(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-05
(54)【発明の名称】慣性計測装置の異常を検出する方法
(51)【国際特許分類】
G01C 19/00 20130101AFI20231128BHJP
【FI】
G01C19/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532310
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(85)【翻訳文提出日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2021083161
(87)【国際公開番号】W WO2022112500
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102020131669.0
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(71)【出願人】
【識別番号】595007530
【氏名又は名称】ロバート ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Robert Bosch GmbH
【住所又は居所原語表記】Postfach 30 02 20 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】カルククール、 イェンス
(72)【発明者】
【氏名】アヤノヴィッチ、 ムスタファ
(72)【発明者】
【氏名】ディジェサー、 フィリップ アルフォンス
【テーマコード(参考)】
2F105
【Fターム(参考)】
2F105AA02
2F105BB01
(57)【要約】
本発明は、角速度(ωA,ωB,ωC)及び比力(fA,fB,fC)を測定するために車両で使用されている慣性測定装置(4,5,6)における異常を検出する方法に関し、それぞれが加速度計及びジャイロセンサを含む複数のセンサを備えた少なくとも3つの慣性測定装置(4,5,6)を含んでおり、第1の慣性測定装置(4)がマスタ慣性測定装置として使用され、第1の慣性測定装置(4)よりも性能信頼性が低い第2の慣性測定装置(5)及び第3の慣性測定装置(6)がスレーブ慣性測定装置として使用され、マスタ慣性測定装置(4)からの測定値が基準値として使用され、マスタ慣性測定装置(4)に対して誤差モデルパラメータの推定に関して、スレーブ慣性測定装置(5、6)の測定値を補正し、それによって、2-out-of-3投票によって、それぞれ対応する3つのセンサ信号に基づいて、3つのセンサ信号のうちの1つで異常を検出し、閾値を超える3つのセンサ信号の中央値(M、D)からセンサ信号が間隔を有する3つの慣性測定装置(4,5,6)のうちの1つが欠陥と識別され、事前に計算された事前補正を考慮して、マスタ慣性測定装置(4)の異常により、まだ機能しているスレーブ慣性測定装置(5、6)のいずれか1つの信号に切り替えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角速度(ω
A,ω
B,ω
C)及び比力(f
A,f
B,f
C)を測定するために車両で使用されている慣性測定装置(4,5,6)における異常を検出する方法であって、それぞれが加速度計及びジャイロセンサを含む複数のセンサを備えた少なくとも3つの慣性測定装置(4,5,6)を含んでおり、
第1の慣性測定装置(4)がマスタ慣性測定装置として使用され、前記第1の慣性測定装置(4)よりも低い性能信頼性を有し得る第2の慣性測定装置(5)及び第3の慣性測定装置(6)がスレーブ慣性測定装置として使用され、
誤差モデルパラメータの推定を介して、及び前記マスタ慣性測定装置(4)と比較して、前記スレーブ慣性測定装置(5、6)からの測定値を補正するために、前記マスタ慣性測定装置(4)からの測定値が基準値として使用され、それによって、対応する3つのセンサ信号に基づいて、及び2-out-of-3投票を使用して、前記3つのセンサ信号のうちの1つにおける異常を検出し、
センサ信号が前記3つのセンサ信号の中央値(M、D)から閾値を超える距離を有する前記3つの慣性測定装置(4,5,6)のうちの1つが欠陥と識別され、前記マスタ慣性測定装置(4)の異常により、まだ機能しているスレーブ慣性測定装置(5、6)のいずれか1つに信号が切り替えられ、事前に計算された事前補正が適用されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記誤差モデルパラメータは、カルマンフィルタ又は再帰最小二乗法を使用して推定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記誤差モデルパラメータの推定のために、前記スレーブ慣性測定装置(5、6)からの全てのモデルパラメータを含む誤差モデル(13、14、23、24)が使用され、
