(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ターボ分子真空ポンプ及びそのロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
F04D19/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530159
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(85)【翻訳文提出日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2021067171
(87)【国際公開番号】W WO2022106075
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511148259
【氏名又は名称】ファイファー バキユーム
(74)【代理人】
【識別番号】110003292
【氏名又は名称】弁理士法人三栄国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピエール‐エマニュエル カヴァレック
(72)【発明者】
【氏名】ロマン クリアド
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ ロジェ
(72)【発明者】
【氏名】エリク デュラク
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA01
3H131CA34
(57)【要約】
【課題】来技術の欠点を少なくとも部分的に解決する、ターボ分子真空ポンプを提案する。
【解決手段】
吸入オリフィス(6)から排出オリフィス(7)にポンプ搬送されるガスを駆動するように構成されたターボ分子真空ポンプ(1)であって、冷却可能なステータ(2)のシェル(17)に面して配置されたロータ(3)の内部ボウル(15)の表面が、ポンプ搬送されるガスと流体接触するロータ(3)の外表面(25)より高い放射率を発揮し、前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)に面して配置された、冷却可能な前記ステータ(2)の前記シェル(17)の表面は、前記ポンプ搬送されるガスとの流体接触において、前記ロータ(3)の外表面(25)よりも高い放射率を発揮する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入オリフィス(6)から排出オリフィス(7)にガスを搬送するように構成されたターボ分子真空ポンプ(1)であって、
前記ターボ分子真空ポンプ(1)は、ステータ(2)と、前記ステータ(2)内で回転するように構成されたロータ(3)と、パージ装置(20)とを備え、
前記ステータ(2)は、少なくとも1段のフィン段(10)と、冷却できるように構成されたシェル(17)を有し、
前記ロータ(3)は、少なくとも2段のブレード段(9)と内部ボウル(15)を有し、前記ブレード段(9)及び前記フィン段(10)は、前記ロータ(3)の回転軸(I-I)に沿って軸方向に交互に続いており、前記内部ボウル(15)は、前記回転軸(I-I)と同軸であり、
前記パージ装置(20)は、前記ステータ(2)の前記シェル(17)と前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)との間のギャップにパージガスを注入するように構成されているものにおいて、
前記ステータ(2)の冷却可能な前記シェル(17)に面して配置された前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)の表面は、該内部ボウル(15)の表面の少なくとも一部にわたって、前記ポンプ搬送されるガスと流体接触し、前記ロータ(3)の外表面(25)よりも高い放射率を発揮し、
前記ポンプ搬送されるガスと流体接触する前記ロータ(3)の前記外表面(25)は、該ロータ(3)の前記内部ボウル(15)の表面の少なくとも一部にわたって、該ロータ(3)の前記内部ボウル(15)の表面よりも低い放射率を発揮し、
及び/又は、前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)に面して配置された冷却可能な、前記ステータ(2)の前記シェル(17)の表面は、前記ポンプ搬送されるガスと流体接触し、前記ステータ(2)の前記シェル(17)の表面の少なくとも一部にわたって、前記ロータ(3)の前記外表面(25)よりも高い放射率を発揮し、
前記ポンプ搬送されるガスと流体接触する前記ロータ(3)の前記外表面(25)は、前記ステータ(2)の前記シェル(17)の表面の少なくとも一部における該ステータ(2)の前記シェル(17)の表面よりも低い放射率を発揮することを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記ステータ(2)の前記シェル(17)と前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)の間に位置する前記ギャップへの前記ポンプ搬送されるガスの侵入を制限するために、及び、前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)と前記ステータ(2)の前記シェル (17)の間に位置する放射率の高い1つ又は複数の前記表面を保護するために、前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)の端と前記ステータ(2)の前記シェル(17)の間の角コンダクタンス(c)の断面積は、注入される前記パージガスの流量が12mm
2/1.69×10
-3Pa・m
