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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】グラフェン加工技術
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20231128BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20231128BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20231128BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231128BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20231128BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231128BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231128BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231128BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20231128BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20231128BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20231128BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20231128BHJP
   H01M 50/437 20210101ALI20231128BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20231128BHJP
【FI】
C01B32/194
H01M4/583
H01M4/133
H01M4/62 Z
H01M4/1393
H01M10/054
H01M10/0568
H01M4/66 A
H01M4/46
H01M50/426
H01M50/429
H01M50/44
H01M50/437
H01M50/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532246
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-07-18
(86)【国際出願番号】 AU2021051408
(87)【国際公開番号】W WO2022109673
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】2020904365
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505167565
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティー オブ クイーンズランド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ユ チェンチョン
(72)【発明者】
【氏名】ファン シャオダン
(72)【発明者】
【氏名】コン ユエキ
【テーマコード(参考)】
4G146
5H017
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AC17A
4G146AC17B
4G146AC27B
4G146AC28B
4G146AD24
4G146BA01
4G146CB19
4G146CB35
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017EE01
5H017EE05
5H017EE06
5H017HH08
5H021CC02
5H021EE06
5H021EE10
5H021EE11
5H021EE28
5H029AJ03
5H029AK06
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM06
5H029AM07
5H029AM09
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029DJ04
5H029DJ07
5H029DJ08
5H029EJ01
5H029EJ04
5H029EJ06
5H029EJ12
5H029HJ13
5H029HJ14
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA14
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA04
5H050DA11
5H050DA19
5H050EA23
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、数層グラフェンをポリ(アルキレンオキシド)と組み合わせる工程、乾燥させてグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体を形成する工程、およびこのようにして形成されたグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体を不活性雰囲気中で焼成する工程を含む、グラフェンを加工する方法に関する。本発明は、数層という特徴を含む加工グラフェンであって、約1.5nm~約3.5nmの寸法を有する面内ナノ細孔、50%超の拡大した層間格子、3.40Å超の拡大層間距離、および4%未満の原子O/C含有率より選択される1つまたは複数の特徴をさらに含む、加工グラフェンにも関する。本発明は加工グラフェンを含むカソードおよび電池、ならびに容量性脱イオンまたは再充電可能な電池用途における加工グラフェンの使用にさらに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンを加工する方法であって、以下の工程を含む方法:
・数層グラフェンをポリ(アルキレンオキシド)と組み合わせる工程;
・乾燥させてグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体を形成する工程;および
・このようにして形成されたグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体を不活性雰囲気中で焼成する工程。
【請求項2】
グラフェンが3層グラフェンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
焼成温度が約300℃~約500℃、好ましくは約400℃である、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
ポリ(アルキレンオキシド)がポロキサマーなどのブロックコポリマーである、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載のプロセスによって製造されるか、得られるか、または得ることができる、加工グラフェン、好ましくは表面穿孔グラフェン。
【請求項6】
X線回折(XRD)プロファイルが、26.0°2θ未満に少なくとも1つのショルダーピーク、好ましくは2つのショルダーピークを示すことを特徴とする、加工グラフェン。
【請求項7】
XRDプロファイルが、26.0°2θ未満に2つのショルダーピークを20%超の面積比で示す、請求項6記載のグラフェン。
【請求項8】
数層という特徴、好ましくは3層という特徴を含む加工グラフェンであって、
約1.5nm~約3.5nmの寸法を有する面内ナノ細孔;
50%超の拡大した層間格子;
3.40Å超の拡大層間距離;および
4%未満の原子O/C含有率
より選択される1つまたは複数の特徴をさらに含む、該加工グラフェン。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか一項記載のグラフェンを含むカソード。
【請求項10】
請求項5~8のいずれか一項記載のグラフェンを含む炭素材料と、バインダーと、カソード基板とを含む、請求項9記載のカソード。
【請求項11】
カソード基板が、カーボンクロス、カーボンペーパー、モリブデン箔、およびチタン箔より選択される、請求項10記載のカソード。
【請求項12】
バインダーが、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリ二フッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、およびポリスチレンより選択される、請求項10または11記載のカソード。
【請求項13】
界面活性剤、乳化剤、または分散剤をさらに含む、請求項10~12のいずれか一項記載のカソード。
【請求項14】
界面活性剤、乳化剤、または分散剤が親水性非イオン性界面活性剤を含む、請求項13記載のカソード。
【請求項15】
親水性非イオン性界面活性剤がポロキサマーを含む、請求項14記載のカソード。
【請求項16】
請求項5~8のいずれか一項記載のグラフェンに加えて、1つまたは複数のさらなる炭素材料を含む、請求項10~15のいずれか一項記載のカソード。
【請求項17】
1つまたは複数のさらなる炭素材料が、ガス由来のグラフェン、グラファイト由来のグラフェン、グラファイト由来の酸化グラフェン、グラファイト、改質炭素、およびカーボンブラックより選択される、請求項16記載のカソード。
【請求項18】
前記炭素材料の1つまたは複数が、約1ナノメートル~約30マイクロメートルの厚さを有するカーボンフレークの形態で存在する、請求項10~17のいずれか一項記載のカソード。
【請求項19】
請求項9~18のいずれか一項記載のカソードを調製するための方法であって、以下の工程を含む方法:
請求項5~8のいずれか一項記載のグラフェンを含む1つまたは複数の炭素材料をバインダー、溶媒、および任意で界面活性剤、乳化剤、または分散剤と混合する工程;
前記混合物をカソード基板に塗布する工程;ならびに
前記混合物を乾燥させて溶媒を除去する工程。
【請求項20】
溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、水、ジヒドロレボグルコセノン、1つまたは複数の炭化水素溶媒、および界面活性剤エマルジョンより選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
請求項19または20記載の方法によって得られるカソード。
【請求項22】