前記マスタ慣性測定装置(4)からの少なくとも時間的に異なる相対的なセンサオフセットがオンラインで推定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記マスタ慣性測定装置(4)からの比力(f
A、f
B、f
C)が前記スレーブ慣性測定装置(5、6)の測定位置に変換されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
推定されたパラメータが許容最大値に制限されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
信号偏差の有意性を検出する際に、カルマンフィルタで評価される推定誤差の共分散がセンサ信号偏差の評価に使用されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
全ての慣性測定装置(4,5,6)における全てのセンサが、それぞれのフィルタ装置(9、10、11)を使用してフィルタリングされ、かつ時間同期されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
オンラインで推定された誤差モデルパラメータが時間遅延され、前記スレーブ慣性測定装置(5、6)の前記測定値に適用されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記スレーブ慣性測定装置(5、6)がマスタ・スレーブ構成を使用して事前補正され、
推定されたセンサ出力(f
B_estimated,f
C_estimated)に時間遅延が適用され、
前記時間遅延内に前記第1の慣性測定装置(4)において誤差が検出された場合、前記スレーブ慣性測定装置(5、6)における推定されたセンサ誤差は、前記時間遅延の終了に関する値で凍結されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記3つの信号の平均又は中央値(M、D)から最も逸脱した信号を検出するために、前記第1の慣性測定装置(4)からの信号及び前記スレーブ慣性測定装置(5、6)からの事前補正された信号に検出ロジック(28)が適用され、
前記平均又は中央値(M、D)からの正規化された信号差が値1を超える場合、センサ誤差と見なされる、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の慣性計測装置の異常を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慣性計測装置(IMU)は、加速度計及びジャイロスコープの配置であり、空間における物体の比力(加速度)と回転速度を測定するために使用される。加速度計信号の呼称として、ドイツの航法文献では、比力(specific force)という用語及び記号fが確立されている(文献引用2を参照)。ジャイロスコープ信号については、本明細書では記号ωを使用する。慣性測定装置という用語は、以下では略号IMUで表される。慣性測定装置は、特に自動運転時に、車両の位置、姿勢、及び速度を決定するために使用される。IMUのこのタイプの使用例は、文献引用(3)から(6)、又はUS9,753,144B1(DE10 2017 102 269A1)に見つけることができる。
【0003】
図1は、最新の運動センシング及び運行に慣性測定装置1を使用する例を示している。慣性測定装置1は、ジャイロスコープからの回転速度信号及び加速度モータからの比力信号を送信する。センサ融合装置2では、これらの値を積分することにより、方位角α、速度v、及び/又は姿勢P等の運動値が計算され、オドメータ、磁力計、気圧高度計、及び/又はGNSS受信機等の追加のセンサ3を使用して訂正される。現在の技術では、センサ融合にカルマンフィルタを使用している。
【0004】
慣性測定装置は、様々な品質レベルで利用可能である。その品質及び価格は、主に使用されるセンサ技術によって決定される。自動車のシリアル用途では、MEMS(micro-electromechanical sensor)技術に基づく費用対効果の高いセンサが最も一般的に使用されている。しかしながら、このタイプの費用対効果の高いIMUセンサの精度は、バイアス、感度誤差、非線形性、及び不整合等の確率的センサノイズ及び系統的誤差によって制限される。このような誤差は、通常の動作でセンサに影響を与える特性である。系統的誤差は、計算された運動値の高い精度を確保するために、適切な方法によって検出及び補正されなければならない。補正方法の例は、技術文献又はDE10 2017 102 269A1にも見つけられる。IMUセンサの確率的及び系統的誤差は、モデルを使用して記述される。例えば、センサによって測定された比力の値fimは、以下のモデルによって記述される。
