(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-04
(54)【発明の名称】運動ニューロン神経変性障害の治療のための抗TREM1中和抗体の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231127BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231127BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20231127BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231127BHJP
【FI】
A61K39/395 N
C07K16/18
A61P25/02
A61K39/395 D
A61P21/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526660
(86)(22)【出願日】2020-11-02
(85)【翻訳文提出日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 EP2020080672
(87)【国際公開番号】W WO2022089767
(87)【国際公開日】2022-05-05
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケイディウ、アイリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ガッサー、ジュリエン
(72)【発明者】
【氏名】キーニー、ジェイムス マルティン
(72)【発明者】
【氏名】スピリオトポウロス、アナスタシオス
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス、ジョナサン マーク
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、運動ニューロン変性障害、特に筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するための、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動ニューロン変性障害の治療を必要とする対象において運動ニューロン変性障害を治療する方法であって、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片を前記対象に全身投与することを含む、方法。
【請求項2】
運動ニューロン変性障害の治療に使用するための、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片が、全身投与される、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
運動ニューロン変性障害を治療するための全身投与用の医薬の製造のための、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項4】
前記抗体又はその抗原結合断片が、TREM1と1つ以上のその天然リガンドとの相互作用を妨げる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項5】
前記天然リガンドがペプチドグリカン認識タンパク質1(PGLYRP1)である、請求項4に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項6】
前記運動ニューロン変性障害が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項7】
ALSが、SOD1遺伝子における変異の存在を特徴とする、請求項5に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項8】
前記抗体若しくはその抗原結合断片を皮下又は静脈内に投与する、請求項1~4のいずれかに記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又はその使用。
【請求項9】
前記抗体又はその抗原結合断片が少なくとも50nMの親和性でTREM1に結合する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項10】
前記治療がミクログリアのニューロン取り込みを減少させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項11】
前記治療がミクログリアの遊走を阻害する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項12】
前記遊走がスクラッチ創傷アッセイを使用して測定される、請求項11に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項13】
前記抗体又はその抗原結合断片がミクログリアにおける食作用の速度を低下させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項14】
前記抗体又はその抗原結合断片がモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項15】
前記抗体又は抗原結合断片が、ヒト抗体、ヒト化抗体若しくはキメラ抗体、又はそれらの抗原結合断片である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項16】
前記抗体が完全長抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体又は使用。
【請求項17】
前記抗体又は抗原結合断片がヒト重鎖定常領域及びヒト軽鎖定常領域を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項18】
前記抗体がIgGアイソタイプである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体又は使用。
【請求項19】
前記抗体がIgG1又はIgG4である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法、抗体又は使用。
【請求項20】
前記抗TREM1抗体又は抗原結合断片が、1つ以上の薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤又は担体を含む医薬組成物として提供される、請求項1~19のいずれかに記載の方法、抗体若しくはその抗原結合断片、又は使用。
【請求項21】
ミクログリアの食作用能及び/又はミクログリアの遊走能を阻害するin vitro又はex vivo方法であって、前記方法が、ミクログリア細胞を、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片と接触させること、及びこれをインキュベートすることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動ニューロン変性障害の治療、より詳しくは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に使用するための抗TREM1抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脊髄、脳幹及び一次運動皮質における運動ニューロン変性を引き起こす遺伝的及び非遺伝的要因によって引き起こされる多因子神経変性疾患である(Al-Chalabi and Hardiman,2013)。ALS症例の90%は孤発性(sALS)であるが、5%~20%がこの疾患の家族歴(fALS)を報告する(Al-Chalabi他、2017)。
【0003】
家族性ALS症例の大多数は、スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子(SOD1)における遺伝子変異、及びC9ORF72をコードする遺伝子における反復ヌクレオチド伸長に起因する(家族性ALSの約40~50%及び孤発性ALSの約10%)(Philips et al,2015)。ALSの最も一般的に使用されるトランスジェニックマウスモデルであるSOD1マウスは、ヒトALS病理の多くの症状を再現する。SOD1マウスモデルは、ALSの機序及びこの状態を治療する可能性のある方法を理解することを目的として、基礎研究及び橋渡し研究において広く研究されている。
【0004】
ALSの孤発性形態及び家族性形態は、ほとんどの神経病理学的特徴を共有する。同様の生物学的経路が両方において影響を受ける(Butovsky et al,2012;Lincencum et al,2010)。同時に、臨床症状は、年齢、疾患発症部位、疾患進行速度及び生存に関して不均一である(Beers,D.R.et.al.2019)。ALSは、非細胞自律性疾患である。運動ニューロン死に至るプロセスは多因子性であり、遺伝的要因と環境的要因との間の複雑な相互作用を反映する。臨床研究からの証拠は、免疫応答の調節不全がこの不均一性に寄与することを示唆している。
【0005】
神経炎症(異常なミクログリア及び末梢免疫活性化)は、ALSの遺伝的形態及び孤発性形態を駆動する病理学的機構の共通点及び収束点である。免疫活性化が疾患開始に関与するかどうかは完全には明らかではないが、疫学的研究は、喘息、セリアック病、潰瘍性大腸炎及び他のものを含む自己免疫疾患がALSに先行することを示している(Turner et al.,2013)。更に、疾患の前臨床モデルにおける研究は、ミクログリアの調節が疾患進行速度に有意に影響を及ぼすことを示唆している(Harms et al.,2014;Boille et.al.,2006)。
【0006】
骨髄系細胞(TREM)上に発現されるトリガー受容体は、ヒト6P21番染色体及びマウス17番染色体に対するMHC遺伝子クラスターマッピングによってコードされる免疫活性化及び免疫阻害アイソフォームを含む受容体である。TREMは、末梢の単球、好中球、及び樹状細胞、並びに中枢神経系(CNS)のミクログリアを含む骨髄系統の細胞で主に発現される免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのメンバーである。骨髄細胞に発現されるトリガー受容体-1(TREM1)は、最初に同定されたTREMファミリーのメンバーであり、Igスーパーファミリーの他の受容体との相同性は限られている。TREM1は、単一のIg様ドメイン、そのシグナル伝達パートナーDAP12上の負に荷電したアスパラギン酸と相互作用する(+)荷電リジン残基を有する膜貫通領域、及びシグナル伝達ドメインを欠く短い細胞質尾部を有する膜貫通糖タンパク質である(Colona,2003)。ペプチドグリカン認識タンパク質1(PGRP1)、高移動度群B1(HMGB1)、可溶性CD177、熱ショックタンパク質70(HSP70)等の提案された天然リガンドとの相互作用によるTREM1活性化は、「head-to-tail」TREM1ホモ二量体の形成を誘導することが提案されている。架橋は、動員されたDAP12上の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)のリン酸化を誘発し、これは、脾臓チロシンキナーゼ(SYK)、並びにゼータ鎖関連タンパク質キナーゼ70(ZAP70)、casitas b系統リンパ腫(Cbl)、セブンレスの息子(son of sevenless)(SOS)、及び増殖因子受容体結合タンパク質2(GRB2)を含むその下流シグナル伝達パートナーのドッキング部位を提供することによってシグナル伝達及び機能を可能にする。これらの相互作用は、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路、ホスホリパーゼ-C-γ2(PLC-γ2)経路及びERK経路を介して下流のシグナル伝達を引き起こす。これらの事象の後に、カルシウム動員、ETS含有タンパク質(ELK1)、活性化T細胞の核因子(NFAT)、AP1、c-fos、c-Jun及びNF-κBを含む転写因子の活性化が続く。そのリガンドとの相互作用によって、又はToll様受容体及びNOD様受容体(NLR)の様々なメンバーとのTREM1相互作用によって誘発されるこれらの経路は、下流で、炎症促進性サイトカイン(MCP1、IL-8、MCSF、IL6、TNFα、IL-β等)の放出、単球及び樹状細胞における共刺激分子の増加、並びに好中球における脱顆粒をもたらす(Buchon et al,2000)。
【0007】
米国特許出願公開第2018/0318379号は、TREM1活性及び/又は発現を阻害する任意のアンチセンス剤、RNAi剤、ゲノム編集剤、抗体又はペプチドが、急性又は慢性中枢神経系障害を有する対象を治療するために使用され得ることを開示している。
【0008】
米国特許第9,000,127号は、TREM1とそのリガンドとの相互作用を破壊する抗TREM1抗体を提供する。開示される抗体は、関節リウマチ及び炎症性腸疾患等の炎症性疾患を有する個体の治療のために提供される。
【0009】
国際公開第2017/152102号は、TREM1タンパク質に結合し、1つ以上のTREM1活性を調節又は増強する抗体を開示している。
【0010】
ALSの機序を理解するためにかなりの研究がなされているが、ALSの発症及び/又は発達を治療し、予防し、及び/又は遅延させるための更なる治療法又は代替療法に対する大きな関心及び必要性が依然として存在する。本発明は、その必要性に対処する。
【0011】
本発明は、TREM1に結合してこれを中和する抗体が運動ニューロン変性状態、より具体的にはALSの治療に有効であることを初めて実証する。本発明は、抗TREM1抗体が、ミクログリアのニューロン取り込み及びミクログリア遊走活性をin vivoで低下させることによって脳及び脊髄の炎症を減弱させることを初めて実証する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、TREM1の役割が、ALS等のニューロン変性障害の状態におけるミクログリア不適応神経毒性応答の重要な増強剤であることを実証する。具体的には、TREM1調節は、ミクログリアのニューロン取り込み、炎症促進性サイトカイン放出及びミクログリア/末梢免疫遊走活性をin vitro、ex vivo及びin vivoモデルのALSにおいて低下させ、ALSのSOD1G93Aマウスモデルにおいて脳及び脊髄の炎症を減弱させる。本発明は、TREM1を中和する抗TREM1抗体を全身注射することにより、脳及び脊髄組織において、ALS疾患表現型を減少させ、かつ治療効果を達成するための十分なレベルのそのような抗体が提供されることを初めて明らかにする。
