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特表2023-550767車両用タイヤの製造に使用するためのゴム化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】車両用タイヤの製造に使用するためのゴム化合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20231128BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20231128BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231128BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20231128BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K9/04
C08K3/36
C08L9/06
B60C1/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530842
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(85)【翻訳文提出日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2021082546
(87)【国際公開番号】W WO2022106700
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】20209170.8
(32)【優先日】2020-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【弁理士】
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ラファエレ ディ ロンザ
(72)【発明者】
【氏名】森下 善広
(72)【発明者】
【氏名】アンケ ブルーメ
(72)【発明者】
【氏名】ラファル アニスズカ
(72)【発明者】
【氏名】マリア デル ピラー ベルナール オルテガ
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA04
3D131BA05
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA20
3D131BC02
3D131BC09
3D131BC12
3D131BC19
3D131BC31
3D131LA26
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4J002DJ016
4J002FB136
4J002FB266
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD200
4J002GN01
(57)【要約】
本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム-シリカ化合物であって、シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成するπ系含有部位の付加により表面修飾されているジエンゴム-シリカ化合物を提供する。特に、本発明は、ジエンゴムがスチレン-ブタジエンゴムであるような化合物を提供する。このような化合物は加硫することができ、タイヤトレッドなどの車両用タイヤ部品の製造に適している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ充填剤が分散されたジエンゴムのマトリックスを含むジエンゴム‐シリカ化合物であって、前記シリカ充填剤は、前記ジエンゴムのマトリックスとπ-π相互作用を形成するπ系含有部位の付加により表面修飾されている、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記ジエンゴムは、スチレン-ブタジエンゴム、またはスチレン-ブタジエンゴムとブタジエンゴムとのブレンドである、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記π-π相互作用は、前記π系含有部位と、前記ジエンゴムのマトリックス中に存在する炭素-炭素二重結合および/またはフェニル環との間に形成される、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記シリカ充填剤と前記ジエンゴムのマトリックスとの間にはいずれの共有結合相互作用も実質的に存在しない、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記π系含有部位は、以下のπ系、すなわち、置換基を有していてもよい芳香環もしくはヘテロ芳香環、トロピリウムカチオン、アリル基、またはアクロレイン基の少なくとも1つを含有する化合物である、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項6】
請求項5に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記π系含有部位は、ポリフェニル化合物(例えば、ポリフェニルエーテル、ポリフェニルスルフィド、ポリフェニルスルホン、もしくはポリフェニレンビニレン)、または1つ以上の芳香環を含有する合成樹脂である、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項7】
請求項6に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記合成樹脂は、フェノール樹脂、芳香族炭化水素樹脂、水素化芳香族炭化水素樹脂、脂肪族/芳香族炭化水素樹脂、水素化脂肪族/芳香族炭化水素樹脂、脂環式/芳香族炭化水素樹脂、水素化脂環式/芳香族炭化水素樹脂、ポリテルペン樹脂、テルペン‐フェノール樹脂、クマロン‐インデン樹脂、もしくは、かかる樹脂のいずれかのグラフト化バージョン、またはそれらの任意の混合物である、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記π系含有部位は、前記シリカ充填剤との結合(例えば、共有結合)および該π系含有部位との結合(例えば、共有結合または水素結合)を形成する結合基を介して該シリカ充填剤に付加されている、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項9】
請求項8に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記結合基は、
【化1】
または、
【化2】
で表され、
式中、
* は、前記シリカ充填剤の表面への該結合基の付加点を示し、
** は、前記π系含有部位への該結合基の該付加点を示しており、
各Rは、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくはC1-3アルコキシ)およびC1-6アルキル(好ましくはC1-3アルキル)から独立して選択され、並びに、
Zは、-O-、-SiR’-(式中、各R’は独立して、-OH、C1-6アルコキシまたはC1-6アルキル)、-PR”-、-NR”-、および-OP(O)(OR”)O-(式中、R”はHまたはC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである)から選択される1つ以上の基によって割り込まれ得る置換基を有していてもよいC1-12アルキレン基である、
ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項10】
請求項9に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記結合基は、
【化3】
で表され、
式中、
* は、前記シリカ充填剤の表面への該結合基の付加点を示し、
** は、前記π系含有部位への該結合基の該付加点を示しており、
各Rは、請求項9に記載の通りであり、
mは、0~12、好ましくは1~8、または1~6、例えば1、2もしくは3の整数であり、
aは、0~6、好ましくは1~3、例えば2または3の整数であり、および、
bは、0~6、好ましくは1~3、例えば1または2の整数である、
ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項11】
加硫可能である、請求項1~10のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項12】
請求項11に記載のジエンゴム-シリカ化合物を架橋することによって得られるか、架橋することによって直接得られるか、または架橋することによって得ることが可能な、加硫ゴム化合物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物から作られた車両用タイヤ部品。
【請求項14】
請求項13に記載の車両用タイヤ部品を備える車両用タイヤ。
【請求項15】
ジエンゴムとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加により表面修飾されているシリカ充填剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル可能なジエンゴム化合物、その製造プロセス、および車両用タイヤおよび車両用タイヤ部品の製造におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、タイヤトレッドを製造するための化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
より具体的には、本発明は、ジエンゴム化合物の補強充填剤として使用するための修飾(modified)シリカに関する。シリカの表面は、ジエンゴムのポリマー鎖と可逆的なπ-π相互作用を形成することのできるπ系含有部位(π system-containing moiety)の結合によって修飾されている。この可逆的な相互作用により、ゴム化合物の機械的性能が向上すると同時に、ゴム化合物のリサイクル性が有利に向上する。
【0003】
天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムなどのジエンゴムは、共役炭素-炭素二重結合を有するジオレフィンから誘導される繰り返し単位を含む。合成ジエンゴムの特性は、ジオレフィンモノマーと他のモノマーとを共重合させることによって特別に調整することができ、幅広い用途に使用されている。
【0004】
スチレン-ブタジエンゴム(本明細書では「SBR」と呼ぶ)は、スチレンとブタジエンとの重合によって製造されるブタジエンゴムの一例である。スチレンとブタジエンの比率はポリマーの特性に影響を与え、さまざまなタイプのSBRが自動車産業、特にタイヤトレッドなどの自動車タイヤの部品として使用されている。タイヤトレッドの製造に使用される場合、SBRは通常、硫黄加硫システムを使用して架橋される。シリカおよびカーボンブラックなどのさまざまな補強充填剤を使用することで機械的特性が向上する。カーボンブラックは充填剤として一般的に使用される最初の材料であったが、最近ではSBRベースの化合物における従的なカーボンブラックの使用に大きく取って代わり、シリカが使用されるようになってきた。シリカ充填剤の使用により、特に濡れた路面での転がり抵抗の低下およびトラクションの向上などのゴム特性が向上する。その他のジエンゴム(ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)およびエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM))も、自動車産業の部品の製造に一般的に使用されている。SBRベースの化合物と同様に、任意のジエンゴムから作られたゴム化合物の機械的特性も同様に、シリカなどの補強充填剤を配合することによって改善され得る。
