(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-04
(54)【発明の名称】部分負荷におけるアンモニア合成ループの制御
(51)【国際特許分類】
C01C 1/04 20060101AFI20231127BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
C01C1/04 J
C01B3/02 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526637
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(85)【翻訳文提出日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 EP2021074911
(87)【国際公開番号】W WO2022089820
(87)【国際公開日】2022-05-05
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518320199
【氏名又は名称】カサーレ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リッツィ、マウリツィオ
(57)【要約】
アンモニア合成ループが、構成用ガスが反応してアンモニアを形成するアンモニア変換器を含み、前記合成圧力を低下させ、前記変換器の構成用ガスの迂回ラインを制御することにより前記低減された圧力を所望の範囲内に維持することによって、前記ループが部分負荷において制御される、アンモニアの合成方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントエンド(1)においてアンモニア構成用合成ガス(2)を生成すること;
第1の圧縮器(3)において前記構成用ガスの圧力を上昇させること;
前記第1の圧縮器によって送出される高圧の構成用合成ガス(4)をアンモニア合成ループ(5)に供給する工程;
を含むアンモニアの合成プロセスであって、
ここで前記アンモニア合成ループは少なくとも:
アンモニアが触媒を用いて合成される変換器(7);
前記ループ内の循環を維持し、前記構成用合成ガスを含む供給ガスを前記変換器に送出するように構成された圧縮器であるサーキュレーター(6);
前記サーキュレーターから前記変換器への変換器供給ライン(10);
アンモニア含有気体生成物を受け取るために前記合成部の下流に配置された凝縮部(8);
前記凝縮部で生成された凝縮物がアンモニア液体生成物と気体再循環流とに分離される分離部(9);
前記分離部から前記サーキュレーターの吸込部までの再循環ライン(14);
を含み、
ここで、前記アンモニア合成ループ(5)は、前記フロントエンド(1)から前記合成ループに移送される公称流量の構成用ガス(2)の処理に対応する全負荷条件を有し、
前記プロセスは、前記フロントエンドから前記ループに移送される構成用ガスの流量が:
アンモニアが合成(7)される圧力が、前記変換器の前記全負荷条件での公称合成圧力未満である、低減されたアンモニア合成圧力まで下げられるステップ;
前記変換器を迂回する供給ガスの流量を制御することによって、前記合成圧力が、前記低減された合成圧力を含む目標範囲内に維持されるステップ
によって、前記公称流量よりも小さくなっている部分負荷条件で前記ループ(5)を制御することを含む、前記プロセス。
【請求項2】
前記低減された合成圧力が、前記公称合成圧力の50%~80%の範囲内である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記目標範囲が前記低減された合成圧力を中心とし、前記目標範囲が好ましくは前記低減された合成圧力の+/-15%であり、より好ましくは前記圧力の+/-10%であり、さらにより好ましくは前記圧力の+/-5%である、請求項1又は請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記変換器の少なくとも1つの触媒床に流入するガスの温度を検出すること、及び前記検出された温度に従って前記変換器の迂回流量(bypass flow)を決定することをさらに含み、ここで好ましくは、前記変換器が、直列に配置され、かつ前記ガスの流れ(gas flow)が順番に横切っていく複数の触媒床を含み、前記プロセスは前記順番の最初の触媒床の温度を検出することを含む、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記変換器に入るガス供給物の温度と前記変換器から引き出されるアンモニア含有生成物の温度との間の差である、前記変換器を通しての温度差を、検出するステップをさらに含む、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記フロントエンド(1)から前記合成ループに移送される構成用ガス(2)の流量急減又は流量急増を検出すること、及び、流量急減の場合には前記迂回流(bypass