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特表2023-550749ジダノシンを含む神経炎症性疾患の予防または治療用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】ジダノシンを含む神経炎症性疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/522 20060101AFI20231128BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
A61K31/522
A61P25/00
A61P29/00
A61P35/00
A61P9/10
A61P21/02
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/18
A61P25/14
A61P25/04
A61P39/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530257
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 KR2021017068
(87)【国際公開番号】W WO2022108381
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】10-2020-0156060
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523165891
【氏名又は名称】グリアセルテック・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GLIACELLTECH INC.
(71)【出願人】
【識別番号】516280679
【氏名又は名称】テグ・ギョンブク・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ソン-ウン
(72)【発明者】
【氏名】ナム,ヒェリ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨンファン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA05
4C086ZA08
4C086ZA12
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA18
4C086ZA36
4C086ZA94
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC37
(57)【要約】
本発明は、神経炎症性疾患の予防または治療用組成物に関し、より具体的には、ジダノシンまたはその薬学的に許容される塩を含む、神経炎症性疾患の予防または治療用組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、対象の神経炎症性疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記組成物は、中枢神経系で神経炎症性サイトカインの発現を抑制する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記組成物は、小膠細胞の神経炎症性サイトカインの発現を抑制する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記組成物は、小膠細胞のアミロイドベータ分解能力を回復させる、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記組成物は、0.001~4mg/kgの濃度の1日投与量で投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記神経炎症性疾患は、多発性硬化症、神経芽細胞腫、脳卒中、認知症、アルツハイマー病、認知障害、記憶障害、注意障害、パキスン病、ルゲリック病、ハンチントン病、クロイツフェルトヤコブ病、心的外傷後ストレス障害、うつ病、精神分裂病、神経障害性疼痛、および筋萎縮性側索硬化症からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記神経炎症性疾患は、遺伝性認知症である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記神経炎症性疾患は、家族性アルツハイマー病(Familial Alzheimer’s Disease)である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記神経炎症性疾患は、Amyloid Precursor Protein(APP)、Presenilin 1(PSEN1)、およびPresenilin 2(PSEN2)からなる群より選択される1種以上の遺伝子変異を有するアルツハイマー疾またはアルツハイマー関連認知症である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記Presenilin 2遺伝子変異は、PSEN2 N141I外A85V、N141Y、M174I、G212V、A237V、M239I、およびM239Vからなる群より選択される1種以上を含む、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、小膠細胞のアミロイドベータ分解促進用組成物。
【請求項12】
前記小膠細胞は、Amyloid Precursor Protein(APP)、Presenilin 1(PSEN1)、およびPresenilin 2(PSEN2)からなる群より選択される1種以上の遺伝子変異を有する小膠細胞である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記小膠細胞は、神経炎症性疾患を有する患者に由来する、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、神経系炎症に対する抗炎症組成物。
【請求項15】
前記神経系炎症は中枢神経系炎症である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記神経系炎症は海馬組織の炎症である、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記神経系炎症は、Amyloid Precursor Protein(APP)、Presenilin 1(Psen1)、およびPresenilin 2(Psen2)からなる群より選択される1種以上の遺伝子変異が誘発された、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経炎症性疾患の予防または治療用組成物に関し、より具体的には、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、神経炎症性疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系は、神経細胞と神経膠細胞からなる。神経膠細胞は、全体脳細胞の約90%を占め、体積としては脳全体の約50%を占めている。神経膠細胞は、さらに星状細胞(astrocytes)、小膠細胞(microglia)、および乏突起膠細胞(oligodendrocytes)の三種に分類される。このうち、小膠細胞は分化した大食細胞(specialized macrophage)の一種であって、脳に広く分布する。小膠細胞は、組織残骸および死んだ細胞を貪食する食細胞として作用するだけでなく、脳の生体防御活動に参加する役割を果たす。
【0003】
一方、神経炎症は神経系の免疫反応の一種で、アルツハイマー、パーキンソン病、多発性硬化症を含む多くの退行性神経疾患と非常に密接に関連しており、現在、退行性神経疾患の典型的な特徴と考えられる。神経炎症反応は、先天性免疫細胞(小膠細胞)の活性化、炎症媒介体、例えば酸化窒素(nitric oxide;NO)、サイトカインおよびケモカインの放出、大食細胞の浸潤を含み、これは神経細胞の死滅を誘導する。小膠細胞および星状細胞の炎症活性化は、病理学的マーカおよび退行性神経疾患の進行において重要なメカニズムと考えられる。小膠細胞活性の厳格な調節は脳恒常性を維持し感染および炎症疾患を予防するのに必須的であるため、小膠細胞の活性を調整して神経炎症を緩和させるための物質の発掘が必要である。
【0004】