【0005】
要求される機械的特性を備えた高性能ゴム化合物を製造する場合、補強充填剤の分散および充填剤-ゴムの相互作用が重要となる。シリカの表面に極性シラノール基が存在すると、シリカが酸性になり、吸湿性が高くなる。これによってシリカの凝集が起こり、ゴムマトリックス中での分散が悪くなり、化合物の粘度の増大及び補強特性の損失を引き起こす。表面修飾剤または「相溶化剤(compatibilising agents)」としてのシランの使用など、シリカの表面化学を調整するために、シリカのさまざまな処理が提案されている。ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPT)およびビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)などのシランカップリング剤もまた、シリカとジエンゴム鎖、例えばSBR鎖との間に共有結合を形成するために使用される。これらは、ジエンゴムマトリックス中の充填剤の分散性を改善し、シリカとゴムとの間の相互作用を強化してゴム化合物を補強する。
【0006】
車両用タイヤは、タイヤトレッドなどの一般的な磨耗および劣化により寿命が限られており、廃棄物として重大な問題を引き起こし得る。それらは埋め立て地の貴重なスペースを占有しており、通常は生分解しない。したがって、タイヤの製造に使用されるゴム化合物の持続可能性を改善する必要性が常に存在する。このような材料をリサイクルして、他の新しい原料と混合可能な二次原料として使用する能力は、多くの研究の対象となっている。リサイクルが最も難しい種類のタイヤ材料の1つは、SBR-シリカなどのシリカを充填したジエンゴムである。これは、ゴム鎖とシランカップリング剤によって形成されるシリカ充填剤との間に強い共有結合が存在するためである。このような材料をリサイクルするには、残っている共有結合は流動性や相溶性を阻害し、リサイクル材料が他の新しいポリマーと混合されるときに共架橋する可能性があるため、その共有結合を切断する必要がある。そのため、リサイクルが困難かつ、一般的に不経済になる。
【0007】
SBRシリカ化合物などのシリカで補強された従来のジエンゴムには2種類の共有結合が存在する。1つは、ゴムを硬化するために使用される硫黄加硫系から生じる硫黄架橋である。もう1つは、上記のようなシランカップリング剤を使用してジエンゴム鎖とシリカとをカップリングすることである。これらの共有結合相互作用は、共有結合を切断するのに多大なエネルギーを必要とするため、SBR-シリカ化合物などのゴムの原料としての再利用を厳しく制限する。
【0008】
SBR-シリカ化合物などのシリカ含有ジエンゴム化合物は、乗用車用タイヤの製造に使用することが好まれるようになってはいるが、それゆえに、タイヤのリサイクル性を向上させながら、タイヤの性能特性を維持または向上させることができる、ゴム配合用の代替充填剤が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らはここで、ジエンゴム化合物中のゴム鎖と可逆的相互作用を形成することができる修飾シリカ充填剤を提案する。この修飾シリカは、従来のジエンゴム-シリカ化合物の共有結合性シランカップリングを効果的に置換することができ、それにより、所望の機械的特性を維持しながら該化合物をより容易にリサイクルできることが提案されている。具体的には、本発明者らは、ポリマージエンゴムと可逆的なπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加(attachment)によるシリカ表面の修飾を提案する。π系含有部位とシリカ表面との間の相互作用は、化学結合(共有結合など)を包含する場合もあれば、物理的吸着、疎水性相互作用、双極子間相互作用、双極子誘起双極子相互作用、可逆的なクリック結合もしくは水素結合、またはそれらの任意の組み合わせなどの他の引力的相互作用を包含する場合もある。シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックス中に分散する前に、その表面にπ系含有部位を付加することによって「事前修飾(pre-modified)」することができる。あるいは、配合プロセスの一部として現場(in-situ)で効果的に修飾して、ジエンゴム-シリカ化合物を製造することもできる。
【0010】
1‐アリル‐3‐メチルイミダゾリウムクロリド(AMI)などのイオン液体は、天然ゴム化合物での使用が提案されており(例えば、Zhang et al., J. Appl. Polym. Sci. 134: 44478, 2017を参照)、シリカと天然ゴムとの相互作用を強化する。この先行研究では、シリカとイオン液体との間の相互作用は弱い非共有水素結合であり、イオン液体とゴム鎖との間にはカチオン-π相互作用が存在する。より最近では、Qian et al (Polymer Composites 40: 1740, 2018) は、AMIおよびTESPTの両方をSBRシリカ化合物に導入した。彼らは、ゴム化合物の必要な分散および機械的特性を達成するには、カチオン-π相互作用、水素結合、およびシリカとSBR鎖との間の共有結合といった複数の相互作用を利用する必要があると結論付けた。
【0011】
イオン液体の使用およびカチオン-π相互作用、水素結合、シリカとSBR鎖間との共有結合などの複数の相互作用を伴う以前の研究とは対照的に、本発明者らは、シリカの表面がπ系含有種に結合することによって修飾される官能化シリカの使用を提案している。これにはいくつかの重要な利点がある。例えば、AMIを使用する場合、塩化物イオンの存在は、塩化物イオンがゴム化合物の劣化、ひいては早期老化のリスクを高めるため、極めて望ましくない。Qianらにおいて、AMIに加えてTESPTを使用してシリカとSBR鎖との間に望ましい複数の相互作用を提供するという提案は、シリカとゴム鎖との間の共有結合も含んでいる。これにより、材料の弾性が失われるだけでなく、材料が容易にリサイクルできなくなるという結果になり得る。
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、ゴム製品の重要な性能特性を保持するだけでなく、そのリサイクル性を向上させる修飾シリカ充填剤を提供することにより、既知のシリカゴム化合物に関する問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、一態様では、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム‐シリカ化合物であって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成するπ系含有部位の付加により表面修飾されている、ジエンゴム‐シリカ化合物を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、ジエンゴムマトリックス中にシリカ充填剤を分散させるステップを含む、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物の製造プロセスであって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加によって表面修飾されている、製造プロセスを提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含む加硫可能なゴム組成物であって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成するπ系含有部位の付加によって表面修飾されている、ゴム組成物を提供する。
【0016】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の加硫可能なゴム化合物を架橋することによって得られるか、架橋することによって直接得られるか、または架橋することによって得ることが可能な加硫ゴム化合物を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、加硫されたジエンゴム-シリカ化合物の製造プロセスであって、前記プロセスは、ジエンゴムマトリックス中にシリカ充填剤を導入し、それによって加硫可能なゴム化合物を製造するステップと、前記加硫可能なゴム化合物を所定温度および所定時間加熱することによって加硫にかけるステップと、を含み、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加によって表面修飾されている、製造プロセスを提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、車両用タイヤの部品として、または車両用タイヤの部品の製造における、本明細書に記載のジエンゴム‐シリカ化合物の使用を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物から作られた車両用タイヤ部品を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の車両用タイヤ部品を備える車両用タイヤを提供する。
【0021】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物をリサイクルする方法であって、前記化合物を脱硫するステップと、任意でジエンゴムを回収するステップと、を含む、リサイクルする方法を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、ジエンゴムとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加によって表面修飾されたシリカ充填剤を提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のシリカ充填剤の製造プロセスであって、ジエンゴムとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加によってシリカを修飾するステップを含む、製造プロセスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一態様では、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム‐シリカ化合物であって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成するπ系含有部位の付加によって表面修飾されている、ジエンゴム‐シリカ化合物に関する。
【0025】
特に明記しない限り、「ゴム化合物(rubber compound)」および「ゴム組成物(rubber composition)」という用語は、本明細書では互換可能に使用され、様々な成分または材料とブレンドまたは混合(すなわち配合)されたゴムを指す。「ジエンゴム‐シリカ化合物(diene rubber-silica compound)」とは、ジエンゴムにシリカ充填剤を混合したものを指す。
【0026】
本発明は、生の状態(すなわち、硬化または加硫前)および硬化または加硫した状態、すなわち、架橋または加硫後の両方のゴム化合物およびゴム組成物に関する。
