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特表2023-550781高電圧車載電気システムのY静電容量の少なくとも1つの現在の静電容量値を決定する方法、及び電子計算装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】高電圧車載電気システムのY静電容量の少なくとも1つの現在の静電容量値を決定する方法、及び電子計算装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/26 20060101AFI20231128BHJP
   G01R 27/18 20060101ALI20231128BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20231128BHJP
   G01R 31/56 20200101ALI20231128BHJP
【FI】
G01R27/26 C
G01R27/18
G01R31/52
G01R31/56
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531523
(86)(22)【出願日】2021-11-02
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 EP2021080402
(87)【国際公開番号】W WO2022111952
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102020007243.7
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】トビーアス・アオラント
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ツィマー
【テーマコード(参考)】
2G014
2G028
【Fターム(参考)】
2G014AA17
2G014AB24
2G014AB29
2G028AA01
2G028BB06
2G028CG03
2G028CG07
(57)【要約】
本発明は、自動車(10)のための車載電気システム(12)のY静電容量(34,36)の少なくとも1つの現在の静電容量値(38)を決定する方法に関し、車載電気システム(12)の切換装置(40)によって車載電気システム(12)の高電圧エネルギー貯蔵器(16)がエネルギー貯蔵器外側部分(30)と電気的に結合され、車載電気システム(12)のエネルギー貯蔵器内側部分(18)の第1の絶縁モニタ(20)によって第1の絶縁抵抗(42)が車載電気システム(12)の静電容量値(48)に基づいて決定され、エネルギー貯蔵器外側部分(30)の少なくとも1つの中央の第2の絶縁モニタ(28)によって車載電気システム(12)の第2の絶縁抵抗(44)が決定され、第1の絶縁抵抗(42)が第2の絶縁抵抗(44)と比較され、比較に基づいて、第1の絶縁モニタ(20)による車載電気システム(12)の第1の絶縁抵抗(42)の決定のために、第1の絶縁抵抗(42)が第2の絶縁抵抗(44)に整合するように静電容量値(48)が調整される。更に、本発明は車載電気システム(12)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に電気駆動される自動車(10)のための車載電気システム(12)のY静電容量(34,36)の少なくとも1つの現在の静電容量値(38)を電子計算装置(14)によって決定する方法であって、前記車載電気システム(12)の高電圧エネルギー貯蔵器(16)が、前記車載電気システム(12)の切換装置(40)によってエネルギー貯蔵器外側部分(30)と電気的に結合され、前記車載電気システム(12)のエネルギー貯蔵器内側部分(18)において第1の絶縁抵抗(42)が、第1の絶縁モニタ(20)によって前記車載電気システム(12)の静電容量値(48)に基づいて決定される、前記方法において、
前記車載電気システム(12)の第2の絶縁抵抗(44)が、前記エネルギー貯蔵器外側部分(30)の少なくとも1つの中央の第2の絶縁モニタ(28)によって決定され、前記第1の絶縁抵抗(42)が、前記車載電気システム(12)の前記電子計算装置(14)によって前記第2の絶縁抵抗(44)と比較され、前記比較に基づいて、前記第1の絶縁モニタ(20)によって前記車載電気システム(12)の前記第1の絶縁抵抗(42)を決定するために、前記第1の絶縁抵抗(42)が前記第2の絶縁抵抗(44)に整合するように前記静電容量値(48)が調整されることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記静電容量値(48)についての開始静電容量値が、前記電子計算装置(14)の