3/s(12mm
2/sccm)以下であることを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記ポンプ搬送されるガスと流体接触する前記ロータ(3)の前記外表面(25)は、腐食から保護するためのニッケルメッキ等のコーティングを有することを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記放射率の高い1つ又は複数の表面が、0.4以上の放射率を発揮することを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記ポンプ搬送されるガスと流体接触する1つ又は複数の前記表面は、0.3未満の放射率を発揮することを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)及び/又は前記ステータ(2)の前記シェル(17)の放射率の高い前記表面は、陽極酸化又はサンドブラスト又は溝加工又はテクスチャリングなどの表面処理、例えばレーザー又はソーダ処理によって得られていることを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)及び/又は前記ステータ(2)の前記シェル(17)の放射率の高い前記1つ又は複数の表面は、ケプラコート(KEPLA-COAT(登録商標))タイプの化学蒸着コーティング、又はエポキシポリマーコーティング等の溶剤を含まない塗料タイプのコーティング等の、プラズマ等のコーティングの堆積によって得られていることを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記コーティング又は前記表面処理は、つや消し及び/又は暗い外観を有していることを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記コーティング又は前記表面処理は無溶剤処理であることを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記パージ装置(20)は、前記ロータ(3)の駆動軸(12)を支持及び案内する少なくとも1つの軸受(18a、18b)に前記パージガスの流れを注入するように構成され、前記パージガスの流れは、前記ステータ(2)の前記シェル(17)から出る前に少なくとも1つの前記軸受(18a、18b)を通過することを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記パージ装置(20)によって注入された前記パージガスの存在を感知するセンサーを含むことを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記ロータ(3)を取り囲む前記ステータ(2)のスリーブ(24)を加熱するように構成された加熱装置(22)を備えていることを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のターボ分子真空ポンプ(1)において、
前記ロータ(3)は、少なくとも2段の前記ブレード段(9)の下流にホルウェック スカート(13)を有し、
前記ホルウェック スカート(13)は、前記ガスのポンプ搬送のために前記ステータ(2)の反対側の螺旋溝(14)を回転するように構成された滑らかな円筒によって形成され、
前記ステータ(2)の前記シェル(17)に面して配置された前記内部ボウル(15)も前記ホルウェック スカート(13)の内部によって形成されていることを特徴とするターボ分子真空ポンプ。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の前記ターボ分子真空ポンプ(1)のロータ(3)の製造方法であって、
前記ロータ(3)の前記外側表面処理(25)は、芯出し面を除いて、前記ロータ(3)の高放射率の前記表面が得られているように実施され、
前記ロータ(3)上にコーティングが堆積され、前記芯出し面を除いて前記ロータ(3)の放射率の高い表面が得られ、
前記ポンプ搬送されるガスと流体接触するように意図された、前記ロータ(3)の前記外表面(25)は、前記ロータ(3)の前記内部ボウル(15)をマスキングすることによって、ニッケルメッキされることを特徴とするターボ分子真空ポンプのロータの製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の前記ターボ分子真空ポンプ(1)のロータ(3)の製造方法であって、
前記内部ボウル(15)及びホルウェック スカート(13)を含む前記ロータ(3)の第1の部分の表面処理を実行して、前記ロータ(3)の前記第1の部分の高放射率の表面を得る工程、又は、前記内部ボウル(15)及び前記ホルウェック スカート(13)を含む前記ロータ(3)の第1の部分にコーティングを堆積させて、前記ロータ(3)の前記第1の部分の高放射率の表面を得る工程を含み、
前記ポンプ搬送されるガスと流体接触するように意図された前記ロータ(3)の前記第1の部分の表面は、前記内部ボウル(15)をマスキングすることによってニッケルメッキされ、
次に、前記ロータ(3)の前記第1の部分は、少なくとも2段の前記ブレード段(9)を含む、ニッケルメッキされた前記ロータ(3)の第2の部分に固定されることを特徴とするターボ分子真空ポンプのロータの製造方法。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の前記ターボ分子真空ポンプ(1)の前記ロータ(3)の製造方法であって、
