(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】酪酸アルギニンを含む非経口栄養製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20231128BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20231128BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/51 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/525 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/4415 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/714 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20231128BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20231128BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20231128BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20231128BHJP
A61K 33/18 20060101ALI20231128BHJP
A61K 33/16 20060101ALI20231128BHJP
A61K 33/32 20060101ALI20231128BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20231128BHJP
A61K 33/04 20060101ALI20231128BHJP
A61K 33/30 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P1/00
A61K9/08
A61P43/00 121
A61K31/51
A61K31/525
A61K31/455
A61K31/197
A61K31/4415
A61K31/714
A61K31/4188
A61K31/519
A61K33/34
A61K33/24
A61K33/18
A61K33/16
A61K33/32
A61K33/26
A61K33/04
A61K33/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023531022
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-23
(86)【国際出願番号】 US2021059690
(87)【国際公開番号】W WO2022115293
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591013229
【氏名又は名称】バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
(71)【出願人】
【識別番号】501453189
【氏名又は名称】バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【住所又は居所原語表記】Thurgauerstr.130 CH-8152 Glattpark (Opfikon) Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジャンナン, ローラン クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ハイズ ブラウン, メアリー
(72)【発明者】
【氏名】ヘック, ジュリアン ア. エル.
(72)【発明者】
【氏名】ザロガ, ゲイリー ピー.
(72)【発明者】
【氏名】タッペンデン, ケリー エー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC16
4C086AA01
4C086AA02
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4C086BC19
4C086BC83
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4C086DA39
4C086HA01
4C086HA03
4C086HA08
4C086HA09
4C086HA11
4C086MA01
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4C086MA03
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA66
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4C086ZA66
4C086ZC24
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA05
4C206GA36
4C206HA32
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA86
4C206NA05
4C206ZC75
(57)【要約】
胃腸障害に罹患しているか、または胃腸障害を発症するリスクがある患者の処置に使用するための組成物が開示される。該組成物は、該組成物の150mg/L~5500mg/Lの濃度の酪酸アルギニンを含む注射用水溶液である。関連する組成物を投与することによって、胃腸障害に罹患しているか、または胃腸障害を発症するリスクがある患者を処置する方法も開示される。本明細書の開示に照らして、決して本発明の範囲を限定するものではないが、特に明記しない限り本明細書に列挙される任意の他の態様と組み合わせることができる本発明の第1の態様では、1リットル当たり1~3000mmolの濃度の酪酸アルギニンを含む組成物が、局所および全身性炎症、低下した腸バリア機能、ならびに低下した局所および全身性免疫の処置または予防に使用するために提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃腸障害に罹患している、または胃腸障害を発症するリスクがある患者の処置に使用するための組成物であって、前記組成物が、前記組成物1Lあたり150mg~5500mgの濃度の酪酸アルギニンを含む注射用水溶液である、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、アミノ酸も炭水化物も実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビオチンおよび葉酸からなるビタミン群より選択される1つまたはそれを超える水溶性ビタミンをさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、銅、クロム、フッ化物、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、セレンおよび亜鉛からなる微量元素の群より選択される1つまたはそれを超える微量元素をさらに含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
酪酸アルギニンが、250g/リットル~5.5g/リットル、260mg/リットル~4.5g/リットル、280mg/リットル~3.5g/リットル、300mg/リットル~2.5g/リットル、320mg/リットル~1.5g/リットル、または350mg/リットル~800mg/リットルの濃度で存在する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物のpHが5.0~8.0である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
酪酸アルギニンが唯一の有効成分である、請求項1、2、5または6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記患者が、非経口栄養を受けている小児または成人患者である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記患者が、腸管炎症、腸内の低下した局所免疫、および/または低下した腸バリア機能に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記患者が、非経口栄養からエネルギー必要量の50%超、好ましくは60%超、70%超、80%超または90%超をカバーする最小経腸栄養を有する任意のICU患者、重篤な患者、在宅PN患者、または入院患者である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝的にストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養不良患者、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはそれらを発症するリスクがある患者、腸運動性低下に罹患しているか、腸運動性低下を発症するリスクがある患者、火傷または外傷を有する患者、IFALDを発症している患者である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者または腸管不全患者である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記患者が腸管不全に罹患しているか、または腸管不全を発症するリスクがある、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記患者が短腸症候群に罹患しているか、または短腸症候群を発症するリスクがある、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、静脈内、筋肉内または皮下注射によって、好ましくは静脈内注射によって前記患者に投与される、請求項1から14までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、配合中に非経口栄養製剤に添加されるか、または前記患者への投与前に予め混合された非経口栄養製剤と混合される、請求項1から15までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、5mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、5mg/kg/日~5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
胃腸障害に罹患しているか、または胃腸障害を発症するリスクがある患者を処置する方法であって、薬学的に十分な量の請求項1に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項20】
前記患者が、非経口栄養を受けている小児または成人患者である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記患者が、非経口栄養からエネルギー必要量の50%超、好ましくは60%超、70%超、80%超または90%超をカバーする最小経腸栄養を有する任意のICU患者、重篤な患者、在宅PN患者、または入院患者である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝的にストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養不良患者、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはそれらを発症するリスクがある患者、腸運動性低下に罹患しているか、腸運動性低下を発症するリスクがある患者、火傷または外傷を有する患者、IFALDを発症している患者である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者または腸管不全患者である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が腸管不全に罹患しているか、または腸管不全を発症するリスクがある、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記患者が短腸症候群に罹患しているか、または短腸症候群を発症するリスクがある、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が、5mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物が、5mg/kg/日~5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術の分野
本開示は、胃腸障害に罹患しているか、またはそのような障害を発症するリスクがある患者、特に非経口栄養を受けている小児または成人患者の胃腸障害の処置または予防に使用するための酪酸アルギニンを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
非経口栄養(PN)は、進行性の栄養失調を予防し、胃腸障害を有する多くの患者に救命治療を提供する。しかしながら、PNは、経口または経腸からのいかなる栄養摂取も不可能である長期の非経口栄養を受けている重症患者において、局所および全身の両方で感染および炎症の発生率の上昇と関連しているようである。研究によりまた、腸管バリア機能の低下が少なくとも部分的に原因となり得ることが示唆されている(Fukatsu and Kudsk,Surg Clin North Am.2011;91(4):755-770)。したがって、腸管のバリア(本明細書で互換的に使用される「腸管バリア」、「腸バリア」または単に「バリア」)、局所および全身性炎症ならびに局所および全身(非特異的)免疫は、長年にわたって調査の対象であった。
【0003】
腸管は、単層の円柱上皮細胞で覆われており、栄養素の選択的吸収を可能にする一方、病原体および食物由来の抗原へのアクセスを制限する前述の腸バリアを形成している。したがって、上皮バリア機能の正確な調節が、粘膜ホメオスタシスを維持するために必要であり、部分的には、上皮内のバリア形成要素および粘膜における炎症促進因子と抗炎症因子との間のバランスに依存している。炎症性腸疾患などの病態は、上皮バリアの漏出を伴い、微生物抗原への過剰な曝露、白血球の動員、可溶性メディエーターの放出、および最終的には粘膜損傷をもたらす。炎症性微小環境(本明細書では「局所炎症」と呼ばれる)は、直接的および間接的な機構を介して上皮細胞間ジャンクションの構造および機能を変化させることによって上皮バリア特性および粘膜恒常性に影響を及ぼす(Luissintら、Inflammation and the Intestinal Barrier:Leukocyte-Epithelial Cell Interactions,Cell Junction Remodeling,and Mucosal Repair.Gastroenterology 2016;151(4):616-632)またはAlverdy et al.: Total parenteral nutrition promotes bacterial translo-cation from the gut. Surgery 1988; 104: 185-190。
【0004】
腸バリア機能は、Assimakopoulosら、The Role of the Gut Barrier Function in Health and Disease.Gastroenterology Res2018;11(4):261-263にも記載されている。様々な理由(大規模な肝臓切除、腸切除、腸移植など)で大手術に供された外科患者において特に腸バリア機能が失われることは、細菌トランスロケーションの増加、すなわち、生菌が胃腸管から上皮粘膜を通って粘膜固有層に入り、次いで腸間膜リンパ節に、そしておそらく通常は無菌器官を通過することに関連し、このことは次に感染性合併症および全身性炎症反応の促進に関連する。腸炎症促進性応答は、腸損傷をさらに悪化させ、腸間膜リンパ管で危険因子関連分子パターン(DAMP)が放出され、肺および全身循環に運ばれ、Toll様受容体-4および潜在的に他のパターン認識受容体(PRR)を刺激し、したがって最終的に多様な器官で有害作用を促進する。したがって、腸は、全身的な細菌移行を必要としない場合であっても、DAMPの放出を介して、遠隔器官においてさえ危険な効果を促進する炎症誘発性器官になる。腸バリア機能低下のこの劇的な効果は、重度の損傷および/または敗血症で集中治療室に入院している重篤な患者にとって極めて重要である。
【0005】