記憶装置(46)で保存される静電容量値として設定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記開始静電容量値は、自動車(10)の製造時に設定されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の絶縁抵抗(42)が前記第2の絶縁抵抗(44)と周期的に比較されて前記静電容量値(48)の調整が実行され、前記第1の絶縁抵抗(42)が前記第2の絶縁抵抗(44)にもっとも近似している前記静電容量値(48)が、前記現在の静電容量値(38)として採用されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記現在の静電容量値(38)の決定のために前記静電容量値(48)の調整が反復して行われることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記電子計算装置(14)の記憶装置(46)で将来的な評価のために、前記現在の静電容量値(38)が開始静電容量値として保存されることを特徴とする、請求項4又は5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記現在の静電容量値(38)の調整の後に、及び開始静電容量値としてそれを保存の後に、前記現在の静電容量値(38)の新たな決定が実行され、前記新たな決定の値が、前記保存の開始静電容量値と比較されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記車載電気システム(12)の現在の第1の絶縁抵抗(42)が、決定された現在の静電容量値(38)に基づいて、前記第1の絶縁モニタ(20)によって決定されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも部分的に電気駆動される自動車(10)のための車載電気システム(12)であって、少なくとも1つの電子計算装置(14)と、電気的な高電圧エネルギー貯蔵器(16)と、第1の絶縁モニタ(20)と、第2の絶縁モニタ(28)とを有し、前記車載電気システム(12)が請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を実施するために構成されている、前記車載電気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的に電気駆動される自動車のための高電圧車載電気システムのY静電容量の少なくとも1つの現在の静電容量値を電子計算装置によって決定する方法に関する。更に、本発明は車載電気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術より、技術的な用語法ではY静電容量(C)と呼ばれる、HV車両システムの電気的な電位HV+及びHV-とそれぞれの車両アースとの間の、少なくとも部分的に電気駆動される自動車の車載電気システムにおけるすべての静電容量の限界値は、システムの製造や決定にあたって作成されなければならない認可関連の量であることがすでに知られている。この値には制限があり、その理由は、HV電位と車両に同時に接触したときに当該静電容量が人体に放電され、そのため、場合によっては危険な人体通電が起こり得るからである。このような静電容量は、一方では寄生効果によって発生するが、他方では、構成要素の干渉抑制のための部品の形態でその電子回路に組み込まれており、更には絶縁調整に対しても影響を及ぼすので、このようなY静電容量の実際の値をできる限り良好に知ることが重要である。
【0003】
特許文献1は、自動車のための高電圧バッテリに関するものであり、導電性のバッテリハウジングと、バッテリハウジングの内側に配置されて電気的に直列につながれた多数のバッテリセルから高電圧を提供するために構成されたバッテリセルスタックとを含んでおり、バッテリセルスタックのプラス極と導電接続された高電圧プラス導線と、バッテリセルスタックのマイナス極と導電接続された高電圧マイナス導線との間にバッテリセルスタックがつながれており、及び、バッテリセルスタックとバッテリハウジングとの間の絶縁抵抗に基づいて絶縁不良を判定するために設計された絶縁測定器を含んでいる。位置特定装置が、高電圧プラス導線とバッテリハウジングとの間で印加される第1の電圧に基づいて、及び/又は高電圧マイナス導線とバッテリハウジングとの間で印加される第2の電圧に基づいて、判定された絶縁不良をバッテリセルスタックで位置特定するために設計されている。更に、この発明は対応する方法に関する。
【特許文献1】DE102016006642A1
【0004】
