(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】高温成形工具
(51)【国際特許分類】
C22C 1/05 20230101AFI20231128BHJP
C22C 27/04 20060101ALI20231128BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20231128BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231128BHJP
B22F 1/12 20220101ALI20231128BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20231128BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20231128BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20231128BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20231128BHJP
C22F 1/02 20060101ALN20231128BHJP
【FI】
C22C1/05 E
C22C27/04 102
C22F1/18 C
B22F1/00 P
B22F1/12
B22F5/00 F
B22F3/24 G
B22F1/05
C22F1/00 630B
C22F1/00 631B
C22F1/00 650A
C22F1/00 624
C22F1/00 628
C22F1/00 630A
C22F1/00 640A
C22F1/00 630D
C22F1/00 630K
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/02
C22F1/00 650C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528202
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 AT2021060393
(87)【国際公開番号】W WO2022099329
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】GM50222/2020
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】アイデンベルガー-ショーバー,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】アンドロッシュ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ローリッヒ,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】シュトルフ,ロベルト
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA21
4K018AB02
4K018AB04
4K018AC01
4K018BA09
4K018BC12
4K018DA31
4K018FA06
4K018HA03
4K018HA07
4K018HA10
4K018KA18
4K018KA63
(57)【要約】
本発明は高温成形工具(1)に関する。該高温成形工具(1)の少なくとも一部はモリブデン含有率が≧90重量%のモリブデン基合金からなり、該モリブデン基合金は圧縮され焼結された状態にあり、その圧縮され焼結された状態において少なくとも250Kの耐熱衝撃性を有する。ここで、耐熱衝撃性はReH/(α・E)の商として定義され、ReHは室温での降伏点をMPaで表したものであり、αは熱膨張率を1/Kで表したものであり、Eは弾性率をMPaで表したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温成形工具(1)であって、該高温成形工具(1)の少なくとも一部はモリブデン含有率が≧90重量%のモリブデン基合金からなり、該モリブデン基合金は圧縮され焼結された状態にあり、その圧縮され焼結された状態において少なくとも250Kの耐熱衝撃性を有し、ここで、耐熱衝撃性はReH/(α・E)の商として定義され、ReHは室温での降伏点をMPaで表したものであり、αは熱膨張率を1/Kで表したものであり、EはMPaで表した弾性率である、ことを特徴とする高温成形工具(1)。
【請求項2】
前記モリブデン基合金の室温での降伏点R
eHが少なくとも400MPaであることを特徴とする、請求項1に記載の高温成形工具(1)。
【請求項3】
前記モリブデン基合金の相対密度が90%~97%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高温成形工具(1)。
【請求項4】
前記モリブデン基合金の室温での破断点伸びが少なくとも8%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)。
【請求項5】
前記モリブデン基合金の室温での破壊靭性K
ICが10MPa・m
1/2以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)。
【請求項6】
曲げ試験で決定された前記モリブデン基合金の延性-脆性遷移温度が≦60℃であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)。
【請求項7】
前記モリブデン基合金が、≧99.0重量%のモリブデン含有率、≧3重量ppmのホウ素含有率「B」及び≧3重量ppmの炭素含有率「C」を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)。
