IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーアイエー セパレーションズ ディー.オー.オー.の特許一覧

特表2023-550799アフィニティークロマトグラフィーのための改善された洗浄方法
<>
  • 特表-アフィニティークロマトグラフィーのための改善された洗浄方法 図1
  • 特表-アフィニティークロマトグラフィーのための改善された洗浄方法 図2
  • 特表-アフィニティークロマトグラフィーのための改善された洗浄方法 図3
  • 特表-アフィニティークロマトグラフィーのための改善された洗浄方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】アフィニティークロマトグラフィーのための改善された洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/16 20060101AFI20231128BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20231128BHJP
【FI】
C07K1/16
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532106
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2021082827
(87)【国際公開番号】W WO2022112333
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】20209415.7
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521262714
【氏名又は名称】ザルトリウス ビーアイエー セパレーションズ ディー.オー.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギャニオン、ピーター スタンリー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
AAVの試料中の混入物を除去する方法であって、アフィニティークロマトグラフィーカラムに試料を充填するステップと、少なくとも3つの正電荷又は少なくとも3つの負電荷を有する化合物を含む第1のバッファーで前記試料に負荷をかけた後、カラムを洗浄するステップと、前記化合物を置換するために、少なくとも0.25M NaClの濃度に相当する塩濃度を有する第2のバッファーを使用するステップと、を備え、前記化合物及び前記塩は、前記AAVを溶出するのに十分な濃度では存在しない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AAVの試料中の混入物を除去する方法であって、
アフィニティークロマトグラフィーカラムに試料を充填するステップと、
少なくとも3つの正電荷又は少なくとも3つの負電荷を有する化合物を含む第1のバッファーで前記試料に負荷をかけた後、カラムを洗浄するステップと、
前記化合物を置換するために、少なくとも0.25M NaClの濃度に相当する塩濃度を有する第2のバッファーを使用するステップと、を備え、
前記化合物及び前記塩は、前記AAVを溶出するのに十分な濃度では存在しない、
方法。
【請求項2】
少なくとも3つの正電荷を有する前記化合物は、正に荷電した化合物、又は洗浄中に使用される条件下で正に荷電する化合物である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記正に荷電した化合物、又は前記カラムを洗浄中に使用される条件下で正に荷電する前記化合物は、好ましくはポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、第四級アミノデキストラン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ジエチルアミノエチルセルロース、キトサン、ポリエチレンイミン、及びそれらの組合せからなる群から選択されるポリマー化合物である、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記正に荷電した化合物、又は前記カラムを洗浄中に使用される条件下で正に荷電する前記化合物は、好ましくは、1,1’-(1,6-ヘキサンジイル)ビス{2-[N’-(2-エチルヘキシル)カルバミミドイル]グアニジン}(アレキシジン)、1’-ヘキサメチレンビス[5-(4-クロルフェニル)ビグアニド](クロルヘキシジン)、ポリミキシンB、及びこれらの組合せなどのビスビグアニド誘導体からなる群から選択される非ポリマー化合物である、
請求項2に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも3つの負電荷を有する前記化合物は、負に荷電した化合物、又は前記カラムを洗浄中に使用される条件下で負に荷電する化合物である、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記負に荷電した化合物の前記負電荷が、スルホ、ホスホ、カルボキシ基、又はそれらの混合物によって提供される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記負に荷電した化合物は、ポリビニルスルフェート、ポリネトールスルホン酸、デキストランスルフェート、ポリスチレン硫酸、アルギン酸、ポリビニルスルフェート、ピロホスフェート、及びそれらの組合せからなる群から選択される、
請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のバッファーは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される塩を含み、