【0013】
本発明は、運動ニューロン変性障害の治療を必要とする対象において運動ニューロン変性障害を治療する方法であって、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、運動ニューロン変性障害の治療に使用するための抗TREM1抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0015】
本発明はまた、運動ニューロン変性障害を治療するための医薬を製造するための抗TREM1抗体又はその抗原結合断片の使用を提供する。
【0016】
より具体的には、運動ニューロン変性障害は筋萎縮性側索硬化症である。
【0017】
本発明を、以下の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、ザイモサン粒子の取り込みがWTミクログリアと比較してTREM1-/-ミクログリアにおいて減少したことを示す。
図1Bに示すように、TREM1-/-ミクログリアにおける食作用速度のこの低下は統計学的に有意であった(エラーバー±SEM;30分時点;****p<0.0001;スチューデントのt検定)。
【0019】
【
図2】
図2は、創傷後24時間の創傷領域へのミクログリア遊走が、WTミクログリアと比較してTREM1-/-ミクログリアにおいてより低かったことを示す。黒い線は、初期創傷境界を示す。
図2Bに示すように、TREM1-/-ミクログリアの遊走能のこの低下は統計学的に有意であった(16時間及び24時間の時点;エラーバー±SEM;****p<0.0001;スチューデントのt検定)。
【0020】
【
図3】
図3は、LPS刺激後、MCP-1のレベルが、WTミクログリアと比較して、TREM1-/-ミクログリアから収集した上清において有意に低かったことを示す(エラーバー±SEM;**p<0.01;スチューデントのt検定)。
【0021】
【
図4】
図4は、創傷後24時間の創傷領域へのBV2遊走が、アイソタイプ抗体又はビヒクル処理ミクログリアと比較して、抗TREM1処理ミクログリアにおいてより低かったことを示す。黒い線は、初期創傷境界を示す。
図4Bに示すように、抗TREM1処理BV2ミクログリアの遊走能のこの低下は統計学的に有意であった(24時間時点;エラーバー±SEM;*p<0.05、**p<0.01;一元配置ANOVAに続いてテューキーの多重比較検定)。
【0022】
【
図5】
図5は、PGN-BS単独又はPGN-BS+PGLYRP1によるMDMの処理が、PGLYRP1単独又は未処理対照と比較して、3名の異なるドナー由来のMDMからのTNF-α、IL-1β、IL-6及びIL-8の放出を増加させたことを示す(エラーバー±SEM;****p<0.0001;二元配置ANOVAに続いて全てのドナーの全体平均のテューキーの多重比較検定)。3人のドナーのうち3人について、PGN-BS+PGLYRP1処理後のIL-1βレベルは、PGN-BS単独と比較して高かった(エラーバー±SEM;***P<0.001;二元配置ANOVAに続いて全てのドナーの全体平均のテューキーの多重比較検定)。3人のドナーのうち2人について、TNF-α及びIL-6のレベルは、PGN-BS+PGLYRP1処理後、PGN-BS単独と比較してより高かった(エラーバー±SEM;***p<0.001;二元配置ANOVAに続いて全てのドナーの全体平均のテューキーの多重比較検定)。IL-8レベルは、3名全てのドナーにおいて、PGN-BS処理とPGN-BS+PGLYRP1処理との間で有意差はなかった。
【0023】
【
図6】
図6は、ザイモサン粒子の取り込み及びIba1+食細胞の数が、WTミクログリアと比較してTREM1-/-ミクログリアにおいて減少したことを示す。(B)及び(C)に示されるように、貪食された生体粒子及びIba1+食細胞の数のこの減少は統計学的に有意であった(エラーバー±SEM;TREM1-/-についてはn=5及びWTについてはn=6;TREM1-/-については遺伝子型あたり合計n=23の脳切片、WTについては合計n=14の脳切片;*p<0.05;スチューデントのt検定)。
【0024】
【
図7】
図7は、シナプトソームの取り込みが、WTミクログリアと比較してTREM1-/-ミクログリアにおいて有意に減少したことを示す(エラーバー±SEM;遺伝子型あたりマウスn=3、遺伝子型あたりn=12の脳切片、*p<0.05;スチューデントのt検定)。
【0025】
【
図8】
図8は、TREM1-/-マウス由来のミクログリアもまた、それらの形態の著しい変化を示したことを示す。
図8B及び8Cに示されるように、形態におけるこの修飾は、WT対照と比較して、TREM1-/-ミクログリアにおける有意に長く、より分岐した突起によって反映される(エラーバー±SEM;TREM1-/-についてはマウスn=5、及びWTについてはマウスn=6;TREM1-/-についてはn=28の脳切片、WTについてはn=14の脳切片;*p<0.05;スチューデントのt検定)。
【0026】
【
図9】
図9は、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスが、アイソタイプ処理SOD1-G93A対照と比較してミクログリオーシスの減少を示したことを示す。(B)に示すように、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウス由来のミクログリアは、アイソタイプ処理対照と比較して食作用性取り込み(ミクログリア効率)の減少を示した。抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスでは、食作用性ミクログリアの総数(ミクログリア存在量)も減少した。
図9Cは、
図9Aの画像からの前角領域を示す(n=5 SOD1マウス/群;平均±SEM一元配置ANOVA;*p<0.05;**p<0.01)。
【0027】
【
図10】
図10は、TREM1抗体によるSOD1-G93Aマウスの処理が、アイソタイプ処理SOD1-G93A対照と比較して、共刺激分子(CD40、CD80、CD86)及び他の活性化マーカー(CD68、CSFR1)のレベルを低下させたことを示す(エラーバー±SEM;処理あたりマウスn=6;**p<0.01、***p<0.001;****p<0.0001;偽発見率(FDR)アプローチを用いたスチューデントのt検定)。
図10Bに示すように、いくつかの共刺激分子及び他の活性化マーカーは、アイソタイプ処理SOD1-G93A対照と比較して、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスにおいて有意に減少した(矢印は、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスにおける有意な変化を表す)。
【0028】
【
図11】
図11は、t分布型確率的近傍埋め込み法(tSNE)で解析及び平均されたデータが、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスにおいて、脳及び脾臓のそれぞれにおける全免疫細胞の21.57%及び28.80%が抗TREM1抗体について陽性であったことを示したことを示す。
【0029】
【
図12】
図12は、(A)マウスTREM1構造(左)及びヒトTREM1(中央)上で強調されたMAB1187エピトープを有するマウス及びヒトTREM1の三次元表現を示す。ヒトTREM1上のPGLYRP1エピトープも示す(右側の構造)。(B)強調され下線が引かれたMAB1187(上及び中央)及びPGLYRP1(下)のエピトープとのヒト及びマウスのTREM1配列アラインメント。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、一般に、インタクト(全)抗体、すなわち2本の完全長の重鎖及び軽鎖の要素を含む抗体に関する。抗体は、例えば国際公開第2007/024715号に開示されているような分子DVD-Ig、又は国際公開第2011/030107号に記載されているいわゆる(FabFv)2Fcのような更なる追加の結合ドメインを含み得る。したがって、本明細書で用いられる抗体は、二価、三価又は四価の完全長抗体を含む。抗体可変ドメイン中の残基は、従来、Kabat et al.によって考案されたシステムに従ってナンバリングされる。このシステムは、Kabat et al.,1987,in Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Department of Health and Human Services,NIH,USA(以下「Kabat et al.(前出)」)に記載されている。このナンバリングシステムは、別段の指示がない限り、本明細書で使用される。
【0031】
Kabat残基の名称は、アミノ酸残基の直鎖状のナンバリングと必ずしも直接対応しない。実際の直鎖状アミノ酸配列は、フレームワーク又は相補性決定領域(CDR)にかかわらず、基本可変ドメイン構造の構造成分の短縮又はそこへの挿入に対応する厳密なKabatナンバリングよりも少ない又は追加のアミノ酸を含み得る。残基の正しいKabatナンバリングは、抗体の配列おける相同性の残基と「標準的な」Kabatナンバリング配列とのアラインメントによって、所与の抗体について決定され得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「抗原結合断片」又は「抗原結合断片」という用語は、従来の抗原結合断片構造、例えばFab断片、修飾Fab、Fab’、又はF(ab’)2断片を含み得る。抗体は、酵素、例えば、パパイン(2つのFab断片及びFc断片を産生する)、及びペプシン(F(ab’)2断片及びpFc’断片を産生する)等によって断片に切断され得る。抗原結合断片はまた、非従来型構造を含み得る(すなわち、抗原結合能を保持することによって抗原結合断片活性を模倣するポリペプチドを含む代替フォーマットの抗体の抗原結合部分を含む)。これに関して、抗原結合断片としては、ドメイン抗体又はナノボディ、例えばVH、VL、VHH及びVNARベースの構造、一本鎖抗体(scFv)、ペプチボディ又はペプチド-Fc融合体、並びにダイアボディ、トリアボディ及びテトラボディのような二量体及び多量体抗体様分子、又はオリゴマー化ドメインに連結されたscFvからなる異なるフォーマットを含むミニボディ(miniAbs)が挙げられる。多重特異性抗原結合断片の例としては、それぞれ国際特許出願公開第2009040562号、同第2010035012号、同第2011/08609号、同第2011/030107号及び同第2011/061492号に記載されているFab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、Fab-scFv-scFv、Fab-Fv-Fc及びFab-dsFv-PEG断片が挙げられ、これらは全て、抗原結合部分の検討に関して参照により本明細書に組み込まれる。Fab又はFab’は、PEG分子又はヒト血清アルブミンにコンジュゲートさせることができる。多重特異性抗原結合断片の更なる例としては、直列に連結されたVHH断片が挙げられる。代替的な抗原結合断片は、2つのscFv又はdsscFvに連結されたFabを含み、各scFv又はdsscFvは同じ又は異なる標的(例えば、治療標的に結合する1つのscFv又はdsscFvと、例えばアルブミンに結合することによって半減期を延長する1つのscFv又はdsscFv)に結合する。そのような抗原結合断片は、国際特許出願公開第2015/197772号に記載されており、その全体が、特に抗原結合断片の検討に関して、参照により本明細書に組み込まれる。抗原結合断片及びそれらを作製する方法は、当技術分野で周知であり、例えば、Verma et al.,1998,Journal of Immunological Methods,216,165-181;Adair and Lawson,2005.Therapeutic antibodies.Drug Design Reviews-Online 2(3):209-217を参照されたい。本開示との関連で使用することも企図される多重特異性抗体又はその抗原結合断片の例としては、二価、三価又は四価抗体、Bis-scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、バイボディ及びトリボディ(例えば、Holliger and Hudson,2005,Nature Biotech 23(9):1126-1136;Schoonjans et al.2001,Biomolecular Engineering,17(6),193-202を参照されたい)が挙げられる。
【0033】
「キメラ抗体」又は機能的キメラ抗原結合断片いう用語は、本明細書では、1つの種に見られる配列に由来する又はそれに対応する定常抗体領域及び別の種に由来する可変抗体領域を有する抗体分子として定義される。好ましくは、定常抗体領域は、ヒトに見られる配列に由来するか、又はそれに対応し、可変抗体領域(例えばVH、VL、CDR又はFR領域)は、非ヒト動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、サル又はハムスターに見られる配列に由来する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「ヒト化抗体分子」又は「ヒト化抗体」という用語は、重鎖及び/又は軽鎖が、アクセプター抗体(例えば、ヒト抗体)の重鎖及び/又は軽鎖可変領域フレームワークにグラフトされたドナー抗体(例えば、マウスモノクローナル抗体等の非ヒト抗体)由来の1つ以上のCDRを含む(所望であれば、1つ以上の修飾CDRを含む)抗体分子を指す。総説については、Vaughan et al,Nature Biotechnology,16,535-539,1998を参照されたい。一実施形態では、全CDRが移されるのではなく、本明細書中上記で記載されるCDRのいずれか1つに由来する特異性決定残基のうち1つ以上のみがヒト抗体フレームワークに移入される(例えば、Kashmiri et al.,2005,Methods,36,25-34を参照)。一実施形態では、本明細書中上記で記載される1つ以上のCDRに由来する特異性決定残基のみが、ヒト抗体フレームワークに移入される。別の実施形態では、上記のCDRのそれぞれからの特異性決定残基のみがヒト抗体フレームワークに移入される。