特許文献2には、ハイサイド(HV+)及びローサイド(HV-)を有するDC区域と、ハイサイド(HSサイド)とローサイド(LSサイド)の間につながれた2つのパワースイッチからなる少なくとも1つの直列回路を有するインバータを含むAC区域とを有するシステムで、絶縁不良の位置特定をする方法が提示されている。DC区域は直流電圧源の直流電圧の供給を受ける。HSサイドに直接的に接するパワースイッチのスイッチ接続が、HSスイッチ接続状態に応じて行われ、LSサイドに直接的に接するパワースイッチのスイッチ接続が、LSスイッチ接続状態に応じて行われ、両方のスイッチ接続状態の各々におけるHSサイドとアースの間のHS絶縁電圧の測定及びLSサイドとアースの間のLS絶縁電圧の測定がそれぞれ行われ、最終的に測定結果をベースとして、DC区域又はAC区域で絶縁不良が生じているかどうかの判定が行われる。
【特許文献2】DE102010054413A1
【0005】
特許文献3では、環境適合的な車両での誘電破壊を検出する装置及び方法が提案されている。この装置は、誘電破壊の区域を検出するために、高電圧バッテリを介して配置された各絶縁抵抗の抵抗値を測定するために構成された測定装置と、絶縁抵抗に印加される電圧を、測定装置を利用して、及び測定された電圧のパターンの分析を利用して、測定するために構成された制御部とを含んでいる。
【特許文献3】DE102016214458A1
【0006】
特許文献4は、少なくとも1つの第1及び第2の電気的な電位導線を有する、自動車のための車載電気システムに関するものであり、この車載電気システムは、用途に即した作動時にそれぞれの電位導線の間で電気的な直流電圧により負荷されるように構成されており、この車載電気システムは、第1の接続部によって電位導線のうちの1つと結合されるとともに第2の接続部によって電気的な基準電位と結合された少なくとも1つのYコンデンサを有しており、切換部材が少なくとも1つのYコンデンサへ直列につながれている。
【特許文献4】DE102018002926A1
【0007】
特許文献5も、少なくとも1つの高電圧エネルギー貯蔵器と、エネルギー貯蔵器外側部分とを有する、少なくとも部分的に電気駆動される自動車のための高電圧車載電気システムを示している。高電圧エネルギー貯蔵器は、エネルギー貯蔵器外側部分と高電圧エネルギー貯蔵器とを電気接続するために構成された保護装置と、第1の絶縁モニタとを有している。更に、この高電圧車載電気システムは、少なくともエネルギー貯蔵器外側部分のための中央の第2の絶縁モニタを有している。
【特許文献5】DE102020003878A1
【0008】
特許文献6より、エネルギー貯蔵器システムの絶縁抵抗値とY静電容量とを同時に計算するためのシステム及び方法が公知である。このとき第1の信号がエネルギー貯蔵器システムへと送られ、次いで、第1の信号に対する応答として、エネルギー貯蔵器システムからの出力信号が記録される。そして第1の信号と出力信号から、Y静電容量としての値と、絶縁抵抗値としての値とが1回の方法で決定される。
【特許文献6】DE102013216801A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、車載電気システムの内部でY静電容量のいっそう正確な決定を具体化することができる方法及び車載電気システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、独立請求項に記載されている方法及び車載電気システムによって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0011】
本発明の1つの態様は、少なくとも部分的に電気駆動される自動車のための高電圧車載電気システムのY静電容量の少なくとも1つの現在の静電容量値を電子計算装置によって決定する方法に関し、高電圧車載電気システムの高電圧エネルギー貯蔵器が、高電圧車載電気システムの切換装置によってエネルギー貯蔵器外側部分と電気的に結合され、高電圧車載電気システムのエネルギー貯蔵器内側部分において第1の絶縁抵抗が第1の絶縁モニタによって車載電気システムの静電容量値に基づいて決定される。
【0012】
車載電気システムの第2の絶縁抵抗が、特に高電圧電気システムの少なくとも1つの中央の第2の絶縁モニタによって決定され、第1の絶縁抵抗が、車載電気システムの電子計算装置によって第2の絶縁抵抗と比較され、比較に基づいて、第1の絶縁モニタによって車載電気システムの第1の絶縁抵抗を決定するために、第1の絶縁抵抗が第2の絶縁抵抗に整合するように静電容量値が調整されることが意図される。
【0013】
それにより、車載電気システム全体の現在の静電容量値が既知でない場合であっても、第1の絶縁抵抗を第1の絶縁モニタによって決定できることが可能となり、それにより、高電圧車載電気システムのエネルギー貯蔵器内側部分の第1の絶縁モニタも、そのため車載電気システム全体における絶縁抵抗の正確な決定のために利用することができる。ここで付言しておくと、第2の絶縁モニタは車載電気システム全体における絶縁抵抗の決定のために車載電気システムの現在の静電容量値に関する知見を必要とすることがなく、決定はそれに関わりなく実行することができる。