好ましくは、前記第2のバッファーの前記塩は、0.25M~5.0M、又は0.5M~4.0M、又は1M~2M、又は2M~3Mの濃度で存在する、
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のバッファーは、約1mS/cm~約25mS/cm、2mS/cm~20mS/cm、3mS/cm~15mS/cm、3mS/cm~10mS/cm、又は4mS/cm~5mS/cmの範囲に導電率を上昇させるために、正に荷電した化合物又は負に荷電した化合物を含む、
請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1及び/又は前記第2のバッファーは、キレート剤を含み、
好ましくは、前記キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、又はエチレングリコールビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)である、
請求項1~請求項9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
3つ又はそれを超える電荷を有する前記化合物は、0.01重量%~5重量%、0.05重量%~1重量%、又は0.1重量%~0.5重量%の濃度で存在する、
請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
AAVの前記試料は、細胞培養採取物、特に哺乳動物細胞培養物、昆虫細胞培養物、又はそのような細胞培養物の細胞溶解物である、
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記AAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、合成組換え血清型、AAV2/8、AAV2/9などの組換えハイブリッド血清型、及びそれらの組合せからなる群から選択される血清型である、
請求項1~請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
i)前記第1及び/又は第2のバッファーは、非イオン性又は双性イオン性界面活性剤又は洗浄剤を、特に0.01重量%~1重量%の範囲の濃度で含み、及び/又は
ii)前記第1及び/又は第2のバッファーは、尿素などの非イオン性カオトロープを、特に1M~10Mの範囲の濃度で含む、
請求項1~請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1及び/又は第2のバッファーは、特に0.1体積%~20体積%の範囲の濃度で、メタノール、エタノール、又はイソプロパノールなどの有機溶媒を含む、
請求項1~請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記アフィニティークロマトグラフィーカラムに前記試料を充填するステップの前に、RNAase又はDNAase又はその両方による酵素処理が前記試料に対して行われない、
請求項1~請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記試料が前記アフィニティークロマトグラフィーカラムに結合されている間、RNAase又はDNAase又はその両方による酵素処理が前記試料に対して行われない、
請求項1~請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ヌクレアーゼ処理を行わない、又は酵素処理を行わない、
請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ヌクレアーゼ処理を行わない、又は酵素処理を行わない、
請求項17に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AAVの試料中の混入物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィーカラムから所望の生成物を溶出する前に、結合の弱い混入物を除去するための洗浄ステップを実行する実施は公知である。イオン交換クロマトグラフィーの分野では、最も単純な例は、最初に平衡化に用いたバッファーへの試料の適用後に、カラムを洗浄するステップからなる。他の場合には、カラムは、平衡化バッファーよりも高い濃度であるが、所望の生成物を置換するのに必要な濃度よりも低い濃度で洗浄される。他の添加剤は、それらが意図せずに所望の生成物を溶出させることがない限り、洗浄に含まれてもよい。洗浄には、所望の生成物がアフィニティークロマトグラフィーカラムに結合したままである限り、界面活性剤、有機溶媒、抗ウイルス化合物、非イオン性カオトロープ、及び極端なpHを含み得る。
【0003】
アフィニティークロマトグラフィーは、その結合が単一の保持メカニズムにあまり依存しないので、イオン交換クロマトグラフィーよりも許容性が高い。アフィニティークロマトグラフィーリガンドはしばしば、静電的、疎水性、及び水素結合相互作用の組み合わせの手段によってそれらの標的に結合し、それらの組み合わせは、イオン交換体よりも強く所望の生成物に結合する。プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによるIgG精製の分野において、二次洗浄は、5Mまでの濃度の塩化ナトリウム、ならびに尿素、有機溶媒、界面活性剤、キレート剤、及び様々な組み合わせでの低下させたpHで有効であることが示されている[1-2]。
【0004】