請求項5~8のいずれか一項記載のグラフェンまたは請求項9~18および21のいずれか一項記載のカソードを含む、再充電可能な電池。
【請求項23】
請求項5~8のいずれか一項記載のグラフェンまたは請求項9~18および21のいずれか一項記載のカソードを含む、アルミニウムイオン電池。
【請求項24】
アルミニウム箔を含むアノードをさらに含む、請求項22または23に記載の電池。
【請求項25】
塩化1-エチル-3-メチルイミダゾリウム-塩化アルミニウム([EMIm]Cl-AlCl3);尿素-AlCl3;トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム;(Al[TfO]3)/N-メチルアセトアミド/尿素;AlCl3/アセトアミド;AlCl3/N-メチル尿素;AlCl3/1,3-ジメチル尿素;体系的にはビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミド(もしくは「イミデート」)として、および口語的にはTFSIとして公知のビストリフリミド;ならびに/またはトリフルオロメタンスルホネートを含む1つまたは複数の電解質をさらに含む、請求項22~24のいずれか一項記載の電池。
【請求項26】
ガラス繊維、ポリテトラフルオロエチレン、またはテトラフルオロエチレンの任意の合成フルオロポリマー、セルロース膜、およびポリアクリロニトリルより選択される材料を含むセパレータをさらに含む、請求項22~25のいずれか一項記載の電池。
【請求項27】
容量性脱イオン用途における、または再充電可能な電池用途における、請求項5~8のいずれか一項記載の加工グラフェンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はグラフェンを加工する方法に関する。特に、発明は穏やかな条件を用いて表面穿孔グラフェンを調製する方法およびこれらの方法によって得ることができる表面穿孔グラフェンに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
グラフェンおよびその派生材料はエレクトロニクスからエネルギー貯蔵にわたる様々な用途において研究意欲を刺激してきた(Nature Nanotechnology 2014, 9 (10), 725-725(非特許文献1))。最も重要な用途の1つは再充電可能な電池向けの層状格子面間でのリチウム、ナトリウム、カリウムおよびアルミニウムなどの層間イオンの貯蔵である。これらの電池技術のうち、アルミニウムイオン電池(AIB)は、低コスト、動作の安全性、Alアノードの高い重量比容量(2980mAh g-1、8034mAh cm-3)という利点により、魅力的な新たに台頭してきた電池技術を提供する。
【0003】
しかしながら、現在のグラフェンまたはグラファイト炭素に基づいたAIBカソードは典型的には比容量が約60~148mAh g-1でしかなく、AIB技術の進歩には限界がある。この低い比容量は、3.35Åという比較的面間距離が小さいグラファイト層に吸蔵する際に、AlCl4 -イオンのサイズが大きい(約5.28Å)ためと考えられる。AlCl4 -イオンはエッジ部位を通じてグラフェン層と平行にしか拡散できないため、拡散経路が長くなり、蓄積したAlCl4 -アニオンからその後のイオン吸蔵までの電位障壁が高くなる。
【0004】
グラフェンの層間距離を拡大するための現在のアプローチはヘテロ原子ドーピング(例えば、酸素、窒素、硫黄)を含む。また、構造的な応力に耐えかつ吸蔵エネルギー障壁を低下するようにグラフェンの厚さを減少させることは、AlCl4 -イオンの拡散率を高めるための有望な戦略として理論的には予測されてきた。しかしながら、これらの戦略はより多くの吸蔵部位、特にAlCl4 -イオンに適した部位を生成しない。そのままでは不透過性であるグラフェン面内に面内ナノ細孔を生成することは、物理的または化学的アプローチのいずれかによって、隣接する層間の相互作用を弱めかつ新たな吸蔵部位を可能にする代表的な別の戦略である。気体および液体分子の輸送を制御するために、プラズマエッチング、集束イオン/電子ビーム照射および酸化エッチングなどの物理的方法を適用してグラフェンに穿孔することが行われてきた。AlCl4 -イオン輸送および容量を向上すべくグラフェン発泡体を処理するために採用されてきたプラズマエッチングは2A g-1で僅かおよそ148mAh g-1の比容量しかもたらさないことが示された。しかしながら、物理的方法は中程度の量のナノ細孔しか生成できないという欠点があり、酸素基も導入してしまう。酸化またはアルカリ剤を用いた化学的方法でもグラフェンをエッチングすることができるが、これらはAIB用途には望ましくないAlCl4 -アニオン輸送に対する障壁をもたらす、負電荷を有する酸素含有基を導入し得る。酸素基は熱還元を用いて排除できるが、高温のアニーリングは拡大した層状構造の再グラファイト化を誘発してしまう。面内ナノ細孔、拡大した層間間隔または低酸素含有率という望ましい特性を備えた、高性能AlCl4 -イオン貯蔵向けのグラフェン材料を合成することは依然として課題である。
【0005】
既存の形態のグラファイトの1つまたは複数の問題に対処する改良された形態のグラファイト状炭素に対する必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Nanotechnology 2014, 9 (10), 725-725
【発明の概要】
【0007】
本発明者らはグラフェンを修飾するための新規な界面活性剤補助熱還元穿孔(TRP)プロセスを開発した。より具体的には、界面活性剤はポリ(アルキレンオキシド)である。この穿孔プロセスは公知のグラフェン材料の欠点の1つまたは複数に対処する新規な形態のグラフェンを製造する。
【0008】
発明者らは、フリーラジカルの供給源を用いた熱還元穿孔(TRP)プロセスを用いて、比較的穏やかな温度(約400℃)を用いる条件下で、数層のグラフェンナノシートを表面穿孔グラフェン(SPG)材料に変換できることを見出した。
【0009】
グラフェンおよび還元された酸化グラフェンは化学的および物理的の両方でフリーラジカルを吸着すると理解される。本発明によれば、酸素および炭素フリーラジカルの両方を発生させるフリーラジカルの供給源の使用が特に有利であることが分かった。特に、ポリ(アルキレンオキシド)界面活性剤材料は酸素および炭素フリーラジカルの両方の好適な供給源として確認された。よって、ポリ(アルキレンオキシド)ポリマー、コポリマーまたはブロックコポリマーの熱分解を伴うTRPプロセスの使用が、グラフェンを表面穿孔するために用いられ得る。本プロセスは酸素末端および炭素末端フリーラジカルの両方を発生させると理解される。フリーラジカルはグラフェンのC-C結合を切断すると同時に酸素を枯渇させる「ハサミ」として作用すると考えられる。
【0010】
よって、本明細書において記載されるTRPプロセスでは、フリーラジカルがグラフェン表面を穿孔して面内メソ細孔を発生させ、酸素も枯渇させる。得られたSPG材料は数層という特徴と、50%超の拡大した層間格子と、約3000℃の高温でアニールされたグラフェンに匹敵する低酸素含有率とを有する。
【0011】
AIBカソードとして採用された場合、いくつかの態様では、本明細書において調製されかつ記載される数層SPG材料は電流密度2A g-1で197mAh g-1の可逆容量、5A g-1で149mAh g-1のレート特性をもたらすことが分かった。これは過去に報告されたAIBカソード材料よりも優れており、密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理によって予測されるグラフェンの理論容量の、例えば、約92%に近い。それぞれ149および138mAh g-1という高い可逆容量をもたらす5および7A g-1の高電流レートでの1000ラウンドを超える長期サイクルが、電気化学用途向けの2D材料を設計するためのこの技術の可能性を実証している。
【0012】
本発明のSPGを含むカソードの高容量はSPGの1つまたは複数の特徴に起因すると考えられる。例えば、AIBでは、SPGカソードの面内ナノ細孔がAlCl4 -貯蔵のためのよりアクセスしやすい部位を提供し得る。部分的に拡大した格子構造はAlCl4 -イオン拡散障壁を減少させる役割を果たし得る。低酸素含有率が表面吸着挙動を排除し得、層状という特徴が層間空間の高度な利用を可能にする。
【0013】
したがって、第1の局面では、グラフェンを加工する方法であって、以下の工程を含む方法が提供される:
・数層グラフェンをポリ(アルキレンオキシド)と組み合わせる工程;
・乾燥させてグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体を形成する工程;および
・このようにして形成されたグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体を不活性雰囲気中で焼成する工程。
【0014】
数層グラフェン出発材料または前駆体が本明細書においては未加工のグラフェンと呼ばれることがあると理解されるであろう。いくつかの態様では、数層グラフェンはナノシートの形態であり、好ましくは電気化学的剥離、液相剥離、機械的剥離、または酸化的剥離によって形成される。いくつかの態様では、数層グラフェンは本明細書においてはG3とも呼ばれる3層グラフェンである。
【0015】
いくつかの態様では、焼成温度は好ましくは約400℃である。好ましくは、焼成はアルゴン雰囲気下で実施される。
【0016】
いくつかの態様では、ポリ(アルキレンオキシド)はポロキサマーなどのブロックコポリマーである。いくつかの態様では、ポリ(アルキレンオキシド)はP407ポロキサマーである。
【0017】
グラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体の焼成は表面穿孔グラフェンをもたらす。よって、本明細書において記載される方法に従って調製される加工グラフェンは表面穿孔グラフェン(SPG)である。本発明者らは本発明の方法に従って調製されたSPGが新規な特徴および有利な特性を示すことを発見した。別の局面では、本明細書において記載されるプロセスによって製造されるか、得られるか、または得ることができる、加工グラフェン、好ましくは表面穿孔グラフェンが提供される。
【0018】
さらに別の局面では、数層という特徴、好ましくは3層という特徴を含む表面穿孔グラフェンであって、
約1.5nm~約3.5nmの寸法を有する面内ナノ細孔;
50%超の拡大した層間格子;
3.40Å超の拡大層間距離;および
4%未満の原子O/C含有率
より選択される1つまたは複数の特徴をさらに含むグラフェンが提供される。
【0019】
3層という特徴を含む表面穿孔グラフェンであって、
約1.5nm~約3.5nmの寸法を有する面内ナノ細孔;
50%超の拡大した層間格子;
3.40Å超の拡大層間距離;
4%未満の原子O/C含有率;および