【請求項8】
前記モリブデン基合金が、≧99.93重量%のモリブデン含有率、≧3重量ppmのホウ素含有率「B」及び≧3重量ppmの炭素含有率「C」を有し、炭素及びホウ素の合計含有率「BuC」が、15重量ppm≦「BuC」≦50重量ppmの範囲にあることを特徴とする、請求項7に記載の高温成形工具(1)。
【請求項9】
酸素含有率「O」が、3重量ppm≦「O」≦20重量ppmの範囲にあることを特徴とする、請求項7又は8に記載の高温成形工具(1)。
【請求項10】
前記モリブデン基合金が、≧99.93重量%のモリブデン含有率、≧3重量ppmのホウ素含有率「B」及び≧3重量ppmの炭素含有率「C」を有し、炭素及びホウ素の合計含有率「BuC」が、15重量ppm≦「BuC」≦50重量ppmの範囲にあり、酸素含有率「O」が、3重量pmw≦「O」≦20重量ppmの範囲にあることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)。
【請求項11】
前記モリブデン基合金が、1.5未満の、粒子長/粒子幅の商として得られ、GAR値として表わされる、平均粒子アスペクト比を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)。
【請求項12】
前記高温成形工具(1)全体が前記モリブデン基合金で形成されていることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)。
【請求項13】
前記高温成形工具(1)内に、冷却媒体を導入するための少なくとも1つの構造(4)が形成されていることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)。
【請求項14】
管又は異形材を製造するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の高温成形工具(1)の使用。
【請求項15】
高温成形工具(1)の製造方法であって、以下のステップを有する方法:
a.モリブデン粉末とホウ素及び炭素を含有する粉末との粉末混合物を圧縮してグリーン体(G)を得るステップ;
b.所望により、前記グリーン体(G)を前記高温成形工具(1)の最終形状に近づけるために加工するステップ;
c.酸化保護雰囲気下で1600℃~2200℃の温度範囲において少なくとも45分の滞留時間で、前記グリーン体(G)を焼結して、前記高温成形工具(1)の焼結ブランク(R)を得るステップ;
d.所望により、前記焼結ブランク(R)の仕上げ加工をするステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文の特徴を有する高温成形工具、高温成形工具の製造方法及びその使用に関する。
【0002】
本出願の文脈において高温成形工具は、例えば、高合金耐熱鋼のような高強度材料を賦形するための成形工具を指す。
この賦形は一般的には1000℃を超える温度で行われ、これを本願では高温と称する。
【0003】
特に、この用途における高温成形工具には次のものが含まれる。
シームレスパイプを製造するために使用される穿孔プラグ(Lochdorn。英;piercing plug)、例えば流動成形(Fliesspressen)で使用される押型(Stempel)、及び、例えば金属の押出成形(Strangpressen)で使用されるダイ(Matrize)。
【0004】
穿孔プラグを使用する場合、一般的には、マンネスマン法のような傾斜圧延プロセスでは、加熱されたビレット(英語;bilett)が穿孔プラグの上を引っ張られる。
この場合、穿孔プラグは、内径を広げると共に滑らかにする。得られた厚肉の中空半製品(Luppe)は、次の圧延工程で引き伸ばされて完成された管になる。
【0005】
金属の流動成形では押型が加工物の材料を押しつけ、逆方向流動成形では押型の外殻部も製造される加工物の輪郭を形成する。
押出成形によって異形材(Profile)を製造するときには、材料は賦形ダイを通して圧縮されて賦形される。
【0006】
これらの高温成形工具の負荷は類似している。高温成形工具の材料に対する要求は、特に、高い耐熱性と、熱的及び腐食的攻撃に対する耐性である。
【0007】
それから成形される加工品の材料によっては、素材(管製造の例ではブロック材)は、成形のために1300℃の温度にまで加熱される。特に高合金鋼を加工する場合、高温の予熱をしていても、成形作業(管製造の例ではブロック材の穿孔)には強い力が必要である。
【0008】
これに加えて、摩擦及び成形作業により、高温成形工具には大きな機械的、熱的及び摩擦/腐食的な負荷がかかる。
【0009】
耐熱性の鋼から製造された高温成形工具であっても、その高温成形工具の材料の許容使用温度を超えないように、また、使用中に高温成形工具の十分に高い強度を確保するために、成形作業の間に再冷却する必要がある。
【0010】
従って、耐熱性を更に高めた材料で作られた高温成形工具を使用することが、この分野における一般的な努力目標となっている。
こうして、高温成形工具を作るために、高合金鋼の他にモリブデン基合金も提案された。
【0011】
以下において、高温成形工具のための材料に対する要求事項を、穿孔プラグを例として、より詳細に論じる。しかし、これらの説明及び結論は、他の高温成形工具にも適用可能である。
【0012】
特許文献1は、例として、モリブデン材料で作られた穿孔プラグ及び穿孔ロッドについて述べており、このモリブデン材料は、75重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、のモリブデン含有率を有している。更に好ましくは、その中で提案されているモリブデン材料は、0.5重量%以上のチタン含有率、0.08重量%以上のジルコニウム含有率、及び、0.01~0.04重量%の炭素含有率を有している。
