(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】神経保護のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20231124BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/4152 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/77 20060101ALI20231124BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20231124BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20231124BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20231124BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231124BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20231124BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231124BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20231124BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20231124BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P25/28
A61K31/155
A61K31/198
A61K31/375
A61K31/4152
A61K31/77
A61K38/07
A61K31/122
A61K38/13
A61K31/506
A61K31/4709
A61K9/08
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530058
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 US2021059612
(87)【国際公開番号】W WO2022108963
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522339189
【氏名又は名称】ザ ファインスタイン インスティテューツ フォー メディカル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】The Feinstein Institutes for Medical Research
【住所又は居所原語表記】350 Community Drive, Manhasset, NY 11030 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】ランス ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】リシャブ チャラン チョーダリー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076DD37
4C076EE23
4C076EE41
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA20
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA16
4C084BA18
4C084BA23
4C084BA24
4C084CA59
4C084DA11
4C084MA02
4C084MA17
4C084MA52
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4C084MA59
4C084MA60
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA15
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA18
4C086BC36
4C086BC42
4C086FA02
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA59
4C086MA60
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA15
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB27
4C206HA31
4C206JA58
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA79
4C206MA80
4C206MA85
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA15
(57)【要約】
本開示は、脳虚血に関連する神経損傷の予防のための組成物、組成物の調製方法、及び該組成物の投与を含む方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳虚血に罹患しているか、罹患したことがあるか、又は罹患するリスクがある対象の脳に神経保護を提供する方法であって、ミトコンドリア複合体-1阻害剤、抗酸化剤、脂質二重層安定剤、ミトコンドリア膜透過性遷移孔阻害剤、ミトコンドリア膜保護剤、チアミン補充剤、及びNHE-1阻害剤からなる群から選択される少なくとも2つの治療剤の有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリド、又はそれらのいずれかの薬学的に許容される塩のうちの1つ以上の有効量が、単一製剤として前記対象に併用投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つの治療剤が、別個の組成物として前記対象に同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリドの各々の有効量が、2つ以上の組成物として同時に前記対象に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリドの各々の有効量を1つの組成物中に一緒に混合することによって調製される製剤を前記対象に投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリドの有効量が、単一製剤として前記対象に併用投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記治療剤が、前記製剤中に、メトホルミン:Nアセチルシステイン:ポロキサマー188:コエンザイムQ10(CoQ10):シクロスポリンA:エダラボン:エラミプレチド(SS-31):スルブチアミン:ビタミンC:ゾニポリドの質量比、約80~約120:約120~約180:約120~約180:約24~約36:約8~約12:約2.4~約3.6:約0.4~約0.6:約10~約15:約80~約120:約2.4~約3.6で存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記治療剤が、前記製剤中に、メトホルミン:Nアセチルシステイン:ポロキサマー188:コエンザイムQ10(CoQ10):シクロスポリンA:エダラボン:エラミプレチド(SS-31):スルブチアミン:ビタミンC:ゾニポリドの質量比、約100:約150:約150:約30:約10:約3:約0.5:約12.5:約100:約3で存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
各治療剤の前記有効量が、対象質量1kg当たりのミリグラムで、
メトホルミン:約80mg/kg~約120mg/kg;
N-アセチルシステイン:約120mg/kg~約180mg/kg;
ポロキサマー188:約120mg/kg~約180mg/kg;
CoQ10:約24mg/kg~約36mg/kg;
シクロスポリンA:約8mg/kg~約12mg/kg;
エダラボン:約2.4mg/kg~約3.6mg/kg;
SS-31:約0.4mg/kg~約0.6mg/kg;
スルブチアミン:約10mg/kg~約15mg/kg;
ビタミンC:約80mg/kg~約120mg/kg;及び
ゾニポリド:約2.4mg/kg~約3.6mg/kgである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
対象質量1kg当たりのミリグラムでの各治療剤の前記有効量が、
メトホルミン:約100mg/kg;
N-アセチルシステイン:約150mg/kg;
ポロキサマー188:約150mg/kg;
CoQ10:約30mg/kg;
シクロスポリンA:約10mg/kg;
エダラボン:約3mg/kg;
SS-31:約0.5mg/kg;
スルブチアミン:約12.5mg/kg;
ビタミンC:約100mg/kg;及び
ゾニポリド:約3mg/kgである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記製剤が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、エタノール、ポリエチレングリコール(PEG)、及びウシ血清アルブミン(BSA)に溶解したポリオキシエタニル-α-トコフェリルセバケート(PTS)の担体を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記脳虚血が、びまん性低酸素性脳症(DCH)、限局性脳虚血、脳梗塞、虚血再灌流、鎌状赤血球貧血症、アテローム性動脈硬化症、血管圧迫、心室頻脈、血餅、低血圧、心停止、先天性心疾患、心臓伝導障害、及び全脳虚血を含むか、又はそれらによって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記脳虚血が、心停止、ぜんそく、貧血症、溺水、窒息、脳卒中、一酸化炭素中毒、オピオイド過剰摂取、CNS抑制薬過剰摂取、てんかん重積状態、窒素性環境への曝露、潜水からの上昇、シャローウォーターブラックアウト、無圧客室中の高高度飛行、及び高所での身体運動によって引き起こされる低酸素性脳症を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記脳虚血が、心停止によって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記投与が、心停止の開始後、約30分未満、約25分未満、約20分未満、約15分未満、約10分未満、約5分未満、又は約2分未満に開始される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記投与が、心停止の開始の約12分後に開始される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記併用投与が、前記単一製剤の静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、直腸投与、膣投与、経鼻投与、及び経口投与のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記併用投与が、静脈内注射を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
脳虚血に罹患しているか、罹患したことがあるか、又は罹患するリスクがある対象の脳に神経保護を提供するための薬学的組成物であって、前記組成物は、ミトコンドリア複合体-1阻害剤、抗酸化剤、脂質二重層安定剤、ミトコンドリア膜透過性遷移孔阻害剤、ミトコンドリア膜保護剤、チアミン補充剤、及びNHE-1阻害剤からなる群から選択される少なくとも2つの治療剤の有効量を含む、薬学的組成物。
【請求項20】
前記治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリド、又はそれらのいずれかの薬学的に許容される塩のうちの1つ以上の有効量を含む、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリド、又はそれらのいずれかの薬学的に許容される塩の有効量を含む、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
単一の組成物中に以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリドの各々の有効量を混合することによって得られる、又は得ることができる、薬学的組成物。
【請求項23】
前記治療剤が、前記製剤中に、メトホルミン:Nアセチルシステイン:ポロキサマー188:コエンザイムQ10(CoQ10):シクロスポリンA:エダラボン:エラミプレチド(SS-31):スルブチアミン:ビタミンC:ゾニポリドの質量比、約80~約120:約120~約180:約120~約180:約24~約36:約8~約12:約2.4~約3.6:約0.4~約0.6:約10~約15:約80~約120:約2.4~約3.6で存在する、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記治療剤が、前記製剤中に、メトホルミン:Nアセチルシステイン:ポロキサマー188:コエンザイムQ10(CoQ10):シクロスポリンA:エダラボン:エラミプレチド(SS-31):スルブチアミン:ビタミンC:ゾニポリドの質量比、約100:約150:約150:約30:約10:約3:約0.5:約12.5:約100:約3で存在する、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
各治療剤の前記有効量が、対象質量1kg当たりの治療剤のmgで、
メトホルミン:約80mg/kg~約120mg/kg;
N-アセチルシステイン:約120mg/kg~約180mg/kg;
ポロキサマー188:約120mg/kg~約180mg/kg;
CoQ10:約24mg/kg~約36mg/kg;
シクロスポリンA:約8mg/kg~約12mg/kg;
エダラボン:約2.4mg/kg~約3.6mg/kg;
SS-31:約0.4mg/kg~約0.6mg/kg;
スルブチアミン:約10mg/kg~約15mg/kg;
ビタミンC:約80mg/kg~約120mg/kg;及び
ゾニポリド:約2.4mg/kg~約3.6mg/kgを含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
各治療剤の前記有効量が、対象質量1kg当たりの治療剤のmgで、
メトホルミン:約100mg/kg;
N-アセチルシステイン:約150mg/kg;
ポロキサマー188:約150mg/kg;
CoQ10:約30mg/kg;
シクロスポリンA:約10mg/kg;
エダラボン:約3mg/kg;
SS-31:約0.5mg/kg;
スルブチアミン:約12.5mg/kg;
ビタミンC:約100mg/kg;及び
ゾニポリド:約3mg/kgである、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
各治療剤:
メトホルミン:約5.6g~約8.4g;
N-アセチルシステイン:約8.4g~約12.6g;
ポロキサマー188:約8.4g~約12.6g;
CoQ10:約1.68g~約2.52g;
シクロスポリンA:約560mg~約840mg;
エダラボン:約168mg~約252mg;
SS-31:約28mg~約42mg;
スルブチアミン:約700mg~約1050mg;
ビタミンC:約5.6g~約8.4g;及び
ゾニポリド:約168mg~約252mgを含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項28】
各治療剤:
メトホルミン:約7g;
N-アセチルシステイン:約10.5g;
ポロキサマー188:約10.5g;
CoQ10:約2.1g;
シクロスポリンA:約700mg;
エダラボン:約210mg;
SS-31:約35mg;
スルブチアミン:約875mg;
ビタミンC:約7g;及び
ゾニポリド:約210mgを含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項29】
単一製剤が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、エタノール、ポリエチレングリコール(PEG)、及びBSAに溶解したポリオキシエタニル-α-トコフェリルセバケート(PTS)の担体を更に含む、請求項19に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月17日に出願された米国仮特許出願第63/114,786号に対する優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、脳虚血に関連する神経損傷の予防のための組成物、組成物の調製方法、及び該組成物の投与を含む方法に関する。
【背景技術】
【0003】
心停止は、西洋諸国における全死亡の約15%を占める(25)。米国では、成人の間で年間326,000症例の院外心停止及び209,000症例の院内心停止が発生している(26)、(27)。米国では、妊娠中、1万2000人の分娩に約1人、又は10,000人の生児出生当たり1.8人で心停止が発生している。
【0004】