【0014】
それに対して、高電圧車載電気システムのエネルギー貯蔵器内側部分の第1の絶縁モニタは、本来、高電圧車載電気システムのエネルギー貯蔵器内側部分の絶縁抵抗を決定するために設計されており、そのために、測定されるべき車載電気システムの現在の静電容量値を必要とし、このことは高電圧車載電気システムのエネルギー貯蔵器内側部分にとって既知であり、計算装置に保存されている。それに伴い、高電圧車載電気システムのエネルギー貯蔵器内側部分の第1の絶縁モニタは、高電圧車載電気システムのエネルギー貯蔵器内側部分の絶縁抵抗を静電容量値に基づいて良好に決定することができるが、車載電気システム全体における絶縁抵抗の決定のために、本来、多くの場合に既知ではない車載電気システム全体の静電容量値を必要とすることはない。
【0015】
本方法は、車載電気システムの電子計算装置を使用して、第1の絶縁抵抗と第2の絶縁抵抗との比較を利用するものであり、第1の絶縁抵抗が依存する静電容量値が変更され、第1の絶縁抵抗が第2の絶縁抵抗に整合するまで調整される。そうすることで第1及び第2の絶縁モニタの絶縁抵抗が同じになり、特に同一になるので、第1の絶縁抵抗の決定のために使用された静電容量値が、車載電気システムの現在の静電容量値に相当するようになっていると考えることができる。
【0016】
それに伴い、第1及び第2の絶縁モニタの絶縁抵抗が比較されることで、車載電気システムの現在の静電容量値の推定と決定を間接的に行うことができる。そしてこの現在の静電容量値を、計算装置又はその他のデータ記憶装置で、特に車載電気システム全体についての絶縁抵抗決定のための開始静電容量値としても、保存して格納することができる。それに伴い、静電容量に依存する、特にY静電容量に依存する、その他の機能も、現在決定された静電容量値を使用してこれを利用することができる。
【0017】
換言すると本方法により、C値とも呼ぶことができるY静電容量を、自動車の高電圧システムで近似的に、ないしは非常に正確に、決定することができる。Y静電容量の合計は認可関連であり、特に高電圧システムへの接続を有する車両ボデーが採用されている場合に、システム全体の適合性をチェックすることができる。更に、相応のY静電容量が既知であれば、簡易な絶縁測定装置が正確な値を供給する。そうすれば、たとえば高電圧システムの第2の絶縁モニタの故障が起きた場合に、代替としてバッテリ内側の絶縁測定装置が、換言すると第1の絶縁モニタが、高電圧システムの以後の動作を可能にすることができる。そのようにして自動車の全面的な故障は起こらない。代替装置によって判定される絶縁値が、判定されて保存されたC値によって大幅に正確になり、それにより、発生した絶縁障害に関わる誤警告を起こさないいっそう高い確実性がもたらされ、相応に法律で規定されている作動閾値が障害発生時にも遵守される。
【0018】
判定された静電容量値が、ないしは第1の絶縁モニタの判定された絶縁抵抗が、第2の絶縁モニタのものと相違している場合には、測定の両方の結果が一致するまで、内側の絶縁モニタに保存されている変更されたCy値をもって計算を再帰的に反復することができる。
【0019】
更に、改善された不平衡荷重認識も具体化することができる。確実な不平衡荷重認識のために、及びそのような不平衡荷重の相応の処置のために、相応に必要なC値が常時既知であってよく、これに加えて、経年劣化プロセスや温度プロセスに合わせてダイナミックに調整することができる。C値を決定することが可能なので、あらゆる車両構成ごとに相応のパラメータを設定ないし保存することを省略することができる。自動車の設備変更及びこれに伴って生じる高電圧システムの変化も、直接的に補償される。
【0020】
このようにして障害発生時の利用可能性が高くなり、このことは、自動車の利用者にとって時間とコストの節減となる。利用者が自動車を少なくとも最寄りの工場まで運転し続けることができ、自動車のレッカー移動を待たなくてすむからである。
【0021】