【0005】
【0006】
【数2】
は、測定位置における適用可能な比力の成分のベクトルである。値b
fi(t)は一定又は経時的に徐々に変化するバイアスを表し、値s
fiはセンサの感度誤差であり、値v
iはセンサノイズを表し、ベクトルc
i
tは基準座標系におけるセンサ軸の調整を表す。モデルパラメータは、推定方法を使用して決定される。
【0007】
確率的及び系統的誤差に加えて、IMUセンサは異常も有し得る。この場合、センサは物理的な測定値と放出されたセンサ信号との間の指定された(したがって設計によって事前に設定された)関連性を失うため、指定されていない測定手順が発生する。これにより、影響を受けたIMUセンサは使用できなくなる。
【0008】
移動計算又は運行中に検出されずに伝播するセンサの異常は、動作信号に重大な誤差又は重大な偽値をもたらし得るため、安全関連用途において安全上のリスクとなる。
【0009】
自動運転等の安全が重要な用途では、センサの異常を検出する必要がある。その後、関連する誤差を運行ソリューションから排除し、システムが完全に機能し続けることを保証するために(誤差耐性システム)、バックアップソリューションをトリガする必要がある。
【0010】
これは、特に慣性測定装置のセンサの異常に適用される。このために提案された本発明によるソリューションを
図2に示す。
【0011】
以下に先行技術に基づく他のソリューションを説明する。
【0012】
(先行技術)
US9,568,321B2では、冗長性のない個々のIMUにおける異常の検出について記載している。ヘルスモニタリングブロックの形式での検出を、二重冗長運行システム(慣性運行システム-INS)に統合することを提案している。ヘルスモニタリングブロックでは、運動推定中に現れる推定誤差が評価される。このソリューションには、運行システムに対するセンサの異常の影響により、欠陥センサ要素についての直接的な結論が得られないという欠点がある。さらに、INSで使用されるIMU信号の統合は、長い誤差検出時間につながる。さらに、誤差検出は、GNSS、磁力計、気圧計、オドメータ等の追加センサの使用に基づいている。これらのセンサは、一般的に、IMUセンサよりも誤差感受性が高く、精度が低い。上記の配置では、これらの追加センサの異常及びIMUの異常を明確に区別できない。要約すると、記述されたプロセスでは、異常の検出は可能であるが、欠陥センサの識別はできないことが分かる。しかしながら、これは誤差耐性システム方法の必須要件である。
【0013】
上記のプロセスの欠点は長い間知られていた。例えば、(3)第17章にはさらなる詳細が記載されている。そこには安全上重要なINSアプリケーションにおける冗長ハードウェアの必要性が明示的に規定されている。
【0014】
冗長慣性測定装置(IMU)の使用は、航空機技術の最先端である。これには、同じ特性を備えた高品質の慣性測定装置を冗長センサ構成に組み込むことが含まれる。
【0015】
この点に関して、例えば、先行技術では、6つの加速度計及び6つの回転速度センサが非直交パターンで配置されたADIRU(Air Data Inertial Reference Unit)を使用しており、最小数のセンサで最大の冗長性を達成している(文献引用1,2を参照)。
【0016】
ここで、例えば、加速度計からの6つの比力信号f1,...,f6について、比力の直交成分[fx,fy,fz]の結果のベクトルを得るために回帰方程式を解いている。
【0017】
【数3】
ここで、Mはセンサ配列を記述する行列であり、vはセンサノイズのベクトルである。
【0018】
回帰方程式を解いている間、監視及び平均生成が並行して行われ得る。システム内の最大2つの加速度計は、その機能を損なうことなく故障し得る。機能安全のために、少なくとも4つのセンサが利用可能である必要がある。
【0019】
それぞれの慣性測定装置を互いに60°回転させた2つのINSを有する別のソリューションがUS5,184,304Aにおいて提案されている。このソリューションでは、各システムが放出したエラー統計が他のシステムによって評価され、それにより欠陥センサが特定される。
【0020】
航空旅行、特に非直交配置に適したセンサは、大量の設置空間を必要とするため、自動車での使用にはあまり適していない。
