(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】Fah遺伝子欠損動物のプログラム化慢性肝損傷の維持及び異種化肝臓モデルの作製におけるその応用
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20231128BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231128BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20231128BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20231128BHJP
C12N 5/07 20100101ALN20231128BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/12
C12N5/10
C12N5/0735
C12N5/07
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531648
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 CN2021134077
(87)【国際公開番号】W WO2022111696
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】202011379101.6
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517405840
【氏名又は名称】江▲蘇▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鄭 允 文
(72)【発明者】
【氏名】葛 劍 云
(72)【発明者】
【氏名】劉 莉 萍
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、Fah遺伝子欠損動物のプログラム化慢性肝損傷の維持及び異種化肝臓モデルの作製におけるその応用を提供する。本発明は、サイクル周期固定化のニチシノン プログラム化制御(Programmed NTBC controlling、NTBCP)方案を開示し、当該方案は、動物モデルを慢性肝損傷状態で長期生存させることができ、異種化肝細胞移植を行った後、高い異種化置換率を実現することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fah遺伝子欠損動物モデルの慢性肝損傷を維持する方法;上記の方法は、Fah遺伝子欠損動物モデルに、以下のプログラムでニチシノンを投与することを含む:
(1)3~12日続いて毎日に低投与量のニチシノンを投与し、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日である;
(2)2~6日続いて毎日に高投与量のニチシノンを投与し、上記の低投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である;
(3)ステップ(1)と(2)のサイクルを行う。
【請求項2】
異種化肝移植動物モデルを作製する方法;上記の動物モデルは、異種化肝臓を有し、上記の方法は、以下を含む:
(1)3~12日続いて毎日に低投与量のニチシノンを投与し、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日である;
(2)2~6日続いて毎日に高投与量のニチシノンを投与し、上記の低投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である;
(3)ステップ(1)と(2)のサイクルを行う;
かつ、上記のプログラムが始まるから3~30日目に、動物に異種肝細胞の移植を行う。
【請求項3】
上記のプログラムを行う前に、更に以下を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法:レトロルシンで上記の動物を予備処理する;好ましくに、レトロルシンの使用量は、10~50 mg/kg動物体重である;より好ましくに、レトロルシンの使用量は、20~40 mg/kg動物体重である;更に好ましくに、レトロルシンの使用量は、25~35 mg/kg動物体重である。
【請求項4】
ステップ(1)では、4~10日続いて毎日に低投与量のニチシノンを投与する;好ましくに、5、6、7、8又は9日続いて毎日に低投与量のニチシノンを投与する;あるいは
ステップ(1)では、上記の低投与量は、0.008-0.08 mg/kg動物体重/日である;好ましくに、上記の低投与量は、0.01~0.05 mg/kg動物体重/日である;
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(2)では、3~5日続いて毎日に高投与量のニチシノンを投与する;あるいは
ステップ(2)では、上記の高投与量は、0.3~1.2 mg/kg動物体重/日である;好ましくに、上記の高投与量は、0.35~1 mg/kg動物体重/日である;
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
上記の動物は、マウスの2倍以上の体形を有する哺乳動物である;好ましくに、上記の動物は、以下の群から選べられる動物である:ラット、ウサギ、サル、豚、モルモット、犬;好ましくに、上記の動物は、インターロイキン2受容体γ遺伝子と組換え活性化遺伝子2が破壊された動物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
上記の的異種肝細胞は、当該動物モデルとは異なる種に属するヒト源、マウス源、ブタ源、サル源またはイヌ源の肝細胞を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法;好ましくに、以下を含む:
(a)初代肝細胞;
(b)誘導多能性幹細胞と胚性幹細胞から誘導、分化してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞、内胚葉細胞など;
(c)内胚葉及び他の胚層幹細胞誘導から分化してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;
(d)成体又は胎児幹/祖先細胞又は肝細胞及び他の体細胞から直接に分化転換してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;
(f)(a)~(d)由来の細胞の体外誘導増殖後の肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;
(g)(a)~(f)由来の細胞に構築される肝類器官。
【請求項8】
3~12日続いて、毎日に動物に低投与量のニチシノンを投与し、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日であるように配置される投与コンポーネント又はモジュール1;
2~6日続いて、毎日に動物に高投与量のニチシノンを投与し、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日であるように配置される投与コンポーネント又はモジュール2
を含むことを特徴とするFah遺伝子欠損動物のモデルの育成かつその慢性肝損傷の維持に使用されるシステム。
【請求項9】
更に異種化肝臓を有する異種化肝移植動物モデルの育成に使用されることを特徴とする請求項8に記載のシステム;当該システムは、以下をさらに含む:
動物にレトロルシンを投与することができる投与コンポーネント又はモジュール3;好ましくに、それが、10~50 mg/kg動物体重のレトロルシンを投与するように配置される。
【請求項10】
コンテナーグループ1:コンテナー及び、コンテナーに収容される低投与量のニチシノンを含む;上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日;好ましくに、当該コンテナーグループ1中のコンテナーの数は、3~12個である;
コンテナーグループ2:コンテナー及び、コンテナーに収容される高投与量のニチシノンを含む;上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日;好ましくに、当該コンテナーグループ2中のコンテナーの数は、2~6個である;
好ましくに、単一キットが1回のサイクルの投与に使用され、持続的な動物育成において、キットセットを使用し、例えば、上記のキットセットは、2~200個のキットを含む
を含むことを特徴とするFah遺伝子欠損動物のモデルの育成かつその慢性肝損傷の維持に使用されるキット。
【請求項11】
上記ののキットは、更に以下を含むことを特徴とする請求項10に記載のキット:
コンテナー3、及びそれに収容されるレトロルシンを含む;好ましくに、レトロルシンは、1.2~10 mgである。
【請求項12】
Fah遺伝子欠損動物モデルの慢性肝損傷の維持;又はFah遺伝子欠損動物モデルの慢性肝損傷を維持する投与グループ、キットグループの作製;及び/または
異種化肝臓を有する異種化肝移植動物モデルの作製;又は、異種化肝移植動物モデルを作製する投与グループ、キットグループの作製;
ただし、上記の低投与量は、0.0050.1 mg/kg動物体重/日であり、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である;
