IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カーボンエックス・ビー.ブイ.の特許一覧

特表2023-550566熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法
<>
  • 特表-熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法 図1A
  • 特表-熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法 図1B
  • 特表-熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法 図2
  • 特表-熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法 図3
  • 特表-熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法 図4
  • 特表-熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法 図5
  • 特表-熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法 図6
  • 特表-熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(54)【発明の名称】熱分解油からのカーボン(ナノ)構造の新たな製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20231124BHJP
   B01J 27/128 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C01B32/15
B01J27/128 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554080
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 EP2021082695
(87)【国際公開番号】W WO2022112254
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】20209899.2
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523194879
【氏名又は名称】カーボンエックス・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】CARBONX B.V.
【住所又は居所原語表記】Rembrandt Tower,35th Floor,Amstelplein 1,1096 HA Amsterdam,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ラールテン、ルトガー・アレクサンダー・デビッド
(72)【発明者】
【氏名】ソルディ、ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】クレパン、ロビン
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB06
4G146AC01A
4G146AC01B
4G146AC02B
4G146AC03B
4G146AC04A
4G146AC30B
4G146AD37
4G146BA26
4G146BA49
4G146BB04
4G146BC02
4G146BC34A
4G146BC42
4G146BC44
4G146DA03
4G169AA02
4G169BB08B
4G169BC66B
4G169CB81
4G169DA05
4G169FB34
4G169FB77
(57)【要約】
本発明は、反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えたファーネスブラック反応器3において、金属触媒ナノ粒子を含む熱力学的に安定な熱分解油含有マイクロエマルジョンcを、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下の温度である反応ゾーン3bに注入して、結晶性カーボン構造ネットワークeを製造し、これらのネットワークeを停止ゾーン3cに移し、停止ゾーンで水dを噴霧することにより結晶性カーボン構造ネットワークの形成をクエンチ又は停止する、熱分解油から結晶性カーボンナノファイバーネットワークを製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えた反応器3で熱分解油から結晶性カーボンナノファイバーネットワークを製造する方法であって、本発明による熱分解油及び金属触媒ナノ粒子を含むマイクロエマルジョンである単相エマルジョンcを、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下の温度である前記反応ゾーン3bに注入して、結晶性カーボンナノファイバーネットワークeを製造し、前記ネットワークeを前記停止ゾーン3cに移し、前記停止ゾーンで水dを噴霧することにより結晶性カーボンナノファイバーネットワークの形成をクエンチ又は停止する、方法。
【請求項2】
前記反応器が、その軸に沿って、燃焼ゾーン3a、反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えたファーネスカーボンブラック反応器3であり、燃料aを酸素含有ガスb中で燃焼し、廃ガスa1を前記燃焼ゾーン3aから前記反応ゾーン3bに移動させることにより、前記燃焼ゾーンにおいて熱廃ガスa1の流れを生成し、前記熱廃ガスを含む前記反応ゾーン3bに熱分解油及び金属触媒ナノ粒子を含むマイクロエマルジョンcを噴霧し、前記マイクロエマルジョンを、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下の温度で炭化し、前記停止ゾーン3cで水dを噴霧することにより反応をクエンチ又は停止して、結晶性カーボンナノファイバーネットワークeを得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エマルジョン中の熱分解油相が、前記熱分解油の総重量に対して、炭素含量が少なくとも40重量%、添加水含量が50重量%以下、硫黄含量が4重量%以下、及び酸素含量が50重量%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記エマルジョンが、平均粒径が好ましくは1~100nmの金属触媒ナノ粒子を少なくとも1mM含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ネットワークの炭素原料の少なくとも50重量%、好ましくは全てが、前記単相エマルジョン中の熱分解油として提供される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記単相エマルジョンc中の前記熱分解油の反応器滞留時間が、5秒未満、好ましくは2秒未満、より好ましくは1~1000ミリ秒、最も好ましくは10~500ミリ秒である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応器3に供給される前記熱分解油の硫黄含量が、前記熱分解油の重量に対して0.5~4.0重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
反応器3に供給される前記熱分解油の酸素含量が、前記熱分解油の重量に対して10~50重量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、化学的に相互接続したカーボンナノファイバーを含む持続可能な多孔性カーボンネットワーク材料であって、前記ネットワーク中の細孔の粒子内細孔径が、ASTM D4404-10に従う水銀圧入ポロシメトリーにより5~150nmであり、前記カーボンネットワーク中の炭素の少なくとも20重量%が結晶形態であり、前記カーボンナノファイバーの繊維長対厚さの平均アスペクト比が少なくとも2であり、得られた前記カーボンネットワークのpHが、最大で7.5、好ましくは4~7.5、最も好ましくは5.5~7.5であり、前記炭素は熱分解油によって提供される、持続可能な多孔性カーボンネットワーク材料。
【請求項10】
持続可能な結晶性カーボンナノファイバーネットワークを製造するカーボンブラック製造工程、好ましくはファーネスカーボンブラック製造工程における乳化熱分解油の使用。
【請求項11】