一方、ジダノシン(didanosine)はFDA承認を受けたHIV/AIDS治療に使用されるヌクレオシド(nucleoside)逆転写酵素抑制剤であって、天然dATPと競争的に作用してHIV逆転写酵素を抑制し、3’-OH基が欠如したウイルスDNAで5’から3’へのホスホジエステルリンク(phosphodiester linkage)結合を抑制してウイルスDNA鎖終結子(chain terminator)として作用する。ジダノシンは血液脳関門(blood brain barrier)を容易に通過するので、脳にも容易に影響を与えることができる。しかし、ジダノシンを用いて神経炎症を抑制するか、または脳に作用する効果は知られていないため、これに対する研究が必要であるのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の課題を解決するため、本発明は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、神経炎症性疾患の予防、改善または治療用組成物を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、ジダノシンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む薬学的組成物をこれを必要とする対象に投与する段階を含む、対象の神経炎症性疾患の予防または治療方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、対象の神経炎症性疾患の予防または治療用に使用される、ジダノシンまたはその薬学的に許容可能な塩を提供する。
【0008】
本発明の一実施形態で、前記組成物はアミロイドベータの分解を促進することができる。
【0009】
本発明の他の実施形態で、前記組成物は神経炎症を抑制して記憶力を回復させることができる。
【0010】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は以上で言及した課題に限定されず、言及していないさらに他の課題は以下の記載から当業者に明確に理解されるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む神経炎症性疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0012】
本発明の他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、小膠細胞(microglia)のアミロイドベータ分解促進用組成物を提供する。
【0013】
本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、神経系炎症に対する抗炎症組成物を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、記憶力改善用組成物を提供する。
【0015】
本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む神経炎症性疾患の予防または治療方法を提供する。
【0016】
本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む薬学的組成物の、神経炎症性疾患の予防または治療用途を提供する。
【0017】
本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩の、神経炎症性疾患の予防または治療用薬学的組成物を生産するための用途を提供する。
【0018】
本発明のさらに他の一実施形態は、神経炎症性疾患の予防または治療に使用するためのジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む薬学的組成物を提供する。
【0019】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0020】
本発明の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む神経炎症性疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0021】
本発明の「ジダノシン(didanosine)」は化学式C1012で構成され、IUPAC命名法によって9-[(2R,5S)-5-(hydroxymethyl)oxolan-2-yl]-1H-purin-6-oneと命名され、下記化学式1の構造を有する化合物を意味し、本発明の一実施形態による神経炎症性疾患の予防、改善または治療用薬学的組成物の有効成分は、ジダノシン、その誘導体、代謝産物および薬学的に許容可能な塩を含む群より選択される1種以上であり得る。
【0022】
[化学式1]
【化1】
【0023】
本発明に係る化学式1で表されるジダノシンは塩の形態で使用できる。前記塩としては、薬学的または食品学的に許容される多様な有機酸または無機酸によって形成された酸付加塩を使用することができる。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜硝酸または亜リン酸などの無機酸類と脂肪族モノおよびジカルボキシレート、フェニル-置換されたアルカノエート、ヒドロキシアルカノエート、およびアルカンジオエート、芳香族酸類、脂肪族および芳香族スルホン酸類などの無毒性有機酸から得ることができる。このような無毒性塩類としては、スルフェート、ピロスルフェート、ビスルフェート、スルファート、ビスルファート、ニトレート、ホスフェート、モノヒドロゲンホスフェート、ジヒドロゲンホスフェート、メタホスフェート、ピロホスフェートクロリド、ブロミド、ヨージド、フルオリド、アセテート、プロピオネート、デカノエート、カプリレート、アクリレート、ホルメート、イソブチレート、カプレート、ヘプタノエート、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、琥珀酸、スベレート、セバケート、フマレート、マレエート、ブチン-1,4-ジオエート、ヘキサン-1,6-ジオン酸、安息香酸、クロロ安息香酸、メチル安息香酸、ジニトロ安息香酸、ヒドロキシベンゾエート、メトキシ安息香酸、フタル酸、テレフタレート、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸、フェニルブチレート、シトレート、ラクテート、β-ヒドロキシブチレート、グリコレート、マレート、タルトレート、メタンスルホネート、プロパンスルホネート、ナフタレン-1-スルホネート、ナフタレン-2-スルホネート、マンデレート、トリフルオロ酢酸などを使用して製造することができる。
【0024】
この時、本発明に係る前記酸付加塩は、通常の方法、例えば、化学式1の化合物を過剰の酸水溶液に溶解させ、この塩を水混和性有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、アセトンまたはアセトニトリルを使用して沈殿させて製造することができる。また、この混合物で溶媒や過剰の酸を蒸発させた後に乾燥させるか、または析出した塩を吸入ろ過して製造することもできる。
【0025】
また、本発明に係る化学式1で表されるジダノシンは、塩基を使用して薬学的または食品学的に許容可能な金属塩を作ることができる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は例えば、化合物を過剰のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物溶液中に溶解し、非溶解化合物塩をろ過し、濾液を蒸発、乾燥させて得られる。この時、金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩を製造することが農薬学上好ましい。また、これに対応する銀塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を適当な銀塩(例えば、硝酸銀)と反応させて得ることができる。
【0026】
本発明で使用される用語「神経炎症性疾患」は神経系の炎症によって発生する疾患を全て含むことができる。例えば、前記疾患は、多発性硬化症、神経芽細胞腫、脳卒中、認知症、アルツハイマー病、認知障害、記憶障害、注意障害、パキスン病、ルゲリック病、ハンチントン病、クロイツフェルトヤコブ病、心的外傷後ストレス障害、うつ病、精神分裂病、神経障害性疼痛、および筋萎縮性側索硬化症からなる群より選択される1種以上であり得るが、これらに限定されない。
【0027】
前記アルツハイマー病(AD)は例えば、特発性アルツハイマー疾(sporadic Alzheimer disease、SAD)、または家族性アルツハイマー認知症(Familial Alzheimer’s disease、FAD)などを含み得る。家族性アルツハイマー認知症の主な原因はPSEN遺伝子のためであると知られており、PSEN遺伝子は膜貫通タンパク質であるpresenilinを発現する遺伝子で、gamma-secretaseの触媒部位を発現させる。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、前記疾患は、遺伝性認知症または家族性アルツハイマー病(Familial Alzheimer’s Disease;FAD)であり得る。より具体的には、前記疾患は、Amyloid Precursor Protein(APP)、Presenilin 1(PSEN1)、およびPresenilin 2(PSEN2)からなる群より選択される1種以上の遺伝子変異を有するアルツハイマー疾患またはアルツハイマー関連認知症であり得る。前記Presenilin 2遺伝子変異は、PSEN2 N141I以外にA85V、N141Y、M174I、G212V、A237V、M239I、およびM239Vからなる群より選択される1種以上を含み得る。