これは「TZM」として知られるモリブデン合金の合金仕様に相当する。純モリブデンと比較して、TZMは、より強く、より高い再結晶温度を有し、更に、より高いクリープ強度を有する。ここで提案されたモリブデン合金の耐熱強度がより大きいので、その穿孔プラグを作業の間で冷却する必要なしに、より多数の穿孔を実行することができる。その結果、サイクルタイムを更に短縮することが可能であり、換言すれば、一定時間内に、より多くの穿孔作業を実行することが可能である。
【0013】
本出願人による実験により、耐熱性の更なる向上は、特許文献1で提案されているように、穿孔プラグのより高い運転温度を可能にするが、製品品質にとって有害であることが分かった。特に、このようにして製造された管の内面は熱的な損傷を受ける可能性がある。同様のことが、押型又はダイ等の他の高温成形工具に関しても当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】独国特許発明第102007037736B4号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、改良された高温成形工具を提供することにある。特に、この高温成形工具は経済的に製造可能でなければならない。
【0016】
この課題は、請求項1の特徴を有する高温成形工具によって解決される。
【0017】
従って、高温成形工具は、モリブデン含有量が90重量%を超えるモリブデン基合金から少なくとも部分的に構成され、ここで、モリブデン基合金は加圧され焼結された状態にあり、この加圧され焼結された状態において少なくとも250Kの耐熱衝撃性を有することが提案される。耐熱衝撃性は、商
【数1】
として定義される。
(ここで、R
eHは、室温での降伏点をMPaで表したものであり、αは、1/K[Kelvin
-1]で表した熱膨張係数であり、Eは、[MPa]で表した弾性率である。)
【0018】
降伏点ReHは、DIN規格 EN ISO 6892-1による引張試験で求められる。弾性率Eは、DIN EN ISO 6892-1、付属書Gにより決定される。熱膨張係数αはディラトメーター測定によって決定される。
【0019】
このように特徴付けられたモリブデン基合金が高温成形工具の基材を形成する。
高温成形工具がこのモリブデン基合金のみで構成されていると有利である。
他の材料が部分的に存在する複合材料も考えられる。更に、当然ながら、高温成形工具上にコーティングが形成されていてもよい。
【0020】
モリブデン基合金は、粉末冶金的に製造され(略記:「粉末冶金的」モリブデン基合金)、従って、焼結微細構造を有する。焼結微細構造は、鋳造微細構造とは本質的に異なり、当業者は直ぐに判別できる。焼結微細構造の特徴、特にモリブデン基合金の焼結微細構造の特徴、は、鋳造微細構造と比較して、取り分け、より微細でより均一な粒子構造である。一般的に、鋳造微細構造は、焼結微細構造よりも気孔が少ない。鋳造微細構造中の気孔と比較して、焼結微細構造の気孔は、均一に分布している。
【0021】
一般的に、化学的均質性も、粉末冶金的な材料においては、溶融冶金的に製造された材料よりも良好である。特に高融点金属の場合には、更に、粉末冶金的な工程は、より経済的である。これは、とりわけ、焼結が溶融温度より十分低い温度で行なわれるためである。降伏点ReHを求めることができない場合には、代替変数として、0.2%オフセット降伏点Rp0.2を使用することができる。0.2%オフセット降伏点(即ち、0.2%の塑性変形を伴う伸び)は、DIN EN ISO 6892-1に準拠した引張試験により決定できる。
このようにして定義された耐熱衝撃性の単位は、ケルビン[K]であり、当該の材料が損傷することなく耐えることができる温度差と解釈することができる。ここでの損傷は、降伏点の超過として評価される。換言すれば、この値を上回る温度差は、その材料の恒久的な塑性変形をもたらす。
耐熱衝撃性が260Kを超えると又はそれどころか275Kを超えると、更に有利である。この場合、その材料は、更に大きな温度勾配に耐えることができる。
【0022】
本発明による特徴を有する高温成形工具は、極めて有利な技術的特性を有する。例えば、本発明の高温成形工具は、損傷を受けることなく、特に急激に冷却することができる。ユーザーが成形操作間で短いサイクルタイムを実現したい場合には、それは実際には、強力な冷却に対する高温成形工具の適性が重要であることが分かっている。
【0023】
従来技術によれば、高温成形工具は、圧延又は鍛造によって得られる半製品から製造され、従来技術において得られる微細構造は成形微細構造である。
【0024】
これとは異なり、本発明によるモリブデン基合金は、圧縮され焼結された状態にある。材料が、実質的に、特には全く、塑性変形を受けていない場合には、圧縮され焼結されたとして特徴付けられる微細構造状態が存在する。「実質的に」変形されていないとは、ここでは、重要な形状変化及び/又は断面変化を伴う変形が加えられていないことを意味する。
例えば、スキンパス又はサイジングパス、スムーズローリング、ショットブラスト等によるような僅かな表面変形は、形状を変更する及び/又は断面を変更する重要な変形とは見做されない。
この利点は、とりわけ、経済的な製造が可能であることである。というのは、大量の成形、及び、場合によっては、それに引き続く機械加工を省くことができるからである。
【0025】
この高温成形工具の母材、即ちモリブデン基合金、の相対密度が90%から97%の間であれば、換言すれば、気孔率が3%から10%の間であれば、好適である。相対密度は、考察中の物質の実際の密度を対応する材料の公称密度で割った比で表される。純モリブデンの場合、公称密度は10.22g/cm3である。モリブデン製の物体の密度が9.2g/cm3しかない場合、相対密度は約90%であり、気孔率は10%である。