腸によって構築される防御の別の重要な態様は、免疫系に関する。特に、粘膜免疫系は、身体の全免疫の約50%~60%を提供し、人体によって作られる抗体の約7%を産生する。例えば、それは分泌型IgA(sIgA)の形態で管腔内細菌に対する特異的抗体を産生し、これは炎症を介してではなく、接着および細菌排除を介して機能する。本発明の文脈において、これは腸の「局所免疫」と呼ばれる。分泌型IgAの保護的役割は、一般に粘膜感染との関連で評価されており、IgAが、免疫排除として知られるプロセスである、上皮へのまたは上皮の下への微生物の付着を阻止し、アクセスを制限することにより、防御の第一線として作用することが示された。しかしながら、IgAはまた、共生生物、上皮および免疫系の間の複雑な相互作用を維持するのに重要な役割を果たすようである(Katoら、Immunological Reviews,2014;260:76-75)。
【0006】
重篤な患者に加えて、バリア機能不全はまた、疾患の進行および/または他の器官からの合併症および併存症の発症に関連した慢性免疫活性化を促進する慢性病態を有する安定な患者にも関与する。この腸バリア機能不全群は、例えば、HIV感染症、肝硬変、慢性ウイルス性B型肝炎またはC型肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎または非アルコール性脂肪性肝疾患を有する患者、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患、セリアック病、過敏性腸症候群、肥満症および多様な自己免疫状態を有する患者(Assimakopoulosら、The Role of the Gut Barrier Function in Health and Disease.Gastroenterology Res2018;11(4):261-263)を含む。
【0007】
経口摂取における短い休止は粘膜/微生物界面の変化を最小限にとどめるが、付随するアシドーシス、長期の消化管飢餓、外因性抗生物質、および粘膜防御能の破壊を伴う重篤な疾患は、宿主を細菌攻撃に対してますます脆弱にする可能性がある。したがって、上述のように腸への長期PNの影響を回避または低減する改善された非経口栄養製剤の開発における新しい化学的実体およびそれらの潜在的な役割を評価するために多くの研究がすでに行われており、「長期PN」という表現は、本明細書で使用される場合、7日間を超える、特に10日間を超える全非経口栄養を指し、非経口栄養からそれらのエネルギー必要量の約95%~100%を受け取り、「完全非経口栄養」(TPN)は、非経口栄養が患者が受けている唯一の栄養源であることを意味する。
【0008】
また、栄養経路は、自然免疫および適応免疫の両方によって生じる炎症応答に影響を及ぼすことも知られている。経腸栄養動物は、管腔内の細菌を中和するのに役立ち得る腸管IgAのレベルが上昇していることが見出された。上述のように、非経口栄養法による腸飢餓では、腸(または肺)IgAは上昇せず、先天性および獲得粘膜免疫の両方の欠如を示した。
【0009】
上記の問題は、小児患者および成人患者をはじめとするPNを受けているすべての患者に関連する。例えば、早期産児は、腸が一過性で未熟のため、多くの場合、生後数週間は非経口栄養を必要とする。例えばSBSに起因する、腸不全(IF)に罹患している小児は、長期間の非経口栄養を必要とすることさえある。長期PNに関連する胃腸障害に加えて、成長および神経発達を維持するのに十分なタンパク質およびエネルギーを提供することが課題である。生後1日目から2.5g/kg/日超のアミノ酸および少なくとも40kcal/kg/日のエネルギーを含む早期非経口栄養(PN)が、早期産児の栄養不足および出生後の成長制限の発生を抑えるのに十分な栄養摂取量を提供することができると過去に示された(Rigo and Senterre,The Journal of Nutrition 143(12),2013,2066S-2070S)。
【0010】
したがって、非経口栄養が腸管バリア機能、免疫細胞および炎症性メディエーターにどのように影響するか、そしてTPN製剤の組成が胃腸疾患にどのように対処できるかを理解することは非常に重要である。さらに、バリア機能、局所免疫および潜在的には全身性免疫も、ならびに局所炎症および全身性炎症に対する長期TPNの悪影響を軽減する方法が必要である。したがって、腸管バリアの重要な構造的形成成分、具体的には小腸に典型的な絨毛および陰窩と呼ばれる管腔構造も調査される。例えば、短鎖脂肪酸は、腸バリア構造および機能に影響を及ぼす能力に影響を及ぼす能力、およびある程度はIgAの産生についてのそれらの関与についても研究されてきた。
【0011】
短鎖脂肪酸(SCFA)は、大腸に豊富に存在する管腔内溶質であり、結腸上皮の主要なエネルギー源である。SCFAは、未消化の複合炭水化物の嫌気性発酵によって産生され、酢酸塩、プロピオン酸塩および酪酸塩がSCFAの中で最も豊富である。生理学的および臨床的研究により、SFCA全般および具体的に酪酸が、小腸および大腸の両方に対して栄養効果を有し得、いくつかの急性および慢性症状の予防および処置に有用であり得、ならびにSCFAのIV投与が粘膜の萎縮を改善し、酪酸補充PN(Bu-PN)が腸切除モデルにおいて腸管粘膜タンパク質合成を増加させ、空腸および回腸細胞の増殖を刺激したことが示されている(Murakoshiら、Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2011;35(4):465-472)。酪酸を補充したPNは、標準PNと比較して、PP(パイエル板)リンパ球数、ならびに腸管および気管支肺胞IgAレベルを中程度であるが有意に回復させることが分かった。小腸の絨毛高さおよび陰窩深さは、対照群に対して標準PN群で有意に減少したが、Bu-PNは腸形態を回復するようであった。
【0012】
別の研究では、ラットに対する酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよび酪酸ナトリウムの効果を比較し、前述のSCFAの盲腸間および静脈内注入の両方が粘膜萎縮を減少させることが見出された(Korudaら、Am J Clin Nutr 1990;51:685-689)。
【0013】
Prattら、Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutritionでは、ラットの腸管切除後の非特異的免疫が改善される。Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 1996;20(4):264-271では、短脂肪酸の酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよび酪酸ナトリウムが非特異的免疫応答の成分を改善すること、および大手術後のTPN関連免疫抑制のある側面を軽減するのに有益であり得ることが企図されている。
【0014】
Tappendenら、Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition Enhances Functional Adaptation to Intestinal Resection in Rats.Gastroenterology 1997;112:792-802には、静脈内SCFAが、基底外側の腸管栄養輸送を増加させることによって切除後の腸管適応を促進すること、および消化管の機能的特徴を改善するために、現在のTPN製剤へのSCFAの添加が許可され得ることも記載されている。また、この研究では、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよび酪酸ナトリウムを栄養溶液に使用した。
【0015】
Miloら、Effects of Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition on Intestinal Pro-Inflammatory Cytokine Abundance Digestive Diseases and Sciences 2002;47:2049-2055には、短鎖脂肪酸の酢酸塩、プロピオン酸塩および酪酸塩が、全非経口栄養投与中に小腸のIL-1βおよびIL-6の存在量を有益に増加させるが、これらのサイトカインの全身産生または腸管炎症に影響を及ぼさないことが議論されている。
【0016】
Bartholomeら、Supplementation of Total Parenteral Nutrition With Butyrate Acutely Increases Structural Aspects of Intestinal Adaptation After an 80% Jejunoileal Resection in Neonatal Piglets.Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2004;28(4):210-223には、SCFA(酢酸、プロピオン酸およびn-酪酸)を補充したTPNまたは酪酸単独の投与が、増殖を増加させ、アポトーシスを減少させることによって、広範囲の小腸切除後の新生仔ブタにおける腸管適応の構造的指標を向上させることが記載されている。
【0017】
Jirsovaら、The Effect of Butyrate-Supplemented Parenteral Nutrition on Intestinal Defence Mechanisms and the Parenteral Nutrition-Induced Shift in the Gut Microbiota in the Rat Model.BioMed Research International 2019;2019:1-14では、要約すると、これらの知見は、酪酸塩がタイトジャンクションタンパク質発現の刺激を介して腸管透過性に対するPNの有害な影響を緩和するという仮説を裏付けるという結論に達した。
【0018】
米国特許第5,919,822号は、腸内細菌叢が危険にさらされている患者の胃腸の完全性および機能を維持するための非経口または経腸栄養のための脂質中の遊離脂肪酸、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質またはコレステロールエステルの形態の短鎖脂肪酸の使用方法を開示している。言及される遊離脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびカプロン酸が挙げられる。そこでは、組成物が耐病性および免疫能を補助し得ることが言及されている。
【0019】
米国特許第7,947,303号は、腸管内の消化および吸収を改善し、患者の免疫状態を改善するための経口製剤における酪酸塩、特にトリブチリンの使用を開示している。
【0020】
国際公開第95/11699号は、異なる疾患の処置を伴う特定の酪酸誘導体を記載している。例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む胃腸障害を処置または予防するために、酪酸塩、酪酸誘導体およびそれらの組み合わせを含む生理学的に安定で安全な化合物を使用することが示唆されている。具体的には、そのような組成物を経口もしくは浣腸製剤によって、または直腸洗浄によって投与して、胃腸系との接触および胃腸系に対する有効性を最大化することが提案されている。しかし、酪酸アルギニンはまた、非経口栄養製剤の成分としてではなく、腸の上記症状のいずれにも関連しないとしても、一般的に言及される。
【0021】
米国特許出願公開第2010/222271号は、タンパク質、多価不飽和脂肪酸、短鎖脂肪酸およびグルタミンを含む経口投与用製剤を記載しており、短鎖脂肪酸は酪酸塩であり、製剤はアルギニンをさらに含み得る。本発明はさらに、そのような製剤を患者に経口投与することによって胃腸の健康を促進する方法を開示している。
【0022】
国際公開第2019/211605号は、12%(w/v)よりも高いアルギニンを含む新生児用の非経口栄養製剤、ならびに低アルギニン血症、高アンモニア血症、負の窒素バランスおよび体重減少の予防の処置におけるそれらの使用を開示している。しかしながら、酪酸アルギニンは言及されておらず、アルギニンが単独でまたは他の有効成分と併用して胃腸障害に及ぼす影響は議論されておらず、アルギニンが単独でまたは他の有効成分と併用して胃腸障害に及ぼす影響は議論されていない。
【0023】
したがって、腸の健康に対するSCFA、特に酪酸誘導体の有益な効果は十分に実証されている。これまでの研究は、主に酪酸ナトリウムの投与に焦点を当てており、ある程度トリブチリンに焦点を当てている。しかし、ナトリウムの負荷は必然的に患者の不利益が増すので、酪酸ナトリウムは理想的な候補ではない。一方、トリブチリンは、非経口栄養のための脂質エマルジョンのみと会合することができ、これは、特に非常に若い乳児のように末梢投与が好ましいかまたはそれが指示されている場合には、必ずしも最適な製剤であるとは限らないことがある。現在、非経口栄養または静脈内投与に使用するための、酪酸誘導体を含む医薬品は、局所(腸)炎症、損なわれた腸の機能性および完全性、ならびに腸の損なわれた局所免疫(肺の損なわれた局所免疫および患者の損なわれた全般的な(general)全身性免疫に関連していることが多い)を含む上記の状態の処置に利用できない。しかしながら、トリブチリンを含む経腸投与用組成物(Intestamin(登録商標)、Fresenius Kabi社)は、疾患に関連する栄養不良を有するか、またはそのリスクがある患者、特に、限定された腸内寛容を有する重篤な患者の食事管理に利用可能である。したがって、腸管バリア機能を維持または改善することができ、局所炎症イベント、好ましくはまた全身性炎症イベントを減少させ、局所免疫、好ましくはまた全身性免疫を維持または改善することができ、同時に成人および特に乳児へも中枢または末梢投与に対して安定かつ安全である、安全かつ有効な処置のための医薬を提供する必要がある。
【0024】
アミノ酸アルギニンの酪酸塩である酪酸アルギニン(L-アルギニン、ブタン酸塩(3:4))は、先行技術にある程度詳細に記載されている。しかしながら、それは上記のような腸管疾患に関連して企図されておらず、上記の腸疾患に罹患した患者の処置のための補助成分または有効成分と考えられていない。Vianello S,Yu H,Voisin Vら、Arginine butyrate:a therapeutic candidate for Duchenne muscular dystrophy.FASEB J.2013;27(6):2256-2269では、酪酸アルギニン(AB)が、2つの薬理学的活性:一酸化窒素経路活性化およびヒストン脱アセチル化酵素阻害を併せ持つ、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを処置するための潜在的な薬物として議論されている。ここでは、アルギニンを水溶液として提供し、その際、アルギニンを水中で調製し、n-酪酸を添加して、連続慢性注射用の26%溶液(1Mアルギニン/1M酪酸塩、pH7)および間欠注射用の12.5%溶液(0.76Mアルギニン/1M酪酸塩、pH5.5)を提供した。したがって、例えば静脈内投与することができる酪酸アルギニンの水溶液が、そのようなものとして知られている。
【0025】
先行技術はまた、EBV関連リンパ腫において、酪酸アルギニンがEBVチミジンキナーゼ転写を誘導し、抗ウイルス剤ガンシクロビルと相乗的に作用して細胞増殖を阻害し、細胞生存率を低下させ得ることにも言及している。さらに、酪酸塩部分はヒストン脱アセチル化酵素を阻害し、ヒストンH3およびH4の高アセチル化をもたらす。アセチル化ヒストンは、クロマチンに対する親和性が低下している;このヒストン-クロマチン親和性の低下は、染色体アンフォールディングを可能にし得、腫瘍細胞増殖停止およびアポトーシスに関連する遺伝子の発現を潜在的に高める。
McMahonら、A randomized phase II trial of Arginine Butyrate with standard local therapy in refractory sickle cell leg ulcers.bjh 2010;151(5):516-524には、難治性鎌状赤血球下肢潰瘍の処置のための酪酸アルギニンの使用が記載されている。
驚くべきことに、酪酸アルギニン組成物、具体的には150mg/L~5500mg/Lの濃度の酪酸アルギニンを含む水溶液は、特に様々な理由で非経口栄養、特に長期非経口栄養を受けている小児または成人患者において、局所および全身性炎症の処置、低下した腸バリア機能、ならびに低下した局所および全身性免疫において安定かつ安全に製剤化され、使用され得ることがここで見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第5,919,822号明細書
【特許文献2】米国特許第7,947,303号明細書