心停止は、深刻な事象である。蘇生の方法の改善にもかかわらず、院外心停止(out-of-hospital cardiac arrest、OHCA)を患う人々の死亡率は、90%超であり、多くの生存者が重度の神経障害を残している。一次傷害は、停止時に起こり、不可逆的であり、二次傷害は、自己心拍再開(return of spontaneous circulation、ROSC)及びその後の脳再灌流に続いて発生し、可逆的である可能性がある。脳は、低酸素症に非常に敏感に反応する。循環停止の20秒以内に、ニューロンの酸素貯蔵が使い果たされ、意識消失をもたらす。5分後、グルコース及びアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate、ATP)貯蔵が枯渇する。これは、カルシウム恒常性の破壊、フリーラジカル形成、並びに有害なプロテアーゼカスケード及び細胞死シグナル伝達機構の活性化をもたらす。これが大脳の一次傷害を引き起こす(28)。傷害は、心停止後の脳再灌流からも生じ得る。
【0005】
心停止及び脳への血流を減少させる他の状態によって引き起こされる脳虚血及び低酸素性脳症の深刻な影響に対する神経保護を提供する治療が必要とされている。本開示は、この必要性を満たすものである。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、脳虚血に罹患しているか、罹患したことがあるか、又は罹患するリスクがある対象の脳に神経保護を提供する方法であって、ミトコンドリア複合体-1阻害剤、抗酸化剤、脂質二重層安定剤、ミトコンドリア膜透過性遷移孔阻害剤、ミトコンドリア膜保護剤、チアミン補充剤、及びNHE-1阻害剤からなる群から選択される少なくとも2つの治療剤の有効量を対象に併用投与することを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン若しくはその誘導体、及びゾニポリド、又はそれらのいずれかの薬学的に許容される塩のうちの1つ以上の有効量が、対象に併用投与される。
【0008】
いくつかの実施形態では、脳虚血は、びまん性低酸素性脳症(diffuse cerebral hypoxia、DCH)、限局性脳虚血、脳梗塞、虚血再灌流、鎌状赤血球貧血症、アテローム性動脈硬化症、血管圧迫、心室頻脈、血餅、低血圧、心停止、先天性心疾患、心臓伝導障害、及び全脳虚血を含むか、又はそれらによって引き起こされる。いくつかの実施形態では、脳虚血は、心停止、ぜんそく、貧血症、溺水、窒息、脳卒中、一酸化炭素中毒、オピオイド過剰摂取、CNS抑制薬過剰摂取、てんかん重積状態、窒素性環境への曝露、潜水からの上昇、シャローウォーターブラックアウト、無圧客室中の高高度飛行、及び高所での身体運動によって引き起こされる低酸素性脳症を含む。
【0009】
別の態様では、脳虚血に罹患しているか、罹患したことがあるか、又は罹患するリスクがある対象の脳に神経保護を提供するための薬学的組成物であって、本明細書に開示される少なくとも2つの治療剤の有効量を含む組成物が提供される。
【0010】
別の態様では、脳虚血に罹患しているか、罹患したことがあるか、又は罹患するリスクがある対象の脳に神経保護を提供するための薬学的組成物を調製する方法であって、
a)CoQ10及びシクロスポリンAを含む第1の混合物と、
b)メトホルミン、N-アセチルシステイン、ポラキサマー-188、エダラボン、SS-31、ビタミンC、及びゾニポリドを含む第2の混合物と、
を混合して第3の混合物を形成することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、本方法は、第3の混合物と、スルブチアミン又はその誘導体を含む第4の混合物とを混合することを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】心停止(cardiac arrest、CA)がラットにおいて開始され、続いて本発明による製剤が投与された、実施例1の実験の実験時間の詳細を表す図を示す。
【0012】
【0013】
【
図3】12分間の心停止及び自己心拍再開後のカクテル注射ラット群とビヒクル注射ラット群との間の72時間生存期間のカプラン-マイヤー分析。有意差:
**P<0.006対ビヒクル注射群。
【0014】
【
図4A】12分間の心停止及び蘇生後のビヒクル注射群とカクテル注射群との間の24時間後(
図4A)、48時間後(
図4B)及び72時間後(
図4C)の神経学的欠損スコア(Neurological deficit score、NDS)。死亡したラット(スコア=0によって示される)は、統計分析から除外された。統計的有意性、群間で
*P<0.05、
**P<0.005。
【
図4B】12分間の心停止及び蘇生後のビヒクル注射群とカクテル注射群との間の24時間後(
図4A)、48時間後(
図4B)及び72時間後(
図4C)の神経学的欠損スコア(Neurological deficit score、NDS)。死亡したラット(スコア=0によって示される)は、統計分析から除外された。統計的有意性、群間で
*P<0.05、
**P<0.005。
【
図4C】12分間の心停止及び蘇生後のビヒクル注射群とカクテル注射群との間の24時間後(
図4A)、48時間後(
図4B)及び72時間後(
図4C)の神経学的欠損スコア(Neurological deficit score、NDS)。死亡したラット(スコア=0によって示される)は、統計分析から除外された。統計的有意性、群間で
*P<0.05、
**P<0.005。
【0015】
【
図5A】ベースライン及び自己心拍再開(ROSC)後の心停止(CA)後ケア中の食道温度、平均動脈圧、及び心拍数の変化を示す。(
図5A)食道温度(℃)(
図5B)平均動脈圧(mean arterial pressure、MAP)(
図5C)心拍数(heart rate、HR)。
*-p<0.05対ビヒクル、
**-p<0.005対ビヒクル、#-p<0.05対それぞれのベースライン、###p<0.0005対それぞれのベースライン、###-p<0.0001対それぞれのベースライン、バーは、平均値及びSEMを表す。Teso、食道温度、BLは、ベースラインを示す、CPR、心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation)。
*=p<0.05、
**=p<0.005。
【
図5B】ベースライン及び自己心拍再開(ROSC)後の心停止(CA)後ケア中の食道温度、平均動脈圧、及び心拍数の変化を示す。(
図5A)食道温度(℃)(
図5B)平均動脈圧(mean arterial pressure、MAP)(
図5C)心拍数(heart rate、HR)。
*-p<0.05対ビヒクル、
**-p<0.005対ビヒクル、#-p<0.05対それぞれのベースライン、###p<0.0005対それぞれのベースライン、###-p<0.0001対それぞれのベースライン、バーは、平均値及びSEMを表す。Teso、食道温度、BLは、ベースラインを示す、CPR、心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation)。
*=p<0.05、
**=p<0.005。
【
図5C】ベースライン及び自己心拍再開(ROSC)後の心停止(CA)後ケア中の食道温度、平均動脈圧、及び心拍数の変化を示す。(
図5A)食道温度(℃)(
図5B)平均動脈圧(mean arterial pressure、MAP)(
図5C)心拍数(heart rate、HR)。
*-p<0.05対ビヒクル、
**-p<0.005対ビヒクル、#-p<0.05対それぞれのベースライン、###p<0.0005対それぞれのベースライン、###-p<0.0001対それぞれのベースライン、バーは、平均値及びSEMを表す。Teso、食道温度、BLは、ベースラインを示す、CPR、心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation)。
*=p<0.05、
**=p<0.005。
【0016】
【
図6】10種類の薬物のカクテルのエレクトロスプレーイオン化/質量分析(Electrospray ionization/mass spectrometry、ESI/MS)分析。カクテルの酢酸エチル抽出後のポジティブイオンモード(上)及びネガティブイオンモード(下)。分析は、主要な成分(メトホルミン、エダラボン、ゾニポリド、シクロスポリンA、N-アセチルシステイン、及びビタミンC、並びに微量のポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG))についてのm/z(質量/電荷)値を示す。残りの薬物は検出されず、より複雑な抽出及び分析方法を必要とする。
【0017】
【
図7】盲検実験の手順及びタイムラインの概略図。上は、最大72時間生存のラットCA実験のタイムラインを示し、下は、盲検様式で生存試験を行うための方法を示す。CPR、心肺蘇生、ROSC、自己心拍再開。
【0018】
【
図8A】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の生存及び神経機能を改善する。生存は、自己心拍再開(ROSC、P=0.006)の72時間後で、ビヒクル処置ラット(28.6%)とカクテル処置ラット(78.6%)との間で実質的に異なっていた。
【
図8B】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の生存及び神経機能を改善する。ビヒクル処置ラット及びカクテル処置ラットにおける24時間、48時間、及び72時間での修正神経学的欠損スコア(Modified neurological deficit score、mNDS、スケール1)。生存しなかったラット(スコア=0)は、統計分析から除外された。
【
図8C】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の生存及び神経機能を改善する。ビヒクル処置ラット及びカクテル処置ラットにおけるROSCの24時間後、48時間後、及び72時間後での神経学的欠損スコア(NDS、スケール2)。スコアは、ROSCの24時間後及び72時間後では有意差はあったが、48時間後では有意差はなかった(ただし、増加傾向を示した)。データは、平均値±SEMとして提示される。
*P<0.05、
**P<0.005。
【0019】
【
図9A】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の脳組織構造を改善する。カクテル処置ラットの海馬におけるアポトーシス細胞の減少を示す代表的な(
図9A)Nissl染色及び(
図9B)TUNEL染色。青色の枠は左大脳半球における海馬のCA1領域を示し、赤色の枠はCA3領域を示す。赤色の矢印は虚血ニューロンを示し、オレンジ色の矢印はアポトーシス細胞を示す。海馬のCA1及びCA3領域における虚血ニューロン及びアポトーシス細胞の平均数は、シャムラットよりもビヒクル処置ラットにおいて有意に多く、ビヒクル処置ラットに対してカクテル処置ラットにおいて有意に減少していた。データは、平均値±SEMとして提示される。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001。
【
図9B】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の脳組織構造を改善する。カクテル処置ラットの海馬におけるアポトーシス細胞の減少を示す代表的な(
図9A)Nissl染色及び(
図9B)TUNEL染色。青色の枠は左大脳半球における海馬のCA1領域を示し、赤色の枠はCA3領域を示す。赤色の矢印は虚血ニューロンを示し、オレンジ色の矢印はアポトーシス細胞を示す。海馬のCA1及びCA3領域における虚血ニューロン及びアポトーシス細胞の平均数は、シャムラットよりもビヒクル処置ラットにおいて有意に多く、ビヒクル処置ラットに対してカクテル処置ラットにおいて有意に減少していた。データは、平均値±SEMとして提示される。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001。
【0020】
【
図10A】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の乳酸、グルコース、及び血行動態を改善する。乳酸濃度は、ビヒクル処置ラット及びカクテル処置ラットの両方において、自己心拍再開(ROSC)の20分後及び40分後で、ベースライン(BL)に対して有意に高かった。乳酸濃度は、ROSC後20分及び40分では、ビヒクル処置ラットに対してカクテル処置ラットにおいてより高かった。
【
図10B】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の乳酸、グルコース、及び血行動態を改善する。グルコース濃度は、カクテル処置ラットにおいてビヒクル処置ラットよりも高く、ROSC後20分で最も有意な差があった(P<0.05)。グルコース濃度は、実験時間の経過にわたって両群とも減少傾向を示した。
【
図10C】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の乳酸、グルコース、及び血行動態を改善する。平均動脈圧(MAP)は、ROSC後30分においてのみ、カクテル処置ラットに対してビヒクル処置ラットにおいて有意に高かった。
【
図10D】カクテルは、窒息性心停止及び蘇生後の乳酸、グルコース、及び血行動態を改善する。心拍数(HR)(拍/分(bpm))は、ROSC後60分においてのみ、カクテル処置ラットに対してビヒクル処置ラットにおいて有意に高かった(D)。データは、平均値±SEMとして提示され、群内の有意な比較は挿入図に示される。ビヒクルとカクテルとの間で
*P<0.05、
**P<0.01。
【0021】
【
図11A】心停止後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットにおける生存及び神経学的欠損の予備試験。予備試験における12分間の心停止(CA)及び蘇生後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットの生存分析。生存は、ROSC後72時間でカクテル処置ラットにおいて実質的により大きかった。
【
図11B】心停止後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットにおける生存及び神経学的欠損の予備試験。予備試験における12分間のCA及び蘇生後のビヒクル処置ラット及びカクテル処置ラットの(
図11B)24時間及び(
図11C)48時間での修正神経学的欠損スコア(mNDS)。生存しなかったラット(スコア=0)は、統計分析から除外された。カクテル処置ラットにおけるスコアは、自己心拍再開(ROSC)後の24時間でビヒクル処置ラットよりも有意に高かった。ビヒクル処置ラットでは、1匹のみが、ROSCの48時間後に生存していた。データは、平均値±SEMとして提示される。ビヒクルとカクテルとの間で
*P<0.05。
【
図11C】心停止後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットにおける生存及び神経学的欠損の予備試験。予備試験における12分間のCA及び蘇生後のビヒクル処置ラット及びカクテル処置ラットの(
図11B)24時間及び(
図11C)48時間での修正神経学的欠損スコア(mNDS)。生存しなかったラット(スコア=0)は、統計分析から除外された。カクテル処置ラットにおけるスコアは、自己心拍再開(ROSC)後の24時間でビヒクル処置ラットよりも有意に高かった。ビヒクル処置ラットでは、1匹のみが、ROSCの48時間後に生存していた。データは、平均値±SEMとして提示される。ビヒクルとカクテルとの間で
*P<0.05。
【0022】
【
図12A】心停止後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットにおける食道温度及び血行動態変化の予備試験。A~C、予備試験におけるベースライン(BL)及び自己心拍再開(ROSC)後での(
図12A)食道温度、(
図12B)平均動脈圧(MAP)、及び(
図12C)心拍数(HR)の変化。ビヒクル処置ラットとカクテル処置ラットとの間に大きな差は生じなかった。データは、平均値±SEMとして提示され、群内の有意性比較は挿入図に示される。Bpmは、拍/分を表す。
【
図12B】心停止後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットにおける食道温度及び血行動態変化の予備試験。A~C、予備試験におけるベースライン(BL)及び自己心拍再開(ROSC)後での(
図12A)食道温度、(
図12B)平均動脈圧(MAP)、及び(
図12C)心拍数(HR)の変化。ビヒクル処置ラットとカクテル処置ラットとの間に大きな差は生じなかった。データは、平均値±SEMとして提示され、群内の有意性比較は挿入図に示される。Bpmは、拍/分を表す。
【
図12C】心停止後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットにおける食道温度及び血行動態変化の予備試験。A~C、予備試験におけるベースライン(BL)及び自己心拍再開(ROSC)後での(
図12A)食道温度、(
図12B)平均動脈圧(MAP)、及び(
図12C)心拍数(HR)の変化。ビヒクル処置ラットとカクテル処置ラットとの間に大きな差は生じなかった。データは、平均値±SEMとして提示され、群内の有意性比較は挿入図に示される。Bpmは、拍/分を表す。
【0023】
【
図13A】心停止後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットにおける乳酸及びグルコース濃度の予備試験。A及びB、ベースライン(BL)及び自己心拍再開(ROSC)後の(
図13A)血中乳酸及び(
