(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】高粘度指数を有する圧縮機油
(51)【国際特許分類】
C10M 145/14 20060101AFI20231124BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20231124BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20231124BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20231124BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20231124BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
C10M145/14
C09K5/04 B
C10M107/02
C10N20:04
C10N40:30
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530016
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2021082100
(87)【国際公開番号】W WO2022106519
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シンメル
(72)【発明者】
【氏名】フランク-オーラフ メーリング
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス フォイクト
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104CB08C
4H104DA02A
4H104EA03C
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104LA20
4H104PA20
(57)【要約】
本発明は、圧縮機油におけるポリアルキル(メタ)アクリレートの使用に関する。本発明は特に、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤を含む圧縮機油を用いて圧縮機を運転することによって、圧縮機のエネルギー効率を高める方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機油を用いて圧縮機を運転することを含む、圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、前記圧縮機油が、
(i)1重量%~30重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0重量%~25重量%のメチルメタクリレート、
(b)75重量%~100重量%の直鎖または分枝鎖C10~18アルキル(メタ)アクリレート、および
(c)0重量%~2重量%の直鎖もしくは分枝鎖C5~9アルキル(メタ)アクリレートまたは直鎖もしくは分枝鎖C20~24アルキル(メタ)アクリレート
を含み、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(M
w)が、5,000~400,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)70重量%~99重量%のAPIグループII、III、IVおよびVから選択される基油ならびにそれらの混合物、および
(iii)任意選択的に、2.5重量%までの1種以上のさらなる添加剤を含む性能パッケージ
を含み、
前記圧縮機油が、少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤が、
(a)0.2重量%~25重量%、好ましくは4重量%~16重量%のメチルメタクリレート、
(b)75重量%~99.8重量%、好ましくは84重量%~96重量%のC10~18アルキルメタクリレート、および
(c)0重量%~2重量%の直鎖もしくは分枝鎖C5~9アルキル(メタ)アクリレートまたは直鎖もしくは分枝鎖C20~24アルキル(メタ)アクリレート
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(M
w)が、5,000g/mol~200,000g/molの範囲、好ましくは8,000g/mol~100,000g/molの範囲、より好ましくは10,000g/mol~80,000g/molの範囲にある、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記性能パッケージ(iii)が、少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む、好ましくは亜鉛フリー性能パッケージ、より好ましくは無灰性能パッケージである、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記圧縮機が、家庭向きまたは家庭用冷凍装置、空気圧縮機および二酸化炭素圧縮機からなる群から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記圧縮機が、家庭向きまたは家庭用冷凍装置であり、前記基油(ii)が、APIグループIVまたはV油およびそれらの混合物から選択され、かつ前記圧縮機油が、40℃で2.88~7.48cStの範囲の動粘度を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記家庭向き/家庭用冷凍装置では、冷媒としてイソブタンまたはプロパン、好ましくはイソブタンが使用される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記圧縮機が、冷媒としてイソブタンまたはプロパン、好ましくはイソブタンを使用する家庭向きまたは家庭用冷凍装置であり、前記方法が、圧縮機油を用いて前記冷凍装置を運転することを含み、前記圧縮機油が、
(i)1重量%~10重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0.2重量%~25重量%、好ましくは4重量%~16重量%のメチルメタクリレート、および
(b)75重量%~99.8重量%、好ましくは84重量%~96重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート
を含み、
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(M
w)が、5,000g/mol~200,000g/molの範囲、好ましくは10,000g/mol~200,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)90重量%~99重量%のAPIグループIVまたはVの基油およびそれらの混合物、ならびに
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
前記圧縮機油が、40℃で2.88~7.48cStの範囲の動粘度および少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記基油(ii)が、42%を上回るC
N値を有するナフテン系基油から選択される、請求項6から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記圧縮機油が、-60℃以下の流動点を有する、請求項6から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記圧縮機が、空気圧縮機であり、前記基油(ii)が、APIグループII、IIIおよびIVまたはそれらの混合物から選択され、かつ前記圧縮機油が、40℃で28.8~74.8cStの範囲の動粘度を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記圧縮機が、空気圧縮機であり、前記方法が、圧縮機油を用いて前記空気圧縮機を運転することを含み、前記圧縮機油が、
(i)1重量%~20重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0.2重量%~25重量%のメチルメタクリレート、
(b)75重量%~99.8重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート、および
(c)0重量%~2重量%の直鎖もしくは分枝鎖C5~9アルキル(メタ)アクリレートまたは直鎖もしくは分枝鎖C20~24アルキル(メタ)アクリレート
を含み、
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(M