【0021】
はるかに費用重視の自動車用途では、このタイプの冗長で高品質の慣性センサの使用は、経済的な観点からも実現不可能である。
【0022】
多重冗長配置でのMEMSセンサの使用に関する説明は、US8,825,436B2に記載されている。ここでは、多重配置はもっぱら測定ノイズ及び系統的センサ誤差(ランツーラン(run-to-run)バイアスと温度依存バイアス)を減らすために使用される。これには、センサの異常を検出して排除する戦略は含まれない。
【0023】
(6)は、三重の冗長性を有する自動車用の慣性測定装置について説明している。しかしながら、構造要素に組み込まれているため、電源の問題及び一般的な原因による誤差から十分に保護されていないという欠点がある。
【0024】
また、文献(文献引用2を参照)から、慣性測定装置又は運行システムのマスタ・スレーブ配置が知られている。これの基本的な概念は、Kalmanフィルタを使用してマスタシステムからの運行データに基づいて、調整ト角度、オフセット等のスレーブシステムからのパラメータを推定することである。対応するプロセスは、転送調整(transfer alignment)と呼ばれる。この方法は、低コストの運行システムを含む兵器システムで一般的に使用され、一方、誘導システム又はキャリアには高品質の運行システムが含まれる。
【0025】
以下の文献において、冗長慣性測定装置における誤差耐性に関する様々な概念が記載されている。
【0026】
-Kohn他、“Fail-operational in safety-related automotive multi-core systems”、第10回IEEE国際SIEシンポジウム(Symposium on Industrial Embedded Systems;SIES)、2015,1-4項,
-T.lshigooka,S.Honda及びH.Takada、“Cost-Effective Redundancy Approach for Fail Operational Autonomous Driving System”、2018 IEEE 第21回国際ORCシンポジウム(International Symposium on Real-Time Distributed Computing;ISORC)、2018,107-115項,
-M.Li及びL.Eckstein、“Fail-Operational Steer-By-Wire System for Autonomous Vehicles”、2019 IEEE VEC国際会議(International Conference on Vehicular Electronics and Safety;ICVES)、2019,1-6項,及び
-T.Schmid他、“A Safety Argumentation for Fail-Operational Automotive Systems in Compliance of ISO 26262”、2019第4回SRC国際会議(International Conference on System Reliability and Safety;ICSRS)、2019,484-493項
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】US9,568,321B2 Systems and Methods for Determining Inertial Navigation System FaultsBharadwaj他 02/2017
【特許文献2】US8,065,074B1 Configurable Inertial Navigation System with Dual Extended Kalman Filter Modes Licardo、11/2011
【特許文献3】US5,184,304A Fault-Tolerant Inertial Navigation SystemHuddle 02/1993
【特許文献4】US8,825,436B2 Inertial Sensing with Spatially Distributed Sensor Array and Two-Dimensional Data ProcessingZhang他 09/2014
【特許文献5】US9,753,144B1 Bias and Misalignment Compensation for 6-DOF IMU Using GNSS/INS DataJafari他 05/2017