26.0°2θ未満に2つのショルダーピークを示すXRDプロファイル
より選択される2つ以上の特徴をさらに含むグラフェンも提供される。
【0020】
別の局面では、X線回折プロファイルが26.0°2θ未満に少なくとも1つのショルダーピーク、好ましくは2つのショルダーピークを示すことを特徴とする表面穿孔グラフェンが提供される。好ましくは、XRDプロファイルは26.0°2θ未満に2つのショルダーピークを20%超の面積比で示す。いくつかの態様では、XRDプロファイルは、26.6±0.2°2θのメインピークに加えて、約25.74および約24.75°2θ±0.2°2θに2つのショルダーピークを含む。
【0021】
本明細書において記載される表面穿孔グラフェンは有利な特性を有しており、例えば、カソードの製造に利用される。よって、別の局面では、本明細書において記載される表面穿孔グラフェンなどの加工グラフェンまたは本明細書において記載されるプロセスによって調製される表面穿孔グラフェンなどの加工グラフェンを含む炭素材料を含むカソードが提供される。いくつかの態様では、カソードは、本明細書において記載される加工グラフェンまたは本明細書において記載されるプロセスによって調製される加工グラフェンと、バインダーと、カソード基板とを含む炭素材料を含む。
【0022】
いくつかの態様では、カソード基板は、カーボンクロス、カーボンペーパー、モリブデン箔、およびチタン箔より選択される。いくつかの態様では、バインダーはカルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリ二フッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、およびポリスチレンより選択される。
【0023】
いくつかの態様では、カソードは、界面活性剤、乳化剤、または分散剤をさらに含む。いくつかの態様では、界面活性剤、乳化剤、または分散剤は、ポロキサマーなどの親水性非イオン性界面活性剤を含む。
【0024】
いくつかの態様では、カソードは、本明細書において記載される加工グラフェンまたは本明細書において記載されるプロセスによって調製される加工グラフェンに加えて、1つまたは複数のさらなる炭素材料を含む。いくつかの態様では、1つまたは複数のさらなる炭素材料は、ガス由来のグラフェン、グラファイト由来のグラフェン、グラファイト由来の酸化グラフェン、グラファイト、改質炭素、およびカーボンブラックより選択される。
【0025】
いくつかの態様では、1つまたは複数の炭素材料は、約1ナノメートル~約30マイクロメートルの厚さを有する炭素フレークの形態で存在する。
【0026】
1つの局面では、上の局面に係るカソードを調製するためのプロセスであって、以下の工程を含むプロセスが提供される:本明細書において記載される加工グラフェンまたは本明細書において記載されるプロセスによって調製される加工グラフェンを含む1つまたは複数の炭素材料を、バインダー、溶媒、および任意で界面活性剤、乳化剤、または分散剤と混合する工程;混合物をカソード基板に塗布する工程;および混合物を乾燥させて溶媒を除去する工程。いくつかの態様では、溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、水、ジヒドロレボグルコセノン、1つまたは複数の炭化水素溶媒、および界面活性剤エマルジョンより選択される。
【0027】
さらなる局面によれば、上の局面に係るプロセスによって得られるカソードが本明細書において提供される。
【0028】
さらに別の局面では、本明細書において記載される表面穿孔グラフェンなどの加工グラフェンもしくは本明細書において記載されるプロセスによって調製される加工グラフェンを含むか、または本明細書において記載されるカソードを含む、再充電可能な電池が提供される。
【0029】
さらなる局面では、本明細書において記載される表面穿孔グラフェンなどの加工グラフェンもしくは本明細書において記載されるプロセスによって調製される加工グラフェン、または本明細書に記載のカソードを含む、アルミニウムイオン電池が提供される。
【0030】
いくつかの態様では、電池はアルミニウム箔を含むアノードをさらに含む。
【0031】
いくつかの態様では、電池は、塩化1-エチル-3-メチルイミダゾリウム-塩化アルミニウム([EMIm]Cl-AlCl3);尿素-AlCl3;トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム;(Al[TfO]3)/N-メチルアセトアミド/尿素;AlCl3/アセトアミド;AlCl3/N-メチル尿素;AlCl3/1,3-ジメチル尿素;体系的にはビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミド(または「イミデート」)としておよび口語的にはTFSIとして公知のビストリフリミド;ならびに/もしくはトリフルオロメタンスルホネートを含む1つまたは複数の電解質をさらに含む。
【0032】
いくつかの態様では、電池は、ガラス繊維、ポリテトラフルオロエチレン、またはテトラフルオロエチレンの任意の合成フルオロポリマー、セルロース膜、およびポリアクリロニトリルより選択される材料を含むセパレータをさらに含む。
【0033】
さらに別の局面では、容量性脱イオン用途における、または再充電可能な電池用途における、本明細書において記載される加工グラフェンの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1)SPG材料の構造的特性決定。(a)SPG3-400における典型的な空間のHRTEM画像。挿入図はSPG3-400の低倍率TEM画像である。(b)SPG材料の広角XRDパターン。(c)XRDパターンからの計算されたグラファイトドメイン比およびXPS分析からのO/C原子比。SPG材料の(d)ラマンスペクトルならびに(e)N2収着等温線および細孔径分布(挿入図)。(f)N2収着分析およびラマンスペクトルからの推定されたナノ細孔(約2.3nm)容積および欠損密度。(g)SPG3-400の暗視野TEM画像。(h)SPG3-400および(i)G3-400の収差補正TEM画像。
図2)形成機構研究および理論的シミュレーション。G3/F127複合体(a、c)およびG3(b、d)のAFM画像および対応する厚さ。(e)G3/F127複合体および純粋なF127のSAXSパターン。(f)アルゴン下でのG3/F127複合体、G3および純粋なF127のTGAプロファイル。DFTシミュレーションのための表面穿孔を有する2層グラフェンモデルの(g)形状および(h)側面図。(i)(h)に示す異なる位置での格子間隔拡大比。(j)(AlCl4 -)x-G、x=1、2、3、4の形成エネルギー。(k)(AlCl4 -)3-Gの3つの分離した層の上面図であり、括弧内の数字は炭素原子の数を表し、その電子雲がAlCl4 -アニオンと重ねられている。
図3)SPG材料のカソード性能。(a)典型的な充放電プロファイル、(b)2A g-1でのSPG3-400、SPG7-400、およびG3-400の長期サイクル放電容量およびクーロン効率。(c)第1、第10、第50、第100、および第200サイクルにおけるSPG3-400の充放電曲線。(d)典型的な充放電プロファイル、(e)5および7A g-1でのSPG3-400の長期サイクル容量およびクーロン効率。
図4)SPGカソードの電気化学分析。(a)5、10、20、50mV s-1のスキャンレートで記録されたSPG3-400のCV曲線。(b)アノードおよびカソード両方のピークのlog(i)~log(v)プロットならびにそれらの線形フィッティング結果。(c)5mV s-1でのG3-400、SPG3-400、およびSPG7-400カソードの拡散および容量性プロセスの寄与割合。(d)異なるステータス:
におけるG3-400、SPG3-400、およびSPG3-700のエクスサイチュラマンスペクトル。(e)AlCl4 -アニオン貯蔵に関するG3-およびSPG7-400に対するSPG3-400の利点の概略図。
図5図1aに示す格子縞の対応するラインスキャン強度プロファイル。層間距離が3.35Åの未処理の3層グラフェンスポット
と比較して、約3.50~3.60Åの拡大した層間距離を有する領域
を観察した。
図6)G7-400の広角XRDパターン。
図7)G7-400のラマンスペクトル。
図8)対照材料のカソード性能。(a)典型的な充放電プロファイル、(b)2A g-1でのG7-400の長期サイクル容量およびクーロン効率。(c)5A g-1でのG3-400、G7-400およびSPG7-400の長期サイクル放電容量およびクーロン効率。
【発明を実施するための形態】
【0035】
詳細な説明
定義
特に定義した場合を除いて、本明細書において用いられるすべての技術的および科学的用語は発明が属する技術分野における当業者によって通常は解釈されるものと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと同様または均等な任意の方法および材料を本発明の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料を記載しておく。本発明の目的のために、以下の用語を下に定義しておく。
【0036】
本明細書において用いられる冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は冠詞の文法上の目的語の1つまたは複数(即ち、少なくとも1つ)を指す。一例としては、「元素(an element)」は1つの元素または1つより多い元素を意味する。
【0037】
「約」とは、参照する量(quantity)、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量(amount)、重量または長さに対して、最大で10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%異なる量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量または長さを意味する。「およそ」という用語も同様に解釈される。
【0038】
本明細書において用いられる場合、「w/w%」、「w/v%」および「v/v%」という用語はそれぞれ重量対重量、重量対体積、および体積対体積のパーセンテージを意味する。
【0039】
本明細書において用いられるように、「および/または」という用語は、関連する列挙された項目のうちの1つまたは複数のあらゆる可能な組み合わせや、代替案(または)と解釈される場合には組み合わせではないことを指しかつ包含する。
【0040】