w)が、5,000~400,000g/molの範囲、好ましくは5,000~200,000g/molの範囲、より好ましくは10,000~80,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)80重量%~99重量%のAPIグループII、IIIもしくはIVの基油またはそれらの混合物、および
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
前記圧縮機油が、40℃で28.8~74.8cStの範囲の動粘度、および少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記圧縮機油が、-33℃以下の流動点を有する、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
前記圧縮機が、二酸化炭素圧縮機であり、前記基油(ii)が、APIグループIII、IVもしくはVまたはそれらの混合物から選択され、かつ前記圧縮機油が、40℃で41.4~110cStの範囲の動粘度を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記圧縮機が、二酸化炭素圧縮機であり、前記方法が、圧縮機油を用いて前記二酸化炭素圧縮機を運転することを含み、前記圧縮機油が、
(i)1重量%~20重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0.2重量%~25重量%、好ましくは4重量%~16重量%のメチルメタクリレート、および
(b)75重量%~99.8重量%、好ましくは84重量%~96重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート
を含み、
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(M
w)が、5,000g/mol~100,000g/molの範囲、好ましくは30,000~100,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)80重量%~95重量%のポリオールエステル基油または様々なポリエステル基油の混合物、ならびに
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
前記圧縮機油が、40℃で41.4~110cStの範囲の動粘度、および少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記圧縮機が、二酸化炭素圧縮機であり、前記方法が、圧縮機油を用いて前記二酸化炭素圧縮機を運転することを含み、前記圧縮機油が、
(i)1重量%~30重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0.2重量%~25重量%、好ましくは4重量%~16重量%のメチルメタクリレート、および
(b)75重量%~99.8重量%、好ましくは84重量%~96重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート
を含み、
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(M
w)が、5,000g/mol~100,000g/molの範囲、好ましくは10,000~80,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)80重量%~99重量%のポリアルファオレフィン基油または異なるポリアルファオレフィン基油の混合物、ならびに
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
前記圧縮機油が、40℃で41.4~110cStの範囲の動粘度、および少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有する、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機油におけるポリアルキル(メタ)アクリレートの使用に関する。本発明は特に、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤を含む圧縮機油を用いて圧縮機を運転することによって、圧縮機のエネルギー効率を高める方法に関する。
【0002】
一般的な圧縮機は、回転装置または往復装置の群に属する。圧縮機は、様々なガス、例えば、空気、二酸化炭素または他の冷媒を圧縮する。小型の冷凍圧縮機は、家庭用冷蔵庫に使用され、大型の圧縮機は、倉庫の冷却に使用されている。
【0003】
持続可能性および地球温暖化への影響の低減が求められることで、最新技術の圧縮技術には低エネルギー消費および高効率が不可欠となる。家庭用冷蔵庫は、世界的に普及している製品であり、数百万世帯で使用されているので、エネルギー節約の可能性は計り知れない。同じことは、ほぼすべての産業で、ならびに商業部門および産業部門の空気圧システムで使用されている圧縮空気にも当てはまる。
【0004】
最も一般的な冷凍サイクルは、閉鎖系内で冷媒を循環、蒸発および凝縮することにより達成される。蒸発は、低温、低圧で起こり、凝縮は、高温、高圧で起こる。これにより、低温の領域から高温の領域に熱を移動させることが可能になる。
【0005】
冷凍機の重要な内部部品は、冷媒、圧縮機、凝縮器、膨張弁または毛細管および蒸発器、冷凍機または冷凍庫である。
【0006】
冷媒は、冷凍機の内部全体を流れる。これは、蒸発器内で冷却効果を行う。凝縮器は、蒸発器(冷凍機または冷凍庫)内で冷却される物質から熱を吸収し、凝縮器を介して大気に放出する。冷媒は、冷凍サイクルの全内部を循環し続ける。圧縮機は、蒸発器から冷媒を吸入し、高圧および高温で吐出する。圧縮機は、電気モーターによって駆動され、冷蔵庫の主要な電力消費装置である。圧縮機からの冷媒は凝縮器に入り、そこで大気により冷却され、これにより蒸発器および圧縮機において吸収される熱を失う。凝縮器を出た冷媒は膨張機に流入する。冷媒が毛細管を通過すると、その圧力と温度は突然低下する。非常に低い圧力および温度の冷媒が、蒸発器または冷凍庫に入る。蒸発器は、熱交換器である。冷媒は、蒸発器において被冷却物質から熱を吸収して蒸発し、圧縮機に吸入される。このサイクルが、繰り返され続ける。
【0007】
冷凍サイクル内では、圧縮機は、長い耐用年数を達成するために適切に潤滑しなければならない最も敏感な構成要素である。冷凍圧縮機用の潤滑剤は、摩擦を低減し、摩耗を防止し、高圧側と低圧側との間のシールとして作用する。
【0008】
冷凍機は、冷媒と圧縮機油との混合物を閉鎖系内で循環させる構造を有する。したがって、圧縮機油が冷媒との高い相溶性を有することがさらに要求される。これとは別に、圧縮機油のさらなる課題は、良好なシール特性、ならびに圧縮機ユニットの摩耗保護および腐食保護である。
【0009】
家庭用冷蔵庫は、冷媒としてイソブタン(R600a)を使用しており、これは最新かつ実績のある最新技術と考えられている。しかしながら、効率向上に関する研究は、冷媒および圧縮機自体が冷凍サイクルの主要なエネルギー消費要素であるため、主にこれらに焦点を当てている。圧縮機は潤滑され、その結果、潤滑剤は、全効率に影響を及ぼす圧縮機内の決定要因の1つである。潤滑剤と冷媒との化学成分の相溶性に加えて、結果として生じる圧縮機性能が重要である。
【0010】
潤滑剤および潤滑技術の分野では、圧縮機油が、特に重要である。冷媒圧縮機の長寿命への期待は、潤滑剤の高品質要求と密接に関連している。
【0011】
対応する冷媒との良好な混和性に加えて、良好な低温流動特性、高い耐老化性および高い化学的および熱的安定性が、重要な役割を果たす。
【0012】
他の物質、特に冷媒との相互作用により、部分的に極端な温度差のある冷凍サイクルでは、潤滑油の非常に特殊な要求と広い温度動作ウィンドウが必要とされる。
【0013】
冷凍機システムの分野では、省エネルギーの要求が高い。エネルギー効率を改善するための1つの出発点は、低粘度の、すなわち低粘度グレードの冷凍機油の使用である。冷媒としてイソブタンを使用する圧縮機油に対する一般的な規格は、7のISO粘度グレード(ISO VG)であり、また、場合によりISO VG 5である。しかしながら、粘度のさらなる低減が望まれるであろう。
【0014】
ベース流体の薄膜化に伴う課題は、油と冷媒との相溶性、すなわち油への冷媒の溶解性、シール性能、ならびに摩耗および腐食防止が確保されなければならないことである。
【0015】
圧縮機の潤滑が不十分である場合、これは、電力消費量の増加、全体的な効率の低下または温度上昇を伴う熱の放出および油や機器の寿命の短縮を招く。油の適合性は、小容量冷媒圧縮機用の標準化された試験装置で試験することができ、これは同等の試験パラメータを保証し、冷媒の質量流量、圧縮機の消費電力、熱量計の入熱量、および圧縮機のシェル温度を測定する。