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Fukatsu and Kudsk,Surg Clin North Am.2011;91(4):755-770
【非特許文献2】Luissintら、Inflammation and the Intestinal Barrier:Leukocyte-Epithelial Cell Interactions,Cell Junction Remodeling,and Mucosal Repair.Gastroenterology 2016;151(4):616-632)
【発明の概要】
【0028】
概要
こうして本発明者らは、酪酸アルギニンが、例えば、腸管不全において、特に短腸症候群(short bowel syndrome)および極端な短腸症候群(very short bowel syndrome)に罹患している患者において蔓延している、非経口栄養患者の腸の健康の改善、例えば、局所免疫の維持または改善、局所炎症の軽減、および腸バリア機能(本明細書では「胃腸障害」とも呼ばれる)の維持または改善に有効であることを予想外にも見出した。重要なことに、酪酸アルギニンは、腸の健康に有益であると知られている酪酸誘導体、例えば酪酸ナトリウムおよびトリブチリンよりも優れていることが見出された。酪酸アルギニン(AB)は、局所炎症の軽減ならびに局所免疫の増加に特に有効であることが見出された。この結果はまた、ABが全身性炎症をさらに軽減し、全身性免疫を増加させることができることを示している。さらに、ABは腸バリア特性および細胞構造を改善することが見出された。同時に、酪酸アルギニンは、例えば、単独でまたは配合製剤の一部として非経口投与または静脈内投与のための水溶液に製剤化される場合、または例えば、予め混合された非経口製剤に添加される場合、安定かつ安全であることが見出され、すなわち、本発明による処置に使用するためのAB組成物は、配合に使用することができ、また、投与を必要とする患者に投与前に非経口栄養製品に添加することもできる。あるいは、酪酸アルギニンは、非経口栄養製品に添加するための非経口/静脈内投与のための溶液(配合または予め混合された製剤との混合)として使用する直前に再構成のために凍結乾燥形態で提供することもでき、その後、胃腸障害に罹患しているか、または胃腸障害を発症するリスクがある患者に提供される。
【0029】
本明細書の開示に照らして、決して本発明の範囲を限定するものではないが、特に明記しない限り本明細書に列挙される任意の他の態様と組み合わせることができる本発明の第1の態様では、1リットル当たり1~3000mmolの濃度の酪酸アルギニンを含む組成物が、局所および全身性炎症、低下した腸バリア機能、ならびに低下した局所および全身性免疫の処置または予防に使用するために提供される。
【0030】
本発明の第2の態様によれば、本発明による処置に使用するための組成物は、炭水化物および/またはアミノ酸を本質的に含まない酪酸アルギニンの水溶液である。
【0031】
第3の態様によれば、本発明による処置に使用するための組成物は、1つもしくはそれを超える有効薬学的成分(API)または賦形剤などの更なる成分を含むことができる。APIは、製剤の生物学的/薬理学的に活性な成分であり、所望の薬理学的効果を生じる。賦形剤は、薬学的に不活性であり、APIの担体として製剤に添加される成分である。例えば、賦形剤は、製剤にかさ高さを提供し、APIの溶解度を高め、APIの吸収を促進し、製剤中のAPIの安定性を提供し、APIの制御放出を提供し、および/またはAPIの変性を防止するために使用される。
【0032】
第4の態様によれば、本発明による処置に使用するための組成物は、1つまたはそれを超えるビタミン、好ましくは水溶性ビタミン、例えばビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビオチンおよび葉酸をさらに含むことができる。
【0033】
第5の態様によれば、本発明による処置に使用するための組成物は、銅、クロム、フッ化物、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、セレンおよび亜鉛からなる微量元素の群より選択される1つまたはそれを超える微量元素をさらに含むことができる。
【0034】
本発明の第6の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、250mg~5.5g/リットル、260mg~4.5g/リットル、280mg~3.5g/リットル、300mg~2.5g/リットル、320mg~1.5g/リットル、または350mg~800mg/リットルの濃度の酪酸アルギニンを含む。
【0035】
本発明の第7の態様によれば、本発明による使用のための組成物のpHは、5.5~8.0である。
【0036】
本発明の第8の態様によれば、酪酸アルギニンは、本発明による使用のための組成物中の唯一の有効薬学的成分である。
【0037】
本発明の第9の態様によれば、
本発明による使用のための組成物は、小児または成人患者に提供され、それぞれの組成物は、それに応じて、濃度および用量に関して適合させることができる。
【0038】
本発明の第10の態様によれば、非経口投与用組成物は、集中治療患者、重症患者、短腸患者、腸管不全患者、代謝ストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養失調患者、または腸バリアの低下、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはこれらを発症するリスクがある患者、経腸栄養が禁忌であるICU患者、腸閉塞が持続しているかもしくは絶食(NPO)状態が持続している外科患者、腸管皮膚瘻を有する患者、早期産児、極端な短腸患者ならびに/または在宅非経口栄養(HPN)患者であって非経口栄養からのエネルギー需要の95~100%をカバーする患者に提供される。本組成物は、例えば、集中治療患者、重篤な患者、短腸および極端な短腸患者、および腸管不全患者に特に有益である。本明細書で言及される重篤な患者には、敗血症、虚血再灌流、壊死性筋膜炎、放射線腸炎に罹患している患者、ならびに経腸栄養不耐性を有する重篤な患者、ショック蘇生後の血行力学的に不安定な重篤な患者、および経腸不耐性または血行力学的不安定性を有する重篤な患者が含まれる。組成物はまた、骨髄移植前に放射線および化学療法を受けた患者、GI手術を受けている/受けたことがある患者、経腸栄養不耐性を有する早期産児、運動障害を患っている患者、腸管移植後およびBMT(骨髄移植)患者、MDROおよび/または長期抗生物質使用歴がある患者(例えば、心内膜炎および骨髄炎患者)ならびに放射線腸炎患者にも有益である。誤解を避けるために、腸管不全患者には、短腸症候群または極端な短腸症候群に起因してこの状態を発症した患者が含まれる。具体的には、非経口投与のための組成物は、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、運動不全患者、重篤な患者、炎症性腸疾患患者、腸移植後の患者および癌患者に提供される。非経口投与のための組成物はさらに、腸運動性低下に罹患しているか、または腸運動性低下を発症するリスクがある患者、および/またはIFALD(腸管不全関連肝疾患)を発症している患者に適応される。熱傷または外傷を有する患者はまた、本発明による組成物で処置されることから利益を得ることができる。一般に、本発明による組成物は、例えば短腸患者などの在宅PN患者が長期にわたってPNを必要とし、長期PN栄養の前述の副作用を含む経腸栄養に迅速に移行できない可能性があるため、在宅PN患者にも適応される。
【0039】
本発明の第11の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、腸における全身性炎症および/もしくは局所炎症に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある患者に提供される。
【0040】
本発明の第12の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、患者の腸および/または肺における局所免疫を持続または改善するために提供される。
【0041】
本発明の第13の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、低下した腸バリア機能を処置または予防するために提供される。
【0042】
本発明の第14の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、腸における低下した全身性および/または局所免疫を処置または予防するために提供される。
【0043】
本発明の第15の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、静脈内、筋肉内または皮下注射によって、好ましくは静脈内注射によって患者に投与される。
【0044】
本発明の第16の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、患者に投与する前に非経口栄養製剤を添加または混合することによって患者に投与される。
【0045】
本発明の第17の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、患者への投与前に適切な希釈剤で希釈または再構成するための凍結乾燥形態で提供される。
【0046】
本発明の第18の態様によれば、本発明による使用のための組成物は、5mg/kg/日~10g/kg/日、好ましくは5mg/kg/日~5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように患者に投与される。
【0047】
第19の態様によれば、患者は、自身の状態が存在する限り、および/または患者が完全な経腸栄養を受け、それに耐容性を示すまで、本発明による組成物を投与される。
【0048】
本発明の第20の態様によれば、本発明による組成物は、経腸投与用に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図面は本発明の特定の実施形態のみを示しており、本開示の範囲を限定するものと見なされるべきではないと理解し、本開示は、添付の図面を使用することによって更なる具体性および詳細性をもって記載および説明される。
【0050】
【
図1】
図1は、10日間(D1からD10)にわたって、kcal/kg(体重)/日でA、B、C、D、EまたはP群(表1参照)の仔ブタに送達された平均エネルギーを示す。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。エネルギー摂取は、S-PNまたはSCFA-PNではすべての仔ブタについて同等であった。
【0051】
【
図2】
図2は、10日間(D1~D10)にわたって、A、B、C、D、EまたはP群(表1参照)の仔ブタに送達された平均タンパク質をg(タンパク質)/kg(体重)/日で示す。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。送達されたタンパク質の量は、S-PNまたはSCFA-PNではすべての仔ブタについて同等であった。
【0052】
【
図3】
図3は、A、B、C、D、EまたはP群の仔ブタの試験期間(中心カテーテル留置日であるD0から10日間)にわたる体重の平均推移をkgで示す(表1参照)。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。体重はすべての群で同様に推移した。
【0053】
【
図4】
図4は、A、B、C、D、EまたはP群の仔ブタの研究期間(10日間、D1~D10)にわたる腹囲の平均推移をcm/kg(体重)で示す(表1参照)。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。腹囲はすべての群で同様に推移した。
【0054】
【
図5】
図5は、A、B、C、D、EまたはP群の仔ブタの試験期間(中心カテーテル留置日であるD0から10日間)にわたるg/cm(結腸)での平均結腸重量を示す(表1参照)。E群は、代用乳を自由に与えられた仔ブタを指す。P群は、標準的な非経口栄養(S-PN)を行う群を指し、一方、A群、B群、C群およびD群は、SCFA-PN、すなわち、投与される組成物に10mmol/L(A群)または30mmol/L(B群)のトリブチリン、10mmol/L(C群)の酪酸アルギニンおよび10mmol/L(D群)の1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールを補充した非経口栄養を受けた。FisherのLSD検定を使用して、群分け情報に基づいて転帰を評価した。文字を共有しない群は有意に異なる。
【0055】
【
図6】
図6は、空腸(A)および回腸(B)の腸管組織形態学における効果を評価するために調製された切片の例示的な例を示す。切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。切片を使用して、十二指腸絨毛長さおよび十二指腸陰窩長さを決定した(
図7および
図8)。
【0056】
【
図7】
図7は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図7で「PN」と名付けた群Pの平均十二指腸絨毛長さを示す。E群は示されていない。E群の平均十二指腸絨毛長さは810μであった。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、有意差がPN群(S-PN)について見出され、これによれば絨毛長さが有意に減少し、B群(トリブチリン補充、30mmol/L TPN、TB-PN)およびD群(1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロール補充、10mmol/L TPN,DPBG-PN)は他の研究群と比較して、特にPN(S-PN)群と比較して増加した絨毛長さを示す。A群およびC群はほぼ同じ結果を示し、B群およびD群について決定された平均値をわずかに下回るだけであった。
【0057】
【
図8】
図8は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図8で「PN」と名付けた群Pの平均十二指腸陰窩長さを示す。E群は示されていない。E群の平均十二指腸陰窩深さは152μであった。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、PN(S-PN)群について有意差がここでも見出され、これは陰窩深さの最低値を示す。A群(トリブチリン補充、10mmol/L TPN、TB-PN)、C群(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)およびD群(DPBG補充、10mmol/L TPN、DPBG-PN)は最良の結果を与え、C群はAおよびD群よりもわずかに良好であった。B群(トリブチリン補充、30mmol/L TPN、TB-PN)は、S-PNよりも良好な陰窩深さを示すが、A、CおよびD群ほど良好ではない。
【0058】
【
図9】
図9は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図9で「PN」と名付けた群Pの平均空腸絨毛長さを示す。E群は示されていない。E群の平均空腸絨毛長さは152μであった。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、特にC群(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)で有意差が見出され、最良の結果が得られた。空腸絨毛長さはB群で比較的低く(TB-PN、10mmol/L TPN)、D群(DPBG-PN)も比較的良好な結果を与えた。
【0059】
【
図10】
図10は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図10で「PN」と名付けた群Pの平均空腸陰窩長さを示す。ENの場合の平均空腸陰窩深さを比較のために水平の列によって示す。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、特にC群(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)について有意差がここでも見出され、最良の結果が得られた。空腸陰窩深さはA、B、D群でより低く、P群で最も低かった(「PN」)。
【0060】
【
図11】
図11は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図11で「PN」と名付けた群Pの平均回腸陰窩深さを示す。ENの場合の平均空腸陰窩深さは155μである。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、有意差がA群(トリブチリン補充、10mmol/L TPN、TB-PN)およびD群(1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロール補充、10mmol/L TPN,DPBG-PN)について見出され、C群がすぐ後に続いた。空腸陰窩深さは、ここでもP群で最も低かった(「PN」)。