stream)中のガスの量を増加させ、流量急増の場合には前記量を減少させることを含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記部分負荷条件が、前記フロントエンドから前記合成ループに移送される前記構成用ガスが前記公称流量の15%となるまでの負荷を含む、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記フロントエンドにおける構成用ガスの生成が、再生可能エネルギー源からの水素の生成を含む、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
部分負荷で動作するアンモニア合成ループ(5)を制御する方法であって、
前記アンモニア合成ループ(5)は:
アンモニアが触媒を用いて合成される変換器(7);
前記ループ内の循環を維持し、構成用合成ガスを含む供給ガスを前記変換器に送出するように構成された圧縮器であるサーキュレーター(6);
前記サーキュレーターから前記変換器への変換器供給ライン(10);
アンモニア含有気体生成物を受け取るために前記合成部の下流に配置された凝縮部(8);
前記凝縮部で生成された凝縮物がアンモニア液体生成物と気体再循環流とに分離される分離部(9);
前記分離部から前記サーキュレーターの吸込部までの再循環ライン(14);
を含み、
ここで、前記アンモニア合成ループは、前記フロントエンドから前記合成ループに移送される公称流量の構成用ガスの処理に対応する全負荷条件を有し、前記部分負荷は、前記公称流量未満の量が前記フロントエンドから前記ループに移送される条件に対応し、
ここで、部分負荷において前記ループを制御する前記方法は:
a)アンモニアが合成される圧力を、前記変換器の全負荷での公称合成圧力未満であり、好ましくは前記公称合成圧力の50%~80%である、低減されたアンモニア合成圧力に低減すること;
b)合成圧力が前記低減された合成圧力を含む目標範囲内に留まるように、前記変換器の負荷に応じて前記合成圧力を制御すること;
c)前記ステップb)が、変換器供給ガスの一部に前記変換器を迂回させることを含むこと、
を含む、前記方法。
【請求項10】
前記ステップc)が、前記変換器の上流のポイントで前記変換器供給ラインからガス流(gas stream)(15)を分離して迂回流を形成し、前記サーキュレーター(6)の前記吸込部側(24)において前記迂回流を再導入、又は前記分離部(9)の下流のポイントで前記アンモニア合成ループ(5)へと前記迂回流を再導入することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップb)の前記目標範囲が前記低減された合成圧力を中心とし、前記目標範囲が好ましくは前記低減された合成圧力の+/-15%であり、より好ましくは前記圧力の+/-10%であり、さらにより好ましくは前記圧力の+/-5%である、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップb)が、前記変換器の少なくとも1つの触媒床に流入するガスの温度を検出すること、及び検出された前記温度に従って前記変換器の迂回流量を決定することを含み、ここで好ましくは、前記変換器が、直列に配置され、かつ前記ガスの流れが順番に横切っていく複数の触媒床を含み、前記方法は前記順番の最初の触媒床の温度を検出することを含む、請求項9~請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップb)が、
前記変換器に入るガス供給物の温度と前記変換器から引き出されるアンモニア含有生成物の温度との間の差である、前記変換器を通しての温度差を、検出すること;
検出された前記温度差に従って前記変換器の迂回流量を決定すること
を含む、請求項9~請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記フロントエンド(1)から前記合成ループに移送される構成用ガス(2)の流量の急減又は急増を検出すること、及び、流量急減の場合には前記迂回流中のガスの量を増加させ、流量急増の場合には前記量を減少させることを含む、請求項9~請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
アンモニア構成用合成ガスからアンモニアを合成するための合成ループ(5)であって:
アンモニアが触媒を用いて合成される変換器(7);
前記ループ内の循環を維持し、前記構成用合成ガスを含む供給ガスを前記変換器に送出するように構成された圧縮器であるサーキュレーター(6);