特に好ましくは、相対密度は91%~96%であり、より好ましくは94%±1%である。相対密度の決定には浮力法が使用される。
【0026】
従って、実質的に変形されていない状態は、一般に密度が約100%である圧延又は鍛造等によって変形された状態とは対照的に、気孔の存在によって特徴付けられる。
対象としている用途にとって特に有利なのは、気孔の粒子成長抑制効果である。その結果、高温での使用時に、微細構造の粗大化は起こらないか又は僅かな程度しか起こらない。粒子の粗大化は、この用途に関連する重要な機械的パラメータに悪影響を及ぼす可能性がある。
従来技術における通常のアプローチでは、可能な限り高い密度を確立するが、本発明は異なるアプローチを採用し、気孔を許容する。
【0027】
微細構造の形成に関連して、圧縮され焼結された状態には、特に、変形組織(Umformtextur)が存在しない、と記述することができる。変形組織は、変形によって生じた粒子の優先的な結晶方位を示す。
変形組織は、例えばEBSD測定(電子後方散乱回折、英語:electron backscatter diffraction)によって、金属組織学的切片(metallographischen Schliffen)上で検出可能である。
これに代えて又は追加して、圧縮され焼結された微細構造状態は、粒子アスペクト比(GAR)によって表わすことができる。粒子アスペクト比は、GAR値として表わすことができ、GAR値は、粒子の長さ対粒子の幅の比を示す。1より大きい粒子アスペクト比は、その粒子について、長手方向の伸びが横方向の伸びよりも大きいことを意味する。言い換えると、この場合には粒子は伸ばされている。
【0028】
高温成形工具の場合、より正確には高温成形工具を形成するモリブデン基合金について、1.5未満、特に1.2未満のGAR値を有する平均粒子アスペクト比が存在することが特に好ましい。GAR値が1である粒子アスペクト比は、長さ方向及びそれに対する横方向において、粒子の伸びが同等であること示す。
高温成形工具において、1±10%のGAR値を有する粒子アスペクト比が存在すると特に好ましく、更に好ましくは、1±5%のGAR値である。
鍛造等による成形は、通常、1.5を超えるGAR値を有する粒子アスペクト比をもたらすであろう。
GAR値は、金属組織学的試料の画像分析によって決定され、その場合、平均粒子長及び平均粒子幅が決定され、GAR値は、平均結晶粒子長を平均粒子幅で割った商として得られる。平均粒子長及び平均粒子幅を、それぞれ、決定するためには、少なくとも10個の粒子についての評価が好ましい。粒子長さは粒子の長手方向の広がりであり、粒子幅は長手方向に対する横方向の粒子の広がりであると、見做される。
【0029】
圧縮され焼結された状態の存在の利点は、特に、等方性の微細構造特性及び経済的な製造可能性である。等方性構造特性とは、変形微細構造(Umformgefuege)とは対照的に、本発明による高温成形工具の構造において、全ての空間方向において実質的に同じ特性が存在することを意味する。このことは、特に機械的特性及び熱物理的特性において重要である。
更に、圧縮され焼結された状態の高温成形工具の製造は、例えば鍛造等の変形による製造よりも有利である。
高温成形工具の基本形状は、既に粉末圧縮成形体(Pulverpressling)において与えることができ、この粉末圧縮成形体も特に加工が容易である。
焼結後に後加工が全く、又は僅かしか、必要とされないので、その高温成形工具は最終形状又は準最終形状に製造することができる。圧縮され焼結された状態は、特に圧縮及び焼結による製造時に生じる微細構造状態を表わすが、例えば、熱間等方圧加圧法(HIP)や熱間プレスによる製造により生じることもある。粉末冶金においては、圧縮及び焼結(略して「p/s」)は、部品が、粉末又は粉末混合物を加圧してグリーン体を得、続いて、これを焼結する、特に非圧縮で焼結する、ことによって製造される場合に使用される用語である。粉末の圧縮は、例えば、金型内で、又は、ゴムホース内で例えば冷間等方圧的に行なうことができる。これは、この種の高温成形工具の、圧縮され焼結された状態を確立するための最も簡単で最も有利な方法である。
【0030】
高温強度に関して高温成形工具を最適化する、換言すれば、高温での引張強度を最大化する、という従来のアプローチとは対照的に、本発明は異なる道を追求する。というのは、たとえ高温成形工具が特に高い使用温度に耐えるとしても、本出願人による広範な技術的試験によって示されているように、製造される加工物(例えば、管又は異形材)が製造中に損傷を受けるのであれば、その方法は非経済的だからである。
【0031】
本発明は、その方法を経済的に実施するには高温成形工具の強力な冷却が不可欠であるという知見に基づいている。本出願人の驚くべき出発点は、モリブデン基合金の利点の経済的利用のための決定的なパラメータは、損傷なしに温度差に耐える能力であり、例えば高温強度の及び/又は使用温度の更なる上昇ではない、ことである。
【0032】
使用されるモリブデン基合金の250K以上の耐熱衝撃性により、成形作業中に又は成形作業の間で、損傷を生じることなく、高温成形工具を強力に冷却することが可能となる。プラグ穿孔の例では、穿孔作業の間に及び/又は穿孔作業中に強力に冷却を行なうことができる。このようにして、モリブデン基合金の高い高温強度という基本的に有利な特性を、技術的及び経済的に有利に利用することもできる。
【0033】
高温成形工具は、好ましくは、上記で定義された特徴を備えたモリブデン基合金のみからなる。
また、例えば外側部分において、高温成形工具の一部のみを上記で定義されたモリブデン基合金で形成し、更に内側部分に従来のモリブデン合金を設けることも考えられる。
【0034】