【0027】
本明細書で使用する場合、「ジエンゴム(diene rubber)」という用語は、少なくとも1つの共役ジオレフィンモノマーから誘導される繰り返し単位を含むゴムを指す。これは、ジオレフィンモノマーと共重合可能なモノマーから誘導される1つ以上の追加単位を有するホモポリマーおよびコポリマーを含む。繰り返し単位は、ポリマーの主鎖および/または側鎖に存在し得る炭素-炭素二重結合を有する。ジエンゴムは天然ゴムまたは合成ゴムであり得る。ジエンゴムの非限定的な例としては、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、およびエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0028】
一実施形態において、本発明で使用するためのジエンゴムは、ブタジエンから誘導される繰り返し単位を含む。このようなゴムの例としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)が挙げられるが、これらに限定されない。一連の実施形態では、本発明で使用するジエンゴムはSBRである。
【0029】
本明細書で使用される「π-π相互作用(π-π interaction)」という用語は、2つのπ系間の相互作用を指す。「π系(π system)」とは、非局在化電子を有する接続されたp軌道系を有する任意の基を意味する。このような基の例としては、フェニル環などの芳香環、および炭素-炭素二重結合が挙げられる。芳香環間のπ-π相互作用により、分子の積層配置が生じる可能性があり、これは分子のπ系間の相互作用により形成される。これは一般に「π-πスタッキング(π-π stacking)」として知られている。
【0030】
本明細書に記載のπ-π相互作用は、シリカ充填剤上に設けられたπ系含有部位と、ジエンゴムポリマー中の少なくとも1種類の電子豊富なπ系との間の相互作用を含む。ジエンゴム中の電子豊富なπ系は、炭素-炭素二重結合の一部を形成するπ結合によって提供され得る。炭素-炭素二重結合は、例えば、ジエンゴムポリマーの主鎖の一部を形成し得、または側鎖もしくは末端基に存在し得る。電子豊富なπ系は、ジエンゴムに存在する他の置換基、例えばポリマーの主鎖にまたは側鎖の一部として存在し得る芳香族基(例えばフェニル)またはヘテロ芳香族基と関与している場合もある。したがって、あるいはまたはさらには、本明細書に記載されるπ-π相互作用は、シリカ充填剤上に設けられるπ系含有部位とシリカ充填剤との相互作用、およびポリマー中に存在する芳香族基またはヘテロ芳香族基の電子豊富なπ系、例えばジエンゴムがSBRの場合はフェニル環にも関与し得る。理解されるように、例えばシリカ充填材上に設けられるπ系含有部位が複数のπ系を含む場合、複数のπ-π相互作用が関与し得る。
【0031】
本明細書に記載のゴム化合物中の修飾シリカとジエンゴムマトリックスとの間の主要な相互作用は、π-π相互作用であることが意図されている。シリカとジエンゴムマトリックスとの間には、共有結合および他の非共有結合の両方の相互作用を含む他の相互作用が存在し得る。しかしながら、ゴム化合物のリサイクル可能性という所望の目的を達成するには、追加の共有結合相互作用の存在を最小限に抑えるべきである。一実施形態においては、二官能性シランなどの従来のカップリング剤の存在から生じるもののような、シリカとジエンゴム鎖との間の共有結合相互作用は実質的に存在しない。「実質的に存在しない(substantial absence)」とは、シリカとジエンゴム鎖との間の共有結合の程度が、ジエンゴム1モル当たり1モル未満、好ましくは1モル当たり0.5モル未満、例えば1モル当たり0.3モル未満の共有結合の量であることを意味する。ゴム化合物は、シリカをジエンゴムに共有結合させるカップリング剤を実質的に含まない(例えば、全く含まない)ことが理解されよう。シリカとジエンゴム鎖との間に存在し得る他の可逆的な非共有結合相互作用としては、以下のいずれか、すなわち、静電気力、カチオン-π結合、ファンデルワールス力、水素結合、および疎水効果ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。一実施形態において、シリカとジエンゴム鎖との間の相互作用としては、π-π相互作用、疎水性効果、および水素結合が挙げられ得る。しかしながら、別の実施形態では、唯一の相互作用は、本明細書に記載されるようなπ-π相互作用である。
【0032】
本明細書で使用される「シリカ充填剤(silica filler)」という用語は、粒子状シリカを指す。ジエンゴムマトリックスを補強することができる任意の既知の種類の粒子状シリカを本発明に使用することができる。理解されるように、既知のシリカ材料は通常、一部の他の成分(例えば不純物として)を含むが、主成分は二酸化ケイ素、すなわちSiOである。二酸化ケイ素の含有量は、一般に少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、例えば少なくとも97重量%である。
【0033】
本発明で使用するためのシリカ材料は当技術分野で周知であり、特に、沈降シリカ(シリカの非晶質形態)、熱分解(ヒュームド)シリカ、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウムおよびケイ酸アルミニウムを含む。シリカは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。シリカは、離散粒子の形態、すなわち分散性の高い顆粒として使用される。それは、サイズが単分散であり、また形状が均一であってもよい。あるいは、分岐状または直鎖状のクラスターの形態で提供されてもよい。沈降シリカは、トレッド化合物に対して優れた転がり抵抗および湿潤時のトラクションを付与する能力を考慮すると好ましいものである。本発明で使用するためのシリカは、50~350cm/g、好ましくは80~280cm/g、例えば120~230cm/gの範囲の比表面積(例えば、窒素比吸収表面積)を有し得る。シリカの平均粒子サイズは、約5nm~約50nm、好ましくは約8nm~約35nm、例えば約10nm~約28nmの範囲であり得る。本発明で使用する市販グレードのシリカは、Evonik(ドイツ)などの供給業者から広く入手可能であり、例えば、Ultrasil(登録商標)7000 GRおよびUltrasil(登録商標)VN3が挙げられる。
【0034】
本発明で使用するためのシリカは、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成することができる少なくとも1つのπ系含有部位に結合することによって表面修飾される。本明細書に記載されるように、シリカは、π系含有部位を担持するために「事前修飾」されていてもよいし、in-situで修飾されてもよい。「結合(linkage)」とは、誘因性である少なくとも1つのタイプの化学的または物理的相互作用によってシリカがπ系含有部位に付加され得ることを意図する。一実施形態において、シリカは少なくとも1つのπ系含有部位に化学的に結合している。例えば、シリカは共有結合または非共有結合(例えば、水素結合または静電結合)を介して化学的に結合し得る。あるいは、シリカは、物理的相互作用、例えばカチオン-π結合、ファンデルワールス力、双極子間相互作用、双極子誘起双極子相互作用、可逆的なクリック結合または疎水性効果によって、少なくとも1つのπ系含有部位に付加し得る。
【0035】
本発明で使用するシリカは、本明細書に記載されているように、複数のπ系含有部位で表面修飾され得る。このような部位が複数存在する場合、これらは同じであっても異なっていてもよい。しかしながら、典型的には、そのような部位が複数存在する場合、これらは同じ化学成分(chemical entity)となる。
【0036】
いくつかの実施形態では、シリカ表面は、1つ以上の追加の官能基の付加によって修飾されてもよい。このような官能基は、本質的に非極性であっても極性であってもよく、当業者であれば適切な基を容易に選択し得る。例えば、シリカは、配合中の充填剤間の相互作用を減少させ、それによってゴムマトリックス中での分散性を改善するために表面処理されてもよい。この目的に適した相溶化剤(「被覆剤(covering agents)」としても知られる)は当技術分野で周知であり、ヘキサデシルトリメトキシシランまたはプロピルトリエトキシシランなどの単官能性シランが挙げられるが、これらに限定されない。シリカ粒子の表面に付加し得る他の非極性種には、芳香族基および飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。いくつかの実施形態では、シリカ表面は、アミンまたはカルボキシル基を含む極性官能基などの1つ以上の極性官能基で官能化されてもよい。
【0037】
一実施形態では、本発明で使用するシリカは、本明細書に記載の1つ以上のπ系含有部位で修飾されるのみであり、すなわち、他の種類の官能基はその表面に結合しない。
【0038】
シリカ表面に付加する各π系含有部位は、本明細書で定義される少なくとも1つのπ系を含有することになる。場合によっては、各π系含有部位は複数のπ系を含有し得る。複数のπ系が存在する場合、これらは同じか異なる場合があるが、通常は同じになる。典型的には、π系含有部位は、ジエンゴムマトリックスと共に意図したπ-π相互作用を形成することができる複数のπ系を含有することになる。例えば、最大で30π系、例えば5~25π系または10~20π系を含有し得る。
【0039】
本発明では、様々なπ系含有部位を採用することができ、当業者であれば、その意図する機能を念頭に置いて適切な部位を容易に選択できることが想定される。例えば、いかなるπ系含有部位も、本明細書に記載されるゴム化合物の残りの成分のいずれにおいても、またはゴム化合物自体もしくはその物理的および機械的特性に関して悪影響を及ぼしてはならないことが理解されるであろう。
【0040】
本発明で使用するためのπ系含有部位の例は、以下のπ系の少なくとも1つを含む有機化合物およびそのような化合物の残さ(residues)であり、置換基を有していてもよい(optionally substituted)芳香環もしくはヘテロ芳香環(例えば、置換基を有していてもよいフェニル、フラニル、またはピリジニル)、トロピリウムカチオン、アリル基、またはアクロレイン基である。これらπ系のいずれかに存在し得る任意の置換基としては、以下、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、-NR'2、-OC(O)NR'2(式中、各R'は独立してHまたはC1-3アルキル)、および-COOR”(式中、R”はHまたはC1-6アルキル)が挙げられるが、これらに限定されない。任意のπ系に複数の置換基が存在し得る。複数の置換基が存在する場合、それらは同じであっても異なっていてもよい。
【0041】
一実施形態では、本発明で使用するためのπ系含有部位は、少なくとも1つの置換または非置換のフェニル基またはフェノール基を含有する。一実施形態では、これらは、複数のそのような基、好ましくは最大30個の置換基を有していてもよいフェニル基またはフェノール基、例えば5~25個の置換基を有していてもよいフェニル基またはフェノール基を含有する。上記の環(フェニル基またはフェノール基)がさらに置換されている場合、これらは、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、-NR'2、-OC(O)NR'2(式中、各R'は独立してHまたはC1-3アルキル)、および-COOR”(式中、R”はHまたはC1-6アルキル)から独立して選択される1つ以上の基(例えば、1~3個、または1~2個の基)で置換されていてもよい。一実施形態では、これらの環は追加の置換基を含まない。