前記サーキュレーターから前記変換器への変換器供給ライン(10);
アンモニア含有気体生成物を受け取るために前記合成部の下流に配置された凝縮部(8);
前記凝縮部で生成された凝縮物がアンモニア液体生成物と気体再循環流とに分離される分離部(9);
前記分離部から前記サーキュレーターの吸込部までの再循環ライン;
を含み、
ここで、前記ループはさらに:
前記変換器供給ラインから、前記変換器の上流かつ前記サーキュレーターの下流のポイントでガス流を抜き取り、前記サーキュレーター(6)の前記吸込部側(24)において前記迂回流を再導入、又は前記分離部(9)の下流のポイントで前記アンモニア合成ループ(5)へと前記迂回流を再導入するように配置された迂回ライン(15);
請求項9~請求項14のいずれか一項に記載の方法を用いて部分負荷で前記ループを制御するように構成される、前記変換器の制御システム(19)
を含む、前記合成ループ。
【請求項16】
前記迂回ライン(15)上に設置された流量制御弁(17)を含み、前記制御システムは、前記弁(17)の開口を制御し、そうして前記迂回ライン(15)を通して前記変換器を迂回するガスの量を制御するように構成される、請求項15に記載の合成ループ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの工業的合成の分野に関する。特に、本発明は、部分負荷でアンモニア合成ループを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアの工業的生成は基本的に、フロントエンドにおける構成用アンモニア合成ガス(makeup ammonia synthesis gas:MUG)の生成と、いわゆるアンモニア合成ループにおける前記構成用ガスの変換とを含む。
【0003】
フロントエンドにおけるMUGの生成は、従来、例えば天然ガス又は石炭のような炭化水素源又は炭素質源の改質からの水素生成、及びアンモニアの合成のために適切な水素対窒素比に達するための窒素の添加をベースとする。水素生成は、一次改質器及び二次改質器における改質、ならびに、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素及び残留メタンを除去するための、ガスのその後の精製を含みうる。フロントエンドの様々な実施形態に応じて、二次改質器において、窒素を、別個に又は焼成空気と一緒に、添加することができる。
【0004】
そのようにして得られたMUGは、主圧縮器を用いてアンモニア合成圧力まで上昇され、典型的には少なくともサーキュレーター、触媒変換器、凝縮器、分離器を含む合成ループにおいて、アンモニアに変換される。変換器は高温のアンモニア含有気体生成物を生成し、これは、凝縮後、液体アンモニア生成物と、サーキュレーターの吸込部に再循環されるガス相とに分離される。サーキュレーターは主圧縮器によって送出される高圧MUGを受け取り、ループ内の循環を維持するように機能する。
【0005】
アンモニア合成ループは、通常、フロントエンドで生成され、主圧縮器を通して合成ループに移送されるMUGの公称流量に対応して、常にその全容量又は全容量に近い容量で動作するように設計される。一般に、従来のアンモニア合成ループを、その容量の60%~70%未満の部分負荷(partial load)で運転することは、引き合う又は魅力的であるとは考えられない。
【0006】
変換器の負荷の急激な変化は、変換器自体及び高圧合成ループの他の機器にとって潜在的に有害であると考えられる。例えば、負荷の急速な変動はガス速度の上昇を引き起こす可能性があり、これは、変換器又はループの他のアイテムの内部を損傷する可能性がある。急激な圧力低下は、衝撃(「ハンマリング(hammering)」)及び装置の損傷を引き起こす可能性がある。
【0007】
加えて、比較的低い部分負荷では、特に、変換器が新鮮な構成用ガスと比較して過剰量の再循環アンモニアを受け取り、新たに装填されたものを適切に予熱することができないので、アンモニア合成反応が熱的に自己維持されない場合がある。アンモニア変換器は通常、始動ヒータを備えているが、部分負荷で反応を維持するために始動ヒータを使用することは一般に、経済的な観点から魅力的ではなく、さらに、ほとんどのガス燃焼ヒータは負荷の急速な変動に追従することができない。
【0008】
上記のすべての理由のために、アンモニア変換器及びアンモニア合成ループは、通常、部分負荷で動作するのには適していないと見なされている。
【0009】
一方、炭化水素改質に基づく従来のフロントエンドは通常、それらの投資コストを補償するために、それらの全能力で運転され、したがって、現在まで、合成ループの柔軟性が不十分であることは、深刻な欠点として認識されていなかった。
【0010】