【0029】
前記疾患は、神経炎症によって発生する認知障害、記憶力低下、アルツハイマー病またはその関連症状であり、老化、遺伝的変異、頭部外傷、うつ病または高血圧による合併症症状などと共に発生するかまたは悪化する。
【0030】
前記神経炎症は、遺伝的突然変異、感染、脳挫傷(brain trauma)、およびアルコール中毒からなる群より選択される1種以上が誘発したものであり得る。前記遺伝的突然変異はAmyloid Precursor Protein(APP)、Presenilin 1(Psen1)、およびPresenilin 2(Psen2)からなる群より選択される1種以上の遺伝子変異であり得る。
【0031】
本発明で使用される用語「神経炎症誘導によるアルツハイマー」は、神経炎症反応を人為的に発生させて誘導された認知症を意味し、老化による認知症モデルとは異なり、短期間内に認知症を発現させることができる。本発明で使用される用語「神経炎症誘導によるアルツハイマー」は、神経炎症反応を人為的に発生させて誘導された認知症を意味する。
【0032】
さらに詳しくは、本発明に係る対象および/または疾患は、正常対象または正常疾患と比較してAmyloid Precursor Protein(APP)、Presenilin 1(Psen1)、およびPsenilin 2からなる群より選択される1種以上の遺伝子変異特性を有し得る。
【0033】
本発明の一実施形態による組成物は、中枢神経系で炎症性サイトカインの発現を抑制するものであり得る。前記炎症性サイトカインは、神経炎症性サイトカインであり得る。
【0034】
本発明で使用される用語「炎症性サイトカイン」とは、細菌やウイルス感染、組織損傷などによる炎症反応に関与するサイトカインを意味し、本発明のジダノシンまたはその塩を含む組成物は前記炎症性サイトカインの発現を抑制するものであり、本発明によって抑制される炎症性サイトカインは、好ましくはIL-6であり得るが、これに限定されるものではない。特定理論に限定されず、神経炎症性疾患においては炎症性サイトカインが増加することがあり、IL-6などの炎症性サイトカインを抑制させてアルツハイマーなどの神経炎症性疾患を治療および改善させることができる。したがって、本発明に係るジダノシンまたはその塩は転写活性因子の損傷を回復させることによって炎症性サイトカインの発現を抑制させ、アルツハイマーをはじめとする神経炎症性疾患の治療に有用に使用できる。
【0035】
本実施形態で、ジダノシンまたはその塩を有効成分として含む組成物が小膠細胞で神経炎症を誘発する神経炎症性サイトカインの発現を抑制して動物モデルの抗炎症効果によりアルツハイマーの予防、改善または治療効果を確認した。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、ジダノシンを処理する場合、アルツハイマー病の動物モデルの1次小膠細胞でIL-6の分泌を有意的に減少させ(実施例6参照)、細胞毒性が殆どないことを確認した(実施例5参照)。
【0037】
本実施形態で神経炎症性疾患、例えば、神経炎症性アルツハイマーが発病したマウスモデルに由来する小膠細胞にジダノシンを処理する場合、炎症性サイトカインの発現を抑制することによって抗炎症効果および記憶力回復効果が示されることを確認した。したがって、本発明の一実施形態による組成物は、小膠細胞の神経炎症性サイトカインの発現を抑制するものであり得る。前記小膠細胞は、Amyloid Precursor Protein(APP)、Presenilin 1(PSEN1)、およびPresenilin 2(PSEN2)からなる群より選択される1種以上の遺伝子変異を有し得る。また、本発明の一実施形態による組成物は、記憶力改善用組成物であり得る。
【0038】
具体的には、本発明者らは小膠細胞で炎症反応を起こす炎症性サイトカインの発現を調節して神経炎症性疾患を治療することができる物質について研究した結果、アルツハイマーが発病したPSEN2 N141I KI/+マウスモデルの小膠細胞にジダノシンを処理する場合、炎症性サイトカインIL-6の発現抑制をよって抗炎症効果が示され、アミロイドベータ分解を促進することを確認することによって本発明を完成した。また、他のアルツハイマー病モデルである5XFADマウスでジダノシンが減退した認知機能を改善することを確認した。
【0039】
本明細書で「PSEN2遺伝子」は、本明細書でPSEN2ポリペプチドをコードする遺伝子を称する。PSEN2遺伝子はNCBI基準配列でヒトPSEN2遺伝子はNC_000001.11(226870594..226903829))に位置し、マウスPSEN2遺伝子はNC_000067.7に位置し、これらの配列だけでなく公知のオルソログとして含む。「PSEN2ポリペプチド」はNCBI基準配列でヒトPSEN2タンパク質はNP_000438.2に位置し、マウスPSEN2タンパク質はNP_001122077に位置し、これらの配列だけでなく公知のオルソログとして含む。
【0040】
本発明に係る神経炎症および/またはアルツハイマー病と関連性を有するPSEN2遺伝子の変異としてはA85V、N141I、N141Y、M174I、G212V、A237V、M239I、またはM239Vが知られており、これらの変異を1種以上含むことができる(Jiang et al.,「A Review of the Familial Alzheimer’s Disease Locus PRESENILIN 2 and Its Relationship to PRESENILIN 1.」Journal of Alzheimer’s Disease 66(2018)1223-1339)。
【0041】
本実施形態によれば、家族性アルツハイマー病突然変異の一つで、presenilin2遺伝子の141番アミノ酸N(アルギニン)がI(イソロイシン)で置換されたPsen2 N141I knock-in(KI)動物モデルに、ジダノシンを処理する場合、炎症性サイトカインIL-6(Interleuckine-6)の発現を抑制し、これによって抗炎症効果および記憶力回復効果が示されることを確認した。
【0042】
したがって、本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、神経炎症に対する抗炎症組成物を提供する。
【0043】
本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、記憶力改善用組成物を提供する。
【0044】
前記実施形態の結果から、本発明に係るジダノシンを動物モデルまたはその小膠細胞に処理する場合、神経炎症反応が緩和されることを確認し、ジダノシンは血液脳関門を通過することが知られているので、本発明に係る組成物はアルツハイマーをはじめとする神経炎症疾患改善または治療のための薬学的組成物または健康機能食品組成物として有用に活用できる。
【0045】
本発明のさらに他の実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、小膠細胞(microglia)のアミロイドベータ分解促進用組成物を提供する。または、本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む薬学組成物の、小膠細胞(microglia)のアミロイドベータ分解促進用途に関する。または、本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその薬学的に許容可能な塩を含む小膠細胞(microglia)のアミロイドベータ分解促進に使用するための薬学組成物を提供する。
【0046】
前記小膠細胞は、神経炎症によってアミロイドベータ分解能が低下したものであり得る。
【0047】
前記小膠細胞は、Amyloid Precursor Protein(APP)、Presenilin 1(PSEN1)、およびPresenilin 2(PSEN2)からなる群より選択される1種以上の遺伝子変異を有し得る。一例として、前記小膠細胞は、Presenilin 2遺伝子変異を有する小膠細胞、具体的には、Psen2 N141I KI/+小膠細胞であり得る。
【0048】
本実施形態で小膠細胞にジダノシンを処理した結果、低下したアミロイドベータ分解能力を回復することができ、したがって、本発明の一例による組成物は小膠細胞のアミロイドベータ分解能力を回復させるものであり得る。
【0049】
本発明のさらに他の一実施形態は、ジダノシン(didanosine)またはその食品学的に許容可能な塩を含む、神経炎症性疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。前記食品は健康機能食品であり得る。前記ジダノシン、前記神経炎症性疾患などは上述した通りである。