図13B)グルコース濃度の変化。ビヒクル処置ラットとカクテル処置ラットとの間に大きな差は生じなかった。データは、平均値±SEMとして提示され、群内の有意性比較は挿入図に示される。
【
図13B】心停止後のカクテル処置ラット及びビヒクル処置ラットにおける乳酸及びグルコース濃度の予備試験。A及びB、ベースライン(BL)及び自己心拍再開(ROSC)後の(
図13A)血中乳酸及び(
図13B)グルコース濃度の変化。ビヒクル処置ラットとカクテル処置ラットとの間に大きな差は生じなかった。データは、平均値±SEMとして提示され、群内の有意性比較は挿入図に示される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示の実施は、別段の指示がない限り、当該技術分野の範囲内である化学、生化学、及び薬理学の従来の方法を使用する。このような技術は、文献に十分に説明されている。例えば、A.L.Lehninger,Biochemistry(Worth Publishers,Inc.,current addition);Morrison and Boyd,Organic Chemistry(Allyn and Bacon,Inc.,current addition);J.March,Advanced Organic Chemistry(McGraw Hill,current addition);Remington:The Science and Practice of Pharmacy,A.Gennaro,Ed.,20th Ed.;FDA’s Orange Book,Goodman & Gilman The Pharmacological Basis of Therapeutics,J.Griffith Hardman,L.L.Limbird,A.Gilman,11th Ed.,2005,The Merck Manual,18th edition,2007,and The Merck Manual of Medical Information 2003を参照されたい。
【0025】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の言及を含む。本明細書全体を通して、別段の指示がない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」は、排他的ではなく包括的に使用される。「又は」という用語は、例えば、「いずれか」によって修飾されない限り、包括的である。したがって、文脈又は明示的な記述が別段の指示をしない限り、「又は」という語は、特定のリストの任意の1つのメンバーを意味し、そのリストのメンバーの任意の組み合わせも含む。実施例以外、又は別段の指示がある場合を除き、本明細書で使用される成分の量又は反応条件を表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。
【0026】
本明細書で使用される場合、「含んでいる(comprising)」又は「含む(comprises)」という用語は、組成物及び方法が列挙された要素を含むが、他のものを排除しないことを意味することが意図される。「から本質的になる」は、組成物及び方法を定義するために使用される場合、記載された目的のための組み合わせに対する任意の本質的に重要な他の要素を除外することを意味するものとする。したがって、本明細書で定義される要素から本質的になる組成物は、特許請求された発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない他の材料又は工程を除外しない。「からなる」は、微量を超える他の成分及び他の実質的な方法工程を除外することを意味するものとする。これらの移行語の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。実施形態がこれらの用語のうちの1つ(例えば、「含んでいる(comprising)」)によって定義される場合、本開示は、該実施形態についての「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」などの代替実施形態も含むことを理解されたい。
【0027】
「実質的に」又は「本質的に」は、ほぼ全て又はほぼ完全にを意味し、例えば、ある所与の量の95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上を意味する。
【0028】
「薬学的に許容される賦形剤又は担体」は、任意選択的に本開示の組成物中に含まれてもよく、患者に対して著しい有害な毒性学的影響を引き起こさない賦形剤を指す。
【0029】
「薬学的に許容される塩」とは、化合物の塩を指し、塩は、薬学的使用に好適であり、当該技術分野で周知の種々の有機対イオン及び無機対イオンから誘導される。薬学的に許容される塩としては、化合物が酸性官能基を含有する場合、ほんの一例として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、及びテトラアルキルアンモニウムが挙げられる。分子が塩基性官能基を含有する場合、塩酸塩、臭化水素酸塩、酒石酸塩、メシル酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、及びシュウ酸塩などの有機酸又は無機酸の塩である。Stahl and Wermuth,eds.,「Handbook of Pharmaceutically Acceptable Salts,」(2002),Verlag Helvetica Chimica Acta,Zurich,Switzerland)は、薬学的に許容される塩に関するその教示について参照により本明細書に組み込まれるが、様々な薬学的塩、それらの選択、調製、及び使用について論じている。薬学的に許容される塩としてはまた、親化合物中に存在する酸性プロトンが、金属イオン(例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、又はアルミニウムイオン)又はアンモニウムイオン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペリジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、及びアンモニアなどの有機塩基から誘導されるアンモニウムイオン)のいずれかによって置換される場合に形成される塩が挙げられる。
【0030】
「対象」、「個体」又は「患者」という用語は、本明細書において互換的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物を指す。哺乳動物としては、マウス、げっ歯類、ラット、サル、ヒト、家畜、イヌ、ネコ、スポーツ動物、及びペットが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で提供される組成物又は薬剤の「薬理学的有効量」又は「治療有効量」又は「有効量」という用語は、非毒性であるが、進行性神経変性疾患の減少又は逆転などの所望の応答を提供するのに十分な組成物又は薬剤の量を指す。必要とされる正確な量は、対象の種、年齢、及び全身状態、治療される状態の重症度、使用される特定の薬物(単数又は複数)、投与様式等に応じて、対象ごとに異なる。任意の個々の場合における適切な「有効」量は、本明細書に提供される情報に基づいて、日常的な実験を使用して当業者によって決定され得る。
【0032】
「約」という用語は、当業者によって理解され、それが使用される文脈に応じてある程度異なる。それが使用される文脈を考慮して、当業者に明確でない用語の使用がある場合、「約」は、その特定の用語の最大プラス又はマイナス10%を意味する。例えば、いくつかの実施形態では、それは特定の用語のプラス又はマイナス5%を意味する。特定の範囲は、「約」という用語が先行する数値で本明細書に提示される。本明細書では、「約」という用語は、それが先行する正確な数、並びにその用語が先行する数に近いか、又は近似する数に対する文字通りの支持を提供するために使用される。ある数が具体的に列挙された数に近いか又は近似するかどうかを決定する際に、その近いか又は近似する列挙されていない数は、それが提示される文脈において、具体的に列挙された数の実質的な均等物を提供する数であり得る。
【0033】
値の範囲が提供される場合、文脈が明確に別段の指示をしない限り、その範囲の上限と下限との間の下限の単位の10分の1までの各介在値、及び記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在値が、本発明内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、そのより小さい範囲に独立して含まれてよく、やはり本発明内に包含されるが、記載された範囲内で任意に具体的に限界が除外されることがある。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれか又は両方を除外する範囲も本開示に含まれる。
【0034】
見出しは便宜上提供されるに過ぎず、本発明を限定するものと決して解釈されるべきではない。別段に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することは意図されていない。また、常に明示的に述べられているわけではないが、本明細書に記載されている試薬は単に例示的なものであり、そのようなものの均等物は当該技術分野において公知であり、詳細な記載全体を通して記載されていることも理解されたい。
【0035】
本明細書で使用される場合、「治療」又は「治療すること」という用語は、患者における疾患若しくは状態又は関連する障害の任意の治療を意味し、
・疾患若しくは状態を阻害若しくは予防すること、すなわち、脳虚血に起因する神経学的欠損などの臨床症状の発症を阻止若しくは抑制すること(神経保護の提供も「治療」に含まれる)、及び/又は
・疾患若しくは状態を緩和すること、すなわち、臨床症状の退行を引き起こすこと、例えば、神経学的能力を増加させるか、若しくは神経学的欠陥を減少させること、を含む。
いくつかの実施形態では、「治療」は、対象に「神経保護を提供すること」を包含する。「治療」及び「神経保護を提供すること」は、本明細書に開示される治療剤又は組成物の投与を含み得る。
【0036】
「神経保護」は、ニューロン構造及び/又は機能の相対的な保存を指す。進行中の損傷(低酸素性脳症などの神経変性損傷)の場合、ニューロンの健全性が相対的に保たれることは、経時的なニューロン損失速度の低下を意味する。
【0037】
「低酸素性脳症」は、低酸素症(酸素の供給の減少)の形態であり、特に脳に関与する。脳が完全に酸素を奪われる場合、脳無酸素症と呼ばれる。
【0038】
本明細書で使用される「脳虚血」は、健康な対象と比較して、脳への血流の減少又は不足を指す。
【0039】
「心停止」は、心臓が効果的に送り出すことができないことに起因する血流の突然の低下を指す。徴候としては、意識の喪失及び呼吸の異常又は消失が挙げられる。一部の個人は、心停止前の胸痛、息切れ、又は悪心を経験し得る。
【0040】
「組成物」及び「製剤」は、本明細書で互換的に使用される。これらの用語は、1つ以上の治療剤と、担体、賦形剤、又は他の不活性成分との混合物を指す。
【0041】
本明細書で使用される「ミトコンドリア複合体1」は、呼吸複合体I、NADH:ユビキノンオキシドレダクターゼ(ubiquinone oxidoreductase)、又はI型NADHデヒドロゲナーゼを指す。それは、細菌からヒトまでの多くの生物の呼吸鎖の最初の大きなタンパク質複合体である。それは、NADHから補酵素Q10(CoQ10)への電子の移動を触媒し、真核生物においてミトコンドリア内膜を横切ってプロトンを移動させる。
【0042】
本明細書で使用される「抗酸化剤」は、酸化を阻害する化合物を指す。酸化は、フリーラジカルを生成し得る化学反応であり、それによって、生物の細胞に損傷を与え得る連鎖反応をもたらす。
【0043】
本明細書で使用される「脂質二重層安定剤」は、生物有機体の脂質二重層を安定化させる任意の薬剤を含む。脂質二重層安定剤は、血液脳関門損傷を減少させ、脳浮腫を低減させ、細胞死を減少させる働きをする。
【0044】
本明細書で使用される「ミトコンドリア膜透過性遷移孔」又は「MTP」は、外傷性脳損傷及び脳卒中などの特定の病的状態下でミトコンドリアの内膜に形成されるタンパク質を指す。開口は、分子量が1500ダルトン未満の分子に対するミトコンドリア膜の透過性の増加を可能にする。膜透過性遷移孔、ミトコンドリア膜透過性遷移(mPT又はMPT)の誘導は、ミトコンドリア膨潤及びアポトーシス又は壊死を介する細胞死をもたらし得る。MTPの阻害剤は、ミトコンドリアからのシトクロムC放出を促進するミトコンドリア膜電位を増強し、スーパーオキシドジスムターゼ活性を増加させて神経保護を提供する。
【0045】
本明細書で使用される「ミトコンドリア膜保護剤」は、カルジオリピンと相互作用し、ミトコンドリア膜を保護し、ミトコンドリア損傷から保護する任意の薬剤を指す。
【0046】
本明細書で使用される「チアミン補充剤」は、チアミンを放出するか、チアミンに代謝するか、又はチアミンの関連する薬理活性を有する任意の薬剤を指す。
【0047】
本明細書で使用される「NHE-1」は、ナトリウム/水素交換体1又はSLC9A1(SoLuTe Carrierファミリー9A1)としても知られるナトリウム-水素アンチポーター1(sodium-hydrogen antiporter 1)(NHE-1)を指す。NHE-1は、ヒトにおいてSLC9A1遺伝子によってコードされるナトリウム水素アンチポーターのアイソフォームである。これは、脊椎細胞の体積及びpH調節に関与するユビキタスな膜結合酵素である。
【0048】
本明細書で使用される「メトホルミン」は、化合物:
【化1】
及びその薬学的に許容される塩又は溶媒和物を指す。この化合物は、Glucophage(登録商標)としても市販されている。
【0049】
「N-アセチルシステイン」(NAC)は、化合物:
【化2】
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を指す。
【0050】
本明細書で使用される「ビタミンC」は、化合物アスコルビン酸又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を指す。
【0051】
本明細書で使用される「エダラボン」は、以下の構造の化合物:
【化3】
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を指す。エダラボンは、Radicut(登録商標)、Radicava(登録商標)、Xavron(登録商標)、又はEdavit(登録商標)として市販されている。
【0052】
本明細書で使用される「ポラキサマー188」は、以下の構造のブロックコポリマー:
【化4】
(式中、xは2~130であってよく、yは15~67であってよく、zは2~130であってよく、総平均分子量は約8,400Daである)を指す。
【0053】
エラミプレチドとしても知られる「SS-31」は、以下の構造の化合物:
【化5】
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を指す。
【0054】
ユビキノン-10としても知られる「補酵素Q10」又は「CoQ10」は、動物及びほとんどの細菌に遍在するCoQファミリーの補酵素メンバーである。ヒトにおいて、CoQの最も一般的な形態は、以下の構造:
【化6】
を有するコエンザイムQ10である。
【0055】
「シクロスポリンA」は、以下の式の免疫抑制化合物:
【化7】
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を指す。
【0056】
「スルブチアミン」(Arcalion(登録商標))は、以下の構造のチアミン(ビタミンB1)の合成誘導体:
【化8】
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を指す。スルブチアミンの誘導体も使用することができる。例えば、以下の化合物がスルブタミンから合成され、本発明の組成物における使用に好適である。
【化9】
【0057】
本明細書で使用される「ゾニポリド」は、化合物:
【化10】
又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を指す。
【0058】
神経保護を提供する方法
一態様では、脳虚血に罹患しているか、罹患したことがあるか、又は罹患するリスクがある対象の脳に神経保護を提供する方法が提供され、該方法は、ミトコンドリア複合体-1阻害剤、抗酸化剤、脂質二重層安定剤、ミトコンドリア膜透過性遷移孔阻害剤、ミトコンドリア膜保護剤、チアミン補充剤、及びNHE-1阻害剤からなる群から選択される少なくとも2つの治療剤の有効量を対象に併用投与することを含む。
【0059】