【0042】
本発明で使用するのに適したπ系含有部位は、その意図する機能を念頭に置いて当業者によって容易に選択することができ、ポリフェニルエーテル、ポリフェニルスルフィド、ポリフェニルスルホン、およびポリフェニレンビニレンなどのポリフェニル化合物、並びに芳香環系を含む合成樹脂などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
合成樹脂は、フェノール樹脂、芳香族炭化水素樹脂、水素化芳香族炭化水素樹脂、脂肪族/芳香族炭化水素樹脂、水素化脂肪族/芳香族炭化水素樹脂、脂環式/芳香族炭化水素樹脂、水素化脂環式/芳香族炭化水素樹脂、ポリテルペン樹脂、テルペン‐フェノール樹脂、クマロン‐インデン樹脂、かかる樹脂のいずれかのグラフト化バージョン、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。これらの樹脂はいずれも部分的に水素化されていてもよく、例えば実質的に水素化されていてもよい。しかしながら、好ましくは、それらの水素化の程度は、芳香族基の水素化を最小限に抑えるようなものである。芳香族基(例えば、フェニル基またはフェノール基)を高い割合で含有する合成樹脂が特に適している。少なくとも40%(分子式に基づく)、例えば少なくとも50%の芳香族含量が適切であり得る。
【0044】
本発明での使用に適した樹脂は、約70~約120℃の範囲、例えば約70~約100℃の範囲の融点Tを有し得る。いくつかの実施形態では、これらはより低い融解温度を有し得る。例えば、低分子量の液体炭化水素樹脂の場合、融解温度は0~5℃ほど低くなり得る。適切な樹脂は、約70~約130℃の範囲、例えば約90~約130℃の範囲の軟化点Tを有し得る。
【0045】
芳香族炭化水素樹脂の例としては、ビニルトルエン、ジシクロペンタジエン、インデン、メチルスチレン、スチレン、およびメチルインデンから誘導されるモノマー単位を含むものが挙げられる。芳香族樹脂はよく知られており、商業的供給源から容易に入手できる。これらは、例えば、Eastman Chemical Companyから入手可能なPicco(商標)2215、Picco(商標)5120、Picco(商標)6100、Picco(商標)A10、Picco(商標)A100、Picco(商標)A120およびPicco(商標)A140を含む。
【0046】
本発明での使用に特に適した合成樹脂は、フェノール樹脂を含む。本明細書で使用する「フェノール樹脂(phenolic resin)」という用語は、フェノールホルムアルデヒド樹脂を指す。具体的には、少なくとも1つのフェノールまたは置換フェノール(すなわち修飾フェノール)と少なくとも1つのアルデヒドとの反応によって得られる合成熱硬化性樹脂を指す。例えば、それはフェノール、レゾルシノール、m-クレゾール、3,5-キシレノール、t-ブチルフェノール、およびp-フェニルフェノールの1種以上と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、クロラール(トリクロロアセトアルデヒド)、ブチルアルデヒド、フルフラール、およびアクロレイン(プロペナール)から選ばれる少なくとも1種のアルデヒドとの反応により得られる樹脂が挙げられる。
【0047】
本発明で使用するのに適したフェノール樹脂は、ノボラックフェノール樹脂およびレゾールフェノール樹脂を含む。ノボラックフェノール樹脂は酸触媒を使用して製造され、ホルムアルデヒドとフェノールとのモル比が1未満、通常は0.1:1~0.8:1であり、メチレン結合フェノールオリゴマーを供給する。フェノールが過剰になると、フェノール性末端基を有するポリマー鎖が生成される。レゾールフェノール樹脂はアルカリ触媒を使用して製造され、ホルムアルデヒドとフェノールとのモル比が1より大きく、通常は1:1~3:1であり、メチレンとベンジルエーテルで結合したフェノール単位を有するフェノールオリゴマーが得られる。ホルムアルデヒドが過剰になると、ペンダントメチロール基を有するポリマーが生成される。
【0048】
ノボラックフェノール樹脂およびレゾールフェノール樹脂は、化学的に修飾されている場合も、未修飾である場合もある。これら樹脂の修飾型および未修飾型の両方が本発明で使用されることが分かる。修飾樹脂は、フェノールの一部を1つ以上の置換フェノールで置き換えることによって調製され得る。例えば、カシューナッツの殻から誘導される修飾フェノールを採用して、いわゆる「カシュー修飾(cashew-modified)フェノール樹脂」が得られる。他の修飾フェノール樹脂としては、油修飾(例えばトール油から得られるフェノールを使用)、アルキルフェノール修飾、またはクレゾール修飾されたものが挙げられる。
【0049】
本発明で使用するノボラック樹脂としては、例えば、以下の化学構造、すなわち、
【化1】
式中、
xは1~10の整数であり、
yは1~10の整数であり、
zは1~10の整数であり、および、
Raは以下の式の基であり、
【化2】
式中、nは1~10の整数である、
化学構造を有するものが挙げられる。
【0050】
フェノール樹脂はよく知られており、さまざまな販売元から容易に入手できる。市販のノボラックフェノール樹脂の例としては、住友ベークライト株式会社(日本)から入手可能なSUMILITERESIN(登録商標)シリーズが挙げられる。これらとしては、次の固体ノボラック樹脂:PR-12686、PR-NR-1、PR-13349、PR-50731、およびDurez19900、並びに次の粉末ノボラック樹脂:PR-217、PR-7031A、PR-12687、およびPR-13355が挙げられる。
【0051】
π系含有部位はシリカの表面に付加している。一実施形態では、π系含有部位は、少なくとも1つの共有結合を介してシリカの表面に付加される、すなわち、それは共有結合される。一実施形態では、π系含有部位は、2つ以上の共有結合、例えば2つの共有結合によって付加されていてもよい。ただし、通常は単一の共有結合によって付加されることになる。
【0052】
π系含有部位は、シリカの表面に直接付加させることができる。直接付加とは、直接の化学的結合または物理的結合を介しているという意味である。例えば、直接共有結合を介して付加され得る。しかしながら、都合のいいことには、π系含有部位は、適切な結合基(linking group)を介してシリカ表面に付加され得る。この結合基は、シリカ表面との結合(例えば、共有結合)を形成し、またπ系含有部位との追加の結合(例えば、共有結合)を形成し、それによって2つの実体を連結する役割を果たす。一実施形態では、π系含有部位は、共有結合によって結合基に付加される。別の実施形態では、π系含有部位は、水素結合によって結合基に付加され得る。別の実施形態では、π系含有部位は、共有結合と水素結合との組み合わせによって結合基に付加され得る。複数のシラノール基を担持するシリカの表面の性質により、π系含有部位またはπ系含有部位を担持する結合基は、典型的にはシロキサン結合を介してシリカに結合する。
【0053】
π系含有部位が結合基を介してシリカ表面に連結されている場合、結合基がπ系含有部位をシリカの表面に結合(例えば共有結合)できる限りにおいては、結合基の正確な性質は重要ではないことが理解されるであろう。理解されるように、結合基は、ゴム化合物の性能に影響を与える任意の成分、例えばジエンゴムマトリックスに悪影響を与え得るいかなる基も含むべきではない。適切な結合基は、その意図される機能を念頭に置いて当業者によって容易に選択され得る。
【0054】
一般に、結合基は、シリカ表面と選択されたカチオン部位との付加点の間に、16個までの原子、好ましくは12個までの原子、例えば2~8個の原子を含有する主鎖を有する有機基であろう。それは、例えば、12個までの炭素原子、例えば、2~8個の炭素原子を含有し得る。結合基は直鎖状でも分枝状でもよく、1つ以上の置換基を担持し得る。
【0055】
結合基は、例えば、以下のように、
【化3】
または、
【化4】
で表すことができ、
式中、
* は、シリカ表面への結合基の付加点を示し、
** は、π系含有部位への結合基の付加点を示しており、
各Rは、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくはC1-3アルコキシ)およびC1-6アルキル(好ましくはC1-3アルキル)から独立して選択され、および、
Zは、-O-、-SiR’2-(式中、各R’は独立して、-OH、C1-6アルコキシまたはC1-6アルキル)、-PR“-、-NR”-、および-OP(O)(OR“)O-(式中、R”はHまたはC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである)から選択される1つ以上の基によって割り込まれ(interrupted)得る置換基を有していてもよいC1-12アルキレン基である。
【0056】
一連の実施形態では、式(I)または式(II)中の各Rは、独立して、-OH、C1-3アルコキシおよびC1-3アルキルから選択される。例えば、各Rは、独立して、-OH、C1-2アルコキシおよびC1-2アルキルから選択され得る。
【0057】
一連の実施形態では、式(I)および式(II)における基Zは、置換基を有していてもよいC1-12アルキレン、好ましくはC1-8アルキレン、例えばC1-6アルキレンであり得る。任意の置換基としては、例えば、-OHおよび-NR”2(式中、各R”は、独立して、HまたはC1-6アルキル、好ましくはHである)が挙げられる。
【0058】
一連の実施形態では、式(I)および式(II)における基Zは、置換基を有していてもよいC1-12アルキレン、好ましくはC1-8アルキレン、例えばC1-6アルキレンであり得、任意で1つ以上の-O-原子、例えば1つまたは2つの-O-原子によって割り込まれていてもよい。任意の置換基としては、例えば、-OHおよび-NR”2(式中、各R”は、独立して、HまたはC1-6アルキル、好ましくはHである)が挙げられる。
【0059】
一実施形態では、結合基は以下の構造のいずれかによって表現され得る、すなわち、
【化5】
式中、
* は、シリカ表面への結合基の付加点を示し、
** は、π系含有部位への結合基の付加点を示しており、
各Rは、本明細書で定義される通り、
mは、0~12、好ましくは1~8、または1~6、例えば1、2もしくは3の整数であり、
aは、0~6、好ましくは1~3、例えば2または3の整数であり、および、
bは、0~6、好ましくは1~3、例えば1または2の整数である。
【0060】
一実施形態では、mは3である。
【0061】
一実施形態では、aは3であり、およびbは1である。
【0062】
結合基の具体例としては、これらに限定されないが以下のもの、すなわち、
【化6】
が挙げられ、
式中、
* は、シリカ表面への結合基の付加点を示し、
** は、π系含有部位への結合基の付加点を示しており、および、
m、aおよびbは本明細書で定義される通りである。
【0063】
本明細書で使用される「アルキル(alkyl)」という用語は、一価の飽和した直鎖状または分枝鎖状の炭化水素鎖を指す。それは置換されていても、置換されていなくてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基は、好ましくは1~6個の炭素原子、例えば1~4個の炭素原子を含有する。
【0064】