【0050】
本発明に係る組成物が健康機能食品組成物の形態である場合、特定保健用食品、栄養供給以外にも生体調節機能が効率的に示されるように加工された医学および医療効果の高い食品に製造でき、前記食品は場合によって、機能性食品、健康食品、健康補助食品として混用でき、有用な効果を得るために錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤などの多様な形態に製造することができる。
【0051】
本発明の健康機能食品は食品組成物に通常使用され、香、味、視覚などを向上させることができる追加成分を含むことができる。例えば、ビタミンA、C、D、E、B1、B2、B6、B12、ニアシン(niacin)、ビオチン(biotin)、ホレート(folate)、パントテン酸(panthotenic acid)などを含むことができる。また、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、銅(Cu)などのミネラルを含むことができる。また、リシン、トリプトファン、システイン、バリンなどのアミノ酸を含むことができる。また、防腐剤(ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、殺菌剤(さらし粉と高度さらし粉、次亜塩素酸ナトリウムなど)、酸化防止剤(ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、着色剤(タール色素など)、発色剤(亜硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなど)、漂白剤(亜硫酸ナトリウム)、調味料(MSGグルタミン酸ナトリウムなど)、甘味料(ズルチン、シクラメート、サッカリン、ナトリウムなど)、香料(バニリン、ラクトン類など)、膨張剤(明礬、D-酒石酸水素カリウムなど)、強化剤、乳化剤、増粘剤(糊料)、被膜剤、ガム基礎剤、泡抑制剤、溶剤、改良剤などの食品添加物(food additives)を添加することができる。前記添加物は、食品の種類によって選別され適切な量で使用できる。
【0052】
本発明の健康機能食品を食品添加物として使用する場合、これをそのまま添加するか他の食品または食品成分と共に使用することができ、通常の方法によって適切に使用できる。
【0053】
本発明の健康機能食品において、ジダノシンの含量は特に限定されず、投与対象の状態、具体的な病症の種類、進行程度などによって多様に変更できる。必要な場合、食品の全体含量で含むこともできる。
【0054】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記薬学的組成物を個体に投与する段階を含む神経炎症性疾患の治療方法を提供する。前記薬学的組成物、前記神経炎症性疾患などは上述した通りである。
【0055】
本発明で「個体」はラット、家畜、マウス、ヒトを含む哺乳類であり得、具体的には、神経炎症性疾患、例えば、アルツハイマー病の治療が必要な伴侶犬、競走馬、ヒトなどであり、好ましくはヒトであり得る。
【0056】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与するか非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができ、投与量は対象の状態および体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および時間によって異なるが、当業者によって適宜選択することができる。
【0057】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与できる。本発明において「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/危険比率で疾患を治療するための十分な量を意味し、有効容量水準は疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素およびその他の医学分野で公知の要素によって決定できる。本発明に係る薬学的組成物は、個別治療剤として投与するかまたは他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤と順次または同時に投与することができ、単一または多重投与することができる。前記要素を全て考慮して副作用なく最小限の量で最大効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは当業者によって決定できる。
【0058】
具体的には、本発明の薬学的組成物の有効量は対象の年齢、性別、状態、体重、体内への活性成分の吸収度、不活性率および排泄速度、疾病種類、併用される薬物によって異なり、一般には体重1kg当たり0.001~4mgを毎日または隔日投与するか、1日1~3回に分けて投与することができる。しかし、投与経路、性別、体重、年齢などによって増減できるので、前記投与量はいかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
例えば、本発明の一実施形態による組成物は、HIV治療剤に投与されるジダノシン有効量の1倍未満、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、0.3倍以下、0.2倍以下、0.1倍以下、0.09倍以下、0.08倍以下、0.07倍以下、0.06倍以下、0.05倍以下、0.04倍以下、0.03倍以下、0.02倍以下、または0.01倍以下で投与することができる。この時、前記投与量の下限値を特定していなくても、神経炎症性疾患の予防または治療のために通常の技術者が本発明を明確に実施できるが、例えば、前記投与量の下限値はHIV治療剤として投与されるジダノシン有効量の0.0001倍以上、0.0005倍以上、0.001倍以上、0.005倍以上、0.01倍以上、0.05倍以上、または0.1倍以上であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0060】
例えば、本発明の一実施形態による組成物は0.001~4mg/kg、0.001~3mg/kg、0.001~2.5mg/kg、0.001~2mg/kg、0.001~1.5mg/kg、0.001~1mg/kg、0.001~0.9mg/kg、0.001~0.8mg/kg、0.001~0.7mg/kg、0.001~0.6mg/kg、0.001~0.5mg/kg、0.001~0.45mg/kg、0.001~0.4mg/kg、0.005~4mg/kg、0.005~3mg/kg、0.005~2.5mg/kg、0.005~2mg/kg、0.005~1.5mg/kg、0.005~1mg/kg、0.005~0.9mg/kg、0.005~0.8mg/kg、0.005~0.7mg/kg、0.005~0.6mg/kg、0.005~0.5mg/kg、0.005~0.45mg/kg、0.005~0.4mg/kg、0.01~4mg/kg、0.01~3mg/kg、0.01~2.5mg/kg、0.01~2mg/kg、0.01~1.5mg/kg、0.01~1mg/kg、0.01~0.9mg/kg、0.01~0.8mg/kg、0.01~0.7mg/kg、0.01~0.6mg/kg、0.01~0.5mg/kg、0.01~0.45mg/kg、0.01~0.4mg/kg、0.1~4mg/kg、0.1~3mg/kg、0.1~2.5mg/kg、0.1~2mg/kg、0.1~1.5mg/kg、0.1~1mg/kg、0.1~0.9mg/kg、0.1~0.8mg/kg、0.1~0.7mg/kg、0.1~0.6mg/kg、0.1~0.5mg/kg、0.1~0.45mg/kg、または0.1~0.4mg/kgの濃度の1日投与量で投与することができる。
【0061】
本発明で使用される用語「予防」とは、本発明に係る組成物の投与によって神経炎症性疾患を抑制させるか、または発病を遅延させる全ての行為を意味する。
【0062】
本発明で使用される用語「改善」とは、本発明に係る組成物の投与によって神経炎症性疾患の症状程度を減少させる全ての行為を意味する。
【0063】
本発明で使用される用語「治療」とは、本発明に係る薬学的組成物の投与によって神経炎症性疾患に対する症状が好転または有利に変更される全ての行為を意味する。詳しくは、本明細書で使用される用語「治療」は、治療中の状態、障害または疾患と関連するかまたはこれによって引き起こされる少なくとも一つの症状の減少または緩和を含む。治療された対象は症状(例えば、アルツハイマー病または関連する病態)の部分的または全体的な緩和を示すことができ、または症状は本発明の方法による治療後に静的に残ることがある。用語「治療」は、予防、療法および治癒を含むことが意図される。
【0064】
