(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】ヒト又は動物の器官に適用するパッチ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/257 20210101AFI20231128BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20231128BHJP
A61B 5/263 20210101ALI20231128BHJP
【FI】
A61B5/257
C07K14/435
A61B5/263
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529982
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 IB2021060560
(87)【国際公開番号】W WO2022106981
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】102020000027690
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517394762
【氏名又は名称】カムリン イタリー ソチエタ レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】CAMLIN ITALY S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Via Budellungo 2,43123 Parma,Italy
(71)【出願人】
【識別番号】502346002
【氏名又は名称】コンシッリョ ナツィオナーレ デッレ リチェルケ
【氏名又は名称原語表記】CONSIGLIO NAZIONALE DELLE RICERCHE
(74)【代理人】
【識別番号】100159905
【氏名又は名称】宮垣 丈晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【氏名又は名称】遠藤 真治
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【氏名又は名称】合路 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】タルベーラ,ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】アスカーリ,ルーカ
(72)【発明者】
【氏名】レイ,ステファーノ
(72)【発明者】
【氏名】コシュマック,コンスタンティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴッロ,ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】ディアンジェロ,パスクァーレ
(72)【発明者】
【氏名】イアノッタ,サルヴァトーレ
【テーマコード(参考)】
4C127
4H045
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127AA04
4C127AA07
4C127AA10
4C127LL02
4C127LL30
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA51
4H045EA34
4H045FA65
4H045GA01
(57)【要約】
以下の工程:バイオポリマーインクを製造する工程(200);前記バイオポリマーインクによって少なくとも一部が製造される基材を提供する工程(300);前記基材上に回路を印刷する工程(400);を含む、ヒト又は動物の器官に適用されるパッチ(10)を製造する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-バイオポリマーインクを調製する工程(200);
-前記バイオポリマーインクによって少なくとも一部が製造された基材を提供する工程(300);
-前記基材上に回路を印刷する工程(400);
を含む、ヒト又は動物の器官に適用されるパッチ(10)を製造する、方法(100)。
【請求項2】
前記バイオポリマーインクを調製する前記工程(200)が、カイコ(Bombyx Mori)繭からフィブロインを抽出することを含む、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
前記バイオポリマーインクを調製する前記工程(200)が、蒸留水又は脱イオン水と炭酸ナトリウムとの溶液中で前記繭をボイルして、精練フィブロインを得ること(201)をさらに含む、請求項2に記載の方法(100)。
【請求項4】
前記バイオポリマーインクを調製する前記工程(200)が、ギ酸と塩化カルシウムの溶液に前記精練フィブロインを溶解すること(202)をさらに含む、請求項3に記載の方法(100)。
【請求項5】