プロセス溶液中のクロマチンは、死んだ産物の産生細胞からの染色体塊の残余物に相当する。それは、DNAと、ヌクレオソームアレイに組織化されたヒストンなどのDNA結合タンパク質との組み合わせに相当する。濾過、沈殿、及び、アフィニティークロマトグラフィー[3-5]を含むクロマトグラフィーが含まれる、あらゆる種類の精製媒体及び方法を妨害することが文書化されている。それはすべてのクロマトグラフィー媒体に結合する。このことは、所望の生成物の結合能力を低下させる一方で、溶出される生成物のタンパク質汚染を100倍膨張させ、DNA汚染を10,000倍膨張させる。濃縮塩化ナトリウムでアフィニティーカラムを洗浄するとクロマチンを減少させることが知られているが、それを排除することはない。クロマチンはまた、エンドトキシン、及び、存在する場合、ウイルスと高度に結びつくことも知られている[6-9]。
【0005】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療のためにインビボでDNAプラスミドを送達するためにしばしば使用される非脂質エンベロープウイルスである。アフィニティークロマトグラフィーは、その精製に使用されることがある。
【0006】
WO2020/127505は、バイオプロセス溶液からヌクレオソーム混入物を除去する方法を開示している。それは、ヌクレアーゼの活性を阻害する薬剤の不活性化又は還元、その後のRNA及びDNAを加水分解するための酵素による処理に基づく。それは、DNA結合タンパク質及びRNA結合タンパク質が高い正の電荷を有するので、ペプチド及びタンパク質を抽出するために負に荷電したポリマーを使用することを記載する。
【0007】
US2018/0105554は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを増強するためのデキストラン硫酸の使用を開示している。
【0008】
WO2014/133459は、クロマチン欠損細胞培養採取物からの抗体のクロマトグラフィー精製を開示している。吸着クロマトグラフィーステップの前に、可溶性又は不溶性の多価有機イオンを混ざりもののあるタンパク質調製物と接触させる。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、3又はそれを超える電荷を含有する荷電化合物を使用する少なくとも1つのステップと、高濃度の塩を使用する少なくとも1つの洗浄ステップとを伴う、試料の充填後に、AAVの精製のためのアフィニティークロマトグラフィーカラムを洗浄する方法であって、荷電化合物又は塩のいずれも、AAVを溶出するのに十分な濃度で存在しない方法に関する。
【0010】
AAVの試料中の混入物を除去するための方法は:
アフィニティークロマトグラフィーカラムに試料を充填するステップと、
3を超える正電荷又は3を超える負電荷を有する化合物を含む第1のバッファーで試料に負荷をかけた後に、カラムを洗浄するステップと、
化合物を置換するための少なくとも0.25M NaClの濃度に相当する塩濃度を有する第2のバッファーを使用するステップと、を提供し、
化合物も塩も、AAVを溶出するのに十分な濃度で存在しない。
【0011】
このアプローチは驚くべきことに、非ポリマー剤で洗浄するよりも、より効果的にクロマチンを排除する。クロマチン残余物を除去して、後の精製ステップを妨害することができないようにすることによって、空のカプシドと完全なカプシドとの混合調製物から空のカプシドを除去するためのステップなどの、それらの後のステップにおける精製性能を改善するさらなる利益をもたらす。
【0012】
「少なくとも正電荷を有する化合物」は、少なくとも3倍の正電荷を有する化合物、又はカラムの洗浄中に使用される条件下で少なくとも3倍の正電荷を有する化合物、特にポリマー化合物であり得る。
「3を超える正電荷を有する化合物」は、少なくとも4倍の正電荷を有する化合物、又はカラムの洗浄中に使用される条件下で少なくとも4倍の正電荷を有する化合物、特にポリマー化合物であり得る。例えば、ポリマー化合物は、pDADMAC(ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド))、第四級アミノデキストラン、DEAE-デキストラン(ジエチルアミノエチルデキストラン)、DEAE-セルロース、キトサン、ポリエチレンイミン(PEI)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0013】
本発明の方法の別の実施形態では、少なくとも3倍正に荷電した化合物又はカラムを洗浄する間に使用される条件下で少なくとも3倍正に荷電した化合物は、1,1’-(1,6-ヘキサンジイル)ビス{2-[N’-(2-エチルヘキシル)カルバミミドイル]グアニジン}(アレキシジン)、1’-ヘキサメチレンビス[5-(4-クロルフェニル)ビグアニド](クロルヘキシジン)、ポリミキシンB、及びそれらの組み合わせなどのビスビグアニド誘導体からなる群から特に選択することができる、非ポリマー化合物であり得る。
【0014】
「少なくとも負電荷を有する化合物」は、少なくとも3倍の負電荷を有する化合物、又はカラムの洗浄中に使用される条件下で少なくとも3倍の負電荷を有する化合物であり得る。「3を超える負電荷を有する化合物」は、少なくとも4倍の負電荷を有する化合物、又はカラムの洗浄中に使用される条件下で少なくとも4倍の負電荷を有する化合物であり得る。負電荷を有する基は、スルホ基、ホスホ基、カルボキシ基、又はそれらの混合によって提供され得る。負電荷を有する化合物はまた、ポリビニルサルフェート、ポリアネトールスルホン酸、デキストランサルフェート、ポリスチレン硫酸、アルギン酸、ポリビニルサルフェート、ピロホスフェート、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。
【0015】
本発明の方法の更に別の実施形態では、第2のバッファーは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される塩を含むことができる。特に、第2のバッファーの塩は、0.25M~5.0M、又は0.5M~4.0M、又は1M~2M、又は2M~3Mの濃度で存在することができる。
【0016】