請求項9に記載の持続可能な多孔性カーボンネットワークを含む持続可能な製品、好ましくは持続可能なプラスチック又はタイヤ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持続可能な資源からの多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの分野に関し、そのような持続可能な構造ネットワーク及びそのような持続可能な構造を含む複合体を製造するための新たな方法を対象とする。本発明は、特にカーボンブラック製造の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック業界は、カーボンブラックの強化及び/又は顔料特性が必要である用途を含め、ゴム物品(例.タイヤ)の製造、ポリグラフィー(polygraphy)、電子機器及びケーブルコーティング、ワニス及び塗料の製造における使用のための、主にグラファイト及び非晶質炭素とその物理的配列が異なる炭素の同素体を提供することに焦点を合わせている。カーボンブラックを製造するための種々の異なる方法又は技術が当該技術分野で公知である。カーボンブラックは、主に、炭素含有ガス、例えばメタン又はアセチレンから出発して、部分燃焼法によって製造される。この方法は、ファーネスカーボンブラック製造法という場合があり、バーナー又は燃焼室を有するファーネスに続いて、反応器を利用する。ファーネス法は、通常、少ない酸素量、低い密度、高い温度及び短い滞留時間で特徴付けられる。
【0003】
ファーネスカーボンブラック製造法の第1の工程として、Ullmanns Encyklopadie der technischen Chemie, Volume 14, page 637-640 (1977)に記載されているように、炭化水素を、通常、1200~1900℃で霧化する。そのために、燃料ガス又は液体燃料を酸素又は空気で燃焼することによって高いエネルギー密度を有するゾーンを生成し、そこにカーボンブラック原材料を注入する。カーボンブラック原料をこれらの高温燃焼条件において霧化し;酸素量は、燃焼法における酸素の完全な消費を達成するために、平均で、カーボンブラック原料2体積対酸素約1体積の割合で供給される。カーボンブラック最終製品の構造及び/又は多孔性は、カーボンブラック形成中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属イオンの存在の影響を受けることがあり、したがって、そのような添加剤は、カーボンブラック原材料凝結体に噴霧される、水溶液の形態で添加されることが多い。反応を水の注入のみによって終了させ(クエンチ)、カーボンブラックを約200~250℃で回収し、従来の分離器又はフィルターを用いて廃ガスから分離する。その低いかさ密度を理由として、次いで、得られたカーボンブラックを顆粒化し、例えば、少量のペレット化助剤を添加してもよい水を添加したペレット化機において行う。
【0004】
年代順に、ファーネスカーボンブラック技術に関する技術分野を決して限定することなく、米国特許第2672402号、同第4292291号、同第4636375号、国際公開第2000/032701号及び米国特許出願公開第2004/0248731号は、伝統的な又は従来のカーボンブラック製造を説明する。これらの内容は、参照としてこの明細書に組み込まれる。カーボンブラック原料に関して、世界中で1年当たりおよそ1750万トンのカーボンブラックが、カーボンブラックを製造するための主原料として、アントラセン油、コールタール油及びFCCスラリー又はスチームクラッカーからのピッチを使用して製造される。50%の変換率と仮定すると、これは、3500万トンの原油/石炭由来の原料を毎年市場に供給することが必要であるということになる。これらの原料を持続可能な原料供給源に置きかえることにより、潜在的に、1億5000万トンのCO排出を削減できる。
【0005】
米国特許出願公開第2011/0200518号は、ゴム複合体、例えばタイヤゴムから熱分解カーボンブラック(pCB)を製造する方法を記載している。しかしながら、熱分解は、カーボンブラックに最終的につながるチャーを製造するためにタイヤに適用され;熱分解油は、カーボンブラック原料として使用されない。Okoye et al., Journal of Cleaner Production, 2020(https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2020.123336)は、タイヤ熱分解油をカーボンブラックの潜在的な原料として使用できることを概説し、開示している(項目6、Spent tyre pyrolysis oil as a potential feedstock for carbon black)。しかしながら、その評価は、実験室規模の実験に基づいており、したがって、その工業規模適用から生じる問題、例えば製造されたカーボンブラックの収率及びグレード並びに熱分解油での操作の詳細な計画は、評価されていない。例えば、この文献は、使用済タイヤ熱分解過程の油画分を使用して、1100℃で、5及び20秒の滞留時間にわたって操作されるファーネス反応器を使用してカーボンブラックを得ることができることを示すWojtowicz et al., Advanced Fuel Research, Inc, 2004;並びに1100~1700℃で、30秒前後の滞留時間で操作される模擬ファーネス反応器において幹材おがくずの混合物からの熱分解バイオオイルを使用するファーネス反応器からのCBの製造を報告するToth et al., Green Chemistry, 2018, 20, 3981-3992(https://doi.org/10.1039/c8gc01539b)の実験室研究を参照している。それでもなお、Okoyeは、熱分解油からのカーボンブラックの吸収又は構造特性を調べる研究が現在存在しないと結論付けている(項目6、最終行)。このことは、カーボンブラック製造のための熱分解油を利用する商業的方法が現在存在しないということと相まって、熱分解油に基づくカーボンブラック製造に関する知識の欠落を証明する。
【0006】
国際公開第2013/170358号は、ファーネス反応器において熱分解油から非常に低い多環芳香族炭化水素(PAH)含有量のカーボンブラックを製造することを記載している。しかしながら、この文献は、本発明を実施するための特定の方法又は製品データを提供することなく、廃タイヤ熱分解に由来する油からNシリーズカーボンブラックを製造できるとごく一般的に主張している。実際、記載された方法を熱分解油からカーボンブラックを作製するために使用することは、とりわけ普通のカーボンブラック原料を使用して製造できるのと同じ範囲のグレードを得ることに関して、商業的に実行可能であるためには収率が低すぎ、かつ低品質につながると業界で一般に認められている。カーボンブラックに基づく製造から派生して、国際公開第2018/002137号は、ファーネスブラック反応器において、金属触媒ナノ粒子を含む熱力学的に安定なマイクロエマルジョンの形態の炭素原料を使用して、結晶性カーボン構造ネットワークを製造する方法を記載している。国際公開第2019/224396号は、多くの技術分野、例えばタイヤ、コンベヤベルト、ホースなどで使用される、エラストマーを強化するための、多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの使用に関する。炭素源について、熱分解油は具体的に言及されていない。
【0007】
欧州特許出願公開第3486212号は、異なる技術を使用して、結晶性カーボンナノ構造及び/又は結晶性カーボンナノ構造のネットワークを製造する方法を記載している。これは、金属ナノ粒子を含む両連続マイクロエマルジョンを基材と接触させ、ここで、金属ナノ粒子及びガス状炭素源を化学蒸着に供することを伴う。
【0008】
熱分解油は、異なる供給源、例えば寿命末期タイヤ、廃プラスチック又はバイオマスに由来する分子の液体ブレンドである。熱分解油の正確な組成は、供給源と加工条件の両者に大いに依存する。バッチ間の組成の大きな変動及び高品質油を得るためのいくつかのアップグレーディング工程の必要性(Zhang et al., Energy Conversion and Management, 2007, 48, 87-92及びMiandad et al., Process Safety and Environmental Protection, 2016, 102, 822-838)により、熱分解油の商業使用は発熱及び発電に限定されている。供給源及び加工条件に応じて、硫黄及び水の量に関して相当な変動が存在する。芳香族含有量についても同じことが言え、これらの変動は、炭素原料供給源のための熱分解油に対して実行する工業的に制御可能なカーボンブラック製造の設定の妨げとなる。
【0009】
持続可能性の観点から伝統的なカーボンブラック製造法をアップデートする直接的な必要性が依然として存在し、ここで持続可能性は、効率的、効果的、安全かつより環境に優しい化学製品並びに製造法の設計、製造及び使用により、化学製品及びサービスに対する人間の必要性を満たすために、天然資源が使用される効率の改善に努めることと理解される(OECDの定義)。熱分解精製工程は、熱分解を、カーボンブラック製造をより持続可能にするための魅力的な候補ではなく、むしろ、製造法にコストを付加するものとする。したがって、カーボンブラック製造のための商業的方法における熱分解油の直接的な使用が、持続可能性の達成となる。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、金属触媒ナノ粒子を含み、熱分解油を含む又はそれからなる油相を含む、w/o型、o/w型又は両連続型、好ましくはw/o型又は両連続型、最も好ましくは両連続型の熱力学的に安定なマイクロエマルジョンを使用する単相乳化の概念を従来の(ファーネス)カーボンブラック製造に導入することによって、十分に確立された還元(熱分解)又は酸化(燃焼)カーボンブラック製造法を使用して、熱分解油を、あらゆる種類の有利に改善された電気、機械及び熱特性を有する多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボン構造のネットワークから構成される新規なカーボン充填剤に変換できることを見いだした。本発明において適用される単相乳化に関連する利点は、大掛かりな加工の必要性なしに豊富に存在し、経済的に魅力的な原材料を使用することにあるだけでなく、これにより、熱分解過程からのリサイクル油からカーボンブラック材料を製造することも可能になり、持続可能(循環型)になり、これは、製品の技術的特徴と同程度に持続可能なものとして商業化できる。また、この方法により、改善された濡れ性特性を有するカーボンネットワークが得られることも見いだされた。
