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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】肺高血圧向けの吸入式イマチニブ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20231124BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20231124BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20231124BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231124BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20231124BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231124BHJP
   C07D 401/04 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P11/00
A61P9/12
A61K9/72
A61K9/14
A61K9/19
A61K47/22
C07D401/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530064
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 US2021059553
(87)【国際公開番号】W WO2022108939
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】63/114,781
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】511266520
【氏名又は名称】ユナイテッド セラピューティクス コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】522466614
【氏名又は名称】マンカインド コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】アダム マーク シルバースタイン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ポイッソン
(72)【発明者】
【氏名】アジェイ ケシャバ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジェイ.フリーマン,ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ミルズ
【テーマコード(参考)】
4C063
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC29
4C063DD12
4C063EE01
4C076AA30
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC11
4C076CC15
4C076DD60
4C076DD60F
4C076FF01
4C076FF32
4C076FF34
4C076FF68
4C076GG02
4C076GG06
4C076GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA43
4C086MA44
4C086MA70
4C086NA10
4C086NA11
4C086NA14
4C086ZA42
4C086ZA59
(57)【要約】
イマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体の乾燥粉末吸入投与を含む、肺高血圧の治療方法が提供される。イマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体を含んでいる乾燥粉末吸入可能組成物、並びにその製造方法もまた提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入法によって、それを必要としている対象に対して、イマチニブ又はその医薬的に許容される塩を含んでいる組成物の治療的有効量を投与することを含む、肺高血圧を治療する方法。
【請求項2】
前記組成物が、乾燥粉末組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥粉末組成物が、ジケトピペラジンをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記投与が、乾燥粉末吸入器を使用して実施される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥粉末吸入器が、1mg~200mgのイマチニブ又はその医薬的に許容される塩を含んでいるコンテナを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
単回投与事象が、1mg~200mgのイマチニブ又はその医薬的に許容される塩の単回用量を投与することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記単回用量が、1~3回の呼吸で投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記投与が、1~3回の単回投与事象を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、総乾燥重量で約1重量%~約60重量%のイマチニブ又はその医薬的に許容される塩の濃度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物がメシル酸イマチニブを含んでいる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象がヒトである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
治療的有効量のイマチニブ又はその医薬的に許容される塩、及び任意選択で1若しくは複数の賦形剤を含んでいる、乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項13】
前記組成物が、総乾燥重量で約1重量%~約60重量%のイマチニブ又はその医薬的に許容される塩の濃度を有する、請求項12に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項14】
前記組成物が、約0.1~約10μmの粒度を含む、請求項12又は13に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項15】
前記1若しくは複数の賦形剤が、約0.1重量%~約99重量%のジケトピペラジンを含んでいる、請求項12~13のいずれか一項に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項16】
前記ジケトピペラジンがFDKPである、請求項15に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項17】
メシル酸イマチニブを含んでいる、請求項12~16のいずれか一項に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項18】
請求項12~17のいずれか一項に記載の乾燥粉末組成物を含んでいる、乾燥粉末吸入器。
【請求項19】
1 mg~200mgの前記組成物を含んでいる、請求項18に記載の乾燥粉末吸入器。
【請求項20】
単回用量の乾燥粉末組成物を含有しているコンテナを含む、請求項18又は19に記載の乾燥粉末吸入器。
【請求項21】
T懸濁液又はXC懸濁液にイマチニブを加えることを含む、請求項12~17のいずれか一項に記載の乾燥粉末吸入可能組成物を調製する方法。
【請求項22】
前記イマチニブが、メシル酸イマチニブの水溶液として加えられる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
界面活性剤の存在下でFDKPを結晶化することによってT懸濁液を形成すること、又は粒子へと自己集合しないFDKP結晶の懸濁液をスプレードライすることによってXC懸濁液を形成すること、を含む、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
T懸濁液又はXC懸濁液にイマチニブを加えた後、それを凍結乾燥することをさらに含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本願は、2020年11月17日に出願された米国特許仮出願第63/114,781号に対する優先権を主張するものであり、そしてそれをあらゆる目的のために参照により本明細書に援用する。
【0002】
本願は、治療処置、より具体的には、肺高血圧を治療するための、乾燥粉末吸入法などの吸入法を使用したイマチニブを投与することを伴う治療方法のための、方法、組成物、及びキットに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
全ての血液は、何よりも酸素を補給するために、肺循環を介して肺の中を通るが、その酸素は、体循環を介してその他の身体部分周辺にある血液流路に配分される。両循環を通る流れは正常な状況では等しいが、肺循環中にその流れに加わる抵抗は、体循環の抵抗よりは一般にはるかに小さい。肺血流に対する抵抗が増加すると、その循環における圧力は、任意の特定の流れに対して増大する。前記の状態を、肺高血圧(PH)と称する。一般には、肺高血圧は、同じ標高に居住し、同様の活動に従事している大多数の人々に相応しい正常範囲を超えた圧力の観察により規定される。
【0004】
肺高血圧は種々の理由により起こり得るものであり、肺高血圧の各種構成要素が、最新のWHO協定に従って、臨床的及び病理的根拠に基づいて5種の区分に分類された。例えば、Simonneau G., et al. J. Am. Coll. Cardiol. 2004; 43(12 Suppl S):5S-12Sを参照のこと。肺高血圧は、肺塞栓による血流障害、肺の中を通過した後の血液を扱う際の心弁もしくは心筋の機能障害、肺疾患もしくは高い標高による肺胞低酸素症に対する反射応答としての肺血管内径の減少、又は先天異常における血液のバイパス化や肺組織の外科的除去などの血管容量と必須血流との不適合など、明白又は説明可能な抵抗増加の兆候であり得る。加えて、HIVなどのある種の感染症及び門脈圧亢進症を伴う肝疾患も、肺高血圧の原因になり得る。膠原血管病などの自己免疫疾患も、肺血管の狭窄をしばしば起こし、相当数の肺高血圧患者の一因となる。抵抗増加の原因が未だ説明できない肺高血圧の症例の残りは、特発性(原発性)肺高血圧(iPAH)と定義され、続発性肺高血圧の原因を除くことにより、その後で診断され、大多数の例では骨形成タンパク質受容体-2遺伝子の遺伝子突然変異に関係している。特発性肺動脈高血圧の症例は、肺高血圧専門の大型施設で療養している患者の約40%という認識可能な割合を構成する傾向がある。最も一般的な患者の約65%が女性及び若年の成人であるが、子供及び50歳過ぎの患者にも発症してきた。診断時からの平均余命は、特別の処置をしなければ短く、約3~5年であるが、診断プロセスの特質によっては、自然寛解及び寿命延長の報告を時折期待することができる。しかし、一般的に、疾患は失神を経て容赦なく進行し、右心不全及び死が突然襲ってくることが非常に多い。
【0005】
肺高血圧とは、肺動脈圧(PAP)の正常レベルを超えた上昇に付随する状態を指す。人間では、通常の平均PAPは約12~15mmHgである。一方、肺高血圧は、右心カテーテル測定で評価した場合、25mmHgを超える平均PAPと定義することができる。肺動脈圧は、重度型の肺高血圧では全身圧レベルに達する恐れがあり、又はそれを凌ぐ恐れさえある。肺静脈うっ血のために、すなわち左心不全又は左心弁機能不全においてPAPが著しく増加すると、血漿は、毛細血管から肺間質及び肺胞中に脱け出ることができる。その結果、肺中での体液蓄積(肺浮腫)が起こり、それに伴って、一部の症例では致命的にもなり得る肺機能の低下を起こす恐れがある。しかし、肺浮腫は、この疾患の他の全ての構成要素において、肺血管変化による肺高血圧の重度の場合でさえも特徴とは限らない。
【0006】
肺高血圧には、急性の場合も慢性の場合もあり得る。急性肺高血圧は、低酸素症(高所病におけるような)、アシドーシス、炎症又は肺塞栓などの状態が引き金となり得る、肺血管の平滑筋の収縮を一般的原因とする潜在的に可逆的な現象であることもよくある。慢性肺高血圧は、肺血管の断面積の減少を起こす肺血管系の大きな構造変化を特徴とする。これの原因には、例えば、慢性低酸素症、血栓塞栓症、膠原血管病、左右短絡による過剰肺循環、HIV感染症、門脈圧亢進症、又は遺伝子突然変異と特発性肺動脈高血圧におけるような未知の原因との併発がなり得る。
【0007】
肺高血圧は、成人呼吸窮迫症候群(「ARDS」)及び新生児持続性肺高血圧(「PPHN」)などの幾つかの生命に危険を及ぼす臨床症状に関与してきた。Zapol et al., Acute Respiratory Failure, p.241-273, Marcel Dekker, New York (1985); Peckham, J. Ped. 93: 1005 (1978)。主に満期出産乳児が罹る疾患のPPHNは、肺血管抵抗の上昇、肺動脈高血圧、及び新生児心臓の動脈管開存及び卵円孔開存による血液の左右短絡を特徴とする。致死率は12~50%の範囲にある。Fox, Pediatrics 59:205 (1977); Dworetz, Pediatrics 84:1 (1989)。肺高血圧は、「肺性心」又は肺性心疾患の名で知られている潜在的に致死性の心臓病も最終的に発症する恐れがある。Fishman, “Pulmonary Diseases and Disorders” 2nd Ed., McGraw-Hill, New York (1988)。
