(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のモジュレーターとしての使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231128BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20231128BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231128BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231128BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231128BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20231128BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231128BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231128BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231128BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231128BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231128BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231128BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231128BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231128BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231128BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231128BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20231128BHJP
【FI】
A61K45/00
C12N15/09 110
C12N15/113 140Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C07K16/28
C07K19/00
C07K14/725
C07K14/705
C12N15/62 Z
A61P35/00
A61P37/02
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P37/06
A61P37/08
A61P31/00
A61P3/10
A61P29/00
A61P35/02
A61P35/04
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526196
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 CN2021127234
(87)【国際公開番号】W WO2022089557
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】202011191447.3
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110566040.2
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】505294816
【氏名又は名称】▲復▼旦大学
【氏名又は名称原語表記】Fundan University
(71)【出願人】
【識別番号】522290617
【氏名又は名称】上海柏全生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Shanghai Biotroy Biotechnique Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Building 10, No. 860 Xinyang Road, China (Shanghai) Pilot Free Trade Zone, Lin-gang Special Area, Shanghai 200131, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】許 杰
(72)【発明者】
【氏名】▲ドン▼ 守言
(72)【発明者】
【氏名】宋 騰
(72)【発明者】
【氏名】王 一▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】王 運剛
(72)【発明者】
【氏名】王 煥彬
(72)【発明者】
【氏名】池 浩
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
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4C084AA17
4C084NA13
4C084ZB07
4C084ZB11
4C084ZB13
4C084ZB26
4C084ZB27
4C084ZB31
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085DD61
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB13
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZB31
4H045AA10
4H045AA11
4H045BA17
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA20
4H045FA74
(57)【要約】
免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用が提供され、該レギュレーターは、体内のITPRIPL1遺伝子またはタンパク質の発現または機能を増加または減少させるために使用される。また、この用途のために使用される該レギュレーターを含む医薬組成を提供する。また、単離されたITPRIPL1組換えタンパク質およびITPRIPLIを認識し結合する抗体が提供される。ITPRIPLIタンパク質がCD3εおよびNRP2受容体に結合して異なる免疫細胞の機能を調節し、免疫応答の調節および腫瘍の免疫回避プロセスに関与するという原理に基づき、ITPRIPLIのレギュレーターが、薬剤または医薬組成物の調製に使用され、腫瘍、自己免疫疾患、移植拒絶反応、アレルギー、感染症および他の疾患の抑制に適用されることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内のITPRIPL1遺伝子またはタンパク質の発現または機能を増加または減少させるために使用される、免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項2】
前記レギュレーターは
(1)細胞内のITPRIPL1遺伝子をノックアウトまたは変異させるゲノム編集システム、
(2)ITPRIPL1遺伝子の発現レベルを低下させるRNA分子、
(3)ITPRIPL1をコードし、ITPRIPL1の発現量を増加させる細胞内導入用核酸分子、
(4)単離されたITPRIPL1組み換えタンパク質、
(5)ITPRIPL1を認識し、結合する抗体
のいずれかを含む、請求項1に記載の免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項3】
前記ゲノム編集システムはCRISPR/Cas9ゲノム編集システムであり、前記CRISPR/Cas9ゲノム編集システムに使われる標的配列はSEQ ID NO:11~13に示すいずれかの配列から選ばれ、sgRNAをコードするオリゴマーDNA配列はSEQ ID NO:14~19から選ばれ、
前記核酸分子はSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9またはSEQ ID NO:10に示す配列を含み、
前記ITPRIPL1組み換えタンパク質は、ITPRIPLIタンパク質細胞外ドメインにおいてCD3またはNRP2タンパク質に結合することができる機能性フラグメントを含み、
前記ITPRIPL1を認識し、結合する抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、抗原結合ドメイン、二重特異性抗体、多重特異性抗体、またはキメラ抗原受容体における抗原結合部分を含む、
請求項2に記載の免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項4】
前記機能性フラグメントの配列はSEQ ID NO:1~SEQ ID NO:4のいずれか、またはその誘導体配列から選ばれ、前記誘導体配列はDRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRxLEMEFEERxxxAExxQKxENxWxGxTSxDQ(「x」は任意のアミノ酸を表す)を含み、前記誘導方法は、前記配列の機能を変更することなく、1~10個のアミノ酸を置換、欠失または挿入することを含み、前記誘導体配列は、好ましくはDRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRXLEMEFEERXxxAExxQKxENxWxGxTSxDQ(「x」は任意のアミノ酸を表す)である、、
請求項3に記載の免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項5】
前記ITPRIPL1組み換えタンパク質は、抗体定常領域と融合タンパク質を形成するか、もしくは凝固因子と融合タンパク質を形成し、または、ポリエチレングリコール修飾、グリコシル化修飾、ポリシアル酸修飾、脂肪酸修飾、KLH修飾、ビオチン修飾を含む方式を用いて、前記ITPRIPL1組み換えタンパク質を修飾する、
請求項3または4に記載の免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項6】
組み換え発現ベクター、ウイルス、リポソームまたはナノ材料を含む薬物送達システムを介して、前記核酸分子を細胞内に導入する、請求項3に記載の免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項7】
前記免疫応答調節は自己免疫応答、移植拒絶抑制免疫応答、アレルギー、抗感染免疫応答、抗腫瘍免疫応答の過程における抗原提示細胞およびTリンパ球の機能の調節を含む、請求項1に記載の免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項8】
前記免疫応答は、I型糖尿病、免疫性不妊症、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー、全身性炎症またはサイトカインストーム、感染症を含む、請求項7に記載の免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項9】
前記腫瘍はITPRIPL1関連固形腫瘍または血液系腫瘍であって、前記固形腫瘍は、神経膠腫、肺癌、頭頸部癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、食道癌、尿路上皮癌、精巣癌、乳癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、メラノーマ、膵臓癌または肝臓癌を含み、前記血液系腫瘍は、白血病またはリンパ腫を含む、請求項1に記載の免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の用途に採用されるレギュレーター、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項11】
前記組み換えタンパク質がITPRIPLIタンパク質の細胞外ドメインにおいてCD3εまたはNRP2タンパク質に結合することができる機能性フラグメントである、単離されたITPRIPL1組み換えタンパク質。
【請求項12】
ITPRIPL1タンパク質の細胞外ドメインを認識し、結合することを特徴とする、ITPRIPL1を認識し、結合する抗体の、免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製における使用。
【請求項13】
原発巣における癌組織と癌周囲組織との間の境界、リンパ節に転移した癌細胞と正常なリンパ組織との間の境界、遠隔転移を有する癌細胞と転移した器官の正常組織との境界、およびその他の生体試料における癌組織生細胞を標識するための、ITPRIPL1を特異的に認識する抗体の適用。
【請求項14】
前記癌は甲状腺癌、乳癌、大腸癌、肺癌、食道癌、腎臓癌およびその他のTPRIPL1関連腫瘍を含む、請求項13に記載の適用。
【請求項15】
ITPRIPL1抗原のSEQ ID NO:49またはSEQ ID NO:1に示すアミノ酸配列に結合することができる、単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質。
【請求項16】
アミノ酸配列SEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:34のいずれかの1項に示す重鎖可変領域VHにおけるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域と、アミノ酸配列SEQ ID NO:25またはSEQ ID NO:35のいずれかの1項に示す軽鎖可変領域VLにおけるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項 15 に記載の単離された抗原ITPRIPL1結合タンパク質。
【請求項17】
前記HCDR 1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:26に示し、前記HCDR 2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:27に示し、 前記HCDR 3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:28に示す、請求項16に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項18】
前記HCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:36に示し、前記HCDR2のアミノ酸配列はSEQID NO:37に示し、前記HCDR3のアミノ酸配列はSEO ID NO:38に示す、請求項16に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項19】
前記LCDR1のアミノ酸配列とSEQ ID NO:29に示すアミノ酸配列の類似性は80%を超え、前記LCDR2のアミノ酸配列はKVであり、 前記LCDR3のアミノ酸配列とSEQ ID NO:31に示すアミノ酸配列の類似性は80%を超える、請求項16に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項20】
前記LCDR 1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:29またはSEQ ID NO:39のいずれか1項に示し、前記LCDR 2のアミノ酸配列はKVであり、前記LCDR 3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:31またはSEQ ID NO:41のいずれか1項に示す、請求項16に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項21】
前記LCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:29に示し、前記LCDR2のアミノ酸配列はKVであり、前記LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:31に示すか、または前記LCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:39に示し、前記LCDR2のアミノ酸配列はKVで、前記LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:41に示す、請求項16に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項22】
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:24に示し、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:25またはSEQ ID NO:35のいずれか1項に示す、請求項16に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項23】
抗体重鎖定常領域を含み、且つ前記抗体重鎖定常領域はヒトIgG重鎖定常領域に由来する、請求項15~22のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項24】
抗体軽鎖定常領域を含み、且つ前記抗体軽鎖定常領域はヒトIgκ定常領域を含む、請求項15~22のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項25】
抗体重鎖HCを含み、且つ前記HCはSEQ ID NO:22または32のいずれか1項に示すアミノ酸配列を含む、請求項15~22のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項26】
抗体軽鎖LCを含み、且つ前記LCはSEQ ID NO:23または33のいずれか1項に示すアミノ酸配列を含む、請求項15~22のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項27】
抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、前記抗原結合フラグメントはFab、Fab'、F(ab)2、Fvフラグメント、F(ab’)2、scFvおよび/またはdi-scFvを含む、請求項15~22のいずれか1項に記載の単離された抗原ITPRIPL 1結合タンパク質。
【請求項28】
ヒトおよびカニクイザルITPRIPL1タンパク質を含む、請求項15~22のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項29】
請求項15~28のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質を含むキメラ抗原受容体。
【請求項30】
請求項15~28のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質を含む免疫複合体。
【請求項31】
請求項15~28のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質、または請求項29に記載のキメラ抗原受容体、または請求項4および11のいずれか1項に記載のポリペプチドまたはタンパク質フラグメントをコードする、単離された1つまたは複数の核酸分子。
【請求項32】
請求項31に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項33】
請求項31記載の核酸分子または請求項32記載のベクターを含む細胞。
【請求項34】
請求項15~28のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質、請求項29に記載のキメラ抗原受容体、請求項30に記載の免疫複合体、及び任意に選ばれる薬学的に許容されるアジュバントを含む、医薬組成物。
【請求項35】
請求項15~28のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質が発現する条件での、請求項33に記載の細胞の培養。
【請求項36】
請求項15~28のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質、請求項29に記載のキメラ抗原受容体、請求項30に記載の免疫複合体、および/または請求項34に記載の医薬組成物の、腫瘍の予防、緩和および/または治療に用いられる医薬品製造における使用。
【請求項37】
前記腫瘍はITPRIPL1関連腫瘍を含む、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
被験者から採取した生体試料中のITPRIPL1の発現を測定し、所定の値と比較することにより決定される、ITPRIPL1関連腫瘍のスクリーニングおよび同定方法であって、前記測定は、抗体、核酸プローブまたは特定のプライマー含むPCR反応による測定を含み、前記生体試料は組織、血液、尿、脳脊髄液、腹水、胸水、組織浸出液、便および他の試料を含む。
【請求項39】
請求項38記載の方法の、腫瘍のスクリーニングまたは診断用キットの調製における適用、およびTPRIPL1レギュレーターが適用可能な患者をスクリーニングするためのコンパニオン診断キットの調製における適用。
【請求項40】
(i)アミノ酸配列はSEQ ID NO:49、すなわちRLLEMEFEERKRAAEであり、
(ii)もしくは、アミノ酸配列はxxLxxxFxxRxxx(xは任意のアミノ酸を表す)で、両末端に位置する1~3個のアミノ酸が欠失され、
(iii)もしくは、SEQ ID NO:49の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個のアミノ酸が置換、挿入または欠失されることによって得られたアミノ酸配列
を含む、TPRIPL1の線状エピトープペプチド。
【請求項41】
請求項40に記載のペプチドをコードする核酸配列またはその相補配列を含むことを特徴とする核酸分子。
【請求項42】
請求項41に記載の核酸分子を含むことを特徴とするベクター。
【請求項43】
請求項42中に記載のベクターを含むことを特徴とする宿主細胞。
【請求項44】
薬学的に許容される担体、および請求項40に記載のペプチド、請求項42に記載のベクターまたは請求項43に記載の細胞を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項45】
請求項40~44に記載のエピトープペプチドおよび対応するコード化核酸、ベクター、宿主細胞、医薬組成物、ならびにそれらのITPRIPL1レギュレーターのスクリーニングおよび調製における使用。
【請求項46】
細胞表面上に発現されるITPRIPL1に特異的に結合する能力、ITPRIPL1とCD3εとの結合に対する影響、ITPRIPL1とNRP2との結合に対する影響、ITPRIPL1とSEMA3Gとの結合に対する影響、ITPRIPL1とEBI2との結合に対する影響、免疫細胞または腫瘍細胞の機能に対する直接又は間接的な影響からなる供試分子特性の1つまたは複数を測定することを特徴とする、請求項1~36に記載のITPRIPL1機能レギュレーターを探索および同定するための方法、ここで前記影響はin vitroまたはin vivoで測定できる)。
【請求項47】
抗原ITPRIPL1のSEQ ID NO:49またはSEQ ID NO:1に示すアミノ酸配列に結合することができる、単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質の、免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製、および個体におけるITPRIPL1の発現の測定における、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年10月30日にChina専利局に提出され、出願番号が202011191447.3、発明の名称が「免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のモジュレーターとしての使用」、および2021年5月24日にChina専利局に提出され、出願番号が202110566040.2、発明の名称が「単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質およびその使用」の2つのChina特許出願の優先権を主張し、その内容は参照によって本願に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本願はバイオ医薬品分野に関し、具体的に免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ITPRIPL1がコードするタンパク質はInositol 1,4,5-trisphosphate receptor-interacting protein-like 1(イノシトール1,4,5-三リン酸受容体相互作用タンパク質様 1)であり、これまでにITPRIPL1機能に関する既報は見当たらない。UniProtKBデータベースの注釈によると、ヒトITPRIPL1は555のアミノ酸を含み、細胞外ドメイン(1~103アミノ酸)、膜貫通ドメイン(104~124アミノ酸)、および細胞内ドメイン(125~555アミノ酸)に分けられる。
【0004】
T細胞は適応免疫応答の重要なエフェクター細胞として、病原体排除および自己免疫疾患において多くの重要な役割を果たしている。T細胞にはいくつかの亜集団があり、それぞれ異なる機能を有する。T細胞の表面に見られるTCR(T細胞受容体)は、TCR集団の約95%を構成するαおよびβポリペプチド鎖、またはγおよびδポリペプチド鎖で構成されるヘテロ二量体である( Pitcherとvan Oers、2003年)。各ポリペプチドには、定常(C)および可変(V)領域が含まれている。定常領域は細胞膜に固定されているが、可変領域は細胞外に広がり、抗原に結合する役割を果たしている。TCR細胞質の短い尾部はシグナルを伝達する能力に乏しい。細胞内シグナル伝達は、細胞内免疫受容体チロシン活性化モチーフ( ITAM) を含むCD3タンパク質複合体によって開始される。
【0005】
CD3(分化クラスター3)T細胞共受容体は、4つの異なる鎖からなるタンパク質複合体である。哺乳動物では、複合体にはCD3γ(γ)鎖が1つ、CD3δ(δ)鎖が1つおよびCD3ε(ε)鎖が2つ含まれている。これらの鎖はTCRおよびζ鎖(zeta鎖)に関連しており、Tリンパ球活性化シグナルを生成する。TCR、ζ鎖およびCD3分子は一緒になってTCR複合体を形成する。CD3γ、CD3δおよびCD3δ鎖は、単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含む免疫グロブリンスーパーファミリーの非常に関連性の高い細胞表面タンパク質である。TCRは遊離エピトープ/抗原に結合できない一方、ヒトにおいてヒト白血球抗原(HLA)系と同義である主要組織適合性複合体(MHC)に関連する、切断されたより大きなポリペプチドフラグメントに結合する。この相互作用は、免疫シナプスと呼ばれる空間で発生する。MHC クラス I 分子はヒトのすべての有核細胞に発現し、細胞傷害性T細胞に抗原を提示する。細胞傷害性T細胞におけるCD8はMHC / TCRの相互作用を安定化する。細胞傷害性T細胞の活性化は、その後、標的細胞の破壊につながる。MHC クラス II は、マクロファージ、B細胞および樹状細胞に見られる。これらの免疫細胞はMHC / TCRの相互作用を安定化するCD4を持って、抗原をヘルパーT細胞に提示する。MHC クラス II とTCRとの間の相互作用は、最終的に抗体を介在した免疫応答につながる。CD45、CD28、CD2などの他の共刺激分子は、免疫シナプスでのT細胞の活性化に寄与し、 細胞内シグナル伝達に関与する高分子タンパク質複合体であるTCRシグナルソームの形成を開始する。
【0006】
ヒトCD3εに結合するいくつかの抗体は報告されることがある。例えば、抗体OKT3(例えば、Kung、P.ら、Science 206(1979)347-349; Salmeron、A.ら、J Immunol 147(1991)3047-3052を参照)、抗体UCHT1(例えば、Callard、 REなど、Clin Exp Immunol 43(1981)497-505)または抗体SP34(例えば、Pessano、S.ら、EMBO J 4(1985)337-344)。現在、既知の抗体のうち、SP34はヒトカニクイザル交差反応性を持っている(Conrad M.L.ら、Cytometry A 71(2007)925-933)。既知のCD3ε細胞外ドメインに直接に結合するタンパクはすべて抗体系分子であり、天然の非抗体タンパク質(例えば、膜貫通タンパク質や分泌タンパク質などの代表的なリガンドなど)がCD3ε細胞外ドメインに結合する報告は見当たらない。
【0007】
ニューロピリン-2(neuropilin-2)、すなわちNRP-2は免疫細胞機能を調節できる受容体(Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2018)で、抗原提示細胞の機能を調節し、腫瘍の免疫回避を促進することが報告されている(Sohini Royら、Cancer Res. 2018)。NRP2は免疫細胞の遊走、貪食作用、および免疫細胞間の接触に影響を与えることができる(S Schellenburgら、Mol Immunol. 2017)。NRP2とPlexinで形成された共受容体はリンパ管内皮細胞の遊走に対し、抗走化性効果がある(Liu Xら、Cell Rep. 2016)。さらに、NRP2は細胞のNFKBシグナル伝達経路を調節こともでき、これは報告(Rizzolio, S.ら. Cancer Research.2017)に見られる。以前に発見されたNRP2リガンドには Semaphorinファミリーのメンバーが含まれるが、他のタイプのリガンドは報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願の目的は免疫応答を調節し、腫瘍を抑制するための方法、および免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を実現するために、本願は免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用を提供し、前記レギュレーターは体内のITPRIPL1遺伝子またはタンパク質の発現または機能を増加または減少させるために使用される。
【0010】
好ましくは、前記レギュレーターは、次のいずれかを含む
(1)細胞内のITPRIPL1遺伝子をノックアウトまたは変異させるゲノム編集システム、
(2)ITPRIPL1遺伝子の発現レベルを低下させるRNA分子、
(3)ITPRIPL1をコードし、ITPRIPL1の発現量を増加させる細胞内導入用核酸分子、
(4)単離されたITPRIPL1組み換えタンパク質、
(5)ITPRIPL1を認識し、結合する抗体。
【0011】
好ましくは、前記ゲノム編集システムはCRISPR/Cas9ゲノム編集システムであり、前記CRISPR/Cas9ゲノム編集システムに使われる標的配列はSEQ ID NO:11~13に示すいずれかの配列から選ばれ、sgRNAをコードするオリゴマーDNA配列はSEQ ID NO:14~19から選ばれ、
前記核酸分子はSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9またはSEQ ID NO:10に示す配列を含み、
前記ITPRIPL1組み換えタンパク質は、ITPRIPL1タンパク質細胞外ドメインにおいてCD3またはNRP2タンパク質に結合することができる機能性フラグメントを含み、
前記ITPRIPL1を認識し、結合する抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、抗原結合ドメイン、二重特異性抗体、多重特異性抗体、またはキメラ抗原受容体における抗原結合部分である。
【0012】
好ましくは、前記機能性フラグメントの配列はSEQ ID NO:1~SEQ ID NO:4のいずれか、またはその誘導体配列から選ばれ、前記誘導体配列はDRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRxLEMEFEERxxxAExxQKxENxWxGxTSxDQ(「x」は任意のアミノ酸を表す)を含み、前記誘導方法は、配列の機能を変更することなく、1つ以上のアミノ酸を置換え、削除または挿入することを含む。
【0013】
好ましくは、前記ITPRIPL1組み換えタンパク質は、抗体定常領域と融合タンパク質(例えば、SEQ ID NOs: 5~7に示す)を形成し、または、凝固因子と融合タンパク質を形成するか、もしくは、前記ITPRIPL1組み換えタンパク質を修飾し、修飾方式は、ポリエチレングリコール修飾、グリコシル化修飾、ポリシアル酸修飾、脂肪酸修飾、KLH修飾、ビオチン修飾を含む。
【0014】
好ましくは、薬物送達システムを介して、前記核酸分子を細胞内に導入し、前記薬物送達システムは組み換え発現ベクター、ウイルス、リポソームまたはナノ材料を含む。
【0015】
好ましくは、前記免疫応答調節は、自己免疫応答、移植拒絶抑制免疫応答、アレルギー反応、抗感染免疫応答、抗腫瘍免疫応答の過程における抗原提示細胞およびTリンパ球の機能の調節を含む。
【0016】
好ましくは、前記免疫応答は、I型糖尿病、免疫性不妊症、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー反応、全身性炎症またはサイトカインストーム、感染症を含む。
【0017】
好ましくは、前記腫瘍は固形腫瘍または血液系腫瘍であり、前記固形腫瘍は、神経膠腫、肺癌、頭頸部癌、胃癌、大腸癌、甲状腺癌、食道癌、尿路上皮癌、精巣癌、乳癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、メラノーマ、膵臓癌または肝臓癌を含み、前記血液系腫瘍は、白血病またはリンパ腫を含む
【0018】
本願はさらに、前記用途に採用されるレギュレーター、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0019】
本願はさらに、前記組み換えタンパク質がITPRIPL1タンパク質の細胞外ドメインにおいてCD3εまたはNRP2タンパク質に結合することができる機能性フラグメントである、単離されたITPRIPL1組み換えタンパク質を提供する。
【0020】
本願はさらに、ITPRIPL1を認識し、結合する抗体であって、ITPRIPL1タンパク質の細胞外ドメインを認識し、結合する抗体を提供する。
【0021】
本出願はさらに、自己抗ITPRIPL1抗体の存在を検出するために使用される、単離されたITPRIPL1組換えタンパク質の応用を提供し、検出の主な手順は、ITPRIPL1組換えタンパク質を被験者の血液サンプルと直接接触させることと、非特異的結合を除去するための洗浄とを含む。
【0022】
本願は、さらに前記抗体の、試料におけるITPRIPL1の含有量を測定するための応用、ITPRIPL1を認識し、結合する抗体を使用して細胞、組織、器官または個体におけるITPRIPL1の発現を判断するための応用、またはITPRIPL1を標的とすることにより、免疫応答を調節し、腫瘍を抑制することへの本開示の方法の適用が適するかを判断するための応用を提供する。いくつかの実施形態では、原発巣における癌組織と癌周囲組織との間の境界、リンパ節に転移した癌細胞と正常なリンパ組織との間の境界、遠隔転移を有する癌細胞と転移した器官の正常組織との境界、およびその他の生体試料における癌組織生細胞を標識するための、ITPRIPL1を特異的に認識する抗体の応用を提供する。
【0023】
本願はさらに、ITPRIPL1抗原のSEQ ID NO:49またはSEQ ID NO:1に示すアミノ酸配列に結合することができる、単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質の、免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製、および個体におけるITPRIPL1の発現の測定における使用を提供する。
【0024】