本明細書およびそれに続く請求項全体を通じて、文脈上別の解釈をする必要がある場合を除き、「含む(comprise)」という語ならびに「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」などのバリエーションは、記載された整数もしくは工程または一群の整数もしくは工程を包含するが、任意の他の整数もしくは工程または一群の整数もしくは工程が除外されないことを暗示していると理解される。よって、「含む(comprising)」などの用語の使用は、列挙された整数が必要であるかまたは必須であるが、他の整数は任意であり存在してもしなくてもよいことを表す。「からなる」とは、「からなる」という表現に続くものをすべて含みかつそれらに限定されることを意味する。よって、「からなる」という表現は列挙された要素が必要であるかまたは必須であること、および他の要素が存在してはいけないことを表す。「から本質的になる」とは、その表現の後に列挙されるあらゆる要素を含むこと、および列挙された要素について本開示において特定される活性または作用を妨げたりそれらに寄与したりしない他の要素に限定されることを意味する。よって、「から本質的になる」という表現は、列挙された要素が必要であるかまたは必須であるが、他の要素は任意であり、列挙された要素の活性または作用に影響を与えるかどうかに応じて存在してもしなくてもよいことを表す。
【0041】
本明細書において記載される各態様は、特に記載しない限り、全ての態様に準用される。
【0042】
略称
本明細書において用いられるように、これらのプロセス、スキームおよび例で用いられる記号および慣例は現代の科学文献、例えば、the Journal of the American Chemical Societyで用いられているものと一致する。具体的には、明細書では以下の略語が用いられることがある:AIB(アルミニウムイオン電池);GC(グラファイト状炭素);SPG(表面穿孔グラフェン);TEM(透過型電子顕微鏡);TRP(熱還元穿孔);XRD(X線回折)。
【0043】
発明の方法
発明者らは、グラフェンを加工するための本方法が、穏やかな条件下でグラフェンの上および底面に穴を生成することを発見した。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは表面炭素原子を熱的に穿孔することによってナノ多孔性欠損が生成されると考えている。その結果、隣接するグラフェン層間のπ-π相互作用が弱まり、拡大した層間距離がもたらされる。これらの要因は、よって、加工グラフェンに有利な特性を与える。よって、この表面穿孔グラフェンがアルミニウムイオン電池(AIB)のカソードとして採用されると、穿孔がAlCl4 -イオンの吸蔵/脱吸蔵を容易にすると考えられる。さらに、ナノサイズの「穴」が直交方向からのAlCl4 -イオンの新たな吸蔵部位を可能にする。弱まった層間相互作用および面内表面吸蔵部位の両方がグラフェン材料のAlCl4 -イオン貯蔵能力を促進する。穿孔グラフェンから形成されたカソードは、AIBにおいて試験すると、優れた可逆容量(2A g-1で197mAh g-1)および良好な高レート性能(5A g-1で149mAh g-1)を示し、グラファイト状炭素のカソードを用いた過去に報告されたAIBの性能を上回ることがわかった。
【0044】
第1の局面によれば、本発明は穿孔グラフェンを調製するためのプロセスであって、以下の工程を含むプロセスを提供する:
・数層グラフェンをポリ(アルキレンオキシド)と組み合わせる工程;
・乾燥させて数層グラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体を形成する工程;および
・このようにして形成された複合体を、不活性雰囲気中、好ましくは約300℃~約500℃で、または約400℃で焼成する工程。
【0045】
好ましい態様では、穿孔グラフェンは表面穿孔グラフェン(SPG)である。
【0046】
本明細書において用いられる場合、「グラフェン」とは、結合長が0.142ナノメートルであるsp2結合原子の平面を形成する六角形ハニカム格子状に結合した単層の炭素原子からなる炭素の同素体を指す。グラフェンの層はグラファイトを形成し、グラフェン層はファンデルワールス力によって一つに保持されている。グラフェンは当技術分野で周知であり本明細書において記載されるいくつかの方法によって調製し得る。これらの方法は、概して、グラフェンの個々の層を剥離することによってファンデルワールス力を克服してグラフェンをもたらす。いくつかの態様では、本明細書において記載される方法で用いられるグラフェンは電気化学的剥離、液相剥離、機械的剥離、または酸化的剥離によって調製される。好ましい態様では、本明細書において記載される方法で用いられるグラフェンは電気化学的剥離によって調製される。
【0047】
方法において出発材料として用いられる未加工のグラフェンは「数層」グラフェンと呼ばれる。好ましくは、数層グラフェンはナノシートの形態である。典型的には、数層グラフェンは厚さが2~9層であり、好ましくは厚さが2~5層であり、より好ましくは2~4層、または厚さが3層である。発明の1つの態様では、厚さが異なるグラフェンの混合物が存在し得ると認識されるであろう。好ましい態様では、グラフェンは主に3層グラフェンを含み、「G3」と呼ばれる。
【0048】
本明細書において用いられる場合、ポリ(アルキレンオキシド)という用語は、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(オキシエチレン)、PEGまたはPEOとしても公知のポリ(エチレンオキシド);およびPPOまたはポリ(オキシプロピレン)としても公知のポリ(プロピレンオキシド);あるいはポリ(ブチレンオキシド)を非限定的に含む。いくつかの態様では、好ましくはポリマーの重量は約1000~約17000である。
【0049】
いくつかの態様では、ポリ(アルキレンオキシド)がコポリマーを形成する。いくつかの態様では、コポリマーはブロックコポリマーである。ポリ(アルキレンオキシド)ブロックコポリマーの例はポロキサマーを含む。ポロキサマーは、概して、非イオン性界面活性剤として利用される。それらはA-B-A構造の合成トリブロックコポリマーを含む。トリブロックコポリマーはポリ(エチレンオキシド)(PEO)の2つの親水性鎖(A)が両側に位置するポリ(プロピレンオキシド)(PEO)の中央疎水性鎖(B)からなり、一般構造:
で表され得、式中
aは2~130の整数であり;かつ
bは15~70の整数である。
【0050】
ポリマーブロックの長さは異なっていてもよいこと、および得られるポロキサマーは異なる特性を有することが認識されるであろう。これらの一般的なコポリマーは文字Pの後に3桁の数字が続くように通常は命名される。初めの2桁に100を掛けた値がポリ(プロピレンオキシド)コアのおよその分子量を示し、末尾の桁に10を掛けたものはポリ(エチレンオキシド)含有率を示す。よって、127は1200gmol-1のポリプロピレンオキシド質量および70%のポリ(エチレンオキシド)含有率を有することになる。F127はEO106PO70EO106と表される場合もある。ポロキサマーはCrodaまたはBASF Corporationなどの製造業者から市販されており、Pluronic(商標)、Synperonics(商標)およびKolliphor(商標)などの商品名で呼ばれることがある。PluronicおよびSynperonicという商品名は、概して、室温でのポロキサマーの物理的形状を示す文字、例えば、L=液体、P=ペースト、F=フレーク(固体)と、それらに続く2または3桁の数字を含む。3桁の数字のうちの最初の桁、または2桁に300を掛けた値は疎水性部分のおよその重量を示し、末尾の桁に10を掛けた値はポリ(エチレンオキシド)含有率を示す。
【0051】
いくつかの好ましい態様では、ポロキサマーは約4,000の疎水性(PEO)部分および約70%の割合のPEOを有するP407である。このポロキサマーはKolliphor(商標)P407またはpluronic F127の商品名でも公知である。Pluronic F127はBASF Corporationから入手可能である。これは約3,600の疎水性(PEO)部分および約70%の割合のPEOを有する。本明細書において記載される方法における使用のためには、Pluronic F127は脱イオン水に溶解することが好ましい。
【0052】
ポリ(アルキレンオキシド)の物理的形態はその分子式に応じて異なると認識されるであろう。いくつかの態様では、当業者であればポリ(アルキレンオキシド)は好ましくは溶液の形態で用いられることを理解するであろう。ポリ(アルキレンオキシド)を溶解しかつグラフェンに悪影響を及ぼさない任意の溶媒を用いることができる。いくつかの好ましい態様では、溶媒は水である。いくつかの態様では、ポリ(アルキレンオキシド)はポロキサマーの水溶液、例えば、脱イオン水中の溶液である。
【0053】
発明の方法で用いられるポリ(アルキレンオキシド)の量および濃度は状況に応じて異なり、当業者であれば知識に従ってまた過度の実験を行うことなく量および濃度を決定することができる。例示的なプロセスを下の実施例に記載している。
【0054】
発明のプロセスにおけるグラフェンとポリ(アルキレンオキシド)の比は創意工夫を必要とすることなく当業者によって決定し得る。いくつかの態様では、グラフェンとポリ(アルキレンオキシド)のモル比は約350:1~約1750:1であり、ここでグラフェンの分子量は炭素の分子量(すなわち、12.011g/モル)とみなされる。
【0055】
グラフェンおよびポリ(アルキレンオキシド)は周知の技術を用いて混合することによって組み合わせ得る。いくつかの態様では、好ましくはグラフェンナノシートとポリ(アルキレンオキシド)との混合物を、好ましくは脱イオン水中で、超音波処理によって混合して懸濁液を得る。
【0056】
グラフェンとポリ(アルキレンオキシド)を組み合わせ、乾燥させた後、ポリ(アルキレンオキシド)のコーティングがグラフェン表面に残り、これによってグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体が得られる。乾燥させると、ポリ(アルキレンオキシド)ミセルがグラフェン表面に吸着されて複合体を形成すると考えられる。乾燥は高温で、または減圧下で行ってもよいが、グラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体は周囲条件の温度および圧力下で好適に乾燥される。例えば、懸濁液を室温で放置して溶媒を好適に蒸発させることができる。
【0057】
乾燥させた後、乾燥したグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体を焼成する。好ましくは、焼成は窒素またはアルゴン下などの不活性雰囲気下で実施される。好ましくは、グラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体の焼成はアルゴン下で行われる。焼成温度はグラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体の性質に応じて異なる。典型的には、グラフェン/ポリ(アルキレンオキシド)複合体は約300℃~約800℃、例えば約300℃~約500℃、例えば約400℃の温度で焼成される。典型的な加熱速度は、好ましくはアルゴン流下で、約2℃/min-1である。