【0008】
イマチニブは、多くのチロシンキナーゼ(TK)酵素の特異的阻害剤として機能する。それはTK活性部位を塞ぎ、そして、活性低下につながる。体内にはインスリン受容体を含めた多くのTK酵素がある。イマチニブは、abl(エーベルソン癌原遺伝子)、c-キット及びPDGH-R(血小板由来増殖因子受容体)のTKドメインに特異的である。PDGHリガンド及び受容体の異常な発現とシグナル伝達は、肺動脈高血圧、肺癌及び特発性肺線維症(IPF)などの数種類の結合織障害や肺疾患(PAH)に関連している。
【発明の概要】
【0009】
概要
一実施形態は、それを必要としている対象に対して吸入法によって、例えば、イマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体、を含めたチロシンキナーゼ阻害剤を含む、組成物の治療的有効量を投与することを含む、肺高血圧を治療する方法である。
【0010】
別の実施形態は、治療的有効量のイマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体、及び任意選択で、1若しくは複数の賦形剤を含む、乾燥粉末吸入可能組成物である。例示的な実施形態において、乾燥粉末吸入可能組成物は、医薬的に許容される賦形剤としてジケトピペラジンの結晶性粒子を含む。
【0011】
一実施形態において、治療的有効量のイマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体、及び任意選択で、1若しくは複数の賦形剤を含む、乾燥粉末組成物などの吸入可能医薬組成物を送達するための乾燥粉末吸入器などの吸入器が提供される。いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、吸入器に適合又は取り付けできるカプセル又はカートリッジから乾燥粉末組成物を送達するために構造的に構成され得る。
【0012】
一実施形態において、乾燥粉末吸入器は、乾燥粉末医薬組成物の使用及び送出中に、吸入器内での粉末のエアロゾル化を開始するように呼吸-作動又は活性化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1A~1Cは、粉末のイマチニブ含有量が、吸入器から放出される粉末の幾何的粒度分布にどのように影響するかを示す。そのプロットは、分布の3つのカットポイントを追跡する:x50(中央値)(図1B)と対数正規分布の中央値から約±1の標準偏差に対応するポイント(x16(図1A)、及びx84(図1C))。
図1B図1A~1Cは、粉末のイマチニブ含有量が、吸入器から放出される粉末の幾何的粒度分布にどのように影響するかを示す。そのプロットは、分布の3つのカットポイントを追跡する:x50(中央値)(図1B)と対数正規分布の中央値から約±1の標準偏差に対応するポイント(x16(図1A)、及びx84(図1C))。
図1C図1A~1Cは、粉末のイマチニブ含有量が、吸入器から放出される粉末の幾何的粒度分布にどのように影響するかを示す。そのプロットは、分布の3つのカットポイントを追跡する:x50(中央値)(図1B)と対数正規分布の中央値から約±1の標準偏差に対応するポイント(x16(図1A)、及びx84(図1C))。
図2図2は、結晶性担体(XC)粉末中のイマチニブ含有量の関数としてイマチニブの推定の肺用量を示す。
図3図3は、時間の関数としてラット血漿サンプル中のイマチニブの濃度を示す。
図4図4は、肺切片の識別を図式的に例示する。
図5図5は、時間の関数として図4で識別されたラット肺切片中のイマチニブの濃度に関するプロットを示す。エラーバーは未掲載。
図6図6は、図4で識別されたラット肺切片中のイマチニブの濃度を示す。
図7図7は、図4で識別されたラット肺切片中のイマチニブの濃度を示す。より低濃度が見えるように目盛りを設定した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の詳細な説明
例えば、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、及びスニチニブ、を含めたチロシンキナーゼ阻害剤の治療的有効量は、吸入デバイスを使用した吸入法によって投与され得るが、それは、肺高血圧に対する効果的な治療としての、乾燥粉末吸入器などの、コンパクトな吸入デバイスであってもよい。いくつかの実施形態において、イマチニブは、乾燥粉末組成物として乾燥粉末吸入器を使用して投与される。さらに、斯かる投与用量は、顕著な副作用、例えば、肺浮腫又は硬膜下血腫、を引き起こさない。
【0015】
治療方法
【0016】
従って、例示的な一実施形態は、吸入法によって治療的有効量のイマチニブ、その誘導体、又はその医薬的に許容される塩を含む組成物を対象に投与することを含む、治療的有効量のイマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体を、肺高血圧に罹患している対象、例えばヒトなど、に送達する方法である。いくつかの実施形態において、その組成物は、イマチニブによって治療され得る、肺高血圧などの状態又は疾患に罹患している対象に乾燥粉末吸入器によって投与され得る乾燥粉末吸入可能組成物である。
【0017】
別の実施形態は、肺高血圧を治療する方法であって、乾燥粉末吸入器を使用して、乾燥粉末組成物の状態で、イマチニブ、その誘導体、又はその医薬的に許容される塩を、それを必要としている対象、例えばヒトなど、に投与することを含む方法である。
【0018】
メシル酸イマチニブは、STI-571としても知られている。イマチニブの分子量は493.603であり、そしてその実験式はC29H31N7Oである。イマチニブ、又は4-[(4-メチルピペラジン-1-イル)メチル]-N-[4-メチル-3-[(4-ピリジン-3-イルピリミジン-2-イル)アミノ]フェニル]ベンズアミドは、以下の式:
【化1】
を有する。
【0019】
イマチニブは、特定のタイプの癌を治療するのに使用される小分子キナーゼ阻害剤である。それは、そのメシル酸塩であるメシル酸イマチニブ(INN)としてGleevec(登録商標)(USA)又はGlivec(登録商標)(ヨーロッパ/オーストラリア)としてNovartisによって現在販売されている。それは、慢性骨髄性白血病(CML)、消化管間質腫瘍(GIST)及び多くの他の悪性腫瘍を治療する際に使用される。
【0020】
イマチニブは、米国特許第5,521,184号に最初に記載された。米国特許公報第US20110190313A1号は、肺高血圧の治療のためのイマチニブの使用を記載する。米国特許公報第US20150044288A1号は、肺高血圧と他の状態の治療のための吸入法によるイマチニブの投与を記載する。
【0021】
本開示はまた、イマチニブ、又はその誘導体、又はその医薬として許容される塩を使用する方法も包含する。一実施形態において、方法は、Gleevec(登録商標)という商品名で現在販売されているメシル酸イマチニブを使用する。FDAは、慢性骨髄性白血病(CML)、消化管間質腫瘍、再発又は難治性フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病(Ph+ALL)、血小板由来増殖因子受容体遺伝子再配列に関連する脊髄形成異常/骨髄増殖性疾患、D816V c-KIT突然変異を伴わない又は未知のD816V c-KIT突然変異を伴った侵襲性の全身性肥満細胞症、FIP1L1-PDGFRα融合キナーゼ(CHIC2対立遺伝子欠失)を有するか又はFIP1L1-PDGFRα融合キナーゼ陰性若しくは不明であるヒトの特発性好酸球増加症候群及び/又は慢性好酸球性白血病、切除不能、再発及び/又は転移性隆起性皮膚線維肉腫の治療のためにメシル酸イマチニブを承認した。
【0022】
特定の実施形態において、イマチニブは、1又は複数の追加の活性剤と組み合わせて投与することができる。いくつかの実施形態において、このような1又は複数の追加の活性剤は、定量吸入器又は乾燥粉末吸入器を用いてイマチニブと共に投与することもできる。さらにいくつかの実施形態において、このような1又は複数の追加の活性剤は、イマチニブとは別々に投与することができる。いくつかの実施形態において、別々の投与は、経口、経鼻、舌下、頬側、静脈内、筋肉内、経皮、(すなわち、計量投与又は乾燥粉末吸入器を介した)液体若しくはガスエアロゾル吸入、直腸、又は腟から選択され得る。イマチニブと組み合わせて投与され得る特定の追加の活性剤は、その治療又は予防のためにイマチニブを投与する特定の疾患又は状態、例えば、肺高血圧、に依存し得る。いくつかの症例において、追加の活性剤は、アムロジピンなどのカルシウムチャネル遮断薬;アンブリセンタン、ボセンタン、又はマシテンタンなどのエンドセリン受容体拮抗薬;シルデナフィル又はタダラフィルなどのホスホジエステラーゼ5型阻害剤;エポプロステノール、イロプロスト、又はトレプロスチニルなどのプロスタサイクリン誘導体;或いはセレキシパグなどのプロスタサイクリンIP受容体作動薬である。
【0023】
特定の実施形態において、本開示はまた、イマチニブの生理的に許容される塩、並びに本発明の薬理活性化合物の調製に使用され得る、イマチニブの生理的に許容できない塩を使用する方法まで拡大されている。
【0024】
「医薬的に許容される塩」という用語は、イマチニブの無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸、又は塩基性若しくは酸性のアミノ酸との塩を指す。いくつかの実施形態において、イマチニブの塩は、無機酸、有機酸、又は酸性アミノ酸を用いた塩である。いくつかの実施形態において、イマチニブの塩の形態の対イオンは、酢酸塩、アセトニド、アラニン、アルミニウム、アルギニン、アスコルビン酸塩、アスパラギン、アスパラギン酸、ベンザチン、安息香酸塩、ベシル酸塩、重硫酸塩、重亜硫酸塩、酒石酸水素塩、ブロミド、カルシウム、炭酸塩、樟脳スルホン酸塩、セチルピリジニウム、クロリド、クロロテオフィリン酸塩、コリネート、クエン酸塩、システイン、デオキシコール酸塩、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、二リン酸塩、二プロピオン酸塩、ジサリチル酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート、エチルアミン、エチレンジアミン、エタン二スルホン酸塩、フマル酸塩、グルセプテート、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、馬尿酸塩、ヒスチジン、臭化水素酸塩、塩酸塩、水酸化物、ヨウ化物、イセチオン酸塩、イソロイシン、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリル硫酸塩、ロイシン、リジン、マグネシウム、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メグルミン、メシル酸塩、メタ重硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、メチオニン、臭化メチル、硫酸メチル、p-オキシ安息香酸メチル、ムチン酸塩、ナフトアート、ナプシラート、硝酸塩、亜硝酸塩、オクタデカノアート、オレイン酸塩、オルニチン、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペンテト酸塩、フェニルアラニン、リン酸塩、ピペラジン、ポリガラクツロン酸塩、カリウム、プロカイン、プロリン、プロピオン酸塩、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル、サッカリン、サリチル酸塩、セレノシステイン、セリン、銀、ナトリウム、ソルビタン、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、スルホサリチル酸塩、酒石酸塩、スレオニン、トシル酸塩、トリエチルアミン、トリエチオジド、トリフルオロ酢酸塩、トリオレイン酸塩、トロメタミン、トリプトファン、チロシン、吉草酸塩、バリン、キシナホ酸塩、又は亜鉛である。いくつかの実施形態において、イマチニブの塩の形態は、メシル酸イマチニブ(imanitib)であってもよい。いくつかの実施形態において、イマチニブの塩は、フマル酸イマチニブであってもよい。いくつかの実施形態において、イマチニブ(imanitib)の塩は、塩酸イマチニブであってもよい。いくつかの実施形態において、イマチニブ塩は、リン酸イマチニブ(imanitib)であってもよい。
【0025】
いくつかの実施形態において、イマチニブ塩は、結晶形態態であってもよい。例えば、いくつかの実施形態において、メシル酸イマチニブ(imanitib)は、結晶形態であってもよい。いくつかの実施形態において、フマル酸イマチニブは、結晶形態であってもよい。いくつかの実施形態において、塩酸イマチニブは、結晶形態であってもよい。いくつかの実施形態において、リン酸イマチニブ(imanitib)は、結晶形態であってもよい。
【0026】
いくつかの実施形態において、イマチニブは、イマチニブ又はその塩を含む溶液、懸濁液、粉末を含有し得る、パルス吸入デバイスなどの吸入デバイスによって投与されてもよい。例えば、斯かる溶液又は懸濁液は、ネブライザ及び/又は定量吸入器などの吸入デバイスによるエアロゾル化又は霧化するために使用されてもよい。パルス吸入デバイスは、例えば、米国特許出願公開第20080200449号、米国特許第9,358,240号;同第9,339,507号;同第10,376,525号;及び同第10,716,793号において開示され、そのそれぞれを参照により本明細書に援用する。