【0016】
添加剤は、潤滑剤業界では、例えば、摩耗や腐食の防止、酸化安定性の向上のような性能上の利点を提供すること、またはシーリングの問題を解決することが可能であることが周知である。
【0017】
一般的に使用されるのは、とりわけ、ポリアルキル(メタ)アクリレートである。ポリアルキル(メタ)アクリレートは、エンジンオイル、トランスミッションオイル、ギアオイル、油圧油、グリースおよび金属加工流体のような種々の用途で使用されている周知の添加剤である。
【0018】
ポリアルキル(メタ)アクリレートを圧縮機油の粘度指数向上剤として使用することは、今のところ報告されていない。
【0019】
従来技術
米国特許出願公開第2009/0062167号明細書は、低粘度基油および高粘度基油で構成された混合基油を含む冷凍機油組成物に関する。本発明によるポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の存在は、開示されておらず、エネルギー節約は、報告されていない。
【0020】
米国特許出願公開第2019/0241827号明細書は、潤滑性に優れた、特定の鉱油(A)と少なくとも1種のポリマー(B)とを含有する冷凍機油に関する。本発明によるポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の存在は、開示されておらず、エネルギー節約は、報告されていない。
【0021】
欧州特許出願公開第2337832号明細書には、油圧システムにおける騒音発生を低減する方法であって、ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーを含む油圧流体を油圧システムと接触させることを含む方法が開示されている。油圧流体は、粘度指数向上剤を含有し、かつ少なくとも130の粘度指数(VI)を有する。VI向上剤は、ポリアルキル(メタ)アクリレートとして記載され、10,000~200,000g/molの範囲の分子量を有し、かつオレフィン系不飽和モノマーの混合物を重合することによって得られ、上記混合物は、好ましくは50~95重量%のC9~C16および1~30重量%のC1~C8アルキルメタクリレートを含む。
【0022】
欧州特許出願公開第2337832号明細書に記載された発明の目的は、より高い温度で油粘度を増加させることによって達成される騒音の低減であった。この効果のために、高い粘度および高い密度が有益であり、流体の高いVIが、作動温度における増大した粘度の原因である。
【0023】
本発明では、同様のアプローチを使用して、全く異なるシステムのエネルギー効率を高める。
【0024】
油圧システムと圧縮機(例えば空気圧)システムとの違いは、動力を伝達するために利用される媒体にある。空気圧は、空気または他のガスのように容易に圧縮可能なガスを使用する。一方、油圧は、鉱油、エチレングリコール、水、合成油、または高温耐火性流体のような比較的圧縮しづらい液体媒体を利用して動力伝達を可能にする。
【0025】
この主な違いにより、これら2つの電源回路に関する他のいくつかの態様も同様である。空気圧の産業用途では、1平方インチあたり80~100ポンドの範囲の圧力が使用されているが、油圧では、1,000~7,500psiが使用され、またはさらに特殊な用途では10,000psi超が使用されている。
【0026】
さらに、不足した場合に油圧システムが取り込むことができる油を貯蔵するためにタンクが必要になるだろう。しかしながら、空気圧システムでは、空気は大気から取り込まれ、フィルターや乾燥機で浄化するだけでよい。
【0027】
空気圧は、圧縮可能なガスを使用するので、圧縮機が必要である。それに対して、油圧は、ポンプ、バルブおよびアクチュエータを含むシステム内の液体を使用する。
【0028】
圧縮機内の温度範囲は、油圧システム内よりもはるかに広くなり得、空気圧縮機油は、高温空気への永続的な曝露に耐える必要がある。
【0029】
油圧油の性能添加剤パッケージは、従来、金属を含んでいて灰を発生させるが、圧縮機油は、無灰である。
【0030】
欧州特許出願公開第1987118号明細書には、エンジンまたは電気モーターのような油圧システムで使用するための、少なくとも130の粘度指数を有する流体の使用が開示されている。この流体は、APIグループIIまたはIII鉱油と10,000g/mol未満の分子量を有するポリアルファオレフィンとの混合物中に、C1~C6(メタ)アクリレート、C7~C40(メタ)アクリレート、および任意選択的にさらに(メタ)アクリレート共重合性モノマーとのコポリマーを含む。
【0031】
油圧流体と圧縮機流体との技術分野の違いは、油圧では1つの流体を使用して潤滑と作業を行い、圧縮機では2つの別々に定義された流体を使用することである。共通の態様は、多くの用途での広範な使用および効率改善の必要性である。
【0032】
本発明の課題は、エネルギー効率の向上につながる圧縮機油を提供することであった。エネルギーを節約することによって、より安価な設計および運転を伴って、より小型の圧縮機の使用が可能になり、すなわち、同等の性能でエネルギー消費の削減が可能になる。
【0033】
ここで驚くべきことに、請求項1に規定されたポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤を配合した圧縮機油によって、かかるポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤を含有しない圧縮機油を用いた運転と比較して、比エネルギー要求量を大幅に低減した圧縮機運転が可能になることが分かった。
【0034】
発明の詳細な説明
本発明の対象は、圧縮機油を用いて圧縮機を運転することを含む、圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機油が、
(i)1重量%~30重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0重量%~25重量%のメチルメタクリレート、
(b)75重量%~100重量%の直鎖または分枝鎖C10~18アルキル(メタ)アクリレート、および
(c)0重量%~2重量%の直鎖もしくは分枝鎖C5~9アルキル(メタ)アクリレートまたは直鎖もしくは分枝鎖C20~24アルキル(メタ)アクリレート
を含み、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)が、5,000~400,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)70重量%~99重量%のAPIグループII、III、IVおよびVから選択される基油ならびにそれらの混合物、および
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
圧縮機油が、少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有することを特徴とする方法に関する。
【0035】
さらなる対象では、圧縮機油は、
(i)1重量%~20重量%、好ましくは1重量%~15重量%、好ましくは1重量%~10重量%の上記でさらに概説されたポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)80重量%~99重量%、好ましくは85重量%~99重量%、好ましくは90重量%~99重量%のAPIグループII、III、IVおよびVから選択される基油ならびにそれらの混合物、および
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含む。
【0036】
さらなる対象では、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤は、
(a)0.2重量%~25重量%、好ましくは4重量%~16重量%のメチルメタクリレート、
(b)75重量%~99.8重量%、好ましくは84重量%~96重量%の直鎖または分枝鎖C10~18アルキルメタクリレート、および
(c)0重量%~2重量%の直鎖もしくは分枝鎖C5~9アルキル(メタ)アクリレートまたは直鎖もしくは分枝鎖C20~24アルキル(メタ)アクリレート
を含む。
【0037】
各成分(i)、(ii)および(iii)の含有率は、圧縮機油の全組成を基準とする。特定の実施形態では、成分(i)、(ii)および(iii)の割合は、合計して100重量%になる。
【0038】
各成分(a)、(b)および(c)の含有率は、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の全組成を基準とする。成分(a)、(b)および(c)の割合は、合計して100重量%になる。
【0039】