いくつかの実施形態では、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、ここで、前記重鎖可変領域はアミノ酸配列SEQ ID NO:24またはSEQ ID NO:34のいずれかの1項に示す重鎖可変領域VHにおけるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域はアミノ酸配列SEQ ID NO:25またはSEQ ID NO:35のいずれかの1項に示す軽鎖可変領域VLにおけるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、アミノ酸配列SEQ ID NO:24に示す重鎖可変領域VHにおける前記HCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:26に示し、前記HCDR2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:27に示し、前記HCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:28に示す。
【0026】
いくつかの実施形態では、アミノ酸配列SEQ ID NO:34における前記HCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:36に示し、前記HCDR2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:37に示し、前記HCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:38に示す。
【0027】
いくつかの実施形態では、アミノ酸配列SEQ ID NO:25における前記LCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:29に示し、前記LCDR2のアミノ酸配列はKVであり、前記LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:31に示し、またはSEQ ID NO:31に示すアミノ酸配列との類似度は80%を超える。
【0028】
いくつかの実施形態では、アミノ酸配列SEQ ID NO:35における前記LCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:39に示し、前記LCDR2のアミノ酸配列はKVであり、前記LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:41に示す。
【0029】
いくつかの実施形態では、前記重鎖可変領域はアミノ酸配列SEQ ID NO:24に示す重鎖可変領域VHにおけるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域はアミノ酸配列SEQ ID NO:25に示す軽鎖可変領域VLにおけるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、前記重鎖可変領域はアミノ酸配列SEQ ID NO:34に示す重鎖可変領域VHにおけるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域はアミノ酸配列SEQ ID NO:35に示す軽鎖可変領域VLにおけるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、ヒトIgG重鎖定常領域に由来する抗体重鎖定常領域を含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、ヒトIgκ定常領域を含む抗体軽鎖定常領域を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、SEQ ID NO:22または32のいずれかの1項に示すアミノ酸配列を含む抗体重鎖HCを含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、SEQ ID NO:23または33のいずれかの1項に示すアミノ酸配列を含む抗体軽鎖LCを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、ここで前記抗原結合フラグメントはFab、Fab’、F(ab)2、Fvフラグメント、F(ab’)2、scFvおよび/またはdi-scFvを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記ITPRIPL1タンパク質はヒトITPRIPL1またはカニクイザル、ラット、マウス、ゴリラ、ミドリザル、ゴールデンスナブノーズドモンキー、ブラックスナブノーズドモンキー、ボリビアリスザル(Amazon squirrel monkey)のITPRIPL1タンパク質を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記ヒトITPRIPL1タンパク質はSEQ ID NO:20に示すアミノ酸配列を含む。
【0038】
別の態様では、本願はさらに、本願における前記単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質を含むキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。
【0039】
別の態様では、本願はさらに、単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質を含む免疫複合体を提供する。
【0040】
別の態様では、本願はさらに、本願における前記の単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質または前記キメラ抗原受容体をコードする、単離された1つまたは複数の核酸分子を提供する。
【0041】
別の態様では、本願はさらに、本願における前記核酸分子を含むベクターを提供する。
【0042】
別の態様では、本願はさらに、本願における前記核酸分子または前記ベクターを含む細胞を提供する。
【0043】
別の態様では、本願はさらに、本願における前記の単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質、前記キメラ抗原受容体、前記免疫複合体、および任意に選ばれる薬学的に許容されるアジュバントを含む医薬組成物を提供する。
【0044】
別の態様では、本願はさらに、本願における前記の単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質の発現が可能な条件で、本願に記載の細胞を培養することを含む、本願における前記の単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質の調製法を提供する。
【0045】
別の態様では、本願はさらに、腫瘍の予防、緩和および/または治療に用いられる医薬品製造における、本願における前記の単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質、前記キメラ抗原受容体、前記免疫複合体、および/または前記医薬組成物の使用を提供する。いくつかの実施形態では、前記腫瘍は固形腫瘍およびリンパ腫を含む。
【0046】
別の態様では、本願はさらに、(i)アミノ酸配列はSEQ ID NO:49、すなわちRLLEMEFEERKRAAEであり、(ii)もしくは、アミノ酸配列はxxLxxxFxxRxxx(xは任意のアミノ酸を表す)で、両末端に位置する1~3個のアミノ酸が欠失され得、(iii)もしくは、SEQ ID NO:49の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個のアミノ酸が置換、挿入または欠失されることによって得られたアミノ酸配列を含むことを特徴とする、ITPRIPL1機能調節抗体を高効率にスクリーニングおよび調製するために使用することができる線状エピトープポリペプチドを提供する。
【0047】
上記の線状エピトープペプチドは、低コストで合成できること、当該エピトープペプチドの結合能を解析することで、操作が簡便で、測定結果の安定性、信頼性が高く、ITPRIPL1特異的抗体の機能を判定できること、線状エピトープペプチドは、動物への注射やスクリーニング用の免疫原として直接使用できるため、完全長タンパク質を用いる場合と比較して、より多くの効果的な機能性抗体が得られ、関連する薬剤の発見効率を大幅に改善できることなど、多くの優れた利点を持っている。
【0048】
本願はさらに、細胞表面上に発現されるITPRIPL1に特異的に結合する能力、ITPRIPL1とCD3εとの結合に対する影響、ITPRIPL1とNRP2との結合に対する影響、ITPRIPL1とSEMA3Gとの結合に対する影響、ITPRIPL1とEBI2との結合に対する影響、免疫細胞または腫瘍細胞の機能に対する影響からなる供試分子の1つまたは複数の特性を測定することを特徴とする、ITPRIPL1機能レギュレーターを探索および同定するための方法を提供する。
【0049】
本願は、前記の標的タンパク質に高い親和性で結合してその機能を中和し、1つまたは複数のリガンドへの結合を阻害することにより、腫瘍細胞の免疫逃避機能を解除する役割を果たし、in vivoおよびin vitroで免疫細胞による腫瘍細胞の死滅を促進することができる、ITPRIPL1に結合できる標的抗体を独創的に開発した。本願によって提供される抗体は、腫瘍治療のための医薬品を調製するための有効成分として使用でき、腫瘍治療のために新しい効果的な治療法を提供する。さらに、本発明は、優れた中和機能を有する抗体に対応する線状エピトープおよび投与された抗体のバイオマーカーも提供する。
【0050】
本出願の目的、特徴、および効果を完全に理解されるために、本願の発想、具体的な構造、および技術的効果を図面と併せて、以下でさらに説明する。
【0051】
従来の技術と比較し、本願は以下の有利な効果を有する。
【0052】
本願は、ITPRIPL1遺伝子の発現または機能を調節することにより達成される、免疫応答を調節し、腫瘍を抑制するための方法を公開した。本願は、ITPRIPL1がCD3εやその他のタンパク質に結合することによって、さまざまな免疫細胞の機能を調節し、免疫応答の調節と腫瘍の免疫逃避過程に関与するという新しい科学的発見に基づいたものである。本願は、ITPRIPL1のレギュレーターが医薬品または医薬組成物を調製するために使用できることを実証しており、腫瘍、自己免疫疾患、移植拒絶反応、アレルギーおよび感染症などの疾患の抑制における応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1は、実施例1のプラスミド構築結果を示す。
図2は、実施例1の共免疫沈降試験結果を示す。
図3は、実施例1の細胞における外因的に発現されたITPRIPL1およびCD3Eの共局在化の結果を示す図である。
図4は、実施例2のITPRIPL1の細胞外ドメイン受容体結合ドメインを発現する、発現ベクター構築結果を示す。
図5は、実施例2の共免疫沈降試験結果を示す。
図6は、実施例2のITPRIPL1細胞外ドメインおよびCD3細胞外ドメインがトランス結合していることを示す免疫蛍光および共局在分析の試験結果を示す。
図7は、実施例3のITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質(IT1-RBDタンパク質)のゲル電気泳動後クマシーブリリアントブルー染色結果(注:ITPRIPL1=IT1、以下同じ)を示す。
図8は、実施例4のELISA試験結果を示す。
図9および
図10は、実施例5のITPRIPL1の細胞外ドメインの精製タンパク質フラグメントがCD3高発現Jurkat細胞に結合することを、フローサイトメトリーで実証した結果を示す。ここで、
図9の(a)は、死細胞に分類しないための閾値設定を示し、
図9の(b)は、urkat細胞と、各濃度のITPRIPL1細胞外ドメインの精製されたタンパク質フラグメントとの結合状況を示す。
図10は、
図9の(b)における各条件での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。
図11および
図12は、実施例5のITPRIPL1タンパク質がより高い効率でCD3が過剰発現する細胞に結合することを、フローサイトメトリーで実証した結果を示す。ここで、
図11の(a)死細胞に分類しないための閾値設定を示し、
図11の(b)は、CD3ε発現状況の異なる細胞と、各濃度のITPRIPL1組み換えタンパク質との結合状況を示す。
図12は、
図11の(b)における各条件での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。
図13および
図14は、実施例5のCD3がより高い効率でITPRIPL1が過剰発現する細胞に結合することを、フローサイトメトリーで実証した結果を示す。ここで、
図13の(a)死細胞に分類しないための閾値設定を示し、
図13の(b)は、ITPRIPL1発現状況の異なる細胞と、CD3εタンパク質との結合状況を示す。
図14は、それぞれ
図13の(b)における各条件での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。
図15は、実施例5の50μg/mLのConAに活性化された条件で、NFKBシグナルがITPRIPL1タンパク質濃度の変化に伴って変化する結果を示す図である。
図16は、実施例5の50μg/mLのConAに活性化された条件で、NFKBシグナルがミクロスフェアコーティングITPRIPL1タンパク質濃度の変化に伴って変化する結果を示す図である。
図17は、ウエスタンブロット法でGAPDHの内部参照を調整した後の、異なるタイプの腫瘍細胞のITPRIPL1発現状況を示す。
図18は、正常組織、腫瘍組織におけるITPRIPL1のmRNA発現レベルを示す。
図19は、実施例6のポリクローナル抗体がITPRIPL1が発現する細胞に結合することを、酵素結合免疫吸着法で実証した結果を示す図である。
図20は、実施例6のポリクローナル抗体がITPRIPL1とCD3Eとの結合を阻害することを、酵素結合免疫吸着法で実証した結果を示す図である。
図21および
図22は、実施例6のポリクローナル抗体がITPRIPL1とCD3εが過剰発現する細胞との結合を阻害することを、フローサイトメトリーで実証した結果を示す図である。ここで、
図21の(a)は、死細胞に分類しないための閾値設定を示す。
図21の(b)は、ポリクローナル抗体濃度が変化したときのITPRIPL1とCD3εとの結合状況の変化を示す。
図22は、
図21の(b)における各条件での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。
図23は、実施例7のITPRIPL1が過剰発現するHCT116細胞がJurkat-dual細胞のNFKB増殖シグナルをより多く減少させることができることを、ルシフェリンレポーターアッセイで実証した結果を示す図である。
図24は、実施例7のCD3Eタンパク質がITPRIPL1タンパク質によるJurkat-dual細胞におけるNFKB増殖シグナルに対する抑制を阻止できることを、ルシフェリンレポーターアッセイで実証した結果を示す図である。
図25および
図26は、実施例8のITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質が腎臓由来H3K293細胞のヒト末梢血単核細胞(PBMC)による殺傷を減少させることを、フローサイトメトリーで実証した結果を示す図である。ここで、
図25の(a)および(b)は、CD45に準拠する293E細胞分類を示す。
図25の(c)は、異なるITPRIPL1タンパク質濃度条件下で、各群のアポトーシスデータにより算出されたPBMCの相対殺傷活性を示す。
図26は、
図25の(c)における各条件下での特異的なアポトーシス染色状況を示す。
図27および
図28は、実施例9のITPRIPL1の過剰発現がPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を減少させることと、ノックアウトITPRIPL1がPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を促進することを、フローサイトメトリーで実証した結果を示す図である。ここで、
図27の(a)および(b)はCD45に準拠するHCT116細胞分類を示す。
図27の(c)は、異なるポリクローナル抗体濃度条件下で、各群のアポトーシスデータにより算出されたPBMCの相対殺傷活性を示す。
図28は、
図27の(c)における各条件下での特異的なアポトーシス染色状況を示す。
図29および
図30は、実施例10のITPRIPL1ポリクローナル抗体がPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を促進することを、フローサイトメトリーで実証した結果を示す図である。
図29の(a)および(b)は、CD45に準拠したHCT116細胞分類を示す。
図29の(c)は、異なるポリクローナル抗体濃度条件下で、各群のアポトーシスデータにより算出されたPBMCの相対殺傷活性を示す。
図30は、
図29の(c)における各条件下での特異的なアポトーシス染色状況を示す。
図31は、実施例11の共免疫沈降試験結果を示す。
図32は、実施例12の酵素結合免疫吸着試験の結果を示す図である。
図33および
図34は、実施例12のNRP2がより高い効率でITPRIPL1が過剰発現する細胞に結合することを、フローサイトメトリーで実証した試験結果を示す。ここで、
図33の(a)は、死細胞に分類しないための閾値設定を示す。
図33の(b)は、ITPRIPL1の発現状況が異なる細胞とNRP2タンパク質との結合状況を示し、
図34は、それぞれ
図33の(b)における各条件下での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。
図35は、実施例13のルシフェリンレポーターアッセイ結果を示す。
図36は、実施例14のルシフェリンレポーターアッセイ結果を示す。
図37および
図38は、実施例14の精製によって得られたIT1-RBD1-Fc組み換えタンパク質が腎臓由来H3K293細胞の末梢血単核細胞(PBMC)による殺傷を減少させることを、フローサイトメトリーで実証した結果を示す図である。ここで、
図37の(a)は、CD45に準拠する293E細胞分類を示す。
図37の(b)は、異なるタンパク質条件下で、各群のアポトーシスデータにより算出されたPBMC相対殺傷活性を示し、
図38は、
図37の(b)における各条件下での特異的なアポトーシス染色状況を示す。
図39は、実施例14のウエスタンブロット法試験結果を示す。
図40は、実施例5のITPRIPL1タンパク質がCD3Eタンパク質に直接結合することができることを、OCTET分子間相互作用で実証した結果を示す。
図41は、実施例14のCD3εタンパク質がリン酸化経路に対するITPRIPL1-RBD-Fc組み換えタンパク質の影響を阻害することを、ウエスタンブロット法で試験した結果を示す。
図42は、実施例15のリン酸化経路に対するJurkatのCD3変異体の影響をウエスタンブロット法で試験した結果を示す。
図43は、実施例15のJurkat細胞におけるカルシウムイオンフローに対するITPRIPL1-RBD-Fc組み換えタンパク質を免疫蛍光で試験した結果を示す。
図44は、実施例15のITPRIPL1-RBD-Fc組み換えタンパク質の細胞内カルシウムイオンに対するJurkatのCD3変異体の異なる応答に関する免疫蛍光試験結果を示す。
図45は、実施例16のITPRIPL1-RBD-Fc組み換えタンパク質がCD3とNckとの結合を増加させることを、ウエスタンブロット法で試験した結果を示す。
図46は、実施例16のITPRIPL1-RBD-Fc組み換えタンパク質がCD3とNckとの結合を増加させることに関する近接ライゲーションアッセイ結果を示す。
図47は、実施例17のヒト化CD3εマウスMC38皮下移植腫瘍モデルの腫瘍体積計測および腫瘍重量測定に関する試験結果を示す。
図48は、実施例17のヒト化CD3εマウスMC38皮下移植腫瘍モデルモデルを屠殺した後にPBMCを取り、T細胞関連免疫調節点解析を行ったフローサイトメトリー試験結果を示す。
図49は、実施例17のヒト化CD3εマウスMC38皮下移植腫瘍モデルの腫瘍組織の免疫組織化学結果を示す。
図50は、実施例17のITPRIPL1ノックアウトおよび野生型マウスのPBMCに対し、T細胞関連免疫調節点解析を行ったフローサイトメトリー試験結果を示す。
図51は、実施例17のITPRIPL1ノックアウトおよび野生型マウスのPBMCにおける分泌サイトカインに関するELISA解析試験結果を示す。
図52は、実施例17のITPRIPL1ノックアウトおよび野生型マウスの精巣組織T細胞免疫組織化学染色結果、並びに精子形態及び運動性解析結果を示す。
図53は、実施例18の腫瘍および正常組織におけるITPRIPL1発現の解析結果を示す。
図54は、実施例14に記載のITPRIPL1配列および機能注釈を示し、棒グラフは異なる種の結合状況を示す。
図55は、腫瘍組織および正常組織に対するITPRIPL1抗体の標識効果および区分効果を示す。
図56は、遠隔転移を有する腫瘍細胞に対するITPRIPL1抗体の特異的標識および区分効果を示す。
図57は、本願において、マウスハイブリドーマ抗体とITPRIPL1との結合結果を示す図である。ここで、
図57Aは、1μg/mLの100個のハイブリドーマ抗体と1μg/mLのLITPRIPL1との反応に関するELISA結果を示す図で、
図57Bは、1μg/mLの選出された9個のハイブリドーマ抗体と1μg/mLのITPRIPL1との反応に関するELISA結果を示す図である。
図57Cは、13B7抗体とITPRIPL1との結合曲線図である。
図58は、本願において、各マウスハイブリドーマ抗体とITPRIPL1が内因的に高発現するJurkat細胞との結合状況を、フローサイトメトリーで測定した結果を示す図である。ここで、
図58Aは、Jurkat細胞解析ゲート設定、
図58Bは、各ハイブリドーマ抗体結合率の集計結果、
図58C~58Lは、2E7、5E5、13B7、13F7、15C9、16E1、18B12、18G5、19B11および20E3を含む各ハイブリドーマ抗体とJurkat細胞との結合に関するフローサイトメトリー解析結果を示す。
図59は、マウスハイブリドーマ13B7抗体とITPRIPL1が発現する複数の腫瘍細胞との結合をフローサイトメトリーで測定した結果を示す図である。ここで、
図59Aは、抗体対照を添加していないHCT116の群の場合、
図59Bは、抗体を添加したHCT116の群の場合、
図59Cは、抗体対照を添加していないA549の群の場合、
図59Dは、抗体を添加したA549の群の場合、
図59Eは、抗体対照を添加していないMC38の群の場合、
図59Fは、抗体を添加したMC38の群の場合、
図59Gは、抗体対照を添加していないMC38-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株の群の場合、
図59Hは、抗体を添加したMC38-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株の群の場合、
図59Iは、抗体対照を添加していないJurkatの群の場合、
図59Jは、抗体を添加したJurkatの群の場合、
図59Kは、抗体対照を添加していないRajiの群の場合、
図59Lは、抗体を添加したRajiの群の場合、
図59Mは、13B7抗体とITPRIPL1を発現する異なる腫瘍細胞との結合率の統計結果を示す図である。
図60は、本願において、各濃度のマウスハイブリドーマ13B7抗体とITPRIPL1が内因的に高発現するJurkat細胞との結合をフローサイトメトリーで測定した結果を示す図である。ここで、
図60Aは解析ゲート設定、
図60Bは陰性対照、
図60C~
図60Hはそれぞれ0.0625/0.125/0.25/0.5/1/2μg/mL の13B7抗体を結合する場合の結合率、
図60Iは各群の結合率のデータ統計結果を示す。
図61は、本願において、13B7抗体とITPRIPL1との結合をウエスタンブロッティングで解析した結果を示す図である。ここで、ITPRIPL1が内因的に高発現するJurkat細胞、ITPRIPL1が内因的に発現するHCT116細胞、ITPRIPL1が発現しないMC38細胞を用いたウエスタンブロッティング試験を実施し、13B7抗体でインキュベートした。
図62は、本願において、異なるマウスハイブリドーマ抗体がITPRIPL1と異なるタンパク質との結合を阻害した結果を示す図である。ここで、
図62Aは、異なるマウスハイブリドーマ抗体がITPRIPL1とCD3Eとの結合を阻害した結果を示す図、
図62Bは、異なるマウスハイブリドーマ抗体がITPRIPL1とSEMA3Gとの結合を阻害した結果を示す図である。
図63は、本願において、マウスハイブリドーマモノクローナル抗体とITPRIPL1との結合をELISAで測定した結果を示す図である。
図64は、本願において、異なるマウスハイブリドーマモノクローナル抗体とITPRIPL1が内因的に高発現するJurkat細胞との結合をフローサイトメトリーで測定した結果を示す図である。
図65は、本願において、異なるマウスハイブリドーマモノクローナル抗体がITPRIPL1と異なるタンパク質との結合を阻害することの統計結果を示す図、および2種類の抗体の配列比較を示したものである。ここで、
図65Aは異なるマウスハイブリドーマモノクローナル抗体がITPRIPL1とCD3Eとの結合を阻害した結果を示す図、
図65Bは、異なるマウスハイブリドーマ抗体がITPRIPL1とSEMA3Gと結合を阻害した集計図であり、
図65Cは2種類の抗体配列の比較解析を示す。
図66は、本願において、ITPRIPL1抗原結合領域同定結果を示す図である。ここで、
図66A~66Mはそれぞれ抗体18B12、18B12D1A6、13B7、13B7A6H3、16E1、18G5、20E3、16E1D8H1、5E5、2E7、19B7、13F7、18G5F3F4とITPRIPL1タンパク質由来の異なるペプチドセグメントとの結合の統計結果を示す図である。
図67は、本願において、異なるマウスハイブリドーマモノクローナル抗体がPBMCのITPRIPL1が内因的に高発現するRaji細胞に対する殺傷を促進することを、フローサイトメトリーで測定した結果を示す図である。ここで、
図67A~Bは解析ゲート設定、
図67CはRaji細胞自体アポトーシス対照、
図67Dは、PBMCおよび陰性血清を添加したときの殺傷状況を示し、
図67E~
図67Nは、それぞれPBMCを添加したときに、0.5μg/mLの13B7A6H3モノクローナル抗体、2μg/mLの13B7A6H3モノクローナル抗体、0.5μg/mLの16E1D8C4モノクローナル抗体、2μg/mLの16E1D8C4モノクローナル抗体、0.5μg/mLの18G5F3E5モノクローナル抗体、2μg/mLの18G5F3E5モノクローナル抗体、0.5μg/mLの18B12D1モノクローナル抗体、2μg/mLの18B12D1モノクローナル抗体、0.5μg/mLの18B12D1A6モノクローナル抗体、2μg/mLの18B12D1A6モノクローナル抗体を添加した場合の測定結果を示す。
図68は、本願において、異なるマウスハイブリドーマモノクローナル抗体がPBMCのITPRIPL1が内因的に高発現するRaji細胞に対する殺傷を促進することを、フローサイトメトリーで測定した結果を示す図である。
図69は、本出願において、異なる点変異を受けた後の、P8ポリペプチドセグメントと、13B7A6H3モノクローナル抗体との結合を、ELISAで試験した結果を示す。
図70は、本願において、エピトープマッピング法を使用した実験結果と、対応する抗体グループ化解析を示す。
図71は、ITPRIPL1-RBDを結合したモノクローナル抗体を使用して、マウスMC38-ITPRIPL1過剰発現皮下異種移植腫瘍モデルを治療したときの腫瘍体積および質量の変化に関する試験結果を示す。
図72は、ITPRIPL1-RBDを結合したモノクローナル抗体を使用して、マウスMC38-ITPRIPL1過剰発現皮下異種移植腫瘍モデルを治療したときの末梢血PBMCに対するフローサイトメトリー測定結果を示す。
図73は、ITPRIPL1-RBDを結合したモノクローナル抗体を使用して、マウスMC38-ITPRIPL1過剰発現皮下異種移植腫瘍モデルを治療したときの腫瘍組織の免疫組織化学染色結果を示す。
図74は、ヒト化抗体とP8ポリペプチドとの結合に関するELISA試験結果を示す。
図75は、カニクイザルITPRIPL1-P8対応ポリペプチドと13B7A6H3モノクローナル抗体との結合に関するELISA試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
具体的な実施形態
本発明は多くの異なる形態で具現化することができるが、ここでは、本発明の原理を実証する特定の例示的な実施形態を開示する。本発明は、例示的に説明された具体的な実施形態に限定されないことを理解されたい。また、本願で使用される任意の章節の見出しは、構成のみを目的としており、記載された主題を限定するものとして解釈されるべきではない。以下の実施例において具体的な条件が示されていない実験方法は、通常(SambrookおよびRussellら、分子クローニング:A Laboratory Manual (Molecular Cloning-A Laboratory Manual) (第3版) (2001)CSHL出版社)に記載されているような従来の条件、あるいはメーカーが推奨する条件に従っている。特に明記しない限り、パーセンテージおよび部は重量ベースである。特に明記しない限り、本発明の実施例で使用される材料および試薬は、すべて市販品である。
【0055】
以下で特に定義しない限り、本発明の実施形態の詳細な説明で使用されるすべての技術用語および科学用語の意味は、当業者に一般的に理解されるものと同じである。以下の用語は、当業者に十分に理解されると考えられるが、本発明をよりよく説明するために、以下のように定義する。
【0056】
用語「含む」、「含まれる」、「有する」、「含んでいる」、または「に関する」(involve)という用語は、包括的(inclusive)または無制限(open-ended)であり、列挙されていない他の要素または方法手順を排除しない。「…からなる」という用語は、「含む」という用語のの好ましい実施形態とみなされる。下記の特定の群が少なくとも特定の数の実施形態を含むと定義される場合、これは、好ましくはこれらの実施形態のみからなる群を記載したと理解されるべきである。
【0057】
単数形の名詞を記載するときに使われる「1つ」、「1種」、「前記」などの不定冠詞または定冠詞は当該名詞の複数形を含む。
【0058】
さらに、明細書および特許請求の範囲に使われる第1、第2、第3、(a)、(b)、(c)などの用語は、順序または時間順序を記述するものではなく、同様の要素の区分に使われるものである。このように使われる用語は適当な状況下で同一意味で使用可能であり、本発明に記載の実施形態は、本発明に記載または例示された以外の順序で実施できることを理解されたい。
【0059】
「および/または」という用語は、2つの指定された特徴または構成要素のそれぞれが、もう1つを伴うまたは伴わないという特定の開示と見なされる。したがって、本願に記載された「Aおよび/またはB」などの文言に使われる「および/または」という用語は、AおよびB、AまたはB、A(単独)、B(単独)を含むことを意図する。同様に、「A、Bおよび/またはC」などの文言に使われる「および/または」という用語は、次のいずれかを含むことを意図する:A、BおよびC;A、BまたはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);C(単独)。
【0060】
「例えば」および「すなわち」という用語は、限定することを意図するものではなく、例としてのみ使用され、明細書で明示的に列挙された項目のみを指すと解釈されるべきではない。
【0061】
「またはこれ以上」、「少なくとも」、「を超える」など、例えば「少なくとも1種」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100または200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000または前記値を超えることを含むが、これらに限定されないと理解されたい。さらに、この間にあるより大きい数字または分数も含む。
【0062】
逆に、「を超えない」という用語は、前記値未満の各値を含む。例えば、「100個を超えないヌクレオチド」は、100、99、98、97、96、95、94、93、92、91、90、89、88、87、86、85、84、83、82、81、80、79、78、77、76、75、74、73、72、71、70、69、68、67、66、65、64、63、62、61、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1および0個のヌクレオチドを含む。さらに、この間にあるより小さい数字または分数も含む。
【0063】
「複数」、「少なくとも2つ」、「2つまたはそれ以上」、「少なくとも2つ」などの用語は少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19 、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100または200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000またはこれ以上の値を含むが、これらに限定されないと理解されたい。さらに、この間にあるより大きい数字または分数も含む。
【0064】
「約」および「およそ」という用語は、言及された特徴の技術的効果を保証することができ、当業者が理解できる精度の範囲を表す。この用語は、通常、表示値の±10%、好ましくは±5%を示す。
【0065】
「誘導体」、「変異」とは、置換、欠失、挿入などの変化によって新しい配列を形成する核酸またはアミノ酸配列を指し、新しい配列からなる群内のアミノ酸配列は群内の配列と少なくとも70%、80%、90%、95%または99%の配列同一性を有する。
【0066】
本願の文言に記載されたように、別段の説明がない限り、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲、または整数範囲は、記載範囲内の任意の整数の値を含み、および適切な場合にはその分数(例えば、整数の10分の1および100分の1)を含むと理解されたい。
【0067】
本願の目的、技術的解決手段、および利点をより明確にするために、本発明に関わるいくつかの用語を説明する。
【0068】
「免疫応答」という用語は、外来成分または変異した自己成分に対する身体の防御反応を指す。
【0069】
「腫瘍」という用語は、異常な細胞増殖によって形成された新生物または固形病変を指す。
【0070】
「ゲノム編集システム」という用語は、標的遺伝子の編集、具体的には、特定のDNAフラグメントのノックアウト、挿入、および変異などによって遺伝子配列を得ることを指す。
【0071】
「sgRNA」という用語は、RNA編集の過程でキネトプラストへのウリジン残基の挿入または欠失を導く小型ガイドRNAであり、小型非コードRNAに属する。
【0072】
「抗体定常領域」という用語は、多くの重要な生物学的機能を有する、抗体分子のC末端アミノ酸の比較的安定な領域を指す。
【0073】
「凝固因子」という用語は、血液凝固プロセスに関与する各種のタンパク質成分を指す。
【0074】
「抗原提示細胞」という用語は、抗原情報を摂取、処理、および伝達し、T細胞およびB細胞の免疫応答を誘導する体内の細胞を指し、主にマクロファージ、樹状細胞、および B 細胞を含む。
【0075】
「自己免疫疾患」という用語は、体が自己抗原に対して免疫応答を発生し、自己の組織に損傷を与える疾患を指す。
【0076】
「移植拒絶」という用語は、レシピエントが同種組織または臓器移植を受けた後、外来の組織または臓器などの移植片が「外来成分」として、レシピエントの免疫系に認識され、移植片の攻撃・破壊・除去を起こすレシピエントの免疫反応を指す。
【0077】
「アレルギー」という用語は、免疫を獲得した生体が、同じ抗原によって再び刺激されたときに起こる、組織損傷や機能障害を指す。
【0078】
「感染症」という用語は、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの病原体が人体に侵入することによって引き起こされる局所組織および全身の炎症性反応を指す。
【0079】
「中和抗体」という用語は、病原性微生物が体内に侵入したときに産生される対応する抗体を指す。病原性微生物は細胞に侵入するときに、病原性微生物自体より発現する特定の分子に依存して細胞の受容体に結合することにより、細胞に感染し、さらに増殖する必要がある。中和抗体は、B リンパ球によって産生される特定の抗体であって、病原性微生物の表面の抗原に結合することにより、標的細胞受容体への病原性微生物付着を阻害し、細胞に侵入することを防ぐ抗体である。
【0080】
