいずれかが、システムとして真核細胞に送達される場合、哺乳動物発現プラスミドによって発現されるgRNAは、哺乳動物発現プラスミドによって発現される触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼと複合体を形成して、gRNAと融合または連結したアプタマーとパッケージングプラスミドによって発現されるウイルスタンパク質に連結したABPとの間の相互作用を介して、真核細胞によって産生されるウイルス粒子によってパッケージングされるRNPを形成する。
【0098】
また、本開示に記載されるシステムの構成要素を含むキットも本明細書に提供される。一部の実施形態では、キットは、本明細書に記載されるプラスミドの1つまたは複数を含む。
【0099】
レンチウイルス様粒子
別の態様では、レンチウイルス様粒子、例えば、本明細書に記載される方法のいずれかによって作製されたレンチウイルス様粒子が提供される。本明細書で使用される場合、レンチウイルス様粒子は、真正のネイティブウイルスの組織化およびコンフォメーションを模倣するが、ウイルスゲノムを欠く、多タンパク質構造である。複数のレンチウイルス様粒子も提供される。レンチウイルス様粒子は、少なくとも1つのアプタマー結合タンパク質が1つまたは複数のウイルスタンパク質に融合している融合タンパク質である改変されたレンチウイルスタンパク質を含有する。本開示の文脈では、改変されたウイルスタンパク質は、構造性または非構造性であり得る。例示的な構造タンパク質は、レンチウイルスヌクレオカプシド(NC)タンパク質およびマトリックス(MA)タンパク質である。例示的な非構造タンパク質は、ウイルスタンパク質R(VPR)および陰性調節因子(negative regulatory factor)(NEF)である。一部の例では、粒子は、NCタンパク質およびMAタンパク質を含む融合タンパク質を含有し、その一方または両方は、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)と融合している。粒子のNCタンパク質は、2つの機能的ジンクフィンガータンパク質ドメインを有し得る。特に、第2のNCジンクフィンガードメインの保持は、ウイルスの集合および出芽の効率を保ち得る。一部の例では、粒子は、VPRタンパク質またはNEFタンパク質を含む融合タンパク質を含有し、VPRタンパク質またはNEFタンパク質は、少なくとも1つの非ウイルスABPと融合している。粒子はまた、(i)アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質であるアデノシン塩基対エディター(ABE)、ならびに(ii)gRNAを含むRNPも含有する。非ウイルス核酸配列を含み、少なくとも1つのアプタマーが、gRNA配列に付着しているまたは挿入されている、本明細書に記載される哺乳動物発現プラスミドのいずれかを使用して、RNPを含有するレンチウイルス様粒子を作製することができる。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、機能的インテグラーゼタンパク質を含有しない。これらのウイルス様粒子は、目的の真核細胞に形質導入するのに有用である。
【0100】
粒子は、1つまたは複数のABPを含むウイルス融合タンパク質を含み得る。一部の例では、粒子は、NCタンパク質、MAタンパク質、またはその両方を含有し、NCタンパク質またはMAタンパク質の一方または両方は、1つまたは複数の非ウイルスABPと融合している。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、少なくとも1つの非ウイルスABPと融合したNCタンパク質を含む。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、少なくとも1つの非ウイルスABPと融合したMAタンパク質を含む。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、NCタンパク質およびMAタンパク質を含み得、NCタンパク質またはMAタンパク質の一方または両方は、2つの非ウイルスABPタンパク質、第1の非ウイルスABP、および第1の非ウイルスABPのC’末端に融合した第2の非ウイルスABPと(すなわち、タンデムで)融合され得る。ある特定の例では、粒子は、第1の非ウイルスABPおよび第2の非ウイルスABPと融合したNCタンパク質またはMAタンパク質の一方または両方を含有し得る。
【0101】
一部の例では、レンチウイルス様粒子は、VPRタンパク質またはNEFタンパク質を含有し、VPRタンパク質またはNEFタンパク質は、1つまたは複数の非ウイルスABPに融合している。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、2つの非ウイルスABP、第1の非ウイルスABP、および第1の非ウイルスABPのC’末端に融合した第2の非ウイルスABPに(すなわち、タンデムで)融合したVPRタンパク質またはNEFタンパク質を含有する。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、第1の非ウイルスABPおよび第2の非ウイルスABPに融合したVPRタンパク質またはNEFタンパク質を含有する。第1の非ウイルスABPおよび第2の非ウイルスABPは両方とも、同じABPであり得る。あるいは、第1の非ウイルスABPおよび第2の非ウイルスABPは、異なるABPであり得る。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、そのC’末端に融合した少なくとも1つの第2の非ウイルスABPを有するMAタンパク質に融合した少なくとも1つの第1の非ウイルスABPを有するNCタンパク質を含み得る。少なくとも1つの第1の非ウイルスABPおよび少なくとも1つの第2の非ウイルスABPは両方とも、同じABPである。あるいは、少なくとも1つの第1の非ウイルスABPタンパク質および少なくとも1つの第2の非ウイルスABPは、異なるABPであり得る。第1の非ウイルスABPおよび第2の非ウイルスABPは両方とも、同じABPであり得る。あるいは、第1の非ウイルスABPおよび第2の非ウイルスABPは、異なるABPであり得る。
【0102】
非ウイルスABPは、RNAアプタマー配列に結合するポリペプチド配列である。いくつかの非ウイルスABPは、本開示における使用に好適である。特に、好適なABPとしては、ステム-ループ構造を形成するRNA配列である公知のRNAアプタマー配列に特異的に結合するバクテリオファージRNA結合タンパク質が挙げられる。例示的な非ウイルスアプタマー結合タンパク質としては、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダNペプチドおよびCom(momの制御)タンパク質が挙げられる。ラムダNペプチドは、タンパク質のRNA結合ドメインであるラムダNタンパク質のアミノ酸1~22であり得る。これらのABPおよびそれらが結合するアプタマー配列についての情報を、上記の表1に提供する。
【0103】
レンチウイルス様粒子は、さまざまなレンチウイルスタンパク質を含み得る。しかしながら、一部の例では、レンチウイルス様粒子は、ネイティブレンチウイルスで見られるタンパク質または核酸の種類のすべてを含んでいない。一部の例では、粒子は、NC、MA、CA、SP1、SP2、P6、POL、ENV、TAT、REV、VIF、VPU、VPR、および/もしくはNEFタンパク質、またはそれらのいずれかの誘導体、組合せもしくは部分を含有し得る。一部の例では、粒子は、NC、MA、CA、SP1、SP2、P6、およびPOLを含有し得る。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、ウイルスシェル(カプシド)を形成するタンパク質のみを含み得る。一部の例では、1つまたは複数のレンチウイルスタンパク質は、レンチウイルス様粒子から全部または一部が除外され得る。例えば、一部の例では、レンチウイルス様粒子は、POLタンパク質を含有しなくてもよく、またはPOLタンパク質の非機能的バージョン、例えば、不活性化点変異もしくは不活性化トランケーションを有するPOLタンパク質などを含んでいてもよい。別の例では、レンチウイルス様粒子は、インテグラーゼタンパク質を含有しなくてもよく、またはインテグラーゼタンパク質の非機能的バージョン、例えば、不活性化点変異もしくは不活性化トランケーションを有するインテグラーゼタンパク質などを含んでいてもよい。例えば、レンチウイルス様粒子は、アミノ酸64位でのアスパラギン酸からバリンへの変異(D64V)を含む非機能的インテグラーゼタンパク質を含有し得る。別の例では、レンチウイルス様粒子は、逆転写酵素タンパク質を含有しなくてもよく、または逆転写酵素タンパク質の非機能的バージョン、例えば、不活性化点変異もしくは不活性化トランケーションを有する逆転写酵素タンパク質などを含んでいてもよい。
【0104】
上に示されるように、gRNAは、一般に、DNA標的化配列、およびCRISPR関連エンドヌクレアーゼと相互作用する定常領域を含む。一部の例では、gRNAは、トランス活性化crRNA(tracrRNA)配列を含み得る。例えば、gRNAは、Cas9タンパク質または誘導体と併せて使用されるtracrRNAを含み得る。他の例では、gRNAは、tracrRNA配列を含まない。例えば、gRNAは、Cpf1タンパク質または誘導体と併せて使用されるtracrRNA配列を含んでいなくてもよい。
【0105】
一部の例では、gRNAは、少なくとも1つのアプタマー配列を含む。一部の例では、少なくとも1つのアプタマー配列は、gRNAの5’末端または3’末端に位置し得る。一部の例では、少なくとも1つのアプタマー配列は、gRNA内の内部位置、例えば、フォールディングされたgRNAにおいて形成されるループの1つまたは複数などに挿入され得る。例えば、gRNAがCas9タンパク質のためである場合、少なくとも1つのアプタマー配列は、gRNAのテトラループ、ステムループ2(ST2)、または3’末端に位置し得る。一部の例では、1~30リボヌクレオチドのスペーサーは、gRNAと少なくとも1つのアプタマー配列との間に、または少なくとも1つのアプタマー配列に隣接して位置し得る。ある特定の例では、少なくとも1つのアプタマー配列は、真核細胞のレンチウイルス様粒子形質導入を妨げない。例えば、NCタンパク質、MAタンパク質、VPRタンパク質、またはNEFタンパク質の1つまたは複数に融合した少なくとも1つの非ウイルスABPは、真核細胞のレンチウイルス様粒子形質導入を妨げることができない。