【0027】
本文脈における定量吸入器とは、イマチニブなどの呼吸器用薬物の定量又はボーラス量を肺へ送達できるデバイスを意味する。吸入デバイスの一例には、加圧式定量吸入器、すなわち、呼吸器用薬物の溶液及び/又は懸濁液から吸入用エアゾール雲霧を生成するデバイスであり得る。いくつかの実施形態において、エアロゾル雲霧は、クロロフルオロカーボン(CFC)及び/又はハイドロフルオロアルカン(HFA)の溶液中の、イマチニブ又はその塩などの呼吸器用薬物の溶液から形成されてもよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、吸入デバイスは、単回投与吸入デバイスであってもよく、そしてそれは、イマチニブ又はその塩などの呼吸器用薬物の単回投与又は反復投与、例えば2回以上の用量を伴ったカプセル又はカートリッジなどの単位用量コンテナであってもよい。いくつかの実施形態において、斯かるデバイスは、乾燥粉末吸入器であってもよい。
【0029】
いくつかの実施形態において、吸入デバイスは、乾燥粉末吸入器であってもよい。いくつかの実施形態において、パルス吸入デバイスなどの吸入デバイスは、乾燥粉末吸入器であってもよく、そしてそれは、イマチニブ又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなど、を含む乾燥粉末組成物又は製剤を含有し得る。いくつかの実施形態において、イマチニブ(imanitib)又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなど、に加えて、乾燥粉末組成物は、(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジンなどのジケトピペラジン(FDKP)を促進してもよい。さらに特定の実施形態において、乾燥粉末組成物は、イマチニブ(imanitib)又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなど、及びジケトピペラジン、例えば(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジン(FDKP)などから成ってもよい。さらに特定の実施形態において、イマチニブ(imanitib)又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなど、及びジケトピペラジン、例えば(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジン(FDKP)などに加えて、乾燥粉末組成物は、医薬的に許容し得る担体及び/又は賦形剤、例えばアミノ酸、例えば、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、メチオニン及びグリシン;トレハロース、マンニトール、及びラクトースを含めた糖、をさらに含み得る。一実施形態において、乾燥粉末組成物は、粒子の密度を低下させることによって処方をエアロゾル化する際に支援するために、スプレードライ前に、最大約25%(w/w)、そして約1%(w/w)~約25%、又は2.5%~20%(w/w)、又は5%~15%(w/w)の範囲に及ぶ量の1若しくは複数のリン脂質、例えば、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)又は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)をさらに含み得る。さらに特定の実施形態において、イマチニブ(imanitib)又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなど、及びジケトピペラジン、例えば(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジン(FDKP)などに加えて、乾燥粉末組成物は界面活性剤を含んでもよい。いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物は、イマチニブ(imanitib)又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなどに、ジケトピペラジン、例えば(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジン(FDKP)など、及び界面活性剤だけを含有し得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、例えば、(そのそれぞれが全体として参照により本明細書中に援用される)WO2010/152477又は米国特許第8,636,001号において開示されている乾燥粉末吸入器であってもよい。ジケトピペラジン、例えば(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジン(FDKP)を含む組成物を送達するための乾燥粉末吸入器の使用は、例えば、(そのそれぞれが全体として参照により本明細書に援用される)WO2019/237028及び米国特許第8,508,732号において開示されている。
【0031】
乾燥粉末組成物は、直径が10マイクロメートル;又は9ミクロン未満、8ミクロン未満、7ミクロン未満、6ミクロン未満、5ミクロン未満、4ミクロン未満若しくは3マイクロメートル未満の平均粒度を有し得る。粒度は、レーザー回折技術を含めた多くの技術を使用して測定されてもよい。いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物は、0.5ミクロン~10ミクロン、1ミクロン~8ミクロン、1ミクロン~5ミクロン、1ミクロン~4ミクロン、1.5ミクロン~4ミクロン、若しくは2ミクロン~3ミクロン又はこれらの範囲内の任意の値若しくは部分的範囲の平均粒度を有し得る。いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物の50%の粒子は、10ミクロン未満、8ミクロン未満、7ミクロン未満、6ミクロン未満、5ミクロン未満又は4ミクロン未満のサイズを有し得る。いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物の90%の粒子は、10ミクロン未満、8ミクロン未満、7ミクロン未満、6ミクロン未満又は5ミクロン未満のサイズを有し得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、WO2010/152477又は米国特許第8,636,001号で開示されている乾燥粉末吸入器などの乾燥粉末吸入器から放出されたときに乾燥粉末組成中の16%の粒子が、4ミクロン未満、3.5ミクロン未満、3ミクロン未満、2.5ミクロン未満又は2ミクロン未満のサイズを有し得る。例えば、乾燥粉末吸入器から放出される乾燥粉末組成物中の16%の粒子は、0.5ミクロン~4ミクロン、0.5ミクロン~3.5ミクロン、0.5ミクロン~3.0ミクロン、0.5ミクロン~2.5ミクロン、0.5ミクロン~2ミクロンのサイズを有し得る。いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器から放出される乾燥粉末組成物中の50%の粒子は、20ミクロン未満、18ミクロン未満、15ミクロン未満、12ミクロン未満、10ミクロン未満、8ミクロン未満、7ミクロン未満、6ミクロン未満又は5ミクロン未満のサイズを有し得る。例えば、乾燥粉末吸入器から放出される乾燥粉末組成物中の50%の粒子は、0.5ミクロン~20ミクロン、0.5ミクロン~15ミクロン、0.5ミクロン~10ミクロン、0.5ミクロン~8ミクロン、0.5ミクロン~7ミクロン、0.5ミクロン~6ミクロン又は0.5ミクロン~5ミクロンのサイズを有し得る。いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器から放出されるとき、乾燥粉末組成物中の84%の粒子は、60ミクロン未満、55ミクロン未満、50ミクロン未満、45ミクロン未満、40ミクロン未満、35ミクロン未満、30ミクロン未満、25ミクロン未満、22ミクロン未満、21ミクロン未満又は20ミクロン未満のサイズを有し得る。例えば、乾燥粉末吸入器から放出されるとき、乾燥粉末組成物中の84%の粒子は、0.5ミクロン~60ミクロン、0.5ミクロン~50ミクロン、0.5ミクロン~45ミクロン、0.5ミクロン~40ミクロン、0.5ミクロン~35ミクロン、0.5ミクロン~30ミクロン、0.5ミクロン~25ミクロン、0.5ミクロン~22ミクロン、0.5ミクロン~21ミクロン又は0.5ミクロン~20ミクロンのサイズを有し得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末は、無定形粉末、複数の結晶性粒子、又は実質的に均一な結晶性複合粒子を含む。いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物は、以下の式:
【化2】
を有する化合物などのジケトピペラジンから作られた非結晶性、結晶性又は結晶性複合粒子を含む。
【0034】
(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジン、又は二ナトリウム塩、マグネシウム塩、リチウム及びカリウム塩を含めたその医薬的に許容される塩。
【0035】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物などの組成物は、乾燥粉末吸入器などの吸入デバイスを使用した1若しくは複数回の吸入において1用量あたりの全重が投与される、約1mg~約800mg、約1mg~約200mg、約1mg~約100mg、約0.15mg~約50mgの量の組成物、又はイマチニブ若しくはその医薬的に許容される塩を、必要としている患者に投与することを含んでもよい。特定の実施形態において、乾燥粉末組成物などの組成物の総重量は、単回投与あたり又は単回投与事象あたり約1mg~約200mg、約1mg~約100mg、約5mg~約80mg又は約1mg~30mg;2 mg~20mg、又は3mg~10mgのイマチニブ又はその医薬的に許容される塩の範囲に及び得る。いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器などの吸入デバイスを使用して投与されるイマチニブ又はその医薬的に許容される塩は、約1mg~約800mg、約1mg~約200mg、約1mg~約100mg又は約1mg~約50mgの組成物又はイマチニブもその医薬的に許容される塩であってもよい。日用量は、1若しくは複数、例えば2、3、4、5など、又は単回投与事象、で投与されてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、0.1mg~200 mg、1mg~100mg、5mg~80mg又は0.2mg~30mg;0.3mg~20mg又は0.5mg~10mgのイマチニブの用量を患者の肺(「肺用量」)に送達し得る。乾燥粉末吸入器を介して患者の肺に送達されるイマチニブの用量は、肺高血圧などの肺の状態を治療するのに有効であり得る。例えば、有効用量は、肺高血圧を患っている対象が6分間の歩行試験の間に少なくとも5m、少なくとも10m又は少なくとも20m距離を延長できるようにし得る。いくつかの実施形態において、治療後に、対象は、6分間の歩行試験の間に少なくとも100m歩行することができるようになり得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、0.1mg/kg(患者の体重(質量))~50mg/kg、0.5mg/kg~25mg/kg、1mg/kg~20mg/kg、1mg/kg~10mg/kg又は2mg/kg~10mg/kg、或いはこれらの範囲内の任意の値又は部分的範囲のイマチニブの用量を患者の肺(「肺用量」)に送達し得る。
【0038】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、少なくとも20ng/ml、少なくとも50ng/ml、少なくとも100ng/ml、少なくとも200ng/ml、少なくとも300ng/ml、少なくとも400ng/ml、少なくとも500ng/ml、少なくとも600ng/ml、少なくとも700ng/ml、少なくとも800ng/ml、少なくとも1000ng/ml、少なくとも1200ng/ml、少なくとも1500ng/ml、少なくとも1800ng/ml、少なくとも2000ng/ml、少なくとも2200ng/ml、少なくとも2500ng/ml、少なくとも2800ng/ml、少なくとも3000ng/ml、少なくとも3500ng/ml、少なくとも4000ng/ml又は少なくとも4500ng/mlのイマチニブの肺濃度を提供するように、イマチニブの用量を患者の肺に送達し得る。
【0039】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、投与事象の1時間後に、少なくとも20ng/ml、少なくとも50ng/ml、少なくとも100ng/ml、少なくとも200ng/ml、少なくとも300ng/ml、少なくとも400ng/ml、少なくとも500ng/ml又は少なくとも600ng/mlのイマチニブの肺濃度を提供するように、イマチニブの用量を患者の肺に送達し得る。