【0061】
【
図12】
図12は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図12で「PN」と名付けた群Pの平均結腸陰窩深さを示す。ENの場合の平均空腸陰窩深度は76μである。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、C群について有意差がここでも見出された(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)。空腸陰窩深さは、ここでもP群で最も低かった(「PN」)。
【0062】
【
図13】
図13は、各試験群A、B、CおよびD(表I参照)ならびにこの
図13で「PN」と名付けたP群の平均空腸sIgA濃度を示す。フィッシャーのLSD検定によるデータの分析に基づいて、C群(酪酸アルギニン補充、10mmol/L TPN、AB-PN)について有意差が再び見出され、これはE群よりもさらに顕著であり、P群(「PN」)よりもさらに顕著であった。
【0063】
【
図14】
図14は、認知機能の評価に使用される、それぞれの群からの仔ブタのCS応答時間を提供する。
図14Aは、研究の5日間にわたる無条件刺激(US-CS)応答時間を指し、
図14Bは、研究の5日間にわたる条件刺激(CS)応答時間を指す。群間で認知機能の有意差を認めることはできなかった。
【0064】
【
図15】
図15は、各試験群A、B、C、DおよびE(表I参照)ならびにこの
図15で「PN」と名付けた群Pで見出される血清1ml当たりpg単位のIl-6の血清レベルを示す。E群が最も低いが、C群の平均Il-6濃度は標準PN群よりも有意に低く、他の研究(または介入)群と比較しても低いことが分かる。
【0065】
【
図16】
図16は、それぞれの試験群A群、B、C、DおよびE(表Iを参照)ならびにこの
図15で「PN」と名付けたP群において見出される、血清1ml当たりpg単位のIl1-ベータ(「Il1-b」)の血清レベルを示す。E群が最も低いが、C群の平均Il1-β濃度は、ここでも標準PN群よりも有意に低く、他の研究(または介入)群と比較しても低いことが分かる。
【0066】
【
図17】
図17は、各試験群A、B、C、DおよびE(表I参照)ならびにこの
図15で「PN」と名付けたP群で見出される、血清1ml当たりpg単位のTNF-アルファ(「TNF-a」)の血清レベルを示す。試験群CのTNF-α濃度は、ここでも他の試験(または介入)群よりも低く、E群とほぼ同じ値をもたらす。
【0067】
【
図18】
図18は、各試験群A、B、C、DおよびE(表I参照)ならびにこの
図15で「PN」と名付けたP群で見出される血清1ml当たりpg単位のIl-10の血清レベルを示す。試験群EのTNF-α濃度は、ここでも他の試験(または介入)群よりも低い。Il-a0濃度は、試験(または介入)群Dではほとんどまたはほぼ同じくらい低い。試験群A、BおよびCはすべて、標準PN群Pよりも低いIl-10濃度を有する。
【0068】
【
図19】
図19は、小腸壁のいくつかの特徴の概略図であり、そのいくつかは本発明の文脈においても調査されている。管腔側に微絨毛を持つ細胞(5)を含む単層上皮(3)は、腸管の管腔側の外層を形成する。腸管は、突出した絨毛(1)および陰窩(2)を特徴とする。絨毛は、吸収された生成物の迅速な輸送を可能にする血管(4)と交絡している。乳び管(6)は、腸管からリンパ系に脂質を吸収する。
【発明を実施するための形態】
【0069】
詳細な説明
本明細書に記載される特定の実施形態は、一般に、非経口栄養の分野およびそれに関連する状態の処置に関する。より具体的には、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、低下した腸バリア機能および/または低下した全身性および/または局所免疫(具体的には腸内で、潜在的にはまた肺内での)に罹患しているかまたはそのリスクがある患者の処置に使用するための組成物または製剤に関し、組成物は酪酸アルギニンを含む。本明細書で使用される「組成物」という表現は、特に明記しない限り、「製剤」および「医療用製品」という表現と互換的に使用される。本明細書で使用される「医療用製品」という表現は、本発明に従って使用するための組成物または製剤が、それぞれの疾患の安全で効果的な処置のためにヒトまたは動物の身体への投与に適合しなければならないことを示すことを意図している。
【0070】
本明細書に記載される関連する実施形態は、非経口栄養を受けている患者、特に長期非経口栄養を受けている患者の前述の状態を処置または予防するために使用することができる酪酸アルギニンの水溶液に関し、患者は、様々な理由で非経口栄養を必要とし、したがって前述の胃腸障害のリスクがあるかまたは発症している小児または成人患者であり得る。
【0071】
したがって、組成物1リットル当たり1~3000mmolの濃度の酪酸アルギニンを含む医療用製品が提供される。例えば、そのような製剤は、静脈内、筋肉内または皮下注射によって患者に直接投与することができる水溶液である。好ましい実施形態では、本発明による使用のための組成物は静脈内投与される。
【0072】
あるいは、本発明による使用のための組成物は、直接または非経口栄養製剤への添加のいずれかによって、患者への投与前に再構成することができる医療用製品の凍結乾燥形態であり得る。
【0073】
患者に組成物を提供する別の方法は、患者に投与する前に酪酸アルギニン含有組成物をPN製品に添加し混合することを含む。PN製品は、2または3チャンババッグに並べて提供されることが多く、炭水化物およびアミノ酸ならびに必要に応じて脂質エマルジョンは、それぞれのチャンバの間の非永久剥離シールを破壊することによって投与前に混合することができる。しかしながら、特定のPN製品は、モノチャンババッグとして提供することもできる。一般に、そのような製品は、次いでPN製剤と共に患者に投与される薬剤を添加するためのいわゆる医療用ポートを有する。典型的には、そのような追加の化合物は、PN製剤と共に製剤化することができず、患者に別々に提供されなければならない特定のビタミンまたは微量元素であり得る。そのように、PN製品の製剤は、特定の要件を満たすように、または追加の薬剤を都合よく投与するように個別化され得る。そのような医療用ポートは、例えば、本発明による組成物を非経口栄養製品に添加するために使用することもできる。しかしながら、電解質はまた、非経口栄養溶液に含まれ得る。脂質は、必ずしも非経口栄養製品の一部ではない。それらは、必要に応じて別々に注入することができる。
【0074】
したがって、本発明の一態様は、本明細書に開示されるような胃腸障害の処置に使用するための医療用製品を提供することであり、該製品は、静脈内、皮下もしくは筋肉内注射によって直接投与することができるか、または非経口栄養製品へのその添加によって投与することができ、次に非経口栄養製品はまた、中枢投与または末梢投与によって患者に提供することができる。
【0075】
本発明の一態様によれば、組成物は、好ましくは水溶液中で、組成物1リットル当たり1mmol~3000mmolの濃度の酪酸アルギニンを含む。本明細書で使用される「水溶液」は、有効薬学的成分の主溶媒が水である溶液を指す。
【0076】
本発明の別の態様によれば、組成物は、投与を必要とする患者への投与のために、組成物1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、好ましくは組成物1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、組成物1リットル当たり0.5mmol~600mmol、組成物1リットル当たり1mmol~500mmol、特に好ましくは組成物1リットル当たり1mmol~300mmolの濃度の酪酸アルギニンを含む。
【0077】
好ましくは、本発明により使用するための組成物は、患者に投与するための栄養素と見なされる炭水化物またはアミノ酸をいかなる必須量でも含有しない。本発明の医療用製品は、患者の非経口栄養に関連して起こり得る胃腸障害の処置に使用されることが意図されているので、患者への栄養素の追加の導入を回避し、必要に応じて、非経口栄養製品と、処方され必要とされる酪酸アルギニン組成物との両方の標的化され個別化された投与を可能にするために、本発明による医療用製品から任意のそのような栄養素の存在を除外することが望ましい。同様に、本発明による医療用製品が非経口栄養を受けている患者ではなく、他の理由で胃腸障害に罹患している患者に投与される場合、炭水化物および/またはアミノ酸多量養素の投与は必ずしも必要とされず、および/または適応されない場合がある。
【0078】
好ましくは、本発明の組成物は、唯一の有効薬学的成分として酪酸アルギニンを含む。
【0079】
酪酸アルギニンは、本発明による組成物中に様々な濃度で存在することができ、特に酪酸アルギニンが非経口栄養製品に添加するための溶液として提供される場合、(再構成された)PN製剤中の最終酪酸アルギニン濃度は必要に応じて調整することができる。一般に、本発明による処置に使用するための組成物は、例えば0.9%NaCl溶液で希釈した後に注射用溶液を得るためのストック溶液として使用することができるリン酸緩衝液中約2.2M(2.2Mアルギニン、2.2M酪酸)までの濃度の酪酸アルギニンを含む。
【0080】
本発明による注入のための組成物は、一般に、1mmol~3000mmol/リットル、5mmol~3000mmol/リットル、1mmol~2500mmol/リットル、5mmol~1250mmol/リットル、5mmol~750mmol/リットル、5mmol~500mmol/リットル、5mmol~300mmol/リットル、5mmol~250mmol/リットル、5mmol~150mmol/リットル、5mmol~75mmol/リットル、5mmol~50mmol/リットル、10mmol~100mmol/リットル、または10mmol~50mmol/リットルの濃度の酪酸アルギニンを含む。
【0081】
本発明による処置に使用するための組成物は、3.0Lまでの様々な体積で提供することができるか、または例えば5ml、10ml、25ml、50ml、100ml、250mlまたは500mlの体積での、適切な容器内で300ml~650ml、例えば1~1000mlのような小さい体積を有することができる。そのような容器は、アンプル、バッグ、ボトル、注入シリンジまたはバイアルであり得る。容器は、例えば、ガラス(バイアル、ボトルアンプル、シリンジ)またはポリマー材料(ボトル、バッグ)から作製することができる。ポリマー材料は、壊れることがなく、折り畳み可能であり、軽量であるため、本発明の文脈において一般に好ましい。非経口製剤の場合、通常はアルミニウムキャップによって固定されたガラス容器とエラストマー製クロージャとの組み合わせを使用することができる。本発明の組成物の凍結乾燥形態の場合、ガラスバイアルを使用することが好ましい。典型的な例は、注入ボトル、注入バイアルおよびプレフィルドシリンジである。使用され得る材料は、一般に不活性であるべきであり、変形すべきではなく、有効成分および/または患者に影響を及ぼす可能性がある物質を放出すべきではなく、生物学的汚染、光、酸素および物理的損傷から保護すべきである。
【0082】
本発明による胃腸障害の処置として使用するための組成物は、少なくとも胃腸障害が存在する限りおよび/または患者がそのような障害を発症するリスクがある限り、例えば前述の患者が非経口栄養を受ける限り、例えば毎日など、連続-慢性プロトコルに従って投与することができる。例えば、そのような連続-慢性プロトコルは、5mg/kg/日~1000mg/kg/日の酪酸アルギニンの注射を含み得る。しかしながら、必要に応じてより高い用量を使用することができ、成人では約2000mg/kg/日まで上昇し得る。本発明による胃腸障害の処置として使用するための組成物はまた、長期間または一定期間、例えば約6~8週間にわたって、例えば2週間または3週間ごとに1回または一連の連続した毎日の注射で断続的に投与することができる。断続的に投与される場合、プロトコルは、連続-慢性プロトコルと比較して、例えば5mg/kg/日~2000mg/kg/日までの、より高用量の酪酸アルギニンの注射を含み得る。両方のプロトコルにおいて、組成物は、1日当たり数時間にわたって静脈内に注入され得るか、または非経口栄養を受けている患者に投与される場合、患者の非経口栄養製品に添加され得る。さらに、患者に投与される用量は、両方のプロトコルについて時間をわたり変化させることができる。例えば、最初の1~5日間は比較的高用量、例えば成人では2~3g/kg/日で治療を開始し、その後は徐々に下げて50mg~500mg/kg/日に調整することができる。あるいは、プロトコルは、例えば、成人において50mg/kg/日で開始し、3000mg/kg/日で終了する漸増用量を含み得る。小児患者については、本明細書に開示されるように、より低い値に用量を調整することができる。
【0083】
2000mg/kg/日の注入速度の間の定常状態濃度は、Berkovitchら、Pharmacokinetics of arginine butyrate in patients with hemoglobinopathy.Environmental Toxicology and Pharmacology(1996)2:403-405において15.7±4.8mg/lであることが見出された。酪酸アルギニンは、93.6±31.9ml/kg/分のクリアランス速度で急速に消失することも見出され(比較において、83±12ml/kg/分のクリアランス速度が酪酸ナトリウムについて見出された)、胃腸障害の処置のための連続注入による酪酸アルギニンの投与が主に示唆された。したがって、胃腸障害に罹患しているか、または胃腸障害を発症するリスクがある患者に投与される非経口栄養製剤への添加は、酪酸アルギニンを投与する合理的な方法であると見なされる。
【0084】
本明細書で使用される「凍結乾燥された」という表現は、本発明による組成物の凍結乾燥後に得られる酪酸アルギニンを含む生成物を指す。凍結乾燥生成物は、使用前にWFIに溶解して、注射用の再構成組成物を得ることができる。あるいは、水性アミノ酸もしくは水性炭水化物製剤またはMCBからの再構成製剤などの非経口製剤によって水を添加することができ、該非経口製剤は、一般に、酪酸アルギニン添加非経口栄養製剤を必要とする患者に投与するために、希釈後に本発明による組成物が再び添加される非経口栄養製品から引き出されるだろう。例えば、凍結乾燥組成物のそのような再構成の例は、国際公開第2019/032934号、国際公開第2019/245960号および国際公開第2020/154292号に記載されている。
【0085】
本明細書で使用される「小児」という表現は、月齢1カ月までの未熟(早期)、満期および成熟後の新生児を含む新生児;1ヶ月~1歳の乳児;1歳から12歳までの小児、および13歳から21歳までの青年を指す。本発明による製剤は、早期新生児、満期新生児および成熟後新生児を含む新生児に特に適している。本製剤は、2500g未満、2000g未満、1800g未満、1500g未満、1200g未満、1100g未満、または1000g未満の出生時体重を有し得る早期新生児に特に適している。
【0086】
本明細書で使用される「短鎖脂肪酸」または「SCFA」という表現は、6個未満の炭素原子を有する脂肪酸を指す。表1は、最も一般的な短鎖脂肪酸、それらの一般名、体系名ならびにそれらの式のリストを提供する。
表1:短鎖脂肪酸およびそのそれぞれの名称および式のリスト
【表1】
【0087】
酪酸を含む短鎖脂肪酸は室温で液体であり、一般に刺激臭または悪臭を有し、それを療法に使用することを困難にする。それらのアルカリ金属塩は水溶液中で加水分解される。それらは、Schoenfeld and Wojtczak,Short-and medium-chain fatty acids in energy metabolism:the cellular perspective.J Lipid Res 2016;75(6):943-954にある程度詳細に記載されている。
【0088】
本明細書で使用される「非経口栄養」(PN)という表現は、良好な栄養状態を維持するためにチューブ(経腸)栄養法によって十分な食物を摂取または吸収することができない患者への、タンパク質、炭水化物、脂肪、ミネラルおよび電解質、ビタミンおよび微量元素を含み得る栄養成分の静脈内投与を指す。PNが適応される疾患および状態としては、短腸症候群および極端な短腸症候群、腸管不全、GI瘻孔、腸閉塞、骨髄移植前の放射線および化学療法を受けている患者、GI手術を受けている/受けたことがある患者、経腸栄養不耐性を有する早期産児、重篤な患者、および重症急性膵炎が挙げられるが、これらに限定されない。重篤な患者には、敗血症、虚血再灌流、壊死性筋膜炎、放射線腸炎に罹患している患者、ならびに経腸栄養不耐性を有する重篤な患者、およびショック蘇生後の血行力学的に不安定な重篤な患者が含まれる。上記のPNを受けている患者としては、早産児または新生児、乳児、小児、青年および成人が挙げられる。