ギ酸と塩化カルシウムの前記溶液が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムのうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項4に記載の方法(100)。
【請求項6】
ギ酸と塩化カルシウムの前記溶液が、カルボン酸をさらに含む、請求項4又は5に記載の方法(100)。
【請求項7】
前記基材を提供する前記工程(300)が、前記バイオポリマーインクのエアロゾルジェット印刷(301)によって行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項8】
前記基材を提供する前記工程(300)が、前記バイオポリマーインクのインクジェット印刷又はスクリーン印刷又はロール・ツー・ロール印刷によって行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項9】
前記基材を提供する前記工程(300)が、前記バイオポリマーインクのドロップキャスティング又はスピンコーティングによって行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項10】
前記バイオポリマーインクが、以下の:ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、キトサン、デキストリン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース;のうちの1つの溶液によって調製される、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項11】
前記基材に回路を印刷する前記工程(400)が:
-シリコンウエハー上に金属回路を印刷すること(401);
-前記印刷金属回路を、前記シリコンウエハーから前記基材上に転写すること(402);
を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項12】
シリコンウエハー上への前記金属回路の印刷(401)が、エアロゾルジェット印刷による、請求項11に記載の方法(100)。
【請求項13】
前記基材上に回路を印刷する前記工程(400)が、前記基材上への有機半導体のエアロゾルジェット印刷(403)によって行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項14】
前記有機半導体が導電性ポリマーである、請求項13に記載の方法(100)。
【請求項15】
前記回路上に保護層を成膜する工程(500)をさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項16】
前記保護層を成膜する前記工程(500)が、エアロゾルジェット印刷によって行われる、請求項15に記載の方法(100)。
【請求項17】
ヒト又は動物の器官に適用するパッチ(10)であって、
-実質的に平坦な形状を有する基材(1);
-前記基材(1)の第1表面(1a)上に得られ、且つバイオポリマーインクを含む、前記器官との接触域(2);
-前記第1表面(1a)と反対側にある、前記基材(1)上に保持された回路(3);
を含む、パッチ(10)。
【請求項18】
前記回路(3)が、前記第1表面(1a)と反対側にある、前記基材(1)の第2表面(1b)上に保持される、請求項17に記載のパッチ(10)。
【請求項19】
前記回路(3)上に成膜された保護層(4)をさらに含む、請求項17又は18に記載のパッチ(10)。
【請求項20】
前記バイオポリマーインクがフィブロインをベースとする、請求項17から19のいずれか一項に記載のパッチ(10)。
【請求項21】
前記バイオポリマーインクが、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、キトサン、デキストリン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースのうちの1つをベースとする、請求項17から20のいずれか一項に記載のパッチ(10)。
【請求項22】
前記回路(3)が、金属及び/又は有機半導体で製造される、請求項17から21のいずれか一項に記載のパッチ(10)。
【請求項23】
前記回路(3)が、ヒト又は動物の身体からの生体電気シグナルを検出するように構成される、請求項17から22のいずれか一項に記載のパッチ(10)。
【請求項24】
前記回路(3)が、ヒト又は動物の身体の生化学的特性を感知するように構成される、請求項17から23のいずれか一項に記載のパッチ(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト又は動物の器官に適用するパッチ、及びその製造方法に関する。
【0002】
提案される本発明は、生体電気及び化学的感知における用途が見出される。例えば、本発明は、医療分野又はヘルスケア若しくはスポーツにおいて、ヒトの身体からの生物学的又は化学的情報を連続的にモニタリングすることを可能にする、ウェアラブルセンサーデバイスにおいて使用され得る。