【0040】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、投与事象の5時間後に、少なくとも20ng/ml、少なくとも30ng/ml、少なくとも40ng/ml、少なくとも50ng/ml又は少なくとも60ng/mlのイマチニブの肺濃度を提供するように、イマチニブの用量を患者の肺に送達し得る。
【0041】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器は、投与事象の8時間後に、少なくとも10ng/ml、少なくとも15ng/ml、少なくとも20ng/ml、少なくとも21ng/ml、少なくとも22ng/ml、少なくとも23ng/ml、少なくとも24ng/ml、少なくとも25ng/ml、少なくとも26ng/ml又は少なくとも27ng/mlのイマチニブの肺濃度を提供するように、イマチニブの用量を患者の肺に送達し得る。
【0042】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物は、約1wt%~約60wt%、2wt%~55wt%、2.5wt%~50wt%、5wt%~50wt%又は10wt%~40wt%、或いはこれらの範囲内の値又は部分的範囲のイマチニブ又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなど、を含み得る。いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物は、約5wt%~約50wt%、約5wt%~約30wt%又は約10wt%~約20wt%のイマチニブ又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなど、及びジケトピペラジン、例えば(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジンなどの粒子を含む。いくつかの実施形態において、乾燥粉末組成物は、粒子とイマチニブ又はその塩、例えばメシル酸イマチニブなど、との懸濁液をスプレードライすることによって作製される、結晶性複合担体粒子を含む。いくつかの実施形態において、斯かる組成物は、1用量あたり最大約800μg、約5mg、約10mg、約20mg、約40mg又は約80mgのイマチニブを含んでもよく、そしてそれは、乾燥粉末吸入器用のカプセル又はカートリッジで提供され得る。いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入器用のコンテナ、例えばカプセル又はカートリッジなど、で提供される組成物、或いはイマチニブ又はその塩の用量は、1mg~200mg、1mg~150mg、1mg~100mg又は5mg~80mgであり得る。
【0043】
定量吸入器はソフトミスト吸入器 (SMI)でもよく、その場合、呼吸器用薬物を含有するエアゾール雲霧は、呼吸器用薬物を含有する溶液を1個のノズル又は一連のノズルの中を通過させることにより、生成することができる。エアゾール生成は、SMIにおいて、例えば機械的、電気機械的又は熱機械的プロセスにより実現することができる。ソフトミスト吸入器の例には、Respimat(登録商標)吸入器(Boeringer Ingelheim GmbH)、AERx(登録商標)吸入器(Aradigm Corp.)、Mystic(商標)吸入器(Ventaira Pharmaceuticals,Inc)及びAira(商標)吸入器(Chrysalis Technologies Incorporated)が挙げられる。ソフトミスト吸入器の技術に関する総説については、例えばM. Hindle, The Drug Delivery Companies Report, Autumn/Winter 2004, pp.31-34を参照されたい。SMI用のエアゾールは、医薬的に許容される賦形剤をさらに含有する呼吸器用薬物の溶液から生成することができる。本事例では、呼吸器用薬物は、イマチニブ、その誘導体、又は医薬的に許容されるその塩であり、SMI中で溶液として製剤化することができる。該溶液は、例えば、水、エタノール又はそれらの混合液中のイマチニブの溶液とし得る。イマチニブ含有エアゾール粒子の直径は、約10ミクロン未満、又は約5ミクロン未満、又は約4ミクロン未満であることが好ましい。
【0044】
定量吸入器又は乾燥粉末吸入器で使用される、乾燥粉末などのエアロゾル可能組成物中のイマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体の濃度は、約500μg/g~約2500μg/g、約800μg/g~約2200μg/g、又は約1000μg/g~約2000μg/g(イマチニブのμg単位の濃度/乾燥粉末のg数)の範囲に及び得る。定量吸入器で使用される、溶液などのエアロゾル可能組成物中のイマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体の濃度は、約500μg/ml~約2500μg/ml、約800μg/ml~約2200μg/ml、又は約1000μg/ml~約2000μg/mlの範囲に及び得る。
【0045】
単回事象において、乾燥粉末吸入器などの吸入デバイスを使用して投与できる、イマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体の用量(吸入器の単回のポンプ又は放出)は、合計で最大約1mg~約200mg、約1mg~約100mg、又は約1mg~約50mg(の乾燥粉末又はイマチニブ)であり得る。特定の実施形態において、単回事象によって投与される乾燥粉末組成物の総重量は、用量あたり約1mg~約200mg、約1mg~約100mg、約5mg~約80mg、約1mg~30mg;約2mg~20mg、又は3 mg~10mg(の乾燥粉末又はイマチニブ)の範囲に及び得る。
【0046】
その方法における医薬的有効量のイマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体、例えば、約0.1mg~約1mg、約1mg~約5mg、約5mg~約10mg、約10mg~約20mg、約20mg~約50mg、約50mg~約100mg、又は約100mg超であり得る。イマチニブの有効量は、対応する乾燥粉末吸入器を用いた使用のための1若しくは複数のカプセル又はカートリッジで提供され得る。
【0047】
もちろん、投薬量は、対象の年齢、体重、種、感受性、症状、又は治療の有効性に従って変更されてもよい。
【0048】
単回事象におけるイマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体の投与は、患者による限定数の呼吸で実施され得る。例えば、イマチニブは、20回以下の呼吸(吸入法)、19回以下の呼吸、18回以下の呼吸、17回以下の呼吸、16回以下の呼吸、15回以下の呼吸、14回以下の呼吸、13回以下の呼吸、12回以下の呼吸、11回以下の呼吸、10回以下の呼吸、9回以下の呼吸、8回以下の呼吸、7回以下の呼吸、6回以下の呼吸、5回以下の呼吸又は4回以下の呼吸で投与され得る。例えば、イマチニブは、3、2又は1回の呼吸で投与されてもよい。単回投与事象の合計時間は、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満又は1分未満、或いは45秒未満、30秒未満又は20秒未満であり得る。イマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体は、1日あたり1回(単回投与事象)、或いは1日あたり数回(単回投与事象)、例えば2回、3回又は4回など、投与され得る。
【0049】
さらに別の実施形態において、イマチニブ、その医薬的に許容される塩又は誘導体は、1日約5回、1日約4回、1日約3回、約半日、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、11、約12、約13、又は約14日に1回投与される。別の実施形態において、イマチニブ、その医薬的に許容される塩又は誘導体は、1日1回、1日おきに1回、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回、隔週、又は数日に1回投与される。
【0050】
いくつかの実施形態において、その方法は、肺高血圧の1若しくは複数の症状の軽減又は排除をもたらしてもよい。その症状は、呼吸困難、疲労感、浮動性めまい、胸痛、水腫、チアノーゼ、及び心臓動悸から選択されてもよい。軽減は、1若しくは複数の医学的に認められた技術によって計測された場合に、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は約100%であってもよい。
【0051】
いくつかの実施形態において、投与は、対象に対する全身性副作用を含まない。いくつかの実施形態において、全身性副作用は、対象に対する同じ用量又は量の乾燥粉末吸入投与以外と比較した場合に、低減される。全身性副作用は、硬膜下血腫、水腫、胃部不快、筋骨格痛、筋痙攣、浮動性めまい、視力障害、無食欲、嘔吐、下痢症状、ヘモグロビン減少、皮疹、及び眠気のうちの1若しくは複数から選択され得る。
【0052】
いくつかの実施形態において、乾燥粉末吸入投与以外と比較した場合の全身性副作用の軽減は、1若しくは複数の医学的に認められた技術によって計測された場合、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、又は約100%である。乾燥粉末投与以外は、経口、経鼻、舌下、頬側、静脈内、筋肉内、経皮、液体又はガスエアロゾル吸入、直腸、又は経腟から選択されてもよい。
【0053】
医学的に認められた技術は、Stanisic et al., Neurosurgery. 2017 Nov.; 81(5):752-760に記載のBorgスケール、数値評定スケール、視覚的アナログスケール、Fatigue Severity Scale、Dizziness Assessment Rating Scale(DARS)、SVEAT Chest Pain Scoring System、EKG、Holterモニター、Epworth Sleepiness Scale(ESS)、コンピュータ断層撮影(CTスキャン)、磁気共鳴画像化(MRIスキャン)、成人下痢症状況スコア(ADSS)、Chronic Subdural Hematoma等級付けシステム、或いは(1)ピットの深さ及び3つの位置における回復の臨床的評価、(2)患者アンケート、(3)足首の円周、(4)8字形(8個の足首/足目印を使用した足首の円周)、(5)水腫テスター(血圧計カフを用いて足首に押し付けられる、様々なサイズの穴を備えたプラスチックカード)、(6)変法水腫テスター(隆起がある水腫テスター)、(7)(一連の足首/足の円周による)間接的な足体積、及び(8)水置換法による足/足首の体積、から成る方法1~8による水腫評価、から選択されてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態において、肺高血圧の治療法は、フローラン、イロプロスト、ベラプロスト又はトレプロスチニルなどのプロスタサイクリン(prostacyclcins)、シルデナフィル、タダラフィル、カルシウムチャンネル遮断剤(ジルチアゼム、アムロジピン、ニフェジピン)、ボセンタン、シタキセンタン、アンブリセンタン及び医薬的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される、少なくとも1種の補助活性剤を投与することをさらに含むことができる。いくつかの実施形態において、該補助活性剤はイマチニブ組成物中に含めることができ、したがって、乾燥粉末吸入器などの吸入デバイスを用いてイマチニブと同時に投与することができる。いくつかの実施形態において、該補助剤は、イマチニブと別々に投与することができる。いくつかの実施形態において、定量吸入器を用いた吸入により投与されるイマチニブの他に、静注プロスタサイクリン(フローラン)、静注、皮下、経口又は吸入トレプロスチニル、静注イロプロスト、又は静注若しくは皮下注イマチニブの施用を行うことができる。
【0055】
組成物とその作製方法
【0056】
別の態様において、乾燥粉末吸入可能組成物が提供され、そして、該組成物は、イマチニブ、その医薬的に許容される塩、又は誘導体、及び任意選択で、1若しくは複数の賦形剤を含む。
【0057】
その固形乾燥形態の組成物に関して、賦形剤もまた、イマチニブ、その塩、又は誘導体がその中に分散されている固体マトリックスを形成する。好ましい実施形態において、主たる賦形剤は、(E)-3,6-ビス[4-(N-カルボニル-2-プロペニル)アミドブチル]-2,5-ジケトピペラジン、フマリルジケトピペラジン(FDKP)、又はその塩である。該賦形剤は、結晶性粉末、結晶性複合粉末を形成するの適切なサイズの結晶を得るように加工されても、又は非晶質粉末を得るように溶解されてもよい。
【0058】