【0089】
本明細書で使用される「非経口栄養溶液」という表現は、一般に、非経口栄養に適し、静脈内(IV)カテーテルを介して患者の血流中に直接投与される滅菌液体化学式を指す。例えば、マルチチャンバ容器内に提供される非経口栄養溶液は、医療用製品と考えられる。
【0090】
本明細書で使用される「完全非経口栄養(TPN)」という表現は、患者のすべての多量栄養素(炭水化物、窒素および脂質)ならびに微量栄養素(ビタミン、微量元素およびミネラル)ならびに流体要件が静脈内栄養溶液によって満たされ、他の供給源から有意な栄養が得られないことを意味する。
【0091】
本明細書で使用される「腸」という表現は、腸管を指す。これらの表現は、本明細書では互換可能に使用される。腸管は、小腸、結腸(大腸)および直腸からなる。小腸は、十二指腸、空腸および回腸に分けられる。
【0092】
本明細書で使用される「唯一の成分」という表現は、処置される状態に対して有効な更なる薬学的に活性な薬剤が存在しないことを意味する。これには、非経口栄養を受けている患者に一般的に提供される化合物、例えば、患者の栄養要求に対処することを目的とした多量養素および微量栄養素が含まれるが、これらに限定されない。しかしながら、水、食塩溶液、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールもしくは他の合成溶媒などの希釈剤、例えばベンジルアルコールもしくはメチルパラベンなどの抗菌剤、例えばアスコルビン酸もしくは重亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤、例えばEDTAなどのキレート剤、または例えば酢酸、クエン酸もしくはリン酸もしくはデキストロースなどの緩衝液を含むがこれらに限定されない賦形剤が存在してもよい。
【0093】
本明細書で使用される「再構成」という表現は、別個の容器またはチャンバ、例えばマルチチャンババッグ内に含まれる流体または製剤の混合を指す。マルチチャンババッグの場合、再構成は、チャンバとその中に収容された流体とを分離する1つもしくはそれを超える非永続的(剥離)シールを開くかまたは破壊することによって達成される。したがって、「再構成された」流体または製剤は、マルチチャンババッグの異なるチャンバまたは代替的に異なる容器に位置する2つまたはそれを超える流体を混合することによって得られる流体である。そのような再構成は、一般に、再構成された組成物を患者に投与する直前に行われる。
【0094】
本明細書で使用される「注射用」という表現は、皮下注射または注入および静脈内への静脈内(IV)注射もしくは注入を含む、患者の体内への液体の投与を指す。溶液または製剤の「注入」は、前述の製剤または溶液の迅速な投与(「ショット」)を指す注射とは対照的に、そのような溶液または製剤の長期投与を指す。注入は、例えば本明細書に記載される医療用ポートによって、非経口栄養製剤などの患者が長期間にわたって受ける製剤に溶液または組成物を添加することによって達成することができる。あるいは、本明細書に記載される組成物または製剤は、「ピギーバック静脈内注入」によって投与することができ、これは、静脈内チューブの二次セットを有する第2の流体源から一次静脈ラインを介した追加の製剤または薬剤の間欠的送達である。最後に、「プッシュ静脈内注入」は、静脈ライン、針、またはカテーテルを介した静脈内への薬剤の直接注射である。上述の方法はすべて、本発明の文脈において使用することができる。「注射用」の溶液、組成物または製剤は、注射に適した溶液、組成物または製剤であり、これには、静菌剤、抗菌剤または添加緩衝液を含まず、ほぼ等張溶液であり、適切なpHを有する滅菌非発熱性調製物であることが含まれる。
【0095】
本明細書で使用される「胃腸障害(gastrointestinal disorder)」または「複数の胃腸障害(gastrointestinal disorders)」という表現は、一般に、負荷されたまたは低下した腸バリア機能によって媒介される免疫学的バリアの障害および炎症応答を指す。具体的には、それは、(i)炎症(促進)性メディエーターの上方制御および全身性炎症の発症に潜在的に関連する腸管炎症;(ii)腸および呼吸器IgAの低下した分泌によって媒介される、腸における低下した局所免疫(腸および粘膜免疫)ならびに必要に応じてまた肺における低下した局所免疫;低下した全身性免疫;(iii)腸透過性の増加、ビタミンおよび栄養素輸送の阻害ならびにナトリウムおよび水吸収の減少、ならびに細菌移動の増加に関連する腸構造の分解および粘膜恒常性の破壊を含むが、これらに限定されない、低下した腸バリア機能を指す。本明細書に記載される胃腸障害は、非経口栄養、特に長期非経口栄養を受けている患者、および/または腸管不全に罹患している患者に特に関連する。
【0096】
本明細書で使用される「腸管炎症」という表現は、T制御性細胞(Blumberg,Inflammation in the Intestinal Tract:Pathogenesis and Treatment.Digestive Diseases2009 27(4):455-464)に由来する寛容および免疫調節に通常関連する応答を上回る、CD4+T細胞に由来する過剰な炎症促進性サイトカイン増殖によって特徴付けられる抗原に対する調節不全の粘膜免疫応答を指す。
【0097】
本明細書で使用される「全身性炎症」という表現は、単一の器官または身体部分ではなく(これは本明細書では「局所炎症」と呼ばれる)、全身に影響を及ぼす炎症を指す。本明細書で使用される「炎症」という表現は、エイコサノイドおよびサイトカインの産生を含む有害刺激に対する体組織の応答を指す。
【0098】
本明細書で使用される「全身性免疫」という表現は、感染、疾患、または他の望ましくない生物学的侵入と戦うのに十分な生物学的防御能を有するヒトの状態を指す。本明細書で使用される「局所免疫」または「局所免疫」は、感染、疾患、または他の望ましくない生物学的侵入と戦う身体部分または器官の能力を指す。本発明の文脈において、「局所免疫」は、そのような感染、疾患、または他の望ましくない生物学的侵入に効果的に応答する腸および必要に応じてまた肺の能力に関する。
【0099】
本明細書で使用される「腸管不全」(IF)という表現は、健康および/または成長を維持するために静脈内補充が必要とされるような、多量養素および/または水および電解質の吸収に必要な最小値を下回る腸機能の低下を指す。IFは、I型急性腸管不全(AIF)、II型長期AIFおよびIII型慢性腸管不全(CIF)を包含し、これらはすべて以下に網羅される。CIFの病態生理学的機序としては、例えば、短腸症候群(SBS)または末端空腸造瘻術が挙げられ、基礎疾患には、クローン病、腸間膜虚血、外科的合併症、原発性慢性腸偽性閉塞および放射線腸炎が含まれる。長期AIFの基礎疾患には、例えば、外科的合併症、クローン病、運動障害、ならびに腸虚血および悪性疾患が含まれる。腸管不全患者には、運動不全患者、腸不耐性または血行力学的不安定性を有する重篤な患者、IBD患者、および腸移植後の患者を含む、短腸症候群に罹患していない患者も含まれる。
【0100】
本明細書で使用される「短腸症候群」(SBS)という表現は、機能的な小腸の欠如によって引き起こされる吸収不良障害を指す。SBSは、例えば、クローン病、癌、外傷性損傷および腸に血液を供給する動脈の血栓のために、小腸の一部が外科的に除去された場合に起こり得る。SBSは、小腸の一部が出生時に欠損または損傷している場合にも起こる。
【0101】
本発明の文脈において、「患者」という表現は、ヒトまたは動物の患者を指す。ヒト患者は、小児患者または成人患者であり得る。具体的には、患者は、長期間の非経口栄養を含む非経口栄養を受けている患者、または腸管不全および/または短腸症候群もしくは極端な短腸症候群に罹患している患者である。
【0102】
本明細書において使用される表現であるマルチチャンバ容器(MCB)は、複数のコンパートメントまたはチャンバを有するバッグの形態であってもよい容器において提供される患者への非経口投与用の栄養製剤を指す。そのような容器は、少なくとも2つのチャンバを含むが、3つ、4つ、5つまたはそれを超えるチャンバを含むこともできる。バッグを含む適切な容器は、典型的には、無菌、非発熱性、使い捨て、および/またはすぐに使用できる製品である。マルチチャンバ容器は、非経口栄養製品を保持するのに特に有用であり、典型的には、炭水化物製剤、アミノ酸製剤、および必要に応じて容器の第3のチャンバ内における本明細書に開示される脂質製剤を提供する。マルチチャンバ容器はまた、例えば、炭水化物、アミノ酸または脂質製剤に混合することができない、またはその添加が任意であることが意図されるある特定の薬物、ビタミンおよび/または微量元素を含む第4のチャンバまたは第5のチャンバを提供し得る。
本発明の別の態様によれば、酪酸アルギニンは、第3のチャンバの脂質製剤中に存在する。あるいは酪酸アルギニンは、非経口投与用の脂質製剤中に、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、好ましくは再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、特に好ましくは1mmol~300mmolの濃度で存在し、脂質製剤はMCBの成分ではない。
【0103】
本明細書で使用される「末梢非経口栄養(PPN)」という表現は、末梢静脈に挿入されたカニューレを介したPN溶液の投与を指す。「末梢」という用語は、表在静脈、ほとんどの場合は上肢を指す。PPNは、例えば、カテーテル敗血症または菌血症の場合など、中心静脈のカテーテル留置が必要とされない、禁忌または不可能である場合、短期PNに適応される。対照的に、「中心非経口栄養」は、中心静脈およびカテーテルを介して与えられる非経口栄養を指す。中心アクセスは、高度に濃縮された高張性溶液の投与を可能にし、2週間を超えるPNを必要とする患者にしばしば使用される。一時的な中心静脈カテーテル(CVC)、またはトンネル型カテーテル、植え込み型ポートもしくは末梢から挿入された中心カテーテル(PICC)などの長期CVCのいずれかを使用することができる。CVCはカテーテル関連血流感染を増加させる可能性があるので、末梢非経口栄養法(PPN)が適応され、可能な場合に使用される。
【0104】
本発明の別の態様によれば、胃腸障害の処置に使用するための組成物は、更なる有効薬学的成分をさらに含み得る。
【0105】
等張剤を本発明の組成物に添加して、容量オスモル濃度を所望のレベル、例えば生理学的に許容され得るレベルに調整することもできる。適切な等張剤としては、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、デキストロース、ラクトースまたは塩化ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。場合によっては、本発明の組成物は、脂質製剤の総重量に基づいて約1%~約10%(重量基準)、例えば約1%~約5%、約1%~約4%および/または約2%~約3%の量の等張剤を含む。場合によっては、脂質エマルジョン製剤は、約2%~約3%(重量基準)のグリセロールを含む。
【0106】
pH調整剤を組成物に添加して、pHを所望のレベル、例えば静脈内使用のための生理学的に許容され得るpHに調整することができる。適切なpH調整剤としては、水酸化ナトリウムおよび塩酸が挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、本発明の組成物は、約6~約9、例えば約6.1~約8.9、約6.2~約8.8、約6.3~約8.7、約6.4~約8.6、約6.5~約8.5、約6.6~約8.4、約6.7~約8.3、約6.8~約8.2、約6.9~約8.1、約7~約8、約7.1~約7.9、約7.2~約7.8、約7.3~約7.7、約7.4~約7.6、約7、約7.5および/または約8のpHを有する。
【0107】
本発明による組成物を調製するために使用される水は、生成物の凍結乾燥形態の再構成を含めて、注射に適したものにする薬理学的要件に適合しなければならず、すなわち、水は注射用滅菌水(WFI)でなければならない。
【0108】
酪酸アルギニン補充非経口栄養製剤は、例えば、その凍結乾燥組成物、または本発明による酪酸アルギニンを含む濃縮またはストック溶液を提供することによって、および例えば、等張食塩水(生理食塩水)、乳酸リンゲル液、水中5%デキストロース、または5%デキストロース中0.2%塩化カリウムを含む適切な溶液に前述の組成物を溶解または必要に応じて希釈することによって調製することができる。得られた溶液から、投与される製品中に所望の最終濃度を生成するのに必要な量を非経口栄養製剤に添加する。あるいは、本発明による処置のための組成物は、「ピギーバック静脈内注入」、静脈内チューブ(本発明による組成物)の二次セットを有する第2の流体源から一次静脈ライン(例えばPN用)を介した追加の製剤または薬剤の間欠的送達によって投与することができる。最後に、「プッシュ静脈内注入」を使用することができる。本発明による処置に使用するための組成物は、定期的または断続的に皮下または静脈内に直接注射されるように製剤化することもできる。
【0109】
本発明による組成物は、洗浄および窒素フラッシュ混合タンクに第1のバッチの注射用水を充填することによって調製することができる。必要な温度に達したら、必要に応じて、本明細書に開示される更なる成分および酪酸アルギニンが一緒にまたは順次タンクに添加される。撹拌を開始し、溶液を注射用水で最終容量に調整する。溶液のpHを測定し、必要に応じて、必要なpHに調整する。溶液は、透明な溶液であることを確保するために視覚的にチェックされる。
【0110】
充填プロセスの間、酪酸アルギニン水溶液は0.45μmの濾過膜を通して濾過される。充填容積は重量測定で決定され、バッチ全体の均一性を確保するために充填プロセス中に定期的にチェックされる。さらに、溶存酸素を測定し、必要に応じて第1の充填容器に適合させることができる。次いで、容器を密封する。容器は、湿熱滅菌のために滅菌機トレイ上に配置される。製品は、容器の選択されたサイズ/容積に適合した湿熱滅菌プロセスを使用して、121℃および2.2barで最終的に滅菌することができる。例えば、蒸気-空気混合プロセスを利用することができる。暴露時間は、容器のサイズ/容積に合わせて設定される。
【0111】
酪酸アルギニンは、アミノ酸製剤中、25℃および40%相対湿度(RH)で、生成、滅菌中および少なくとも12ヶ月の貯蔵寿命にわたって安定であることが分かった(実施例1および表5も参照)。本発明による水性酪酸アルギニン組成物は、最大5500mg/Lの濃度で同等に製造可能であり、安定であることが分かった(実施例4参照)。本発明の一態様によれば、より高い酪酸アルギニン濃度を有する本発明による酪酸アルギニン溶液を提供することが有益であり得る。なぜなら、その後、本発明による処置において低容量を使用することができるからである。本明細書で企図される濃度は、最大25%(w/v)、最大21%(w/v)、15%(w/v)または10%(w/v)の酪酸アルギニン溶液を含む。
【0112】
例えば、酪酸アルギニンは、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~1400mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1000mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.5mmol~600mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~500mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1mmol~300mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり2mmol~250mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~75mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり5mmol~50mmolの濃度で存在することができる。
【0113】
