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特表2023-550462固形がんの治療のためのHER3放射免疫治療薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】固形がんの治療のためのHER3放射免疫治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/10 20060101AFI20231124BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231124BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20231124BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20231124BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20231124BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
A61K51/10 100
A61P35/00
A61P43/00 125
A61K39/395 N
A61K45/00
A61K51/10 200
A61P15/00
A61P1/04
A61P13/10
A61P17/00
A61P11/00
A61P13/08
A61P1/18
A61P13/12
A61P1/02
A61P11/02
A61P11/04
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530591
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 US2021060370
(87)【国際公開番号】W WO2022109404
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】63/116,225
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/118,181
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/226,699
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/250,725
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2021/056259
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517405552
【氏名又は名称】アクティニウム ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】ラディック デール エル
(72)【発明者】
【氏名】ゲイガン アイリーン
(72)【発明者】
【氏名】セス サンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】ダイアモンド ポール
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084AA19
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA341
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA671
4C084ZA811
4C084ZA891
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC711
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085HH03
4C085KA04
4C085KA05
4C085KA29
4C085KB07
4C085KB11
4C085KB12
4C085KB18
4C085LL18
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA71
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
放射性核種、例えば、225Ac、177Lu、131I、90Y、213Bi、211At、213Bi、227Th、若しくは212Pbで標識したHER3標的薬の有効量を、単独で、又は他の治療薬若しくは様式と併用して投与することによって、対象のHER3陽性腫瘍などの固形がんを治療するための組成物及び方法を提供する。放射性標識HER3標的薬の有効量は、単回ボーラスで、又は合計して最大耐量に等しい分割用量で投与される最大耐量であり得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類対象における固形がんを治療する方法であって、放射性核種標識HER3標的薬の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、131I、125I、123I、90Y、177Lu、186Re、188Re、89Sr、153Sm、32P、225Ac、213Bi、213Po、211At、212Bi、213Bi、223Ra、227Th、149Tb、137Cs、212Pb、若しくは103Pd、又はこれらの組み合わせから選択される放射性標識を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、225Ac、177Lu、131I、90Y、213Bi、211At、213Bi、227Th、212Pb、又はこれらの組み合わせから選択される放射性標識を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、HER3に対するヒト化抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、パトリツマブ、セリバンツマブ、ルムレツズマブ、エルゲムツマブ、AV203、GSK2849330のうち1つ又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、配列番号:77を含む重鎖配列と配列番号:78を含む軽鎖配列のうち1つ又は両方を含むモノクローナル抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、
(i)
(a)配列番号:15を含むCDR-H1、配列番号:16を含むCDR-H2、及び/若しくは配列番号:17を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、並びに
(b)配列番号:18を含むCDR-L1、配列番号:19を含むCDR-L2、及び/若しくは配列番号:20を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域
のうち1つ若しくは両方;
(ii)配列番号:21を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び配列番号:22を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域のうち1つ若しくは両方;又は
(iii)配列番号:23の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び配列番号:24の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列のうち1つ若しくは両方
を含むモノクローナル抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、それぞれ配列番号:13及び/若しくは1~3に定めるアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖;並びに/又はそれぞれ配列番号:14及び/若しくは4~6に定めるアミノ酸配列を有するCDRを有する軽鎖を含むモノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記固形がんは、乳がん、胃がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、皮膚がん、胃がん、精巣がん、食道がん、細気管支肺胞上皮がん、前立腺がん、結腸直腸がん、卵巣がん、子宮頸部類表皮がん、膵がん、肺がん、腎がん、頭頸部がん、又はこれらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記固形がんは、乳がん、胃がん、膵がん、又はこれらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記固形がんはHER3陽性がん細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記放射性核種標識HER3標的薬の有効量は最大耐量である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記放射性核種標識HER3標的薬は225Acで標識されており、前記225Ac標識HER3標的薬の有効量は、0.1~50μCi/kg対象体重、又は0.1~5μCi/kg対象体重、又は5~20μCi/kg対象体重の用量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記放射性核種標識HER3標的薬は225Acで標識されており、前記225Ac標識HER3標的薬の有効量は、2μCi~2mCi、又は2μCi~250μCi、又は75μCi~400μCiの用量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記放射性核種標識HER3標的薬の有効量は、3mg/kg対象体重未満、例えば、0.001mg/kg患者体重~3.0mg/kg患者体重、又は0.005mg/kg患者体重~2.0mg/kg患者体重、又は0.01mg/kg患者体重~1mg/kg患者体重、又は0.1mg/kg患者体重~0.6mg/kg患者体重、又は0.3mg/kg患者体重、又は0.4mg/kg患者体重、又は0.5mg/kg患者体重、又は0.6mg/kg患者体重のタンパク質投与量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、治療期間にわたって、7、10、12、14、20、24、28、35、及び42日に1回からなる群から選択される投与スケジュールに従って投与され、前記治療期間中に少なくとも2回の投与を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
免疫チェックポイント治療薬、DNA損傷応答阻害剤(DDRi)、CD47遮断薬、化学療法薬、又はこれらの組み合わせの治療有効量を前記対象に投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫チェックポイント治療薬は、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、CD137、又はこれらの組み合わせに対する抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記DDRiは、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ阻害剤(PARPi)、毛細血管拡張性運動失調症変異阻害剤(ATMi)、毛細血管拡張性運動失調症変異及びRad3関連阻害剤(ATRi)、又はWee1阻害剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記CD47遮断薬は、マグロリマブ、レムゾパリマブ、AO-176、TTI-621、TTI-622、及びCD47発現調節剤のうち1つ又は複数を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記CD47遮断薬はCD47発現調節剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記CD47発現調節剤はMBT-001である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記放射性核種標識HER3標的薬は、HER2に対しても特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記放射性標識HER3標的薬は、放射性核種をキレート化する、化学的にコンジュゲートされたキレート剤基を含む、請求項1又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記キレート剤基はDOTAを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記投与ステップは、
前記HER3標的薬の放射性標識部分と前記HER3標的薬の非放射性標識部分とを含む治療用組成物の治療有効量を前記対象に投与すること
を含む、請求項1から25のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記治療用組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を更に含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記投与ステップに先立って、HER3陽性がんを有する前記対象を診断するステップを更に含む、請求項1から27のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記診断ステップは、放射性核種標識HER3標的薬を用いて、前記対象においてHER3陽性細胞をイメージングすることを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記診断ステップと前記投与ステップに同一のHER3標的薬を使用する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記HER3標的薬は、前記診断ステップと前記投与ステップで異なる放射性核種で標識されている、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年10月22日に出願された国際出願PCT/US21/56259号、及び2021年9月30日に出願されたその優先権出願の米国仮出願第63/250,725号、及び2021年7月28日に出願された米国仮特許出願第63/226,699号のそれぞれ;2020年11月25日に出願された米国仮特許出願第63/118,181号;並びに2020年11月20日に出願された米国仮特許出願第63/116,225号の優先権を主張するものであり、前述の出願はそれぞれ参照によりその全体が本明細書に援用される。
配列表
本願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に援用される。2021年11月22日に作成された前記ASCIIコピーは、ATNM-010PCT_SL_ST25.txtという名称で、サイズは191,107バイトである。
本願発明は、放射線治療法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ErbB3/HER3は、チロシンキナーゼ受容体(EGFR、HER2、HER3、及びHER4)の赤芽球性がん遺伝子B(ErbB)ファミリーのメンバーであるI型膜貫通糖タンパク質である。HER3を介したシグナル伝達は、リガンド依存的又はリガンド非依存的に活性化することができる。リガンドがない状態では、HER3受容体分子は、通常、受容体二量体化を妨げる構造を有する単量体として細胞表面に発現する。この構造では、サブドメインIIの二量体化ループが、サブドメインIVのポケットと分子内接触する。ニューレグリン(NRG)、例えばNRG1(ヘレグリン、HRGとしても知られる)又はNRG2などのHER3リガンドが、細胞外領域のサブドメインI及びIIIに結合すると、構造変化が起こってサブドメインIIの二量体化ループが露出し、受容体の二量体化とシグナル伝達が促進される。HER3における特定のがん関連変異は、サブドメインIIとIVとのこの相互作用、即ち、不活性な「閉じた」構造の形成に必要な相互作用を妨げ、それにより、リガンド結合がない状態で、二量体化ループの構成的提示、及びHER3介在性シグナル伝達の活性化を引き起こす。
HER3を標的とする抗体を使用し、特定のがん細胞、特に特定の固形がんを標的とし得る。HER3は、乳がん、消化器がん、及び膵がんなどのいくつかのがん種で過剰発現する。HER2/HER3の発現と、これらのがんの非浸潤期から浸潤期への進行との相互関係が示されている。抗HER3抗体などの、HER3介在性シグナル伝達を阻害する薬剤は、従来の治療薬の使用では通常不十分であった、がん細胞に対する強固な免疫応答の構築を可能にし得る。
従って、ここに開示する本発明の目的の1つは、HER3陽性がんの治療用など、治療上有効な放射性標識HER3標的薬を提供することである。ここに開示する本発明の関連する目的は、そのような放射性標識HER3標的薬を、単独で、又は1つ若しくは複数の追加的な治療薬と併用して投与することを含む治療方法を提供することである。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、放射性同位体で標識した、HER3を標的とするモノクローナル抗体、ペプチド、又は小分子などのHER3標的薬、並びに放射性標識HER3標的薬を用いて、HER3陽性(HER3発現)がんを診断及び/又は治療する方法を提供する。
本発明の特定の態様に従って、診断目的に有用な放射性標識HER3標的薬は、111In、68Ga、64Cu、89Zr、又は177Luなどの放射性同位体を含む抗HER3抗体、ペプチド、又は小分子であり得る。
特定の他の態様に従って、治療介入に有用な放射性標識HER3標的薬は、以下のような放射性同位体を含む抗HER3抗体、ペプチド、又は小分子であり得る:131I、125I、123I、90Y、177Lu、186Re、188Re、89Sr、153Sm、32P、225Ac、213Bi、213Po、211At、212Bi、213Bi、223Ra、227Th、149Tb、137Cs、212Pb、又はこれらの組み合わせ。特定の好ましい態様に従って、放射性標識HER3標的薬は、131I、90Y、177Lu、225Ac、213Bi、211At、227Th、又は212Pbを含み得る。
【0004】
特定の態様に従って、HER3陽性がんは固形腫瘍であり得る。
ここに開示する本発明の治療方法は、一般に、治療有効量の放射性標識HER3標的薬を患者に投与することを含む。特定の態様に従って、放射性標識HER3標的薬の有効量は最大耐量(MTD)であってよく、又は分割用量であってよく、分割用量で投与される放射線の総量がMTDとなる。
特定の態様に従って、HER3標的薬の放射性標識部分と非放射性標識部分とを含むHER3標的薬の組成物又は量が提供及び/又は使用される。このため、HER3標的薬の有効量は、100mg未満、例えば5~60mg又は5~45mgの総タンパク質投与量を含み得る。特定の態様に従って、総タンパク質投与量は、0.001~3mg/kg対象体重、例えば0.005~2mg/kg対象体重であり得る。特定の態様に従って、総タンパク質投与量は、2mg/kg未満、又は1mg/kg未満、又は0.5mg/kg未満、又は0.1mg/kg未満であり得る。総タンパク質投与量の一部は、記述するように放射性標識(即ち、放射性コンジュゲート)されており、放射性標識HER3標的薬の有効量は、選択される特定の放射性同位体に応じて異なり得る。治療介入に好ましい放射性同位体は、225Ac、177Lu、131I、90Y、213Bi、211At、227Th、又は212Pbを含む。従ってHER3標的薬は、放射性標識部分と非標識部分を含み得る。
【0005】
特定の態様に従って、放射線量という意味でのHER3標的薬の有効量、即ち、これらの放射性標識部分、例えば225Ac抗HER3抗体、ペプチド、又は小分子の有効量は、0.1~20μCi/kg対象体重、例えば、0.1~10μCi/kg、又は0.1~5μCi/kg対象体重、又は0.5~20μCi/kg、又は1~10μCi/kg対象体重の用量を含み得る。
特定の態様に従って、HER3標的薬の有効量、即ち、これらの放射性標識部分、例えば225Ac抗HER3抗体、ペプチド、又は小分子の有効量は、標的薬、即ち、本明細書に開示するもののいずれかのような全長抗体又は抗原結合性抗体フラグメント(例えば、Fab、Fab2、ミニボディ、ナノボディ等)の構造に応じて異なり得る。例えば、HER3標的薬が、全長抗体である225Ac抗HER3抗体を含む場合、用量は5μCi/kg対象体重未満、例えば0.1~5μCi/kg対象体重であり得る。代替的に、HER3標的薬が、フラグメントである225Ac抗HER3抗体を含む場合、用量は5μCi/kg対象体重超、例えば5~20μCi/kg対象体重であり得る。
【0006】
特定の態様に従って、HER3標的薬は、抗HER3抗体、例えばモノクローナル抗体又はこれらの抗原結合性フラグメント、例えばIgG又はこれらの抗原結合性フラグメント、例えば第一三共のパトリツマブ、Merrimack Pharmaceuticalsのセリバンツマブ(MM-121)、Rocheのルムレツズマブ、Novartisのエルゲムツマブ、GlaxoSmithKlineのGSK2849330、Celldex TherapeuticsのCDX-3379、MediPharmaのEV20及びMP-RM-1、Isu Abxis Co.のISU104、Hummingbird Bioscience Pte.のHMBD-001(10D1F)、Regeneron PharmaceuticalsのREGN1400、並びに/又はAVEO OncologyのAV-203によって認識されるHER3のエピトープに結合するものである。特定の態様に従って、抗HER3抗体は、パトリツマブ、セリバンツマブ、ルムレツズマブ、エルゲムツマブ、AV-203、CDX-3379、又はGSK2849330のうち1つ又は複数から選択される。
特定の態様に従って、HER3標的薬は、治療期間にわたって、7、10、12、14、20、24、28、35、及び42日に1回投与からなる群から選択される投与スケジュールに従って投与してよく、治療期間中に少なくとも2回の投与を含む。
特定の態様に従って、HER3標的薬は、治療期間の1日目と5、6、7、8、9、若しくは10日目、又は治療期間の1日目と8日目など、2回の投与を含む投与スケジュールに従って投与し得る。
特定の態様に従って、HER3標的薬は、対象固有の単回用量で、単回ボーラス又は注入として投与し得る。
【0007】
特定の態様に従って、方法は、1つ又は複数の更なる治療薬、例えば、化学療法薬、小分子薬、抗炎症薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、抗骨髄腫薬、サイトカイン、又はこれらの組み合わせの投与を更に含み得る。例示的な化学療法薬は、少なくとも、放射性標識HER3標的薬と相乗効果を示し得る放射線増感剤、例えば、テモゾロミド、シスプラチン、及び/又はフルオロウラシルを含む。
特定の態様に従って、方法は、1つ又は複数の免疫チェックポイント治療薬の投与を更に含み得る。例示的な免疫チェックポイント治療薬は、CTLA-4、PD-1、TIM-3、VISTA、BTLA、LAG-3、TIGIT、CD28、OX40、GITR、CD137、CD40、CD40L、CD27、HVEM、PD-L1、PD-L2、PD-L3、PD-L4、CD80、CD86、CD137-L、GITR-L、CD226、B7-H3、B7-H4、BTLA、TIGIT、GALS、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、又はこれらの任意の組み合わせに対する抗体を含む。特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬は、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、CD137、及びこれらの組み合わせに対する抗体からなる群から選択される免疫チェックポイントタンパク質に対する抗体を含み得る。
特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬は、有効量で、例えば0.1~50mg/kg患者体重、例えば0.1~5mg/kg又は5~30mg/kgの用量で対象に投与し得る。
【0008】
特定の態様に従って、方法は、1つ又は複数のDNA損傷応答阻害剤(DDRi)の投与を更に含み得る。例示的なDDRiとして、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼを標的とする1つ又は複数の抗体又は小分子(即ち、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ阻害剤又はPARPi)がある。PARPiに、例えば、オラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、タラゾパリブ、又はこれらの任意の組み合わせがあり得る。特定の態様に従って、PARPiは、0.1~1200mg/日、例えば0.100~600mg/日又は0.25~1mg/日を含む対象有効量で提供し得る。例示的な対象有効量は、経口で1日1回又は2回投与される、0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1.0mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、750mg、800mg、900mg、及び1000mgを含む。