【0011】
したがって、本発明は、熱分解油、水及び少なくとも1種の界面活性剤、並びに更に金属触媒ナノ粒子を含む熱力学的に安定な単相エマルジョンを準備すること、並びに乳化熱分解油をカーボンブラック製造法に供し、前記乳化熱分解油を、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、最も好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、特に2000℃以下の高温で炭化することによる、多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボン構造ネットワークを製造する方法に関する。
【0012】
上記方法は、工業的方法であり、単相エマルジョン(ひいては、この工程においてエマルジョン形態で供給される熱分解油)の反応器滞留時間が、5秒未満、好ましくは2秒未満、より好ましくは1~1000ミリ秒、最も好ましくは10~500ミリ秒であることを特徴とする。
【0013】
関連する側面において、本発明は、カーボンブラック製造法、好ましくはファーネスカーボンブラック製造法においてエマルジョンを炭化し、こうして持続可能な多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボン構造ネットワークを得るための、乳化熱分解油のそのような単相エマルジョンの使用に関する。エマルジョンは、好ましくは、上述の高温で反応器に噴霧及び霧化される。
【0014】
好ましい態様において、熱分解油は上記方法における優勢な炭素原料供給源であり、好ましくはこの工程で供給される全ての炭素原料の少なくとも50%、より好ましくは75~100%を占める。最も好ましい態様において、熱分解油は、唯一の炭素原料供給源である。
【0015】
用語「熱分解油」は、化学的方法からの異なる流れ、例えばバイオマス(例.木材、藻類、コメ、ナッツ殻)、寿命末期タイヤ又はリサイクル不可能なプラスチックの熱分解に(直接)由来し、事前に加工することなく本発明の方法に提供される任意の油と理解される。熱分解油とは、これらの原材料の熱分解から得られるチャーを指すものではない。熱分解油の硫黄含量は、通常、0.002%~3%(ASTM D1619に従う)で変動し、水の含量は、通常、1~40重量%であり、酸素含量は、0.2%~50重量%であり、炭素含量は、好ましくは、少なくとも40重量%である。炭素源の芳香族性は無関係であり;本発明の方法は、脂肪族、芳香族又は2種の炭素の組合せのいずれかで機能する。上記を考慮して、この工程に供給される熱分解油は未精製である、すなわち、前もって精製されていない。
【0016】
この明細書及び特許請求の範囲全体を通して、「単相エマルジョン」は、金属触媒ナノ粒子を含む、熱力学的に安定な油中水(w/o)型若しくは水中油(o/w)型マイクロエマルジョン又は両連続マイクロエマルジョンである。金属触媒ナノ粒子を含む両連続マイクロエマルジョンが最も好ましい。
【0017】
本発明者らは、商業規模でのカーボンブラック原料としての熱分解油の使用に対する先入観が存在することを認識した。当業者の目からは、(未精製の)熱分解油は、いくつかの理由で、カーボンブラック製造のための好適な原料ではないと考えられる。第1に、伝統的なカーボンブラック製造法では、適正な収率及び好ましい球状カーボンブラック構造を得るために、水の使用を少なくとも最小にし、好ましくは反応区域では禁止すべきである。これにより、伝統的なカーボンブラック製造中に、終盤段階におけるクエンチ目的以外での水の使用を控えることが広まっている。同様に、一部の熱分解油は、適切なカーボンブラック構造形成を保証するために過剰量の硫黄又は酸素原子を含むことがあり、一方、他の熱分解油は、非理想的な前駆体からグラファイト層を形成するのに十分な時間を提供しない工業用ファーネスブラック反応器の短い滞留時間を理由として、工業規模の反応器において相当量のカーボンブラックを形成するのに十分な前駆体(芳香族含有量)を含まない。高い水含有量、低い芳香族性、高い酸素含有量及び/又は高い硫黄含有量の組合せ並びに長い滞留時間の必要性により、ファーネス反応器(適正な品質のカーボン構造を製造するために短い滞留時間を必要とする)におけるカーボンブラックの製造のための(未精製の)熱分解油の使用は、工業規模では適しておらず、このことが、当業者がこの持続可能な原料に切り替えることを阻んでいる。
【0018】
本発明者らは、金属触媒粒子を含む安定な単相エマルジョンを霧化することによって従来のカーボンブラック製造を変更することにより、先行する精製工程の必要性なしに熱分解油を扱うことが可能になることを見いだした。本発明者らは、金属触媒ナノ粒子を伴う界面活性剤分子、熱分解油相及び水相の配向及び構造化が、新たな材料及び製造法に特有のネットワーク形成方法を生じさせると考える。本発明者らは、熱分解油を、上記の単相エマルジョンの形態で、霧化過程に提供することが重要であることを見いだした。
【0019】
金属触媒ナノ粒子は、本発明に不可欠である。霧化され、次いで炭化される単相エマルジョンは、これらの多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの形成において触媒として作用する金属ナノ粒子を含むべきである。金属触媒ナノ粒子の濃度の増加は、収率を更に向上させる。エマルジョンが金属触媒ナノ粒子を含み、そのエマルジョンが連続油/界面活性剤相を含み、したがって、既にネットワーク構造を形成する、両連続若しくは油中水(w/o)型マイクロエマルジョン、又はエマルジョンが金属触媒ナノ粒子を含む、水中油(o/w)型マイクロエマルジョンを使用することが不可欠である。両連続マイクロエマルジョンが最も好ましい。エマルジョン(油中水型、水中油型、又は両連続のいずれか)の微細構造は、最終カーボン構造ネットワークの前駆体/原型として作用すると思われ、そのうち、炭素含有画分(熱分解油相及び界面活性剤)は、繊維及び接合部を形成し、一方、水画分は、熱分解油/界面活性剤相の配向及びネットワーク多孔性に役立つ。金属触媒の存在は、通常得られる球状配向の代わりに繊維構造への炭素成分の炭化を促進する。不混和性の熱分解油及び水相のブレンドは、これらの構造を生じない、すなわち、熱力学的に安定なマトリックス中の金属触媒が存在しない。エマルジョンが高い温度で霧化されると、炭化過程により、金属触媒の存在下でそのエマルジョン構造中の炭素画分が即座に「凝固」し、一方、水が蒸発し、(ナノ)繊維のネットワークを残す。
【0020】
活性成分を含む前述のエマルジョンを使用し、したがって、製造工程を熱力学ではなく触媒作用(動力学)によって駆動することによって、本発明者らは、ミリ秒の時間スケールでグラファイト層を製造でき、これにより、工業用ファーネスブラック反応器規模で製造工程を行うことが可能になる。これは、狭い結晶子サイズ及び粒径分布、一方向の結晶子配列又はフィラメント形成に基づくカーボンブラック形成についての本発明者らの理解に基づく。さらには、触媒は、異なる原料(芳香族及び脂肪族)の変換を可能にし、したがって、適当な技術的特性を有するカーボンブラック製品の製造のための熱分解油の使用を可能にする。
【0021】
熱分解油は、いくつかの廃棄物の流れ、例えばバイオマス(木材、藻類、コメ、ナッツ殻など)、寿命末期タイヤ又はリサイクル不可能なプラスチックから得ることができ、したがって、本発明によるカーボン充填剤の製造法は、2つの理由で、リサイクル方法、さらにはアップサイクルと考えられ得る。第1に、熱分解油が低級製品であることを考慮すると、高級カーボン充填剤を製造するためにこれを使用することは、供給源に多くの価値をもたらす。第2に、カーボン充填剤がポリマーにもたらす特性の著しい改善、例えば機械的強化、電気伝導度(ESD又はEMI遮蔽範囲の目標)及び熱伝導度の制御により、本発明のカーボン充填剤と組み合わせたこれらのリサイクルポリマー(通常、特性が低い)の特性は、バージンポリマー及び/又は原油由来の原料で作られたカーボン充填剤を含むバージンポリマーの特性と同等又はそれよりも良好であり得る。
【0022】