本発明によるポリアルキルアクリレートポリマーの重量平均分子量Mwは、好ましくは、少なくとも5,000g/molまたは8,000g/molまたは10,000g/molまたは30,000g/molであり、好ましくは最大400,000g/molまたは200,000g/molまたは100,000g/molまたは80,000g/molであり、例えば、5,000g/mol~400,000g/molの範囲、好ましくは5,000g/mol~200,000g/molまたは5,000g/mol~100,000g/molまたは8,000g/mol~100,000g/molまたは10,000g/mol~200,000g/molまたは30,000g/mol~100,000g/molまたは10,000g/mol~80,000g/molの範囲にある。
【0040】
Mwは、市販のポリメチルメタクリレート標準物質を使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定される。この測定は、溶離剤としてTHFを用いるゲル浸透クロマトグラフィーによって影響される。
【0041】
「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリル酸のエステルおよびメタクリル酸のエステルの双方を指す。本発明によれば、メタクリレートが好ましい。
【0042】
本発明に従って使用するためのC5~9-アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸と5~9個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルコールとのエステルである。「C5~9-アルキル(メタ)アクリレート」という用語は、特定の長さのアルコールとの個々の(メタ)アクリル酸エステルを包含し、同様に異なる長さのアルコールとのメタアクリル酸エステルの混合物も包含する。
【0043】
適切なC5~9アルキル(メタ)アクリレートには、例えば、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびノニル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0044】
本発明に従って使用するためのC10~18アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸と10~18個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルコールとのエステルである。「C10~18アルキル(メタ)アクリレート」という用語は、特定の長さのアルコールとの個々の(メタ)アクリル酸エステルを包含し、同様に異なる長さのアルコールとの(メタ)アクリル酸エステルの混合物も包含する。
【0045】
適切なC10~18アルキル(メタ)アクリレートには、例えば、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、5-メチルウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-メチルドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、5-メチルトリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレートおよびオクタデシル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0046】
本発明に従って使用するためのC20~24アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸と20~24個の炭素原子を有する直鎖アルコールとのエステルである。「C20~24アルキル(メタ)アクリレート」という用語は、特定の長さのアルコールとの個々の(メタ)アクリル酸エステルを包含し、同様に異なる長さのアルコールとの(メタ)アクリル酸エステルの混合物も包含する。
【0047】
適切な直鎖C20~24アルキル(メタ)アクリレートには、例えばエイコシル(メタ)アクリレートおよびドコシル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0048】
本発明に従って使用するための分散剤モノマーは、ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、N-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)メタクリルアミド(DMAPMAm)およびN-ビニルピロリジノン(NVP)からなる群から選択される。
【0049】
ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(i)の合成については、上記のモノマー混合物を任意の公知の方法で重合させることができる。従来のラジカル開始剤を使用して、従来のラジカル重合を行うことができる。これらの開始剤は、当該技術分野で周知である。これらのラジカル開始剤の例は、アゾ開始剤、例えば2,2’-アゾジイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)および1,1アゾ-ビスシクロヘキサンカルボニトリル;過酸化物化合物、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、tert.-ブチルパー-2-エチルヘキサノエート、ケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert.-ブチルパー-ベンゾエート、tert.-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ビス(2-エチルヘキサノイル-ペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、tert.-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、tert.-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、ジクメンペルオキシド、1,1ビス(tert.-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1ビス(tert.-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、クメンヒドロペルオキシドおよびtert.-ブチルヒドロペルオキシドである。
【0050】
連鎖移動剤を使用することにより、より低分子量のポリ(メタ)アクリレートを得ることができる。この技術は、ポリマー産業において普遍的に知られ、実施されており、Odian, Principles of Polymerization, 1991に記載されている。
【0051】
さらに、ATRP(原子移動ラジカル重合)およびまたはRAFT(可逆的付加開裂連鎖移動)などの新規な重合技術を適用して、アルキルエステルから誘導された有用なポリマーを得ることができる。これらの方法は周知である。ATRP反応法は、例えば、J-S. WangらによりJ. Am. Chem. Soc., Vol.117, pp.5614-5615 (1995)に記載され、MatyjaszewskiによりMacromolecules, Vol.28, pp.7901-7910 (1995)に記載されている。さらに、特許出願の国際公開第96/30421号、国際公開第97/47661号、国際公開第97/18247号、国際公開第98/40415号および国際公開第99/10387号には、上記で説明したATRPの変形が開示されており、本開示の目的で明示的に参照される。RAFT法は、例えば国際公開第98/01478号に広く示されており、本開示の目的で明示的に参照される。
【0052】
重合は、常圧、減圧または高圧下で実施することができる。重合温度は、-20~200℃、好ましくは60~120℃の範囲にあるが、これに限定されるものではない。重合は、溶媒を用いて行うことも、溶媒を用いずに行うこともできる。溶媒という用語は、本明細書では広義に理解されるべきである。好ましい実施形態によれば、ポリマーは、APIグループI、IIもしくはIIIの鉱油またはAPIグループIVの合成油における重合により得ることができる。
【0053】
圧縮機油に使用されるべき基油は、潤滑粘度の油を含む。かかる油には、天然油および合成油、水素化分解、水素化処理および水素化仕上げ由来の油、未精製、精製、再精製油またはそれらの混合物が含まれる。
【0054】