別の例示的なDDRiに、毛細血管拡張性運動失調症変異(ATM)、毛細血管拡張性運動失調症変異(Ataxia talangiectasia mutated)及びRad3関連(ATR)、又はWee1の阻害剤がある。ATMの例示的な阻害剤は、KU-55933、KU-59403、ウォルトマンニン、CP466722、及びKU-60019を含む。ATRの例示的な阻害剤は、少なくとも、シザンドリンB、NU6027、NVP-BEA235、VE-821、VE-822、AZ20、及びAZD6738を含む。Wee1の例示的な阻害剤は、AZD-1775(即ち、アダボセルチブ)を含む。
【0009】
特定の態様に従って、方法は、1つ又は複数のCD47遮断薬の投与を更に含み得る。CD47遮断薬は、CD47がSIRPαに結合するのを防ぐ、若しくはそれ以外の方法でCD47の免疫抑制活性をダウンレギュレートするモノクローナル抗体、SIRPα-Fc融合タンパク質、又はその他の分子、例えば、マグロリマブ、レムゾパリマブ、AO-176、AK117、IMC-002、IBI-188、IBI-322、BI766063、ZL-1201、AXL148、RRx-001、ES004、SRF231、SHR-1603、TJC4、TTI-621、若しくはTTI-622を含み得る。CD47遮断薬の例示的な有効用量は、0.05~5mg/kg患者体重を含む。CD47遮断薬は、CD47及び/又はSIRPαの発現を調節する薬剤、例えば、アンチセンス、RNAi、又はμRNAアプローチなどの核酸アプローチも含み得る。例示的なCD47遮断薬は、MBT-001のような、CD47の翻訳を阻止するホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)も含む。
特定の態様に従って、方法は、更なる治療薬の組み合わせの投与を更に含み得る。例示的な組み合わせに、様々ながん関連抗原に対する、少なくとも1つ若しくは複数のDDRi、及び/又は1つ若しくは複数の免疫チェックポイント治療薬、及び/又は1つ若しくは複数のCD47遮断薬、及び/又は1つ若しくは複数の化学療法薬、及び/又は1つ若しくは複数の小分子抗がん剤、及び/又は1つ若しくは複数の標的薬がある。
【0010】
特定の態様に従って、放射性標識HER3標的薬及び1つ又は複数の更なる治療薬は、同時又は逐次的に投与し得る。2つ以上の追加的な治療薬を投与する場合、この薬剤は、同時又は逐次的に投与し得る。
本発明の特定の態様に従って、放射性標識HER3標的薬は、少なくとも1つの部分がHER3を認識する多特異性標的薬、例えば多特異性抗体又は二特異性抗体であり得る。従って方法は、有効量の多特異性抗体を対象に投与することを含んでよく、多特異性抗体は以下を含む:HER3のエピトープに特異的に結合する第1の標的認識成分、及び第1の標的認識成分とは異なるHER3のエピトープ、又は異なるがん関連抗原などの異なる抗原のエピトープに特異的に結合する第2の標的認識成分。特定の態様に従って、HER3標的薬は、HER3の第1のエピトープ及び少なくともHER3の第2のエピトープに対する、又はHER3及び少なくとも第2の(異なる)抗原に対する多特異性抗体である。本発明による診断及び/又は治療用途のために放射性標識されていてよい例示的な多特異性抗体は、Merrimack PharmaceuticalsのMM-111若しくはMerus N.V.のMCLA-128などのHER3/HER2に対する;若しくはMerrimack PharmaceuticalsのMM-141(即ち、イスチラツマブ)などのIGF-1R/HER3に対する;若しくはRocheのMEHD7945A(即ち、ドゥリゴツマブ)などのEGFR/HER3に対する二特異性抗体、又はZyngenia Inc.のセツキシマブベースの二特異性若しくは多特異性Zybodyを含む。
【0011】
特定の態様に従って、HER3に対する抗体などのHER3標的薬と、1つ若しくは複数の異なるがん関連抗原を標的とする又はこれらに対する抗体などの1つ若しくは複数の更なる標的薬との混合物を含む組成物が提供され、HER3標的薬及びその他の標的薬(複数可)のうち1つ又は複数は、任意の組み合わせで放射性標識されていてよい、又はされていなくてよい。抗体混合物を含む例示的な抗体組成物に、少なくとも、EGFR(HER1)、HER2、及びHER3に対する6つのモノクローナル抗体を有する、SymphogenのSym013がある。一態様では、Sym013の抗体の1つ又は複数は、少なくとも1つのHER3抗体と、EGFR及びHER2に対する抗体のうちいずれも含まない又は1つ又は複数との任意の組み合わせで放射性標識し得る。
本発明の更なる特徴、利点、及び態様は、以下の詳細な説明、ある場合には図面、及び特許請求の範囲を考慮することにより示され得る、又は明らかになり得る。更に、前述の発明の概要及び以下の詳細な説明はいずれも例示的なものであり、請求項に係る発明の範囲を限定することなく更なる説明を提供することを意図していることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の様々な態様で具体化し得るHER3モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖のN末端領域、相補性決定領域、及び可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
図2】本発明の様々な態様で具体化し得るHER3モノクローナル抗体の、リーダー配列を含む及び含まない全長重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
図3】修飾がHER3に対する免疫反応性に実質的に影響を及ぼさないことを実証する、未修飾抗HER3抗体及び非特異的抗体(IgG)と比較したAc225標識DOTA結合抗HER3モノクローナル抗体の、ELISAアッセイによる結合特性を示すグラフである。
図4】HER3陽性NCI-H1975細胞(ヒト肺腺がん、NSCLC)及びBxPC-3細胞(ヒト膵臓腺がん)への、225Ac-HER3-ARC、未修飾抗HER3 mAb、非特異的抗体対照(IgG)、及び二次抗体のみの対照の結合を調べるフローサイトメトリーアッセイの結果を示すグラフである。
図5】HER3陽性細胞株NCI-H1975に対する225Ac-HER3-ARCのin vitro細胞毒性効果を放射線量の関数として示すグラフである。
図6A225Ac-HER3-ARCがNCI-H1975細胞中の細胞表面カルレティキュリン(CRT)をアップレギュレートすることを示すグラフである。
図6B225Ac-HER3-ARCがNCI-H1975細胞上のCD47をアップレギュレートすることを示すグラフである。
図7A225Ac-HER3-ARCと抗CD47遮断抗体の併用が、いずれかの治療単独と比べてBxPC-3細胞の貪食作用を増強したことを実証する貪食作用アッセイの結果を示すグラフである。
図7B225Ac-HER3-ARCと抗CD47遮断抗体の併用が、いずれかの治療単独と比べてNCI-H1975細胞の貪食作用を増強したことを実証する貪食作用アッセイの結果を示すグラフである。
図8】様々な放射線量の、及び抗CD47遮断抗体と併用した、225Ac-HER3-ARCの、ヒト腫瘍(NCI-H1975細胞)マウス異種移植モデルにおける腫瘍増殖に対する効果を示すグラフである。
図9図8に記載する実験の対象における経時的な体重を示すグラフである。
図10図8に記載する実験の実験対象群における経時的な生存率を示すグラフである。
図11】HER2陽性SK-OV3ヒト卵巣がん細胞株を用いた、NGSマウス異種移植モデルにおける、ビヒクル(対照)、CD47遮断抗体マグロリマブ単独、225Acトラスツズマブ単独、及びマグロリマブと225Acトラスツズマブの併用の、腫瘍増殖に対する効果を比較したグラフである。
図12】SK-OV3ヒト卵巣がん細胞株を用いた、NGSマウス異種移植モデルにおける、ビヒクル(対照)、マグロリマブ単独、177Luトラスツズマブ単独、及びマグロリマブと177Luトラスツズマブの併用の、腫瘍増殖に対する効果を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一態様では、ここに開示する本発明は、HER3を発現するがん、即ちHER3陽性がんを治療するための組成物及び方法を提供する。本態様は、一般に、ヒト患者などの治療を必要とする哺乳類対象に、有効量の放射性標識HER3標的薬、例えば、HER3を標的とする放射性標識抗体、ペプチド、又は小分子を、単独で、又は1つ若しくは複数の追加的な治療薬及び/若しくは治療様式/治療と併用して投与することを含む。
使用し得る追加的な治療薬及び治療様式は、例えば、少なくとも1つ若しくは複数の免疫チェックポイント治療薬、及び/又はDNA損傷応答経路(即ち、DNA損傷応答阻害剤(DDRi)、例えば、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ、即ちPARPiに対する1つ若しくは複数の薬剤)の構成要素の1つ若しくは複数の阻害剤、及び/又は1つ若しくは複数のCD47/SIRPα軸遮断剤、及び/又は放射線増感剤などの1つ若しくは複数の化学療法薬、及び/又はチロシンキナーゼ阻害剤などの1つ若しくは複数の小分子抗腫瘍薬、及び/又は様々な抗原に対する1つ若しくは複数の標的薬を含む。
ここに開示する本発明は、更に、対象においてHER3陽性がんを特定、イメージング、及び/又は診断する方法を提供する。ここに開示する本発明は、対象においてHER3陽性がんを特定、イメージング、及び/又は診断した後に、本明細書に開示する方法のいずれかに従って、これらの対象を治療する方法を更に提供する。
【0014】
定義と略語
単数形「a」、「an」、「the」等は、文脈上明白に別段の定めがない限り、複数形の参照を含む。従って、例えば、「an」antibody(抗体)の参照は、1つの抗体と複数の異なる抗体の両方を含む。
本明細書及び特許請求の範囲で使用する語「含む」及び語「含む」の形態、並びに語「包含する」及び語「包含する」の形態は、言及するもの以外の要素の包含を制限するものではない。更に、本開示全体を通して、これらの様々な態様又は要素を、「包含する」又は「含む」という観点から説明するが、「から本質的になる」又は「からなる」という観点から説明されるこれらの対応する態様又は要素も同様に開示される。例えば、本発明の特定の態様が、放射性標識標的薬を投与することを「包含する」又は「含む」方法の観点から説明されると同時に、代わりに放射性標識標的薬を投与すること「から本質的になる」又は「からなる」と説明される対応する方法も、前記態様の範囲内にあり、本開示によって開示される。
本開示において、数字表示又は数値に関連して、例えば、温度、時間、量、及び濃度の記述において、範囲の記述も含めて使用する場合の用語「約」は、±10%の変動、及びより大きな変動内で、数字表示又は数値の±5%又は±1%の変動を示す。
【0015】
抗体、抗体フラグメント、Fabフラグメント、又はアプタマーなどの標的薬の関連で本明細書で使用する「投与する」は、抗体送達に好適な任意の既知の方法により薬剤を対象の体に送達することを意味する。投与の具体的な方式は、静脈内、経皮、皮下、腹腔内、髄腔内、及び腫瘍内投与を非限定的に含む。抗体の例示的な投与方法は、実質的に国際公開第2016/187514号に記載のものであってよく、同文献は参照により本明細書に援用される。
更に、本発明において抗体は、例えば、1つ又は複数の、日常的に使用され、薬学的に許容される担体及び賦形剤を用いて処方し得る。そのような担体及び賦形剤は、当業者によく知られている。例えば、注射剤送達系は、溶液、懸濁液、ゲル、微粒子、及び高分子注射剤を含み、溶解性改変剤(例えば、エタノール、プロピレングリコール、及びスクロース)及びポリマー(例えば、ポリカプロラクトン(polycaprylactone)及びPLGA)などの賦形剤を含むことができる。
【0016】
本明細書で使用する用語「抗体」は、以下を非限定的に含む:(a)2つの重鎖及び2つの軽鎖を含み、抗原を認識する免疫グロブリン分子;(b)ポリクローナル及びモノクローナル免疫グロブリン分子;(c)これらの一価及び二価フラグメント、例えば、Fab、di-Fab、scFvs、二重特異性抗体、ミニボディ、及びナノボディ(sdAb);(d)自然発生抗体及び非自然発生抗体、例えば、完全合成抗体、IgG-Fc-silent、及びキメラ;並びに(e)これらの二重特異性及び多特異性形態。免疫グロブリン分子は、IgA、分泌型IgA、IgG、及びIgMを含むがこれらに限定されない、一般に既知のクラスのいずれかに由来し得る。IgGのサブクラスも当業者によく知られており、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含むがこれらに限定されない。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100~110個以上のアミノ酸の「可変領域」を決定する。可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)という用語は、それぞれ軽鎖及び重鎖のこれらの領域を指す。抗体は、ヒト、ヒト化、又は非ヒト抗体であり得る。ここに開示する本発明の特定の態様で、「抗体」に言及する、又は「抗体」と記述する場合、明示的に別段の表記がない限り、本明細書に開示する全長抗体又はこれらのフラグメントのいずれかを指すものと想定される。
「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体のCDRドメイン外のアミノ酸の一部、大部分、又は全てが、ヒト免疫グロブリン由来の対応するアミノ酸で置き換えられた抗体を指す。抗体のヒト化形態の一実施形態では、CDRドメイン外のアミノ酸の一部、大部分、又は全てが、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸で置き換えられているのに対し、1つ又は複数のCDR領域内のアミノ酸の一部、大部分、又は全てが未変化である。アミノ酸のわずかな追加、削除、挿入、置換、又は修飾は、これらが、特定の抗原に結合する抗体の能力を損なわない限りにおいて許容される。「ヒト化」抗体は、元の抗体と同様の抗原特異性を保持する。
「キメラ抗体」は、例えば、可変領域がマウス抗体に由来し、定常領域がヒト抗体に由来する抗体など、可変領域が1つの種に由来し、定常領域が別の種に由来する抗体を指す。
【0017】
「相補性決定領域」又は「CDR」は、全体で、自然免疫グロブリン結合部位の可変領域の結合親和性及び特異性を決定するアミノ酸配列を指す。抗体の軽鎖及び重鎖それぞれに3つのCDRが存在する。
「フレームワーク領域」又は「FR」は、CDR間に介在する、通常は保存されたアミノ酸配列を指し、CDR間の足場として機能する。
「定常領域」は、抗体のクラスが変化しない抗体分子の一部分を指し、軽鎖及び重鎖のタイプによって定義される。例えば、軽鎖定常領域はκ鎖又はλ鎖のタイプであり得、重鎖定常領域は、5つの鎖のアイソタイプ:α、δ、ε、γ、又はμのうちの1つであり得る。この定常領域は、一般に、抗体が示すエフェクター機能を付与できる。様々なサブクラスの重鎖(重鎖のIgGサブクラスなど)は、異なるエフェクター機能を主に担っている。
本明細書で使用するHER3標的薬は、例えば、高い免疫反応性を有する、ヒトHER3などのHER3の任意の利用可能なエピトープに結合する、本明細書で定義する抗体、例えば、全長抗体、ミニボディ、又はナノボディであり得る。
【0018】
本明細書で使用する「免疫反応性」は、特異的抗原を認識し、これに結合する免疫グロブリンの能力の程度を指す。「特異結合」又は「特異的に結合する」又は「結合する」は、例えば、ヒト患者などの哺乳類対象の体内といった適切な状況の中で、抗体が、他の抗原よりも高い親和性で抗原又は抗原内のエピトープに結合することを指す。本発明の様々な態様において具体化又は使用し得る抗体は、例えば、約1×10-8M以下、例えば、約1×10-9M以下、約1×10-10M以下、約1×10-11M以下、又は約1×10-12M以下の平衡解離定数(KD)で、通常は、非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)に結合するKDの少なくとも100分の1のKDで抗原又は抗原内のエピトープに結合する。解離定数は標準的な手順を用いて測定し得る。しかし、抗原又は抗原内のエピトープに特異的に結合する抗体は、他の関連抗原と、例えば、ヒト又はサル、例えば、Macaca fascicularis(カニクイザル、cyno)、Pan troglodytes(チンパンジー、chimp)、若しくはCallithrix jacchus(コモンマーモセット、marmoset)などの他の種(相同体)の同じ抗原と交差反応性を示し得る。
「エピトープ」は、抗体、抗体フラグメント、Fabフラグメント、又はアプタマーなどの標的薬が認識し、且つ結合することが可能な標的分子の部位(例えば、抗原の少なくとも一部)を指す。例えば、タンパク質抗原でこれは、抗体が結合するタンパク質(即ち、アミノ酸、特にこれらの側鎖)の領域を指してよい。重複エピトープは、少なくとも1~5個の一般的なアミノ酸残基を含む。抗体のエピトープを特定する方法は当業者に知られており、例えば、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane(1988)に記載のものを含む。
【0019】
本明細書で開示する放射性標識HER3標的薬は、HER3陽性の、即ち、HER3を発現する固形腫瘍などのがん又は前がん状態を治療するために使用し得る。「HER3陽性」又は「HER3発現」は、患者内、例えば腫瘍内のがん細胞の少なくとも一部が、HER3を発現又は過剰発現していることを意味する。
本明細書で使用する用語「増殖性疾患」及び「がん」は同じ意味で使用してよく、固形がん(例えば、腫瘍)及び前がん性増殖性疾患を非限定的に含み得る。本発明の様々な態様によって治療してよく、且つHER3陽性であり得る「固形がん」は、骨がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚又は眼球内悪性黒色腫、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、直腸がん、肛門部がん、胃がん、精巣がん、子宮体がん、卵管がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、膣がん、外陰がん、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、小児腫瘍、膀胱がん、腎臓又は尿管のがん、腎盂がん、中枢神経系新生物(CNS)、中枢神経系原発リンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮がん、扁平上皮がん、アスベストによるものなど環境誘発性がんを非限定的に含む。そのようながんは、転移性又は非転移性であり得る。
特定の態様に従って、本発明の様々な態様によって治療してよく、且つHER3陽性であり得る固形がんは、タモキシフェン感受性乳がん、タモキシフェン抵抗性乳がん、HER2陽性乳がん、HER2陰性乳がん、若しくはトリプルネガティブ乳がん(TNBC)などの乳がん、胃がん(gastric cancer)、膀胱がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、メラノーマなどの皮膚がん、胃がん(stomach cancer)、精巣がん、食道がん、細気管支肺胞がん、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)などの前立腺がん、結腸直腸がん、卵巣がん、子宮頸部類上皮がん、肝細胞がん(HCC)若しくは胆管がんなどの肝がん、膵がん、非小細胞肺がん(NSCLC)などの肺がん、腎がん、頭頸部扁平上皮がんなどの頭頸部がん、がん腫、肉腫、又はこれらの任意の組み合わせであり得る。そのようながんは、転移性又は非転移性であり得る。
【0020】
特定の態様に従って、HER3標的薬は、放射性同位体/放射性核種で標識し得る。本明細書で使用する「放射性同位体」及び「放射性核種」は、α放射同位体、β放射同位体、及び/又はγ放射同位体である可能性がある。HER3標的薬などの標的薬を標識するのに使用し得る例示的な放射性核種に以下がある:131I、125I、123I、90Y、177Lu、186Re、188Re、89Sr、153Sm、32P、225Ac、213Bi、213Po、211At、212Bi、213Bi、223Ra、227Th、149Tb、137Cs、212Pb、103Pd、134Ce、43Sc、44Sc、47Sc、55Co、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、66Ga、67Ga、68Ga、82Rb、86Y、87Y、89Zr、97Ru、105Rh、109Pd、111In、117mSn、149Pm、149Tb、153Sm、177Lu、199Au、201Tl、及び203Pb。抗体又は抗体フラグメントなどのタンパク質に放射性同位体を付加する(即ち、タンパク質に放射性同位体で「標識する」)方法は当技術分野でよく知られている。標識するための特定の組成物及び方法は、例えば、国際公開第2017/155937号、並びに2019年12月9日に出願された米国仮特許出願第63/042,651号、及び2020年11月30日に出願された「Compositions and methods for preparation of site-specific radioconjugates」という名称の米国仮特許出願第63/119,093号に記載されており、いずれの文献も参照により本明細書に援用される。1つ又は複数のシステイン残基、例えばペプチド、タンパク質、抗体、及びタンパク質抗体模倣物を含むHER3標的薬などの標的薬は、例えば、放射性核種標識に関する「Reagent for site-selective bioconjugation of proteins or antibodies」という名称の米国特許第11,000,604号明細書に開示されている、キレート剤を含有する、例えばDOTAを含有する安定したリンカーのいずれかに化学的にコンジュゲートし得る。
【0021】
特定の態様に従って、HER3標的薬は、225Acで放射性標識されている(「225Ac標識」)抗体、ペプチド、又は小分子であってよく、有効量は、例えば50.0μCi/kg以下であり得る(即ち、対象に投与される225Acの量は、対象の体重1kg当たり50.0μCi未満の放射線量を送達する)。特定の態様に従って、HER3標的薬が225Acで標識されている場合、有効量は、50μCi/kg、40μCi/kg、30μCi/kg、20μCi/kg、10μCi/kg、5μCi/kg、4μCi/kg、3μCi/kg、2μCi/kg、1μCi/kg、又は0.5μCi/kg未満である。特定の態様に従って、HER3標的薬が225Acで標識されている場合、有効量は、少なくとも0.05μCi/kg、又は0.1μCi/kg、0.2μCi/kg、0.3μCi/kg、0.4μCi/kg、0.5μCi/kg、1μCi/kg、2μCi/kg、3μCi/kg、4μCi/kg、5μCi/kg、6μCi/kg、7μCi/kg、8μCi/kg、9μCi/kg、10μCi/kg、12μCi/kg、14μCi/kg、15μCi/kg、16μCi/kg、18μCi/kg、20μCi/kg、30μCi/kg、又は40μCi/kgである。特定の態様に従って、225Ac標識抗体は、本明細書に記載する上限と下限の任意の組み合わせを含む用量、例えば、少なくとも0.1~5μCi/kg以下、又は少なくとも5~20μCi/kg以下で投与し得る。
【0022】
特定の態様に従って、HER3標的薬は、225Acで放射性標識されている抗体、ペプチド、又は小分子であってよく、有効量は、2mCi以下であり得る(即ち、225Acは体重に基づかない用量で対象に投与される)。特定の態様に従って、225Ac標識HER3標的薬の有効用量は、1mCi未満、例えば、0.9mCi、0.8mCi、0.7mCi、0.6mCi、0.5mCi、0.4mCi、0.3mCi、0.2mCi、0.1mCi、90μCi、80μCi、70μCi、60μCi、50μCi、40μCi、30μCi、20μCi、10μCi、又は5μCiであり得る。225Ac標識HER3標的薬の有効量は、少なくとも2μCi、例えば、少なくとも5μCi、10μCi、20μCi、30μCi、40μCi、50μCi、60μCi、70μCi、80μCi、90μCi、100μCi、200μCi、300μCi、400μCi、500μCi、600μCi、700μCi、800μCi、900μCi、1mCi、1.1mCi、1.2mCi、1.3mCi、1.4mCi、又は1.5mCiであり得る。特定の態様に従って、225Ac標識HER3標的薬は、本明細書に記載する上限と下限の任意の組み合わせを含む用量、例えば、少なくとも2μCi~1mCi以下、又は少なくとも2~250μCi以下、又は75~400μCi以下で投与し得る。
特定の態様に従って、225Ac標識HER3標的薬は、12Gy未満、又は8Gy未満、又は6Gy未満、又は4Gy未満、又は2Gy未満、例えば2~8Gyの線量を対象に、例えば主に標的固形腫瘍に送達する単回用量を含む。
【0023】