しかしながら、近年、フロントエンドで生成される水素の少なくとも一部が再生可能な供給源から得られる、いわゆるグリーンアンモニアプラントが出現した。例えば、水素は光起電力又は風力エネルギーによって動力供給される水電気分解から得ることができ、必要な窒素は、圧力スイング吸着(PSA)ユニット又は極低温空気分離ユニット(ASU)内の周囲空気から得ることができる。
【0011】
水素が再生可能な供給源に由来するこれらのアンモニアプラントは運転コストが低いこと及び汚染が少ないことから非常に興味深いものであり、例えば、それらは、従来の石炭ベース又は天然ガスベースのプロセスとは異なり、CO2を生成しない。しかしながら、太陽光や風力のような再生可能エネルギー源は本質的に変動の影響を受けやすく、例えば、太陽エネルギーは夜間には利用できない。グリーンアンモニアプラントでは、フロントエンドで生成されてアンモニア合成ループに移送される構成用ガスの量は、著しく急速に変動し得る。再生可能エネルギー源によって動力供給されるフロントエンドに結合されたアンモニア合成ループは急速な負荷変化に追従し、公称容量の約20~25%までの低負荷で動作することが必要とされ得る。
【0012】
従来の改質ベースのフロントエンドに結合された、常に全負荷(full load)で動作するように設計された、既知のアンモニア合成ループ及びそれらの制御システムは、グリーンプラントの負荷の急速な変化に追従するのに適していない。今日まで、上記の必要性に対する解決策は加圧MUGのバッファタンクを提供することであるが、これは大きく、非常に高価である。この欠点は、アンモニア合成の分野における再生可能エネルギーの開発の制限要因である。
【0013】
米国特許出願公開第2013/108538号明細書は、アンモニアプラントの負荷調整のための方法を開示している。断続的な発電とアンモニア生産との統合については、Schulte Beerbuehl et al、"Combined Scheduling and capacity planning of electricity-based ammonia production to integrate renewable energies", vol. 241 no. 3, 15 November 2014, pp. 851-862を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は広範囲の動作負荷で動作し、小さなガスバッファを用いて、又はガスバッファを必要とせずに、速い負荷変動に追従するように適合化された、アンモニア合成ループ及び関連する制御方法を提供することを目的とする。したがって、本発明は、水素が再生可能エネルギー源から生成されるため構成用ガスの生成が変動を受けるフロントエンドでの動作に、より適しているアンモニア合成ループを目的とする。本発明のさらに別の目的は、アンモニアの工業生産の分野における再生可能エネルギー源の利用のためのより多くの可能性を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項に記載のアンモニアの合成プロセス及びアンモニア合成ループの制御方法によって達成される。本発明はさらに、本発明の方法に従って動作するように構成された制御システムを用いてアンモニアを合成するための合成ループに関する。
【0016】
本発明は、以下に基づいて、部分負荷でアンモニアループを制御する戦略を提供する:
合成圧力は、変換器の全負荷時の公称合成圧力よりも低い、低減されたアンモニア合成圧力まで下げられる;
合成圧力は、変換器の負荷に応じて、前記低減された合成圧力を含む目標範囲内にとどまるように制御される;
合成圧力の制御は、変換器供給ガスの選択された一部に変換器を迂回させること(bypassing the converter with a selected portion of the converter feed gas)を含む。
【0017】
上記の制御は、ガス流(gas stream)を変換器の上流のポイントで変換器供給ラインから分離して迂回流を形成することによって、また変換器の下流の適切なポイントで前記迂回流を再導入することによって、実施することができる。
【0018】
低減された合成圧力は、最小合成圧力であってもよい。前記最小圧力は、変換器が自立運転において安定する最小圧力として決定されてもよい。好ましい実施形態では、前記低減された圧力は、公称圧力の50%~80%である。例えば、低減された圧力は、公称圧力の約60%又は70%であってもよい。
【0019】
前記低減された合成圧力は、約40%~60%の部分負荷に相当し得る。このパーセンテージは、公称負荷と比較した構成用ガスの体積流量のパーセンテージを示す。
【0020】