「阻害抗体」という用語は、細胞表面の分子作用部位に結合し、主に受容体とリガンドの結合を阻害する役割を果たす抗体を指す。
【0081】
「酵素結合免疫吸着測定法」という用語は、抗原と抗体の特異的な結合性を利用して、検体を測定することを指す。固体担体に結合した抗原または抗体は依然として免疫学的活性を有する可能性があるため、その結合メカニズムを設計した後、酵素の発色反応と組み合わせることで、特定の抗原または抗体の存在を示し、 色の濃淡により、定量分析を行うことができる。
【0082】
「フローサイトメトリー」という用語は、流体中に浮遊する小さな粒子をカウントし、選別する技術を指す。この技術は、光学的または電子的検出器を流れる個々の細胞について、連続的に複数のパラメーターを分析することができる。
【0083】
「シグナル経路」という用語は、細胞内で何らかの反応が起こると、そのシグナルが細胞外から細胞内へ情報を伝達し、細胞がその情報に応答する現象を指す。
【0084】
「免疫回避」という用語は、免疫抑制性病原体がそれらの構造的および非構造的産物を通じて、身体の免疫応答を拮抗、阻害、抑制することを指す。
【0085】
「修飾」という用語は、他の化合物または官能基を、化学結合によってポリペプチドまたはタンパク質に結合することを指すもので、抗体定常領域(Fc)、ポリエチレングリコール修飾、グリコシル化修飾、ポリシアル酸修飾、脂肪酸修飾、KLH修飾、ビオチン修飾などが挙げられる。
【0086】
本願では、「単離された/の」 という用語は、一般に、天然の状態から人工的に取得または人工的に合成されることを指す。もし自然界にある「単離された/の」物質或いは成分が出現すれば、それが置かれた自然環境に変化が発生したか、あるいは自然環境からその物質を単離したか、あるいはその両方が発生した可能性がある。例えば、ある生体動物体内にはある種の単離されていないポリヌクレオチドまたはポリペプチドが自然に存在し、この自然状態から単離された高純度の同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドを単離したと称する。「単離された/の」という用語は、人工または合成の物質の混在、または物質の活性に影響しないその他の不純物の存在を排除しない。
【0087】
本書で用いられるように、「抗体」(Ab)という用語は、抗原に特異的に結合する糖タンパク質免疫グロブリンを含むが、これらに限定されない。通常、抗体は、ジスルフィド結合により相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽軽(L)鎖、またはその抗原結合分子を含み得る。各H鎖は、重鎖可変領域(本書ではVHと略す)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3つの定常ドメインを含む。各軽鎖は軽鎖可変領域(本書ではVLと略す)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域はCLという1つの定常ドメインを含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域 (FR) と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域 (CDR) と呼ばれる超可変領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRを含み、アミノ基末端からカルボキシル基末端に向かって、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4の順序で配列される。重鎖と軽鎖の可変領域には、抗原と相互作用する結合ドメインが含まれている。Abの定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(Clq)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0088】
軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、それぞれ、3つの超可変領域(「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる)が散在する「フレームワーク」領域を含む。「相補性決定領域」または「CDR領域」または「CDR」または「超可変領域」(本書では超可変領域「HVR」と同一意味で使用できる)は、抗体可変ドメインにおいて、配列が超可変である領域であり、構造的に決定されたループ(「超可変ループ」)、および/または抗原接触残基(「抗原接触点」)を形成する領域である。CDRは、主に抗原エピトープへの結合を担っている。重鎖および軽鎖のCDRは、一般にCDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、N-末端からナンバリングされる。抗体重鎖可変ドメインに位置するCDRはHCDR1、HCDR2およびHCDR3と呼ばれ、抗体軽鎖可変ドメインに位置するCDRはLCDR1、LCDR2およびLCDR3と呼ばれる。所与の軽鎖可変領域または重鎖可変領域のアミノ酸配列において、各CDRの正確なアミノ酸配列境界は、多数の周知の抗体CDR割当システムのいずれかまたは組み合わせによって決定することができる。例えば、前記割当システムは、抗体の三次元構造と CDR ループのトポロジーに基づくChothia(Chothiaら.(1989)Nature 342:877-883、Al-Lazikaniら,「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」, Journal of Molecular Biology, 273,927-948(1997))、抗体配列可変性に基づくKabat(Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest,第4版, U.S.Department of Health and Human Services, National Institutes of Health (1987)), AbM (University of Bath)、Contact (University College London)、 International ImMunoGeneTics database(IMGT) 、および多数の結晶構造を使用したアフィニティ伝搬クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDRによって、定義されることができる。
【0089】
しかし、異なる割り当てシステムに基づいて得られた同じ抗体の可変領域のCDRの境界が異なる可能性があるので、留意すべきである。すなわち、異なる割当システムに定義された同一抗体可変領域のCDR配列は異なることがある。例えば、KabatおよびChothiaナンバリングのCDR領域の異なる割当システムに定義された残基範囲は、下表Aに示す。
【0090】
【0091】
したがって、本発明によって定義された特定のCDR配列により定義された抗体に関わる場合、当該抗体の範囲は、可変領域配列が特定のCDR配列を含むが、異なるスキーム(例えば、異なる割当システムの規則またはそれらの組み合わせ)の適用により、請求されたCDRの境界が本発明に定義された特定のCDR境界と異なる抗体も含む。
【0092】
本発明の抗体のCDRは、当技術分野の任意のプロトコルまたはそれらの組み合わせにより、手動で(manually)評価の上、境界を決定することができる。別段の説明がない限り、本発明における「CDR」または「CDR配列」という用語は、前記任意の方式で決定されたCDR配列を含む。
【0093】
抗体は、例えば、モノクローナル抗体、組換え産生抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体(二重特異性抗体を含む)、ヒト抗体、改変抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、免疫グロブリン、合成抗体、2つの重鎖と2の軽鎖分子を含む四量体抗体、抗体軽鎖単量体、抗体重鎖単量体、抗体軽鎖ダイマー、抗体重鎖ダイマー、抗体軽鎖-抗体重鎖対、細胞内抗体、抗体融合体(本書で「抗体複合体」という場合がある)、ヘテロコンジュゲート抗体、単一ドメイン抗体、一価抗体、一本鎖抗体または一本鎖Fv(scFv)、ラクダ化抗体、アフィボディ、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、抗抗Id 抗体を含む)、マイクロ抗体(minibody)、ドメイン抗体、合成抗体(本書では、「抗体模倣物」という場合がある)および前記いずれかの抗原結合フラグメントを含み得る。
【0094】
「ヒト化抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列をヒトフレームワーク配列に移植することによって得られる抗体を意図している。ヒトフレームワーク配列に、別のフレームワーク領域による修飾を実施し得る。
【0095】
本書で用いられるように、「抗原結合分子」、「抗原結合フラグメント」または「抗体フラグメント」とは、分子が由来する抗体の抗原結合フラグメント(例えば、CDR)を含む任意の分子を指す。抗原結合分子は、抗原相補性決定領域(CDR)を含み得る。抗体フラグメントの例は、抗原結合分子から形成されるFab、Fab’、F(ab’)2およびFvフラグメント、dAb、線状抗体、scFv抗体および多重特異性抗体を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、抗原結合分子がITPRIPL1タンパク質に結合し、いくつかの実施形態では、抗原結合分子は中和活性を有し、ITPRIPL1と受容体CD3EまたはEBI2との結合を抑制できる。
【0096】
「キメラ抗原受容体」という用語は、Chimeric Antigen Receptor(CAR)のことで、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび可能な細胞内ドメインを含み、細胞外ドメインは特定の抗原を認識する結合するタンパク質ドメインからなる。キメラ抗原受容体は免疫細胞に発現し、標的細胞との相互作用を調節する能力を有する。
【0097】
「免疫複合体」という用語は、抗体免疫複合体(すなわち、抗体-薬物複合体、antibody-drug conjugate、ADC)を含み得、化学的結合によって生物学的活性を有する低分子薬物を抗体に結合するものを含む。同様に、免疫複合体はさらに、タンパク質-薬物複合体、核酸-薬物複合体を含み得る。
【0098】
本書で用いられるように、「抗原」という用語は、免疫応答を誘発するか、または抗体または抗原結合分子によって結合されることができる任意の分子を指す。免疫応答は、抗体の産生または特定の免疫担当細胞の活性化、またはその両方に関わり得る。当業者は、実質的に任意の巨大分子(殆どのタンパク質またはペプチドを含む)が抗原として働くことができることを容易に理解するであろう。抗原は、内因的に、すなわちゲノムDNAから発現され得るか、または組換え的に発現され得る。抗原は、癌細胞などの特定の組織に特異性を有するか、幅広く発現し得る。さらに、より大きな分子のフラグメントは抗原として機能し得る。いくつかの実施形態では、抗原は、ITPRIPL1タンパク質抗原である。
【0099】
本書で用いられるように、いくつかの実施形態では、抗原結合分子、scFv、抗体またはそのフラグメントは、リガンドにおける結合部位を直接に阻害するか、または間接方式(リガンドの構造またはエネルギーの変化など)でリガンドの結合能力を変更し得る。いくつかの実施形態では、抗原結合分子、scFv、抗体またはそのフラグメントは、それと結合するタンパク質の生物学的機能を防止し得る。
【0100】
本書で用いられるように、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、互換的的に使用でき、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基を含む化合物を指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含み、タンパク質またはペプチドの配列を含むアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに連結された2つまたはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本書で用いられるように、当該用語は、短鎖(当分野で一般にペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも呼ばれる)および長い鎖(当分野で一般にタンパク質と呼ばれ、多くのタイプを有する)の両者を指す。「ポリペプチド」は、例えば、生物学的活性を有するフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの変異体、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質などを含む。ポリペプチドは、天然ペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチドまたはその組み合わせを含む。
【0101】
本書で用いられるように、「特異結合」または「に特異的に結合する」という用語は、抗体と抗原との間などの2つの分子間の非ランダムな結合反応を指す。
【0102】
本書で用いられるように、「結合を抑制する」、「結合を阻害する」または「同一エピトープを競争する」能力とは、2つの分子の結合を検出可能な程度まで阻害する抗体の能力を指す。いくつかの実施形態では、2つの分子間の結合を阻害する抗体は、2つの分子間の結合相互作用を少なくとも50%阻害する。いくつかの実施形態では、当該抑制は20%、30%を超える、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える、80%を超える、または90%を超えることができる。
【0103】
本書で用いられる「Ka」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指すことを意図し、本書で用いられる「Kd」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことを意図する。本書で用いられるように、用語「KD」または「KD値」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離定数を意味することを意図し、KdとKaとの比(すなわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表される。抗体のKD値は当技術分野でよく確立された方法で決定し得る。
【0104】
本書で用いられるように、「高い親和性」という用語が示す抗体とは、標的抗原に対し、1×10-7 Mまたはそれ以下、好ましくは5×10-8 Mまたはそれ以下、さらに好ましくは1×10-8 Mまたはそれ以下、さらに好ましくは5×10-9 Mまたはそれ以下、およびさらに好ましくは1×10-9 Mまたはそれ以下のKD値を有する抗体を指す。
【0105】
本書で用いられるように、「エピトープ」という用語は、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原部分を指す。「エピトープ」は、「抗原決定基」とも呼ばれる。エピトープまたは抗原決定基は、一般に、例えば、アミノ酸、炭水化物または糖などの分子の側鎖の化学的活性を有する表面基で構成され、かつ、一般に特定の三次元構造および特定の電荷特性を有する。例えば、エピトープは、一般に、固有の三次元コンフォメーションにおける少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の連続または不連続のアミノ酸を含み、「線形エピトープ」または「コンフォメーションエピトープ」であってもよい。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology、Vol.66、G.E.Morris、Ed.(1996)を参照する。線形エピトープでは、タンパク質と相互作用分子 (抗体など)との間のすべての相互作用部位は、タンパク質の一次アミノ酸配列に沿って直線的に存在する。コンフォメーションエピトープでは、相互作用部位はタンパク質において相互に離れたアミノ酸残基をまたいでいる。当業者に知られている従来の技術によって検出される、同じエピトープを結合する競合性に依存して、抗体をスクリーニングすることができる。例えば、相互競争または交差競争によって、抗原(例えばCLDN18.2)に結合する抗体を得るために、競合または交差競合試験を実施することができる。国際特許出願WO 03/048731では、交差競合に基づき、同じエピトープに結合する抗体を得るためのハイスループットな方法が記載されている。
【0106】
本発明における「核酸」または「核酸配列」という用語は、リボ核酸、デオキシリボ核酸またはその類似体の単位を含む任意の分子、好ましくはポリマー分子を指す。前記核酸は、一本鎖または二本鎖のものであってもよい。一本鎖核酸は、変性二本鎖DNAの一方の鎖の核酸であってもよい。または、一本鎖核酸は任意の二本鎖DNAに由来しない一本鎖核酸であってもよい。
【0107】
本書で用いられる「相補」という用語は、2つの所定のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列が互いにアニーリングするときに、DNAにおけるAとTとの対形成、GとCとの対形成、RNAにおけるGとCとの対形成、AとUとの対形成をさせるための、ヌクレオチド塩基G、A、T、CおよびUの間の水素結合塩基対形成に関わる。
【0108】
本書で用いられるように、「癌症」という用語は、体内の異常細胞の無秩序な増殖を特徴とする広範な疾患群を指す。制御されない細胞分裂及び成長は、隣接する組織を侵入し、また、リンパ系又は血流を介して身体の遠位部に転移し得る、悪性腫瘍の形成をもたらす。「癌症」または「癌症組織」は腫瘍を含み得る。例えば、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼の悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門癌、胃腸癌、精巣癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、陰部癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、慢性または急性白血病(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病を含む)、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物/腫瘍、原発CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸(spinal axis)腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ(Kaposi)肉腫、表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、環境誘発癌(アスベストによるものを含む)、及および前記癌の組み合わせが挙げられる。
【0109】
本書で用いられるように、「ITPRIPL1に関連する癌」という用語は、ITPRIPL1発現または活性の増加または減少によって引き起こされる、または悪化する、またはその他の方式のそれに関連する任意の癌を指し、いくつかの実施形態では、本願に開示される方法は大腸癌、肺癌、乳癌、メラノーマ、リンパ腫、肝臓癌、頭頸部癌、胃癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮内膜癌、乳癌および卵巣癌から選ばれる癌に利用できる。
【0110】
本書で用いられるように、「有効用量」、「有効量」または「治療有効用量」とは、単独でまたは別の治療剤と組み合わせて使用された場合に、被験者を疾患の発症から保護するか、または疾患の退行を促進する任意の量を指す。前記疾患退行の証拠として、疾患症状の重症度低下、疾患の無症状期間の頻度および期間の増加、または疾患患部による傷害もしくは障害の防止などが挙げられる。疾患の退行を促進する治療薬の能力は、例えば、臨床試験中のヒト被験者に対する評価、ヒトに対する有効性を予測するための動物モデル系における評価、またはin vitro測定法による薬剤活性評価など、当業者に知られている様々な方法を用いて評価することができる。
【0111】
本書で用いられるように、「個体」または「被験者」は哺乳動物である。哺乳動物は霊長類(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト霊長類)とげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が含まれる。いくつかの実施形態では、個体または被験者はヒトである。「被験者」は「患者」であってもよい。患者は、治療が必要なヒト被験者であって、乳癌などのITPRIPL1に関連する癌に罹患した個体、乳癌などのITPRIPL1に関連する癌に罹患するリスクのある被験者であってもよい。
【0112】
本書で用いられるように、「in vitro細胞」とは、ex vivoで培養される任意の細胞を指す。特に、in vitro細胞はT細胞を含み得る。
【0113】
本書で用いられるように、「薬学的に許容される」という用語は、ベクター、希釈剤、賦形剤および/またはその塩が、製剤の他の成分と化学的および/または物理的に適合し、レシピエントと生理的に適合することを指す。
【0114】
本書で用いられるように、「薬学的に許容される担体および/または賦形剤」とは、当技術分野でよく知られている、被験者および活性剤と薬学的および/または生理学的に適合する担体および/または賦形剤(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences.Edited by Gennaro AR、19th ed.Pennsylvania:Mack Publishing Company、1995を参照)であって、pH調整剤、界面活性剤、アジュバントおよびイオン強度増強剤を含むが、これらに限定されない。例えば、pH調整剤はリン酸緩衝液、界面活性剤は、例えばTween-80などのカチオン、アニオンまたは非イオン界面活性剤、イオン強度増強剤は、塩化ナトリウムを含むが、これらに限定されない。
【0115】
本書で用いられるように、用語「調整」、「調節」という用語は、一般にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションの2つの異なる方向の意味を含み、場合によって抑制または増強、場合によって低下または向上、場合によっては減少させるまたは増加させるなどと理解することができ、具体的な解釈は限定されず、実際の適用文脈に従って理解及び解釈される。例示的に、いくつかの実施形態では、腫瘍細胞増殖を「調節」することは、腫瘍細胞増殖を阻害又は増強することを意味すると理解され得る。
【0116】
本書で用いられるように、「減少」と「低下」という用語は、同一意味で使用され、元より少ない任意の変化を指す。「減少」と「低下」は、測定前と測定後を比較する必要がある相対的な用語である。「減少」と「低下」は、完全な消費を含む。同様な用語である「増加」と「向上」は反対に解釈される。
【0117】
被験者の「治療」または「処置」とは、症状、合併症、状態、または疾患に関連する生化学的指標の発症、進行、悪化、重症化または再発を逆転、緩和、改善、抑制、減速または予防するために被験者に行われるあらゆる種類の介入またはプロセス、または被験者に活性薬剤を投与することを指す。いくつかの実施形態では、「治療」または「処置」は部分寛解を含む。いくつかの別の実施形態では、「治療」または「処置」は完全寛解を含む。
【0118】
「個体におけるITPRIPL1の発現」という用語は、腫瘍組織などの疾患組織や自己免疫疾患からの組織、血液検体、尿、糞便などの生体検体を含む、健常者及び患者におけるITPRIPL1のタンパク質又はmRNAの発現レベルを指す。この発現レベルは、疾患の診断用バイオマーカーとして、または関連する薬剤のコンパニオン診断用マーカーとして用いることができる。
【0119】
本願の技術的解決手段は図面と実施例と併せて、以下でさらに説明される。
【0120】
本願は、ITPRIPL1の細胞外ドメインがCD3ε細胞外ドメインおよびNRP2細胞外ドメインに結合することを初めて明らかにし、ITPRIPL1がCD3εおよびNRP2に結合することにより、T細胞および抗原提示細胞に対してそれぞれ調節作用をもたらすことを開示した。新しい科学的発見に基づき、本願は標的ITPRIPL1を介して免疫応答を調節し、腫瘍を抑制するための方法を開示し、免疫応答調節または抗腫瘍のための薬剤の調製におけるITPRIPL1のレギュレーターとしての使用を明らかにした。具体的に、本願はITPRIPL1遺伝子の編集方法、およびITPRIPL1の発現を調節するために細胞に遺伝物質を導入する方法を提供する。本願はさらに、ITPRIPL1の受容体結合ドメイン(RBD)を開示し、ITPRIPL1-RBD単離タンパク質の調製プロトコルを提供し、免疫細胞の機能を調節するために、ITPRIPL1-RBDをCD3εおよびNRP2に結合する方法を実証する。さらに、本願は、ITPRIPL1抗体を調製する方法を例示し、前記抗体が免疫細胞の抗腫瘍効果を増強することができることを実証した。ITPRIPL1を標的とすることによって免疫応答を調節し、腫瘍を抑制するための本願において開示される方法は、腫瘍、自己免疫疾患、移植拒絶反応、アレルギー反応、感染症などの疾患の治療におけるITPRIPL1の標的としての価値を示した。
【0121】
ITPRIPL1遺伝子の機能について未報告であったが、本願は、CD3εのリガンドとして新たに同定されたITPRIPL1を開示し(実施例1)、ITPRIPL1の細胞外ドメインの受容体結合ドメイン(RBD)を25~103番目のアミノ酸として解明し(実施例2)、それを基にCD3εおよびT細胞調節機能を有する単離組み換えタンパク質を調製した(実施例3)。本願はさらに、前記単離タンパク質の調製、使用および投与方法を開示した。
【0122】
さらに、本願は単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質のCD3εへの結合能力を開示し(実施例4)、それぞれ酵素結合免疫吸着法(ELISA)、フローサイトメトリーなどの試験方法で、ITPRIPL1-RBD単離タンパク質がCD3εの細胞外ドメインに結合することができることを実証した。
【0123】
ITPRIPL1-RBD(配列は、SEQ ID NO:1を参照)は、CD3εを結合するための重要な領域であるため、単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質は組み換え発現によって調製でき、細胞表面のCD3εタンパク質に結合し、T細胞内への抑制シグナル送達(実施例5)に利用できるので、当該単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質はT細胞の機能を調節するために使用することができる。本願は、配列SEQ ID NO:1を有する単離タンパク質のCD3εとの結合、T細胞の調節、および中和抗体の調製における役割を提供するが、当業者が容易に行う非創造的誘導(例えば、切断、挿入、変異または融合など)方法により得られる同様の機能を有する他のタンパク質配列も本願で主張する権利範囲に含まれるものとする。
【0124】
本願は、中和抗体を調製するための免疫原としての単離されたITPRIPL1-RBDの応用を提供する(実施例6)。CD3εのリガンドとしてのITPRIPL1が明らかにされない場合、当業者は、ITPRIPL1とCD3の結合を阻害するための抗体を意図的に調製することができない。本願は、受容体リガンドのペアであるCD3εおよびITPRIPL1の存在を明らかにし、ITPRIPL1のCD3への結合の重要な構造を定義し、ITPRIPL1-RBD単離タンパク質の調製方法を提供し、これにより、ITPRIPL1とCD3との結合を阻害する抗体の調製は、当業者にとって従来技術(例えば、ハイブリドーマ、ファージディスプレイなどの技術)で容易に実現できるようになる。したがって、ITPRIPL1細胞外ドメインからのフラグメントを免疫原として調製してえられたブロッキング抗体も、本願で主張する権利範囲に含まれるものとする。
【0125】
本願はさらに、T細胞由来細胞株における増殖シグナル経路の活性化が、ITPRIPL1-RBDとCD3細胞外ドメインの結合を調節することによって調節されることを開示した(実施例7)。
【0126】
本願は、ITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質がヒト末梢血単核球(PBMC)による腎臓由来H3K293細胞の殺傷を低下させることを明らかにし(実施例8)、それにより、自己免疫抑制における応用、自己免疫、移植拒絶反応、アレルギー、感染症などを治療するための医薬組成物の調製における、ITPRIPL1標的化の応用を明らかにした。
【0127】
本願は、腫瘍細胞の発現を減少させるITPRIPL1は、ヒト末梢血単核球による腫瘍細胞の殺傷が有意に増加することを明らかにし(実施例9)、腫瘍からの免疫回避におけるITPRIPL1の役割を支持し、それによって腫瘍免疫療法の標的としてのITPRIPL1の重要な価値を提案する。
【0128】
本願は、さらに、ITPRIPL1-RBDタンパク質を免疫原として調製された、免疫細胞による腫瘍細胞の殺傷を有意に促進する抗体を開示する(実施例10)。これは腫瘍免疫療法の標的としてのITPRIPL1の重要な価値を検証し、抗体でITPRIPL1とCD3との結合を阻害する方法を確立する。前記抗体は、新たな機能を有する一連の抗体、すなわち、ITPRIPL1を認識し、CD3εへの結合を阻害することによりT細胞の機能の調節できる抗体である。
【0129】
さらに、本願は、異なる長さのITPRIPL1細胞外ドメインフラグメントを比較した結果、ITPRIPL1-RBD2配列がCD3εと結合する能力を有するが、やや低下しており、ITPRIPL1-RBD3のCD3への結合能力が有意に低下したことを証明した。したがって、ITPRIPL1細胞外ドメインの長さとCD3ε結合能力との間の正の相関性を明らかにし、機能的なITPRIPL1細胞外ドメイン配列の基本特性を特徴づけた(実施例11)。本願は、ITPRIPL1-RBDタンパク質がNRP2への結合能力を有することを開示する(実施例12)。また、単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質は、NRP2タンパク質を発現する分化したTHP1マクロファージに阻害シグナルを送達する能力を有することを明らかにした(実施例13)。
【0130】
修飾法は、薬物動態などの特性を改善するために医薬品開発時によく用いられ、例えば、抗体定常領域(Fc)、ポリエチレングリコール修飾、グリコシル化修飾、ポリシアル酸修飾、脂肪酸修飾、KLH修飾、ビオチン修飾など、他の化合物または官能基を、ポリペプチドまたはタンパク質に結合することができる。本願では、Fc修飾によるITPRIPL1の組換えタンパク質の機能に対する修飾の効果を例示する。精製後に得られたITPRIPL1-RBD-Fc修飾タンパク質は、T細胞経路のシグナル伝達抑制および殺傷の機能を有する(実施例14)。さらに、前記ITPRIPL1-RBD-Fcタンパク質はT細胞のリン酸化経路を抑制し、CD3εに阻害されることができる(実施例14)。
【0131】
本願は、Jurkat CD3変異体を調製し、さらに、リン酸化経路への影響に関する仕組みを開示する(実施例15)。さらに、細胞内のカルシウムイオンフローを測定することにより、異なるCD3発現を持つJurkat細胞に対するITPRIPL1-Fcの効果を検討し(実施例15)、ITPRIPL1-FcがCD3とNckとの結合を増加させることにより、経路を調節していることを明らかにした(実施例16)。
【0132】
さらに、本願をin vivo動物モデルに利用し、ヒト化CD3εマウスのMC38皮下異種移植腫瘍モデルを作製することにより、腫瘍増殖、PBMCにおけるT細胞の機能、および腫瘍細胞におけるT細胞の浸潤を測定した(実施例17)。さらに、ITPRIPL1ノックアウトマウスモデルを作製し、PBMCにおけるT細胞の機能、サイトカインの変化、精巣T細胞浸潤を測定し、本願がin vivoで利用できることを明らかにした(実施例17)。
【0133】
本願は、よく見られる複数の臓器癌におけるITPRIPL1の発現を明らかにし、対応する腫瘍周囲組織(para-cancerous tissues)と比較することにより、ITPRIPL1が腫瘍化で増加することを確認した(実施例18)。
【実施例】
【0134】
実施例1:CD3εのリガンドとして新たに同定されたITPRIPL1
1.発現プラスミドの構築
公開されている配列(NCBI参照配列NM_001008949.3)に基づき、pcDNA3.1をベクターとしてヒトITPRIPL1全長cDNAを合成し、C末端をFlagタグに融合することで、Flagタグ付きITPRIPL1プラスミドを形成した。プラスミド構築結果は
図1に示す。
図1の(a)は、ベクターのクローン構造の模式図、
図1の(b)は、遺伝子発現ベクタープラスミドをEcoRI/XhoIで切断した後のDNAゲル電気泳動プロットで、得られたフラグメントサイズは予想通りで、
図1の(c)はベクターのシークエンス検証結果の一部(partial interception)である。
【0135】
2.共免疫沈降およびウエスタンブロット法による解析の結果、ITPRIPL1とCD3との結合が確認された。
Flagタグ付きITPRIPL1(または空)、およびHAタグ付きCD3εを含むpcDNA3.1プラスミドをHCT116細胞(ATCC、VA、USA)にコトランスフェクションし、タンパク質が完全に発現するまで6ウェルプレート(Corning、 NY, USA)で48~72時間培養した。次に、免疫沈降溶解液(Thermo Fisher、MA、USA)に、プロテアーゼ-ホスファターゼ-PMSFの三種混合物(Consun、Shanghai、China)を1:100で混合したハイブリット溶解液で溶解し、細胞を掻き出した。細胞検体の一部を遠心分離し、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)と混合し、100℃の金属浴で変性させ、入力量(インプット量)のタンパク質検体を得た。残りの細胞検体は、Flagタグ付き特異マウス抗体(CST、MA、USA)で免疫沈降させ、PBSで洗浄し、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)と混合して100℃の金属浴で変性させ、免疫沈降させたタンパク質検体を得た。次に、取扱説明書に従い、ゲルプレート(Bio-Rad、CA、USA)に12.5%のPAGEゲル(Epizyme、Shanghai、China)を配置し、準備できたゲルを電気泳動槽(Bio-Rad、CA、USA)に入れ、電源(Bio-Rad、CA、USA)に接続し、バンドが80ボルトの定電圧で濃縮ゲルを通過するようにし、また、120ボルトの定電圧で分離ゲルを通過するようにした。バンドが分離ゲルの底部まで通過したときに、タンクブロット法を使用し、電気泳動転写セル (Bio-Rad、CA、USA) において、350mAの定電流で90分間転写した。膜転写完了後にITPRIPL1-FlagとCD3ε-HAタンパク質の質量に応じて、膜をカットした。クイックブロッキング溶液(Epizyme、Shanghai、China)で10分間ブロッキングし、Flagタグ特異的ウサギ抗体(Abcam、MA、USA)とHAタグ特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)でそれぞれITPRIPL1-FlagとCD3ε-HAに関係するバンドを、4℃で一晩インキュベートした。翌日にTBSTによる洗浄後、TBSに溶解した5%脱脂乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)に希釈された特異的抗ウサギ二次抗体(Consun、Shanghai、China)を使用し、バンドを室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄後、混合発光液(ShareBio、Shanghai、China)に1分間置き、ゲル撮影装置(Bio-Rad、CA、USA)下で露出した。
【0136】
図2は、共免疫沈降試験結果を示す。
図2の(a)および(b)はそれぞれ共免疫沈降に使われるインプットタンパク質におけるITPRIPL1およびCD3εの含有量、すなわちインプット量を示し、