基油は、また、米国石油協会(API)により特定されるように定義されてもよい(2008年4月版の“Appendix E-API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils”, section 1.3 Subheading 1.3.“Base Stock Categories”を参照のこと)。
【0055】
現在、APIにより、5つのグループの潤滑剤ベースストックが定義されている(API 1509, Annex E - API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils, September 2011)。グループI、IIおよびIIIは、それらが含有する飽和物および硫黄の量ならびにそれらの粘度指数により分類される鉱油であり、グループIVは、ポリアルファオレフィンであり、グループVは、他のすべてのものであり、例えばエステル油を含む。以下の表は、これらのAPI分類を説明する。
【表1】
【0056】
本発明による圧縮機油の製造に使用される適切な無極性基油の100℃での動粘度(KV100)は、ASTM D445に従って測定して、好ましくは1mm2/s~20mm2/sの範囲、より好ましくは2mm2/s~10mm2/sの範囲にある。
【0057】
本発明の特に好ましい圧縮機油は、APIグループII油、APIグループIII油、ポリアルファオレフィン(PAO)およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の基油を含む。
【0058】
本発明により使用することができるさらなる基油は、グループII~IIIのフィッシャー・トロプシュ由来の基油である。
【0059】
フィッシャー・トロプシュ由来の基油は、当該技術分野において公知である。「フィッシャー・トロプシュ由来の」という用語は、基油がフィッシャー・トロプシュ法の合成生成物であるか、またはそれに由来することを意味する。また、フィッシャー・トロプシュ由来の基油は、GTL(Gas-To-Liquid)基油と呼ばれることもある。本発明の圧縮機油中の基油として便利に使用され得る適切なフィッシャー・トロプシュ由来の基油は、例えば、欧州特許出願公開第0776959号明細書、欧州特許出願公開第0668342号明細書、国際公開第97/21788号、国際公開第00/15736号、国際公開第00/14188号、国際公開第00/14187号、国際公開第00/14183号、国際公開第00/14179号、国際公開第00/08115号、国際公開第99/41332号、欧州特許出願公開第1029029号明細書、国際公開第01/18156号、国際公開第01/57166号および国際公開第2013/189951号に開示されているものである。
【0060】
本発明に従って使用される圧縮機油は、また、流動点降下剤、分散剤、消泡剤、洗浄剤、解乳化剤、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、摩擦調整剤、防食添加剤、金属不活性化剤および金属不動態化剤ならびにそれらの混合物、好ましくは耐摩耗添加剤、防食添加剤および酸化防止剤からなる群から選択される1種以上のさらなる添加剤も含有し得る。
【0061】
本発明に従って使用される圧縮機油は、好ましくは、少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含有する性能パッケージを、2.5重量%まで、好ましくは0.5重量%~1.5重量%含み得る。
【0062】
性能パッケージは、好ましくは亜鉛を含まない性能パッケージ、より好ましくは完全に無灰である。
【0063】
好ましい流動点降下剤は、例えば、アルキル化ナフタレンおよびフェノールポリマー、ポリアルキルメタクリレート、マレイン酸コポリマーエステルおよびフマル酸コポリマーエステルからなる群から選択され、これらは有利には、有効な流動点降下剤として使用され得る。圧縮機油は、0.1重量%~0.5重量%の流動点降下剤を含有し得る。好ましくは、0.3重量%以下の流動点降下剤が使用される。
【0064】
適切な分散剤には、ポリ(イソブチレン)誘導体、例えば、ホウ素化PIBSIを含む、ポリ(イソブチレン)スクシンイミド(PIBSI)、およびN/O官能性を有するエチレン-プロピレンオリゴマーが含まれる。圧縮機油は、圧縮機油の総重量を基準として0.05重量%~5重量%の少なくとも1種の分散剤を含有し得る。
【0065】
適切な消泡剤には、例えば、シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、およびフルオロアルキルエーテルが含まれる。圧縮機油は、圧縮機油の総重量を基準として0.01~0.02重量%の少なくとも1種の消泡剤を含有し得る。
【0066】
洗浄剤には、金属含有化合物、例えばフェノキシド、サリチレート、チオホスホネート、特にチオピロホスホネート、チオホスホネートおよびホスホネート、スルホン酸塩および炭酸塩が含まれる。金属として、これらの化合物は、特にカルシウム、マグネシウムおよびバリウムを含有し得る。これらの化合物は、好ましくは中性または過塩基性の形態で使用され得る。
【0067】
好ましい解乳化剤には、アルキレンオキシドコポリマーおよび極性官能基を含む(メタ)アクリレートが含まれる。
【0068】
適切な酸化防止剤には、例えば、フェノール、例えば2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(2,6-DTB)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);芳香族アミン、特にアルキル化ジフェニルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミン(PNA)、N,N’-ジ-フェニル-p-フェニレンジアミン、ポリマー2,2,4-トリメチルジヒドロキノン(TMQ);“OOSトリエステル”=ジチオリン酸と、オレフィン、シクロペンタジエン、ノルボルナジエン、α-ピネン、ポリブテン、アクリル酸エステル、マレイン酸エステル(燃焼時に無灰)からの活性化二重結合との反応生成物;有機リン化合物、例えばトリアリールおよびトリアルキルホスファイト;有機銅化合物、ならびに過塩基性カルシウム系およびマグネシウム系のフェノキシドおよびサリチレートが含まれる。圧縮機油は、圧縮機油の総重量を基準として0.05~5重量%の少なくとも1種の酸化防止剤を含有し得る。
【0069】
好ましい耐摩耗性添加剤および極圧添加剤には、リン化合物、例えばトリアルキルホスフェート、トリアリールホスフェート、例えばトリクレジルホスフェート、アミン中和モノアルキルホスフェートおよびジアルキルホスフェート、エトキシル化モノアルキルホスフェートおよびジアルキルホスフェート、ホスファイト、ホスホネートまたはホスフィンが含まれる。圧縮機油は、圧縮機油の総重量を基準として0.05重量%~3重量%の少なくとも1種の耐摩耗性添加剤および極圧添加剤を含有し得る。
【0070】
金属不活性化剤の例には、トリアゾール、チアジアゾールおよびサリチリデン、例えば、N,N’-ジサリチリデン-1,2-ジアミノプロパンが含まれる。
【0071】
防錆剤が広く使用されている。一般的な化学物質は、コハク酸半エステル、スルホネート、アルキルアミンおよびリン酸塩のようなカルボキシレート、例えばアミン中和リン酸エステルである。
【0072】
使用される摩擦調整剤には、機械的に活性な化合物、例えば二硫化モリブデン、グラファイト(フッ素化グラファイトを含む)、ポリ(トリフルオロエチレン)、ポリアミド、ポリイミド;吸着層を形成する化合物、例えば長鎖カルボン酸、脂肪酸エステル、エーテル、アルコール、アミン、アミド、イミド;摩擦化学反応によって層を形成する化合物、例えば飽和脂肪酸、リン酸およびチオリン酸エステル、キサントゲン酸塩、硫化脂肪酸;ポリマー様層を形成する化合物、例えばエトキシル化ジカルボン酸の部分エステル、ジアルキルフタレート、メタクリレート、不飽和脂肪酸、および硫化オレフィンが含まれ得る。
【0073】
配合物の一部であるすべての成分は、広範囲の作動温度にわたって冷媒との許容可能な相容性を示す必要がある。
【0074】
上記に詳述された添加剤は、とりわけ、T. Mang, W. Dresel (eds.): “Lubricants and Lubrication”, Wiley-VCH, Weinheim 2001; R. M. Mortier, S. T. Orszulik (eds.): “Chemistry and Technology of Lubricants”に詳細に記載されている。
【0075】
圧縮機油中の1種以上の添加剤の総濃度は、圧縮機油の総重量を基準として、5重量%まで、好ましくは0.1重量%~4重量%、より好ましくは0.5重量%~3重量%である。
【0076】
本発明のさらなる対象は、上記でさらに概説された圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機は、家庭向きまたは家庭用冷凍装置、空気圧縮機およびCO2圧縮機からなる群から選択される方法に関する。