高放射率の表面を有する前記内部ボウル(15)を形成する部品は、一方では前記内部ボウル(15)を補完する凹形状を有し、他方では、少なくとも2段の前記ブレード段(9)を有することを特徴とするターボ分子真空ポンプのロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子真空ポンプに関するものである。また、本発明は、ターボ分子真空ポンプロータの製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
筐体内に高真空を発生させるには、ステータの内部で、ロータが高速回転、例えば毎分9万回転以上で駆動される、ターボ分子真空ポンプを使用する必要がある。
ターボ分子真空ポンプを使用した幾つかの製造方法、例えば半導体やLEDの製造方法では、真空ポンプ内に堆積層が形成されることがある。この堆積物により、ステータとロータの間の遊びが制限され、ロータの停止を引き起こす可能性がある。実際、堆積層は摩擦によってロータを加熱し、それにより、クリープを発生させ、その結果、ロータにひび割れを引き起こす可能性がある。
【0003】
ポンプ内での反応生成物の凝縮を避けるために、ステータを加熱することは、良く知られている技術である。ただし、ロータの機械的強度を維持するために、ロータの温度が特定の高い閾値を超えないように注意が払われる。実際、ロータの遠心力に対する機械的抵抗は、温度が上昇すると減少し、特にアルミニウムの場合は150°Cを超えると減少する。
ポンプ搬送されるガスの流量が増えるほど、真空ポンプの温度が上昇する。そのため、真空ポンプの動作温度が上昇するということは、その動作仕様に適合するロータの温度を維持するために、最大ポンプ流量を制限すべきであることを意味する。
【0004】
ただし、真空ポンプの動作温度と最大ポンプ流量に関するこれらの制約は、製品の期待値と矛盾する。実際、堆積物の形成を制限し、それによってポンプの寿命を延ばすために、加熱温度を可能な限り上昇させることが求められている。同時に、生産の速度を高めるために、ポンプ搬送されるガスの流量、特にアルゴン等の重いガスの流量を増やすために、ポンプ搬送されるガスの流量を最大限に増やすことが求められている。
しかしながら、重いガスは、ロータのさらなる加熱を引き起こすという欠点がある。実際、ロータの熱の放散は、一方では分子への熱の伝達(対流)によって、他方では赤外放射によって達成される。ただし、重いガスのポンプ搬送の場合、対流による熱交換は大幅に減少する。
【0005】
さらに、製造に用いられるプロセスガスは非常に攻撃的であるため、ニッケルメッキ等の保護層でコーティングしてロータを保護する必要がある場合がある。ただし、ニッケルコーティングの赤外線放射率は非常に低く、0.2程度である。この低い放射率により、ロータとその周囲との間の熱交換が大幅に制限され、その結果、ポンプにより搬送できるガスの最大流量が制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の1つは、上記した最新の従来技術の欠点を少なくとも部分的に解決する、ターボ分子真空ポンプを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明の主題は、吸入オリフィスから排出オリフィスにガスを搬送するように構成されたターボ分子真空ポンプであって、
前記ターボ分子真空ポンプは、ステータと、前記ステータ内で回転するように構成されたロータと、パージ装置とを備え、
前記ステータは、少なくとも1段のフィン段と、冷却できるように構成されたシェルを有し、
前記ロータは、少なくとも2段のブレード段と内部ボウルを有し、前記ブレード段及び前記フィン段は、前記ロータの回転軸に沿って軸方向に交互に続いており、前記内部ボウルは、前記回転軸と同軸であり、
前記パージ装置は、前記ステータの前記シェルと前記ロータの前記内部ボウルとの間のギャップにパージガスを注入するように構成されているものにおいて、
前記ステータの冷却可能な前記シェルに面して配置された前記ロータの前記内部ボウルの表面は、該内部ボウルの表面の少なくとも一部にわたって、前記ポンプ搬送されるガスと流体接触し、前記ロータの外表面よりも高い放射率を発揮し、
前記ポンプ搬送されるガスと流体接触する前記ロータの前記外表面は、該ロータの前記内部ボウルの表面の少なくとも一部にわたって、該ロータの前記内部ボウルの表面よりも低い放射率を発揮し、
及び/又は、前記ロータの前記内部ボウルに面して配置された冷却可能な前記ステータの前記シェルの表面は、前記ポンプ搬送されるガスと流体接触し、前記ステータの前記シェルの表面の少なくとも一部にわたって、前記ロータの前記外表面よりも高い放射率を発揮し、
前記ポンプ搬送されるガスと流体接触する前記ロータの前記外表面は、前記ステータの前記シェルの表面の少なくとも一部における該ステータの前記シェルの表面よりも低い放射率を発揮することを特徴とする。
【0008】
放射伝達において、放射率は、特定の温度で表面要素から放出される熱放射の放射流量に対応し、同じ温度で黒体によって放出される流量である基準値との比率である。
芯出し面を除いた内部ボウルの全表面等、内部ボウルの表面の大部分、及び/又はステータのシェルの表面の大部分、例えば、芯出し面を除いたステータのシェルの全表面等は、より高い放射率を発揮する。
1つ又は複数の高放射率の表面は、例えば、0.4以上の放射率を発揮する。
ポンプ搬送されるガスと流体接触する1つ又は複数の表面は、0.3未満の放射率を発揮することができる。特に、ポンプ搬送されるガスと流体接触するロータの外表面は、ニッケルメッキ等の腐食に対する保護コーティングを有することができる。
【0009】
放射率の高い表面を有するロータの内側、特にこの内側のみが、熱放散によるロータの放射冷却を促進することを可能にする。放射率の高い表面を有する、ロータの下側の、ステータのシェルは、それ自体が冷却されるシェルからの放射によってロータの冷却を促進することを可能にする。
【0010】