該組成物は、ラクトース、トウモロコシデンプンなどの賦形剤、ステアリン酸マグネシウムなどの流動促進剤、乳化剤、懸濁剤、安定化剤、及び等張剤などを含んでもよい。所望されるなら、甘味剤及び/又は着香料が加えられてもよい。代表的な賦形剤としては、これだけに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、硬化ヒマシ油(HCO)、クレモホル、炭水化物、デンプン(例えば、トウモロコシデンプン)、無機塩、抗微生物剤、抗酸化剤、結合剤/増量剤、界面活性剤、滑沢剤 (例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム)、タルクなどの流動促進剤、崩壊剤、希釈剤、緩衝剤、酸、塩基、フィルムコート、こられの組み合わせなどが挙げられる。該組成物で使用され得る可溶性賦形剤のその他の例は、アリテーム、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、シクラミン酸ナトリウム、スクラロース、トレハロース、キシリトール、クエン酸、酒石酸、シクロデキストリン、デキストリン、ヒドロキシエチルセルロース、ゼラチン、リンゴ酸、マルチトール、マルトデキストリン、マルトース、ポリデキストロース、酒石酸、重炭酸ナトリウム又はカリウム、塩化ナトリウム又はカリウム、クエン酸ナトリウム又はカリウム、リン脂質、ラクトース、スクロース、グルコース、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、天然型アミノ酸、アラニン、グリシン、セリン、システイン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、トレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、アルギニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、プロリン、それらの塩、並びに、例えばN-アセチルシステインやカルボシステインなどのそれらの可能性のある簡単な化学修飾物であってもよい。
【0059】
好ましい可溶性賦形剤は、塩化ナトリウム又は塩化カリウムなどのアルカリ金属塩、及びラクトースなどの糖である。特定の炭水化物賦形剤としては、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボースなどの単糖;ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなどの二糖;ラフィノース、メレチトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなどの多糖;並びにマンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトールなどのアルジトール、が挙げられる。
【0060】
いくつかの実施形態において、該賦形剤は界面活性剤を含む。該組成物の界面活性剤は、様々なクラスの医薬用途の界面活性剤の中から選択できる。
【0061】
使用するのに好適な界面活性剤は、通常、有機溶媒中に容易に可溶性であるが、水中に弱溶性又は不溶性である疎水性部分、及び有機溶媒中に弱溶性又は不溶性であるが、水中に容易に可溶性である親水性(極性)部分を含む中又は低分子量を特徴とするそれらの物質のすべてである。界面活性剤は、それらの極性部分に従って分類される。そのため、陰性荷電極性部分を有する界面活性剤は、陰イオン界面活性剤と呼ばれるが、それに対して、陽イオン界面活性剤は、陽性荷電極性部分を有する。非荷電界面活性剤は、一般に非イオン性と呼ばれるが、それに対して、陽性と陰性の両方に荷電した界面活性剤は双性イオン性と呼ばれる。陰イオン界面活性剤の例は、脂肪酸の塩(セッケンとしてよりよく知られている)、スルファート、スルファートエーテル、及びリン酸エステルである。陽イオン界面活性剤は、アミノ基を含有する極性基に基づいていることが多い。最も一般的な非イオン性界面活性剤は、オリゴ-(エチレン-オキシド)基を含有する極性基に基づいている。双性イオン性界面活性剤は、一般に、四級アミンと硫黄又はカルボキシル基によって形成される極性基によって特徴づけられる。
【0062】
本出願の具体例は、以下の界面活性剤:塩化ベンザルコニウム、セトリミド、ドキュセートナトリウム、グリセリルモノラウレート、ソルビタンエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、リン脂質、胆汁塩である。
【0063】
ポリソルベートやポリエチレン、及び「ポロキサマ」として知られているポリオキシプロピレンブロック共重合体などの非イオン性界面活性剤が使用されてもよい。ポリソルベートは、ソルビトールと、エチレンオキシドと縮合したソルビトール無水物脂肪酸エステルとの混合物とCTFA International Cosmetic Ingredient Dictionaryに記載されている。「Tween」として知られている一連の非イオン性界面活性剤、特に「Tween80」、ポリオキシエチレンソルビタンとして知られている界面活性剤が、特に好ましい。追加の例示的な賦形剤としては、他のポリソルベート、例えば「Tween20」及びF68やF88(その両方がBASF, Mount Olive, N.J.から入手可能)などのプルロニック、ソルビタンエステル、脂質(例えば、レシチンや他のホスファチジルコリン、及びホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質)、脂肪酸や脂肪酸エステル、コレステロールなどのステロイド、並びにEDTA、亜鉛や他の斯かる好適な陽イオンなどのキレート剤などの界面活性剤が挙げられる。
【0064】
界面活性剤、好ましくはTween80、の存在は、それを伴わない組成物に見られる静電荷、粉末の流量、及び初期結晶化を伴わない均質方法における固体状態のメインテナンス、を低減するのに必須であり得る。リン脂質は、上記の定義の界面活性剤又は賦形剤に含まれてもよい。
【0065】
吸入製剤は、湿度に対する敏感さを軽減するために疎水性物質を含み得る。斯かる疎水性物質は、好ましくはロイシンであり、そしてそれは、粒子の離解をより容易にする。
【0066】
粉末形態での固体生成物の製造の場合には、これは、製薬業において十分に確立された様々な技術を使用して生じ得る。スプレードライによる微粒子の調製は、例示的な一実施形態となり得る。工業生産の場合には、この技術は、(現在、使用される装置、並びに収率と製造時間の両方に関して最も高価な乾燥工程である)凍結乾燥より好まれるのは確かである。
【0067】
医薬組成物は、pH緩衝液や保存料などの他の成分を含み得る。緩衝剤としては、これだけに限定されるものではないが、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム一塩基性、リン酸ナトリウム二塩基性、及びその組み合わせ、が挙げられる。
【0068】
さらに、本明細書中に開示された組成物は、任意選択で、1若しくは複数の酸又は塩基を含み得る。使用できる酸の制限されることのない例としては、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される酸が挙げられる。適切な塩基の制限されることのない例としては、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フマル酸カリウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される塩基が挙げられる。
【0069】
該賦形剤としては、抗酸化剤、例えば、アスコルビルパルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒド・スルホキシル酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及びその組み合わせを含んでもよい。
【0070】
「乾燥粉末」という用語は、時間内の組成物の化学的安定性を保証する湿度含有量を有する粉末、粒状物、錠剤形態の組成物、又はその他の固体を指す。より正確には、「乾燥」という用語は、10% w/w未満、通常5%未満及び好ましくは3%未満の水分含量を有する固体組成物を指す。
【0071】
乾燥粉末組成物の任意の賦形剤の量は、広範囲の中で変更できる。該組成物中の個別の賦形剤の量は、賦形剤の役割、活性薬剤成分の投与量要件、及び該組成物の特定の必要性によって変わる。しかし、一般的には、約1重量%~約99重量%、好ましくは約5重量%~約98重量%、より好ましくは約15~約95重量%の量の賦形剤が組成物中に存在する。一般的に、本開示の組成物中に存在する賦形剤の量は、以下の:少なくとも約2重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、さらには95重量%、から選択される。
【0072】
本開示はまた、乾燥粉末吸入器と、イマチニブ、その誘導体、又は医薬的に許容される塩を含む医薬組成物を含有するプレフィルド単位用量カートリッジとを含むキットを提供する。斯かるキットは、イマチニブを吸入するための吸入器の使用法に関する使用説明書をさらに含む。該キットは、喘息、肺高血圧、末梢血管障害又は肺線維症などのイマチニブで処置できる疾患又は病状に罹っている、人間などの対象により使用することができる。
【0073】
場合によっては、該キットは、以下の:(i)吸入デバイス、例えば乾燥粉末吸入器など、及びイマチニブ、その誘導体、又は医薬的に許容される塩を含む医薬組成物を含有するプレフィルド単位用量カートリッジ;並びに(ii)肺高血圧を治療する際にイマチニブを含有する、乾燥粉末吸入器などの吸入デバイスを使用するための取扱説明書、を含む、肺高血圧を治療するためのキットである。特定の実施形態において、該キットは、複数のプレフィルド単位用量カートリッジを含有するブリスターを含み得る。
定義
【0074】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、別段関係が明確に指示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されなければならない。特許請求の範囲は、いかなる任意の要素も除外するように起草され得ることにさらに留意されたい。したがって、この記述は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連して「専ら」、「唯一」などのような排他的な用語の使用、又は「否定的な」制限の使用のための根拠としての役割を果たすことを意図している。
【0075】
本明細書中に使用される場合、「含んでいる」又は「含む」という用語は、組成物及び方法が、列挙された要素を含むが、他の要素を排除しないことを意味することを意図する。本明細書中に定義される要素「から本質的に成る」組成物又は方法は、特許請求した技術の(単数若しくは複数の)基本的な及び新規の特徴に物質的に影響しないその他の材料又はステップを除外するものではない。「から成る」とは、微量元素を超える他の構成要素及び実質的な方法ステップを除外することを意味するものとする。これらの移行用語のそれぞれによって定義される実施形態は、この技術の範囲内にある。ある実施形態がこれらの用語(例えば「含む」)によって定義されるとき、この開示はまた、代替実施形態、例えば前記実施形態に関して「から本質的に成る」及び「から成る」など、も含むことが理解されなければならない。
【0076】
「肺高血圧」とは、肺高血圧のすべての形態、WHOグループ1~5、を指す。肺動脈高血圧はまた、PAHとも称され、WHOグループ1の肺高血圧を指す。PAHとしては、特発性、遺伝性、薬物又は毒素誘発性、及び新生児の遷延性肺高血圧(PPHN)を含む。
【0077】
「硬膜下血腫」又はSDHとは、本明細書中に使用される場合、硬膜の内部層と、脳を囲んでいる髄膜のクモ膜との間の血液貯留が集積する、出血の一種を指す。
【0078】
「水腫」とは、本明細書中に使用される場合、例えば、対象の身体の一部の、膨張を指す。
【0079】
「乾燥粉末吸入投与以外」とは、本明細書中で使用される場合、乾燥粉末製剤の吸入法を除いたいずれかの投与経路を指す。例としては、経口、経鼻、舌下、頬側、静脈内、筋肉内、経皮、液体又はガスエアロゾル吸入、直腸、或いは膣内投与が挙げられる。
【0080】
「対象」とは、治療、観察又は実験の対象であった又は対象となる、(ヒトを含めた)哺乳類などの動物を指す。「対象」と「患者」は、別段に示さない限り、互換的に使用してもよい。本明細書中に記載した方法は、ヒト治療及び/又は獣医学的適用において有効であり得る。いくつかの実施形態において、対象は哺乳類である。いくつかの実施形態において、対象はヒトである。
【0081】
「治療的有効量」や「有効量」という用語は、互換的に使用され、そして、斯かる治療を必要としている患者(例えば、ヒト)に、1若しくは複数の用量で投与されたときに、以下で定義した治療を達成するのに十分な化合物の量を指す。治療的有効量は、適任の処方者又は介護者によって決定されるとおり、患者、治療される疾患、患者の体重及び/又は年齢、疾患の重症度、又は投与の様式に依存して変動する。
【0082】
「治療」又は「治療すること」という用語は、以下の:(i)発病、すなわち、発症していない疾患の臨床的症状の誘起の遅延、又はその発生の遅延;(ii)疾患の阻害、すなわち、臨床的症状の発生の停止;及び/又は(iii)疾患の緩和、すなわち、臨床的症状又はその重症度の軽減の誘起、の目的のために、本明細書中に開示される化合物の投与を意味する。
【0083】
別段に定義されない限り、場合本明細書中に使用されるすべての技術用語及び学術用語は、この現存の技術が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載したものに類似又は同等のあらゆる方法及び材料もまた現存の技術の実施又は試験に使用できるが、代表的な事例的方法及び材料を本明細書中に記載した。
【0084】
本明細書で使用する場合、「取扱説明書」という語句は、吸入により肺高血圧を処置するために、イマチニブ若しくはその誘導体、又は医薬的に許容されるその塩を投与することに関する、FDA指令の任意のラベル、使用説明書又はパッケージ内挿入書きを意味するものとする。取扱説明書は、例えば、これだけに限定されるものではないが、肺高血圧の兆候、イマチニブで軽減できる肺高血圧に関連する個別症状の確認、肺高血圧を患っている対象に対する推奨投与量、並びに乾燥粉末吸入器などの吸入デバイス、及びカートリッジの使用に対する、或いは個人の呼吸調整及び吸入デバイスの使用を伴った作動に対する説明書を含んでもよい。
【0085】