本発明に係る組成物が薬学的組成物の形態である場合、薬学的に有効な量のジダノシンを単独で含むか、または一つ以上の薬学的に許容される担体を含むことができる。この時、薬学的に許容される担体は、通常製剤に用いられるものとして、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。また、前記成分以外に潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0065】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記薬学的組成物の神経炎症性疾患の予防または治療用途に関する。前記薬学的組成物、前記神経炎症性疾患などは上述した通りである。
【0066】
本発明のさらに他の一実施形態は、神経炎症性疾患の予防または治療用薬学的組成物を生産するための前記薬学的組成物の用途に関する。前記薬学的組成物、前記神経炎症性疾患などは上述した通りである。
【0067】
本発明のさらに他の一実施形態は、神経炎症性疾患の予防または治療に用いるための前記薬学的組成物に関する。前記薬学的組成物、前記神経炎症性疾患などは上述した通りである。
【発明の効果】
【0068】
本発明の一実施形態による組成物は、神経炎症性サイトカインの発現を抑制することができ、神経炎症性疾患に効果的であり、アルツハイマー病マウスの認知機能を改善させることを確認したところ、医薬品、医薬部外品素材の開発および関連産業に有用に利用できることが期待される。
【0069】
本発明の一実施形態による組成物は、神経炎症性サイトカインの発現を抑制し、アミロイドベータの分解を促進し、アルツハイマー病の動物モデルで認知機能を改善でき、神経炎症性疾患に効果があることを確認したところ、医薬品、医薬部外品素材の開発および関連産業に有用に利用できることが期待される。
【0070】
但し、本発明の効果は上記効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明または特許請求の範囲に記載された発明の構成から推論可能な全ての効果を含むものと理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】本発明の一実施形態によってPsen2 N141I変異アルツハイマー疾マウスモデルの製作に関し、図1aは、N141I標的挿入のための模式図を示したものであり、図1bは、正常(野生型)、KI/+、KI/KIマウスのSangerシーケンシングクロマトグラムの結果である。
図2】本発明の一実施形態によってPsen2 N141I変異アルツハイマー疾マウスモデルが正常(野生型)マウスに比べて過度に炎症反応を起こすことを確認したものであって、図2aは、多様な濃度のlipopolysaccharide(LPS)腹腔注射による神経炎症を誘導した動物でIL-6の血中濃度を示す。多様な濃度のLPS腹腔注射によってIL-6は全てのLSP濃度でPsen2変異アルツハイマー病マウスで過発現され、正常マウスとアルツハイマーモデルの発現差は低濃度でますます広がる。図2bは、LPS腹腔注射によるTNF-αの生成を示し、全てのLPS濃度でTNF-αは正常マウスとPsen2 N141I変異アルツハイマー病マウスの間に同じ血中濃度を示す。図2cは、炎症性サイトカインであるIL-6、CXCL1、CCL2、CCL5の血中濃度の変化を示す。野生型マウスでは炎症反応を起こさない低濃度のLPS(0.35μg/kg)を注射した時、Psen2 N141I変異マウスにのみ炎症サイトカインが顕著に増加したことを示す。
図3図3aは、正常マウスとPsen2 N141I変異アルツハイマー病マウスの海馬でIba-1(小膠細胞標識抗体)染色イメージを示し、図3bは、IMARISソフトウェアを使用してIba-1信号を3Dフィラメントイメージ化した図であり、図3cは、IMARISソフトウェアのFilamentTracker分析によってdendrite長さおよび枝数データを示す。これによって、Psen2 N141I変異アルツハイマー病マウスは、低濃度の炎症刺激でも炎症性サイトカインを生成して過度に免疫反応を起こすことが分かった。
図4】Psen2 N141I変異アルツハイマー病マウスモデルが低濃度のLPS腹腔注射によって記憶力悪化を示すことを確認した結果であって、図4aは、Y-maze分析によって神経炎症を誘導するPsen2 N141I変異マウスは記憶力悪化を示すことを確認したものである。図4bは、Y-maze分析でマウスの運動性に差がないことを示すものである。図4cは、T-maze分析実験方法に対する模式図である。図4dは、T-maze分析によって神経炎症を誘導するPsen2 N141I変異マウスは成功率が顕著に低下して記憶力悪化を示すことを確認したものである。
図5】野生型マウスに由来する小膠細胞にジダノシンを処理した後、細胞死滅率を観察した結果である。
図6】野生型(WT)およびアルツハイマー病の動物モデルであるPsen2 N141I KI/+マウス(KI/+)に由来する小膠細胞にLPSとジダノシンの処理によって炎症性因子であるIL-6の分泌量を測定した結果である。
図7】野生型(WT)およびアルツハイマー病の動物モデルであるPsen2 N141I KI/+マウス(KI/+)に由来する小膠細胞の低下したアミロイドベータ分解能力を、ジダノシンが回復させることを確認した図である。
図8】野生型(WT)およびアルツハイマー病の動物モデルであるPsen2 N141I KI/+マウス(KI/+)で神経炎症によって過分泌されたIL-6量が顕著に減少することを確認した図である。
図9a】ジダノシンの投与が運動性に影響を与えないことを確認した図である。
図9b】ジダノシンが記憶能力低下を回復する効果を有することを確認した図である。
図10】ジダノシンがLPSによって神経炎症が誘発されたPsen2 N141I KI/+マウス由来小膠細胞の増加したIL-6分泌量を減少する効果を有することを確認した図である。
図11a】ジダノシンの投与が野生型マウスおよび5XFAD疾患の動物モデルで運動性に影響を与えないことを確認した図である。
図11b】ジダノシンが5XFAD疾患の動物モデルで記憶能力低下を回復する効果を有することを確認した図である。
図12】ジダノシンが5XFAD疾患の動物モデルで脳の炎症を回復する効果を有することを確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供させるものに過ぎず、下記の実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0073】
実施例1:疾患動物モデルの製造
【0074】
動物の管理および使用に関する全ての手続は動物管理機関(Institutional Animal care)およびDGIST使用委員会(Use Committee of DGIST)の承認を受けて行った。動物はDGIST動物施設(DGIST animal facility)で12時間の明周期、12時間の暗周期下で無菌環境で維持した。
【0075】
ヒト神経炎症性疾患、例えば、アルツハイマー疾をより正確に再現し、内因性発現水準を維持するために異型接合Psen2N141I/+(KI/+)マウスを使用した。Psen2N141I/+マウスは相同組換えを使用して生成された。
【0076】
具体的には、家族性アルツハイマー病突然変異の一つとしてpresenilin2遺伝子の141番アミノ酸N(アルギニン)がI(イソロイシン)で置換されたPsen2 N141I knock-in(KI)動物モデルを製作した。標的化ベクターはエクソン4部位のI141突然変異およびNeo-loxp配列を含む。標的化ベクターの相同性部位は野生型(WT)対立遺伝子のPsen2に挿入された。Psen2N141I/N141I;loxp-Neo-loxpマウスはPsen2 N141I突然変異knock-inマウスモデルを生成するためにCre-loxpシステムを用いてCreマウスと交配した。
【0077】
本実施例で「Psen2 N141I」とは、動物モデルの正常Psen2遺伝子をヒトで報告された認知症突然変異と同じ変異を発現するように置換したことを意味し、より具体的には、マウスPresenilin2遺伝子の141番アミノ酸がNからIに置換されたことを意味する。本発明では、Psen2 N141I遺伝子として配列番号1のポリヌクレオチドを使用し、野生型Psen2遺伝子は配列番号2で表される。
【0078】
図1aに示すように、Psen2 N141I対立遺伝子(Psen2N141I/+およびPsen2N141I/N141I)を保有したKIマウスを生成した。図1bに示すように、AAC配列からなるAsparagine(N)でAACとATCへの置換はAsparagine(N)とIsoleucine(I)を全て有するKI/+モデル、全てATCで置換されたI141を有するKI/KIモデルをマウスの尾から抽出したDNAのゲノム配列分析により確認した。
【0079】
実施例2:LPSによる疾患動物モデルの炎症誘発
【0080】
本実施例は、Psen2 N141I変異アルツハイマー疾マウスモデルが正常(野生型)マウスに比べて過度に炎症反応を起こすことを確認するために行った。
【0081】
2-1:炎症誘発LPS濃度の分析
【0082】