特定の態様に従って、HER3標的薬は、177Luで放射性標識されている(「177Lu標識」)抗体、ペプチド、又は小分子であってよく、有効量は、例えば1mCi/kg未満であり得る(即ち、対象に投与される177Lu標識標的薬の量は、対象の体重1kg当たり1000μCi未満の放射線量を送達する)。特定の態様に従って、抗体が177Luで標識されている場合、有効量は、900μCi/kg、800μCi/kg、700μCi/kg、600μCi/kg、500μCi/kg、400μCi/kg、300μCi/kg、200μCi/kg、150μCi/kg、100μCi/kg、80μCi/kg、60μCi/kg、50μCi/kg、40μCi/kg、30μCi/kg、20μCi/kg、10μCi/kg、5μCi/kg、又は1μCi/kg未満である。特定の態様に従って、177Lu標識抗体の有効量は、少なくとも1μCi/kg、2.5μCi/kg、5μCi/kg、10μCi/kg、20μCi/kg、30μCi/kg、40μCi/kg、50μCi/kg、60μCi/kg、70μCi/kg、80μCi/kg、90μCi/kg、100μCi/kg、150μCi/kg、200μCi/kg、250μCi/kg、300μCi/kg、350μCi/kg、400μCi/kg、又は450μCi/kgである。特定の態様に従って、177Lu標識抗体は、本明細書に記載する上限と下限の任意の組み合わせを含む用量、例えば、少なくとも5mCi/kg~50μCi/kg以下、又は少なくとも50mCi/kg~500μCi/kg以下で投与し得る。
特定の態様に従って、HER3標的薬は、177Luで標識されている抗体であってよく、有効量は、45mCi未満、例えば、40mCi、30mCi、20mCi、10mCi、5mCi、3.0mCi、2.0mCi、1.0mCi、800μCi、600μCi、400μCi、200μCi、100μCi、又は50μCi未満であり得る。177Lu標識HER3標的薬の有効量は、少なくとも10μCi、例えば、少なくとも25μCi、50μCi、100μCi、200μCi、300μCi、400μCi、500μCi、600μCi、700μCi、800μCi、900μCi、1mCi、2mCi、3mCi、4mCi、5mCi、10mCi、15mCi、20mCi、25mCi、30mCiであり得る。特定の態様に従って、177Lu標識抗体は、本明細書に記載する上限と下限の任意の組み合わせを含む用量、例えば、少なくとも10~30mCi以下、又は少なくとも100μCi~3mCi以下、又は3~30mCi以下で投与し得る。
【0024】
特定の態様に従って、HER3標的薬は、131Iで放射性標識されている(「131I標識」)抗体、ペプチド、又は小分子であってよく、有効量は、例えば1200mCi未満であり得る(即ち、対象に投与される131Iの量は、体重に基づかない用量で1200mCi未満の全身放射線量を送達する)。特定の態様に従って、131I標識標的薬の有効量は、1100mCi未満、1000mCi未満、900mCi未満、800mCi未満、700mCi未満、600mCi未満、500mCi未満、400mCi未満、300mCi未満、200mCi未満、150mCi、又は100mCi未満であり得る。特定の態様に従って、131I標識標的薬の有効量は、200mCi未満、例えば、190mCi、180mCi、170mCi、160mCi、150mCi、140mCi、130mCi、120mCi、110mCi、100mCi、90mCi、80mCi、70mCi、60mCi、又は50mCi未満であり得る。特定の態様に従って、131I標識標的薬の有効量は、少なくとも1mCi、例えば、少なくとも2mCi、3mCi、4mCi、5mCi、6mCi、7mCi、8mCi、9mCi、10mCi、20mCi、30mCi、40mCi、50mCi、60mCi、70mCi、80mCi、90mCi、100mCi、110mCi、120mCi、130mCi、140mCi、150mCi、160mCi、170mCi、180mCi、190mCi、200mCi、250mCi、300mCi、350mCi、400mCi、450mCi、500mCiであり得る。特定の態様に従って、131I標識標的薬は、本明細書に記載する上限と下限の任意の組み合わせを含む用量、例えば、少なくとも1~100mCi以下、又は少なくとも10~200mCi以下で投与し得る。
【0025】
選択した放射性核種を本明細書で詳細に開示するが、本明細書に開示するものなど任意のものを、本明細書に開示する放射性標識HER3標的薬などの標的薬を放射性標識するために使用し得る。
本明細書で使用するHER3標的薬を含む組成物は、放射性核種標識部分と非標識部分の両方を含む「患者別の組成物」を含む。本発明の特定の態様に従って、HER3標的薬が放射性同位体で標識されている場合、患者に投与される標的薬(抗体、抗体フラグメント等)の大部分は非標識標的薬からなり、放射性標識標的薬は一部であり得る。標識標的薬と非標識標的薬の比率は、既知の方法を用いて調節できる。本発明の特定の態様に従って、患者別の組成物は、HER3標的薬の標識部分と非標識部分の比率が約0.01:10~1:1、例えば0.1:10~1:1のHER3標的薬を含み得る。
本発明の特定の態様に従って、HER3標的薬は、100mg以下、例えば60mg以下、例えば5~45mgの総タンパク質若しくはペプチド量で、又は0.001~3.0mg/kg患者体重、例えば、0.005~2.0mg/kg患者体重、若しくは0.01~1mg/kg患者体重、若しくは0.1~0.6mg/kg患者体重、若しくは0.3mg/kg患者体重、若しくは0.4mg/kg患者体重、若しくは0.5mg/kg患者体重、若しくは0.6mg/kg患者体重の総タンパク質量で提供され得る。
【0026】
抗体などの標的薬の放射性標識部分と非標識部分との本発明による組み合わせにより、組成物を特定の患者に合わせることが可能となり、抗体などの標的薬の放射線量とタンパク質投与量のそれぞれを、患者固有のパラメーターの少なくとも1つに基づいて、その患者に対し個別化する。このように、組成物の各バイアルを特定の患者向けに作成してよく、バイアルの内容物全体が単回投与でその患者に送達される。治療レジメンで複数回投与が指示されている場合、各用量は、「単回用量」として患者に投与(即ち、バイアルの全内容物を一度に投与)されるバイアルに、患者固有の用量として処方し得る。それ以降の用量は、レジメンの各用量が患者固有の用量として、単回投与容器に充填されるように同様の方法で処方し得る。そのような組成物の利点の1つは、医療従事者による廃棄や処理、例えば、患者に必要な用量を得るための希釈といった処置が必要となるような放射性薬剤の残存がないことである。単回投与容器で提供する場合、容器は、患者に注入するための輸液チューブセットに一列に配置するだけでよい。更に、容量を標準化できるため、医療過誤(即ち、1回の注入で組成物の全量投与が可能であるが故の誤った用量の投与)の可能性が大幅に減少する。
従って、特定の態様に従って、HER3標的薬は、特定の患者に合わせ得る単回投与の組成物として提供してよく、組成物中の放射性標識及び非標識HER3標的薬の量は、国際公開第2016/187514号及び米国特許第10,736,975号明細書に記載されているように、患者の体重、年齢、性別、病状、及び/又は健康状態のうち1つ又は複数によって異なり得る。特定の態様に従って、HER3標的薬は、複数回投与の治療薬として提供してよく、治療レジメンにおける各用量は、患者別の組成物として提供される。患者別の組成物は、放射性標識及び非標識HER3標的薬を含み、それぞれの量は、患者の体重、年齢、性別、病状、及び/又は健康状態のいずれか又は複数によって異なる。
【0027】
本明細書で使用する用語「対象」及び「患者」は置き換え可能であり、哺乳類、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウサギ、ブタ、ラット、及びマウスを非限定的に含む。対象がヒトの場合、対象の年齢は問わない。例えば、対象は、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上、80歳以上、85歳以上、又は90歳以上であってよい。代替的に、対象は、50歳以下、45歳以下、40歳以下、35歳以下、30歳以下、25歳以下、又は20歳以下であってよい。がんを患うヒト対象の場合、対象は、新たに診断された、若しくは再燃した、及び/又は難治性である、若しくは寛解中であり得る。
本明細書で使用する、がんを患う対象を「治療すること」は、(i)がんの進行を遅らせる、止める、若しくは逆行させること、(ii)がんの症状の進行を遅らせる、止める、若しくは逆行させること、(iii)がんの再発の可能性を低下させること、及び/又は(iv)がんの症状が再発する可能性を低下させること、を非限定的に含むものとする。特定の好ましい態様に従って、がんを患う対象を治療することは、(i)がんの進行を、理想的にはがんを除去するところまで逆行させること、及び/又は(ii)がんの症状の進行を、理想的には症状を除去するところまで逆行させること、及び/又は(iii)再燃の可能性を低下させる、若しくは排除すること(即ち、理想的には、残っているがん細胞の破壊をもたらすコンソリデーション)を意味する。
【0028】
本発明の文脈における「化学療法薬」は、増殖細胞を阻害する又は死滅させる化合物で、且つがんの治療において使用できる、又は使用を承認されている化合物を意味するものとする。例示的な化学療法薬に、細胞核分裂又は細胞原形質分裂のレベルで細胞分裂を阻止する、妨害する、中断させる、又は遅延させる細胞増殖抑制剤がある。そのような薬剤、例えば、タキサン、特にドセタキセル又はパクリタキセル、並びにエポチロン、特にエポチロンA、B、C、D、E、及びFは、微小管を安定化し得る、又はビンカアルカロイド、特にビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンフルニン、及びビノレルビン等は、微小管を不安定化し得る。例示的な化学療法薬に、放射性標識HER3と相乗効果を示し得る、テモゾロミド、シスプラチン、及び/又はフルオロウラシルなどの放射線増感剤もある。
【0029】
「治療有効量」又は「有効量」は、所望の治療結果を達成するのに必要な投与量及び期間での有効な量を指す。治療有効量は、個体の病状、年齢、性別、及び体重などの要因、並びに個体において所望の反応を引き起こす治療薬又は治療薬の組み合わせの能力に応じて変化し得る。有効な治療薬又は治療薬の組み合わせの例示的な指標に、例えば、患者の健康の増進、腫瘍量の減少、腫瘍増殖の停止若しくは減速、及び/又は体内の他の場所へのがん細胞の転移がないがある。特定の態様に従って、「治療有効量」又は「有効量」は、単独で、又は他の薬剤及び/若しくは治療様式と組み合わせて、若しくは共に使用すると、HER3を発現する細胞を枯渇させ得る、若しくはこれらの全体数を減少させ得る、及び/又はHER3を発現する細胞の増殖を阻害し得る放射性標識HER3標的薬の量を指す。
HER3を発現する細胞に関して本明細書で使用する「枯渇させる」は、HER3を発現又は過剰発現する少なくとも1種類の細胞(例えば、固形腫瘍中の、又は対象の血液中で循環するHER3陽性細胞)集団の減少させることを意味するものとする。本発明の特定の態様に従って、減少は、対象の血液中又は固形腫瘍などの組織生検中のHER3陽性細胞の数を、HER3標的薬を用いた治療開始前後に比較することで決定する。従って、例として、対象のHER3陽性細胞は、細胞集団が、例えば、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は99%減少した場合、枯渇したと見なし得る。
「増殖を阻害する」は、治療薬又は治療薬の組み合わせと接触させた場合に、その治療薬又は治療薬の組み合わせがない場合の同じ細胞又は組織の増殖の減少又は遅延と比べて、in vitro又はin vivoでの悪性細胞又は組織(例えば、腫瘍)の増殖における測定可能な減少又は遅延を指す。in vitro又はin vivoでの悪性細胞又は組織の増殖の阻害は、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%であり得る。
【0030】
用語「免疫チェックポイント治療薬」は、がん細胞に対する免疫応答の促進において、プラス又はマイナスの方向に免疫チェックポイントタンパク質の機能を調節することが可能な分子を指す。用語「免疫チェックポイント」は、正常な生理的条件下において、無制御の免疫反応を阻止し、それにより自己免疫寛容の維持及び/又は組織防御を行う、免疫経路に直接又は間接的に関与するタンパク質を指す。
本発明の文脈において、免疫チェックポイント治療薬は、抑制性免疫チェックポイント(アンタゴニスト)の機能を少なくとも部分的にダウンレギュレートする、及び/又は刺激性免疫チェックポイント(アゴニスト)の機能を少なくとも部分的にアップレギュレートすることが可能な抗体などの治療薬を包含する。例として、免疫チェックポイント治療薬は、特定のがんでアップレギュレートされる可能性がある免疫チェックポイント阻害剤(ICI)に対する抗体を指してよく、従って、ICIの機能を阻害する可能性がある。
【0031】
用語「DDRi」は、DNA損傷応答経路タンパク質の阻害剤を指し、その一例がPARPiである。用語「PARPi」は、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼの阻害剤を指す。本発明の文脈において、PARPiという用語は、抗体、ペプチド、又は小分子など、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼに結合し、これらの機能を阻害する分子を包含する。
用語「CD47遮断薬」は、CD47がSIRPαに結合するのを防ぐ薬剤、例えば、CD47若しくはSIRPαのいずれかに結合する遮断薬、又はCD47若しくはSIRPαの発現を調節する遮断薬、又はそれ以外の方法でCD47/SIRPα軸を阻害する遮断薬を指す。CD47遮断薬は、非限定的に、少なくとも、CD47に結合する抗体、例えばマグロリマブ、レムゾパリマブ、及びAO-176、SIRPα融合タンパク質、例えばTTI-621及びTTI-622、CD47及び/又はSIRPαの発現を調節する薬剤、例えばCD47の翻訳を阻止するホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)、並びに小分子薬、例えばRRx-001を包含する。
【0032】
本明細書で使用する、HER3標的薬「と共に」1つ又は複数の追加的な治療薬、例えば、免疫チェックポイント治療薬及び/又はDDRi及び/又はCD47遮断薬及び/又は放射線増感剤のうち1つ又は複数を対象に投与することは、HER3標的薬の投与前、投与中、及び/又は投与後に追加的な治療薬を投与することを意味する。この投与は、以下のシナリオを含むがこれらに限定されない:(i)追加的な治療薬を最初に投与し、HER3標的薬を2番目に投与する;(ii)追加的な治療薬をHER3標的薬と同時に投与する(例えば、DDRiを1日1回n日間経口投与し、DDRiレジメンの2日目からn-1日目までのいずれかの日にHER3標的薬を単回静脈内投与する);(iii)追加的な治療薬をHER3標的薬と同時に投与する(例えば、DDRiを1ヵ月超の期間にわたって経口投与する、例えば、35日間、42日間、49日間、又は治療中のがんが進行せず、且つDDRiにより容認できない毒性が生じないそれ以上の期間にわたって1日1回経口投与し、DDRiレジメンの最初の1ヵ月間のうち1日にHER3標的薬を単回静脈内投与する);並びに(iv)HER3標的薬を最初に投与し(例えば、単回、又は数週間にわたって複数回静脈内投与する)、追加的な治療薬を2番目に投与する(例えば、DDRiを、21日間、28日間、35日間、42日間、49日間、又は治療中のがんが進行せず、且つDDRiにより容認できない毒性が生じないそれ以上の期間にわたって1日1回経口投与する)。当業者にとって明らかであろうこの他の順列も可能であり、ここにクレームする本発明の範囲に含まれる。
【0033】
「製造品」は、本明細書に記載の障害の治療、予防、及び/又は診断に有用な物質を含む包装を示す。製造品は、容器、及び容器上又は容器に伴うラベル若しくは添付文書を含み得る。好適な容器に、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどがある。容器は、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成し得る。容器は、それ自体で、又は別の組成物と組み合わせて、状態の治療、予防、及び/若しくは診断に有効な組成物を保持し、且つ無菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針で刺通可能なストッパーを有する静脈注射用溶液バッグ又はバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、ここに開示する本発明の態様による放射性標識HER3標的薬であり得る。
「ラベル」又は「添付文書」は、通例、治療用製品の商業包装に含まれる指示書を指すのに用いられ、そのような治療用製品の使用に関する適応、用法、用量、投与、併用療法、禁忌、及び/又は警告に関する情報が記載されている。本明細書で使用するラベルには、組成物が、HER3陽性がんを治療するために使用されることを表示してよく、且つ任意に、投与経路及び/又は投与方法を表示してよい。更に、製造品は、(a)組成物をその中に包含する第1の容器であって、組成物がHER3標的薬である容器;及び(b)組成物をその中に包含する第2の容器であって、組成物が更なる細胞毒性薬又はここに開示する本発明によるそれ以外の治療薬である容器、を含み得る。代替的又は追加的に、製造品は、薬学的に許容される緩衝剤、例えば、静菌性注射用蒸留水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液を含む第2(又は第3)の容器を更に含み得る。これは、その他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの観点から望ましいその他の材料を更に含み得る。
【0034】
本願を通じて、様々な特許、特許出願、及び他の出版物を引用し、これらはそれぞれ、参照によりその全体が本願に援用される。
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野において通常の技術者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと類似又は同等の方法及び材料を、本明細書に記載する実施又は試験において使用できるが、好適な方法及び材料を以下に説明する。
【0035】
実験結果
重鎖配列番号配列番号:77及び軽鎖配列番号配列番号:78からなる抗HER3 IgGモノクローナル抗体を調製し、p-SCN-Bn-DOTAを用いてキレート剤DOTAにコンジュゲートさせ、図3~11に関連して以下に記載する更なる調査のために、アクチニウム225とのキレート化により放射性標識した。
図3は、修飾がHER3に対する免疫反応性に実質的に影響を及ぼさないことを実証する、未修飾抗HER3抗体及び非特異的抗体(IgG)と比較したAc225標識DOTA結合抗HER3モノクローナル抗体(「HER3-ARC」)の、ELISAアッセイによる結合特性を示すグラフである。
225Ac-HER3-ARCの結合特性はELISAで評価した。96ウェルプレートをヒト組換えHER3で一晩コーティングした後、抗HER3、225Ac-HER3-ARC、及びIgG(免疫グロブリン1、非特異的IgG1対照)の段階希釈物(0~100μg/mL)を室温で1時間インキュベートした。二次抗体(ヤギ抗ヒトIgG F(ab’)20-HRP)を添加し、氷上で30分間インキュベートした後、HCl 1Mを用いて10分間発色させた。サンプル吸光度を450nmで測定した。ELISAでは、225Ac-HER3-ARCは自然抗体と同様の結合特性を示した(HER3-ARC:EC50=0.0017μg/mL、HER3:EC50=0.0022μg/mL)。
【0036】
図4は、HER3陽性NCI-H1975細胞(ヒト肺腺がん、NSCLC)及びBxPC-3細胞(ヒト膵臓腺がん)への、225Ac-HER3-ARC、未修飾抗HER3 mAb、非特異的抗体対照(IgG)、及び二次抗体のみの対照の結合を調べるフローサイトメトリーアッセイの結果を示すグラフである。
225Ac-HER3-ARCの結合特性は、HER3+細胞(NCI-H1975とBxPC3)中のフローサイトメトリーによって評価した。抗HER3、225Ac-HER3-ARC、及びIgG(免疫グロブリン1、非特異的IgG1)の溶液(100μg/mL)をHER+細胞に添加し、室温で1時間インキュベートした。PE標識二次抗体を添加し、氷上で30分間インキュベートした。サンプル蛍光はフローサイトメーターを用いて測定した。225Ac-HER3-ARCのHER3+陽性細胞株に対する結合特性は、未修飾抗HER3 mAbのそれと類似していた。
【0037】
図5は、HER3陽性細胞株NCI-H1975に対する225Ac-HER3-ARCのin vitro細胞毒性効果を放射線量の関数として示したグラフである。
HER3+細胞株NCI-H19755に対する225Ac-HER3-ARCの細胞毒性効果は、CellTiter 96(登録商標)AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay(MTS)を用いて比色アッセイで評価した。NCI-H1975細胞は、225Ac-HER3-ARCと共に37℃で24時間インキュベートした。次いで、非結合225Ac-HER3-ARCを除去し、細胞を37℃で72時間培養した。490nmの吸光度を測定し、細胞生存率(%)を算出した。225Ac-HER3-ARCは、HER3+細胞株NCI-H1975に対する強力なin vitro細胞毒性を示した。
【0038】
図6Aは、225Ac-HER3-ARCがNCI-H1975細胞中の細胞表面カルレティキュリン(CRT)をアップレギュレートすることを示すグラフであり、図6Bは、225Ac-HER3-ARCがNCI-H1975細胞上のCD47をアップレギュレートすることを示すグラフである。
HER3+細胞株NCI-H1975によるカルレティキュリン(CRT)及びCD47の細胞表面発現に対する225Ac-HER3-ARCの効果をフローサイトメトリーを用いて調べた。細胞は225Ac-HER3-ARC(100nCi/mL)又はPBS(対照)で72時間処理した。処理後、CRT及びCD47について細胞を染色した。結果から、CRT(図6A)及びCD47(図6B)はそれぞれ、NCI-H1975細胞中で225Ac-HER3-ARCによってアップレギュレートされることが示された。
【0039】
図7Aは、225Ac-HER3-ARCと抗CD47遮断抗体の併用が、いずれかの治療単独と比べてBxPC-3細胞の貪食作用を増強したことを実証する貪食作用アッセイの結果を示すグラフである。図7Bは、225Ac-HER3-ARCと抗CD47遮断抗体の併用が、いずれかの治療単独と比べてNCI-H1975細胞の貪食作用を増強したことを実証する貪食作用アッセイの結果を示すグラフである。図7Aと7Bで同じ凡例を用いた。
225Ac-HER3-ARCと抗CD47の併用がin vitroでの貪食作用に及ぼす効果は、フローサイトメトリーで評価した。BxPC-3(図7A)及びNCI-H1975(図7B)細胞を6ウェルプレートに播種し、24時間後に、225Ac-HER3-ARCと共に37℃で24時間インキュベートした。225Ac-HER3-ARC処理後、細胞を37℃で72時間培養した。
BxPC-3及びNCI-H1975細胞をVybrant DiD細胞標識溶液で染色し、抗ヒトCD47(Bio X Cell、カタログ番号:BE0019)及びマウスIgG1アイソタイプ対照(Bio X Cell、カタログ番号:BE0083)と共に37℃で1時間処理した。ヒトマクロファージをDiO細胞標識溶液で染色した。標識したヒトマクロファージと標的細胞を37℃で2時間共培養した。貪食作用は、二重標識細胞(DiD+/DiO+)を調べることによって評価した。
【0040】
図8は、ヒト腫瘍(NCI-H1975細胞)マウス異種移植モデルにおける、様々な放射線量(100nCi、200nCi、400nCi、600nCi)単独及び抗CD47遮断抗体と併用した200nCiでの225Ac-HER3-ARCの、非標識抗HER3mAbの、抗CD47遮断抗体単独の、並びにビヒクルのみの対照の、腫瘍増殖に対する効果を示すグラフである。特に、腫瘍増殖は、200nCi、400nCi、600nCiの各放射線量での225Ac-HER3-ARCによって、及び225Ac-HER3-ARC(200nCi)と抗CD47 mAbの併用によって、ほぼ完全に抑制された。
図9は、図8に記載する実験の対象における経時的な体重を示すグラフである。
図10は、図8に記載する実験の実験対象群における経時的な生存率を示すグラフである。
HER2-ARC処理単独及びCD47遮断薬との併用の、HER2陽性腫瘍増殖に対する影響を調べる腫瘍異種移植片試験も実施した。抗HER2 mAbトラスツズマブは、p-SCN-Bn-DOTAを用いてDOTAに化学的にコンジュゲートさせ、これらの実験で使用するために、キレート化により、アクチニウム225又はルテチウム177のいずれかで標識した。
【0041】
図11は、HER2陽性SK-OV3ヒト卵巣がん細胞株を用いた、NGSマウス異種移植モデルにおける、ビヒクルのみ(対照)、マグロリマブ単独(10mg/kg)、225Acトラスツズマブ単独(0.025μCi/動物)、及びマグロリマブ(10mg/kg)と225Acトラスツズマブ(0.025μCi/動物)の併用の、腫瘍増殖に対する効果を比較したグラフである。
図12は、HER2陽性SK-OV3ヒト卵巣がん細胞株を用いた、NGSマウス異種移植モデルにおける、ビヒクルのみ(対照)、マグロリマブ単独(10mg/kg)、177Luトラスツズマブ単独(25μCi/動物)、及びマグロリマブ(10mg/kg)と177Luトラスツズマブ(25μCi/動物)の併用の、腫瘍増殖に対する効果を比較したグラフである。各コホートは動物8匹で構成されていた。
【0042】
発明の態様