【0035】
ヒト化抗体(CDR移植抗体を含む)は、非ヒト種由来の1つ以上の相補性決定領域(CDR)及びヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する抗体分子である(例えば、米国特許第5,585,089;国際公開第91/09967号を参照)。CDR全体ではなくCDRの特異性決定残基を移入するだけでよいことが理解されよう(例えば、Kashmiri et al.,2005,Methods,36,25-34を参照)。ヒト化抗体は、任意に、CDRが由来する非ヒト種に由来する1つ以上のフレームワーク残基を更に含み得る。後者は、ドナー残基と呼ばれることが多い。
【0036】
本明細書で使用される場合、「IgG」又は「IgG免疫グロブリン」又は「免疫グロブリンG」又は「IgG抗体」という用語は、免疫グロブリンガンマ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドに関する。より具体的なIgGは、サブクラス又はアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む。IgG抗体は、2つの重鎖及び2つの軽鎖で構成されるマルチドメイン四量体タンパク質である。IgG重鎖は、VH-CH1-CH2-CH3の順序でN末端からC末端に連結された4つの免疫グロブリンドメインで構成され、それぞれ重鎖可変ドメイン、重鎖定常ドメイン1、重鎖定常ドメイン2、及び重鎖定常ドメイン3を指す。IgG軽鎖は、N末端からC末端にVL-CLの順序で連結された2つの免疫グロブリンドメインから構成され、それぞれ軽鎖可変ドメイン及び軽鎖定常ドメインを指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、「アイソタイプ」という用語は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4抗体)を指す。より具体的には、「アイソタイプ」という用語はIgG抗体クラスを指す。
【0038】
抗体及び抗原結合断片に関連して、「単離(された)」という用語は、異なる結合特異性を有する他の抗体又は抗原結合断片を実質的に含まない抗体又はその抗原結合断片を指す。更に、抗TREM1抗体又は抗原結合断片は、他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「エフェクター分子」という用語は、例えば、抗新生物剤、薬物、毒素、生物学的に活性なタンパク質、例えば酵素、他の抗体又は抗原結合断片、合成又は天然に存在するポリマー、核酸及びその断片、例えばDNA、RNA及びその断片、放射性核種、特に放射性ヨウ化物、放射性同位体、キレート化金属、ナノ粒子及びレポーター基、例えば蛍光化合物又はNMR若しくはESR分光法によって検出され得る化合物を含む。
【0040】
本明細書で使用される場合、「TREM1ポリペプチド」又は「TREM1タンパク質」は、野生型配列と天然に存在するバリアント配列の両方を指す。TREM1は、限定されないが、マクロファージ、樹状細胞、単球、皮膚のランゲルハンス細胞、クッパー細胞、破骨細胞、好中球及びミクログリアを含む骨髄系統細胞上に主に発現される234アミノ酸の免疫グロブリン様受容体膜タンパク質である。いくつかの例では、TREM1は、DAP12との受容体シグナル伝達複合体を形成する。いくつかの例では、TREM1は、DAP12を介してリン酸化及びシグナル伝達を行い得る。TREM1の任意の断片又はバリアントは、「TREM1ポリペプチド」及び「TREM1タンパク質」という用語の範囲内である。
【0041】
本発明のTREM1タンパク質には、哺乳動物TREM1タンパク質、ヒトTREM1タンパク質(Uniprot受託番号Q9NP99;配列番号1)、マウスTREM1タンパク質(Uniprot受託番号Q9JKE2;配列番号2)、ラットTREM1タンパク質(Uniprot受託番号D4ABU7;配列番号3)、アカゲザルTREM1タンパク質(Uniprot受託番号F6TBB4;配列番号4)が含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの「断片」という用語は、末端又は内部の欠失等によって参照配列よりも短いことによって参照ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列とは異なる任意のポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。例えば、バリアントは、選択的mRNAスプライシングの結果であり得る。選択的mRNAスプライシングは、異なる機能及び調節特性を有する異なるタンパク質産物に翻訳され得る複数の形態のmRNAを生成することによって、組織特異的な遺伝子発現パターンをもたらし得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「バリアント」又は「バリアント(複数)」という用語は、それぞれ参照ポリヌクレオチド又はポリペプチドとは異なるポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。バリアント及び参照ポリペプチドは、任意の組み合わせで存在し得る1つ以上の置換、付加、欠失、融合及びトランケーションによってアミノ酸配列が異なり得る。
【0044】
「誘導体」又は「バリアント」は、一般に、天然に存在するアミノ酸の代わりに、配列に現れるアミノ酸がその構造類縁体であるものを含む。抗体との関連で、配列に使用されるアミノ酸はまた、抗体の機能が有意に悪影響を受けない限り、誘導体化又は修飾、例えば標識されていてもよい。
【0045】
誘導体及びバリアントは、抗体の合成中又は産生後修飾によって、又は抗体が部位特異的突然変異誘発、ランダム突然変異誘発、又は核酸の酵素的切断及び/又はライゲーションの公知の技術を使用して組換え形態である場合に調製され得る。
【0046】
本明細書で使用される場合、「同一性」という用語は、整列した配列の任意の特定の位置で、アミノ酸残基が配列間で同一であることを示す。
【0047】
同一性の程度は、容易に計算することができる(Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing.Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part 1,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987,Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York,1991,the BLASTTM software available from NCBI(Altschul,S.F.et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403-410;Gish,W.&States,D.J.1993,Nature Genet.3:266-272.Madden,T.L.et al.,1996,Meth.Enzymol.266:131-141;Altschul,S.F.et al.,1997,Nucleic Acids Res.25:3389-3402;Zhang,J.&Madden,T.L.1997,Genome Res.7:649-656,)。
【0048】
抗体は、それが特異的(又は選択的)であるタンパク質に優先的又は高親和性で結合するが、他のタンパク質に実質的に結合しないか、又は低親和性で結合する場合、タンパク質に「特異的に結合する」又はタンパ質を「特異的に認識する」又はタンパク質に「特異的である」。抗体の選択性は、抗体が上記のように他の関連タンパク質に結合するかどうか、又はそれらを区別するかどうかを決定することによって更に研究することができる。本明細書で用いられる特異的とは、それが特異的である抗原のみを認識する抗体、又はそれが非特異的である抗原への結合と比較して、それが特異的である抗原に対して有意に高い結合親和性、例えば少なくとも5、6、7、8、9、10倍高い結合親和性を有する抗体を指すことを意図する。結合親和性は、国際公開第2014/019727号に記載されているようなBIAcore等の技術によって測定され得る。
【0049】
特異的(又は選択的)とは、抗体が任意の他の分子に対する有意な交差反応性なしに目的のタンパク質に結合することが理解されるであろう。交差反応性は、BIAcore等の任意の適切な方法によって評価することができる。抗体の交差反応性は、抗体が目的のタンパク質に結合するのと少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は100%強く他の分子に結合する場合、有意であると見なされ得る。
【0050】
抗体に関連して「調節する」という用語は、それらの標的抗原に結合し、抗原機能を調節する(例えば、減少/阻害又は活性化/誘導する)抗体を指す。例えば、TREM1の場合、調節抗体は、TREM1へのリガンド結合及び/又は1つ以上のTREM1活性を調節する。
【0051】
「中和抗体」という用語は、その標的(標的タンパク質)の生物学的シグナル伝達活性を阻害又は減弱することができる抗体又はその抗原結合断片を表す。
【0052】
本明細書で使用される場合、抗体及び抗原結合断片との関連で、「ブロッキング」という用語は、他の結合剤がその抗原に結合するのを妨げる(例えば受容体を閉塞する等)抗体及び抗原結合断片を指すが、抗体又はその抗原結合断片が、例えば立体配座変化を引き起こすエピトープに結合する場合も含み、これは、受容体に対する天然リガンドがもはや結合しないことを意味する。
【0053】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容され得る担体」は、生理学的に適合性のあるありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤等を含む。担体は、例えば注射又は注入による非経口、例えば静脈内、筋肉内、皮内、眼内、腹腔内、皮下、脊髄又は他の非経口投与経路に適し得る。或いは、担体は、局所、表皮又は粘膜投与経路等の非経口投与に適していてもよい。担体は、経口投与に適し得る。投与経路に応じて、モジュレーターは、化合物を不活性化し得る酸及び他の自然条件の作用から化合物を保護するために材料でコーティングされ得る。
【0054】
「薬学的に許容され得る賦形剤」(ビヒクル、添加剤)は、対象哺乳動物に合理的に投与することができ、用いられる有効成分の有効用量を提供することができる不活性物質である。これらの物質は、抗体の物理的、化学的及び生物学的構造を安定化するために製剤に添加される。この用語はまた、意図された投与様式に適した等張性製剤を得るために必要とされ得る添加剤を指す。
【0055】
「対象」、「個体」又は「患者」は、本明細書では互換的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。哺乳動物としては、マウス、ラット、サル、ヒト、家畜、スポーツ動物及びペットが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
本明細書で使用される場合、「運動ニューロン疾患」という用語は、主に(必ずしも排他的ではないが)運動ニューロン、神経筋入力又は神経筋接合部での信号伝達に影響を及ぼす疾患を指す。上記の運動ニューロン疾患としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、重症筋無力症(MG)、脊髄性筋萎縮症(SMA)又はシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
「予防する」又は「予防」等の用語は、疾患又はその症状を完全に又は部分的に予防するという点で予防効果を得ることを指す。したがって、予防することは、疾患に罹りやすい可能性があるが、疾患を有するとまだ診断されていない対象において疾患が生じるのを止めることを包含する。
【0058】
「治療」、「治療すること」等の用語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを指す。効果は、疾患の部分的又は完全な治癒及び/又は疾患に起因する有害作用に関して治療的であり得る。したがって、治療は、(a)疾患を阻害すること、すなわち、その発生を停止させること;(b)疾患を軽減すること、すなわち、疾患の退縮を引き起こすことを包含する。
【0059】
治療用途では、抗体及び抗原結合断片は、上記の障害又は状態に既に罹患している対象に、1つ以上のその状態又はその症状を治癒、緩和又は部分的に停止させるのに十分な量で投与される。そのような治療的処置は、疾患症状の重症度の低下、又は無症状期間の頻度若しくは持続期間の増加をもたらし得る。これを達成するのに十分な量を「治療有効量」と定義する。
【0060】
本明細書で使用される場合、「非経口投与」という用語は、通常は注射による、経腸及び局所(topical)投与以外の投与様式を意味する。
【0061】
本明細書で使用される場合、「全身投与」は、身体の循環系(心血管系及びリンパ系を含む)への投与を意味し、したがって、胃腸管(例えば、経口又は直腸投与を介して)及び呼吸器系(例えば鼻腔内投与を介して)等の特定の場所ではなく全体として身体に影響を及ぼす。全身投与は、例えば、筋肉組織(筋肉内)、真皮(皮内、経皮、又は皮上)、皮膚の下(皮下)、粘膜の下(粘膜下)、静脈(静脈内)等に投与することによって行うことができる。
【0062】
抗TREM1抗体及びその抗原結合断片
本発明は、TREM1に結合してこれを中和する抗体及びその結合断片が、ミクログリア機能が影響を受ける疾患の治療のために使用され得ることを実証する。そのような機能は、運動ニューロン変性障害、特にALSにおいて重要である。TREM1の1つ以上の活性を阻害する抗体及びその抗原結合断片が特に有用である。より具体的には、抗体及び抗原結合断片は、TREM1とその1つ以上の天然リガンドとの相互作用を妨げる。
【0063】