における低投与量のニチシノン 、高投与量ニチシノン 及びレトロルシンの応用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、生物技術及び動物モデル作製分野に属し、より具体的に、本発明は、Fah遺伝子欠損動物のプログラム化慢性肝損傷を維持する方法及び異種化肝臓モデルの作製における応用に関する。
【0002】
背景技術
肝臓は、人体の薬物代謝と除去の主要な場所であり、多くの特異的病原体の宿主でもある。種間の違いにより、これらの人の肝臓特有の機能と特徴は、他の動物で効果的にシミュレーションすることは難しい。現在、肝臓のヒト化は、ヒト初代肝細胞(PHH)の移植により、マウスモデル上で成功し(M Dandriら、Hepatology. 33(4): 981-988. 2001;DF Mercerら、Nat Med. 7(8):927-933. 2001;C Tatenoら、Am J Pathol. 165(3):901-912. 2004)、ヒトの肝臓特異的薬物代謝と病原体感染過程を精確的に予測することに用いられる。また、ヒト化動物モデルは、大量の肝細胞のサポートを必要とする「人工肝システム」のような生物反応器として大量の多様な用途に使用する機能性ヒト肝細胞を産生することもできる(H Azumaら、Nat Biotechnol. 25(8):903-910. 2007;E Michailidisら、Proc Natl Acad Sci U S A. 117(3):1678-1688. 2020)。十数年以来の研究と発展の成果が、ヒト化肝臓マウスモデル上の高効率と安定な作製を成功的に推進した(H Azumaら、Nat Biotechnol. 25(8):903-910. 2007;C Tatenoら、PLoS One. 10(11):e0142145. 2015;EM Wilsonら、Stem Cell Res. 13(3 Pt A):404-412. 2014;M Hasegawaら、Biochem Biophys Res Commun. 405(3):405-410. 2011;KD Bissigら、J Clin Invest. 120(3):924-930. 2010;ML Washburnら、Gastroenterology. 140(4):1334-1344. 2011)。しかし、マウスの体の大きさは、薬学的分析に必要な血液と胆汁、再生医学的研究に必要な肝細胞など、提供できる生物サンプル量を大きく制約している(K Yoshizatoら、Expert Opin Drug Metab Toxicol. 9(11):1419-1435. 2013)。
【0003】
ラットはマウスに比べて少なくとも10倍大きく、生理的、病理的にもヒトに近い(PM Iannacconeら、Dis Model Mech. 2(5-6):206-210. 2009)。特に薬物代謝と毒性では、米FDAガイドラインもラットを用いた臨床前研究を推奨している(HJ Jacobら、Nat Rev Genet. 3(1):33-42. 2002)。また、ラットが完全な肝臓ヒト化置換に達した後、理論的には109以上のヒト肝細胞を提供することができる。したがって、ラットモデル上にヒト化肝臓を構築することは、特に薬物開発及び再生医学研究分野では、マウス上でより重要な意義がある。しかし、ヒト由来肝細胞の異種移植を効果的にサポートできるラットモデルが不足しているため、肝臓ヒト化ラット上の開発が大きく阻害されている。同時に、マウス以外の大動物における肝臓のヒト化の実践経験も現在は不足している。
【0004】
本発明者らは、前期、ヒト化肝臓の構築に用いられたフマリルアセトアセターゼ(Fah)遺伝子欠損結合重症免疫不全のFRG(Fah-/-Rag2-/-IL2rg-/-)ラット(中国特許実質審査中、出願番号:20180621840.8)の構築に参加し、当該ラットモデルが、ヒト化肝臓の構築の潜在力を有することを確認した。しかし、移植ラットの長期維持には、安定的かつ効率的なヒト化置換レベルを達成するために、さらに有効な肝損傷制御モデルを探索する必要がある。
【0005】
発明の内容
本発明の目的は、Fah遺伝子欠損ラットの非急性致死の持続可能性のある慢性肝損傷を維持する方法を提供し、かつ当該方法で、ラット体内におけるヒト肝実質細胞の安定増幅を実現し、最終的に高置換率の異種化肝臓を得る。
【0006】
本発明の目的は、更にFah遺伝子欠損ラットモデルの育成かつその慢性肝損傷の維持に用いられるシステム又はキットを提供する。
【0007】
本発明の第一の態様では、Fah遺伝子欠損(Fah-/-)動物モデルの慢性肝損傷を維持する方法を提供し、上記の方法は、Fah遺伝子欠損動物モデルに、以下のプログラムでニチシノン (NTBC)を投与することを含む:(1)3~12日続いて毎日に低投与量のニチシノンを投与し、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日である;(2)2~6日続いて毎日に高投与量のニチシノンを投与し、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である;(3)ステップ(1)と(2)のサイクルを行う。
【0008】
本発明の第一の態様では、異種化肝移植動物モデルを作製する方法を提供し、上記の動物モデルは、異種化肝臓を有し、上記の方法は、以下を含む:(1)3~12日続いて毎日に低投与量のニチシノンを投与し、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日である;(2)2~6日続いて毎日に高投与量のニチシノンを投与し、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である;(3)ステップ(1)と(2)のサイクルを行う;かつ、上記のプログラムが始まるから3~30日目に、動物に異種肝細胞の移植を行う。
【0009】
本発明の好ましい例において、上記のプログラムを行う前に、更に以下を含む:レトロルシン(Retrorsine)で上記の動物を予備処理する;好ましくに、レトロルシンの使用量は、10~50 mg/kg動物体重である;より好ましくに、レトロルシンの使用量は、20~40 mg/kg動物体重である;更に好ましくに、レトロルシンの使用量は、25~35 mg/kg動物体重である。
【0010】
本発明のもう一つ好ましい例において、ステップ(1)では、4~10日続いて毎日に低投与量のニチシノンを投与する;好ましくに、5、6、7、8又は9日続いて毎日に低投与量のニチシノンを投与する。
【0011】
本発明のもう一つ好ましい例において、ステップ(1)では、上記の低投与量は、0.008-0.08 mg/kg動物体重/日である;好ましくに、上記の低投与量は、0.01~0.05 mg/kg動物体重/日である;例えば、0.015-0.04 mg/kg動物体重/日、又は0.015~0.035 mg/kg動物体重/日;より更具体的に、例えば、0.02 mg/kg動物体重/日、0.03 mg/kg動物体重/日である。
【0012】
本発明のもう一つ好ましい例において、ステップ(2)では、3~5日続いて毎日に高投与量のニチシノンを投与する。
【0013】
本発明のもう一つ好ましい例において、ステップ(2)では、上記の高投与量は、0.3~1.2 mg/kg動物体重/日である;好ましくに、上記の高投与量は、0.35~1 mg/kg動物体重/日である;例えば、0.35~0.85 mg/kg動物体重/日である;より具体的に、例えば、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8 mg/kg動物体重/日である。
【0014】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の動物は、マウスの2倍(例えば2~2000倍、より具体的に、例えば5、10、15、20、50、100、200、500倍)以上の体形を有する哺乳動物である;好ましくに、上記の動物は、以下の群から選べられる動物である:ラット、ウサギ、サル、豚、モルモット、犬;好ましくに、上記の動物は、インターロイキン2受容体γ遺伝子と組換え活性化遺伝子2が破壊された動物(Rag2-/-IL2rg-/-)である。
【0015】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の的異種肝細胞は、以下を含むが、これらに限定されない:当該動物モデルとは異なる種に属するヒト源、マウス源、ブタ源、サル源またはイヌ源の肝細胞;好ましくに、以下を含むが、これらに限定されない:(a)初代肝細胞;(b)誘導多能性幹細胞(iPSC)と胚性幹細胞(ESC)から誘導、分化してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞、内胚葉細胞など;(c)内胚葉及び他の胚層幹細胞誘導から分化してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;(d)成体又は胎児幹/祖先細胞又は肝細胞及び他の体細胞から直接に分化転換してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;(f)(a)~(d)由来の細胞の体外誘導増殖後の肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;(g)(a)~(f)由来の細胞に構築される肝類器官。