【0106】
遺伝子編集方法
真核細胞のゲノムにおいて、DNA標的、例えば、遺伝子を編集するための、CRISPR/Cas系において本開示に提供されるプラスミドおよびシステムを使用する方法が本明細書に記載される。
【0107】
本明細書に提供される方法では、改変される目的の標的ゲノム配列を含む真核細胞は、少なくとも1つのアプタマー結合タンパク質(ABP)に融合したウイルスタンパク質を含むウイルス融合タンパク質、ならびに(1)gRNA、および(2)アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質であるアデノシン塩基対エディター(ABE)を含むRNPを含有するレンチウイルス様粒子を用いて形質導入される。
【0108】
提供される方法の利点は、ABEに関連するガイド非依存性RNAオフターゲット遺伝子編集事象の低減である。例えば、本明細書に提供される方法では、ガイド非依存性RNAオフターゲット活性は、RNPが非レンチウイルス送達を使用して送達される場合のRNAオフターゲット活性と比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%、95%、99%、またはそれより高く低減され得る。一部の例では、ガイド非依存性DNAオフターゲット遺伝子編集事象も低減される。例えば、本明細書に提供される方法では、ガイド依存性DNAオフターゲット活性は、RNPが非レンチウイルス送達を使用して送達される場合の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%、95%、99%、またはそれより高く低減され得る。また、インテグラーゼ活性を欠くレンチウイルス様粒子が方法において使用される場合、粒子によって運ばれる核酸のいずれかの細胞ゲノムへの組込みのリスクの低減がある。一部の例では、使用されるレンチウイルス粒子は、ウイルス複製に必須であるレンチウイルスゲノム配列の部分を欠き、そのようなものとして、継続した粒子産生のリスクを低減する。提供される構成要素の別の利点は、ウイルス融合タンパク質が、RNPのレンチウイルス様粒子へのパッケージングを増加させ得、次に、ゲノム編集効率を増加させるということである。
【0109】
一部の例では、形質導入された真核細胞は、哺乳動物細胞である。一部の例では、真核細胞は、in vitro培養された細胞であり得る。一部の例では、真核細胞は、対象から得られたex vivo細胞であり得る。他の例では、真核細胞は、対象中に存在する。全体を通して使用される場合、対象とは、個体を意味する。例えば、対象は、哺乳動物、例えば、霊長類、より具体的には、ヒトである。非ヒト霊長類は、同様に、対象である。対象という用語は、飼育動物、例えば、ネコ、イヌなど、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、および実験動物(例えば、フェレット、チンチラ、マウス、ウサギ、ラット、スナネズミ、モルモットなど)を含む。そのため、獣医学的使用および医学的使用、ならびに製剤が本明細書で企図される。用語は、特定の年齢または性別を示さない。そのため、成体および新生児対象は、雄または雌にかかわらず、網羅されることが意図される。本明細書で使用される場合、患者または対象は、互換的に使用されてもよく、疾患または障害に罹患する対象を指し得る。本明細書に提供されるレンチウイルス様粒子は、対象に投与され得る、例えば、公知の、日常的な方法に従って、対象に注射され得る。例示的な投与の方式としては、経口、直腸、経粘膜、局所、鼻腔内、吸入(例えば、エアロゾルを介する)、頬側(例えば、舌下)、経膣、髄腔内、眼内、経皮、皮内、胸膜内、大脳内、および関節内、局所など、ならびに直接的な組織または器官の注射が挙げられる。投与はまた、腫瘍に対してであり得る。任意の所与の場合における最も好適な経路は、処置されている状態の性質および重症度、ならびに使用されている特定のレンチウイルス様粒子の性質に依存する。一部の例では、レンチウイルス様粒子は、静脈内(IV)、腹腔内(IP)、筋肉内、または特定の器官もしくは組織に注射される。一部の実施形態では、2回以上の投与(例えば、2回、3回、4回またはそれよりも多くの投与)が、さまざまな間隔の期間にわたって、例えば、毎日、毎週、毎月、毎年など、所望の遺伝子編集のレベルを達成するために用いられ得る。
【0110】
本明細書に記載される組換えレンチウイルス様粒子のいずれかの有効量は、実験および/または臨床試験を通して、当業者によって、変更され、決定され得る。例えば、有効用量は、約106~約1015個のレンチウイルス様粒子、例えば、約106~約1014個、約106~約1013個、約106~約1012個のレンチウイルス様粒子、約106~約1012個、約106~約1011個、または約106~約1011個のレンチウイルス様粒子であり得る。他の有効投薬量は、用量応答曲線を確立する日常的な試験を通して、当業者によって容易に確立され得る。例えば、Mangeot et al. "Genome editing in primary cells and in vivo using viral-derived Nanoblades loaded with Cas9-sgRNA ribonucleoproteins," Nat Commun 10, 45 (2019). https://doi.org/10.1038/s41467-018-07845-zを参照されたい。
【0111】
一部の例では、提供される方法は、目的の標的遺伝子座を改変するためのものであって、複数の真核細胞を複数のウイルス粒子で形質導入することを含み、複数のウイルス粒子は、(i)ウイルスタンパク質、例えば、NC、MA、VRP、またはNEFを含む融合タンパク質であって、ウイルスタンパク質が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)を含む、融合タンパク質、ならびに(ii)(1)gRNAおよび(2)ABEを含むリボヌクレオチドタンパク質(RNP)複合体であって、RNPが、gRNAを介して、細胞のゲノムDNA中のゲノム標的配列に結合する(例えば、優先的に結合する)ことができ、ABEが、細胞のゲノムDNAを変更する、RNP複合体を含む。上に記載されたように、RNPは、触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼと複合体を形成するgRNA配列に付着したまたは挿入されたアプタマー配列の相互作用を介して、ウイルス粒子にパッケージングされる。
【0112】
記載される方法は、機能のためにsgRNAの定常領域を必要とする任意の触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼとともに使用することができる。これらとしては、限定されるものではないが、RNAガイド部位特異的ヌクレアーゼが挙げられる。例としては、IIまたはV型CRISPR/Cas系をコードする任意の細菌種に存在するヌクレアーゼが挙げられる。好適なCRISPR関連エンドヌクレアーゼは、本開示全体を通して記載される。例えば、限定されるものではないが、部位特異的ヌクレアーゼは、触媒的に損なわれたCas9ポリペプチド、触媒的に損なわれたCpf1ポリペプチド、触媒的に損なわれたCas9ニッカーゼ、またはそれらのいずれかの誘導体であり得る。
【0113】
一般に、sgRNAは、遺伝子またはその近くの特異的領域に標的化される。一部の例では、sgRNAは、単一塩基変化が、例えば、鎌状赤血球貧血を引き起こすヒトベータ-グロビン遺伝子中の単一塩基変異を修正するために必要である領域に標的化され得る。sgRNAは、本明細書に記載されるRNPを、細胞のゲノム配列中の特異的部位に許容する。RNPがゲノム配列中の特異的部位に結合したら、アデニン塩基エディターは、一方の鎖におけるアデノシン(A)からイノシンの形成を触媒するが、触媒的に損なわれたエンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9 D10Aは、対向する鎖、すなわち、編集されていない鎖にニックを入れる。イノシンは、ポリメラーゼ酵素によってグアノシンとして読み取られるので、DNA修復および複製メカニズムは、標的部位で、元のA-T塩基対をG-C塩基対に置き換える。Gaudelli et al. (2017)を参照されたい。
【0114】
一部の例では、本開示に記載されるシステム構成要素に対する改変は、真核細胞への形質導入後にシステム構成要素が機能する方法を損なわない。むしろ、構成要素は、真核細胞への形質導入の際に、未改変構成要素と同様にまたはより良好に機能し得る。例えば、レンチウイルス様粒子中のウイルス融合タンパク質は、真核細胞のレンチウイルス様粒子形質導入を妨げることができない。同様に、レンチウイルス様粒子にパッケージングされたRNPが少なくとも1つのアプタマー配列を含む場合、少なくとも1つのアプタマー配列は、真核細胞のレンチウイルス様粒子形質導入を妨げることができない。一部の例では、ウイルス融合タンパク質を含有するレンチウイルス様タンパク質は、真核細胞への形質導入の際に、ウイルス融合タンパク質を含まないレンチウイルス様粒子と比べて、より多くの遺伝子編集をもたらし得る。一例では、ウイルス融合タンパク質は、NC-ABP融合タンパク質、例えば、NC-MS2融合タンパク質またはNC-PP7融合タンパク質であり得る。一例では、NC融合タンパク質は、1つまたは2つのABP、例えば、1つもしくは2つのMS2タンパク質、1つもしくは2つのPP7タンパク質、または1つのMS2タンパク質および1つのPP7タンパク質に融合される。
【0115】