図2の(c)は、直接に沈降したITPRIPL1、
図2の(d)は間接に沈降され、ITPRIPL1に結合したCD3εを示す。共免疫沈降試験結果により、ITPRIPL1とCD3との結合が確認された。
【0137】
3.免疫蛍光および共局在化解析により、ITPRIPL1とCD3との有意な共局在が示された。
Flagタグ付きITPRIPL1(または空)およびHAタグ付きCD3εを含むpcDNA3.1プラスミドをHCT116細胞(ATCC、VA、USA)にコトランスフェクションし、タンパク質が完全に発現するまで、8ウェルスライド(Thermo Fisher、MA、USA)で30時間培養した後、培養液を廃棄し、PBSによる洗浄後、4%ポリアセタールで20分間固定した。PBSによる再洗浄後、膜透過性ブロッキングバッファーで1時間ブロッキングしてから、膜透過性ブロッキングバッファーで希釈されたFlagタグ付き特異的マウス抗体(CST、MA、USA)とHAタグ付き特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA) を加え、4℃で一晩インキュベートした。PBSにより洗浄し、一晩置いた8ウェルスライドにPBSで希釈されたAlexa Fluor 488蛍光特異的抗マウス抗体(Invitrogen、CA、USA)およびAlexa Fluor 594蛍光特異的抗ウサギ抗体(Invitrogen、CA、USA)を加え、室温で20分間インキュベートした。PBSによる洗浄後后、DAPIで封入し、封入剤の乾燥後に、蛍光顕微鏡で観察した。
【0138】
図3は、外因的に発現されたITPRIPL1とCD3εの細胞における有意な共局在を示す。
図3の(a)はITPRIPL1の局在パターン、(b)はCD3εタンパク質の局在パターン、(c)は、2色のタンパク質局在パターンの重ね合わせを示す。そのうち、白い直線経路上のITPRIPL1とCD3εの蛍光強度は
図3の(d)に示す。以上の結果から、2つのタンパク質の局在は有意に相関しており、2つのタンパク質の相互結合を支持していることが観察できる。
【0139】
実施例2:ITPRIPL1細胞外ドメイン受容体結合ドメイン(RBD)およびその誘導体配列の機能
1.発現プラスミドの構築
公開されている配列(NCBI参照配列NM_001008949.3)に基づき、細胞外ドメイン(25~103アミノ酸)、細胞外ドメインと膜貫通ドメイン(25~124アミノ酸)、膜貫通ドメイン細胞内ドメイン(104~555アミノ酸)を3種の異なる標的配列として選択し、pcDNA3.1をベクターとして完全長ヒトITPRIPL1を合成した。細胞外ドメイン、細胞外ドメインと膜貫通ドメインのC末端をFlagタグと緑色蛍光タンパク質(GFP)に、膜貫通ドメインと細胞内ドメインのN末端をFlagタグと緑色蛍光タンパク質(GFP)に融合することで、Flagタグと緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むITPRIPL1細胞外ドメイン、細胞外ドメインと膜貫通ドメイン、膜貫通ドメインと細胞内ドメインプラスミドを得た。ここで、ITPRIPL1(25~103)、すなわちCD3結合ドメインの発現ベクターを構築した結果を
図4に示す。
図4の(a)はベクタープラスミド構築マップであり、ITPRIPL1(25~103)のアミノ酸フラグメントをコードするcDNAを末端にFlagタグをコードするcDNAに連結し、pEGFP-C1(Shanghai Generay)に挿入した。当該ベクター発現生成物はGFPで蛍光標識されているが、その主な機能的生成物はCD3結合フラグメントであるITPRIPL1(25~103)である。
図4の(b)は、遺伝子発現ベクタープラスミドをEcoRI/XhoIで切断した後のDNAゲル電気泳動プロットで、得られたフラグメントサイズは予想通りで、
図4の(c)はシークエンス結果のピークプロットのスクリーンショットである。
【0140】
2.共免疫沈降試験結果により、ITPRIPL1の細胞外ドメイン(細胞内ドメインまたは膜貫通ドメインではない)とCD3εとの結合が確認された。
それぞれ、Flagタグ付きITPRIPL1細胞外ドメイン、細胞外ドメインと膜貫通ドメイン、細胞内ドメインと膜貫通ドメイン、およびHAタグ付きCD3εのpcDNA3.1プラスミドをHCT116細胞(ATCC、VA、USA)にコトランスフェクションし、タンパク質が完全に発現するまで6ウェルプレート(Corning、 NY, USA)で48~72時間培養した。次に、免疫沈降溶解液(Thermo Fisher、MA、USA)に、プロテアーゼ-ホスファターゼ-PMSF三種混合物(Consun、Shanghai、China)を1:100で混合したハイブリット溶解液で溶解し、細胞を掻き出した。細胞検体の一部を遠心分離し、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)と混合し、100℃の金属浴で変性させ、入力量のタンパク質検体を得た。残りの細胞検体は、Flagタグ特異マウス抗体(CST、MA、USA)で免疫沈降させ、PBSで洗浄し、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)と混合して100℃の金属浴で変性させ、免疫沈降タンパク質検体を得た。次に、取扱説明書に従い、ゲルプレート(Bio-Rad、CA、USA)に12.5%のPAGEゲル(Epizyme、Shanghai、China)を配置し、準備できたゲルを電気泳動槽(Bio-Rad、CA、USA)に入れ、電源(Bio-Rad、CA、USA)に接続し、バンドが80ボルトの定電圧で濃縮ゲルを通過させ、120ボルトの定電圧で分離ゲルを通過するようにする。バンドが分離ゲルの底部まで通過したときに、タンクブロット法を使用し、電気泳動転写セル (Bio-Rad、CA、USA) において、350mAの定電流で90分間転写した。膜転写完了後に、ITPRIPL1細胞外ドメイン、細胞外ドメインと膜貫通ドメイン、細胞内ドメインと膜貫通ドメイン-FlagとCD3ε-HAタンパク質の質量に応じて、膜をカットした。クイックブロッキングバッファー(Epizyme、Shanghai、China)で10分間ブロッキングし、Flagタグ特異的ウサギ抗体(Abcam、MA、USA)とHAタグ特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)でそれぞれITPRIPL1-FlagとCD3ε-HAにするバンドを、4℃で一晩インキュベートした。翌日にTBSTによる洗浄後、5%のTBSに溶解した脱脂乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)で希釈された特異的抗ウサギ二次抗体(Consun、Shanghai、China)を使用し、室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄後、混合発光液(ShareBio、Shanghai、China)に1分間置き、ゲル撮影装置(Bio-Rad、CA、USA)下で露出した。
【0141】
図5は共免疫沈降の試験結果を示す。
図5に示すように、
図5の(a)はFlag抗体によって検出された入力タンパク質におけるITPRIPL1の含有量を示し、
図5の(b)は入力タンパク質におけるCD3εの含有量を示す。
図5の(c)は、直接に沈降したITPRIPL1の異なる変異体を示し、
図5の(d)は、対応の間接に沈降された(ITPRIPL1変異体との結合による)CD3εを示す。以上の結果から、CD3εとITPRIPL1は、ITPRIPL1の細胞外ドメイン(細胞内ドメインまたは膜貫通ドメインではない)の存在下で結合状態を維持することが確認された。したがって、ITPRIPL1の細胞外ドメインはCD3εと結合したため、CD3εのリガンドであるITPRIPL1、25~103番目のアミノ酸である細胞外ドメイン受容体結合ドメイン(RBD)を有するという結論と一致している。
【0142】
3.免疫蛍光および共局在化解析により、ITPRIPL1細胞外ドメインとCD3細胞外ドメインがトランス結合していることが示された。
HAタグ付き CD3εをHCT116細胞にトランスフェクトした。さらに、個別でFlagタグ付きITPRIPL1 (それぞれ、ヒト、マウス、ゴリラ、ミドリザル、ゴールデンスナブノーズドモンキー、およびボリビアリスザルのITPRIPL1細胞外ドメインおよびヒト ITPRIPL1膜貫通ドメイン) -緑色蛍光タンパク質を含むpcDNA3.1プラスミドをHCT116の別のバッチにトランスフェクトし、最後に、2つの別々のトランスフェクトされた細胞を共培養し、2つのタンパク質の局在パターンを免疫蛍光二重染色によって決定した。ここで、ラット、マウス、ゴリラ、ミドリザル、ゴールデンスナブノーズドモンキー、ブラックスナブノーズドモンキー、ボリビアリスザルのITPRIPL1細胞外ドメイン配列は
図54に示す。
【0143】
具体的な手順は下記の通り:HAタグ付きのCD3εを含むpcDNA3.1プラスミドを1つのバッチのHCT116細胞(ATCC、VA、USA)にトランスフェクトした。さらに、個別でFlagタグ付きのITPRIPL1(細胞外ドメインおよび膜貫通ドメイン)-緑色蛍光タンパク質を含むpcDNA3.1プラスミドを別のバッチのHCT116細胞(ATCC、VA、USA)にトランスフェクトした。トランスフェクトした20時間後、トリプシンで細胞をそれぞれ消化し、混合し、完全に再懸濁して、8ウェルスライド(Thermo Fisher、MA、USA)にプレーティングし、さらに10時間培養した。培養液を廃棄し、PBSによる洗浄後、4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した。PBSによる再洗浄後、膜透過性ブロッキングバッファーで1時間ブロッキングしてから、膜透過性ブロッキングバッファーで希釈されたHAタグ付き特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)を加え、4℃で一晩インキュベートした。PBSにより洗浄し、一晩置いた8ウェルスライドにPBSで希釈されたAlexa Fluor 594蛍光特異的抗ウサギ抗体(Invitrogen、CA、USA)を加え、室温で20分間インキュベートした。PBSによる洗浄後后、DAPIで封入し、封入剤の乾燥後に、蛍光顕微鏡で観察した。2つのタンパク質の局在パターンを免疫蛍光二重染色によって決定した。
【0144】
図6に示すように、
図6の(a)はITPRIPL1とCD3εの染色が重なった画像を示し、
図6の(b)及び(c)はそれぞれITPRIPL1受容体結合ドメイン(ITPRIPL1-RBD)およびCD3εの染色結果を示す。
図6の(d)は、ImageJソフトウェアパッケージの共局在化解析モジュールによる解析で得られた2つのタンパク質の共局在化領域を示す。そのうち、白い直線経路上のITPRIPL1とCD3εの蛍光強度は、
図6の(e)に示す。2つの細胞の接合部において、ITP-RBD(緑色蛍光)とCD3ε(赤色蛍光)の両方のシグナルが明らかに集中し、増強したことが確認でき、2つの蛋白質の細胞外ドメインが細胞表面でトランス結合していることが裏付けられた。また、マウス、ゴリラ、ミドリザル、ゴールデンスナブノーズドモンキー、ボリビアリスザルのITPRIPL1細胞外ドメインとヒトCD3E細胞外ドメインとが結合することが示された。
【0145】
実施例3:CD3εおよびT細胞調節機能を有するITPRIPL1-RBD単離組み換えタンパク質の調製
公開されている配列(NCBI参照配列NP_001008949.1)に基づき、Cusabio(Wuhan、China)でヒトITPRIPL1細胞外ドメイン(25~103アミノ酸)組み換えタンパク質を合成し、酵母によってタンパク質を発現および精製し、C末端を6x-HisおよびMycタグに融合することにより、6x-HisおよびMycタグを含むITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質を形成した。
【0146】
図7に示すように、ITPRIPL1-RBD組換えタンパク質のゲル電気泳動後、クマシーブリリアントブルー染色を行った結果、その分子量および純度は予想通りであることが分かる。
【0147】
実施例4:コンカナバリンA(ConA)および単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質はそれぞれCD3εに結合する能力を有する
酵素結合免疫吸着法(ELISA)で、コンカナバリンA(ConA)およびITPRIPL1細胞外ドメインからの単利されたフラグメントはそれぞれCD3ε細胞外ドメインと濃度依存的に直接結合することが確認された。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、0.5/1/2/4μg/mLのConAまたは0.03125/0.0625/0.125/0.25/0.5/1/2μg/mLのITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質をそれぞれELISAコーティングバッファー(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解し、プレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティングバッファー100μLでプレートをコーティングした。4℃で一晩コーティングした。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で90分間プレートをブロッキングした。PBSTによる洗浄後、CD3ε細胞外ドメインからのタンパク質フラグメント1μg/mL(Sino Biological Inc、Beijing、China)でインキュベートし、結合させた。当該CD3ε (Met1-Asp126)タンパク質はhFcタグを有し、インキュベーターにおいて37℃で60分間結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗ヒトFcセグメント抗体(Abcam、MA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を100μL/ウェルで加えて、プレートをインキュベーターでに置いて5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にプレートを置いて450nmでの発色値を読み取った。
【0148】
図8は、ELISA試験結果を示す。コンカナバリンA(ConA)とITPRIPL1の細胞外ドメインからの単離精製タンパク質(IT1-RBD)はそれぞれ濃度依存的にCD3細胞外ドメイン精製タンパク質と直接結合し、IT1-RBDの結合強度はConAよりも大きいことが示された。以上の結果から、コンカナバリンA(ConA)とITPRIPL1の細胞外ドメイン単離精製タンパク質(IT1-RBD)はそれぞれCD3ε細胞外ドメイン精製タンパク質と直接結合し、IT1-RBDの結合強度はConAよりも大きいことが示された。
【0149】
実施例5:単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質は、細胞表面のCD3εタンパク質と結合し、T細胞への抑制シグナル送達に利用できる
1.HCT116-ITPRIPL1およびHCT116-CD3εを安定的にトランスフェクトした細胞株の構築
構築された完全長ITPRIPL1-Flagプラスミド、CD3ε-HAプラスミドおよび空のpcDNA3.1プラスミドをそれぞれ、HCT116細胞(ATCC、VA、USA)にトランスフェクトし、インキュベーターで24~48時間培養した後、1000μg/mLのジェネティシン(Geneticin、G418)(Gibco、CA、USA)を加えてスクリーニングした。10~14日後に、空のpcDNA3.1プラスミドによるトランスフェクト群の細胞がすべて死滅した時点で、HCT116-ITPRIPL1およびHCT116-CD3εの安定トランスフェクト細胞株を得た。
【0150】
2.フローサイトメトリーにより、ITPRIPL1の細胞外ドメインの精製タンパク質フラグメントが、CD3高発現Jurkat細胞に結合することが示された。
培養されたJurkat細胞(ATCC、VA、USA)をカウントし、細胞数を2x105/mLに調整した後、それぞれ6本の1.5mL EPチューブ(Axygen、CA,USA)に200μLを加えた。その中の4本のEPチューブにそれぞれ0.1μg、0.2μg、0.4μg、0.8μgのITPRIPL1-RBD-6x-His組み換えタンパク質(IT1-6x-Hisタンパク質)を加え、その濃度を0.5μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、4μg/mLにした。すべてのEPチューブをインキュベーターに入れ、30分間置いた後、EPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。500μLの細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁及び洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。1:500で6x-His-FITC抗体(Abcam、MA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて希釈した。陰性対照に加えて、各EPチューブに抗体希釈液200μLを加え、40rpmのシェーカーで30分間室温でインキュベートした。次にEPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。1000μLの細胞染色緩衝液で細胞を再懸濁及び洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。洗浄完了後、各EPチューブに細胞染色緩衝液300μLを加えて再懸濁してから、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、on-board解析(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)を行った。
【0151】
図9の(a)は、死細胞に分類しないための閾値設定を示す。
図9の(b)は、Jurkat細胞と各濃度のITPRIPL1細胞外ドメイン精製タンパク質フラグメントとの結合状況を示す。
図10は、
図9の(b)における各条件での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。以上の結果から、ITPRIPL1細胞外ドメイン精製タンパク質フラグメントはCD3高発現Jurkat細胞と結合することが示された。
【0152】
3.フローサイトメトリーにより、ITPRIPL1タンパク質はより高い効率でCD3過剰発現細胞に結合することを実証した。
培養されたHCT116野生型細胞(ATCC、VA、USA)およびHCT116-CD3ε安定化トランスフェクト細胞株の消化後にカウントし、それぞれ細胞数を2x105/mLに調整した後、それぞれ5本と3本の1.5mL EPチューブ(Axygen、CA,USA)に200μLを加えた。HCT116野生型細胞を加えたEPチューブ3本と、HCT116-CD3ε安定化トランスフェクト細胞株を加えたEPチューブ3本にそれぞれ、0.2μg、0.4μg、0.8μgのITPRIPL1-RBD-6x-His組み換えタンパク質を加え、その濃度を1μg/mL、2μg/mL、4μg/mLにした。すべてのEPチューブをインキュベーターに入れ、30分間置いた後、EPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。500μLの細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁及び洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。6x-His-FITC抗体(Abcam、MA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて1:500に希釈した。陰性対照に加えて、各EPチューブに抗体希釈液200μLを加え、40rpmのシェーカーで30分間インキュベートした。次にEPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。1000μLの細胞染色緩衝液で細胞を再懸濁及び洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。洗浄完了後、各EPチューブに細胞染色緩衝液300μLを加えて再懸濁してから、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、on-board解析(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)を行った。
【0153】
図11の(a)は、死細胞に分類しないための閾値設定を示す。
図11の(b)は、CD3ε発現の異なる細胞と各濃度のITPRIPL1組み換えタンパク質との結合状況を示す。
図12は、
図11の(b)における各条件での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。以上の結果から、ITPRIPL1細胞外ドメイン精製タンパク質フラグメントは、CD3過剰発現HCT116細胞に結合するが、CD3非発現HCT116細胞に結合しないことが示された。
【0154】
4.フローサイトメトリーにより、CD3はより高い効率で、ITPRIPL1を過剰発現している細胞に結合することを実証した。
培養されたHCT116野生型細胞(ATCC、VA、USA)およびHCT116-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株の消化後にカウントし、それぞれ細胞数を2x105/mLに調整した後、それぞれ3本と1本の1.5mL EPチューブ(Axygen、CA,USA)に200μLを加えた。HCT116野生細胞を加えたEPチューブ1本およびHCT116-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株を加えたEPチューブに、0.4μg CD3E-ヒトFcタンパク質(Sino Biological Inc、Beijing、China)を加え、その濃度を2μg/mLにした。すべてのEPチューブをインキュベーターに入れ、30分間置いた後、EPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。500μLの細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁及び洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。抗ヒトIgG Alexa Fluor 647抗体Invitrogen、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて1:1000に希釈した。陰性対照に加えて、各EPチューブに抗体希釈液200μLを加え、40rpmのシェーカーで30分間インキュベートした。次にEPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。1000μLの細胞染色緩衝液で細胞を再懸濁及び洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。洗浄完了後、各EPチューブに細胞染色緩衝液300μLを加えて再懸濁してから、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、on-board分析(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)を行った。
【0155】
図13の(a)は、死細胞に分類しないための閾値設定を示す。
図13の(b)は、ITPRIPL1発現の異なる細胞とCD3εタンパク質との結合状況を示す。
図14は、それぞれ
図13の(b)における各条件での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。以上の結果から、CD3εはITPRIPL1発現HCT116と結合することができ、ITPRIPL1過剰発現HCT116細胞により高効率に結合することができることが示された。
【0156】
5.ルシフェリンレポーターアッセイにより、ITPRIPL1の細胞外ドメイン精製タンパク質フラグメントが、ConAによって活性化されたJurkat-dual細胞におけるNFKBの増殖シグナルを阻害することが実証された。
培養されたJurkat-dual細胞(Invivogen、CA、USA)をカウントし、1000rpmで5分間で遠心分離後、抗生物質を含まないIMDM培地(Gibco、CA、USA)で再懸濁し、細胞数を2x106/mLに調整した後、透明な96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に200μL/ウェルの細胞を加えた。各ウェルにそれぞれ0.2μg、0.4μg、0.8μgのITPRIPL1-6x-His組み換えタンパク質を加え、その濃度を1μg/mL、2μg/mL、4μg/mLにした。インキュベーターに入れ、2時間反応させた後、各ウェルにコンカナバリンA(ConA)(Aladdin Biochemical Technology、Shanghai、China)10μg/mLを加え、インキュベーターで18~24時間反応させた。反応完了後、不透明な96ウェルプレート(costar、ME、USA)に、各ウェル50μLのQuanti-luc試薬(Invivogen、CA、USA)および20μLの反応混合液を加え、よく混ぜた直後に、多機能マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)でシグナルを検出した。
【0157】
図15に示すように、10μg/mLのConAに活性化された条件で、NFKBシグナルがITPRIPL1タンパク質濃度の変化に伴って変化する。以上の結果から、ITPRIPL1-RBDの精製組み換えタンパク質はConAに活性化されたJurkat-dual細胞のNFKB増殖シグナルを濃度依存的に抑制することが示された。
【0158】
6.ルシフェリンレポーターアッセイにより、ミクロスフェア表面に固定されたITPRIPL1の細胞外ドメイン精製タンパク質フラグメントが、ConAによって活性化されたJurkat-dual細胞におけるNFKBの増殖シグナルを阻害することが実証された。
タンパク質G磁性ミクロスフェア(Thermo Fisher、MA、USA)およびHis抗体(Abcam、MA、USA)を4本のEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、DNAミキサー(SCIENTZ、Ningbo、China)に入れ、室温で1時間最低速回転させた。その中の3本のEPチューブに0.2μg、0.4μg、0.8μgのITPRIPL1-6x-His組み換えタンパク質を加え、さらに室温で1時間最低速回転させた。培養されたJurkat-dual細胞(Invivogen、CA、USA)をカウントし、1000rpmで5分間遠心分離後、抗生物質を含まないIMDM培地(Gibco、CA、USA)で再懸濁し、細胞数を2x106/mLに調整した後、透明な96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に200μL/ウェルの細胞を加えた。各ウェルにそれぞれ各EPチューブ内容物を加え、コーティングされたタンパク質の濃度を1μg/mL、2μg/mL、4μg/mLにした。インキュベーターに入れ、2時間反応させた後、各ウェルにコンカナバリンA(ConA)(Aladdin Biochemical Technology、Shanghai、China)50μg/mLを加え、インキュベーターで18~24時間反応させた。反応完了後、不透明な96ウェルプレート(costar、ME、USA)に、各ウェル50μLのQuanti-luc試薬(Invivogen、CA、USA)および20μLの反応混合液を加え、よく混ぜた直後に、多機能マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)でシグナルを検出した。
【0159】
図16に示すように、50μg/mLのConAに活性化された条件で、NFKBシグナルがミクロスフェアにコーティングされたITPRIPL1タンパク質濃度の変化に伴って変化する。以上の結果から、ミクロスフェア表面に固定されたITPRIPL1-RBDの精製組み換えタンパク質はConAに活性化されたJurkat-dual細胞のNFKB増殖シグナルを濃度依存的に抑制することが示された。
【0160】
7.異なるタイプの腫瘍細胞におけるITPRIPL1の発現レベル測定
ITPRIPL1の細胞外ドメインは免疫細胞(例えば、T細胞)の抑制因子として機能するため、腫瘍細胞は免疫系による監視や殺傷を回避するためにITPRIPL1を発現していると考えられる。複数の腫瘍細胞がITPRIPL1を異常に発現している場合、ITPRIPL1が腫瘍の発生と進行(免疫回避を含む)に寄与している可能性が示唆される。本発明は、異なるタイプの腫瘍に由来する細胞株において、ITPRIPL1が異常発現していることを明らかにするものである。具体的な試験手順は下記の通り:培養された各細胞株をカウントし、2x106個の細胞を15mL遠心分離管にいれ、800rpmで4分間遠心分離後に上清を廃棄し、PBSによる再懸濁、洗浄を行い、800rpmで4分間遠心分離し、再度、PBSによる再懸濁、洗浄を行った。遠心分離完了後に上清を廃棄し、RIPAライセートとプロテアーゼ-ホスファターゼ-PMSF三種混合溶解液を1:100のの比で配合し、得られた溶液120μLをを各チューブの細胞に加え、EPチューブに移した。各EPチューブを液体窒素-氷上で凍結、解凍を3回繰り返し、最後の解凍後、12000rpm、4℃条件下で、15分間遠心分離した。遠心分離完了後に上清を取り、上清と5xローディングバッファーを4:1の比で各細胞検体に調製し、100℃の金属浴で10分間変性させた。変性完了後、ゲル電気泳動およびウエスタンブロット法解析により、GAPDHを内部参照とし、各腫瘍細胞株におけるITPRIPL1の内因的な発現を確認した。
【0161】
図17は、ウエスタンブロット法でGAPDHの内部参照を調整した後の、ITPRIPL1発現状況を示す。
図17に示すように、ウエスタンブロット法で腫瘍細胞株におけるITPRIPL1タンパク質発現レベルを測定した結果、LoVo大腸癌、Rajiリンパ腫、RLリンパ腫、MDA-MB-231乳癌、HCT116大腸癌、A549肺癌、HL60、Jurkatリンパ腫、H1299肺癌、A375メラノーマの細胞に高い発現レベルが示された。発明者は、すべてのタイプの腫瘍細胞におけるITPRIPL1発現を測定しなかったが、測定済みの腫瘍細胞におけるITPRIPL1発現の割合(10/11、90%を超えった)から見れば、ITPRIPL1は悪性腫瘍において、複数のタイプが存在し、かなり広範囲に発現している可能性を示唆した。
【0162】
同時に、ハイスループットmRNA発現プロファイルに基づきProtein Atlasデータベースから抽出された結果は、ITPRIPL1が様々な腫瘍において発現が有意に上昇している可能性があることが示唆された。これまでにITPRIPL1機能に関する既報は見当たらない。したがって、本発明の内容が開示される前に、当業者は、腫瘍の発症、進展および免疫回避においてITPRIPL1が果たす役割を予想することはできない。本発明は、ITPRIPL1腫瘍細胞タンパク質の異常な発現レベル上昇、ITPRIPL1の細胞外ドメインにおけるCD3εの結合、T細胞抑制の引き起こし、その他の試験データを開示し、腫瘍免疫療法のターゲットにおけるITPRIPL1の重要な価値を初めて明らかにした。
【0163】
図18に示すように、Protein Atlasサイトから収集されたmRNA発現プロファイルデータによると、ITPRIPL1は正常組織または細胞では、おもに精巣、T細胞に発現される。mRNAの発現はタンパク質レベルの発現を直接表すものではなく、通常の意味では、発現プロファイルデータの再解析は、信頼できる結論を導き出す前に、低スループットの生物学的試験(例えば、タンパク質ゲル電気泳動-ウエスタンブロット分析)による検証を必要とすることを述べておく価値がある。
【0164】
8.OCTET分子間相互作用試験により、ITPRIPL1の細胞外ドメイン精製タンパク質フラグメントはCD3εタンパク質に直接結合することができることが実証された。
OCTET機器を起動した。CD3E-Fcタンパク質(Sino Biological Inc、Beijing、China)100μgをFcプローブで飽和吸着させ、次にITPRIPL1細胞外ドメイン組み換えタンパク質50μgを800nM/1600nM/3200nMの濃度で結合し、結合曲線をプロットし解離定数を算出した。
【0165】
図40に示すように、この図は吸着-解離の全過程および関連定数を算出した。以上の結果から、ITPRIPL1の細胞外ドメイン精製タンパク質フラグメントはCD3Eタンパク質と直接結合することが示された。
【0166】
実施例6:単離されたITPRIPL1-RBDを免疫原として、腫瘍のin vivoでの増殖を抑制する抗体を調製する
1.ITPRIPL1-RBDを免疫原として、マウスポリクローナル抗体およびポリクローナル抗体を調製した
ヒトITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質を免疫原とし、前記実施例で当該検体の純度および生物学的活性を検証した後、効果を強化するために、C57BL/6マウスに対し、複数回の免疫を行った:(1)1回目の疫では、抗原を50μg/匹とし、完全フロイントアジュバントを加え、3週間間隔で多点皮下注射した。(2)2回目の免疫では、前記と同一の用量と経路で、不完全フロイントアジュバントを加え、3週間間隔で投与した。(3)3回目の免疫では、前記と同一用量で、アジュバントを加えずに、3週間間隔で腹腔注射した。(4)ブースター免疫では、50μgの用量で、腹腔注射した。最後の注射から3日後に採血し、その力価を測定した。免疫効果が要件を満たしたことを検証した後、複数回にわたる累計方式で採血し、ポリクローナル抗体を単離精製した。具体的な試験手順は次の通りである:(1)プロテインGセファロースCL-4Bアフィニティーカラムを準備した。プロテインGセファロース CL-4Bフィラー10mLを用意し、真空フラスコに等体積のフィラーとTBS緩衝液を混合し、撹拌した。カラムを15分間排気し、フィラーから気泡を除去した。プロテインGセファロースCL-4Bフィラーをガラス製カラムにゆっくり入れ、ポンプで充填速度を1mL/分~2mL/分に制御して、カラムを乾燥させないようにし、ベッドボリュームの10倍に相当する、予め冷却したTBS緩衝液を用いてカラムを平衡化した。(2)ポリクローナル抗体の調製。ポリクローナル抗体を氷水または4℃の冷蔵庫に入れ、タンパク質の凝集を回避しながら、ゆっくり解凍した。タンパク質の解凍中に生じた凝集物は37℃の予熱によって溶解できる。濃度が0.05%になるまで固体アジ化ナトリウムを加え、4℃、15,000×gで5分間遠心分離し、清澄化したポリクローナル抗体を移しだし、フィルターでろ過して余分な脂質を除去した。(3)アフィニティークロマトグラフィー。1:5の割合で抗体をTBS緩衝液で希釈し、フィルターで濾過した。0.5mL/分の速度でポリクローナル抗体をカラムにロードし、ポリクローナル抗体とフィラーとの結合を確保するために、連続で2回ロードし、ロード流出液を保持した。Aλ 280 nm < 0.008になるまで、TBS緩衝液でカラムを洗浄した後、Ph 2.7溶出緩衝液を加え、0.5 mL/分の速度でタンパク質がすべて流れ落ちるまで溶出した。溶出液は中和緩衝液100μLを加えた1.5 mL EPチューブを用いて、チューブ別に回収し、よく混ぜた後、pH試験紙で溶出液のpH を確認し、pH 7未満の場合は中和緩衝液で約pH 7.4に調整し、抗体の変性を防ぐ。カラムに10mL、pH1.9の溶出緩衝液を加え、Aλ 280 nm < 0.008になるまで、前記方法で溶出液を回収した。分光光度計で各チューブにおけるタンパク質含有量を測定した。
【0167】
2.ITPRIPL1-RBDを免疫原としたポリクローナル抗体とITPRIPL1発現細胞との結合の酵素結合免疫吸着法(ELISA)による実証
ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。ITPRIPL1を発現していないB16細胞(ATCC、VA、USA)、ITPRIPL1を中程度に発現するLoVo細胞(ATCC、VA、USA)およびHCT116-ITPRIPL1の安定化トランスフェクト細胞株をトリプシンで消化、カウントし、細胞数量を2x106/mLに調整し、ウェルあたり100μlの細胞をプレーティングし、4℃でコーティングし、一晩置いた。PBSTによる洗浄後、5%のPBSに溶解した脱脂粉乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)100μLで、インキュベーターにおいて37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、全IgG濃度が10mg/mLのポリクローナル抗体を1:1000/1:500/1:250/1:125の勾配で希釈し、インキュベーターにおいて37℃で60分間、プレーティング細胞とインキュベートして結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗マウスFcセグメント抗体(Consun、Shanghai、China)で、インキュベーターで37℃で30分間インキュベートして結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Sangon Biotech、Shanghai、China)100μL/ウェルで添加し、プレートをインキュベーターに置き、5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0168】
図19の(a)はB16細胞と各濃度のポリクローナル抗体との結合率変化を示す。
図19の(b)はLoVo細胞と各濃度のポリクローナル抗体との結合率変化を示す。
図19の(c)はHCT116-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株と各濃度のポリクローナル抗体との結合率変化を示す。試験結果から、ポリクローナル抗体中のIgG濃度が上昇した場合、B16細胞とポリクローナル抗体との結合率は大きく変化しないが、LoVo細胞とポリクローナル抗体との結合率はある程度濃度依存的に上昇し、HCT116-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株とポリクローナル抗体との結合率は濃度依存的に大きく上昇っすることが示された。以上の結果から、ポリクローナル抗体がITPRIPL1発現細胞と結合することができることが実証された。
【0169】
3.ポリクローナル抗体がITPRIPL1とCD3εとの結合を阻害することができることを、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で実証した。
ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、0.1μgCD3εタンパク質フラグメント(Sino Biological Inc、Beijing、China)を100μLのELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)に溶解してプレートをコーティングした。このCD3ε (Met 1-Asp117)タンパク質はhFcタグを有し、陰性対照はタンパク質を含まない100μLのコーティング液でプレートをコーティングした。4℃で一晩コーティングした。PBSTによる洗浄後、5%のPBSに溶解した脱脂粉乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)100μLで、インキュベーターにおいて37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、2μg/mLのITPRIPL1-RBD-6x-Hisタンパク質を全IgG濃度が10mg/mlのポリクローナル抗体とそれぞれそれぞれ1:1000/1:500/1:250/1:125の割合で混合して、インキュベーターにおいて37℃で60分間、共にインキュベートして結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗6x-Hisタグ付き西洋ワサビペルオキシダーゼ抗体(Abcam、MA、USA)と、インキュベーターにおいて37℃で30分間インキュベートし結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Sangon Biotech、Shanghai、China)、100μL/ウェルで添加し、プレートをインキュベーターに置いて5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0170】
図20に示すように、本試験では、ポリクローナル抗体中のIgGの濃度が高くなるにつれて、CD3εとITPRIPL1-RBDタンパク質の結合率が徐々に低下する。以上の結果から、ポリクローナル抗体はITPRIPL1とCD3εとの結合を阻害することができることが実証された。
【0171】
4.フローサイトメトリーでポリクローナル抗体がITPRIPL1とCD3ε過剰発現細胞との結合を阻害することができることを実証した。
HCT116-CD3ε安定化トランスフェクト細胞株の消化後にカウントし、それぞれ細胞数を2x105/mLに調整し、8本の1.5mL EPチューブ(Axygen、CA,USA)にそれぞれ200μLを加えた。EPチューブにそれぞれIT1-RBDタンパク質0.8μgを加え、その濃度を4μg/mLにした。その中の5本のEPチューブにそれぞれ1:1000/1:500/1:250/1:125/1:67.5で希釈された、全IgG濃度が10mg/mLであるポリクローナル抗体を加え、インキュベーターで30分間静置した。次にEPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。500μLの細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。細胞染色緩衝液を用いて、1:500で6x-His FITC抗体(Abcam、MA、USA)を希釈した。陰性対照に加えて、各EPチューブに抗体希釈液200μLを加え、40rpmのシェーカーで30分間インキュベートした。EPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。1000μLの細胞染色緩衝液で細胞を再懸濁、洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。洗浄完了後、各EPチューブに細胞染色緩衝液300μLを加えて再懸濁してから、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、on-roard分析(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)を行った。
【0172】
図21の(a)は、死細胞に分類しないための閾値設定を示す。
図21の(b)は、ポリクローナル抗体濃度が変化したときのITPRIPL1とCD3εとの結合状況の変化を示す。
図22は、
図21の(b)における各条件での具特異な染色およびタンパク質結合状況を示す。以上の結果から、ポリクローナル抗体はITPRIPL1とCD3ε過剰発現細胞との結合を阻害することができることが実証された。
【0173】
5.ポリクローナル抗体をベースにモノモノクローナル抗体を調製し、さらに、抗体の腫瘍増殖抑制作用を検証した。
ITRPRIPL1の発現量はさまざまな腫瘍においてアップレギュレートされているため、ITRPRIPL1に特異的に結合する抗体は、体内の腫瘍細胞を認識し、抗体の定常領域のFcセグメントを介してADCC、ADCP、およびCDC機能を発揮することにより、腫瘍細胞を殺傷することができる。抗体依存性細胞傷害(ADCC:Antibody-Dependent Cell-mediated Cytotoxicity)とは、抗体のFabセグメントがウイルス感染細胞または腫瘍細胞のエピトープに結合し、そのFcセグメントがキラー細胞(NK細胞、マクロファージ、好中球など)表面のFcRに結合し、キラー細胞を介して、標的細胞を直接に殺傷することで、抗腫瘍治療用抗体薬の重要な作用機序である。抗体依存性細胞貪食(ADCP:Antibody-Dependent Cellular Phagocytosis)も、腫瘍細胞に対する治療用抗体の作用を特定および仲介するために用いられる重要な作用機序である。補体依存性細胞傷害(CDC)とは、補体関与の細胞傷害、すなわち、細胞膜表面の対応する抗原に特定の抗体が結合し、複合体を形成することによる補体の古典経路の活性化を指し、結果として生じる膜攻撃複合体によって標的細胞に溶解効果を発揮する。本実施例では、ITPRIPL1の細胞外ドメインを特異的に認識する抗体によるin vivoでの腫瘍増殖抑制作用を実証する。具体的な実施手順は下記の通り。
【0174】
a)融合によって得られたハイブリドーマ細胞を96ウェルプレート(推定細胞密度は0.5個/ウェルである)に希釈し、クローンが形成されるまで培養した。モノクローナルハイブリドーマ由来の培養液の上清をELISA試験に供し、ITPRIPL1(RBD1タンパク質)0.2μg/mLでプレーティングされたプレートへの抗原結合度を測定し、OD450吸収値でランク付けし、最も強く結合した抗体に対応するモノクローナルハイブリドーマ細胞を採取、拡大培養し、動物における生体内(in vivo)機能検討用に腹水抗体(以下、RBD1結合抗体という)を調製した。
【0175】
b)構築された完全長ITPRIPL1-Flagプラスミドおよび空のpcDNA3.1プラスミドをそれぞれ、MC38細胞(Kerafast、MA、USA)にトランスフェクトし、インキュベーターで24~48時間培養した後、200μg/mLのジェネティシン(Geneticin、G418)(Gibco、CA、USA)を加えてスクリーニングした。10~14日後に、空のpcDNA3.1プラスミドによるトランスフェクト群の細胞がすべて死滅した時点で、MC38-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株を得た。6~8週齢のヒト化CD3εマウス(Model Organisms Center、Shanghai、China)を選択し、体重に応じてランダムに群に分け、各群に6匹のマウスを割り当てた。MC38野生型およびMC38-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株を取ってカウントし、PBSで1.5x10
7/mLの細胞密度になるまで再懸濁した。マウスの毛を剃り、1.5 x10
6 ITPRIPL1過剰発現MC38細胞を右脇の下の皮下に接種し、これによって、ヒト化CD3εマウスMC38 ITPRIPL1過剰発現皮下異種移植腫瘍in vivoモデルを構築した。腫瘍接種後5日目から、各群のMC38 ITPRIPL1過剰発現移植腫瘍マウスにRBD1結合抗体100μgまたは同量のPBSを3日ごとに腹腔内注射し、計4回治療した。腫瘍の大きさはノギスを用い、毎回3日ごとに、腫瘍の長径と短径を測定し、1/2*A*a*aの式で腫瘍体積を算出し、記録した。接種後23日目にマウスを一律に屠殺し、腫瘍を剥離した後、腫瘍の重量を測定し、統計的に分析した。
図71に示すように、腫瘍体積および腫瘍重量はすべてRBD1結合抗体による処理後に腫瘍増殖が有意に抑制され、ITPRIPL1モノクローナル抗体が生体内機能を有することが実証された。
【0176】
c)フローサイトメトリーにより、ITPRIPL1モノクローナル抗体が、ITPRIPL1過剰発現腫瘍においてT細胞活性を有意に増加させることが示された。心臓採血方式で、マウスから少なくとも1mLの末梢血を採取した。マウス末梢血PBMC単離キット(Solarbio、Beijing、China)を用いて、キット取扱説明書によって操作し、マウスPBMC細胞を得た。マウスPBMCをEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。マウスCD8-APC抗体(Biolegend、CA、USA)、マウスCD69-APC抗体(Biolegend、CA、USA)、マウスCD137-APC抗体(Biolegend、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて1:20で希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温でゆっくり振りながら30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄し、細胞染色緩衝液500μLで細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。それぞれ細胞染色緩衝液200μLを加え、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、ローディング(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)した。
図72に示すように、細胞蛍光陽性率により、RBD1結合抗体はCD8、CD25、CD139の発現を有意に増加させた。試験結果によると、RBD1結合抗体はマウス体内のT細胞活性に対するITPRIPL1の抑制を緩和できる。
【0177】
d)免疫組織化学染色により、RBD1結合抗体がITPRIPL1過剰発現腫瘍の免疫細胞浸潤を有意に増加させることが示された。MC38- ITPRIPL1過剰発現腫瘍組織を剥離した後にスライスし、パラフィンで包埋した(Biossci、Wuhan、China)。得られたパラフィン切片を脱脂、水和、抗原修復などの処理をした後、マウスCD8抗体(CST、MA、USA)と共にウェットボックスで一晩インキュベートした。翌日再加温後、切片を試薬取扱説明書に従い、二次抗体とインキュベートし、DAB染色(Solarbio、Beijing、China)およびヘマトキシリン染色(Solarbio、Beijing、China)後、アルコール濃度勾配で風乾し、封止した。封止後、蛍光顕微鏡で観察し、自然光下で写真を撮った。
図73に示すように、RBD1結合抗体の使用により、腫瘍組織におけるCD8の陽性率を有意に上昇させることができる。試験結果から、RBD1結合抗体はMC38 ITPRIPL1過剰発現腫瘍組織における免疫細胞の浸潤を増加させることが示された。
【0178】
以上の結果から、ITPRIPL1の細胞外ドメイン、すなわちRBD1を特異的に認識する抗体は、in vivoで腫瘍細胞の増殖を有意に抑制することができることが示唆された。ITPRIPL1は原発性癌、リンパ節転移癌、遠隔転移癌で同時に発現しているため、抗体医薬品が異なる部位およびステージの腫瘍に作用し、ADCC、ADCP、CDCなどの役割により、より持続的で広範囲な抗腫瘍効果を発揮し、腫瘍の局所免疫応答を活性化することができる。また、前記腫瘍の対照正常組織におけるITPRIPL1発現量が少ないため、ITPRIPL1を標的とする抗体の正常組織や細胞に対する潜在的な毒性副作用は限られている。これらの特性は、ITPRIPL1特異的抗体の新しい抗がん療法としての優れた利点と応用の可能性を顕在化した。
【0179】
実施例7:、T細胞由来細胞株における増殖シグナル経路の活性化が、ITPRIPL1-RBDとCD3細胞外ドメインの結合を調節することによって調節される
CD3εの結合がT細胞の増殖や機能に変化をもたらすことがこれまでの研究で示されているが、T細胞は介入や検出が困難な初代細胞であることから、これらの研究に最も広く用いられているモデルはT細胞由来の細胞株であるJurkat細胞であり、NF-KBシグナル伝達はJurkatやT細胞の活性化の程度を示す測定指標として広く用いられている。そこで、腫瘍細胞発現のある共培養T細胞の機能状態に対するITPRIPL1の効果を調べるために、Jurkat-NFKBレポーター細胞株(NF-KBプロモーター下流のホタルルシフェラーゼをレンチウイルスでJurkat細胞に導入すると、コンカナバリンAで活性化できることを測定によって確認された)を構築した。
【0180】
まず、
図23に示すように、ITPRIPL1が過剰発現するHCT116細胞がJurkat-dual細胞のNFKB増殖シグナルをより多く減少させることができることを、ルシフェリンレポーターアッセイで実証した。培養されたJurkat-dual細胞をカウントし、1000rpm x5分間で遠心分離後、抗生物質を含まないIMDM培地で再懸濁し、細胞数を2x10
6/mLに調整した後、透明な96ウェルプレートに200μL/ウェルの細胞を加えた。HCT116細胞およびHCT116-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株をトリプシンで消化後にカウントし、細胞数を2x10
6/mLに調整し、それぞれ20μLを加え、対応のJurkat-dual細胞と混合した。インキュベーターで18~24時間共培養した。反応完了後、不透明な96ウェルプレートに、各ウェルに、50μLのQuanti-luc試薬および20μLの反応混合液を加え、よく混ぜた直後に、多機能マイクロプレートリーダーでシグナルを検出した。上図は、ITPRIPL1発現HCT116細胞がJurkat-dual細胞のNFKB増殖シグナルを抑制し、ITPRIPL1過剰発現HCT116細胞がNFKB増殖シグナルをさらに抑制することを示唆した。以上の結果から、ITPRIPL1過剰発現HCT116細胞はJurkat-dual細胞のNFKB増殖シグナルをさらに低下させることができることが示された。
【0181】
さらに、
図24に示すように、CD3εタンパク質がITPRIPL1タンパク質によるJurkat-dual細胞NFKB増殖シグナルの抑制を阻害できることを、ルシフェリンレポーターアッセイで実証した。培養されたJurkat-dual細胞をカウントし、1000rpm x5分間で遠心分離後、抗生物質を含まないIMDM培地で再懸濁し、細胞数を2x10
6/mLに調整した後、透明な96ウェルプレートに、各ウェルに、200μLの細胞を加えた。各ウェルにそれぞれITPRIPL1タンパク質2μg/mLとCD3εタンパク質0μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、4μg/mLの混合物を加えた。インキュベーターに入れ、2時間反応させた後、各ウェルにコンカナバリンA(ConA)50μg/mLを加え、インキュベーターで18~24時間反応させた。反応完了後、不透明な96ウェルプレートに、各ウェルに、50μLのQuanti-luc試薬および20μLの反応混合液を加え、よく混ぜた直後に、多機能マイクロプレートリーダーでシグナルを検出した。上図は、50μg/mLのConAで活性化された条件で、LITPRIPL1タンパク質2μg/mと異なる濃度のCD3εタンパク質を加えたときの、Jurkat-dual細胞のNFKBシグナル変化を示した。以上の結果から、ConAで活性化されたJurkat-dual細胞におけるITPRIPL1タンパク質によるNFKB増殖シグナルの抑制は、CD3εタンパク質に、濃度依存的に阻害されることができるため、ITPRIPL1の抑制作用はCD3εを介して生じることが示唆された。
【0182】
実施例8:ITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質は腎臓由来H3K293細胞のヒト末梢血単核細胞(PBMC)による殺傷を減少させることができる
ITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質は腎臓由来H3K293細胞のヒト末梢血単核細胞(PBMC)による殺傷を減少させることを、フローサイトメトリーで実証した。CD3およびCD28抗体(Invitrogen、CA、USA)をPBMC(ATCC、VA、USA)と混合し、終濃度1μg/mlに希釈してT細胞を活性化し、一晩培養した。翌日にPBMCおよび293E(ATCC、VA、USA)細胞をカウントし、それぞれ細胞数を1x106/mLに調整し、対照群は293E細胞100μLおよび培養液100μL、試験群は2種の細胞100μLをそれぞれ96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に加え、さらに、試験群の4群にそれぞれ1、2、4、8μg/mLのITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質を加え、インキュベーターで6時間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、各ウェルの細胞をEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。細胞染色緩衝液を用いて、1:20でCD45-APC抗体(Invitrogen、CA、USA)を希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温でゆっくり振りながら30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後に上清を廃棄し、1mLのbinding buffer(Meilunebio、Shanghai、China)1mLで細胞を再懸濁し、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。PBMC無添加非染色群、PBMC無添加二重染色群、PBMC添加非染色群、PBMC添加単染色Annexin V-FITC群、PBMC添加単染色PI群、PBMC添加二重染色群、およびそれぞれITPRIPL1タンパク質を添加した二重染色群を設定し、条件に応じて、それぞれ100μLbinding buffer、5μLAnnexin V-FITC(Meilunebio、Shanghai、China)および10μLPI(Meilunebio、Shanghai、China)を加え、室温でゆっくり振りながら15分間インキュベートした後、さらにそれぞれbinding buffer 400μLを加えフローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、ローディング(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)した。
【0183】
図25の(a)および(b)は、CD45に準拠した293E細胞分類を示す。
図25の(c)は、異なるITPRIPL1タンパク質濃度条件下で、各群のアポトーシスデータにより算出されたPBMCの相対殺傷活性を示す。
図26は、
図25の(c)における各条件下での特異的なアポトーシス染色状況を示す。以上の結果から、ITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質は腎臓由来H3K293細胞のヒト末梢血単核細胞(PBMC)による殺傷を減少させることができることが示された
【0184】
実施例9:ゲノム編集により腫瘍細胞に発現されるITPRIPL1をノックアウトすることで、ヒト末梢血単核細胞の腫瘍細胞に対する殺傷を有意に増加させることができる
1.CRISPR/Cas9ゲノム編集システム、すなわちITPRIPL1を特異的に切断する、ピューロマイシン耐性sgRNAを含むレンチウイルスを構築した。
【0185】
試験の全体的なプロセス:まず、gRNA配列を有する一本鎖DNAオリゴを合成し、アニールとペアリングして二本鎖DNAオリゴを作り、両端に含まれる制限酵素切断部位を介して酵素切断後のCRISPR/Cas9ベクターに直接ライゲーションした。ライゲーション生成物を調製できた細菌形質転換受容性細胞に移植し、成長したモノクローナルコロニーをシークエンスと同定のためにシークエンス会社に送り、正しく比較されたクローンは構築に成功したCRISPR/Cas9ベクターになる。目的遺伝子の標的遺伝子配列について、SEQ ID NOs:11-13に示すように、公開サイトで提供されているgRNA配列設計原則を用いて、複数の標的部位配列を設計した。3組のgRNAオリゴ一本鎖DNAを、それぞれ遺伝子配列に従って設計・合成し、オリゴ配列はSEQ ID NOs: 14-19に示す。ここで、SEQ ID NO:14,15は標的配列SEQ ID NO:11に対応するgRNAオリゴ一本鎖DNA配列、SEQ ID NO:16,17は標的配列SEQ ID NO:12に対応するgRNAオリゴ一本鎖DNA配列、SEQ ID NO:18,19は標的配列SEQ ID NO:13に対応するgRNAオリゴ一本鎖DNA配列である。オリゴ一本鎖DNAをアニールによって二本鎖にし、二本鎖のgRNAオリゴをそれぞれCRISPR/Cas9ベクターに挿入し、CRISPR/Cas9組み換えプラスミドを構築し、形質転換受容性細胞Stbl3に形質転換させた。具体的なベクター構築手順は下記の通り:
【0186】
1)gRNAのアニーリング:無菌のTE bufferでプライマーを希釈し、終濃度を100 μMolにした。上流と下流のプライマーをそれぞれ10μlずつ吸い上げて混合し、PCRチューブによく吹き込んでアニーリングした。アニーリング後に、氷に数分間置いて直接ライゲーションさせるか、-20℃で冷凍保存した。
【0187】
2)CRISPR/Cas9ベクターの酵素切断および回収:酵素切断システムは下記の通り:CRISPR/Cas9 vector 5μg、10*Buffer5μl、BsmBI4μl、ddH2O補足50μl。37℃で、約30分間酵素切断した。この間に、酵素切断後の核酸電気泳動に備えて、0.8%のアガロースゲルを調製した。電気泳動後に、目的のフラグメントを含むゲルを切り取った。総重量を天秤で量り、空チューブの重量を差し引いてゲルの重量を算出した。100mgを約100μlとしてゲルの体積を算出し、その3倍量のQG緩衝液を50℃の水浴中で加え、ゲルの溶解を早めるためにEPチューブを適度に振って、ゲルを完全に溶解した。ゲルが完全に溶解した後、ゲルと等体積のイソプロピルアルコールを加え、均一に混合した。前記液体をすべてフィルターカラムに移し、13000 rpmで30秒遠心分離した。チューブ内の液体を廃棄し、カラムにPE緩衝液750μlを加え、1分間遠心分離した。チューブ内の液体を廃棄し、更に1分間遠心分離した。新しい1.5mLのEPチューブに交換し、カラムにEB緩衝液50μlを加え、1分間遠心分離した後、遠心分離チューブ内の内容物は回収されたベクターになる。
【0188】
3)CRISPR/Cas9ベクターとプライマーとのライゲーション。ライゲーションシステムは下記の通り:回収ベクター3μl(50 ng);オリゴプライマー1μl(0.5μM);T4 DNA ligase buffer1.5μl;T4 DNAリガーゼ1μl;ddH2O補足15μl。25℃のウォーターバスで30分間インキュベートした。
【0189】
4)形質転換:形質転換受容性細胞を自然解凍するまで氷上に置き、ライゲーション産物をすべて形質転換受容性細胞に加え、氷上に20分間置いた後、42℃のウォーターバスで90秒間ヒートショックした。次に、すぐ氷上に2~3分間置いた。抗生物質を含まないLB培地1000μlを加え、37℃、150rpmで振とうしながら45分間培養した。3000 rpmで2分間遠心分離し、約850μlの上清を廃棄し、チューブ底にある菌液を吹き飛ばして破砕し、対応する耐性を含むシャーレに加え、滅菌したスプレッダーで均一に広げて、 37℃の恒温インキュベーターにおいて、逆さにして一晩培養した。
【0190】
5)組み換えプラスミドの調製:いくつかの単一コロニーを選び、少量の振とう培養を行った。
【0191】
6)シークエンスにより陽性クローンを同定し、比較した結果、組換えクローンの挿入フラグメントの配列は設計したオリゴ配列と完全に一致しているため、ベクターの構築に成功した。
【0192】
2.CRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いて、ゲノム編集を行い、HCT116-ITPRIPL1ノックアウト細胞株を構築した。
HCT116細胞(ATCC、VA、USA)を適切な密度(2日目に密度の約30~40%に成長する)で24ウェルプレート(Corning、NY、USA)に広げ、翌日に消化、カウントした。まず、GFP対照レンチウイルス(Genomeditech、Shanghai、China)の数量勾配で細胞に感染させ、48時間後に液を交換し、72時間後に顕微鏡でGFP蛍光を観察することで、最適なウイルス細胞感染比を測定し、MOI値を探索した。MOI値を決定した後、プレートを再プレートし、ブラストサイジン耐性を有するCas9システムレンチウイルス(Genomeditech、Shanghai、China)を用いて、MOI値でHCT116細胞を感染させ、48時間後に液を交換し、72時間後に、濃度勾配のブラストサイジン(Invivogen、CA、USA)を加えて10~14日間スクリーニングし、最終的にスクリーニングによって得られた細胞株はCas9システムを含むHCT116細胞になった。次にCas9システムを含むHCT116細胞を24ウェルプレートにプレーティングし、カウントし、ピューロマイシン耐性を有する、ITPRIPL1を特異的に切断したsgRNAのレンチウイルスをMOI値で感染させ、48時間後に液を交換し、72時間後に、濃度勾配のピューロマイシン(Invivogen、CA、USA)を加えて10~14日間スクリーニングし、HCT116-ITPRIPL1ノックアウト細胞株を得た。
【0193】
3.腫瘍細胞に発現されるITPRIPL1をノックアウトすることで、ヒト末梢血単核細胞の腫瘍細胞に対する殺傷を有意に増加させることができることをフローサイトメトリーで実証した。
CD3およびCD28抗体(Invitrogen、CA、USA)をPBMC(ATCC、VA、USA)と混合し、終濃度1μg/mlに希釈してT細胞を活性化し、一晩培養した。翌日に、PBMCとHCT116野生型(ATCC、VA、USA)/ITPRIPL1過剰発現/ITPRIPL1ノックアウト細胞をカウントし、それぞれ細胞数を1x106/mLに調整し、対照群は腫瘍細胞100μLおよび培養液100μLを、試験群は腫瘍細胞およびPBMCそれぞれ100μLを96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に加え、インキュベーターで6時間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、PBS(Meilunebio、Dalian、China)で洗浄し、EDTAを含まないトリプシン(Beyotime、Shanghai、China)で細胞を消化し、EPチューブ(Axygen、CA、USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後に上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。細胞染色緩衝液を用いて、1:20でCD45-APC抗体(Invitrogen、CA、USA)を希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温でゆっくり振りながら30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後に上清を廃棄し、binding buffer(Meilunebio、Dalian、China)1mLで細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。PBMC無添加非染色群、PBMC無添加二重染色群、PBMC添加非染色群、PBMC添加単染色Annexin V-FITC群、PBMC添加単染色PI群、PBMC添加二重染色群、およびそれぞれIT1タンパク質を添加した二重染色群を設定し、条件に応じて、それぞれ100μLbinding buffer、5μLAnnexin V-FITC(Meilunebio、Dalian、China)および10μLPI(Meilunebio、Dalian、China)を加え、室温でゆっくり振りながら15分間インキュベートした後、さらにそれぞれbinding buffer 400μLを加えフローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、ローディング(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)した。
【0194】
図27の(a)および(b)は、CD45に準拠した腫瘍細胞分類を示す。
図27の(c)は、異なるITPRIPL1発現条件下で、各群のアポトーシスデータにより算出されたPBMCの相対殺傷活性を示す。
図28は、
図27の(c)における各条件下での特異的なアポトーシス染色状況を示す。以上の結果から、ITPRIPL1過剰発現はPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を減少させることと、ノックアウトITPRIPL1がPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を促進することが示された。
【0195】
実施例10:ITPRIPL1-RBDタンパク質を免疫原として調製された抗体は免疫細胞による腫瘍細胞の殺傷を有意に促進できる
CD3およびCD28抗体(Invitrogen、CA、USA)をPBMC(ATCC、VA、USA)と混合し、終濃度1μg/mlに希釈してT細胞を活性化し、一晩培養した。翌日にPBMCおよびHCT116(ATCC、VA、USA)細胞をカウントし、それぞれ細胞数を1x106/mLに調整し、対照群はHCT116細胞100μLおよび培養液100μL、試験群は2種の細胞それぞれ100μLを96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に加え、さらに、試験群の4群にそれぞれ1:500/250/125/62.5のITPRIPL1-RBDポリクローナル抗体を加え、インキュベーターで6時間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、PBS(Meilunebio、Shanghai、China)で洗浄し、EDTAを含まないトリプシン(Beyotime、Shanghai、China)で細胞を消化し、EPチューブ(Axygen、CA、USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後に上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。細胞染色緩衝液を用いて、1:20でCD45-APC抗体(Invitrogen、CA、USA)を希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温でゆっくり振りながら30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後に上清を廃棄し、binding buffer(Meilunebio、Shanghai、China)1mLで細胞を再懸濁し、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。PBMC無添加非染色群、PBMC無添加二重染色群、PBMC添加非染色群、PBMC添加単染色Annexin V-FITC群、PBMC添加単染色PI群、PBMC添加二重染色群、およびそれぞれITPRIPL1タンパク質を添加した二重染色群を設定し、条件に応じて、それぞれ100μLbinding buffer、5μLAnnexin V-FITC(Meilunebio、Shanghai、China)および10μLPI(Meilunebio、Shanghai、China)を加え、室温でゆっくり振りながら15分間インキュベートした後、さらにそれぞれbinding buffer 400μLを加えフローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、ローディング(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)した。
【0196】
図29の(a)および(b)は、CD45に準拠したHCT116細胞分類を示す。
図29の(c)は、異なるポリクローナル抗体濃度条件下で、各群のアポトーシスデータにより算出されたPBMCの相対殺傷活性を示す。
図30は、
図29の(c)における各条件下での特異的なアポトーシス染色状況を示す。以上の結果から、ITPRIPL1ポリクローナル抗体はPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を促進することが示された。
【0197】
実施例11:ITPRIPL1-RBD2配列変異体がCD3Eと結合する能力がある程度低下し、ITPRIPL1-RBD3がCD3εと結合する能力が有意に低下した
1.HCT116-RBD2およびRBD3配列変異体の構築