本明細書で使用される「アルコキシ(alkoxy)」という用語は、-O-アルキル基を指し、ここでアルキルは本明細書で定義されるとおりである。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシなどが挙げられるが、これらに限定されない。特に指定しない限り、任意のアルコキシ基は、1つ以上の位置において適切な置換基によって置換されていてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0065】
本明細書で使用される「アルキレン(alkylene)」という用語は、飽和した直鎖状または分枝鎖状の二価の炭素鎖を指す。アルキレン基の例としては、メチレン(-CH-)、エチレン(-CHCH-)、プロピレン(-CHCHCH-)などが挙げられるが、これらに限定されない。特に指定しない限り、任意のアルキレン基は、1つ以上の位置において適切な置換基によって置換されていてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0066】
本明細書に記載される基のいずれかが置換されている場合、任意の置換基は同じであっても異なっていてもよく、以下の、C1-3アルキル(例えば、-CH)、C1-3アルコキシ(例えば、-OCH)、-OHおよび-NR (式中、各Rは、独立して、HまたはC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えば、-CHである)のいずれかから選択され得る。
【0067】
結合基とπ系含有部位との適切な組み合わせは、当業者であれば容易に選択することができる。理解されるように、これら種間の相互作用の正確な性質は、選択されたグループに依存する。これら構成要素の結合には、場合によっては、該構成要素の一方または両方が、例えば、共有結合または本明細書に記載の他のタイプの結合の形成のような相互の結合または相互作用を可能にする1つ以上の反応性基を組み込むことによって、適切に官能化されている必要がある。官能化されたπ系含有部位は、例えば、ヒドロキシル、アミン、カルボキシルなどの1つ以上の反応性基を担持し得、これらにより、選択された結合基への結合を可能とする。任意の適切な官能基を使用することができ、これらは互いに結合される構成要素の性質に応じて当業者によって容易に選択され得る。
【0068】
一連の実施形態では、結合基は、二官能性シランとシリカ表面、および二官能性シランとフェノール樹脂または芳香族炭化水素樹脂などの選択されたπ系含有部位との反応から形成され得る。二官能性シランはゴム化合物の製造に使用することが当技術分野でよく知られており、例えば、エポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン、メルカプトシランおよびビニルシランが挙げられる。このような作用剤の化学性はよく知られており、熟練した化学者であれば、それらとシリカおよびそれらと選択されたπ系含有部位との反応について適切な方法を容易に決定することができる。一般に、選択された反応条件下では、シラン中に存在する少なくとも1つの加水分解性基が加水分解されて、シリカの表面にシロキサン結合を形成できる反応性シラノールを形成する。フェノール樹脂を付加する場合、例えば、エポキシシラン中に存在するエポキシ基が樹脂と反応して、強力な共有結合を形成することができる。アミノシランを使用する場合、アミン基がフェノール樹脂と反応して水素結合を形成することができる。イソシアネートシラン中に存在するイソシアネート基は、フェノール樹脂中の活性水素と反応して、弱い共有結合を形成することができる。π系含有部位が芳香族炭化水素樹脂である場合、例えば、メルカプトシランは、樹脂中に存在する任意の不飽和結合とスルフィド架橋を形成し得る。芳香族炭化水素樹脂が飽和結合を含む場合、過酸化物の存在下でビニルシランを使用して樹脂鎖上にラジカルを生成し、樹脂への付加を形成することができる。
【0069】
例えば化学反応を介して異なる成分を結合させて本明細書に記載の修飾シリカを形成すると、成分の一部またはすべてが元の構造をもはや保持していない可能性があるが、それらの相互の結合または相互作用に関与する反応の結果として(例えば、共有結合または本明細書に記載の他のタイプの結合の形成によって)、1つ以上の末端基または原子(例えば、H原子)を効果的に失う可能性があることが理解されよう。これらの成分は、元の成分の「残さ」とみなされ得、本明細書における化合物の「残さ」への言及は、それに応じて解釈されるべきである。
【0070】
一実施形態では、シリカ表面に結合するπ系含有部位は、以下の構造のうちの1つ、すなわち、
【化7】
から選択され、
式中、* は、シリカへの付加点を示し、
Rは、本明細書で定義される通りであり、
Rbは、π系含有部位の残さ、例えばフェノール樹脂の残さを表し、および、
- - - は水素結合を表す。
【0071】
本明細書に記載の表面修飾シリカは、当技術分野で知られている方法を使用して調製することができる。使用される正確な方法は、結合基(存在する場合)およびπ系含有部位の性質に依存するが、当業者であれば容易に選択することができる。典型的には、シリカの表面との共有結合、および選択されたπ系含有部位との追加の結合(例えば、共有結合)を形成することができ、また本明細書で定義される結合基を形成することとなる化合物を使用することができる。例えば、この方法は、シリカ、結合基を形成できる化合物(例えば、本明細書に記載の二官能性シランのいずれか)と、選択されたπ系含有部位を含む化合物(例えば、本明細書に記載の樹脂のいずれか)との間の反応を含み得る。
【0072】
表面修飾シリカの形成は、典型的には、段階的な様式で行われ、例えば、最初に結合基がシリカの表面に結合(例えば、共有結合)し、その後、π系含有部位を含む化合物と反応する。あるいは、結合基は最初にπ系含有部位に結合(例えば共有結合)し、その後、シリカに結合(例えば共有結合)し得る。段階的反応の例は図1に概略的に示されており、第1ステップでシリカの表面と反応する(3グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランから結合基が形成される。第2ステップでは、複数のπ系を含有するフェノール樹脂が、事前修飾されたシリカとの反応によってシリカ表面にグラフトされる。この例では、フェノール樹脂はアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、すなわちポリオキシベンジルメチレングリコ無水物である。別の実施形態では、表面修飾シリカは、すべての反応物が関与する単一のワンステップ反応で形成することができる。
【0073】
反応または反応の各ステップに適した溶媒および条件は、反応物の性質に応じて当業者によって容易に選択され得る。エポキシ環の開環を伴うあらゆる反応においては、pH調整剤、例えばpHを上昇させることができる調整剤を採用することが適切であり得る。適切なpH調整剤としては、DPG(ジフェニルグアニジン)、NaOHおよびKOHなどのアルカリ剤が挙げられる。
【0074】
本発明で使用するための修飾シリカの調製方法の例を以下のスキームに示し、
【化8】
式中、Aはシリカ粒子を表し、
Yは、-OHまたは任意の加水分解性基、例えばC1-6アルコキシであり、
Rは本明細書で定義される通りであり、および、
-OHは、π系含有部位、例えばフェノール樹脂を表す。
【0075】
【化9】
式中、Aはシリカ粒子を表し、
Yは、-OHまたは任意の加水分解性基、例えばC1-6アルコキシであり、
Rは本明細書で定義される通りであり、
-OHは、π系含有部位、例えばフェノール樹脂を表し、および、
- - - は水素結合を表す。
【0076】
表面修飾シリカを形成するための反応に続いて、グラフト化されていない材料は、適切な溶媒による洗浄または水中でのソックスレー抽出などの従来の方法を使用して除去してもよい。必要に応じて、残留溶媒は、例えば高温で乾燥することによって除去することができる。
【0077】
表面修飾シリカの調製後、実施例に記載されているように、FTIR分析を使用して反応の成功を決定することができる。適切な場合には、修飾シリカの収率は、熱重量分析(TGA)などの当該技術分野で知られている方法によって決定することができる。
【0078】
上述の方法は、後続的にゴムに組み込んで所望のジエンゴム-シリカ化合物を製造するための「事前修飾」シリカの調製に関する。これらの方法の代替方法は、表面修飾されたシリカをin situで調製することである。このような方法では、表面修飾シリカを形成するのに必要な成分が配合中にゴムに添加される。シリカに加えて、これらの成分は、選択されたπ系含有部位を含む化合物、および場合により、所望の結合基を形成できる化合物を含む。例えば、フェノール樹脂、シラン(反応して結合基を形成することができる)、およびシリカをゴムと共に添加してもよい。
【0079】
本明細書に記載の表面修飾シリカおよびその調製方法は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0080】
したがって、別の態様では、本発明は、ジエンゴムとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加によって表面修飾されるシリカ充填剤を提供する。
【0081】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のシリカ充填剤の製造プロセスであって、前記方法は、ジエンゴムとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加(例えば、共有結合)によってシリカを修飾するステップを含む、製造プロセスを提供する。
【0082】
本明細書に記載される表面修飾シリカは、ジエンゴムマトリックス中で補強充填剤として作用する。「ジエンゴムマトリックス(diene rubber matrix)」という用語は、ジエンゴムを含むエラストマーマトリックスを指す。
【0083】
任意の既知のジエンゴムを本発明に使用することができ、当業者であれば、シリカ-ジエンゴム化合物の意図される用途を念頭に置いて適切なゴムを容易に選択することができる。ジエンゴムは当技術分野でよく知られており、天然ゴムおよび合成ゴムの両方を含む。このようなゴムの非限定的な例としては、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0084】
ジエンゴムは、1つ以上の官能基で修飾することができ、そのような官能化されたジエンゴムのいずれも本発明で使用してよい。ジエンゴムが官能化されている場合、そのポリマー主鎖、末端基および/または側鎖のいずれかが1つ以上の官能基に結合し得る。これらの官能基は、ポリマー材料の製造中にポリマー材料に組み込まれてもよく、あるいは、その後ポリマー上にグラフトされてもよい。官能基の種類および位置は、当技術分野で知られているゴムのグレードごとに異なる。官能化ゴムの選択は、本明細書に記載のゴム化合物の使用目的に依る。官能化ジエンゴムの例としては、1つ以上の反応性基(例えばアルコキシシリル基)および/または1つ以上の相互作用基(例えばアミノ基)を担持するものが挙げられる。アミノ基などの相互作用基は、例えばゴムマトリックス内で水素結合を形成し得る。一実施形態では、本発明で使用するジエンゴムは官能化されていない。
【0085】
一連の実施形態では、本発明で使用するジエンゴムは、タイヤトレッドなどのタイヤ構成要素として使用できるゴム化合物の製造での使用に適したものである。本発明で使用されるジエンゴムは、例えば、官能化または非官能化スチレンブタジエンゴム(SBR)であり得る。官能化されていないSBRが特に好ましい。
【0086】