本明細書に記載されるように、本発明で使用するための抗体は、完全長の重鎖及び軽鎖を有する完全抗体分子を含む。或いは、本発明は抗原結合断片を用いる。
【0064】
好ましくは、当該抗TREM1抗体及びその抗原結合断片は、単離された抗体及びその抗原結合断片である。
【0065】
抗原結合断片及びそれらを作製する方法は、当技術分野で周知であり、例えば、Verma et al.,1998,Journal of Immunological Methods,216,165-181;Adair and Lawson,2005.Therapeutic antibodies.Drug Design Reviews-Online 2(3):209-217を参照されたい。本開示との関連で使用することも企図される多重特異性抗体又はその抗原結合断片の例としては、二価、三価又は四価抗体、Bis-scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、バイボディ及びトリボディ(例えば、Holliger and Hudson,2005,Nature Biotech 23(9):1126-1136;Schoonjans et al.2001,Biomolecular Engineering,17(6),193-202を参照されたい)が挙げられる。
【0066】
TREM1ポリペプチドに対して生成された抗体は、動物の免疫化が必要な場合、周知の慣習的なプロトコルを使用して動物、好ましくは非ヒト動物にポリペプチドを投与することによって得ることができる(例えば、Handbook of Experimental Immunology,D.M.Weir(ed.),Vol 4,Blackwell Scientific Publishers,Oxford,England,1986)を参照)。ウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ウシ、ラクダ又はブタ等の多くの温血動物を免疫化することができる。しかしながら、マウス、ウサギ、ブタ及びラットが一般に最も適している。
【0067】
本発明で使用するための抗体はまた、例えばBabcook,J.et al.,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(15):7843-7848l;国際公開第92/02551号;国際公開第2004/051268号、及び国際特許出願番号WO2004/106377号に記載されている方法による具体的な抗体の産生のために選択される単一リンパ球から生成される免疫グロブリン可変領域のcDNAをクローニング及び発現させることによって、単一リンパ球抗体法を使用して生成され得る。
【0068】
より具体的には、抗TREM1抗体はモノクローナル抗体である。特定の実施形態では、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、TREM1に特異的である。
【0069】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術(Kohler&Milstein,1975,Nature,256:495-497)、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al.,1983,Immunology Today,4:72)、及びEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,pp77-96,Alan R Liss,Inc.,1985)等の当技術分野で公知の任意の方法によって調製することができる。
【0070】
一実施形態では、本開示による抗体又は断片はヒト化されている。より具体的には、その抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、ヒト抗体、ヒト化抗体若しくはキメラ抗体又はその抗原結合断片である。
【0071】
適切には、本発明によるヒト化抗体又はその抗原結合断片は、ヒトアクセプターフレームワーク領域並びに1つ以上のCDRを含み、任意に1つ以上のドナーフレームワーク残基を更に含む可変ドメインを有する。したがって、一実施形態では、可変ドメインがヒトアクセプターフレームワーク領域及び非ヒトドナーCDRを含む、TREM1に結合するヒト化抗体が提供される。
【0072】
CDR又は特異性決定残基がグラフトされる場合、マウス、霊長類及びヒトフレームワーク領域を含む、CDRが由来するドナー抗体のクラス/タイプを考慮して、任意の適切なアクセプター可変領域フレームワーク配列が使用され得る。
【0073】
所望であれば、本発明で使用するための抗体は、1つ以上のエフェクター分子(複数可)にコンジュゲート化され得る。エフェクター分子は、本発明の抗体に結合され得る単一部分を形成するように連結された単一のエフェクター分子又は2つ以上のそのような分子を含み得ることが理解されるであろう。エフェクター分子に連結された抗体断片を得ることが望ましい場合、これは、抗原結合断片が直接又はカップリング剤を介してエフェクター分子に連結される標準的な化学的又は組換えDNA手順によって調製され得る。そのようなエフェクター分子を抗体にコンジュゲートさせるための技術は、当技術分野で周知である(Hellstrom et al.,Controlled Drug Delivery,2nd Ed.,Robinson et al.,eds.,1987,pp.623-53;Thorpe et al.,1982,Immunol.Rev.,62:119-58 and Dubowchik et al.,1999,Pharmacology and Therapeutics,83,67-123を参照)。特定の化学的手順としては、例えば、国際公開第93/06231号、国際公開第92/22583号、国際公開第89/00195号、国際公開第89/01476号及び国際公開第03/031581号に記載されているものが挙げられる。或いは、エフェクター分子がタンパク質又はポリペプチドである場合、例えば国際公開第86/01533号及び欧州特許第0392745号に記載されるように、組換えDNA手順を使用して連結を達成することができる。
【0074】
抗体又はその抗原結合断片は、結合ドメインを含む。結合ドメインは、一般に、3つが重鎖由来であり、3つが軽鎖由来である、6つのCDRを含む。一実施形態では、CDRはフレームワーク内にあり、共に可変領域を形成する。したがって、一実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含むTREM1に特異的な結合ドメインである。
【0075】
本発明において使用され得るヒトフレームワークの例は、KOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY及びPOM(Kabat et al.、前出)である。例えば、KOL及びNEWMを重鎖に使用することができ、REIを軽鎖に使用することができ、EU、LAY及びPOMを重鎖及び軽鎖の両方に使用することができる。或いは、ヒト生殖系列配列を使用してもよく、これらは、http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/で入手可能である。
【0076】
本発明のヒト化抗体において、アクセプター重鎖及び軽鎖は、必ずしも同じ抗体に由来する必要はなく、所望であれば、異なる鎖に由来するフレームワーク領域を有する複合鎖を含み得る。
【0077】
より具体的には、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、ヒト重鎖定常領域及びヒト軽鎖定常領域を含む。
【0078】
より具体的には、その抗TREM1抗体は完全長抗体である。より具体的には、その抗TREM1抗体はIgGアイソタイプのものである。より具体的には、抗TREM1抗体は、IgG1、IgG4からなる群から選択される。
【0079】
本発明の抗体分子の定常領域ドメインは、存在する場合、抗体分子の提案された機能、特に必要とされ得るエフェクター機能を考慮して選択され得る。例えば、定常領域ドメインは、ヒトIgA、IgD、IgE、IgG又はIgMのドメインであり得る。特に、抗体分子が治療用途を意図し、抗体エフェクター機能が必要とされる場合、ヒトIgG定常領域ドメイン、特にIgG1及びIgG3アイソタイプを使用することができる。或いは、抗体分子が治療目的を意図しており、抗体エフェクター機能が必要とされない場合、IgG2及びIgG4アイソタイプを使用してもよい。これらの定常領域ドメインの配列バリアントも使用され得ることが理解されるであろう。例えば、Angal et al.,Molecular Immunology,1993,30(1),105-108に記載されているように、241位のセリンがプロリンに変化したIgG4分子を使用してもよい。抗体が様々な翻訳後修飾を受け得ることも当業者によって理解されるであろう。これらの修飾の種類及び程度は、多くの場合、抗体を発現するために使用される宿主細胞株並びに培養条件に依存する。そのような修飾には、グリコシル化、メチオニン酸化、ジケトピペラジン形成、アスパラギン酸異性化及びアスパラギン脱アミド化のバリエーションが含まれ得る。頻繁な修飾は、カルボキシペプチダーゼの作用によるカルボキシ末端塩基性残基(リジン又はアルギニン等)の喪失である(Harris,RJ.Journal of Chromatography 705:129-134,1995に記載されている)。したがって、抗体重鎖のC末端リジンは存在しなくてもよい。
【0080】
一実施形態では、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、少なくとも100mM、50mM、30nMの親和性でTREM1に結合する。
【0081】
抗体又はその抗原結合断片の親和性、並びに抗体又はその抗原結合断片が結合を阻害する程度は、従来の技術、例えばScatchard et al.(Ann.KY.Acad.Sci.51:660-672(1949))に記載されている技術を使用して、又はBIAcore等のシステムを使用する表面プラズモン共鳴(SPR)によって当業者により決定され得る。表面プラズモン共鳴の場合、標的分子を固相に固定化し、フローセルに沿って移動する移動相中のリガンドに曝露する。固定化された標的にリガンドが結合すると、局所屈折率が変化してSPR角が変化し、反射光の強度の変化を検出することによってリアルタイムで監視することができる。SPRシグナルの変化速度を分析して、結合反応の会合相及び解離相の見かけの速度定数を得ることができる。これらの値の比は、見かけの平衡定数(親和性)を与える(例えば、Wolff et al,Cancer Res.53:2560-65(1993)を参照)。
【0082】
本発明の抗体及び抗原結合断片は、1つ以上のTREM1活性を阻害する。そのような阻害は、例に記載される効果、特にミクログリアの機能及び遊走に対する効果並びに異なるマーカーのレベルをもたらす。本発明の抗体及びその抗原結合断片は、TREM1(遮断抗体及びその抗原結合断片)を遮断するか、又は他のタンパク質、例えばペプチドグリカン認識タンパク質1(PGLYRP1)、高移動度群B1(HMGB1)、可溶性CD177、熱ショックタンパク質70(HSP70)等のその天然リガンドとのTREM1相互作用を妨害し得る。好ましい実施形態では、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、TREM1とPGLYRP1との相互作用を遮断するか又は妨げる。
【0083】
抗体に関する、特に結合親和性及び結合特異性、並びに活性に関する本明細書の開示は、抗原結合断片及び抗体様分子にも適用可能である。抗原結合断片はまた、モノクローナル、キメラ、ヒト化、完全ヒト、多重特異性、二重特異性等として特徴付けることができ、これらの用語の議論は抗原結合断片にも関連することが理解されよう。
【0084】
一例では、抗体及びその抗原結合断片は、配列番号1によって定義されるTREM1に結合する。或いは、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1によって定義されるTREM1ポリペプチド又はその任意のバリアント若しくは断片、より具体的にはその任意の天然に存在するバリアント若しくは断片に結合する。特に、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%同一のポリペプチド配列に結合する。
【0085】
上記の抗体及びその抗原結合断片は、参照及び例示のみを目的として記載されており、本発明の範囲を限定するものではない。
【0086】
TREM1を阻害する抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、共刺激分子(例えば、CD40、CD80、CD86等)及び活性化マーカー(例えば、CD68、CSFR1等)のレベルを低下させる。特に、それらはCD40、CD80、CD86、CD68及びCSFR1のうち1つ以上のレベルを低下させる。
【0087】
抗体又はその抗原結合断片はまた、ミクログリアの遊走を阻害する。ミクログリアの遊走は、スクラッチ創傷アッセイを用いて測定することができる。そのようなアッセイは、細胞遊走を測定するために一般的に使用される。
【0088】
本発明によって実証されるように、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片はまた、ミクログリアにおける食作用速度の低下を示す。
【0089】
特定の実施形態では、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、I45、M46、K47、N50、Q71、R72、P73、T75、R76、P77、S78、S92、及びE93から選択される1つ以上の残基を含むマウスTREM1上のエピトープに結合する(残基のナンバリングは配列番号2に従う)。
【0090】
これらの残基はマウスTREM1の特定の配列について提供されているが、当業者は、日常的な技術を用いてこれらの残基の位置を他の対応するTREM1ポリペプチド(例えば、ヒト又はラット)に容易に外挿することができた。したがって、これらの他のTREM1配列内の対応する残基を含むエピトープに結合する抗体も本発明によって提供される。
【0091】