一実施形態では、本発明の方法は、変換器の負荷の第1の減少(例えば、全負荷から第1の部分負荷までの減少)に応答して、合成圧力を前記低減された合成圧力に下げることによって動作し、その後の負荷の減少(例えば、前記第1の部分負荷から、前記第1の部分負荷よりも小さい第2の部分負荷までの減少)に応答して、本発明の方法は、変換器バイパス(converter bypass)を制御することによって、圧力を目標範囲内に維持する。
【0021】
本発明の制御システムは、ループの圧力を下げることによって、(例えば、100%から50%まで)部分負荷の条件に反応することができ、次いで、制御システムは、負荷の別のかなりの低減(例えば、50%から25%まで)がある場合であっても、上述の目標範囲内で圧力を実質的に一定に保つように変換器バイパスを動作させる。この目的のために、制御システムは、迂回ラインにおける流量を決定する迂回ライン上の適切な弁を制御しうる。
【0022】
目標圧力範囲は、低減された合成圧力を中心とすることができる。このことは、当該範囲が、低減された合成圧の周囲で対称的でありうることを意味する。本発明の制御は、圧力が上述の減少した値まで下げられた後、圧力を実質的に一定に保つように構成されてもよい。したがって、目標範囲は狭い範囲であってもよい。例えば、前記目標範囲は、好ましくは低減された合成圧力の+/-15%、より好ましくは前記圧力の+/-10%、さらにより好ましくは前記圧力の+/-5%であってもよい。
【0023】
部分負荷条件での圧力の低減は、基本的に2つの利点を有する。第一に、変換器中のアンモニア合成反応の平衡曲線がシフトし、これは、反応が遅くなり、反応剤があまり急速に転化されない手段である。これによれば、変換器は、低減された負荷の条件に適合し、このことは、変換器に供給される試薬の量がより少なくなることを意味する。第二の利点は、変換器の触媒床を通るガスの速度が増加することであり、こうしてより均一な温度プロファイルがもたらされる。これらの利点は、変換器が不安定になることなく、低減された負荷の条件に適応するのを助ける。
【0024】
低減された圧力でのこの操作から開始して、変換器は、供給ガスの迂回のおかげで、負荷のその後の低減に追従することができる。
【0025】
本発明は、フロントエンドから利用可能な構成用ガスの量の急速な変化に適合することができる合成ループ及び合成変換器を提供する。
【0026】
本発明の迂回機能のおかげで、変換器は、構成用ガス入力流量の急速な変化によって引き起こされ得る過熱、過剰なガス速度、及び他の摂動から保護される。フロントエンドで発生する構成用ガスの量が少ない場合であっても、反応機は、流量を除いて、全負荷の状態に近い状態に保たれる。変換器は、安定化され、フロントエンド生産の変動に対する感受性がより低い。
【発明の効果】
【0027】
したがって、本発明に従って制御される合成ループは、再生可能エネルギー源によって動力供給されるフロントエンドとの結合に特に適しており、関連する構成用ガス生成の変動に追従することができ、公称容量の20%以下まで、又はそれ以下まで安定した動作を提供することができる。変換器は、広範囲の出力にわたって自立動作モードに維持され、例えば始動ヒータを使用して熱を供給する必要性を、回避又は低減する。
【0028】
本発明は、非常に小さなプラントから、往復圧縮器又は遠心圧縮器で動作する非常に大きなプラントまでの、いずれのアンモニア生成キャパシティにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態によるアンモニア合成ループのスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
アンモニア合成ループは通常、アンモニアが触媒を用いて合成される変換器と、ループ内の循環を維持し、構成用合成ガスを含む供給ガスを前記変換器に送出するように構成された圧縮器であるサーキュレーターと、前記サーキュレーターから前記変換器への変換器供給ラインと、アンモニア含有気体生成物を受け取るように前記合成部の下流に配置された凝縮部と、前記凝縮部で生成された凝縮物がアンモニア液体生成物と気体再循環流とに分離される分離部と、前記分離部から前記サーキュレーターの吸込部への再循環ラインとを備える。
【0031】
合成ループは、通常、単一の変換器を含む。しかしながら、本発明は、2つ以上の変換器を含むループにも適用可能である。
【0032】
合成ループは追加のアイテム、例えば、1つ以上の熱交換機を含んでもよい。特に、変換器に向けられた供給流を予熱するために、又は変換器の高温流出物を冷却することによって熱を回収するために、熱交換機が備えられてもよい。
【0033】
本発明による合成ループは、変換器の上流及びサーキュレーターの下流のポイントで、前記変換器供給ラインからガス流を抜き取り、前記分離部の下流のポイントで、又はサーキュレーターの吸込部側で前記迂回流をアンモニア合成ループに再導入するように、配置された迂回ラインを含んでもよい。
【0034】