スチレン-ブタジエンゴムは当技術分野でよく知られている。本明細書で使用する「スチレン-ブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)」すなわち「SBR」という用語は、一般に、スチレンおよびブタジエンモノマーの重合によって製造される任意の合成ゴムを指すことを意図している。したがって、それはあらゆるスチレン-ブタジエン共重合体を指す。SBRはタイヤ産業で一般的に使用されており、エマルション、懸濁液、または溶液中での対応するモノマーの共重合などの周知の方法によって製造することができる。スチレンモノマーおよびブタジエンモノマーは、ゴム化合物の用途および特性に応じて適切な比率で選択され得る。例えば、スチレンは、ゴムタイヤトレッド化合物に対して80重量%まで、より典型的には約45重量%までの量で存在し得る(コモノマーの総重量に対する重量%)。ジエン成分は一般に少なくとも50重量%の量で存在する。トレッド化合物には、使用時の路面との接触により良好な粘弾性特性が求められるほか、濡れた路面での転がり抵抗およびトラクションなどの特性も求められる。このような特性を達成するためのスチレンの適切な量はタイヤ業界では周知であり、当業者であれば容易に選択することができる。
【0087】
選択されたジエンゴムは、本明細書に記載の化合物中のゴム100部として使用することができ、またはゴム配合用に従来使用されている任意のエラストマーもしくは天然ゴムおよび合成ゴムの両方を含むそれらのブレンドとブレンディングしてもよい。異なるジエンゴムのブレンドを使用してもよい。任意のブレンドでの使用に適したゴムは当業者によく知られており、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、ブタジエン-イソプレンゴム、ポリブタジエン、ブチルゴム、ネオプレン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素エラストマー、エチレンアクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンターポリマー(EPDM)、エチレン酢酸ビニル共重合体、エピクロルヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、水素化ニトリルゴム、および四フッ化エチレン-プロピレンゴムが挙げられる。任意のポリマーブレンドの比率は、必要に応じて、例えばゴム化合物の粘弾性特性に基づいて選択することができる。当業者は、所望の粘弾性特性範囲を提供するためにどのエラストマーが適切であるか、およびそれらの相対量を容易に決定することができる。
【0088】
好ましい実施形態では、本発明で使用するために選択されるジエンゴムはSBRである。これは、単独で使用しても、本明細書で言及する他のゴムのいずれかとのブレンドとして使用してもよい。二成分ブレンドおよび三成分ブレンドが好ましい。一連の実施形態では、SBRをブタジエンゴムおよび/または天然ゴムと組み合わせて使用してもよい。ブタジエンゴムと組み合わせて使用する場合、ブレンド中のSBRの量は、50~90重量%の範囲(ブレンドの総重量に対して)、好ましくは60~80重量%の範囲、例えば約70重量%であってよい。成分が70:30の重量比で存在するSBR:ブタジエンゴムの二成分ブレンドが特に好ましい。SBR、ブタジエンおよび天然ゴムを含む三成分ブレンドも本発明で使用することができる。このようなブレンドでは、SBRが一般に主成分を形成し、また、40~80重量%(ブレンドの総重量に対して)、好ましくは50~70重量%、例えば約60重量%の量で存在する。ブタジエンおよび天然ゴム成分はそれぞれ、10~30重量%の範囲(ブレンドの総重量に対して)、例えば約20重量%の量で存在し得る。例えば、各成分が60:20:20の重量比で存在するSBR:ブタジエン:天然ゴムブレンドを使用してもよい。
【0089】
SBRなどの合成ゴムの市販の販売元には、ドイツのArlanxeoがある。本発明で使用するスチレンブタジエンゴムの非限定的な例としては、Buna VSL 3038-2 HM(Arlanxeo、ドイツ)が挙げられる。
【0090】
修飾シリカは、ジエンゴム、および所望に応じて他のゴム材料とブレンドすることで、本発明に係るゴム化合物を提供することができる。
【0091】
本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物の調製方法は、本発明のさらなる態様を形成する。したがって、別の態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物の製造プロセスであって、前記プロセスは、ジエンゴムマトリックス中にシリカ充填剤を分散させるステップを含み、ここで、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加によって表面修飾されている、製造プロセスを提供する。
【0092】
本明細書に記載の修飾シリカがゴムマトリックス中に分散されているジエンゴム-シリカ化合物は、ゴム化合物の製造において当技術分野で知られている方法、例えば、シラン、加工助剤、硬化システム、劣化防止剤、顔料、追加の充填剤、充填剤用の相溶化剤、繊維、樹脂などを含む他の成分との配合方法を使用して製造することができる。当業者は、所望の特定のゴム製品に従って、その後の混合および加硫のための加硫可能なゴム化合物の組み合わせを容易に選択することができる。
【0093】
例えば、本明細書に記載のジエンゴムマトリックスおよび化学修飾シリカ充填剤に加えて、加硫可能な組成物は、加工助剤(例えば、油)、活性化剤(例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸など)、硫黄または硫黄供与化合物、促進剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、オゾン防止剤など)、顔料、追加の充填剤、および相溶化剤を含有し得る。酸化亜鉛およびステアリン酸は、加硫時間を短縮することで加硫プロセスの活性剤として機能し、また、硬化または加硫中に形成されるゴムマトリックス内の架橋の長さおよび数に影響を与える。これらの添加剤は、硫黄加硫材料の用途に応じて選択し、また通常の量で使用することができる。
【0094】
ゴム化合物に混合される修飾シリカの量は、得られる化合物の所望の物理的特性に基づいて選択でき、例えば他の充填剤の存在または不存在に依存し得る。適切な量は当業者によって容易に決定され得るが、例えば、約20~約150phr、好ましくは約50~約100phr、例えば約60~約90phrの範囲であり得る(ここで、「phr」とはゴム100部あたりの部数である)。
【0095】
カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ショートカーボン、ポリアミド、ポリエステル、天然繊維、炭酸カルシウム、粘土、アルミナ、アルミノケイ酸塩など、またはこれらの任意の混合物といった追加の補強充填剤も存在し得る。しかしながら、典型的には、組成物中に存在する唯一の充填剤は、本明細書に記載される化学修飾シリカである。
【0096】
加工助剤は、組成物の加工性を改善し、鉱油、植物油、合成油、またはそれらの任意の混合物などの油を含む。これらは、約5~75phr、好ましくは約10~50phrの量で使用され得る。典型的な加工助剤としては、芳香油などの油が挙げられる。このような油の例としては、処理留出芳香族抽出物(TDAE)、残留芳香族抽出物(RAE)、マイルドな抽出物溶媒和物(MES)、およびバイオベースの油糧種子誘導体が挙げられる。
【0097】
酸化亜鉛は、約1~約10phr、好ましくは約2~約5phr、より好ましくは約2~約3phrの量で使用され得る。ステアリン酸は、約1~約5phr、好ましくは約2~約3phrの量で使用され得る。
【0098】
硫黄は、組成物の満足な硬化を達成するのに有効な量で使用され得る。それは、例えば、約1~約10phr、好ましくは約1~約5phr、例えば約1~約3phrの範囲であり得る。
【0099】
促進剤は、約1~約5phr、好ましくは約1~約3phrの量で使用され得る。促進剤としては、チアゾール、ジチオカルバメート、チウラム、グアニジン、およびスルホンアミドが挙げられる。適切な促進剤の例としては、N-ターシャリーブチルベンゾチアジルスルホンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)、ジフェニルグアニジン(DPG)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)およびテトラベンジルチウラムジスルフィド(TBZTD)が挙げられる。
【0100】
相溶化剤は、配合中のシリカ凝集体の形成を低減するために使用され得、約0~約5phr、好ましくは約1~約3phrの量で存在し得る。一実施形態では、追加の相溶化剤は存在しない。シリカとゴムとを組み合わせる際に使用する多くの相溶化剤が既知である。シリカベースの相溶化剤としては、アルキルアルコキシシラン、例えばヘキサデシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシランおよびヘキシルトリメトキシシランなどのシランが挙げられる。
【0101】
シリカをSBRマトリックスに共有結合させるように機能するカップリング剤が存在してもよいが、本明細書に記載の理由により、これらは存在しないことが一般に好ましい。もしこれらが存在する場合は、少量で提供すべきである。任意のカップリング剤の適切な量は、その分子量、それが含有する官能基の数、およびその反応性などの要素を念頭に置いて、当業者によって決定され得る。ほとんどのカップリング剤は、シリカの量に基づいて等モル量で使用され得る。カップリング剤としてビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドを使用する場合、これはシリカ80phr当たり約0.6~約4.8phr、好ましくはシリカ80phr当たり1.2~3.2phrの量で提供され得る。カップリング剤の例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPT)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)および3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシランなどの二官能性シランが挙げられる。一実施形態では、追加のカップリング剤は存在しない。
【0102】
ゴム化合物は、当技術分野で知られている方法によって調製され得、ゴム、修飾シリカ充填剤、および本明細書に記載の任意の他の成分を混合(すなわち配合)して、その後の加硫のためのゴム化合物を製造することを含む。
【0103】
成分の混合は、通常、成分が添加される段階で行われる。シリカ充填剤の分散を最適化するには、一般にマルチステップ混合プロセスが好ましく、複数のミキサー、例えば直列に配置された様々なミキサーの使用を伴う場合がある。例えば、タイヤトレッド化合物を混合する場合、混合プロセスには、マスターバッチを製造する最初の混合段階と、それに続く1つ以上の追加の直接製造に関係のない混合段階、および最終的に、硬化剤(すなわち、硫黄または硫黄供与剤および促進剤)を添加する生産的な混合段階が含まれ得る。使用してもよいミキサーは当技術分野で周知であり、例えば、接線方向または噛み合いローターを有するオープンミルまたはバンバリー型ミキサーが挙げられる。
【0104】