【0058】
G3ナノシートは、本明細書において記載される方法に従って熱還元穿孔を経た後、本明細書において「SPG3」と呼ばれる表面穿孔グラフェンを提供する。「SPG3-400」という用語は約400℃で焼成が行われたことを示す。同様に、G3を500℃または600℃で焼成するとSPG3-500またはSPG3-600が得られる。対応して、G4、G5、G6、G7またはG8は本明細書において記載される方法に従ってSPG4-400、SPG5-400、SPG6-400、SPG7-400またはSPG8-400に変換され得る。
【0059】
好ましい態様では、表面穿孔グラフェンを調製するためのプロセスであって、以下の工程を含むプロセスが提供される:
・数層グラフェンナノシートをポロキサマーと組み合わせる工程;
・超音波処理によって混合する工程;
・周囲温度で空気乾燥させてグラフェン/ポロキサマー複合体を得る工程;および
・このようにして形成された複合体を不活性雰囲気下にて約400℃で焼成する工程。
【0060】
いくつかの態様では、グラフェンは3層グラフェンナノシートである。いくつかの態様では、ポロキサマーは好ましくはP407ポロキサマー、例えば、Pluronic F127である。用いるポロキサマーの性質に応じて、グラフェンとポロキサマーを脱イオン水などの溶媒の存在下で組み合わせることが好ましい。好ましくは、複合体の焼成はアルゴン雰囲気下で行われる。
【0061】
本明細書において記載される反応およびプロセスは混合、加熱および乾燥に関して当技術分野で公知の従来の実験室技術を採用し得る。窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気条件の使用が採用され得る。所望される化合物の単離の従来方法、例えば、ろ過技術などが用いられ得る。有機溶媒または溶液は、必要に応じて、標準的な周知の技術を用いて乾燥させてもよい。
【0062】
発明の組成物
本明細書において記載されるプロセスによって製造される表面穿孔グラフェンは新規で特色的な特徴および有利な特性を有することが分かった。さらなる局面では、本発明は、本明細書において記載されるプロセスによって調製されるか、得られるか、または得ることができる、表面穿孔グラフェンを提供する。
【0063】
本明細書において記載される方法によって調製される表面穿孔グラフェンの分析では、元の数層グラフェン由来の薄膜かつ数層という構造が保持されている。広角X線回折(XRD)分析によって証明されるように、SPGは層間間隔の部分的な拡大を示す。XRDピークは±0.2°2θの誤差で引用される。400℃で処理された未加工3層グラフェン(G3)(G3-400)は約26.6°を中心とする狭いピークを示した(3.35Åのd値、002回折を指標とする)。比較では、本明細書において記載される方法に従って製造されるSPG3-400は、メインピークが約26.6°(P1)にあり、2つのショルダーピークが約25.74°(P2)および約24.75°(P3)にある、遥かにブロードなピークを示す。P2およびP3のd値はそれぞれ3.46Åおよび3.60Åであると計算される。図1bのXRDデータを参照されたい。これは、格子縞ラインスキャン強度プロファイル分析から実証されるように、層状格子縞が部分的に拡大(約3.50~3.60Å)していることを示す。図1aのTEMデータおよび図5のラインスキャンを参照されたい。
【0064】
したがって、本発明は、26°2θ未満に少なくとも1つのショルダーピークを含む広角X線回折(XRD)プロファイルを特徴とするSPGも提供する。いくつかの態様では、XRDプロファイルは26.0°2θ未満に2つのショルダーピークを含む。いくつかの態様では、XRDプロファイルは約25.74および約24.75°2θ±0.2°2θに2つのショルダーピークを含む。いくつかの態様では、XRDは>20%の面積比で26°未満に2つのショルダーピークを示す。好ましい態様では、XRDプロファイルは約25.74および約24.75°2θに2つのショルダーピークを含み、該ショルダーピークは20%超の面積比を有する。
【0065】
SPGは、未加工グラフェン前駆体または出発物質と比較すると、50%超の拡大した層格子を含む。典型的には、拡大層間距離は3.40Åより大きく、例えば、3.46Åより大きいかまたは3.5Åよりも大きい。いくつかの態様では、SPGは50%超の拡大した格子を有し、拡大層間距離は3.40Åより大きいかまたは3.46Åより大きい、例えば、約3.40Å~約3.70Å、または約3.40Å~約3.60Å、または約3.40Å~約3.50Åである。
【0066】
図1eに示されるように、SPGは約1.5nm~約3.5nmの寸法を有する面内ナノ細孔またはナノ多孔性欠損を示す。いくつかの態様では、ナノ細孔は約2.0~約2.5nm、例えば、平均で約2.3nm、または約2.3nmの寸法を有する。
【0067】
図1cによって示されるように、発明のSPGは4%未満または3%未満の低O/C比を有する。いくつかの態様では、O/C比は約2%~約3%、例えば、約2.3%~約2.7%、約2.54%などである。
【0068】
1つの態様では、本明細書において記載される界面活性剤支援熱穿孔技術は、層間距離が約3.46Åより大きい拡大した層の含有率が高く(約50%)、約2.3nmの面内ナノ多孔性欠損が多量にあり、かつO/C比が約2.54%と極めて低い、表面穿孔3層グラフェン(SPG3-400)を提供する。
【0069】
グラフェンは、その意図された使用の要件に従ってさらに加工され得ると理解されるであろう。例えば、グラフェンはさらに加工されてカソードを形成し得る。
【0070】
グラフェンをさらに加工する方法は当技術分野で周知である。特に、グラフェンカソードは、下の実施例に記載されるものなどの、グラフェンカソードを調製するための周知の文献方法を用いてSPGから調製し得る。
【0071】
使用の方法
本発明に係る加工グラフェンは有利な特性を示し、グラフェンの用途に関して当技術分野において周知の方法および装置に応じて用い得る。
【0072】
従来のグラフェンが典型的に採用される任意の用途に上記グラフェンを用いることができると考えられるが、本明細書において記載されるSPGの特性は電池技術において有利に利用される。特に、SPGは、特に再充電可能な電池における、例えば、アルミニウムイオン電池技術における使用のための、カソードの製造に利用される。
【0073】
本明細書において記載される方法によって調製されるSPGは容量性脱イオン用途における電子吸着物質として利用することもできる。
【0074】
発明者らは、例えば、SPG3-400を用いてSPG3-400/Al電池のカソードを形成すると、2A g-1で197mAh g-1の可逆容量および良好な高レート性能(5A g-1で149mAh g-1)が示されることを発見した。これはグラファイト状炭素カソードを用いた過去に報告されたAIBの性能を上回っている。
【0075】
したがって、本開示は本発明に係る加工グラフェンを含むカソードを提供する。本開示は、本発明に係る加工グラフェンを含むカソードを含む電池など、本発明に係る加工グラフェンを含む電池をさらに提供する。
【0076】
いくつかの態様では、そのようなカソードは本発明に従って加工されたグラフェンを含む炭素材料と、バインダーと、カソード基板とを含む。
【0077】
任意の好適なバインダーが用いられ得る。いくつかの特定の態様では、バインダーは、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリ二フッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、およびポリスチレンより選択される。
【0078】
カソードに存在する炭素材料は、本発明に従って加工されたグラフェンに加えて、1つまたは複数の追加の炭素材料をさらに含み得る。好適な炭素材料は、例えば、ガス由来のグラフェン、グラファイト由来のグラフェン、グラファイト由来の酸化グラフェン、グラファイト、改質炭素、およびカーボンブラックを含む。
【0079】
いくつかの態様では、1つまたは複数の炭素材料(すなわち、加工グラフェン/本発明に従って加工されたグラフェン、および/または任意のさらなる炭素材料)はカーボンフレーク、例えば、約1ナノメートルから約30マイクロメートルまでの厚さを有するカーボンフレークの形態で存在する。
【0080】
いくつかの態様では、カソードは界面活性剤、乳化剤、または分散剤をさらに含む。いくつかの特定の態様では、カソードは、例えば、ポロキサマーとして公知の汎用クラスのコポリマーのうちの、親水性非イオン性界面活性剤を含む。本発明における使用に適した好適なポロキサマーの例示的なブランド名はPluronic(登録商標)F-127、Synperonic(商標)PE/F-127、Kolliphor(登録商標)P407およびポロキサレンを含む。
【0081】
カソードは1つまたは複数のカソード基板を含む。任意の好適なカソード基板が用いられ得る。好適なカソード基板はカーボンクロス、カーボンペーパー、モリブデン箔、およびチタン箔を非限定的に含む。そのようなカソード基板は、上で述べた1つまたは複数の炭素材料に追加して存在する。
【0082】
カソードを調製する際、溶媒を用い得る。溶媒は、典型的には、乾燥によって除去(または実質的に除去)されてカソードを調製する。いくつかの態様では、1つまたは複数の炭素材料はバインダーおよび溶媒および任意で界面活性剤、乳化剤、または分散剤と混合され、混合物はカソード基板に塗布され、混合物を乾燥させて溶媒、例えば、実質的にすべての溶媒を除去して、カソードを得る。任意の好適な溶媒が用いられ得る。いくつかの特定の態様では、溶媒はN-メチル-2-ピロリドン、水、ジヒドロレボグルコセノン、1つまたは複数の炭化水素溶媒、および界面活性剤エマルジョンより選択される。
【0083】
アルミニウムイオン電池などの再充電可能な電池などの本開示の電池は上に記載したようなカソードを含み、アノードをさらに含む。いくつかの特定の態様では、アノードはアルミニウム箔、例えば、純度が97~99.99%のアルミニウム箔を含む。
【0084】
本開示の電池は、典型的には、1つまたは複数の電解質を、例えば、電解液の形態でさらに含む。好適な電解質は、塩化1-エチル-3-メチルイミダゾリウム-塩化アルミニウム([EMIm]Cl-AlCl3、1:1.3モル);尿素-AlCl3;トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム;(Al[TfO]3)/N-メチルアセトアミド/尿素;AlCl3/アセトアミド;AlCl3/N-メチル尿素;AlCl3/1,3-ジメチル尿素;体系的にはビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミド(または「イミデート」)としておよび口語的にはTFSIとして公知のビストリフリミド;ならびにトリフルオロメタンスルホネートを非限定的に含む。