【0077】
本発明のさらなる対象は、上記でさらに概説された圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機は、家庭向きまたは家庭用冷凍装置の一部であり、基油(ii)は、APIグループIVまたはV油およびそれらの混合物から選択され、かつ圧縮機油は、40℃で2.88~7.48cStの範囲の動粘度を有する方法に関する。
【0078】
この範囲には、ISO粘度グレード3~7が含まれる。
【0079】
家庭向きまたは家庭用冷凍装置において使用される冷媒は、イソブタンまたはプロパン、好ましくはイソブタンであり得る。
【0080】
本発明のさらなる対象は、圧縮機油を用いて冷凍装置を運転することを含む、冷媒としてイソブタンまたはプロパン、好ましくはイソブタンを使用する家庭向きまたは家庭用冷凍装置のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機油が、
(i)1重量%~10重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0.2重量%~25重量%、好ましくは4重量%~16重量%のメチルメタクリレート、および
(b)75重量%~99.8重量%、好ましくは84重量%~96重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート
を含み、
ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)が、5,000g/mol~200,000g/mol、好ましくは10,000g/mol~200,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)90重量%~99重量%のAPIグループIVまたはVの基油およびそれらの混合物、ならびに
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
圧縮機油が、40℃で2.88~7.48cStの範囲の動粘度および少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有する方法に関する。
【0081】
さらに好ましい対象では、基油(ii)は、少なくとも40%のCN値によって特徴付けられているAPIグループVのナフテン系油およびそれらの混合物から選択される。
【0082】
各成分(i)、(ii)および(iii)の含有率は、圧縮機油の全組成を基準とする。特定の実施形態では、成分(i)、(ii)および(iii)の割合は、合計して100重量%になる。
【0083】
各成分(a)および(b)の含有率は、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の全組成を基準とする。成分(a)および(b)の割合は、合計して100重量%になる。
【0084】
本発明のさらなる対象は、上記でさらに概説された家庭向きまたは家庭用冷凍装置のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機油は、-60℃以下の流動点を有する方法に関する。
【0085】
本発明のさらなる対象は、上記でさらに概説された圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機が、空気圧縮機であり、基油(ii)が、APIグループII、IIIおよびIVまたはそれらの混合物から選択され、かつ圧縮機油が、40℃で28.8~74.8cStの範囲の動粘度を有する方法に関する。
【0086】
この範囲には、ISO粘度グレード32~68が含まれる。
【0087】
本発明のさらなる対象は、圧縮機油を用いて空気圧縮機を運転することを含む、空気圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機油が、
(i)1重量%~20重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0.2重量%~25重量%のメチルメタクリレート、
(b)75重量%~99.8重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート、および
(c)0重量%~2重量%の直鎖もしくは分枝鎖C5~9アルキル(メタ)アクリレートまたは直鎖もしくは分枝鎖C20~24アルキル(メタ)アクリレート
を含み、
ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)が、5,000g/mol~400,000g/molの範囲、好ましくは5,000g/mol~200,000g/molの範囲、より好ましくは10,000g/mol~80,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)80重量%~99重量%のAPIグループII、IIIもしくはIVの基油またはそれらの混合物、および
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
圧縮機油が、40℃で28.8~74.8cStの範囲の動粘度、および少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有する方法に関する。
【0088】
各成分(i)、(ii)および(iii)の含有率は、圧縮機油の全組成を基準とする。特定の実施形態では、成分(i)、(ii)および(iii)の割合は、合計して100重量%になる。
【0089】
各成分(a)、(b)および(c)の含有率は、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の全組成を基準とする。成分(a)、(b)および(c)の割合は、合計して100重量%になる。
【0090】
本発明のさらなる対象は、上記でさらに概説された空気圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、ポリアルキルメタクリレート系VI向上剤は、(c)5重量%までのヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、N-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)メタクリルアミド(DMAPMAm)およびN-ビニルピロリドン(NVP)からなる群から選択される分散剤モノマーをさらに含む方法に関する。
【0091】
典型的な圧縮空気システムは、高い力が必要とされる場合、少なくとも5バールの圧力またはより高い圧力で作動する。幾つかのブロー成形用途は、40バールの空気圧でも操作される。
【0092】
高いガス圧では、本発明の圧縮機油が圧縮機性能に及ぼす効果がより強い。
【0093】
好ましくは、空気圧縮機は、少なくとも5バール、より好ましくは少なくとも7バール、より好ましくは少なくとも9バールの空気圧で運転される。
【0094】
本発明のさらなる対象は、上記でさらに概説された圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機が、二酸化炭素圧縮機であり、基油(ii)が、APIグループIII、IVまたはVおよびそれらの混合物から選択され、かつ圧縮機油が、40℃で41.4~110cStの範囲の動粘度を有する方法に関する。
【0095】
この範囲には、ISO粘度グレード46~100が含まれる。
【0096】
本発明のさらなる対象は、圧縮機油を用いて二酸化炭素圧縮機を運転することを含む、二酸化炭素圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、
圧縮機油が、
(i)1重量%~20重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0.2重量%~25重量%、好ましくは4重量%~16重量%のメチルメタクリレート、および
(b)75重量%~99.8重量%、好ましくは84重量%~96重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート
を含み、
ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)が、5,000g/mol~100,000g/mol、好ましくは30,000g/mol~100,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)80重量%~95重量%のポリオールエステル基油または様々なポリエステル基油の混合物、ならびに
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