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】M.L.Sheffels,“A Fault-Tolerant Air Data/Inertial Reference Unit”、IEEE AES Systems Magazine,8840 Evergreen Blvd,MN51-1355,Minneapolis,MN 5543,1993;M.D.McIntyre and C.A.Gossett,“The Boeing 777 Fault Tolerant Air Data Inertial Reference System-A New Venture In Working Together”、Seattle、WA 98124:Boeing Commercial Airplane Group,1995
【非特許文献2】Jan Wendel、lntegrierte Navigationssysteme [Integrated Navigation Systems],Oldenbourg 2007
【非特許文献3】Paul D.Groves,“Principles of GNSS,Inertial and Multisensor Integrated Navigation Systems”,Artech House,Boston,London 2013
【非特許文献4】Willy Klier,Andreas Reim and Dietmar Stapel,Sae Technical Paper Series,No.2008-01-0582,“Robust Estimation of Vehicle Sideslip Angle an Approach w/o Vehicle and Tire Models”,Apr.14-17,2008,(7ページ)
【非特許文献5】Andreas Reim,Alexander Steinbach,Oliver Oettgen and Dietmar Stapel,2009 SAE International,No.2009-01-0430,“Central Sideslip Angle Estimation on a Software Integration Platform,” 2009,(5ページ)
【非特許文献6】http://www.aceinna.com Triple redundant IMU targets autonomous vehicles,09/2019
【発明の概要】
【0029】
本発明の目的は、角速度及び力又は加速度を測定するために車両で使用されている慣性測定装置(IMU)における異常を検出するための改善された方法を提供することである。
【0030】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する方法を使用する本発明によって達成される。
【0031】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項の目的である。
【0032】
本発明によると、角速度及び比力を測定するために車両で使用されている慣性測定装置における異常を検出するための方法は、それぞれが加速度計及びジャイロセンサを含む複数のセンサを備えた少なくとも3つの慣性測定装置を含む。本発明によれば、第1の慣性測定装置がマスタ慣性測定装置として使用され、前記第1の慣性測定装置よりも低い性能信頼性を有し得る第2の慣性測定装置及び第3の慣性測定装置がスレーブ慣性測定装置として使用され、(例えば、引用(1)のように)誤差モデルパラメータの推定を介して、及び前記マスタ慣性測定装置と比較して、前記スレーブ慣性測定装置からの測定値を補正するために、前記マスタ慣性測定装置からの測定値が基準値として使用され、それによって、対応する3つのセンサ信号に基づいて、及び2-out-of-3投票を使用して、前記3つのセンサ信号のうちの1つにおいて異常を検出可能であり、センサ信号が前記3つのセンサ信号の中央値から閾値を超える距離を有する前記3つの慣性測定装置のうちの1つが欠陥と識別され、前記マスタ慣性測定装置の異常により、まだ機能しているスレーブ慣性測定装置のいずれか1つに信号が切り替えられ、事前に計算された事前補正が適用される。
【0033】
このプロセスは一般に、3つより多くの慣性測定装置に関する多数決を含むように拡張されてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態では、前記誤差モデルパラメータは、カルマンフィルタ又は再帰最小二乗法を使用して推定されてもよい。
【0035】
本発明の一実施形態では、前記誤差モデルパラメータの推定のために、前記スレーブ慣性測定装置からの全てのモデルパラメータを含む誤差モデルが使用されてもよく、前記マスタ慣性測定装置からの少なくとも時間的に異なる相対的なセンサオフセットがオンラインで推定される。