【0016】
本発明のもう一つ好ましい例において、(3)のサイクルは、動物モデルが使用されるまで、又は動物モデルの寿命が終わる結束まで行う。
【0017】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の異種化肝臓は、高異種化嵌合率の肝臓である。
【0018】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の高異種化嵌合率(異種化置換率)とは、異種化嵌合率が25%超、好ましくに28%超、より好ましくに30%超を指す。同時に、受容体動物モデルの培養時間の延長に伴い、嵌合率は上昇する。
【0019】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の異種肝細胞は、器官ドナーの肝臓から分離され、外科手術切除物から分離され、又は誘導多能性幹細胞、胚性幹細胞、胚組織及びその細胞、羊膜上皮細胞、単核細胞又は羊水細胞から由来する。
【0020】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の動物に移植される異種肝細胞は、分離される異種肝細胞である。
【0021】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記のニチシノンは、飲用水に投与される。
【0022】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記のニチシノンは、食品に投与される。
【0023】
本発明のもう一つの態様において、3~12日続いて、毎日に動物に低投与量のニチシノンを投与し、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日であるように配置される投与コンポーネント又はモジュール1;及び、2~6日続いて、毎日に動物に高投与量のニチシノンを投与し、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日であるように配置される投与コンポーネント又はモジュール2を含む、Fah遺伝子欠損動物のモデルの育成かつその慢性肝損傷の維持に使用されるシステムを提供する。
【0024】
本発明の好ましい例において、上記のFah遺伝子欠損動物のモデルの育成かつその慢性肝損傷の維持に使用されるシステムは、機械装置又はコンピュータシステムを含む。
【0025】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の装置は、更に異種化肝臓を有する異種化肝移植動物モデルの育成に使用される。
【0026】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の装置は、更に、動物にレトロルシンを投与することができる投与コンポーネント又はモジュール3を含む。
【0027】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の装置は、10~50 mg/kg動物体重のレトロルシンを投与するように配置される。
【0028】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記の装置は、コンピュータプログラムより前記の量の薬物を出力し、機械装置を介して動物に転送する。
【0029】
本発明のもう一つの態様において、Fah遺伝子欠損動物モデルの育成かつその慢性肝損傷の維持に使用されるキットを提供し、以下を含む:コンテナーグループ1:コンテナー及び、コンテナーに収容される低投与量のニチシノンを含む、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日である;好ましくに、当該コンテナーグループ1におけるコンテナーの数は、3~12個である;及び、コンテナーグループ2:コンテナー及びそれに収容される高投与量のニチシノンを含む、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である;好ましくに、当該コンテナーグループ2におけるコンテナーの数は、2~6個である。
【0030】
本発明の好ましい例において、上記のキットは、更に、コンテナー3、及びそれに収容されるレトロルシンを含む;好ましくに、レトロルシンは、1.2~10 mgである。
【0031】
本発明の好ましい例において、上記のコンテナーグループ1及びコンテナーグループ2並びに好ましくに更に含むコンテナーグループ3は、1匹の動物の1つの完全な投与サイクル(一回の「低投与量-高投与量」は、一つのサイクル)に用いられる。
【0032】
本発明のもう一つ好ましい例において、上記のコンテナーグループ1及びコンテナーグループ2並びに好ましくに更に含むコンテナーグループ3は、一匹の動物の2つ又は以上の完全な投与サイクルに用いられ、又は複数の動物の1つ、2つ又は以上の投与サイクルに用いられる。
【0033】
本発明のもう一つ好ましい例において、続くの動物育成には、キットグループを採用し、上記のキットグループは、2~200個のキット、例えば5、10、15、20、30、40、50、60、80、100、150個のキットを含む。
【0034】
本発明のもう一つの態様において、Fah遺伝子欠損動物モデルの慢性肝損傷の維持;又はFah遺伝子欠損動物モデルの慢性肝損傷を維持する投与グループ、キットグループの作製に使用される低投与量のニチシノン 、高投与量ニチシノン及びレトロルシンの応用を提供する;ただし、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日であり、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である。
【0035】
本発明のもう一つの態様において、異種化肝臓を有する異種化肝移植動物モデルの作製;又は、異種化肝移植動物モデルを作製する投与グループ、キットグループの作製に使用される低投与量のニチシノン、高投与量ニチシノン及びレトロルシンの応用を提供する;ただし、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日であり、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である。
【0036】
本文に開示された内容に基づき、当業者にとって、本発明の他の面は自明なものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1、NTBCに仲介されるFRGラット肝損傷。A. NTBC供給(w/)と撤去(w/o)条件におけるFRGラットの状態図。 B.NTBC供給下の健康FRGラットと撤去下の瀕死ラット血清ALTとASTレベル。****P < 0.0001。C.FRGラットのNTBC供給と撤去下における肝臓組織のHEとシリウススカーレットの染色結果。スケールバー:100um。D.FRGラットのNTBC供給と撤去下の生存曲線。
【
図2】
図2、ラット慢性肝損傷モデルの構築。A. 異なる濃度NTBC条件におけるFRGラットの生存曲線。 ***P < 0.001,****P < 0.0001;ns、統計学的差異なし。B. 4%と10% NTBC条件におけるラットのAST、ALTレベルと体重変化。*P < 0.05,**P < 0.01,***P < 0.001,****P < 0.0001。C.サイクル周期固定化のNTBCプログラム化の制御設計の概略図。D.FRGラットの3種類の異なるNTBCプログラム化制御(5+4、7+4と9+4)下の生存曲線。E. 5+4と7+4 NTBCプログラム化制御下のラットのASTとALTレベル。**P < 0.01,****P < 0.0001;ns、統計学的差異なし。F. シリウススカーレット染色で示された5+4と7+4 NTBCプログラム化制御下のラット肝組織の繊維化程度。スケールバー:100um。G. 5+4と7+4 NTBCプログラム化制御下のラット肝組織Afp遺伝子発現レベル。 ****P < 0.0001;ns、統計学的差異なし。
【
図3】
図3、Retrorsine(RS)で予備処理された移植ラットの肝細胞修復性再生。A. RSで予備処理(w/)されたと処理(w/o)されなかったラット肝組織のKi67染色結果。スケールバー:100um。B. RSで予備処理(w/)されたと処理(w/o)されなかったラット肝組織における増殖性細胞の割合の統計学的な分析。*P < 0.05。C. PHH移植後4週間内、RSで予備処理(w/)されたと処理(w/o)されなかったラット体内のヒトアルブミン分泌レベル。*P < 0.05。
【
図4】
図4、ラット慢性肝損傷モデルの構築。A. NTBC
P和NTBC
△BW肝損傷制御方法の図示。B. NTBC
PとNTBC
△BW肝損傷制御下の、PHH移植後のFRGラットのライブ曲線。C. 移植後ラット血清におけるヒトアルブミン濃度の経時変化。D. 移植4日、1ヶ月、7ヶ月後の、FRGラット肝臓におけるヒト由来細胞の嵌合率の変化。E. 移植7ヶ月後、スライスでのラット肝葉(中葉、左葉と右葉)の人由来細胞核(Nuclei)の染色結果。スケールバー:2 mm。
【
図5】