本発明の方法の更なる実施形態では、第1のバッファーは、約1mS/cm~約25mS/cm、2mS/cm~20mS/cm、3mS/cm~15mS/cm、3mS/cm~10mS/cm、又は4mS/cm~5mS/cmの範囲に導電率を上昇させるために、正に荷電した化合物又は負に荷電した化合物を含んでもよい。
【0017】
本発明の方法のなお更なる実施形態では、第1及び/又は第2のバッファーは、キレート剤を含み得る。キレート剤は、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はエチレングリコールビス(β‐アミノエチルエーテル)‐N,N,N′、N′‐四酢酸(EGTA)であってもよい。
【0018】
本発明の方法のなお更なる実施形態では、3又はそれを超える電荷を有する化合物は、0.01重量%~5重量%、0.05重量%~1重量%、又は0.1重量%~0.5重量%の濃度で存在し得る。
【0019】
本発明の方法の別の実施形態では、AAVの試料は、細胞培養採取物、特に哺乳動物細胞培養物、昆虫細胞培養物、又はそのような細胞培養物の細胞溶解物であり得る。AAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、合成組換え血清型、AAV2/8、AAV2/9などの組換えハイブリッド血清型、及びそれらの組み合わせからなる群から特に選択される血清型であり得る。
【0020】
本発明の方法の更に別の実施形態では、第1及び/又は第2のバッファーは、特に0.01wt%~1wt%の範囲の濃度で、非イオン性又は双性イオン性界面活性剤又は洗浄剤を含んでもよい。
【0021】
本発明の方法の更に別の実施形態では、第1及び/又は第2のバッファーは、特に1M~10Mの範囲の濃度で、尿素などの非イオン性カオトロープを含むことができる。
【0022】
本発明の方法の更なる実施形態では、第1及び/又は第2のバッファーは、特に0.1vol%~20vol%の範囲の濃度で、メタノール、エタノール、又はイソプロパノールなどの有機溶媒を含んでもよい。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、アフィニティークロマトグラフィーカラムに試料を充填するステップの前に、RNAase又はDNAase又はその両方による酵素処理は試料に対して行われず、好ましくは、ヌクレアーゼ処理は行われず、より好ましくは、酵素処理は全く行われない。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、試料がアフィニティークロマトグラフィーカラムに結合されている間、RNAase又はDNAase又はその両方による酵素処理は試料に対して行われず、好ましくは、ヌクレアーゼ処理は行われず、より好ましくは、酵素処理は全く行われない。
【0025】
この文脈におけるヌクレアーゼ処理は、国際公開第2020/127505号において使用されるように、RNA及び/又はDNAの同時又は連続的加水分解を個々に又は集合的に可能にする酵素の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の方法を含まないアフィニティークロマトグラフィーによるAAV精製のクロマトグラムを示す。
図2図2は、図1に示したAAVアフィニティークロマトグラフィー画分のポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析を示す。
図3図3図1に示すように、アフィニティークロマトグラフィーによる精製後に残存する残留DNA混入物を示す。
図4図4は、従来のアフィニティークロマトグラフィー後の残留DNA混入物と、実施例9における本発明の方法を用いたアフィニティークロマトグラフィー後の残留DNA混入物とを比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本方法の特徴を説明するための1つの非限定的な例では、AAVに特異的なアフィニティークロマトグラフィーカラムに、AAV含有試料を充填する。必要に応じて、平衡化バッファーで短時間洗浄してもよい。次いで、カラムを、ポリエチレンイミン(PEI)などの正に荷電したポリマーで洗浄する。正に荷電したポリマーは、特に、DNA及びRNAなどの混入核酸と強力な複合体を形成し、それによって、DNA結合タンパク質への最初の結合の代わりに核酸を提供しようとする。正に荷電したポリマーのDNAへの結合及びそれに付随するDNAの電荷中和は、塩洗浄よりも優れた本方法の能力に対する主な貢献であると考えられる。荷電ポリマー洗浄後、カラムを、1M塩化ナトリウムなどの高濃度の溶解塩を含有する第2の洗浄液で洗浄する。第2の洗浄の目的は、荷電ポリマーが溶出したAAVに存在しないように、カラムから荷電ポリマーを除去することである。
【0028】
本方法の特徴を説明するための別の非限定的な例では、AAVに特異的なアフィニティークロマトグラフィーカラムに、AAV含有試料を充填する。必要に応じて、平衡化バッファーで短時間洗浄してもよい。次いで、カラムを、ポリ硫酸ビニルなどの負に荷電したポリマーで洗浄する。スルホ基は、特に、とりわけヒストン及び転写因子などのDNA結合タンパク質と強力な複合体を形成し、それによって、DNAへの最初の結合の代わりにそれらを提供しようとする。いかなる理論にも拘束されないが、負電荷ポリマーのDNA結合混入物への結合及びそれに付随するDNA結合タンパク質の電荷中和は、塩洗浄よりも優れた本方法の能力に対する主な貢献であると考えられる。荷電ポリマー洗浄後、カラムを、1M塩化ナトリウムなどの高濃度の溶解塩を含有する第2の洗浄液で洗浄する。第2の洗浄の目的は、荷電ポリマーが溶出したAAVに存在しないように、カラムから荷電ポリマーを除去することである。
【0029】