さらに、本発明に起因して、カーボン充填剤の製造法は、廃棄物の流れのアップサイクルによって循環型になり、当該方法の持続可能性を増加させ、さらに当該方法によって得られた製品の持続可能性も増加させる。例えば、タイヤを熱分解油の供給源と考えると、これは、カーボン充填剤を含むタイヤが同じカーボン充填剤を製造するための供給源として使用され、したがって、最終製品のカーボンフットプリントを低減することを意味する。さらに、このカーボン充填剤は、工業規模で循環的に製造でき、商業規模で廃棄物の流れから作製される最初のアップサイクルカーボン充填剤となる。この循環型のカーボン充填剤の適用分野は、多岐にわたる:ゴム(タイヤ及び技術的ゴム製品)、熱可塑性樹脂、3D印刷、熱硬化性樹脂、コーティング及びインク、バッテリー電極、エネルギー貯蔵材料又は浄水膜。したがって、本発明はまた、特にゴム(タイヤ及び技術的ゴム製品)、熱可塑性樹脂、3D印刷、熱硬化性樹脂、コーティング及びインク、バッテリー電極、エネルギー貯蔵材料又は浄水膜の持続可能性の増加における、持続可能な多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A図1Aは、反応器3の軸に沿って、燃焼ゾーン3a、反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを含み、燃料aを酸素含有ガスb中で燃焼し、廃ガスa1を燃焼ゾーン3aから反応ゾーン3bに移動させることにより、燃焼ゾーンにおいて熱廃ガスa1の流れを生成し、熱廃ガスを含む反応ゾーン3bに単相エマルジョンcを噴霧(霧化)し、前記エマルジョンを高温で炭化し、停止ゾーン3cにおいて、水dを噴霧することにより反応をクエンチ又は停止して、本発明による多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークeを得ることによる、本発明による連続ファーネスカーボンブラックの製造法の模式図である。
【0024】
発明の条項
1.反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えた反応器3で、熱分解油から結晶性カーボンナノファイバーネットワークを製造する方法であって、本発明による熱分解油及び金属触媒ナノ粒子を含むマイクロエマルジョンである単相エマルジョンcを、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下の温度である反応ゾーン3bに注入して、結晶性カーボン構造ネットワークeを製造し、これらのネットワークeを停止ゾーン3cに移し、停止ゾーンで水dを噴霧することにより結晶性カーボン構造ネットワークの形成をクエンチ又は停止する、方法。
2.前記反応器が、反応器3の軸に沿って、燃焼ゾーン3a、反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えたファーネスカーボンブラック反応器3であり、燃料aを酸素含有ガスb中で燃焼し、廃ガスa1を燃焼ゾーン3aから反応ゾーン3bに移動させることにより、燃焼ゾーンにおいて熱廃ガスa1の流れを生成し、熱廃ガスを含む反応ゾーン3bに熱分解油及び金属触媒ナノ粒子を含むマイクロエマルジョンcを噴霧し、前記マイクロエマルジョンを、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下の温度で炭化し、停止ゾーン3cで水dを噴霧することにより反応をクエンチ又は停止して、結晶性カーボン構造ネットワークeを得る、条項1に記載の方法。
3.エマルジョン中の熱分解油相が、熱分解油の総重量に対して、炭素含量が少なくとも40重量%、添加水含量が50重量%以下、硫黄含量が4重量%以下、及び酸素含量が50重量%以下である、先行する条項のいずれか一つに記載の方法。
4.前記エマルジョンが、平均粒径が好ましくは1~100nmの金属触媒ナノ粒子を少なくとも1mM含む、先行する条項のいずれか一つに記載の方法。
5.ネットワークの炭素原料の少なくとも50重量%、好ましくは全てが、単相エマルジョン中の熱分解油として提供される、先行する条項のいずれか一つに記載の方法。
6.単相エマルジョンc中の熱分解油の反応器滞留時間が、5秒未満、好ましくは2秒未満、より好ましくは1~1000ミリ秒、最も好ましくは10~500ミリ秒である、先行する条項のいずれか一つに記載の方法。
7.反応器3に供給される熱分解油の硫黄含量が、熱分解油の重量に対して0.5~4.0重量%である、先行する条項のいずれか一つに記載の方法。
8.反応器3に供給される熱分解油の酸素含量が、熱分解油の重量に対して10~50重量%である、先行する条項のいずれか一つに記載の方法。
9.先行する条項のいずれか一つに記載の方法によって得ることができる、化学的に相互接続したカーボンナノファイバーを含む持続可能な多孔性カーボンネットワーク材料であって、ネットワーク中の細孔の粒子内細孔径が、ASTM D4404-10に従う水銀圧入ポロシメトリーにより5~150nmであり、カーボンネットワーク中の炭素の少なくとも20重量%が結晶形態であり、カーボンナノファイバーの繊維長対厚さの平均アスペクト比が少なくとも2であり、得られたカーボンネットワークのpHが、最大で8.5、好ましくは4~8.5、最も好ましくは5.5~7.5であり、炭素は熱分解油によって提供される、持続可能な多孔性カーボンネットワーク材料。
10.持続可能な結晶性カーボン構造ネットワークを製造するカーボンブラック製造工程、好ましくはファーネスカーボンブラック製造工程における乳化熱分解油の使用。
11.条項9に記載の持続可能な多孔性カーボンネットワークを含む持続可能な製品。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
本発明は、反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えた反応器3、好ましくはファーネスブラック反応器において、金属触媒ナノ粒子及び熱分解油を含む油中水型、水中油型又は両連続マイクロエマルジョンcを、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下の温度である反応ゾーン3bに注入して、持続可能な多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークeを製造し、これらのネットワークeを停止ゾーン3cに移し、停止ゾーンにおいて水dを噴霧することにより多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの形成をクエンチ又は停止することによる、多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの製造方法によって好ましくは得ることができる、持続可能な多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークに関する。
【0026】
より好ましい態様において、ネットワークは、前記反応器が、反応器3の軸に沿って、燃焼ゾーン3a、反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えたファーネスカーボンブラック反応器3であり、燃料aを酸素含有ガスb中で燃焼し、廃ガスa1を燃焼ゾーン3aから反応ゾーン3bに移動させることにより、燃焼ゾーンにおいて熱廃ガスa1の流れを生成し、熱廃ガスを含む反応ゾーン3bにおいて金属触媒ナノ粒子及び熱分解油を含む油中水型、水中油型又は両連続マイクロエマルジョンcを噴霧し、前記エマルジョンを、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下の温度で炭化し、停止ゾーン3cにおいて水dを噴霧することにより反応をクエンチ又は停止して、多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークeを得ることによる、上記方法によって得ることができる。
【0027】
上記方法は工業的方法である。工業用反応器の典型的な生産速度は、1時間当たり1~5トンの持続可能な多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークである。反応器3における典型的な滞留時間は、1~1000ミリ秒である。
【0028】
ネットワークは、好ましくは、上記方法によって得ることができ、さらなる加工の詳細は、以下の「カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークを得るための方法」の項及び図面に示す。
【0029】
この明細書及び特許請求の範囲全体を通して、用語「カーボン構造ネットワーク」、「カーボンネットワーク」、「カーボンナノファイバー含有カーボンネットワーク」及び「カーボンナノファイバーネットワーク」は、同じ意味で使用される。カーボンナノファイバーから形成されたネットワークの詳細及び製造の詳細を以下に示す。
【0030】
カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークを得るための方法
持続可能な多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークを得るための方法は、変性カーボンブラック製造法として最良に説明でき、ここで熱分解油は、金属触媒ナノ粒子を含む熱力学的に安定なマイクロエマルジョンである単相エマルジョンの一部として、カーボンブラック反応器の反応ゾーンに提供される。好ましくは、エマルジョンは噴霧によって反応ゾーンに提供され、したがってエマルジョンを液滴に霧化する。変性カーボンブラックを製造する方法は、連続法で行うことが有利である。
【0031】