本明細書中で使用される場合、「誘導体」とは、米国特許第5,521,184号に記載の化合物(その開示を参照により本明細書に援用する)、又はイマチニブに対応する化合物、式中:1若しくは複数の芳香族NはCR1で置換され;1若しくは複数の芳香族CHはNで置換され;1若しくは複数のCHはCR1で置換され;1若しくは複数のNHはO、S、又はNR1で置換され;1若しくは複数の第三の非芳香族NはCR1で置換され;及び/又はイマチニブの1若しくは複数のアリール基は異なるアリール又はヘテロアリール基で置換され;ここで、各R1は独立に、ヒドロキシル、任意選択で置換されたアミノ、ハロ、任意選択で置換されたC1-C6アルキル、任意選択で置換されたC2-C6アルケニル、任意選択で置換されたC2-C6アルキニル、任意選択で置換されたC3-C7シクロアルキル、任意選択で置換されたC3-C7ヘテロシクリル(hetereocyclyl)、任意選択で置換されたC1-C6アルコキシ、任意選択で置換されたアリール、アシルオキシ、アシルアミノ、アシル、又は任意選択で置換されたヘテロアリールである、を指し得る。
【0086】
「置換された」とは、以降に定義された任意の基での置換を指し得る。
【0087】
「複素環」、「複素環式」、「ヘテロシクロアルキル」又は「ヘテロシクリル」とは、1~10個の環炭素原子、及び窒素、硫黄、又は酸素から成る群から選択される1~4個の環ヘテロ原子を有する、飽和又は部分飽和であるが、芳香族でない基を指す。複素環は、単環、或いは融合、架橋又はスピロ環系を含めた複数の縮合環、を包含する。融合環系では、1若しくは複数の環が、シクロアルキル、アリール、又はヘテロアリールであり得るが、但し、取付点は非芳香族環を経由する。一実施形態において、複素環基の(単数若しくは複数の)窒素及び/又は硫黄原子は、任意選択で酸化されて、N酸化物、スルフィニル、又はスルホニル部分を提供する。
【0088】
「置換された複素環式」、「置換されたヘテロシクロアルキル」又は「置換されたヘテロシクリル」とは、1~5個又は好ましくは1~3個の、置換されたシクロアルキルについて定義されるのと同じ置換基で置換されるヘテロシクリル基を指す。
【0089】
「ハロ」又は「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードを指す。
【0090】
「ヒドロキシ」又は「ヒドロキシル」は、基-OHを指す。
【0091】
「ヘテロアリール」とは、環内の1~10個の炭素原子、及び酸素、窒素、及び硫黄から成る群から選択される1~4個のヘテロ原子の芳香族基を指す。斯かるヘテロアリール基は、単環(例えば、ピリジニル又はフリル)又は複数の縮合環(例えば、インドリジニル又はベンゾチエニル)を有することができ、ここで、該縮合環は、芳香族であっても又はそうでなくてもよく、及び/又はヘテロ原子を含有するが、但し、その取付点は、芳香族ヘテロアリール基の原子を経由する。一実施形態において、ヘテロアリール基の(単数若しくは複数の)窒素及び/又は硫黄環原子は、任意選択で酸化されて、N酸化物(N→O)、スルフィニル、又はスルホニル部分を提供する。特定の非限定的な例としては、ピリジニル、ピロリル、インドリル、チオフェニル、オキサゾリル、チゾリル、及びフラニルが挙げられる。
【0092】
「置換されたヘテロアリール」とは、置換されたアリールについて定義された置換基と同じ群から成る群から選択される、1~5個、好ましくは1~3個、又はより好ましくは1~2個の置換基で置換されるヘテロアリール基を指す。
【0093】
複素環及びヘテロアリールの例としては、これだけに限定されるものではないが、アゼチジン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、ジヒドロインドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチルピリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、イソチアゾール、フェナジン、イソオキサゾール、フェノキサジン、フェノチアジン、イミダゾリジン、イミダゾリン、ピペリジン、ピペラジン、インドリン、フタルイミド、1,2,3,4テトラヒドロイソキノリン、4,5,6,7テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン、チアゾール、チアゾリジン、チオフェン、ベンゾ[b]チオフェン、モルホリニル、チオモルホリニル(チアモルホリニルとも称される)、1,1ジオキソチオモルホリニル、ピペリジニル、ピロリジン、及びテトラヒドロフラニルが挙げられる。
【0094】
「シクロアルキル」とは、融合、架橋、及びスピロ環系を含めた単数又は複数の環式環を有する3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基を指す。該融合環は、アリール環であり得るが、但し、非アリール部分は、該分子の残りの部分に結合される。好適なシクロアルキル基の例としては、例えば、アダマンチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロオクチルが挙げられる。
【0095】
「置換されたシクロアルキル」及び「置換されたシクロアルケニル」とは、オキソ、チオキソ、アルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アミノ、置換されたアミノ、アミノカルボニル、アミノチオカルボニル、アミノカルボニルアミノ、アミノチオカルボニルアミノ、アミノカルボニルオキシ、アミノスルホニル、アミノスルホニルオキシ、アミノスルホニルアミノ、アミジノ、アリール、置換されたアリール、アリールオキシ、置換されたアリールオキシ、アリールチオ、置換されたアリールチオ、カルボキシル、カルボキシルエステル、(カルボキシルエステル)アミノ、(カルボキシルエステル)オキシ、シアノ、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルキルオキシ、置換されたシクロアルキルオキシ、シクロアルキルチオ、置換されたシクロアルキルチオ、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、シクロアルケニルオキシ、置換されたシクロアルケニルオキシ、シクロアルケニルチオ、置換されたシクロアルケニルチオ、グアニジノ、置換されたグアニジノ、ハロ、ヒドロキシ、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、置換されたヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールチオ、置換されたヘテロアリールチオ、複素環、置換された複素環、ヘテロシクリルオキシ、置換されたヘテロシクリルオキシ、ヘテロシクリルチオ、置換されたヘテロシクリルチオ、ニトロ、SO3H、置換されたスルホニル、置換されたスルホニルオキシ、チオアシル、チオール、アルキルチオ、及び置換されたアルキルチオ、から成る群から選択される1~5個又は好ましくは1~3個の置換基を有するシクロアルキル又はシクロアルケニル基を指し、ここで、前記置換基は、本明細書中に定義されたものである。
【0096】
「アリール」又は「Ar」とは、縮合環が芳香族であっても又はそうでなくてもよいが(例えば、2ベンゾオキサゾリノン、2H 1,4ベンゾキサジン3(4H)オン7イルなど)、但し、その取付点が芳香族炭素原子である、単環(例えば、フェニル)又は複数の縮合環(例えば、ナフチル又はアントリル)を有する6~14個の炭素原子の一価の芳香族炭素環式基を指す。好ましいアリール基としては、フェニル及びナフチルが挙げられる。
【0097】
「置換されたアリール」とは、アルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アミノ、置換されたアミノ、アミノカルボニル、アミノチオカルボニル、アミノカルボニルアミノ、アミノチオカルボニルアミノ、アミノカルボニルオキシ、アミノスルホニル、アミノスルホニルオキシ、アミノスルホニルアミノ、アミジノ、アリール、置換されたアリール、アリールオキシ、置換されたアリールオキシ、アリールチオ、置換されたアリールチオ、カルボキシル、カルボキシルエステル、(カルボキシルエステル)アミノ、(カルボキシルエステル)オキシ、シアノ、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルキルオキシ、置換されたシクロアルキルオキシ、シクロアルキルチオ、置換されたシクロアルキルチオ、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、シクロアルケニルオキシ、置換されたシクロアルケニルオキシ、シクロアルケニルチオ、置換されたシクロアルケニルチオ、グアニジノ、置換されたグアニジノ、ハロ、ヒドロキシ、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、置換されたヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールチオ、置換されたヘテロアリールチオ、複素環、置換された複素環、ヘテロシクリルオキシ、置換されたヘテロシクリルオキシ、ヘテロシクリルチオ、置換されたヘテロシクリルチオ、ニトロ、SO3H、置換されたスルホニル、置換されたスルホニルオキシ、チオアシル、チオール、アルキルチオ、及び置換されたアルキルチオ、から成る群から選択される1~5個、好ましくは1~3個、又はより好ましくは1~2個の置換基で置換されるアリール基を指し、ここで、前記置換基は、本明細書中に定義されたものである。
【0098】
「任意選択で置換された」とは、その基及びその基の置換された形態から選択された基を指す。置換基としては、以下で定義された基のいずれかを挙げることができる。一実施形態において、置換基は、C1-C10又はC1-C6アルキル、置換されたC1-C10又はC1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、C6-C10アリール、C3-C8シクロアルキル、C2-C10ヘテロシクリル、C1-C10ヘテロアリール、置換されたC2-C6アルケニル、置換されたC2-C6アルキニル、置換されたC6-C10アリール、置換されたC3-C8シクロアルキル、置換されたC2-C10ヘテロシクリル、置換されたC1-C10ヘテロアリール、ハロ、ニトロ、シアノ、-CO2H又はそのC1-C6アルキルエステルから選択される。
【0099】
「アルキル」とは、1~10個の炭素原子、そして好ましくは1~6個の炭素原子を有する1価の飽和脂肪族ヒドロカルビル基を指す。この用語としては、例として、直鎖及び分岐ヒドロカルビル基、例えば、メチル(CH3-)、エチル(CH3CH2-)、n-プロピル(CH3CH2CH2-)、イソプロピル((CH3)2CH-)、n-ブチル(CH3CH2CH2CH2-)、イソブチル((CH3)2CHCH2-)、sec-ブチル((CH3)(CH3CH2)CH-)、t-ブチル((CH3)3C-)、n-ペンチル(CH3CH2CH2CH2CH2)、及びネオペンチル((CH3)3CCH2-)など、が挙げられる。
【0100】
「アルケニル」とは、2~10個の炭素原子、そして好ましくは2~6個の炭素原子又は好ましくは2~4個の炭素原子を有し、かつ、少なくとも1つ、そして好ましくは1~2つのビニル(>C=C<)不飽和部位を有する、一価の直鎖又は分岐ヒドロカルビル基を指す。斯かる基は、例えば、ビニル、アリル、及びブタ3-エン-1-イルによって例示される。cis及びtrans異性体又はこれらの異性体の混合物が、この用語の範囲内に含まれる。
【0101】
「アルキニル」とは、2~10個の炭素原子、そして好ましくは2~6個の炭素原子又は好ましくは2~3個の炭素原子を有し、かつ、少なくとも1つ、そして好ましくは1~2つのアセチレン型(-C≡C-)不飽和部位を有する、直鎖又は分岐の一価のヒドロカルビル基を指す。斯かるアルキニル基の例としては、アセチレニル(-C≡CH)、及びプロパルギル(-CH2C≡CH)が挙げられる。
【0102】
「置換されたアルキル」とは、アルコキシ、置換されたアルコキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アミノ、置換されたアミノ、アミノカルボニル、アミノチオカルボニル、アミノカルボニルアミノ、アミノチオカルボニルアミノ、アミノカルボニルオキシ、アミノスルホニル、アミノスルホニルオキシ、アミノスルホニルアミノ、アミジノ、アリール、置換されたアリール、アリールオキシ、置換されたアリールオキシ、アリールチオ、置換されたアリールチオ、カルボキシル、カルボキシルエステル、(カルボキシルエステル)アミノ、(カルボキシルエステル)オキシ、シアノ、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルキルオキシ、置換されたシクロアルキルオキシ、シクロアルキルチオ、置換されたシクロアルキルチオ、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、シクロアルケニルオキシ、置換されたシクロアルケニルオキシ、シクロアルケニルチオ、置換されたシクロアルケニルチオ、グアニジノ、置換されたグアニジノ、ハロ、ヒドロキシ、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、置換されたヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールチオ、置換されたヘテロアリールチオ、複素環、置換された複素環、ヘテロシクリルオキシ、置換されたヘテロシクリルオキシ、ヘテロシクリルチオ、置換されたヘテロシクリルチオ、ニトロ、SO3H、置換されたスルホニル、置換されたスルホニルオキシ、チオアシル、チオール、アルキルチオ、及び置換されたアルキルチオ、から成る群から選択される1~5個、好ましくは1~3個、又はより好ましくは1~2個の置換基を有するアルキル基を指し、ここで、前記置換基は、本明細書中に定義されたものである。