公開されている配列(NCBI参照配列NM_001008949.3)に基づき、それぞれ細胞外ドメイン(25~103アミノ酸)におけるDRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRLLEMEFEERKRAAEQRQKAENFWTGDTSSDQ(ITPRIPL1-RBD2、すなわちSEQ ID NO:2)、MDLDTLARSRQLEKRMSEEMRLLEMEFEERKRAAEQRQKAEN(ITPRIPL1-RBD3、すなわちSEQ ID NO:3)を2つの異なる標的配列として選定し、特定のITPRIPL1配列変異体を合成した。pcDNA3.1をベクターとし、細胞外ドメイン、細胞外ドメインと膜貫通ドメインのC末端をFlagタグと緑色蛍光タンパク質(GFP)に融合することで、Flagタグと緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むITPRIPL1細胞外ドメイン、ITPRIPL1-RBD2、ITPRIPL1-RBD3プラスミドを得た。
【0198】
2.ITPRIPL1-RBD2とCD3Eとの結合最短配列を共免疫沈降試験で解析した。
それぞれ、Flagタグ付きITPRIPL1細胞外ドメイン、ITPRIPL1-RBD2、ITPRIPL1-RBD3およびHAタグ付きCD3εのpcDNA3.1プラスミドをHCT116細胞(ATCC、VA、USA)にコトランスフェクションし、タンパク質が完全に発現するまで6ウェルプレート(Corning、 NY, USA)で48~72時間培養した。次に、1:100免疫沈降溶解液(Thermo Fisher、MA、USA)と、プロテアーゼ-ホスファターゼ-PMSFの三種混合(Consun、Shanghai、China)とのハイブリット溶解液で溶解し、細胞を掻き出した。細胞検体の一部を遠心分離し、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)と混合し、100℃の金属浴で変性させ、入力量のタンパク質検体を得た。残りの細胞検体は、HAタグ特異的マウス抗体(Biolegend、CA、USA)またはFlagタグ特異的マウス抗体で免疫沈降させ、PBSで洗浄し、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)と混合して100℃の金属浴で変性させ、免疫沈降タンパク質検体を得た。次に、取扱説明書に従い、ゲルプレート(Bio-Rad、CA、USA)に12.5%のPAGEゲル(Epizyme、Shanghai、China)を配置し、準備できたゲルを電気泳動槽(Bio-Rad、CA、USA)に入れ、電源(Bio-Rad、CA、USA)に接続し、バンドが80ボルトの定電圧で濃縮ゲルを、120ボルトの定電圧で分離ゲルを通過するようにした。バンドが分離ゲルの底部まで通過したときに、タンクブロット法を使用し、電気泳動転写セル (Bio-Rad、CA、USA) において、350mAの定電流で90分間転写した。転写完了後に、ITPRIPL1細胞外ドメイン、ITPRIPL1-RBD2、ITPRIPL1-RBD3およびCD3E-HAタンパク質の質量に応じて、膜をカットした。クイックブロッキング溶液(Epizyme、Shanghai、China)で10分間ブロッキングし、Flagタグ特異的ウサギ抗体(Abcam、MA、USA)とHAタグ特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)でそれぞれITPRIPL1細胞外ドメイン、ITPRIPL1-RBD2、ITPRIPL1-RBD3およびCD3E-HAに関係するバンドを、4℃で一晩インキュベートした。翌日にTBSTによる洗浄後、5%のTBSに溶解した脱脂乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)で希釈された特異的抗ウサギ二次抗体(Consun、Shanghai、China)を使用し、室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄後、混合発光液(ShareBio、Shanghai、China)に1分間置き、ゲル撮影装置(Bio-Rad、CA、USA)下で露出した。
【0199】
図31の(a)は入力タンパク質における異なるITPRIPL1配列変異体とCD3εの含有量、
図31の(b)は間接沈降(CD3εとの結合に伴う)のITPRIPL1の異なる配列の変異体、および直接沈降CD3εを示す。
図31の(c)は入力タンパク質における異なるITPRIPL1配列変異体とCD3εの含有量、
図31の(d)は間接沈降(ITPRIPL1の異なる配列の変異体の結合に伴う)のCD3E、および直接沈降のITPRIPL1の異なる配列の変異体を示す。以上の結果から、ITPRIPL1の細胞外ドメインおよびRBD2配列変異体の存在下で、CD3EとITPRIPL1が結合状態を維持するが、RBD3配列への明らかな結合を検出できないことが示された。以上より、ITPRIPL1の細胞外ドメインの長さや完全性とCD3Eとの結合能力には正の相関があると結論づけられる。
【0200】
実施例12:単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質はNRP2に結合する能力を有する
1.単離されたITPRIPL1(IT1)細胞外ドメインフラグメントはNRP2細胞外ドメインと濃度依存的に直接結合することを、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で実証した。
ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティングバッファー(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解した、0.03125/0.0625/0.125/0.25/0.5/1/2μg/mLのITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質それぞれをプレートにコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティングバッファー100μLでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)で、インキュベーターで37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、1μg/mLのNRP2細胞外ドメインタンパク質フラグメント(Sino Biological Inc、Beijing、China)でインキュベートし、結合させた。当該NRP2タンパク質はhFcタグ(N2-Fc)を有し、インキュベーターにおいて37℃で60分間結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗ヒトFcセグメント抗体(Abcam、MA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色のために発色溶液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を100μL/ウェル添加しインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0201】
図32に示すように、単離されたITPRIPL1細胞外ドメインフラグメントはNRP2細胞外ドメインと濃度依存的に直接結合することが、本試験で示された。以上の結果から、ITPRIPL1の細胞外ドメイン単離精製タンパク質(IT1-RBD)はNRP2細胞外ドメイン精製タンパク質と濃度依存的に直接結合することが実証された。
【0202】
2.フローサイトメトリーにより、NRP2はより高い効率でITPRIPL1の細胞に結合することを実証した。
測定した結果、HEK293細胞は一定レベルのITPRIPL1を内因的に発現し、安定なトランスフェクション後の発現レベルがさらに向上した。培養された293E野生型細胞(ATCC、VA、USA)と293E-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株を消化後にカウントし、それぞれ細胞数を2x106/mLに調整し、それぞれ200μLを96ウェルプレート(costar、ME、USA)の各ウェルに加えた。各試験群のウェルにそれぞれ0/0.5/1/2/4μg/mLのNRP2タンパク質(Sino Biological Inc、Beijing、China)を加えた。96ウェルプレートをインキュベーターにおいて30分間静置した後に取り出し、EPチューブ(Axygen、CA、USA)に移し、400rcfで5分間遠心分離後に、上清を廃棄した。500μLの細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。1:1000で抗ヒトIgG Alexa Fluor 647抗体Invitrogen、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて希釈した。陰性対照に加えて、各EPチューブに抗体希釈液200μLを加え、40rpmのシェーカーで30分間インキュベートした。次にEPチューブを取り出し、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。1000μLの細胞染色緩衝液で洗浄細胞を再懸濁、洗浄し、400rcfで5分間遠心分離し、再び上清を廃棄し、洗浄を繰り返した。洗浄完了後、各EPチューブに細胞染色緩衝液300μLを加えて再懸濁してから、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、on-board分析(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)を行った。
【0203】
図33の(a)は、死細胞に分類しないための閾値設定を示す。
図33の(b)は、ITPRIPL1発現の異なる細胞と各濃度のNRP2タンパク質との結合状況を示す。
図34は、それぞれ
図33の(b)における各条件での特異的な染色およびタンパク質結合状況を示す。以上の結果から、NRP2は一定のITPRIPL1発現量を有する293Eと結合し、ITPRIPL1過剰発現293E細胞とより強く結合することが示された。
【0204】
実施例13:単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質は、NRP2タンパク質を発現する分化したTHP1マクロファージに阻害シグナルを送達する能力を有する
遊離の単離ITPRIPL1の細胞外ドメイン精製タンパク質(IT1-RBD)は、不活性条件下でPMAによって誘導、分化されるTHP1-dual細胞IFN増殖シグナルを阻害できることを、ルシフェリンレポーターアッセイで実証した。
【0205】
培養されたTHP1-dual細胞(Invivogen、CA、USA)をカウントし、1000rpmx5分間で遠心分離後に、抗生物質を含まないRPMI-1640培地(Gibco、CA、USA)を再懸濁し、細胞数を2x106/mLに調整した後、透明96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)にウェル当たり細胞200μLおよびPMA試薬(Invivogen、CA、USA)20ng/mLを加えて誘導し、インキュベーターで3時間培養した後、PBSで洗浄し、培地を交換した。72時間後に、再び培地を交換し、それぞれ0/1/2/4/8μg/mLのITPRIPL1細胞外ドメインからの遊離の単離精製タンパク質を加え、インキュベーターで18~24時間培養した。反応完了後、不透明な96ウェルプレートに、ウェル当たり、Quanti-luc試薬(Invivogen、CA、USA)50μLおよび反応混合液10μLを加え、よく混ぜた直後に、多機能マイクロプレートリーダーでシグナルを検出した。
【0206】
図35に示すように、以上の結果から、ITPRIPL1細胞外ドメインの遊離の単離精製タンパク質(IT1-RBD)は不活性条件下でPMAによって誘導、分化されたTHP1-dual細胞IFN増殖シグナルを阻害できることが示された。以上で、単離されたITPRIPL1-RBDタンパク質は、NRP2タンパク質を発現する分化したTHP1マクロファージに阻害シグナルを送達する能力を有することが実証された。
【0207】
実施例14:精製で得られたIT1-RBD-Fcタンパク質はT細胞シグナルおよび殺傷を抑制する機能を有する
1.IT1-RBD-Fcタンパク質を単離し、精製した。
公開されている配列(NCBI参照配列NM_001008949.3)に基づき、細胞外ドメイン(HPLMVSDRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRLLEMEFEERKRAAEQRQKAENFWTGDTSSDQLVLGKKDMGWPFQADGQEG)をIT1-RBD1、すなわち、細胞外ドメインからシグナルペプチドを排除したすべての部分として選定した。そのうち、DRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRLLEMEFEERKRAAEQRQKAENFWTGDTSSDQをIT1-RBD2、すなわち、RBD1からN末端の複数の保存配列アミノ酸、およびC末端の複数の保存および非保存配列アミノ酸(機能に対する哺乳類の保存アミノ酸位置の重要性を検証するために用いられる)として選定し、MDLDTLARSRQLEKRMSEEMRLLEMEFEERKRAAEQRQKAENをIT1-RBD3(アルファヘリックス二次構造と推定した配列のみ保持し、当該二次構造が機能に必要な最小限の配列であるかどうかを検証する)として選定し、その後にCH1領域を含まないタンデムFc配列(PKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK)を連結し、pcDNA3.1をベクターとし、対応のプラスミドを構築した。前記のいくつかのITPRIPL1細胞外ドメインの変異誘導体配列は
図54に示す。
【0208】
この実施例により、ITPRIPL1の細胞外ドメインにおいて機能する配列を特徴づけた。ITPRIPL1細胞外ドメインの機能的フラグメントのAlphaFold予測構造とCD3EのX線回折結晶構造(1XIW.pdb)でタンパク質-タンパク質のドッキングを行い、解析した結果、
図54に示すヒト、マウス、ラット、ミドリザル、キンシコウ、シシバナザル、ボリビアリスザル、フクロウザル(Ma’s night monkey)、チンパンジーなどの複数の種のITPRIPL1はCD3Eに結合することができ、これは実施例2の免疫蛍光および共局在化解析結果と一致している。
【0209】
異なる種の差異部位により、CD3E結合機能を有するRBD1誘導体配列を得た。DRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRxLEMEFEERxxxAExxQKxENxWxGxTSxDQ(ここで、xは置換可能なアミノ酸を示す)。
【0210】
本実施例では、RBD1、RBD2、RBD3の機能測定分析を行った。
【0211】
プラスミドを得た後、PEI試薬(LIFE iLAB BIO、Shanghai、China)を介して293E細胞(ATCC、VA、USA)にトランスフェクトした。120時間後、RIPA溶解液(Beyotime、Shanghai、China)と、プロテアーゼ阻害剤-ホスファターゼ阻害剤-PMSFの三種混合液(Consun、Shanghai、China)を用いて、氷上で細胞を10分間溶解し、12000rpmで15分間遠心分離後、上清を吸い上げ、1:100のプロテインA磁気ビーズ(Smart-Lifesciences、Changzhou、China)を用いて、室温、130rpmで2時間振とうし、混合液を事前に平衡化液(20mMリン酸水素二ナトリウム、0.15M塩化ナトリウム、pH7.0)で平衡化されたフィルターカラム(密理博、MA、USA)に吸い込んだ。平衡化液で2回洗浄した後、溶出液(0.1Mグリシン、pH3.0):中和液(1M Tris-HCl、pH8.5)=16:1で溶出し、精製のIT1-RBD-Fcタンパク質を得た。Nanodrop分光光度計でタンパク質濃度を測定し、-20℃で保存した。
【0212】
2.精製で得られたIT1-RBD1-Fcタンパク質はConAで活性化と非活性化条件でのJurkat-dual細胞NFKB増殖シグナルを抑制できることを、ルシフェリンレポーターアッセイで実証した。
培養されたJurkat-dual細胞(Invivogen、CA、USA)をカウントし、1000rpm x5分間で遠心分離後、抗生物質を含まないIMDM培地(Gibco、CA、USA)で再懸濁し、細胞数を2x106/mLに調整した後、透明な96ウェルプレーに200μL/ウェルの細胞を加えた。各ウェルにそれぞれ精製されたIT1-RBD1/RBD2/RBD3のFcタンパク質0/4μg/mLを加えた。インキュベーターで2時間反応させた後、各ウェルにコンカナバリンA(ConA) (Aladdin Biochemical Technology、Shanghai、China)50μg/mLを加えて活性化群とし、または等体積の脱エンドトキシン水を加えて非活性化群とし、インキュベーターで18~24時間反応させた。反応完了後、不透明な96ウェルプレート(costar、ME、USA)に各ウェルにのQuanti-luc試薬(Invivogen、CA、USA) 50μLおよび反応混合液20μLを加え、よく混ぜた直後に、多機能マイクロプレートリーダーでシグナルを検出した。
【0213】
図36に示すように、50μg/mLのConAで活性化および非活性化条件で、4μg/mLの異なるIT1-RBDセグメントのFcタンパク質を加えた条件でのJurkat-dual細胞のNFKBシグナルが変化した。以上の結果から、精製で得られたIT1-RBD1-Fcタンパク質はConAでで活性化および非活性化条件でのJurkat-dual細胞のNFKB増殖シグナルを抑制でき、且つ、抑制効果は配列の短縮化に伴って弱くなることが示された。
【0214】
3.精製で得られたIT1-RBD1-Fc組み換えタンパク質は腎臓由来H3K293細胞のヒト末梢血単核細胞(PBMC)による殺傷を減少させることを、フローサイトメトリーで実証した。
HEK293細胞は、腎臓自己免疫疾患、神経性自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)等の自己免疫疾患モデルを作成し、疾患の進行、分子細胞生物学的機序、薬理学の研究に広く用いられている(Stepanenko AA, Gene. 2015 Sep 15;569(2):182-90、 Hira S. J Physiol Sci. 2019 Sep;69(5):723-732.、 Keskitalo S, , Front Immunol. 2019 Dec 5;10:2770.) 。また、HEK293細胞は、移植後の拒絶反応疾患(Yi Gao. Int J Clin Exp Med. 2014; 7(11): 4572-4583、 Lorber, Marc I、Transplantation: 1999-67(6) - p 897-903、 Pabois A, Biochem Pharmacol. 2016 Mar 15;104:95-107)、 抗ウイルス感染症に対する免疫応答(Ismail Cem Yilmaz, Allergy. 2021 Sep 14. doi: 10.1111/all.15091、Elizabeth A Reap, Vaccine . 2007 Oct 16;25(42):7441-9 )、 腫瘍免疫応答のモデル(A A Stepanenko, Gene. 2015 Sep 15;569(2):182-90)の構築にも使われている。
【0215】
また、自己免疫疾患や健常者の末梢血単核細胞(PBMC)は、自己免疫疾患(Yoshikawa N. Horm Metab Res. 1994 Sep;26(9):419-23.)、移植後の拒絶反応(Transplant Proc. 2016 Oct;48(8):2840-2844.)、抗感染免疫応答(Har-Noy M, J Transl Med. 2020 May 12;18(1):196、 Nakamura-Hoshi M, Sci Rep. 2020 Jul 9;10(1):11394.)、抗腫瘍免疫応答など(Zhuang X, Cancer Immunol Res. 2019 Jun;7(6):939-951)のモデルとして多くの研究で使用されており、関与する標的細胞にはHEK293細胞も含まれている。実際、PBMCを用いたヒト化NSGマウスモデルの効果は、in vitroにおけるPBMCと標的細胞の作用と高い相関があるため、PBMCと標的細胞を用いたinvitroモデルは、疾患プロセスおよび有効性に無視できない役割を担っている。
【0216】
本実施例では、HEK293細胞を自己免疫、移植拒絶、アレルギー反応、抗腫瘍反応の標的細胞とし、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)をエフェクター細胞として使用し、代表的な疾患モデルを通じて、ITPRIPL1ベースのレギュレーターが抗原提示細胞-T細胞相互作用に及ぼす影響と、これら異なる疾患への介入を実証した。
【0217】
その詳細な実施手順は次の通り:CD3およびCD28抗体(Invitrogen、CA、USA)をPBMC(ATCC、VA、USA)と混合し、終濃度1μg/mlに希釈してT細胞を活性化し、一晩培養した。翌日に、PBMCおよび293E野生型(ATCC、VA、USA)/ITPRIPL1過剰発現細胞をカウントし、それぞれ細胞数を1x106/mLに調整し、対照群は、293E野生型/ITPRIPL1過剰発現細胞100μLおよび培養液100μLを加え、試験群は、PBMCおよび別の種類の細胞100μLをぞれぞれ96ウェルプレート(costar、ME、USA)に加え、試験群は、さらに3群の野生型293E細胞にそれぞれIT1-RBD1/RBD2/RBD3-Fcタンパク質2μg/mLを加え、インキュベーターで6時間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、細胞を吸収し、EPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。1:20でCD45-APC抗体(Invitrogen、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温でゆっくり振りながら30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後に上清を廃棄し、binding buffer(Beyotime、Shanghai、China)1mLで細胞を再懸濁し、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。PBMC無添加非染色群、PBMC無添加二重染色群、PBMC添加非染色群、PBMC添加単染色Annexin V-FITC群、PBMC添加単染色PI群、PBMC添加二重染色群、およびそれぞれIT1タンパク質を添加した二重染色群を設定し、条件に応じて、それぞれ100μLbinding buffer、5μLAnnexin V-FITC(Beyotime、Shanghai、China)および10μLPI(Beyotime、Shanghai、China)を加え、室温でゆっくり振りながら15分間インキュベートした後、さらにそれぞれbinding buffer 400μLを加えフローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、ローディング(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)を行った。
【0218】
図37の(a)は、CD45に準拠した293E細胞分類を示す。
図37の(b)は、異なるITPRIPL1発現と異なるタンパク質条件下で、各群のアポトーシスデータにより算出されたPBMCの相対殺傷活性を示す。
図38は、
図37の(b)における各条件下での具体的なアポトーシス染色状況を示す。以上の結果から、精製で得られたIT1-RBD1-Fc組み換えタンパク質は、腎臓由来H3K293細胞のヒト末梢血単核細胞(PBMC)による殺傷を減少させ、且つ、抑制効果は配列の短縮化に伴って弱くなることが示された。
【0219】
4.ITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質および精製で得られたIT1-RBD1-Fc組み換えタンパク質はCD3E下流のZAP70およびAkt経路を阻害する機能を有することを、ウエスタンブロット法試験で実証した。
培養されたJurkat細胞(ATCC、VA、USA)をカウントし、4x106個の細胞を15mL遠心チューブ(Corning、NY、USA)に入れ、800rpmで4分間で遠心分離後、上清を廃棄し、血清を含まないRPMI1640培地(Meilunebio、Dalian、China)で再懸濁し、インキュベーターで3時間飢餓培養した。800rpmで4分間遠心分離し、4mLの完全培地(Meilunebio、Dalian、China)で再懸濁し、それぞれ1mLを12ウェルプレート(Corning、NY、USA)の各ウェルに入れ、各ウェルに、それぞれ非処理、LIT1-RBDタンパク質4μg/mL、RBD1-Fcタンパク質4μg/mL、RBD2-Fcタンパク質4μg/mLを入れた。よく混ぜた後、インキュベーターで10分間培養してから取り出し、細胞を1.5mLEPチューブ(Axygen、CA,USA)に移し、800rpmで4分間遠心分離後、PBSで再懸濁し、洗浄、遠心分離し、洗浄を繰り返した。遠心分離完了後、上清を廃棄し、1:100でRIPA溶解液(Beyotime、Shanghai、China)とプロテアーゼ阻害剤-ホスファターゼ阻害剤-PMSF三種混合液(Consun、Shanghai、China)を調製し、得られた混合溶解液80μLを各チューブの細胞に加えた。各EPチューブを液体窒素-氷上で凍結、解凍を3回繰り返し、最後の解凍後、12000rpm、4℃条件下で、15分間遠心分離した。遠心分離完了後、上清を取り、遠心分離後上清:5xローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)は4:1で各細胞検体を調製し、100℃の金属浴で10分間変性させ、タンパク質検体を得た。次に、取扱説明書に従い、ゲルプレート(Bio-Rad、CA、USA)に10%のPAGEゲル(Epizyme、Shanghai、China)を配置し、準備できたゲルを電気泳動槽(Bio-Rad、CA、USA)に入れ、電源(Bio-Rad、CA、USA)に接続し、バンドが80ボルトの定電圧で濃縮ゲルを、120ボルトの定電圧で分離ゲルを通過するようにする。バンドが分離ゲルの底部まで通過したときに、タンクブロット法を使用し、電気泳動転写セル (Bio-Rad、CA、USA) において、350mAの定電流で90分間転写した。転写完了後にAkt、ZAP70とGAPDHタンパク質の質量に応じて、膜をカットした。クイックブロッキング溶液(Epizyme、Shanghai、China)で10分間ブロッキングし、pAkt特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、Akt特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、pZAP70特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、GAPDH抗体(Consun、Shanghai、China)でそれぞれ関係バンドを、4℃で一晩インキュベートした。翌日にTBSTによる洗浄後、5%のTBSに溶解した脱脂乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)で希釈された特異的抗ウサギ二次抗体(Consun、Shanghai、China)を使用し、室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄後、混合発光液(ShareBio、Shanghai、China)に1分間置き、ゲル撮影装置(Bio-Rad、CA、USA)下で露出した。
【0220】
図39の(a)および(b)はそれぞれウエスタンブロット法でGAPDHの内部参照を調整した後の、リン酸化Aktおよびリン酸化ZAP70の発現状況を示し、そのうち、Aktリン酸化およびZAP70リン酸化はITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質および精製で得られたIT1-RBD-Fcタンパク質での処理によりいずれもある程度減少したが、IT1-RBD1-Fc組み換えタンパク質によるリン酸化はIT1-RBD2-Fcタンパク質よりも大幅に減少した。試験結果から、ITPRIPL1-RBD組み換えタンパク質および精製で得られたIT1-RBD1-Fcタンパク質はCD3E下流のAktおよびZAP70リン酸化を減少させる作用を有するため、対応のT細胞経路の抑制機能を有することが示唆された。
【0221】
5.CD3Eタンパク質はリン酸化ZAP70およびAkt経路に対するITPRIPL1-RBD1-Fc組み換えタンパク質の影響を阻害する機能を有することを、ウエスタンブロット法で実証した。
培養されたJurkat細胞(ATCC、VA、USA)をカウントし、4x106個の細胞を15mL遠心チューブ(Corning、NY、USA)に入れ、800rpmで4分間遠心分離後、上清を廃棄し、血清を含まないRPMI1640培地(Meilunebio、Dalian、China)で再懸濁し、インキュベーターで3時間飢餓培養した。800rpmで4分間遠心分離し、4mLの完全培地(Meilunebio、Dalian、China)で再懸濁し、それぞれ1mLを12ウェルプレート(Corning、NY、USA)の各ウェルに入れ、各ウェルに、それぞれ非処理、RBD1-Fcタンパク質4μg/mL、RBD1-Fcタンパク質4μg/mL+CD3Eタンパク質4μg/mLを入れた。よく混ぜた後、インキュベーターで10分間培養してから取り出し、細胞を1.5mLEPチューブ(Axygen、CA、USA)に移し、800rpmで4分間遠心分離後、PBSで再懸濁し、洗浄、遠心分離し、洗浄を繰り返した。遠心分離完了後、上清を廃棄し、1:100でRIPA溶解液(Beyotime、Shanghai、China)とプロテアーゼ阻害剤-ホスファターゼ阻害剤-PMSF三種混合液(Consun、Shanghai、China)を調製し、得たられた混合溶解液80μLを各チューブの細胞に加えた。各EPチューブを液体窒素-氷上で凍結、解凍を3回繰り返し、最後の解凍後、12000rpm、4℃条件下で、15分間遠心分離した。遠心分離完了後、上清を取り、遠心分離後上清:5xローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)は4:1で各細胞検体に配合し、100℃の金属浴で10分間変性させ、タンパク質検体を得た。次に、取扱説明書に従い、ゲルプレート(Bio-Rad、CA、USA)に10%のPAGEゲル(Epizyme、Shanghai、China)を配置し、準備できたゲルを電気泳動槽(Bio-Rad、CA、USA)に入れ、電源(Bio-Rad、CA、USA)に接続し、バンドが80ボルトの定電圧で濃縮ゲルを、120ボルトの定電圧で分離ゲルを通過するようにする。バンドが分離ゲルの底部まで通過したときに、タンクブロットを使用し、電気泳動転写セル (Bio-Rad、CA、USA) において、350mAの定電流で90分間転写した。転写完了後にAkt、ZAP70、ERKとGAPDHタンパク質の質量に応じて、膜をカットした。クイックブロッキング溶液(Epizyme、Shanghai、China)で10分間ブロッキングし、pAkt特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、Akt特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、pZAP70特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、ZAP70特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、pERK特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、ERK特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、GAPDH抗体(Consun、Shanghai、China)でそれぞれ関係バンドを、4℃で一晩インキュベートした。翌日にTBSTによる洗浄後、5%のTBSに溶解した脱脂乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)で希釈された特異的抗ウサギ二次抗体(Consun、Shanghai、China)を使用し、室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄後、混合発光液(ShareBio、Shanghai、China)に1分間置き、ゲル撮影装置(Bio-Rad、CA、USA)下で露出した。
【0222】
図41は関連リン酸化経路の改変に関するウエスタンブロット法試験結果を示す。図に示すように、Akt、ZAP70、ERKのリン酸化はいずれもITPRIPL1-RBD1-Fcの添加によって有意に低下し、中でもZAP70が最も顕著であり、このリン酸化の低下傾向はCD3Eタンパク質の添加により打ち消された。試験結果から、CD3EはITPRIPL1-RBD1-Fcタンパク質によるリン酸化経路の調節を阻害することができ、ITPRIPL1-RBD-FcはCD3を介してT細胞のリン酸化経路を調節していることが示された。
【0223】
実施例15:ITPRIPL1のT細胞調節機能はCD3の正しいコンフォメーション変化およびPRSセグメントが必要である
1.CD3変異体Jurkat細胞の構築
培養されたJurkat細胞(ATCC、VA、USA)をカウントし、2x105個の細胞を24ウェルプレート(Corning、NY、USA)の各ウェルに入れ、プレーティングして一晩置いた。完全培地(Meilunebio、Dalian、China)500μLに、CD3を標的とするノックアウトレンチウイルス(Genepharma、Shanghai、China)をMOI値100で混合し、ウイルス感染させた。48時間後に液を交換した。続けて24時間培養した後、ピューロマイシン1μg/mLを加え、1週間のスクリーニングを行った。スクリーニング後にCD3ノックアウトJurkat細胞株を得た。
【0224】
CD3ノックアウトJurkat細胞をカウントし、2x105個の細胞を24ウェルプレートの各ウェルに入れ、プレーティングして一晩置いた。完全培地500μLにCD3-K76T(正しいコンフォメーション変化を起こせない)およびCD3-ΔPRS(PRSセグメント変化)過剰発現ウイルスをMOI値100で混合し、ウイルス感染させた。48時間後に液を交換した。続けて24時間培養した後、ジェネティシン(Geneticin、G418)(Gibco、CA、USA)600μg/mLを加え、1週間のスクリーニングを行った。スクリーニング後にCD3変異Jurkat細胞株を得た。
【0225】
2.ウエスタンブロット法試験結果から、T細胞のリン酸化経路に対するITPRIPL1の調節にCD3のコンフォメーション変化およびPRSセグメントが必要であることが示された。