一側面において、本発明は、反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えた反応器3において、本発明による熱分解油及び金属触媒ナノ粒子を含むマイクロエマルジョンである単相エマルジョンcを、600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下の温度である反応ゾーン3bに注入して、多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークeを製造し、これらのネットワークeを停止ゾーン3cに移し、停止ゾーンにおいて水dを噴霧することにより多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの形成をクエンチ又は停止することによる、熱分解油からカーボン構造ネットワークを製造する方法に関する。単相エマルジョンは、好ましくは反応ゾーンに噴霧される。図1を参照。
【0032】
好ましい態様において、本発明は、反応器3の軸に沿って、燃焼ゾーン3a、反応ゾーン3b及び停止ゾーン3cを備えたファーネスカーボンブラック反応器3において、燃料aを酸素含有ガスb中で燃焼し、廃ガスa1を燃焼ゾーン3aから反応ゾーン3bに移動させることにより、燃焼ゾーンにおいて熱廃ガスa1の流れを生成し、熱廃ガスを含む反応ゾーン3bにおいて本発明による熱分解油及び金属触媒ナノ粒子を含む単相エマルジョンc、好ましくは熱分解油及び金属触媒ナノ粒子を含むマイクロエマルジョンを噴霧(霧化)し、前記エマルジョンを高温(600℃超、好ましくは700℃超、より好ましくは900℃超、更により好ましくは1000℃超、より好ましくは1100℃超、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下、最も好ましくは2000℃以下)で炭化し、停止ゾーン3cにおいて水dを噴霧することにより反応(すなわち、多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークeの形成)をクエンチ又は停止することによる、本発明による多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークを製造する方法に関する。反応ゾーン3bは、好ましくは霧化によってエマルジョンを導入するための少なくとも1つの入口(好ましくはノズル)を含む。図1を参照。ファーネスカーボンブラック反応器の反応ゾーンにおけるエマルジョンの滞留時間は比較的短く、好ましくは1~1000ミリ秒、より好ましくは10~500ミリ秒であってもよい。長い滞留時間は、カーボンネットワークの特性に影響を及ぼす可能性がある。例えば、滞留時間が長いと、結晶子のサイズが大きくなる可能性がある。
【0033】
熱分解油相は、芳香族及び/又は脂肪族であってもよい。金属触媒ナノ粒子を含む単相エマルジョンは、当業者が、精製工程なしに種々の熱分解供給源を使用することを可能にする。好ましい例は、バイオマス、プラスチック又は寿命末期タイヤの熱分解から取得される油である。この熱分解油の炭素含量は少なくとも40重量%であるべきであり、水の含量は1~40重量%であってもよく、硫黄含量は4重量%以下であり、酸素含量は0.2~50%である。一態様において、酸素含量は、好ましくは10~50%である。
【0034】
従来のカーボンブラック加工では、硫黄が製品の品質に有害な影響を及ぼし、低収率につながり、装置を腐食するため、熱分解油の硫黄含量は低いことが好ましい。ASTM D1619に従う熱分解油の硫黄含量は、8.0重量%未満、好ましくは4.0重量%未満、より好ましくは2.0重量%未満である。一態様において、ASTM D1619に従う熱分解油の硫黄含量は、0.5~8重量%、好ましくは0.5~4.0重量%であり;本発明の方法では、0.002重量%未満の精製熱分解油量に対する硫黄量を扱う必要はない。
【0035】
多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークである本発明者らのネットワークを製造するために使用される原料は、少なくとも熱分解油、界面活性剤及び水を含むエマルジョン中の油成分の形態で提供される。エマルジョンの油含有量は、少なくとも50重量%であり、添加水は、1~50重量%であってもよく、界面活性剤含有量は、油及び水含有量に応じて変動する。好ましい態様において、全ての炭素原料は、1種の又はさまざまな熱分解油供給源からの、1種以上の熱分解油によって提供される。言い換えると、エマルジョン中の油は、好ましくは熱分解油からなる。熱分解油の水含有量もまた、エマルジョンを調合する際に考慮に入れるべきパラメータである。このエマルジョンは、物理的な分離を肉眼で見ることができないという意味で単相エマルジョンである。顕微鏡下で調べると、分離した油及び水相を区別できる。より正確には、油中水型、水中油型又は両連続マイクロエマルジョンが観察される。エマルジョンは、熱力学的に安定であり、つまり、少なくとも1分間一定に維持するために外力が必要でなく、好ましくは、水相のpHは、±1pH単位の枠内で維持され、エマルジョンの粘度は、±20%の枠内でのみ変動を示す。
【0036】
エマルジョンの水相は活性成分を含み、これは、多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの形成中に触媒機能を有する。活性成分は、1~100nmのサイズを有する、金属粒子又は金属錯体から構成される。金属は、貴金属(Au、Ag、Pd、Ptなど)、遷移金属(Fe、Ruなど)又は他の金属、例えばTi若しくはCuであってもよい。好適な金属錯体は、限定されるものではないが、白金前駆体、例えばHPtCl;ルテニウム前駆体、例えばRu(NO)(NO;又は(iii)パラジウム前駆体、例えばPd(NO、若しくはニッケル前駆体、例えばNiClである。水相中の活性金属の濃度は、1mM超であるべきである。
【0037】
熱分解油エマルジョンは、「単相エマルジョン」であり、これは、熱分解油相及び水相が、肉眼では熱分解油、水又は界面活性剤の物理的な分離を示さない1つの混和性混合物として光学的に現れることを意味すると理解される。単相エマルジョンは、マイクロエマルジョンである。エマルジョンが完全に破壊する(合一)、すなわち、システムがバルク油及び水相に分離するプロセスは、一般に、4つの異なる液滴喪失機序、すなわちブラウン凝集、クリーミング、凝集沈降及び不均一化によって制御されると考えられる。
【0038】
安定な単相エマルジョンが得られる限り、添加水及び熱分解油の量は限定されないと考えるが、水の量の低減(及び熱分解油の量の増加)により収率が改善する点に留意されたい。添加水含有量(すなわち、熱分解油の水含有量を含まない)は、通常、エマルジョンの5~50重量%、好ましくは10~40重量%、更により好ましくは30重量%以下、より好ましくはエマルジョンの10~20重量%である。添加水の量は、どれだけの水が熱分解油とともに既に提供されているかを考慮に入れるべきである。より大量の水が考えられ得るが、収率が犠牲になる。理論に縛られることを望むものではないが、本発明者らは、水相が、そのように得られるネットワークの形状及びモルホロジーに寄与すると考える。
【0039】
工程a)において提供されるエマルジョンの重量に基づいて、通常、5~30重量%、好ましくは10~20重量%の界面活性剤が存在する。界面活性剤は、少なくとも7の親水性-親油性バランス(HLB)値、好ましくは10のHLB値を有する非イオン性界面活性剤であってもよい。油中水型混合物を安定化するイオン性界面活性剤、例えば(限定されるものではないが)ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(AOT)も使用できる。界面活性剤の選択は、熱分解油、水及び界面活性剤の組合せが上記のとおりの安定なマイクロエマルジョンをもたらす限り、限定因子とは考えられない。当業者へのさらなる手引きとして、界面活性剤は、系の疎水性又は親水性、すなわち親水性-親油性バランス(HLB)に基づいて選択可能である。界面活性剤のHLBは親水性又は親油性の尺度で、Griffin又はDavies法に従って分子のさまざまな領域の値を計算することにより求められる。適切なHLB値は、熱分解油の種類及びエマルジョン中の熱分解油と水の量に依存し、当業者であれば、上記のとおりの熱力学的に安定な単相エマルジョンを保持する要件に基づいて容易に決定できる。50重量%を超える熱分解油を含み、好ましくは30重量%未満の水相を有するエマルジョンは、7を超える、好ましくは8を超える、より好ましくは9を超える、最も好ましくは10を超えるHLB値を有する界面活性剤で最良に安定化されると考えられる。その一方、最大で50重量%の熱分解油を含むエマルジョンは、12未満、好ましくは11未満、より好ましくは10未満、最も好ましくは9未満、特に8未満のHLB値を有する界面活性剤で最良に安定化されると考えられる。
【0040】
界面活性剤は、好ましくは、熱分解油相と適合するように選択される。熱分解油が高いBMCIを有する場合、高い芳香族性を有する界面活性剤が好ましく、一方、低BMCIの熱分解油、例えば15未満のBMCIで特徴付けられるものは、脂肪族界面活性剤を使用して最良に安定化されると考えられる。界面活性剤は、カチオン性、アニオン性若しくは非イオン性又はその混合物であってもよい。最終製品にはイオンが残らないため、収率を増加させるためには1種以上の非イオン性界面活性剤が好ましい。清浄なテールガス流を得るために、界面活性剤は、好ましくは硫黄及び窒素が少なく、硫黄及び窒素を含まないことが好ましい。安定なエマルジョンを得るために使用できる代表的な非イオン性界面活性剤の非限定的な例は、市販のトゥイーン(登録商標)、スパン(登録商標)、ハイパーマー(登録商標)、プルロニック(登録商標)、エムラン、ネオドール(登録商標)、トライトン(登録商標)X及びタージトール(登録商標)である。