ターボ分子真空ポンプは、ステータのシェルを冷却するように構成された冷却装置、及び/又はロータを取り囲むステータのスリーブを加熱するように構成された加熱装置を備えることができる。
ロータを取り囲むステータのスリーブは、ステータの内面に堆積物が形成されるのを避けるために、加熱される。ロータを加熱しないように、スリーブとロータ間の熱交換は、低放射率のロータの外表面において減少する。
【0011】
ロータの下側に突き出た、ステータのシェルは冷却され、ロータの下側の電子部品とモータを保護する。シェルとロータの間の熱交換は、ロータの内部ボウル及び/又はステータのシェルの表面によって促進され、ロータをよりよく冷却するために、放射率が高い。
熱交換を大幅に促進するために、ポンプ搬送されるガスと直接接続しない領域の可動部分と固定部分の両方が、高放射率の表面であることが好ましい場合がある。
【0012】
ステータのシェルとロータの内部ボウルの間に位置するギャップへのポンプ搬送されるガスの侵入を制限するため、及び、ロータの内部ボウルとステータのシェルの間に位置する放射率の高い1つ又は複数の表面を保護するために、ロータの内部ボウルの端とステータのシェルとの間の環状コンダクタンスの断面積は、注入されるパージガスの流量が、例えば、12mm2/1.69×10-3Pa・m3/s(12mm2/sccm)以下である。
パージガスの流量は、例えば、0.0845Pa.m3/s(又は50sccm)以下である。
【0013】
動作中、放射率の高い1つ又は複数の表面により、ロータの下側にある、ステータのシェルとの熱交換が促進され、ロータの放射冷却を促進することができる。放射率の高いこれらの表面は、一方ではロータの下側のギャップを循環するパージガスによって保護され、他方では内部ボウルの端にある環状コンダクタンスによって保護されているため、潜在的に腐食性のポンプ搬送ガスに触れることはない。
パージガス及び環状コンダクタンスにより、ロータ及び/又はステータの高放射率の表面を、ロータの下側に浸透する可能性のあるポンプ搬送されるガスの攻撃から保護することが可能になる。従って、保護された表面のみが高放射性なっているため、これらの表面は、潜在的に腐食性の可能性のあるポンプ搬送されるガスに遭遇しないか、殆ど遭遇しない。
【0014】
さらに、ターボ分子真空ポンプは、単独で又は組み合わせて、以下に説明する特徴の1つ又は複数を備えていることができる。
ロータの内部ボウル及び/又はステータのシェルの放射率の高い1つ又は複数の表面は、例えば、陽極酸化、サンドブラスト、溝付け、又はテクスチャリング等の表面処理によって得られている。例えば、レーザー又はソーダ処理によって得られている。陽極酸化、ソーダ処理、又はレーザーテクスチャリングによるアルミニウムの表面処理には、合理的なコストで0.8を超える放射率の表面を得ることができるという利点がある。
ロータの内部ボウル及び/又はステータのシェルの放射率の高い表面は、コーティングの堆積によって得ることができる。すなわち、KEPLA-COAT(登録商標)タイプのプラズマ蒸着化学コーティング等、又は、溶剤を使わないペイントタイプの塗装等、又は、エポキシポリマーコーティング等、より一般的には「エポキシ塗料」と呼ばれるエポキシポリマーコーティング等、溶剤を使用しない塗料タイプのコーティングである。ロータの内部ボウル、特にホルウェック スカートの表面のみが、高放射率のコーティングを有することができるという事実は、ロータのコーティングの堅牢性が遠心力のプレス効果によって強化されるという利点を提供する。
【0015】
コーティングの厚さは、例えば、30μm~100μmの間にある。
コーティング又は表面処理は、例えば、つや消し、及び/又は暗い外観を有する。
特に、幾つかの表面処理及び/又はコーティング層を設けて、ギャップ内のロータ及び/又はステータの放射率を増加させることが可能である。
コーティング又は表面処理は、好ましくは無溶媒である。溶媒は、実際には特定のポンプ装置で完全に規定される必要があり、ポンプ搬送される空間への後方散乱のリスクを回避するために、真空ポンプで溶媒を使用しないことが好ましい。
パージ装置は、パージガスの流れがステータのシェルから出る前に少なくとも1つの軸受を通過するように、ロータの駆動軸を支持及び案内する少なくとも1つの軸受にパージガスの流れを注入するように構成することができる。
ターボ分子真空ポンプは、パージ装置によって注入されたパージガスの存在を検知するセンサーを備えることができる。
真空ポンプは、例えば、ステータのシェルを冷却するために、ステータ内、シェル内、又はシェルと熱接触する、油圧回路等の冷却装置を備えている。この冷却装置は、例えば周囲温度で水を循環させることにより、シェルの温度を、例えば70℃等、75℃以下の温度に制御することを可能にする。
【0016】
ターボ分子真空ポンプは、赤外線によってロータの温度を測定するように構成された温度センサーを備えているのがよい。温度センサーは、内部ボウルの高放射率の表面に面するように、ステータのシェルに配置できる。
ステータの加熱装置は、例えば、加熱抵抗シェルトであり、ステータのスリーブを設定温度、例えば130℃等の、80℃よりも高い温度に加熱するように構成されている。
例示的な実施形態によれば、ロータは、少なくとも2段のブレード段の下流にホルウェック スカートを備えている。このホルウェック スカートは、ガスのポンプ搬送のために、ステータの対向する螺旋溝を回転させるように構成された滑らかなシリンダによって形成されている。ステータのシェルに面する内部ボウルも、ホルウェック スカートの内側に形成されている。
別の実施例によれば、真空ポンプはターボ分子ポンプのみであり、ロータは少なくとも2段のブレード段を備えているが、ホルウェック スカートは備えていない。
【0017】
本発明の別の主題は、前記ターボ分子真空ポンプロータの製造方法であって、