HER3標的抗体の投与後にHER3のレベルがダウンレギュレートする可能性があることは、前臨床試験と臨床試験の両方で十分に裏付けられている(Mishra,2018)。ルムレツズマブを用いた前臨床モデルでは、HER3の用量依存性(1~10mg/kg)ダウンレギュレーションが、免疫組織化学的検査とウエスタンブロッティングの両方で測定された(Maneses-Lorenta,2015;Mirshberger,2013)。ルムレツズマブ(0.3mg/kg)の最低用量ではHER3標的のダウンレギュレーションが生じず(Maneses-Lorenta,2015)、これらの低用量のルムレツズマブ(0.1mg/kg及び0.3mg/kg)は、HER3発現腫瘍を制御するのに無効であった(Mirshberger,2013)。ルムレツズマブを用いた臨床試験では、試験した全ての用量レベル(100~2000mg)で、連続腫瘍生検において患者の92%で表面HER3のダウンレギュレーションが観察された(Meulendijks,2016)。更に、40mg/kgのHER3標的抗体LJM716で治療した患者において、5対の腫瘍生検試料のうち3対で総HER3レベルの低下が観察された(Reynolds,2017)。
HER3のインターナリゼーション及び分解は、HER3のリン酸化とそれに続くシグナル伝達活性を抑制するのに有益であり得るが、HER3の表面レベルの低下が、腫瘍の抗体標的化を妨げる可能性がある。従って、HER3標的抗体の反復投与が所望される、又は有効性のために必要とされる場合、HER3標的抗体の投与により、標的のダウンレギュレーションが生じ、再投与せずに済む可能性がある。本発明者らは、治療方法に有用な低い抗体用量がHER3のダウンレギュレーションを引き起こさない可能性があるため、抗体放射性物質複合体(ARC)の使用が、HER3の用量依存性ダウンレギュレーションに伴う問題を回避することを発見した。従って、本発明者らは、放射性同位元素を含むHER3標的薬が、特定の固形腫瘍などのHER3発現がん細胞の腫瘍標的化及び殺傷を向上させる診断薬及び治療薬として有効であることを見出した。特に、HER3標的薬の複数回投与を含み得る治療方法は、有害なレベルのHER3ダウンレギュレーションを引き起こすことなく、腫瘍標的化及び殺傷の向上をもたらし得る。
【0043】
従って、ここに開示する本発明の特定の態様に従って、放射性標識HER3標的薬を用いてHER3陽性がんを治療する方法が提供される。方法は、患者がHER3陽性がん及び/若しくはそのようながんの局在化を有しているかどうか、並びに/又はどの程度有しているかを、例えば、固形腫瘍中の、若しくは患者の血液試料中で循環するHER3陽性細胞を特定及び/又は定量化することによって決定する診断ステップも含み得る。
特定の態様に従って、治療方法は、放射性標識HER3標的薬、例えば、HER3を標的とする放射性標識抗体、ペプチド、又は小分子を、単独で、又は1つ若しくは複数の追加的な治療薬若しくは治療様式との併用で投与することを含む。特定の態様に従って、追加的な薬剤又は様式は、免疫チェックポイント治療薬、DDRi、CD47遮断薬、化学療法薬、小分子抗腫瘍薬の投与、外部照射法、及び小線源療法のうち任意のいずれか又は複数があり得る。
【0044】
特定の態様に従って、放射性標識HER3標的薬は、患者別の組成物として、単回又は複数回投与で患者に投与し得る。
特定の態様に従って、HER3陽性細胞の減少を評価するために、治療期間中間隔をあけて、HER3陽性細胞の存在について患者を監視してよい。HER3標的薬による治療前のHER3陽性細胞数と比較して治療後のHER3陽性細胞数の減少を検出することで、哺乳類対象のHER3陽性がんの治療におけるHER3標的薬の有効性を示し得る。
特定の態様に従って、がんの治療方法は、HER3陽性細胞を特定することでHER3陽性がんを有する患者を特定すること、及び有効量のHER3標的薬を、単独又は追加的な治療方法との併用で患者に投与することを含む。特定の態様に従って、追加的な治療方法は、免疫チェックポイント治療薬、DDRi、CD47遮断薬、化学療法薬、小分子抗腫瘍薬の投与、外部照射法、及び小線源療法のうち任意のいずれか又は複数であり得る。
特定の態様に従って、化学療法薬は放射線増感剤である。
特定の態様に従って、放射性標識HER3標的薬は、固形腫瘍の全部又は一部を除去するなどの、がん治療のための手術などの治療を受けている、又は最近受けた患者に投与できる。従って、例えば、放射性標識HER3標的薬は、周術期又は術後に投与し得る。
【0045】
HER3標的薬
ここに開示する本発明の目的は、HER3陽性がんの診断及び/又は治療などにおける、診断用途及び/又は治療用途の放射性標識HER3標的薬、例えばヒトHER3標的薬を提供することである。放射性標識HER3標的薬は、DNAに損傷を与える電離放射線、例えば、二本鎖DNA切断及び細胞死を誘発するα粒子を細胞に送達することにより、治療反応をもたらすことができる。
放射性標識され、ここに開示する本発明の様々な態様において具体化及び/又は使用され得る抗ヒトHER3抗体などの例示的な抗HER3抗体(本明細書では「HER3抗体」とも称する)は、非限定的に、以下の抗体、及び、例えばIgGであるがこれらに限定されない免疫グロブリンなどがあるがこれらに限定されない、(i)HER3抗体の重鎖可変領域若しくは重鎖を含む、(ii)HER3抗体の重鎖CDR(例えば、Kabat定義による)若しくは重鎖若しくは言及したもののうち1つ、2つ、若しくは3つを含む、(iii)HER3抗体の軽鎖可変領域若しくは軽鎖を含む、及び/又は(iv)HER3抗体の軽鎖CDR(例えば、Kabat定義による)若しくは軽鎖若しくは言及したもののうち1つ、2つ、若しくは3つを含む、抗体を含む。また、N末端リーダー配列を含むHER3抗体重鎖又はHER3抗体軽鎖が開示される場合、本発明の様々な態様における具体化及び使用のために、リーダー配列を欠く対応する重鎖及び対応する軽鎖も開示されることが意図されることも理解すべきである。
【0046】
放射性標識され、ここに開示する本発明において具体化及び/又は使用され得る例示的なHER3抗体は、例えば、配列番号配列番号:9若しくは11に定めるアミノ酸配列を有する重鎖、及び/若しくは配列番号配列番号:10若しくは12に定めるアミノ酸配列を有する軽鎖を含むHER3に対するマウスモノクローナル抗体、又は前記配列のうち1つ若しくは複数に由来するヒト化抗体などの抗体を含み得る。放射性標識され、ここに開示する本発明において具体化及び/又は使用され得る例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:13に定める配列を有するN末端領域を持つ重鎖、及び/又は配列番号配列番号:14に定める配列を有するN末端領域を持つ軽鎖を含み得る。本発明の様々な態様において同様に具体化又は使用され得るHER3抗体は、例えば、配列番号配列番号:7に定めるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、並びに/又は配列番号配列番号:8に定めるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;並びに/又は配列番号配列番号:1~3それぞれに定めるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3のうち1つ若しくは複数を含む重鎖、並びに/又は配列番号配列番号:4~6それぞれに定めるアミノ酸配列を有するCDR1、CDR2、及びCDR3のうち1つ若しくは複数を含む軽鎖を含み得る。これらの配列の更なる記述については、図1及び2を参照のこと。本発明の態様のいずれかにおいて具体化及び/又は使用され得るHER3抗体は、例えば、前述の軽鎖配列及び/又は重鎖配列の任意の組み合わせを含み得る。
【0047】
例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:15を含むCDR-H1、配列番号配列番号:16を含むCDR-H2、及び配列番号配列番号:17を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、並びに/又は配列番号配列番号:18を含むCDR-L1、配列番号配列番号:19を含むCDR-L2、及び配列番号配列番号:20を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:21を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び/又は配列番号配列番号:22を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:23の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び/又は配列番号配列番号:24の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:25を含むCDR-H1、配列番号配列番号:26を含むCDR-H2、及び配列番号配列番号:27を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域;並びに/又は配列番号配列番号:28を含むCDR-L1、配列番号配列番号:29を含むCDR-L2、配列番号配列番号:30を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:31を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び/又は配列番号配列番号:32を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:33の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び/又は配列番号配列番号:34の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0048】
例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:35を含むCDR-H1、配列番号配列番号:36を含むCDR-H2、及び配列番号配列番号:37を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域;並びに/又は配列番号配列番号:38を含むCDR-L1、配列番号配列番号:39を含むCDR-L2、及び配列番号配列番号:40を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:41を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び/又は配列番号配列番号:42を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:43の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び配列番号配列番号:44の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:45を含むCDR-H1、配列番号配列番号:46を含むCDR-H2、及び配列番号配列番号:47を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域;並びに/又は配列番号配列番号:48を含むCDR-L1、配列番号配列番号:29を含むCDR-L2、及び配列番号配列番号:49を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:50を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び/又は配列番号配列番号:51を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:52の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び/又は配列番号配列番号:53の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0049】
例示的なHER3抗体は、配列番号配列番号:54を含むCDR-H1、配列番号配列番号:55を含むCDR-H2、及び配列番号配列番号:56を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域;並びに/又は配列番号配列番号:28を含むCDR-L1、配列番号配列番号:29を含むCDR-L2、及び配列番号:30を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号:57を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び/又は配列番号:58を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号:59の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び/又は配列番号:60の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
例示的なHER3抗体は、配列番号:61を含むCDR-H1、配列番号:62を含むCDR-H2、及び配列番号:63を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域;並びに/又は配列番号:64を含むCDR-L1、配列番号:65を含むCDR-L2、及び配列番号:66を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号:67を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び/又は配列番号:68を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号:69の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び配列番号:70の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0050】
例示的なHER3抗体は、配列番号:71を含むCDR-H1、配列番号:72を含むCDR-H2、及び配列番号:66を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域;並びに/又は配列番号:28を含むCDR-L1、配列番号:29を含むCDR-L2、及び配列番号:30を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号:73を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び/又は配列番号:74を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む。例示的なHER3抗体は、配列番号:75の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び/又は配列番号:76の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
例示的なHER3抗体は、配列番号:77の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び/又は配列番号:78の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
例示的なHER3抗体は、配列番号:86、87、88、89、90、若しくは91を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、及び/又は配列番号:79、80、81、82、83、84、若しくは85を含む重鎖可変領域を含む。
例示的なHER3抗体は、配列番号:92、94、95、98、若しくは99を含む免疫グロブリン重鎖配列、及び/又は配列番号:93、96、97、100、若しくは101を含む免疫グロブリン軽鎖配列を含む。
【0051】
例示的なHER3抗体は、Isu Abxis Coのバラセタマブ(Barecetamab)(ISU104)、及び米国特許第10,413,607号明細書に開示されているHER3抗体のいずれかも含む。
例示的なHER3抗体は、Hummingbird Bioscience Pte.のHMBD-001(10D1F)、並びに国際公開第2019185164及び2019185878号、米国特許第10,662,241号明細書;並びに米国特許出願公開第20190300624、20210024651、及び20200308275号明細書に開示されているHER3抗体のいずれかも含む。
例示的なHER3抗体は、Merus N.V.のHER2/HER3二特異性抗体MCLA-128(即ち、ゼノクツズマブ);並びに米国特許出願公開第20210206875、20210155698、20200102393、20170058035、及び20170037145号明細書に開示されている、単一特異性か多特異性かに関わらず、HER3抗体のいずれかも含む。
例示的なHER3抗体は、HER3抗体パトリツマブ(U3-1287)、パトリツマブの報告されている鎖である重鎖配列配列番号:106及び/又は軽鎖配列配列番号:7を含む抗体、並びに米国特許第9,249,230及び7,705,130号明細書、並びに国際公開第2007077028号に開示されているHER3抗体のいずれかも含む。
例示的なHER3抗体は、HER3抗体MM-121、並びに米国特許第7,846,440号明細書及び国際公開第2008100624号に開示されているHER3抗体のいずれかも含む。例示的なHER3抗体は、EGFR/HER3二特異性抗体DL1、並びに米国特許第9,327,035及び8,597,652号明細書、米国特許出願公開第20140193414号明細書、並びに国際公開第2010108127号に開示されている、単一特異性か多特異性かに関わらず、HER3抗体のいずれかも含む。
例示的なHER3抗体は、HER2/HER3二特異性抗体MM-111、並びに米国特許第20130183311及び20090246206号明細書、並びに国際公開第2006091209及び2005117973号に開示されている、単一特異性か多特異性かに関わらず、HER3抗体のいずれかも含む。
【0052】
特定の態様に従って、HER3標的薬は、第一三共のパトリツマブ、Merrimack Pharmaceuticalsのセリバンツマブ(MM-121)、Rocheのルムレツズマブ、Novartisのエルゲムツマブ、GlaxoSmithKlineのGSK2849330、Celldex TherapeuticsのCDX-3379、MediPharmaのEV20及びMP-RM-1、Isu Abxis Co.のバラセタマブ(ISU104)、Hummingbird Bioscience Pte.のHMBD-001(10D1F)、Regeneron PharmaceuticalsのREGN1400、及び/又はAVEO OncologyのAV-203が認識するHER3のエピトープに結合する抗HER3抗体を含む。特定の態様に従って、抗HER3抗体は、パトリツマブ、セリバンツマブ又はセリバンツマブについて報告されている重鎖配列配列番号:108及び/若しくは軽鎖配列配列番号:109を含む抗体、ルムレツズマブ又はルムレツズマブについて報告されている重鎖配列配列番号:110及び/若しくは軽鎖配列配列番号:111を含む抗体、エルゲムツマブ又はエルゲムツマブについて報告されている重鎖配列配列番号:112及び/若しくは軽鎖配列配列番号:113を含む抗体、AV-203、CDX-3379、GSK2849330、EV20、MP-RM-1、ISU104、HMBD-001(10D1F)、並びにREGN1400のうち1つ又は複数から選択される。例示的な治療適応と合わせた例示的な抗体は表1にも記載する。
【表1】
【0053】
HER3に対する、又は任意の標的に対する、特異的抗体、特異的抗体重鎖、及び特異的抗体軽鎖が本開示のどこで開示されていようとも、本発明の様々な態様における具体化又は使用のために同じく開示されることが意図されるのは、(i)開示される抗体の重鎖可変領域若しくは重鎖を含む、(ii)開示される抗体の重鎖CDR(例えば、Kabat定義による)若しくは重鎖のうち1つ、2つ、若しくは3つを含む、(iii)開示される抗体の軽鎖可変領域若しくは軽鎖を含む、及び/又は(iv)開示される抗体の軽鎖CDR(例えば、Kabat定義による)若しくは軽鎖のうち1つ、2つ、若しくは3つを含む、例えばIgGであるがこれらに限定されない免疫グロブリンなどがあるがこれらに限定されない抗体であることも理解すべきである。また、N末端リーダー配列を含む抗体重鎖又は抗体軽鎖が本開示のどこで開示されていようとも、本発明の様々な態様における具体化及び使用のために、リーダー配列を欠く対応する重鎖及び対応する軽鎖も開示されることが意図されることも理解すべきである。
更に、本発明は、LeuからIle又はその逆のような、全く同じ質量を有する1つ又は複数の異性体アミノ酸置換がなされた、言及したアミノ酸配列のいずれかの改変バージョンを提供する(例えば、図1及び2に記載する配列番号:1~14のいずれかにおいて)。更に、これらの配列の特定の部分は、ヒト免疫グロブリンの関連部分などによって置換し、キメラ免疫グロブリン(即ち、キメラ又はヒト化HER3)を形成し得る。例示的な置換に、ヒトリーダー配列の全部若しくは一部、並びに/又はヒトIgG1、IgG2、若しくはIgG4重鎖及び/若しくはヒトκ軽鎖の保存領域がある。
【0054】
ヒトHER3、ヒトHER2、及びヒトEGFR(HER1)の配列並びに構造は全て既知である。ヒトHER3前駆体タンパク質のアミノ酸配列(受容体チロシンタンパク質キナーゼerbB-3アイソフォーム1前駆体NCBI参照配列:NP_001973.2)は、本明細書において、配列番号:115として提供される。当業者は、本発明の様々な態様で使用するための、ヒトHER3などのHER3の細胞外ドメインに特異的な、特定の既知の標的タンパク質アミノ酸配列、各種の好適な抗体及び抗体模倣物を、当技術分野で十分に確立された免疫化及び/又は計画及び/又は抗体工学技術を用いて作製し得ることを容易に理解できよう。
本発明の様々な実施形態で使用するために放射性標識されるHER3標的薬は、例えば、キレート剤を含有するHER3結合ペプチド、DOTAを含有するHER3結合ペプチド、米国特許出願公開第20200121814号明細書に開示されているもののいずれかなどのHER3結合ペプチドを含み得る。
【0055】
特定の態様に従って、HER3標的薬は、HER3の第1のエピトープ及び少なくともHER3の第2のエピトープに対する、又はHER3及び1つ若しくは複数の異なる抗原、例えば、EGFR(HER1)、HER2、TROP2、及びT細胞受容体γ(TCRγ)鎖代替リーディングフレームタンパク質(TRAP)のうち1つ若しくは複数に対する多特異性抗体などの多特異性標的薬である、又はこれらを含む。使用し得る例示的な多特異性抗体は、Merrimack PharmaceuticalsのMM-111若しくはMerus N.V.のMCLA-128(即ち、ゼノクツズマブ)などのHER3/HER2に対する;若しくはMerrimack PharmaceuticalsのMM-141(即ち、イスチラツマブ)などのIGF-1R/HER3に対する;若しくはRocheのMEHD7945A(即ち、ドゥリゴツマブ)などのEGFR/HER3に対する二特異性抗体、又はZyngenia Inc.のセツキシマブベースの二特異性若しくは多特異性Zybodyを含む。
特定の態様に従って、HER3に対する抗体などのHER3標的薬と、1つ又は複数の異なる抗原に対する1つ又は複数の抗体との混合物を含む組成物であって、抗体の1つ又は複数が放射性標識されている組成物が提供及び/又は使用される。抗体混合物を含む例示的な抗体組成物は、少なくとも、EGFR(HER1)、HER2、及びHER3に対する6つのモノクローナル抗体を有する、SymphogenのSym013を含む。本発明の一態様では、Sym013の抗体、例えば抗HER3抗体の1つ又は複数を放射性標識し得る。本発明の関連する態様は、EGFR(HER1)、HER2、及びHER3に対する抗体などの標的薬であって、任意の組み合わせで1つ若しくは複数、又は全てが放射性標識されている標的薬を含む組成物を提供する。
【0056】
本発明は、以下を含む、増殖性疾患又は障害を治療する多特異性標的薬、組成物、及び関連する方法を更に提供する:(i)HER3の2つ以上のエピトープに対する、若しくはHER3のエピトープと1つ若しくは複数の追加的な異なる抗原のエピトープとに対する多特異性抗体の投与、及び/又は(ii)抗体などのHER3標的薬と、1つ若しくは複数のがん関連抗原に対する1つ若しくは複数の別個の標的薬との投与であって、HER3標的薬などの標的薬の1つ若しくは複数が放射性標識されているものの投与。追加的な異なる抗原は、例えば、増殖性疾患、例えば固形腫瘍などの様々な疾患又は障害に関与する細胞上で発現がアップレギュレートされている抗原、例えば、HER3もアップレギュレートされている、又はアップレギュレートされる可能性がある抗原であり得る。例えば、追加的な様々な抗原は、メソテリン、TSHR、CD19、CD123、CD22、CD30、CD45、CD171、CD138、CS-1、CLL-1、GD2、GD3、B細胞成熟抗原抗原(BCMA)、Tn Ag、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、ROR1、FLT3、TROP2、T細胞受容体γ(TCRγ)鎖代替リーディングフレームタンパク質(TRAP)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、カルレティキュリン、ホスファチジルセリン、GRP78(BiP)、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、インターロイキン11受容体a(IL-11Ra)、PSCA、PRSS21、VEGFR2、ルイスY、CD24、血小板由来成長因子受容体β(PDGFR-β)、SSEA-4、CD20、葉酸受容体α(FRα)、ERBB2(Her2/neu)、MUCl、上皮成長因子受容体(EGFR)、EGFRvIII、NCAM、プロスターゼ、PAP、ELF2M、エフリンB2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gplOO、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、フコシルGM1、sLe、GM3、DR5、5T4、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、葉酸受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6/E7、MAGE Al、MAGEA3、MAGEA3/A6、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、プロステイン、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/ガレクチン8、KRAS、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座切断点、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、サイクリンB1、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、GPA7、並びにIGLL1を含む群から選択され得る。