【0036】
本発明の一実施形態では、前記マスタ慣性測定装置からの比力が前記スレーブ慣性測定装置の前記測定位置に変換されてもよい。
【0037】
本発明の一実施形態では、推定されたパラメータは、許容最大値に制限されてもよい。
【0038】
本発明の一実施形態では、信号偏差の有意性を検出する際に、カルマンフィルタで評価される推定誤差の共分散がセンサ信号偏差の評価に使用されてもよい。
【0039】
本発明の一実施形態では、全ての慣性測定装置における全てのセンサが、それぞれのフィルタ装置を使用してフィルタリングされ、かつ時間同期されてもよい。
【0040】
本発明の一実施形態では、オンラインで推定された誤差モデルパラメータが時間遅延され、前記スレーブ慣性測定装置の前記測定値に使用されてもよい。
【0041】
本発明の一実施形態では、前記スレーブ慣性測定装置は、マスタ・スレーブ構成を使用して事前補正されてもよく、推定されたセンサ出力に時間遅延が適用され、前記時間遅延内に前記第1の慣性測定装置で誤差が検出された場合、前記スレーブ慣性測定装置における推定されたセンサ誤差は、前記時間遅延の終了に関する値で凍結される。
【0042】
本発明の一実施形態では、前記3つの信号の平均又は中央値から最も逸脱した信号を検出するために、前記第1の慣性測定装置からの信号及び前記スレーブ慣性測定装置からの事前補正された信号に検出ロジックが適用され、前記平均又は中央値からの正規化された信号差が値1を超える場合、センサ誤差と見なされる。
【0043】
本発明は、2-out-of-3投票を使用して、IMUの異常(動作故障)が発生した場合の車両の運動値の誤差耐性のある決定を提供することができる。その場合、幾何学的配置又はやセンサ品質に関する特別な要件はない。しかしながら、本発明は、車両で部分的に既に利用可能な費用対効果の高い異種IMUハードウェアにも適用可能である。
【0044】
本発明による方法は、自動化された車両運転のための安全要件の増加を考慮して、車両の正しい動きを推定する機能(故障時動作継続)を保証するやり方として、センサ誤差に対してマスタ慣性測定装置からの信号を保護することを可能にする。
【0045】
本明細書では、車両内の異なる場所に特に設置された異種(同じではない)慣性測定装置(IMU)の使用に焦点を当てている。
【0046】
車両の移動値を計算する際の誤差耐性値(故障時動作継続)は、本発明に従ったソリューションによって達成される。これは、構造要素に低い要件を課すに過ぎない。車両の利用可能なインフラ(ESPセンサ、車台センサ)がそれに使用されてもよく、費用対効果の高いソリューションとなる。
【0047】
本発明の例は、図面を参照して以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】慣性測定装置(IMU)を使用して車両の移動値を推定する典型的な例の概略図である。
【
図2】移動値推定と組み合わせた本発明による監視システムの概略図である。
【
図3】回転速度センサの予備データ処理動作(事前補正)の概略図である。
【
図4】加速度計の予備データ処理動作(事前補正)の概略図である。
【
図5】誤差検出ロジック及び意思決定ロジックの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
全ての図面において同じ項目は同じ名称で識別される。
【0050】
角速度及び比力を測定するために車両で使用される慣性測定装置の異常を検出する1つの方法では、
図2に示すように、それぞれが複数の加速度計及びジャイロセンサを備えた少なくとも3つの慣性測定装置4、5、6が使用される。
【0051】
本発明によれば、マスタ慣性測定装置として、第1の慣性測定装置4が使用され、スレーブ慣性測定装置として、第1の慣性測定装置4よりも性能信頼性が低くできる第2の慣性測定装置5及び第3の慣性測定装置6が使用され、ここで、マスタ慣性測定装置4からのメッセージが検出装置7で使用され、モデルにおけるマスタ慣性測定装置4に対するスレーブ慣性測定装置5,6の系統的誤差パラメータを推定し、補正された信号に対する2-out-of-3投票によって個々のセンサの異常を検出する。2-out-of-3投票では、差が最も小さい2つの信号は誤差がないと見なされ、第3の信号がそれらに対してテストされる。第3の信号と誤差がないと見なされる信号との差が大きすぎる場合は、評価された第3の信号の潜在的な異常が想定される。
【0052】
図面では、3つの慣性測定ユニット4、5、6もIMU A、IMU B、IMU Cと指定されており、それぞれが3つの角速度信号を持つベクトル