通常、ゴム、シリカ充填剤、加工助剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、劣化防止剤(酸化防止剤、オゾン防止剤など)、顔料、追加の充填剤、相溶化剤、カップリング剤(存在する場合)を混合して、最初のマスターバッチを製造する。この最初のマスターバッチの後に、追加の充填剤および添加剤を追加する別のマスターバッチが続いたり、または付加的な成分が追加されない直接製造に関係のない混合段階が続いたりする場合がある。ゴム内に成分(充填剤など)をさらに分散させるため、または混合ゴム化合物の粘度を下げるために、直接製造に関係のない混合段階を使用してもよい。
【0105】
混合中、組成物の早期架橋を避けるために、温度は所定のレベル未満に維持される。一般に、温度は150℃未満、好ましくは140℃未満に維持され得る。最初のマスターバッチを製造する際、混合は、例えば約80~約110℃、例えば約100℃の温度で実施され得る。直接製造に関係のない混合段階では、温度を例えば約150℃まで、例えば約130℃まで上昇させ得る。混合手順中にシリカのin situでのシラン化が行われる場合、反応が起こるためにはこの範囲の上限の温度を使用することが必要となり得る。同様に、混合中に追加の相溶化剤を添加する場合、これらの相溶化剤がシリカ表面と確実に反応するように、より高い温度で混合を実行する必要があり得る。混合時間は変動し得るが、当業者であれば、混合物の組成および使用するミキサーの種類に基づいて容易に混合時間を決定することができる。一般に、所望の均質な組成物を得るには、少なくとも1分間、好ましくは2~30分間の混合時間で十分である。
【0106】
最終混合段階は、促進剤や劣化防止剤を含む硬化剤の添加を包含する。この混合段階の温度は一般的により低く、例えば約40℃~約60℃の範囲内、例えば約50℃である。この最終混合の後には、成分を加えない直接製造に関係のない混合段階がさらに続くこともある。
【0107】
加硫可能なゴム化合物を得るために、最も適切な混合の種類を容易に選択できる。混合速度は容易に決定することができるが、例えば約20~約100rpm、例えば約30~約80rpmの範囲、好ましくは約50rpmの速度であってもよい。
【0108】
加硫可能なゴム化合物は、組成物を硬化させる最終加硫のための未硬化の(いわゆる「グリーン」)タイヤ部品として供給され得る。ゴム成分を架橋するための硬化は、既知の方法によって実行され得る。例えば、タイヤ産業では、未硬化のゴム(いわゆる「グリーンボディ」)が製造され、続いてプレス金型で硬化され、同時的にゴム成分が架橋され、成分が最終タイヤに成形される。加硫は、主に硫黄架橋による架橋によってゴムを硬化させる。加硫方法はよく知られた方法である。適切な加硫条件は、通常、120~200℃の範囲の温度で5~180分間加熱することを含む。
【0109】
以下のスキームは、配合中の表面修飾シリカ上に存在する一般的なπ系含有部位とSBR鎖との間の1つのタイプのπ-π相互作用の形成を示しており、
【化10】

式中、A、Z、およびRは本明細書で定義されている通りであり、および、
【化11】
は、π系含有部位、例えばフェノール樹脂の残さを表している。
【0110】
加硫可能なゴム組成物は、本発明のさらなる態様を形成する。したがって、別の態様では、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含む加硫可能なゴム組成物であって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成するπ系含有部位の付加により表面修飾されている、ゴム組成物を提供する。
【0111】
本明細書に記載の任意の加硫可能なゴム組成物の架橋によって、得られるか、直接得られるか、または得ることができる加硫ゴム化合物も本発明の一部である。
【0112】
加硫ゴム化合物を製造する方法もまた本発明の一部を形成する。したがって、別の態様では、本発明は、加硫されたジエンゴム-シリカ化合物の製造プロセスであって、前記プロセスは、シリカ充填剤をジエンゴムマトリックスに導入し、それによって加硫可能なゴム化合物を製造するステップと、前記加硫可能なゴム化合物を、所定の温度および所定時間加熱することにより加硫させるステップと、を含み、ここで、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとπ-π相互作用を形成することができるπ系含有部位の付加によって表面修飾されている、製造プロセスを提供する。
【0113】
本明細書に記載のゴム化合物は、車両用タイヤの製造、特にタイヤトレッドなどのタイヤ部品の製造に特に使用される。タイヤトレッドはあらゆる車両用タイヤに使用され得るが、特に自動車用のタイヤトレッドの製造に使用される。ゴム化合物の他の用途としては、振動ダンパー、サイドウォールゴム、インナーライナーゴム、ビードフィラーゴム、ボディプライゴム、スキムショックゴム、トレッドゴムが挙げられる。
【0114】
したがって、別の態様では、本発明は、車両用タイヤの部品として、または車両用タイヤの部品の製造における、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物の使用を提供する。
【0115】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物から製造されたタイヤトレッドなどの車両用タイヤ部品を提供する。車両用タイヤ部品を備える車両用タイヤもまた本発明の一部を形成する。
【0116】
タイヤの部品の組み立ておよび製造方法は、当技術分野でよく知られている。「グリーン」タイヤの組み立てに続いて、加硫によって最終的なタイヤが製造される適切な金型内で圧縮成形が行われる。
【0117】
本発明に係るゴム化合物は、ホースおよびシールの製造など、タイヤ以外の用途にも使用され得る。
【0118】
本発明において、従来の充填剤を化学修飾シリカ充填剤で置き換えることにより、タイヤトレッドゴム化合物として使用するのに許容できる湿潤時のトラクションおよび転がり抵抗のみならず、優れた物理的特性を有するゴム化合物が得られる。タイヤ産業では、硬化したタイヤの特性を予測するために、ゴム化合物の様々な試験が使用される。これら特性としては、以下のものが挙げられる、すなわち、
ペイン効果:
これはフィラーネットワークの範囲を示すものであり、ゴムプロセスアナライザーを使用して測定される。
引張強さ(tensile strength)、破断点伸び(Elongation at Break)、補強指数(reinforcement index)などの機械的特性:
万能試験機Zwick Z05(Zwick、ドイツ)をクロスヘッド速度500mm/minで使用した、ASTM D412規格。
60℃での反発率(percent rebound)はトレッド化合物の転がり抵抗の予測因子である。
化合物と比較した場合、60℃での反発率の増加は、転がり抵抗が低いことを示す。反発力は、ISO 8307に従って、Zwick 5109(Zwick、ドイツ)を使用して測定され得る。
硬度、ショアAは、DIN 53505に従って万能硬度試験機(Zwick、ドイツ)を使用して測定され得る。
動的機械的特性:
これらは、Gabo-Netzsch Eplexorを使用して10Hzの周波数で、0℃未満で1%、および室温で3%の動的ひずみによって測定され得る。0℃における損失係数(タンジェントδ、すなわち、tanδ)は、ウェットトラクションの指標である。対照化合物と比較した場合、0℃でのtanδの増加は、トレッド化合物のウェットトラクションの向上と相関している。60℃におけるtanδは転がり抵抗の指標である。対照化合物と比較した場合、結果の値が低いことは、転がり抵抗が減少していることの指標である。
【0119】
本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物は、当技術分野で知られている方法を使用してリサイクルされ得る。リサイクルはゴムの脱硫を含む。リサイクル中、ゴム化合物は通常、細かく砕かれた形に切断される。修飾シリカ充填剤とジエンゴム鎖との間に可逆的なπ-π相互作用が存在するため、ゴム化合物をさらに処理することが可能となり、それによって過酷な処理条件を必要とせずに可逆的な結合を切断できる。例えば、穏やかな化学的、熱物理的、または生物学的処理などの方法が使用され得る。不純物を除去した後、ゴムは1つ以上の追加のポリマー成分と組み合わせて、新しいポリマー材料に変換され得る。
【0120】
したがって、さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物のリサイクル方法であって、前記化合物を脱硫するステップと、任意でジエンゴムを回収するステップと、を含む、リサイクル方法を提供する。
【0121】
リサイクル方法は、化合物をせん断して細かく砕かれたゴム組成物を形成し、その後、脱硫にかけるステップを含み得る。ジエンゴム-シリカ化合物のせん断は、粉砕などの任意の既知の方法を使用して達成され得る。細かく粉砕された後、ゴムを再生するために脱硫を実行できる。脱硫の方法としては、物理的プロセス(例えば、機械的、熱機械的、マイクロ波、および超音波)、または化学的プロセス(例えば、ラジカル捕捉剤、求核性添加剤、触媒システムまたは化学プローブの使用)が挙げられる。熱脱硫は、180~300℃の温度で実行され得る。熱化学的脱硫は、脱硫助剤(例えば、ジフェニルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジ(2-アミノフェニル)ジスルフィドなどのジスルフィド)を使用し、180~300℃の温度を使用することによって達成することができる。
【0122】
回収されたジエンゴムは、元の未使用のジエンゴムおよび/または他の追加のポリマー成分とブレンドして、新しいポリマー材料の製造に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
本発明は、以下の非限定的な実施例および添付の図面によってさらに説明される。
図1】本発明の一実施形態におけるシリカ、エポキシ官能基およびフェノール樹脂の間の反応の概略図である。
図2】未修飾シリカおよび修飾シリカのFTIR分析の図である。
図3】未修飾シリカおよび、3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、反応にDPGを使用した3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、および3-アミノプロピルトリエトキシシランによる修飾シリカのTGA曲線の図である。
図4】修飾シリカのa)C1sおよびb)O1sのXPSスペクトルの図である。
図5】SSBR/シリカ化合物のa)硬化済みのおよびb)未硬化のペイン効果の図である。
図6】SSBR/シリカ化合物のa)応力-ひずみ曲線およびb)補強指数の図である。
図7】SSBR/シリカ化合物のa)温度の関数としての損失係数(tanδ)の変化、並びにb)60℃および0℃での最大TanδおよびTanδの図である。
図8】SSBR/シリカ化合物の100℃における応力-ひずみ曲線の図である。
【実施例
【0124】
[試験手順]
1.ペイン効果
ペイン効果は、ゴム プロセス アナライザーRPAエリート(TA instruments)を使用し、硬化サンプルおよび未硬化サンプルのひずみスイープを0.1%~100%まで、周波数1.6Hz、並びに温度60℃で測定した。硬化サンプルはあらかじめ装置チャンバー内で160℃の加硫条件に従って加硫した。
【0125】
2.弾性率、引張強さ、および破断点伸び