本方法の特徴を説明するための別の非限定的な例では、AAVに特異的なアフィニティークロマトグラフィーカラムに、AAV含有試料を充填する。必要に応じて、平衡化バッファーで短時間洗浄してもよい。次いで、カラムを1M塩化ナトリウムの溶液で洗浄してクロマチンを不安定化し、続いて、正に荷電したポリマーで洗浄し、次いで、塩で洗浄して正に荷電したポリマーを除去し、次いで、負に荷電したポリマーで洗浄し、次いで、塩で洗浄して負に荷電したポリマーを除去してもよい。
【0030】
一実施形態では、荷電化合物は、少なくとも3の正電荷又は少なくとも3の負電荷のいずれかで、3又はそれを超える荷電基を含有する。このような一実施形態では、荷電基の各々は、共通の基本構造であり、ポリマーを形成する。別のそのような実施形態では、荷電基は、非ポリマー構造の一部である。
【0031】
一実施形態では、荷電化合物は、あらかじめ(アプリオリ)少なくとも3倍正に荷電しているか、又は、カラムの洗浄中に使用される条件下で、少なくとも3倍正に荷電する。このような一実施形態では、正電荷は主に第四級アミノ基の存在によって与えられる。このような実施形態において、荷電ポリマーは、pDADMAC(ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド))又は第四級アミノデキストランである。別の実施形態では、正電荷は主に第三級アミノ基の存在によって与えられる。このような一実施形態では、荷電ポリマーは、DEAE-デキストラン(ジエチルアミノエチルデキストラン)又はDEAE-セルロースであり、これはカラムの洗浄中に使用される条件下で、例えば、単に水性のバッファー溶液に溶解する場合に、水と接触すると正に荷電する。別の実施形態では、正電荷は主に第一級アミノ基の存在によって与えられる。このような一実施形態では、荷電ポリマーはキトサンである。別の実施形態では、正電荷は主に、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び/又は、第四級アミノ基のうちの1つ又は複数を含む混合特性のアミノ基による。このような一実施形態では、荷電ポリマーはPEIである。別の実施形態において、非ポリマーの正に荷電した化合物は、クロルヘキシジンである。密接に関連する実施形態において、非ポリマーの正に荷電した化合物はアレキシジンである。別の密接に関連する実施形態では、非ポリマーの正に荷電した化合物はTREN(トリス(2-アミノエチル)アミン)であり、これはカラムの洗浄中に使用される条件下で正に荷電する。別の実施形態では、非ポリマー正荷電化合物はポリミキシンB、又は少なくとも3つの正荷電残基を有する別の正荷電化合物である。
【0032】
一実施形態では、荷電化合物は、あらかじめ(アプリオリ)少なくとも3倍負に荷電しているか、又は、化合物は、カラムの洗浄中に使用される条件下で、少なくとも3倍負に荷電する。このような一実施形態では、負電荷は主にスルホ基の存在によって与えられる。このような一実施形態では、荷電ポリマーはポリ硫酸ビニルである。別のそのような実施形態では、荷電ポリマーがポリアントレスルホン酸である。別のそのような実施形態では、荷電ポリマーは硫酸デキストランである。このような一実施形態では、荷電ポリマーはポリスチレン硫酸である。別の実施形態では、負電荷は主にカルボキシル基の存在によって与えられる。このような一実施形態では、負電荷ポリマーはアルギン酸である。別のそのような実施形態において、負に荷電したポリマーは、ポリ塩化ビニルである。密接に関連する実施形態では、各負に荷電したポリマーサブユニットは2つ又は3つのカルボン酸残基などの2つ以上のカルボン酸を含む。このような一実施形態では、負電荷は主にホスホ基の存在によって与えられる。別の実施形態では、負電荷ポリマーは1つ又は複数のスルホ、ホスホ、カルボキシル、ジカルボキシル、トリカルボキシル、及び/又は他の負電荷残基を含有する混合特性のものである。別の実施形態では、非ポリマーの負に荷電した化合物はピロリン酸塩である。
【0033】
一実施形態において、ポリマー骨格は、その疎水性を増加させるために、脂肪族配列及び/又は芳香族残基を含有する。別の実施形態において、ポリマー骨格は、疎水性残基を欠く。別の実施形態では、非ポリマー化合物は脂肪族配列及び/又は芳香族残基を含有する。
【0034】
一実施形態では、荷電ポリマーを置換するために使用される塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、又は別の塩である。
【0035】
一実施形態では、荷電ポリマーを置換するために使用される塩は、0.25M~5.0M、又は0.5M~4.0M、又は1M~2M、又は2M~3Mの濃度で存在する。
【0036】
一実施形態では、正に荷電した化合物及び/又は負に荷電した化合物を含有する洗浄溶液中に塩を含めて、導電率を約1mS/cm~約25mS/cm、又は2mS/cm~20mS/cm、又は3mS/cm~15mS/cm、又は3mS/cm~10mS/cm、又は4mS/cm~5mS/cmの範囲に上昇させることができる。一般的に、導電率値が低いほど、正に荷電した化合物と核酸との相互作用が強くなり、負に荷電した化合物とDNA結合タンパク質との相互作用が強くなる。高い導電率値は、核酸及び/又はDNA結合タンパク質と強く相互作用する正又は負に荷電した化合物の能力を妨害する。中間の塩濃度は、中程度の量の塩が弱い非特異的静電相互作用を遮断する傾向があるので、より良好な特異性を提供し得る。試料及び平衡化バッファーは一般に生理学的条件を表す可能性が高いので、生理学的伝導率は、開始するのに合理的な地点である。本文脈における生理学的導電率は、約5mS/cm~約20mS/cmの範囲内、は、その開始点から上下に調節することができる。
【0037】