【0053】
【0054】
【数5】
を有する。これらの信号を簡単に表すために、最も高い位置及び最も深い位置は示されていない。次に、センサ信号を
【0055】
【0056】
【0057】
図3には、回転速度センサの事前補正の例が示されている。この中にはフィルタ装置9,10,11が設けられており、これらを介してマスタ慣性測定装置4及び2つのスレーブ慣性測定装置5,6のセンサ信号が既知の不整合を考慮して訂正され、時間同期され、フィルタリングされる。
【0058】
慣性測定装置の不均一な配置では測定値の時間同期性を想定できないため、時間同期が必要である。信号伝送中には、例えば、通信レイテンシの差が発生する可能性があり、慣性測定装置4、5、6内の信号の前置フィルタリングが異なってもよい。
【0059】
その後、マスタ慣性測定装置4に対して、両方のスレーブ慣性測定装置5、6の誤差モデルのパラメータが決定される。これを行うために、誤差モデル13及び14に関するマスタ慣性測定装置4からのデータを使用して、ターゲット値又はスレーブlMU信号の動作に対して推定されたセンサ出力ω
Bestimated,ω
Cestimatedが計算される。誤差モデル13、14のそれぞれは、マスタ慣性測定装置4の回転速度ω
Aのベクトルに対する個々の回転速度センサの調整を含む。これは、例えば、エンドオブライン較正中に決定される。次に、ターゲット動作からの偏差が、スレーブ慣性測定装置5、6でセンサ誤差として識別され、誤差モデルのパラメータの推定によって訂正される。
図3に示されている実施形態では、センサバイアスBias_ω
B,Bias_ω
Cが、もっぱら推定ブロック15及び16で決定される。しかしながら、バイアスドリフト、感度偏差、不整合等の追加パラメータも推定され得る。文献から知られているように、推定ブロック15及び16におけるパラメータ推定は、再帰最小二乗法又はカルマンフィルタを使用して行われ得る。正常に機能している慣性測定装置4、5、6の場合、これらの推定パラメータは経時的に非常にゆっくりとしか変化しないため、長期間にわたって有効なままである。したがって、スレーブ慣性測定装置5、6の補正は、時間遅延誤差パラメータを用いて行われた場合でも正しいままである。対応する時間遅延ブロックは、符号17及び18として示されており、ここで遅延時間は、例えば、検出装置7の誤差検出時間より大きく、100msに等しい必要がある。
【0060】
次に、マスタ慣性測定装置4からの前処理された信号20、及び2つのスレーブ慣性測定装置5及び6からの訂正された信号21、22は、解釈のために検出装置7に送られる。マスタ慣性測定装置4で異常が発生した場合、スレーブ慣性測定装置5、6の推定パラメータは大きく変化する。しかしながら、マスタ慣性測定装置4のこの異常が検出装置7によって認識された場合、時間遅延ブロック17及び18は、パラメータの変化が検出に影響を与えることを防ぐ。その代わり、スレーブ慣性測定装置5、6からの誤ったパラメータは、それぞれの最後の有効値で凍結される。このようにして、補正及び検出を互いに分離することができ、マスタ慣性測定装置4の故障をスレーブ慣性測定装置5、6の故障と確実に区別することができる。
【0061】
追加的に又は本発明の他の実施形態において、推定ブロック15及び16のパラメータの推定値は最大許容値に制限されてもよく、これにより検出感度が向上する。
【0062】
追加的に又は本発明の他の実施形態において、最大許容値に到達するか又はそれを超える推定パラメータが、影響を受けるセンサの誤差検出に使用され得る。
【0063】
追加的に又は本発明の他の実施形態において、事前補正からの加重剰余が計算され、推定ブロック15、16において評価され得る。
【0064】
追加的に又は本発明の他の実施形態において、推定誤差のために計算された共分散を推定ブロック15、16で使用して、検出中の信号偏差を量ることができる。
【0065】
図4には、回転速度ω
A、ω
B、ω
C(角速度とも呼ばれる)に相当して、加速度計信号(比力f
A,f
B,f
c)に対する事前補正が示されている。3つの慣性測定装置4、5、6が車両上で空間的に広がっている場合、回転速度ω
A、ω
B、ω
Cとは異なり、比力f
A、f
B、f
Cの位置依存性を考慮しなければならない。これは、誤差モデル23及び24におけるマスタ慣性測定装置4の信号から目標値を生成するときに行われ、ここで、比力f
A,f
B,f
Cは、文献で知られている次の式を使用して、それぞれのスレーブ慣性測定装置5、6の測定位置
【0066】
【数7】
における回転速度ω
A,ω
B,ω
C及び回転加速度d/dtω
A,d/dtω
B,d/dtω
Cを使用して変換される。
【0067】