図5、ヒト化肝臓の同定。A.hALB、hAATとhNucleiの再染色結果を用い、ヒト肝実質細胞を同定した。スケールバー:100um。B.ヒト化肝臓連続スライス上のFAHとHE染色。R、ラット肝細胞;H、ヒト肝細胞。スケールバー:100um。C.ヒト化肝臓連続スライス上のFAHとPAS染色。スケールバー:100um。D. ヒト化肝臓スライスでのCK19とhNucleiの再染色結果。スケールバー:1 mm (拡大図:100 μm)。E. 移植4日、1ヶ月、7ヶ月後の、Ki67とhALBの再染色結果。スケールバー:100um。F. 移植後の不同時点での、hALB
+ヒト肝細胞におけるKi67
+増殖性細胞の割合。
【
図6】
図6、ヒト化肝臓の腫瘍形成性の検測。A.PHHで移植されたと移植されなかったFRGラットの肝体重比。ns、統計学的差異なし。B. PHHで移植されたと移植されなかったFRGラット肝組織におけるhAFP遺伝子の発現。HepG2肝がん細胞株は、ポジティブコントロールである。****P < 0.0001;ns、統計学的差異なし;U.D.、未検出。C. PHHで移植されたFRGラット肝組織のAFPタンパク質免疫染色の結果。hGAPDHは、ヒト由来細胞内部標準である。スケールバー:100um。
【
図7】
図7、ヒト化肝臓の代謝に関する遺伝子とタンパク質の発現。A. qPCR分析で、ヒト化肝組織とドナーPHHにおける成熟肝細胞マーカー、I、II相代謝酵素とトランスポーター関連遺伝子の発現を比較した。PHH、ヒト初代肝細胞。B. ALB、 FAH、 CYP3A4、 CYP1A2、ARG1の免疫再染色結果。CV:中央静脈、PV:門脈;スケールバー:100 μm。C. FAH、UGT2B7とMRP2の免疫再染色結果。スケールバー:100um。
【
図8】
図8、ヒト化肝臓のUGT2B7薬物代謝。A.AZT薬物のUGT 2 B 7代謝試験の概略図。ラットにAZT(15 mg/kg)を経口投与した後、指定された時点でサンプリング・試験を行った。B.肝臓ヒト化ラッとコントロールグループにおけるAZTおよびAZT-5’-グルコシドの経時的な濃度変化。***P < 0.001;ns、統計学的差異なし。C.肝臓ヒト化ラットおよびコントロールグループにおけるAZT-5’-グルコシド/AZT比のAUC値。**P < 0.01。D. AUC値(AZT-5’-グルコシド/AZT)と肝臓ヒト化ラットにおけるヒトアルブミン分泌量の相関性分析。
【0038】
具体的な実施形態
本分野では、長期に生存を維持することができ、高い嵌合率の異種化肝臓を有する動物モデルを得ることが難いという技術的欠陥に対して、本発明者が、鋭意検討した結果、サイクル周期が固定化されるニチシノン(2-(2-ニトロ-4-トリフルオロメチル-ベンゾイル)-1,3シクロヘキサンジオン、NTBC)のプログラム化制御(Programmed NTBC controlling、NTBCP)方案を明らかにした。本発明の方案は、動物が慢性肝損傷状態で、長期生存することを実現することができ、異種化肝細胞の移植を行った後、高い異種化置換率を実現することができる。
【0039】
本発明に使用されるように、上記の「フマリルアセトアセターゼ遺伝子欠損(Fah-/-)」、「組換え活性化遺伝子2欠損(Rag2-/-)」又は「インターロイキン2受容体γ遺伝子欠損(IL2rg -/-)」とは、Fah、Rag2又はIL2rgは、ノックアウト、遺伝子編集、相同性組換えまたは定点突然変異などを含む方式で破壊されることを指す。本発明のいくつかの方式において、上記の「欠損」は、更に遺伝子/タンパク質発現の著しくい低下、例えば遺伝子/タンパク質発現の約80%、約90%、約95%又は約99%の低下を含む。
【0040】
本発明に使用されるように、上記の動物は、哺乳動物である。好ましくに、上記の動物は、マウスの2倍(例えば2~2000倍)以上の体形を有する哺乳動物である;好ましくに、上記の動物は、以下の群から選べられる動物である:ラット、ウサギ、ブタ、モルモット、犬、及びサル、オランウータンなどの非ヒト霊長類;好ましくに、上記の動物は、Fah-/-Rag2-/-IL2rg-/-の動物である。最も好ましくに、上記の動物は、ラットである。
【0041】
本発明に使用されるように、上記の「異種」は、「非内因」であり、異なる種から由来する二種類の肝細胞の間の関係を指し、又は、異なるソースの細胞と動物受容体の間の関係を指す。例えば、細胞と動物受容体の組み合わせは、通常に、天然に存在するものではない場合、当該動物受容体に対して、当該細胞は、異種的なものである。上記の「異種」は、「外因性」もという。上記の「異種化」とは、異種細胞が、受容体動物の肝臓に定植し、成長し、増幅し、かつ機能する過程を指す。
【0042】
本発明に使用されるように、上記の「異種化嵌合率」とは、受容体動物肝臓に定植、生長、増殖された異種細胞が、当該受容体動物の総の肝細胞における割合を指す。
【0043】
動物モデルの作製
FAH酵素は、肝臓のチロシン代謝経路における重要な酵素である。動物モデルにおいて、Fah遺伝子の欠損は、チロシン代謝中間産物であるブタジイルの蓄積をもたらし、ある程度に達すると、肝実質細胞の死亡を引き起こすことができる。日常飲用水にNTBCを補給することは、チロシン代謝経路を抑制し、毒性代謝中間産物の蓄積を阻止し、肝損傷を救う効果がある。当分野では、Fah欠損マウスのヒト由来肝細胞移植には、段階的除去または体重変化に基づくNTBC除去/回復サイクル制御戦略が適用されている。しかしながら、本発明者が、前期試験において、この制御戦略はFah欠損ラットの低割合(割合が10%未満)ヒト由来肝細胞キメラのみを支持でき、高度ヒト化肝臓構築に応用できないことが分かった。本発明者らは、Fah欠損ラットは、同じ遺伝子欠損マウスよりも、NTBC撤去による肝損傷に敏感であることを発見した;かつ、その体重指標に深刻な遅れがあり、適時に救助を実施できず、そして死亡率が極めて高く、成熟肝細胞移植後の救助可能な窓口期が短すぎる;したがって、安定かつ効率的なヒト化置換率を得ることができない。そのために、本発明者は、この問題を解決する道を見つけることに努めた。
【0044】
深く研究分析した上で、本発明者は、操作性が良く、制御性が高く、非急性致死性で、慢性肝損傷を持続することができる新しい方法を開示した。本発明に記載の方法は、異種肝細胞移植後のモデルラットの早期死亡を避け、異種肝/肝様細胞のFRGラット体内での定植生存に有利な肝内環境と十分な増幅窓期を創造し、高生存率で高置換率の異種化肝臓を構築することができる。この方法は、ラット以外のFah欠損大動物、例えばウサギ、ブタ、モルモット、犬、及びサルのような非ヒト霊長類などのモデルの異種化肝/肝様細胞移植にも適用できる。
【0045】
本発明者の新しい発見によって、Fah遺伝子欠損動物モデルの慢性肝損傷を維持する方法(NTBCP)を提供し、上記の方法は、Fah遺伝子欠損動物モデルに、以下のプログラムでNTBCを投与することを含む:(1)3~12日続いて毎日に低投与量のNTBCを投与し、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日である;(2)2~6日続いて毎日に高投与量のNTBCを投与し、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である;(3)ステップ(1)と(2)のサイクルを行う。実際の需要のよって、上記のプログラムを、動物モデルが使用されるまで、又は動物モデルの寿命が終わる結束まで行う。
【0046】
動物の異なる個体間に個体差があることを考慮して、経口投与では、毎日のNTBCの摂取量に一定の変動があるため、本発明の低投与量または高投与量は、動物個体の摂取量の平均値に基づいて計算される。具体的に、低投与量の投与段階に対して、平均単日0.005~0.1 mg/kg動物体重NTBCを投与する際に、5mg/L NTBCを100%NTBCとすると、対応するNTBC使用濃度は、0.665~13.33%であっても良い。具体的に、高投与量の投与段階に対して、平均単日0.25~1.5 mg/kg動物体重NTBCを投与する際に、5mg/L NTBCを100%NTBCとすると、対応するNTBC使用濃度は、33.33% ~ 200%であっても良い。
【0047】
Fah遺伝子欠損動物は、NTBC供給パターンを、人為的に制御することによって、肝損傷を制御することができ、それによって、Fah野生型同種肝細胞移植または異種肝細胞移植条件を作成することができる。したがって、上記のFah遺伝子欠損動物モデルの慢性肝損傷を維持することに基づき、本発明は、更に、異種化肝移植動物モデルを作製する方法を提供し、以下を含む:上記の(1)~(2)のステップで行い;かつ、上記のプログラムが始また3~30日目(例えば4、5、6、8、10、12、15、18、20、22、25、28日目)に、動物へ人ヒト初代肝細胞を移植する。
【0048】
本発明の好ましい方式において、上記のFah遺伝子欠損動物は、Fah-/-Rag2-/-IL2rg-/-の動物である。Fahは、419個のアミノ酸を有する酵素であり、その遺伝子長さは、22586 bpであり、14個のエキソンと13個のイントロンを有し、GenBank登録番号は、NM _017181.2である。Rag2は、527個のアミノ酸を有するタンパク質であり、その遺伝子長さは、8297 bpであり、3個のエキソンと2個のイントロンを有し、GenBank登録番号は、NM_001100528.1である。IL2rgは、368個のアミノ酸を有するタンパク質であり、その遺伝子長さは、7281 bpであり、12個のエキソンと11個のイントロンを有し、GenBank登録番号は、NM_080889.1である。Fah遺伝子欠損は、動物に肝臓損傷を誘導することができ、Rag 2遺伝子のノックアウトは、動物のT、B細胞欠損を引き起こすことができ、IL 2 rg遺伝子のノックアウトは、動物のNK細胞欠損及びT、B細胞減少を引き起こすことができる。Rag 2とIL 2 rgの個別ノックアウトと共同ノックアウトは、いずれも免疫不全の動物を得ることができるが、Rag 2とIL 2 rgは同時にノックアウトされると、免疫不全が最も深刻で、ヒト肝細胞移植に適する。