一実施形態では、神経保護は、ニューロンの構造及び/又は機能を保存することを含む。ニューロン構造の保存は、磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging、MRI)、機能的MRI(fMRI)、ポジトロン放出断層撮影(Positron Emission Tomography、PET)、及び脳波検査(Electroencephalography、EEG)などの画像技術などのツールを用いて評価することができる。ニューロン機能の保存は、当該技術分野で公知の任意の臨床的に関連する試験、例えば、開耳及び開眼、表面立ち直り、空中立ち直り、前肢握り、聴覚驚愕、平面立ち直り、負の走地性、オープンフィールド横断、断崖回避、バーンズ迷路、高架式十字迷路、Jamarダイナモメータ、手持ち式ダイナモメータ、徒手筋力試験(manual muscle testing、MMT)、等速性ダイナモメータ、体幹安定試験(trunk stability test、TST)、片側股関節耐久試験(unilateral hip bridge endurance test、UHBE)、回内筋徴候、バレー徴候、ロンベルグ試験、ランドウ反射、微粒子懸濁、感覚反射(ピン感覚(pinprick)、軽い触覚(light touch)、位置、振動、及びチャージャー(charger))、反射(二頭筋、三頭筋、上腕橈骨、膝蓋、及び足関節)、モロー反射、緊張性首反応、吸引反射、手掌及び足底把握反射、パラシュート反応、頸の立ち直り反応(neck on body righting reaction、NOB)、体に働く体の立ち直り反応(body on body righting reaction、BOB)、開耳音響反射、静的コンプライアンス、外耳道の物理的容積、対側下肢反射、同側性反射、ティンパノメトリー、Y迷路、ノベルオブジェクト探索試験、STPI(State-Trait Personality Inventory、状態-特性人格尺度)、五次元好奇心尺度、自己好奇心態度関心尺度、好奇心探究心尺度II、状態-特性人格尺度(STPI)、刺激希求尺度(Sensation Seeking Scale、SSS)の下位尺度、ベイリー乳幼児発達検査(Bayley Scales of Infant Development、BSID-III)(1~42ヵ月)、ミューレン早期学習尺度(1~68ヵ月)、乳幼児知能のFagan試験(Fagan Test of Infant Intelligence、FTII)(出生12ヵ月)、Griffithの精神発達尺度I(0~2年)、Battelle発達尺度(Battelle Developmental Inventory、BDI)(出生~8歳)、及びVineland適応行動尺度(0~18歳)、又はADASCog、ミニ精神状態検査(Mini-Mental State Exam、MMSE)、ミニコグ試験、認識能力のWoodcock-Johnson試験、Leiter国際動作性尺度、ミラー類推試験、レーヴン漸進的マトリックス、Wonderlic Personnel試験、IQ試験、及びCantab Mobile、Cognigram、Cognivue、Cognision、若しくはAutomated Neuropsychological Assessment Metrics Cognitive Performance Test(CPT)から選択されるコンピュータ化試験を含む認知試験を用いて評価することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、方法又は組成物によって提供される神経保護の程度は、ニューロン構造及び/又は機能を評価するための上記の任意のツールを用いて対象を評価し、対象の結果を、脳虚血を経験していない同じ年齢、性別及び種の対照対象と比較することによって決定され得る。いくつかの実施形態では、脳虚血及び併用投与の後、対象は、ニューロン構造及び/又は機能の評価のために上に列挙した前述のツール又は試験のいずれかに対する対照対象のスコアの約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は約100%のスコアを取る。
【0061】
いくつかの実施形態では、脳虚血は、脳への血流の減少を含む。いくつかの実施形態では、脳虚血は、虚血性低酸素性脳症(血流途絶による酸欠)を含む。脳への血流の減少及び/又は低酸素性脳症は、心停止、ぜんそく、貧血症、溺水、窒息、脳卒中、一酸化炭素中毒、オピオイド過剰摂取、CNS抑制薬過剰摂取、てんかん重積状態、窒素性環境への曝露、血餅、アテローム性動脈硬化症、潜水からの上昇、シャローウォーターブラックアウト、無圧客室中の高高度飛行、及び高所での身体運動のうちの1つ以上によって引き起こされ得る。
【0062】
低酸素性脳症又は脳虚血は、動脈血液ガス又はABG試験、脳のMRI検査、脳のコンピュータ断層撮影(CTスキャン)、心エコー検査、心電図検査、脳電図、脳血管撮影、頸動脈デュプレックス、ドップラ超音波検査、磁気共鳴血管造影、皮膚色の検査(薄い皮膚)、唇色の検査(青い唇は低酸素症を示す)、対象における意識消失、対象における正常な呼吸速度(12~20呼吸/分)からの低下によって対象に存在すると決定され得る。
【0063】
いくつかの実施形態では、併用投与は、眩暈、悪心又は嘔吐、異常に重度の頭痛、混乱、見当識障害又は記憶喪失、四肢又は顔の麻痺又は衰弱、異常な又は不明瞭な発語、理解困難、視力喪失又は見づらさ、バランス、協調又は歩行能力の喪失、蒼白な皮膚、青い唇、意識消失、ピンポイント瞳孔、散大瞳孔、努力性呼吸、頻脈、徐脈、脈拍の停止、呼吸の停止、安静時心拍数に対する脈拍の低下、及び安静時呼吸数に対する呼吸数の低下からなる群から選択される1つ以上の症状を示すか又は示したことのある対象に対するものである。
【0064】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つの治療剤の併用投与は、連続投与を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも2つの治療剤の併用投与は、同時投与を含む。3つ以上の治療剤の併用投与を含む実施形態では、任意の2つ以上の治療剤が同時に投与され得る一方で、残りの治療剤は、同時に投与される薬剤に対して連続的に投与される。同時投与される薬剤に対して連続的に投与される残りの治療薬のいずれも、それら自体が互いに対して連続的に又は同時に投与され得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、併用投与される治療剤のうちの1つ以上の投与は、静脈内、筋肉内、心臓内、皮下、経口、舌下、頬側、鼻腔内、直腸、膣、及び経皮投与を含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、併用投与される1つ以上の薬剤の投与は、対象に埋め込まれたポンプを介して行われる。埋め込まれたポンプは、心停止中又は心停止後に治療剤を投与するために、対象のペースメーカーと共に構成されてもよい。
【0067】
いくつかの実施形態では、併用投与は、対象への2つの治療剤の投与を含む。いくつかの実施形態では、併用投与は、対象への3つの治療剤の投与を含む。いくつかの実施形態では、併用投与は、対象への4つの治療剤の投与を含む。いくつかの実施形態では、併用投与は、対象への5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25個の治療剤の投与を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも2つの治療剤は、対象に同時に投与され得る。
【0068】
いくつかの実施形態では、ミトコンドリア複合体1阻害剤は、ロテノン、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン、ガレジン、synthalin A、ピエリシジン、カプサイチン、ロリニアスタチン、スチグマテリン、ムシジン、補酵素Q2、JCI-20679、セラストロール、AG311、カルキトキシン、BAY87-2243、キサントフモール、ベルコシジン、カナグリフロジン、フェノフィブラート、デグエリン、RTC1、RTB70、シクログアニル、プログアニル、アミロライド類(EIPA、MIA、及びベンザミル)、殺ダニ剤(フェナザキン、フェンピロキシメート、ピリダベン、及びテブフェンピラド)、ナフュレジン、A-769662、サリチル酸ブラタシン、ピエリシジン、アセトゲニン、アデノシン二リン酸リボース、類似体13、ウビシジン3(ubicidin3)、ヒドロキシピリジン類似体3、オチバリン、フェノキサン、チアガゾール、ミキサラミドPI、フェナラミドA2、オーラチンA、ミキソチアゾール、TDS、アウレオチン、コクリオキノンB、プテルロン、類似体37、レイン、パパベリン、ユビキノン2、ユビキノン3、イデベノン、Sandoz 547A、ピリダベン、フェンピロキシメート、テブフェンピラド、フェナザキン、ベンズイミダゾール、シハロトリン、6-クロロ-ベンゾチアジアゾール、2M-TIO、アミタール、メプデリン(Demerol(登録商標))、メペリジン類似体49、MPP+、デシル-MPP+、MQ18、2-メチルタルミン、TIQ、アミノエチルシステインケタミン、ハロペリドール、HPP+、デカリニウム塩化物、シンナリジン、ラノラジン、vacor、ノニルフェノール、カテコール、ジニトロフェノール、CCCP、4-s-ブチル類似体、7-クロロ-4-オクチルオキシ類似体、2-ウンデシル-3-メチル類似体、4-ヒドロキシ類似体37、4’-ヘパチル類似体、エリトロシン5’ヨードアセトアミド、サフラニン、diOC5(3)(D-272)、diOC6(3)、DPI、DCCD、o-フェナントロリン、及びMitoSNOのうちの1つ以上を含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、抗酸化剤は、チオール、アスコルビン酸(ビタミンC)、グルタチオン、カタラーゼ酵素、スーパーオキシドジスムターゼ酵素、ビタミンE及びその誘導体、尿酸、ユビキノン、セレニウム、亜鉛、リポ酸、カロテン、トコフェロール、ユビキノール、ペルオキシレドキシン、没食子酸プロピル(PG、E310)、三級ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA、E320)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT、E321)、アリウム硫黄化合物、アントシアニン、β-カロテン、カテキン、銅、クリプトキサンチン、フラボノイド、インドール、イソフラボノイド、リグナン、ルテイン、リコペン、マンガン、ビタミンA、動物化学物質、ユビキノール-10、N-アセチルシステイン、亜鉛、セレニウム、銅、ケルセチン、ミリセチン、アピゲニン、タキシフォリン、ルテオリン、エピガロカテキン、ヘスペレチン、ナリンゲニン、シニジン(cynidin)、デルフィジン(delphidin)、ゲニスタイン、ダイゼイン、フェルラ酸、コーヒー酸、シナピン酸、p-クマル酸、テアフラビン、テアファビン-3-没食子酸塩(theafavin-3-gallate)、アリシン、ピペリン、クルクミン、アリウム硫黄化合物、ポリフェノール、デフェロキサミンコルチゾン、エストラジオール、エストリオール、メラトニン及びエストロゲンのうちの1つ以上を含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、脂質二重層安定剤は、ポロキサマー188、ポロキサマー407、コリフォールP188、Pluronic F-127、Triton X-100、Brij 93、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール)(500~100Da、1000~2000Da、2000~3000Da、3000~4000Da、4000~5000Da、5000~6000Da、6000~7000Da、7000~8000Da、8000~9000Da、9000~11000Da、11000~13000Da又は13000Da超から選択される分子量を有する)、Pluronic F68、Flocor及びRheoThRx、並びにSPAN80、ドコサヘキサエン酸(DHA)のうちの1つ以上を含む。
【0071】
いくつかの実施形態は、ミトコンドリア膜透過性遷移孔阻害剤は、シクロスポリンA、サングリフェリンA、FLOCOR、NIM-811、kolliphor(登録商標)P188、ER-000444793、pluronic F68デシルユビキノン(55486-00-5)、GNX-4728、GNX-4975、AntiOxBEN3、TRO40303及びTRO19622のうちの1つ以上を含む。
【0072】
いくつかの実施形態では、ミトコンドリア膜保護剤は、SS-31を含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、チアミン補充剤は、スルブチアミン、チアミン、並びにモダフィニル(Provigil(登録商標))、アンフェタミン(Adderall(登録商標))、メタアンフェタミン(Desoxyn(登録商標))、メチルフェニデート(Ritalin(登録商標))、及びメマンチン(Axura(登録商標))などの他の向知性薬物を含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、NHE-1阻害剤は、ゾニポリド、カリポリド、アミロリド、エニポリド、カリポリド、リメポリド、Phx-3(2-アミノフェノキサジン-3-オン)、9t(5-アリール-4-(4-(5-メチル-1H-イミダゾール-4-イル)ピペリジジン-1-イル(5-aryl-4-(4-(5-methyl-1H-imidazol-4-yl)piperididn-1-yl))、BIX NHE1阻害剤、KR-32568、エンパグリフロジン(EMPA)、サビポリド、ダパグリフロジン(DAPA)、カナグリフロジン(CANA)及びアミロリドのうちの1つ以上を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリドのうちの1つ以上の有効量は、別個の組成物中で同時に対象に投与される。いくつかの実施形態では、以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリドのうちの少なくとも2つが、単一の組成物中で一緒に混合され、次いで、単一又は複数の組成物として投与される。
【0076】
いくつかの実施形態では、併用投与は、以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリドの各々の有効量を混合することによって調製される又は得られる薬学的組成物を対象に投与することを含み得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、併用投与される任意の治療剤の有効量は、対象質量1kg当たりのミリグラムで、
メトホルミン: 約80mg/kg~約120mg/kg;
N-アセチルシステイン: 約120mg/kg~約180mg/kg;
ポロキサマー188: 約120mg/kg~約180mg/kg;
CoQ10: 約24mg/kg~約36mg/kg;
シクロスポリンA: 約8mg/kg~約12mg/kg;
エダラボン: 約2.4mg/kg~約3.6mg/kg;
SS-31: 約0.4mg/kg~約0.6mg/kg;
スルブチアミン: 約10mg/kg~約15mg/kg;
ビタミンC: 約80mg/kg~約120mg/kg;及び
ゾニポリド: 約2.4mg/kg~約3.6mg/kg
から選択される。
【0078】
いくつかの実施形態では、併用投与される任意の治療剤の有効量は、対象質量1kg当たりのミリグラムで、
メトホルミン: 約100mg/kg;
N-アセチルシステイン: 約150mg/kg;
ポロキサマー188: 約150mg/kg;
CoQ10: 約30mg/kg;
シクロスポリンA: 約10mg/kg;
エダラボン: 約3mg/kg;
SS-31: 約0.5mg/kg;
スルブチアミン: 約12.5mg/kg;
ビタミンC: 約100mg/kg;及び
ゾニポリド: 約3mg/kg
から選択される。
【0079】
脳虚血は、びまん性低酸素性脳症(DCH)、限局性脳虚血、脳梗塞、虚血再灌流、鎌状赤血球貧血症、アテローム性動脈硬化症、血管圧迫、心室頻脈、血餅、低血圧、心停止、先天性心疾患、心臓伝導障害、全脳虚血、ぜんそく、貧血症、溺水、窒息、脳卒中、一酸化炭素中毒、オピオイド過剰摂取、CNS抑制薬過剰摂取、てんかん重積状態、窒素性環境への曝露、潜水からの上昇、シャローウォーターブラックアウト、無圧客室中の高高度飛行、及び高所での身体運動から選択される状態によって引き起こされ得るか、それらを含み得るか、又はそれらをもたらし得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、脳虚血は、対象における心停止、脳卒中、オピオイド過剰摂取、CNS抑制薬過剰摂取、喘息発作、又は意識喪失によって引き起こされる。対象への治療剤の併用投与は、心停止、脳卒中、オピオイド過剰摂取、CNS抑制薬過剰摂取、喘息発作、又は意識消失の開始後、約30秒間、約1分間、約2分間、約3分間、約4分間、約5分間、約10分間、約15分間、約20分間、約25分間、約30分間、約35分間、約40分間、約45分間、約50分間、約55分間、約60分間、約65分間、約70分間、約75分間、約80分間、約85分間、又は約90分間であり得る。
【0081】
治療剤の併用投与は、脳虚血の存在に先行してもよい。いくつかの実施形態では、対象は、脳虚血のリスクがあり、併用投与は、1日4回、1日3回、1日2回、毎日、1日おき、週3回、週1回、又はこれらの組み合わせで行われる。併用投与は、1日~約1週間、約1週間~約2週間、約2週間~約4週間、約4週間~約2ヵ月、約2ヵ月~約6ヵ月、約6ヵ月~約1年、又は約1年超継続してもよい。
【0082】
薬学的組成物
別の態様では、脳虚血に罹患しているか、罹患したことがあるか、又は罹患するリスクがある対象の脳に神経保護を提供するための医薬製剤が提供される。組成物は、ミトコンドリア複合体-1阻害剤、抗酸化剤、脂質二重層安定剤、ミトコンドリア膜透過性遷移孔阻害剤、ミトコンドリア膜保護剤、チアミン補充剤、及びNHE-1阻害剤からなる群から選択される少なくとも2つの治療剤の有効量を含み得る。組成物は、以下の治療剤:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ビタミンC、エダラボン、ポラキサマー188、SS-31、CoQ10、シクロスポリンA、スルブチアミン、及びゾニポリド、又はそれらのいずれかの薬学的に許容される塩のうちの1つ以上を含み得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、治療剤は、製剤中に