Psen2N141I/+マウスから派生した小膠細胞の免疫反応が悪化するにつれて動物が炎症および認知機能低下を示す傾向があることを確認するために、様々なLPS濃度で野生型およびPsen2N141I/+マウス間の免疫反応を比較した。
【0083】
マウスの免疫反応は活動が始まる頃から数時間内に最高潮に達する傾向を示すところ、8週齢の野生型およびPsen2N141I/+マウスに18:00時基準でLPSを腹腔内(i.p.)注入し(Zeitgeber時間11:00、07:00に点灯、19:00に消灯)20時間後、翌日14:00時に炎症反応をモニターした。LPSはEscherichia coli 0111:B4 strainから得たもので、Toll様受容体4のリガンドとして作用して細胞の免疫反応を誘導した。Phosphate-buffered saline(PBS)に濃度に合わせて希釈したLPSを100μLずつマウス腹腔内に注入した。
【0084】
具体的には、前記実施例1で得られたPsen2 N141I変異アルツハイマー疾マウスモデルに1.4、3.6、4.0、25、および5,000μg/kgの濃度のLPS腹腔注射によって神経炎症を誘導した。
【0085】
対照実験として、前記アルツハイマー疾マウスモデルの代わりに、野生型マウスモデルを使用して同様にLPSを注入して神経炎症誘発試験を行った。また、対照実験としてLPSを注入しない野生型マウスとPsen2 N141I変異アルツハイマー疾マウスモデルを準備した。したがって、グループ1はLPSを注入しない野生型マウス(WT(LPS(-)))、グループ2は多様なLPSを投入した野生型マウス(WT(LPS(+)))、グループ3はLPSを注入しないアルツハイマー疾マウスモデル(KI/+(LPS(-)))、グループ4は多様なLPSを投入したアルツハイマー疾マウスモデル(KI/+(LPS(+)))を準備した。1グループ当たりのマウスはそれぞれ5~8匹を使用した。
【0086】
多様な濃度のLPS注入による神経炎症を調査するために、前記LPSを注入して約20時間が経過した後、グループ2の野生型マウスおよびグループ4のアルツハイマー疾マウスモデルの頬静脈から血液を抽出し、遠心分離して得られた血清でそれぞれIL-6、TNFα、CCL2、CXCL1、CCL5用ELISAキット(R&D Systems)を用いて製造会社の指針に従って各タンパク質量をELISA方法で測定した。また、グループ1のLPSを注入しない野生型マウスとグループ3のPsen2 N141I変異アルツハイマー疾マウスモデルで同様に血清を抽出し、キット製造会社の指針に従って各タンパク質量をELISA方法で測定した。
【0087】
前記グループ1~グループ4のマウスの血清で分析したIL-6とTNF-α濃度を下記表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1は、各グループでL-6とTNF-αの血中濃度の平均値(mean±SEM)を示す。LPS注入したグループ2の野生型マウスおよびグループ4のアルツハイマー疾マウスモデルで多様な濃度のLPS腹腔注射によってIL-6は全て過発現され、野生型マウスとアルツハイマー疾マウスモデルの発現差は低濃度でますます広がる。LPSによってTNF-αは野生型マウスとアルツハイマー疾マウスモデルの間に同じ血中濃度を示した。グループ1のLPSを注入しない野生型マウスとグループ3のPsen2 N141I変異アルツハイマー疾マウスモデルではIL-6とTNF-αの両方とも分泌量が非常に少なく、同じである。
【0090】
その結果、図2aに示すように、野生型マウスと比較してKI/+アルツハイマー疾マウスはテストされた全てのLPS容量でIL-6の循環水準が高く、遺伝子型間の差は低い容量でさらに著しく示されることを確認し、図2bに示すように、TNF-αの血中濃度は全ての容量で遺伝子型間に同様に現れることを確認した。
【0091】
2-2:低濃度のLPS処理による疾病動物の炎症誘発
【0092】
前記実施例2-1と同様の方法でグループ1~グループ4の動物を準備し、但し、グループ2およびグループ4では多様な濃度のLPS処理の代わりに、野生型マウスでは炎症反応を起こさない低濃度のLPS(0.35μg/kg)を使用した。
【0093】
マウスモデルで同じ血清を抽出し、キット製造会社の指針に従って各タンパク質量をELISA方法で測定した。前記グループ1~グループ4のマウスの血清で分析した炎症性サイトカインであるIL-6、CXCL1、CCL2、CCL5の血中濃度を下記表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
上記表2に炎症性サイトカインであるIL-6、CXCL1、CCL2、CCL5の血中濃度の変化(mean±SEM)を示す。グループ2で、野生型マウスでは炎症反応を起こさない低濃度のLPS(0.35μg/kg)を注射した時、グループ4のPsen2アルツハイマー疾マウスにのみTNF-αとは異なり、炎症性サイトカインが顕著に増加したことを確認した。
【0096】
図2cに示すように、最も低いLPS容量(0.35μg/体重kg)は野生型マウスで炎症を起こさなかったが、Psen2アルツハイマー疾マウスで炎症性サイトカイン(IL-6、CXCL1、CCL2およびCCL5)の血中濃度が顕著に増加したことを示す。
【0097】
実施例3:小膠細胞形態分析を用いた神経炎症動物モデルの炎症悪化確認
【0098】
小膠細胞の形態はその機能と密接な関連があり、小膠細胞の活性化は形状変化と関連することを特徴とし、炎症性サイトカインの増加した生産が小膠細胞の形態に反映されるかどうかを確認するために、免疫組織化学分析により、小膠細胞特異的マーカであるIba-1に対抗する抗体を使用して野生型およびPsen2変異アルツハイマー疾マウスの海馬で小膠細胞の形状を調査した。
【0099】
前記実施例2-2で準備されたグループ1~グループ4のマウスに対して免疫組織化学分析および共焦点分析を行った。前記グループ2およびグループ4に注入されたLPS濃度は野生型マウスで炎症反応を起こさない低濃度のLPS(0.35μg/kg)を使用したものである。
【0100】
免疫組織化学分析は具体的には、マウスはゾレチル(Virbac、50mg/kg)とロムプン(Bayer、10mg/kg)の混合物を注入して麻酔した。その後、マウスにPBSを灌流し、4%のparaformaldehyde(PFA)を灌流して固定した。脳を採取して4%PFAで16時間固定させた後、チューブ底に沈むまで30%のスクロースに移した後frozen溶液を用いて保管した。Coronal方向に50μmの厚さでスライスした脳試料を95℃で抗原復旧(antigen retrieval)過程を経た後、4℃で24時間3%ウシ血清アルブミンが含有されたPBSでIBA-1抗体(1:250)を処理した後、常温で2時間2次抗体を処理した。イメージはLSM7およびLSM700共焦点レーザスキャン顕微鏡を用いた。
【0101】
図3aに示すように、グループ1の野生型マウスの海馬での小膠細胞は高度に分化した過程を有する小さな細胞体を有し、サイトカイン放出誘導がないものと一致して低容量のLPSはグループ2の野生型マウスの海馬の小膠細胞の形態を変更しない反面、LPSを注入しない場合にもグループ3のPsen2変異アルツハイマー疾マウスの海馬の小膠細胞はさらに短い丸形状の拡大した体細胞を示し、このような形態学的特徴はグループ4でLPS注入によってさらに増加することを確認した。
【0102】
図3bに示すように、グループ1~グループ4のマウスの海馬の小膠細胞の組織学的共焦点イメージを3D形態に再構成し、IMARISソフトウェアを使用して多様な形態学的媒介変数を測定した。具体的には、共焦点顕微鏡で無作為に選択されたフィールドの全体Z軸を合わせてイメージを得た後、IMARISソフトウェア(v9.2.1、bitplane AG)を用いて3Dイメージング化した。
【0103】
【表3】
【0104】
上記表3は、dendrite長さ、dendrite枝数の定量値(mean±SEM)を整理した。
【0105】
その結果、図3cに示すように、各小膠細胞の総樹状突起の長さと樹状突起末端地点はグループ1と2の野生型マウスに比べてグループ3と4のアルツハイマー疾マウスおよびLPS注入によってさらに減少することを確認した。前記結果から、形態学に基づいた小膠細胞の活性化はPsen2変異アルツハイマー疾マウスで明らかに示され、軽いLPS注入によってさらに誘導されることを確認した。
【0106】
実施例4:神経炎症動物モデルの記憶力減退確認
【0107】
4-1.Y-maze分析
【0108】
前記実施例2-2で準備されたグループ1~グループ4のマウスの空間学習能力および記憶能力を検査するためにLPS注入20時間後、Y-mazeテストを行った。前記グループ2およびグループ4に注入されたLPSの濃度は野生型マウスで炎症反応を起こさない低濃度のLPS(0.35μg/kg)を使用した。
【0109】