【0049】
本発明では、様々な方法で、動物にNTBCを投与することができる。いくつかの好ましい方式では、飲用水にNTBCを混合すること、または動物の食物にNTBCを混合することを含む経口投与を採用する。
【0050】
本発明中、上記の異種肝細胞は、以下を含む:(a)初代肝細胞;(b)誘導多能性幹細胞(iPSC)と胚性幹細胞(ESC)から誘導、分化してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞、内胚葉細胞など;(c)内胚葉及び他の胚層幹細胞誘導から分化してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;(d)成体又は胎児幹/祖先細胞又は肝細胞及び他の体細胞から直接に分化転換してなる肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;(f)(a)~(d)由来の細胞の体外誘導増殖後の肝幹/祖先細胞、肝細胞又は肝樣細胞;(g)(a)~(f)由来の細胞に構築される肝類器官。異種の初代肝細胞は、器官ドナーの肝臓から分離され、外科手術切除物から分離され、又は誘導多能性幹細胞、胚性幹細胞、胚組織及びその細胞、羊膜上皮細胞、単核細胞又は羊水細胞から由来しても良い。
【0051】
本発明において、受容体動物に移植するための異種肝細胞は、当技術分野で知られている任意の方法によって肝組織から分離することができる。肝臓組織は、単細胞懸濁液を提供するために機械的または酵素的に消化することができ、または完全な肝臓組織ブロックを使用することができる。例えば、通常のコラーゲン灌流により、その後低速遠心分離を行い、肝細胞をドナー組織から分離する;次いで、肝細胞は、スクリーン濾過、次いで密度勾配遠心分離により精製することができる。異なる選択方法として、肝細胞を濃縮するための他の方法、例えばフローサイトセパレータ、ビーズ分離、密度勾配遠心分離、または当技術分野で公知の他の方法を使用することもできる。増殖されたヒト肝細胞は、同様の肝細胞分離方法を用い、受容体動物の肝臓から収集することができる。臓器ドナーまたは肝切除物から異種肝細胞を得ることに加えて、移植に使用される細胞は、受容体動物への移植後に定植され増殖されるヒト肝細胞、または体外増殖された肝細胞前駆体細胞、祖先細胞、およびその他の肝様細胞であってもよい。
【0052】
本発明の好ましい方式として、前記プログラム(NTBCP)を行う前に、更に、前記動物をレトロルシン(Retrorsine、RS)で予備処理することを含む。NTBCPプログラムを開発する前に、本発明者らは、レトロルシンと部分肝切除手術を併用し、動物を処理することも試みたが、使用した動物モデルでは、肝損傷を制御できないという限界があるため、検出されたヒトアルブミン分泌レベルは90μg/mlしかない。ヒト化動物では、ヒト化嵌合率が30%を超えるか、1 mg/mlアルブミン分泌レベルがある場合にのみ、ヒトの薬物代謝過程を、比較的正確にシミュレーションすることができる。そこで、本発明者は、Fah欠損かつ免疫不全のラットをモデルとし、最適化されたNTBCPプログラムを開発し、移植7カ月時、ヒト化嵌合率を30%以上に大幅に向上させ、アルブミン分泌レベルを2 mg/ml超に達することができる。
【0053】
本発明の好ましい方式として、レトロルシンの使用量は、10~50 mg/kg動物体重である;より好ましくに、レトロルシンの使用量は、20~40 mg/kg動物体重である;更に好ましくに、レトロルシンの使用量は、25~35 mg/kg動物体重である。本発明の具体的な実施例の論証によって、RSで予備処理された動物の肝組織におけるKi67ポジティブ細胞の割合は、著しくに低い。ヒトアルブミン(hAlbumin、ALB)分泌レベルは、異種肝細胞の体内嵌合、増殖レベルを評価する大切の指標であり、比較によって、RS予備処理後の動物には、異種肝細胞を移植した後のヒトアルブミン分泌レベルは、著しくにより速く、RSの予備処理とNTBCプログラム化制御の連合応用が、体内の異種肝細胞の嵌合と増殖を更に促進することを表す。
【0054】
本発明の具体的な実施方式では、好ましい方案を提供し、以下を含む:ヒト由来肝/肝様細胞移植の2週間前に、Fah欠損ラットに30 mg/kgの動物体重のレトロルシンを腹腔内注射し、移植の1週間前に、日常給水中のNTBC濃度を正常維持濃度(5~8 mg/L)から低濃度(0.2 mg/L)まで低下させ、NTBCプログラム化制御を開始し、0.2 mg/L×7日間+5 mg/L×4日間(1サイクルは11日間)の方法で、日常飲用水にNTBCを添加した。
【0055】
本発明の方法を採用すると、高異種化嵌合率を有する異種化肝臓を得られ、異種化嵌合率は、25%超、好ましくに28%超、より好ましくに32%超であっても良い;動物を培養時間の増加に続き、当該嵌合率も更に高くなる。
【0056】
本発明の技術方案は、非常に顕著な技術効果を有し、以下を含むが、これらに限定されない:(1)Fah欠損動物の長期慢性肝損傷状態を維持でき、非急性致死性の持続可能な慢性肝損傷を実現でき、異種肝/肝様細胞移植後の動物モデルの早期死亡を回避でき、動物生存率が高い;(2)異種肝/肝様細胞の動物モデル体内での定植生存に有利な肝内環境を創造でき、かつ十分に長い体内増幅窓期を提供でき、高い生存率で高置換率の異種化肝臓を構築できる、(3)操作、管理方法が便利で、制御性が高く、自動化された動物モデルの作製装置或いはコンピュータシステムを開発でき、規模化された動物モデルの作製を実現できる。
【0057】
応用
本発明に開示される異種肝細胞移植動物モデルは、多種多様な研究と治療目的に用いることができ、以下の応用を含むが、これらに限定されない:
【0058】
動物慢性肝損傷モデル:本発明を利用して、Fah欠損動物の慢性肝損傷を安定的に誘導でき、肝線維化と肝硬変を主に代表する慢性肝疾患モデルを構築し、疾病機序と薬物研究に用いる。
【0059】
臨床前薬物体内試験:本発明により構築された高度な肝臓異種化動物モデルを利用すると、臨床前薬物代謝、毒性と薬効試験、及び体内のヒト肝炎ウイルス感染実験に応用することが期待でき、生理的に人体に近いだけでなく、長期サンプリング、検査と追跡も支持し、新薬の研究開発を推進することに有利である。本発明の動物モデルは、HCC、肝臓がん、肝硬変などを含む多種の肝臓疾患の研究に用いることができる。本発明の動物モデルは、例えば、毒素に曝露されたこと、感染性疾患または悪性腫瘍、または遺伝的欠陥による肝臓疾患のモデルとして使用することができる。本発明の動物モデルを用いた薬物研究に好適な遺伝性肝臓疾患の例としては、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高シュウ酸塩尿、フェニルピルビン尿症、グリコーゲン蓄積症、およびいくつかの先天代謝欠陥などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のモデルシステムは、特定の肝臓疾患を、よりよく理解するために使用することができ、疾患の進行を阻止、遅延または逆転することができる薬剤を確定するために使用することができる。別の代替方式では、本発明に構築された動物モデルを、毒素による肝臓疾患のモデルとして使用することができる。本発明に構築された動物モデルは、候補ワクチンの、好肝病原体による感染を防止または軽減する能力をスクリーニングすることに使用することができる。本発明において、薬物試験のための候補薬物の種類は特に制限されず、合成または天然化合物ライブラリを含む様々な源から得ることができる。例えば、ランダムオリゴヌクレオチド及びオリゴペプチドの発現を含む複数の有機化合物及び生体分子を、ランダム及び配向合成するための様々な方法がある、あるいは、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形態の天然化合物ライブラリを得ることができ、または容易に生成することができる。さらに、天然または合成法により生成されたライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的および生化学的方法により容易に修飾することができ、複合ライブラリーを生成するために使用することができる。既知の薬理学的薬剤は、構造類似体を生成するために、配向またはランダム化学修飾(例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化など)され得る。
【0060】