更に、特に高電圧エネルギー貯蔵器の内側に、接続前の高電圧エネルギー貯蔵器の絶縁抵抗を決定することができる第1の絶縁モニタがあることが意図される。これと並行して、別の構成要素にある第2の絶縁モニタが残りの高電圧車載電気システムの絶縁抵抗を測定し、それは、絶縁に関して潜在的に問題を有する電気的なエネルギー貯蔵器又はたとえば燃料電池が、高電圧車載電気システムに接続されるのを回避するためである。中央の外側の第2の絶縁モニタの故障が起こると、残りの高電圧車載電気システムの絶縁値が既知でなくなり、この値の認可関連性に基づいて障害を記録し、車両の動作を場合により中止しなければならなくなり、このことは立往生を引き起こすことになる。そこで追加的に、第2の絶縁モニタの故障が起きたとき、構成に関して特に第2の絶縁モニタに比べて機能縮小された第1の絶縁モニタが、絶縁値の決定を担うことが意図される。ただし、そのために第1の絶縁モニタは、それが絶縁抵抗を決定しようとする車載電気システムの領域の静電容量値を必要とする。しかし、第2の絶縁モニタがまだ機能している時期に、第2の絶縁抵抗に対する第1の絶縁抵抗の調整を通じて静電容量値の決定が可能となっており、現在利用のために保存されているので、それに伴って第1の絶縁モニタは。保存されている静電容量値を用いて車載電気システムについての、特に車載電気システム全体についての、絶縁抵抗決定を担うことができる。このように、第2の絶縁モニタの故障が起きたとき、自動車の非常動作を可能にすることができる。Y静電容量値が決定されることで、故障確率をいっそう低減することができる。
【0022】
車載電気システムの各部分の接続に応じて、すべてが異なる静電容量値を有し得る異なる構成も可能なので、複数の静電容量を決定して保存しておくこともでき、それにより、車載電気システムの考えられるどのような構成に対しても、車載電気システムの部分領域の接続に応じて、独自の静電容量値が保存され、それぞれの構成の動作状態のもとで再び呼び出して、第1の絶縁モニタによる第1の絶縁抵抗の決定のために利用することができる。
【0023】
このように特に本発明は、それぞれの高電圧電位におけるY静電容量が正確に既知であるほど、第1の絶縁モニタがいっそう良好に機能することができるという事実を利用する。そうすれば第2の絶縁モニタの故障が起きたとき、Y静電容量が事前に決定されていることで、第1の絶縁モニタによる高い信頼度の継続動作が具体化され得る。
【0024】
好ましい実施形態では、静電容量値についての開始静電容量値が、保存される静電容量値として電子計算装置の記憶装置で設定される。たとえば開始静電容量値は、車載電気システムの製作時に決定して、記憶装置に保存しておくことができる。ただし車載電気システムの内部での相応の経年劣化によって、開始静電容量値の誤差が生じることがあり得る。このような誤差により、ひいては絶縁抵抗の相違する決定が起こることがあり得る。そこで本発明によると、現在の静電容量値によって開始静電容量値が置換又は補足されることが意図される。当初の開始静電容量値をメモリに残しておき、現在の静電容量値とこれとの調整を行うのが好ましい場合があり得る。すでに説明したとおり、現在決定される静電容量値は車載電気システムの別の構成に関わるものであってもよく、それに伴って別の静電容量値であってよい。決定されて保存された静電容量値に関する履歴を作成することができるのも好ましく、これを参照して、特に車載電気システムの、又は車載電気システムの各領域の、変化や経年劣化を検証し、場合により予測することができる。
【0025】
更に、自動車の製造時に開始静電容量値が設定されると好ましい。特に、自動車での相応の測定を実行することができ、同じくY静電容量値に相当する相応の開始静電容量値を考慮することができる。そして、これをたとえば記憶装置に保存しておくことができ、電子計算装置の将来的な使用のために提供することができる。
【0026】
更に、第1の絶縁抵抗が第2の絶縁抵抗と周期的に比較されて、現在の静電容量値の調整が実行されると好ましいことが判明している。特に、第1の絶縁モニタと第2の絶縁モニタの相応の測定結果が周期的に互いに比較され、このことは、特に高電圧車載電気システムの動作中に実行される。このように、特に第1の絶縁モニタと第2の絶縁モニタの間での切換が行われる。複数回の測定を通じて値が十分に安定しているときに、第1の絶縁モニタの値を第2の絶縁モニタの値と比較することができる。これら両方の絶縁抵抗がほぼ一致したとき、特に正確に一致したとき、静電容量値は現在の静電容量値に実質的に相当しており、その静電容量値が現在の静電容量値として採用され、これは特に相応のY静電容量の合計の実際の値に近似的に相当する。
【0027】
更に、現在の静電容量値の決定のために第1の静電容量値が反復して調整されると好ましい。換言すると、この方法は比ゆ的な意味では、同じく未知の値が既知の値との比較によって判定される、アナログ式の測定ブリッジの調整に相当する。第1の絶縁抵抗の値が、第2の絶縁モニタによって静電容量の知見なしに決定された、第2の絶縁抵抗の測定された値に相当するまで、静電容量値が反復して調整される。このようにして、簡易であるにもかかわらず信頼度の高い方法を提供することができる。
【0028】
別の好ましい実施形態では、電子計算装置の記憶装置での将来的な評価のために現在の静電容量値が保存される。換言すると、本方法で判定された現在の静電容量値が保存される。そして将来の測定のときに、現在保存された静電容量値を考慮することができる。その場合、たとえば現在判定された静電容量値が将来のチェックのために使用されることが意図されていてよく、その際に、同じく第1及び第2の絶縁モニタの絶縁抵抗の間での比較と調整が実行される。