【数8】
このようにして、推定されたセンサ出力f
B_estimated、f
C_estimatedが決定される。
図4に示す実施形態では、センサバイアスBias_f
B、Bias_f
Cは、もっぱら推定ブロック25及び26において決定される。しかしながら、バイアスドリフト、感度偏差、不整合等の追加パラメータも推定され得る。文献から知られているように、推定ブロック25及び26におけるパラメータ推定は、再帰最小二乗法又はカルマンフィルタを用いて行うことができる。
【0068】
図5は、2-out-of-3投票原理による誤差検出の実施形態を示している。マスタ慣性測定装置20及び2つのスレーブ慣性測定装置21,22からの比較及び前処理のための3つの個別信号をA,B,Cと指定する。
【0069】
A,B及びCは、それぞれ回転速度ωA,ωB,ωC又は比力fA,fB,fCであってもよい。全体として、慣性測定装置4,5,6の自由度ごとに1つの検出が使用される。
【0070】
さらに、ブロック27において、信号の中央値M及びD並びにそれらの偏差が計算される。代替的に(ここで等価な3つの信号についても)、中央値M,Dの代わりに、それらの間の距離が最も小さい2つの信号の平均が使用されてもよい。
【0071】
次に、個々の信号と中央値M,Dとの差を計算し、閾値Sに対して正規化する。閾値Sとして、信号ノイズプロセスの分散σと、時間同期の不確実性を表す成分Tとの組み合わせを使用する。
【0072】
【数9】
上記で説明したように、閾値の生成には、推定ブロック15、16、25、26からの推定誤差に対する標準偏差も使用され得る。
【0073】
検出ロジック28は、中央値M,Dからの正規化信号差ΔA,ΔB,ΔCが値1を超えるかどうかをテストする。その場合、問題のセンサ信号には、ERROR A,ERROR B,ERROR Cの異常が想定される。
【0074】
【数10】
マスタ慣性計測装置4のERROR A,ERROR B,ERROR Cの異常の出現は、意思決定ロジック29によって誤差メッセージを介してスイッチング装置8に伝達され、それはスレーブ慣性計測装置5,6のいずれかに切り替わる。
図5の実施形態では、これがスレーブ慣性計測装置5である。
【0075】
影響を受けるスレーブ慣性計測装置5に対する誤差モデルパラメータがマスタ慣性計測装置4に基づいて決定されているため、スレーブ慣性計測装置5は、マスタ慣性計測装置4と同一のバイアス、ドリフト、感度等を用いて処理され、その後の移動計算は切り替え処理を考慮せずに行われ得る。
【0076】
既に説明したように、マスタ慣性計測装置4に異常が発生した場合、スレーブ慣性計測装置5,6に関するパラメータ推定を分離する必要がある。これは信号19によって行われる。
【0077】
スレーブ慣性測定装置5、6のいずれかでERROR B,ERROR Cの異常が検出された場合、それは欠陥として報告される。
【0078】
センサ誤差に対する感度と、信号ノイズ、道路損傷の影響、及びその他の不確実性による誤検出に対する耐性との間の最適な妥協点を見つけることが望ましい。
【符号の説明】
【0079】
1 慣性測定装置
2 センサ融合装置
3 他のセンサ
4 慣性計測装置、IMU、マスタ慣性計測装置、マスタIMU
5 慣性測定装置、IMU、スレーブ慣性測定装置、スレーブIMU
6 慣性測定装置、IMU、スレーブ慣性測定装置、スレーブIMU
7 検出装置
8 スイッチング装置
9 フィルタ装置
10 フィルタ装置
11 フィルタ装置
13 誤差モデル
14 誤差モデル
15 推定ブロック
16 推定ブロック
17 時間遅延ブロック
18 時間遅延ブロック
19 信号
20 前処理された信号
21 訂正された信号
22 訂正された信号
23 誤差モデル
24 誤差モデル
25 推定ブロック
26 推定ブロック
27 ブロック
28 検出ロジック
29 意思決定ロジック
A、B、C 前処理された個々の信号
Bias_fB,Bias_fC センサバイアス
Bias_ωB,Bias_ωC センサバイアス
D 中央値、メジアン
ERROR A,ERROR B,ERROR C 異常
d/dtωA 回転加速度
fA、fB、fC 比力
fB_estimated,fC_estimated 推定センサ出力
IMU A 慣性測定装置、マスタ慣性測定装置
IMU B 慣性計測装置、スレーブ慣性計測装置
IMU C 慣性計測装置、スレーブ慣性計測装置
M 中央値、メジアン
P 姿勢
S 閾値
T 成分
v 速度
α 姿勢角度
ΔA,ΔB,ΔC 正規化された信号差
σ 分散
ωA,ωB,ωC 回転速度、角速度
ωB-estimated,ωC-estimated 目標値
【国際調査報告】