【0041】
本発明において、マイクロエマルジョンは、水、熱分解油及び界面活性剤で構成される分散剤であり、これは、分散ドメイン径がおよそ1~500nm、好ましくは1~100nm、通常10~50nmで変動する単一の光学的に等方性で熱力学的に安定な液体である。マイクロエマルジョンにおいて、分散相のドメインは、球形(すなわち、液滴)であるか、又は相互接続している(両連続マイクロエマルジョンをもたらす)かのいずれかである。好ましい態様において、界面活性剤は、油中水(w/o)型若しくは水中油型エマルジョン又は両連続マイクロエマルジョンの油相中に連続ネットワークを形成する。水ドメインは、平均粒径が好ましくは1nm~100nmの金属触媒を含む。
【0042】
単相エマルジョン、すなわちw/o型、o/w型又は両連続マイクロエマルジョン、好ましくは両連続マイクロエマルジョンは、平均粒径が好ましくは1~100nmの金属触媒ナノ粒子を更に含む。当業者は、このようなナノ粒子を製造し、使用するためのさまざまな手引きを、カーボンナノチューブ(CNT)の分野において見いだす。これらの金属ナノ粒子は、速度と収率の両者に関してネットワークの形成及び再現性を改善することが見いだされる。好適な金属ナノ粒子を製造する方法は、Vinciguerra et al. "Growth mechanisms in chemical vapour deposited carbon nanotubes" Nanotechnology (2003) 14, 655;Perez-Cabero et al. “Growing mechanism of CNTs: a kinetic approach" J. Catal. (2004) 224, 197-205;Gavillet et al. “Microscopic mechanisms for the catalyst assisted growth of single-wall carbon nanotubes” Carbon. (2002) 40, 1649-1663及びAmelinckx et al. "A formation mechanism for catalytically grown helix-shaped graphite nanotubes" Science (1994) 265, 635-639に記載され、金属ナノ粒子の製造に関するこれらの内容は、参照としてこの明細書に組み込まれる。一態様において、水:界面活性剤の重量比は、2:1~1:5、好ましくは1:1~1:4である。
【0043】
金属触媒ナノ粒子は、熱分解油含有両連続、w/o型又はo/w型マイクロエマルジョンにおいて使用される。一態様において、両連続マイクロエマルジョンが最も好ましい。有利には、金属粒子の均一性は、水性相が金属粒子に還元されることが可能な金属錯体塩を含む第1の(両連続)マイクロエマルジョン、及び水性相が前記金属錯体塩を還元することが可能な還元基を含む第2の(両連続)マイクロエマルジョンを混合することによって、前記(両連続)マイクロエマルジョンにおいて制御され、混合時に金属錯体は還元され、金属粒子を形成する。制御された(両連続)エマルジョン環境は、粒子をか焼又はOstwald熟成に対して安定化する。触媒粒子のサイズ、濃度及び耐久性は容易に制御される。例えば金属前駆体対還元剤のモル比を変更することによって、平均金属粒径を上記範囲内に調整することは日常的な実験法であると考えられる。還元剤の相対量の増加により、より小さな粒子が得られる。こうして得られた金属粒子は単分散で、平均粒径からの偏差は、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。また、現在の技術は、還元される限り金属前駆体を制限しない。
【0044】
カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークに含まれるナノ粒子の非限定的な例は、貴金属(Pt、Pd、Au、Ag)、鉄族元素(Fe、Co及びNi)、Ru及びCuである。好適な金属錯体は、限定されるものではないが、(i)白金前駆体、例えばHPtCl;HPtCl.xHO;KPtCl;KPtCl.xHO;Pt(NH(NO;Pt(C、(ii)ルテニウム前駆体、例えばRu(NO)(NO;Ru(dip)Cl[dip=4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン];RuCl、(iii)パラジウム前駆体、例えばPd(NO、又は(iv)ニッケル前駆体、例えばNiCl若しくはNiCl.xHO;Ni(NO;Ni(NO.xHO;Ni(CHCOO);Ni(CHCOO).xHO;Ni(AOT)[AOT=ビス(2-エチルヘキシル)スルホスクシネート]であり、ここで、xは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10から選択される整数であってもよく、通常、6、7又は8である。非限定的で好適な還元剤は、水素ガス、水素化ホウ素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、ヒドラジン又はヒドラジン水和物、エチレングリコール、メタノール及びエタノールである。また、クエン酸及びドデシルアミンも適している。金属前駆体の種類は本発明の不可欠な部分ではない。
【0045】
(両連続)マイクロエマルジョンの粒子の金属は、最終的に形成されるカーボン構造ネットワークのモルホロジーを制御するために、好ましくは、Pt、Pd、Au、Ag、Fe、Co、Ni、Ru及びCu、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。金属ナノ粒子は最終的にこれらの構造内部に埋め込まれ、金属粒子は構造に物理的に付着する。これらのネットワークの形成に金属粒子は必要で、実際、ネットワークは、本発明による修正カーボンブラック製造法を使用して形成され、収率が金属粒子濃度と共に増加することが見いだされた。好ましい態様において、活性金属の濃度は、少なくとも1mM、好ましくは少なくとも5mM、好ましくは少なくとも10mM、より好ましくは少なくとも15mM、より好ましくは少なくとも20mM、特に少なくとも25mM、最も好ましくは3500mM以下、好ましくは3000mM以下である。一態様において、金属ナノ粒子の濃度は250mM以下である。これらは、(両連続)マイクロエマルジョンの水性相の量に対する触媒の濃度である。
【0046】
熱分解油含有単相エマルジョンの霧化は、好ましくは、ノズルシステム4を使用して噴霧することによって実現され、これにより、エマルジョンの液滴が、反応ゾーン3bにおいて熱廃ガスa1と接触し、伝統的な炭化、ネットワーク形成及びその後の凝結が生じ、本発明による多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークeを製造することが可能になる。注入工程は、好ましくは、600℃超、好ましくは700~3000℃、より好ましくは900~2500℃、より好ましくは1100~2000℃の高温で行う。
【0047】
持続可能な多孔性カーボンネットワーク
本発明のネットワークは、以下のように特徴付けることができる。
【0048】
用語「持続可能な多孔性カーボンネットワーク」及び「持続可能な多孔性カーボンネットワーク材料は、同じ意味で使用される。
【0049】
まず第1に、これらのネットワークは循環型であり、つまり、炭素が廃品(すなわち、寿命末期タイヤ、リサイクル不可能なプラスチック又はバイオマス廃棄物)から製造される。この廃品を有用な炭素製品に変換することによって、年間最大で1億5000万トンのCOを削減できる。これは、エラストマー又はプラスチックとの複合体で使用される場合に炭素製品がもたらし得る利益を含まない。循環型の又は持続可能な炭素製品は、タイヤにおいて使用される場合、転がり抵抗及び/若しくは摩滅抵抗を低減し、又はリサイクルプラスチックの機械及び電気特性を高めるために使用でき;真に持続可能な高性能プラスチック及びタイヤへの道を開く。寿命末期に、製品を完全にリサイクルし、又は再び熱分解原料として用い、ループを閉じることができる。これに関連して、本発明における用語「持続可能」及び「循環型」は、同じ意味で使用され、この用語は、その製造方法を超える商業的及び技術的意味を有する。未精製の熱分解油から得られる製品は、そのようなものとして認識することができ、低減されたカーボンフットプリントを有する製品として説明することもできる。
【0050】
本発明において、持続可能性は、好ましくは、効率的、効果的、安全かつより環境に優しい化学製品並びに製造方法の設計、製造及び使用により、化学製品及びサービスに対する人間の必要性を満たすために、天然資源が使用される効率の改善に努めることと理解される(OECDの定義)。熱分解精製工程は、熱分解を、カーボンブラック製造をより持続可能にするための魅力的な候補ではなく、むしろ、製造法にコストを付加するものとする。したがって、カーボンブラック製造のための商業的方法における熱分解油の直接的な使用が、持続可能性の達成となる。未精製リサイクル熱分解のそのような加工の結果である製品は、当業者及び消費者によって、持続可能な製品であると理解される(すなわち、カーボンネットワーク製品は、未精製の熱分解油から作製される。)。
【0051】