【0057】
本発明における使用のために放射性標識されている、標識されていない、又は薬物複合体である可能性のある例示的なDR5(細胞死受容体5)標的薬は、モノクローナル抗DR5抗体マパツズマブ、コナツムマブ、レクサツムマブ、ティガツズマブ、ドロジツマブ、及びLBY-135を含む。そのようなDR5標的薬は、例えば、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、前立腺がん、胃がん、膀胱がん、肺がん、メラノーマ、結腸直腸がん、及び扁平上皮がん、並びに本明細書に開示するがんのいずれかを治療するための放射性標識HER3標的薬と併用し得る。
本発明における使用のために放射性標識されている、標識されていない、又は薬物複合体である可能性のある例示的な5T4(栄養膜糖タンパク質(TBPG))標的薬は、抗5T4モノクローナル抗体MED10641、ALG.APV-527、Tb535、H6-DM5、及びZV0508、並びにナプツモマブ・エスタフェナトクス又はこれらのFab部分を含む。そのような5T4標的薬は、例えば、卵巣がん、頭頸部がん、乳がん、前立腺がん、胃がん、膀胱がん、肺がん、メラノーマ、結腸直腸がん、及び扁平上皮がん、並びに本明細書に開示するがんのいずれかを治療するための放射性標識HER3標的薬と併用し得る。
【0058】
本発明における使用のために放射性標識されている、標識されていない、又は薬物複合体である可能性のある例示的なHER2(ERBB2)標的薬は、モノクローナル抗体トラスツズマブ及びペルツズマブを含む。出願人らは、トラスツズマブをp-SCN-DOTAとコンジュゲートさせ、組成物を225Ac又は177Luで放射性標識することに成功した。使用し得る例示的なADC標的HER2に、fam-トラスツズマブデルクステカン-nxki(エンハーツ(登録商標);AstraZeneca/第一三共)及びトラスツズマブエムタンシン(Roche/Genentech)がある。抗HER2抗体は、例えば、HER3/HER2の任意の利用可能なエピトープに対する二特異性抗体などの多特異性抗体、例えば、Merrimack PharmaceuticalsのMM-111及びMM-141/イスチラツマブ、Merus NVのMCLA-128、並びにGenentechのMEHD7945A/ドゥリゴツマブであってもよい。HER2標的薬は、例えば、HER2とHER3の両方が陽性であるものを含むがこれらに限定されない卵巣がん、乳がん、転移性乳がん、食道がん、肺がん、子宮頸がん、及び子宮内膜がんなどのHER2発現がんの治療において放射性標識HER3標的薬と併用し得る。
【0059】
DrugBank Onlineで報告されているトラスツズマブの重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、重鎖(配列番号:102)及び軽鎖(配列番号:103)であり、前記鎖の1つ又は両方を含むHER2結合抗体は、本発明の様々な実施形態で具体化又は使用し得る。
DrugBank Onlineで報告されているペルツズマブの重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、重鎖(配列番号:104)及び軽鎖(配列番号:105)であり、前記鎖の1つ又は両方を含むHER2結合抗体は、本発明の様々な実施形態で具体化又は使用し得る。
【0060】
本発明における使用のために放射性標識されている、薬物複合体である、又は標識されていない可能性のある例示的なCD33標的薬は、モノクローナル抗体リンツズマブ、ゲムツズマブ、及びバダスツキシマブを含む。本明細書に開示する放射性標識HER3標的薬と組み合わせて、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、前立腺がん、胃がん、膀胱がん、肺がん、メラノーマ、結腸直腸がん、及び扁平上皮がんなどの固形がん、並びに本明細書に開示するがんのいずれかを、例えば、骨髄由来抑制細胞(MDSC)を枯渇させることによって治療するのに使用し得る。一態様では、放射性標識HER3標的薬と併用されるCD33標的薬は、225Acリンツズマブである。別の態様では、放射性標識HER3標的薬と併用されるCD33標的薬は、ADCゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ(登録商標);Pfizer)である。
本発明における使用のために放射性標識されている、薬物複合体である、又は標識されていない可能性のある例示的なCD33標的薬は、ダラツムマブ(ダラザレックス(登録商標);Johnson and Johnson)及びイサツキシマブ(サークリサ(登録商標);Sanofi)などの抗CD38モノクローナル抗体、又はこれらの抗原結合フラグメントを含む。そのようなCD38標的薬は、例えば、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、前立腺がん、胃がん、膀胱がん、肺がん、メラノーマ、結腸直腸がん、及び扁平上皮がん、並びに本明細書に開示するがんのいずれかなどであるがこれらに限定されない、例えば、CD38陽性抑制性免疫細胞が浸潤し得る固形腫瘍の治療において放射性標識HER3標的薬と併用し得る。
【0061】
本発明の態様に従って、多特異性抗体によって標的化され得る例示的な(HER3とは)異なる抗原に、少なくとも、HER1(EGFR)、HER2、及びIGF-1Rがある。例示的なHER3多特異性標的薬に、Merrimack PharmaceuticalsのMM-111若しくはMerus N.V.のMCLA-128(即ち、ゼノクツズマブ)などの;又はMerrimack PharmaceuticalsのMM-141(即ち、イスチラツマブ)などのIGF-1R/HER3に対する;又はRocheのMEHD7945A(即ち、ドゥリゴツマブ)などのEGFR/HER3に対する多特異性抗体、Zyngenia Inc.のセツキシマブベースの二特異性Zybody、及びSymphogenの多特異性抗体組成物Sym013がある。その他の説明と例示的な適応については表2を参照のこと。
【表2】
【0062】
本発明は、HER3の少なくとも1つのエピトープに対する第1の抗体の投与、及び第1の抗体とは異なる、HER3のエピトープ、又は上述した異なる抗原の一覧から選択される1つ若しくは複数の抗原などの異なる抗原のエピトープに対する第2の抗体の投与を含む、増殖性疾患又は障害を治療する方法も提供する。HER3抗体の1つ又は複数を放射性標識し得る。異なる抗原に対する抗体は、例えば、任意の組み合わせで放射性標識してもよい。
上述したような多特異性抗体、又は2つ以上のモノクローナル抗体として提示されるこのような組み合わせは、HER3に対する抗体のみを有する単独療法の有効性と同等の相乗的治療効果をもたらすと同時に、単独療法の副作用を低減し得る。更に、併用により、単独療法よりも効果が向上する可能性があり、この効果は、例えば、総腫瘍細胞数の減少、再発までの期間の延長、及び患者の健康のこの他の徴候によって測定し得る。
併用の方法は、多特異性抗体の投与を含み、第1の標的認識成分は、例えば、第1の全長重鎖及び第1の全長軽鎖、第1のFabフラグメント、第1の一本鎖可変フラグメント(scFvs)、又は他の種類の抗体のうち1つを含み得る。第2の標的認識成分は、例えば、第2の全長重鎖及び第2の全長軽鎖、第2のFabフラグメント、第2の一本鎖可変フラグメント(scFvs)、又は他の種類の抗体のうち1つを含み得る。更に、第2の標的認識成分は、HER3抗原の異なるエピトープに由来し得る、又は上述した抗原にいずれかに由来し得る。
【0063】
HER3標的薬は放射性同位体を含んでよく、他の抗原に対する任意の追加的な抗体は、任意に放射性同位体を含んでよい。本発明の特定の態様に従って、免疫療法薬が二特異性抗体を含む場合、第1の標的認識成分と第2の標的認識成分のいずれか1つ若しくは両方、又は二特異性標的薬の任意の部分は、放射性同位体を含み得る。
本発明の特定の態様に従って、放射性標識標的薬は、対照標的薬として、抗原に対して基本的に同じ免疫反応性を示し、対照標的薬は、放射性標識標的薬として、抗原(即ち、HER3)の同じエピトープに対するネイキッド標的薬又は他の方法で非標識の標的薬を含む。
本発明の特定の態様に従って、標的薬は225Acで標識してよく、HER3陽性細胞の細胞死を引き起こすことにおいて、対照モノクローナル抗体よりも少なくとも5倍効果的である可能性があり、対照モノクローナル抗体は、225Ac標識抗体と同じ抗原のエピトープに対するネイキッド又は非標識抗体を含む。例えば、225Ac標識モノクローナル抗体は、HER3陽性細胞の細胞死を引き起こすことにおいて、対照モノクローナル抗体よりも少なくとも10倍効果的、少なくとも20倍効果的、少なくとも50倍効果的、又は少なくとも100倍効果的であり得る。
本発明の特定の態様に従って、方法は、HER3標的薬、例えば抗体、抗体フラグメントなどの標識及び非標識(例えば、「ネイキッド」)部分の投与を含み得る。例えば、非標識部分は、標識部分と同じエピトープに対する同じ抗体を含み得る。このように、抗体の放射能の総量は変化させてよく、又は一定に保ってよく、また全体の抗体タンパク質濃度は一定に保ってよく、又はそれぞれ変化させてよい。例えば、投与される非標識抗体部分の全タンパク質濃度は、治療すべき疾患の正確な性質、患者の年齢及び体重、モノクローナル抗体の同一性、並びにモノクローナル抗体の標識のために選択した標識(例えば、放射性核種)に応じて変化し得る。
本発明の特定の態様に従って、抗HER3抗体の有効量は、抗HER3抗体の最大耐量(MTD)である。
【0064】
本発明の特定の方法の態様に従って、2つ以上の抗体を投与する場合、抗体は同時に投与し得る。このため、本発明の特定の態様に従って、抗体は単一の組成物で提供し得る。代替的に、2つの抗体を逐次的に投与し得る。このため、放射性標識HER3標的薬は、第2の抗体の前に、第2の抗体の後に、又は第2の抗体の前後両方に投与し得る。更に、第2の抗体は、放射性標識HER3標的薬の前に、放射性標識HER3標的薬の後に、放射性標識HER3標的薬の前後両方に投与し得る。
本発明の方法の特定の態様に従って、放射性標識HER3標的薬は、治療期間にわたって、7、10、12、14、20、24、28、35、及び42日に1回からなる群から選択される投与スケジュールに従って投与してよく、治療期間中に少なくとも2回の投与を含む。
本発明の特定の態様に従って、放射性標識HER3標的薬は、治療期間の1日目と5、6、7、8、9、若しくは10日目、又は治療期間の1日目と8日目など、2回の投与を含む投与スケジュールに従って投与し得る。
【0065】
他の治療薬に加えての本発明の放射性標識HER3標的薬の投与は、局所治療と全身治療のいずれが望ましいかに応じて、及び治療する領域に応じて、いくつかの方法で提供し得る。投与は、気管内、鼻腔内、表皮及び経皮、経口、又は非経口であり得る。非経口投与は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、若しくは筋肉内注射若しくは注入;又は頭蓋内、例えば、髄腔内若しくは脳室内投与を含む。いくつかの実施形態では、標的薬(複数可)及び/又は他の治療薬を含む徐放製剤を投与し得る。様々な薬剤を、単一の治療として、又は、がんの1つ若しくは複数の症状を軽減する若しくは改善させる、若しくは別の所望の効果を達成する期間にわたって、必要に応じて継続する一連の治療において投与し得る。
用量(複数可)は、例えば、対象の独自性、大きさ、及び条件に応じて、更に、投与する組成物の投与経路及び所望の効果に応じて異なり得る。治療薬の適切な用量は、発現に関する能力、又は調節すべき活性によって異なる。治療薬は、最初は比較的低用量で動物(例えば、ヒト)に投与し、その後、適切な反応が得られるまで用量を増加させることができる。
放射性標識HER3標的薬は、1つ又は複数の追加的な治療薬と同時又は逐次的に投与し得る。更に、2つ以上の追加的な治療薬が含まれる場合、追加的な治療薬は、互いに、及び/若しくは放射性標識HER3標的薬と同時又は逐次的に投与し得る。
【0066】
HER3標的薬を放射性標識する
本明細書に開示するHER3標的薬及びその他の標的薬は、例えば、キレート剤分子のコンジュゲーション及びそれらに対する放射性同位体のキレート化によって、β放射体(例えば、177Lu)又はα放射体(例えば、225Ac)などの放射性同位体で標識し得る。特定の態様に従って、標的薬は、固有のコンジュゲーション部位であるグルタミン(即ち、Gln-295、Q295)を見いだす目的で、重鎖CH2ドメインのアスパラギン297(Asn-297、N297;Kabat番号)などの定常領域で脱グリコシル化されているものに対する抗体であってよく、それにより、二官能性キレート剤分子とのコンジュゲーションに利用できる。
特定の態様に従って、放射線治療薬は、還元剤の使用などによりジスルフィド結合を減少させた抗体であってよく、その後、二官能性キレート剤分子とコンジュゲートさせる目的でデヒドロアラニンに変換してよい。
特定の態様に従って、放射線治療薬は、還元剤を用いてジスルフィド結合を減少させた抗体であってよく、その後、アリール架橋により二官能性キレート剤分子とコンジュゲートさせる。例えば、特定の態様に従って、3,5-ビス(ブロモメチル)ベンゼンなどのリンカー分子を用いて、抗体上の遊離スルフヒドリル基を架橋し得る。
【0067】
特定の態様に従って、放射線治療薬は、既存の特定のアミノ酸を、後で部位特異的標識に使用できるシステイン(複数可)で置き換えた抗体であり得る。
本発明の様々な態様で標的薬と結合させ得る例示的なキレート剤は以下を含む:1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(DO3A)若しくはこれらの誘導体;1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-二酢酸(NODA)若しくはこれらの誘導体;1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)若しくはこれらの誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)若しくはこれらの誘導体;1,4,7-トリアザシクロノナン、1-グルタル酸-4,7-二酢酸(NODAGA)、若しくはこれらの誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロデカン、1-グルタル酸-4,7,10-三酢酸(DOTAGA)、若しくはこれらの誘導体;1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)若しくはこれらの誘導体;1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン-4,11-二酢酸(CB-TE2A)若しくはこれらの誘導体;ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、そのジエステル、若しくはこれらの誘導体;2-シクロヘキシルジエチレントリアミン五酢酸(CHX-A’’-DTPA)若しくはこれらの誘導体;デフェロキサミン(deforoxamine)(DFO)若しくはこれらの誘導体;1,2-[[6-カルボキシピリジン-2-イル]メチルアミノ]エタン(H2デドパ)若しくはこれらの誘導体;DADA若しくはこれらの誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メチレンホスホン酸)(DOTP)若しくはこれらの誘導体;4-アミノ-6-[[16-[(6-カルボキシピリジン-2-イル)メチル]-1,4,10,13-テトラオキサ-7,16-ジアザシクロオクタデク-7-イル]メチル]ピリジン-2-カルボン酸(MACROPA-NH2)若しくはこれらの誘導体;MACROPA若しくはこれらの誘導体;1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(TCMC)若しくはこれらの誘導体;{4-[2-(ビス-カルボキシメチルアミノ)-エチル]-7-カルボキシメチル-[1,4,7]トリアゾナン-1-イル}-酢酸(NETA)若しくはこれらの誘導体;Diamsar若しくはこれらの誘導体;1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-トリ[メチル(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸(TRAP、PRP9、TRAP-Pr)若しくはこれらの誘導体;N,N’-ビス(6-カルボキシ-2-ピリジルメチル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(H4オクタパ)若しくはこれらの誘導体;N,N’-[1-ベンジル-1,2,3-トリアゾール-4-イル]メチル-N,N’-[6-(カルボキシ)ピリジン-2-イル]-1,2-ジアミノエタン(H2アザパ)若しくはこれらの誘導体;N,N’’-[[6-(カルボキシ)ピリジン-2-イル]メチル]ジエチレントリアミン-N,N’,N’’-三酢酸(H5デカパ)若しくはこれらの誘導体;N,N’-ビス(2-ヒドロキシ-5-スルホベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(SHBED)若しくはこれらの誘導体;N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(HBED)若しくはこれらの誘導体;3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9,-三酢酸(PCTA)若しくはこれらの誘導体;デスフェリオキサミンB(DFO)若しくはこれらの誘導体;N,N’-(メチレンホスホネート)-N,N’-[6-(メトキシカルボニル)ピリジン-2-イル]メチル-1,2-ジアミノエタン(H6ホスパ)若しくはこれらの誘導体;1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロヘキサデカン-N,N’,N’’,N’’’,N’’’’,N’’’’’-六酢酸(HEHA)若しくはこれらの誘導体;1,4,7,10,13-ペンタアザシクロペンタデカン-N,N’,N’’,N’’’,N’’’’-五酢酸(PEPA)若しくはこれらの誘導体;又は3,4,3-LI(1,2-HOPO)若しくはこれらの誘導体。
【0068】
特定の態様に従って、標的は、1つ又は複数の放射性核種をキレート化できる好適な二官能性キレート剤の化学的コンジュゲーションによって放射性標識し得る。使用し得る例示的なキレート剤分子に、p-SCN-Bn-DOTA、NH2-DOTA、NH2-(CH21-20-DOTA、NH2-(PEG)1-20-DOTA、HS-DOTA、HS-(CH21-20-DOTA、HS-(PEG)1-20-DOTA、ジブロモ-S-(CH21-20-DOTA、ジブロモ-S-(PEG)1-20-DOTA、p-SCN-Bn-DOTP、NH2-DOTP、NH2-(CH21-20-DOTP、NH2-(PEG)1-20-DOTP、HS-DOTP、HS-(CH21-20-DOTP、HS-(PEG)1-20-DOTP、ジブロモ-S-(CH21-20-DOTP、及びジブロモ-S-(PEG)1-20-DOTPがある。キレート剤分子は、例えば、リンカー分子を介して標的薬と結合し得る。例示的なリンカー分子は以下を含む:
-CH2(C64)NH2又は-CH2(C64)NH-X-Y、
式中、Xは、
-R2-CH2CH2O(CH2CH2O)nCH2CH2-、
-R2-CH2CH2NHC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH2CH2-,
-R2-(CH2nCH2-,
-R2-CH2CH2NHC(O)(CH2nCH2-、
-R2-CH(C(O)R3)CH2-、式中、R3は-OH若しくは短鎖ペプチド(1~20個のアミノ酸)、
-R2-CH2CH2O(CH2CH2O)nCH2C(O)O-、若しくは
-R2-CH2CH2NHC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH2CC(O)O-、
式中、nは1~20、及び
2は、-C(O)-若しくは-C(S)NH-;並びに
Yは、-NH2若しくは-SR4-、式中、R4は、-H若しくは-CH2-3,5-ビス(ブロモメチル)ベンゼン。
【0069】
タンパク質標的薬、例えば、抗体及び抗原結合性抗体フラグメント、並びにペプチド標的薬などの標的薬は、放射性核種のキレート化によって標的薬を放射性標識するためのキレート剤とコンジュゲートさせ得る。例えばリジン(複数可)を含むそのようなタンパク質又はペプチド標的薬は、二官能性剤S-2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン四酢酸、別名「p-SCN-Bn-DOTA」(カタログ番号:B205;Macrocyclics,Inc.、米国テキサス州プレイノ)を用いて、部分をキレート化するDOTAに好都合にコンジュゲートさせ得る。p-SCN-Bn-DOTAは、米国特許第4,923,985号明細書に詳細に記載された多段階の有機合成によって合成し得る。DOTA部分による放射性核種のキレート化は、抗体とp-SCN-Bn-DOTAとの化学的コンジュゲーションの前に、及び/又は前記コンジュゲーションの後に実施し得る。
キレート剤とコンジュゲートした標的薬を例示的な放射性核種で標識する方法は、実施例1に記載する。
【0070】
診断態様
ここに開示する方法は、HER3陽性細胞が存在するか、どの程度存在するか、及び/又はこれらの局在性を確認するために対象を診断することを含み得る。HER3陽性細胞は、対象の血液試料中の循環細胞や対象の生検中の腫瘍細胞など数多くの生物試料に存在する可能性がある。一態様では、診断ステップは、一般に、対象の血液又は組織試料を採取し、試料を基板に載置することを含み得る。HER3抗原の存在の有無は、診断用抗体、ペプチド、又は小分子を用いて検出してよく、診断用抗体ペプチド、又は小分子は、当技術分野で既知の標準的なイメージング標識のいずれかを用いて標識されている。例示的な標識剤に、例えば、放射性標識、例えば、3H、14C、32P、35S、及び125I;蛍光又は化学発光化合物、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、又はルシフェリン;及び酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はホースラディッシュペルオキシダーゼがある。そのような診断アッセイで使用される例示的なHER3標的薬は、HER3に対するヒト又はヒト化抗体を含む。
【0071】
別の態様では、方法は、放射性核種、例えば、PETイメージング用の18F、11C、68Ga、64Cu、89Zr、若しくは124I、又はSPECTイメージング用の99mTc若しくは111Inのいずれかで標識したHER3標的薬を用いて、HER3陽性細胞が存在するかを確認するために対象を診断することを含み得る。従って方法は、18F、11C、68Ga、64Cu、89Zr、124I、99mTc、又は111Inのうち1つ又は複数で標識したHER3標的薬を対象に投与すること、及び非侵襲的イメージング技術を対象に実施すること、例えば、PET又はSPECTスキャンを対象に実施することを含み得る。方法は、イメージングのための放射性標識HER3標的薬を対象に投与すること、及び対象の組織中で標的薬が標的と結合するのに十分な時間の後にイメージングを実施することを含み得る。対象の組織中で標的薬が標的と結合するのに十分な時間は、例えば、少なくとも20分間、少なくとも30分間、少なくとも60分間、又は20~360分間の範囲内の任意の数字若しくは部分範囲の何分間かであり得る。本発明の特定の一態様に従って、放射性標識HER3標的薬は、68Ga、89Zr、又は111Inを含んでよく、本明細書に開示する(例えば、実施例1に開示する)方法のいずれかを用いて標識してよい。
対象が、例えば、事前に定めた、若しくは事前に選択した閾値レベルを超えるHER3陽性がん細胞を、又はHER3陽性がん/腫瘍のその他の徴候を有する場合、ここに開示する本発明の治療方法を実施し得る。即ち、放射性標識HER3標的薬の治療有効量の、単独での、又は1つ若しくは複数の追加的な治療薬と組み合わせての投与を実施し得る。
【0072】
追加的な治療薬及び治療様式