迂回流は、変換器を含む、合成ループ内のアイテムのすべて又は一部を迂回することができる。迂回流はサーキュレーターの吸込部に、又はアンモニア液体生成物が分離される分離部の下流に再導入されうる。関連する利点は、迂回流が変換器からのアンモニア含有気体生成物流出物と混合せず、変換器の流出物が迂回ガスによって希釈されないことである。したがって、アンモニアの凝縮は、迂回の影響を受けない。
【0035】
変換器を迂回する構成用ガスの量(迂回率とも呼ばれる)は例えば、適切な制御システムによって操作される弁によって決定することができる。制御システムは1つ又は複数の信号に基づいて適切な迂回率を計算し、それに応じて弁の開弁を制御する。迂回率は、1つ又は複数の制御パラメータを目標範囲内に維持するように決定することができる。制御パラメータは、好ましくは変換器内の圧力、ループ内の圧力、変換器を通しての温度差のうちの1つ又は複数を含みうる。
【0036】
アンモニア合成変換器は、フロントエンドから合成ループに移送される構成用ガスの公称流量の処理に対応する全負荷条件を有する。部分負荷条件は、フロントエンドから合成ループに移送される構成用ガスの流量が前記公称流量よりも小さい条件である。フロントエンドから合成ループに移送される構成用ガスの流量は例えば、主合成ガス圧縮器の吸込部で測定することができる。用語「合成ガス」は、フロントエンドで生成される構成用合成ガスを意味するために短く使用される。
【0037】
迂回流の量(すなわち、流量)は様々な実施形態によれば、以下の1つ以上を考慮に入れて決定することができる:
i)フロントエンドからアンモニア合成ループに移される構成用ガスの瞬間流量;
ii)フロントエンドからアンモニア合成ループへ移送される構成用ガスの流量の経時変化;
iii)合成ループ内又は変換器内の圧力;
iv)変換器の温度差;
v)変換器入口の水素対窒素(H/N)比;
vi)アンモニア最終凝縮温度;
vii)変換器の触媒床の少なくとも1つ、又は変換器の触媒床のそれぞれの入口温度。
【0038】
パラメータi)は、アンモニアプラントの負荷のパーセンテージに対応する。それは、適切なゲージを用いて、例えば、フロントエンドによって送出されるガスの圧力をアンモニア合成圧力に上昇させる主構成用ガス圧縮器の吸込部で測定することができる。
【0039】
パラメータii)は、構成用ガスの流量の変化の速さの指標を提供する。前記パラメータの使用は、流量の時間微分を測定することを含みうる。
【0040】
パラメータiii)は、凝縮器又はループの別の選択された場所、例えば変換器入口における圧力の直接検出によって取得することができる。通常、アンモニア合成ループ内のすべてのアイテムは、圧力降下及び起こり得る高さの差を除いて、実質的に同じ圧力で動作する。したがって、ループ圧力及び変換器内の圧力は、通常、同じであると考えられる。
【0041】
パラメータiv)は、変換器に入る供給ガスの温度と、変換器から引き出されるアンモニア含有生成物の温度との間の差である。この差は、変換器デルタ-Tと呼ぶこともできる。
【0042】
パラメータv)は、変換器の供給流中の水素と窒素のモル濃度の比に対応する。前記比は例えば、ガス分析及び/又は生成される水素及び窒素の流量の測定によって測定することができる。この比率は好ましくは3近くに維持されるが、これはこの数値からの逸脱が1つの反応物が大部分不活性として作用することを意味するからである。
【0043】
パラメータvi)は、変換器から引き出された高温アンモニア含有気体生成物が凝縮され、液体アンモニアが得られる合成ループの凝縮部におけるアンモニアの凝縮の最低温度に対応する。
【0044】
好ましい実施形態では、迂回ガスの量は、上記パラメータiii)及び/又はパラメータiv)を、全負荷での通常動作に近い目標範囲内に維持するように決定される。
【0045】
変換器デルタ-Tは、好ましくは全負荷でのデルタ-Tと比較して選択された範囲内に維持される。通常、部分負荷時の変換器デルタTは、全負荷時の変換器デルタTよりも小さい。許容可能なデルタ-T変動はアンモニア変換器の実施形態に依存し得、例えば、マルチ触媒床変換器は全負荷から部分負荷に移るときに、より大きなデルタ-T変動を経験し得る。好ましくは、部分負荷での変換器デルタ-Tは、通常の全負荷動作条件での変換器デルタ-Tを基準として、±60℃、より好ましくは±40℃又は±50℃の範囲にある。
【0046】
パラメータvii)は、触媒床が急速な過渡現象の間、最小運転温度下に落ちることを避けるために特に重要である。例えば、触媒質量の温度が所与の閾値を下回ると、触媒は不活性になり得、合成反応は事実上停止される。したがって、本発明の好ましい特徴は、変換器の少なくとも1つの触媒床に流入するガスの温度を検出することと、検出された温度に従って変換器の迂回流を決定することとを含む。
【0047】