【0003】
これらのセンサーにおいて、皮膚及び脳のようなヒトの器官の機械的性質とより良く適合し、患者が運動している間でさえ、より高いレベルの快適さ、及び信頼性が保証されることから、軟らかく、伸展性の電子機器は、従来の電子センサーよりも好ましい。
【背景技術】
【0004】
絹、セルロース、キチン、及びリグニンなどの生体材料に基づく軟らかい電子機器は、既に市場で知られている。
【0005】
現在、利用可能な基材の大部分は、皮膚への付着を高める接着剤又はゲルを必要とするが、非常に急速に乾燥する傾向があり、電極の剥離及び界面のインピーダンス特性の低下が起こる。
【0006】
絹フィブロインは、天然生体適合性及び生分解性であるため、ウェアラブル電子機器及び埋込可能な用途の理想的なプラットフォームである。
【0007】
絹にCaCl2を導入し、水分の相対湿度をコントロールすることによって、本来は硬い絹繊維を軟らかく、伸展性の膜へと可塑化する方法が既に知られている。
【0008】
この方法によって、ゲル又は接着剤を使用することなく、皮膚へのより高い付着性を有するフィブロイン基材を得ることが可能になったとしても、3Dプリント回路及び金属若しくは有機材料製の電極を保持するための、機械的安定性に関連する問題が依然としてある。
【0009】
さらに、フィブロイン基材上の金属接続の印刷は重要である。リソグラフィーは、金属ラインの印刷に使用される最も一般的な技術であるが、スピンコーティング、インクジェット印刷及びタトゥー転写は、有機材料に対して最も使用されている方法である。それにもかかわらず、3D印刷有機材料の大部分は、フィブロインの物理的及び化学的性質と適合性ではなく、その劣化を引き起こす高温にて、アニールする必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この文脈において、本発明に基づく技術的課題は、先行技術の上記の欠点を克服する、ヒト又は動物の器官に適用するパッチ、並びにその製造方法を提案することである。
【0011】
特に、本発明の目的は、皮膚への良好な付着性を有し、且つ3D印刷回路の安定なサポートを提供する、ヒト又は動物の器官に適用するパッチを提案することである。
【0012】
本発明の別の目的は、生体適合性であり、且つ臨床上の無駄を低減又は排除する、ヒト又は動物の器官に適用するパッチを提案することである。
【0013】
本発明の別の目的は、汎用性のあるパッチであって、ヒト若しくは動物の器官の化学的又は生物学的性質を感知する様々なタイプのデバイスを確実にサポートすることを意味する、パッチを提案することである。
【0014】
本発明の別の目的は、ヒト又は動物の器官に適用するパッチを製造する方法であって、先行技術の解決策に依然として存在する異なる材料間の適合性の問題(例えば、フィブロイン上の金属ラインの印刷)を克服する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
記載の技術的課題及び指定の目的は、
-バイオポリマーインクを調製する工程;
-バイオポリマーインクによって少なくとも一部が製造された基材を提供する工程;
-基材上に回路を印刷する工程;
を含む、ヒト又は動物の器官に適用されるパッチを製造する方法によって実質的に達成される。
【0016】
本発明の一態様によれば、バイオポリマーインクを調製する工程は、カイコ(Bombyx Mori)繭からのフィブロインを抽出することを含む。
【0017】
一実施形態によれば、バイオポリマーインクを調製する工程はさらに、蒸留水又は脱イオン水と炭酸ナトリウムとの溶液中で繭をボイルして、精練フィブロインを得ることを含む。
【0018】
一実施形態によれば、バイオポリマーインクを調製する工程はさらに、ギ酸と塩化カルシウムとの溶液に精練フィブロインを溶解することを含む。
【0019】
本発明の一態様によれば、ギ酸と塩化カルシウムの溶液は、以下の:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムのうちの1つ又は複数をさらに含む。
【0020】
本発明の一態様によれば、ギ酸と塩化カルシウムの溶液は、カルボン酸をさらに含む。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、基材を提供する工程は、バイオポリマーインクのエアロゾルジェット印刷によって行われる。
【0022】
別の実施形態によれば、基材を提供する工程は、バイオポリマーインクのインクジェット印刷又はスクリーン印刷又はロール・ツー・ロール印刷によって行われる。
【0023】
別の実施形態によれば、基材を提供する工程は、バイオポリマーインクのドロップキャスティング又はスピンコーティングによって行われる。
【0024】