放射性標識HER3標的薬の、単独での、又は他の標的薬と組み合わせての投与を含む本発明の方法は、追加的な治療薬又は様式の投与を更に含み得る。特定の態様に従って、追加的な薬剤は、放射性標識HER3標的薬によって治療されている疾患又は状態にとって適切であり得る。そのような投与は、HER3標的薬の有効量の投与と同時、別個、又は逐次であってよい。同時投与では、薬剤は、必要に応じて、1つの組成物として、又は別個の組成物として投与し得る。
放射性標識HER3標的薬と組み合わせて、又は共に使用し得る例示的な追加的な治療薬及び様式に、少なくとも、化学療法薬、小分子抗腫瘍薬、抗炎症薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、免疫チェックポイント治療薬、DDR阻害剤、CD47遮断薬、外部照射法、小線源療法、又はこれらの任意の組み合わせがある。単独での、又は本明細書に開示する他の標的薬と組み合わせての放射性標識HER3標的薬と組み合わせて、又は共に使用し得る例示的な追加的な薬剤を以下に更に記載する。
【0073】
A.化学療法薬及びその他の小分子薬
例示的な化学療法剤に、以下のようなアルキル化剤を含む抗腫瘍薬があるがこれらに限定されない:ナイトロジェンマスタード、例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、及びクロラムブシル;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、及びセムスチン(メチルCCNU);テモダール(登録商標)(テモゾラミド)、エチレンイミン/メチルメラミン、例えば、トリエチレンメラミン(TEM)、トリエチレンチオホスホルアミド(チオテパ)、ヘキサメチルメラミン(HMM、アルトレタミン);スルホン酸アルキル、例えばブスルファン;トリアジン、例えばダカルバジン(DTIC);葉酸類似体を含む代謝拮抗薬、例えば、メトトレキサート及びトリメトレキサート、ピリミジン類似体、例えば、5-フルオロウラシル(5FU)、フルオロデオキシウリジン、ゲムシタビン、シトシンアラビノシド(AraC、シタラビン)、5-アザシチジン、2,2’-ジフルオロデオキシシチジン、プリン類似体、例えば、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン(thioguamne)、アザチオプリン、T-デオキシコホルマイシン(ペントスタチン)、エリスロヒドロキシノニルアデニン(EHNA)、リン酸フルダラビン、2-クロロデオキシアデノシン(クラドリビン、2-CdA);細胞分裂阻害剤を含む天然物、例えば、パクリタキセル、ビンブラスチン(VLB)、ビンクリスチン、及びビノレルビンを含むビンカアルカロイド、タキソテール、エストラムスチン、並びにリン酸エストラムスチン;ポドフィロトキシン(pipodophylotoxin)、例えばエトポシド及びテニポシド;抗生物質、例えば、アクチノマイシンD、ダウノマイシン(ルビドマイシン)、ドキソルビシン、ミトキサントロン、イダルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、マイトマイシンC、及びアクチノマイシン;酵素、例えばL-アスパラギナーゼ;生物学的反応調節剤、例えば、インターフェロンα、IL-2、G-CSF、及びGM-CSF;白金錯化合物を含む様々な薬剤、例えば、オキサリプラチン、シスプラチン、及びカルボプラチン、アントラセンジオン、例えばミトキサントロン、置換尿素、例えばヒドロキシウレア、N-メチルヒドラジン(MIH)及びプロカルバジンを含むメチルヒドラジン誘導体、副腎皮質抑制剤、例えば、ミトタン(o、p-DDD)及びアミノグルテチミド;ホルモン、及び副腎皮質ホルモン拮抗薬を含む拮抗薬、例えばプレドニン及び等価物、デキサメタゾン、並びにアミノグルテチミド;ジェムザール(登録商標)(ゲムシタビン)、プロゲスチン、例えば、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、及び酢酸メゲストロール;エストロゲン、例えば、ジエチルスチルベストロール及びエチニルエストラジオール等価物;抗エストロゲン、例えばタモキシフェン;プロピオン酸テストステロン及びフルオキシメステロン/等価物を含むアンドロゲン;抗アンドロゲン、例えば、フルタミド、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体、及びリュープロリド;並びに非ステロイド性抗アンドロゲン、例えばフルタミド。
【0074】
(i)ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、例えば、ボリノスタット(スベロイルアニリドヒドロキサム酸;SAHA)、ロミデプシン、ベリノスタット(PDX101)、パノビノスタット(LBH589)、及びツシジノスタット、脱メチル化剤(例えば、ビダーザ);(ii)LSD1阻害剤、例えば、セクリデムスタット、TCP(トラニルシプロミン)、ORY-1001(イアダデムスタット)、GSK2879552(GSK)、INCB059872(Imago BioSciences)、IMG-7289(ボメデムスタット;Imago BioSciences)、ORY-2001(バフィデムスタット)、及びCC-90011(Celgene);並びに(iii)転写抑制解除(ATRA)療法薬、を含むがこれらに限定されない、後成的機構を標的とする治療薬も、放射性標識HER3標的薬及び/又は他の放射性標識標的薬並びに本明細書に開始するこれらの組み合わせと組み合わせて、又は共に使用し得る。
本発明の特定の態様に従って、化学療法薬は、少なくとも、テモゾロミド、シスプラチン、及び/又はフルオロウラシルなどの放射線増感剤を含む。
【0075】
追加的な薬剤は、例えば、ナビトクラックス又はベネトクラクス(ベネクレクスタ(登録商標);Abbvie)などのbcl-2阻害剤を含んでよく、この組み合わせは、例えば、乳がん、及び小細胞肺がん(SCLC)のような肺がんなどの固形腫瘍の治療に使用してよい。
追加的な薬剤は、例えば、サイクリン依存性キナーゼCDK4及びCDK6阻害剤、例えばパルボシクリブ(イブランス(登録商標);Pfizer)を含んでよく、この組み合わせは、例えば、アロマターゼ阻害剤を併用して又は併用せずに、HR陽性及びHER2陰性乳がんなどの乳がんなどの固形がんの治療に使用してよい。
追加的な薬剤は、例えば、エルロチニブ(タルセバ(登録商標);Roche)を含んでよく、この組み合わせは、例えば、上皮増殖因子受容体(EGFR)に変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)、及び膵がんなどの固形腫瘍がんの治療に使用してよい。
追加的な薬剤は、例えば、シロリムス又はエベロリムス(アフィニトール(登録商標);Novartis)を含んでよく、この組み合わせは、例えば、メラノーマ及び乳がんなどの固形腫瘍がんの治療に使用してよい。
追加的な薬剤は、例えば、ペメトレキセド(アリムタ(登録商標);Eli Lilly)を含んでよく、この組み合わせは、例えば、胸膜中皮腫などの中皮腫、及び非小細胞肺がん(NSCLC)などの肺がんのような固形がんの治療に使用してよい。
追加的な治療薬は、例えば、当技術分野で既知の標準投与レジメンに従って投与し得る。例えば、治療薬は、1~500mg/m2の範囲の濃度で投与し得る(量は患者表面積(m2)の関数として計算)。例えば、化学療法薬パクリタキセルの例示的な用量は15~275mg/m2を含んでよく、ドセタキセルの例示的な用量は60~100mg/m2を含んでよく、エピチロンの例示的な用量は10~20mg/m2を含んでよく、カリチアマイシンの例示的な用量は1~10mg/m2を含んでよい。本明細書には例示的な投与量を記載するが、これらは参考として提供しているに過ぎず、ここに開示する本発明の薬剤の用量範囲を限定することを意図するものではない。
【0076】
B.外部照射法及び/又は小線源療法
HER3標的薬、及び任意に、本明細書に開示する他の追加的な治療薬のいずれかと共に投与される追加的な治療様式は、外部照射法又は小線源療法によって投与される電離放射線であり得る。このような放射線療法は、一般に、X線、γ線、又は荷電粒子(例えば、陽子又は電子)を用いて、患者の体外に配置された機械(外部照射療法)又は患者の体内に配置された線源(内部放射線療法又は小線源療法)から送達されるような電離放射線を発生させることを指す。
外部照射法又は小線源療法は、放射性標識HER3標的薬によって送達される標的放射線損傷を増強する可能性があり、従って、HER3標的薬の前及び/若しくは後など、HER3標的薬と逐次的に、又はHER3標的薬と同時に送達し得る。
外部照射法又は小線源療法は、コンピュータ断層撮影(CT)及び/又は磁気共鳴画像(MRI)などのイメージングベースの技術と共に計画及び投与し、投与すべき放射線の線量及び部位を正確に決定し得る。例えば、本明細書に開示する放射性標識HER3標的薬のいずれかで治療される患者を、CT又はMRIのいずれかを用いて撮像し、外部照射法又は小線源療法によって投与する放射線の線量及び部位を決定し得る。
【0077】
様々な実施形態では、放射線治療は、全身放射線治療、従来の外部照射治療、定位放射線治療、体幹部定位放射線治療、3次元原体照射治療、強度変調放射線治療、画像誘導放射線治療、トモセラピー、及び小線源療法からなる群から選択し得る。特定の態様に従って、放射線治療は、単回線量として、又は分割線量として、例えば、2回分以上に分割して提供し得る。例えば、1回分が2~20Gy含むように、この線量を投与し得る(例えば、50Gyの放射線量は、それぞれが5Gy含む10回分に分割し得る)。2回分以上の分割線量を、連日、又は2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、7日に1回、若しくはこれらの組み合わせなど連続した日程で投与し得る。
【0078】
C.免疫チェックポイント治療薬
HER3標的薬と共に投与される追加的な薬剤(複数可)は免疫チェックポイント治療薬であり得る。がん細胞は、免疫系の標準的なチェックポイントを回避する手段を構築している。例えば、がん細胞は、腫瘍抗原の発現低下、腫瘍抗原の提示低下をもたらすMHCクラスI及びII分子のダウンレギュレーション、TGFbなどの免疫抑制サイトカインの分泌、制御性T細胞(Treg)若しくは骨髄由来抑制細胞(MDSC)などの免疫抑制細胞の動員又は誘導、並びに宿主の既存の抗腫瘍免疫を抑制する特定のリガンド[例えば、プログラム死リガンド-1(PD-L1)]の過剰発現によって、免疫監視を回避することがわかっている。
がん細胞による別の主要な免疫抑制機構に、「T細胞枯渇」として知られるプロセスがあり、これは腫瘍抗原への慢性的な曝露に起因し、抑制性受容体のアップレギュレーションを特徴とする。これらの抑制性受容体は、無制御な免疫反応を防ぐための免疫チェックポイントとして機能する。
PD-1(即ち、プログラム細胞死タンパク質1)並びにそのリガンドPD-L1及びPD-L2、CTLA4(即ち、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4)並びにそのリガンドCD80及びCD86、LAG3(即ち、リンパ球活性化遺伝子3)、B及びTリンパ球アテニュエーター、TIGIT(Ig及びITIMドメインを持つT細胞免疫受容体)、TIM-3(即ち、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3)、並びにVISTA(T細胞活性化のVドメイン免疫グロブリンサプレッサー)を含む、T細胞免疫の異なるレベルで作用する様々な免疫チェックポイントは文献に記載されている。
【0079】
治療介入による免疫系の効果の増強は、がん治療において特に歓迎すべき進展である。示されているように、CTLA-4及びPD-1などのチェックポイント阻害剤は自己免疫を防ぎ、一般に、免疫の付随的損傷から組織を保護する。加えて、OX40(即ち、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー4;TNFR-SF4)、CD137(即ち、TNFR-SF9)、GITR(即ち、グルココルチコイド誘導性TNFR)、CD27(即ち、TNFR-SF7)、CD40(即ち、分化抗原群40)、及びCD28などの刺激チェックポイントは、T細胞の増殖を活性化及び/又は促進する。これらのタンパク質の抑制又は過剰発現による免疫系の調節は、現在有望視されている研究分野である。
従って、有望な治療戦略は、がん細胞が利用する免疫系における特定の遮断を除去し得る免疫チェックポイント治療薬を、本明細書に開示するHER3標的薬と併用することである。例えば、特定の免疫チェックポイント阻害剤(ICI)に対する抗体は、チェックポイント阻害剤タンパク質とこれらのリガンドとの相互作用を遮断し、それにより、通常なら腫瘍細胞に対する免疫応答を阻害したであろうシグナル伝達事象を妨げ得る。
更に、ICI抗体と相乗効果を示す放射線の能力を支持する前臨床エビデンスが増えている。これは臨床でも検討されており、様々な腫瘍型やICI抗体にわたって外部照射法と免疫チェックポイント療法の併用を評価する臨床試験が増加している(Lamichhane,2018)。この併用を支持する臨床的エビデンスは、抗細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)ICI抗体のイピリムマブと放射線を併用して臨床的有用性を実証する2試験において、メラノーマで得られている(Twyman-Saint Vistor,2015)。
従って、ここに開示する本発明の目的は、ICI抗体などの1つ又は複数の免疫チェックポイント治療薬と併用してHER3標的薬を用いるがんの治療を提供することである。
【0080】
本発明の免疫チェックポイント治療薬は、1つ又は複数のチェックポイントタンパク質を、完全に又は部分的に低下、抑制、阻害、若しくは調節する分子を含む。チェックポイントタンパク質は、T細胞の活性化又は機能を制御する。免疫チェックポイント治療薬は、チェックポイント抑制に結合する、又はその他の方法で無効にすることによって、既存の免疫応答抑制を解除し得る。免疫チェックポイント治療薬は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、抗体フラグメント、小分子治療薬、又はこれらの組み合わせを含み得る。
例示的な免疫チェックポイント治療薬は、抑制性受容体CTLA-4、PD-1、TIM-3、VISTA、BTLA、LAG-3、及びTIGIT、並びに/又は活性化受容体CD28、OX40、CD40、GITR、CD137、CD27、及びHVEMなどのチェックポイントタンパク質に特異的に結合し、これらを抑制し得る。更に、免疫チェックポイント治療薬は、PD-L1、PD-L2、PD-L3、及びPD-L4(PD-1のリガンド);CD80及びCD86(CTLA-4のリガンド);CD137-L(CD137のリガンド);並びにGITR-L(GITRのリガンド)のような前述のチェックポイントタンパク質のいずれかのリガンドに結合し得る。その他の例示的な免疫チェックポイント治療薬は、CD226、B7-H3、B7-H4、BTLA、TIGIT、GALS、KIR、2B4(分子のCD2ファミリーに属し、全NK、γδ、及び記憶CD8+(αβ)T細胞上に発現する)、CD160(BY55とも呼ばれる)、及びCGEN-15049などのチェックポイントタンパク質に結合し得る。
【0081】
免疫チェックポイントプロセスの中核は、CD137、CTLA-4、及びPD-1免疫チェックポイント経路である。
CTLA-4及びPD-1経路は、免疫応答の異なる段階で機能すると考えられている。CTLA-4は、通常リンパ節において、ナイーブT細胞活性化の初期段階で、潜在的に自己反応性のT細胞を停止させるため、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の「リーダー」とみなされている。PD-1経路は、主に末梢組織において、免疫応答の後期段階で、既に活性化したT細胞を制御する。更に、進行がん患者では、腫瘍細胞又は腫瘍浸潤免疫細胞のいずれかによるPD-L1のアップレギュレーションが少ないことが示されている。従って、PD-1経路を標的とする免疫チェックポイント治療薬は、この免疫抑制軸が機能している腫瘍において特に効果的である可能性があり、免疫保護環境の方にバランスを逆転させることで、既存の抗腫瘍免疫応答が再活性化及び増強するであろう。PD-1の遮断は、PD-1又はそのリガンドであるPD-L1に結合する抗体を含む様々な機構によって達成できる。
【0082】
ここに開示する本発明の特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬は、PD-1と、PD-L1及びPD-L2などのその結合パートナーのうち1つ又は複数との相互作用によって生じるシグナル伝達を低下、遮断、抑制、又は阻害し得るPD-1チェックポイント阻害剤を含み得る。PD-1チェックポイント阻害剤は、PD-1とPD-L1及び/又はPD-L2との相互作用によって生じるシグナル伝達を低下、遮断、抑制、抑止、又は阻害する抗PD-1抗体、抗原結合性フラグメント、融合タンパク質、オリゴペプチド、及びその他の分子であり得る。いくつかの実施形態では、PD-1チェックポイント阻害剤は、Tリンパ球上に発現する細胞表面タンパク質により、又はこれを介して媒介される負の共刺激シグナルを低減し、機能不全T細胞の機能不全性を低下させる(例えば、抗原認識に対するエフェクター応答を増強する)。いくつかの実施形態では、PD-1チェックポイント治療薬は抗PD-1抗体である。
従って、本発明の特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬は、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)に対する、例えばCTLA-4、PD-1、又はPD-L1に対するモノクローナル抗体を含み得る。
特定の態様に従って、ICI抗体はPD-1に対する抗体であり得る。ICI抗体は、ニボルマブなどの抗PD-1抗体であり得る。例えば、米国特許第7,029,674号明細書に開示されているPD-1生物活性(又はそのリガンド)の阻害剤がある。PD-1に対する例示的な抗体に以下がある:BioXcellの抗マウスPD-1抗体クローンJ43(カタログ番号:BE0033-2);BioXcellの抗マウスPD-1抗体クローンRMP1-14(カタログ番号:BE0146);マウス抗PD-1抗体クローンEH12;MerckのMK-3475抗マウスPD-1抗体(キイトルーダ(登録商標)、ペムブロリズマブ、ラムブロリズマブ);AnaptysBioの抗PD-1抗体(ANB011としても知られる);抗体MDX-1 106(ONO-4538);Bristol-Myers SquibbのヒトIgG4モノクローナル抗体ニボルマブ(オプジーボ(登録商標)、BMS-936558、MDX1106);AstraZenecaのAMP-514及びAMP-224;並びにCureTech Ltd.のピディリズマブ(CT-011)。
【0083】
特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬はPD-L1の阻害剤である。PD-L1の例示的な阻害剤は、抗体(例えば、抗PD-L1抗体、即ち、ICI抗体)、RNAi分子(例えば、抗PD-L1 RNAi)、アンチセンス分子(例えば、抗PD-L1アンチセンスRNA)、ドミナントネガティブタンパク質(例えば、ドミナントネガティブPD-L1タンパク質)、及び小分子阻害剤を含む。例示的な抗PD-L1抗体はクローンEH12を含む。PD-L1に対する例示的な抗体に以下がある:GenentechのMPDL3280A(RG7446);BioXcellの抗マウスPD-L1抗体クローン10F.9G2(カタログ番号:BE0101);Bristol-Meyer’s Squibbの抗PD-L1モノクローナル抗体MDX-1105(BMS-936559)及びBMS-935559;MSB0010718C;マウス抗PD-L1クローン29E.2A3;並びにAstraZenecaのMEDI4736(デュルバルマブ)。
特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬はPD-L2の阻害剤である、又はPD-1とPD-L2の相互作用を低下させ得る。PD-L2の例示的な阻害剤は、抗体(例えば、抗PD-L2抗体、即ち、ICI抗体)、RNAi分子(例えば、抗PD-L2 RNAi)、アンチセンス分子(例えば、抗PD-L2アンチセンスRNA)、ドミナントネガティブタンパク質(例えば、ドミナントネガティブPD-L2タンパク質)、及び小分子阻害剤を含む。抗体は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、非免疫化(deimmunized)抗体、及びIg融合タンパク質を含む。
特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬は、抗CTLA-4抗体などのCTLA-4阻害剤、即ち、ICI抗体であり得る。一態様に従って、ICI抗体はイピリムマブであり得る。抗CTLA-4抗体は、抗原提示細胞上に発現するCD80(B7-1)及び/又はCD86(B7-2)へのCTLA-4の結合を遮断し得る。CTLA-4に対する例示的な抗体に以下がある:Bristol Meyers Squibbの抗CTLA-4抗体イピリムマブ(ヤーボイ(登録商標)、MDX-010、BMS-734016、及びMDX-101としても知られる);Milliporeの抗CTLA4抗体クローン9H10;Pfizerのトレメリムマブ(CP-675,206、チシリムマブ);並びにAbcamの抗CTLA-4抗体クローンBNI3。特定の態様に従って、免疫チェックポイント阻害剤は、CTLA-4発現の核酸阻害剤であり得る。
【0084】
CD137(「TNF受容体スーパーファミリーメンバー9」としても知られる)は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーの共刺激受容体メンバーであり、CD28依存性及び非依存性T細胞共刺激を媒介する(Bartkowiak,2015)。CD137は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞(DC)、B細胞、及び免疫系の他の細胞によって誘導的に発現される。このタンパク質は、短いN末端細胞質部分、膜貫通領域、及び3つのシステインリッチモチーフを持つ細胞外ドメインを有する255アミノ酸タンパク質で構成されている。CD137が、限定的ではないが主に抗原提示細胞(APC)に発現するそのリガンドCD137L(4-1BBL;TNFSF9)によってライゲーションされると、細胞増殖、サイトカイン分泌の増加、及び活性化誘導細胞死の阻止などの様々なT細胞応答が引き起こされる。従って、このようなライゲーションは、免疫系を活性化する働きをする。しかし、CD137とCD137Lのシス相互作用も、CD137Lの発現を強力にダウンレギュレートする(Kwon,2015)。従って、CD137リガンドは、CD137が媒介する免疫系活性化の程度と動態を制御するよう機能する(Kwon,2015)。重要なことに、ヒトNK細胞に発現するCD137は、腫瘍細胞に結合した抗腫瘍抗体と結合するとアップレギュレートされる(Wei,2014)。
【0085】
従って、ここに開示する本発明の特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬は、CD137に対する抗体を含んでよく、これを用いて免疫系を活性化し、それにより、ここに開示するHER3標的薬と併用したがんの治療を提供することができる。使用し得る例示的な抗CD137抗体は、米国特許出願公開第20140274909;20130280265;20130273078;20130071403;20120058047;20110104049;20110097313;20080166336;20080019905;20060188439;20060182744;20060121030;及び20030223989号明細書に記載されている。
本発明の特定の態様に従って、免疫チェックポイント治療薬は、免疫チェックポイントタンパク質の2つ以上のモジュレーターを含み得る。このため、免疫チェックポイント治療薬は、第1の免疫チェックポイントタンパク質に対する第1の抗体又は阻害剤と、第2の免疫チェックポイントタンパク質に対する第2の抗体又は阻害剤とを含み得る。
【0086】
D.DNA損傷応答阻害剤
HER3標的薬と共に投与される追加的な薬剤は、1つ又は複数のDNA損傷応答阻害剤(DDRi)であり得る。DNA損傷は、自然反応若しくは酵素反応、化学反応、若しくは複製エラーなどの内因性因子によるものである可能性がある、又はUV若しくは電離放射線若しくは遺伝子属性化学物質などの外因性因子によるものであり得る。この損傷を克服する修復経路は、DNA損傷応答又はDDRと総称される。このシグナル伝達ネットワークは、特定の形態のDNA損傷、特に二本鎖切断及び複製ストレスに対する細胞の応答を検出し、組織化するために作用する。DNAを損傷する多様な薬剤及び電離放射線による治療後、細胞は生存のためにDDRに依存する。DDRの破壊によって、これらのDNA損傷剤に対するがん細胞の感受性を高めることができ、その結果、このような治療に対する患者の反応を改善し得ることが示されている。
DDRには、塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復、ミスマッチ修復、相同組換え修復、及び非相同末端結合を含むいくつかのDNA修復機構がある。約450のヒトDDR遺伝子が、生理的なプロセスで機能を果たすタンパク質をコードする。DDRの調節異常は、遺伝性、神経変性、免疫、心血管、代謝性疾患又は障害、及びがんを含む様々な障害を引き起こす。例えば、遺伝子OGG1及びXRCC1はDDRの塩基除去修復機構の一部であり、これらの遺伝子の変異は、腎臓がん、乳がん、及び肺がんに見られ、一方、遺伝子BRCA1及びBRCA2は相同組換え修復機構に関与し、これらの遺伝子の変異は、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がんのリスク上昇、並びに消化器がん、血液がん、及びメラノーマを引き起こす。例示的なDDR遺伝子を表3に記載する。