ロータの外面は、芯出し面を除いて、ロータの高放射率の表面を得るために処理される、又は、コーティングがロータ上に堆積されて、芯出し面を除いて、ロータの高放射率の表面が得られている。そして、
ポンプ搬送されるガスと流体連通するように意図されたロータの外面は、ロータの内部ボウルをマスキングすることによってニッケルメッキされている。
本発明の別の主題は、前記ターボ分子真空ポンプロータの製造方法であって、
内部ボウル及びホルウェック スカートを含むロータの第1の部分の表面処理が実行されて、ロータの第1の部分の高放射率の表面が得られ、又は、内部ボウルとホルウェック スカートを含むロータの第1の部分にコーティングを堆積させて、ロータの第1の部分の高放射率の表面が得られ、そして、
ポンプ搬送されるガスと流体接触するように意図されたロータの第1の部分の表面は、内部ボウルをマスキングしてニッケルメッキされ、その後、ロータの第1の部分は、少なくとも2段のブレード段を含むロータのニッケルメッキされた第2の部分に固定される。
【0018】
本発明の別の主題は、前記ターボ分子真空ポンプロータの製造方法であり、高放射率の表面を備えた内部ボウルを形成する部品が、例えば、ねじ込み又はしまりばめによって、一方では内部ボウルを補完する凹形状を有し、他方では、少なくとも2段のブレード段を有する、ロータ本体と組み立てられる。放射率の高い表面を備えた内部ボウルを形成する部品は、例えば、陽極酸化アルミニウムで作られている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の例示的な実施形態による、ターボ分子真空ポンプの軸方向断面である。
【
図2】本発明の他の例示的な実施形態によるターボ分子真空ポンプの、ロータの断面図である。
【
図3】本発明他の例示的な実施形態によるターボ分子真空ポンプの、ロータの断面図である。
【
図4】本発明の他の例示的な実施形態による、ターボ分子真空ポンプの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の他の利点及び特徴は、本発明の特定の、しかし非限定的な実施形態に関する以下の説明、及び添付の図面を読むことで明らかになるであろう。
以下の図面において、同一の要素には同一の参照番号が付されている。
以下の実施形態は例示である。以下の説明は、本発明の1つ又は複数の実施形態に言及しているが、これは、各言及が同じ実施形態に関連すること、又は本発明の特徴が単一の実施形態のみに適用されることを必ずしも意味しない。本発明は、異なる実施形態の単純な特徴を組み合わせたり交換したりして、他の実施形態を提供することもできる。
「上流」とは、ガスの循環方向に関して、ある要素が別の要素の前に配置されることを意味する。
一方、「下流」とは、ポンプ搬送されるガスの循環方向に関して、ある要素が別の要素の後に配置されることを意味する。
【0021】
図1は、本発明のターボ分子真空ポンプ1の第1の例示的な実施形態を示している。
ターボ分子真空ポンプ1は、ステータ2を備えており、このステータ2内で、ロータ3が高速で軸回転する、例えば毎分9万回転以上で回転するように構成されている。
図1の例示的な実施形態では、ターボ分子真空ポンプ1は、ハイブリッド型であり、ターボ分子段4と、ポンプ搬送されるガスの循環方向(
図1の矢印F1の方向)においてターボ分子段4の下流に位置する分子段5とを備えている。ポンプ搬送されるガスは、吸入オリフィス6から真空ポンプ内へ入り、まずターボ分子段4を通り、次に、分子段5を通り、ターボ分子真空ポンプ1の排出オリフィス7へ排出される。動作中、排出オリフィス7は一次ポンプ搬送手段に接続される。
【0022】
環状入口フランジ8は、例えば吸入オリフィス6を取り囲み、真空ポンプ1を、減圧が要求される筐体に接続する。
ターボ分子段4において、ロータ3は少なくとも2段のブレード段9を有し、ステータ2は少なくとも1段のフィン段10を有している。ブレード段9及びフィン段10は、ターボ分子段4内のロータ3の回転軸I-Iに沿って軸方向に交互に続いている。ロータ3は、例えば、4段~12段の間のように、4段以上のブレード段9を備えている(
図1に示した例では、7段のブレード段を有している)。
ロータ3の各ブレード段9は、真空ポンプ1の駆動軸12に例えばネジ止めによって固定された、ロータ3のハブ11から実質的に半径方向に伸びる傾斜したブレードを備えている。これらのブレードは、ハブ11の周囲に規則的に配置されている。
【0023】
ステータ2の各フィン段10は、各々、1つのクラウンリングを備えており、このクラウンリングから、内周全体に規則的に分布した傾斜した複数のフィンが、実質的に半径方向に伸びるように形成されている。ステータ2のフィン段10の各フィンは、ロータ3の連続するブレード段9の2枚のブレード間に位置している。ロータ3の各ブレード段9、及びステータ2の各フィン1段0は、ポンプ搬送されるガス分子を分子段5に導くために傾斜している。
ロータ3は、さらに、回転軸I-Iと同軸でロータ3の下側に突出する、内部ボウル15を備えている。この内部ボウルは、ステータ2のシェル17に面して配置されている。作動中、ロータ3は、ステータ2内で、内部ボウル15がシェル17と接触することなく、回転する。
ロータ3は、分子段5において、少なくとも2段のブレード段9の下流に、さらに、ホルウェック スカート13を備えている。このホルウェック スカートは、対向するステータ2の螺旋溝14を回転する、滑らかな円筒によって形成されている。ステータ2の螺旋溝14は、ポンプ搬送されるガスを圧縮し、排出オリフィス7へ案内することを可能にする。ロータ3の下部において、ステータ2のシェル17に面して配置された内部ボウル15も、ホルウェック スカート13の内部に形成されている。
【0024】