原油からの炭素と比較して、熱分解油から製造された炭素はpHが低く、これらのネットワークの表面に相当量の極性基、例えばカルボキシル、ヒドロキシル及びエポキシを有する。これらの基は、極性ポリマー(すなわち、エポキシ樹脂、ポリアミド及びポリエステル、シリカのために官能化されたSSBR)中のネットワーク構造と酸性反応性分子(ポリエチレンの無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、シラン及びアミノシラン)との親和性を増加させる。特に、熱分解油から製造された炭素は、pHが最大で7.5である。理論に縛られるものではないが、これは、マトリックスとのより良好な相互作用をもたらし、したがって、向上した特徴を有する製品に誘導し、例えば充填剤とマトリックスとの相互作用を改善できる。最終製品のpHは、好ましくは4~7.5、最も好ましくは5.5~7.5、より好ましくは5.5~7.3、最も好ましくは5.5~7.0である。
【0052】
当業者であれば、多孔性ネットワークとは、液体又は気体が通過することが可能な3次元構造を指すことと理解する。多孔性ネットワークは、多孔質媒体又は多孔質材料と称されることもある。本発明による多孔性カーボンネットワークの細孔容積は、Brunauer、Emmett及びTeller(BET)法(ASTM D6556-09)により測定した場合、0.1~1.5cm/g、好ましくは0.2~1.5cm/g、より好ましくは0.3~1.3cm/g、最も好ましくは0.4~1.5cm/gである。
【0053】
カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの粒子内細孔径は、水銀圧入ポロシメトリー(ASTM D4404-10)で測定した場合、5~150nm、好ましくは10~120nm、最も好ましくは10~100nmであってもよい。
【0054】
カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの粒子内容積は、水銀圧入ポロシメトリー(ASTM D4404-10)で測定した場合、0.10~1.1cm/g、好ましくは0.51~1.0cm/g、最も好ましくは0.59~0.91cm/gであってもよい。
【0055】
本発明による多孔性カーボンネットワーク(又は多孔性カーボンネットワーク粒子)は、炭素原子が本質的に共有結合によって相互接続している大きな分子と考えることができる。ここで、細孔が物理的に凝集した粒子又は分子の間の空間によって形成される複数の分子又は粒子によって作られた多孔性ネットワークと呼ばれる粒子間細孔とは反対に、多孔性カーボンネットワーク粒子は、粒子内細孔を有する化学的に相互接続した(すなわち、共有結合した)繊維を含む粒子であることが理解される。本発明によるカーボンネットワーク粒子は、細孔が埋め込まれた大きな分子と考えることができるので、本発明では、粒子内細孔は分子内細孔と理解してもよい。したがって、粒子内細孔及び分子内細孔は、この明細書において同じ意味であり、本発明の多孔性ネットワークを説明する際に相互に使用してもよい。カーボンブラック粒子内の粒子内多孔性構造を有さない伝統的なカーボンブラックと比較して、カーボンブラック粒子の凝集体は、粒子間細孔特性を有し得る。粒子間/分子間は、物理的に凝集した粒子(ネットワーク)間の空間であるが、粒子内/分子内は、ネットワークそれ自体の内部の空間である。
【0056】
理論に縛られるものではないが、粒子間細孔を含むネットワークよりも粒子内細孔を含むネットワークを有することの利益は、力が加えられた場合、後者は破壊及び破断に対してより頑強かつより弾性であることと考えられる。粒子内細孔とは、(ナノ)粒子の内部に存在する細孔を指す。粒子間細孔とは、個々の粒子を積み重ねた結果の細孔を指す。粒子間細孔は、粒子-粒子界面に起因して弱く、崩壊する傾向がある。粒子内細孔は、それを取り囲む共有結合した構造に起因して強く、崩壊することなく、大きな力及び高い圧力に耐えることができる。
【0057】
上述のとおり、公知の強化剤、例えばカーボンブラックは、球形粒子の凝集体又は凝結体からなり、これは、個々の粒子間の共有結合なしに(「化学的に相互接続」せずに)3次元構造を形成してもよく、したがって、粒子間細孔を有する。まとめると、粒子内細孔とは、細孔を取り囲む炭素原子が共有結合している状態を指し、粒子間細孔とは、物理的に凝集、凝結などした粒子間に存在する細孔を指す。
【0058】
本発明のネットワークは1つの大きな分子と考えることができるため、粒子又はネットワークの一部分を共に融合させる必要はない。したがって、化学的に相互接続したカーボンナノファイバーの多孔性ネットワークは、粒子内多孔性を有する融合していない粒子内多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークである。好ましい態様において、粒子内細孔容積は、例えば、水銀圧入ポロシメトリー(ASTM D4404-10)又はBrunauer、Emmett及びTeller(BET)法(ISO9277:10)に関して以下で更に述べるように特徴付けることができる。
【0059】
多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークにおける用語「化学的相互接続」が、カーボンナノファイバーが化学結合によって他のナノファイバーと相互に接続している状態を意味することは、当業者が容易に理解する。化学結合は、分子結合又は共有結合と同義であることもまた理解される。通常、カーボンナノファイバーが連結している箇所は、接合部又は繊維の接合部と呼ばれ、したがって、これは、簡便に「共有接合部」に呼ばれることもある。これらの用語は、この明細書中で同じ意味で使用される。本発明によるカーボンネットワークにおいて、接合部は、共有結合した炭素原子によって形成される。さらに、繊維長は、繊維質炭素材料によって連結された接合部間の距離として定義される。
【0060】
本発明のカーボンナノファイバー含有ネットワークの繊維の少なくとも一部は、結晶性カーボンナノファイバーである。本発明において、カーボンネットワークの炭素の好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、更により好ましくは少なくとも60重量%、更により好ましくは少なくとも80重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%が、結晶性である。あるいは、結晶性炭素の量は、本発明のカーボンネットワークの総炭素に対して20~90重量%、より好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~50重量%である。ここで、結晶性はその通常の意味であり、材料中の構造規則性の程度を指す。言い換えると、ナノファイバー中の炭素原子は、ある程度、規則的かつ周期的に配列している。結晶性の薄片又は塊は、結晶子と呼ぶことができる。したがって、炭素結晶子は個々の炭素結晶である。炭素結晶子のサイズの尺度は、グラファイト層の積層高さである。ASTM規格を満たすカーボンブラックは、結晶子内のグラファイト層の積層高さが11~13Åである。本発明のカーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの積層高さは、少なくとも15Å、好ましくは少なくとも16Å、より好ましくは少なくとも17Å、更により好ましくは少なくとも18Å、更により好ましくは少なくとも19Å、なおより好ましくは少なくとも20Åである。必要であれば、100Åもの大きさの結晶子を有するカーボンネットワークを製造できる。したがって、本発明のカーボンネットワークの積層高さは、最大で100Å以下、より好ましくは80Å以下、更により好ましくは60Å以下、更により好ましくは40Å以下、なおより好ましくは30Å以下である。したがって、本発明のカーボンネットワークにおける結晶子内のグラファイト層の積層高さは、15~90Å、より好ましくは16~70Å、更により好ましくは17~50Å、なおより好ましくは18~30Å、最も好ましくは19~25Åであることが理解される。
【0061】
多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークは、化学的に相互接続したカーボンナノファイバーを有すると定義でき、カーボンナノファイバーは、接合部分を介して相互接続し、いくつかの(通常3以上、好ましくは少なくとも10以上)のナノファイバーが共有結合される。前記カーボンナノファイバーは、接合部間のネットワークの部分である。繊維は、通常、中身があり(すなわち、非中空で)、カーボンブラック粒子の平均粒径10~400nmと比較して、好ましくは1~500nm、好ましくは5~350nm、より好ましくは100nm以下、一態様では50~100nmの平均径又は厚さを有する細長い物体である。一態様において、平均繊維長(すなわち、2つの接合部間の平均距離)は、例えばSEMで測定でき、好ましくは30~10000nm、より好ましくは50~5000nm、より好ましくは100~5000nm、より好ましくは少なくとも200~5000nmである。
【0062】
ナノファイバー又は構造は、好ましくは、従来のカーボンブラック製造により得られた球形粒子から形成された非晶質(物理会合した)凝集体とは好対照に、少なくとも2、好ましくは少なくとも3、より好ましくは少なくとも4、最も好ましくは少なくとも5、好ましくは最大で50未満の繊維長対厚さの平均アスペクト比によって説明できる。