本発明の一態様によれば、バイオポリマーインクは、以下の:ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロ-ラクトン、キトサン、デキストリン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースのうちの1つの溶液によって調製される。
【0025】
本発明の一態様によれば、基材上に回路を印刷する工程は:
-シリコンウエハー上に金属回路を印刷すること;
-印刷された金属回路を、基材上のシリコンウエハーから転写すること;
を含む。
【0026】
一実施形態によれば、シリコンウエハー上に金属回路を印刷する工程は、エアロゾルジェット印刷による。
【0027】
一実施形態によれば、基材上に回路を印刷する工程は、基材上に有機半導体をエアロゾルジェット印刷することによって行われる。
【0028】
例えば、有機半導体は、導電性ポリマーである。
【0029】
本発明の一態様によれば、その方法はさらに、回路上に保護層を成膜する工程を含む。
【0030】
特に、保護層を成膜する工程は、エアロゾルジェット印刷によって行われる。
【0031】
記載の技術的課題及び指定の目的は、
-実質的に平坦な形状を有する基材;
-器官との接触域であって、基材の第1表面上に得られ、且つバイオポリマーインクを含む接触域;
-前記第1表面の反対側である、基材上に保持された回路;
を含む、ヒト又は動物の器官に適用されるパッチによって実質的に達成される。
【0032】
一実施形態によれば、その回路は、第1表面の反対側である、基材の第2表面上に保持される。
【0033】
一実施形態によれば、パッチはさらに、回路上に成膜された保護層を含む。
【0034】
例えば、バイオポリマーインクは、フィブロインをベースとする。
【0035】
バイオポリマーインクの他の代替物は、以下の:ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、キトサン、デキストリン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースのうちの1つをベースとする。
【0036】
一実施形態によれば、回路は、金属及び/又は有機半導体から製造される。
【0037】
本発明の一態様によれば、回路は、ヒト又は動物の身体からの生体電気シグナルを検出するように構成される。
【0038】
本発明の一態様によれば、回路は、ヒト又は動物の身体から生化学的特性を感知するように構成される。
【0039】
本発明の更なる特徴及び利点は、添付の図面に示されるように、ヒト又は動物の器官に適用されるパッチ、及びその製造方法の、好ましいが排他的ではない実施形態の非制限的な説明からより完全に明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、本発明によるヒト又は動物の器官に適用するパッチを製造する方法のフローチャートを示す。
【
図2】
図2は、異なる実施形態による、
図1の方法のフローチャートを示す。
【
図3】
図3は、異なる実施形態による、
図1の方法のフローチャートを示す。
【
図4】
図4は、側面図(a)、上面図(b)及び下面図(c)それぞれにおける、本発明によるヒト又は動物の器官に適用するパッチを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
方法100は、バイオポリマーインクを調製する工程(ブロック200)で始まる。
【0042】
本発明の一態様によれば、バイオポリマーインクは、フィブロインをベースとする。したがって、バイオポリマーインクの調製は、カイコ(Bombyx Mori)繭からフィブロインを抽出することを含む。
【0043】
特に、例えばチタン製ハサミを使用して、繭を細かく切断し、次いで、皮膚に刺激作用を起こすであろう、セリシンで作られた膠状の被覆を除去するために、蒸留又は脱イオン水と、炭酸ナトリウムとの溶液中でボイルする(ブロック201)。
【0044】
ボイル工程の結果として、精練フィブロインが得られ、次いで、ギ酸と塩化カルシウムの溶液に溶解される(ブロック202)。
【0045】
本発明の一態様によれば、最終的なインクの付着性及び粘度を調整するためにギ酸と塩化カルシウムの溶液に塩が添加される。
【0046】
例えば、溶液全体に対して1~40%(w/v)の濃度で吸湿性塩が添加され得る。
【0047】
例えば、ギ酸と塩化カルシウムの溶液に、以下の:塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)又は他の吸湿性塩のうちの1種又は複数種が添加され得る。
【0048】
本発明の実施形態によれば、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸等のカルボン酸が、その精練段階からのフィブロイン溶解に使用され得る。カルボン酸の濃度は、好ましくは1~30%(w/v)の範囲である。
【0049】
迅速及び均一な溶解を得るために、フィブロイン溶液が攪拌される。
【0050】
次に、上記の工程から得られるバイオポリマーインクを、