例えば、容器サイズおよび/または患者集団(例えば小児もしくは成人)に依存する酪酸アルギニンは、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.05mmol~0.5mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.1mmol~1.5mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり0.45mmol~5.0mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり1.0mmol~15mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり4.0mmol~50mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり10mmol~150mmol、再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり40mmol~500mmol、または再構成マルチチャンバ容器1リットル当たり120mmol~1400mmol、例えば0.05mmol/L、0.1mmol/L、0.5mmol/L、1.0mmol/L、2mmol/L、3mmol/L、4mmol/L、5mmol/L、8mmol/L、10mmol/L 15mmol/L、20mmol/L、25mmol/L、30mmol/L、35mmol/L、40mmol/L、45mmol/L、50mmol/L、100mmol/L、150mmol/L、200mmol/L、300mmol/L、400mmol/L、500mmol/L、750mmol/L、1000mmol/L、1200mmol/Lまたは1400mmol/Lなどの濃度で存在することができる。
【0114】
【0115】
本開示はまた、胃腸障害に罹患しているかまたは胃腸障害を発症するリスクがある患者を処置する方法を提供する。本発明の一態様によれば、本発明による処置は、経口および経腸栄養が不可能、不十分または禁忌である場合に非経口栄養を受ける患者を対象とする。本発明の別の態様によれば、処置は、特に、腸管不全および/または短腸もしくは極端な短腸症候群に罹患している患者(自身の状態のために非経口栄養を受けている患者が含まれるが、これらに限定されない)を対象とする。そのような患者としては、ICU患者、重篤な患者または入院患者だけでなく、在宅患者、特に非経口栄養からエネルギー必要量の50%超、好ましくは60%超、70%、80%または90%超をカバーする言及された患者も挙げることができる。この方法は、本明細書に開示されるいずれかの注射によって本発明による組成物を投与することを含む。
【0116】
小児患者において、本発明による製剤は、2mg/kg/日~10g/kg/日、例えば2mg/kg/日~100mg/kg/日、または100mg/kg/日~1000mg/kg/日または750mg/kg/日~7.5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように投与される。用量は、小児患者の年齢および/または非経口経路以外による栄養摂取に応じて適合させる必要があり得る。例えば、小児患者が経腸栄養をさらに受ける場合、用量を適合または減少させなければならない場合がある。
【0117】
患者に投与される酪酸アルギニンの初期用量は低くてもよく(例えば、2mg/kg/日または3mg/kg/日)、徐々に増加させてもよく(例えば、5mg/kg/日、10mg/kg/日、50mg/kg/日、100mg/kg/日、200mg/kg/日、500mg/kg/日、800mg/kg/日、1g/kg/日、2g/kg/日、5g/kg/日、7.5g/kg/日または10g/kg/日まで)、用量は、患者の状態に応じて適合させる必要があり得ることを理解されたい。本発明の組成物が、非経口栄養溶液またはIV溶液などの別の流体への添加によって直接またはピギーバック静脈内注入によって投与される場合、用量は、例えば、添加された酪酸アルギニン組成物をONもしくはIV溶液が投与される流量に調整することによって、または流量を酪酸アルギニンの意図される1日用量に調整することによって管理することができる。例えば、NUMETA G13EなどのPN製品は、127.9ml/kg/日もの高い流量で投与することができる。例えば、転移性結腸直腸癌患者を対象とした第I相臨床試験中、水溶液としてpH7.7の酪酸アルギニンは、3g/kg/日の用量で忍容性があったことが知られている(Douillardら、Phase I trial of interleukin-2 and high-dose arginine butyrate in metastatic colorectal cancer.Cancer Immunology Immunotherapy 2000;49:56-61)。
【0118】
成人患者では、本発明による製剤は、2mg/kg/日~10g/kg/日、10mg/kg/日~8g/kg/日、500mg/kg/日~1g/kg/日、600mg/kg/日~2g/kg/日、または1g/kg/日~10g/kg/日などの酪酸アルギニン用量に達するように投与される。用量は、例えば患者が経腸栄養をさらに受ける場合、非経口経路以外による栄養摂取に応じて適合させなければならない場合がある。必要な用量は、例えば、PNを投与する流量を調整することによって投与することができる。
【0119】
好ましくは、酪酸アルギニンの最大用量は10g/kg/日であり、特に好ましくは1g/kg/日である。
【0120】
小腸は、十二指腸、空腸および回腸の3つの異なる領域を有する。最も短い十二指腸は、絨毛と呼ばれる小さな指状突起を介した化合物の吸収が準備される場所であり、そこから吸収が始まる。空腸は、腸細胞によるその内層を通じた吸収に特化している:十二指腸内の酵素によって予め消化された小さな栄養粒子が取り込まれる。回腸の主な機能は、ビタミンB12、胆汁酸塩、および空腸によって吸収されなかった他の消化産物などの化合物を吸収することである。絨毛は、主に上述の成熟した吸収性腸細胞で覆われた管腔内への突起であり、時折粘液を分泌する杯細胞を伴う。各絨毛は、(ヒトでは)長さが約0.5~1.6mmであり、その上皮の腸細胞から突出する多くの微絨毛を有し、これらは集合的に線条縁または刷子縁を形成する。これらの微絨毛の各々は、単一の絨毛よりもはるかに小さい。腸管絨毛は、この場合も腸内の円形の襞のいずれよりもはるかに小さい。陰窩は、絨毛の周囲の上皮の堀様の陥入であり、主に分泌に関与する若齢の上皮細胞で大部分が覆われている。重要なことに、陰窩の基部に向かって、幹細胞が連続的に分裂し、陰窩および絨毛上のすべての上皮細胞の供給源を提供する。
【0121】
健康な絨毛および陰窩は、それらの細胞内層と共に(
図19)、機能的小腸の重要なマーカーである。絨毛は、効率的な吸収のために腸管壁の内部表面積を増加させる。吸収面積の増加は、消化された栄養素(例えば、アミノ酸を含む)が拡散を介して半透性の絨毛に入り、これは短い距離でしか有効でないため有用である。換言すれば、(管腔内の流体と接触する)表面積の増加は、栄養素分子が移動する平均距離を縮め、次に拡散および栄養摂取の有効性を増加させる。絨毛は血管に接続され、それによって栄養素を運び去ることができる。萎縮した絨毛は、より短くなる傾向があり、陰窩は、より顕著でなくなる傾向があり、深さがより浅くなる。したがって、小腸の様々な部分、すなわち十二指腸、空腸および回腸の絨毛の長さならびに陰窩の深さを評価することにより、小腸の健康に関する関連情報が提供される(Burrinら、Translational Advances in Pediatric Nutrition and Gastroenterology:New Insights from Pig Models.Annu Rev Anim Biosci 2020;8:321-354)。総PNは、より短い絨毛および陰窩、より多くの杯細胞、炎症および免疫細胞の増加、細胞間透過性の増加および血流の減少に関連する。
【0122】
実施例3.2にさらに記載するように、腸管の完全性および機能性に対する酪酸アルギニンを含む様々な短鎖脂肪酸の影響を理解すべく、それに応じて絨毛高さ、中間絨毛幅および陰窩深さを測定した。
【0123】
腸管上皮の完全性と腸管の健康状態との間に関係があることも知られている(Thomsonら、The Ussing chamber system for measuring intestinal permeability in health and disease,BMC Gastroenterology 2019;19:98)。バリア機能の障害は、腸管疾患、例えば潰瘍性大腸炎およびクローン病などに関連している。いわゆるUssingシステムは、透過性または十二指腸粘膜抵抗のエクスビボ測定を提供する。このシステムは、前述の十二指腸粘膜(経上皮)抵抗(TER)を測定することを可能にし、これは腸の完全性の全体的な測定値を与えるように決定することができる。低いTER値は、透過性の増加を示す。以前の研究では、炎症条件下でのTERの減少が、「封止」タイトジャンクションタンパク質のダウンレギュレーションに関連することが示されている。したがって、Ussingチャンバを用いて上皮の完全性を決定することは、腸の健康、特に局所炎症イベントに対する様々な栄養オプション(例えば、EN対PN)および様々なPN組成物(実施例3.5を参照)の影響を評価するための1つの選択肢を構成した。
【0124】
本発明の文脈におけるデータは、ブタを用いた研究から得られた。ブタは、ヒト小児栄養および胃腸病学をモデル化し、げっ歯類における機構研究を補完するためのますます重要な動物になっている。新生児ブタのサイズおよび生理学における比較優位性は、未熟児における消化管および肝臓の重要な疾患の新しい並進的かつ臨床的に関連するモデルをもたらした(Burrinら、Annu Rev Anim Biosci 2020;8:321-354)。したがって、PN中の異なるSCFA、特に酪酸アルギニンならびにSCFA-PNの、腸バリア特性、局所および全身性の炎症および免疫ならびに腸細胞構造に対する標準PNおよび栄養の正常な摂取に対する有効性を評価するための比較データが、ブタモデルに基づいて得られた(非切除モデル、新生豚)。実験は、実施例1にさらに記載されるように行った。
【0125】
酪酸アルギニンを他の酪酸誘導体、具体的にはトリブチリンおよびジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールと比較して評価するための前述の研究では、腸バリア機能に対する効果ならびに炎症および免疫に対する関連する局所および全身性の効果が決定された(実施例を参照)。表2は、研究の高レベルの結果をまとめたものであり、すべての介入群(酪酸誘導体補充製剤を用いてPNを受けた群)が、腸構造、全身性および局所炎症ならびに全身性および局所免疫に関して、標準PNを得た群よりも良好な結果を示したことを示している。これらの効果のいくつかは、主に酪酸ナトリウムまたはトリブチリンとして提供される酪酸塩の効果に焦点を当てた同様の研究において以前に記載されている。驚くべきことに、これまで非経口栄養組成物に使用されていない酪酸アルギニンを含む製剤について有意差が見出された。酪酸アルギニンは、絨毛高さ、陰窩深さおよびタイトジャンクション(十二指腸粘膜抵抗性)分析;炎症促進性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの決定によって示される局所および全身性の炎症、ならびにsIgAによって証明される局所免疫の改善によって証明されるように、腸構造に関して特に有益であることが証明された。それぞれの介入群について、認知効果または脳発達の差は見られなかった。
表2:異なる酪酸誘導体でPNを受けた介入群に見出される効果のまとめ。+は(標準PNと比較して)プラスの効果を示し、++は非常にプラスの効果を示す。-は差異がないことを示す。結果は、「合計」として絨毛高さおよび陰窩深さについて報告されており、これは、検討したすべてのセクションの結果を網羅する(十二指腸、空腸、回腸、結腸)。
【表2】
【0126】
酪酸アルギニンを投与した介入群C、ならびに腸の健康に良い影響を及ぼす可能性があることが知られているトリブチリンを投与した介入群AおよびBの結果と、標準PNおよび経腸栄養(EN)との即時の高レベル比較は、酪酸アルギニン含有製剤が、腸バリア機能、局所炎症、局所免疫、腸構造および全身性炎症について試験したマーカーに対して予想外の優れた効果を有するという知見を裏付けている(表3)。
表3:腸バリア機能、局所炎症、局所免疫、腸構造および全身性炎症についての選択されたマーカーに対する酪酸アルギニンおよびトリブチリンの効果の高レベル比較。+++はP<0.01を示す;++はP<0.05を示す;+は正の傾向を示す;=は有意でないP値を示す;-は負の傾向を示す。(
1)標準PN(s-PN)と比較して。(
2)経腸栄養と同程度に良好;(
3)経腸よりも良好;(
4)炎症促進性サイトカインの減少、抗炎症性分泌のダウンレギュレーション;(
5)経腸に近い;(
6)局所炎症と同じ傾向、さらに確認を要する。
【表3】
【0127】
したがって、小児患者、特に満期産児および早期産児において、本開示による組成物を使用して、健康な腸の形態および/または成長および/または身体組成の発達を支援し、本発明による胃腸障害を発症したかまたは発症するリスクがある患者を処置することができる。さらに、それらは免疫応答および腸内細菌叢を改善するために使用することができる。それらはまた、栄養素利用の改善を含む腸管炎症の消散にも有用である。具体的には、小児患者の短腸または極端な短腸症候群の処置に使用することができる。
【0128】
本開示による組成物は、乳児、特に早期新生児の処置に特に有用であるが、本明細書に記載される胃腸障害に関連する同じまたは類似の状態に罹患している成人の処置にも同様に使用することができる。
【0129】
本発明による組成物は、成人患者の局所および全身性の免疫応答、腸内細菌叢を特異的に支持し、局所炎症を軽減する。したがって、それらは、炎症の消散のために、および炎症のリスクがある患者または既に炎症を発症した患者における栄養利用を処置または改善するために使用することができる。さらに、それらは敗血症、慢性肺疾患、悪液質または炎症性疾患の予防もしくは処置に使用することができる。例えば、本発明による製剤は、癌患者における悪液質および/または免疫応答の低下、重症患者における敗血症、代謝ストレスを受けた患者、または短腸症候群もしくは腸不全を有する患者における非経口栄養関連の問題の処置もしくは予防に使用され得る。それらはまた、重症患者の免疫応答を支持するため、癌患者の免疫応答を支持するため、免疫不全患者の免疫応答を支持するため、代謝ストレスを受けた患者の腸内細菌叢を支持するため、および栄養失調患者の栄養利用を改善するために使用することができる。
【0130】
コリン誘導体を含む脂質エマルジョンが、肝代謝機能障害、炎症および進行型の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)をもたらし得、特に非経口栄養において、特に小児患者の処置においてだけでなく成人患者においても問題となる肝脂肪症を回避および/または処置する可能性を有することが知られている(国際公開第2019/0232054号、国際公開第2019/232044号)。NAFLDには、単純脂肪症から、肝硬変および肝細胞癌に進行し得る非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)までの一連の疾患が含まれる。したがって、本発明による組成物は、コリン誘導体、好ましくは塩化コリンまたはGPCをさらに含むことができ、患者、特に小児患者の完全非経口栄養において生じる潜在的に相互に関連する2つの主要な問題に対処することができる。したがって、本開示はまた、特に、本発明による胃腸障害、敗血症、慢性肺疾患、悪液質、または炎症性疾患に付随して起こる場合に、小児および/または成人患者の肝脂肪症、肝代謝機能障害、炎症、および進行型の非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)を処置する方法を提供する。具体的には、本発明の組成物を使用して、肝脂肪症、肝代謝機能障害、炎症、および進行型の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、腸構造の分解である腸バリアの低下との両方を発症しているかもしくは発症するリスクがあり、慢性または急性炎症(局所および全身性)の発生に苦しんでおり、局所および全身性の免疫の低下を発症しているかもしくは発症するリスクがある長期TPN患者を処置することができる。
【0131】
本発明による製剤は、当技術分野で公知の方法に従って、本明細書にさらに開示されるように投与することができる。
【実施例】
【0132】
実施例1:材料および方法
ブタモデルを選択して、経腸、標準的な非経口、および非経口栄養の効果を評価し、標準的なPN製剤に様々な酪酸塩誘導体を補充した(表4を参照)。現在、妊娠90%で生まれた早産ブタは、妊娠75%(30週~32週)のヒト早産児と同等と推定されている(Burrinら、Translational Advances in Pediatric Nutrition and Gastroenterology:New Insights from Pig Models.Annu Rev Anim Biosci 2020;8:321-354)。