【0103】
「置換されたアルケニル」とは、アルコキシ、置換されたアルコキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アミノ、置換されたアミノ、アミノカルボニル、アミノチオカルボニル、アミノカルボニルアミノ、アミノチオカルボニルアミノ、アミノカルボニルオキシ、アミノスルホニル、アミノスルホニルオキシ、アミノスルホニルアミノ、アミジノ、アリール、置換されたアリール、アリールオキシ、置換されたアリールオキシ、アリールチオ、置換されたアリールチオ、カルボキシル、カルボキシルエステル、(カルボキシルエステル)アミノ、(カルボキシルエステル)オキシ、シアノ、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルキルオキシ、置換されたシクロアルキルオキシ、シクロアルキルチオ、置換されたシクロアルキルチオ、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、シクロアルケニルオキシ、置換されたシクロアルケニルオキシ、シクロアルケニルチオ、置換されたシクロアルケニルチオ、グアニジノ、置換されたグアニジノ、ハロ、ヒドロキシル、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、置換されたヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールチオ、置換されたヘテロアリールチオ、複素環、置換された複素環、ヘテロシクリルオキシ、置換されたヘテロシクリルオキシ、ヘテロシクリルチオ、置換されたヘテロシクリルチオ、ニトロ、SO3H、置換されたスルホニル、置換されたスルホニルオキシ、チオアシル、チオール、アルキルチオ、及び置換されたアルキルチオ、から成る群から選択される1~3個の置換基、そして好ましくは1~2個の置換基を有するアルケニル基を指し、ここで、前記置換基は、本明細書中に定義されたものであるが、但し、いずれかのヒドロキシル又はチオール置換が、ビニル(不飽和)炭素原子に取り付けられていない。
【0104】
「置換されたアルキニル」とは、アルコキシ、置換されたアルコキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アミノ、置換されたアミノ、アミノカルボニル、アミノチオカルボニル、アミノカルボニルアミノ、アミノチオカルボニルアミノ、アミノカルボニルオキシ、アミノスルホニル、アミノスルホニルオキシ、アミノスルホニルアミノ、アミジノ、アリール、置換されたアリール、アリールオキシ、置換されたアリールオキシ、アリールチオ、置換されたアリールチオ、カルボキシル、カルボキシルエステル、(カルボキシルエステル)アミノ、(カルボキシルエステル)オキシ、シアノ、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルキルオキシ、置換されたシクロアルキルオキシ、シクロアルキルチオ、置換されたシクロアルキルチオ、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、シクロアルケニルオキシ、置換されたシクロアルケニルオキシ、シクロアルケニルチオ、置換されたシクロアルケニルチオ、グアニジノ、置換されたグアニジノ、ハロ、ヒドロキシ、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、置換されたヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールチオ、置換されたヘテロアリールチオ、複素環、置換された複素環、ヘテロシクリルオキシ、置換されたヘテロシクリルオキシ、ヘテロシクリルチオ、置換されたヘテロシクリルチオ、ニトロ、SO3H、置換されたスルホニル、置換されたスルホニルオキシ、チオアシル、チオール、アルキルチオ、及び置換されたアルキルチオ、から成る群から選択される1~3個の置換基、そして好ましくは1~2個の置換基を有するアルキニル基を指し、ここで、前記置換基は、本明細書中に定義されたものであるが、但し、いずれかのヒドロキシル又はチオール置換が、アセチレン型炭素原子に取り付けられていない。
【0105】
「アルコキシ」とは、基Oアルキル{式中、アルキルは、本明細書中に定義されるものである}を指す。アルコキシとしては、例として、メトキシ、エトキシ、nプロポキシ、イソプロポキシ、nブトキシ、tブトキシ、secブトキシ、及びn ペントキシが挙げられる。
【0106】
「置換されたアルコキシ」とは、基O(置換されたアルキル){式中、置換されたアルキルは本明細書中に定義されるものである}を指す。
【0107】
「アシル」とは、基H-C(O)-、アルキル-C(O)-、置換されたアルキル-C(O)-、アルケニル-C(O)-、置換されたアルケニル-C(O)-、アルキニル-C(O)-、置換されたアルキニル-C(O)-、シクロアルキル-C(O)-、置換されたシクロアルキル-C(O)-、シクロアルケニル-C(O)-、置換されたシクロアルケニル-C(O)-、アリール-C(O)-、置換されたアリール-C(O)-、ヘテロアリール-C(O)-、置換されたヘテロアリール-C(O)-、複素環式-C(O)-、及び置換された複素環式-C(O)-を指し、ここで、アルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アリール、置換されたアリール、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、複素環、及び置換された複素環式は、本明細書中に定義されるものである。アシルとしては、「アセチル」基CH3C(O)が挙げられる。
【0108】
「アシルアミノ」とは、基-NR47C(O)アルキル、-NR47C(O)置換されたアルキル、-NR47C(O)シクロアルキル、-NR47C(O)置換されたシクロアルキル、-NR47C(O)シクロアルケニル、-NR47C(O)置換されたシクロアルケニル、-NR47C(O)アルケニル、-NR47C(O)置換されたアルケニル、-NR47C(O)アルキニル、-NR47C(O)置換されたアルキニル、-NR47C(O)アリール、-NR47C(O)置換アリール、-NR47C(O)ヘテロアリール、-NR47C(O)置換されたヘテロアリール、-NR47C(O)複素環、及びNR47C(O)置換された複素環を指し、ここで、R47は水素又はアルキルであり、かつ、ここで、アルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アリール、置換されたアリール、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、複素環、及び置換された複素環式は、本明細書中に定義されるものである。
【0109】
「アシルオキシ」とは、基アルキル-C(O)O-、置換されたアルキル-C(O)O-、アルケニル-C(O)O-、置換されたアルケニル-C(O)O-、アルキニル-C(O)O-、置換されたアルキニル-C(O)O-、アリール-C(O)O-、置換アリール-C(O)O-、シクロアルキル-C(O)O-、置換されたシクロアルキル-C(O)O-、シクロアルケニル-C(O)O-、置換されたシクロアルケニル-C(O)O-、ヘテロアリール-C(O)O-、置換されたヘテロアリール-C(O)O、複素環-C(O)O-、及び置換された複素環-C(O)O-を指し、ここで、アルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アリール、置換されたアリール、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、複素環、及び置換された複素環式は、本明細書中に定義されるものである。
【0110】
「アミノ」とは、基NH2を指す。
【0111】
「置換されたアミノ」とは、基-NR48R49を指し、ここで、R48及びR49は、独立して、水素、アルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アリール、置換されたアリール、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、複素環、及び置換された複素環、SO2アルキル、-SO2-置換されたアルキル、-SO2-アルケニル、-SO2-置換されたアルケニル、-SO2-シクロアルキル、-SO2-置換されたシクロアルキル(cylcoalkyl)、-SO2-シクロアルケニル、-SO2-置換されたシクロアルケニル(cylcoalkenyl)、-SO2-アリール、-SO2-置換されたアリール、-SO2-ヘテロアリール、-SO2-置換されたヘテロアリール、-SO2-複素環、及び-SO2-置換された複素環、から成る群から選択され、そして、ここで、R48及びR49は、それらに結合した窒素と一緒に任意選択で連結されて、複素環式基又は置換された複素環式基を形成するが、但し、R48とR49は共に水素ではなく、かつ、ここで、アルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アリール、置換されたアリール、ヘテロアリール、置換されたヘテロアリール、複素環、及び置換された複素環式は、本明細書中に定義されるものである。R48が水素であり、かつ、R49がアルキルであるとき、該置換されたアミノ基は、本明細書中でアルキルアミノと称されることもある。R48とR49がアルキルであるとき、該置換されたアミノ基は、本明細書中でジアルキルアミノと称されることもある。一置換アミノに言及するとき、それはR48又はR49のいずれかが水素であるが、両方が水素であるというわけではないことを意味する。二置換アミノに言及するとき、R48もR49も水素でないことを意味する。
【0112】
特定の範囲は、「約」という用語が先行する数値を用いて本明細書では表される。「約」という用語は、それが先行している数字そのもの、並びにその用語が先行している数字に近い又はおおよその数字に対する文字どおりの支持を提供するために使用される。ある数字が具体的に列挙した数字に近いか又はおおよそその数字であるか否かを判断する際に、列挙した数字に近い数字又はおおよそその数字は、それが提示された文脈において、具体的に列挙した数字の実質的な同等物を提供する数字であり得る。
【0113】
値の範囲が提供される場合、文脈が明確に示さない限り、その範囲の上限と下限の間での下限の単位の10分の1までの各介在する値及び述べられた範囲における他の述べられた値又は介在する値は本発明に範囲内に包含されることが理解される。これらのさらに小さな範囲の上限と下限は独立してそのさらに小さな範囲に含められてもよく、また、本発明の範囲内に包含されて、述べられた値における具体的に除外される限度の対象となる。述べられた範囲が限度の一方又は双方を含む場合、それらの含められた限度のいずれか又は双方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0114】
本発明は、以下の実施例によってより詳細に例示することができるが、本発明はそれに限定されないことを理解されたい。
【0115】
この開示を読んだ時点で当業者には明らかになるので、本明細書に記載及び例示した個別の実施形態はそれぞれ、当該技術の範囲又は要旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴と容易に切り離し得るか又は組み合わせ得る、別個の構成要素や特徴を有する。列挙した方法のいずれもが、列挙した事象の順序で、又は論理的に可能であるその他の順序で実施できる。
【実施例
【0116】
実施例1:吸入用のメシル酸イマチニブ粉末の調製
【0117】
イマチニブ吸入粉末を、Technosphere(登録商標)(T)粉末又は結晶性担体(XC)粉末として調製した。T粒子を、界面活性剤Tween20の存在下でのFDKPの結晶化と、その後の自己集合によって形成して、直径が約2~2.5μmの粒子の懸濁液を形成した。XC粒子を、それらが懸濁液中で粒子に自己集合しない条件下で形成されるFDKP結晶の懸濁液をスプレードライすることによって形成した。メシル酸イマチニブの25%溶液を、脱イオン水で調製し、前もって形成されたT懸濁液、又は微結晶を含んでいるXC懸濁液のいずれかに加えて、乾燥量基準で2.5wt%~50wt%のイマチニブを含有する粒子を調製した(表1A)。メシル酸イマチニブを含有するT及びXC懸濁液を、凍結乾燥又はスプレードライのいずれかによって乾燥させた。10%~20%のメシル酸イマチニブを含有するT懸濁液を、液体窒素中でペレット化させた後、凍結乾燥させた。凍結乾燥機の棚温度を、0.2℃/分にて-45℃から25℃まで上げ、そして、粉末が完全に乾燥するまで減圧下で25℃にて維持した。他のすべてのメシル酸イマチニブT及びXC粉末を、Buchi B-290スプレー乾燥機を用い、そして、180℃の入口温度、90%のアスピレーターポンプ速度、25%のフィードポンプ速度、及び60mmの窒素フローロタメータ測定値にて動作させたスプレードライによって調製した。
【0118】
表1A:メシル酸イマチニブ粉末の調製と組成物
【表1】
実施例2:イマチニブ粉末の粒度と外形
【0119】