真核細胞は、in vitro、ex vivoまたはin vivoであり得る。一部の実施形態では、細胞は、(対象から単離された)初代細胞である。本明細書で使用される場合、初代細胞は、形質転換されていないまたは不死化されていない細胞である。そのような初代細胞は、培養、二次培養、または限定された回数継代することができる(例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20回培養)。一部の場合では、初代細胞は、in vitro培養条件に適合される。一部の場合では、初代細胞は、生物、系、器官、または組織から単離され、必要に応じて選別され、培養または二次培養することなく直接利用される。一部の場合では、初代細胞は、刺激され、活性化され、または分化される。一部の実施形態では、細胞は、改変された細胞の集団を拡大増殖するのに有効な条件下で培養される。一部の実施形態では、本明細書に提供される方法のいずれかによって改変された細胞は精製される。一部の場合では、細胞は、対象から取り出され、本明細書に記載される方法のいずれかを使用して改変され、患者に再投与される。
【0116】
一部の例では、細胞が上に記載されるウイルス粒子で形質導入されたら、細胞は、遺伝子編集が生じるのを可能にする十分な時間量の間培養され、その結果、検出可能な表現型を発現する細胞のプールを、複数の形質導入された細胞から選択することができる。表現型は、例えば、細胞の成長、生存または増殖であり得る。一部の例では、表現型は、薬剤、例えば、細胞傷害剤、癌遺伝子、腫瘍抑制因子、転写因子、キナーゼ(例えば、受容体チロシンキナーゼ)、プロモーター(例えば、異種プロモーター)の制御下の遺伝子(例えば、外因性遺伝子)、チェックポイント遺伝子または細胞周期調節因子、増殖因子、ホルモン、DNA損傷剤、薬物、または化学療法薬の存在下での、細胞の成長、生存または増殖である。表現型はまた、タンパク質発現、RNA発現、タンパク質活性、または細胞運動性、遊走もしくは侵襲性であり得る。一部の例では、表現型に基づいて細胞を選択することは、蛍光標識細胞分取、細胞の親和性精製、または細胞運動性に基づく選択を含む。
【0117】
一部の例では、細胞を選択することは、例えば、増幅、シークエンシング、SNP分析などによる細胞のゲノムDNAの分析を含む。シークエンシング方法としては、限定されるものではないが、ショットガンシークエンシング、ブリッジPCR、サンガーシークエンシング(マイクロ流体サンガーシークエンシングを含む)、パイロシークエンシング、大規模並列シグネチャーシークエンシング、ナノポアDNAシークエンシング、単一分子リアルタイムシークエンシング(SMRT)(Pacific Biosciences、Menlo Park、CA)、イオン半導体シークエンシング、ライゲーションシークエンシング、合成によるシークエンシング(Illumina、San Diego、Ca)、Polonyシークエンシング、454シークエンシング、固相シークエンシング、DNAナノボールシークエンシング、ヘリスコープ単一分子シークエンシング、質量分析シークエンシング、パイロシークエンシング、Supported Oligo Ligation Detection(SOLiD)シークエンシング、DNAマイクロアレイシークエンシング、RNAPシークエンシング、トンネル電流DNAシークエンシング、および将来特定される任意の他のDNAシークエンシング方法が挙げられる。本明細書に記載されるシークエンシング方法の1つまたは複数を、ハイスループットシークエンシング方法において使用することができる。本明細書で使用される場合、「ハイスループットシークエンシング」という用語は、2つ以上の核酸配列が所与の時間で配列決定される、核酸を配列決定することに関するすべての方法を指す。
【0118】
処置の方法
本明細書に記載される方法および組成物のいずれかを使用して、対象における疾患(例えば、がん、血液障害(例えば、鎌状赤血球貧血またはベータサラセミア)、感染性疾患、自己免疫疾患、移植拒絶反応、移植片対宿主疾患、または他の炎症性障害)を処置することができる。
【0119】
一部の方法では、処置されるがんは、B細胞起源のがん、乳がん、胃がん(gastric cancer)、神経芽細胞腫、骨肉腫、肺がん、結腸がん、慢性骨髄性がん、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病(CLL)または急性リンパ球性白血病(ALL))、前立腺がん、結腸がん、腎細胞癌、肝臓がん、腎臓がん、卵巣がん、胃がん(stomach cancer)、精巣がん、横紋筋肉腫、およびホジキンリンパ腫から選択される。一部の実施形態では、B細胞起源のがんは、B系列急性リンパ芽球性白血病、B細胞慢性リンパ球性白血病、およびB細胞非ホジキンリンパ腫からなる群より選択される。
【0120】
一部の方法では、対象の細胞は、in vivoで改変される。一部の方法では、対象における疾患を処置する方法は、a)対象から細胞を得ること、b)細胞を、本明細書に提供される方法のいずれかを使用して改変すること、およびc)改変された細胞を対象に投与することを含む。例えば、Milone and O'Doherty "Clinical sue of lentiviral vectors," Leukemia 32, 1529-1541 (2018)を参照されたい。必要に応じて、疾患は、対象におけるがん、血液障害(例えば、鎌状赤血球貧血またはベータサラセミア)、感染性疾患、自己免疫疾患、移植拒絶反応、移植片対宿主疾患、または他の炎症性障害からなる群より選択される。がんを処置するための一部の方法では、対象から得られた細胞は、腫瘍特異的抗原を発現するように改変される。全体を通して使用される場合、「腫瘍特異的抗原」という語句は、がん細胞に対して固有である抗原、または非がん性細胞においてよりもがん細胞においてより多く発現される抗原を意味する。必要に応じて、対象から得られた細胞は、T細胞である。必要に応じて、改変された細胞は、対象への投与の前に拡大増殖される。
【0121】
本明細書に記載されるレンチウイルス様粒子または細胞は、医薬組成物として製剤化され得る。したがって、本明細書に記載されるレンチウイルス様粒子のいずれかを含む医薬組成物が本明細書に提供される。本明細書に記載される改変された細胞のいずれかを含む医薬組成物も提供される。必要に応じて、医薬組成物は、担体をさらに含むことができる。担体という用語は、レンチウイルス様粒子または細胞と組み合わせた場合に、その意図される使用または目的のために、レンチウイルス様粒子または細胞の調製、保管、投与、送達、有効性、選択性、または任意の他の特色を補助するまたは容易にする、化合物、組成物、物質、または構造体を意味する。例えば、担体は、活性成分の任意の分解を最小限にするように、および対象における任意の有害な副作用を最小限にするように、選択され得る。そのような薬学的に許容される担体としては、限定されるものではないが、生理食塩水、緩衝食塩水、人工脳脊髄液、デキストロース、および水を含む、無菌の生体適合性医薬担体が挙げられる。薬学的に許容されるとは、生物学的にもその他の点で望ましくないものでもない材料を意味し、これは、許容されない生物学的効果を生じることも、それを含有する医薬組成物の他の構成要素と有害な様式で相互作用することもなく、選択された薬剤と一緒に個体に投与することができる。
【0122】
本開示で議論されるすべての特許、特許公開、特許出願、論文記事、書籍、技術参考文献などは、すべての目的のために、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0123】
本開示の図および説明は、本開示の明確な理解に関連する要素を説明するために簡略化されていることが理解されるべきである。図は、組立図としてではなく、説明の目的で提示されていることが認識されるべきである。省略された詳細および改変または代替実施形態は、当業者の範囲内である。
【0124】
本開示のある特定の態様では、要素もしくは構造を提供するため、または所与の機能(単数または複数)を行うために、単一の構成要素を複数の構成要素によって置き換えることができ、複数の構成要素を単一の構成要素によって置き換えることができることが認識され得る。そのような置換が、本開示のある特定の実施形態を実行するために作動しない場合を除き、そのような置換は本開示の範囲内と考えられる。
【0125】
本明細書に提示される実施例は、本開示の潜在的なおよび具体的なインプリメンテーションを説明することを意図する。実施例は、主に、当業者のための本開示の説明の目的を意図することが認識され得る。本開示の精神から逸脱することなく、本明細書に記載されるこれらの図または操作に対する変形形態が存在し得る。例えば、ある特定の場合では、方法のステップまたは操作は、異なる順序で行われるまたは実施されてもよく、あるいは操作は、付加、欠失または改変されてもよい。
【0126】
値の範囲が提供される場合、文脈が明確に他を指示しない限り、その範囲の上限と下限との間の、下限の単位の最小分数までそれぞれ介在する値も具体的に開示されていることが理解される。述べられた範囲内の任意の述べられた値または述べられていない介在する値と、その述べられた範囲内の任意の他の述べられた値または介在する値との間の任意のより狭い範囲が包含される。それらのより小さな範囲の上限および下限は、独立してその範囲に含まれるか、またはその範囲で除外されてもよく、より小さな範囲に限定のいずれかが含まれる、どちらも含まれない、または両方が含まれる各範囲も、述べられた範囲内の任意の具体的に除外された限定に付される技術内に包含される。述べられた範囲が、限定の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限定のいずれかまたは両方を除外する範囲も含まれる。
【0127】
図面に表されるか、または上に記載される構成要素、ならびに示されても、記載されてもいない構成要素およびステップの異なる配置が可能である。同様に、一部の特色および下位組合せが有用であり、他の特色および下位組合せに言及することなく用いられ得る。本開示の実施形態は、制限的な目的ではなく、例証のために説明してきたが、代替実施形態は、本特許の読者には明らかになろう。したがって、本開示は、上に記載された実施形態にも、図面に表される実施形態にも限定されず、下記の特許請求の範囲から逸脱することなく、さまざまな実施形態および改変を行うことができる。
【0128】
本明細書に引用された刊行物、およびそれらが引用する材料は、それらの全体が、ここに参照により具体的に組み込まれる。
【実施例】
【0129】
プラスミド