圧縮機油が、40℃で41.4~110cStの範囲の動粘度、および少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有する方法に関する。
【0097】
各成分(i)、(ii)および(iii)の含有率は、圧縮機油の全組成を基準とする。特定の実施形態では、成分(i)、(ii)および(iii)の割合は、合計して100重量%になる。
【0098】
各成分(a)および(b)の含有率は、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の全組成を基準とする。成分(a)および(b)の割合は、合計して100重量%になる。
【0099】
二酸化炭素圧縮機で通常使用される圧縮機油は、典型的には、40℃で68cStの粘度を有するポリオールエステルをベースとする。
【0100】
ポリオールエステルをベースとする市販のFuchs Reniso(登録商標)C油は、55cSt、80cStおよび178cStのKV40で入手可能である。粘度指数は、常に150を大きく下回っている。
【0101】
本発明のさらなる対象は、圧縮機油を用いて二酸化炭素圧縮機を運転することを含む、二酸化炭素圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機油が、
(i)1重量%~30重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0.2重量%~25重量%、好ましくは4重量%~16重量%のメチルメタクリレート、および
(b)75重量%~99.8重量%、好ましくは84重量%~96重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート
を含み、
ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は、5,000g/mol~100,000g/mol、好ましくは10,000g/mol~80,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)80重量%~99重量%のポリアルファオレフィン基油または異なるポリアルファオレフィン基油の混合物、ならびに
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
圧縮機油が、40℃で41.4~110cStの範囲の動粘度、および少なくとも140、好ましくは少なくとも160、より好ましくは少なくとも180の粘度指数を有する方法に関する。
【0102】
各成分(i)、(ii)および(iii)の含有率は、圧縮機油の全組成を基準とする。特定の実施形態では、成分(i)、(ii)および(iii)の割合は、合計して100重量%になる。
【0103】
各成分(a)および(b)の含有率は、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の全組成を基準とする。成分(a)および(b)の割合は、合計して100重量%になる。
【0104】
本発明のさらなる対象は、圧縮機油を用いて二酸化炭素圧縮機を運転することを含む、二酸化炭素圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機油が、
(i)1重量%~30重量%のポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤であって、
(a)0重量%~25重量%のメチルメタクリレート、
(b)60重量%~99.8重量%のC10~18アルキル(メタ)アクリレート、および
(c)0重量%~40重量%のC8~12アルファオレフィン
を含み、
ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は、5,000~100,000g/molの範囲にある、ポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤、
(ii)70重量%~99重量%のポリアルファオレフィン基油または異なるポリアルファオレフィン基油の混合物、ならびに
(iii)0重量%~2.5重量%の少なくとも耐摩耗剤、防食剤および酸化防止剤を含む亜鉛フリー性能パッケージ
を含み、
圧縮機油が、40℃で41.4~110cStの範囲の動粘度、および少なくとも140、好ましくは少なくとも150、より好ましくは少なくとも160の粘度指数を有する方法に関する。
【0105】
各成分(i)、(ii)および(iii)の含有率は、圧縮機油の全組成を基準とする。特定の実施形態では、成分(i)、(ii)および(iii)の割合は、合計して100重量%になる。
【0106】
各成分(a)、(b)および(c)の含有率は、ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の全組成を基準とする。成分(a)、(b)および(c)の割合は、合計して100重量%になる。
【0107】
空気圧縮機で通常使用される圧縮機油は、典型的には、40℃で46cStの粘度および140未満の粘度指数を有するAPIグループI、IIまたはIIIの油をベースとする。油は、すべての主要な油および圧縮機OEMから入手可能であり、例えば、46cStのKV40および106のVIを有するKaeser Sigma Fluid MOLである。その液体の流動点は-30℃である。
【0108】
本発明のさらなる対象は、上記でさらに概説された空気圧縮機のエネルギー効率を高める方法であって、圧縮機油が-33℃以下の流動点を有する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【
図1】空気圧縮機におけるエネルギー消費に対する効果を判断するために使用される試験設定を示す図である。
【0110】
本発明を、以下の非限定的な実施例および比較例(参照油)によりさらに説明する。以下の実施例は、本発明による好ましい実施形態のさらなる説明に役立つが、本発明を制限することを意図するものではない。
【0111】
実験の部
略語
Synesstic(登録商標)5 29cStのKV40を有するExxonMobil製のアルキル化ナフタレン基油
Berylane(登録商標)230 2.3cStのKV40および約45%のCN値を有するTotal製のナフテン系基油
KV ASTM D445に従って測定した動粘度
KV40 ASTM D445に従って40℃で測定した動粘度
KV100 ASTM D445に従って100℃で測定した動粘度
Mn 数平均分子量
Mw 重量平均分子量
NS3 2.9cStのKV40および約57%のCN値を有するNynas製のナフテン系基油
PAO6 6cStのKV100を有するグループIVの基油
PAO8 8cStのKV100を有するグループIVの基油
PDI 多分散性指数
PP 流動点
T3 3.6cStのKV40および約52%のCN値を有するNynas製のナフテン系基油
T9 9.1cStのKV40および約45%のCN値を有するNynas製のナフテン系基油
VI 粘度指数
【0112】
試験方法
本発明によるポリアルキルメタクリレート系ポリマーを、その重量平均分子量に関して特性決定した。
【0113】
本発明および比較例によるポリアルキルメタクリレートベースのポリマーを含む圧縮機油を、ASTM D445に準拠して、それらの40℃での動粘度(KV40)および100℃での動粘度(KV100)、ASTM D2270に準拠して、それらの粘度指数(VI)、ASTM D5950に準拠して、それらの流動点、ASTM D92に準拠して、それらの引火点およびそれらの粘度せん断損失について特性決定した。
【0114】
家庭向きまたは家庭用冷凍装置におけるエネルギー消費に対する効果の判定
標準化された性能試験装置により、指定された定格条件での圧縮機の電力消費を測定した。これにより、多くの試験で同じ運転条件を確保することが可能になった。さらに、性能試験には、指定された定格条件での成績係数(COP:冷却動力と電気駆動力との比に相当)および体積効率(実体積流量と幾何学的に可能な体積流量との比)の計算が含まれた。後者は、圧縮機の作動チャンバのシーリング特性を示した。
【0115】
試験装置の設定を、ASHRAE規格23.1(2010)、それぞれDIN EN 13771-1(2017)に準拠した小容量の冷媒圧縮機の性能試験のために設計した。標準的な蒸気圧縮サイクルに基づき、試験ベンチは、熱量計蒸発器と、冷媒質量流量を決定するための流量計とを含んでいた。圧縮機、凝縮器、および電子膨張機のような主要な構成要素に加えて、サイクルにはオイルセパレータ、フィルター乾燥機、眼鏡、およびアキュムレータがさらに装備されていた。
【0116】