メトホルミン:Nアセチルシステイン:ポロキサマー188:コエンザイムQ10(CoQ10):シクロスポリンA:エダラボン:エラミプレチド(SS-31):スルブチアミン:ビタミンC:ゾニポリド
の質量比、
約80~約120(メトホルミン):約120~約180(NAC):約120~約180(ポロキサマー188):約24~約36(CoQ10):約8~約12(サイクロスポリンA):約2.4~約3.6(エダラボン):約0.4~約0.6(SS-31):約10~約15(スルブチアミン):約80~約120(ビタミンC):約2.4~約3.6(ゾニポリド)で存在し、
任意の1つ以上の薬剤が存在しなくてもよい。例えば、メトホルミンが存在しない組成物は、
N-アセチルシステイン:ポロキサマー188:コエンザイムQ10(CoQ10):シクロスポリンA:エダラボン:エラミプレチド(SS-31):スルブチアミン:ビタミンC:ゾニポリド
の質量比、
約120~約180:約120~約180:約24~約36:約8~約12:約2.4~約3.6:約0.4~約0.6:約10~約15:約80~約120:約2.4~約3.6を含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、治療剤は、製剤中に
メトホルミン:Nアセチルシステイン:ポロキサマー188:コエンザイムQ10(CoQ10):シクロスポリンA:エダラボン:エラミプレチド(SS-31):スルブチアミン:ビタミンC:ゾニポリド
の質量比、
約100:約150:約150:約30:約10:約3:約0.5:約12.5:約100:約3で存在し、
任意の1つ以上の薬剤が存在しなくてもよい。
【0085】
いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、治療剤のいずれか1つ以上について、以下の量:
メトホルミン: 約5.6g~約8.4g;
N-アセチルシステイン: 約8.4g~約12.6g;
ポロキサマー188: 約8.4g~約12.6g;
CoQ10: 約1.68g~約2.52g;
シクロスポリンA: 約560mg~約840mg;
エダラボン: 約168mg~約252mg;
SS-31: 約28mg~約42mg;
スルブチアミン: 約700mg~約1050mg;
ビタミンC: 約5.6g~約8.4g;及び
ゾニポリド: 約168mg~約252mg
のいずれかを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、治療剤のいずれか1つ以上について、以下の量:
メトホルミン: 約7g;
N-アセチルシステイン: 約10.5g;
ポロキサマー188: 約10.5g;
CoQ10: 約2.1g;
シクロスポリンA: 約700mg;
エダラボン: 約210mg;
SS-31: 約35mg;
スルブチアミン: 約875mg;
ビタミンC: 約7g;及び
ゾニポリド: 約210mg
のいずれかを含む。
【0087】
治療剤は、任意の順序で、又は更には同時に併用投与されてもよい。複数の治療剤は、単一の統一された形態で、又は複数の形態で(ほんの一例として、単一の丸剤又は2つの別個の丸剤のいずれかとして)提供され得る。治療剤の一方を複数回投与で与えてもよく、又は両方を複数回投与として与えてもよい。同時でない場合、複数回投与間のタイミングは、0週超から4週未満まで変動し得る。加えて、組成物及び製剤は、2つの薬剤のみの使用に限定されない。
【0088】
本技術の薬学的組成物は、希釈剤、崩壊剤、甘味剤、流動促進剤、又は香味剤などの薬学的に許容される担体を含んでもよく、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、若しくはシロップ剤などの経口剤形、又は外用液剤、外用懸濁剤、外用乳剤、ゲル剤(軟膏剤など)、吸入剤、噴霧剤、注射剤などの非経口剤形に製剤化されてもよい。該剤形は、様々な形態、例えば、単回投与用又は複数回投与用の剤形に製剤化されてもよい。
【0089】
いくつかの実施形態では、担体は、ポリオキシエタニル-α-トコフェリルセバケート(polyoxyethanyl-α-tocopheryl sebacate、PTS)、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)、エタノール、ポリエチレングリコール(PEG)、及び(ウシ血清アルブミン、bovine serum albumin)BSAのうちの1つ以上を含む。
【0090】
本技術の薬学的組成物は、ラクトース、コーンスターチなどの賦形剤、ステアリン酸マグネシウムなどの流動促進剤、乳化剤、懸濁化剤、安定化剤、等張化剤などを含んでもよい。所望であれば、甘味剤及び/又は香味剤を添加してもよい。例示的な賦形剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、硬化ヒマシ油(hydrogenated castor oil、HCO)、クレモホール、炭水化物、デンプン(例えば、トウモロコシデンプン)、無機塩、抗菌剤、抗酸化剤、結合剤/充填剤、界面活性剤、滑沢剤(例えば、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸マグネシウム)、タルクなどの流動促進剤、崩壊剤、希釈剤、緩衝剤、酸、塩基、フィルムコート、これらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
具体的な炭水化物賦形剤としては、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボースなどの単糖類;ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなどの二糖類;ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなどの多糖類;及びマンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトールなどのアルジトールが挙げられる。
【0092】
無機塩又は緩衝剤としては、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
本開示における使用に好適な抗酸化剤としては、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0094】
更なる例示的な賦形剤としては、ポリソルベート、例えば、「Tween(登録商標)20」及び「Tween(登録商標)80」などの界面活性剤、並びにF68及びF88などのpluronic(これらは両方ともBASF,Mount Olive,N.J.から入手可能である)、ソルビタンエステル、脂質(例えば、レシチン及び他のホスファチジルコリンなどのリン脂質、並びにホスファチジルエタノールアミン)、脂肪酸及び脂肪エステル、コレステロールなどのステロイド、並びにEDTAなどのキレート剤、亜鉛及び他のそのような好適なカチオンが挙げられる。
【0095】
更に、本明細書に開示される組成物は、1つ以上の酸又は塩基を任意選択的に含んでもよい。使用することができる酸の非限定的な例としては、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される酸が挙げられる。好適な塩基の非限定的な例としては、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フマル酸カリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される塩基が挙げられる。
【0096】
組成物中の任意の個々の賦形剤の量は、賦形剤の役割、活性薬剤成分の用量要件、及び組成物の特定の必要性に応じて変化する。
【0097】
しかしながら、一般的に、賦形剤は、約1重量%~約99重量%、好ましくは約5重量%~約98重量%、より好ましくは約15重量%~約95重量%の賦形剤の量で組成物中に存在する。一般に、本開示の組成物に存在する賦形剤の量は、以下の、少なくとも約2重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、又は更には95重量%から選択される。
【0098】
本技術の組成物は、経口的に、又は吸入、静脈内、腹腔内、皮下、直腸及び局所投与経路を含む非経口的に投与することができる。したがって、本技術の組成物は、錠剤、カプセル、水溶液、懸濁液などの様々な形態に製剤化することができる。経口投与のための錠剤の場合、ラクトース、コーンスターチ、及びステアリン酸マグネシウムを例とする滑沢剤、などの担体を、従来通りにそれに添加することができる。経口投与用カプセルの場合、ラクトース及び/又は乾燥コーンスターチを希釈剤として使用することができる。経口投与のために水性懸濁液が必要とされる場合、活性成分を乳化剤及び/又は懸濁化剤と組み合わせることができる。所望であれば、特定の甘味剤及び/又は香味剤をそれに添加することができる。筋肉内、腹腔内、皮下及び静脈内投与のために、活性成分の滅菌溶液が通常調製され、溶液のpHは適切に調整され、緩衝化されるべきである。静脈内投与の場合、溶質の総濃度は、調製物を等張性にするために制御されるべきである。本技術の組成物は、薬学的に許容される担体を含有する水溶液、例えば、7.4のpHレベルを有する生理食塩水の形態であってもよい。溶液は、局所急速注射によって患者の筋肉内血流に導入することができる。
【0099】
製造方法
別の態様では、脳虚血に罹患しているか、罹患したことがあるか、又は罹患するリスクがある対象の脳に神経保護を提供するための薬学的組成物を調製する方法が提供される。治療剤は、本発明の組成物を製剤化する目的のために、疎水性又は親水性として分類され得る。当業者は、極性及び水又は有機溶媒との混和性などの特性に基づいて、化合物の疎水性及び親水性を容易に決定することができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、本方法は、
a)1つ以上の疎水性治療剤を含む第1の混合物と、
b)1つ以上の親水性治療剤を含む第2の混合物と、
を混合して第3の混合物を形成することを含む。
【0101】
第1の混合物は、本明細書に記載される1つ以上の疎水性担体、及び任意選択的に緩衝剤を更に含んでもよい。第2の混合物は、本明細書に記載される1つ以上の親水性担体、並びに任意選択的に緩衝剤及び/又は有機溶媒を更に含んでもよい。
【0102】
いくつかの実施形態では、本方法は、第3の混合物と、1つ以上の治療剤を含む第4の混合物とを混合して、最終組成物に更に加工され得る組成物を形成することを更に含む。
【0103】
別の実施形態では、本方法は
a)CoQ10及びシクロスポリンAを含む第1の混合物と、
b)メトホルミン、N-アセチルシステイン、ポラキサマー-188、エダラボン、SS-31、ビタミンC、及びゾニポリドを含む第2の混合物と、
を混合して第3の混合物を形成することを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、第3の混合物と、スルブチアミンを含む第4の混合物とを混合することを更に含む。いくつかの実施形態では、第1の混合物は、ポリオキシエタニル-α-トコフェリルセバケート(PTS)及びウシ血清アルブミン(BSA)を更に含む。いくつかの実施形態では、第1の混合物は、緩衝液、例えば、PBSを更に含む。
【0104】
いくつかの実施形態では、第1の混合物は、
i)CoQ10及びPTSを含む混合物と、
ii)シクロスポリンA及びBSAを含む混合物と、
を混合することによって、形成される。
いくつかの実施形態では、i)の混合物及びii)の混合物は、各々、緩衝液、例えば、PBSを更に含む。いくつかの実施形態では、第4の混合物は、C1~C6アルコール及びポリエチレングリコール(PEG)を更に含む。
【0105】
本明細書に記載される実施形態は、決して限定されるものではないが、以下の実施例によって更に例示される。
【実施例】
【0106】
実施例1:ラットにおける心停止後の改善された神経学的回復
概要:本出願人は、12分間の心停止を受けたSprague-Dawleyラット(400~500gm)において、本発明による医薬製剤(「カクテル」とも呼ばれる)の二重盲検無作為化比較試験を行った。ラットを、自己心拍再開(ROSC)直後にカクテル又は対照薬物を受けるように無作為に割り当てた。薬物注入は、注入ポンプを用いて20分間にわたって行った。動物を人工呼吸器で2時間維持し、この間、平均動脈圧(MAP)、心拍数(HR)、動脈血ガス分析(ABG)及びグルコース測定を行った。ラットの体温は、実験を通して37±0.5℃の間に維持した。ROSCの2時間後、動物を抜管し、カニューレを除去し、縫合し、動物施設に戻した。評価した結果には、ROSCの72時間後の生存、並びにROSCの24時間後、48時間後及び72時間後の神経学的結果が含まれた。
【0107】
材料及び方法:全ての実験は、動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee、IACUC)ガイドラインの承認に従って実施した。成体雄Sprague-Dawleyラット(400~500gm)をCharles River Laboratory(Wilmington,MA)から入手し、水及び食物に自由にアクセスできる12時間の明/暗サイクルで動物センターに収容した。14匹のラットを対照(ビヒクル注射)に使用し、14匹のラットをカクテル注射(実験)群に使用し、合計28匹のラットとした。カクテルをラットに投与し、カクテル中の各化合物(薬物とも呼ばれる)の投与量は、以下の表1に記載される通りである。
【表1】
【0108】
以下のようにラットに心停止を誘導した。ラットに麻酔をかけ、2%イソフルラン下で人工呼吸器にかけた。左大腿動脈及び左大腿静脈にポリエチレンカテーテルをカニューレ挿入して、それぞれ動脈圧及び薬物注入を測定し、創傷を縫合した。外科的準備及びヘパリン(300IU)注射の後、MAPを正常化するために動物を飼育した。CAの手順は、ベクロニウム臭化物(2mg/kg体重)を左大腿静脈から4分かけてゆっくりと注射することから開始した。窒息性CAは、人工呼吸器のスイッチを切り、続いてイソフルランを中止することによって誘導した。20mmHg未満の平均動脈圧をCAと定義し、これは通常、窒息の開始後約3分以内に観察された。12分間の窒息後、100%酸素下で換気及び胸部圧迫を再開して蘇生を開始した。CPRの開始から20秒後に、エピネフリンの20μg/kg急速注射を静脈カテーテルを介して投与した。動物が60mmHgを超える収縮期血圧として定義されるROSCに達するまで、胸骨圧迫を継続した。ROSCがCPRの開始から5分以内に起こらなかった場合、動物は試験に含めなかった。
【0109】
12分間の心停止(CA)を誘導した後、動物を胸部圧迫によって蘇生させ、一度、自己心拍再開(ROSC)が達成されたら、対照(ビヒクル)又はカクテルのいずれかを、注入ポンプを用いて20分間にわたって静脈内(i.v.)投与した。各動物の体温は、実験を通して120分間(36.5~37.5)の間に維持した。動物の血行動態(平均動脈圧、心拍数、気管内CO2)を実験全体を通してモニターした。平均動脈圧、心拍数、ETCO2の外科的準備ベースライン記録を行った後に血行動態を記録し、これをCA中並びにROSC後の2時間にわたって継続した。ADInstruments,USAを用いて血行動態パラメータを記録した。動脈血ガス分析(Arterial blood gas analysis、ABG)を行って、pH、pO2、pCO2、HCO3、TcO2、乳酸及び酸素の飽和度を調べて、動物の正常な生理状態を維持及びモニターした。血液採取は、ベースライン時、ROSC時、ROSCの20分後、ROSCの40分後、及びROSCの2時間後で行った。次いで、血液試料を1600rcfで10分間遠心分離して血漿を分離し、収集した血漿を更なる生化学分析に使用した。動脈血ガス(ABG)分析のために、pH、pCO2、pO2、HCO3、乳酸及び酸素飽和度を、ベースライン時、ROSCの20分後及びROSCの40分後で測定した。pH、pCO2及びpO2レベルが、ROSCの40分後経過しても正常範囲内にない場合、ROSCの60分後のABGを測定した。
【0110】
グルコース測定は、ベースライン時、ROSC時、ROSCの20分後、40分後及び120分後で行った。ROSCの2時間後、動物を抜管し、カニューレを除去し、縫合し、次いで生理食塩水注入及びburponex皮下注射を含む術後ケアを提供した後、動物を動物収容施設に戻した。全ての実験動物に、手作業での給餌(自力で食べることができない場合)、有意なレベルの生理食塩水及びデキストロース注入(飲むことができない場合)、温度維持(加熱パッド及びランプを提供することによる)、並びに疼痛緩和薬物注射を含む毎日のケアを提供した。動物の長期(72時間)生存をモニターした。Neumar et al.,1995に従って、対照処置群及びカクテル処置群における神経学的回復を観察するために、実験的に盲検化されたヒトによって、蘇生の24時間後、48時間後及び72時間後にmNDS値を記録した(15)。72時間の生存及びmNDS記録の後、動物を安楽死させ、神経変性の組織学的分析のために全脳切片を取り出した。実験中に行った血液採取を生化学分析に使用した。
【0111】