pMD2.G(Addgene 番号12259)、pCMV_ABEmax(Addgene 番号112095)(Koblanet al. Nat Biotechnol 2018, 36(9): 843-846)、およびpsPAX2-D64V(Addgene 番号63586)(Certo et al. Nat Methods 2011, 8(8): 671-6)を、Addgeneから購入した。E.coliにおいてABE7.10を発現するためのプラスミドは以前に記載されている(Kim et al., Nat Biotechnol 2019, 37 (4), 430-435)。他のプラスミドを、表2に示すように、作製した。遺伝子合成は、GenScript Inc.によって行った。作製されたすべての構築物を、サンガーシークエンシングによって確認した。プライマーおよびオリゴヌクレオチドについての配列情報を、表3に列挙する。ABE標的配列およびsgRNA発現構築物を作製するために使用したオリゴを、表4に列挙する。表2に列挙したプラスミドの構成要素についての配列を、核酸リンカー、例えば、約2~100塩基のリンカーによって分離することができることが理解される。必要に応じて、本明細書に記載される構築物のいずれかは、例えば、プロモーター配列とポリペプチド配列(例えば、ABE)をコードする核酸との間に1つまたは複数のイントロンを含んで、構築物中の1つまたは複数のポリペプチド配列の発現を容易にすることができる。
表2. プラスミド
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
表3. プライマー
【表3】
表4. 標的配列およびsgRNA発現ベクターへのクローニングガイドのためのオリゴ
【表4】
【0130】
ABE7.10発現および精製
N末端Hisタグに連結したコドン最適化ABE7.10をコードするSNU-ABEプラスミドを、最初に、BL21-star(DE3)コンピテント細胞に形質転換し、次いで、これを、50μg/mlのカナマイシンを含有するルリア-ベルターニ(LB)寒天プレートに蒔いた。37℃での終夜のインキュベーション後、単一コロニーを選択し、ABE触媒活性を維持するために、50μg/mlのカナマイシンおよび10μMのZnCl2を含有するLBブロス中、37℃で終夜成長させた(事前培養)。この事前培養後、接種物の一部を、大規模培養のために(最高で6L)、1Lのフラスコ中のいくつかの400mlのLB培地に移し、得られた培養物を、吸光度A600=約0.5~0.70まで、250rpmで振とうしながら、37℃でインキュベートした。次に、培養物を、約1時間、氷上に置いた。ABEタンパク質発現を誘導するために、1mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(GoldBio、St.Louis、MO)を添加し、培養物を、250rpmで振とうしながら、18℃で14~16時間インキュベートした。
【0131】
精製手順の後のステップはすべて、0~4℃で行った。細胞溶解前に、細胞を、5,000gで10分間の遠心分離によって回収し、その後、それらを、400mlの接種物あたり8mlの溶解緩衝液[50mMのリン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)、500mMの1%のTriton(登録商標) X-100(Sigma-Aldrich)、20%のグリセロール、1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル(Sigma-Aldrich)、1mg/mlのニワトリ卵白由来リゾチーム(Sigma-Aldrich)、10μMのZnCl2(Sigma-Aldrich)、pH8.0]に再懸濁させた。溶解のために、合計で3回、細胞を、液体窒素中で凍結し、37℃で解凍した。さらなる溶解のために、細胞を超音波処理(合計で3分、5秒オン、10秒オフ)し、その後、それらを、13,000rpmで遠心分離して、溶解物を清澄化した。上清を、10mlのNi-NTAアガロースビーズ(QIAGEN)と混合し、樹脂-溶解物混合物を、1時間穏やかに回転させ、次いで、カラムにロードした。カラムを、50mlのニッケル洗浄緩衝液[50mMのリン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、150mMのNaCl(Sigma-Aldrich)、35mMのイミダゾール(Sigma-Aldrich)、1mMのDTT(GoldBio)、10μMのZnCl2 (Sigma-Aldrich)、pH 8.0]でそれぞれ3回洗浄し、次いで、タンパク質を、20mlのニッケル溶出緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、250mMのイミダゾール、20%のグリセロール、1mMのDTT、10μMのZnCl2、pH8.0)で溶出させた。溶出したタンパク質を、別のカラムにおいて、5mlのヘパリンセファロースビーズ(GE Healthcare)でさらに精製した。カラムを、50mlのヘパリン洗浄緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、1mMのDTT、10μMのZnCl2、pH8.0)で3回洗浄し、タンパク質を、20mlのヘパリン溶出緩衝液(50mMのリン酸ナトリウム、750mMのNaCl、20%のグリセロール、1mMのDTT、10μMのZnCl2、pH8.0)で溶出させた。最後に、溶出したタンパク質を、濃縮し、100,000kDaカットオフのAmicon Ultra-4カラム(Millipore)による6,000xgでの遠心分離によって、ABE保管緩衝液(200mMのNaCl、20mMのHEPES、1mMのDTT、40%のグリセロール、PH7.5)に緩衝液交換した。
【0132】
増幅された標的部位のABEおよびEndo V-媒介in vitro消化
ABE部位1(Hek2)に及ぶ領域を、プライマーHEK2-FおよびHEK2-Rによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR、chr5:+87944480-87944802)を使用して増幅した。次いで、2μgの得られたアンプリコンを、200μlのABE反応緩衝液[50mMのTris-HCl(Sigma-Aldrich)、25mMのKCl(Sigma-Aldrich)、2.5mMのMgSO4(Sigma-Aldrich)、0.1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA:Sigma-Aldrich)、2mMのDTT(GoldBio)、10mMのZnCl2(Sigma-Aldrich)、20%のグリセロール]中の4μgのABE7.10タンパク質および3μgのsgRNA(ABE部位1を標的化する)とともに、37℃で1~2時間、インキュベートした。反応後、ABEタンパク質およびsgRNAを、それぞれ、80μgのプロテイナーゼKおよび400μgのRNase A(両方ともQiagen製)との10分間のインキュベーションによって、除去した。アンプリコンを、PCR精製キット(MGmed)を使用して精製した。1μgの精製されたアンプリコンを、10単位のEndo V酵素(NEB)とともに1時間インキュベートした。次に、混合物を、80μgのプロテイナーゼKとともにインキュベートし、再び、PCR精製キット(MGmed)を用いて精製した。最後に、DNA断片を、2%のアガロースゲル上での電気泳動後に画像化した。
RNP電気穿孔
ABE部位1のためのCRISPR RNA(rGrArArCrArCrArArArGrCrArUrArGrArCrUrGrCrGrUrUrUrUrArGrArGrCrUrArUrGrCrU)(配列番号74)を、IDT Inc.(Coralville、IA)によって合成した。Alt-R(登録商標)CRISPR-Cas9 tracrRNA、Alt-R(登録商標)CRISPR-Cas9陰性対照crRNA、Alt-R(登録商標)Cas9電気穿孔エンハンサー、およびNuclease Free Duplex緩衝液を、IDT Inc.から購入した。RNP再構成および電気穿孔を、IDT Inc.の指示に従って行った。合計で2×105個のHEK293T細胞を、Amaxa Nucleofectorシステム(Lonza、Basel、Switzerland)を用いて、各電気穿孔のために使用した。細胞を、Cell Line Nucleofector(商標)キットV(カタログ番号VCA-1003、Lonza)からの100μlのヌクレオフェクション緩衝液に再懸濁させ、電気穿孔キュベットに入れた。次いで、1μlのAlt-R(登録商標)Cas9電気穿孔エンハンサーおよび5μlの再構成したABE RNPを、キュベット中の細胞に添加した。最後に、細胞に、プロトコールQ-001で、電気ショックを与えた。細胞を、キュベットから取り出し、分析前に、成長培地中で24時間培養した。
【0133】
レンチウイルスカプシド-RNP産生
ABE RNPでパッケージングされたレンチウイルスカプシドを、3つのプラスミドトランスフェクション手順によって産生した。簡潔には、1300万個のHEK293T細胞を、15mlのOpti-MEMを有する15cmディッシュ中で培養した。16μgのABP-改変パッケージングプラスミドpspAX2-D64V-NC-ABP(ABPはMCP(MS2コートタンパク質、RNAアプタマーMS2に結合)(Peabody et al., Nucleic Acids Res 1992, 20 (7): 1649-55)またはCom(RNAアプタマーcomに結合)であり得る)(Hattmanet al., P Natl Acad Sci USA 1991, 88 (22):10027-10031)、6μgのエンベローププラスミド(pMD2.G)、および16μgのABEを共発現するプラスミドDNA、ならびに対応するアプタマー-改変sgRNAを、1mlのOpti-MEM中で混合した。76ulの1mg/mlのポリエチレンイミン(PEI、Polysciences Inc.、Bellevue、WA)を、1mlのOpti-MEM(登録商標)低減血清培地中で混合した。次いで、DNA混合物およびPEI混合物を、混合し、室温で15分間、インキュベートした。次いで、DNA/PEI混合物を、Opti-MEM(登録商標)培地中の細胞に添加した。トランスフェクション24時間後、培地を、15mlのOpti-MEM(登録商標)培地に交換し、ABE RNP負荷ウイルス様粒子(VLP)を、トランスフェクション48時間後および72時間後に収集した。上清を、500gで10分間回転させて、細胞デブリを除去した。清澄化した上清は、直接使用する、または下に記載されるようにさらに濃縮することができる。トランスフェクションはまた、Fugene HD(Promega、Madison、WI)を用いて、10cmディッシュまたは6ウェルプレート中で行うこともできる。DNA量は、容器の表面積に基づいて、比例的に調整した。