1.1 研究設計
【0133】
新生ヨークシャー/ランドレース交配仔ブタ(n=72;同じ同腹仔から一度に6回、12回繰り返す)は、初乳摂取および鉄補充のために雌ブタを48時間飼育した後にOak Hill Genetics社(イリノイ州ユーイング在)から入手した。仔ブタを群(12匹の仔ブタ/群)に無作為に分けて、表4に示すように10日間の栄養を与えた。
表4:10日間にわたって仔ブタの群に提供された栄養。
【表4】
【0134】
使用した製剤はすべてOlimel N9Eに基づくものであった(表4参照)。トリブチリンおよび1,2-ジパルミトイル-3-ブチリルグリセロールの補充を3CB製品Olimel N9Eの脂質チャンバに提供し、酪酸アルギニンをアミノ酸チャンバに添加した。与えられたすべての濃度は、最終的な再構成溶液(TPN)に関する。したがって、投与された製剤および濃度は、サプリメントが添加された最初のチャンバに関係なく、完全に同等である。投与されたOlimel N9Eの各バッグに、希釈後の静脈内注入のためのビタミンを含むバルクパッケージInfuvite Pediatric(Baxter Healthcare社)を1つ添加した。微量元素を含むMICRO+6 Pediatric Injection(Baxter Healtchare Corp.社)1バイアルをOlimel N9Eの各バッグに添加した。
表5:本研究で使用した組成物。LEは脂質エマルジョンを意味する。下線が引かれた値は、サプリメントの添加により、Olimel N9Eのどの成分が変化したかを示す。Olimel N9E単独:アミノ酸チャンバ:14.2%;炭水化物チャンバ27.5%;脂質エマルジョンチャンバ20.0%。
【表5】
【0135】
酪酸塩濃度を、同様に構造化された研究(Bartholomeら、J Parent Nutr 2014;28(4):210-223)において良好に忍容され得ることが知られている範囲で選択した。253Kcal/kg/日の1日注入速度で、12.9g/kg/日の1日アミノ酸含有量を達成するように提供した。栄養不良のリスクを最小限に抑えるために手術直後の1日目にのみ、注入速度は307Kcal/kg/日であった。ターンオーバー周期を完全に把握するため、5~7日間の典型的な腸管上皮細胞のターンオーバー時間に基づき10日間の試験期間を選択した。
1.2 外科手技
【0136】
到着したら(1日目)、仔ブタに中心静脈ラインを留置した。右鎖骨領域に3cmの切開を行い、カテーテル挿入のために外部頸静脈を分離した(3.5フレンチポリ塩化ビニルカテーテル)。鈍的切開後、頸静脈を、中心静脈ライン挿入部位に対して頭蓋(解剖学的に頭部に近い)および心臓(解剖学的に心臓に近い)に留置された2本の3-0絹縫合糸で結紮した。頭蓋結紮が結紮されたら、頸静脈に小さな切開を行って、事前に測定した中心静脈ライン(3.5フレンチPVCカテーテル)を挿入し、PN注入のために上大静脈の外頸静脈を通して6cm(事前に測定し、6cmでマークした)挿入した。中心静脈ラインを留置した後、ラインを固定するために心臓縫合糸を結紮し、末端は皮下トンネルで肩甲骨の間から出た。留置したら、PNポンプに付着するまで、中心静脈ラインをヘパリン化生理食塩水で洗い流した。切開部位を、連続する皮下縫合パターンでバイクリルを使用して単層閉鎖で閉じた。縫合部位を監視し、Transporeテープで固定した滅菌ガーゼを被せたワセリンで覆った。
1.3 動物の管理および収容
【0137】
動物を一定の管理下で回復させ、呼吸数、心拍数、疼痛の徴候について監視し、意識の回復を確実にした。回復後、仔ブタに、カテーテルおよび注入ラインを保護して自由な移動を可能にするために取り付けられたスイベルテザー(Lomir Biomedical Inc.社(カナダケベック州在))を取り付けたジャケットを装着する。若年であり、栄養および水分補給を伴わない時間を最小限にする必要があるため、術前のジャケットの馴致は行わなかった。PNは、栄養失調のリスクを最小限に抑えるために、手術直後に307Kcal/kg/日を提供するように投与した。PNの投与量は、外科的ストレスを補うために、この年齢とサイズの仔ブタの栄養要求量(200Kcal/kg/日)の120%(20%高い)であった。毎日、動物は、研究目的および動物の健康目的の両方のために臨床評価を受けた。完全な臨床評価:体重(グラム)、胴回り(cm)、体温、呼吸数、心拍数、活動レベル、カテーテル挿入部位の治癒、ならびに動物の行動および疼痛スコアを毎日行った。部分的な臨床評価(体重および胴回りの測定値を差し引いたもの)を夕方ごとに実施して、仔ブタの健康を再評価した。
1.4 栄養介入
【0138】
代用乳(OptiLac Baby Pig Milk Replacer;Hubbard Feeds社(アメリカ合衆国ミネソタ州マンケイト在)を、製造元の推奨に従って毎日新しく調製した。1日の朝の体重に基づいて代用乳の容量を計算して、253kcal/kgを提供した。調製した量の代用乳をE群に提供し、自由に摂取させた。
【0139】
すべてのPN溶液は、3イン1溶液(バッグ容量:1000mL)として製造元(Baxter Healthcare Corp.社)によって配合され、各実験サイクルの開始時に送達され、投与中は40℃に保たれた。各PN溶液は、使用するまで別個のコンパートメントにデキストロース、アミノ酸および脂質エマルジョンを含有していた。PN溶液はまた、割り当てられたビタミン、ミネラルおよび実験量の酪酸誘導体を含有していた(表4および5)。すべてのPN溶液を、AVA 6000CMS MultiTherapy注入ポンプ(AVA Biomedical社(イリノイ州ウィルメット在))を使用して連続的に注入して、253kcal/kg/日および12.8グラムのアミノ酸/kg/日を提供した。すべての仔ブタの等カロリー供給を確実にするために、すべての代用乳の供給およびPN注入を行った。平均エネルギー送達(
図1)および平均タンパク質送達(
図2)を記録した。図は、試験群が同じ条件下で調査されたことを実証している。
1.5 認知評価
【0140】
瞬目反射条件づけは、学習および記憶に不可欠な海馬の関与を伴う小脳および関連する脳幹回路を評価するための確立されたパブロフ法である。瞬目反射条件づけ手順は、消音チャンバ内で行われた。ファンをチャンバの内部に配置し、周囲のノイズ(70dB)について実験全体を実行した。チャンバの壁に取り付けられたスピーカは、トーン条件刺激(CS)を送達した。小型プラスチック製空気パフ送達ノズル(San Diego Instruments社(カリフォルニア州サンディエゴ在)をブタの左眼から約2cmのところに固定して、無条件刺激(US)を送達した。試験3日目にコンディショニング装置に適合させた後、試験4~8日後に合計5回のCS-US調整セッションを行った。各コンディショニングセッションは、合計100回の試行/セッションについて、90回のCS-USペアリング試行および10回のCS単独試行からなった。第10試験ごとにCS単独試験を行った。CS-US対試験には、500msの聴覚CS(1kHz、85dBトーン)、400msの刺激間間隔(ISI)、続いて100msの角膜エアパフUS(10psi)が含まれた。CSとUSの両方を全く同時に終了させた。CS単独試行は、500ms聴覚CS(1 kHz、85dBトーン)のみからなった。各セッションを通して20秒のランダムな試行間間隔があった。各コンディショニングセッションは、35分以下継続した。コンディショニングセッションの瞬間的な赤外線反射データの記録には、San Diego Instruments社の瞬目ソフトウェアを使用した。結果を
図14に示す。群間で有意差は検出されなかった。
1.6 脳構造発達および身体組成の評価
【0141】
研究9日目に、仔ブタを、Agilent 9.4 TeslaMRIシステム(カリフォルニア州サンタクララ在)を使用して磁気共鳴画像法(MRI)に供して、脳構造の発達および身体組成を評価した。心拍数および呼吸をMRIスキャン全体の間監視した。海馬を標的とする脳の解剖学的評価のために、3D T1強調磁化調製勾配-エコーシーケンス:反復時間=1,900 msを使用して画像を得た:エコー時間=2.48ms;反転時間=900ms、フリップ角=9°、行列=256×256(512×512に補間)、スライス厚=1.0mm。身体組成評価のために、マルチスライス、スピンエコー技術を使用して、体幹領域(最長筋脂肪/筋肉)を撮像した:エコー時間=20ms;回復時間=400ms、4信号平均化。各画像のスライス厚は4.9mmで、画像間に隙間はなかった。総画像化時間は仔ブタ1匹当たり1時間を超えなかった。脳および身体組成物走査の両方を含むために、総走査時間は約60分であった。OsiriX(スイス国ベルネックス在)を用いてMRI画像を解析した。脳構造は、試験群間で有意差を示さないことが見出された。試験群の仔ブタの平均体重および腹囲も監視した。
図3は、すべての試験群で体重が同様に発達したことを示す。
図4は、平均腹囲も試験群で同様に発達したことを示す。
1.7 研究サンプルの収集
【0142】
研究期間が完了したら、動物を、中心静脈ラインを介して送達される致死的注射(1mL/10ポンド;致命的なプラス;Veterinary Laboratories,Inc.社(カンザス州レネックサ在))によって安楽死させた。化学、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)測定のために尿および血液サンプルを収集した。組織形態学、電気生理学、栄養素輸送およびELISA試験のために、消化管を取り出し、異なる解剖学的セグメントに分離した。組織学的評価および化学的評価のために、各仔ブタから腎臓、肝臓、脾臓および筋肉サンプルも採取した。便サンプルを収集し、微生物叢分析のために保存した。試験群の平均結腸重量を決定した(
図5)。ここで、PNを補充した酪酸誘導体を得たA群~D群および経腸栄養を受けた群は、標準PNを得た群よりも優れていた。
実施例2:試験した組成物
【0143】
使用した組成物を表4および表5に記載する。各酪酸塩誘導体をバッグの各チャンバに配合し、滅菌後、脂質チャンバ内(トリブチリンおよびDPBG組成物用)で遊離酪酸を測定し、アミノ酸チャンバ内の酪酸塩含有量を求めた。表5に示すように、非常に限られた量の酪酸のみがバッグの滅菌中に放出された。アミノ酸チャンバの場合、滅菌後の酪酸塩の回収は、導入されたものに対応する。したがって、滅菌中または滅菌後に塩の劣化は生じなかった。また、経時的な組成物の安定性(12ヶ月、25℃、40% RH)を確認した。遊離酪酸は、脂質エマルジョンの液液抽出によるサンプル調製後、またはアミノ酸溶液から直接、GC-FIDによって定量することができる。これらの方法は当該技術分野で公知である。
実施例3:試験エンドポイントを評価する方法
3.1 フィッシャーの最小有意差(LSD)検定
【0144】
フィッシャーの最小有意差(LSD)検定の方法は、例えば、WilliamsおよびAbdiによって、Neil Salkind(Ed.),Encyclopedia of Research Design.Thousand Oaks,CA:Sage.2010に記載されている。フィッシャーのLSD検定は、基本的に個々の検定のセットである。これは、ANOVAに対するフォローアップとしてのみ使用される。一元(または二元)分散分析(ANOVA)の後、ある群の平均を別の群の平均と比較することが可能である。これを行う1つの方法は、フィッシャー最小有意差(LSD)検定を使用することである。この検定は、2つの手段の間の最小有意差(すなわち、LSD)を、あたかもこれらの手段が比較される唯一の手段(すなわち、t検定を用いて)であるかのように計算し、LSDよりも大きい有意差を宣言する原則に従っている。
3.2 回腸および空腸切片の組織形態学および調製
【0145】
ホルマリン固定腸サンプルをパラフィンに包埋し、ミクロトームで約5μmの厚さにスライスし、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した(
図6)。絨毛高さ、中間絨毛幅、および陰窩深さを、Nikon Optiphot-2顕微鏡(Nikon社(ニューヨーク州メルヴィル在)Melville,NY)およびImage-Pro Expressソフトウェア(バージョン4.5;Media Cybernetics,Inc(メリーランド州シルバースプリング))を使用して、8~10個の良好に配向した絨毛および陰窩において測定した。絨毛表面積(絨毛高さ×絨毛中央幅)も計算した。また、腸管周囲長を測定し、腸管表面積を推定した。結果を
図7~12に示す(詳細についてはそこを参照)。表6は、試験群の組織形態学的分析の結果を示す。表は、腸の異なる部分、すなわち十二指腸、空腸、回腸および結腸における絨毛高さおよび陰窩深さの平均差(各介入群(A、B、C、D)対PN群の%)をまとめたものである。介入群は、s-PN群と比較して改善された絨毛高さを示す。全体で、C群は、腸構造の最も顕著な改善を示す。
表6:介入群の組織形態学的結果は、腸の異なる部分における絨毛高さおよび陰窩深さの平均差(各介入群(A、B、C、D)対PN群の%)を提供する。
【表6】
3.3 血漿グルカゴン様ペプチド2(GLP-2)濃度
【0146】
血漿サンプルを75%エタノールで抽出し、4℃で30分間3000xgで遠心分離することによって、血漿GLP-2濃度を定量する。上清をデカントし、凍結乾燥し、アッセイ緩衝液(80mmol/L Na3PO4
-、0.01mmol/Lバリン-ピロリジン、0.1%(w/v)ヒト血清アルブミン、10mmol/L EDTA、0.6mmol/Lチメロサール、pH7.5)中で元の血漿容量に再構成した。約300μLの抽出サンプルおよびヒトGLP-2標準を100μLのウサギGLP-2抗血清(最終希釈1:25,000)と共に4℃で24時間インキュベートし、その後、遊離および結合ペプチドを血漿被覆チャコール(使用される標準規格についてBartholomeら、J Parent Nutr 2004;28(4):210-223も参照)への吸収によって分離する。この抗血清は、ヒトGLP-2のNH2末端断片に対して産生され、ヒトGLP-2およびブタGLP-2の両方のNH2末端領域を特異的に認識する。
3.4 IgA定量
【0147】
IgAレベル測定用の小腸プローブは、冷却したHBSS(ハンクス平衡塩類溶液)で小腸を洗い流すことによって得た。気道IgAレベルを測定するための鼻および気管支肺胞洗浄を、麻酔下での1mLのリン酸緩衝生理食塩水による洗浄によって得た。洗浄液をIgA分析まで-80℃の冷凍庫で保存した。IgAを、プレートをコーティングするためのポリクローナルヤギ抗マウスIgA(Sigma社)、標準としての精製マウスIgA(Zymed Laboratories社(カリフォルニア州サンフランシスコ在))、およびホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgA(Sigma社)を使用するサンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイによって小腸および気道洗浄液で測定した。結果を
図13に示す。
3.5 十二指腸粘膜抵抗
【0148】
十二指腸粘膜抵抗性を、公知の方法に従って、また、Tappendenら、Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition Enhances Functional Adaptation to Intestinal Resection in Rats.Gastroenterology 1997;112:792-802に従って決定した。腸片(1cm2)を切り出し、37℃の酸素化クレブス重炭酸緩衝液(pH7.4)を含むインキュベーションチャンバに、組織を平らなシートとして装着した。組織ディスクをこの緩衝液中で15分間プレインキュベートして、この温度で平衡化させた。プレインキュベーション後、チャンバを、[3H]イヌリンおよび酸素化クレブス重炭酸塩(pH7.4および37℃)中の様々な14Cプローブ分子を含有する他のビーカーに移した。溶質の濃度は、D-グルコースでは4、8、16、32または64mmol/L、L-グルコースでは16mmol/Lであった。プレインキュベーション溶液およびインキュベーション溶液を同一の撹拌速度で円形磁気バーと混合し、撹拌速度をストロボによって調整した。600rpmの撹拌速度を選択して、腸管非撹拌水の低い有効抵抗を達成した。チャンバを除去し、冷たい生理食塩水で組織を約5秒間素早くすすいで実験を終了した。次いで、露出した粘膜組織を円形鋼パンチでチャンバから切り出した。すべてのプローブについて、組織を55℃のオーブンで一晩乾燥させた。組織の乾燥重量を決定し、サンプルを0.75N NaOHで鹸化し、シンチレーション液を加え(Beckman
Ready Solv HP;Beckman社(オンタリオ州ミシサガ)、2つの同位体の可変消光を補正するために外部標準化技術の容積によって放射能を決定した。粘膜重量は、摂取研究に使用しなかった隣接サンプルから腸を掻き取った後に決定した。摂取量を測定するために使用されるサンプル中の粘膜の重量は、腸管サンプルの乾燥重量に粘膜からなる腸壁のパーセンテージを掛けることによって決定した。全群の測定結果を表7に示す。