二重盲検試験のための動物無作為化:合計4回の実験を1日で実施した。動物を試験のために無作為化し、実験条件を盲検化されているヒトが動物のためのコードを作成した。実験当日、カクテル薬物をビヒクルと共に別々に調製した。カクテル及びビヒクルにコードを割り当て(動物のコード生成に関与するヒトによって)、手術を行う外科医に転送した。外科医は、薬物に対して盲検化され、どの動物がカクテル又はビヒクルを受けるかについての知識に対しても盲検化された。手術及び12分間の窒息の誘導後、カクテル及びビヒクルを調製したヒトによって蘇生を行った。生成されたコードに応じて、自己心拍再開(ROSC)後にカクテル又は対照薬物を注射した。ROSC後2時間の換気に続いて、動物は術後ケアを受け、動物収容室に移された。カクテル二重盲検試験の詳細な図式表示を
図2に示し、
図1は実験の時間経過を詳述する。
【0112】
試験の盲検解除:各外科医は、ラットに注射された薬物コードを用いて実施した実験の記録を追跡した。全ての実験が完了した後、外科医は、実施した実験のリストを示すように求められ、これを生成された薬物コードと一致させて試験を盲検解除した。
【0113】
神経学的欠損分析:神経学的欠損スコア(NDS)の記録を、蘇生の24時間後、48時間後及び72時間後に行った。神経学的転帰をチェックするために、本出願人は、Neumar et al.,1995
(15)によって述べられた行動試験に従って記録されたNDSを、以下の表2に集計されるように修正した。前述のNDSスコアリングシステムでは、呼吸のスコアリングは、0又は100のいずれかであり、したがって、本出願人は、正常な呼吸(1分当たり60~120回の呼吸)については100に、120~140回の呼吸については50に、これらの2つのカテゴリに該当しない呼吸パターンについては0に変更した。蘇生の24時間後、48時間後及び72時間後にNDS値をモニターした(NDS、0-500;0、脳死;500、正常)。
【表2】
【0114】
生化学的分析:S100B、NSE及び8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(8-OHdG)のような生化学的アッセイのために、異なる時間間隔で採取した血液試料を使用した。本出願人はまた、抗炎症マーカーを測定して、異なる間隔でそれらの変化をチェックした。
【0115】
組織像及び染色:72時間の生存期間の完了後、動物をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、1×、pH=7.4)で心臓を灌流した。全脳組織を取り出し、4%PFAに移した。スクロース溶液で更に処理した後、Nissl染色及びTUNEL染色のために、冠状脳切片をガラススライド上に採取した。TUNEL染色は、ABCAM-TUNEL染色キットを使用して行った。
【0116】
統計:連続変数についてのデータは、平均値の標準誤差(standard error of the mean、SEM)を伴う平均値として提示される。カテゴリデータは、頻度と共にカウントとして提示される。対応のない両側スチューデントt検定又はマン-ホイットニーU検定を使用して、連続変数について、適宜、2つの独立した群を比較した。正規分布データ及び非正規分布データの事後比較のそれぞれのために、一元配置又は二元配置分散分析(analysis of variance、ANOVA)、続いて事後比較のためのSidak補正、及びクラスカル・ウォリス検定、続いてDunn多重比較を使用した。カプラン-マイヤー法を用いて生存率を推定し、ログランク検定を用いて群間の生存曲線を比較した。予備データに基づいて、CA後72時間での平均生存率は、ビヒクル処置ラットで25%、カクテル処置ラットで85%と予想されたので、本発明者らは、各生存試験において群当たり14匹のラットが必要であると予想した(α=0.05、β=0.2[検出力=80%]、両側)。有意性は、P<0.05のレベルで考慮した。GraphPad Prism 7.0(GraphPad Software Inc.,La Jolla,CA,USA)及びSPSS 23.0(SPSS Inc.,Chicago,IL,USA)を統計分析に使用した。
【0117】
結果:カクテル薬は、12分のCA及び蘇生の72時間後に生存率を改善した。ROSCは28匹のラット全てにおいて達成された。実験薬物を受けた全てのラットを、この試験において分析した。ビヒクル又はカクテル薬で処置したラットの間で、ベースラインにおける体重、血行動態又は血液ガスに有意差はなかった(表3及び4)。CAは窒息の開始後200秒未満で起こり、群間で有意差はなく、群間でROSCまでのCPR時間の有意差は観察されなかった(表3)。ROSC後の最初の40分間、両方の群は、pH、二酸化炭素の分圧(pCO
2)、及びHCO
3において有意差を示さなかった。予期せぬことに、ROSCの20分後の動脈血試料の動脈血酸素分圧(pO
2)及び40分後の動脈血試料の酸素飽和度(SaO
2)は、ビヒクル群と比較してカクテル群において低かった。ROSCの20分後の動脈乳酸及びグルコースレベルは、ビヒクル群よりもカクテル群において著しく高かった。ビヒクル群における生存率は、CA後72時間で28.6%(14例中5例)であった。カクテル薬は、生存率を78.6%(14例中12例)に有意に改善した(ビヒクルに対してログランクP=0.006、
図3)。
【表3】
MAP平均動脈血圧;HR、心拍数;BPM、拍/分;CA、心停止;CPR、心肺蘇生;ROSC、自己心拍再開;sec、秒。値は平均値±SEMとして表した。
【表4】
値は平均値±SEMとして表した。反復測定分析の混合効果モデルによる群間でベースライン時に有意差はなかった。それぞれの時点で、
*=P<0.05対ビヒクル、
**=P<0.005対ビヒクル。ROSC自己心拍再開、SaO
2、酸素飽和度。
【0118】
カクテルは、CA及び蘇生の72時間後に神経機能障害を予防する。生存動物は、ROSCの24、48、及び72時間後に、NDS(0=死亡又は脳死、500=正常)に基づいて神経機能について評価した。NDSは、ROSCの24時間後にビヒクル群(212.5±25.76)よりもカクテル群(297.3±17.70)の生存ラットにおいて有意に高かった(マン-ホイットニー検定によりP=0.014)。NDSは、ROSCの48時間後に群間で有意差はなかったが(P=0.082)、ROSCの72時間後のNDSは、ビヒクル(265.0±14.43)処置群と比較して、カクテル薬物(341.4±15.12)で処置された生存ラットにおいて有意に改善された(P=0.004、
図4)。これらの結果は、カクテル薬物が、ラットにおいてROSC後の初期段階及び後の段階の両方で神経機能障害の発症を予防したことを示唆する。
【0119】
カクテル薬物は、CA及び蘇生後早期に体温及び血行動態パラメータを改変した。食道温度は、実験薬物の内容を盲検化されている治験責任医師によって36.5~37.5℃の間に留まることが意図されたが、食道温度は、ROSCの30分後、60分後、及び120分後に、ビヒクル群よりもカクテル群において意図せずに低かった(
図5A)。両群とも、MAPは、ベースラインと比較して、ROSCの30分後に増加した(ビヒクル、121.64±2.94対ベースライン、88.41±3.94、p<0.0001、カクテル104.38±3.76、対ベースライン、89.07±3.63、p<0.05、)。その後、MAPは、ROSCの90分後までベースラインの約80%に減少し、その後、ROSCの120分後にベースライン値に戻った。ROSCの30分後のMAPは、ビヒクル処置群(121.64±2.94)と比較して、カクテル処置群(104.38±3.76)において著しく低かった(p<0.05、
図5B)。ROSCの30分後、両群ともベースラインと比較して、HRは増加した(ビヒクル、358.54±8.15対ベースライン、313.79±13.47、p<0.05、カクテル347.74±8.05、対ベースライン、295.94±12.08)(p<0.005、
図5C)。ビヒクル処置群では、増加したHRはROSC後60分まで継続し、その後ベースライン値に戻ったが、心拍数は60分でベースラインに戻り、カクテル処置群では残りの経過観察期間も維持された。これらの観察は、カクテル薬物が、CA後のより高い生存率に関連する可能性が高い蘇生後の初期血行動態変化に影響を及ぼすことを示唆する。
【0120】
このカクテルは、CA及び蘇生後早期に動脈血ガス分析を改変した。ROSCの20分後に、ビヒクル処置群(384.1±35.93)と比較してカクテル処置群(227.9±30.22)においてpO2に有意な減少があり(p<0.005(表4))、ROSCの40分後に、カクテル(94.86±1.27)及びビヒクル(98.50±0.36)処置群間の酸素飽和度(SaO2)にも有意な減少(p<0.05(表4))があった。乳酸レベルの有意な増加が、ビヒクル注射群(3.28±0.25)と比較して、カクテル注射群(4.13±0.15)においてROSCの20分後で観察され、これは、ROSCの40分後で基底レベルに戻る傾向を示す(p<0.05(表4))。血中グルコースレベルは、ビヒクル群(287.77±18.29)と比較して、ROSCの20分後でカクテル処置群(377.5±21.37)において増加した(p<0.05(表4))が、これは両群ともROSC後更に120分まで減少し続けた。これらの観察は、カクテル薬物が、蘇生後の初期pO2、SaO2血中乳酸及び血糖の変化に影響を及ぼすことを示唆しており、これは、CA後のより高い生存率に関連している可能性が高い。
【0121】
結果:本試験の全体的な目標は、複数の経路を標的化することによって、重度のCAモデルにおいて良好な神経学的転帰を伴う長期生存利益を有する多剤カクテルを開発することであった。本出願人は、ビヒクル注射群(約28%)と比較して、カクテル注射群において非常に良好な生存(約78%)を観察し、カクテル処置群において神経学的転帰が増強され、これは薬物カクテルの有益な効果を示す。低体温の影響を除外するために、両群とも食道温度(esophageal temperature)(Teso)を37±0.5℃の間に維持し、両群間でTesoに有意差が観察されたが、観察された温度は、範囲(37±0.5℃)内であり、したがって低体温の影響は有意ではない。更に、ROSCの20分後にビヒクル群と比較してカクテル注射群においてpO2に有意な減少があり、ROSCの40分後に酸素飽和度(SaO2)に有意な減少があった。pO2に関する観察は、ROSC後のより低い酸素濃度が生存及び好ましい神経学的転帰に関連することを示唆する。蘇生後の過酸素症は、軽度の低体温療法を伴う患者において死亡率を増加させることが示されている(17~19)。本試験は、初期段階におけるより低い酸素レベルがCA後の神経保護に有益であることを示唆する。
【0122】
本試験における最も重要な知見の1つは、カクテル処置群におけるROSC後の初期段階(30分未満)での乳酸及び血中グルコースレベルの増加である。カクテル群における乳酸の増加率は、ROSCの20分後でビヒクル注射群よりも高く、ROSCの20分後のカクテル注射群における乳酸塩クリアランス率は、ビヒクル注射群よりも遅かった。カクテルは、ミトコンドリア複合体I(COX1)阻害剤(例えば、メトホルミン)及び他の酸化的リン酸化(OXPHOS)阻害剤(例えば、N-アセチルシステイン)を含むので、増加した乳酸及びグルコースは、初期再灌流(30分未満)におけるROS生成の主要な源であるCOX1阻害(21)に関連し得る。高い乳酸クリアランスは、敗血症及びCA後の転帰の改善と関連付けられており、一方、低い乳酸クリアランスは、死亡率の増加と関連付けられている(22)。更に、Lee et al.,2013は、最初の乳酸レベルではなく乳酸クリアランス速度が、低体温療法後のOHCA患者における神経学的転帰と関連付けられることを示した(23)。乳酸クリアランスは、死亡率を予測しないが、神経学的転帰の改善の1つの予測因子である(24)。この研究は、初期段階におけるより高い乳酸及びグルコースレベルが、生存及び好ましい神経学的転帰と関連付けられる場合も又は関連付けられない場合もあることを示唆する。
【0123】
実施例2:製剤(カクテル)の調製
本発明の製剤に使用される化合物は、表5に示されるように、最初に薬物を親水性及び疎水性化学物質に分類した。
【表5】
【0124】
全ての親水性薬物を別々に秤量し、最初に750μLのポロキサマー188に溶解した。のCoQ10、シクロスポリン-A、及びスルブタミンの別個の混合物を、以下に記載されるように作製した。
【0125】
CoQ10:15mgのCoQ10を、最初に300μLのポリオキシエタニル-α-トコフェリルセバケート(PTS)(既に少なくとも24時間凍結乾燥されている)と混合し、次いで水浴中60℃で15分間インキュベートした。次いで、1mlの1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、十分に混合し、再び水浴中60℃で15分間インキュベートした。超音波処理を10~15分間行った。
【0126】
シクロスポリンA:5mgのシクロスポリン-Aを、PBS中で調製した1.5mlの4%BSAに溶解した。次いで、それを5分間超音波処理した。
【0127】
スルブチアミン:6.25mgのスルブチアミンを、最初に100μLのエタノールと十分に混合し、次いでその後400μLのポリエチレングリコール(PEG)を添加した。次いで、それを5分間超音波処理した。
【0128】
製剤化及び超音波処理を別々に行った後、CoQ10(PTS及びPBS中)混合物をシクロスポリン-A(BSA及びPBS中)混合物と混合し、得られた混合物を10分間超音波処理した。次いで、ポラキサマー-188中の親水性薬物混合物をCoQ10/シクロスポリン-A混合物と混合し、得られた混合物を再び10分間超音波処理した。最後に、スルブチアミン(エタノール及びPEGを含む)混合物をCoQ10/シクロスポリン-A/親水性薬物混合物と混合し、得られたカクテル混合物を半透明の色が観察されるまで超音波処理した。次いで、カクテルを0.45ミクロンフィルターで濾過し、溶液のpHを重炭酸ナトリウムで7.35~7.45に調整した。
【0129】
実施例1で使用した対照ビヒクル製剤は、表1の活性化合物を含まず、ポラキサマー-188の代わりにPBSを使用したことを除いて、同様に調製した。具体的には、300uLのポリオキシエタニル-α-トコフェリルセバケート(PTS)(既に少なくとも24時間凍結乾燥されている)を水浴中60℃で15分間インキュベートし、次いで1mlの1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加して、ヌルCoQ10混合物(CoQ10を欠く混合物)を形成した。次いで、ヌル-CoQ10混合物を撹拌し、水浴中60℃で15分間インキュベートし、続いて5分間超音波処理した。ヌル-シクロスポリン-A(シクロスポリン-Aを欠く)を、PBS混合物中4%BSAの1.5mlに達する割合でBSAをPBSと混合することによって調製した。100μlのエタノールを400μlのPEGに添加することによって、ヌル-スルブチアミン(スルブチアミンを欠く)混合物を調製した。次いで、ヌル-CoQ10混合物、ヌル-シクロスポリン-A混合物、及びヌル-スルブチアミン混合物を750μlのPBSと混合し、2~3分間超音波処理してビヒクルを生成した。次いで、ビヒクルを0.45ミクロンフィルターで濾過し、pHを重炭酸ナトリウムで7.35~7.45に調整した。
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28.Continuing Education in Anaesthesia Critical Care & Pain,Volume 12,Issue 6,December 2012,Pages 283-287
【0130】
実施例3:多剤カクテル療法は、げっ歯類における心停止後の生存及び神経機能を改善する
心停止(CA)は、米国における主要な死因である。しかしながら、生存及び神経学的転帰を実質的に改善する療法の開発においては、ほとんど進歩していない。CAは、酸化、炎症、及び代謝性ストレスなどの複数の経路を介して、全体的な虚血及びニューロン変性を引き起こす。CA後の神経保護のための現在の治療は、主に、多数の他の損傷に対処することなく、いくつかの損傷を引き起こす経路を標的とする。本試験において、本発明者らは、虚血再灌流傷害に関与する複数の罹患経路を同時に標的とすることができる多剤カクテル療法を開発しようとした。本発明者らはまた、重度損傷ラットモデルCAにおける心肺蘇生後の神経学的無傷生存を改善するカクテルの有効性を評価した。
【0131】
方法:本発明者らは、生存及び神経保護に重点を置いて、虚血再灌流傷害の異なる態様を標的とする10種の薬物を含む多剤カクテルを開発した。本発明者らは、12分間の窒息性CAを受けた雄のSprague-Dawleyラットにおいて、プロスペクティブ無作為化盲検プラセボ対照試験を行った。ラットを蘇生させ、自己心拍再開(ROSC)の直後に、ラットをカクテル(n=14)又はビヒクル(n=14)のいずれかを静脈内投与するように無作為に割り当てた。血行動態をモニターし、動脈血液ガス及びグルコースを分析するために、ラットを2時間、人工呼吸で維持した。評価した結果は、ROSC後の72時間生存、及び24、48、及び72時間後で神経機能が含まれる。カクテルを投与した後の細胞における形態学的変化を分析するために、組織学的染色を用いて脳も評価した。
【0132】
結果:本発明者らは、カクテルが72時間の生存を有意に改善したことを見出し、ビヒクル処置ラットの28.6%に対して、カクテル処置ラットの78.6%が生存した(ログランク検定、P=0.006)。2つの神経学的欠損スコアは、ビヒクル処置ラットに対してカクテル処置ラットにおいて72時間で実質的に改善された神経機能を示した(スケール1の場合P=0.004及びスケール2の場合P=0.013)。
【0133】
結論:12分窒息性CAの致死性げっ歯類モデルを使用する無作為化対照試験において、本発明者らの多剤カクテルは、72時間生存及び神経学的転帰を有意に改善し、現在の療法が失敗した時点で多剤カクテルが有効であり得ることを示唆した。