異種(ヒト由来)肝細胞の増幅移植医療:本発明の方法は、肝臓再建療法を必要とする被験者における肝臓再建のため、ヒト肝細胞のソースとして、受容体動物中で増殖され、そこから異種(例えばヒト)肝細胞を収集することができる。本発明は、異種肝/肝様細胞のFah欠損動物体内での大幅な増殖を支持でき、類器官の移植代替技術の開発を開発し、将来の臨床再生移植治療に重要な支持を提供する。肝細胞を導入し、患者に肝組織を再構築することは、急性肝不全患者の潜在的な治療的選択であり、肝移植前の一時処理としても使用できる。肝細胞再構成は、例えば遺伝子療法のために遺伝子改変された肝細胞を導入するために、または疾患、物理的または化学的損傷または腫瘍による肝細胞損失を置換するために使用することができる。当技術分野で知られている多くの技術を用いて、受容体動物からヒト肝細胞を収集することができる;受容体動物から収集されたヒト肝細胞は、当技術分野で公知の技術のいずれかを用いて、非ヒト細胞または他の不純物(例えば組織または細胞破片)から分離することができる。本発明は、肝器官、肝細胞移植ドナー不足の厳しい問題を解決することが期待される。
【0061】
遺伝子治療研究:本発明に構築された動物モデルにおいて増殖され、収集された肝細胞は、ヒト肝細胞遺伝子発現に対する任意の医薬化合物(例えば、小分子、生物製品、環境、および生物毒素または遺伝子送達システム)の変化を評価するために使用することができる。それが、遺伝子治療方案とベクターの研究にも応用することができる。例えば、遺伝子送達ベクター(ウイルス及び非ウイルスベクターを含む)の転移効率;遺伝物質の統合頻度と位置づけ(統合部位分析);遺伝物質の機能性(遺伝子発現レベル、遺伝子ノックアウト効率);および遺伝物質の副作用(体内のヒト肝細胞遺伝子発現またはタンパク質群学的解析)などのパラメーターを評価する。例えば、家族性高コレステロール血症を有する患者に対する遺伝子治療に、トランスフェクションされた肝細胞を用いることが報告された。
【0062】
個性化肝疾患モデルと精密医療:患者自身のiPSC由来肝様細胞を利用し、個性化肝疾患動物モデルを構築し、肝線維化、肝硬変、HCC、ICC、CCCからNASH、HBV及びHT 1、AATなどのウイルス性と代謝性遺伝欠陥の肝疾患遺伝子編集治療を行い、個性化標的薬物と最前線の新型治療戦略の研究開発を推進する。
【0063】
体外試験:異種肝/肝様細胞は動物体内で増殖した後、肝臓灌流の方式で回収して獲得することができる。体外培養を経ていないため、体内増殖後の異種肝/肝様細胞は、性状、機能的に原始細胞の移植との一致性を最大限に維持することができる。薬物試験、疾病シミュレーションなどの関連体外試験に使用する場合、結果の安定性と再現性を保証することができる。
【0064】
また、本発明と類似の方法を用い、特定の種属動物に適したNTBC制御濃度と維持時間を確定し、サイクル周期固定化のNTBCプログラム化制御を確立し、標的性の慢性肝損傷制御を作成し、異種肝/肝様細胞移植後に体内で持続的、安定的に嵌合と増殖を実現することができる。
【0065】
動物モデル作製システム/キット
開示された新しい方法に基づき、本発明は、さらに、Fah遺伝子欠損動物モデルを育成し、かつその慢性肝損傷を維持するシステムを提供する。本発明において、上記のシステムは、機械装置であっても良く、好ましくに、自動化の機械装置である;本発明の方法を実施するために、多種のモジュールを含むコンピュータシステムであっても良い。
【0066】
本発明の好ましい方式の一つとして、機械装置を提供し、好ましくに、自動化の機械装置であり、以下を含む:3~12日続いて、毎日に動物に低投与量NTBCを投与し、上記の低投与量は2~10%であるように配置される投与コンポーネント1;及び、2~6日続いて、毎日に動物に高投与量NTBCを投与し、上記の低投与量は、70~100%であるように配置される投与コンポーネント2。好ましくに、動物にレトロルシンを投与(例えば注射)することができる投与コンポーネント3をさらに含む。上述の3種類の投与コンポーネントは、1つの全体を有機的に構成することができ、動物を収容する装置と有機的に統合し、それによって、便利で自動化された動物作製システムを提供することができる。
【0067】
本発明の好ましい方式の一つとして、コンピュータ制御システムを提供し、制御プログラムを含む投与モジュール1を含み、当該プログラムは、それと操作性に接続された(それによって操作される)下流システム(例えば、機械ノズル)が3~12日続いて、毎日に動物に低投与量NTBCを投与し、上記の低投与量は2~10%であるような指令を出す;さらに、制御プログラムを含む投与モジュール2を含み、当該プログラムは、それと操作性に接続された(それによって操作される)下流システム(例えば、機械ノズル)が2~6日続いて、毎日に動物に高投与量NTBCを投与し、上記の高投与量は70~100%であるような指令を出す。好ましくに、さらに、制御プログラムを含む投与モジュール3を含み、当該プログラムは、それと操作性に接続された(それによって操作される)下流システム(例えば、機械ノズル)が、動物にレトロルシンを投与する。
【0068】
開示された新しい方法に基づき、本発明は、さらに、Fah遺伝子欠損動物モデルを育成し、かつその慢性肝損傷を維持するキット(好ましくに1回のサイクル)、以下を含む:コンテナーグループ1:コンテナー及び、コンテナーに収容される低投与量のニチシノンを含む、上記の低投与量は、0.005~0.1 mg/kg動物体重/日である;好ましくに、当該コンテナーグループ1におけるコンテナーの数は、3~12個である(好ましくに1回のサイクル);及び、コンテナーグループ2:コンテナー及びそれに収容される高投与量のニチシノンを含む、上記の高投与量は、0.25~1.5 mg/kg動物体重/日である;好ましくに、当該コンテナーグループ2におけるコンテナーの数は、2~6個である(好ましくに1回のサイクル)。好ましくに、上記のキットには、コンテナー3、及びそれに収容されるレトロルシンをさらに含む。好ましい方式として、上記のコンテナー3は、注射器であっても良い。複数のキットをセットして、複数ラウンドのNTBCサイクルに適用することができる。また、実際の運用では、動物の体重に応じて、当業者は、コンテナーに具体的なNTBCの量を添加しやすい。
【0069】
本発明の全体的な開示及び実施形態の例によれば、当業者は設計又は組立を容易に行うことができる。
【実施例】
【0070】
以下、具体的な実施例を参照して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の単なる例示であることが理解されるべく。以下の実施例における特定の条件を特定しない実験方法は、通常に、J.Sambrookら、Guide to Molecular Cloning、Third Edition、Science Press、2002に記載された通常条件に従って実施され、或いはメーカーが推奨する条件に従って実施される。
【0071】
材料と方法
1、動物
Fah-/-Rag2-/-IL2rg-/-ラット(FRGラット)は江蘇大学実験動物センターで飼育されている。
【0072】
2、細胞
実施例における移植に用いた初代肝細胞の由来情報を表1に示す。
【表1】
以上はすべてBioreclamationIVT、USAから購入した。
【0073】
3、試薬
(1)RNA逆転写
キットRevert Aid RT kit (Thermo Fisher Scientific)を使用した。
(2)定量qPCR
キットTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (Toyobo,Japan)を使用した。
(3)ヒトアルブミン分泌の測定
キットHuman Albumin ELISA Quantitation Set (Bethyl Laboratory,USA)を使用した。
(4) HEと免疫染色
4%パラホルムアルデヒド(Wako);メタノール(Wako);アセトン(Wako);トウェイン-20(Wako);クエン酸(Wako);過酸化水素(Wako);ヤギ血清(Thermo Fisher Scientific);ロバ血清(Jackson Lab,USA);ヘマトキシリン(Wako);伊紅(ワコ);ABCキット(Vector Laboratories,USA);OpalTM 4-Color Manual IHC Kit (PerkinElmer,USA);4’,6-ジアミノ-2-フェニルインドール(DAPI,Thermo Fisher Scientific);FA封止剤(VMRD;USA)。
(5)Periodic acid-Schiff (PAS)染色
キットPeriodic-Acid-Schiff(上海源葉生物科学技術有限公司)を使用した。
(6)UGT2B7代謝試験
参考物質:1.0 mg/mLジドブジン(zidovudine solution)(AZT、Sigma)、3’-アジド3’-デオキシチオシドβ-D-グルコシド(AZT-5’-グルコアルデヒド酸、Toronto Research Chemicals、Canada)。
【0074】
4、プライマー
実施例に使用されたプライマーは、表2に示す。
【表2】
【0075】
5、抗体
実施例に使用された抗体は、表3に示す。
【表3-1】
【表3-2】
【0076】
6、HE染色
ラット肝臓を4%PFAで一晩固定し、脱水して包埋し、厚さ3 umに切った。
(1)キシレンで3回脱蝋、毎回5分間。
(2)勾配復水:100%エタノール、100%エタノール、90%エタノール、80%エタノール、70%エタノール、50%エタノール、各5分間。脱イオン水で、1分間浸漬した。
(3)抗原修復(このステップは抗体特性に応じて採用する):pH=6.0のクエン酸ナトリウム抗原修復液を95度で30分間加熱し、その後室温まで自然冷却した。脱イオン水で15分間洗浄した。
(4)蘇木精で、20分間再染した。水道水で30分間洗浄した。