ロータ3は、単一部品(モノブロック)で製造することができ、又は幾つかの部品のアセンブリとすることができる。ロータ3は、例えば、アルミニウム材料及び/又はニッケルでできている。
ロータ3は、ステータ2内で真空ポンプ1の内部モータ16によって回転駆動される駆動軸12に、例えばねじ込みによって固定されている。モータ16は、例えばステータ2のシェル17内に配置され、モータ自体はロータ3の内部ボウル15の下に配置され、その駆動軸12は、ステータ2のシェル17を貫通している。
ロータ3は、ステータ2内に位置する、ロータ3の駆動軸12を支持する磁気軸受又は機械軸受18a、18bによって、横方向及び軸方向にガイドされている。例えば、ステータ2のシェル17の基部に、駆動軸12の第1の端部を支持し案内する第1の軸受18aが配置され、駆動軸12の第2の端部を支持し案内する第2の軸受18bが、シェル17の上部に配置されている。
【0025】
ステータ2のシェル17内には、例えば、位置センサーや、後述するようにパージガスの存在を発揮するセンサー等、他の電気又は電子部品を収容することができる。
このシェル17は、このシェル内の要素、特に、軸受18a、18b、モータ16、及び他の電気又は電子構成要素等を、それらが動作できるように連続的に冷却するために、冷却可能に構成されている。そのために、真空ポンプ1は、ステータ2のシェル17を冷却するように構成された、冷却装置19を備えている。この冷却装置は、例えば、ステータ2内やシェル17内に収容され、又は、油圧回路によりシェル17と熱的に接触している。冷却装置19は、例えば周囲温度の水を循環させることによって、シェル17の温度を、例えば70℃等の、75℃以下の温度に制御することが可能である。
【0026】
真空ポンプ1は、さらに、パージ装置20を備え、ステータ2のシェル17とロータ3の内部ボウル15との間のギャップに、パージガスを注入するように構成されている。パージガスは、好ましくは空気又は窒素であるが、ヘリウムやアルゴン等の別の中性ガスでもかまわない。パージガスの流量は少なく、例えば、0.0845Pa.m3/s(又は50sccm)以下である。真空ポンプ1は、パージ装置20によって噴射されるパージガスの存在を検知するセンサーを備えることができる。
パージ装置20は、例えば、ステータ2内に位置しロータ3の駆動軸12を支持及びガイドする、少なくとも1つの軸受18a、18bに、パージガスを注入するように構成されており、これにより、パージガスの流れは、ステータ2のシェル17から出てギャップ内を循環する前に、少なくとも1つの軸受18a、18bを通過する。
【0027】
より具体的には、例示的な実施形態によれば、パージ装置20は、駆動軸12の第1の端部を支持及び案内する第1の軸受18aを受け入れる空洞に、パージガスを導入するためのダクト21を備えている。
さらに、ロータ3の端部、ここではホルウェック スカート13の環状端部とステータ2のシェル17との間の、環状コンダクタンスCの断面積は12mm2/sccm以下であり、注入されるパージガスの流量は、国際単位で、12mm2/1.69×10-3Pa.m3/sである。これは、ステータ2のシェル17とロータ3の内部ボウル15との間のギャップへのポンプ搬送されるガスの侵入を制限するため、及び、後で明らかになるように、ロータ3の内部ボウル15とステータのシェル17との間の放射率の高い1つ又は複数の表面を保護するためである。
なお、Sccmはガス流量の単位である(101500Pa.における1分あたりの標準立方センチメートルであり、国際単位では、1sccm=1.69×10-3Pa.m3/sである)。
【0028】
例えば、パージ流量が50sccm(0.0845Pa.m3/s)の場合、コンダクタンスの断面積は600mm2以下でなければならない。同様に、コンダクタンスの断面積が300mm2の場合、注入されるパージガスの流量は25sccm(42.25×10-3Pa.m3/s)以上でなければならない。
パージガスの流れ及び関連する環状コンダクタンスにより、ロータ3の下側にポンプ搬送されるガスの侵入を制限する障壁を形成することにより、ターボ分子真空ポンプ1のジャーナル軸受要素、特に電気接続部、溶接部及び軸受18a、18bを、部分的に攻撃的なポンプ搬送ガスから保護することも可能になる。
【0029】
動作中、
図1の例に概略的に示されているように、パージガスは、第1の軸受18aを通過し、駆動軸12に沿って上昇し、駆動軸12の第2の端部を支持及び案内する第2の軸受18bを通過してステータ2のシェル17から出て、シェル17と内部ボウル15の間に位置するギャップを循環し、そして、ホルウェック スカート13の下で、ロータ3とステータ2の間の環状コンダクタンスCを通過し、真空ポンプ1の排出時に、ポンプ搬送されるガスと再結合する(
図1の矢印F2参照)。
ターボ分子真空ポンプ1は、ロータ3を取り囲むステータ2のスリーブ24を、130°C等、例えば80°Cを超える設定温度まで加熱するように構成された加熱抵抗シェルト等、ステータ2を加熱するための加熱装置22を備えていることができる。
冷却可能なステータ2のシェル17に対向して配置されたロータ3の内部ボウル15の表面は、内部ボウル15の表面の少なくとも一部にわたって、ポンプ搬送されるガスと流体接触するロータ3の外表面25よりも高い放射率を示し、少なくとも内部ボウル15の表面の一部にわたって、ポンプ搬送されるガスと流体接触するロータ3の外表面25は、ロータ3の内部ボウル15の表面よりも低い放射率を発揮する。
【0030】
代替案又は追加手段として、冷却可能なステータ2のシェル17の表面は、ロータ3の内部ボウル15に面して配置され、ステータ2のシェル17の表面の少なくとも一部にわたって、ポンプ搬送されるガスと流体接触するロータ3の外表面25よりも高い放射率を示し、ポンプ搬送されるガスと流体接触するロータ3の外表面25は、ステータ2のシェル17の表面の少なくとも一部にわたって、ステータ2のシェル17の表面よりも低い放射率を発揮する。