略語
ANOVA 一元配置分散分析
ATP アデノシン三リン酸
ATP-MgCl2 アデノシン三リン酸-塩化マグネシウム
BBB 血液脳関門
BPM 呼吸/分
bpm 拍/分
CA 心停止
CPR 心肺蘇生
ESI-MS エレクトロスプレーイオン化質量分析
ETCO2 呼気終末CO2
HR 心拍数
MAP 平均動脈圧
mNDS 修正神経学的欠損スコア
mPTP ミトコンドリア膜透過性遷移孔
NDS 神経欠損スコア
NHE-1 ナトリウム-水素交換アイソフォーム-1
PBS リン酸緩衝生理食塩水
PFA パラホルムアルデヒド
pO2 酸素分圧
PTS ポリオキシエタニル-α-トコフェリルセバケート
ROS 活性酸素種
ROSC 自己心拍再開
SaO2 酸素飽和度
SEM 平均値の標準誤差
SS-31 Szeto-Schillerペプチド-31
TUNEL 末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ
dUTP ニック末端標識
【0134】
臨床的観点
本発明者らは、10種の神経保護薬を含む多剤カクテル療法を開発した。本発明者らは、盲検無作為化プラセボ対照研究において、12分間の心停止とそれに続く心肺蘇生のげっ歯類モデルにおける多剤カクテルの有効性を評価した。本発明者らの多剤カクテル療法は、心停止後の神経機能及び生存の改善に関連していた。
【0135】
心停止後の全体的な虚血-再灌流傷害は、特に脳において重篤な多臓器損傷を引き起こし、心停止後を保護するための新規な多面的治療を必要とする。心停止後の多剤カクテルによる治療は、ヒト患者に変換され得る好ましい神経学的転帰を伴って、生存を改善することに成功した。
【0136】
序論
心停止(CA)は、米国において360000人を超える死亡の原因であり、死亡率はほぼ90%である1。このような高い死亡率にもかかわらず、生存及び神経学的転帰を実質的に改善する薬理学的介入の開発はほとんど進展がない。
【0137】
CAは、体内の全ての臓器への血流を突然減少させ、全体的な虚血をもたらす複雑な状態である2。蘇生中に、酸素が再導入され、以前の虚血性傷害を増大させる再灌流傷害をもたらす。CA後、ミトコンドリア機能不全3、小胞体ストレス4、アデノシン三リン酸(ATP)などの高エネルギー代謝産物の枯渇5、酸化的損傷6、及び炎症反応7を含む事象の複雑なカスケードにより、脳損傷及び生存率の低下が起こる。これらの事象は細胞死をもたらし、神経機能を損なう。CAは、他の臓器にも影響を及ぼす。例えば、長期CA後の臓器メタボロミックプロファイリングは、蘇生媒介代謝機能不全を示した8。更に、蘇生後の代謝調節不全がげっ歯類及びヒトにおいて同様に観察され9、全身損傷を示し、その改善は、併用療法などの多次元アプローチを必要とする。
【0138】
全身的な疾患として、多数の代謝、エネルギー及び炎症経路の変化が存在する。虚血性傷害後に有益性をもたらす神経保護薬物の発見を目指したいくつかの研究は10、ほとんどは、単一の薬物しか使用していない。このアプローチは、CA病理についてより多く理解し、改善された治療を設計するために有用である。しかしながら、CA損傷の重症度及び複雑性のために、単剤療法は、ヒトにおいて保護を与えるには十分ではない。多臓器に対するCAの影響は、治療に対するより複雑なアプローチを必要とする。いくつかの研究は、個々の薬理学的介入として、又は低体温療法と組み合わせて、薬物を組み合わせている11-13。これらの研究は、2つの重大な制限事項:大多数の損傷経路を標的化することができない最小数の治療剤を使用すること、及び処置に対して包括的なアプローチを必要とする、より重度のCAモデルにおいて試験されていないこと、を有する。多剤カクテルはまた、HIV/AIDS14、がん15、及びコロナウイルス疾患2019などの他の疾患を治療するためにも使用されてきた16。この広範な適用性は、虚血再灌流傷害などの複雑な疾患を治療するために多剤カクテルを使用することへの現実的な強みを示す。しかしながら、この多剤アプローチは、CAにおいて検討されてこなかった。
【0139】
この盲検無作為化プラセボ対照試験において、本発明者らの目的は、多剤カクテルを開発し、窒息性CA及び蘇生のげっ歯類モデルにおける72時間の生存及び神経転帰の改善におけるカクテルの効力を特定することであった。
【0140】
方法
多剤カクテルの選択及び製剤化
本発明者らは、異なる物理的及び化学的特性を有する薬物の複合混合物を含有する多剤カクテルを開発することを目的とした。本発明者らの目標は、単一調合物中の最小数の薬剤で最大の利益を提供することであった。有効なカクテルを作製するために、臨床又は前臨床現場において、含まれる薬物は、CA後に生存及び/又は神経保護のいずれかをもたらす能力について評価されなければならない。この情報は、適切かつ実際的に組み合わせることができる薬剤を選択する際の一助となる。本発明者らは、文献を徹底的に検索し、多剤カクテルに含めるために10種の神経保護薬:メトホルミン、N-アセチルシステイン、ポロキサマー188、エダラボン、Szeto-Schillerペプチド-31(SS-31)、ビタミンC、ゾニポリド、CoQ10、シクロスポリンA、及びスルブチアミン(公開された用量及び経路を表6に列挙する)を選択した。各薬物を、個々に及び各種組み合わせで、正常ラット(n=3)に投与して、即死などの任意の潜在的な副作用を特定した。本発明者らは、カクテル開発及び予備試験の逐次反復を行い(データ補足の表9を参照)、最終製剤に到達した(データ補足の表10及び方法を参照)。
【0141】
本発明者らの試験で使用したビヒクルは、10種の薬物を除く多剤カクテルの全ての要素を含有していた。
【表6】
略語:BBBは血液脳関門を示し、mPTPは、ミトコンドリア膜透過性遷移孔を示し、NHE-1は、ナトリウム-水素交換体アイソフォーム-1を示し、ROSは、活性酸素種を示す。
【0142】
多剤カクテル及びビヒクルを製剤化するための詳細なプロトコル
全ての親水性薬物を別々に秤量し、750μLのポロキサマー188に溶解した。疎水性薬物を最初に別々に製剤化し、次いで組み合わせて完全なカクテルを形成した。CoQ10(15mg)を最初に、予め24時間凍結乾燥させた300μLのポリオキシエタニル-α-トコフェリルセバケート(PTS、15%w/v水溶液)に溶解した。この合わせた混合物を60℃の水浴中で15分間インキュベートした。次いで、リン酸緩衝生理食塩水(PBS 1×、1mL)を混合物に添加し、次いでこれをボルテックスし、60℃の水浴中で15分間インキュベートし、10~15分間超音波処理した。シクロスポリンA(5mg)を、1×PBS中で調製した1.5mLの4%BSAに溶解し、5分間超音波処理した。スルブチアミン(6.25mg)を100μLの無水エタノールに完全に溶解した。次いで、400μLのポリエチレングリコール300(PEG-300)を混合物に添加した後、5分間超音波処理した。各疎水性薬物の個々の製剤を完成させた後、CoQ10及びシクロスポリンAの製剤を合わせ、10分間超音波処理した。この混合物を全ての親水性薬物の溶液と混合し、再び10分間超音波処理した。最後に、スルブチアミン製剤を混合物に添加し、溶液が半透明になるまで溶液全体を超音波処理した。カクテルを0.45μmシリンジフィルターで濾過し、重炭酸ナトリウム(50mEq)(0.8~1.0mL)を使用してpHを7.35~7.45に調整した。カクテルの最終体積は、約4.5mLであった。
【0143】
ビヒクルをカクテルと同様に製剤化した。ポロキサマー188の代わりに、PBS(1×、750μL)を可溶化剤として使用した。予め24時間凍結乾燥したPTS(300μL)を60℃の水浴中で15分間インキュベートし、これに1mLの1×PBSを添加した。溶液を60℃の水浴中で15分間インキュベートし、次いで5分間超音波処理した。この混合物を、1×PBS中で調製した1.5mLの4%BSAと合わせ、100μLの無水エタノールを400μLのPEGに添加した。次いで、全ての溶液を合わせ、2~3分間超音波処理した。ビヒクルも0.45μmシリンジフィルターを通して濾過し、重炭酸ナトリウムを使用してpHを7.35~7.45に調整した。
【0144】
質量分析を使用した活性カクテル成分の評価
カクテルの最終製剤を開発した後、本発明者らは、質量分析(MS)を用いて本発明者らの製剤中の薬物の安定性及び/又は分子相互作用を確認した。カクテル製剤から個々の薬物を分離するために、本発明者らは、酢酸エチルを使用する液/液抽出法
17を適用した。次いで、抽出された成分の分子量をエレクトロスプレーイオン化質量分析(electrospray ionization mass spectrometry、ESI-MS)によって分析した(
図6)。抽出のために、500μLのカクテル製剤を1000μLの酢酸エチルと混合し、次いで30秒間ボルテックスした。次いで、調製物を室温で2分間、10000gで遠心分離した。次いで、上層(酢酸エチル)を分離し、新しいバイアルに移した。更に1000μLの酢酸エチルを下層に添加し、抽出を繰り返した。合わせた有機相を窒素ガスで乾燥させた。残渣を500μLのメタノール中で再構成し、10秒間ボルテックスし、13000gで2分間遠心分離した。最終抽出物をポリプロピレンバイアルに移した。次いで、30μLの最終抽出物を注入し、LTQ XL(商標)Linear Ion Trap Mass Spectrometer(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)で分析し、Xcalibur 3.1(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)を用いてデータを分析した。
【0145】
12分間の窒息性心停止のための動物実験手順
全ての実験は、動物実験委員会(IACUC)ガイドラインの承認に従って実施した。体重400~500gの雄Sprague-Dawleyラット(Charles River Laboratory,Wilmington,MA)において仮死を誘導するための手順は、以前に公開された通りであった
18(データ補足の方法を参照)。性差によって引き起こされる効果修飾の調査は、本発明者らの試験の現在の態様をはるかに超えており、したがって、本発明者らは、性差によって影響され得る潜在的な転帰変動性を低減するために、本試験において雄動物のみを使用した。簡潔に述べると、ラットを2つの群:カクテル処置及びビヒクル処置に割り当てた。外科的準備及び12分間の窒息性CAの後、100%酸素で人工呼吸を再開し、胸骨圧迫を開始することによって蘇生を開始した
18。ラットに、ROSC直後にカクテル又はビヒクルのいずれかを与え、人工呼吸をROSCの後2時間にわたって継続した。次いで、ラットを動物収容施設に戻し、承認されたプロトコルに従って毎日のケアを提供した。ラットをROSCの最大72時間後の生存についてモニターし、神経学的評価をROSCの24、48、及び72時間後に盲検研究者によって2つのスコアリングスケールを用いて行った
19,20。72時間で、ラットを安楽死させ、ニューロン変性の組織学的分析のために全脳を採取した(
図7)。
【0146】
盲検、無作為化、プラセボ対照試験
ラット実験を無作為化及び盲検様式で実施した。カクテル及びビヒクルは、研究者Aが、過剰かつ同定不可能な様式で新たに調製した。研究者Bは、カクテル又はビヒクルを無作為に割り当て、全ての実験条件に対して盲検化した。2人の外科医、研究者C及びDは、動物手術を実施し、ROSCの成功後に盲検様式で処置を施した。12分間の窒息性CA後、蘇生プロセス中の一貫性を維持するために、研究者Aが胸骨圧迫による心肺蘇生(CPR)を実施した。ROSCの2時間後、動物は術後ケアを受け、動物収容施設に移された。神経学的評価は、研究者Eが実施した。
【0147】
蘇生の24、48及び72時間後での神経学的欠損スコア
神経学的転帰を評価するために、本発明者らは2つのスケール(スケール119及びスケール220)を使用した。神経学的欠損スケール(NDS)は、意識、脳神経機能、運動及び感覚能力、並びに全体的な協調性技能などの全体的な一般的外観を含むラットの全体的な機能を捉えようとするものである。本発明者らは、スケール1におけるバイナリ呼吸スコアの0又は100から、50を含むように変更し、100は60~120呼吸/分(BPM)の正常呼吸を示し、50は120~140BPMの呼吸を示し、0はその範囲外の呼吸パターンを示す(データ補足の表10を参照)。神経機能を、ROSCの24、48、及び72時間後に評価した(mNDSは0~500の範囲であり、0は死亡を示し、500は正常動物を示す)。0が脳死を表し、80が正常を表すように、0~80の範囲のスケールによる二次神経学的評価(スケール2)を使用した(データ補足の表11を参照)。
【0148】
組織像及び染色
ROSCの72時間後に、生存しているラットを麻酔下に置き、冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS、1X、pH=7.4)で経心腔的に灌流した。全脳を採取し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)中、4℃で固定した。PBS中の30%スクロース溶液中で凍結保存した後、連続冠状切片(14μm)をクリオスタット(CM1900、Leica)上で切断し、スライドガラス上に収集した。Nissl染色(Cresyl Violet,Acros Organics,USA)及びTUNEL(terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling)(Abcam,UK)染色を、製造業者の説明書に従って、以前に発表されたように実施した20。海馬CA1/CA3錐体ニューロンを、BX-X800明視野顕微鏡(Keyence,USA)を用いて画像化した。BX-X800アナライザー(Keyence,USA)を使用して、虚血細胞(Nissl染色)及びアポトーシス細胞(TUNEL染色)を半定量した。シャムラットを、実験ラットと同じ脳組織像のための灌流及び固定法の前に深く麻酔した。生存しているラット(シャム、ビヒクル処置、及びカクテル処置、各々n=4)の間で脳組織像を比較するために、本発明者らは、一元配置分散分析(ANOVA)を使用し、その後、事後比較のためにTukey補正を使用した。
【0149】
統計分析
連続変数についてのデータは、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として提示される。カテゴリデータは、割合と共に頻度として提示される。血行動態パラメータ測定(ビヒクル処置及びカクテル処置、各々n=14)について、差異を、反復測定二元配置ANOVA、続いて同じ群内の事後比較のためのTukey補正、及び群間の事後比較のためのSidak補正によって比較した。本発明者らは、反復測定混合効果分析を用いて、全てのラットについて乳酸及びグルコース測定値を比較し、その後、同じ群内での事後比較のためのTukey補正、又は群間の事後比較のためのSidak補正を用いて比較した。機器がいくつかの時点で誤動作し、欠測値をもたらしたため、混合効果分析を使用した。他の分析については、対応のない両側スチューデントt検定又はマン-ホイットニーU検定のいずれかを使用して、適宜、連続変数について2つの独立群を比較した。最大72時間生存するラットの割合を、ログランク検定を用いて評価して、2群間の生存曲線を比較した。生存の予備分析(データ補足の
図11を参照)は、CAの72時間後での平均生存率が、ビヒクル処置ラットにおいて25%であり、カクテル処置ラットにおいて85%であることを示した。したがって、本発明者らは、2群間の生存における60%の差を検出するために、各生存試験について1群当たり14匹のラットが適切であると予想した(α=0.05、β=0.2[検出力=80%]、両側)。統計的有意性はP<0.05に設定した。GraphPad Prismバージョン8.4(GraphPad Software Inc.,La Jolla,CA,USA)及びSPSSバージョン23.0(SPSS Inc.,Chicago,IL,USA)を統計分析に使用した。
【0150】
結果
多剤カクテルの予備分析
カクテル製剤は、開発中に複数回の繰り返しを必要とした。本発明者らは、最終カクテルを作製する前に、様々な製剤及び組み合わせを用いて8回の予備試験を行った(データ補足の表9を参照)。各試験は、対照及びCAラットにおけるカクテルの機能性及び潜在的な副作用に関する情報を提供した。各予備試験で、(1)注入速度が血行動態変動を最小限に抑えるべきであること、(2)pHが重炭酸ナトリウムで調整されるべきであること、及び(3)ATP-塩化マグネシウムがその降圧作用のために除去されるべきであることなどの修正点が判明した。数回の試行の後、最終薬物カクテルを製剤化した。
【0151】
図6は、カクテル薬物の質量スペクトルを示し、メトホルミン、エダラボン、ゾニポリド、シクロスポリンA、N-アセチルシステイン、及びビタミンCが無傷で安定であることを示す。
【0152】
この結果は、カクテルの有効性を評価するための盲検実験の基礎となった。最初に、非盲検予備試験により、ビヒクル処置ラット(n=5)とカクテル処置ラット(n=6)との間の生存及び神経保護の差を決定した(合計11匹のラットについて)。ラットに12分間の窒息性CAを行い、ROSCに達した直後に、それらにビヒクル又はカクテルのいずれかを注射した。次いで、本発明者らは、これらのラットにおける生存、神経機能、血行動態、グルコース、及び乳酸の差を評価した(
図11~
図13)。これらの予備実験は、改善された生存及び神経機能を実証した。
【0153】
カクテルは生存を改善し、窒息性心停止後の神経機能障害及び脳損傷を軽減する
窒息性CAの72時間後、生存率は、ビヒクル処置ラットにおいて28.6%(5/14)であり、カクテル処置ラットにおいて78.6%(12/14)であり、カクテル療法が生存率を有意に改善したことを示した(P=0.006)(