【0085】
本開示の電池は、典型的には、セパレータをさらに含む。好適なセパレータ材料は、ガラス繊維、ポリテトラフルオロエチレン、またはテトラフルオロエチレンの任意の合成フルオロポリマー、セルロース膜、およびポリアクリロニトリルを非限定的に含む。
【0086】
当業者であれば本明細書において記載される発明には、具体的に記載されたもの以外のバリエーションおよび変形が可能であることを認識するであろう。発明は精神および範囲内に含まれるすべてのそのようなバリエーションおよび変形を含むと理解されたい。
【0087】
発明を容易に理解しかつ実施し得るために、以下の非限定的な実施例を介して特定の好ましい態様を説明する。
【実施例
【0088】
概説
特に記載しない限り、市販の試薬および出発物質はすべて受領したままのものを用いた。
【0089】
グラフェンナノシートの調製:過去に報告された電気化学的剥離法(Parvez, K.; Wu, Z.-S.; Li, R.; Liu, X.; Graf, R.; Feng, X.; Mullen, K., Exfoliation of Graphite into Graphene in Aqueous Solutions of Inorganic Salts. Journal of the American Chemical Society 2014, 136 (16), 6083-6091)に少し変更を加えて約3および7層の剥離されたグラフェンナノシートを調製した。電気化学的剥離は作用電極としてグラファイト箔(約1g)、対電極としてチタニウム箔、および電解質として硫酸ナトリウム水溶液(Na2SO4、0.1M、200mL)を用いた二電極系で実施した。10Vの正電圧をグラファイト電極に2時間印加して剥離プロセスを可能にした。析出物を真空ろ過によって回収し、脱イオン水ですすいで(5回)残留塩を除去し、次いで超音波処理によってイソプロパノール(IPA、200mL)中に分散させた。得られた懸濁液を1000rpmで10分間遠心分離した。上清を回収し、さらにろ過して3層グラフェン(G3)ナノシートを得た。沈殿物を超音波処理によって200mLのIPAに再分散させ、次いで200rpmで10分間遠心分離して、剥離していないグラファイトおよび厚いグラフェンシートを除去した。得られた上清をろ過して7層グラフェン(G7)ナノシートを得た。
【0090】
グラフェンの熱還元穿孔:典型的には、Pluronic F127(360mg)を含む脱イオン水(30mL)にG3ナノシート(150mg)を分散させ、1.5時間超音波処理して安定な懸濁液を得た。次いで、室温での溶媒蒸発のために懸濁液をガラス培養皿に移した。乾燥させた固形物を2℃min-1の昇温速度でアルゴン流下にて400℃で焼成し、SPG3-400を製造した。G7を前駆体として用いて同じ手順でSPG7-400を合成した。
【0091】
材料の特性決定:80kVで動作するHF-7700顕微鏡を用いた透過型電子顕微鏡法(TEM)によって材料の形態および構造を調べた。X線回折(XRD)パターンはBruker X線粉末回折装置(D8 Advance、λ=1.5406Å)によって取得した。ラマンスペクトルは波長が514nmのArレーザーを用いてRenishawラマン分光計で測定した。窒素(N2)の吸着/脱着等温線はMicromeritics ASAP TristarII 3020システムを用いて測定した。試料を真空下にて200℃で>8時間脱気した。細孔径分布は吸着岐を用いたバレット・ジョイナー・ハレンダ(BJH)法によって決定した。原子間力顕微鏡(AFM)画像は周囲条件下でAsylum Research Cypher AFMによって撮影した。熱重量分析(TGA)測定は、TGA/DSC1熱重量分析装置(Mettler Toledo Inc)により、窒素(N2)流下で5℃min-1の加熱速度で実施した。X線光電子分光法(XPS)スペクトルはKratos Axis ULTRA X線光電子分光計によって測定した。XPS結果の原子濃度計算およびピークシフトはCasa XPSバージョン2.3.14ソフトウェアによって処理した。
【0092】
SPG3-400の典型的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像は、この材料がG3から薄膜かつ3層という構造を継承していることを示す(図1aおよび挿入図)。格子縞ラインスキャン強度プロファイル分析(図5)から証明されるように、層状格子縞は部分的に拡大している(約3.50~3.60Å)。部分的な層間間隔の拡大は広角X線回折(XRD)分析によって裏付けられる。図1bに示されるように、400℃で処理した未加工のG3(G3-400)は約26.6°を中心とする狭いピークを示した(d値3.35Å、002回折を指標とする)。SPG3-400については、約26.6°(P1)にメインピークならびに約25.74°(P2)および約24.75°(P3)に2つのショルダーピークがある、よりブロードなピークが観察された。P2およびP3のd値はそれぞれ3.46Åおよび3.60Åであると計算される。TEMおよびXRD両方の結果は、TRP処理後のSPG3-400が高度に結晶性でありかつ拡大した層状格子を有することを示す。
【0093】
TRP手法を介して調製されたSPG材料の構造および性能に対するグラフェンナノシートの焼成温度および層数の影響を調査するために、対照実験を行った。それぞれ600℃および800℃で処理されたSPG3-600およびSPG3-800については、XRD分析はP2およびP3のショルダーピークの強度がSPG3-400と比べて減少していることを示し、拡大された層格子が高温で熱回復を受けることが示唆された。SPG7-400もSPG3-400と同じTRP処理によって調製されたが、前駆体として7層グラフェン(G7)ナノシートを用いた。SPG7-400のXRDパターンは、未加工のG7-400と比較して、差が無視できるほどのシャープな回折ピークを約26.6°に示し(図6)、TRPプロセスが主に表面層に影響を及ぼすことおよびG3ナノシートの選択がG7よりも多くの拡大した層間間隔を発生させるのに有利であることが示された。デコンボリューションされたピーク(P1、P2、P3)の面積を計算することによって、試験した材料のグラファイトドメイン比[P1/(P1+P2+P3)]を図1cに示す。G3-400およびSPG7-400はいずれもグラファイトドメインを主に有する。SPG3-400、-600および-800のグラファイトドメイン比はそれぞれ0.482、0.755、0.769である。SPG3-400の層格子の50%超が拡大され、これは過去に公知であるグラフェンよりも高い。
【0094】
化学的酸化経路を用いてグラファイトから製造される還元された酸化グラフェンでは格子拡大が過去に報告されていたが、これは通常O/C比の増加に繋がる。しかしながら、X線光電子分光法(XPS)分析の結果は、TRPプロセスが原子O/C比を17.5%(未加工のG3)からSPG3-400、SPG3-600、およびSPG-800のそれぞれでは2.54、1.88および1.29%まで減少させたことを示す(図1c)。SPG材料における低O/C比は超高温(約3000℃)でアニールされたグラフェン材料のもの(1.84%)に匹敵しており、TRP手法が穏やかな熱処理条件で残留酸素を大幅に減少させるのに効果的であることが示された。
【0095】
ラマン分光法およびN2吸脱着測定を採用してSPG材料の構造をさらに調べた(図1d、1eおよび図7)。すべての試料のラマンスペクトルでは約1355および約1582cm-1でピークに達する典型的なDおよびGバンドが観察でき、そこから欠損密度(DバンドとGバンドの強度比、ID/IG)を計算し、図1fにプロットした。欠損密度は未加工のG3-400(0.45)およびG7-400(0.28、図7)からTRPプロセス後ではSPG3-400(0.88)およびSPG7-400(0.48)まで増加するが、焼成温度(600および800℃)が上昇するとsp2ネットワークの部分的な回復により減少し、XRD結果と一致する。比較的固体の性質を有するG3-400と比較して、N2吸着等温線および対応する細孔径分布曲線から証明されるSPG材料の多孔質特性はTRPプロセスが平均サイズ2.3nm前後のメソ細孔を生じることを示す。約2.3nmのメソ細孔に対応する細孔容積を計算し図1fにプロットしており、ラマン分析から計算された欠損密度と同様の傾向が示されている。SPG3-400はメソ細孔(約2.3nm)の容積が0.11g cm-3である。
【0096】
XRD、ラマン分光法、XPSおよび窒素吸着分析はTRP手法が、拡大した層の含有率が高く(>50%)、O/C比が低く、面内メソ多孔性欠損が多量にある3層グラフェンを生じたことを示した。SPG3-400の暗視野HRTEMはグラフェン表面の面内メソ細孔の直接的な観察を提供して、2~3nmのナノ細孔が豊富にあることを示す(図1g)。SPG3-400およびG3-400の収差補正TEM画像をそれぞれ図1hおよび1iに示す。G3-400は結晶性が良好なグラファイト格子を示す一方で、面内欠損はSPG3-400における表面グラファイト層に観察することができ、メソ細孔および構造的欠損の分析と一致している。
【0097】
G3/F127複合体の形態を調査した。原子間力顕微鏡(AFM)による検査は未加工のG3ナノシート(図2b)と同様の典型的なナノシートの特徴(図2a)を示す。線に沿った高さプロファイルはG3/F127複合体ナノシートの平均厚さが約16.5nmであることを実証しており(図2c)、これは未加工のG3の約1.9nmよりも大幅に高く(図2d)、G3表面上のF127の均一なコーティングが示された。G3/F127複合体および純粋なF127の小角X線散乱(SAXS)パターンを記録した(図2e)。純粋なF127のSAXSパターンは層状メソ構造(d値14.6nm)に関連する2つのはっきりとしたピーク(q値0.043および0.086Å-1)を示す。G3/F127複合体については、約0.038Å-1に強度が弱いブロードなピークのみが観察された。疎水性グラフェン基底面は疎水性PPOセグメントと相互作用しかつF127をその表面に引き寄せることができること、およびおそらくはF127がG3の両面にコーティングされてG3/F127複合体のサンドイッチ様構造を形成したことが考えられる。
【0098】