耐熱衝撃性は、降伏点が含まれた上述の商で与えられる。従って、降伏点は複数のパラメータのうちの1つにすぎない。モリブデン基合金が室温で少なくとも400MPaの降伏点ReHを有することが好ましい。この開発は、室温での高水準の降伏点ReHの長所を強調する。
【0035】
降伏点ReHを使用することができない場合は、代わりに0.2%オフセット降伏点を使用することができる。更に、高温成形工具が、室温での引張試験において少なくとも8%、好ましくは10%超、より好ましくは15%超、の破断点伸び(一般に記号「A」で示される)を有する材料で構成されていると、高温成形工具の使用にとって極めて好ましいことが証明されている。破断点伸びAは、DIN EN ISO6892-1規格に基づく引張試験で求められる。
この特性は、使用中に高温成形工具が塑性歪みを受けた後でも、破断によって破損する前にまだ余裕を有することを意味する。
従って、圧縮され焼結された状態にある本発明によるモリブデン基合金の破断点伸びが少なくとも8%、好ましくは10%超、より好ましくは15%超、であると好適である。
これにより、例えば等方性の利点のような、圧縮され焼結された状態の利点が更に明確になり、より有効になる。
【0036】
更に、技術的特性にとって、高温成形工具の母材、即ちモリブデン基合金、の室温での破壊靭性(Rissbruchzaehigkeit)KICが10MPa・m1/2以上であると有利である。
破壊靱性KICは、亀裂応力下の、つまり以前に損傷を受けた、材料が機械的負荷に耐える能力を表す。破壊靱性KICは、ASTM E399に従って決定される。
【0037】
本出願人による試験は、この機械的パラメータが、高温成形工具の粗雑な使用条件に対して同様に重要であることを示している。特に、急激な及び/又は衝撃的な負荷にしばしば曝され、強力に再冷却される高温成形工具の場合、室温における十分に高い破壊靭性が重要である。
【0038】
曲げ試験で確認されたモリブデン基合金の延性-脆性遷移温度(Sproed-Duktil-Uebergangstemperatur)が≦60℃であると好適である。
更に好適には、延性-脆性遷移温度が≦50℃、特に≦40℃である。
延性-脆性遷移温度(DBTT)は、エネルギー吸収及び/又は破断点伸びが小さい破断時の破断挙動(即ち、材料の脆性的な挙動)から、エネルギー吸収及び/又は破断点伸びが大きい破断事象への、材料における破断メカニズムの移行を示す。
従って、延性-脆性遷移温度が低いということは、低温でも材料が良好な延性挙動を示すことを意味する。
【0039】
高温成形工具の使用条件については、延性-脆性遷移温度が≦60℃、より好ましくは≦50℃、特に≦40℃、である場合に、特に有利であることが判明した。その場合、高温成形工具は、制御されていない及び/又は長時間の水冷の後でも、予熱された状態と比較して破断の危険性が大幅に増加することなく、使用することができる。このことは技術的にも経済的にも重要である。というのは、冷却状態を監視したり、複雑な方法で調整したり制御したりする必要がないからである。
延性-脆性遷移温度は、試験片に対して異なる温度で3点曲げ試験を実施することにより決定される。本願では、20°の曲げ角度での破壊中の試料の曲がりが、延性-脆性遷移温度の規定として用いられる。換言すれば、この高温成形工具用に提案された母材は60℃において少なくとも曲げ角度20°を達成している。
【0040】
本出願人による調査により、所望の機械的及び熱物理的特徴が、例えば、≧99.0重量%のモリブデン含有量、≧3重量ppm(「重量」ppm、即ち重量ベースのppm)のホウ素含有量「B」及び≧3重量ppmの炭素含有量「C」を有するモリブデン基合金によって、達成されることが明らかになった。
【0041】
本出願人による調査により、上記の量のホウ素及び炭素の微量ドーピングにより、本発明による圧縮され焼結された状態における高い耐熱衝撃性が達成されることが示された。
≧99.0重量%のモリブデン含有量、≧3重量ppmのホウ素含有量「B」及び≧3重量ppmの炭素含有量「C」を有するモリブデン基合金は、従来の粉末冶金的な純モリブデン(Mo)と比較して、著しく増加した延性及び高いオフセット降伏点Rp0.2を有する。
このことは、特に、変形されていない及び/又は(完全に又は部分的に)再結晶状態にある従来のモリブデンとの比較についても当てはまる。
【0042】
更に好ましくは、モリブデン基合金は、≧99.93重量%のモリブデン含有量、≧3重量ppmのホウ素含有量「B」及び≧3重量ppmの炭素含有量「C」を有する。
【0043】
更に好ましくは、炭素及びホウ素の合計含有量「BuC」が、15重量ppm≦「BuC」≦50重量ppmの範囲、特に25重量ppm≦「BuC」≦40重量ppmの範囲にあり、酸素含有量「O」が、3重量ppm≦「O」≦20重量ppmの範囲にある。
【0044】
更に好ましくは、モリブデン基合金が、≧99.93重量%のモリブデン含有量、≧3重量ppmのホウ素含有量「B」及び≧3重量ppmの炭素含有量「C」を有し、炭素及びホウ素の合計含有量(即ち、合計)「BuC」が、15重量ppm≦「BuC」≦50重量ppmの範囲、特に、25重量ppm≦「BuC」≦40重量ppmの範囲にあり、酸素含有量「O」が、3重量ppm≦「O」≦20重量ppmの範囲にある。
特に、タングステン(W)の最大含有量は、≦330重量ppmである。
特に、他の不純物の最大含有量は、≦300重量ppmである。
これは、化学組成を更に厳密に制御することが、好ましい機械的技術的特性の発現に有利であるという事実を表している。
【0045】
モリブデンの粒界強度は、粒界領域における酸素及び場合によっては窒素やリン等の他の元素の偏析によって低下する。
金属物理学的な説明で確認するまでもなく、高延性と高強度とを備えた提案されたモリブデン基合金の優れた特性は、ホウ素(B)及び炭素(C)の含有量、そして更に好適には、比較的低い酸素(O)含有量により、確立されることが推定される。