粉末を、RODOS(商標)粉末分散システム又は吸入器アダプターのいずれかに合わせたSympatecレーザー回折装置を使用して、幾何的粒度分布について評価した。バルク粉末を、0.5bar又は3.0barのいずれかで、RODOS(商標)粉末分散システムを使用して分散させた。吸入器アダプターを使用するとき、10mgの粉末サンプルを、4kPaにてDreamboat Gen2C乾燥粉末吸入器(MannKind Corp.-米国特許第8,508,732号(参照により本明細書に援用))から放出した。解剖学的に正しい気道で評価するサンプルもまた、4kPaにて10mgの粉末を充填したGen2C吸入器から放出した。これらのデータを、表2に示す。図1A~1Cは、表2からのイマチニブXC粉末のための粒度分布の16、50、及び84パーセンタイル(x16、x50、及びx84)についてSympatec吸入器データをプロットする。
【0120】
表2:メシル酸イマチニブ粉末に関する幾何的粒度データ
【表2】
【0121】
実施例3:イマチニブ粉末の空力性能試験
【0122】
空力性能を、対象によって実施される吸入の取り組みをシミュレートするMannKind’s Anatomically Correct Airway(ACA、米国特許第9,706,944号、参照により本明細書に援用する)を使用して評価した。粉末(10mg)をカートリッジに充填し、そして、充填済みカートリッジを秤量した。そのカートリッジをDreamboat Gen2C吸入器に挿入し、20代の男性個体の上気道モデルの開口部に配置した。粉末を4kPaの圧力低下を用いて気道に放出し、そして、気道底部のフィルターで、肺に向かう途中の口腔咽頭を通り抜けたすべての粉末を回収した。放出済みカートリッジを再び秤量して、放出された粉末のパーセンテージを測定した(%CE、カートリッジ排出)。フィルターを秤量して、フィルターに達した粉末の量(MtF、フィルター到達質量)を測定し、そして、その結果をカートリッジに充填した粉末の量に対して正規化した(MtF/F、フィルター到達質量割る充填)。結果を表3に示し、そして、イマチニブ含有量の関数として推定肺用量を図2に提示した。推定肺用量は、カートリッジ含有量、MtF/F、及びイマチニブ含有量の積である。例えば、粉末963~119(30.08wt%のイマチニブ、55.90%のMtF/F)は、(10mg)(0.3008)(0.5590)=1.68mgイマチニブの推定肺用量を提供するだろう。
【0123】
表3:解剖学的に補正した気道の結果
【表3】
実施例4
ラットにおける吹送ImaT粉末のインビボ薬物動態の測定
概要
【0124】
イマチニブ(ImaT)の乾燥粉末製剤の薬物動態を、このラット試験で評価した。投薬後に、血液サンプル及び肺を、24時間の期間を通じた特定の時点で採集した。目標用量は、吸入乾燥粉末として送達される、ラットあたり1mgのImaTであった。
【0125】
試験化合物の目標用量は、この試験の計画時点で入手可能な情報に基づいた。選択した用量は、ヒトの治療量を超えると予想されるものを反映する。
方法と実験計画
1. 試験システム
1.1 種
【0126】
それらの組入れ時点で225~275グラムの体重がある雄Sprague Dawleyラット(Charles River Laboratories)を試験に使用した。
1.2 試験システムの識別と無作為化
【0127】
1. 動物は、計画した実験の少なくとも3日前にIPSTに到着した。
【0128】
2. 動物を、CCACガイドラインに従って到着時に識別した。
【0129】
3. すべての動物の世話と生態動物園のメインテナンスを、試験施設にて保管される記録文書により記録した。
【0130】
4. 動物は、試験責任者によって、実験前に群のうちの1つに無作為に割り付けられ、そして、その試験責任者が、各動物の識別番号に関して記録に残した。
1.3 試験システムの根拠
【0131】
それらが様々な監督機関によって推薦され、かつ、吸入乾燥粉末試験に頻繁に使用されているので、Sprague-Dawleyラットを選択した。
2. 被験物質と基準化合物
2.1 被験物質
コードネーム:ImaT Inhalation Powder(20%のイマチニブ)
供給元:MannKind Corporation
ロット番号:963-123
再試験の日付:2021年5月
保存条件:-20℃
試験の終了時に、すべての残った被験物質を-20±3℃にて保存した。
用量の根拠
【0132】
試験化合物の目標用量は、この試験の計画時点で入手可能な情報に基づいた。選択した用量は、ヒトの治療量を超えていると思われたものを反映する。ImaTを、約250グラムの体重があるラットに、1mgの目標用量として送達し、4mg/kgの平均用量につながった。
3. 実験手順
【0133】
225~275グラムの体重がある雄Sprague Dawleyラットは、実験開始前の週に設備に到着した。動物は、順化期間の間、ペアで収容した。
【0134】
順化期間後に、各動物を、1つの用量処置群に無作為に割り付けた(表4を参照のこと)。
表4:実験計画
【表4】
【0135】
ラットを、100%の酸素中に1.5~3%のイソフルランUSP(Abbott Laboratories, Montreal Canada)の混合物を用いて麻酔し、そして、恒温ヒーティングパッド上に乗せて、37±1℃にて体温を維持した。
【0136】
すべての群において、被験物質を、自動吹送デバイスを使用して吹送した。吹送チップを気管分岐部のすぐ上に挿入し、そして、粉末の放出を、動物の吸入サイクルにタイミングを合わせた。投薬後に、動物を、それらのそれぞれのケージに戻す前に、監視下で麻酔から回復させた。
【0137】
0.5mLの血液サンプルを、指定した時点にて頚静脈から採取した(表4を参照のこと)。
【0138】
血液サンプルを遠心分離し(3000r.p.m. 10分間、2~8℃)、そして、血漿を、試験番号、動物I.D.、用量群及び時点で標識したエッペンドルフチューブ内に移した。その血漿サンプルを、血漿イマチニブ含有量の定量化のための出荷まで冷凍(-80℃)で保存した。
【0139】
肺はまた、指定した時点でも摘出した(表4を参照のこと)。そうするために、動物を、100%の酸素中に1.5~3%のイソフルランUSP(Abbott Laboratories, Montreal Canada)の混合物を用いて麻酔し、そして、放血によって安楽死させた。次に、肺を摘出した。左葉を、3つの部品;上部、中央部、及び下部、に分割した。各切片を2つの等しい小片に切り分けた。各小片を、秤量し、そして、適切に標識したチューブに個別に入れた。肺サンプルを、急冷し、-80℃にて保存した。次に、肺サンプルを、PBS、0.1%のTriton X-100(200mgの組織/mL)中で均質化した。ホモジネートサンプルを-80℃にて保存した。
【0140】
血漿サンプル及び肺ホモジネートを、スポンサーの取扱説明書に従って試験するためにドライアイスを伴って出荷した。
システムにおけるバイアスの制御
【0141】
サンプル又は動物に関して報告された誤操作のいずれもが、最終的な分析除外につながった。
データの計算
【0142】
結果を、Zhang et al. (2010)のとおりにPK Solver Add-inを使用したMicrosoft Excel 2010、並びにCertara Phoenix WinNonLin 7.0を用いて分析した。各群に関して、この報告におけるデータを、平均値±標準誤差として表した。
結果と考察
【0143】
結果を表5~表7及び図3図7にまとめる。
表5. ラット血漿サンプル中のイマチニブの濃度
【表5】
表6. ImaTの吹送後の血漿の非コンパートメント解析
【表6】
表7. ラット肺サンプル中のイマチニブの濃度
【表7】
【0144】
この試験を、実施して、吹送ImaTの薬物動態プロフィールを評価した。送達用量は、計測可能なイマチニブの血漿中濃度を生じさせた(表5、図3を参照のこと)。イマチニブの血漿中濃度は、24時間の時点にて検出限界を下回った。特徴的なPKプロファイルは、最初の計測時点(5分)にてtmax、及び2.63時間のt1/2を有する最終的な減少を示した(表6を参照のこと)。この試験では、一部のラットを、それらの動物の不完全な投薬を理由に、データ編集から除外した。ImaT粉末は、接着し合って、送達されないこともあり得るいくつかの凝集体を形成する傾向があった。これらのラットを、分析前にデータセットから除外した。
【0145】
肺もまた摘出し、そして、6つの切片に切断した(図4を参照のこと)。各切片を、均質化し、そして、イマチニブ肺濃度を計測した。イマチニブの肺濃度は、ImaTの吸入後5分で最大であった。最大濃度は、1つの肺切片から他のものへと変動した。イマチニブ濃度は、左肺葉の下部及び遠位の領域でより高かった。イマチニブは、肺に接着せずに、迅速に血液循環に移行した。肺のイマチニブ濃度は、24時間の時点にて検出限界を下回った。
結論
【0146】
この試験では、イマチニブの薬物動態プロフィールを、24時間にわたって評価した。ImaT乾燥粉末の1mg(4mg/kg)の用量を、約250グラムの体重があるラットに吹送によって投与し、そして、送達したイマチニブは肺から血液循環へと迅速に移動した。結果は、イマチニブの血漿及び肺濃度は、最長8時間にわたり示され、24時間にて検出限界を下回るイマチニブ、及び2.63時間の血漿内半減期を有した。
* * *
【0147】
以上では特定の好ましい実施形態を言及しているが、本発明がそのように限定されないことは理解されよう。開示した実施形態に様々な改変を加え得ること、及び斯かる改変が本発明の範囲内に入ることを意図していることは、当業者には想到されよう。
【0148】
本明細書に引用した刊行物、特許出願及び特許のすべてを、全体として参照により本明細書に援用する。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入法によって対象に投与される、肺高血圧を治療するための、イマチニブ又はその医薬的に許容される塩を含む組成物。
【請求項2】
前記組成物が、乾燥粉末組成物である、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記乾燥粉末組成物が、ジケトピペラジンをさらに含む、請求項2に記載の組成物
【請求項4】
前記投与が、乾燥粉末吸入器を使用して実施される、請求項2又は3に記載の組成物
【請求項5】
前記乾燥粉末吸入器が、1mg~200mgのイマチニブ又はその医薬的に許容される塩を含んでいるコンテナを含む、請求項4に記載の組成物
【請求項6】
単回投与事象が、1mg~200mgのイマチニブ又はその医薬的に許容される塩の単回用量を投与することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
前記単回用量が、1~3回の呼吸で投与される、請求項6に記載の組成物
【請求項8】
前記投与が、1~3回の単回投与事象を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物
【請求項9】
前記組成物が、総乾燥重量で約1重量%~約60重量%のイマチニブ又はその医薬的に許容される塩の濃度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
前記組成物がメシル酸イマチニブを含んでいる、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
前記対象がヒトである、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
治療的有効量のイマチニブ又はその医薬的に許容される塩、及び任意選択で1若しくは複数の賦形剤を含んでいる、乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項13】
前記組成物が、総乾燥重量で約1重量%~約60重量%のイマチニブ又はその医薬的に許容される塩の濃度を有する、請求項12に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項14】
前記組成物が、約0.1~約10μmの粒度を含む、請求項12又は13に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項15】
前記1若しくは複数の賦形剤が、約0.1重量%~約99重量%のジケトピペラジンを含んでいる、請求項12~13のいずれか一項に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項16】
前記ジケトピペラジンがFDKPである、請求項15に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項17】
メシル酸イマチニブを含んでいる、請求項12~16のいずれか一項に記載の乾燥粉末吸入可能組成物。
【請求項18】
請求項12~17のいずれか一項に記載の乾燥粉末組成物を含んでいる、乾燥粉末吸入器。
【請求項19】
1 mg~200mgの前記組成物を含んでいる、請求項18に記載の乾燥粉末吸入器。
【請求項20】
単回用量の乾燥粉末組成物を含有しているコンテナを含む、請求項18又は19に記載の乾燥粉末吸入器。
【請求項21】
T懸濁液又はXC懸濁液にイマチニブを加えることを含む、請求項12~17のいずれか一項に記載の乾燥粉末吸入可能組成物を調製する方法。
【請求項22】
前記イマチニブが、メシル酸イマチニブの水溶液として加えられる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
界面活性剤の存在下でFDKPを結晶化することによってT懸濁液を形成すること、又は粒子へと自己集合しないFDKP結晶の懸濁液をスプレードライすることによってXC懸濁液を形成すること、を含む、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
T懸濁液又はXC懸濁液にイマチニブを加えた後、それを凍結乾燥することをさらに含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】