【0029】
また、決定された現在の静電容量値に基づいて、車載電気システムの現在の絶縁抵抗が第1の絶縁モニタによって決定される場合にも有利である。たとえば、自動車内部での絶縁の経年劣化を判断することができる。そして、自動車の特定の構成要素ないしその絶縁に不具合があるという相応の警告指示を自動車の利用者のために出力することができ、それにより、利用者はたとえば早期に工場を探すことができ、たとえば立往生をすることがない。
【0030】
別の好ましい実施形態では、現在の静電容量値の調整の後に、現在の静電容量値の新たな決定が実行されて、調整された現在の静電容量値と比較される。それにより、判定されたY静電容量値の確認を第1の絶縁モニタについて実行することができる。このようにして、現在判定された静電容量値が実際の静電容量値に相当しているかどうかを確認することができる。
【0031】
これに加えて、一般には1つを超える電気的なエネルギー貯蔵器が自動車に組み込まれているので、このような本発明の方法により、それぞれのエネルギー貯蔵器のその他の第1の絶縁モニタもC値を判定し、そして、たとえば電子計算装置が、判定されたすべての結果についての平均値を形成できることが意図されていてよい。そしてこの平均値を、現在の静電容量値として同じく保存して利用することができる。その代替として、本方法によりそれぞれの第1の絶縁モニタによって決定された静電容量を最初に比較することができ、それにより、場合により値の異常値や不適当な値が平均値形成にあたって無視される。あるいはその代替として、多数の値のもとでそれぞれの値の中央値を現在の静電容量値として保存することもできる。
【0032】
本発明の別の態様は、少なくとも部分的に電気駆動される自動車のための車載電気システムに関し、少なくとも1つの電子計算装置と、電気的な高電圧エネルギー貯蔵器と、第1の絶縁モニタと、第2の絶縁モニタとを有し、車載電気システムは上述した態様に基づく方法を実施するために構成される。特に、車載電気システムによって本方法が実施される。
【0033】
本発明の更に別の態様は、上述した態様に基づく車載電気システムを有する自動車に関する。自動車は特に少なくとも部分的に電気駆動される。特に、自動車は完全に電気駆動される。
【0034】
本方法の好ましい実施形態は、車載電気システム及び自動車の好ましい実施形態でもあるとみなされる。車載電気システム及び自動車は、そのために、本方法の実施を可能にする代表的な特徴を有する。
【0035】
本発明のその他の利点、構成要件、及び具体的事項は、好ましい実施例についての以下の説明から、ならびに図面を参照して、明らかとなる。上の記述で挙げた構成要件や構成要件組合せ、ならびに以下に図面の説明で挙げる、及び/又はただ1つの図面に単独で示す構成要件や構成要件組合せは、それぞれ記載されている組合せとしてだけでなく、本発明の枠組みから外れることなくそれ以外の組合せでも、あるいは単独でも、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
ここでただ1つの図面は、車載電気システムの一実施形態を有する自動車の一実施形態の模式的なブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図面では、同一又は機能が同一の部材には同一の符号が付されている。
【0038】
この図面は、車載電気システム12の一実施形態を有する自動車10の一実施形態を純粋に模式的に示している。車載電気システム12は、少なくとも部分的に電気駆動される自動車10のために、特に完全電気駆動される自動車10のために、構成されている。この車載電気システム12は、特に、いわゆる高電圧車載電気システムである。車載電気システム12は、少なくとも1つの電子計算装置14を有している。更に、車載電気システム12は、少なくとも1つの高電圧エネルギー貯蔵器16を有している。車載電気システム12が、多数の別の高電圧エネルギー貯蔵器16を有することが意図されていてよい。更に、車載電気システム12は、エネルギー貯蔵器内側部分18に、自動車10のアース22と結合された第1の絶縁モニタ20を有している。第1の絶縁モニタ20は、高電圧エネルギー貯蔵器16の高電圧電位24,26と結合されている。特に、第1の絶縁モニタは、高電圧プラス電位24及び高電圧マイナス電位26と結合される。
【0039】
更に、車載電気システム12は、中央の絶縁モニタとも呼ぶことができる第2の絶縁モニタ28を有している。第2の絶縁モニタ28は、車載電気システム12のエネルギー貯蔵器外側部分30に構成されている。更に、車載電気システム12は、エネルギー貯蔵器外側部分30をプリチャージするためのプリチャージ回路32を有することが意図されていてよい。