【0134】
ABE RNP負荷VLPの濃縮
ABE RNP負荷VLPを含有する上清を、KrosFlo(登録商標)Research 2i(KR2i)タンジェンシャルフロー濾過システム(Spectrum Lab、カタログ番号SYR2-U20)を用いて、濃縮-透析濾過-濃縮方式を使用して、濃縮した。簡潔には、150~300mlの上清を、最初に、約50mlに濃縮し、500ml~1000mlのPBSを用いて透析濾過し、最後に、約8mlに濃縮した。中空繊維フィルターモジュールを、500kDaの分子量カットオフの改変ポリエーテルスルホンから作製した。流量および圧力制限は、フィルターモジュールD02-E500-05-Nについて、80ml/分および8psi、フィルターモジュールC02-E500-05-Nについて、10ml/分および5psiであった。カプシド-RNPも、以前に記載されたようにして、超遠心分離法によって濃縮した(Lu et al., Nucleic Acids Res 2019, 47 (8): e44.)。
【0135】
VLP定量化
VLPの濃度を、p24(レンチウイルスカプシドタンパク質CA)ベースのELISA(Cell Biolabs、QuickTiter(商標)Lentivirus Titerキットカタログ番号VPK-107、San Diego、CA)によって決定した。未濃縮試料をアッセイする場合、可溶性p24タンパク質が検出されないように、VLPを、製造者の指示に従って沈殿させた。
【0136】
ABE RNP VLP中のカプシドおよびCas9タンパク質のウエスタンブロッティング分析
200ngのVLPのp24を、公開された手順(Wiegers et al., J Virol 1998, 72 (4): 2846-54)に従って、0.5%のTriton(登録商標) X-100を用いて一過的に処理した。簡潔には、VLPを、Sorvall T-890ローター(120,000gで2時間)を用いて、0.5%Triton(登録商標) X-100ありまたはなしのSTE[100mMのNaCl、50mMのTris/HCl(pH7.5)、1mMのEDTA]中の10%のスクロースの1ml層、およびSTE溶液中の2mlの20%のスクロースのクッションを含有するステップ勾配により遠心分離した。ペレット化したVLP粒子を、ウエスタンブロッティングのため、またはRT-qPCR分析のためのRNAを精製するために、100μlの1×Laemmli試料緩衝液に直接溶解した。
【0137】
各試料中のタンパク質を、SDS-PAGEゲル上で分離し、ウエスタンブロッティングによって分析した。使用した抗体は、マウスモノクローナル抗SpCas9抗体(ThermoFisher、CRISPR-Cas9モノクローナル抗体7A9-3A3、カタログ番号MA1-201、1:1000)、およびカプシドタンパク質のためのp24マウスモノクローナル抗体(Cell Biolabs、カタログ番号310810、1:1000)を含む。HRPコンジュゲート化抗マウスIgG(H+L)(ThermoFisher Scientific、Waltham、MA、カタログ番号31430、1:5000)およびHRPコンジュゲート化抗ウサギIgG(H+L)(ThermoFisher、カタログ番号31460、1:5000)二次抗体を、ウエスタンブロッティングにおいて使用した。SpCas9 RNP標準は、GenScript製のGenCrispr NLS-Cas9-NLSヌクレアーゼ(Piscataway、NJ、カタログ番号Z03389S)であった。化学発光試薬(Pierce、Dallas、TX)を使用して、LAS-3000システム(Fujifilm、Tokyo、Japan)においてタンパク質シグナルを可視化した。デンシトメトリー(NIH ImageJソフトウェア)を使用して、タンパク質の量を定量化した。
【0138】
RNA単離およびRT-qPCR分析
miRNeasy Miniキット(QIAGEN、Hilden、Germany、カタログ番号217004)を使用して、濃縮したカプシドまたは細胞からRNAを単離した。QuantiTect逆転写キット(QIAGEN)を使用して、RNAからcDNAに逆転写した。sgRNA逆転写のために、キットにおいて提供された0.6μlのランダムプライマー、および0.4μlのsgRNA特異的プライマー(Sp-sgRNA-R1、gcaccgactcggtgccactt(配列番号82)、20μM)を、逆転写のために使用した。次いで、ガイド特異的フォワードプライマーABE-g5-F(表2)を、SybrGreenベースのRT-qPCR中のSp-sgRNA-R1と一緒に使用して、sgRNAを検出した。定量的PCRを、QuantStudio(商標)3機器(Thermo Fisher)またはABI 7500機器(Thermo Fisher)において実行した。
【0139】
VLP形質導入
約10~300ngのp24タンパク質の量のVLPを、8μg/mlのポリブレンを用いて、24ウェルプレート中で成長した2.5×104個細胞に添加した。VLPの未濃縮上清を、形質導入細胞に対して1:1の比で、新鮮な培地で希釈した。細胞を、VLP含有培地とともに12~24時間インキュベートし、その後、培地を、通常の培地と置き換えた。
【0140】
細胞におけるABEタンパク質分解の調査
2×104個のHEK293T細胞を、アプタマーありまたはなしで、100ngのABE RNPを含有するVLPのp24で形質導入した。形質導入12時間後、細胞を、0.5%のFBSを有するDMEM中で維持して、細胞分裂を制限した。新鮮な培地を、48時間ごとに交換した。細胞を、形質導入後12時間ごとに収集して、抗SpCas9(Thermo Fisher、カタログ番号MA1-201)および抗βアクチン(Sigma、A5441、1:5000)抗体を使用して、ウエスタンブロッティングによって、ABEタンパク質の存在を検出した。ABEの相対発現を、NIH ImageJソフトウェア(バージョン1.49)を用いて、デンシトメトリーによって定量化した。デンシトメトリーデータを使用して、GraphPad Prism 5.0(Graphpad、San Diego、CA)の2相減衰法を使用して、タンパク質の半減期を決定した。
【0141】
次世代シークエンシングおよびデータ分析
次世代シークエンシングのための標的DNAを増幅するために使用した領域およびプライマーを表4に列挙する。KAPA Biosystems(Wilmington、MA)製のプルーフリーディングHotStart(登録商標)ReadyMixをPCRのために使用した。アンプリコンを、GeneWiz’s Amplicon-EZサービスによって配列決定した。通常、50,000リード/アンプリコンを得た。塩基編集を、オンラインソフトウェアBE analyzer(Hwang et al., BMC Bioinformatics 2018, 19 (1): 542)およびCRISPRESSO2(Clement et al., Nat Biotechnol 2019, 37 (3): 224-22)で分析し、これらは、類似の結果を与えた。
【0142】
統計分析
GraphPad Prismソフトウェア(バージョン5.0)を、統計分析のために使用した。T検定を使用して、2群の平均を比較した。分散分析(ANOVA)、それに続いてチューキー事後検定を行って、2つよりも多くの群からのデータを分析した。2因子の場合に、ボンフェローニ事後検定を、ANOVA後に行った。p<0.05を統計学的に有意とみなした。
【0143】
結果
ABE RNAオフターゲット活性を検出するためのRNAホットスポット
この研究の主要なゴールは、短い活性持続期間および最小限のRNAオフターゲット活性を伴うABE送達方法を見出すことであり、そのために、高感度のRNAオフターゲット検出方法が有用である。現在、高深度RNAシークエンシングが、ABE RNAオフターゲットを検出するために使用されており(Grunewald et al., Nature 2019, 569 (7756): 433-437)、これは、時間がかかり、高価である。最近、RNAモチーフCUACGAA(配列番号75)が最も効率的なABE RNAオフターゲットであったことが見出された(Grunewald et al., Nat Biotechnol 2019, 37 (9): 1041-1048)。ヒト配列データベースを分析し、ヒトUSP38遺伝子が、そのコード領域のエクソン9中にCTACGAA(配列番号76)配列を含有することを見出した(
図2C)。RT-PCRは、この遺伝子がHEK293T細胞において発現されたことを確認した。USP38 mRNAの「CUACGAA」(配列番号75)配列が、ABE RNAオフターゲットホットスポットであるかどうかを分析した。
【0144】
HEK293T細胞を、Cas9ニッカーゼを発現するプラスミドDNA(陰性対照)またはABEおよびsgRNA(ABE部位1を標的化する)を発現するプラスミドDNA(Gaudelli et al., Nature 2017, 551 (7681): 464-471)でトランスフェクトした。予測されるホットスポット(
図2AにおけるプライマーF1およびR1)に及ぶ444bpのUSP38 cDNAを、標的化次世代シークエンシング(NGS)のために増幅した。ABEを発現するDNAでトランスフェクトされた細胞において、予測されたホットスポットCUACGAA(配列番号75)で「A」から「G」への変化の最も高いピーク(下線付きAの約15%がGに変化した)が、分析領域全体にわたって<5%の複数のより低いピークとともに、観察された(
図2B)。類似のピークは、Cas9ニッカーゼによる対照細胞中に存在しなかった(
図2B)。
【0145】