(5)勾配復水:50%エタノール、70%エタノール、80%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、各2分間。
(6)キシレンで15~30分処理した後、中性樹脂封止シートを保存した。
【0077】
7、免疫組織化学
(1)脱蝋復水ステップは前記と同じ。
(2)サンプルの周囲に、ImmunoPenで円を描き、内因性ペルオキシダーゼを封止するために、一滴の3%H2O2を滴下し、室温で15分間処理した。
(3)PBSを2回、毎回5分間洗浄した。
(4)1:20のNormal horse serum(1%BSA-PBSに溶解)でブロッキングし、室温で20分間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。
(5)一次抗体を加え、スライスを湿った箱に入れ、封止し、4度で一晩おいた。
(6)PBSを3回、毎回5分間洗浄した。
(7)二次抗体を加え、室温で20分間インキュベートした。PBSを3回、毎回5分間洗浄した。
(8)ABC キット中のAB液(A、B液1:100希釈)を加え、室温で30分間インキュベートした。PBSを3回、毎回5分間洗浄した。
(9)DABは発色し、抗体ごとに発色時間を調整した。
(10)蘇木精で、20分間再染した。水道水で30分間洗浄した。
(11)勾配復水:50%エタノール、70%エタノール、80%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、各2分間。
(12)キシレンで15~30分処理した後、中性樹脂封止シートを保存する。
【0078】
8、免疫蛍光染色
(1)凍結スライス(7μm)を、4%PFA中で、室温で10分間固定したか、メタノール:アセトン(1:1)中-30℃で30分間固定した。
(2)0.1% tween-PBSを3回、毎回5分間洗浄した。
(3)ヤギまたはロバ血清の10%を、室温で60分間ブロッキングした。
(4)一次抗体4℃下で一晩インキュベートした。
(5)0.1% tween-PBSを3回、毎回5分間洗浄した。
(6)フルオレセインと結合した二次抗体を用い、室温で60分間インキュベートした。
(7)PBSを3回、毎回5分間洗浄した。
(8)DAPIを加え、封止剤でスライスを封止し、保存した。
【0079】
9、定量qPCR
Revert Aid RT kitキットの使用説明に従って、1μg RNAをcDNAに逆転写した。THUNDERBIRD SYBR qPCR Mixキットの使用説明に基づき、cDNA生成物を定量PCR計上で増幅し、定量分析した。標的遺伝子の相対発現量はACTBを内部標準とした。すべてのデータを少なくとも2回繰り返した。
【0080】
10、肝機能検査
ラット血清中のグルタミン酸アミノトランスフェラーゼ(ALT)とグルタミン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の含量測定は、生化学分析器FUJI DRI-CHEM 7000 V(Fujifilm,Japan)の操作説明に従って行った。
【0081】
11、ヒトアルブミン分泌の測定
尾静脈から100μlラット末梢血を採取し、室温凝固後400×gを10分間遠心分離した後、上清を採取して血清を得た。ヒトアルブミンの分泌レベル試験は、Human Albumin ELISA Quantiation Setキットの使用説明に従った。血清は、実際の濃度に基づいて10~100000倍希釈し、計算値を標準曲線の線形範囲内に落として、正確な値を得た。
【0082】
12、初代肝細胞移植とプログラム化NTBCサイクル
(1)移植前準備:7~8週齢の雌性FRGラットに、移植前2週間に、30 mg/kgのレトロルシン(Retrorsine)を腹腔内注射し、移植前1週間に、日常給水中のNTBC濃度を正常維持濃度(5~8 mg/L)から低濃度(0.2 mg/L)まで低下させ、プログラム化NTBCサイクルを開き、0.2 mg/L×7日間+5 mg/L×4日間(1サイクル11日間)の方法で、日常的なNTBC飲料水を提供した。
従来の飼育中、FRGラットは、5 ~ 8 mg/Lを日常的に供給し、本発明では、この最低用量5 mg/L NTBCを100%NTBCとし、ラットの体重(250~300 g)と飲用水量(25~50 ml/日)の計算によって、
4%NTBC:平均0.03 mg/kg/日に相当する;
100%NTBC:平均0.75mg/kg/日に相当する。
(2)移植過程は、イソフルランを用いた麻酔機下で行った。ラットは腹部を上にして固定し、毛を取り除いた後、ヨード酒とアルコールで清潔し、消毒した。
(3)表皮と筋肉層を切り、肝門脈を見つけた。26 G針で、2×106ヒト初代肝細胞(800μl DMEM+10%FBSに再懸濁)をゆっくり注射した。注射が完了した後、数秒停止した後に、針を抜き、速やかに無菌綿棒で針口を押した。
(4)1分程度押して、血液流出がないことを観察した後、筋肉と表皮を縫合し、アルコール綿で傷口を消毒した。
【0083】
13、体内UGT2B7代謝試験
肝臓ヒト化グループおよび非コントロールグループのFRGラットに、15 mg/kgのzidovudine(Wako)を経口灌漑胃投与し、0、0.5、1、2、4および8時間後に末梢血を採取した。30μlの血漿を、PBSで2倍希釈した後、LC-MS/MS(Agilent 1200 HPLCとABI 4000 mass-spectrometer)を用いて、基質と代謝物の含有量を測定した。
【0084】
実施例1、NTBC撤去後にFRGラットが致死性肝損傷を産生した
本発明者の長期追跡観察により、FRGラットは、100%NTBC(FRGラットに5-8 mg/Lを日常的に供給することができ、本発明ではこの最低用量5 mg/Lを100%とする)で少なくとも1.5年間健康を維持し、これは、ヒト化肝臓の構築に十分な時間窓(
図1 AとD)を提供した。NTBCが撤去されると、ラットは急速に肝損傷を受けた。顕著に上昇したALTとAST値(
図1 B)に伴い、肝組織に壊死と線維化症が出現した(
図1 C)。すべてのラットは、NTBC撤去から4週間以内に死亡し、その生存期間の中央値は9.6日であった(
図1 D)。
その結果、NTBC撤去はFRGラットに深刻な肝損傷を引き起こし、死亡を招くことが証明された。
ラットから観測されたこの状況は、マウスなどの他の動物がNTBC撤去後も生存期間を長く維持し、肝損傷を高く維持しているのとは異なる。したがって、ラットには、当技術分野における既存のNTBCアプリケーションのいくつかは適用されない。
【0085】
実施例2、慢性肝損傷を誘導するNTBCプログラム化制御を確立した
FRGラットの肝損傷条件下での生存率を高め、長期ヒト化過程の安定性を確保するために、本発明者は、深く研究し、多角度に、ラット肝損傷とその生存状況の分析を行い、ラット肝損傷条件下での生存率を高める最適条件を探求した。
異なるNTBC濃度(0%、1%、4%、10%、100%)におけるラットの生存率を比較することにより、最適なNTBC維持濃度を決定した。その結果、NTBC濃度が4%の維持用量(5 mg/L)を超える場合、生存期間の中央値は3週間(22日)を超え、ラットの突然死を効果的に予防することができる(
図2 A)。さらに、4%と10%NTBC条件下のラット肝機能と体重状態を比較し、4%条件下で高いALTとASTレベルを維持でき、ラット体重の増加を顕著に抑制でき(
図2 B)、生存を維持しながら肝損傷を誘導する効果を達成した。
ヒト化過程には比較的長い周期が必要であるため、ラットの肝損傷下での長期生存率をさらに高めるために、本発明者は、サイクル周期固定化のNTBCプログラム化制御(Programmed NTBC controlling、NTBCP)と呼ばれる一連のNTBC投与方案を設計し、以下を含む:それぞれ4%NTBC条件下で5、7と9日後を維持し、4日間の100%NTBCを回復し、累積した肝損傷を緩和する(
図2C)。
【0086】
結果により、FRGラットは、5+4のNTBCプログラム化(5日間4%NTBC+4日間100%NTBCサイクル)と、7+4のNTBCプログラム化(7日間4%NTBC+4日間100%NTBCサイクル)の制御の下で、2ヶ月以内に高い生存率を維持することができる(
図2 D)。
さらに、5+4と7+4の2つのモードを比較し、本発明者は、7+4制御下に、顕著に高いALTとASTレベル(
図2 E)を有し、肝臓の慢性損傷をより良く誘導することができることを発見した;肝組織線維化の程度(
図2 F)を観測し、7+4制御下で線維化の程度はより顕著であった。
同時に、本発明者は、NTBCプログラム化制御の長期作用が、ラット肝組織の特異性癌遺伝子Afpの異常なアップレギュレートを招くことはなく(
図2 G)、この戦略が安全性を有することを証明した。
以上の結果を総合して、本発明者は、慢性肝損傷を持続的に誘導できる7+4 NTBC
P制御戦略を確立し、そして後続の肝臓ヒト化ラットモデルの作製に応用した。
【0087】
実施例3、レトロルシン(Retrorsine)予備処理とNTBCプログラム化制御の連合応用
本発明者は、NTBCプログラム化制御過程(7+4:7日4%NTBC+4日100%NTBCのサイクル)において、ヒト初代肝細胞(PHH)を移植した後、ヒト化ラットモデル体内のPHH嵌合と増殖レベルは依然として理想的ではないことを発見した。さらなる最適化を実現するために、本発明者は、多種多様な標的薬物について広範な分析と実験を行い、Retrorsine(RS)による予備処理が、促進作用を有することを発見した。