TRPプロセスは、F127および未加工のG3ナノシートと比較したG3/F127複合体の熱重量分析(TGA)によっても調査した(図2f)。未加工のG3は900℃であってもゆっくりかつ継続的な重量減少を経た。純粋なF127は約250~380℃の温度範囲で迅速かつ完全に分解し、残渣は2%未満であった。G3/F127複合体については、TGA曲線は2段階の重量減少プロファイルを示す。約140~200℃での最初のわずかな重量減少(約2%)は、未加工のG3の場合と同様に、主に物理吸着分子(例えば、水)の解離によるものであった。主要な重量減少ステップ(約69%)は約300~400℃で現れ、400℃以降では無視できる程度のさらなる減少があり、G3の熱分解挙動がTRPプロセスにおけるF127によって変化したことが示された。示差熱重量分析から、G3/F127複合体についてのF127分解温度は純粋なF127のものよりも約24℃高く、F127とG3のナノシート間の相互作用が示された。PPOおよびPEOの熱分解はC-OおよびC-C結合の均等開裂によって進行し、活性ラジカル(・CHCH3CH2O-、-CH2CH3CHO・、・CH2O-など)を形成すると考えられる。グラフェンおよび還元された酸化グラフェンはフリーラジカルを化学的および物理的の両方で吸着する能力を有する。高濃度フリーラジカルはC=CおよびC-O結合を切断する「ハサミ」として機能し得、F127の熱分解が、TRPプロセス時の表面穿孔および酸素欠乏の原因となる活性ラジカルを生成することを示唆している。
【0099】
DFTシミュレーション:計算はVienna ab initioシミュレーションパッケージ(VASP)(Kresse, G.; Furthmuller, J., Efficient iterative schemes for ab initio total-energy calculations using a plane-wave basis set. Phys. Rev. B 1996, 54 (16), 11169.; Kresse, G.; Furthmuller, J., Efficiency of ab-initio total energy calculations for metals and semiconductors using a plane-wave basis set. Comput. Mater. Sci. 1996, 6 (1), 15-5)に実装される密度汎関数理論(DFT)で実施され、イオンと電子の相互作用はプロジェクター増強波(PAW)法によって説明する(Kresse, G.; Joubert, D., From ultrasoft pseudopotentials to the projector augmented-wave method. Phys. Rev. B 1999, 59 (3), 1758)。総エネルギーは一般化勾配近似(GGA)(Perdew, J. P. ; Burke, K.; Ernzerhof, M., Generalized gradient approximation made simple. Phys. Rev. Lett. 1996, 77 (18), 3865)のパーデュー・バーク・エルンザーホフ(PBE)汎関数内の総エネルギーとして計算された。
【0100】
カットオフエネルギーは400eVになるように設定され、3×3×1のガンマ点を中心としたK・メッシュを用いて第1ブリュアンゾーンをサンプリングした。層間vdW相互作用はDFT-D3補正によって検討した(Grimme, S.; Antony, J.; Ehrlich, S.; Krieg, H., A consistent and accurate ab initio parametrization of density functional dispersion correction (DFT-D) for the 94 elements H-Pu. The Journal of chemical physics 2010, 132 (15), 154104)。各原子のエネルギーが10-6eVまで収束しかつそれらの力が0.001eV/Å未満になるまで、幾何学的構造を制約なく最適化した。表面穿孔モデルは上面に穴が存在するAB積層二層グラフェンによってシミュレーションした。穴のサイズは2つの向かい合うエッジの相互作用を遮蔽するために10Å前後である。穴のエッジは官能化炭素基が結合する可能性があるため水素原子で飽和されており、炭素エッジが完全にsp3ハイブリッド化されている。
【0101】
グラフェン層間格子構造に対する面内ナノ細孔の影響を調べるために、表面ナノ細孔と水素原子で飽和したエッジとを備えたABスタッキンググラフェンモデルを用いて第一原理に基づくDFTシミュレーションを行った(図2g)。未処理のグラフェンモデルと比較すると、弱まった層間相互作用(sp2からsp3へのハイブリダイゼーション)によりナノ細孔近くの炭素原子が元の格子縞から外れ、拡大した層間格子をもたらし(図2h)、これはTEMおよびXRD観察と一致している(図1aおよび1b)。ナノ細孔に最も近い炭素原子(4)は16.4%の最大層間拡大率を示し(図2i)、この比率は炭素の位置が細孔のエッジから遠くなる(位置4から1)と通常の値まで再び低下する。これは、多くの面内ナノ孔を生成することが、拡大した層の割合が高いSPG3-400の形成に有益であることを示唆している。
【0102】
グラフェン材料の最大理論容量を推定するために、3層グラフェン(ABAスタック)へのAlCl4 -の吸蔵をDFT計算によって調査した。各層に炭素原子を24個含む3層グラフェンのスーパーセルを用いた。AlCl4 -アニオンの数(x)が異なる((AlCl4 -)x-G、x=1、2、3、4として示される)ステージ1吸蔵におけるグラフェン吸蔵化合物の形成エネルギーを計算した(各グラフェンシートは吸蔵物によって他のシートから分離されている)。形成エネルギーはEf=E[(AlCl4 -)x-G]-E[(AlCl4 -)x-1-G]-2E(AlCl4 -)として定義され、式中E[(AlCl4 -)x-G]は各層間間隔ごとのxAlCl4 -吸蔵があるグラフェンの総エネルギーを表し、E(AlCl4 -)は単一のAlCl4 -アニオンのエネルギーである。すべてのx点における(AlCl4 -)x-G構造およびそれらの対応する形成エネルギーを図3jに示す。(AlCl4 -)1-G、(AlCl4 -)2-Gおよび(AlCl4 -)3-Gは、xが4まで増加したことを除いてすべて熱力学的に安定であることが分かった。最大理論容量は(AlCl4 -)3-Gを最も好ましい形態として用い、電子雲がAlCl4 -アニオンと重なる炭素原子の数を数えて推定した41。(AlCl4 -)3-Gは約213mAh g-1の平均比容量をもたらし、炭素原子10~11個あたりAlCl4 -アニオン1個に相当することがわかった。
【0103】
電気化学的測定:電池性能試験はポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)コーティングで修正した標準的なCR2032型コイン電池を用いて行った。作用カソードは、重量比80:10:10の合成グラフェン材料、カーボンブラック、およびナフィオンバインダーのスラリーをカーボンクロス基板上にキャストし、続いて真空下80℃で約12時間乾燥させることによって調製した。活物質の質量負荷は約1.5~2.0mg cm-2であった。純粋なAl箔をアノードとして用いた。セパレータとしてフィルテックグラスファイバーを用いた。電解質は塩化1-エチル-3-メチルイミダゾリウム-塩化アルミニウム([EMIm]Cl-AlCl3、1:1.3モル)であった。セルはAr充填グローブボックス内で組み立てた。電池はまず2.4Vまで充電され、次いで電解質の分解を防止するために0.5Vのカットオフ電圧まで放電させた。
【0104】
2A g-1の電流密度では、SPG3-400は、197mAh g-1と比放電容量が高く、1.7~1.9Vにプラトーを有するグラファイトカソードの典型的な高放電電圧プロファイルをもたらし(図3a)、同じ電流ではすべての報告されたグラファイトカソードを上回っていた(表S1)。この実験値は理論容量値の92%に達しており、AlCl4 -貯蔵のためのグラフェン層間空間の効率的な利用が示唆された。200回の充放電サイクル後では、放電容量は明らかな減衰(図3b)や電圧分極(図3c)もなく良好に維持され、SPG3-400の優れた電気化学的安定性が示された。対照的に、G3-400は200サイクルにわたって124mAh g-1という低い初期容量を示し、TRP設計の重要性が実証された。より厚い層を備えたSPG7-400およびG7-400を含む他の対照材料も試験した(図3aおよびb)。SPG7-400は128mAh g-1の放電容量を示し、SPG3-400には劣るものの、G7-400の93mAh g-1からは依然として大きく向上しており、AlCl4 -貯蔵能力を向上させるための数層かつ表面穿孔という概念の有効性が立証された。特に、G3-400からSPG3-400(73mAh g-1)への容量の向上は、G7-400およびSPG7-400(35mAh g-1)のものの2倍を超えており、イオン貯蔵ポテンシャルを解放するための数層グラフェンにおけるTRP戦略の相乗効果が示唆された。
【0105】
5A g-1および7A g-1という高電流密度では、SPG3-400は明確な充放電プラトーを備えた高い可逆容量(それぞれ149および138mAh g-1)を依然としてもたらし(図3d)、吸着/脱離に基づく電気化学的容量性メカニズムというよりもむしろSPG3-400格子における急速なアニオン吸蔵プロセスが示唆された。5A g-1および7A g-1での比較的短い充電および放電プラトーは高充電/放電速度によって引き起こされるわずかな分極に起因し得る。さらに、SPG3-400カソードのサイクル安定性を実証するために高電流率5A g-1で長期サイクル試験を行った(図3e)。SPG3-400は1000サイクル後では5A g-1で147mAh g-1という最も高い容量を維持し、すべての対照カソードより優れていた(SPG7-400:96mAh g-1、G3-400:111mAh g-1、および G7-400:93mAh g-1図8)。さらに、長いサイクル試験を7A g-1というより高い電流率で2000サイクルまで延長した。図3eに示されるように、SPG3-400は優れたサイクル安定性を示し、さらに1000サイクル後では128mAh g-1の可逆容量を達成する。これらの高速電気化学的性能は、TRP戦略が嵩高いAlCl4 -アニオンに対するグラフェンカソードの貯蔵能力およびイオン拡散率の両方を向上できることを実証した。
【0106】
AIBにおけるSPG3-400カソードの電気化学的反応速度をサイクリックボルタンメトリー(CV)によって調査した。典型的なSPG3-400カソードのCV曲線(図4a)は約2.0~2.2Vにアノードピーク、約1.5~1.9Vにカソードピークを示し、図3aにおける充放電曲線と一致している。CVスキャン結果(ピーク電流iおよびスキャンレートv)はべき乗則の式(式1):