より具体的には、本発明では、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、L45、E46、K47、S50、E71、R72、P73、K75、N76、S77、H78、D92、及びH93から選択される1つ以上の残基を含むヒトTREM1上のエピトープに結合する(残基ナンバリングは配列番号1に従う)。
【0092】
特定の実施形態では、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、TREM1とPGLYRP1との相互作用を妨げる。
【0093】
特定のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harb.,NY)に記載されているもの等の日常的なクロスブロッキングアッセイを実施することができる。他の方法としては、アラニンスキャニング変異体、ペプチドブロット(Reineke(2004)Methods Mol Biol 248:443-63)、又はペプチド切断分析が挙げられる。更に、エピトープ切除、エピトープ抽出及び抗原の化学修飾等の方法を用いることができる(Tomer(2000)Protein Science 9:487-496)。そのような方法は当技術分野で周知である。
【0094】
抗体エピトープはまた、X線結晶構造解析によって決定され得る。したがって、本発明の抗体は、TREM1に結合した抗体のX線結晶構造解析によって評価することができる。
【0095】
抗TREM1抗体及びその抗原結合断片のin vitro及びex vivoでの使用
本発明は、ミクログリアの食作用能及び/又はミクログリアの遊走能を阻害するin vitro又はex vivo方法であって、ミクログリア細胞を、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片と接触させ、インキュベートすることを含む、方法を提供する。より具体的には、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、その1つ以上の天然リガンドとのTREM1の相互作用を妨げる。好ましい実施形態では、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、TREM1とPGLYRP1との相互作用を妨げる。
【0096】
細胞は、一般に、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片がTREM1に結合し、生物学的効果を引き起こすのに十分な時間インキュベートされる。
【0097】
抗TREM1抗体又はその抗原結合断片を含む方法は、本明細書の例に記載される生物学的効果を達成するために使用することができる。
【0098】
抗TREM1抗体及びその抗原結合断片の治療的使用
本発明は、TREM1の役割が、ALS等のニューロン変性障害の状態におけるミクログリア不適応神経毒性応答の重要な増強剤であることを実証する。具体的には、TREM1阻害は、本明細書の例に記載されるように、ミクログリアニューロン取り込み、炎症促進性サイトカイン放出及びミクログリア/末梢免疫遊走活性をin vitro、ex vivo及びin vivoモデルにおいて低下させ、ALSのSOD1G93Aマウスモデルにおいて脳及び脊髄の炎症を減弱させる。ALSにおけるTREM1阻害は、ミクログリア、末梢免疫異常及び神経毒性活性化を抑止することによって、疾患進行を停止又は減弱させることができる。
【0099】
本発明は、それを必要とする対象の運動ニューロン変性障害を治療又は予防する方法であって、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片を対象に投与することを含む方法を提供する。そのような抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、治療有効量で投与される。特に、そのような治療又は予防は、ミクログリアのニューロン取り込み及びミクログリア遊走活性を低下させることによって達成される。
【0100】
本発明はまた、運動ニューロン変性障害の治療に使用するための、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0101】
特に、例によって実証されるように、抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、ミクログリアのニューロン取り込み及びミクログリア遊走活性を低下させることによって、ニューロン変性障害と診断された対象の脳及び脊髄の炎症を減弱させる。
【0102】
その結果、本発明は、ニューロン変性障害と診断された対象の脳及び脊髄の炎症を減弱する方法であって、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片を当該対象に投与することを含む方法を提供する。
【0103】
更に別の実施形態では、本発明は、ニューロン変性障害と診断された対象の脳及び脊髄の炎症を減弱させるのに使用するための、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0104】
特に、脳及び脊髄の炎症のそのような減弱は、ミクログリアのニューロン取り込み及びミクログリア遊走活性を低下させることによって達成される。
【0105】
より具体的には、当該運動ニューロン変性障害は筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。具体的な一実施形態では、ALSは、スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子(SOD1)における変異を特徴とする。
【0106】
医薬組成物
抗TREM1抗体又はその抗原結合断片は、医薬組成物において提供され得る。医薬組成物は通常無菌であり、薬学的に許容され得るアジュバント及び/又は担体を更に含み得る。
【0107】
TREM1に結合してこれを中和する抗体は、本明細書に記載の障害又は状態の治療及び/又は予防に有用であることから、本発明はまた、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片を、1つ以上の薬学的に許容され得る担体、賦形剤又は希釈剤と組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0108】
特に、抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上の薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤又は担体を含む医薬組成物として提供される。
【0109】
これらの組成物は、治療有効成分(複数可)に加えて、薬学的に許容され得る賦形剤、担体、希釈剤、緩衝剤、安定剤又は当業者に周知の他の材料を含み得る。そのような材料は非毒性であるべきであり、有効成分の有効性を妨害してはならない。
【0110】
抗体又は抗体をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む医薬製剤を含む、組成物も提供される。特定の実施形態では、組成物は、TREM1に結合してこれを中和する1つ以上の抗体、又はTREM1に結合してこれを中和する1つ以上の抗体をコードする配列を含む1つ以上のポリヌクレオチドを含む。これらの組成物は、当技術分野で周知の適切な担体、例えば薬学的に許容され得る賦形剤及び/又は緩衝剤を含むアジュバントを更に含み得る。
【0111】
本発明の抗体の医薬組成物は、所望の純度を有するそのような抗体を、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態の1つ以上の任意の薬学的に許容され得る担体と混合することによって調製される。
【0112】
上記の技術及びプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,20th Edition,2000,pub.Lippincott,Williams&Wilkinsに見ることができる。
【0113】
薬学的に許容され得る担体は、一般に、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、限定されないが、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸等の緩衝液:アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジン;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。本明細書における例示的な薬学的に許容され得る担体としては、間質性薬物分散剤、例えば、可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)が更に挙げられる。rHuPH20を含む特定の例示的なsHASEGP及び使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号及び同第2006/0104968号に記載されている。一態様では、sHASEGPは、コンドロイチナーゼ等の1つ以上の追加のグリコサミノグリカナーゼと組み合わされる。
【0114】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤としては、米国特許第6,171,586号及び国際公開第2006/044908号に記載されているものが含まれ、後者の製剤はヒスチジン-酢酸緩衝液を含む。
【0115】
有効成分は、例えばコアセルベーション技術によって、又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース、又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)に、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)に、又はマクロエマルジョンに封入され得る。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に記載されている。
【0116】
徐放性製剤も調製され得る。徐放性調製物の適切な例としては、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは成形物品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。
【0117】
in vivo投与に使用される製剤は、一般に無菌である。滅菌は、例えば滅菌濾過膜による濾過によって容易に達成され得る。
【0118】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤としては、米国特許第6,171,586号及び国際公開第2006/044908号に記載されているものが含まれ、後者の製剤はヒスチジン-酢酸緩衝液を含む。
【0119】
医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容され得る塩を含み得る。
【0120】
薬学的に許容され得る担体は、水性担体又は希釈剤を含む。本発明の医薬組成物に用いられ得る適切な水性担体の例としては、水、緩衝水及び生理食塩水が挙げられる。他の担体の例としては、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)及びそれらの適切な混合物、オリーブ油等の植物油、並びにオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルが挙げられる。多くの場合、等張剤、例えば糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、又は塩化ナトリウムを組成物に含めることが望ましい。
【0121】
医薬組成物は、典型的には、製造及び貯蔵の条件下で無菌かつ安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、又は高薬物濃度に適した他の秩序構造物として製剤化することができる。
【0122】
一実施形態では、抗TREM1抗体が唯一の有効成分である。別の実施形態では、抗TREM1抗体は、1つ以上の追加の有効成分と組み合わせられる。或いは、医薬組成物は、唯一の有効成分である本発明の抗体を含み、他の薬剤、薬物又はホルモンと組み合わせて(例えば、同時に、連続的に、又は別々に)患者に個別に投与され得る。
【0123】
担体又は他の材料の正確な性質は、投与経路、例えば経口、静脈内、皮膚又は皮下、経鼻、筋肉内及び腹腔内の経路に依存し得る。例えば、固体経口形態は、活性物質と共に、希釈剤、例えばラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、コーンスターチ又はジャガイモデンプン;潤滑剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム若しくはステアリン酸カルシウム、及び/又はポリエチレングリコール;結合剤、例えば、デンプン、アラビアガム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルピロリドン;離解剤(disaggregating agent)、例えばデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩又はデンプングリコール酸ナトリウム;発泡混合物;染料;甘味料;湿潤剤、例えばレシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩、並びに一般に、医薬製剤に使用される非毒性及び薬理学的に不活性な物質を含有し得る。そのような医薬製剤は、例えば、混合、造粒、打錠、糖衣又はフィルムコーティングプロセスによって公知の方法で製造することができる。
【0124】
経口製剤には、例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等のような通常用いられる賦形剤が含まれる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤又は粉末の形態をとり、10%~95%、好ましくは25%~70%の有効成分を含有する。医薬組成物が凍結乾燥される場合、凍結乾燥材料は、投与前に再構成され得る(例えば、懸濁液)。再構成は、好ましくは緩衝液中で行われる。