一実施形態では、洗浄溶液が金属イオンを介して媒介される非特異的相互作用を抑制するためのキレート剤を含有する。そのような一実施形態において、キレート剤は、0.1mM~100mM、又は1mM~10mM、又は2mM~5mMの範囲の濃度のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。密接に関連した実施形態において、キレート剤は、0.1mM~100mM、又は1mM~10mM、又は2mM~5mMの範囲の濃度で、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(EGTA)である。別の実施形態では、別のキレート剤が0.1mM~100mM、又は1mM~10mM、又は2mM~5mMの範囲の濃度で存在する。
【0038】
一実施形態において、3又はそれを超える電荷を有する荷電化合物は、0.01重量%~5重量%、又は0.05重量%~1重量%、又は0.1重量%~0.5重量%の濃度で存在する。
【0039】
一実施形態では、荷電ポリマーでの洗浄の前に、塩洗浄ステップを行うことができる。別の実施形態では、荷電ポリマーでの洗浄に続いて、塩洗浄ステップを行うことができる。別の実施形態では、荷電ポリマーでの洗浄の前に及び洗浄に続いて、塩洗浄ステップを行ってもよい。
【0040】
一実施形態において、アフィニティーカラムは、単一の荷電ポリマーで洗浄され得る。このような一実施形態では、ポリマーは正に荷電していてもよい。別のそのような実施形態では、ポリマーは負に荷電していてもよい。
【0041】
一実施形態では、アフィニティーカラムを正に荷電したポリマー及び負に荷電したポリマーで、順に洗浄することができる。そのような一実施形態では、正に荷電したポリマー洗浄を1回目に行い、負に荷電したポリマー洗浄を2回目に行うことができる。別のそのような実施形態では、負に荷電したポリマー洗浄を1回目に行い、正に荷電したポリマー洗浄を2回目に行うことができる。別の実施形態では、2つのポリマー洗浄を塩洗浄によって分離することができる。正に荷電した化合物及び負に荷電した化合物を用いた洗浄の連続的な組み合わせが、核酸及び核酸結合タンパク質の両方を標的とするので、より良好な結果をもたらすことが期待されることは当業者には明らかであろう。核酸はプロセス溶液中で互いに別々に存在しないが、クロマチンの様々なサブセットはそれらの表面上でよりヒストンに富むか、又はよりDNAに富む傾向がある。正に荷電した化合物は、核酸に富むクロマチン体を優先的に標的とすると予想される。負に荷電した化合物は、DNA結合タンパク質に富むクロマチン体を優先的に標的とすると予想される。正に荷電したポリマーと負に荷電したポリマーとの仮想的な組み合わせは、互いに反対に荷電したポリマーの共沈のために有用でない可能性が高いことが認識されるのであろう。
【0042】
一実施形態では、任意の所与の洗浄ステップのpHは、pHがAAVの早期溶出を引き起こさない限り、約pH4.5~約pH8.5の範囲のpH値の範囲であり得る。
【0043】
一実施形態では、洗浄溶液が0.01重量%~1重量%の範囲の濃度の非イオン性又は双性イオン性界面活性剤又は洗浄剤を含み得る。関連する実施形態では、洗浄溶液が1M~10Mの範囲の濃度の尿素などの非イオン性カオトロープを含み得る。別の関連する実施形態では、洗浄溶液がメタノール、エタノール、又はイソプロパノールなどの有機溶媒を0.1体積%~20体積%の範囲の濃度で含むことができる。いくつかのそのような添加剤は、脂質エンベロープウイルスの不活性化を助けることが認識されるのであろう。
【0044】
当業者は、ウイルス及びエンドトキシン汚染を低減する本発明の方法の可能性を認識するのであろう。エンドトキシン及びウイルスは両方ともクロマチンと高度に会合することが知られており、したがって、特にクロマチン除去を標的とする方法は、それらに会合する種も除去することが理解されるのであろう。
【0045】
一実施形態では、本発明の方法は、細胞培養採取物からのAAVの親和性(アフィニティ)精製を改善するために使用される。このような一実施形態では、細胞培養物は哺乳動物細胞培養物である。別のそのような実施形態では、細胞培養物は昆虫細胞培養物である。別の実施形態では、本発明の方法が細胞溶解物からのAAVの親和性精製を改善するために使用される。このような一実施形態では、細胞培養物は哺乳動物細胞培養物である。別のそのような実施形態では、細胞培養物は昆虫細胞培養物である。
【0046】
一実施形態では、本発明の方法によって処理されるAAV血清型がAAV1、又はAAV2、又はAAV3、又はAAV4、又はAAV5、又はAAV6、又はAAV7、又はAAV8、又はAAV9、又はAAV10、又はAAV11、又は別の血清型であり得る。別の実施形態では、本発明の方法によって処理されるAAV血清型がAAV2/8又はAAV2/9のような組換えハイブリッド血清型、又は別のハイブリッド血清型であってもよい。別の実施形態では、本発明の方法によって処理されるAAV血清型が合成組換え血清型であってもよい。
【0047】
異なる血清型のAAVカプシドは多くの基本的な物理的及び化学的類似性を共有するが、それらはまた、それらの表面化学及び精製特性に関して有意な変動性を示すことが、当業者によって認識されるのであろう。したがって、本発明の方法は全ての血清型の親和性精製を改善するが、任意の所与の血清型について最良の精製を得るための特定の条件は異なり得る。
【0048】
驚くべきことに、本発明の方法は、カラムから回収されるAAVの量を増加させることができる(実施例9参照)。予想外の差異に対する1つの仮説は、本発明の方法が強く結合して実験制御から除去することができないAAV粒子を遊離させたということであった。少なくとも3つの正電荷又は3つの負電荷を有する化合物を含むバッファーでの洗浄の非存在下では、これらの強く結合したAAVは、NaOH洗浄のような過酷な条件下で洗浄されるまでカラムに付着するようである。
【0049】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって更に説明される。
【実施例
【0050】
実施例1(比較)
本発明の方法を用いずに実施した実験制御