i=a×vb (1)
を用いて分析し、式中、aおよびbは調整可能パラメータである。log(i)からlog(v)への傾きによって決定されるbパラメータは、拡散ファラデープロセス(b=0.5)および容量プロセス(高速表面ファラデー電荷移動、b=1)による容量寄与の量を示す重要な要素である。SPG3-400はアノードおよびカソードのb値が0.71および0.61であることを示し(図4b)、拡散および容量性両方の容量寄与の組み合わせが示唆された。5mV s-1の固定スキャンレートでの拡散プロセスおよび容量性プロセスからの容量寄与は、式2:
i(v)=k1×v+k2×v1/2 (2)
においてスキャンレートに対するそれらの依存性に基づいて定量的に区別できる(容量寄与:k1×v、拡散寄与:k2×v1/2)。
【0107】
定数k1およびk2は、v1/2に対してi(v)/v1/2をプロットすることによって決定でき、これは容量性および拡散寄与を定量化することを可能にする。5mV s-1のスキャンレートにおけるSPG3-400、G3-400、およびSPG7-400のこれら2つのプロセスの容量寄与率を図4cにまとめる。拡散容量は、試験したすべてのカソードの総容量の半分以上を占めており、電気化学反応が主に拡散制御的吸蔵プロセスであることを示している。G3-400カソードと比較して、SPG3-400は増加した拡散容量を示し、向上した容量は主にAlCl4 -イオン吸蔵の増加から生じたことが示唆された。
【0108】
バッテリー動作時のエクスサイチュラマン研究:エクスサイチュラマンのために、バッテリーを完全充電または完全放電状態(2A g-1)で止め、Ar充填グローブボックス内で分解した。カソード材料をカーボンクロス基板から慎重に取り外し、カバーガラスを備えたスライドガラス上に置いた。カソードと周囲雰囲気中の空気/湿気との反応を避けるために、カバーしたスライドガラスをパラフィルムおよびテープで慎重に密封し、グローブボックスから試料を取り出した直後にラマン測定を行った。
【0109】
バッテリー動作時のカソード内でのAlCl4 -イオンの吸蔵/脱吸蔵を調査するために、エクスサイチュラマン研究を実施した。すべての測定はグラフェンカソードが2A g-1の電流速度で安定した容量に達した後に行われ、次いでAr充填グローブボックス内で電池を分解した。得られたカソードを高純度メタノールで3回洗浄し、次のラマン分析のためにカバーガラスで密封した。図4dに示されるように、G3-400、SPG3-400、およびSPG7-400は不規則およびE2g振動モードにおける炭素のDバンドおよびGバンドとして2つの主要なバンドをそれぞれ示す。SPG3-400カソードのGバンドは完全に充電した状態で約20cm-1(1589から1609cm-1まで)上方にシフトした。この新しいバンドは吸蔵物層近傍の境界グラフェン層(E2g(b))の振動モードとして割り当てることができる。グラファイト層間化合物(GIC)の形成時に、Gバンドは、通常、ダブレットに分割し、他のグラフェン近傍の内部グラフェン層の振動モードに対応する2つのE2g振動モードであるE2g(b)およびE2g(i)を生じる。完全に充電した状態では、SPG3-400カソードのラマンスペクトルは単一のE2g(b)バンドを示し、ステージ1またはステージ2のGICの形成が示唆された。その後の完全に放電した状態でのラマンスペクトルはほぼ可逆的であり、AlCl4 -イオンの脱吸蔵に対応している。G3-400は同じ3層という特徴によりSPG3-400と同じステージ数を示した。しかしながら、完全に充電した状態ではより小さなブルーシフト(13cm-1)が観察され、吸蔵されたゲストAlCl4 -がより少ないことが示された。SPG7-400については、SPG3-400とは異なり、Gバンドはアニオン吸蔵時にダブレットに分割された(E2g(i):1584cm-1、E2g(b):1604cm-1)。
【0110】
E2g(i)/E2g(b)バンドの強度に基づいて吸蔵ステージは以下の式(式3):
を用いて計算し、式中
はラマン散乱断面積の比(1とみなした)、nはステージ数を表す。SPG7-400についてはn値は4であると計算され、過去の研究におけるグラファイトまたはグラフェンカソードのものと一致している。ステージ数は2つの吸蔵物層の間にグラフェン層がいくらあるかを示す。SPG3-400については、ステージ数が1または2のGICが見つかり、ほぼすべてのグラフェン層がAlCl4 -吸蔵物によって占有されて理論値の92%に達する容量が得られたことが示唆された。最後に、我々は図4eに示すスキームにSPG3-400カソードの動作メカニズムをまとめた。アノード側では、放電時にはAlおよびAlCl4 -がAl2Cl7 -に変換され、充電時には逆の反応が起こる。カソード側では、充電および放電反応時それぞれにAlCl4 -イオンがエッジと底面との両方を通ってグラフェン層に吸蔵および脱吸蔵される。
【0111】
グラフェンナノシートの調製のための代替的剥離方法:上の実施例では電気化学的剥離を用いてグラファイト箔から調製されたグラフェンナノシートを採用しているが、下に詳述するように数層グラフェンの調製のための他の剥離方法も調査した。
【0112】
液相剥離:数層グラフェンを調製するためのグラファイトの液相剥離は報告されたプロトコル(Coleman, J. N., Scalable Production of Large Quantities of Defect-free Few-layer Graphene by Shear Exfoliation in Liquids, Nature Materials 2014, 13, 624-630.)にわずかな変更(溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、濃度:50mg/ml、混合速度:5000rpm、混合時間:30~60分)を加えて実施した。典型的な合成では、グラファイトを(1~100mg/ml)の濃度で剥離溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、イソプロパノール、水性界面活性剤(第四級アンモニウム界面活性剤、ポリ(アルキレンオキシド)、コール酸ナトリウム、有機硫酸塩界面活性剤)溶液)に分散させた。ローターミキサーを用いて5~500分間にわたり1000~10000rpmの速度で懸濁液を混合した。混合後、得られた分散液を遠心分離(1000rpm、10分間)して未剥離グラファイトを除去し、回収した上清をろ過して数層グラフェンを得た。
【0113】
機械的剥離:数層グラフェンを製造するためのグラファイトの機械的剥離は報告されたボールミル粉砕法(Weifeng Zhao , Ming Fang , Furong Wu , Hang Wu , Liwei Wang and Guohua Chen, Preparation of graphene by exfoliation of graphite using wet ball milling, Journal of Materials Chemistry, 2010, 20, 5817-5819)にわずかな変更(濃度5mg/ml、粉砕速度300rpm、6時間)を加えて実施した。典型的には、グラファイトは0.25~50mg ml-1の濃度で剥離溶媒(N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド)に分散させ、次いで200~400rpmで6~24時間粉砕した。ボールミル粉砕後、得られた生成物を遠心分離(1000rpm、10分)して未剥離のグラファイトを除去し、回収した上清をろ過し、エタノールおよび水で洗浄(それぞれ3回)して数層グラフェンを得た。
【0114】
化学的酸化剥離:化学的酸化剥離は室温で撹拌しながら反応を3日間行うようにハマーズ法(William S. Hummers Jr. and Richard E. Offeman, Preparation of Graphitic Oxide, Journal of the American Chemical Society 1958, 80, 6, 1339)を変更して実施した。典型的には、グラファイトフレーク(5g)を氷/水浴で冷却しながらH2SO4(98%、200mL)に1時間分散させた。次いで、撹拌しながらKMnO4(30g)を非常にゆっくりと懸濁液に加えた。室温で3日間撹拌した後、混合物を蒸留水(2L)にゆっくりと希釈し、さらに12時間撹拌を続けた。次いでH2O2(30%、約20mL)を滴下して不溶性の酸化マンガンを溶解させた。遠心分離(4700rpm、30分)によって酸化グラフェンを得、次いで蒸留水で洗浄(4回)した。作製したままの酸化グラフェンを40℃の真空オーブンで乾燥させた。最終工程はこれらの酸化グラフェンの化学的または熱的な還元であり、数層グラフェンが得られた。
【0115】
本明細書において記載される熱還元穿孔プロセスを用いて、例えば、AIB向けのカソードにおける使用のための、高性能グラフェンを調製することができる。表面穿孔数層グラフェン(例えば、SPG3-400)は拡大した層格子の含有率が高く(約50%)、面内ナノ細孔(約2.3nm)が多量にあり、O/C比が2.54%と低い。この材料は優れた可逆容量(2A g-1で197mAh g-1)および高レート性能(5A g-1で149mAh g-1)を示し、グラファイト状炭素カソードを用いた公知のAIBを上回っている。理論または動作モードに束縛されるものではないが、カソードの高容量は、AlCl4 -貯蔵のためのよりアクセスしやすい部位を提供する面内ナノ細孔、AlCl4 -イオンの拡散障壁を低下させる部分的に拡大した格子構造、表面吸着挙動を排除する低酸素含有率、および/または層間スペースの高度な利用を可能にする数層という特徴に起因し得ると考えられる。このグラフェン材料はAIBの開発に有用であると考えられ、かつ他の再充電可能な電池システムにも応用される可能性も有する。
【0116】
本明細書において引用した各特許、特許出願、および刊行物の開示はその全体において参照により本明細書に組み入れられる。
【0117】
本明細書におけるどの参考文献の引用もそのような参考文献が本願に対する「先行技術」として利用可能であることを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0118】
明細書全体を通して、発明を任意の1つの態様、または特徴の特定の組み合わせに限定することなく、発明の好ましい態様を説明することを目的とした。したがって、当業者であれば、本開示に照らして、本発明の範囲から逸脱することなく、例示された特定の態様に様々な修正および変更を行い得ることを認識するであろう。すべてのそのような修正および変更は添付の請求項の範囲内に包含されることが意図される。
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【国際調査報告】