図4の番号1で示される基材を作成するために使用する(ブロック300)。
【0051】
実施形態によれば、基材は、バイオポリマーインクのエアロゾルジェット印刷によって得られる(ブロック301)。
【0052】
特に、フィブロインインクをエアロゾルジェット印刷することによって、基材は、厚さ50um以下のフィブロイン膜状態で得られる。
【0053】
別の実施形態によれば、基材は、バイオポリマーインクをインクジェット印刷又はスクリーン印刷又はロール・ツー・ロール印刷することによって得られる。
【0054】
別の実施形態によれば、基材は、例えばドロップキャスティング(例えば、ペトリ皿中での)又はスピンコーティングによる、バイオポリマーインクの成膜によって得られる。
【0055】
好ましくは、基材の形成中に、環境の温度及び湿度の両方が、制御範囲で維持される。例えば、温度は、20~30℃の間に含まれる。湿度は、RH 40~60%の範囲に維持される。
【0056】
好ましくは、基材1は、第1表面1aと、第1表面1aと反対側の第2表面1bと、を有する実質的に平坦な形状を有する。
【0057】
一実施例によれば、第1表面1aと第2表面1bは平行である。
【0058】
第1表面1aの少なくとも1つの領域は、バイオポリマーインクを含む。この領域は、ヒト又は動物の身体の皮膚との、或いは別の器官との接触域を構成する。接触域は、
図4の番号2で示される。
図4において、Sで示される、皮膚の一部に付着する第1表面1aが示される。
【0059】
接触域2の拡張範囲(extension)は、特定の用途に応じて異なり得る。
【0060】
本発明の実施形態によれば、接触域2は、第1表面1aの拡張範囲よりも狭い範囲を有する。
【0061】
別の実施形態によれば、接触域2は、第1表面1a全体と重なる。
【0062】
一実施形態によれば、基材1は、第1表面1a及び第2表面1bにおける異なるイオン勾配濃度を有する単一フィブロイン層で作られる。これらの表面は実際には、対象の領域の界面にて局所的にイオンの移動をもたらす、特定のイオン性液体又は他の物質で処理される。
【0063】
一態様によれば、フィブロインは、Ca2+、K+、Na+、Mg2+など、フィブロインの抽出中に使用される吸湿性イオンの濃度を調整することによって得られる濃度勾配を用いて製造され得る。
【0064】
例えば、吸湿性イオンの濃度は、1~40重量%の範囲に含まれる。
【0065】
フィブロイン膜における様々な濃度の吸湿性イオンは、機械的応答(頑丈さ及び接着力)並びに電気伝導度などの材料の重要な特性を変化させる。
【0066】
イオン勾配分布を得る別の代替法は、単層のイオン濃度を、したがって第1表面1a及び第2表面1bにおいて局所的に改変することによる方法である。
【0067】
一実施例によれば、これは、単層の表面の一方の上に局所的に、様々なイオン濃度でフィブロインインクを印刷することによって行われ得る。
【0068】
別の実施例によれば、これは、単層の表面の一方の上に円端部に沿って局所的に、様々なイオン濃度でフィブロインインクを印刷することによって行われ得る。
【0069】
フィブロインの代わりに、バイオポリマーインクは、PLGA(ポリ乳酸-グリコール酸共重合体の頭字語)又はPLC(ポリカプロ-ラクトンの頭字語)又はキトサン又はデキストリン又はPLA(ポリ乳酸の頭字語)又はPGA(ポリグリコール酸の頭字語)又はエチルセルロース、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロキシエチルメチルセルロースの溶液をベースとし得る。
【0070】
明細書の以下の部分は、第1表面1及び第2表面1bを有する、単層で作られた基材1の実施形態に関する。
【0071】
基材1が得られた後に、回路3が、基材1の表面1a、1bの一方の上に印刷される(ブロック400)。
【0072】
本発明の実施形態によれば、回路3が、基材1の第2表面1b上に印刷される。
【0073】
本発明の別の実施形態によれば、回路3は、基材1の第1表面1a上に印刷される。
【0074】
本発明の別の実施形態によれば、基材1の表面1a、1b両方に、相当する回路が印刷される。
【0075】
その回路は、金属若しくは有機材料、又はその両方で製造され得る。
【0076】
本発明の一態様によれば、金属回路の印刷は:
-シリコンウエハー上に金属回路を印刷すること(ブロック401);
-印刷された金属回路を、シリコンウエハーから基材1上に転写すること(ブロック402);
を含む。
【0077】
特に、シリコンウエハー上の金属回路の印刷は、金属のエアロゾルジェット印刷によって行われ、範囲100~250℃の温度にて20~60分間焼結される。
【0078】
フィブロイン膜上(又は総称して、基材1のバイオポリマー領域上)への、金属回路の転写印刷が、40℃未満の温度にて、例えば室温で行われる。
【0079】
本発明の一態様によれば、回路3は、特に25℃未満の温度にて、エアロゾルジェット印刷によって基材1上に印刷される有機半導体を含む(ブロック403)。
【0080】