【0046】
更に、他の不純物の低い最大含有量及びタングステン(W)の低い最大含有量の組合せも好適である。
【0047】
酸素含有量が低く、同時に他の不純物(及びW)の含有量が上述の限界値未満である場合には、炭素及びホウ素の含有量がいずれも低いことだけで粒界強度が著しく増加すること、更に、(高い延性に関与する)材料の流動特性が有利な影響を受けることが分かった。特に、この炭素含有量によりモリブデン基合金中の酸素含有量を低く抑えることが可能である。
【0048】
ここで提案された酸素、他の不純物及びWの含有量が低い場合、低ホウ素含有量と相対的に低い炭素含有量との組み合わせだけで、所望の高い耐熱衝撃性並びに高い延性値及び強度値を達成するのに十分である。
【0049】
本出願に示された化学組成には、通常の不純物が存在する可能性があると理解されるべきである。合計が100%にならない場合、その差は通常の不純物によって形成されている。
【0050】
種々の元素の比率は、化学分析によって決定される。化学分析では、特に、大部分の金属元素(例えば、Al、Hf、Ti、K、Zr等)の比率は、ICP-MS分析法(誘導結合プラズマを用いた質量分析)によって、ホウ素の比率は、ICP-MS分析法(誘導結合プラズマを用いた質量分析)によって、炭素の比率は、燃焼分析によって、酸素の比率は、高温抽出分析(キャリアガス高温抽出)によって、求められる。
【0051】
有利な一発展形態によれば、ホウ素含有量及び炭素含有量は、それぞれ≧5重量ppmである。通常の分析方法では、一般的に5重量ppmを超えるホウ素及び炭素についての認定された含有量データを出すことができる。ホウ素及び炭素の低含有量に関しては、それぞれ含有量が5重量ppm未満のホウ素及び炭素も明確に検出可能であり(少なくとも、それぞれの含有量が≧2重量ppmである場合に限って)、それらの含有量は定量的に決定可能であるが、この範囲の含有量は、-分析方法によるが-、もはや認定された値としては報告できないことがあることに留意すべきである。
【0052】
一発展形態によれば、炭素及びホウ素の合計含有量「BuC」が、25重量ppm≦「BuC」≦40重量ppmの範囲にある。
一発展形態によれば、ホウ素含有量「B」が、5重量ppm≦「B」≦45重量ppmの範囲、より好ましくは10重量ppm≦「B」≦40重量ppm、の範囲にある。
一発展形態によれば、炭素含有量「C」が、5重量ppm≦「C」≦30重量ppmの範囲、より好ましくは15重量ppm≦「C」≦20重量ppmの範囲、にある。
【0053】
これらの発展形態において、そして、特により狭い範囲表示の場合、2つの元素(B、C)は、それらの有利な相互作用が明確に検知可能なように、同時に、含有された炭素及び含有されたホウ素が互いに不利に作用しないような、高く且つ十分な量でモリブデン基合金に含まれている。特に、炭素の効果は、モリブデン基合金中の酸素含有量を低く保つことであり、ホウ素の効果は、十分に低い炭素含有量を可能にすると同時に、高い延性及び高い強度を達成することである。
【0054】
一発展形態によれば、酸素含有率「O」は、5重量ppm≦「O」≦15重量ppmの範囲にある。これまでの知見によれば、酸素は粒界領域に集まり(偏析)、粒界強度の低下をもたらす。従って、全体として低い酸素含有量が有利である。この種の低い酸素含有量は、低い酸素含有量(例えば、≦600重量ppm、特に≦500重量pmw)の出発粉末の使用により、真空下の、不活性ガス(例えば、アルゴン)下の、又は、好ましくは還元性雰囲気中(特に水素雰囲気中又はH2分圧雰囲気中の)の焼結により、また、出発粉末中に十分な炭素含有量を提供することによって調整される。
【0055】
一発展形態によれば、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、バナジウム(V)及びアルミニウム(Al)による不純物の最大含有量は、合計で50重量ppmである。この場合、好ましくは、この群(Zr、Hf、Ti、V、Al)における各元素の含有量は、それぞれ≦15重量ppmである。一発展形態によれば、シリコン(Si)、レニウム(Re)及びカリウム(K)による不純物の最大含有率は、合計で≦20重量ppmである。この場合、好ましくは、この群(Si、Re、K)の各元素の含有量は、それぞれ≦10重量ppm、特に≦8重量ppmである。カリウムには粒界強度を低下させる作用があるので、できるだけ低い含有量が望ましい。Zr、Hf、Ti、Si及びAlは酸化物形成剤であり、原理的に、酸素との結合(酸素ゲッター)により、粒界領域における酸素の蓄積を妨げ、その結果、粒界強度を増加させるために使用することができる。しかしながら、部分的には、それらは、特にそれらが比較的多量に存在する場合には、延性を低下させることが疑われる。Re及びVには延性化効果がある、即ち、それらは基本的には延性を増加させるために使用することができるであろう。しかしながら、これらの添加物(元素/化合物)の添加は、それらが使用条件によっては破壊的な影響を与える可能性があることを意味する。
【0056】
一発展形態によれば、モリブデン基合金の、モリブデンとタングステンの合計含有量は、≧99.97重量%である。330重量ppm以下のタングステン含有量は、上述の利用にとって問題ではなく、一般的には、既にMo生産と粉末製造により決められている。このモリブデン基合金のモリブデン含有量は、特に≧99.97重量%であり、即ち、モリブデン基合金は、殆どモリブデンからなる。
【0057】
一発展形態によれば、炭素及びホウ素は、炭素及びホウ素の合計含有量の70重量%以上が溶解した形態で、存在している(即ち、それらは別個の相を形成しない)。