【0125】
静脈内投与又は注入のための溶液は、担体として、例えば滅菌水を含有してもよく、又は好ましくは滅菌水性等張食塩水の形態であってもよい。
【0126】
好ましくは、医薬組成物はヒト化抗体を含む。
【0127】
治療有効量及び投与量の決定
抗TREM1抗体及び医薬組成物は、必要とされる治療有効量を同定するために患者に適切に投与され得る。任意の抗体について、治療有効量は、細胞培養アッセイ又は動物モデル、通常はげっ歯類、ウサギ、イヌ、ブタ又は霊長類のいずれかで最初に推定することができる。動物モデルを使用して、適切な濃度範囲及び投与経路を決定することもできる。次いで、そのような情報を使用して、ヒトにおける有用な用量及び投与経路を決定することができる。
【0128】
ヒト対象に対する正確な治療有効量は、疾患状態の重症度、対象の全身の健康状態、対象の年齢、体重及び性別、食事、投与の時間及び頻度、薬物の組み合わせ(複数可)、反応感受性及び治療に対する耐性/応答に依存する。組成物は、用量あたり所定量の本開示の活性剤を含有する単位用量形態で好都合に提供され得る。本明細書中に記載される実施形態のいずれかのための用量範囲及びレジメンは、1mg~1000mg単位用量の範囲の用量が含まれるが、これらに限定されない。
【0129】
抗体又は医薬組成物の適切な投与量は、当業者によって決定され得る。医薬組成物中の有効成分の実際の投与量レベルは、患者に有毒ではなく、特定の患者、組成物、及び投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効な有効成分の量を得るように変化させることができる。選択される投与量レベルは、用いられる特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、用いられる特定の化合物の排泄速度、治療の期間、用いられる特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物及び/又は材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態及び以前の病歴、並びに医学分野で周知の同様の因子を含む様々な薬物動態学的因子に依存する。
【0130】
適切な用量は、例えば、治療される患者の約0.01μg/kg~約1000mg/kg体重、典型的には約0.1μg/kg~約100mg/kg体重の範囲であり得る。
【0131】
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療応答)を提供するように調整され得る。例えば、単回用量を投与してもよく、いくつかの分割用量を経時的に投与してもよく、又は治療状況の緊急性によって示されるように用量を比例的に減少又は増加させてもよい。本明細書で使用される場合、投与単位形態は、治療される対象に対する単位投与量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要とされる医薬担体と関連して所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性化合物を含有する。
【0132】
医薬組成物又は製剤の投与
抗体又は医薬組成物は、当技術分野で公知の様々な方法のうち1つ以上を使用して、1つ以上の投与経路を介して投与され得る。当業者には理解されるように、投与経路及び/又は投与様式は、所望の結果に応じて変化する。抗体又は医薬組成物の投与経路の例としては、例えば注射又は注入による、静脈内、筋肉内、皮内、眼内、腹腔内、皮下、脊髄又は他の非経口投与経路が挙げられる。或いは、抗体又は医薬組成物は、局所、表皮又は粘膜投与経路等の非経口経路を介して投与され得る。抗体又は医薬組成物は、経口投与用であり得る。
【0133】
投与に適した形態としては、例えば注射又は注入による、例えばボーラス注射又は持続注入による、静脈内、吸入可能又は皮下形態での非経口投与に適した形態が挙げられる。製品が注射又は注入用である場合、それは油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液又はエマルジョンの形態をとることができ、懸濁剤、保存剤、安定剤及び/又は分散剤等の追加の薬剤を含有することができる。或いは、本発明による抗体又はその抗原結合断片は、使用前に適切な滅菌液で再構成するための乾燥形態であってもよい。注射前の液体ビヒクル中への溶解又は液体ビヒクル中への懸濁に適した固体形態も調製することができる。
【0134】
好ましくは、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片を全身投与する。より具体的には、そのような抗体又は抗原結合断片は、皮下又は静脈内に投与される。
【0135】
製剤化されると、医薬組成物は対象に直接投与され得る。
【0136】
製品及びキット
TREM1に結合してこれを中和する抗体及びその抗原結合断片を含むキット、並びに使用説明書も提供される。キットは、1つ以上の追加の試薬、例えば上で検討される追加の治療薬又は予防薬を更に含み得る。
【0137】
特定の実施形態では、製造品又はキットは、本発明の1つ以上の抗体又は本明細書に記載される組成物を含有する容器を含む。特定の実施形態では、製造品又はキットは、本明細書に記載の1つ(又は複数)の抗体をコードする核酸(複数可)又は組成物を含有する容器を含む。いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載の抗体を産生する細胞株の細胞を含む。
【0138】
したがって、運動ニューロン変性障害を治療するための医薬を製造するための、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片の使用が本明細書で提供される。
【0139】
本発明はまた、ニューロン変性障害と診断された対象における脳及び脊髄の炎症を減弱させるための医薬の製造のための、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片の使用を提供する。
【0140】
特定の実施形態では、製品又はキットは、容器と、容器上の又は容器に関連するラベル又は添付文書とを含む。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグ等が挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチック等の様々な材料から形成され得る。容器は、それ自体で、又は治療、予防及び/又は診断に有効な別の組成物と組み合わせて組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有してもよい。組成物中の少なくとも1つの薬剤は、本発明の抗体である。ラベル又は添付文書は、組成物が運動ニューロン変性障害の治療に使用されることを示す。
【0141】
より具体的には、当該運動ニューロン変性障害は筋萎縮性側索硬化症(ALS)である。具体的な一実施形態では、ALSは、スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子(SOD1)における変異を特徴とする。
【0142】
上記の実施形態は本発明を限定するものではなく例示するものであり、当業者は特許請求の範囲から逸脱することなく多くの代替実施形態を設計することができることに留意されたい。特許請求の範囲において、括弧の間に置かれたいかなる参照符号も、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0143】
例
例1.TREM1ノックアウトはin vitroでミクログリア食作用を調節する
ミクログリアの食作用能に対するTREM1ノックアウトの効果を、pH感受性蛍光プローブコンジュゲート化ザイモサン食作用アッセイを使用して評価した。初代ミクログリアを単離するため、出生後7~8日目のTREM1-/-マウス(Charles River)及びB6NTac野生型(WT)適合対照(Taconic)から前脳を最初に単離した。製造業者の指示に従ってパパイン解離システム(Worthington)を使用して、髄膜を慎重に除去し、脳を解離させた。ホモジネートを40μmセルストレーナー(Falcon)で濾過し、完全培地に再懸濁した。次いで、単一細胞懸濁液をT75フラスコに移し、5%CO2中37℃で7日間インキュベートした。ミクログリアを、フラスコを37℃、200rpmで1時間振盪することによって混合グリア細胞培養物から単離し、20ng/mlの担体非含有マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF;ThermoFisher)を含む完全培地に再懸濁し、96ウェル(Greiner)プレートにおいて20,000細胞/ウェルの密度で7日間増殖させた。次いで、細胞を、pHrodo(登録商標)コンジュゲート化ザイモサン生体粒子(ウェルあたり12.5μg/ml;ThermoFisher)と共に30分間インキュベートした。InCell Analyzer 6000システム(GE Healthcare Life Sciences)を使用してアッセイ中に画像を取得し、InCellDeveloper Toolbox v1.9を使用して細胞セグメント化及び粒子計数を行った。
【0144】
図1Aに示すように、ザイモサン粒子の取り込みは、WTミクログリアと比較してTREM1-/-ミクログリアにおいて有意に減少した。
【0145】
例2.TREM1ノックアウトはin vitroでミクログリアの遊走能力を低下させる
ミクログリアの遊走能に対するTREM1ノックアウトの効果を、スクラッチ創傷遊走アッセイを用いて評価した。初代ミクログリアを単離するため、出生後7~8日目のTREM1-/-マウス(Charles River)及びB6NTac野生型(WT)適合対照(Taconic)から前脳を最初に単離した。製造業者の指示に従ってパパイン解離システム(Worthington)を使用して、髄膜を慎重に除去し、脳を解離させた。ホモジネートを40μmセルストレーナー(Falcon)で濾過し、完全培地に再懸濁した。次いで、単一細胞懸濁液をT75フラスコに移し、5%CO2中37℃で7日間インキュベートした。ミクログリアを、フラスコを37℃、200rpmで1時間振盪することによって混合グリア細胞培養物から単離し、20ng/mlの担体非含有マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF;ThermoFisher)を含む完全培地に再懸濁し、2ウェル培養インサート24ウェル(Ibidi)プレートにおいて30,000細胞/インサートの密度で7日間増殖させた。細胞を、およそ80%コンフルエンスに達するまで、5%CO2中、37℃でインキュベートした。次いで、培養インサートを慎重に除去し、続いて新鮮な完全培地で細胞単層を洗浄し、EVOSデジタル倒立光学顕微鏡を使用してスクラッチ領域を画像化した。ImageJを使用して、スクラッチ領域へのミクログリア細胞遊走の程度を定量化した。
【0146】
図2Aに示すように、創傷後24時間の創傷領域へのミクログリア遊走は、WTミクログリアと比較してTREM1-/-ミクログリアにおいて有意に低かった。
【0147】
例3.TREM1ノックアウトはin vitroでLPS刺激ミクログリアにおいてMCP-1のレベルを低下させる
ミクログリアが走化性シグナルを分泌する能力に対するTREM1ノックアウトの効果を評価するため、単球/マクロファージの遊走及び浸潤を調節する重要なケモカインであるMCP-1(CCL-2)のレベルをリポ多糖(LPS)刺激後に測定した。初代ミクログリアを単離するため、出生後7~8日目のTREM1-/-マウス(Charles River)及びB6NTac野生型(WT)適合対照(Taconic)から前脳を最初に単離した。製造業者の指示に従ってパパイン解離システム(Worthington)を使用して、髄膜を慎重に除去し、脳を解離させた。ホモジネートを40μmセルストレーナー(Falcon)で濾過し、完全培地に再懸濁した。次いで、単一細胞懸濁液をT75フラスコに移し、5%CO2中37℃で7日間インキュベートした。ミクログリアを、フラスコを37℃、200rpmで1時間振盪することによって混合グリア細胞培養物から単離し、20ng/mlの担体非含有マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF;ThermoFisher)を含む完全培地に再懸濁し、96ウェル(Greiner)プレートにおいて30,000細胞/ウェルの密度で7日間増殖させた。ミクログリアを大腸菌(Escherichia coli)(O55:B5;Sigma-Aldrich)由来の1μg/mlのLPSで24時間処理し、MCP-1レベルの分析のために上清を集めた(MesoScale Discovery)。
【0148】
図3に示すように、LPS刺激後、MCP-1のレベルは、WTミクログリアと比較して、TREM1-/-ミクログリアから収集した上清において有意に低かった。
【0149】
例4.抗TREM1抗体はin vitroでミクログリアの遊走能を低下させる
TREM1抗体がミクログリアの遊走能を調節する能力を、スクラッチ創傷アッセイを用いて評価した。BV2ミクログリア細胞を、加湿インキュベータ内、10%ウシ胎児血清(FBS;ThermoFisher)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S;ThermoFisher)を補充した完全培地:DMEM GlutaMAX(ThermoFisher)中、37℃、5%CO2で維持した。BV2ミクログリアを、2ウェル培養インサート24ウェルプレート(Ibidi)に30,000細胞/インサートの密度で播種した。細胞を、およそ80%コンフルエンスに達するまで、5%CO2中、37℃でインキュベートした。次いで、培養インサートを慎重に除去し、続いて新鮮な完全培地で細胞単層を洗浄した。次いで、細胞をアイソタイプ(IgG2A、MAB006、R&D Systems)又は抗マウスTREM1(MAB1187、R&D Systems)抗体で処理し、EVOSデジタル倒立光学顕微鏡を使用してスクラッチ領域を画像化した。ImageJを使用して、スクラッチ領域へのミクログリア細胞遊走の程度を定量化した。
【0150】