弾性率、引張強さ(最大ひずみにおける応力)および破断点伸びは、ASTM D412に従って500mm/分のクロスヘッド速度で操作される万能試験機Zwick Z05(Zwick、ドイツ)を使用して測定した。弾性率(100%(M100))および300%(M300))、引張強さ(Ts)並びに破断点伸び(Eb)は、ASTM D412の計算に従って計算した。補強指数は、M300とM100との比として決定した。
【0126】
3.反発
反発、つまり、返されたエネルギーと供給されたエネルギーとの比に基づくゴムサンプルの弾性は、試験機Zwick 5109(Zwick、ドイツ)を使用してISO 8307に従って測定した。反発率をISO 8307に従って計算した。
【0127】
4.硬度、ショアA
ショアA硬度は、万能硬度計(Zwick、ドイツ)を使用してDIN 53505に従って測定した。
【0128】
5.損失弾性率および貯蔵弾性率、並びに損失係数(tanδ)
加硫サンプルの動的機械測定は、Gabo-Netzsch Eplexorを使用して実行した。測定は、周波数10Hz、0℃未満で1%、および室温(RT)で3%の動的ひずみで実行した。室温でのひずみの変化は、測定時にノイズが発生し得る高温でのゴムの軟化に起因して調査した。
【0129】
6.高温における機械的特性
100℃における化合物の機械的特性は、500mm/分のクロスヘッド速度および330%の限界ひずみで操作される万能試験機Zwick Z010(Zwick、ドイツ)によって測定した。試験を100℃の恒温室で実施した。サンプルを引張機械でサイクルする前後の加硫化合物の動的特性の測定を、Gabo-Netzsch Eplexorで実行した。測定は、周波数10Hz、0℃未満で1%、および室温(RT)で3%の動的ひずみで実行した。室温でのひずみの変化は、測定時にノイズが発生し得る高温でのゴムの軟化に起因して調査した。サンプルのサイクルは、クロスヘッド速度500mm/分、限界ひずみ200%で操作される万能試験機Zwick Z010(Zwick,ドイツ)で実行した。すべてのサンプルは100℃で5回サイクルした。
【0130】
[ゴム化合物の調製]
タイヤトレッド用のゴム化合物は、ポリマーマトリックスとして非官能化溶液スチレンブタジエンゴム(SSBR)を使用し、充填剤として事前修飾シリカを使用して調製した。
【0131】
[材料]
ゴム:非官能化SSBR:Buna VSL 3038‐2 HM(
Arlanxeo、ドイツ)。
シリカ:ULTRASIL(登録商標)7000GR(Evonik Resource Efficiency GmbH、ドイツ)。
(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(Sigma Aldrich、オランダ)、
(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)(Sigma Aldrich、オランダ)。
DUREZ 19900(住友ベークライトヨーロッパ、ベルギー)、
TDAE(ハンセン&ローゼンタール、ドイツ)、
酸化亜鉛(Millipore Sigma、ドイツ)、
ステアリン酸(Millipore Sigma、ドイツ)、
硫黄(Caldic B.V.、オランダ)、
N‐ターシャリーブチルベンゾチアジルスルホンアミド(TBBS)(Caldic B.V.、オランダ)、
ヘキサデシルトリメトキシシラン(Sigma Aldrich、オランダ)、
ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD):Si266(登録商標)(Evonik Resource Efficiency GmbH、ドイツ)。
【0132】
[シリカの修飾]
シリカ(ULTRASIL(登録商標)7000 GR)の化学修飾は、シランとアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(DUREZ 19900)との反応によって実施した。修飾に使用したシランは、エポキシシラン、すなわち(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、およびアミノシラン、すなわち(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)であった。図1は、シランが(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランである場合の反応の概略図である。
【0133】
[ステップ1:シリカとシランとの反応]
シリカ(ULTRASIL(登録商標)7000 GR)およびシランを反応させた。シランの量は、修飾プロセスに使用されたシリカの質量の10%であった。反応は、溶媒としてトルエンを使用して55℃で24時間実施した。
【0134】
[ステップ2:シリカ表面へのフェノール樹脂のグラフト化]
アルキルフェノール-ホルムアルデヒド樹脂をシリカ表面にグラフト化した。事前修飾シリカとフェノール樹脂との反応は、溶媒としてトルエンを使用し、55℃で24時間実施した。3-(グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランとの反応の場合、より高い収率を得るために反応を修正した、すなわち、DPGを触媒として添加し、エポキシ開環を促進した。添加したシランの量は、シリカ100g当たり15%であった。
【0135】
得られた修飾シリカを、DRIFTS(拡散反射赤外フーリエ変換分光計)セルを使用したフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって分析した。シリカの化学修飾は、~2985cm-1、~2750cm-1、~1440cm-1(それぞれ-CH、芳香族C=C、および-CHに対応)に位置する3つのピークの存在によってすべてのサンプルについて確認した(図2を参照)。
【0136】
反応の収率は、窒素および空気雰囲気下で室温から800℃まで20℃/分の加熱速度で操作するTA Instruments社のTA550装置を使用する熱重量分析(TGA)によって測定した。得られた収率は、3-(グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランとの反応では1.6%、また3-アミノプロピルトリエトキシシランとの反応では2%であった。DPGを触媒とした3-(グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランとの反応の場合、得られた収率は8%であった。様々な反応で生成した未修飾シリカおよび修飾シリカのTGA曲線を図3に示す。
【0137】
X線光電子分光法(XPS)は、Physical Electronics社のQuantera SXM(走査型XPSマイクロプローブ)を使用して実施した。データ分析は、XPS制御用ソフトウェアCompass、データ削減用Multipak v.9.8.0.19を使用して行った。XPS分析により、サンプル中に炭素原子が存在することが示され、シランがシリカと反応したことが示された。C1sスペクトルでは、C-O-C構造の存在が観察され、エポキシ環が修飾を受けても存在し続けることが証明された。加水分解によりC-O-Hが形成され得るが、これが観察されるのはごく少量である(図4を参照)。
【0138】
[本発明に係るゴム化合物の調製]
本発明に係るゴム化合物(SBR/修飾シリカ)は、密閉式ミキサー(Brabender Plasticorder 350S、デュイスブルク、ドイツ)内で、充填率0.7、初期温度100℃、およびローター速度50rpmで調製した。表1の配合および表2の混合手順に従ってサンプルを調製した。各ゴム化合物は、相溶化剤(ヘキサデシルトリメトキシシラン)を添加した場合と添加しない場合の2つの異なるバージョンで調製した。混合プロセス中に相溶化剤を添加すると、配合中の充填剤間の相互作用が減少する。
【0139】
【表1】
【0140】
【表2】
【0141】
本発明に係る最終ゴム化合物の詳細を以下の表3に示す。
【表3】
【0142】
[参照ゴム化合物の調製]
SSBR/修飾シリカゴム化合物から得られた結果を3つの参照ゴム化合物と比較し、その詳細を表4に示す。
【表4】
【0143】
参照化合物は、表5に示される配合に従って、および表2に示される本発明に係る化合物に使用される混合手順に従って調製した(ここで、シランは必要に応じて「TESPDまたは相溶化剤」である)。
【表5】
【0144】
[ゴム化合物の試験]
測定されたペイン効果の結果を表6および図5に示す。
【表6】
【0145】
結果によると、本発明に係る化合物1dおよび2bが、参照化合物1および2よりも低い未加硫ペイン効果を示し、参照化合物3よりわずかに優れた未加硫ペイン効果を示す。
【0146】
加硫化合物の機械的特性の結果を表7および図6に示す。
【表7】
【0147】
機械的特性は、本発明に係るすべての化合物が参照化合物と同様の補強値を有し、化合物2bの場合にはすべての参照化合物よりも優れていることを示している。本発明に係る化合物の引張強度は、化合物1c、1dおよび2bがわずかに低いことを除いて、参照化合物と同様である。本発明に係る化合物は、参照化合物と同様の破断点伸びの値を示す。本発明に係るすべての化合物の値は、参照化合物に関して許容可能であると考えられる。
【0148】
化合物の反発特性および硬度を表8に示す。反発結果は、本発明に係るすべての化合物が参照化合物よりも低い値を示す。本発明に係る化合物は、参照化合物と同様の硬度値を示す。本発明に係る化合物は、参照化合物と同様の硬度値を示す。化合物1aは、すべてのサンプルの中で最高の硬度値を示す。
【0149】
【表8】
【0150】
加硫サンプルの動的機械測定の結果を表9および図7に示す。
【表9】
【0151】
温度の関数としての損失係数(tanδ)の分析によれば、本発明に係る化合物は、参照化合物と比較して、60℃でのtanδのより高い値(より高い転がり抵抗を示す)、および0℃でのtanδの同様の値並びにtanδの最大値(同様のウェットグリップを示す)であった。本発明に係るすべての化合物の値は、参照化合物に関して許容可能であると考えられる。
【0152】
本発明に係るシリカ修飾によって生成された新しい結合の再接続性は、高温での化合物の機械的応答を研究し、また化合物をサイクル(疲労試験)にかけた後の動的特性の変化を分析することによって解析した。結果を図8および表10に示す。
【0153】
【表10】
【0154】
100℃で測定された機械的特性の結果は、本発明に係る化合物が高温に対してより優れた耐性を示すことを示している。すべての参照サンプルは、実験用に設定された限界ひずみ(330%ひずみ)に達する前に破損した。しかし、本発明に係る化合物の場合、サンプルは実験中に破壊されなかったが、これは、シリカ修飾によって生成された新しい結合が再連結でき、その結果、高温での試験に耐え得ることを示している。100%における弾性率に関して、本発明に係る化合物は、参照サンプルと比較してより低い弾性率を示す。
【0155】
引張機械でのサイクル前後の加硫化合物の動的機械測定の結果を表11に示す。
【表11】
【0156】
化合物2bは、200%ひずみまで100℃で5サイクル処理した後、参照化合物3よりも動的特性の変化が小さくなったことを示していた。
【0157】
本発明について、例示的な実施形態を参照して説明した。修正および変更は、本開示および添付の特許請求の範囲内にある限り、本発明の一部を形成するとみなされる。本開示の範囲は、特許請求の範囲を参照して決定されるべきであり、均等物を含むものとみなされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】