ABEおよびABE部位1 sgRNAでトランスフェクトされた細胞のゲノムDNAから増幅された対応するDNAのNGS分析が、対立遺伝子の0.02%未満のAからGへの変化を明らかにしたので、これらの「A」から「G」への変化は、mRNAにおける変化の結果であるはずである。USP38 cDNAで観察された変化は、アデノシン(A)から、逆転写およびシークエンシングにおいてグアニン(G)として認識されたイノシン(I)への非特異的RNA編集の結果である可能性が最も高かった。最も頻繁に観察されたAからGへの変化はすべて、以前の観察(Grunewald et al. 2019 Nature; Grunewald et al., 2019 Nat. Biotech.)と一致して、UAモチーフにおいて起こった(
図2C)。
【0146】
「CUACGAA」(配列番号75)モチーフにおけるAからGへの変化に焦点を合わせると、これらの変化は、ABEを発現するDNAでトランスフェクトされた細胞のcDNAから最高で16.7%のリードで観察されたが、ニッカーゼでトランスフェクトされた細胞のcDNAから0%のリードで観察された(表5)。重要なことには、ABEでトランスフェクトされた細胞のgDNAを分析した場合に、AからGへの変化を有する32025リードのうち3つのみが観察された。これらのデータは、USP38 mRNAにおける「CUACGAA」(配列番号75)配列が、実際に、ABE RNAオフターゲットのホットスポットであることを示し、このホットスポットにおけるRNAオフターゲットを分析することで、本発明者らが、異なる送達方法から得られたABE RNAオフターゲット活性を比較することを可能にすることを示唆する。
表5. NGSによるUSP38 cDNAおよびgDNAにおけるCU/(T)
ACGAA (配列番号77)からCU/(T)
GCGAA (配列番号78)への変化の分析
【表5】
a CU(/T)
ACGAAからCU(/T)
GCGAAへの変化を有するリードのみをカウントした。
b すべてのリードは、1つのNGS試料由来であった。
【0147】
電気穿孔によって送達されたABE RNPは、送達24時間後に、検出不能なRNAオフターゲット活性を示した
ABE RNAオフターゲットホットスポットが確認されたら、電気穿孔によってABE RNPを送達することが、DNAトランスフェクションと比較して低減されたRNAオフターゲット活性を示すか否かどうかを研究した。組換えABE RNPを、以前に記載されたようにして(Kim et al., Nat Biotechnol 2019, 37 (4), 430-435)調製し、それらの活性を、in vitroアッセイにおいて確認した。20、10、5、2.5、1.25、および0.625μgのABE RNP(ABE部位1を標的化する)を、電気穿孔によって、2×10
5個のHEK293T細胞に送達した。塩基編集によるDNAに特異的なプライマーを設計し、このアプローチを検証するために、このqPCRアッセイが、ニッカーゼでトランスフェクトされた細胞 対 ABEでトランスフェクトされた細胞からのDNAを比較した場合に、約6異なるサイクル閾値(Ct)の値を生じるかどうかを検証した。処理24時間後、qPCRは、オンターゲット塩基編集を、20および10μgのABE RNPで処理された細胞において検出したが、より低い量のABE RNPで処理された細胞において検出しなかった。NGSを行って、20および10μgのABE RNPで処理された細胞におけるオンターゲット塩基編集を調べ、それぞれ、2.10%±0.22%(N=3)および1.93%±0.53%(N=3)のオンターゲット塩基編集が観察された(
図1D)。ランダムsgRNAによるABE RNPの電気穿孔が、試料の0.01%のみにおいて、ABE部位1でAからGへの変化を示したので、これらは標的特異的塩基編集の発生であった。Lyu et al. "Adenine Base Editor Ribnucleoproteins Delivered by Lentivirus-Like Particles Show High On-Target Base Editing and Undetectable RNA Off-Target Activities," The CRISPR Journal 4(1): 69-81 (2021)も参照されたい。
【0148】
RNAオフターゲット活性を、USP38ホットスポットで調べた。オフターゲットRNA編集は、6つの試料のいずれにおいてもUSP38ホットスポットで観察されず、これは、ABEプラスミドDNAトランスフェクションによる高レベル(>15%)のRNAオフターゲット編集とは全く対照的であった(
図1C、表4)。データは、ABE RNPが、送達24時間後に、検出可能なオンターゲットDNA編集を示したが、オフターゲットRNA編集が検出不能であったことを示す。
【0149】
電気穿孔によってABE RNPを送達することは、RNAオフターゲット活性を大いに低減したが、比較的低いオンターゲット塩基編集(<5%)が、ABEの比較的大きなタンパク質サイズ(約1800アミノ酸残基)に恐らく起因して、20μg(約100pmol)のABE RNPの電気穿孔後に起こった。単に投薬量を増加することによって、オンターゲット塩基編集効率を顕著に改善することは困難であろう。そのため、より効率的なABE RNP送達方法が必要である。
【0150】
レンチウイルスカプシドにおけるABE RNPのパッケージングを介したABE RNP負荷VLPの開発
アプタマー/ABP相互作用を使用して、効率的なゲノム編集のために、Cas9 RNPをレンチウイルスカプシドにパッケージングすることができる(Lyu et al., Nucleic Acids Res 2019, 47 (17): e99)。問題のタンパク質の異なるサイズ(ABEについて約1800AA 対 SaCas9について1114AA)、およびCas9タンパク質が異なる種に由来し(ABEについてStreptococcus pyogenes 対 SaCas9についてStaphylococcus aureus)、異なるsgRNAスキャフォールドを有していたことを考慮して、3つの方法のsgRNAスキャフォールド改変を使用した:1)MS2アプタマーをテトラループおよびST2ループの両方と置き換えた(
図2A)、2)comアプタマーの1つのコピーを使用して、テトラループのループを置き換えた、ならびに3)comアプタマーの1つのコピーを使用して、ST2ループを置き換えた。アプタマーcomが、LVカプシドへのSaCas9 RNPパッケージングを媒介するのに最も効率的なアプタマーであったので、これを選択した。2つ以上のコピーが、RNA安定性を大いに減少させるので、アプタマーの1つのコピーを試験した。
【0151】
ABE-RNPを、最近記載されたように、3つのプラスミドをHEK293T細胞に共トランスフェクトすることによって、LVカプシドにパッケージングした:VSV-Gタンパク質を発現するエンベローププラスミドpMD2.G、ABEおよびさまざまな標的特異的アプタマー改変sgRNAを共発現する標的プラスミド、ならびに対応するABP(MS2改変sgRNAについてpspAX2-D64V-NC-MS2、およびcom改変sgRNAについてpspAX2-D64V-NC-com)によって改変されたパッケージングプラスミド。カプシド/ABE RNPを含有する上清を使用して、HEK293T細胞を形質導入した。次いで、qPCRによる塩基編集活性を比較した。
【0152】
単一ガイドRNA sgRNA g1およびg5を使用して、それぞれ、ABE部位1および5を標的化した。これらは、対応するABEを発現するプラスミドDNAをトランスフェクトした後に成功裏に編集されたことが以前に示された2つの部位であった(Gaudelli et al.)。qPCRを使用して、それぞれ、2xMS2、Tetra-com、およびST2-comを含有するsgRNAでパッケージングされたカプシド/ABE RNPの塩基編集活性を検出した。20~160倍多い編集された産物を、ABE部位1および5で、陰性対照細胞(ABE-g1 RNP処理細胞のための対照としてABE-g5 RNP処理細胞、およびその逆も同様)よりもカプシド/ABE RNP処理細胞において検出した。3種類のABE RNPすべてが機能的であった(
図2B、
図2C)。
【0153】
ABE部位1および5について、2xMS2改変は、最も低い塩基編集活性を示した。ABE部位5について、単一コピー-com改変sgRNAの活性は、テトラループおよびST2ループの場所で、類似の活性を示した。しかしながら、ABE部位1について、ST2-com改変RNPは、Tetra-com改変RNPよりも大幅に良好に機能した(P<0.0001)。sgRNAのST2-com改変をさらなる実験のために使用した。アプタマー/ABP戦略は、機能的ABE RNPをヒト細胞にパッケージングおよび送達することが可能であった。
【0154】
ABE RNP VLPの塩基編集活性をNGSによって調べた。2.5×104個のHEK293T細胞においてABE部位1を標的化する場合、200ngのカプシド-ABE RNPのp24は、対立遺伝子の31.85%においてAからGへの編集を生じた(
図3)。2.5×10
4個のHEK293T細胞においてABE部位5を標的化する場合、108ngのカプシド-ABE RNPのp24(非濃縮上清)は、すべての対立遺伝子の87.5%においてAからGへの編集を生じた(
図2D)。ABE部位5を標的化するVLPで処理された細胞では、AからGへの変化は、ABE部位1で対立遺伝子の0.02%において観察されたが、ABE部位1を標的化するVLPで処理された細胞では、AからGへの変化は、対立遺伝子の0.01%において、ABE部位5で観察された。これらのデータは、VLPが高レベルの部位特異的塩基編集を生じさせたことを示す。
【0155】
ABE RNP負荷VLPのアプタマー依存性集合
アプタマー/ABP相互作用が、RNPが設計されたようにカプシド内部にパッケージングされるために必要であったかどうかを分析した。ABE-g5 RNP(未改変g5 sgRNA)およびABE-g5ST2-com RNP(ST2-com改変g5 sgRNA)を有するカプシド中のABEタンパク質含量を比較した。小胞または粒子膜と会合した可能性のあるABEタンパク質を排除するために、本発明者らは、0.5%のTriton(登録商標)X-100緩衝液で粒子を一過性に処理した。この手順は、100%を超えて、カプシドタンパク質p24を低減した(
図4A)。
【0156】