提案されたモリブデン基合金に関する研究により、ホウ素のごく一部がMo2B相として存在する可能性があるが、この相は少量では問題でないことが分かった。炭素及びホウ素が少なくとも高い含有率(例えば、≧70重量%、特に≧90重量%)で溶液中に存在する場合、それらは粒界に偏析し、上記で説明された効果を特に高度に達成することができる。上述の限界値が元素B及びCのそれぞれによっても個々に保たれると好適である。
【0058】
圧縮され焼結された状態におけるモリブデン基合金の高い耐熱衝撃性という特徴は、上述のように、炭素及びホウ素を例として説明した微量ドーピング元素の様々な組み合わせにより達成することができる。
高い粒界強度により高い延性を得るという方針に従って、炭素及びホウ素以外の微量ドーピング元素、並びに、これらの微量ドーピング元素の組合せも可能である。
従って、本発明は、必ずしも、微量ドーピング元素としての炭素及びホウ素に基づいて検討した合金戦略を有するモリブデン基合金に限定されるものではない。代替の合金戦略は、例えば、レニウムによる延性化であろう。
【0059】
選択された例では、高温成形工具を形成するモリブデン基合金は、加圧され焼結された、つまり未成形の、材料について、室温で、下記の典型的な材料特性値を示した。
【表1】
ここでは、高温成形工具を形成するモリブデン基合金の密度は約9.4g/cm
3であり、これは、モリブデンの密度を10.2g/cm
3とすると、約92%の相対密度に相当する。炭素及びホウ素の含有量は、それぞれ、約15μg/gであった。モリブデンの含有量は約99.97重量%であった。典型的な不純物を加えると、合計で100%になる。
弾性係数は相対密度に比例し、約305,000MPaと決定された。
このモリブデン基合金の熱膨張率αは、5.2×10
-6[K
-1]であった。
選択された例の耐熱衝撃性は、下式の商として定義され、約252Kと決定された。
【数2】
ここで、R
eHは、室温での降伏点(MPa)であり、αは、熱膨張率1/K[Kelvin
-1]であり、Eは、弾性率[MPa]である。
【0060】
この高温成形工具は、特に穿孔プラグ(Lochdorn)として形成されている。本出願人による試験では、上記で定義されたモリブデン基合金の特性が、穿孔プラグに適用した場合に特に有利であることが明らかになった。
【0061】
更に、先行する請求項のいずれかに記載された高温成形工具の、特に高強度金属、特に高合金鋼、からなる管又は異形材を製造するための、使用についても保護を請求する。
上記の特性を有する成形工具の使用は、工業的な管製造において特に有用であることが証明された。
本発明による特性プロファイルは、特に傾斜圧延法(Schraegwalzverfahren)における高合金鋼の穿孔の場合に、有利である。押出成形により異形材を製造する場合、請求項1~3のいずれか1項に記載のダイの使用は特に有利である。押出し成形による異形材の製造において、先行する請求項のいずれかに記載のダイの使用は特に有利である。というのは、この高温成形作業においてもその特性プロファイルが有効であるからである。本発明の高温成形工具が使用される場合、ユーザーは、特に、この高温成形工具の堅牢性及び経済性の利点を経験することができる。
【0062】
更に、高温成形工具を製造する方法についても保護を請求する。
工業規模用のモリブデン基合金は、一般的には、粉末冶金的な工程によって加工されて部品となる。溶融冶金は、高融点金属に対しては一般的に非実用的であり、及び/又は、非経済的である。
通常、粉末又は粉末混合物は、圧縮されてグリーン体となり、次いで焼結され、その後、圧延、鍛造等によって半製品に成形される。この通常の製造工程とは異なり、本発明による高温成形工具の製造は、塑性変形なしに、又は、殆ど塑性変形なしに行われる。
【0063】
高温成形工具の製造方法は、以下のステップを特徴とする:
a)モリブデン粉末とホウ素及び炭素を含有する粉末との粉末混合物を圧縮してグリーン体を得るステップ;
b)所望により、前記グリーン体を加工して、穿孔プラグの最終形状に近づけるステップ;
c)酸化保護雰囲気下、1600℃~2200℃の温度範囲において、少なくとも45分の滞留時間で前記グリーン体を焼結して、高温成形工具の焼結ブランクを得るステップ;
d)所望により、前記焼結ブランクの仕上げ加工により、完成した高温成形工具、ここでは穿孔プラグ、を製造するステップ。
モリブデン基合金に関連して上記で説明された利点が、高温成形工具を製造するための上記の方法により、同様に得られる。更に、上記で説明された諸発展形態はこの方法においても適用可能である。
【0064】
上述のホウ素及び/又は炭素が微量にドープされたモリブデン基合金の製造のために、ホウ素及び炭素を含有する粉末は、相応のホウ素及び/又は炭素含有率を有するするモリブデン粉末とすることができる。
ここで重要なのは、グリーン体の圧縮のために使用される出発粉末が十分な量のホウ素及び炭素を含有し、これらの添加物が出発粉末中にできるだけ均一かつ微細に分布されていることである。
【0065】
特に、この焼結工程は、1800℃~2100℃の温度範囲で、45分~12時間(h)、好ましくは1~5時間の滞留時間の熱処理を含む。特に、この焼結工程は、減圧下、不活性ガス(例えばアルゴン)中、又は、好ましくは還元雰囲気中(特に水素雰囲気中、又はH2分圧雰囲気中)で実施される。
【0066】
既に説明したように、圧縮され焼結された状態における耐熱衝撃性のような本発明による特性を有する高温成形工具の製造は、必ずしも微量ドーピング元素である炭素及びホウ素に基づく上述した合金化戦略を有するモリブデン基合金に限定されるものではない。むしろ、方法に関する請求項は特に有利で経済的な道を示す。
高い粒界強度によって高い延性を得るという方針に従って、炭素及びホウ素以外の微量ドーピング元素及びこれら微量ドーピング元素の組合せ、又は、異なる合金化戦略も可能である。
【0067】