【0149】
介入群A、B、CおよびDは、十二指腸粘膜抵抗に関してPN(非経口栄養)参照群と有意に異なることが見出された(表2参照)。さらに、すべての介入群は、E群(経腸栄養)よりも劣っていなかったか、または統計学的に異なっていなかった。介入群Dは、EN群(経腸栄養)とほぼ同じくらい良好な十二指腸抵抗をもたらした。注目すべきことに、C群(酪酸アルギニン)は、他の介入群と比較して有意に低い粘膜抵抗性の喪失を示し、経腸E群よりもさらに良好であり、酪酸アルギニンの添加が、局所炎症に対する低い感受性を含む、十二指腸粘膜抵抗性の維持または支持および腸の健康の改善に驚くほど有効であることを示している。
表7:フィッシャーの最小有意差(LSD)検定によって判定した、S-PN(標準PN)およびEN(経腸栄養)と比較した、それぞれの介入A群~Dの平均十二指腸粘膜抵抗。C群(AB-PN)は、他の介入群および経腸栄養群Eと比較して有意に良好な耐性を示す。
【表7】
3.6 サイトカインの定量
【0150】
Miloら、Effects of Short-Chain Fatty Acid-Supplemented Total Parenteral Nutrition on Intestinal Pro-Inflammatory Cytokine Abundance.Digestive Diseases and Sciences 2002;47:2049-2055に従って、ENおよびPNと比較した介入群のIl-6、Il-1β、TNF-αおよびIl-10血清レベルを決定することによって、炎症に対するそれぞれのサプリメントの影響を調査した。空腸および回腸サンプルを二重蒸留水中でホモジナイズし、ホモジネートおよび血漿サンプルに対してBradfordタンパク質アッセイ(Biorad社(アメリカ合衆国カリフォルニア州ハーキュリーズ在))を実施した。各サンプルからのタンパク質(30μg)を煮沸により変性させ、12.5%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてサイズごとに分離した。分離したタンパク質を、セミドライ式転写装置(Biorad社)を用いてポリフッ化ビニリデン膜(Biorad社)に転写した。TNF-α、IL-1β、Il-10およびIL-6についてのウエスタンブロット分析を、ブタ特異的ポリクローナル抗体(Endogen社(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウーバン在)を使用して行った。マウス抗ブタモノクローナルTNF-α抗体を使用して、TNF-α(17,000kDa)を検出した。IL-1βおよびIL-6に特異的なウサギ抗ブタポリクローナル抗体を使用して、IL-1β(17,500kDa)、Il-10(18,600kDa)およびIL-6(26,000kDa)を検出した。Opti-4 CNキット(Biorad社)を使用して膜を現像し、FOTO/Analyst Image Analysis System(Fotodyne,Inc.社(アメリカ合衆国ウィスコンシン州ハートランド在)を用いて写真撮影した。TNF-α、IL-1β、IL-6およびIl-10の濃度測定は、Collage Image Analysis Software 4.0(Fotodyne,Inc社)を用いて行った。結果を
図15(Il-6)、
図16(Il1-β)、
図17(TNF-α)および
図18(Il-10)に示す。
【0151】
実施例4:酪酸アルギニンの水性組成物の調製
174.55gのアルギニン遊離塩基(純度99.8%)(1当量)を、激しい撹拌下で溶液を約10℃に冷却しながら450mlの水(最終容量の90%)に溶解した。ある程度の沈殿が観察された。次いで、88.29gの酪酸(純度99.8%)(1当量)を添加した。反応容器内の温度が25℃を超えないように注意した。最後に、溶液を室温でさらに撹拌しながら、残りの量の水(最終体積の10%)を添加した。pHを確認し、pHが7.5+/-0.5に達した時点で塩形成が完了したと見なす。あらゆる沈殿した材料を除去するために0.45μフィルターで濾過したら、溶液を多層バッグに充填した。バッグを高温蒸気-空気混合物(121℃、2.2バール)中で滅菌した。滅菌後、バッグを過剰充填(overpouch)し、使用するまで室温で保存した。
【0152】
実施例5:酪酸アルギニンを含む凍結乾燥組成物の調製
【0153】
酪酸アルギニン溶液調製については、実施例4を参照されたい。中和し、pHを7.2の値に調整したら、ガラスバイアルに母液を充填する。次いで、充填されたガラスバイアルを凍結乾燥する(溶液濃度およびバイアルの体積に従って適用される特定のサイクル)。凍結乾燥の最後に、バイアルに蓋をし、低温(5+/-2℃)または室温のいずれかで保存する。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃腸障害に罹患している、または胃腸障害を発症するリスクがある患者の処置に使用するための組成物であって、前記組成物が、前記組成物1Lあたり150mg~5500mgの濃度の酪酸アルギニンを含む注射用水溶液であ
り、前記組成物は、アミノ酸も炭水化物も実質的に含まない、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、
栄養素を実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビオチンおよび葉酸からなるビタミン群より選択される1つまたはそれを超える水溶性ビタミンをさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、銅、クロム、フッ化物、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、セレンおよび亜鉛からなる微量元素の群より選択される1つまたはそれを超える微量元素をさらに含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
酪酸アルギニンが、250g/リットル~5.5g/リットル、260mg/リットル~4.5g/リットル、280mg/リットル~3.5g/リットル、300mg/リットル~2.5g/リットル、320mg/リットル~1.5g/リットル、または350mg/リットル~800mg/リットルの濃度で存在する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物のpHが5.0~8.0である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
酪酸アルギニンが唯一の有効成分である、請求項1、2、5または6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記患者が、非経口栄養を受けている小児または成人患者である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記患者が、腸管炎症、腸内の低下した局所免疫、および/または低下した腸バリア機能に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記患者が、非経口栄養からエネルギー必要量の50%超、好ましくは60%超、70%超、80%超または90%超をカバーする最小経腸栄養を有する任意のICU患者、重篤な患者、在宅PN患者、または入院患者である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝的にストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養不良患者、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはそれらを発症するリスクがある患者、腸運動性低下に罹患しているか、腸運動性低下を発症するリスクがある患者、火傷または外傷を有する患者、IFALDを発症している患者である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者または腸管不全患者である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記患者が腸管不全に罹患しているか、または腸管不全を発症するリスクがある、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記患者が短腸症候群に罹患しているか、または短腸症候群を発症するリスクがある、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、静脈内、筋肉内または皮下注射によって、好ましくは静脈内注射によって前記患者に投与される、請求項1から14までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、配合中に非経口栄養製剤に添加されるか、または前記患者への投与前に予め混合された非経口栄養製剤と混合される、請求項1から15までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、5mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、5mg/kg/日~5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
本発明の第20の態様によれば、本発明による組成物は、経腸投与用に構成することができる。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
胃腸障害に罹患している、または胃腸障害を発症するリスクがある患者の処置に使用するための組成物であって、前記組成物が、前記組成物1Lあたり150mg~5500mgの濃度の酪酸アルギニンを含む注射用水溶液である、組成物。
(項目2)
前記組成物が、アミノ酸も炭水化物も実質的に含まない、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記組成物が、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビオチンおよび葉酸からなるビタミン群より選択される1つまたはそれを超える水溶性ビタミンをさらに含む、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)
前記組成物が、銅、クロム、フッ化物、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、セレンおよび亜鉛からなる微量元素の群より選択される1つまたはそれを超える微量元素をさらに含む、項目1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目5)
酪酸アルギニンが、250g/リットル~5.5g/リットル、260mg/リットル~4.5g/リットル、280mg/リットル~3.5g/リットル、300mg/リットル~2.5g/リットル、320mg/リットル~1.5g/リットル、または350mg/リットル~800mg/リットルの濃度で存在する、項目1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目6)
前記組成物のpHが5.0~8.0である、項目1から5までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目7)
酪酸アルギニンが唯一の有効成分である、項目1、2、5または6のいずれか1項に記載の組成物。
(項目8)
前記患者が、非経口栄養を受けている小児または成人患者である、項目1から7までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目9)
前記患者が、腸管炎症、腸内の低下した局所免疫、および/または低下した腸バリア機能に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある、項目1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目10)
前記患者が、非経口栄養からエネルギー必要量の50%超、好ましくは60%超、70%超、80%超または90%超をカバーする最小経腸栄養を有する任意のICU患者、重篤な患者、在宅PN患者、または入院患者である、項目1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目11)
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝的にストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養不良患者、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはそれらを発症するリスクがある患者、腸運動性低下に罹患しているか、腸運動性低下を発症するリスクがある患者、火傷または外傷を有する患者、IFALDを発症している患者である、項目1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目12)
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者または腸管不全患者である、項目1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目13)
前記患者が腸管不全に罹患しているか、または腸管不全を発症するリスクがある、項目1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目14)
前記患者が短腸症候群に罹患しているか、または短腸症候群を発症するリスクがある、項目1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目15)
前記組成物が、静脈内、筋肉内または皮下注射によって、好ましくは静脈内注射によって前記患者に投与される、項目1から14までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目16)
前記組成物が、配合中に非経口栄養製剤に添加されるか、または前記患者への投与前に予め混合された非経口栄養製剤と混合される、項目1から15までのいずれか1項に記載の組成物。
(項目17)
前記組成物が、5mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、項目1から16までのいずれか1項に記載の方法。
(項目18)
前記組成物が、5mg/kg/日~5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、項目1から17までのいずれか1項に記載の方法。
(項目19)
胃腸障害に罹患しているか、または胃腸障害を発症するリスクがある患者を処置する方法であって、薬学的に十分な量の項目1に記載の組成物を投与することを含む、方法。
(項目20)
前記患者が、非経口栄養を受けている小児または成人患者である、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記患者が、非経口栄養からエネルギー必要量の50%超、好ましくは60%超、70%超、80%超または90%超をカバーする最小経腸栄養を有する任意のICU患者、重篤な患者、在宅PN患者、または入院患者である、項目19に記載の方法。
(項目22)
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者、腸管不全患者、代謝的にストレスを受けている患者、免疫不全患者、癌患者、悪液質患者、栄養不良患者、高血糖症および/もしくは高トリグリセリド血症に罹患しているか、もしくはそれらを発症するリスクがある患者、腸運動性低下に罹患しているか、腸運動性低下を発症するリスクがある患者、火傷または外傷を有する患者、IFALDを発症している患者である、項目19に記載の方法。
(項目23)
前記患者が、短腸患者、極端な短腸患者または腸管不全患者である、項目19に記載の方法。
(項目24)
前記患者が腸管不全に罹患しているか、または腸管不全を発症するリスクがある、項目19に記載の方法。
(項目25)
前記患者が短腸症候群に罹患しているか、または短腸症候群を発症するリスクがある、項目19に記載の方法。
(項目26)
前記組成物が、5mg/kg/日~10g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、項目19に記載の方法。
(項目27)
前記組成物が、5mg/kg/日~5g/kg/日の酪酸アルギニン用量に達するように前記患者に投与される、項目19に記載の方法。
【国際調査報告】