本発明者は、Retrorsine(RS)予備処理(w/RS)と未処理(w/o RS)のFRGラット肝細胞を設置し、ラットモデル体内のPHH嵌合と増殖レベルを観測した。
上記の実施例2のNTBCプログラム化制御の2ヶ月後に、RSで予備処理されたラット肝組織におけるKi 67陽性細胞の割合は、有意に低いことが見出された(
図3 A及びB)。ヒトアルブミン(hAlbumin、ALB)分泌レベルは、ヒト由来肝細胞の体内嵌合、増殖レベルを評価する大切の指標であり、比較によって、RS予備処理後のラットには、ヒト初代肝細胞(PHH)を移植した後のヒトアルブミン分泌レベルは、著しくにより速く(
図3C)、RSの予備処理とNTBCプログラム化制御の連合応用が、体内のPHHの嵌合と増殖を更に促進することを表す。
【0088】
実施例4、慢性肝損傷下におけるラット肝臓のヒト化作製
上述のように、ラットにヒト初代肝細胞移植を行い、前記サイクル周期固定化されたNTBCプログラム化制御NTBC
P(7+4:7日4%NTBC+4日100%NTBCのサイクル;及びレトロルシン予備処理)と、10%体重変化を指標とするNTBC
△BW条件下(NTBCを撤去し、ラット体重が10%減少した場合100%NTBCを投与し、体重が撤去前に回復した場合にNTBCを撤去し、このようにサイクルする)を比較する場合の(
図4 A)、PHHを移植したFRGラットの生存曲線。
【0089】
その結果、移植後のラットはNTBC
P制御条件下でより高い生存率を有し、そのうち6/7のラットは少なくとも20週間生存することができる(
図4 B)。NTBC
P制御条件下で、時間の延長に伴い、生存しているラット体内のヒトアルブミン分泌レベルは、持続的に上昇し、7ヶ月後に最高2.2 mg/ml(平均1.7±0.3 mg/ml)に達することができる(
図4 C)。
ヒト特異性マーカーhNucleiの免疫染色により、ラット肝臓のヒト化嵌合率を算出することができる。
図4Dに示すように、NTBC
P制御条件下では、移植後のヒト由来細胞の嵌合率は向上し続け、7カ月で嵌合率は31±4%に達した(
図4 E)。
【0090】
実施例5、ヒト化肝臓の細胞構成の同定
前記NTBCプログラム化によるNTBC
P(7+4:7日4%NTBC+4日100%NTBCサイクルの制御;及びレトロルシン予備処理)方法の下で、FRGラットのPHH移植後7ヶ月後に、その中の嵌合ヒト由来細胞の性状を取得し、同定した。ヒト肝実質細胞特有抗原に対して、本発明者は、hALB、hAAT及びhNuclei抗体を用いて、再染色し、観察を行った。その結果、すべてのhNuclei陽性のヒト由来細胞は、hALBとhAATを発現し、これらの細胞が成熟した肝実質細胞であることを示した(
図5 A)。
また、FAH陽性で代表されるヒト肝実質細胞は、HE染色上で、周囲ラット肝細胞領域よりも白色の色を示し(
図5 B)、2つの異なる種の由来を明らかに区別することができる。同時に、ヒト肝実質細胞も、より強いグリコーゲン貯蔵能力を示した(
図5 C)。組織学的観察から、ヒト由来肝実質細胞の嵌合が、ラットに既存の肝臓構造に影響を与えていないことが確認された(
図5 B)。これらの結果は、ヒト化マウスモデルにおける関連する報道と一致した。同時に、CK 19とhNuclei抗体再染色の結果は、CK 19陽性のヒト由来細胞は存在せず、移植したヒト初代肝細胞が、ラット体内で、胆管上皮細胞に転化していないことを示した(
図5 D)。また、hALB陽性肝実質細胞におけるKi 67陽性細胞の割合に対する分析によって、時間が経つにつれて、ヒト肝実質細胞の増殖性が徐々に低下することが分かった(
図5 E)。しかし、移植7カ月後も、10%以上の割合を維持し(
図5 F)、NTBC
Pは、ヒト初代肝細胞に長期的な体内増殖潜在能力を誘導できることを示している。
【0091】
実施例6、ヒト化肝臓の腫瘍形成性の検測
前記NTBCプログラム化によるNTBC
P(7+4:7日4%NTBC+4日100%NTBCサイクルの制御;及びレトロルシン予備処理)方法の下で、FRGラットのPHH移植後7ヶ月後に、ヒト化肝臓を得、肝体重比を計算した。
その結果、未移植のコントロールと比較すると、肝体重比の数値には、顕著な向上は見られなかった(
図6 A)。組織学的に腫瘍形成は認められなかった。さらに、肝臓がんの主要マーカーであるAFPに対して、遺伝子とタンパク質レベルの分析を行った結果は、ヒト肝細胞が、ラット肝臓に嵌合してから7カ月後に、AFPの異常なアップレギュレートが発生していないことが明らかになった(
図6 BとC)。
以上の結果は、NTBC
P条件下で、肝臓のヒト化過程に、悪性病変を誘導しないことを表明した。
【0092】
実施例7、ヒト化肝臓は、ヒト肝臓に近い代謝関連遺伝子とタンパク質の発現を示した
前記NTBCプログラム化によるNTBC
P(7+4:7日4%NTBC+4日100%NTBCサイクルの制御;及びレトロルシン予備処理)方法の下で、FRGラットのPHH移植後7ヶ月後に、ラット体内のヒト化肝臓の機能を評価した。
本発明者は、まず、ヒト遺伝子を特異的に識別するプライマー(表2)を用いて、代謝関連遺伝子の発現状況をQPCR解析した。その結果は、ヒト化肝臓は、成熟肝実質細胞マーカー相関遺伝子(ALB、AAT、G 6 PC、Fah)を発現するだけでなく、I相代謝酵素(CYP 2 A 6、CYP 2 E 1、CYP 3 A 4、CYP 3 A 7とCYP 7 A 1)、II相代謝酵素(UGT 2 B 7)とトランスポーター(SLC 22 A 1とSLCO 1 B 1)相関遺伝子も発現する(
図7 A)ことを示した。さらに重要なことは、その発現レベルは、移植前のPHHに近い。
肝組織における代謝酵素類の秩序的な分布は、肝臓の重要な構造特徴である。ランダムに選択した肝代謝酵素を免疫染色することにより、グルタミン合成酵素(GS)は、中央静脈付近の肝実質細胞に特異的に分布し(
図7 B)、I相代謝酵素シトクロムP 450 3 A 4酵素(CYP 3 A 4)1 A 2酵素(CYP 1 A 2)も、中央静脈周辺に集中的に分布することが分かった。対照的に、アリナーゼ(ARG 1)は、主に肝門脈付近に集中している(
図7 B)。また、II相酵素ウリジン二リン酸グルコースアルデヒド酸転移酵素2 B 79(UGT 2 B 7)とトランスポーター多剤耐性関連タンパク質2(MRP 2)は、肝小葉の全体に均一に分布した(
図7 C)。重要なことは、以上の代謝酵素のヒト化肝臓における分布状況は、いずれも人体における分布規則と一致している。
上記の結果から、代謝関連遺伝子と酵素の発現特徴にかかわらず、ヒト化肝臓は、ヒト肝臓と極めて大きな類似性を示した。
【0093】
実施例8、ヒト化肝臓は、ヒト特異的な薬物代謝特徴を有する
ヒトUGT 2 B 7酵素は、約35%の臨床薬物の代謝に関与し、重要な研究意義を持つことが知られている。本発明者は、UGT 2 B 7代謝薬であるジドブジン(AZT)を用いて、肝臓のヒト化ラットが、ヒト特異的な代謝特徴を示すことができるかどうかを検証した。ヒトでは、AZTの75%が、AZT-5’-グルクロン酸(glucuronide)に代謝されるが、ラットでは、当該代謝の転化率が、10%にすぎなかった。
図8 Aには、テストフローを示す。
その結果、AZT経口投与後、肝臓ヒト化ラット(約30%嵌合率)中のAZT-5’-グルクロンアルデヒド酸は、コントロールグループより明らかに高かった(
図8 B)。AZT-5’-グルクロン酸/AZTのAUC(areas under the curves)値は、肝臓ヒト化およびコントロールラットにおいて、それぞれ39%±16%および6%±3%であった(
図8 C)。また、ヒトアルブミン分泌量とAUC値(AZT-5’-グルクロン酸アルデヒド/AZT)との相関性の比較も、肝臓のヒト化率とAZTのヒト型代謝レベルとの正の相関を示している(
図8 D)。
以上の結果、肝臓ヒト化ラットは、ヒト特有の体内薬物代謝特徴を示し、長期生存能力を備えている。
【0094】
実施例9、動物のヒト化肝臓の作製のためのキット/セット
本実施例において、ラットヒト化肝臓の作製に使用されるキットを提供し、以下を含む:
コンテナーグループ1:コンテナー及び、コンテナーに収容される低投与量のニチシノンを含む;上記の低投与量は、0.03mgである;当該コンテナーグループ1中のコンテナーの数は、7個である;
コンテナーグループ2:コンテナー及び、コンテナーに収容される高投与量のニチシノンを含む;上記の高投与量は、0.75 mgである;当該コンテナーグループ2中のコンテナーの数は、4個である;
コンテナーグループ3:コンテナー及び、コンテナーに収容される4mgのレトロルシンを含む;当該コンテナーグループ1中のコンテナーの数は、1個である;
当該キットは、1回(11日間)の投与、およびラットのレトロルシン予備処理に使用された。
複数のキットを統合した後、複数のラット同時投与を含む、ラットの複数のサイクルの投与に使用することができる。持続的な動物育成において、キットセットを用い、例えば、前記キットセットが、2~200個のキットを含む。複数のキットからなるキットセットのうち、レトロルシンは、1つのキットにしか供給されていない。
【0095】
本出願に言及されている全ての参考文献は、参照として単独に引用されるように、本出願に引用されて、参照になる。理解すべきのは、本発明の上記の開示に基づき、当業者は、本発明を様々な変更または修正を行っても良い、これらの同等の形態も本出願に添付された請求の範囲に規定される範囲内に含まれる。
【配列表】
【国際調査報告】