【0087】
ここに開示する本発明の目的は、DDRiと組み合わせて、電離放射線を到達する放射性標識HER3標的薬を投与することである。従って、特定の態様に従いHER3標的薬と一緒に投与される追加的な薬剤(複数可)は、DDRのタンパク質を標的とし(即ち、DDR阻害剤又はDDRi)、それにより、DNA損傷を最大化し、又はG1期及びS期などにおけるDNA損傷の場合には修復を抑制し、並びに/若しくはG2期の場合には修復を阻止し、最大量のDNA損傷が有糸分裂に入り込むようにして、細胞死をもたらし得る。
【表3】

更に、細胞死、即ち、標的がん細胞に対する致死性を確実にするために、1つ又は複数のDDR経路を標的とし得る。例えば、BRCA1及び2遺伝子の変異だけでは、PARP1塩基除去経路などの他の経路が作用してDNA損傷を修復する可能性があるため、細胞死を確実にするには十分でない可能性がある。従って、複数のDDRi阻害剤の組み合わせ、又はDDRiと、上述したような血管新生阻害剤若しくは免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせが可能であり、ここに開示する本発明の目的となる。
【0088】
例示的なDDRi-ATM及びATR阻害剤
毛細血管拡張性運動失調症変異(ATM)並びに毛細血管拡張性運動失調症変異及びRad3関連(ATR)は、セリン/スレオニンタンパク質キナーゼのホスファチジルイノシトール3-キナーゼ関連キナーゼ(PIKK)ファミリーのメンバーである。ATMは、DNA二本鎖切断によって動員及び活性化されるセリン/スレオニンタンパク質キナーゼである。ATMは、DNA損傷チェックポイントの活性化を開始するいくつかの重要なタンパク質をリン酸化し、細胞周期の停止、DNA修復、又は細胞アポトーシスを引き起こす。p53、CHK2、及びH2AXを含むこれらの標的のうちいくつかは腫瘍抑制因子である。このタンパク質の名称は、ATMの変異に起因する疾患である毛細血管拡張性運動失調症変異に由来する。
ATMは、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ関連キナーゼ(PIKK)のスーパーファミリーに属し、これは、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)との配列類似性を示す6つのセリン/スレオニンタンパク質キナーゼを含む。
ATMと同様に、ATRはDDRに関与する中心的なキナーゼの1つである。ATRは一本鎖DNA構造によって活性化され、例えば、切除されたDNA DSB又は停止した複製フォークで生じ得る。DNAの複製中にDNAポリメラーゼが停止すると、複製ヘリカーゼが複製フォークより前にDNAを解き続け、長い一本鎖DNA(ssDNA)が生成される。
【0089】
ATMは、化学療法薬に対する耐性をもたらすことによってがん細胞を助け、それにより、腫瘍の増殖及び生存に有利に働くことがわかっている。ATM及び/又はATRを抑制することで、放射性標識HER3標的薬がもたらす電離放射線などのDNA損傷剤に対するがん細胞の感受性が顕著に向上し得る。従って、ここに開示する本発明の目的は、HER3を発現若しくは過剰発現するようながん細胞を抑制する又は死滅させるために、HER3標的薬と組み合わせて、ATMの阻害剤(ATMi)及び/又はATRの阻害剤(ATRi)を投与することを含む。
ATMの阻害剤(ATMi)又はATRの阻害剤(ATRi)は、それぞれATM又はATRを標的とする抗体、ペプチド、又は小分子であり得る。代替的に、ATMi又はATRiは、1つ若しくは複数のシグナル伝達分子、タンパク質、若しくはその他の化合物によりATM若しくはATRの活性化を低下させる若しくは排除する可能性がある、又は、全てのシグナル伝達分子、タンパク質、若しくはその他の化合物によりATM若しくはATRの活性化の低下若しくは排除をもたらすことができる。ATMi及び/又はATRiは、これらの発現を抑制する化合物(例えば、ATM又はATRの転写若しくは翻訳を抑制する化合物)も含む。例示的なATMi KU-55933は、細胞増殖を抑制し、アポトーシスを誘導する。他の例示的なATMiは、少なくとも、KU-59403、ウォルトマンニン、CP466722、及びKU-60019を含む。例示的なATRiは、少なくとも、シサンドリンB、NU6027、NVP-BEA235、VE-821、VE-822、AZ20、及びAZD6738を含む。
【0090】
例示的なDDRi-Wee1阻害剤
チェックポイントキナーゼWee1は、チロシン15におけるCDK1(CDC2)とCDK2両方の抑制性リン酸化を触媒し、それにより、外的に誘発されたDNA損傷に反応して細胞周期を停止させる。Wee1の発現又は活性の調節解除は、いくつかのがん種における病態の特徴であると考えられている。例えば、神経膠芽腫、悪性メラノーマ、肝細胞がん、乳がん、結腸がん、肺がん、及び頭頸部扁平上皮がんでは、Wee1がしばしば過剰発現する。ゲノム不安定性のレベルが上昇した進行性腫瘍では、このような致死的なDNA損傷の修復を可能にする機能的なチェックポイントが必要となり得る。このため本発明者らは、Wee1は、これを阻害すると回復不能なDNA損傷が生じると考えられる進行性腫瘍において魅力的な標的であると考えている。従って、ここに開示する本発明の目的は、HER3を発現若しくは過剰発現するようながん細胞を抑制する又は死滅させるために、HER3標的薬と組み合わせて、Wee1の阻害剤を投与することを含む。
Wee1阻害剤は、Wee1を標的とする抗体、ペプチド、又は小分子であり得る。代替的に、Wee1阻害剤は、1つ若しくは複数のシグナル伝達分子、タンパク質、若しくはその他の化合物によりWee1の活性化を低下させる若しくは排除する可能性がある、又は、全てのシグナル伝達分子、タンパク質、若しくはその他の化合物によりWee1の活性化の低下若しくは排除をもたらすことができる。この用語は、Wee1による1つ若しくは複数のタンパク質若しくは細胞シグナル伝達成分の活性化若しくは不活性化を低下又は排除する化合物も含む(例えば、Wee1阻害剤は、サイクリン及びCdk活性のWee1依存性の不活性化を低下させる又は排除することができる)。Wee1阻害剤は、Wee1の発現を抑制する化合物(例えば、Wee1の転写又は翻訳を抑制する化合物)も含む。
【0091】
例示的なWee1阻害剤は、AZD-1775(即ち、アダボセルチブ)、並びに例えば、米国特許第7,834,019;7,935,708;8,288,396;8,436,004;8,710,065;8,716,297;8,791,125;8,796,289;9,051,327;9,181,239;9,714,244;9,718,821;及び9,850,247号明細書;米国特許出願公開第20100113445及び20160222459号明細書;並びに国際公開第2002090360,2015019037,2017013436,2017216559,2018011569、及び2018011570号に記載されているような阻害剤を含む。
更なるWee1阻害剤に、ピラゾロピリミジン誘導体、ピリドピリミジン、4-(2-クロロフェニル)-9-ヒドロキシピロロ[3,4-c]カルバゾール-1,3-(2H,6H)-ジオン(CAS番号:622855-37-2)、6-ブチル-4-(2-クロロフェニル)-9-ヒドロキシピロロ[3,4-c]カルバゾール-1,3-(2H,6H)-ジオン(CAS番号:62285550-9)、4-(2-フェニル)-9-ヒドロキシピロロ[3,4-c]カルバゾール-1,3-(2H,6H)-ジオン(CAS番号:1177150-89-8)、及び抗Wee1低分子干渉RNA(siRNA)分子がある。
【0092】
例示的なDDRi-PARP阻害剤
使用し得るDDRiのこの他の例示的な種類は、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(「PARP」)の阻害剤であり得る。DNA修復タンパク質PARPの阻害剤(個別に、且つ総称して「PARPi」という)は、特にBRCA1/2変異を有する患者の乳がん及び卵巣がんなどの様々な固形腫瘍における使用が承認されている。BRCA1及び2は、相同組換え修復(HRR)において機能する。変異すると、DNA修復プロセスが、保存的で正確なHRRから、欠失及び挿入による変異を生じさせる可能性のあるDNA末端接合などの忠実でない方法に変化することで、ゲノムの不安定性が誘発される。
PARPiは、BRCA1/2変異細胞において、強力な単剤活性によって示されるように、合成致死を呈することが確認されている。これは基本的に、一本鎖DNA切断の修復をブロックするものである。これらの腫瘍細胞ではHRRが機能しないため、細胞死に至る。殆どの腫瘍はBRCA1又はBRCA2変異を持たないため、このような腫瘍におけるPARPiの効力ははるかに低い。
【0093】
これまでにFDAは、特にBRCA1及びBRCA2遺伝子に生殖細胞系列変異及び体細胞変異を有する患者を対象とした単独療法剤として、4つのPARPi薬(オラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、及びタラゾパリブ)を承認している。ベリパリブと併せて、オラパリブ、ニラパリブ、及びルカパリブは、臨床試験を開始したPARPiの第一世代に当たる。これらのIC50値はナノモル範囲であることがわかっている。これに対し、タラゾパリブのような第2世代のPARPiは、IC50値がピコモル範囲にある。
これらのPARPiは全て、PARP1及びPARP2の触媒ドメインで、補因子であるB-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(b-NAD+)の結合部位に結合する。PARPファミリーの酵素は、NAD+を用いて、標的タンパク質上にポリ(ADPリボース)(PAR)鎖を共有結合で付加する(「PAR化」と呼ばれるプロセス)。PARP1(最も研究されているメンバー)及びPARP2は、DNA損傷応答(DDR)経路の重要な構成要素である。PARP1は一本鎖DNA切断の修復に関与し、恐らく他のDNA損傷も修復する(Woodhouse,et al.;Krishnakumar,et al.)。PARP1は、ジンクフィンガードメインを通じて、損傷したDNAに結合し、次に一連のDNA修復エフェクタータンパク質をPAR化し、副産物としてニコチンアミドを放出する(Krishnakumar,et al.)。その後、PARP1の自己PAR化により、DNAからタンパク質が放出される。しかしながら、利用可能なPARPiは、PARP1をDNA上で捕捉する能力が異なり、これは細胞毒性及び薬効と相関しているとみられる。具体的には、タラゾパリブ及びオラパリブなどの薬剤は、ベリパリブよりもPARP1を捕捉する効果が高い(Murai,et al.,2012;Murai,et al.,2014)。
【0094】
BRCA1又はBRCA2遺伝子に機能喪失型変異を有する卵巣がん及び乳がん患者におけるPARPiの有効性は、合成致死という遺伝学的概念に大きく起因する。即ち、BRCA1及び2のタンパク質は通常、相同組換え修復(HRR)として知られるDNA修復プロセスを媒介してゲノムの完全性を維持しており、PARPiによって、通常であればHRが修復するはずのDNA損傷が持続する。PARPiの存在下では、PARP1がDNA上で捕捉され、これにより複製フォークの進行が停止する。この停止は、HRシステムによって適時に修復されない限り、細胞毒性となる。効果的なHRを持たない細胞では、これらのDNA損傷を効果的に修復することができず、その結果、死滅する。
BRCA遺伝子及びHRR系の他の遺伝子における変異は、多くのがん種においてやはり一般的ではない。そこで、このようながんにおけるPARPiの治療効果を更に活用するために、PARPiを化学療法又は放射線療法のいずれかと組み合わせることによって、「人為的な」合成致死を誘導することができる。前臨床試験では、放射線療法とPARPiの併用が、BRCA1/2変異腫瘍細胞のPARP阻害に対する感受性を高め、非変異BRCA腫瘍のPARP阻害に対する感受性を向上させることが実証されている。更なる試験では、電離放射線(IR)自体が腫瘍細胞のPARPi合成致死を媒介できることが示されている。
従って、ここに開示する本発明の目的は、PARPiと組み合わせて、電離放射線を送達する放射性標識HER3標的薬を投与することである。
【0095】
本発明の様々な実施形態では、PARPiは、そうした機能を発揮する既知の薬剤であってよく、好ましくは、FDAに承認された薬剤であってよい。好ましくは、PARPiは、オラパリブ(リンパルザ(登録商標))、ニラパリブ(ゼジューラ(登録商標))、ルカパリブ(ルブラカ(登録商標))、又はタラゾパリブ(タルゼナ(登録商標))である。
臨床的には、PARPiによる治療は、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、及びトリプルネガティブ乳がん(TNBC)などの様々ながんにおいて、持続的な抗腫瘍効果をもたらしている。ある臨床試験では、生殖細胞系列BRCA1/2変異を有するTNBC患者を、PARPiのオラパリブで治療した。この治療法は、非変異患者と比較して、BRCA1/2変異患者で高い疾患安定化率を示したが、いずれのコホートでも持続的な奏効は達成されなかった(Gelmon,2011)。
本発明者らは、修復経路がPARPiによって遮断されている間に、HER3標的薬がもたらす電離放射線によって誘導されたdsDNA切断が増加することによってPARPiの効果が改善され得ることに気付いた。例示的なPARPiに、オラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、及びタラゾパリブがある。
【0096】
E.CD47遮断薬
HER3標的薬と共に投与される追加的な薬剤は、CD47遮断薬、例えば、CD47又はSIRPαとの相互作用によって、(例えば、標的細胞上の)CD47と(例えば、食細胞上の)SIRPαの間の活性及び/若しくはシグナル伝達を阻害又は低減する任意の薬剤であり得る。好適なCD4遮断薬の非限定的な例に、SIRPαポリペプチド、抗SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチド、及び抗CD47抗体又は抗体フラグメントを非限定的に含むCD47及び/又はSIRPα試薬がある。
CD47遮断薬の追加的な例に、CD47及び/又はSIRPαの発現を調節する薬剤がある。例えば、そのような薬剤は、CD47の翻訳をブロックするホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)などの核酸アプローチ、又はCD47の発現を調節、例えば、遮断、抑制、低減、拮抗、中和、若しくはその他の方法で阻害する、ヒトCD47に特異的な抗体を含み得る。CD47抗体又はアンチセンスアプローチは、CD47の発現(例えば、CD47の細胞表面発現を抑制)、活性、及び/若しくはシグナル伝達を抑制し得る、又はCD47とSIRPαの相互作用を阻害し得る。本明細書で提供される薬剤は、CD47、例えばヒトCD47に結合すると、又はそれ以外の方法でこれと相互作用すると、CD47の発現又は活性を、完全に又は部分的に低下させる、又はそれ以外の方法で調節する。CD47の生物学的機能の低下又は調節は、抗体とヒトCD47ポリペプチド及び/又はペプチドとの相互作用により、完全に、有意に、又は部分的に行われる。抗体の存在下でのCD47発現又は活性のレベルが、本明細書に記載の抗体との相互作用、例えば結合がない場合のCD47発現又は活性のレベルと比較して、少なくとも50%、例えば、60%、70%、80%、90%、95%、96%、98%、99%、又は100%低下する場合、薬剤はCD47発現又は活性を抑制するとみなされる。
【0097】
特定の態様に従って、抗CD47剤は、CD47と特異的に結合する抗体(即ち、抗CD47抗体)であり、ある細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と、別の細胞(例えば、食細胞)上のSIRPαとの相互作用を低減する。好適な抗体の非限定的な例に、クローンB6H12、5F9、8B6、及びC3、並びに国際公開第2011/143624号及び米国特許出願公開第20210246206号明細書に記載されている任意の抗体がある。好適な抗CD47抗体は、そのような抗体の完全ヒト型、ヒト化型、又はキメラ型を含む。
抗原性が低いため、ヒトでのin vivo用途で特に有用な例示的なヒト抗体又はヒト化抗体に、少なくとも、CD47に対するモノクローナル抗体、例えば、Gileadからマグロリマブとして入手可能なヒト化モノクローナル抗体であるHu5F9-G4(Sikic,et al.(2019)Journal of Clinical Oncology 37:946);I-Mab Biopharmaのレムゾパリマブ及びTJC4;Arch Oncology,IncのAO-176;Akesobio Australia PtyのAK117;Innovent BiologicsのIMC-002;Zia LabのZL-1201;Jiangsu HengRui Medincine Co.のSHR-1603;並びにSurface OncologyのSRF231がある。CD47とPD-L1の両方を標的とする、Innovent BiologicsのIBI-322などの二重特異性モノクローナル抗体も利用可能である。Alx OncologyのALX148;OSEのBI765063(OSE-172);並びに小分子阻害剤、例えばEpicentRxのRRx-001(1-ブロモアセチル-3,3-ジニトロアゼチジン)及びアゼルニジピン(CAS番号:123524-52-7)、又はこれらの薬学的に許容される塩などの、SIRPαに対する抗体も可能である。更なる例示的な薬剤については表4も参照。
【0098】
【表4】
【0099】
AO-176は、CD47とSIRPαの相互作用を遮断することによる腫瘍食作用の誘発に加え、正常細胞(特に、結合が無視できるほどわずかであるRBC)よりも腫瘍細胞に優先的に結合し、正常細胞よりも腫瘍を直接死滅させることが報告されている。
特定の態様に従って、SIRPα試薬は、認識できる親和性でCD47と結合するのに十分なSIRPαの部分(通常、シグナル配列と膜貫通ドメインの間にある)、又は結合活性を保持するこれらの断片を含み得る。好適なSIRPα試薬は、天然タンパク質SIRPαとCD47の間の相互作用を低減(例えば、遮断、阻止等)する。例えば、本発明の様々な態様で使用されるCD47遮断薬は、米国特許第9,969,789号明細書に開示されるもののいずれかであってよく、いずれも腫瘍細胞上のCD47に優先的に結合し、活性化Fc受容体とも関与するTTI-621及びTTI-622など、同特許に開示されているSIRPα-IgG Fc融合タンパク質を含むがこれらに限定されない。例えば、アミノ酸配列配列番号:116、配列番号:117、又は配列番号:118を含むSIRPα-IgG Fc融合タンパク質を使用し得る。
【0100】
抗CD47抗体又は他のタンパク質CD47阻害剤の治療有効用量は、約40μg/mL以上(例えば、約50μg/mL以上、約60μg/mL以上、約75μg/mL以上、約100μg/mL以上、約125μg/mL以上、又は約150μg/mL以上)の血清中タンパク質濃度を維持する用量であり得る。抗CD47抗体又はSIRPα融合タンパク質又は小分子などのCD47遮断薬の治療有効用量又は投与は、例えば、0.05~10mg/kg(薬剤質量/対象体重)の量、例えば、少なくとも0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、1.5mg/kg、2.0mg/kg、2.5mg/kg、3.0mg/kg、3.5mg/kg、4.0mg/kg、4.5mg/kg、5.0mg/kg、5.5mg/kg、6.0mg/kg、6.5mg/kg、7.0mg/kg、7.5mg/kg、8.0mg/kg、8.5mg/kg、9.0mg/kg;又は10mg/kg、9.5mg/kg、9.0mg/kg、8.5mg/kg、8.0mg/kg、7.5mg/kg、7.0mg/kg、6.5mg/kg、6.0mg/kg、5.5mg/kg、5.0mg/kg、4.5mg/kg、4.0mg/kg、3.5mg/kg、3.0mg/kg、2.5mg/kg、2.0mg/kg、1.5mg/kg、1.0mg/kg以下、又はこれらの上限及び下限の任意の組み合わせを含む。本明細書に開示するものなどの小分子CD47遮断薬の治療有効用量も、例えば、0.01~1,000mg/kg、及びこの中のmg/kgの任意の部分範囲又は値、例えば、0.01~500mg/kg、又は0.05~500mg/kg、又は0.5~200mg/kg、又は0.5~150mg/kg、又は1.0~100mg/kg、又は10~50mg/kgを含む。
【0101】
特定の態様に従って、抗CD47剤は、SIRPαと特異的に結合し、ある細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と、別の細胞(例えば、食細胞)上のSIRPαとの相互作用を低減する可溶性CD47ポリペプチドである。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαの活性化が貪食作用を阻害するため、SIRPαによるシグナル伝達を活性化又は刺激することなく、SIRPαと結合できる。代わりに、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、非感染細胞よりも感染細胞の優先的な貪食作用を促進する。正常な非標的細胞(正常細胞)に対して高レベルのCD47を発現するこれらの細胞(例えば、感染細胞)が、優先的に貪食されることになる。従って、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、貪食作用を阻害するのに十分なシグナル伝達反応を活性化/刺激することなく、SIRPαと特異的に結合する。場合によっては、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、(例えば、米国特許第20100239579号明細書に記載する)融合タンパク質であり得る。
有利には、CD47遮断薬は、放射性標識HER3及び/又はHER2標的薬などの放射性標識標的薬の細胞毒性及び貪食促進効果を増強できる一方で、標的薬の用量制限放射能毒性を低下させ、それにより、対象の治療で使用/許容される標的薬の忍容性を向上させ、且つ高い放射線量を可能とする。
【実施例1】
【0102】
放射性標識HER3標的薬の作製
HER3に対するモノクローナル抗体などのHER3標的薬は、国際公開第2017/155937号、及び2019年12月9日に出願された、「Compositions and methods for preparation of site-specific radioconjugates」という名称の米国仮特許出願第63/042,651号に詳述されている手順に従って、インジウム111(111In)又はアクチニウム225(225Ac)で標識し得る。
【0103】
放射性標識:例として抗体は、例えば、本明細書又は前述の特許出願に記載のキレート剤含有リンカーにコンジュゲートさせ得る。例示的なリンカーに、少なくともドデカン四酢酸(DOTA)があり、コンジュゲーション反応の目的は、3:1~5:1のDOTA:抗体比を達成することである。次いで、放射性核種111In又は225Acを用いたキレート化を実施し、得られた111In又は225Ac標識抗HER3抗体の有効性及び純度をHPLC及びiTLCで決定し得る。
225Acの例示的な標識反応は以下の通りである:反応では、15μLの0.15M NH4OAc緩衝液(pH=6.5)及び2μL(10μg)のDOTA-抗HER3(5mg/mL)をエッペンドルフ反応菅で混合し、続いて、0.05M HCl中の4μL(10μCi)の225Acを添加し得る。管の内容物はピペットの先端で混合し、反応混合物は、37℃で90分間、100rpmで振とうしながらインキュベートし得る。インキュベーション時間の終わりに、3μLの1mM DTPA溶液を反応混合物に添加し、室温で20分間インキュベートして未反応225Acを結合させ、225Ac-DTPA複合体にし得る。10cmのシリカゲルストリップ及び10mM EDTA/生理食塩水移動相を用いた即時薄層クロマトグラフィーを使用し、225Ac標識抗HER3(225Ac-DOTA-抗HER3)を遊離225Ac(225Ac-DTPA)から分離することにより、225Ac-DOTA-抗HER3の放射化学的純度を決定し得る。このシステムでは、放射性標識抗体は適用部位に留まり、225Ac-DTPAは溶媒先端と一緒に移動する。ストリップを半分に切り、マルチチャンネル分析器が装備されたガンマカウンターで、225Ac用のチャンネル72~110を用いて計数し、その娘核を除外し得る。
【0104】
精製:例示的な放射性標識HER3標的薬、例えば225Ac-DOTA-抗HER3は、1%HSAでプレブロックしたPD10カラム、又は分画分子量が50kDaのVivaspin遠心濃縮器で、1.5mLで2回洗浄、3分/回転で精製し得る。精製後の225Ac-DOTA-抗HER3のHPLC分析は、フロースルーWaters UV及びBioscan放射線検出器が装備されたWaters HPLCシステムを使用し、pH=7.4、流量1mL/分のPBSで溶出するTSK3000SW XLカラムを用いて実施し得る。
安定性測定225Ac-DOTA-抗HER3などの例示的な放射性標識HER3標的薬は、安定性測定に使用してよく、225Ac-DOTA-抗HER3は、元の量で、又は作業緩衝液(0.15M NH4OAc)で希釈して(2~10倍)試験し、室温(rt)で48時間、又は4℃で96時間インキュベートした後、ITLCで試験し得る。安定性は、インキュベーション前後に未処理の放射性標識抗HER3と比較して測定する。225Acで標識した他の抗体が、4℃で最大96時間安定していることがわかっている。