野生型Jurkat細胞、CD3ノックアウトJurkat細胞、CD3-K76T Jurkat細胞、CD3-ΔPRS細胞をカウントし、1x106個の細胞を12ウェルプレート(Corning、NY、USA)の各ウェルに入れ、OKT3 10μg/mLを加えて活性化した後、それぞれの非処理または4μg/mLのITPRIPL1-RBD1-Fcによる処理を行い、10分間培養した後に細胞を採集した。細胞を1.5mLEPチューブ(Axygen、CA,USA)に移し、800rpmで4分間遠心分離し、PBSで再懸濁し、洗浄、遠心分離し、洗浄を繰り返した。遠心分離完了後、上清を廃棄し、1:100でRIPA溶解液(Beyotime、Shanghai、China)とプロテアーゼ阻害剤-ホスファターゼ阻害剤-PMSF三種混合液(Consun、Shanghai、China)を調製し、得られた混合溶解液80μLを各チューブの細胞に加えた。各EPチューブを液体窒素-氷上で凍結、解凍を3回繰り返し、最後の解凍後、12000rpm、4℃条件下で、15分間遠心分離した。遠心分離完了後、上清を取り、遠心分離後上清:5xローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)は4:1で各細胞検体に配合製し、100℃の金属浴で10分間変性させ、タンパク質検体を得た。次に、取扱説明書に従い、ゲルプレート(Bio-Rad、CA、USA)に10%のPAGEゲル(Epizyme、Shanghai、China)を配置し、準備できたゲルを電気泳動槽(Bio-Rad、CA、USA)に入れ、電源(Bio-Rad、CA、USA)に接続し、バンドが80ボルトの定電圧で濃縮ゲルを、120ボルトの定電圧で分離ゲルを通過するようにする。バンドが分離ゲルの底部まで通過したときに、タンクブロット法を使用し、電気泳動転写セル (Bio-Rad、CA、USA) において、350mAの定電流で90分間転写した。転写完了後にAkt、ZAP70、ERKとGAPDHタンパク質の質量に応じて、膜をカットした。クイックブロッキング溶液(Epizyme、Shanghai、China)で10分間ブロッキングし、pAkt特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、Akt特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、pZAP70特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、ZAP70特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、pERK特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、ERK特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、GAPDH抗体(Consun、Shanghai、China)でそれぞれ関係バンドを、4℃で一晩インキュベートした。翌日にTBSTによる洗浄後、5%のTBSに溶解した脱脂乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)で希釈された特異的抗ウサギ二次抗体(Consun、Shanghai、China)を使用し、室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄後、混合発光液(ShareBio、Shanghai、China)に1分間置き、ゲル撮影装置(Bio-Rad、CA、USA)下で露出した。
【0226】
図42は、ITPRIPL1-RBD1-Fcタンパク質存在下で、各CD3変異Jurkat細胞のウエスタンブロット法により明らかになったリン酸化経路の変化である。以上の結果から、野生型Jurkat細胞のITPRIPL1によるリン酸化の低下がCD3ノックアウト/K76T変異/ΔPRS変異Jurkat細胞では観察されず、ITPRIPL1によるT細胞のリン酸化経路調節にはCD3のコンフォメーション変化およびPRSセグメントが必要であることが示された。
【0227】
3.ITPRIPL1がT細胞の活性を低下させる役割を有することを、細胞内カルシウムイオンフロー蛍光染色で実証した
培養されたJurkat細胞(ATCC、VA、USA)をカウントし、5x105個の細胞を12ウェルプレート(Corning、NY、USA)の各ウェルに入れ、PBSまたはITPRIPL1-RBDタンパク質2μg/mLで24時間処理した。処理後、4μMのFluo-8 AM(Abcam、MA、USA)細胞内カルシウムイオン指示薬で染色し、遮光インキュベーターで1時間インキュベートした。HHBS緩衝液(Solarbio、Beijing、China)で2回洗浄した後、蛍光顕微鏡で観察した。
【0228】
図43は蛍光顕微鏡で観察された細胞内カルシウムイオンのシグナル強度を示す。試験結果から、ITPRIPL1はJurkat細胞内カルシウムイオンを有意に低下させる機能を有し、ITPRIPL1がT細胞活性を低下させる役割を有することが示された。
【0229】
4.ITPRIPL1のT細胞活性を低下させる役割はCD3のコンフォメーション変化およびPRSセグメントに依存することを、細胞内カルシウムイオンフロー蛍光染色試験で実証した
野生型Jurkat細胞、CD3ノックアウトJurkat細胞、CD3-K76T Jurkat細胞、CD3-ΔPRS細胞をカウントし、5x105個の細胞を12ウェルプレート(Corning、NY、USA)の各ウェルに入れ、それぞれPBSまたはITPRIPL1-RBD1-Fcタンパク質2μg/mLで24時間処理した。処理後、4μMのFluo-8 AM(Abcam、MA、USA)細胞内カルシウムイオン指示薬で染色し、遮光インキュベーターで1時間インキュベートした。HHBS緩衝液(Solarbio、Beijing、China)で2回洗浄した後、蛍光顕微鏡で観察した。
【0230】
図44は蛍光顕微鏡で観察された各細胞内カルシウムイオンのシグナル強度を示す。試験結果から、CD3ノックアウト/K76T変異/ΔPRS変異Jurkat細胞では、野生型Jurkat細胞のカルシウムフローに対するITPRIPL1の有意な影響は認められず、ITPRIPL1のT細胞へのシグナル調節にはCD3のコンフォメーション変化およびPRSセグメントが必要であることが示された。
【0231】
実施例16:ITPRIPL1はCD3-Nck結合の調節によってT細胞シグナルおよび機能を調節する
1.ITPRIPL1-RBD1-Fcタンパク質は濃度依存的にCD3とNckとの結合シグナルを増加させることをウエスタンブロット法試験で実証した。
培養されたJurkat細胞(ATCC、VA、USA)をカウントし、5x106個の細胞を15mL遠心チューブ(Corning、NY、USA)に入れ、800rpmで4分間遠心分離後、上清を廃棄し、血清を含まないRPMI1640培地(Meilunebio、Dalian、China)で再懸濁し、インキュベーターで3時間飢餓培養した。800rpmで4分間遠心分離し、4mLの完全培地(Meilunebio、Dalian、China)で再懸濁し、それぞれ1mLを12ウェルプレート(Corning、NY、USA)の各ウェルに入れ、OKT3 10μg/mLを加えて活性化処理した同時に、各ウェルに、それぞれ非処理、RBD1-Fcタンパク質0.5/1/2/4μg/mLを入れた。よく混ぜた後、インキュベーターで5分間培養してから取り出し、細胞を1.5mLEPチューブ(Axygen、CA、USA)に移し、800rpmで4分間遠心分離後、PBSで再懸濁し、洗浄、遠心分離し、洗浄を繰り返した。遠心分離完了後、上清を廃棄し、1:100免疫沈降溶解液(Thermo Fisher、MA、USA)とプロテアーゼ阻害剤-ホスファターゼ阻害剤-PMSF三種混合液(Consun、Shanghai、China)を調製し、得られた混合溶解液200μLを各チューブの細胞に加えた。細胞検体の一部を遠心分離し、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)と混合し、100℃の金属浴で変性させ、入力レベルのタンパク質検体を得た。残りの細胞検体は、CD3E特異的マウス抗体(Santa cruz biotechnology、CA、USA)で免疫沈降させ、PBSで洗浄し、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)と混合して100℃の金属浴で変性させ、免疫沈降タンパク質検体を得た。遠心分離後上清:5xローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)は4:1で各細胞検体を調製し、100℃の金属浴で10分間変性させ、タンパク質検体を得た。次に、取扱説明書に従い、ゲルプレート(Bio-Rad、CA、USA)に10%のPAGEゲル(Epizyme、Shanghai、China)を配置し、準備できたゲルを電気泳動槽(Bio-Rad、CA、USA)に入れ、電源(Bio-Rad、CA、USA)に接続し、バンドが80ボルトの定電圧で濃縮ゲルを、120ボルトの定電圧で分離ゲルを通過するようにする。バンドが分離ゲルの底部まで通過したときに、タンクブロット法を使用し、電気泳動転写セル (Bio-Rad、CA、USA) において、350mAの定電流で90分間転写した。転写完了後にCD3E、Nckタンパク質の質量に応じて、膜をカットした。クイックブロッキング溶液(Epizyme、Shanghai、China)で10分間ブロッキングし、CD3E特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)、Nck特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)でそれぞれ関係バンドを、4℃で一晩インキュベートした。翌日にTBSTによる洗浄後、5%のTBSに溶解した脱脂粉乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)で希釈された特異的抗ウサギ二次抗体(Consun、Shanghai、China)を使用し、室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄後、混合発光液(ShareBio、Shanghai、China)に1分間置き、ゲル撮影装置(Bio-Rad、CA、USA)下で露出した。
【0232】
図45に示すように、前記結果から、ITPRIPL1-RBD1-Fcタンパク質がCD3とNckとの結合を濃度依存的にアップレギュレーションできることが分かる。以上の結果から、ITPRIPL1はCD3とNckとの結合シグナルを濃度依存的に増加させることができることが示された。
【0233】
2.近接ライゲーションアッセイ結果は、ITPRIPL1-RBD1-Fcタンパク質がCD3とNckとの結合シグナルを増加させることを示唆した。
培養されたJurkat細胞(ATCC、VA、USA)をカウントし、2x106個の細胞を15mL遠心チューブ(Corning、NY、USA)に入れ、800rpmで4分間遠心分離後、上清を廃棄し、血清を含まないRPMI1640培地(Meilunebio、Dalian、China)で再懸濁し、インキュベーターで3時間飢餓培養した。800rpmで4分間遠心分離し、2mLの完全培地(Meilunebio、Dalian、China)で再懸濁し、それぞれ1mLを12ウェルプレート(Corning、NY、USA)の各ウェルに入れ、OKT3 10μg/mLを加えて活性化処理した同時に、各ウェルに、それぞれ非処理、RBD1-Fcタンパク質4μg/mLを入れた。インキュベーターに入れた5分間後にJurkat細胞を取り出し、近接ライゲーションアッセイキットに添付の取扱説明書(Merck & Co、NJ、USA)に従い、キット内の試薬およびCD3E特異的マウス抗体(Santa cruz biotechnology、CA、USA)、Nck特異的ウサギ抗体(CST、MA、USA)を使用して関連操作を行った。封入後、蛍光顕微鏡で観察した。
【0234】
図46に示すように、近接ライゲーションアッセイにより、ITPRIPL1-RBD1-Fcタンパク質はCD3とNckとの結合を有意に増加させることでT細胞シグナルおよび機能を調節できることが示唆された。
【0235】
実施例17:ITPRIPL1は、in vivoで免疫とT細胞機能を調節する役割を有し、腫瘍からの免疫回避を促進する
1.ヒト化CD3εマウスMC38皮下移植腫瘍in vivoモデルの構築
構築された完全長ITPRIPL1-Flagプラスミドおよび空のpcDNA3.1プラスミドをそれぞれ、MC38細胞(Kerafast、MA、USA)にトランスフェクトし、インキュベーターで24~48時間培養した後、200μg/mLのジェネティシン(Geneticin、G418)(Gibco、CA、USA)を加えてスクリーニングした。10~14日後に、空のpcDNA3.1プラスミドによるトランスフェクト群の細胞がすべて死滅した時点で、MC38-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株を得た。
【0236】
6~8週齢のヒト化CD3εマウス(Model Organisms Center、Shanghai、China)を選択し、体重に応じてランダムに群に分け、各群に6匹のマウスを割り当てた。MC38野生型およびMC38-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株を取ってカウントし、PBSで1.5x107/mLの細胞密度になるまで再懸濁した。マウスの毛を剃り、1.5 x106 の野生型またはITPRIPL1過剰発現MC38細胞を右脇の下の皮下に接種し、これによって、ヒト化CD3εマウスMC38皮下異種移植腫瘍in vivoモデルを構築した。
【0237】
2.ITPRIPL1の過剰発現は、in vivoでマウスの腫瘍の増殖を有意に増加させる
ヒト化CD3εマウスMC38皮下異種移植腫瘍in vivoモデルを構築した後、接種後5日目から、腫瘍の大きさはノギスを用い、3日ごとに腫瘍の長径と短径を測定し、1/2*A*a*aの式で腫瘍体積を算出し、記録した。接種後23日目にマウスを一律に屠殺し、腫瘍を剥離した後、腫瘍の重量を測定し、統計的に分析した。
【0238】
図47に示すように、腫瘍体積及び腫瘍重量の両方は、ITPRIPL1の過剰発現がin vivo機能を有し、腫瘍増殖を有意に増加させることができることを示す。ヒト腫瘍におけるITPRIPL1発現のアップレギュレーションが広く見られ(本願のその他の実施例を参照)、本実施例の結果から、ITPRIPL1はヒト腫瘍において免疫回逸を促進する役割を果たしていることが示された。したがって、ITPRIPL1を標的とする阻害剤は、腫瘍の増殖を抑制する効果を有し、ITPRIPL1レギュレーターは、腫瘍治療薬の調製に応用できる。
【0239】
3.ITPRIPL1の過剰発現がマウスのin vivoT細胞活性を抑制することを、フローサイトメトリーで実証した
心臓採血方式で、マウスから少なくとも1mLの末梢血を採取した。マウス末梢血PBMC単離キット(Solarbio、Beijing、China)を用いて、キット取扱説明書によって操作し、マウスPBMC細胞を得た。
マウスPBMCをEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。1:20でマウスCD8-APC抗体(Biolegend、CA、USA)、マウスCD69-APC抗体(Biolegend、CA、USA)、マウスCD137-APC抗体(Biolegend、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温でゆっくり振りながら30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄し、細胞染色緩衝液500μLで細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。それぞれ細胞染色緩衝液200μLを加え、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、ローディング(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)を行った。
【0240】
図48に示すように、平均蛍光強度により、ITPRIPL1過剰発現はCD8、CD25、CD139の発現を有意に減少させた。試験結果から、ITPRIPL1の過剰発現は、マウスのin vivoでT細胞活性を抑制できることが示された。
【0241】
4.免疫組織化学染色により、ITPRIPL1の過剰発現が腫瘍内のT細胞浸潤を減少させたことが示された
MC38腫瘍組織を剥離した後にスライスし、パラフィンで包埋した(Biossci、Wuhan、China)。得られたパラフィン切片を脱脂、水和、抗原修復などの処理をした後、マウスCD8抗体(CST、MA、USA)と共にウェットボックスで一晩インキュベートした。翌日再加温後、切片を試薬取扱説明書に従い、二次抗体とインキュベートし、DAB染色(Solarbio、Beijing、China)およびヘマトキシリン染色(Solarbio、Beijing、China)後、アルコール濃度勾配で風乾し、封止した。封止後、た蛍光顕微鏡で観察し、自然光下で写真を撮った。
【0242】
図49に示すように、 ITPRIPL1の過剰発現は、腫瘍組織におけるCD8の陽性率を有意に低下させることができる。試験結果によると、ITPRIPL1の過剰発現はMC38腫瘍組織におけるT細胞浸潤を低下させることができる。
【0243】
5.ITPRIPL1ヘテロ接合体/ホモ接合体ノックアウトマウスin vivoモデルの構築
CRISPR/Cas9技術を用い、非相同末端結合修復を利用して、Itpripl1遺伝子タンパク質に読み枠シフトと機能喪失を引き起こす変異を導入した。簡単な手順は以下の通り:Cas9 mRNAとgRNAをin vitro転写により入手し、Cas9 mRNAとgRNAをC57BL/6Jマウスの受精卵にマイクロインジェクションしてF0世代マウスを得た。PCR増幅とシークエンスにより、陽性F0世代マウスを同定し、C57BL/6Jマウスと交配し、6匹の陽性F1世代マウスを取得した。これによって、ヘテロ接合体ノックアウトおよびホモ接合体ノックアウトITPRIPL1のマウスを得た。
【0244】
6.フローサイトメトリーにより、ITPRIPL1ノックアウトはT細胞活性を高めることが示された
マウスモデルから採血し、PBMCを単離した。細胞懸濁液中の細胞をカウントした。細胞カウント後に、細胞懸濁液をPBS溶液で希釈し、測定対象細胞濃度を106/mLに調整した。細胞懸濁液200μlを取り、1000rpmで5分間遠心分離した(4℃)。細胞をPBS 100μLに再懸濁した。以下のようにアッセイチューブをセットした。
【0245】
陰性対照チューブ:100μl細胞懸濁液。
CD39アッセイチューブ:細胞懸濁液100uLにPD1の抗体2μLを加え、軽く混ぜた。
CD73アッセイチューブ:細胞懸濁液100uLにPD-L1の抗体2μLを加え、軽く混ぜた。
抗体はすべて(Thermo Fisher、MA、USA)であった。
【0246】
4℃で遮光して30分間インキュベートした。インキュベート後に、フローサイトメーターでアッセイした。
【0247】
図50に示すように、ITPRIPL1ノックアウト後、抑制性表面分子CD39とCD73が有意に減少したことから、ITPRIPL1ノックアウトにより、in vivoでのT細胞活性が向上したことが示唆され、ITPRIPL1自身のT細胞に対する負の調節作用が検証された。
【0248】
7.ELISAアッセイの結果、ITPRIPL1ノックアウトが免疫活性化サイトカインの分泌を増加させることが確認された
マウスPBMCをグランザイムA、グランザイムB、IL-2、TNF-alpha、IL-21などのサイトカインのELISAキット取扱説明書(Abnova、CA、USA)に従って操作、処理し、対応の試験結果を得た。
【0249】
図51に示すように、ITPRIPL1ノックアウトにより、グランザイムA、グランザイムB、IL-2、TNF-alpha、IL-21などのサイトカイン分泌量が増加したため、ITPRIPL1ノックアウト後に、in vivoの免疫活性化因子の分泌が増加し、ITPRIPL1自身の免疫抑制効果が示唆された。
【0250】
8.免疫組織化学染色により、ITPRIPL1ノックアウトが精巣組織におけるT細胞浸潤が増加したことが示された
マウス精巣組織を剥離し、染色およびスライス(JRDUN、Shanghai、China)を行い、蛍光顕微鏡で関係結果を観察した。
【0251】
図52に示すように、免疫組織化学染色により、ITPRIPL1ノックアウト後、精巣におけるCD3、CD4、CD8の陽性率が増加し、T細胞浸潤が増加したことが示唆された。これに対応して、ヘテロ接合体およびホモ接合体ノックアウトマウスでは、精子の形態異常、運動パターンの異常、生存率の著しい低下が見られ、精巣で起きている著しい炎症浸潤と一致しており、精巣組織における自己免疫障害の強い支持証拠となった。以上の結果から、ITPRIPL1が精巣の生理的条件下でT細胞活性を負に調節していること、そしてITPRIPLが精巣の免疫特権状態の維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。したがって、ITPRIPL1の発現は、精巣の自己免疫疾患および自己免疫性不妊症の発症を予測するために使用でき、ITPRIPL1活性の調節は、自己免疫性不妊症の介入および治療に使用できる。
【0252】
実施例18:ITPRIPL1は、生体内の腫瘍細胞の存在を示す、腫瘍の進行や病期を予測し、腫瘍と正常組織の境界を識別するためのバイオマーカーとしてに使用される。
本願は、ITPRIPL1が腫瘍の免疫回避に重要な役割を果たしていること、ITPRIPL1の発現が上昇している腫瘍は、腫瘍の増殖を抑制するためにITPRIPL1の阻害剤を使用するのに適していることを革新的に明らかにした。そのため、ITPRIPL1発現の測定は極めて重要である。本願は、ITPRIPL1の特異的な抗体を用いてその発現を測定する応用を例示し、ITPRIPL1の高発現は、生体内の腫瘍細胞の存在を示し、腫瘍と正常組織の境界を正確に示すことに使用できることを明らかにした。また、ITPRIPL1は腫瘍の進行期と有意に関連している。具体的には、
【0253】
ITPRIPL1ポリクローナル抗体の産生方法は、前記の通りである。さらに、ハイブリドーマのスクリーニングおよび単離培養によって、ITPRIPL1のモノクローナル抗体を調製した。ITPRIPL1の抗体を用いて、様々な腫瘍組織のマイクロアレイ(Shanghai Core Ultra)を免疫組織化学的に染色し、画像をスキャンし、ITPRIPL1発現レベルおよび分布を老兄学的に解析した。
図53に示すように、ITPRIPL1発現は、多くのよく見られる癌種のタンパク質レベルで有意に増加し、癌周囲組織(para-cancerous tissues)よりも有意に強かった。また、ITPRIPL1は腫瘍の進行度や病期と有意に相関している。例えば、ITPRIPL1の発現は、進行性乳癌(3Cおよび4期)では早期癌(1期)よりも有意に高く、進行性肺癌(4期)では早期癌(1A期)よりも高く、大腸癌および甲状腺癌では、ITPRIPL1の発現は早期癌よりも前記進行期で高くなる特徴を有する。以上の結果から、ITPRIPL1バイオマーカーは、生体内の腫瘍細胞の存在を示し、、腫瘍の進行や病期を予測できることが示された。
【0254】
腫瘍組織におけるITPRIPL1染色は、非常に顕著な一貫性を示した。まず、ごく少数の例外を除いて、上述のように幅広い腫瘍においてITPRIPL1の普遍的で有意なアップレギュレーションが見られる。次に、腫瘍組織におけるITPRIPL1の発現は高い均一性を示し、すなわち、原発巣の異なる部位や転移巣の異なる細胞における発現が、一致している。この特徴は、
図56で観察できる。ITPRIPL1は、リンパ節に転移した腫瘍細胞で有意に発現しており、癌細胞組織と正常なリンパ節組織との区別に用いることができる。さらに、ITPRIPL1は、遠隔転移した腫瘍細胞でも有意に高発現しているため、転移巣と正常組織との区別に用いることができる。ITPRIPL1の上記の特徴から、腫瘍と正常な細胞や組織との区別、腫瘍と正常な細胞や組織との境界の正確な画定に適している。このマーカーは、治療前後の腫瘍の大きさや浸潤の度合い分析に適している。したがって、ITPRIPL1発現は、ITPRIPL1レギュレーター医薬品の重要なコンパニオン診断マーカーである。また、異質性が低いことから、ITPRIPL1は腫瘍の診断用バイオマーカーとして非常に有望である。
【0255】
実施例19:マウスハイブリドーマ抗体はITPRIPL1に特異的に結合できる
1.ITPRIPL1マウスハイブリドーマ抗体の調製
(1)ヒトITPRIPL1-Fc組み換えタンパク質(SEQ ID NO:21に示す)を免疫原として、効果を強化するために、C57BL/6マウスに対し、複数回の免疫を行った。
1)1回目の免疫では、50μg/匹抗原を、完全フロイントアジュバントと共に、3週間間隔で多点皮下注射した。
2)2回目の免疫では、上記と同一用量と経路で、不完全フロイントアジュバントと共に、3週間間隔で投与した。
2)3回目の免疫では、上記と同一用量で、アジュバントを加えずに、3週間間隔で腹腔注射した。
3)ブースター免疫では、50μgの用量で、腹腔注射した。最後の注射から3日後に採血し、その力価を測定した。
【0256】
(2)免疫効果が要件を満たしたことを検証した後、複数回にわける累計方式で採血し、ポリクローナル抗体を単離精製した。具体的な試験手順は次の通りである:
1)プロテインGセファロースCL-4Bアフィニティーカラムを準備した。プロテインGセファロース CL-4Bフィラー10mLを用意し、真空フラスコに等体積のフィラーとTBS緩衝液を混合し、撹拌した。カラムを15分間排気し、フィラーから気泡を除去した。プロテインGセファロースCL-4Bフィラーをガラス製カラムにゆっくり入れ、ポンプで充填速度を1mL/分~2mL/分に制御して、カラムを乾燥させないようにし、ベッドボリュームの10倍に相当する、予め冷却したTBS緩衝液を用いてカラムを平衡化した。
2)ポリクローナル抗体の調製。ポリクローナル抗体を氷水または4℃の冷蔵庫に入れ、タンパク質の凝集を回避しながら、ゆっくり解凍した。濃度が0.05%になるまで固体アジ化ナトリウムを加え、4℃、15,000×gで5分間遠心分離し、清澄化したポリクローナル抗体を移しだし、フィルターでろ過して余分な脂質を除去した。
3)アフィニティークロマトグラフィー。1:5の割合で抗体をTBS緩衝液で希釈し、フィルターで濾過した。0.5mL/分の速度でポリクローナル抗体をカラムにロードし、ポリクローナル抗体とフィラーとの結合を確保するために、連続で2回ロードし、ロード流出液を保持した。Aλ 280 nm < 0.008になるまで、TBS緩衝液でカラムを洗浄した後、Ph 2.7溶出緩衝液を加え、0.5 mL/分の速度でタンパク質がすべて流れ落ちるまで溶出した。溶出液は中和緩衝液100μLを加えた1.5 mL EPチューブを用いて、チューブ別に回収し、よく混ぜた後、pH試験紙で溶出液のpH を確認し、pH 7未満の場合は中和緩衝液で約pH 7.4に調整し、抗体の変性を防ぐ。カラムに10mL、pH1.9の溶出緩衝液を加え、Aλ280 nm < 0.008になるまで、前記方法で溶出液を回収した。分光光度計で各チューブにおけるタンパク質含有量を測定した。
【0257】
2.酵素結合免疫吸着法(ELISA)による各ハイブリドーマ抗体とITPRIPL1との結合の検証
各ハイブリドーマ抗体のITPRIPL1に対する結合力を検証するために、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で各抗体とITPRIPL1タンパク質との直接結合を実証した。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)中のITPRIPL1組み換えタンパク質(cusabio、Wuhan、China)100μL(1μg/mL)を、プレートにコーティングし、陰性対照はTPRIPL1組み換えタンパク質を含まないコーティング液100μLでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した5%BSA(VWR、PA、USA) 100μLで、インキュベーターを37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、インキュベーターにおいて、37℃で60分間結合した。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗マウスFcセグメント抗体(Consun、Shanghai、China)で、インキュベーターで37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を100μL/ウェルで添加し、インキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0258】
図57は、ELISA試験結果を示す。左上図は、ITPRIPL1タンパク質への抗体の結合について得られた全100株のELISA結果、右上図は、左上の結果から選ばれた結合性の良い9つの抗体について、個別に再現実験を行った結果を示す。下図は13B7抗体の濃度依存的な結合曲線を示す。試験した結果、各抗体のITPRIPL1への結合の強さが異なり、抗体間の異質性があるが、13B7が最も強く結合する抗体であることと確認された。以上の結果から、各ハイブリドーマが異なる結合力でITPRIPL1と結合できることが実証された。
【0259】
2.フローサイトメトリー(FACS)による各ハイブリドーマ抗体とITPRIPL1との結合検証
各ハイブリドーマ抗体のITPRIPL1に対する結合力をさらに検証するために、フローサイトメトリー(FACS)で各抗体とITPRIPL1タンパク質との直接結合を実証した。ITPRIPL1を内因的に高発現するJurkat細胞(ATCC、VA、USA)をカウントし、細胞数を1x106/mLに調整し、それぞれ100μLを96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に入れ、各ウェルにそれぞれ終濃度1μg/mLのハイブリドーマ抗体または対照血清を加え、インキュベーターで30分間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、各ウェルの細胞をEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。1:500で抗マウスFcセグメント-Alexa Fluor 488抗体(Invitrogen、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温で30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄し、細胞染色緩衝液1mLで細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。それぞれ細胞染色緩衝液300μLを加え、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、ローディング(Miltenyi Biotec、Cologne、Germany)し解析した。
【0260】
図58はFACS試験結果を示し、各抗体のITPRIPL1への結合の強さが異なり、13B7が最も強く結合する抗体であることから、抗体間の異質性があると確認された。
【0261】
実施例20:13B7抗体は、高い親和性でITPRIPL1と特異的に結合できる
1.フローサイトメトリー(FACS)による、ITPRIPL1発現量の異なる細胞への13B7抗体結合の検証
ITPRIPL1に対する13B7の結合力をさらに検証するために、フローサイトメトリー(FACS)で13B7抗体とITPRIPL1発現量の異なる様々な種類の細胞との直接結合を実証した。内因的なITPRIPL1発現量の異なる細胞、すなわち、HCT116(ATCC、VA、USA)、A549(ATCC、VA、USA)、MC38(Kerafast、MA、USA)、Jurkat(ATCC、VA、USA)、Raji細胞(ATCC、VA、USA)以およびMC38-ITPRIPL1安定化トランスフェクト細胞株をカウントし、細胞数を1x106/mLに調整し、それぞれ96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に100μLを加え、各ウェルにそれぞれ終濃度1μg/mLの13B7抗体を加え、インキュベーターで30分間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、各ウェルの細胞をEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。1:500で抗マウスFcセグメント-Alexa Fluor 488抗体(Invitrogen、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温で30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄し、細胞染色緩衝液1mLで細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。それぞれ細胞染色緩衝液300μLを加え、ローディング(Miltenyi Biotec, Cologne, Germany)のためにフローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、解析した。
【0262】
図59はFACS試験結果を示す。試験結果は、各細胞株と13B7抗体との結合力の強弱が各細胞株のITPRIPL1タンパク質発現状況と基本的に一致しているため、13B7抗体はITPRIPL1発現細胞株におけるITPRIPL1に特異的に結合できることを示唆した。
【0263】
2.フローサイトメトリー(FACS)による13B7抗体のJurkat細胞への濃度依存的な結合の検証
ITPRIPL1に対する13B7の結合力を検証するために、フローサイトメトリー(FACS)により、13B7抗体とJurkat細胞との濃度依存的な結合を検証した。ITPRIPL1を内因的に高発現するJurkat細胞をカウントし、細胞数を1x106/mLに調整し、それぞれ100μLを96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に入れ、各ウェルにそれぞれ終濃度が0.0625/0.125/0.25/0.5/1/2μg/mLである13B7抗体を加え、インキュベーターで30分間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、各ウェルの細胞をEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。1:500で抗マウスFcセグメント-Alexa Fluor 488抗体(Invitrogen、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温で30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄し、細胞染色緩衝液1mLで細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。それぞれ細胞染色緩衝液300μLを加え、ローディング(Miltenyi Biotec, Cologne, Germany)のためにフローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、解析した。
【0264】
図60はFACS試験結果を示す。この結果から、Jurkat細胞は13B7抗体に濃度依存的に高い親和性で結合できることが示された。
【0265】
3.13B7抗体がITPRIPL1発現量の異なる細胞におけるITPRIPL1タンパク質に特異的に結合することのタンパク質ウエスタンブロット法による検証
ITPRIPL1の内因性発現が異なるJurkat、HCT116、MC38細胞をカウントし、それぞれ1x106個の細胞をPBSで洗浄し、遠心分離した後、RIPA溶解液(Beyotime、Shanghai、China)60μLとプロテアーゼ阻害剤-ホスファターゼ阻害剤-PMSF三種混合液(Consun、Shanghai、China)とが1:100の割合の溶解液に混合し、氷上で15分間溶解した後、液体窒素で凍結、解凍を3回繰り返し、遠心分離、ローディングバッファー(Beyotime、Shanghai、China)混合および100℃金属浴による変性を経て、入力量タンパク質検体を得た。次に、取扱説明書に従い、ゲルプレート(Bio-Rad、CA、USA)に12.5%のPAGEゲル(Epizyme、Shanghai、China)を配置し、準備できたゲルを電気泳動槽(Bio-Rad、CA、USA)に入れ、電源(Bio-Rad、CA、USA)に接続し、バンドが80ボルトの定電圧で濃縮ゲルを、120ボルトの定電圧で分離ゲルを通過するようにする。バンドが分離ゲルの底部まで通過したときに、タンクブロット法を使用し、電気泳動転写セル(Bio-Rad、CA、USA) において、350mAの定電流で90分間転写した。転写完了後に、ITPRIPL1タンパク質および内部参照GAPDHタンパク質の質量に応じて、膜をカットした。クイックブロッキング溶液(Epizyme、Shanghai、China)で10分間ブロッキングし、1μg/mLの終濃度に希釈した13B7抗体とGAPDH-HRP抗体(Consun、Shanghai、China)でそれぞれITPRIPL1とGAPDHの関係バンドを、4℃で一晩インキュベートした。翌日にTBSTによる洗浄後、5%のTBSに溶解した脱脂乳(Sangon Biotech、Shanghai、China)で希釈された特異的抗マウス二次抗体(Consun、Shanghai、China)を使用し、室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄後、混合発光液(ShareBio、Shanghai、China)に1分間置き、ゲル撮影装置(Bio-Rad、CA、USA)下で露出した。
【0266】