次いで、ABEタンパク質を、SpCas9抗体を用いるウエスタンブロッティングによって調べた。ABEは、ABE-g5ST2-com RNPを有するカプシドにおいてのみ検出されたが、ABE-g5 RNPを有するカプシドにおいて検出されなかった(
図4A)。加えて、一過性の0.5%のTriton(登録商標)X-100処理は、ABEの量を30~50%減少させた。公知濃度のSpCas9タンパク質と比較して、Triton(登録商標)処理されたカプシドにおけるABEの量は、約100pgのABE/ng p24であった(
図4B、アスタリスクを伴う全長ABEのみを考慮)。1ngのp24あたり1.25×10
7個カプシドと仮定すると、カプシド1個あたりのABE分子の数は、カプシド1個あたり30分子と推定された。
【0157】
ABE-g5 RNPカプシドにおけるABEタンパク質の欠如と一致して、qPCRは、ABE-g5(st2-comなし)RNPでパッケージングされたカプシドで処理された細胞における塩基編集活性を検出できなかった(
図4C)。データは、ABEのカプシドとの会合、および塩基編集活性がアプタマー依存性であったことを示した。
【0158】
RT-qPCRによるVLPにおけるsgRNAレベル。qPCRを、公知濃度のそれぞれのプラスミドDNA(sgRNA中にcomありまたはなし)を使用して行って、comアプタマーがqPCR検出に影響を及ぼさなかったことを確認した(
図4D)。等量(300ngのp24)のTriton(登録商標)ありおよびなしで処理されたVLPでは、g5ST2-com sgRNA(comあり)のレベルは、それぞれ、g5 sgRNA(comなし)のものの35.0±4.8(N=4)および74.2±4.8(N=4)倍であった(
図4E)。sgRNA qPCRデータは、sgRNAのcom改変が、カプシドにおけるABEレベルを増加させ、Triton(登録商標) X-100処理がそれを減少させたことを示す本発明者らのウエスタンブロッティングデータと一致する。一緒に、データは、カプシドにおけるABEタンパク質およびsgRNAのパッケージングならびにVLPの塩基編集活性がすべて、sgRNAのcom改変に依存したことを示し、ABE RNPのパッケージングにおけるABP/アプタマー相互作用の役割を確認した。
【0159】
VLPは、ヒト細胞におけるABE RNPの一過性発現を可能にする
ヒト細胞におけるABE RNPの発現持続期間を決定するために、形質導入されたABE-g5ST2-com RNP負荷VLPおよびABE-g5 RNP負荷VLP(それぞれ100ngのp24/ウェル)を、HEK293T細胞に形質導入し、ABEタンパク質レベルを、12時間ごとに測定した。対照細胞では検出されなかったがRNPで処理された細胞では、ウエスタンブロッティングは、150~250kDaのバンドを検出し(
図5A)、ABEの予想サイズ(204.7kDa)と一致した。ABE-g5 RNPカプシドで形質導入された細胞では、本発明者らは、低いABEレベル(すべての時点で最も高いABE-g5ST2-com RNPレベルの<25%)のランダムな変動を観察した。ABE-g5ST2-com RNPカプシドで形質導入された細胞では、ABEレベルは、形質導入後最初の24時間の期間で最も高く、形質導入後24~48時間でわずかに低減した。形質導入後48~72時間で、ABEレベルは、ABE-g5 RNPで処理された細胞におけるレベルと類似して、形質導入後12時間でのレベルの約25%に低下した。形質導入後約60時間で、ABEレベルは、形質導入後12時間でのレベルの半分であった(
図5A、5B)。
【0160】
VLPにおいてABEを調べる実験では(
図5A)、ABEは、ABE-g5 RNP VLPにおいて検出されなかった。その実験では、ABE-g5 RNP VLPを、Triton(登録商標)X-100なしの緩衝液中での超遠心分離法に供し、細胞を形質導入するために使用したVLPは、遠心分離しなかった。ABE-g5 RNP VLPで形質導入された細胞における低バックグラウンドABEは、カプシド調製物におけるABEであった可能性が高い。これは、タンジェンシャル低濾過システムによって濃縮されたが、カプシドにパッケージされず、そのため、超遠心分離法によって除去できた。データは、VLPによって送達されたABE RNPの短期発現を確認した。
【0161】
ABE RNP負荷VLPは、検出不能なガイド非依存性RNAオフターゲット活性を示した
LVカプシドによって送達されたABE RNPが検出可能なRNAオフターゲットを生じたかどうかを調べた。ABE部位1を、ABE RNP負荷VLPおよびプラスミドDNAトランスフェクションによって標的化した。2つの送達方法についての条件を決定し、類似のオンターゲット塩基編集効率を得た。VLP処理後に最も高いABEレベルの時点であったので、オンターゲット活性およびオフターゲット活性を処理24時間後に調べた。処理24時間後のgDNAのqPCR分析は、250ngのプラスミドDNAのトランスフェクションが、100ngのカプシド-RNPのp24を形質導入するのと類似の遺伝子編集活性をABE部位1において示したことを明らかにした。NGSを、ABE部位1のゲノムDNAおよびUSP38 cDNA(
図1AにおいてF3およびR1で増幅した)において行った。ABE部位1 DNAは、プラスミドDNAでトランスフェクトされた細胞(9.2%、表6)よりも、カプシド-RNP形質導入細胞においてわずかに高いオンターゲットのAからGへの塩基編集率(14.5%)を有していた。
表6. ホットスポットでのオンターゲット塩基編集およびRNAオフターゲット
【表6】
*カプシド-RNP処理細胞の値およびDNAでトランスフェクトされた細胞の値をt検定によって比較した場合に、P<0.05。
【0162】
USP38ホットスポットの周辺のRNAオフターゲットを分析した。2番目のピークが、以前の実験で予測されたホットスポットの近くで観察されたので(
図1Bにおけるピーク2)、両方のピークでのAからGへの変化のパーセンテージを調べた。VLP処理細胞では、AからGへの変化率は、陰性対照細胞と類似して、両方のピークで観察されたが、プラスミドDNAでトランスフェクトされた細胞では、わずかに高いAからGへの変化率が、VLP処理細胞と比較して、両方のピークで生じた(表5)。この実験では、DNAトランスフェクションは、以前のDNAトランスフェクション実験の約20分の1のRNAオフターゲット率をもたらした(ホットスポットについて、0.667% 対 約15%)。この実験におけるRNAオフターゲットのより低いレベルは、2つの非排他的なメカニズムによって引き起こされた可能性がある:1)より少ないDNAがトランスフェクトされた(250ng 対 500ng)、および2)RNAオフターゲット活性を、トランスフェクションの48時間後ではなく24時間後に検出した。それにもかかわらず、オンターゲットDNA塩基編集レベルが、DNAトランスフェクションにより処理された細胞よりも56%高かったものの、LVカプシドによってABE RNPを送達することは、検出可能なRNAオフターゲットをもたらさなかった。
【0163】
RNPオフターゲット活性は、ABE RNP発現持続期間データが、ABE RNPが形質導入24時間後に最高であったことを示したので、VLP送達24時間後に調べた(
図5A)。RNAオフターゲットも、VLP送達48時間後に調べ、RNAオフターゲット活性は、ホットスポットで観察されなかった(
図6)。ABEタンパク質レベルは、この時点の後に素早く減少したので、さらなるRNAオフターゲット活性が、その後に検出され得る可能性は低い。そのため、LVカプシドによって送達されたABE RNPについてのRNAオフターゲット活性は、アッセイの検出限界を下回った。
【0164】
この研究は、短い活性持続期間、高い塩基編集効率、および最小限のRNAオフターゲット活性を伴うABE送達方法を見出すことを試みた。上に記載された観察のうちの2つは、特にin vivo適用に対して、ABEのRNAオフターゲット活性によって引き起こされる安全性の懸念を解消するのを助け得る:1)ABE RNPを送達することは、検出不能なRNAオフターゲット活性を有する検出可能なオンターゲットDNA塩基編集を生じた、ならびに2)高いオンターゲットDNA塩基編集効率および検出不能なRNAオフターゲット活性を有する新規のABE RNP負荷VLPを開発した。
【0165】
RNPは、改善された特異性で、ゲノム編集およびシトシン塩基編集において使用されている(Kim et al., Genome Res 2014, 24 (6): 1012-9)。しかしながら、RNPを使用するABEの送達は、行われていない。上に示したように、ABE RNPの送達は、電気穿孔によって行われ、Cas9 RNP電気穿孔プロトコールに共通しているABE RNPの量を使用した場合に、比較的低い塩基編集活性(<5%)が観察された。電気穿孔においてより多くのABE RNPを使用することで、塩基編集活性が改善され得る可能性がある。ABE RNP負荷VLPが、開発され、パッケージングされた(各カプシド粒子に約30個のABE RNP分子)。HEK293T細胞においてABE部位1を標的化する場合、ABE RNP電気穿孔は、5pg/細胞(2×105個細胞について10μgのRNP)で<5%の塩基編集効率をもたらしたが、ABE RNP VLP形質導入は、0.8pg/細胞(2.5×104個細胞について約20ngのRNP)で>30%の塩基編集効率をもたらした。ABE g5部位を標的化する場合、>85%の塩基編集効率が、0.43pg/細胞の用量で得られた。そのため、ABE RNP負荷VLPは、はるかに少ないABEタンパク質を使用したが、はるかに効率の良い塩基編集をもたらした。この新規のABE RNP負荷VLPは、高い塩基編集活性および低いRNAオフターゲット活性を実証する最初のABE RNP送達ビヒクルである。
【0166】