図4に示すように、創傷後24時間の創傷領域へのBV2遊走は、アイソタイプ抗体又はビヒクル処理ミクログリアと比較して、抗TREM1抗体処理ミクログリアにおいてより低かった。
【0151】
例5.天然TREM1リガンドを使用したTREM1活性化は、単球由来マクロファージからの炎症促進性サイトカインの放出を誘導する
炎症促進性サイトカインの放出に対する提案された天然TREM1リガンドを使用したTREM1活性化の効果を評価するために、ヒト単球由来マクロファージ(MDM)を枯草菌(Bacillus subtilis)由来のペプチドグリカン(PGN-BS)及びペプチドグリカン認識タンパク質1(PGLYRP1)で刺激した。MDMを生成するため、健常ヒトドナーから白血球除去によって単球を最初に単離した。細胞を、40ng/mlの担体非含有マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF;Thermo Fisher)を補充した完全培地(DMEM Glutamax+10%FBS+1%P/S)に再懸濁し、24ウェル(Falcon)プレート中、5×105細胞/mlの密度で、加湿インキュベータ内で5%CO2にて37℃で7日間培養した。次いで、MDMを以下のように24時間処理した:未処理対照、PGN-BS(3μg/ml;InvivoGen)、PGLYRP1(1μg/ml;R&D Systems)及びPGN-BS+PGLYRP1。次いで、TNF-α、IL-1β、IL-6及びIL-8レベルの分析のため上清を収集した(MesoScale Discovery及びR&D Systems Quantikineキット)。
【0152】
図5に示すように、PGN-BS単独又はPGN-BS+PGLYRP1によるMDMの処理は、PGLYRP1単独又は未処理対照と比較して、3名の異なるドナー由来のMDMからのTNF-α、IL-1β、IL-6及びIL-8の放出を増加させた。3人全てのドナーについて、PGN-BS+PGLYRP1処理後のIL-1βレベルは、PGN-BS単独と比較して高かった。3人のドナーのうち2人について、TNF-α及びIL-6レベルは、PGN-BS+PGLYRP1処理後、PGN-BS単独と比較してより高かった。IL-8レベルは、3名全てのドナーにおいて、PGN-BS処理とPGN-BS+PGLYRP1処理との間で有意差はなかった。
【0153】
例6.TREM1ノックアウトはex vivoでミクログリア食作用を調節する
ミクログリアの食作用能に対するTREM1ノックアウトの効果を、ex vivo急性マウス脳切片におけるpH感受性蛍光プローブコンジュゲート化ザイモサン食作用アッセイを用いて測定した。5匹のTREM1-/-マウス(Charles River)及び6匹のB6NTac野生型(WT)適合対照(Taconic)の脳を解剖し、ビブラトームVT1200Sを使用して厚さ300μmの矢状切片をスライスした。切片を、カーボゲン(95%O2、5%CO2)で連続的に起泡させた氷冷人工脳脊髄液(A-CSF)コリン緩衝液中で1時間平衡化させた。次いで、それらをインキュベータに移し、37℃で更に1時間インキュベートした。100μlのpHrodo(登録商標)コンジュゲート化ザイモサン生体粒子(ThermoFisher)を脳切片の上部に沈着させた。1時間のインキュベーション後、脳切片を洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で1時間固定し、抗Iba1(ミクログリアマーカー;Synaptic Systems)との48時間のインキュベーションによって免疫染色した。次いで、切片を抗ウサギAlexa-488コンジュゲート二次抗体(ThermoFisher)と3時間インキュベートし、DAPI(核マーカー;ThermoFisher)を用いて対比染色した。次いで、共焦点LSM 880(Zeiss)画像化とそれに続く粒子取り込みの手動定量化に基づいて、ex vivoミクログリア食作用活性及び形態の定量化を行った。ミクログリア形態を、Fijiソフトウェアを使用して特注のスクリプトを使用することによって評価した。
【0154】
図6Aに示すように、ザイモサン粒子の取り込み及びIba1+食細胞の数は、WTミクログリアと比較してTREM1-/-ミクログリアにおいて有意に減少した。
【0155】
例7.TREM1ノックアウトはex vivoでのシナプトソーム取り込みを減少させる
ミクログリアが新たに単離されたラットシナプトソームを貪食する能力に対するTREM1ノックアウトの効果を、ex vivo急性マウス脳切片で評価した。3月齢のSprague-Dawleyラット(Charles River)から脳を解剖し、10体積の氷冷HEPES緩衝スクロース(0.32Mスクロース、4mM HEPES pH7.4)に入れ、Dounceホモジナイザーを使用してホモジナイズした。ホモジネートを1000×gで4℃にて10分間回転させて、ペレット化された核画分(P1)を除去した。得られた上清を15,000×gで20分間回転させて粗シナプトソームペレット(P2)を得て、これを10体積のHEPES緩衝スクロースに再懸濁した。10,000×gで更に15分間遠心分離した後、洗浄した粗シナプトソーム画分(P2’)を4mlの1.2Mスクロース上に重層し、230,000×gで15分間遠心分離した。界面を回収し、4mlの0.8Mスクロース上に重層し、230,000×g(SW40 Tiローター、Beckman Optima L-90K)で15分間遠心分離してシナプトソームペレットを得た。精製したシナプトソームを、穏やかに撹拌しながら室温で2時間インキュベートすることによって、0.1M炭酸ナトリウム(pH9.0)中のpH感受性ローダミン系pHrodo(登録商標)Redスクシンイミジルエステル(ThermoFisher、P36600)とコンジュゲート化させた。結合していないpHrodo(登録商標)をHBSSによる複数回の洗浄及び遠心分離によって除去し、次いで、pHrodo(登録商標)コンジュゲート化シナプトソームを、5%DMSOを含むHBSSに再懸濁し、使用するまで-80℃で保存した。
【0156】
図7A及び7Bに示すように、シナプトソームの取り込みは、WTミクログリアと比較してTREM1-/-ミクログリアにおいて有意に減少した。
【0157】
例8.TREM1ノックアウトはex vivoでミクログリア形態を調節する
ミクログリア形態に対するTREM1ノックアウトの効果も評価した。
図8Aに示すように、TREM1-/-マウス由来のミクログリアもまた、それらの形態の著しい変化を示した。
図8B及び
図8Cに示すように、形態におけるこの修飾は、WT対照と比較して、TREM1-/-ミクログリアにおける有意に長く、より分岐した突起によって反映される。
【0158】
例9.抗TREM1抗体はSOD1-G93Aマウスにおける脊髄ミクログリア貪食を減少させる
ALSマウスモデルにおけるミクログリアの食作用能に対するTREM1抗体の効果を、SOD1-G93Aマウスから単離したex vivo急性脊髄切片を用いて評価した。SOD1-G93Aマウス(100日齢;Jackson)に、アイソタイプ(IgG2A、MAB006、R&D Systems)抗体又は抗マウスTREM1(MAB1187、R&D Systems)抗体のいずれかを注射した(48時間間隔で2回のI.P.注射)。2回目の注射の24時間後、脊髄を収集し、直ちにex vivoスライス生成に使用した。胸部及び腰部の両方を覆う脊髄のセグメントを選択し、髄膜から取り出し、低融点アガロース溶液(Sigma)で満たした型に浸漬した。固化(4℃で1分)後、ビブラトームVT1200Sを用いて厚さ300μmの脊髄切片をスライスした。切片を、カーボゲン(95%O2、5%CO2)で連続的に起泡させた氷冷人工脳脊髄液(A-CSF)コリン緩衝液中で1時間平衡化させた。次いで、それらをインキュベータに移し、37℃で更に1時間インキュベートした。100μlのpHrodo(登録商標)コンジュゲート化ザイモサン生体粒子(ThermoFisher)を脊髄切片の上部に沈着させた。1時間のインキュベーション後、脊髄切片を洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で1時間固定し、抗Iba1(ミクログリアマーカー;Synaptic Systems)との48時間のインキュベーションによって免疫染色した。次いで、切片を抗ウサギAlexa-488コンジュゲート二次抗体(ThermoFisher)と3時間インキュベートし、DAPI(核マーカー;ThermoFisher)を用いて対比染色した。次いで、共焦点LSM 880(Zeiss)画像化とそれに続く粒子取り込みの手動定量化に基づいて、ex vivoミクログリア食作用活性及び形態の定量化を行った。
【0159】
図9Aに示すように、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスは、アイソタイプ処理SOD1-G93A対照と比較してミクログリオーシスの減少を示した。
図9Bに示すように、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウス由来のミクログリアは、アイソタイプ処理対照と比較して食作用性取り込み(ミクログリア効率)の減少を示した。抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスでは、食作用性ミクログリアの総数(ミクログリア存在量)も減少した。
図9Cは、9Aの画像からの前角領域を示す。
【0160】
例10.TREM1の阻害は、SOD1-G93Aマウスにおける共刺激分子及び活性化マーカーのレベルを低下させる
SOD1-G93Aマウスの脳炎症に対するTREM1抗体の効果を、質量サイトメトリーアプローチを使用して評価した。SOD1-G93Aマウス(100日)に、アイソタイプ(IgG2A、MAB006、R&D Systems)抗体又は抗マウスTREM1(MAB1187、R&D Systems)抗体のいずれかを注射した(48時間間隔で2回のI.P.注射)。2回目の注射の24時間後、マウスを麻酔し、1×HBSS(10U/mlヘパリン)で5分間灌流した。前脳を氷冷1×HBSSに収集し、製造者の指示に従ってパパイン解離システム(Worthington)を使用して解離させた。単一細胞懸濁液を濾過し、HBSS中30%パーコールに再懸濁し、ブレーキなしで500×gで15分間遠心分離してミエリンを除去した。細胞ペレットをMaxpar細胞染色緩衝液(Fluidigm)で洗浄し、次いで、希少金属タグ付き抗体(Fluidigm、以下に列挙するマーカー)のカクテルで1時間染色した(試料あたり100μlの最終染色体積)。細胞をMaxpar細胞染色緩衝液で3回洗浄し、PBS中4%PFA(16%ホルムアルデヒドから調製、ThermoFisher)で固定した。Maxpar DNAインターカレーター(50nM、Fluidigm)を4℃で一晩細胞とインキュベートして、生細胞/死細胞を同定した。PBSで2回洗浄した後、細胞をMaxpar H2O(Fluidigm)で洗浄し、800×gで5分間遠心分離した。次いで、細胞をMaxpar H2Oに再懸濁し、データ正規化のため金属同位体ビーズ標準(EQ4要素較正ビーズ、Fluidigm)を試料に添加した。単一細胞懸濁液をCyTOF Helios質量サイトメーター(Fluidigm)で分析し、毎秒およそ500イベントでイベントを取得した。Cytobankソフトウェア(Cytobank Inc.)を使用してデータを分析した。
【0161】
図10Aに示すように、TREM1抗体によるSOD1-G93Aマウスの処理は、アイソタイプ処理SOD1-G93A対照と比較して、共刺激分子(CD40、CD80、CD86)及び他の活性化マーカー(CD68、CSFR1)のレベルを低下させた。
図10Bに示すように、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスでは、アイソタイプ処理SOD1-G93A対照と比較して、共刺激分子及び他の活性化マーカーの数が有意に減少した(矢印は、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスにおける有意な変化を表す)。
【0162】
例11.SOD1-G93Aマウスにおける抗TREM1抗体の脳透過
SOD1-G93Aマウスにおける抗TREM1抗体の脳浸透の程度を、質量サイトメトリーアプローチを使用して評価した。SOD1-G93Aマウス(100日齢)に、ビオチン化アイソタイプ(IgG2A、IC006B、R&D Systems)抗体又はビオチン化抗マウスTREM1(BAM1187、R&D Systems)抗体のいずれかを注射した(48時間間隔で2回のI.P.注射)。2回目の注射の24時間後、マウスを麻酔し、1×HBSS(10U/mlヘパリン)で5分間灌流した。前脳及び脾臓を氷冷1×HBSSに収集した。製造業者の指示に従ってパパイン解離システム(Worthington)を使用して、脳を解離させた。単一細胞懸濁液を濾過し、HBSS中30%パーコールに再懸濁し、ブレーキなしで500×gで15分間遠心分離してミエリンを除去した。脾臓を機械的にホモジナイズし、濾過し、赤血球溶解緩衝液(ThermoFisher)を用いて赤血球汚染物質を除去した。細胞ペレットをMaxpar細胞染色緩衝液(Fluidigm)で洗浄し、次いで、抗ビオチン(1D4-C5、Fluidigm)で1時間染色した(試料あたり最終染色体積100μl)。細胞をMaxpar細胞染色緩衝液で3回洗浄し、PBS中4%PFA(16%ホルムアルデヒドから調製、ThermoFisher)で固定した。Maxpar DNAインターカレーター(50nM、Fluidigm)を4℃で一晩細胞とインキュベートして、生細胞/死細胞を同定した。PBSで2回洗浄した後、細胞をMaxpar H2O(Fluidigm)で洗浄し、800×gで5分間遠心分離した。次いで、細胞をMaxpar H2Oに再懸濁し、データ正規化のため金属同位体ビーズ標準(EQ4要素較正ビーズ、Fluidigm)を試料に添加した。単一細胞懸濁液をCyTOF Helios質量サイトメーター(Fluidigm)で分析し、毎秒およそ500イベントでイベントを取得した。Cytobankソフトウェア(Cytobank Inc.)を使用してデータを分析した。
【0163】
図11に示すように、平均されたデータは、抗TREM1処理SOD1-G93Aマウスにおいて、脳及び脾臓のそれぞれにおける全免疫細胞の21.57%及び28.80%が抗TREM1抗体について陽性であったことを示した。