図61はウエスタンブロット法試験結果を示す。図に示すように、13B7抗体は、GAPDH内部参照から示唆されるITPRIPL1タンパク質の分子量位置にバンドを特異的に表示し、各細胞におけるITPRIPL1の内因性発現と一致しており、13B7抗体はITPRIPL1タンパク質に特異的に結合することが示された。
【0267】
実施例21:ITPRIPL1とCD3E/SEMA3Gとの結合に対する各ハイブリドーマ抗体の阻害効果に関する測定
ITPRIPL1とCD3EまたはSEMA3Gとの結合に対する各ハイブリドーマ抗体の阻害効果の有無を検証するために、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で各抗体の阻害効果を検証した。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解した、ITPRIPL1-Fcタグ付き組み換えタンパク質(Abclonal、Wuhan、China)1μg/mLまたはCD3E-Fcタグ付きタンパク質(Acro、Beijing、China)1μg/mLをプレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティング液100μLでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)でインキュベーターにおいて37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、終濃度1μg/mLのSEMA3G-Hisタグ付きタンパク質(cusabio、Wuhan、China)および、終濃度1/2μg/mLのハイブリドーマ抗体を、ITPRIPL1-Fcタンパク質でコーティングしたウェルに同時に加えた。終濃度1μg/mLのITPRIPL1-Hisタグ付きタンパク質(cusabio、Wuhan、China)および、終濃度1/2μg/mLのハイブリドーマ抗体を、CD3E-Fcタンパク質でコーティングしたウェルに同時に加えた。インキュベーターにおいて37℃で60分結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的Hisセグメント抗体(Abcam、MA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を調製し、100μL/ウェルでインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0268】
図62は、ELISA試験結果を示す。上図はITPRIPL1-CD3E結合時の各ハイブリドーマ抗体の阻害状況、下図はITPRIPL1-SEMA3G結合時の各ハイブリドーマ抗体の阻害状況を示す。試験結果から、各ハイブリドーマ抗体は、ITPRIPL1とCD3EまたはSEMA3Gとの結合を異なる程度で阻害することができ、抗体間で異質性が見られ、中でも18B12および13B7抗体の結合効果が最も良いことが示された。
【0269】
実施例22:モノクローナル抗体はより高い親和性でITPRIPL1に結合できる
1.酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による、ITPRIPL1に対する各モノクローナル抗体の結合力の検証
各ハイブリドーマ抗体をモノクローナル精製し、増殖性の良いモノクローナル抗体16個を得た。各モノクローナル抗体のITPRIPL1に対する結合力を検証するために、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で各抗体とITPRIPL1タンパク質との直接結合を検証した。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)に溶解したITPRIPL1組み換えタンパク質(cusabio、Wuhan、China) 100μL(1μg/mL)で、 プレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティング液100μLでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)で、インキュベーターで37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、終濃度1μg/mLの異なるモノクローナル抗体を加え、インキュベーターにおいて37℃で60分結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗マウスFcセグメント抗体(Consun、Shanghai、China)で、インキュベーターで37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を調製し、100μL/ウェルでインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0270】
図63は、ELISA試験結果を示す。試験結果から、ITPRIPL1の結合にはモノクローナル抗体間で多少の差異が見られるが、全体としてはモノクローナル精製前よりも有意に強く結合しているため、モノクローナル抗体が高い親和性でITPRIPL1に結合できることが示された。
【0271】
2.フローサイトメトリー(FACS)による、各モノクローナル抗体とITPRIPL1との結合の検証
各モノクローナル抗体のITPRIPL1に対する結合力をさらに検証するために、フローサイトメトリー(FACS)で各抗体とITPRIPL1タンパク質との直接結合を実証した。ITPRIPL1を内因的に高発現するJurkat細胞をカウントし、細胞数を1x106/mLに調整し、それぞれ100μLを96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に入れ、各ウェルにそれぞれ終濃度1μg/mLのモノクローナル抗体または対照血清を加え、インキュベーターで30分間インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、各ウェルの細胞をEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。1:500で抗マウスFcセグメント-Alexa Fluor 488抗体(Invitrogen、CA、USA)を細胞染色緩衝液を用いて希釈し、各EPチューブに混合液200μLを加えて再懸濁し、室温で30分間インキュベートした。400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄し、細胞染色緩衝液1mLで細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。それぞれ細胞染色緩衝液300μLを加え、ローディング(Miltenyi Biotec, Cologne, Germany)のためにフローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、解析した。
【0272】
試験結果は
図64に示すように、ITPRIPL1への結合の強さはモノクローナル抗体によって異なり、抗体間の異質性を示しているが、全体としてはモノクローナル精製前よりも結合が強くなっていることが示された。以上の結果から、各ハイブリドーマは異なる結合力でITPRIPL1タンパク質と結合でき、モノクローナル精製後、ITPRIPL1に対する結合力が強くなることが実証された。
【0273】
実施例23:ITPRIPL1とCD3E/SEMA3Gとの結合に対する各モノクローナル抗体の阻害効果測定
得られたモノクローナル抗体のITPRIPL1とCD3EまたはSEMA3Gとの結合に対する阻害効果の有無を検証するために、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で各抗体の阻害効果を検証した。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解した、終濃度1μg/mLのITPRIPL1-Fcタグ付き組み換えタンパク質(Abclonal、Wuhan、China)または終濃度1μg/mLのCD3E-Fcタグ付きタンパク質(Acro、Beijing、China)で、プレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティング液100μLでプレートをコーティングした。コーティングし、4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USAで、インキュベーターにおいて37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、終濃度1μg/mLのSEMA3G-Hisタグ付きタンパク質(cusabio、Wuhan、China)および、終濃度1μg/mLのモノクローナル抗体を、ITPRIPL1-Fcタンパク質でコーティングしたウェルに同時に加えた。終濃度1μg/mLのITPRIPL1-Hisタグ付きタンパク質(cusabio、Wuhan、China)および、終濃度1/2μg/mLのモノクローナル抗体を、CD3E-Fcタンパク質でコーティングしたウェルに同時に加えた。インキュベーターにおいて37℃で60分結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的Hisセグメント抗体(Abcam、MA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を調製し、100μL/ウェルでインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0274】
図65は、ELISA試験結果を示す。試験結果から、各モノクローナル抗体のITPRIPL1とCD3E/SEMA3Gに対する阻害効果は異なるが、その中で13B7A6H3/18B12D1A6/18B12D1F7の阻害効果がより良く、モノクローナル精製前の結論と一致している。
【0275】
実施例24:ペプチドセグメントへのハイブリドーマ抗体およびモノクローナル抗体結合測定
ITPRIPL1細胞外セグメントのタンパク質配列に基づき、1/3重複配列の合計17個のポリペプチドセグメントを設計した(GenScript、Nanjing、China)。その配列はSEQ ID NO:42-58に示す。400μg/mLの終濃度で、得られたポリペプチドセグメントをDMSOに溶解し、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で各ハイブリドーマ抗体を検証し、さらに、選出された4個のモノクローナル抗体のポリペプチドセグメント結合を検証した。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解した終濃度1μg/mLのポリペプチドセグメントで、プレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティング液100μLでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)で、 インキュベーターを37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、終濃度1μg/mLの異なるハイブリドーマ抗体またはモノクローナル抗体を加え、インキュベーターにおいて37℃で60分結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗マウスFcセグメント抗体(Consun、Shanghai、China)で、インキュベーターで37℃で30分間インキュベートして、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を調製し、100μL/ウェルでインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0276】
図66は、ELISA試験結果を示す。ある特定のポリペプチドセグメントへの結合の読み数がバックグラウンドおよびその他のポリペプチドセグメントの3倍以上である場合、特定のペプチドセグメントに結合するとみなされる。試験結果から、阻害効果の高い13B7/18B12で産生したモノクローナル抗体はすべてP8と結合し、ブロッキング効果のない、あるいは低いハイブリドーマ抗体やモノクローナル抗体は特定の結合ペプチドセグメントがないことから、P8が支配的結合部位であることが示された。
【0277】
実施例25:ITPRIPL1モノクローナル抗体のPBMC細胞による腫瘍細胞殺傷に対する促進効果測定
ITPRIPL1とCD3E/SEMA3Gとの結合の阻害効果を有するモノクローナル抗体はPBMCによる腫瘍細胞殺傷を促進できることをフローサイトメトリーで実証した。
24時間前にAnti-CD3/CD28(Invitrogen、CA、USA)1ug/mLで蘇生したPBMC細胞を活性化した。PBMC細胞およびRaji細胞をカウントし、それぞれ細胞数を4x10
6/mLまたは1x10
6/mLに調整し、それぞれ96ウェルプレート(Thermo Fisher、MA、USA)に100μLを加え、同時に2つの異なる濃度のモノクローナル抗体または対照血清を加え、混合した後に、インキュベーターで6時間共インキュベートした。96ウェルプレートを取り出し、各ウェルの細胞をEPチューブ(Axygen、CA,USA)に入れ、400rcfで5分間遠心分離後、上清を廃棄した。500μL細胞染色緩衝液(Invitrogen、CA、USA)で細胞を再懸濁、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。400rcfで5分間遠心分離後に上清を廃棄し、binding buffer(Beyotime、Shanghai、China)1mLで細胞を再懸濁し、洗浄し、遠心分離と洗浄を繰り返した。試験群および対照群を設定し、任意に、それぞれbinding buffer 100μL、Annexin V-FITC(Beyotime、Shanghai、China)5μLおよびPI(Beyotime、Shanghai、China)10μLを加え、室温で15分間インキュベートし、さらにbinding buffer 400μLを加え、フローチューブ(Falcon、NY、USA)に移し、ローディング(Miltenyi Biotec, Cologne, Germany)のために解析した。結果は
図67および68に示す。試験結果から、対照群に比べ、ITPRIPL1とCD3E/SEMA3Gとの結合を阻害する効果を有し、P8(SEQ ID NO:49)を結合できるモノクローナル抗体13B7A6H3/18B12D1A6はPBMCによるRaji細胞殺傷を有意に増加させたことが示された。
【0278】
シークエンスした結果、モノクローナル抗体13B7A6H3の重鎖配列はSEQ ID NO:22、軽鎖配列はSEQ ID NO:23、重鎖可変領域VH配列はSEQ ID NO:24、軽鎖可変領域VLはSEQ ID NO:25、重鎖相補性決定領域HCDR1の配列はSEQ ID NO:26、重鎖相補性決定領域HCDR2の配列はSEQ ID NO:27、重鎖相補性決定領域HCDR3の配列はSEQ ID NO:28、軽鎖相補性決定領域LCDR1の配列はSEQ ID NO:29を示し、軽鎖相補性決定領域LCDR2の配列はKVであり、軽鎖相補性決定領域LCDR3の配列はSEQ ID NO:31に示す。モノクローナル抗体18B12D1A6の重鎖配列はSEQ ID NO:32、軽鎖配列はSEQ ID NO:33、重鎖可変領域VH配列はSEQ ID NO:34、軽鎖可変領域VLはSEQ ID NO:35、重鎖相補性決定領域HCDR1の配列はSEQ ID NO:36、重鎖相補性決定領域HCDR2の配列はSEQ ID NO:37、重鎖相補性決定領域HCDR3の配列はSEQ ID NO:38、軽鎖相補性決定領域LCDR1の配列はSEQ ID NO:39に示し、軽鎖相補性決定領域LCDR2の配列はKVであり、軽鎖相補性決定領域LCDR3の配列はSEQ ID NO:41に示す。
【0279】
上記抗体配列の類似度を解析した結果(
図65C)、軽鎖CDR1の配列はxSLxNSKGNTH(xは任意のアミノ酸を表す)で、13B7A6H3軽鎖CDR1との類似度は81.8%であり、軽鎖CDR3の配列はSQSTHxPYTで、13B7A6H3軽鎖CDR1との類似度は87.5%であった。その他のCDR配列は同じである。したがって、軽鎖CDR1およびCDR3の13B7A6H3との類似度が80%を超え、他のCDR配列が13B7A6H3と同一であれば、抗体は依然としてITPRIPL1との結合活性を有すると考えられる。すべてのCDR配列の全体的な類似度を比較すると、13B7A6H3の重鎖CDR1、CDR2、CDR3および軽鎖CDR1、CDR2、CDR3と全体的に94%の類似度を有する配列がITPRIPL1との結合活性を有し得ることは明らかである。
【0280】
実施例26:ペプチドセグメントの点変異がモノクローナル抗体の結合に及ぼす影響の測定
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)でポリペプチドセグメントの点変異がモノクローナル抗体に対する影響を検証した。
【0281】
上記で得られたポリペプチドセグメントP8の特定のアミノ酸配列を逐次にアラニン(A)で変異させ、元のアラニン部位には変異を加えずに、得られた配列をSEQ ID NO:59-71に示す。得られたポリペプチドセグメントおよび非変異ポリペプチドセグメントを400μg/mLの終濃度でDMSOに溶解し、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で13B7A6H3モノクローナル抗体との結合を検証した。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解した終濃度1μg/mLのポリペプチドセグメントで、プレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティング液100μLでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、終濃度1μg/mLの13B7A6H3モノクローナル抗体を加え、インキュベーターにおいて37℃で60分結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗マウスFcセグメント抗体(Consun、Shanghai、China)で、インキュベーターで37℃で30分間インキュベートして、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を調製し、100μL/ウェルでインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0282】
図69は、ELISA試験結果を示す。試験結果から、P8の3(L)、7(F)、10(R)の部位を変異させると13B7A6H3抗体はポリペプチドセグメントに結合しなくなるが、他の部位の変異は結合に影響がないことから、3(L)、7(F)、10(R)は13B7A6H3モノクローナル抗体のITPRIPL1タンパク質への結合のキー部位であると考えられる。
【0283】
実施例27:エピトープマッピング法によるITPRIPL1モノクローナル抗体画分の競合解析
エピトープマッピング法(Epitope mapping)でITPRIPL1モノクローナル抗体のグルーピング解析を行った。
得られた ITPRIPL1モノクローナル抗体をエピトープマッピング法により解析し、現在得られているITPRIPL1モノクローナル抗体間の競合関係を解析し、グルーピングした。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解した終濃度0.5μg/mLのITPRIPL1タンパク質で、プレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティング液100μLでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、各ITPRIPL1モノクローナル抗体0.5μg/mLを加え、同時に終濃度0.5μg/mLの各ITPRIPL1モノクローナル抗体をクロス添加し、インキュベーターにおいて37℃で60分結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗マウスFcセグメント抗体(Consun、Shanghai、China)で、インキュベーターで37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を調製し、100μL/ウェルでインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0284】
図70は、エピトープマッピング法のELISA試験結果を示す。試験結果から、13B7、18B12の間は競合関係を有し、13H10、15C9、16E1の間は競合関係を有し、その他の抗体の間はの間は競合関係を有しないことが示された。現在のITPRIPL1モノクローナル抗体を(1)13B7、18B12;(2)13H10、15C9、16E1;(3)13E8;(4)18G5の4グループに分けられることが示唆された
【0285】
実施例28:ヒト化ITPRIPL1抗体の構築および結合部位の測定
1.ヒト化ITPRIPL1抗体の構築
上記の抗体シークエンス結果に基づき、ヒト化遺伝子発現を用いて、13B7A6H3モノクローナル抗体の対応するペア配列SEQ ID NO:73-82.を最適化、再コード化し、対応するヒト化配列を得、その配列をヒトFcセグメント対応配列ベクターに挿入し、ヒト化ITPRIPL1抗体配列プラスミドを得た。ヒト化ITPRIPL1抗体配列プラスミドをHEK293細胞にトランスフェクトし、培養した。72時間後に上清を取り、平衡化後のタンパク質A磁気ビーズと室温で2時間混合し、クロマトグラフィーカラム内でフロースルー、平衡化/洗浄、溶出、中和し、得られた産物をヒト化ITPRIPL1抗体にした。
【0286】
2.ヒト化ITPRIPL1抗体の結合活性および部位測定
ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解した終濃度1μg/mLのITPRIPL1 P8ポリペプチドで、プレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティング液100μLに溶解し、プレートをコーティングし、陽性対照はヒトITPRIPL1 P8ポリペプチドでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、終濃度0.5μg/mLのキメラおよびヒト化13B7A6H3モノクローナル抗体を加え、インキュベーターにおいて37℃で60分結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗ヒトFcセグメント抗体(Abcam、MA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を調製し、100μL/ウェルでインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0287】
図74は、ヒト化抗体とITPRIPL1 P8ポリペプチドセグメントとの結合に関するELISA試験結果を示す。試験結果から、得られたヒト化抗体はすべて活性を有し、13B7A6H3に結合されたITPRIPL1ポリペプチドセグメント部位に特異的に結合でき、抗体を成功に構築したことが示された。
【0288】
実施例29:モノクローナルITPRIPL1抗体とカニクイザルITPRIPL1タンパク質との結合の測定
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)におり、13B7A6H3モノクローナル抗体がカニクイザルITPRIPL1の対応するポリペプチドセグメントと結合できることを検証した。
【0289】
NCBIタンパク質データベースにより、カニクイザルITPRIPL1タンパク質の配列はSEQ ID NO:72であることがわかった。そのうち、カニクイザルにおけるヒトITPRIPL1 P8の対応するポリペプチドセグメント配列はSEQ ID NO:であった。カニクイザルの対応するポリペプチドセグメントに準じて、対応するポリペプチドを構築した。ELISA用プレート(costar、ME、USA)を使用した。まず、ELISAコーティング液(Solarbio、Beijing、China)100μLに溶解した終濃度1μg/mLのカニクイザルのITPRIPL1 P8ポリペプチドで、プレートをコーティングし、陰性対照はタンパク質を含まないコーティング液100μLでプレートをコーティングし、陽性対照はヒトITPRIPL1 P8ポリペプチドでプレートをコーティングした。コーティング後に4℃で一晩置いた。PBSTによる洗浄後、PBSに溶解した100μLの5%BSA(VWR、PA、USA)で、インキュベーターにおいて37℃で90分間ブロッキングした。PBSTによる洗浄後、終濃度0.5μg/mLの13B7A6H3モノクローナル抗体を加え、インキュベーターにおいて37℃で60分結合させた。PBSTによる洗浄後、PBSで希釈された特異的抗マウスFcセグメント抗体(Consun、Shanghai、China)で、インキュベーターで37℃で30分間インキュベートし、結合させた。PBSTによる洗浄後、発色溶液(Invitrogen、CA、USA)を調製し、100μL/ウェルでインキュベーターで5~30分間反応させた。次に50μLの停止液(Sangon Biotech、Shanghai、China)を加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher、MA、USA)にて450nmでの発色値を読み取った。
【0290】
図75はカニクイザルITPRIPL1ポリペプチドとITPRIPL1モノクローナル抗体との結合をELISAで試験した結果を示す。試験結果から、13B7A6H3モノクローナル抗体の、カニクイザルITPRIPL1ポリペプチドおよび、ヒトITPRIPL1 P8ポリペプチドの13B7A6H3モノクローナル抗体への結合に、有意差がなく、13B7A6H3モノクローナル抗体はカニクイザルITPRIPL1タンパク質と結合できることが示唆された。
【0291】
以上のように、本願は、CD3εの細胞外ドメインに結合する新たに同定された天然膜タンパク質ITPRIPL1を開示し、ITPRIPL1のCD3εへの結合に起因する、T細胞の活性化を制御するシグナル伝達の変化を明らかにした。このことは、これまで同定されたCD3εに結合する抗体が、ITPRIPL1が有する天然のリガンド機能をある程度模倣し、または影響を与える可能性を示唆した。CD3εとITPRIPL1という一対の免疫チェックポイント受容体リガンドの発見は、生体の免疫恒常性の維持や腫瘍細胞の免疫回避の機序に新たな視点をもたらした。
【0292】
本願の内容は、上記の好ましい実施形態によって詳細に説明されたが、上記の説明は本願に対する限定とみなされるべきではないことを理解されたい。当業者が前記内容を閲読した後、本願に対する様々な修正および代替案は、当業者には明らかである。したがって、本願の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫応答調節または抗腫瘍のため
に使用される、ITPRIPL1のレギュレーター
を含む、医薬組成物、
ここで、前記レギュレーターは、体内のITPRIPL1遺伝子またはタンパク質の発現または機能を増加または減少させるために使用される。
【請求項2】
前記レギュレーターは
(1)細胞内のITPRIPL1遺伝子をノックアウトまたは変異させるゲノム編集システム、
(2)ITPRIPL1遺伝子の発現レベルを低下させるRNA分子、
(3)ITPRIPL1をコードし、ITPRIPL1の発現量を増加させる細胞内導入用核酸分子、
(4)単離されたITPRIPL1組み換えタンパク質、
(5)ITPRIPL1を認識し、結合する抗体
のいずれかを含む、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
前記ゲノム編集システムはCRISPR/Cas9ゲノム編集システムであり、前記CRISPR/Cas9ゲノム編集システムに使われる標的配列はSEQ ID NO:11~13に示すいずれかの配列から選ばれ、sgRNAをコードするオリゴマーDNA配列はSEQ ID NO:14~19から選ばれ、
前記核酸分子はSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9またはSEQ ID NO:10に示す配列を含み、
前記ITPRIPL1組み換えタンパク質は、ITPRIPLIタンパク質細胞外ドメインにおいてCD3またはNRP2タンパク質に結合することができる機能性フラグメントを含み、
前記ITPRIPL1を認識し、結合する抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、抗原結合ドメイン、二重特異性抗体、多重特異性抗体、またはキメラ抗原受容体における抗原結合部分を含む、
請求項2に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
前記機能性フラグメントの配列はSEQ ID NO:1~SEQ ID NO:4のいずれか、またはその誘導体配列から選ばれ、前記誘導体配列はDRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRxLEMEFEERxxxAExxQKxENxWxGxTSxDQ(「x」は任意のアミノ酸を表す)を含み、前記誘導方法は、前記配列の機能を変更することなく、1~10個のアミノ酸を置換、欠失または挿入することを含み、前記誘導体配列は、好ましくはDRMDLDTLARSRQLEKRMSEEMRXLEMEFEERXxxAExxQKxENxWxGxTSxDQ(「x」は任意のアミノ酸を表す)である、
請求項3に記載の
医薬組成物。
【請求項5】
前記ITPRIPL1組み換えタンパク質は、抗体定常領域と融合タンパク質を形成するか、もしくは凝固因子と融合タンパク質を形成し、または、ポリエチレングリコール修飾、グリコシル化修飾、ポリシアル酸修飾、脂肪酸修飾、KLH修飾、ビオチン修飾を含む方式を用いて、前記ITPRIPL1組み換えタンパク質を修飾する、
請求項3または4に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
組み換え発現ベクター、ウイルス、リポソームまたはナノ材料を含む薬物送達システムを介して、前記核酸分子を細胞内に導入する、請求項3に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
前記免疫応答調節は自己免疫応答、移植拒絶抑制免疫応答、アレルギー、抗感染免疫応答、抗腫瘍免疫応答の過程における抗原提示細胞およびTリンパ球の機能の調節を含む、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項8】
前記免疫応答は、I型糖尿病、免疫性不妊症、臓器移植後の拒絶反応、アレルギー、全身性炎症またはサイトカインストーム、感染症を含む、請求項7に記載の
医薬組成物。
【請求項9】
前記腫瘍はITPRIPL1関連固形腫瘍または血液系腫瘍であ
る、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項10】
免疫応答調節または抗腫瘍のため
に使用される、ITPRIPL1を認識し、結合する抗体を含む医薬組成物、
ここで、前記抗体は、ITPRIPL1タンパク質の細胞外ドメインを認識し、結合する。
【請求項11】
原発巣における癌組織と癌周囲組織との間の境界、リンパ節に転移した癌細胞と正常なリンパ組織との間の境界、遠隔転移を有する癌細胞と転移した器官の正常組織との境界、およびその他の生体試料における癌組織生細胞を標識するため
に使用される、ITPRIPL1を特異的に認識する抗体
を含む医薬組成物。
【請求項12】
前記癌はTPRIPL1関連腫瘍を含む、請求項
11に記載の
医薬組成物。
【請求項13】
抗体または抗原結合フラグメントを含む、単離されたITPRIPL1抗原結合タンパク質
、
ここで、前記抗原結合タンパク質は、ITPRIPL1抗原のSEQ ID NO:49またはSEQ ID NO:1に示すアミノ酸配列に結合することができる。
【請求項14】
HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域と、LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含み、
前記HCDR 1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:26に示し、前記HCDR 2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:27に示し、 前記HCDR 3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:28に示
し、前記LCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:29に示し、前記LCDR2のアミノ酸配列はKVであり、前記LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:31に示すか、
前記HCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:36に示し、前記HCDR2のアミノ酸配列はSEQID NO:37に示し、前記HCDR3のアミノ酸配列はSEO ID NO:38に示し、前記LCDR1のアミノ酸配列はSEQ ID NO:39に示し、前記LCDR2のアミノ酸配列はKVであり、前記LCDR3のアミノ酸配列はSEQ ID NO:41に示す、
請求項
13に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項15】
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:24に示し、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:25に示す
か、
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:34に示し、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列はSEQ ID NO:35に示す、
請求項
14に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項16】
抗体重鎖HCを
および抗体軽鎖LCを含み、且つ
前記HCはSEQ ID NO:22に示すアミノ酸配列を含
み、前記LCはSEQ ID NO:23に示すアミノ酸配列を含む
か、
前記HCはSEQ ID NO:32に示すアミノ酸配列を含み、前記LCはSEQ ID NO:33に示すアミノ酸配列を含む、
請求項
14に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質。
【請求項17】
請求項
13~
16のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質を含むキメラ抗原受容体。
【請求項18】
請求項
13~
16のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質を含む免疫複合体。
【請求項19】
請求項
13~
16のいずれか1項に記載の単離されたITPRIPL 1抗原結合タンパク質をコードする、単離された1つまたは複数の核酸分子。
【請求項20】
被験者から採取した生体試料中のITPRIPL1の発現を測定し、所定の値と比較することにより決定される、ITPRIPL1関連腫瘍のスクリーニングおよび同定
のために使用される、
抗体、核酸プローブまたはPCR反応に関する特定のプライマーを含むコンパニオン診断キット、
ここで、前記測定は、抗体、核酸プローブまたは特定のプライマー含むPCR反応による測定を含み、前記生体試料は組織、血液、尿、脳脊髄液、腹水、胸水、組織浸出液、便および他の試料を含む。
【請求項21】
(i)アミノ酸配列はSEQ ID NO:49、すなわちRLLEMEFEERKRAAEであり、
(ii)もしくは、アミノ酸配列はxxLxxxFxxRxxx(xは任意のアミノ酸を表す)で、両末端に位置する1~3個のアミノ酸が欠失され、
(iii)もしくは、SEQ ID NO:49の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個のアミノ酸が置換、挿入または欠失されることによって得られたアミノ酸配列
を含む、TPRIPL1の線状エピトープペプチド。
【国際調査報告】