具体的には、Y-mazeは空間作業記憶能力を評価するために使用される。Y字型迷路の白いプラスチックアームで行い、マウスをアーム(arm)に入れて5分間自由にアームを探索できるようにした。実験はEthoVisionソフトウェア(Noldus)で記録した。エントリーの数とトライアド数を分析して3つの連続エントリーの数を可能なトライアド数×100(総アームエントリー-2)で割って交替比率(alternation)を計算した。
【0110】
【表4】
【0111】
上記表4は各グループのY-mazeの交替比率とアームエントリー数の平均値(mean±SEM)を示したものである。その結果、図4aおよび図4bに示すように、Y-mazeでアーム交替はグループ1の野生型マウス(13匹)とLPSを注入した野生型マウスグループ2(13匹)では炎症性サイトカインの分泌と比例して記憶能力の差はない。LPSを注入しないグループ1の野生型マウスとグループ3のPsen2変異アルツハイマー疾マウス(12匹)でも記憶能力の差は見られないが、LPSを注入したグループ4のPsen2変異アルツハイマー疾マウスグループ(15匹)では有意に減少した。総アームエントリー数は全てのグループで同じであるため、正常な運動機能を示すことを確認した。
【0112】
4-2.T-maze分析
【0113】
前記実施例2-2で準備されたグループ1~グループ4のマウスの学習記憶力をさらに分析するためにLPS注入20時間後に食品報酬を通じたT-mazeテストを行った。前記グループ2およびグループ4に注入されたLPS濃度は野生型マウスで炎症反応を起こさない低濃度のLPS(0.35μg/kg)を使用した。
【0114】
具体的には、T-mazeを用いて報酬に対する空間学習と記憶を評価した。図4cに示すように、T字型迷路の白いプラスチックアームで行われ、実験前5分間マウスを迷路と餌報酬に適応させ、その後の施行では両アームに片アームを塞ぎ、一方に報酬を与えた。マウスは開いたアームに到着して報酬を確認し、次の施行では以前に閉じたアームを開き、マウスを再び出発させ、新たに開いたアームを選択すると報酬を確認できるようにした。もし、マウスが以前に訪問したアームを間違って選択した場合、報酬を受け取ることができない。複数回の施行を通じて正しいアームを訪問した施行回数は全体施行の百分率で計算する。
【0115】
【表5】

上記表5は、各グループのT-maze遂行結果の成功率の平均値(mean±SEM)を示す。その結果、図4dに示すように、グループ1の野生型マウス(11匹)とLPSを注入したグループ2(11匹)では炎症性サイトカインの分泌と比例して学習および記憶能力の差はない。LPSを注入しないグループ1の野生型マウスとグループ3のアルツハイマー疾マウス(10匹)でも学習および記憶能力の差は見られないが、LPSを注入したグループ4のアルツハイマー疾マウスグループ(10匹)では有意に減少した。
前記結果から、低い容量のLPSは免疫反応の過活性を誘導し、Psen2 N141I KI/+アルツハイマー疾マウスでIL-6を含む炎症性サイトカインの過剰生産を通じて記憶力低下を誘発する反面、同じ容量のLPSは野生型マウスには無害であることを確認した。
【0116】
実施例5.ジダノシン処理による細胞毒性確認
【0117】
5-1.野生型マウス由来小膠細胞の準備
【0118】
野生型マウス由来の一次培養した小膠細胞を得るために、1~3日齢の新生野生型マウスから脳を抽出した後、細胞を分離し、10%熱-不活性化させたウシ胎児血清(HI-FBS、Hyclone)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Hyclone)が補充されたDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM、Corning)で培養した。1次小膠細胞は試験管内でタッピング(tapping)して12日後に分離した。1次小膠細胞の純度は小膠細胞マーカである抗-Iba-1抗体で免疫染色して推定した。
【0119】
5-2.細胞毒性確認
【0120】
ジダノシンの細胞毒性(cytotoxicity)を確認するために、野生型(WT)マウスの小膠細胞にジダノシンを1、5または10uMの濃度で処理して細胞死滅率を測定した。ジダノシン(CCL-D1-000017-G06)は韓国化合物銀行(Korea Chemical Bank)から提供を受けて実験に使用した。
【0121】
具体的には、前記実施例5-1で準備した小膠細胞を5×10の密度で96-well plateにシーディング(seeding)した。翌日、シーディングした細胞にジダノシンを0、1、5または10μMの濃度で12時間処理した後、Hoechst 33342(Invitrogen、H3570)およびpropidium iodide(PI;Sigma-Aldrich、P4170)を空洞染色させ、細胞死滅を測定した。染色された細胞のイメージは蛍光顕微鏡(Axiovert 40 CFL;Carl Zeiss)を用いてキャプチャーし、Hoechst陽性およびPI陽性細胞はNIH ImageJソフトウェアを用いて計算した。細胞死滅率(%)は、(PI-陽性[死んだ]細胞数/Hoechst-陽性[総]細胞数)×100で計算した。
【0122】
図5および表6に示すように、ジダノシンは細胞に対する毒性を示さないことを確認した。
【0123】
【表6】
【0124】
実施例6.疾患動物の小膠細胞を用いた薬物の神経炎症抑制効能
【0125】
実施例1で製造したPsen2 N141I KI/+マウスと野生型マウスを出生後1日~3日目になる時に脳を分離した。野生型とPsen2 N141I KI/+マウス由来1次小膠細胞は前記実施例5-1によって培養した。
【0126】
上記で準備した小膠細胞にジダノシンを0、5または10μMの濃度で30分間前処理し、Escherichia coli 0111:B4(L4391)由来LPSを1μg/mLの濃度でさらに処理して、12時間後培養液に分泌されたサイトカインIL-6量をELISAを通じて測定した。マウスのIL-6に対するELISAキットはR&D systemから購入し、製造会社の指針に従って培養培地でサイトカインを測定するために使用した。
【0127】
具体的には、一次培養した小膠細胞にジダノシンを処理したグループをそれぞれ以下のように区分した。
【0128】
【表7】

表7および図6に示すように、ジダノシンによってLPSを処理したPsen2 N141I KI/+マウス由来小膠細胞で増加しているIL-6の分泌量が有意に減少した。
【0129】
実施例7.ジダノシン処理による、小膠細胞でPsen2 N141I変異によって低下したアミロイドベータ分解能の回復効果確認
【0130】
実施例1で製造したPsen2 N141I KI/+マウスと野生型マウスを出生後1日~3日目になる時に脳を分離した。野生型とPsen2 N141I KI/+マウス由来1次小膠細胞は前記実施例5-1によって培養した。上記で準備した小膠細胞を分離および培養して24-well plateにcover glassと共にシーディングした。
【0131】
具体的には、FITC信号が結合されたアミロイドベータ1-42は以下の参照によって製造した(Cho,M.-H.et al.「Autophagy in microglia degrades extracellular β-amyloid fibrils and regulates the NLRP3 inflammasome.」 Autophagy 10,1761-1775(2014))。
【0132】
FITCが接合されたアミロイドベータオリゴマー(oligomer)を24時間メディアで凝集化(fibrillize)した。
【0133】
前記小膠細胞にジダノシンを10μMの濃度で30分間前処理後、上記で製造した凝集された(fibrilized)アミロイドベータ1-42(fAβ42)を4μMの濃度で小膠細胞の培養液に直接処理した。その後、凝集したアミロイドベータを処理し、2時間後washing過程を経て貪食されずにメディアに残っているアミロイドベータを除去した。
【0134】
その後、ジダノシンの持続的な処理と共に24時間後細胞固定化を経てslide glassに載せた後、細胞内に残っている凝集したアミロイドベータ量を測定して分解された程度を比較した。アミロイドベータの量は共焦点レーザ走査顕微鏡(LSM700)を通じて無作為に選択されたフィールドの細胞の全体z軸を2μmの間隔で撮影して、細胞内に存在するFITCラベルされたアミロイドベータシグナルのピクセル(pixel)数をZEN(black edition;Carl Zeiss)ソフトウェアを用いて計算して相対蛍光強度を測定することで定量した。
【0135】
図7および表8に示すように、ジダノシンはPsen2 N141I KI小膠細胞で低下したアミロイドベータ分解能力を回復させて神経炎症性疾患、例えばアルツハイマー病を治療する効果を示した。
【0136】
【表8】
【0137】
実施例8.Psen2 N141I KIモデルマウス(KI/+)を用いたサイトカイン発現分析
【0138】
野生型マウス(WT)と実施例1で製造したアルツハイマー病の誘発Psen2 N141I KIモデルマウス(KI/+)にジダノシンを5mg/kgの濃度で腹腔に注射し、4時間後にLPSを0.35μg/kgの濃度で腹腔注射した。