図8A)。生存動物を、ROSCの24時間後、48時間後、及び72時間後に、2つの神経学的スケール(スケール1及びスケール2、データ補足の表II及びIIIを参照)で神経機能について評価した。ROSCの24時間後、スケール1からのスコアは、ビヒクルで処置した生存ラット(212.5±25.8)に対してカクテルで処置した生存ラット(297.3±17.7)において有意に高かった(P=0.014)(
図8B)。ROSCの48時間後に、本発明者らは、統計的に有意ではないが、群間で改善傾向が認められ、カクテル群では、神経機能の保持が潜在的に大きいことを示した(P=0.082)(
図8B)。ROSCの72時間後、神経機能は、ビヒクルで処置したラット(265.0±14.4)に対してカクテルで処置した生存ラット(341.4±15.1)において有意に高かった(P=0.004)(
図3B)。スケール2でも、ROSCの24時間後(P=0.190)、48時間後(P=0.037)、及び72時間後(P=0.013)に、ビヒクル処置ラットに対してカクテル処置ラットにおいて、神経機能が有意に改善された(
図8C)。これらの結果は、カクテル療法が、CA損傷の重度モデルのラットにおける神経機能障害を軽減したことを支持するものである。
【0154】
本発明者らは、Nissl染色及びTUNEL染色を用いた組織学的分析によって、ビヒクル処置ラット及びカクテル処置ラットにおける脳形態を評価した。左大脳半球の海馬CA1及びCA3領域において、本発明者らは、Nissl染色で虚血細胞を検出し、TUNEL染色でアポトーシス細胞を検出した。海馬の両方の領域において、虚血ニューロンの平均数は、シャムラットよりもビヒクル処置ラットにおいて有意に高く、ビヒクル処置ラットに対してカクテル処置ラットにおいて有意に低かった(
図9A)。同様に、TUNEL陽性細胞の平均数は、シャムラットに対してビヒクル処置ラットの海馬の両方の領域において有意に高く、ビヒクル処置ラットに対してカクテル処置ラットにおいて有意に低かった(
図9B)。これらのデータから、カクテルが、ラットにおける重度のCA損傷の72時間後に脳の形態学的変化を有意に軽減したことが裏付けられる。
【0155】
カクテルは、窒息性心停止後の生理学的特性、血行動態、及び動脈血化学を向上させる
本発明者らは、ビヒクル処置ラット及びカクテル処置ラットの一般的な生理学的特性を評価した(表7~表8)。ベースライン特性、CAに達する時間、又はROSCに達する時間は、ビヒクル処置ラットとカクテル処置ラットとの間で有意差を示さなかった(表7)。動脈血化学分析は、ビヒクル処置ラットとカクテル処置ラットとの間に最小の差を示した。酸素の分圧(pO2)は、ROSCの20分後で、ビヒクル処置(384.08±35.93mmHg)ラットに対してカクテル処置(227.93±30.22mmHg)ラットにおいて有意に低かった(P<0.005)。酸素飽和度(SaO2)は、ROSCの40分後で、ビヒクル処置(98.50±0.36%)ラットに対してカクテル処置(94.86±1.27%)ラットで有意に低かった(P<0.05)(表8)。乳酸レベルは、ROSCの20分後で、ビヒクル処置(3.28±0.25mmol/l)ラットに対して、カクテル処置(4.13±0.15mmol/l)ラットにおいて有意に高く、ROSCの40分後で維持されていた(カクテル処置、2.87±0.40mmol/l;ビヒクル処置、1.61±0.21mmol/l、P<0.05)(
図10A)。血中グルコースレベルは、ROSCの20分後でビヒクル処置(287.77±18.29mg/dL)ラットに対してカクテル処置(377.50±21.37mg/dL)ラットにおいてより高く(P<0.05)、レベルは、両群ともROSCの120分後まで低下し続けた(
図10B)。乳酸及びグルコースレベルは最初にROSC後に増加したが、両群ともベースラインに向かって時間依存的な減少傾向があった。
【表7】
略語:CPRは心肺蘇生を示し、HCO3-は重炭酸塩を示し、pCO2は二酸化炭素の分圧を示し、pO2は酸素分圧を示し、ROSCは自己心拍再開を示し、SaO2は酸素飽和度を示す。
*P<0.05及び
**P<0.005対ビヒクル。
†データは平均値±SEMとして表した。
【表8】
略語:CPRは心肺蘇生を示し、HCO3-は重炭酸塩を示し、pCO2は二酸化炭素の分圧を示し、pO2は酸素分圧を示し、ROSCは自己心拍再開を示し、SaO2は酸素飽和度を示す。
*P<0.05及び
**P<0.005対ビヒクル。
†データは平均値±SEMとして表した。
【0156】
ベースラインと比較して、平均動脈圧(MAP)は、ROSCの30分後で両群とも増加した(ビヒクル処置、ベースライン時の88.41±3.94mmHgに対して30分で121.64±2.94mmHg、P<0.0001、カクテル処置:ベースライン時の89.07±3.63mmHgに対して30分で104.38±3.76mmHg P<0.05)(
図10C)。ROSCの30分後に、MAPは、ビヒクル処置ラット(121.64±2.94mmHg、P<0.05)に対してカクテル処置ラット(104.38±3.76mmHg)において著しく低かった。両群とも、MAPは、ROSCの120分後までにベースライン値に戻った。ベースライン値と比較して、心拍数(HR)は、ROSCの120分後に両群ともより高かった(ビヒクル処置、ベースライン時の313.79±13.47bpmに対して120分で358.54±8.15bpm、P<0.05、カクテル処置、ベースライン時の295.94±12.08bpmに対して120分で347.74±8.05bpm、P<0.005)(
図10D)。HRは、ROSCの60分後においてのみ2群間で有意差があった(P<0.01)。ビヒクル処置ラットでは、HRはROSCの60分後で最も高く、次いでベースラインに戻ったが、カクテル処置ラットでは、HRは全時間経過中、ベースライン値に近いままであった(
図10D)。
【0157】
考察
この試験において、本発明者らは、CAを処置するための新規なカクテル療法を開発した。盲検無作為化対照試験において、本発明者らは、窒息性CAの重度損傷モデルにおける新たに製剤化されたカクテル療法の効力を試験した。本発明者らの結果は、カクテルがこれらのラットにおいて72時間生存並びに神経学的機能及び脳形態を実質的に改善したことを示し、カクテル介入がCA後の神経学的に無傷な生存を改善することを支持するものである。12分のCAモデルを使用することは、(1)高い死亡率を有し、生存ラットの大部分が重度の神経機能障害を示すと予想され、及び(2)従来のCPRを使用して蘇生させることができる、重度の損傷を誘導することを支援し、これらの2つの因子は、本発明者らのカクテル療法の有効性の検証にこのモデルを使用することを支持するものである。カクテル介入と共にこの重度のCAモデルを実施することは、1つの変化を標的とする1つの療法でCAを治療するパラダイムを、複数の変化を同時に標的とするカクテル療法を使用することにシフトすることを支持するものである。
【0158】
多剤カクテルを開発するために、本発明者らは、虚血再灌流傷害に対する適度な神経保護を提供することが個々に示されている異なる薬物を製剤化した12, 21-24。複数の薬物を1つのカクテルに製剤化する作業は、治療有効性の最大化と潜在的な副作用の最小化との間のバランスのために複雑である。これは、候補製剤を試験するための多くの試験において観察された。
【0159】
最終製剤について、本発明者らは、製剤中の薬物の保存を確認するためにMSを使用した。MS分析により、カクテル中のメトホルミン、エダバロン、ゾニポリド、シクロスポリンA、N-アセチルシステイン、及びビタミンCの存在が確認された。
【0160】
更に、MS分析は、微量の製剤溶媒PEGを除いて、いかなる新しいピークも検出しなかった25。この所見から、検出可能な薬物相互作用がシステムに存在しないと考えられる。生存転帰と共に、カクテル投与後の血行動態及び血液化学の変化をモニターした。開発中に、いくつかの製剤は、転帰不良をもたらす様々な治療効果及び副作用を示した。様々な試験の後、本発明者らは、MAP及びHRなどの血行動態、並びにpH、pCO2、及びpO2などの血液化学パラメータをベースラインに近いレベルに維持する製剤を開発した。これは、CAが極めて異常な生理機能を生み出し、生存は、この重症度を最小限に抑えることに基づくことから、重要である。本発明者らのデータは、カクテルがこの目標を達成することができるが、乳酸レベルにいくらかの変化があったことを示しており、更なる改善の余地がまだあることを示唆している。
【0161】
併用薬物療法は、複数の成分を標的とすることにより、よりロバストな転帰応答をもたらすことができるという概念を用いて、感染症、糖尿病、がん、脂質異常、リウマチ性疾患を含む広範囲の疾患について議論されている26,27。CAに対する機械的、技術的、及び薬学的介入の進歩にもかかわらず、生存率は低いままである28。この低い生存率は、脳がミトコンドリア機能不全3,8、活性酸素種の生成の増加3、代謝破壊8,9、及び神経炎症の増加29などの因子によって重度に影響を受けるため、神経学的保護の欠如に起因し得る。いくつかの研究が、SS-31、サルブリナール、若しくはシクロスポリンAなどの単一薬剤療法、又はATP-塩化マグネシウム、エタノール-エピネフリン-バソプレッシン(HBN-1)、若しくはアルゴン-キセノンなどのいくつかの薬剤のいくつかの組み合わせのいずれかのCA後の神経保護を評価してきた30,31。多剤療法アプローチは、CA後にいくらかの良好な生存及び神経学的転帰をもたらすようであるが、これらの療法の多くは、全体的な損傷を軽減する複雑さを克服することができず、最小限の治療的利益しか提供せず、したがって、ヒト患者には適用されてこなかった。ブタ心室細動CAのモデルにおける1つの研究は、エピネフリン、バソプレシン、アミオダロン、重炭酸ナトリウム、及びメトプロロールを含有する「カクテル」の迅速投与が、エピネフリン、バソプレシン、アミオダロン、及び重炭酸ナトリウムの連続投与よりも、より多くの副作用及びより悪い短期的な転帰を生じるようであることを示唆した32。これは、薬物の数を増加させた初期の試験であったが、それらのカクテル設計は、単一療法での組み合わせではなく、CA後に薬剤を迅速に投与するものであった。
【0162】
創薬のために平均12年の時間及びかなりの量の資源が必要であることから33、本発明者らは、十分に研究された薬剤を1つのカクテル製剤に再利用することは、魅力的かつ実現可能なアプローチであると考える。本発明者らの研究は、CA後の転帰を改善するための単一療法としての多剤カクテルの可能性を示すことによって、CA後神経保護におけるこれらの以前の試みを基礎にして前に進むものである。生存及び神経保護の良好な結果にもかかわらず、本発明者らの研究は、いくつかの制限に関連して解釈されるべきである。第1に、個々の薬物を使用した転帰を比較することなく、カクテルとビヒクルとの間でCA後の好ましい転帰を比較した。本発明者らの目的は、複数の経路を同時に標的化することであり、以前の研究は、本発明者らのカクテル中の全ての薬物を単回投与で既に使用していたため、個々の薬物試験を控えることを選択した。第2に、カクテル中の各成分の提案された機構を更に調査する必要がある。これらの薬物は、意図された作用を行って治療効力を付与するが、この製剤で投与された場合に、未知の又は新たに確立されたもののいずれかである他の作用機構を有する可能性がある。第3に、本発明者らのMS分析は、スルブチアミン、SS-31、CoQ10、又はポロキサマー188を検出しなかったが、それは、これらの薬物が構造的に複雑であり、非常に不均一であるためである。現在、カクテル中のこれらの化合物を同定するためのより厳密な方法論を開発している。
【0163】
CA後の生存は、脳以外の他の臓器がどの程度保護されるかに依存するため、本発明者らの将来の目標は、カクテルが他の器官における損傷に対してどのように保護し得るかを決定すること、及び個々の薬物の連続注射と比較したカクテルの治療効力を評価することである。本発明者らの制限のいくつかに関して、これは、げっ歯類CAの重症モデルにおいて神経学的に無傷な生存を実質的に改善するために、CA後の様々な傷害媒介性変化を標的化するための証拠に基づく10種の別個の薬学的薬剤を単一の治療に組み合わせた新規な多剤カクテルの最初の報告である。
【0164】
結論
本発明者らの試験は、CA後の虚血-再灌流傷害に関与する様々な個々の経路を標的とすることが証明された10種の薬物を組み合わせた多剤カクテルの開発及び製剤を記載する。このカクテルは、致死性の高い心停止のげっ歯類モデルにおいて72時間で神経学的無傷生存率を改善した。本発明者らの結果は、アプローチを、現在の単剤療法から、多剤カクテルを用いてCAによって影響を受ける複数の経路を同時に治療して、神経保護及び生存率の改善を図るアプローチへ変更することを支持するものである。
【0165】
補足的方法
化学薬品及び試薬
薬物:メトホルミン(Sigma-Aldrich,USA)、ATP-塩化マグネシウム(Sigma-Aldrich,USA)、N-アセチルシステイン(Sigma-Aldrich,USA)、ポロキサマー188(Sigma-Aldrich,USA)、CoQ10(Cayman Chemical,USA)、シクロスポリンA(Cayman Chemical,USA)、エダラボン(Sigma-Aldrich,USA)、SS-31(Genemed Synthesis,USA)、スルブチアミン(Toronto Research Chemical,Canada)、ビタミンC(Cayman Chemical,USA)、及びゾニポリド(Toronto Research Chemical,Canada)。
【0166】
12分間の窒息性CAについての詳細な動物実験手順
成体雄Sprague-Dawleyラット(400~500 g)をCharles River Laboratory(Wilmington,MA,USA)から入手し、水及び食物に自由にアクセスできる12時間の明/暗サイクルでFeinstein Institutes for Medical Researchの動物センターに収容した。ラットを4%イソフルレン(Isothesia,Butler-Schein AHS)で麻酔し、14ゲージプラスチックカテーテル(Surflo,Terumo Medical Corporation,NJ,USA)を挿管し、2%イソフルレン下で人工呼吸を行った。左大腿動脈及び静脈にポリエチレンカテーテル(PE50,BD Intramedic,USA)をカニューレ挿入して、平均動脈圧をモニターし、薬物注入を補助した。外科的準備及びヘパリン(300IU)の注射の後、PowerLab及びLabChart(ADInstruments,USA)を使用して、MAP、HR、及び呼気終末CO2(ETCO2)などのベースラインの生理学的パラメータを記録した。CAの手順は、ベクロニウム臭化物(2mg/kg体重、Hospira,USA)を静脈カテーテルを通して4分間かけてゆっくり注射することから開始した。窒息性CAは、人工呼吸器を停止し、次いでイソフルランを中止することによって誘導した。窒息性CAの12分後、蘇生を開始し、人工呼吸を100%酸素で再開し、胸骨圧迫を開始した。CPRの開始時に、エピネフリン(20μg/kg、International Medication System,Limited,USA)を静脈カテーテルを通して急速注射した。60mmHgを超えるMAPとして定義されるROSCに動物が達するまで、CPRを継続した。ROSCがCPR開始後5分以内に起こらなかった場合、ラットを試験から除外した。血行動態記録をROSCの2時間後まで継続した。
【0167】
血液試料を、ベースライン時、ROSC時、並びにROSCの20分後、40分後及び120分後に大腿動脈から得た。動脈血ガスを分析するために、ベースライン時、並びにROSCの20分後及び40分後に、pH、pCO2、pO2、重炭酸塩、乳酸塩、及びSaO2飽和を測定した。ベースライン時、ROSC時、並びにROSCの20分後、40分後、及び120分後に血中グルコースを測定した。次いで、ROSCの120分後に、動物を抜管し、カニューレを除去し、縫合し、皮下生理食塩水及びBuprenex(ブプレノルフィン、0.03mg/kg体重、Par Pharmaceutical,USA)を含む術後ケアを実施した。動物を動物収容施設に戻し、承認されたプロトコルに従って毎日のケアを提供した。動物を72時間生存についてモニターし、ROSCの24、48、及び72時間後に、盲検化された研究者によって2つのスコアリングスケールを用いて神経機能を評価した。次いで、ラットを安楽死させ、ニューロン変性の組織学的分析のために全脳を採取した。
データ補足
【表9】
略語:ATP-MgCl2はアデノシン三リン酸-塩化マグネシウムを示し、PBSはリン酸緩衝生理食塩水を示す。
【表10】
*Neumar et al.,1995から採用。
【表11】
*Jia et al.2008に記載。
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41.Lamoureux L,et al.Circulation.2014;130:A148-A148。
【0168】
上記は特定の好ましい実施形態に言及しているが、本発明はそのように限定されないことが理解されるであろう。当業者であれば、開示された実施形態に対して様々な改変を行うことができ、そのような改変は本発明の範囲内にあることが意図されていることに気付くであろう。
【0169】
本明細書に引用される全ての刊行物、特許出願及び特許は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。更なる実施形態は、以下の特許請求の範囲に記載される。
【国際調査報告】