免疫反応性(IR)測定225Ac-DOTA-抗HER3などの例示的な放射性標識HER3標的薬は、免疫反応性試験に使用し得る。HER3陽性細胞及び対照のHER3陰性細胞は、結合量を調べるために、1試料当たり100~750万個の細胞数で使用し得る(数回洗浄後の細胞に結合する放射能の割合(%);又は、免疫反応性部分(IRF)ビーズアッセイを、Sharma,2019に開示されている方法に従って使用し得る)。111In又は225Acで放射性標識した他の抗体で先に行ったアッセイでは、約50~60%の免疫反応性が示された。
【実施例2】
【0105】
例示的なPARPi投与及び投与レジメン
(A)オラパリブ(リンパルザ(登録商標))-通常及び減量投与レジメン
オラパリブは、リンパルザ(登録商標)との商標名でAstraZenecaから販売されている。リンパルザ(登録商標)は、100mg及び150mgの錠剤形態で販売されている。投与量は、1日2回300mgを経口投与し、1日総投与量を600mgとする。投与は、疾患進行又は許容できない毒性が生じるまで継続する。この投与レジメンは、治療する疾患に関わらず、本明細書において、リンパルザ(登録商標)の「通常」ヒト投与レジメンと呼ぶ。これより期間の短い(例えば、21日間)、又はリンパルザ(登録商標)の投与量が少ない(例えば、300mg/日)任意の投与レジメンは、本明細書において「減量」ヒト投与レジメンと呼ぶ。減量ヒト投与レジメンの例に以下がある:(i)550mg/日;(ii)500mg/日;(iii)450mg/日;(iv)400mg/日;(v)350mg/日;(vi)300mg/日;(vii)250mg/日;(viii)200mg/日;(ix)150mg/日;(x)100mg/日;又は(xi)50mg/日。
【0106】
(B)ニラパリブ(ゼジューラ(登録商標))-通常及び減量投与レジメン
ニラパリブは、ゼジューラ(登録商標)との商標名でTesaroから販売されている。ゼジューラ(登録商標)は、100mgのカプセル形態で販売されている。投与量は、1日1回300mgを経口投与する。疾患進行又は許容できない有害反応が生じるまで投与を継続する。この投与レジメンは、治療する疾患に関わらず、本明細書において、ゼジューラ(登録商標)の「通常」ヒト投与レジメンと呼ぶ。これより期間の短い(例えば、21日間)、又はゼジューラ(登録商標)の投与量が少ない(例えば、150mg/日)任意の投与レジメンは、本明細書において「減量」ヒト投与レジメンと呼ぶ。減量ヒト投与レジメンの例に以下がある:(i)250mg/日;(ii)200mg/日;(iii)150mg/日;(iv)100mg/日;又は(v)50mg/日。
【0107】
(C)ルカパリブ(ルブラカ(登録商標))-通常及び減量投与レジメン
ルカパリブは、ルブラカ(登録商標)との商標名でClovis Oncology, Inc.から販売されている。ルブラカ(登録商標)は、200mg及び300mgの錠剤形態で販売されている。投与量は、1日2回600mgを経口投与し、1日総投与量を1,200mgとする。投与は、疾患進行又は許容できない毒性が生じるまで継続する。この投与レジメンは、治療する疾患に関わらず、本明細書において、ルブラカ(登録商標)の「通常」ヒト投与レジメンと呼ぶ。これより期間の短い(例えば、21日間)、又はルブラカ(登録商標)の投与量が少ない(例えば、600mg/日)任意の投与レジメンは、本明細書において「減量」ヒト投与レジメンと呼ぶ。減量ヒト投与レジメンの例に以下がある:(i)1,150mg/日;(ii)1,100mg/日;(iii)1,050mg/日;(iv)1,000mg/日;(v)950mg/日;(vi)900mg/日;(vii)850mg/日;(viii)800mg/日;(ix)750mg/日;(x)700mg/日;(xi)650mg/日;(xii)600mg/日;(xiii)550mg/日;(xiv)500mg/日;(xv)450mg/日;(xvi)400mg/日;(xvii)350mg/日;(xviii)300mg/日;(xix)250mg/日;(xx)200mg/日;(xxi)150mg/日;又は(xxii)100mg/日。
【0108】
(D)タラゾパリブ(タルゼナ(登録商標))-通常及び減量投与レジメン
タラゾパリブは、タルゼナ(登録商標)との商標名でPfizer Labsから販売されている。タルゼナ(登録商標)は、1mgのカプセル形態で販売されている。投与量は、1mgを経口投与する。投与は、疾患進行又は許容できない毒性が生じるまで継続する。この投与レジメンは、治療する疾患に関わらず、本明細書において、タルゼナ(登録商標)の「通常」ヒト投与レジメンと呼ぶ。これより期間の短い(例えば、21日間)、又はタルゼナ(登録商標)の投与量が少ない(例えば、0.5mg/日)任意の投与レジメンは、本明細書において「減量」ヒト投与レジメンと呼ぶ。減量ヒト投与レジメンの例に以下がある:(i)0.9mg/日;(ii)0.8mg/日;(iii)0.7mg/日;(iv)0.6mg/日;(v)0.5mg/日;(vi)0.4mg/日;(vii)0.3mg/日;(viii)0.2mg/日;又は(ix)0.1mg/日。
【実施例3】
【0109】
HER3標的薬とPARPiの投与レジメン
ヒト患者は以下のレジメンに従って治療してよい。オラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、又はタラゾパリブ(PARPi)のうち1つを、実施例2に記載する投与レジメンのいずれか1つに従って経口投与し、単回又は分割投与のいずれかで、本明細書に詳述する放射性標識HER3標的薬の静脈内投与を併用する。例えば、投与レジメンの例に以下がある:(a)PARPiとHER3標的薬を同時に投与し、(i)それぞれ同日から投与する例、(ii)HER3標的薬は、単回投与、若しくは1週間以上の間隔を空けて分割投与する、且つ(iii)PARPiは、1日1回若しくは1日2回(必要に応じて)、HER3標的薬の投与と同じかそれ以上の期間にわたって投与する例;又は(b)PARPiとHER3標的薬を同時に投与し、(i)PARPi投与は、HER3標的薬投与の少なくとも1週間前に行う例、(ii)HER3標的薬は、単回投与、若しくは1週間以上の間隔を空けて分割投与する例、且つ(iii)PARPiは、1日1回若しくは1日2回(必要に応じて)、HER3標的薬の投与と同じかそれ以上の期間にわたって投与する例。
【実施例4】
【0110】
HER3標的薬とCD47遮断薬の投与レジメン
本発明の特定の態様に従って、CD47遮断薬は、例えば、CD47がSIRPαに結合するのを防ぐモノクローナル抗体であり得る。例示的なタンパク質CD47遮断薬に、マグロリマブ、レムゾパリマブ、AO-176、TTI-621、TTI-622、又はこれらの組み合わせがある。CD47遮断薬は、代替的又は追加的に、CD47及び/又はSIRPαの発現を調節する薬剤、例えば、CD47の翻訳を阻止するホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)、例えばMBT-001(PMO(モルフォリノ)配列:5’-CGTCACAGGCAGGACCCACTGCCCA-3’)[配列番号:114])、又は米国特許第8,557,788、8,236,313、10,370,439号明細書、及び国際公開第2008060785号のいずれかに記載されているPMOオリゴマーCD47阻害剤のいずれかを含み得る。抗CD47抗体の治療有効用量は、少なくとも0.05~10mg/kgを含む。従って本発明の方法は、単回又は分割投与のいずれかで、本明細書に詳述する放射性標識HER3標的薬の静脈内投与を併用して、抗CD47抗体又は他の薬剤のうち1つ又は複数を投与することを含み得る。例えば、投与レジメンの例に以下がある:(a)抗CD47抗体又は抗CD47薬とHER3標的薬を同時に投与し、(i)それぞれ同日から投与する例、(ii)HER3標的薬は、単回投与、若しくは1週間以上の間隔を空けて分割投与する例、且つ(iii)抗CD47抗体又は抗CD47薬は、1日1回若しくは1日2回(必要に応じて)、HER3標的薬の投与と同じかそれ以上の期間にわたって投与する例;又は(b)抗CD47抗体又は抗CD47薬とHER3標的薬を同時に投与し、(i)抗CD47抗体又は抗CD47薬投与は、HER3標的薬投与の少なくとも1週間前に行う、(ii)HER3標的薬は、単回投与、若しくは1週間以上の間隔を空けて分割投与する例、且つ(iii)抗CD47抗体又は抗CD47薬は、1日1回若しくは1日2回(必要に応じて)、HER3標的薬の投与と同じかそれ以上の期間にわたって投与する例。
【実施例5】
【0111】
HER3標的薬とICIの投与レジメン
本発明の特定の態様に従って、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、CD137のうちいずれかに対するモノクローナル抗体であり得る。これらの抗体の治療有効用量は、少なくとも0.05~10mg/kgを含む。従って本発明の方法は、単回又は分割投与のいずれかで、本明細書に詳述する放射性標識HER3標的薬の静脈内投与を併用して、1つ又は複数のICIを投与することを含む。例えば、投与レジメンの例に以下がある:(a)ICIとHER3標的薬を同時に投与し、(i)それぞれ同日から投与する、(ii)HER3標的薬は、単回投与、若しくは1週間以上の間隔を空けて分割投与する例、且つ(iii)ICIは、1日1回若しくは1日2回(必要に応じて)、HER3標的薬の投与と同じかそれ以上の期間にわたって投与する例;又は(b)ICIとHER3標的薬を同時に投与し、(i)抗CD47抗体は、HER3標的薬投与の少なくとも1週間前に行う例、(ii)HER3標的薬は、単回投与、若しくは1週間以上の間隔を空けて分割投与する例、且つ(iii)ICIは、1日1回若しくは1日2回(必要に応じて)、HER3標的薬の投与と同じかそれ以上の期間にわたって投与する例。
【0112】
非限定的に、本開示は以下の態様も提供する。
態様1:ヒトなどの哺乳類対象における固形がんを治療する方法であって、放射性標識HER3標的薬の治療有効量を対象に投与することを含む方法。
態様2:固形がんは、乳がん、胃がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、皮膚がん、胃がん、精巣がん、食道がん、細気管支肺胞上皮がん、前立腺がん、結腸直腸がん、卵巣がん、子宮頸部類表皮がん、膵がん、肺がん、腎がん、頭頸部がん、又はこれらの任意の組み合わせである、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様3:固形がんは、結腸直腸がん、胃がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、頭頸部扁平上皮がん、膵がん、腎がん、又はこれらの任意の組み合わせである、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様4:固形がんは、HER3陽性固形腫瘍などのHER3陽性がんである、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様5:放射性標識HER3標的薬は、131I、125I、123I、90Y、177Lu、186Re、188Re、89Sr、153Sm、32P、225Ac、213Bi、213Po、211At、212Bi、213Bi、223Ra、227Th、149Tb、137Cs、212Pb、103Pd、若しくは本明細書に開示するもののいずれか、又はこれらの任意の組み合わせから選択される放射性標識を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
【0113】
態様6:HER3標的薬は、131I、90Y、177Lu、225Ac、213Bi、211At、213Bi、227Th、212Pb、又はこれらの任意の組み合わせから選択される放射性標識を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様7:放射性標識HER3標的薬は、HER3に対する抗体を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様8:HER3標的薬は、本明細書に開示するもののいずれかのような抗HER3モノクローナル抗体、例えば、パトリツマブ、セリバンツマブ(MM-121)、ルムレツズマブ、エルゲムツマブ、GSK2849330、及びAV-203から選択されるHER3抗体、並びにこれらの任意の組み合わせを含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様9:HER3標的薬は、(i)配列番号:77を含む重鎖配列及び/若しくは配列番号:78を含む軽鎖配列を有する;(ii)配列番号:15を含むCDR-H1、配列番号:16を含むCDR-H2、及び/若しくは配列番号:17を含むCDR-H3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号:18を含むCDR-L1、配列番号:19を含むCDR-L2、及び/若しくは配列番号:20を含むCDR-L3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を有する;(iii)配列番号:21を含む免疫グロブリン重鎖可変領域及び/若しくは配列番号:22を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を有する;又は(iv)配列番号:23の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列及び/若しくは配列番号:24の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を有するモノクローナル抗体を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様10:HER3標的薬は、配列番号:7に定めるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び/又は配列番号:8に定めるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗体を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
【0114】
態様11:HER3標的薬は、それぞれ配列番号:13及び/若しくは1~3に定めるアミノ酸配列を有する重鎖N末端領域及び相補性決定領域(CDR)のうち1つ若しくは複数を含む;並びに/又はそれぞれ配列番号:14及び/若しくは4~6に定めるアミノ酸配列を有する軽鎖N末端領域及びCDRのうち1つ若しくは複数を含むモノクローナル抗体を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様12:放射性標識HER3標的薬の有効量は最大耐量である、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様13:放射性標識HER3標的薬は、225Ac、177Lu、又は131Iで標識されている、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様14:放射性標識HER3標的薬の治療有効量は、2Gy未満、又は8Gy未満、例えば2~8Gyの線量を対象に送達する単回線量を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様15:放射性標識HER3標的薬は225Acで標識されており、225Ac標識HER3標的薬の有効量は、0.1~50μCi/kg対象体重、又は0.2~20μCi/kg対象体重、又は0.5~10μCi/kg対象体重の用量を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
【0115】
態様16:放射性標識HER3標的薬は、225Acで標識されているHER3に対する全長抗体であり、225Ac標識HER3標的薬の有効量は、5μCi/kg対象体重未満、例えば0.1~5μCi/kg対象体重を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様17:放射性標識HER3標的薬は、225Acで標識されているHER3に対する抗体フラグメント、例えばミニボディ又はナノボディであり、225Ac標識HER3標的薬の有効量は、5μCi/kg対象体重超、例えば5~20μCi/kg対象体重を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様18:放射性標識HER3標的薬は225Acで標識されており、225Ac標識HER3標的薬の有効量は、2μCi~2mCi、又は2~250μCi、又は75~400μCiを含む、態様1~14のうちいずれか1つに記載の方法。
態様19:放射性同位体標識HER3標的薬は177Luで標識されており、HER3標的薬の有効量は、1000μCi/kg対象体重未満の用量、例えば、1~900μCi/kg対象体重、又は5~250μCi/kg対象体重、又は50~450μCi/kg体重の用量を含む、態様1~14のうちいずれか1つに記載の方法。
態様20:放射性同位体標識HER3標的薬は177Luで標識されており、177Lu標識HER3標的薬の有効量は、10~30mCi以下、又は少なくとも100μCi~3mCi以下、又は3~30mCi以下の用量を含む、態様1~14のうちいずれか1つに記載の方法。
【0116】
態様21:放射性標識HER3標的薬は131Iで標識されており、131I標識HER3標的薬の有効量は、1200mCi未満の用量、例えば、25~1200mCi、又は100~400mCi、又は300~600mCi、又は500~1000mCiの用量を含む、態様1~14のうちいずれか1つに記載の方法。
態様22:放射性標識HER3標的薬は131Iで標識されており、131I標識HER3標的薬の有効量は、200mCi未満の用量、例えば、1~200mCi、又は25~175mCi、又は50~150mCiの用量を含む、態様1~14のうちいずれか1つに記載の方法。
態様23:HER3標的薬の有効量は、3mg/kg対象体重未満、例えば、0.001~3.0mg/kg患者体重、又は0.005~2.0mg/kg患者体重、又は0.01~1mg/kg患者体重、又は0.1~0.6mg/kg患者体重、又は0.3mg/kg患者体重、又は0.4mg/kg患者体重、又は0.5mg/kg患者体重、又は0.6mg/kg患者体重のタンパク質投与量を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様24:HER3標的薬は、治療期間にわたって、7、10、12、14、20、24、28、35、及び42日に1回からなる群から選択される投与スケジュールに従って投与され、治療期間中に少なくとも2回の投与を含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様25:HER3標的薬はペプチド又は小分子である、態様1~6のうちいずれか1つに記載の方法。
【0117】
態様26:免疫チェックポイント治療薬、化学療法薬、DNA損傷応答阻害剤(DDRi)、CD47遮断薬、又はこれらの組み合わせの治療有効量を対象に投与することを更に含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
態様27:免疫チェックポイント治療薬は、CTLA-4、PD-1、TIM-3、VISTA、BTLA、LAG-3、TIGIT、CD28、OX40、GITR、CD137、CD40、CD40L、CD27、HVEM、PD-L1、PD-L2、PD-L3、PD-L4、CD80、CD86、CD137-L、GITR-L、CD226、B7-H3、B7-H4、BTLA、TIGIT、GALS、KIR、2B4、CD160、若しくはCGEN-15049に対する抗体若しくはその他の遮断薬、又はそのような抗体及び遮断薬の任意の組み合わせを含む、態様26に記載の方法。
態様28:免疫チェックポイント治療薬は、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、CD137、又はこれらの組み合わせに対する抗体を含む、態様27に記載の方法。
態様29:DDRiは、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ阻害剤(PARPi)、毛細血管拡張性運動失調症変異阻害剤(ATMi)、毛細血管拡張性運動失調症変異及びRad3関連阻害剤(ATRi)、又はWee1阻害剤を含む、態様26に記載の方法。
態様30:PARPiは、オラパリブ、ニラパリブ、ルカパリブ、及びタラゾパリブのうち1つ又は複数を含む、態様29に記載の方法。
【0118】
態様31:ATMiは、KU-55933、KU-59403、ウォルトマンニン、CP466722、又はKU-60019のうち1つ又は複数を含む、態様29に記載の方法。
態様32:ATRiは、シサンドリンB、NU6027、NVP-BEA235、VE-821、VE-822、AZ20、若しくはAZD6738のうち1つ又は複数を含む、態様29に記載の方法。
態様33:Wee1阻害剤は、AZD-1775(即ち、アダボセルチブ)を含む、態様29に記載の方法。
態様34:CD47遮断薬は、CD47がSIRPαに結合するのを防ぐモノクローナル抗体などの薬剤、及び/又はCD47発現を調節する薬剤を含む、態様29に記載の方法。
態様35:CD47遮断薬は、マグロリマブ、レムゾパリマブ、AO-176、TTI-621、TTI-622、若しくはこれらの組み合わせのうち1つ若しくは複数を含む;及び/又はCD47発現を調節する薬剤は、CD47の発現を低減するホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)(例えば、MBT-001)を含む、態様34に記載の方法。
【0119】
態様36:CD47遮断薬の治療有効量は0.05~5mg/kg患者体重を含む、態様34に記載の方法。
態様37:HER3標的薬を、免疫チェックポイント治療薬及び/若しくはDDRi及び/若しくはCD47遮断薬の少なくとも1週間前に投与する;又は免疫チェックポイント治療薬及び/若しくはDDRi及び/若しくはCD47遮断薬を、HER3標的薬の少なくとも1週間前に投与する、態様26に記載の方法。
態様38:HER3標的薬を、免疫チェックポイント治療薬又はDDRi又はCD47遮断薬の1つと共に投与し、且つ免疫チェックポイント治療薬又はDDRi又はCD47遮断薬の別のものを、HER3標的薬の前又は後のいずれかに投与する、態様26に記載の方法。
態様39:HER3標的薬を、免疫チェックポイント治療薬及び/又はDDRi及び/又はCD47遮断薬と同時に投与する、態様26に記載の方法。
態様40:HER3標的薬は多特異性抗体であり、多特異性抗体は、HER3のエピトープに特異的に結合する第1の標的認識成分と、第1の標的認識成分とは異なるHER3のエピトープ又は異なる抗原のエピトープに特異的に結合する第2の標的認識成分とを含む、前述の態様のうちいずれか1つに記載の方法。
【0120】
態様41:HER3標的薬は、HER3/HER2に対する二特異性抗体、例えばMM-111若しくはMCLA0-128、又はIGF-1R/HER3に対する二特異性抗体、例えばMM-141(即ち、イスチラツマブ)、及び/又はHER1/HER3に対する二特異性抗体、例えばMEHD7945A(即ち、ドゥリゴツマブ)を含む、態様40に記載の方法。
態様42:増殖性疾患又は障害を治療する方法であって、HER3陽性細胞を有する対象を診断すること;並びに対象がHER3陽性細胞を有している場合、態様1~41の方法のうちいずれか1つに従って、HER3標的薬の治療有効量を対象に投与することを含む方法。
態様43:診断することは、対象の血液又は組織試料を採取すること;試料を基板に載置すること;及び診断用抗体を用いてHER3抗原の存在の有無を検出することを含み、診断用抗体は、放射性標識、例えば、3H、14C、32P、35S、及び1257I;蛍光若しくは化学発光化合物、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、若しくはルシフェリン;又は、酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、若しくはホースラディッシュペルオキシダーゼで標識したHER3に対する抗体を含む、態様42に記載の方法。
態様44:診断することは、HER3標的薬であって、18F、11C、68Ga、64Cu、89Zr、124I、99mTc、又は111Inを含む群から選択される放射性標識を含むHER3標的薬を対象に投与すること;組織部位にHER3標的薬を蓄積させるのに十分な時間待つこと;並びにHER3陽性細胞の存在の有無を検出するために、非侵襲的イメージング技術を用いて組織をイメージングすることを含む、態様42に記載の方法。
態様45:非侵襲的イメージング技術は、18F、11C、68Ga、64Cu、89Zr、若しくは124Iで標識したHER3標的薬のための陽電子放出断層撮影(PETイメージング)、又は99mTc若しくは111Inで標識したHER3標的薬のための単一光子放射断層撮影(SPECTイメージング)を含む、態様44に記載の方法。
【0121】
本明細書において様々な特定の実施形態を例示、説明してきたが、本発明(複数可)の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を実施できることが理解されよう。更に、本発明の一態様に関連して説明した特徴は、組み合わせが明示的に例示されていなくとも、本発明の他の態様と組み合わせて使用し得る。
【0122】
[参考文献]
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2023550462000001.app
【国際調査報告】