【0164】
例12.ヒトTREM1におけるMAB1187及びその等価物のエピトープの決定
37個のマウスTREM1 IgVドメイン(配列番号2の21~136位)変異体クローンのアレイを作製した。各クローンを、近接してアラニンに変異した2つの表面残基を有し、ヒトFcに融合させた。変異体クローンに加えて、野生型クローンも含めた。野生型を含む変異マウスTREM1アレイクローンの配列を表1に示す。
【0165】
上記クローンをFc融合タンパク質として発現させ、抗ヒトFc抗体でコートしたセンサーに捕捉する。この融合タンパク質は、TREM1 IgVドメインに続いて、TREM1が二価フォーマットで提示されることを確実にするヒトFcドメインに融合された三重アラニンリンカーとからなった。その後、センサーを抗体溶液に浸し、Bio-Layer Interferometry(BLI)機器(octet RED384、ForteBio)を用いて結合動態をモニターする。
【0166】
全ての変異TREM1 Fcクローンがセンサー先端(1回の実行あたり38個の先端が使用される)にロードされると、エピトープの同定が必要な抗体を含有する溶液にセンサーを浸漬する。これらの変異体のそれぞれに対する抗体の結合動態をモニターし、それらを野生型タンパク質に対する動態と比較することによって、本発明者らは、エピトープを推定することができる。クローンのab解離定数の減少は、変異残基が抗体結合に重要であり、したがってそのエピトープの一部であることを示す。
【0167】
上記のマウスTREM1アレイを38個の抗ヒトFcセンサーにロードし、R+Dモノクローナル抗体MAB1187の動態をモニターするために使用した。結果を表2に示す。
【0168】
上記の方法を使用して、エピトープを以下のように決定した:残基I45、M46、K47、N50、Q71、R72、P73、T75、R76、P77、S78、S92、及びE93(位置は配列番号2に対応する)。
【0169】
マウス及びヒトのTREM1配列を、Clustal omega(構造アラインメントを行うpyMolも使用することができる)を使用して整列させた。ヒトTREM1における以下の対応するエピトープ残基が同定されている(位置は配列番号1に対応する):L45、E46、K47、S50、E71、R72、P73、K75、N76、S77、H78、D92、及びH93。
【0170】
図12Aは、マウスTREM1構造及びヒトTREM1上のMAB1187エピトープを有するマウス及びヒトTREM1の3D表現を示す。ヒトTREM1上のPGLYRP1エピトープも示す(右側の構造)。MAB1187及びPGLYRP1のエピトープとのヒト及びマウスTREM1の配列アラインメントは、MAB1187がTREM1に、それがPGLYRP1リガンドに結合するのを妨げる様式で結合することを示す。
【0171】
【0172】
【0173】
例13.MAB1187の結合速度論
マウスTREM1に対するMab1187結合の動態を、Biacore T200装置での表面プラズモン共鳴によって25℃で測定した。
【0174】
ヤギ抗ラットIgG、Fc断片特異的抗体(F(ab)’2断片、Jackson ImmunoResearch 112-005-071)を、アミンカップリング化学反応を介してCM5センサーチップ上におよそ10000RUのレベルまで固定した。参照細胞を同じアミンカップリング化学物質で処理したが、抗体と接触させなかった。アミンカップリングが完了した後、その後の全ての溶液を参照セル及び試料セル上に順番に流し、参照セルの応答を実行全体を通して試料セルから差し引いた。
【0175】
各分析サイクルは、抗Fc表面へのおよそ250 RUのMAB1187の捕捉、180秒間(25℃、流速30μl/分)の分析物の注入、600秒間の分析物の解離、続いて表面再生(50mM HClの60秒間の注入、5mM NaOHの30秒間の注入、及び50mM HClの更なる60秒間の注入による)からなった。マウスTREM-1分析物(社内、hisタグ付けされている)を、HBS-EP+ランニングバッファー(GE Healthcare)中300nM~3.7nMの濃度で、3倍段階希釈で注入した。器具のノイズ及びドリフトを差し引くために、緩衝液ブランク注入を含めた。
【0176】
Biacore T200 Evaluationソフトウェア(バージョン3.0)を使用して1:1結合モデルを使用して速度論的パラメータを決定した。RI(バルクシフトを表す)及びRmax(完全に結合した複合体のシグナルを表す)のフィッティングパラメータは両方とも、局所適合を使用するように設定した。MAB1187は、マウスTREM1に対して26nMの親和性を有することが示された。速度論的パラメータを表3に要約する。
【0177】
【0178】
例14.SOD1-G93Aマウスにおける抗TREM1抗体の脳透過
SOD1-G93Aマウスにおける抗TREM1抗体の脳浸透の程度も評価し、質量分析検出を伴う液体クロマトグラフィー(LCMS/MS)によって抗体を定量した。SOD1-G93Aマウス(15週齢)及びそれらの非トランスジェニック同腹仔対照に、抗TREM1抗体(#MAB1187、クローン174031、R&D systems)を30mg/kg(n=3動物/遺伝子型)で腹腔内注射した。血漿単離のための血液を、抗体注入の48時間後に凝固活性化因子を含有するマイクロベットチューブ(CB 300、16.440、Sarstedt)において外側尾静脈から採取した。血液を室温で30~60分間凝固させ、続いて4℃で10分間2000gで遠心分離することによって血清を得た。上清を収集し、ドライアイス上でゆっくり凍結し、更なる使用まで-80℃で保存した。その後、動物を0.1mlの未希釈ペントバルビタール(ドレタール、Vetoquinol)で麻酔し、0.2%ヘパリンを補充したHBSSを6ml/分で5分間、経心的に灌流した。脊髄及び脳半球を迅速に解剖し、液体窒素で急速凍結し、更なる使用まで-80℃で保存した。
【0179】
全溶解アッセイを使用して分析のために試料を調製した。第1の脳及び脊髄試料をPBS緩衝液で2倍希釈し、次いで、Precellysホモジナイザー(Bertin Instruments)機器を用いて4500rpmで30秒間に2回混合した。各試料25μLをマイクロチューブ、並びに較正標準、品質管理試料及びブランクに分注した。次いで、原液を33/67 H2O/ACNで希釈することによって調製した内部標準作業溶液30μLを各チューブに添加した。その結果、7μLのTCEPを使用して試料を変性させ、室温で30分間インキュベートした。その後、7μLのヨードアセトアミドを用いて試料をアルキル化し、室温で30分間インキュベートし、光から保護した。7μLのL-システイン、153μLの重炭酸アンモニウムpH7.9緩衝液及び10μLの0.5mg/mLのトリプシン酢酸溶液で構成された170μLのミックスを各チューブに添加した。試料を37℃で16~21時間一晩インキュベートした。次いで、試料をおよそ1500gで5分間遠心分離した。100μLの上清を、100μLの92%H2O 5%MeOH 3%ギ酸を含有する96ウェルプレートに移すことによって、トリプシン処理反応を停止させた。プレートを二次元LC-MS/MSによって分析した。機器は、Sciex製のトリプル四重極質量分析計(6500+system)に連結されたShimadzu製の超高速液体クロマトグラフィーであった。一次元LCの場合、使用した固定相はWaters製の2.1×100mm寸法のBEH C4カラムであり、使用した移動相は重炭酸塩緩衝液10mM/MEOH 95/5及び重炭酸塩緩衝液10mM/MEOH 5/95であった。二次元LCの場合、使用した固定相はWaters製の2.1×100mm寸法のBEH C18カラムであり、使用した移動相はH2O+0.1%プロピオン酸及びACN+0.1%ギ酸である。MS機器をMRMモードで使用し、目的の2つのペプチドをモニターするために以下のトランジションを使用した:シグネチャペプチド及び内部標準についてそれぞれ615,330->654,382及び421,9->513,3。Analystソフトウェア(Sciex)でデータ処理を行った。
【0180】
血清、脳又は脊髄における抗体の曝露レベルにおいて、SOD1-G93Aマウスと野生型マウスとの間に顕著な差はなかった。SOD1-G93Aマウスで観察された30mg/kgの腹腔内投与の48時間後の抗TREM1抗体の平均濃度は、血清、脳及び脊髄でそれぞれ259μg/mL、0.826μg/g及び0.874μg/gであり、野生型マウスでは血清、脳及び脊髄でそれぞれ277μg/mL、0.998μg/g及び1.114μg/gであった。30mg/kgの腹腔内投与の48時間後に観察された抗TREM1抗体の脳対血清濃度比は、SOD1-G93A及び野生型マウスにおいてそれぞれ0.33%及び0.38%であった。30mg/kgの腹腔内投与の48時間後に観察された抗TREM1抗体の脊髄対血清濃度比は、SOD1-G93Aマウス及び野生型マウスにおいてそれぞれ0.42%及び0.35%であった。30mg/kgの腹腔内投与の48時間後に観察された抗TREM1抗体の脳対脊髄濃度比は、SOD1-G93Aマウス及び野生型マウスにおいてそれぞれ0.85%及び0.95%であり、脳及び脊髄における抗TREM1抗体への同様の曝露を示唆した。これらのデータは、抗体へのCNS曝露が血清中レベルの約0.3%であり、SOD1-G93Aマウスと野生型マウスとの間で曝露に差がなかったことを示唆している。脳対血清比及び脊髄対血清比は、他の抗体を有するげっ歯類で報告された値と同様である。
【0181】
特許、特許出願、論文、教科書等を含む本明細書に引用された全ての参考文献、及びそれらに引用された参考文献は、それらがまだ存在しない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【配列表フリーテキスト】
【0182】
配列番号6 <223>変異体タンパク質
配列番号7~42 <223>変異体配列
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-10-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片
を含む、運動ニューロン変性障害の治療を必要とする対象において運動ニューロン変性障害を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片
を含む、運動ニューロン変性障害の治療に使用するための医薬組成物であって、
前記抗体又はその抗原結合断片が、全身投与される、
上記医薬組成物。
【請求項3】
前記抗体又はその抗原結合断片が、TREM1と1つ以上のその天然リガンドとの相互作用を妨げる、請求項1
又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記天然リガンドがペプチドグリカン認識タンパク質1(PGLYRP1)である、請求項
3に記載の
医薬組成物。
【請求項5】
前記運動ニューロン変性障害が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
ALSが、SOD1遺伝子における変異の存在を特徴とする、請求項5に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
前記抗体若しくはその抗原結合断片を皮下又は静脈内に投与する、請求項1~
6のいずれかに記載の
医薬組成物。
【請求項8】
前記抗体又はその抗原結合断片が少なくとも50nMの親和性でTREM1に結合する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項9】
前記治療がミクログリアのニューロン取り込みを減少させる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項10】
前記治療がミクログリアの遊走を阻害する、請求項1~
9のいずれか一項に記載
医薬組成物。
【請求項11】
前記遊走がスクラッチ創傷アッセイを使用して測定される、請求項
10に記載の
医薬組成物。
【請求項12】
前記抗体又はその抗原結合断片がミクログリアにおける食作用の速度を低下させる、請求項1~
11のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項13】
前記抗体又はその抗原結合断片がモノクローナル抗体又はその抗原結合断片である、請求項1~
12のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項14】
前記抗体又は抗原結合断片が、ヒト抗体、ヒト化抗体若しくはキメラ抗体、又はそれらの抗原結合断片である、請求項1~
13のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項15】
前記抗体が完全長抗体である、請求項1~
14のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項16】
前記抗体又は抗原結合断片がヒト重鎖定常領域及びヒト軽鎖定常領域を含む、請求項1~
15のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項17】
前記抗体がIgGアイソタイプである、請求項1~
16のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項18】
前記抗体がIgG1又はIgG4である、請求項1~
17のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項19】
さらに、1つ以上の薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤又は担体を含む、
請求項1~18のいずれか一項に記載の医薬組成
物。
【請求項20】
ミクログリアの食作用能及び/又はミクログリアの遊走能を阻害するin vitro又はex vivo方法であって、前記方法が、ミクログリア細胞を、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片と接触させること、及びこれをインキュベートすることを含む、
上記方法。
【請求項21】
運動ニューロン変性障害を治療するための全身投与用の医薬の製造のための、TREM1に結合してこれを中和する抗体又はその抗原結合断片の使用。
【国際調査報告】