【0139】
図8に示すように、0.35μg/kgの濃度のLPSは野生型マウスでは炎症反応を誘導しなくてIL-6サイトカインの血中濃度を上げない、非常に低濃度に該当した。反面、Psen2 N141I KI/+マウスでは神経炎症を誘導してIL-6の過生成を起こした。また、5mg/kgの濃度のジダノシンはヒトには0.4mg/kg(24mg/60kg)の濃度に該当し、HIV治療剤として処方される1日250mgの容量に比べて約0.1倍以下の低濃度である。
【0140】
ジダノシンの投与24時間後、マウスの血液を採取して血清を分離し、分泌されたサイトカインIL-6量をELISAを通じて分析した。図8および表9に示すように、ジダノシンは神経炎症によって過分泌されたIL-6量を顕著に減少させた。
【0141】
【表9】
【0142】
実施例9.Psen2 N141I KIモデルマウス(KI/+)を用いた運動性および記憶力評価実験
【0143】
Psen2 N141I KI/+疾患動物モデルを用いた動物実験を行った。前記実施例5と同様の方法で、実施例1で得られたPsen2 N141I KIモデルマウス(KI/+)と野生型マウスにジダノシンを投与し、4時間後にLPSを0.35μg/kgの濃度で腹腔注射した。図9bおよび表11に示すように、0.35μg/kgの濃度のLPSは野生型マウスでは記憶力減退を誘導しない、非常に低濃度に該当する。反面、Psen2 N141I KI/+マウスでは神経炎症を誘導して記憶力減少を起こした。
【0144】
運動性の評価のために、ジダノシンの投与24時間後、Open field testを用いて移動速度と総距離を分析した。図9aおよび表10に示すように、ジダノシン腹腔注射は運動性に影響を与えないことを確認した。
【0145】
【表10】
【0146】
記憶力回復の評価のために、ジダノシンの投与24時間後、Y-maze分析を通じて空間記憶能力を評価した。具体的には、Y字迷路を用いてマウスを近いアーム(maze arm)に入れて5分間自由に歩き回るようにした。Y字の各アームをA、B、およびCと命名し、マウスが入るアームの名称を記載した。記録する間にマウスが行かなかった新たなアームに入る回数を次のように計算して分析した。Alternation(%)=(三回の連続した他の試み(arm)/(総試み(entry)数-2)×100で計算した。アームに入る総試み数(Number of enters)が同じであることで、運動性は各グループごとに同様であることを確認した。
【0147】
図9bおよび表11に示すように、ジダノシンはアルツハイマー病の誘発Psen2 N141I KIモデルマウスの記憶能力低下を野生型マウスの記憶力水準に回復させた。具体的には、実施例4-1で確認した通り、低濃度のLPSは正常群では記憶力減少を誘発せず、運動性にも影響を与えず、LPSを投与した正常群はLPSを投与していない正常群と記憶力と運動性に差を示さなかった。低濃度のLPSはアルツハイマー病の誘発群にのみ記憶力減少を誘発した。すなわち、ジダノシンはLSPを注入したアルツハイマー病の誘発Psen2 N141I KIマウスの減少した記憶力を、LPSを注入していない野生型マウス水準に回復する効果を示した。
【0148】
【表11】
【0149】
実施例10.疾患動物の小膠細胞を用いた薬物の神経炎症治療の効能
【0150】
実施例1で製造したPsen2 N141I KI/+マウスと野生型マウスを出生後1日~3日目になる時に脳を分離した。野生型とPsen2 N141I KI/+マウス由来1次小膠細胞は前記実施例5-1によって培養した。
【0151】
ジダノシンの治療効果を観察するために、上記で準備した小膠細胞にLPSを1μg/mLの濃度で先ず処理した後、1時間後にジダノシンを10μMの濃度で処理し、11時間後培養液に分泌されたサイトカインIL-6量をELISAを通じて測定した。マウスのIL-6に対するELISAキットはR&D systemから購入し、製造会社の指針に従って培養培地でサイトカインを測定するために使用した。
【0152】
一次培養した小膠細胞にジダノシンを処理したグループをそれぞれ以下のように区分した。図10および表12に示すように、LPSによって神経炎症が誘発されたPsen2 N141I KI/+マウス由来小膠細胞にジダノシンを処理した結果、増加しているIL-6の分泌量が有意に減少した。したがって、ジダノシンの神経炎症治療効果を確認した。
【0153】
【表12】
【0154】
実施例11.5xFADマウスモデルを用いた運動性および記憶力評価実験
【0155】
アルツハイマー病研究に用いられる動物モデルの1つとして総5個のAD関連突然変異があるAPPおよびPSEN1遺伝子(APP;Swedish(K670N/M671L)、Florida(I716V)、and London(V717I) mutations and PSEN1;M146L and L286V mutations)を発現する5XFADマウスモデルを用いた。Thy1(matureニューロン特異的標識)プロモーターによってAPPおよびPSEN1突然変異遺伝子が発現され、半接合マウスでも深刻なアミロイド病理と行動欠乏を示した。(Jawhar S. et al.「Motor deficits,neuron loss,and reduced anxiety coinciding with axonal degeneration and intraneuronal Aβ aggregation in the 5XFAD mouse model of Alzheimer’s disease.」Neurobiology of Aging 196.e29-40(2012))。
【0156】
老化した6ヶ月齢の5xFADマウスおよび野生型マウスにジダノシンを0.5mg/kg/dayの濃度で腹腔に1週間に5日連続で総4週注射した。0.5mg/kgの濃度のジダノシンはヒトには0.04mg/kg(2.4mg/60kg)の濃度に該当し、HIV治療剤として処方される1日250mgの容量に比べて約0.01倍以下の低濃度である。
【0157】
運動性の評価のために、実施例9と同様の方法でジダノシンの投与後、Open field testを用いて移動速度と総距離を分析した。図11aおよび表13に示すように、ジダノシン腹腔注射は運動性に影響を与えなかった。
【0158】
【表13】
【0159】
記憶力回復の評価のために、ジダノシンの投与後、実施例9と同様の方法で記憶力回復効果を評価した。図11bおよび表14に示すように、5XFAD(6ヶ月齢)アルツハイマー病モデルマウスで誘導された記憶能力低下がジダノシンによって回復したことを確認した。
【0160】
【表14】
【0161】
実施例12.5xFADマウスモデルを用いた神経炎症回復評価
【0162】
実施例11の実験終了後、5xFADマウスの海馬組織を分離してIL-6(Il-6)の遺伝子発現を調査した。具体的には、Il-6 mRNA発現水準をqRT-PCR(Quantitative RT-PCR)方法で測定し、分離した海馬組織からRNAを分離し、ImProm-II Reverse Transcriptase kit(Promega)を使用してcDNAを合成した。PCRプライマーは商業的に合成した(Cosmo Genetech)。qRT-PCRは、マウスcDNAに特異的なTaq Polymerase(Invitrogen)および下記表15に示すプライマーを使用して実施した。また、TOPrealTM qPCR2×PreMIX(SYBR Green with low ROX)(Enzynomics)を使用し、CFX96 Real-Time System(Bio-Rad)を使用して全てのプライマーに対して50-cycle amplificationを適用した。Actbは正規化のための参照遺伝子として使用された。
【0163】
【表15】

図12および表16に示すように、5XFADマウス脳組織で増加しているIL-6発現がジダノシンによって減少し、ジダノシンが脳の炎症、具体的には、海馬組織の炎症を回復する効果を有し、これによって神経炎症性疾患を治療する効果を確認した。
【0164】
【表16】
【0165】
実施例13.統計分析
【0166】
本実施例で、データは最小3個の独立的な実験を平均±平均(SEM)値の標準誤差で表わした。統計分析はunpaired student tテスト、一元配置分散分析(ANOVA)または双方向ANOVAによって決定し、GraphPad Prismを用いて統計的有意性を分析した。
【0167】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せず他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるはずである。したがって、上述した実施形態は全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図4d
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11a
図11b
図12
【国際調査報告】