通常、25℃未満の温度でのエアロゾルジェット印刷は、「コールド」エアロゾルジェット印刷と呼ばれる。
【0081】
特に、有機半導体は導電性ポリマーである。例えば、有機材料は、PEDOT(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)、P3HT、PTHS、PANI又はPPyなどのp型ポリチオフェンであり得る。さらに、有機材料は、電子供与体(チオフェン誘導体)単位又は電子不足単位(ビチアゾール、ベンゾチアゾール、アジン等)と共重合されたイミド誘導体をベースとするn型半導体であり得る。
【0082】
PEDOTに、アニオン、例えばPSS(PEDOT:PSS)、トシレート(PEDOT:PSS)、金属カチオン(Na+など)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)及びポリイミドなどの溶液処理可能なn型導体をドープしてもよい。
【0083】
また、二次ドーピング分子が、導電率の調整のために使用され得る。有機半導体が、一方の末端の受動電極及び三次元能動(例えば、トランジスタ様)電気構造において印刷される。
【0084】
この文脈において、回路という用語は、一方の箇所からもう一方の箇所へと電流を流れさせる1つ又は複数の経路を意味する。回路は、無機又は有機材料のいずれかによって製造される、1つ又は複数のデバイスも含み得る。
【0085】
本発明の一態様によれば、本発明の回路3は、パッチの適用に応じて、特定の測定を実施するように構成される、1つ又は複数のセンサー、つまり化学的若しくは生化学的センサーを含む。
【0086】
別の実施形態(図示せず)によれば、基材1は、バイオポリマーインクから開始する、複数の、重なり合った/積層された層を含む。
【0087】
層の組成は、より高い接着性又はより高い構造特性、又はその両方を各層に付与するように、個々に調整され得る。
【0088】
実際に、異なるイオン濃度レベルを有する、重なり合った又は積層された層を使用して、イオン勾配分布が得られ得る。
【0089】
一実施形態によれば、基材1は、各層が異なるイオン濃度を有する、バイオポリマーインク(フィブロインをベースとする)の2つの層を含む。
【0090】
特に、基材1は:
-より高いイオン濃度(例えば、30%)を有する第1層;
-第1層よりも低いイオン濃度(例えば、20%)を有する第2層;
を含む。
【0091】
第1層は、第2層よりも皮膚への高い接着性を示す。したがって、第1層は通常、接着層として使用される。
【0092】
第1層よりも硬質である第2層は、一次構造機能を付与する。
【0093】
変形形態によれば、基材1は、本明細書において「エレクトロニクス層」と呼ばれる第3層をさらに含む。このエレクトロニクス層は、第2層の上に加えられる。
【0094】
特に、第1層は、フィブロインインクをエアロゾルジェット印刷することによって得られる。第2層もまた、エアロゾルジェット印刷によって得られ、第1層上に成膜される。
【0095】
一態様によれば、少なくとも1つの開孔が、第2層内に形成され得る。
【0096】
開孔は、第2層から材料を除去することによって、又は開孔がその中に得られるように制御された方法で第2層を成膜することによって形成され得る。開孔を得る別の方法は、特定の金型を使用することによる方法である。
【0097】
開孔は、別の材料によって、例えば成膜によって充填され得る。この文脈において、充填された開孔は、「チャネル」と呼ばれる。
【0098】
チャネルが形成された結果、インピーダンス整合及び導電率が向上する。
【0099】
例えば、チャネルは、有機ポリマーで作られる。
【0100】
別の実施例において、チャネルは、第1層と同じフィブロインで作られ、したがって、より高いイオン濃度を有する。
【0101】
特に、エレクトロニクス層は、導電性相互接続部又は他の電子構成要素で構成され、例えばパリレンのストリップ上に印刷される。実際に、エレクトロニクス層は、回路3を保持する。
【0102】
したがって、相互接続部は、チャネル材料の露出面と接触した状態にある。第2層構造における開孔の製造を正当化するのは、このマッチング領域である。
【0103】
実際に、チャネルを加える理由は、チャネルを囲む第2層の電気固有抵抗が高く、バイパスされていない場合には高い電圧降下が生じることから、上部エレクトロニクス層と第1層を連結するためである。
【0104】
別の変形形態において、エレクトロニクス層は、そのサイズが、第2層における開孔のサイズと一致する、導電性コネクター(例えば、金属ボタン)によって構成される。コネクターによって、現在市販の標準装置を整合することが可能となる。
【0105】
変形形態によれば、第2層における複数の開孔が得られる。これらの開孔は、別の材料で充填されて、複数のチャネルが形成される。
【0106】
上述のように、基材1は、2つを超えるフィブロイン層を含むことができ、最後の層の上に、既述のエレクトロニクス層と類似のエレクトロニクス層が加えられる。
【0107】
パッチの用途の非制限的なリストを以下に示す。