内部ボウル15の表面の大部分、例えば芯出し面を除いた内部ボウル15の表面全体、及び/又はステータ2のシェル17の表面全体等、芯出し面を除いたステータ2のシェル17の表面の大部分放射率は、例えば、より高い放射率を発揮する。
【0031】
1つ又は複数の高放射率の表面は、例えば、0.8以上等、0.4以上の放射率を発揮する。ポンプ搬送されるガスと流体接触する1つ又は複数の表面は、例えば、特にアルミニウム製、ニッケル製、又はニッケル被覆されたロータ3の場合、0.2の放射率等、0.3未満の放射率を発揮する。
高放射率の表面を有するロータ3の内部、及び内部のみが、熱放散によるロータ3の放射冷却を促進することを可能にする。放射率の高い表面を有するロータ3の下側のステータ2のシェル17は、それ自体が冷却されるシェル17からの放射によってロータ3の冷却を促進することを可能にする。熱流束は、
図1の矢印F3によって概略的に表されている。
【0032】
ステータ2の内面上に堆積物が形成されるのを回避するために、ロータ3を取り囲むステータ2のスリーブ24を加熱することができる。ロータ3を加熱しないように、スリーブ24とロータ3との間の熱交換は、低放射率のロータ3の外表面において低減される。
ロータ3の下に突出するステータ2のシェル17は冷却され、ロータ3の下側の電子部品及びモータを保護する。シェル17とロータ3との間の熱交換は、ロータ3をよりよく冷却するために放射率が高い、ロータ3の内部ボウル15及び/又はステータ2のシェル17の表面によって促進される。
熱交換を大幅に高めるために、ポンプ搬送されるガスと直接接続しない領域の、可動部分(内部ボウル15)と固定部分(シェル17)の両方で、高放射率の表面を優先することができる。
【0033】
ポンプ搬送されるガスと流体接触するロータ3の外表面25は、低い放射率を発揮することができる。特に、ポンプ搬送されるガスと流体接触するロータ3のこの外表面25には、ニッケルメッキ等の腐食に対する保護コーティングを設けることができる。
ロータ3の内部ボウル15及び/又はステータ2のシェル17の1つ又は複数の高放射率の表面は、例えば、陽極酸化、サンドブラスト、溝付け又はテクスチャリング等の表面処理によって得られている。例えば、レーザー、又はソーダ処理で黒化する表面処理がなされる。陽極酸化、ソーダ処理、又はレーザーによるアルミニウムの表面処理は、合理的なコストで0.8を超える放射率の表面を得ることができるという利点を提供する。
【0034】
代替案又は追加手段として、ロータ3の内部ボウル15及び/又はステータ2のシェル17の1つ又は複数の高放射率の表面は、コーティングの堆積によって得られている。このコーティングは、KEPLA-COAT(登録商標)タイプのプラズマ蒸着化学コーティング、又は一般に「エポキシ塗料」と呼ばれるエポキシポリマーコーティング等の溶剤を含まない塗料タイプのコーティング等である。ロータ3の内部ボウルの表面のみが高放射率のエポキシポリマーコーティングを有することができるという事実は、コーティングの堅牢性が遠心力のプレス効果によって強化されるという利点を提供する。
【0035】
好ましくは、塗装又はコーティングされる表面は、例えば、内部ボウル15、特にホルウェック スカート13の円筒面等が、遠心力によって塗料又はコーティングが剥がれないようにするために、ロータ3の回転軸I-Iに平行な表面に限定される。コーティングの厚さは、例えば、30μm~100μmの間にある。
コーティング又は表面処理は、黒又は黒の色合い等、好ましくはつや消し及び/又は暗い外観を有することができる。
特に、ギャップ内のロータ3及び/又はステータ2の放射率を増加させるために、幾つかの表面処理及び/又はコーティング層を設けることが可能である。
コーティング又は表面処理は、好ましくは無溶媒処理である。溶媒は、実際には、特定のポンプ装置内で完全に処方されるべきであり、ポンプ搬送される空間への後方散乱のリスクを回避するために、真空ポンプ1では溶媒を使用しないことが好ましい。
【0036】
ロータ3の第1の例示的な実施形態によれば、表面処理の第1のステップは、ロータ3の外表面処理25を実行して、芯出し面を除いて、ロータ3の高放射率の表面を得ること、あるいは、ロータ3に、芯出し面を除いてコーティングを堆積させて、ロータ3の高放射率の表面を得ることである。芯出し面により、ロータ3を回転軸I-I上で駆動軸12の中心に置くようにすることができるため、より高い製造精度が必要となる。次に、第2のステップで、ロータ3の内部ボウル15をマスキングして、ポンプ搬送されるガスと流体接触するように意図されたロータ3の外表面25がニッケルメッキされる。
【0037】
ロータ3の第2の例示的な実施形態によれば、内部ボウル15及びホルウェック スカート13を含むロータ3の第1の部分3a(
図2参照)の表面処理は、ロータ3の第1の部分の高放射率の表面を得るために実行されるか、又は、コーティングが内部ボウル15及びホルウェック スカート13を含むロータ3の第1の部分に堆積され、ロータ3の第1の部分の高放射率の表面が得られている。次に、ポンプ搬送されるガスと流体接触するように意図されたロータ3の第1の部分の表面は、内部ボウル15をマスキングしてニッケルメッキされる。次に、ロータ3の第1の部分3aは、少なくとも2段のブレード段9を含むニッケルメッキされたロータ3の第2の部分3bに、例えばねじ止めによって、固定される。
【0038】
第3の例示的な実施形態によれば、高放射率の表面を有する内部ボウル15を形成する部品は、例えばねじ込み又は締まり嵌めによって、一方で内部ボウル15を補完する凹形状を有し、他方では、少なくとも2段のブレード段9を備えている、ロータ本体23(