AAVに特異的なアフィニティーカラムに、AAV8を含有する濾過溶解物を充填した。カラムを50mMリン酸ナトリウム、100mM塩化ナトリウム、pH7.0で平衡化した。試料が充填された。カラムを50mMリン酸ナトリウム、100mM塩化ナトリウム、pH7.0で洗浄し、次いで100mM酢酸、pH3.5へのステップで溶出した。カラムを20mM水酸化ナトリウムで洗浄した。溶出プロファイルを図1に示す。ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析を図2に示す。クロマチンによる持続的汚染は、ヒストンタンパク質の存在から明らかである。図3は、DNA検出の感度を高めるために試料をピコグリーン色素で前処理した分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、size exclusion chromatography)を示す。持続的なクロマチン汚染は、特に高分子量(HMW、high molecular weight)クロマチンヘテロ凝集体を含むDNAの存在から明らかである。
【0051】
実施例2
正に荷電したポリマーを使用する本発明の方法
AAVのアフィニティークロマトグラフィー捕捉のためのカラムを、50mMリン酸ナトリウム、1M塩化ナトリウム、pH7.0で平衡化する。AAVを含有する濾過細胞培養採取物又は溶解物をカラムに適用し、その後、カラムを平衡化バッファーで5CV洗浄する。カラムを、0.5重量%のPEIを含む溶液で、5mS/cmの導電率及び7.0のpHで、10CV洗浄する。次いで、カラムからPEIを除去するために、カラムを平衡化バッファーで再度洗浄する。次いで、AAVを、50mMアラニン、pH2.3へのステップで溶出させる。
【0052】
実施例3
平衡化バッファーが2M塩化ナトリウムを含有することを除いて、実施例2の方法を繰り返す。
【0053】
実施例4
pDADMACがPEIの代わりに用いられることを除いて、実施例2の方法を繰り返す。
【0054】
実施例5
5CVの50mM酢酸塩pH4.5での洗浄ステップを溶出前に行うことを除いて、実施例4の方法を繰り返す。
【0055】
実施例6
平衡化バッファーが100mM塩化ナトリウムを含有し、それを生理学的バッファーにすることを除いて、実施例2の方法を繰り返す。この実施例では、50mMリン酸ナトリウム、1M塩化ナトリウム、pH7.0を含有する追加の洗浄溶液を調製する。試料を充填した後、最初の10CV洗浄液を1M塩化ナトリウムバッファーで適用して、クロマチン自体及びそれが会合している他の表面とのクロマチン会合を不安定化させる。次いで、カラムを、50mMリン酸ナトリウムpH7.0中の10CVの0.05%ジグルコン酸クロルヘキシジンでの第2の洗浄で洗浄する。次いで、カラムを1M塩化ナトリウムバッファーでの第3の洗浄で洗浄し、次いで、溶出前に元の生理学的バッファーで最終的に洗浄する。
【0056】
実施例7
PEIの代わりにポリ硫酸ビニルを使用することを除いて、実施例2の方法を繰り返す。
【0057】
実施例8
正に荷電したポリマー及び負に荷電したポリマーを使用する本発明の方法。第2の1M塩化ナトリウムバッファー洗浄後に、50mMリン酸ナトリウム、pH7.0中の0.05重量%ポリ硫酸ビニルで10CV洗浄液を挿入することを除いて、実施例6の方法を繰り返す。ポリ硫酸ビニル洗浄後、カラムを1M塩化ナトリウムバッファーで再度洗浄し、ポリ硫酸ビニルを除去する。
【0058】
実施例9
本発明の方法を用いた場合と用いない場合のアフィニティークロマトグラフィー性能の対比較。実験制御は、図1と同じ基本効率性に従って行った。新しいPOROS GoPure AAVX(1mL、P/N A36652、Lot2004029)を、50mMリン酸ナトリウム、100mM塩化ナトリウム、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188、pH7.0で平衡化した。約1E+12vg/mLを含有する清澄化した採取物を、カラム平衡化バッファーで1:1に希釈した。30mLの希釈した採取物を、0.33CV/分の流速でカラムに負荷をかけた。次いで、カラムを20CV平衡化バッファーで洗浄して、未結合の試料成分を除去した。カラムを0.1M酢酸、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188、pH3.5で溶出した。溶出画分を1M Tris、pH9.0(10%v/v)で中和した。カラムを20mM NaOHで洗浄した。
【0059】
2番目の新しいカラムを平衡化し、1番目のカラムと同様に正確に負荷をかけた。次いで、それを10CVの50mMリン酸ナトリウム、0.05%ポリエチレンイミン(PEI)、0.1M塩化ナトリウム、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188、pH7.0で洗浄した。それを5CVの50mMリン酸ナトリウム、1M塩化ナトリウム、1%スクロース、0.1%ポロキサマー188、pH7.0で再度洗浄し、前の洗浄ステップから残りのPEIを置換した。これを再度5CV平衡化バッファーで洗浄して過剰な塩を除去し、カラムを実験制御と同じ溶出前条件とした。これは、2つの実験間の溶出ピークのサイズの客観的比較を容易にするために行われた。次いで、カラムは溶出され、溶出ピークは中和され、カラムは実験制御と同様に洗浄された。
【0060】