【0108】
-脳波(EEG)、心電図(ECG)、筋電図(EMG)、筋音図(MMG)、眼球電図記録(EOG)、電気皮膚反応(GSR)、脳磁図(MEG)など、ヒトの身体からの生体電気シグナルの検出。
【0109】
-唾液、汗、血液等の生理学的液体中の化学物質(ドーパミン、グルコース、ナトリウムなど)の検出。
【0110】
-唾液、汗、血液等の生理学的液体中の生物学的細胞(例えば、細菌)の検出。
【0111】
-高度に選択的な生化学的特性が与えられた生化学的センサーの保持。ある場合には、選択性は、抗原-抗体認識システムを介して達成され得て、抗原は、三次元トランジスタ構造下にてゲート端子の表面に取り付けられる。別の場合には、抗原は、単一端子電極の表面にローディングされ得る。幾つかの場合には、選択的要素は、生理学的液体(汗、血液など)中の感染病原体(例えば、ウイルス)など特定のタンパク質又は分子の認識に対して構築されるDNAセグメント又は合成DNAセグメント(アプタマー)であり得る。
【0112】
-生体電気シグナルに対してデザインされた、フォーク状形状レイアウトを有するセンサーの保持。1つの設計上の選択肢によれば、生体電気センサーは、振幅の低い(例えば、1μV未満)生体電気シグナルの増幅のために、具体的に計画且つデザインされた、専用のレイアウトを有する。デザインはまた、体の複数の閉鎖ポイントからの生体電気シグナル(例えば、頭皮上のEEG)の同時検出のための、フォーク状パターンであり得る。別の設計上の選択肢によれば、センサーは、単一ポイント検出の増幅のために、フラクタル構造でデザインされ得る。
【0113】
-生体電気及び化学的シグナルを記録及び増幅するためにデザインされたフラクタル構造を有する生体電位センサーの保持。この文脈において、「フラクタル構造」という表現は、トランスデューサ要素の形状が、部分セットの接触子を短絡させた状態で維持しながら、多点(multisite)(アレイ)トランスデューサの構造においても再現されることを意味する。
【0114】
-増幅特性を有する、有機トランジスタ、有機電界効果トランジスタ、又は有機電気化学トランジスタの保持。
【0115】
保護層4、例えば合成誘電材料は好ましくは、金属又は有機のいずれかの回路3上に成膜される(ブロック500)。保護層4の成膜に関して、好ましい技術は、25℃より低い温度でのエアロゾルジェット印刷である。
【0116】
本発明による、ヒト又は動物の器官に適用するパッチ、並びにその製造方法の特徴及び利点は明らかであり、そのままの利点である。
【0117】
プロセス全体によって、異なる用途のための3D印刷能動的及び/又は受動的有機半導体、並びに/或いは電気回路を保持する可撓性天然基材の製造が可能となる。
【0118】
パッチの基材は、印刷可能なバイオポリマーインクによって部分的又は全体的に製造され:
-印刷された、トランスデューサ、電極、相互接続部を保持する「構造層」;
-水を使用して簡単に再生することができる、耐久性のある接着性を可能にする、皮膚又は他の器官上の「接着層」;
-時間の経過に従って、回路と皮膚の間のインピーダンスを安定にする、「インピーダンス整合層」;
として働き得る。
【0119】
既に指摘の通り、皮膚との主要な界面は、完全生体適合性材料である、フィブロイン又は他のバイオポリマー材料で作られている。
【0120】
基材は、水流下で完全に溶解し得て、そのため環境的に優しい使い捨てである。皮膚との接触面積が狭い場合でさえ、接着性を得るのに十分である。
【0121】
バイオポリマーインクは、エアロゾルジェットによる成膜又は印刷のために最適化されている。特に、フィブロインの抽出のレシピは、可撓性基材を製造し、且つ皮膚上のパッチの理想的な接着性、つまり、日常生活の活動中に十分に安定であり、パッチの剥離下で痛みを生じるほど強すぎない接着性を得るために最適化されている。
【0122】
塩濃度を変化させることによって、伸縮性、可撓性、及びヒトの皮膚上での粘着性に関して、インクの最終的な機械的性質が調整され得る。さらに、シリコンウエハー上の金属回路のエアロゾルジェット印刷及びフィブロイン基材上への転写は、フィブロイン基材上に金属レイアウトを直接印刷する適合性の問題を克服する。
【0123】
実際に、フィブロイン基材は、その温度に応じて1~10分以内に高温(40℃を超える)で乾燥し、損傷を受けるが、40℃未満の温度でも長時間にわたって損傷を受け、したがって、溶媒及び共溶媒に分散された金属ナノ粒子製の金属インクのエアロゾル印刷とは適合性ではない。実際に後者では、蒸発、並びに焼結の促進に高温が必要とされる。Ag、Au、Cuなどの金属は、シリコンウエハーの表面への非常に低い接着性を示すことを指摘しなければならない。確かに、標準リソグラフィックプロセスにおける欠点である、この低い接着性によって、フィブロイン基材への金属回路の機械的転写が容易になる。
【0124】
2つのフィブロイン層によって構成される特定の基材は、1つの層の構造機能及びもう一方の層の接着性を高めることから、特に有利である。
【国際調査報告】