【0040】
第1の絶縁モニタ20は、第2の絶縁モニタ28に比べて特に機能縮小されて構成されている。
【0041】
高電圧プラス経路24に第1のY静電容量34が構成されていてよく、高電圧マイナス経路26に第2のY静電容量36が構成されていてよい。このように、第1のY静電容量34は、高電圧プラス経路24とアース22との間に構成されるY静電容量であり、第2のY静電容量36は、高電圧マイナス経路26とアース22との間に構成されるY静電容量である。
【0042】
高電圧車載電気システム12のY静電容量34,36の少なくとも1つの現在の静電容量値38を決定する方法では、少なくとも部分的に電気駆動される自動車10が、電子計算装置14によってエネルギー貯蔵器外側部分30と電気的に結合され、高電圧車載電気システム12の高電圧エネルギー貯蔵器16が、高電圧車載電気システム12の切換装置40によってエネルギー貯蔵器外側部分30と電気的に結合され、そして第1の絶縁抵抗42が、車載電気システム12のエネルギー貯蔵器内側部分18にある第1の絶縁モニタ20によって車載電気システム12の静電容量値48に基づいて決定される。
【0043】
エネルギー貯蔵器外側部分30の少なくとも1つの第2の絶縁モニタ28によって車載電気システム12の第2の絶縁抵抗44が決定され、そして第1の絶縁抵抗42が、車載電気システム12の電子計算装置14によって第2の絶縁抵抗44と比較され、この比較に基づいて、車載電気システム12の第1の絶縁抵抗42の決定のための静電容量値48が、第1の絶縁抵抗42が第2の絶縁抵抗44に整合するように、第1の絶縁モニタ20によって調整されることが意図される。
【0044】
特に、そのために第1の絶縁抵抗42の決定のための開始静電容量値が、電子計算装置14の記憶装置46で保存された静電容量値として設定されることが意図されていてよい。第2の絶縁抵抗44に合わせて第1の絶縁抵抗42が調整されることで、静電容量値48を決定し、Y静電容量34,36についての現在の静電容量値38として引き継ぐことができる。開始静電容量値は、特に、自動車の製造時に設定することができる。
【0045】
このように、特に第1の絶縁抵抗42の決定のためにエネルギー貯蔵器内側の第1の絶縁モニタ20を利用できることが提案され、そのために、Y静電容量34,36がこれに十分に既知となっていなければならない。すなわち、Y静電容量34,36の保存されているC値が、特にY静電容量34,36の合計が、既知である場合にのみ、第1の絶縁抵抗42の測定された値も適正である。そこで、第2の絶縁モニタ28の結果が基準として使用されることが提案され、車載電気システム12の作動中に、中央及びバッテリ内側の絶縁モニタ20,28の間で周期的に切換が行われる。複数回の測定にわたって値が十分に安定したときに、第1の絶縁モニタ20の値を第2の絶縁モニタ28の値と比較することができる。これら両方が一致すれば、第1の絶縁モニタ20で修正目的のために保存されている静電容量48の値は、Y静電容量34,36の合計の実際の値に近似的に相当している。第1の絶縁抵抗42の判定された値が、第2の絶縁モニタ28によって判定された第2の絶縁抵抗44の値と相違しているときは、絶縁抵抗測定の両方の結果が一致するまで、変更された静電容量48をもって、特にC値をもって、決定を反復して繰り返すことができる。そしてあらためての測定を、確認のために実行することができる。本方法は、比ゆ的な意味においては、同じく未知の値が既知の値との比較によって判定される、アナログ式の測定ブリッジの調整に相当する。第1の絶縁モニタ20についての静電容量48の値は、これにより測定された第1の絶縁抵抗42の値が第2の絶縁抵抗44の値に相当するまで調整され、第2の絶縁抵抗44は第2の絶縁モニタ28を用いて、特にC値に関わりなく決定される。
【0046】
一般には1つを超える高電圧エネルギー貯蔵器16が自動車10に組み込まれているので、このような方法により、高電圧エネルギー貯蔵器16の他の絶縁モニタを通じてC値を判定することもでき、それにより、判定されたすべての結果についての平均値を形成することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 自動車
12 車載電気システム
14 電子計算装置
16 高電圧エネルギー貯蔵器
18 エネルギー貯蔵器内側部分
20 第1の絶縁モニタ
22 アース
24 高電圧プラス経路
26 高電圧マイナス経路
28 第2の絶縁モニタ
30 エネルギー貯蔵器外側部分
32 プリチャージ装置
34 第1のY静電容量
36 第2のY静電容量
38 現在の静電容量値
40 切換装置
42 第1の絶縁抵抗
44 第2の絶縁抵抗
46 記憶装置
48 静電容量値
【図
【国際調査報告】