本発明の方法を使用することから最も顕著な結果は、AAV2溶出ピーク面積のサイズが実験制御と比較しておおよそ2倍であったことであった。これは、2つの溶出ピークのPCR試験によって確認された。実験制御からのピークは、2.38 E+11 vg/mLを含有した。本発明の方法を使用する実験からの溶出ピークは、4.18 E+11 vg/mLを含有した。この結果は同一の新しいカラムが同一の体積の同一の試料を充填されており、溶出ピークが同量のAAVを含有しているはずであるという予想を生み出したため、注目に値する。予想外の差についての1つの仮説は、本発明の方法がPEI塩洗浄の非存在下で実験制御から除去するには強く結合しすぎたAAV粒子を遊離させたことであった。これが真実であるためには、観察されたように、カラム洗浄ピークのサイズが試験実験において低減されるであろうという期待が生じる。これらの結果は、本発明の方法がAAV2とDNAとの会合を不安定化し、AAVと会合するDNA凝集体の構造を変化させることによって作用することを示唆する。この理論的根拠のさらなる裏付けは、両方のカラムから溶出したAAV2中のDNAのサイズ分布を示す図4に見られる。どちらの場合も、それぞれの溶出液のサンプルをピコグリーンで予め着色し、DNAへの挿入時に緑色蛍光を生成した。両プロファイルは、広範囲のサイズにわたる溶出画分中の混入DNAを示した。しかしながら、本発明の方法を使用する実験から溶出されたAAV中のDNAの量は、従来の洗浄戦略を使用した後に溶出されたAAV中で観察された量の半分未満であった。クロマトグラフィー間ではなく、クロマトグラフィーの前にクロマチンを除去すると、クロマチンの操作によりクロマトグラフィー回収率の増加の結果が観察されたことは注目に値するであろう[2-4]。しかしながら、改善の程度は、本実験で観察されるよりもはるかに穏やかである:回収率は本発明の方法を使用して達成された100%の増加に対して5%~10%増加した。本発明の方法が生成物回収を倍増させる能力は、AAVの産業的精製に重要な影響を及ぼすことが当業者には理解されるであろう。
【0061】
実施例10
ポリマー後洗浄ステップにおいて2Mの塩化ナトリウムを1Mの塩化ナトリウムに置き換えることを除いて、実施例9の方法を繰り返す。
【0062】
実施例11
50mMアラニンpH2.3を50mM酢酸、pH3.5に置き換えることを除いて、実施例9の方法を繰り返す。
【0063】
実施例12
0.5%PEIを0.05%PEIに置き換えることを除いて、実施例9の方法を繰り返す。
【0064】
参考文献
本明細書のいずれかの箇所で引用された全ての参考文献はその組み込みが本明細書の明示的な教示と矛盾しない限り、参照により本明細書に組み込まれる。
[1] P Gagnon, Purification Tools for Monoclonal Antibodies, 1996. Validated Biosystems, Tucson.
[2] A Shukla, P Hinckley, Host cell protein clearance during protein A chromatography: development of an improved column wash step, Biotechnol Prog 24 (2008) 1115-1121.
[3] P Gagnon, P Toh, J Lee, High productivity purification of immunoglobulin G monoclonal antibodies on starch-coated magnetic nanoparticles by steric exclusion of polyethylene glycol, J Chromatogr A 1324 (2014) 171-180.
[4] P Gagnon, R Nian, J Lee, L Tan, SM Abdul Latiff, CL Lim, C Chuah, X Bi, YS Yang, W Zhang, HT Gan, Nonspecific interactions of chromatin with immunoglobulin G and protein A, and their impact on purification performance, J Chromatogr A 1340 (2014) 68-78.
[5] R Nian, W Zhang, L Tan, J Lee, X Bi, YS Yang, HT Gan, P Gagnon, Advance chromatin extraction improves capture performance of protein A affinity chromatography, J Chromatogr A 1431 (2016) 1-7.
[6] M McPhillips, K Ozato, A McBride, Interaction of bovine papillomavirus E2 protein with Brd4 stabilizes its association with chromatin, J Virol 79 (2005) 8920-8932.
[7] D Knipe, P Lieberman, J Jung, A McBride, K Morris, M Ott, D Margolis, A Nieto, M Nevels, R Parks, T Kristie, Snapshots: Chromatin control of viral infection, Virology 435 (2013) 141-156.
[8] P Lieberman, Chromatin regulation of virus infection, Trends Microbiol 14 (2006) 132-140.
[9] L Augusto, P Decottiginies, M Synguelakis, M Nicaise, P Lee Marechal, R Chaby, Histones: a novel class of liposaccharide-binding molecules, Biochemistry 42 (2003) 3929-3938.
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】