ほとんどの場合、アンモニア変換器は、直列に配置され、かつガスの流れ(gas flow)が順番に(sequentially)横切っていく複数の触媒床を含む。そのような場合、本プロセスは、好ましくは順番(sequence)の少なくとも最初の触媒床の温度を検出することを含む。これは、構成用ガスの新鮮な流れを受け取り、反応性が最も高い最初の触媒床は、その温度変化が非常に急速であるため、制御に最も重要であり得るからである。
【0048】
触媒床の入口温度はクエンチフロー又は迂回流を調節することによって制御することができるが、ただし、これらの方法は、高反応性の最初の触媒床を制御するのには十分でないか、又は十分に速くはない場合があることに留意されたい。
【0049】
マルチ触媒床変換器の場合、制御は少なくとも1つの触媒床の入口温度が定められた値を下回るとき、又は変換器デルタTが定められた値を下回るとき、変換器を迂回し始めるように設定され得る。
【0050】
部分負荷条件は、フロントエンドから合成ループに移送される合成ガスが公称流量の20%又はそれよりも下まで、例えば公称流量の15%となるまでの負荷を含みうる。実際に許容される最低部分負荷は、水素源に依存し得る。水素源がアルカリ電解槽によって提供される用途では、通常、最も低い許容部分負荷とみなされるのは20%の部分負荷である。異なる水素源の場合、部分負荷はより低く(20%未満)に達しうる。いくつかの実施形態では、10%という低い部分負荷に達しうる。
【0051】
迂回ガスの量は、変換器内又はループ内の圧力、触媒床のうちの1つ又は複数の入口温度、上記で定義した変換器デルタ-T、のうちの1つ又は複数に基づいて決定しうる。これらのパラメータは、部分負荷条件における適切な迂回流量の決定のための重要なパラメータと見なしうる。構成用ガス流量及びアンモニア凝縮温度の変動のような他のパラメータは、滑らかでより安定した動作を提供するために、迂回流量の計算を精緻化するために有利に使用され得る。
【0052】
一実施形態では、流量急減(drop of flow)又は流量急増(surge of flow)に対しては専用の制御が提供される。流量急減という用語は、フロントエンドから合成ループに移送される構成用ガスの量の急激な減少を意味する。流量急増という用語は、フロントエンドから合成ループに移送される構成用ガスの量の急激な増加を意味する。
【0053】
本発明のさらなる態様は、フロントエンドから合成ループに移送される構成用ガスの流量の急減又は急増を検出し、流量急減の場合に迂回流中のガスの量を増加させる、又は流量急増の場合に前記量を減少させることを提供する。
【0054】
特に、流量急減の場合、好ましい実施形態では:
迂回ガス量が増加され;
その後、変換器内の圧力、又は変換器デルタ-Tを、一定の値又は目標の狭い範囲内に維持するように、迂回ガスの量が制御される。
【0055】
流量急増の場合、好ましい実施形態では:
迂回ガス量が減らされ;
その後、変換器内の圧力、又は変換器デルタ-Tを、一定の値又は目標の狭い範囲内に維持するように、迂回ガスの量が制御される。
【0056】
上述の2つの事象の両方において、迂回ガスの量は、流量の急減又は急増が検出された直後にそれぞれ増加又は減少される。迂回流量の増加/減少は、合成ループに対する関連効果の検出ではなく、例えば主ガス圧縮器の吸込部で、流量の急減又は急増を検出するのに即応して直接操作される。
【0057】
流量急減の場合、反応は例えば、入力ガスの低温に起因して失われ得る。特に、入力ガス温度が所与の閾値を下回ると、触媒はもはや活性でなくなり、化学反応は停止する。迂回ガスの量の増加は、この望ましくない結果を回避する。
【0058】
流量急増加の場合は、ループ圧力が急激に上昇し、安全弁が開く。迂回ガスの量の減少が、この望ましくない結果を回避する。
【0059】
フィードフォワード制御を使用して、上述の流量急減又は流量急増の事象に反応させることができる。
【0060】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、変換器を迂回する構成用ガスを、サーキュレーターの吸込部に再導入する前に、冷却するステップを含む。
【0061】
迂回ガスの量は、適切な制御システムによって制御することができる。一実施形態では例えば、制御システムは、例えば、主圧縮器の吸込部で、利用可能な構成用ガスの量の信号、及び、合成ループの現在の動作状態を反映する1つ又は複数の信号を受信する。前記信号は例えば、変換器内の圧力、変換器デルタ-T、触媒床のガス入口温度を含みうる。ループの流量及び動作状態に関する入力に基づいて、制御システムは、例えば、ループの迂回ライン上に配置された弁の開位置を制御することによって、迂回流量を決定しうる。
【0062】
図面の記載
次に、本発明の実施形態によるアンモニア合成ループのスキームを示す
図1を参照して、本発明をさらに説明する。