圧縮機は、Embraco VEMX 7C型の密閉式往復ピストン圧縮機であり、冷媒は、R600a(イソブタン)であった。圧縮機を、3つの速度:50Hz、100Hzおよび150Hzで運転した。CECOMAF(Comite europeen des constructeurs de materiel frigorifique)条件を適用した:吸込側のガス温度=32℃、吸込側の露点=-25℃、圧力側の露点=+55℃、周囲温度=35±2℃。
【0117】
この実験的調査のために取得されたデータの一般的な処理は、圧縮機の定格に関する欧州規格(DIN EN 13771-1、2017年)に従った。
【表2-1】
【表2-2】
【0118】
ポリマー1は、13重量%のメチルメタクリレート、86.5重量%のC10~16アルキルメタクリレートおよび0.5重量%のC11~18アルキルメタクリレート(Mw=77,000g/mol、80%の固体を高度に精製された鉱油に溶解したもの)からなる。
【0119】
比較例1(CE1)として、4.90mm2/sのKV40(ISO VG5に相当)を有する市販のアルキルベンゼン系油を使用した。比較例2(CE2)は、約7のKV40(ISO VG7に相当)を有する、異なるナフテン系基油の混合物である。比較例は、ポリアルキル(メタ)アクリレートを含有していない。
【0120】
実施例1~3(Ex1~3)は、ナフテン系基油およびポリアルキル(メタ)アクリレートとしてのポリマー1にも基づく。Ex1~3は、ISO「VG4」、VG5およびVG7にそれぞれ相当する、4mm2/s(Ex1)、5mm2/s(Ex2)および7mm2/s(Ex3)のKV40に配合される。
【0121】
結論:
本発明の油は、すべての運転速度(50/100/150Hz)で体積効率および成績係数の改善を示した。高VIを有する圧縮機油は、冷媒との良好な相溶性を示し(有害な分離および蓄積は認められなかった)、設備性能の改善を可能にする。
【0122】
空気圧縮機におけるエネルギー効率に対する効果の判定
本発明の別の態様は、空気圧縮機効率の改善であった。
【0123】
VI 140以上の圧縮機油を、Kaeser SX4スクリュー圧縮機で試験し、VI 106のKaeserの商用利用されている鉱油ベースのモノグレード流体と比較した。
【0124】
より大きなサイズの第2の空気圧縮機、Atlas Copco GA75VSDを使用して、エネルギー効率の利点を判断した。
【0125】
【0126】
関連する試験手順で使用される空気圧縮機の特性表示:
(1)KAESER SX4
製造日:2019-09
製造元:Kaeser
圧縮媒体:空気
基準周波数:50Hz
最大空気体積流量:0.36m3/min
加圧段階:1
最大吐出圧力:11bar
モーター容量:3.0kW
(2)Atlas Copco GA75VSD P A 13 MK5
製造日:2019-01
製造元:Atlas Copco
圧縮媒体:空気
基準周波数/下限周波数:73/20Hz
最大空気体積流量:14.76m3/min
加圧段階:1
最大吐出圧力:13bar
モーター容量:75kW
【0127】
以下のパラメータ:油溜め温度、吸込側および吐出側の空気温度、周囲空気温度、圧力および湿度;吸込側および吐出側の空気圧、空気流量、ならびに機器の電力需要量を測定した。吐出側では、圧縮空気乾燥機を使用し、圧縮空気中の水分を0.1%未満にして乾燥空気を維持した。
【0128】
2つの異なる油温および4つの異なる空気圧の定常運転条件を調節した。空気流量および電力需要量により、特定の電力需要量の値がW/(bar*L/min)で得られた。
【0129】
以下の第2表は、本発明および比較の空気圧縮機油を用いて得られた配合物および結果を示す。
【表3-1】
【表3-2】
【0130】
ポリマー2は、13重量%のメチルメタクリレートおよび87重量%のC10~16アルキルメタクリレート(Mw=56,000g/mol、高度に精製された鉱油に溶解した74%の固形分)からなる。
【0131】
ポリマー3は、11.3重量%のメチルメタクリレート、88.3重量%のC10~18アルキルメタクリレートおよび0.4重量%のC20~22アルキルメタクリレート(Mw=375,000g/mol;高度に精製された鉱油中に溶解した42%の固形分)からなる。
【0132】
ポリマー4は、0.2重量%のメチルメタクリレートおよび99.8重量%のイソC12~15アルキルメタクリレート(Mw=13,800g/mol)からなる。
【0133】
比較例1(AirCE1)として、46mm2/s(ISO VG 46に相当)のKV40を有する純正流体(Kaeserから市販)を使用した。これは、ポリアルキル(メタ)アクリレートを含有しない。
【0134】
実施例1~6(AirEx1~6)は、異なるグループIIIの基油に基づいており、ポリアルキル(メタ)アクリレートを含有する。AirEx1~5を、ISO VG 46に相当する、約46mm2/sのKV40に配合し、AirEx6を、約55mm2/sのKV40に配合した。
【0135】
本発明による圧縮機油を使用することにより、空気圧縮機におけるエネルギー消費に対する効果が得られ、以下の第3a表、第3b表および第3c表にまとめる。
【表4】
【表5】
【表6】
【0136】
効率改善を、Pspecific、吸込圧力および試験条件vs参照条件での個々の圧縮比(補正係数)から計算した:
Δ効率relative=η2/η1-1=Pspecific,1/Pspecific,2×Psuction,2/Psuction,1×補正-1
【0137】
追加の試験を、Atlas Copco GA75VSDで行った。油温を90℃に制御した。8bar、10barおよび12.5barにおいて3つの異なる吐出空気圧を調査した。
【0138】
以下の第4表は、Atlas Copco GA75VSDを使用して得られた結果を示す。
【表7】
【0139】
【0140】
結論:
様々な吐出圧力および油温で定常運転条件が達成された後、少なくとも15分間の電力需要量を測定した。
【0141】
電力比は、測定される電力需要量と、圧縮機の空気吐出側の圧力を乗算した、空気体積流量(1分あたりのリットル)で測定される、出力電力との比によって定義された。一定かつ再現性の高い周囲条件は、制御された空調室内で装置を運転することによって達成された。
【0142】
空気圧縮機試験装置での調査により、少なくとも140のVIおよび高いせん断安定性を有する圧縮機油の効率上の利点が明確に示された。効率は、調査したすべての運転条件で大幅に改善された。約75℃の油温で、圧縮機油をAirCE1からAirEx4に変更することで、1.15(W*min)/(bar*L)から1.10(W*min)/(bar*L)への電力比の低減が達成され、この流体は、ポリマー2を含み、200のVIを有するものであった。92~94℃の油温では、AirCEの1.26(W*min)/(bar*L)からAirEx4の1.18(W*min)/(bar*L)へのさらに強化された改善が認められた。対応する効率改善は、4.3%と計算された。ポリマー3を含み、かつ200のVIを有する流体AirEx5によっても、効率を高めることができた。90℃を超える油温および約9barの空気吐出圧力での改善は、約1.5%であった。圧縮機油AirEx4と比較して、AirEx5で使用されたポリマーの分子量はより高く、油のせん断安定性はより低かった。より高いせん断安定性は、油の効率改善および寿命にとって有利である。本発明の流体は、ASTM D5621による40分間の音波せん断試験法において40%の最大KV100せん断損失を有していた。ASTM D5621による最大20%のより低いせん断損失、より好ましくは10%未満のせん断損失が好ましい。
【0143】
第5表は、圧縮機試験装置での試験の前後の油の粘度を示す。AirEx3およびAirEx4の粘度は、試験期間の時間にわたり変化しなかったが、ポリマー3を含む油AirEx5の粘度は、実寿命条件下で10%を上回って低下した。ポリマー3の分子量は、比較的高く、せん断安定性は、空気圧縮機の長期効率改善にとって十分に良好であるとはいえない。
【0144】
本発明による圧縮機流体の流動点は、-33℃以下であった。グループII、グループIIIまたはPAO基油を、定義された組成および400,000g/mol、好ましくは200,000g/mol未満、より好ましくは100,000g/mol未満の最大分子量を有する本発明によるポリアルキルメタクリレート系粘度指数向上剤とブレンドすることによって、高いVI、低流動点および高せん断安定性が達成された。より高いVIかつよりせん断安定性の潤滑剤を用いて、より低い温度で機器を操作できることが、認識された。より効率的な流体を使用する場合、試験運転で要求される90℃のより高い油作動温度レベルを達成するために冷却ユニットをブロックすることが必要となった。この調査により、本発明による圧縮機油を使用することによって、より効率的な空気圧縮機がより低温で運転される傾向にあるので、過熱を回避できることが示された。
【国際調査報告】