高いカプシド集合効率および塩基編集効率(未濃縮VLPで>80%の編集効率)に加えて、RNAオフターゲット活性は、VLP送達24時間後に観察されなかった。検出前のRNAオフターゲット生成は、除外することができなかった。しかしながら、典型的には、VLPを送達した後に遺伝子編集活性を観察する最も早い時間は、形質導入後約16時間である。エンドソーム系からの逃避は、VLPがレシピエント細胞に侵入するのと類似のプロセスであるので、同等の時間が、送達後にABE RNPが機能的になるのに必要とされるはずである。RNAオフターゲットは、もしあれば、RNP送達16~24時間後に生じる可能性がある。この短い時間枠は、細胞に有害である誤ったタンパク質を十分に生じる機会を大いに低減し得る。ABE mRNAを送達することにより、RNAオフターゲット活性は低減したが、依然として検出可能であり(Gaudelli et al., Nat Biotechnol 2020 38 (7), 892-900)、そのため、VLPによってABE RNPを送達することは、検出不能なRNAオフターゲット活性に起因してより安全である。
【0167】
本明細書に提供されるデータは、VLPが、低減されたRNAオフターゲット活性を有するABE変異体を使用する必要のない、最小限のRNAオフターゲット活性で効率的なABE RNP送達ビヒクルであることを示す。ABEは、検出可能なガイド非依存性DNAオフターゲット活性を示さない。この開発は、ABEのガイド非依存性RNAオフターゲット活性によって引き起こされる安全性のリスクを大いに低減し、効率的で安全なABE RNPの送達を可能にする。
【0168】
VLP媒介ABE RNP送達方法は、現在の典型的なRNP電気穿孔プロトコールと比較して、各細胞へのわずか1/10のRNPを送達する。VLPによって送達された一過性に発現したABE RNPのこの低い量は、低減されたガイド依存性DNAオフターゲット活性も達成するはずである。
【0169】
要約すると、ABE RNPは、ガイド依存性DNA塩基編集を示すが、ガイド非依存性RNAオフターゲット活性は検出不能である。ABE RNPは、レンチウイルスカプシドに、効率的および機能的にパッケージングされ得る。VLPで送達されたABE RNPは、高いオンターゲットDNA塩基編集活性、および検出不能なRNAオフターゲット活性を示す。
【0170】
例示的実施形態
実施形態1.非ウイルス核酸配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含む哺乳動物発現プラスミドであって、非ウイルス核酸配列が、(i)アデノシン塩基対エディター(ABE)をコードする核酸配列であって、ABEが、アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質である、核酸配列、ならびに(ii)少なくとも1つのアプタマーコード配列を含むガイドRNA(gRNA)コード配列を含む、哺乳動物発現プラスミド。
【0171】
実施形態2.触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼコード配列が、Cas9 D10Aタンパク質をコードする、実施形態1に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【0172】
実施形態3.アデニン塩基エディターが、ABE7.10またはABE8である、実施形態1または2に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【0173】
実施形態4.少なくとも1つのアプタマーコード配列が、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダN RNA結合ドメイン、またはComタンパク質からなる群より選択されるABPによって特異的に結合されるアプタマー配列をコードする、実施形態1~3のいずれか1つに記載の哺乳動物発現プラスミド。
【0174】
実施形態5.アプタマーが、MS2アプタマー配列またはcomアプタマー配列である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の哺乳動物発現プラスミド。
【0175】
実施形態6.sgRNAコード配列が、sgRNAコード配列のテトラループまたはST2ループに挿入された少なくとも1つのアプタマーを含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の哺乳動物発現プラスミド。
【0176】
実施形態7.sgRNAコード配列が、gRNAコード配列のST2ループに挿入された少なくとも1つのcomアプタマーを含む、実施形態6に記載の哺乳動物発現プラスミド。
【0177】
実施形態8.a)Gagヌクレオチド配列に作動可能に連結した真核生物プロモーターを含むパッケージングプラスミドであって、Gagヌクレオチド配列が、ヌクレオカプシド(NC)コード配列およびマトリックスタンパク質(MA)コード配列を含み、NCコード配列またはMAコード配列の一方または両方が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)ヌクレオチド配列を含み、パッケージングプラスミドが、機能的インテグラーゼタンパク質をコードしない、パッケージングプラスミド、
b)請求項1~7のいずれか1つに記載の少なくとも1つの哺乳動物発現プラスミド、ならびに
c)エンベロープ糖タンパク質コード配列を含むエンベローププラスミド
を含む、レンチウイルスパッケージングシステム。
【0178】
実施形態9.パッケージングプラスミドが、Revヌクレオチド配列およびTatヌクレオチド配列をさらに含む、実施形態8に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【0179】
実施形態10.Revヌクレオチド配列を含む第2のパッケージングプラスミドをさらに含む、実施形態8または9に記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【0180】
実施形態11.少なくとも1つの非ウイルスABPヌクレオチド配列が、MS2コートタンパク質、PP7コートタンパク質、ラムダNペプチド、またはComタンパク質をコードする、実施形態8~10のいずれか1つに記載のレンチウイルスパッケージングシステム。
【0181】
実施形態12.a)ヌクレオカプシド(NC)タンパク質またはマトリックス(MA)タンパク質を含む融合タンパク質であって、NCタンパク質またはMAタンパク質が、少なくとも1つの非ウイルスアプタマー結合タンパク質(ABP)を含む、融合タンパク質、ならびにb)(i)アデニン塩基エディターおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合ポリペプチドであるアデニン塩基エディター(ABE)、および(ii)gRNAを含むリボヌクレオチドタンパク質(RNP)複合体を含むレンチウイルス様粒子であって、
機能的インテグラーゼタンパク質を含まない、
レンチウイルス様粒子。
【0182】
実施形態13.触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼが、触媒的に損なわれたCas9タンパク質、触媒的に損なわれたCpf1タンパク質、またはいずれかの誘導体である、実施形態12に記載のレンチウイルス様粒子。
【0183】
実施形態14.アデニン塩基エディターが、ABE7.10またはABE8である、実施形態12または13に記載のレンチウイルス様粒子。
【0184】
実施形態15.レンチウイルス様粒子を産生する方法であって、a)複数の真核細胞を、請求項8~11のいずれか1つに記載のシステムのパッケージングプラスミド、少なくとも1つの哺乳動物発現プラスミド、およびエンベローププラスミドでトランスフェクトすること、ならびにb)トランスフェクトされた真核細胞を、レンチウイルス様粒子が産生されるのに十分な時間、培養することを含む、方法。
【0185】
実施形態16.レンチウイルス様粒子が、(i)アデノシンデアミナーゼおよび触媒的に損なわれたCRISPR関連エンドヌクレアーゼを含む融合ポリペプチドであるアデニン塩基エディター(ABE)、ならびに(ii)ガイドRNAを含むリボヌクレオチドタンパク質(RNP)複合体を含む、実施形態15に記載の方法。
【0186】
実施形態17.複数の真核細胞が、哺乳動物細胞である、請求項16に記載の方法。
【0187】
実施形態18.実施形態15~17のいずれか1つに記載の方法によって作製されたレンチウイルス様粒子。
【0188】
実施形態19.細胞においてゲノム標的配列を改変する方法であって、複数の真核細胞を、複数のウイルス粒子で形質導入することを含み、複数のウイルス粒子が、実施形態12に記載のレンチウイルス様粒子を含み、RNPが、細胞のゲノムDNAにおけるゲノム標的配列に結合し、ABEが、ゲノム標的配列におけるアデニンを脱アミノ化し、それによって、ゲノム標的配列を改変する、方法。
【0189】
実施形態20.複数の真核細胞が、哺乳動物細胞である、実施形態19に記載の方法。
【0190】
実施形態21.複数の真核細胞が、対象中に存在する細胞である、実施形態19または20のいずれか1つに記載の方法。
【0191】
実施形態22.対象が、ヒト対象である、実施形態21に記載の方法。
【0192】
実施形態23.対象が、複数のウイルス粒子を注射される、実施形態22に記載の方法。
【0193】
実施形態24.実施形態1~7のいずれか1つに記載のプラスミドを含有する細胞。
【0194】
実施形態25.実施形態8~11のいずれか1つに記載のレンチウイルスパッケージングシステムを含有する細胞。
【0195】
実施形態26.実施形態12~14のいずれか1つに記載のレンチウイルス様粒子を含有する細胞。
【0196】
実施形態27.実施形態19~23のいずれか1つに記載の方法を使用して改変された細胞。
【0197】
実施形態28.対象における疾患を処置するための方法であって、a)対象から細胞を得ること、b)対象の細胞を、実施形態19~23のいずれか1つに記載の方法を使用して改変すること、およびc)改変された細胞を対象に投与することを含む、方法。
【0198】
実施形態29.疾患が、がんである、実施形態28に記載の方法。
【0199】
実施形態30.疾患が、鎌状赤血球貧血である、実施形態29に記載の方法。
【0200】
実施形態31.細胞が、T細胞である、実施形態28~30のいずれか1つに記載の方法。
配列
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
【表7-5】
【表7-6】
【表7-7】
【表7-8】
【表7-9】
【表7-10】
【表7-11】
【表7-12】
【表7-13】
【配列表】
【国際調査報告】