本発明の更なる利点及び合目的性は、添付の図面を参照した実施例の以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】高温成形工具(例;穿孔プラグ)の実施例の斜視図
【
図6】穿孔プラグを例として用いた高温成形工具の製造工程の模式図
【
図7】延性-脆性遷移温度の線図(横軸;温度[℃]、縦軸;曲げ角度[°])
【
図8】従来技術によるMo材料の走査型電子顕微鏡写真
【
図9】本発明による高温成形工具のモリブデン基合金の走査型電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0069】
図1は、この実施例では穿孔プラグ1として形成された本発明による高温成形工具を模式的に示す。この穿孔プラグ1は、先端部2及び後部3を有する。穿孔プラグ1は、後部3において、一般的にはプラグロッド(図示せず)によって保持され、このロッドのために受容部が形成されている。
【0070】
同様のことは穿孔プラグ1を側面図で示す
図2からも明らかである。この実施例では、穿孔プラグ1は、対称軸Lに対して回転対称に作られている。
【0071】
図3は、穿孔プラグ1の断面を示す。ここでは、穿孔プラグ1の冷却及び/又は計装のための随意の構造4が示されている。この例では、構造4は穿孔として作られている。
【0072】
図4a及び4bは、本発明の高温成形工具の別の実施例の図を示し、ここでは例として金属成形用のダイ1を示す。
図4aは斜視図を示し、
図4bは断面図を示す。
ここに示された種類のダイは、例えば、高合金鋼の押出し成形において使用される。当然ながら、ダイ1は異なる形状、特に異なる断面形状、をとることができる。
【0073】
図5a及び5bは、本発明の高温成形工具の別の実施例の図を示しており、ここでは、例として、金属成形用の押型1を示している。
図5aは、斜視図を示し、
図5bは断面図を示す。冷却媒体を導入するための構造4を形成することができる。本例では、構造4は受容器としても構成されている。
ここに示したタイプの押型は、例えば、高合金鋼の逆方向押出成形時に使用される。当然ながら、この押型は、ここに示された形状とは異なる形状をとることもできる。
【0074】
図6は、穿孔プラグ1の例における本発明による高温成形工具の製造工程を模式的に示す。ステップa)で、モリブデン粉末と、ホウ素及び炭素を含有する粉末との粉末混合物を圧縮してグリーン体Gが得られる。
随意のステップb)は、穿孔プラグ1の最終形状に近づけるためのグリーン体Gの加工を示す。
ステップc)で、グリーン体Gを焼結して穿孔プラグ1の焼結ブランクRを得る。
焼結後に、ステップd)において、焼結ブランクRから穿孔プラグ1が得られる。所望ならば、焼結ブランクRの加工を行なってもよい。
【0075】
図7は、基本的に高温成形工具の候補である各種材料の延性-脆性遷移温度の線図である。
プロットされた変数は、横軸の温度[℃]に対して、縦軸は、3点曲げサンプルの曲げ角度[°]である。
プロットされている変数は、横軸の温度[℃]に対する縦軸の3点曲げ試験片の曲げ角度(英語;bending angle)[°]である。曲げ角度は、その試料が破断開始時にどれだけの塑性曲げを受けたかを示す。
この図において、右側の曲線(点線、記号「Mo」)は、圧縮され焼結された状態における純モリブデンの破断特性の典型的な経過を示す。この材料は、約≧140℃を超えてやっと顕著な延性特性を示すことが分かる。
若干有利なのは、中央の曲線(破線、記号「TZM」)の経過である。これは圧縮され焼結された状態でのTZMの延性脆性遷移の経過を示す。この経過は、低温側に僅かにシフトしており、このことが幾分良好な特性を特徴づけている。
右側の2つの経過(「Mo」及び「TZM」)は、従来技術に対応する。
左側の曲線(実線、記号「MoB15」)は、高温成形工具に特に好ましいものとして提案された、≧99.0重量%のモリブデン含有率、≧3重量ppmのホウ素含有率「B」及び≧3重量ppmの炭素含有率「C」を有するモリブデン基合金の延性脆性遷移の典型的な経過を示す。
これらの利点は、一発展形態により、高温成形工具の母材の延性-脆性遷移温度が≦60℃であると実現される。ここに示されている例では、曲げ角度20°の塑性曲げによって定義される延性-脆性遷移温度は、60℃より著しく低く、約30℃である。
【0076】
更に、曲げ角度20°で補助線が引かれている。曲げ角度20°における破断時の試験片の曲げが、本出願の文脈では、延性-脆性遷移温度の基準として使用される。受けた塑性曲げが≧20°であると、技術的な目的で延性材料の挙動を想定できる。3点曲げ試験で採用した試験パラメータは;試験荷重20N[ニュートン]、試験速度10mm/分、支持スパン20mmであった。支持ローラの半径は、押型の半径と同じで、1.5mmであった。試験片の寸法は6×6×35mmであった。
【0077】
図8は、従来技術によるモリブデン材料の走査型電子顕微鏡写真を示す。このモリブデン材料は、再結晶状態にある。この写真は、室温で試験された引張試験片の破断表面を示す。顕著な特徴は、いわゆる結晶間破断、即ち、主に結晶粒界に沿った材料分離による破断、の存在である。粒界分離の一つが、挿入された矢印によって示されている。このような結晶粒子間の破断現象がある場合、延性は粒界強度によって決まる。
【0078】
図9は、本発明の穿孔プラグの製造に適しており、且つ好適であると提案されたモリブデン基合金の破断面を示す。この合金化戦略は粒界強度の改善に基づいており、特に、このモリブデン基合金が≧99.0重量%のモリブデン含有率、≧3重量ppmのホウ素含有率「B」及び≧3重量ppmの炭素含有率「C」を有する場合に達成される。ここでの破断現象は、結晶横断性であり、これは、破断が結晶粒を横切って走っていることを意味する。この破断現象は、本質的に増大した粒界強度に起因するものであり、巨視的には、本質的により高い延性と関連している。
【国際調査報告】