【0063】
カーボンナノファイバー構造は、化学的に相互接続したカーボンナノファイバーによって形成されたカーボンネットワークと定義し得る。前記カーボンネットワークは、カーボンナノファイバーの間に開口部があり、溶媒若しくは水性相のような液相、気相又は他の相であってもよい連続相にアクセス可能な3次元構成を有する。前記カーボンネットワークは、その径が全ての次元で、少なくとも0.5μm、好ましくは少なくとも1μm、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも10μm、更により好ましくは少なくとも20μm、最も好ましくは25μmである。あるいは、前記カーボンネットワークは、2つの次元で径が少なくとも1μm、かつ他の次元で径が少なくとも5μm、好ましくは少なくとも10μm、より好ましくは少なくとも20μm、最も好ましくは25μmである。この明細書全体を通して、用語「次元」は、その通常の意味で使用され、空間的次元を指す。互いに直交する3つの空間的次元が存在し、これは、その通常の物理的意味で空間を定義する。さらに、前記カーボンネットワークは、2つの次元で径が少なくとも10μm、かつ他の次元で径が少なくとも15μm、好ましくは少なくとも20μm、より好ましくは少なくとも25μm、より好ましくは少なくとも30μm、最も好ましくは少なくとも50μmであることが可能である。
【0064】
カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの凝集体サイズは、レーザー回折(ISO13320)又は動的光散乱分析により測定した場合、0.1~100μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは4~40μm、最も好ましくは5~35μm、より好ましくは6~30μm、より好ましくは7~25μm、最も好ましくは8~20μmであってもよい。
【0065】
カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークの表面積は、Brunauer、Emmett及びTeller(BET)法(ISO9277:10)により測定した場合、好ましくは40~120m/g、より好ましくは45~110m/g、更により好ましくは50~100m/g、最も好ましくは50~90m/gである。
【0066】
多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークは、ネットワークの一部として組み込まれたカーボンブラック粒子も含んでいてもよい。これらの粒子は、カーボンナノファイバー間の接合部に見いだされるが、ネットワークの他の部分にもカーボンブラック粒子が存在してもよい。カーボンブラック粒子の径は、好ましくは、カーボンナノファイバーの径の少なくとも0.5倍、より好ましくはカーボンナノファイバーと少なくとも同じ径、更により好ましくはカーボンナノファイバーの径の少なくとも2倍、更により好ましくはカーボンナノファイバーの径の少なくとも3倍、なおより好ましくはカーボンナノファイバーの径の少なくとも4倍、最も好ましくはカーボンナノファイバーの径の少なくとも5倍である。カーボンブラック粒子の径は、カーボンナノファイバーの径の最大10倍であることが好ましい。そのような混合ネットワークは、ハイブリッドネットワークと称される。
【0067】
多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークは、官能化表面を有する。言い換えると、表面は、炭素に典型的である表面の疎水性をより親水性に変化させる基を含む。カーボンネットワークの表面はカルボン酸基、ヒドロキシル基及びフェノールを含む。これらの基は、表面にある程度の極性を付与し、官能化カーボンネットワークが埋め込まれる材料の特性を変更し得る。理論に縛られることを望むものではないが、官能基は、例えば水素結合を形成することによってエラストマーに結合し、したがって、材料の弾性が増加すると考えられる。したがって、材料の少なくとも剛性及び耐久性が変更され、これは、強化エラストマー、特に前記強化エラストマーを含むタイヤ又はコンベヤベルトの、より低い転がり抵抗及び増加した動作寿命をもたらし得る。
【0068】
多孔性の化学的相互接続カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークは、金属触媒ナノ粒子を含んでいてもよい。これらは、調製方法のフィンガープリントである。これらの粒子の平均粒径は、1nm~100nmであってもよい。好ましくは、前記粒子は、その平均粒径から10%以内、より好ましくは5%以内の変動を有する単分散粒子である。カーボンナノファイバー含有カーボンネットワークに含まれるナノ粒子の限定されるものではない例としては、貴金属(Pt、Pd、Au、Ag)、鉄族元素(Fe、Co及びNi)、Ru及びCuが挙げられる。好適な金属錯体は、(i)白金前駆体、例えばHPtCl;HPtCl.xHO;KPtCl;KPtCl.xHO;Pt(NH(NO;Pt(C、(ii)ルテニウム前駆体、例えばRu(NO)(NO;Ru(dip)Cl[dip=4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン];RuCl、(iii)パラジウム前駆体、例えばPd(NO、又は(iv)ニッケル前駆体、例えばNiCl若しくはNiCl.xHO;Ni(NO;Ni(NO.xHO;Ni(CHCOO);Ni(CHCOO).xHO;Ni(AOT)[AOT=bis(2-エチルヘキシル)スルホスクシネート]であってもよく、ここで、xは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10から選択される整数であってもよく、通常、6、7又は8であってもよい。
【0069】
これらの持続可能な多孔性ネットワークの使用は限定されないが、本発明は、特に、複合体におけるこれらのネットワークの使用、及び本発明によるカーボン構造ネットワークを含み、1種以上のポリマーを含む、持続可能な複合体に関し、ネットワークは、機械的強度、電気伝導度又は熱伝導度のために前記ポリマー系複合体に添加される。ネットワークは、所望の性能に適合した量、例えば、複合体中の総ポリマー重量に対して、1~70重量%、より好ましくは10~50重量%、更により好ましくは20~40重量%で添加してもよい。一側面において、複合体は、例えばISO527に従って測定した場合、ネットワーク濃度依存性の弾性率(E弾性率、すなわち、ネットワークの濃度の増加に伴う増加)を示す。
【実施例
【0070】
実施例1 結晶性カーボン構造ネットワークの調製
熱分解油o/w型マイクロエマルジョンを、本発明の方法で以下のものから作製した:
a)炭素含量86~85重量%、硫黄含量0.7~0.9重量%、及び水含量9~13重量%の、Scandinavian Enviro systemsから入手したタイヤ熱分解油(TPO)
b)触媒として塩化鉄を含む水相
c)界面活性剤としての芳香族疎水性基を有するポリエチレンオキシド系界面活性剤。
【0071】
マイクロエマルジョンの異なる組成について、SEMで観察された細長い構造の外観を分析した。細長い構造が観察された事例は、以下であった:
【0072】
【表1】
【0073】
これまでに説明した熱分解油エマルジョンを注入する本発明の方法で、結晶性カーボン構造ネットワークを製造できる。この例で使用したファーネス反応器は、294ミリ秒の滞留時間、1200~2000℃で操作され、1時間当たりの原料生産速度が3.65トンのCarcass N550反応器であった。この方法により得られたこのネットワークの特徴は、以下である:
【0074】
【表2】
【0075】
この方法で得られた製品の低いpHは、これらのネットワークの表面における表面活性基との相互作用を改善することで、熱分解油から作製された炭素のためのマトリックスとの充填剤の相互作用を改善し、したがって、アントラセン油からの炭素よりも改善された充填剤となると考えられる。
【0076】
実施例2 異なる油からの炭素のpH
芳香族疎水性基を有するポリエチレンオキシド系界面活性剤(70重量%)、水(10重量%)及びFeCl(1重量%未満)を含むが、油成分がそれぞれ変動する3種のエマルジョンを使用して、カーボンネットワークの3つのバッチを合成した:
-組成物1:アントラセン油;
-組成物2:タイヤ熱分解油(Scandinavian Enviro systems);及び
-組成物3:バイオ熱分解油(BTGから入手した)。
【0077】
30mgの製造されたネットワーク粉末を粉砕し、粉砕した粉末を脱塩水(demi-water)及び2滴のアセトンと混合した。混合物を1分間超音波処理した後にpHを測定した。
【0078】
得られたpHは、それぞれ7.7、7.3及び6.8であった。
【0079】
組成物2及び3の熱分解油系カーボンネットワークの表面は、カルボン酸、ヒドロキシル及び/又はエポキシ基を有していた。これらの極性基は、極性ポリマー(すなわち、エポキシ樹脂、ポリアミド及びポリエステル、シリカのために官能化されたSSBR)中のそのような構造と酸性反応性分子(ポリエチレンの無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、シラン及びアミノシラン)との親和性を増加させた。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】