図3参照)と組み立てられる。高放射率の表面を有する内部ボウル15を形成する部品は、例えば、陽極処理されたアルミニウムで作られる。
【0039】
動作中、ステータ2のシェル17との熱交換は、ロータ3の下において、ロータ3の放射冷却を促進することを可能にする1つ又は複数の高放射率の表面によって、促進される。これらの高放射率の表面は保護されているため、潜在的に腐食性のポンプ搬送ガスに触れることはない。他方、これは、ロータ3の下側のギャップを循環するパージガスによって、また一方では内部ボウル15の端の環状コンダクタンスによって行われる。放射率の高いこれらの表面は、一方ではロータ3の下側のギャップを循環するパージガスによって保護され、他方ではロータ3の端の環状コンダクタンスによって保護されているため、潜在的に腐食性のポンプ搬送されるガスに触れることはない。パージガス及び環状コンダクタンスは、ロータ3及び/又はステータ2の高放射率の表面を、ロータ3の下に浸透する可能性のあるポンプ搬送されるガスからの潜在的な攻撃から保護することを可能にする。従って、保護された表面のみが高放射性にされ、腐食性の可能性のあるポンプ搬送されるガスに殆ど又はまったく遭遇しないようになる。
パージ流量と低コンダクタンスにより、高放射率の表面を比較的簡単に、従って安価に製造できるため、コストの面で大幅な節約になる。例えば、ロータ3とこのロータ3の下側のステータ2の高放射率の表面とによって促進されるロータ3の放射冷却が、ロータ3とステータ2との間のパージガスの流れと組み合わされることが見出された。これにより、70℃に冷却されたシェル17に対して、ポンプ搬送される重ガスの流量を20%~30%だけ増加させることが可能となる。
【0040】
一例として、また本発明をよりよく理解するために、以下の記号を使用する。
Prs:ロータ3からステータ2に放射される熱出力、
Tr:ロータ3の温度(K)、
Ts:ステータ2のシェル17の温度(K)、
εr:ロータ3の内部ボウル15の放射率、
εs:ステータ2のシェル17の放射率、
Ssr:ロータ3の内部ボウル15とステータ2のシェル17との間の対向面。
これにより、ロータ3からステータ2に放射される出力は、次のようになる。
P1=Ssr・εr・σ・Tr
4
σ=5.67×10-8W・m-2・K-4 ステファン・ボルツマン定数(黒色体の放射定数)
ステータ2によって反射される電力は、次のとおりである。
P2=(1-εs)・P1
ステータ2からロータ3に放射される出力は次のとおりである。
P3=SSR・εs・σ・Ts
4
ロータ3によって反射される出力は次のとおりである。
P4=(1-εr)・P3
従って、ロータ3からステータ2に伝達される熱出力は、次のようになる。
Prs=P1-P2-P3+P4=Ssr・εr・εs・σ・(Tr
4-Ts
4)
従って、表面Ssrが500cm2に等しい場合、ロータ3の内部ボウル15の放射率は0.7、シェル17の放射率は0.8であり、ロータ3の温度が150°Cで、シェル17の温度が70°Cの場合、ロータ3は約28Wを伝達できる。
【0041】
一方、シェル17の放射率が0.2以下である場合、伝送出力は7.2W以下である。
今説明したことから、ポンプ搬送されるガスの流量を増加させるために、ロータ3の内部ボウル15の表面の放射率を最大化し、かつ、ステータ2のシェル17の表面の放射率を最大化することによって、ロータ3の下側での反対側の放射面Ssrを最大化し、放射によってロータ3から放散することができる熱出力を増加させることが可能であることが理解されるであろう。
【0042】
また、
図4は、真空ポンプ1がターボ分子のみである、第2の例示的な実施形態を示す。このロータ3は、少なくとも2段のブレード段9を備えているが、ホルウェック スカートを備えていない。この例では、環状コンダクタンスCの断面積は、内部ボウル15の高さの大部分にわたって一定である。
前記のように、冷却可能なステータ2のシェル17に面して配置されたロータ3の内部ボウル15の表面は、少なくとも内部ボウル15の表面の一部の上にあるポンプ搬送されるガスと流体接触するロータ3の外表面25よりも高い放射率を発揮する。
代替案又は追加的に、ロータ3の内部ボウル15に面して配置された冷却可能なステータ2のシェル17の表面は、ステータ2のシェル17の表面の少なくとも一部にわたって、ポンプ搬送されるガスと流体連通しているロータ3の外表面25よりも高い放射率を発揮する。
【0043】
動作中、前記した例のように、ステータ2のシェル17との熱交換は、ロータ3の下部の高放射率の表面によって促進され、ロータ3の放射冷却を高めることができる。放射率の高いこれらの表面は、一方ではロータ3の下側のギャップを循環するパージガスによって保護され、他方では内部ボウル15の端の環状コンダクタンスによって保護されているため、潜在的に、腐食性のポンプ搬送されるガスに触れることはない。パージガス及び環状コンダクタンスにより、ロータ3及び/又はステータ2の高放射率の表面を、ロータ3の下側に浸透する可能性のあるポンプ搬送されるガスの潜在的な攻撃から保護することが可能になる。従って、保護された表面のみが高放射性になり、腐食性の可能性のあるポンプ搬送されるガスに殆ど又はまったく遭遇しないようになる。
【符号の説明】
【0044】
1 真空ポンプ
2 ステータ
3 ロータ
4 ターボ分子段
5 分子段
6 吸入オリフィス
7 排出オリフィス
8 環状入口フランジ
9 ブレード段
10 フィン段
11 ロータのハブ
12 駆動軸
13 ホルウェック スカート
14 螺旋溝
15 内部ボウル
17 ステータのシェル
18a、18b 軸受
19 冷却装置
20 パージ装置
21 ダクト
22 加熱装置
23 ロータ本体
24 スリーブ
25 ロータの外表面
I-I 回転軸
【国際調査報告】