図1において、ブロック1は、構成用アンモニア合成ガス(合成ガス)2を生成するフロントエンドを示す。構成用ガス2は、圧縮ガス4を合成ループ5に送出する主圧縮器3に供給される。
【0063】
ループ5は基本的に、サーキュレーター6と、変換器7と、凝縮器8と、セパレータ9とを備える。凝縮器8は凝縮部を形成し、分離器9は分離部を形成する。
【0064】
ガス供給は、変換器供給ライン10を通して変換器7に供給される。ライン11における高温アンモニア含有気体生成物は変換器7から引き出され、凝縮器8において凝縮され、ライン12における凝縮物は分離器9において、ライン13を通して排出される液体アンモニア生成物と、いくらかの未反応の水素及び窒素ならびにアンモニアの残留蒸気を含有するライン14における気相とに分離され、サーキュレーター6の吸込部に再循環される。
【0065】
サーキュレーター6から変換器7への供給ライン10は、変換器7、凝縮器8、及び分離器9を迂回する迂回ライン15に接続され、したがって、サーキュレーター7の送出側をその吸込部側に戻すように接続する。迂回ライン15は、任意選択的にバイパス冷却機16を備える。
【0066】
ライン10、11及び14は、熱交換機(図示せず)を含みうる。
【0067】
迂回ライン15には、前記ライン15を通る流量を制御する弁17が設けられている。この例では、弁17が制御ユニット19に接続されたコントローラ18を有する。
【0068】
制御ユニット19は、フロントエンド1からの構成用ガスの流入流量を検出するように構成された流量計20に接続されている。例えば、流量計20は、主圧縮器3の吸込部の構成用ガス2の流量を感知する。
【0069】
制御ユニット19はまた、例えばライン10上の変換器入口における圧力を検出するループ圧力センサ21にも接続される。
【0070】
制御ユニット19は、流量計20及びループ圧力センサ21からの入力信号に基づいて、弁17の適切な開口、ひいては迂回ライン15内を流れるガスの量を計算する。
【0071】
主圧縮器3の急増防止ライン22も図示されている。前記ライン22は、ガス冷却器23を含む。急増防止ライン22により、ライン4から抜き取られたガスの一部を、主圧縮器3の吸込部に送り返すことができる。
【0072】
動作中、サーキュレーター6は、主圧縮器3によって送出され、ループ分離器9の頂部からライン14を通して気相と混合され、場合によってはライン15内の迂回ガスと混合された圧縮構成用ガス4を、その吸込部入口24で受け取る。
【0073】
サーキュレーター6の送出側25における流量の一部は、弁17の位置に応じて迂回ライン15へと逸れ得、残りの分は送出ライン10を通して変換器7に供給される。
【0074】
変換器7は、100%容量、例えば約140バールの、公称アンモニア合成圧力(ループ圧力とも呼ばれる)を有する。部分負荷では、制御ユニット19が弁17を作動させて、変換器7に実際に入っていく構成用ガスの量を変化させ、ループ及び変換器内の圧力、例えば、センサ21によって検出された圧力を、目標範囲内に保つ。
【0075】
別の実施形態では、ライン15内の循環及び迂回流量は、例えば、変換器入力ライン10における変換器入口温度T10及びライン11における変換器出力温度T11を取ることにより、変換器デルタTに基づいて制御することができる。本実施形態において、制御ユニット19は、変換器デルタT(T11-T10)を目標範囲内に収めるように構成されていてもよい。特に、システムは、変換器が過熱すること及び温度が最小値を下回ること(これらは変換器の自立状態の喪失を惹起する)が回避されるように構成されうる。
【0076】
さらに、制御ユニット19は、ゲージ20によって測定された流量の急速な変化に反応するように構成されてもよい。例えば、制御ユニット19は構成用ガス2の流量が急激に低下した場合に、バルブ17が予め開くように指示してもよい。このステップにおいて、ユニット19は、フィードフォワード制御技術を用いて動作することができる。そして、ユニット19は、ループ圧力を安定に保つために通常制御に切り替わる。同様に、制御ユニット19は、弁を閉じることによって流量急増に反応することができる。
【実施例】
【0077】
実施例1
以下の実施例1は、3メートルトン/日(MTD)のアンモニア容量を有する小規模アンモニア生成プラントに関する。記号m3/hEFFは、合成ループの温度と圧力の条件における1時間当たりの立方メートルを示す。記号「Nm3/h」は、通常条件である大気圧0℃時の立方メートル/時を示す。表は、バイパス弁の開口を作動する第1の触媒床の入口温度を示す。圧力は、バールゲージ(バールg)で与えられる。
【0078】
【0079】
実施例2
以下の実施例2は、1000MTDのアンモニアを定格とする大型アンモニア生成プラントに関する。パラメータは実施例1と同じである。
【0080】
【国際調査報告】